(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-25
(54)【発明の名称】GD2を標的とするユニバーサルCAR-T細胞及びその製造方法並びに使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20240718BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240718BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20240718BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240718BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240718BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240718BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240718BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240718BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20240718BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20240718BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240718BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20240718BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240718BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20240718BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N5/0783
C12N5/078
A61P43/00 111
A61P35/00
A61P25/00
A61P17/00
A61P27/02
A61P11/00
A61P19/00
A61K35/17
A61K35/15
A61K48/00
C12N15/62 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580373
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(85)【翻訳文提出日】2024-02-07
(86)【国際出願番号】 CN2022103102
(87)【国際公開番号】W WO2023274387
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】202110749475.0
(32)【優先日】2021-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522261558
【氏名又は名称】寧波茂行生物医薬科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尚 小云
(72)【発明者】
【氏名】李 甲▲ルゥ▼
(72)【発明者】
【氏名】蒋 海娟
(72)【発明者】
【氏名】王 丹
(72)【発明者】
【氏名】馬 少文
(72)【発明者】
【氏名】馬 麗
(72)【発明者】
【氏名】李 博
(72)【発明者】
【氏名】沈 慧
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
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4C084AA13
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4C084ZA59
4C084ZA89
4C084ZA96
4C084ZB26
4C084ZC02
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB64
4C087BB65
4C087MA16
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZA33
4C087ZA59
4C087ZA89
4C087ZA96
4C087ZB26
4C087ZC02
(57)【要約】
本願は、修飾された免疫エフェクター細胞に関し、前記修飾された免疫エフェクター細胞におけるT細胞抗原受容体(TCR)及び主要組織適合性複合体(MHCI、MHCII)のT細胞における機能が阻害され、且つ前記修飾された免疫エフェクター細胞にはGD2を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)が含まれる。本願の修飾された免疫エフェクター細胞は、腫瘍細胞表面抗原を認識すると同時に細胞発現のTCR及びHLA-A遺伝子をノックアウトすることで、CAR-T細胞の抗腫瘍作用を向上させ、細胞生存時間を延長すると同時に同種異系細胞の治療によって引き起こされる免疫拒絶反応を低減する相乗効果を達成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫エフェクター細胞であって、
前記免疫エフェクター細胞におけるT細胞抗原受容体(TCR)及び主要組織適合性複合体(MHCI、MHCII)の細胞における機能が阻害され、且つ前記免疫エフェクター細胞はGD2を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)を含む、
免疫エフェクター細胞。
【請求項2】
前記CARは標的部分を含み、前記標的部分は重鎖相補性決定領域1(HCDR1)、重鎖相補性決定領域2(HCDR2)及び重鎖相補性決定領域3(HCDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)を含み、前記HCDR1は配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む、
請求項1に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項3】
前記HCDR2は配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む、
請求項2に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項4】
前記HCDR3は配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む、
請求項2~3の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項5】
前記VHは、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号3に示されるアミノ酸配列を含むHCDR3を含む、
請求項2~4の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項6】
前記VHは、重鎖フレームワーク領域1(HFR1)、重鎖フレームワーク領域2(HFR2)、重鎖フレームワーク領域3(HFR3)及び重鎖フレームワーク領域4(HFR4)を含み、前記HFR1は配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む、
請求項2~5の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項7】
前記HFR2は配列番号5に示されるアミノ酸配列を含む、
請求項6に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項8】
前記HFR3は配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む、
請求項6~7の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項9】
前記HFR4は配列番号7に示されるアミノ酸配列を含む、
請求項6~8の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項10】
前記VHはHFR1、HFR2、HFR3及びHFR4を含み、且つ前記HFR1、HFR2、HFR3及びHFR4は、
配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むHFR1、配列番号5に示されるアミノ酸配列を含むHFR2、配列番号6に示されるアミノ酸配列を含むHFR3、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含むHFR4から選ばれる、
請求項2~9の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項11】
前記VHは配列番号8に示されるアミノ酸配列を含む、
請求項2~10の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項12】
前記標的部分は、軽鎖相補性決定領域1(LCDR1)、軽鎖相補性決定領域2(LCDR2)及び軽鎖相補性決定領域3(LCDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)を含み、前記LCDR1は配列番号9に示されるアミノ酸配列を含む、
請求項2~11の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項13】
前記LCDR2は配列番号10に示されるアミノ酸配列を含む、
請求項12に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項14】
前記LCDR3は配列番号11に示されるアミノ酸配列を含む、
請求項12~13の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項15】
前記VLは、配列番号9に示されるアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号10に示されるアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号11に示されるアミノ酸配列を含むLCDR3を含む、
請求項12~14の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項16】
前記VLは、軽鎖フレームワーク領域1(LFR1)、軽鎖フレームワーク領域2(LFR2)、軽鎖フレームワーク領域3(LFR3)及び軽鎖フレームワーク領域4(LFR4)を含み、前記LFR1は配列番号12に示されるアミノ酸配列を含む、
請求項12~15の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項17】
前記LFR2は配列番号13に示されるアミノ酸配列を含む、
請求項16に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項18】
前記LFR3は配列番号14に示されるアミノ酸配列を含む、
請求項16~17の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項19】
前記LFR4は配列番号15に示されるアミノ酸配列を含む、
請求項16~18の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項20】
前記VLはLFR1、LFR2、LFR3及びLFR4を含み、且つ前記LFR1、LFR2、LFR3及びLFR4は、
配列番号12に示されるアミノ酸配列を含むLFR1、配列番号14に示されるアミノ酸配列を含むLFR2、配列番号14に示されるアミノ酸配列を含むLFR3、配列番号15に示されるアミノ酸配列を含むLFR4から選ばれる、
請求項16~19の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項21】
前記VLは配列番号16に示されるアミノ酸配列を含む、
請求項16~20の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項22】
前記標的部分は、配列番号8に示されるアミノ酸配列を含むVH及び配列番号16に示されるアミノ酸配列を含むVLを含む、
請求項2~21の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項23】
前記標的部分は、完全長抗体、Fab、単鎖可変断片(scFv)又は単一ドメイン抗体(VHH)を含む、
請求項2~22の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項24】
前記標的部分はscFvを含む、
請求項2~23中の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項25】
前記標的部分は、VHとVLとの間に位置するリンカーポリペプチドを含む、
請求項2~24中の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項26】
前記リンカーポリペプチドは、配列番号17又は配列番号18に示されるアミノ酸配列を含む、
請求項25に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項27】
前記標的部分は、配列番号19又は配列番号20に示されるアミノ酸配列を含む、
請求項2~26の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項28】
前記CARは膜貫通ドメインを含み、前記膜貫通ドメインは、CD8A、CD8B、CD28、CD3ε(CD3e)、4-1BB、CD4、CD27、CD7、PD-1、TRAC、TRBC、CD3ζ、CTLA-4、LAG~3、CD5、ICOS、OX40、NKG2D、2B4、CD244、FcεRIγ、BTLA、CD30、GITR、HVEM、DAP10、CD2、NKG2C、LIGHT、DAP12、CD40L(CD154)、TIM1、CD226、DR3、CD45、CD80、CD86、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64及びSLAMからなる群より選ばれる1つ又は複数のタンパク質に由来する膜貫通ドメインを含む、
請求項1~27の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項29】
前記膜貫通ドメインは、CD8Aに由来する膜貫通ドメインを含む、
請求項28に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項30】
前記膜貫通ドメインは、配列番号29~配列番号77の何れか1項に示されるアミノ酸配列を含む、
請求項28~29の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項31】
前記CARは細胞内共刺激シグナル伝達ドメインを含み、前記細胞内共刺激シグナル伝達ドメインは、CD28、4-1BB(CD137)、CD27、CD2、CD7、CD8A、CD8B、OX40、CD226、DR3、SLAM、CDS、ICAM-1、NKG2D、NKG2C、B7-H3、2B4、FcεRIγ、BTLA、GITR、HVEM、DAP10、DAP12、CD30、CD40、CD40L、TIM1、PD-1、LFA-1、LIGHT、JAML、CD244、CD100、ICOS、CD40及びMyD88からなる群より選ばれる1つ又は複数のタンパク質に由来する細胞内共刺激シグナル伝達ドメインを含む、
請求項1~30の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項32】
前記細胞内共刺激シグナル伝達ドメインは、4-1BBに由来する共刺激シグナル伝達ドメインである、
請求項31に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項33】
前記細胞内共刺激シグナル伝達ドメインは、配列番号78~配列番号110の何れか1項に示されるアミノ酸配列を含む、
請求項31~32の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項34】
前記CARは細胞内シグナル伝達ドメインを含み、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζ、CD3δ、CD3γ、CD3ε、CD79a、CD79b、FceRIγ、FceRIβ、FcγRIIa、ウシ白血病ウイルスgp30、Epstein-Barrウイルス(EBV)LMP2A、サル免疫不全ウイルスPBj14 Nef、DAP10、DAP-12からなる群より選ばれる1つ又は複数のタンパク質に由来する細胞内シグナル伝達ドメイン並びに少なくとも1つのITAMを含むドメインを含む、
請求項1~33の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項35】
前記細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζに由来するシグナル伝達ドメインを含む、請求項34に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項36】
前記細胞内シグナル伝達ドメインは、配列番号94、配列番号98、配列番号99、配列番号111~配列番号121の何れか1項に示されるアミノ酸配列を含む、
請求項34~35の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項37】
前記CARは標的部分と膜貫通ドメインとの間にヒンジ領域を含み、前記ヒンジ領域は、CD28、IgG1、IgG4、IgD、4-1BB、CD4、CD27、CD7、CD8A、PD-1、ICOS、OX40、NKG2D、NKG2C、FcεRIγ、BTLA、GITR、DAP10、TIM1、SLAM、CD30及びLIGHTからなる群より選ばれる1つ又は複数のタンパク質に由来するヒンジ領域を含む、
請求項1~36の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項38】
前記ヒンジ領域は、CD8Aに由来するヒンジ領域を含む、
請求項37の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項39】
前記ヒンジ領域は、配列番号122~配列番号143の何れか1項に示されるアミノ酸配列を含む、
請求項37~38の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項40】
前記キメラ抗原受容体の非標的部分は、CD8A分子膜貫通ドメイン、CD8Aのヒンジ領域、4-1BBの細胞内共刺激シグナル伝達ドメイン及びCD3ζ細胞内シグナル伝達ドメインを含む、
請求項1~39の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項41】
前記キメラ抗原受容体の非標的部分は、配列番号21に示されるアミノ酸配列を含む、
請求項1~40の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項42】
前記キメラ抗原受容体は、C末端が前記標的部分のN末端に連結するシグナルペプチド断片を更に含む、
請求項1~41の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項43】
前記シグナルペプチド断片は、CD8Aシグナルペプチド断片を含む、
請求項42に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項44】
前記シグナルペプチド断片は、配列番号22に示されるアミノ酸配列を含む、
請求項42~43の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項45】
前記キメラ抗原受容体は、配列番号23に示されるアミノ酸配列を含む、
請求項1~44の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項46】
前記免疫エフェクター細胞はヒト細胞を含む、
請求項1~45の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項47】
前記免疫エフェクター細胞は、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、マクロファージ、NKT細胞、単核細胞、樹状細胞、顆粒球、リンパ球、白血球及び/又は末梢血単核細胞を含む、
請求項1~46の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項48】
自己又は非自己の免疫エフェクター細胞を含む、
請求項1~47の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項49】
前記免疫エフェクター細胞は、修飾された免疫エフェクター細胞を含み、前記修飾は、免疫拒絶に関連する1つ又は複数の遺伝子の発現及び/又は活性のダウンレギュレーションを含む、
請求項1~48の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項50】
前記免疫拒絶に関連する遺伝子は、TRAC、TRBC、HLA-A、HLA-B、B2M及びCIITAからなる群より選ばれる1つ又は複数の遺伝子である、
請求項49に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項51】
前記修飾された免疫エフェクター細胞は修飾されていない対応する細胞と比較して、TRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされる、
請求項49~50の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項52】
前記修飾された免疫エフェクター細胞は前記修飾されていない対応する細胞と比較して、CIITA遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされていない、
請求項49~51の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項53】
前記修飾された免疫エフェクター細胞は前記修飾されていない対応する細胞と比較して、B2M遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされていない、
請求項49~52の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項54】
前記修飾された免疫エフェクター細胞は対応する野生型細胞と比較して、TRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされる、
請求項49~53の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項55】
前記修飾された免疫エフェクター細胞は対応する野生型細胞と比較して、B2M遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされていない、
請求項49~54の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項56】
前記修飾された免疫エフェクター細胞は対応する野生型細胞と比較して、CIITA遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされていない、
請求項49~55の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項57】
前記遺伝子の発現レベル及び/又は活性のダウンレギュレーションは、前記遺伝子をコードする核酸分子の発現及び/又は活性のダウンレギュレーション、及び/又は、前記遺伝子によってコードされるタンパク質産物の発現及び/又は活性のダウンレギュレーションを含む、
請求項49~56の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項58】
前記修飾は、遺伝子ノックアウト、遺伝子変異及び/又は遺伝子サイレンシングを含む、
請求項49~57の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項59】
前記修飾は、前記免疫エフェクター細胞における2つのTRAC対立遺伝子のうちの何れか1つがノックアウトされると共に、2つのHLA-A対立遺伝子のうちの何れか1つがノックアウトされることを含む、
請求項49~58の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項60】
前記修飾は、前記免疫細胞における2つのTRAC対立遺伝子がノックアウトされると共に、2つのHLA-A対立遺伝子のうちの何れか1つがノックアウトされることを含む、
請求項49~59の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項61】
前記修飾は、前記免疫細胞におけるTRAC遺伝子エクソンがノックアウトされると共に、HLA-A遺伝子エクソンがノックアウトされることを含む、
請求項49~60の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項62】
前記修飾は、アンチセンスRNA、siRNA、shRNA及びCRISPR/Cas9システムからなる群より選ばれる1つ又は複数の物質を前記免疫エフェクター細胞に投与することを含む、
請求項49~61の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項63】
前記修飾は、CRISPR/Cas9システムを前記免疫エフェクター細胞に投与することを含む、
請求項49~62の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項64】
前記修飾は、前記TRAC遺伝子エクソン部分を標的とするsgRNAを前記免疫エフェクター細胞に投与することを更に含む、
請求項63に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項65】
前記TRAC遺伝子エクソン部分を標的とする前記sgRNAは、配列番号144~配列番号158の何れか1項に示されるヌクレオチド配列を含む、
請求項64に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項66】
前記修飾は、前記HLA-A遺伝子エクソン部分を標的とするsgRNAを前記免疫エフェクター細胞に投与することを含む、
請求項63~65の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項67】
前記HLA-A遺伝子エクソン部分を標的とする前記sgRNAは、配列番号159~配列番号199の何れか1項に示されるヌクレオチド配列を含む、
請求項66に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項68】
前記修飾は、Cas酵素を前記細胞に投与することを更に含む、
請求項63~67の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項69】
Cas酵素はCas9タンパク質を含む、
請求項68に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項70】
前記アンチセンスRNAは配列番号200~配列番号203の何れか1項に示されるヌクレオチド配列を含む、
請求項62に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項71】
前記免疫エフェクター細胞はHLA-Bホモ接合体細胞である、
請求項1~71の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項72】
前記HLA-Bホモ接合体は、HLA-B*40ホモ接合体、HLA-B*15ホモ接合体、HLA-B*46ホモ接合体、HLA-B*13ホモ接合体、HLA-B*51ホモ接合体、HLA-B*58ホモ接合体、HLA-B*07ホモ接合体、HLA-B*35ホモ接合体、HLA-B*44ホモ接合体、HLA-B*52ホモ接合体、HLA-B*57ホモ接合体、HLA-B*54ホモ接合体、HLA-B*55ホモ接合体を含む、
請求項71に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項73】
前記免疫エフェクター細胞はHLA-Aホモ接合体又はヘテロ接合体細胞である、
請求項1~72の何れか1項に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項74】
前記HLA-Aホモ接合体又はヘテロ接合体は、HLA-A*02ホモ接合体、HLA-A*11ホモ接合体、HLA-A*02/A*11ヘテロ接合体又はHLA-A*24ホモ接合体を含む、
請求項73に記載の免疫エフェクター細胞。
【請求項75】
免疫エフェクター細胞の製造方法であって、請求項1~74の何れか1項のGD2を標的とするCARをコードするポリヌクレオチド配列又は請求項1~74の何れか1項のGD2を標的とするCARをコードするポリヌクレオチド配列を含むベクターを、免疫エフェクター細胞に導入する前/後、前記免疫エフェクター細胞を修飾することを含み、前記修飾は、免疫拒絶に関連する1つ又は複数の遺伝子の発現及び/又は活性のダウンレギュレーションを含む、方法。
【請求項76】
前記ベクターは発現ベクターである、
請求項75に記載の方法。
【請求項77】
前記ベクターは、DNAベクター、RNAベクター、プラスミド、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター及びレトロウイルスベクターから選ばれる、
請求項75~76の何れか1項に記載の方法。
【請求項78】
前記免疫拒絶に関連する遺伝子は、TRAC、TRBC、HLA-A、HLA-B、B2M及びCIITAからなる群より選ばれる1つ又は複数の遺伝子である、
請求項75~77の何れか1項に記載の方法。
【請求項79】
前記修飾されていない対応する細胞における対応する遺伝子の発現及び/又は活性と比較して、前記免疫エフェクター細胞におけるTRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされる、
請求項75~78の何れか1項に記載の方法。
【請求項80】
前記修飾されていない対応する細胞における対応する遺伝子の発現及び/又は活性と比較して、CIITA遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされていない、
請求項75~79の何れか1項に記載の方法。
【請求項81】
前記修飾されていない対応する細胞における対応する遺伝子の発現及び/又は活性と比較して、B2M遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされていない、
請求項75~80の何れか1項に記載の方法。
【請求項82】
対応する野生型細胞と比較して、前記免疫エフェクター細胞のTRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされる、
請求項75~81の何れか1項に記載の方法。
【請求項83】
対応する野生型細胞と比較して、CIITA遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされていない、
請求項75~82の何れか1項に記載の方法。
【請求項84】
対応する野生型細胞と比較して、B2M遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされていない、
請求項75~83の何れか1項に記載の方法。
【請求項85】
前記遺伝子の発現レベル及び/又は活性のダウンレギュレーションは、前記遺伝子をコードする核酸分子の発現及び/又は活性のダウンレギュレーション、及び/又は、前記遺伝子によってコードされるタンパク質産物の発現及び/又は活性のダウンレギュレーションを含む、
請求項75~84の何れか1項に記載の方法。
【請求項86】
前記修飾は、遺伝子ノックアウト、遺伝子変異及び/又は遺伝子サイレンシングを含む、
請求項75~85の何れか1項に記載の方法。
【請求項87】
前記修飾は、前記免疫エフェクター細胞における2つのTRAC対立遺伝子のうちの何れか1つがノックアウトされると共に、2つのHLA-A対立遺伝子のうちの何れか1つがノックアウトされることを含む、
請求項75~86の何れか1項に記載の方法。
【請求項88】
前記修飾は、前記免疫細胞における2つのTRAC対立遺伝子がノックアウトされると共に、2つのHLA-A対立遺伝子のうちの何れか1つがノックアウトされることを含む、
請求項75~87の何れか1項に記載の方法。
【請求項89】
前記修飾は、前記免疫細胞におけるTRAC遺伝子エクソンがノックアウトされると共に、HLA-A遺伝子エクソンがノックアウトされることを含む、
請求項75~88の何れか1項に記載の方法。
【請求項90】
前記修飾は、アンチセンスRNA、siRNA、shRNA及びCRISPR/Cas9システムからなる群より選ばれる1つ又は複数の物質を前記免疫エフェクター細胞に投与することを含む、
請求項75~89の何れか1項に記載の方法。
【請求項91】
前記修飾は、CRISPR/Cas9システムを前記免疫エフェクター細胞に投与することを含む、
請求項75~90の何れか1項に記載の方法。
【請求項92】
前記修飾は、前記TRAC遺伝子エクソン部分を標的とするsgRNAを前記免疫エフェクター細胞に投与することを含む、
請求項91に記載の方法。
【請求項93】
前記TRAC遺伝子エクソン部分を標的とする前記sgRNAは、配列番号144~配列番号158の何れか1項に示されるヌクレオチド配列を含む、
請求項92に記載の方法。
【請求項94】
前記修飾は、前記HLA-A遺伝子エクソン部分を標的とするsgRNAを前記免疫エフェクター細胞に投与することを含む、
請求項91~93の何れか1項に記載の方法。
【請求項95】
前記HLA-A遺伝子エクソン部分を標的とする前記sgRNAは、配列番号159~配列番号199の何れか1項に示されるヌクレオチド配列を含む、
請求項94に記載の方法。
【請求項96】
前記修飾は、Cas酵素を前記細胞に投与することを更に含む、
請求項91~95の何れか1項に記載の方法。
【請求項97】
Cas酵素はCas9タンパク質を含む、
請求項96に記載の方法。
【請求項98】
前記アンチセンスRNAは、配列番号200~配列番号203の何れか1項に示されるヌクレオチド配列を含む、
請求項90に記載の方法。
【請求項99】
前記免疫エフェクター細胞はヒト細胞を含む、
請求項75~98の何れか1項に記載の方法。
【請求項100】
前記免疫エフェクター細胞は、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、マクロファージ、NKT細胞、単核細胞、樹状細胞、顆粒球、リンパ球、白血球及び/又は末梢血単核細胞を含む、
請求項75~99の何れか1項に記載の方法。
【請求項101】
前記免疫エフェクター細胞は、自己又は非自己の免疫エフェクター細胞を含む、
請求項75~100の何れか1項に記載の方法。
【請求項102】
前記細胞はHLA-Bホモ接合体細胞である、
請求項75~101の何れか1項に記載の方法。
【請求項103】
前記HLA-Bホモ接合体は、HLA-B*40ホモ接合体、HLA-B*15ホモ接合体、HLA-B*46ホモ接合体、HLA-B*13ホモ接合体、HLA-B*51ホモ接合体、HLA-B*58ホモ接合体、HLA-B*07ホモ接合体、HLA-B*35ホモ接合体、HLA-B*44ホモ接合体、HLA-B*52ホモ接合体、HLA-B*57ホモ接合体、HLA-B*54ホモ接合体、HLA-B*55ホモ接合体を含む、
請求項102に記載の方法。
【請求項104】
前記細胞はHLA-Aホモ接合体又はヘテロ接合体細胞である、
請求項75~103の何れか1項に記載の方法。
【請求項105】
前記HLA-Aホモ接合体又はヘテロ接合体は、HLA-A*02ホモ接合体、HLA-A*11ホモ接合体、HLA-A*02/A*11ヘテロ接合体又はHLA-A*24ホモ接合体を含む、
請求項104に記載の方法。
【請求項106】
CAR-T細胞の製造における、請求項1~74の何れか1項に記載の修飾された免疫エフェクター細胞の使用。
【請求項107】
請求項1~74の何れか1項に記載の修飾された免疫エフェクター細胞、及び任意選択で薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項108】
GD2の発現に関連する疾患又は病状の治療における、請求項1~74の何れか1項に記載の修飾された免疫エフェクター細胞及び/又は請求項107に記載の医薬組成物の使用。
【請求項109】
前記GD2の発現に関連する疾患又は病状は、GD2の発現アップレギュレーションに関連する疾患又は病状を含む、
請求項108に記載の使用。
【請求項110】
前記GD2の発現に関連する疾患又は病状はがんを含む、
請求項108~109の何れか1項に記載の使用。
【請求項111】
前記がんはGD2陽性腫瘍を含む、
請求項110に記載の使用。
【請求項112】
前記がんは、神経芽腫、黒色腫、網膜芽腫、小細胞肺がん、ユーイング肉腫、髄芽腫、軟部組織肉腫、骨肉腫又は神経膠腫を含む、
請求項110~111の何れか1項に記載の使用。
【請求項113】
請求項1~74の何れか1項に記載の修飾された免疫エフェクター細胞及び/又は請求項107に記載の医薬組成物のGD2の発現に関連する疾患又は病状の治療用の医薬の製造における使用。
【請求項114】
前記GD2の発現に関連する疾患又は病状は、GD2の発現アップレギュレーションに関連する疾患又は病状を含む、
請求項113に記載の使用。
【請求項115】
前記GD2の発現に関連する疾患又は病状はがんを含む、
請求項113に記載の使用。
【請求項116】
前記がんはGD2陽性腫瘍を含む、
請求項115に記載の使用。
【請求項117】
前記がんは、神経芽腫、黒色腫、網膜芽腫、小細胞肺がん、ユーイング肉腫、髄芽腫、軟部組織肉腫、骨肉腫又は神経膠腫を含む、
請求項115~116の何れか1項に記載の使用。
【請求項118】
GD2の発現に関連する疾患又は病状を予防又は治療する方法であって、
有効量の請求項1~74の何れか1項に記載の修飾された免疫エフェクター細胞及び/又は請求項107に記載の医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、方法。
【請求項119】
前記GD2の発現に関連する疾患又は病状は、GD2の発現アップレギュレーションに関連する疾患又は病状を含む、
請求項118に記載の使用。
【請求項120】
前記GD2の発現に関連する疾患又は病状はがんを含む、
請求項119に記載の方法。
【請求項121】
前記がんはGD2陽性腫瘍を含む、
請求項119の何れか1項に記載の方法。
【請求項122】
前記がんは、神経芽腫、黒色腫、網膜芽腫、小細胞肺がん、ユーイング肉腫、髄芽腫、軟部組織肉腫、骨肉腫又は神経膠腫を含む、
請求項120~121の何れか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、生物医学分野に関し、具体的にはGD2を標的とするユニバーサルCAR-T細胞及びその製造方法並びに使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ガングリオシドGD2は糖鎖高含有糖脂質化合物であり、ガングリオシンゴ脂質の分類に属する神経系の細胞膜の重要な構成要素である。GD2抗原は、神経芽腫、黒色腫、骨肉腫、神経膠腫などの腫瘍を含む神経外胚葉によって生成される腫瘍表面に発現する。そのうち、神経芽腫(neuroblastoma、NB)は、節後交差感受性神経系の胚性腫瘍であり、小児における最も一般的な頭蓋外固形悪性腫瘍である。現在の治療手段としては、外科的切除、放射線療法、化学療法が主である。NBの発症は早く、悪性度が高く、予後が悪い。化学療法後も、小児の10%~20%が難治性NBを発症する。びまん性脳橋かけ神経膠腫(DIPG)は、脳幹に発生する高侵襲性神経膠腫であり、主に5~9歳の小児に発生し、予後は極めて悪く、10%未満の小児のみが2年以上の生存期間を期待できる。H3K27M変異は現在、神経膠腫の分野における最先端の人気研究課題である。H3K27M変異型びまん性正中神経膠腫(DMG)は、ほとんどが小児に発生するが、たまには成人に発生する場合もある。腫瘍は浸潤性に増殖することが多く、視床、延髄及び脊髄に浸潤することが多く、患者の予後は極めて悪い。従って、関連する腫瘍患者の死亡率を低下させるための新しい治療方法を見出すことが急務である。
【0003】
米国スタンフォード大学医学部Robbie G.Majzner教授のチームは、DIPG及びH3K27M変異DMGを有する小児及び若年成人患者の治療における抗GD2 CAR-Tの有効性と安全性という新しい研究結果を発表した。この研究には4人の対象(DIPG 3人、脊髄DMG 1人、4~25歳)が含まれ、全ての患者に頭蓋内圧を監視するためにOmmayaリザーバーが植込まれた。4人中3人の患者の神経機能障害は明らかに改善又は回復され、一部の患者の画像検査結果は改善された。別の新しい研究において、米国ロサンゼルス小児病院の研究者らは、神経芽腫の標的化に有望性を示したCAR-T細胞を開発した。これは、健康な脳組織を損傷することなく、より効果的にがん細胞を殺すことができる。これは、抗GD2 CAR-Tの優れた安全性と臨床治療への使用の見通しを示している。自己由来CAR-T細胞製品と比較して、ユニバーサルCAR T細胞は、健常ドナーから単離されたT細胞であり、製造されたCAR-T細胞の増幅効率が高く、生存能力が高いと同時に、同種異系のユニバーサルCAR-T細胞を市販で提供することができ、製造コストを大幅に低減し、製造サイクルを短縮する。
【0004】
しかし、患者の自己由来T細胞は、体外での増幅が困難であり、又は機能が低下するため、製造されたCAR-T細胞産物の量が不十分であり、又は品質が低くなる。ユニバーサルCAR-T細胞は健常ドナーから単離されたT細胞であり、製造されたCAR-T細胞は、増幅効率が高く、活性が高いだけでなく、感染陽性率も向上しているが、ユニバーサルCAR-T細胞は移植物対宿主病(GVHD)及び免疫拒絶の問題も直面している。CRISPR/Cas9システムは、TCR欠損及びHLAクラスI分子欠損のT細胞を産生し、同種異系細胞療法によって引き起こされる免疫拒絶反応を低減するために、最も一般的に使用されている遺伝子編集方法である。同種異系のユニバーサルCAR-T細胞は、従来のCAR-T細胞製品と比較して、製造コストを大幅に低減し、製造サイクルを短縮する。ユニバーサルCAR-Tは、抗原の認識範囲を拡大するだけでなく、遺伝子ノックアウトにより免疫抑制微小環境を変化させ、悪性血液腫瘍や固形腫瘍の治療に使用することもできる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、腫瘍細胞表面抗原を認識すると同時に細胞表面のTCR及びHLA-A遺伝子をノックアウトすることで、CAR-T細胞の抗腫瘍作用を向上させ、細胞生存時間を延長すると同時に同種異系細胞の治療によって引き起こされる免疫拒絶反応を低減する相乗効果を達成する、GD2を標的とするユニバーサルCAR-T細胞を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様によれば、本願は、免疫エフェクター細胞であって、上記免疫エフェクター細胞におけるT細胞抗原受容体(TCR)及び主要組織適合性複合体(MHCI、MHCII)の細胞における機能が阻害され、且つ上記免疫エフェクター細胞にGD2を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)が含まれる、免疫エフェクター細胞を提供する。
【0007】
幾つかの実施形態において、上記CARは標的部分を含み、上記標的部分は重鎖相補性決定領域1(HCDR1)、重鎖相補性決定領域2(HCDR2)及び重鎖相補性決定領域3(HCDR3)を含む抗体重鎖可変領域(VH)を含み、上記HCDR1は配列番号1に示されるアミノ酸配列を含む。
【0008】
幾つかの実施形態において、上記HCDR2は配列番号2に示されるアミノ酸配列を含む。
【0009】
幾つかの実施形態において、上記HCDR3は配列番号3に示されるアミノ酸配列を含む。
【0010】
幾つかの実施形態において、上記VHは、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むHCDR2及び配列番号3に示されるアミノ酸配列を含むHCDR3を含む。
【0011】
幾つかの実施形態において、上記VHは、重鎖フレームワーク領域1(HFR1)、重鎖フレームワーク領域2(HFR2)、重鎖フレームワーク領域3(HFR3)及び重鎖フレームワーク領域4(HFR4)を含み、上記HFR1は配列番号4に示されるアミノ酸配列を含む。
【0012】
幾つかの実施形態において、上記HFR2は配列番号5に示されるアミノ酸配列を含む。
【0013】
幾つかの実施形態において、上記HFR3は配列番号6に示されるアミノ酸配列を含む。
【0014】
幾つかの実施形態において、上記HFR4は配列番号7に示されるアミノ酸配列を含む。
【0015】
幾つかの実施形態において、上記VHはHFR1、HFR2、HFR3及びHFR4を含み、且つ上記HFR1、HFR2、HFR3及びHFR4は、
配列番号4に示されるアミノ酸配列を含むHFR1、配列番号5に示されるアミノ酸配列を含むHFR2、配列番号6に示されるアミノ酸配列を含むHFR3、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含むHFR4から選ばれる。
【0016】
幾つかの実施形態において、上記VHは配列番号8に示されるアミノ酸配列を含む。
【0017】
幾つかの実施形態において、上記標的部分は、軽鎖相補性決定領域1(LCDR1)、軽鎖相補性決定領域2(LCDR2)及び軽鎖相補性決定領域3(LCDR3)を含む抗体軽鎖可変領域(VL)を含み、上記LCDR1は配列番号9に示されるアミノ酸配列を含む。
【0018】
幾つかの実施形態において、上記LCDR2は配列番号10に示されるアミノ酸配列を含む。
【0019】
幾つかの実施形態において、上記LCDR3は配列番号11に示されるアミノ酸配列を含む。
【0020】
幾つかの実施形態において、上記VLは、配列番号9に示されるアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号10に示されるアミノ酸配列を含むLCDR2及び配列番号11に示されるアミノ酸配列を含むLCDR3を含む。
【0021】
幾つかの実施形態において、上記VLは、軽鎖フレームワーク領域1(LFR1)、軽鎖フレームワーク領域2(LFR2)、軽鎖フレームワーク領域3(LFR3)及び軽鎖フレームワーク領域4(LFR4)を含み、上記LFR1は配列番号12に示されるアミノ酸配列を含む。
【0022】
幾つかの実施形態において、上記LFR2は配列番号13に示されるアミノ酸配列を含む。
【0023】
幾つかの実施形態において、上記LFR3は配列番号14に示されるアミノ酸配列を含む。
【0024】
幾つかの実施形態において、上記LFR4は配列番号15に示されるアミノ酸配列を含む。
【0025】
幾つかの実施形態において、上記VLはLFR1、LFR2、LFR3及びLFR4を含み、且つ上記LFR1、LFR2、LFR3及びLFR4は、
配列番号12に示されるアミノ酸配列を含むLFR1、配列番号14に示されるアミノ酸配列を含むLFR2、配列番号14に示されるアミノ酸配列を含むLFR3、配列番号15に示されるアミノ酸配列を含むLFR4から選ばれる。
【0026】
幾つかの実施形態において、上記VLは配列番号16に示されるアミノ酸配列を含む。
【0027】
幾つかの実施形態において、上記標的部分は、配列番号8に示されるアミノ酸配列を含むVHと、配列番号16に示されるアミノ酸配列を含むVLと、を含む。
【0028】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記標的部分は、完全長抗体、Fab、単鎖可変断片(scFv)又は単一ドメイン抗体(VHH)を含む。
【0029】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記標的部分はscFvを含む。
【0030】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記標的部分は、VHとVLとの間に位置するリンカーポリペプチドを含む。
【0031】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記リンカーポリペプチドは配列番号17又は配列番号18に示されるアミノ酸配列を含む。
【0032】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記標的部分は配列番号19又は配列番号20に示されるアミノ酸配列を含む。
【0033】
幾つかの実施形態において、上記CARは膜貫通ドメインを含み、上記膜貫通ドメインは、CD8A、CD8B、CD28、CD3ε(CD3e)、4-1BB、CD4、CD27、CD7、PD-1、TRAC、TRBC、CD3ζ、CTLA-4、LAG-3、CD5、ICOS、OX40、NKG2D、2B4(CD244)、FcεRIγ、BTLA、CD30、GITR、HVEM、DAP10、CD2、NKG2C、LIGHT、DAP12、CD40L(CD154)、TIM1、CD226、DR3、CD45、CD80、CD86、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64及びSLAMからなる群より選ばれる1つ又は複数のタンパク質に由来する膜貫通ドメインを含む。
【0034】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記膜貫通ドメインはCD8Aに由来する膜貫通ドメインを含む。
【0035】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記膜貫通ドメインは配列番号29~配列番号77の何れか1項に示されるアミノ酸配列を含む。
【0036】
幾つかの実施形態において、上記CARは細胞内共刺激シグナル伝達ドメインを含み、上記細胞内共刺激シグナル伝達ドメインは、CD28、4-1BB(CD137)、CD27、CD2、CD7、CD8A、CD8B、OX40、CD226、DR3、SLAM、CDS、ICAM-1、NKG2D、NKG2C、B7-H3、2B4、FcεRIγ、BTLA、GITR、HVEM、DAP10、DAP12、CD30、CD40、CD40L、TIM1、PD-1、LFA-1、LIGHT、JAML、CD244、CD100、ICOS、CD40及びMyD88からなる群より選ばれる1つ又は複数のタンパク質に由来する細胞内共刺激シグナル伝達ドメインを含む。
【0037】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記細胞内共刺激シグナル伝達ドメインは4-1BBに由来する共刺激シグナル伝達ドメインである。
【0038】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記細胞内共刺激シグナル伝達ドメインは配列番号78~配列番号110の何れか1項に示されるアミノ酸配列を含む。
【0039】
幾つかの実施形態において、上記CARは細胞内シグナル伝達ドメインを含み、上記細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζ、CD3δ、CD3γ、CD3ε、CD79a、CD79b、FceRIγ、FceRIβ、FcγRIIa、ウシ白血病ウイルスgp30、Epstein-Barrウイルス(EBV)LMP2A、サル免疫不全ウイルスPBj14 Nef、DAP10、DAP-12及び少なくとも1つのITAMを含むドメインからなる群より選ばれる1つ又は複数のタンパク質に由来する細胞内シグナル伝達ドメインを含む。
【0040】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記細胞内シグナル伝達ドメインはCD3ζに由来するシグナル伝達ドメインを含む。
【0041】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記細胞内シグナル伝達ドメインは、配列番号94、配列番号98、配列番号99、配列番号111~配列番号121の何れか1項に示されるアミノ酸配列を含む。
【0042】
幾つかの実施形態において、上記CARは標的部分と膜貫通ドメインとの間にヒンジ領域を含み、上記ヒンジ領域は、CD28、IgG1、IgG4、IgD、4-1BB、CD4、CD27、CD7、CD8A、PD-1、ICOS、OX40、NKG2D、NKG2C、FcεRIγ、BTLA、GITR、DAP10、TIM1、SLAM、CD30及びLIGHTからなる群より選ばれる1つ又は複数のタンパク質に由来するヒンジ領域を含む。
【0043】
幾つかの実施形態において、上記ヒンジ領域はCD8Aに由来するヒンジ領域を含む。
【0044】
幾つかの実施形態において、上記ヒンジ領域は配列番号122~配列番号143の何れか1項に示されるアミノ酸配列を含む。
【0045】
幾つかの実施形態において、上記キメラ抗原受容体の非標的部分は、CD8A分子膜貫通ドメイン、CD8Aのヒンジ領域、4-1BBの細胞内共刺激シグナル伝達ドメイン及びCD3ζ細胞内シグナル伝達ドメインを含む。
【0046】
幾つかの実施形態において、上記キメラ抗原受容体の非標的部分は配列番号21に示されるアミノ酸配列を含む。
【0047】
幾つかの実施形態において、上記キメラ抗原受容体は、C末端が上記標的部分のN末端に連結するシグナルペプチド断片を更に含む。
【0048】
幾つかの実施形態において、上記シグナルペプチド断片はCD8Aシグナルペプチド断片を含む。
【0049】
幾つかの実施形態において、上記シグナルペプチド断片は配列番号22に示されるアミノ酸配列を含む。
【0050】
幾つかの実施形態において、上記キメラ抗原受容体は配列番号23に示されるアミノ酸配列を含む。
【0051】
幾つかの実施形態において、上記免疫エフェクター細胞はヒト細胞を含む。
【0052】
幾つかの実施形態において、上記免疫エフェクター細胞は、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、マクロファージ、NKT細胞、単核細胞、樹状細胞、顆粒球、リンパ球、白血球及び/又は末梢血単核細胞を含む。
【0053】
幾つかの実施形態において、自己又は非自己の免疫エフェクター細胞を含む。
【0054】
幾つかの実施形態において、上記免疫エフェクター細胞は、修飾された免疫エフェクター細胞を含み、上記修飾は、免疫拒絶に関連する1つ又は複数の遺伝子の発現及び/又は活性のダウンレギュレーションを含む。
【0055】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記免疫拒絶に関連する遺伝子は、TRAC、TRBC、HLA-A、HLA-B、B2M及びCIITAからなる群より選ばれる1つ又は複数の遺伝子である。
【0056】
幾つかの実施形態において、上記修飾された免疫エフェクター細胞は修飾されていない対応する細胞と比較して、TRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされる。
【0057】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾された免疫エフェクター細胞は上記修飾されていない対応する細胞と比較して、CIITA遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされていない。
【0058】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾された免疫エフェクター細胞は上記修飾されていない対応する細胞と比較して、B2M遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされていない。
【0059】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾された免疫エフェクター細胞は対応する野生型細胞と比較して、TRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされる。
【0060】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾された免疫エフェクター細胞は対応する野生型細胞と比較して、B2M遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされていない。
【0061】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾された免疫エフェクター細胞は対応する野生型細胞と比較して、CIITA遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされていない。
【0062】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記遺伝子の発現レベル及び/又は活性のダウンレギュレーションは、上記遺伝子をコードする核酸分子の発現及び/又は活性のダウンレギュレーション、及び/又は、上記遺伝子によってコードされるタンパク質産物の発現及び/又は活性のダウンレギュレーションを含む。
【0063】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾は、遺伝子ノックアウト、遺伝子変異及び/又は遺伝子サイレンシングを含む。
【0064】
幾つかの実施形態において、上記修飾は、上記免疫エフェクター細胞における2つのTRAC対立遺伝子のうちの何れか1つがノックアウトされると共に、2つのHLA-A対立遺伝子のうちの何れか1つがノックアウトされることを含む。
【0065】
幾つかの実施形態において、上記修飾は、上記免疫細胞における2つのTRAC対立遺伝子がノックアウトされると共に、2つのHLA-A対立遺伝子のうちの何れか1つがノックアウトされることを含む。
【0066】
幾つかの実施形態において、上記修飾は、上記免疫細胞におけるTRAC遺伝子エクソンがノックアウトされると共に、HLA-A遺伝子エクソンがノックアウトされることを含む。
【0067】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾は、アンチセンスRNA、siRNA、shRNA及びCRISPR/Cas9システムからなる群より選ばれる1つ又は複数の物質を上記免疫エフェクター細胞に投与することを含む。
【0068】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾はCRISPR/Cas9システムを上記免疫エフェクター細胞に投与することを含む。
【0069】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾は、上記TRAC遺伝子エクソン部分を標的とするsgRNAを上記免疫エフェクター細胞に投与することを更に含む。
【0070】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記TRAC遺伝子エクソン部分を標的とする上記sgRNAは、配列番号144~配列番号158の何れか1項に示されるヌクレオチド配列を含む。
【0071】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾は、上記HLA-A遺伝子エクソン部分を標的とするsgRNAを上記免疫エフェクター細胞に投与することを含む。
【0072】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記HLA-A遺伝子エクソン部分を標的とする上記sgRNAは、配列番号159~配列番号199の何れか1項に示されるヌクレオチド配列を含む。
【0073】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾は、Cas酵素を上記細胞に投与することを更に含む。
【0074】
幾つかの実施形態において、そのうち、Cas酵素はCas9タンパク質を含む。
【0075】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記アンチセンスRNAは配列番号200~配列番号203の何れか1項に示されるヌクレオチド配列を含む。
【0076】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記免疫エフェクター細胞はHLA-Bホモ接合体細胞である。
【0077】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記HLA-Bホモ接合体は、HLA-B*40ホモ接合体、HLA-B*15ホモ接合体、HLA-B*46ホモ接合体、HLA-B*13ホモ接合体、HLA-B*51ホモ接合体、HLA-B*58ホモ接合体、HLA-B*07ホモ接合体、HLA-B*35ホモ接合体、HLA-B*44ホモ接合体、HLA-B*52ホモ接合体、HLA-B*57ホモ接合体、HLA-B*54ホモ接合体、HLA-B*55ホモ接合体を含む。
【0078】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記免疫エフェクター細胞はHLA-Aホモ接合体又はヘテロ接合体細胞である。
【0079】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記HLA-Aホモ接合体又はヘテロ接合体は、HLA-A*02ホモ接合体、HLA-A*11ホモ接合体、HLA-A*02/A*11ヘテロ接合体又はHLA-A*24ホモ接合体を含む。
【0080】
別の態様によれば、本願は、免疫エフェクター細胞の製造方法であって、上記GD2を標的とするCARをコードするポリヌクレオチド配列又は上記GD2を標的とするCARをコードするポリヌクレオチド配列を含むベクターを、免疫エフェクター細胞に導入する前/後、上記免疫エフェクター細胞を修飾することを含み、上記修飾は、免疫拒絶に関連する1つ又は複数の遺伝子の発現及び/又は活性のダウンレギュレーションを含む、方法を提供する。
【0081】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記ベクターは発現ベクターである。
【0082】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記ベクターは、DNAベクター、RNAベクター、プラスミド、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター及びレトロウイルスベクターから選ばれる。
【0083】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記免疫拒絶に関連する遺伝子は、TRAC、TRBC、HLA-A、HLA-B、B2M及びCIITAからなる群より選ばれる1つ又は複数の遺伝子である。
【0084】
幾つかの実施形態において、上記修飾されていない対応する細胞における対応する遺伝子の発現及び/又は活性と比較して、上記免疫エフェクター細胞におけるTRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされる。
【0085】
幾つかの実施形態において、上記修飾されていない対応する細胞における対応する遺伝子の発現及び/又は活性と比較して、CIITA遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされていない。
【0086】
幾つかの実施形態において、上記修飾されていない対応する細胞における対応する遺伝子の発現及び/又は活性と比較して、B2M遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされていない。
【0087】
幾つかの実施形態において、対応する野生型細胞と比較して、上記免疫エフェクター細胞のTRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされる。
【0088】
幾つかの実施形態において、対応する野生型細胞と比較して、CIITA遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされていない。
【0089】
幾つかの実施形態において、対応する野生型細胞と比較して、B2M遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされていない。
【0090】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記遺伝子の発現レベル及び/又は活性のダウンレギュレーションは、上記遺伝子をコードする核酸分子の発現及び/又は活性のダウンレギュレーション、及び/又は、上記遺伝子によってコードされるタンパク質産物の発現及び/又は活性のダウンレギュレーションを含む。
【0091】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾は、遺伝子ノックアウト、遺伝子変異及び/又は遺伝子サイレンシングを含む。
【0092】
幾つかの実施形態において、上記修飾は、上記免疫エフェクター細胞における2つのTRAC対立遺伝子のうちの何れか1つがノックアウトされると共に、2つのHLA-A対立遺伝子のうちの何れか1つがノックアウトされることを含む。
【0093】
幾つかの実施形態において、上記修飾は、上記免疫細胞における2つのTRAC対立遺伝子がノックアウトされると共に、2つのHLA-A対立遺伝子のうちの何れか1つがノックアウトされることを含む。
【0094】
幾つかの実施形態において、上記修飾は、上記免疫細胞におけるTRAC遺伝子エクソンがノックアウトされると共に、HLA-A遺伝子エクソンがノックアウトされることを含む。
【0095】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾は、アンチセンスRNA、siRNA、shRNA及びCRISPR/Cas9システムからなる群より選ばれる1つ又は複数の物質を上記免疫エフェクター細胞に投与することを含む。
【0096】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾はCRISPR/Cas9システムを上記免疫エフェクター細胞に投与することを含む。
【0097】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾は、上記TRAC遺伝子エクソン部分を標的とするsgRNAを上記免疫エフェクター細胞に投与することを含む。
【0098】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記TRAC遺伝子エクソン部分を標的とする上記sgRNAは、配列番号144~配列番号158の何れか1項に示されるヌクレオチド配列を含む。
【0099】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾は、上記HLA-A遺伝子エクソン部分を標的とするsgRNAを上記免疫エフェクター細胞に投与することを含む。
【0100】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記HLA-A遺伝子エクソン部分を標的とする上記sgRNAは、配列番号159~配列番号199の何れか1項に示されるヌクレオチド配列を含む。
【0101】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾は、Cas酵素を上記細胞に投与することを更に含む。
【0102】
幾つかの実施形態において、そのうち、Cas酵素はCas9タンパク質を含む。
【0103】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記アンチセンスRNAは配列番号200~配列番号203の何れか1項に示されるヌクレオチド配列を含む。
【0104】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記免疫エフェクター細胞はヒト細胞を含む。
【0105】
幾つかの実施形態において、上記免疫エフェクター細胞は、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、マクロファージ、NKT細胞、単核細胞、樹状細胞、顆粒球、リンパ球、白血球及び/又は末梢血単核細胞を含む。
【0106】
幾つかの実施形態において、上記免疫エフェクター細胞は、自己又は非自己の免疫エフェクター細胞を含む。
【0107】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記細胞はHLA-Bホモ接合体細胞である。
【0108】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記HLA-Bホモ接合体は、HLA-B*40ホモ接合体、HLA-B*15ホモ接合体、HLA-B*46ホモ接合体、HLA-B*13ホモ接合体、HLA-B*51ホモ接合体、HLA-B*58ホモ接合体、HLA-B*07ホモ接合体、HLA-B*35ホモ接合体、HLA-B*44ホモ接合体、HLA-B*52ホモ接合体、HLA-B*57ホモ接合体、HLA-B*54ホモ接合体、HLA-B*55ホモ接合体を含む。
【0109】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記細胞はHLA-Aホモ接合体又はヘテロ接合体細胞である。
【0110】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記HLA-Aホモ接合体又はヘテロ接合体は、HLA-A*02ホモ接合体、HLA-A*11ホモ接合体、HLA-A*02/A*11ヘテロ接合体又はHLA-A*24ホモ接合体を含む。
【0111】
別の態様によれば、本願は、CAR-T細胞の製造における、上記免疫エフェクター細胞の使用を提供する。
【0112】
別の態様によれば、本願は、上記免疫エフェクター細胞、及び任意選択で薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0113】
別の態様によれば、本願は、GD2の発現に関連する疾患又は病状を治療するための、上記免疫エフェクター細胞及び/又は上記医薬組成物を提供する。
【0114】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記GD2の発現に関連する疾患又は病状は、GD2の発現アップレギュレーションに関連する疾患又は病状を含む。
【0115】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記GD2の発現に関連する疾患又は病状はがんを含む。
【0116】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記がんはGD2陽性腫瘍を含む。
【0117】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記がんは、神経芽腫、黒色腫、網膜芽腫、小細胞肺がん、ユーイング肉腫、髄芽腫、軟部組織肉腫、骨肉腫又は神経膠腫を含む。
【0118】
別の態様によれば、本願は、上記免疫エフェクター細胞及び/又は上記医薬組成物のGD2の発現に関連する疾患又は病状の治療用の医薬の製造における使用を提供する。
【0119】
幾つかの実施形態において、上記GD2の発現に関連する疾患又は病状は、GD2の発現アップレギュレーションに関連する疾患又は病状を含む。
【0120】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記GD2の発現に関連する疾患又は病状はがんを含む。
【0121】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記がんはGD2陽性腫瘍を含む。
【0122】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記がんは、神経芽腫、黒色腫、網膜芽腫、小細胞肺がん、ユーイング肉腫、髄芽腫、軟部組織肉腫、骨肉腫又は神経膠腫を含む。
【0123】
別の態様によれば、本願は、GD2の発現に関連する疾患又は病状を予防又は治療する方法であって、有効量の上記免疫エフェクター細胞及び/又は上記医薬組成物をそれを必要とする対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0124】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記GD2の発現に関連する疾患又は病状は、GD2の発現アップレギュレーションに関連する疾患又は病状を含む。
【0125】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記GD2の発現に関連する疾患又は病状はがんを含む。
【0126】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記がんはGD2陽性腫瘍を含む。
【0127】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記がんは、神経芽腫、黒色腫、網膜芽腫、小細胞肺がん、ユーイング肉腫、髄芽腫、軟部組織肉腫、骨肉腫又は神経膠腫を含む。
【0128】
当業者は、以下の詳細な説明から本願の他の態様及び利点を容易に洞察することができる。以下の詳細な説明には、本願の例示的な実施形態のみを示して説明する。当業者に明らかなように、本願の内容により、当業者は、本願にかかる発明の精神及び範囲から逸脱することなく、開示された具体的な実施形態を変更することができる。それで、本願の図面及び明細書における説明は、限定的なものではなく、単に例示的なものである。
【図面の簡単な説明】
【0129】
本願にかかる発明の具体的な特徴は、添付の特許請求の範囲に記載される通りである。以下に詳細に説明する例示的な実施形態及び図面を参照することで、本願にかかる発明の特徴及び利点をよりよく理解することができる。図面の簡単な説明は以下の通りである。
【
図1】本願に記載の抗GD2 CAR遺伝子レンチウイルス発現ベクターを示す。
【
図2】本願に記載の抗GD2 UCAR-T細胞を構築するための戦略を示す。
【
図3A-3D】本願に記載の抗GD2 UCAR-T細胞表現型試験結果(ノックアウト効率、トランスフェクション効率、増殖倍数、記憶T細胞比率)を示す。
【
図4】本願に記載の抗GD2 UCAR-T細胞の標的細胞に対する殺傷結果を示す。
【
図5A-5C】本願に記載の抗GD2 UCAR-T細胞と標的細胞の共培養によるサイトカイン分泌の検出結果を示す。
【
図6】本願に記載の抗GD2 UCAR-T細胞の体内抗腫瘍効果を示す。
【
図7】本願に記載の抗GD2 UCAR-T細胞の体内半減期の検出結果を示す。
【
図8A-8B】本願に記載の抗GD2 UCAR-T細胞の体内拒絶反応の結果を示す。
【
図9】本願に記載の抗GD2 UCAR-T細胞のオフターゲット分析を示す。
【
図10】本願に記載の抗GD2 UCAR-T細胞の染色体転座分析を示す。
【
図11】本願に記載の抗GD2 UCAR-T細胞の核型分析を示す。
【
図12】本願に記載の抗GD2 UCAR-T細胞のCas9残留分析を示す。
【
図13】本願におけるSg9RNA編集後のTRAC遺伝子のSangerシークエンシングの結果を示す。
【
図14】本願におけるSg9RNA編集後のTRAC遺伝子のTAクローン検出の結果を示す。
【
図15】本願におけるSg9RNA編集後のTRAC遺伝子のフローサイトメトリー検出の結果を示す。
【
図16】本願におけるSg2RNA編集後のHLA-A02遺伝子のSangerシークエンシングの結果を示す。
【
図17】本願におけるSg5RNA編集後のHLA-A02遺伝子のSangerシークエンシングの結果を示す。
【
図18】本願におけるSg21RNA編集後のHLA-A11遺伝子のSangerシークエンシングの結果を示す。
【
図19】本願におけるRsg2RNA編集後のHLA-A11遺伝子のSangerシークエンシングの結果を示す。
【
図20A-20B】本願にかかる修飾された免疫エフェクター細胞におけるHLA-A02及びTRACの同時ノックアウトの結果を示す。
【
図21A-21B】本願にかかる修飾された免疫エフェクター細胞におけるHLA-A02及びTRACのタンパク質レベルを示す。
【
図22】本願にかかる修飾された免疫エフェクター細胞におけるTRAC、HLA-A、B2M及びCIITAのmRNAレベルを示す。
【
図23A-23B】本願にかかる修飾された免疫エフェクター細胞におけるB2M及びCIITAのタンパク質レベルを示す。
【
図24A-24D】本願にかかる修飾された免疫エフェクター細胞におけるTRAC、HLA-A、B2M及びCIITAのタンパク質レベルを示す。
【
図25A-25B】本願にかかる修飾された免疫エフェクター細胞におけるTRAC及びHLA-A mRNAレベルのノックアウト状況を示す。
【
図26A-26B】本願にかかる修飾された免疫エフェクター細胞におけるCD69及びCD137のタンパク質レベルを示す。
【
図27】本願にかかる修飾された免疫エフェクター細胞とNK細胞の共培養状況を示す。
【
図28】本願にかかる修飾された免疫エフェクター細胞によるIFN-γの発現レベルを示す。
【
図29A-29D】本願にかかる修飾された免疫エフェクター細胞におけるTRAC、HLA-A、B2M及びCIITAのタンパク質レベルを示す。
【
図30】本願にかかる修飾された免疫エフェクター細胞のCARに対する感染効率を示す。
【
図31】本願にかかる修飾された免疫エフェクター細胞の増殖倍数を示す。
【
図32】本願にかかる修飾された免疫エフェクター細胞のCD19陽性標的細胞に対する殺傷効果を示す。
【
図33】本願にかかる修飾された免疫エフェクター細胞を投与する投与計画を示す。
【
図34】本願にかかる修飾された免疫エフェクター細胞のマウス体内腫瘍に対する殺傷効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0130】
以下、特定の具体的な実施例により、本願の発明の実施形態を説明し、当業者は、本明細書に開示された内容から本願の発明の他の利点及び効果を容易に理解することができる。
【0131】
用語の定義
本願において、「キメラ抗原受容体」又は「CAR」という用語は通常、一連のポリペプチドを指し、最も簡単な実施形態において通常2種類があり、免疫エフェクター細胞において、標的細胞(通常、がん細胞と呼ばれる)に対する細胞の特異性を提供し、細胞内シグナルを生成する。幾つかの実施形態において、CARは、少なくとも1つの細胞外抗原結合ドメイン(例えば、VHH、scFv又はその一部)、膜貫通ドメイン、並びに以下に定義する刺激分子及び/又は共刺激分子に由来する機能性シグナル伝達ドメインを含む細胞質シグナル伝達ドメイン(本明細書において、「細胞内シグナル伝達ドメイン」とも呼ばれる)を含む。幾つかの実施形態において、当該一連のポリペプチドは同じポリペプチド鎖にある(例えば、キメラ融合タンパク質を含む)。幾つかの実施形態において、当該一連のポリペプチドは互いに連続せず、例えば異なるポリペプチド鎖にある。幾つかの態様において、当該一連のポリペプチドは二量体化スイッチを含み、二量体化分子の存在下でポリペプチドを互いに結合させることができ、例えば抗原結合ドメインを細胞内シグナル伝達ドメインに結合させることができる。一態様において、CARの刺激分子はT細胞受容体複合体に関連するζ鎖である。一態様によれば、細胞質シグナル伝達ドメインは一次シグナル伝達ドメイン(例えば、CD3-ζの一次シグナル伝達ドメイン)を含む。一態様によれば、細胞質シグナル伝達ドメインは、以下に定義する少なくとも1つの共刺激分子に由来する1つ又は複数の機能性シグナル伝達ドメインを更に含む。一態様において、共刺激分子は、4-1BB(即ちCD137)、CD27、ICOS及び/又はCD28から選ばれてもよい。一態様において、CARは、細胞外抗原認識ドメイン、膜貫通ドメイン、並びに刺激分子に由来する機能性シグナル伝達ドメインを含む細胞内シグナル伝達ドメインを含んでもよいキメラ融合タンパク質を含む。一態様において、CARは、細胞外抗原認識ドメイン、膜貫通ドメイン、並びに共刺激分子に由来する機能性シグナル伝達ドメイン及び刺激分子に由来する機能性シグナル伝達ドメインを含む細胞内シグナル伝達ドメインを含んでもよいキメラ融合タンパク質を含む。一態様において、CARは、細胞外抗原認識ドメイン、膜貫通ドメイン、並びに1つ又は複数の共刺激分子に由来する機能性シグナル伝達ドメイン及び刺激分子に由来する機能性シグナル伝達ドメインを含む細胞内シグナル伝達ドメインを含んでもよいキメラ融合タンパク質を含む。一態様において、CARは、細胞外抗原認識ドメイン、膜貫通ドメイン、並びに1つ又は複数の共刺激分子に由来する少なくとも2つの機能性シグナル伝達ドメイン及び刺激分子に由来する機能性シグナル伝達ドメインを含む細胞内シグナル伝達ドメインを含んでもよいキメラ融合タンパク質を含む。一態様によれば、CARは、CAR融合タンパク質のアミノ末端(N-ter)における任意選択のリーダー配列を含む。一態様によれば、CARは、細胞外抗原認識ドメインのN末端におけるリーダー配列を更に含み、そのうち、リーダー配列は任意選択的に細胞加工プロセスにおいて抗原認識ドメイン(例えばVHH)から除去され、且つCARを細胞膜に局在化させる。
【0132】
本願において、「ジシアロガングリオシド(GD2、pubchem:6450346)」という用語は通常、主に細胞表面で発現されるシアル酸含有スフィンゴ糖脂質を指す。それは、細胞外マトリックスタンパク質への腫瘍細胞の付着において重要な役割を果たす。GD2は、神経芽腫(neuroblastoma)に密集しており、均質でほぼ普遍的に発現される。正常組織において、GD2の発現は主に皮膚のメラニン細胞及び末梢疼痛線維鞘に限定されている。CNSにおいて、GD2は胚抗原であると考えられるが、散在する希突起膠細胞及び下垂体後葉に僅かに発現していることを見出した。このため、GD2は標的抗腫瘍療法に非常に適している。GD2に対するキメラ抗原受容体が記載されており、その抗原結合ドメインはscFv14g2a(WO2013/040371及びYvonら(2009、Clin Cancer Res 15:5852~5860))に基づき、またGD2を標的とする抗原結合断片も国際特許出願公開WO2004/055056に記載されており、これらの各々は、参照によりその全体が本願に組み込まれる。
【0133】
本願において、「抗体」という用語は通常、最も広い意味で使用され、所望の生物活性を示す限り、具体的にモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、二量体、多量体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び抗体断片を包含する(Milleretal(2003)Journal of Immunology170:4854-4861)。抗体は、マウス、ヒト、ヒト化、キメラ抗体、又は他の種に由来するものであってもよい。
【0134】
全長抗体は、典型的には2つの「全長抗体重鎖」及び2つの「全長抗体軽鎖」からなる抗体を指す。「全長抗体重鎖」は通常、N末端からC末端への方向に抗体重鎖可変ドメイン(VH)、抗体定常重鎖ドメイン1(CH1)、抗体ヒンジ領域(HR)、抗体重鎖定常ドメイン2(CH2)、及び抗体重鎖定常ドメイン3(CH3)からなり、VH-CH1-HR-CH2-CH3と略称されるポリペプチドであり、IgEサブクラス抗体の場合、任意選択的に抗体重鎖定常ドメイン4(CH4)を更に含む。幾つかの実施形態において、「全長抗体重鎖」は、N末端からC末端への方向にVH、CH1、HR、CH2及びCH3からなるポリペプチドである。「全長抗体軽鎖」は通常、N末端からC末端への方向に抗体軽鎖可変ドメイン(VL)及び抗体軽鎖定常ドメイン(CL)からなるポリペプチドであり、VL-CLと略称される。上記抗体軽鎖定常ドメイン(CL)はκ(kappa)又はλ(lambda)であってもよい。2つの全長抗体鎖は、CLドメインとCH1ドメインとの間のポリペプチド間ジスルフィド結合、及び全長抗体重鎖のヒンジ領域間のポリペプチド間ジスルフィド結合によって連結される。典型的な全長抗体の例は、IgG(例えば、IgG1及びIgG2)、IgM、IgA、IgD、及びIgEなどの天然抗体である。
【0135】
本願において、「抗原結合断片」(本明細書において「標的部分」又は「抗原結合部分」とも呼ばれる)という用語は通常、抗体と抗原との間の特異的結合を担うアミノ酸を含む抗体分子の一部を指す。抗体によって特異的に認識され、結合される抗原の部分は、上記のように「エピトープ」と呼ばれる。抗原結合ドメインは、典型的に抗体軽鎖可変領域(VL)及び抗体重鎖可変領域(VH)を含んでもよいが、必ずしも両方を含む必要とは限らない。Fd断片は、例えば2つのVH領域を有し、通常、完全な抗原結合ドメインの抗原結合機能の一部を保持する。抗体の抗原結合断片の例は、(1)Fab断片、VL、VH、定常軽鎖(CL)及びCH1ドメインを有する一価断片、(2)F(ab’)2断片、ヒンジ領域のジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を有する二価断片、(3)2つのVH及びCH1ドメインを有するFd断片、(4)抗体単一アームを有するVL及びVHドメインを有するFv断片、(5)VHドメインを有するdAb断片(Ward et al.、「Binding Activities of a Repertoire of Single Immunoglobulin Variable Domains Secreted From Escherichia coli」Nature 341:544-546(1989)、その全体が参照により本願に組み込まれる)、(6)単離された相補性決定領域(CDR)、(7)例えばscFV-ライブラリーからの単鎖Fv(scFv)。Fv断片の2つのドメインVL及びVHは、独立した遺伝子によってコードされるが、組換え方法を使用してリンカーの合成によって接合することができ、VL及びVH領域が対になって一価分子を形成する単一タンパク質鎖(単鎖Fv(scFv)と呼ばれる)(例えばHuston et al.、「Protein Engineering of Antibody Binding Sites: Recovery of Specific Activity in an Anti-Digoxin Single-Chain Fv Analogue Produced in Escherichia coli」Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883(1988)を参照)、及びラクダ科(ラクダ、ヒトコブラクダ、ラマ、アルパカなど)重鎖抗体に由来する可変抗原結合ドメインに関する(8)「VHH」(Nguyen V.K. et al.、2000、The EMBO Journal、19、921-930、Muyldermans S.、2001、J Biotechnol.、74、277-302及びVanlandschoot P.ら、2011、Antiviral Research 92、389-407を参照)として製造されるように、リンカーを合成することができる。VHHは、ナノ抗体(Nanobody)(Nb)及び/又は単一ドメイン抗体とも呼ばれる。これらの抗体断片は、当業者に公知の従来技術を用いて得られ、且つ完全抗体と同じ方式で上記断片の機能を評価する。
【0136】
本願において、「単一ドメイン抗体」又は「VHH」という用語は通常、抗体軽鎖を欠失するが、重鎖可変領域のみを有する抗体の一種を指す。幾つかの場合において、単一ドメイン抗体は、フタコブラクダ、ヒトコブラクダ、アルパカ、ラマ、コモリザメ、アストラ又はサメに由来することができる(例えば、バイオテクノロジー報告、2018、34(12):1974-1984を参照)。例えば、単一ドメイン抗体はアルパカに由来することができる。単一ドメイン抗体は重鎖可変領域(VH)で構成することができる。「重鎖可変領域」という用語は通常、抗原結合断片の重鎖のアミノ末端ドメインを指す。重鎖可変領域は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる高可変領域に更に区別されてもよく、それらはフレームワーク領域(FR)となるより保存的領域に散在する。各重鎖可変領域は、3つのCDR及び4つのFR領域で構成され、それらは、アミノ末端からカルボキシル末端へ、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3及びFR4の順に配列されてもよい。重鎖可変領域は、抗原が相互作用する結合ドメインを含む。
【0137】
本願において、「単鎖可変断片」又は「scFv」は、それらの通常及び従来の意味を有し、例えば、短いリンカーペプチドで互いに連結された、免疫グロブリンの重鎖(VH)可変領域及び軽鎖(VL)可変領域を含む融合タンパク質を含んでもよいが、これらに限定されない。限定されるものではないが、リンカーは、グリシン(フレキシブルのため)及び親水性アミノ酸(例えば、セリン又はスレオニン)(可溶性のため)を含んでもよい。リンカーは、VHのN末端をVLのC末端に連結してもよく、又は、VHのC末端をVLのN末端に連結してもよい。幾つかの代替的な形態において、CARに存在するリガンド結合ドメインは単鎖可変断片(scFv)である。本願のCARは、リンカー、ヒンジ、膜貫通ドメイン、共刺激ドメイン及び/又は伝達ドメインに変異を有するVH-VL又はVL-VH配置に構築されてもよく、当該CARは依然としてその有効性を維持する。幾つかの実施形態において、CARに存在するscFvドメインは、腫瘍細胞に存在するGD2に対して特異的である。
【0138】
本願のCARは、分子の適切な間隔及び立体配座のために付加する各ドメイン間のリンカー残基を含んでもよい。例えば、アミノ酸配列を含むリンカーは、VHドメインとVLドメインとを連結すると共に2つのサブ結合ドメインの相互作用と適応する間隔領域機能を提供することで、得られたポリペプチドが同じ軽鎖及び重鎖可変領域を含む抗体と同じの標的分子に対する特異的結合親和性を維持する。本願のCARは、1つ、2つ、3つ、4つ又は5つ以上のリンカーを含んでもよい。特定の実施形態において、リンカーの長さは、約1~約25個のアミノ酸長、約5~約20個のアミノ酸長、又は約10~約20個のアミノ酸長、又は任意の介在長さのアミノ酸長である。リンカーの例示的な実例は、グリシンポリマー、グリシン-セリンポリマー、グリシン-アラニンポリマー、アラニン-セリンポリマー、ウィットローリンカーなどの当該分野で既知の他のフレキシブルリンカーを含む。グリシン及びグリシン-セリンポリマーは、比較的に構造化されていないものであるため、融合タンパク質のドメイン(例えば、本願のCAR)間の中性テザーとして機能することができる。
【0139】
本願において、「相補性決定領域」(CDR)という用語は通常、抗原結合断片の可変領域内の相補性決定領域を指す。本願において、上記重鎖可変領域には、可変領域毎にHCDR1、HCDR2及びHCDR3と命名される3つのCDRsが存在する。これらのCDRsの正確な境界は、異なるシステムに応じて異なるように定義されている。Kabat(Kabat et al.、Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institutes of Health、Bethesda、Md.(1987)及び(1991))に記載されるシステムは、抗原結合断片の任意の可変領域に適用できる明確な残基番号付けシステムを提供するだけでなく、3つのCDRsを限定する正確な残基境界も提供する。これらのCDRsは、Kabat CDRsと呼ぶことができる。Chothiaと同僚(ChothiaとLesk、J. Mol. Biol.196:901-917(1987)及びChothia et al.、Nature342:877-883(1989))は、アミノ酸配列レベルでの大きな多様性にもかかわらず、Kabat CDRs内のある下位部分がほぼ同じペプチド主鎖立体構造をとることを発見した。これらの下位部分は、L1、L2及びL3、又はH1、H2及びH3と命名され、そのうち、「L」及び「H」は、それぞれ軽鎖領域及び重鎖領域を指す。これらの領域は、Kabat CDRsと重複する境界を有するChothia CDRsと呼ぶことができる。Kabat CDRsと重複するCDRsを限定する他の境界は、Padlan(FASEB J.9:133-139(1995))及びMacCallum(J Mol Biol 262(5):732-45(1996))により記載されている。また、他のCDR境界の定義は、上記システムの1つに厳密に従っていない可能性があり、特定の残基又は残基のセット、更にCDR全体が抗原結合に顕著な影響を及ぼさないという予測又は実験結果に従って、それらが短縮又は延長される可能性があるが、依然としてKabat CDRsと重複する。本願において、IMGT番号付けシステムが使用される。
【0140】
本願において、「FR」という用語は通常、フレームワーク領域と呼ばれる、抗体可変ドメインのより高度な保存的部分を指す。例えば、天然重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、それぞれ4つのFR領域、即ちVHでは4つ(H-FR1、H-FR2、H-FR3及びH-FR4)、及びVLでは4つ(L-FR1、L-FR2、L-FR3及びL-FR4)を含んでもよい。「フレームワーク領域」は通常、分岐性のより高い(即ち超可変)CDRの間に存在する、当該技術分野で認識される抗体可変領域の部分を指す。そのようなフレームワーク領域は、典型的にフレームワーク1~4(FR1、FR2、FR3、及びFR4)と呼ばれ、且つ抗原結合表面を形成するために、3次元空間において6つのCDR(重鎖から3つ、且つ軽鎖から3つ)を提示するための骨格を提供する。
【0141】
本願において、「相同性」という用語は通常、配列「同一性」と同等であってもよい。相同配列は、対象配列と少なくとも80%、85%、90%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%又は99.9%同一であることができるアミノ酸配列を含んでもよい。通常、相同体は、テーマのアミノ酸配列と同じ活性部位などを含む。相同性は、類似性(即ち、類似の化学的性質/機能を有するアミノ酸残基)によって考慮されてもよいが、配列同一性の観点から相同性を発現してもよい。本願において、言及されたアミノ酸配列又はヌクレオチド配列の配列番号の何れか1つに対するパーセント同一性を有する配列は、言及された配列番号の全長にわたって、上記パーセント同一性を有する配列を指す。
【0142】
配列同一性を決定するために、配列アラインメントを行うことができ、それは、当業者に知られている様々な方法、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、NEEDLE又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどを用いて行うことができる。当業者は、比較される全長配列において最適なアラインメントを達成するために必要とする任意のアルゴリズムを含む、アラインメントのための適切なパラメータを決定することができる。
【0143】
本願において、「KD」という用語は、「KD」と互換的に使用されてもよく、通常、特定の抗体-抗原相互作用の解離平衡定数をM(mol/L)の単位で指す。KDは、物質ABと、その解離によって得られた物質A及び物質Bの濃度から、KD=c(A)×c(B)/c(AB)として計算することができる。この式から分かるように、KD値が大きいほど、解離が多く、物質A、B間の親和性が弱いことを示し、逆にKD値が小さいほど、解離が少なく、物質A、B間の親和性が強いことを示す。
【0144】
本願において、「単離された核酸分子」という用語は通常、天然環境から単離されるか、又は人工的に合成される、任意の長さの単離形態のヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、又はリボヌクレオチド、又はそれらの類似体を指す。
【0145】
本願において、「ベクター」という用語は通常、挿入される核酸分子を宿主細胞内及び/又は宿主細胞間に移転させる、適切な宿主において自己複製できる核酸分子を指す。上記ベクターは、主にDNA又はRNAを細胞内に挿入するためのベクター、主にDNA又はRNAを複製するためのベクター、及び主にDNA又はRNAの転写及び/又は翻訳を発現するためのベクターを含んでもよい。上記ベクターは、種々の上記機能を有するベクターを更に含んでもよい。上記ベクターは、適切な宿主細胞に導入された場合に、ポリペプチドに転写と翻訳できるポリヌクレオチドであってもよい。一般的に、上記ベクターを含む適切な宿主細胞を培養することにより、上記ベクターは所望の発現産物を産生することができる。
【0146】
本願において、「ウイルスベクター」という用語は、核酸分子(例えば、転移プラスミド)又は核酸転移を介在するウイルス粒子を指すために広く使用され、核酸分子は、核酸分子の転移又は細胞ゲノムへの組み込みを通常促進するウイルス由来の核酸要素を含む。ウイルス粒子は通常、様々なウイルス成分を含み、核酸以外の宿主細胞成分を更に含む場合もある。ウイルスベクターは、核酸を細胞内に転移することができるウイルス若しくはウイルス粒子、又は転移される核酸自体を指してもよい。
【0147】
本願において、「レンチウイルス」という用語は通常、複雑なレトロウイルスの群(又は属)を指す。例示的レンチウイルスは、HIV(HIV 1型及びHIV 2型を含むヒト免疫不全ウイルス)、ビスナ・マエディウイルス(visna-maedivirus、VMV)ウイルス、ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)、ウマ感染性貧血ウイルス(EIAV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)、及びサル免疫不全ウイルス(SIV)を含むが、これらに限定されない。一実施形態において、HIVに基づくベクター骨格(即ち、HIVシス作用性配列エレメント)が好ましい。特別な実施形態において、レンチウイルスは、CARを含むポリヌクレオチドを細胞に送達するために使用される。
【0148】
本願において、「宿主細胞」又は「細胞」という用語は通常、本願に記載の単離された核酸分子を含むベクターを含んでもよいか又は既に含んだ、或いは、本願に記載の単離された抗原結合断片を発現することができる個体細胞、細胞株又は細胞培養物を指す。上記宿主細胞は、単一の宿主細胞の子孫を含んでもよい。天然、予想外又は意図的な変異により、子孫細胞は、元の親細胞と形態又はゲノムにおいて必ずしも完全に同じであるとは限らないが、本願に記載の単離された抗原結合断片を発現することができればよい。上記宿主細胞は、本願に記載のベクターを利用して体外で細胞をトランスフェクトすることにより得ることができる。上記宿主細胞は、原核細胞(例えば、大腸菌)であってもよく、真核細胞(例えば酵母細胞、例えばCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、HEK293細胞、COS-1細胞、NS0細胞又は骨髄腫細胞)であってもよい。例えば、上記宿主細胞は大腸菌細胞であってもよい。例えば、上記宿主細胞は酵母細胞であってもよい。例えば、上記宿主細胞は哺乳動物細胞であってもよい。例えば、上記哺乳動物細胞はCHO-K1細胞であってもよい。
【0149】
本願において、「T細胞」又は「Tリンパ球」という用語は、任意のT細胞、例えば培養T細胞、例えば初代T細胞、又はJurkat、SupTIなどの培養T細胞株由来のT細胞、又は哺乳動物(好ましくはサル、イヌ又はヒトを含む種の霊長類動物)から得られるT細胞であってもよい。哺乳動物から得られる場合、T細胞は、血液、骨髄、リンパ節、胸腺又は他の組織若しくは体液を含むがこれらに限定されない、様々な供給源から得ることができる。T細胞は、濃縮されてもよく、又は、活性化されてもよい。T細胞は、体外又は体内で造血幹細胞をT細胞に成熟させることによって得ることができる。例示的な態様において、T細胞はヒトT細胞である。例示的な態様において、T細胞は、ヒトから単離されたT細胞である。T細胞は、NKT細胞を含む任意の種類のT細胞であってよく、CD4+/CD8+二重陽性T細胞、Th1及びTh2細胞などのCDA+ヘルパーT細胞、CD8+T細胞(例えば、細胞傷害性T細胞)、末梢血単核細胞(PBMC)、末梢血白血球(PBL)、腫瘍浸潤細胞(TIL)、記憶T細胞、未処理T細胞などを含むが、これらに限定されない、任意の発生段階のものであってもよい。好ましくは、T細胞は、CD8+T細胞又はCD4+T細胞である。幾つかの代替的な方法において、T細胞は、受容細胞又は受容すべき細胞(例えば、治療組成物の形態にある上記細胞)を有する受容対象と同種異系(同じ種からの異なるドナー)であり、幾つかの代替的な方法において、T細胞は自己由来であり(ドナー及びレシピエントは同じであり)、幾つかの代替的な方法において、T細胞は、同質遺伝子型(syngeneic)である(ドナー及びレシピエントは異なるが、一卵性双生児である)。
【0150】
本願において、「免疫エフェクター細胞」という用語は通常、免疫応答に関与し、エフェクター機能を果たす免疫細胞を指す。例えば、エフェクター機能を果たすことは、異物抗原の除去又は免疫エフェクター応答の促進などを含んでもよい。免疫エフェクター細胞は、形質細胞、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、ナチュラルキラーT(NKT)細胞、マスト細胞及び骨髄由来食細胞を含んでもよい。
【0151】
本願の免疫エフェクター細胞は、自己/自体的(autologous/autogeneic)(「独自的」)又は非自己的(「非独自的」、例えば同種異系、同質遺伝子型又は異種遺伝子型)であってもよい。本願において、「自己的」という用語は通常、同じ対象からの細胞を指す。「同種異系」は通常、それと比較して同じ種であるが遺伝的に異なる細胞を指す。「同質遺伝子型」は通常、比較される細胞と遺伝的に同一である異なる対象の細胞を指す。「異種遺伝子型」は通常、比較される細胞と異なる種の細胞を指す。幾つかの実施形態において、本願の細胞は、自己的又は同種異系である。
【0152】
本願において、「修飾」という用語は通常、細胞の状態若しくは構造を変えること、及び/又は、細胞の状態若しくは構造の改変を指す。上記改変は通常、上記修飾されていない対応する細胞の状態若しくは構造と比較して、上記改変が内因性遺伝子発現レベル又は機能の変化、例えば、相同組換え、CRISPR/Cas9系遺伝子編集などを含んでもよい遺伝子工学的手段による細胞の内因性遺伝子発現レベルのダウンレギュレーション、アップレギュレーション又は非発現を含んでもよく、上記改変は、細胞タンパク質発現、構造又は機能の変化、例えば、上記内因性遺伝子発現レベル又は機能の変化によって達成される対応するタンパク質発現の変化、構造又は機能の変化、例えば、タンパク質翻訳、翻訳後修飾の調節によって達成されるタンパク質発現の変化、構造又は機能の変化を更に含んでもよく、上記改変は、外来遺伝子の導入、外来タンパク質の発現などを含んでもよい。
【0153】
本願において、「TRAC」という用語は通常、T細胞受容体α鎖定常領域(T cell receptor alpha con-stant)を指す。T細胞受容体(TCR)は通常、主要組織適合性複合体(MHC)分子に結合する抗原を認識することができる、T細胞の表面に位置する特異的受容体を指す。TCRは通常、2つの異なるタンパク質鎖(即ち、ヘテロ二量体)からなる。ヒトにおいて、多くのT細胞におけるTCRは、1本のα鎖と1本のβ鎖(それぞれTRA及びTRBによってコードされる)からなり、このT細胞はαβT細胞と呼ばれ、少数のT細胞におけるTCRはγ鎖とδ鎖(それぞれTRG及びTRDによってコードされる)からなり、このT細胞はγδT細胞と呼ばれる。一般的には、αβT細胞はT細胞の総数の約95%を占め、γδT細胞はT細胞の総数の約5%を占め、当該比率は個体の発生過程及び疾患状態(例えば、白血病)で変化し、種によっても異なっている。TCRを構成する各鎖は何れも、可変領域及び定常領域を有し、ヒトにおいて、α鎖をコードする遺伝子(TRA、例えばHGNC:12027に示される情報)は14番染色体に位置し、可変セグメント(V)、連結セグメント(J)及び定常領域(C)を含む多遺伝子断片から構成され、TRAC遺伝子は通常、14番染色体(14q11.2、14:22、547、505-22、552、131)に位置する、T細胞受容体のα鎖定常領域(C)をコードする遺伝子配列(例えば、HGNC:12029に示される情報)を指す。通常、N個の抗原認識ドメインをコードする可変セグメント(V)遺伝子の1つが、連結セグメント(J)の1つと再構成されて機能的V領域エクソンを生成し、当該エクソンが転写され、且つ定常領域(C)にスプライシングによって連結され、それによりT細胞受容体α鎖コード配列を形成する。
【0154】
本願において、「主要組織適合性複合体抗原」(「MHC」、ヒトの場合「ヒト白血球抗原」(「HLA」)とも呼ばれる)という用語は通常、細胞表面に発現された、細胞に独自の抗原性を付与するタンパク質を指す。MHC/HLA抗原は、T細胞及びNK細胞によって、免疫エフェクター細胞と同じの造血幹細胞の供給源(「自己」)に由来するものとして認識されるか、又は別の造血再構築細胞の供給源(「非自己」)に由来するものとして認識される標的分子である。HLAクラスI及びHLAクラスIIというHLA抗原の2つの主要なクラスが同定された。HLAクラスI抗原(ヒトにおけるA、B、C)は、各細胞を「自己」として認識できるが、HLAクラスII抗原(ヒトにおけるDR、DP及びDQ)は、リンパ球と抗原提示細胞との反応に関与する。両者とも移植臓器の拒絶に関与している。HLA遺伝子系の重要な態様は、その多型である。MHCクラスI(A、BとC)及びMHCクラスII(DP、DQとDR)の各遺伝子は、異なる対立遺伝子を有する。HLA対立遺伝子は、数字及び下付け文字によって表される。例えば、2つの非相関な個体はそれぞれ、HLA-BクラスI遺伝子B5及びBw41を保有する可能性がある。対立遺伝子産物は、α及び/又はβドメインの1つ又は複数のアミノ酸において異なる。多くの特異的抗体又は核酸試薬は、クラスI及びクラスII分子を発現する白血球を用いて個体のHLAハプロタイプ型を決定するために使用される。通常HLA型決定に使用される遺伝子は、MHCクラスI及びクラスIIの6つのタンパク質、即ちHLA-Aであり、HLA-B及びHLA-DRは、それぞれ2つの対立遺伝子を有する。HLA遺伝子クラスターは、染色体6p21位に存在する「スーパー遺伝子座」に集められ、上記「スーパー遺伝子座」は、免疫系及び幾つかの他の基本的な分子と細胞プロセスの調節において重要な役割を有する6つの古典的な移植HLA遺伝子、と少なくとも132のタンパク質コード遺伝子をコードする。完全な遺伝子座の大まかな測定は、少なくとも224の遺伝子座を有する3.6 Mbである。このクラスター化の効果は「ハプロタイプ」であり、即ち、単一の染色体上に存在し、1つの親から受け継がれ、セットとして受け継がれる傾向にある。各親から受け継がれた対立遺伝子のセットはハプロタイプを形成し、そのうち、一部の対立遺伝子は互いに結合する傾向にある。一部の対立遺伝子及びハプロタイプが他の対立遺伝子及びハプロタイプよりも一般的であり、そして、それらが異なる種及び民族において異なる頻度で分布するため、患者のハプロタイプを同定することは、マッチドナーが見つかる確率を予測することを助けると共に、検索戦略を策定することを助けることもできる。
【0155】
本願において、「HLA-A」は通常、ヒト染色体6p21.3に位置するHLA-A遺伝子(例えば、HGNC:4931に示される情報)によってコードされる、ヒト白血球抗原(human leukocyte antigens)ポリペプチド鎖の一種を指す。HLA-Aは、ヒト細胞表面のMHCクラスI分子を構成する3つの主要なポリペプチドタイプの1つであり、他にはHLA-B及びHLA-Cも含まれる。HLA-A遺伝子によってコードされるα鎖及びB2M遺伝子によってコードされるβ鎖(β2-ミクログロブリン)からなるヘテロ二量体は、HLA-AクラスMHC I分子である。上記のHLA-A遺伝子によってコードされるα鎖は、α1ドメイン、α2ドメイン、α3ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞質ドメインを含んでもよく、そのうち、α1ドメイン、α2ドメインはペプチドセグメントに結合することができるため、MHC I分子(例えばHLA-Aクラス)によって上記ペプチドセグメントが免疫系細胞に提示される。ヒトにおいて、ほとんどの哺乳動物と類似するように、MHC I分子のα鎖は、一次構造が種々変化する多型であり、2013年12月までに、1740の活性タンパク質及び117の不活性タンパク質をコードする、合計2432のHLA-A対立遺伝子が知られている。本願において、HLA-A対立遺伝子は、IMGT/HLAデータベース3.38.0バージョン(https://www.ebi.ac.uk/ipd/imgt/hla/)に格納され、WHO HLA因子命名委員会によって命名された異なるHLA-A対立遺伝子の配列情報を含んでもよい。
【0156】
本願において、「HLA-B」という用語は通常、ヒト白血球抗原(HLA)複合体の遺伝子ファミリーの一部を指す。HLAは、主要組織適合性複合体(MHC)のヒト版であり、MHCは、多くの種に存在する遺伝子ファミリーである。この複雑な遺伝子は、クラスI、クラスII及びクラスIIIという3つの基本的な群に分類される。ヒトにおいて、HLA-B遺伝子及びHLA-AとHLA-Cという関連する2つの遺伝子はMHCクラスIの主要な遺伝子である。HLA-B遺伝子は、6番染色体の短い(p)アームの細胞帯21.3の、塩基対31,353,871から31,357,211に位置する。HLA-Bは、ドナーとレシピエントとの間でマッチすべき3つの主要なHLAの1つである。これらは、HLA-A、HLA-B(両方ともMHCクラスI)及びHLA-DR(MHCクラスII)である。この2つの組織には、この3つのHLAをコードする同じ遺伝子がある場合、拒絶の可能性及び重症度は最小限となる。HLA-Bは数百のバージョン(対立遺伝子)が知られており、各バージョンは特定の番号(例えば、HLA-B27)を有する。密接に関連した対立遺伝子は一緒に分類されており、例えば、少なくとも28個の非常に類似した対立遺伝子がHLA-B27のアイソフォームである。これらのアイソフォームは、HLA-B*2701~HLA-B*2728と指定される。
【0157】
本願において、「HLAがマッチする」という用語は、ドナーとレシピエントとの間のHLA抗原にマッチしないドナー-レシピエント対がないことを指し、上記ドナーは、例えば造血幹細胞移植療法を必要とするレシピエントに造血幹細胞移植物を提供するドナーである。HLAがマッチした(即ち、そのうちの6つの対立遺伝子の全てがマッチした)ドナー-レシピエント対は、移植物を拒絶するリスクが低減し、その理由は、内因性T細胞及びNK細胞が、侵入した移植物を外来として認識する可能性が低く、且つ、移植物に対する免疫応答を生じる可能性が低いからである。
【0158】
本願において、「HLAがマッチしない」という用語は、ドナーとレシピエントとの間の少なくとも1つのHLA抗原(特に、HLA-A、HLA-B及びHLA-DRの場合)がマッチしないドナー-レシピエント対であることを指し、上記ドナーは、例えば造血幹細胞移植療法を必要とするレシピエントに造血幹細胞移植物を提供するドナーである。幾つかの実施形態において、一方のハプロタイプはマッチし、他方はマッチしない。HLAがマッチしないドナー-レシピエント対はHLAがマッチしたドナー-レシピエント対と比較して、HLAがマッチしないドナー-レシピエント対の場合、内因性T細胞及びNK細胞が、侵入した移植物を外来として認識する可能性が高く、そして、そのようなT細胞及びNK細胞が移植物に対する免疫応答を生じる可能性が高いため、移植物を拒絶するリスクが増加する可能性がある。
【0159】
本願において、「B2M」という用語は通常、MHCクラスI分子の構成要素の1つであるβ2ミクログロブリン(β2-microglobulin)を指す。β2ミクログロブリン(β鎖とも呼ばれる)は、HLAによってコードされたα鎖と共にMHCクラスI分子を構成することができる。B2Mは通常、全ての有核細胞において発現される。ヒトにおいて、β2ミクログロブリンは、15q21.1に位置するB2M遺伝子(例えば、HGNC:914に示される情報)によってコードされる。
【0160】
本願において、「CIITA」という用語は通常、主要組織適合性複合体クラスII(MHC II)のトランス活性化因子を指す。上記トランス活性化因子は、酸性転写活性化ドメイン、4つのLRR(ロイシンに富化した反復配列)及びGTP結合ドメインを有するタンパク質であってもよい。上記タンパク質は、細胞核内に位置し、主要組織適合性複合体クラスII(MHC II)遺伝子転写のための正の調節因子として、これらの遺伝子を発現する「主制御因子」と呼ばれる。当該タンパク質はまた、GTPに結合すると共に、GTPへの結合を利用してそれ自体を細胞核に輸送することができ、細胞核において、通常、コアクチベーターのような方法でアセチルトランスフェラーゼ(AT)活性によって作用する。ヒトにおいて、上記タンパク質は、16p13.13に位置する遺伝子(例えば、HGNC:7067に示される情報)によってコードされ、異なるアイソフォームをコードする幾つかの転写産物変異体を産生することができる。
【0161】
本願において、「野生型細胞」という用語は通常、自然に存在するか又は自然に由来する細胞を指す。
【0162】
本願において、「核酸」又は「ポリヌクレオチド」又は「核酸分子」という用語は通常、デオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)及びその単鎖形態又は二本鎖形態のポリマーを指す。特に限定されない限り、当該用語は、天然ヌクレオチドの類似体を含む核酸を含んでもよく、上記核酸は、参照核酸(例えば、配列情報を示すもの)と類似する結合特性を有し、天然に存在するヌクレオチドと類似する方式で代謝される。特に明記しない限り、核酸の配列は、その保存的に修飾された変異体、例えば、縮重コドン置換、対立遺伝子、直接相同体、SNPと相補配列、及び明示的に示された配列を含んでもよい。
【0163】
本願において、「発現」という用語は通常、特定のヌクレオチド配列の転写及び/又は翻訳を指す。
【0164】
本願において、「遺伝子変異」という用語は通常、遺伝子の構造上で生じる塩基対の構成又は配列順序の変化を指す。例えば、単一塩基の変化による点変異、又は複数の塩基の欠失、重複及び挿入などである。
【0165】
本願において、「遺伝子サイレンシング」という用語は通常、調節メカニズムによる特定の遺伝子の発現を抑制することを指す。主に、DNAメチル化、ヘテロクロマチン化及び位置効果などの要因による転写レベルでの遺伝子サイレンシング(transcriptional gene silencing、TGS)、及び遺伝子転写後レベルでの標的RNAへの特異的介入による遺伝子発現に影響を与える転写後遺伝子サイレンシング(post-transcriptional gene silencing、PTGS)の2つを含んでもよい。通常の場合、遺伝子がサイレンシングされると、対応する遺伝子発現は、ダウンレギュレーション/減少される。一方、遺伝子がノックアウトされる場合、通常発現しないようになり、例えば細胞において、ある特定の遺伝子の対立遺伝子が全てノックアウトされると、その遺伝子の発現がなくなるように現れる。遺伝子サイレンシングは通常、遺伝子ノックダウンメカニズムであると考えられており、遺伝子サイレンシングのために一般的に使用される方法は例えばRNAiなどである。
【0166】
本願において、「内因性」という用語は、生物、細胞、組織又は系から生じるか、又はその内部で生成される任意の物質を指す。
【0167】
本願において、「外因性」という用語は、生物、細胞、組織又は系の外部から導入されるか、又はその外部で生成される任意の物質を指す。
【0168】
本願において、「アンチセンスRNA」という用語は通常、転写産物mRNA(メッセンジャーRNA)に相補的な単鎖RNAを指す。アンチセンスRNAは、mRNAとの結合により遺伝子の発現を阻害することができる。例えば、アンチセンスRNAが標的mRNAに結合すると、当該二本鎖RNA分子のRNA酵素IIIに対する感受性が増加して、分解される。例えば、アンチセンスRNAは、mRNAの上流の非コード領域に結合するため、標的mRNAの翻訳を直接阻害する。
【0169】
本願において、「siRNA」という用語は通常、Small interfering RNA(低分子干渉RNA)又はshort in-terfering RNA(短分子干渉RNA)の略語を指す。siRNAは、mRNAとの相補的結合によりmRNAを分解して特定の遺伝子の発現を妨害することができる、長さが約18~28塩基対の二本鎖非コードRNA分子の一種である。幾つかの実施形態において、siRNAは、Dicer酵素で処理された長い二本鎖RNA又はshRNAの生成物であってもよい。幾つかの実施形態において、siRNAは、細胞に入り、他のタンパク質とRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)を形成し、センス鎖は分解され、アンチセンス鎖は相補的標的配列に結合することにより、遺伝子サイレンシングを達成することができる。
【0170】
本願において、「shRNA」という用語は通常、short hairpin RNAの略語、即ち「短いヘアピンRNA」を指す。shRNAは通常、2つの短い逆方向反復配列を含み、その間にループ(loop)配列によって分離され、ヘアピン構造を形成する。通常、RNAポリメラーゼIIIの転写終結因子として、5個~6個のT塩基を含んでもよい。幾つかの実施形態において、shRNAは、ウイルスベクター又はプラスミドを介して細胞に入り、ポリメラーゼII又はポリメラーゼIIIの作用下で転写され、転写産物は細胞核から搬出された後(通常Exportin5を介して)、Dicer処理後にRISCに輸送され、センス鎖は分解され、アンチセンス鎖は相補的標的配列に結合して遺伝子サイレンシングを達成することができる。
【0171】
本願において、「CRISPR/Cas系」という用語は通常、RNA誘導性ヌクレアーゼ又は他のエフェクター分子及びgRNA分子を含む一連の分子を指し、上記分子は、RNA誘導性ヌクレアーゼ又は他のエフェクター分子が標的配列で核酸を修飾するように引導して修飾することを可能にする、例えば標的配列の分解を引き起こすことができる。幾つかの実施形態において、CRISPR系は、gRNA及びCas9タンパク質などのCasタンパク質を含む。Cas9又はその機能的変異体を含む系は、本願において「Cas9系」又は「CRISPR/Cas9系」と呼ばれる。幾つかの実施形態において、gRNA分子とCas分子は、複合体化して、リボ核タンパク質(RNP)複合体を形成することができる。
【0172】
本願において、「gRNA分子」又は「ガイドRNA」、「指向RNA」、「引導RNA」、「ガイドRNA分子」、「gRNA」は互換的に使用され、通常、RNA誘導性ヌクレアーゼ又は他のエフェクター分子(通常、gRNA分子と複合する)の標的配列への特異的誘導を促進する核酸分子を指す。幾つかの実施形態において、gRNAの一部のDNAへのハイブリダイゼーション(例えば、gRNAガイドドメインを介して)、及びgRNA分子の一部のRNA誘導性ヌクレアーゼ又は他のエフェクター分子への結合(例えば、少なくともgRNAtracrを介して)によって上記誘導を達成する。幾つかの実施形態において、gRNA分子は、本明細書において「単一ガイドRNA」又は「sgRNA」など呼ばれる、単一の連続したポリヌクレオチド分子からなる。他の実施形態において、gRNA分子は、本明細書において「二重ガイドRNA」又は「dgRNA」など呼ばれる、それ自体が会合(通常、ハイブリダイゼーションによって)可能である複数(例えば、2つ)のポリヌクレオチド分子からなる。
【0173】
本願において、「Casタンパク質」という用語は通常、CRISPR/Cas系においてDNA切断を担う酵素を指す。I型、II型、III型CRISPR/Cas系由来の酵素を含んでもよい。例えば、Cas3、Cas9、Cas10である。
【0174】
本願において、「Cas9タンパク質」という用語は通常、DNA切断を担う細菌II型CRISPR/Cas系由来の酵素を指す。Cas9は、野生型タンパク質及びその機能的変異体を含んでもよい。
【0175】
本願において、「対立遺伝子」という用語は通常、遺伝子座における遺伝子配列が持つ可能性のある様々な変化形態を指す。遺伝子座は、遺伝子部位又は部位とも呼ばれ、染色体上の固定位置、例えばある遺伝子の位置を指す。ゲノム内の遺伝子座の配置位置は、遺伝子マップ(genetic map)と呼ばれる。
【0176】
本願において、「ホモ接合体」という用語は通常、相同染色体の同一遺伝子座における2つの対立遺伝子が同一である遺伝子型個体を指す。一対の相対する遺伝子には、AA及びaaという2つの遺伝子型を有する個体が存在する可能性がある。
【0177】
本願において、「ヘテロ接合体」という用語は通常、二倍体中の相同染色体の同一部位における2つの対立遺伝子が同一でない遺伝子型個体、例えばAaを指す。ヘテロ接合遺伝子型は通常、ホモ接合優性遺伝子型又はホモ接合劣性遺伝子型の何れよりも適合性が高く、この現象はヘテロ接合優位性と呼ばれる。
【0178】
本願において、「腫瘍」及び「がん」という用語は互換的に使用され、通常、異常細胞の急速且つ無秩序な増殖を特徴とする疾患を指す。がん細胞は、局所的に、又は血流及びリンパ系を通じて身体の他の部分に拡散することができる。本明細書において、様々ながんの例を記載しているが、それらには、乳がん、前立腺がん、卵巣がん、子宮頸がん、皮膚がん、膵臓がん、結腸直腸がん、腎臓がん、肝臓がん、脳がん、リンパ腫、白血病、肺がんなどが含まれるが、これらに限定されない。「がん」又は「腫瘍」という用語は、前悪性及び悪性のがん及び腫瘍を含み、固形腫瘍及び非固形腫瘍を更に包含する。
【0179】
本願において、「薬学的に許容される」という用語は通常、合理的な利益/リスク比に見合った、過度の毒性、刺激、アレルギー応答又は他の問題若しくは合併症を伴わずに、合理的な医学的判断の範囲内でヒト及び動物の組織と接触させて使用するのに適した化合物、材料、組成物及び/又は剤形を指す。
【0180】
本願において、「薬学的に許容される担体」という用語は通常、従来使用される担体の何れか1つを指し、物理化学的考慮要因(溶解性及び活性結合剤との反応性の欠如など)によってのみ制限され、投与経路によって制限される。本明細書に記載される薬学的に許容される担体、例えば、ビヒクル、アジュバント、賦形剤及び希釈剤は、当業者に周知であり、容易に入手可能である。一態様において、薬学的に許容される担体は、医薬組成物の活性成分に対して化学的不活性を有する担体であり、使用条件下で有害な副作用又は毒性を有しない担体である。幾つかの実施形態において、担体は、動物又はヒトに投与される場合に、有害反応、アレルギー反応又は他の不適切な反応を生じない。幾つかの態様において、医薬組成物は、発熱性物質及びヒト又は動物に有害である他の不純物を含まない。薬学的に許容される担体は、任意及び全ての溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などを含み、その用途は当該分野で周知である。
【0181】
許容される担体、賦形剤又は安定剤は、受容者に毒性がなく、且つ好ましくは、使用される用量及び濃度で不活性であり、リン酸塩、クエン酸塩又は他の有機酸などの緩衝液、アスコルビン酸などの抗酸化剤、低分子量ペプチド、血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリンなどのタンパク質、ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン又はリジンなどのアミノ酸、単糖、二糖、及びグルコース、マンノース又はデキストリンを含む他の炭水化物、EDTAなどのキレート剤、マンニトール又はソルビトールなどの糖アルコール、ナトリウムなどの塩形成対イオン、及び/又はTween、Pluronics又はポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含む。
【0182】
本願において、「有効量」又は「有効用量」という用語は通常、所望の効果を達成するのに、又は少なくとも部分的に達成するのに十分な量を指す。薬物又は治療剤の「治療有効量」又は「治療有効用量」は通常、単独で又は別の治療剤と組み合わせて使用される場合に、疾患の退行を促進する(疾患症状の重症度の低下、疾患無症候期間の頻度及び持続期間の増加、又は疾患に罹患していることにより引き起こされる損傷若しくは障害の予防によって証明される)薬物の任意の量である。
【0183】
抗GD2 CAR-T細胞の「治療有効量」又は「有効量」は、治療上有益な効果が、CRSなどの抗GD2 CAR-T細胞の任意の毒性又は有害作用を上回る量又は用量でもある。「治療有効量」という用語は、対象(例えば、患者)を「治療する」のに有効な量を含む。一実施形態において、治療有効用量は、対象における多発性骨髄腫を治療するための抗GD2 CAR-T細胞の最小有効用量(MED)である。一実施形態において、治療有効用量は、対象がCRSを治療できない状態にならない、抗GD2 CAR-T細胞の最大許容用量(MTD)である。
【0184】
本願において、「発現のアップレギュレーション」という用語は通常、核酸mRNAレベルの発現の増加又はポリペプチドレベルの発現の増加を指す。当該用語はまた、例えば糖部分の付加、リン酸化など、ポリペプチドの活性及び/又は機能の増加に必要な翻訳後修飾を指すこともある。
【0185】
本願において、「含む」という用語は通常、包含すること、まとめること、含有すること又は網羅の意味を指す。幾つかの場合において、「である」、「……からなる」の意味も表す。
【0186】
本願において、「約」という用語は通常、指定値の0.5%~10%の以上又は以下の範囲内の変化、例えば、指定値の0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、5.5%、6%、6.5%、7%、7.5%、8%、8.5%、9%、9.5%、又は10%の以上又は以下の範囲内の変化を指す。
【0187】
本願において、「対象」という用語は通常、ヒト又は非ヒト動物を意味し、ネコ、イヌ、ウマ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウサギ、マウス、ラット又はサルなどを含むが、これらに限定されない。
【0188】
発明の詳細な説明
免疫エフェクター細胞
一態様によれば、本願は、免疫エフェクター細胞であって、上記免疫エフェクター細胞におけるT細胞抗原受容体(TCR)及び主要組織適合性複合体(MHCI、MHCII)の細胞における機能が阻害され、且つ上記免疫エフェクター細胞にGD2を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)が含まれる、免疫エフェクター細胞を提供する。
【0189】
幾つかの実施形態において、上記VHは、重鎖相補性決定領域1(HCDR1)、重鎖相補性決定領域2(HCDR2)及び重鎖相補性決定領域3(HCDR3)を含み、上記HCDR1は、配列番号1に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例えば、上記HCDR1は配列番号1に示されるアミノ酸配列を含んでもよい。
【0190】
幾つかの実施形態において、上記HCDR2は、配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例えば、上記HCDR2は配列番号2に示されるアミノ酸配列を含んでもよい。
【0191】
幾つかの実施形態において、上記HCDR3は、配列番号3に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例えば、上記HCDR3は配列番号3に示されるアミノ酸配列を含んでもよい。
【0192】
幾つかの実施形態において、上記VHは、配列番号1に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含むHCDR1と、配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含むHCDR2と、配列番号3に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含むHCDR3と、を含む。
【0193】
例えば、上記免疫エフェクター細胞におけるT細胞抗原受容体(TCR)及び主要組織適合性複合体(MHCI、MHCII)の、細胞における機能が阻害され、且つ上記免疫エフェクター細胞は、GD2を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)を含み、上記CARは、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むHCDR2、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列を含むHCDR3を含み得る抗体重鎖可変領域(VH)を含む標的部分を含む。
【0194】
幾つかの実施形態において、上記VHは、重鎖フレームワーク領域1(HFR1)、重鎖フレームワーク領域2(HFR2)、重鎖フレームワーク領域3(HFR3)及び重鎖フレームワーク領域4(HFR4)を含み、上記HFR1は、配列番号4に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0195】
幾つかの実施形態において、上記HFR2は、配列番号5に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0196】
幾つかの実施形態において、上記HFR3は、配列番号6に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0197】
幾つかの実施形態において、上記HFR4は、配列番号7に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0198】
幾つかの実施形態において、上記VHはHFR1、HFR2、HFR3及びHFR4を含み、且つ上記HFR1、HFR2、HFR3及びHFR4は、
配列番号4に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含むHFR1、配列番号5に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含むHFR2、配列番号6に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含むHFR3、配列番号7に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含むHFR4から選ばれる。
【0199】
幾つかの実施形態において、上記VHは、配列番号8に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0200】
例えば、上記免疫エフェクター細胞におけるT細胞抗原受容体(TCR)及び主要組織適合性複合体(MHCI、MHCII)の、細胞における機能が阻害され、且つ上記免疫エフェクター細胞は、GD2を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)を含み、上記CARは、配列番号8に示されるアミノ酸配列を含み得る抗体重鎖可変領域(VH)を含む標的部分を含む。
【0201】
幾つかの実施形態において、上記VLは、軽鎖相補性決定領域1(LCDR1)、軽鎖相補性決定領域2(LCDR2)及び軽鎖相補性決定領域3(LCDR3)を含み、上記LCDR1は、配列番号9に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例えば、上記LCDR1は配列番号9に示されるアミノ酸配列を含んでもよい。
【0202】
幾つかの実施形態において、上記LCDR2は、配列番号10に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例えば、上記LCDR2は配列番号10に示されるアミノ酸配列を含んでもよい。
【0203】
幾つかの実施形態において、上記LCDR3は、配列番号11に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例えば、上記LCDR3は配列番号11に示されるアミノ酸配列を含んでもよい。
【0204】
幾つかの実施形態において、上記VLは、配列番号9に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含むLCDR1と、配列番号10に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含むLCDR2と、配列番号11に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含むLCDR3と、を含む。
【0205】
例えば、上記免疫エフェクター細胞におけるT細胞抗原受容体(TCR)及び主要組織適合性複合体(MHCI、MHCII)の、細胞における機能が阻害され、且つ上記免疫エフェクター細胞は、GD2を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)を含み、上記CARは、配列番号1に示されるアミノ酸配列を含むHCDR1、配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むHCDR2、及び配列番号3に示されるアミノ酸配列を含むHCDR3を含み得るVHと、配列番号9に示されるアミノ酸配列を含むLCDR1、配列番号10に示されるアミノ酸配列を含むLCDR2、及び配列番号11に示されるアミノ酸配列を含むLCDR3を含み得るVLと、を含む標的部分を含む。
【0206】
幾つかの実施形態において、上記VLは、軽鎖フレームワーク領域1(LFR1)、軽鎖フレームワーク領域2(LFR2)、軽鎖フレームワーク領域3(LFR3)及び重鎖フレームワーク領域4(LFR4)を含み、上記LFR1は、配列番号12に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0207】
幾つかの実施形態において、上記LFR2は、配列番号13に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0208】
幾つかの実施形態において、上記LFR3は、配列番号14に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0209】
幾つかの実施形態において、上記LFR4は、配列番号15に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0210】
幾つかの実施形態において、上記VLはLFR1、LFR2、LFR3及びLFR4を含み、且つ上記LFR1、LFR2、LFR3及びLFR4は、
配列番号12に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含むLFR1、配列番号13に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含むLFR2、配列番号14に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含むLFR3、配列番号15に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含むLFR4から選ばれる。
【0211】
幾つかの実施形態において、上記VLは、配列番号16に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0212】
例えば、上記免疫エフェクター細胞におけるT細胞抗原受容体(TCR)及び主要組織適合性複合体(MHCI、MHCII)の、細胞における機能が阻害され、且つ上記免疫エフェクター細胞は、GD2を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)を含み、上記CARは、配列番号8に示されるアミノ酸配列を含むVHと、配列番号16に示されるアミノ酸配列を含むVLと、を含む標的部分を含む。
【0213】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記標的部分は、完全長抗体、Fab、単鎖可変断片(scFv)又は単一ドメイン抗体(VHH)を含む。例えば、上記標的部分はscFvを含む。
【0214】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記標的部分は、VHとVLとの間に位置するリンカーポリペプチドを含む。
【0215】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記リンカーポリペプチドは配列番号17又は配列番号18に示されるアミノ酸配列を含む。
【0216】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記標的部分は、配列番号19又は配列番号20に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0217】
例えば、そのうち、上記標的部分は配列番号19又は配列番号20に示されるアミノ酸配列を含んでもよい。
【0218】
また、例えば、上記免疫エフェクター細胞におけるT細胞抗原受容体(TCR)及び主要組織適合性複合体(MHCI、MHCII)の、細胞における機能が阻害され、且つ上記免疫エフェクター細胞は、GD2を標的とするキメラ抗原受容体(CAR)を含み、上記CARは、配列番号19又は配列番号20に示されるアミノ酸配列を含み得る標的部分を含む。
【0219】
幾つかの実施形態において、上記CARは膜貫通ドメインを含み、上記膜貫通ドメインは、CD8A、CD8B、CD28、CD3ε(CD3e)、4-1BB、CD4、CD27、CD7、PD-1、TRAC、TRBC、CD3ζ、CTLA-4、LAG-3、CD5、ICOS、OX40、NKG2D、2B4(CD244)、FcεRIγ、BTLA、CD30、GITR、HVEM、DAP10、CD2、NKG2C、LIGHT、DAP12、CD40L(CD154)、TIM1、CD226、DR3、CD45、CD80、CD86、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64及びSLAMからなる群より選ばれる1つ又は複数のタンパク質に由来する膜貫通ドメインを含む。
【0220】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記膜貫通ドメインはCD8Aに由来する膜貫通ドメインを含む。例えば、上記膜貫通ドメインは、CD8Aに由来する膜貫通ドメインを含んでもよい。
【0221】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記膜貫通ドメインは、配列番号29~配列番号77の何れか1項に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例えば、上記膜貫通ドメインは配列番号29に示されるアミノ酸配列を含んでもよい。
【0222】
幾つかの実施形態において、上記CARは細胞内共刺激シグナル伝達ドメインを含み、上記細胞内共刺激シグナル伝達ドメインは、CD28、4-1BB(CD137)、CD27、CD2、CD7、CD8A、CD8B、OX40、CD226、DR3、SLAM、CDS、ICAM-1、NKG2D、NKG2C、B7-H3、2B4、FcεRIγ、BTLA、GITR、HVEM、DAP10、DAP12、CD30、CD40、CD40L、TIM1、PD-1、LFA-1、LIGHT、JAML、CD244、CD100、ICOS、CD40及びMyD88からなる群より選ばれる1つ又は複数のタンパク質に由来する細胞内共刺激シグナル伝達ドメインを含む。
【0223】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記細胞内共刺激シグナル伝達ドメインは4-1BBに由来する共刺激シグナル伝達ドメインである。
【0224】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記細胞内共刺激シグナル伝達ドメインは、配列番号78~配列番号110の何れか1項に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例えば、細胞内共刺激シグナル伝達ドメインは、配列番号79に示されるアミノ酸配列を含んでもよい。
【0225】
幾つかの実施形態において、上記CARは細胞内シグナル伝達ドメインを含み、上記細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζ、CD3δ、CD3γ、CD3ε、CD79a、CD79b、FceRIγ、FceRIβ、FcγRIIa、ウシ白血病ウイルスgp30、Epstein-Barrウイルス(EBV)LMP2A、サル免疫不全ウイルスPBj14 Nef、DAP10、DAP-12及び少なくとも1つのITAMを含むドメインからなる群より選ばれる1つ又は複数のタンパク質に由来する細胞内シグナル伝達ドメインを含む。
【0226】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記細胞内シグナル伝達ドメインはCD3ζに由来するシグナル伝達ドメインを含む。
【0227】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記細胞内シグナル伝達ドメインは、配列番号94、配列番号98、配列番号99、配列番号111~配列番号121の何れか1項に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例えば、上記細胞内シグナル伝達ドメインは、配列番号111に示されるアミノ酸配列を含んでもよい。
【0228】
幾つかの実施形態において、上記CARは標的部分と膜貫通ドメインとの間にヒンジ領域を含み、上記ヒンジ領域は、CD28、IgG1、IgG4、IgD、4-1BB、CD4、CD27、CD7、CD8A、PD-1、ICOS、OX40、NKG2D、NKG2C、FcεRIγ、BTLA、GITR、DAP10、TIM1、SLAM、CD30及びLIGHTからなる群より選ばれる1つ又は複数のタンパク質に由来するヒンジ領域を含む。
【0229】
幾つかの実施形態において、上記ヒンジ領域はCD8Aに由来するヒンジ領域を含む。
【0230】
幾つかの実施形態において、上記ヒンジ領域は、配列番号122~配列番号143の何れか1項に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例えば、ヒンジ領域は、配列番号130に示されるアミノ酸配列を含んでもよい。
【0231】
幾つかの実施形態において、上記キメラ抗原受容体の非標的部分は、CD8A分子膜貫通ドメイン、CD8Aのヒンジ領域、4-1BBの細胞内共刺激シグナル伝達ドメイン及びCD3ζ細胞内シグナル伝達ドメインを含む。
【0232】
幾つかの実施形態において、上記キメラ抗原受容体の非標的部分は、配列番号21に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例えば、上記キメラ抗原受容体の非標的部分は、配列番号21に示されるアミノ酸配列を含んでもよい。
【0233】
幾つかの実施形態において、C末端が上記標的部分のN末端に連結するシグナルペプチド断片を更に含む。例えば、上記キメラ抗原受容体は、シグナルペプチド、抗GD2 scFv、CD8Aヒンジドメイン、CD8A膜貫通ドメイン、4-1BB共刺激ドメイン及びCD3ζメインシグナル伝達ドメインを含むCARを含んでもよい。
【0234】
幾つかの実施形態において、上記シグナルペプチド断片はCD8Aシグナルペプチド断片を含む。
【0235】
幾つかの実施形態において、上記シグナルペプチド断片は、配列番号22に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例えば、上記シグナルペプチド断片は配列番号22に示されるアミノ酸配列を含んでもよい。
【0236】
幾つかの実施形態において、上記キメラ抗原受容体は、配列番号23に示されるアミノ酸配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例えば、上記キメラ抗原受容体は、配列番号23に示されるアミノ酸配列を含んでもよい。
【0237】
幾つかの実施形態において、上記免疫エフェクター細胞はヒト細胞を含む。
【0238】
幾つかの実施形態において、上記免疫エフェクター細胞は、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、マクロファージ、NKT細胞、単核細胞、樹状細胞、顆粒球、リンパ球、白血球及び/又は末梢血単核細胞を含む。例えば、上記免疫エフェクター細胞は、ヒトT細胞などのT細胞であってもよい。
【0239】
幾つかの実施形態において、上記免疫エフェクター細胞は、自己又は非自己の免疫エフェクター細胞を含む。例えば、上記免疫エフェクター細胞は、非自己のヒトT細胞であってもよい。
【0240】
幾つかの実施形態において、上記免疫エフェクター細胞は、修飾された免疫エフェクター細胞を含み、上記修飾は、免疫拒絶に関連する1つ又は複数の遺伝子の発現及び/又は活性のダウンレギュレーションを含む。
【0241】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記免疫拒絶に関連する遺伝子は、TRAC、TRBC、HLA-A、HLA-B、B2M及びCIITAからなる群より選ばれる1つ又は複数の遺伝子である。
【0242】
幾つかの実施形態において、上記修飾された免疫エフェクター細胞は修飾されていない対応する細胞と比較して、TRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされる。
【0243】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾された免疫エフェクター細胞は上記修飾されていない対応する細胞と比較して、CIITA遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされていない。
【0244】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾された免疫エフェクター細胞は上記修飾されていない対応する細胞と比較して、B2M遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされていない。
【0245】
例えば、上記修飾された免疫エフェクター細胞は上記修飾されていない対応する細胞と比較して、TRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされてもよく、CIITA遺伝子及びB2M遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされなくてもよい。
【0246】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾された免疫エフェクター細胞は対応する野生型細胞と比較して、TRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされる。
【0247】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾された免疫エフェクター細胞は対応する野生型細胞と比較して、B2M遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされていない。
【0248】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾された免疫エフェクター細胞は対応する野生型細胞と比較して、CIITA遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされていない。
【0249】
例えば、上記修飾された免疫エフェクター細胞は対応する野生型細胞と比較して、TRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされてもよく、CIITA遺伝子及びB2M遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされなくてもよい。
【0250】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記遺伝子の発現レベル及び/又は活性のダウンレギュレーションは、上記遺伝子をコードする核酸分子の発現及び/又は活性のダウンレギュレーション、及び/又は、上記遺伝子によってコードされるタンパク質産物の発現及び/又は活性のダウンレギュレーションを含む。
【0251】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾は、遺伝子ノックアウト、遺伝子変異及び/又は遺伝子サイレンシングを含む。
【0252】
幾つかの実施形態において、上記修飾は、上記免疫エフェクター細胞における2つのTRAC対立遺伝子のうちの何れか1つがノックアウトされると共に、2つのHLA-A対立遺伝子のうちの何れか1つがノックアウトされることを含む。
【0253】
幾つかの実施形態において、上記修飾は、上記免疫細胞における2つのTRAC対立遺伝子がノックアウトされると共に、2つのHLA-A対立遺伝子のうちの何れか1つがノックアウトされることを含む。
【0254】
幾つかの実施形態において、上記修飾は、上記免疫細胞におけるTRAC遺伝子エクソンがノックアウトされると共に、HLA-A遺伝子エクソンがノックアウトされることを含む。
【0255】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾は、アンチセンスRNA、siRNA、shRNA及びCRISPR/Cas9システムからなる群より選ばれる1つ又は複数の物質を上記免疫エフェクター細胞に投与することを含む。
【0256】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾はCRISPR/Cas9システムを上記免疫エフェクター細胞に投与することを含む。
【0257】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾は、上記TRAC遺伝子エクソン部分を標的とするsgRNAを上記免疫エフェクター細胞に投与することを更に含む。
【0258】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記TRAC遺伝子エクソン部分を標的とする上記sgRNAは、配列番号144~配列番号158の何れか1項に示されるヌクレオチド配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0259】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾は、上記HLA-A遺伝子エクソン部分を標的とするsgRNAを上記免疫エフェクター細胞に投与することを含む。
【0260】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記HLA-A遺伝子エクソン部分を標的とする上記sgRNAは、配列番号159~配列番号199の何れか1項に示されるヌクレオチド配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0261】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾は、Cas酵素を上記細胞に投与することを更に含む。
【0262】
幾つかの実施形態において、そのうち、Cas酵素はCas9タンパク質を含む。
【0263】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記アンチセンスRNAは、配列番号200~配列番号203の何れか1項に示されるヌクレオチド配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0264】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記免疫エフェクター細胞はHLA-Bホモ接合体細胞である。
【0265】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記HLA-Bホモ接合体は、HLA-B*40ホモ接合体、HLA-B*15ホモ接合体、HLA-B*46ホモ接合体、HLA-B*13ホモ接合体、HLA-B*51ホモ接合体、HLA-B*58ホモ接合体、HLA-B*07ホモ接合体、HLA-B*35ホモ接合体、HLA-B*44ホモ接合体、HLA-B*52ホモ接合体、HLA-B*57ホモ接合体、HLA-B*54ホモ接合体、HLA-B*55ホモ接合体を含む。
【0266】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記免疫エフェクター細胞はHLA-Aホモ接合体又はヘテロ接合体細胞である。
【0267】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記HLA-Aホモ接合体又はヘテロ接合体は、HLA-A*02ホモ接合体、HLA-A*11ホモ接合体、HLA-A*02/A*11ヘテロ接合体又はHLA-A*24ホモ接合体を含む。
【0268】
例えば、上記免疫エフェクター細胞はヒトT細胞であってもよく、且つ上記ヒトT細胞はHLA-Bホモ接合体細胞であってもよい。
【0269】
免疫エフェクター細胞の製造方法
別の態様によれば、本願は、上記免疫エフェクター細胞の製造方法であって、上記GD2を標的とするCARをコードするポリヌクレオチド配列又は上記GD2を標的とするCARをコードするポリヌクレオチド配列を含むベクターを、免疫エフェクター細胞に導入する前/後、上記免疫エフェクター細胞を修飾することを含み、上記修飾は、免疫拒絶に関連する1つ又は複数の遺伝子の発現及び/又は活性のダウンレギュレーションを含む、方法を提供する。
【0270】
例えば、上記免疫エフェクター細胞を製造する方法は、
(1)上記核酸分子又は上記ベクターを免疫エフェクター細胞に導入することと、
(2)上記免疫エフェクター細胞を修飾することと、を含んでもよく、上記修飾は免疫拒絶に関連する1つ又は複数の遺伝子の発現及び/又は活性のダウンレギュレーションを含む。
【0271】
例えば、上記免疫エフェクター細胞を製造する方法は、
(1)健常者の末梢血を採取し、PBMC単離を行い、比率に従ってCD3磁気ビーズを加えてインキュベートし、CD3+T細胞の選別を行い、CD3/CD28抗体結合磁気ビーズを均一に混合し、適切な量の磁気ビーズ懸濁液を計算量でT細胞培養系に添加し、T細胞を活性化し、一晩培養することと、
(2)GD2 CARウイルスの力価に従ってT細胞を感染させることと、
(3)TRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子を同時にノックアウトすることと、
(4)比率に従ってCD3磁気ビーズを加え、CD3-T細胞(磁気ビーズに結合していない細胞)を回収するように、CD3陰性T細胞を選別することと、を含んでもよい。
【0272】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記ベクターは発現ベクターである。
【0273】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記ベクターは、DNAベクター、RNAベクター、プラスミド、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター及びレトロウイルスベクターから選ばれる。
【0274】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記ベクターはEF-1αプロモーターを更に含む。
【0275】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記ベクターは、カルジオイド肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を更に含む。
【0276】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記免疫拒絶に関連する遺伝子は、TRAC、TRBC、HLA-A、HLA-B、B2M及びCIITAからなる群より選ばれる1つ又は複数の遺伝子である。例えば、上記免疫拒絶関連遺伝子は、TRAC及び/又はHLA-Aを含んでもよい。
【0277】
幾つかの実施形態において、上記修飾されていない対応する細胞における対応する遺伝子の発現及び/又は活性と比較して、上記免疫エフェクター細胞におけるTRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされる。
【0278】
幾つかの実施形態において、上記修飾されていない対応する細胞における対応する遺伝子の発現及び/又は活性と比較して、CIITA遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされていない。
【0279】
幾つかの実施形態において、上記修飾されていない対応する細胞における対応する遺伝子の発現及び/又は活性と比較して、B2M遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされていない。
【0280】
例えば、上記修飾された免疫エフェクター細胞は上記修飾されていない対応する細胞と比較して、TRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされてもよく、CIITA遺伝子及びB2M遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされなくてもよい。
【0281】
幾つかの実施形態において、対応する野生型細胞と比較して、上記免疫エフェクター細胞のTRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされる。
【0282】
幾つかの実施形態において、対応する野生型細胞と比較して、CIITA遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされていない。
【0283】
幾つかの実施形態において、対応する野生型細胞と比較して、B2M遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされていない。
【0284】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記遺伝子の発現レベル及び/又は活性のダウンレギュレーションは、上記遺伝子をコードする核酸分子の発現及び/又は活性のダウンレギュレーション、及び/又は、上記遺伝子によってコードされるタンパク質産物の発現及び/又は活性のダウンレギュレーションを含む。
【0285】
例えば、上記修飾された免疫エフェクター細胞は対応する野生型細胞と比較して、TRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされてもよく、CIITA遺伝子及びB2M遺伝子の発現及び/又は活性はダウンレギュレーションされなくてもよい。
【0286】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾は、遺伝子ノックアウト、遺伝子変異及び/又は遺伝子サイレンシングを含む。
【0287】
幾つかの実施形態において、上記修飾は、上記免疫エフェクター細胞における2つのTRAC対立遺伝子のうちの何れか1つがノックアウトされると共に、2つのHLA-A対立遺伝子のうちの何れか1つがノックアウトされることを含む。
【0288】
幾つかの実施形態において、上記修飾は、上記免疫細胞における2つのTRAC対立遺伝子がノックアウトされると共に、2つのHLA-A対立遺伝子のうちの何れか1つがノックアウトされることを含む。
【0289】
幾つかの実施形態において、上記修飾は、上記免疫細胞におけるTRAC遺伝子エクソンがノックアウトされると共に、HLA-A遺伝子エクソンがノックアウトされることを含む。
【0290】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾は、アンチセンスRNA、siRNA、shRNA及びCRISPR/Cas9システムからなる群より選ばれる1つ又は複数の物質を上記免疫エフェクター細胞に投与することを含む。
【0291】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾はCRISPR/Cas9システムを上記免疫エフェクター細胞に投与することを含む。
【0292】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾は、上記TRAC遺伝子エクソン部分を標的とするsgRNAを上記免疫エフェクター細胞に投与することを含む。
【0293】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記TRAC遺伝子エクソン部分を標的とする上記sgRNAは、配列番号144~配列番号158の何れか1項に示されるヌクレオチド配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0294】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾は、上記HLA-A遺伝子エクソン部分を標的とするsgRNAを上記免疫エフェクター細胞に投与することを含む。
【0295】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記HLA-A遺伝子エクソン部分を標的とする上記sgRNAは、配列番号159~配列番号199の何れか1項に示されるヌクレオチド配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0296】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記修飾は、Cas酵素を上記細胞に投与することを更に含む。
【0297】
幾つかの実施形態において、そのうち、Cas酵素はCas9タンパク質を含む。
【0298】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記アンチセンスRNAは、配列番号200~配列番号203の何れか1項に示されるヌクレオチド配列と少なくとも約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、約99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0299】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記免疫エフェクター細胞はヒト細胞を含む。
【0300】
幾つかの実施形態において、上記免疫エフェクター細胞は、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、マクロファージ、NKT細胞、単核細胞、樹状細胞、顆粒球、リンパ球、白血球及び/又は末梢血単核細胞を含む。例えば、上記免疫エフェクター細胞は、ヒトT細胞などのT細胞であってもよい。
【0301】
幾つかの実施形態において、上記免疫エフェクター細胞は、自己又は非自己の免疫エフェクター細胞を含む。
【0302】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記細胞はHLA-Bホモ接合体細胞である。例えば、上記免疫エフェクター細胞はヒト細胞であってもよく、且つ上記ヒト細胞はHLA-Bホモ接合体細胞であってもよい。また、例えば、上記免疫エフェクター細胞はヒトT細胞であってもよく、且つ上記ヒト細胞は、HLA-Bホモ接合体細胞であってもよい。
【0303】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記HLA-Bホモ接合体は、HLA-B*40ホモ接合体、HLA-B*15ホモ接合体、HLA-B*46ホモ接合体、HLA-B*13ホモ接合体、HLA-B*51ホモ接合体、HLA-B*58ホモ接合体、HLA-B*07ホモ接合体、HLA-B*35ホモ接合体、HLA-B*44ホモ接合体、HLA-B*52ホモ接合体、HLA-B*57ホモ接合体、HLA-B*54ホモ接合体、HLA-B*55ホモ接合体を含む。
【0304】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記細胞はHLA-Aホモ接合体又はヘテロ接合体細胞である。
【0305】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記HLA-Aホモ接合体又はヘテロ接合体は、HLA-A*02ホモ接合体、HLA-A*11ホモ接合体、HLA-A*02/A*11ヘテロ接合体又はHLA-A*24ホモ接合体を含む。
用途、医薬組成物、治療方法
【0306】
別の態様によれば、本願は、CAR-T細胞の製造における、上記免疫エフェクター細胞の使用を提供する。
【0307】
別の態様によれば、本願は、上記免疫エフェクター細胞、及び任意選択で薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0308】
別の態様によれば、本願は、GD2の発現に関連する疾患又は病状を治療するための、上記免疫エフェクター細胞及び/又は上記医薬組成物を提供する。
【0309】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記GD2の発現に関連する疾患又は病状は、GD2の発現アップレギュレーションに関連する疾患又は病状を含む。
【0310】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記GD2の発現に関連する疾患又は病状はがんを含む。
【0311】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記がんはGD2陽性腫瘍を含む。
【0312】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記がんは、神経芽腫、黒色腫、網膜芽腫、小細胞肺がん、ユーイング肉腫、髄芽腫、軟部組織肉腫、骨肉腫又は神経膠腫を含む。
【0313】
別の態様によれば、本願は、上記免疫エフェクター細胞及び/又は上記医薬組成物のGD2の発現に関連する疾患又は病状の治療用の医薬の製造における使用を提供する。
【0314】
幾つかの実施形態において、上記GD2の発現に関連する疾患又は病状は、GD2の発現アップレギュレーションに関連する疾患又は病状を含む。
【0315】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記GD2の発現に関連する疾患又は病状はがんを含む。
【0316】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記がんはGD2陽性腫瘍を含む。
【0317】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記がんは、神経芽腫、黒色腫、網膜芽腫、小細胞肺がん、ユーイング肉腫、髄芽腫、軟部組織肉腫、骨肉腫又は神経膠腫を含む。
【0318】
別の態様によれば、本願は、GD2の発現に関連する疾患又は病状を予防又は治療する方法であって、有効量の上記免疫エフェクター細胞及び/又は上記医薬組成物をそれを必要とする対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0319】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記GD2の発現に関連する疾患又は病状は、GD2の発現アップレギュレーションに関連する疾患又は病状を含む。
【0320】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記GD2の発現に関連する疾患又は病状はがんを含む。
【0321】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記がんはGD2陽性腫瘍を含む。
【0322】
幾つかの実施形態において、そのうち、上記がんは、神経芽腫、黒色腫、網膜芽腫、小細胞肺がん、ユーイング肉腫、髄芽腫、軟部組織肉腫、骨肉腫又は神経膠腫を含む。
【0323】
何れの理論にも限定されることなく、以下の実施例は、本願に係るキメラ抗原受容体、免疫エフェクター細胞、製造方法及び用途などを解釈するためのものに過ぎず、本願の発明の範囲を限定するものではない。
実施例
実施例1
【0324】
1.1 抗GD2キメラ抗原受容体(CAR)の設計
抗GD2 CAR VLVH(マウス由来)構造は、GD2抗原結合領域(抗GD2モノクローナル抗体Scfvに由来する)、CD8A細胞外ヒンジ領域、CD8A膜貫通領域、4-1BB細胞内共刺激ドメイン及びCD3ζ活性化シグナルドメインを含み、そのDNA配列は配列番号28に示され、アミノ酸配列は配列番号23に示される。
【0325】
1.2 GD2 CARのレンチウイルスベクターの構築
GD2配列情報及びCARベクター構造に従って、GD2 CARレンチウイルス発現ベクターを構築した(ベクターの模式図は
図1を参照)。最適化は、市販のレンチウイルス発現ベクターpCDH-CMV-MCS-EF1-copGFPを骨格として選択し、このベクターに基づいて要素を改造した。まず、ベクターにカナマイシン耐性を持たせるように、ベクターのアンピシリン耐性遺伝子であるβ-ラクタマーゼをTn5由来のアミノグリコシドホスホトランスフェラーゼで置換した。次に、体内での適用において潜在的脅威を有するCMVプロモーター及びその隣接する下流のポリクローナル部位を削除した。最後に、プロトベクターからEF1プロモーターにより発現を開始したcopGFP遺伝子を削除し、SalI切断部位を保持し、且つSalI 5’末端にベクター構築用SmaI切断部位を付加して目的とする最終ベクターを形成した。添加したSmaI切断部位は、目的とする最終ベクターの単一切断部位であり、ベクターの他の配列部分は、当該切断部位を有しなかった。キメラ抗原受容体レンチウイルス発現ベクターを最適化した後に構築し、sangerシークエンシングにより配列が誤らないことを確認した後、レンチウイルスパッケージングを行った。
【0326】
1.3 ガイドRNAの設計
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/というウェブサイトを通して、対応する遺伝子配列を検索してダウンロードし、SnapGeneソフトウェアを用いて遺伝子配列を開くことによって、目的遺伝子の異なるエクソン上にsgRNAを設計することができた。本実施例で使用されるCRISPR/Cas9システムのsgRNA非限定的な設計原理は、5’-NNN(20)-NGG-3’であり、NGGはプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)と呼ばれ、そのうち、NはA、T、C又はGを表した。sgRNAは同じエキソン上により多く設計され、且つ20ヌクレオチド配列からなるsgRNAがゲノム内で繰り返し出現する可能性があるので、http://crispr.cos.uni-heidelberg.deというウェブサイトを用いてsgRNAを設計して評価し、そのウェブサイトにエキソン配列を貼り付け、ウェブサイトでsgRNAを設計し、予測して評価し、評価のスコアが高いほど編集効率が高く、オフターゲットリスクが低い可能性があることを示し、より高いスコアのsgRNAを選択して試験した。TRAC遺伝子を標的とするsgRNAは、配列番号144~配列番号158に示され、HLA-A02遺伝子を標的とするsgRNAは、配列番号159~配列番号180に示され、HLA-A11遺伝子を標的とするsgRNAは、配列番号181~配列番号191に示され、HLA-A24遺伝子を標的とするsgRNAは、配列番号192~配列番号199に示され、ジェンスクリプトバイオテクノロジー社により合成された。
実施例2
【0327】
2.1 ドナーのスクリーニング
レシピエントのHLA-B型決定に基づいて、レシピエントのHLA-B型決定とマッチするHLA-Bホモ接合体を選択した。
【0328】
まず、ドナーの供給源は集団内のHLA-Bホモ接合体に基づき、患者のHLA-Bの1つの対立遺伝子はドナーのHLA-Bホモ接合体と一致し、これらのドナー由来の細胞は、多数の患者集団をカバーすることができた。HLA-Bアイソフォームの不一致による拒絶反応が低減された。HLA-Bは主に、集団における頻度の高いB*40ホモ接合体、B*15ホモ接合体、B*46ホモ接合体、B*13ホモ接合体、B*51ホモ接合体、B*58ホモ接合体、B*07ホモ接合体、B*35ホモ接合体、B*44ホモ接合体、B*52ホモ接合体、B*57ホモ接合体、B*54ホモ接合体、B*55ホモ接合体が選択された。HLA-Aは、集団における頻度の比較的高いA*02ホモ接合体、A*11ホモ接合体及びA*02/A11ヘテロ接合体が選択された。
【0329】
2.2 CD3+T細胞の製造
(1)末梢血からのPBMCの分離
健常ドナーから末梢血を採取し、PBS緩衝液で1:1に末梢血を希釈した。新しい50 mLの遠心分離管に、まず希釈された血液量1/3の細胞分離液(Ficoll)を加え、次に血球希釈液を管壁に沿って非常にゆっくりと加え、800 gで常温で20 min遠心分離した(遠心分離機は、上昇速度を1、下降速度を0に設定した)。遠心分離後の遠心分離管内の液体は上から下へ、PBSと血清層、白血球層、リンパ球分離液、赤血球層に分けられた。PBS及び血清層を除去し、白血球層を新しい50 mLの遠心分離管に移し、PBSを40 mLになるまで加えて細胞を洗浄し、450 gで10 min遠心分離した。遠心分離後に上清を捨てると、末梢血単核細胞が得られた。細胞を再懸濁した後に細胞をカウントした。
【0330】
(2)凍結保存された健常者PBMCの蘇生
凍結保存された健常者PBMC細胞を37℃の水浴釜で蘇生させ、完全に融解した後に10%のFBSを含むX-VIVO15培地(LONZAから購入)10 mLを含有する15 mLの遠心分離管に細胞を吸引し、400 gで8 min遠心分離し、上清を除去し、X-VIVO15培地(10%のFBS及び最終濃度100 μg/mLのDNase Iを含む)2 mLを添加し、室温で15 minインキュベートし、インキュベートプロセスにおいて振とうを続け、インキュベート終了後の溶液を40 μmのフィルターでろ過し、PBS緩衝液10 mLを吸い取って底の細胞を再懸濁して再びフィルターに加え、ろ過後に400 gで8 min遠心分離し、遠心分離後に上清を捨て、細胞を再懸濁した後に細胞をカウントした。
【0331】
(3)CD3+T細胞の選別
EasySep(登録商標)ヒトT細胞選別試薬キット(StemCell Technologies社から購入、カタログ番号は17951)を用いて、末梢血単一核細胞(PBMC)中のT細胞を抽出した。PBMC密度を5×107細胞/mLに調整し、PBS緩衝液を0.25 mL~2 mLの範囲で添加し、まずcocktailを加えて均一に混合し、次に50 μL/mLでisolation cocktailを加え、均一に混合した後に室温で5 min放置し、ボルテックスシェーカーでRapidSpheresを30 sボルテックスした後、細胞に40 μL/mLで加えて均一に混合し、2.5 mLの倍数まで緩衝液を追加し、上下に2~3回軽く吹き飛ばし、各チューブ2.5 mLで冷凍保存管にそれぞれ加え、該冷凍保存管を磁気ホルダーに設置し、室温で3 min放置し、冷凍保存蓋を軽く開き、磁石ホルダーを両端で注意深く持ち、逆転して2 s~3 s保持し、細胞液を新しい遠心分離管に一度に注入し、10 mL~20 mLの緩衝液で(細胞量に応じた)細胞を再懸濁した後、300 gで10 min遠心分離し、上清を捨て、CD3+T細胞が得られた。
【0332】
(4)T細胞の活性化
活性化試薬は、体積比が培地:Transact=99:1で設定され、培地はX-VIVO15培地(5%のFBS、200 U/mLのIL2、10 ng/mLのIl7及び5 ng/mL IL15を含む)であり、Transactはミルテニーから購入した。T細胞を1×106細胞当たり1 mLの活性化試薬(10 μLのTransactを含有する)で十分に再懸濁した後、37℃、5%のCO2インキュベーターに置いて1日間インキュベートした。
実施例3
【0333】
3.1 ウイルスのトランスフェクション
実施例2の方法でCD3+T細胞(D0日)を得て、且つCD3/CD28抗体磁気ビーズで活性化し、活性化後、D1日にレンチウイルスベクター(実施例1で製造したGD2 CARレンチウイルス発現ベクター)をトランスフェクトし、D2日にレンチウイルスベクターを洗い流し、D3日にエレクトロトランスフェクトした。
【0334】
3.2 遺伝子ノックアウト
エレクトロトランスフェクション試薬キット(LONZA社から購入、カタログ番号はV4XXP-3024)を用いてエレクトロトランスフェクションによって、RNP複合体を、3.1で製造した活性化後T細胞(D3日のCAR-T細胞をナイーブ細胞として採取した)にトランスフェクトした。サンプリング及びカウント後、細胞を収集して遠心分離し、細胞沈殿物をPBSで再懸濁した。30 min前にウェルプレート内で培地(X-VIVO15培地+10%のFBS+IL2(200 U/mL)+IL7(10 ng/mL)+IL15(5 ng/mL))を予熱した。エレクトロトランスフェクション緩衝液の準備:Nucleofector Solution:Supplementを82:18で製造し、各エレクトロトランスフェクションシステムに応じて1×107の細胞を用いてRNP複合体(Cas9:sgRNA=2:1)を配分し、まず10 μgのsgRNAをPCRチューブ(RNase無し)に加え、更に20 μgのCas9タンパク質(thermoから購入、カタログ番号はA36499)を加え、均一に軽く混合した後、室温で12 minインキュベートした。上記細胞をカウントし、300 gで8 min遠心分離して上清を捨て、PBSを加えて細胞を再懸濁し、1E7個の細胞を吸引して300 gで8 min再度遠心分離し、上清を捨てた後、100 μLの製造されたエレクトロトランスフェクション緩衝液で細胞を再懸濁した。上記細胞懸濁液に、インキュベートしたRNP複合体を加え、均一に軽く混合し、次に混合物を電気回転カップに静かに移した。電気回転カップをLonza-4D電気回転計に置き、EO-115電気回転プログラムを用いてエレクトロトランスフェクションさせた。予熱した培地を電気回転カップに加え、次にセットのピペットを用いて細胞をウェルプレート内の予熱した培地に移し、次いで37℃、5%のCO2のインキュベーターに48時間置いた後に細胞を収集し、sangerシークエンシングにより編集効率を検出し、同時に細胞を収集してノックアウト効率を検出した。
【0335】
そのうち、sgRNA配列は、TRAC sgRNA:AGAGTCTCTCAGCTGGTACA(配列番号144)、A02 sgRNA:CTGACCATGAAGCCACCCTG(配列番号161)、A11 sgRNA:GGCCCCTCCTGCTCTATCCA(配列番号191)であった。
【0336】
3.3 CD3陰性T細胞の選別
CD3陰性T細胞の選別を行い、細胞をカウントした後に遠心分離し、上清を捨て、細胞をbufferで再懸濁して均一に混合し、CD3磁気ビーズ/107の細胞20 μLにCD3磁気ビーズを加え、均一に混合した後に4℃の冷蔵庫でインキュベートし、bufferを加えて細胞を洗浄して遠心分離した後に磁気ビーズを分離し、まずcolumnを磁極に置き、次に対応する遠心分離管を置き、bufferでcolumn(LD)を浸潤し、泡が生じないように細胞をcolumnに加え、bufferでcolumnを2回洗浄し、洗浄後の液体(CD3-T)を15 mLの遠心分離管に収集し、細胞の一部を取って細胞をカウントした。
【0337】
3.4 細胞の培養
顕微鏡下で細胞の状態を観察し、細胞を希釈してカウントし、完全培地を補充して細胞密度を3×105個/mL~1×106個/mLに維持し、中間液を補充/交換し、37℃、5%のCO2で培養した。細胞の収集:遠心分離管に収集して遠心分離した後に上清を捨て、生理食塩水で細胞を再度洗浄し、遠心分離して凍結保存液を製造し、遠心分離後の細胞を凍結保存液に再懸濁し、注射器で最終製品用細胞凍結保存バッグに細胞懸濁液を吸引し、細胞凍結保存バッグにラベルを貼付し、次の凍結保存を行った。
【0338】
3.5 遺伝子ノックアウト効率の検出
(1)Sangerシークエンシングの検出
細胞をカウントし、3×104~5×104の細胞を採取し、2000 r/minで5 min遠心分離し、できる限り上清を除去し、次に各チューブに20 μLのDE溶解液を加え、細胞溶解後にPCRチューブに加え、一過性遠心分離後にPCR装置にセットし、マシン設定条件:65℃で30 min、4℃で30 s、95℃で2 min、16℃で無限であった。プライマー対TRAC-For/TRAC-Rev又はHLA-A For/HLA-A Revを用いて、溶解生成物をテンプレートとしてPCRを行い、PCR生成物をGENEWIZに送ってSangerシークエンシングを行った。sangerシークエンシングの結果を得た後、https://moriaritylab.shinyapps.io/editr_v10/というウェブサイトのEditRエディタを用いて、編集が起こる位置及び編集効率を予測した。
【0339】
(2)フローサイトメトリーによる細胞カウント
10E5~10E8細胞を採取し、2000 rpmで5 min遠心分離し、上清を捨て、次に各チューブに100 μLのPBS緩衝液を加えて細胞を再懸濁し、更にanti-human AB TCR-APC(eBioscienceから購入)抗体5 μL、HLA-A02 Monoclonal Antibody(BB7.2)、APC、eBioscince(登録商標)(invitrogenから購入)抗体5 μLを添加し、均一に混合した後に室温で10 minインキュベートした。2000 rpmで5 min遠心分離した後、更にPBS緩衝液で2回洗浄し、細胞を再懸濁してBD FACSAriaフローサイトメーターにより測定したところ、細胞表面TCR、HLA-A02発現陽性率が得られた。ノックアウト効率=(A-B)/A×100%、Aは対照群の発現陽性率であり、Bはノックアウト群の発現陽性率であった。
【0340】
結果は、
図3A~3Dに示すように、anti-GD2 UCAR-T細胞CAR陽性率は60%以上(
図3A)、anti-GD2 UCAR-T細胞中心記憶比率は45%程度(
図3B)、anti-GD2 UCAR-T細胞ダブルノックアウト効率は95%以上(
図3C)、平均増殖倍数150X以上(
図3D)に達した。
実施例4 抗GD2 UCAR-T細胞の体外細胞毒性分析
【0341】
4.1 抗GD2 UCAR-T細胞の標的細胞に対する殺傷
(1)GD2標的細胞:IMR-32-Luciferase-GFPであり、標的細胞状態を対数増殖期に調整するために、実験を行う前に2回連続して継代する。
【0342】
(2)抗GD2 UCAR-T細胞及び対照群抗GD2 CAR-T、T細胞を製造し、ノックアウト効率、トランスフェクション効率、CD3-T選別効率及び記憶T細胞の比率をフローサイトメトリーにより検出し、増殖倍数を統計した。
【0343】
(3)製造した細胞の群を各群6×106細胞で遠心分離により収集した。
【0344】
(4)標的細胞を1640+10%のFBSに再懸濁し、各標的部位に24ウェルプレート3枚を採取し、標的細胞を2×105/ウェルの量で接種した。(標的細胞及びエフェクター細胞の両方が、2×106/mLの密度で接種した)。次にE/T比(エフェクター標的比、エフェクター細胞:標的細胞)でエフェクター細胞を添加した。各ウェルに最大体積(例えば600 μL)まで液体を補充した。対照は、エフェクター細胞(600 μL)を添加せず、同じ数の標的細胞を接種した。ウェルプレートを5%のCO2、37℃のインキュベーターに入れ、24時間培養した。E/T:1:2、1:1、2:1、5:1、10:1で3回繰り返し播種した。
【0345】
(5)24時間培養し、ウェルプレートをインキュベーターから取り出し、上清200 μLを収集した。次にLuciferase活性の検出によって標的細胞に対する組換えCAR-T細胞の溶解能を反映した。
【0346】
標的細胞溶解パーセントの計算式:
【数1】
結果分析:anti-GD2 UCAR-TはIMR-32-LG細胞に対して顕著な殺傷作用を有し、エフェクター標的比が2:1の場合には殺傷効率が95%以上に達することができる。(
図4を参照)。
【0347】
4.2 抗GD2 UCAR-T細胞と標的細胞の共培養によるサイトカイン分泌の検出
上記共培養系の上清を収集し、サイトカイン分泌レベルを検出した。結果分析(
図5A~5C):GD2 UCAR-Tが顕著に活性化し、IL-2、IFN-γ及びTNF-αサイトカインを大量に分泌した。
実施例5 抗GD2 UCAR-T細胞の体内抗腫瘍効果
【0348】
8~10週齢のNSGマウスに腫瘍細胞IMR-32-Luciferase-GFP (1×106~1×107)を静脈内注射し、マウスを各5匹ずつの3つの群に分けた。腫瘍が正常に確立された後の7日目に、抗GD2 UCAR-T細胞、抗GD2 CAR-T細胞、ノックアウト無しのT細胞をそれぞれ5×106ずつマウス腫瘍内に注入し、ルシフェラーゼによりマウス腫瘍退縮をモニターした。
【0349】
結果分析(
図6):anti-GD2 UCAR-T細胞を輸送したマウスは腫瘍成長速度が明らかに遅くなり、anti-GD2 UCAR-T細胞は優れた抗腫瘍効果を示した。
実施例6 抗UCAR-T細胞の体内半減期の検出
【0350】
ヒト化免疫系マウス(hHSC-NCG)15匹を準備し、3群に分けた。実験群を抗GD2 UCAR-T細胞(TRAC+HLA-A02ノックアウト)とし、対照群1を抗GD2 CAR-Tとし、対照群2を抗GD2 UCAR-T細胞(TRAC+B2Mノックアウト)とするように細胞を製造し、各マウスに1×107細胞を注射し、様々な時点D0、2 h、D3、D7、D14、D21、D28、D35、D42、D49、D56、D60で採血した。様々な時点での血液サンプルからゲノムを抽出し、QPCR絶対定量法を用いてcopy/ng genome DNAを計算し、陽性対照は14日目に採取したUCAR-T細胞を用い、陰性対照はDEPC水を用いた。
【0351】
結果分析(
図7):抗GD2 UCAR-T細胞(TRAC+HLA-A02ノックアウト)は、マウス体内での生存時間が7週間を超え、week4で二次増幅を行った。
実施例7 ユニバーサルT細胞の体外安全性検証
【0352】
(1)GVHD反応:TRAC、HLA-AダブルノックアウトT細胞、遺伝子ノックアウト無しのT細胞を製造し、同種異系PBMCを照射し、製造された2群の細胞をそれぞれ刺激し、IFN-γレベルを検出した。
【0353】
結果分析:TRAC、HLA-AダブルノックアウトT細胞群のIFN-γ分泌レベルが非常に低く、TRACノックアウトがGVHD反応を低下させることを示した。
(2)同種異系反応:同種異系PBMCは照射後の2群の細胞を刺激し、IFN-γのレベルを検出した。
【0354】
結果分析は、TRAC、HLA-AダブルノックアウトT細胞群のIFN-γ分泌レベルが非常に低く、HLA-Aノックアウトが同種異系反応を低下させることを示した。
実施例8 ユニバーサルT細胞の体内安全性検証
【0355】
(1)GVHD反応:TRAC、HLA-AダブルノックアウトT細胞、及びノックアウトを有しないT細胞を製造した。8~10週のNSGマウスにそれぞれ1×107を注射し、生存率、毛足キメ及び皮膚完全性などの臨床指標により移植片対宿主反応を観察した。サイトカイン検出:末梢血の血清を採取し、IL6、IL-2、TNF-α、IFN-γなどのサイトカインのレベルを検出した。採血時点:注入前、24 h、D3、D7、D14、D28、2M。臓器病変検出:観察期終了時(2ヶ月程度)、マウスの脾臓、肝臓、皮膚、胃腸管、肺、腎臓を採取してHE切片染色分析を行った。
【0356】
結果分析:未処理T細胞を注射したマウス5匹では、4匹が注射後の2ヶ月以内に致死性異種移植物対宿主病(GVHD)を発症した。TRAC、HLA-Aダブルノックアウト細胞を受けたマウスでは、GVHDは全く出現しなかった。TRAC、HLA-AダブルノックT細胞群のサイトカインIL6、IL-2、TNF-α、IFN-γの分泌レベルが非常に低く、且つマウスは異なる器官形態が正常であった。TRAC、HLA-AダブルノックアウトT細胞群では、GVHD反応を大幅に低下させることを示した。
【0357】
(2)同種異系反応:TRAC、HLA-AダブルノックアウトCAR-T細胞を製造し、NSGマウス体内に、1×107のTCR-HLA-AダブルノックアウトCAR-T細胞及び2×106の同種異系T細胞を同時注射した。対照群:NSGマウス体内に、1×107のTCR-CAR-T細胞を注射した。
【0358】
様々な時点で採血し、CARコピー数を測定した。2群のCARコピー数の変化を比較した。時点:D1、D5、D7、D10、D14、D24。
【0359】
結論:D24日、対照群のマウスは、明らかに拒絶反応を示し、コピー数を基本的に検出できない一方、実験群のコピー数は、依然として比較的安定したレベルにあり、拒絶反応が明らかに減少したことを示し、実験群細胞のマウス体内での生存期間の延長は、TRAC、HLA-AダブルノックダウンCAR-T細胞群が、拒絶反応を大幅に減少させたことを示した(
図8A~8Bを参照)。
実施例9 遺伝子編集の安全性分析
【0360】
TRAC、HLA-AダブルノックアウトT細胞、遺伝子ノックアウト無しのT細胞を製造し、ノックアウト効率を検出した後、以下の分析を行った。
(1)オフターゲット:
対照群:トランスフェクトCAS9+ODNタグ
実験群:トランスフェクトCAS9+sgRNA(TRAC+HLA-A)+ODNタグ
On-target and off-target-WGS:(Whole genome sequencing):遺伝子ノックアウト無しのT細胞、TRAC、HLA-AダブルノックアウトT細胞をそれぞれ1×106個採取し、蘇州GENEWIZバイオテクノロジー有限公司によって検出された。
【0361】
結果分析:実験群のオフターゲット率が非常に低く、そしてオフターゲットは主に遺伝子間やイントロンに集中し、遺伝子機能への影響は少なかった(
図9を参照)。
【0362】
(2)染色体転座:qPCR法を用いて、TRAC及びHLA遺伝子座を同時に編集した場合に起こり得る再構成を定量した。2回の転座はTRAC:HLA、HLA:TRACと標識された。合成したテンプレートプラスミド中の陽性参照サンプルを、検出対照として評価した。HLAゲノムターゲットの両側の増幅断片を内部対照とした。ゲノムDNAを抽出してリアルタイム定量PCRを行い、検量線及びCq値からゲノムDNAの遺伝子コピー数を計算した。
【0363】
結果分析:ダブルノックアウトT細胞(TRAC+HLA-A)は、D14(採取時)に染色体転座の発生の有無を検出した。検出結果:2つの転座方式の検出値が何れもゼロに近く、遺伝子座が再構成されていないことを示唆した(
図10を参照)。
【0364】
(3)核型の型決定:70%~80%の遺伝子ノックアウト無しのT細胞、TRAC、HLA-AダブルノックアウトT細胞をそれぞれ1×106採取して2個のT25瓶に入れ、培養液を満たし、完全に密封された蓋で覆い、密封フィルムで包み、浙江如耀バイオテクノロジー有限公司に送って検出した。
【0365】
結果分析:対照群と比較して、実験群の核型が正常であった(11を参照)。
【0366】
(4)Cas9タンパク質の残留:細胞を製造する際、ノックアウト前、ノックアウト後及び採取前の3時点でそれぞれ1×106の細胞を採取して溶解し、続いてタンパク質定量キット(NOVATEINBIO、カタログ番号NB-E1372PR)で定量し、各群のサンプルを同じサンプリング量2 μgに調整し、説明書に従ってCRISPR/Cas9タンパク質ELISAキットで検出した。サンプル中のCas9タンパク質は試験紙ウェル上にしっかりと安定してスポットされた。次に、検出抗体を用いてバインディングされたCas9タンパク質を認識し、次に現像剤を用いて現像させた。Cas9比は吸光度に正比例し、Cas9対照品との比較によってCas9タンパク質の絶対量を定量した。
【0367】
結果分析:ダブルノックアウトT細胞(TRAC+HLA-A)は、エレクトロトランスフェクション前(D3)、エレクトロトランスフェクション後液体交換前(D5)、D9、D14(採取)の4時点でspCas9残留をそれぞれ検出したところ、エレクトロトランスフェクション後液体交換前(D5)に微量な残留を検出することを除いて、残りの3時点で何れも検出されなかった。(
図12を参照)。
実施例10 シングルノックアウトT細胞の製造
【0368】
エレクトロトランスフェクション試薬キット(LONZA社から購入、カタログ番号はV4XXP-3024)を用いてエレクトロトランスフェクションによって、RNP複合体を、実施例2で製造した活性化後T細胞にトランスフェクトした。30 min前にウェルプレート内で培地(X-VIVO15培地+10%のFBS+IL2(200 U/mL)+IL7(10 ng/mL)+IL15(5 ng/mL))を予熱した。エレクトロトランスフェクション緩衝液はNucleofector Solution:Supplement=82:18で製造された。RNP複合体の準備:TRACのsgRNA配列はsg9(配列番号144に示される)であり、HLA-AのsgRNA配列はHLA-A02 Sg2(配列番号160に示される)又はHLA-A02 Sg5(配列番号161に示される)又はHLA-A11 sg21(配列番号191に示される)又はHLA-A11 Rsg2(配列番号190に示される)であり、まず20 μgのsgRNAをPCRチューブ(RNA酵素なし)に加え、更に10 μgのCas9タンパク質(thermoから購入、カタログ番号はA36499)を加え、均一に軽く混合した後、室温で12 minインキュベートした。実施例2で培養した活性化後T細胞をカウントし、300 gで8 min遠心分離して上清を捨て、PBSを加えて細胞を再懸濁し、1E7個の細胞を吸引して300 gで8 min再度遠心分離し、上清を捨てた後、100 μLの製造したエレクトロトランスフェクション緩衝液で細胞を再懸濁した。上記細胞懸濁液に、インキュベートしたRNP複合体を加え、均一に軽く混合し、次に混合物を電気回転カップに静かに移した。電気回転カップをLonza-4D電気回転計に置き、EO-115電気回転プログラムを用いてエレクトロトランスフェクションさせた。予熱した培地を電気回転カップに加え、次にセットのピペットを用いて細胞をウェルプレート内の予熱した培地に移し、次いで37℃、5%のCO2のインキュベーターに培養した。
実施例11 遺伝子ノックアウト効率検出方法の比較
【0369】
(1)Sangerシークエンシングの検出
細胞をカウントし、3×104~5×104の細胞を採取し、2000 r/minで5 min遠心分離し、できる限り上清を除去し、次に各チューブに20 μLのDE溶解液を加え、細胞溶解後にPCRチューブに加え、一過性遠心分離後にPCR装置にセットし、マシン設定条件:65℃で30 min、4℃で30 s、95℃で2 min、16℃で無限であった。プライマー対TRAC-For/TRAC-Rev又はHLA-A For/HLA-A Revを用いて、溶解生成物をテンプレートとしてPCRを行い、PCR生成物をGENEWIZに送ってSangerシークエンシングを行った。sangerシークエンシングの結果を得た後、https://moriaritylab.shinyapps.io/editr_v10/というウェブサイトのEditRエディタを用いて、編集が起こる位置及び編集効率を予測した。
【0370】
(2)TAクローニングシークエンシングの検出
AxyPrepTM PCR産物洗浄試薬キット(AXYGENから購入)を用いてPCR産物を精製し、続いて試薬キット(DNA A-Tailing Kit、TaKaRaから購入)を用いて精製後のPCR産物を接着末端に貼り付け、DNA Ligation Kit Ver2.1(TaKaRaから購入)を介して産物をTベクター(pMDTM19-T Vector Cloning Kit、TaKaRaから購入)に連結し、それをコンピテント細胞(DH5 alpha)に形質転換し、次にアンピシリン耐性を有するLBプレートに塗布し、37℃のインキュベーターで約12時間培養した後に単一コロニーをキャンピングし、単一コロニー菌液をGENEWIZに送ってシークエンシングを行った。ノックアウト効率=変異クローン数/全クローン数。
【0371】
(3)フローサイトメトリーによる細胞カウント
10E5~10E8細胞を採取し、2000 rpmで5 min遠心分離し、上清を捨て、次に各チューブに100 μLのPBS緩衝液を加えて細胞を再懸濁し、更にanti-human AB TCR-APC(eBioscienceから購入)抗体5 μL、HLA-A02 Monoclonal Antibody(BB7.2)、APC、eBioscince(登録商標)(invitrogenから購入)抗体5 μLを添加し、均一に混合した後に室温で10 minインキュベートした。2000 rpmで5 min遠心分離した後、更にPBS緩衝液で2回洗浄し、細胞を再懸濁してBD FACSAriaフローサイトメーターにより測定したところ、細胞表面TCR、HLA-A02発現陽性率が得られた。ノックアウト効率=(A-B)/A×100%、Aは対照群の発現陽性率であり、Bはノックアウト群の発現陽性率であった。
【0372】
TRACシングルノックアウトの3つの検出結果は
図13~15に示され、ノックアウト効率の計算結果は表1に示され、3つの検出方法は基本的に同じであり、次の試験ではSangerシークエンシング法のみを用いて編集効率を検出した。
【0373】
【0374】
HLA-A02遺伝子編集のためのSangerシークエンシング法の結果は
図16~17に示され、編集効率は、何れも90%であり、HLA-A11遺伝子編集のためのSangerシークエンシング法の結果は
図18~19に示された。
実施例12 TRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子のダブルノックアウトT細胞の製造
【0375】
エレクトロトランスフェクション試薬キット(LONZA社から購入、カタログ番号はV4XXP-3024)を用いてエレクトロトランスフェクションによって、RNP複合体を、実施例2で製造した活性化後T細胞にトランスフェクトした。30 min前にウェルプレート内で培地(X-VIVO15培地+10%のFBS+IL2(200 U/mL)+IL7(10 ng/mL)+IL15(5 ng/mL))を予熱した。エレクトロトランスフェクション緩衝液はNucleofector Solution:Supplement=82:18で製造された。RNP複合体の準備:20 μgのTRAC sgRNA(TRAC Sg9)、20 μgのHLA-A sgRNA(HLA-A02 Sg2又はHLA-A02 Sg5又はHLA-A11 sg21又はHLA-A*24:02:01、HLA-A*30:01:01:01、HLA-A*33:01:01:01、HLA-A*03:01:01:01、HLA-A*01:01:01:01若しくはHLA-A*26:01:01:01を標的とするsgRNA)をPCRチューブ(RNA無し)にそれぞれ加え、更に10 μgのCas9タンパク質(thermoから購入、カタログ番号はA36499)をそれぞれ加え、均一に軽く混合した後、室温で12 minインキュベートした。実施例2で培養した活性化後T細胞をカウントし、300 gで8 min遠心分離して上清を捨て、PBSを加えて細胞を再懸濁し、1E7個の細胞を吸引して300 gで8 min再度遠心分離し、上清を捨てた後、100 μLの製造したエレクトロトランスフェクション緩衝液で細胞を再懸濁した。上記細胞懸濁液に、インキュベートしたTRAC及びHLA-AのRNP複合体を加え、均一に軽く混合し、次に混合物を電気回転カップに静かに移した。電気回転カップをLonza-4D電気回転計に置き、EO-115電気回転プログラムを用いてエレクトロトランスフェクションさせた。予熱した培地を電気回転カップに加え、次にセットのピペットを用いて細胞をウェルプレート内の予熱した培地に移し、次いで37℃、5%のCO2のインキュベーターに培養した。
【0376】
シークエンシングにより、ダブルノックアウト効率を検出すると、ダブルノックアウト効率が80%以上のTRAC陰性、HLA-A陰性T細胞が得られた。結果は
図20~21に示された。そのうち、
図20Aは、HLA-A02 Sg5によるHLA-A02ノックアウトの結果を示し、前の行は、対照群の結果(即ち、HLA-A02 Sg5を用いてノックアウトを行わなかった)を示し、次の行は、HLA-A02及びTRACの同時ノックアウトの結果を示した。そのうち、
図20Bは、TRAC Sg9によるTRACノックアウトの結果を示し、前の行は、対照群の結果(即ち、TRAC Sg9を用いてノックアウトを行わなかった)を示し、次の行は、HLA-A02及びTRACの同時ノックアウトの結果を示した。
図21A~
図21Bは、HLA-A02及びTRACタンパク質レベルをノックアウトするノックアウト状況を示し、そのうちNEGは陰性対照を指し、WTはノックアウト処理を一切行っていない場合を指し、TRAC+HLA-AダブルノックアウトはHLA-A02及びTRACの同時ノックアウトの結果を指した。
実施例13 ダブルノックアウトT細胞におけるTRAC遺伝子、HLA-A遺伝子、B2M遺伝子及びCIITA遺伝子の発現と、対応する細胞における対応する遺伝子の発現との区別
【0377】
(1)実施例2で製造した活性化後T細胞を用いて、2群に分け、1群は対照とし、別の群は実施例5の方法に従ってTRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子のダブルノックアウトT細胞を製造し、実施例4のステップ(1)の方法に従ってSangerシークエンシングを行った。シークエンシングの結果により、TRAC及びHLA-Aのダブルノックアウト細胞を得た。製造したダブルノックアウトT細胞を、対応するTRAC及びHLA-A抗体と共に、インキュベートし、フローサイトメトリー選別又は磁気ビーズ選別によって、ダブルノックアウト細胞株が得られた。
【0378】
(2)対照群と比較したダブルノックアウトT細胞のmRNA発現レベルの変化を検出した。RNA抽出試薬キット(QIAGENから購入、カタログ番号は74004)を用いてRNAを抽出し、逆転写試薬キット(Applied Biosystemsから購入、カタログ番号は4368814)を用いてRNAを逆転写してcDNAを得て、cDNAをテンプレートとして定量PCR検出を行った。
【0379】
(3)対照群と比較したダブルノックアウトT細胞のタンパク質発現レベルの変化を検出した。全タンパク質抽出試薬(Thermo Scientificから購入、カタログ番号は87787)を用いてタンパク質を抽出し、Western Blot法又はフローサイトメトリーによりタンパク質発現レベルを検出し、使用される抗体は、それぞれTRAC抗体(eBioscienceから購入、カタログ番号は17-9986-42)、HLA-A抗体(Merckから購入、カタログ番号は17-9876-41)、B2M抗体(Invitrogenから購入、カタログ番号はA15770)及びCIITA抗体(OriGeneから購入、カタログ番号はCF812200)であった。
【0380】
Sangerシークエンシングによって、対照群と比較して、ダブルノックアウトT細胞におけるTRAC及び/又はHLA-A遺伝子のヌクレオチド配列における変化が検出された。定量PCRは、ダブルノックアウトT細胞におけるTRAC及び/又はHLA-A遺伝子のmRNAの発現量がダウンレギュレーションされる一方、B2M及び/又はCIITA遺伝子のmRNA発現量がダウンレギュレーションされていないことを示した。FACS及びWestern Blotの結果は、ダブルノックアウトT細胞におけるタンパク質発現量がダウンレギュレーションされ、B2M及び/又はCIITAタンパク質発現量がダウンレギュレーションされていないことを示した。
【0381】
結果は
図22~23に示された。そのうち、
図22は、遺伝子発現のmRNAレベル測定を示し、そのうち、
図22はそれぞれ、TRAC、HLA-A、B2M及びCIITAのmRNAレベルを示し、そのうち、WTはノックアウト処理を一切行っていない場合を指し、ダブルノックアウト群はTRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子のダブルノックアウトT細胞の結果を指す。
図23は、遺伝子発現のタンパク質レベル測定を示し、そのうち、
図23A~23Bはそれぞれ、B2M及びCIITAのタンパク質発現レベルを示し、そのうち、NEGは陰性対照を指し、WTはノックアウト処理を一切行っていない場合を指し、TRAC+HLA-AダブルノックアウトはTRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子のダブルノックアウトT細胞の結果を指す。
実施例14 TRAC遺伝子、HLA-A/B2M遺伝子及びCIITA遺伝子のトリプルノックアウトT細胞の製造、且つ対応する3つの遺伝子発現変化の検証
【0382】
(1)実施例13ステップ(1)の方法に従って、対照群とTRAC遺伝子、HLA-A遺伝子とCIITA遺伝子のトリプルノックアウト細胞、及びTRAC遺伝子、B2M遺伝子とCIITA遺伝子のトリプルノックアウト細胞を準備した。
【0383】
(2)実施例13ステップ(3)の方法に従って、FACS及びWestern Blot法によりタンパク質発現レベルの変化を検出した。
【0384】
対照群の細胞と比較して、TRAC、HLA-A及びCIITAのトリプルノックアウトT細胞におけるTRAC、HLA-A及びCIITA遺伝子のタンパク質発現量がダウンレギュレーションされ、対照群の細胞と比較して、TRAC、B2M及びCIITAのトリプルノックアウトT細胞におけるTRAC、HLA-A及びCIITA遺伝子のタンパク質発現量がダウンレギュレーションされた。
【0385】
(3)TRAC(eBioscienceから購入、カタログ番号は17-9986-42)、HLA-A(Merckから購入、カタログ番号は17-9876-41)、B2M(Invitrogenから購入、カタログ番号はA15770)抗体を用いてフローサイトメトリーにより実施例13のダブルノックアウト細胞及び本実施例の2つのトリプルノックアウト細胞のノックアウト効率を検出した結果、単一細胞レベルで多重遺伝子ノックアウト効率を同時に達成し、トリプルノックアウトよりもダブルノックアウトの方が明らかに高いことを示した。
【0386】
結果は
図24A~24Dに示された。そのうち、
図24A~24Cは、順にTRAC、HLA-A及びB2Mタンパク質レベルのノックアウト状態であった。そのうち、WTはノックアウト処理を一切行っていない場合を指し、TRAC+HLA-AダブルノックアウトはTRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子のダブルノックアウトT細胞の結果を指し、TRAC+HLA-A+CIITAトリプルノックアウトはTRAC、HLA-A及びCIITAのトリプルノックアウトT細胞の結果を指し、そのうち、TRAC+B2M+CIITAトリプルノックアウトはB2M、CIITA及びTRACのトリプルノックアウトT細胞の結果を指し、TRAC+HLA-Aノックダウンは実施例16で製造されたTRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子ノックダウンT細胞の結果を指す。
図24DはCIITAタンパク質レベルのノックアウト状態を示した。
【0387】
図24の結果は、WT対照群と比較して、TRAC、HLA-A、CIITA及びB2Mのタンパク質レベルがダウンレギュレーションされることを示した。同時に、TRAC+HLA-Aダブルノックアウトのノックアウト効率は、TRAC+HLA-A+CIITAトリプルノックアウト又はTRAC+B2M+CIITAトリプルノックアウトよりも高い。
実施例15 アンチセンスRNA配列の設計
【0388】
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/又はwww.ensembl.org/というデータベースによって、対応する遺伝子(TRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子)の転写RNA配列を得て、以下の原則を参照してsiRNAを設計した。
【0389】
開始コドンの下流50~100ヌクレオチド及び終止コドンの上流100ヌクレオチドの配列をできる限り回避し、長さが30ヌクレオチド未満である配列を選択し、4個以上の連続した同一塩基を回避し、イントロン領域を回避し、反復配列を回避し、一塩基多型(SNP)部位を回避し、配列GCの含有量が30%~60%、配列パターンAA(N<sub>19)、NA(N<sub>21)又はNAR(N<sub>17)YNNを優先的に選択した。Aはアデニル酸、Tはチミジル酸、Rはアデニル酸又はグアニル酸(プリン)、Yはチミジル酸又はシチジル酸(ピリミジン)、Nはアデニル酸、チミジル酸、グアニル酸又はシチジル酸であった。選択した配列に対して相同性比較分析を実行し、アンチセンスRNAと他の遺伝子又は配列との間に顕著な相同性が生じることでオフターゲット効果が生じることを回避した。相同性分析は、NCBI Blast tool: Nucleotide-nucleotide BLAST(blastn)、UCSC Blat tool又はEnsembl Blastを使用して行われた。
【0390】
設計されたアンチセンスRNA配列は、HLA-A-homo-551(配列番号200に示されるヌクレオチド配列を含む)、HLA-A-homo-NEG(配列番号201に示されるヌクレオチド配列を含む)、TRAC-homo-375(配列番号202に示されるヌクレオチド配列を含む)、TRAC-homo-NEG(配列番号203に示されるヌクレオチド配列を含む)を含む。
実施例16 TRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子ノックダウンT細胞の製造
【0391】
実施例15により設計されたアンチセンスRNAを用いてダブルノックダウンを行った。会社がTRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子のアンチセンスRNA配列のレンチウイルス(GEMMA)を製造した。実施例2の方法に従ってCD3
+T細胞を製造し(D0日)、CD3/CD28抗体磁気ビーズを用いて活性化し、TRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子を担持するアンチセンスRNA配列のレンチウイルスを活性化されたT細胞にトランスフェクトし(D1日)、D2にレンチウイルスベクターを洗い流し、D5日まで培養し続けた。D5まで培養したT細胞を収集し、定量PCR又はWestern Blot法などによって遺伝子ノックダウン効率を検出した。得られたT細胞に対して対応するTRAC及びHLA-A抗体を標識し、フローサイトメトリー選別又は磁気ビーズ選別の方法によりTRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子ノックダウンT細胞が得られた。結果は、TRAC及びHLA-A遺伝子ノックダウン群におけるTRAC及びHLA-AのmRNA及びタンパク質発現レベルが何れもダウンレギュレーションされることを示した。そのうち、
図25A~25Bは、順にTRAC及びHLA-A mRNAレベルのノックアウト状態であった。そのうち、WTはノックアウト処理を一切行っていない場合を指し、TRAC+HLA-AダブルノックアウトはTRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子のダブルノックアウトT細胞の結果を指す。そのうち、TRAC及びHLA-Aタンパク質レベルのノックアウトレベルは
図24の結果を参照することができる。
実施例17 異なるT細胞活性の区別
【0392】
実施例2、12、14及び16の遺伝子ノックアウト無し、ダブルノックアウト、トリプルノックアウト及びダブルノックダウンのT細胞を製造し、幾つかのT細胞の活性を比較し、各群の細胞をカウントし、1×106細胞をそれぞれ取って24ウェルプレートに接種し、各ウェルの細胞にPHA(0.3 μg/mL)(イオノマイシン+)又は5 ng/mLのPMA及び50 ng/mLのionomycinを加え、5時間培養し続けた後、CD69(初期活性化)(BD Biosciencesから購入、カタログ番号はFN50)、CD137(やや後期)(BD Biosciencesから購入、カタログ番号は4B4-1)抗体を用いてフローサイトメトリーにより細胞の活性化状態を検出した。結果は、ダブルノックアウト、ダブルノックダウンT細胞の活性がトリプルノックアウトT細胞より優れることを示した。
【0393】
CD69及びCD137のタンパク質レベルの発現状態はそれぞれ
図26A~26Bを参照する。そのうち、WTはノックアウト処理を一切行っていない場合を指し、TRAC+HLA-AダブルノックアウトはTRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子のダブルノックアウトT細胞の結果を指し、TRAC+HLA-A+CIITAトリプルノックアウトはTRAC、HLA-A及びCIITAのトリプルノックアウトT細胞の結果を指し、そのうち、TRAC+B2M+CIITAトリプルノックアウトはB2M、CIITA及びTRACのトリプルノックアウトT細胞の結果を指し、TRAC+HLA-Aノックダウンは実施例16で製造されたTRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子ノックダウンT細胞の結果を指す。
実施例18 異系NK細胞に対する異なるT細胞の反応性の区別
【0394】
実施例2、12、14及び16の遺伝子ノックアウト無し、ダブルノックアウト、トリプルノックアウト及びダブルノックダウンのT細胞に対してCFSE(invitrogen、C34554)標識を行い、細胞をカウントし、1×106細胞をそれぞれ取って1:1の比率でNK細胞(NK92MI)と共培養し、24時間後に共培養した各群の細胞を収集し、フローサイトメトリーにより混合細胞におけるCFSE陽性細胞の比率を検出した。
【0395】
結果は、NK細胞によるダブルノックアウト、ダブルノックダウンT細胞の殺傷毒性がトリプルノックアウトT細胞よりも低いことを示した。結果は
図27に示された。そのうち、NK+TはNK細胞をノックアウト処理が一切行っていないT細胞と共培養する場合を指し、NK+TRAC+HLA-AノックダウンはNK細胞を実施例16で製造されたTRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子ノックダウンT細胞と共培養する場合を指し、NK+TRAC+HLA-AダブルノックアウトはNK細胞をTRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子のダブルノックアウトT細胞と共培養する場合を指し、NK+TRAC+HLA-A+CIITAトリプルノックアウトはNK細胞をTRAC、HLA-A及びCIITAトリプルノックアウトT細胞と共培養する場合を指し、NK+TRAC+B2M+CIITAトリプルノックアウトはNK細胞をB2M、CIITA及びTRACトリプルノックアウトT細胞と共培養する場合を指す。
実施例19 異なるT細胞の異系免疫拒絶反応の区別
【0396】
ドナー1由来の末梢血を用いて実施例2、12、14及び16の遺伝子ノックアウト無し、ダブルノックアウト、トリプルノックアウト及びダブルノックダウンT細胞を製造した。ドナー2由来の末梢血を用いてCD3+T細胞を製造した。ドナー1の末梢血を用いて製造した各群の細胞を、ドナー2の末梢血を用いて実施例2により製造したCD3+T細胞と等しい比率で混合し、24時間後に細胞混合系におけるIFN-γの発現レベルを検出した。結果は、ダブルノックアウトT細胞群IFN-γの発現レベルがトリプルノックアウトT細胞群よりも低いことを示した。
【0397】
結果は、
図28に示すように、WTはノックアウト処理を一切行っていない場合を指し、TRAC+HLA-AダブルノックアウトはTRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子のダブルノックアウトT細胞の結果を指し、TRAC+HLA-A+CIITAトリプルノックアウトはTRAC、HLA-A及びCIITAトリプルノックアウトT細胞の結果を指し、そのうち、TRAC+B2M+CIITAトリプルノックアウトはB2M、CIITA及びTRACトリプルノックアウトT細胞の結果を指し、TRAC+HLA-Aノックダウンは実施例16で製造されたTRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子ノックダウンT細胞の結果を指す。
実施例20 TRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子のダブルノックアウトCAR-T細胞、TRAC遺伝子、HLA-A遺伝子及びCIITA遺伝子のトリプルノックアウトCAR-T細胞、並びに、TRAC遺伝子、B2M遺伝子及びCIITA遺伝子ノックアウトCAR-T細胞の製造
【0398】
(1)実施例2の方法に従ってCD3+T細胞を得て(D0日)、CD3/CD28抗体磁気ビーズを用いて活性化し、活性化後のD1日にレンチウイルスベクター(CD19-CAR、CD20-CAR又はBCMA~CARなどのレンチウイルス)のトランスフェクションを行い、D2日にレンチウイルスベクターを洗い流し、D3日にCAR陽性のT細胞を選別し、D5日まで培養し続けた。
【0399】
(2)D5日のCAR-T細胞を初期細胞として、それぞれ実施例12及び実施例14の方法に従ってTRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子のダブルノックアウト細胞、TRAC遺伝子、HLA-A遺伝子及びCIITA遺伝子のトリプルノックアウトCAR-T細胞、並びに、TRAC遺伝子、B2M遺伝子及びCIITA遺伝子のトリプルノックアウトCAR-T細胞を製造した。
【0400】
(3)フローサイトメトリー検出によって、上記ダブルノックアウト及びトリプルノックアウトCAR-T細胞が得られ、そのうち、ダブルノックアウトCAR-T細胞の収率がトリプルノックアウトCAR-T細胞よりも高かった。
【0401】
結果は
図29A~29Dに示された。そのうち、
図29A~29Cは、順にTRAC、HLA-A及びB2Mタンパク質レベルのノックアウト状態であった。
図29DはCIITAタンパク質レベルのノックアウト状態を示した。そのうち、WTはノックアウト処理を一切行っていない場合を指し、TRAC+HLA-AダブルノックアウトはTRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子のダブルノックアウトCAR-T細胞の結果を指し、TRAC+HLA-A+CIITAトリプルノックアウトはTRAC、HLA-A及びCIITAトリプルノックアウトCAR-T細胞の結果を指し、そのうちTRAC+B2M+CIITAトリプルノックアウトはB2M、CIITA及びTRACトリプルノックアウトCAR-T細胞の結果を指す。
【0402】
そのうち、CD19CARのトランスフェクション効率は
図30A~30Bに示された。そのうち、CAR30%+はCD19CARのトランスフェクション効率を表した。
【0403】
図31は、異なる細胞の増殖倍数を示した。そのうち、TRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子のダブルノックアウトのCAR-T細胞は最も高い増殖倍数を示した。
実施例21 TRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子のダブルノックアウトCAR-T細胞の抗腫瘍効果
【0404】
実施例21のTRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子のダブルノックアウトCAR-T細胞を製造し(CD19、CD20又はBCMAを標的とする)、ルシフェラーゼ遺伝子を発現する標的細胞(Raji、Jurkat、MM1Sなどの標的遺伝子陽性の白血病又はリンパ腫細胞株)をウェルプレートに接種し、更に異なるエフェクター標的比(1:2.5、1:1、5:1、10:1)でダブルノックアウトCAR-T細胞、トリプルノックアウトCAR-T細胞又は遺伝子ノックアウト無しのT細胞を加え、24時間共培養した後に細胞を検出用ウェルプレートに移し、ルシフェラーゼ基質を加え、プレートリーダーにより蛍光値を検出した。殺傷効率=1-標的細胞とT細胞とを共培養する蛍光値/標的細胞を単独培養する蛍光値。
【0405】
結果は、TRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子のダブルノックアウトCAR-T細胞に対する腫瘍細胞の殺傷効果が顕著であることを示した。
【0406】
図32は、CD19標的細胞Raji-Luciferaseの殺傷効果を示し、そのうちTRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子のダブルノックアウトCAR-T細胞の殺傷効果が最も顕著であった。そのうち、各E/T比で、左から右へ順にA~Dの図示に対応する結果であった。
実施例22 TRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子のダブルノックアウトCAR-T細胞の抗腫瘍効果
【0407】
NSGマウスに腫瘍細胞を静脈注射し、腫瘍が成功に確立した後、マウス体内にTRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子のダブルノックアウトCAR-T細胞、トリプルノックアウトCAR-T細胞又は遺伝子ノックアウト無しのT細胞を注入し、マウス腫瘍体積をモニターした。
【0408】
ダブルノックアウトCAR-T細胞を注入したマウスは、腫瘍増殖速度が明らかに遅くなった。
【0409】
結果は
図33~34に示された。そのうち、
図33はマウスへの投与方法を示し、i.v.は静脈注射を表し、CAR-T細胞はCD19 CARを発現するダブルノックアウトCAR-T細胞、トリプルノックアウトCAR-T細胞を表した。
図34は、CAR-T細胞投与後のマウス体内腫瘍の体積を示した。そのうち、
図34は左から右へ、生理食塩水、改変されていないT細胞、TRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子のダブルノックアウトCD19 CAR-T細胞、TRAC、HLA-A及びCIITAトリプルノックアウトCD19 CAR-T細胞、B2M、CIITA及びTRACトリプルノックアウトCD19 CAR-T細胞をそれぞれ投与した後のマウス体内腫瘍の体積を順に示した。結果から、TRAC遺伝子及びHLA-A遺伝子のダブルノックアウトCAR-T細胞を注入したマウスは、腫瘍増殖速度が明らかに遅くなることが分かった。
【0410】
以上のようにして、
1.本願は、TCR、HLA-Aを効率的にダブルノックアウトするGD2-UCAR-T細胞を初めて構築し、安全な、棚式で使用可能な治療剤を実現し、抗腫瘍効果を向上させ、神経芽腫、骨肉腫、神経膠腫などの腫瘍の治療に使用される。
2.本願は、レンチウイルス発現ベクターを提供する。pCDH-CMV-MCS-EF1-copGFPを骨格として、ベクターにカナマイシン耐性を持たせるように、ベクターのアンピシリン耐性遺伝子であるβ-ラクタマーゼをTn5由来のアミノグリコシドホスホトランスフェラーゼで置換し、体内での適用において潜在的脅威を有するCMVプロモーター及びそれに隣接する下流のポリクローナル部位を削除し、プロトベクターからEF1プロモーターにより発現を開始したcopGFP遺伝子を削除し、SalI切断部位を保持し、SalI 5’末端にベクター構築用SmaI切断部位を付加して目的とする最終ベクターを形成する。
3.本願は、タンパク質RNA複合体のエレクトロトランスフェクション技術を最適化する。初代T細胞における90%以上のダブルノックアウト効率を得る。
4.本願において、ドナーは集団において高頻度で出現するHLA-Bホモ接合体に基づくものであり、患者HLA-Bの対立遺伝子の1つがドナーのホモ接合体と一致すればよく、これらのドナー由来の細胞が多数の患者集団をカバーすることができ、且つHLA-Bにより引き起こされる拒絶反応を低減することができる。
5.本願は、拒絶に高度に関連するHLA-A分子を選別してノックアウトし、他のHLA-Iクラス分子を保持することで、異系細胞による拒絶を低減するだけでなく、HLA分子が完全にノックアウトされ、NK細胞に除去されることを回避し、同種異系CAR-T細胞の体内での半減期を大幅に延長する。
【配列表】
【国際調査報告】