(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-25
(54)【発明の名称】個別化された治療のための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
G16B 25/10 20190101AFI20240718BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240718BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20240718BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240718BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240718BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20240718BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20240718BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240718BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240718BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20240718BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20240718BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240718BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240718BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240718BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240718BHJP
C12Q 1/6837 20180101ALN20240718BHJP
【FI】
G16B25/10
A61P37/02
A61P1/04
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P17/06
A61P19/00
A61P25/00
A61P17/00
A61P25/24
A61P25/18
A61P25/28
A61P25/16
A61P43/00 111
A61K39/395 N
C12Q1/6837 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579444
(86)(22)【出願日】2022-06-21
(85)【翻訳文提出日】2024-02-22
(86)【国際出願番号】 US2022034368
(87)【国際公開番号】W WO2022271717
(87)【国際公開日】2022-12-29
(32)【優先日】2021-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523482086
【氏名又は名称】サイファー メディシン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジアシアン,スーザン
(72)【発明者】
【氏名】アクマエフ,ヴャチェスラフ アール.
(72)【発明者】
【氏名】ヴォイタロフ,アイヴァン
【テーマコード(参考)】
4B063
4C085
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC23
4C085EE01
(57)【要約】
治療の標的を同定し、かつ疾患遺伝子発現シグネチャーを示す対象を処置するための方法およびシステムであって、疾患、障害、または疾病に罹患している対象において疾患遺伝子発現シグネチャーを非疾患発現シグネチャー(例えば、非疾患対象の疾患遺伝子発現シグネチャー)に戻すと決定されている治療を同定および投与する工程を含む、方法およびシステムが記載される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疾患、障害、または疾病に罹患している対象を処置するための治療の標的を決定または検証する方法であって、
疾患遺伝子発現シグネチャーに対応する応答遺伝子のセットを受け取る工程であって、前記疾患遺伝子発現シグネチャーは、発現が全体的または部分的に逆転されると、非疾患対象の遺伝子発現に類似する1つ以上の遺伝子を含む、工程と、
1つ以上の可能な治療と複数の遺伝子発現との複数の相互作用を受け取る工程と、
前記応答遺伝子のセットの各応答遺伝子について、前記複数の相互作用の少なくとも一部に基づいて、前記応答遺伝子の遺伝子発現を変化させる1つ以上の可能な治療を生成する工程と、
前記応答遺伝子のセットの変化の有意性の少なくとも一部に基づいて前記1つ以上の可能な治療をそれぞれスコア化する工程であって、これにより、1つ以上の候補治療を提供する、工程と、
前記1つ以上の候補治療によって直接調節された1つ以上の可能な標的を決定する工程と、
前記1つ以上の可能な標的と有意な類似性を共有する1つ以上の第2の標的を選択する工程と、
前記1つ以上の可能な標的および前記1つ以上の第2の標的を含む、標的のセットをコンパイルする工程と、
前記応答遺伝子のセットに対して有意な下流影響の類似性を有する前記標的のセットから標的を同定する工程であって、これにより、前記治療の標的を提供する、工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記1つ以上の可能な標的をそれぞれ生物学的ネットワーク上にマッピングする工程、および前記生物学的ネットワーク上の前記1つ以上の可能な標的と有意な形態的類似性を共有する1つ以上の第2の標的を選択する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生物学的ネットワークは、ヒトインタラクトームを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記1つ以上の第2の標的の有意な形態的類似性は、前記生物学的ネットワーク上の前記1つ以上の可能な標的に近接する標的の同定によって決定される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
いくつかの実施形態では、前記治療の標的は、前記1つ以上の候補治療によって直接調節される。
【請求項6】
いくつかの実施形態では、前記治療の標的は、前記疾患、障害、または疾病に承認された治療と関連しない。
【請求項7】
いくつかの実施形態では、前記治療の標的は、前記疾患、障害、または疾病とは異なる第2の疾患と関連する。
【請求項8】
いくつかの実施形態では、前記治療は、表1から選択される一員を含む。
【請求項9】
いくつかの実施形態では、前記治療は、遺伝子ノックアウトまたは遺伝子の過剰発現を含む。
【請求項10】
いくつかの実施形態では、前記治療は、抗TNF治療を含む。
【請求項11】
前記抗TNF治療は、インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ、セルトリズマブペゴル、ゴリムマブ、またはこれらのバイオシミラーを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
いくつかの実施形態では、前記1つ以上の可能な標的は、JAK1、JAK2、JAK3、IL23A、ITGA4、ITGB7、IL2RA、IL12A、IL12B、TNF、IL12RB1、IL23R、IL12RB2、またはMADCAM1を含む。
【請求項13】
いくつかの実施形態では、前記変化の有意性は、前記応答遺伝子のセットの遺伝子発現における有意な変化を含む。
【請求項14】
いくつかの実施形態では、前記疾患、障害、または疾病は、自己免疫性の疾患、障害、または疾病を含む。
【請求項15】
いくつかの実施形態では、前記疾患、障害、または疾病は、潰瘍性大腸炎、クローン病、関節リウマチ、若年性関節炎、乾癬性関節炎、尋常性乾癬、強直性脊椎炎、ギラン・バレー症候群、シェーグレン症候群、強皮症、白斑、双極性障害、グレーブス病、統合失調症、アルツハイマー病、多発性硬化症、パーキンソン病、またはこれらの組合せを含む。
【請求項16】
前記疾患、障害、または疾病は、潰瘍性大腸炎を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記疾患、障害、または疾病は、関節リウマチを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記疾患、障害、または疾病は、アルツハイマー病を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記疾患、障害、または疾病は、多発性硬化症を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
いくつかの実施形態では、前記生物学的ネットワークは、ヒトタンパク質間インタラクトームである。
【請求項21】
疾患、障害、または疾病に罹患している対象を処置する方法であって、前記対象は、前記疾患、障害、または疾病と関連する疾患遺伝子発現シグネチャーを示し、前記方法は、前記疾患遺伝子発現シグネチャーを非疾患遺伝子発現シグネチャーに戻すと決定されている治療を前記対象に投与する工程を含み、前記治療は、少なくとも部分的に、
前記疾患遺伝子発現シグネチャーに対応する応答遺伝子のセットを受け取ることであって、前記疾患遺伝子発現シグネチャーは、発現が全体的または部分的に逆転されると、非疾患対象の遺伝子発現に類似する1つ以上の遺伝子を含む、受け取ること、
1つ以上の可能な治療と複数の遺伝子発現との複数の相互作用を受け取ること、
前記応答遺伝子のセットの各応答遺伝子について、前記複数の相互作用の少なくとも一部に基づいて、前記応答遺伝子の遺伝子発現を変化させる1つ以上の可能な治療を生成すること、
前記応答遺伝子のセットの変化の有意性の少なくとも一部に基づいて前記1つ以上の可能な治療をそれぞれスコア化することであって、これにより、1つ以上の候補治療を提供する、スコア化すること、
前記1つ以上の候補治療によって直接調節された1つ以上の可能な標的を決定すること、
前記1つ以上の可能な標的と有意な類似性を共有する1つ以上の第2の標的を選択すること、
前記1つ以上の可能な標的および前記1つ以上の可能な第2の標的を含む、標的のセットをコンパイルすること、
前記応答遺伝子のセットに対して有意な下流影響の類似性を有する前記治療の標的のリストから標的を選択すること、ならびに
前記治療が前記標的を直接調節すると決定すること
によって決定されている、方法。
【請求項22】
いくつかの実施形態では、前記治療は、少なくとも部分的に、さらに前記1つ以上の可能な標的をそれぞれ生物学的ネットワーク上にマッピングすること、および前記生物学的ネットワーク上の前記1つ以上の可能な標的と有意な形態的類似性を共有する1つ以上の第2の標的を選択することによって決定されている。
【請求項23】
前記生物学的ネットワークは、ヒトインタラクトームを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記1つ以上の第2の標的の有意な形態的類似性は、前記1つ以上の可能な標的に近接する標的の同定によって決定される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
いくつかの実施形態では、前記疾患遺伝子発現シグネチャーは、少なくとも部分的に、
前記疾患、障害、または疾病に罹患している対象のコホートから遺伝子発現データを分析すること、
前記遺伝子発現データの少なくとも一部に基づいて前記対象のコホートを、以前の対象の2つ以上の群に層別化すること、および
前記以前の対象の2つ以上の群と非疾患対象の群との間の遺伝子発現における有意差を有する1つ以上の遺伝子(「疾患候補遺伝子」)を選択することであって、これにより、前記疾患遺伝子発現シグネチャーを提供する、選択すること
によって決定されている。
【請求項26】
いくつかの実施形態では、前記治療の標的は、前記1つ以上の候補治療によって直接調節される。
【請求項27】
いくつかの実施形態では、前記治療の標的は、前記疾患、障害、または疾病に承認された治療と関連しない。
【請求項28】
いくつかの実施形態では、前記治療は、抗TNF治療を含む。
【請求項29】
前記抗TNF治療は、インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ、セルトリズマブペゴル、ゴリムマブ、またはこれらのバイオシミラーを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
いくつかの実施形態では、前記治療は、遺伝子ノックアウトまたは遺伝子の過剰発現を含む。
【請求項31】
いくつかの実施形態では、前記治療は、表1から選択される一員を含む。
【請求項32】
いくつかの実施形態では、前記1つ以上の可能な標的は、JAK1、JAK2、JAK3、IL23A、ITGA4、ITGB7、IL2RA、IL12A、IL12B、TNF、IL12RB1、IL23R、IL12RB2、またはMADCAM1を含む。
【請求項33】
いくつかの実施形態では、前記変化の有意性は、前記応答遺伝子のセットの遺伝子発現における有意な変化を含む。
【請求項34】
いくつかの実施形態では、前記疾患、障害、または疾病は、自己免疫性の疾患、障害、または疾病を含む。
【請求項35】
いくつかの実施形態では、前記疾患、障害、または疾病は、潰瘍性大腸炎、クローン病、関節リウマチ、若年性関節炎、乾癬性関節炎、尋常性乾癬、強直性脊椎炎、ギラン・バレー症候群、シェーグレン症候群、強皮症、白斑、双極性障害、グレーブス病、統合失調症、アルツハイマー病、多発性硬化症、パーキンソン病、またはこれらの組合せを含む。
【請求項36】
前記疾患、障害、または疾病は、潰瘍性大腸炎を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記疾患、障害、または疾病は、関節リウマチを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記疾患、障害、または疾病は、アルツハイマー病を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記疾患、障害、または疾病は、多発性硬化症を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
前記生物学的ネットワークは、ヒトタンパク質間インタラクトームである、請求項22に記載の方法。
【請求項41】
いくつかの実施形態では、前記1つ以上の可能な治療をそれぞれスコア化することは、
前記1つ以上の可能な治療を用いた処置の前の前記応答遺伝子のセットに対する、前記1つ以上の可能な治療を用いた処置の後の前記応答遺伝子のセットの発現レベルにおける差異を決定すること、および
前記1つ以上の可能な治療のそれぞれのp値を算出すること
を含む。
【請求項42】
いくつかの実施形態では、前記可能な標的は、機械学習アルゴリズムによって同定される。
【請求項43】
前記機械学習アルゴリズムは、ランダムウォークを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記対象のコホートを以前の対象の2つ以上の群に層別化することは、前記以前の対象が特定の治療に応答するか否かに基づく、請求項25に記載の方法。
【請求項45】
対象に対し個別化された治療を決定するための方法であって、
応答遺伝子のセットを含む疾患遺伝子発現シグネチャーを受け取るかまたは生成する工程と、
前記応答遺伝子のセットの発現を変化させる1つ以上の可能な治療を受け取るかまたは生成する工程と、
前記応答遺伝子のセットの変化の有意性の少なくとも一部に基づいて前記1つ以上の可能な治療をそれぞれランク付けする工程であって、これにより、1つ以上の候補治療を提供する、工程と、
前記1つ以上の候補治療によって直接調節される1つ以上の可能な標的を決定する工程と、
1つ以上の第2の標的を、前記1つ以上の可能な標的に対する類似性の有意性の少なくとも一部に基づいてランク付けする工程と、
前記1つ以上の可能な標的および前記1つ以上の第2の標的を含む、標的のセットをコンパイルする工程と、
前記応答遺伝子のセットに対する有意な下流影響の類似性を有する前記個別化された治療のための前記標的のセットから標的を選択する工程と、
前記個別化された治療が前記標的を直接調節すると決定する工程と
を含む、方法。
【請求項46】
前記1つ以上の可能な標的をそれぞれ生物学的ネットワーク上にマッピングする工程、および1つ以上の第2の標的を、前記生物学的ネットワーク上の前記1つ以上の可能な標的に対する形態的類似性の有意性の少なくとも一部に基づいてランク付けする工程をさらに含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
前記生物学的ネットワークは、ヒトインタラクトームを含む、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記疾患遺伝子発現シグネチャーは、少なくとも部分的に、
前記疾患、障害、または疾病に罹患している対象のコホートから遺伝子発現データを分析すること、
前記遺伝子発現データの少なくとも一部に基づいて前記対象のコホートを、以前の対象の2つ以上の群に層別化すること、および
前記以前の対象の2つ以上の群と非疾患対象の群との間の遺伝子発現における有意差を有する1つ以上の遺伝子(「疾患候補遺伝子」)を選択することであって、これにより、前記疾患遺伝子発現シグネチャーを提供する、選択すること
ことによって決定される、請求項45に記載の方法。
【請求項49】
コンピューティングデバイスのプロセッサと、
命令が記憶されているメモリであって、前記命令は、前記プロセッサによって実行されると、前記プロセッサに請求項1~48のいずれか一項に記載の方法を行わせる、メモリと
を備えるシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年6月22日出願の米国仮出願第63/213,428号および2022年4月8日出願の米国仮出願第63/329,008号の利益を主張し、これらの出願は、参照によってその全体が本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
多くの複雑な疾患に対する治療応答は、研究者および医療関係者にとって理解しがたいものであり続ける可能性がある。単一の層別化因子またはバイオマーカーは、治療が特定の患者を処置するのに有効であるかどうかを決定するのに不充分であり得る。代わりに、自己免疫疾患や癌などの多くの疾患は、多数の生物学的サブシステムに影響する(例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用されるFrohlich et al.,BMC Med,16,150:1122-1127(2018)を参照)。これらの疾患の有効な処置は、多数のタンパク質および関連する生物学的プロセスを標的化または調節することができる治療を必要とし得る。患者の処置を同定するための受動的な手法(例えば、試行錯誤手法)は、コストがかかり、有害な副作用、潜在的な疾患の進行、および適切な処置の遅延のリスクを導入し得る(例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用されるMathur & Sutton,Biomed.Rep.,7:3-5(2017)を参照)。さらに、応答の確認は、必ずしも疾患の真の応答または退行を示すとは限らない臨床的特徴の分析に限定され得る。
【発明の概要】
【0003】
今日まで、特定の対象に対する治療の適合性を決定するための多くの手法は、多数の治療を試み、臨床的特徴を評価することによって患者応答を測定しようとする受動的な手法に依存し得る。これらの手法は、必要な処置を遅延させる場合があり、応答の臨床的特徴を検査するだけで患者に対する処置の実際の応答性を誤って特徴付ける場合がある。したがって、そのような落とし穴を回避する、患者に対し個別化された治療を提供する方法およびシステムが必要とされている。
【0004】
本開示は、分子レベルで患者を処置すること、例えば、疾患対象からの遺伝子発現プロファイルのサブセットを、健康な対象からの遺伝子発現プロファイルに似るように積極的に変換する処置を提供することが、受動的な手法によるよりも薬物分子応答を評価して有効な治療を同定するための、または単一のフリーサイズのバイオマーカーを探求するためのより良好な測定メトリックであり得るという洞察を包含する方法およびシステムを提供する。提供される技術は、とりわけ、提供者が、その特定の患者のために機能し得る処置の特定の方法および様式を同定することを可能にし、提供者が、臨床的特徴または患者の自己評価などの主観的な尺度に依存することなく、疾患の進行および処置応答をモニタリングすることを可能にする。いくつかの実施形態では、疾患患者の特定の遺伝子発現パターンは、治療に対する応答を示し、疾患患者におけるこの遺伝子発現パターンの遺伝子発現の逆転は、疾患対象の健康の改善を示す(「疾患遺伝子発現シグネチャー」)。患者が治療に対する応答を示すバイオマーカーを有するかどうかを、そうでない他の患者と比較して同定するために、疾患に罹患している患者間の遺伝子発現の差異を検査するそのような手法は、他の方法とは異なる。
【0005】
いくつかの実施形態では、疾患遺伝子発現シグネチャーは、有意な様式で疾患対象、疾患対象のサブセット、および健康な対象の間で差次的発現遺伝子を同定する機械学習アルゴリズムを使用して同定される。さらに、本開示は、疾患対象の遺伝子発現プロファイル内の特定の遺伝子が、健康な対象の遺伝子発現プロファイルと比較した場合に、健康な対象と比較して疾患対象において差次的発現遺伝子とは異なる治療の潜在的標的をもたらすという洞察を包含する方法およびシステムを提供する。すなわち、他の方法は、疾患対象対健康な対象において差次的発現遺伝子に焦点を当てるが、本開示は、代わりに、これらの差次的発現遺伝子に対して有意な関連を有する(したがって影響を与える)が、疾患対象と健康な対象との間ではそれ自体差次的に発現され得ない治療の標的を同定する。いくつかの実施形態では、治療の潜在的標的は、標的の調節が処置後の疾患遺伝子発現シグネチャーの遺伝子発現を逆転させ、それによって対象の疾患が特定の治療に応答していることを示すことができるように、疾患対象において差次的発現遺伝子との有意な関連を有する。
【0006】
さらに、本開示は、治療の多数の標的が、疾患対象において差次的発現遺伝子への有意な関連を潜在的に有し得るという洞察を包含する方法およびシステムを提供する。したがって、いくつかの標的のうちのどの標的が、処置後に疾患遺伝子発現シグネチャーの遺伝子発現の逆転を成功させる可能性が最も高いかを同定するための方法を提供することが有益であり得る。いくつかの実施形態では、疾患遺伝子発現応答シグネチャーに影響を与える標的調節の成功の可能性は、候補標的が調節されるときの応答を予測するための機械学習アルゴリズムを使用して決定される。いくつかの実施形態では、そのような予測は、候補標的と疾患発現シグネチャー中の遺伝子の各々との間のネットワークの近接性(例えば、関連の有意性を含み得る)を評価することによって行われる。いくつかの実施形態では、人工知能ソフトウェアモジュールは、疾患遺伝子発現応答シグネチャーに対して有意性の最も高い標的を予測し、これにより、疾患対象の治療のための対象の標的を提供する。
【0007】
一態様では、本開示は、疾患、障害、または疾病に罹患している対象を処置するための治療の標的を決定または確認する方法であって、疾患遺伝子発現シグネチャーに対応する応答遺伝子のセットを受け取る工程であって、疾患遺伝子発現シグネチャーは、発現が全体的または部分的に逆転されると、非疾患対象の遺伝子発現に類似する1つ以上の遺伝子を含む、工程と、1つ以上の可能な治療と複数の遺伝子発現との複数の相互作用を受け取る工程と、応答遺伝子のセットの各応答遺伝子について、複数の相互作用の少なくとも一部に基づいて、応答遺伝子の遺伝子発現を変化させる1つ以上の可能な治療を生成する工程と、応答遺伝子のセットの変化の有意性の少なくとも一部に基づいて1つ以上の可能な治療をそれぞれスコア化する工程であって、これにより、1つ以上の候補治療を提供する、工程と、1つ以上の候補治療によって直接調節された1つ以上の可能な標的を決定する工程と、1つ以上の可能な標的と有意な類似性を共有する1つ以上の第2の標的を選択する工程と、1つ以上の可能な標的および1つ以上の可能な第2の標的を含む、標的のセットをコンパイルする工程と、応答遺伝子のセットに対して有意な下流影響の類似性を有する標的のセットから標的を同定する工程とを含む、方法を提供する。
【0008】
いくつかの実施形態では、方法は、1つ以上の可能な標的を生物学的ネットワーク上にマッピングする工程、および生物学的ネットワーク上の1つ以上の可能な標的と有意なトポロジー的類似性を共有する1つ以上の第2の標的を選択する工程をさらに含む。いくつかの実施形態では、生物学的ネットワークは、ヒトインタラクトームを含む。いくつかの実施形態では、生物学的ネットワークは、ヒトタンパク質間インタラクトームである。いくつかの実施形態では、1つ以上の第2の標的の有意なトポロジー的類似性は、生物学的ネットワーク上の1つ以上の可能な標的に近接する標的の同定によって決定される。
【0009】
いくつかの実施形態では、治療の標的は、1つ以上の候補治療によって直接調節される。いくつかの実施形態では、治療の標的は、疾患、障害、または疾病に承認された治療と関連しない。いくつかの実施形態では、治療の標的は、疾患、障害、または疾病とは異なる第2の疾患と関連する。いくつかの実施形態では、治療は、表1から選択される一員を含む。いくつかの実施形態では、治療は、遺伝子ノックアウトまたは遺伝子の過剰発現を含む。いくつかの実施形態では、治療は、抗TNF治療を含む。いくつかの実施形態では、抗TNF治療は、インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ、セルトリズマブペゴル、ゴリムマブ、またはこれらのバイオシミラーを含む。いくつかの実施形態では、1つ以上の可能な標的は、JAK1、JAK2、JAK3、IL23A、ITGA4、ITGB7、IL2RA、IL12A、IL12B、TNF、IL12RB1、IL23R、IL12RB2、またはMADCAM1を含む。いくつかの実施形態では、変化の有意性は、応答遺伝子のセットの遺伝子発現における有意な変化を含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、疾患、障害、または疾病は、自己免疫性の疾患、障害、または疾病を含む。いくつかの実施形態では、疾患、障害、または疾病は、潰瘍性大腸炎、クローン病、関節リウマチ、若年性関節炎、乾癬性関節炎、尋常性乾癬、強直性脊椎炎、ギラン・バレー症候群、シェーグレン症候群、強皮症、白斑、双極性障害、グレーブス病、統合失調症、アルツハイマー病、多発性硬化症、パーキンソン病、またはこれらの組合せを含む。いくつかの実施形態では、疾患、障害、または疾病は、潰瘍性大腸炎を含む。いくつかの実施形態では、疾患、障害、または疾病は、関節リウマチを含む。いくつかの実施形態では、疾患、障害、または疾病は、アルツハイマー病を含む。いくつかの実施形態では、疾患、障害、または疾病は、多発性硬化症を含む。
【0011】
一態様では、本開示は、疾患、障害、または疾病に罹患している対象を処置する方法であって、対象は、疾患、障害、または疾病と関連する疾患遺伝子発現シグネチャーを示し、方法は、疾患遺伝子発現シグネチャーを非疾患遺伝子発現シグネチャーに戻すと決定されている治療を対象に投与する工程を含み、治療は、少なくとも部分的に、疾患遺伝子発現シグネチャーに対応する応答遺伝子のセットを受け取る工程であって、疾患遺伝子発現シグネチャーは、発現が全体的または部分的に逆転されると、非疾患対象の遺伝子発現に類似する1つ以上の遺伝子を含む、工程、1つ以上の可能な治療と複数の遺伝子発現との複数の相互作用を受け取る工程、応答遺伝子のセットの各応答遺伝子について、複数の相互作用の少なくとも一部に基づいて、応答遺伝子の遺伝子発現を変化させる1つ以上の可能な治療を生成する工程と、応答遺伝子のセットの変化の有意性の少なくとも一部に基づいて1つ以上の可能な治療をそれぞれスコア化する工程であって、これにより、1つ以上の候補治療を提供する、工程と、1つ以上の候補治療によって直接調節された1つ以上の可能な標的を決定する工程、1つ以上の可能な標的と有意な類似性を共有する1つ以上の第2の標的を選択する工程、1つ以上の可能な標的および1つ以上の可能な第2の標的を含む、標的のセットをコンパイルする工程、応答遺伝子のセットに対して有意な下流影響の類似性を有する治療の標的のリストから標的を選択する工程、および治療が標的を直接調節することを決定する工程によって決定されている、方法を提供する。
【0012】
いくつかの実施形態では、治療は、少なくとも部分的に、さらに、1つ以上の可能な標的を生物学的ネットワーク上にマッピングする工程、および生物学的ネットワーク上の1つ以上の可能な標的と有意なトポロジー的類似性を共有する1つ以上の第2の標的を選択する工程によって決定されている。いくつかの実施形態では、生物学的ネットワークは、ヒトインタラクトームを含む。いくつかの実施形態では、生物学的ネットワークは、ヒトタンパク質間インタラクトームである。いくつかの実施形態では、1つ以上の第2の標的の有意なトポロジー的類似性は、生物学的ネットワーク上の1つ以上の可能な標的に近接する標的の同定によって決定される。
【0013】
いくつかの実施形態では、疾患遺伝子発現シグネチャーは、少なくとも部分的に、疾患、障害、または疾病に罹患している対象のコホートから遺伝子発現データを分析する工程、遺伝子発現データの少なくとも一部に基づいて対象のコホートを、以前の対象の2つ以上の群に層別化する工程、および以前の対象の2つ以上の群と非疾患対象の群との間の遺伝子発現における有意差を有する1つ以上の遺伝子(「疾患候補遺伝子」)を選択する工程であって、これにより、疾患遺伝子発現シグネチャーを提供する、工程によって決定されている。いくつかの実施形態では、対象のコホートを、以前の対象の2つ以上の群に層別化する工程は、以前の対象が特定の治療に応答するか否かに基づく。
【0014】
いくつかの実施形態では、治療の標的は、1つ以上の候補治療によって直接調節される。いくつかの実施形態では、治療の標的は、疾患、障害、または疾病に承認された治療と関連しない。いくつかの実施形態では、治療は、抗TNF治療を含む。いくつかの実施形態では、抗TNF治療は、インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ、セルトリズマブペゴル、ゴリムマブ、またはこれらのバイオシミラーを含む。いくつかの実施形態では、治療は、遺伝子ノックアウトまたは遺伝子の過剰発現を含む。いくつかの実施形態では、治療は、表1から選択された一員を含む。いくつかの実施形態では、1つ以上の可能な標的は、JAK1、JAK2、JAK3、IL23A、ITGA4、ITGB7、IL2RA、IL12A、IL12B、TNF、IL12RB1、IL23R、IL12RB2、またはMADCAM1を含む。いくつかの実施形態では、変化の有意性は、応答遺伝子のセットの遺伝子発現における有意な変化を含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、疾患、障害、または疾病は、自己免疫性の疾患、障害、または疾病を含む。いくつかの実施形態では、疾患、障害、または疾病は、潰瘍性大腸炎、クローン病、関節リウマチ、若年性関節炎、乾癬性関節炎、尋常性乾癬、強直性脊椎炎、ギラン・バレー症候群、シェーグレン症候群、強皮症、白斑、双極性障害、グレーブス病、統合失調症、アルツハイマー病、多発性硬化症、パーキンソン病、またはこれらの組合せを含む。いくつかの実施形態では、疾患、障害、または疾病は、潰瘍性大腸炎を含む。いくつかの実施形態では、疾患、障害、または疾病は、関節リウマチを含む。いくつかの実施形態では、疾患、障害、または疾病は、アルツハイマー病を含む。いくつかの実施形態では、疾患、障害、または疾病は、多発性硬化症を含む。
【0016】
いくつかの実施形態では、1つ以上の可能な治療をそれぞれスコア化する工程は、1つ以上の可能な治療を用いた処置の前の応答遺伝子のセットに対する1つ以上の可能な治療を用いた処置の後の応答遺伝子のセットの発現レベルにおける差異を決定すること、および1つ以上の可能な治療のそれぞれのp値を算出することを含む。
【0017】
いくつかの実施形態では、可能な標的は、機械学習アルゴリズムによって同定される。いくつかの実施形態では、機械学習アルゴリズムは、ランダムウォークを含む。
【0018】
一態様では、本開示は、対象に対し個別化された治療を決定するための方法であって、応答遺伝子のセットを含む疾患遺伝子発現シグネチャーを受け取るかまたは生成する工程と、応答遺伝子のセットの発現を変化させる1つ以上の可能な治療を受け取るかまたは生成する工程と、応答遺伝子のセットの変化の有意性の少なくとも一部に基づいて1つ以上の可能な治療をそれぞれランク付けする工程であって、これにより、1つ以上の候補治療を提供する、工程と、1つ以上の候補治療によって直接調節される1つ以上の可能な標的を決定する工程と、1つ以上の可能な標的に対する類似性の有意性の少なくとも一部に基づいて1つ以上の第2の標的をランク付けする工程と、1つ以上の可能な標的および1つ以上の第2の標的のセットをコンパイルする工程と、応答遺伝子のセットに対する有意な下流影響の類似性を有する個別化された治療の標的のセットから標的を選択する工程と、個別化された治療が標的を直接調節することを決定する工程とを含む、方法を提供する。
【0019】
いくつかの実施形態では、方法は、1つ以上の可能な標的をそれぞれ生物学的ネットワーク上にマッピングする工程、および1つ以上の第2の標的を、生物学的ネットワーク上の1つ以上の可能な標的に対するトポロジー的類似性の有意性の少なくとも一部に基づいてランク付けする工程をさらに含む。いくつかの実施形態では、生物学的ネットワークは、ヒトインタラクトームを含む。
【0020】
いくつかの実施形態では、疾患遺伝子発現シグネチャーは、少なくとも部分的に、疾患、障害、または疾病に罹患している対象のコホートから遺伝子発現データを分析する工程、遺伝子発現データの少なくとも一部に基づいて対象のコホートを、以前の対象の2つ以上の群に層別化する工程、および以前の対象の2つ以上の群と非疾患対象の群との間の遺伝子発現における有意差を有する1つ以上の遺伝子(「疾患候補遺伝子」)を選択する工程であって、これにより、疾患遺伝子発現シグネチャーを提供する、工程によって決定されている。
【0021】
一態様では、本開示は、システムであって、コンピューティングデバイスのプロセッサと、命令が記憶されているメモリであって、命令は、プロセッサによって実行されると、プロセッサに本明細書に提供され方法のいずれかを行わせる、メモリとを備える、システムを提供する。
【0022】
別の態様では、本開示は、疾患、障害、または疾病に罹患している対象を処置するための治療の標的を決定または確認する方法であって、疾患遺伝子発現シグネチャーに対応する応答遺伝子のセットを受け取る工程であって、疾患遺伝子発現シグネチャーは、発現が全体的または部分的に逆転されると、健康な対象の遺伝子発現に類似する1つ以上の遺伝子であるか、それらを含む、工程と、1つ以上の可能な治療と複数の遺伝子発現との複数の相互作用を受け取る工程と、応答遺伝子のセットの各遺伝子について、応答遺伝子のセットの遺伝子発現を変化させる1つ以上の可能な治療を生成する工程と、応答遺伝子のセットの変化(例えば、遺伝子発現における変化)の有意性に基づいて1つ以上の可能な治療をそれぞれスコア化する工程であって、これにより、1つ以上の候補治療を提供する、工程と、1つ以上の候補治療によって直接調節された1つ以上の可能な標的を決定する工程と、1つ以上の可能な標的をそれぞれ生物学的ネットワーク上にマッピングする工程と、生物学的ネットワーク上の1つ以上の可能な標的と有意なトポロジー的類似性を共有する1つ以上の第2の標的を選択する工程と、1つ以上の可能な標的および1つ以上の可能な第2の標的を含む、標的のリストをコンパイルする工程と、標的のリストから応答遺伝子のセットに対して有意な下流影響の類似性を有する標的を同定する工程とを含む、方法を提供する。
【0023】
いくつかの実施形態では、治療の標的は、1つ以上の候補治療によって直接調節される。
【0024】
いくつかの実施形態では、1つ以上の第2の標的の有意なトポロジー的類似性は、1つ以上の可能な標的に近接する標的の同定によって決定される。
【0025】
いくつかの実施形態では、治療の標的は、治療と関連しない。(例えば、使用が承認されていない)。
【0026】
いくつかの実施形態では、治療の標的は、対象に罹患している疾患(例えば、「新規標的」である)とは異なる疾患と関連する(例えば、使用が承認されている)。
【0027】
いくつかの実施形態では、治療は、表1から選択される一員を含む。
【0028】
いくつかの実施形態では、治療は、遺伝子ノックアウトまたは遺伝子過剰発現を含む。
【0029】
いくつかの実施形態では、治療は、抗TNF治療を含む。
【0030】
いくつかの態様では、1つ以上の可能な標的は、JAK1、JAK2、JAK3、IL23A、ITGA4、ITGB7、IL2RA、IL12A、IL12B、TNF、IL12RB1、IL23R、IL12RB2、およびMADCAM1から選択される。
【0031】
別の態様では、本開示は、疾患遺伝子発現シグネチャーを示す対象を処置する方法であって、疾患遺伝子発現シグネチャーを健康な遺伝子発現シグネチャーに戻すと決定された治療を投与する工程を含む方法であって、治療は、疾患遺伝子発現シグネチャーから応答遺伝子のセットを選択すること、応答遺伝子のセットの遺伝子発現を変化させる1つ以上の可能な治療を同定すること、1つ以上の候補治療を提供するための応答遺伝子のセットの変化の有意性に基づいて、1つ以上の可能な治療をそれぞれスコア化すること、1つ以上の候補治療によって直接調節される1つ以上の可能な標的を決定すること、1つ以上の可能な標的をそれぞれ生物学的ネットワーク上にマッピングすること、生物学的ネットワーク上の1つ以上の可能な標的と有意なトポロジー的類似性を共有する1つ以上の第2の標的を選択すること、1つ以上の可能な標的および1つ以上の第2の標的を含む、標的のリストをコンパイルすること、応答遺伝子のセットに対して有意な下流影響を有する標的を同定すること、標的のリストから治療の標的を選択すること、ならびに治療の標的を直接調節する治療を同定することによって決定される、方法を提供する。
【0032】
いくつかの実施形態では、疾患遺伝子発現シグネチャーは、対象と同じ疾患、障害、または疾病に罹患している対象のコホートからの遺伝子発現データを分析すること、遺伝子発現データに基づいて、対象のコホートを、以前の対象の2つ以上の群に層別化すること、および以前の対象の2つ以上の群と健康な対象の群との間で遺伝子発現に有意差を有する1つ以上の遺伝子(「疾患候補遺伝子」)を選択することであって、これにより、疾患遺伝子発現シグネチャーを提供する、選択することによって決定される。
【0033】
いくつかの実施形態では、治療の標的は、1つ以上の候補治療によって直接調節される。
【0034】
いくつかの実施形態では、1つ以上の第2の標的の有意なトポロジー的類似性は、1つ以上の可能な標的に近接する標的の同定によって決定される。
【0035】
いくつかの実施形態では、治療の標的は、治療と関連しない。
【0036】
いくつかの実施形態では、治療は、抗TNF治療を含む。
【0037】
いくつかの実施態様では、抗TNF治療は、インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ、セルトリズマブペゴル、ゴリムマブ、およびこれらのバイオシミラーから選択される。
【0038】
いくつかの実施形態では、治療は、表1から選択される一員を含む。
【0039】
いくつかの実施形態では、1つ以上の可能な標的は、JAK1、JAK2、JAK3、IL23A、ITGA4、ITGB7、IL2RA、IL12A、IL12B、TNF、IL12RB1、IL23R、IL12RB2、およびMADCAM1から選択される。
【0040】
いくつかの実施形態では、疾患、障害、または疾病は、潰瘍性大腸炎、クローン病、関節リウマチ、若年性関節炎、乾癬性関節炎、尋常性乾癬、強直性脊椎炎、ギラン・バレー症候群、シェーグレン症候群、強皮症、白斑、双極性障害、グレーブス病、統合失調症、アルツハイマー病、多発性硬化症、パーキンソン病、またはこれらの組合せを含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、1つ以上の可能な治療をそれぞれスコア化する工程は、1つ以上の可能な治療を用いた処置の前の応答遺伝子のセットに対する1つ以上の可能な治療を用いた処置の後の応答遺伝子のセットの発現レベルにおける差異を決定すること、および1つ以上の可能な治療のそれぞれのp値を算出することを含む。
【0042】
いくつかの実施形態では、可能な標的は、機械学習アルゴリズムによって同定される。
【0043】
いくつかの実施形態では、機械学習アルゴリズムは、ランダムウォークを含む。
【0044】
いくつかの実施形態では、対象のコホートを、以前の対象の2つ以上の群に層別化する工程は、以前の対象が特定の治療に応答するか否かに基づく。
【0045】
別の態様では、本開示は、対象に対し個別化された治療を設計するための方法であって、応答遺伝子のセットを含む疾患遺伝子発現シグネチャーを受け取るかまたは生成する工程と、1つ以上の応答遺伝子の発現を変化させる1つ以上の可能な治療のセットを受け取るかまたは生成する工程と、1つ以上の候補治療のセットを提供するために、1つ以上の可能な治療のセットをそれぞれ、1つ以上の応答遺伝子の変化の有意性に従ってランク付けする工程と、任意選択で、1つ以上の可能な標的を生物学的ネットワーク上にマッピングすることによって、1つ以上の候補治療のセットによって直接調節される1つ以上の可能な標的を決定する工程と、1つ以上の可能な標的の各々と応答遺伝子のセットとの間のトポロジー的類似性の有意性をランク付けする工程と、1つ以上の可能な標的をそれぞれ生物学的ネットワーク上にマッピングする工程と、1つ以上の可能な標的と有意な下流影響を共有する1つ以上の第2の標的を同定する工程と、1つ以上の可能な標的および1つ以上の第2の標的を含む、標的のリストをコンパイルする工程と、標的のリストから治療の標的を選択する工程と、治療の標的を調節する個別化された治療を選択する工程とを含む、方法を提供する。
【0046】
いくつかの実施形態では、疾患遺伝子発現シグネチャーは、対象と同じ疾患、障害、または疾病に罹患している対象のコホートからの遺伝子発現データを受け取るかまたは生成すること、遺伝子発現データに基づいて、対象のコホートを、以前の対象の2つ以上の群に層別化すること、および以前の対象の2つ以上の群と健康な対象の群との間で遺伝子発現に有意差を有する1つ以上の遺伝子(「疾患候補遺伝子」)を選択することであって、これにより、疾患遺伝子発現シグネチャーを提供する、選択することによって決定される。
【0047】
別の態様では、本開示は、疾患に罹患している対象を処置するための治療の標的を決定または確認するためのシステムであって、コンピューティングデバイスのプロセッサと、命令が記憶されているメモリであって、命令は、プロセッサによって実行されると、プロセッサに本明細書に記載される任意の方法の1つ以上を行わせる、メモリとを備える、システムを提供する。
【0048】
本開示の別の態様は、1つ以上のコンピュータプロセッサによる実行に際して、上記または本明細書の他の箇所に記載の方法のいずれかを実装する機械実行可能コードを備える非一時的なコンピュータ可読媒体を提供する。
【0049】
本開示の別の態様は、1つ以上のコンピュータプロセッサと、それに結合されたコンピュータメモリとを備えるシステムを提供する。コンピュータメモリは、1つ以上のコンピュータプロセッサによる実行に際して、上記または本明細書の他の箇所に記載の方法のいずれかを実装する機械実行可能コードを備える。
【0050】
本開示の追加の態様および利点は、本開示の例示的な実施形態のみが示されて記述される以下の詳細な説明から、当業者に容易に明白となるであろう。理解されるように、本開示は、他の実施形態および異なる実施形態が可能であり、そのいくつかの詳細は、すべて本開示から逸脱することなく、様々な明白な点での修正が可能である。したがって、図面と説明は、本質的に例示的なものであり、限定的なものとみなされるべきではない。
【0051】
参照による援用
本明細書で言及されるすべての刊行物、特許、および特許出願は、あたかも個々の刊行物、特許、または特許出願がそれぞれ具体的かつ個別に参照によって援用されることが示されるのと同程度に、参照によって本明細書に援用される。参照によって援用される刊行物、および特許または特許出願が、本明細書に含まれる開示と矛盾する場合、本明細書は、あらゆるそのような矛盾する材料に取って代わるか、またはそれよりも優先されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】
図1は、疾患発現シグネチャーを同定するための例示的なワークフローを示す。
【
図2A】
図2Aは、TNFが、無作為に選択された処置モジュールよりも実験的に得られた処置モジュールに対して有意により近いネットワーク影響の類似性を有することを示すネットワーク類似性分析を示すプロットである。
【
図2B】
図2Bは、潰瘍性大腸炎によって承認された標的が、同定された処置モジュールに対して非常に有意な影響の特異性および選択性を有することを示すプロットを示す。
【
図3A】
図3Aは、実施例1における、ベースラインおよび処置後の処置に対するレスポンダーおよび非レスポンダーならびに健康な対照の遺伝子発現プロファイルの2D表示を示すプロットを示す。
【
図3B】
図3Bおよび
図3Cは、非レスポンダーバイオマーカーセットがレスポンダーのバイオマーカーセット内にほぼ完全に含有され、かつレスポンダーバイオマーカーセットが、各試験コホートについて非レスポンダーバイオマーカーセットよりも概して2倍大きかったことを示す一連の重複グラフを示す(
図3Bは、実施例1の試験1を表し、
図3Cは、実施例1の試験2を表す)。
【
図3C】
図3Bおよび
図3Cは、非レスポンダーバイオマーカーセットがレスポンダーのバイオマーカーセット内にほぼ完全に含有され、かつレスポンダーバイオマーカーセットが、各試験コホートについて非レスポンダーバイオマーカーセットよりも概して2倍大きかったことを示す一連の重複グラフを示す(
図3Bは、実施例1の試験1を表し、
図3Cは、実施例1の試験2を表す)。
【
図4】
図4は、様々な実施形態で使用するための例示的なネットワーク環境およびコンピューティングデバイスを示す。
【
図5】
図5は、本明細書に記載される技法を実装するために使用され得るコンピューティングデバイス500およびモバイルコンピューティングデバイス550の一例を示す。
【
図6】
図6は、生物学的ネットワーク(例えば、ヒトインタラクトームマップ)上でクラスター化され、接続された、抗TNF処置に応答してアップレギュレートされたノードおよびダウンレギュレートされたノードを示すプロットを示す。最大連結成分(largest connected component)(LCC)は約91である。
【
図7】
図7は、モジュールトライアッドフレームワークの概要を示す。(a)ヒトインタラクトーム上のUCモジュールトライアッドの発見のためのパイプライン:応答モジュールは、TNFi治療(インフリキシマブおよびゴリムマブ)に応答した活性UCを有する患者における処置の前後に差次的発現遺伝子に由来する;遺伝子型モジュールは、ヒトインタラクトーム上のUCと関連する遺伝子をマッピングすることによって得られる;処置モジュールは、HT29細胞株における実験データを使用して応答モジュール遺伝子の遺伝子発現の変化をもたらす小分子化合物を選択し、化合物をそれらのタンパク質標的にマッピングすることによって得られる。発見されたモジュールトライアッドに基づく標的の優先順位付け:(b)、(d)遺伝子型モジュールに対するノードのトポロジー的関連性は、すべての遺伝子型モジュールノードに対するノードの平均最短経路長を算出し、それを、Zスコア(近接性)を使用して、遺伝子型モジュールと同じ大きさの無作為化された接続されたサブネットワークに対する平均最短経路長の経験分布と比較することによって測定される;(c)、(e)処置モジュールに対するノードの機能的類似性は、すべての処置モジュールノードに対するノードの平均拡散状態距離(DSD)を算出し、それを、Zスコア(選択性)を使用して、処置モジュールと同じ大きさの無作為化された接続されたサブネットワークに対する平均DSDの経験分布と比較することによって測定される。すべてのノードは、近接性および選択性に基づいてランク付けされ、それらのランクは、最終的な標的ランク付けを得るためにランクプロダクトを使用して組み合わせられる。
【
図8】
図8は、TNFi治療の前後の正常な組織の対照およびUC活性患者の遺伝子発現プロファイルを示す。遺伝子発現プロファイルのUMAP埋め込みの最初の2つの座標は、(a)インフリキシマブTNFi処置および(b)ゴリムマブTNFi処置についての活性UCを有する患者と正常な対照との間の545個の差次的に発現される遺伝子のセットに基づく。
【
図9】
図9は、拡散状態距離(DSD)に基づく4つの複合疾患について承認された標的の回復を示す。(a)アルツハイマー病、(b)潰瘍性大腸炎、(c)関節リウマチ、および(d)多発性硬化症の処置のための既知の承認された標的の回復のための受信者動作特性(ROC)曲線。個々のROC曲線は、承認された標的およびDSDが、承認された標的から残りのHIノードまでである場合に、承認された標的の回復を示す。赤色線は、個々のROC曲線にわたって平均することによって得られた平均ROC曲線を表し、曲線下面積(AUC)は、平均ROC曲線について報告される。
【
図10】
図10は、モジュールトライアッド標的優先順位付けのインシリコ検証を示す。(a)強調されたUC処置について承認された23個の標的を有するHIノードの選択性-近接性散布図。より選択的かつ近位の標的は、散布図の左下に向かって位置する。(b)遺伝子型モジュールへの近接性、処置モジュールへの選択性、両方の組合せ、および対応する曲線下の面積(AUC)を伴う、応答モジュールに対するローカルラディアリティ(local radiality)を使用する、承認されたUC標的の回復のための受信者動作特性(ROC)曲線。(c)UCのために開始された標的、ならびにUCのための前臨床および臨床試験開発段階にある標的の組み合わせられた選択性-近接性ランクのViolinプロット。
【
図11】
図11は、DE分析の概要を示す。(a)レスポンダー、非レスポンダー、および正常な対照の異なる対の状態を比較することによって得られた差次的に発現する遺伝子のセットの概略図であり、DE遺伝子のセット名は、特定された論文全体を通して使用される;(b)インフリキシマブおよびゴリムマブ試験におけるR、NR、およびRBAセットのベン図(c)試験にわたるR、NR、およびRBAセットの相互重複。
【
図12】
図12は、健康な対照に対するベースラインでレスポンダーおよび非レスポンダーにおいて差次的発現遺伝子のKEGG経路濃縮分析を示す。(a)インフリキシマブおよびゴリムマブベースのコホートを併合した後の健康な対照に対するベースラインでレスポンダー(R)および非レスポンダー(NR)の差次的発現遺伝子のベン図、(b)KEGG内の同じ遺伝子セットのベン図を示す経路データベース、(c)KEGG経路は、R排除遺伝子よりも有意に多くのNR排除遺伝子も有するNR遺伝子セットで有意に濃縮された。
【
図13】
図13は、薬物当たりの標的の数を示す。UC処置のための承認または開発中の薬物の大部分は、最大4つの同時標的を有する。本発明者らは、本発明者らの分析において4つを超える標的を有する薬物を濾別する。
【
図14】
図14は、さまざまな方法の分析または動作を実行するようにプログラムされるか、さもなければ構成されるコンピュータシステム1401を示す。
【0053】
発明の詳細な説明
本開示の様々な実施形態が本明細書中で示され、かつ記述されてきたが、当業者であれば、このような実施形態はほんの一例として提供されることが明白であろう。本発明から逸脱することなく、多数の変形、変更、および置換が当業者により想到され得る。本明細書中に記載される本開示の実施形態に代わる様々な代案が利用されてもよいことを理解されたい。
【0054】
例えば、疾患の処置および予防に有用であるシステムおよび方法が本明細書において提供される。いくつかの実施形態では、本開示は、健康な対象と比較して差次的に発現される場合、治療に対する応答を示す遺伝子のセットを同定するためのシステムおよび方法を提供する。いくつかの実施形態では、本開示は、健康な対象と疾患対象との間で差次的に発現される場合もあれば、発現されない場合も特定の治療の標的を同定するためのシステムおよび方法を提供する。
【0055】
「投与」:本明細書で使用される場合、「投与」という用語は、概して、例えば、組成物であるか、組成物に含まれるか、またはその他の方法で組成物によって送達される薬剤の送達を達成するための、対象または系への組成物の投与を指す。
【0056】
「薬剤」:本明細書で使用される場合、「薬剤」という用語は、概して、実体(例えば、脂質、金属、核酸、ポリペプチド、多糖類、小分子など、またはそれらの複合体、組合せ、混合物、もしくは系[例えば、細胞、組織、生物])、または現象(例えば、熱、電流もしくは電場、磁力もしくは磁場など)を指す。
【0057】
「アミノ酸」:本明細書中で使用される場合、「アミノ酸」という用語は、概して、例えば1つ以上のペプチド結合の形成によってポリペプチド鎖に組み込まれ得る、いずれかの化合物または物質を指す。いくつかの実施形態では、アミノ酸は、一般構造H2N-C(H)(R)-COOHを有する。いくつかの実施形態では、アミノ酸は、天然に存在するアミノ酸である。いくつかの実施形態では、アミノ酸は非天然アミノ酸であり、いくつかの実施形態では、アミノ酸はD-アミノ酸であり、いくつかの実施形態では、アミノ酸はL-アミノ酸である。本明細書で使用される場合、「標準アミノ酸」という用語は、天然に存在するペプチドによく見られる20個のL-アミノ酸のうちいずれかを指す。「非標準アミノ酸」は、天然源に見出されるか、または見出すことができるかに関係なく、標準アミノ酸以外のあらゆるアミノ酸を指す。いくつかの実施形態では、ポリペプチド中にカルボキシ末端アミノ酸またはアミノ末端アミノ酸を含むアミノ酸は、上記の一般構造と比較して構造修飾を包含することができる。例えば、いくつかの実施形態では、アミノ酸は、一般構造と比較して、メチル化、アミド化、アセチル化、ペグ化、グリコシル化、リン酸化、または置換(例えば、アミノ基、カルボン酸基、1つもしくは複数のプロトン、またはヒドロキシル基の置換)によって修飾され得る。いくつかの実施形態では、このような修飾は、例えば、修飾アミノ酸を含有するポリペプチドの安定性または循環半減期を、それ以外の点では同一の非修飾アミノ酸を含有するポリペプチドと比較して変化させ得る。いくつかの実施形態では、このような修飾は、修飾アミノ酸を含有するポリペプチドの関連活性を、それ以外の点では同一の非修飾アミノ酸を含有するポリペプチドと比較して大幅に変化させない。いくつかの実施形態では、「アミノ酸」という用語は、遊離アミノ酸を指すために使用されてもよく、いくつかの実施形態では、ポリペプチドのアミノ酸残基、例えば、ポリペプチド内のアミノ酸残基を指すために使用されてもよい。
【0058】
「アナログ」:本明細書で使用される場合、「アナログ」という用語は、いくつかの実施形態では、1つ以上の特定の構造的特徴、要素、成分、または部分を参照物質と共有する物質を指す。概して、「アナログ」は、参照物質との有意な構造的類似性を呈し、例えば、コアまたはコンセンサス構造を共有するが、特定の離散的様式(discrete way)でも相違する。いくつかの実施形態では、アナログは、例えば参照物質の化学的操作によって、参照物質から生成され得る物質である。いくつかの実施形態では、アナログは、参照物質を生成する合成プロセスと実質的に同様(例えば、複数の動作を共有する)の合成プロセスの実施によって生成できる物質である。いくつかの実施形態では、アナログは、参照物質を生成するために使用されるものとは異なる合成プロセスの実施によって生成されるか、または生成できる。
【0059】
「アンタゴニスト」:本明細書中で使用される場合、「アンタゴニスト」という用語は、概して、その存在、レベル、程度、型、または形態が標的のレベルまたは活性の低下に関連する、薬剤または条件を指し得る。アンタゴニストは、例えば、小分子、ポリペプチド、核酸、炭水化物、脂質、金属、または、関連する阻害活性を呈する他のあらゆる実体を含む、あらゆる化学クラスの薬剤を含み得る。いくつかの実施形態では、アンタゴニストは、その標的に直接結合するという点で「直接アンタゴニスト」であり得、いくつかの実施形態では、例えば標的のレベルまたは活性が変化するように標的の調整因子と相互作用することによって、その標的に直接結合する以外の機構によって影響を及ぼすという点で「間接的アンタゴニスト」であり得る。いくつかの実施形態では、「アンタゴニスト」は「阻害剤」と称され得る。
【0060】
「抗体」:本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、概して、特定の標的抗原への特異的結合を付与するのに充分な標準の免疫グロブリン配列要素を含むポリペプチドを指す。自然に産生されるインタクトな抗体は、互いに会合して一般に「Y字状」構造と称されるものになる、2つの同一の重鎖ポリペプチド(それぞれ約50kD)および2つの同一の軽鎖ポリペプチド(それぞれ約25kD)で構築される、約150kDのテトラマー剤である。各重鎖は、少なくとも4つのドメイン(それぞれ約110のアミノ酸長)として、1つのアミノ末端可変(VH)ドメイン(Y構造の先端に位置する)、続いて3つの定常ドメインであるCH1、CH2、およびカルボキシ末端CH3(Yの幹の塩基に位置する)で構築される。短い領域である「スイッチ」は、重鎖可変領域と定常領域を接続させる。「ヒンジ」は、CH2ドメインおよびCH3ドメインを抗体の残部に接続させる。このヒンジ領域における2つのジスルフィド結合は、インタクトな抗体において2つの重鎖ポリペプチドを互いに接続させる。各軽鎖は、2つのドメインとして、アミノ末端可変(VL)ドメインと、続いてカルボキシ末端定常(CL)ドメインで構築され、これらは別の「スイッチ」によって互いに分離される。インタクトな抗体の四量体は、重鎖と軽鎖が単一のジスルフィド結合によって互いに連結される2つの重鎖-軽鎖二量体で構築され、2つの他のジスルフィド結合が重鎖ヒンジ領域を互いに接続させることで、二量体は互いに接続し、四量体が形成される。自然に産生された抗体はまた、CH2ドメイン上などでグリコシル化される。天然抗体の各ドメインは、圧縮された逆平行ベータバレルにおいて互いにパックされた(packed)2つのベータシート(例えば、3本鎖、4本鎖、または5本鎖のシート)から形成された「免疫グロブリンフォールド」を特徴とする構造を有する。各可変ドメインは、3つの超可変ループである「相補性決定領域」(CDR1、CDR2、およびCDR3)、ならびに4つの幾分不変の「フレームワーク」領域(FR1、FR2、FR3、およびFR4)を含む。天然抗体が折り畳まれると、FR領域は、ドメインに構造フレームワークを提供するベータシートを形成し、重鎖と軽鎖両方からのCDRループ領域は、重鎖と軽鎖がY構造の先端に位置する単一の超可変抗原結合部位を作り出すように、三次元空間で一体とされる。天然に存在する抗体のFc領域は、補体系の要素に結合し、さらに、例えば細胞傷害性を媒介するエフェクタ細胞を含むエフェクタ細胞上の受容体にも結合する。Fc受容体に対するFc領域の、親和性または他の結合特性は、グリコシル化または他の修飾によって調整することができる。いくつかの実施形態では、本開示に従い産生かつ利用される抗体は、修飾または操作されたこのようなグリコシル化を伴うFcドメインを含む、グリコシル化Fcドメインを含む。本開示の目的のために、特定の実施形態では、天然抗体に見られる充分な免疫グロブリンドメイン配列を含む、あらゆるポリペプチドまたはポリペプチド複合体は、かかるポリペプチドが自然に産生される(例えば、抗原に反応する生物によって生成される)か、あるいは組換え工学、化学合成、または他の人工システムもしくは方法によって産生されるかに関係なく、「抗体」と呼ばれ得るか、または「抗体」として使用することができる。いくつかの実施形態では、抗体はポリクローナルであり、いくつかの実施形態では、抗体はモノクローナルである。いくつかの実施形態では、抗体は、マウス、ウサギ、霊長類、またはヒトの抗体に特徴的な定常領域配列を有する。いくつかの実施形態では、抗体配列の要素は、ヒト化、霊長類化、キメラなどである。さらに、本明細書で使用される「抗体」という用語は、適切な実施形態において(別段の記載がない限り、または文脈から明白でない限り)、代替的な提示において抗体の構造的特徴および機能的特徴を利用するためのあらゆる構築物または形式を指し得る。例えば、実施形態では、本開示に従って利用される抗体は、インタクトなIgA、IgG、IgE、またはIgM抗体;二重特異性抗体または多特異性抗体(例えば、Zybodies(登録商標)など);Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fd’フラグメント、Fdフラグメント、および単離されたCDR、またはそれらの集合などの抗体フラグメント;単鎖Fvs;ポリペプチド-Fc融合体;単一ドメイン抗体(例えば、IgNARまたはそのフラグメントなどのサメ単一ドメイン抗体);ラクダ科抗体;マスクされた抗体(例えば、Probodies(登録商標));小型モジュール式免疫医薬品(「SMIP(商標)」);単鎖またはタンデムダイアボディ(TandAb(登録商標));VHH;Anticalins(登録商標);Nanobodies(登録商標)ミニボディ;BiTE(登録商標);アンキリン反復タンパク質またはDARPINs(登録商標);Avimers(登録商標);DART;TCR様抗体;Adnectins(登録商標);Affilins(登録商標);Trans-bodies(登録商標);Affibodies(登録商標);TrimerX(登録商標);マイクロタンパク質;Fynomers(登録商標)、Centyrins(登録商標);およびKALBITOR(登録商標)から選択されるが、これらに限定されない形式にある。いくつかの実施形態では、抗体は、自然に産生された場合に有し得る共有結合修飾(例えば、グリカンの結合)を欠く場合がある。いくつかの実施形態では、抗体は、共有結合修飾(例えば、グリカン、ペイロード[例えば、検出可能部分、治療部分、触媒部分など]、または他のペンダント基[例えば、ポリ-エチレングリコールなど]の結合)を含有し得る。
【0061】
「会合」:2つの事象または実体は、全体として相互に「会合」され、本用語は、一方の存在、レベル、程度、型、または形態が、他方の存在、レベル、程度、型、または形態と相関する場合に本明細書で使用される。例えば、特定の実体(例えば、ポリペプチド、遺伝子シグネチャー、代謝産物、微生物など)は、その存在、レベル、または形態が、(例えば、関連する集団にわたって)疾患、障害、または疾病の発症、またはそれに対する感受性と相関する場合、特定の疾患、障害、または疾病に関連すると考慮される。いくつかの実施形態では、2つ以上の実体は、それらが直接または間接的に相互作用する場合、互いに物理的に近接しているか、またはそのままであるように、互いに物理的に「会合」される。いくつかの実施形態では、互いに物理的に会合される2つ以上の実体は、互いに共有結合され、いくつかの実施形態では、互いに物理的に会合される2つ以上の実体は、互いに共有結合していないが、例えば、水素結合、ファンデルワールス相互作用、疎水性相互作用、磁気、およびそれらの組合せによって非共有結合で会合される。
【0062】
「生体試料」:本明細書で使用される場合、「生体試料」という用語は、概して、本明細書に記載されるように、目的の生体供給源(例えば、組織もしくは生物、または細胞培養物)から得られるか、またはそれに由来する試料を指す。いくつかの実施形態では、目的の供給源は、動物やヒトなどの生物を含む。いくつかの実施形態では、生体試料は、生体組織もしくは流体であるか、またはそれを含む。いくつかの実施形態では、生体試料は、骨髄、血液、血液細胞、腹水、組織もしくは微細針生検試料、細胞含有体液、自由流動(free-floating)核酸、痰、唾液、尿、脳脊髄液、腹膜液、胸水、糞便、リンパ液、婦人科流体(gynecological fluid)、皮膚スワブ、膣スワブ、口腔スワブ、鼻スワブ、管洗浄や気管支肺胞洗浄などの洗浄液(washings or lavages)、擦過片、骨髄標本、組織生検標本、外科標本、糞便、他の体液、分泌物、または排泄物、あるいはそれらの細胞などであり得るか、またはそれを含み得る。いくつかの実施形態では、生体試料は、個体から得られた細胞であるか、またはそれを含む。いくつかの実施形態では、得られた細胞は、試料を得た個体由来の細胞であるか、またはそれを含む。いくつかの実施形態では、試料は、あらゆる適切な方法によって目的の供給源から直接得られる「一次試料」である。例えば、いくつかの実施形態では、一次生体試料は、生検(例えば、微細針吸引または組織生検)、手術、体液収集(例えば、血液、リンパ液、糞便など)などからなる群から選択される方法によって得られる。いくつかの実施形態では、「試料」という用語は、一次試料を(例えば、1つもしくは複数の成分を除去するか、または1つもしく複数の薬剤を添加することにより)処理することによって得られる、調製物を指す。例えば、半透膜を用いた濾過である。かかる「処理された試料」は、例えば、試料から抽出されるか、または一次試料をmRNAの増幅もしくは逆転写、特定成分の単離もしくは精製などの技法に供することによって得られた、核酸またはタンパク質を含み得る。
【0063】
「生物学的ネットワーク」:本明細書で使用される場合、「生物学的ネットワーク」という用語は、概して、ウェブ全体にリンクされる種単位などの全体にリンクされるサブユニット(例えば、「ノード」)を有する、生物学的システムに適用される任意のネットワークを指す。いくつかの実施形態では、生物学的ネットワークは、タンパク質間相互作用ネットワーク(PPI)であり、細胞内に存在するタンパク質間の相互作用を表し、タンパク質はノードであり、それらの相互作用はエッジである。いくつかの実施形態では、PPI内のノード間の接続は、実験的に検証される。いくつかの実施形態では、ノード間の接続は、実験的に検証され、数学的に算出された組合せである。いくつかの実施形態では、生物学的ネットワークはヒトインタラクトーム(タンパク質間相互作用情報ならびに遺伝子発現および共発現、タンパク質の細胞共局在化、遺伝情報、代謝経路およびシグナル伝達経路などを含む、ヒト細胞において生じる実験的に得られる相互作用のネットワーク)である。いくつかの実施形態では、生物学的ネットワークは、遺伝子調整ネットワーク、遺伝子共発現ネットワーク、代謝ネットワーク、またはシグナル伝達ネットワークである。
【0064】
「併用療法」:本明細書で使用される場合、「併用療法」という用語は、概して対象が2つ以上の治療レジメン(例えば、2つ以上の治療剤)に同時に供される臨床的介入を指す。いくつかの実施形態では、2つ以上の治療レジメンは、同時に投与されてもよい。いくつかの実施形態では、2つ以上の治療レジメンは、連続的に投与されてもよい(例えば、第1のレジメンが第2のレジメンの任意の用量の投与の前に投与される)。いくつかの実施形態では、2つ以上の治療レジメンは、重複する投薬レジメンにおいて投与される。いくつかの実施形態では、併用療法の投与は、他の薬剤またはモダリティを受ける対象に対する、1つ以上の治療剤またはモダリティの投与を含み得る。いくつかの実施形態では、併用療法は、個々の薬剤が1つの組成物中で一体的に(または必ず同時にも)投与されることを、必ずしも必要としない。いくつかの実施形態では、併用療法の、2つ以上の治療剤またはモダリティは、別々に、例えば、別々の組成物において、別々の投与経路(例えば、一方の薬剤を経口投与、他方の薬剤を静脈内投与)によって、または異なる時点で対象に投与される。いくつかの実施形態では、2つ以上の治療剤は、組み合わせた組成物中で、または組み合わせた化合物(例えば、1つの化学錯体または共有結合実体の一部として)中でも、同じ投与経路によって、または同時に、一体的に投与されてもよい。
【0065】
「比較可能」:本明細書で使用される場合、「比較可能」という用語は、概して、互いに同一ではない場合があるが、観察される差異または類似性に基づき結論が合理的に導き出され得るように両者の間の比較を可能にするほど充分に類似する、2つ以上の薬剤、実体、状況、複数組の条件などを指す。いくつかの実施形態では、比較可能な複数組の条件、状況、個体、または集団は、複数の実質的に同一の特徴、および1つまたは少数の異なる特徴によって特徴付けられる。様々な手法では、このような2つ以上の薬剤、実体、状況、複数組の条件などが比較可能とみなされるには、あらゆる所与の状況において、異なる程度の同一性が必要とされ得る。例えば、様々な手法では、複数組の状況、個体、または集団は、異なる複数組の状況、個体、もしくは集団の下で、またはそれらを用いて得られる結果、または観察される現象における差異が、変動する特徴における変異によって生じるか、またはその変異を示すという妥当な結論を保証するほど充分な数および種類の、実質的に同一の特徴によって特徴付けられる場合、互いに比較可能である。
【0066】
「に対応する(corresponding to)」:対応する本明細書で使用される場合、「に対応する(corresponding to)」という句は、概して、「対応する」属性が明らかであるように合理的に同等である充分な特徴を共有する、2つの実体、事象、または現象の関係を指す。例えば、いくつかの実施形態では、この用語は、化合物または組成物中の構造要素の位置または同一性を、適切な参照化合物または組成物との比較によって指定するために、化合物または組成物に関して使用され得る。例えば、いくつかの実施形態では、ポリマー中のモノマー残基(例えば、ポリペプチド中のアミノ酸残基、またはポリヌクレオチド中の核酸残基)は、適切な参照ポリマー中の残基に「対応する」と特定され得る。例えば、簡略化のために、ポリペプチド中の残基は、参照の関連ポリペプチドに基づく標準のナンバリングシステムを用いて指定されることが多く、その結果、例えば190位の残基に「対応する」アミノ酸は、実際には特定のアミノ酸鎖中の190番目のアミノ酸ではなく、むしろ参照ポリペプチド中の190番目に見出される残基に対応する。様々な手法を用いて、「対応する」アミノ酸を特定してもよい。例えば本開示に従ってポリペプチドまたは核酸中の「対応する」残基を特定するのに利用できる、例えば、BLAST、CS-BLAST、CUSASW++、DIAMOND、FASTA、GGSEARCH/GL SEARCH、Genoogle、HMMER、HHpred/HHsearch、IDF、Infernal、KLAST、USEARCH、parasail、PSI-BLAST、PSI-SEARCH、ScalaBLAST、Sequilab、SAM、SSEARCH、SWAPHI、SWAPHI-LS、SWIMM、またはSWIPEなどのソフトウェアプログラムを含む、様々な配列アライメント戦略のために、様々な手法が使用され得る。
【0067】
「投薬レジメン」または「治療レジメン」:本明細書中で使用される場合、「投薬レジメン」および「治療レジメン」という用語は、概して、対象に個別に、期間を隔てて投与され得る一組の単位用量(例えば、1つより多い)を指すために使用され得る。いくつかの実施形態では、所与の治療剤は、推奨される投薬レジメンを有し、1つ以上の用量が含まれ得る。いくつかの実施形態では、投薬レジメンは複数の用量を含み、それぞれ他の用量と時間を隔てられる。いくつかの実施形態では、個々の用量は、同じ長さの期間だけ互いに隔てられる。いくつかの実施形態では、投薬レジメンは、複数の用量と、個々の用量を隔てる少なくとも2つの異なる期間とを含む。いくつかの実施形態では、投薬レジメン内の用量はすべて、同じ単位用量にある。いくつかの実施形態では、投薬レジメン内の様々な用量は、異なる量にある。いくつかの実施形態では、投薬レジメンは、第1の投与量にある第1の用量と、それに続く、第1の投与量とは異なる第2の投与量にある1つ以上の追加の用量とを含む。いくつかの実施形態では、投薬レジメンは、第1の投与量にある第1の用量と、それに続く、第1の投与量と同じ第2の投与量にある1つ以上の追加の用量とを含む。いくつかの実施形態では、投薬レジメンは、関連する集団全体に投与される(例えば、治療投与レジメンである)場合、有益な結果と相関する。
【0068】
「改善した(improved)」、「増加した(increased)」、または「低減した(reduced)」:本明細書で使用される場合、「改善した(improved)」、「増加した(increased)」、もしくは「低減した(reduced)」という用語、またはそれらの文法的に同等な比較用語は、概して、同等の参照測定値に対して相対的な値を示す。例えば、いくつかの実施形態では、目的の薬剤により達成される評価値は、同等の参照薬剤を用いて得られる評価値と比較して「改善」され得る。代替的または付加的に、いくつかの実施形態では、目的の対象または系で達成される評価値は、異なる条件下にある同じ対象または系で得られる値(例えば、目的の薬剤の投与といった事象の前または後)、または異なる比較可能な対象で得られる値(例えば、目的の特定の疾患、障害、もしくは疾病の1つもしくは複数の適応症の存在下で、または条件もしくは薬剤への事前曝露下などで、目的の対象または系と異なる比較可能な対象または系で得られる値)と比較して、「改善」され得る。
【0069】
「患者」または「対象」:本明細書で使用される場合、「患者」または「被験体」という用語は、概して、提供される組成物が、例えば、実験目的、診断目的、予防目的、美容目的、または治療目的のために投与されるかまたは投与され得る任意の生物を指す。いくつかの患者または対象は、動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、非ヒト霊長類、またはヒトなどの哺乳動物)を含む。いくつかの実施形態では、患者は、ヒトである。いくつかの実施形態では、患者または対象は、1つ以上の障害または疾病に罹患しているか、または罹患しやすい。いくつかの実施形態では、患者または対象は、障害または疾病の1つ以上の症状を示す。いくつかの実施形態では、患者または対象は、1つ以上の障害または疾病と診断されている。いくつかの実施形態では、患者または対象は、疾患、障害、または疾病を診断または処置するための特定の治療を受けているか、または受けたことがある。
【0070】
「医薬組成物」:本明細書で使用される場合、「医薬組成物」という用語は、概して1つまたは複数の薬学的に許容可能な担体とともに製剤化される活性薬剤を指す。いくつかの実施形態では、活性薬剤は、関連する対象への治療レジメンでの投与に適した単位用量(例えば、投与されると所定の治療効果を達成する統計的に有意な確率を呈することが実証された量にある)、または異なる比較可能な対象(例えば、目的の特定の疾患、障害、もしくは疾病の1つもしくは複数の適応症の存在下で、または条件もしくは薬剤への事前曝露下などで、目的の対象または系と異なる比較可能な対象または系)への投与に適した単位用量で、存在する。いくつかの実施形態では、比較用語は、統計的に関連する差異(例えば、統計的関連性を達成するのに充分な有病率または規模にある)を指す。所与の文脈において、様々な手法が、そのような統計的有意性を達成するのに必要とされるかまたは十分である差異の程度または有病率を決定するのに使用され得る。
【0071】
「薬学的に許容可能な」:本明細書で使用される場合、「薬学的に許容可能な」という句は、概して、妥当な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症を伴うことなく、妥当なベネフィット/リスク比に相応してヒトおよび動物の組織と接触させて使用するのに適した、化合物、材料、組成物、または剤形を指す。
【0072】
「予防する」または「予防」:本明細書で使用される場合、「予防する」または「予防」という用語は、疾患、障害、または疾病の発生と関連して使用される場合、概して、疾患、障害、または疾病を発症するリスクを低減すること、または疾患、障害、または疾病の1つ以上の特徴または症状の発症を遅延させることを指す。予防は、疾患、障害または疾病の発症が所定の期間遅延した場合に完了したとみなすことができる。
【0073】
本明細書で使用される場合、「参照(reference)」という用語は、概して、比較が行われる標準または対照を記述する。例えば、いくつかの実施形態では、目的の薬剤、動物、個体、集団、試料、配列、または値は、参照または対照の薬剤、動物、個体、集団、試料、配列、または値と比較される。いくつかの実施形態では、参照または対照は、目的の試験または判定とほぼ同時に、試験または判定される。参照または対照は、任意選択で有形媒体中で具現化される、履歴上の(historical)参照または対照である。いくつかの実施形態では、参照または対照は、評価中のものと同等の条件または状況下で、判定または特徴付けされる。充分な類似性は、特定の起こり得る参照または対照に対する依存または比較を正当化するために存在する。
【0074】
「治療剤」:本明細書で使用される場合、「治療剤」という語句は、概して、生物に投与された場合に薬理学的効果を誘発する任意の薬剤を指す。いくつかの実施形態では、薬剤は、適切な集団にわたって統計的に有意な効果を示す場合、治療剤であると考えられる。いくつかの実施形態では、適切な集団は、モデル生物の集団であり得る。いくつかの実施形態では、適切な集団は、特定の年齢群、性別、遺伝的背景、既存の臨床状態などの様々な基準によって定義され得る。いくつかの実施形態では、治療剤は、疾患、障害、または疾病の1つ以上の症状または特徴を軽減する、改善する、軽減する、阻害する、予防する、その発症を遅延させる、その重症度を低下させる、またはその発生率を低下させるために使用することができる物質である。いくつかの実施形態では、「治療剤」は、ヒトへの投与のために販売され得る前に政府機関によって承認されたか、または承認されることが必要とされる薬剤である。いくつかの実施形態では、「治療剤」は、ヒトへの投与のために医学的処方箋が必要とされる薬剤である。
【0075】
「治療有効量」:本明細書で使用される場合、「治療有効量」という用語は、概して、治療レジメンの一部として投与された場合に、生体応答を誘発する物質(例えば、治療剤、組成物、または製剤)の量を指す。いくつかの実施形態では、物質の治療有効量は、疾患、障害、もしくは疾病に罹患しているか、またはその影響を受けやすい対象に投与されたときに、疾患、障害、もしくは疾病を治療するか、診断するか、予防するか、またはその発症を遅延させるのに充分な量である。、物質の有効量は、生物学的エンドポイント、送達される物質、標的細胞、または組織などの因子に応じて変動し得る。例えば、疾患、障害、または疾病を治療するのに有効な、製剤中の化合物の量は、疾患、障害、または疾病の1つもしくは複数の症状または特徴を緩和するか、軽快するか、軽減するか、阻害するか、予防するか、その発症を遅延させるか、その重症度を低下させるか、またはその発生率を低下させる量である。いくつかの実施形態では、治療有効量は単回用量で投与される。いくつかの実施形態では、治療有効量を送達するには複数回単位用量が必要とされる。
【0076】
「処置する(treat)」:本明細書で使用される場合、「処置する(treat)」、「処置(treatment)」、または「処置すること(treating)」という用語は、概して、疾患、障害、または疾病の1つ以上の症状または特徴を部分的または完全に緩和する、改善する、軽減する、阻害する、予防する、その発症を遅延させる、その重症度を低下させる、またはその発生率を低下させるために使用される任意の方法を指す。処置は、疾患、障害、または疾病の徴候を示さない対象に投与され得る。いくつかの実施形態では、処置は、例えば、疾患、障害、または疾病に関連する病態を発症するリスクを低下させる目的で、疾患、障害、または疾病の早期徴候を示す対象に投与され得る。
【0077】
本明細書で使用される場合、「バリアント」という用語は、概して、参照実体との有意な構造的同一性を呈するが、参照実体と比較したときに、1つもしくは複数の化学部分の存在またはレベルにおいて参照実体とは構造上異なる、実体を指す。多くの実施形態では、バリアントはまた、その参照実体と機能的に異なる。一般に、特定の実体が参照実体の「バリアント」であると適切にみなされるかどうかは、参照実体との構造的同一性の程度に基づく。あらゆる生物学的または化学的な参照実体が、特定の特徴的な構造要素を有する。バリアントは、定義によれば、1つまたは複数のかかる特徴的な構造要素を共有する別個の化学実体である。ほんの数例を挙げると、小分子は、特徴的なコア構造要素(例えば、大環状分子コア)、または1つもしくは複数の特徴的なペンダント部分を有し得、それにより、小分子のバリアントは、コア構造要素および特徴的なペンダント部分を共有するが、他のペンダント部分、またはコア内に存在する結合の種類(単結合対二重結合、E対Zなど)が異なるバリアントであり、ポリペプチドは、線形または三次元空間において互いに対して指定された位置を有するか、または特定の生体機能に寄与する複数のアミノ酸で構築される特徴的な配列要素を有する場合があり、核酸は、線形または三次元空間において互いに対して指定された位置を有する複数のヌクレオチド残基で構築される特徴的な配列要素を有する場合がある。例えば、バリアントポリペプチドは、アミノ酸配列中に1つもしくは複数の差異、またはポリペプチド骨格に共有結合した化学部分(例えば、炭水化物、脂質など)に1つもしくは複数の差異があることから、参照ポリペプチドと異なり得る。いくつかの実施形態では、バリアントポリペプチドは、少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、または99%である、参照ポリペプチドとの全体的な配列同一性を呈する。代替的または付加的に、いくつかの実施形態では、バリアントポリペプチドは、参照ポリペプチドと少なくとも1つの特徴的な配列要素を共有しない。いくつかの実施形態では、参照ポリペプチドは、1つまたは複数の生体活性を呈する。いくつかの実施形態では、バリアントポリペプチドは、参照ポリペプチドの生体活性のうち1つまたは複数を共有する。いくつかの実施形態では、バリアントポリペプチドは、参照ポリペプチドの生体活性のうち1つまたは複数を欠く。いくつかの実施形態では、変異体ポリペプチドは、参照ポリペプチドと比較してレベルが低下した1つまたは複数の生体活性を呈する。多くの実施形態では、目的のポリペプチドは、特定の位置において少数の配列変化があることを除き親のアミノ酸配列と同一であるアミノ酸配列を有する場合、親または参照ポリペプチドの「バリアント」であるとみなされる。いくつかの実施形態では、親と比較して、バリアント中の残基の20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%未満が置換される。いくつかの実施形態では、バリアントは、親と比較して、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1個の置換残基を有する。多くの場合、バリアントは、非常に少数(例えば、5、4、3、2、または1個未満)の機能的な置換残基(例えば、特定の生体活性に関与する残基)を有する。さらにバリアントは、親と比較して、5、4、3、2、または1つ以下の付加または欠失を有する場合があり、多くの場合は付加も欠失も有していない。さらに、いずれの付加も欠失も、約25、約20、約19、約18、約17、約16、約15、約14、約13、約10、約9、約8、約7、約6未満の場合があり、通常は残基が約5、約4、約3、または約2未満である。いくつかの実施形態では、親または参照のポリペプチドは、自然に見出されるポリペプチドである。
【0078】
疾患遺伝子発現シグネチャー(応答モジュール)
本開示は、とりわけ、(すべてまたは実質的な部分で)逆転された場合に、対象が治療に応答していることを示す疾患遺伝子発現シグネチャーを提供する。臨床的特徴の変化を観察することに頼る代わりに、現在記載されている方法が分子レベルでの応答の定量化を可能にするので、そのような手法は他の方法よりも好ましい。実際に、本開示は、特定の分子シグネチャー、例えば、特定の遺伝子の発現が、健康な対象に類似するように調整された場合に、罹患した対象が治療に応答していることを示すという洞察を包含する。いくつかの実施形態では、疾患発現シグネチャーは、健康な対象と比較して罹患対象において差次的発現遺伝子のパターンである。本明細書に記載される疾患発現シグネチャーは、分子レベルで疾患対象と健康な対象との間の軽微な差異を説明する。
【0079】
いくつかの実施形態では、本開示は、治療に対する応答を示す遺伝子発現が、同じ疾患に罹患している対象のサブグループ間で必ずしも得られるわけではないという洞察を包含する。すなわち、例えば、疾患に罹患している対象のコホート内で、本開示は、対象のコホートの1つ以上のサブグループ間の遺伝子発現差異を分析することは、対象が治療に応答し得るかもしくは応答し得ないか、またはそうでなければ疾患、障害もしくは疾病から回復し始めるかどうかを示す遺伝子発現パターンをもたらさない場合があることを認識している。代わりに、いくつかの実施形態では、本開示は、同様の遺伝子発現パターンを有する疾患対象のサブグループと健康な対象のサブグループとの間の遺伝子発現を分析する。疾患対象と健康な対象との間の差異を分析することによって、および健康な対象とは異なる疾患対象において重要な遺伝子発現標的を同定することによって、そしてまた、駆動応答において重要な役割を果たすことによって、(理論に束縛されることなく)重要な差次的発現遺伝子を調節することによって、疾患対象の遺伝子発現パターンは、健康な対象の遺伝子発現パターンに類似し得ることが理解される。それによって疾患の退行をもたらす。
【0080】
疾患遺伝子発現シグネチャーを同定するための例示的なワークフローは、
図1に見られる。いくつかの実施形態では、疾患に罹患している対象のセットの遺伝子発現データのコホートを分析する(101)。次いで、コホート内の各対象は、特定のメトリックに従って層別化される(102)。例えば、いくつかの実施形態では、コホート内の対象は、特定の治療(例えば、抗TNF治療)に対するレスポンダーであるか非レスポンダーであるかに従って層別化される。いくつかの実施形態では、コホート内の対象は、教師ありまたは教師なしクラスタリングアルゴリズムを使用して層別化される。いくつかの実施形態では、コホート内の対象は、教師ありクラスタリングアルゴリズムを使用して層別化される。いくつかの実施形態では、コホート内の対象は、教師なしクラスタリングアルゴリズムを使用して層別化される。いくつかの実施形態では、対象のコホートを、以前の対象の2つ以上の群に層別化することは、以前の対象が特定の治療に応答するかまたは応答しないかに基づく。
【0081】
いくつかの実施形態では、クラスター内のサブグループのベースライン発現プロファイルを分析し、1人以上の健康な対照対象と比較する(103)。差次的発現遺伝子が同定され、「疾患候補遺伝子」と称される。いくつかの実施形態では、差次的に発現される特定の遺伝子は、「疾患候補遺伝子」として選択される。いくつかの実施形態では、有意に差次的発現遺伝子は、疾患候補遺伝子であるように選択される。いくつかの実施形態では、遺伝子発現の有意差は、0.05以下のp値および0.5以上の絶対倍数変化によって測定される。
【0082】
いくつかの実施形態では、疾患発現シグネチャーは、同定された疾患候補遺伝子のすべて、実質的にすべて、またはサブセットを含む。いくつかの実施形態では、疾患候補遺伝子は、任意選択で、生物学的ネットワーク上にマッピングされる(104)。理論に束縛されるものではないが、疾患候補遺伝子内の遺伝子の関連性を理解することにより、関連性が最も高い遺伝子の同定が可能になり、特定の疾患について対象を処置するときに応答の影響の大部分を有さない可能性がある遺伝子が選別されることが理解される。例えば、いくつかの実施形態では、生物学的ネットワークは、ヒトインタラクトームマップである。いくつかの実施形態では、疾患候補遺伝子のセットから、ヒトインタラクトームマップ上で有意に接続されるか、または別様にクラスター化される遺伝子が、疾患遺伝子発現シグネチャーであるように選択される。いくつかの実施形態では、疾患候補遺伝子のすべて、実質的にすべて、またはサブセットは、ヒトインタラクトームマップ上でクラスター化するか、または有意に関連している。いくつかの実施形態では、疾患遺伝子発現シグネチャーは、生物学的ネットワーク(例えば、ヒトインタラクトームマップ)上にクラスター化する疾患候補遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、疾患遺伝子発現シグネチャーは、生物学的ネットワーク(例えば、ヒトインタラクトームマップ)上で互いに有意に接続される疾患候補遺伝子を含む。いくつかの実施形態では、疾患候補遺伝子は、疾患遺伝子発現シグネチャーに組み込む前に生物学的ネットワーク上にマッピングされる。
【0083】
いくつかの実施形態では、疾患遺伝子発現シグネチャーは、対象と同じ疾患、障害、または疾病に罹患している対象のコホートからの遺伝子発現データを分析すること、遺伝子発現データに基づいて、対象のコホートを、以前の対象の2つ以上の群に層別化すること、および以前の対象の2つ以上の群と健康な対象の群との間で遺伝子発現に有意差を有する1つ以上の遺伝子(例えば、「疾患候補遺伝子」)を選択することであって、これにより、疾患遺伝子発現シグネチャーを提供する、選択することによって決定される
【0084】
本明細書で使用される場合、「健康な遺伝子発現のシグネチャー」は、健康な対照対象における応答遺伝子の遺伝子発現を指す(例えば、疾患、障害、または疾病に罹患していない対象は、本明細書に記載される処置される対象である)。
【0085】
本明細書に記載されるように、対象の遺伝子は、マイクロアレイ、RNA配列決定、リアルタイム定量的逆転写PCR(qRT-PCR)、ビーズアレイ、ELISA、およびタンパク質発現のうちの少なくとも1つによって測定される。いくつかの実施形態では、対象の遺伝子発現は、バックグラウンドデータを減算し、バッチ効果を補正し、ハウスキーピング遺伝子の平均発現で割ることによって測定される(例えば、Eisenberg & Levanon,“Human housekeeping genes,revisited”,Trends in Genetics,29(10):569-574(Oct 2013)を参照)。マイクロアレイデータ分析の文脈において、バックグラウンド減算は、任意のmRNA配列に相補的でないチップ上のプローブ特徴から生じる平均蛍光シグナル、例えば、非特異的結合から生じるシグナルを、各プローブ特徴の蛍光シグナル強度から減算することを指す。バックグラウンド減算は、Affymetrix(商標) Gene Expression Consoleなどの異なるソフトウェアパッケージを用いて行うことができる。ハウスキーピング遺伝子は、基本的な細胞維持に関与し、したがって、すべての細胞および条件において一定の発現レベルを維持すると予想される。対象の遺伝子、例えば応答シグネチャー中の遺伝子の発現レベルは、発現レベルを選択されたハウスキーピング遺伝子の群にわたる平均発現レベルで割ることによって正規化することができる。このハウスキーピング遺伝子正規化手順は、実験変動性について遺伝子発現レベルを較正する。さらに、マイクロアレイの異なるバッチにわたる変動性を補正するロバストマルチアレイ平均(「RMA」)などの正規化方法は、Illumina(商標)および/またはAffymetrix(商標)マイクロアレイプラットフォームのいずれかによって推奨されるRパッケージにおいて利用可能である。正規化したデータを対数変換し、試料全体の検出率が低いプローブを除去する。さらに、利用可能な遺伝子記号またはEntrez IDを有さないプローブは、分析から除去される。
【0086】
処置の標的(処置モジュール)
とりわけ、本開示は、調節されると、疾患遺伝子発現シグネチャーに影響を及ぼし、健康な対象の遺伝子発現に類似するような発現を変化させる、処置のための一連のタンパク質標的を提供する。さらに、本開示は、疾患遺伝子発現シグネチャー内の治療を介した特定の遺伝子の調節が、治療に対する応答を示し得ないという洞察を包含する。すなわち、本開示は、疾患遺伝子発現シグネチャー内の遺伝子が、直接調節される場合、治療に対する応答を示し得るが、治療が応答のために疾患遺伝子発現シグネチャー内の遺伝子の発現を効果的に調節し得るほど強く相互に関連し得ないという洞察を包含する。
【0087】
代わりに、本開示は、疾患遺伝子発現シグネチャーにおいて差次的発現遺伝子の上流または下流のいずれかを標的とする(健康な対象と比較して)ことが、それらの調節が疾患遺伝子発現シグネチャーに影響を与え得るように効果的に調節され得、これにより、疾患対象の遺伝子発現を健康な対象の遺伝子発現に類似させるという洞察を包含する。いくつかの実施形態では、疾患遺伝子発現シグネチャー内の特定の遺伝子へのそのような関連性を有する治療の標的の同定は、
図1に提供される。
【0088】
いくつかの実施形態では、疾患遺伝子発現シグネチャーの逆転を引き起こすことが実験的に示されている治療の標的が同定される。標的の摂動は、望ましい上方または下流効果を有し、疾患対象を分子寛解(健康な対照の発現に類似する疾患遺伝子発現シグネチャーの逆転の量によって測定される)に到達させる。いくつかの実施形態では、
図1に見られるように、疾患発現シグネチャー(106)の遺伝子は、下流の疾患遺伝子発現シグネチャー(107)における遺伝子の発現を調節する化合物についてのデータと相互参照される。そのような複合応答データは、HMS LINCSデータベース(https://lincs.hms.harvard.edu/db/で利用可能であり、参照によって本明細書に援用される)などの公的に利用可能なリソースで利用可能である。他の適切なデータベース、または化合物による疾患遺伝子発現シグネチャー内の遺伝子の下流の影響(例えば、固定用量および固定時間の単一化合物による、遺伝子ノックダウン、および遺伝子過剰発現)を例示するために実験的に導き出されたデータを使用することができる。例えば、いくつかの実施形態では、HT29細胞株におけるLINCS L1000摂動因子データ、化合物摂動を使用して、疾患遺伝子発現シグネチャー内の遺伝子の下流の影響を評価する。分析の結果は、治療の可能な標的を提供する。
【0089】
いくつかの実施形態では、疾患遺伝子発現シグネチャー内の各遺伝子を分析して、治療の可能な標的を同定する。いくつかの実施形態では、疾患遺伝子発現シグネチャーからの特定の遺伝子(「応答遺伝子」)が選択される。いくつかの実施形態では、応答遺伝子は、疾患遺伝子発現シグネチャー内の各遺伝子に、ベースライン対照(例えば、健康な対象の遺伝子発現と比較した)に対するそれらの差次的発現のレベルを特徴付けるスコアを割り当てることによって選択される。いくつかの実施形態では、応答遺伝子のサブセットが疾患遺伝子発現シグネチャーから選択されると、応答遺伝子は、ベースライン対照(例えば、健康な対象の遺伝子発現と比較した)に対するそれらの差次的発現のレベルに従ってランク付けされる。いくつかの実施形態では、107のデータベースからの化合物による接続(例えば、下流調整)を有する遺伝子が応答遺伝子として選択される。
【0090】
いくつかの実施形態では、0.05以下のp値を有する応答遺伝子が選択される。
【0091】
1つ以上の選択された応答遺伝子に有意な影響を有する治療が同定される(108)(「可能な治療」)。いくつかの実施形態では、可能な治療は、応答遺伝子のセットの遺伝子発現を変化させる治療である。いくつかの実施形態では、可能な治療は、応答遺伝子のセットの変化の有意性に基づいてスコア化される。いくつかの実施形態では、変化の最も高い有意性を有する治療が選択され、それによって1つ以上の候補治療が提供される。本明細書で使用される場合、「治療」は、本明細書で定義される治療剤、遺伝子ノックアウト(例えば、対象の1つ以上の特定の遺伝子を手術不能にすること)、または遺伝子過剰発現(例えば、対象における1つ以上の特定の遺伝子の正常量を超えて発現を増加させる)を指す。
【0092】
1つ以上の候補治療を評価して、各治療がどの標的(例えば、タンパク質または他の細胞機能)を調節するかを同定する(109)。いくつかの実施形態では、治療と標的との間に関係がない場合、治療は候補治療のリストから除外される。いくつかの実施形態では、治療と標的との間に関係がない場合、標的は、治療を開発することができる「新規標的」と見なされる。1つ以上の候補治療によって直接調節される1つ以上の可能な標的が選択される(110)。したがって、1つ以上の可能な標的は、処置モジュール(112)を構築することができる。任意選択で、1つ以上の可能な標的が、生物学的ネットワーク、例えば、ヒトインタラクトームマップ上にマッピングされる(111)。可能な標的(例えば、治療の標的)のサブセットは、生物学的ネットワーク(例えば、ヒトインタラクトーム)におけるトポロジー的関係に基づいて、または生物学的ネットワークにおける結合の強さに基づいて評価および選択することができる。いくつかの実施形態では、すべての可能な標的が処置モジュールを構築する。いくつかの実施形態では、1つの標的は、(疾患遺伝子発現シグネチャーにおいて)応答遺伝子のセットへの有意な関連を有することに基づいて処置のために選択される。いくつかの実施形態では、応答遺伝子のセットに対する標的の有意な関連は、標的の調節が応答遺伝子のセットの発現を逆転させるかどうかである。
【0093】
あるいは、いくつかの実施形態では、遺伝子ノックアウトは、1つ以上の標的を同定するために使用され、1つ以上の標的のノックアウトは、応答遺伝子のセットの1つ以上の遺伝子発現に影響を与える。いくつかの実施形態では、標的は、ノックアウト後の応答遺伝子のセットの変化の有意性に基づいてスコア化される。いくつかの実施形態では、変化の最高の有意性を有する標的が選択され、これにより、治療の1つ以上の適切な標的が提供される。いくつかの実施形態では、遺伝子ノックアウトによって同定された標的は、治療の新規標的を同定するために有用であり得る。
【0094】
いくつかの実施形態では、遺伝子過剰発現は、1つ以上の標的の過剰発現が応答遺伝子のセットの1つ以上の遺伝子発現に影響を与える、1つ以上の標的を同定するために使用される。いくつかの実施形態では、標的は、過剰発現後の応答遺伝子のセットの変化の有意性に基づいてスコア化される。いくつかの実施形態では、変化の最高の有意性を有する標的が選択され、これにより、治療の1つ以上の適切な標的が提供される。いくつかの実施形態では、遺伝子過剰発現によって同定された標的は、治療の新規標的を同定するために有用であり得る。
【0095】
記載されるように、可能な標的またはそのサブセット(113)は、利用可能な実験的に検証された処置を有さない標的を同定するために評価される。いくつかの実施形態では、新規標的は、同定された処置モジュール内で選択される。いくつかの実施形態では、新規標的は、可能な標的(例えば、処置モジュール)に対する実質的な影響類似性、および応答遺伝子のセットの遺伝子発現を逆転させる能力を有するものとして同定される。本明細書に記載されるように、「新規標的」は、治療が利用可能でない(または実質的に有効な治療が利用可能でない)タンパク質または他の細胞機構を指す。このような新規標的は、現在まで必ずしも考慮されていなかった処置の標的の選択肢を提供するので、薬物開発のための有望な目標を提供する。
【0096】
新規標的は、本明細書に記載されるように、可能な標的(または処置モジュール)から様々な方法で同定することができる。例えば、いくつかの実施形態では、グラフ分布特性に基づくメトリックである拡散状態距離(DSD)は、生物学的ネットワークにおける機能的注釈(例えば、タンパク質間相互作用ネットワーク、またはヒトインタラクトーム)の転送のために、近接するより細かい粒度の区別を捕捉するように設計される。いくつかの実施形態では、転送のためのそのような近接性は、機械学習プロセス方法によって評価される。いくつかの実施形態では、機械学習プロセス方法は、ランダムウォークなどの分布ベースの方法である。いくつかの実施形態では、ランダムウォークは、生物学的ネットワークの頂点を横断し、初期状態がuであり、初期状態がvであるとき、予想される訪問数をすべての状態(所与の時間ホライズン内)と比較することによって、2つの状態(またはノード)uおよびvの近接性を評価する。理論に束縛されるものではないが、小さいDSDを有する2つのノードは、高い下流影響類似性を有することが理解される。
【0097】
いくつかの実施形態では、治療の標的(例えば、処置モジュール)を摂動させることは、応答モジュール遺伝子における望ましい下流効果をもたらし、患者を処置する。例として、抗TNF治療はTNFを標的とし、特定の自己免疫疾患、例えば、潰瘍性大腸炎、関節リウマチなどの処置に承認されている。処置モジュール(例えば、治療の標的)をTNFと比較して、機械学習プロセス法によるランダム期待値と比較したそれらの影響類似性を決定することができる。例えば、1000回の相互作用に対する拡散状態差(DSD)を使用して、TNFと処置モジュールとの間の類似性は、TNFと処置モジュール内のすべての単一ノード(例えば、治療のすべての単一の標的)との間の平均DSD値を計算することによって決定される。無作為化処置モジュールとTNFとの間の類似性は、無作為化処置モジュール(例えば、類似の程度を有する無作為に選択されたノード)とTNFとの間の平均DSD値を計算することによって決定される。ネットワーク類似性分析は、以下のことを示す:TNFは、無作為に選択された処置モジュールよりも実験的に得られた処置モジュールに対して有意により近いネットワーク類似性を有する(
図2A);特異性は、~影響類似性として定義される;選択性は、~zスコアである。この分析は、潰瘍性大腸炎、関節リウマチなどの特定の自己免疫疾患を処置するためのTNF以外の他の標的に対して外挿することができる。例えば、潰瘍性大腸炎が承認した標的の大部分は、同定された処置モジュールに対して高い特異性ならびに高い選択性を有する(
図2B)。
【0098】
したがって、いくつかの実施形態では、本開示は、疾患、障害、または疾病に罹患している対象を処置するための治療の標的を決定または検証する方法であって、疾患遺伝子発現シグネチャーに対応する応答遺伝子のセットを受け取る工程であって、疾患遺伝子発現シグネチャーは、発現が全体的または部分的に逆転されると、健康な対象の遺伝子発現に類似する1つ以上の遺伝子であるか、またはそれを含む、工程と、1つ以上の可能な治療と複数の遺伝子発現との複数の相互作用を受け取る工程と、応答遺伝子のセットの各遺伝子について、応答遺伝子のセットの遺伝子発現を変化させる1つ以上の可能な治療を生成する工程と、応答遺伝子のセットの変化(例えば、遺伝子発現の変化)の有意性に基づいて1つ以上の可能な治療をそれぞれスコア化する工程であって、これにより、1つ以上の候補治療を提供する、工程と、1つ以上の候補治療によって直接調節される1つ以上の可能な標的を決定する工程と、1つ以上の可能な標的をそれぞれ生物学的ネットワーク上にマッピングする工程と、生物学的ネットワーク上の1つ以上の可能な標的と有意なトポロジー的類似性(例えば、近接しているか、またはそうでなければ生物学的ネットワーク上に同様に位置付けられる)を共有する第2の標的を、1つ以上の可能な標的および任意の第2の標的を含む、標的のリストに追加する工程と、治療の標的を提供するために、標的のリストから応答遺伝子のセットに対して有意な下流影響を有する標的を同定する工程とを含む、方法を提供する。
【0099】
いくつかの実施形態では、第2の標的は、1つ以上の可能な標的からの標的から直接または間接的に(例えば、1つまたは2つまたは3つの動作が除去される)のいずれかで接続される標的である。いくつかの実施形態では、第2の標的は、有する標的である。
【0100】
本開示は、とりわけ、選択性および特異性のネットワークベース測定を使用して、処置モジュールを同定し、新規標的ならびにリパーパシングの機会(repurposing opportunity)をランク付けおよび同定することができるという洞察を包含する。
【0101】
処置方法
とりわけ、本開示は、上記の処置の標的の1つ以上を標的とする治療を使用して、疾患に罹患している対象を処置する方法を提供する。例えば、いくつかの実施形態では、本開示は、疾患遺伝子発現シグネチャーを示す対象を処置する方法を提供し、この方法は、疾患遺伝子発現シグネチャーが健康な遺伝子発現シグネチャーに類似するように戻す(または逆転する、または別様に変化する)と決定された治療を施す工程を含み、治療は、疾患遺伝子発現シグネチャーから応答遺伝子のセットを選択すること、応答遺伝子のセットの遺伝子発現を変化させる1つ以上の可能な治療を同定すること、1つ以上の候補治療を提供するための応答遺伝子のセットの変化の有意性に基づいて、1つ以上の候補治療をそれぞれスコア化すること、1つ以上の候補治療によって直接調節される1つ以上の可能な標的を決定すること、応答遺伝子のセットに対して有意なトポロジー的類似性(例えば、生物学的ネットワーク上に近接している)を有する標的を同定するとによって、1つ以上の可能な標的から処置の標的を選択すること、および処置の標的を直接調節する治療を同定することによって決定される。
【0102】
いくつかの実施形態では、疾患遺伝子発現シグネチャーは、対象と同じ疾患、障害、または疾病に罹患している対象のコホートからの遺伝子発現データを分析すること、遺伝子発現データに基づいて対象のコホートを、以前の対象の2つ以上の群に層別化すること、および以前の対象の2つ以上の群と健康な対象の群との間で遺伝子発現に有意差を有する1つ以上の遺伝子(「疾患候補遺伝子」)を選択することであって、これにより、疾患遺伝子発現シグネチャーを提供する、選択することによって決定される。
【0103】
いくつかの実施形態では、以前の対象のコホートを、2つ以上の群に層別化することは、以前の対象が特定の治療(例えば、抗TNF治療)に対するレスポンダーであるか非レスポンダーであるかに基づいて対象を層別化することを包含する。いくつかの実施形態では、以前の対象は、無作為に層別化される。いくつかの実施形態では、以前の対象は、遺伝子発現に基づいて類似性によって層別化される。いくつかの実施形態では、以前の対象における遺伝子発現に基づく類似性は、機械学習プロセスによって分析される。
【0104】
いくつかの実施形態では、治療は表1から選択される。
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
いくつかの実施形態では、治療は、抗TNF治療である。いくつかの実施態様では、抗TNF治療は、インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ、セルトリズマブペゴル、ゴリムマブ、およびこれらのバイオシミラーから選択される。いくつかの実施形態では、抗TNF治療は、インフリキシマブである。いくつかの実施形態では、抗TNF治療は、エタネルセプトである。いくつかの実施形態では、抗TNF治療は、アダリムマブである。いくつかの実施態様では、抗TNF治療は、セルトリズマブペゴルである。いくつかの実施形態では、抗TNF治療は、ゴリムマブである。いくつかの実施形態では、抗TNF治療は、インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ、セルトリズマブペゴル、またはゴリムマブのバイオシミラーである。
【0114】
いくつかの実施形態では、治療は、リツキシマブ、サリルマブ、クエン酸トファシチニブ、レフノミド、ベドリズマブ、トシリズマブ、アナキンラ、およびアバタセプトから選択される。いくつかの実施形態では、治療は、リツキシマブである。いくつかの実施形態では、治療は、サリルマブである。いくつかの実施形態では、治療は、クエン酸トファシチニブである。いくつかの実施形態では、治療は、レフノミドである。いくつかの実施形態では、治療は、ベドリズマブである。いくつかの実施形態では、治療は、トシリズマブである。いくつかの実施形態では、治療は、アナキンラである。いくつかの実施形態では、治療は、アバタセプトである。
【0115】
いくつかの実施形態では、疾患、障害、または疾病は、潰瘍性大腸炎、クローン病、関節リウマチ、若年性関節炎、乾癬性関節炎、プラーク乾癬、および強直性脊椎炎から選択される。いくつかの実施形態では、疾患、障害、または疾病は、潰瘍性大腸炎である。いくつかの実施形態では、疾患、障害、または疾病は、クローン病である。いくつかの実施形態では、疾患、障害または疾病は、関節リウマチである。いくつかの実施形態では、疾患、障害、または疾病は、潰瘍性大腸炎、クローン病、関節リウマチ、若年性関節炎、乾癬性関節炎、プラーク乾癬、および強直性脊椎炎である。
【0116】
いくつかの実施形態では、1つ以上の可能な標的は、JAK1、JAK2、JAK3、IL23A、ITGA4、ITGB7、IL2RA、IL12A、IL12B、TNF、IL12RB1、IL23R、IL12RB2、およびMADCAM1から選択される。
【0117】
治療のモニタリング
さらに、本開示は、所与の対象または対象のコホートの治療をモニタリングするための技術を提供する。対象の遺伝子発現レベルは経時的に変化し得るため、場合によっては、1つ以上の時点で、例えば、特定のおよび/または周期的な間隔で対象を評価することが望ましい場合がある。
【0118】
いくつかの実施形態では、経時的な反復モニタリングは、進行中の処置レジメンに影響を与え得る対象の遺伝子発現プロファイルまたは特徴における1つ以上の変化の検出を可能にするかまたは達成する。いくつかの実施形態では、変化は、対象に投与される特定の治療が継続されるか、変更されるか、または中断されるかに応じて検出される。いくつかの実施形態では、治療は、例えば、対象が既に処置されている1つ以上の薬剤または処置の投与の頻度または量を増加または減少させることによって変更されてもよい。代替的または追加的に、いくつかの実施形態では、治療は、1つ以上の新規薬剤または処置を伴う治療の追加によって変更されてもよい。いくつかの実施形態では、治療は、1つ以上の特定の薬剤または処置の中断または停止によって変更されてもよい。
【0119】
システムおよびアーキテクチャ
対象に対し個別化された治療を設計するための方法であって、応答遺伝子のセットを含む疾患遺伝子発現シグネチャーを受け取るかまたは生成する工程と、1つ以上の応答遺伝子の発現を変化させる1つ以上の可能な治療のセットを受け取るかまたは生成する工程と、1つ以上の候補治療のセットを提供するために、1つ以上の可能な治療のセットをそれぞれ、1つ以上の応答遺伝子の変化の有意性に従ってランク付けする工程と、任意選択で、1つ以上の可能な標的を生物学的ネットワーク上にマッピングすることによって、1つ以上の候補治療のセットによって直接調節される1つ以上の可能な標的を決定する工程と、1つ以上の可能な標的の各々と応答遺伝子のセットとの間の下流影響(例えば、拡散状態距離)の有意性をランク付けする工程と、1つ以上の可能な標的から処置のための標的を選択する工程と、処置の標的を調節する個別化された治療を選択する工程とを含む、方法が、本明細書にさらに記載される。
【0120】
いくつかの実施形態では、疾患遺伝子発現シグネチャーは、対象と同じ疾患、障害、または疾病に罹患している対象のコホートから遺伝子発現データを受け取るかまたは生成すること、遺伝子発現データに基づいて、対象のコホートを、以前の対象の2つ以上の群に層別化すること、および以前の対象の2つ以上の群と健康な対象の群との間で遺伝子発現に有意差を有する1つ以上の遺伝子(「疾患候補遺伝子」)を選択することであって、これにより、疾患遺伝子発現シグネチャーを提供する、選択することによって決定される。
【0121】
いくつかの実施形態では、疾患候補遺伝子は、疾患遺伝子発現シグネチャーの一部であるように選択される前に、生物学的ネットワーク上にマッピングされる。
【0122】
いくつかの実施形態では、1つ以上の可能な標的を決定することは、1つ以上の候補治療の標的を生物学的ネットワーク上にマッピングすること、および生物学的ネットワークによって提供されるトポロジー的情報に基づいて可能な標的を選択することをさらに含む。
【0123】
いくつかの実施形態では、1つ以上の可能な治療の各々のランク付けは、1つ以上の可能な治療による処置前の応答遺伝子のセットに対する、1つ以上の可能な治療による処置後の応答遺伝子のセットの発現レベルの差異を算出すること、および1つ以上の可能な治療の各々についてp値を算出することを含む。
【0124】
いくつかの実施形態では、可能な標的は、機械学習プロセスによって同定される。
【0125】
いくつかの実施形態では、機械学習プロセスは、ランダムウォークである。
【0126】
図4に示されるように、本明細書に記載されるシステム、方法、およびアーキテクチャを提供する際に使用するためのネットワーク環境400の実装形態が、示され、説明される。簡潔に概説すると、
図4において、例示的なクラウドコンピューティング環境400のブロック図が示され、説明される。クラウドコンピューティング環境400は、1つ以上のリソースプロバイダ402a、402b、402c(総じて、402)を含んでもよい。各リソースプロバイダ402は、コンピューティングリソースを含み得る。いくつかの実装形態では、コンピューティングリソースは、データを処理するために使用される任意のハードウェアまたはソフトウェアを含み得る。例えば、コンピューティングリソースは、アルゴリズム、コンピュータプログラム、またはコンピュータアプリケーションを実行することが可能なハードウェアまたはソフトウェアを含んでもよい。いくつかの実装形態では、例示的コンピューティングリソースは、記憶および検索能力を伴うアプリケーションサーバまたはデータベースを含んでもよい。各リソースプロバイダ402は、クラウドコンピューティング環境400内の任意の他のリソースプロバイダ402に接続され得る。いくつかの実装形態では、リソースプロバイダ402は、コンピュータネットワーク408を介して接続され得る。各リソースプロバイダ402は、コンピュータネットワーク408を介して1つ以上のコンピューティングデバイス404a、404b、404c(総じて、404)に接続され得る。
【0127】
クラウドコンピューティング環境400は、リソースマネージャ406を含み得る。リソースマネージャ406は、コンピュータネットワーク408を介してリソースプロバイダ402およびコンピューティングデバイス404に接続され得る。いくつかの実装形態では、リソースマネージャ406は、1つ以上のリソースプロバイダ402による1つ以上のコンピューティングデバイス404へのコンピューティングリソースのプロビジョニングを容易にすることができる。リソースマネージャ406は、特定のコンピューティングデバイス404からコンピューティングリソースの要求を受け取ることができる。リソースマネージャ406は、コンピューティングデバイス404によって要求されたコンピューティングリソースを提供することができる1つ以上のリソースプロバイダ402を同定することができる。リソースマネージャ406は、コンピューティングリソースを提供するリソースプロバイダ402を選択することができる。リソースマネージャ406は、リソースプロバイダ402と特定のコンピューティングデバイス404との間の接続を容易にすることができる。いくつかの実装形態では、リソースマネージャ406は、特定のリソースプロバイダ402と特定のコンピューティングデバイス404との間の接続を確立し得る。いくつかの実装形態では、リソースマネージャ406は、特定のコンピューティングデバイス404を、要求されたコンピューティングリソースを有する特定のリソースプロバイダ402にリダイレクトすることができる。
【0128】
図5は、本明細書に記載される技術を実装するために使用され得るコンピューティングデバイス500およびモバイルコンピューティングデバイス550の一例を示す。コンピューティングデバイス500は、ラップトップ、デスクトップ、ワークステーション、携帯情報端末、サーバ、ブレードサーバ、メインフレーム、および他の適切なコンピュータなど、様々な形態のデジタルコンピュータを表すことが意図されている。モバイルコンピューティングデバイス550は、携帯情報端末、携帯電話、スマートフォン、および他の同様のコンピューティングデバイスなど、様々な形態のモバイルデバイスを表すことが意図されている。ここで示される構成要素、それらの接続および関係、ならびにそれらの機能は、例であることを意味し、限定することを意味しない。
【0129】
コンピューティングデバイス500は、プロセッサ502と、メモリ504と、ストレージデバイス506と、メモリ504および複数の高速拡張ポート510に接続する高速インターフェース508と、低速拡張ポート514およびストレージデバイス506に接続する低速インターフェース512とを含む。プロセッサ502、メモリ504、ストレージデバイス506、高速インターフェース508、高速拡張ポート510、および低速インターフェース512はそれぞれ、様々なバスを使用して相互接続され、共通のマザーボード上に、または必要に応じて他の方法で実装され得る。プロセッサ502は、高速インターフェース508に結合されたディスプレイ516などの外部入力/出力デバイス上にGUIのためのグラフィカル情報を表示するために、メモリ504またはストレージデバイス506に記憶された命令を含む、コンピューティングデバイス500内で実行するための命令を処理することができる。他の実装形態では、複数のプロセッサまたは複数のバスが、必要に応じて、複数のメモリおよびメモリのタイプとともに使用され得る。また、複数のコンピューティングデバイスが接続されてもよく、各デバイスは、動作(例えば、サーババンクとして、ブレードサーバのグループとして、またはマルチプロセッサシステムとして)の部分を提供する。したがって、この用語が本明細書で使用され、複数の機能が「プロセッサ」によって実行されるものとして説明される場合、これは、複数の機能が任意の数のコンピューティングデバイス(1つ以上)の任意の数のプロセッサ(1つ以上)によって実行される実施形態を包含する。さらに、機能が「プロセッサ」によって実行されるものとして説明される場合、これは、機能が任意の数のコンピューティングデバイス(1つ以上)の任意の数のプロセッサ(1つ以上)によって(例えば、分散コンピューティングシステムにおいて)実行される実施形態を包含する。
【0130】
メモリ504は、コンピューティングデバイス500内に情報を記憶する。いくつかの実装形態では、メモリ504は、1つ以上の揮発性メモリユニットである。いくつかの実装形態では、メモリ504は、1つ以上の不揮発性メモリユニットである。メモリ504はまた、磁気ディスクまたは光ディスクなどの別の形態のコンピュータ可読媒体であり得る。
【0131】
ストレージデバイス506は、コンピューティングデバイス500のための大容量ストレージを提供することができる。いくつかの実装形態では、ストレージデバイス506は、フロッピー(登録商標)ディスクデバイス、ハードディスクデバイス、光ディスクデバイス、もしくはテープデバイスなどのコンピュータ可読媒体、フラッシュメモリもしくは他の同様のソリッドステートメモリデバイス、またはストレージエリアネットワークもしくは他の構成中のデバイスを含むデバイスのアレイであり得るか、またはそれらを含み得る。命令は、情報担体に格納することができる。命令は、1つ以上の処理デバイス(たとえば、プロセッサ502)によって実行されると、上記で説明したものなどの1つ以上の方法を実行する。命令は、コンピュータ可読媒体または機械可読媒体(例えば、メモリ504、記憶装置506、またはプロセッサ502上のメモリである)などの1つ以上の記憶デバイスによって記憶することもできる。
【0132】
高速インターフェース508は、コンピューティングデバイス500のための帯域幅を集中的に使うオペレーション(bandwidth-intensive operations)を管理し、低速インターフェース512は、より低い帯域幅を集中的に使うオペレーションを管理する。このような機能の割り当ては一例である。いくつかの実装形態では、高速インターフェース508は、メモリ504、ディスプレイ516(例えば、グラフィックスプロセッサまたはアクセラレータを介する)、および様々な拡張カード(図示しない)を受け入れ得る高速拡張ポート510に結合される。この実装形態では、低速インターフェース512は、ストレージデバイス506および低速拡張ポート514に結合される。様々な通信ポート(例えば、USB、Bluetooth(登録商標)、イーサネット(登録商標)、無線イーサネット(登録商標)である)を含み得る低速拡張ポート514は、例えばネットワークアダプタを介して、キーボード、ポインティングデバイス、スキャナ、またはスイッチもしくはルータなどのネットワーキングデバイスなどの1つ以上の入力/出力デバイスに結合され得る。
【0133】
コンピューティングデバイス500は、図に示すように、いくつかの異なる形態で実装され得る。例えば、標準サーバ520として、またはそのようなサーバのグループにおいて複数回実装されてもよい。加えて、コンピューティングデバイス500は、ラップトップコンピュータ522などのパーソナルコンピュータにおいて実装され得る。コンピューティングデバイス500はまた、ラックサーバシステム524の一部として実装されてもよい。代替的には、コンピューティングデバイス500からの構成要素は、モバイルコンピューティングデバイス550などのモバイルデバイス(図示しない)内の他の構成要素と組み合わせられ得る。そのようなデバイスはそれぞれ、コンピューティングデバイス500およびモバイルコンピューティングデバイス550のうちの1つ以上を含み得、システム全体は、互いに通信する複数のコンピューティングデバイスから構築され得る。
【0134】
モバイルコンピューティングデバイス550は、とりわけ、プロセッサ552と、メモリ564と、ディスプレイ554などの入出力デバイスと、通信インターフェース566と、トランシーバ568とを含む。モバイルコンピューティングデバイス550はまた、追加のストレージを提供するために、マイクロドライブまたは他のデバイスなどのストレージデバイスを備え得る。プロセッサ552、メモリ564、ディスプレイ554、通信インターフェース566、およびトランシーバ568はそれぞれ、様々なバスを使用して相互接続され、構成要素のうちのいくつかは、共通のマザーボード上に、または必要に応じて他の方法で実装され得る。
【0135】
プロセッサ552は、メモリ564に記憶された命令を含む、モバイルコンピューティングデバイス550内の命令を実行することができる。プロセッサ552は、別個の複数のアナログおよびデジタルプロセッサを含むチップのチップセットとして実装され得る。プロセッサ552は、例えば、ユーザインターフェースの制御、モバイルコンピューティングデバイス550によって実行されるアプリケーション、およびモバイルコンピューティングデバイス550によるワイヤレス通信など、モバイルコンピューティングデバイス550の他の構成要素の調整を提供し得る。
【0136】
プロセッサ552は、ディスプレイ554に結合された制御インターフェース558およびディスプレイインターフェース556を通じてユーザと通信することができる。ディスプレイ554は、例えば、TFT(薄膜トランジスタ液晶ディスプレイ)ディスプレイまたはOLED(有機発光ダイオード)ディスプレイ、あるいは他の適切なディスプレイ技術であってもよい。ディスプレイインターフェース556は、グラフィカル情報および他の情報をユーザに提示するようにディスプレイ554を駆動するための適切な回路を備え得る。制御インターフェース558は、ユーザからコマンドを受信し、それらをプロセッサ552に提出するために変換し得る。加えて、外部インターフェース562は、モバイルコンピューティングデバイス550と他のデバイスとの近距離通信を可能にするように、プロセッサ552との通信を提供し得る。外部インターフェース562は、例えば、いくつかの実装形態では、有線通信のために、または他の実装形態ではワイヤレス通信のために提供することができ、複数のインターフェースも使用され得る。
【0137】
メモリ564は、モバイルコンピューティングデバイス550内に情報を記憶する。メモリ564は、1つ以上のコンピュータ可読媒体、1つ以上の揮発性メモリユニット、または1つ以上の不揮発性メモリユニットのうちの1つ以上として実装され得る。拡張メモリ574がさらに設けられ、例えばSIMM(シングルインラインメモリモジュール)カードインターフェースを含み得る拡張インターフェース572を介してモバイルコンピューティングデバイス550に接続され得る。拡張メモリ574は、モバイルコンピューティングデバイス550のための余分な記憶空間を提供してもよく、またはモバイルコンピューティングデバイス550のためのアプリケーションまたは他の情報を記憶してもよい。具体的には、拡張メモリ574は、上記で説明したプロセスを実行または補足するための命令を含み得、セキュア情報も含み得る。したがって、例えば、拡張メモリ574は、モバイルコンピューティングデバイス550のためのセキュリティモジュールとして提供され得、モバイルコンピューティングデバイス550の安全な使用を可能にする命令でプログラムされ得る。さらに、ハッキング不可能な方法でSIMMカード上に識別情報を配置するなど、追加の情報とともに、セキュアアプリケーションがSIMMカードを介して提供され得る。
【0138】
メモリは、以下で説明するように、例えば、フラッシュメモリまたはNVRAMメモリ(不揮発性ランダムアクセスメモリ)を含み得る。いくつかの実装形態では、命令は情報キャリアに記憶され、命令は、1つ以上の処理デバイス(例えば、プロセッサ552)によって実行されると、上記で説明したものなどの1つ以上の方法を実行する。命令は、1つ以上のコンピュータ可読媒体または機械可読媒体(例えば、メモリ564、拡張メモリ574、またはプロセッサ552上のメモリである)などの1つ以上の記憶デバイスによって記憶することもできる。いくつかの実装形態では、命令は、例えば、トランシーバ568または外部インターフェース562を介して、伝搬信号中で受け取られ得る。
【0139】
モバイルコンピューティングデバイス550は、必要に応じてデジタル信号処理回路を含み得る通信インターフェース566を介してワイヤレスに通信し得る。通信インターフェース566は、GSM(登録商標)音声呼(Global S ystem for Mobile communications)、SMS(Short Message Service)、EMS(Enhanced Messaging Service)、またはMMSメッセージング(Multimedia Messaging Service)、CDMA(code division multiple access)、TDMA(time division multiple access)、PDC(Personal Digital Cellular)、WCDMA(Wideband Code Division Multiple Access)、CDMA2000、またはGPRS(General Packet Radio Service)など様々なモードまたはプロトコルの下での通信を提供し得る。そのような通信は、例えば、無線周波数を使用してトランシーバ568を通じて行われ得る。さらに、Bluetooth(登録商標)、Wi-Fi(登録商標)、または他のそのようなトランシーバ(図示しない)などを使用して、短距離通信が行われ得る。加えて、GPS(全地球測位システム)受信機モジュール570は、モバイルコンピューティングデバイス550に追加のナビゲーション関連および位置関連のワイヤレスデータを提供し得、それは、モバイルコンピューティングデバイス550上で実行されるアプリケーションによって適宜使用され得る。
【0140】
モバイルコンピューティングデバイス550はまた、音声コーデック560を使用して音声で通信し得、音声コーデックは、ユーザから発話された情報を受信し、それを使用可能なデジタル情報に変換し得る。オーディオコーデック560は、同様に、たとえばモバイルコンピューティングデバイス550のハンドセット内のスピーカなどを通じて、ユーザのために可聴音を生成し得る。そのような音は、音声電話通話からの音を含んでもよく、録音された音(例えば、音声メッセージ、音楽ファイルなど)を含んでもよく、また、モバイルコンピューティングデバイス550上で動作するアプリケーションによって生成された音を含んでもよい。
【0141】
モバイルコンピューティングデバイス550は、図に示すように、いくつかの異なる形態で実装され得る。例えば、携帯電話580として実装されてもよい。これはまた、スマートフォン582、携帯情報端末、または他の同様のモバイルデバイスの一部として実装され得る。
【0142】
本明細書に記載されるシステムおよび技術の様々な実装は、デジタル電子回路、集積回路、特別に設計されたASIC(特定用途向け集積回路)、コンピュータハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、またはこれらの組合せで実現することができる。これらの様々な実装形態は、記憶システム、少なくとも1つの入力デバイス、および少なくとも1つの出力デバイスからデータおよび命令を受信し、記憶システム、少なくとも1つの入力デバイス、および少なくとも1つの出力デバイスにデータおよび命令を送信するように結合された、専用または汎用であり得る少なくとも1つのプログラマブルプロセッサを含むプログラマブルシステム上で実行可能または解釈可能である1つ以上のコンピュータプログラムにおける実装形態を含むことができる。
【0143】
これらのコンピュータプログラム(例えば、プログラム、ソフトウェア、ソフトウェアアプリケーションまたはコード)は、プログラマブルプロセッサのための機械命令を含み、高水準手続型もしくはオブジェクト指向プログラミング言語で、またはアセンブリ/機械言語で実装することができる。本明細書で使用されるように、機械可読媒体およびコンピュータ可読媒体という用語は、機械可読信号として機械命令を受信する機械可読媒体を含む、機械命令またはデータをプログラマブルプロセッサに提供するために使用される任意のコンピュータプログラム製品、装置、またはデバイス(例えば、磁気ディスク、光ディスク、メモリ、プログラマブルロジックデバイス(PLD))を指す。機械可読信号という用語は、機械命令またはデータをプログラマブルプロセッサに提供するために使用される任意の信号を指す。
【0144】
ユーザとの相互作用を提供するために、本明細書に記載されるシステムおよび技術は、情報をユーザに表示するためのディスプレイデバイス(例えば、CRT(cathode Ray tube)やLCD(liquid Crystal Display)モニタである)と、ユーザが入力をコンピュータに提供することができるキーボードおよびポインティングデバイス(例えば、マウスまたはトラックボール)とを有するコンピュータ上で実装することができる。他の種類のデバイスを使用して、ユーザとの相互作用を提供することもできる、例えば、ユーザに提供されるフィードバックは、任意の形態の感覚フィードバック(例えば、視覚フィードバック、聴覚フィードバック、または触覚フィードバック)であり得るか、またはユーザからの入力は、音響、音声、または触覚入力を含む、任意の形態で受信することができる。
【0145】
本明細書に記載されるシステムおよび技術は、バックエンド構成要素(例えば、データサーバとして)を含むか、またはミドルウェア構成要素(例えば、アプリケーションサーバ)を含むか、またはフロントエンド構成要素(例えば、グラフィカルユーザインターフェースもしくはウェブブラウザを有するクライアントコンピュータであって、それを通してユーザが本明細書に記載されるシステムおよび技術の実装と相互作用することができる、クライアントコンピュータ)を含むか、またはそのようなバックエンド、ミドルウェア、もしくはフロントエンド構成要素の任意の組合せを含む、コンピューティングシステムにおいて実装されることができる。システムの構成要素は、デジタルデータ通信(例えば、通信ネットワーク)の任意の形態または媒体によって相互接続することができる。通信ネットワークの例は、ローカルエリアネットワーク(LAN)、ワイドエリアネットワーク(WAN)、およびインターネットを含む。
【0146】
コンピューティングシステムは、クライアントおよびサーバを含むことができる。クライアントおよびサーバは、互いに離れていてもよく、通信ネットワークを介して相互作用してもよい。クライアントとサーバとの関係は、それぞれのコンピュータ上で実行され、互いにクライアント-サーバ関係を有するコンピュータプログラムによって生じる。
【0147】
いくつかの実装形態では、本明細書に記載されるモジュールは、単一のモジュールまたは組み合わされたモジュールに分離するか、組み合わせるか、または組み込むことができる。図に示されるモジュールは、本明細書に記載されるシステムを図に示されるソフトウェアアーキテクチャに限定することを意図するものではない。
【0148】
本明細書に記載される異なる実装形態の要素は、上記で具体的に説明されない他の実装形態を形成するように組み合わせられてもよい。要素は、本明細書に記載されるプロセス、コンピュータプログラム、データベースなどから、それらの動作に悪影響を及ぼすことなく、除外されてもよい。加えて、図に示されるロジックフローは、所望の結果を達成するために、示される特定の順序または連続順序を必要としない。本明細書に記載される機能を実行するために、様々な別個の要素を1つ以上の個々の要素に組み合わせることができる。本明細書に記載されるシステムおよび方法の構造、機能、および装置を考慮して、いくつかの実装形態では、システムおよび方法の構造、機能、および装置を考慮する。
【0149】
本開示は、本開示の方法を実施するようにプログラムされたコンピュータシステムを提供する。
図14は、さまざまな方法の分析または動作を実行するようにプログラムされるか、そうでなければ構成されるコンピュータシステム1401を示す。コンピュータシステム1401は、例えば、アルゴリズムを実行するか、データを分析するか、またはアルゴリズムの結果を出力するなど、本開示の方法およびシステムの様々な態様を調整することができる。コンピュータシステム1401は、ユーザの電子デバイス、または電子デバイスに対して遠隔に位置するコンピュータシステムであり得る。電子デバイスは、モバイル電子デバイスであり得る。
【0150】
コンピュータシステム1401は、中央処理装置(CPU、本明細書では「プロセッサ」および「コンピュータプロセッサ」とも称される)1405を備えており、シングルコアもしくはマルチコアプロセッサ、または並列処理用の複数のプロセッサとすることができる。コンピュータシステム1401はまた、メモリまたはメモリ位置1410(例えば、ランダムアクセスメモリ、読み出し専用メモリ、フラッシュメモリ)、電子記憶装置1415(例えば、ハードディスク)、1つ以上の他のシステムと通信するための通信インターフェース1420(例えば、ネットワークアダプタ)、ならびにキャッシュ、他のメモリ、データ記憶、および/または電子ディスプレイアダプタなどの周辺デバイス1425を備える。メモリ1410、記憶装置1415、インターフェース1420、および周辺デバイス1425は、マザーボードなどの通信バス(実線)を経由してCPU1405と通信する。記憶装置1415は、データを記憶するためのデータ記憶装置(またはデータリポジトリ)とすることができる。コンピュータシステム1401は、通信インターフェース1420の補助によってコンピュータネットワーク(「ネットワーク」)1430に動作可能に結合させることができる。ネットワーク1430は、インターネット、インターネットおよび/もしくはエクストラネット、またはインターネットと通信するイントラネットおよび/もしくはエクストラネットとすることができる。ネットワーク1430は、場合によっては、電気通信ネットワークおよび/またはデータネットワークである。ネットワーク1430は、クラウドコンピューティングなどの分散コンピューティングを可能にすることができる、1つ以上のコンピュータサーバを備え得る。ネットワーク1430は、場合によってはコンピュータシステム1401の補助により、コンピュータシステム1401に結合されたデバイスがクライアントまたはサーバとして挙動するのを可能にし得るピアツーピアネットワークを実装することができる。
【0151】
CPU1405は、プログラムまたはソフトウェアに具体化することができる、機械可読命令のシーケンスを実行できる。この命令は、メモリ1410などのメモリ位置に記憶され得る。命令はCPU1405に向けることができるので、続いてCPU1405が本開示の方法を実施するようにプログラムまたは構成することができる。CPU1405が実行する動作の例には、フェッチ、デコード、実行、およびライトバックを挙げることができる。
【0152】
CPU1405は、集積回路などの回路の一部とすることができる。システム1401の1つ以上の他のコンポーネントを回路に含めることができる。場合によっては、回路は特定用途向け集積回路(ASIC)である。
【0153】
記憶装置1415は、ドライバ、ライブラリ、および保存プログラムなどのファイルを記憶できる。記憶ユニット1415は、ユーザデータ、例えば、ユーザの嗜好性およびユーザプログラムを記憶できる。コンピュータシステム1401は、場合によっては、イントラネットまたはインターネットを介してコンピュータシステム1401と通信するリモートサーバ上に位置付けられるなど、コンピュータシステム1401の外部にある1つ以上の追加のデータ記憶装置を備えることができる。
【0154】
コンピュータシステム1401は、ネットワーク1430を経由して1つ以上のリモートコンピュータシステムと通信することができる。例えば、コンピュータシステム1401は、ユーザ(例えば、医療従事者または患者)のリモートコンピュータシステムと通信することができる。リモートコンピュータシステムの例には、パーソナルコンピュータ(例えば、ポータブルPC)、スレートもしくはタブレットPC(例えば、Apple(登録商標)iPad(登録商標)、Samsung(登録商標)Galaxy Tab)、電話、スマートフォン(例えば、Apple(登録商標)iPhone(登録商標)、Android対応デバイス、Blackberry(登録商標))、または携帯情報端末が挙げられる。ユーザは、ネットワーク1430を経由してコンピュータシステム1401にアクセスできる。
【0155】
本明細書に記載される方法は、例えば、メモリ1410または電子記憶装置1415など、コンピュータシステム1401の電子記憶位置に記憶された機械(例えば、コンピュータプロセッサ)実行可能コードによって、実装することができる。機械実行可能コードまたは機械可読コードは、ソフトウェアの形で設けることができる。使用中、コードはプロセッサ1405によって実行され得る。場合によっては、コードは、記憶装置1415から検索して、プロセッサ1405が容易にアクセスするためにメモリ1410に記憶することができる。いくつかの状況では、電子記憶装置1415は除外することができ、機械実行可能命令がメモリ1410に記憶される。
【0156】
コードは、コードを実行するように適合されたプロセッサを有するマシンとともに使用するために事前にコンパイルして構成することができるか、または実行時間中にコンパイルすることができる。コードは、コードが事前にコンパイルまたはコンパイルされたまま(as-compiled)の形で実行されるのを可能にするように選択できるプログラミング言語で、供給することができる。
【0157】
コンピュータシステム1401など、本明細書で提供されるシステムおよび方法の態様は、プログラミングにおいて具現化することができる。本技術の様々な態様は、典型的には機械(またはプロセッサ)実行可能コードの形にある「製品」もしくは「製造品」、および/または、一種類の機械可読媒体上で搬送されるか、もしくはその中で具現化される関連データとみなされる場合がある。機械実行可能コードは、メモリ(例えば、読み出し専用メモリ、ランダムアクセスメモリ、フラッシュメモリ)やハードディスクなどの電子記憶ユニットに記憶することができる。「記憶」タイプの媒体には、コンピュータやプロセッサなどの有形メモリ、または種々の半導体メモリ、テープドライブ、ディスクドライブなど、その関連モジュールのいずれか、またはすべてを挙げることができ、これらはソフトウェアのプログラミング用に常に非一時的な記憶を提供し得る。ソフトウェアのすべてまたは一部は、時に、インターネットまたは他の種々の電気通信ネットワークを経由して通信され得る。かかる通信は、例えば、1つのコンピュータまたはプロセッサから別のコンピュータまたはプロセッサへの、例えば管理サーバまたはホストコンピュータからアプリケーションサーバのコンピュータプラットフォームへの、ソフトウェアのロードを可能にし得る。このため、ソフトウェア要素を担持し得る別のタイプの媒体は、ローカルデバイス間の物理的インターフェースにわたって、有線および光固定ネットワーク(optical landline networks)を介して、ならびに種々のエアリンク上で使用されるものなどの、光波、電波、および電磁波を含む。有線または無線リンクや光リンクなど、このような波を搬送する物理的要素も、ソフトウェアを担持する媒体と考慮され得る。本明細書で使用される場合、非一時的で有形の「記憶」媒体に制限されない限り、コンピュータまたは機械「可読媒体」などの用語は、実行のためにプロセッサに命令を与えることに関与するいずれかの媒体を指す。
【0158】
したがって、コンピュータ実行可能コードなどの機械可読媒体は、有形記憶媒体、搬送波媒体、または物理伝送媒体を含むがこれらに限定されない、多くの形態を呈し得る。不揮発性記憶媒体には、例えば、図面に示されるデータベースなどを実装するのに使用され得るものなど、いずれかのコンピュータなどにおける記憶デバイスのうちのいずれかといった、光ディスクまたは磁気ディスクが挙げられる。揮発性記憶媒体には、かかるコンピュータプラットフォームのメインメモリなどのダイナミックメモリが挙げられる。有形伝送媒体には、同軸ケーブルや、コンピュータシステム内のバスを構築するワイヤを含む銅ワイヤおよび光ファイバが挙げられる。搬送波伝送媒体は、電気もしくは電磁信号、または無線周波数(RF)および赤外線(IR)データ通信中に生成されるものなどの音波もしくは光波の形態を呈し得る。そのため、コンピュータ可読媒体の一般的な形態には、例えば、フロッピーディスク、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープ、他のあらゆる磁気媒体、CD-ROM、DVDもしくはDVD-ROM、他のあらゆる光学媒体、パンチカード紙テープ、穴のパターンを有する他のあらゆる物理的記憶媒体、RAM、ROM、PROM、およびEPROM、FLASH-EPROM、他のあらゆるメモリチップもしくはカートリッジ、データもしくは命令を搬送する搬送波、かかる搬送波を運ぶケーブルもしくはリンク、またはコンピュータがプログラミングコードおよび/もしくはデータを読み取り得る他のあらゆる媒体が挙げられる。これらの形態のコンピュータ可読媒体の多くは、実行のために1つ以上の命令からなる1つ以上のシーケンスをプロセッサに搬送することに関与し得る。
【0159】
コンピュータシステム1401は、例えば、アルゴリズムに関する、データの入力もしくは出力、または視覚出力を提供するためのユーザインターフェース(UI)1440を備えた電子ディスプレイ1435を備えるか、またはそれと通信することができる。UIの例には、グラフィカルユーザインターフェース(GUI)やウェブベースのユーザインターフェースが挙げられるが、これらに限定されない。
【0160】
本開示の方法およびシステムは、1つ以上のアルゴリズムによって実装することができる。アルゴリズムは、中央処理装置1405による実行時に、ソフトウェアによって実装することができる。アルゴリズムは、例えば、本開示の方法の分析または動作を行うことができる。
【実施例】
【0161】
以下の非制限的な例は、本明細書に記載される主題の様々な実施形態を示すように意図される。
【0162】
実施例1-潰瘍性大腸炎の全身バイオインフォマティクスおよびネットワークベース分析
抗TNF治療を経た8つの潰瘍性大腸炎(UC)患者コホートの遺伝子発現データをダウンロードし、2つの別個のバッチ(試験1および試験2はそれぞれ、表2および表3に記載される)で試験した。
【0163】
【0164】
【0165】
ベースラインおよび処置後における処置に対するレスポンダーおよび非レスポンダーの遺伝子発現プロファイルを、互いにおよび健康な対照と比較した(
図3A)。分析は、処置に対するレスポンダー(処置後)の分子シグネチャーが健康な対照に類似することを示す。
【0166】
特定の疾患部分母集団の分子差は軽微である。UCレスポンダーおよび非レスポンダーのベースライン発現プロファイルを比較することは、いかなる有意に分化された遺伝子も明らかにしない。代わりに、患者部分母集団の分子差は、健康な対照と比較してより有意である。
【0167】
非レスポンダーの遺伝子発現を、非レスポンダーのベースライン発現プロファイルを健康な対照と比較することによって得た。その逆(例えば、レスポンダーのベースライン発現プロファイルを健康な対照と比較する)も行った。両試験は、レスポンダーバイオマーカーセットが非レスポンダーのバイオマーカーセット内にほぼ完全に含有され、非レスポンダーバイオマーカーセットがレスポンダーバイオマーカーセットより概して2倍大きいことを示し、非レスポンダーについてより重篤な疾患状態を潜在的に示唆した(
図3Bおよび
図3C)。
【0168】
標的発見パイプライン
図1は、対象部分母集団標的発見パイプラインの例示的なワークフローを示す。提示されるパイプラインは、応答モジュール発見、処置モジュール発見、および本明細書に記載される新規標的優先順位付けの3つのアームを備える。
【0169】
例えば、いくつかの実施形態では、応答モジュール発見において、特定の患者部分母集団に関連するバイオマーカーは、健康な対照と比較されて同定される。分子寛解を達成するために、例えば、患者のトランスクリプトミクスを健康な対照に類似させるために、所望の下流効果が同定され、応答モジュール遺伝子が逆転される。
【0170】
処置モジュール発見において、例えば、いくつかの実施形態では、応答モジュール遺伝子の発現プロファイルを逆転させることが実験的に示される既存の標的が同定される。したがって、同定された処置モジュールは、その摂動が所望の下流効果を有し、患者を分子寛解に到達させる有望な標的を含む。
【0171】
新規標的を同定するために、拡散状態距離(DSD)のネットワークベース下流類似性(影響類似性)測定を使用した。新規標的は、同定された処置モジュールに対するそれらの下流類似性(特異性)およびその有意性(選択性)に基づいて同定された。適応症に承認された異なる薬物のタンパク質標的は、互いに非常に有意な影響類似性を有する傾向があることが見出された。
【0172】
応答モジュール発見
【0173】
対象を、教師ありおよび教師なしクラスタリングアルゴリズムの両方を使用して層別化した。対象部分母集団バイオマーカーを同定するために、異なる患者部分母集団のベースライン発現プロファイルを健康な対照と比較した。次いで、これらのバイオマーカーを、ヒトインタラクトームのマップ上にマッピングした。同定されたバイオマーカーは、ネットワーク上で有意なクラスターを形成し、例えば、ノードは散在せず、代わりに、互いに有意に相互作用し、部分母集団に特異的なバイオマーカー(応答モジュール)からなるサブネットワークを形成することが見出された。処置に応答した患者の処置後の発現プロファイルは健康な対照に類似しており、したがって、処置に対する応答は、応答モジュール遺伝子を戻して健康な対照に類似させることに翻訳され得ることも発見された。
【0174】
処置モジュール発見
【0175】
処置モジュールは、応答モジュールで同定されたバイオマーカー遺伝子の発現を戻すことが実験的に示される遺伝子標的のセットである。処置モジュール発見パイプラインは、入力として、
a.生物学的ネットワーク(例えば、ヒトインタラクトームマップ)、
b.対象の細胞株の様々な化合物処置に対する応答における遺伝子の差次的発現のデータであって、同じ細胞株におけるベースライン対照に対するそれらの差次的発現のレベルを特徴付けるZスコアを割り当てた遺伝子を有し、本実施例では、HT29細胞株におけるオープンソースLINCS L1000摂動因子データ、化合物摂動因子を使用した、データ、および
c.化合物とそれらの標的遺伝子との間のマッピング
のうちの1つ以上を備える。
【0176】
以下の例示的な動作を使用して、処置モジュールを開発した:
d.LINCS L1000 10,174 Best Inferred Geneの一部ではないアップ/ダウンクエリから遺伝子を濾別すること、
e.対象の細胞株において行われた実験に対応するLINCS L1000データのシグネチャーを選択すること、
f.加重接続性スコア(Weighted Connectivity Score)(WTCS)によるシグネチャーのランク付け、
g.アップバイオマーカーおよびダウンバイオマーカーの有意な濃縮スコアを有するシグネチャーを抽出すること、
h.アップ/ダウンバイオマーカーに対する低い関連性を有するシグネチャーを濾別すること、
j.薬物->標的マッピングから薬物標的のリストを抽出すること、および
j.ヒトインタラクトーム上の処理モジュールマッピング。
【0177】
新規標的同定のネットワークベース測定
【0178】
拡散状態距離(DSD)は、グラフ分布特性に基づくメトリックであり、生物学的ネットワークにおける機能的アノテーション(例えば、タンパク質間相互作用ネットワーク、またはヒトインタラクトームネットワーク)の伝達のために近接するより細かい区別を捕捉するように設計される。グラフの頂点上でのランダムウォークを使用して、初期状態がuであり、初期状態がvであるときの(所与のタイムホライズン内の)すべての状態に対する予想訪問数を比較することによって、2つの状態uおよびvの近接性を評価した。小さいDSDを有する2つのノードは、高い下流影響類似性を有する。
【0179】
処置モジュールの摂動は、応答モジュール遺伝子における所望の下流効果をもたらし、対象を処置する。この概念を証明するためにTNFを試験した。TNFは、UC患者に承認された標的である。処置モジュールを検証するために、TNFに対するネットワークベース下流影響類似性を評価した。第1に、TNFと処置モジュールとの間の影響類似性を、処置モジュールがネットワークから1000回無作為に選択された場合のランダム予想と比較した。TNFと処置モジュールとの間の類似性は、TNFと処置モジュール内のすべての単一のノードとの間の平均DSD値を算出することによって決定される。無作為化処置モジュールとTNFとの間の類似性は、TNFと比較した無作為化処置モジュール間の平均DSD値を算出することによって決定される。
【0180】
無作為化処置モジュールは、処置モジュール標的と同程度の標的を無作為に選ぶことによって選択された。この無作為化を1000回反復して繰り返し、これにより、無作為化処置モジュールとTNFとの間の類似性を定量化する1000個の類似性値の分布を得た。ネットワーク類似性分析は、TNFが、無作為に選択された処置モジュールよりも実験的に得られた処置モジュールに対して有意により近いネットワーク類似性を有すること(
図2A)を示す。特異性は影響類似性として定義され、選択性はzスコアとして定義される。TNF以外の他のUC承認標的についても同様の所見が観察された。例えば、UC承認標的の大多数は、同定された処置モジュールに対して高い特異性ならびに高い選択性を有する(
図2B)。
【0181】
実施例2-潰瘍性大腸炎における新規薬物標的を同定するための検証されたシステムベースマルチオミックデータ分析プラットフォーム
【0182】
腫瘍壊死因子-α阻害剤(TNFi)は、20年近くにわたって潰瘍性大腸炎(UC)の標準的な処置である。しかし、すべての患者がTNFi治療に応答するわけではなく、代替的なUC処置の開発が求められる。UC処置のタンパク質標的の優先順位付けのためのマルチオミックネットワーク生物学的方法が本明細書に開示される。開示される方法は、UC化傾向に寄与する遺伝子(遺伝子型モジュール)、低疾患活性を達成するためにその発現が変化させられ得る遺伝子(応答モジュール)、およびその摂動が好都合な方向に応答モジュール遺伝子の発現を変化させ得るタンパク質(処置モジュール)を含むヒトインタラクトーム上のネットワークモジュールを同定し得る。標的は、遺伝子型モジュールに対するそれらのトポロジー的関連性および処置モジュールに対する機能的類似性に基づいて優先順位付けされ得る。例えば、UCにおいて本明細書に記載される方法は、UC処置のための既存の薬物および開発中の薬物と関連するタンパク質標的を効率的に回収し得る。UCおよび他の複雑な疾患における新規のリパーパシングにおける治療機会を見出すための手段が可能となり得る。
【0183】
序論
潰瘍性大腸炎(UC)は、慢性腸炎症を特徴とする複合疾患であり、遺伝的に罹患しやすい患者における腸内微生物叢(intestinal microbiota)に対する異常な免疫応答によって引き起こされると考えられている(例えば、あらゆる目的のために参照によって本明細書に援用される、C.Abraham et al.,“Inflammatory Bowel Disease,”New England Journal of Medicine 361,2066(2009)を参照)。UCの処置は、アミノサリチレートおよびステロイドを含み得、低疾患活性が達成されない場合、腫瘍壊死因子α阻害剤(TNFi)などの生物学的製剤が推奨され得る(例えば、あらゆる目的のために参照によって本明細書に援用される、S.C.Park et al.,“Current and emerging biologics for ulcerative colitis,”Gut and liver 9,18(2015);K.Hazel et al.,Emerging treatments for inflammatory bowel disease,“Therapeutic advances in chronic disease.”11,2040622319899297(2020)を参照)。それにもかかわらず、約40%の患者がTNFi処置に応答しない可能性があり、10%までの初期レスポンダーが毎年TNFi処置に対する応答を失う可能性がある(例えば、あらゆる目的のために参照によって本明細書に援用される、S.C.Park et al.;P.Rutgeerts et al.,“Infliximab for induction and maintenance therapy for ulcerative colitis,”New England Journal of Medicine 353,2462(2005)を参照)。金銭的なインセンティブとともに、TNFi治療に関する困難は、代替的な治療手法、例えば、JAK阻害剤、IL-12/IL-23阻害剤、SIP受容体モジュレーター、抗インテグリン剤、または新規のTNFi化合物の研究および開発につながった(例えば、あらゆる目的のために参照によって本明細書に援用される、E.Troncone et al.,“Novel therapeutic options for people with ulcerative colitis:an update on recent developments with Janus kinase(JAK)inhibitors,”Clinical and Experimental Gastroenterology 13,131(2020);A.Kashani et al.,“The Expanding Role of Anti-IL-12 and/or Anti-IL-23 Antibodies in the Treatment of Inflammatory Bowel Disease,”Gastroenterology & Hepatology 15,255(2019);S.Danese et al.,“Targeting S1P in inflammatory bowel disease:new avenues for modulating intestinal leukocyte migration,”Journal of Crohn’s and Colitis 12,S678(2018);S.C.Park et al.,“Anti-integrin therapy for inflammatory bowel disease,”World journal of gastroenterology 24,1868(2018);K.Hazel et al.を参照)。いくつかの手法は、異常な免疫応答に寄与する生物学的機構を標的とし、UC病因(pathogenesis)についての詳細な知識を必要とし得る。しかし、注射による薬物送達の免疫原性および不便さに関する懸念により、さらなる経口投与される小分子薬物の開発への関心が高まっている。
【0184】
新規薬物の開発は、その調節が低疾患活性または寛解につながり得る分子標的の同定を必要とし得る。マルチオミックデータの急増に伴い、機械学習(ML)および人工知能(AI)は、標的優先順位付け、薬物設計、薬物標的相互作用予測、または小分子最適化などの治療における多くのタスクのために広く使用されるようになった(例えば、あらゆる目的のために参照によって本明細書に援用される、J.Vamathevan et al.,“Applications of machine learning in drug discovery and development”,Nature reviews Drug discovery 18,463(2019)を参照)。標的優先順位付けのための現在のML/AI手法は、所与の疾患に関与する遺伝子の検索に焦点を当て得る。遺伝子は、例えば、疾患特異的遺伝子発現および突然変異データから構築された特徴を、関連するタンパク質間、代謝、もしくは転写相互作用に関する情報と共に使用して分類器を訓練することによって、または自然言語処理(NLP)法を使用して疾患-遺伝子関連性について既存のテキストデータベースもしくは研究文献を分析することによって推論され得る(例えば、あらゆる目的のために参照によって本明細書に援用される、P.R.Costa et al.,in BMC Genomics,Vol.11(Springer,2010)pp.1-15;J.Jeon et al.,“A systematic approach to identify novel cancer drug targets using machine learning,inhibitor design and high-throughput screening,”Genome medicine 6,1(2014);E.Ferrero et al.,“In silico prediction of novel therapeutic targets using gene-disease association data,”Journal of translational medicine 15,1(2017);P.Mamoshina et al.,“Machine learning on human muscle transcriptomic data for biomarker discovery and tissue-specific drug target identification,”Frontiers in genetics 9,242(2018);A.Bravo et al.,“Extraction of relations between genes and diseases from text and large-scale data analysis:implications for translational research,”BMC Bioinformatics 16,1(2015);J.Kim et al.,“An analysis of disease-gene relationship from Medline abstracts by DigSee,”Scientific Reports 7,1(2017)を参照)。
【0185】
しかし、多くのML/AI手法は、探索バイアスまたはデータ不完全性に悩まされ得る(例えば、あらゆる目的のために参照によって本明細書に援用される、T.Rolland et al.,“A proteome-scale map of the human interactome network,”Cell 159,1212(2014);J.Menche et al.,“Uncovering disease-disease relationships through the incomplete interactome,”Science 347,1257601(2015)を参照)。さらに、系統的な分析は、米国食品医薬品局(FDA)によって承認された薬物が、疾患関連遺伝子のタンパク質産物を直接標的としない可能性があることを実証した(例えば、あらゆる目的のために参照によって本明細書に援用される、M.A.Yildirim et al.,“Drug-target network,”Nature biotechnology 25,1119(2007);E.Guney et al.,“Network-based in silico drug efficacy screening,”Nature communications 7,1(2016)を参照)。ネットワークベース標的優先順位付け方法は、プロテオミクス相互作用、メタボロミクス相互作用、およびトランスクリプトーム相互作用、ならびに薬物、疾患、および遺伝子の間の関連性をネットワークの形態で集約することによって、ならびに不偏かつ教師なしの様式で実現可能な標的を区別するネットワークベース特徴を導出することによって、これらの問題に対処し得る(例えば、あらゆる目的のために参照によって本明細書に援用される、S.Zhao et al.,“Network-based relating pharmacological and genomic spaces for drug target identification,”PloS one 5,e11764 (2010);Z.Isik et al.,“Drug target prioritization by perturbed gene expression and network information,”Scientific reports 5,1(2015);T.Katsila et al.,“Computational approaches in target identification and drug discovery,”Computational and structural biotechnology journal 14,177(2016);E.Guney et al.を参照)。それにもかかわらず、新規の可能な標的を同定する方法として、疾患形成と処置の成功との間の関係を同時に捕捉するネットワークベースフレームワークはまだ存在しない。
【0186】
少なくともこれらの問題に対処するために、ヒト細胞におけるタンパク質間相互作用のネットワーク-モジュールトライアッドと称される、ヒトインタラクトーム(HI)の3つのネットワーク領域(モジュール)を利用するUCの標的優先順位付けのためのネットワークベース方法であって、
1.遺伝子型モジュール-UCの遺伝的素因に関連する遺伝子のセットと、
2.応答モジュール-低疾患活性を達成するために発現を変化させる必要がある遺伝子のセットと、
3.処置モジュール-低疾患活性を達成するために好ましい方向に応答モジュール遺伝子の発現を変化させるために標的化される必要があるタンパク質のセットと
を含む、ネットワークベース方法が本明細書に開示される。
【0187】
実現可能な標的は、同時に(a)遺伝子型モジュールにトポロジー的に関連し得、例えば、特定の疾患に関連する遺伝子のネットワーク近傍にあり得、および(b)処置モジュールに機能的に類似し得、例えば、それらの摂動時に処置モジュールタンパク質のものと同様のトランスクリプトーム下流効果を有し得る(例えば、E.Guney et al.を参照)。本明細書に開示される方法は、UCに承認された既知の標的を効率的に回復し、ネットワーク由来のランキングに基づいて、UCについて異なる発症段階にある標的を区別することによって、例としてUCを使用して、提案されるフレームワークの有用性を実証し得る。モジュールトライアッドフレームワークは、複雑な疾患の発症の根底にある生物学的メカニズムと、その処置ダイナミクスとをネットワークの観点から結び付ける最初の試みであり得る。モジュールトライアッドフレームワークは、既知の遺伝子-疾患関連性、処置前後の患者の利用可能な遺伝子発現データ、および適切な細胞株における摂動実験を有する他の複雑な疾患に直接拡張可能であり得る。
【0188】
モジュールトライアッド標的優先順位付けフレームワークの概要
モジュールトライアッドフレームワークは、
図7に図示される、(1)所与の疾患に対するモジュールトライアッドの発見、(2)同定されたモジュールトライアッドに基づく新規標的発見を含む。
【0189】
モジュールトライアッドの発見のために、各モジュールは、補助疾患固有情報を使用してHIにマッピングされ得る。遺伝子型モジュールは、遺伝子-疾患関連データベースを分析して、その突然変異が疾患表現型の形成を予め決定し得る遺伝子の位置を特定することによって構築され得る。応答モジュールは、低疾患活性を達成した患者における処置後に有意にダウンレギュレーションまたはアップレギュレーションされ得る遺伝子を含む。処置モジュールの構築は、(1)処置後に応答モジュール遺伝子について観察されたものと同様の遺伝子発現プロファイルをもたらす小分子化合物を同定するために、統合ネットワークベース細胞シグネチャーライブラリー(LINCS)L1000摂動データベースを使用すること、(2)これらの化合物によって標的とされるタンパク質のセットを抽出するために、DrugBankおよびRepurposing Hubデータベースを使用することを含み、これらのタンパク質は、HIにマッピングされ、処置モジュールをもたらす(例えば、あらゆる目的のために参照によって本明細書に援用される、A.Subramanian et al.,“A next generation connectivity map:L1000 platform and the first 1,000,000 profiles,”Cell 171,1437(2017);C.Knox et al.,“DrugBank 3.0:a comprehensive resource for ‘omics’ research on drugs,”Nucleic acids research 39,D1035(2010);S.M.Corsello et al.,“The Drug Repurposing Hub:a next-generation drug library and information resource,”Nature medicine 23,405(2017)を参照)。
【0190】
HIの少なくともいくつかのタンパク質(ノード)は、構築された遺伝子型および処置モジュールに少なくとも部分的に基づいてランク付けされる。各ノードについて、そのノードから遺伝子型モジュールノードまでの平均最短距離に基づいて算出されるその近接性に基づいて、遺伝子型モジュールに対するそのトポロジー的関連性が評価される(例えば、E.Guney et al.を参照)。処置モジュールに対するノードの機能的類似性は、処置モジュールノードに対するノードの平均拡散状態距離(DSD)に基づいて算出される選択性を使用して評価される(例えば、あらゆる目的のために参照によって本明細書に援用される、M.Cao et al.,“Going the distance for protein function prediction:a new distance metric for protein interaction networks,”PloS one 8,e76339(2013)を参照)。近接性および選択性の算出に関する詳細については、
図7および方法(本明細書の他の箇所に記載)を参照されたい。HIノードは、それらの近接性および選択性スコアに基づいてランク付けされ得、これらの2つのランク付けは、ランクプロダクトを使用して単一の組み合わされたランクにマージされ得る(例えば、あらゆる目的のために参照によって本明細書に援用される、R.Breitling et al.,“Rank products:a simple,yet powerful,new method to detect differentially regulated genes in replicated microarray experiments,”FEBS letters 573,83(2004)を参照)。
【0191】
UC遺伝子型モジュール
疾患に関連する遺伝子のタンパク質産物は、HI上に無作為に散在するのではなく、疾患形成の背後にある根幹的な生物学的機構の存在を反映する相互接続されたノードのクラスターを形成し得る(例えば、あらゆる目的のために参照によって本明細書に援用される、J.Xu et al.,Discovering disease-genes by topological features in human protein-protein interaction network,”Bioinformatics 22,2800(2006);K.-I.Goh et al.,“The human disease network,”Proceedings of the National Academy of Sciences 104,8685(2007);T.Ideker et al.,“Protein networks in disease,”Genome research 18,644(2008);A.-L.Barabasi et al.,“Network medicine:a network-based approach to human disease,”Nature reviews genetics 12,56(2011)を参照)。これらの相互接続されたクラスターのネットワーク特性を研究することは、疾患分子機構、標的発見、および薬物のリパーパシングの理解を進めてきた(例えば、あらゆる目的のために参照によって本明細書に援用される、J.Menche et al.;A.Sharma et al.,“A disease module in the interactome explains disease heterogeneity,drug response and captures novel pathways and genes in asthma,”Human molecular genetics 24,3005(2015);E.Guney et al.;F.Cheng et al.,“Network-based approach to prediction and population-based validation of in silico drug repurposing,”Nature communications 9,1(2018)を参照)。
【0192】
モジュールトライアッドフレームワークにおけるUC遺伝子関連の概念を含めるために、GWASカタログ、ClinVar、またはMalaCardsデータベースを使用して、UCとの関連性を有すると報告された遺伝子を抽出することができる(本明細書の他の箇所に記載される方法を参照)(例えば、あらゆる目的のために参照によって本明細書に援用される、A.Buniello et al.,“The NHGRI-EBI GWAS Catalog of published genome-wide association studies,targeted arrays and summary statistics 2019,”Nucleic acids research 47,D1005(2019);M.J.Landrum et al.,“ClinVar:improving access to variant interpretations and supporting evidence,”Nucleic acids research 46,D1062(2018);N.Rappaport et al.,“MalaCards: an integrated compendium for diseases and their annotation,”Database 2013(2013)を参照)。合計194個の遺伝子が、UCに関連するものとして3つのデータベースの少なくとも1つに報告され、そのうちの174(89.7%)は、HIにおけるそれらの対応するタンパク質産物にマッピングされる。タンパク質産物は、ネットワーク上に無作為に散在しておらず、64.9%(113/174)のタンパク質が相互連結され、無作為(例えば、Zスコア=4.82、p<10-4)に予想されるよりも有意に大きい最大連結成分(LCC)を形成する。本明細書に記載の方法は、このLCCを、UCに対する遺伝的素因を表す遺伝子型モジュールと定義する。実現可能な標的は、遺伝子型モジュールのトポロジー的近傍に位置し得る(例えば、E.Guney et al.を参照)。
【0193】
好結果のUC処置はトランスクリプトームレベルで反映される
UCに対する素因をもたらす遺伝子にトポロジー的に近いことに加えて、実現可能な標的はまた、UCの処置に機能的に関連し得る。例えば、UC処置ダイナミクスはトランスクリプトームレベルで反映され得、実現可能な標的を乱すことは、好結果のUC処置時に観察される転写変化と同様の転写変化をもたらし得る。
【0194】
UC処置は、いくつかの試験から、正常組織対照およびインフリキシマブまたはゴリムマブのいずれかのTNFi薬物による処置を受けている活動性UCを有する患者の遺伝子発現データにおいてトランスクリプトームレベルで反映され得る。(例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、I.Arijs et al.,“Mucosal gene expression of antimicrobial peptides in inflammatory bowel disease before and after first infliximab treatment,”PloS one 4,e7984(2009)、G.Toedter et al.,“Gene expression profiling and response signatures associated with differential responses to infliximab treatment in ulcerative colitis,”Official journal of the American College of Gastroenterology-ACG 106,1272(2011)、S.Pavlidis et al.,“I MDS:an inflammatory bowel disease molecular activity score to classify patients with differing disease-driving pathways and therapeutic response to anti-TNF treatment,”PLoS Computational Biology 15,e1006951(2019)、N.Planell et al,“Transcriptional analysis of the intestinal mucosa of patients with ulcerative colitis in remission reveals lasting epithelial cell alterations,”Gut 62,967(2013)、T.Montero-Melendez et al.,“Identification of novel predictor classifiers for inflammatory bowel disease by gene expression profiling,”PloS one 8,e76235(2013)、J.T.Bjerrum et al.,“Transcriptional analysis of left-sided colitis,pancolitis,and ulcerative colitis-associated dysplasia,”Inflammatory bowel diseases 20,2340(2014)、S.E.Telesco,et al.,“Gene expression signature for prediction of golimumab response in a phase 2a open-label trial of patients with ulcerative colitis,”Gastroenterology 155,1008(2018)を参照)。表4は、UC患者応答の分子シグネチャーを同定するために使用したTNFi処置試験を要約する。
【0195】
【0196】
活動性UCを有する患者と正常対照との間で差次的に発現される545個の遺伝子のセットを同定してもよい。これらの遺伝子は、処置前および処置後の正常対照およびUC患者の遺伝子発現プロファイルのユニフォームマニフォールド近似および投影(Uniform Manifold Approximation and Projection:UMAP)埋込みのための特徴として使用され、処置後に低い疾患活動性を達成した患者(レスポンダー)と、達成しなかった患者(非レスポンダー)との2つの群に分割され得る(
図8を参照)。(例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、L.McInnes et al.,“Umap:Uniform manifold approximation and projection for dimension reduction,”arXiv preprint arXiv:1802.03426 (2018)を参照)。
【0197】
UMAP埋込みから、インフリキシマブまたはゴリムマブに対するレスポンダーおよび非レスポンダーの処置前遺伝子発現プロファイルの間で明らかな差異が観察されない場合がある。さらに、差次的発現遺伝子が、レスポンダーおよび非レスポンダーの処置前遺伝子発現プロファイルの間で見出されない場合がある(本明細書の他の箇所に記載される、「TNFi治療に対するレスポンダーおよび非レスポンダーの差次的遺伝子発現の分析」を参照)。逆に、レスポンダーの処置後遺伝子発現プロファイルは正常対照のものと密接にクラスタリングされるが、インフリキシマブまたはゴリムマブに対する非レスポンダーの処置後プロファイルは正常対照のものとは別個にクラスタリングされ、これにより、正常対照のものと高い類似性を有する遺伝子発現プロファイルがUC処置の成功を反映し得ることが示される。これらの観察が動機となり、本発明者らは、UC処置に対する「分子応答」を、正常対照の遺伝子発現プロファイルに類似する処置時のUC患者の遺伝子発現プロファイルの逆転と定義する。
【0198】
UC応答モジュール
どのような転写変化によりレスポンダーの遺伝子発現プロファイルが正常対照のものとさらに類似するようになり得るかをさらに理解するために、レスポンダーの処置前および処置後の遺伝子発現プロファイルの差次的発現の分析を行った。正常対照に関して、処置前にレスポンダーにおいて調節不全にされた遺伝子の小部分は、処置後の発現の有意な変化を示す(本明細書の他の箇所に記載される「TNFi治療に対するレスポンダーおよび非レスポンダーの差次的遺伝子発現の分析」を参照)。これらの遺伝子の発現は処置時にレスポンダーにおいて逆転され得、例えば、正常対照に関して、処置前にレスポンダーにおいてダウンレギュレートされた遺伝子は処置後にアップレギュレートされ得、逆もまた同様である。しかし、これらの転写変化は、
図8に示されるプロファイル埋込みに基づいてレスポンダーおよび正常対照の遺伝子発現プロファイルを類似させるのに十分であり得、処置後に低い疾患活動性を達成した患者を示す。UC処置に対する分子応答を示すこの遺伝子セットは、RBA(レスポンダー前後(responder before-after))セットと呼ばれ得る。UCのTNFi処置に特異的なRBAセットは、インフリキシマブおよびゴリムマブを用いた試験から判定されたRBA遺伝子の和集合をとることによって構築され得る。(本明細書の他の箇所に記載される方法を参照)。
【0199】
RBAセットに属する遺伝子は、その適切な機能がTNF-αの阻害によって回復され得る1つ以上の生物学的経路を介して互いに関連し、したがって互いに近接して位置し得る。これを試験するために、TNFi RBA遺伝子をHI上にマッピングして、RBA遺伝子に対応するノードで構成されるサブネットワーク構築してもよい。RBAセットは、保存された次数配列(Zスコア=9.24、p<10-4)を有する無作為に選択されたノードのセットと比較して、HI上に有意なLCC(271個のノードのうち91個、34%)HI上で形成する。RBA LCCにおけるこの洗練された遺伝子におけるセットは、応答モジュール、例えば、UC患者が治療的介入に応答して低い疾患活動性を達成するときに転写により改変されたHIの領域として定義される。
【0200】
UC処置モジュール
UCの処置に成功するには、TNFi治療を受けているUC患者の遺伝子発現プロファイルを試験することによって、応答モジュールノードの発現プロファイルを戻すことが必要であり得る。TNF-αの阻害は、応答モジュール遺伝子において所定のトランスクリプトーム効果を達成する唯一の方法ではない場合があり、他のタンパク質の摂動によって、同様の下流効果が達成される場合がある。
【0201】
実験により検証される代替的な摂動を分析して、TNFi治療の成功時に観察されるものと同様の分子応答が得られる場合がある。差次的遺伝子発現効果(シグネチャー)は、LINCS L1000データベースから得られた小分子化合物によるヒト細胞株の摂動から生じ得る(例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、A.Subramanian et al.,“A next generation connectivity map:L1000 platform and the first 1,000,000 profiles,”Cell 171,1437(2017)を参照)。摂動シグネチャーは、HT29細胞株(例えば、ヒト大腸腺癌細胞株)に対する14,513例の化合物実験における遺伝子発現の変化の規模および方向を示す遺伝子ごとのZスコアを含む、LINCS L1000レベル5のデータから導出され得る。UCに罹患した組織(結腸)に関連し、かつ小分子化合物の適用範囲が比較的広いことから、HT29細胞株に対する摂動実験が考慮され得る。
【0202】
応答モジュール遺伝子の発現を逆転させる化合物および対応する標的タンパク質を見出すために、LINCS L1000実験は、各HT29細胞株に対する実験における遺伝子的摂動Zスコアを使用して、応答モジュールにおけるアップレギュレートおよびダウンレギュレートされた遺伝子に関する重み付き接続性スコア(WTCS)を計算することによって評価され得る(例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、A.Subramanian et al.,“A next generation connectivity map:L1000 platform and the first 1,000,000 profiles,”Cell 171,1437(2017)を参照)。所与の実験におけるWTCSの統計的有意性を評価するために、アップレギュレートされた遺伝子およびダウンレギュレートされた遺伝子のエンリッチメントスコアに関連するp値の対、pupおよびpdownを割り当てるランダム化手順を使用することができる(本明細書の他の箇所に記載される方法を参照)。pup≧0.05およびpdown≧0.05、ならびにWTCS≧0の化合物実験は除外される。このフィルタリングは、応答モジュール遺伝子の発現を戻すという点で、正の有意な治療効果を有する化合物に対する考慮を確実とする。HT29細胞株に対して実施した14,513例の化合物実験のうち68例の実験は、統計的に有意なWTCSを呈し、-0.642~-0.480の範囲である。DrugBank(商標)およびRepurposing Hub(商標)データベースに従って、これら68例の実験で評価した25個の固有の化合物のうち少なくとも1つに対する標的として69個のタンパク質が明らかとなる。2個のタンパク質はHI(例えば、それらは既知のタンパク質相互作用パートナーを有していない)にマッピングされなくてもよく、残り67個のタンパク質のうちの43個(64%)は、有意なサイズ(Zスコア=3.39、p<10-4)のLCCを形成する。このLCCは処置モジュールと呼ばれる。
【0203】
処置モジュールに属する標的の1つはTNF-αである。さらに、構築により、処置モジュールに属する標的タンパク質は、TNFi治療の成功時に観察されるものと同様の転写変化を応答モジュール内でもたらし得る。したがって、処置モジュールに属するタンパク質は、UC患者を処置するための介入機会を提供し得る。
【0204】
標的のランク付け
処置モジュールノードから直接示唆される潜在的な介入機会に加えて、遺伝子型および処置モジュールは、HI内の全てのノードを、それらがUC処置の標的となる可能性について教師なしで優先順位付けするために使用することができる。実現可能な標的は、以下のネットワーク特性を同時に満たすことができる。実現可能な標的は、UC(遺伝子型モジュール)に対する遺伝的素因に関連するHIノードにトポロジー的に近接し得る。疾患モジュールに対するノードのネットワーク近接性に基づく標的の優先順位付けは、複数の疾患にわたる既知の標的を有する薬物の治療効果を予測する(例えば、E.Guney et al.を参照)。したがって、UC遺伝子型モジュールに対する所与のHIノードのトポロジー的関連性を定量化するために、遺伝子型モジュールに対するその近接性は、遺伝子型モジュールに対するノードの平均ネットワーク最短経路に基づいて算出され得る(本明細書の他の箇所に記載される方法を参照)。
【0205】
また、適した標的の標的化は、UC処置の成功時に観察されるものと同様の転写変化を引き起こし得る。処置モジュールは、摂動時に、応答モジュール遺伝子の望ましい転写変化をもたらし得るノードからなるネットワーク領域を定義する。したがって、処置モジュールタンパク質と機能的に類似するタンパク質も有望な標的であり得る。しかし、そのような標的を見出すために、方法論は、網目構造に基づいたHIノードの下流転写効果の類似性を定量化し得る。このために、拡散状態距離(DSD)、すなわち、ネットワーク内のノードの各対間の伝搬ベースのトポロジー的類似性を捕捉するように設計されたネットワークランダムウォークに基づくメトリックが、その優れた性能のためにタンパク質機能的注釈を予測する際に使用され得る。(例えば、M.Cao et al.を参照)。
【0206】
DSDが、異なるタンパク質間の下流転写効果の類似性を反映するかどうかを評価するために、4つの複雑な疾患に対して承認された薬物の回復が、HIノード間のDSDに基づいて分析され得る(例えば、アルツハイマー病、潰瘍性大腸炎、関節リウマチ、および多発性硬化症)(本明細書の他の箇所に記載される方法を参照)。承認された薬物それぞれの標的は、所与の疾患を処置する同様の治療効果をもたらし得る。したがって、承認された標的を効率的に回復することは、1つの薬物標的および他のHIノードへのそのDSDを知ることによって可能となり得る。そのような標的回復は、承認された標的および複雑な疾患ごとに別々に実施され、
図9に示されるような受信者動作特性(ROC)曲線を導出してもよい。承認された薬物標的からHIの残りのノードまでのDSDを知ることは、複雑な疾患それぞれにおける既知の承認された標的の残りを回復するのに十分であり得る。
【0207】
さらに、処置モジュールに対して低いDSDを有するノードは、HIにおいて等しい大きさの他の無作為に選択されたモジュールに等しく近くてもよい。これを説明するために、HIノードと処置モジュールとの間の機能的類似性は、選択性、例えば、ノードと所与のネットワークモジュールとの間のDSDの統計的有意性を考慮するDSDに基づくネットワークベースの尺度を使用して定量化され得る(本明細書の他の箇所に記載される方法を参照)。
【0208】
最後に、すべてのHIノードは、遺伝子型モジュールに対するそれらの近接性および処置モジュールに対する選択性に基づいてランク付けされてもよく、ランクプロダクトは、ノードの最終的な組合せランク付けを判定するために使用され得る(本明細書の他の箇所に記載される方法を参照)(例えば、R.Breitling et al.を参照)。
【0209】
モジュールトライアッド標的優先順位付けのインシリコ検証
提案された標的ランク付けが有意義な結果をもたらすかどうかを試験するために、UC処置について承認された薬物標的をPharmalntelligence(商標)Citelineデータベースから得た(本明細書の他の箇所に記載される方法を参照)。得られたリストは、HI上にマッピングされた23個の標的を含む。承認された標的は、
図10、パネル(a)に示されるように、残りのHIノードと比較して、同時に、遺伝子型モジュールに非常に近接し、かつ処置モジュールに選択的である。
図10、パネル(b)に示されるように、近接性および選択性の両方は、既知の承認された標的を単独で効率的に回復するが、両方の組合せは、より良好に機能し、標的優先順位付けのためのこれらのネットワーク尺度の相乗効果を示唆する。標的優先順位付けのための提案されたネットワーク尺度に加えて、ネットワークおよび遺伝子発現データの組合せに基づく別の尺度である、既知の薬物標的を回復する際に高い性能を示したローカルラディアリティがチェックされ得る。(例えば、Z.Isik et al.を参照)。ローカルラディアリティは、標的を優先順位付けするためにトポロジーデータおよび遺伝子発現データの両方を使用するという点で、本明細書に記載されるモジュールトライアッド優先順位付け方法と類似している。主な違いは、ローカルラディアリティが、標的の摂動によって影響を受けるHIノード(下流ノード)が標的のネットワーク近傍にあり得ると仮定していることである。本明細書で説明される方法を使用して、標的は、所定の下流効果を反映する応答モジュールノードに対するそれらのローカルラディアリティに基づいて優先順位付けされることができる(本明細書の他の箇所に記載される方法を参照)。ローカルラディアリティはまた、本明細書で説明されるモジュールトライアッド優先順位付け方法よりも効率的ではないにもかかわらず、承認されたUC標的を効率的に回復し得る。すべての試験された方法についての承認されたUC標的回復に対応する感度が表5に報告されており、これは、選択性、近接性、組み合わさった近接性および選択性、ならびに応答モジュールに対するローカルラディアリティによってランク付けされた上位K個のタンパク質中のUC処置のための回復された承認された標的の画分を示す。
【0210】
【0211】
最後に、UC処置として検討されている薬物(例えば、臨床および前臨床試験において試験されている)は、UC用に既に開始されている標的と比較したとき、近接性および選択性に基づいてより低い組合せランク付けを有するノードを標的とし得る。これは、開始された標的は、UC患者における疾患活動性を改善するそれらの能力について臨床段階を通して既に評価されているが、まだ開始されていない標的は、UCの処置に必ずしも有効ではない可能性があるためである。組合せランクの分布は、臨床試験(第I相、II相、III相)または
図10、パネル(c)に示されるような前臨床試験において開始される薬物の標的について比較され得る。開始された薬物に対応する標的の組合せランク付けの中央値はより高く、臨床試験におけるものが続き、前臨床試験におけるものが続く。
【0212】
考察
例示的な疾患としてUCを使用する複雑な疾患のための新規治療としてタンパク質標的を優先順位付けするためのネットワークベースのフレームワークおよび方法が、本明細書に記載される。モジュールトライアッドフレームワークは、複雑な疾患形成および処置の背後にある機構が、遺伝的素因、転写変化、およびHI上の薬物のタンパク質標的の3つのネットワークモジュール間の相互作用によって捕捉され得ると仮定して、ネットワークレベルで疾患の形成および処置の成功の両方を捕捉する第1の試みである。本明細書に記載の方法において、疾患表現型の形成は、遺伝子型モジュールと呼ばれるHI領域に局在する遺伝子の集合における遺伝子変異によって予め決定される。遺伝子型モジュール内のこれらの遺伝子変化は、活動性UC患者における遺伝子発現変化に現れた。TNFi治療時に低い疾患活動性を達成した患者において発現レベルが有意に変化した遺伝子を追跡することによって、処置に対する陽性応答を達成するために転写的に改変され得る遺伝子の集合が導出され得る。これらの遺伝子は、応答モジュールと呼ばれるHIの局在領域を占有する。
【0213】
TNFi治療の成功時に達成されるのと同様の転写摂動プロファイルをもたらすタンパク質標的化を同定することができる。本明細書に記載される方法は、ヒト細胞を摂動させる小分子化合物の実験データを走査し、化合物の摂動後の応答プロファイルを、処置の成功時に達成されるプロファイルと照合することによって行われ得る。遺伝子発現の所定の下流変化を達成する化合物標的の集合はまた、HIにおける局在領域を占有し、処置モジュールと呼ばれる。所定のトランスクリプトーム下流効果に適合する同定された化合物は、表6(これは、処置モジュールに属するタンパク質標的にマッピングされた薬物およびそれらの既知の作用機序を示す)に示すように、異なるように見えるが、それらの標的は、HIの局在化領域に属し、UCの処置の背後にある共通の基礎をなす生物学を反映し、処置モジュールノードに機能的に類似している他のタンパク質標的が、UC処置のための有望な標的であることを示唆する。遺伝子型モジュールに対するそれらの近接性および処置モジュールに対する選択性に基づいてHIノードをランク付けすることによって、本明細書に開示される方法は、UC表現型の形成に関連する遺伝子にトポロジー的に同時に関連し、標的とされるときに所望の処置下流効果を有するタンパク質に機能的に類似するHIタンパク質を優先順位付けし得る。
【0214】
【0215】
遺伝子型モジュールに対する標的のトポロジー的関連性を定量化するために使用される近接性は、様々な薬物および疾患にわたる治療効果の偏りのない尺度を提供し、有効な処置を緩和処置と区別することを示した。(例えば、E.Guney et al.を参照)。その標的が疾患に関連する遺伝子に近接している薬物は、より離れた薬物よりも有効である可能性が高い(例えば、E.Guney et al.を参照)。本明細書に記載される方法では、HI内のノードの所与の対を摂動させることから生じる下流効果間の類似性を測定するためのプロキシとしてDSDを使用した。ノード対間のDSDは、これらのノードから始まるランダムウォーク間の類似性に基づく。ノードあたりのランダムウォークの訪問頻度は、癌に関連する遺伝子(例えば、単一ヌクレオチド変異および挿入/欠失変異)における基本変異から生じる摂動パターンを評価するために成功裏に使用された(例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、M.D.Leiserson et al.,“Pan-cancer network analysis identifies combinations of rare somatic mutations across pathways and protein complexes,”Nature genetics 47,106(2015)を参照)。所与のノードから始まるランダムウォークの訪問頻度は、このノードがネットワークの残りに課す摂動の量に対応し得、下流摂動効果は、所与のノードから始まるランダムウォークの訪問頻度のベクトルに反映される。DSDは、ランダムウォークの訪問頻度のベクトル間の距離を測定するので(本明細書の他の箇所で説明される方法を参照)、小さいDSDを有するノードのペアは、同様の下流摂動効果を有するノードに対応する。DSDは、実際に、DSDに基づいて、UCを含む4つの複雑な疾患について既知の承認された標的を回復することによって、異なる標的の治療効果間の類似性を反映する。
【0216】
本明細書に開示されるモジュールトライアッドフレームワークおよび方法は、TNFi治療時に低疾患活動性を達成した活動性UC患者の処置ダイナミクスについての知識を利用し得る。しかし、TNFi治療に対して十分な応答を示さない患者は、疾患集団の大部分を占め、潜在的に、その根底にある生物学において異なるUCサブタイプを患っている可能性があるか、または正常な細胞プロセスをより深刻に破壊する。(本明細書の他の箇所に記載される「TNFi治療に対するレスポンダーおよび非レスポンダーにおける差次的発現遺伝子の経路濃縮分析」を参照)(例えば、P.Rutgeertsを参照)。本明細書に記載される方法を使用して同定される新規標的は、TNFi非レスポンダーに好適な治療を見出すのに役立ち得るが、TNFi治療に対する不十分な応答の背後にある正確な生物学の試験が依然として必要とされ得る。
【0217】
患者のゲノムデータおよびトランスクリプトームデータを利用する本明細書に記載されるモジュールトライアッドフレームワークおよび方法は、複雑な疾患の形成および処置ダイナミクスに関する全体的なネットワークベースの見解を提供し得、新たな標的同定への偏りのないアプローチを提供し得る。本明細書に開示される方法は、利用可能な遺伝子-疾患関連データ、処置前後の患者のトランスクリプトームデータ、および適切な細胞株における摂動実験を有する任意の複雑な疾患に一般化することができる。標的優先順位付けに加えて、本明細書に開示される方法は、処置モジュールに属する標的に基づいて、再浄化機会を提案することができる。モジュールトライアッド法は、それらの標的に対する薬物のアゴニストまたはアンタゴニスト作用に関する情報を含む、単一遺伝子過剰発現およびノックダウンなどの利用可能な摂動実験を考慮することによって、またはそれらの毒性および薬物耐性を考慮して優先順位をつけた標的のリストをさらに洗練することによって増強することができる。
【0218】
方法
ヒトインタラクトーム。実験的に誘導されたタンパク質間相互作用のHIマップは、公開データベースから組み立てられる(例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、T.Mellors et al.,“Clinical validation of a blood-based predictive test for stratification of response to tumor necrosis factor inhibitor therapies in rheumatoid arthritis patients,”Network and Systems Medicine 3,91(2020)を参照)。本明細書で使用されるHIは、例えば、2021年3月時点のデータベースバージョンを使用して組み立てられる。
【0219】
UC遺伝子型モジュールの構築。UCに関連する遺伝子は、(1)GWASカタログ、(2)ClinVarデータベース、具体的には、「病原性」、「見かけ上病原性」、および病原性の「競合する解釈(conflicting interpretations)」として示される遺伝子、および、(3)MalaCardsデータベース(例えば、A.Buniello et al.、M.J.Landrum et al.、N.Rappaport et al.を参照)によって示されるように同定される。遺伝子は、例えば、2021年9月時点のデータベースから収集される。3つのデータベースの少なくとも1つにおいて言及される遺伝子はすべて保持されてもよく、HIネットワークの一部ではない遺伝子はフィルタリングされて除外されてもよい。残りの遺伝子を使用して、サブネットワークを構築し、その最大連結成分(LCC)を抽出することができる。
【0220】
LCCサイズの有意性は、元のサブネットワークにおけるような次数シーケンスを有するサブネットワークを無作為にサンプリングすることによって評価され得る。10,000個のサブネットワークを繰り返しサンプリングすることによって、無作為にサンプリングされたサブネットワークのLCCサイズの経験分布を、その平均μLCCおよび標準偏差σLCCとともに見出すことができる。本明細書に開示される方法は、LCC Zスコアを以下のように定義する:
【0221】
【数1】
ここで、S
LCCは元のサブネットワークのLCCサイズである。本明細書に開示される方法はまた、観察されたS
LCCの経験的p値を、S
LCCを超えるLCCサイズを有する無作為にサンプリングされたサブネットワークの割合として定義する。
【0222】
活動性UC症例および正常対照についての遺伝子発現データ処理。組織粘膜試料を、表4に示すように、Gene Expression Omnibus(GEO)より正常対照および中程度~重度の活動性UC患者から収集した(例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、T.Barrett et al.,“NCBI GEO:archive for functional genomics data sets-update,”Nucleic acids research 41,D991(2012)を参照)。3つの試験は、処置後の患者の応答状態を報告し、応答は、内視鏡的および組織学的所見またはMayoスコアによって決定される。応答定義、例えば、特定のUC患者の応答ラベルを有するコホートにわたるTNFi応答の定義に関する詳細については表7を参照されたい。本明細書に開示される方法は、例えば、GeneVesti gator(登録商標)データベースから各試験内の正規化データを得た(例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、T.Hruz et al.,“Genevestigator v3:a reference expression database for the meta-analysis of transcriptomes,”Advances in bioinformatics 2008(2008)を参照)。
【0223】
【0224】
本明細書に開示される方法は、6つのインフリキシマブ試験からの発現データを統合し得る。Com Batの統計的方法を用いて、異なる試験間のバッチ効果が補正される(例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、J.T.Leek et al.,“sva:Surrogate Variable Analysis R package version 3.10.0,”DOI 10,B9(2014)を参照)。いくつかの試験は、ベースライン試料および経過観察訪問時に収集された試料を含む。長期相関試料(longitudinal correlated samples)の分析によって導入される過小評価分散を回避するために、本明細書に開示される方法は、Com Batの統計的方法をベースライン試料に適用して、個々の試験のための補正係数を導出し、応答および健康状態を共変量として処置し得る。補正係数は、ベースラインおよびフォローアップ訪問試料に対して実施される。
【0225】
クラスタリングおよび差次的遺伝子発現の分析。遺伝子発現データの次元性を低減するために、本明細書に開示される方法は、正常対照とUC活動性試料との間で有意に差次的に発現される遺伝子特徴のサブセットを選択し得る。倍数変化(FC)がFC>2.5であり、調整されたp値がpadj.<0.05である(Benjamini-Hochberg補正)遺伝子を抽出することができる(例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、Y.Benjamini et al.,“Controlling the false discovery rate:a practical and powerful approach to multiple testing,”Journal of the Royal statistical society:series B(Methodological)57,289(1995)を参照)。クラスタリング分析のために、本明細書に開示される方法は、UMAPを使用して、同定された差次的発現遺伝子の遺伝子発現ベクターを8次元空間に埋め込むことができる(例えば、L.McInnes et al.を参照)。
【0226】
活動性UC患者の処置前および処置後の遺伝子発現プロファイルを比較すると、差次的発現遺伝子を同定するために、FC>1.8およびpadj.<0.05の閾値が使用され得る。負の対数倍数変化を有する差次的発現遺伝子は、有意にダウンレギュレートされると考えられるが、正の対数倍数変化を有する遺伝子は、有意にアップレギュレートされると考えられる。差次的発現遺伝子の対合分析に関するさらなる詳細については、本明細書の他の箇所に記載される「TNFi治療に対するレスポンダーおよび非レスポンダーの差次的遺伝子発現の解析」を参照されたい。
【0227】
UC応答モジュールの構築。TNFi治療に対する応答を示す遺伝子を同定するために、本明細書に開示される方法は、インフリキシマブおよびゴリムマブに対してレスポンダーにおいて有意に差次的に発現される遺伝子を抽出し、上記の処置前後のそれらの遺伝子発現プロファイルを比較し得る。2つのRBA遺伝子セットは、インフリキシマブおよびゴリムマブベースの試験(本明細書の他の箇所に記載される「TNFi治療に対するレスポンダーおよび非レスポンダーの異なる遺伝子発現の分析」を参照)から得てもよく、これらの2つのセットの和集合は、考えられる薬物特異的遺伝子発現変化を説明するために使用され得る。得られたマージされたRBA遺伝子セットおよびHIに基づくサブネットワークを構築することができる。得られたサブネットワークのLCCは、UC応答モジュールとして識別され得、遺伝子型モジュールと同様にそのサイズの有意性が評価され得る。
【0228】
LINCS L1000摂動プロファイルの分析。本明細書に開示される方法は、重み付け接続スコア(WTCS)を使用して、種々の化合物を使用したHT29細胞の摂動時の差次的遺伝子発現プロファイルと、アップレギュレートおよびダウンレギュレートされたサブセットに分割される応答モジュールに属する遺伝子との間の一致を評価し得る(例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、A.Subramanian et al.,”A next generation connectivity map:L1000 platform and the first 1,000,000 profiles,”Cell 171,1437(2017)を参照)。WTCSは、本明細書ではアップクエリおよびダウンクエリと称される、アップレギュレートされた遺伝子セットおよびダウンレギュレートされた遺伝子セットの所与の対を有する遺伝子のランク付けされたリストの濃縮スコアESを測定する(例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、A.Subramanian et al.,“Gene set enrichment analysis:a knowledge-based approach for interpreting genome-wide expression profiles,”Proceedings of the National Academy of Sciences 102,15545(2005)を参照)。WTCSは、アップクエリ(ESup)およびダウンクエリ(ESdown)のためのESを単一のスコアに組み合わせる。正のWTCSは、摂動が、応答モジュールクエリセットと整列する遺伝子発現変化をもたらしたことを示し、例えば、アップクエリ遺伝子はまた、所与の摂動において主にアップレギュレートされるが、ダウンクエリ遺伝子は、所与の摂動において主にダウンレギュレートされる。逆に、負のWTCSは、ダウンクエリ遺伝子が所与の実験においてアップレギュレートされるが、アップクエリ遺伝子はダウンレギュレートされることを示した。本発明者らは、応答モジュール遺伝子の発現パターンを戻すことに関心があるので、負のWTCSを用いた実験を探す。以下はこのスコアを計算し、その統計的有意性を評価するために使用される手順の簡単な概要である。
【0229】
LINCS L1000レベル5のデータは、対照に対する遺伝子の発現レベルの変化を示す遺伝子特異的Zスコアに関して差次的な遺伝子発現プロファイルを保存する。大きな正のZスコアは、遺伝子が摂動時に有意にアップレギュレートされることを示すが、大きな負のZスコアは、遺伝子が摂動時に有意にダウンレギュレートされることを示す。差次的発現パターンが高い忠実度で推論される遺伝子は、最良推測遺伝子(Best INferred Genes;BING)のセットに属し、WTCS計算に使用される(例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、A.Subramanian et al.,”A next generation connectivity map:L1000 platform and the first 1,000,000 profiles,”Cell 171,1437(2017)を参照)。応答モジュールにおいて観察される、BINGセットの一部でもあるアップレギュレートされた遺伝子およびダウンレギュレートされた遺伝子は、ここではそれぞれsupおよびSdownとして表す。各セットについて、本明細書に開示される方法は、濃縮スコア(ESupおよびESdown)を計算することができ、WTCSは、これらの2つのスコアの組合せである:
【0230】
【0231】
濃縮スコアの有意性を評価するために、BING遺伝子から、サイズ│sup│、│sup│の遺伝子セットを均一にサンプリングすることができる。サンプリング手順を1,000回繰り返すことによって、無作為サンプルからのアップおよびダウン濃縮スコアの経験分布pup(ES)、pdown(ES)を得ることができる。得られた分布は、観察されたESupおよびESdownと比較してもよく、観察されたESupが正の場合、より大きいか、または等しい濃縮スコアを有する無作為サンプルの画分が、p値pupとして選択され、また、それが負の場合、より小さいか、または等しい濃縮スコアを有する無作為サンプルの画分が、p値pupとして選択される。pdownは同様の方法で計算される。WTCS、pup、およびpdownは各摂動実験のために得られ、関連する摂動をフィルタリングするためにそれらを使用することができる。
【0232】
UC処置モジュールの構築。LINCS L1000データを使用して、本明細書に開示される方法は、応答モジュールノードおいて観察される発現パターンを元に戻すことができる化合物を同定し得る。関連する実験は、上記のWTCS<0およびpup<0.05、pdown<0.05のフィルタを使用して抽出することができる。濾過後に残った化合物のタンパク質標的を、DrugBankおよびRepurposing Hubデータベースを使用して同定する。次いで、本発明者らは、得られたタンパク質標的のセットをHI上にマッピングし、それに基づいてサブネットワークを、応答および遺伝子型モジュールの構築と同様に構築する。処置モジュールは、このサブネットワークのLCCである。
【0233】
拡散状態距離
。拡散状態距離(DSD)は、タンパク質相互作用ネットワークにおけるタンパク質の機能を予測するために最初に設計されたネットワークノード上で定義されるメトリックである。(例えば、M.Cao et al.を参照)。DSDは、ランダムウォークが2つの異なるノードから開始するとき、ネットワークの最終状態間の類似性を捕捉する。DSDを定義するために、まず、ノードvで始まり、k回の動作を進めるとノードvjで終わるランダムウォーク(RW)の予想回数-He(vi,vj)を定義した。次いで、ノードviについてベクトル
【0234】
【数3】
を定義する。
次に、ノードv
iとノードv
jとの間のDSDは、
【0235】
【数4】
として定義され、
ここで、||...||
1はL
1ノルムを表す。任意の固定kについて、DSDはメトリックであり、k→∞となるにつれて収束する。(例えば、M.Cao et al.を参照)。
【0236】
DSDは、標的タンパク質間の治療的類似性の尺度である。タンパク質間の治療効果の類似性の尺度としてDSDの関連性を定量化するために、複雑な疾患のセットおよびそれらの承認された標的を、所与の疾患について承認された既知の標的の各々について、その標的とHI中の残りの節との間のDSDを計算すること、DSDに基づいてノードの残りを既知の標的にランク付けし、そのランク付けに基づいて、所与の疾患について承認された標的の残りの回復に対応する受信者動作特性(ROC)曲線を構築することによって分析することができる。全ての既知の承認された標的にわたって反復することによって、個々のROC曲線のセットが、複雑な疾患のそれぞれについて得られる。補間を使用して、個々の曲線を平均し、平均ROC曲線を取得し、その下の面積を計算し、単一の承認された標的および残りのネットワークノードに対するそのDSDについての知識が与えられると、承認された標的を見つける可能性を定量化することができる。
【0237】
UC遺伝子型モジュールに対する近接性。遺伝子型モジュールに対するノードの近接性の計算は、所与のノードから遺伝子型モジュールのノードまでの平均最短経路長
【0238】
【数5】
を計算すること、遺伝子型モジュールまでの平均最短経路長を、同じサイズの無作為化されたネットワークモジュールまでの平均最短経路距離と比較することによって、遺伝子型モジュールに対するノードの近接性の統計的有意性を評価することを含む。具体的には、本明細書に開示される方法は、遺伝子型モジュールと同じサイズの接続されたモジュールを500回サンプリングし(サンプリングの詳細については以下を参照)、無作為化されたモジュールまでの平均最短経路距離の経験分布を構築し、μ
pはこの分布の平均であり、σ
pは標準偏差である。最後に、ノードの近接性は、この分布に関する、ノードから遺伝子型モジュールまでの平均最短経路距離のZスコアとして定義される:
【0239】
【0240】
UC処置モジュールに対する選択性。処置モジュールに対するノードの選択性の計算は、処置モジュールのノードに対するノードの平均DSD
【0241】
【数7】
を計算すること、および近接計算と同様に、処置モジュールと同じサイズの500個の無作為化ネットワークモジュールをサンプリングすることによって、観察されたDSDの統計的有意性を評価することを含む近接性の計算と同様である。しかしながら、平均最短経路距離の代わりに、各無作為化モジュールに対するノードの平均DSDを計算し、無作為化モジュールに対する平均DSDの経験分布を構築し、ここで、μ
sはこの分布の平均であり、σ
sは標準偏差である。本発明者らは、選択性を以下のように定義する:
【0242】
【0243】
ネットワークモジュール無作為化。近接性計算および選択性計算の両方は、HI上の無作為化されたモジュールのサンプリングを必要とし得る。構築によって、遺伝子型モジュールと処置モジュールの両方が接続されたサブネットワークであるので、接続されたサブネットワークを固定HIネットワークから均一にサンプリングすることは、サブネットワークの接続性に対する平均最短経路長またはDSDのあらゆる可能な偏りを回避することができる。ネイバーリザーバーサンプリング(Neighbor Reservoir Sampling;NRS)アルゴリズムは、接続された固定サイズのサブネットワークを均一にサンプリングするために使用され得る。(例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、X.Lu et al.,“International Conference on Scientific and Statistical Database Management”,Springer,(2012)pp.195-212を参照)。
【0244】
近接性および選択性に基づくノードランク付け。遺伝子型および処置モジュールを前提として、本発明者らは、HIにおける全てのノードの近接性および選択性スコアを計算し、それらの対応するランク、それぞれrpおよびrsを導出する。各ノードについて単一の結合ランクrを得るために、以下のように定義されるランクプロダクトを使用した:
【0245】
【0246】
応答モジュールに関するローカルラディアリティ。応答モジュールに対するノードiのローカルラディアリティは、以下の式:
【0247】
【数10】
を使用して決定することができ、ここで、RMは応答モジュールノードのセットであり、Gはヒトインタラクトームネットワークであり、spl(i,g,G)はノードiからノードgまでの最短経路の長さを測定する関数である。
【0248】
UCの承認された標的。提案された標的優先順位付けフレームワークの検証のために、UC処置のために承認された標的のリストは、例えば、2022年2月時点のPharmalntelligence(商標)Citelineデータベースを使用して、UCのために発売されたまたは開発中のステータスを有する全ての薬物のリストを検索することによってコンパイルされ得る。UCのために発売される全ての薬物は、承認された薬物と見なされる。さらに、臨床試験(第I相、II相およびIII相)および前臨床試験においてUCについて試験されている薬物を考慮し、それらの組合せランク付けを承認された薬物のランク付けと比較する。各薬物について、その既知の標的を、例えば、Pharmalntelligence(商標)Citelineデータベース、Repurposing Hubデータベース、およびDrugBankデータベースから抽出する。標的は、いくつかの薬物にマッピングされ得るため、マッピングされる薬物の状態に基づいて、最高到達状態を標的に割り当てる。例えば、標的が2つの薬物にマッピングされ、そのうちの1つは第II相臨床試験にあり、そのうちの1つは前臨床試験にある場合、標的は臨床試験標的として標識される。さらに、高い薬物無差別性(drug promiscuity)のために潜在的に多くのオフターゲットを有し得る薬物を回避するために、
図13に示すように、4つを超えるターゲットを有する2つの薬物(スルファサラジンおよびメサラジン)をフィルタ除外する(例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、V.J.Haupt et al.,“Drug promiscuity in PDB:protein binding site similarity is key,”PLoS one 8,e65894(2013)を参照)。これら2つの薬物以外では、UC処置のために開発されている他のすべての薬物は、同時に4つ以下の標的を有する。さらに、テトラコサクチドは、UCについてのあいまいな徴候のためにフィルタ除外される。
【0249】
モジュールトライアッドのさらなる説明
TNFi治療に対するレスポンダーおよび非レスポンダーの差次的遺伝子発現分析。TNFi治療に対するレスポンダーおよび非レスポンダーが処置前の遺伝子発現プロファイルに基づいて層別化され得るかどうかを評価するために、本明細書に開示される方法は、それらの完全な遺伝子発現プロファイルを使用して差次的遺伝子発現分析を実施し得る。有意差は、FC=1.8の倍数変化(FC)およびp<0.05の調整されたp値(Benjamini-Hochberg補正)では見出されない場合がある。したがって、UMAP埋込み空間にも、実際の完全な遺伝子発現プロファイル空間にも、処置前のレスポンダーと非レスポンダーとの間に明らかな差異は存在しない可能性がある。
【0250】
処置前にUC活動性患者の遺伝子発現プロファイルがレスポンダーを非レスポンダーから区別するのに十分ではないという事実によって動機付けられ、本明細書に開示される方法は、正常組織対照を、レスポンダーと非レスポンダーとの間の遺伝子発現プロファイルにおけるより明白な差異を導き出すための比較参照とみなし得る。異なる群の患者および正常対照を比較する、以下の4つの差次的発現遺伝子のセットを構築することができる(セットの説明については
図11を参照):
1.レスポンダー前後セット(RBA):処置前と処置後との間のレスポンダーにおける差次的発現遺伝子、
2.非レスポンダー前後セット(NRBA):処置前と処置後との間の非レスポンダーにおける差次的発現遺伝子、
3.レスポンダーセット(R):ベースラインレスポンダーと正常対照との間の差次的発現遺伝子、
4.非レスポンダーセット(NR):ベースライン非レスポンダーと正常対照との間の差次的発現遺伝子。
これらの対の状態のそれぞれを、インフリキシマブおよびゴリムマブに基づく試験において別々に測定する。
【0251】
非レスポンダーは、処置時に遺伝子発現プロファイルの有意な変化を示さない場合があり、したがって、NRBAは、有意に差次的に発現される遺伝子を全く含まない場合がある。R、NR、およびRBAセットは、
図11のパネル(b)に示されるように、インフリキシマブおよびゴリムマブの両方の試験について、非常に一致しており、有意な交差サイズを有し得る。ペアワイズ超幾何学的検定は、それぞれインフリキシマブおよびゴリムマブ試験において、NRセットとRセットとの間の交差についてp=9・10
-910および5・10
-1249、NRセットとRBAセットとの間の交差についてp=4・10
-64および8・10
-91、RセットとRBAセットとの間の交差についてp=2・10
-226および1・10
-103をもたらす。
【0252】
さらに、大部分のRBA遺伝子は、正常対照と比較してベースラインレスポンダー試料において差次的に発現され、TNFiを用いた処置がR遺伝子の小サブセットの発現の復帰をもたらし得ることを示す。対照的に、NRセット内に含まれるRBA遺伝子の有意な画分にもかかわらず、これらの遺伝子は、TNFiでの処置後に非レスポンダーにおいて有意に変化しない。
【0253】
RBA遺伝子セットは、RおよびNRセット内に含まれる遺伝子からほぼ排他的に構成される。さらに、
図8に示されるUMAPプロットによって示唆されるように、処置後のレスポンダーの遺伝子発現プロファイルは、正常対照の遺伝子発現プロファイルに近く、一方、処置後の非レスポンダーは、UMAP空間におけるそれらの初期処置前位置に近づいたままである。これは、レスポンダー中で低い疾患活動性を達成するために、TNFi処置は、RBAセットを構成する差次的発現遺伝子のサブセットの発現プロファイルを戻すのに十分であり得ることを示唆する。
【0254】
TNFi治療へのレスポンダーと非レスポンダーにおける差動的発現遺伝子の経路濃縮分析。非応答の根底にある分子機構をよりよく理解するために、本明細書に開示される方法は、RおよびNRセットに対して経路濃縮分析を実施し得る。KEGG経路の各々について、R遺伝子セットおよびNR遺伝子セットの一部であるノードの割合は、
図12に示すように決定することができる(例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、M.Kanehisa et al.,“KEGG:kyoto encyclopedia of genes and genomes,”Nucleic acids research 28,27(2000)を参照)。RおよびNRセットからの少なくとも1つの遺伝子を含む282個のKEGG経路のうち、40個の経路がNR遺伝子で有意に濃縮されている(例えば、超幾何学的検定、p<0.05)。これらの経路における遺伝子の大部分は、NRおよびRセットに共通である。NR排他的遺伝子においてより濃縮される経路を同定するために、本明細書に開示される方法は、経路内のNR排他的遺伝子の数とR排他的遺伝子の数との間の差異の有意性を評価するために、ランダムサンプリングに基づいて統計的検定を実施し得る。40個の経路から、28個は、
図12、パネル(c)に示されるように、保持されるR排他的遺伝子よりも有意に多くのNR排除遺伝子を有する(p<0.05)。UCに関連する経路、例えば、「炎症性腸疾患」、「TNFシグナル伝達経路」、「IgA産生のための腸免疫ネットワーク」、「関節リウマチ」、「細胞接着分子」、または「IL-17シグナル伝達経路」は、非レスポンダーにおいて有意により破壊される(disrupted)。この観察は、別の経路濃縮分析によって支持される。(例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、M.V.Kuleshov et al.,“Enrichr:a comprehensive gene set enrichment analysis web server 2016 update,”Nucleic acids research 44,W90(2016)を参照)。濃縮された生物学的経路のほぼ同一のリストが、R遺伝子セットとNR遺伝子セットとの間に存在し得るが、個々の経路は、NR遺伝子セットについてより多数の遺伝子、p値、およびq値を有する傾向がある。これらの経路の中で非レスポンダーに特有の差次的発現遺伝子は、サイトカインシグナル伝達(例えば、IL6、OSM、ILIA、IL1R1、IL11、CXCL8/IL8、又はIL21R)、受容体媒介(例えば、トール様受容体、TLR1、TLR2、またはTLR8)およびシグナル伝達(例えば、Src様キナーゼ:HCKまたはFYN)に関与する遺伝子を含み得る。
【0255】
UC関連KEGG経路は、
図12、パネル(c)に示されるように、レスポンダーのものよりもNR排除遺伝子においてより濃縮されている。これは、例えば、関節リウマチおよび糖尿病などの他の炎症状態を含み、これらの状態に共通する全般的な免疫系障害を表し得る。自己免疫疾患を有する患者の推定25~35%は、1つ以上のさらなる自己免疫障害を発症する可能性が高い(例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、M.Cojocaru et al.,“Multiple autoimmune syndrome,”Maedica 5,132(2010);J.-M.Anaya et al.,“The autoimmune tautology:from polyautoimmunity and familial autoimmunity to the autoimmune genes,”Autoimmune diseases 2012(2012)を参照)。他の濃縮経路は、潰瘍性大腸炎における腸内マイクロバイオームの役割を強調した。腸の免疫ネットワークにおいてIgA産生について注釈された遺伝子は、非レスポンダーの間で濃縮されている。IgA抗体は、主要な分泌免疫グロブリンであり、炎症性細菌分類群は、健康な対照よりも炎症性腸疾患患者においてIgAで有意にコーティングされ得る。例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、J.M.Shapiro et al.,“Immunoglobulin A targets a unique subset of the microbiota in inflammatory bowel disease,”Cell Host&Microbe 29,83(2021)を参照)。具体的には、黄色ブドウ球菌感染は、1つの濃縮細菌KEGG経路である。黄色ブドウ球菌などのグラム陽性菌はマクロファージからのTNF-α分泌を誘導し、TNF-αは好中球媒介性細菌死滅を増強する。(例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、K.P.van Kessel et al.,“Neutrophil-mediated phagocytosis of Staphylococcus aureus,”Frontiers in immunology 5,467(2014)を参照)。TNF-αの撹乱は、黄色ブドウ球菌感染を制御する免疫系の能力に影響を及ぼし、TNFi処置後の感染のリスクの上昇をもたらす。(例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、S.Bassetti et al.,“Staphylococcus aureus in patients with rheumatoid arthritis under conventional and anti-tumor necrosis factor-alpha treatment,”The Journal of rheumatology 32,2125(2005)を参照)。先天性免疫は、TLRおよびNOD様シグナル伝達KEGG経路によって強調されるように、腸の恒常性の維持において重要な役割を果たす。TLRパターン認識受容体は、腸内微生物叢の構造を含む微生物の保存された構造を検出し、活性化時に炎症性シグナル伝達経路を誘導し、抗体産生B細胞応答を調節する。(例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、L.A.O’neill et al.,“The history of Toll-like receptors-redefining innate immunity,”Nature Reviews Immunology 13,453(2013);Z.Hua et al.,“TLR signaling in B-cell development and activation,”Cellular&molecular immunology 10,103(2013)を参照)。TLR2、4、8、および9は、休止状態のUCまたは健康な対照試料と比較して、活動性UC患者の結腸粘膜においてアップレギュレートされる。(例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、 F Sanchez-Munoz et al.,“Transcript levels of Toll-Like Receptors 5, 8 and 9 correlate with inflammatory activity in Ulcerative Colitis,”BMC gastroenterology 11,1(2011)を参照)。TNF-αおよびIL-17経路を含むサイトカインシグナル伝達は、非レスポンダー間で濃縮される。IL-17シグナル伝達は、TNF-αおよびIL-16シグナル伝達を増幅する強力な炎症誘発性サイトカインであることに加えて、好中球を動員および活性化する遺伝子を誘導し、上皮バリア遺伝子の発現を促進する。(例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、T.Kinugasa et al.,“Claudins regulate the intestinal barrier in response to immune mediators,”Gastroenterology 118,1001(2000);K.Maloy et al.,“IL-23 and Th17 cytokines in intestinal homeostasis,”Mucosal immunology 1, 339(2008)を参照)。非レスポンダーにおける結腸上皮バリア完全性のさらなる破壊は、細胞接着分子および流体剪断応力KEGG経路における遺伝子の濃縮によって強調される。障壁完全性の喪失は、上皮障壁を横切る栄養素、水、細菌毒素、および病原体の透過性を増加させる。(例えば、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される、S.C.Bischoff et al.,“Intestinal permeability-a new target for disease prevention and therapy,”BMC gastroenterology 14,1(2014)を参照)。全体として、より有意に濃縮された経路は、UC疾患生物学、例えば、炎症、バリア完全性、およびマイクロバイオーム不均衡が、TNFi非レスポンダーの間でより広く破壊されることを示唆する。
【0256】
非レスポンダーの遺伝子発現プロファイルが、種々の経路に関するレスポンダーのものと比較して、より重度に調節不全であるかどうかを決定するために、本明細書に開示される方法は、Kyoto(登録商標)Encyclopedia of Genes and Genomes(KEGG)データベースからのシグナル伝達経路の濃縮分析を実施し得る。非レスポンダーの差次的発現遺伝子で有意に濃縮される経路は、有意閾値padj.<0.05(Benjamini-Hochberg補正を用いた超幾何学的検定)を用いて選択される。各選択された経路では、RおよびNR遺伝子セットから排他的に来る遺伝子が同定される。これらのR排他的遺伝子およびNR排他的遺伝子の数の間の差は、残りの遺伝子上のR排他的標識およびNR排他的標識のランダム順列を使用してその有意性を評価するために計算される。NR排他的遺伝子の数とR排他的遺伝子の数との間に有意差がある経路が保持される(padj.<0.05、Benjamini-Hochberg補正を用いたランダム置換試験)。
【0257】
本開示をその詳細な説明と併せて説明してきたが、前述の説明は例示を意図したものであり、特許請求の範囲を限定するものではないことを理解されたい。他の態様、利点、および修正形態は、特許請求の範囲内にある。
【0258】
本明細書は、最良の形態を含む方法およびシステムを開示するために、また、任意の当業者が、任意のデバイスまたはシステムを作製および使用すること、ならびに任意の援用される方法を行うことを含む、本実施形態の実践を可能にするために、実施例を使用する。本実施形態の特許可能な範囲は、特許請求の範囲によって定義され、当業者が想到する他の例を含むことができる。そのような他の例は、特許請求の範囲の文字通りの言葉と異ならない構造要素を含む場合、または特許請求の範囲の文字通りの言葉と実質的に異ならない等価な構造要素を含む場合、特許請求の範囲内にあるものとする。
【国際調査報告】