(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-25
(54)【発明の名称】アルファ-シヌクレイン凝集抑制用組成物及び凝集抑制方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/86 20060101AFI20240718BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20240718BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20240718BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20240718BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240718BHJP
C12N 5/079 20100101ALI20240718BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240718BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240718BHJP
A61K 35/30 20150101ALI20240718BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240718BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240718BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240718BHJP
【FI】
C12N15/86 Z
C12N15/861 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/867 Z
C12N5/10
C12N5/079
A61P43/00
A61K48/00
A61K35/30
A61P25/16
A61P25/00
C12N15/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500527
(86)(22)【出願日】2022-04-21
(85)【翻訳文提出日】2024-01-09
(86)【国際出願番号】 KR2022005687
(87)【国際公開番号】W WO2023286983
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】10-2021-0092446
(32)【優先日】2021-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2021-0163358
(32)【優先日】2021-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521460387
【氏名又は名称】イノピューティクス コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】リ,サン フン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ユン ソン
(72)【発明者】
【氏名】ソク,ミン ジョン
(72)【発明者】
【氏名】キム,テ ギュン
(72)【発明者】
【氏名】リ,ソンフン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA021
4C084ZA022
4C084ZA221
4C084ZA222
4C084ZC411
4C084ZC412
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB45
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZA22
4C087ZC41
(57)【要約】
本発明は、アルファ-シヌクレイン凝集抑制用組成物及び凝集抑制方法に関し、より詳細には、Nurr1及びFoxa2遺伝子を脳細胞に導入して共に発現させてアルファ-シヌクレイン凝集(aggregation)及びリン酸化(phosphorylation)を抑制する技術に関し、本発明に係る組成物は、アルファ-シヌクレインの凝集及びリン酸化を抑制する効果に優れ、パーキンソン病の治療及び予防に利用可能である。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nurr1及びFoxa2遺伝子が含まれた遺伝子伝達体;及び
Nurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞(brain cells)
からなる群から選ばれるいずれか一つを含む、アルファ-シヌクレイン(α-synuclein)タンパク質凝集抑制剤。
【請求項2】
前記遺伝子伝達体は、ウイルスベクターである、請求項1に記載のアルファ-シヌクレイン(α-synuclein)タンパク質凝集抑制剤。
【請求項3】
前記ウイルスベクターは、
アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター及びアデノウイルスベクターからなる群から選ばれる一つである、請求項2に記載のアルファ-シヌクレインタンパク質凝集抑制剤。
【請求項4】
前記脳細胞(brain cells)は、
ニューロン(neurons)、及び星状膠細胞(astrocyte)又は微細膠細胞(microglia)を含む膠細胞(glia)である、請求項1に記載のアルファ-シヌクレインタンパク質凝集抑制剤。
【請求項5】
Nurr1及びFoxa2遺伝子が含まれた遺伝子伝達体;及び
Nurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞(brain cells)
からなる群から選ばれるいずれか一つを含む、アルファ-シヌクレイン(α-synuclein)タンパク質リン酸化抑制剤。
【請求項6】
前記遺伝子伝達体は、ウイルスベクターである、請求項5に記載のアルファ-シヌクレイン(α-synuclein)タンパク質リン酸化抑制剤。
【請求項7】
前記ウイルスベクターは、
アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター及びアデノウイルスベクターからなる群から選ばれる一つである、請求項6に記載のアルファ-シヌクレインタンパク質リン酸化抑制剤。
【請求項8】
前記脳細胞(brain cells)は、
ニューロン(neurons)、及び星状膠細胞(astrocyte)又は微細膠細胞(microglia)を含む膠細胞(glia)である、請求項5に記載のアルファ-シヌクレインタンパク質リン酸化抑制剤。
【請求項9】
Nurr1及びFoxa2遺伝子が含まれた遺伝子伝達体;及び
Nurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞(brain cells)
からなる群から選ばれるいずれか一つを含む、アルファ-シヌクレイン(α-synuclein)タンパク質凝集によって発病する疾患の予防又は治療用組成物。
【請求項10】
前記遺伝子伝達体は、ウイルスベクターである、請求項9に記載のアルファ-シヌクレイン(α-synuclein)タンパク質凝集によって発病する疾患の予防又は治療用組成物。
【請求項11】
前記ウイルスベクターは、
アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター及びアデノウイルスベクターからなる群から選ばれる一つである、請求項10に記載のアルファ-シヌクレイン(α-synuclein)タンパク質凝集によって発病する疾患の予防又は治療用組成物。
【請求項12】
前記脳細胞(brain cells)は、
ニューロン(neurons)、及び星状膠細胞(astrocyte)又は微細膠細胞(microglia)を含む膠細胞(glia)である、請求項9に記載のアルファ-シヌクレイン(α-synuclein)タンパク質凝集によって発病する疾患の予防又は治療用組成物。
【請求項13】
前記アルファ-シヌクレインタンパク質凝集によって発病する疾患は、パーキンソン病(Parkinson’s disease)及びレビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodies)からなる群から選ばれる疾患である、請求項9に記載のアルファ-シヌクレイン(α-synuclein)タンパク質凝集によって発病する疾患の予防又は治療用組成物。
【請求項14】
組成物を対象に投与するステップ、および組成物は以下からなる群から選択されるいずれか1つを含む, アルファ-シヌクレイン(α-synuclein)タンパク質凝集によって発病する疾患の治療する方法:
Nurr1及びFoxa2遺伝子が含まれた遺伝子伝達体;及び
Nurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞(brain cells)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルファ-シヌクレイン凝集抑制用組成物及び凝集抑制方法に関し、より詳細には、Nurr1及びFoxa2遺伝子を導入して発現を誘導することによってアルファ-シヌクレイン凝集(aggregation)及びリン酸化(phosphorylation)を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病(Parkinson’s disease)は、発病時に筋肉の震え及び筋肉の剛直などの運動障害が発生する神経退行性疾患の一つである。パーキンソン病は主に高齢者層に発病し、対象の年齢が増加するにつれてパーキンソン病の発病危険も大きくなることが知られている。韓国では、人口1000に約1~2人がかかると推定され、高齢者層に発病する大部分のパーキンソン病は、遺伝的な要素の影響がほとんどないことが知られている。パーキンソン病は中脳の黒質と呼ばれる部位におけるドパミン細胞が死滅しながら発病するものと知られているが、黒質部位のドパミン細胞が破壊される理由については正確に知られていないのが現状である。最近では、人間の平均寿命が延びているに伴って、パーキンソン病の頻度も増加すると予想される。
【0003】
また、パーキンソン病の管理及び治療に莫大な費用が発生し、患者の精神的苦痛も相当である。このため、効果的なパーキンソン病の予防及び治療方法が必要な状況である。
【0004】
近年、パーキンソン病と関連してアルファ-シヌクレイン(α-synuclein)タンパク質に研究の焦点が多く当てられている。アルファ-シヌクレインは人間の脳に豊富なタンパク質で、シナプス前末端と呼ばれる特殊な構造の神経細胞の端から主に発見される。進行した研究結果によれば、パーキンソン病は、ニューロン内部のアルファ-シヌクレインの生成と除去とのバランスが崩れることによってアルファ-シヌクレインの凝集が形成され、レビー小体(Lewy body)形成と関連があることが明らかになった。レビー小体はニューロンの膜透過性(permeability)を変形させることにより、カルシウムイオンを流入させ、ミトコンドリア損傷による酸化ストレスを誘発し、正常な微小管(microtubule)の形成を妨害するため、ニューロンの死滅を招いてパーキンソン病の発病に影響を与えるものと知られている。そのため、アルファ-シヌクレインを抑制するための試みが行われているが、今のところ、アルファ-シヌクレインの凝集を効果的に抑制できる治療剤又は方法についての開発は皆無な現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明者らは、転写因子Nurr1及びFoxa2遺伝子が導入されて脳細胞に発現する時にアルファ-シヌクレイン(α-synuclein)タンパク質の凝集を抑制することを実験的に究明し、本発明を完成するに至った。特に、Nurr1発現単独効果よりは、補助活性剤(coactivator)であるFoxa2が併合発現した時にシナジー効果による強力なアルファ-シヌクレインタンパク質集積抑制効果があることを確認した。
【0006】
したがって、本発明の一目的は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が含まれた遺伝子伝達体(gene carrier)を含む、アルファ-シヌクレイン(α-synuclein)タンパク質凝集抑制用組成物を提供することである。
【0007】
そこで、本発明の一目的は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が含まれた遺伝子伝達体を含む、アルファ-シヌクレイン(α-synuclein)タンパク質凝集抑制剤を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が搭載されたベクターを含むアルファ-シヌクレイン(α-synuclein)タンパク質凝集抑制用組成物を提供することである。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が搭載されたベクターを含むアルファ-シヌクレイン(α-synuclein)タンパク質凝集抑制剤を提供することである。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞(brain cells)を含む、アルファ-シヌクレインタンパク質凝集抑制用組成物を提供することである。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞(brain cells)を含む、アルファ-シヌクレインタンパク質凝集抑制剤を提供することである。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が含まれた遺伝子伝達体を含む、アルファ-シヌクレインタンパク質リン酸化抑制用組成物を提供することである。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が含まれた遺伝子伝達体を含む、アルファ-シヌクレインタンパク質リン酸化抑制剤を提供することである。
【0014】
本発明のさらに他の目的は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が搭載されたベクターを含む、アルファ-シヌクレインタンパク質リン酸化抑制用組成物を提供することである。
【0015】
本発明のさらに他の目的は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が搭載されたベクターを含む、アルファ-シヌクレインタンパク質リン酸化抑制剤を提供することである。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞(brain cells)を含む、アルファ-シヌクレインタンパク質リン酸化抑制用組成物を提供することである。
【0017】
本発明のさらに他の目的は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞(brain cells)を含む、アルファ-シヌクレインタンパク質リン酸化抑制剤を提供することである。
【0018】
本発明のさらに他の目的は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が含まれた遺伝子伝達体を含む、アルファ-シヌクレインタンパク質凝集によって発病する疾患予防又は治療用組成物を提供することである。
【0019】
本発明のさらに他の目的は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が搭載されたベクターを含む、アルファ-シヌクレインタンパク質凝集によって発病する疾患予防又は治療用組成物を提供することである。
【0020】
本発明のさらに他の目的は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞(brain cells)を含む、アルファ-シヌクレインタンパク質凝集によって発病する疾患予防又は治療用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、パーキンソン病の主要原因として知られたアルファ-シヌクレイン(α-synuclein)タンパク質凝集の抑制のための方法について鋭意研究した。その結果、Nurr1及びFoxa2遺伝子を導入して発現させた場合に、Nurr1遺伝子単独で導入して発現させた場合に比べてアルファ-シヌクレインタンパク質の凝集及びリン酸化をより抑制できることを究明した。
【0022】
本発明の一態様は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が含まれた遺伝子伝達体を含む、アルファ-シヌクレインタンパク質の凝集抑制用組成物である。
【0023】
本発明の一態様は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が含まれた遺伝子伝達体を含む、アルファ-シヌクレインタンパク質の凝集抑制剤である。
【0024】
本発明の他の態様は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が搭載されたベクターを含む、アルファ-シヌクレインタンパク質の凝集抑制用組成物である。
【0025】
本発明のさらに他の態様は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が搭載されたベクターを含む、アルファ-シヌクレインタンパク質の凝集抑制剤である。
【0026】
本発明のさらに他の態様は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞(brain cells)を含む、アルファ-シヌクレインタンパク質の凝集抑制用組成物である。
【0027】
本発明のさらに他の態様は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞(brain cells)を含む、アルファ-シヌクレインタンパク質の凝集抑制剤である。
【0028】
本発明のさらに他の態様は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が含まれた遺伝子伝達体、及びNurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞(brain cells)からなる群から選ばれるいずれか一つを含む、アルファ-シヌクレイン(α-synuclein)タンパク質凝集抑制用組成物である。
【0029】
本発明のさらに他の態様は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が搭載されたベクター、及びNurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞(brain cells)からなる群から選ばれるいずれか一つを含む、アルファ-シヌクレイン(α-synuclein)タンパク質凝集抑制用組成物である。
【0030】
本発明のさらに他の態様は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が含まれた遺伝子伝達体、及びNurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞からなる群から選ばれるいずれか一つを含む、アルファ-シヌクレインタンパク質凝集抑制剤である。
【0031】
本発明のさらに他の態様は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が搭載されたウイルスベクター、及びNurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞からなる群から選ばれるいずれか一つを含む、アルファ-シヌクレインタンパク質凝集抑制剤である。
【0032】
本発明のさらに他の態様は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が含まれた遺伝子伝達体を含む、アルファ-シヌクレインタンパク質のリン酸化抑制用組成物である。
【0033】
本発明のさらに他の態様は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が含まれた遺伝子伝達体を含む、アルファ-シヌクレインタンパク質のリン酸化抑制剤である。
【0034】
本発明のさらに他の態様は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が搭載されたベクターを含む、アルファ-シヌクレインタンパク質のリン酸化抑制用組成物である。
【0035】
本発明のさらに他の態様は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が搭載されたベクターを含む、アルファ-シヌクレインタンパク質のリン酸化抑制剤である。
【0036】
本発明のさらに他の態様は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞(brain cells)を含む、アルファ-シヌクレインタンパク質のリン酸化抑制用組成物である。
【0037】
本発明のさらに他の態様は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞(brain cells)を含む、アルファ-シヌクレインタンパク質のリン酸化抑制剤である。
【0038】
本発明のさらに他の態様は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が含まれた遺伝子伝達体、及びNurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞からなる群から選ばれるいずれか一つを含む、アルファ-シヌクレインタンパク質リン酸化抑制用組成物である。
【0039】
本発明のさらに他の態様は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が搭載されたウイルスベクター、及びNurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞からなる群から選ばれるいずれか一つを含む、アルファ-シヌクレインタンパク質リン酸化抑制用組成物である。
【0040】
本発明のさらに他の態様は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が含まれた遺伝子伝達体、及びNurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞からなる群から選ばれるいずれか一つを含む、アルファ-シヌクレインタンパク質リン酸化抑制剤である。
【0041】
本発明のさらに他の態様は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が搭載されたウイルスベクター、及びNurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞からなる群から選ばれるいずれか一つを含む、アルファ-シヌクレインタンパク質リン酸化抑制剤である。
【0042】
本明細書において、用語「アルファ-シヌクレイン(α-synuclein)タンパク質」は、脳に豊富なタンパク質の一つで、シナプス前末端と呼ばれる神経細胞の端から主に発見される。アルファ-シヌクレインはリン脂質及びタンパク質と相互作用するものと知られており、神経伝達物質であるドパミンの放出を調節することを手伝うものと知られている。ヒトのアルファ-シヌクレインは、140余個のアミノ酸からなり、SNCA遺伝子によってコードされる。
【0043】
本明細書において、「アルファ-シヌクレインタンパク質凝集」は、2個以上のアルファ-シヌクレインタンパク質が凝集することを意味する。本発明の一具現例において、アルファ-シヌクレイン凝集体は、非凝集したアルファ-シヌクレインタンパク質に比べて大きい分子量及び/又はサイズを有するものであってよい。
【0044】
本明細書において、「アルファ-シヌクレインのタンパク質凝集抑制」は、それぞれのアルファ-シヌクレインタンパク質が周辺のアルファ-シヌクレインタンパク質と凝集して凝集体を形成する現象を抑制したり又は既に生成された凝集体を分解して抑制することと理解されてよい。又は、アルファ-シヌクレインのタンパク質凝集抑制は、凝集を抑制することの他、アルファ-シヌクレインタンパク質又はその凝集体の分解速度を速くしたり、又はアルファ-シヌクレイン又はその凝集体の生成と分解速度とのバランスを正常な状態に調節することも含んでよい。
【0045】
本明細書において、用語「遺伝子伝達体」は、核酸配列又は核酸配列を含む組成物を細胞又は組織に伝達する手段を意味する。例えば、遺伝子伝達体は、ウイルスベクター又は非ウイルスベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、及び他の核酸ベースの伝達体)、ネイキッド(naked)核酸の注入又は微細注入、重合体ベースの伝達システム(例えば、リポソーム及び金属性粒子システム)、バイオリスティック(biolistic)注入脂質ナノ粒子(Lipid Nano particle;LNP)などを含むものであってよいが、これに限定されない。
【0046】
本発明の一具現例において、遺伝子伝達体は、ウイルスベクターであってよい。
【0047】
本明細書において、用語「脳細胞(brain cells)」は、脳に位置している細胞を意味し、脳細胞は神経細胞(neurons,neuron cells)及び膠細胞(glia,glial cells)を含んでよい。
【0048】
本明細書において、用語「神経細胞」は、神経系の細胞である。本明細書において、用語「神経細胞」は、「ニューロン」又は「ニューロン細胞」と同じ意味て使われてよい。
【0049】
本明細書において、用語「膠細胞」は、脳に存在する細胞のうち、最も多い部分を占める細胞で、膠細胞は星状膠細胞(astrocyte)又は微細膠(microglia)細胞を含んでよい。星状膠細胞は、神経細胞の保護及び栄養供給、炎症に関与し、微細膠細胞は、脳において炎症を担当する細胞で、アルツハイマー病のような脳疾患において重要な役割を担う細胞群として知られている。
【0050】
本明細書において、用語「形質導入(transduction)」は、バクテリオファージを媒介にして遺伝的形質が一つの細胞から他の細胞に移って遺伝形質が導入される現象であり、ある型の細菌にバクテリオファージが感染されると、ファージDNAが宿主DNAと結合し、溶菌現象によってファージが出てくる際に自分のDNAを一部失う代わりに宿主DNAの一部を有して出てくる場合がある。このようなファージが他の細菌に感染されると、前宿主の遺伝子を新しく導入することにより、新しい形質が現れる。生物学的研究において「形質導入」という用語は一般に、ウイルスベクターを用いて標的細胞における特定外因性遺伝子を導入して発現させることを意味する。
【0051】
本明細書において、用語「細胞治療剤」は、ヒトから分離、培養及び特殊な操作によって作製された細胞及び組織を含む、治療、診断及び予防の目的で使用される医薬品(米国FDA規定)であり、細胞或いは組織の機能を復元させるために、生きている自己、同種、又は異種細胞を体外で増殖、選別したり、又は他の方法で細胞の生物学的特性を変化させたりするなどの一連の行為によって治療、診断及び予防の目的で使用される医薬品のことを指す。細胞治療剤は、細胞の分化程度によって、体細胞治療剤、幹細胞治療剤とに大別される。
【0052】
本明細書において、用語「Nurr1及びFoxa2を導入(形質導入)する」とは、両遺伝子をコードする核酸を脳細胞に共に導入することを意味する。両遺伝子は遺伝子伝達体によって個別に又は共に導入されてよい。遺伝子伝達体としてベクターが用いられる場合に、両遺伝子はそれぞれの発現ベクターで個別に又は単一の発現ベクターで同時に導入されてよい。
【0053】
本発明の一実施例では、Nurr1及びFoxa2遺伝子が両方とも導入される場合に、Nurr1及びFoxa2の相互間の相乗効果により、Nurr1又はFoxa2遺伝子が単独で導入される場合に比べて、アルファ-シヌクレインタンパク質凝集の抑制能に顕著に優れていることを確認した。具体的には、Nurr1及びFoxa2遺伝子を同時に細胞に導入した場合に、Nurr1又はFoxa2遺伝子が単独で導入された場合に比べて、アルファ-シヌクレインタンパク質単量体及び凝集体がいずれも顕著に減少することを確認した(
図5及び
図6参照)。
【0054】
本明細書において、用語「Nurr1導入(形質導入)する」とは、Nurr1遺伝子をコードする核酸を脳細胞に導入することを意味する。
【0055】
脳細胞にNurr1及び/又はFoxa2をコードする遺伝子を導入するために当分野に公知の遺伝子伝達体を用いた細胞内導入技術が用いられてよく、例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス、アデノウイルスを用いる方法など、ウイルスベクターが用いられてよい。
【0056】
Nurr1及び/又はFoxa2を搭載する時に、ウイルス性ベクターを用いることができる。ウイルス性ベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レトロウイルス、及び/又はレンチウイルスなどが用いられてよいが、これに限定されない。したがって、本発明に係るNurr1及び/又はFoxa2導入は、一具体例として、Nurr1及び/又はFoxa2をコードする核酸をそれぞれ別個の発現ベクター又は単一の発現ベクターに挿入させた後、それを脳細胞に導入することを含んでよい。
【0057】
Nurr1及び/又はFoxa2をコードする各核酸は、当業界に公知のNurr1及びFoxa2をコードする塩基配列を有するものであれば制限なく用いられてよい。また、核酸は、Nurr1及び/又はFoxa2の各機能的同等物をコードする塩基配列を有してよい。機能的同等物とは、Nurr1及び/又はFoxa2のアミノ酸配列と60%以上、70%以上、80%以上の配列相同性(すなわち、同一性)を有するポリペプチドのことを指す。例えば、機能的同等物は、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、100%の配列相同性を有するポリペプチドを含む。機能的同等物は、アミノ酸配列の一部が付加、置換又は欠失の結果として生成されるものであってよい。アミノ酸の欠失又は置換は、本発明のポリペプチドの生理活性に直接関連しない領域に位置していてよい。
【0058】
また、Nurr1及び/又はFoxa2をコードする核酸は、当業界に公知の遺伝子組換え方法によって製造されてよい。例えば、Nurr1及び/又はFoxa2をコードする核酸は、ゲノムから核酸を増幅させるためのPCR増幅、化学的合成法又はcDNA配列を製造する技術によって製造されてよい。
【0059】
Nurr1及び/又はFoxa2をコードする核酸は、発現調節配列に作動可能に連結されて発現ベクター内に挿入されてよい。用語「作動可能に連結される(operably linked)」とは、一つの核酸断片が他の核酸断片と結合してそれの機能又は発現が他の核酸断片によって影響を受けることを意味する。また、発現調節配列(expression control sequence)とは、特定の宿主細胞において作動可能に連結された核酸配列の発現を調節するDNA配列を意味する。かかる調節配列は、転写を開始するためのプロモーター、転写を調節するための任意のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、及び転写及び解読の終結を調節する配列を含んでよい。これらを総称して「Nurr1及び/又はFoxa2をコードする核酸を含むDNA構造物」と表現することもできる。
【0060】
本明細書において、用語「発現ベクター」は、構造遺伝子をコードする核酸が挿入されてよく、宿主細胞内で核酸を発現させ得る当業界に公知のウイルスベクター又はその他媒介体を意味する。
【0061】
本発明において、ベクターはウイルスベクターであってよい。ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、アビポックススウイルスベクターなどであってよく、例えば、アデノ随伴ウイルスベクターであってよいが、これに限定されない。
【0062】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、特定細胞にウイルスを作り得る材料を導入して作製されてよい。レンチウイルスベクターも特定細胞株にウイルスを生産できるように諸段階を経て作製されてよい。
【0063】
本発明に係る核酸を含む発現ベクターは、当業界に公知の方法、例えば、次に限定されないが、ウイルス形質導入(transduction)、一時的形質感染(transient transfection)、微細注射などの方法を用いて核酸を細胞内に流入させるための公知の方法によって脳細胞内に導入可能である。例えば、Nurr1及び/又はFoxa2をアデノ随伴ウイルス(AAV)又はレンチウイルスベクターに遺伝子組換え技術で挿入して発現ベクターを作製した後、このベクターを包装(packaging)細胞に形質導入し、形質導入された包装細胞を培養後に分離精製し、AAV又はレンチウイルス溶液を得ることができる。そして、これを用いて脳細胞(神経細胞及び/又は膠細胞)を感染させることにより、脳細胞にNurr1及び/又はFoxa2遺伝子を導入することができる。続いて、AAV又はレンチウイルスベクターに含まれた選別マーカーを用いて、Nurr1及び/又はFoxa2が単独発現又は同時発現することを確認後に所望の脳細胞を得ることができる。
【0064】
本発明に係るNurr1及びFoxa2が導入されて発現する脳細胞は、下記の段階を含む製造方法によって製造されてよい:
【0065】
Nurr1及びFoxa2をコードする核酸を含むDNA構造物(construct)を含む組換え遺伝子伝達体を製造する製造段階;
【0066】
Nurr1及びFoxa2が含まれた遺伝子伝達体で脳細胞を感染させる形質感染段階。
【0067】
本発明に係るNurr1及びFoxa2が導入されて発現する脳細胞は、下記の段階を含む製造方法によって製造されてよい:
【0068】
Nurr1及びFoxa2をコードする核酸を含むDNA構造物(construct)を含む組換えウイルスベクターを製造する製造段階;
【0069】
組換えウイルスベクターをウイルス生産細胞株に形質感染させてNurr1及びFoxa2発現組換えウイルスを製造する生産段階;及び
【0070】
Nurr1及びFoxa2発現組換えウイルスで脳細胞を感染させる形質感染段階。
【0071】
DNA構造物を発現調節配列、例えばプロモーターに作動可能に連結し、当業界に公知のウイルスベクターに挿入させて組換えウイルスベクターを製造することができる。その後、Nurr1及び/又はFoxa2をコードする核酸を含む組換えウイルスベクターをウイルス生産細胞株に導入し、Nurr1及び/又はFoxa2を発現させる組換えウイルスを製造する。ウイルス生産細胞株は、使用したウイルスベクターに該当するウイルスを生産する細胞株を使用することができる。その後、Nurr1及びFoxa2又はNurr1を発現させる組換えAAV又はレンチウイルスを脳細胞に感染させることができる。上記の過程は当業界に公知の方法によって行われてよい。
【0072】
本発明に係るNurr1及び/又はFoxa2が発現する脳細胞は、当業界に公知の方法によって増殖及び培養されてよい。
【0073】
本発明に係る脳細胞は、目的細胞タイプの生存又は増殖を手伝う培養液中で培養されてよい。脳細胞の持続的な培養のために開発された添加剤を培養液に補充してよい。例えば、Gibco社から販売するN2培地及びB27添加剤、ウシ血清などがある。培養時に培地と細胞の状態を観察しながら培地を交換して脳細胞を培養することができる。この時、脳細胞が継続増殖して互いに固まって神経球(neurospheres)を形成すれば継代培養を実施することができる。継代培養は状況によって約7~8日ごとに行うことができる。
【0074】
本発明に係る組成物は、アルファ-シヌクレインの凝集及びリン酸化を抑制して神経細胞及び膠細胞を含む脳細胞を損傷から保護し、神経細胞が補充(再生)されたり又は構築(復元)されたりすることを可能にする。
【0075】
本明細書において、用語「再生(regeneration)」とは、形成された器官又は個体の一部が喪失された時にその部分が補充される現象を意味する。また、「復元」とは、「再構成(reconstitution)」ともいえ、これは組織の再構築を意味するもので、一応解離した細胞や組織から組織や器官を再び構築することを意味する。
【0076】
本発明の組成物又は細胞治療剤は、投与方式によって許容可能な担体を含むことによって適切な製剤として製造されてよい。投与方式に適切な製剤は公知であり、典型的に膜を通過する、移動を容易にする製剤を含んでよい。
【0077】
また、本発明の組成物は一般の医薬品製剤の形態で用いられてよい。非経口用製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤又は凍結乾燥製剤、経口投与時には錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル、サスペンション、シロップ又はウエハーなどの形態で製造でき、注射剤の場合には、単位投薬アンプル又は多回投薬形態で製造できる。また、本発明の治療用組成物は、薬学的に許容される担体と共に投与されてよい。例えば、経口投与時には、結合体、滑沢剤、崩壊剤、賦形剤、可溶化剤、分散剤、安定化剤、懸濁化剤、色素又は香料などを使用することができる。注射剤は、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張剤、安定化剤などを混合して使用することができ、局所投与用では、基剤、賦形剤、潤滑剤、保存剤などを使用することができる。
【0078】
本発明のさらに他の態様は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が含まれた遺伝子伝達体、及びNurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞(brain cells)からなる群から選ばれるいずれか一つを含む、アルファ-シヌクレイン(α-synuclein)タンパク質凝集によって発病する疾患の予防又は治療用組成物である。
【0079】
本発明のさらに他の態様は、Nurr1及びFoxa2遺伝子が搭載されたベクター、及びNurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞(brain cells)からなる群から選ばれるいずれか一つを含む、アルファ-シヌクレイン(α-synuclein)タンパク質凝集によって発病する疾患の予防又は治療用組成物である。
【0080】
本発明のさらに他の態様は、次の段階を含む、アルファ-シヌクレインタンパク質凝集によって発病する疾患の治療又は緩和方法である。
【0081】
Nurr1及びFoxa2遺伝子が含まれた遺伝子伝達体、及びNurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞(brain cells)からなる群から選ばれるいずれか一つを含む組成物を対象に投与する段階。
【0082】
本発明のさらに他の態様は、次の段階を含む、アルファ-シヌクレインタンパク質凝集によって発病する疾患の治療又は緩和方法である。
【0083】
Nurr1及びFoxa2遺伝子が搭載されたウイルスベクター、及びNurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞(brain cells)からなる群から選ばれるいずれか一つを含む組成物を対象に投与する段階。
【0084】
本明細書において、用語「対象」は、治療、観察又は実験の対象である脊椎動物、例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、イヌ、ネコ、ネズミ、マウス、ウサギ、ギニアピッグ、ヒトなどであってよい。
【0085】
本明細書において、用語「治療」は、有益である又は好ましい臨床的結果を得るための接近を意味する。本発明の目的のために、有益である又は好ましい臨床的結果は、次に限定されないが、症状の緩和、疾病範囲の減少、疾病状態の安定化(すなわち、悪化しないこと)、疾病進行の遅延又は速度の減少、疾病状態の改善又は一時的緩和及び軽減(部分的に又は全体的に)、検出可能であるか又は検出されないことを含む。また、「治療」は、治療を受けなかった時に予想される生存率と比較して生存率を伸ばすことを意味することもできる。「治療」は、治療学的治療及び予防的又は予防措置方法のいずれをも指す。治療は、予防される障害の他、既に発生した障害においても要求される治療を含む。疾病を「緩和(Palliating)」することは、治療をしていない場合と比較して、疾病状態の範囲及び/又は好ましくない臨床的徴候が減少する、及び/又は進行の時間的推移(time course)が遅延されたり伸びることを意味する。
【0086】
本発明の一具現例において、アルファ-シヌクレインによって発病した疾患は、パーキンソン病(Parkinson’s disease)及びレビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodies)からなる群から選ばれる疾患であってよいが、これに限定されない。
【0087】
また、本発明の治療用組成物を用いて、アルファ-シヌクレインによって発病した疾患を治療する方法は、適切な方法によって対象体又は患者に所定の物質が導入される一般的な経路を通じて投与することを含んでよい。
【0088】
投与方法としては、脳内投与、中脳投与、脳室内投与、脊椎腔投与、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、血内投与、経口投与、局所投与、鼻内投与、肺内投与及び直腸内投与があるが、これに限定されない。
【0089】
また、本発明に係る組成物は、活性物質が標的細胞に移動できる任意の装置によって投与されてよい。投与方式及び製剤は、定位固定器(Stereotactic System)を用いて脳中脳注射剤、脳黒質注射剤、脳室注射剤、脳脊髓液注射剤、静脈注射剤、皮下注射剤、血内注射剤、筋肉注射剤又は点滴注射剤であってよい。注射剤は、生理食塩液又はリンゲル液などの水性溶剤、植物油、高級脂肪酸エステル(例えば、オレイン酸エチルなど)、アルコール類(例えば、エタノール、ベンジルアルコール、プロピレングリコール又はグリセリンなど)などの非水性溶剤などを用いて製造できる。注射剤は、変質防止のための安定化剤(例えば、アスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、BHA、トコフェロール、EDTAなど)、乳化剤、pH調節のための緩衝剤、微生物発育を阻止するための保存剤(例えば、硝酸フェニル水銀、チメロサール、塩化ベンザルコニウム、フェノール、クレゾール、ベンジルアルコールなど)などの薬剤学的担体を含んでよい。
【0090】
本発明に係る組成物は、対象に薬学的有効量で投与されてよい。薬学的有効量は、疾患の種類、対象体(患者)の年齢、体重、健康、性別、対象体(患者)の薬物に対する敏感度、投与経路、投与方法、投与回数、治療期間、配合又は同時使用される薬物など、医学分野によく知られた要素によって当業者にとって容易に決定されてよい。
【0091】
本発明に係るFoxa2及び/又はNurr1遺伝子が導入された脳細胞は、組成物の形態で治療学的有効量によって病変部位に直接移植されてよい。
【0092】
本明細書において、用語「治療学的有効量」は、アルファ-シヌクレインの凝集又はリン酸化によって誘発される対象体又は患者の生理学的効果を中止又は軽減させるのに十分な量を意味する。使用された細胞の治療学的有効量は、対象体(患者)のニーズ、対象体(患者)の年齢、生理学的状態及び健康、所定の治療効果、治療に標的される組織のサイズ及び面積、病変の程度及び選択された伝達経路によって決定されてよい。また、細胞は、低細胞投与量の多重小型移植片で、所定の標的組織内の一箇所以上の部位に投与されてよい。本発明の細胞は移植前に完全に分離され、例えば単一細胞の懸濁液を形成したり、又は移植前に略完全に分離され、例えば細胞の小型凝集物を形成できる。細胞はそれらを所定の組織部位に移植又は移動させ、機能的に欠乏した領域を再構成又は再生する方式で投与できる。
【0093】
治療学的に有効に達成するように投与できる細胞の適当な範囲は、当業者の通常の知識内で対象体又は患者に合わせて適切に決定されてよい。例えば、本発明に係る組成物に含み得る細胞は、約10~1,000,000,000であってよいが、これに限定されない。
【0094】
本発明の組成物の適切な投与量は、製剤化方法、投与方式、対象体(患者)の年齢、体重、性別、疾病症状の程度、食べ物、投与時間、投与経路、排泄速度及び反応感応性のような要因によって決定されてよい。普通に熟練した医師は、目的する治療に効果的な投与量を容易に決定及び処方できる。本発明の薬剤学的組成物は、1×101~1×1013virus genome(vg)/μl、1×102~1×1013vg/μl、1×103~1×1013vg/μl、1×104~1×1013vg/μl、1×105~1×1013vg/μl、1×106~1×1013vg/μl、1×107~1×1013vg/μl、1×108~1×1013vg/μl、1×109~1×1013vg/μl、1×1010~1×1013vg/μl、1×1011~1×1013vg/μl、1×1012~1×1013vg/μl、1×101~1×1012vg/μl、1×101~1×1011vg/μl、1×101~1×1010vg/μl、1×101~1×109vg/μl、1×101~1×108vg/μl、1×101~1×107vg/μl、1×101~1×106vg/μl、1×101~1×105vg/μl、1×101~1×104vg/μl、1×101~1×103vg/μl、1×101~1×102vg/μl、1×102~1×1012vg/μl、1×103~1×1011vg/μl、1×104~1×1010vg/μl、1×105~1×109vg/μl、1×106~1×108vg/μl、1×102~1×103vg/μl、1×103~1×104vg/μl、1×104~1×105vg/μl、1×105~1×106vg/μl、1×106~1×107vg/μl、1×107~1×108vg/μl、1×108~1×109vg/μl、1×109~1×1010vg/μl、1×1010~1×1011vg/μl、1×1011~1×1012vg/μlのウイルスベクター、又はウイルス遺伝子を含んでよい。一般に、1×106~2×1016vg/doseを患者に1回~5回注射できる。効果の持続のために数カ月又は数年後に類似の方法で再び注射できる。
【発明の効果】
【0095】
本発明は、アルファ-シヌクレイン凝集抑制用組成物及び凝集抑制方法に関し、より詳細には、Nurr1及びFoxa2遺伝子を導入して発現を誘導することによってアルファ-シヌクレイン凝集(aggregation)及びリン酸化(phosphorylation)を抑制する技術に関し、本発明に係る組成物は、アルファ-シヌクレインの凝集及びリン酸化を抑制する効果に優れ、パーキンソン病の治療及び予防に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【
図1】一実施例によって、対照群(Cont)とNurr1及びFoxa2遺伝子が導入されたドパミンニューロン及び膠細胞(NF)にアルファ-シヌクレインPFF(Preformed fibril)を処理した後、ウェスタンブロットを行った結果を示す写真である。
【0097】
【
図2】一実施例によって、ウェスタンブロットを行った後、対照群とNurr1及びFoxa2遺伝子を導入した群(NF)のアルファ-シヌクレイン凝集程度を比較したグラフである。
【0098】
【
図3】一実施例によって、ウェスタンブロットを行った後、対照群とNurr1及びFoxa2遺伝子を導入した群(NF)のリン酸化されたアルファ-シヌクレイン単量体レベルを示すグラフである。
【0099】
【
図4】一実施例によって、ウェスタンブロットを行った後、対照群とNurr1及びFoxa2遺伝子を導入した群(NF)のリン酸化されたアルファ-シヌクレイン凝集体レベルを示すグラフである。
【0100】
【
図5】一実施例によって、対照群(Cont)、Nurr1遺伝子単独導入(N)、Foxa2遺伝子単独導入(F)、及びNurr1及びFoxa2遺伝子の両方が導入(NF)されたドパミンニューロン及び膠細胞にアルファ-シヌクレインPFF(Preformed fibril)を処理した後、ウェスタンブロットを行った結果を示す写真である。
【0101】
【
図6】一実施例によって、ウェスタンブロットを行った後、対照群(Con)、Foxa2単独導入群(F)、Nurr1単独導入群(N)、及びNurr1及びFoxa2遺伝子を導入した群(NF)のアルファ-シヌクレイン凝集体と単量体のレベルを比較したグラフである。
【0102】
【
図7】一実施例によって、野生型(WT)、パーキンソン病モデルである対照群(Cont)、及びNurr1及びFoxa2を導入した実験群(NF)のポールテスト(Pole test)結果を示すグラフである。
【0103】
【
図8】一実施例によって、野生型(WT)、パーキンソン病モデルである対照群(Cont)、及びNurr1及びFoxa2を導入した実験群(NF)のポールテスト結果を示す写真である。
【0104】
【
図9】一実施例によって、野生型(WT)、パーキンソン病モデルである対照群(PD)、及びNurr1及びFoxa2を導入した実験群(NF)の8週目におけるビームテスト(Beam test)結果を示すグラフである。
【0105】
【
図10】一実施例によって、野生型(WT)、パーキンソン病モデルである対照群(PD)、及びNurr1及びFoxa2を導入した実験群(NF)の12週目におけるビームテスト結果を示すグラフである。
【0106】
【
図11】一実施例によって、野生型(WT)、パーキンソン病モデルである対照群(PD)、及びNurr1及びFoxa2を導入した実験群(NF)のビームテスト結果を示す写真である。
【0107】
【
図12】一実施例によって、オープンフィールドテスト(Open Field test;OFT)によって野生型(WT)、パーキンソン病モデルである対照群(PD)、及びNurr1及びFoxa2を導入した実験群(NF)の移動した総距離(Total distance)を示すグラフである。
【0108】
【
図13】一実施例によって、オープンフィールドテストによって野生型(WT)、パーキンソン病モデルである対照群(PD)、及びNurr1及びFoxa2を導入した実験群(NF)の平均速度(Average speed)を示すグラフである。
【0109】
【
図14】一実施例によって野生型(WT)、パーキンソン病モデルである対照群(PD)、及びNurr1及びFoxa2を導入した実験群(NF)のオープンフィールドテスト結果を示す図である。
【0110】
【
図15】一実施例によって野生型(WT)、パーキンソン病モデルである対照群(PD)、及びNurr1及びFoxa2を導入した実験群(NF)の8週目におけるローターロッドテスト(Rotarod test)結果を示すグラフである。
【0111】
【
図16】一実施例によって、野生型(WT)、パーキンソン病モデルである対照群(PD)、及びNurr1及びFoxa2を導入した実験群(NF)の12週目におけるローターロッドテスト結果を示すグラフである。
【0112】
【
図17】一実施例によって、野生型(WT)、パーキンソン病モデルである対照群(PD)、及びNurr1及びFoxa2を導入した実験群(NF)のローターロッドテスト結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0113】
Nurr1及びFoxa2遺伝子が搭載されたウイルスベクター;及び
Nurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞(brain cells)
からなる群から選ばれるいずれか一つを含む、アルファ-シヌクレイン(α-synuclein)タンパク質凝集抑制剤。
【実施例】
【0114】
以下、本発明を下記の実施例を用いてより詳細に説明する。ただし、これらの実施例は本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲がこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0115】
実施例1:ベクター製造
【0116】
レンチウイルスを形質導入するためにベクターを製造した。Nurr1又はFoxa2を発現させるレンチウイルスベクターは、CMV促進遺伝子(promoter)の統制の下に、それぞれのcDNAをpCDH(System Biosciences社、Mountain View,CA)の多重クローニング部位に挿入して生成した。pGIPZ-shNurr1とpGIPZ-shFoxa2レンチウイルスベクターをOpen Biosystems社(Rockford,IL)から購入した。空の(empty)構造体(backbone)ベクター、pCDH又はpGIPZは陰性対照として使用された。レンチウイルスの力価は、QuickTiterTM HIVレンチウイルス定量キット(Cell Biolabs社、San Diego,CA)を用いて測定され、106個の形質導入単位(transducing unit,TU)/ml(60~70ng/ml)を含む200μl/well(24ウェル皿)又は2ml/6cm皿がそれぞれの形質導入反応に用いられた。
【0117】
定位方法の(stereotaxic)注射によって生体内発現を誘導するために、CMV促進者の統制の下にNurr1又はFoxa2を発現するAAVは、それぞれのcDNAをpAAV-MCSベクター(Addgene社、Cambridge,MA)にサブクローニングすることによって生成した。伝達された遺伝子発現効率を評価するために、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescence Protein,GFP)を発現させるAAVも生成した。AAV(血清型9又は2)の生産及び分離精製は、韓国科学技術研究院(大韓民国ソウル)で行った。AAV力価は、QuickTiterTM AAV定量キット(Cell Biolabs社)で測定された。共同発現研究は個別ウイルス製剤の混合物(1:1,v:v)で細胞を感染させて行われた。
【0118】
実施例2:細胞培養
【0119】
2-1.中脳性神経幹細胞(ventral midbrain Neural Progenitor Cell;VM NPC)培養
【0120】
ポリ-L-オルニチン-フィブロネクチン(poly-L-ornitine-fibronectin;PLO-FN)でコートされた6ウェルプレート(well plate)に、ドパミン性ポテンシャル(dopaminergic potential)を持つ中脳性神経幹細胞(Neural progenitor cell)を4×105/wellでシード(seeding)した。24時間後に、シナプシン(synapsin)プロモーター統制下にNurr1、Foxa2を発現するレンチウイルスをそれぞれ106TU(transducing unit)/ml(60~70ng/ml)、1:1(v:v)でそれぞれ形質導入した。対照群としては、GFPを発現するレンチウイルスを同量で処理した。その後、3日間培養してニューロンに分化させた。
【0121】
2-2.中脳性膠細胞(Ventral midbrain glia)の培養
【0122】
中脳性膠細胞(Ventral midbrain glia)の培養のために、ポリ-L-オルニチン-フィブロネクチンでコートされた100mm×20mm培養皿(culture dish)に、ネズミの中脳性膠細胞を3×106個でシードし、24時間後に、CMVプロモーター統制下にNurr1とFoxa2を個別に発現するレンチウイルスを106TU/ml(60~70ng/ml)ずつ1:1(v:v)に混合して形質導入した。対照群としては対照ウイルスを同量で処理した。その後、5日間培養した。
【0123】
2-3.共同培養(co-culture)
【0124】
実施例2-1で培養されたドパミン性中脳ニューロン(dopaminergic VM neuron)に、実施例2-2で培養された膠細胞(VM glia)を2:1の割合でシードした(VM Neuron:VM glia=2:1)。翌日、アルファ-シヌクレインPFF(Preformed fibril)を最終濃度が2μg/mlになるように処理し、7日後にアルファ-シヌクレインのタンパク質の量をウェスタンブロットで確認した。
【0125】
実施例3:ウェスタンブロット
【0126】
プレーティングされた細胞に1% Triton X-100/PBS溶液にタンパク質分解酵素阻害因子(Protease inhibitor;Roche)とリン酸加水分解酵素抑制剤カクテル(phosphatase inhibitor cocktails,Sigma)を入れてタンパク質を抽出した。遠心分離後に、ペレットを1% SDSサンプルバッファで溶かした後、15μgのタンパク質をSDS-PAGEゲル(4~16%勾配ゲル)にロードした。メンブレインにトランスファー後に5% BSA/TBSTにブロッキングし、1次抗体を4℃で一晩インキュベーションし、2次抗体を常温で1時間インキュベーションした。1次抗体は次のように使用した:α-syn(BD biosciences,610787);pS129-α-syn(Bio Legend,825701)。そして、ウェスタンブロット実験結果は
図1に示した。ウェスタンブロット後に、ImageJプログラムを用いてウェスタンブロット結果を定量的に測定し、それを
図2~
図4及び表1~表3に示した。
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
実施例4:Nurr1及びFoxa2のアルファ-シヌクレイン凝集及びリン酸化抑制確認
【0131】
ウェスタンブロットの結果、
図1から確認できるように、Nurr1及びFoxa2遺伝子が形質導入されたニューロン及び膠細胞にアルファ-シヌクレインPFFを処理した場合に、Nurr1及びFoxa2が処理されていないニューロン及び膠細胞に比べて、アルファ-シヌクレインタンパク質の凝集が対照群に比べて減少していることを確認した。また、アルファ-シヌクレインタンパク質のリン酸化された単量体及び凝集体のレベルも対照群に比べて大幅に減少していることを確認した。
【0132】
具体的には、
図2及び表1から確認できるように、Nurr1及びFoxa2遺伝子が形質導入された場合に、凝集されたアルファ-シヌクレインタンパク質の量及び凝集が対照群に比べて減少した。また、
図3及び
図4と表2及び表3から確認できるように、Nurr1及びFoxa2遺伝子が形質導入された場合に、リン酸化されたアルファ-シヌクレイン凝集体のレベルが対照群の約60%のレベルに減少したし、単量体(monomer)においては約30%レベルまで減少していることを確認した。
【0133】
実施例5:Nurr1単独投与とNurr1及びFoxa2併用投与のアルファ-シヌクレイン凝集体形成抑制効果の比較
【0134】
Nurr1単独、Foxa2単独、又はNurr1及びFoxa2両方が導入されたそれぞれのニューロン及び膠細胞をプレーティングし、1% Triton X-100/PBS溶液にタンパク質分解酵素阻害因子(Protease inhibitor;Roche)とリン酸加水分解酵素抑制剤カクテル(phosphatase inhibitor cocktails,Sigma)を入れてタンパク質を抽出した。
【0135】
対照群は、Nurr1又はFoxa2を導入していない細胞を使用した。遠心分離後に、ペレットを1% SDSサンプルバッファで溶かした後、15μgのタンパク質をSDS-PAGEゲル(4~16%勾配ゲル)にロードした。メンブレインにトランスファー後に5% BSA/TBSTにブロッキングし、1次抗体を4℃で一晩インキュベーションし、2次抗体を常温で1時間インキュベーションした。1次抗体は次のように使用した:α-syn(BD biosciences,610787);pS129-α-syn(Bio Legend,825701)。そして、ウェスタンブロット実験結果は
図5に示した。ウェスタンブロット後に、ImageJプログラムを用いてウェスタンブロット結果を定量的に測定し、それを
図6及び表4に示した。
【0136】
【0137】
実験の結果、
図6及び表4から確認できるように、Nurr1及びFoxa2遺伝子両方を形質導入した群(N+F)は、Nurr1又はFoxa2を単独で形質導入した群(N又はF)に比べてアルファ-シヌクレイン凝集が顕著に減少していることを確認した。具体的には、Nurr1及びFoxa2遺伝子両方を形質導入した群は、対照群に比べてアルファ-シヌクレイン凝集を48%以上減少させたし、特に、Nurr1単独投入群に比べてアルファ-シヌクレイン凝集を32%以上減少させたことを確認した。結果的に、Nurr1及びFoxa2遺伝子両方を形質導入する場合に、Nurr1を単独で導入する場合に比べてアルファ-シヌクレイン凝集を顕著に減少させ得ることが確認されたし、さらには、パーキンソン病治療においてNurr1及びFoxa2遺伝子両方を導入することがより効果的であると予想される。
【0138】
実施例6:パーキンソン病モデルにおいてNurr1及びFoxa2導入による行動改善確認
【0139】
6-1.パーキンソン病モデル(PD model)マウスの作製
【0140】
ICRマウスAAV2-CMV-αsyn-HAとα-syn PFF 5μgを混ぜてマウスの黒質(substantia nigra;SN)に注入した。具体的には、定位方法機械(stereotaxic instrument)でマウスを固定させた後、頭部位の皮膚を約1cm正中切開してブレグマ(bregma)を確認した。ブレグマを基準に-3.3mm前部、1.2mm後部の位置に電気ドリルで頭蓋骨を開けてAAV2-CMV-α-syn-HA(1.3x1013gc/μl)2μlとα-syn PFF(5mg/ mL)2μlをstereotaxic injectorにロードし、頭蓋骨から4.6mm深さに進入して黒質部位両側のそれぞれに2μlずつ(両側投与部位別の各ベクター別投与量は1.3x1013gc/siteである。)0.5μl/minの速度で徐々に投与した。両側黒質部位に投与20分後に、injectorを、10分当たりに1.5mmずつ後に抜きながら、投与された混合物の漏れ(leaking)を最小化した。医療用皮膚ステープラーを用いてマウス頭蓋骨の皮膚を縫合し、ポビドンで消毒し、回復後にケージに入れた。
【0141】
投与4週後に、Nurr1、Foxa2を発現するウイルスベクターを用いてNurr1とFoxa2を形質導入した。具体的には、定位投与装備(stereotaxic instrument)でPDマウスモデルを固定させた後、頭部位の皮膚を約1cm正中切開してブレグマ(bregma)を確認した。ブレグマを基準に-3.3mm前部、1.2mm後部の位置に電気ドリルで頭蓋骨を開け、AAV9-hNurr1及びAAV9-hFoxa2をベクター別の各濃度を1×1010gc/μlにしてstereotaxic injectorにロードした。頭蓋骨から4.6mm深さに進入して黒質部位両側のそれぞれに2μlずつ(両側投与部位別の各ベクター別投与量は1.0×1010gc/siteである。)0.5μl/minの速度で徐々に投与した。両側黒質部位に投与20分後に、injectorを10分当たりに1.5mm後に抜きながら、投与された混合物の漏れ(leaking)を最小化した。医療用皮膚ステープラーを用いて頭蓋骨の皮膚を縫合し、ポビドンで消毒し、回復後にケージに入れた。
【0142】
6-2.ポールテスト(Pole test)
【0143】
Nurr1及びFoxa2を形質導入して4週、8週及び12週後にポールテストを行った。テストは、テスト2~3日前にあらかじめマウスをトレーニングして適応させた後に行われた。試験時に、野生型(wild type;WT)、パーキンソン病モデルである対照群(Cont)、及びNurr1及びFoxa2形質導入群(NF)のマウスがポールの上端から下に降りる時間を測定した。実験中にポールから落ちたり滑りる場合は、負の値(Negative value)に設定し、当該週において最大値と同じ値に設定してデータを作った。この時、野生型マウスは6匹、対照群とNurr1及びFoxa2形質導入群のマウスは8匹を実験した。測定された時間は一元分散分析(one-way ANOCA)によって有意な効果を決定した。
【0144】
【0145】
実験の結果、
図7及び
図8と表5から確認できるように、対照群のマウスが野生型及びNurr1及びFoxa2形質導入群(NF)のマウスに比べて、ポールを降りるまでより時間がかかったし、ポールから落ちたり滑りる頻度が高かった。
【0146】
6-3.ビームテスト(Beam test)
【0147】
Nurr1及びFoxa2を形質導入し、8週及び12週後にビームテストを行った。テストは、テスト2~3日前にあらかじめマウスをトレーニングして適応させた後に行われた。試験に用いられたビームは四角形状であり、厚さは10mmであった。試験時に、野生型(wild type;WT)、パーキンソン病モデルである対照群(PD)、及びNurr1及びFoxa2形質導入群(NF)のマウスがビームの端から端まで移動する時間を2回ずつ測定した。実験中にビームから落ちたり滑りる場合は、負の値(Negative value)に設定し、当該週において最大値と同じ値に設定してデータを作った。この時、野生型マウス、対照群(PD群)、Nurr1及びFoxa2形質導入群のマウスはいずれも6匹を使用した。測定された時間は、一元分散分析(one-way ANOCA)を用いて有意な効果を決定した。
【0148】
【0149】
実験の結果、
図7及び
図8と表6から確認できるように、対照群のマウスは、野生型及びNurr1及びFoxa2形質導入群(NF)のマウスに比べて、ビームを通過する時間がより所要された。
【0150】
6-4.オープンフィールドテスト(Open Field Test;OFT)
【0151】
Nurr1及びFoxa2を形質導入して8週後にオープンフィールドテストを行った。野生型(wild type;WT)、パーキンソン病モデルである対照群(PD)及びNurr1及びFoxa2形質導入群(NF)のマウスをオープンフィールドに入れた後、各群のマウスが5分間動く動線、速度及び距離などを測定した。このとき、野生型マウス、対照群(PD群)、Nurr1及びFoxa2形質導入群のマウスはいずれも6匹を使用した。測定された時間は、一元分散分析(one-way ANOCA)を用いて有意な効果を決定した。
【0152】
【0153】
【0154】
実験の結果、
図12~
図14と表7及び表8から確認できるように、Nurr1及びFoxa2形質導入群(NF)のマウスは、野生型と比較して、移動した総距離及び平均速度においてほとんど差がない程度に行動が改善されていることを確認した。また、Nurr1及びFoxa2形質導入群(NF)のマウスは、対照群(PD)と比較して、移動した総距離及び移動時平均速度が著しく上昇した。
【0155】
6-5.ローターロッドテスト(Rotarod Test)
【0156】
Nurr1及びFoxa2を形質導入して8週及び12週後にローターロッドテストを行った。テストは、テスト2~3日前にあらかじめマウスをトレーニングして適応させた後に行われた。試験は、4rpmから40rpmまで速度を徐々に上げながら野生型(wild type;WT)、パーキンソン病モデルである対照群(PD)、及びNurr1及びFoxa2形質導入群(NF)のマウスが円筒から落ちる時間を2回測定することによって行われた。この時、野生型マウス、対照群(PD群)、Nurr1及びFoxa2形質導入群のマウスはいずれも6匹を使用した。測定された時間は、一元分散分析(one-way ANOCA)を用いて有意な効果を決定した。
【0157】
【0158】
【0159】
実験の結果、
図15~
図17と表9及び表10から確認できるように、Nurr1及びFoxa2形質導入群(NF)のマウスは、8週目と12週目において対照群に比べて円筒から落ちるまで遥かに多い時間がかかった。
【0160】
6-6.小結
【0161】
以上、Nurr1及びFoxa2形質導入群(NF)のマウスは、パーキンソン病モデルである対照群に比べて、ポールテスト、ビームテスト、オープンフィールドテスト及びローターロッドテストのいずれにおいても運動能力及び行動が顕著に改善されていることを確認した。上記の結果から、Nurr1及びFoxa2遺伝子導入は、パーキンソン病の特徴的な硬直、運動緩除、姿勢不安のような運動能力の低下を回復させ得ることを確認し、よって、Nurr1及びFoxa2遺伝子導入はパーキンソン病の治療に利用可能であると期待される。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明は、アルファ-シヌクレイン凝集抑制用組成物及び凝集抑制方法に関し、より詳細には、Nurr1及びFoxa2遺伝子を導入して発現を誘導することによってアルファ-シヌクレインの凝集(aggregation)及びリン酸化(phosphorylation)を抑制する技術に関する。
【手続補正書】
【提出日】2024-01-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルファ-シヌクレイン(α-synuclein)タンパク質の凝集またはリン酸化抑制用組成物であって、
Nurr1及びFoxa2遺伝子が含まれた遺伝子伝達体;及び
Nurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞(brain cells)
、
からなる群から選ばれるいずれか一つを含む、
組成物。
【請求項2】
前記遺伝子伝達体は、ウイルスベクターである、請求項1に記載の
組成物。
【請求項3】
前記ウイルスベクターは、
アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター及びアデノウイルスベクターからなる群から選ばれる一つである、請求項2に記載の
組成物。
【請求項4】
前記脳細胞(brain cells)は、
ニューロン(neurons)、及び星状膠細胞(astrocyte)又は微細膠細胞(microglia)を含む膠細胞(glia)である、請求項1に記載の
組成物。
【請求項5】
アルファ-シヌクレイン(α-synuclein)タンパク質の凝集又はリン酸化によって発病する疾患の予防又は治療用組成物であって、
Nurr1及びFoxa2遺伝子が含まれた遺伝子伝達体;及び
Nurr1及びFoxa2遺伝子が導入された脳細胞(brain cells)
からなる群から選ばれるいずれか一つを含む、
予防又は治療用組成物。
【請求項6】
前記遺伝子伝達体は、ウイルスベクターである、請求項
5に記載の
予防又は治療用組成物。
【請求項7】
前記ウイルスベクターは、
アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター及びアデノウイルスベクターからなる群から選ばれる一つである、請求項
6に記載の
予防又は治療用組成物。
【請求項8】
前記脳細胞(brain cells)は、
ニューロン(neurons)、及び星状膠細胞(astrocyte)又は微細膠細胞(microglia)を含む膠細胞(glia)である、請求項
5に記載の
予防又は治療用組成物。
【請求項9】
アルファ-シヌクレインタンパク質の凝集によって発病する
前記疾患は、パーキンソン病(Parkinson’s disease)及びレビー小体型認知症(Dementia with Lewy Bodies)からなる群から選ばれる疾患である、請求項
5に記載の
予防又は治療用組成物。
【国際調査報告】