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特表2024-527566VCP阻害剤及び治療のためのその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-25
(54)【発明の名称】VCP阻害剤及び治療のためのその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240718BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240718BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20240718BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240718BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240718BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240718BHJP
   A61K 31/517 20060101ALI20240718BHJP
   A61K 31/426 20060101ALI20240718BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20240718BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20240718BHJP
   A61K 31/454 20060101ALI20240718BHJP
   A61K 31/425 20060101ALI20240718BHJP
   A61K 31/4166 20060101ALI20240718BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61P21/00
A61P21/04
A61P43/00 111
A61P25/00
A61P25/28
A61K31/517
A61K31/426
A61K31/519
A61K31/496
A61K31/454
A61K31/425
A61K31/4166
A61K31/352
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500190
(86)(22)【出願日】2022-07-07
(85)【翻訳文提出日】2024-02-21
(86)【国際出願番号】 EP2022069011
(87)【国際公開番号】W WO2023281030
(87)【国際公開日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】2109830.6
(32)【優先日】2021-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】519041013
【氏名又は名称】ザ フランシス クリック インスティテュート リミテッド
【氏名又は名称原語表記】The Francis Crick Institute Limited
【住所又は居所原語表記】1 Midland Road London Greater London NW1 1AT United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パターニ リッキー
(72)【発明者】
【氏名】ハーレー ジャスミン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZA151
4C084ZA152
4C084ZA941
4C084ZA942
4C084ZC021
4C084ZC022
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086BC38
4C086BC46
4C086BC50
4C086BC60
4C086BC79
4C086BC82
4C086CB09
4C086CB22
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA10
(57)【要約】
VCP阻害剤及び治療のためのその使用。本発明は、バロシン含有タンパク質(VCP又はp97)の阻害剤及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)等の疾患の治療又は予防におけるその使用に関する。特に、本発明は、対象がVCP遺伝子中に病因性遺伝子突然変異を有さない(非VCP関連ALS)と特定されている、ALSを治療又は予防する方法で使用するためのVCP阻害剤を提供する。本発明は、VCP遺伝子中に病因性突然変異を有さないとして患者を特定する方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において筋萎縮性側索硬化症(ALS)を治療又は予防する方法で使用するためのVCP(バロシン含有タンパク質)阻害剤。
【請求項2】
前記対象がVCP遺伝子中に病因性突然変異を有すると特定されていない、請求項1に記載の使用のためのVCP阻害剤。
【請求項3】
前記対象がVCP遺伝子中に病因性突然変異を有さないと特定されている、請求項1に記載の使用のためのVCP阻害剤。
【請求項4】
前記ALSが非VCP関連ALSである、先行請求項のいずれか一項に記載の使用のためのVCP阻害剤。
【請求項5】
前記対象が、位置R155及びR191のいずれにおいてもVCP遺伝子中に病因性遺伝子突然変異を有さないと特定されている、先行請求項のいずれか一項に記載の使用のためのVCP阻害剤。
【請求項6】
前記対象が、R155C及びR191Qからなるリストから選択される病因性遺伝子突然変異をVCP遺伝子中に有さないと特定されている、先行請求項のいずれか一項に記載の使用のためのVCP阻害剤。
【請求項7】
前記対象が、位置R95、I114、I151、R155、G156、M158、R159、R191、N387、N401、R487、D592、R662及びN750のいずれにおいてもVCP遺伝子中に病因性遺伝子突然変異を有さないと特定されている、先行請求項のいずれか一項に記載の使用のためのVCP阻害剤。
【請求項8】
前記対象が、R95C、R95G、I114V、I151V、R155H、R155C、G156C、M158V、R159G、R159C、R159H、R191G、R191Q、N387T、N401S、R487H、D592N、R662C及びN750Sからなるリストから選択されるいかなる病因性遺伝子突然変異もVCP遺伝子中に有さないと特定されている、先行請求項のいずれか一項に記載の使用のためのVCP阻害剤。
【請求項9】
前記対象がTARDBP遺伝子中に1つ以上の病因性遺伝子突然変異を有すると特定されている、先行請求項のいずれか一項に記載の使用のためのVCP阻害剤。
【請求項10】
前記筋萎縮性側索硬化症が、TDP-43、FUS及び/又はSFPQの1つ以上の核対細胞質の比の低減と関連し、場合により、前記VCP阻害剤が、TDP-43、FUS及び/又はSFPQの1つ以上の核対細胞質の比の低減と関連する1つ以上の症状を改善する、先行請求項のいずれか一項に記載の使用のためのVCP阻害剤。
【請求項11】
前記筋萎縮性側索硬化症が、TDP-43の核対細胞質の比の低減と関連し、場合により、前記VCP阻害剤が、TDP-43の核対細胞質の比の低減と関連する1つ以上の症状を改善する、先行請求項のいずれか一項に記載の使用のためのVCP阻害剤。
【請求項12】
前記筋萎縮性側索硬化症が、FUSの核対細胞質の比の低減と関連し、場合により、前記VCP阻害剤が、FUSの核対細胞質の比の低減と関連する1つ以上の症状を改善する、先行請求項のいずれか一項に記載の使用のためのVCP阻害剤。
【請求項13】
前記筋萎縮性側索硬化症が、SFPQの核対細胞質の比の低減と関連し、場合により、前記VCP阻害剤が、SFPQの核対細胞質の比の低減と関連する1つ以上の症状を改善する、先行請求項のいずれか一項に記載の使用のためのVCP阻害剤。
【請求項14】
ALSを治療又は予防することが、ALSを患っているか又はALSに罹りやすい患者における神経学的機能障害の部分的又は完全な軽減、改善、除去、阻害、発症の遅延、重症度及び/又は発生率の低減を含む、先行請求項のいずれか一項に記載の使用のためのVCP阻害剤。
【請求項15】
神経学的機能障害が、中枢神経系の機能障害と関連する症状、例えば、発達遅延、進行性認知機能障害、聴力損失、言語発達障害、運動技能の欠如、活動亢進、攻撃性及び/又は睡眠障害の1つ以上を含む、請求項14に記載の使用のためのVCP阻害剤。
【請求項16】
VCP阻害剤でALSを治療又は予防することによって、VCP阻害剤がない場合の神経学的機能障害症状と比較して約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%又は約100%を超える、1つ以上の神経学的機能障害症状の好転又は改善がもたらされる、請求項15に記載の使用のためのVCP阻害剤。
【請求項17】
VCPのD2 ATPアーゼドメインを阻害する、先行請求項のいずれか一項に記載の使用のためのVCP阻害剤。
【請求項18】
ML240(2-(2-アミノ-1H-ベンゾイミダゾール-1-イル)-8-メトキシ-N-(フェニルメチル)-4-キナゾリンアミン)、ML241、2-アニリノ-4-アリール-1,3-チアゾール、3,4-メチレンジオキシ-6-ニトロスチレン、DBeQ(N2,N4-ジベンジルキナゾ-リン-2,4-ジアミン)、CB-5083(1-[7,8-ジヒドロ-4-[(フェニルメチル)アミノ]-5H-ピラノ[4,3-d]ピリミジン-2-イル]-2-メチル-1H-インドール-4-カルボキサミド)、CB-5339(1-[4-(ベンジルアミノ)-5,6,7,8-テトラヒドロピリド[2,3-d]ピリミジン-2-イル]-2-メチルインドール-4-カルボキサミド)、UPCDC-30245(1-(3-(5-フルオロ-1H-インドール-2-イル)フェニル)-N-(2-(4-イソプロピルピペラジン-1-イル)エチル)ピペリジン-4-アミン)、NMS-873、NMS-859、イイヤレスタチンI及びキサントフモールからなる群から選択される、先行請求項のいずれか一項に記載の使用のためのVCP阻害剤。
【請求項19】
ML240(2-(2-アミノ-1H-ベンゾイミダゾール-1-イル)-8-メトキシ-N-(フェニルメチル)-4-キナゾリンアミン)、ML241、2-アニリノ-4-アリール-1,3-チアゾール、3,4-メチレンジオキシ-6-ニトロスチレン、DBeQ(N2,N4-ジベンジルキナゾ-リン-2,4-ジアミン)、NMS-873、NMS-859、イイヤレスタチンI及びキサントフモールからなる群から選択される、先行請求項のいずれか一項に記載の使用のためのVCP阻害剤。
【請求項20】
ML240(2-(2-アミノ-1H-ベンゾイミダゾール-1-イル)-8-メトキシ-N-(フェニルメチル)-4-キナゾリンアミン)である、先行請求項のいずれか一項に記載の使用のためのVCP阻害剤。
【請求項21】
CB-5083(1-[7,8-ジヒドロ-4-[(フェニルメチル)アミノ]-5H-ピラノ[4,3-d]ピリミジン-2-イル]-2-メチル-1H-インドール-4-カルボキサミド)又はCB-5339(1-[4-(ベンジルアミノ)-5,6,7,8-テトラヒドロピリド[2,3-d]ピリミジン-2-イル]-2-メチルインドール-4-カルボキサミド)である、先行請求項のいずれか一項に記載の使用のためのVCP阻害剤。
【請求項22】
非VCP関連ALSを有するか又は有する疑いがあると対象を診断する方法であって、前記対象がVCP遺伝子中に病因性突然変異を有するかどうかを決定することと、VCP遺伝子中に病因性突然変異がないことに基づいて非VCP関連ALSの診断を提供することとを含む、方法。
【請求項23】
位置R95、I114、I151、R155、G156、M158、R159、R191、N387、N401、R487、D592、R662及びN750のうちのいずれにおいてもVCP遺伝子中に病因性遺伝子突然変異がないことを特定することを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
R95C、R95G、I114V、I151V、R155H、R155C、G156C、M158V、R159G、R159C、R159H、R191G、R191Q、N387T、N401S、R487H、D592N、R662C及びN750Sからなるリストから選択されるいかなる病因性遺伝子突然変異もVCP遺伝子中にないことを特定することを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
請求項22~24のいずれか一項に記載の方法を使用して、非VCP関連ALSを有すると、又は非VCP関連ALSを有する疑いがあると患者を診断することと、前記患者にVCP阻害剤を投与することとを含む、対象において非VCP関連ALSを治療又は予防する方法で使用するためのVCP阻害剤。
【請求項26】
請求項22~24のいずれか一項に記載の方法を使用して、患者が非VCP関連ALSを有すると、又は非VCP関連ALSを有する疑いがあると決定されており、前記患者にVCP阻害剤を投与することを含む、対象において非VCP関連ALSを治療又は予防する方法で使用するためのVCP阻害剤。
【請求項27】
場合により1つ以上の賦形剤を含む、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を治療又は予防する方法で使用するためのVCP阻害剤を含む医薬組成物。
【請求項28】
VCP阻害剤を、それらを必要とする対象に投与することを含む、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を治療又は予防する方法。
【請求項29】
前記対象がVCP遺伝子中に病因性突然変異を有すると特定されていない、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記対象がVCP遺伝子中に病因性突然変異を有さないと特定されている、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記ALSが非VCP関連ALSである、請求項28~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
対象がVCP遺伝子中に病因性突然変異を有するかどうかを決定する手段を含む、非VCP関連ALSを有するか又は有する疑いがあると対象を診断するためのキット。
【請求項33】
1つ以上のVCP阻害剤を含む1つ以上の容器及び場合により情報資料を更に含む、請求項32に記載のキット。
【請求項34】
前記情報資料が、非VCP関連ALSの診断及び治療における前記キットの使用のための指示を含む、請求項33に記載のキット。
【請求項35】
前記VCP阻害剤が請求項17~21のいずれか一項に記載のVCP阻害剤である、請求項25若しくは26に記載の使用のためのVCP阻害剤、請求項27に記載の医薬組成物、請求項28~31のいずれか一項に記載の方法又は請求項33若しくは34に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バロシン含有タンパク質(VCP又はp97)の阻害剤及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)等の疾患の治療又は予防におけるその使用に関する。特に、本発明は、対象がVCP遺伝子中に病因性遺伝子突然変異を有さない(非VCP関連ALS)と特定されている、ALSを治療又は予防する方法で使用するためのVCP阻害剤を提供する。本発明は、VCP遺伝子中に病因性突然変異を有さないとして患者を特定する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動ニューロンの選択的かつ進行性の変性である、常に致死的な神経学的疾患である。調節解除されたRNA代謝、特に、RNA結合タンパク質(RBP)の細胞内局在及び機能は、ALSの病態形成で中心的役割を果たす。RBPはRNAのライフサイクルを調整し、転写、スプライシング、RNA局在、機能及び減衰を制御する。
【0003】
いくつかのALSを引き起こす遺伝子突然変異は、トランスアクティブ応答DNA結合タンパク質43(transactive response DNA-binding protein 43)(TARDBP、TDP-43をコードする)、FUS/TLS(fused in sarcoma/translocated in liposarcoma)又はFUS、及びヘテロ核リボヌクレオタンパク質A1(hnRNPA1)を含めて、RBPをコードする。RBPの細胞内の誤局在もALSの病理学的特徴であり、TDP-43は、ALSの症例の97%で核から細胞質へ誤局在している[1]。
【0004】
ごく最近、様々なALSモデル及び孤発性ALSの死後組織にわたる広範なSFPQ及びFUSの誤局在も報告された[2、3]。細胞質におけるRBPの蓄積は、ALSで見られるRBPオリゴマー及び線維性の病理学的細胞質内封入体の形成に寄与すると考えられる[4、5]。1つのRBPは単独で何千ものRNA標的に結合することができるので、単一のRBPの障害でさえもRNA代謝に対して幅広くかつ多様な影響がある可能性がある[6]。
【0005】
バロシン含有タンパク質(VCP又はp97)は、細胞生理のほとんどすべての態様を包含する多種多様な細胞内機能を有する豊富なAAA+ATPアーゼ(多様な細胞活動と関連するATPアーゼ)である。VCPの機能としては、タンパク質の恒常性の維持、ミトコンドリアの品質管理及びアポトーシスが挙げられる[7]。VCPの構造はその多くの機能に重要であり、これは六量体タンパク質であり、各サブユニットは1つのN末端ドメインと、2つのATPアーゼドメイン(D1及びD2)と、障害を受けた(disordered)1つのC末端ドメインとを有する。常染色体優性のVCP突然変異は家族性ALSの症例の約2%を占める[8]。
【0006】
限られてはいるが、VCPの病原性変異体がこの疾患の孤発性症例でも特定されている[9]。多くの細胞経路におけるその役割が理由で、VCP機能の破壊は、いくつかの疾患形態をもたらし得る。例えば、VCP中の突然変異は、封入体ミオパシー、ページェット病及び前頭側頭型認知症(IBMPFD)を含めた他の神経変性疾患でも特定されている。
【0007】
VCPの病原性突然変異は、補助因子及びユビキチン化基質の結合に関与するN末端ドメインに最も一般的に見出されるが、D1ドメイン及びD2ドメイン中にも存在する[10]。VCP突然変異の大部分は、細胞モデルにおいて正常な又は増加したATPアーゼ活性と関連していることが生化学的に示されており、R155C突然変異は、その野生型対応物の2倍を超える活性を有することが示された[11]。しかし、ATPアーゼ活性が増加した疾患突然変異体がドミナントアクティブ又はドミナントネガティブな機構のどちらを通して疾患を引き起こすかは議論の余地が残されている。さらに、これは、病態生理学的なレベルで突然変異を伝達するという利点を持つ患者由来の運動ニューロンにおいて、まだ系統的に対処されていない。
【0008】
VCPのミスセンス突然変異は家族性ALSの1~2%を占めるが、封入体ミオパシー、ページェット病及び前頭側頭型認知症(IBMPFD)として知られる常染色体優性疾患を更に引き起こし得る。ALSを引き起こすVCP突然変異は、TDP-43、FUS及びSFPQを含めた重要なRBPの核から細胞質への誤局在を含めて、孤発性ALSの重要な特徴を再現する[2、3、8、29]。しかし、VCP突然変異がALSにおいてRBPの誤局在をもたらす機構は理解しづらいままである。
【0009】
ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)は、VCP関連ALSの時間分解的分子表現型が特定された、非常に豊富な、機能的に検証された脊髄運動ニューロンに確実に分化することができることが以前に報告された[2、3、12、13]。本明細書においては、VCP突然変異関連ALSのこの確立されたヒト幹細胞モデルを使用して、対照の運動ニューロンと比較して、重要なRBPの核細胞質分布を最初に調べた。
【0010】
本発明者らは、TDP-43、FUS及びSFPQは、VCP突然変異体運動ニューロンにおいて核対細胞質の比の異常な低減を示し、これが神経突起内の異常な存在にまで拡大することを明らかにする。本発明者らは、目的とされるVCP D2 ATPアーゼ阻害剤による対照の運動ニューロンの処理がALS RBPの誤局在表現型を再現せず、これは、疾患におけるその機能の喪失と相反することを見出した。重要なことに、本発明者らは、VCP突然変異体運動ニューロンにおいて、TDP-43とFUSの両方の核から細胞質への誤局在並びにTDP-43、FUS及びSFPQの核から神経突起への誤局在は、VCP D2 ATPアーゼドメインの薬理学的阻害剤による処理によって可逆的であることを見出す。
【0011】
まとめると、これらの所見は、VCP突然変異がD2 ATPアーゼ活性の増加を引き起こし、次にこれが、TDP-43、FUS及びSFPQの核からサイトゾルへの誤局在をもたらすモデルを支持する。本発明者らの研究は、VCP関連ALSの治療において、D2 ATPアーゼドメインを標的にするFDA承認VCP阻害剤を利用する公算を高める。
【発明の概要】
【0012】
本概要は、詳細な説明で更に記載される概念を紹介する。これは、主張される主題の必須の特色を特定するために使用されるべきではなく、主張される主題の範囲を限定するために使用されるべきでもない。
【0013】
実施例3で述べるように、本発明は、VCP D2 ATPアーゼドメインの薬理学的阻害が、健常なヒト運動ニューロン(例えば、VCP遺伝子中に病因性突然変異を有さない運動ニューロン)においてALS表現型を誘導しないという最初の開示である。それどころか、本発明は、VCP阻害剤が、対照(非VCP突然変異体)運動ニューロンにおいてRNA結合タンパク質の誤局在を反転させることができるという最初の実証である。したがって、本出願は、VCP阻害剤が、VCP遺伝子中に病因性突然変異を有さない(非VCP関連ALS)と特定された対象において、ALSを治療又は予防するのに使用することができるという最初の開示を提供する。
【0014】
重大な結果は、実施例3で示される、TDP-43及びFUSの局在の変化である。TDP-43の誤局在はALSの重要な疾患特徴である。これは、97%を超えるALSの症例で核から細胞質へ誤局在されている。図2(実施例3で述べる)は、VCP阻害剤は健常なヒト運動ニューロンにおいてTDP-43の核局在を増強することができることを初めて実証し、非VCP関連ALSのための治療経路の根拠である。
【0015】
本発明は、対象において筋萎縮性側索硬化症(ALS)を治療又は予防する方法で使用するためのVCP(バロシン含有タンパク質)阻害剤を提供する。いくつかの実施の形態において、ALSは非VCP関連ALSである。
【0016】
いくつかの実施の形態において、対象はVCP遺伝子中に病因性突然変異を有すると特定されていない。いくつかの実施の形態において、対象はVCP遺伝子中に病因性突然変異を有さないと特定されている。いくつかの実施の形態において、ALSは非VCP関連ALSである。
【0017】
いくつかの実施の形態において、対象は、VCP遺伝子中に或る特定の病因性遺伝子突然変異を有さない可能性がある。いくつかの実施の形態において、対象は、位置R155及びR191のいずれにおいてもVCP遺伝子中に病因性遺伝子突然変異を有さないと特定されている。いくつかの実施の形態において、対象は、R155C及びR191Qからなるリストから選択される病因性遺伝子突然変異をVCP遺伝子中に有さないと特定されている。いくつかの実施の形態において、対象は、位置R95、I114、I151、R155、G156、M158、R159、R191、N387、N401、R487、D592、R662及びN750のいずれにおいてもVCP遺伝子中に病因性遺伝子突然変異を有さないと特定されている。いくつかの実施の形態において、対象は、R95C、R95G、I114V、I151V、R155H、R155C、G156C、M158V、R159G、R159C、R159H、R191G、R191Q、N387T、N401S、R487H、D592N、R662C及びN750Sからなるリストから選択されるいかなる病因性遺伝子突然変異もVCP遺伝子中に有さないと特定されている。
【0018】
いくつかの実施の形態において、対象は、TARDBP遺伝子中に1つ以上の病因性遺伝子突然変異を有していてもよい。いくつかの実施の形態において、対象は、TARDBP遺伝子中に1つ以上の病因性遺伝子突然変異を有すると特定されている。
【0019】
いくつかの実施の形態において、筋萎縮性側索硬化症は、TDP-43、FUS及び/又はSFPQの1つ以上の核対細胞質の比の低減と関連する。いくつかの実施の形態において、VCP阻害剤は、TDP-43、FUS及び/又はSFPQの1つ以上の核対細胞質の比の低減と関連する1つ以上の症状を改善する。
【0020】
いくつかの実施の形態において、筋萎縮性側索硬化症は、TDP-43の核対細胞質の比の低減と関連する。いくつかの実施の形態において、VCP阻害剤は、TDP-43の核対細胞質の比の低減と関連する1つ以上の症状を改善する。
【0021】
いくつかの実施の形態において、筋萎縮性側索硬化症は、FUSの核対細胞質の比の低減と関連する。いくつかの実施の形態において、VCP阻害剤は、FUSの核対細胞質の比の低減と関連する1つ以上の症状を改善する。
【0022】
いくつかの実施の形態において、筋萎縮性側索硬化症は、SFPQの核対細胞質の比の低減と関連する。いくつかの実施の形態において、VCP阻害剤は、SFPQの核対細胞質の比の低減と関連する1つ以上の症状を改善する。
【0023】
いくつかの実施の形態において、ALSを治療又は予防することは、ALSを患っているか又はALSに罹りやすい患者における神経学的機能障害の部分的又は完全な軽減、改善、除去、阻害、発症の遅延、重症度及び/又は発生率の低減を含む。いくつかの実施の形態において、神経学的機能障害は、中枢神経系の機能障害と関連する症状、例えば、発達遅延、進行性認知機能障害、聴力損失、言語発達障害、運動技能の欠如、活動亢進、攻撃性及び/又は睡眠障害の1つ以上を含む。
【0024】
いくつかの実施の形態において、VCP阻害剤でALSを治療又は予防することによって、VCP阻害剤がない場合の神経学的機能障害症状と比較して約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%又は約100%を超える、1つ以上の神経学的機能障害症状の好転又は改善がもたらされる。いくつかの実施の形態において、VCP阻害剤でALSを治療又は予防することによって、約50%、約80%、約90%又は約95%を超える1つ以上の神経学的機能障害症状の好転又は改善がもたらされる。
【0025】
いくつかの実施の形態において、VCP阻害剤は、VCPのD2 ATPアーゼドメインを阻害する。
【0026】
いくつかの実施の形態において、VCP阻害剤は、ML240(2-(2-アミノ-1H-ベンゾイミダゾール-1-イル)-8-メトキシ-N-(フェニルメチル)-4-キナゾリンアミン)、ML241、2-アニリノ-4-アリール-1,3-チアゾール、3,4-メチレンジオキシ-6-ニトロスチレン、DBeQ(N2,N4-ジベンジルキナゾ-リン-2,4-ジアミン)、CB-5083(1-[7,8-ジヒドロ-4-[(フェニルメチル)アミノ]-5H-ピラノ[4,3-d]ピリミジン-2-イル]-2-メチル-1H-インドール-4-カルボキサミド)、CB-5339(1-[4-(ベンジルアミノ)-5,6,7,8-テトラヒドロピリド[2,3-d]ピリミジン-2-イル]-2-メチルインドール-4-カルボキサミド)、UPCDC-30245(1-(3-(5-フルオロ-1H-インドール-2-イル)フェニル)-N-(2-(4-イソプロピルピペラジン-1-イル)エチル)ピペリジン-4-アミン)、NMS-873、NMS-859、イイヤレスタチンI及びキサントフモールからなる群から選択される。
【0027】
いくつかの実施の形態において、VCP阻害剤は、ML240(2-(2-アミノ-1H-ベンゾイミダゾール-1-イル)-8-メトキシ-N-(フェニルメチル)-4-キナゾリンアミン)である。
【0028】
いくつかの実施の形態において、VCP阻害剤は、CB-5083(1-[7,8-ジヒドロ-4-[(フェニルメチル)アミノ]-5H-ピラノ[4,3-d]ピリミジン-2-イル]-2-メチル-1H-インドール-4-カルボキサミド)又はCB-5339(1-[4-(ベンジルアミノ)-5,6,7,8-テトラヒドロピリド[2,3-d]ピリミジン-2-イル]-2-メチルインドール-4-カルボキサミド)である。
【0029】
本発明はまた、非VCP関連ALSを有するか又は有する疑いがあると対象を診断する方法であって、対象がVCP遺伝子中に病因性突然変異を有するかどうかを決定することと、VCP遺伝子中に病因性突然変異がないことに基づいて非VCP関連ALSの診断を提供することとを含む、方法を提供する。
【0030】
いくつかの実施の形態において、方法は、位置R95、I114、I151、R155、G156、M158、R159、R191、N387、N401、R487、D592、R662及びN750のうちのいずれにおいてもVCP遺伝子中に病因性遺伝子突然変異がないことを特定することを含む。いくつかの実施の形態において、方法は、R95C、R95G、I114V、I151V、R155H、R155C、G156C、M158V、R159G、R159C、R159H、R191G、R191Q、N387T、N401S、R487H、D592N、R662C及びN750Sからなるリストから選択されるいかなる病因性遺伝子突然変異もVCP遺伝子中にないことを特定することを含む。
【0031】
本発明はまた、本発明の方法による方法を使用して、非VCP関連ALSを有すると、又は非VCP関連ALSを有する疑いがあると患者を診断することと、患者にVCP阻害剤を投与することとを含む、対象において非VCP関連ALSを治療又は予防する方法で使用するためのVCP阻害剤を提供する。
【0032】
本発明はまた、本発明の方法による方法を使用して、患者が非VCP関連ALSを有すると、又は非VCP関連ALSを有する疑いがあると決定されており、患者にVCP阻害剤を投与することを含む、対象において非VCP関連ALSを治療又は予防する方法で使用するためのVCP阻害剤を提供する。
【0033】
本発明はまた、場合により1つ以上の賦形剤を含む、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を治療又は予防する方法で使用するためのVCP阻害剤を含む医薬組成物を提供する。
【0034】
本発明はまた、VCP阻害剤を、それらを必要とする対象に投与することを含む、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を治療又は予防する方法を提供する。いくつかの実施の形態において、対象はVCP遺伝子中に病因性突然変異を有すると特定されていない。いくつかの実施の形態において、対象はVCP遺伝子中に病因性突然変異を有さないと特定されている。いくつかの実施の形態において、ALSは非VCP関連ALSである。VCP阻害剤は、治療的有効量で投与され得る。
【0035】
本発明はまた、対象がVCP遺伝子中に病因性突然変異を有するかどうかを決定する手段を含む、非VCP関連ALSを有するか又は有する疑いがあると対象を診断するためのキットを提供する。いくつかの実施の形態において、キットは、1つ以上のVCP阻害剤を含む1つ以上の容器及び場合により情報資料を更に含む。いくつかの実施の形態において、情報資料は、非VCP関連ALSの診断及び/又は治療におけるキットの使用のための指示を含む。
【0036】
これより、本発明の実施形態を、例にすぎないが、添付の図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】VCP突然変異体運動ニューロンにおけるTDP-43及びSFPQの誤局在を示す図である。A)対照及びVCP突然変異体運動ニューロンにおけるTDP-43の免疫標識。B)TDP-43の核:細胞質の比の個々の細胞の解析によって、VCP突然変異体運動ニューロンが核:細胞質の比(N/C)の低下を示すことが確認される。C)運動ニューロンの神経突起におけるTDP-43の定量化によって、VCP突然変異体運動ニューロンは核:神経突起の比(Nu/Ne)が低下していることが示される。D)対照及びVCP突然変異体運動ニューロンにおけるSFPQの免疫標識。E)SFPQの核:細胞質の比の個々の細胞の解析によって、VCP突然変異体運動ニューロンに小さいが有意な低下があることが示される。F)運動ニューロンの神経突起におけるSFPQの定量化によって、VCP突然変異体運動ニューロンは核:神経突起の比が減少していることが確認される。G)対照及びVCP突然変異体運動ニューロンにおけるhnRNPA1の免疫標識。H)hnRNPA1の個々の細胞の定量化によって、対照及びVCP突然変異体運動ニューロンにおいて核:細胞質の比の差がないことが示される。I)対照及びVCP突然変異体運動ニューロンにおけるhnRNPKの局在。J)hnRNPKの定量化によって、対照及びVCP突然変異体運動ニューロンにおいて核:細胞質の比の差がないことが示される。スケールバー=10μm。データは、3つの対照細胞株及び4つのVCP突然変異体株から収集される。グラフB、E、H及びJについては、データはバイオリンプロットとして示され、各データ点は、6回の独立の実験反復由来のウェル(CTRL n=34、VCP n=45)を示し、p値は対応のないT検定から示される。およそ以下の数の細胞を解析した:B)CTRL1:10000、CTRL2:10000、CTRL3:14000、MUT1:13000、MUT2:15000、MUT3:14000、MUT4:11000、E)CTRL1:9000、CTRL2:10000、CTRL3:13000、MUT1:12000、MUT2:14000、MUT3:14000、MUT4:12000、H)CTRL1:9000、CTRL2:10000、CTRL3:13000、MUT1:12000、MUT2:12000、MUT3:13000、MUT4:9000、J)CTRL1:9000、CTRL2:9000、CTRL3:12000、MUT1:11000、MUT2:12000、MUT3:12000、MUT4:9000。グラフC及びFについては、データは、3つの対照及び4つのVCP突然変異体株の3回の独立の実験から収集され、各細胞株について5000を超えるニューロンが解析される。データはバイオリンプロットとして示され、データ点は視野を示し、p値はマン・ホイットニー検定から計算される。すべてのデータは、各実験反復における対照値の平均に対して正規化される。
図2】VCP D2 ATPアーゼの薬理学的阻害が、対照の運動ニューロンにおいてALS RBP誤局在表現型を再現しないことを示す図である。A)1μMのML240(2-(2-アミノ-1H-ベンゾイミダゾール-1-イル)-8-メトキシ-N-(フェニルメチル)-4-キナゾリンアミン)で処理し、TDP-43及びβIII-チューブリンで免疫標識した対照の運動ニューロン及びDAPI染色。B)TDP-43の個々の細胞の定量化によって、ML240で処理した対照運動ニューロンは核:細胞質の比(N/C)が増加することが示された。C)ML240処理の際にTDP-43の核:神経突起の比(Nu/Ne)の差はなかった。D)1μMのML240で処理し、FUS及びβIII-チューブリンで免疫標識した対照の運動ニューロン及びDAPI染色。E)対照の運動ニューロンへのML240の処理は、FUSの核局在:細胞質局在の差を示さなかった。F)ML240処理の際にFUSの核:神経突起の比のわずかな増加が観察された。ML240処理の際にSFPQのG)核:細胞質の比又はH)核:神経突起の比の差はなかった。対照の運動ニューロンにおいて、ML240処理の際にI)hnRNPA1又はJ)hnRNPKの核:細胞質の比の差はなかった。スケールバー=10μm。データは、各実験反復における対照の未処理の値に対して正規化されたバイオリンプロットとして示される。データは、未処理条件と処理条件の両方においておよそ以下の数の細胞を使用して、3回の独立の実験反復にわたって3つの対照株から収集される:CTRL1:3000、CTRL2:6000、CTRL3:6000。グラフB、E、G、I、Jについて、各データ点は、ウェル(UT n=16、ML240 n=16)を示し、p値は対応のないT検定から計算され、グラフC、F、Hについて、各データ点は視野を示し、p値はマン・ホイットニー検定から計算される。
図3】VCP D2-ATPアーゼドメインの阻害は、VCP突然変異体運動ニューロンにおいてTDP-43、FUS及びSFPQの誤局在表現型を反転させることを示す図である。A)1μMのML240で処理し、TDP-43及びβIII-チューブリンで免疫標識したVCP突然変異体運動ニューロン。B)核:細胞質の比(N/C)の細胞ごとの定量化によって、VCP運動ニューロンの低下している核:細胞質の比が、ML240処理の際に対照値を超えて増加することが示される。C)神経突起におけるTDP-43の定量化によって、ML240処理の際に核:神経突起の比(Nu/Ne)の増加が示される。D)ML240で処理したVCP突然変異体運動ニューロンにおけるFUS及びβIII-チューブリンの免疫標識。E)核及び細胞質におけるFUSの定量化によって、VCP突然変異体運動ニューロンにおいて、ML240処理の際に核:細胞質の比の増加が確認される。F)神経突起におけるFUSの定量化によって、ML240処理の際に、対照値に対して核:神経突起の比の増加が示される。G)ML240で処理し、SFPQ及びβIII-チューブリンで免疫標識したVCP突然変異体運動ニューロン。ML240の処理は、SFPQの細胞内分布を、H)核:細胞質の比を調べた場合は変化させないが、I)核:神経突起の比を調べた場合は増加させる。J)hnRNPA1の定量化によって、VCP突然変異体運動ニューロンにおいて、ML240処理の際に核:細胞質の比の変化は示されない。K)hnRNPKの定量化によって、VCP突然変異体運動ニューロンにおいて、ML240処理の際に核:細胞質の比の変化は示されない。スケールバー=10μm。データは、4つのVCP ALS突然変異体株の3回の独立の実験反復から収集され、およそ以下の数の細胞を解析した:MUT1:7000、MUT2:6000、MUT3:7000、MUT4:6000。データは、各実験反復について対照の未処理の値に対して正規化される。データはバイオリンプロットとして示され、各データ点は、グラフB、E、H、J及びKでウェル(UT n=24、ML240 n=24)を、グラフC、F及びIで視野を示す。グラフB、E、H及びK、p値は対応のないT検定から計算され、グラフC、F、I及びJについて、p値はマン・ホイットニー検定から計算される。
図4】対照の運動ニューロン及び突然変異ニューロンにおけるTDP-43、FUS及びSFPQの局在、並びにVCP D2 ATPアーゼ阻害の効果の図による描写である。
図5】画像解析で使用したニューロンのセグメント化の画像例である。A)核:細胞質の比の解析で使用した核コンパートメント及び細胞質コンパートメントの例。細胞ごとに核:細胞質の比を計算する。B)核:神経突起の比の解析で使用した核コンパートメント及び神経突起コンパートメントの例。視野ごとに核:神経突起の比を計算する。
図6】運動ニューロンの特徴づけを示す図である。運動ニューロン特異的マーカーSMI-32及びChAT並びにニューロンマーカーβIII-チューブリンで免疫標識した、対照及びVCP突然変異体iPSC由来運動ニューロンの代表的な画像。スケールバー=20μm。
図7】VCP突然変異体運動ニューロンにおけるTDP-43及びFUSのコンパートメント解析を示す図である。A)核コンパートメント解析によって、VCP突然変異体運動ニューロンは、DAPIと比較した場合に、核においてTDP-43が低下していることが示される。B)神経突起コンパートメント解析によって、VCP突然変異体運動ニューロンは、ニューロンマーカーβIII-チューブリンと比較した場合に、ニューロン突起においてTDP-43が増加していることが示される。C)コンパートメント解析によって、VCP突然変異体運動ニューロンの核においてSFPQタンパク質の低下が示される。D)コンパートメント解析によって、VCP突然変異体運動ニューロンの神経突起においてSFPQの増加が示される。データは、各実験反復における対照の未処理の値に対して正規化されたバイオリンプロットとして示される。データは、3回の独立の実験反復にわたって6ウェルからの3つの対照株から収集される。データは視野ごとにプロットされ、p値はマン・ホイットニー検定から計算される。
図8】ウエスタンブロット解析によって、TDP-43、FUS及びSFPQタンパク質のレベルが、VCP D2 ATPアーゼドメインの阻害の際に変化しないことが示されることを示す図である。A)ML240 1μMで処理していない及び処理した対照及びVCP突然変異体MNのSPFQ、FUS及びTDP-43の代表的な免疫ブロット。B)GAPDHに対して正規化した、3つの対照及び3つのVCP突然変異体株からのSPFQ、FUS及びTDP-43の定量化によって、ML240処理は全タンパク質レベルを変化させないことが示された。
図9】本研究で使用したiPSC細胞株の詳細を示す図である。MUT1及びMUT2はVCP中にR191Q突然変異を有する細胞株であり、MUT3及びMUT4はVCP中にR155C突然変異を有する細胞株であり、MUT5及びMUT6はTARDBP中にG298S突然変異を有する細胞株である。
図10】例示的VCPタンパク質配列を示す図である。この図は、例示的ヒトVCPタンパク質配列(UniProtKB-P55072)を開示する。
図11】VCP突然変異体及びTARDBP突然変異体運動ニューロンにおけるTDP-43のコンパートメント解析を示す図である。A)TDP-43の個々の細胞の定量化によって、DBEQで処理した対照の運動ニューロンは核:細胞質の比(N/C)が増加することが示された。B)TDP-43の個々の細胞の定量化によって、CB-5083で処理した対照の運動ニューロンは核:細胞質の比(N/C)が増加することが示された。C)TDP-43の個々の細胞の定量化によって、DBEQで処理したVCP突然変異体運動ニューロンは核:細胞質の比(N/C)が増加することが示された。D)TDP-43の個々の細胞の定量化によって、CB5083で処理したVCP突然変異体運動ニューロンは核:細胞質の比(N/C)が増加することが示された。E)TDP-43の個々の細胞の定量化によって、CB5083で処理したTARDP突然変異体運動ニューロンは核:細胞質の比(N/C)が増加することが示された。データは、4つのCTRL株(CTRL2、CTRL3、CTRL4、CTRL5)、3つのVCP ALS突然変異体株(MUT1、MUT3、MUT4)及び2つのTARDBP ALS突然変異体株(MUT5、MUT6)の2回の独立の実験反復から収集される。データは、各実験反復について未処理の値に対して正規化される。データは平均±SDとしてプロットされ、示されるp値は対応のないT検定から計算される。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明がより容易に理解されるように、まず或る特定の用語を以下に定義する。以下の用語及び他の用語に対する更なる定義は、本明細書を通して記載される。
【0039】
本明細書において使用する場合、1以上の目的の値に適用される用語「およそ」又は「約」は、規定の基準値に類似する値を指す。或る特定の実施形態において、用語「およそ」又は「約」は、(かかる数が可能性のある値の100%を超える場合を除いて)別段の指定がない限り又は文脈から明らかでない限り、規定の基準値のいずれかの方向の(より大きい又はより少ない)25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%)、6%)、5%、4%、3%、2%、1%)以内に含まれる値の範囲を指す。
【0040】
本明細書において使用する場合、用語「改善」は、状態の予防、低減若しくは緩和又は対象の状態の好転を意味する。改善は、疾患状態の完全な回復又は完全な予防を含むが、これらを必要とするわけではない。
【0041】
本明細書において使用する場合、用語「比較可能な」は、科学的に合理的な比較を可能にするために、試験システム、条件のセット、効果又は結果と十分に類似しているシステム、条件のセット、効果又は結果を指す。どのシステム、条件のセット、効果又は結果が、本明細書に記載の任意の特定の試験システム、条件のセット、効果又は結果と「比較可能な」ほど十分に類似しているかを当業者は認識し、理解するであろう。
【0042】
本明細書において使用する場合、用語「相関する」は、「と相関を示す」というその通常の意味を有する。2つの特色、項目又は値は、これらが一緒に出現及び/又は変動する傾向を示す場合、互いに相関を示すことを当業者は認識するであろう。いくつかの実施形態において、相関は、そのp値が0.05未満である場合に統計学的に有意であり、いくつかの実施形態において、相関は、そのp値が0.01未満である場合に統計学的に有意である。いくつかの実施形態において、相関は、回帰分析によって評価される。いくつかの実施形態において、相関は相関係数である。
【0043】
本明細書において使用する場合、用語「向上させる」、「増加させる」若しくは「低減させる」又は文法的同等物は、参照に対する値{例えば、ベースライン)測定値、例えば、本明細書に記載される、比較可能な条件で取られた測定値{例えば、本明細書に記載の治療の開始より前の同じ個体において、又は治療がない場合の1対照個体(又は複数の対照個体)の測定値)を示す。
【0044】
本明細書において使用する場合、「ポリペプチド」は、一般的に言えば、ペプチド結合によって互いに結合した少なくとも2つのアミノ酸の列(string)である。いくつかの実施形態において、ポリペプチドは少なくとも3個~5個のアミノ酸を含むことができ、それらのそれぞれは、少なくとも1つのペプチド結合によって他のアミノ酸に結合している。ポリペプチドは、場合により、「非天然」アミノ酸又は他のエンティティを含むこともあり、これらは任意でポリペプチド鎖に組み込むことができることを当業者は認識するであろう。
【0045】
本明細書において使用する場合、用語「タンパク質」は、ポリペプチド(すなわち、ペプチド結合によって互いに連結した少なくとも2つのアミノ酸の列)を指す。タンパク質は、アミノ酸以外の部分(例えば、糖タンパク質、プロテオグリカン等であってもよい)を含むことができ、及び/又はそうでなければプロセッシング若しくは修飾を受けていてもよい。「タンパク質」は、細胞によって産生される(シグナル配列を有するか又は有さない)完全なポリペプチド鎖であってもよく、又はその特徴的な部分であってもよいことを当業者は認識するであろう。タンパク質は、例えば、1つ以上のジスルフィド結合によって連結した、又は他の手段によって結合した、2つ以上のポリペプチド鎖を含むことができることもあることを当業者は認識するであろう。ポリペプチドは、L-アミノ酸、D-アミノ酸又は両方を含有することができ、当該技術分野で既知の様々なアミノ酸修飾又は類似体のうちのいずれかを含有することができる。有用な修飾としては、例えば、末端アセチル化、アミド化、メチル化等が挙げられる。いくつかの実施形態において、タンパク質は、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、合成アミノ酸及びこれらの組み合わせを含むことができる。用語「ペプチド」は、一般に、約100アミノ酸未満、約50アミノ酸未満、20アミノ酸未満又は10アミノ酸未満の長さを有するポリペプチドを指すのに使用される。
【0046】
「参照」エンティティ、システム、量、条件のセット等は、試験エンティティ、システム、量、条件のセット等が本明細書に記載のように比較されるものである。例えば、いくつかの実施形態において、「参照」個体は、いかなる形態のALS疾患も患っていないし、該ALS疾患に罹りやすくもない対照個体であり、いくつかの実施形態において、「参照」個体は、治療される個体と同じ形態のALS疾患に罹患しており、場合により、(治療される個体と対照個体(複数の場合もある)における疾患のステージが比較可能であることを確実にするために)治療される個体と略同じ年齢である対照個体である。
【0047】
本明細書において使用する場合、用語「対象」、「個体」又は「患者」は、例えば、実験的、診断的、予防的及び/又は治療的な目的のために、本発明の実施形態を使用する又は施すことができる任意の生物を指す。典型的な対象としては、動物{例えば、哺乳動物、例えば、マウス、ラット、ウサギ、非ヒト霊長類及びヒト;昆虫;蠕虫等)が挙げられる。本発明の好ましい実施形態において、対象はヒトである。
【0048】
本明細書において使用する場合、用語「標的細胞」又は「標的組織」は、治療されるALSの影響を受ける任意の細胞、組織若しくは生物、又はALSに関与するタンパク質が発現している任意の細胞、組織若しくは生物を指す。いくつかの実施形態において、標的細胞、標的組織又は標的生物としては、検出可能な又は異常に多い{例えば、ALSを患っているか又はALSに罹りやすい患者で観察されるものと比較可能な)量のFUS又はTDP-43が存在する細胞、組織又は生物が挙げられる。いくつかの実施形態において、標的細胞、標的組織又は標的生物としては、疾患と関連する病態、症状又は特色を呈する細胞、組織又は生物が挙げられる。
【0049】
本明細書において使用する場合、語句「薬剤」又は「治療剤」は、対象に投与される場合に、治療効果がある及び/又は所望の生物学的及び/又は薬理学的効果を誘発する任意の薬剤を指す。いくつかの実施形態において、治療剤はVCP阻害剤である。いくつかの実施形態において、主要な治療剤は、1つ以上の更なる治療剤と組み合わせて使用することができるVCP阻害剤である。
【0050】
本明細書において使用する場合、用語「治療レジメン」は、部分的に又は完全に、特定の疾患、障害及び/又は状態の1つ以上の症状若しくは特色を軽減する、該症状若しくは特色を改善する、該症状若しくは特色を除去する、該症状若しくは特色を阻害する、該症状若しくは特色を予防する、該症状若しくは特色の発症を遅延させる、該症状若しくは特色の重症度を低減させる、及び/又は該症状若しくは特色の発生率を低減させる任意の方法を指す。これは、場合により、規則的な又は変化のある時間間隔によって間隔があけられた1つ以上の用量の投与を含むことができる。いくつかの実施形態において、治療レジメンは、その実行が、{例えば、細胞、組織又は生物の関連する集団にわたって)特定の効果、例えば、ALS等の有害な状態若しくは疾患の低減若しくは排除を達成する、及び/又は該低減若しくは排除の達成と相関するように設計されているものである。いくつかの実施形態において、治療は、同じ又は異なる時間量にわたって、同時に、連続して、又は異なる時点のいずれかでの1つ以上の治療剤の投与を含む。いくつかの実施形態において、「治療レジメン」は、遺伝学的方法、例えば、遺伝子療法、遺伝子破壊、又は発現(例えば、特定の遺伝子産物、例えば、一次転写産物又はmRNAの転写、プロセシング及び/又は翻訳)を誘導する若しくは低減させることが知られている他の方法を含む。
【0051】
本明細書において使用する場合、用語「治療有効量」は、任意の医療的治療に適用可能な合理的な利益/危険比で、治療される対象に治療効果を与える治療剤の量を指す。そのような治療効果は、客観的(すなわち、何らかの試験又はマーカーによって測定可能)又は主観的(すなわち、対象が効果の指標を示すか又は効果を感じる)であってもよい。いくつかの実施形態において、「治療有効量」は、例えば、疾患と関連する症状を改善することによって、疾患の発症を予防する若しくは遅延させることによって、及び/又は疾患の症状の重症度若しくは頻度を減らすことによっても、関連する疾患若しくは状態を治療する、改善する若しくは予防する(例えば、関連する疾患若しくは状態の発症を遅延させる)のに、及び/又は検出可能な治療効果若しくは予防効果を示すのに有効な、治療剤又は組成物の量を指す。治療有効量は、一般に、複数の単位用量を含むことができる投与レジメンで投与される。任意の特定の治療剤に関して、治療有効量(及び/又は有効な投与レジメン内の適切な単位用量)は、例えば、投与経路又は他の治療剤との組み合わせに応じて変動してもよい。代替的に又は付加的に、任意の特定の患者のための特定の治療有効量(及び/又は単位用量)は、治療されるALSの特定の形態;ALSの重症度;用いられる特定の治療剤の活性;用いられる特定の組成物;患者の年齢、体重、全体的な健康状態、性別及び食事;用いられる特定の治療剤の投与時間、投与経路及び/又は排出若しくは代謝の速度;治療の継続期間;医療技術分野で既知であるような因子を含めて、様々な因子に依存してもよい。
【0052】
本明細書において使用する場合、用語「治療」(さらに「治療する」又は「治療すること」)は、部分的に又は完全に、特定の疾患、障害及び/又は状態(例えば、ALS)の1つ以上の症状若しくは特色を軽減する、該症状若しくは特色を改善する、該症状若しくは特色を除去する、該症状若しくは特色を阻害する、該症状若しくは特色の発症を遅延させる、該症状若しくは特色の重症度を低減させる及び/又は該症状若しくは特色の発生率を低減させるという点において所望の効果を達成する、治療レジメンによる治療剤の任意の投与を指し、いくつかの実施形態において、治療レジメンによる治療剤の投与が、所望の効果の達成と相関している。そのような治療は、関連する疾患、障害及び/又は状態の徴候を示さない対象のもの、及び/又は疾患、障害及び/又は状態の初期徴候しか示さない対象のものであってもよい。代替的に又は付加的に、そのような治療は、関連する疾患、障害及び/又は状態の1つ以上の確立された徴候を示す対象のものであってもよい。いくつかの実施形態において、治療は、関連する疾患、障害及び/又は状態を患っていると診断された対象のものであってもよい。いくつかの実施形態において、治療は、関連する疾患、障害及び/又は状態の発生の危険性の増大と統計的に相関している1つ以上の罹病性因子を有すると知られている対象のものであってもよい。
【0053】
本明細書において使用する場合、神経保護剤という用語は、ニューロン変性の進行を予防するか若しくは遅くする、及び/又は神経細胞死を予防する薬剤を指す。
【0054】
VCP阻害性薬剤(VCP阻害剤)
VCP阻害剤はVCPに結合することができる。VCPポリペプチドへの結合は、当業者に知られている任意の技法によって評価することができる。適切なアッセイの例としては、in vivoで相互作用を測定するツーハイブリッドアッセイシステム、例えばカラム上に固定化されたポリペプチドへの結合を含むアフィニティークロマトグラフィーアッセイ、薬剤(複数の場合もある)とVCPポリペプチドの結合が結合対の一方又は両方のパートナーの蛍光の変化と関連する蛍光アッセイ等が挙げられる。細胞においてin vivoで行われるアッセイ、例えば、ツーハイブリッドアッセイが好ましい。本実施形態の好ましい態様では、本発明は、ALSの治療で有用な医薬品用の薬剤を特定する方法であって、試験される薬剤(単数又は複数)と細胞をインキュベートすることと、ALSと関係がある1つ以上の機能的パラメーターを改善する又は好転する薬剤を選択することとを含む、方法を提供する。
【0055】
VCPの機能的効果をモジュレートすることができる薬剤の例としては、VCP及び/又はVCPアダプタータンパク質の阻害剤である薬剤が挙げられる。
【0056】
VCP阻害剤としては、上述の薬剤、並びに以下の表1に示す薬剤及びVCPアダプタータンパク質を阻害及び/又は破壊する薬剤が挙げられる。
【0057】
【0058】
いくつかの実施形態において、VCP阻害剤は、ML240(2-(2-アミノ-1H-ベンゾイミダゾール-1-イル)-8-メトキシ-N-(フェニルメチル)-4-キナゾリンアミン)、ML241、2-アニリノ-4-アリール-1,3-チアゾール、3,4-メチレンジオキシ-6-ニトロスチレン、DBeQ(N2,N4-ジベンジルキナゾ-リン-2,4-ジアミン)、NMS-873、NMS-859、イイヤレスタチンI及びキサントフモールからなる群から選択される。
【0059】
いくつかの実施形態において、VCP阻害剤は、ML240(2-(2-アミノ-1H-ベンゾイミダゾール-1-イル)-8-メトキシ-N-(フェニルメチル)-4-キナゾリンアミン)、ML241、2-アニリノ-4-アリール-1,3-チアゾール、3,4-メチレンジオキシ-6-ニトロスチレン、DBeQ(N2,N4-ジベンジルキナゾ-リン-2,4-ジアミン)、CB-5083(1-[7,8-ジヒドロ-4-[(フェニルメチル)アミノ]-5H-ピラノ[4,3-d]ピリミジン-2-イル]-2-メチル-1H-インドール-4-カルボキサミド)、CB-5339(1-[4-(ベンジルアミノ)-5,6,7,8-テトラヒドロピリド[2,3-d]ピリミジン-2-イル]-2-メチルインドール-4-カルボキサミド)、UPCDC-30245(1-(3-(5-フルオロ-1H-インドール-2-イル)フェニル)-N-(2-(4-イソプロピルピペラジン-1-イル)エチル)ピペリジン-4-アミン)、NMS-873、NMS-859、イイヤレスタチンI及びキサントフモールからなる群から選択される。
【0060】
いくつかの実施形態において、VCP阻害剤は、ML240、DBeQ及びCB-5083からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、VCP阻害剤はML240である。いくつかの実施形態において、VCP阻害剤はDBeQである。いくつかの実施形態において、VCP阻害剤はCB-5083である。いくつかの実施形態において、VCP阻害剤はCB-5083又はCB-5339である。
【0061】
本明細書に記載のVCP阻害剤は、VCP関連又は非VCP関ALSを治療するために使用することができる。好ましくは、ALSは非VCP関連ALSであり、VCP阻害剤はVCPのD2 ATPアーゼドメインを阻害する。したがって、好ましい態様において、本発明は、VCPのD2 ATPアーゼドメインを阻害する、対象において非VCP関連ALSを治療又は予防する方法で使用するためのVCP阻害剤を提供する。例えば、いくつかの実施形態において、ALSは非VCP関連ALSであり、VCP阻害剤はCB-5083又はCB-5339である。いくつかの実施形態において、対象はVCP遺伝子中に病因性突然変異を有さないと特定されており、VCP阻害剤はVCPのD2 ATPアーゼドメインを阻害する。いくつかの実施形態において、対象はVCP遺伝子中に病因性突然変異を有さないと特定されており、VCP阻害剤はCB-5083又はCB-5339である。
【0062】
いくつかの実施形態において、対象は、TARDBP遺伝子中に1つ以上の病因性遺伝子突然変異を有するか又は有すると特定されており、VCP阻害剤はVCPのD2 ATPアーゼドメインを阻害する。いくつかの実施形態において、対象は、TARDBP遺伝子中に1つ以上の病因性遺伝子突然変異を有するか又は有すると特定されており、VCP阻害剤はCB-5083又はCB-5339である。いくつかの実施形態において、対象は、位置G298でTARDBP遺伝子中に病因性遺伝子突然変異を有するか又は有すると特定されており、VCP阻害剤はVCPのD2 ATPアーゼドメインを阻害する。いくつかの実施形態において、位置G298の突然変異はG298S突然変異である。いくつかの実施形態において、対象は、位置G298でTARDBP遺伝子中に病因性遺伝子突然変異を有するか又は有すると特定されており、VCP阻害剤はCB-5083又はCB-5339である。いくつかの実施形態において、位置G298の突然変異はG298S突然変異である。
【0063】
VCPアダプタータンパク質は当該技術分野で既知である。例えば、[21]、特にその中の表1を参照されたい。さらに、VCPアダプタータンパク質を特定する方法が知られている。例えば[22]は、VCPとUBXD1補助因子の間の複合体を特定するのに用いられる、不偏質量分析に基づく方法を記載している。
【0064】
VCPの活性又は局在に影響する薬剤は、直鎖状、環状、多環式又はこれらの組み合わせであり得る有機薬剤、ペプチド、抗体を含むポリペプチド、又はタンパク質を含めた、低分子量薬剤を含む略すべての一般的な種類のものであってもよい。一般に、本明細書において使用する場合、「ペプチド」、「ポリペプチド」及び「タンパク質」は、同義語とみなされる。或る特定のVCP阻害剤は表1で上述されている。他の有用なVCP阻害剤の例について、[23]も参照されたい。
【0065】
本明細書において使用する場合、「VCP阻害剤」は、正常な神経細胞機能に必要とされるVCPの活性を阻害することができる薬物である。VCPの阻害剤は当該技術分野で既知であり、VCPは癌療法及び他の医療分野の標的でもあるので定期的に発見されている。例示的阻害剤としては上記のものが挙げられ、VCP阻害剤を特定する方法は従来技術に記載されている。いくつかの実施形態において、本発明のVCP阻害剤は、VCPのD2 ATPアーゼドメインを阻害することによってVCPの活性を阻害することができる。
【0066】
VCP阻害剤は、VCPアンタゴニストと呼ぶことができる。
【0067】
薬剤の医薬組成物
薬剤は医薬組成物の形態であり得る。医薬組成物は、薬剤(すなわち、VCP阻害剤)を含むことができる。医薬組成物は、約5ナノグラム(ng)~約10ミリグラム(mg)の薬剤を含むことができる。いくつかの実施形態において、本発明による医薬組成物は約25ng~約5mgの薬剤を含む。いくつかの実施形態において、医薬組成物は約50ng~約1mgの薬剤を含有する。いくつかの実施形態において、医薬組成物は約0.1マイクログラム~約500マイクログラムの薬剤を含有する。いくつかの実施形態において、医薬組成物は約1マイクログラム~約350マイクログラムの薬剤を含有する。いくつかの実施形態において、医薬組成物は約5マイクログラム~約250マイクログラムの薬剤を含有する。いくつかの実施形態において、医薬組成物は約10マイクログラム~約200マイクログラムの薬剤を含有する。いくつかの実施形態において、医薬組成物は約15マイクログラム~約150マイクログラムの薬剤を含有する。いくつかの実施形態において、医薬組成物は約20マイクログラム~約100マイクログラムの薬剤を含有する。いくつかの実施形態において、医薬組成物は約25マイクログラム~約75マイクログラムの薬剤を含有する。いくつかの実施形態において、医薬組成物は約30マイクログラム~約50マイクログラムの薬剤を含有する。いくつかの実施形態において、医薬組成物は約35マイクログラム~約40マイクログラムの薬剤を含有する。いくつかの実施形態において、医薬組成物は約100マイクログラム~約200マイクログラムの薬剤を含有する。いくつかの実施形態において、医薬組成物は約10マイクログラム~約100マイクログラムの薬剤を含む。いくつかの実施形態において、医薬組成物は約20マイクログラム~約80マイクログラムの薬剤を含む。いくつかの実施形態において、医薬組成物は約25マイクログラム~約60マイクログラムの薬剤を含む。いくつかの実施形態において、医薬組成物は約30ng~約50マイクログラムの薬剤を含む。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、約35ng~約45マイクログラムの薬剤を含む。いくつかの実施形態において、医薬組成物は約0.1マイクログラム~約500マイクログラムの薬剤を含有する。いくつかの実施形態において、医薬組成物は約1マイクログラム~約350マイクログラムの薬剤を含有する。いくつかの実施形態において、医薬組成物は約25マイクログラム~約250マイクログラムの薬剤を含有する。いくつかの実施形態において、医薬組成物は約100マイクログラム~約200マイクログラムの薬剤を含有する。
【0068】
他の実施形態において、医薬組成物は、15ng、20ng、25ng、30ng、35ng、40ng、45ng、50ng、55ng、60ng、65ng、70ng、75ng、80ng、85ng、90ng、95ng又は100ngまで(その数値を含む)の薬剤を含むことができる。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、1マイクログラム、5マイクログラム、10マイクログラム、15マイクログラム、20マイクログラム、25マイクログラム、30マイクログラム、35マイクログラム、40マイクログラム、45マイクログラム、50マイクログラム、55マイクログラム、60マイクログラム、65マイクログラム、70マイクログラム、75マイクログラム、80マイクログラム、85マイクログラム、90マイクログラム、95マイクログラム、100マイクログラム、105マイクログラム、110マイクログラム、115マイクログラム、120マイクログラム、125マイクログラム、130マイクログラム、135マイクログラム、140マイクログラム、145マイクログラム、150マイクログラム、155マイクログラム、160マイクログラム、165マイクログラム、170マイクログラム、175マイクログラム、180マイクログラム、185マイクログラム、190マイクログラム、195マイクログラム、200マイクログラム、205マイクログラム、210マイクログラム、215マイクログラム、220マイクログラム、225マイクログラム、230マイクログラム、235マイクログラム、240マイクログラム、245マイクログラム、250マイクログラム、255マイクログラム、260マイクログラム、265マイクログラム、270マイクログラム、275マイクログラム、280マイクログラム、285マイクログラム、290マイクログラム、295マイクログラム、300マイクログラム、305マイクログラム、310マイクログラム、315マイクログラム、320マイクログラム、325マイクログラム、330マイクログラム、335マイクログラム、340マイクログラム、345マイクログラム、350マイクログラム、355マイクログラム、360マイクログラム、365マイクログラム、370マイクログラム、375マイクログラム、380マイクログラム、385マイクログラム、390マイクログラム、395マイクログラム、400マイクログラム、405マイクログラム、410マイクログラム、415マイクログラム、420マイクログラム、425マイクログラム、430マイクログラム、435マイクログラム、440マイクログラム、445マイクログラム、450マイクログラム、455マイクログラム、460マイクログラム、465マイクログラム、470マイクログラム、475マイクログラム、480マイクログラム、485マイクログラム、490マイクログラム、495マイクログラム、500マイクログラム、605マイクログラム、610マイクログラム、615マイクログラム、620マイクログラム、625マイクログラム、630マイクログラム、635マイクログラム、640マイクログラム、645マイクログラム、650マイクログラム、655マイクログラム、660マイクログラム、665マイクログラム、670マイクログラム、675マイクログラム、680マイクログラム、685マイクログラム、690マイクログラム、695マイクログラム、700マイクログラム、705マイクログラム、710マイクログラム、715マイクログラム、720マイクログラム、725マイクログラム、730マイクログラム、735マイクログラム、740マイクログラム、745マイクログラム、750マイクログラム、755マイクログラム、760マイクログラム、765マイクログラム、770マイクログラム、775マイクログラム、780マイクログラム、785マイクログラム、790マイクログラム、795マイクログラム、800マイクログラム、805マイクログラム、810マイクログラム、815マイクログラム、820マイクログラム、825マイクログラム、830マイクログラム、835マイクログラム、840マイクログラム、845マイクログラム、850マイクログラム、855マイクログラム、860マイクログラム、865マイクログラム、870マイクログラム、875マイクログラム、880マイクログラム、885マイクログラム、890マイクログラム、895マイクログラム、900マイクログラム、905マイクログラム、910マイクログラム、915マイクログラム、920マイクログラム、925マイクログラム、930マイクログラム、935マイクログラム、940マイクログラム、945マイクログラム、950マイクログラム、955マイクログラム、960マイクログラム、965マイクログラム、970マイクログラム、975マイクログラム、980マイクログラム、985マイクログラム、990マイクログラム、995マイクログラム又は1000マイクログラムまで(その数値を含む)の薬剤を含むことができる。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、1.5mg、2mg、2.5mg、3mg、3.5mg、4mg、4.5mg、5mg、5.5mg、6mg、6.5mg、7mg、7.5mg、8mg、8.5mg、9mg、9.5mg又は10mgまで(その数値を含む)の薬剤を含むことができる。
【0069】
いくつかの実施形態において、本発明の薬剤の用量は約0.5mgから約5000mgである。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の組成物で使用される本発明の薬剤の用量は、約5000mg未満又は約4000mg未満又は約3000mg未満又は約2000mg未満又は約1000mg未満又は約800mg未満又は約600mg未満又は約500mg未満又は約200mg未満又は約50mg未満である。同様に、いくつかの実施形態において、本明細書に記載の第2の薬剤の用量は、約1000mg未満又は約800mg未満又は約600mg未満又は約500mg未満又は約400mg未満又は約300mg未満又は約200mg未満又は約100mg未満又は約50mg未満又は約40mg未満又は約30mg未満又は約25mg未満又は約20mg未満又は約15mg未満又は約10mg未満又は約5mg未満又は約2mg未満又は約1mg未満又は約0.5mg未満、及びそれらのありとあらゆる全体又は部分的増分である。
【0070】
一実施形態において、本発明の薬剤は、1日あたり1回~5回又はそれ以上の範囲の投薬量で患者に投与される。別の実施形態において、本発明の薬剤は、限定されないが、1日に1回、2日ごと、3日ごとから1週に1回及び2週に1回を含めた投薬量の範囲で患者に投与される。本発明の様々な組み合わせ組成物の投与頻度は、限定されないが、年齢、治療される疾患又は障害、性別、全体的な健康状態及び他の因子を含めた多くの因子に応じて、対象によって異なることが当業者に容易に明らかになるであろう。したがって、本発明は、任意の特定の投薬レジメンに限定されると解釈されるべきではなく、任意の患者に投与される正確な投薬量及び組成物は、主治医が、患者に関するすべての他の因子を考慮することによって決定される。
【0071】
医薬組成物は、使用される投与様式に従って、製剤化の目的で他の薬剤を更に含むことができる。医薬組成物が注射用医薬組成物である場合は、これは、無菌であり、発熱物質を含まず、かつ微粒子を含まない。等張製剤が好ましくは使用される。一般に、等張性のための添加剤としては、塩化ナトリウム、デキストロース、マンニトール、ソルビトール及びラクトースを挙げることができる。或る場合には、リン酸緩衝食塩水等の等張液が適切である。安定化剤としては、ゼラチン及びアルブミンが挙げられる。
【0072】
薬剤は、医薬的に許容可能な賦形剤を更に含むことができる。医薬的に許容可能な賦形剤は、機能性分子、例えば、ビヒクル、アジュバント、担体又は希釈剤であり得る。
【0073】
適切な組成物及び剤形としては、例えば、錠剤、カプセル剤、カプレット剤、丸剤、ゲルカプセル剤(gel caps)、トローチ剤、分散剤、懸濁剤、溶液剤、シロップ剤、顆粒剤、ビーズ剤、経皮吸収型製剤、ゲル剤、粉末剤、ペレット剤、マグマ剤、ロゼンジ剤、クリーム剤、ペースト剤、硬膏剤、ローション剤、ディスク剤、坐剤、鼻又は経口投与用の液体噴霧剤、吸入用の乾燥粉末剤又はエアロゾル化製剤、膀胱内投与用の組成物及び製剤等が挙げられる。本発明で有用であると思われる製剤及び組成物は、本明細書に記載の特定の製剤及び組成物に限定されないことを理解されたい。
【0074】
経口適用については、錠剤、糖衣錠、液剤、ドロップ剤、可溶性錠剤(suppositories)、又はカプセル剤、カプレット剤及びゲルカプセル剤が特に適している。経口投与に適した他の製剤としては、限定されないが、粉末化若しくは顆粒状製剤、水性若しくは油性懸濁剤、水性若しくは油性溶液剤、ペースト剤、ゲル剤、練り歯磨き、口腔洗浄薬、コーティング剤、含嗽液又は乳剤が挙げられる。経口使用を意図とした組成物は、当該技術分野で既知の任意の方法に従って調製することができ、そのような組成物は、錠剤の製造に適した不活性な無毒の医薬的賦形剤からなる群から選択される1つ以上の薬剤を含むことができる。そのような賦形剤としては、例えば、ラクトース等の不活性な希釈剤;コーンスターチ等の造粒剤及び崩壊剤;デンプン等の結合剤;並びにステアリン酸マグネシウム等の潤滑剤が挙げられる。
【0075】
錠剤はコーティングされていなくてもよく、又は対象の消化管において遅延崩壊を達成し、それによって、活性成分の持続放出及び吸収をもたらすように、既知の方法を使用してコーティングされていてもよい。例として、モノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリル等の材料を使用して、錠剤をコーティングすることができる。錠剤は、美味な調製物を提供するために、甘味剤、着香剤、着色剤、防腐剤、又はこれらの何らかの組み合わせを更に含むことができる。
【0076】
制御放出製剤及び薬物送達システム
本発明の医薬組成物の制御又は持続放出製剤は、従来の技術を使用して作製することができる。或る場合には、使用される剤形は、様々な比率で所望の放出プロファイルを提供するために、例えば、ヒドロプロピルメチルセルロース、他のポリマーマトリックス、ゲル、透過膜、浸透性システム、多層コーティング、マイクロ粒子、リポソーム若しくはミクロスフェア又はこれらの組み合わせを使用して、その中の1つ以上の活性成分の徐放又は制御放出として提供することができる。本明細書に記載のものを含めて、当業者に既知の適切な制御放出製剤を、本発明の医薬組成物との使用のために容易に選択することができる。したがって、制御放出に適している、錠剤、カプセル剤、ゲルカプセル剤及びカプレット剤等の経口投与に適した単一単位剤形が本発明に包含される。
【0077】
大抵の制御放出医薬製品は、その非制御対応物によって達成されるものよりも薬物療法を向上させるという共通の目標がある。理想的には、医療的治療における最適に設計された制御放出調製物の使用は、最小限の薬物物質を用いて、最小限の時間量で状態を治癒させる又は制御することを特徴とする。
【0078】
制御放出製剤の利点としては、薬物の活性の延長、投与頻度の低減及び患者コンプライアンスの増大が挙げられる。さらに、制御放出製剤を使用して、作用の発現時間又は他の特性、例えば薬物の血中レベルに影響を及ぼすことができ、それにより、副作用の出現に影響を及ぼすことができる。
【0079】
大抵の制御放出製剤は、所望の治療効果を迅速にもたらす量の薬物を最初に放出し、長期間にわたってこのレベルの治療効果を維持するための他の量の薬物を徐々にかつ絶えず放出するように設計される。体内で薬物のこの一定レベルを維持するために、薬は、代謝され、体から排出される薬物の量に取って代わる速度で剤形から放出されなければならない。
【0080】
活性成分の制御放出は、様々な誘導因子、例えば、pH、温度、酵素、水若しくは他の生理的条件又は化合物によって刺激することができる。本発明の文脈における用語「制御放出成分」は、限定されないが、活性成分の制御放出を促す、ポリマー、ポリマーマトリックス、ゲル、透過膜、リポソーム若しくはミクロスフェア又はこれらの組み合わせを含めた化合物(単数又は複数)と本明細書で定義される。
【0081】
或る特定の実施形態において、本発明の製剤は、限定されないが、短期製剤、急速オフセット製剤、並びに制御放出製剤、例えば、持続放出製剤、遅延放出製剤及びパルス放出製剤であってもよい。
【0082】
持続放出という用語は、その従来の意味で使用されて、長期間にわたって段階的に薬物を放出し、必ずではないが、長期間にわたって実質的に一定の薬物血中レベルをもたらすことができる薬物製剤を指す。期間は、1か月以上にも及んでもよく、ボーラス形態で投与される同じ量の薬剤よりも長く放出されなければならない。
【0083】
持続放出については、化合物に持続放出性をもたらす適切なポリマー又は疎水性材料とともに化合物を製剤化することができる。したがって、本発明の方法で使用するための化合物は、例えば注射によってマイクロ粒子の形態で、又は埋植によってカシェ剤若しくはディスク剤の形態で投与することができる。本発明の好ましい実施形態において、本発明の化合物は、持続放出製剤を使用して、単独で又は別の医薬品と組み合わせて患者に投与される。
【0084】
遅延放出という用語は、その従来の意味で本明細書において使用されて、薬物投与に続いていくらかの遅延後に薬物の最初の放出をもたらし、約10分から約12時間までの遅延を含む薬物製剤を指す。
【0085】
即時放出という用語は、その従来の意味で使用されて、薬物投与の直後に薬物の放出をもたらす薬物製剤を指す。
【0086】
本明細書において使用する場合、短期は、薬物投与後の約8時間、約7時間、約6時間、約5時間、約4時間、約3時間、約2時間、約1時間、約40分、約20分又は約10分まで(その数値を含む)、及びそれらのありとあらゆる全体又は部分的増分の任意の期間を指す。
【0087】
本明細書において使用する場合、急速オフセットは、薬物投与後の約8時間、約7時間、約6時間、約5時間、約4時間、約3時間、約2時間、約1時間、約40分、約20分又は約10分まで(その数値を含む)、及びそれらのありとあらゆる全体又は部分的増分の任意の期間を指す。
【0088】
キット
本明細書に記載の薬剤は、キットで提供することができる。いくつかの例では、キットは、(a)本明細書に記載の薬剤を含む容器と、場合により(b)情報資料とを含む。情報資料は、本明細書に記載の方法及び/又は例えば治療的利益のための薬剤の使用に関する、説明資料、指示的資料、マーケティング資料又は他の資料であり得る。
【0089】
キットの情報資料は、その形式が制限されない。いくつかの例では、情報資料は、治療剤の製造、治療剤の分子量、濃度、有効期限、バッチ又は製造場所の情報等に関する情報を含むことができる。他の局面では、情報資料は、例えば、投与の適切な量、方式又は様式(例えば、本明細書に記載の投与の用量、剤形又は様式)で治療剤を投与する方法に関する。方法は、ALSを有する対象を治療する方法であり得る。
【0090】
或る場合には、情報資料、例えば指示書は、印刷物、例えば、印刷された文章、図面及び/又は写真、例えば、ラベル又は印刷されたシートで提供される。情報資料は、他の型式、例えば、点字、コンピュータ可読資料、ビデオ録画物又は録音物で提供することもできる。他の例では、キットの情報資料は、キットの使用者が、その中の治療剤及び/又は本明細書に記載の方法におけるその使用に関して本質的な情報を得ることができる、問い合わせ先、例えば、物理アドレス、電子メールアドレス、ウェブサイト又は電話番号である。情報資料は、型式の任意の組み合わせで提供することもできる。
【0091】
治療剤に加えて、キットは、他の成分、例えば、溶媒若しくは緩衝液、安定化剤又は防腐剤を含むことができる。キットは、更なる薬剤、例えば、第2又は第3の薬剤、例えば、他の治療剤を含むこともできる。成分は、任意の形態、例えば、液体、乾燥又は凍結乾燥形態で提供することができる。成分は、実質的に純粋(しかし、これらを、一緒に組み合わせるか若しくは互いに別々に送達することができる)及び/又は無菌であり得る。成分が液状溶液で提供される場合、液状溶液は、水溶液、例えば、無菌の水溶液であり得る。成分が乾燥形態として提供される場合、再構成は、一般に、適切な溶媒の添加による。溶媒、例えば、無菌の水又は緩衝液を、場合によりキット中に提供することができる。
【0092】
キットは、治療剤又は他の薬剤のための1つ以上の容器を含むことができる。或る場合には、キットは、治療剤及び情報資料のための別々の容器、ディバイダー又はコンパートメントを含む。例えば、治療剤をボトル、バイアル又はシリンジに入れることができ、情報資料をプラスチック製のスリーブ又はパケットに入れることができる。他の局面では、キットの別々の要素は単一の分割されていない容器に含まれる。例えば、ラベルの形態で情報資料が添付されたボトル、バイアル又はシリンジに治療剤を入れることができる。或る場合には、キットは、それぞれ治療剤の1つ以上の単位剤形(例えば、本明細書に記載の剤形)を含む、複数(例えば、1パック)の個々の容器を含むことができる。容器は、単位用量、例えば、治療剤を含む単位を含むことができる。例えば、キットは、例えば、それぞれ単位用量を含む、複数のシリンジ、アンプル、ホイルパケット、ブリスターパック又は医療装置を含むことができる。キットの容器は、気密性、防水性(例えば、湿気又は蒸発の変化に対して不浸透性)及び/又は遮光性であり得る。
【0093】
キットは、場合により、治療剤の投与に適した装置、例えば、シリンジ又は他の適切な送達装置を含むことができる。装置は、例えば単位用量の治療剤を予め充填して提供することができ、又は空であってもよいが、充填に適しているものとする。
【0094】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、成人発症型の致死的な神経変性障害であり、一次運動野の上位運動ニューロンと脳幹及び脊髄の下位運動ニューロンの両方の変性を特徴とする。ALSの症状は、初期に、筋肉の萎縮及び衰弱を含む。続いて、随意筋、最終的に呼吸筋の麻痺の広がりが発生することが多い。ALSを有する患者のおよそ50%は、しばしば呼吸不全により、症状発症の30か月以内に死ぬが、患者の約10%は、10年間より長く生存することができる[24]。
【0095】
ALS患者の約10%~15%は家族型の疾患を有し、少なくとも2人の第一度又は第二度近親者がALSを有する[25]。家族歴が確認されない場合、診断は、孤発性(又は非家族性)であると考えられる。孤発性ALSの発生率は、西洋諸国において変動をほとんど示さず、100000人年あたり1人~2人の範囲であり、推定される生涯リスクは400人に1人である。ALSは、40歳前はまれであり、その後年齢とともに指数関数的に増加する。平均発症年齢は孤発性ALSについて58歳~63歳であり、家族性ALSについて40歳~60歳であり、70歳~79歳の年齢で発生率がピークとなる。男性は、女性よりもALSの危険性が高く、1.2~1.5の男性対女性の比をもたらす[24]。
【0096】
いくつかの実施形態において、ALSは家族性ALSであり得る。いくつかの実施形態において、ALSは孤発性ALSであり得る。いくつかの実施形態において、家族性ALSは、家族歴において2回以上の本疾患の出現がある患者と定義される。いくつかの実施形態において、孤発性ALSは、本疾患を有する他の家族の病歴が判明していない患者と定義される。いくつかの実施形態において、ALSは、VCPタンパク質中の1つ以上の病因性遺伝子突然変異と関連し得る。いくつかの実施形態において、ALSは、VCPタンパク質中の1つ以上の病因性遺伝子突然変異と関連する家族性ALSであり得る。いくつかの実施形態において、ALSは、VCPタンパク質中の1つ以上の病因性遺伝子突然変異と関連する孤発性ALSであり得る。
【0097】
いくつかの実施形態において、対象は、VCP遺伝子以外の遺伝子中に1つ以上の病因性遺伝子突然変異を有する。病因性突然変異は既知の病因性突然変異とすることができる。病因性突然変異はALSを引き起こす突然変異であってもよい。例えば、いくつかの実施形態において、対象は、TARDBP遺伝子中に1つ以上の病因性遺伝子突然変異を有する。したがって、いくつかの実施形態において、ALSは、TARDBP遺伝子中の1つ以上の遺伝子突然変異と関連していてもよい。いくつかの実施形態において、対象は、TARDBP遺伝子中に1つ以上の病因性遺伝子突然変異を有すると特定されている。そのような突然変異は当該技術分野で既知であろう。いくつかの実施形態において、対象は、位置S292、G294、G295、G298、A315、A382、M337、G348又はS393のいずれか1つ以上でTARDBP遺伝子中に病因性遺伝子突然変異を有するか又は有すると特定されている。いくつかの実施形態において、対象は、S292N、G294V、G295S、G298S、A315T、A382T、M337V、G348C及びS393Lからなるリストから選択される1つ以上の病因性遺伝子突然変異をTARDBP遺伝子中に有するか又は有すると特定されている。いくつかの実施形態において、対象は、位置G298でTARDBP遺伝子中に病因性遺伝子突然変異を有するか又は有すると特定されている。いくつかの実施形態において、位置G298の突然変異はG298S突然変異である。
【0098】
VCP中の病因性遺伝子突然変異
ALSの対象は、VCP遺伝子中に1つ以上の既知の病因性突然変異を有すると特定することができる。そのような対象は、VCP関連ALSを有すると特徴づけすることができる。ALSの対象は、VCP遺伝子中に1つ以上の既知の病因性突然変異を有さないと特定することができる。そのような対象は、非VCP関連ALSを有すると特徴づけすることができる。本発明は、VCP遺伝子中に病因性突然変異を有すると特定されていない対象においてALSを治療又は予防する方法を提供する。本発明はまた、VCP遺伝子中に病因性突然変異を有さないと特定されている対象においてALSを治療又は予防する方法を提供する。本発明はまた、VCP遺伝子中に病因性突然変異を有すると特定されていない対象においてALSを治療又は予防する方法で使用するためのVCP阻害剤を提供する。本発明はまた、VCP遺伝子中に病因性突然変異を有さないと特定されている対象においてALSを治療又は予防する方法で使用するためのVCP阻害剤を提供する。
【0099】
いくつかの実施形態において、対象は、表2に列挙されるVCP病因性遺伝子突然変異のうちのいずれも有さないと特定されている。いくつかの実施形態において、対象は、位置R95、I114、I151、R155、G156、M158、R159、R191、N387、N401、R487、D592、R662及びN750のいずれにおいてもVCP遺伝子中に病因性遺伝子突然変異を有さないと特定されている。いくつかの実施形態において、患者は、R95C、R95G、I114V、I151V、R155H、R155C、G156C、M158V、R159G、R159C、R159H、R191G、R191Q、N387T、N401S、R487H、D592N、R662C及びN750Sからなるリストから選択される病因性遺伝子突然変異をVCP遺伝子中に有さないと特定されている。
【0100】
ALSの推定5パーセント~10パーセントは家族性であり、いくつかの遺伝子のうちの1つにおける突然変異によって引き起こされる。遺伝のパターンは、関与する遺伝子に応じて変動する。大抵の場合は常染色体優性のパターンで遺伝し、これは、各細胞中の1コピーの変化した遺伝子が、障害を引き起こすのに十分であることを意味する。大抵の場合、罹患した人にはその状態を有する親が1人いる。ALSを引き起こすことが既知の家族性遺伝子突然変異を受け継ぐ一部の人は、その状態の特色を一切発生しないことがある。なぜ突然変異遺伝子を有する人の中で該疾患を発生する人もいれば、発生しない人もいるかは不明である。
【0101】
頻度は低いが、ALSは常染色体劣性のパターンで遺伝し、これは、各細胞の遺伝子の両方のコピーが突然変異を有することを意味する。常染色体劣性状態を有する個体の親は、それぞれ、1コピーの突然変異遺伝子を保有するが、これらは、典型的には、該状態の徴候及び症状を示さない。罹患した人の親は罹患していないので、常染色体劣性ALSは、家族性遺伝子突然変異によって引き起こされるにもかかわらず、孤発性ALSと間違われることが多い。
【0102】
非常にまれに、ALSはX連鎖性の優性パターンで遺伝する。X連鎖性の状態は、その状態と関連する遺伝子が2つの性染色体のうちの1つであるX染色体上に位置する場合に生じる。女性(2つのX染色体を有する)では、各細胞中の2コピーの遺伝子のうちの1つにおける突然変異が、障害を引き起こすのに十分である。男性(1つのX染色体しか有さない)では、各細胞中の遺伝子のたった1つのコピーの突然変異が障害を引き起こす。大抵の場合、男性は、女性と比較して、該疾患を早期に発生し、余命が短い傾向がある。X連鎖遺伝の特徴は、父親が、X連鎖形質を息子に伝えることがないことである。
【0103】
ALSの症例の約90パーセント~95パーセントは孤発性であり、これは、これらが遺伝性でないことを意味する。
【0104】
孤発性ALSと家族性ALSの両方で、患者は、VCP遺伝子中に1つ以上の病因性遺伝子突然変異を有している可能性がある。VCP遺伝子中のいくつかの病因性突然変異は従来技術で十分に特徴づけられており、当業者は、病因性突然変異を保有する患者を同定するために使用することができる適切な遺伝子パネルを知っている。表2は、VCP遺伝子中のいくつかの既知の病因性突然変異の非網羅的リストを示す。
【0105】
【0106】
診断方法
対象がVCP遺伝子中に任意の病因性突然変異を有するかどうかを確かめるために、本発明は、非VCP関連ALSを有すると対象を診断する方法も包含する。したがって、本発明の実施形態は、対象がVCP遺伝子中に任意の病因性突然変異を有するかどうかを決定することを含むことができる。対象由来の生体試料中のVCP遺伝子の配列を確かめるためのいくつかの適切な方法が、当業者に既知であろう。いくつかの実施形態において、対象がVCP遺伝子中に任意の病因性突然変異を有するかどうかを決定することが、VCP遺伝子の配列を確かめる工程を含み、ここで、VCP遺伝子の配列は、以下の技法のいずれか1つ以上を使用して確かめられる:DNAシークエンシング、RNAシークエンシング、マイクロアレイ解析、リアルタイム定量的PCR、ノーザンブロット解析、in situハイブリダイゼーション及び/又は結合分子の検出及び定量化。好ましい実施形態において、対象がVCP遺伝子中に任意の病因性突然変異を有するかどうかを確かめることは、DNAシークエンシングの使用を含む。対象に治療を提供する又は対象に治療を推奨する決定は、VCP遺伝子における1つ以上の病因性突然変異の存在の決定に基づいて行うことができる。治療を提供するための推奨は、報告書の形で提供してもよい。したがって、本発明の実施形態は、報告書を提供する工程を含んでもよく、ここで、報告書は、VCP遺伝子における1つ以上の病因性突然変異の対象における有無に関する情報を含む。報告書は、例えば、VCP遺伝子における1つ以上の病因性突然変異の存在に基づいて、対象へ治療(例えば、VCP阻害剤)を提供するための推奨、又は例えば、VCP遺伝子における1つ以上の病因性突然変異がないことに基づいて、対象に治療(例えば、VCP阻害剤)を提供しないための推奨を付加的に又は代替的に含んでいてもよい。
【0107】
対象が1つ以上の病因性突然変異を有するかどうかを決定する工程は、対象由来の試料に関して行うことができる。方法は、対象から該試料を得る工程を含んでいてもよく、又は試料は、より早期の時点で対象から得ていてもよい。試料としては、例えば、血漿又は血液試料を挙げることができる。
【0108】
本発明の薬剤によるALSの治療
いくつかの実施形態において、対象、例えば、ALSを患っているか又はALSに罹りやすい対象の中枢神経系に薬剤が与えられる。いくつかの実施形態において、脳、脊髄及び/又は末梢器官の標的細胞又は組織の1つ以上に薬剤が与えられる。いくつかの実施形態において、標的細胞又は組織としては、疾患と関連する病態、症状又は特色を呈する細胞又は組織が挙げられる。いくつかの実施形態において、標的細胞又は組織としては、TDP-43又はFUS/TLSが上昇したレベルで発現している細胞又は組織、例えば、TDP-43又はFUS/TLSが細胞の細胞質で上昇したレベルで発現している細胞が挙げられる。本明細書において使用する場合、標的組織は、脳標的組織、脊髄標的組織及び/又は末梢標的組織であってもよい。
【0109】
本明細書に記載の組成物は、ALSを患っているか又はALSを発生する危険性がある対象のCNS中に直接与えることができ、それによってCNS(例えば、脳)の罹患した細胞及び組織内で治療的濃度を達成する。例えば、ALSを治療するために、1つ以上の薬剤を脳、脊髄及び/又は末梢器官の標的細胞又は組織に与えることができる。本明細書において使用する場合、用語「治療する」又は「治療」は、疾患と関連する1つ以上の症状の改善、ALSの1つ以上の症状の発症の予防又は遅延を指す。
【0110】
いくつかの実施形態において、治療は、ALSを患っているか又はALSに罹りやすい患者における神経学的機能障害の部分的又は完全な軽減、改善、除去、阻害、発症の遅延、重症度及び/又は発生率の低減を指す。本明細書において使用する場合、用語「神経学的機能障害」は、中枢神経系{例えば、脳及び脊髄)の機能障害と関連する様々な症状を含む。神経学的機能障害の症状は、中でも、例えば、発達遅延、進行性認知機能障害、聴力損失、言語発達障害、運動技能の欠如、活動亢進、攻撃性及び/又は睡眠障害を含み得る。
【0111】
いくつかの実施形態において、治療は、様々な細胞又は組織の毒性の低下を指す。いくつかの実施形態において、治療は、脳標的組織、脊髄ニューロン及び/又は末梢標的組織におけるFUS又はTDP-43によるニューロン毒性の低下を指す。或る特定の実施形態において、毒性は、対照と比較して、約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%又はそれ以上低下する。いくつかの実施形態において、毒性は、対照と比較して、少なくとも1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍又は10倍低下する。いくつかの実施形態において、毒性は、限定されないが、神経画像処理方法(例えば、CTスキャン、MRI、機能的MRI等)を含めて、当業者に既知の試験によって測定される。
【0112】
或る特定の実施形態において、本開示による治療は、ALSと関連する1つ以上の病理学的、臨床的若しくは生物学的マーカーの低減(例えば、約5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、90%、95%、97.5%、99%又はそれ以上の低減)若しくは該マーカーの存在の完全な排除、又は代替的に該マーカーの蓄積をもたらす。例えば、いくつかの実施形態において、対象への投与の際に、本明細書に記載の医薬組成物は、筋喪失、筋攣縮、筋衰弱、痙縮、異常な腱反射、バビンスキー徴候、呼吸困難、顔面脱力、不明瞭発語、知覚の喪失、推理力の喪失、判断力の喪失及び/又は想像力の喪失の低減を示すか又は達成する。
【0113】
いくつかの実施形態において、治療は、生存(例えば、生存期間)の増加を指す。例えば、治療は、患者の余命の増加をもたらすことができる。いくつかの実施形態において、治療は、治療をしていない、ALSを有する1人以上の対照個体の平均余命と比較して、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約100%、約105%、約110%、約115%、約120%、約125%、約130%、約135%、約140%、約145%、約150%、約155%、約160%、約165%、約170%、約175%、約180%、約185%、約190%、約195%、約200%又はそれ以上を超える患者の余命の増加をもたらす。いくつかの実施形態において、治療は、治療をしていない、ALSを有する1人以上の対照個体の平均余命と比較して、約6か月、約7か月、約8か月、約9か月、約10か月、約11か月、約12か月、約2年、約3年、約4年、約5年、約6年、約7年、約8年、約9年、約10年又はそれ以上を超える患者の余命の増加をもたらす。いくつかの実施形態において、治療は患者の長期生存をもたらす。本明細書において使用する場合、用語「長期生存」は、約40年、45年、50年、55年、60年又はそれ以上より長い生存期間又は余命を指す。
【0114】
本明細書において使用する場合、用語「向上させる」、「増加させる」又は「低減させる」は、対照と比較した値を示す。いくつかの実施形態において、適切な対照は、ベースライン測定値、例えば、本明細書に記載の治療の開始より前の同じ個体の測定値、又は本明細書に記載の治療がない場合の1対照個体(又は複数の対照個体)の測定値である。「対照個体」は、ALSに罹患しており、(治療される個体と対照個体(複数の場合もある)における疾患のステージが比較可能であることを確実にするために)治療される個体と略同じ年齢及び/又は性別である個体である。
【0115】
いくつかの実施形態において、病因性遺伝子突然変異は、細胞質内のタンパク質恒常性のVCP依存的エンドサイトーシス機構の喪失と関連する。いくつかの実施形態において、病因性遺伝子突然変異は、RBP(例えば、TDP-43、FUS及び/又はSFPQ)の誤局在と関連する。いくつかの実施形態において、病因性遺伝子突然変異は、TDP-43、FUS及び/又はSFPQの1つ以上の核対細胞質の比の低減と関連する。いくつかの実施形態において、病因性遺伝子突然変異は、TDP-43の核対細胞質の比の低減と関連する。いくつかの実施形態において、病因性遺伝子突然変異は、FUSの核対細胞質の比の低減と関連する。いくつかの実施形態において、病因性遺伝子突然変異は、SFPQの核対細胞質の比の低減と関連する。いくつかの実施形態において、病因性遺伝子突然変異は、VCPの上述の正常な機能の1つ以上(例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又はそれ以上)と関連する。いくつかの実施形態において、病因性遺伝子突然変異は、VCPタンパク質中の1つ以上の点変異と関連する。いくつかの実施形態において、病因性遺伝子突然変異は、R95、I114、I151、R155、G156、M158、R159、R191、N387、N401、R487、D592、R662及びN750からなるリストから選択される1つ以上の位置の突然変異と関連する。いくつかの実施形態において、病因性遺伝子突然変異は、R95C、R95G、I114V、I151V、R155H、R155C、G156C、M158V、R159G、R159C、R159H、R191G、R191Q、N387T、N401S、R487H、D592N、R662C及びN750Sからなるリストから選択される1つ以上の突然変異と関連する。
【0116】
用語「と関連する」は、2つの項目又は事象の間の観察された相関を説明するために本明細書において使用される。例えば、VCP中の病因性遺伝子突然変異は、その存在又はレベルが特定の神経学的機能不全又は障害の存在又はレベルと相関する場合、その機能不全又は障害「と関連する」とみなすことができる。
【0117】
治療される個体(「患者」又は「対象」とも呼ばれる)は、ALSを有するか又はALSを発生する可能性を有する個体(胎児、乳児、小児、青年又は成人)である。いくつかの例では、治療される対象は、遺伝的にALSを発生する素因がある。例えば、治療される対象は、VCP遺伝子、SOD1遺伝子、ALS2遺伝子、VAPB遺伝子、SETX遺伝子、TDP-43遺伝子、FUS/TLS遺伝子及び/又はOPTN遺伝子中に突然変異を有し得る。いくつかの実施形態において、患者は、ALSを発生する遺伝的素因がない。いくつかの実施形態において、治療される対象は、VCP遺伝子、SOD1遺伝子、ALS2遺伝子、VAPB遺伝子、SETX遺伝子、TDP-43遺伝子、FUS/TLS遺伝子及び/又はOPTN遺伝子中に既知の病因性突然変異を有していなくてもよい。好ましい実施形態において、治療される対象は、VCP遺伝子中に既知の病因性突然変異を有していなくてもよい。
【0118】
併用療法
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の薬剤(例えば、VCP阻害剤)は、ALS又はALSの1つ以上の症状を治療するための1つ以上の更なる療法と組み合わせて対象に投与される。例えば、薬剤は、リルゾール、バクロフェン、ジアゼパム、トリヘキシフェニジル又はアミトリプチリンと組み合わせて投与することができる。
【0119】
いくつかの実施形態において、第1の薬剤(例えば、VCP阻害剤)と第2の薬剤の併用投与は、第1の薬剤又は第2の薬剤のいずれか単独によってもたらされるものを越える程度まで、ALS又はその症状の好転をもたらす。併用効果と各薬剤単独の効果の差は、統計的に有意な差であり得る。
【0120】
いくつかの実施形態において、第1の薬剤と第2の薬剤の併用投与によって、第2の薬剤について承認されている標準的投与レジメンと比較して、低減した用量での、低減した用量数での、及び/又は低減した投薬頻度での第2の薬剤の投与が可能になる。
【0121】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の薬剤と組み合わせて、当業者に既知の免疫抑制剤を対象に投与することができる。例示的免疫抑制剤としては、限定はされないが、シクロスポリン、FK506、ラパマイシン、CTLA4-Ig、抗TNF剤(例えば、エタネルセプト)、ダクリズマブ(例えば、ゼナパックス(商標))、抗CD2剤、抗CD4剤及び抗CD40剤が挙げられる。
【0122】
投与経路
薬剤又は医薬組成物は、経口的、非経口的、舌下的、経皮的、直腸的、経粘膜的、局所的、経吸入、経バッカル投与、胸膜内、静脈内、動脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、鼻腔内、髄腔内、及び/又は関節内又はこれらの組み合わせを含めた様々な経路によって、投与することができる。いくつかの実施形態において、薬剤又は医薬組成物は経口的に投与される。
【0123】
本発明を以下の実施例で更に例示する。これらの実施例は、本発明の実施形態を示すが、例示のためのみに与えられることを理解されたい。上記の議論及びこれらの実施例から、当業者は、本発明の必須の特徴を確認することができ、様々な使用法及び条件に適合させるために、それらの趣旨及び範囲から逸脱することなく本発明の様々な変更及び修正を行うことができる。したがって、本明細書に示され、記載されるものに加えて、本発明の様々な修正が、前述の説明から当業者には明らかになるであろう。そのような修正は、添付の特許請求の範囲の範囲内に入ることも意図される。さらに、本発明の各態様の特色は、必要な変更を加えて、他の態様のそれぞれに関するものとなる。例えば、本発明による使用のためのVCP阻害剤の文脈で提供される、VCP阻害剤のタイプ、病因性突然変異、ALSのタイプ等に関する実施形態は、本発明の診断方法、組成物及びキットに等しく適用される。
【実施例
【0124】
実施例1-材料及び方法
ヒト線維芽細胞及びiPSC。OptiMEM+10%FCS培地中で真皮線維芽細胞を培養した。iPSCの生成のために、エピソームプラスミド、pCXLE hOct4 shp53、pCXLE hSK及びpCXLE hUL(Addgene)[26]を真皮線維芽細胞にトランスフェクトした。使用した3つの対照株は商業的に入手可能であり(対照2、対照3及び対照5)、Coriell(カタログ番号ND41866C)、ThermoFisher Scientific(カタログ番号A18945)及びCedars-Sinai(CS02iCTR-NTn4)から購入した。使用したTARDBP突然変異体株(MUT5及びMUT6)は市販されており、NINDS(ND50007)及びCedars-Sinai(CS47i)から購入した。本研究で使用したiPSC株の詳細は、図9に見ることができる。
【0125】
細胞培養及び運動ニューロンの分化。iPSCは、Geltrex(Life Technologies)上でEssential 8 Medium培地(Life Technologies)を用いて維持し、EDTA(Life Technologies、0.5mM)を使用して継代した。37℃及び5%二酸化炭素でiPSC培養を維持した。Hall et al, 2017[12]に記載されているように、iPSCを脊髄運動ニューロンへ分化させた。
【0126】
iPSCを100%培養密度までプレーティングし、次いで、DMEM/F12 Glutamax、Neurobasal、L-グルタミン、N2サプリメント、非必須アミノ酸、B27サプリメント、β-メルカプトエタノール(すべてLife Technologiesから)及びインスリン(Sigma)からなる培地中で神経上皮に分化させた。小分子、すなわち、0日目~7日目:1μMドルソモルフィン(Millipore)、2μM SB431542(Tocris Bioscience)及び3.3μM CHIR99021(Miltenyi Biotec)、7日目~14日目:0.5μMレチノイン酸(Sigma)及び1μMパルモルファミン(Sigma)、14日目~18日目:0.1μMパルモルファミンで細胞を連続的に処理した。18日間の神経変換及びパターニングに続いて、0.1μM Compound E(Enzo Life Sciences)中で神経前駆体に最終分化させた。
【0127】
ディスパーゼ(GIBCO、1mg/ml)を使用して、全体にわたって神経上皮層を酵素的に解離した。アキュターゼ(Life Technologies)で神経前駆体を解離して、ポリエチレンイミン(PEI)(0.1Mのホウ酸ナトリウム中に2.2mg/ml(Sigma))及びGeltrexでコーティングした96ウェルプレート(Falcon)上に最終的にプレーティングした。6日間の最終分化に続いて、免疫標識のために、4%パラホルムアルデヒド中に細胞を固定した。
【0128】
阻害剤処理。運動ニューロン培養物を1μMのML240(Sigma;SML1071;CAS:1346527-98-7)で2時間、5μMのDBeQで3時間、又は1μMのCB-5083で3時間処理した。
【0129】
免疫蛍光染色。PBS中の4%パラホルムアルデヒド中に室温(RT)で15分間細胞を固定した。透過処理及び非特異的抗体のブロッキングのために、PBS中の5%ウシ血清アルブミン(BSA)(Sigma)を含む0.3%Triton-Xを60分間加えた。5%BSA中で一次抗体を調製し、次いで、これを4℃で一晩加えた。使用した一次抗体は、SMI-32(BioLegend;801701;マウス;1:1000)、ChAT(Millipore;AB144P;ヤギ;1:100)、βIII-チューブリン(abcam;ab41489;ニワトリ;1:1000)、TDP-43(ProteinTech;12892-1-AP;ウサギ;1:400)、SFPQ(abcam;ab11825;マウス;1:400)、FUS(Santa Cruz;sc-47711;マウス;1:200)、hnRNPA1(Cell Signaling;8443S;ウサギ;1:500)、hnRNPK(Santa Cruz;sc-28380;マウス;1:500)であった。5%BSA中に1:1000希釈した種特異的Alexa Fluorコンジュゲート化二次抗体(Life Technologies)を暗所においてRTで90分間加えた。DAPI、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール核染色剤(1:1000)を含むPBS中で細胞を10分間1回洗浄した。
【0130】
画像取得及び解析。Opera Phenix High-Contentスクリーニングシステム(Perkin Elmer)を使用して、画像を取得した。40×対物レンズを用いて、1μmのzステップの共焦点zスタックとして画像を取得した。最大値投影を得るようにスタックを処理した。各ウェルに対して最低でも12視野を撮った。単一細胞におけるRNA結合タンパク質(RBP)の核:細胞質の比を計算するために、Columbus画像解析システム(Perkin Elmer)を使用して画像を解析した。DAPIマスクが核を画定し、核の性状に基づいて、訓練された機械学習機能が自動的にニューロンを選択した。個々の細胞のそれぞれについて、目的のRBPの平均核強度を測定した。細胞質の測定については、細胞質マスク内の核の周囲に1.5μmの細胞質領域を画定し、平均強度を測定した。この解析によって画定された、この核コンパートメント及び細胞質コンパートメントの例は、図5のAに見ることができる。核:細胞質の平均強度測定値の比を細胞ごとに計算した。各視野の平均を計算し、次いで、ウェル全体で平均化した。
【0131】
核:神経突起の比について、Ilastik[27]、Cellprofiler[28]及びImageJを組み合わせた半自動化画像解析パイプラインを実行した。核の検出の向上を可能するためにImageJにおいて強度が0~500にスケーリングされたDAPI染色画像を使用して、核のセグメント化を行った。バイナリー核セグメント化マスクの生成のために、無作為に選択した画像のサブセットをIlastikで使用した。神経突起コンパートメントを画定するために、βIII-チューブリンが信頼できる軸索及び樹状突起のマーカーであるので、βIII-チューブリンを使用してニューロンマスクを作出した。βIII-チューブリンマスクから核及び細胞質を除去するために、核を30ピクセル拡大し、除去し、これによって、神経突起のみが解析に含まれることが確実になった。この解析によって画定されたコンパートメントの例は、図5のBに見ることができる。目的のタンパク質の強度測定は、核及び神経突起マスクを使用してCellprofilerで行った。強度の値及び比の計算は、カスタムRスクリプトを使用して行った。
【0132】
核:細胞質又は核:神経突起の比を調べるときに、比の増加又は減少が検出された場合、どの細胞内コンパートメントがその変化に寄与しているかは明らかでない。核:神経突起の比についてこれに対処するために、本発明者らはコンパートメント特異的マーカーの存在を利用した。上記のように、核:神経突起の比について同じ半自動化画像解析パイプラインを実行したが、目的のタンパク質に加えて、DAPI及びβIII-チューブリンについて強度測定を行い、これを特定の比を計算するために使用した。
【0133】
ウエスタンブロット解析。TDP-43、FUS及びSFPQのタンパク質レベルを対照及びVCP突然変異体運動ニューロンにおいて細胞全体で評価した。タンパク質抽出より前に、細胞を未処理条件又は1μMのML240の処理に2時間供した。細胞を溶解し、RIPAによる破壊によってタンパク質を抽出した。BCAタンパク質アッセイ(Sigma)を使用して、全タンパク質濃度を定量化した。次いで、等量のタンパク質試料をゲルにロードし、SDS PAGEによって分離し、ニトロセルロース膜にトランスファーした。次いで、試料をPBS、0.1%Tween、5%乾燥粉乳を用いてRTで1時間ブロッキングし、続いて、一次抗体と4℃で一晩インキュベートした。以下の抗体をPBS 5%BSA中に希釈した:TDP-43(ProteinTech;12892-1-AP;ウサギ;1:1000)、SFPQ(Abcam;11825;マウス;1:250)、FUS(Santa Cruz;sc-47711;マウス;1:500)、GAPDH(GeneTex;GT239;マウス;1:10000)。検出のために、種特異的近赤外蛍光抗体(IRDye、Licor)とともに膜をRTで1時間インキュベートし、Odyssey Fcイメージングシステム(Licor)を使用して、イメージングした。
【0134】
統計解析。3つの対照及び4つのVCP突然変異体iPSC株があり、詳細は図9で見られる。各実験で使用した細胞の数を図の説明文に記載する。少なくとも、各株について、3回の独立の実験反復にわたって6ウェルからの34視野からデータを収集する。バイオリンプロットとしてデータをプロットし、視野ごと又はウェルごととしてデータをプロットした。データが未処理の対照に対して正規化されたものとして示される場合、生の各値を各実験反復内の未処理の対照の平均で割った。ガウス分布をともなう2つの個々の群を比較する場合、対応のないスチューデントの両側t検定を使用した。ガウス分布が達成されなかった場合、マン・ホイットニー検定を使用した。Prism8によって統計解析を行った。0.05以下のp値を統計学的に有意であるとみなした(p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
【0135】
実施例2-VCP突然変異体運動ニューロンにおいて、TDP-43、SFPQ及びFUSは神経突起に誤局在される
本発明者らは、コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)、SMI-32及びβIII-チューブリン(TUJ1)に陽性である、非常に豊富な、特徴づけされた脊髄運動ニューロン(MN)へのヒトiPSCの本発明者らの確立された確実な分化を利用した(図6)。
【0136】
重要なことに、本発明者らは、i)生理的なカルシウム刺激(グルタミン酸及びKCl)に対するサイトゾルのカルシウム応答を実証すること、ii)ホールセルパッチクランプ法、iii)多電極アレイ(MEA)解析[12]神経筋接合部形成の実証をともなうiPSC由来骨格筋との共培養[13]によって、本発明者らの豊富なMN培養物を以前に機能的に検証している。このモデルを使用して、本発明者らは、ALSの新しい特徴、例えば、突然変異体神経前駆体におけるSFPQ及びFUSの核対細胞質の比の低減を含めて、VCP関連ALSの時間分解病理表現型(time-resolved pathogenic phenotypes)を以前に報告している[2、3、12]。さらに、本発明者らは、最終分化した運動ニューロンにおいて細胞内のTDP-43及びFUSの誤局在表現型を確認している[12、29、30]。
【0137】
しかし、本発明者らの先行研究及び他の者の先行研究の大部分は、これらの前述のRBPを一緒に系統的に調べておらず、神経突起内のその存在に関して、これらのRBPの誤局在の特定の部位にも対処していない。この背景の下、本発明者らは、本発明者らのVCP突然変異体iPSC由来運動ニューロンを利用して、5つのALS関連RBPの細胞内局在を包括的に調査した。70000ニューロンを超える核対細胞質の比の単一細胞解析によって、VCP突然変異体ヒト運動ニューロンにおいてTDP-43及びSFPQの減少が明らかになり(図1のA、B、D、E)、これは、FUSの核対細胞質の比の低減に関する本発明者らの最近の報告[29]に基づくものである。
【0138】
更なる解析に基づいて、TDP-43及びSFPQは核対神経突起の比の低減が更にあり、それにより、やはりVCP突然変異体運動ニューロンの神経突起内に異常に局在していることを本発明者らは検出した(図1のC、F)。コンパートメント特異的マーカー(核:DAPI、神経突起:βIII-チューブリン)の存在によって、次いで、核コンパートメント及び神経突起コンパートメントを独立に調べることが可能になり、これらのRBPの核対神経突起の比の低減は、それらの核での低下と神経突起での増加の両方によって引き起こされることが明らかになった(図7のA~D)。
【0139】
iPSCモデルにおいてRBPが一般的に誤局在されるという可能性を除外するために、本発明者らは次に、以前にALSに関係があるとされた[31、32]hnRNPA1及びhnRNPKの細胞内局在を調べた。しかし、hnRNPA1及びhnRNPKは、VCP突然変異体運動ニューロンにおいて、それらの核から細胞質への局在の検出可能な変化を示さず、これは、iPSC由来のVCP突然変異体運動ニューロンにおけるTDP-43、FUS及びSFPQの選択的誤局在と一致している(図1のG~J)。
【0140】
実施例3-健常なヒト運動ニューロンにおいて、VCP D2 ATPアーゼドメインの薬理学的阻害はALS表現型を誘導しない
VCP疾患突然変異がドミナントアクティブ効果を発揮するか又はドミナントネガティブ効果を発揮するかどうかは、本分野において議論の余地が残されている。ヒト運動ニューロンにおけるVCP突然変異の効果への機構的洞察を得るために、本発明者らは、VCPタンパク質のD2 ATPアーゼドメインの強力かつ選択的な阻害剤であるML240を利用した[33]。
【0141】
対照運動ニューロンを1μMのML240で2時間処理してから、固定及び免疫細胞化学試験を行った。興味深いことに、D2 ATPアーゼの阻害はTDP-43の核対細胞質の比を増加させた(図2のA、B)。しかし、そのような増加は、TDP-43の核対神経突起の比では観察されず、これは、おそらく、この状況において、タンパク質分布における近位>遠位の変化を示唆するものである(図2のC)。
【0142】
興味深いことに、FUSの核対細胞質の比は変化しないが、小さいが統計学的に有意なFUSの核対神経突起の比の増加が観察されることを本発明者らは見出した(図2のD~F)。これは、D2 ATPアーゼドメインが細胞コンパートメント特異的な方式でRBP特異的な役割を有する可能性があることを示唆する。更なる前述のRBP;SFPQ、hnRNPA1及びhnRNPKの解析によって、VCP D2 ATPアーゼ阻害の際に、これらの核対細胞質の比又は核対神経突起の比(SFPQ)に変化がないことが明らかになった(図2のG~I)。まとめると、これらのデータは、観察されるRBP誤局在表現型に対する機構としてのVCP D2 ATPアーゼドメインの機能欠損と相反するものである。
【0143】
実施例4-ヒト運動ニューロンにおいて、D2 ATPアーゼドメインの薬理学的阻害は、VCP突然変異に関連したTDP-43及びFUSの誤局在を反転させる
対照の運動ニューロンにおけるTDP-43に対するML240の明らかな効果に注目して、本発明者らは、VCP突然変異体運動ニューロンへのその適用が、そのRBP誤局在表現型を改善することができると推論した。特に、本発明者らは、ALS VCPを引き起こす突然変異(VCP R155C及びVCP R191Q)がD2 ATPアーゼドメインのドミナントアクティブ効果をもたらすと仮定した。
【0144】
VCP突然変異体運動ニューロンにおけるML240の適用は、核から細胞質への誤局在と核から神経突起への誤局在両方を調べた場合、実際に、TDP-43とFUSの両方の誤局在を確実に反転させた(図3のA~F)。
【0145】
SFPQについては、ML240処理は核から神経突起への誤局在も有意に反転させた。しかし、ML240処理は核対細胞質の比(平均;UT=0.90、ML240=0.97)を増加させたが、この差は、SFPQについて統計的有意性に達しなかった(図3のG~I)。
【0146】
本データは、この反転は、ML240処理の際に全タンパク質レベルが変化しなかったので、神経突起及び/又は細胞質から核へのTDP-43、FUS及びSFPQの再局在によるものであることを更に実証する(図8のA、B)。
【0147】
特に、hnRNPA1及びhnRNPKは核対細胞質の比の変化を示さず、ML240処理は、VCP突然変異の結果として有意に誤局在されたRBPの局在に影響を及ぼしただけであった(図3のJ、K)。
【0148】
本研究では、本発明者らの非常に豊富な、機能的に検証された、iPSC由来の患者特異的運動ニューロンモデル[2、12、13]を使用して、RBPの核細胞質局在に対するALSを引き起こすVCP突然変異の効果、及びVCP D2 ATPアーゼの阻害剤がこれらのVCP関連疾患表現型を抑制する能力を系統的に調査した。重要なことに、このモデルは、病態生理学的レベルの突然変異を伝え、かつ人工の過剰発現に依拠しないので、ALS運動ニューロンの生理機能に非常に近いものである。
【0149】
本明細書に提示するデータは、VCP突然変異(R155C及びR191Q)が、最終分化した運動ニューロンにおいて、TDP-43、FUS及びSFPQの核対細胞質の比の選択的低減を引き起こす(ここでは、hnRNPKとhnRNPA1の両方の正常な核細胞質分布が観察される)ことを実証する最初のものである。本発明者らは、TDP-43、FUS及びSFPQが運動ニューロンの神経突起にも誤局在されることを更に示す(図1)。最近の研究によって、軸索のmRNA翻訳及び生存率におけるこれらのRBPの新たな役割が示されており、これにより、損なわれた軸索のRNAプロセシングが運動ニューロンにおける特定の病態生理に寄与し得ることが示唆される[34、35、36]。
【0150】
しかし、本発明者らの研究の主な所見は、TDP-43、FUS及び(部分的に)SPFQのVCP突然変異関連誤局在は、強力かつ選択的な阻害剤ML240を使用した、VCPタンパク質のD2 ATPアーゼドメインの薬理学的阻害によって、可逆的であるいうことである[11、33、37]。このドミナントアクティブなVCP突然変異機構は、他の表現型に関しても示された[38、39]。しかし、本分野において論議があり、いくつかの研究によって、VCP突然変異体がドミナントネガティブとして機能することが示唆されている[40、41、42]。
【0151】
これらの見たところ対照的な研究は、ATP加水分解の阻害が、過剰なATP加水分解と関連する下流の効果を反転させることができる一方で、ATPアーゼ活性化に対するドミナントネガティブ効果も高めるという仮説をたてることによって、調和させることができる。さらに、VCPには幅広い細胞内機能があるので、VCP突然変異は、補助因子の結合、それに続く下流の細胞経路に依存して、ドミナントアクティブ効果又はドミナントネガティブ効果の両方をもたらすことができると仮定することができる。
【0152】
どのようにしてVCPがTDP-43、FUS及びSFPQと相互作用するかという根底にある分子メカニズムは不明であり、更なる研究よってこれを調査するべきである。現在までに、研究によって、TDP-43[43]及びFUS[44]を含めて、VCPとRBPの間の直接相互作用が示されているが、これらの相互作用の分子的結果(molecular consequences)の理解は限られている。
【0153】
酵母における最近の研究によって、TDP-43及びFUSのエンドサイトーシス依存的ターンオーバーにおけるCdc48/VCPの役割が示された[45]。本研究とあわせると、これによって、D2 ATPアーゼ活性の増加が細胞質内のタンパク質恒常性のVCP依存的エンドサイトーシス機構を破壊することができるという可能性が高まる。RBPとのVCPの相互作用の正確な結果(consequences)の理解は、病態におけるその誤局在を支持する機構を解くのに役立つであろう。
【0154】
VCP疾患突然変異体がD2 ATPアーゼ活性の増大を示すという本発明者らの所見は、重要な治療的意味を持つ可能性がある。実際に、VCP阻害剤は、ショウジョウバエモデル及び患者の線維芽細胞において複数のVCP疾患表現型を救済する(rescue)ことが見出されている[39]。
【0155】
特に、救済は、ミトコンドリア表現型、p62及びユビキチン病態の改善を含めて、多面的であった。本発明者らの所見において、これは、VCP D2 ATPアーゼの薬理学的阻害剤が、VCP突然変異によって引き起こされる多系統病態の範囲にわたって有効であり得ることを示唆する。これは、ALS及びIBMPFDを越えて、VCP関連シャルコー・マリー・トゥース病及び遺伝性痙性対麻痺のいくつかの症例に及ぶ[46、47]。しかし、研究により、VCP阻害剤が、用量依存的に細胞の恒常性の維持を乱し得ることが示されたので、将来の研究において治療的バランスが調査され、最適化されるべきである。しかし、VCP阻害剤は癌治療のための第II相臨床試験に既にあるので、これらの壊滅的で、今までのところ不治の疾患に対する治療的可能性を認識することは重要である。
【0156】
実施例5-更なるVCP阻害剤は、VCP突然変異体及びTARDBP突然変異体ヒト運動ニューロンにおけるTDP-43の誤局在を反転させる
運動ニューロンにおけるVCP阻害の役割への更なる洞察を得るために、運動ニューロンを更なるVCP阻害剤であるDBeQ及びCB-5083で処理した。DBeQは、VCPのD1及びD2 ATPアーゼドメインの両方を標的にする、可逆的なATP競合的VCP阻害剤である。CB-5083は、D2 ATPアーゼドメインを選択的に標的にする、強力で可逆的なATP競合的VCP阻害剤である。
【0157】
対照運動ニューロンを5μMのDBeQで3時間又は1μMのCB-5083で3時間処理してから、固定及び免疫細胞化学試験を行った。DBeQ及びCB-5083のそれぞれによるVCPの阻害は、TDP-43の核対細胞質の比を増加させ(図11のA、B)、これは、ML240処理の際に観察された所見(実施例3を参照されたい)を支持するものである。
【0158】
VCP突然変異体運動ニューロンにおいて、ML240は、TDP-43の誤局在を確実に反転させることが示された(実施例4を参照されたい)。VCP突然変異体運動ニューロンをDBeQ及びCB-5083のそれぞれで処理した。これらの更なるVCP阻害剤もTDP-43の核から細胞質への誤局在を反転させることができた(図11のC、D)。
【0159】
ALSの他の遺伝的背景(すなわち、非VCP突然変異体)においてVCP阻害がTDP-43の核から細胞質への誤局在を反転させるかどうかを調査するために、TARDBP突然変異体(G298S)運動ニューロンをCB-5083で処理した。CB-5083によるVCP阻害は、これらの細胞株でTDP-43の核対細胞質の比を増加させた(図11のE)。
【0160】
これらのデータは、ML240以外のVCP阻害剤が、VCP突然変異体と非VCP突然変異体の両方について、ALS突然変異体細胞株でTDP-43の誤局在を反転させるのに有効であることを実証する。
【0161】
本明細書で言及されるすべての刊行物、特許及び特許出願は、個々の刊行物、特許又は特許出願のそれぞれが、引用することにより本明細書の一部をなすことが具体的及び個々に示される場合と同じ程度に、その全体が引用することにより本明細書の一部をなす。さらに、本出願における任意の参考文献の引用又は特定は、そのような参考文献が本発明に対する先行技術として利用可能であることの承認として解釈されるべきではない。セクションの見出しが使用される限りにおいて、これらは、必ずしも限定として解釈されるべきではない。
【0162】
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【国際調査報告】