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特表2024-527602アデノ随伴ウイルスカプシドを分離するための方法、前記方法によって得られる組成物及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-25
(54)【発明の名称】アデノ随伴ウイルスカプシドを分離するための方法、前記方法によって得られる組成物及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/02 20060101AFI20240718BHJP
   C12N 1/02 20060101ALI20240718BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240718BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240718BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240718BHJP
   B01J 20/281 20060101ALI20240718BHJP
   B01J 20/285 20060101ALI20240718BHJP
   G01N 30/00 20060101ALI20240718BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20240718BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
C12N7/02
C12N1/02
A61K35/76
A61K48/00
A61P43/00 111
B01J20/281 X
B01J20/285 N
B01J20/285 S
G01N30/00 C
G01N30/88 E
B01J20/281 G
G01N30/26 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501589
(86)(22)【出願日】2022-04-27
(85)【翻訳文提出日】2024-03-06
(86)【国際出願番号】 EP2022061257
(87)【国際公開番号】W WO2023285011
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】2110014.4
(32)【優先日】2021-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】516105833
【氏名又は名称】サイティバ・バイオプロセス・アールアンドディ・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154922
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 允辰
(74)【代理人】
【識別番号】100207158
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 研二
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-リュク・マロイセル
(72)【発明者】
【氏名】オーサ・ハーグナー・マクワーター
(72)【発明者】
【氏名】オラ・リンド
(72)【発明者】
【氏名】ハンス・ブローム
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA30
4B065BD14
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA05
4C084ZC02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA05
4C087ZC02
(57)【要約】
本開示は、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドと分離するための方法であって、a)アデノ随伴ウイルスカプシドを含む液体試料をクロマトグラフィー材料に添加する工程であって、液体試料が、少なくとも90%の純度及び少なくとも1012アデノ随伴ウイルスカプシド/mlの濃度のアデノ随伴ウイルスカプシドを含み、そのうち少なくとも10%のアデノ随伴ウイルスカプシドは、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドであり、クロマトグラフィー材料が、支持体及びアデノ随伴ウイルスカプシドに結合するためのリガンドを含む、強力な又は部分的に強力な陰イオン交換クロマトグラフィー材料を含み、クロマトグラフィー材料が、リガンドを支持体に連結する表面エクステンダーを含み、表面エクステンダーがポリマーであり、ポリマーが、(i)デンプン、セルロース、デキストラン、又はアガロース等の多糖等の天然に存在する骨格を有するポリマー、及び(ii)ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、又はポリビニルエーテル等の合成骨格を有するポリマーから選択される、工程、b)遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドをクロマトグラフィー材料から溶出する工程を含み、工程(b)において溶出されるアデノ随伴ウイルスカプシドが、溶出液画分中に溶出され、混ぜ合わさった溶出液画分が、工程(a)において添加される液体試料のアデノ随伴ウイルスカプシドの少なくとも50%を含み、そのうち少なくとも60%のアデノ随伴ウイルスカプシドは、遺伝物質が完全にパッケージされている、方法を対象とする。前記分離方法によって得られる、医薬組成物を含む組成物、及びそのような組成物の使用、及びアデノ随伴ウイルスカプシドの分離のための陰イオンクロマトグラフィー材料の使用が更に開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドと分離するための方法であって、
a. アデノ随伴ウイルスカプシドを含む液体試料をクロマトグラフィー材料に添加する工程であって、
液体試料が、少なくとも90%の純度及び少なくとも1012アデノ随伴ウイルスカプシド/mlの濃度のアデノ随伴ウイルスカプシドを含み、そのうち少なくとも10%のアデノ随伴ウイルスカプシドは、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドであり、
クロマトグラフィー材料が、支持体及びアデノ随伴ウイルスカプシドに結合するためのリガンドを含む、強力な又は部分的に強力な陰イオン交換クロマトグラフィー材料を含み、
クロマトグラフィー材料が、リガンドを支持体に連結する表面エクステンダーを含み、表面エクステンダーがポリマーであり、ポリマーが、
(i) デンプン、セルロース、デキストラン、又はアガロース等の多糖等の天然に存在する骨格を有するポリマー、及び
(ii) ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、又はポリビニルエーテル等の合成骨格を有するポリマー
から選択される、工程と、
b. 遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドをクロマトグラフィー材料から溶出する工程と、
を含み、工程(b)において溶出されるアデノ随伴ウイルスカプシドが、溶出液画分中に溶出され、混ぜ合わさった溶出液画分が、工程(a)において添加される液体試料のアデノ随伴ウイルスカプシドの少なくとも50%を含み、そのうち少なくとも60%のアデノ随伴ウイルスカプシドは、遺伝物質が完全にパッケージされている、方法。
【請求項2】
強力な陰イオン交換クロマトグラフィー材料のリガンドが、以下の式I:
【化1】
(式中、R1はC1~C3アルキルから選択され、R2及びR3は、独立して、C1~C3アルキル、CH2OH、及びCH2CHOHCH3から選択される)
によって定義される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
R1、R2、及びR3の各々がCH3である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
強力な又は部分的に強力な陰イオン交換クロマトグラフィー材料のリガンドが、以下の式II:
【化2】
(式中、
mは1~3の整数であり、
R1及びR2は、独立して、C1~C3アルキルから選択され、R3及びR4は、独立して、C1~C3アルキル及びCH2CHOHCH3から選択され、R5は水素、C1~C3アルキル及びCH2CHOHCH3から選択される)
によって定義され、
但し、mが1である場合、強力な又は部分的に強力な陰イオン交換クロマトグラフィー材料のリガンドが、以下の式III:
【化3】
(式中、nは0~3の整数であり、
但し、nが0である場合、R3及びR4は、独立して、C1~C3アルキルから選択され、R5は水素又はCH2CHOHCH3である)
によって定義される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
リガンドが、式IIIによって定義され、以下の構造(i)~(iv):
(i) nは0であり、R3及びR4はエチルであり、R5は水素又はCH2CHOHCH3である構造、
(ii) nは1であり、R1、R2、R3、R4はエチルであり、R5は水素又はCH2CHOHCH3である構造、
(iii) nは2であり、各R1及びR2はエチルであり、R3及びR4はエチルであり、R5は水素又はCH2CHOHCH3である構造、
(iv) nは3であり、各R1及びR2はエチルであり、R3及びR4はエチルであり、R5は水素又はCH2CHOHCH3である構造
のうちの2つ以上の組合せを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
表面エクステンダーがデキストランである、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
デキストランが、約10~約2000kDa、例えば約40kDaの分子量を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
デキストランの密度が、強力な又は部分的に強力な陰イオン交換クロマトグラフィー材料のml当たり約5~約30mgのデキストランである、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
工程(a)及び(b)が、約6.0~約10.5、例えば約7.5~約9.5のpHを有する緩衝液を適用する工程を含み、任意選択で、前記緩衝液が、トリス(ヒドロキシメチル)アミノ-メタン(すなわちトリス)、1,3-ビス(トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ)プロパン(すなわちビス-トリスプロパン)、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、ジエタノールアミン、1,3-ジアミノプロパン、又はエタノールアミンを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程(b)が、遺伝物質が完全にパッケージされたカプシドと遺伝物質が完全にはパッケージされていないカプシドとの分離を改善する化合物を含む緩衝液を適用する工程を含み、任意選択で前記化合物が、炭水化物、二価金属イオン、及び界面活性剤から選択され、
任意選択で炭水化物が、スクロース、ソルビトール、及び多糖から選択され、
任意選択で二価金属イオンが、Mg2+、Fe2+、及びMn2+から選択され、任意選択で二価金属イオンが、任意選択で塩化物イオン又は硫酸イオンと組み合わせて塩の形態で存在し、
任意選択で界面活性剤が、ポロキサマー及びポリソルベートから選択される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
クロマトグラフィー材料の支持体が粒子、ナノ繊維、モノリス、又は膜構造を含み、
任意選択で粒子が、均質な多孔性を有し、アデノ随伴ウイルスカプシドに対して少なくとも一部が透過性である粒子であり、
任意選択で粒子が実質的に球状の粒子であり、
任意選択でナノ繊維がエレクトロスピニングポリマーナノ繊維を含み、
任意選択で膜構造がポリマーナノ繊維の不織ウェブを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
クロマトグラフィー材料がポリッシングクロマトグラフィー材料である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1に規定の工程(a)において添加される液体試料が、事前に精製された液体試料である、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
(a1) アデノ随伴ウイルスカプシドをアデノ随伴ウイルスカプシド含有細胞培養収穫物から分離することによって、アデノ随伴ウイルスカプシドを事前に精製する工程を更に含み、これにより、アデノ随伴ウイルスカプシドを含む事前に精製された液体試料を得てから、請求項1に規定の工程(a)に従って、アデノ随伴ウイルスカプシドを含む前記事前に精製された液体試料をクロマトグラフィー材料に添加し、任意選択で、前記事前に精製する工程が、アデノ随伴ウイルスカプシド含有細胞培養収穫物をクロマトグラフィー、又は清澄化の後にクロマトグラフィーに供する工程を含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1に規定の工程(b)において溶出される、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを含む溶出液画分を、
c1) アデノ随伴ウイルスカプシドを薬学的に適切な用量に濃縮する工程、
c2) 請求項1に規定の工程(b)において適用される緩衝液を薬学的に許容される緩衝液に置き換える工程、及び/又は
c3) アデノ随伴ウイルスカプシドを含む溶出液画分を殺菌する工程
のうちの1つ又は複数に供する工程を更に含み、これにより、アデノ随伴ウイルスカプシドを含む医薬組成物を得る、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
アデノ随伴ウイルスカプシドが、アデノ随伴ウイルス血清型8(AAV8)、アデノ随伴ウイルス血清型5(AAV5)、アデノ随伴ウイルス血清型1(AAV1)、アデノ随伴ウイルス血清型2(AAV2)、アデノ随伴ウイルス血清型4(AAV4)、アデノ随伴ウイルス血清型6(AAV6)、アデノ随伴ウイルス血清型7(AAV7)、アデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)、若しくはアデノ随伴ウイルス血清型10(AAV10)、又はそれらのバリアントのカプシドである、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
工程(b)の溶出緩衝液がコスモトロピック塩を含み、塩が、(i)CO3 2-、SO4 2-、S2O3 2-、H2PO4 -、HPO4 2-、酢酸-、クエン酸-、及びCl-からなる群から選択される陰イオン、並びに(ii)NH4 +、K+、Na+、及びLi+からなる群から選択される陽イオンを含み、任意選択で塩が酢酸ナトリウムである、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
クロマトグラフィー材料が式IV:
【化4】
によって定義され、工程(b)の溶出緩衝液が酢酸ナトリウムを含み、
任意選択でアデノ随伴ウイルスカプシドが、アデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)又はそのバリアントのカプシドである、請求項1から3及び6から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
任意選択で遺伝子治療によって、対象において臓器又は組織に関連する疾患又は障害を防止又は処置するための方法であって、請求項15、又は請求項15を参照する請求項16若しくは17に記載の方法を実行することによって得られるアデノ随伴ウイルスカプシドを含む医薬組成物を対象に投与する工程を含み、該医薬組成物中、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドの遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドに対する比が、少なくとも3:2、好ましくは少なくとも4:1であり、任意選択で、
(i) カプシドがAAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV8、及びAAV10カプシド、又はそれらのバリアントから選択され、臓器又は組織が中枢神経系であるか、
(ii) カプシドがAAV1及びAAV8カプシド、又はそれらのバリアントから選択され、臓器又は組織が心臓であるか、
(iii) カプシドがAAV2カプシド又はそのバリアントであり、臓器又は組織が腎臓であるか、
(iv) カプシドがAAV7及びAAV8カプシド、又はそれらのバリアントから選択され、臓器又は組織が肝臓であるか、
(v) カプシドがAAV4、AAV5、及びAAV6カプシド、又はそれらのバリアントから選択され、臓器又は組織が肺であるか、
(vi) カプシドがAAV8又はそのバリアントであり、臓器又は組織が膵臓であるか、
(vii) カプシドがAAV2、AAV5、及びAAV8カプシド、又はそれらのバリアントから選択され、臓器又は組織が光受容細胞であるか、
(viii) カプシドがAAV1、AAV2、AAV4、AAV5、及びAAV8カプシド、又はそれらのバリアントから選択され、臓器又は組織が網膜色素上皮であるか、
(ix) カプシドがAAV1、AAV6、AAV7、及びAAV8カプシド、又はそれらのバリアントから選択され、臓器又は組織が骨格筋であるか、
(x) カプシドがAAV10カプシド又はそのバリアントであり、臓器又は組織が脳であるか、又は
(xi) カプシドがAAV9カプシド又はそのバリアントであり、臓器又は組織が中枢神経系、心臓、肝臓、肺、及び骨格筋から選択される、方法。
【請求項20】
完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドが、空のアデノ随伴ウイルスカプシド及び/又は部分的にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドである、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
請求項1から17のいずれか一項に記載の方法を実行することによって得られるアデノ随伴ウイルスカプシドを含む組成物であって、該組成物中、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドの遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドに対する比が、少なくとも3:2、好ましくは少なくとも4:1である、組成物。
【請求項22】
請求項15又は請求項15を参照する請求項16若しくは17に記載の方法を実行することによって得られるアデノ随伴ウイルスカプシドを含む医薬組成物であって、該医薬組成物中、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドの遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドに対する比が、少なくとも3:2、好ましくは4:1である、医薬組成物。
【請求項23】
治療で使用するための、任意選択で、遺伝子治療で使用するための、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
アデノ随伴ウイルスカプシドが、アデノ随伴ウイルス血清型8(AAV8)、アデノ随伴ウイルス血清型5(AAV5)、アデノ随伴ウイルス血清型1(AAV1)、アデノ随伴ウイルス血清型2(AAV2)、アデノ随伴ウイルス血清型4(AAV4)、アデノ随伴ウイルス血清型6(AAV6)、アデノ随伴ウイルス血清型7(AAV7)、アデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)、若しくはアデノ随伴ウイルス血清型10(AAV10)、又はそれらのバリアントのカプシドであり、
組成物が、遺伝子治療で使用するためのものであり、
任意選択で医薬組成物が、臓器又は組織に関連する疾患又は障害の防止又は処置で使用するためのものであり、
(i) カプシドがAAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV8、及びAAV10カプシドから選択され、臓器又は組織が中枢神経系であるか、
(ii) カプシドがAAV1及びAAV8カプシドから選択され、臓器又は組織が心臓であるか、
(iii) カプシドがAAV2カプシドであり、臓器又は組織が腎臓であるか、
(iv) カプシドがAAV7及びAAV8カプシドから選択され、臓器又は組織が肝臓であるか、
(v) カプシドがAAV4、AAV5、及びAAV6カプシドから選択され、臓器又は組織が肺であるか、
(vi) カプシドがAAV8であり、臓器又は組織が膵臓であるか、
(vii) カプシドがAAV2、AAV5、及びAAV8カプシドから選択され、臓器又は組織が光受容細胞であるか、
(viii) カプシドがAAV1、AAV2、AAV4、AAV5、及びAAV8カプシドから選択され、臓器又は組織が網膜色素上皮であるか、
(ix) カプシドがAAV1、AAV6、AAV7、及びAAV8カプシドから選択され、臓器又は組織が骨格筋であるか、
(x) カプシドがAAV10カプシドであり、臓器又は組織が脳であるか、又は
(xi) カプシドがAAV9カプシド又はそのバリアントであり、臓器又は組織が中枢神経系、心臓、肝臓、肺、及び骨格筋から選択される、請求項23に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項25】
完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドが、空のアデノ随伴ウイルスカプシド及び/又は部分的にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドである、請求項21に記載の組成物、又は請求項22に記載の医薬組成物、又は請求項23若しくは24に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項26】
遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドと分離するための、支持体、リガンド、及びリガンドを支持体に接続する表面エクステンダーを含み、式IV:
【化5】
によって定義される陰イオン交換クロマトグラフィー材料の使用であって、
a. 液体試料をクロマトグラフィー材料に添加する工程であって、液体試料が、少なくとも90%の純度及び少なくとも1012アデノ随伴ウイルスカプシド/mlの濃度のアデノ随伴ウイルスカプシドを含み、そのうち少なくとも10%のアデノ随伴ウイルスカプシドは、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドである、工程と、
b. 遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドをクロマトグラフィー材料から溶出する工程と、
を実行することを含み、
工程(b)において溶出されるアデノ随伴ウイルスカプシドが、溶出液画分中に溶出され、混ぜ合わさった溶出液画分が、工程(a)において添加される液体試料のアデノ随伴ウイルスカプシドの少なくとも50%を含み、そのうち少なくとも60%のアデノ随伴ウイルスカプシドは、遺伝物質が完全にパッケージされている、使用。
【請求項27】
工程(b)の溶出緩衝液が酢酸ナトリウムを含み、
アデノ随伴ウイルスカプシドが、アデノ随伴ウイルス血清型1(AAV1)、アデノ随伴ウイルス血清型2(AAV2)、アデノ随伴ウイルス血清型4(AAV4)、アデノ随伴ウイルス血清型5(AAV5)、アデノ随伴ウイルス血清型6(AAV6)、アデノ随伴ウイルス血清型7(AAV7)、アデノ随伴ウイルス血清型8(AAV8)、アデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)、若しくはアデノ随伴ウイルス血清型10(AAV10)、又はそれらのバリアントのカプシドであり、
任意選択でアデノ随伴ウイルスカプシドが、アデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)又はそのバリアントのカプシドである、請求項26に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アデノ随伴カプシドの分離の分野に関し、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドと分離するための方法、及びそのような分離のための陰イオン交換クロマトグラフィー材料の使用を対象とする。前記方法によって得られる、医薬組成物を含む組成物及びそのような組成物の使用が更に開示される。
【背景技術】
【0002】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、直鎖状一本鎖DNA(ssDNA)ゲノムを有し、DNAを標的細胞に送達するように操作され得る、非エンベロープウイルスである。組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターは、最も多用途で上出来の遺伝子治療送達ビヒクルの1つとして現れた。遺伝子治療のためにウイルスベクターを使用したいという要求が高まっている。AAVベクターは、筋肉疾患及び他の障害のための新規遺伝子治療を開発するための最も魅力的な遺伝子導入ツールの1つである。初期のAAV遺伝子導入研究のほとんどは、AAV血清型2(AAV2)を使用した。AAV媒介遺伝子導入の効率及び特異性を更に改善するために、多数のAAV血清型及びバリアントが、ウイルスゲノム操作及び/又はカプシド改変によって開発された。AAV8及びAAV9のような血清型の使用は、近年増加している。標的臓器は、血清型の選択を決定する。AAV粒子を治療におけるベクターとして使用するために、トランスフェクション後にDNAのような細胞不純物からウイルス粒子を精製する必要がある。超遠心分離は、効率的であるが、拡張可能でない。通常、AAV粒子を細胞培養物から分離するために、いくつかの濾過工程及びいくつかのクロマトグラフィー工程が使用される(例えば、非特許文献1を参照されたい)。
【0003】
AAVベクターの治療有効性は、目的の遺伝物質が完全にパッケージされたウイルス粒子の高いパーセンテージに依存する。上流発現系は、完全にパッケージされたAAV粒子(目的の遺伝物質を含有する)、空のAAV粒子、及び目的の遺伝物質が部分的にパッケージされたAAV粒子の混合物を不純物と一緒に産出する。したがって、完全にパッケージされたAAV粒子を精製プロセスにおいて富化する必要がある。しかし、完全にパッケージされた及び空のアデノ随伴ウイルスカプシドの効率的で拡張可能な分離を達成することに関連して、いくつかの課題があり、例えば、
- カプシドの大きな多様性(血清型及びバリアント)及び完全なカプシドの収率に関する細胞培養物の差異であり、これは広範囲の最適化が、アデノ随伴ウイルスの各血清型又はバリアントの精製に必要であることを意味する。
- 精製に関連のあるいくつかのパラメーター、例えば等電点に関連する、完全にパッケージされたカプシドと空のカプシドの小さな差異。
- 完全にパッケージされた及び空のカプシドに加えて、部分的にパッケージされたカプシドバリアントも感染した宿主細胞において生成される。そのような部分的にパッケージされ、これにより治療的にあまり有効でないカプシドは、完全にパッケージされたカプシドと一部が共溶出され得る徴候がある。
【0004】
そのため、精製プロセスの速度を上げ、コストを下げ、様々なアデノ随伴ウイルス血清型の下流プロセシングのための大規模な方法を提供するために、新規の精製戦略が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6428707号明細書
【特許文献2】米国特許第6602990号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2014/0296464号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2016/0288089号明細書
【特許文献5】国際公開第2018/011600号
【特許文献6】国際公開第2018/037244号
【特許文献7】国際公開第2013/068741号
【特許文献8】国際公開第2015/052465号
【特許文献9】米国特許第7867784号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Weihong Quら、Scalable Downstream Strategies for Purification of Recombinant Adeno-Associated Virus Vectors in Light of the Properties、Current Pharmaceutical Biotechnology 2015年8月;16(8):684~695頁
【非特許文献2】Xiaotong Fuら、Analytical Strategies for Quantification of Adeno-Associated Virus Empty Capsids to Support Process Development、Human gene therapy methods、2019、30(4):144~152頁
【非特許文献3】S Hjerten: Biochim Biophys Acta 79(2)、393~398頁(1964)
【非特許文献4】「Styrene based polymer supports developed by suspension polymerization」(R Arshady: Chimica e L'Industria 70(9)、70~75頁(1988)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の目的は、完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドと完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドの改善された分離をもたらす拡張可能な解決策を提供することである。これは、本明細書に開示されるような分離方法を実行する場合に、完全にパッケージされたカプシドと完全にはパッケージされていないカプシドの改善された分解能を得ることによって達成され、このことは、完全にパッケージされたカプシドの完全にはパッケージされていないカプシドに対する改善された比を有する組成物を達成することになる。本開示の焦点は、二次又は最終精製とも呼ばれる、分離方法のポリッシング工程である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
より詳細には、本開示の第1の態様は、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドと分離するための方法であって、
a)アデノ随伴ウイルスカプシドを含む液体試料をクロマトグラフィー材料に添加する工程であって、液体試料が、少なくとも90%の純度及び少なくとも1012アデノ随伴ウイルスカプシド/mlの濃度のアデノ随伴ウイルスカプシドを含み、そのうち少なくとも10%のアデノ随伴ウイルスカプシドは、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドであり、
クロマトグラフィー材料が、支持体及びアデノ随伴ウイルスカプシドに結合するためのリガンドを含む、強力な又は部分的に強力な陰イオン交換クロマトグラフィー材料を含み、
クロマトグラフィー材料が、リガンドを支持体に連結する表面エクステンダーを含み、表面エクステンダーがポリマーであり、ポリマーが、
(i)デンプン、セルロース、デキストラン、又はアガロース等の多糖等の天然に存在する骨格を有するポリマー、及び
(ii)ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、又はポリビニルエーテル等の合成骨格を有するポリマー
から選択される、工程、
b)遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドをクロマトグラフィー材料から溶出する工程
を含み、工程(b)において溶出されるアデノ随伴ウイルスカプシドが、溶出液画分中に溶出され、この混ぜ合わさった溶出液画分が、工程(a)において添加される液体試料のアデノ随伴ウイルスカプシドの少なくとも50%を含み、そのうち少なくとも60%のアデノ随伴ウイルスカプシドは、遺伝物質が完全にパッケージされている、方法を対象とする。
【0009】
上記に開示される方法は、工程(b)において溶出される、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを含む溶出液画分を、
c1)アデノ随伴ウイルスカプシドを薬学的に適切な用量に濃縮する工程、
c2)上記で言及された分離方法の工程(b)において適用される緩衝液を薬学的に許容される緩衝液に置き換える工程、及び/又は
c3)アデノ随伴ウイルスカプシドを含む溶出液画分を殺菌する工程
のうちの1つ又は複数に供する工程を更に含んでもよく、これにより、アデノ随伴ウイルスカプシドを含む医薬組成物を得る。
【0010】
本開示は、対象において臓器又は組織に関連する疾患又は障害を防止又は処置するための方法であって、上記で言及された分離方法を実行することによって得られるアデノ随伴ウイルスカプシドを含む医薬組成物を対象に投与する工程を含み、この医薬組成物中、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドの遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドに対する比が少なくとも3:2である、方法を更に提供する。
【0011】
加えて、本開示は、上記に詳細に記載されるように、完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドと分離するための方法を実行することによって得られるアデノ随伴ウイルスカプシドを含む組成物であって、この組成物中、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドの遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドに対する比が少なくとも3:2である、組成物を対象とする。
【0012】
本開示は、工程c1~c3(上記に詳細に記載されるような)のうちの1つ又は複数を含む上記に開示される分離方法を実行することによって得られるアデノ随伴ウイルスカプシドを含む医薬組成物であって、この医薬組成物中、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドの遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドに対する比が少なくとも3:2である、医薬組成物も提供する。
【0013】
治療で使用するための、任意選択で、遺伝子治療で使用するための上記の医薬組成物が更に提供される。
【0014】
本開示は、更に下記に詳細に記載されるように、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドと分離するための、支持体、リガンド、及びリガンドを支持体に連結する表面エクステンダーを含み、式IV:
【0015】
【化1】
【0016】
によって定義される陰イオン交換クロマトグラフィー材料の使用も提供する。
【0017】
特に、本開示は、アデノ随伴ウイルス血清型1、2、4、5、6、7、8、9、及び10(AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、及びAAV10)又はそれらのバリアントのアデノ随伴ウイルスカプシドの分離及び使用を対象とする。
【0018】
本開示の好ましい態様は、詳細な説明及び従属請求項において下記に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本開示に従ってアデノ随伴ウイルスカプシドを分離するための方法のフローチャートである。
図2】工程(a)の前に追加の工程(a1)を更に含む、図1に従ってアデノ随伴ウイルスカプシドを分離するための方法のフローチャートである。
図3】工程(a)の前に工程(a1)を任意選択で含み、工程(b)の後に1つ又は複数の追加の工程(c1)、(c2)及び/又は(c3)を更に含む、図1に従ってアデノ随伴ウイルスカプシドを分離するための方法のフローチャートである。
図4】下記の実施例1に記載されるような分離方法に従う、完全にパッケージされた及び空のカプシドについての溶出曲線を示すグラフである。
図5】下記の実施例1に記載されるような分離方法に従う、完全にパッケージされた及び空のカプシドについての溶出曲線を示すグラフである。
図6】下記の実施例4に記載されるような分離方法に従う、完全にパッケージされた及び空のカプシドについての溶出曲線を示すグラフである。
図7】下記の実施例4に記載されるような分離方法に従う、完全にパッケージされた及び空のカプシドについての溶出曲線を示すグラフである。
図8】下記の実施例5に記載されるような分離方法に従う、完全にパッケージされた及び空のカプシドについての溶出曲線を示すグラフである。
図9】下記の実施例6に記載されるような分離方法に従う、完全にパッケージされた及び空のカプシドについての溶出曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示は、図1に示されるように、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドと分離するための方法であって、
a)アデノ随伴ウイルスカプシドを含む液体試料をクロマトグラフィー材料に添加する工程であって、液体試料が、少なくとも90%の純度及び少なくとも1012アデノ随伴ウイルスカプシド/mlの濃度のアデノ随伴ウイルスカプシドを含み、そのうち少なくとも10%のアデノ随伴ウイルスカプシドは、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドであり、
クロマトグラフィー材料が、支持体及びアデノ随伴ウイルスカプシドに結合するためのリガンドを含む、強力な又は部分的に強力な陰イオン交換クロマトグラフィー材料を含み、
クロマトグラフィー材料が、リガンドを支持体に連結する表面エクステンダーを含み、表面エクステンダーがポリマーであり、ポリマーが、
(i)デンプン、セルロース、デキストラン、又はアガロース等の多糖等の天然に存在する骨格を有するポリマー、及び
(ii)ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、又はポリビニルエーテル等の合成骨格を有するポリマー
から選択される、工程、
b)遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドをクロマトグラフィー材料から溶出する工程
を含み、工程(b)において溶出されるアデノ随伴ウイルスカプシドが、溶出液画分中に溶出され、この混ぜ合わさった溶出液画分が、工程(a)において添加される液体試料のアデノ随伴ウイルスカプシドの少なくとも50%を含み、そのうち少なくとも60%のアデノ随伴ウイルスカプシドは、遺伝物質が完全にパッケージされている、方法を提供することによって、完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドと分離するための既存の方法に関連する問題を解決する又は少なくとも軽減する。
【0021】
ここで開示される方法の顕著な利点は、それが、完全にパッケージされたカプシドと完全にはパッケージされていないカプシドの大規模な分離に適していること、及び先行技術の方法と比較して、完全にパッケージされたカプシドの完全にはパッケージされていないカプシドに対する改善された比を提供することを含む。ここで開示される方法を実行することによって、少なくとも3:2の完全にパッケージされたカプシドの完全にはパッケージされていないカプシドに対する比を有する組成物を得ることが可能である。より具体的には、ここで開示される方法は、完全にパッケージされたカプシドの空のカプシドに対する改善された比、及び完全にパッケージされたカプシドの部分的にパッケージされたカプシドに対する改善された比を提供する。
【0022】
「ウイルス粒子」は、完全な感染性ウイルス粒子を表すために本明細書で使用される。それは、リボ核酸(RNA)又はデオキシリボ核酸(DNA)のどちらかの形態のウイルスのゲノム(すなわちウイルスゲノム)を含むコアを含み、コアは、形態学的に定義された殻によって囲まれている。殻はカプシドと呼ばれる。カプシド及び封入されたウイルスゲノムは一緒に、いわゆるヌクレオカプシドを構成する。一部のウイルスのヌクレオカプシドは、リポタンパク質二重層エンベロープによって囲まれている。バイオプロセシングの分野では、治療等の様々な用途のためのウイルスベクターを生成する目的で、ウイルス粒子のゲノムは、目的の遺伝物質を含む遺伝子インサートを含むように改変される。改変されたウイルス粒子は、細胞培養物中の宿主細胞に感染することを許され、ウイルス粒子は、前記宿主細胞内で増殖し、その後、ウイルス粒子は、分離及び精製の任意の手段によって細胞培養物から精製される。本明細書において、ここで開示される方法によって細胞培養物から分離されるウイルス粒子は、代替的に、「標的分子」又は「標的」と称され得る。「ウイルス粒子」は、ある種類のウイルス粒子を意味することが意図され、この用語の単数形は、多数の個々のウイルス粒子を包含し得ることが理解されるべきである。本明細書において、用語「ウイルス粒子」は、下記に更に定義されるような用語「ベクター」及び「カプシド」とそれぞれ互換的に使用され得る。
【0023】
用語「ベクター」は、特定の細胞の種類又は組織を改変するための遺伝子導入を達成するために使用することが意図された、通常は組換えウイルス粒子であるウイルス粒子を表すために本明細書で使用される。ウイルス粒子は、例えば、治療用遺伝子を発現するベクターを提供するように操作され得る。いくつかのウイルスの種類は、遺伝物質(例えば遺伝子)を細胞に送達して、一過性の又は永続的な導入遺伝子発現を提供するのに使用するために現在調査されている。これらは、アデノウイルス、レトロウイルス(γ-レトロウイルス及びレンチウイルス)、ポックスウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、バキュロウイルス、及び単純ヘルペスウイルスを含む。本明細書において、用語「ベクター」は、用語「ウイルス粒子」及び「カプシド」とそれぞれ互換的に使用され得る。
【0024】
用語「カプシド」はウイルス粒子の殻を意味する。カプシドは、ウイルス粒子のコアを囲み、通常は、ウイルスゲノムを含むはずである。製造の上流プロセスで生成されるような改変された(組換え)カプシドは、完全なウイルスゲノムを含むことが予想され、このゲノムは、1つ又は複数の用途のための目的の、例えば、様々な治療用途のための目的の遺伝物質を含む。しかし、低いパッケージング効率ゆえに、構築されたカプシドは、遺伝物質を必ずしも含有しないか、又は切断された遺伝子断片をカプシドで包むだけで、それぞれ、いわゆる空のカプシド及び部分的に充填されたカプシドをもたらす。これらのカプシドは、治療機能を持たないが、それでも、細胞媒介プロセス中に受容体に結合することを争う。これは、全体的な治療有効性を減らし、望ましくない免疫応答を引き起こし得る。結果として、生成プロセスにわたってこれらのカプシドを追跡することは、一貫した生成物品質及び適切な投与応答を確実にするために重要である(非特許文献2)。細胞培養物中で人工的に生成されたウイルス粒子の集団の20~30%までにおいて、カプシドは、遺伝物質が部分的にのみ充填されている。更に、98%までもの人工的に生成されたウイルス粒子において、カプシドは、ウイルスゲノムのどの部分も全く含まず、すなわち空である。しかし、一般的に80%~90%の間の人工的に生成されたウイルス粒子は、空のカプシドを有し、最良のケースは、現在、わずか50%の空のカプシドを達成する。
【0025】
本明細書において、用語「カプシド」は、用語「ベクター」及び「ウイルス粒子」とそれぞれ互換的に使用され得る。本開示の文脈において、カプシドは、遺伝物質を含んでも含まなくてもよい。
【0026】
用語「目的の遺伝物質」は、バイオプロセシングの分野において、ウイルス複製によって生成させて、これに限定されないが、治療用途等の様々な用途で使用され得るように精製するのに適切であり、価値があると考えられる遺伝物質を意味することが意図される。非限定的な例として、目的の遺伝物質は、治療的に適切なヌクレオチド配列等の治療的に適切な遺伝物質を含み得る。
【0027】
用語「遺伝物質が完全にパッケージされたカプシド」は、正確に生成された(宿主細胞によって)カプシド、又は言い換えれば、
完全なウイルスゲノムを含むカプシド、又は言い換えれば、
そのウイルスゲノムの100%を含むカプシド、又は言い換えれば、
機能的なウイルスゲノムを含むカプシド
を表すために本明細書で使用される。
【0028】
ウイルスゲノムは、本明細書の他の箇所に定義されるような目的の遺伝物質を含む遺伝子インサートを含む。
【0029】
完全なウイルスゲノムを含むカプシドは、本明細書で代替的に「完全なカプシド」又は「完全にパッケージされたカプシド」と呼ばれ得る。用語「完全なカプシド」、「完全にパッケージされたカプシド」、及び「遺伝物質が完全にパッケージされたカプシド」は、この文書のいたるところで互換的に使用され得る。
【0030】
用語「遺伝物質が完全にはパッケージされていないカプシド」は、正確に生成されなかった(宿主細胞によって)カプシド、又は言い換えれば、
完全なウイルスゲノムを含まないカプシド、又は言い換えれば、
そのウイルスゲノムの100%未満を含むカプシド
を表すために本明細書で使用される。
【0031】
遺伝物質が完全にはパッケージされていないカプシドは、遺伝物質が部分的に充填されているか、又は遺伝物質が全く充填されていない。
【0032】
用語「遺伝物質が完全にはパッケージされていないカプシド」は、下記に定義されるような用語「部分的に充填されたカプシド」及び「空のカプシド」を包含する。
【0033】
「部分的に充填されたカプシド」は、そのウイルスゲノムの欠損部分等のそのウイルスゲノムの一部を含むカプシド、又は言い換えれば、
部分的なウイルスゲノムを含むカプシド、又は言い換えれば、
不完全なウイルスゲノムを含むカプシド、又は言い換えれば、
欠損ウイルスゲノムを含むカプシド、又は言い換えれば、
完全なウイルスゲノムの0%超及び100%未満、例えば、完全なウイルスゲノムの約1%~約99%、例えば約5%~約95%、例えば約10%~約90%、又は例えば、約1%、約5%、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、若しくは約99%を含むカプシド
と本明細書で定義される。部分的に充填されたカプシドは、不正確に生成されたカプシドであるので、カプシドの集団をその意図される用途、例えば治療用途で使用する前に、可能な限り多くの部分的に充填されたカプシドをカプシドの集団から分離及び除去することが望ましい。本明細書において、部分的に充填されたカプシドは、代替的に「中間カプシド」と呼ばれ得る。
【0034】
「空のカプシド」は、そのウイルスゲノムのどの部分も含まない、すなわちそのウイルスゲノムの0%を含むカプシド、又は言い換えれば、
遺伝物質が全く充填されていないカプシドと本明細書で定義される。したがって、空のカプシドは、目的の遺伝物質を含まない。そのため、カプシドの集団をその意図される用途、例えば治療用途で使用する前に、可能な限り多くの空のカプシドをカプシドの集団から分離及び除去することが望ましい(例えば臨床規則ゆえに、要求されることがある)。
【0035】
ウイルス粒子の集団をその意図される用途、例えば治療用途で使用する前に、完全なカプシドを富化する、すなわち、部分的に充填されたカプシド及び空のカプシドのパーセンテージを犠牲にして、完全なカプシドのパーセンテージを増加させることが望ましい(例えば臨床規則ゆえに、要求されることさえある)。
【0036】
カプシドの集団における完全なカプシド及び空のカプシドのパーセンテージは、当技術分野で公知のいくつかの方法で推定又は分析され得る。これらの方法の一部は、下記に手短に記載される。
【0037】
1:クロマトグラムにおけるA260:280は、ピークに存在する完全なカプシドのパーセンテージの推定を与えるであろう(比1~1.5は、完全なカプシドが富化されたことを示し、比0.5~0.7は、主に空のカプシドを含有している)。
【0038】
2.qPCR:ELISA比。qPCRはウイルスゲノムを定量化し、ELISAは総ウイルス粒子を定量化する。変動を有する2つのアッセイの比は、精度が低く、不確かであろう。確認のために直交解析が必要である(下記の3、4又は5を参照されたい)。
【0039】
3.完全な及び空のカプシドを分離する分析的陰イオン交換(パーセンテージを計算するためのA260:280比及びピーク面積)。ピーク定義に依存する精度。
【0040】
4.分析的超遠心分離(AUC)。異なる密度の粒子(完全な、部分的に充填された、及び空のカプシドに対応する)を検出及び定量化する。これは現在、当技術分野で「至適基準」として公知である。しかし、超遠心分離は拡張可能でなく、したがって、カプシドの大規模バッチの分析に適していない。
【0041】
5.透過型電子顕微鏡法(TEM)。粒子(完全な、部分的に充填された、及び空のカプシド)をカウントする画像分析。試料調製由来のアーチファクトを導入し得る。
【0042】
カプシドの集団における完全なカプシド及び空のカプシドのパーセンテージを推定又は分析するための一部の方法は、ここに参照により本明細書に組み込まれるXiaotong Fuら、Analytical Strategies for Quantification of Adeno-Associated Virus Empty Capsids to Support Process Development、Human gene therapy methods、2019、30(4):144~152頁に、より詳細に記載される。
【0043】
本明細書で使用されるような用語「液体試料」は、細胞培養物、又は細胞培養物に由来する流体であって、分離及び精製の任意の手段によって少なくとも一部が精製されている流体から得られる任意の種類の試料を包含することが理解されるべきである。
【0044】
用語「分離マトリックス」は、官能基を含む1つ又は複数のリガンドがカップリングした支持体を含む材料を表すために本明細書で使用される。リガンドの官能基は、液体試料から分離される及び/又は液体試料中に存在する他の化合物から分離される、本明細書で分析物とも呼ばれる化合物に結合する。分離マトリックスは、リガンドを支持体にカップリングする化合物を更に含み得る。用語「リンカー」、「エクステンダー」、及び「表面エクステンダー」は、下記に更に記載されるような、そのような化合物を記載するために使用され得る。用語「樹脂」は、この分野における分離マトリックスに使用されることがある。用語「クロマトグラフィー材料」及び「クロマトグラフィーマトリックス」は、分離マトリックスの種類を表すために本明細書で使用される。
【0045】
本明細書における用語「表面」は、全ての外表面を意味し、多孔性支持体の場合、外側の表面及び細孔表面を含む。
【0046】
本明細書において、用語「強力な陰イオン交換クロマトグラフィー材料」は、四級化アミン基を含むリガンドを含むクロマトグラフィー材料を意味することが意図される。第四級アミン基は、さらされるpHに関係なく常に正に帯電している強力な陰イオン交換基である。DEAEベースの種類のクロマトグラフィー材料について、アミン基の四級化度は、クロマトグラフィー材料に含まれるアミン基の間で変動し得る。クロマトグラフィー材料全体における約12%~約100%のアミン基の四級化度は、これらの全てのアミン基の少なくとも12%は常に帯電しているので、一般的に、強力な又は少なくとも部分的に強力な陰イオン交換クロマトグラフィー材料のように作用するクロマトグラフィー材料をもたらすと考えられる。四級化アミン基と対照的に、ほとんど全ての他のイオン交換基は弱く、すなわち、それらの電荷は、使用される妥当な範囲のpH内(例えばpH2~11)で、完全な帯電から非帯電まで変動し、pIにおいて中性の電荷(同量の+及び-電荷)を有する。
【0047】
Capto Q(Cytiva社、スウェーデン)は、約100%の四級化アミン基を有する強力な陰イオン交換クロマトグラフィー材料の非限定的な例である。Capto DEAE(Cytiva社、スウェーデン)は、約15%のアミン基の四級化度を有する強力な又は部分的に強力な陰イオン交換クロマトグラフィー材料の非限定的な例である。
【0048】
分離マトリックスは、本明細書の他の箇所に更に定義されるような任意の種類の分離デバイスに含有され得る。非限定的な例として、クロマトグラフィー材料をクロマトグラフィーカラムにパックしてから、クロマトグラフィーカラムに含有されているクロマトグラフィー材料に液体試料を添加することができる。
【0049】
この文脈において、「リガンド」は、所与の分析物に対する既知又は未知の親和性を有し、その表面に固定された任意の官能基又は捕捉剤を含む分子であるのに対し、「分析物」は、リガンドに対する任意の特異的な結合パートナーを含む。用語「リガンド」は、用語「特異的な結合分子」、「特異的な結合パートナー」、「捕捉分子」及び「捕捉剤」と互換的に本明細書で使用され得る。本明細書において、リガンドと相互作用する液体試料中分子は、「分析物」と称される。本開示による目的の分析物は、アデノ随伴ウイルスカプシド、より詳細には、遺伝物質が完全にパッケージされた又は完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドである。そのため、本明細書において、用語「分析物」、「アデノ随伴ウイルスカプシド」及び「カプシド」は、互換的に使用され得る。
【0050】
完全にパッケージされたカプシドを完全にはパッケージされていないカプシドと分離するための本明細書で開示される方法において、使用されるクロマトグラフィー材料は、リガンドを支持体に連結するリンカーを含み、すなわち支持体へのリガンドのカップリングは、支持体とリガンドの間にリンカーを導入することによって実現される。カップリングは、エピクロロヒドリン;エピブロモヒドリン;アリル-グリシジルエーテル;ブタンジオールジグリシジルエーテル等のビス-エポキシド;ジ-クロロ-プロパノール等のハロゲン置換脂肪族物質;及びジビニルスルホンの使用等による任意の従来の共有結合的カップリング方法に従って実行され得る。適切なリンカーの他の非限定的な例は、2~6つの炭素原子を有するポリエチレングリコール(PEG)、3~6つの炭素原子を有する炭水化物、及び3~6つの炭素原子を有する多価アルコールである。これらの方法は全て、当技術分野で周知であり、当業者によって容易に実行される。
【0051】
リガンドは、好ましくは、「表面エクステンダー」又は単に「エクステンダー」としても公知である、より長いリンカー分子を介して支持体にカップリングする。エクステンダーは、この分野で周知であり、リガンドと支持体の間の距離を立体的に増加させるために一般的に使用される。エクステンダーは、触手又はフレキシブルアームとして表されることがある。可能性のある化学構造のより詳細な説明について、例えば、ここに参照により本明細書に組み込まれる特許文献1を参照されたい。手短に言うと、エクステンダーは、ホモポリマー又はコポリマー等のポリマーの形態であり得る。親水性高分子エクステンダーは、合成起源のもの、すなわち合成骨格を有するものであり得るか、又は生物学的起源のもの、すなわち、天然に存在する骨格を有するバイオポリマーであり得る。典型的な合成ポリマーは、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド及びポリメタクリルアミド、ポリビニルエーテル等である。典型的なバイオポリマーは、デンプン、セルロース、デキストラン、アガロース等の多糖である。本明細書の実施例1に記載される結果は、驚くべきことに、表面エクステンダーを含むクロマトグラフィー材料が、表面エクステンダーを含まない同じクロマトグラフィー材料と比較して、完全なAAVカプシドと空のAAVカプシドの改善された分離をもたらすことを示す。
【0052】
用語「溶出剤」は、この分野におけるその従来の意味で使用され、すなわち、1種又は複数の化合物を分離マトリックスから放出するのに適したpH及び/又はイオン強度の緩衝液である。
【0053】
用語「溶出液」は、この分野におけるその従来の意味で使用され、すなわち、液体試料をクロマトグラフィーカラムにロードした後に、クロマトグラフィーカラムから溶出される、液体試料の一部である。
【0054】
上記で言及されたように、完全にパッケージされたカプシドを完全にはパッケージされていないカプシドと分離するための方法において、工程(a)においてクロマトグラフィー材料に添加される液体試料は、少なくとも90%、例えば、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の純度及び少なくとも1012、例えば、1013、1014、又は1015のアデノ随伴ウイルスカプシド/mlの濃度のアデノ随伴ウイルスカプシドを含み、そのうち少なくとも10%、例えば、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、又は80%のアデノ随伴ウイルスカプシドは、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドである。液体試料中のアデノ随伴カプシドの純度に関して、少なくとも90%、例えば99%までの純度は、液体試料中の生物学的物質の少なくとも90%、例えば99%までがアデノ随伴カプシドによって代表されるが(完全な、空の、及び部分的に充填されたカプシドを含む)、10%まで、例えば1%の残りは、宿主細胞タンパク質及びDNAによって代表されることを意味することが意図される。
【0055】
上記に開示される方法の工程(b)の目的は、可能な限り高い純度の完全にパッケージされたカプシドを得ることである。当業者は、これが、様々な異なる分離条件を適用することによって達成され得ることを容易に理解する。可能な限り高い純度の完全にパッケージされたカプシドを得るための分離条件の非限定的な例は、クロマトグラフィー材料への完全にはパッケージされていないカプシドの結合を可能にするが、
(i)完全にパッケージされたカプシドがクロマトグラフィー材料を実質的に流れることを可能にする(すなわち、クロマトグラフィー材料に実質的に結合しない完全にパッケージされたカプシド)、又は
(ii)完全にパッケージされたカプシドがクロマトグラフィー材料に結合し、続いて、それらをクロマトグラフィー材料から溶出することを可能にする、分離条件を含む。項目(ii)に記載される結合-溶出プロセスにおいて、完全にパッケージされたカプシドは、どの分離条件が適用されるかに応じて、完全にはパッケージされていないカプシドの前又は後にクロマトグラフィー材料から溶出され得ることが理解されるべきである。
【0056】
上記で言及されたように、完全にパッケージされたカプシドと完全にはパッケージされていないカプシドの間には、精製に関連のあるいくつかのパラメーター、例えばそれらの等電点に関連して、わずかな差異がある。これは、多くの場合、完全にパッケージされた及び完全にはパッケージされていないカプシドの(少なくとも部分的な)共溶出につながる。したがって、現実的に、上記に開示される方法の工程(b)において溶出されるアデノ随伴ウイルスカプシドは、完全な、空の、及び部分的に充填されたカプシドに完全には分離されないであろう。しかし、工程(a)においてクロマトグラフィー材料に添加される液体試料中よりも実質的に高いパーセンテージの完全なカプシドを含む溶出液画分が存在するであろう。より詳細には、上記に開示されるように、工程(b)において溶出されるアデノ随伴ウイルスカプシド、すなわち、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドは、溶出液画分中に溶出され、この混ぜ合わさった溶出液画分は、工程(a)において添加される液体試料のアデノ随伴ウイルスカプシドの少なくとも50%、例えば、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、又は90%を含み、そのうち少なくとも60%、例えば、65%、70%、75%、80%、85%、又は90%のアデノ随伴ウイルスカプシドは、遺伝物質が完全にパッケージされている。ここで開示される方法によって達成される完全なカプシドの回収率及び精製の非限定的な例は、工程(a)において添加される液体試料のカプシドの少なくとも50%の回収率、そのうち少なくとも60%は完全なカプシドであり、例えば、工程(a)において添加される液体試料のカプシドの少なくとも70%の回収率、そのうち少なくとも80%は完全なカプシドである。下記に更に記載される実施例1において、結果は、収穫物からのカプシドの少なくとも60%の回収率、そのうち少なくとも60%が完全なカプシドであることを示す。現在のところ、本明細書に開示される方法ほど高い回収率及び精製を与える、公に利用可能な大規模な方法はない。
【0057】
上記で言及されたように、ここで開示される方法において適用されるクロマトグラフィー材料は、支持体及びアデノ随伴ウイルスカプシドに結合するためのリガンドを含む、強力な又は部分的に強力な陰イオン交換クロマトグラフィー材料を含む。
【0058】
強力な陰イオン交換クロマトグラフィー材料のリガンドは、以下の式I:
【0059】
【化2】
【0060】
(式中、
R1はC1~C3アルキルから選択され、R2及びR3は、独立して、C1~C3アルキル、CH2OH、及びCH2CHOHCH3から選択される)
によって定義され得る。
【0061】
非限定的な例として、R1、R2、及びR3の各々はCH3である。
【0062】
式I(式中、R1、R2、及びR3の各々はCH3である)によって定義されるリガンドを含む、現在入手可能なクロマトグラフィー材料、例えば、Cytiva社、スウェーデン(www.cytivalifesciences.com)によって提供されるCapto Qの名称で入手可能となるクロマトグラフィー材料がある。Capto Qは、デキストランを表面エクステンダーとして更に含み、例えば、モノクローナル抗体の精製のための工業的精製プロセスにおける高分解能ポリッシング工程のためのクロマトグラフィー媒体である。しかし、これまでそれは、完全にパッケージされたアデノ随伴カプシドと完全にはパッケージされていないアデノ随伴カプシドの分離のために使用されていない。
【0063】
別の非限定的な例によると、R1及びR2はエチルであり、R3はメチルである。
【0064】
更に別の非限定的な例によると、R1及びR2はメチルであり、R3はCH2CHOHCH3である。
【0065】
式Iによって定義されるリガンドの密度は、強力な陰イオン交換クロマトグラフィー材料のml当たり、約60~約500μmol、例えば約160~約350μmol、例えば約160~約220μmolのリガンドであり得る。
【0066】
代替的に、強力な又は部分的に強力な陰イオン交換クロマトグラフィー材料のリガンドは、以下の式II:
【0067】
【化3】
【0068】
(式中、
mは1~3の整数であり、
R1及びR2は、独立して、C1~C3アルキルから選択され、R3及びR4は、独立して、C1~C3アルキル及びCH2CHOHCH3から選択され、R5は、水素、C1~C3アルキル及びCH2CHOHCH3から選択される)
によって定義することができ、但し、mが1である場合、強力な又は部分的に強力な陰イオン交換クロマトグラフィー材料のリガンドは、以下の式III:
【0069】
【化4】
【0070】
(式中、nは0~3の整数であり、
但し、nが0である場合、R3及びR4は、独立して、C1~C3アルキルから選択され、R5は水素又はCH2CHOHCH3である)
によって定義される。
【0071】
非限定的な例として、リガンドは、式IIIによって定義され、以下の構造(i)~(iv):
(i)nは0であり、R3及びR4はエチルであり、R5は水素又はCH2CHOHCH3である構造、
(ii)nは1であり、R1、R2、R3、R4はエチルであり、R5は水素又はCH2CHOHCH3である構造、
(iii)nは2であり、各R1及びR2はエチルであり、R3及びR4はエチルであり、R5は水素又はCH2CHOHCH3である構造、
(iv)nは3であり、各R1及びR2はエチルであり、R3及びR4はエチルであり、R5は水素又はCH2CHOHCH3である構造
のうちの2つ以上の組合せを含む。
【0072】
式IIIによって定義され、上記で言及された構造(i)~(iv)の組合せを含むリガンドを含む、1つの現在入手可能なクロマトグラフィー材料は、Capto DEAE(Cytiva社、スウェーデン)と呼ばれるクロマトグラフィー樹脂である。Capto DEAEは、デキストランを表面エクステンダーとして更に含み、例えば、モノクローナル抗体の精製のための工業的精製プロセスにおける高分解能ポリッシング工程のためのクロマトグラフィー媒体である。しかし、これまでそれは、完全にパッケージされたアデノ随伴カプシドと完全にはパッケージされていないアデノ随伴カプシドの分離のために使用されていない。
【0073】
別の非限定的な例によると、リガンドは式IIIによって定義され、mは1であり、nは1、2、又は3であり、各R1、R2、R3、及びR4はメチルであり、R5は水素である。
【0074】
更に別の非限定的な例によると、リガンドは式IIIによって定義され、mは1であり、nは1、2、又は3であり、各R1、R2、R3、及びR4はメチルであり、R5はCH2CHOHCH3である。
【0075】
別の非限定的な例によると、リガンドは式IIIによって定義され、mは1であり、リガンドは、以下の構造(i)~(iv):
(i)nは0であり、R3及びR4はメチルであり、R5は水素又はCH2CHOHCH3である構造、
(ii)nは1であり、R1、R2、R3、及びR4はメチルであり、R5は水素又はCH2CHOHCH3である構造、
(iii)nは2であり、各R1及びR2はメチルであり、R3及びR4はメチルであり、R5は水素又はCH2CHOHCH3である構造、
(iv)nは3であり、各R1及びR2はメチルであり、R3及びR4はメチルであり、R5は水素又はCH2CHOHCH3である構造
のうちの2つ以上の組合せを含む。
【0076】
式II又は式IIIによって定義されるリガンドの密度は、強力な又は部分的に強力な陰イオン交換クロマトグラフィー材料のml当たり、約60~約500μmol、例えば約160~約350μmol、例えば約290~約350μmolのリガンドであり得る。
【0077】
上記のように、クロマトグラフィー材料は、リガンドを支持体に連結する表面エクステンダーを含み、表面エクステンダーはポリマーであり、ポリマーは、
(i)デンプン、セルロース、デキストラン、又はアガロース等の多糖等の天然に存在する骨格を有するポリマー、及び
(ii)ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、又はポリビニルエーテル等の合成骨格を有するポリマー
から選択される。
【0078】
非限定的な例として、表面エクステンダーはデキストランである。デキストランは、約10~約2000kDa、例えば、約10、40、70、250、750、又は2000kDa、例えば40kDaの分子量を有し得る。デキストランの密度は、クロマトグラフィー材料のml当たり、約5~約30mgのデキストランであり得る。クロマトグラフィー材料に固定されるデキストランの量は、例えば、固定されるデキストランの分子量に依存して変動し得ることが理解されるべきである。通常、デキストランの分子量を増やすために、減少量が必要とされる。
【0079】
上記に開示される方法の工程(a)及び(b)は、約6.0~約10.5、例えば約7.0~約10.0、例えば、約7.5~約9.5、又は約6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0、若しくは10.5のpHを有する緩衝液を適用する工程を含み得る。非限定的な例によると、下記の実施例1に記載されるように、約9.5のpHは、式Iによって定義されるリガンドを含むクロマトグラフィー材料に適用され得る。更に、約7.5のpHは、式II又は式IIIによって定義されるリガンドを含むクロマトグラフィー材料に適用され得る。
【0080】
前記緩衝液は、陰イオン交換クロマトグラフィー用に一般的に推奨される緩衝液から適切に選択され、例えば、トリス(ヒドロキシメチル)アミノ-メタン(すなわちトリス)、1,3-ビス(トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ)プロパン(すなわちビス-トリスプロパン)、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、ジエタノールアミン、1,3-ジアミノプロパン、又はエタノールアミンを含み得る。当業者は、上記に列挙された緩衝液のうちの任意の1つに適した濃度を選択することができる。
【0081】
上記に開示される方法において、工程(b)は、緩衝液、任意選択で、上記で言及された緩衝液のうちの1つを適用する工程を含んでもよく、緩衝液は、遺伝物質が完全にパッケージされたカプシドと遺伝物質が完全にはパッケージされていないカプシドとの分離を改善する化合物を含む。この化合物は、工程(a)において適用される緩衝液中に存在してもしなくてもよい。理論に縛られるものではないが、そのような化合物は、例えば、カプシドとリガンドの相互作用又はカプシドとカプシドの相互作用に影響を及ぼすことによって分離を改善し得る。分離を改善する前記化合物は、例えば、炭水化物、二価金属イオン、及び界面活性剤から選択され得る。
【0082】
分離を改善する前記化合物が炭水化物である場合、それは、例えば、スクロース、ソルビトール、及び多糖から選択され得る。
【0083】
分離を改善する前記化合物が二価金属イオンである場合、それは、例えば、Mg2+、Fe2+、及びMn2+から選択され得る。金属イオンは、任意選択で、例えば、塩化物イオン又は硫酸イオンと組み合わせて、塩の形態で存在し得る。工程(b)の緩衝液に含めるのに適した金属塩の非限定的な例はMgCl2である。MgCl2の適切な濃度の非限定的な例は、約0.5~約30mMのMgCl2、例えば約1~約20mM、例えば、約2~約10mM、又は約0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、若しくは30mMのMgCl2を含む。
【0084】
分離を改善する前記化合物が界面活性剤である場合、それは、例えば、ポロキサマー188又はPluronic(商標)F68等のポロキサマー、及びTween 20又はTween 80等のポリソルベートから選択され得る。
【0085】
上記の方法において、工程(b)は、緩衝液、任意選択で、上記で言及された緩衝液のうちの1つを適用する工程を含んでもよく、緩衝液は、クロマトグラフィー材料に結合したカプシドを溶出するのを助け得る化合物を含む。この化合物は、工程(a)において適用される緩衝液中に存在しない。そのような化合物の非限定的な例は、一価金属イオンの塩等の塩である。より詳細には、塩はコスモトロピック塩であり得る。水溶媒中の塩は、水-水相互作用の安定性及び構造に寄与する場合、コスモトロピック(秩序を作る)と定義される。対照的に、カオトロピック(無秩序にする)塩は、水構造を破壊し、非極性溶媒粒子の溶解性を増加させ、溶質凝集物を不安定にするという逆の効果を有する。コスモトロープは、水分子を良好に相互作用させ、このことは実際に、タンパク質等の高分子における分子内相互作用を安定させる(Moelbert Sら)。例えば、タンパク質を塩析又は塩溶するイオンの能力の順序でのイオンの分類であるホフマイスターシリーズ又は離液順列を参照することによって、規模が確立され得る(Hyde Aら)。
【0086】
より詳細には、コスモトロピック塩は、(i)CO3 2-、SO4 2-、S2O3 2-、H2PO4 -、HPO4 2-、酢酸-、クエン酸-、及びCl-からなる群から選択される陰イオン、並びに(ii)NH4 +、K+、Na+、及びLi+からなる群から選択される陽イオンを含み得る。現時点で好ましい実施形態では、塩は酢酸ナトリウム(NaOAc)である。NaOAcの適切な濃度の非限定的な例は、約5mM~約500mM、例えば、約5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、150、200、250、300、350、400、450、又は500mMを含む。しかし、(i)において列挙されたような陰イオン及び(ii)において列挙されたような陽イオンの組合せからなる他の塩が、カプシドを溶出するのに代替的に使用され得ることが理解されるべきである。非限定的な例は、当技術分野で周知のように、NaCl、LiCl、KCl、又は塩溶出に使用するのに適した他の同等の金属塩である。NaClの適切な濃度の非限定的な例は、約5mM~約2MのNaCl、例えば、約5、10、20、30、40、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、1000、1500、又は2000mMのNaClを含む。更に、工程(b)は、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドのクロマトグラフィー材料からの溶出を改善するためのそのような化合物の勾配を適用する工程を含み得る。そのような勾配は、直線勾配若しくは段階勾配、又はそれらの組合せであり得る。
【0087】
工程(b)において適用される適切な緩衝液の非限定的な例は、20mMのビス-トリスプロパン(BTP)、pH9.5(式Iによって定義されるリガンドについて)又はpH7.5(式II又はIIIによって定義されるリガンドについて)、2mMのMgCl2、1%のスクロース、及び0.1%のポロキサマー188を含み得る。
【0088】
本明細書で開示される方法において適用されるクロマトグラフィー材料は、リガンドがカップリングしている支持体を含む。支持体は、有機又は無機材料で作られてもよく、多孔性又は非多孔性であってもよい。一実施形態では、支持体は、架橋炭水化物材料等の天然ポリマー、例えば、アガロース、寒天、セルロース、デキストラン、キトサン、コンニャク、カラギーナン、ジェラン、アルギン酸塩、ペクチン、デンプン等から調製される。天然ポリマー支持体は、容易に調製され、逆懸濁ゲル化等の標準的な方法に従って、任意選択で架橋される(非特許文献3)。特に有利な実施形態では、支持体は、比較的硬いが多孔性のアガロースの一種であり、これはその流動特性を増強する方法によって調製され、例えば、特許文献2(Berg)を参照されたい。代替の実施形態では、支持体は、架橋合成ポリマー等の合成ポリマー又はコポリマー、例えば、スチレン又はスチレン誘導体、ジビニルベンゼン、アクリルアミド、アクリレートエステル、メタクリレートエステル、ビニルエステル、ビニルアミド等から調製される。そのような合成ポリマーは、容易に調製され、標準的な方法に従って、任意選択で架橋され、例えば、非特許文献4を参照されたい。天然又は合成ポリマー支持体は、例えば多孔性粒子の形態で、Cytiva社、スウェーデン等の商業的供給源からも入手可能である。更に代替の実施形態では、支持体は、シリカ等の無機ポリマーから調製される。無機多孔性及び非多孔性支持体は、この分野で周知であり、標準的な方法に従って容易に調製される。
【0089】
クロマトグラフィー材料の支持体は、実質的に球状、細長い又は不規則な形態の粒子等の粒子の形態であり得る。
【0090】
クロマトグラフィー材料が粒子の形態である場合、粒子は、均質な多孔性を有し、アデノ随伴ウイルスカプシドに対して少なくとも一部が透過性である粒子であり得る。
【0091】
本明細書において、用語「均質な多孔性」は、各粒子が、その全構造又は体積のいたるところで、アデノ随伴ウイルスカプシドに対して少なくとも一部が透過性であるように、均質な多孔性を有する粒子が、その全構造又は体積のいたるところで均質な多孔性を有することを意味することが意図される。言い換えれば、均質な多孔性を有する粒子は、粒子の全構造又は体積のいたるところで、その細孔を通して、アデノ随伴ウイルスカプシドが完全に又は少なくとも一部が拡散することを可能にする多孔性を有する。
【0092】
アデノ随伴ウイルスは、直径およそ20~25nmである。カプシドは、ウイルス粒子の殻であり、アデノ随伴ウイルスは、カプシドを囲むリポタンパク質二重層エンベロープを有しないので、アデノ随伴ウイルスカプシドのサイズは、直径およそ20~25nmである。
【0093】
したがって、クロマトグラフィー材料が、均質な多孔性を有し、アデノ随伴ウイルスカプシドに対して少なくとも一部が透過性である粒子の形態である場合、各粒子は、>25nmである直径の、すなわち、分離されるアデノ随伴ウイルスカプシドの直径より大きい細孔を適切に含むことができ、これにより、粒子全体内でのカプシドの拡散を可能にする。本開示の特定の目的のために、すなわち、アデノ随伴ウイルスカプシドを分離するために、直径>25nmは、30、50、75、100、150、又は200nmを含むが、これらに限定されない>25nmの任意のサイズであり得ることが理解されるべきである。
【0094】
更に、その全構造又は体積のいたるところで均質な多孔性を有する粒子は、それにもかかわらず、カプシドが粒子内に拡散することを容易に可能にするのに十分大きい細孔及びカプシドの拡散を可能にしない十分小さい細孔の両方である異なるサイズの細孔を含み得ることが理解されるべきである。この細孔径の多様性は、明確に定義された分子量及び流体力学的サイズの分子の拡散係数によって測定され得る。非限定的な例として、140~225kDaの分子量又は20~25nmの流体力学的直径(すなわち、アデノ随伴ウイルスカプシドと同じサイズの直径)を有するデキストランは、粒子の細孔内でのアデノ随伴ウイルスカプシドの拡散度を評価するために使用され得る。
【0095】
本明細書の実施例1において有利に使用されるクロマトグラフィー材料Capto Q及びCapto DEAEは、およそ90μmの直径を有する、実質的に球状の粒子又はビーズの形態の支持体を含む。この種類の粒子は、均質な多孔性を有し(すなわち、その全構造又は体積のいたるところで)、アデノ随伴ウイルスカプシドに対して少なくとも一部が透過性である(すなわち、その全構造又は体積のいたるところで)粒子の非限定的な例である。
【0096】
ここで開示される方法で使用するためのクロマトグラフィー材料の適切な粒径は、5~500μm、例えば10~100μm、例えば30~90μmの直径範囲内にあり得る。本質的に球状の粒子の場合、平均粒径は、5~1000μm、例えば10~500の範囲内にあり得る。特定の実施形態では、平均粒径は10~200μmの範囲内にある。この分野の当業者は、使用されるプロセスに応じて、適切な粒径及び多孔性を容易に選択することができる。例えば、大規模なプロセスについて、経済的な理由で、特に捕捉工程のための大きな体積の処理を可能にするために、より多孔性であるが硬い支持体が好まれ得る。クロマトグラフィーでは、カラムのサイズ及び形状等のプロセスパラメーターは、選択に影響を及ぼすであろう。膨張床プロセスにおいて、マトリックスは、一般的に、高密度充填剤、好ましくはステンレス鋼充填剤を含有する。他のプロセスについては、他の基準がマトリックスの性質に影響を及ぼし得る。
【0097】
クロマトグラフィー材料は、乾燥させてもよく、例えば、元の形態を保持するために、使用時に液体に浸される乾燥した粒子であり得る。例えば、そのような乾燥したクロマトグラフィー材料は、乾燥したアガロース粒子を含み得る。
【0098】
クロマトグラフィー材料の支持体は、代替的に、モノリス、フィルター又は膜、キャピラリー、チップ、ナノ繊維、表面等の、分離で従来使用されている任意の他の形状を取り得る。
【0099】
クロマトグラフィー材料の支持体がモノリスを含む場合、アデノ随伴ウイルスカプシドを分離する目的に適したモノリス内の細孔直径は、>25nmの最低細孔直径、すなわち、分離されるカプシドの直径より大きい直径から約5μmの最大細孔直径、例えば、約0.5、1.0、2.0、3.0、4.0、又は5.0μmまでの範囲である。
【0100】
クロマトグラフィー材料の支持体がナノ繊維を含む場合、そのようなナノ繊維は、例えばエレクトロスピニングポリマーナノ繊維を含み得る。使用時に、そのようなナノ繊維は、移動相が透過できる複数の細孔を含む固定相を形成する。
【0101】
クロマトグラフィー材料の支持体は、単一の膜、多数の膜又はフィルター等の膜構造を含み得る。膜は吸着性の膜であり得る。クロマトグラフィー材料の支持体が膜構造を含む場合、アデノ随伴ウイルスカプシドを分離する目的に適した膜構造内の細孔直径は、>25nmの最低細孔直径、すなわち、分離されるカプシドの直径より大きい直径から約5μmの最大細孔直径、例えば、約0.5、1.0、2.0、3.0、4.0、又は5.0μmまでの範囲である。クロマトグラフィー材料が膜構造を含む場合、そのような膜構造は、例えば、ポリマーナノ繊維の不織ウェブを含み得る。
【0102】
適切なポリマーの非限定的な例は、ポリスルホン、ポリアミド、ナイロン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、及びポリエチレンオキシド、並びにそれらの混合物から選択され得る。
【0103】
代替的に、ポリマーは、例えば、セルロース及びセルロースの部分的誘導体、特に、セルロースエステル、架橋セルロース、グラフト化セルロース、又はリガンドカップリングセルロースからなる群から選択されるセルロース系ポリマーであり得る。セルロース繊維クロマトグラフィー(Fibroクロマトグラフィーとして公知;Cytiva社、スウェーデン)は、高い流量及びセルロース繊維の高い容量を利用する、短いプロセス時間及び高い生産性のための超高速クロマトグラフィー精製である。クロマトグラフィー材料の支持体が、Fibro等のセルロース繊維を含む場合、アデノ随伴ウイルスカプシドを分離する目的に適したセルロース繊維内の細孔直径は、>25nmの最低細孔直径、すなわち、分離されるカプシドの直径より大きい直径から約5μmの最大細孔直径、例えば、約0.1、0.2、0.5、1.0、2.0、3.0、4.0、又は5.0μmまでの範囲である。
【0104】
用語「膜クロマトグラフィー」は、バイオプロセシングの分野における、その従来の意味を有する。膜クロマトグラフィーでは、流体と接触した固相の表面への流体の成分、例えば、個々の分子、付随物又は粒子の結合がある。固相の活性な表面は、対流輸送によって分子がアクセス可能である。パックドクロマトグラフィーカラムに対する膜吸着体の利点は、はるかに高い流量で運転されることに対するそれらの適切性である。これは対流ベースのクロマトグラフィーとも呼ばれる。対流ベースのクロマトグラフィーマトリックスは、マトリックスの流入と流出の間への水圧差の適用が、マトリックスの灌流を強い、高い流量で非常に迅速に果たされる、マトリックス内への又はマトリックスからの物質の実質的な対流輸送を達成する、任意のマトリックスを含む。対流ベースのクロマトグラフィー及び膜吸着体は、例えば、ここにそれらの全体が参照により組み込まれる特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9に記載される。
【0105】
遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドと分離するための本明細書で開示される方法において、使用されるクロマトグラフィー材料、方法の工程(a)及び(b)において言及されるクロマトグラフィー材料は、有利には、クロマトグラフィー材料がポリッシング工程において適用されることを意味するポリッシングクロマトグラフィー材料であり得る。
【0106】
用語「ポリッシング工程」は、液体クロマトグラフィーの文脈では、微量不純物が除去されて、活性で安全な生成物を残す最終精製工程を指す。ポリッシング工程中に除去される不純物は、標的分子の配座異性体、すなわち、特定の分子立体配座を有する標的分子の形態、又は疑似漏出生成物であることが多い。ポリッシング工程は、代替的に、「二次精製工程」と呼ばれ得る。
【0107】
更に、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドと分離するための本明細書で開示される方法の工程(a)において添加される液体試料は、有利には、事前に精製された液体試料であり得る。
【0108】
本開示は、図1に示され、上記に詳細に記載されるような方法を実行することを含む、完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドと分離するための方法であって、図2で説明されるように、アデノ随伴ウイルスカプシドをアデノ随伴ウイルスカプシド含有細胞培養収穫物から分離することによって、アデノ随伴ウイルスカプシドを事前に精製することを含む工程(a1)を更に含み、これにより、アデノ随伴ウイルスカプシドを含む事前に精製された液体試料を得てから、図1に示されるような方法の工程(a)に従って、アデノ随伴ウイルスカプシドを含む前記事前に精製された液体試料をクロマトグラフィー材料に添加する、方法を更に提供する。
【0109】
そのような事前に精製する工程(a1)は、代替的に、「捕捉工程」と呼ばれてもよく、液体クロマトグラフィーの文脈において、分離手順の初期工程を指す。最も一般的には、捕捉工程は、清澄化(例えば、濾過、遠心分離、又は沈殿による)を含み、通常は、試料の濃縮及び/又は安定化、並びに試料の清澄化、濃縮、及び安定化の後に、例えばクロマトグラフィーを適用することによる、可溶性不純物からの顕著な精製も含む。捕捉工程後に中間精製が続いてもよく、これは、宿主細胞タンパク質、DNA、ウイルス、内毒素、栄養素、消泡剤及び抗生物質等の細胞培養培地の成分、並びに凝集物、ミスフォールド種、及び凝集物等の生成物関連不純物等の不純物の残留量を更に減らす。
【0110】
そのような事前に精製する工程は、アデノ随伴ウイルスカプシド含有細胞培養収穫物を精製方法の以下の非限定的な例のうちの1つ又は複数に供する工程を含み得る:
(i)親和性クロマトグラフィー、
(ii)イオン交換クロマトグラフィー、
(iii)沈殿又はタンジェンシャルフロー濾過(TFF)、続いて、例えば、カプシドのフロースルーとクロマトグラフィー材料への不純物の結合を兼ね備えたCapto Core 400クロマトグラフィー材料(Cytiva社、スウェーデン)の使用等によるサイズ排除クロマトグラフィー、
(iv)TFF、続いてイオン交換クロマトグラフィー、並びに
(v)TFF、続いて、イオン交換クロマトグラフィー及びCapto Core。
【0111】
図2で説明され、上記に記載される方法の事前に精製する工程において適用するのに適したクロマトグラフィー材料の非限定的な例は、親和性クロマトグラフィー材料、イオン交換クロマトグラフィー材料、及びサイズ排除クロマトグラフィー材料をそれぞれ含む。クロマトグラフィー材料は、第四級アミノ、第四級アンモニウム、若しくはアミン基等の正に帯電した基、又はスルホネート若しくはカルボキシレート基等の負に帯電した基で官能化され得る。クロマトグラフィー材料は、イオン交換基、親和性ペプチド/タンパク質ベースのリガンド、疎水性相互作用リガンド、IMACリガンド、又はOligo dT等のDNAベースのリガンドで官能化され得る。
【0112】
本明細書において、用語「細胞培養物」は、細胞の培養物又は培養された細胞の群を指し、細胞は、細菌細胞、ウイルス細胞、真菌細胞、昆虫細胞、又は哺乳動物細胞等の任意の種類の細胞であり得る。細胞培養物は、清澄化されなくてもよい、すなわち、細胞を含んでいてもよいか、又は細胞が枯渇していてもよい、すなわち、細胞を含まないか若しくはほとんど含まないが、細胞を除去する前に細胞から放出された生体分子を含む培養物であってもよい。更に、清澄化されていない細胞培養物は、無傷な細胞、破壊された細胞、細胞ホモジネート、及び/又は細胞溶解物を含み得る。
【0113】
用語「細胞培養収穫物」は、細胞が培養された容器又は機器から収穫及び取り出された細胞培養物を表すために本明細書で使用される。
【0114】
用語「分離デバイス」は、バイオプロセシングの分野におけるその従来の意味を有し、化合物の生成からの副生物を含有する流体から化合物を分離及び精製することができ、そうするのに適した任意の種類の分離デバイスを包含すると理解されるべきである。分離デバイスは、本明細書の他の箇所に更に定義されるような分離マトリックスを含み得る。
【0115】
ここに開示される方法に従うポリッシング工程で使用するのに適した分離デバイスの非限定的な例は、本明細書の他の箇所に更に記載されるようなクロマトグラフィーカラム及び膜デバイスを含む。そのような分離デバイスは、本明細書の他の箇所に詳細に記載されるように、式I、II又はIIIによって定義されるようなリガンドを含む強力な又は部分的に強力な陰イオン交換クロマトグラフィー材料の形態のクロマトグラフィー材料を適切に含み得る。
【0116】
本明細書に記載されるような捕捉工程又は事前精製工程で使用するのに適した分離デバイスの非限定的な例は、濾過装置、クロマトグラフィーカラム及び膜デバイスである。捕捉工程で使用するのに適したクロマトグラフィーカラムは、例えば、親和性クロマトグラフィー材料、イオン交換クロマトグラフィー材料、混合モードクロマトグラフィー材料又は疎水性相互作用クロマトグラフィー材料がパックされ得る。
【0117】
図3で説明されるように、完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドと分離するための本明細書に開示される方法は、上記のような方法の工程(b)において溶出される、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを含む溶出液画分を、
c1)アデノ随伴ウイルスカプシドを薬学的に適切な用量に濃縮する工程、
c2)方法の工程(b)において適用される緩衝液を薬学的に許容される緩衝液に置き換える工程、及び/又は
c3)アデノ随伴ウイルスカプシドを含む溶出液画分を殺菌する工程
のうちの1つ又は複数に供する工程を更に含んでもよく、これにより、アデノ随伴ウイルスカプシドを含む医薬組成物を得る。
【0118】
当業者は、薬学的に適切な用量が、これらに限定されないが、処置される疾患又は障害並びに医薬組成物で処置される対象の体重及び状態等の様々な因子に依存することを理解する。
【0119】
薬学的に許容される緩衝液は、当技術分野で周知であり、当業者によって容易に選択され得る。
【0120】
得られた組成物が医薬組成物に関する全ての規制要件を満たすために、通常は、上記で列挙された3つの工程c1~c3の全てが実行されなければならない。
【0121】
上記に開示される方法において、アデノ随伴ウイルスカプシドは、有利には、アデノ随伴ウイルス血清型8(AAV8)、アデノ随伴ウイルス血清型5(AAV5)、アデノ随伴ウイルス血清型1(AAV1)、アデノ随伴ウイルス血清型2(AAV2)、アデノ随伴ウイルス血清型4(AAV4)、アデノ随伴ウイルス血清型6(AAV6)、アデノ随伴ウイルス血清型7(AAV7)、アデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)、若しくはアデノ随伴ウイルス血清型10(AAV10)、又はそれらのバリアントのカプシドであり得る。
【0122】
上記で列挙されたようなアデノ随伴ウイルス(AAV)血清型1、2、4、5、6、7、8、又は10に関連する用語「バリアント」は、カプシド構造が、臨床性能を改善するために、例えば、特定の標的臓器に向けて改変された、改変又は操作されたAAVを意味することが意図される。非限定的な例として、AAV8バリアントは、AAV8のカプシド部分を含み、AAV5等のAAV8以外の他のAAV血清型のカプシド部分を更に含み得る。しかし、本明細書で言及されるようなAAV8バリアントは、例えば、非改変AAV8カプシドの外表面構造の少なくとも50%、例えば、60%、70%、80%、又は90%を保持する、非改変AAV8カプシドに対する顕著な構造的類似性を保持しなければならない。これは、非改変AAV血清型1、2、4、5、6、7、又は10とそれぞれ比較して、AAV血清型1、2、4、5、6、7、又は10のバリアントに同様に当てはまる。更に、非限定的な例として、AAV8のバリアントの精製又は分離の文脈において、「バリアント」は、指定されたクロマトグラフィー材料に対する元のAAV8の結合能と比較して、前記指定されたクロマトグラフィー材料のリガンドに対する機能的に同等な結合能を有するアデノ随伴ウイルスと本明細書で定義される。これは、元のAAV血清型1、2、4、5、6、7、又は10とそれぞれ比較して、AAV血清型1、2、4、5、6、7、又は10のバリアントに同様に当てはまる。指定されたクロマトグラフィー材料は、例えば、本明細書の他の箇所により詳細に開示されているような、強力な又は部分的に強力な陰イオン交換クロマトグラフィー材料であり得る。アデノ随伴ウイルスのバリアントは、例えば、アデノ随伴ウイルスのゲノムの1つ又は複数のヌクレオチドの自然変異によって、又は操作された改変によって(すなわち、人的相互作用によって得られる)得られ得る。
【0123】
現時点で好ましい実施形態によると、図1図2、及び図3でそれぞれ説明されるような分離方法において、クロマトグラフィー材料は、式IV:
【0124】
【化5】
【0125】
によって定義され、工程(b)の溶出緩衝液は酢酸ナトリウムを含む。前記方法は、上記のような任意の血清型又はバリアントのAAVカプシドの分離に適用され得る。特に、分離されるカプシドは、AAV9血清型又はそのバリアントのカプシドであり得る。
【0126】
本開示は、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドと分離するための、支持体、リガンド、及びリガンドを支持体に連結する表面エクステンダーを含み、式IV:
【0127】
【化6】
【0128】
によって定義される陰イオン交換クロマトグラフィー材料の使用であって、
a.液体試料をクロマトグラフィー材料に添加する工程であって、液体試料が、少なくとも90%の純度及び少なくとも1012アデノ随伴ウイルスカプシド/mlの濃度のアデノ随伴ウイルスカプシドであって、そのうち少なくとも10%のアデノ随伴ウイルスカプシドは、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドである、アデノ随伴ウイルスカプシドを含む、工程、
b.遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドをクロマトグラフィー材料から溶出する工程
を実行する工程を含み、工程(b)において溶出されるアデノ随伴ウイルスカプシドが、溶出液画分中に溶出され、この混ぜ合わさった溶出液画分が、工程(a)において添加される液体試料のアデノ随伴ウイルスカプシドの少なくとも50%を含み、そのうち少なくとも60%のアデノ随伴ウイルスカプシドは、遺伝物質が完全にパッケージされている、使用も提供する。
【0129】
前記使用の現時点で好ましい実施形態によると、工程(b)の溶出緩衝液は酢酸ナトリウムを含む。
【0130】
前記使用に従って分離されるアデノ随伴ウイルスカプシドは、アデノ随伴ウイルス血清型1(AAV1)、アデノ随伴ウイルス血清型2(AAV2)、アデノ随伴ウイルス血清型4(AAV4)、アデノ随伴ウイルス血清型5(AAV5)、アデノ随伴ウイルス血清型6(AAV6)、アデノ随伴ウイルス血清型7(AAV7)、アデノ随伴ウイルス血清型8(AAV8)、アデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)、若しくはアデノ随伴ウイルス血清型10(AAV10)、又はそれらのバリアントのカプシドであり得る。前記使用の特に好ましい実施形態では、アデノ随伴ウイルスカプシドは、アデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)又はそのバリアントのカプシドである。
【0131】
本開示は、対象において臓器又は組織に関連する疾患又は障害を防止又は処置するための方法であって、工程c1~c3(上記に詳細に記載されるような)のうちの1つ又は複数を含む上記に開示される分離方法を実行することによって得られるアデノ随伴ウイルスカプシドを含む医薬組成物を対象に投与する工程を含み、この医薬組成物中、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドの遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドに対する比が少なくとも3:2である、すなわち、完全なカプシドの数が、空のカプシド及び部分的に充填されたカプシドの合計数の少なくとも1.5倍である、方法を更に提供する。好ましくは、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドの遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドに対する比は、少なくとも2:1、例えば、3:1、4:1、又は5:1である。つまり、好ましくは、完全なカプシドの数は、空のカプシド及び部分的に充填されたカプシドの合計数の少なくとも2倍、例えば、3、4、又は5倍である。
【0132】
臓器又は組織に関連する疾患又は障害を防止又は処置するための前記方法は、遺伝子治療を適切に含み得る。治療的に適切な遺伝子又は遺伝物質は、対象に投与される医薬組成物に含まれる、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシド中に存在することが理解されるべきである。
【0133】
臓器又は組織に関連する疾患又は障害を防止又は処置するための上記に開示される方法において、アデノ随伴ウイルスカプシドは、有利には、アデノ随伴ウイルス血清型8(AAV8)、アデノ随伴ウイルス血清型5(AAV5)、アデノ随伴ウイルス血清型1(AAV1)、アデノ随伴ウイルス血清型2(AAV2)、アデノ随伴ウイルス血清型4(AAV4)、アデノ随伴ウイルス血清型6(AAV6)、アデノ随伴ウイルス血清型7(AAV7)、アデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)、若しくはアデノ随伴ウイルス血清型10(AAV10)、又はそれらのバリアントのカプシドであり得る。
【0134】
臓器又は組織に関連する疾患又は障害を防止又は処置するための上記に開示される方法において、臓器又は組織は、中枢神経系、心臓、腎臓、肝臓、肺、膵臓、光受容細胞、網膜色素上皮、骨格筋、及び脳から任意選択で選択され得る。より詳細には、AAV血清型及び臓器/組織の種類の以下の組合せが企図される:
(i) カプシドはAAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV8、及びAAV10カプシドから選択され、臓器又は組織は中枢神経系であるか、
(ii) カプシドはAAV1及びAAV8カプシドから選択され、臓器又は組織は心臓であるか、
(iii) カプシドはAAV2カプシドであり、臓器又は組織は腎臓であるか、
(iv) カプシドはAAV7及びAAV8カプシドから選択され、臓器又は組織は肝臓であるか、
(v) カプシドはAAV4、AAV5、及びAAV6カプシドから選択され、臓器又は組織は肺であるか、
(vi) カプシドはAAV8であり、臓器又は組織は膵臓であるか、
(vii) カプシドはAAV2、AAV5、及びAAV8カプシドから選択され、臓器又は組織は光受容細胞であるか、
(viii) カプシドはAAV1、AAV2、AAV4、AAV5、及びAAV8カプシドから選択され、臓器又は組織は網膜色素上皮であるか、
(ix) カプシドはAAV1、AAV6、AAV7、及びAAV8カプシドから選択され、臓器又は組織は骨格筋であるか、
(x) カプシドはAAV10カプシドであり、臓器又は組織は脳であるか、又は
(xi) カプシドはAAV9カプシド又はそのバリアントであり、臓器又は組織は中枢神経系、心臓、肝臓、肺、及び骨格筋から選択される。
【0135】
上記で言及された組織の種類は、アデノ随伴ウイルスカプシド、特に、アデノ随伴ウイルス血清型8(AAV8)、アデノ随伴ウイルス血清型5(AAV5)、アデノ随伴ウイルス血清型1(AAV1)、アデノ随伴ウイルス血清型2(AAV2)、アデノ随伴ウイルス血清型4(AAV4)、アデノ随伴ウイルス血清型6(AAV6)、アデノ随伴ウイルス血清型7(AAV7)、アデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)、若しくはアデノ随伴ウイルス血清型10(AAV10)、又はそれらのバリアントのカプシドを含む医薬組成物の投与による処置が適用可能であり得る臓器及び組織の種類の非限定的な例であることが理解されるべきである。
【0136】
臓器又は組織に関連する疾患又は障害の非限定的な例は、処置又は防止の方法が、アデノ随伴ウイルス、特に、AAV5、AAV8、若しくはAAV10、又はそれらのバリアントの投与によって適切に実行され得る脊髄性筋萎縮症である。
【0137】
臓器又は組織に関連する疾患又は障害の別の非限定的な例は、処置又は防止が、アデノ随伴ウイルス、特にAAV2又はそのバリアントの投与によって適切に実行され得る遺伝性網膜ジストロフィーである。
【0138】
臓器又は組織に関連する疾患又は障害の他の非限定的な例は、処置又は防止の方法が、アデノ随伴ウイルス、特にAAV8又はそのバリアントの投与によって適切に実行され得る、膵臓腫瘍及びオルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損症等の肝臓における代謝障害である。
【0139】
当業者は、所望の医療効果を達成するために、医薬組成物が薬学的に有効な量又は用量で対象に投与されなければならないことを理解する。薬学的に有効である量及び用量は、これらに限定されないが、処置される疾患又は障害並びに処置される対象の体重及び状態等の様々な因子に依存する。
【0140】
本開示は、上記に詳細に記載されるような、完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドを完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドと分離するための方法を実行することによって得られるアデノ随伴ウイルスカプシドを含む組成物であって、この組成物中、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドの遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドに対する比が少なくとも3:2である、すなわち、完全なカプシドの数が、空のカプシド及び部分的に充填されたカプシドの合計数の少なくとも1.5倍である、組成物を更に提供する。好ましくは、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドの遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドに対する比は、少なくとも2:1、例えば、3:1、4:1、又は5:1である。つまり、好ましくは、完全なカプシドの数は、空のカプシド及び部分的に充填されたカプシドの合計数の少なくとも2倍、例えば、3、4、又は5倍である。
【0141】
本開示は、工程c1~c3(上記に詳細に記載されるような)のうちの1つ又は複数を含む上記に開示される分離方法を実行することによって得られるアデノ随伴ウイルスカプシドを含む医薬組成物であって、この医薬組成物中、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドの遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドに対する比が少なくとも3:2である、すなわち、完全なカプシドの数が、空のカプシド及び部分的に充填されたカプシドの合計数の少なくとも1.5倍である、医薬組成物も提供する。好ましくは、遺伝物質が完全にパッケージされたアデノ随伴ウイルスカプシドの遺伝物質が完全にはパッケージされていないアデノ随伴ウイルスカプシドに対する比は、少なくとも2:1、例えば、3:1、4:1、又は5:1である。つまり、好ましくは、完全なカプシドの数は、空のカプシド及び部分的に充填されたカプシドの合計数の少なくとも2倍、例えば、3、4、又は5倍である。
【0142】
上記の医薬組成物は、治療で使用するための、任意選択で、遺伝子治療で使用するためのものであり得る。
【0143】
遺伝子治療等の治療で使用するための上記の医薬組成物において、アデノ随伴ウイルスカプシドは、有利には、アデノ随伴ウイルス血清型8(AAV8)、アデノ随伴ウイルス血清型5(AAV5)、アデノ随伴ウイルス血清型1(AAV1)、アデノ随伴ウイルス血清型2(AAV2)、アデノ随伴ウイルス血清型4(AAV4)、アデノ随伴ウイルス血清型6(AAV6)、アデノ随伴ウイルス血清型7(AAV7)、アデノ随伴ウイルス血清型9(AAV9)、若しくはアデノ随伴ウイルス血清型10(AAV10)、又はそれらのバリアントのカプシドであり得る。
【0144】
更に、医薬組成物は、有利には、中枢神経系、心臓、腎臓、肝臓、肺、膵臓、光受容細胞、網膜色素上皮、骨格筋、及び脳から選択される臓器又は組織に関連する疾患又は障害の防止又は処置で使用するためのものであり得る。
【0145】
1種又は複数の記載された成分を「含む」デバイス又は組成物は、具体的に記載されていない他の成分も含み得る。用語「含む」は、デバイス又は組成物が、他の特徴も成分も存在しない、列挙された成分を有することを意味する「から本質的になる」をサブセットとして含む。同様に、1つ又は複数の記載された工程を「含む」方法は、具体的に記載されていない他の工程も含み得る。
【0146】
単数形「1つの(a)」及び「1つの(an)」は、複数形も含むと解釈されるものとする。
【実施例
【0147】
(実施例1)
塩化マグネシウム及び増加塩化ナトリウム直線勾配を使用する、陰イオン交換クロマトグラフィー材料でのAAV8カプシドの分離
クロマトグラフィー材料
以下の現在入手可能な陰イオン交換クロマトグラフィー材料は、下記に更に記載されるような、改善された結果をもたらした。
【0148】
Capto Q(Cytiva社、スウェーデン):
リガンド:第四級アミン
粒径、d50V:約90μm
マトリックス:デキストラン表面エクステンダーを有する高度に架橋されたアガロース
イオン容量:0.16~0.22mmol Cl-/ml培地
pH安定性、運転可能:2~12
【0149】
Capto DEAE(Cytiva社、スウェーデン):
リガンド:ジエチルアミノエチル、部分的に四級化されたアミン基
粒径、d50V:約90μm
マトリックス:デキストラン表面エクステンダーを有する高度に架橋されたアガロース
イオン容量:0.29~0.35mmol Cl-/ml培地
pH安定性、運転可能:2~9。
【0150】
更に、現在入手可能なCapto Q ImpRes(Cytiva社、スウェーデン)も下記の通りに試験した。ImpRes樹脂の支持材料は、40μmの直径を有する実質的に球状の粒子又はビーズからなる。
【0151】
機器及び試料
各樹脂をTricorn 5カラム(2mL)、10cmのビーズ高さにパックし、Agilent Bio-Inert 1260システム又はAKTA pure P25システムを使用して、1mL/分の流量で運転した。適用された試料は、全ての樹脂に関して、完全な及び空のカプシドの両方を含有する(>15%の完全なカプシド)、親和性精製されたAAV8のおよそ1×1013のウイルスカプシドであった。蛍光(280nmでの励起、発光348nm)又はUV(280及び260nm)による検出。
【0152】
結果
現在入手可能な陽イオン樹脂(SP Sepharose XL、Capto SP ImpRes、Capto SP ImPact及びCapto Adhere ImpRes;Cytiva社、スウェーデン)は、1MのNaClまでの塩勾配と共に50mMの酢酸pH4.5及び5.5で評価した。マルチモーダル陰イオン交換樹脂(現在入手可能なCapto Adhere;Cytiva社、スウェーデン)は、20mMのトリスpH6~9.5で、及び1MのNaClまでの塩勾配で評価した。親和性精製されたAAV8を適用した場合、試験された両方の種類の樹脂についての結果は、分離を示さず、単一のピークだけを示した(データは示さない)。
【0153】
現在入手可能な樹脂Capto Q ImpRes(図4A)、Capto Q(図4B)及びCapto DEAE(図5)の各々を、20mMのビス-トリスプロパン(BTP)、pH9.5(Capto Q ImpRes及びCapto Qについて)又はpH7.5(Capto DEAEについて)、2mMのMgCl2、1%のスクロース、0.1%のポロキサマー188で、400mMのNaClまでの直線勾配溶出で運転した。1未満のUV260:280比を有するピーク1面積は空のカプシドと定義し、1を上回るUV260:280比を有するピーク2面積は完全なカプシドと定義した。完全なカプシド%は、UV260及びUV280に対するピーク面積に基づいて計算した(Table 1(表1))。qPCR(ウイルスゲノム、完全なカプシド)及びELISA(総カプシド)によって、完全な及び空のカプシド%に関するピーク含有率も分析し、ピークの同一性を確認した(データは示さない)。
【0154】
図4及び図5におけるクロマトグラムは、デキストランエクステンダー(Capto Q及びCapto DEAEに存在するが、Capto Q ImpResには存在しない)が、完全な(F)AAV8カプシドと空の(E)AAV8カプシドの分離を劇的に改善していることを示す。Capto DEAEについて、pHを7.5に下げることは、9.5までのより高いpHと比較して、分離を改善した(データは示さない)。
【0155】
UV260:280比は、Capto Q ImpRes(デキストランエクステンダーを含まない)についてより低く、完全なカプシド%がより低く、これにより富化が低い効率であることを示す。Capto Q及びCapto DEAE(デキストランエクステンダーを含む)について、ピーク2における比はより高く、完全なカプシド%が、より高く、空のカプシドとより良好に分離されることを示す(Table 1(表1))。ピーク2の面積に基づく、計算された完全なカプシド%は、UV260:280比とそれほど異ならなかったが、Capto Q ImpRes(図4A)については、完全なカプシドと空のカプシドの分離が不十分であるので、完全なカプシドについて決定された面積は正確でない。完全な及び空のピークは重なっており、後半のピークは、完全なカプシドが富化されている。
【0156】
【表1】
【0157】
(実施例2)
可変条件下でのAAV8カプシドの分離
完全にパッケージされたAAV8カプシドと空のAAV8カプシドの分離のための実験デザインは、上記の実施例1のような機器及び試料を用いて、更に、実施例1のような陰イオン交換クロマトグラフィー材料の使用により、以下の変動を伴って実行される。
【0158】
表面エクステンダーに関して:
1)異なるサイズ(kDa)のデキストラン(T10、T70、T250)。
2)異なる量のデキストラン。
3)デキストランの代わりに、グリシドールに基づく多価アルコールを使用する。
【0159】
リガンド密度に関して:
1)Capto Q:60~160、220~260μmol/mL。
2)Capto DEAE:150~290、350~400μmol/mL。
【0160】
クロマトグラフィー材料の支持体に関して:
1)より小さい樹脂ビーズサイズ:35~90μm。
2)Capto Q及びCapto DEAEより大きい細孔径を有する樹脂ビーズ。
【0161】
リガンドの化学的性質に関して:
1)異なるレベルの四級化を有するCapto DEAEリガンド(式IIIに従うリガンド)。
2)Capto Q類似体(Capto Qリガンドは式Iによって定義される):
a.R1、R2はエチルであり、R3はメチルである。
b.R1、R2はメチルであり、R3はCH2CHOHCH3である。
3)Capto DEAE類似体(Capto DEAEリガンドは式II又はIIIによって定義される):
a.m=1、n=1、R1、R2、R3、及びR4=メチル、R5=H。
b.m=1、n=1、R1、R2、R3、及びR4=メチル、R5=CH2CHOHCH3。
c.m=1、以下の構造(i)~(iv):
(i)nは0であり、R3及びR4はメチルであり、R5は水素又はCH2CHOHCH3である構造、
(ii)nは1であり、R1、R2、R3、及びR4はメチルであり、R5は水素又はCH2CHOHCH3である構造、
(iii)nは2であり、各R1及びR2はメチルであり、R3及びR4はメチルであり、R5は水素又はCH2CHOHCH3である構造、
(iv)nは3であり、各R1及びR2はメチルであり、R3及びR4はメチルであり、R5は水素又はCH2CHOHCH3である構造
のうちの2つ以上の組合せ。
【0162】
緩衝液及び溶出条件に関して:
1)1~20mMの間の異なる濃度のMgCl2
2)異なるNaCl直線勾配0.1~1M、1)のようなMgCl2あり又はなし。
3)異なるpH直線勾配pH4~10、1)のようなMgCl2あり又はなし。
4)異なる緩衝液:
a.トリス
b.N-メチルジエタノールアミン
5)1)、2)及び3)のようなpH、NaCl、MgCl2による段階溶出。
6)ある分析物はクロマトグラフィー材料に結合するが、別の分析物はそれに結合しない(例えば、空のカプシドは結合するが、完全なカプシドは結合しない)、フロースルー分離に適した条件。
7)スクロース(0.1~5%)及びポロキサマー188界面活性剤(0.01~1%)のような添加物がある又はない、上記の全て。
【0163】
(実施例3)
可変条件下での様々なアデノ随伴ウイルス血清型のカプシドの分離
アデノ随伴ウイルス血清型AAV1、AAV2、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV9、及びAAV10の完全なカプシドと空のカプシドの分離のための実験デザインは、上記の実施例1及び実施例2の可変条件に従って実行される。
【0164】
(実施例4)
塩化マグネシウム及び増加酢酸ナトリウム段階勾配を使用する、陰イオン交換クロマトグラフィー材料での血清型AAV2、AAV5、AAV8及びAAV9のカプシドの分離
クロマトグラフィー材料
実施例1に記載されるのと同じ陰イオン交換クロマトグラフィー材料(すなわちCapto Q、Capto DEAE及びCapto Q ImpRes)を、AAV2、AAV5、AAV8及びAAV9の完全な及び空のカプシドの分離に使用した。
【0165】
機器及び試料
パッキング指示に従って、各樹脂をTricorn 5カラム(2mL)にパックした。1CV/分(すなわち2mL/分)の流量で、デッドボリュームを最小にし、鋭い電気伝導度段差を得るためにシステムのミキサーの接続を切って、Akta Pure P25システム(P25-20031)を使用して運転を実行した。キャピラリーループを使用して、試料を事前に平衡化されたカラムに適用した。典型的には、各樹脂に適用された試料は、完全な及び空のカプシドの混合物(>5%の完全なカプシド、以下の通り:AAV2 7~10%、AAV5 47%、AAV8 11~35%、AAV9 40%)を含有する、親和性精製された、又は親和性及びサイズ排除精製されたAAV2、AAV5、AAV8又はAAV9をそれぞれ、およそ5×1012 AAVカプシドの濃度で含んだ。陰イオン交換リガンドに対するAAVの結合を確実にするために、材料は低い電気伝導度(1~3mS/cm)を有する必要がある。
【0166】
280及び260nm UV吸光度を運転中にモニタリングし、260/280比は、クロマトグラムにおいてナビゲートし、完全なカプシド集団と空のカプシド集団を区別するための診断ツールとして使用した。Unicornの評価パッケージを使用して、クロマトグラムを分析した。1.2を上回る260/280比は、100%の完全なカプシドを示すとみなされ、およそ0.6~0.7又は0.6~0.7未満の260/280比は、100%の空のカプシドを示すとみなされる。AAVを有しない緩衝液を用いたブランク運転を実行して、必要であれば任意のバックグラウンドシグナルを差し引き、緩衝液由来の潜在的なUVシグナルの除去を確実にした。
【0167】
プロセス条件及び結果
現在入手可能な陽イオン交換樹脂Capto S、及びプロトタイプ陽イオン交換樹脂Capto CM Dx ImpResは、pH4.5及び5の酢酸緩衝液で、添加物(0.1%のポロキサマー188、1%のスクロース)を用いて及び用いずに、様々な溶出塩(500mMまでのNaCl、NaOAc、NH4Cl又はNH4SO4)及び追加塩(20mMまでのMgCl2及びMgSO4)を用いて、定組成溶出又は連続勾配溶出をそれぞれ適用することによって評価した。上記で言及された条件又は樹脂のいずれも、完全な及び空のカプシドの良好なベースライン分離をもたらさなかった(データは示さない)。
【0168】
デキストランエクステンダーを有する現在入手可能な陰イオン交換樹脂Capto DEAE(強力な又は部分的に強力な陰イオン交換)及びCapto Q(強力な陰イオン交換)の各々は、緩衝液A及び緩衝液Bを含む緩衝液系であって、両方が20mMのビス-トリスプロパン(BTP)pH9.0及び2mMのMgCl2を含有し、緩衝液Bが250mMの酢酸ナトリウム(NaOAc)を溶出塩として更に含む、緩衝液系を使用する2段階溶出方法を適用することによって評価した。
【0169】
図6図7において、各クロマトグラムの右側のy軸は、クロマトグラフィー材料からの溶出中に得られた溶出緩衝液に含まれる緩衝液Bのパーセンテージを表す(残りは緩衝液A)。
【0170】
平衡化:5CVの緩衝液A
注入:empty loop/w 3mlの緩衝液A
洗浄:5CVの緩衝液A
2段階溶出:各血清型に適用される条件は、下記に指定される
再平衡化:5CVの緩衝液A
【0171】
Capto Q
AAV2:段階1 40%B、20CV
段階2 100%B、5CV
AAV5:段階1 35%B、20CV
段階2 100%B、5CV
AAV8:段階1 30%B、20CV
段階2 100%B、5CV
AAV9:段階1 5%B、20CV
段階2 30%B、5CV
【0172】
Capto Q樹脂を使用する場合、全ての試験された血清型(AAV2、AAV5、AAV8、及びAAV9)は、完全な及び空のカプシドの良好な分離をもたらした(図6A図6D)。完全な(F)及び空の(E)カプシドの溶出、並びにUV260:280比は図6A図6Dに示される。
【0173】
図6Aは、AAV2のNaOAc 2段階溶出についてのクロマトグラムを示す。
【0174】
図6Bは、AAV5のNaOAc 2段階溶出についてのクロマトグラムを示す。
【0175】
図6Cは、AAV8のNaOAc 2段階溶出についてのクロマトグラムを示す。
【0176】
図6Dは、AAV9のNaOAc 2段階溶出についてのクロマトグラムを示す。
【0177】
UV260及びUV280に対するピーク面積に基づいて、完全なカプシド%を計算した。qPCR(ウイルスゲノム(VG)、完全なカプシド)及びELISA(全カプシド)によって、完全な及び空のカプシド%に関するピーク含有率も分析した。結果はTable 2(表2)にまとめられる。
【0178】
【表2】
【0179】
Capto DEAE
Capto DEAE樹脂を使用する場合、全ての試験されたAAV血清型(AAV2、AAV5、AAV8、及びAAV9)は、完全な及び空のカプシドの良好な分離をもたらした。しかし、それらは、Capto Q樹脂で分離された場合と比較して低いパーセンテージの緩衝液Bで溶出した。
【0180】
図7は、Capto DEAE樹脂でのAAV9の溶出の結果を示す。Capto Qについて上記に記載されたのと同じ緩衝液系を使用して(緩衝液A:20mMのBTP pH9.0、2mMのMgCl2;緩衝液B:緩衝液A+250mMのNaOAc)、AAV9の空のカプシドはフロースルー中に溶出し、AAV9の完全なカプシドは、4%の緩衝液Bを適用した場合に溶出した。UV260:280比は、第1のピーク(すなわち、フロースルーピーク)において0.76であり、主に空のAAV9カプシドであるが、少量の完全なカプシドも示唆した。UV260:280比は、第2のピークにおいて1.3であり、AAV9の完全なカプシドの高い純度を示した(図7)。
【0181】
Capto Q ImpRes(デキストランエクステンダーを有しない)
Capto Q ImpRes樹脂は、高いデルタカラム圧に起因して、1ml/分の流量を適用したことを除いて、上記の条件と同一の条件下で、AAV9及びAAV5の分離についてそれぞれ評価した。樹脂は、AAV5に対して働かなかったが、AAV9の完全なカプシドとAAV9の空のカプシドの分離のための2段階溶出に対して十分に働いた(結果は示さない)。しかし、Capto Q ImpRes(エクステンダーを有しない)は、AAV9の空のカプシドに結合せず(これにより、フロースルー中に溶出する)、AAV9の完全なカプシドにだけ弱く結合し、したがって、Capto Q(エクステンダーを有する)より頑強性が低い分離方法を提供する。
【0182】
(実施例5)
増加塩化マグネシウム段階勾配を使用する、陰イオン交換クロマトグラフィー材料での血清型AAV5のカプシドの分離
緩衝液系の緩衝液A及び緩衝液Bが両方とも20mMのビス-トリスプロパン(BTP)pH7.0、1%のスクロース及び0.1%のPluronicを含み、緩衝液Bが20mMのMgCl2を更に含むという違いがあるが、実施例4に記載したような2段階溶出を適用することによって、Capto Q樹脂をAAV5の分離について評価した。
【0183】
平衡化:5CVの緩衝液A
注入:empty loop/w 3mlの緩衝液A
洗浄:5CVの緩衝液A
段階溶出:段階1、50%緩衝液B、20CV;段階2、70%緩衝液B、20CV
再平衡化:5CVの緩衝液A
【0184】
図8は、第1の段階において50%緩衝液B及び第2の段階において70%緩衝液Bを適用する、Capto Q樹脂でのAAV5についての2段階溶出方法の結果を示す。完全な(F)及び空の(E)カプシド、並びにUV260:280比は、図8に示される。
【0185】
(実施例6)
塩化マグネシウム及び増加塩化ナトリウム段階勾配を使用する、陰イオン交換クロマトグラフィー材料での血清型AAV5のカプシドの分離
緩衝液系の緩衝液A及び緩衝液Bが両方とも20mMのビス-トリスプロパン(BTP)pH9.5、18mMのMgCl2、1%のスクロース及び0.1%のPluronicを含み、緩衝液Bが400mMのNaClを更に含むという違いがあるが、実施例4及び実施例5に記載のような2段階溶出を適用することによって、Capto Q樹脂をAAV5の分離について評価した。
【0186】
平衡化:5CVの緩衝液A
注入:empty loop/w 3mlの緩衝液A
洗浄:5CVの緩衝液A
2段階溶出:段階1、2.5%緩衝液B、6CV;段階2、5%緩衝液B、6CV
再平衡化:5CVの緩衝液A
【0187】
図9は、第1の段階において2.5%緩衝液B及び第2の段階において5%緩衝液Bを適用する、Capto Q樹脂でのAAV5についての2段階溶出方法の結果を示す。完全な(F)及び空の(E)カプシド、並びにUV260:280比は、図9に示される。上記の条件は、AAV5カプシドのベースライン分離の成功をもたらしたことが示される。
【0188】
本開示は、その上記の例示的な実施形態に制限されず、本開示のいくつかの考えられる改変が以下の特許請求の範囲の範囲内で可能であることが理解されるべきである。
(参考文献)
Weihong Quら、Scalable Downstream Strategies for Purification of Recombinant Adeno-Associated Virus Vectors in Light of the Properties、Current Pharmaceutical Biotechnology 2015年8月;16(8):684~695頁
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図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】