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特表2024-527589二量体タンパク質複合体及びその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-25
(54)【発明の名称】二量体タンパク質複合体及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20240718BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20240718BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240718BHJP
   C07K 16/24 20060101ALI20240718BHJP
   C07K 16/08 20060101ALI20240718BHJP
   C07K 16/14 20060101ALI20240718BHJP
   C07K 16/12 20060101ALI20240718BHJP
   C07K 14/005 20060101ALI20240718BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240718BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240718BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240718BHJP
   C12N 15/33 20060101ALI20240718BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20240718BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240718BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20240718BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240718BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20240718BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240718BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240718BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20240718BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
C07K16/28
C07K16/46 ZNA
C07K19/00
C07K16/24
C07K16/08
C07K16/14
C07K16/12
C07K14/005
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N15/62 Z
C12N15/33
C12N15/31
C12N15/12
A61K38/17
A61K39/395 L
A61K39/395 N
A61K47/64
A61P37/04
A61P35/00
A61P31/00
A61P31/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500636
(86)(22)【出願日】2022-07-11
(85)【翻訳文提出日】2024-03-11
(86)【国際出願番号】 EP2022069311
(87)【国際公開番号】W WO2023281120
(87)【国際公開日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】21184691.0
(32)【優先日】2021-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】518384906
【氏名又は名称】ルクセンブルク インスティテュート オブ ヘルス(エルアイエイチ)
【氏名又は名称原語表記】LUXEMBOURG INSTITUTE OF HEALTH(LIH)
【住所又は居所原語表記】1A-B, rue Thomas Edison, L-1445 Strassen, LUXEMBOURG
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】ダーヴィルス,グザヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】ショーバー,ラファエラ,マリア
(72)【発明者】
【氏名】ブランダス,ビアンカ
(72)【発明者】
【氏名】ドヴォー,カロル
(72)【発明者】
【氏名】ツィマー,ジャック,ルネ
(72)【発明者】
【氏名】コーエン,ジャック,アンリ,マックス
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC50
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA41
4C084BA44
4C084CA53
4C084DA12
4C084NA05
4C084NA06
4C084NA13
4C084ZB021
4C084ZB022
4C084ZB071
4C084ZB072
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB351
4C084ZB352
4C085AA14
4C085AA21
4C085BA07
4C085BA49
4C085BA51
4C085BB01
4C085BB17
4C085BB42
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045BA41
4H045CA01
4H045CA11
4H045CA15
4H045CA40
4H045DA76
4H045DA86
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
二量体タンパク質複合体及びその使用
本発明は、標的治療に用いられる多量体の分野に位置づけられる。より詳細には、本発明は、第1の機能的構成成分及びC4bp β鎖のC末端フラグメントを含み、前記第1の機能的構成成分は前記C4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端に結合している、第1のポリペプチド;及び第2の機能的構成成分及びC4bp β鎖のC末端フラグメントを含み、前記第2の機能的構成成分は前記C4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端に結合している、第2のポリペプチドを含む二量体タンパク質複合体であって、前記第1及び第2のポリペプチドは同一であるか又は異なり、前記第1及び第2の機能的構成成分がタンパク質又はポリペプチドである、二量体タンパク質複合体を提供する。さらに、二量体タンパク質複合体の前記第1又は第2のポリペプチドをコードする核酸、及び二量体タンパク質複合体を含む医薬組成物が提供される。本発明はまた、免疫療法における二量体タンパク質複合体の使用に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の機能的構成成分及びC4b結合性タンパク質(C4bp) β鎖のC末端フラグメントを含み、前記第1の機能的構成成分は前記C4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端に結合している、第1のポリペプチド;及び
第2の機能的構成成分及びC4bp β鎖のC末端フラグメントを含み、前記第2の機能的構成成分は前記C4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端に結合している、第2のポリペプチド
を含む二量体タンパク質複合体であって、
前記第1及び第2の機能的構成成分は単量体Fcであり;第1のポリペプチド中の単量体Fcのヒンジ領域は、第2のポリペプチド中の単量体Fcのヒンジ領域に、少なくとも2つのジスルフィド結合により接続し;
前記第1のポリペプチドは、前記C4bp β鎖のC末端フラグメントのN末端に結合している第3の機能的構成成分を更に含み;
前記第2のポリペプチドは、前記C4bp β鎖のC末端フラグメントのN末端に結合している第4の機能的構成成分を更に含み;
前記第3及び/又は第4の機能的構成成分は結合性ドメインを含み;
前記第1及び第2のポリペプチドは同一であるか又は異なっている、
二量体タンパク質複合体。
【請求項2】
前記結合性ドメインが、抗原に特異的な抗体の単鎖可変フラグメント(scFv)若しくは重鎖抗体の単一ドメイン可変フラグメント(VHH)、抗体様足場、ウイルス性エンベロープタンパク質の細胞外ドメイン、抗原のレセプター若しくはリガンドの同族細胞外ドメイン、又は前記レセプター若しくはリガンド又は可溶性レセプター若しくは合成レセプターの抗原結合性部分である、請求項1に記載の二量体タンパク質複合体。
【請求項3】
前記結合性ドメインが、腫瘍特異的抗原(TSA)、腫瘍関連抗原(TAA)、細菌性抗原、ウイルス性抗原若しくはウイルス関連抗原、真菌性抗原、活性化NK細胞レセプター、サイトカイン、トキシン又はコンタミナントに特異的に結合する、請求項1又は2に記載の二量体タンパク質複合体。
【請求項4】
前記第3及び第4の機能的構成成分はC4bp α鎖の補体制御タンパク質(CCP)1及び2を含む、請求項3に記載の二量体タンパク質複合体。
【請求項5】
前記第1及び第2の機能的構成成分は、IgGのヒンジ、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含むIgGの単量体Fcである、請求項1~4のいずれか1項に記載の二量体タンパク質複合体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の二量体タンパク質複合体の第1のポリペプチド、及び/又は請求項1~5のいずれか1項に記載の二量体タンパク質複合体の第2のポリペプチドをコードする核酸。
【請求項7】
請求項6に記載の核酸を含む発現カセット。
【請求項8】
請求項6に記載の核酸又は請求項7に記載の発現カセットを含む発現ベクター。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載の二量体タンパク質複合体、請求項6に記載の核酸、請求項7に記載の発現カセット又は請求項8に記載の発現ベクターと、薬学的に許容可能なキャリアとを含む医薬組成物。
【請求項10】
医薬として使用するため、好ましくは免疫療法に使用するための、請求項1~5のいずれか1項に記載の二量体タンパク質複合体、請求項6に記載の核酸、請求項7に記載の発現カセット、請求項8に記載の発現ベクター又は請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
新生物疾患又は感染性疾患の処置に使用するための、請求項1~5のいずれか1項に記載の二量体タンパク質複合体、請求項6に記載の核酸、請求項7に記載の発現カセット、請求項8に記載の発現ベクター又は請求項9に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多量体タンパク質複合体及びその標的療法への使用の分野に位置づけられる。より詳細には、本発明は、2つ以上の機能的構成成分を示し、足場を含む二量体タンパク質複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
組換えDNA技術は、いくつかの治療用途に使用するための生物学的に活性のあるタンパク質の大規模生産の可能性を提供している。組換えDNAから生産される製品の多くは、大型タンパク質、小型ペプチド、抗体フラグメントなど、すでに臨床で使用されているか、現在開発中である。
タンパク質やペプチド分子を多量化すると、生体内でのこれら分子の半減期が長くなり、より長期間にわたって活性を発揮できるようになることが示されている。さらに、多量体タンパク質複合体は、複数の機能的構成成分(治療機能性と標的化機能性を有する成分など)を1つの分子に結合させる機会を提供し、しばしば有効性を高め、望ましくない副作用を軽減する標的療法を可能にする。さらには、異なる治療成分を共同投与することで、相乗的な治療効果が期待できる。加えて、或いは代替的に、異なる標的化成分の組み合わせは、結合特異性と親和性を高めるか、或いは2つの標的細胞を互いに近接させることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
非常に効率的ではあるが、このような多量体タンパク質複合体には欠点もある。第一に、その化学的配合が正確に定義されていない。第二に、ポリマー分子に付加される機能的構成成分の数は、多くの場合ランダムであり制御できない。これは、このようなポリマーに機能的構成成分を組み合わせて担持させる場合に特に問題となる。さらに、ほとんどの場合、機能的構成成分は足場や骨格に付着している。このような足場や骨格はしばしば大きな分子であり、その結果、組織への浸透性が悪くなったり、分子表面の、より小さなサイズの分子がアクセス可能な領域への結合性が悪くなったり、及び/或いは生産収率が悪くなったりすることがある。
したがって、多量体タンパク質複合体の改良が急務となっている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
C4b結合性タンパク質(C4bp)は正常な血漿タンパク質であり、したがって免疫原性はない。C4bpは補体古典経路(CP)の強力な可溶性ネガティブレギュレーターであるが、C4bp β鎖の最初の2つのショートコンセンサスリピート(SCR)(SCR1-SCR2)にプロテインSが結合することにより、凝固過程の調節にも関与している。C4bpは、7本の同一のα鎖と1本のβ鎖(7α1β)からなる四次構造を主要な分子種(70%)として持つ。βを含まない6α、7α又は6α1βを示すマイナーな分子種も発見されている。各α鎖は、8個の短いコンセンサスリピート(SCR、SCR1~SCR8)と、2個のシステインを含む約58個のアミノ酸からなる非SCR C末端(C4bpα)で構成されている。C4bp α鎖の最初の3つのSCR(SCR1-SCR3)は可溶性又は膜表面に結合したC4bと結合し、標的膜表面での古典的経路のC3コンバターゼ(C4b2a)の形成を阻止する、又は、形成されたC4b3a C3コンバターゼと結合し、最新の生物活性を減衰させる。一本のβ鎖は、3つのSCRと、隣接する2つのα鎖とジスルフィド結合を作る2つのシステイン(C202、C216)を含む59アミノ酸からなる非SCRのC末端(C4bpβ)で構成されている。よって、7本のα鎖とβ鎖は、鎖間ジスルフィド橋の形成によって共有結合している。
【0005】
驚くべきことに、本発明者らは、C4bp β鎖(C4bpb)のC末端部分が二量体化の足場として使用できること、及び機能的構成成分をC4bp β鎖の前記C末端部分のC末端側(すなわち、下流)に導入できることを見出した。このような二量体タンパク質複合体は、本明細書では「ボロ」又は「β(ベータ)-ボロ」と呼ばれることがある。予想外なことに、細胞内小器官を輸送する小胞体/ゴルジ体分子において、非自然位置であるC4bp β鎖の下流に機能的構成成分が存在しても、真核細胞における、C4bpの自発的なな二量体化を妨げないことがわかった。 C4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端側に機能的構成成分を結合させることには多くの利点がある。例えば抗体のFcフラグメントのように、ポリペプチドのC末端に自然に位置する機能的構成成分を、C4bp β鎖のC末端部分の上流に結合させると、近位の二量体化足場との立体障害の問題が生じるため、そのような機能的構成成分の生物学的活性が損なわれる可能性がある。これらのポリペプチドをC4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端側に導入すると、これらのC末端機能的構成成分は、本明細書に記載の「擬似IgG」のように、その生物学的機能を発揮することができる。
【0006】
さらに、例えばscFv又はVHHポリペプチドのような、結合性ドメインのような生物学的機能/活性をそのN末端に有するタンパク質又はポリペプチドであっても、驚くべきことに、C4bp βの二量体化足場のC末端側に前記タンパク質又はポリペプチドをクローニングしても、例えば、本明細書に記載されるような「テトラボロ」のいくつかについて、前記タンパク質又はポリペプチドの生物学的活性が低下又は消失(例えば、結合能の低下)しないことが見出された。その利点は、scFv又はVHHのような、そのようなタンパク質又はポリペプチドを、C4bp βの二量化足場のN末端側及びC末端側の両方に含めることができ、その結果、前記タンパク質又はポリペプチドの高い価数(例えば、最大4価数など)を有する二量体タンパク質複合体が得られることである。また、本発明者らは、C4bp β鎖のC末端フラグメントの上流に少なくとも1つの機能的構成成分、下流に少なくとも1つの機能的構成成分を含む単一の発現ベクターから、多機能性(二機能性など)二量体タンパク質複合体を得ることが可能であることを見出した。少なくとも2つの機能的構成成分を含む単一の発現ベクターを細胞にトランスフェクトすると、この細胞は単一の多機能性二量体分子種を細胞培養上清中に放出する。
【0007】
C4bp α鎖を足場として使用するのとは対照的に、C4bp β鎖のC末端フラグメントを足場として使用することにより、比較的小さなサイズ(例えば、70~240 kDa程度、例えば、100~240 kDa)の二量体タンパク質複合体を得ることができる。小タンパク質複合体は、大タンパク質複合体よりも生理的で、生体内分布空間が改善され、腎排泄が速く、治療薬として適している。
例えば、C4bp β鎖のC末端フラグメントを足場として使用することにより、分子量、ひいては血管外拡散空間が単量体IgGと同じ範囲の分子を製造することができる。本発明の二量体タンパク質複合体は、2価以上、例えば3価又は4価から構成され得るので、本発明の二量体タンパク質複合体、例えば本明細書中に記載されるような単機能性「ホモテトラボロ」の結合活性は、IgGの結合活性よりも優れ得る。より詳細には、このような「ホモテトラボロ」は、IgGよりも優れた結合能、より大きな抗原捕捉能、及び/又はより優れた中和能を有する可能性がある。
【0008】
本発明の二量体タンパク質複合体は、細胞機能を選択的に調節することも可能である。例えば、腫瘍細胞又は病原体をNK細胞などの免疫エフェクター細胞に物理的に接近させ、免疫エフェクター細胞をこの腫瘍細胞又は病原体に向けて活性化させるためにシナプス形成を強制する二量体タンパク質複合体を生成することができる。
【0009】
さらに、C4bp β鎖のC末端部分は自然の循環分子に由来し、C4bp β鎖のC末端部分は既知の生物学的機能を持たないため、本発明の二量体タンパク質複合体の潜在的な免疫原性は制限される。
【0010】
さらに、同一である第1及び第2のポリペプチドを含む本発明の二量体タンパク質複合体は、単一の分子種を生成する単一の構築物を用いて調製することができ(非還元又は還元条件下で、SDS-PAGEに続いてSYPRO ruby染色又はウェスタンブロッティングを用いて決定され得る)、これは、製造及び精製の設計及び工程を大幅に簡素化する。
【0011】
従って、第一の態様では、2つのポリペプチドを含む二量体タンパク質複合体が提供され、それぞれのポリペプチドは、機能的構成成分とC4bp β鎖のC末端フラグメントに対応する配列を含んでいる。「機能的構成成分」という用語は、本明細書でより詳細に定義されるが、一般的には、所定の機能を有するアミノ酸配列を指す。特定の実施形態において、第一の態様は、
第1の機能的構成成分及びC4b結合性タンパク質(C4bp) β鎖のC末端フラグメントを含み、前記第1の機能的構成成分は前記C4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端に結合している、第1のポリペプチド;及び
第2の機能的構成成分及びC4bp β鎖のC末端フラグメントを含み、前記第2の機能的構成成分は前記C4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端に結合している、第2のポリペプチド
を含む二量体タンパク質複合体であって、
前記第1及び第2のポリペプチドは、同一であるか又は異なっており、好ましくは、前記第1及び第2の機能的構成成分は、ペプチド、タンパク質又はポリペプチドである、
二量体タンパク質複合体に関するものとして記載され得る。
【0012】
特定の実施形態において、前記第1のポリペプチドは、前記C4bp β鎖のC末端フラグメントのN末端に結合している第3の機能的構成成分を更に含み;
前記第2のポリペプチドは、前記C4bp β鎖のC末端フラグメントのN末端に結合している第4の機能的構成成分を更に含み;
前記第1、前記第2、前記第3及び前記第4の機能的構成成分は同一であるか又は異なっている。
【0013】
特定の実施形態において、前記第1、前記第2、前記第3及び/又は前記第4の機能的構成成分はタンパク質又はポリペプチドであり、好ましくは、結合性ドメイン、組換えウイルス構造タンパク質、腫瘍溶解剤、細胞毒性剤、サイトカイン、レセプター結合ペプチド、又は単量体Fcからなる群から選択されるタンパク質又はポリペプチドであり、より好ましくは、結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)、組換えウイルス構造タンパク質、細胞毒性剤、サイトカイン、レセプター結合ペプチド、又は単量体Fcからなる群から選択されるタンパク質又はポリペプチドである。
【0014】
特定の実施形態において、前記結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)が、抗原に特異的な抗体の単鎖可変フラグメント(scFv)若しくは重鎖抗体の単一ドメイン可変フラグメント(VHH)、抗体様足場、ウイルス性エンベロープタンパク質の細胞外ドメイン、抗原のレセプター若しくはリガンドの同族細胞外ドメイン、又は前記レセプター若しくはリガンド又は可溶性レセプター若しくは合成レセプターの抗原結合性部分である。
特定の実施形態において、前記結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)が、腫瘍特異的抗原(TSA)、腫瘍関連抗原(TAA)、細菌性抗原、ウイルス性抗原若しくはウイルス関連抗原、真菌性抗原、活性化NK細胞レセプター、サイトカイン、トキシン又はコンタミナントに特異的に結合する。
【0015】
特定の実施形態において、前記第1、前記第2、前記第3又は前記第4の機能的構成成分のうちの2つは、活性化NK細胞レセプターに特異的に結合する結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)を含み、結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)と活性化NK細胞レセプターとの結合は、NK細胞を活性化することができ、前記第1、前記第2、前記第3又は前記第4の機能的構成成分のうちの2つが、TSA、TAA、細菌抗原、ウイルス抗原、ウイルス関連抗原又は真菌抗原に特異的に結合する結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)を含む。
【0016】
本発明者らはまた、単量体Fc、好ましくはIgGのヒンジ、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含むIgGの単量体Fcを、二量体タンパク質複合体の第1及び第2のポリペプチドの両方のC4bp β鎖のC末端フラグメントの下流(C末端側)に含めると、抗原に結合した際に、Fcレセプター(FcR)結合特性、補体活性化(補体沈着によって示される)、細胞溶解及び/又は細胞活性化などのFc機能が、形成された二重ヒンジ(すなわち、FcヒンジとC4bp β鎖ヒンジの存在)の結果として、従来の抗体と比較して予想外に増強されるが制御されることを見いだした(例えば、増強された補体依存性細胞毒性(CDC)、抗体依存性細胞媒介性細胞毒性(ADCC)/抗体依存性細胞貪食(ADCP)及び補体依存性細胞毒性(CDCC)/補体依存性細胞媒介性貪食(CDCP))。例えば、このような二量体タンパク質複合体は、(i)Fc-CD16[Fc(γ)RIIIA]相互作用や(ii)C3b分解産物(すなわち、iC3b、C3d,g、C3d)-CD11b相互作用などによる宿主補体の強力な活性化、NK活性化の増強、及びマクロファージによる標的細胞の貪食作用の増強をもたらす。IgGの単量体Fcを含むこのような二量体タンパク質複合体の例は、本明細書では「擬似IgG」とも呼ばれる。さらに、理論に束縛されることなく、擬似IgGの前述の特性は、C4bp β鎖のC末端フラグメントの不活性な性質及び/又は擬似IgGのC末端部分に位置する単量体Fcの柔軟性から生じ得る。
【0017】
補体の活性化をもたらすには、このような二量体タンパク質複合体の細胞又は抗原への結合が必要であるため、二量体タンパク質複合体の第1及び第2のポリペプチドの両方のC4bp β鎖のC末端フラグメントの下流(C末端側)に、本明細書で参照する擬似IgGのような単量体Fcを含む本明細書で教示する二量体タンパク質複合体が液相にある(すなわち、結合していない)場合には、補体の活性化は起こらないことに留意されたい。したがって、特定の実施形態において、
第1及び第2の機能的構成成分は単量体Fcであり、好ましくはIgGのヒンジ、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含むIgGの単量体Fcであり;第1のポリペプチド中の単量体Fcのヒンジ領域は、第2のポリペプチド中の単量体Fcのヒンジ領域に、少なくとも2つのジスルフィド結合により接続し;
第3及び/又は第4の機能的構成成分は結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)を含む。
【0018】
さらなる態様は、
第1の機能的構成成分及びC4bp β鎖のC末端フラグメントを含む二量体タンパク質複合体の第1のポリペプチドであって、前記第1の機能的構成成分は本明細書で定義される前記C4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端に結合している、第1のポリペプチドをコードし、
第2の機能的構成成分及びC4bp β鎖のC末端フラグメントを含む第2のポリペプチドであって、前記第2の機能的構成成分は本明細書で定義される前記C4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端に結合している、第2のポリペプチドをコードする
核酸を提供する。
【0019】
さらなる態様は、本明細書で教示される核酸を含む発現カセットを提供する。
【0020】
さらなる態様は、本明細書で教示される核酸又は本明細書で教示される発現カセットを含む発現ベクターを提供する。
【0021】
さらなる態様は、C4bp β鎖のC末端フラグメントをコードする核酸、C4bp β鎖のC末端フラグメントをコードする核酸の3'すぐに位置する機能的構成成分をコードする核酸の挿入部位;及び任意にC4bp β鎖のC末端フラグメントをコードする核酸の5'すぐに位置する機能的構成成分をコードする核酸の挿入部位を含む発現ベクターを提供する。
【0022】
さらなる態様は、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体、本明細書で教示される核酸、本明細書で教示される発現カセット、又は本明細書で教示される発現ベクター、及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0023】
さらなる態様は、医薬品として、好ましくは免疫療法における使用のための、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体、本明細書で教示される核酸、本明細書で教示される発現カセット、本明細書で教示される発現ベクター、又は本明細書で教示される医薬組成物を提供する。
【0024】
さらなる態様は、腫瘍性疾患又は感染性疾患の治療における使用のための、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体、本明細書で教示される核酸、本明細書で教示される発現カセット、本明細書で教示される発現ベクター、又は本明細書で教示される医薬組成物を提供する。
【0025】
さらなる態様は、生体の分子イメージング方法において使用するための、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体、本明細書で教示される核酸、本明細書で教示される発現カセット、本明細書で教示される発現ベクターを提供する。
【0026】
本発明のこれら及びさらなる態様及び好ましい実施形態は、以下の節及び添付の特許請求の範囲に記載されている。添付の特許請求の範囲の主題は、本明細書に具体的に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】C4bp β鎖のC末端部分のC末端側に機能的構成成分を含めることに基づく、本明細書で教示する「ボロ」技術を示しており、C4bp β鎖は治療用生物製剤の二量体化のための足場として働く。(A)二量体タンパク質複合体の第1及び第2のポリペプチドが、C4bp β鎖のC末端部分のC末端側に機能的構成成分を含み、C4bp β鎖のC末端部分のN末端側に機能的構成成分を含まない「ジボロ」の発現のための発現カセットの例示的な概略図。例示した発現カセットの1つをトランスフェクトすると、機能的構成成分1又は2のいずれかを含む(すなわち、単機能性)ホモジボロを形成することができる。ジボロ用の2つの異なる発現カセット(1つは機能的構成成分1、もう1つは機能的構成成分2)をコトランスフェクトすると、二機能性ヘテロジボロが形成される。(B‐C)二量体タンパク質複合体の第1及び第2のポリペプチドが、C4bp β鎖のC末端部分C末端側の機能的構成成分及びC4bp β鎖のC末端部分のN末端側の機能的構成成分からなる「テトラボロ」の発現のための発現カセットの例示的な概略図。例示した発現カセットの1つをトランスフェクトすると、二機能性テトラボロの形成が可能になる。テトラボロのための2つの異なる発現カセットのコトランスフェクトは、三機能性(B)又は四機能性(C)テトラボロの形成をもたらす。(D‐E)scFv(D)又はVHH(E)の発現のための発現カセットの例示的な概略図であり、scFv又はVHHは、C4bp C末端β鎖の上流(ホモ二量体)又は下流(ホモジボロ)のいずれかでクローニングされる。scFvはヒト免疫グロブリンの軽鎖と重鎖の2つのN末端可変ドメインが結合した結果であるのに対し、VHHはラクダ科の免疫グロブリン(例えば、フタコブラクダ、ヒトコブラクダ、ラマ、アルパカ、ビクーニャ及びグアナコ)の重鎖のN末端単一可変ドメインである。scFv又はVHHが構築物のN末端側に位置し、したがってC4bp C末端β鎖の上流などのC末端で連結している場合(D及びEの右上)、それらは「自然位置」に位置し、本明細書ではホモ二量体と呼ばれる。対照的に、scFv又はVHHが構築物のC末端側に位置し、C4bpのC末端β鎖の下流などのN末端で連結されている場合(D及びEの右下)、それらは「非自然」の逆位置に位置し、本明細書では「ボロ」位置とも呼ばれ、そのような多量体を本明細書では「ホモジボロ」と呼ぶ。ホモジボロは、認識ドメイン(白い半円)が上の位置にあり、結合リンカーがそのすぐ近くにあるように描かれている。第1の状況では、HisタグはC4bp C末端β鎖のすぐ下流に位置し、第2の状況では、ボロscFv又はVHHの下流に位置する。(F‐G)scFvホモテトラボロ(F)及びVHHホモテトラボロ(G)の発現のための発現カセットの例示的な概略図。C4bp C末端β鎖の下流にあるscFv又はVHHは、認識ドメインを上にして逆さまに描かれており、結合は認識ドメインの近くにある。(H‐I)二機能性VHH-scFv(H)又はscFv-VHH(I)ヘテロテトラボロの発現のための発現カセットの例示的な概略図。
図2】多機能性ジボロ又はテトラボロを選択するための2段階の精製戦略を示す。HISタグ又はFLAGタグなどのタグを導入することで、例えば、HIS-TRAP精製(ステップ1)の後にFLAGアフィニティークロマトグラフィー(ステップ2)を行うことで、所望の多機能性ジボロ又はテトラボロを選択することができる。FuCo:機能的構成成分、SP:シグナルペプチド、DS:C末端C4bp β鎖、HIS:8x Hisタグ、FLAG:FLAGタグ。
図3】(A‐B)二機能性ヘテロテトラボロsIL-15Rα.C4bpβ.scFv-抗NKG2Aの発現を示す。この構築物は、ヒト組換えIL-15プラスミドと単独トランスフェクト(A)又はコトランスフェクト(B)される。C4bp C末端β鎖のC末端側に発現するscFv 抗NKG2Aは「逆」位置にある。
図4】精製したヘテロテトラボロがナチュラルキラー(NK)細胞に特異的に結合することを示す。ヒトIL-15とコトランスフェクトした又はコトランスフェクトしていないHEK293F細胞から発現させた、His-TrapTM Excel-IMACで精製したヘテロテトラボロsIL-15Rα.C4bpβ.scFv.抗NKG2A.His8xを末梢血単核細胞(PBMC)(A及びB)又はナチュラルキラー細胞NK92MI(C及びD)とインキュベートした。その後、細胞をNKマーカー、IL-15、Hisで染色した。
図5】NK細胞の脱顆粒と細胞毒性能力に対するヘテロテトラボロの機能的効果を示す。ヒトIL-15(huIL-15)とコトランスフェクトした又はコトランスフェクトしていないHEK293F細胞から発現させた、His-TrapTM Excel-IMACで精製したヘテロテトラボロsIL-15Rα.C4bpβ.scFv.抗NKG2A.His8xを、PBMCと48時間(A、C、D)又は4時間(B)インキュベートした。その後、細胞をRaji標的細胞で刺激し、抗CD107aと5時間コインキュベートし(A)、透過させ、インターフェロンガンマ(IFN-γ)で5時間染色した(B)。(C)では、NK細胞をHIV-1感染ACH2細胞で刺激し、抗CD107aと5時間コインキュベートし、(D)では透過処理し、IFN-γ細胞内発現について5時間染色した。
図6】NK細胞の細胞毒性に対するヘテロテトラボロの機能的効果を示す。組換えhuIL-15プラスミドをコトランスフェクトした又はコトランスフェクトしていないHEK293F細胞から発現させたHis-TrapTMExcel-IMACで精製したヘテロテトラボロsIL-15Rα.C4bpβ.scFv.抗NKG2A.His8xを、PBMCと48時間インキュベートした。その後、細胞をRaji標的細胞(Cell Tracer Violetで染色)(A)又はACH2細胞(B)と24時間インキュベートし、L/Dについて染色した。
図7】構築物の詳細を示す。構築物A’(NKG2D/Psl):MS scFv [(RTX VL 10-第一アミノ酸/MS (VL-VH)] 抗NKG2D.C4bpβ.scFv (VL-VH) 抗Psl.His8x及び構築物B’(SLAMF7/Psl):ELO scFv [(RTX VL 10-第一アミノ酸/ELO (VL-VH)] 抗SLAMF7.C4bpβ.scFv (VL-VH) 抗Psl.FLAG。A’又はB’を単独でトランスフェクトするとBiKE(NKG2D/Psl又はSLAMF7/Psl)が発現し、A’とB’の構築物をコトランスフェクトするとTriKE(NKG2D/SLAMF7/Psl)が発現する。
図8】未固定のコーティング細菌を用いたELISAを用いた、緑膿菌に対するscFv-抗Pslを持つBiKE及びTriKEの結合を示す。(A)使用されたBiKe及びTriKE生物製剤のスケッチ。上の2つのパネルがBiKEで、下のパネルがTriKEの生物製剤である。(B)バクテリアへの分子の結合の結果。10株の臨床シュードモナス分離株を用いた。(C)BiKE抗SLAMF7/抗Psl(1.85%)、tTriKE抗NKG2D/抗SLAMF7/抗Psl(0.9%)、さらに少ないがBiKE抗NKG2D/抗Psl(0.43%)によって誘導された二重染色violet+/PKH26+(架橋シュードモナス/NK92MI)。陰性対照は0.29%と0.31%の二重染色を示した。注目すべきは、NKG2DはSLAMF7よりもNK92MIでの発現がはるかに少ないことであり(データは示さず)、これは、MK92MIでNKG2Dの染色が弱い理由を説明することができる。(D)未固定のコーティングされた緑膿菌を用いたELISAと、抗HIS抗体又は抗Flag抗体による暴露は、BiKEs NKG2D/Psl、BiKEs SLAMF7/Psl、TriKE NKG2D/SLAMF7/Pslが、それぞれのNKレセプター標的部位と同様にPsl scFvを発現していることを示している。BiKE NKG2D/Psl(A’)はHIS-TRAPカラムで精製し、BiKEs SLAMF7/Psl(B’)はFLAGアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製し、TriKEs(A’B’)の構造中のHis及びFLAGタグは、最初にHISアフィニティークロマトグラフィー、次にFLAGアフィニティークロマトグラフィーを含む2段階法を用いて精製し、選択されたTriKEクローンが抗NKG2D及び抗SLAMF-7の両方のscFvを有することを証明した。(E)では、3 μgと6 μgのTriKE NKG2D/SLAMF7と結合した後にNK細胞によって誘導された発光性のシュードモナス株PAO1-luxの殺傷が示されている。2.105 NK92-CD16細胞を、シュードモナスPAO1-lux株とともに、抗生物質無添加の完全RPMI培地200 μl中に最終E/T比1/3でプレーティングし、37℃で培養した。T0で分子を添加し、9時間の間に発光マイクロプレートリーダーで経時的に細菌の増殖を3連で測定した。
図9】本明細書では「擬似IgG」とも呼ばれる、例示的なダブルヒンジ「ロングネック」抗体様糖タンパク質の構造を表すスケッチを示す。「ダブルヒンジ」状態とは、(i)2つのシステインを示すC4bp C末端β鎖の二量体化足場と共に、それに続く(ii)2つのシステインを示すIgG1-Fcのヒンジも動じに存在することを意味するため、二量体の高い安定性が得られ、CH2-CH3 Fc IgG1ドメインからターゲティング部分を分離する「ロングネック」ドメインを与える。ターゲティング部分とC4bp C末端β鎖との間のリンカーの長さは様々である。
図10】擬似IgGの発現カセットを示す:(A)2つの構築物が描かれており、両者ともC4bp βの下流にIgG1 Fc(ヒンジ+CH2+CH3)として機能的構成成分1を、C4bp βの上流に機能的構成成分3及び4をそれぞれ示す。単一トランスフェクションにより、認識機能3又は4を持つ単特異性擬似IgGが発現する。この2つの構築物をコトランスフェクトすると、単特異性3及び4対応物とともに、二機能性3及び4擬似IgGが発現した。(B)電荷反発によって誘導されるヘテロ二量体Fcプラットフォーム(「knob-into-hole」技術としても知られる)とボロ技術を組み合わせることで、二重特異性擬似IgGを100%発現させることができ、二重特異性擬似IgGを他の2つの単特異性対応物から精製する必要がなくなる。別のknob-into-hole技術も適用できる(John BB Ridgway, Leonard G Presta & Paul Carter. Protein Engineering, 1996; 9;7;pp.617-621に記載されているように)。
図11】CH50アッセイを用いた液相補体活性化の比較試験を示す。重要なことは、擬似IgGは、可溶性相血漿を活性化する能力が低いという点で、従来の治療用抗体と同じ挙動を示すことである。
図12】飽和濃度(20 μg/ml)の(i) RTX scFv.C4bpβ.Fc(擬似RTX)、(ii)RTX(マブセラ)又は(iii)対照(分子なし)でコーティングしたDaudi細胞上のCDC(A)及びC3b沈着(B)のフローサイトメトリーによる解析の後、Ca++及びMg++を補充したゼラチンベロナールバッファー(GVB)中25%正常ヒト血清(NHS)とインキュベート(37℃、30分間)した(GVB++;141mM NaCl、0. 3 mM CaCl2、1 mM MgCl2、0.1%ゼラチン、1.8 mMバルビタールナトリウム及び3.1 mMバルビツール酸、pH 7.3-7.4)。その後、細胞をマウス抗ヒトC3b mAb(クローン7C12)、二次ヤギ抗マウスIgG Ab AF647標識及びlive/dead UVで染色した。擬似IgGは、参照用リツキシマブ(RTX)と比較して、優れたC3b沈着(B)と、それに続くDaudi細胞のCDC増加(A)を誘発する。
図13】RTXと擬似RTXを使用した場合の、Daudi細胞上のFc密度に対するC3b沈着のフローサイトメトリーを用いた比較分析である。(A)使用した分子の詳細。(B)Daudi細胞を分子の2倍連続希釈液でインキュベートした(開始濃度は20 μg/ml、4℃で30分間)。分子をコーティングしたDaudi細胞を、50 μlのGVB++中で25%の正常ヒト血清(NHS)と37℃で30分間インキュベートした。細胞をマウス抗ヒトC3b mab(7C12)、ヤギ抗マウスIgG pAb PE共役、ヤギ抗ヒトFc pAb AF647共役及びUV live/deadで染色した。Fc濃度とC3b沈着の平均蛍光強度(MFI)をそれぞれX軸とY軸に示す。同程度の濃度では、擬似RTXはRTXよりもC3b沈着量が5.6倍多い。
図14】BT474標的細胞に対するNK活性化(CD107陽性NKの割合)と補体活性化(MFI抗C3b)のフローサイトメトリー解析を示す。(A)BT474をCFSEで染色し、二重特異性疑似IgG(Z199/2D3又はZ199/Trastu)、又はトラスツズマブ、又は分子なしの5倍連続希釈液(20、4、0.8 μg/ml)とインキュベートした。BT474細胞は、GVB++ (37℃/5%CO2で30分)又は完全RPMI培地とインキュベートした後、PBMCと37℃/5%CO2で5時間共培養した。細胞を抗ヒトCD107/BV421(1時間コインキュベーション後)、抗ヒトIgG/AF647 pAb、及び抗C3b/PE、抗CD3/BUV496、CD14/PE-Cy5、CD16/BUV737、CD19/PE-Cy5、CD56/BV786 mAbsで染色した。ゲーティング戦略の設定は、BT474細胞がCSFE陽性であることを知った上で、FcのNK染色にアクセスするために、CD3-/CD14-CD19-/CD16+/CD56+であった。(B-C)NK細胞はCD107脱顆粒(B)とC3b沈着(C)について分析した。二重特異性擬似IgGはトラスツズマブと比較して、NK活性化に対して同程度の有効性を示すが、擬似IgGはトラスツズマブとは対照的に強力な補体活性化剤である。擬似IgG足場にクローニングされたトラスツズマブ由来のscFvを用いて、強い補体活性化活性を持つ「擬似トラスツズマブ」が作製された。
図15】Daudi細胞の抗体依存性細胞媒介性貪食作用(脱補体ΔC5-HSを用いた場合はADCP、IFNγRIIIA/Fc相互作用が関与)又はADCP AND補体依存性細胞媒介性貪食作用(ΔC5-HSを用いた場合はCDCP、IFNγRIIIA/Fc及びCD11b/iC3b相互作用の両方が関与)の結果を表す、貪食性マクロファージの割合のAndorスピニングディスク共焦点顕微鏡を用いた解析を示す。擬似RTXは、補体存在下でのマクロファージによるDaudi細胞の貪食作用においてRTXより2倍以上優れており、補体非存在下でのマクロファージによる貪食作用においてRTXより約4倍優れている。Fcを介したマクロファージによるDaudiの貪食に関しては、RTXに比べ、擬似RTXはIFNRIIIA/FとCD11b/iC3bの両方の相互作用を通じて、よりバランスのとれた二重Fc機能を有する。
図16】カセットと発現ベクターの設計、及びHEK293T細胞で単一(単特異性)又は二重(二重特異性)トランスフェクション後に発現させた擬似IgGの結果。擬似IgGと組み合わせたknob-into-hole技術により、100%二重特異性擬似IgGの発現が可能となる。
図17】(A)PAO1-ルシフェラーゼ緑膿菌株に対するPsl擬似IgGの直接的な殺菌効果を示す。3 μgのPsl擬似IgGを、50%NHS又はΔNHS(GVB++ベロナールバッファー中)中、1.5.105個/ウェルの細菌に5時間作用させる。細菌の増殖は、異なる時点で測定される(RLUにおけるルシフェラーゼシグナル)。Psl擬似IgGは、50%NHSの存在下で、細菌の増殖を防ぐ強い殺傷効果を持つ。(B)補体古典経路の活性化に関与するC1qをリクルートする強力な能力を示す、擬似IgGの作用機序を示す。終末補体複合体(膜侵撃複合体)が最終的に形成され、孔の形成、膜の破壊と溶解(CDC)に至る。(C)3つの異なる緑膿菌株に対する2つの精製Pslとpano擬似IgGの(非固定コーティング細菌によるELISAを用いた)用量依存的結合結果を示す:PAO1基準株、血清型O11(ATCC 33358)及び臨床分離株IPP6247290(気管切開患者からの気管分泌物)。Psl擬似IgGはPAO1及びIPP6247290に対して強い結合親和性を持ち、O11に対しては低い親和性を持つ。逆に、pano擬似IgGは、オリジナルのパノバクマブが認識する主な血清型であるO11血清型に対してのみ良好な親和性を示す。
図18】用量依存的なpano scFv (VL-VH).C4bpβ.Fc擬似IgG及び抗Psl scFv (VL-VH) C4bpβ.Fc擬似IgGを介した、緑膿菌の参照株PAO1(左)ATCC血清型O11(中)及び臨床分離株IPP6247290(右)のC3b沈着を示す。この結果は、図17Cの2つの擬似IgGの用量反応結合と親和性の結果と一致している。
図19】緑膿菌の基準株PAO1(左)ATCC血清型O11(中)及び臨床分離株IPP6247290(右)に対する、用量依存的なpano scFv (VL-VH).C4bpβ.Fc擬似IgG及び抗Psl scFv (VL-VH) C4bpβ.Fc擬似IgGを介したC5b9 (MAC)沈着を示す。この結果は、それぞれ図17C及び図18の2つの擬似IgGの用量反応結合及び親和性、C3b沈着の結果とも一致している。
図20】パノバクマブscFv (VL-VH).C4bpβ.Fc擬似IgG及び抗Psl scFv (VL-VH) C4bpβ.Fc擬似IgG分子はヒト血清の補体殺傷能力を35%(菌株PAO1)、26%(菌株O11)及び31%(臨床分離株IPP6247290)増強することを示す。
図21】knob-into-hole技術のための例示的なアミノ酸配列及び核酸配列を示す。(A)BspE1(T/CCGGA)と停止コドン TGAの間のリンカー.C4bpβ.Fcをコードするヒト細胞(例えば、HEK293T細胞)における発現のためにコドン最適化された配列であり、NotI(GC/GGCCGC)で終わる多重クローニング部位が続き、そのCH3 Fc IgG1は3つの変異(S354C、T366W、K409A)を示し、Fc[knob]としても知られている。(B)BspE1と停止コドン TGAの間のリンカー.C4bpβをコードする、コドン最適化配列であり、NotIで終わる多重クローニング部位が続き、そのCH3 Fc IgG1は5つの変異(Y349C、T366S、L368A、F405K及びY407V)を示し、Fc[hole]としても知られている。配列番号45は、BspE1と停止コドンTGAの間のリンカー.C4bpbeta.Fcをコードするコドン最適化配列のアミノ酸配列を提供し、NotIで終わる多重クローニング部位が続く。
図22】二機能性ヘテロテトラボロを用いた、補体を介した細菌標的破壊戦略を示す。本発明者らは、(i)Psl scFv (VL-VH)及び(ii)C4bp C末端β鎖の上流及び下流にそれぞれクローニングされた因子H関連タンパク質1(FHR1)の最後の3つのショートコンセンサスリピート (SCR3-5)からなる融合タンパク質を用いた。(A)Psl/FHR1(SCR3-5)ヘテロテトラボロの発現のための発現カセットの例示的な概略であり、二量体タンパク質複合体の第1及び第2のポリペプチドが、C4bp β鎖のC末端部分のC末端側のFHR1 SCR35及びC4bp β鎖のC末端部分のN末端側のPsl scFv (VL-VH)を含む。例示した発現カセットの1つをトランスフェクトすると、Psl/FHR1(SCR3-5)ヘテロテトラボロの形成が可能になる。(B)Psl/FHR1(SCR3-5)構築物の作用機序を説明するスケッチを示す。Psl/FHR1(SCR3-5)構築物は、Psl結合部位を介して緑膿菌に結合する。標的細菌表面では、ヘテロテトラボロのFHR1(SCR3-5)C末端エフェクター部分は、ハイジャックされた結合型ファクターH(FH)とC3bについて競合し、FHを介した補体崩壊を調節した。その結果、FHの調節不全は、補体古典経路(CP)/レクチン経路(LP)に関与することなく、補体代替経路(AP)の活性化に局所的につながる。最終的なMAC形成は細菌膜を破壊し、細菌の溶解につながる。(C)PAO1緑膿菌細胞へのPsl/FHR1(SCR3-5)分子の用量依存的結合を示す。1.5.105 菌/ウェルをMaxiSorpTM 96ウェル平底ポリスチレン96ウェルELISAプレートに固定化した。ブロッキング後、Psl scFv/FHR1(SCR3-5)分子の連続希釈液を加えた。結合した分子は、100 ng/ウェルのマウス抗HIS HRP共役検出モノクローナル抗体(SIGMA)で明らかにした。(D)C3b沈着と補体活性化に対するPsl scFv/FHR1(SCR3-5)の効果を示す。1.5.105菌/ウェルを固定化し、Psl scFv/FHR1(SCR3-5)分子の連続希釈液とインキュベートした。0.5%の正常ヒト血清(NHS)又は脱補体ヒト血清(ΔNHS)を30分間添加した。C3b沈着は、マウス抗ヒトC3/C3b/iC3b mAb(クローン7C12)を用い、その後ヤギ抗マウスIgG HRP共役顕示抗体を用いて測定した。Psl scFv/FHR1(SCR3-5)分子の添加はC3bの沈着を増加させ、PAO1緑膿菌細胞の補体活性化を促進した。(E)PAO1-ルシフェラーゼ緑膿菌株に対するPsl/FHR1(SCR3-5)精製構築物の直接的な殺菌効果を示す。3 μgのPsl/FHR1(SCR3-5)分子を、50%NHS又は脱補体NHS(ΔNHS)(GVB++ベロナールバッファー中)中の1.5.105細菌/ウェルに5時間適用する。細菌の増殖は、異なる時点で測定される(RLUにおけるルシフェラーゼシグナル)。Psl scFv/FHR1(SCR3-5)分子は、50%NHSの存在下で、強力な殺傷効果を示し、細菌の増殖を阻止する。補体代替経路を活性化するC3bの結合性ドメインを含むFHR1の最後の3つのSCR(SCR3-5)は、局所的に効率的なFHの調節を引き起こし、細菌を死滅させるのに十分である。
図23】C4bp α鎖の最初の2つのN末端 「補体制御タンパク質」(CCP1-2)又は 「ショートコンセンサスリピート(SCR1-2)」を表示する擬似IgGを示す。(A)本発明者らは、古典的抗体フラグメント(例えば、scFv、VHH)の代わりに、擬似IgG足場にクローニングされたCCP1-2をアンカー部位として使用した(CCP1-2.C4bpβ.Fc又はCCP1-2擬似IgG)。精製したCCP1-2擬似IgGを、非還元(NR)及び還元(R)条件下でSDS-PAGE(4-15%アクリルアミド勾配ゲル)を用いて分析し、その後SYPRO RUBY染色を行った。CCP1-2擬似IgGの見かけの分子量は、NR及びR条件下でそれぞれ120 kDa及び60 kDaであった。(B)淋菌に対するCCP1-2擬似IgGの結合能を、FACS解析を使って試験した。10 μlのCCP1-2擬似IgGでコーティングした細菌(又はコントロール細菌)を、二次ヤギ抗ヒトIgG/AF648 pAbとインキュベートした。グラフは淋菌に対する特異的結合を示している。(C)10%NHS又はΔNHSの存在下でのCCP1-2疑似IgGを介したMAC形成のFACS解析。その結果はCCP1-2擬似IgGを介した強力なMAC形成を示している。同じ濃度のCCP1-2擬似IgGの存在下でΔNHSを用いると、MAC形成は完全に消失した。(D)CCP1-2疑似IgGを介した細菌殺傷について、10%NHS存在下、30分又は90分間のFACS解析。2 μl/ml、30分間のインキュベーションで、50%の増殖抑制が観察された。第3因子の培養時間を長くすると、細菌の増殖は完全に止まった。10 μl/mlの場合、菌の増殖は30分後に完全に停止した。血清を脱補体化すると、活性は観察されなかった。NHSを単独で使用しても細菌の増殖には影響しない。この実験は、C4bpのN末端α鎖からCCP1-2を表示するこの新しい擬似IgGが、選択的で局所的な指向性補体媒介殺傷と関連した強い殺菌効果を持つことを示している。ほとんど単一の標的しか持たない抗体とは対照的に、このCCP1-2擬似IgGは、C4bp可溶性補体制御タンパク質の採用によって補体媒介殺傷を回避するすべての病原体を標的にできる可能性がある。こうして本発明者らは、マルチターゲット擬似IgGを創製した。
図24】(A)Loxosceles intermedia(Li)scFvLi7 (VH-VL)からのscFv抗スフィンゴミエリナーゼD(SMaseD)のホモジボロ(ホモB2C-scFvLi7)及びホモテトラボロ(ホモB4-scFvLi7)をHEK293細胞で作製した。ホモジボロ「ホモB2C」:scFvLi7をコードする遺伝子は、C末端C4bp β鎖の下流に、非自然の「逆」位置でクローニングされた。この生成物では、C末端C4bp β鎖の上流に遺伝子は存在しなかった。ホモジボロは2つのscFvLi7の価数を示した。ホモテトラボロ「ホモB4」:scFvLi7をコードする遺伝子は、C末端C4bp β鎖の上流と下流にそれぞれ自然位置と逆位置とでクローニングされた。ホモテトラボロは4つのscFvLi7の価数を示す。タンパク質の発現を増加させるために、ホモB4の2つの変異体(本明細書ではホモB4 bis及びterと呼ぶ)を作製した。ホモB4 bisの場合、C末端C4bp β鎖二量体化足場の上流の元のscFvLi7(VH-VL)はVL-VHに戻され、VLscFvLi7 (DIVMTQSP(配列番号46))の最初の8つのアミノ酸を、リツキシマブVLQIVLSQSP(配列番号5))のそれらで置換した。ホモB4 terについては、(AASGGGGSSGGGGSSGGGGS: 配列番号47)リンカーをシグナルペプチドと元のscFvLi7(VH-VL)の始まりの間に導入した。(B)ホモB2C、ホモB4、ホモB4 bis及びホモB4 terは、非還元条件下でSDS-PAGEを用いて分析し、次いでウサギ抗HIS pAb、二次ヤギ抗ウサギIgG AF488共役での顕示によるウェスタンブロッティングを行った。ウェスタンブロットはTyphoon Imagerを使用して明らかにされた。ホモジボロ(ホモB2C)のサイズは75 kDaで、ホモテトラボロ(ホモB4)のサイズは150 kDaである。ペプチドシグナルの後に短いリンカーを導入することで、発現収量が増加する。(C)精製したホモB2CのSmaseDへの特異的結合を、Loxosceles intermedia毒(5 μg/ウェル)のSDS-PAGEとWB(非還元条件)を用いて解析。(i)ウマ抗SmaseD Li血清(α-lox)(陽性対照)、(ii)精製scFvLi7-ホモB2C(10 μg/ml)、又は(iii)無関係なmAb(陰性対照)による顕示。ECL(20秒露出)、DAB及びニトロセルロース膜による顕示はルージュポンソーでも染色した。見かけの分子量32-35 kDaのバンドが、ホモB2Cと免疫したウマ血清の両方によって明らかにされたが、これは異なるロクソセレス性由来のSmaseDの分子量(31-34 kDa)に対応する(G.J Binford et al.Mol Biol Evol.2009, 26(3), 547-566)。結論:C末端C4bp β鎖の下流にクローニングされたscFvは、非天然の「逆さま」の位置でも機能的に標的に結合する。(D)ELISAプレートにコーティングされたLiの毒を用いたホモB4、ホモB2Cの用量反応結合。ELISAプレートをブロックした後、ホモB2C、ホモB4、ホモB4 bis及びホモB4 terの連続希釈液でインキュベートした(濃度をng/mlで表す)。ELISAプレートはウサギ抗His pAbとヤギ抗ウサギIgG HRP共役pAbで明らかにした。HRPのOPD/H2O2発色基質がELISAプレートを明らかにした。ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)完全培地中の分子濃度は、HIS-HIS酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を用いて測定した。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本明細書において、単数形(「a」、「an」及び「the」)は、文脈が明らかにそうでないことを示していない限り、単数及び複数の両方への言及を含む。
本明細書で使用される用語「含む」、「含んでなる」及び「から構成される」は、「包含する」又は「含有する」と同義であり、包摂的又はオープンエンドの語であり、記載されていない追加の部材、要素又は方法ステップを排除していない。この用語はまた、特許用語として確立された意味を有する「~からなる」及び「~から本質的になる」を包含する。
端点による数値範囲の記載は、記載された端点だけでなく、それぞれの範囲に含まれるすべての数値及び部分範囲を含む。これは、数値範囲が「~から~まで」又は「~と~の間」又はその他の表現によって記載されているかに関係なく適用される。
本明細書において、パラメータ、量、持続時間などの測定可能な値に言及する際に用いられる用語「約」は、開示の発明において行うに適切である限り、特定された値の/からの変動、例えば、特定された値の/からの±10%以下、好ましくは±5%以下、より好ましくは±1%以下、さらに好ましくは±0.1%以下の変動を包含していることを意味する。修飾語「約」が付された値は、それ自体も具体的に開示され、また好ましいものとしても開示されていると理解されたい。
一群のメンバーのうちの1若しくは2以上又は少なくとも1つのメンバーなどのような、「1又は2以上」又は「少なくとも1つ」という用語は、それ自体明確であるが、さらに例示すれば、この用語は、とりわけ、前記メンバーの任意の1つ、又は前記メンバーの任意の2つ又は3つ以上、例えば、前記メンバーの任意の≧3、4、5、6若しくは7など前記全メンバーまでへの言及を包含する。別の例では、「1又は2以上」又は「少なくとも1つ」は、1、2、3、4、5、6、7又はそれ以上を指す場合がある。
【0029】
本明細書には、本発明の内容を説明するために発明の背景への言及が含まれる。この言及は、参照した資料のいずれかが、いずれかの請求項の優先日において、いずれかの国で公開されていたこと、知られていたこと、又は技術常識の一部であったことを認めたと解釈されるべきではない。
本開示を通じて、様々な刊行物、特許及び公開特許明細書は、特定するための参照方法で参照される。本明細書で引用したすべての文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。具体的には、本明細書で具体的に言及される文献の教示又は節は、参照により組み込まれる。
【0030】
特に言及しない限り、技術用語及び科学用語を含む、本発明の開示に用いられるすべての用語は、本発明が属する技術分野の通常の知識を有する者が一般的に理解する意味を有する。さらなる指針として、本発明の教示をよりよく理解するために用語の定義が含まれる。特定の用語が本発明の特定の態様又は特定の実施形態に関連して定義されている場合、その含意又は意味は、そうでないと言及されない限り、本明細書全体に適用されること、すなわち、本発明の他の態様又は実施形態の文脈においても適用されることを意味する。
【0031】
以下において、本発明の異なる態様又は実施形態をより詳細に記載する。記載された各態様又は実施形態は、そうでないことが明示されていない限り、任意の他の態様又は実施形態と組み合わせ得る。特に、好適又は有利として示される任意の特徴は、好適又は有利として示される1以上の他の任意の特徴と組み合わせてもよい。
【0032】
本明細書を通じて「1つの実施形態」又は「或る実施形態」への言及は、当該実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造又は特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書中の各所に現れる句「1つの実施形態において」又は「或る実施形態において」は、必ずしもすべて同じ実施形態に言及しているわけではないが、そうであり得る。さらに、特定の特徴、構造又は特性は、1又は2以上の実施形態において、本開示から当業者に明らかなように任意の適切な様式で組み合わされてもよい。さらに、本明細書に記載のいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれるいくつかの特徴を含み、他の特徴を含まないが、当業者に理解されるように、異なる実施形態の特徴の組合せは、本発明の範囲内にあり、異なる実施形態を構成する。例えば、添付の特許請求の範囲において、特許請求された実施形態のいずれも任意の組合せで使用することができる。
【0033】
組換え生体分子は、バイオテクノロジーにおいて、例えばワクチン、診断キット、治療用分子などを製造するためにしばしば使用される。このような組換え生体分子は、抗原、抗体又は抗体フラグメント(scFv、VHH)、酵素、ホルモン、サイトカイン、成長因子、免疫応答を調節するためのアゴニスト又はアンタゴニストリガンド、或いはチェックポイント阻害剤からなる。これらの生物学的分子の多くは、機能的であるために、或いは最適な生物学的活性を示すために、集合体を必要とする。治療用二量体分子を製造するためには、免疫原性分子を使用する必要のある二量体化の追加工程を必要とせず、会合が自然に起こる二量体組換え治療薬の製造を可能にする方法を使用する必要がある。
【0034】
本発明者らは、C4bp β鎖のC末端部分を二量体化のための足場として用いることができ、機能的構成成分をC4bp β鎖の前記C末端部分のC末端側(すなわち下流側)及び任意にN末端側に導入できることを見出した。
本発明は、(i)二量体の会合が真核細胞の輸出機構で起こり、(ii)その会合した二量体が細胞培養上清中に分泌され、(iii)その二量体化の足場(すなわち、C4bp β鎖のC末端フラグメント)が天然の循環ヒト分子に由来する二量体タンパク質複合体の自然発現を可能にする。本発明では、目的のタンパク質又はポリペプチドをコードする遺伝子を、非自然位置である、C4bp β鎖のC末端二量体化足場の下流にクローニングすることができるが、これは天然のC4bp β鎖はC末端にタンパク質やポリペプチドを持たないからである。C4bp β鎖のC末端部分の非天然位置に目的のタンパク質又はポリペプチドを導入したところ、予想に反して、C4bp β鎖のC末端部分の天然のN末端部分に位置する目的のタンパク質又はポリペプチドと同様に、融合タンパク質の自発的な二量体化をもたらした。この位置に目的のタンパク質又はポリペプチドをコードする遺伝子をクローニングすることは、その遺伝子によってコードされるタンパク質又はポリペプチドの生物学的活性が、単量体FcのようにそのC末端に位置する場合に特に好都合である。C4bp β鎖の上流にこのような遺伝子をクローニングすると、目的のタンパク質又はポリペプチドの生物学的機能と二量体化足場が近接するため、得られる二量体タンパク質複合体の活性が阻害又は低下する可能性が高い。対照的に、目的の遺伝子によってコードされるそのようなタンパク質が、本発明のようにC4bp β鎖のC末端フラグメントの下流にクローニングされる場合、その生物学的機能は二量体化足場から遠位にあり、よって維持される。
【0035】
さらに、本発明者が驚いたことに、例えばscFv又はVHHポリペプチドのように、そのN末端に位置する結合性ドメインのような生物学的機能/活性を発揮するドメインを天然型(野生型)で有する目的のタンパク質又はポリペプチドをコードする遺伝子を、本発明のようにC4bp β鎖のC末端フラグメントの下流(すなわちC末端側)にクローニングしても、タンパク質又はポリペプチドの前記生物学的機能/活性が低下又は消失することはない。さらに、二量体化足場の二量体化は維持されている。その利点は、scFv又はVHHのようなそのようなタンパク質又はポリペプチドが、C4bp βの二量体化足場のN末端及びC末端側の両方に含まれ得、その結果、前記タンパク質又はポリペプチドの高い価数(例えば、最大4価数など)を有する二量体タンパク質複合体が得られることである。本発明は、C4bp β鎖のC末端部分にC末端側で融合した異なる機能的構成成分をコードする2つの発現ベクターで細胞をコトランスフェクトすることにより産生され得る多機能性二量体タンパク質複合体を包含し、C4bp β鎖のN末端部分にN末端側で融合した機能的構成成分を含まない(例えば、第1プラスミド:N末端-C4bpβ.機能的構成成分A-C末端;第二プラスミド:N-末端-C4bpβ.機能的構成成分B-C末端)。この場合、細胞培養上清中に3つの分子種が細胞から放出される:AA「ホモジボロ」、BB「ホモジボロ」及びAB二機能性「ヘテロジボロ」。二量体タンパク質複合体は、その後精製することができる(図1及び2)。本発明はまた、C4bp β鎖のC末端部分のC末端側とN末端側の両方に機能的構成成分を含む二量体タンパク質複合体も包含し、本明細書ではホモテトラボロ又はヘテロテトラボロとも呼ばれ、前者は単機能性又は二機能性(単一のトランスフェクションで作製可能)であり、後者は三機能性又は四機能性(2つのプラスミドのコトランスフェクションで作製可能)である(図1及び2)。さらに、本発明は、C4bp β鎖のC末端部分のC末端側に機能的構成成分として単量体Fcを含む二量体タンパク質複合体を包含する。このような二量体タンパク質複合体の分子量-したがって血管外分布空間-はIgGと同じ範囲であるが、ホモテトラボロでは4価を示すことがあり、その結果、機能的結合活性は抗体よりもはるかに優れている。
【0036】
結論として、本発明の二量体タンパク質複合体は、ほぼ抗体の大きさを持ち、C4bp β鎖の2つのC末端部分の間の共有結合による鎖間結合の結果として頑健であり、高い発現収率で容易にクローニングできることから、治療薬として使用するのに特に興味深い。
【0037】
従って、第一の態様は、
第1の機能的構成成分及びC4bp β鎖のC末端フラグメントを含み、前記第1の機能的構成成分は前記C4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端に結合している、第1のポリペプチド;及び
第2の機能的構成成分及びC4bp β鎖のC末端フラグメントを含み、前記第2の機能的構成成分は前記C4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端に結合している、第2のポリペプチド
を含む二量体タンパク質複合体であって、
前記第1及び第2のポリペプチドは同一であるか又は異なっている、
二量体タンパク質複合体を提供する。
【0038】
特定の実施形態において、二量体タンパク質複合体は非天然に生じるものであり、これは二量体タンパク質複合体が組換え的に産生されることを意味する。
【0039】
本明細書中で使用される「タンパク質」という用語は、一般に、1つ以上のポリペプチド鎖、すなわちペプチド結合によって連結されたアミノ酸残基の重合体鎖を含む高分子を包含する。この用語は、天然、組換え、半合成又は合成的に産生されたタンパク質を包含する。この用語はまた、限定されないが、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、スルホン化、メチル化、ユビキチン化、シグナルペプチド除去、N末端Met除去、プロ酵素又はプレホルモンの活性型への変換などのような、ポリペプチド鎖の1つ以上の共発現又は発現後型の修飾を有するタンパク質を包含する。この用語はさらに、例えばアミノ酸の欠失、付加及び/又は置換のような、対応するネイティブタンパク質に対するアミノ酸配列の変異を有するタンパク質変異体又は突然変異体も含む。この用語は、全長タンパク質と、タンパク質の部分又はフラグメント、例えば、そのような全長タンパク質の加工から生じる天然起源のタンパク質部分の両方を意図している。
【0040】
本明細書を通して使用される「ポリペプチド」という用語は、一般に、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸残基の重合体鎖を包含する。従って、特に、タンパク質が単一のポリペプチド鎖のみから構成される場合、本明細書において、「タンパク質」及び「ポリペプチド」という用語は、そのようなタンパク質を示すために互換的に使用され得る。この用語は、ポリペプチド鎖の最小の長さに限定されるものではない。この用語は、天然、組換え、半合成又は合成的に産生されたポリペプチドを包含する。この用語はまた、限定されるものではないが、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、スルホン化、メチル化、ユビキチン化、シグナルペプチド除去、N末端Met除去、プロ酵素又はプレホルモンの活性型への変換など、ポリペプチド鎖の1つ以上の共発現型又は発現後型の修飾を有するポリペプチドを包含する。この用語はさらに、例えば、アミノ酸の欠失、付加及び/又は置換など、対応するネイティブポリペプチドに対してアミノ酸配列の変異を有するポリペプチド変異体又は突然変異体も含む。この用語は、全長ポリペプチドと、ポリペプチド部分又はフラグメント、例えば、そのような全長ポリペプチドの加工から生じる天然に存在するポリペプチド部分の両方を意図している。
【0041】
本明細書を通して使用される「ペプチド」という用語は、好ましくは、50アミノ酸以下、例えば45アミノ酸以下、好ましくは40アミノ酸以下、例えば35アミノ酸以下、より好ましくは30アミノ酸以下、例えば25アミノ酸以下、20アミノ酸以下、15アミノ酸以下、10アミノ酸以下又は5アミノ酸以下から本質的になる、本明細書で使用されるポリペプチドを指す。
【0042】
任意のペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は核酸への言及は、特に、ネイティブ配列を有するペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は核酸、すなわち、一次配列が、自然界に見出されるか又は自然界に由来するペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は核酸の配列と同一であるものを包含し得る。当業者であれば、異なる種間の遺伝的分岐により、ネイティブ配列が異なる場合があることを理解している。さらに、ネイティブ配列は、与えられた種内の通常の遺伝的多様性(変異)により、同じ種の異なる個体間又は個体内で異なる場合がある。また、体細胞突然変異や転写後或いは翻訳後の修飾によって、同じ生物種であっても個体間或いは個体内でネイティブ配列が異なることがある。ペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は核酸の任意のそのような変異体又はアイソフォームは、本明細書において意図される。したがって、自然界に存在する、或いは自然界に由来するペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は核酸の配列はすべて「ネイティブ」とみなされる。
【0043】
特定の実施形態において、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は核酸は、ヒトであってもよく、すなわち、それらの一次配列は、天然に存在するヒトペプチド、ポリペプチド、タンパク質或いは核酸の対応する一次配列と同じであってもよく、又は天然に存在するヒトペプチド、ポリペプチド、タンパク質或いは核酸に存在する対応する一次配列と同じであってもよい。特定の実施形態において、修飾語「ヒト」は、その起源又は供給源ではなく、それぞれのペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は核酸の一次配列に関する。例えば、このようなペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は核酸は、ヒト被験体の試料中に存在するか、或いは試料から単離されるか、又は他の手段(例えば、組換え発現、無細胞転写或いは翻訳、又は非生物学的核酸或いはペプチド合成)によって得られる。
【0044】
特定の実施形態において、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は核酸は野生型であってもよい。ほとんどのネイティブペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は核酸は野生型とみなされるかもしれないが、疾患の表現型に寄与する、又は疾患の原因となりうる、機能の部分的又は完全な喪失につながる自然発生的変異を有するものは、一般的に「野生型」という用語の範囲から除外される。
任意のペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は核酸への言及は、そのようなペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は核酸の変異体又はフラグメント、特に天然に存在する、ネイティブ型又は野生型も包含しうる。
【0045】
タンパク質、ポリペプチド、ペプチド又は核酸の「変異体」という用語は、一般に、そのアミノ酸配列が、又はそのヌクレオチド配列が、そのタンパク質、ポリペプチド、ペプチド又は核酸の配列と実質的に同一(すなわち、大部分は同一であるが、完全には同一ではない)であるタンパク質、ポリペプチド、ペプチド又は核酸、例えば、引用されたタンパク質、ポリペプチド、ペプチド又は核酸の配列と少なくとも約80%同一又は少なくとも約85%同一、例えば、好ましくは少なくとも約90%同一、例えば少なくとも91%同一、92%同一、より好ましくは少なくとも約93%同一、例えば少なくとも94%同一、さらに好ましくは少なくとも約95%同一、例えば少なくとも96%同一、さらに好ましくは少なくとも約97%同一、例えば少なくとも98%同一、最も好ましくは少なくとも99%同一である。好ましくは、変異体は、引用されたタンパク質、ポリペプチド、ペプチド又は核酸の全塩基配列が配列アラインメント(すなわち、全体的な配列同一性)において照会されるとき、引用されたタンパク質、ポリペプチド、ペプチド又は核酸に対してそのような同一性の程度を示し得る。配列の同一性は、配列アライメント及び当然のことながら配列の同一性の決定を実行するための適切なアルゴリズムを使用して決定することができる。例示的であるが非限定的なアルゴリズムとしては、Altschul et al. 1990 (J Mol Biol 215: 403-10)によって記載されたBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)に基づくもの、例えば、Tatusova及びMadden 1999(FEMS Microbiol Lett 174:247-250)によって記載された「Blast 2 sequences」アルゴリズムが挙げられ、例えば、公表されたデフォルト設定又は他の適切な設定を使用する(例えば、BLASTNアルゴリズムの場合:ギャップを開くためのコスト=5、ギャップを拡張するためのコスト=2、ミスマッチに対するペナルティ=-2、一致に対する報酬=1、ギャップxドロップオフ=50、期待値=10.0、ワードサイズ=28;又はBLASTPアルゴリズムの場合:マトリックス=Blosum62(Henikoff et al., 1992, Proc. Natl. Acad. Sci., 89:10915-10919)、ギャップを開くためのコスト=11、ギャップを拡張するためのコスト=1、期待値=10.0、ワードサイズ=3)。
【0046】
特定のアミノ酸配列とクエリーポリペプチドのアミノ酸配列との間の同一性パーセントを決定する手順の例は、適切なアルゴリズムパラメーターを用いて、ウェブアプリケーションとして、又はNCBIウェブサイト(www.ncbi.nlm.nih.gov)のスタンドアロン実行可能プログラム(BLASTバージョン2.2.31+)として利用可能なBlast 2 sequences(Bl2seq)アルゴリズムを使用して、2つのアミノ酸配列を整列することを伴う。適切なアルゴリズムパラメーターの例としては、マトリックス=Blosum62、ギャップを開くためのコスト=11、ギャップを拡張するためのコスト=1、期待値=10.0、ワードサイズ=3)がある。比較された2つの配列が相同性を共有する場合、出力は相同性のある領域を整列配列として示す。比較された2つの配列が相同性を共有しない場合、出力は整列配列を示さない。一旦整列されると、両配列において同一のアミノ酸残基が示される位置の数をカウントすることにより、一致の数が決定される。同一性のパーセンテージは、一致した数をクエリーポリペプチドの長さで割った後、得られた値に100を掛けることで決定される。パーセント同一性値は、小数点以下第2位を四捨五入してもよいが、四捨五入する必要はない。例えば、78.11、78.12、78.13、78.14は78.1に切り捨てられ、78.15、78.16、78.17、78.18、78.19は78.2に切り上げられる。さらに、Bl2seqが出力するアライメントの各セグメントに対する詳細表示には、既に便宜的に同一性のパーセンテージが含まれている。
【0047】
タンパク質、ポリペプチド、ペプチド又は核酸の変異体は、当該タンパク質、ポリペプチド、ペプチド又は核酸の相同体(例えば、オーソログ又はパラログ)であってもよい。本明細書で使用される場合、「相同性」という用語は、一般に、同じ分類群又は異なる分類群由来の2つの高分子間の構造的類似性を示し、前記類似性は、共通の祖先に起因する。
タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドの変異体は、対応するタンパク質又はポリペプチドに対して(すなわち、対応するタンパク質又はポリペプチドと比較して)、保存的アミノ酸置換又は非保存的アミノ酸置換のような、1つ以上のアミノ酸の付加、欠失、又は置換を含んでいてもよい。核酸の変異体は、対応する核酸に対する(すなわち、対応する核酸と比較した)1つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、又は置換を含んでいてもよい。
【0048】
本明細書の他の箇所に記載されているように、C4bpは、7本の枝分かれしたα鎖と1本の中央のβ鎖からなるタコのような構造を持つ正常な血漿タンパク質である。各鎖はショートコンセンサスリピート(SCR)を含む。約60アミノ酸からなる各SCRは、2つの鎖内ジスルフィド結合を含む。C4bp α鎖とβ鎖のC末端部分はともに生物学的機能を欠き、前者はC4bp産生細胞の細胞質における分子の重合を担い、後者はC4bp α鎖のC末端の2つのシステインと2つのジスルフィド結合を形成することにより、1本のβ鎖をC4bp糖タンパク質の7量体コアに共有結合させる役割を担っている。β鎖サブユニットはα鎖のオリゴマー化には必要ない。
【0049】
C4bp β鎖のC末端フラグメントは、C4bp α鎖が存在しない場合、自発的に二量体タンパク質複合体へと二量体化することができる。従って、当業者は、本明細書でいう第1及び第2のポリペプチドは、別々のポリペプチドとして発現され、発現後、共有結合又は分子間結合によって自発的に結合する二量体タンパク質複合体の2つの成分を指すことを理解するであろう。ホモ二量体という用語は、第1及び第2のポリペプチドが同一である場合に用いられる。ヘテロ二量体という用語は、第1及び第2のポリペプチドが同一でない場合に用いられる。
【0050】
特定の実施形態において、第1のポリペプチドによって構成されるC4bp β鎖のC末端フラグメントは、第2のポリペプチドによって構成されるC4bp β鎖のC末端フラグメントと二量体化する能力を有する。第1のポリペプチドによって構成されるC4bp β鎖のC末端フラグメント及び第2のポリペプチドによって構成されるC4bp β鎖のC末端フラグメントは、好ましくは共有結合によって二量体化される。
【0051】
特定の実施形態では、C4bp β鎖のC末端フラグメントは、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つのシステイン残基を含んでいる。例えば、C4bp β鎖のC末端フラグメントのシステインの1つが変異していてもよい。
【0052】
特定の実施形態において、C4bp β鎖のC末端フラグメントは、C4bp β鎖の194-252フラグメント、又は少なくとも二量体タンパク質を形成する能力を保存する機能的変異体である。
【0053】
特定の実施形態において、C4bp β鎖のC末端フラグメント、好ましくはC4bp β鎖の194~252フラグメントの機能的変異体は:
C4bp β鎖の194-252フラグメントの改変配列であって、194-252フラグメントのアミノ酸の25%未満、好ましくは10%未満が切り取られるか置換されており、202位及び216位に位置するシステイン並びに各システインの上流及び下流の少なくとも3個のアミノ酸が保存されているもの;
C4bp β鎖の194-252フラグメントの改変配列であって、二量体化に関与するシステインがアラニン、バリン、フェニルアラニン、プロリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン及びトリプトファンから選択されるアミノ酸で置換され、フラグメントの別のアミノ酸がシステインで置換されているもの;
二量体化に関与するシステインの間で、C4bp β鎖に対して異種である配列の挿入によって改変したC4bp β鎖の194-252フラグメントの配列;又は
二量体化に関与するシステイン間のアミノ酸を切り取ることによって改変したC4bp β鎖の194-252フラグメントの配である。
【0054】
特定の実施形態において、C4bp β鎖のC末端フラグメントは、ヒトC4bp β鎖のC末端フラグメントである。例として、ヒトC4bp β鎖は、NCBI Genbankのアクセッション番号NP_001017367.1(アイソフォーム1前駆体)、及びUniprot(www.uniprot.org)のアクセッション番号P20851.1に注釈されているようなアミノ酸配列を含み得る。
【0055】
特定の実施形態において、C4bp β鎖のC末端フラグメントは、配列番号1(IQEAPKPECEKALLAFQESKNLCEAMENFMQQLKESGMEELKYSLELKKAELKAKLL)に記載されたアミノ酸配列;又は配列番号1に対して少なくとも70%、少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、例えば少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有するアミノ酸配列、又はその機能的フラグメント(例えば、C4bp β鎖のC末端フラグメントの二量体化を可能にするフラグメント)を含むか、該アミノ酸配列若しくは該機能的フラグメントから本質的になるか、又は該アミノ酸配列若しくは該機能的フラグメントからなる。配列番号1に記載のアミノ酸配列は、NCBI Genbankアクセッション番号NP_001017367.1(アイソフォーム1前駆体)で注釈されたヒトC4bp β鎖のアミノ酸配列のアミノ酸194から252に相当する。
【0056】
特定の実施形態において、配列番号1に対して少なくとも70%、少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、例えば少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、若しくは100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、該アミノ酸配列から本質的になるか、又は該アミノ酸配列からなるC4bp β鎖のC末端フラグメントは、C4bp β鎖のC末端フラグメントの機能的変異体である。
【0057】
特定の実施形態において、二量体タンパク質複合体、第1のポリペプチド及び/又は第2のポリペプチドは、C4bp α鎖又はそのフラグメントを含まない。例えば、第1及び第2のポリペプチドは、C4bp α鎖のC末端フラグメントを含まない。例として、ヒトC4bp α鎖の前駆体は、NCBI Genbankのアクセッション番号NP_000706.1、及びUniprot(www.uniprot.org)のアクセッション番号P04003.2で注釈されたアミノ酸配列を含む。
【0058】
C4bp β鎖のC末端フラグメントは、自発的な二量体化、好ましくは共有結合による二量体化を達成するのに十分である。例えば、C4bp β鎖のC末端フラグメントは少なくとも2つのシステインを含んでおり、細胞輸出装置においてC4bp β鎖の2つのC末端フラグメントの自発的な鎖間共有結合二量体化を可能にする。
サイズができるだけ小さい本発明の二量体タンパク質複合体を得るために、自然二量体化を達成するのに必要でないC4bp β鎖のフラグメントを欠失させてもよい。従って、特定の実施形態において、第1及び第2のポリペプチドは、C4bp β鎖のN末端フラグメントを含まない。より特定の実施形態において、第1及び第2のポリペプチドは、配列番号2(MFFWCACCLMVAWRVSASDAEHCPELPPVDNSIFVAKEVEGQILGTYVCIKGYHLVGKKTLFCNASKEWDNTTTECRLGHCPDPVLVNGEFSSSGPVNVSDKITFMCNDHYILKGSNRSQCLEDHTWAPPFPICKSRDCDPPGNPVHGYFEGNNFTLGSTISYYCEDRYYLVGVQEQQCVDGEWSSALPVCKL)に記載のアミノ酸配列、又はそのフラグメントを含まない。
【0059】
特定の実施形態において、二量体タンパク質複合体はホモ二量体である。言い換えれば、特定の実施形態では、二量体タンパク質複合体の第1のポリペプチドと第2のポリペプチドは同一である。
【0060】
特定の実施形態において、二量体タンパク質複合体はヘテロ二量体である。或いは言い換えると、特定の実施形態において、二量体タンパク質複合体の第1のポリペプチドと第2のポリペプチドは同一ではない(すなわち、互いに異なる)。
【0061】
特定の実施形態において、二量体タンパク質複合体の第1のポリペプチドと第2のポリペプチドは同一である。
【0062】
特定の実施形態において、二量体タンパク質複合体の第1のポリペプチド及び第2のポリペプチドは同一ではない(すなわち、互いに異なる)。
本発明の文脈において、本明細書で使用される「接続」という用語は、「連結」、「結合」、「融合」、「接合」と同義であり、少なくとも2つの要素又は構成成分間の物理的リンクを指す。
【0063】
特定の実施形態において、第1又は第2の機能的構成成分は、ペプチド結合によってC4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端に結合される。
2つのタンパク質のカップリングは、C4bp β鎖のC末端フラグメントをコードする核酸と、第1又は第2の機能的構成成分をコードする核酸とを含む核酸を発現させることなど、当該分野で公知の任意の方法によって達成され得、ここで、本明細書の他の箇所で説明するように、第1又は第2の機能的構成成分をコードする前記核酸は、C4bp β鎖のC末端フラグメントをコードする核酸の3'に位置する。
【0064】
特定の実施形態において、第1の機能的構成成分は、二量体タンパク質複合体の第1のポリペプチドのC4bp β鎖のC末端フラグメントのすぐC末端側に位置し、及び/又は第2の機能的構成成分は、二量体タンパク質複合体の第2のポリペプチドのC4bp β鎖のC末端フラグメントのすぐC末端側に位置する。或いは、ペプチドリンカーのようなリンカーを、C4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端と第1又は第2の機能的構成成分のN末端との間に含めることもできる。
本明細書で用いられる用語「リンカー」は、他のエレメントを連結するように働く連結エレメントをいう。リンカーは、リジッドリンカー(本明細書ではスペーサーとも呼ばれる)又はフレキシブルリンカーでもよい。特定の実施形態では、リンカーは、共有結合を達成する共有結合性リンカーである。「共有結合性」又は「共有結合」という用語は、2つの原子の間で1つ以上の電子対の共有を含む化学結合をいう。多くの分子では、電子の共有は、各原子が、安定電子配置に相当する最外電子殻の等価物を得ることができる。共有結合は、σ-結合、π-結合、金属間結合、アゴスティック相互作用、ベント結合及び三中心二電子結合を含む種々のタイプの相互作用を含む。
【0065】
特定の実施形態において、リンカーは、(ポリ)ペプチドリンカー又は非ペプチドリンカー、例えば、非生物学的ポリマーのような非ペプチドポリマーである。好ましくは、C4bp β鎖のC末端フラグメントと機能的構成成分との間の連結は、加水分解的に安定な連結、すなわち、特に生理学的条件下を含む有用なpH値において、長期間、例えば数日間、水中で実質的に安定な連結であり得る。特定の実施形態において、リンカーは、1つ以上のアミノ酸のペプチドリンカーである。
より詳細には、ペプチドリンカーは、1~50アミノ酸長若しくは2~50アミノ酸長、又は1~45アミノ酸長若しくは2~45アミノ酸長、好ましくは1~40アミノ酸長若しくは2~40アミノ酸長、又は1~35アミノ酸長若しくは2~35アミノ酸長、より好ましくは1~30アミノ酸長若しくは2~30アミノ酸長であってもよい。さらに好ましくは、リンカーは5~25アミノ酸長又は5~20アミノ酸長である。特に好ましくは、リンカーは5~15アミノ酸長又は7~15アミノ酸長である。したがって、特定の実施形態において、リンカーは1、2、3、又は4アミノ酸長であってもよい。他の実施形態において、リンカーは5、6、7、8又は9アミノ酸長であってもよい。さらなる実施形態において、リンカーは10、11、12、13又は14アミノ酸長であってもよい。さらに他の実施形態では、リンカーは15、16、17、18又は19アミノ酸長であってもよい。さらなる実施形態において、リンカーは20、21、22、23、24又は25アミノ酸長であってもよい。特定の実施形態において、リンカーは4~10又は5~9又は6~8又は7アミノ酸長である。他の実施形態では、リンカーは12~18又は13~17又は14~16又は15アミノ酸長である。
リンカーを構成するアミノ酸の性質は、それによって連結されたポリペプチドセグメントの生物学的活性が実質的に損なわれず、リンカーがC4bp β鎖のC末端フラグメントと機能的構成成分との意図された空間的分離を提供する限り、特に重要ではない。好ましいリンカーは、本質的に非免疫原性であり、及び/又はタンパク質分解切断を起こしにくい。
【0066】
特定の好ましい実施形態において、ペプチドリンカーは、グリシン、セリン、アラニン、スレオニン、及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるアミノ酸を含むか、該アミノ酸から本質的になるか、又は該アミノ酸からなり得る。さらに好ましい実施形態において、リンカーは、グリシン、セリン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるアミノ酸を含むか、該アミノ酸から本質的になるか、又は該アミノ酸からなり得る。このようなリンカーは、特に優れた柔軟性を提供する。特定の実施形態において、リンカーはグリシン残基のみからなり得る。特定の実施形態において、リンカーはセリン残基のみからなり得る。
【0067】
特定の実施形態において、リンカーは、アミノ酸配列(SGGGGS)n(配列番号7)を含むか、該アミノ酸配列から本質的になるか、又は該アミノ酸配列からなる可動性リンカーであり、ここでnは、1~11、好ましくは2~7、さらに好ましくは3~7、例えば3、5又は7、さらにより好ましくは5又は7の整数である。特定の実施形態において、リンカーは、アミノ酸配列3x(SGGGGS)(配列番号3)、5x(SGGGGS)(配列番号48)、又は7x(SGGGGS)(配列番号49)を含むか、該アミノ酸配列から本質的になるか、又は該アミノ酸配列からなる可動性リンカーである。当業者であれば、可動性リンカー及びそのサイズは、C4bp β鎖のC末端部分に連結される1つ以上の機能的構成成分に応じて最適化され得ることを理解するであろう。
【0068】
特定の実施形態において、リンカーは、アミノ酸配列RDCDPPGNPVHGYFEGNNFTLGSTISYYCEDRYYLVGVQEQQCVDGEWSSALPVCKL(配列番号4)を含むか、該アミノ酸配列から本質的になるか、又は該アミノ酸配列からなるスペーサーである。このようなスペーサーは、C4bp β鎖のSCR3に対応し、2つの内部ジスルフィド橋の存在によって折り畳まれた4つのシステイン残基を示す。SCR3は生物学的機能を持たず、C4bp β鎖の天然のスペーサーとして、最初の2つのSCRを互いに離して二量体化の足場とする。
【0069】
本発明者らは、ペプチドQIVLSQSP(配列番号5)をシグナルペプチドのC末端側(好ましくはシグナルペプチドの3'すぐ)及びC4bp β鎖のC末端フラグメントのN末端側、並びに任意に第3又は第4の機能的構成成分のN末端側に含めることにより、本明細書に記載の第1又は第2のポリペプチドの発現の増加が得られることを見出した。配列番号5で定義されるペプチドは、リツキシマブ(RTX)に由来する。配列番号5で定義されるペプチドは、軽鎖のリツキシマブ超可変ドメイン(RTX VL)のN末端側に位置する。この配列は、RTXのVLのフレームワーク1(FR1)のN末端側に位置し、VLの下流の「相補的決定領域1(CDR1)」(パラトープの認識部分に関与)から離れた(又は外れた)ところにあり、FR1領域はCDR1の上流に位置する。
従って、特定の実施形態において、第1のポリペプチドは、シグナルペプチドのC末端側及びC4bp β鎖のC末端フラグメントのN末端側を含み、第3の機能的構成成分が存在する場合、前記第3の機能的構成成分のN末端側、ペプチドQIVLSQSP(配列番号5)を含む。特定の実施形態において、第2のポリペプチドは、シグナルペプチドのC末端側及びC4bp β鎖のC末端フラグメントのN末端側を含み、第4の機能的構成成分が存在する場合、前記第4の機能的構成成分のN末端側、ペプチドQIVLSQSP(配列番号5)を含む。
好ましくは、配列番号5で定義されるペプチドは、パノバクマブのようなscFvである機能的構成成分と組み合わせて使用される。scFvは、構造[VH-リンカー-VL]又は逆構造[VL-リンカー-VH]を有し得る。scFv VLのN末端部位(例えば、最初の8アミノ酸)は、好ましくは配列番号5で定義されるペプチドで置換される。
【0070】
特定の実施形態において、配列番号5によって定義されるペプチドは、シグナルペプチドのすぐC末端側に位置する。好ましくは、シグナルペプチドはBgl2制限部位で終わり、より好ましくはアミノ酸配列RSで終わる。従って、第1及び第2のポリペプチドは、N末端側に配列「シグナルペプチド-RS-QIVLSQSP(配列番号6)」を含んでいてもよい。このような配列は、二量体タンパク質複合体の高い発現収率をもたらすことが本発明者らによって見出された。
【0071】
特定の実施形態において、前記第1のポリペプチドは、C4bp β鎖の前記C末端フラグメントのN末端側にタグではない機能的構成成分を含まず、及び/又は前記第2のポリペプチドは、C4bp β鎖の前記C末端フラグメントのN末端側にタグではない機能的構成成分を含まない。このような二量体タンパク質複合体を、本明細書では「ジボロ」と呼ぶことがある。このようなジボロは、本明細書の他の箇所に記載されているように、C4bp β鎖の前記C末端フラグメントのN末端側にも機能的構成成分を含む二量体タンパク質複合体を確立する前に、C4bp β鎖の前記C末端フラグメントのC末端側に融合した機能的構成成分が効果的に機能するかどうかを試験するために使用され得る。本明細書では、第1及び第2の機能的構成成分が同一であるジボロをホモジボロと呼び、第1及び第2の機能的構成成分が異なるジボロをヘテロジボロと呼ぶことがある。
【0072】
特定の実施形態において、前記第1のポリペプチド及び/又は前記第2のポリペプチドは、C4bp β鎖の前記C末端フラグメントのN末端側及び/又はC末端側に、1つ以上、例えば2つ又は3つの機能的構成成分を含む。従って、特定の実施形態において、前記第1のポリペプチド及び/又は前記第2のポリペプチドは、C4bp β鎖の前記C末端フラグメントのN末端側及び/又はC末端側に、少なくとも1つ、例えば少なくとも2つ又は少なくとも3つの機能的構成成分を含む。
【0073】
特定の実施形態において、前記第1のポリペプチドは、C4bp β鎖の前記C末端フラグメントのN末端に結合される第3の機能的構成成分をさらに含み;及び/又は、前記第2のポリペプチドは、C4bp β鎖の前記C末端フラグメントのN末端に結合される第4の機能的構成成分をさらに含み、前記第1、前記第2、前記第3及び/又は前記第4の機能的構成成分は同一であるか又は異なる。第1、第2、第3及び第4の機能的構成成分を含む二量体タンパク質複合体は、本明細書では「テトラボロ」とも呼ばれる。
【0074】
特定の実施形態において、第3の機能的構成成分は、二量体タンパク質複合体の第1のポリペプチドのC4bp β鎖のC末端フラグメントのすぐN末端側に位置し、及び/又は第4の機能的構成成分は、二量体タンパク質複合体の第2のポリペプチドのC4bp β鎖のC末端フラグメントのすぐN末端側に位置する。或いは、本明細書の他の箇所に記載されているように、C4bp β鎖のC末端フラグメントのN末端と第3又は第4の機能的構成成分のC末端との間に、ペプチドリンカーのようなリンカーが含まれてもよい。
【0075】
特定の実施形態において、二量体タンパク質複合体の前記第1のポリペプチドは、
C4bp β鎖のC末端フラグメントのN末端側及び第1の機能的構成成分のC末端側のリンカー;並びに
C4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端側及び第3の機能的構成成分のN末端側のリンカーであって、好ましくは、リンカーが、可撓性リンカー、例えば、配列番号7により定義されるアミノ酸配列SGGGGSを含むか、該アミノ酸配列から本質的になるか、又は該アミノ酸配列からなる可動性リンカーであるか、又は配列番号4により定義されるようなアミノ酸配列RDCDPPGNPVHGYFEGNNFTLGSTISYYCEDRYYLVGVQEQQCVDGEWSSALPVCKLを含むか、該アミノ酸配列から本質的になるか、又は該アミノ酸配列からなるスペーサーなどのスペーサーである。
【0076】
特定の実施形態において、二量体タンパク質複合体の前記第2のポリペプチドは、
C4bp β鎖のC末端フラグメントのN末端側及び第2の機能的構成成分のC末端側のリンカー;並びに
C4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端側及び第4の機能的構成成分のN末端側のリンカーであって、好ましくは、リンカーが、可撓性リンカー、例えば、配列番号7により定義されるようなアミノ酸配列を含むか、該アミノ酸配列から本質的になるか、又は該アミノ酸配列からなる可撓性リンカーであるか、又は配列番号4により定義されるようなアミノ酸配列を含むか、該アミノ酸配列から本質的になるか、又は該アミノ酸配列からなるスペーサーなどのスペーサーである。
【0077】
本明細書で教示されるような二量体タンパク質複合体は、二量体タンパク質複合体中に存在する異なる機能的構成成分の量に依存して、単機能的、二機能的、三機能的、又は四機能的であってもよい。
【0078】
特定の実施形態において、第1、第2、第3及び第4の機能的構成成分は同一である。例えば、第1、第2、第3及び第4の機能的構成成分は、機能的構成成分Aであり得る。従って、このような実施形態において、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体の第1及び第2のポリペプチドは、各々、機能的構成成分A-Aを含む。このような二量体タンパク質複合体は、本明細書において、単機能的ホモテトラボロと呼ぶことがある。
【0079】
特定の実施形態において、第1及び第2の機能的構成成分は同一であり、第3及び第4の機能的構成成分は同一であり、第1及び第3の構成成分は同一ではない(又は異なる)。例えば、第1及び第2の機能的構成成分は機能的構成成分Aであってもよく、第3及び第4の機能的構成成分は機能的構成成分Bであってもよく、A及びBは異なる機能的構成成分を表す。従って、このような実施形態において、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体の第1及び第2のポリペプチドは、それぞれ機能的構成成分A-Bを含む。このような二量体タンパク質複合体は、本明細書において二機能性ホモテトラボロと呼ぶことがある。このような二機能性ホモテトラボロの例としては、シュードモナスの所定の菌株に対する相補的なscFvを含む二量体タンパク質複合体が挙げられる。
機能的構成成分について言及する場合の「異なる」という用語は、それらの一次アミノ酸配列の相違だけでなく、例えば、リン酸化、グリコシル化、脂質化、メチル化、システイニル化、スルホン化、グルタチオニル化、アセチル化、メチオニンのメチオニンスルホキシド又はメチオニンスルホンへの酸化などを含む発現後の修飾の相違を含む。
【0080】
特定の実施形態において、第1、第2、第3及び第4の機能的構成成分のうち少なくとも3つは異なる(第1、第2、第3及び第4の機能的構成成分のうち2つは同じであってもよいことを意味する)。例えば、第1及び第2の機能的構成成分はそれぞれ機能的構成成分Aであってもよく、第3の機能的構成成分は機能的構成成分Bであってもよく、第4の機能的構成成分は機能的構成成分Cであってもよく、A、B及びCは異なる機能的構成成分を表す。例えば、第3及び第4の機能的構成成分はそれぞれ機能的構成成分Aであってもよく、第1の機能的構成成分は機能的構成成分Bであってもよく、第2の機能的構成成分は機能的構成成分Cであってもよく、A、B及びCは異なる機能的構成成分である。このような二量体タンパク質複合体は、本明細書では三機能性ヘテロテトラボロと呼ぶことがある(図1)。
【0081】
特定の実施形態において、第1、第2、第3及び第4の機能的構成成分は全て異なる。例えば、第1の機能的構成成分は機能的構成成分Aであってもよく、第1の機能的構成成分は機能的構成成分Bであってもよく、第3の機能的構成成分は機能的構成成分Cであってもよく、第4の機能的構成成分は機能的構成成分Dであってもよく、A、B、C及びDは異なる機能的構成成分を表す。このような二量体タンパク質複合体は、本明細書では四機能性ヘテロテトラボロと呼ぶことがある。
【0082】
特定の実施形態において、第1、第2、第3及び/又は第4の機能的構成成分は、互いに独立して選択され得る。
本明細書で使用する「機能的構成成分」という用語は、所定の機能を発揮できる要素、より詳細にはアミノ酸配列を指す。現在の文脈では、エフェクター機能、ターゲティング機能、トラッキング機能の3つの主要な機能が区別されるが、本発明で使用される機能的構成成分はこれに限定されるものではない。当業者は、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体の所望の用途に機能する機能的構成成分を選択するであろう。例えば、機能的構成成分は、酵素(例えば、ロクソセレス・インターメディア(Li)由来の毒からのSmaseD)、酵素活性調節因子、レセプターリガンド、ハプテン、抗原、抗体、抗体フラグメント(例えば、scFv又はVHH)、予防剤又は治療剤(例えば、免疫応答調節因子(例えば、FHR1(すなわち、FHR-1)又はそのフラグメント、例えば、FHR1由来のSCR3、4及び5)、免疫チェックポイント阻害剤、免疫トキシン、抗酸化剤、抗生物質、成長因子、ホルモン、サイトカイン(例えば、IL-2、IL-15、INFγ又はTNFα)、トキシンやプロトキシンなどのオンコロティック又は細胞毒性剤、神経媒介剤、抗ウイルス剤、抗菌剤、抗寄生虫剤などの抗微生物剤、 抗悪性腫瘍剤、又はそのほか任意の目的の治療剤や予防剤)、重金属の金属イオン、ランタニド、放射性ヌクレオチド、化学発光分子、蛍光分子、又はモノチェーンレセプターやタンパク質性薬物レセプターなどのレセプターであってもよい。特定の実施形態において、第1、第2、第3及び第4の機能的構成成分は、本明細書の他の箇所に記載されているように、タグではない。
【0083】
特定の実施形態において、第1、第2、第3及び/又は第4の機能的構成成分の少なくとも1つは、タンパク質又はポリペプチドである。例えば、第1、第2、第3及び/又は第4の機能的構成成分は、酵素、酵素活性調節因子、レセプターリガンド、ハプテン、抗原、抗体、抗体フラグメント(例えば、scFv又はVHH)、予防剤又は治療剤(免疫応答制御剤、免疫チェックポイント阻害剤、免疫トキシン、抗酸化剤、抗生物質、成長因子、ホルモン、サイトカイン、トキシンやプロトキシンのような腫瘍溶解剤及び細胞毒性剤など、ニューロメディエーター、抗ウイルス剤、抗菌剤、抗寄生虫剤などの抗微生物剤、抗悪性腫瘍剤、又はその他任意の目的の治療剤や予防剤)或いはモノチェーンレセプターやタンパク質性薬物レセプターなどのレセプターであってもよい。レセプターは可溶性レセプターであってもよいし、そのフラグメントであってもよい。特定の実施形態において、第1、第2、第3及び/又は第4の機能的構成成分、好ましくは第1及び第2の機能的構成成分、より好ましくは第1、第2、第3及び第4の機能的構成成分は、タンパク質又はポリペプチド、例えば機能性タンパク質又はポリペプチドである。
【0084】
特定の実施形態において、前記第1、前記第2、前記第3及び前記第4の機能的構成成分は、タンパク質又はポリペプチドであり、好ましくは結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)、レセプター(例えば、可溶性レセプター)、組換えウイルス構造タンパク質(ウイルス様粒子(VLP)用の組換えウイルス構造タンパク質など)、腫瘍溶解剤、細胞毒性剤、サイトカイン、レセプター結合性ペプチド(例えば、リガンド)、又は単量体Fcからなる群から選択されるタンパク質又はポリペプチドであり、より好ましくは、結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)、レセプター(例えば、可溶性レセプター)、組換えウイルス構造タンパク質(ウイルス様粒子(VLP)の組換えウイルス構造タンパク質など)、細胞毒性薬剤、サイトカイン、レセプター結合性ペプチド(例えば、リガンド)、又は単量体Fcからなる群から選択されるタンパク質又はポリペプチドであり、さらにより好ましくは、結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)、組換えウイルス構造タンパク質(ウイルス様粒子(VLP)用の組換えウイルス構造タンパク質など)、細胞毒性剤、サイトカイン、レセプター結合性ペプチド(例えば、リガンド)、又は単量体Fcからなる群から選択されるタンパク質又はポリペプチドである。
【0085】
本発明者らは、本明細書の他の箇所に記載されているように、第H因子関連タンパク質1(FHR1)のSCR3-5が、第H因子(FH)と競合するのに十分であることを見出した。従って、特定の実施形態において、第1、第2、第3又は第4の機能的構成成分、好ましくは前記第3及び前記第4の機能的構成成分は、H因子関連タンパク質1(FHR1)由来のショートコンセンサスリピート3、4及び5(SCR3、4及び5)、好ましくはヒトFHR1由来のSCR3、4及び5を含むか、該SCR3、4及び5から本質的になるか、又は該SCR3、4及び5からなる。
【0086】
特定の実施形態において、第1、第2、第3又は第4の機能的構成成分、好ましくは前記第3及び前記第4の機能的構成成分は、配列番号50(ヒトSCR3)に対して少なくとも70%、少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、例えば少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列、配列番号51(ヒトSCR4)に対して少なくとも70%、少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、例えば少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列、及び配列番号52(ヒトSCR5)に対して少なくとも70%、少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、例えば少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、該アミノ酸配列から本質的になるか、又は該アミノ酸配列からなる。特定の実施形態において、第1、第2、第3又は第4の機能的構成成分、好ましくは前記第3及び前記第4の機能的構成成分は、配列番号53(ヒトSCR3-5)に対して少なくとも70%、少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、例えば少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、該アミノ酸配列から本質的になるか、又は該アミノ酸配列からなる。
【0087】
FHR1(SCR3-5)は、ハイジャックされ結合したファクターH(FH)とC3bを競合し、FHを介した補体崩壊を制御している。その結果、FHの調節不全は、補体古典経路を活性化することなく、補体代替経路(AP)を局所的に引き起こす。究極のMAC形成は、細菌のような病原性細胞のような、二量体タンパク質複合体が向けられている標的細胞を破壊し、細胞を溶解させる。従って、特定の実施形態において、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体の第3及び第4の機能的構成成分が、FHR1のSCR3、4及び5を含むか、該SCR3、4及び5から本質的になるか、又は該SCR3、4及び5からなる場合、前記二量体タンパク質複合体の第1及び第2の機能的構成成分は、好ましくは、標的化機能を有する機能的構成成分、より好ましくは、病原体又は腫瘍細胞を結合する結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)、好ましくは、本明細書の他の箇所に記載されているように緑膿菌に結合するscFv PsIなどのヒト補体攻撃を回避する病原体を結合する結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)を含む。
【0088】
特定の実施形態において、前記第1、前記第2、前記第3又は前記第4の機能的構成成分のうちの2つは、FHR1由来のSCR3、4及び5を含み、ここで、前記第1、前記第2、前記第3又は前記第4の機能的構成成分のうちの2つは、TSA、TAA、細菌抗原、ウイルス抗原、ウイルス関連抗原又は真菌抗原に特異的に結合する結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)を含む。
【0089】
特定の実施形態において、第1、第2、第3又は第4の機能的構成成分、好ましくは前記第3及び前記第4の機能的構成成分は、H因子関連タンパク質1(FHR1)由来の、好ましくはヒトFHR1由来の、ショートコンセンサスリピート1及び2(SCR1及び2)を含まない。
【0090】
特定の実施形態において、第3及び/又は第4の機能的構成成分(すなわち、C4bp β鎖のC末端フラグメントのN末端側に位置する機能的構成成分)は、そのN末端に位置する生物学的機能/活性を有するタンパク質又はペプチドであり、例えば、リガンド(例えば、酵素)を捕捉することができる活性レセプター、又は抗体フラグメント、好ましくはscFv(例えば、VH-VLまたはVL-VH配向)又はVHH、より好ましくはscFvである。
【0091】
特定の実施形態において、第3及び/又は第4の機能的構成成分(すなわち、C4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端側に位置する機能的構成成分)は、そのN末端に位置する生物学的機能/活性を有するタンパク質又はペプチドであり、例えば、リガンド(例えば、酵素)を捕捉することができる活性レセプター、又は抗体フラグメント、好ましくはscFv(例えば、VH-VL又はVL-VH配向)又はVHH、より好ましくはscFvであり、前記タンパク質又はペプチドは、そのN末端がC4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端に結合している。従って、そのような実施形態において、そのN末端に位置する生物学的機能/活性を有する前記タンパク質又はペプチドのC末端は、本明細書において教示される二量体タンパク質複合体の第1及び/又は第2のポリペプチドのC末端に位置する。(SGGGGS)n(配列番号7)のようなリンカーは、nが1~11の整数である場合、C4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端と、そのN末端に位置する生物学的機能/活性を有するタンパク質又はペプチドのN末端との間に存在し得る。したがって、このような実施形態では、そのN末端に位置する生物学的機能/活性を有するタンパク質又はペプチドのN末端は、その「天然の」、結合していない形態で自由にアクセス可能であるが、今度は別のタンパク質又はポリペプチドに融合される。
【0092】
特定の実施形態では、第1、第2、第3及び第4の機能的構成成分はそれ自体多量体複合体ではないが、互いに複合体を形成して多量体複合体を形成することがある。
【0093】
特定の実施形態において、第1、第2、第3及び第4の機能的構成成分は、リンカー又はスペーサーによって分離されたタンデム関連遺伝子によってコードされ得る。
【0094】
特定の実施形態において、第1及び第2の機能的構成成分などの機能的構成成分は、少なくとも10個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも30個、少なくとも40個、少なくとも50個、少なくとも100個、少なくとも200個、少なくとも300個、少なくとも400個、少なくとも500個、少なくとも600個、少なくとも700個、少なくとも800個、少なくとも900個又は少なくとも1000個のアミノ酸を含むか、該アミノ酸から本質的になるか、又は該アミノ酸からなる。
【0095】
特定の実施形態において、第1及び第2のポリペプチドは、C4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端側に少なくとも10個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも30個、少なくとも40個、少なくとも50個、少なくとも100個、少なくとも200個、少なくとも300個、少なくとも400個、少なくとも500個、少なくとも600個、少なくとも700個、少なくとも800個、少なくとも900個又は少なくとも1000個のアミノ酸を有するタンパク質又はポリペプチド(例えば、1つ又は複数の機能的構成成分を含む)を含む。
【0096】
特定の実施形態では、第1及び第2の機能的構成成分のような機能的構成成分は、タグを含まないか、該タグから本質的に構成されていないか又は該タグから構成されていないか、好ましくは該タグから構成されていない。特定の実施形態において、第1及び第2の機能的構成成分などの機能的構成成分は、FLAGタグ、Hisタグ、HAタグ又はMycタグなどのタンパク質精製タグを含まないか、該タンパク質精製タグから本質的に構成されていないか又は該タンパク質精製タグから構成されていないか、好ましくは該タンパク質精製タグから構成されていない。
【0097】
特定の実施形態では、第1、第2、第3及び/又は第4の機能的構成成分、好ましくは第1及び第2の機能的構成成分は、C4bp α鎖若しくはβ鎖又はそのフラグメントではない。
【0098】
特定の実施形態では、第1、第2、第3及び/又は第4の機能的構成成分、好ましくは第1及び第2の機能的構成成分は、C4bp β鎖のC末端フラグメントと異種のポリペプチド又はタンパク質である。機能的構成成分がC4bp β鎖と異種であるとは、その機能的構成成分が結合しているC4bp β鎖のC末端フラグメントと自然には関連していないことを意味する。
【0099】
特定の実施形態において、前記第1、前記第2、前記第3及び/又は前記第4の機能的構成成分は、酵素、酵素活性調節因子、レセプターリガンド、ハプテン、抗原、抗体、抗体フラグメント、予防剤又は治療剤、腫瘍溶解剤、細胞毒性剤、サイトカイン、組換えウイルス構造タンパク質、抗体様足場、ウイルスエンベロープタンパク質の細胞外ドメイン、抗原に対するレセプター又はリガンドの同族細胞外ドメイン(例えば、シグナル伝達分子)又は前記レセプター又はリガンドの抗原結合性部分、可溶性レセプター、又は合成レセプター、好ましくは酵素、酵素活性調節因子、レセプターリガンド、ハプテン、抗原、抗体、抗体フラグメント、予防剤又は治療剤、細胞毒性剤、サイトカイン、組換えウイルス構造タンパク質、抗体様足場、ウイルスエンベロープタンパク質の細胞外ドメイン、抗原に対するレセプター又はリガンド(例えばシグナル伝達分子)の同族細胞外ドメイン又は前記レセプター又はリガンドの抗原結合部分、可溶性レセプター、又は合成レセプターを含むか、本質的に構成されるか又は構成される。
【0100】
文脈から明らかでない限り、本明細書において、ペプチドもしくはポリペプチド又はタンパク質への言及は、一般に、当該ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質のフラグメント及び/又は変異体も包含し得る。
本明細書がタンパク質、ポリペプチド又はペプチドのフラグメント及び/又は変異体に言及又は包含する場合、これは、好ましくは、「機能的」、すなわち、それぞれのタンパク質、ポリペプチド又はペプチドの生物学的活性又は意図された機能性(例えば、抗原認識特性)を少なくとも部分的に保持する変異体及び/又はフラグメントを示す。好ましくは、機能性フラグメント及び/又は変異体は、対応するタンパク質、ポリペプチド又はペプチドと比較して、少なくとも約20%、例えば少なくとも30%、又は少なくとも約40%、又は少なくとも約50%、例えば少なくとも約60%、より好ましくは少なくとも約70%、例えば少なくとも約80%、さらに好ましくは少なくとも約85%、さらにより好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも約95%、又はさらには約100%若しくはそれ以上の意図された生物学的活性又は機能性を保持し得る。例えば、ウイルスエンベロープタンパク質の細胞外ドメインもそのフラグメントであってもよく、可溶性レセプターもそのフラグメントであってもよく、合成レセプターもそのフラグメントであってもよい。
【0101】
特定の実施形態において、前記第1、前記第2、前記第3及び/又は前記第4の機能的構成成分は、結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)を含むか、該結合性ドメインから本質的になるか、又は該結合性ドメインからなる。
本明細書で使用される「抗原」又は「Ag」という用語は、抗体又はレセプター(例えば、T細胞レセプター)に結合できるような、抗原認識ドメインに結合できる分子として定義される。抗原は、病原体や腫瘍細胞などの標的細胞の細胞表面に見られる。
本明細書で使用する「抗原認識ドメイン」又は「結合性ドメイン」又は「抗原特異的結合性ドメイン」という用語は、特定の標的分子に結合する機能的構成成分のドメインを指す。抗原認識ドメインは単一の標的分子に結合することもあれば、複数の標的分子に結合することもある。結合性ドメインには、天然に存在するもの、合成されたもの、半合成されたもの、又は標的分子に対する組換え生産された結合パートナーが含まれる。結合性ドメインは、抗体又はそのフラグメントに限定されるものではなく、レセプターのような他の分子も含むと考えるべきである。本発明者らは、C4bp α鎖、好ましくはヒトC4bp α鎖由来のショートコンセンサスリピート1及び2(SCR1-2)(補体制御タンパク質1及び2(CCP1-2)としても知られている)を結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)として使用することにより、細菌性病原体(例えば、百日咳菌(Bordetella pertussis & burgdorferi)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenza)、カタルヘラ菌(Moraxella catarrhalis)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae & meningitidis)、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae & pyogenes)、腸炎エルシニア菌(Yersinia enterocolitica)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus))並びに真菌(カンジダ・デュブリエンシス(Candida dubliensis)、アスペルギルス・フミガータス/テレウス(Aspergillus fumigatus & terreus))を含むが、これらに限定されない、C4bp可溶性補体制御タンパク質の採用により補体介在性殺傷を回避する病原体など、多種多様な病原体を標的とすることができることを見出した。従って、C4bp α鎖からのC4bp β鎖SCR1及びSCR2のC末端フラグメントのC末端側と、C4bp β鎖単量体IgGのC末端フラグメントのN末端側を含む、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体は、高い広域スペクトル治療用途を有するマルチターゲット擬似IgGとして作用する。好ましくは、C4bp α鎖はヒトC4bp α鎖である。
【0102】
特定の実施形態において、結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)は、C4bp α鎖、好ましくはヒトC4bp α鎖(例えば、Uniprotアクセッション番号P04003.2を有するヒトC4bp α鎖)由来のSCR1及びSCR2(CCP1及びCCP2としても知られる)を含むか、該SCR1及びSCR2から本質的になるか、又は該SCR1及びSCR2からなる。
【0103】
特定の実施形態において、結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)は、配列番号54(SCR1)に対して少なくとも70%、少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、例えば少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列及び配列番号55(SCR1)に対して少なくとも70%、少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、例えば少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、該アミノ酸配列から本質的になるか、又は該アミノ酸配列からなる。特定の実施形態において、結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)は、配列番号56(SCR1-2)に対して少なくとも70%、少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、例えば少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むか、該アミノ酸配列から本質的になるか、又は該アミノ酸配列からなる。
【0104】
特定の実施形態において、結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)は、C4bp α鎖、好ましくはヒトC4bp α鎖(例えば、Uniprotアクセッション番号P04003.2を有するヒトC4bp α鎖)のCCP3、CCP4、CCP5、CCP6、CCP7及びCCP8、・・・を含まない。
【0105】
特定の実施形態において、抗原認識ドメイン(例えば、細胞外抗原認識ドメイン)は、抗体又は抗体フラグメントに由来する。「抗体」という用語は、本明細書では最も広い意味で使用され、一般に、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、組換え抗体、トランスジェニック抗体、グラフト抗体、一本鎖抗体などを含むがこれらに限定されない全抗体、或いは、目的の抗原に選択的に結合する1つ以上のドメインを含む任意の融合タンパク質、コンジュゲート、フラグメント、又はそれらの誘導体など、あらゆる免疫学的結合剤を指す。よって、抗体という用語には、免疫グロブリン分子全体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、又は任意のこれらの免疫学的に有効なフラグメントが含まれる。したがって、この用語は、インタクトなモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2つのインタクトな抗体から形成される多価(例えば、2価、3価又はそれ以上)及び/又は多特異的抗体(例えば、2価又はそれ以上の特異的抗体)、及び所望の生物学的活性(特に、目的の抗原に特異的に結合する能力)を示す限りにおいて抗体フラグメント、並びにそのようなフラグメントの多価及び/又は多特異的複合体を特に包含する。「抗体」という用語は、免疫化を含む方法によって作製された抗体だけでなく、目的の抗原上のエピトープに特異的に結合することができる少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を包含するように作製された任意のポリペプチド、例えば組換え発現ポリペプチドも含む。したがって、この用語は、in vitro、細胞培養、又はin vivoのいずれで生産されたかに関係なく、このような分子に適用される。「抗体フラグメント」又は「抗原結合部位」という用語は、全長抗体の一部又は領域、一般的にはその抗原結合性ドメイン又は可変ドメインを含む。抗体フラグメントの例としては、Fab、Fab'、F(ab)2、Fv、scFvフラグメント、VHドメイン、VLドメイン、VHHドメインなどの単一ドメイン(sd)Fv、ダイアボディ、直鎖抗体、一本鎖抗体分子、特に重鎖抗体、及び抗体フラグメントから形成される多価及び/又は多特異的抗体、例えば、ジボディ、トリボディ、マルチボディが挙げられる。上記のFab、Fab'、F(ab')2、Fv、scFvなどの呼称は、当技術分野で確立された意味を有することを意図している。
天然に存在する完全長抗体は、ジスルフィド結合で連結された2本の重(H)鎖と2本の軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子である。各鎖のアミノ末端部分には、主にそこに含まれる相補性決定領域(CDR)を介した抗原認識に関与する約100~110アミノ酸の可変領域が含まれる。各鎖のカルボキシ末端部分は、主にエフェクター機能を担う定常領域を規定する。
【0106】
CDRは、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が点在している。各軽鎖可変領域(LCVR)と重鎖可変領域(HCVR)は、3つのCDRと4つのFRから構成され、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって以下の順序で配置されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。軽鎖の3つのCDRは「LCDR1、LCDR2、及びLCDR3」と呼ばれ、重鎖の3つのCDRは「HCDR1、HCDR2、及びHCDR3」と呼ばれる。CDRには、抗原との特異的相互作用を形成する残基のほとんどが含まれている。LCVR及びHCVR領域内のCDRアミノ酸残基の番号付けと位置付けは、よく知られたKabat番号付け規則に従っている。これは、抗体の重鎖及び軽鎖領域において、他のアミノ酸残基よりも可変性の高い(すなわち、超可変性の)アミノ酸残基に番号を付けるシステムを指す(Kabat, et al., Ann. NYAcad. Sci. 190:382-93 (1971 ); Kabat, et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition, U.S. Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91-3242 (1991))。抗体の可変領域におけるCDRの位置付けは、Kabat番号付け、又は単に「Kabat」に従う。
【0107】
軽鎖はκ又はλに分類され、当該技術分野で知られているように、特定の定常領域によって特徴づけられる。重鎖はガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、又はイプシロンに分類され、それぞれ抗体のアイソタイプをIgG、IgM、IgA、IgD、又はIgEに規定する。IgG抗体はさらにサブクラス、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4に分けられる。各重鎖タイプは、当技術分野でよく知られた配列を持つ特定の定常領域によって特徴づけられる。
特定の実施形態では、抗体はIgA、IgD、IgE、IgG及びIgMクラスのいずれでもよく、好ましくはIgGクラスの抗体である。
【0108】
特定の実施形態において、抗原認識ドメイン(例えば、細胞外抗原認識ドメイン)は、抗体又は抗体フラグメントの抗原結合領域を含むか、該抗原結合領域から本質的になるか、又は該抗原結合領域からなる。
【0109】
抗体又は抗体フラグメントは、特異的レセプター、酵素、又はトキシンなどの特異的標的を認識するだけでなく、当該特異的標的を活性化(すなわち、アゴナイズ)又は阻害(すなわち、アンタゴナイズ)することができる。
例えば、機能的構成成分の1つ以上がロクソセレス・インターメディア(Li)の毒からのscFv抗SmaseDを含むか、該scFv抗SmaseDから本質的になるか、又は該scFv抗SmaseDからなる場合、二量体タンパク質複合体はSmaseDに結合し、その活性を阻害する可能性がある。
例えば、機能的構成成分の1つ以上がロクソセレス・インターメディア(Li)の毒からのSmaseDを含むか、該SmaseDから本質的になるか、又は該SmaseDからなる場合、及び機能的構成成分の1つ以上が、がん細胞を標的とする抗原結合性部分(例えば、scFv抗HER2)を含み、二量体タンパク質複合体は標的細胞に結合し、その細胞表面にSmaseDを蓄積させることにより標的細胞を死滅させ、したがって腫瘍抑制活性を発揮する。SmaseDはスフィンゴミエリンをセラミド-1-リン酸に変換する。SmaseD酵素活性によるセラミド-1-リン酸のその場生成は、標的膜の側方構造と形態を変化させ、腫瘍抑制脂質と考えられる。
【0110】
「抗原結合性部分」又は「抗原結合性領域」という用語は、目的の抗原に特異的に結合する能力を保持する、アミノ酸残基の特定の部位、部分、ドメイン又はストレッチなどの抗体の1つ以上のフラグメントを指す。抗体の抗原結合機能は、全長抗体のフラグメントが担っている可能性があることが示されている。これらは、二重特異性、二重特異性、又は多重特異性のフォーマットで、2つ以上の異なる抗原に特異的に結合する。抗体の「抗原結合部位」という用語に包含される結合性フラグメントの例としては、(i)Fabフラグメント、VL、VH、CL及びCHIドメインからなる一価のフラグメント;(ii)F(ab')2フラグメント、ヒンジ領域でジスルフィド橋によって連結された2つのFabフラグメントを含む二価フラグメント;(iii)VH及びCHIドメインからなるFdフラグメント;(iv)抗体の単一アームのVL及びVHドメインからなるFvフラグメント、(v)単一の可変ドメインを含むdAbフラグメント(Ward et al., Nature, 341 : 544-546 (1989); PCT publication WO 90/05144);及び(vi)単離された相補性決定領域(CDR)を含む。さらに、Fvフラグメントの2つのドメイン、VL及びVHは、別々の遺伝子によってコードされているが、それらは、組換え法を使用して、VL及びVH領域が対になって一価分子を形成する単一タンパク質鎖として作製することを可能にする合成リンカーによって結合され得る(単鎖Fv(scFv)として知られている(Bird et al., Science, 242: 423-426 (1988); and Huston et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 85: 5879-5883 (1988))。このような単鎖抗体も、抗体の「抗原結合性部分」という用語に包含されることが意図されている。ダイアボディのような他の形態の単鎖抗体も包含される。ダイアボディとは、VHドメインとVLドメインが単一ポリペプチド鎖上に発現している二価の二重特異性抗体であるが、同じ鎖上の2つのドメイン間を対合させるには短すぎるリンカーを使用しているため、ドメインは別の鎖の相補的なドメインと対合することを余儀なくされ、2つの抗原結合性部位が形成される(Holliger, et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 90: 6444-6448 (1993); Poljak, et al., Structure 2: 1121-1123 (1994))。このような抗体結合性部分は当技術分野で知られている(Kontermann and Dubel eds., Antibody Engineering (2001) Springer- Verlag. New York. 790 pp. (ISBN 3-540-41354-5)。また、本明細書で使用される「配列」という用語(例えば、「可変ドメイン配列」、「VHH配列」又は「タンパク質配列」のような用語における)は、一般に、文脈がより限定的な解釈を必要としない限り、関連するアミノ酸配列並びにそれをコードする核酸配列又はヌクレオチド配列の両方を含むと理解されるべきである。
【0111】
特定の実施形態では、抗体又は抗体フラグメントの抗原結合性領域は、本明細書の他の箇所に記載されているように、TSA又はTAAなどの目的の抗原に特異的に結合する。
「特異的に結合する」という用語は、薬剤(本明細書では「結合剤」又は「特異的結合剤」とも表記する)が、1つ以上の所望の標的(例えば、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、核酸、又は細胞)に、ランダム又は無関係な他の実体を実質的に排除して結合すること、及び任意に、構造的に関連する他の分子を実質的に排除して結合することを意味する。「特異的に結合する」という用語は、必ずしも薬剤がその意図する標的のみに結合することを必要としない。例えば、薬剤は、結合の条件下でそのような意図された標的に対する親和性が少なくとも約2倍、好ましくは少なくとも約5倍、より好ましくは少なくとも約10倍、さらに好ましくは少なくとも約25倍、さらに好ましくは少なくとも約50倍、さらに好ましくは少なくとも約100倍、又は少なくとも約1000倍、又は少なくとも約10倍、又は少なくとも約10倍、又は少なくとも約10倍又はそれ以上、非標的に対する親和性よりも大きい場合、目的の標的に特異的に結合すると言うことができる。
【0112】
薬剤とその意図する標的との間の結合又は相互作用は、共有結合(すなわち、原子間の電子対の共有を伴う1つ以上の化学結合によって媒介される)であってもよいし、より典型的には、非共有結合(すなわち、例えば、水素橋、双極子相互作用、ファンデルワールス相互作用などのような非共有結合力によって媒介される)であってもよい。好ましくは、薬剤は、KA ≧ 1×106 M-1、より好ましくは、KA ≧ 1×107 M-1、さらに好ましくは、KA ≧ 1×108 M-1、さらに好ましくは、KA ≧ 1×109 M-1、さらにより好ましくは、KA ≧ 1×1010 M-1又はKA ≧ 1×1011 M-1、のそのような結合の親和定数(KA)で、その意図する標的に結合又は相互作用し、ここで、KA = [A_T]/[A][T], Aは薬剤を示し、Tは意図する標的を示す。KA の決定は、例えば、平衡透析及びScatchard plot分析を用いるなど、当該分野で公知の方法によって実施することができる。特定の実施形態において、抗原認識ドメイン(例えば、細胞外抗原認識ドメイン)は、scFv(例えば、VH-VL又はVL-VH配向)又はVHH、好ましくはscFvのような抗体フラグメントなどの、その生物学的機能/活性がそのN末端に位置するタンパク質又はペプチドを含むか、該タンパク質又はペプチドから本質的になるか、又は該タンパク質又はペプチドからなる。
【0113】
好ましい実施形態において、抗原認識ドメイン(例えば、細胞外抗原認識ドメイン)は、抗体の単鎖可変フラグメント(scFv)を含むか、該scFvから本質的になるか、又は該scFvからなる。
【0114】
さらなる実施形態において、抗原認識ドメイン(例えば、細胞外抗原認識ドメイン)は、2価scFvを含むか、該2価scFvから本質的になるか、又は該2価scFvからなり得る。ジscFvを含む本明細書で教示されるような二量体タンパク質複合体において、各抗原に特異的な2つのscFvは、2つのVH領域及び2つのVL領域を有する単一ペプチド鎖を生成することによって共に連結され、Xiong, C.Y. et al., 2006, Protein Engineering Design and Selection 19 (8): 359-367; Kufer, P. et al., 2004, Trends in Biotechnology 22 (5): 238-244に記載されるようなタンデムscFvをもたらす。
scFvは、標準的な組換えDNA技術を用いて得てもよい。例えば、scFvは、Koksal H. et al., 2019, Antibody Therapeutics, 2(2):56-63に記載されているように、抗体を産生するハイブリドーマからのコード配列の単離、V鎖型の同定、及びscFvをコードする核酸の設計によって調製することができる。scFvは、VL配列、リンカーペプチド、及びVH配列を含むか、該VL配列、該リンカーペプチド、及び該VH配列から本質的になるか、又は該VL配列、該リンカーペプチド、及び該VH配列からなり、ここでVL配列はリンカーペプチドのN末端側に位置し、リンカーペプチドはVH配列のN末端側に位置する。例えば、VLとVHの配列の位置が入れ替わるような、異なるscFvデザインが可能である。
【0115】
特定の実施形態では、機能的構成成分は、下記などのscFvを含むか、該scFvから本質的になるか、又は該scFvからなり得る:
・NKG2Dに特異的に結合するscFv。NKG2Dに特異的に結合するscFvは、参照により本明細書に組み込まれる特許US 9.127.064-B2に記載されている全IgG4に由来するRTXハイブリッド(VL-リンカー-VH)コドン最適化ヒトMS抗NKG2D scFvであってもよく、Bgl2(A/GATCT、アミノ酸RS)とBspE1(T/CCGGA、アミノ酸SG)制限部位間にまたがる。好ましくは、NKG2Dに特異的に結合するscFvは、配列番号8により定義されるアミノ酸配列及び/又は配列番号9により定義される核酸配列を含むか、該アミノ酸配列及び/又は該核酸配列から本質的になるか、又は該アミノ酸配列及び/又は該核酸配列からなる。
・NKG2Aに特異的に結合するscFv。NKG2Aに特異的に結合するscFvは、参照により本明細書に組み込まれる国際特許出願WO2009092805に記載されるZ199ヒト化抗ヒトNKG2Aモノクローナル抗体に由来するZ199コドン最適化(VH-リンカー-VL)scFv抗ヒトNKG2Aであってもよく、Bgl2(A/GATCT、アミノ酸RS)及びBspE1(T/CCGGA、アミノ酸SG)制限部位間にまたがるCD94/NKG2Aレセプターの非競合的アンタゴニストである。好ましくは、NKG2Aに特異的に結合するscFvは、配列番号10により定義されるアミノ酸配列及び/又は配列番号11により定義される核酸配列を含むか、該アミノ酸配列及び/又は該核酸配列から本質的になるか、又は該アミノ酸配列及び/又は該核酸配列からなる。
・KIRに特異的に結合するscFv。KIRに特異的に結合するscFvは、完全ヒトIgG4抗KIR2DL1/2L3 mAb(リリルマブ(IPH2102);Innate Pharma)に由来するコドン最適化(VH-リンカー-VL)scFvであってもよく、Bgl2(A/GATCT、アミノ酸RS)とBspE1(T/CCGGA、アミノ酸SG)の制限部位間にまたがる。好ましくは、KIRに特異的に結合するscFvは、配列番号12により定義されるアミノ酸配列及び/又は配列番号13により定義される核酸配列を含むか、該アミノ酸配列及び/又は該核酸配列から本質的になるか、又は該アミノ酸配列及び/又は該核酸配列からなる。
・SLAMF7に特異的に結合するscFv。SLAM7に特異的に結合するscFvは、エロツズマブ由来のscFvであってもよく:RTX-ハイブリッド反転(VL-リンカー-VH)コドン最適化されたヒト化IgG1由来のSLAMF7(抗CD319)scFvは、Bgl2(A/GATCT、アミノ酸RS)及びBspE1(T/CCGGA、アミノ酸SG)制限部位間にまたがる。好ましくは、SLAMF7に特異的に結合するscFvは、配列番号14により定義されるアミノ酸配列及び/又は配列番号15により定義される核酸配列を含むか、該アミノ酸配列及び/又は該核酸配列から本質的になるか、又は該アミノ酸配列及び/又は該核酸配列からなる。
・CD20抗原に特異的に結合するscFv。CD20抗原に特異的に結合するscFvは、Bgl2(A/GATCT、アミノ酸RS)とBspE1(T/CCGGA、アミノ酸SG)制限部位間にまたがるCD20抗原に特異的に結合するリツキシマブ(RTX)由来のコドン最適化された(VL-リンカー-VH)scFvであってもよい。CD20に特異的に結合するscFvは、Bgl2(A/GATCT、アミノ酸RS)とBspE1(T/CCGGA、アミノ酸SG)制限部位間にまたがるCD20に特異的に結合するオファツムマブ(OFA)scFv擬似IgG由来のコドン最適化(VH-リンカー-VL)scFvであってもよい。好ましくは、CD20に特異的に結合するscFvは、配列番号16又は18により定義されるアミノ酸配列及び/又は配列番号17又は19により定義される核酸配列を含むか、該アミノ酸配列及び/又は該核酸配列から本質的になるか、又は該アミノ酸配列及び/又は該核酸配列からなる。
・HER2に特異的に結合するscFv。HER2に特異的に結合するscFvは、Bgl2(A/GATCT、アミノ酸RS)とBspE1(T/CCGGA、アミノ酸SG)の制限部位間にまたがる、トラスツズマブ由来のコドン最適化(VH-リンカー-VL)scFvであり得る。HER2と特異的に結合するscFvは、参照により本明細書に組み込まれる国際特許出願WO2009068625-A2に記載されているように、Bgl2(A/GATCT、アミノ酸RS)とBspE1(T/CCGGA、アミノ酸SG)の制限部位間にまたがる、HER2に特異的に結合するコドン最適化2D3 VHHであり得る。HER2に特異的に結合するscFvは、参照により本明細書に組み込まれる国際特許出願WO2009068625-A2に記載されているように、Bgl2(A/GATCT、アミノ酸RS)とBspE1(T/CCGGA、アミノ酸SG)制限部位間にまたがる、HER2に特異的に結合するコドン最適化47D5 VHHであり得る。好ましくは、HER2に特異的に結合するscFvは、配列番号20、22、24により定義されるアミノ酸配列及び/又は配列番号21、23、又は25により定義される核酸配列を含むか、該アミノ酸配列及び/又は該核酸配列から本質的になるか、又は該アミノ酸配列及び/又は該核酸配列からなる。
・緑膿菌のPslに特異的に結合するscFv。緑膿菌のPslに特異的に結合するscFvは、緑膿菌のPslに特異的に結合するコドン最適化(VL-リンカー-VH)scFvであってもよく、参照により本明細書に組み込まれる国際特許出願WO2017095744 A1の配列番号9に定義されるような配列を含み、Bgl2(A/GATCT、アミノ酸RS)とBspE1(T/CCGGA、アミノ酸SG)制限部位の間にまたがる。好ましくは、緑膿菌のPslに特異的に結合するscFvは、配列番号26により定義されるアミノ酸配列及び/又は配列番号27により定義される核酸配列を含むか、該アミノ酸配列及び/又は該核酸配列から本質的になるか、又は該アミノ酸配列及び/又は該核酸配列からなる。
・緑膿菌のPcrVに特異的に結合するscFv。緑膿菌のPcrVに特異的に結合するscFvは、参照により本明細書に組み込まれる国際特許出願WO2017095744 A1に記載されているように、Bgl2(A/GATCT、アミノ酸RS)とBspE1(T/CCGGA、アミノ酸SG)制限部位にまたがる、緑膿菌のPcrVに特異的に結合するコドン最適化(VL-リンカー-VH)scFv又はBgl2(A/GATCT、アミノ酸RS)とBspE1(T/CCGGA、アミノ酸SG)制限部位間にまたがる、緑膿菌に特異的に結合するパノバクマブ(アリディス製薬、AR-101)由来のコドン最適化RTXハイブリッド逆転(VL-リンカー-VH)scFvであり得る。好ましくは、緑膿菌のPcrVに特異的に結合するscFvは、配列番号28又は30により定義されるアミノ酸配列及び/又は配列番号29又は31により定義される核酸配列を含むか、該アミノ酸配列及び/又は該核酸配列から本質的になるか、又は該アミノ酸配列及び/又は該核酸配列からなる。
・SmaseDに特異的に結合するscFv。Karim-Silva, S., et al., Loxoscelism: Advances and Challenges in the Design of Antibody Fragments with Therapeutic Potential. Toxins (Basel), 2020. 12(4)又はKarim-Silva, S., et al., Generation of recombinant antibody fragments with toxin-neutralizing potential in loxoscelism. Immunol Lett, 2016. 176: p. 90-6に記載されているように、SMaseDに特異的に結合するscFvは、ロクソセレス・インターメディアmAb(LimAb7)由来のマウス抗SMaseDからの、SMaseD(scFvLi7)(VH-リンカー-VL)に特異的に結合するscFvであってもよい。Karim-Silva, S., et al., Loxoscelism: Advances and Challenges in the Design of Antibody Fragments with Therapeutic Potential. Toxins (Basel), 2020. 12(4)又はKarim-Silva, S., et al., Generation of recombinant antibody fragments with toxin-neutralizing potential in loxoscelism. Immunol Lett, 2016. 176: p. 90-6に記載されているように、SMaseDに特異的に結合するscFvは、ロクソセレス・インターメディアmAb(LimAb7)由来のマウス抗SMaseDからコドン最適化されたscFv抗SMaseD(scFvLi7)(VL-リンカー-VH)であってもよく、Bgl2(A/GATCT、アミノ酸配列RS)及びBspE1(T/CCGGA、アミノ酸配列SG)制限部位間にまたがり、シグナルペプチドのすぐC末端側にRTX由来のアミノ酸配列QIVLSQSP(SEQ ID NO: 5)を含む。好ましくは、SmaseDに特異的に結合するscFvは、SEQ ID NO: 58(ロクソセレス・インターメディア(Li)からのコドン最適化マウスscFv-Li7(VH-リンカー-VL)抗SmaseD)により定義されるアミノ酸配列、及び/又はSEQ ID NO: 57(ロクソセレス・インターメディア(Li)からのコドン最適化マウスscFv-Li7(VH-リンカー-VL)抗SmaseD)により定義される核酸配列を含むか、該アミノ酸配列及び又は該核酸配列から本質的になるか、又は該アミノ酸配列及び又は該核酸配列からなる。
【0116】
NK活性化成分(例えば、活性化NK細胞レセプターに特異的に結合し、拮抗する抗原認識ドメイン)が二量体として存在する場合、NK活性化が改善されることは当技術分野で知られている。例えば、NKG2Dレセプターは2つのジスルフィド結合した膜貫通タンパク質のホモ二量体からなる。それぞれのNKG2D単量体は、リガンドMIC-Aの異なる表面と相互作用する。複数の、例えば2つの抗NKGD2 scFvを含む二量体タンパク質複合体は、1つの抗NKGD2 scFvのみを含む二量体タンパク質複合体よりもはるかに高い有効性でNKG2D二量体レセプターに結合し、より大きなNK活性化をもたらす。或いは、2つの異なるNKレセプター(例えば、NKG2DとSLAMF7)を認識する2つの異なるscFvを含む二量体タンパク質複合体を使用してもよく、これらのscFvは2つのNKレセプターに同時に結合し、より効率的にNK細胞を活性化することができる。
【0117】
特定の実施形態において、第1及び第2の機能的構成成分は、天然細胞毒性レセプター(NCR)、ナチュラルキラーグループ2、メンバーD(NKG2D)、NKG2A、キラー免疫グロブリン様レセプター(KIR)、又はSLAMF7などの活性化NK細胞レセプターに特異的に結合する結合ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)を含むか、該結合ドメインから本質的になるか、又は該結合ドメインからなり、第3及び第4の機能的構成成分は、sIL15Rαを含むか、該sIL15Rαから本質的になるか、又は該sIL15Rαからなる。より特定の実施形態において、第1及び第2の機能的構成成分は、scFv抗NKG2A又はscFv抗KIRを含むか、該scFv抗NKG2A又は該scFv抗KIRから本質的になるか、又は該scFv抗NKG2A又は該scFv抗KIRからなり、第3及び第4の機能的構成成分は、sIL15Rαを含むか、該sIL15Rαから本質的になるか、又は該sIL15Rαからなる。好ましくは、scFv抗NKG2Aは特異的モノクローナル抗体(mAb)Z199に由来する。Carretero et al., The CD94 and NKG2-A C-type lectins covalently assemble to form a natural killer cell inhibitory receptor for HLA class I molecules. Eur J Immunol 1997 27:563に記載されているように、Z199はヒトCD94/NKG2Aレセプターの非競合的アゴニストである。このような二量体タンパク質複合体は、IL15経路による活性化と、NKG2A又はKIRに対する2つのscFvによって提示されるNKチェックポイント阻害剤による活性化という、二重のアプローチでNK細胞を活性化することを可能にする。したがって、このような二量体タンパク質複合体はNKスーパーアゴニストとして作用する。ここでは、CD8 T細胞に対するチェックポイント阻害剤と同等のアプローチが、NK細胞に対する二量体タンパク質複合体について用いられている。二量体タンパク質複合体は、scFv抗NKG2A部位を通して、NK細胞の疲弊の経路であるNKG2A経路を阻害する。IL15の部分は選択的なNK活性化を示す。
【0118】
二量体タンパク質複合体は、NK細胞と不要な細胞(例えば、腫瘍細胞)又は病原性微生物、例えば細菌(例えば、緑膿菌)、ウイルス(例えば、SARS-CoV2)又は真菌(例えば、アスペルギルス)を架橋して、不要な細胞又は病原性微生物を殺すために使用し得る。このような目的のために、二量体タンパク質複合体は、(i)NKG2D又はSLAM7に対するscFvのような活性化NK細胞レセプターに特異的に結合する結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)、及び(ii)TSA、TAA、又は病原性微生物の抗原(例えば、細菌抗原、ウイルス抗原、ウイルス関連抗原又は真菌抗原)に特異的に結合する結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)を示し得る。
例えば、二量体タンパク質複合体は、NK細胞と緑膿菌を架橋し、緑膿菌を死滅させるために使用し得る。このような目的のために、二量体タンパク質複合体は、(i)2つのNK自然細胞毒性レセプター(NCR)であるNKG2D(CD314)及びSLAMF7(CS1、CD319、CRACC)に対する2つの異なる単量体NK活性化scFv、及び(ii)緑膿菌に対するNK細胞を活性化する治療薬としての二量体PcrV又はPsl scFv抗緑膿菌を示し得る。scFv抗NKG2DはNKG2D/DAP10/Grb2/VAv1/PI3K/Akt経路のアゴニストとして作用し、エロツズマブ由来のscFv抗SLAMF7はSLAMF7/ITSM/PLC/Ca++/ERK経路のアゴニストとして作用し、両経路ともNK細胞を活性化するとともにADCCを増強する。
【0119】
したがって、特定の実施形態において、国際特許出願WO2017095744 A1に記載されているように、第1及び第2の機能的構成成分は、緑膿菌のscFv抗PcrV又は緑膿菌のscFv抗Pslを含むか、該緑膿菌のscFv抗PcrV又は該緑膿菌のscFv抗Pslから本質的になるか、又は該緑膿菌のscFv抗PcrV又は該緑膿菌のscFv抗Pslからなり、第3の機能的構成成分は、scFv抗NKG2Dを含むか、該scFv抗NKG2Dから本質的になるか、又は該scFv抗NKG2Dからなり、第4の機能的構成成分は、scFv抗SLAM7を含むか、該scFv抗SLAM7から本質的になるか、又は該scFv抗SLAM7からなる。このような二量体タンパク質複合体、並びにTSA、TAA、細菌抗原、ウイルス抗原若しくはウイルス関連抗原、又は真菌抗原に特異的に結合する結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)を含み、さらに2つのscFv(例えば、VH-VL又はVL-VH配向)又はVHHを含み、それぞれが活性化NK細胞レセプターに対して異なる特異性を有する任意の二量体タンパク質複合体は、本明細書では、「Tri-specific Killer Engagers」として「TriKE」とも呼ばれることもある。NK活性化のために2つの異なる経路を用いることで、TriKEのNK活性化能全体が劇的に向上する。
【0120】
さらに、TSA、TAA、細菌抗原、ウイルス抗原若しくはウイルス関連抗原、又は真菌抗原に特異的に結合する結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)を含み、さらに1つのscFv(例えば、VH-VL又はVL-VH配向)又は活性化NK細胞レセプターに対する特異性を有するVHHをさらに含む二量体タンパク質複合体は、本明細書では、「Bi-specific Killer Engagers」として「BiKE」と呼ばれることもある。
二量体タンパク質複合体内のすべての機能的構成成分がscFvである場合、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体は、前記scFvの4価を含み得るので、高い親和性を有するブロッキングscFvが得られる。このような二量体タンパク質複合体の例としては、第1及び第2の機能的構成成分、又は第1、第2、第3及び第4の機能的構成成分が、クモ毒ロクソセレス・インターメディア(scFvLi7)からのscFv抗スフィンゴミエリナーゼD(SMase D)を含む、二量体タンパク質複合体が挙げられる。
【0121】
好ましい実施形態において、抗原認識ドメイン(例えば、細胞外抗原認識ドメイン)は、抗原又はNanobody(登録商標)に特異的な重鎖抗体(VHH)の単一ドメイン可変フラグメントを含むか、該単一ドメイン可変フラグメントから本質的になるか、又は該単一ドメイン可変フラグメントからなる。
「Nanobody」又は「Nanobodies」という用語は、Ablynx NV(ベルギー)の商標である。用語「Nanobody」は、当該技術分野において周知であり、本明細書において最も広い意味で使用される場合、(1)天然に存在する重鎖抗体、好ましくはラクダ科動物由来の重鎖抗体のVHHドメインを単離することによって;(2)天然に存在するVHHドメインをコードするヌクレオチド配列の発現によって;(3)天然に存在するVHHドメインの「ヒト化」によって又はそのようなヒト化VHHドメインをコードする核酸の発現によって;(4)任意の動物種、特にヒトなどの哺乳動物種由来の天然に存在するVHドメインの「ラクダ化」、又はそのようなラクダ化VHドメインをコードする核酸の発現によって;(5)当該技術分野で記載されているような「ドメイン抗体」又は「dAb」の「ラクダ化」によって、又はそのようなラクダ化dAbをコードする核酸の発現によって、用語「dAb」については、例えば、Ward et al. (Nature 1989 Oct. 12; 341 (6242): 544-6)、Holt et al., Trends Biotechnol., 2003, 21(11):484-490、並びにDomantis Ltdの例えばWO 06/030220、WO 06/003388及び他の公開特許出願を参照、単一ドメイン抗体又は単一可変ドメインは、特定の種のサメから誘導することができる(例えば、いわゆる「IgNARドメイン」、例えば国際特許出願WO 05/18629を参照);(6)タンパク質、ポリペプチド又は他の既知のアミノ酸配列を調製するための合成又は半合成技術を使用することによって;(7)既知の核酸合成技術を使用してNanobodyをコードする核酸を調製し、次いでこのようにして得られた核酸を発現させることによって;及び/又は(8)前述の1つ又は複数の任意の組み合わせによって、得られる免疫学的結合剤を包含する。本明細書で使用される「ラクダ科動物」は、旧世界ラクダ科動物(Camelus bactrianus及びCamelus dromaderius)及び新世界ラクダ科動物(例えば、Lama paccos、Lama glama及びLama vicugna)を含む。
【0122】
Nanobodyのアミノ酸配列及び構造は、4つのフレームワーク領域又は「FR」で構成される、ただし、これに限定されるものではないと考えることができ、これらは当技術分野及び本明細書においてそれぞれ「フレームワーク領域1」又は「FRl」;「フレームワーク領域2」又は「FR2」;「フレームワーク領域3」又は「FR3」;及び「フレームワーク領域4」又は「FR4」と称され;これらのフレームワーク領域は、3つの相補性決定領域又は「CDR」によって中断されており、これらの相補性決定領域は、当該技術分野において、それぞれ、「相補性決定領域1」又は「CDRl」、「相補性決定領域2」又は「CDR2」、及び「相補性決定領域3」又は「CDR3」と称される。Nanobodyのアミノ酸残基の総数は、110~120、好ましくは112~115の領域とすることができる。しかしながら、Nanobodyの部分、フラグメント、類似体又は誘導体は、そのような部分、フラグメント、類似体又は誘導体が本明細書に概説されるさらなる要件を満たし、好ましくは本明細書に記載される目的に適している限り、その長さ及び/又はサイズに関して特に限定されないことに留意すべきである。
【0123】
従来の4鎖抗体に存在する重鎖可変ドメイン(本明細書では「VHドメイン」と呼ぶ)、及び従来の4鎖抗体に存在する軽鎖可変ドメイン(本明細書では「VLドメイン」と呼ぶ)と区別するため、天然に存在する重鎖抗体に存在する可変ドメインは「VHHドメイン」とも呼ばれる。VHHドメインは、単離されたVHHドメイン(並びに、天然に存在するVHHドメインとこれらの構造的特性及び機能的特性を共有する、それを基にしたNanobodies)及び同じものを含むタンパク質を、機能的抗原結合性ドメイン又はタンパク質として使用するために非常に有利にする、多くの独自の構造的特性及び機能的特性を有する。特に、これに限定されるものではないが、VHHドメイン(軽鎖可変ドメインが存在せず、軽鎖可変ドメインとの相互作用がなくても抗原に機能的に結合するように自然界で「設計」されている)とNanobodiesは、単一の、比較的小さな、機能的な抗原結合構造単位、ドメイン又はタンパク質として機能することができる。これは、VHHドメインを従来の4鎖抗体のVHドメイン及びVLドメインと区別するものであり、それ自体では一般に単一の抗原結合性タンパク質又はドメインとして実用に適さず、機能的な抗原結合性ユニットを提供するために何らかの形で結合される必要がある(例えば、Fabフラグメントのような従来の抗体フラグメントのように;本明細書の他の箇所に記載されているように、VLドメインに共有結合したVHドメインからなるScFvフラグメントのように)。
例えば、機能的構成成分は、HER2を標的とするVHH、例えば2D3 VHH又は47D5 VHH、例えば、国際特許出願WO2009068625 A2に記載されているような2D3 VHH又は47D5 VHHを含むか、該VHHから本質的になるか、又は該VHHからなり得る。
【0124】
さらなる実施形態では、抗原結合性領域は、それぞれが異なる抗原又は抗原決定基に対して指向する少なくとも2つ(2つ、3つなど)の結合部位を含む多特異的抗体又は抗体フラグメント(二重特異性抗体、三重特異的抗体など)から得られる。
抗原結合性領域は、例えば、鳥類や哺乳類を含む、任意の動物種、好ましくは脊椎動物種由来の1つ以上の部分から由来する抗体又は抗体フラグメントから得てもよい。限定されないが、抗体は鶏、七面鳥、ガチョウ、アヒル、ホロホロチョウ、ウズラ、又はキジであってもよい。また、限定されないが、抗体は、ヒト、ネズミ系(例えば、マウス、ラットなど)、ブタ、ロバ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、モルモット、サル(例えば、カインクイザル)、ラクダ重鎖抗体を含むラクダ(例えば、Camelus bactrianus及びCamelus dromaderius)、ラクダ重鎖抗体を含むラマ(例えば、Lama paccos、Lama glama又はLama vicugna)、又はウマであってもよい。
【0125】
特定の実施形態では、抗原結合性領域はキメラ抗体又はキメラ抗体フラグメント、例えば少なくとも2つの動物種に由来するキメラ抗体又はキメラ抗体フラグメントから得てもよい。より具体的には、「キメラ抗体」という用語は、ある種の重鎖及び軽鎖可変領域配列と別の種の定常領域配列を含む抗体、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ウマ、ネコの定常領域と連結したマウス重鎖及び軽鎖可変領域を有する抗体などを指す。キメラ抗体は、重鎖及び/又は軽鎖のうち、特定の生物種由来の抗体又は特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体からの対応する配列と同一または相同な部分を含み、鎖の残りの部分は、別の生物種由来の抗体又は別の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体、並びにそのような抗体のフラグメントにおける対応する配列と同一又は相同な部分であり、所望の生物学的活性を示す(例えば、U.S. Pat. No. 4,816,567; and Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81 :6851-6855 (1984)参照)。キメラ抗体は、ある種、例えばマウスやサルのモノクローナル抗体のFv領域などの部分をコードするDNAと、別の種、例えばヒトの抗体産生DNAを結合させることによって作られる。
【0126】
特定の実施形態において、抗原結合性領域は完全ヒト抗体又は抗体フラグメントから得られる。本明細書では、「完全ヒト抗体」という用語は、コードする遺伝情報がヒト由来の抗体を指す。したがって、用語「完全ヒト抗体」は、ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列のみに由来する可変領域及び定常領域を有する抗体を指す。したがって、用語「完全ヒト抗体」には、マウスなど他の哺乳動物種の生殖細胞系列由来のCDR配列をヒトフレームワーク配列に移植した抗体は含まれない。
【0127】
特定の実施形態において、抗原結合性領域はヒト化抗体又は抗体フラグメントから得られる。より詳細には、「ヒト化抗体」という用語は、非ヒト種(例えば、マウス)由来の重鎖及び軽鎖可変領域配列を含むが、VH及び/又はVL配列の少なくとも一部がより「ヒト様」、すなわちヒト生殖系列可変配列により類似するように改変されている抗体を指す。ヒト化抗体の一種はCDRグラフト抗体で、非ヒトCDR配列がヒトのVH及びVL配列に導入され、対応するヒトCDR配列に置き換わる。
当業者は、抗体又は抗体フラグメントから得られる抗原結合性領域が、1つ以上のアミノ酸の欠失、付加及び/又は置換(例えば、保存的置換)を、そのような改変がそれぞれの抗原との結合を維持する限りにおいて、含み得ることを理解するであろう。
特定の実施形態において、機能的構成成分は、抗体様足場、ウイルスエンベロープタンパク質の細胞外ドメイン、抗原に対するレセプター若しくはリガンドの同族細胞外ドメイン又は前記レセプター若しくはリガンドの抗原結合性部分、可溶性レセプター、又は合成レセプターを含むか、本質的に構成されるか又は構成される。
【0128】
特定の実施形態において、機能的構成成分は1つ以上の抗体様足場を含む。
本明細書で使用する「抗体様足場」という用語は、分子をつなぎ合わせる安定な足場と、特定の標的に結合する可変アームを持ち、それによって抗体の一般的な構造と機能を模倣した合成又は天然の結合分子を指す。抗体様足場の非限定的な例としては、デザインされたアンキリンリピートタンパク質(DARPins)、アフィマー、モノボディなどがある。例えば、機能的構成成分は、参照により本明細書に組み込まれるWO2017172981A2に記載されるように、配列番号2294‐2295により定義されるアミノ酸配列を有するHER-2に指向されるダーピン、又は配列番号2297により定義されるアミノ酸配列を有するHER-2に指向されるアフィボディを含み得る。
【0129】
特定の実施形態において、機能的構成成分は、抗原のレセプター若しくはリガンドの同族細胞外ドメイン、又は前記レセプター若しくはリガンドの抗原結合性部分を含む。
レセプター又はリガンドに関して本明細書で使用される「同族」という用語は、標的分子が生理学的条件下、又は生理学的条件に実質的に近似したin vitro条件下で優先的に相互作用するレセプター又はリガンドを指す。本明細書で使用する場合、「優先的に相互作用する」という用語は、「優先的に結合する」と同義であり、対照と比較して統計的に有意に程度が大きい相互作用を指す。
【0130】
本明細書の他の箇所で抗体について述べられているように、「抗原結合性部分」又は「抗原結合性領域」という用語は、抗原に特異的に結合する能力を保持するレセプター又はリガンドの1つ以上のフラグメントを指す。
【0131】
レセプターは可溶性レセプター、例えば病原性微生物やトキシンと結合できる可溶性レセプターであってもよい。例えば、機能的構成成分は、IL-15を結合することができる可溶性IL-15レセプターα鎖(sIL15Ralpha)、又は補体レセプター1型(CR1、CD35)を含み得る。例えば、ヒトインターロイキン15と結合するヒトIL15レセプターα鎖のコドン最適化可溶性バージョン[UniProtKB - Q13261. 1 (I15RA_HUMAN) - 使用ドメイン:残基31~96]のBgl2(A/GATCT、アミノ酸RS)とBspE1(T/CCGGA、アミノ酸SG)制限部位間にまたがる、例えば、配列番号32により定義されるアミノ酸配列及び配列番号33により定義される核酸配列を有する可溶性IL-15レセプターα鎖が挙げられる。
【0132】
CR1は膜アンカー型補体調節タンパク質(mCRP)である。CR1は最も汎用性の高いmCRPである。CR1はC3bとC4bの沈着を減少させ、結合したC3b/C4bをC3d/C4dに不活化する。ポドサイトにおけるCR1発現の消失は、腎臓における補体介在性障害に寄与し得る。C4bp β鎖のC末端フラグメントの上流に可溶性CR1をコードする遺伝子をクローニングし、C4bp β鎖のC末端フラグメントの下流にターゲティング部分をコードする遺伝子をクローニングすることにより、二量体タンパク質複合体を設計することができる。この複合体は、補体の活性化を局所的に誘導し得る標的膜表面に選択的に蓄積する可溶性補体阻害剤を生成する。このような複合体は、「補体スイッチオフ戦略」又は保護細胞標的化アプローチとも呼ばれる。
リガンドは、サイトカイン、成長因子、又は生体内免疫応答を調節することができるレセプターのアゴニスト又はアンタゴニストとして作用するリガンドであり得る。
【0133】
特定の実施形態において、機能的構成成分は、ウイルスエンベロープタンパク質の細胞外ドメインを含むか、該細胞外ドメインから本質的になるか、又は該細胞外ドメインからなる。
【0134】
特定の実施形態において、機能的構成成分は合成レセプターを含む。「合成レセプター」又は「組換えレセプター」という用語は、自然界に存在せず人工的に作り出したレセプターを指す。例えば、ポリペプチドの配列は、実験室で人が意図的に改変することができる。
機能的構成成分が、抗原に特異的な抗体の単鎖可変フラグメント(scFv)又は重鎖抗体の単一ドメイン可変フラグメント(VHH)、抗体様足場、抗原の同族レセプター若しくはリガンド、又は前記レセプター若しくはリガンドの抗原結合性部分、又は目的の抗原に特異的に結合することが知られている合成レセプターを含む場合、TSAやTAA、ウイルス抗原やウイルス関連抗原など、目的の抗原に結合するそのような機能的構成成分の能力は、抗原に特異的なscFvやVHH、抗体様足場、抗原の同族レセプター若しくはリガンド又は前記レセプター若しくはリガンドの抗原結合性部分、可溶性レセプター、又は合成レセプターの能力と有意に類似又は同等である。
【0135】
特定の実施形態において、前記結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)は、腫瘍抗原、病原体抗原、活性化NK細胞レセプター、サイトカイン、トキシン又はコンタミナントに特異的に結合する。特定の実施形態において、前記結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)が、腫瘍特異的抗原(TSA)、腫瘍関連抗原(TAA)、細菌性抗原、ウイルス性抗原若しくはウイルス関連抗原、真菌性抗原、活性化NK細胞レセプター、サイトカイン、トキシン又はコンタミナントに特異的に結合する。
【0136】
本明細書で使用する「腫瘍抗原」という用語は、宿主の免疫反応を引き起こすことができる腫瘍細胞で産生される抗原性物質を指す。「腫瘍特異抗原」という用語は、腫瘍細胞上に存在し、他の細胞上には存在しない抗原を指す。「腫瘍関連抗原」という用語は、腫瘍細胞や正常細胞上に存在する抗原を指す。TSA及び/又はTAAの非限定的な例としては、CD19、CD319/CS1、ROR1、CD20、CD5、CD7、CD22、CD70、CD30、BCMA、CD25、NKG2Dリガンド、MICA/MICB、カルチノエンブリオニック抗原(CEA)、アルファフェトプロテイン(AFP)、CA-125、MUC-1、CO17-1A、メラノーマ関連抗原(MAGE)、変異p53、変異ras、HER2/Neu、ERBB2、葉酸結合性タンパク質、GD2、CD123、CD33、CD37、CD30、CD56、c-Met、メソセリン(MSLN)、GD3、HERV-K、IL-11Rα、CSPG4、WT-1、EGFRvIII、TRAIL/DR4、VEGFR2、糖タンパク質100(gp100/Pme117)、NY-BR-1、NY-CO-58、NY-ESO-1、MART1、5T4、αvβ6インテグリン、B7-H3、B7-H6、CAIX、CD20、CD44、CD44v6、CD44v7/8、CD79a、CD79b、CD138、CD171、CEA、CSPG4、EGFR、EGFR族、EGP2、EGP40、EPCAM、EphA2、EpCAM、FAP、胎児AchR、FRα、グリピカン-3(GPC3)、HLA-A1+MAGE1、HLA-A2+MAGE1、HLA-A3+MAGE1、HLA-A1+NY-ESO-1、HLA-A2+NY-ESO-1、HLA-A3+NY-ESO-1、IL-13Rα2、Lambda、Lewis-Y、Kappa、メソセリン、Muc16、NCAM、PRAME、PSCA、PSMA、SSX、Survivin、TAG72、又はTEMが挙げられる。
【0137】
本明細書中で使用されているタンパク質の略号に関するタンパク質の説明は、米国政府の国立生物工学情報センター(NCBI)のタンパク質データベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)又はUniProtのホームページ(https://www.uniprot.org/)から参照できる。
【0138】
特定の実施形態において、TSA又はTAAはヒト上皮成長因子レセプター2(HER2)である。例として、HER2はUniprot(www.uniprot.org)のアクセッション番号P04626.1で注釈されているヒトHER2である。
【0139】
特定の実施形態において、細菌抗原は緑膿菌のPcrV又はPslである。
【0140】
特定の実施形態において、ウイルス抗原又はウイルス関連抗原は、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)抗原、gp160、C型肝炎ウイルス(HCV)抗原、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)抗原、リゾチーム(LYZ)、pp50、Tat、VSV8、エプスタイン・バーウイルス(EBV)抗原、gp33、肝炎デルタウイルス(HDV)、インフルエンザウイルス、nef、pp65、結核抗原、gag、B型肝炎ウイルス(HBV)抗原、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)抗原、LMP2、p21タンパク質、重症急性呼吸器症候群(SARS)-CoV抗原、及びvprからなる群より選択される。
【0141】
特定の実施形態において、真菌抗原は、アスペルギルス属抗原である。
【0142】
特定の実施形態において、前記活性化NK細胞レセプターは、天然細胞毒性レセプター(NCR)、NKG2D、NKG2A、キラー免疫グロブリン様レセプター(KIR)、又はSLAMF7(CRACC)である。
例として、ヒトNCR1はUniprot(www.uniprot.org)のアクセッション番号O76036.1で注釈されている通りであり、ヒトNKG2DはUniprot(www.uniprot.org)のアクセッション番号P26718.1で注釈されている通りであり、ヒトNKG2AはUniprot(www.uniprot.org)のアクセッション番号P26715.2で注釈されている通りであり、ヒトKIRはUniprot(www.uniprot.org)のアクセッション番号Q99706.3、Q8N743.2又はP43628.1で注釈されている通りであり、ヒトSLAMF7はUniprot(www.uniprot.org)のアクセッション番号Q9NQ25.1で注釈されている通りである。
【0143】
特定の実施形態において、前記結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)は、活性化NK細胞レセプターに拮抗(すなわち阻害)することができる。活性化NK細胞レセプターに特異的に結合し拮抗する結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)を含むか、該結合性ドメインから本質的になるか、又は該結合性ドメインからなる機能的構成成分を含む、本明細書で教示されるような二量体タンパク質複合体を、NK細胞を活性化するために使用し得る。
【0144】
特定の実施形態において、サイトカインはIL-15である。
【0145】
特定の実施形態において、トキシンは、ロクソセレス・インターメディア又はドクイトグモ由来のスフィンゴミエリナーゼ-D(SmaseD)である。トキシンに特異的に結合する結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)を含むか、該結合性ドメインから本質的になるか、又は該結合性ドメインからなる機能的構成成分を含む、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体は、このトキシンの毒性活性を中和するために使用され得る。
【0146】
特定の実施形態において、前記第1、前記第2、前記第3及び/又は前記第4の機能的構成成分は、組換えウイルス構造タンパク質、例えばウイルス様粒子(VLP)のための組換えウイルス構造タンパク質を含むか、該組換えウイルス構造タンパク質から本質的になるか、又は該組換えウイルス構造タンパク質からなる。
【0147】
特定の実施形態において、前記第1、前記第2、前記第3及び/又は前記第4の機能的構成成分は、ロクソセレス・インターメディア又はドクイトグモ由来のスフィンゴミエリナーゼ-D(SmaseD)のような細胞毒性剤を含む。ロクソセレス・インターメディア由来のSmaseDを機能的構成成分として含み、さらに結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)を含む機能的構成成分を更なる機能的構成成分として含む二量体タンパク質複合体は、標的細胞の細胞表面にトキシンが蓄積する結果、標的細胞を死滅させるために使用され得る。
特定の実施形態において、前記第1、前記第2、前記第3又は前記第4の機能的構成成分の1つは、活性化NK細胞レセプターに特異的に結合する結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)を含み、活性化NK細胞レセプターへの結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)の結合は、NK細胞を活性化することが可能であり、ここで、前記第1、前記第2、前記第3又は前記第4の機能的構成成分の少なくとも2つ、例えば2つ又は3つが、TSA、TAA、細菌抗原、ウイルス抗原、ウイルス関連抗原又は真菌抗原に特異的に結合する結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)を含む。このような二量体タンパク質複合体を、本明細書では「BiKE」と呼ぶ。
【0148】
特定の実施形態において、前記第1、前記第2、前記第3又は前記第4の機能的構成成分のうちの2つは、活性化NK細胞レセプターに特異的に結合する結合性ドメイン(例えば抗原認識ドメイン)を含み、結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)の活性化NK細胞レセプターへの結合は、NK細胞を活性化することが可能であり、ここで、前記第1、前記第2、前記第3又は前記第4の機能的構成成分のうちの2つは、TSA、TAA、細菌抗原、ウイルス抗原、ウイルス関連抗原又は真菌抗原に特異的に結合する結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)を含む。好ましくは、活性化NK細胞レセプターに特異的に結合する前記2つの結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)はそれぞれ異なり、より好ましくは、それぞれが異なる活性化NK細胞レセプターに特異的に結合する。このような二量体タンパク質複合体を、本明細書では「TriKE」と呼ぶ。
【0149】
特定の実施形態において、前記第1、前記第2、前記第3又は前記第4の機能的構成成分のうちの3つは、活性化NK細胞レセプターに特異的に結合する結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)を含み、結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)の活性化NK細胞レセプターへの結合は、NK細胞を活性化することが可能であり、ここで、前記第1、前記第2、前記第3又は前記第4の機能的構成成分のうちの1つは、TSA、TAA、細菌抗原、ウイルス抗原、ウイルス関連抗原又は真菌抗原に特異的に結合する結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)を含む。好ましくは、活性化NK細胞レセプターに特異的に結合する前記3つの結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)はそれぞれ異なり、より好ましくは、それぞれが異なる活性化NK細胞レセプターに特異的に結合する。
TSA、TAA、細菌抗原、ウイルス抗原、ウイルス関連抗原又は真菌抗原に特異的に結合する前記少なくとも2つ、2つ又は3つの結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)は、それぞれ、同じ病原体又は腫瘍の表面上に存在する同じリガンド/レセプターの異なるエピトープ、同じ病原体又は腫瘍上の異なるリガンド/レセプター、又は異なる病原体又は腫瘍上の異なるリガンド/レセプターを認識し得る。
【0150】
特定の実施形態において、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体の第1及び/又は第2の機能的構成成分は、単量体Fcのような、主要な生物学的活性ドメインがそのC末端に位置する分子又はそのフラグメント、好ましくはペプチドを含むか、該分子又はそのフラグメントから本質的になるか、又は該分子又はそのフラグメントからなる。好ましくは、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体の第1及び/又は第2の機能的構成成分は、糖タンパク質のような、主な生物学的活性ドメインがそのN末端に位置する分子又はそのフラグメント、好ましくはペプチドを含まないか、該分子又はそのフラグメントから本質的になるか、又は該分子又はそのフラグメントからなる。或いは、主な生物学的活性ドメインがN末端に位置する分子とC4bp β鎖のC末端部分との間に、分子の生物学的活性ドメインをC4bp β鎖のC末端部分から遠ざけるために、柔軟なリンカー又は剛性のスペーサーを導入することもできる。
本明細書の他の箇所に記載されているように、本発明者らはまた、単量体Fc、好ましくはIgGのヒンジ、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含むIgGの単量体Fcを、二量体タンパク質複合体の第1及び第2のポリペプチドの両方のC4bp β鎖のC末端フラグメントの下流(C末端側)に含めることによって、2つの単量体Fcによって形成される二量体Fcの、(i)補体系及び標的へのC3b沈着を活性化し、(ii)NK細胞及び抗体依存性細胞媒介性細胞毒性(ADCC)/補体依存性細胞毒性(CDCC)を活性化し、(iii)従来の治療用抗体と比較してマクロファージ及びマクロファージが介在する標的細胞の貪食作用を活性化する能力が予想外に増強されることを見出した。これらの強化された能力は、本明細書で教示されるように、第1及び第2の機能的構成成分が単量体Fcである二量体タンパク質複合体において作られる二重ヒンジ(すなわち、FcヒンジとFcヒンジのN末端側にあるC4bp β鎖ヒンジの存在)の結果である。さらに、このような二量体タンパク質複合体は、抗体よりも簡単な方法で製造することができる。抗体は典型的には2つの別々の構築物である、(i)軽鎖をコードするもの(VL、CL)及び(ii)重鎖をコードするもの(VH、CH1、ヒンジ、CH2、CH3)を用いて産生され、本明細書で教示されるように、第1及び第2の機能的構成成分が単量体Fcである二量体タンパク質複合体に関しては、C4bp β鎖のC末端部分を含むポリペプチドをコードする単一の構築物を使用することができ、したがって、宿主細胞へのトランスフェクションは1回のみでよい。また、本明細書で教示されるように、第1及び第2の機能的構成成分が単量体Fcである二量体タンパク質複合体は、全体的なサイズが従来のIgG1抗体よりも小さい(例えば、約130 kDa、一方、IgG1抗体のMWは典型的には約150 kDaである)。
【0151】
特定の実施形態において、前記第1、前記第2、前記第3及び/又は前記第4の機能的構成成分は、単量体Fcを含むか、該単量体Fcから本質的になるか、又は該単量体Fcからなる。
特定の実施形態において、前記第1及び第2の機能的構成成分は単量体Fc(本明細書ではFcドメインとも呼ばれる)を含むか、該単量体Fcから本質的になるか、又は該単量体Fcからなり;第1のポリペプチド中の単量体Fcのヒンジ領域は、第2のポリペプチド中の単量体Fcのヒンジ領域に、少なくとも2つのジスルフィド結合により接続し;
第3及び/又は第4の機能的構成成分は、結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)を含む。
【0152】
特定の実施形態において、第1及び第2の機能的構成成分は、同一の単量体Fcを含むか、該同一の単量体Fcから本質的になるか、又は該同一の単量体Fcからなる。
【0153】
特定の実施形態において、第3及び/又は第4の機能的構成成分は、単量体Fcの生物学的機能を阻害しない。
【0154】
特定の実施形態において、第1及び第2のポリペプチド中の単量体Fcは、C4bp β鎖のC末端部分のすぐC末端側に結合しており、これは、単量体FcとC4bp β鎖のC末端部分との間にリンカーが存在しないことを意味する。
単量体Fcは、公知の治療用抗体又はそのフラグメントなど、公知の抗体又はそのフラグメントに由来し得る。したがって、特定の実施形態において、本明細書で教示されるような二量体タンパク質複合体は、Fcの配列を改変することなく、抗体又はそのフラグメントのFcの生物学的機能を改善することを可能にする。特定の実施形態において、単量体Fcは、ヒンジ(本明細書においてヒンジ領域又はヒンジドメインとも呼ばれる)、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む。特定の実施形態において、単量体Fcは、IgGのヒンジ(本明細書においてヒンジ領域又はヒンジドメインとも呼ばれる)、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含むIgGの単量体Fcである。好ましい実施形態において、単量体Fcは、IgG1のヒンジ(すなわち、ヒンジ領域)、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含むか、該ヒンジ、該CH2ドメイン及び該CH3ドメインから本質的になるか、又は該ヒンジ、該CH2ドメイン及び該CH3ドメインからなるIgG1の単量体Fcである。例えば、単量体Fcは、アミノ酸配列EPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEW(配列番号34)を含むか、該アミノ酸配列から本質的になるか、又は該アミノ酸配列からなり得る。
【0155】
特定の実施形態において、参照により本明細書に組み込まれる国際特許出願WO2013097430に記載されるようなknob-into-hole技術を、例えば図21に示されるような単量体Fcに適用してもよい。例えば、二量体タンパク質複合体の第1のポリペプチドによって構成されるCH3 Fc IgG1は、Fc[knob]としても知られる3つの変異(S354C、T366W及びK409A)を示すことがあり、二量体タンパク質複合体の第2のポリペプチドによって構成されるCH3 Fc IgG1は、5つの変異(Y349C、T366S、L368A、F405K及びY407V)を示すことがある。特定の実施形態において、第3の機能的構成成分は結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)を含むか、該結合性ドメインから本質的になるか、又は該結合性ドメインからなり、第4の機能的構成成分は結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)を含むか、該結合性ドメインから本質的になるか、又は該結合性ドメインからなり、結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)は異なるので、二重特異性擬似IgGと呼ばれることがある。二重特異性擬似IgGは、標的細胞とエフェクター細胞のような2つの異なるタイプの細胞を架橋することができる。
【0156】
特定の実施形態において、第1及び第2の機能的構成成分は、単量体Fc(本明細書においてFcドメインとも称される)を含むか、該単量体Fcから本質的になるか、又は該単量体Fcからなり、第1のポリペプチドにおける単量体Fcのヒンジ領域は、少なくとも2つのジスルフィド結合によって第2のポリペプチドにおける単量体Fcのヒンジ領域に連結され、第3及び/又は第4の機能的構成成分は、
CD20抗原に特異的に結合するscFv(例えば、リツキシマブ、又はオファツムマブに由来するscFv)、HER2に特異的に結合するscFv又はVHH(例えば、2D3 VHH、47D5 VHH抗HER、又はトラスツズマブに由来するscFv)のような、本明細書の他の箇所に記載されるようなscFv又はVHH、緑膿菌に特異的に結合するscFv(例えば、パノバクマブ由来のscFv抗緑膿菌、scFv抗PcrV又はscFv抗Psl)、NKG2Aに特異的に結合するscFv、SLAMF7に特異的に結合するscFv、又はNKG2Dに特異的に結合するscFvを含むか、該scFv又は該VHHから本質的になるか、又は該scFv又は該VHHからなる。以下の表1に示されているように、多数の組み合わせが可能であり、それによって二重特異性擬似IgGを作り出すことができる。
【表1】
【0157】
例えば、本明細書で含まれる二量体タンパク質複合体の第1及び第2のポリペプチドは、CD20に特異的に結合するコドン最適化RTX scFv擬似IgGを含んでもよく、アミノ酸配列は:
【化1】
(配列番号35)であり;
及び/又は核酸配列:
【化2】
(配列番号36)によってコードされる。
【0158】
シグナルペプチド(配列番号36で定義される配列の最初の太字配列)は、EcoRI(GAATTC又はNS)とBgl2(AGATCT又はRS)制限部位の間にクローニングされ、腫瘍壊死因子レセプター超族メンバー16(TNFR16)からのシグナル配列である(UniProt番号P08138.1)。RTX scFvをコードする配列は、Bgl2(AGATCT又はRS)とBspE1(TCCGGA又はSG)制限部位の間にある。リンカーをコードする配列は、BspE1制限部位とC4bp C末端β鎖の始まり(配列番号36で定義される配列の2番目の太字配列)との間にある。リンカー.C4bp β.Fcをコードする配列は、BspE1と停止コドンTGA(.)の間にあり、NotI(GCGGCCGC)で終わる多重クローニング配列が続く。C4bp β鎖二量体化足場のC末端部分又はフラグメントをコードする配列は、配列番号36で定義される配列の最初の下線を引いた配列である。Fc IgG1のヒンジをコードする配列はイタリック体で示されている。CH2 Fc IgG1をコードする配列は、配列番号36で定義される配列の2番目の下線を引いた配列である。CH3 Fc IgG1をコードする配列は、配列番号36で定義される配列の3番目の太字配列である。
【0159】
好ましくは、本明細書で教示される「擬似IgG」は、EcoRI(G/AATTC)とNotIとの間にまたがる単量体Fcをコードするカセットを含む核酸配列によってコードされる。このような例示的な擬似IgGのC4bp β鎖のC末端部分のN末端側に位置する他の機能的構成成分をコードする遺伝子は交換可能であり、好ましくは制限部位Bgl2(A/GATCT)とBspE1の間に位置し、制限部位と目的の遺伝子は上記配列に描かれているように同じオープンリーディングフレーム内にある。
【0160】
本発明者らはまた、欧州特許EP2235064B1又は国際特許出願WO2013097430(これらは参照により本明細書に組み込まれる)に記載されているような、以前に記載された「knob-into-hole技術」が、本明細書に記載されているような擬似IgGに適用できることを見出した。「knob-into-hole技術」は、二量体タンパク質複合体の複数の異なる分子種を分離するための精製工程を使用することなく、本明細書で教示されるような二量体タンパク質複合体からなる単一分子種を100%生成することを可能にする。
例えば、knob-into-hole技術は、(i)BspE1(T/CCGGA)と停止コドンTGAとの間のリンカー.C4bpβ.Fcをコードするコドン最適化配列を含む核酸配列によってコードされ、任意選択でNotI(GC/GGCCGC)で終わる多重クローニング部位が続き、そのコードされるCH3 Fc IgG1が3つのアミノ酸変異(S354C、T366W及びK409A)を示し、Fc[knob]としても知られ、配列番号38で定義されるような及び/又は配列番号37で定義されるようなアミノ酸配列をコードする核酸配列を含むか、該核酸配列から本質的になるか、又は該核酸配列からなる、第1のポリペプチド、及び(ii)BspE1と停止コドンTGAとの間のリンカー.C4bpβ.Fcをコードするコドン最適化配列を含む核酸配列によってコードされ、任意選択でNotIで終わる多重クローニング部位が続き、そのコードされるCH3 Fc IgG1が5つのアミノ酸変異(Y349C、T366S、L368A、F405K及びY407V)を示し、Fc[hole]としても知られ、国際特許出願WO2013097430に記載されているような、第2のポリペプチドであって、配列番号40で定義されるような及び/又は配列番号39で定義されるようなアミノ酸配列をコードする核酸配列含むか、該核酸配列から本質的になるか、又は該核酸配列からなる、第2のポリペプチドを含む二量体タンパク質複合体(図21)を生成するために使用され得る。
【0161】
特定の実施形態において、機能的構成成分はタグであってもよい。
【0162】
特定の実施形態において、第1及び/又は第2のポリペプチドは、第5及び/又は第6の機能的構成成分を含み、前記第5及び/又は第6の機能的構成成分はタグである。特定の実施形態において、第1及び/又は第2のポリペプチドが、C4bp β鎖のC末端フラグメントのN末端及び/又はC末端側に2つの機能的構成成分を含む場合、これら2つの機能的構成成分のうちの1つはタグであってもよい。
【0163】
特定の実施形態において、タグは、シグナルペプチドの直後、C4bp β鎖のC末端フラグメントのすぐN末端若しくはC末端、又は第1及び/若しくは第2のポリペプチドのC末端に位置し得る。
タグは、精製(例えば、ポリ(His)タグ)、タンパク質の適切なフォールディングの補助(例えば、チオレドキシン)、分離技術(例えば、FLAGタグ)、酵素的又は化学的修飾(例えば、ビオチンリガーゼタグ、FIAsH)、又は検出(例えば、追跡又は可視化)など、さまざまな目的でタンパク質に付することができる。検出用のタグは、通常、タグと結合又は相互作用する標識抗体又は他のタンパク質若しくは分子による検出を通じて、直接的又は間接的に可視化することができる。このようなタグの例としては、Aviタグ、カルモジュリンタグ、ポリグルタミン酸タグ、Eタグ、EEタグ、EPEA/Cタグ、FLAGタグ、HAタグ、Hisタグ、Mycタグ(例えば、c-mycタグ)、HSVエピトープ、HAT、Sタグ、SBPタグ、Sofタグ1、Sofタグ3、Strepタグ、TCタグ、V5タグ、VSVタグ、Xpressタグ、Isopepタグ、Spyタグ、ビオチンカルボキシルキャリアタンパク質、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)タグ、緑色蛍光タンパク質タグ、Haloタグ、マルトース結合性タンパク質(MSB)タグ、Nusタグ、チオレドキシンタグ又はFcタグが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書で使用する「タグ」という用語は、蛍光タンパク質(eGFP、eRFP、Cherry)、磁気ビーズ、標識アビジン又はストレプトアビジン結合体で染色するためのビオチン、酵素、基質、補酵素、化学発光基(例えば、ナノルシフェラーゼ)、発色剤、比色標識、分子イメージングプローブ(例えば、18F、11C、又は64Cu、99mTc、酸化鉄ナノ粒子、又はルシフェラーゼ)などの他の追跡成分も包含する。
好ましくは、タグはペプチド、タンパク質又はポリペプチドである。特定の実施形態において、タグは、多くとも10アミノ酸のアミノ酸配列を有するペプチド、タンパク質又はポリペプチドである。特定の実施形態において、タグはタンパク質精製タグ又はタンパク質分離タグである。より好ましくは、タグはFLAGタグ、Hisタグ、HAタグ又はMycタグである。
【0164】
特定の実施形態において、第1及び/又は第2のポリペプチドは、第2及び/又は第2の機能的構成成分のC末端側にタグを含む。
蛍光部分の存在が好ましくないヒトにおける治療的使用のためには、二量体タンパク質複合体の精製後に前記タグを除去するために、第1又は第2のポリペプチド内のタグの位置に応じて、タグのN末端側又はC末端側にタンパク質分解切断部位を導入することができる。
【0165】
特定の実施形態において、タンパク質分解切断部位がタグのすぐN末端側に含まれる。その結果、タンパク質分解切断部位は、第1又は第2の機能的構成成分とタグとの間に位置することを当業者は理解するであろう。
このような切断部位の例は当技術分野でよく知られており、例えば、アミノ酸配列ENLYFQ/G(配列番号41)を含むようなタバコエッチウイルス(TEV)プロテアーゼ切断可能部位、又はアミノ酸配列LEVLFQ/GP(配列番号42)を含むようなヒトライノウイルス(HRV)3Cプロテアーゼ切断可能部位が挙げられ(ここで、「/」は切断されるペプチド結合を表す)、本発明の構築物に導入する方法、又はタンパク質部分を放出するために使用する方法がある。
好ましくは、タンパク質分解切断部位は、アミノ酸配列ENLYFQ/G(配列番号41)を含むようなTEFプロテアーゼ切断可能部位、又はアミノ酸配列LEVLFQ/GP(配列番号42)を含むようなHRV 3Cプロテアーゼ切断可能部位である。
さらなる態様は、第1の機能的構成成分及びC4bp β鎖のC末端フラグメントを含み、前記第1の機能的構成成分は、本明細書において定義されるように、前記C4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端に結合している、二量体タンパク質複合体の第1のポリペプチドをコードする核酸を提供する。
【0166】
さらなる態様は、第2の機能的構成成分及びC4bp β鎖のC末端フラグメントを含み、前記第2の機能的構成成分は、本明細書において定義されるように、前記C4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端に結合している、第2のポリペプチドをコードする核酸を提供する。
特定の実施形態において、第1のポリペプチドをコードする核酸及び第2のポリペプチドをコードする核酸は、別々のシストロン中にあるか、又はマルチシストロン構築物中にある。
【0167】
従って、さらなる態様は、第1の機能的構成成分とC4bp β鎖のC末端フラグメントとを含む二量体タンパク質複合体の第1のポリペプチドをコードする核酸を提供し、ここで、前記第1の機能的構成成分は、C4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端に結合され、第2の機能的構成成分及びC4bp β鎖のC末端フラグメントを含む第2のポリペプチドをコードし、ここで、前記第2の機能的構成成分は、本明細書において定義されるように、C4bp β鎖の前記C末端フラグメントのC末端に結合される。
「コードする」とは、核酸配列又はその一部が、特定のアミノ酸配列、例えば、1つ以上の所望のタンパク質又はポリペプチドのアミノ酸配列、又は鋳型転写産物(例えば、RNA又はRNAアナログ)関係の別の核酸配列に対応することを意味する。
【0168】
特定の実施形態において、第1、第2、第3及び/又は第4の機能的構成成分をコードする核酸は、コドン最適化されている。
【0169】
特定の実施形態において、scFvをコードする核酸などの第1及び第2の機能的構成成分をコードする核酸は、Bgl2(A/GATCT、アミノ酸RS)及びBspE1(T/CCGGA、アミノ酸SG)制限部位間にまたがる。
【0170】
特定の実施形態において、第1のポリペプチドをコードする核酸及び第2のポリペプチドをコードする核酸は、シグナルペプチドをコードする核酸を含む。
【0171】
特定の実施形態において、第1のポリペプチドをコードする核酸及び第2のポリペプチドをコードする核酸は、C4bp β鎖のC末端フラグメントをコードする核酸の5'(又は上流)にシグナルペプチドをコードする核酸を含む。第1のポリペプチドをコードする核酸が、C4bp β鎖のC末端フラグメントをコードする核酸の5'に位置する第3の機能的構成成分をコードする核酸を含む場合、シグナルペプチドをコードする核酸は、当該第3の機能的構成成分をコードする当該核酸の5'に位置することを、当業者は理解するであろう。同様に、第2のポリペプチドをコードする核酸が、C4bp β鎖のC末端フラグメントをコードする核酸の5'に位置する第4の機能的構成成分をコードする核酸を含む場合、シグナルペプチドをコードする核酸は、前記第4の機能的構成成分をコードする当該核酸の5'に位置する。
【0172】
さらに、第1のポリペプチドをコードする核酸が、第3の機能的構成成分をコードする核酸の5'及び/又はC4bp β鎖のC末端フラグメントをコードする核酸の5'のタグをコードする核酸を含む場合、シグナルペプチドをコードする核酸は、当該タグをコードする当該核酸の5'に位置することも、当業者は理解するであろう。同様に、第2のポリペプチドをコードする核酸が、第4の機能的構成成分をコードする核酸の5'及び/又はC4bp β鎖のC末端フラグメントをコードする核酸の5'のタグをコードする核酸を含む場合、シグナルペプチドをコードする核酸は、当該タグをコードする当該核酸の5'に位置する。
シグナルペプチドは、本明細書で教示されるような薬剤の生産に使用される宿主細胞に応じて、同種又は異種のシグナルペプチドであり得る。好ましくは、核酸は、アミノ酸配列LNGFR(配列番号42)を有するシグナルペプチドをコードする。
【0173】
本明細書で教示される二量体タンパク質複合体の第1及び/又は第2のポリペプチドの発現後、シグナルペプチドは、典型的には、その機能を果たした後に切断され、典型的には、第1及び/又は第2のポリペプチドの「成熟」形態が生じる。シグナルペプチドを含む第1及び/又は第2のポリペプチドは、それぞれ第1及び/又は第2のポリペプチドの前駆体と呼ばれることがある。
本明細書で教示される二量体タンパク質複合体の第1及び/又は第2のポリペプチドは、シグナルペプチドとC4bp β鎖のC末端フラグメントとの間に1つ以上の制限部位を含んでもよい。
本明細書で定義される第1及び/又は第2のポリペプチドをコードする核酸の発現を可能にするために、核酸は、当技術分野で周知のように、核酸発現カセット及び/又はベクターに挿入され得る。
【0174】
さらなる態様は、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体の第1のポリペプチド又は二量体タンパク質複合体の第2のポリペプチドをコードする核酸を含む発現カセットを提供し、好ましくは、第1のポリペプチドをコードする核酸又は第2のポリペプチドをコードする核酸は、プロモーター及び/又は転写調節シグナル及び翻訳調節シグナルに作動可能に連結される。
【0175】
本明細書で使用する「核酸発現カセット」又は「発現カセット」という用語は、核酸フラグメント、好ましくは本明細書で定義する組換え核酸分子が発現されるように挿入され得る核酸分子、典型的にはDNAを指し、当該核酸分子は、核酸フラグメントの発現を制御する1つ以上の核酸配列を含む。核酸フラグメントの発現を制御するこのようなより多くの核酸配列の非限定的な例としては、プロモーター配列、オープンリーディングフレーム及び転写ターミネーターが挙げられる。
好ましくは、核酸発現カセットは、当該1つ以上のポリペプチドをコードする1つ以上のオープンリーディングフレーム(ORF)を含み得る。「オープンリーディングフレーム」又は「ORF」とは、翻訳開始コドンから始まり、それ自体周知の翻訳終止コドンで閉じ、フレーム内の翻訳終止コドンを含まず、タンパク質、ポリペプチド又はペプチドをコードできる可能性のある、コード化ヌクレオチド三重鎖(コドン)の連続を指す。したがって、この用語は、当該技術分野で使用される「コード配列」と同義であり得る。
【0176】
「操作可能な連結」とは、制御配列と発現させようとする配列が、当該発現を可能にするような方法で連結されている連結のことである。例えば、プロモーター及びORFのような配列は、前記配列間の連結の性質が:(1)フレームシフト変異の導入をもたらす、(2)ORFの転写を指示するプロモーターの能力を阻害する、(3)ORFがプロモーター配列から転写される能力を阻害するのでなければ、作動可能に連結されていると言われ得る。したがって、「作動可能に連結された」とは、プロモーターなどの発現制御配列が、目的の配列の転写/発現を効果的に制御するように、遺伝子構築物に組み込まれることを意味する。
【0177】
発現に必要な転写及び翻訳調節配列又はエレメントの正確な性質は、発現環境によって異なるかもしれないが、典型的には転写ターミネーター、及び任意でエンハンサーを含む。
「プロモーター」への言及は、その最も広い文脈で捉えられ、正確な転写開始、及び該当する場合には、遺伝子発現の正確な空間的及び/又は時間的制御、或いは、例えば内部又は外部(例えば、外因性)の刺激に対する応答に必要な転写調節配列を含む。より詳細には、「プロモーター」は、核酸分子、好ましくはDNA分子上の、RNAポリメラーゼが結合して転写を開始する領域を示し得る。プロモーターは、その転写を制御する配列の上流、すなわち5'に位置することが好ましいが、必ずしもそうではない。典型的には、原核生物においてプロモーター領域は、プロモーター自体と、RNAに転写されるとタンパク質合成の開始を知らせる配列(例えば、シャイン-ダルガーノ配列)の両方を含むことがある。プロモーター配列はまた、遺伝子クラスター内の遺伝子の転写レベルを高めるために、タンパク質(すなわち、トランス作用因子)と結合することができるDNAの1つ以上の領域である「エンハンサー領域」を含むことができる。エンハンサーは、典型的にはコード領域の5'末端に存在するが、プロモーター配列とは別に存在することもでき、例えば、遺伝子のイントロン領域内又は遺伝子のコード領域の3'に存在することができる。
【0178】
実施形態において、本明細書において企図されるプロモーターは、構成的又は誘導的であり得る。構成的プロモーターとは、標準的な培養条件下で発現が一定であるプロモーターと理解される。誘導性プロモーターとは、1つ以上の誘導の合図に反応するプロモーターのことである。例えば、誘導性プロモーターは、化学的に制御されるか(例えば、転写活性がアルコール、テトラサイクリン、ステロイド、金属、又は他の小分子のような化学的誘導剤の存在又は非存在によって制御されるプロモーター)、又は物理的に制御される(例えば、転写活性が光又は高温又は低温のような物理的誘導剤の存在又は非存在によって制御されるプロモーター)。誘導性プロモーターはまた、それ自体が化学的又は物理的な合図によって直接制御される1つ以上の転写因子によって間接的に制御されることもある。プロモーターの非限定的な例としては、T7、U6、H1、レトロウイルスのラス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、SV40プロモーター、ジヒドロ葉酸レダクターゼプロモーター、β-アクチンプロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター、及びEF1αプロモーターなどが挙げられる。
「ターミネーター」又は「転写ターミネーター」という用語は、一般に転写の終結を知らせる転写ユニットの末端の配列要素を指す。例えば、ターミネーターは通常、目的のポリペプチドをコードするORFの下流、すなわち3’に配置される。例えば、組換え核酸が2つ以上のORFを含む、例えば、連続して並び、マルチシストロニック転写ユニットを共に形成する場合、転写ターミネーターは有利には最も下流のORFの3'に配置され得る。
【0179】
特定の実施形態において、発現カセットは、1つ以上のプロモーター、エンハンサー、ORF及び/又は転写ターミネーターに作動可能に連結された、本明細書に開示されるような第1又は第2のポリペプチドをコードする核酸を含む。
さらなる態様は、本明細書で教示される核酸(すなわち、二量体タンパク質複合体の第1及び/又は第2のポリペプチドをコードする核酸)又は本明細書で教示される発現カセットを含む発現ベクターを提供する。
【0180】
本明細書で使用される「発現ベクター」又は「ベクター」という用語は、核酸フラグメント、好ましくは本明細書で定義される組換え核酸分子が挿入され、クローン化、すなわち増殖され得る核酸分子、典型的にはDNAを指す。したがって、ベクターは通常、1つ以上のユニークな制限部位を含み、クローン化された配列が再現可能であるように、決められた細胞又はビヒクル生物において自律複製が可能であり得る。ベクターはまた、ベクターを含むレシピエント細胞の選択を可能にするために、例えば抗生物質耐性遺伝子のような選択マーカーを含むことが好ましい。ベクターとしては、これらに限定されないが、プラスミド、ファージミド、バクテリオファージ、バクテリオファージ由来ベクター、PAC、BAC、直鎖核酸、例えば、直鎖DNA、トランスポゾン、ウイルスベクターなどが適切である(例えば、Sambrook et al., 1989; Ausubel 1992参照)。ウイルスベクターには、特にレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、又はアデノ随伴ウイルスベクター、例えばHIV、SV40、EBV、HSV又はBPVに基づくベクターが含まれる。発現ベクターは、一般に、所望の発現系、例えば、インビトロ、細胞、器官及び/又は生物において、それに導入された核酸又はオープンリーディングフレームの発現を可能にする、及び/又はそれをもたらすように構成される。例えば、発現ベクターは有利には適切な調節配列を含み得る。
特定のベクターを選択する際に重要な要素としては、特に、レシピエント細胞の選択、ベクターを含むレシピエント細胞を認識し、ベクターを含まないレシピエント細胞から選択することの容易さ、特定のレシピエント細胞において望まれるベクターのコピー数、レシピエント細胞においてベクターが染色体に組み込まれることが望まれるか、染色体外に留まることが望まれるか、異なる種のレシピエント細胞間でベクターを「シャトル」できることが望まれるか、などが挙げられる。
【0181】
発現ベクターには自律型と統合型がある。核酸は、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、又はウイルス粒子などの発現ベクターの形で細胞に導入することができる。組換え核酸は染色体外に維持することもできるし、細胞の染色体DNAに組み込むこともできる。発現ベクターは、所望の核酸で形質転換された細胞の検出及び/又は選択を可能にするために、選択された条件下での細胞の生存に必要なタンパク質をコードする選択マーカー遺伝子(例えば、ウラシル生合成に必要な酵素をコードするURA3、又はロイシン生合成に必要な酵素をコードするLEU2、又はトリプトファン生合成に必要な酵素をコードするTRP1)を含むことができる。発現ベクターは自律複製配列(ARS)を含むこともできる。ARSは、セントロメア(CEN)と複製起点(ORI)を含み得る。例えば、ARSはARS18又はARS68であり得る。
目的の細胞にベクターを導入する前に、Escherichia coli(大腸菌)のような細菌細胞中でベクターを増殖(例えば、増幅)させることができる。ベクターDNAは、細菌環境からベクターDNAを精製することになる、当該技術分野で公知の方法のいずれかによって、細菌細胞から単離することができる。精製したベクターDNAはフェノール、クロロホルム、及びエーテルで広範囲に抽出し、プラスミドDNA調製物中に大腸菌タンパク質が存在しないことを確認することができる。
さらなる態様は、C4bp β鎖のC末端フラグメントをコードする核酸、C4bp β鎖のC末端フラグメントをコードする核酸のすぐ3'に位置する核酸のための第1の挿入部位、及び任意にC4bp β鎖のC末端フラグメントをコードする核酸のすぐ5'に位置する核酸のための第2の挿入部位を含む発現ベクターを提供する。
【0182】
特定の実施形態において、発現ベクターは、C4bp β鎖のC末端フラグメントをコードする核酸、C末端フラグメントC4bp β鎖をコードする核酸のすぐ3'に位置する機能的構成成分をコードする核酸のための第1の挿入部位、及び任意に、C4bp β鎖のC末端フラグメントをコードする核酸のすぐ5'に位置する機能的構成成分をコードする核酸のための第2の挿入部位を含む。
挿入部位は、DNA断片などの核酸をその領域に挿入することを可能にする。挿入部位は、1つ以上の制限酵素のための1つ以上の制限部位を含んでいてもよい。好ましくは、制限部位はユニークな制限部位である。つまり、特定のベクター内で制限部位は一度しか現れない。特定の実施形態において、第1の挿入部位の制限部位は、第2の挿入部位の制限部位とは異なる。挿入部位は、DNA断片などの核酸をその領域に挿入することを可能にする。例えば、挿入部位は、当該技術分野で知られているように、マルチプルクローニング部位(MSC)であってもよく、これは、複数(最大20個など)の制限部位を含む短いヌクレオチドセグメントである。
本明細書で教示する二量体タンパク質複合体は、容易なクローニング法によって調製することができる。さらに、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体を調製する方法は、20 mg/L以上の二量体タンパク質複合体など、高い発現収率で二量体タンパク質複合体を製造することを可能にする。
さらなる態様は、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体を調製する方法を提供する。
【0183】
特定の実施形態において、第1及び第2の機能的構成成分がタンパク質又はポリペプチドである場合、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体を調製する方法は:
‐本明細書で教示される二量体タンパク質複合体の第1及び/又は第2のポリペプチドをコードする1つ以上の核酸を、発現可能な様式で提供すること;
‐前記第1及び/又は第2のポリペプチドをコードする前記1つ以上の核酸を宿主細胞に導入すること;及び
‐宿主細胞又はその上清から二量体タンパク質複合体を回収すること;及び
‐任意で、回収した二量体タンパク質複合体を精製すること
を含む。
【0184】
特定の実施形態において、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体を調製する方法は、第1及び/又は第2のポリペプチドをコードする1つ以上の核酸が導入された宿主細胞を、1つ以上の核酸の発現に適し且つ第1及び第2のポリペプチドの二量体化、好ましくは共有結合に適する条件下で培養する工程を含む。
【0185】
特定の実施形態において、二量体タンパク質複合体の第1及び第2のポリペプチドが同一である場合、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体を調製する方法は、発現可能なフォーマットで、第1又は第2のポリペプチド(ホモ二量体の場合には同一である)をコードする1つの核酸を宿主細胞に導入することのみを含む。
【0186】
特定の実施形態において、二量体タンパク質複合体の第1及び第2のポリペプチドが同一でない場合、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体を調製する方法は、第1のポリペプチドをコードする1つの核酸及び第2のポリペプチドをコードする1つの核酸を、発現可能な様式で、コトランスフェクションなどによって宿主細胞に導入することを含む。
典型的には、二量体タンパク質複合体(又は単に二量体)は、C4bp β鎖のC末端部分を含む第1及び/又は第2のポリペプチドのランダムな会合によって形成され、これらは、1つ又は複数の構成成分などの付加的な特徴を含むか否かを問わない。したがって、第1のポリペプチドをコードする核酸と第2のポリペプチドをコードする核酸(第1と第2のポリペプチドは異なる)が導入された宿主細胞は、2つ以上の分子仕様からなる二量体タンパク質複合体を産生する。例えば、第1のポリペプチドが機能的構成成分Aを含み、第2のポリペプチドが機能的構成成分Bを含む場合、宿主細胞は3つの異なる分子種の二量体タンパク質複合体、すなわちA:A、A:B、B:Bの二量体タンパク質複合体を産生する。
従って、二量体タンパク質複合体の製造及び収集の後、二量体タンパク質複合体を精製して、A:A、A:B又はB:B二量体タンパク質複合体のような、目的の単一分子種の二量体タンパク質複合体から実質的になる(例えば、少なくとも95%;好ましくは少なくとも99%、より好ましくは少なくとも99.9%)二量体タンパク質複合体の集団を得ることができる。
【0187】
特定の実施形態において、二量体タンパク質複合体の精製は、第1及び/又は第2のポリペプチドをコードする1つ又は複数の核酸に組み込まれた1つ以上のタグを利用することによって実施され得る。例えば、第1のポリペプチドがHISタグを含み、第2のポリペプチドがFLAGタグを含むヘテロジボロ又はヘテロテトラボロの場合、HISタグを含む第1のポリペプチドを含む全ての二量体を最初に捕捉する、HIS-TRAP精製による第1の精製、次いで、HISタグを含む第1のポリペプチドとFLAGタグを含む第2のポリペプチドを含む全ての二量体を捕捉する、FLAGアフィニティークロマトグラフィーによる第2の精製を含むような、2段階精製を行ってもよい(例えば、図2を参照)。
【0188】
本明細書で使用する「宿主細胞」という用語は、トランスフェクションなどによって、1つ以上のヌクレオチド、好ましくはDNAが導入された細胞を指す。宿主細胞は、S cerevisiaeのような酵母細胞、Aspergillus spのような糸状菌細胞、ショウジョウバエのS2細胞やSpodopteraのsf9のような昆虫細胞、哺乳動物細胞又は植物細胞のような真核細胞であってもよい。タンパク質の生産に最も一般的に使用される宿主細胞は、CHO細胞やHEK 293細胞のような哺乳類不死化細胞株であり、好ましくはHEK 293細胞であり、トランスフェクションが容易で増殖率が高いため、タンパク質の生産が容易になり、収量が増加する。タンパク質複合体の大量生産には通常、懸濁液中で増殖できる宿主細胞、例えば懸濁液に適応したCHO細胞やHEK293細胞、好ましくは懸濁液に適応したHEK293細胞が必要である。
【0189】
核酸を生細胞に導入する方法は当業者に知られており、リン酸カルシウム共沈、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、プロトプラスト融合、リポフェクション、エクソソーム媒介トランスフェクション、ポリアミントランスフェクション試薬を用いたトランスフェクション、核酸被覆タングステン微小発射体による細胞の砲撃、ウイルス粒子送達などが含まれ得る。このような導入は、送達、トランスフェクション、又は形質転換とも呼ばれる。細胞浸透性ペプチド(CPP)は、ポリペプチド又は核酸を細胞内に送達するために使用してもよい。CPPには、Penetratin、Tat(48-60)、Transportan、(R-AhX-R4)などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0190】
特定の実施形態において、生成した二量体タンパク質複合体を濃縮してもよい。
【0191】
特定の実施形態において、二量体タンパク質複合体に含まれるべき第1、第2、第3及び/又は第4の機能的構成成分がタンパク質又はポリペプチドでない場合、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体を調製する方法は:
‐C4bp β鎖の二量体化されたC末端フラグメントと、タンパク質又はポリペプチドである第1、第2、第3及び/又は第4の機能的構成成分とを含むタンパク質複合体を調製する工程;
‐タンパク質又はポリペプチドではない第1、第2、第3及び/又は第4の機能的構成成分を調製したタンパク質複合体に添加し、目的の二量体タンパク質複合体を得る工程
を含む。
【0192】
別段の指示がない限り、具体的に詳細に記載されていない全ての方法、工程、技術及び操作は、当業者には明らかなように、それ自体公知の方法で実施することができ、また実施されている。さらなる態様は、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体を産生するように操作された真核細胞を提供し、当該細胞は、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体の第1及び/又は第2のポリペプチドをコードする1つ以上の核酸を、発現可能な様式で含む。真核細胞は人間の胚ではない。
本明細書で教示されるような二量体タンパク質複合体に含まれる機能的構成成分の種類に応じて、本明細書で教示されるような二量体タンパク質複合体は、治療用途に限定されず、複数の用途に使用され得、一般的なヘルスケアにおける用途(例えば、分子イメージング)、環境目的、浄化用途などが含まれる。
【0193】
さらなる態様は、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体、本明細書で教示される核酸、本明細書で教示される発現カセット、又は本明細書で教示される発現ベクター、及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
本明細書で用いられる「薬学的に許容される」という用語は、当該分野と一致して、医薬組成物の他の成分と適合性であり、そのレシピエントに有害でないことを意味する。
本明細書で使用される場合、「担体」又は「賦形剤」には、任意の及び全ての溶媒、希釈剤、緩衝剤(例えば、中性緩衝生理食塩水又はリン酸緩衝生理食塩水など)、可溶化剤、コロイド、分散媒体、ビヒクル、充填剤、キレート剤(例えば、EDTA又はグルタチオンなど)、アミノ酸(例えば、グリシンなど)、タンパク質、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、湿潤剤、乳化剤、甘味剤、着色剤、香料、芳香剤、増粘剤、デポー効果を得るための薬剤、コーティング剤、抗真菌剤、保存剤、抗酸化剤、強壮剤、吸収遅延剤などが挙げられる。このような媒体や薬剤を医薬活性物質に使用することは、当技術分野でよく知られている。従来の媒体又は薬剤が活性物質と不適合である場合を除き、治療用組成物における使用が考えられる。
医薬組成物の製剤化に使用するための例示的で非限定的な担体としては、例えば、水中油型又は油中水型エマルジョン、静脈内使用に適した有機共溶媒を含むか又は含まない水性組成物、リポソーム又は界面活性剤含有小胞、マイクロスフェア、マイクロビーズ及びマイクロソーム、粉末、錠剤、カプセル、坐剤、水性懸濁液、エアロゾル、並びに当業者に明らかな他の担体が挙げられる。
本明細書で意図されるような医薬組成物は、本質的にあらゆる投与経路用に製剤化することができ、例えば、限定されないが、経口投与(例えば、経口摂取又は吸入など)、経鼻投与(例えば、経鼻吸入又は経鼻粘膜適用など)、非経口投与(例えば、皮下、静脈内(I.V.)、筋肉内、腹腔内又は胸腔内注射又は注入など)、経皮又は経粘膜(例えば、経口、舌下、経鼻など)投与、局所投与、直腸、膣又は気管内注入などである。このようにして、本方法及び組成物によって達成可能な治療効果は、例えば、全身的、局所的、組織特異的など、所定の用途の特定の必要性に応じたものとすることができる。
【0194】
特定の実施形態において、医薬組成物は中和性抗血清である。好ましくは、医薬組成物は、Li由来のSmaseDに対する中和抗血清であり、第1及び第2の機能的構成成分を含む二量体タンパク質複合体であって、第1及び第2の機能的構成成分は、ロクソセレス・インターメディア(Li)由来の毒からのscFv抗SmaseDを含むか、該scFv抗SmaseDから本質的になるか、又は該scFv抗SmaseDからなる、二量体タンパク質複合体を含むか、又は、第1、第2、第3及び第4の機能的構成成分を含む二量体タンパク質複合体であって、第1、第2、第3及び第4の機能的構成成分が、Li由来の毒からのscFv抗SmaseDを含むか、該scFv抗SmaseDから本質的になるか、又は該scFv抗SmaseDからなる、二量体タンパク質複合体を含む。
【0195】
さらなる態様は、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体、本明細書で教示される核酸、本明細書で教示される発現カセット、本明細書で教示される発現ベクター、又は本明細書で教示される医薬組成物を、医薬品として、好ましくは免疫療法において使用するために提供する。
【0196】
さらなる態様は、腫瘍性疾患又は感染性疾患の処置における使用のための、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体、本明細書で教示される核酸、本明細書で教示される発現カセット、本明細書で教示される発現ベクター、又は本明細書で教示される医薬組成物を提供する。すなわち、本明細書において提供されるのは、そのような治療を必要とする被験体において腫瘍性疾患又は感染性疾患を治療する方法であって、治療有効量の、本明細書において教示される二量体タンパク質複合体、本明細書において教示される核酸、本明細書において教示される発現カセット、本明細書において教示される発現ベクター、又は本明細書において教示される医薬組成物を投与することを含む、方法である。
さらに、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体、本明細書で教示される核酸、本明細書で教示される発現カセット、本明細書で教示される発現ベクター、又は本明細書で教示される医薬組成物の、腫瘍性疾患又は感染性疾患の処置のための医薬の製造のための使用も提供される。
さらに、例えば昆虫、クモ又はヘビからの毒咬傷の処置に使用するための、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体、本明細書で教示される核酸、本明細書で教示される発現カセット、本明細書で教示される発現ベクター、又は本明細書で教示される医薬組成物も提供される。例えば、本明細書の他の箇所に記載されているように、機能的構成成分の1つ以上が、ロクソセレス・インターメディア(Li)由来の毒からのscFv抗SmaseDを含むか、該scFv抗SmaseDから本質的になるか、又は該scFv抗SmaseDからなる場合、二量体タンパク質複合体はSmaseDに結合し、その活性を阻害し得、したがって、ロクソセレス・インターメディア由来の毒咬傷を治療し得る。
【0197】
特定の実施形態において、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体、本明細書で教示される核酸、本明細書で教示される発現カセット、本明細書で教示される発現ベクター、又は本明細書で教示される薬学的組成物は、静脈瘤(すなわち、毒がクモの咬傷によって注入されるプロセス)後の皮膚壊死事象を処置するために使用される。
「治療」又は「処置」という用語は、すでに発症した腫瘍性疾患又は感染性疾患の治療など、すでに発症した疾患又は状態の治療的処置と、腫瘍性疾患又は感染性疾患の発生、発症及び進行を予防するなど、望ましくない疾患の発生を予防又は可能性を減少させることを目的とする予防的措置の両方を包含する。有益又は所望の臨床結果には、限定されないが、1つ以上の症状又は1つ以上の生物学的マーカーの緩和、疾患の範囲の縮小、疾患の状態の安定化(すなわち、悪化していない)、疾患進行の遅延又は緩徐化、疾患状態の改善又は緩和などが含まれ得る。「処置」はまた、処置を受けなかった場合に予想される生存期間と比較して、生存期間を延長することを意味し得る。
注意書きがある場合を除き、「対象」又は「患者」という用語は互換的に使用することができ、動物、好ましくは温血動物、より好ましくは脊椎動物、さらに好ましくは哺乳動物、さらに好ましくは霊長類を指し、特にヒト患者、ヒト以外の哺乳動物及び霊長類を含む。好ましい対象は、ヒト対象である。用語「対象」又は「患者」には、治療を必要とする対象、より詳細には、所定の状態、特に神経血管障害又は神経血管機能障害を含む中枢神経系(CNS)障害の治療から利益を得る対象が含まれる。このような対象としては、限定されないが、当該状態と診断された者、当該状態を発症しやすい者及び/又は当該状態を予防すべき者が含まれ得る。
【0198】
本明細書で教示される製品及び方法は、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体、本明細書で教示される核酸、本明細書で教示される発現カセット、本明細書で教示される発現ベクター、又は本明細書で教示される医薬組成物の治療的及び/又は予防的に有効な量を、そのような治療から利益を得る腫瘍性疾患又は感染性疾患を有する対象に投与することを可能にする。本明細書で使用する「治療上有効な量」という用語は、外科医、研究者、獣医師、医学博士又は他の臨床医が求めている生物学的又は薬学的応答を対象に引き起こす活性化合物又は医薬剤の量を指し、これには特に、治療中の疾患又は状態の症状の緩和が含まれる。「予防的に有効な量」という用語は、研究者、獣医師、医師、その他の臨床医が求めているように障害の発症を対象において抑制又は遅延させる活性化合物又は医薬品の量を指す。本明細書で教示される二量体タンパク質複合体、本明細書で教示される核酸、本明細書で教示される発現カセット、本明細書で教示される発現ベクター、又は本明細書で教示される医薬組成物の治療的及び/又は予防的に有効な用量を決定するための方法は、当該分野で公知である。
本明細書で使用される「治療有効量」という用語は、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体、本明細書で教示される核酸、本明細書で教示される発現カセット、本明細書で教示される発現ベクター、又は本明細書で教示される医薬組成物の量を指し、投与された場合、腫瘍性疾患又は感染性疾患を有する患者の処置に関してポジティブな治療反応をもたらす。
【0199】
本明細書で教示される二量体タンパク質複合体、本明細書で教示される核酸、本明細書で教示される発現カセット、本明細書で教示される発現ベクター、又は本明細書で教示される医薬組成物の適切な治療有効量は、疾患の状態及び重症度の性質、並びに患者の年齢、体格及び状態を考慮して、資格を有する医師によって決定され得る。
【0200】
「腫瘍性疾患」という用語は一般に、良性(周囲の正常組織に浸潤せず、転移を形成しない)、前悪性(前癌性)、悪性(隣接組織に浸潤し、転移を生じる可能性がある)のいずれであっても、腫瘍性細胞の生長及び増殖を特徴とするあらゆる疾患又は障害を指す。腫瘍性疾患という用語は、一般に、すべての形質転換した細胞及び組織、並びにすべての癌化した細胞及び組織を含む。腫瘍性疾患又は障害には、限定されないが、異常細胞増殖、良性腫瘍、前悪性病変又は前がん病変、悪性腫瘍、及び癌が含まれる。腫瘍性疾患又は障害の例としては、前立腺、結腸、腹部、骨、乳房、消化器系、肝臓、膵臓、腹膜、内分泌腺(副腎、副甲状腺、下垂体、睾丸、卵巣、胸腺、甲状腺)、眼、頭頸部、神経(中枢及び末梢)、リンパ系、骨盤、皮膚、軟部組織、脾臓、胸部、又は泌尿生殖器など、あらゆる組織又は臓器に存在する良性、前悪性、又は悪性の新生物が挙げられる。
本明細書で使用される場、「腫瘍」又は「腫瘍組織」という用語は、過剰な細胞分裂から生じる組織の異常な塊を指す。腫瘍又は腫瘍組織は、異常な増殖特性を持ち、有用な身体機能を持たない腫瘍細胞を含む。腫瘍、腫瘍組織及び腫瘍細胞は、良性、前悪性、悪性、或いは癌化の可能性のない病変の可能性がある。腫瘍又は腫瘍組織はまた、腫瘍に関連した非腫瘍細胞、例えば、腫瘍又は腫瘍組織に血液を供給する血管を形成する血管細胞を含んでいてもよい。非腫瘍細胞は、腫瘍細胞によって複製や発育が誘導され得、例えば、腫瘍や腫瘍組織における血管新生の誘導などである。
本明細書で使用される場合、「癌」という用語は、調節不全又は調節不能な細胞増殖を特徴とする悪性新生物を指す。用語「癌」には、原発性悪性細胞又は腫瘍(例えば、その細胞が、対象の体内の、元の悪性腫瘍又は腫瘍の部位以外の部位に移動していないもの)及び二次性悪性細胞又は腫瘍(例えば、転移、すなわち、元の腫瘍の部位とは異なる二次的な部位への悪性細胞又は腫瘍細胞の移動から生じるもの)が含まれる。「転移性」又は「転移」という用語は一般に、ある臓器又は組織から、隣接していない別の臓器又は組織への癌の広がりを指す。隣接していない他の臓器や組織に腫瘍性疾患が発生することを転移という。
癌の例としては、限定されないが、癌腫、リンパ腫、胚腫、肉腫、及び白血病又はリンパ系悪性腫瘍が挙げられる。このような癌のより具体的な例としては、限定されないが、扁平上皮癌(例えば、上皮性扁平上皮癌)、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺腺癌、肺扁平上皮癌及び肺大細胞癌を含む肺癌、腹膜癌、肝細胞癌、胃腸癌を含む胃癌、膵臓癌、神経膠腫、神経膠芽腫、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、肝癌、乳癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌又は子宮体癌、唾液腺癌、腎臓癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、肝癌、肛門癌、陰茎癌、及び中枢神経系癌、黒色腫、頭頸部癌、骨癌、骨髄癌、十二指腸癌、食道癌、甲状腺癌、又は血液癌が挙げられる。
【0201】
特定の実施形態において、腫瘍は固形腫瘍である。固形腫瘍には、腫瘍性腫瘤を形成するあらゆる腫瘍が含まれるが、通常は嚢胞や液状部を含まない。固形腫瘍には良性、前悪性、悪性がある。固形腫瘍の例としては、癌腫、肉腫、黒色腫、及びリンパ腫がある。
【0202】
特定の実施形態において、新生物疾患又は癌は、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体によって標的化される1つ以上の抗原を発現する細胞を含む新生物疾患又は癌である。
【0203】
特定の実施形態において、治療される疾患が腫瘍性疾患である場合、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体は、第1、第2、第3及び第4の機能的構成成分の少なくとも1つが、TSA又はTAAに特異的に結合する結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)である。従って、当業者は、本明細書で教示されるような二量体タンパク質複合体が、HER2に特異的に結合する結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)を含むか、該結合性ドメインから本質的になるか、又は該結合性ドメインからなる機能的構成成分を含む場合、新生物疾患がHER2陽性乳癌であり得ることを理解するであろう。
【0204】
特定の実施形態では、感染症は、細菌、ウイルス又は真菌のような病原体によって引き起こされる感染症のような、当技術分野で知られている任意の感染症であってもよい。そのような感染症の非限定的な例としては、緑膿菌感染症、百日咳菌感染症、ボレリア・ブルグドルフェリ感染症、Borrelia recurrentis感染症、Haemophilus influenza感染症、Moraxella catarrhalis感染症、Neisseria gonorrhoeae感染症、Neisseria meningitidis感染症、肺炎球菌・化膿性レンサ菌感染症、Yersinia enterocolitica及びStaphylococcus aureus感染症、Candida dubliensis感染症、大腸菌感染症、パスツレラ・プネオモトロピカ感染症、アスペルギルス・フミガタス・テレウス感染症、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)感染症、C型肝炎ウイルス(HCV)感染症、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)感染症、エプスタイン・バーウイルス(EBV)感染症、肝炎デルタウイルス(HDV)感染症、インフルエンザウイルス感染症、結核感染症、B型肝炎ウイルス(HBV)感染症、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症、重症急性呼吸器症候群(SARS)-CoV感染症、カンジダ・アルビカンス感染症、アスペルギルス・フミガーツス感染症、トキソプラズマ・ゴンディ感染症である。
【0205】
特定の実施形態において、治療される疾患が感染性疾患である場合、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体は、第1、第2、第3及び第4の機能的構成成分のうちの少なくとも1つが、ウイルス抗原、ウイルス関連抗原、細菌抗原又は真菌抗原に特異的に結合する結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)である。
【0206】
特定の実施形態において、治療される疾患がヒト補体攻撃を回避する病原体によって引き起こされる感染症である場合、本明細書で教示されるような二量体タンパク質複合体は、第1、第2、第3及び第4の機能的構成成分の少なくとも1つが、本明細書の他の箇所に記載されるように、FHR1由来のSCR3、4及び5を含むか、該SCR3、4及び5から本質的になるか、又は該SCR3、4及び5からなる。
【0207】
特定の実施形態において、治療される疾患が、C4bp可溶性補体調節タンパク質の採用によって補体媒介殺傷を回避する病原体によって引き起こされる感染症である場合、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体は、第1、第2、第3、及び第4の機能的構成成分の少なくとも1つが、本明細書の他の箇所に記載されるようなC4bp N末端α鎖からのCCP1及びCCP2を含むか、該CCP1及びCCP2から本質的になるか、又は該CCP1及びCCP2からなる。CCP1-2結合を介してC4bpをハイジャックする病原体の非限定的な例としては、Streptococcus pneomoniae及びpyogenes、Staphylococcus aureus、Escherichia coli、Candida albicans、Aspregillus fumigatus、Toxoplasma gondiiが挙げられる。
【0208】
特定の実施形態において、治療される疾患は、緑膿菌などの抗生物質に耐性の病原体によって引き起こされる感染症である。
【0209】
さらなる態様は、生体の分子イメージング方法における使用のための、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体、本明細書で教示される核酸、本明細書で教示される発現カセット、本明細書で教示される発現ベクターを提供する。
特定の実施形態において、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体が生体の分子イメージング方法に使用される場合、二量体タンパク質複合体は、結合性ドメイン(例えば、抗原認識ドメイン)を含む少なくとも1つの機能的構成成分を含み、少なくとも1つの分子イメージングプローブをさらに含む。
分子イメージングプローブの非限定的な例は、18F、11C、又は64Cu(陽電子放射断層撮影法(PET)における使用のため)、99mTc(単一光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)で使用するため)、酸化鉄ナノ粒子のような磁気的に活性な元素、及びルシフェラーゼ(診断分子イメージングで使用するため)である。
【0210】
本出願はまた、以下のステートメントに規定されるような態様及び実施形態を提供する:
ステートメント1)第1の機能的構成成分及びC4bp β鎖のC末端フラグメントを含み、前記第1の機能的構成成分は前記C4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端に結合している、第1のポリペプチド;及び
第2の機能的構成成分及びC4bp β鎖のC末端フラグメントを含み、前記第2の機能的構成成分は前記C4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端に結合している、第2のポリペプチド
を含む二量体タンパク質複合体であって、
前記第1及び第2のポリペプチドは同一であるか又は異なっており、
前記第1及び第2の機能的構成成分はタンパク質又はポリペプチドである、
二量体タンパク質複合体。
ステートメント2)前記第1のポリペプチドは、前記C4bp β鎖のC末端フラグメントのN末端に結合している第3の機能的構成成分を更に含み;
前記第2のポリペプチドは、前記C4bp β鎖のC末端フラグメントのN末端に結合している第4の機能的構成成分を更に含み;
前記第1、前記第2、前記第3及び前記第4の機能的構成成分は同一であるか又は異なっている、
ステートメント1に記載の二量体タンパク質複合体。
ステートメント3)前記第1、前記第2、前記第3及び前記第4の機能的構成成分がタンパク質又はポリペプチドであり、好ましくは、抗原認識ドメイン、組換えウイルス構造タンパク質、腫瘍溶解剤、細胞毒性剤、サイトカイン、レセプター結合性ペプチド、又は単量体Fcからなる群から選択されるタンパク質又はポリペプチドである、ステートメント2に記載の二量体タンパク質複合体。
ステートメント4)前記抗原認識ドメインが、抗原に特異的な抗体の単鎖可変フラグメント(scFv)若しくは重鎖抗体の単一ドメイン可変フラグメント(VHH)、抗体様足場、ウイルス性エンベロープタンパク質の細胞外ドメイン、抗原のレセプター若しくはリガンドの同族細胞外ドメイン、又は前記レセプター若しくはリガンド、可溶性レセプター、又は合成レセプターの抗原結合性部分である、ステートメント3に記載の二量体タンパク質複合体。
ステートメント5)前記抗原認識ドメインが、腫瘍特異的抗原(TSA)、腫瘍関連抗原(TAA)、細菌性抗原、ウイルス性抗原若しくはウイルス関連抗原、真菌性抗原、活性化NK細胞レセプター、サイトカイン、トキシン又はコンタミナントに特異的に結合する、ステートメント3又は4に記載の二量体タンパク質複合体。
ステートメント6)前記第1、前記第2、前記第3又は前記第4の機能的構成成分のうちの2つが、活性化NK細胞レセプターに特異的に結合する抗原認識ドメインを含み、該抗原認識ドメインと活性化NK細胞レセプターとの結合がNK細胞を活性化することが可能であり、前記第1、前記第2、前記第3又は前記第4の機能的構成成分のうちの2つが、TSA、TAA、細菌抗原、ウイルス抗原、ウイルス関連抗原又は真菌抗原に特異的に結合する抗原認識ドメインを含む、ステートメント2~5に記載の二量体タンパク質複合体。
ステートメント7)前記第1及び第2の機能的構成成分は単量体Fcであり、好ましくはIgGのヒンジ、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含むIgGの単量体Fcであり;第1のポリペプチド中の単量体Fcのヒンジ領域は、第2のポリペプチド中の単量体Fcのヒンジ領域に、少なくとも2つのジスルフィド結合により接続し;
前記第3及び/又は第4の機能的構成成分は抗原認識ドメインを含む、
ステートメント2~6のいずれか1つに記載の二量体タンパク質複合体。
ステートメント8)第1の機能的構成成分及びC4bp β鎖のC末端フラグメントを含み、前記第1の機能的構成成分はステートメント1~7のいずれか1つに定義された前記C4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端に結合している、第1のポリペプチドをコードし;及び/又は、
第2の機能的構成成分及びC4bp β鎖のC末端フラグメントを含み、前記第2の機能的構成成分はステートメント1~7のいずれか1つに定義された前記C4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端に結合している、第2のポリペプチドをコードする、
核酸。
ステートメント9)ステートメント8に記載の核酸を含む発現カセット。
ステートメント10)ステートメント8に記載の核酸又はステートメント9に記載の発現カセットを含む発現ベクター。
ステートメント11)C4bp β鎖のC末端フラグメントをコードする核酸、C4bp β鎖のC末端フラグメントをコードする核酸のすぐ3'に位置する機能的構成成分をコードする核酸の挿入部位;及び任意にC4bp β鎖のC末端フラグメントをコードする核酸のすぐ5'に位置する機能的構成成分をコードする核酸の挿入部位を含む発現ベクター。
ステートメント12)ステートメント1~7のいずれか1つに記載の二量体タンパク質複合体、ステートメント8に記載の核酸、ステートメント9に記載の発現カセット、又はステートメント10又は11に記載の発現ベクター、及び薬学的に許容可能なキャリアを含む医薬組成物。
ステートメント13)医薬として使用するため、好ましくは免疫療法に使用するための、ステートメント1~7のいずれか1つに記載の二量体タンパク質複合体、ステートメント8に記載の核酸、ステートメント9に記載の発現カセット、ステートメント10又は11に記載の発現ベクター又はステートメント12に記載の医薬組成物。
ステートメント14)新生物疾患又は感染性疾患の処置に使用するための、ステートメント1~7のいずれか1つに記載の二量体タンパク質複合体、ステートメント8に記載の核酸、ステートメント9に記載の発現カセット、ステートメント10又は11に記載の発現ベクター、又はステートメント12に記載の医薬組成物。
ステートメント15)生体の分子イメージング方法に使用するための、ステートメント1~7のいずれか1つに記載の二量体タンパク質複合体、ステートメント8に記載の核酸、ステートメント9に記載の発現カセット、ステートメント10又は11に記載の発現ベクター。
【0211】
本発明をその具体的な実施形態と併せて説明したが、前述の説明に照らして、多くの代替案、修正案、及び変形例が当業者に明らかであることは明らかである。したがって、添付の特許請求の範囲の精神及び範囲において、以下のような代替案、修正案、及び変形例をすべて包含することが意図されている。
本明細書に開示された本発明の態様及び実施形態は、以下の非限定的な例によってさらに裏付けられる。
【実施例
【0212】
実施例1.NK細胞を活性化可能な二機能性ヘテロ二量体(テトラボロ)
1.1. 導入
NKG2A(CD159a)は、ジスルフィド結合したNKG2A/CD94ヘテロ二量体複合体を形成するCD94と常に共発現するII型膜貫通タンパク質である。NKG2AはCa++依存性(C型)レクチン族のメンバーである。CD94/NKG2A二量体は、HLAクラスI組織適合抗原、α鎖E(HLA-E)に対する阻害性NKレセプターである。NKG2Aの細胞質ドメインは、阻害性シグナルの伝達に関与する2つの特徴的なITIMモチーフ(Immunoreceptor tyrosine based inhibition motif)を含有する。HLA-Eは、NK細胞による自己細胞及び非自己細胞の認識において、非常に特殊な役割を担っている。HLA-E分子はほとんどの組織において低レベルで発現しているが、様々な癌の表面では一般的に過剰発現している。したがって、高HLA-E+腫瘍は、NKG2A/CD94/HLA-E相互作用時に強力な阻害シグナルを送り、NK細胞の機能を阻害する。Z199はマウスモノクローナル抗体(IgG2b)で、ヒトNKG2A(CD159a)レセプターの非競合的アンタゴニストである。本発明者らは、配列番号10で定義されるアミノ酸配列及び配列番号11で定義される核酸配列を含む、ヒトNK阻害経路のブロッカーとしてのZ199 mAbに由来するscFvを作製し、本明細書において「抗NKG2A scFv」と呼ばれることがある。
IL-15は、IL-2、IL-4、IL-7、IL-9及びIL-21を含む共通γc鎖族に属する制御性サイトカインである。IL-15はIL-2とのヘテロ三量体レセプターにおいて、サイトカイン特異的レセプターα鎖IL-15Rα(CD215)を使用する。IL-2とIL-15は、T細胞の増殖、細胞毒性リンパ球の生成、ナチュラルキラー(NK)細胞の増殖を刺激する。IL-2とは対照的に、IL-15はIL-2が介在する活性化誘導細胞死を抑制し、機能的Tregを活性化しない。IL-15は主に細胞表面分子として作用し、抗原提示細胞上のIL-15Rαとの免疫学的シナプスの一部として、NK細胞やCD8メモリー細胞などの単核細胞にトランスでIL-15を供給する。IL-15は、半減期が短く、溶解度が低く、トランスクリプトームによる制御が厳しいため、単独で産生することは非常に困難である。
IL15/sIL15Rα可溶性複合体は、可溶性IL15単独よりもはるかに刺激性が高い(Rubinstein, Kovar et al. 2006)。この複合体はIL15の内在化を阻害し、βγcレセプターを介したシグナル伝達を強化し得る。IL15Rαはまた、IL15Rα可溶性レセプターと複合体化すると、IL15の分解を防ぐかもしれない。
本実施例において、本発明者らは、58アミノ酸のC4bp C末端β鎖二量体化足場(C4bpβ)を用いて、NK細胞の表面でIL-15を送達することによってNK細胞を活性化する、(i)IL-15/IL-15Rα可溶性複合体を(ii)Z199 scFv抗NKG2Aに会合させる二機能性ヘテロダイマーの開発を目指した。可溶性IL-15レセプターα-鎖(sIL-15Rα)をコードする遺伝子は、C4bpβの上流に位置する一方、Z199 scFvをコードする遺伝子は、図3Aに示すように、C4bpβの下流に位置している。2つの機能はそれぞれ二量体であり、ヘテロテトラボロ「IL-15/sIL-15Rα.C4bpβ.scFv抗NKG2A.His8x」は、IL-15/sIL-15Rα複合体とNKG2Aレセプターの遮断を介して、2つの異なるNK経路を同時に活性化する。
【0213】
1.2. 使用遺伝子とカセットデザイン
使用された遺伝子:
‐腫瘍壊死因子レセプター超族メンバー16(NGFR)のシグナルペプチド(SP):UniProtKB - P08138.1 TNR16_HUMAN、アミノ酸1-28;
‐可溶性組換えヒトIL-15レセプターα鎖(sIL-15Rα):UniProt n°Q13261.1、アミノ酸31-205);
‐ヒトC4b結合性タンパク質C末端β鎖(C4bpβ)二量体化足場:UniProtKB - P20851.1 C4BPB_HUMAN、アミノ酸194-252。3x(SGGGGS)(配列番号3)リンカーはC4bpβのC末端部分の両端にクローニングされている;
‐参照によりここに組み込まれる国際特許出WO2009/092805に記載されているような、Z199(VH-VL)抗NKG2A scFv;
‐ヒトインターロイキン15(hIL-15):UniProtKB - P40933.1 IL-15_HUMAN、アミノ酸49-162。IL-15の前には、Proteogenixからの真核細胞における分泌発現のために最適化された35アミノ酸のtPAシグナルペプチド(MDAMKRGLCCVLLCGAVFVSPSQEIHARFRRGAR(配列番号44))がある。IL-15遺伝子は、ProteogenixによりpcDNA3.1(安定発現のためにG418耐性遺伝子を含む)にクローニングされた;
‐pEF-IRESpacは、ヒトポリペプチド鎖伸長因子1αプロモーターによって駆動されるバイシストロニック発現レシピエントベクターで、高レベルの組換えタンパク質を発現する安定な哺乳類細胞株を作製するために使用される。このプラスミドには、組換えタンパク質を安定に発現させるためのピューロマイシン耐性遺伝子(pac)が含まれている。
ヘテロテトラボロのカセット:
・pEF-IRESpacにクローニングされたSP-sIL-15Rα-[3x(SGGGGS)]-C4bpβ-[3x(SGGGGS)]-Z199 scFv抗NKG2A-His8x
・tPA SP.hIL-15、pcDNA3.1にクローニング。
カセットをコードするcDNA(sIL-15Rα.C4bpβ.scFv抗NKG2A)は、Bgl2及びNotI制限部位間にまたがり、ヒト細胞における発現のためにコドン最適化され、合成され、Proteogenix(Illkirsch、Strasbourg)によってpEF-IRESpにクローニングされた。図3は、二機能性ヘテロテトラボロのトランスフェクションの工程を示している(図3A、3B)。
【0214】
1.3. HEK293F細胞でのトランスフェクション、クローニング/スクリーニング、生産、スケールアップ培養、1 ml又は5 mlのNi-セファロースExcelカラムを用いた固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)技術を用いた精製、FPLC
トランスフェクションの1日前に、1.3 x 106HEK293F細胞を6ウェル細胞培養プレートにプレーティングし、DMEM完全培地で培養した。トランスフェクションの2時間前に、完全なDMEMをあらかじめ温めておいたoptiMEMと交換した。HEK293F細胞は、ヘテロテトラボロをコードする発現ベクター単独でトランスフェクトするか、或いはpcDNA3.1-hIL-15とともにリポフェクタミン3000を用いてメーカーのプロトコール(Thermo Fisher、カタログ番号L3000001)に従ってコトランスフェクトした。4 μgのDNAを5 μlのリポフェクタミンと4 μLの試薬でトランスフェクトした。コトランスフェクションにはDNA比1:1を用いた。トランスフェクションの24時間後に完全DMEM培地1 mlを加えた。48時間後、細胞を10 cmの細胞培養皿に移し、単独トランスフェクションの場合は5~20 μg/mlのピューロマイシンを添加した完全DMEM培地で、コトランスフェクションの場合は5~20 μg/mlのピューロマイシンと100~500 μg/mlのジェネティシン(G418)を添加した完全DMEM培地で培養した。約2週間後、抗生物質耐性に成長した単一クローンを96ウェルプレートに個々に移した。約1週間後、クローンが一定の密度に達し、培養液が黄色っぽくなった時点で、単離したクローンからの上清を、抗IL-15/抗HIS及び抗HIS/抗HISサンドイッチELISAを用いてヘテロテトラボロ発現についてスクリーニングし、最も高い二機能性のヘテロテトラボロ発現レベルを同定した。そして、最も優れたタンパク質発現を示す細胞クローンを選択し、増殖させた。その後、細胞を大型培養フラスコで増幅し、5チャンバーセルスタックに移し、500 mlの完全DMEM培地中で24時間放置した。翌日、DMEMを500 mlのoptiMEMに交換し、第1生産分として48時間放置した。その後、完全DMEMで24時間培養した後、500 mlの新鮮なoptiMEMで48時間の第2生産分を行った。次に、optiMEMをHis-Trapカラムにロードした:2つの製剤をプールし(1 Lになる)、1000 mlのNalgeneTMRapid-FlowTM真空フィルターユニットでろ過した。上清を5 mlのエクセルカラムに5日間、流速2 ml/minでクローズドループで通し、二機能性ヘテロテトラボロを固定化した。その後、カラムをFPLCに接続した。洗浄後、段階的なイミダゾール勾配を用いて分子を溶出した。溶出液は、分子量30 kDaカットオフ(MWCO)のAmicon(R) Ultra-15遠心フィルターユニットを用いて濃縮した。その後、PBSで透析し、イミダゾールを除去した。
【0215】
1.4. 二機能性ヘテロテトラボロのウェスタンブロット分析
以下の精製分子を非還元又は還元条件下でウェスタンブロッティング(WB)を用いて分析した:
1. 二機能性ヘテロテトラボロ:sIL-15Rα.C4bpβ.scFv 抗NKG2A.His8x + huIL-15
2. 二機能性ヘテロテトラボロ:sIL-15Rα.C4bpβ.scFv 抗NKG2A.His8x
一過性トランスフェクションから精製した1 μgのヘテロテトラボロ又は安定トランスフェクションから精製した1 μgの分子を、10%(v/v)β2-メルカプトエタノール(還元条件)なし又はありの4X Laemmliサンプルバッファーに混合し、4-15% Mini-Protean(R)Tris-Glycin eXtended(TGXTM)precast protein gel(Bio-Rad)を用いて電気泳動し、XT MES running buffer(Bio-Rad)を用いてSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を行った。電気泳動後、ゲルをTTB(25 mM Tris、192 mMグリシン、0.01%(v/v)SDS、20%(v/v)メタノール、pH 8.8)ブロッティングバッファーを用いて、低蛍光バックグラウンドPVDF膜(使用前にメタノールで活性化)にエレクトロブロッティングした。タンパク質の転写は、Bio-Rad Mini Trans-Blot(R)電気泳動転写セルを用いて行った。PBS-5%(w/v)低脂肪乳でブロッキングした後、メンブレンを1 μgのウサギ抗His 6x-tag pAbと同じバッファーで1時間インキュベートした。TBS-Tweenバッファー(pH7.2)で3回洗浄した後、PBS-1%(w/v)低脂肪乳中のヤギ抗ウサギIgG AF647標識抗体でメンブレンを1時間インキュベートした。3回の洗浄後、メンブレンを乾燥させ、AF647(APCC)蛍光色素(Cy5)用の適応フィルターを用いて、AmershamTM TyphoonTM生体分子イメージャーで分析した。スキャンした画像は、オープンソースの画像処理プログラム「Image J」を使って処理した。WBによると、非還元条件下ではヘテロテトラボロは二量体として存在し、そのサイズは約120 kDaであった(データは示さず)。還元条件下では、二量体は60 kDaのサイズの単量体に還元される(データは示さず)。
【0216】
1.5. 抗HIS又は抗IL-15ELISAを用いた精製ヘテロテトラボロの特性評価
粗上清中又は精製後の分子の存在を評価するために、異なるELISAセットアップが用いられた。この目的で、精製分子、マウス抗ヒトIL-15(クローンCT2NU;Invitrogen)又は6-His Tagウサギ抗ヒスポリクローナル(Bethyl、A190-114-P)抗体のいずれかを、MaxiSorpTM 96ウェル平底ポリスチレン96ウェルELISAプレートに12時間(分子を直接コーティングした場合)、又は抗体(100 ng/100 uL PBS/ウェル)をコーティングした場合は72時間コーティングした。すべてのELISA洗浄を1% PBS/BSAで5回行い、すべてのインキュベーションを4度で1時間行った。最初の洗浄後、プレートを5%PBS/BSAでブロックし、再度洗浄し、100-200 ulの上清、精製分子又はrhuIL-15でインキュベートした。さらに洗浄後、1ウェルあたり100 ngのマウス抗HIS HRP共役検出モノクローナル抗体(SIGMA)を用いてHisタグを検出した。Il-15の検出は2段階で行った:まず、1ウェルあたり100 ngのマウス抗IL-15を用い、次に1ウェルあたり100 ngのHRP(シグマ;全分子)共役ウサギ抗マウスを用いた。発色は、発色基質OPDとH2O2を添加した1xクエン酸バッファーで行った。反応を0.5N H2SO4で停止した。吸光度はPolarstarプレートリーダーで492 nmと630 nmで読み取った。
【0217】
1.5.1. 精製sIL-15Rα.C4bpβ.scFv抗NKG2A.His8xヘテロテトラボロにおけるrhIL-15/sIL-15Rα複合体形成の実証
タンパク質/抗His ELISAは、IL-15の有無にかかわらず、精製されたヘテロテトラボロがELISAプレートに対して同様の用量反応結合パターンを有することを実証した。タンパク質/抗IL-15ELISAは、sIL-15Rα.C4bpβ.scFv抗NKG2A.His8x+hIL-15のみが、分子に複合化したIL-15の存在に特異的な用量応答シグナルを示すことを実証した(データは示さず)。
【0218】
1.5.2. 精製後のヘテロテトラボロ上に形成されたhIL-15/sIL-15Rα複合体の実証
huIL-15が精製と透析の多段階を経た後も分子に結合したままかどうかを調べるため、抗IL-15でコートし抗Hisで明らかにしたサンドイッチELISAを行った。ヘテロテトラボロ上のhIL-15とそのコレセプターIL-15Rαとの間の適切な複合体形成が起こることが実証された(データは示さず)。hIL-15を含まないsIL-15Rα.C4bpβ.scFv.抗NKG2A.His8xはバックグラウンドシグナルのみを示し、この構築物にIL-15が存在しないことを示した(データは示さず)。
【0219】
1.5.3. sIL-15Rα.C4bpβ.scFv.抗NKG2A.His8x + hIL-15ヘテロテトラボロ内でのhIL-15の飽和の実証
(i)sIL-15R.C4bpβ.scFv抗NKG2A二機能性ヘテロテトラボロへのrhuIL-15の特異的結合を示すため、及び(ii)rhuIL-15発現ベクター[sIL-15R.C4bp.scFv抗NKG2A+rhuIL-15]とコトランスフェクトしたHEK293T細胞から発現させたHis-Trap精製sIL-15R.C674bp.scFv抗NKG2A二機能性ヘテロテトラボロのrhuIL-15飽和レベルを評価するため、ELISAを設定した。このELISAでは、対照分子として、rhuIL15発現ベクターとコトランスフェクトしていないHEK293T細胞から発現させたHis-Trap精製sIL-15Rα.C4bpβ.scFv抗NKG2A対応二機能性ヘテロテトラボロ[sIL-15R.C4bpβ.scFv抗NKG2A]を使用した。ELISAプレートに6 μg/100 μl/wellの[sIL-15Rα.C4bpβ.scFv NKG2A+rhuIL-15]又は[sIL-15Rα.C4bpβ.scFv抗NKG2A]をコーティングした。洗浄後、プレートを市販のrhuIL-15(開始濃度20 μg/ml)の連続希釈液でインキュベートし、マウス抗ヒトIL-15検出pAb、続いてウサギ抗マウスIgG HRP共役で明らかにした。洗浄後、HRPとH2O2のOPD発色基質を添加した1xクエン酸バッファーでELISAを行った。反応を0.5N H2SO4で停止した。吸光度を分光光度計で492 nmと630 nmで読み取った。
・sIL-15Rα.C4bpβ.scFv抗NKG2A二機能性ヘテロテトラボロに関して、O.Dは0.05から2まで変化する。ELISAの結果は、sIL-15Rα.C4bpβ.scFv抗NKG2A二機能性ヘテロテトラボロの50%rhuIL-15飽和度が0.15 ng(O.D.=1)であることを示している。完全飽和は10-100 ng rhuIL-15(O.D.=2)の間に達する。
・sIL-15Rα.C4bpβ.scFv抗NKG2A+rhuIL-15二機能性ヘテロテトラボロに関しては、O.Dは1.55から1.95まで変化する。市販のrhuIL-15を追加していない場合のrhuIL-15の飽和度は約75-80%であると考えることができる。rhuIL-15を追加すると、完全に飽和する。
この実験から、sIL-15Rα.C4bpβ.scFv抗NKG2A+rhuIL-15は、rhuIL-15発現ベクターと共発現したとき、少なくとも75%のrhuIL-15ですでに飽和しており、占有されていないrhuIL-15のない残りの原子価は、完全に飽和するまで、なお追加のrhu-IL-15を捕捉できることがわかる。
【0220】
1.5.4. PBMC由来のNK92MI細胞株への又はNK細胞へのヘテロテトラボロの結合の実証
ターゲットNK細胞へのヘテロテトラボロの適切な結合を実証するために、この分子をPBMC又はNK92MI細胞株どちらかとインキュベートし、IL-15とHisを染色した。図4では、ヘテロテトラボロはいずれもPBMC由来のNK細胞及びNK92MI細胞上で抗Hisシグナルを示し、標的細胞への分子の特異的結合を示した。対照的に、sIL-15Rα.C4bpβ.scFv抗NKG2A.His8x + hIL-15でインキュベートした細胞のみが、抗IL-15に対して陽性に染色された。これらの結果は、C4bp C末端β鎖二量体化足場の下流の非自然位置にクローニングされたscFv 抗NKG2Aが、PBMC由来のNK細胞やNKG2Aを発現するNK92MI細胞株に結合できることを示している。さらに、ヘテロテトラボロはsIL-15Rα/IL-15複合体を形成し、頑健で、精製プロセス中に影響を受けないことが示された。
【0221】
1.5.5. ヘテロテトラボロ又はrhuIL-15でプレインキュベートし、RAJI標的細胞又はHIV-1潜伏感染ACH2細胞で刺激したNK細胞におけるCD107a/IFN発現プロファイル
RAJI標的細胞(バーキットリンパ腫患者由来のヒトBリンパ芽球系細胞株)及びACH-2標的細胞(HIV-1株LAIに感染した急性リンパ芽球性白血病T細胞株A3.01)の存在下で、PBMC由来のNK細胞を活性化するヘテロテトラボロの生物学的機能と能力を調べた。Raji細胞株は、NKG2AリガンドHLA-Eを含む複数の主要組織適合性複合体を発現することにより、NK細胞に対する抵抗性を持つことで知られている。潜伏ACH-2細胞株は、HIV-1の単一統合コピーを保有する慢性HIV-1感染モデルである。NK細胞の脱顆粒状態を反映するマーカーであるCD107a陽性NK細胞と、細胞溶解活性を反映する細胞内IFN-γ発現のプロファイルを調べた。1.5 x 106 PBMCをRPMI培地中、24ウェルプレートで3 μg/mlの各分子とともに4時間又は48時間インキュベートした。PBMCはさらに、抗CD107a- BV421の存在下、E:T比10:1でRaji細胞及びACH-2細胞とインキュベートされた。1時間のインキュベーション後、GolgiStopTMとGolgiPlugTM(BD Biosciences)を加えてさらに4時間培養し、その後洗浄し、細胞外マーカー(抗CD3/BUV496、CD14/PE-Cy5、CD16/BUV737、CD19/PE-Cy5、CD56/BV786、CD8/BV711及びL/D)を染色した。細胞をcytoperm/cytofixメーカーのプロトコール(BD Biosciences、ref.554714)に従って20分間透過処理し、細胞内IFN-γ/FITCを染色した。
sIL-15Rα.C4bpβ.scFv.抗NKG2A.His8x+hIL-15又は市販のrhIL-15で48時間プレインキュベーションした後、CD107a陽性NK細胞は培地のみでのインキュベーションに比べて有意に増加した。このデータは、二量体sIL-15Rα/hIL-15複合体が、Raji細胞で刺激された後のCD107aを介した脱顆粒に関してはrhIL-15と同じ効果をNK細胞に与えるが、潜伏HIV-1感染ACH2細胞で刺激された後のNK細胞の脱顆粒はrhIL-15と比較して有意に増強されることを明確に示している。hIL-15を含まないヘテロテトラボロとインキュベートした後のCD107a陽性NK細胞の増加は、Raji細胞で刺激した場合には培地コントロールと比較して有意ではなかったが、潜伏HIV-1感染ACH-2細胞で刺激した場合には有意であった。このことは、NKG2AレセプターをscFvでブロックしても、NK細胞の脱顆粒にはわずかな効果しかないことを示している。さらに、ヘテロテトラボロ+hIL-15は、Raji細胞との4時間のプレインキュベーション後に60%のIFNγ陽性NK細胞を、ACH-2細胞では25%のIFNγ陽性NK細胞を誘発した。一方、hIL-15を含まないヘテロテトラボロと市販のrhIL-15は、Raji細胞に対しては2%、ACH-2細胞に対しては10%のIFNγ陽性NK細胞しか誘発しなかった。NK細胞によるIFNγ発現に関しては、2価のsIL-15Rα/huIL-15複合体はrhIL-15単独よりも効率的であった(図5)。
【0222】
1.5.6. ヘテロテトラボロ又はヘテロテトラボロ+rhuIL-15とインキュベートした後のNK細胞のRaji細胞に対する細胞毒性活性
ヘテロテトラボロで刺激したNK細胞が標的細胞を溶解する能力を調べるため、細胞毒性実験を行った。1.5×106個のPBMCを、24ウェルプレートで、1 mlのRPMI培地中、各分子3 μgと48時間インキュベートした。Raji細胞及びACH-2細胞を、メーカーのプロトコールに従ってセルトレーサーバイオレット(ThermoFisher、Ref. C34557)で染色し、E:T比10:1でさらに24時間添加した。細胞はlive/dead(ThermoFisher、Ref. L34975)で染色し、フローサイトメトリーで解析した。陰性対照として、NK細胞なしでインキュベートしたRaji細胞とACH-2細胞を用いた。細胞毒性は以下のように計算した:([対照生細胞%]-[共培養生細胞%])/(対照生細胞%)。
図6は、sIL-15Rα.C4bpβ.scFv.抗NKG2A.His8x+huIL-15が、耐性Raji細胞及びACH-2細胞に対するNK細胞の細胞毒性活性を有意に増加させることができたのに対し、sIL-15Rα.C4bpβ.scFv.抗NKG2A.His8x及び市販のrhuIL-15は、Raji細胞で刺激した場合、培地対照と比較して効果を持たなかったか、又はACH-2細胞で刺激した場合、sIL-15Rα.C4bpβ.scFv.anti-NKG2A.His8x + huIL-15よりも有意に低い効果を示したことを示している。
【0223】
実施例2.三機能性ヘテロテトラボロを三特異的キラーエンゲージャー(「TriKE」)として用いた緑膿菌のリダイレクト最適化NK媒介殺傷
2.1. 導入
NK細胞は、以下のような機能を持つ自然リンパ球である:
・細胞外環境における顆粒エキソサイトーシスを介したパーフォリン/酵素放出を介したサイトカイン産生と細胞毒性反応。
・NK細胞は循環中や組織内をパトロールし、活性化レセプターと阻害性レセプターを介して正常細胞や異常細胞(感染細胞や腫瘍細胞)を感知し、区別する。
・NK細胞は、(i)サイトカイン産生と(ii)細胞毒性顆粒の放出を通じて、細菌や腫瘍に対する免疫において重要な役割を果たしている。
NK細胞は、阻害性又は活性化レセプターを通して環境を感知する。したがって、NK細胞の反応は活性化シグナルと阻害性シグナルのバランスに依存し、その結果、NK細胞の細胞毒性反応は阻害性リガンドと活性化リガンドの不均衡によって駆動される。
緑膿菌感染は、NK細胞上の活性化レセプターの膜発現を変化させる。NKG2Dは抗腫瘍、抗ウイルス、抗菌免疫に関与している。NKG2Dは、緑膿菌肺炎のマウスモデルにおいて、細菌クリアランスに関与していることが報告されている。NKG2Dの発現は、緑膿菌感染後に有意に減少した。その結果、NKG2D発現の低下は、緑膿菌感染後のNK細胞の細胞毒性の変化を説明することができた。SLAMF7はSLAM族のメンバーである。ほとんどのSLAMレセプターと同様に、SLAMF7は自己リガンドであり、すなわち、他の細胞上の別のSLAMF7分子をリガンドとして認識する。SLAMF7はナチュラルキラー(NK)細胞、活性化T細胞、ほとんどのB細胞、骨髄系細胞に存在する。NK細胞では、SLAMF7はNK細胞活性化の正の制御因子である。この活性には、SAP族のアダプターであるユーイング肉腫関連転写産物2(EAT-2)の発現が必要である。SLAMF7レセプターは、IFN-α誘導性自然免疫応答の重要な制御因子である。
複数の抗生物質に対する耐性は、世界中の医療現場でますます緊急の問題となっている。しかし、製薬業界は新しい抗生物質の開発には力を注いでいないようだ。癌患者のための新しい免疫療法とは対照的に、新しい抗生物質の開発はコストがかかる割に収益性が低いからだ。そのため、医療従事者が、既知の抗生物質すべてに耐性を持つ細菌による感染症に直面するリスクは確実に高まっており、患者の予後にも劇的な影響を及ぼしている。したがって、科学と医学がこれらの病原体との戦いに負けたくないのであれば、新たな抗菌治療の道は必須である。クレブシエラ・ニューモニエ、アシネトバクタ-・バウマンニ、緑膿菌など、いくつかの病原体は世界保健機関(WHO)によって特に危険であるとみなされている。
癌の分野では、過去10年間にさまざまな免疫療法が登場し、腫瘍との闘いにおける新たな最大の希望と考えられている。その中でも、米国ミネソタ大学のジェフリー・ミラーが最初に開発した「三特異性キラー・エンゲイジャー(TriKE)」は、有望なアプローチである。これらは、NK細胞上の活性化レセプター(CD16が多い)と癌細胞上の2つの抗原に対する3つの免疫グロブリン(抗体)由来の一本鎖可変フラグメント(scFv)の組み合わせ、或いは腫瘍抗原の1つをヒトインターロイキン-15(IL-15)に置き換えることで、NK細胞の生存と活性化を可能にする。
本発明者らは、TriKes原理(Felices M et al. Methods Mol Biol, 2016, 1441:333-346)を使用して、緑膿菌感染症などの細菌感染症の治療に使用するための二量体タンパク質複合体を作製した。このような二量体タンパク質複合体は、NK細胞活性化レセプターNKG2D(CD314)とSLAMF7(又はCD319)に対する2つのscFvフラグメントを含む。これは、一般にNK細胞は1つの活性化レセプターではなく、2つの活性化レセプターが関与しているときに最適な刺激を受けるという知識に基づいている。二量体タンパク質複合体はさらに、例えば二量体PcrV又はPsl scFv抗緑膿菌(参照により本明細書に組み込まれる国際特許出願WO2017095744-A1に記載されるようなscFv抗PcrV又はscFv抗Psl)のような、緑膿菌の表面構造に向けられた抗細菌抗体由来のscFvである、第三の機能的構成成分を含む。本発明者らは、TriKEをベースとする二量体タンパク質複合体(本明細書では「TriKE」とも呼ぶ)を介して、NK細胞が細菌と架橋することで、NK細胞の脱顆粒が起こるのではないかと仮定した。ヒトの細胞毒性リンパ球は、アポトーシス誘導物質(パーフォリン、グランザイム)と直接殺菌分子グラニュライシンで満たされた細胞溶解性顆粒を含むことが知られている。脱顆粒後、細菌は抗生物質に耐性があろうとなかろうと死滅する。このように、TriKE二量体タンパク質複合体は、細菌の代謝を阻害することによって抗生物質として作用するのではなく、細胞死を直接誘導するものとして作用するため、本発明者のアプローチは新しく独創的である。感染した組織や臓器にある自己NK細胞は、その場で活性化され、そこで脱顆粒する。
【0224】
2.2. 使用遺伝子とカセットデザイン(図7
- 構築物A’:MS scFv [(RTX VL 10-第一アミノ酸/MS (VL-VH)]抗NKG2D.C4bpβ.scFv (VL-VH) 抗Psl.His8x
MS抗NKG2D scFv(参照により本明細書に組み込まれる欧州特許出願EP2769993-A1に開示されている)は、NKG2D/DAP10/Grb2/VAv1/PI3K/Akt経路のアゴニストである一方、ELO scFv抗SLAMF7(エロツズマブ由来)は、SLAMF7/ITSM/PLC/Ca++/erk経路のアゴニストであり、両方の経路がNK細胞を活性化する。
Psl scFv抗緑膿菌は、国際特許出願WO2017095744-A1に記載されているscFv抗Pslである。
- 構築物B’:ELO scFv [(RTX VL 10-第一アミノ酸/ELO (VL-VH)]抗SLAMF7.C4bpβ.scFv (VL-VH)抗Psl.FLAG
抗NKG2D及び抗SLAMF7 scFvはC4bp β鎖のC末端部分の上流に位置する一方、scFv抗PslはC4bp β鎖のC末端部分の下流(C末端側)に位置する。このカセットをpEF-IRESpac発現ベクターにクローニングした。
3つのクローンを選んでさらに実験を行った:A'(BiKE)、B'(BiKE)及びA'B'(TriKE)(この図式表現は図8Aを参照)、ここで、BiKEは、第1及び第2のポリペプチドが同一である、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体であり、TriKEは、第1及び第2のポリペプチドが互いに異なる、本明細書で教示される二量体タンパク質複合体である。精製されたBiKEs A'とTriKEs A'B'は、非還元条件下でSDS-PAGEとSYPRO分析を用いて確認した(データは示さず)。イミダゾール濃度を順次上げていく段階的精製により、二量体を単離することができ、同時に価数の低い(単量体)又は高い(四量体)分子種を取り除くことができた。
【0225】
3.2. コーティング細菌を用いたELISA法を用いた、scFv抗PslIを示すBiKE及びTriKEの緑膿菌への結合
細菌はTBS培地で一晩培養し、600 nmで測定した光学密度が1.0になるようにした。1 O.D.単位は2 x108 CFU/mlを表す。細菌を2500 rpmで10分間遠心分離した。ペレットを10 mlのPBSに再懸濁した。遠心分離後、細菌を1%(v/v)のホルムアルデヒドを加えた4 mlのPBSに再懸濁し、室温で2時間放置した。細菌はPBSで10倍に希釈した(10倍:2 x 107 CFU/ml)。細菌をNUNC MaxiSorpTM 96ウェル平底ポリスチレンELISAプレート上に4℃で一晩固定化した(200 μl/ウェル= 4 x 106 CFU/ウェル)。PBS-1%(w/v)BSAで洗浄後、プレートを100 μlのPBS-5%(w/v)BSAで4℃で1時間ブロックした。100 μlのBiKE及びTriKE含有粗細胞培養上清とともにウェルを4℃で1時間インキュベートした。PBS-1%BSAで5回洗浄後、ウェルをヤギ抗FLAG/HRP共役pAb(Bethyl)又はマウス抗HIS HRP共役mAb(SIGMA)と4℃で1時間インキュベートした。5回の洗浄後、ELISAプレートをo-フェニレンジアミン二塩酸塩(ODP)/H2O2又はテトラメチルベンジジン(TMB)/H2O2発色基質で明らかにし、分光光度計を用いて450/492 nmで読み取るのに適した色になったとき、0.5N H2SO4で反応を停止させた。
BiKEsとTriKEsヘテロテトラボロの緑膿菌への結合のデータから、scFv 抗PslIは粘液嚢胞症患者からの4株中1株と、気管内チューブ患者からの分泌物からの5株中5株に結合した。scFv 抗PslIもRP73株に結合した。この例は、C4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端側に位置するscFv抗シュードモナスが機能的であり、標的に結合できることを示している(図8B)。
【0226】
3.3. BiKEs、TriKEsとシュードモナス/NK92MIとの結合・架橋に関するELISA及びFACS解析、及び細菌の殺傷
NK92MIと緑膿菌(RP73株)をそれぞれバイオレットセルトレーサーとPKH26で最初に染色した。BiKEs抗NKG2D/抗Psl(A')、抗SLAMF7/抗PSL(B')及びTriKEs抗NKG2D/抗SLAMF7/抗Psl(A'B')を、NK92MI単独、緑膿菌単独、又はNK92MIと緑膿菌の両方と、4℃で1時間インキュベートした。ネガティブ対照として、細胞/バクテリアをHEK293細胞のDMEM上清又はPBS/10%FBSのどちらかでインキュベートした。
細胞はフローサイトメトリーを用いて分析し、すべての条件についてNK92MI/緑膿菌の共存のパーセンテージが測定された(FACS解析の結果は表2及び図8Cを参照)。
【表2】
BiKE抗SLAMF7/抗Psl(B')及びTriKE抗NKG2D/抗SLAMF7/抗Psl(A'B')により、細胞はバイオレット細胞トレーサー及びPKH26で染色され、テトラボロの2つのscFvが機能的であることが実証され、NK細胞と標的緑膿菌との結合及び架橋が可能となった。
BiKE及びTriKE上の異なるscFvの発現は、抗HIS抗体又は/及び抗Flag抗体を用いてELISAで確認した。BiKE NKG2D(A')はHIS-TRAPカラムで精製し、BiKE SLAMF7(B')はFLAGアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製した一方、TriKE(A'B')の構造中のHisタグとFLAGタグは、抗NKG2Dと抗SLAMF-7の両方のscFvを持つクローンを単離する2段階精製法を可能にした。図8Dに示すように、それぞれのBiKEとTriKEは、それぞれの標的NKG2D及び/又はSLAMF-7に対するscFVを発現している。図8Eにおいて、本発明者らは、発光性シュードモナスPAO1-lux株を用いて、BiKE及びTriKEとの結合後にNK細胞によって誘導される細菌の殺傷を評価した。2.105NK92-CD16細胞をシュードモナスPAO1-lux株とともに、抗生物質無添加の完全RPMI培地200 μl中に最終E/T比1/3でプレーティングし、37℃で培養した。T0で分子を添加し、細菌増殖を9時間の間に発光マイクロプレートリーダーで経時的に3連で測定した。TriKE抗NKG2D/抗SLAMF7/抗PSl(A'B')は、3 μgの濃度でPAO1-luxの細菌増殖を2倍減少させ、6 μgの濃度でNK細胞とのインキュベーション9時間後の増殖を完全に阻止した。BiKE抗NKG2A/抗Psl(A')及びBiKE抗SLAMF7/抗Psl(B')は、分子を含まないPAO1-luxとインキュベートしたNK細胞と比較して、細菌の増殖に有意な影響を及ぼさなかった。
【0227】
実施例3.C4bpのC末端β-鎖二量体化足場と二量体化足場の下流のIgGからのFc(ヒンジ+CH2+CH3)を利用してFc生物学的機能を強化した「2ヒンジロングネック擬似免疫グロブリンG(擬似IgG)」
3.1. 擬似IgGのデザインと特徴
本発明者らは、「擬似IgG」として、2つのヒンジを持つロングネック擬似免疫グロブリンG1(LNPIgG1)を作製した(図9)。既知のscFv-Fc抗体様分子のように、擬似IgGは真核細胞用の発現ベクターにクローン化されたシングルカセットとして生成される。
pEF-IRESpacバイシストロン発現ベクターは、哺乳動物細胞における組換え治療用糖タンパク質の安定発現に適したベクターである。pEF-IRESpacは、マルチプルクローニングサイト(MCS)の下流に「Internal Ribosome Entry Site」(IRES)を含み、その後にピューロマイシン耐性遺伝子(pac)が続く。タンパク質の発現は、強力なヒトポリペプチド鎖伸長因子1αプロモーターによって駆動され、高タンパク質発現を実現する。腫瘍壊死因子レセプター超族メンバー16(TNFR16、UniProt番号P08138.1)のシグナルペプチドを、制限部位ECoRIとBgl2の間にクローニングした。擬似IgG(scFv又はVHH.Linker.C4bpβ.Fc)をコードするcDNAは、Bgl2制限部位とNotI制限部位の間にまたがり、ヒト細胞用にコドン最適化され、合成され、Proteogenix(Illkirsch、Strasbourg)によりpEF-IRESpにクローニングされた。C4bpのC末端β鎖(UniProt no.P20851.1、aa: 137-252)は(3x SGGGGS(配列番号3))リンカーをBspE1制限部位で始まる上流末端に含み、ヒトIgG1由来のFcのヒンジ、CH2、CH3が続き、ストップコドンとNotI制限部位で終わる(図10)。
マブセラ又はリツキシマブ(RTX)由来の(VL-VH)scFvを含む擬似IgGは、通常、非還元条件下で約140 kDaの分子量を有する。
擬似IgGは、C4bp β鎖二量体化足場のC末端部分の上流にN末端認識ドメインを示し、その間に3x(SGGGGS)(配列番号3)リンカーがある二量体分子である。標的部分は、抗体フラグメント(scFv、Nanobody)だけでなく、可溶性組換えレセプターやリガンドでもよい。二量体化足場の下流には、IgG1のFcがあり、(i)ヒンジ、(ii)CH2、(iii)CH3からなる。二量体化足場とFcの間にはリンカーはない。C4bpβは2本の鎖の共有結合的な二量体結合を担っているが、Fcのヒンジは二量体Fc結合を可能にし、完全に機能的なFc二量体へと導く。
C4bp β鎖のC末端フラグメントのN末端側に第3又は第4の機能的構成成分、及びC4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端側にIgG1の単量体Fcのいずれかを含む単一のモノシストロニック構築物のHEK293T細胞などの真核細胞へのトランスフェクションは、単一分子種の単特異性擬似IgGの細胞培養上清への分泌をもたらす(図10A)。
2つの構築物のコトランスフェクション、ここで、1つの構築物は、C4bp β鎖のC末端フラグメントのN末端側に第3の機能的構成成分、及びC4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端側にIgG1の単量体Fcを含み、第2の構築物は、C4bp β鎖のC末端フラグメントのN末端側に第4の機能的構成成分、及びC4bp β鎖のC末端フラグメントのC末端側にIgG1の単量体Fcを含む、ここで、第3及び第4の機能的成分が異なる場合、2つの単特異性3及び4対応物とともに、二重特異性3、4擬似IgGの生成をもたらす(図10A)。
参照により本明細書に組み込まれる国際特許出願WO2013097430に記載されているような、又はRidgway J B and P Carter L G P, ‘Knobs-into-holes’ engineering of antibody CH3 domains for heavy chain heterodimerization, Protein Eng., 1996, Jul 9 (7): 617-21によって記載されているような、既知の「knob-into-hole」技術と本明細書で教示されるような擬似IgG技術の組み合わせにより、100%二重特異性擬似IgGの発現が可能になる(図10B)。
擬似IgGの特徴は、ダブルヒンジの「ロングネック」Fcにあり、従来の抗体と比較して、標的表面の補体系を活性化する生物学的特性が特に強化されている。FcγRを活性化する能力も増強され、NKの活性化だけでなく、マクロファージの標的に対する貪食活性も増強される。本発明者らのin vitroデータによると、2つのヒンジを持つロングネック擬似IgGでは、C1qへのアクセス性が向上しており、この構成はまた、従来のIgG1よりも、C1q結合とそれに続く補体活性化及び補体媒介性細胞毒性(CDC)、並びに補体依存性細胞媒介性細胞毒性/貪食(CDCC/CDCP)及び免疫エフェクター細胞のFcγRへのFc係合(ADCC/ADCP)のためのFcの同時係合に有利であると考えられる。
【0228】
3.2. ELISA又はフローサイトメトリー解析を用いた擬似IgG含有単一クローン粗上清のクローニングとスクリーニング
3.2.1.対称型Fc/Fc ELISAを用いた単特異性及び「knob-into-hole」二特異性擬似IgG含有上清のスクリーニング
異なる分子の発現にはHEK293T細胞を用いた。トランスフェクションの前日、HEK293T細胞を6ウェル細胞培養プレートと完全DMEM培地に1.3x106細胞/ウェルの密度でプレーティングした。翌日、完全なDMEM培地をoptiMEM培地に交換した。リポフェクタミン3000キットを用い、説明書に従って(ThermoFisher、カタログ番号L3000001)、細胞を発現ベクターでトランスフェクトした。トランスフェクションから48時間後、細胞を10 cmの細胞培養皿に移し、Pen/Strep抗生物質(P/S)、グルタミン(Gln)、10%(v/v)のウシ胎児血清(FBS)、5~20 μg/mlのピューロマイシン(PURO20)選択抗生物質(構築物による)を添加したDMEM培地を加えた。2週間後、成長したクローンのうち、ピューロマイシンに耐性を示すクローンをひとつひとつ手作業で拾い上げ、96ウェルプレートに移した。約1週間後、単離したクローンの上清を、対称的な抗HIS又は抗ヒトIgG1 ELISAを用いて、テトラボロ/擬似IgGsの発現レベルをスクリーニングした。
個々のクローン上清のスクリーニングは、自家製のFc ELISAを用いて確立した。ヤギ抗ヒトIgG pAb(ABCAM ab97221)をNUNC MaxiSorp 96-well ELISAプレートにPBS(100 ng/well)中1 μg/mlで、4℃で48時間コーティングした。PBS-5%BSAで4℃で1時間ブロッキングした後、プレートを個々の細胞クローンの粗上清200 μlとともに4℃で1時間インキュベートした。上清の希釈は、シグナルが飽和しないように調整する必要がある。通常、1/200の希釈が必要である。その後、プレートをヤギ抗ヒトFc pAb HRP共役(ABCAM ab997225)希釈1/1000で明らかにした。その後、ELISAをOPD/H2O2 HRP発色基質で明らかにし、492 nmと620 nmで読み取った。最良のクローン(すなわち、擬似IgGを最も多く発現している)を選択し、スケールアップ生産のために拡大した。
【0229】
3.2.2. FACS解析と2つの標的細胞を用いた二重特異性擬似IgG含有上清のダブルスクリーニング
これは、ひとつひとつ拾い上げた細胞クローンからのRTX scFv/抗HER2 VHH二重特異性擬似IgG含有上清の、標的細胞とフローサイトメトリー解析を用いたスクリーニングの例である。上清はHER2陽性BT474細胞とCD20陽性DAUDI細胞で並行して検証された。BT474及びDAUDI細胞(1,5.105細胞/ウェル)を、トランスフェクトした個々のクローンから得た150 μlの粗上清とともに4℃で30分間インキュベートした。洗浄後(PBS/1%FBS)、細胞をヤギ抗ヒトIgG AF647共役pAbとインキュベートした。PBS中1%パラホルムアルデヒドで固定した後、フローサイトメトリーで細胞を解析した。上清が両方の細胞型で最も強い染色性を示した細胞(すなわちクローンD1、D12及びE1)(データは示さず)を、スケールアップ生産のために拡大した。
【0230】
3.3. 擬似IgGの大量生産、プロテインG精製及び特性評価
3.3.1. 大規模生産
スクリーニングの結果、擬似IgG発現量が最も高かったクローンを選択し、96ウェル細胞培養プレートから25 cm2(T25)フラスコに移した。コンフルエントに達した後、細胞をまず75 cm2(T75)フラスコに移し、次に175 cm2(T175)フラスコに移した。コンフルエントになったT175フラスコ7本の細胞を、完全培地(10%(v/v)FBS、ペニシリン/ストレプトマイシン、L-グルタミンを含むDMEM)中の5チャンバーフォーマットのポリスチレン製CellSTACK(R)に移した。24時間後、完全DMEM培地を、ペニシリン/ストレプトマイシン及びL-グルタミンを添加したOptiMEMに交換した。48時間後にOptiMEM培地を回収し、このプロセスを繰り返した(24時間の完全DMEMの後48時間のOptiMEM)。回収したOptiMEM培地(1リットル)を50 mlファルコンチューブで遠心分離し(20分、4000 rpm)、0.22 μm PVDF 1Lミリポア真空フィルターユニットでろ過した。
【0231】
3.3.2. 擬似IgGのGタンパク質ベースの精製
濾過したOptiMEM培地を、1 mlのProtein G Sepharose(R) 4 Fast Flow(GE healthcare, GE17-0618-01)と共に、攪拌しながら4℃で48時間インキュベートした。Protein Gビーズを遠心分離で回収し、ペリスタポンプに接続した空の1 ml使い捨てカラム(Qiagen)に移した。50 mlのPBSでビーズを洗浄した後、20 mlの溶出バッファー(リン酸クエン酸バッファー、pH2.7、10%(v/v)グリセロール添加)を用いて擬似IgGを溶出した。回収したフラクションは直ちに中和バッファー(10%(v/v)グリセロールを添加したバイカーボネートバッファーpH9)を用いて、溶出バッファー4/5+中和バッファー1/5の割合で中和し、最終pH7.2とする。その後、Amicon(c) 30 kDa MWCO遠心フィルター装置を用いて溶出液を濃縮した。精製した分子の濃度をNanoDropTM微量分光光度計で測定し、分注した後、凍結保存した。
【0232】
3.3.3. SDSページ電気泳動とSYPRO Ruby染色による分子パターン解析
1 μgの精製擬似IgGを、4μl-sの4X Laemmliサンプルバッファーと、10%(v/v)のβ2-メルカプトエタノールなし(非還元条件)とあり(還元条件)で混合した。サンプルは、4-15% Mini-Protean(R) Tris-Glycin eXtended (TGXTM)プレキャストタンパク質ゲル(Bio-Rad)とXT MESランニングバッファー(Bio-Rad)を用いてロードされ、電気泳動された。その後、100 mlの50%(v/v)メタノール+7%(v/v)酢酸2倍液で30分間ゲルを固定した。固定後、ゲルを30 mlのSYPRO Rubyゲル染色液とともに4℃で一晩インキュベートした。翌日、ゲルを100 mlの10%(v/v)メタノール+7%(v/v)酢酸で30分間洗浄した。最後に、AmershamTM TyphoonTM生体分子イメージャーを用い、Cy5フィルターでゲルを解析した。
RTX抗CD20擬似IgG、47D5 VHH抗HER2擬似IgG、及び二重特異性CD20/HER2擬似IgGの分子パターン解析により、knob-into-hole世代では、二重特異性擬似IgGが100%存在することが示された。さらに、2D3と47D5抗HER VHHの間にはサイズの違いが観察され、47D5 VHHの見かけの分子量は2D3 VHHよりも小さかった。
【0233】
3.3.4. Daudi細胞に対するRTX scFv.C4bpβ.Fc擬似IgGとRTX scFv.C4bpα.Fc及びマブセラ(リツキシマブ)の結合のFACS解析
精製RTX scFv.C4bpα.Fc(Multi-Di-Fc)、RTX scFv.C4bpβ.Fc(擬似IgG又はmono-Di-Fc)、マブセラ(RTX)又は分子なし(陰性対照)のDaudi細胞への結合をフローサイトメトリーで解析した。Daudi細胞(1.5 x 105/ウェル)を飽和濃度の分子(18 μg/ml)と4℃で30分間インキュベートした。洗浄後、細胞をヤギ抗ヒトIgG/AF647又はプロテインA/AF647と4℃で30分間インキュベートした。
RTX scFvは両方の足場[C4bpα.FcとC4bpβ.Fc]で機能することが実証され、両レベレーション系(抗ヒトIgG又はプロテインA)で観察されたものと同様の結合パターンを示した(データは示さず)。
【0234】
3.4. CH50アッセイを用いたRTX scFv.C4bpα.Fc、RTX scFv.C4bpβ.Fc擬似IgGとマブセラ(RTX)の液相補体活性化の比較
本発明者らは、RTX scFv.C4bpβ.Fc擬似IgGの分子を介した液相補体活性化をマブセラと比較した。そのために、本発明者らは古典的なCH50アッセイを用いた。CH50アッセイは、正常ヒト血清(NHS)の古典的経路の補体成分が、ウサギ抗SRBC抗体(ヘモリシン)であらかじめ感作されたヒツジ赤血球(SRBC)を溶解する機能的能力を検証する。溶血は膜侵襲複合体(MAC)の形成によって媒介される。
CH50アッセイを校正するために、本発明者らはまず正常ヒト血清(NHS)の連続希釈を確立した:まず80 μlの血清を20 μlのPBSに加え、作業血清溶液とした。作業血清溶液の連続希釈液を感作SRBCとインキュベートした(37℃で30分間)。その後、SRBCを遠心分離し、上清中のヘモグロビン遊離量を分光光度計を用いて418 nmで測定した。こうして溶血検量線が確立された。プラトーに達する前の直線的溶血曲線の頂上付近に相当する、約75%の溶血を誘発する血清希釈度が、アッセイ用の最終血清希釈度として用いられた。
3分子をPBSで連続希釈した。分子の連続希釈液20 μlを80 μlのNHSに混合し、37℃で1時間インキュベートした。その後、キャリブレーションの際に設定した血清希釈液を用いて、感作SRBCで溶血試験を行った(37℃で30分間)。もし分子がNHSの液相補体を消費すれば、NHSの溶血能力は低下する。
図11はCH50アッセイのデータを示している。50%の溶血を阻害する分子濃度を表すCH50は:
・RTX scFv.C4bp(beta).Fcに対して41 mg/l
・マブセラ(RX)二対して4 mg/l。
これらのデータは、RTX擬似IgG(又は「擬似RTX」)-単一の二量体Fcを示す-は、CH50濃度が4 mg/l前後で、液相補体活性化の点でマブセラと同様の特徴を示すことを示している。対照的に、2つのマルチDi-FcのCH50濃度は4倍低い。溶血曲線は、RTX擬似IgGでは28 mg/l、マブセラでは12 mg/lの濃度から低下し始めた。このアッセイの結果は、45 mg/lまで、擬似IgGによる液相補体消費量は、従来の抗体(RTX)による消費量よりも低いことを示している。従来の抗体と擬似IgGは、それぞれ12 mg/lと28 mg/lの濃度で液相補体を消費し始める。結論として、擬似IgGはMulti-Di-Fcよりも信頼性が高く、その液相補体活性化特性は従来の治療用抗体と類似している。ほとんどの抗体は、治療効果を示すためには、血清濃度が10~100 mg/lになるように高用量を注射しなければならない。我々のアッセイから、擬似IgGは45 mg/lまでは従来のIgGよりも安全に使用できる。
【0235】
3.5. 二重特異性抗CD20/抗HER2擬似IgGを介したDaudiリンパ腫とBT474乳腺腫瘍細胞との架橋のフローサイトメトリー解析
本発明者らは、二重特異性47D5抗HER2 VHH.C4bpβ.Fc/RTX抗CD20 scFv.C4bpβ.Fc擬似IgGの(i)CD20陽性Daudiリンパ腫細胞及びHER2陽性BT474乳癌細胞への結合能、及び(ii)2つの細胞タイプの架橋能を検証した。対照として、47D5抗HER2及びRTX抗CD20単特異性対応擬似IgGを用いた。
Daudi細胞はCFSEで、BT474細胞はKPH26細胞トレーサーで染色した。Daudi細胞とBT474細胞をDaudi:BT474 = 2:1の割合で混合した。細胞を、(i)精製した二重特異性抗HER2/抗CD20擬似IgG、(ii)単特異性47D5 VHH抗HER2擬似IgG、(iii)飽和濃度の単特異性RTX scFv抗CD20擬似IgG、又は対照として分子なしとインキュベートした。洗浄後、細胞をヤギ抗ヒトIgG/AF647 pAbとインキュベートした。洗浄後、フローサイトメトリーで細胞を解析した。二重特異性擬似IgGは2つの細胞型に結合し、それらの架橋につながることが示された(表3)。対照的に、47D5擬似IgGはBT474細胞にのみ結合することが示されたのに対し、RTX擬似IgGはDaudi細胞にのみ結合することが示され、どちらも2つの細胞型を架橋することはできなかった。この実験は、二重特異性疑似IgGにおけるscFv抗CD20とVHH抗HER2の両方の機能性を検証するものである。
【表3】
第二の実験では、二重特異性[knob-into-hole]RTX抗CD20 scFv.C4bpβ.Fc[knob]/47D5抗HER2 VHH.C4bpβ.Fc[hole]擬似IgGを、DaudiとBT474の結合と架橋について、RTX、トラスツズマブ、又は2つの複合mAbと比較した。本発明者らは、RTX、トラスツズマブ、複合型mAbsのいずれも、たとえ一緒にしたとしても、両細胞型を架橋できないことを明確に実証した。対照的に、二重特異性[knob-into-hole]擬似IgGは、(i)それぞれの細胞型に結合し、(ii)2つの細胞型を架橋することができる。二重陽性集団Violet/PKH26もまた、強い抗Fcシグナルを示す(表4)。このようにして、本発明者らは、二重特異性擬似IgGの2つの関連する認識部位が[knob-into-hole]二重特異性構築物において機能することを検証した。
【表4】
これら2つの実験を総合すると、knob-into-hole技術に関連する、或いは関連しない二重特異性疑似IgGが検証されたことになる。
【0236】
3.6. 25%正常ヒト血清存在下での擬似RTX(RTX scFv.C4bpβ.Fc)又はマブセラ参照mAbの連続希釈液とのインキュベーション後のDaudi細胞上のCDC及びC3b沈着のフローサイトメトリーを用いた解析
この実験では、Daudi細胞を(i)scFv.C4bpβ.Fc(RTX擬似IgG)、マブセラ、又は分子なしの2倍連続希釈液(開始濃度は20 μg/ml)とインキュベートした。次に、細胞をGVB++中25%正常ヒト血清(NHS)と37℃で30分間インキュベートした。洗浄後、細胞をマウス抗ヒトC3b mAb(Cedarlaneのクローン7C12)で4℃、30分間染色し、次にヤギ抗マウスIgG AF647共役二次pAbで、live/deadとともに染色した。細胞をPBS中1%(v/v)パラホルムアルデヒドで固定し、フローサイトメトリーで解析した。図12Aは、RTX擬似IgGが、使用したすべての濃度について、RTXマブセラと比較してより高い細胞毒性を誘発することを示している:分子量5 μg/mlでは、死細胞の割合はRTX(22%)より擬似RTX(38%)の方が1.7倍高かった。使用した最高濃度(20 μg/ml)でのみ、RTXは擬似RTXと同様の効果を示した。図12Bでは、擬似RTXを介したC3b沈着は、RTXと比較して、濃度2.5、5、10及び20 μg/mlで、それぞれ3.5倍、2.2倍、2.14倍及び1.55倍高い。RTXはCDCが生物学的活性の大部分を占める治療用抗体である。RTXのscFvを擬似IgG足場に発現させることで、RTXのFc機能が増強される。
【0237】
3.7. 擬似RTXの設計とRTXと擬似RTXのDAUDI細胞上のFc密度に対するC3b沈着の有効性の比較
図13Aは、RTXと比較したRTX擬似IgG(又は擬似RTX又はRTX scFv.C4bpβ.Fc)の構造的差異を示す:
- RTX scFv.C4bpβ.Fc又は擬似IgG又は「擬似RTX」が左側にある
- RTX又はマブセラは右側にある
図13Bは、使用した濃度の違いによる、Daudi上のFc密度に対するC3b沈着量を示している。RTX擬似IgGは、RTXより急速に際立ち、同じFc密度でより高いC3b活性化効果を示した。これは、図12で報告された、細胞毒性とC3b沈着に関する擬似RTXとRTXの用量反応比較分析と一致している。図13Bは、同じMFI抗Fc(12,200)に対して、C3b沈着はRTXと比較して擬似RTXの方が5.6倍優れていたことを示している。この実験により、C4bpβ.Fc足場が、補体活性化及び標的表面上でのCDC活性を増強したFcを持つ「擬似IgG」の設計及び発現に有効であることが証明された。
【0238】
3.8. BT474上の擬似IgG媒介補体活性化及びNK活性化(CD107陽性NKの割合)のFACS解析
本発明者らは、2つの二重特異性「knob-into-hole」擬似IgGの生物学的機能を探索したいと考えていた:
Z199 scFv抗NKG2A.C4bpβ.Fc[knob]/2D3 VHH抗HER2.C4bpβ.Fc[hole];略称:Z199/2D3
Z199 scFv 抗NKG2A.C4bpβ.Fc[knob]/Trastu scFv抗HER2.C4bpβ.Fc[hole];略称: Z199/T
(i)PBMCからのNK活性化、(ii)補体源として20%C5欠損ヒト血清でインキュベートした際のBT474細胞の補体活性化について。実験プロトコールは、図14Aに簡単に詳述されている。
BT474をCFSEで染色し、二重特異性擬似IgG(Z199/2D3又はZ199/Trastu)の5倍連続希釈液(20、4、0.8 μg/ml)、又はトラスツズマブ、又は分子なしとインキュベートした。BT474細胞は、GVB++ (37℃/5%CO2で30分)又は完全RPMI培地とインキュベートした後、PBMCと37℃/5%CO2で5時間共培養した。細胞を抗ヒトCD107/BV421(1時間コインキュベーション後)、及び抗ヒトIgG/AF647 pAb、並びに抗C3b/PE、抗CD3/BUV496、CD14/PE-Cy5、CD16/BUV737、CD19/PE-Cy5、CD56/BV786 mAbsで染色した。ゲーティング戦略の設定は、BT474細胞がCSFE陽性であることを知った上で、FcのNK染色にアクセスするために、CD3-/CD14-CD19-/CD16+/CD56+であった。
図14Bは、Z199/2D3二重特異性擬似IgGが補体存在下ではトラスツズマブよりわずかにNK細胞を活性化し、補体非存在下ではトラスツズマブと同様の活性を示したことを示している。Z199/T活性は補体の有無にかかわらずトラスツズマブよりわずかに弱かったが、BT474細胞に補体が存在するとZ199/T媒介NK活性化がわずかに増強された。
トラスツズマブではなく、二重特異性擬似IgGは、明らかに補体を標的細胞に強く誘導する。Z199/Tは補体存在下でNK活性化を増強する。NKの活性化は、(i)FcγRIIIA(CD16)とFcの相互作用、(ii)補体分解産物(iC3b、C3dg、C3dなど)とCD11b(CR3)及びCD11c(CR4)の相互作用という2つのメカニズムによって起こる。トラスツズマブには補体活性化作用はない。図14Cは、二重特異性擬似IgGでのみC3b沈着を示すが、トラスツズマブでは示さない。Z199/TはZ199/2D3よりも補体を活性化した。BT474にコートされた両方の擬似IgGについて、補体の付加的な存在はNK細胞を活性化する能力を増強する傾向があったが、トラスツズマブにはマイナスの影響を与えるようであった。これらのデータは、C4bpβ.Fc擬似IgG足場にトラスツズマブ由来のscFvを導入すると、オリジナルのトラスツズマブに比べて補体活性化生物学的活性が劇的に増強された擬似IgGが生成されることを示している。
Te Z199/2D3二重特異性擬似IgGは、Daudi細胞とBT474細胞を架橋できる二重特異性CD20/HER2と同様に、NK92MIとBT474を架橋することが示された(データは示さず)。我々は、この二重特異性擬似IgGをNK/腫瘍細胞モデルで検証した。
【0239】
3.9. 単球由来成熟マクロファージによる擬似IgGとRTXを介したDaudi細胞の貪食のアンドールスピニングディスク共焦点顕微鏡による比較解析
実験設定. DaudiはCFSEで、マクロファージはKPH26で染色した。
その後、Daudi細胞を飽和濃度(20 μg/ml)の下記でインキュベートした:
・マブセラ(RTX)
・RTX scFv.C4bpβ.Fc(擬似RTX)
・分子なし
洗浄後、Daudi細胞をGVB++中で15%のC5欠損ヒト血清(C5-HS)とインキュベートし、37℃/5%CO2で18時間共培養した。その後、細胞を1%(v/v)ホルムアルデヒドで固定し、DAPIで染色し、共焦点顕微鏡(倍率40倍)で解析する。解析にはNIKON NIH-elementsソフトウェアを使用した。DAPI(青)、CFSE(緑)、PKH26(赤)の3色と明るい光で50フィールドを撮影し、大きな写真を組み立てた。統計分析(平均値とSD)を確立するために、各条件で最低3枚の大きな写真を分析する。閾値設定後、マクロファージとDaudiを高精度に自動計数し、ピアソン係数を用いて自動共局在化を行った。
図15は、分析を要約したヒストグラムである。補体存在下(左)又は非存在下(右)における貪食性マクロファージの割合。ΔC5-HSの存在は、その後のCDCを伴わない補体の沈着を可能にする。Δ□5-HSを使用するとADCP+CDCPが評価されるが、脱補体ΔC5-HSを使用するとADCPのみが評価される。Daudi上の補体の有/無において、貪食性マクロファージの割合は以下の通りであった:
・マブセラ(RTX):24.1%/8.6%、係数2.8低下
・RTX scFv.C4bpβ.Fc(擬似RTX):52%/34.1%、係数1.52低下
・分子なし:5%/1.8%
補体非存在下では、補体存在下で得られた貪食結果と比較して、貪食性マクロファージの割合の損失は、擬似IgGで33%、RTXで66%であった。RTXが介在する細胞毒性活性は、擬似RTXと比較すると、補体介在細胞毒性(CDC)の方にある。説明としては、擬似IgGでは、CD11b/iC3b軸のさらなる関与につながるFcへのC1qの結合は、マクロファージ表面のFcγRIIIAレセプターとのFcの同時係合にあまり影響を与えないということが考えられる。擬似RTXは、補体存在下及び非存在下で、それぞれ2.16倍及び4倍のRTXより優れており、リンパ腫Daudi標的のマクロファージの貪食を誘発する。この実験は擬似IgG足場を検証するもので、RTXのscFvを用いて擬似IgGを作製すると、RTXのゴールドスタンダードと比較して、擬似RTXの生物学的活性が劇的に向上することを示している。
RTXの生物学的活性は、RTX擬似IgGよりも補体(CDCP)により依存している。擬似RTXとRTXの場合、補体非存在下では貪食作用は1.52倍と2.8倍低下するが、擬似RTXの全体的な活性は補体非存在下ではRTXより高い。つまり、ADCPとCDCPの併用は、RTXよりも擬似RTXの方が効率的である。これは、C1qのFcへの結合(補体古典経路の活性化とそれに続くCDCC/CDCPに関与する)は、RTXと比較して、擬似RTXの場合、Fcがその後CD16に結合する(そしてADCC/ADCPに関与する)能力にあまり影響を与えないという事実によって説明できる。
したがって、擬似IgG技術は、現在の治療用mAbの全体的な治療活性、特にADCC/CDCC及びADCP/CDCP活性の併発を改善することができる。
【0240】
実施例4.抗緑膿菌擬似IgGの作製
4.1. カセット/発現ベクターのデザイン(図16
擬似IgGの発現のための組換えcDNA構築物は、ProteoGenix SAS、Schiltigheimによって合成された:
‐scFv KBPA-101 (国際特許出願WO2006/084758A1に記載されているパノバクマブ由来の抗O11 scFv VL-VHオリエンテーション)_hu C4bp C末端β鎖 (UniProt nr. P20851.1、aa 137-252)_hu IgG H鎖定数γ(UniProt nr. P01857.1)
‐scFv抗Psl(MEDI3902由来、国際特許出願WO2017095744A1に記載)_hu C4bp C末端β鎖(UniProt nr.P20851.1、aa 137-252)_hu IgG H鎖一定γ(UniProt nr.P01857.1)
‐(VL-VH) scFvパノバクマブ.(3xSGGGGS).C4bp(beta).ヒンジ.CH2.CH3
‐(VL-VH) scFv抗Psl.(3xSGGGGS).C4bp(beta).ヒンジ.CH2.CH3
‐(VL-VH) scFv抗PcrV.(3xSGGGGS).C4bp(beta).ヒンジ.CH2.CH3
‐(VL-VH) scFvパノバクマブ.(3xSGGGGS).ヒンジ.CH2.CH3
‐(VL-VH) scFvパノバクマブ.(3xSGGGGS).C4bp(beta).ヒンジ.CH2.CH3[knob]/(VL-VH) scFv 抗Psl.(3xSGGGGS).C4bpβ.ヒンジ.CH2.CH3[hole]
発現カセットは、バイシストロニックpEF-IRESpac発現ベクターのマルチプルクローニングサイトの制限酵素BglIIとBspEIの間にクローニングされた。
【0241】
4.2. トランスフェクション&クローン選択
パノバクマブscFv (VL-VH).C4bpβ.Fc擬似IgG及び抗Psl scFv.C4bpβ.Fc擬似IgG分子の産生は、上記実施例3と同様の方法で行った。簡単に説明すると、HEK293T細胞をLipofectamine 3000キットを用いて組換えプラスミドDNAでトランスフェクトした。トランスフェクションの2日後、細胞をトリプシン処理し、選択抗生物質(40 μg/mlピューロマイシン)を添加した完全培地(10%(v/v)FBS、ペニシリン/ストレプトマイシン、L-グルタミンを添加したDMEM)中で10 cmの細胞培養皿に移した。トランスフェクトに成功した細胞は、クローンの直径が0.5-1 mmに達した時点で96ウェルプレートのシングルチャンバーに移された。単離したクローンの上清中のタンパク質濃度を、対称型抗Fc ELISAを用いて分析した。
【0242】
4.3. 対称型抗Fc ELISA法を用いたタンパク質濃度の測定
ヤギ抗ヒトIgG Fc(Abcam、ab97221)を、PBSで希釈した1 μg/mlの濃度でNUNC MaxiSorpTM 96ウェル平底ポリスチレンプレートにコートした(100 μl PBSで100 ng/ウェル)。4℃で48時間インキュベーション後、プレートを150 μlのPBS-1%BSAで5回洗浄し、4℃で100 μlのPBS-5% BSAで1時間ブロッキングした。洗浄工程の後、2 μlの細胞培養上清+198 μlのPBSを加えた(100倍希釈)。プレートを4℃で1時間インキュベートした。ヤギ抗ヒトIgG Fc(HRP)(Abcam、ab97225)をコーティング抗体と同じ濃度(100 ng/ウェル)で加え、4℃で1時間インキュベートした。最後の洗浄工程の後、プレートを50 μlのTMB/H2O2発色基質で明らかにし、染色反応を0.5N H2SO4で停止した。プレートを分光光度計で450 nmで読み取った。
【0243】
4.4. 大規模生産
吸光度(抗Fc ELISA)が最も高いクローンを選択し、96ウェル細胞培養プレートから25 cm2(T25)フラスコに移した。コンフルエントに達した後、細胞をまず75 cm2(T75)フラスコに移し、次に175 cm2(T175)フラスコに移した。コンフルエントになったT175フラスコ7本の細胞を、完全培地(10% FBS、ペニシリン/ストレプトマイシン、L-グルタミンを含むDMEM)中の5チャンバーフォーマットのポリスチレン製CellSTACK(R)に移した。24時間後、完全DMEM培地を、ペニシリン/ストレプトマイシン及びL-グルタミンを添加したOptiMEMに交換した。48時間後にOptiMEM培地を回収し、このプロセスを繰り返した(24時間の完全DMEMと48時間のOptiMEM)。回収したOptiMEM培地(1リットル)を50 mlファルコンチューブで遠心分離し(20分、4000 rpm)、0.22 μm PVDF 1L真空フィルターユニットでろ過した。
【0244】
4.5. プロテインGアフィニティークロマトグラフィーによるタンパク質の精製
濾過したOptiMEM培地を、1 mlのProtein G Sepharose(R) 4 Fast Flow(GE healthcare、GE17-0618-01)と共に、攪拌しながら4℃で48時間インキュベートした。Protein Gビーズを遠心分離で回収し、あらかじめ25%エタノールとPBSで洗浄した空の1 ml使い捨てカラム(Qiagen)に、蠕動ポンプを使って移した。50 mlのPBSでビーズを洗浄した後、溶出バッファー(リン酸クエン酸バッファー、pH2.7)を加えた。1600 μl-sの溶出液を、400 μl-sの中和バッファー(バイカーボネートバッファーpH9)を既に含む2 mlのエッペンドルフチューブに集めた。15本の2 mlチューブに溶出液を入れ、50 mlファルコンで混合した。その後、Amicon(c) 30 kDa MWCO遠心フィルター装置を用いて溶出液を濃縮した。精製分子の濃度は、NanoDropTM微量分光光度計を用いて測定した。
【0245】
4.6. SDSページ電気泳動とSYPRO Ruby染色による分子パターン解析
1 μgの精製パノバクマブscFv (VL-VH).C4bpβ.Fc疑似IgG分子を、4 μl-sの4X Laemmliサンプルバッファーと、10%β2-メルカプトエタノールなし(非還元条件)又はあり(還元条件)と混合した。サンプルは、4-15% Mini-Protean(R) Tris-Glycin eXtended (TGXTM)プレキャストタンパク質ゲル(Bio-Rad)とXT MESランニングバッファー(Bio-Rad)を用いてロードされ、電気泳動された。その後、100 mlの50%メタノール+7%酢酸2倍液で30分間ゲルを固定した。固定後、ゲルを30 mlのSYPRO Rubyゲル染色液とともに4℃で一晩インキュベートした。翌日、ゲルを100 mlの10%メタノール+7%酢酸で30分間洗浄した。最後に、AmershamTM TyphoonTM生体分子イメージャーを用い、Cy5フィルターでゲルを分析した。
パノバクマブscFv (VL-VH).C4bpβ.Fc 擬似IgGの3つの精製産物を分析し、非還元型では約140 kDaのMWを有し、還元型では約70 kDaのMWを有することが示された(データは示さず)。
【0246】
4.7. パノバクマブscFv (VL-VH).C4bpβ.Fc擬似IgG及び抗Psl scFv.C4bpβ.Fc擬似IgGの緑膿菌に対する用量依存的結合 - 全細胞ELISA法
細菌細胞(参照株 PAO1及びO11、臨床分離株IPP6247290)を4 mlのTBS培地で600 nmの光学濃度が1.0になるまで一晩培養した。細胞を15 mlのファルコンチューブに移し、10分間2500 rpmで遠心した。上清を捨て、ペレットを10 mlのPBSに懸濁した。遠心分離後、細菌を1%(v/v)PFA-PBS溶液に再懸濁した(固定)。そして、4 x 106 CFU/ウェルをNUNC MaxiSorpTM 96ウェル平底ポリスチレンELISAプレートに一晩固定化した。PBS-1%BSAで5回洗浄後、100 μlのPBS-5%BSA溶液でプレートを4℃で1時間ブロッキングした。異なる濃度の精製擬似IgG分子[Pano scFv.C4bpβ.Fc又はPsl scFv.C4bpβ.Fc]を、4℃で1時間添加した(1000 ng/wellから始まる3回連続希釈)。洗浄後、ヤギ抗ヒトIgG Fc(HRP)を1 μg/ml(100 ng/well)の濃度で添加し、4℃で1時間インキュベートした。プレートを100 μlのOPD/H2O2発色基質で発色させた。染色反応を0.5N H2SO4で停止した。プレートを分光光度計で492 nmで読み取った。データは3回の実験から得られた平均値±SDである。
・参照株PAO1は、抗Psl scFv(EC50= 6ng/ウェル)によって特異的に認識されるが、Pano scFv.C4bpβ.Fcによって認識されない(図17C、左)。
・ATCC33358血清型O11:Pano scFv.C4bpβ.Fc擬似IgGは緑膿菌国際抗原型別システム(IATS)血清型O11と特異的に結合し、リポ多糖(LPS)のO-多糖部分を認識するが(EC50=110 ng/well)、Psl scFv.C4bpβ.Fcによる認識ははるかに弱い(EC50に達しなかった)。C4bpβ.Fcによる認識ははるかに弱い(EC50に達しなかった)(図17C、中央)。血清型O11は、緑膿菌感染症の~20%を占める。
・臨床分離株(IPP6247290)は気管切開患者から分離され、pano scFv.C4bpβ.Fc(EC50=5 ng/ウェル)とPsl scFv.C4bpβ.Fc(EC50=110 ng/ウェル)の両方によって認識され、pano scFv.C4bpβ.Fcは、Psl scFv.C4bpβ.Fcよりも22倍優れた親和性を有する(図17C、右)。陰性対照として、本発明者らは、コーティングした細菌を用いたが、擬似IgGは用いず、二次抗ヒトIgG pAbレベレーション系を用いた。
図17Aは、参照株PAO1-ルシフェラーゼに対する補体活性化を介したPsl scFv.C4bpβ.Fc擬似IgGの直接的な殺傷活性を描いており、細菌の増殖を防ぎ、4~5時間の間にルシフェラーゼシグナルの減衰をもたらした。Psl scFv.C4bpβ.Fcと脱補体ヒト血清の存在下では、対照(25%NHS非脱補体又は脱補体)と比較して細菌の増殖に影響はない。この実験は、擬似IgGを介した補体依存性の細菌殺傷の証拠を示している。
図17Bは、シュードモナスに結合するとC1qをリクルートし、補体古典経路の活性化に関与し、C3bの沈着、膜侵襲複合体の形成、そして最終的には孔の形成と膜の破壊による細菌の死滅をもたらす、Pano & Psl擬似IgGの作用機序を示している。
【0247】
4.8. Pano scFv.C4bpβ.Fc及びPsl scFv.C4bp(beta).Fc擬似IgGは緑膿菌の補体活性化(C3b沈着)をコート細菌を用いたELISAで用量反応的に媒介する
細菌細胞(PAO1、O11参照株又は臨床分離株IPP6247290)を、4.7節に記載したように、NUNC MaxiSorpTM 96ウェル平底ポリスチレンELISAプレートにコートした。ブロッキング後、PBS/1%BSAで3倍に連続希釈した擬似IgG[Pano scFv.C4bpβ.Fc又はPsl scFv.C4bpβ.Fc]を加え(開始濃度100 ng/ウェル)、1時間インキュベートした。対照として、擬似IgGを添加せず、その後正常ヒト血清(NHS)を塗布したときのC3b沈着のバックグラウンドを測定した。洗浄後、プレートを、GVB++バッファーで最終容量100 μlに希釈した、0.5%の脱補体又は脱補体ヒト血清(それぞれ、NHS対ΔNHS)と共に37℃で30分間インキュベートした。洗浄後、プレートをマウス抗ヒトC3/C3b/iC3b mAb(クローン7C12)(Cedarlane、CL7636AP)と4℃で1時間インキュベートした。その後、プレートを100 ng/ウェルのヤギ抗マウスIgG HRP共役pAb(Biolegend、405306)で明らかにした。最後に、100 μlのOPD/H2O2発色基質でプレートを明らかにした。染色反応は、0.5N H2SO4を用いて停止させた。分光光度計を用い、O.D.を492 nmと605 nmで読み取った。
図18に描かれた細菌上の擬似IgG媒介C3b沈着のデータは、図17Cで観察された擬似IgGの結合のデータと一致している:
・Pano擬似IgGではなくPsl擬似IgGは、PAO1参照株(EC50=111 ng/ウェル)に強いC3b沈着を誘導する(図18、左)。
・Pano擬似IgGはO11 ATCC33358参照株(EC50=300 ng/ウェル)に強いC3b沈着を誘導し、Psl擬似IgG(EC50 には達しなかった)の程度ははるかに低い。O.D.は、同じ擬似IgG濃度(1000 ng/ウェル)において、第1と第2でそれぞれ3対0.7であった。
・Pano擬似IgG及びPsl擬似IgGは、臨床分離株IPP627290(両者ともEC50=111 ng/ウェル)上で強いC3b沈着を誘導した。Psl擬似IgGよりもPano擬似IgGの結合が弱いことは、最も早いC3b沈着効果の用量反応には影響しない。
0.5%のNHSの存在下では、擬似IgGの非存在下でもC3b沈着は起こらない。
【0248】
4.9. Pano scFv.C4bpβ.Fc及びPsl scFv.C4bpβ.Fc擬似IgGは緑膿菌の補体活性化(C5b9膜侵襲複合体形成)をコート細菌を用いたELISAで用量反応的に媒介する
株PAO1(図19左)、ATCCの参照株O11(図19中央)、又は臨床分離株IPP6247290(図19右)を、4.7節に記載したようにNUNC MaxiSorpTM 96ウェル平底ポリスチレンELISAプレートにコートした。陰性対照として、コーティングしていないウェルを使用した。100 μlのPBS-5%BSAでブロッキングした後、プレートをPano scFv.C4bpβ.Fc又はPsl scFv.C4bpβ.Fc擬似IgGのどちらかの3倍連続希釈液(1000 ng/ウェルから開始)と共に4℃で1時間インキュベートした。150 μlのPBS-1% BSAで5回洗浄した後、プレートを、GVB++バッファーで最終容量100 μlに希釈した2%正常ヒト血清(NHS)又は脱補完正常ヒト血清(ΔNHS)と共に37℃で30分間インキュベートした。洗浄後、プレートをマウス抗ヒトC5b9 mAb(クローンaE11)(Abcam、ab66768)と4℃で1時間インキュベートした。プレートをヤギ抗マウスIgG HRP共役pAb(Biolegend、405306)100 ng/ウェルでインキュベートした。最後に、100 μlのOPD/H2O2発色基質でプレートを明らかにした。染色反応は、0.5N H2SO4を用いて停止させた。O.D.は492 nmで読み取った。データは3回の実験から得られた平均値±SDである。
図19に描かれた細菌上の擬似IgG媒介C5b9 MAC形成のデータは、図17Cで観察された擬似IgGの結合のデータ、及び図18で観察された擬似IgG媒介C3b沈着のデータと一致している:
・Pano擬似IgGではなく、Psl 擬似IgGはPAO1参照株上でMAC形成を誘導する(図19、左)。最高擬似IgG濃度(1000 ng/ウェル)では、測定されたO.D.は、Psl擬似IgG及びPano擬似IgGでそれぞれ2.5及び1であった。擬似IgG非存在下でのO.D.バックグラウンドは0.5であった。
・Pano擬似IgGはO11 ATCC33358参照株でMAC形成を誘導し、Psl擬似IgGも同様に、より少ない程度であった。最高擬似IgG濃度(1000 ng/ウェル)で測定されたO.D.は、Pano擬似IgGで1.5、Psl擬似IgGで0.9であった。
・Pano擬似IgG及びPsl擬似IgGは、臨床分離株IPP627290に対して強いMAC形成を誘導した(Psl擬似IgG及びPano擬似IgGはそれぞれ、EC50=12及び37 ng/ウェル)。
2%のNHSの存在は、擬似IgGの非存在下ではMAC形成につながらない。
全体として、図17~19は、2つの擬似IgG抗緑膿菌が強力な補体活性化因子であることを示している。Pano擬似IgGは、嚢胞性線維症分離株と気管切開分離株のそれぞれ9%と26%を認識したが、Psl擬似IgGは、嚢胞性線維症分離株(11株)と気管切開分離株(15株)のそれぞれ45%と100%を認識した(データは示さず)。したがって、Psl擬似IgGは、Pano 擬似IgGと比較して、より広いシュードモナス認識スペクトルを持つようである。
本発明者らはさらに、C3bの沈着が、膜侵襲複合体(MAC)とも呼ばれる終末補体複合体(TCC)の形成につながるかどうかを検討した。TCCは、膜に大きな損傷を与え、補体依存性細胞毒性(CDC)の起源となる孔を形成し、直接的な溶解を引き起こすだけでなく、免疫エフェクター細胞による認識、貪食、細胞毒性細胞の活性化を促進するためのタグ標的も形成する。
【0249】
4.10. 補体依存性殺傷アッセイ
細菌細胞(SPAO1、参照株O11、臨床分離株IPP6247290)をTryptic soy broth(TSB)培地で37℃、600 nmの光学濃度が1.0になるまで培養した。細胞を洗浄し、106細胞/mlの濃度になるようにPBSで希釈した。ウェルあたり5 x 103細胞を加え(5 μlの細菌懸濁液+45 μlのGVB++バッファー)、擬似IgG分子(5 μg/ウェル)あり又はなしで4℃で2時間インキュベートした。その後、50 μl-sの10%(v/v)正常ヒト血清(NHS)又は熱不活化ヒト血清(ΔNHS)を37℃で30分間添加した。その後、混合液をPBSで10倍及び100倍に希釈し、一晩培養した後、Trypric Soy Agar(TSA)プレートにプレーティングしてCFUを定量した。データは3回の実験から得られた平均値±SDである。
パノバクマブscFv(VL-VH).C4bpβ.Fc 擬似IgG及び抗Psl scFv.C4bpβ.Fc 擬似IgG分子の直接的な殺傷能力を、補体依存性殺傷アッセイにより評価した。細菌細胞(PAO1、参照株O11、臨床分離株IPP6247290)を、擬似IgG分子の存在下又は非存在下で、活性型(NHS)又は脱補完型ヒト血清(ΔNHS)とインキュベートし、一晩培養後、TSA寒天プレートにプレーティングしてCFUを定量した。図20は、結合した場合、両方の擬似IgG-sが補体の活性化と細菌の殺傷を促進し、結果的にNHSと比較してコロニー形成単位(CFU)/プレートの数が減少することを示している。抗Psl疑似IgGはPAO1のCFU数を35%減少させ、IPP6247290のCFU数を31%減少させた。Pano擬似IgGはATCC33358 O11のCFU数を26%減少させた。この実験から、Pano及びPs1擬似IgGが介在するC3b及びC5b9沈着が、緑膿菌に対して殺菌効果を持つことが示された。PAO1-ルシフェラーゼ・シュードモナス参照株は、しかし、擬似IgGを介した補体指向の殺傷効果と細菌増殖のさらなる阻害を示すには、はるかに単純である(図17A)。
【0250】
4.11. NK92humCD16細胞株の緑膿菌とのパノバクマブscFv.C4bpβ.Fc擬似IgGを介した架橋のフローサイトメトリー解析
本発明者らは、パノバクマブ(VL-VH) scFv.C4bpβ.Fc擬似IgGが緑膿菌とNK細胞を架橋する能力を調べた。NK92humCD16細胞株はバイオレット細胞トレーサーで染色し、緑膿菌O11 ATCC株はPKH26で染色した。1 μgの擬似IgG(又は対照として分子なし)を、(i)violet-NK92humCD16単独、(ii)PKH26-O11単独又は(iii)細胞と細菌の両方(比率1:5)と共に、4℃で1時間インキュベートした。洗浄後、細胞、細菌、又は細胞/細菌を、ヤギ抗ヒトIgG AF647共役とインキュベートした。細胞はフローサイトメトリー(Quanteon)を用いて解析した。
NK92humCD16細胞株によるPano scFv擬似IgGを介した緑膿菌捕捉のフローサイトメトリー解析により、擬似IgGは緑膿菌に結合し、擬似IgGはNK92humCD16単独には結合しないことが示された(データは示さず)。擬似IgGの非存在下では、緑膿菌とNK92humCD16の間の架橋は見られなかった(データは示さず)。擬似IgGが存在する場合のみ、バイオレット陽性かつFc陽性の集団が存在し、擬似IgGが存在する場合のみ、PKH26陽性かつFc陽性の集団が存在した(データは示さず)。さらに、擬似IgGが存在する場合にのみ、セルバイオレット・トレーサーとPKH26の二重陽性集団が存在することが確認された(データは示さず)。結論として、擬似IgGと緑膿菌の複合体は、CD16とFcの相互作用を通してNK92humCD16細胞によって捕捉されることができる。対照的に、遊離の擬似IgGはNK92humCD16には捕捉されない。この実験は、擬似IgGが完全に機能し、細菌標的に結合するとNKエフェクター細胞をリクルートすることを示している。
【0251】
実施例5.緑膿菌を殺すことができる二機能性ヘテロダイマー(テトラボロ)
5.1. 導入
日和見病原体の緑膿菌(P. aeruginosa)は、ヒトにおいて生命を脅かす感染症を引き起こし、特に免疫不全患者における院内感染の主要な原因である。補体系は細菌感染の早期除去に重要な役割を果たしている。体液と接触すると、緑膿菌は補体代替経路の主要な阻害因子であるヒトファクターH(FH)を介してヒトの補体攻撃を回避する。FHタンパク質族には、主要な代替経路制御因子であるFH、そのスプライスバリアントであるFH様タンパク質1(FHL-1)、及び5つのFH関連タンパク質(FHR)が含まれる。最近の証拠は、補体活性化の制御或いは調節におけるFHR-1の役割を示している。FHR-1はFHのCCP6と7及びCCP18-20に相同な5つのCCPから構成されており、それぞれ宿主表面認識を担い、重要なC3b結合部位を含んでいる。より詳細には、FHR-1のC末端SCR3-5ドメインは、FH/SCR18-20とそれぞれ100%/97%、100%及び98%同一であり、C3b及びC3dと結合する。C3のレベルで増幅反応を制御するFHは、補体制御タンパク質(CCP)ドメイン6-7及び19-20を介して細菌細胞に結合することができる。FHR1はFHと競合し、補体攻撃の正の制御因子として働く。重要なことは、FHR-1が微生物表面にリクルートされ、その後、FHR-1の濃度が高まるにつれてH因子を上回り、その結果、C3コンバターゼがダウンレギュレーションされ、補体の活性化が高まるということである。補体代替経路の活性化は、好中球や単球の動員、プライミング、活性化を増幅し、最終的に細胞や細菌を破壊的に標的化する自己増幅的な炎症ループを生み出す。
本発明者らは、例えば、二量体PcrV又はPsl scFv抗緑膿菌のような、緑膿菌の表面構造を指向する抗細菌抗体由来のscFv抗pslを使用して、二機能性ヘテロテトラボロを生成し(scFv抗PcrV又はscFv抗PstI、参照により本明細書に組み込まれる国際特許出願WO2017095744-A1に記載されているような)、緑膿菌のexopolysaccharide pslと(FHR1)の最後の3つのShort Consensus Repeats(SCR3-5)を標的とする。本発明者らは、(i)Psl scFv (VL-VH)と、(ii)C4bp C末端β鎖の上流及び下流にそれぞれクローニングされたFHR1由来のSCR3~SCR5からなる融合タンパク質を用いた(図22A)。Psl/FHR1(SCR3-5)構築物は、Psl結合部位を介して緑膿菌に結合する。したがって、標的とした細菌表面では、ヘテロテトラボロのFHR1(SCR3-5)C末端エフェクター部分が、ハイジャックされた結合因子H(FH)とC3bを競合し、FHが介在する補体崩壊が調節され、図22Bにスケッチされているように、補体代替経路(AP)の活性化とそれに続く細菌溶解に局所的につながる。
【0252】
5.2. 使用遺伝子とカセットデザイン
C4bpβ-(SGGGGS)5-MluI-FHR1(SCR3-5)-His8x-Stop-NotIのBspE1-(SGGGGS)5-C末端部分
使用された遺伝子:
- Psl scFv抗緑膿菌は、国際特許出願WO2017095744-A1に記載されているscFv抗PstIである。
- 補体因子H関連タンパク質1(CFHR1)のSCR3-SCR5:UniProtKB - Q03591 (FHR1_HUMAN)
- その他の成分はすべて、実施例1の別の場所に記載されている
【0253】
5.3. 緑膿菌におけるヘテロテトラボロPsl/FHR1(SCR3-5)の結合と補体活性化の実証
ヘテロテトラボロPsl/FHR1(SCR3-5)のPAO1緑膿菌細胞への用量依存的結合は、96ウェルELISAプレートに固定化した1.5.105菌/ウェルを用いたELISAで確認した。結合した分子はマウス抗HIS HRP共役mAbを用いて明らかにした(図22C)。細菌へのC3b沈着を測定するために、本発明者らは、0.5%の正常ヒト血清(NHS)又は脱補完ヒト血清(ΔNHS)の存在下で30分間、同じELISAを使用した。C3bはマウス抗ヒトC3/C3b/iC3b mAbで検出され、その後ヤギ抗マウスIgG HRP共役顕示抗体で検出された。Psl scFv/FHR1(SCR3-5)ヘテロテトラボロの添加は、非補体血清存在下でのみC3b沈着を増加させ、それによってPAO1緑膿菌細胞表面の補体を活性化したが、ΔNHSではC3b沈着は完全に消失した(図22D)。
【0254】
5.4. ヘテロテトラボロPsl/FHR1(SCR3-5)による緑膿菌の殺菌の実証
Psl/FHR1(SCR3-5)の直接死滅は、ヘテロテトラボロと5時間インキュベートした後、PAO1-ルシフェラーゼ緑膿菌株を用いて示された。細菌の増殖は、異なる時点(5時間)で測定された(RLUにおけるルシフェラーゼシグナル)。Psl scFv/FHR1(SCR3-5)ヘテロテトラボロは、50% NHSの存在下で、細菌の直接死滅を誘導し、実験期間中(5時間)を通して細菌の増殖を阻止した。補体代替経路を活性化するC3bの結合性ドメインを含むFHR1の最後の3つのSCR(SCR3-5)は、局所的に効率的なFH調節を引き起こすのに十分である。NHS単独では弱い殺菌効果しかない(背景)。この革新的な構築物は、標的とする膜表面における補体代替経路(AP)の活性化を選択的且つ局所的に誘導するものであり、破壊的な細胞標的化の新しいアプローチである。
【0255】
実施例6.マルチターゲットCCP1-2擬似IgGの作製
6.1. 導入
補体系は複雑な自然免疫監視システムであり、侵入してくる病原体に対する防御、炎症、宿主のホメオスタシスを担っている。補体系は、自己、修飾自己(老化細胞、アポトーシス細胞又は壊死細胞など)、非自己を識別し、危険シグナルとして、最初のタイプではなく、最後の2つのタイプの細胞/病原体をタグ付けすることができ、これは、(i)直接補体媒介細胞毒性(CDC)を引き起こすか、或いは(ii)補体媒介細胞毒性(CDCC)又は貪食(CDCP)のために免疫エフェクター細胞(NK細胞、マクロファージなど)をリクルートして活性化する。補体系は、侵入してくる微生物に対する防御の第一線であり、細菌感染の大部分を排除する役割を担っている。マンナン結合レクチン(MBL)、C1q、プロペルディン、抗体などの選択的パターン認識分子は、この自己/修飾自己/非自己の識別を担う循環分子である。4種類の膜アンカー型補体制御タンパク質(mCRP:CD35、CD46、CD55、CD59)が自己細胞に発現し、自己細胞に対する不要な補体活性化を制御している。さらに、3種類の可溶性補体制御タンパク質(C4b結合性タンパク質、C4bp、H因子、C1-インヒビターなどのsCRP)が自己細胞に結合し、補体破壊から自己細胞を守る。H因子は補体代替経路(AP)を負に制御し、C4bpは補体古典経路とレクチン経路(CPとLP)を負に制御する。C1阻害剤は、レクチン経路の活性化に関与するC1r、C1s、MASP1及びMASP-2を阻害する。クラスタリンやビトロネクチンなどの追加の可溶性補体制御タンパク質は、膜侵襲複合体(MAC)とも呼ばれる補体末端複合体C5b9の下流での形成を阻害する。
病原性侵入微生物は、宿主の中で生き残るために、補体系を妨害するいくつかのメカニズムを発達させてきた。ほとんどの病原性細菌は、C4b結合性タンパク質及び/又はH因子のような可溶性補体制御タンパク質をハイジャックすることで、補体による殺傷を回避している。複数の細菌が異なる部位でC4bp α鎖に結合し、C4bpをハイジャックすることができる。C4bp α鎖には、ショートコンセンサスリピート(SCR)とも呼ばれる8個の補体制御タンパク質(CCP)が含まれている。C4bpをハイジャックする細菌の大部分(全てではない)は、C4bp α鎖の最初の2つのN末端CCP(CCP1-2)に結合する。これはH因子とC4bpをリクルートする淋菌と髄膜炎菌の場合である。淋菌は、N末端のCCP1-2を介してC4bp α鎖と結合する。このCCP1-2ドメインは、C4bp α鎖からCCP1-2に結合する病原体、例えば百日咳菌、ボルデテラ・ブルグドルフェリ、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラリス、淋菌・髄膜炎菌、肺炎球菌及び化膿性レンサ球菌、エルシニア・エンテロコリチカ、及び黄色ブドウ球菌、並びに真菌(カンジダ・デュブリエンシス、アスペルギルス・フミガーツス及びテレウス)のような病原体に対して補体媒介の殺傷を誘導するマルチターゲット生物製剤を生成するために、エフェクター部分としての補体活性化機能と組み合わされたターゲティング部分として使用することができる。
C4bp α鎖の最初の2つのN末端SCR(CCP1-2)は、これらの細菌や真菌の結合性ドメインである。Anna Blomらは、淋菌感染症を治療するための治療アプローチとして、IgM足場を用いたCCP1-2オリゴマー生物製剤(C4BP-IgM)を設計した(S. Bettoni et al., JCI Insight. 2019. 4:23: e131886)。
本実施例において、本発明者らは、CCP1-2ドメインを擬似IgG足場にクローニングし、CCP1-2.C4bpβ.Fcマルチターゲット擬似IgGを作製した(図23A)。
【0256】
6.2. クローニング、トランスフェクション、細胞培養及びサブクローニング
C4bp N末端α鎖(UniProtKB - P04003 - C4BPA_HUMAN)のCCP1-2(アミノ酸49-172)の124残基をコードする372bpのcDNAは、Proteogenixによってコドン最適化され、制限部位Bgl2とBspE1の間(オープンリーディングフレーム内)で合成された。合成されたcDNAは、最終的にpEF-IRESpac発現ベクターの擬似IgGカセットのBgl2制限部位とBspE1制限部位の間にクローニングされた。このベクターを増幅し、HEK293T細胞にトランスフェクトした。トランスフェクションは、ピューロマイシン選択抗生物質を用いて安定化させた。ピューロマイシンに耐性のある安定した単一クローンを手作業でピックアップし、96ウェル細胞培養プレートで個別に培養した。個々のクローンからの上清を、CCP1-2.C4bpβ.Fc擬似IgG(データは示さず)についてのFc-Fc自家製対称ELISAを用いて定量的に解析した。
【0257】
6.3. 製造
最良の発現クローンは、5チャンバーセルスタックでのスケールアップ培養生産のために拡大された。大量生産のために、細胞を無血清optiMEMで48時間セルスタック培養し、その後完全DMDM培地で24時間ブーストした。サイクルごとに新しいoptiMEMを48時間入れて、最大4サイクルの生産を行った。
【0258】
6.4. 精製、SDS-PAGE/Sypro Ruby染色分析
CCP1-2擬似IgG含有optiMEM上清を、Protein G Sepharose 4 Fast Flowビーズ(1 ml/リットル、Cytiva)と共に、ローラーボトルを用いて2~3日間インキュベートした。ビーズを回収し、1 mlポリプロピレンカラム(Qiagen)に充填した。洗浄後、カラムをペリスタポンプに接続し、pH2.7で溶出を行い、直ちに最終pH7.2まで中和した。精製したCCP1-2擬似IgG含有溶出液を、30 WMCO遠心PVDFフィルター装置を用いて濃縮した。精製したCCP1-2擬似IgGをSDS-PAGEで分析した後、SYPRO Ruby Protein Gel Stainで一晩染色した。洗浄後、ゲルを適切なフィルターを用いてAmersham Thyphoon生体分子イメージャーで分析した。CCP1-2擬似IgGの見かけの分子量は、非還元条件下では120 kDa、還元条件下では60 kDaであった(図23A)。
【0259】
6.5. 淋菌に対する結合試験アッセイ
淋菌をCCP1-2擬似IgG(10 μg/ml)と37℃で30分間インキュベートした。その後、細菌をヤギ抗ヒトIgG AF488共役pAb(Thermofisher ref. A11013)で染色した。細菌は固定され、FACSで解析された。アッセイは3連で行った。CCP1-2擬似IgGの非存在下では、シグナルは観察されなかった。このアッセイは、淋菌に対するCCP1-2擬似IgGの特異的結合の証拠を示している(図23B)。
【0260】
6.6. 終末補体複合体沈着アッセイ
淋菌をCCP1-2擬似IgG(10 μg/ml)又はCCP1-2-IgM(10 μg/ml)と37℃で30分間インキュベートした。洗浄後、細菌を10% NHSと37℃で15分間インキュベートした。洗浄後、細菌をマウス抗C5b9 mAb(Hycult Bioteh、クローンaE11)、及びヤギ抗マウスIgG AF共役とインキュベートした。細菌は固定され、FACSで解析された。アッセイは3連で行った。このアッセイは、CCP1-2擬似IgGが淋菌上のMAC沈着を誘発することを明確に示している(図23C)。分子非存在下でNHSのみを用いた対照、又は分子存在下でΔNHSを用いた対照では、MACの形成は見られなかった。淋菌に対するCCP1-2擬似IgG指向性MAC形成は、CCP1-2-IgM構築物と比較して統計的に強い。
【0261】
6.7. 淋菌生存アッセイ
淋菌をCCP1-2擬似IgG(2又は10 μg/ml)と37℃で30分間インキュベートした。洗浄後、細菌を10%NHS又はΔNHSと30分間又は90分間インキュベートした。細菌をLB寒天培地に一晩プレートし、翌日カウントした。菌数はLog(CFU/ml)で表した。アッセイは3連で行った。
このアッセイによって、以前に観察されたCCP1-2擬似IgGによるMAC形成が、その後の細菌殺傷につながることが確認された(図23D)。10 μg/mlでは、細菌の増殖はNHSとの30分間のインキュベーションで完全に阻止された。NHSを補体除去すると、10 μg/mlのCCP1-2擬似IgGの存在下で細菌の増殖は完全に回復した。2 μg/mlでは、細菌の増殖はNHSとの30分間のインキュベーションで約27%減少し、NHSとの90分間のインキュベーションで完全に消失した。CCP1-2擬似IgGは、補体依存的に淋菌に対して高い殺菌効果を示す。
【0262】
6.8. 結論
この例は、擬似IgG足場が、IgM足場と比較して、補体を介したMAC形成とそれに続く病原性細菌に対する殺傷を誘導する優れた能力を持つことを確認するもので、IgMは補体活性化効果が最も高い抗体アイソタイプであるため、これは予想外であった。この例はさらに、scFvやナノボディーのような抗体フラグメント以外にも、別のリガンドをターゲティング部位として使用できることを示している。最後に、C4bp α鎖のCCP1-2 N末端ドメインが複数の病原体(細菌や真菌)に認識されることから、CCP1-2擬似IgGは単一の標的を認識する抗体のような生物学的製剤ではなく、幅広い治療効果が期待できるマルチ標的擬似IgGである。
【0263】
実施例7.スフィンゴミエリナーゼD(SmaseD)を標的としたホモ二量体タンパク質複合体
【0264】
7.1. 導入
スフィンゴミエリナーゼD(SmaseD、32 kDa)はイトグモ属のクモ毒に含まれる酵素で、イトグモ属の毒で刺された患者に観察される皮膚壊死及び溶血活性の原因となり、その後いわゆるイトグモ咬症となる、主要な細胞毒性成分である。SmaseDに対する中和治療抗体の開発は、現在ブラジルで実施されている従来の血清療法に代わる効率的な治療法を提供する。ブラジルのクリチバにあるパラナ大学寄生虫学部生化学研究室のLarissa M Alvarenga博士のグループは、SmaseDとそれに続くロクソセレス・インターメディア毒の皮膚壊死活性を中和できる、現在までのところ唯一のモノクローナル抗体であるLimAb7マウス抗体の特徴を明らかにした。Larissa M Alvarenga博士のグループは、本明細書においてscFv-Li7と呼ばれる、LimAb7マウス抗体からscFvを産生した(Karim-Silva et al., Generation of recombinant antibody fragments with toxin-neutralizing potential in loxoscelism, Immunology Letters, 2016, Volume 176, p. 90-96に記載されているような)。scFv-Li7の中和活性を改善するために、本発明者らは、(i)C4bp二量体化足場(非天然の「逆さ」位置)のscFvのC末端がその生物学的特徴を維持することを示すホモジボロ(ホモB2C)、及び(ii)ホモテトラボロ(ホモB4)を作製した。
【0265】
7.2. 発現ベクター(pEF-IRESpac)とカセットデザイン
pEF-IRESpacバイシストロン発現ベクターは、哺乳動物細胞における組換え治療用糖タンパク質の安定発現に適したベクターである。pEF-IRESpacは、マルチプルクローニングサイト(MCS)の下流に「Internal Ribosome Entry Site」(IRES)を含み、その後にピューロマイシン耐性遺伝子(pac)が続く。タンパク質の発現は、強力なヒトポリペプチド鎖伸長因子1αプロモーターによって駆動され、高タンパク質発現を実現する。腫瘍壊死因子レセプター超族メンバー16(TNFR16、UniProt番号P08138.1)のシグナルペプチドを、制限部位ECoRIとBgl2の間にクローニングした。異なるカセット(ホモB2C、ホモB4、ホモB4 bis、ホモB4 ter)をコードし、Bgl2制限部位とNotI制限部位の間にまたがるcDNAは、ヒト細胞用にコドン最適化され、合成され、Proteogenix(Illkirsch、Strasbourg)によりpEF-IRESpにクローニングされた。C4bp C末端β鎖(UniProt番号:P20851.1、aa:137-252)は、BspE1制限部位で始まる両端の(3x SGGGGS(配列番号3))リンカーを含み、scFvLi7をコードする配列と8x His-タグが続き、停止コドンとNotI制限部位で終わる。
ホモ二量体(本明細書ではホモジボロ(ホモB2C)とも呼ばれる)及びホモ四量体(本明細書ではホモテトラボロ(HomoB4)とも呼ばれる)用のカセット:
・ホモB2C[シグナルペプチド-AA-[3x(SGGGGS)]-C4bpβ-[3x(SGGGGS)]-scFvLi7(VH-VL)-His8x]、ここで、AAは2つのアラニン残基である、
・ホモB4[シグナルペプチド-scFvLi7(VH-VL)-[3x(SGGGGS)]-C4bpβ-[3x(SGGGGS)]-scFvLi7(VH-VL)-His8x]
・ホモB4 bisは、リツキシマブ(RTX)の最初の8アミノ酸(QIVLSQSP(配列番号5))を含み、図24Aに示すように、シグナルペプチドの下流(すなわち3')に位置する元のscFvLi7の最初の8アミノ酸を置き換える:
[シグナルペプチド-QIVLSQSP-scFvLi7(VL-VH)-[3x(SGGGGS)]-C4bpβ-[3x(SGGGGS)]-scFvLi7(VH-VL)-His8x]
・ホモB4 terは、図24Aに示すように、シグナルペプチドの後に3x(SGGGGS(配列番号3))リンカーを含む:[シグナルペプチド-(3xSGGGGS)-scFvLi7(VH-VL)-[3x(SGGGGS)]-C4bpβ-[3x(SGGGGS)]-scFvLi7(VH-VL)-His8x]
【0266】
7.3. 一過性トランスフェクション、Sepharose Ni-ビーズを用いたマイクロ精製
異なる分子の発現にはHEK293T細胞を用いた。トランスフェクションの前日、HEK293T細胞を6ウェル細胞培養プレートと完全DMEM培地に1.3x106細胞/ウェルの密度でプレーティングした。翌日、完全なDMEM培地をoptiMEM培地に交換した。リポフェクタミン3000キットを用い、説明書に従って(Thermo Fisher、カタログ番号L3000001)発現ベクターで細胞をトランスフェクトした。
トランスフェクションから48時間後、トランスフェクトされた細胞からのoptiMEM上清を15 mlのファルコンチューブに集めた。上清をアガロースNi-ビーズと一晩インキュベートし、生成したHisタグ分子(ホモB2C、ホモB4、ホモB4 bis、ホモB4 ter)を捕捉した。翌日、チューブを遠心分離した(4000 rpm、4℃、4分間)。上清を捨て、ビーズを12 mlのPBSで2回洗浄した。Ni-ビーズを40 μlの溶出バッファー(20 mMリン酸バッファー、pH7.2、500 mM NaCl、1 Mイミダゾール)とインキュベートした。ボルテックス後、チューブを遠心分離し、更なる分析のために溶出液を回収した。
【0267】
7.4. 安定トランスフェクション、細胞培養、サブクローニング
トランスフェクションから48~72時間後、細胞を10 cmの細胞培養皿に移し、Pen/Strep抗生物質(P/S)、グルタミン(Gln)、10%(v/v)のウシ胎児血清(FBS)、20 μg/mlのピューロマイシン(PURO20)選択抗生物質を添加したDMEM培地を加えた。2週間後、成長したクローンのうち、ピューロマイシンに耐性を示すクローンをひとつひとつ手作業で拾い上げ、96ウェルプレートに移した。約1週間後、単離したクローンの上清を、対称型HIS ELISAを用いてテトラボロ発現量についてスクリーニングした。
【0268】
7.5. 対称HIS ELISAを用いた定量
6-Hisタグウサギ抗ヒスポリクローナル抗体(Bethyl、A190-114-P)をNUNC MaxiSorpTM 96ウェル平底ポリスチレン96ウェルELISAプレートに48時間コートした(100 ng/ウェル/100 μl PBS)。プレートを150 μlのPBS-1%(w/v)BSAで5回洗浄し、100 μlのPBS-5%(w/v)BSAで4℃で1時間ブロッキングした。粗テトラボロ発現細胞培養上清(200 μlまで)をELISAプレート上で4℃で1時間インキュベートし、5回洗浄後、ELISAプレートをPBS-1%(w/v)BSA中のマウス抗HIS HRP共役顕示モノクローナル抗体(SIGMA)とインキュベートした。5回の洗浄後、ELISAプレートを100 μlのOPD(O-フェニレンジアミン二塩酸塩)/H2O2発色基質で染色し、染色反応を0.5N H2SO4で停止し、分光光度計/吸光度492 nmで読み取った。濃度既知の分子をゴールドスタンダードとして用いた(2D3 VHH抗HER2.C4bpα.His8xマルチマー)。
トランスフェクトしたHEK293細胞の細胞培養上清に発現したホモマルチボロ、ホモB2C(ホモジボロ)、及び3つのホモB4(ホモテトラボロ)分子の定量的分析を、対称His ELISAを用いて評価したところ、全ての分子が正常に発現し、細胞から排出されることが示された(データは示さず)。
その後、分子の生産をスケールアップし、高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)、1 ml又は5 mlのNi-セファロースエクセルカラムを用いた固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)技術を用いて精製した。溶出液を濃縮し、透析した。グリセロールの存在により、アミコンでの濃縮中に不要な沈殿が生じるのを防ぐことができる。
【0269】
7.6. ELISAを用いたロクソセレス・インターメディア毒のSmaseDに対するホモB2CとホモB4の特異的結合の解析(図24BとC)
ELISA手順は上記(7.4章)と同様に行ったが、以下の変更を加えた:ELISAプレートにロクソセレス・インターメディア(2.2 μl/mL)の毒220 ngを含む100 μl PBS/ウェルをコートした(Pr.Philippe Billiald, Faculte de Pharmacie, Laboratoire de Biochimie, Universite Paris Saclavからの贈与)。ブロッキング(PBS/5%(w/v)BSA)後、ELISAプレートを、ホモB2C、ホモB4、ホモB4 bis及びホモB4 terを含む粗DMEM細胞培養上清の2倍連続希釈液とインキュベートした。多様な分子の濃度は、標準曲線を用いたHIS-HIS ELISAを用いて確立された。陽性及び陰性対照として、ウマポリクローナル血清抗ロクソセレス・インターメディア毒及びウマ非免疫血清を、それぞれ2倍連続希釈(開始希釈度1:1000)で陽性及び陰性対照(陽性SALOX及び陰性SALOX)として使用した。分子の特徴を明らかにするために抗HISマウスHRP共役二次モノクローナル抗体を使用し、ウマ抗ロクソセレス・インターメディア抗体を明らかにするためにヤギ抗ウマIgG HRP共役が使用された。
ホモB2C、ホモB4、ホモB4bis及びホモB4terは、ロクソセレス・インターメディア毒のSmaseDと濃度依存的に特異的に結合できることが示された。さらに、scFvLi7の価数が高いほど結合親和性が高くなることが観察された(データは示さず)。
【0270】
7.7. SDS-PAGE及びウェスタンブロッティング
7.7.1. SDS-PAGE、ウェスタンブロッティング、抗His抗体によるホモジボロ(HomoB2C)とホモテトラボロ(ホモB4)のキャラクタリゼーション
一過性トランスフェクションから得た15 μlの微量精製テトラボロ又は安定トランスフェクションから得た1 μgの精製分子を、10%(v/v)β2-メルカプトエタノール(還元条件)なし又はありの4X Laemmliサンプルバッファーに混合し、4-15% Mini-Protean(R) Tris-Glycin eXtended(TGXTM)プレキャストタンパク質ゲル(Bio-Rad)を用いて電気泳動し、XT MES running buffer (Bio-Rad)を用いてSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)を行った。電気泳動後、ゲルをTTB(25 mM Tris、192 mM glycine、0.01%(v/v)SDS、20%(v/v)メタノール、pH 8.8)を用いて低蛍光バックグラウンドPVDFメンブレン(使用前にメタノールで活性化)にエレクトロブロッティングした。タンパク質の転写は、Bio-Rad Mini Trans-Blot(R)電気泳動転写セルを用いて行った。PBS-5%(w/v)低脂肪乳でブロッキングした後、メンブレンを1 μgのウサギ抗His 6x-tag pAbと同じバッファーで1時間インキュベートした。TBS-Tweenバッファー(pH7.2)で3回洗浄した後、PBS-1%(w/v)低脂肪乳中のヤギ抗ウサギIgG AF488共役抗体でメンブレンを1時間インキュベートした。3回の洗浄後、メンブレンを乾燥させ、AF488(FITC)蛍光色素(Cy2)用の適応フィルターを用いてAmersham Typhoonスキャナーで分析した。
SDS-PAGE及びWBは、非還元条件下では分子が二量体(ホモB4は約240 kDaの分子量、ホモB2Cは約70 kDaの分子量)として存在し、還元条件下では分子が単一分子種(ホモB4の単一分子種は約120 kDaの分子量、ホモB2Cの単一分子種は約70 kDaの分子量)として発現することを示した。
【0271】
7.7.2. SDS-PAGEとウェスタンブロッティングを用いて解析したSmaseDとロクソセレス・インターメディア(Li)毒に存在するSmaseDへのホモジボロ(ホモB2C)の結合(図24D
Liの毒液5 μg/レーンを、Mini-PROTEAN(R) Tetraセル(Bio-Rad)上の15%Mini-Protean(R) TGXTMプレキャストタンパク質ゲルを用いて、SDS-PAGEで電気泳動(非還元条件下)した。電気泳動後、ゲルをニトロセルロース膜にエレクトロブロッティングした。その後、メンブレンをPBS-5%(w/v)低脂肪乳で1時間ブロッキングした。その後、メンブレンをスライスして、複数のインキュベーションとレベレーションの条件について同時にプローブした。
・1枚目のスライスを、(i)ウマ免疫抗SmaseD Li血清(1:20000)、(ii)2番目のスライスを精製ホモB2C-scFvLi7(10 μg/ml)、又は(iii)3番目のスライスを無関係なモノクローナル抗体とインキュベートした。
・3回の洗浄(トリス緩衝生理食塩水+0.05%(v/v)Tween20を使用)の後、(i)1枚目のスライスを1:10,000に希釈したウマポリクローナル血清抗ロクソセレス・インターメディア毒(SALOX)と、(ii)2枚目のスライスをウサギ抗His 6x-tag pAbと、3枚目のスライスを二次抗体HRP共役とインキュベートした。
・3回の洗浄(トリス緩衝生理食塩水+0.05%Tween20を使用)の後、(i)1枚目のスライスをヤギ抗ウマIgG HRP共役二次抗体で、(ii)2枚目のスライスをヤギ抗ウサギIgG HRP共役二次抗体でインキュベートした。
3回の洗浄後、スライスをECLウェスタンブロッティングHRP基質、DAB(3,3′-ジアミノベンジジン)/クロロナフトール及びルージュポンソーで明らかにした。
ウマ抗SmaseD Li血清(陽性対照)と同様に、精製ホモB2C-scFvLi7(10μg/ml)はロクソセレス・インターメディア毒に特異的に結合することができたが、無関係なmAb(陰性対照)では結合は観察されなかった。
【0272】
7.8. 結論
scFvLi7抗SmaseDは、C4bpβ二量化足場のC末端側(及び任意でN末端側も)にクローニングし、2価(ホモジボロ)又は4価(ホモテトラボロ)の二量体分子として発現させ、ロクソセレス・インターメディアヒメグモ毒のSmaseDを中和する能力を高めた。本発明者らは、ホモジボロ(ホモB2C)及びホモテトラボロ(ホモB4)がSmaseDに結合することを示し、ELISAを用いて観察したところ、ホモテトラボロは2価の対応物と比較してわずかに良好な結合が観察された。ホモテトラボロは、scFvが非天然の「逆さま」の位置においてC末端C4bp β鎖二量体化足場のC末端側(下流)にクローニングされた場合、(i)二量体化プロセスはまだ起こっており、(ii)scFvLi7は予想外にSmaseD標的への結合能を維持していることを示すのに有用であることが示された。ホモジボロ又はヘテロジボロは、リガンド-レセプター相互作用のような用途の治療薬として、ターゲティング部位としてだけでなく、免疫システム調節による免疫介入へのエフェクター部位としても使用できる。
SmaseDに対する中和特性を有するscFvを用いて、本発明者らは、scFv抗SmaseDが、C4bpβ二量体化足場の下流にクローニングされた場合、SmaseD(ホモB2C又はホモジボロ)に対する結合能を維持することを示し、ホモテトラボロ(ホモB4)はホモB2Cと比較してSmaseDへの優れた結合能を示した。ジボロは、ホモ二量体(例えば、シングルトランスフェクション)又はヘテロ二量体(例えば、コトランスフェクション)であり得る。この例は、scFvとVHHをC4bpβの上流にも下流にも、その結合能を変えることなく無差別に導入できることを示している。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図9
図10
図11
図12
図13
図14-1】
図14-2】
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22-1】
図22-2】
図23
図24-1】
図24-2】
【配列表】
2024527589000001.xml
【国際調査報告】