(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-25
(54)【発明の名称】生物活性剤の超濃縮製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 9/08 20060101AFI20240718BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240718BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240718BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20240718BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240718BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20240718BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20240718BHJP
A61P 19/10 20060101ALI20240718BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240718BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240718BHJP
A61K 38/20 20060101ALI20240718BHJP
A61K 38/21 20060101ALI20240718BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240718BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240718BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240718BHJP
C07K 14/54 20060101ALN20240718BHJP
C07K 14/555 20060101ALN20240718BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20240718BHJP
【FI】
A61K9/08
A61P37/06
A61P35/00
A61P11/06
A61P29/00
A61P31/00
A61P3/06
A61P19/10
A61P25/28
A61K39/395 N
A61K38/20
A61K38/21
A61K47/26
A61K47/10
A61K47/18
C07K14/54
C07K14/555
C07K16/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580386
(86)(22)【出願日】2022-07-01
(85)【翻訳文提出日】2024-01-20
(86)【国際出願番号】 US2022035906
(87)【国際公開番号】W WO2023278821
(87)【国際公開日】2023-01-05
(32)【優先日】2021-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523177953
【氏名又は名称】アップカラ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】弁理士法人謝国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】モハンティ、プラバンス
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ジュオラン
(72)【発明者】
【氏名】アムル、シュルティ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB16
4C076CC01
4C076CC04
4C076CC07
4C076CC15
4C076CC21
4C076CC27
4C076CC31
4C076DD38
4C076DD49
4C076FF70
4C076GG41
4C084AA03
4C084BA44
4C084CA18
4C084DA12
4C084DA21
4C084DA22
4C084DA23
4C084MA16
4C084MA66
4C084NA20
4C084ZB071
4C084ZB072
4C084ZB261
4C084ZB262
4C085AA14
4C085BB01
4C085BB11
4C085CC23
4C085EE01
4C085GG04
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA02
4H045DA15
4H045DA75
4H045EA20
4H045GA45
(57)【要約】
本開示は、投与溶媒中の1種以上の生物活性剤の超濃縮製剤を提供し、該超濃縮製剤は、被験者への皮下投与に製剤化された前記投与溶媒中の該生物活性剤の溶液よりも高い濃度で存在する生物活性剤を含み得る。本開示は、前記超濃縮製剤を調製する方法、及び該超濃縮製剤を使用して疾患を治療または予防する方法も提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物活性剤及び投与溶媒を含む生物活性剤の超濃縮製剤であって、前記生物活性剤は、被験者への皮下投与に製剤化された前記投与溶媒中の該生物活性剤の濃度よりも高い濃度で存在する、超濃縮製剤。
【請求項2】
前記溶媒が、水性である、請求項1に記載の超濃縮製剤。
【請求項3】
前記溶媒が、水及び1種またはそれ以上の一価または二価の塩を含む、請求項1に記載の超濃縮製剤。
【請求項4】
前記生物活性剤が、前記溶媒中で該生物活性剤が凝集する濃度以上の濃度で存在する、請求項1に記載の超濃縮製剤。
【請求項5】
前記生物活性剤が、50mg/mLを超える、任意に90mg/mLを超える、任意に100mg/mLを超える、任意に150mg/mLを超える濃度で存在する、請求項1に記載の超濃縮製剤。
【請求項6】
1種またはそれ以上の薬理学的に許容される賦形剤をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の超濃縮製剤。
【請求項7】
前記製剤の体積が、最大2.5ミリリットルである、請求項1~5のいずれか1項に記載の超濃縮製剤。
【請求項8】
ヒアルロニダーゼを含まない、請求項1~5のいずれか1項に記載の超濃縮製剤。
【請求項9】
前記生物活性剤が、抗体、タンパク質、脂質粒子、任意に脂質ナノ粒子または他の治療剤である、請求項1~5のいずれか1項に記載の超濃縮製剤。
【請求項10】
前記生物活性剤が、抗体、任意にヒト化抗体である、請求項9に記載の超濃縮製剤。
【請求項11】
前記抗体が、ムロモナブ-CD3、インフリキシマブ、リツキシマブ、ソラネズマブ、バピネスマブ、カトゥマキソマブ、トラスツズマブ、セツキシマブ、オマリズマブ、アダリムマブ、ベバシズマブ、BAN2401、トシツモマブ、またはアレムツズマブを含む、請求項9に記載の超濃縮製剤。
【請求項12】
前記生物活性剤が、タンパク質であり、前記タンパク質が、インターロイキンまたはインターフェロン、任意にインターフェロンβ-1b、ペグインターフェロンα-2b、ロフェロン-A、またはアルデスロイキンを含む、請求項9に記載の超濃縮製剤。
【請求項13】
前記製剤が、20cP以下、任意に12cP以下、任意に8cP以下、任意に2cP以下、任意に1cP以下の粘度を有し、前記粘度が、20℃及び1atmで測定される、請求項1~5のいずれか1項に記載の超濃縮製剤。
【請求項14】
請求項1に記載の超濃縮製剤を調製するプロセスであって、
a)前記生物活性剤及びガラス化媒体を含むガラス化混合物を、乾燥チャンバー内の毛細管ネットワークを含む膜の上に重ねること;
b)前記乾燥チャンバー内の気圧を下げること;
c)前記ガラス化混合物が極低温の状態に陥るのを防ぐのに十分な熱エネルギーを該ガラス化混合物に提供すること;
d)毛細管現象により該ガラス化混合物をガラス状態になるまで乾燥させること;及び
e)前記投与溶媒中の前記生物活性剤の濃度が、被験者への皮下投与に製剤化された場合の該投与溶媒中の該生物活性剤の濃度以上であり、任意に、前記ガラス化混合物中の該生物活性剤の濃度以上であり、任意に、前記ガラス化混合物中の該生物活性剤の濃度よりも高くなるように、該生物活性剤を前記投与溶媒中で再構成すること
を含む、プロセス。
【請求項15】
ステップe)の前にステップa)~d)を繰り返すことをさらに含む、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
前記繰り返しが、1~3回である、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
前記毛細管ネットワークが、前記膜の表面に沿った輪郭によって提供される、請求項14に記載のプロセス。
【請求項18】
前記乾燥チャンバー内の毛細管ネットワークが、下層の固体支持基板によって支持される、請求項14に記載のプロセス。
【請求項19】
前記ガラス化混合物のガラス化が、30分間未満、任意に10分間未満で起こる、請求項14~18のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項20】
前記熱エネルギーが、前記ガラス化混合物を加熱することによって提供される、請求項14~18のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項21】
前記気圧が、約0.9atm~約0.005atmの値まで下げられる、請求項14~18のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項22】
前記気圧が、約0.004atmまで下げられる、請求項21に記載のプロセス。
【請求項23】
前記提供される熱エネルギーが、ガラス化中の前記ガラス化混合物内における前記生物活性剤の結晶化を防ぐのに十分である、請求項14~18のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項24】
前記提供される熱エネルギーが、前記ガラス化中に前記生物活性剤を約0℃~約40℃の温度に保つのに十分である、請求項14~18のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項25】
前記ガラス化媒体が、トレハロース、グリセロール、ベチン、及び/またはコリンを含む、請求項14~18のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項26】
前記毛細管ネットワークが、親水性である、請求項14~18のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項27】
前記毛細管ネットワークが、第1端から第2端まで途切れのない構造を形成する連続した毛細管チャネルを含む、請求項14~18のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項28】
請求項1~5のいずれか1項に記載の超濃縮製剤を必要とする被験者に投与することを含む、疾患または状態を治療または予防するプロセス。
【請求項29】
前記投与が、皮下投与である、請求項28に記載のプロセス。
【請求項30】
前記疾患または状態が、自己免疫疾患、癌、喘息、炎症性疾患、感染症、高コレステロール血症、急性臓器拒絶反応、骨粗鬆症、またはアルツハイマー病である、請求項28に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【関連出願への相互参照】
【0001】
本出願は、2021年7月1日に出願された米国仮特許出願第63/217,462号の優先権を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本開示は、超濃縮された生物活性剤の製剤及びそれらの調製方法に関する。
【背景】
【0003】
疾患または症状を治療するための生物学的製剤の送達は、最も一般的には静脈内(IV)投与によるものである。生物学的製剤は通常、高分子量(例えば500Da以上)の治療用分子と考えられ、かつ/または体内で通常見られる分子(例えば、抗体)に類似した分子である。モノクローナル抗体(mAB)は、現在IV投与が承認されている生物学的製剤の大部分を占めている。IV点滴用に承認されたmABの代表的な例は多数あり、他の多数のそのようなmABの中でも、臓器移植拒絶反応を治療するためのムロモナブCD3、他の疾患の中でも特に関節リウマチを治療するためのインフリキシマブ、非ホジキンリンパ腫を治療するためのリツキシマブ、及びB細胞性慢性リンパ性白血病を治療するためのアレムツザマブが含まれる。現在、IV投与を必要とする他の生物学的製剤も周知されている。例えば、これに限定されないが、特に黒色腫を治療するためのアルデスロイキンが挙げられる。実際的な観点から見ると、抗体療法では多くの場合、大きな治療用量が必要となり(例えば、トラスツズマブの場合は8mg/kg、リツキシマブの場合は375mg/m2)、IV経由でのみ投与できる抗体を完全に可溶化するための注射量が必要となる。
【0004】
IV点滴の1つの制限は、治療薬の急速なクリアランスの可能性である。生物学的製剤の循環器からのクリアランスは、腎臓濾過または非特異的結合及び吸収(内皮飲作用等)のいずれかによって起こる。循環半減期が短いと、投与は毎週から毎日になり、頻繁に注射する必要性が生じ得る。そのため、患者の不快感、治療計画の総費用、及び患者による不遵守のリスクが増加する。
【0005】
血漿半減期を延長するために、PEG化として知られる戦略が開発されている。即ち、親水性ポリマー(ポリエチレングリコール;「PEG」)を治療薬に共有結合させる方法である。これは、治療用分子の流体力学的サイズを増大させ、それにより、腎クリアランス速度を低減させ、また、循環器における持続性を最大数百倍まで大幅に向上させる。しかし、FDAが承認したIV投与用のPEG化された生物学的製剤の成功例は限られており、例えば、慢性痛風を治療するためのペグロチカーゼ(尿酸代謝酵素)等がある。
【0006】
IV送達の他の制限は、高レベルの生物学的製剤の静脈内投与による非標的臓器での潜在的な毒性副作用である。例えば、アルデスロイキン療法は、抗体療法よりも大幅に少ない用量(1回あたり0.037mg/kg)を必要とするが、アルデスロイキンの全身注入は、潜在的に致死的な重篤な副作用を伴うため、入院投与が必要である。有効性と最小限の毒性のバランスという点で最適化することが極めて難しいことが証明されているもう1つの組換えサイトカイン療法は、免疫刺激性抗がん治療としての腫瘍壊死因子α(TNF-α)を使用している。TNF-αは、腫瘍内皮に優先的に作用し、腫瘍組織の出血性壊死を引き起こす透過性亢進を誘導すると考えられている。しかし、全身的に高レベルのTNF-αに曝露されると、低血圧や敗血症性ショック様症候群等の重篤な毒性を引き起こす可能性がある。
【0007】
生物学的製剤のIV送達後の毒性及び急速なクリアランスの問題は、両方とも点滴された治療薬のほぼ即時的な全身的な利用可能性に関連している。治療効果を達成するために、このような迅速な利用が必要な場合はあるが、多くの生物学的製剤は、(全身への利用可能性を維持しながら)体内へゆっくりと薬物動態的に分布して恩恵を受けている。さらに、IV点滴にはカテーテルを媒介した感染のリスクが伴い、特に院内環境での耐性胞子の出現により、著しい痛みや不快感が生じ、管理下での入院投与が必要となる。
【0008】
患者により優しい投与のため、また自己投与を可能にするために、生物学的製剤の皮下(SC)送達は、非常に興味深い方法である。現在、承認された多くの生物学的製剤がSC投与されており、この投与経路の成功は、特にプレフィルドシリンジ(PFS)、ペン、または自己投与や自宅投与を可能にする自動注射装置への送達と組み合わせた場合、慢性的な病状または症状の管理に使用される生物学的療法にとって非常に重要である。実際では、最近、ファイザー社とモデルナ社からのCOVID-19ワクチンを含め、多くのPEG化された生物学的製剤がSC注射用に承認されている。皮下投与により患者のコンプライアンスが向上し、入院が回避されるため、治療費が削減される。特に、頻繁な投与が必要となり得る循環半減期が短い生物学的製剤の場合、継続的な入院患者へのIV点滴が必要な場合とは対照的に、SC注射による治療薬を自己投与できることは、患者の生活の質に多大な利益をもたらす。
【0009】
SC注射の使用がIV送達を改善できる別の状況は、全身注入後に重度の毒性を有する生物学的薬物の場合である。例えば、α及びβINF等の組換えサイトカイン療法は、様々ながん、B型及びC型肝炎、及び多発性硬化症等の多くの疾患に治療効果をもたらすが、そのような治療薬のIV送達は、治療薬が急速に全身拡散した後に有害事象を引き起こす可能性がある。SC投与は、注射部位で相対的な蓄積効果を生み出すため、IV点滴よりも利点がある。治療薬が全身的な循環に排出されるのに必要な時間は、生体内での薬剤の半減期を効果的に延長させ、同時に、様々な区画での最大薬物濃度を低減させる。そのため、必要な投与頻度が減少し、有害な事象の頻度や重症度が軽減される。
【0010】
SC注射は、よりフラットな薬物動態プロファイル(ピーク血漿濃度はより低いが、有効レベルでの持続時間はより長い)を達成するために使用することができるが、SC経路の制限は、痛みを伴わずに投与できる注射量である。これは、ヒトの場合、通常は最大約 2~2.5mlの液体である。腫瘍学用途における治療用抗体等、いくつかの生物学的製剤のレジメンでは、安定した注射可能な形態で調製できる薬剤の最も濃縮された形態では5mlの投与量が必要であり、従来のSC注射には問題がある。この容積上の制限を克服するために、現在臨床試験中の1つの戦略として、組換えヒトヒアルロニダーゼを用いて、結合組織の細胞外マトリックス(ECM)の重要な多糖成分であるヒアルロン酸を局所的に消化することである。
【0011】
ヒアルロニダーゼを生物学的製剤と同時注射すると、局所ECMにナノスケールの多孔性が生成され、注射部位からの液体の迅速な排出が可能になり、痛みを伴わずに大量の溶液を注射できるようになる。マトリックスは約24時間以内に自己修復するため、この変化は一時的なものにすぎない。早期乳がんの治療等の状況に適応される長期(1年超)の維持療法における患者のコンプライアンスを向上させるために、現在、IV点滴として投与され、腫瘍学で承認されたいくつかのmAB(トラスツズマブ、リツキシマブ)は、この改変された投与戦略で試験されている。
【0012】
生物学的製剤の局所注射の別の動機は、全身曝露とその後に生じ得る毒性を最小限に抑えることである。この例としては、加齢黄斑変性症(AMD)を治療するための血管内皮増殖因子(VEGF)アンタゴニストの硝子体内(目に直接)注射がある。VEGFを標的とするRNAアプタマーであるペガプチニブ、及び、抗VEGF mABであるベバシズマブ及びラニビズマブは全て、AMDの進行を遅らせる能力を実証している。しかし、VEGFアンタゴニストの全身注入は、全身の健康な血管系におけるVEGFの正常な機能を破壊する可能性があり、血栓塞栓症、高血圧、及び創傷治癒障害のリスク増加につながる可能性がある。初期の臨床研究では、VEGFアンタゴニストの硝子体内注射は、IV点滴と比較して、安全性プロファイルが改善され、全身性有害事象の頻度が低減されることは示された。
【0013】
生物学的治療薬の局所注射の別の重要な動機は、治療薬の局所濃度を最高にし、特定の組織または器官に対する治療の有効性を改善することである。例えば、二重特異性抗体カトゥマキソマブ(抗CD3/抗上皮細胞接着分子EPCAM)は、上皮癌、胃癌、または卵巣癌に起因する悪性腹水を治療するために腹腔内注射される。前臨床薬物動態研究では、カトゥマキソマブの腹腔内(IP)投与により、腹水中に高い局所濃度の抗体が生成される一方、全身性抗CD3刺激の潜在的な毒性を考慮すると重要な所見である全身曝露が大幅に制限されること(血漿中の検出下限は<5%)が確認された。
【0014】
SC投与の前述の利点を活用するには、注入量を小さく保つために高濃度の溶液が必要である。高濃度タンパク質製剤(HCPF)は、一般に不精確ではあるが、50~150mg/mL範囲のタンパク質製剤に適用されるが、HCPFの物理的特性は非タンパク質の生物学的製剤にも適用することができる。HCPFの特性には、例えば、粘度の増加、高い乳光、液―液相分離、ゲル形成、またはタンパク質粒子形成傾向の増加が含まれる。高濃度製剤の主な目標は、タンパク質の安定性と良好な注入性であり、この後者には低から中程度の粘度が必要である。化学分解のメカニズムには、脱アミド化、酸化、及びイソアスパラギン酸の形成が含まれる。コロイドの安定性が不十分であると、不可逆的な凝集、沈殿、及び相分離が発生する。
【0015】
限定的ではあるが、タンパク質濃度が150~200mg/mLの市販された高濃度の生物学的製剤は、凍結乾燥(フリーズドライ)製品として供給される。しかし、高濃度の凍結乾燥タンパク質製剤の開発には、非常に長い再構成時間や安定性の問題等、さらなる課題が生じる。高タンパク質濃度で観察される特性の中には、凍結乾燥された医薬品の開発に特別な課題を課すものもある。
【0016】
コロイドの不安定性は、より高いタンパク質濃度で増加する。液―液相分離は、凍結乾燥の凍結工程中に増強され得る。凍結乾燥中の賦形剤の相分離もタンパク質の安定性を損なう可能性がある。賦形剤の相分離は、凍結乾燥された固体におけるタンパク質の安定化を説明するためによく使用される「ガラス状固定化」の概念が常に成り立つわけではない理由の1つであり得る。即ち、タンパク質は単にガラスを「見ていない」。 効果的なタンパク質安定剤として機能する賦形剤は、化学的に不活性なガラスを形成するだけでなく、「タンパク質と単一相も形成する」。これには、分離を阻止しながらもタンパク質を変性させないために、タンパク質表面との「適度な」相互作用が必要である」(Pikal, M. J. タンパク質の凍結乾燥。ペプチドとタンパク質の安定的な製剤化と送達; Cleland, J. L.; Langer, R., Eds., ACSシンポジウムシリーズ、アメリカ化学会: Washington, D.C., 1994; pp 120-133)。乾燥中にタンパク質に水素結合したままの賦形剤は、タンパク質から相分離されることができない。
【0017】
凍結中のタンパク質の挙動は、凍結乾燥の別の重要な側面である。高濃度(約 50mg/ml)では、凍結により乳光が増加し、目に見える粒子の形成と単量体の含有量の減少が伴う可能性がある。化学的分解、つまり糖化は、冷凍プロセスに関連している。タンパク質濃度が増加すると、ガラス転移温度と崩壊温度の差が徐々に大きくなる。凍結乾燥されたHCPFの再構成時間は非常に長く、最大30分間以上かかることが観察されている。
【0018】
要約すると、高濃度は、しばしば、限られた注射量内で高用量の生物活性剤を求める臨床医の要求である。これは、効率的な凍結乾燥サイクルを開発するための理想的な出発点ではない。固体が高濃度及び高密度であると、水蒸気の輸送が妨げられ、乾燥時間が長くなる。凍結乾燥物中のタンパク質濃度と再構成時間の増加との間には相関関係もある。
【0019】
有効性を改善し、患者のコンプライアンス及び快適さのニーズに対処するために、高濃度の生物学的治療薬をガラス化、保存、輸送、再構成、及び/または送達するための新しい構造物が必要である。
【概要】
【0020】
以下の概要は、本開示に特有の革新的な特徴のいくつかの理解を容易にするために提供されるものであり、完全な説明を意図したものではない。本開示の様々な態様は、明細書、請求項、図面、及び要約を全体とすることによって、完全に理解することができる。
【0021】
投与溶媒中の1種以上の生物活性剤の超濃縮製剤が提供される。前記生物活性剤は、被験者への皮下投与に製剤化された前記投与溶媒中の該生物活性剤の溶液よりも高い濃度で存在する。前記投与溶媒は、水性であり得、1種以上の一価または二価の塩を含み得る。前記生物活性剤は、溶媒中で該生物活性剤が凝集する濃度以上の濃度で存在してもよい。前記生物活性剤は、50mg/mLを超える、任意に90mg/mLを超える、任意に100mg/mLを超える、任意に150mg/mLを超える濃度で存在してもよい。前記生物活性剤は、抗体、タンパク質、脂質粒子、任意に脂質ナノ粒子または他の治療剤であってもよい。前記生物活性剤は、抗体であってもよく、任意にムロモナブ-CD3、インフリキシマブ、リツキシマブ、ソラネズマブ、バピネスマブ、カトゥマキソマブ、トラスツズマブ、セツキシマブ、オマリズマブ、アダリムマブ、ベバシズマブ、BAN2401、トシツモマブ、またはアレムツズマブを含むヒト化抗体であってもよい。前記生物活性剤は、インターロイキンまたはインターフェロン、任意にインターフェロンβ-1b、ペグインターフェロンα-2b、ロフェロン-A、またはアルデスロイキンを含むタンパク質であってもよい。前記超濃縮製剤は、1種以上の薬理学的に許容される賦形剤をさらに含んでもよい。前記超濃縮製剤は、最大2.5mLの体積にしてもよい。前記超濃縮製剤には、ヒアルロニダーゼが含まれていなくてもよい。前記超濃縮製剤は、20cP以下、任意に12cP以下、任意に8cP以下、任意に2cP以下、任意に1cP以下の粘度を有してもよく、ここで、前記粘度は、20℃及び1atmで測定される。
【0022】
また、投与溶媒中で生物活性剤の超濃縮製剤を調製するプロセスも提供される。前記プロセスは、
生物活性剤及びガラス化媒体を含むガラス化混合物を、乾燥チャンバー内の毛細管ネットワークを含む膜の上に重ねること;
前記乾燥チャンバー内の気圧を下げること;
ガラス化中にガラス化混合物が極低温の状態に陥るのを防ぐのに十分な熱エネルギーを該ガラス化混合物に提供すること;
該ガラス化混合物がガラス状態になるまで、毛細管現象によりガラス化混合物を乾燥させること;及び
前記投与溶媒中の前記生物活性剤の濃度が前記ガラス化媒体中の該生物活性剤の濃度よりも高くなるように、該生物活性剤を投与溶媒中で再構成すること
を含む。
【0023】
また、生物活性剤及び投与溶媒を含む超濃縮製剤を必要とする被験者に投与することを含む、疾患または症状を治療または予防する方法も提供される。前記生物活性剤は、被験者への皮下投与に製剤化された前記投与溶媒中の該生物活性剤の溶液よりも高い濃度で存在する。前記投与溶媒は、水性であり得、1種以上の一価または二価の塩を含み得る。前記生物活性剤は、溶媒中で該生物活性剤が凝集する濃度以上の濃度で存在してもよい。前記生物活性剤は、50mg/mLを超える、任意に90mg/mLを超える、任意に100mg/mLを超える、任意に150mg/mLを超える濃度で存在してもよい。前記生物活性剤は、抗体、タンパク質、脂質粒子、任意に脂質ナノ粒子または他の治療剤であってもよい。前記生物活性剤は、抗体であってもよく、任意にムロモナブ-CD3、インフリキシマブ、リツキシマブ、ソラネズマブ、バピネスマブ、カトゥマキソマブ、トラスツズマブ、セツキシマブ、オマリズマブ、アダリムマブ、ベバシズマブ、BAN2401、トシツモマブ、またはアレムツズマブを含むヒト化抗体であってもよい。前記生物活性剤は、インターロイキンまたはインターフェロン、任意にインターフェロンβ-1b、ペグインターフェロンα-2b、ロフェロン-A、またはアルデスロイキンを含むタンパク質であってもよい。前記超濃縮製剤は、1種以上の薬理学的に許容される賦形剤をさらに含んでもよい。前記超濃縮製剤は、最大2.5mLの体積にしてもよい。前記超濃縮製剤には、ヒアルロニダーゼが含まれていなくてもよい。前記超濃縮製剤は、20cP以下、任意に12cP以下、任意に8cP以下、任意に2cP以下、任意に1cP以下の粘度を有してもよく、ここで、前記粘度は、20℃及び1atmで測定される。
【0024】
本明細書に記載の態様によって提供されるこれらの特徴及び追加の特徴は、図面と併せて以下の詳細な説明から完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図面は、必ずしも縮尺どおりではなく、特定の構成要素の詳細を示すために、一部の特徴は、誇張または最小化されている場合がある。従って、本明細書に開示される特定の構造及び機能の詳細は、限定として解釈されるべきではなく、本開示の様々な利用を当業者に教示するための代表的な基礎としてのみ解釈されるべきである。例示的な態様は、詳細な説明及び添付の図面からより完全に理解されるであろう。
【0026】
図1は、本明細書に提供されるいくつかの態様による、複数の毛細管チャネルを含む基板によって支持されたガラス化混合物の毛細管補助によるガラス化のための例示的なチャンバーを示している。
【0027】
図2Aは、毛細管力が粘性力よりも著しく高い上部に液体20の薄膜が配置された親水性ベッド10を示している。これにより、乾燥できる液体21の量が制限される。
【0028】
図2Bは、乾燥は輪郭30のピークで優先的に起こり、乾燥中のトラフからピークに向かう毛細管現象により全体のガラス化速度が向上し、
図2Aと比較して大量のサンプルのガラス化が可能になる、輪郭付けされた毛細管ベッドを示している。
【0029】
図2Cは、輪郭付けされた毛細管40内に過剰な流体があり、その結果、減圧下で気泡が核生成し、沸騰が優勢となり、敏感な分子が損傷され得るときに、表面パターンを満たす液体を示している。
【0030】
図3は、いくつかの態様による、複数ラウンドのガラス化による毛細管膜の毛細管内でのガラス化された生物活性剤の蓄積を図示している。
【0031】
図4は、本明細書に提供されるいくつかの態様に従って膜が形成されたときに、膜の繊維上でガラス化された材料の採取を図示している。
【0032】
図5は、本明細書に提供されるいくつかの態様による、ガラス化され、超濃縮された抗体の構造安定性及び熱分解に対する耐性を示すELISA試験を図示している。
【0033】
図6は、本明細書に提供されるいくつかの態様による、ガラス化され、超濃縮された抗体の構造安定性及び熱分解に対する耐性を示すゲル電気泳動試験を図示している。
【0034】
図7は、連続的にガラス化された材料のXRD分析を図示している。そこで、本明細書に提供されるいくつかの態様による、例示的な膜のチャネル内でのガラス化後に非晶質構造はうまく維持されたことが示されている。
【詳細な説明】
【0035】
本開示は、典型的には皮下投与が不可能であるか、より効果的に投与されるか、以前に達成可能であったよりも少ない投与量で投与されることが望ましい、高濃度の生物学的製剤の投与に関する問題に対処する方法及び製剤を提供する。従って、本開示は、高濃度のタンパク質及び他の治療薬製剤を安定化するための常温でのガラス化方法を提供する。従来の凍結乾燥法で行われているような凍結がないことにより、製剤中の相分離が減少または排除され、それによって、単相のガラスマトリックスが形成される。結果として得られるガラスマトリックスは、予想外に、他の方法で達成できるよりも高い濃度で被験者に投与するのに適した溶媒中での再構成に耐えることができ、それにより、生物学的製剤の治療機能を維持しながら、同じ総治療用量でより少ない体積で投与できるシステムが構築される。
【0036】
従って、生物学的製剤及び投与溶媒を含む生物学的製剤の超濃縮製剤が提供され、任意に、前記投与溶媒は、生物、任意にヒトへの投与に適している。いくつかの態様では、前記生物学的製剤は、従来静脈内投与に使用されている(使用されている場合)生物学的製剤よりも高い濃度で製剤中に存在し、かつ静脈内または他の従来法で製剤化及び投与した場合、以前に使用した溶液からの偏差が10%未満である比活性(単位質量あたりの活性)を示す。
【0037】
本明細書で使用される以下の用語または語句は、少なくとも1つの態様に関連して以下に列挙される例示的な意味を有する。
【0038】
本明細書で使用される場合、いくつかの態様における「超濃縮された」という用語は、溶媒中における生物学的製剤の溶解限界を超える濃度の生物学的製剤の溶液または懸濁液であり、ここで、前記溶液は、生物学的製剤の凝集物を実質的に含まない。通常、脂質粒子等の懸濁液として見出される生物学的製剤の場合、「超濃縮された」とは、生物学的製剤の実質的な凝集物が存在することなく、蒸発または濾過によって材料が物理的に濃縮される濃度より高い濃度と定義される。いくつかの態様では、「超濃縮された」とは、溶液のコロイド安定性、液―液相分離、またはゲル形成傾向に観察可能な変化を伴わずに、生物学的製剤の同一の溶液/懸濁液中で達成可能な濃度より高い濃度と定義される。いくつかの態様では、「超濃縮された」とは、生物活性剤が投与溶媒等の溶液中で凝集する濃度より高い濃度と定義される。いくつかの態様では、「超濃縮された」溶液は、生物学的製剤の熱力学的安定性が、さもないと同一の溶媒中で観察されるものより高い溶液である。
【0039】
本明細書で使用される場合、「極低温」の温度または同様の「極低温化」の温度は、生体試料がそれにおける生物活性が無視できるか存在しないように凍結保存される温度を指す。いくつかの態様では、極低温の温度には、生体試料及び/またはガラス化媒体の凍結温度が含まれ得ることが理解されるであろう。さらに、極低温は、華氏または摂氏のいずれかでの温度の特定の閾値または値の範囲によって拘束されるのではなく、対象となるガラス化混合物の温度、圧力及び分子エネルギーの間の関係によって測定できることを理解すべきである。さらに、本明細書で使用する場合、「極低温化」及びその類似の派生語は、記載した定義内で確かに可能ではあるが、1atmまたは約-80℃の液体窒素に関連する温度に限定されないことを理解されたい。
【0040】
従って、本明細書で使用される場合、「極低温を超える」とは、ガラス化混合物の凝固点(Tf)を超える温度を指す。「極低温を超える」温度には、周囲環境及び分子エネルギーとの関係で、極低温の状態が存在しない温度値がさらに含まれ得る。本明細書で使用される場合、室温とは、約25℃の温度を指す。
【0041】
本明細書で使用する場合、「沸騰」とは、多くの場合、材料内で蒸気泡が形成され、周囲に逃避してその中で散逸することができることを特徴とする、材料が蒸気に移行する温度を指し得る。
【0042】
「ガラス転移温度」とは、それより高い温度では材料が液体のように挙動し、それより低い温度では材料が固相と同様の挙動を示し、非晶質の/ガラス状の状態になる温度を意味する。これは、固定の温度ではなく、対象となるガラス化混合物の特性に応じて変化する。いくつかの態様では、ガラス状態は、前記ガラス化混合物がそのガラス転移温度を下回ったときに陥る状態を指し得る。
【0043】
「非晶質の」または「ガラス」とは、0.3以下の秩序パラメーターを指す原子位置の長距離秩序が存在しない非結晶材料を指す。ガラス質固体の固化は、ガラス転移温度Tgで起こる。いくつかの態様では、前記ガラス化媒体は、非晶質の材料であってもよい。
【0044】
「結晶」とは、周期的に繰り返され、格子または単位胞と呼ばれる、1つの特定の規則的な幾何学的配列からなる3次元の原子構造、イオン構造、または分子構造を意味する。
【0045】
「結晶性」とは、ガラス状または非晶質とは対照的に、原子レベルで規則的な構造に配置された構成成分で構成される物質の形態を意味する。結晶性固体の固化は、結晶化温度Tcで起こる。
【0046】
本明細書で使用する場合、「ガラス化」とは、材料を非晶質材料に変換するプロセスである。前記非晶質固体には、結晶構造がなくてもよい。
【0047】
本明細書で使用される場合、「ガラス化混合物」は、生体材料と、ガラス化剤及び任意に他の材料を含むガラス化媒体との不均一な混合物を意味する。
【0048】
本明細書で使用される場合、「生体材料」または「生体試料」は、生きている生物から単離または誘導され得る材料を指す。生体材料の例としては、タンパク質、細胞、組織、器官、細胞ベースの構築物、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの態様では、生体材料は、哺乳動物細胞を指し得る。他の態様では、生体材料は、ヒト間葉幹細胞、マウス線維芽細胞、血小板、細菌、ウイルス、哺乳類細胞膜、リポソーム、酵素、またはそれらの組み合わせを指し得る。他の態様では、生体材料は、精細胞、精母細胞、卵母細胞、卵子、胚盤胞、胚、胚胞、またはそれらの組み合わせを含む生殖細胞を指し得る。他の態様では、生体材料は、全血、赤血球、白血球、血小板、ウイルス、細菌、藻類、真菌、またはそれらの組み合わせを指し得る。
【0049】
本明細書で使用される場合、「ガラス化剤」は、該ガラス化剤と他の材料との混合物が冷却または乾燥するときに、非晶質構造を形成し、または他の材料における結晶の形成を抑制する材料である。前記ガラス化剤は、浸透圧保護を提供し、あるいは、脱水中の細胞生存を可能にしてもよい。いくつかの態様では、前記ガラス化剤は、生体材料の貯蔵に適した非晶質構造をもたらす任意の水溶性溶液であってもよい。他の態様では、前記ガラス化剤を細胞、組織、または器官の中に浸してもよい。
【0050】
本明細書で使用される場合、「貯蔵可能または貯蔵」とは、生体材料が貯蔵され、かつ後の使用に生存し続ける能力を指す。
【0051】
本明細書で使用される場合、「親水性」とは、水分子を引き付け、またはそれと優先的に結合することを意味する。水に対する特別な親和性を持つ親水性材料は、水との接触を最大限にし、水との接触角が疎水性材料に比べてより小さい。
【0052】
本明細書で使用される場合、「疎水性」とは、水に対する親和性が欠如していることを意味する。疎水性材料は、自然に水をはじいて、水滴を形成し、水との接触角が大きい。
【0053】
本明細書で使用される場合、「毛細管」は、約2000μm2以下の断面積を有する細孔の管に関係するか、または管内に存在するか、または管内に存在するかのようである。
【0054】
本明細書で使用される場合、「被験者」は、動物、任意に、ヒト、非ヒト霊長類、ウマ、ウシ、ネズミ、ヒツジ、ブタ、ウサギ、または他の哺乳動物である。
【0055】
「凍結保存」とは通常、多くの場合、その低温のため液体窒素が使用される生体試料の急速冷却を指す。これにより、液体材料、または直接浸漬による少量の生体材料を急速に冷却される。冷却速度により、材料の分子がより熱力学的に好ましい結晶状態に固まる前に、分子の可動性が低下する。より長期間にわたって、分子は、結晶化するようになり、特に生体試料に有害な結果をもたらし得る。水は、迅速に結晶化できるため、生体試料における重大な懸念事項である。また、水は、生体組織に豊富に存在し、結晶化ほど重大な損傷を与え得る。主成分の結晶化能力を妨げる保護添加剤は、しばしば凍結防止剤と呼ばれるが、非晶質/ガラス化物質を生成し得る。
【0056】
超濃縮製剤には、1種以上の生物活性剤が含まれる。限定されないが、生物活性剤は、任意に、生物から作られるか、または生物から作られ得る。他の態様では、生物活性剤は、被験者に見出される任意の他の化合物の濃度、活性、生理学的修飾、合成、または分解を増加し、低減し、または変更することによって、機能的活性を有する。
【0057】
任意に、生物活性剤は、抗体である。本明細書で使用される場合、用語「抗体」には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、単鎖抗体、二重特異性抗体、シミアン化抗体、及びヒト化抗体、薬物抗体複合体、及びFab免疫グロブリン発現ライブラリーの産物を含むFab断片が含まれる。無傷の抗体、その断片(例えば、FabまたはF(ab')2)、またはその操作された変異体(例えば、sFv)も使用することができる。任意に、当技術分野で認識されているように、抗体は、ヒト化される。任意に、抗体は、ヒト化されていない。抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、IgD、及びその任意のサブクラスを含む任意の免疫グロブリンクラスのものであり得る。抗体の具体例としては、二機能性の抗体が挙げられる。
【0058】
抗体の非限定的な具体例としては、とりわけ、抗CD3 mAb(例えば、オテリズマブ、テプリズマブ、ビシリズマブ)、抗ブドウ球菌治療用抗体(例えば、テフィバズマブ、トサトクスマブ、パギバクシマブ、スブラトクスマブ、及びその他のmAb)、特定の細胞集団に対する抗体(F4/80-マクロファージまたはc-キット-幹細胞)、傷害関連抗原に対する抗体(VCAMまたはフィブリノペプチドA)、またはTGF-β、TNF-α、IL-6、IL-2、CD52、及びIL-1βを標的とする抗体、または上記のいずれかの2種以上の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。抗体の他の具体例としては、ムロモナブ-CD3、インフリキシマブ、リツキシマブ、ソラネズマブ、バピネスマブ、カトゥマキソマブ、トラスツズマブ、セツキシマブ、オマリズマブ、アダリムマブ、インフリキシマブ、レチシマブ、ベバシズマブ、BAN2401、トシツモマブ、またはアレムツズマブが挙げられるが、これらに限定されない。このような抗体は市販されている。二機能性抗体には、例えば、抗ブドウ球菌治療用抗体(例えば、テフィバズマブ、トサトクスマブ、パギバクシマブ、スブラトクスマブ、及び他のmAb)の1つに結合した抗CD3抗体、傷害関連抗原に対するモノクローナル抗体(VCAMまたはフィブリノペプチドA)に結合した特定の細胞集団に対するモノクローナル抗体(F4/80-マクロファージまたはc-キット-幹細胞)の抗体融合体(ハイブリドーマ融合体または化学的に生成されたもののいずれか)が含まれ得る。二機能性抗体の作製方法は、当技術分野で知られており、例えば、Nolan and O’Kennedy, Biochim Biophys Acta., 1990; 1040(1):1-11に示されている。
【0059】
他の態様では、生物学的製剤は、非抗体治療薬である。このような治療薬の具体例には、タンパク質、ヌクレオチド、脂質、または被験者における生物学的活性を有する他の分子が含まれるが、これらに限定されない。より具体的には、非抗体治療用生物学的製剤の具体例としては、とりわけ、アルデスロイキン(PROLEUKIN(登録商標))、インターフェロンα-2a、PEG化IFN-α-2b、インターフェロン-α-2a(ロフェロン-A)、インターフェロン-α-2b、インターフェロン-β-1b(BETASERON(登録商標))、インスリングラルギン、インターロイキン、アバタセプト、アボボトリヌムトキシンA、アフリベルセプト、アガルシダーゼ ベータ、アガルシダーゼ ベータ、アルビグリチド、アルビグチド、アルグルコシダーゼ アルファ、アルテプラーゼ、カテフロ活性化酵素、アナキンラ、アスフォターゼ アルファ、アスパラギナーゼ、アスパラギナーゼ黒脚病菌、ベカプレルミン、ベラタセプト、コラゲナーゼ、コラゲナーゼ クロストリジウム ヒストリチクム、 ダルベポエチン アルファ、デニロイキン・ディフティトックス、ドルナーゼ アルファ、デュラグルチド、エカランチド、エロスルファーゼ アルファ、エポエチン アルファ、エタネルセプト、エタネルセプト-szzs、フィルグラスチム、フィルグラスチム-sndz、フォリトロピン アルファ、ガルスルファーゼ、グルカルピダーゼ、イドゥルスルファーゼ、インコボツリヌス毒素A、インターフェロン アルファ-2b、インターフェロン アルファ-n3、インターフェロン ベータ-1a、インターフェロン ベータ-1b、インターフェロン ガンマ-1b、ラロニダーゼ、メトキシポリエチレングリコール-エポエチン ベータ、メトレレプチン、オクリプラスミン、オナボツリヌス毒素A、オペルベキン、パリフェルミン、副甲状腺ホルモン、ペガスパルガス、ペグフィルグラスチム、ペグロティカーゼ、ラズブリカーゼ、レテプラーゼ、リロナセプト、リマボツリヌス毒素B、ロミプロスチム、サルグラモスチム、セベリパーゼ アルファ、tbo-フィルグラスチム、テネクテプラセ、ベドリズマブ、及びジブ-アフリベルセプトが挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
他の態様では、生物学的製剤は、ワクチンとしての使用に適している。ワクチンの具体例としては、とりわけ、BNT162b2、mRNA-1273、JNJ-78436735、インフルエンザ ウイルス ワクチン(例えば、IIVまたはLAIV)、麻疹、おたふく風邪、風疹(MMR)ワクチン、DTaPワクチン、HepAワクチン、HebBワクチン、Hibワクチン、HPV9ワクチン、MenACWY、PCV13、PPSV23、ポリオ ワクチン、狂犬病ワクチン、RV1、RV5、RZV、ワクシニア、VAR、MMRV、及び黄熱病ワクチンが挙げられる。
【0061】
製剤には、投与溶媒中に存在する生物活性剤が含まれる。投与溶媒は、任意に、生物活性剤を被験者に送達する際の使用に適した任意の流体である。任意に、投与溶媒は、水性溶媒であり、即ち、前記溶媒が水を含み、場合によって、主に水である。任意に、投与溶媒は、水及び緩衝液、塩、賦形剤、または他の所望の物質のうちの1種またはそれ以上である。投与溶媒は、任意に糖、場合によってはデキストロースであるか、またはそれを含む。
【0062】
投与溶媒は、任意に1種またはそれ以上の塩を含む。塩は、任意に、一価、二価、または多価の塩である。一価の塩は、任意にNa、K、Mg、Ca、Zn、または他の塩である。このような塩は、任意に塩化物、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、または他のアニオンを含む。任意に、1種、2種、3種、4種、またはそれ以上多種の塩が溶媒中に存在する。
【0063】
投与溶媒は、任意に1種またはそれ以上の緩衝剤を含む。例示的な緩衝剤は、とりわけ、リン酸塩、HEPES、TRIS、コハク酸塩、クエン酸、及び酢酸であってもよいが、これらに限定されない。
【0064】
投与溶媒は、任意に、有機(例えば、非水性)の主成分または成分を含む。任意に、有機物は、とりわけ、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドン、グリコフロール、ソルケタール、グリセロール ホルマール、アセトン、テトラヒドロフルフリル アルコール、ジグライム、ジメチル イソソルビド、及び乳酸エチルであるか、またはこれらを含む。任意に、投与溶媒は、有機溶媒を含まない。任意に、有機物は、投与溶媒中に、該有機物が存在しない残りの溶液中の生物活性剤の凝集特性を変化させない濃度で存在する。
【0065】
実例として、投与溶媒は、ナトリウムまたはリン酸塩緩衝生理食塩水であるか、またはそれらを含む。
【0066】
投与溶媒は、任意に1種またはそれ以上の薬剤的に許容される賦形剤を含む。この文脈において、「薬剤的に許容される」とは、前記製剤中における生物活性剤の用量及び濃度において、賦形剤が投与される被験者において望ましくない影響を引き起こさない賦形剤を意味する。このような薬剤的に許容される賦形剤は当技術分野で周知され、これらは、具体的には、担体、希釈剤、結合剤、崩壊剤、流動性改良剤、pH調整剤、安定化剤、粘度調整剤、保存剤、ゲル化剤または膨潤剤、界面活性剤、乳化剤、及び懸濁化剤等であり得る。当業者に認識されるように、薬剤的に許容される賦形剤の具体的な選択は、特定の形態または製剤、例えば剤形に依存する。当業者は、様々な教科書に、例えば、Remingtonによる「薬学と実践」に、適切な薬剤的に許容される賦形剤の提供についてのガイダンスを見つけることができる。
【0067】
本明細書で提供される超濃縮製剤は、生物活性剤の機能活性を維持する濃度で存在する生物活性剤を含むが、典型的に使用される濃度、または単純な蒸発または濾過濃縮法で達成可能な濃度よりも高い濃度で生物活性剤も含む。これは、歴史的には実質的な凝集物の存在や皮下送達装置(例えば、20~30ゲージの針)にとって高すぎる粘度、または活性の重大な損失がなく、生物活性剤の適切な用量に必要な容量では許容できなかった皮下注射による活性剤の送達に使用できる材料を初めて提供するものである。
【0068】
いくつかの態様では、本明細書で提供される超濃縮製剤は、生物活性剤の生理学的に無関係な凝集物を含まないか、または含む。生理学的に無関係な凝集物とは、被験者において、生物活性剤に対する望ましくない免疫応答を引き起こす、または生物活性剤溶液の比活性(バイオアベイラビリティ)を低下させる凝集物が存在しないことである。凝集物が存在しないとは、生物活性剤の二量体、三量体、四量体、または10以下の単量体、またはその他の凝集物が存在しないこと、または動的光散乱による測定で直径1マイクロメートルまでの粒子サイズの凝集物が存在しないことである。
【0069】
従って、本明細書で提供される製剤は、任意に、生物活性剤の通常の承認された用量が単回投与で投与され得る十分な量の生物活性剤を含む。本明細書で提供される製剤の投与は、典型的には注射の許容量に対して最も高い厳密性を有するため、皮下投与によって例示される。理解されるように、製剤は、静脈内または筋肉内等の他の経路によって投与されてもよい。任意に、本明細書で提供される製剤は、皮下投与されるように製剤化され、または皮下投与され、任意に静脈内及び/または筋肉内投与を除外する。
【0070】
従って、本明細書で提供される製剤は、任意に、単回投与で投与される推奨用量に十分な量の生物活性剤を含む体積を有する。前記製剤は、任意に5ミリリットル(ml)以下、任意に4ml以下、任意に3ml以下である。いくつかの態様では、前記製剤は、ヒト被験者において痛みを伴わずに許容される量、任意に2.5ml以下、任意に2.0ml以下、任意に1.5ml以下で投与される。
【0071】
一例として、生物活性剤が抗体または他のタンパク質治療薬である場合、一例として、該生物活性剤は、任意に50ミリグラム(mg)/ml以上の濃度で存在する。任意に、抗体の濃度は、75mg/ml以上、任意に90mg/ml、任意に100mg/ml以上、任意に125mg/ml以上、任意に150mg/ml以上である。
【0072】
本明細書で提供される製剤の粘度は、任意にヒトへの投与に使用される生理食塩水よりも大きく、任意に1センチポアズ(cP)以上である。本明細書で使用される粘度は、20℃、1気圧(即ち、760mg/mm)で測定される。任意に、前記製剤の粘度は、1.25cP以上、任意に1.5cP以上、任意に1.75cP以上、任意に1.9cP以上、任意に2cP以上、任意に8cP以上、任意に12cP以上、任意に20cP以上である。
【0073】
製剤は、任意に生物活性剤の活性を、製剤を形成する前の薬剤と実質的に同じレベルに維持する。生物活性剤の活性は、該生物活性剤の性質に依存する。例えば、抗体の活性は、標的配列に対する親和性として定義される。酵素の活性は、基質と反応する能力として定義される。免疫原の活性は、免疫原性能力として定義される。ナノ粒子ワクチン等のナノ粒子の活性は、必要に応じて、標的細胞に侵入する能力である。製剤における生物活性剤の活性は、任意に、製剤を作製する前の生物活性剤の活性の75パーセント(%)以上である。任意に、製剤を作製する前の生物活性剤の活性に対する製剤の活性は、80%以上、任意に85%以上、任意に90%以上、任意に95%以上、任意に99%以上、任意に99.9%以上である。
【0074】
抗体の活性は、当技術分野で知られている多くの技術のうちの1つによって試験及び定量することができる。例えば、抗体の親和性は、当技術分野で知られている酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)によって得ることができる。簡単に言うと、本明細書に提供される製剤の調製前のサンプル及び本明細書に提供される製剤のサンプルは、標的抗原に対して試験することができ、各サンプルのプレート表面に結合し得る標的抗原に結合する能力を測定して直接に比較することができる。他の例では、生物活性剤がペグインターフェロン-α-2a等のタンパク質である場合等、Foserら、タンパク質発現及び精製、2002; 30:78-87に記載されているように測定してもよい。他のタンパク質生物活性剤の標準的な活性アッセイも当技術分野で知られている。生物活性剤の濃度は、機能及び標準曲線との比較、ELISA、または他の既知の定量法で測定してもよい。
【0075】
また、本明細書で提供される生物活性剤の超濃縮製剤を調製するプロセスも提供される。前記プロセスは、
生物活性剤及びガラス化媒体を含むガラス化混合物を、乾燥チャンバー内の毛細管ネットワークを含む膜の上に重ねること;
前記乾燥チャンバー内の気圧を下げること;
ガラス化中にガラス化混合物が極低温の状態に陥るのを防ぐのに十分な熱エネルギーを該生体試料に提供すること;
該ガラス化混合物がガラス状態になるまで、毛細管現象によりガラス化混合物を乾燥させること;及び
前記投与溶媒中の前記生物活性剤の濃度が前記ガラス化媒体中の該生物活性剤の濃度よりも高くなるように、該生物活性剤を投与溶媒中で再構成すること
を含む。
製剤の形成方法
【0076】
本明細書で提供される製剤は、その極低温化、結晶化、及び/または凍結を回避しながら、生物活性剤とガラス化媒体とのガラス化混合物のガラス化によって製造され得る。特定の態様では、生物活性剤とガラス化媒体のガラス化が行われ、該ガラス化媒体が1種またはそれ以上のガラス形成剤を含む。適切なガラス形成剤の存在下では、極低温を超える温度のガラス化マトリックス中に生物活性剤を貯蔵することが可能となり、脱水によってガラス化が達成される。一部の動物や多くの植物は、完全な脱水でも生存することができる。乾燥状態(無水生作用)で生存するこの能力は、いくつかの複雑な細胞内の物理化学的及び遺伝的メカニズムに依存する。これらのメカニズムの中には、乾燥時に保護剤として機能する糖類(例えば、糖類、二糖類、オリゴ糖等)の細胞内蓄積が含まれる。トレハロースは、乾燥耐性生物において自然に生成される二糖類の一例である。
【0077】
トレハロースのような糖は、いくつかの異なる方法で生物活性剤を保護し得る。トレハロース分子上のヒドロキシル基の独特な配置により、トレハロース分子は、立体構造や折り畳みを変えることなく、折り畳みタンパク質の表面から水素結合水分子を効果的に置換し得る。糖分子はまた、脂質二重層のリン脂質頭部と結合することにより、再水和中の脂質ナノ粒子または細胞からの漏出を防止し得る。さらに、多くの糖は、ガラス転移温度が高いため、低含水量でも極低温または室温以上でガラスを形成することができる。粘度の高い「ガラス状」状態は、分子の可動性を低下させ、これにより、細胞機能の低下や死につながる分解生化学反応を防止する。ガラス形成糖トレハロースの存在下での脱水による生体材料のガラス化は、米国特許第10,433,540号及び米国特許出願第63/115,936号に開示されている。
【0078】
本明細書で提供される製剤は、低気圧と熱エネルギーを組み合わせて、ガラス化混合物中の生体試料の均一かつ迅速なガラス化を達成するガラス化プロセスによって調製され得る。いくつかの態様では、ガラス化混合物への熱エネルギーの供給は、減圧下で行われる。いくつかの態様では、熱エネルギーが、ガラス化混合物の結晶化を防止するためにガラス化混合物に供給される。
【0079】
ガラス化混合物の温度は、乾燥及び/またはガラス化中に制御される。例えば、ガラス化混合物を乾燥チャンバー内に放置し、該ガラス化混合物に熱エネルギーを供給し、該ガラス化混合物が極低温にさらされるのを制限または防止する。いくつかの態様では、熱エネルギーが、ガラス化混合物の結晶化を防止するためにガラス化混合物に伝達される。
【0080】
任意に、生体試料の温度は、適用される真空またはガラス化混合物の周囲の気圧の低下で制御される。低い気圧を適用すると、ガラス化混合物の温度が大幅に低下し、ガラス化混合物が結晶化する可能性がある。結晶化が発生すると、生物活性剤に取り返しのつかない損傷が生じ得る。これは、再構成したときの望ましい活性や使用に悪影響を与え得る。また、ガラス化混合物の周囲の気圧が低下すると、ガラス化混合物内の分子活性が変化し、これにより、沸点が低下する。極低温化と同様に、生体試料及び/またはガラス化媒体を沸騰させることまたは過熱させることは、有害となり得る。ガラス化混合物の沸騰は、生物活性剤の三次構造の損失、架橋、及びタンパク質、脂肪酸、及び核酸等を含む成分の分解を引き起こし、再構成時の活性が損なわれ得る。特定の態様では、本開示のプロセスは、真空、部分真空、一般の低減された気圧等の低気圧下で、ガラス化混合物を極低温を超える温度に維持する。
【0081】
特定の態様では、前記生物活性剤及びガラス化媒体を含むガラス化混合物を直接に加熱して、乾燥中の温度を制御してもよい。他の態様では、前記生物活性剤及びガラス化媒体を含むガラス化混合物の温度は、伝導、対流、及び/または放射の手段で制御されてもよい。任意に、前記生体試料及びガラス化媒体を含むガラス化混合物は、乾燥チャンバーの外側の温度を制御し、乾燥チャンバーまたはその一部を通る伝導に依存して、該ガラス化混合物の温度を制御することによって、その温度を制御してもよい。このような場合、乾燥チャンバーの壁の物理的特性を考慮する必要があることが理解されるであろう。例えば、乾燥チャンバーの導電性の低い材料では、ガラス化混合物が適切な熱エネルギーを受けることができるように、該ガラス化混合物が必要とする温度とは異なる温度の適用が必要となり得る。このような必要な適応は、当業者には容易に理解されるであろう。いくつかの態様では、加熱パッド、加熱バス、炎、加熱ベッド(ガラスビーズ、加熱ブロック等)を通じて熱を供給してもよい。いくつかの場合では、熱エネルギーは、発熱の電源、及び/または燃焼によって放出される熱エネルギー、及び/または電気抵抗によって発生する熱エネルギーからのものであってもよい。
【0082】
いくつかの態様では、熱エネルギーは、下層支持基板を通じてガラス化混合物に提供され得る。連続した毛細管ネットワークの多孔質材料もガラス化混合物に熱エネルギーを提供し得るが、いくつかの場合では、多孔質材料は、ガラスやポリマー等の低伝導性材料である。しかし、前記下層基板は、金属または同様の効率的な導電性材料でできてもよく、乾燥チャンバーの外側の熱源または電源に容易に接続され、内部に生じる抵抗によって熱を提供してもよい。毛細管蒸発を助けるために、この固体支持体からの熱エネルギーの供給は、さらに温度勾配を提供してもよい。
【0083】
いくつかの態様では、前記生物活性剤及びガラス化媒体を含むガラス化混合物は、低気圧下でのガラス化中にその極低温を超える温度に維持される。任意に、前記ガラス化混合物は、低気圧下での乾燥の前に予熱される。他の態様では、前記ガラス化混合物は、低気圧下でガラス化中に加熱される。他の態様では、ガラス化の開始時またはその前後に熱が供給される。前記ガラス化混合物に供給される熱エネルギーの量は、低気圧プロセス下でのガラス化中に一定であっても変化してもよいことが理解されるであろう。いくつかの態様では、乾燥チャンバー内に低気圧を導入すると、前記ガラス化混合物の温度が急速に低下する可能性がある。このような態様では、該ガラス化混合物が熱エネルギーを受ける準備ができている、またはすでに受けている状態にすると、温度低下からの回復速度を高めることができる。
【0084】
特定の態様では、ガラス化混合物が約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、及び39℃を含む、その約Tg(℃)~約40℃の温度に維持されるように、一定の温度を該ガラス化混合物に適用する。特定の態様では、前記ガラス化混合物に必要な熱エネルギーを提供するために、より高い温度を乾燥チャンバーまたは多孔質材料に適用してもよい。このような適用温度は、乾燥チャンバーのサイズと、生体試料及び/またはガラス化媒体に効果的に移送するために利用可能な伝達手段とに応じて、約15℃~約70℃であってもよい。
【0085】
いくつかの態様では、生体試料のガラス化は、1気圧(760mmHg)未満として定義される低気圧で行われる。任意に、前記乾燥は、ガラス化混合物が低気圧にさらされるように乾燥チャンバー内に配置される乾燥チャンバー内で行われる。前記ガラス化混合物に低い気圧を供給するために、このような乾燥チャンバーは、真空源に接続されてもよい。ガラス化混合物は、ガラス化媒体またはトレハロース等の凍結保存剤で調製し、真空の供給等を通じて低気圧にさらすことができる。任意に、前記低気圧は、0.85、0.8、0.75、0.7、0.65、0.6、0.55、0.5、0.45、0.4、0.35、0.3、0.255、0.25、0245、0.24、0.235、0.23、0.225、0.22、0.215、0.21、0.205、0.2、0.195、0.19、0.185、0.18、0.175、0.17、0.165、0.16、0.155、 0.15、0.145、0.14、0.135、0.13、0.125、0.12、0.115、0.11、0.105、0.1、0.095、0.09、0.085、0.08、0.075、0.07、0.065、0.06、0.055、0.05、0.045、0.04、0.035、0.03、0.025、0.02、0.015、0.01atmを含む、約0.9atm~約0.005atmである。
【0086】
いくつかの態様では、乾燥チャンバー内の圧力を、前記ガラス化混合物の三重点を超える値まで下げる。他の態様では、前記圧力を、水の三重点を超える値、例えば0.006atmを超える値まで下げる。本明細書に記載されているように、気圧が低下すると、前記ガラス化混合物の温度が低下し、同時にその沸点も低下する。いくつかの態様では、乾燥チャンバー内の圧力を、約0.04atmまたは約29mmHgまで下げる。
【0087】
前記ガラス化混合物を高温の真空または部分真空中に放置し、または適用された気圧でガラス化混合物を、極低温を超える温度に維持してもよい。これにより、気圧が急速に低下した際に、前記ガラス化混合物が極低温にさらされない。ガラス化中、前記ガラス化混合物の温度は、ガラス化媒体のTgよりも低くなり、生体試料のガラス化が可能になる。
【0088】
低い気圧を維持するには、乾燥チャンバー等の密閉された容器内にガラス化混合物を入れることが必要となり得る。当業者には理解されるように、ガラス化混合物の周囲に低気圧を提供及び/または維持するには、通常、乾燥チャンバーが内部の低圧に耐えられること必要となる。このようなものは、内部の低い気圧を維持するという要件によって制約され、十分な密閉及び十分な壁強度を必要とする、任意の適切なまたは所望の形状及び/または材料とすることができる。前記乾燥チャンバーは、真空源に動作可能に接続されて、その中の気圧を低下させることができ、同時に、ガラス化完了時に空気を戻すことができる。前記乾燥チャンバーは、真空を適用して乾燥チャンバー内の気圧を所望の範囲まで効果的に下げることができるように、十分に密封または密閉してもよい。
【0089】
いくつかの態様では、ガラス化混合物のガラス化を促進するために、ガラス化混合物を毛細管ネットワークの上またはその中に放置する。毛細管ネットワークは、減圧下でガラス化混合物が沸騰するのを防ぐことができる。毛細管補助による蒸発の原理は、米国特許第10,568,318号に記載されている。簡単に言うと、
図1は、以下のガラス化混合物の毛細管補助による乾燥に好ましい条件を示している:
毛細管プレート/膜53を形成する複数の毛細管チャネル;
これらの毛細管チャネルは、第1開口部54及び第2開口部56を有する;
ガラス化混合物52を第1開口部54の上に放置し、さらに第2開口部56及びガラス化混合物の表面59を、該ガラス化混合物よりも湿度の低い周囲環境58にさらす;
任意に、前記ガラス化混合物に熱を供給し、該ガラス化混合物がガラス状態になるまで、毛細管作用により該ガラス化混合物を乾燥させ、それにより生物活性剤をガラス状態に保存する。
容器55内の化学物質、湿度、圧力、及び温度は、制御機構57によって制御される。いくつかの態様では、ガラス化混合物の量は、ガラス化混合物全体が毛細管ネットワークの細孔内に保持されるように十分に少なく、それによって全体の乾燥速度及び生物活性剤の保存が改善される。
【0090】
制御機構57は、例示のみのために簡略化され、乾燥及びガラス化に最も好ましい条件を達成するために複数のシステム及び機構を有することができる。任意に、53と同様の第2毛細管プレート/膜は、ガラス化混合物52の上面で本開示の毛細管補助による乾燥方法の恩恵を受けるために、ガラス化混合物52の上部に直接に放置される。しかし、重力は、上部の毛細管力に有利ではない。いくつかの態様では、毛細管効果を高めるために、低湿度のガス(相対湿度は30%未満)の流れが、前記毛細管プレート/膜の第2開口部56にわたって提供される。窒素、アルゴン、及びキセノン等の不活性または比較的不活性なガスを低湿度のガスとして使用してもよい。いくつかの態様では、容器55内は、減圧または真空に維持される。いくつかの態様では、乾燥速度を速めるために、吸引力/圧力が、第2開口部56にわたって提供される。注意されたいこととして、乾燥を行った後の再水和を防ぐには、周囲の湿度を低く維持すること(任意に、相対湿度は5%以下)が不可欠である。
【0091】
【0092】
いくつかの態様では、前記熱エネルギーは、ガラス化混合物が毛細管ネットワーク上でガラス化を受けるときに、該ガラス化混合物に供給される。下層毛細管ネットワークにより、ガラス化混合物を沸騰から保護しながら、熱エネルギーを受けるガラス化混合物の均一かつ完全なガラス化が可能になる。前記毛細管ネットワークは、毛細管の連続的なネットワークであり得る。いくつかの場合では、前記毛細管ネットワークは、第1端から第2端まで途切れのない構造を形成する連続した毛細管チャネルであり得る。いくつかの場合では、前記毛細管ネットワークは、膜等の下層多孔質材料、またはそのトラフ及びピークがガラス化中に液体のガラス化混合物を毛細管作用にさらすのに十分なベッドを提供し、下層の輪郭または隆起した表面によって提供することができる。
【0093】
図2Aを参照すると、ガラス化混合物20の薄い液体層の塗布によって覆われた連続の親水性ベッド10が示されている。いくつかの態様では、ガラス化混合物の保護流体層は、生体試料が低気圧にさらされている間の沸騰から保護し得る。低気圧下での沸騰は、
図2Aに示されるように、親水性表面上の極めて薄い液膜によって回避及び/または軽減することができる。しかし、沸騰を防ぐことは可能であるが、前記液体の厚さに制限があるため、利用可能な表面積によりガラス化できる液体の量が減少する。
図2Bに示されるような輪郭のある表面の存在は、前記ピークで起こる優先的な乾燥により、ガラス化混合物が毛細管現象を受ける表面を効果的に提供し、それにより、ガラス化プロセス中に水分を吸い上げ、同様に生体試料(主に輪郭または隆線の尖部に位置する)を沸騰から保護し、非常に大量のサンプルをガラス化することができる。さらに、サンプルが輪郭のピークでガラス化すると、毛細管現象によって下層トラフから流体が引き出され、それによって、優れたガラス化と前記ガラス化混合物の乾燥が促進される。同様に、毛細管の膜の多孔質材料が毛細管内の生体試料を支持していれば、ガラス化プロセス中に毛細管作用により毛細管チャネルから流体が引き出され、より大量の生体試料が均一かつ完全にガラス化されて乾燥される。しかし、
図2Cに示されるように、液体負荷が大きすぎる等の場合、毛細管現象が液体をうまく引き上げることができなければ、該液体は、表面のパターンを満たすか、トラフに保持され、減圧下では気泡の核生成と沸騰が支配的になり、その液体に含まれる敏感な分子の損傷につながり得る。
【0094】
従って、本開示のいくつかの態様では、ガラス化混合物中に存在する流体の体積は、該流体が表面に溢れたりまたは溜まったりすることなく、毛細管ネットワークを満たせるように設定することができる。
【0095】
特定の態様では、乾燥チャンバーまたはその中に含まれる膜は、その中に放置されたときに、チャンバーの壁または膜がガラス化混合物に毛細管ネットワークを提供するように、適切にパターン化され得る。例えば、
図2Bに示されるような輪郭または隆線は、下層毛細管ネットワークを提供するために、チャンバーの壁を覆うことができる。他の態様では、内部にガラス化混合物を含む連続した毛細管ネットワークの多孔質材料が密閉可能な乾燥チャンバー内に提供される。特定の態様では、多孔質材料は、複数の連続した毛細管チャネルの膜を含み得る。
【0096】
毛細管膜は、ガラス化混合物がTf未満の温度にさらされるのを避けるために、それ自体を加熱できる支持体中に配置することができる。いくつかの態様では、熱が生成される表面から膜を分離するために、膜と加熱ブロックの間に、または膜が配置されるチャンバーの側面との間に支持足場を含めてもよい。いくつかの態様では、これにより、サンプルの下からの直接な加熱が防止され、実質的に二方向からの乾燥が可能になり、または、より大量な熱が膜材料のトラフにさらされることを回避する。
【0097】
代わりに、または追加で加熱要素をチャンバー内に導入して、ガラス化膜の表面に直接に熱を供給してもよい。これにより、膜内/膜上の所望の位置での効果的なガラス化が促進され、優れた毛細管作用が促進され、ガラス化中のガラス化媒体の沸騰が防止される。
【0098】
任意に、ガラス化混合物に熱エネルギーを提供及び/または伝達するために、支持基板を利用してもよい。当業者に理解されるように、いくつかの態様では、ガラス化混合物に熱エネルギーを効果的に提供するために、前記支持基板は、金属等の良好な導電性材料であってもよい。他の態様では、連続した毛細管ネットワークを提供するための多孔質材料をガラス化混合物とその下層の固体支持基板との間に配置してもよい。
【0099】
図2に示すように、輪郭及び/または隆線の存在は、毛細管隆線を提供し、ガラス化を促進する。表面上にガラス化混合物が存在すると、毛細管現象によってガラス化混合物がピークに向かって引き寄せられ、ピークからの急速な蒸発が可能になる。連続した毛細管ネットワークの存在により、ガラス化混合物の流体が均一に蒸発し、沸騰を防ぐと同時に、有害な沸騰を引き起こし得る過剰な流体の蓄積も防ぐ。同様に、連続した毛細管チャネルの膜等の多孔質材料は、下層毛細管ネットワークを提供し得る。このような態様では、膜等の多孔質材料がガラス化混合物を収容し、その中の毛細管作用によってガラス化が促進される。従って、本開示のいくつかの態様では、ガラス化混合物は、連続した毛細管ネットワークの上に配置される。さらなる態様では、ガラス化混合物は、パターン化され、及び/または隆起され、及び/または輪郭付けされた任意の多孔質材料の上に配置される。さらなる態様では、前記連続した毛細管ネットワークは、乾燥チャンバーの壁内のパターン及び/または隆線及び/または輪郭によって形成される。他の態様では、前記毛細管ネットワークは、複数の連続した毛細管チャネルを含む多孔質材料によって提供される。
【0100】
前記乾燥チャンバーはさらに、その中にガラス化混合物を収容することができるか、またはそのように配置されなければならない。いくつかの態様では、前記乾燥チャンバーは、多孔質材料及び/または支持基板の上にガラス化混合物を収容できなければならない。いくつかの態様では、ガラス化混合物は、基板の上に配置することによって、ガラス化のために調製される。いくつかの態様では、前記基板は、膜及び/または配置された毛細管のベッド等の多孔質材料であってもよい。さらなる態様では、前記乾燥チャンバーの壁は、支持基板として機能し、その中に毛細管ネットワークを提供するように隆起され、及び/またはパターン化され、及び/または輪郭が付けられる。
【0101】
毛細管ネットワーク膜内の毛細管は、迅速な蒸発のために、インターフェースを提供することができる。下層のパターン化された隆起支持体または膜等の多孔質材料から形成される毛細管ネットワークは、毒性がなく、生体材料または生体試料に対して反応性がなく、ガラス化媒体と化学的または物理的に反応しない材料で作られてもよい。前記材料は、適切なポリマー、金属、セラミック、ガラス、またはそれらの組み合わせであり得る。いくつかの態様では、連続した毛細管ネットワークは、とりわけ、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエステル(例えば、ポリエチレン テレフタレート)の材料から形成される。本明細書で提供される装置及びプロセスの表面として適した膜を含む毛細管チャネルの例には、EMDミリポア(マサチューセッツ州、ベレリカ)によって販売されているもの等の親水性濾過膜が含まれる。特定の態様では、前記多孔質材料は、生体試料及び/またはガラス化媒体の成分と実質的に結合、変化、またはその他の化学的または物理的結合を生じない。前記多孔質材料は、任意に誘導体化されない。任意に、毛細管チャネルは、PDMS形成技術、レーザードリリング、または当技術分野で知られている他の穿孔形成技術によって、所望の材料及び厚さの基板(例えば、乾燥チャンバ壁)内に形成され得る。
【0102】
ガラス化混合物の下層の、またはガラス化混合物を収容する毛細管ネットワークは、乾燥中の蒸発プロセスを補助し得る。本明細書に記載されるように、毛細管は、乾燥チャンバーの壁をパターン化し、または輪郭付けして下層毛細管ベッドを効果的に提供することによって、または膜等を備えた連続した毛細管ネットワークの多孔質材料を提供することによって提供され得る。いくつかの態様では、多孔質材料及び/またはパターン化され、及び/または輪郭付けされた表面によって提供される毛細管ネットワークは、約20μm以下の細孔を特徴とし、それらの細孔が、ガラス化を補助する下層毛細管を提供する。いくつかの態様では、前記細孔の平均開口は、約19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1.0、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、及び0.2μmを含む、約20μm~約0.1μmであってもよい。毛細管チャネルは、チャネルを形成する基板の厚さによって、または1つまたは複数の個別のチャネル自体によって任意に規定される長さを有し得る。毛細管チャネルの長さは、任意に約1ミリメートル以下であるが、そのような寸法に限定されるものとして解釈されるべきではない。任意に、毛細管チャネルの長さは、約0.1~約1000ミクロン、またはそれらの間の任意の値もしくは範囲である。任意に、毛細管チャネルの長さは、約5~約100ミクロン、任意に約1~約200ミクロン、及び/または任意に約1~約100ミクロンである。毛細管チャネルの長さは、任意に約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または100ミクロンである。いくつかの態様では、毛細管チャネルの長さは、複数の毛細管チャネル全体にわたって、任意に不均一に変化する。
【0103】
前記毛細管チャネルの断面積は、約2000μm2 以下であってもよい。任意に、断面積は、約0.01μm2~約2000μm2、任意に約100μm2~約2000μm2、またはそれらの間の任意の値もしくは範囲である。任意に、前記毛細管チャネルの断面積は、約100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、または2000μm2以下である。
【0104】
毛細管補助による蒸発の速度は、周囲環境の需要(湿度、温度、蒸発面での空気/ガスの速度)、及び、(i)駆動毛細管力を生成する毛細管チャネルの特性、(ii) 液体メニスカスの深さ、及び(iii)毛細管を流れる粘性抵抗の両方の影響を受け得る。その結果、毛細管特性、輸送プロセス、及び境界条件の間の複雑かつ高度に動的な相互作用により、広範囲にわたる蒸発挙動が生じる。迅速な乾燥に重要なパラメーターには、(1)形成を支持して、蒸発面での液体ネットワークを維持する条件、及び(2)蒸発面に水を供給するのに十分な流れを誘発する毛細管圧の形成を促進する特性が含まれ得る。
【0105】
いくつかの態様では、前記多孔質材料は、その上に置かれるか押圧されると同様の形状をとるように、隆起され、及び/または輪郭を付けてもよく、または隆起され、及び/または輪郭を付けた下層支持基板の上に配置してもよい。
図2Bに示されるように、パターン化された材料の輪郭及び/または隆線は、表面積を増加させて、蒸発のための曝露を増加させ得る。
【0106】
いくつかの態様では、前記毛細管ネットワークは、親水性材料からなる。他の態様では、前記毛細管ネットワークは、疎水性材料からなり、プラズマへの曝露等により、本質的に親水性またはより親水性になるようにさらに処理されてもよい。
【0107】
いくつかの態様では、生物活性剤は、ガラス化媒体中に放置され、被覆され、または混合されて、ガラス化混合物を形成する。ガラス化媒体が本明細書に記載の周囲条件下で乾燥するため、ガラス化媒体中に適切なガラス化剤が存在することは、必須であり得る。高速乾燥法自体は、乾燥後の生物活性剤の生存率の成功を必ずしも保証するものではない。ガラスを形成し、及び/または他の材料中の結晶の形成を抑制するガラス化媒体が必要となり得る。ガラス化媒体は、浸透圧保護を提供し、生体試料の脱水中に細胞の生存を可能にし得る。ガラス化媒体に含まれる薬剤の具体例としては、次のうちの1種以上が挙げられる:ジメチルスルホキシド、グリセロール、糖、ポリアルコール、メチルアミン、ベチン、不凍化タンパク質、合成抗核生成剤、ポリビニル アルコール、シクロヘキサントリオール、シクロヘキサンジオール、無機塩、有機塩、イオン液体、またはそれらの組み合わせ。いくつかの態様では、ガラス化媒体は、任意に1種、2種、3種、4種、またはそれ以上多種のガラス化剤を含む。
【0108】
ガラス化媒体は、ガラス化剤の種類に応じた濃度でガラス化剤を含み得る。任意に、ガラス化剤の濃度は、その後のサンプル使用時に機能的または生物学的生存能力が達成されないほど毒性がある場合、ガラス化される生体試料に対して有毒となる濃度よりも低い濃度である。ガラス化剤の濃度は、任意に約500μM~約6M、または約1、2、3、4、または5Mを含む、それらの間の任意の値もしくは範囲である。ガラス化剤トレハロースの場合、その濃度は、任意に2、3、4、または5Mを含む、約1M~約6Mである。任意に、組み合わせた場合、全てのガラス化剤の総濃度は、任意に2、3、4、または5Mを含む、約1M~約6Mである。
【0109】
ガラス形成糖であるトレハロースは、無水ガラス化に利用され、いくつかの方法で乾燥耐性を提供し得る。しかし、水中でガラス化した1.8モル/リットル(M)のトレハロースのガラス転移温度は、-15~43℃である。0℃以上でガラス化を達成するには、生体材料に損傷を与え得るより高い濃度(6~8M)が必要となる。あるいは、前記ガラス化媒体は、VMのTg値を高めるために、緩衝剤及び/または塩を含んでもよい。いくつかの態様では、ガラス化媒体は、任意に水または溶媒、及び/または緩衝剤、及び/または1種以上の塩、及び/または他の成分を含んでもよい。緩衝剤は、25℃でのpKaが約6~約8.5の任意の試薬であってもよい。緩衝剤の具体例としては、とりわけ、HEPES、TRIS、PIPES、MOPSが挙げられる。緩衝剤は、ガラス化媒体のpHを所望のレベルに安定化させるのに適した濃度で提供され得る。
【0110】
1.8Mトレハロース、20mM HEPES、120mM ChCl、及び60mMベチンを含むガラス化媒体は、+9℃のガラス転移温度を提供する。毛細管補助によるガラス化のための例示的なガラス化媒体には、トレハロース、コリン、ベチン、またはHEPES等の高分子有機イオン(>120kDa)を含有する1種以上の緩衝剤、及びK、Na、またはCl等の低分子イオンを含有する緩衝剤が含まれ得る。
【0111】
生物活性剤をガラス化媒体にコーティングまたは浸漬し、本明細書に記載のガラス化のステップ中にガラス化媒体を保持するために支持基板上に放置してもよい。特定の態様では、前記毛細管ネットワークは、ガラス化混合物の一部を吸収し、一方で、流体の薄層が表面に残ることを可能にする。
【0112】
いくつかの場合では、乾燥チャンバー内で、生体試料をガラス化媒体でコーティング及び/または混合してもよい。他の態様では、乾燥チャンバー内に放置する前に、生体試料をガラス化媒体で調製してもよい。
【0113】
いくつかの態様では、本開示の方法は、乾燥時間にわたって実行してもよい。乾燥時間は、ガラス化媒体をガラス化するために適切な乾燥を促進するのに十分な時間である。乾燥時間は、任意に約10秒間、30秒間、1分間、5分間、10分間、20分間、25分間、30分間、35分間、40分間、45分間、50分間、及び55分間を含むがこれらを超えない、約1秒間~約1時間である。任意に、乾燥時間は、約1秒間~約30分間、任意に約5秒間~約10分間である。
【0114】
生物活性剤は、極低温を超える温度での貯蔵中にガラス化状態で生存し続け、またサンプル材料ごとに経時的に変化し得る。任意に、生物活性剤は、極低温を超える温度で2~20日間貯蔵されている間も生存し続けることがある。他の態様では、生物活性剤は、極低温を超える温度で10週間貯蔵されている間も生存し続けることがある。他の態様では、生物活性剤は、極低温を超える温度で最長1年間貯蔵されている間も生存し続けることがある。他の態様では、生物活性剤は、極低温を超える温度で最長10年間貯蔵されている間も生存し続けることがある。
【0115】
あるいは、本開示の教示及び装置を利用して極低温を超える温度でガラス化した後、ガラス化した生物活性剤を極低温及び/または液体窒素中で非常に長期間貯蔵することができる。これは、多くの生物活性剤にとって、極低温での直接なガラス化中に一般的に発生する冷凍損傷を回避するための好ましいアプローチである。一態様では、好ましいアプローチは、低濃度のガラス化剤(例えば、<2Mトレハロース)を利用して生物活性剤を室温でガラス化し、その後直ちに極低温で貯蔵することである。従って、前記装置は、本開示の教示に従ってガラス化した後に、-196℃から60℃の間の温度で貯蔵可能な材料から任意に作製される。
【0116】
任意に、生物活性剤は、ガラス化膜上またはガラス化膜内で、連続層でガラス化される。連続ガラス化により、再構成前に膜内に貯蔵される生物活性剤の量が増加するだけでなく、投与溶媒中での再構成後の生存可能かつ活性な生物活性剤の濃縮が成功することも促進されることが判明した。
図3に示されるように、膜のチャネル内の生物活性剤のガラス化は、生物活性剤及びガラス化媒体を含むガラス化混合物を膜のチャネルに添加し、この膜を、チャネルの壁にガラス形成が起こるまで、本明細書に提供されるような乾燥にさらすことによって達成され得る。次に、同じ膜に第2ガラス化混合物を、任意に、残りのチャネルを満たすレベル以下に添加してもよく、そして、第2乾燥プロセスを実行して、追加の生物活性剤、または異なる生物活性剤、補因子、補酵素、または他の所望の分子をガラス化状態のチャネルに添加する。より多くの同じまたは異なる生物活性剤を含むさらなるガラス化混合物を、1回、2回、3回、4回、5回、6回、またはそれ以上の回数で添加してもよい。いくつかの態様では、追加のガラス化媒体を添加できる回数は、その中にガラス化された材料を含む膜が、追加のガラス化混合物を膜のチャネル内またはチャネル上に吸収させるのに十分な細孔構造または形状を依然として有するという要件によって制限される。
【0117】
本明細書で提供される製剤は、生物活性剤の再水和により流体が生成され、投与溶媒中で生物活性剤の過飽和流体が生成されるような体積で、投与溶媒中でガラス化された生物活性剤を再構成することによって形成される。投与溶媒の量は、任意に、再構成された生物活性剤がガラス化混合物中よりも高い濃度で投与溶媒中に存在するように、ガラス化サンプルを調製するために使用されるガラス化媒体の量よりも少ない。
【0118】
使用される投与溶媒の量を所望の生物活性剤の投与回数に合わせて調整してもよい。例えば、皮下投与の場合、投与溶媒を5ml以下、任意に4ml以下、任意に3ml以下の容量で添加してもよい。いくつかの態様では、ヒト被験者において痛みを伴わずに許容される量、任意に2.5ml以下、任意に2.0ml以下、任意に1.5ml以下で製剤を投与する。他の態様では、静脈内注射または筋肉内注射等の所望の下流投薬に応じて、5mlを超える量で投与溶媒を添加する。
【0119】
投与溶媒は、例示の目的のみで投与溶媒と呼ばれる。前記溶媒の組成は、被験者への投与に許容される材料のみで形成される必要はないが、そうであってもよいが、生物活性剤の意図される下流での使用に応じて、それに加えて、またはその代替物を含む他の材料を含んでもよい。投与溶媒は、本明細書に記載のものであってもよい。
疾患または状態を予防または治療する方法
【0120】
本明細書で提供される製剤は、疾患もしくは状態、または疾患もしくは状態の症状を予防または治療するために使用してもよい。予防や治療等が可能な疾患または状態の正体は、該疾患もしくは状態を有する被験者、または疾患もしくは状態に罹患もしくは発現するリスクがある被験者への投与時に生物活性剤によって行われる生物学的活性の種類に依存するであろう。
【0121】
任意に、本明細書で提供される製剤が投与され得る疾患または状態には、とりわけ、関節リウマチ;癌(とりわけ、乳癌、肺癌、結腸直腸癌、膵臓癌、白血病等);自己免疫疾患;急性臓器拒絶反応;強直性脊椎炎;炎症性疾患;高コレステロール血症;クローン病;潰瘍性大腸炎;乾癬;糖尿病;多発性硬化症;心臓発作;全身性エリテマトーデス;加齢性黄斑変性症;糖尿病網膜症、肺炎;貧血;慢性片頭痛;感染症;B型肝炎、血友病、RSウイルス感染症;HPV感染症;水痘ウイルス感染症;成長ホルモン欠乏症;骨粗鬆症;喘息;アレルギー性喘息;慢性特発性蕁麻疹;不妊;HIV感染症;髄膜炎菌性疾患;嚢胞性線維症;発作性夜間ヘモグロビン尿症;凝固促進状態;心筋虚血;心筋梗塞;及びアルツハイマー病が含まれるが、これらに限定されない。
【0122】
本明細書で提供される製剤は、任意に、生物活性剤の投与に適した任意の所望の経路によって投与される。投与は、任意に皮下、静脈内、筋肉内等で行われる。特定の態様では、前記製剤は、皮下で被験者に投与される。投与溶媒における生物活性剤の濃度が増加すると、該生物活性剤の十分かつ適切な投与量を提供しながら、より少ない体積の投与が可能になる。皮下投与する場合、前記製剤は、任意に、ヒアルロニダーゼの存在または同時投与の必要なしに投与される。しかし、いくつかの態様では、生物活性剤が投与されるときに、ヒアルロニダーゼは存在する。
【0123】
前記製剤は、任意に毎日、毎週、毎月、または毎年に1回またはそれ以上の回数で投与される。任意に、前記製剤は、1日に1回投与される。投与頻度は、対象の生物活性剤について定められている通りである。
【0124】
前記生物活性剤は、任意に、投与溶媒中50mg/ml以上の濃度の抗体であり、その製剤は、皮下投与される。任意に、前記抗体が投与溶媒中90mg/ml以上の濃度であり、その製剤は皮下投与される。任意に、前記抗体が投与溶媒中150mg/ml以上の濃度であり、その製剤は皮下投与される。前記投与溶媒は、任意に緩衝生理食塩水または通常の生理食塩水である。
【0125】
前記生物活性剤は、任意に、投与溶媒中50mg/ml以上の濃度の抗プロタンパク質変換酵素ズブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)抗体であり、その製剤は、皮下投与される。任意に、前記抗体が投与溶媒中90mg/ml以上の濃度であり、その製剤は皮下投与される。任意に、前記抗体が投与溶媒中150mg/ml以上の濃度であり、その製剤は皮下投与される。前記投与溶媒は、任意に緩衝生理食塩水または通常の生理食塩水である。
【0126】
前記生物活性剤は、任意に、投与溶媒中50mg/ml以上の濃度の抗体-薬物(毒素)複合体であり、その製剤は、皮下投与される。任意に、前記抗体が投与溶媒中90mg/ml以上の濃度であり、その製剤は皮下投与される。任意に、前記抗体が投与溶媒中150mg/ml以上の濃度であり、その製剤は皮下投与される。前記投与溶媒は、任意に緩衝生理食塩水または通常の生理食塩水である。
【0127】
以下の非限定的な実施例で本開示の様々な態様を説明する。これらの実施例は、説明を目的としたものであり、本発明の実施を限定するものではない。本発明の主旨及び範囲から逸脱することなく、変形及び改変を行うことができることが理解されるであろう。
【実施例】
【0128】
実施例1:
例示的な抗体IgGをガラス化するために、ポリエチレンテレフタレート膜を、Tween20を含む0.05重量%リン酸緩衝生理食塩水に浸漬し、25℃で20分間連続撹拌する処理を行って調製した。次に、この膜をオーブン内で、55℃で1時間乾燥させた。
【0129】
20mg/mLの粉末IgG(IHUIGGGGLYIGM-34158、Innovative Research,Inc.)、5重量%のトレハロース二水和物、0.25重量%のグリセロールをリン酸緩衝生理食塩水中で混合し、ガラス化混合物を調製した。150マイクロリットルの該ガラス化混合物を前記処理された膜に添加した。この膜をガラス化チャンバー内の金属スクリーンの上に放置し、ベッド温度37℃で30分間乾燥させた。それぞれの場合において、チャンバーを29.5mmHgまで真空排気した。次いで、追加の150マイクロリットルのガラス化媒体を前記膜に添加し、このガラス化プロセスを繰り返した。これをさらに合計5回のガラス化サイクルにわたって繰り返した。前記プロセスにより、合計3つの個別のサンプルを作成した。
【0130】
得られた膜を走査電子顕微鏡(SEM)に供し、膜のチャネル内のガラス化された抗体の収集物を分析した。その結果を
図4Aに示すが、これはガラス化前の膜の構造を示している。
図4Bは、前記抗体の第1ラウンドのガラス化後の膜を示し、膜の繊維上の抗体の初期の堆積/コーティングを示している。
図4Cは、ガラス化された材料のさらなる収集物を示す第2ラウンドのガラス化後の膜を示している。
図4Dは、
図4Eに100倍の拡大で示される第3ラウンドのガラス化後の膜を示し、それらの両方とも、膜のチャネル内の細孔のさらなる充填及びガラス化された抗体のコーティングのより大きな連続性を示している。
【0131】
次いで、ガラス化された抗体を含有する膜を150マイクロリットルの水と接触させ、5分間インキュベートした。次いで、この膜をメッシュ支持体とともにチューブ形状に丸め、10×gで10分間遠心分離して、再構成された抗体を全て収集した。
【0132】
次いで、再構成された抗体の濃度を標準的な技術によるBCAタンパク質アッセイによりアッセイした。ガラス化混合物における抗体の出発濃度は、20mg/mlであった。記載されたようなガラス化及び再構成の後、抗体濃度は、91.59mg/mlで、標準誤差は1.82mg/mlであった。これにより、抗体濃度の4.5倍を超える増加が判明され、静脈内送達用の抗体生物製剤で通常利用できる以上の超濃縮抗体の有効性が示されている。
実施例2:
【0133】
実施例1のガラス化された材料を、その抗体の機能的安定性について分析した。実施例1のガラス化されたサンプルを75℃で1時間の熱処理に供した。次いで、このサンプルを実施例1のように濃縮し、ELISAによる分析に供した。簡単に言うと、ポリスチレンプレートを抗IgG抗体でコーティングした。再構成されたサンプルを段階的に希釈し、コーティングされたプレートでインキュベートした。洗浄後、西洋わさびペルオキシダーゼに結合した二次抗IgG抗体により、再構成された抗体の有無の検出を行った。TMB基質を使用して、抗体サンドイッチ検出を実行した。対照として、2mg/mlのガラス化に供していない同一の抗体溶液を調製し、同一の濃度に希釈し、同一のELISA分析に供した。第2対照として、2mg/mlの抗体溶液を75℃に1時間加熱処理し、同一のELISA分析に供した。
図5に示されるように、各同一濃度での実質的に重複する検出レベルによって示されるように、91.59mg/mlに再構成された、ガラス化された抗体は、ガラス化されていなく、加熱処理もされていない対照と同一の構造及び溶媒和を維持した。対照的に、ガラス化されなかった熱処理された溶液サンプルは、熱処理によって実質的に破壊された。
【0134】
別の一連の試験では、2mg/ml溶液の試験サンプル及び熱処理された溶液をSDS-PAGEに供し、クーマシー ブリリアント ブルーを用いて検出した。1μgまたは 5μgのサンプル抗体をレーンに負荷した。
図6に示されるように、超濃縮され、ガラス化され、かつ熱処理されたサンプルは、無傷の重鎖及び軽鎖構造を維持しているが、ガラス化されていなく、熱処理された抗体は、ほぼ完全に分解されている。要約すると、これらの試験によって明らかになったように、ガラス化は、抗体の超濃縮再構成溶液の生成にも関わらず、抗体の機能的立体構造を維持し、また、本明細書で提供されるように調製された場合にガラス化状態にあるときの抗体の明確な熱安定性を維持する。
実施例3:
【0135】
各膜に200μlのサンプルを添加したことを除いて、実施例1の抗体を実施例1の条件下でガラス化した。各連続ガラス化の後、ガラス化された材料を含む膜をX線回折(XRD)による分析に供した。
図7に示されるように、乾燥トレハロースのみが、代表的な結晶構造を示した。フィルター膜自体は、いずれの材料のガラス化の前に、予想した特徴的な非晶質構造を示した。
図4Bに示されるような、ガラス化された材料を含む第1ラウンドのガラス化の後、この非晶質構造が維持され、ガラス化中に結晶構造が形成されず、十分にガラス化された材料の存在が示された。同一膜の上での第2ラウンドのガラス化後に、同様の非晶質構造が観察された。対照的に、第3ラウンドのガラス化では、ある程度の結晶構造形成の存在が示され、以前のガラス化された材料が空間を占めていたため、溶液の量が多すぎて膜のチャネルに収容できないことが示された。第3ラウンドの条件下では、表面にある材料の乾燥中に結晶の形成が発生するであろう。
【0136】
これらのデータが示すように、連続ガラス化ラウンドの回数、及び、膜内に収容され、効果的に貯蔵された、ガラス化された生物学的製剤を維持し得る材料の総量は、ガラス化中及び膜に過負荷をかける前のガラス化混合物を収容するのに十分な細孔容積の存在によって制限され、非晶質構造が維持されており、適切に安定化された生物学的製剤の存在を示している。
【0137】
以下の例示的な態様のリストも本開示に関連する。
【0138】
態様1 生物活性剤及び投与溶媒を含む生物活性剤の超濃縮製剤。前記生物活性剤は、被験者への皮下投与に製剤化された前記投与溶媒中の該生物活性剤の濃度よりも高い濃度で存在し、任意に、本明細書に提供される方法で調製されなければ、投与溶媒中の生物活性剤の生理学的に適切な凝集が起こる濃度よりも高い濃度で存在し、任意に、態様14~27のいずれか1つの調製方法によって調製され、または、投与溶媒中の前記生物活性剤の濃度が、本明細書に提供される、または態様14~27のいずれか1つによって提供されるような、前記投与溶媒非存在下製剤中の前記生物活性剤の凝集物を含まない濃度と比較して、類似または同一のコロイド安定性、液―液相分離またはゲル形成傾向を有する。
【0139】
態様2 前記溶媒が、水性である、態様1に記載の超濃縮製剤。
【0140】
態様3 前記溶媒が、水及び1種またはそれ以上の一価または二価の塩を含む、態様1及び2のいずれか1つに記載の超濃縮製剤。
【0141】
態様4 前記生物活性剤が、前記溶媒中で該生物活性剤が凝集する濃度以上の濃度で存在する、態様1~3のいずれか1つに記載の超濃縮製剤。
【0142】
態様5 前記生物活性剤が、50mg/mLを超える、任意に90mg/mLを超える、任意に100mg/mLを超える、任意に150mg/mLを超える濃度で存在する、態様1~4のいずれか1つに記載の超濃縮製剤。
【0143】
態様6 1種またはそれ以上の薬理学的に許容される賦形剤をさらに含む、態様1~5のいずれか1つに記載の超濃縮製剤。
【0144】
態様7 前記製剤の体積が、最大2.5ミリリットルである、態様1~6のいずれか1つに記載の超濃縮製剤。
【0145】
態様8 ヒアルロニダーゼを含まない、態様1~7のいずれか1つに記載の超濃縮製剤。
【0146】
態様9 前記生物活性剤が、抗体、タンパク質、脂質粒子、任意に脂質ナノ粒子または他の治療剤である、態様1~8のいずれか1つに記載の超濃縮製剤。
【0147】
態様10 前記生物活性剤が、抗体、任意にヒト化抗体である、態様1~9に記載の超濃縮製剤。
【0148】
態様11 前記抗体が、ムロモナブ-CD3、インフリキシマブ、リツキシマブ、ソラネズマブ、バピネスマブ、カトゥマキソマブ、トラスツズマブ、セツキシマブ、オマリズマブ、アダリムマブ、ベバシズマブ、BAN2401、トシツモマブ、またはアレムツズマブを含む、態様9または10に記載の超濃縮製剤。
【0149】
態様12 前記生物活性剤が、タンパク質であり、前記タンパク質が、インターロイキンまたはインターフェロン、任意にインターフェロンβ-1b、ペグインターフェロンα-2b、ロフェロン-A、またはアルデスロイキンを含む、態様1~9のいずれか1つに記載の超濃縮製剤。
【0150】
態様13 前記製剤が、20cP以下、任意に12cP以下、任意に8cP以下、任意に2cP以下、任意に1cP以下の粘度を有し、前記粘度が、20℃及び1atmで測定される、態様1~12のいずれか1つに記載の超濃縮製剤。
【0151】
態様14 態様1~13のいずれか1つに記載の超濃縮製剤を調製するプロセスであって、
a)前記生物活性剤及びガラス化媒体を含むガラス化混合物を、乾燥チャンバー内の毛細管ネットワークを含む膜の上に重ねること;
b)前記乾燥チャンバー内の気圧を下げること;
c)前記ガラス化混合物が極低温の状態に陥るのを防ぐのに十分な熱エネルギーを該ガラス化混合物に提供すること;
d)毛細管現象により該ガラス化混合物をガラス状態になるまで乾燥させること;及び
e)前記投与溶媒中の前記生物活性剤の濃度が、被験者への皮下投与に製剤化された場合の該投与溶媒中の該生物活性剤の濃度以上であり、任意に、前記ガラス化混合物中の該生物活性剤の濃度以上であり、任意に、前記ガラス化混合物中の該生物活性剤の濃度よりも高くなるように、該生物活性剤を前記投与溶媒中で再構成すること
を含む、プロセス。
【0152】
態様15 ステップe)の前にステップa)~d)を繰り返すことをさらに含む、態様14に記載のプロセス。
【0153】
態様16 前記繰り返しが、1~3回である、態様15に記載のプロセス。
【0154】
態様17 前記毛細管ネットワークが、前記膜の表面に沿った輪郭によって提供される、態様14~16のいずれか1つに記載のプロセス。
【0155】
態様18 前記乾燥チャンバー内の毛細管ネットワークが、下層の固体支持基板によって支持される、態様14~17のいずれか1つに記載のプロセス。
【0156】
態様19 前記ガラス化混合物のガラス化が、30分間未満、任意に10分間未満で起こる、態様14~18のいずれか1つに記載のプロセス。
【0157】
態様20 前記熱エネルギーが、前記ガラス化混合物を加熱することによって提供される、態様14~19のいずれか1つに記載のプロセス。
【0158】
態様21 前記気圧が、約0.9atm~約0.005atmの値まで下げられる、態様14~20のいずれか1つに記載のプロセス。
【0159】
態様22 前記気圧が、約0.004atmまで下げられる、態様21に記載のプロセス。
【0160】
態様23 前記提供される熱エネルギーが、ガラス化中の前記ガラス化混合物内における前記生物活性剤の結晶化を防ぐのに十分である、態様14~22のいずれか1つに記載のプロセス。
【0161】
態様24 前記提供される熱エネルギーが、前記ガラス化中に前記生物活性剤を約0℃~約40℃の温度に保つのに十分である、態様14~23のいずれか1つに記載のプロセス。
【0162】
態様25 前記ガラス化媒体が、トレハロース、グリセロール、ベチン、及び/またはコリンを含む、態様14~24のいずれか1つに記載のプロセス。
【0163】
態様26 前記毛細管ネットワークが、親水性である、態様14~25のいずれか1つに記載のプロセス。
【0164】
態様27 前記毛細管ネットワークが、連続した毛細管チャネルを含む、態様14~26のいずれか1つに記載のプロセス。
【0165】
態様28 態様1~13のいずれか1つに記載の組成物を必要とする被験者に投与することを含む、疾患または状態を治療または予防するプロセス。
【0166】
態様29 前記投与が、皮下投与である、態様28に記載のプロセス。
【0167】
態様30 前記疾患または症状が、自己免疫疾患、癌、喘息、炎症性疾患、感染症、高コレステロール血症、急性臓器拒絶反応、骨粗鬆症、またはアルツハイマー病である、態様28または29に記載のプロセス。
【0168】
態様31 疾患治療のための態様1~13のいずれか1つに記載の使用。
【0169】
態様32 前記疾患または症状が、自己免疫疾患、癌、喘息、炎症性疾患、感染症、高コレステロール血症、急性臓器拒絶反応、骨粗鬆症、またはアルツハイマー病である、態様31の使用。
【0170】
本開示の態様を図示し説明してきたが、これらの態様が本開示の全ての可能な形態を図示し説明することを意図したものではない。むしろ、本明細書で使用される用語は、限定ではなく、説明のための用語である。また、本開示の主旨及び範囲から逸脱することなく、様々な改変及び置換が可能であることが理解される。
【0171】
参考特許文献
【0172】
6,808,651 B1 10/2004 Katagiri, et al.
【0173】
7,883,664 B2 2/2011 G. Elliott; N. Chakraborty.
【0174】
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【0176】
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【0177】
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【0178】
参考非特許文献
【0179】
Chakraborty N, Menze MA, Malsam J, Aksan A, Hand SC, et al. (2011)
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【0180】
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【0181】
本明細書に図示し説明したものに加えて、本開示の様々な改変は、上記説明の当業者には明らかであろう。このような改変も、添付される請求項の範囲に含まれることが意図されている。
【0182】
特に明記しない限り、全ての試薬は当技術分野で知られている供給元から入手可能であることが理解される。
【0183】
また理解されるべきこととして、特定の構成要素及び/または条件は当然変化し得るため、本開示は、本明細書に記載される特定の態様及び方法に限定されない。さらに、本明細書で使用される用語は、本開示の特定の態様を説明する目的でのみ使用され、決して限定することを意図したものではない。また理解されるべきこととして、用語「第1」、「第2」、及び「第3」等は、本明細書では様々な要素、成分、領域、層、及び/またはセクションを説明するために使用され得るが、これらの要素、成分、領域、層、及び/またはセクションは、これらの用語によって制限されるべきではない。これらの用語は、1つの要素、成分、領域、層、またはセクションを別の要素、成分、領域、層、またはセクションから区別するためにのみ使用される。従って、以下で論じる「第1の要素」、「成分」、「領域」、「層」、または「セクション」は、本明細書の教示から逸脱することなく、第2の(または他の)要素、成分、領域、層、またはセクションと称することができる。同様に、本明細書で使用される単数形「1つの」及び「この」は、内容に明示されない限り、「少なくとも1つ」を含む複数形を含むことを意図している。「または」は、「及び/または」を意味する。本明細書で使用される場合、「及び/または」という用語には、関連する列挙された項目の1つ以上のあらゆる組み合わせが含まれる。さらに理解されるべきこととして、本明細書で使用される用語「含む」及び/または「含んでいる」、または「包含する」及び/または「包含している」は、記載された特徴、領域、整数、工程、演算、要素、及び/または構成要素の存在を指定するが、1つ以上の他の特徴、領域、整数、工程、操作、要素、成分、及び/またはそれらのグループの存在または追加を排除するものではない。「またはそれらの組み合わせ」という用語は、前述の要素の少なくとも1つを含む組み合わせを意味する。
【0184】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本開示が属する当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。さらに理解されるべきこととして、一般に使用される辞書で定義されているような用語は、関連技術及び本開示の文脈におけるそれらの意味と一致する意味を有するものとして解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義されていない限り、理想化された意味または過度に形式的な意味で解釈されることはない。
【0185】
本開示の例示的な組成物、態様及び方法を詳細に参照するが、これらは発明者らに現在知られている本開示を実施する最良のモードを構成する。図面は必ずしも正確な縮尺ではない。しかし、理解されるべきこととして、開示された態様は、様々な代替形態で具体化され得る本開示の単なる例示にすぎない。従って、本明細書に開示される特定の詳細は、限定するものとして解釈されるべきではなく、単に本開示の任意の態様の代表的な基礎として、及び/または当業者に本開示を多様に利用することを教示するための代表的な基礎として解釈されるべきである。
【0186】
本明細書で言及される特許、刊行物、及び出願は、本開示が関係する当業者にレベルを示すものである。これらの特許、刊行物、及び出願は、個々の特許、刊行物、または出願が具体的かつ個別に参照により本明細書に組み込まれるのと同じ程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0187】
上記の説明は、本開示の特定の実施形態を例示するものであるが、その実施を限定することを意図するものではない。以下の請求項は、それらに相当する全てのものを含めて、本開示の範囲を定義することを意図している。
【国際調査報告】