(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-25
(54)【発明の名称】B7-H3抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/46 20060101AFI20240718BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20240718BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240718BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240718BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240718BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240718BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240718BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240718BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240718BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20240718BHJP
【FI】
C07K16/46
C07K16/18
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 E
A61K39/395 T
C07K16/28 ZNA
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024504010
(86)(22)【出願日】2022-07-19
(85)【翻訳文提出日】2024-01-22
(86)【国際出願番号】 CN2022106546
(87)【国際公開番号】W WO2023001154
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】202110817833.7
(32)【優先日】2021-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】520262652
【氏名又は名称】▲広▼州▲愛▼思▲邁▼生物医▲薬▼科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張文軍
(72)【発明者】
【氏名】劉敏
(72)【発明者】
【氏名】田文武
(72)【発明者】
【氏名】李峰
(72)【発明者】
【氏名】華亜南
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA43
4B065CA44
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB41
4C085BB42
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG01
4C085GG02
4H045AA11
4H045BA41
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本願は、B7-H3抗体およびその使用を提供する。前記B7-H3抗体の重鎖相補性決定領域は、SEQ ID No.6~8に示すアミノ酸配列を含み、前記B7-H3抗体の軽鎖相補性決定領域は、SEQ ID No.14~16に示すアミノ酸配列を含む。前記B7-H3抗体は、B7-H3抗原およびB7-H3抗原を発現する細胞に高親和性に結合し、PBMCによるB7-H3陽性腫瘍細胞の殺傷を効率的に媒介することができる。前記B7-H3抗体を用いてB7-H3×CD3バイスペシフィック抗体を構築し、前記二重特異性抗体は、高親和性と安定性を有し、PBMCによる腫瘍細胞の殺傷を効果的に媒介することができる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
B7-H3抗体であって、
前記B7-H3抗体の重鎖相補性決定領域は、SEQ ID No.6~8に示すアミノ酸配列を含み
前記B7-H3抗体の軽鎖相補性決定領域は、SEQ ID No.14~16に示すアミノ酸配列を含む
ことを特徴とするB7-H3抗体。
【請求項2】
前記B7-H3抗体の重鎖可変領域は、SEQ ID No.1に示すアミノ酸配列を含み、
前記B7-H3抗体の軽鎖可変領域は、SEQ ID No.9に示すアミノ酸配列を含む
ことを特徴とする請求項1に記載のB7-H3抗体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のB7-H3抗体から変異処理によって調製される
ことを特徴とする親和性成熟によるB7-H3抗体。
【請求項4】
前記親和性成熟によるB7-H3抗体は、重鎖相補性決定領域CDR1がSEQ ID No.6またはSEQ ID No.17~25のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、重鎖相補性決定領域CDR2がSEQ ID No.7またはSEQ ID No.26~37のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、重鎖相補性決定領域CDR3がSEQ ID No.8またはSEQ ID No.38~48のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、
前記親和性成熟によるB7-H3抗体の軽鎖相補性決定領域は、SEQ ID No.14~16に示すアミノ酸配列を含む
ことを特徴とする請求項3に記載の親和性成熟によるB7-H3抗体。
【請求項5】
前記親和性成熟によるB7-H3抗体の軽鎖可変領域は、SEQ ID No.9に示すアミノ酸配列を含み、
前記親和性成熟によるB7-H3抗体の重鎖のフレームワーク領域は、SEQ ID No.2~5に示すアミノ酸配列を含む
請求項3または4に記載の親和性成熟によるB7-H3抗体。
【請求項6】
2つの重鎖と2つの軽鎖を含み、
前記重鎖は、請求項1または2に記載のB7-H3抗体の重鎖または請求項3~5のいずれか一項に記載の親和性成熟によるB7-H3抗体の重鎖を含む抗B7-H3の重鎖と、抗CD3の重鎖とを含み、
前記軽鎖は、請求項1または2に記載のB7-H3抗体の軽鎖または請求項3~5のいずれか一項に記載の親和性成熟によるB7-H3抗体の軽鎖を含む抗B7-H3の軽鎖と、抗CD3の軽鎖とを含み、
前記重鎖は、ジスルフィド結合によって前記軽鎖に結合しており、
前記抗B7-H3の重鎖は、ジスルフィド結合によって前記抗CD3の重鎖に結合している
ことを特徴とするバイスペシフィック抗体。
【請求項7】
前記抗CD3の重鎖可変領域は、SEQ ID No.49に示すアミノ酸配列を含み、
前記抗CD3の軽鎖可変領域は、SEQ ID No.9に示すアミノ酸配列を含む
ことを特徴とする請求項6に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項8】
前記バイスペシフィック抗体は、B7-H3に結合している免疫グロブリンのFabドメインと、CD3に結合している免疫グロブリンのFabドメインと、ヘテロ二量体のFc領域とを含み、
前記B7-H3に結合している免疫グロブリンのFabドメインは、前記抗B7-H3の軽鎖と、抗B7-H3の重鎖可変領域VHおよび定常領域CH1とを含み、
前記CD3に結合している免疫グロブリンのFabドメインは、前記抗CD3の軽鎖と、抗CD3の重鎖可変領域VHおよび定常領域CH1とを含み、
前記ヘテロ二量体のFc領域は、抗B7-H3の重鎖に連結されたFcフラグメントと、抗CD3の重鎖に連結されたFcフラグメントとを含む
ことを特徴とする請求項6または7に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項9】
前記抗B7-H3の重鎖に連結されたFcフラグメントは、ヒトFcフラグメントまたはヒト化Fcフラグメントを含む
ことを特徴とする請求項8に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項10】
前記抗B7-H3の重鎖に連結されたFcフラグメントのCH3は、T394Dの変異、P395Dの変異、P396Dの変異を含む
ことを特徴とする請求項8または9に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項11】
前記抗CD3の重鎖に連結されたFcフラグメントのCH3は、P395Kの変異、P396Kの変異、V397Kの変異を含む
ことを特徴とする請求項8~10のいずれか一項に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項12】
前記抗B7-H3の重鎖に連結されたFcフラグメントのCH2は、L234Aの変異、L235Aの変異、P329Gの変異を含む
ことを特徴とする請求項8~11のいずれか一項に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項13】
B1): (b1)請求項1または2に記載のB7-H3抗体、(b2)請求項3~5のいずれか一項に記載の親和性成熟によるB7-H3抗体、(b3)請求項6~12のいずれか一項に記載のバイスペシフィック抗体、のいずれか1つの抗体の重鎖および/または軽鎖をコードする核酸分子、または前記(b1)~(b3)のいずれか1つの抗体の抗原結合部分の重鎖および/または軽鎖をコードする核酸分子、
B2): B1)の核酸分子を含む発現カセット、
B3): B1)の核酸分子を含む組換えベクター、またはB2)の発現カセットを含む組換えベクター、
B4): B1)の核酸分子を含む組換え微生物、B2)の発現カセットを含む組換え微生物、またはB3)の組換えベクターを含む組換え微生物、
B5): B1)の核酸分子を含む細胞株、B2)の発現カセットを含む細胞株、またはB3)の組換えベクターを含む細胞株、
B6): 前記(b1)~(b3)のいずれか1つの抗体の重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域をコードする核酸分子、または前記(b1)~(b3)のいずれか1つの抗体の抗原結合部分の重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域をコードする核酸分子
の前記B1)~B6)のいずれか1つである
ことを特徴とする生物材料。
【請求項14】
請求項1または2に記載のB7-H3抗体、請求項3~5のいずれか一項に記載の親和性成熟によるB7-H3抗体、または請求項6~12のいずれか一項に記載のバイスペシフィック抗体のいずれか1つまたは少なくとも2つの組み合わせを含む
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項15】
神経腫瘍、結腸がん、直腸がん、肝臓がん、頭頸部がん、肺がん、悪性黒色腫、膵臓がん、胃がん、腎臓がん、膀胱がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がんのいずれか1つまたは少なくとも2つの組み合わせを含む腫瘍に対する
請求項1または2に記載のB7-H3抗体、請求項3~5のいずれか一項に記載の親和性成熟によるB7-H3抗体、請求項6~12のいずれか一項に記載のバイスペシフィック抗体、または請求項14に記載の医薬組成物の抗腫瘍薬剤の調製における使用。
【請求項16】
好ましくは、神経腫瘍、結腸がん、直腸がん、肝臓がん、頭頸部がん、肺がん、悪性黒色腫、膵臓がん、胃がん、腎臓がん、膀胱がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がんのいずれか1つまたは少なくとも2つの組み合わせを含む
腫瘍を治療するための、請求項1または2に記載のB7-H3抗体、請求項3~5のいずれか一項に記載の親和性成熟によるB7-H3抗体、請求項6~12のいずれか一項に記載のバイスペシフィック抗体、または請求項14に記載の医薬組成物の使用。
【請求項17】
腫瘍関連疾患の治療方法であって、
腫瘍関連疾患の治療方法を必要とする被験者に請求項1または2に記載のB7-H3抗体、請求項3~5のいずれか一項に記載の親和性成熟によるB7-H3抗体、請求項6~12のいずれか一項に記載のバイスペシフィック抗体、または請求項14に記載の医薬組成物を投与し、
好ましくは、前記腫瘍関連疾患は、神経腫瘍、結腸がん、直腸がん、肝臓がん、頭頸部がん、肺がん、悪性黒色腫、膵臓がん、胃がん、腎臓がん、膀胱がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がんのいずれか1つまたは少なくとも2つの組み合わせを含む
ことを特徴とする腫瘍関連疾患の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、腫瘍の治療および分子免疫学の技術分野に属し、B7-H3抗体およびその使用に関する。
【0002】
関係出願の相互参照
本開示は、2021年07月20日に中国専利局に提出された出願番号がCN202110817833.7であり、名称が「B7-H3抗体およびその使用」である中国出願に基づいて優先権を主張し、その全ての内容は、参照として本開示に取り込まれる。
【背景技術】
【0003】
B7-H3(B7 homolog 3 protein、CD276とも呼ばれる)は、B7/CD28免疫グロブリンスーパーファミリーに属し、1回膜貫通構造を有する蛋白質であり(Steinberger P、 Majdic O、 Derdak S V、 et al. Molecular Characterization of Human 4Ig-B7-H3、 a Member of the B7 Family with Four Ig-Like Domains[J]. Journal of Immunology、 2004、 172(4):2352-2359.を参照)、316アミノ酸からなり、アミノ末端にシグナルペプチドを持ち、細胞外領域にある免疫グロブリン様可変部領域(IgV)と、定常部領域(IgC)と、膜貫通領域と、45アミノ酸からなる細胞質領域とを含む。また、B7-H3は、単球や樹状細胞、活性化されたT細胞で発現している。
【0004】
現在、B7-H3の受容体は、まだ特定されていないが、骨髄細胞で発現されるトリガー受容体(TREM)ファミリーに属するタイプI膜貫通型タンパク質のTLT-2であると報告されている(King R G、 Herrin B R、 Justement L B. Trem-like transcript 2 is expressed on cells of the myeloid/granuloid and B lymphoid lineage and is up-regulated in response to inflammation.[J]. Journal of Immunology、 2006、 176(10):6012-6021.を参照)。TREMファミリーは、細胞応答を調節する機能を持ち、自然免疫と獲得免疫において機能する(Klesney-Tait J、 Turnbull I R、 Colonna M. The TREM receptor family and signal integration.[J]. Nature Immunology、 2006、 7(12):1266を参照)。TLT-2タンパク質は、CD8+T細胞に構造的に発現しており、CD4+T細胞の活性化によって発現が誘導される。
【0005】
B7-H3は、部分的な共刺激機能を持つT細胞の共抑制分子であり、抗CD3抗体が存在する場合に、CD4+T細胞とCD8+T細胞集団の増殖を促進し、インターフェロンγ(IFN-γ)の生成を選択的に刺激することができる。TLT-2は、T細胞に移行すると、B7-H3との相互作用によりインターロイキン(IL)-2やIFN-γの生成を促進し、B7-H3との相互作用を阻害することによってCD8+T細胞が介在する過敏症反応を制御することができる。一方、ヒト実験やマウス実験では、B7-H3は、共抑制作用を有し、Treg細胞を抑制することで腫瘍を免疫から逃避させたり、組織培養におけるNK細胞の活性を抑制することでNK細胞の機能を低下させることが証明されている。
【0006】
B7-H3は、正常組織では発現量が低いが、様々ながん、特に非小細胞性肺がん、腎臓がん、尿路上皮がん、結腸がん、直腸がん、前立腺がん、多形膠芽腫、卵巣がん、膵臓がんでは過剰発現している。B7-H3は、T細胞に対する抑制作用を通して腫瘍の免疫逃避に重要な役割を果たしており、腫瘍進行やがん細胞の転移を促進することが既に証明された。なお、B7-H3は、がん細胞だけでなく、腫瘍や周辺の血管にも発現している。さらに、B7-H3は、自己免疫疾患にも関連しており、リウマチやその他の自己免疫疾患において、線維芽細胞様滑膜細胞と活性化されたT細胞との相互作用に重要な役割を果たしている(Tran C N、 Thacker S G、 Louie D M、 et al. Interactions of T Cells with Fibroblast-Like Synoviocytes: Role of the B7 Family Costimulatory Ligand B7-H3[J]. Journal of Immunology、 2008、 180(5):2989-2998.を参照)。そして、B7-H3は、マクロファージがサイトカインを放出する際に共刺激因子として作用するため、敗血症の発症に関与している。
【0007】
現在、免疫療法やがん治療の分野において、新規B7-H3抗体の開発が求められている。
【発明の概要】
【0008】
本開示は、B7-H3抗体を提供し、前記B7-H3抗体の重鎖相補性決定領域は、SEQ ID No.6~8に示すアミノ酸配列を含み、前記B7-H3抗体の軽鎖相補性決定領域は、SEQ ID No.14~16に示すアミノ酸配列を含む。
【0009】
いくつかの実施形態において、前記B7-H3抗体の重鎖可変領域は、SEQ ID No.1に示すアミノ酸配列を含み、前記B7-H3抗体の軽鎖可変領域は、SEQ ID No.9に示すアミノ酸配列を含む。
【0010】
本開示は、親和性成熟によるB7-H3抗体をさらに提供し、前記親和性成熟によるB7-H3抗体は、前記B7-H3抗体から変異処理によって調製される。
【0011】
いくつかの実施形態において、前記親和性成熟によるB7-H3抗体は、重鎖相補性決定領域CDR1がSEQ ID No.6またはSEQ ID No.17~25のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、重鎖相補性決定領域CDR2がSEQ ID No.7またはSEQ ID No.26~37のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、重鎖相補性決定領域CDR3がSEQ ID No.8またはSEQ ID No.38~48のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、前記親和性成熟によるB7-H3抗体の軽鎖相補性決定領域は、SEQ ID No.14~16に示すアミノ酸配列を含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記親和性成熟によるB7-H3抗体の軽鎖可変領域は、SEQ ID No.9に示すアミノ酸配列を含み、前記親和性成熟によるB7-H3抗体の重鎖のフレームワーク領域は、SEQ ID No.2~5に示すアミノ酸配列を含む。
【0013】
本開示は、バイスペシフィック抗体をさらに提供し、前記バイスペシフィック抗体は、2つの重鎖と2つの軽鎖を含み、前記重鎖は、前記B7-H3抗体の重鎖または上記のいずれか一項の親和性成熟によるB7-H3抗体の重鎖を含む抗B7-H3の重鎖と、抗CD3の重鎖とを含み、前記軽鎖は、前記B7-H3抗体の軽鎖または上記のいずれか一項の親和性成熟によるB7-H3抗体の軽鎖を含む抗B7-H3の軽鎖と、抗CD3の軽鎖とを含み、前記重鎖は、ジスルフィド結合によって前記軽鎖に結合しており、前記抗B7-H3の重鎖は、ジスルフィド結合によって前記抗CD3の重鎖に結合している。
【0014】
いくつかの実施形態において、前記抗CD3の重鎖可変領域は、SEQ ID No.49に示すアミノ酸配列を含み、前記抗CD3の軽鎖可変領域は、SEQ ID No.9に示すアミノ酸配列を含む。
【0015】
いくつかの実施形態において、前記バイスペシフィック抗体は、B7-H3に結合している免疫グロブリンのFabドメインと、CD3に結合している免疫グロブリンのFabドメインと、ヘテロ二量体のFc領域とを含み、前記B7-H3に結合している免疫グロブリンのFabドメインは、前記抗B7-H3の軽鎖と、抗B7-H3の重鎖可変領域VHおよび定常領域CH1とを含み、前記CD3に結合している免疫グロブリンのFabドメインは、前記抗CD3の軽鎖と、抗CD3の重鎖可変領域VHおよび定常領域CH1とを含み、前記ヘテロ二量体のFc領域は、抗B7-H3の重鎖に連結されたFcフラグメントと、抗CD3の重鎖に連結されたFcフラグメントとを含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、前記抗B7-H3の重鎖に連結されたFcフラグメントは、ヒトFcフラグメントまたはヒト化Fcフラグメントを含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、前記抗B7-H3の重鎖に連結されたFcフラグメントのCH3は、T394Dの変異、P395Dの変異、P396Dの変異を含む。
【0018】
いくつかの実施形態において、前記抗CD3の重鎖に連結されたFcフラグメントのCH3は、P395Kの変異、P396Kの変異、V397Kの変異を含む。
【0019】
いくつかの実施形態において、前記抗B7-H3の重鎖に連結されたFcフラグメントのCH2は、L234Aの変異、L235Aの変異、P329Gの変異を含む。
【0020】
本開示は、生物材料をさらに提供し、前記生物材料は、B1): (b1)上記のB7-H3抗体、(b2)上記のいずれか一項の親和性成熟によるB7-H3抗体、(b3)上記のいずれか一項のバイスペシフィック抗体、のいずれか1つの抗体の重鎖および/または軽鎖をコードする核酸分子、または上記(b1)~(b3)のいずれか1つの抗体の抗原結合部分の重鎖および/または軽鎖をコードする核酸分子、B2): B1)の核酸分子を含む発現カセット、B3): B1)の核酸分子を含む組換えベクター、またはB2)の発現カセットを含む組換えベクター、B4): B1)の核酸分子を含む組換え微生物、B2)の発現カセットを含む組換え微生物、またはB3)の組換えベクターを含む組換え微生物、B5): B1)の核酸分子を含む細胞株、B2)の発現カセットを含む細胞株、またはB3)の組換えベクターを含む細胞株、B6): 上記(b1)~(b3)のいずれか1つの抗体、の重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域をコードする核酸分子、または上記(b1)~(b3)のいずれか1つの抗体の抗原結合部分の重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域をコードする核酸分子、のいずれか1つである。
【0021】
本開示は、医薬組成物をさらに提供し、前記医薬組成物は、前記B7-H3抗体、上記のいずれか一項の親和性成熟によるB7-H3抗体、または上記のバイスペシフィック抗体のいずれか1つまたは少なくとも2つの組み合わせを含む。
【0022】
本開示は、前記B7-H3抗体、上記のいずれか一項の親和性成熟によるB7-H3抗体、上記のいずれか一項のバイスペシフィック抗体、または前記医薬組成物の抗腫瘍薬剤の調製における使用をさらに提供する。
【0023】
前記腫瘍は、神経腫瘍、結腸がん、直腸がん、肝臓がん、頭頸部がん、肺がん、悪性黒色腫、膵臓がん、胃がん、腎臓がん、膀胱がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がんのいずれか1つまたは少なくとも2つの組み合わせを含む。
【0024】
本開示は、腫瘍を治療するための、前記B7-H3抗体、上記のいずれか一項の親和性成熟によるB7-H3抗体、上記のいずれか一項のバイスペシフィック抗体、または前記医薬組成物の使用をさらに提供する。
【0025】
いくつかの実施形態において、前記腫瘍は、神経腫瘍、結腸がん、直腸がん、肝臓がん、頭頸部がん、肺がん、悪性黒色腫、膵臓がん、胃がん、腎臓がん、膀胱がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がんのいずれか1つまたは少なくとも2つの組み合わせを含む。
【0026】
本開示は、腫瘍関連疾患の治療方法をさらに提供し、前記腫瘍関連疾患の治療方法を必要とする被験者に、前記B7-H3抗体、上記のいずれか一項の親和性成熟によるB7-H3抗体、上記のいずれか一項のバイスペシフィック抗体、または前記医薬組成物を投与する。
【0027】
いくつかの実施形態において、前記腫瘍は、神経腫瘍、結腸がん、直腸がん、肝臓がん、頭頸部がん、肺がん、悪性黒色腫、膵臓がん、胃がん、腎臓がん、膀胱がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がんのいずれか1つまたは少なくとも2つの組み合わせを含む。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】ELISA法による5D9のB7-H3抗原に対する結合活性の検出図である。
【
図2A】ELISA法による親和性成熟バリアント(44F2、43G11、46H7、45B11)のB7-H3抗原に対する結合活性の検出図である。
【
図2B】ELISA法による親和性成熟バリアント(43D4、42F7、45F4)のB7-H3抗原に対する結合活性の検出図である。
【
図2C】ELISA法による親和性成熟バリアント(46H9、47H4、46D4、43G5)のB7-H3抗原に対する結合活性の検出図である。
【
図2D】ELISA法による親和性成熟バリアント(44C5、42A1、47C8)のB7-H3抗原に対する結合活性の検出図である。
【
図2E】ELISA法による親和性成熟バリアント(48E9、49C3、49C8、49E1)のB7-H3抗原に対する結合活性の検出図である。
【
図2F】ELISA法による親和性成熟バリアント(49F6、50A1、50E3、49H5)のB7-H3抗原に対する結合活性の検出図である。
【
図2G】ELISA法による親和性成熟バリアント(50B10、48G2、49D12、48D10)のB7-H3抗原に対する結合活性の検出図である。
【
図2H】ELISA法による親和性成熟バリアント(48A6、48B12、49B2、49C7)のB7-H3抗原に対する結合活性の検出図である。
【
図2I】ELISA法による親和性成熟バリアント(50A4、50A6、50A11)のB7-H3抗原に対する結合活性の検出図である。
【
図3A】FACSによる親和性成熟バリアント(44F2、43G11)のB7-H3の膜近位側抗原を過剰発現する細胞に対する結合活性の検出図である。
【
図3B】FACSによる親和性成熟バリアント(45B11、43D4、46H7)のB7-H3の膜近位側抗原を過剰発現する細胞に対する結合活性の検出図である。
【
図3C】FACSによる親和性成熟バリアント(43G5、42F7、45F4)のB7-H3の膜近位側抗原を過剰発現する細胞に対する結合活性の検出図である。
【
図3D】FACSによる親和性成熟バリアント(46H9、47H4、46D4)のB7-H3の膜近位側抗原を過剰発現する細胞に対する結合活性の検出図である。
【
図3E】FACSによる親和性成熟バリアント(44C5、42A1、47C8)のB7-H3の膜近位側抗原を過剰発現する細胞に対する結合活性の検出図である。
【
図4A】親和性成熟バリアント(44F2、43G11、46H7、45B11、43D4、42F7、45F4、46H9)が媒介するPBMCによるB7-H3陽性腫瘍細胞の殺傷効果を示す図である。
【
図4B】親和性成熟バリアント(46D4、47H4、48E9、49C3、49E1、50A1、50A6、5D9)が媒介するPBMCによるB7-H3陽性腫瘍細胞の殺傷効果を示す図である。
【
図5】B7-H3×CD3バイスペシフィック抗体の構造の模式図である。
【
図6】B7-H3×CD3バイスペシフィック抗体の結合活性を示す図である。
【
図7】B7-H3×CD3バイスペシフィック抗体によるT細胞活性化の効果図である。
【
図8A】B7-H3×CD3バイスペシフィック抗体(49E1×CD3、42F7×CD3、43G11×CD3、8H9×CD3、46H7×CD3)が媒介するPBMCによるNCI-N87細胞の殺傷効果を示す図である。
【
図8B】B7-H3×CD3バイスペシフィック抗体(42F7×CD3、43G11×CD3、49E1×CD3、8H9×CD3、46H7×CD3)が媒介するPBMCによるA498細胞の殺傷効果を示す図である。
【
図8C】B7-H3×CD3バイスペシフィック抗体(42F7×CD3、43G11×CD3、49E1×CD3、8H9×CD3、46H7×CD3)が媒介するPBMCによるHepG2細胞の殺傷効果を示す図である。
【
図9A】46H7×CD3バイスペシフィック抗体の安定性試験結果図である。
【
図9B】43G11×CD3バイスペシフィック抗体の安定性試験結果図である。
【
図9C】49E1×CD3バイスペシフィック抗体の安定性試験結果図である。
【
図9D】42F7×CD3バイスペシフィック抗体の安定性試験結果図である。
【
図10】B7-H3×CD3バイスペシフィック抗体のマウスインビボでの抗腫瘍効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本開示において用いられる技術的手段およびその効果をさらに詳しく説明するために、実施形態、実施例並びに図面を参照しながら本開示をさらに説明する。また、ここで説明される実施形態は、本開示を説明するためのものに過ぎず、本開示を限定しない。
【0030】
実施形態および実施例において具体的な技術または条件が示されていない場合、当該分野の文献に記載された技術または条件、あるいは製品仕様書にしたがって実施する。使用される試薬または機器について製造メーカが示されていない場合、いずれも通常のルートで市販されている従来の製品である。
【0031】
別段の定義のない限り、本開示に関連して用いられている科学用語および技術用語ならびにそれらの略語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味を有するものとし、本開示で使用される用語および略語の一部を以下に列挙する。
【0032】
抗体:antibody、Ab
免疫グロブリン:immunoglobulin、Ig
重鎖:heavy chain、HC
軽鎖:light chain、LC
重鎖可変領域:heavy chain variable domain、VH
重鎖定常領域:heavy chain constant domain、CH
軽鎖可変領域:light chain variable domain、VL
軽鎖定常領域:light chain constant domain、CL
抗原結合領域:antigen binding fragment、Fab
ヒンジ領域:hinge region
Fcフラグメント:fragment crystallizable region、Fc region
モノクローナル抗体:monoclonal antibodies、mAbs
抗体依存性細胞傷害:antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity、ADCC
補体依存性細胞傷害:complement dependent cytotoxicity、CDC
ナチュラルキラー細胞:natural killing cell、NK細胞
バイスペシフィック抗体:bispecific antibody、BsAb
T細胞受容体:T cell receptor、TCR
主要組織適合性遺伝子複合体:major histocompatibility complex、MHC
相補性決定領域:complementarity determining region、CDR、抗体の抗原相補結合領域
免疫受容体チロシン活性化モチーフ:immunoreceptor tyrosine-based activation motif、ITAM
単鎖可変領域フラグメント(一本鎖抗体とも呼ばれる):single-chain variable fragment、scFv
養子免疫療法:adoptive cellular immunotherapy、ACI
リンホカイン活性化キラー細胞:lymphokine-activated killer cell、LAK細胞
腫瘍浸潤リンパ球:Tumor Infiltrating Lymphocyte、TIL細胞
サイトカイン誘導キラー細胞:cytokine-induced killer cell、CIK細胞
【0033】
本開示に記載された分子クローニング、細胞培養、タンパク質精製、免疫学的実験、微生物学的実験、動物モデルの実験などの操作ステップは、当該分野で広く用いられている従来のステップである。文脈により特に断りのない限り、本開示の単数用語は複数を含み、複数用語は単数を含む。特に断りのない限り、本開示に記載されたヌクレオチド配列は、5’末端から3’末端方向へと左から右に配列され、書かれている。特に断りのない限り、本開示に記載されたアミノ酸配列は、アミノ末端(N末端)からカルボキシ末端(C末端)方向へと左から右に配列され、書かれている。本開示に言及されたアミノ酸の3文字略号およびヌクレオチドの1文字略号は、当該技術分野で一般に認められた形式であり、アミノ酸の1文字略号は、IUPAC-IUB生化学命名法委員会(IUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commission)によって推奨される形式である。
【0034】
「アミノ酸」という用語は、20種の天然アミノ酸のうちの1種または特定の所定の位置に存在し得る任意の非天然類似体のことを意味する。本開示に記載された「アミノ酸変異」とは、ポリペプチド配列におけるアミノ酸置換、挿入、欠失、および修飾、並びに、アミノ酸置換、挿入、欠失、および修飾の任意の組み合わせを意味する。本願明細書において好ましいアミノ酸修飾は置換である。本開示において、「アミノ酸置換」または「置換」とは、親ポリペプチド配列の特定の位置のアミノ酸を異なるアミノ酸に置き換えることを意味する。例えば、置換C220Sとは、ポリペプチドの220位のシステインがセリンに置換された変異体ポリペプチドを意味する。アミノ酸変異は、PCR、部位特異的変異、全遺伝子合成などを含む分子クローニングまたは化学的手法によって実現可能である。
【0035】
「タンパク質」、「ペプチド鎖」、「ポリペプチド鎖」という用語は、天然タンパク質、人工タンパク質、タンパク質断片、変異タンパク質、融合タンパク質などを含む、2つ以上のアミノ酸がペプチド結合で連結された分子を意味する。
【0036】
「ドメイン」という用語は、生体高分子中の独立した機能を持った特異的構造領域を意味する。ドメインは、独立した三次構造を有し、その機能が生体高分子中の他の部分に依存しない。本開示において、ドメインは、重鎖可変領域VHドメイン、軽鎖可変領域VLドメインのようなタンパク質中の領域を指し、ドメイン同士が互いに結合して大きなドメインを形成することができる。
【0037】
「抗体」という用語は、少なくとも1つの抗原認識部位を含み、抗原を特異的に結合する免疫グロブリン分子を意味する。ここで、「抗原」という用語は、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、炭水化物、ポリヌクレオチド、脂質、ハプテン、またはこれらの組み合わせなどの生体内で免疫応答を誘発し、抗体に特異的に結合することができる物質を意味する。抗体と抗原の結合は、水素結合、ファンデルワールス力、イオン結合、疎水的結合を含む両者間の相互作用によって媒介される。抗原表面の抗体に結合する領域は、「抗原決定基」または「エピトープ」である。一般的に、抗原ごとに複数の決定基が存在する。本開示に言及された「抗体」という用語は、抗体が所望の生物学的活性を示す限り、モノクローナル抗体(全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、抗体フラグメント、少なくとも2つの異なるエピトープ結合ドメインを含むマルチスペシフィック抗体(例えば、バイスペシフィック抗体)、ヒト抗体、ヒト化抗体、翻訳後修飾抗体、ラクダ抗体、キメラ抗体、抗体の抗原決定基を含む融合タンパク質、および、抗原認識部位を含む他の任意の修飾免疫グロブリン分子を包含する。抗体は、免疫グロブリン分子と、免疫グロブリン分子の免疫活性フラグメントを含み、すなわち、少なくとも1つの抗原結合部位を含有する分子を含む。
【0038】
「バイスペシフィック抗体」という用語は、2つの異なる抗原結合部位に同時に結合すことができる、2つの異なる抗原結合部位を含有する抗体を意味する。
【0039】
「Fab」、「Fab領域」、「Fabフラグメント」、「Fab分子」という用語は、抗原結合フラグメントを意味し、免疫グロブリンの重鎖のVHドメイン、CH1ドメイン、並びに、軽鎖のVLドメイン、CLドメインを含む。重鎖の第1定常領域ドメインCH1が軽鎖の定常領域ドメインCLに結合し、重鎖の可変領域ドメインVHが軽鎖の可変領域ドメインVLに結合する。
【0040】
「Fc」、「Fc領域」、「Fcフラグメント」、「Fc分子」という用語は、CDC、ADCC、ADCP、サイトカインの放出などを引き起こすことができる抗体のエフェクター領域を意味する。天然の抗体Fcは通常、2つまたは3つの免疫グロブリンの定常領域ドメインを含む2つの同一蛋白フラグメントが結合して形成する。本開示において、上記Fcは、天然型Fcおよび変異体Fcを含む。Fc領域の境界はさまざまでありうるが、ヒトIgG重鎖Fc領域は通常、位置C226またはP230から、そのカルボキシ末端までの残基を含むと定められている。実験条件下では、免疫グロブリンモノマーがパパイヤプロテアーゼによって切断され生成されたフラグメントは、それぞれFabとFcである。抗体の「ヒンジ」または「ヒンジ領域」とは、抗体の第1と第2の定常ドメイン(CH1とCH2)との間のアミノ酸を含む柔軟なポリペプチドを意味する。
【0041】
特に断りのない限り、本開示に記載された抗体の可変領域のアミノ酸の番号付けには、Kabatらが1991年に発表したコード方法、すなわち「Kabatインデクス」または「Kabat番号付けシステム」(Kabat、 E. A. et al. Sequences of Proteins of Immunological Interest、 5th ed.、 NIH Publication No. 91-3242、 Bethesda、 MD.:1991)を使用する。特に断りのない限り、本開示に記載された抗体の定常領域のアミノ酸の番号付けには、EUインデクス(Edelman GM、 et.al. Proc Natl Acad Sci U S A 1969、63:78-85.)を使用する。
【0042】
「抗原結合部位」という用語は、抗原結合分子の抗原と直接相互作用する1つまたは複数のアミノ酸残基を意味する。抗体の抗原結合部位は、抗原の相補性決定領域(CDR)からなる。天然の免疫グロブリン分子は通常、2つの抗原結合部位を含み、Fab分子は通常、1つの抗原結合部位を含む。
【0043】
「T細胞活性化」という用語は、Tリンパ球、特にキラーT細胞の、増殖、分化、サイトカインの放出、エフェクターキラー分子の分泌、細胞殺傷などの1つまたは複数の免疫反応を意味する。
【0044】
「EC50」という用語は、つまり半数効果濃度(concentration for 50% of maximal effect)のことで、抗体が最大反応の50%を示す濃度を意味する。
【0045】
本開示で使用される「特異的結合」とは、抗体とそれに対応する抗原との反応のような、異なる分子の非ランダムな結合を意味する。いくつかの実施形態において、ある抗原に特異的に結合する抗体(またはある抗原に特異的な抗体)とは、抗体が約10-5M未満、例えば約10-6M未満、10-7M未満、10-8M未満、10-9M未満、10-10M未満、またはそれ以下の親和性(KD)でこの抗原に結合することを意味する。本開示のいくつかの実施形態において、「標的」という用語は、特異的結合を意味する。
【0046】
本開示で使用される「KD」とは、特定の抗体と抗原との相互作用の平衡解離定数を意味し、抗原に対する抗体の結合親和性を表す。平衡解離定数が小さいほど、抗体と抗原の結合が強固であり、抗体と抗原の親和性が高い。通常、抗体は、約10-5M未満、例えば約10-6M未満、10-7M未満、10-8M未満、10-9M未満、10-10M未満、またはそれ以下の平衡解離定数(KD)で抗原に結合する。
【0047】
「単鎖可変領域フラグメント」または「scFv」という用語は、免疫グロブリンの重鎖可変領域VHと軽鎖可変領域VLの融合タンパク質を意味し、VHまたはVLのN末端の異なる組み合わせを含み、組換えタンパク質を構築するための従来の分子クローニング法で調製することができる(Sambrook JF、 E. F. et al. Molecular cloning: a laboratory manual. 4th ed. Cold Spring Harbor Laboratory Press、 Cold Spring Harbor、 New York: 2012)。
【0048】
「ヒト化抗体」という用語は、ヒト免疫グロブリン(受容体抗体)のCDRの一部または全部を非ヒト抗体(ドナー抗体)のCDRで置換して得られる抗体または抗体フラグメントを意味する。ただし、ドナー抗体は、期待される特異性、親和性、反応性を有する非ヒト(マウス、ラット、ウサギなど)抗体であってもよい。なお、受容体抗体のフレームワーク領域(FR)の一部のアミノ酸残基も、抗体の1つまたは複数の特性をさらに改善または最適化するために、対応する非ヒト抗体のアミノ酸残基または他の抗体のアミノ酸残基で置換されてもよい。
【0049】
「宿主細胞」という用語は、外因性核酸が導入された細胞およびその子孫を意味し、ポリペプチドをコードするヌクレオチドで形質転換又はトランスフェクションすることで、外因性ポリペプチドを発現することができる。本開示に記載された宿主細胞は、CHO細胞(Chinese hamster ovary cells、チャイニーズハムスター卵巣細胞)、HEK293細胞(Human embryonic kidney cells 293、ヒト胎児腎細胞293)、BHK細胞(Baby Hamster Kidney、ベビーハムスター腎臓細胞)、骨髄腫細胞、酵母、昆虫細胞、大腸菌(Escherichia coli)のような原核細胞などを含むがこれらに限定されない。また、本開示に記載された「宿主細胞」は、外因性核酸が導入された細胞だけでなく、その細胞の子孫も含む。細胞分裂中の子孫細胞に変異が起こるが、本開示に記載された用語の範囲に属する。
【0050】
本願明細書で使用される「有効量」とは、研究者、獣医、医師又は他の臨床医が求めている組織、系、動物、植物、原生動物、細菌、酵母またはヒトの所望の生物学的又は医学的応答を誘発する、本願明細書に記載された組成物または製剤の量を意味することができる。
【0051】
本願明細書で使用される「被験者」という用語は、脊椎動物、任意で哺乳動物、任意でヒトを意味する。哺乳動物は、齧歯類、ヒト上科、ヒト、家畜類、競技用動物、およびペット動物を含むがこれらに限定されない。生体内で得られた、または体外で培養された生物学的実体の組織、細胞、およびそれらの子孫も含まれる。
【0052】
本願明細書で使用される用語は、実施形態や実施例などの本開示の文脈を説明するためのものにすぎず、本発明の範囲を限定するものではないことを理解すべきである。
【0053】
本開示のいくつかの実施形態は、B7-H3抗体を提供し、上記B7-H3抗体の重鎖相補性決定領域(VH-CDR1、VH-CDR2、VH-CDR3)は、SEQ ID No.6~8に示すアミノ酸配列を含み、上記B7-H3抗体の軽鎖相補性決定領域(VL-CDR1、VL-CDR2、VL-CDR3)は、SEQ ID No.14~16に示すアミノ酸配列を含む。
【0054】
本開示に係るB7-H3抗体は、B7-H3抗原に高親和性に結合し、T細胞を活性化することができるため、免疫療法とがん治療の分野において重要な使用価値を有する。
【0055】
いくつかの実施形態において、上記B7-H3抗体の重鎖可変領域は、SEQ ID No.1に示すアミノ酸配列を含む。
【0056】
いくつかの実施形態において、上記B7-H3抗体の軽鎖可変領域は、SEQ ID No.9に示すアミノ酸配列を含む。
【0057】
SEQ ID No.1:
QVQLVQSGAEVKKPGSSVKVSCKASGGTFSNYAINWVRQAPGQGLEWMGGIIPLFGTANYAQKFQGRVTITADESTSTAYMELSSLRSDDTAVYYCARDQVVATSGVNFGMDVWGQGTTVTVSS
SEQ ID No.6(VH-CDR1):GGTFSNYA
SEQ ID No.7(VH-CDR2):IIPLFGTA
SEQ ID No.8(VH-CDR3):ARDQVVATSGVNFGMDV
SEQ ID No.9:
DIQMTQEPSLTTSPGGTVTLTCRSSTGAVTTSNYANWVQEKPGQAPRGLIGGTNKRAPGTPARFSGSLIGGKAALTITGVQPEDEAIYFCALWYSNLWVFGGGTKLEIK
SEQ ID No.14(VL-CDR1):TGAVTTSNY
SEQ ID No.15(VL-CDR2):GTN
SEQ ID No.16(VL-CDR3):ALWYSNLWV
【0058】
本開示のいくつかの実施形態は、上記のB7-H3抗体をコードするDNAフラグメントをさらに提供する。
【0059】
いくつかの実施形態において、B7-H3抗体の軽鎖は、SEQ ID NO.50に示すヌクレオチド配列を有し、B7-H3抗体の重鎖は、SEQ ID NO.51に示すヌクレオチド配列を有する。
【0060】
SEQ ID NO.50:
gatattcagatgacacaagaaccaagtctcactacaagccctggaggcaccgttacactgacctgtcgctcttccactggcgccgtgaccacttccaactatgcaaactgggtgcaggagaaacctggacaggctcctagaggtctgattggaggcactaacaagagagctccagggactcctgccaggttcagcggatctctgatcggtgggaaggcagctctgacaatcactggagtgcaacccgaggatgaggctatctacttctgtgctctctggtactcaaatctgtgggtgttcggaggtggaacaaagctggagatcaag
【0061】
SEQ ID NO.51:
caggtccagcttgtgcagtctggggctgaggtgaagaagcctgggtcctcggtgaaggtctcctgcaaggcttctggaggcaccttcagcaactatgctatcaactgggtgcgacaggcccctggacaagggcttgagtggatgggagggatcatccctctctttggtacagcaaactacgcacagaagttccagggcagagtcacgattaccgcggacgaatccacgagcacagcctacatggagctgagcagcctgagatctgacgacacggccgtgtattactgtgcgagagaccaggtagtggcaacgagtggcgtcaacttcggtatggacgtctggggccaagggaccacggtcaccgtctcctca
【0062】
本開示のいくつかの実施形態は、発現ベクターをさらに提供し、上記発現ベクターは、上記のようなDNAフラグメントのコピーを少なくとも1つ含む。
【0063】
本開示のいくつかの実施形態は、宿主細胞をさらに提供し、上記宿主細胞は、上記のような発現ベクターを含む。
【0064】
本開示のいくつかの実施形態は、親和性成熟によるB7-H3抗体をさらに提供し、上記親和性成熟によるB7-H3抗体は、上記のB7-H3抗体から変異処理によって調製される。
【0065】
いくつかの実施形態において、変異処理は、B7-H3抗体の軽鎖可変領域および/または重鎖可変領域へのランダム変異を含む。理論に束縛されるものではないが、本開示に係る変異処理は、B7-H3抗体の親和性をさらに向上させることができる。
【0066】
いくつかの実施形態において、上記親和性成熟によるB7-H3抗体は、重鎖相補性決定領域CDR1がSEQ ID No.6またはSEQ ID No.17~25のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、重鎖相補性決定領域CDR2がSEQ ID No.7またはSEQ ID No.26~37のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、重鎖相補性決定領域CDR3がSEQ ID No.8またはSEQ ID No.38~48のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含む。
【0067】
いくつかの実施形態において、上記親和性成熟によるB7-H3抗体の軽鎖相補性決定領域は、SEQ ID No.14~16に示すアミノ酸配列を含む。
【0068】
SEQ ID No.17:GGTLRPVL
SEQ ID No.18:GGTSGVAL
SEQ ID No.19:GGTRPAAL
SEQ ID No.20:GGTVRPAL
SEQ ID No.21:GGTGGIYL
SEQ ID No.22:GGTGGAYL
SEQ ID No.23:GGTSRPVL
SEQ ID No.24:GGTRPPAL
SEQ ID No.25:GGTTGRYL
SEQ ID No.26:IIPGFYSL
SEQ ID No.27:IIPMWQSV
SEQ ID No.28:IIPLFRSS
SEQ ID No.29:IIPRFGGV
SEQ ID No.30:IIPNFESV
SEQ ID No.31:IIPKFRSQ
SEQ ID No.32:IIPVFRSV
SEQ ID No.33:IIPGFDAV
SEQ ID No.34:IIPDFNSA
SEQ ID No.35:IIPRFASR
SEQ ID No.36:IIPNFHSS
SEQ ID No.37:IIPNFYSV
SEQ ID No.38:ARDRFTPRSGVNFGMDV
SEQ ID No.39:ARDREARESGVNFGMDV
SEQ ID No.40:ARDFDAPGSGVNFGMDV
SEQ ID No.41:ARDVVVPRSGVNFGMDV
SEQ ID No.42:ARDIEVMASGVNFGMDV
SEQ ID No.43:ARDQVVPLSGVNFGMDV
SEQ ID No.44:ARDVNNPGSGVNFGMDV
SEQ ID No.45:ARDVEVFNSGVNFGMDV
SEQ ID No.46:ARDEVVVGSGVNFGMDV
SEQ ID No.47:ARDAVVPNSGVNFGMDV
SEQ ID No.48:ARDQVVPRSGVNFGMDV
【0069】
いくつかの実施形態において、上記親和性成熟によるB7-H3抗体の軽鎖可変領域は、SEQ ID No.9に示すアミノ酸配列を含む。
【0070】
いくつかの実施形態において、上記親和性成熟によるB7-H3抗体の重鎖のフレームワーク領域は、SEQ ID No.2~5に示すアミノ酸配列を含む。
【0071】
SEQ ID No.2:QVQLVQSGAEVKKPGSSVKVSCKAS
SEQ ID No.3:INWVRQAPGQGLEWMGG
SEQ ID No.4:NYAQKFQGRVTITADESTSTAYMELSSLRSDDTAVYYC
SEQ ID No.5:WGQGTTVTVSS
【0072】
いくつかの実施形態において、親和性成熟によるB7-H3抗体の軽鎖のフレームワーク領域は、SEQ ID No.10~13に示すアミノ酸配列を含む。
【0073】
SEQ ID No.10:DIQMTQEPSLTTSPGGTVTLTCRSS
SEQ ID No.11:ANWVQEKPGQAPRGLIG
SEQ ID No.12:KRAPGTPARFSGSLIGGKAALTITGVQPEDEAIYFC
SEQ ID No.13:FGGGTKLEIK
【0074】
理論に束縛されるものではないが、本開示に係る上記のB7-H3抗体と上記の親和性成熟によるB7-H3抗体は、以下の特性を有する。
a.ヒトB7-H3抗原に特異的に結合する。
b.ヒトB7-H3の膜近位側抗原を過剰発現する細胞に特異的に結合する。
c.PBMCによるB7-H3陽性腫瘍細胞の殺傷を媒介する。
【0075】
本開示のいくつかの実施形態は、2つの重鎖と2つの軽鎖を含むバイスペシフィック抗体をさらに提供し、重鎖が抗B7-H3の重鎖と抗CD3の重鎖とを含み、抗B7-H3の重鎖が上記のB7-H3抗体の重鎖または上記の親和性成熟によるB7-H3抗体の重鎖を含み、軽鎖が抗B7-H3の軽鎖と抗CD3の軽鎖とを含み、抗B7-H3の軽鎖が上記のB7-H3抗体の軽鎖または上記の親和性成熟によるB7-H3抗体の軽鎖を含む。
【0076】
いくつかの実施形態において、上記重鎖は、ジスルフィド結合によって上記軽鎖に結合している。
【0077】
いくつかの実施形態において、上記抗B7-H3の重鎖は、ジスルフィド結合によって上記抗CD3の重鎖に結合している。
【0078】
いくつかの実施形態において、上記抗CD3の重鎖可変領域は、SEQ ID No.49に示すアミノ酸配列を含む。
【0079】
SEQ ID No.49:
EVQLVESGGGLVQPGGSLKLSCAASGFTFNTYAMNWVRQAPGKGLEWVARIRSKYNNYATYYADSVKDRFTISRDDSKNTAYLQMNNLKTEDTAMYYCVRHGNFGTSYVSWFAYWGQGTLVTVSS
【0080】
上記抗CD3の軽鎖可変領域は、SEQ ID No.9に示すアミノ酸配列を含む。
【0081】
図5は、バイスペシフィック抗体の構造を示す。いくつかの実施形態において、バイスペシフィック抗体は、B7-H3に結合している免疫グロブリンのFabドメインと、CD3に結合している免疫グロブリンのFabドメインと、ヘテロ二量体のFc領域とを含む。上記B7-H3に結合している免疫グロブリンのFabドメインは、上記抗B7-H3の軽鎖と、抗B7-H3の重鎖可変領域VHおよび定常領域CH1とを含み、B7-H3抗原に特異的に結合する特性を有する。上記CD3に結合している免疫グロブリンのFabドメインは、上記抗CD3の軽鎖と、抗CD3の重鎖可変領域VHおよび定常領域CH1とを含み、免疫細胞の表面抗原であるCD3に特異的に結合する特性を有する。上記ヘテロ二量体のFc領域は、抗B7-H3の重鎖に連結されたFcフラグメントと、抗CD3の重鎖に連結されたFcフラグメントとを含み、上記Fcフラグメントが定常領域CH2とCH3からなる。
【0082】
いくつかの実施形態において、上記抗B7-H3の重鎖に連結されたFcフラグメントは、ヒトFcフラグメントまたはヒト化Fcフラグメントを含む。
【0083】
いくつかの実施形態において、上記抗B7-H3の重鎖に連結されたFcフラグメントは、ヒトIgG1 Fcフラグメントを含む。
【0084】
いくつかの実施形態において、上記抗CD3の重鎖に連結されたFcフラグメントは、ヒトFcフラグメントまたはヒト化Fcフラグメントを含む。
【0085】
いくつかの実施形態において、上記抗CD3の重鎖に連結されたFcフラグメントは、ヒトIgG1 Fcフラグメントを含む。
【0086】
いくつかの実施形態において、上記抗B7-H3の重鎖に連結されたFcフラグメントのCH3は、T394Dの変異、P395Dの変異、P396Dの変異を含む。
【0087】
いくつかの実施形態において、上記抗CD3の重鎖に連結されたFcフラグメントのCH3は、P395Kの変異、P396Kの変異、V397Kの変異を含む。
【0088】
いくつかの実施形態において、上記抗B7-H3の重鎖に連結されたFcフラグメントのCH2は、L234Aの変異、L235Aの変異、P329Gの変異を含む。
【0089】
本開示のいくつかの実施形態によるバイスペシフィック抗体は、以下の特性を有する。
a.B7-H3とCD3に結合する。
b.T細胞を活性化する。
c.T細胞によるB7-H3陽性腫瘍細胞の殺傷を媒介する。
d.インビボでB7-H3陽性腫瘍細胞の成長を抑制する。
【0090】
本開示は、生物材料をさらに提供し、上記生物材料は、以下のB1)~B6)のうちのいずれか1つである。
B1): (b1)上記のB7-H3抗体、(b2)上記のいずれか一項の親和性成熟によるB7-H3抗体、(b3)上記のいずれか一項のバイスペシフィック抗体のいずれか1つの抗体の重鎖および/または軽鎖をコードする核酸分子、または上記(b1)~(b3)のいずれか1つの上記抗体の抗原結合部分の重鎖および/または軽鎖をコードする核酸分子
B2): B1)の核酸分子を含む発現カセット
B3): B1)の核酸分子を含む組換えベクター、または、B2)の発現カセットを含む組換えベクター
B4): B1)の核酸分子を含む組換え微生物、B2)の発現カセットを含む組換え微生物、または、B3)の組換えベクターを含む組換え微生物
B5): B1)の核酸分子を含む細胞株、B2)の発現カセットを含む細胞株、または、B3)における組換えベクターを含む細胞株
B6): 上記(b1)~(b3)のいずれか1つの抗体の重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域をコードする核酸分子、または上記(b1)~(b3)のいずれか1つの抗体の抗原結合部分の重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域をコードする核酸分子
【0091】
本開示のいくつかの実施形態は、医薬組成物を提供し、この医薬組成物は、上記のB7-H3抗体、上記の親和性成熟によるB7-H3抗体、上記のバイスペシフィック抗体のいずれか1つまたは少なくとも2つの組み合わせを含む。
【0092】
いくつかの実施形態において、上記医薬組成物は、薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤のいずれか1つまたは少なくとも2つの組み合わせをさらに含む。
【0093】
いくつかの実施形態において、本開示は、本開示に係る抗体または抗体フラグメント、バイスペシフィック抗体または抗体コンジュゲート、並びに任意の薬学的に許容される担体、界面活性剤および/または希釈剤を含む医薬組成物に関する。いくつかの実施形態において、医薬組成物は、本開示に係る抗体、バイスペシフィック抗体または抗体コンジュゲートに加えて、1つまたは複数の他の治療剤をさらに含む。いくつかの実施形態において、上記他の治療剤は、化学療法剤、成長抑制剤、細胞毒性剤、放射線療法に用いる製剤、血管新生阻害剤、アポトーシス剤、微小管阻害剤および癌の治療のための他の製剤を含むがこれらに限定されない。
【0094】
本開示のいくつかの実施形態は、上記のB7-H3抗体、上記の親和性成熟によるB7-H3抗体、上記のバイスペシフィック抗体、上記の医薬組成物の抗腫瘍薬剤の調製における使用をさらに提供する。
【0095】
本開示のいくつかの実施形態は、上記B7-H3抗体、上記のいずれか一項の親和性成熟によるB7-H3抗体、上記のいずれか一項のバイスペシフィック抗体、上記医薬組成物の腫瘍の治療にける使用をさらに提供する。
【0096】
本開示のいくつかの実施形態は、腫瘍関連疾患の治療方法をさらに提供し、上記腫瘍関連疾患の治療方法を必要とする被験者に、上記B7-H3抗体、上記のいずれか一項の親和性成熟によるB7-H3抗体、上記のいずれか一項のバイスペシフィック抗体、上記医薬組成物を投与する。いくつかの実施形態において、上記腫瘍は、神経腫瘍、結腸がん、直腸がん、肝臓がん、頭頸部がん、肺がん、悪性黒色腫、膵臓がん、胃がん、腎臓がん、膀胱がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がんのいずれか1つまたは少なくとも2つの組み合わせを含む。
【0097】
本開示は、高親和性にB7-H3抗原に結合するB7-H3抗体およびその使用を提供し、免疫療法とがん治療の分野において重要な使用価値を有し、従来技術の欠点を解決し、実際のニーズを満たす。
【0098】
(1)本開示に係るB7-H3抗体は、B7-H3抗原およびB7-H3抗原を発現する細胞に高親和性に結合し、PBMCによるB7-H3陽性腫瘍細胞の殺傷を効率的に媒介することができる。
(2)本開示は、B7-H3抗体の重鎖相補性決定領域を変異させることにより、B7-H3抗体の親和性をさらに向上させる。
(3)本開示は、B7-H3抗体を用いてB7-H3×CD3バイスペシフィック抗体を構築し、上記二重特異性抗体は、高親和性と安定性を有し、PBMCによる腫瘍細胞の殺傷を効果的に媒介することができるため、腫瘍増殖を有意に抑制する。
【0099】
本開示は、これらのポリペプチド鎖をコードする核酸配列をさらに含む。抗体を発現させる過程において、核酸配列を適切なベクターに挿入する。ベクターは、プラスミド、ファージベクター、コスミド、人工染色体、ファージ、および動物ウイルスを含むがこれらに限定されない。発現ベクターは、発現調節のためのエレメントを含み、プロモーター、転写開始配列、エンハンサー、シグナル配列などを含むがこれらに限定されない。プロモーターは、T7プロモーター、T3プロモーター、SP6プロモーター、β-actinプロモーター、EF-1αプロモーター、CMVプロモーター、およびSV40プロモーターを含むがこれらに限定されない。発現ベクターを宿主細胞に導入するには、該当技術分野で公知の適切な方法を用いてもよく、リン酸カルシウム共沈殿法、ポリエチレンイミントランスフェクション法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、PEI(ポリエチレンイミン)トランスフェクション法を含むがこれらに限定されない。
【0100】
実施例
実施例1
本実施例は、B7-H3抗体を提供し、上記B7-H3抗体の調製方法は、以下のステップを含む。
【0101】
(1)UniProtKB: Q5ZPR3 (CD276_HUMAN)に由来する配列を有するB7-H3細胞外領域(29-461)抗原を調製し、この抗原配列を真核発現ベクターpcDNA3.1-TEV-cFc-Hisにクローニングし、hB7-H3-TEV-cFc-His組換え真核発現プラスミドを作製した。PEIトランスフェクション法により293F宿主細胞に遺伝子導入し、5日間培養後、細胞上清を回収し、上清をプロテインA(protein A)でアフィニティー精製してB7-H3- TEV-cFc-His融合タンパク質を得た。そしてTEVプロテアーゼにより切断し、ニッケルカラムによる精製を行った後、ヒトB7-H3抗原を得た。
【0102】
(2)ヒト末梢血を採取し、末梢血単核球を分離し、全RNAを抽出し、逆転写キットによりcDNAを得た。このcDNAを鋳型として、Lim、 T. S. 、 et al.(Lim T S、 Mollova S、 Rubelt F、 et al. An optimised procedure for amplification of rearranged human antibody genes of different isotypes[J]. New Biotechnology、 2010、 27(2):108-117.)を参照しながらPCR用の特異的プライマーを設計し、そのVHフラグメントをPCR増幅し、ヒトVH遺伝子を得た。
【0103】
(3)本願発明者の公開された特許(CN110551221A)におけるCD3に結合した軽鎖配列(SEQ ID No:9)を用いて、特異的プライマーを設計してPCR増幅し、CD3 VL遺伝子を得た。
【0104】
(4)上記ヒトVH遺伝子とCD3 VL遺伝子とから、G4S-linkerを介してオーバーラップエクステンションPCR法によりscFvライブラリーを作製し、ヒト-VH:CD3-VL抗体ライブラリーを構築した。ライブラリーをファージベクターにクローニングした後、宿主細胞(TG1 Electrocompetent Cells:Lucigen.)をエレクトロポレーションにより形質転換してヒト-VH:CD3-VL抗体ライブラリーファージライブラリーを得た。ファージライブラリーをヘルパーファージによりパッケージングし、PEG沈殿法により沈殿させた。96ウェルプレートに適量の組換えヒトB7-H3抗原を加えて一晩インキュベートし、PBST(TWEEN20を含むリン酸塩緩衝液)で数回洗浄した後、ファージライブラリーを加えてふるい分けした。ふるいを重ねて濃縮された抗体陽性のクローンのシークエンスにより、5D9と命名されたB7-H3抗体を得た。表1は、抗体5D9の重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)のアミノ酸配列を示す。
【0105】
【0106】
実施例2
本実施例では、実施例1に記載された抗体5D9を発現、精製、検証した。
【0107】
本開示において、全ての抗体を293F細胞を用いて一過的に発現させ、抗体5D9の重鎖と軽鎖をコードするDNAをそれぞれ合成し、それを発現ベクターpcDNA3.1にクローニングした。PEIトランスフェクション法により、抗体5D9の重鎖と軽鎖を発現したプラスミドを、293F細胞に遺伝子導入した。6日間培養後、細胞培養上清を遠心分離により回収し、その後、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー(GE healthcare)で上清液における抗体を精製した。
【0108】
本開示において、ポジティブコントロール抗体としてのエノブリツズマブ(Enoblituzumab)の模倣物は、配列がWO2011US26689に由来し、上記方法で発現、精製した。本開示において、ポジティブコントロール抗体としてのモノクローナル抗体8H9の模倣物は、配列がWO2003US07004に由来し、また上記方法で発現、精製した。
【0109】
ELISA法によって5D9とB7-H3抗原との結合を検出した。ヒトB7-H3抗原を96ウェルプレートにコーティングし、4℃で一晩静置した。抗体5D9およびコントロールサンプルを10μg/mLに希釈し、4倍の段階希釈を行って合計8濃度とし、抗原をコーティングしたウェルに添加してインキュベートした。洗浄した後、HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)標識ヤギ抗ヒトIgG(H+L)二次抗体を添加し、TMB(3、3’、5、5’-テトラメチルベンジジン)により発色させた。マイクロプレートリーダーにより検出された波長が450nmで、吸光度OD値を読み取り、サンプル濃度の対数をX軸、吸光度OD
450値をY軸とし、用量反応曲線をプロットし、EC
50を算出した。EC
50は、抗体のB7-H3抗原に結合する能力を表す。実験は、ネガティブコントロールIgG群、ポジティブコントロール抗体のエノブリツズマブ(Enoblituzumab)の模倣物群を同時に設定し、その結果を
図1に示す。
【0110】
図1に示すように、5D9とB7-H3抗原との結合が良好であり、エノブリツズマブ(Enoblituzumab)の模倣物とB7-H3抗原との結合よりもわずかに弱い。
【0111】
実施例3
本実施例は、親和性成熟によるB7-H3抗体を提供する。
【0112】
上記からわかるように、本開示によるB7-H3抗体5D9は、B7-H3抗原との結合活性がエノブリツズマブ(Enoblituzumab)の模倣物よりもわずかに弱い。本実施例は、さらにB7-H3抗原に対して高親和性を有する抗体を得るために、抗体5D9の重鎖可変領域をインビトロで親和性成熟させることで、親和性成熟によるB7-H3抗体を得る。その調製方法は以下のステップを含む。
【0113】
(1)親和性成熟ライブラリーの作製
5D9の重鎖相補性決定領域HC-CDR1、HC-CDR2、HC-CDR3のトリプレットコドンの上流および下流のランダムプライマーをそれぞれ合成し、SOE-PCRによって5D9の重鎖相補性決定領域のランダム変異ライブラリーを得た。そして、得られたランダム変異ライブラリーをファージベクターにクローニングし、宿主細胞(TG1 Electrocompetent Cells:Lucigen.)をエレクトロポレーションにより形質転換して、5D9の重鎖相補性決定領域ランダム変異のファージライブラリーを得た。
【0114】
(2)親和性成熟ライブラリーのふるい分け
上記の実施例の方法のように、ファージディスプレイにより親和性成熟による抗体を作製し、親和性成熟ライブラリーファージライブラリーをパッケージングし、3回ふるい分けした後、濃縮された抗体陽性のクローンのシークエンスにより、33個の親和性成熟バリアントを得た。ただし、33個の親和性成熟バリアントは、軽鎖可変領域(VL)がSEQ ID No.9に示すアミノ酸配列を有し、重鎖のフレームワーク領域VH-FR1、VH-FR2、VH-FR3、VH-FR4がそれぞれSEQ ID No.2、SEQ ID No.3、SEQ ID No.4、SEQ ID No.5に示すアミノ酸配列を有する。
【0115】
表2は、各バリアントの重鎖相補性決定領域VH-CDR1、VH-CDR2、VH-CDR3が有するアミノ酸配列を示す。
【0116】
【0117】
【0118】
実施例4
本実施例は、実施例3に記載された親和性成熟によるB7-H3抗体を発現、精製した。
【0119】
実施例2に記載された方法にしたがい、実施例4で調製する各親和性成熟バリアントの重鎖と軽鎖をコードするDNAをそれぞれ合成し、それを発現ベクターpcDNA3.1にクローニングした。PEIトランスフェクション法により、各親和性成熟バリアントの重鎖と軽鎖を発現したプラスミドを、293F細胞に遺伝子導入した。5~6日間培養後、細胞培養上清を遠心分離により回収し、その後、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー(GE healthcare)で上清液における抗体を精製した。抗親和性成熟によるB7-H3抗体を計33個得た。
【0120】
実施例5
本実施例は、実施例4で調製された各親和性成熟バリアントの機能検証を行った。
【0121】
(1)ELISA法による各親和性成熟バリアントのヒトB7-H3抗原に対する結合活性の測定
ELISA法によって親和性成熟バリアントとヒトB7-H3抗原との結合活性を検出し、サンプル濃度の対数をX軸、吸光度OD
450値をY軸とし、用量反応曲線をプロットし、EC
50を算出した。EC
50は、サンプルのヒトB7-H3抗原に結合する能力を表す。実験は、ポジティブコントロール群のエノブリツズマブ(Enoblituzumab)の模倣物およびネガティブコントロール群のhIgGを設定し、その結果を
図2A~
図2Iに示す。
【0122】
図2A~
図2Iに示すように、各親和性成熟バリアントは、ヒトB7-H3抗原に対して高い結合活性を有し、その結合活性がエノブリツズマブ(Enoblituzumab)の模倣物とほぼ同様である。表3は、結合活性(EC
50)を示す。
【0123】
【0124】
(2)フローサイトメトリー(FACS)による各親和性成熟バリアントとB7-H3の膜近位側抗原を過剰発現する細胞との結合活性の測定
本開示は、上記の各親和性成熟バリアントとヒトB7-H3抗原の機能領域との結合活性をさらに研究するために、FACSを用いてそれのB7-H3の膜近位側抗原を過剰発現する細胞に対する結合活性を検出する。まず、B7-H3の膜近位側(243~534bp)を安定に発現する細胞株を構築し、陽性(Positive)細胞と命名した。B7-H3の膜近位側を発現しない同種の細胞を陰性(Negative)細胞と命名した。
【0125】
陽性(Positive)細胞および陰性(Negative)細胞を回収し、予め4℃に冷却した2%FBS/PBS(希釈液)で1回洗浄した後、細胞密度が5.0×10
6個細胞/mLになるように希釈液で再懸濁した。100μL/ウェル(well)、つまり5.0×105/ウェルで細胞を96ウェルプレートに接種し、濃度が5μg/mLとなるように上記各親和性成熟バリアントを希釈液で調製した。抗体溶液を100μL採取し、同体積の陰性(Negative)細胞または陽性(Positive)細胞とそれぞれ均一に混合し、最終濃度が2.5μg/mLとなった。96ウェルプレートを4℃で1時間インキュベートした後、500×g、4℃で5分間遠心して上清を除去した。そして、200μLの希釈液で2回洗浄し、PE anti-human IgG FC(Invitrogen)希釈液で細胞を再懸濁し、遮光して4℃で1時間インキュベートした。その後、96ウェルプレートを500×g、4℃で5分間遠心して上清を除去し、再び200μLの希釈液で2回洗浄し、200μL希釈液で細胞を再懸濁した後、直ちに装置によって検出した。
図3A~
図3Eは、その結果を示す。
【0126】
図3A~
図3Eは、結果の一部を示す。各親和性成熟バリアントは、いずれもB7-H3の膜近位側抗原を発現する陽性(Positive)細胞に結合したが(図右側の実線)、陰性(Negative)細胞に結合しなかった(図左側の実線)。
【0127】
(3)親和性成熟バリアントが媒介するPBMCによるB7-H3陽性腫瘍細胞の殺傷活性の測定
上記のELISAとFACSの結果に基づいて、ヒトB7-H3抗原に対して高い親和性を有する15個の親和性成熟バリアント(44F2、43G11、46H7、45B11、43D4、42F7、45F4、46H9、46D4、47H4、48E9、49C3、49E1、50A1および50A6)を選択し、B7-H3陽性ヒト胃がん細胞NCI-N87を標的細胞とし、ヒト末梢血単核球PBMCをエフェクター細胞とし、各親和性成熟バリアントが媒介するPBMCによるNCI-N87腫瘍細胞の殺傷活性を測定した。
【0128】
NCI-N87細胞をトリプシンで消化し、単細胞懸濁液を調製し、フェノールレッドを含まない5%FBS-RPMI1640培地で細胞密度を0.40×10
6個細胞/mLに調整し、50μL/ウェルで96ウェルプレートに添加した。エフェクター細胞PBMCの細胞密度を4.00×10
6個細胞/mLに調整し、100μL/ウェルで96ウェルプレートに添加した。フェノールレッドを含まない5%FBS-RPMI1640培地で測定対象の抗体を40μg/mLに希釈した後、体積比で1:4の倍数希釈を行い、それぞれ40μg/mL、10μg/mL、2.5μg/mL、0.625μg/mL、0.1563μg/mL、0.0391μg/mL、0.0098μg/mL、0.0024μg/mL、0.0006μg/mL、および0.00015μg/mLの10濃度を得た。そして50μL/ウェルで96ウェルプレートに添加した。96ウェルプレートで均一に混合し、37℃、5%CO
2のインキュベーターに一晩インキュベートし、翌日(約20時間後)、乳酸脱水素酵素細胞毒性アッセイキット(Beyotime)で細胞毒性を測定した。さらに、抗体の殺傷活性を測定し、殺傷率の計算式は以下である。細胞毒性(Cytotoxicity)%=(ODサンプル-SR)/(MR-SR)×100%、ただし、SRがOD自然遊離ウェル(標的細胞+エフェクター細胞)、MRがOD最大遊離ウェル(標的細胞)である。
図4Aおよび
図4Bは、結果を示す。
【0129】
図4Aおよび
図4Bに示すように、15個の各親和性成熟バリアントは、いずれもPBMCによるB7-H3陽性ヒト胃がん細胞NCI-N87の殺傷を媒介することができる。
【0130】
実施例6
本実施例は、CD3およびB7-H3を標的とするバイスペシフィック抗体を提供する。
【0131】
(1)B7-H3×CD3バイスペシフィック抗体の配列設計
CD3およびB7-H3を標的とするバイスペシフィック抗体を調製するには、上記のように調製された親和性成熟によるB7-H3抗体(42F7、43G11、49E1、46H7)を選択した。本開示の実施例に係るバイスペシフィック抗体は、共通の軽鎖と2つの異なる重鎖に基づいて構築され、
図5に示すような構造を有し、それぞれ抗B7-H3の重鎖(N末端からC末端まで順にVH-CH1-ヒンジ(Hinge)-CH2-CH3-)、抗CD3の重鎖(N末端からC末端まで順にVH-CH1-ヒンジ-CH2-CH3-)、抗B7-H3の軽鎖(N末端からC末端まで順にVL-CL)、抗CD3の軽鎖(N末端からC末端まで順にVL-CL)と命名された4本のポリペプチド鎖を含み、1つのB7-H3に特異的に結合している免疫グロブリンのFabドメイン、1つのCD3に特異的に結合している免疫グロブリンのFabドメイン、および1つのヘテロ二量体のFc領域を形成した。ただし、抗B7-H3の軽鎖と抗CD3の軽鎖は、共通の軽鎖であり、2本の重鎖のCH3ドメインは、反対電荷を有する非対称アミノ酸修飾を含み、上記のヘテロ二量体のFc領域を形成する。
【0132】
B7-H3に特異的に結合している免疫グロブリンのFabドメインは、抗B7-H3の重鎖および軽鎖を含み、その配列が上記の実施例で調製された親和性成熟によるB7-H3抗体(42F7、43G11、49E1、46H7)の重鎖および軽鎖に由来する。
【0133】
CD3に特異的に結合している免疫グロブリンのFabドメインは、抗CD3の重鎖(SEQ ID No.49)および軽鎖(SEQ ID No.9)を含む。
【0134】
SEQ ID No.49:
EVQLVESGGGLVQPGGSLKLSCAASGFTFNTYAMNWVRQAPGKGLEWVARIRSKYNNYATYYADSVKDRFTISRDDSKNTAYLQMNNLKTEDTAMYYCVRHGNFGTSYVSWFAYWGQGTLVTVSS
【0135】
SEQ ID No.9:
DIQMTQEPSLTTSPGGTVTLTCRSSTGAVTTSNYANWVQEKPGQAPRGLIGGTNKRAPGTPARFSGSLIGGKAALTITGVQPEDEAIYFCALWYSNLWVFGGGTKLEIK
【0136】
抗体のFc部分は、本願発明者の公開特許であるPCT(WO2017034770A1)における方法にしたがって部分的に配列改変された。ただし、抗B7-H3の重鎖のFc部分のCH3ドメインは、T394D、P395D、P396D(EU)のように変異され、変異がOBとマークされて負電荷を有する。抗CD3の重鎖のFc部分のCH3ドメインは、P395K、P396K、V397K(EU)のように変異され、変異がOAとマークされて正電荷を有する。また、Fcとその受容体FcγRの結合を低下させるために、抗B7-H3の重鎖と抗CD3の重鎖とのFc部分のCH2ドメインは、いずれもL234A、L235A、P329G(LALA-PG)変異を含む。
【0137】
(2)発現プラスミドの分子クローニング
B7-H3抗体42F7、43G11、49E1、46H7の重鎖と軽鎖をコードするDNAをそれぞれ合成し、それらのFab遺伝子フラグメントを真核発現ベクターpFUSEss-CHIg-hG1-Fc1(OB、L234A、L235A変異およびP329G変異を含む)に構築し、プラスミド1と命名された発現プラスミドを得た。抗CD3の重鎖をプラスミドpFUSE-hIgG1-Fc2(OA、N106T変異、L234A変異、L235A変異、およびP329G変異を含む)にクローニングし、プラスミド2と命名された発現プラスミドを得た。抗CD3の軽鎖をpCDNA3.1にクローニングし、プラスミド3と命名されたプラスミドを得た。
【0138】
(3)発現、精製
組換えプラスミド1、プラスミド2、プラスミド3を抽出し、PEIとHEK293F細胞を用いてコトランスフェクトを行い、37℃、5%CO2、120rpmのインキュベーターシェーカーで、共導入された細胞懸濁液を遮光して6日間培養し、培養上清を高速遠心した後、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー用カラムに充填して精製した。各種のBsAbのサイズと純度を検出、確認するために、SDS-PAGE分析を行い、42F7×CD3、43G11×CD3、49E1×CD3、および46H7×CD3と命名されたB7-H3×CD3バイスペシフィック抗体を得た。ポジティブコントロール抗体のモノクローナル抗体8H9の模倣物についても、同様な手法で8H9×CD3バイスペシフィック抗体を構築した。
【0139】
実施例7
本実施例は、実施例6で調製されたB7-H3×CD3バイスペシフィック抗体の機能検証を行った。
【0140】
(1)B7-H3×CD3バイスペシフィック抗体の結合活性
間接ELISA法により上記の調製されたB7-H3×CD3バイスペシフィック抗体のB7-H3抗原に結合する活性を測定した。操作方法は以下である。1μg/mLに希釈されたB7-H3抗原を100μL/ウェルでマイクロプレートに添加し、コーティングしたまま4℃で一晩放置した。翌日0.05%PBSTで洗浄後、室温で2時間ブロッキングした。再び0.05%PBSTで洗浄後、段階希釈されたB7-H3×CD3バイスペシフィック抗体(PBS希釈)を添加し、室温で1時間インキュベートした。結合しないものを0.05%PBSTで洗浄した後、HRP標識ヤギ抗ヒトIgG(H+L)二次抗体(Proteintech、Cat.SA0001-17)を添加し、室温で1時間インキュベートした。0.05%PBSTで洗浄し、TMB発色液を添加し、室温で遮光して5分間インキュベートし、H
2SO
4で反応を停止させた。マイクロプレートリーダーにより450nmで吸光度を測定し、log(抗体濃度)を横座標、吸光度OD
450を縦座標とし、用量反応曲線をプロットした結果を
図6に示す。
図6から分かるように、試験したすべてのB7-H3×CD3バイスペシフィック抗体は、ヒトB7-H3抗原に対していずれも高い結合活性を有する。
【0141】
(2)B7-H3×CD3バイスペシフィック抗体によるT細胞活性化作用の測定
Jurkat/NFAT-Lucレポーター遺伝子細胞株とB7-H3陽性ヒト腎臓がん細胞A498からなる測定系により、B7-H3×CD3によるT細胞活性化を評価した。Jurkat/NFAT-Luc細胞株において、ルシフェラーゼ遺伝子がNFAT(Nuclear factor of activated T-cell)転写因子により制御され、これをエフェクター細胞とし、B7-H3陽性A498細胞を標的細胞とした。Jurkat/NFAT-Luc細胞をA498細胞と共培養した場合、ルシフェラーゼが発現しなかったが、B7-H3×CD3を添加すると、A498細胞上のB7-H3がB7-H3×CD3を介してJurkat/NFAT-Luc細胞内のCD3シグナル経路を活性化させ、ルシフェラーゼの発現を促進するため、細胞内のルシフェラーゼの発現量を検出することによりJurkatT細胞の活性化の強さを判断することができる。
【0142】
実験では、A498細胞、Jurkat/NFAT-Luc細胞を96ウェル細胞培養用プレートに順次添加し、B7-H3×CD3を10μg/mL、2.5μg/mL、0.625μg/mL、0.15625μg/mL、0.0390μg/mL、0.0097μg/mL、0.0024μg/mL、0.0006μg/mLの濃度に希釈した。異なる濃度のB7-H3×CD3を上記細胞培養用プレートに添加し、37℃で6時間培養した。ONE-Glo Luciferase測定試薬を添加し、多機能マイクロプレートリーダーにより化学発光値を測定した。抗体濃度の対数を横座標、化学発光値の平均値を縦座標とし、4パラメータフィッティングを行い、用量反応曲線をプロットし、各曲線のEC50値を求めた。EC50は、B7-H3×CD3によるT細胞活性化の活性を表す。実験は、ポジティブコントロール抗体8H9×CD3群を設定した。
【0143】
結果は、
図7に示すように、本開示による4個のB7-H3×CD3バイスペシフィック抗体は、B7-H3陽性腫瘍細胞A498と、Jurkat/NFAT-Luc細胞と共インキュベートした場合、JurkatT細胞に対していずれも優れた活性化効果を示した。
【0144】
(3)B7-H3×CD3バイスペシフィック抗体のB7-H3陽性細胞に対する殺傷効果の測定
バイスペシフィック抗体B7-H3×CD3のCD3結合アームは、T細胞表面のCD3複合体に特異的に結合し、他端のB7-H3結合アームは、腫瘍細胞表面のB7-H3分子に特異的に結合することにより、T細胞と腫瘍細胞との間に免疫の橋渡しが形成され、T細胞が活性化され、パーフォリン(Perforin)やグランザイムB(Granzyme B)などの細胞傷害性タンパク質が放出されることで、腫瘍細胞を殺傷する。腫瘍細胞の細胞膜が損傷を受けると、細胞膜の透過性が高まり、細胞質内の乳酸脱水素酵素(LDH)が培養上清に放出される。一定量の上清を取り、乳酸脱水素酵素の反応基質である乳酸を加えると、乳酸脱水素酵素が脱水素反応を促進し、490nmに吸収ピークを生じることができる赤い生成物のホルマザン(Formazan)が生成した。細胞上清における乳酸脱水素酵素の含有量が多いほど、その色は濃くなり、吸光度も大きくなる。故に、吸光度を測定することにより、腫瘍細胞から放出された乳酸脱水素酵素の量を定量し、B7-H3×CD3が媒介するPBMCによる腫瘍細胞の殺傷活性を算出することができる。殺傷率の計算式は以下である。Cytotoxicity%=(ODサンプル-SR)/(MR-SR)×100%、ただし、SRがOD自然遊離ウェル(標的細胞+エフェクター細胞)であり、MRがOD最大遊離ウェル(標的細胞)である。
【0145】
本開示では、B7-H3が異なって発現されるヒト胃がん細胞NCI-N87、A498、HepG2を標的細胞とし、ヒト末梢血単核球PBMCをエフェクター細胞とし、4個のB7-H3×CD3バイスペシフィック抗体が媒介するPBMCによる腫瘍細胞の殺傷活性を測定した。
【0146】
新鮮単離ヒト末梢血単核球PBMCを採取し、密度を2.00×10
6個細胞/mLに調整した。増殖状態の良いNCI-N87、A498、HepG2細胞を採取し、細胞濃度を2.00×10
5個細胞/mLに調整した。1×PBS緩衝液(pH7.4)でサンプルを30μg/mLに希釈した後、4倍段階希釈を行い、その濃度を順に30μg/mL、7.5μg/mL、1.875μg/mL、0.4688μg/mL、0.1172μg/mL、0.0293μg/mL、0.0073μg/mL、0.0018μg/mL、0.0005μg/mL、および0.0001μg/mLの合計10段階とした。96ウェル細胞培養用プレートに、標的細胞50μL/ウェル、PBMC100μL/ウェル、段階希釈されたサンプル50μL/ウェルを順に添加し、PBMCと標的細胞の単位体積の細胞数の比が20:1になるように均一に混合した。サンプルの初期濃度を10μg/mLとし、コントロールウェルにフェノールレッドを含まないRPMI1640培地を200μLまで添加した。培養プレートを37℃、5%CO
2のインキュベーター内に置いて21±1時間インキュベートした後、乳酸脱水素酵素細胞毒性アッセイキット(碧雲天)で細胞毒性を測定した。抗体濃度の対数を横座標、殺傷活性を縦座標とし、4パラメータフィッティングを行った。用量反応曲線をプロットし、各曲線のEC
50値を求めた。EC
50は、B7-H3×CD3の標的細胞に対する殺傷活性を表す。結果を
図8A-
図8Cに示す。
【0147】
8A~
図8Cに示すように、本開示によるバイスペシフィック抗体B7-H3×CD3は、B7-H3が異なって発現されるNCI-N87、A498、HepG2細胞に対していずれも優れた殺傷効果を示した。
【0148】
(4)B7-H3×CD3バイスペシフィック抗体の安定性に関する検討
B7-H3×CD3バイスペシフィック抗体の40℃で異なる時間放置後の安定性を評価するため、十分シールされたサンプル(1mg/mL)を40℃の恒温器(BINDER KBF240)に放置した。所定の時点(ベースライン(0日目)、14日目)でサンプルを20μg採取し、SEC-HPLCで純度を測定した。上記SEC-HPLCの条件は以下である。
【0149】
サイズ排除クロマトグラフィーカラム:Superdex200 10/300 GL increase
移動相:50mM NaAc、51mM NaCl、0.05mM EDTA pH 5.5
流速:0.5mL/分間
UV検出波長:280nm
採取時間:35分間
【0150】
使用した装置は、AKTA pure 25 L1クロマトグラフであり、グラフを記録し残存モノマーの割合を算出するためのソフトウェアは、UNICORNである。
【0151】
図9A~
図9Dに示すように、
図9Aは、46H7×CD3の40℃で14日間放置後のSEC-HPLCによる純度測定の結果を表す。ただし、液相の46H7×CD3バイスペシフィック抗体のピークの保持時間が28.5分間で、ピーク面積比が100%で、46H7×CD3バイスペシフィック抗体の純度が98%よりも高い。
図9Bは、43G11×CD3の40℃で14日間放置後のSEC-HPLCによる純度測定の結果を表す。ただし、液相中の43G11×CD3バイスペシフィック抗体のピークの保持時間が28.5分間で、ピーク面積比が100%で、43G11×CD3バイスペシフィック抗体の純度が>98%である。
図9Cは、49E1×CD3の40℃で14日間放置後のSEC-HPLCによる純度測定の結果を表す。ただし、液相中の49E1×CD3バイスペシフィック抗体のピークの保持時間が28.5分間で、ピーク面積比が100%で、49E1×CD3バイスペシフィック抗体の純度が>98%である。
図9Dは、42F7×CD3の40℃で14日間放置後のSEC-HPLCによる純度測定の結果を表す。ただし、液相中の42F7×CD3バイスペシフィック抗体のピークの保持時間が28.5分間で、ピーク面積比が100%で、42F7×CD3バイスペシフィック抗体の純度が98%よりも高い。以上の結果から、40℃の実験条件では、上記抗体の多量体の割合が時間とともに増加することはないので、上記四価の二重特異性抗体は、熱安定性に優れ、開発可能であると考えられた。
【0152】
(5)B7-H3×CD3バイスペシフィック抗体のマウスインビボでの抗腫瘍効果の測定
上記実施例の結果に基づいて、そのうち1つのB7-H3×CD3バイスペシフィック抗体(すなわち42F7×CD3バイスペシフィック抗体)を選択して、マウスインビボでの抗腫瘍効果の測定を行った。
【0153】
8週齢のメスNOD-SCIDマウス(北京維通利華実験動物有限公司より購入)を用いて、対数増殖期におけるMC38/hB7-H3細胞および新鮮単離PBMCを採取し、マウスの右前肢に100μL/匹で接種し、接種翌日に群分けを行った。群分けした日をD0日目とし、D0日目に薬剤投与を開始した。実験は、マウスをそれぞれアイソタイプコントロールhIgG群(5mg/kg、i.v.)と、B7-H3×CD3群(5mg/kg、i.v.)の2群、各6匹に分けた。D1、D5、D8、D11、D15に尾静脈注射で薬剤を投与した(i.v.)。薬剤投与開始後、腫瘍の大きさを観察してマウスの体重を秤量した。腫瘍体積を以下のように算出した。腫瘍体積(mm
3)=0.5×(腫瘍長径×腫瘍短径
2)。腫瘍体積から腫瘍増殖率(T/C%)および腫瘍抑制率(TGI)を算出し、腫瘍抑制率(TGI)から治療効果の判定を行った。
図10は、結果を示す。
【0154】
図10に示すように、B7-H3×CD3は、PBMCによりヒト免疫系を再構築したNOD/SCIDマウスの皮下移植によるMC38/hB7-H3異種移植モデルにおいて、マウス腫瘍モデルに対し、腫瘍増殖を有意に抑制する効果を示した。
【0155】
上記のように、本開示に係るB7-H3抗体は、B7-H3抗原に高親和性に結合し、重鎖相補性決定領域を変異させることにより、B7-H3抗体の親和性をさらに向上させ、PBMCによるB7-H3陽性腫瘍細胞の殺傷を効率的に媒介することができる。さらに、本開示は、B7-H3抗体を用いてB7-H3×CD3バイスペシフィック抗体を構築し、上記二重特異性抗体は、高親和性と安定性を有し、PBMCによる腫瘍細胞の殺傷を効果的に媒介することができるため、腫瘍増殖を有意に抑制した。
【0156】
本出願人は、本開示が上記の実施例によって本開示の詳細な方法を説明したが、本開示が上記の詳細な方法に限定されなく、つまり上記の詳細な方法に依存することなく本開示を実施可能である。当業者は、本開示の如何なる改良、本開示に係る製品の各原料の均等置換および補助成分の添加、形態の選択などがすべて、本開示の保護範囲に属することを理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本開示は、B7-H3抗体およびその使用を提供する。本開示によるB7-H3抗体は、B7-H3抗原およびB7-H3抗原を発現する細胞に高親和性に結合し、PBMCによるB7-H3陽性腫瘍細胞の殺傷を効率的に媒介することができる。上記B7-H3抗体を用いてB7-H3×CD3バイスペシフィック抗体を構築し、上記二重特異性抗体は、高親和性と安定性を有し、PBMCによる腫瘍細胞の殺傷を効果的に媒介することができるため、腫瘍増殖を有意に抑制した。そのため、本開示によるB7-H3抗体は、実用性が高いものである。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-01-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
B7-H3抗体であって、
前記B7-H3抗体の重鎖相補性決定領域は、SEQ ID No.6~8に示すアミノ酸配列を含み
前記B7-H3抗体の軽鎖相補性決定領域は、SEQ ID No.14~16に示すアミノ酸配列を含む
ことを特徴とするB7-H3抗体。
【請求項2】
前記B7-H3抗体の重鎖可変領域は、SEQ ID No.1に示すアミノ酸配列を含み、
前記B7-H3抗体の軽鎖可変領域は、SEQ ID No.9に示すアミノ酸配列を含む
ことを特徴とする請求項1に記載のB7-H3抗体。
【請求項3】
請求項
1に記載のB7-H3抗体から変異処理によって調製される
ことを特徴とする親和性成熟によるB7-H3抗体。
【請求項4】
前記親和性成熟によるB7-H3抗体は、重鎖相補性決定領域CDR1がSEQ ID No.6またはSEQ ID No.17~25のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、重鎖相補性決定領域CDR2がSEQ ID No.7またはSEQ ID No.26~37のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、重鎖相補性決定領域CDR3がSEQ ID No.8またはSEQ ID No.38~48のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、
前記親和性成熟によるB7-H3抗体の軽鎖相補性決定領域は、SEQ ID No.14~16に示すアミノ酸配列を含む
ことを特徴とする請求項3に記載の親和性成熟によるB7-H3抗体。
【請求項5】
前記親和性成熟によるB7-H3抗体の軽鎖可変領域は、SEQ ID No.9に示すアミノ酸配列を含み、
前記親和性成熟によるB7-H3抗体の重鎖のフレームワーク領域は、SEQ ID No.2~5に示すアミノ酸配列を含む
請求
項4に記載の親和性成熟によるB7-H3抗体。
【請求項6】
2つの重鎖と2つの軽鎖を含み、
前記重鎖は、請求項
1に記載のB7-H3抗体の重
鎖を含む抗B7-H3の重鎖と、抗CD3の重鎖とを含み、
前記軽鎖は、請求項
1に記載のB7-H3抗体の軽
鎖を含む抗B7-H3の軽鎖と、抗CD3の軽鎖とを含み、
前記重鎖は、ジスルフィド結合によって前記軽鎖に結合しており、
前記抗B7-H3の重鎖は、ジスルフィド結合によって前記抗CD3の重鎖に結合している
ことを特徴とするバイスペシフィック抗体。
【請求項7】
2つの重鎖と2つの軽鎖を含み、
前記重鎖は、請求項3に記載の親和性成熟によるB7-H3抗体の重鎖を含む抗B7-H3の重鎖と、抗CD3の重鎖とを含み、
前記軽鎖は、請求項3に記載の親和性成熟によるB7-H3抗体の軽鎖を含む抗B7-H3の軽鎖と、抗CD3の軽鎖とを含み、
前記重鎖は、ジスルフィド結合によって前記軽鎖に結合しており、
前記抗B7-H3の重鎖は、ジスルフィド結合によって前記抗CD3の重鎖に結合している
ことを特徴とするバイスペシフィック抗体。
【請求項8】
前記抗CD3の重鎖可変領域は、SEQ ID No.49に示すアミノ酸配列を含み、
前記抗CD3の軽鎖可変領域は、SEQ ID No.9に示すアミノ酸配列を含む
ことを特徴とする請求項6
または7に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項9】
前記バイスペシフィック抗体は、B7-H3に結合している免疫グロブリンのFabドメインと、CD3に結合している免疫グロブリンのFabドメインと、ヘテロ二量体のFc領域とを含み、
前記B7-H3に結合している免疫グロブリンのFabドメインは、前記抗B7-H3の軽鎖と、抗B7-H3の重鎖可変領域VHおよび定常領域CH1とを含み、
前記CD3に結合している免疫グロブリンのFabドメインは、前記抗CD3の軽鎖と、抗CD3の重鎖可変領域VHおよび定常領域CH1とを含み、
前記ヘテロ二量体のFc領域は、抗B7-H3の重鎖に連結されたFcフラグメントと、抗CD3の重鎖に連結されたFcフラグメントとを含む
ことを特徴とする請求項
8に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項10】
前記抗B7-H3の重鎖に連結されたFcフラグメントは、ヒトFcフラグメントまたはヒト化Fcフラグメントを含む
ことを特徴とする請求項
9に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項11】
前記抗B7-H3の重鎖に連結されたFcフラグメントのCH3は、T394Dの変異、P395Dの変異、P396Dの変異を含む
ことを特徴とする請求項
10に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項12】
前記抗CD3の重鎖に連結されたFcフラグメントのCH3は、P395Kの変異、P396Kの変異、V397Kの変異を含む
ことを特徴とする請求項
11に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項13】
前記抗B7-H3の重鎖に連結されたFcフラグメントのCH2は、L234Aの変異、L235Aの変異、P329Gの変異を含む
ことを特徴とする請求項
12に記載のバイスペシフィック抗体。
【請求項14】
B1): (b1)請求項1または2に記載のB7-H3抗体、(b2)請求項3~5のいずれか一項に記載の親和性成熟によるB7-H3抗体、(b3)請求項6
または7に記載のバイスペシフィック抗体、のいずれか1つの抗体の重鎖および/または軽鎖をコードする核酸分子、または前記(b1)~(b3)のいずれか1つの抗体の抗原結合部分の重鎖および/または軽鎖をコードする核酸分子、
B2): B1)の核酸分子を含む発現カセット、
B3): B1)の核酸分子を含む組換えベクター、またはB2)の発現カセットを含む組換えベクター、
B4): B1)の核酸分子を含む組換え微生物、B2)の発現カセットを含む組換え微生物、またはB3)の組換えベクターを含む組換え微生物、
B5): B1)の核酸分子を含む細胞株、B2)の発現カセットを含む細胞株、またはB3)の組換えベクターを含む細胞株、
B6): 前記(b1)~(b3)のいずれか1つの抗体の重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域をコードする核酸分子、または前記(b1)~(b3)のいずれか1つの抗体の抗原結合部分の重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域をコードする核酸分子
の前記B1)~B6)のいずれか1つである
ことを特徴とする生物材料。
【請求項15】
請求項1または2に記載のB7-H3抗体、請求項3~5のいずれか一項に記載の親和性成熟によるB7-H3抗体、または請求項6
または7に記載のバイスペシフィック抗体のいずれか1つまたは少なくとも2つの組み合わせを含む
ことを特徴とする医薬組成物。
【請求項16】
神経腫瘍、結腸がん、直腸がん、肝臓がん、頭頸部がん、肺がん、悪性黒色腫、膵臓がん、胃がん、腎臓がん、膀胱がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がんのいずれか1つまたは少なくとも2つの組み合わせを含む腫瘍に対する
請求項
15に記載の医薬組成物の抗腫瘍薬剤の調製における使用。
【請求項17】
神経腫瘍、結腸がん、直腸がん、肝臓がん、頭頸部がん、肺がん、悪性黒色腫、膵臓がん、胃がん、腎臓がん、膀胱がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がんのいずれか1つまたは少なくとも2つの組み合わせを含む
腫瘍を治療するための
、請求項
15に記載の医薬組成
物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0156
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0156】
本出願人は、本開示が上記の実施例によって本開示の詳細な方法を説明したが、本開示が上記の詳細な方法に限定されなく、つまり上記の詳細な方法に依存することなく本開示を実施可能である。当業者は、本開示の如何なる改良、本開示に係る製品の各原料の均等置換および補助成分の添加、形態の選択などがすべて、本開示の保護範囲に属することを理解すべきである。
(付記)
本開示は以下の態様を含む。
項1:
B7-H3抗体であって、
前記B7-H3抗体の重鎖相補性決定領域は、SEQ ID No.6~8に示すアミノ酸配列を含み
前記B7-H3抗体の軽鎖相補性決定領域は、SEQ ID No.14~16に示すアミノ酸配列を含む
ことを特徴とするB7-H3抗体。
項2:
前記B7-H3抗体の重鎖可変領域は、SEQ ID No.1に示すアミノ酸配列を含み、
前記B7-H3抗体の軽鎖可変領域は、SEQ ID No.9に示すアミノ酸配列を含む
ことを特徴とする項1に記載のB7-H3抗体。
項3:
項1または2に記載のB7-H3抗体から変異処理によって調製される
ことを特徴とする親和性成熟によるB7-H3抗体。
項4:
前記親和性成熟によるB7-H3抗体は、重鎖相補性決定領域CDR1がSEQ ID No.6またはSEQ ID No.17~25のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、重鎖相補性決定領域CDR2がSEQ ID No.7またはSEQ ID No.26~37のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、重鎖相補性決定領域CDR3がSEQ ID No.8またはSEQ ID No.38~48のいずれか1つに示すアミノ酸配列を含み、
前記親和性成熟によるB7-H3抗体の軽鎖相補性決定領域は、SEQ ID No.14~16に示すアミノ酸配列を含む
ことを特徴とする項3に記載の親和性成熟によるB7-H3抗体。
項5:
前記親和性成熟によるB7-H3抗体の軽鎖可変領域は、SEQ ID No.9に示すアミノ酸配列を含み、
前記親和性成熟によるB7-H3抗体の重鎖のフレームワーク領域は、SEQ ID No.2~5に示すアミノ酸配列を含む
項3または4に記載の親和性成熟によるB7-H3抗体。
項6:
2つの重鎖と2つの軽鎖を含み、
前記重鎖は、項1または2に記載のB7-H3抗体の重鎖または項3~5のいずれか一項に記載の親和性成熟によるB7-H3抗体の重鎖を含む抗B7-H3の重鎖と、抗CD3の重鎖とを含み、
前記軽鎖は、項1または2に記載のB7-H3抗体の軽鎖または項3~5のいずれか一項に記載の親和性成熟によるB7-H3抗体の軽鎖を含む抗B7-H3の軽鎖と、抗CD3の軽鎖とを含み、
前記重鎖は、ジスルフィド結合によって前記軽鎖に結合しており、
前記抗B7-H3の重鎖は、ジスルフィド結合によって前記抗CD3の重鎖に結合している
ことを特徴とするバイスペシフィック抗体。
項7:
前記抗CD3の重鎖可変領域は、SEQ ID No.49に示すアミノ酸配列を含み、
前記抗CD3の軽鎖可変領域は、SEQ ID No.9に示すアミノ酸配列を含む
ことを特徴とする項6に記載のバイスペシフィック抗体。
項8:
前記バイスペシフィック抗体は、B7-H3に結合している免疫グロブリンのFabドメインと、CD3に結合している免疫グロブリンのFabドメインと、ヘテロ二量体のFc領域とを含み、
前記B7-H3に結合している免疫グロブリンのFabドメインは、前記抗B7-H3の軽鎖と、抗B7-H3の重鎖可変領域VHおよび定常領域CH1とを含み、
前記CD3に結合している免疫グロブリンのFabドメインは、前記抗CD3の軽鎖と、抗CD3の重鎖可変領域VHおよび定常領域CH1とを含み、
前記ヘテロ二量体のFc領域は、抗B7-H3の重鎖に連結されたFcフラグメントと、抗CD3の重鎖に連結されたFcフラグメントとを含む
ことを特徴とする項6または7に記載のバイスペシフィック抗体。
項9:
前記抗B7-H3の重鎖に連結されたFcフラグメントは、ヒトFcフラグメントまたはヒト化Fcフラグメントを含む
ことを特徴とする項8に記載のバイスペシフィック抗体。
項10:
前記抗B7-H3の重鎖に連結されたFcフラグメントのCH3は、T394Dの変異、P395Dの変異、P396Dの変異を含む
ことを特徴とする項8または9に記載のバイスペシフィック抗体。
項11:
前記抗CD3の重鎖に連結されたFcフラグメントのCH3は、P395Kの変異、P396Kの変異、V397Kの変異を含む
ことを特徴とする項8~10のいずれか一項に記載のバイスペシフィック抗体。
項12:
前記抗B7-H3の重鎖に連結されたFcフラグメントのCH2は、L234Aの変異、L235Aの変異、P329Gの変異を含む
ことを特徴とする項8~11のいずれか一項に記載のバイスペシフィック抗体。
項13:
B1): (b1)項1または2に記載のB7-H3抗体、(b2)項3~5のいずれか一項に記載の親和性成熟によるB7-H3抗体、(b3)項6~12のいずれか一項に記載のバイスペシフィック抗体、のいずれか1つの抗体の重鎖および/または軽鎖をコードする核酸分子、または前記(b1)~(b3)のいずれか1つの抗体の抗原結合部分の重鎖および/または軽鎖をコードする核酸分子、
B2): B1)の核酸分子を含む発現カセット、
B3): B1)の核酸分子を含む組換えベクター、またはB2)の発現カセットを含む組換えベクター、
B4): B1)の核酸分子を含む組換え微生物、B2)の発現カセットを含む組換え微生物、またはB3)の組換えベクターを含む組換え微生物、
B5): B1)の核酸分子を含む細胞株、B2)の発現カセットを含む細胞株、またはB3)の組換えベクターを含む細胞株、
B6): 前記(b1)~(b3)のいずれか1つの抗体の重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域をコードする核酸分子、または前記(b1)~(b3)のいずれか1つの抗体の抗原結合部分の重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域をコードする核酸分子
の前記B1)~B6)のいずれか1つである
ことを特徴とする生物材料。
項14:
項1または2に記載のB7-H3抗体、項3~5のいずれか一項に記載の親和性成熟によるB7-H3抗体、または項6~12のいずれか一項に記載のバイスペシフィック抗体のいずれか1つまたは少なくとも2つの組み合わせを含む
ことを特徴とする医薬組成物。
項15:
神経腫瘍、結腸がん、直腸がん、肝臓がん、頭頸部がん、肺がん、悪性黒色腫、膵臓がん、胃がん、腎臓がん、膀胱がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がんのいずれか1つまたは少なくとも2つの組み合わせを含む腫瘍に対する
項1または2に記載のB7-H3抗体、項3~5のいずれか一項に記載の親和性成熟によるB7-H3抗体、項6~12のいずれか一項に記載のバイスペシフィック抗体、または項14に記載の医薬組成物の抗腫瘍薬剤の調製における使用。
項16:
好ましくは、神経腫瘍、結腸がん、直腸がん、肝臓がん、頭頸部がん、肺がん、悪性黒色腫、膵臓がん、胃がん、腎臓がん、膀胱がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がんのいずれか1つまたは少なくとも2つの組み合わせを含む
腫瘍を治療するための、項1または2に記載のB7-H3抗体、項3~5のいずれか一項に記載の親和性成熟によるB7-H3抗体、項6~12のいずれか一項に記載のバイスペシフィック抗体、または項14に記載の医薬組成物の使用。
項17:
腫瘍関連疾患の治療方法であって、
腫瘍関連疾患の治療方法を必要とする被験者に項1または2に記載のB7-H3抗体、項3~5のいずれか一項に記載の親和性成熟によるB7-H3抗体、項6~12のいずれか一項に記載のバイスペシフィック抗体、または項14に記載の医薬組成物を投与し、
好ましくは、前記腫瘍関連疾患は、神経腫瘍、結腸がん、直腸がん、肝臓がん、頭頸部がん、肺がん、悪性黒色腫、膵臓がん、胃がん、腎臓がん、膀胱がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がんのいずれか1つまたは少なくとも2つの組み合わせを含む
ことを特徴とする腫瘍関連疾患の治療方法。
【国際調査報告】