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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-25
(54)【発明の名称】粗トール油の分別
(51)【国際特許分類】
   C07J 9/00 20060101AFI20240718BHJP
   B01J 41/05 20170101ALI20240718BHJP
   B01J 41/12 20170101ALI20240718BHJP
   C11B 3/10 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
C07J9/00
B01J41/05
B01J41/12
C11B3/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579207
(86)(22)【出願日】2022-06-20
(85)【翻訳文提出日】2024-02-15
(86)【国際出願番号】 IB2022055688
(87)【国際公開番号】W WO2022269449
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】2150817-1
(32)【優先日】2021-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】501239516
【氏名又は名称】ストラ エンソ オーワイジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】カヴァッカ, ヤリ
(72)【発明者】
【氏名】トーセル, スタッファン
【テーマコード(参考)】
4C091
【Fターム(参考)】
4C091AA01
4C091BB06
4C091CC03
4C091DD01
4C091EE04
4C091FF01
4C091GG01
4C091HH01
4C091JJ03
4C091KK01
4C091LL01
4C091MM03
4C091NN01
4C091PA05
4C091PB05
4C091QQ01
4C091RR12
(57)【要約】
本発明は、クラフトプロセス黒液に由来する粗トール油の分別を対象とする。本発明による方法において、粗トール油から画分を効率的に分離するために強塩基性アニオン交換樹脂を使用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗トール油から成分を分離するための方法であって、
a)粗トール油と、メタノール、エタノールおよび/またはイソ-プロパノールから選択されるアルコールとを含む混合物を準備する工程と、
b)工程a)からの混合物を強塩基性アニオン交換樹脂と接触させる工程と、
c)少なくとも第1の画分および第2の画分を回収する工程であり、各画分が少なくとも一種の成分を含む、工程と
を含む、方法。
【請求項2】
画分の1つが、不ケン化物を主に含む画分である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
画分の1つが、脂肪酸ナトリウム塩およびロジン酸ナトリウム塩を主に含む画分である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程a)で用いられるアルコールがメタノールである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
フィトステロール類が第1の画分から単離される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程b)が30℃から60℃の温度で実施される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程a)の混合物中のメタノールの量が、工程a)の混合物の合計重量に対して、少なくとも10重量%である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
フィトステロール類が第1の画分中から自然に結晶化する、請求項1から2および4から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
自然に結晶化したフィトステロール類が主にベータ-シトステロールからなる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
酸価が少なくとも175であるトール油が第2の画分から製造される、請求項1および3から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法に従って分離され、回収された画分。
【請求項12】
酸価が少なくとも175であるトール油を含む組成物であって、前記組成物の合計重量に対して、フィトステロール類を0.5重量%未満含む、組成物。
【請求項13】
フィトステロール類を含む組成物であって、トール油を0.5重量%未満含み、エステル化されたフィトステロール類を1重量%未満含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラフトプロセス黒液に由来する粗トール油の分別を対象とする。本発明による方法において、粗トール油から画分を効率的に分離するために強塩基性アニオン交換樹脂を使用する。
【背景技術】
【0002】
クラフトパルプの生成中において、黒液が形成され、生成されたパルプから除去される。取り除かれた上記黒液は、セッケンが価値の高い原材料を含むために黒液から分離することを要するセッケンを含む。そして黒液由来の水を蒸発させ、黒液セッケンの上澄みをすくい取り、酸性化して粗トール油(CTO)を作製する。黒液由来のセッケンを分離する別の理由は、セッケンが黒液の後続の処理工程中に問題を生じさせるおそれがあるためである。
【0003】
分離されたセッケンは、抽出物、水、リグニン、無機化合物、繊維および若干の黒液を含む。粗トール油(CTO)の脂肪酸およびロジン酸は、セッケン中ではナトリウム塩の形態で存在する。セッケン中の各成分の量は、原材料、ならびにそれらの季節変動、用いられるパルピングプロセス、およびセッケンが黒液から分離されるプロセス、すなわちソープスキミングプロセスに依存する。CTOは脂肪酸(TOFA)、ロジン酸(TOR)および不ケン化物で主に構成される。
【0004】
粗トール油は価値の高い原材料であり、セッケンから粗トール油を可能な限り多く回収することが重要である。粗トール油は、各種化学品および他の製品、例えばバイオディーゼルまたは洗剤の原材料として使用することができる。
【0005】
所定の温度で酸をセッケンに加えることにより、セッケンからCTOを単離することは可能である。セッケンと加えた酸とを混合した後、トール油が形成され、その後、相の密度の違いに起因し、3つの主要相である、CTO相、リグニン相、および、ブラインとも称される廃酸相に分離される。リグニンおよび廃酸相はCTO生成における廃棄物であり、それらはCTOの回収の間にCTO相から十分に分離される必要がある。
【0006】
セッケンから最適量のCTOを分離するために必要な酸の量は、セッケンの質、例えばCTOの含有量、水分量、繊維の量、リグニンの含有量および/または黒液の含有量に依存する。現在では、セッケンの密度、酸の量の指標としての廃酸のpHおよび密度、ならびにセッケンから最適量のCTOを分離するために加えることを必要とする水を測定することが通常である。これらの測定はオンラインで実施され、必要とされる酸および水の量はその後に調節、すなわちフィードバック制御される。
【0007】
従来、CTOは、真空蒸留を用いて初留液(低沸点化合物)、脂肪酸、ロジン酸、およびピッチ(蒸留残留物)等の画分に分別されている。また、脂肪酸とロジン酸の沸点が近いため、中間の画分を採集して脂肪酸およびロジン酸の画分の汚染を防止することができる。高温でのCTOの蒸留の間、アルコールがカルボン酸でエステル化され、遊離酸画分の収率が低下し、価値の低いピッチ画分が増加する。さらに、化合物の熱分解は高温での蒸留の間に発生し得る。
【0008】
前述のように、CTOは、いくつかの異なる生成物の製造に使用することができる。あるいはCTOは、まず不ケン化物と高酸価トール油とに分離することができる。上記高酸価トール油は、ロジン酸と脂肪酸とにさらに分離することができる。上記不ケン化物画分は、とりわけフィトステロール類を含む。
【0009】
フィトステロール類はいくつかの用途があり、食物添加剤として、およびステロイドの前駆体としての用途が挙げられる。いくつかの方法は、様々な有機溶媒を用いたニートソープの抽出等のトール油セッケンからのステロール類の単離において報告されている。
【0010】
現在、フィトステロール類は、例えばトール油ピッチから工業生産される。蒸留の間のエステル形成のため、フィトステロールエステルは、もし遊離フィトステロール類の生成をターゲットとする場合、加水分解されなければならない。これは追加のプロセス工程を要する。
【0011】
粗トール油からフィトステロール類、および好ましくはさらに高酸価トール油をより容易にかつより効率的に製造するための方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0012】
驚くべきことに、本発明による方法は、CTOを1つの中性の画分および1つの中性の取り除かれた画分に、より効率的に分離するために使用できることがわかった。上記中性の画分は、一般的に不ケン化物と表される成分を主に含む。上記中性の取り除かれた画分は、脂肪酸ナトリウム塩およびロジン酸ナトリウム塩等の成分を主に含む。
【0013】
このように、本発明は、粗トール油から成分を分離するための方法であって、下記工程:
a)粗トール油と、メタノール、エタノールおよび/またはイソ-プロパノールから選択されるアルコールとを含む混合物を準備する工程と、
b)工程a)からの混合物を強塩基性アニオン交換樹脂と接触させる工程と、
c)少なくとも第1の画分および第2の画分を回収する工程であり、各画分が少なくとも一種の成分を含む、工程と
を含む、方法を対象とする。
【0014】
本発明はまた、本発明の方法の工程c)で回収される画分も対象とする。特に、本発明は、脂肪酸ナトリウム塩およびロジン酸ナトリウム塩を含む組成物、およびフィトステロール類を含む組成物を対象とする。追加のプロセス工程の後、高酸価トール油を含む組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
クラフトパルプの生成中において、黒液が形成され、生成されたパルプから除去される。取り除かれた上記黒液は、セッケンが価値の高い原材料を含むために黒液から分離することを要するセッケンを含む。そして黒液由来の水を蒸発させ、黒液セッケンの上澄みをすくい取り、酸性化して粗トール油を作製する。このように、粗トール油は、針葉樹材、広葉樹材またはそれらの混合物のパルピングに起因し得る。
【0016】
工程a)で用いられる混合物は、混合物の合計重量に対して、メタノール、エタノールおよび/またはイソ-プロパノールから選択されるアルコールを少なくとも1重量%含むことが好ましい。上記アルコールは、トール油が溶解可能な溶媒であり、さらに、強塩基性アニオン交換樹脂の官能化を可能とする。より好ましくは、工程a)で用いられる混合物は、混合物の合計重量に対して、メタノール、エタノールおよび/またはイソ-プロパノールから選択されるアルコールを少なくとも5重量%、例えばメタノール、エタノールおよび/またはイソ-プロパノールから選択されるアルコールを少なくとも10重量%、またはメタノール、エタノールおよび/またはイソ-プロパノールから選択されるアルコールを少なくとも15重量%、またはメタノール、エタノールおよび/またはイソ-プロパノールから選択されるアルコールを少なくとも20重量%、またはメタノール、エタノールおよび/またはイソ-プロパノールから選択されるアルコールを少なくとも25重量%含む。好ましくは、工程a)で用いられる混合物は、混合物の合計重量に対して、メタノール、エタノールおよび/またはイソ-プロパノールから選択されるアルコールを75重量%未満含む。より好ましくは、工程a)で用いられる混合物は、混合物の合計重量に対して、メタノール、エタノールおよび/またはイソ-プロパノールから選択されるアルコールを60重量%未満、例えばメタノール、エタノールおよび/またはイソ-プロパノールから選択されるアルコールを50重量%未満含む。工程a)で用いられる混合物は、粗トール油ならびにメタノール、エタノールおよび/またはイソ-プロパノールから選択されるアルコール以外の成分を含んでいてもよい。しかし、工程a)で用いられる混合物は、混合物の合計重量に対して少なくとも40重量%粗トール油を含むことが好ましい。より好ましくは、上記混合物は、混合物の合計重量に対して、粗トール油を少なくとも50重量%、例えば粗トール油を少なくとも60重量%、または粗トール油を少なくとも70重量%、粗トール油を少なくとも80重量%、または粗トール油を少なくとも90重量%、または粗トール油を少なくとも95重量%含む。好ましくは、工程a)で使用される混合物で用いられるアルコールはメタノールである。
【0017】
一つの実施形態において、工程a)で用いられる混合物は、メタノール、エタノールおよび/またはイソ-プロパノールから選択されるアルコールと、粗トール油とを混合することにより調製される。本発明の一つの実施形態において、工程b)の前に、メタノール、エタノールおよび/またはイソ-プロパノールから選択されるアルコールと粗トール油との混合物を強酸性カチオン交換樹脂と接触させる。工程b)の前にそのような強酸性カチオン交換工程を実施する利点は、アルカリ金属塩を混合物から除去できること、および、工程b)の前に、上記セッケン残渣を少なくとも部分的に中性の形態に変換することができることであり、それは第1の画分中および第2の画分中の成分の収率を高め、純度を高めることに繋がる。
【0018】
工程b)において用いられる強塩基性アニオン交換樹脂は、好ましくはポリマーフレームに導入される四級アンモニウム基を有するアニオン交換樹脂である。
【0019】
工程b)において、工程a)の混合物をカラム中で強塩基性アニオン交換樹脂と接触させることが好ましい。工程b)において、工程a)の混合物は強塩基性アニオン交換樹脂に加えられる。強塩基性アニオン交換樹脂を通過させる際、混合物の酸性成分は強塩基性アニオン交換樹脂に付着し、他方で混合物の中性成分は樹脂から流れ出し、第1の画分として回収される。強塩基性アニオン交換樹脂を介した流速は、好ましくは1時間あたり0.5から4総容積である。樹脂に導入されるCTOの量は、強塩基性アニオン交換樹脂容量に対して0.5から1酸当量であることが好ましい。工程b)で用いられた温度は、10℃から80℃の範囲内、より好ましくは20℃から60℃の範囲内、例えば30℃から60℃、例えば40℃から60℃または30℃から50℃であることが好ましい。
【0020】
工程b)の間、メタノール、エタノールおよび/またはイソ-プロパノールから選択される追加のアルコールは、任意で水と混合されるが、工程a)の混合物の後に任意でカラムに加えられる。好ましくは、加えられた追加のアルコールはメタノールである。
【0021】
次に、工程b)の一部として、強塩基性アニオン交換樹脂に付着した酸性成分は、好ましくは水酸化ナトリウムと、メタノール、エタノールおよび/またはイソ-プロパノールから選択されるアルコールとを含む混合物を加えることにより強塩基性アニオン交換樹脂から脱離する。混合物中の水酸化ナトリウムの濃度は、0.05Mから6.0Mであることが好ましい。水酸化ナトリウムと、メタノール、エタノールおよび/またはイソ-プロパノールから選択されるアルコールとの混合物は、任意で水を0重量%から25重量%、例えば0から10重量%または水を1から10重量%または水を5から10重量%含む。好ましくは、上記アルコールはメタノールである。
【0022】
強塩基性アニオン交換樹脂に付着した酸性成分が強塩基性アニオン交換樹脂から脱離する場合、それらは第2の画分として回収される。
【0023】
第2の画分が回収された後、強塩基性アニオン交換樹脂は、当技術分野において公知の方法を用いて、工程b)を繰り返す前に再生されることが好ましい。通常、強塩基性アニオン交換樹脂は、酸性成分が強塩基性アニオン交換樹脂から脱離すると同時に再生される。酸性成分が強塩基性アニオン交換樹脂から脱離する場合、メタノール、エタノールおよび/またはイソ-プロパノールから選択される純アルコールを加えることにより過剰のアルカリを強塩基性アニオン交換樹脂から除去することができる。好ましくは、上記アルコールはメタノールである。
【0024】
このように、本発明による方法は、下記工程:
- 粗トール油と、メタノール、エタノールおよび/またはイソ-プロパノールから選択されるアルコールとを含む混合物を準備する工程と、
- 任意で、粗トール油と、メタノール、エタノールおよび/またはイソ-プロパノールから選択されるアルコールとを含む上記混合物を強酸性カチオン性交換樹脂と接触させる工程と、
- 粗トール油と、メタノール、エタノールおよび/またはイソ-プロパノールから選択されるアルコールとを含む上記混合物を強塩基性アニオン交換樹脂と接触させる工程と、
○ 少なくとも一種の成分を含む少なくとも第1の画分を回収する工程と、
○ 強塩基性アニオン交換樹脂に付着した酸性成分を、好ましくは水酸化ナトリウムと、メタノール、エタノールおよび/またはイソ-プロパノールから選択されるアルコールとを含む混合物を加えることにより強塩基性アニオン交換樹脂から脱離させる工程と、
○ 少なくとも一種の成分を含む第2の画分を回収する工程と
を含む。
【0025】
回収される上記第1の画分は中性の画分である。上記中性の画分は一般的に不ケン化物と表される成分を含む。上記中性の画分はフィトステロール類を含む。
【0026】
第1の画分(中性の画分)から、フィトステロール類を他の中性化合物から分離することが好ましい。驚くべきことに、フィトステロール類は第1の画分中で自然に結晶化することがわかった。好都合なことに、得られたフィトステロール類はエステル化されないが、それは先行技術の方法の場合、通常である。もしそのような自発的な結晶化が達成されない場合、フィトステロール類は、例えば、当技術分野において公知の方法を必須で用いながら、蒸発晶析、静的結晶化または冷却晶析等の結晶化により他の中性化合物から分離することができる。メタノール、エタノールおよび/またはイソ-プロパノールから選択されるアルコールは、蒸留により留去してもよく、または、代わりに析出/結晶化溶媒系の一部としてもよい。メタノール、エタノールおよび/またはイソ-プロパノールから選択されるアルコールは、本発明による方法において再利用されることが好ましい。製造された析出物/結晶はさらに、真空蒸留もしくは再結晶化またはそれらの組み合わせにより精製し、続いて任意で洗浄および乾燥させることができる。
【0027】
本発明の1つの態様は、フィトステロール類を含む組成物であって、トール油を0.5重量%未満含み、エステル化されたフィトステロール類を1重量%未満含む、組成物である。
【0028】
回収された第2の画分はセッケン画分であり、中性の取り除かれた画分として表されることもある。上記中性の取り除かれた画分は、脂肪酸ナトリウム塩およびロジン酸ナトリウム塩等の成分を含む。驚くべきことに、酸性の塩が第2の画分中で白色の析出物/結晶として自然に結晶化/析出し得ることがわかった。驚くべきことに、色が液相に残留することがわかった。結晶化した/析出した材料は、任意で後続の再結晶化により精製してもよい。
【0029】
第2の画分は、脂肪酸塩とロジン酸塩との乾燥した混合物を製造する当技術分野において公知の方法を用いて、メタノール、エタノールおよび/またはイソ-プロパノールから選択されるアルコールの蒸発により乾燥させることもできる。乾燥した材料はまた、洗浄または再スラリー化、例えば水で洗浄する、または水に再スラリー化させて、乾燥した材料から過剰の水酸化ナトリウムを除去することもできる。好ましくは、上記洗浄は、水の温度が好ましくは20℃から80℃の範囲内、例えば40℃から60℃である水で実施される。好ましくは、洗浄液体がスラリーから除去された場合のスラリーの温度は15℃から25℃の範囲内である。取り除かれた水酸化ナトリウムは、プロセス中で再利用することができる。
【0030】
脂肪酸塩とロジン酸塩との混合物は、例えば析出/結晶化法を用いてさらに分別してもよく、または当技術分野において公知の方法を用いて高品質トール油に変換してもよい。高品質トール油は、クロマトグラフシステムまたは標準的な真空蒸留によるいずれかを用いてトール油脂肪酸およびトール油ロジン酸にさらに分別してもよい。一つの実施形態において、高酸価トール油は、まずエステル化により脂肪酸メチルエステルとロジン酸との混合物に変換される。脂肪酸メチルエステルおよびロジン酸は、次に、当技術分野において公知の方法を用いて相互に分離することができる。
【0031】
本発明の1つの態様は、酸価が少なくとも175であるトール油を含む組成物であって、組成物の合計重量に対して、フィトステロール類を0.5重量%未満含む、組成物である。上記組成物はASTM D1544-04に従って決定されるガードナー色番号が14未満であることが好ましく、9未満であることがより好ましい。
【0032】
トール油の酸価は、当技術分野において公知の方法を用いて決定することができる。トール油の品質を評価する1つの方法は、1gのCTOを中和するために必要とされる水酸化カリウムのミリグラム単位の量であるその酸価を表すことである。本明細書において使用されているとおり、用語「高酸価トール油」は、酸価が少なくとも175、例えば少なくとも180または少なくとも185または少なくとも188であるトール油を意味する。
【0033】
用語「フィトステロール」は、植物由来のステロールを意味することを意図しており、全ての植物ステロール類およびそれらのフィトステロール類の飽和形態(すなわち、フィトスタノール)を包含する。植物ステロール類は、3つのカテゴリー:4-デスメチルステロール類(メチル基が存在しない);4-モノメチルステロール類(メチル基が1つ);および4,4-ジメチルステロール類(メチル基が2つ)のうちの1つに該当し、これらに限定されないが、シトステロール(例えば、[アルファ]および[ベータ]シトステロール)、カンペステロール、スチグマステロール、タラキサステロール、およびブラシカステロールを含む。用語「フィトスタノール」は、飽和フィトステロールを意味することを意図しており、これらに限定されないが、シトスタノール(例えば、[アルファ]および[ベータ]シトスタノール)、カンペスタノール、スチグマスタノール、クリオナスタノール、およびブラシカスタノール(brassicastanol)を包含する。本明細書に記載されたとおりに単離されたフィトステロール類は、当技術分野において公知の任意の手法により定量してもよい。
【0034】
フィトステロールの結晶化は、冷却、蒸留による若干の溶媒の留去による濃縮、乾固させた後にフィトステロール類のみが高温で溶解する溶媒または溶媒混合物を投入した後に冷却すること、またはフィトステロール結晶を用いたシーディングを経由すること、または貧溶媒を加えることを含む、当技術分野において公知の方法を用いて実施することができる。析出または結晶化は、前記溶媒の一部または全てを留去すること等の蒸発工程の後に発生し得る。あるいは、任意でシーディングと組み合わせて、別の溶媒、例えば貧溶媒を加えてフィトステロール類の析出または結晶化を容易化させてもよい。
【0035】
本発明による方法は、バッチプロセスとして実施してもよい。しかし、1を超える強塩基性アニオン交換カラムを用いることにより、上記プロセスは、第1の強塩基性アニオン交換カラムからの工程a)の混合物のフローを第2の強塩基性アニオン交換カラムに切り替えることにより連続的に稼働させることができる。そのような連続的なプロセスにおいて、上記第1の画分はこのように、工程a)の混合物が第1の強塩基性アニオン交換カラムを流通する間に第1の強塩基性アニオン交換カラムから回収される。工程a)の混合物のフローが第2の強塩基性アニオン交換カラムを流通するように切り替えられた場合、上記第2の画分は、第1の強塩基性アニオン交換カラムから回収することができる。これは、プロセスを連続的に実施することを可能とする。
【0036】
好ましくは、上記粗トール油は、強塩基性アニオン交換に付される前に前処理される。上記前処理は、好ましくは繊維および強塩基性アニオン交換カラムシステムの詰まりを引き起こし得る他のあらゆる成分の除去を含むことが好ましい。
【実施例
【0037】
材料
標準ルアーフィッティングを用いてBiotage ISOLUTE Single frit reservoirからIX(イオン交換)樹脂の小スケール調製用カラムを組み立てた。溶液はシリンジポンプ(Harvard Apparatus 11S)を用いて吸い上げた。
【0038】
溶液の調製
室温で固体の水酸化ナトリウム(70g/L)をメタノールと脱イオン水との4/1混合物に溶解させることにより、イオン交換樹脂の活性化に用いた1.75M水酸化ナトリウム溶液を調製した。
【0039】
室温で固体の水酸化ナトリウム(26.8g/L)をメタノールに溶解させることにより、0.67M水酸化ナトリウムのメタノール液を調製した。
【0040】
粗トール油(217g)をメタノール(72g)と混合することで75重量%CTOメタノール溶液を調製した。得られた溶液(289g)は各分離サイクルで使用された。
【0041】
室温で1L容量フラスコ内で水酸化ナトリウム(60g)をメタノールに溶解させることにより、1.5M水酸化ナトリウムのメタノール液を調製した。
【0042】
粗トール油(100g)をメタノール(100g)に溶解させることにより、50重量%CTOメタノール溶液を調製した。得られた溶液は濃色を呈する。
【0043】
強酸性カチオン交換樹脂(SAC)の調製
10μmポリエチレンフィルターディスクの間のカートリッジ(Φ22mm,長さ65mm)内にPurolite PPC100H(22mL)を充填し、終夜メタノール中で膨潤させた。メタノールを排出し、未使用のメタノール(50mL)を樹脂床(上昇流45mL/時間)を通して吸い上げた。硫酸(70ml,4体積%水)、続いて脱塩水(150ml,45mL/時間)を樹脂床(100mL/時間上昇流)を通して吸い上げた。そして上記SAC樹脂をメタノール(50ml,45mL/時間)で洗浄した。
【0044】
SAC樹脂を用いた75重量%CTOメタノール液の脱塩
CTO溶液(200ml,75重量%MeOH液として182g)をSAC樹脂床(上昇流20mL/時間)を通して吸い上げ、脱塩された生成物を採集した。脱塩前および脱塩後の試料の金属含有量をICPを用いて分析した。上記データは、3つの別々の試料の平均である。
【0045】
小スケール分離実験:
強塩基性アニオン交換樹脂(SBA)の調製
10μmポリエチレンフィルターディスクの間のカートリッジ(Φ22mm,長さ65mm)内にPurolite A500OHPlus(12.4g/20mL)を充填し、終夜メタノール中で膨潤させた。SBA樹脂を排出し、樹脂床(上昇流40mL/時間)を通じて水酸化ナトリウム(20mL,メタノールと水との4/1混合物中1.75M)を吸い上げた。その後、導電性が<10μS/cmとなるまでSBA樹脂をメタノール(110mL)で洗浄した。
【0046】
50重量%または75重量%CTOメタノール液を用いたステロール類の単離
SBA樹脂に、CTO溶液(10ml,50重量%MeOH液として8.74g、または6.66mL,75重量%MeOH液として6,05g)(上昇流10から40mL/時間)、続いてメタノール(50ml,40mL/時間)を加えた。白色固体の結晶化は主にステロール類からなる早期画分(0.4から1.0総容積)内で発生する。早期画分の4℃への冷却は、結晶性材料をより多く与える。
【0047】
脂肪酸塩およびロジン酸塩の単離およびIX樹脂の再生
導電性が<10μS/cmとなるまで、SBA樹脂に水酸化ナトリウムのメタノール溶液(1.5M,40mL)、続いてメタノール(120ml,流40mL/時間)を加えた。白色固体としてのセッケンの析出は、常温で、早期画分(0.4から1.4総容積)で発生する。4℃への冷却は白色材料を多く析出させる。
【0048】
大スケール分離実験:
強塩基性アニオン交換樹脂(SBA)の調製
10μmポリエチレンフィルターディスクの間の、ジャケットを備えるステンレス鋼カラム(ID50mm,長さ500mm,容積1L)内にPurolite A500OHPlus樹脂(640g)を充填し、注入口および排出口が注入用および採集用のテフロン管類で接続されたエンドキャップでカラムの両端を閉じた。メタノールを最上部から加え、樹脂を終夜で膨潤させた。メタノールを排出し、樹脂床(下降流2L/時間)を通じて水酸化ナトリウム(2L,メタノールと水との4/1混合物中1.75M)を吸い上げた。その後、導電性が<10μS/cmとなるまでメタノール(3L)でIX樹脂を洗浄した。
【0049】
75重量%CTOメタノール液を用いたステロール類の単離
カラムの加熱用ジャケットを通じて熱水循環浴を用いて樹脂カラムを50℃に加熱し、分離プロセスを通して温度を保持した。
【0050】
CTO溶液(75重量%のMeOH液として289g)をIX樹脂(1.5BV/時間)に加えた。HPLCポンプを用いてメタノール(850から1000ml,1.5BV/時間)で中性化合物を溶出させ、第1の画分として採集した。淡黄色固体の結晶化が発生し、それは主にステロール類からなる。4℃への冷却は、より多くの結晶性材料を与える。上記固体材料を濾別し、冷メタノール(50mL)で洗浄し、減圧下で乾燥させて、淡黄色固体として粗ステロール類(7.9g,導入したCTOの3.6重量%)を得た。
【0051】
組み合わされたメタノールの濾液を減圧下で蒸発させて、橙色の油(19.8g,導入したCTOの9.1重量%)を得た。任意の溶媒回収のため、蒸発したメタノールを採集した。
【0052】
脂肪酸およびロジン酸の単離およびIX樹脂の再生
HPLCポンプを使用し、水酸化ナトリウムのメタノール溶液(0.67M,1.5L,1.5BV/時間)を用いて酸性化合物をIX樹脂カラムから溶出させ、第2の画分として採集した。オフホワイト色の固体としてのセッケンの析出は、常温で発生した。4℃への冷却はオフホワイト色の材料を多く析出させる。上記オフホワイト色の析出物は、濾過を介して任意で単離して、脂肪酸Naセッケンを豊富に含むNaセッケン画分を生成させることができる。
【0053】
組み合わされた採集したセッケン画分(第2の画分)を減圧下で乾固させ、任意の溶媒回収のため、蒸発したメタノールを採集した。乾燥した茶褐色のNaセッケン(295g)は、溶出物からの過剰のNaOHを含有し、脂肪酸のロジン酸に対する比が54:46である。
【0054】
濃HSOを用いて、文献で知られている手順を用いて単離されたNaセッケンを中性の取り除かれた高酸価トール油に直接的に変換して、酸価が189である茶色のオイル(184.1g,導入したCTOの84.8重量%)を得ることができる。
【0055】
単離された生成物の合計である、27.7gの中性の生成物および184.1gの中性の取り除かれた高酸価トール油は、導入したCTOの97.6重量%(217g)に相当する。
【0056】
IX樹脂カラムの調整
水酸化ナトリウムのメタノール液を用いた溶出および樹脂カラムの再生の後、HPLCポンプを用いてメタノール(2L,1.5BV/時間)でカラムを洗浄した。任意の溶媒回収のため、メタノールを採集し、IX樹脂カラムは、新たな分離サイクルのために調えられた状態になる。
【0057】
セッケンの洗浄およびNaOHの回収
単離されたNaセッケンから過剰のNaOHを除去し、回収するため、25gの乾燥したセッケンを、5倍量の水中で50℃で15分間再スラリー化させた後、常温に冷却した。加圧された空気(1barg)を用いて上記固体を圧力フィルター内で単離し、濾液を採集した。洗浄されたNaセッケンの水分含有量は15から30重量%であった。上記濾液を滴定し、用いた乾燥したセッケンの遊離NaOHは0.183g/gであると測定された。
【0058】
中性の取り除かれた高酸価トール油の単離
洗浄し、濾別されたNaセッケン残留物を水中(200mL)で再懸濁させた。常温の濃HSOを加えることにより、溶液のpHを2に調節した。水性混合物をMTBE(100mL)で3回抽出し、組み合わされた有機層を減圧下で蒸発させて、酸の含有量が3.37mol/kg、または酸価が189である茶色のオイルとして中性の取り除かれた高酸価トール油(16.2g)を得た。
【0059】
分析方法
個別の成分の同定および純度または成分の分類を、BSTFA N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド)のピリジン液を用いたシリル化後にGC/FIDを使用して、または2-クロロ-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサホスホランの重水素化されたクロロホルム/ピリジン液を用いた誘導化後に31P-NMRを用いて公知の手順に従って測定した。
【0060】
本発明の詳細の記載の観点において、他の変更および改変は当業者にとって明らかになるであろう。しかしながら、そのような他の変更および改変は、本発明の精神および範囲から逸脱することなくなされ得ることは明らかであろう。
【国際調査報告】