(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-25
(54)【発明の名称】抗血小板療法を受けている患者における残存血小板の血栓形成能を評価する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240718BHJP
G01N 33/577 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/577 B
G01N33/53 K
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501804
(86)(22)【出願日】2022-07-14
(85)【翻訳文提出日】2024-03-11
(86)【国際出願番号】 EP2022069766
(87)【国際公開番号】W WO2023285607
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】102021000018803
(32)【優先日】2021-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522029349
【氏名又は名称】チェントロ・カルディオロジコ・モンツィーノ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】CENTRO CARDIOLOGICO MONZINO S.P.A.
(71)【出願人】
【識別番号】503047641
【氏名又は名称】ウニヴェルシタ’ デリ ストゥディ ディ ミラノ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITA’ DEGLI STUDI DI MILANO
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】カーメラ,マリナ
(72)【発明者】
【氏名】ブランビッラ,マルタ
(72)【発明者】
【氏名】カンツァーノ,パオラ
(57)【要約】
抗血小板療法を受けている患者における残存血小板血栓形成能を評価するための方法が開示され、この方法は、患者の血液試料中の血管拡張因子刺激リン酸化タンパク質のリン酸化(VASP-P)状態及び血小板組織因子(TF)発現の測定を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロピドグレル、プラスグレル又はチカグレロルから選択されるP2Y
12受容体阻害剤による抗血小板療法を受けている患者における残存血小板血栓形成能を評価する方法であって、患者の血液試料中の血管拡張因子刺激リン酸化タンパク質のリン酸化(VASP-P)状態及び血小板組織因子(TF)の発現を測定することを含む方法。
【請求項2】
P2Y
12受容体阻害剤による処置を受けている患者における残存血小板血栓形成能を評価するための、請求項1記載の方法。
【請求項3】
P2Y
12受容体阻害剤が、クロピドグレルである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
VASP-P及びTFが、フローサイトメトリーによって測定される、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
クロピドグレル、プラスグレル又はチカグレロルから選択されるP2Y
12受容体阻害剤による抗血小板療法を受けている患者における残存血小板血栓形成能を評価するためのキットであって、VASP-Pに対する選択的リガンド、血小板組織因子に対する選択的リガンド、前記リガンドの検出システム、VASPリン酸化阻害剤、希釈剤及び固定剤を含むキット。
【請求項6】
前記リガンドが、抗TF及び抗VASP-Pモノクローナルマウス抗体である、請求項5記載のキット。
【請求項7】
検出システムが、蛍光プローブ標識抗IgGマウス抗体を含む、請求項6記載のキット。
【請求項8】
VASPリン酸化阻害剤が、ADP及びPGE1を含む、請求項5又は6記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗血小板療法を受けている患者における残存血小板の血栓形成能を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血小板は止血に大きく貢献する。血管が損傷した場合、血小板は内皮下層に付着し、急速に活性化して凝集する。血管病変部位への血小板の動員は、アデノシン5’-二リン酸(ADP)やトロンボキサンA2(TXA2)などのオートクリンメディエーターによって供給される増幅システムに大いに依存する(Sang Y et al., PG, Huskens D. Blood rev. 2021; 46:100733)。
【0003】
血小板による全体的な止血への貢献は、一次止血だけに限定されるものではない。血小板は二次止血にも関与している、即ち、凝固過程において、(i)凝固因子の集合に起因してホスファチジルセリン(PS)が露出した凝固亢進表面、及び(ii)凝固を開始するために必要な主要タンパク質である組織因子(TF)を提供する(Brambilla M, et al., Thromb Haemost 2015;114:579-592)。ADP、TXA2又はトロンビンによる活性化の後、血小板はその表面に機能的に活性なTFを露出させ、これが第VIIa因子に結合し、それがトロンビン生成を引き起こす凝固過程の引き金となる(Camera M. et al., Arterioscler Thromb Vasc Biol 2003;23: 1690-1696)。
【0004】
TF陽性血小板のレベルの上昇は、血小板血症、抗リン脂質症候群、癌、ウイルス感染症及び心血管疾患を含む、血栓形成性表現型を特徴とする種々の病態で報告されている(Falanga A. et al., Exp Hematol. 2007; 35:702-711; Capozzi A et al., Clin Exp Immunol. 2019; 196:59-66; Tilley RE et al., Thromb Res 2008;122:604-609; Mayne E et al., J Acquir Immune Defic Syndr.2012;59:340-346; Canzano P et al., JACC Basic Transl Sci. 2021; Brambilla M, et al., Arterioscler Thromb Vasc Biol 2008;28:947-953)。
【0005】
P2Y12受容体によるTF調節の翻訳的意味は、P2Y12アンタゴニストによる処置がアスピリンと並んで二次予防のゴールドスタンダードであることを念頭に置くと、心血管疾患において非常に重要である(Benjamin EJ et al., Circulation. 2019;139: E56-E528)。
【0006】
冠状動脈疾患(CAD)を患う患者におけるTF発現は、VASP試験により評価されるとおり、クロピドグレルでの処置によって達成される血小板阻害の程度に反比例する。上記試験は、P-セレクチン、aGPIIbIIIa又は血小板凝集などの他の血小板活性化マーカーの評価と同様、クロピドグレルによる処置を受けている患者の残存血小板反応性を評価するために頻繁に使用される(Gremmel T, et al., PloS one 2015;10:e0129666)。クロピドグレルによる薬物療法は、個人応答の広範な変動を受けることになるため、残存血小板反応性を評価する方法が必要である。
【0007】
一般的にはP2Y12阻害剤、特にクロピドグレルによる血小板阻害を評価する方法は開発されているが、有効であると認められる薬物療法を受けているにもかかわらず、かなりの割合の患者が更なる血栓性イベントを被る。
【0008】
Brambillaら(Blood Transfusion, Vol. 18 Suppl 4, 1.11.2020, page 460s)は、クロピドグレルの薬理学的標的である、P2Y12受容体による血小板TFの発現の制御に関するデータを報告している。この証拠の裏付けとして、データは、クロピドグレルによく反応する患者(PRI<60%)ではTF発現血小板の数が少ない一方、この薬物に反応しない患者(PRI>60%)ではTF発現血小板の数が多いことを示している。
【0009】
P2Y12受容体が、GPIIbIIIa、P-セレクチン、CD40Lを含む他のタンパク質の血小板表面への露出を調節することも知られており(Gachet C et al, Thromb Haemost, 1997, 78 (1): 271-275 ; Hermann A et al, Platelets, 2001, 12 (2): 74-82,)、ホスファチジルセリンなどの凝固促進性リン脂質だけでなく、より一般的には血小板顆粒放出の調節に寄与する(Leon C et al, ATVB, 23 ( 10): 1941-1947, 2003)。またこれらの場合、薬物療法は、これらの血小板活性化マーカーの発現の減少、及びP-セレクチンの発現に依存するヘテロ凝集体の形成の減少を確定する(Storey et al, Thromb Haemost, 2002, 88 (3): 488-94)。最後に、Van der Maijden (Thromb Haemost, 2005, 93: 1128-36)は、脳卒中患者では、トロンビン生成へのP2Y12介在性の寄与がクロピドグレル処置によって減少したことを指摘している。
【0010】
多数の血小板活性化パラメーターの薬理学的調節に関する一般的な知識に基づくと、TFは、抗血小板療法を受けている患者の残存血栓形成能を評価するための唯一の候補ではなく、最も有望な候補ですらない。Gurbelら(J. Am. College of Cardiology, vol. 50, no. 19, 226.6.2007, 1822-1834)は、凝固及び血小板相互作用を測定する方法が、残存血栓形成能をより適切に予測できる可能性があると仮説を立てているが、他の著者(Gremmel et al, Thromb Res, 2013, 132 (1): e24-30)は、「抗血小板療法に対する反応は内因性トロンビン生成能とは無関係である」ことを強調しており、よって前述のGurbelらによる2007年に立てられた仮説に反する教示を提供している。
【発明の概要】
【0011】
発明の説明
クロピドグレルで処置された被験者からの血液試料中のVASPと血小板組織因子の両方を評価すると、残存血小板反応性の評価が大幅に改善され、薬物療法の効果的なモニタリング及び有害な心血管系イベントの信頼できる予測が可能になることが今回発見された。
【0012】
実施された実験によると、P-セレクチンは、VASP試験に基づいてレスポンダーとノンレスポンダーを区別できないため、不十分なマーカーであることが示されている。aGPIIbIIIa発現はP-セレクチンよりも適切に識別するが、組織因子(TF)の評価のみが、クロピドグレルに対する良好な反応にも関わらず、血小板に結合したTFの量が不十分レスポンダーの群で測定された中央値を超えているので、残存血栓リスクを示す患者(約10%)を検出することが分かっている。このことは、ADRIE試験及びGRAVITAS試験などの種々の臨床試験の結果が、安定したCAD患者ではGPIIbIIIaの活性化の程度、その結果としての血小板凝集が主要な有害な心血管系イベントを予測するのにあまり役立たないことを実証している理由の一部を説明するかもしれない(Reny JL, Circulation. 2012; 125:3201; Price MJ et al., Jama. 2011; 305:1097-1105; Trenk D et al., J Am Coll Cardiol 2012;59:2159-2164; Montalescot G et al., Circulation.2014;129: 2136-2143; Cayla G et al., Lancet. 2016; 388:2015-2022)。
【0013】
したがって本発明の第1の目的は、クロピドグレル、プラスグレル又はチカグレロルなどのP2Y12阻害剤による抗血小板療法を受けている患者における残存血小板血栓形成能を評価する方法であって、患者の血液試料中の血管拡張因子刺激リン酸化タンパク質のリン酸化(VASP-P)状態及び血小板組織因子の発現を測定することを含む方法である。
【0014】
本発明の方法は、特に、P2Y12受容体阻害剤、特にクロピドグレル、プラスグレル又はチカグレロルによる処置を受けている患者における残存血小板血栓形成能の評価に適用できる。
【0015】
同じ試料に対するVASP-P及びTFの同時測定は、当業者の届く範囲にある公知の方法又は従来の方法の改変によって行うことができる。フロー細胞蛍光分析は、VASP-Pの測定に既に使用されているが、実験の項で詳しく説明されるとおり、血小板TFの測定にも便利に使用できる手法である。
【0016】
その第2の態様において、本発明は、P2Y12受容体の阻害剤、特にクロピドグレル、プラスグレル又はチカグレロルによる抗血小板療法を受けている患者における残存血小板血栓形成能を評価するためのキットであって、VASP-Pに対する選択的リガンド、血小板組織因子に対する選択的リガンド、前記リガンドの検出システム、VASPリン酸化阻害剤、希釈剤及び固定剤を含むキットに関する。
【0017】
その好ましい形態において、リガンドは、抗TF及び抗VASP-Pモノクローナルマウス抗体であり、そして検出システムは、蛍光プローブ標識抗IgGマウス抗体を含む。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】クロピドグレル処置CAD患者の血小板でのTF発現。図は、VASP試験で測定された血小板反応性指数(PRI)に基づいて2群に分けられた、クロピドグレル(75mg/日)で処置された患者におけるADP(10μM、15分)による刺激後にTF(パネルA)、aGPIIbIIIa(パネルB)及びP-セレクチン(パネルC)を発現する血小板の割合を示している;PRI<60%の患者は「レスポンダー」(患者n=114)として分類され、PRI>60%の患者は「不十分レスポンダー」(患者n=49)として分類される。比較のために、クロピドグレルを投与していない患者(クロピドなし)(n=39)で得られたデータを示している。パネルC、D及びEは、それぞれTF、aGPIIbIIIa及びP-セレクチンに関連するADP濃度反応曲線(黒い四角)及びAR-C69931MXアンタゴニスト阻害曲線(白い三角)を示す。アゴニストのEC50は、4パラメーターロジスティックモデルにより算出されたが、一方アンタゴニストのpA2は「材料と方法」に記載されているとおり算出された。結果は、ベースラインと比較したタンパク質の発現割合(s/b)として提示される。実験は少なくとも3回行われた。
**p<0.01、
***p<0.001。
【
図2】クロピドグレル処置CAD患者の血小板でのTF発現。図は、VASP試験で測定された血小板反応性指数(PRI)に基づいて2群に分けられた、クロピドグレル(75mg/日)で処置された患者におけるADP(10μM、15分)による刺激後に血小板によって発現されたTFの量を示している;PRI<60%の患者は「レスポンダー」(患者n=144)として分類され、PRI>60%の患者は「不十分レスポンダー」(患者n=49)として分類される。比較のために、クロピドグレルを投与していない患者(クロピドなし)(n=39)で得られたデータを示している。結果は平均蛍光強度(MFI)として報告される。
*p<0.05。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、一例として提供される以下の実験の項において本発明を詳細に説明する。
材料と方法
調査対象母集団
インビトロ実験は、血液試料を採取する前の10日間に抗血小板薬を服用しなかった健常ボランティア10人(男性n=5及び女性n=5;平均年齢39±6)に対して実施された。TF発現に及ぼすクロピドグレルの効果は、非ST上昇を伴う心筋梗塞を伴う冠動脈疾患(CAD)を患っている患者193人で評価された。クロピドグレル処置を受けていない患者39人も対照群として採用されている。登録された患者の臨床的特徴を表1に示す。
【0020】
【0021】
全ての患者はクロピドグレル(75mg/日)で少なくとも7日間処置されていた。除外基準は、年齢>80歳、心臓弁膜症、心房細動、甲状腺中毒症、出血性素因の病歴、血小板異常又は血小板減少症、抗凝固剤又は血栓溶解剤による処置であった。重度の先天性P2Y12欠損症を持つ被験者(男性、75歳)も試験に加えられた。
【0022】
採血及び血小板分離
全血(WB)試料を、クエン酸ナトリウム(0.129M、1/10 体積/体積)を含有するチューブ(Vacutainer、Becton Dickinson)に静脈鬱血させずに19ゲージ針で採取し、最初の4mlを廃棄した。次いで血液試料は、試料採取後15分以内に処理された。WBを100gで10分間遠心分離(室温、遠心ブレーキなし)して、血小板を分離した。この多血小板血漿(PRP)を新しい試験管に移し、Sysmex XE-2100自動血液分析装置で分析して、血小板数、平均血小板容積(MPV)、血小板分布幅(PDW)、血小板回収(WBの血小板数100%に対するPRPの血小板数の百分率として定義される)、及び白血球混入を測定した。白血球混入がなく、血小板回収≧70%である血小板調製物のみを、その後のトロンビン生成分析に使用した。
【0023】
フローサイトメトリー分析
血小板活性化マーカーの表面発現を、以前に報告されているとおりフローサイトメトリーによって分析した(Brambilla M, et al., Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2008;28(5):947-953)。簡単に説明すると、試料を、ヒト組織因子(HTF1;Thermo Fisher)、P-セレクチン(APC;Becton Dickinson)、PAC1(FITC;Becton Dickinson)、CD36(PE;Becton Dickinson)及びCD154(FITC;Becton Dickinson)を認識する飽和濃度のマウスモノクローナル抗体によりインキュベート/標識した。)。TFの細胞内発現を分析するために、細胞を1%パラホルムアルデヒドで2時間固定し、Triton X-100 PBSの0.1%溶液で10分間透過処理し、室温、暗所で15分間飽和濃度の抗TF及びCD61抗体(PerCP;Becton Dickinson)により標識した。非特異的抗体(Becton Dickinson)及び二次抗体による標識のみのAlexaFluor(登録商標)633 標識IgG(Thermo Fisher)を全ての実験で対照として使用し、非特異的標識シグナルを定量した。使用前に、全ての抗体を4℃、17,000rpmで5分間遠心分離して、凝集物を除去した。試料あたり合計10,000個の血小板を、488nm、638nm、405nm及び561nmの4つの固体レーザーを備えたGalliosフロー細胞蛍光光度計(Beckman Coulter)で捕捉した。Flow-check Pro Fluorospheres(Beckman Coulter)を製造業者の取扱説明書に従って毎日使用して、細胞蛍光光度計の性能をモニターした。全てのデータは、Kaluza分析ソフトウェアv1.5(Beckman Coulter)で分析され、陽性細胞の割合又は活性化マーカーに陽性の血小板のMFI(平均蛍光強度(mean fluorescence intensity))として報告された。VASPタンパク質のP2Y12依存性リン酸化は、製造業者の取扱説明書に従って市販のキット(PLT VASP/P2Y12試験キット、Stago)を使用して分析され、血小板反応性指数(PRI)(百分率)として表されている。
【0024】
統計分析
結果は平均±標準偏差(SD)で表され、スチューデントt検定又はマンホイットニーU検定で分析される。連続変数は、一元配置反復測定分散分析(ANOVA)とそれに続くダネット事後分析によって群間比較された。0.05のp値が統計的に有意であるとみなされた。分析はSPSS統計パッケージ(v9.4)を使用して行われた。濃度反応曲線は、GraphPad Prism 8を使用して評価された。pA2値は、Prism 8で説明されるように書かれた方程式に従って算出された。パラメーターの標準誤差は、変動係数の百分率(%CV)として表され、少なくとも3つの異なる独立した実験の分析を用いて算出される。示される全ての曲線は、情報科学的手法によって生成されている。
【0025】
クロピドグレル処置CAD患者における血小板に結合したTFの露出は、P2Y
12
阻害と負の関連がある。
クロピドグレルで処置されたCAD患者におけるVASPリン酸化アッセイによって測定された、血小板TF発現とP2Y
12阻害の程度との関連性が分析された。VASPリン酸化の程度は、クロピドグレルの活性代謝産物のレベルと関連しており(Liang Y et al., J Thromb Thrombolysis 2012;34:429-436)、血小板反応性指数(PRI)<60%である場合に患者を良好なレスポンダーとして分類することができる(Aleil B et al., J Thromb Haemost. 2005;3(1):85-92)。結果は、クロピドグレルで処置されたCAD患者におけるADPによって誘発されるTFの血小板露出がP2Y
12阻害と負の関連があることを実証している。薬物療法に対する反応が最適以下、即ち、PRI値>60%である患者では、10μM ADPによる刺激に曝露されたTFの阻害は、良好なレスポンダー(PRI値<60%)で測定されたものよりも有意に低く、クロピドグレルで処置されなかった被験者で測定されたものと統計的に違いはなかった(
図1A)。予想どおり、PAC1結合によって測定される活性化糖タンパク質IIbIIIa(aGPIIbIIIa)の発現は、不十分レスポンダーで最も高かった(
図1B)。逆に、クロピドグレルは、VASPリン酸化の程度に関係なく、全てのCAD患者において同じ程度にP-セレクチン発現を有意に阻害した(
図1C)。これらの結果は、インビトロで推定されるAR-C69931MXのP-セレクチン発現を阻害する能力(pA2)が、TF及びaGPIIbIIIaを阻害するのに必要な能力の150倍及び6倍大きいという知見と一致している(TF、aGPIIbIIIa及びP-セレクチンについて、それぞれ9.33±2.1%CV、10.7±0.29%CV及び11.5±3.1%CV;
図1D~F)。
【0026】
良好なレスポンダー144人のうち23人、つまりそれらの患者の15%は、不十分レスポンダーの群で測定された平均数を超えるTF陽性血小板の割合であった。血小板の表面に発現するタンパク質の平均量を考慮すると、前記の割合は実際には2倍(最高38%)になる(
図2)。この結果は、VASP試験で測定したクロピドグレルに対する明らかに良好な薬理学的反応にもかかわらず、血栓形成能が増加した患者の部分群の存在を実証している。
【0027】
全体として、これらの結果は、クロピドグレルで処置された患者において、ADPによる刺激後のTF及びaGPIIbIIIa発現の阻害は、VASPアッセイによって測定される血小板阻害の量と直接関連するが、P-セレクチン阻害は直接関連しないことを実証している。このことは、P-セレクチン発現を阻害するのに十分な薬剤濃度では、TF及びaGPIIbIIIaの露出を部分的にしか減少させることができず、したがって血小板の血栓形成能もあまり減少させられないことを示唆している。
【0028】
P2Y12拮抗作用のみが細胞表面でのTF露出を完全に阻止し、よってトロンビン生成の動態に影響を及ぼした。前記効果は、クロピドグレルで処置された患者の血小板に対するインビトロ実験及びエクスビボ実験の両方で観察された。興味深いことに、血小板に結合したTFの発現を阻止するために必要なP2Y12阻害の程度は、P-セレクチンの発現を阻止するために必要な程度よりもはるかに高かった。
【0029】
VASPアッセイで評価するとき、CAD患者におけるTF発現は、クロピドグレルでの処置による血小板阻害の程度に反比例する。
【0030】
データはまた、P2Y1受容体の特異的アンタゴニストではなく、特異的アンタゴニストAR-C69931MXのみが、ADPによる刺激後の血小板膜上のTFの移行を阻害できたため、このTFの移行もP2Y12依存性の機序であることを実証している。
【0031】
したがって、クロピドグレルによる抗血小板療法の治療上の利点は、恐らく部分的には血小板TF発現の阻害によるものである。これに関連して、P2Y12阻害剤で処置された患者においてVASP及びTFを同時に評価すると、残存血小板反応性の評価が向上する。
【国際調査報告】