IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーションの特許一覧

特表2024-527701相変化材料を介した量子発光体の発光波長の調整
<>
  • 特表-相変化材料を介した量子発光体の発光波長の調整 図1A
  • 特表-相変化材料を介した量子発光体の発光波長の調整 図1B
  • 特表-相変化材料を介した量子発光体の発光波長の調整 図2A
  • 特表-相変化材料を介した量子発光体の発光波長の調整 図2B
  • 特表-相変化材料を介した量子発光体の発光波長の調整 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】相変化材料を介した量子発光体の発光波長の調整
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/06 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
H01L29/06 601D
H01L29/06 601N
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023578804
(86)(22)【出願日】2022-06-20
(85)【翻訳文提出日】2023-12-20
(86)【国際出願番号】 EP2022066726
(87)【国際公開番号】W WO2022268716
(87)【国際公開日】2022-12-29
(31)【優先権主張番号】17/352,880
(32)【優先日】2021-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390009531
【氏名又は名称】インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
【住所又は居所原語表記】New Orchard Road, Armonk, New York 10504, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100112690
【弁理士】
【氏名又は名称】太佐 種一
(74)【代理人】
【識別番号】100120710
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 忠彦
(74)【復代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【復代理人】
【識別番号】100118108
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 洋之
(72)【発明者】
【氏名】ステフェルレ、ティロ
(72)【発明者】
【氏名】ベッカー、マイケル
(72)【発明者】
【氏名】マールト、ライナー
(72)【発明者】
【氏名】ウルボナス、ダリウス
(72)【発明者】
【氏名】スカフィリムト、ファビオ
(57)【要約】
相変化材料の層と埋め込み量子エミッタを有するマトリックス材料層とを含む層状構造を有するデバイスを調整する。マトリックス材料層と相変化材料の層とを通して電界を印加し、量子エミッタの発光波長を変化させる。相変化材料の位相は、相変化材料の1つまたは複数の局所領域のそれぞれにおいて不揮発的に変化させられ、マトリックス材料層内の量子エミッタのそれぞれのものと対向する局所的な変化を形成し、それぞれの量子エミッタにおける電界を局所的に変化させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子エミッタの発光波長を調整する方法であって、
相変化材料の層とマトリックス材料層を含む層状構造を有するデバイスを提供することであって、前記マトリックス材料層は1つまたは複数の量子エミッタを埋め込む、提供することと、
前記量子エミッタの前記発光波長を変化させるために前記マトリックス材料層と前記相変化材料の層とを通して電界を印加することと、
前記マトリックス材料層内の前記量子エミッタのそれぞれのものに対向する局所的な位相変化を得て、それぞれの前記量子エミッタにおける前記電界を局所的に変化させるために、前記相変化材料の1つまたは複数の局所領域のそれぞれにおいて、前記相変化材料の位相を不揮発的に変化させることと、を含む方法。
【請求項2】
前記1つまたは複数の局所領域における前記相変化材料の前記位相が、前記相変化材料の残りの部分が本質的に非晶質構造を有するように、本質的に非晶質な構造から本質的に結晶質な構造に変化される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1つまたは複数の局所領域は、第1の局所的な位相変化を生じさせる第1の領域であり、
前記方法は、前記相変化材料の層を、
前記マトリックス材料層内の前記量子エミッタのそれぞれのものに対向する第2の局所的な位相変化を得て、それぞれの前記量子エミッタにおける前記電界を局所的に変化させるために、前記相変化材料の1つまたは複数の第2の局所領域のそれぞれの位相を非晶質構造から結晶構造に変化させることと、
その前にそれぞれの前記第1の領域の前記位相を非晶質構造に戻すことと、
により再構築することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記相変化材料は、前記1つまたは複数の局所領域のそれぞれにおいて前記相変化材料の前記位相を変化させた後、前記局所領域の平均静的比誘電率が、前記残りの部分の平均静的比誘電率よりも少なくとも1.5倍大きくなる、請求項2乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記相変化材料の前記位相が、前記相変化材料の層に対して制御可能に移動される放射素子を使用して、前記1つまたは複数の局所領域のそれぞれにおいて変化され、前記放射素子が、レーザデバイスおよび加熱されたナノスケールプローブチップのうちの1つを含む、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
個々の前記量子エミッタの電磁放射を互いに結合させるように、前記電界を印加し、前記相変化材料の前記位相を変化させる、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記量子エミッタの1つの電磁放射を、前記層状構造を含む共振器の光共振器モードと結合させるように、前記電界を印加し、前記相変化材料の前記位相を変化させる、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記電界が前記マトリックス材料層に平行に印加される、前記請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
2つの電極と層状構造とを含む発光デバイスであって、後者は、相変化材料の層と、1つまたは複数の量子エミッタを埋め込むマトリックス材料層とを含み、前記マトリックス材料層は、前記相変化材料の層上と2つの電極間とに延びている、発光デバイスと、
前記2つの電極に接続された電気回路であって、動作時に、前記量子エミッタの発光波長を変化させるように、前記2つの電極を介して、前記マトリックス材料層と前記相変化材料の層とを通して電界を発生させるように構成された電気回路と、
前記マトリックス材料層内の前記量子エミッタのそれぞれに対向する局所的な位相変化を得て、それぞれの前記量子エミッタにおける前記電界を局所的に変化させるために、前記相変化材料の1つまたは複数の局所領域のそれぞれにおいて、前記相変化材料の位相を不揮発的に制御可能に変化させるように構成された放射デバイスと、を含む装置。
【請求項10】
前記放射デバイスは、レーザデバイスおよび加熱可能なナノスケールプローブチップのうちの1つである放射素子であり、
前記装置は、前記放射素子を前記層状構造に対して制御可能に移動させるように構成されている、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記装置は、さらに、横方向の精度を特徴付ける距離が、前記量子エミッタ間の平均横方向離間距離よりも小さい状態で、前記放射素子で前記層状構造を走査するように構成され、前記横方向離間距離は、前記層状構造の平均平面に平行な方向に沿って測定される、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
相変化材料の層と、1つまたは複数の量子エミッタを埋め込むマトリックス材料層とを含む層状構造であって、前記マトリックス材料層が前記相変化材料の層の上に延びている、層状構造と、
前記マトリックス材料層と前記相変化材料の層を通して電界を発生させ、動作時に前記量子エミッタの発光波長を変化させるために、前記層状構造の両側に配置された2つの電極と、を含み、
前記相変化材料は、前記相変化材料の残りの部分の位相とは異なる位相を有する1つまたは複数の局所領域を含み、それにより、動作時に、それぞれの前記量子エミッタにおける前記電界を局所的に変化させるように、前記マトリックス材料層内の前記量子エミッタのそれぞれのものに対向する局所的な相変化を形成する、発光デバイス。
【請求項13】
前記相変化材料は、GeSbTeおよびHfO2のうちの1つを含む、請求項12に記載の発光デバイス。
【請求項14】
前記マトリックス材料層は、結晶材料およびポリマー材料のうちの1つを含み、
前記量子エミッタは、エピタキシャル成長した半導体量子ドット、コロイド量子ドット、および有機エミッタのうちの1つを含む、請求項12乃至13のいずれか1項に記載の発光デバイス。
【請求項15】
前記マトリックス材料層における前記量子エミッタ間の平均距離が50nm以上である、請求項12乃至14のいずれか1項に記載の発光デバイス。
【請求項16】
前記局所領域の平均的な面内寸法は、50から5000nmであり、前記平均的な面内寸法は、前記マトリックス材料層の平均平面に平行な方向に沿って測定される、請求項12乃至15のいずれか1項に記載の発光デバイス。
【請求項17】
前記局所領域の平均厚さが1nm以上であり、前記厚さは、前記マトリックス材料層に対して垂直に、前記マトリックス材料層と前記相変化材料の層との間の界面から測定される、請求項12乃至16のいずれか1項に記載の発光デバイス。
【請求項18】
前記相変化材料の層の平均厚さが50nmから200nmであり、前記マトリックス材料層の平均厚さが20nmから200nmである、請求項12乃至17のいずれか1項に記載の発光デバイス。
【請求項19】
前記局所領域の平均的な静的比誘電率が、前記残りの部分の平均的な静的比誘電率の少なくとも2倍である、請求項12乃至18のいずれか1項に記載の発光デバイス。
【請求項20】
基板であって、その上に前記相変化材料の層が延びており、後者が前記基板と前記マトリックス材料層との間にある、基板と、
電極が前記基板上にパターニングされ、前記層状構造が前記電極間に延びる、電極と、をさらに備える、請求項12乃至19のいずれか1項に記載の発光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願につながるプロジェクトは、スイスから資金提供を受けている(QuantERAプロジェクト「RouTe」、スイス国立科学財団助成金契約20QT21_175389)。
【0002】
本開示は、量子エミッタの発光波長を調整することに関し、より具体的には、量子エミッタの電界を局所的に変化させる相変化材料に関する。
【背景技術】
【0003】
いくつかの量子情報処理コンセプトは、単一光子エミッタ(例えば、分子や量子ドットなどの量子エミッタ)を含み、(i)単一量子エミッタのオンチップ発光を光共振器モードに結合させる、または(ii)個々の量子エミッタを互いに結合させることに基づいている。
【発明の概要】
【0004】
実施形態によれば、方法、装置、およびデバイスが開示される。
【0005】
第1の態様によれば、本開示は、量子エミッタの発光波長を調整する方法として具現化される。この方法は、層状構造、例えば二層構造を有するデバイスに依存する。この層状構造は、相変化材料の層とマトリックス材料層とを含み、後者が1つまたは複数の量子エミッタを埋め込む。次に、シュタルク効果やその他の関連効果によって量子エミッタの発光波長を変化させるために、マトリックス材料層と相変化材料の層を通して電界を印加する。最後に、相変化材料(PCM)の位相が、PCMの1つまたは複数の局所領域のそれぞれにおいて、例えば非晶質から結晶質へと、不揮発的に変化する。すなわち、局所領域におけるPCMの位相は、好ましくは、PCMの残りの部分が本質的に非晶質な構造を有するように、本質的に非晶質な構造から本質的に結晶質な構造へと変化される。
【0006】
これらの局所領域は、局所的な位相変化を形成し、マトリックス材料層内の量子エミッタのそれぞれの位相変化とは反対(例えば、対向)である。これにより、それぞれの量子エミッタにおける電界が局所的に変化する。その結果、PCM層の選択された領域において位相を制御可能に変化させることにより、量子エミッタの発光波長を個別に、例えばプログラム的に調整することが可能になる。
【0007】
エミッタの位置での電界の変化は、例えば結晶相に達した後の相変化後の静的誘電率の変化のために起こる。これにより、各エミッタが経験する局所的な電界強度を変化させることが可能となり、したがってシュタルク効果の強度を変化させることができる。これにより、各量子エミッタの発光波長を個別に調整することができる。チューニングの程度は、(位相が変化した)局所領域の形状と、位相が変化する程度(例えば、これらの領域におけるPCMの結晶化度)に依存する。
【0008】
従って、上記方法は、例えば、量子情報処理用途、より一般的には、実施形態のように、(i)個々の量子エミッタの電磁放射を互いに結合すること、(ii)個々の量子エミッタを所定の波長の光と結合すること(例えば、遠隔の量子エミッタと結合すること)、又は(iii)予め定められた量子エミッタを、層状構造を含むキャビティの1つ以上の光キャビティモードと結合することを必要とする用途において、有利に利用することができる。
【0009】
好ましくは、1つ以上の局所領域は、第1の局所的な相変化を生じさせる第1の領域であり、本方法はさらに、以下のようにしてPCM層を再構築することを含む。(i)PCMの1つ以上の第2の局所領域のそれぞれの位相を非晶質構造から結晶構造に変化させる前に、1つ以上の第1の領域のそれぞれの位相を非晶質構造に戻す。第1の領域と同様に、第2の局所領域は、第2の局所的な相変化を生じさせ、これは、マトリックス材料層内のそれぞれの量子エミッタとは反対である。しかし、サイズや数は異なる。これにより、それぞれの量子エミッタにおける電界が、以前とは異なる程度ではあるが、再び局所的に変化する。
【0010】
好ましい実施形態において、PCMは、1つ以上の局所領域のそれぞれにおいてPCMの位相を変化させた後、局所領域の平均静的比誘電率が、PCM層の残りの部分の平均静的比誘電率よりも少なくとも1.5倍大きくなるようなものである。
【0011】
好ましくは、PCMの位相は、PCM層に対して制御可能に移動される放射素子を用いて、局所領域のそれぞれにおいて変化される。放射素子は、レーザデバイスおよび加熱されたナノスケールプローブチップのうちの1つを含む。
【0012】
好ましい実施形態では、電界はマトリックス材料層に平行に印加される。変形例では、電界は層構造に対して横方向に印加される。
【0013】
別の態様によれば、本開示は、発光デバイス、電気回路、および放射デバイスを含む装置として具現化される。発光デバイスは、2つの電極と層状構造とを含む。後者は、PCM層と、量子エミッタを埋め込むマトリックス材料層とを含む。マトリックス材料層はPCM層上に延びている。さらに、2つの電極間に、例えば垂直または水平(例えば横方向)に延びている。電気回路は、2つの電極に接続され、2つの電極を介して、量子エミッタの発光波長を変化させるように、マトリックス材料層と相変化材料の層とを通して電界を発生させるように設定される。放射デバイスは、PCMの1つまたは複数の局所領域のそれぞれにおいて、PCMの位相を不揮発的に制御可能に変化させるように設定される。本開示の第1の態様と同様に、局所領域は、マトリックス材料層内の量子エミッタのそれぞれのものと対向する(例えば、向かい合って)。これらの領域でPCMの位相を変化させると、動作時に、それぞれの量子エミッタの電界が局所的に変化する。
【0014】
実施形態では、放射デバイスは、レーザデバイスおよび加熱可能なナノスケールプローブチップのうちの1つである放射素子を含む。装置は、放射素子を層状構造に対して制御可能に移動させるように構成され、局所領域においてPCMの位相を容易に変化させることを可能にする。
【0015】
例えば、装置は、層状構造もしくは放射素子又はその両方を横方向に移動させることによって、放射素子と共に層状構造を走査するように設定され得る。なお、(分解能の意味で)横方向の精度を特徴付ける距離は、好ましくは、量子エミッタ間の平均横方向離間距離よりも小さい。横方向の分離距離は、層状構造の平均平面に平行な方向に沿って測定される。
【0016】
最終的な態様によれば、本開示は発光デバイスとして具現化される。このデバイスは、層状構造を含み、PCM層と、1つまたは複数の量子エミッタを埋め込むマトリックス材料層とを有する。マトリックス材料層はPCM層上に延びている。さらに、このデバイスは、マトリックス材料層の両側に配置された2つの電極を含む。この電極により、マトリックス材料層と相変化材料の層とを通して電界を発生させ、量子エミッタの発光波長を変化させることができる。本開示の他の態様と同様に、PCMは、マトリックス材料層内の量子エミッタのそれぞれのものに対向する1つまたは複数の局所領域をさらに含む。局所領域は、PCM層の残りの部分の位相とは異なる位相を有する。その結果、局所領域は、デバイスの動作時に、それぞれの量子エミッタにおける電界を局所的に変化させる。
【0017】
発光デバイスは典型的には基板を含み、その上にPCM層が延びている。例えば、PCM層は基板とマトリックス材料層との間にある。本開示の前の態様に関して上述したように、電極は、垂直または水平(例えば、横方向)の構成を有してもよい。例えば、横方向の構成では、電極は、層状構造が電極間に延びるように、基板上に直接パターニングされてもよい。
【0018】
好ましくは、PCMはGeSbTeまたはHfO2を含む。そのほか、マトリックス材料層は、例えば、結晶材料またはポリマー材料から構成されてもよく、量子エミッタは、エピタキシャル成長した半導体量子ドット、コロイド量子ドット、または色素およびオリゴマーなどの他のエミッタを含む有機エミッタを含んでもよい。他の材料の組み合わせも考えられる。
【0019】
好ましい実施形態では、局所領域の平均静的比誘電率は、残りの部分の平均的な静的比誘電率の少なくとも2倍である。
【0020】
実施形態において、マトリックス材料層内の量子エミッタ間の平均距離は、50nm以上である。さらに、局所領域の平均的な面内寸法は、好ましくは50から5000nmである。すべての面内寸法は、マトリックス材料層(または層状構造)の平均平面に平行な方向に沿って測定される。一方、局所領域の平均厚さは、好ましくは1nm以上であり、この厚さは、マトリックス材料層に対して垂直に、マトリックス材料層とPCM層との間の界面から測定される。
【0021】
PCM層の平均厚さは好ましくは50nmから200nmの間であり、マトリックス材料層の平均厚さは好ましくは20nmから200nmの間である。ここでも、このような厚さはそれぞれの層に対して垂直に測定される。
【0022】
上記の要約は、図示された各実施形態または本開示のすべての実施形態を説明することを意図するものではない。
【0023】
本出願に含まれる図面は、本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する。これらは、本開示の実施形態を例示するものであり、本明細書と共に、本開示の原理を説明する役割を果たす。図面は、特定の実施形態を例示するものに過ぎず、本開示を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1A】本開示のいくつかの実施形態による発光デバイスの二次元断面図である。
図1B】本開示のいくつかの実施形態による発光デバイスの二次元上面図である。
図2A】本開示のいくつかの実施形態による装置の選択された構成要素を示す。
図2B】本開示のいくつかの実施形態による装置の選択された構成要素を示す図である。
図3】本開示のいくつかの実施形態による量子エミッタの発光波長をチューニングする方法を示すフローチャートである。
【0025】
本発明は、様々な変更および代替形態に従うが、その具体的な態様を図面に例示的に示し、詳細に説明する。しかしながら、本発明を説明した特定の実施形態に限定する意図はないことを理解されたい。それどころか、その意図は、本発明の精神および範囲内に入るすべての変更、等価物、および代替物をカバーすることである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本開示の態様は、量子エミッタの発光波長を調整することに関し、より特定の態様は、量子エミッタにおける電界を局所的に変化させるための相変化材料に関する。本開示は、必ずしもこのような用途に限定されるものではないが、本開示の様々な側面は、この文脈を用いた様々な実施例の議論を通じて理解され得る。
【0027】
いくつかの量子情報処理コンセプトは、単一光子エミッタ(例えば、分子や量子ドットなどの量子エミッタ)を含み、(i)単一量子エミッタの発光を光共振器モードにオンチップ結合させる、または(ii)個々の量子エミッタを互いに結合させることに基づいている。
【0028】
量子エミッタは、それぞれ空洞モードまたは他の量子エミッタとの共鳴に依存している場合がある。ほとんどの量子エミッタは、わずかに異なる発光波長を有する可能性があり、その結果、アンサンブル発光の不均一なスペクトル幅が生じる。所望のカップリングを達成するために、個々の量子エミッタのスペクトル的に狭い発光スペクトルは、他の量子エミッタの発光スペクトルまたはキャビティモードのスペクトルと重なる必要がある場合がある。
【0029】
量子エミッタの発光波長をチューニングする技術としては、歪みチューニングや電界チューニングなどが知られている。しかし、このような技術は、不均一なブロードニングの有害な影響を克服するために、複数の単一エミッタを個別に調整するために使用することはできない。
【0030】
図1から図3を参照すると、本開示の一態様が最初に記載されており、それは量子エミッタ16の発光波長を調整する方法に関する。
【0031】
図2Aおよび図2Bは、実施形態による装置の選択された構成要素を示すことができる。これらの装置は、それぞれ、図1Aおよび図1Bに示されるような発光デバイス1、並びに放射素子37、38を含む。各実施形態において、発光デバイス1は、放射素子37/38に対して横方向に移動させることができ、1つ以上の層の位相を局所的に変化させることができる。
【0032】
方法によって実施することにより、特に、図1Aおよび図1Bに示すような発光デバイス1が得られる可能性がある。方法は、特に、それぞれ図2Aおよび図2Bに示すような装置101もしくは102またはその両方を用いて実施することができる。図2Aでは、放射素子37/38は、加熱されたナノスケールプローブチップであってもよく、一方、図2Bでは、放射素子37/38は、レーザデバイスであってもよい。本方法およびその変形を総称して「本方法」と呼ぶ。すべての参照Snは、図3のフローチャートの方法ステップを指し、数字の参照は、図1および図2に示すデバイス1および装置101、102の物理的な部品または構成要素に関連する。デバイス1および装置101、102は、本開示の他の態様に関係するが、後に詳細に説明する。
【0033】
図2Aおよび図2Bの方法は、例えば、図3のフローチャートのステップS10で提供されるような発光デバイスに依存してもよい。発光デバイス1は、相変化材料(PCM)層12およびマトリックス材料層15を含む層状構造12、15を有してもよい。層状構造12、15は、添付図面において想定されるように、単に二層構造であってもよい。しかしながら、層状構造12、15は、PCM層12とマトリックス材料層15との間に追加の中間層を含む可能性がある。この中間層は、例えば、接着層または保護層であってもよい。しかしながら、中間層は、以下に説明するように、構造12、15に所望の特性を保持するために、非常に薄く、例えば、10nm未満の厚さであってもよい。
【0034】
マトリックス材料層15は、1つ以上の量子エミッタ16を埋め込んでいてもよい。例えば、少なくとも1つの量子エミッタ16が関与するが、マトリックス材料層15は、図1Aおよび図1Bのように、複数の(1つ以上の)量子エミッタ16を含んでもよい。量子エミッタ16(単一光子源とも呼ばれる)は、古典的な光とは対照的に、一度に1つの光子の発光を促進することができる。いくつかのタイプの活性ナノ材料が知られており、これらは単一量子エミッタ16に設計することができ、誘電体ナノ構造における光学状態の局所密度を変化させることによって自然発光を調整することができる。量子エミッタは、例えば、単一原子、イオン、分子、または欠陥中心である。本明細書では、量子エミッタは、量子ドット、カラーセンター、有機エミッタ、カーボンナノチューブなどの固体エミッタを含むことができる。いくつかの実施形態では、量子エミッタは、エピタキシャル成長半導体量子ドット、コロイド量子ドット、または本開示の別の態様を参照して後述するように有機色素などの有機エミッタであってもよい。
【0035】
ステップS20において、電界がマトリックス材料層15とPCM層12とを通して印加される。印加される電界は、一定であってもよく、例えば、静的であってもよく、通常は一定である。印加される電界は、シュタルク効果、または他の関連する効果に起因して、量子エミッタ16の発光波長を変化させる原因となり得る。
【0036】
電界は、2つの電極10(図1Aおよび図1Bを参照)を介して、電気回路32(図2Aおよび図2Bを参照)によって印加されてもよい。図1Aおよび図1Bの例では、発光デバイス1は、光学的および電気的に受動的な基板を含んでもよい。いくつかの実施形態では、基板は光を発光せず、電気的に絶縁性であってもよい。導電性材料の電極10は、この基板11上に直接パターニングされてもよい。したがって、電極10を介して局所的に電圧を印加することができる。印加電圧は1から100Vの範囲とすることができる。
【0037】
さらに、ステップS30において、PCM12の位相は、PCMの1つ以上の局所領域14のそれぞれにおいて(例えば、不揮発的に)変更されてもよい。これらの領域は、局所的な位相変化(例えば、局所的なパターン)を形成し、これは、マトリックス材料層15内の量子エミッタ16のそれぞれのものと反対である。局所的な位相変化は、(図1Aおよび図1Bで想定されるように)単一の局所領域14によって、または2つ以上のそのような局所領域によって形成される可能性がある。局所領域はまた、様々な可能な形状を有することができる。例えば、局所変質は、(図1Aおよび図1Bにおいて想定されているように)ほぼ円筒形状を有する単一の局所領域によって形成されてもよい。しかし、局所的な変質は、位相が変化した2つ以上の局所領域によって形成されることもある。さらに、各局所領域は特定の形状を有していてもよい。例えば、ボウタイ形状を有する2つの(場合によっては分離した)領域のおかげで局所的な変化が達成されることがある。このような構造は、単純な円筒形(または何らかの円形)構造14に関して、誘電強化の効果を最大化するために求められることがある。より一般的には、局所領域の形状および数は、電界を形成もしくはその強度を調整またはその両方をするために最適化することができる。
【0038】
すべての場合において、領域14は、量子エミッタに関係する局所的な位相変化を形成する。すなわち、局所的な位相変化は、図1Aおよび図1Bにおいて想定されるように、PCM層12におけるエミッタ16の直交する投影を取り囲むか、または含む。位相が変化した横方向に対向する領域によって形成されるボウタイ変化(不図示)の例では、電界ホットスポットは、(三角形の面内形状を有する)2つの局所領域の間に位置する。つまり、この場合、エミッタの直交投影は、理想的には2つの対向するボウタイ領域の間に位置する。
【0039】
なお、数字の参照1は、PCM層12の選択された領域14の位相を局所的に変化させた後に得られる発光デバイスを示す場合がある。
【0040】
これらの領域14でPCMの位相を変化させると、図1Aおよび図1Bに示されるように、それぞれの量子エミッタ16における電界が局所的に変化する。印加される電界は破線20として描かれている。例えば、これらの例では、電界は、各点における方向が電界の方向と同じである線20のような線の集合で概略的に視覚化される。電界は、位相が変化したPCM領域14のおかげで、量子エミッタの近傍で変化する。
【0041】
フィールドの変更により、量子エミッタの発光波長をプログラム的に個別に調整することが可能になる。例えば、局所領域14の寸法および結晶状態は、所望の発光波長を達成するために必要に応じて変化させることができる。注記すると、量子エミッタの発光スペクトルは、発光波長を適切に調整するために、(例えば、PCM層12をプログラミングするS30中に)リアルタイムで監視される可能性がある。いくつかの実施形態において、プログラミングステップS30は、スペクトル測定ステップと混在され、発光波長を徐々に(例えば、段階的に)調整する。幾つかの実施形態では、S30で既知の寸法の領域14を直接形成するために、例えば、所定の時間持続中に所定の量の放射(熱又は光)を印加することによって、関連する手順が適用される。
【0042】
PCM領域14は、好ましくは、加熱されたナノスケールプローブチップ37(図2A)またはレーザデバイス38(図2B)のような放射素子37、38を用いてS30で得られる。放射素子37、38は、PCMの位相を(例えば、非晶質から結晶質へ)不揮発的に局所的に変化させることができる。これは、PCM層12を「プログラム」することに相当する。変化が「不揮発性」であるということは、放射(光または熱)を遮断した後でも相変化が安定したままであることを意味する。いくつかの実施形態を参照して後述するように、層状構造12、15を動作させるために必要に応じて、デバイス1を再プログラムすることができる。そのため、PCMは、相変化領域14が安定であるが必ずしも不可逆でないように選択することができる。
【0043】
なお、ステップS30は、ステップS20の後に実行されてもよい。幾つかの実施形態では、電界は、局所領域14におけるPCMの位相を変化させた(ステップS30)後に印加されてもよい(ステップS20)。
【0044】
エミッタ16の位置における電界の変更は、例えば、結晶相に達すると、相変化に伴って得られる静的誘電率の変化のために生じる可能性がある。これにより、各エミッタ16が経験する局所的な電界強度を変化させることができ、したがって、シュタルク効果の強度を変化させることができる。変化させる能力は、各量子エミッタ16の発光波長を個別に調整する能力を可能にする可能性がある。チューニングの程度は、(位相が変更された)局所領域14の幾何学的形状および位相が変更される程度、例えば、これらの領域におけるPCMの結晶化度の量に関連し得る。
【0045】
ここで図1A、1Bを参照すると、PCM12、14の位相は、局所領域14において、上述のように、非晶質構造、または本質的に非晶質構造から、結晶構造、または本質的に結晶構造へと変更S30されてもよい。その結果、PCMの残りの部分12は非晶質構造を含むことができる。
【0046】
PCM12の2相間の静的比誘電率の十分な差が求められうる。ゼロ周波数に対する材料の比誘電率は、その静的比誘電率として知られている。特に、PCMは、有利には、各局所領域14においてPCM12、14の位相をS30で変化させた後、局所領域14の静的比誘電率が残りの部分12の静的比誘電率よりも少なくとも1.5倍大きくなる(または少なくとも2倍大きくなる)ように選択することができる。なお、本明細書では、静的比誘電率は実効(または平均)誘電率であってもよい。PCM12、14の2つの位相の間の静的比誘電率は、電界密度の十分な変化を生じさせるために、2とは言わないまでも、少なくとも1.5の係数だけ異なることがある。しかし、このファクターは、満足のいく結果を提供しながらも、実際には2よりわずかに小さくなる可能性がある。
【0047】
例えば、Ge2Sb2Te5のようなPCMは、非晶質相の静的誘電率が約16であるのに対し、正方晶相の静的誘電率は約30である。このような材料は、約1.875の比率で電界密度の十分な変化を得ることを可能にする。一部の実施形態では、HfO2を使用することで性能が得られる場合があり、この場合、非晶質相の静的誘電率が約25であるのに対し、正方晶相の静的誘電率は約125となり、この比は約5に相当する。
【0048】
本発明の方法は、図3のフローチャートにおいてステップS40によって示されるように、(i)個々の量子エミッタの電磁放射を互いに結合すること、(ii)個々の量子エミッタと所定の波長の光(例えば、遠隔の量子エミッタの)とを結合すること、または(iii)量子エミッタの1つと層状構造の光共振器モードとを結合することを必要とする用途において使用することができる。
【0049】
PCMは、場合によっては、例えば図3のように再プログラムされてもよい。すなわち、変化した位相の第1の局所領域14を得るためにPCMを局所的に変化させた後、PCM層12は、第1の領域14の一部またはそれぞれにおける位相を変化させそれらの非晶質構造に戻すS60によって再構築されてもよい。例えば、1つ以上の第2の局所領域14のそれぞれにおけるPCM相を非晶質から結晶質に変化させるS20の前に、PCMの初期状態が復元される。第1の局所領域によって引き起こされる第1の局所的変化のように、第2の局所領域14によって引き起こされる第2の局所的変化は、層15内のそれぞれの量子エミッタ16に関連している。この場合も、量子エミッタ16における電界を局所的に変化させる可能性がある。すなわち、第2の変化は、典型的には、第2の局所領域における結晶領域のおかげで、量子エミッタ16に関連して形成され、第2の変化は、PCM層における量子エミッタの直交投影を部分的に取り囲むか、または含むことができる。第2の領域は、大きく(または小さく)、厚く(または薄く)なるものの、第1の領域とほぼ同様であってもよい。さらに、再プログラミングは、別個の領域に関係してもよい。例えば、PCMは、以前のプログラミングサイクルと比較して、より多くの(またはより少ない)数の第2の領域14において、または完全に異なる領域(異なる量子エミッタに関連して局所的な変化を形成する)において、位相を変化させるように再プログラムされる可能性がある。必要であれば、電界は、局所領域14の位相を初期(非晶質)位相に戻す変更S60の前に、スイッチオフされてもよい(ステップS50)。
【0050】
ここで図2Aおよび図2Bをより具体的に参照すると、PCM層12に対して制御可能に移動される放射素子37、38を用いて、PCM12、14の位相をS30で変化させることができる。放射素子は、特に、加熱されたナノスケールプローブチップ37またはレーザデバイス38を含んでもよい。すなわち、PCMの位相は、例えば、マトリックス材料層15(または基板11)を介して、1つまたは複数の局所領域14のそれぞれに光または熱の形態のエネルギーを局所的に印加することによって変化させることができる。
【0051】
図2Bの例では、相変化はレーザデバイス38によって生成されたレーザビームによって達成される。この例では、レーザビームは、マトリックス層15を通して、上からPCM層12に当たる。変形例では、PCM層12は、レーザビームを下から、例えば十分に透過性のある基板11を通して当てることによって構造化されてもよい。図2Aの例では、局所領域14は、加熱されたナノスケールプローブチップ37によって得られる。レーザデバイス38と同様に、プローブ33、37は、装置101内で独立して制御および作動させることができる。複数のプローブチップを同時に使用することも可能である。しかしながら、単一のプローブチップ37に依存する実施形態も考えられる。例えば、比較的少数の領域14(典型的には100以下のオーダー)が形成される場合、もしくは小さな体積を有する可能性のある領域14が形成される場合、またはその両方の場合である。正確で局所的な操作に必要な時間は、1秒以下のオーダーであってもよい。プローブ33、37は、プローブ先端と熱的に接触している加熱素子(不図示)を介して、またはプローブ33に電気信号を印加してジュール加熱によりプローブを加熱することにより、加熱される可能性がある。一般に、走査型トンネル顕微鏡(STM)や原子間力顕微鏡(AFM)に由来する技術を使用することができる。
【0052】
本開示の別の態様は、本開示による方法を実施するために使用され得る装置101、102に関連し得る。ここで図2Aおよび図2Bを参照して説明されるような、そのような装置の2つの例である。
【0053】
これらの装置101、102は、発光デバイス1、電気回路32、放射デバイスを含んでいてもよい。さらに、装置101、102は、移動ステージと同様に、様々な制御装置34、35および電気回路を含んでもよい。
【0054】
発光デバイス1は、2つの電極10と層状構造12、15を含むことができる。電極10はオンチップで形成されてもよい。層状構造は、PCM層12と、PCM層12の上に延びるマトリックス材料層15とを含むことができる。量子エミッタ16はマトリックス材料層に埋め込まれてもよい。マトリックス材料層15がPCM層12の上に延びているということは、選択された方向によっては、それがPCM層12の上またはPCM層12の下にあることを示す可能性があることに留意されたい。
【0055】
層15は、さらに、2つの電極10の間に、例えば、垂直または水平(横方向)に延びていてもよい。すなわち、電極は、層構造に対して横方向の各側(上側および下側)に配置されてもよい。層12および15は、好ましくは、互いに直接接触している(それゆえ、二層構造を形成している)ので、電極は、縦または横の構成のいずれかで、両方の層12、15を挟んでもよい。図1Aおよび図1Bに示す発光デバイス1は、例示的な、水平な構成を描いている。
【0056】
電気回路32は、2つの電極10に接続することができる。この回路32は、2つの電極10を介して、マトリックス材料層15とPCM層12とを介して電界を発生させるように構成される。動作において、電界は、先に説明したように、量子エミッタ16の発光波長に変化を引き起こす可能性がある。
【0057】
放射デバイスは、PCMの選択された局所領域14において、不揮発的に、PCMの位相を制御可能に変化させるように構成されてもよい。先に説明したように、そのような領域14は、動作時に、それぞれの量子エミッタ16における電界を局所的に変化させるために、マトリックス材料層15における量子エミッタ16のそれぞれのものに対向して形成されてもよい。例えば、放射素子37、38を用いて達成される。いくつかの実施形態では、放射素子は、レーザデバイス38であってもよい。他の実施形態では、放射素子は、加熱可能なナノスケールのプローブ先端部37であってもよく、例えば、先端部37は、一般にSPL技術から関連するようなカンチレバー33(図2A)に取り付けられてもよい。いずれの場合も、装置101、102は、放射素子37、38を層状構造12、15に対して制御可能に移動させるように構成することができる。すなわち、位相の変化した選択された領域14を得ることができるように、層状構造12、15および放射素子37、38を互いに対して制御可能に動かすことができる。
【0058】
いくつかの実施形態では、装置101、102は、放射素子37、38を層状構造12、15に対して相対的に走査するように構成され得る。注意すると、(解像度の意味で)横方向の精度を特徴付ける距離は、量子エミッタ16間の平均的な横方向の分離距離よりも小さくてもよい(または実質的に小さくてもよい)。この横方向の分離距離は、層状構造の平均平面に平行な方向に沿って測定されてもよく、例えば、図1から図2の例では、平面(x,y)に平行である。例えば、装置101、102は、発光デバイス1が搭載され得るホルダ31から構成され得る。ホルダは、それ自体がx-yステージ31に取り付けられていてもよいし、例えば図2A図2Bにおいてその一部を形成していてもよい。x-yステージ31は制御システム35に接続されていてもよい。さらに、制御装置34が制御システム35と放射素子37、38の両方に接続され、放射素子37、38を層状構造12、15の上方の最適な垂直位置に垂直に移動させることができる。
【0059】
次に、図1Aおよび図1Bを参照して、発光デバイス1に関する別の態様について説明する。先に説明したように、デバイス1は、層状構造、例えば、PCM層12、14、ならびにその中に埋め込まれた量子エミッタ16を有するマトリックス材料層15を含んでもよく、ここで、マトリックス材料層15は、PCM層12、14上に延びてもよい。さらに、デバイス1は、垂直または水平(例えば、横方向)のいずれかの構成で、層状構造の両側に配置された2つの電極10を含むことができる。
【0060】
電極10は、動作中に、量子エミッタ16の発光波長を変化させるために、マトリックス材料層15を通して電界を発生させることができる。さらに、PCM層12、14をプログラミングした結果、発光デバイス1は、マトリックス材料層15内の量子エミッタ16のそれぞれのものと対向する1つまたは複数の局所領域14を含むことができる。局所領域14の位相は、PCM層の残りの部分12の位相とは異なる場合があり、動作時に、それぞれのエミッタ16における電界の局所的な修正を引き起こす場合がある。
【0061】
電極10には様々な形状が考えられる。いくつかの実施形態では、電極10は、対向する平行六面体の形状であってもよい。いくつかの実施形態では、電極10は、同心円状のリングを形成してもよく、もしくは2つ以上の電極を含んでもよく、またはその両方であっても良い。例えば、層状領域の両側に4つの電極があり、これにより、電界方向は、層状構造に平行な面内の任意の方向に設定され得る。いくつかの実施形態では、電極10は、例えば、局所的に場の向きを変えることができるように、より小さなサブ領域に層状領域を細分化するためのアレイを形成することができる。さらに、このような細分化は、それぞれの電極10に印加される電圧を変化させることによって、量子エミッタのサブセットのみの発光波長を動的に変化させるために使用され得る。水平配置において、電極10間の距離は2から1000マイクロメートルであってもよい。電極10間の距離は、10マイクロメートルから100マイクロメートルの間であってもよい。電極10間の距離は、十分に高い電界(0.1から1MV/cm)を可能にする可能性がある。電極を垂直に配置することで、よりコンパクトな構造を実現できる。
【0062】
前述したように、PCM12、14は、特に酸化ハフニウム(IV)(HfO2)を含み得る。いくつかの実施形態では、PCM層は、ゲルマニウム-アンチモン-テルル合金(GeSbTe、または略してGSTと記載)、またはより一般的には、Ge、Sb、およびTeのそれぞれ、ならびにSeなどの追加元素を含む合金を含む。PCM層は、例えば、前述したように、Ge2Sb2Te5を含むことができる。いくつかの実施形態では、PCM層は、広帯域透明性(1から18.5μm)と大きな光学コントラスト(Δn=2.0)とを組み合わせたGe2Sb2Se4Te1を含むことができる。先に述べたように、このような材料は、局所領域14と残りの部分12における有効な静的比誘電率の間に約1.5(またはそれ以上)のファクターを達成することを可能にする。
【0063】
マトリックス材料層15は、例えば、結晶材料またはポリマー材料であってよい。結晶性材料の好適な例としては、結晶性半導体や、ペンタセン、ジベンゾテリレン、テリレンなどの有機結晶を挙げることができる。適切なポリマーの例としては、ポリスチレン、ポリ(メチルメタクリレート)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンなどが挙げられる。
【0064】
量子エミッタ16は、エピタキシャル成長した半導体量子ドット、例えばInAs/GaP量子ドット、又は電界チューニングに適した他の関連量子ドットを含むか、又はこれらからなることができる。いくつかの実施形態では、量子エミッタ16は、コロイド量子ドット、例えば、II-VIもしくはIII-V半導体、またはペロブスカイトを含むか、またはそれらから構成されてもよい。エミッタ16は、セレン化カドミウム(CdSe)、例えば、n型のII-VI半導体、または金属ハロゲン化物ペロブスカイト(APbX3、ここで、A=Cs、CH3NH3、または(NH2CHNH2)1-x(CH3NH2)xであり、0≦x≦1であり、X=Cl、Br、またはIである)を含んでもよい。いくつかの実施形態では、単一分子(有機色素など)が使用され得る。量子エミッタの他の例は、先に列挙したように企図され得る。
【0065】
層状構造12、14、15は、1つ以上を含む基板などの光学的および電気的に受動的な基板11によって支持され得る。Si、GaAs、GaP、InP、酸化物(SiO2やAl2O3など)、ガラスなどである。基板は、デバイス1に機械的安定性を与えることができる。完全を期すために、電気接点(電極)10は、金、銀、アルミニウム、酸化インジウムスズ(ITO)、タングステン、またはドープされた半導体などの任意の適切な電気導体から構成されてもよい。
【0066】
図1A、1Bに描かれているようないくつかの実施形態では、基板11は層状構造12、14、15を支持する。PCM層12、14は、基板11とマトリックス材料層15との間に挟まれてもよい。電極10は、基板11上に横方向にパターニングされてもよい。すなわち、層状構造12、15は、電極10の間に横方向に延びている。その場合、電界は層状構造12、14、15に平行にS20で印加される。変形例として、電極がITOのような十分に透明な材料、またはドープされた半導体から作られ、電界が基板面に対して垂直に印加されることを可能にする垂直電極構成も考えられる。
【0067】
すなわち、図1Aおよび図1Bの例では、デバイス1は、基板11の上にあるPCM層12、14の上にあるマトリックス層15を含むことができる。しかしながら、変形例では、それ自体が基板の上にあるマトリックス層の上にPCM層を含む、別個のシーケンスが企図され得る。このような構造は、いずれも横方向の電極構成を有することができる。さらに、例えば、上部電極層が二層構造(マトリックス-PCMまたはPCM-マトリックス)の上に延び、それ自体が下部電極層と基板の上に延びる縦型構成も考えられる。その場合、上部電極は、レーザプログラミングと量子エミッタからの光抽出を可能にするために、光学的に透明な材料(例えば、ITO)から作製することができる。
【0068】
量子エミッタ16は、例えば、放射素子37、38の限られた分解能が局所領域14を形成するために使用されるいくつかの実施形態において、マトリックス層15において少なくとも50nm(平均)だけ離間していてもよい。いくつかの実施形態では、量子エミッタ16は、少なくとも50nm(平均)だけ横方向に離間していてもよい。すなわち、(x,y)平面に平行に測定される分離距離は、50nmより大きいか等しくてもよい。分離距離は、PCMプログラミングS30に関して個別にアドレス指定可能な量子エミッタ16が、電界調整によってそれらの発光波長を個別に調整することを容易にし得る。幾つかの実施形態では、より小さい放射分解能が利用可能である場合には、より小さい分離距離が考えられる。
【0069】
局所領域14の平均、面内寸法は、例えば、図1Aおよび図1Bの例のように、局所的な変化が、それぞれ、単一の領域14によって形成される場合、量子エミッタの平均、面内寸法よりも大きくてもよい。例えば、局所領域は、おおよそ円筒形状を有してよい。それでも、前述したように、局所領域は、任意の適切な形状を有してもよく、局所パターン(例えば、変質)を形成するようにグループ化されてもよく、局所パターンは、それぞれの量子エミッタの投影位置を取り囲むか、または含む。例えば、局所領域14の平均、面内寸法は、50から5000nmの間であってよい。面内寸法は、マトリックス材料層15(または層状構造)の平均面に平行な方向に沿って測定され、例えば、図1Aおよび図1Bの(x,y)に平行である。いくつかの実施形態では、領域14は、単一の量子エミッタに関連して形成されてもよく、この領域の面内寸法は、量子エミッタ間の平均、面内離間距離と同じオーダーであってもよい。しかしながら、単一の領域14は、複数の量子エミッタ16と重なる可能性がある(それにより、一度に複数のエミッタを調整する)。
【0070】
いくつかの実施形態では、局所領域14の平均厚さ(または深さ)は、典型的には、1nmより大きいか、または1nmに等しいことがある。この厚さは、マトリックス材料層15に対して垂直に、例えば添付図面の方向zに沿って測定される。さらに、領域14は典型的にはマトリックス材料層15との界面の真下に形成されるため、領域の厚さはマトリックス材料層15とPCM層12との界面から測定することができる。
【0071】
なお、領域14の深さは、図1Aで想定されるように、PCM層12、14の厚さに等しくてもよい。量子エミッタの発光波長におけるPCM光吸収は、例えば、エミッタ波長における吸収が低い材料もしくは十分に薄い層またはその両方を使用することによって、小さく保たれ得る。その結果、PCM層12、14の平均厚さは、50nmから200nmであってよく、いくつかの実施形態では100nm未満である。一方、マトリックス材料層15の平均厚さは、20nmから200nmの間であってもよい。
【0072】
本開示は、限られた数の実施形態、変形例、および添付の図面を参照して説明されてきたが、当業者には、本開示の範囲から逸脱することなく、様々な変更がなされ得、等価物が置換され得ることが理解されよう。特に、所定の実施形態、変形例、または図面に示された特徴(デバイスのようなまたは方法のような)は、本開示の範囲から逸脱することなく、別の実施形態、変形例、または図面における別の特徴と組み合わされてもよく、または置き換えられてもよい。上記実施形態または変形例のいずれかに関して記載された特徴の様々な組み合わせが、添付の特許請求の範囲の範囲内に留まり、それに応じて企図され得る。さらに、本開示の範囲から逸脱することなく、特定の状況または材料を本開示の教示に適合させるために、多くの軽微な修正を行うことができる。したがって、本開示は、開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、本開示は、添付の特許請求の範囲に属する全ての実施形態を含むことが意図される。加えて、上記で明示的に触れた以外の多くの変形例が想定され得る。例えば、本明細書で明示的に言及した材料以外の材料が想定され、さらなるデバイス(および電極)形状が使用され得るなどである。
【0073】
本発明の様々な実施形態の説明は、例示の目的で提示されているが、網羅的であることを意図するものではなく、開示される実施形態に限定されることを意図するものでもない。本発明の範囲および精神から逸脱することなく、多くの修正および変更が可能であることは当業者には明らかであろう。本明細書で使用される用語は、実施形態の原理、市場で見られる技術に対する実際の適用または技術的改善を最もよく説明するため、または当業者が本明細書に記載の実施形態を理解できるようにするために選択された。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
【手続補正書】
【提出日】2024-01-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子エミッタの発光波長を調整する方法であって、
相変化材料の層とマトリックス材料層を含む層状構造を有するデバイスを提供することであって、前記マトリックス材料層は1つまたは複数の量子エミッタを埋め込む、提供することと、
前記量子エミッタの前記発光波長を変化させるために前記マトリックス材料層と前記相変化材料の層とを通して電界を印加することと、
前記マトリックス材料層内の前記量子エミッタのそれぞれのものに対向する局所的な位相変化を得て、それぞれの前記量子エミッタにおける前記電界を局所的に変化させるために、前記相変化材料の1つまたは複数の局所領域のそれぞれにおいて、前記相変化材料の位相を不揮発的に変化させることと、を含む方法。
【請求項2】
前記1つまたは複数の局所領域における前記相変化材料の前記位相が、前記相変化材料の残りの部分が本質的に非晶質構造を有するように、本質的に非晶質な構造から本質的に結晶質な構造に変化される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1つまたは複数の局所領域は、第1の局所的な位相変化を生じさせる第1の領域であり、
前記方法は、前記相変化材料の層を、
前記マトリックス材料層内の前記量子エミッタのそれぞれのものに対向する第2の局所的な位相変化を得て、それぞれの前記量子エミッタにおける前記電界を局所的に変化させるために、前記相変化材料の1つまたは複数の第2の局所領域のそれぞれの位相を非晶質構造から結晶構造に変化させることと、
その前にそれぞれの前記第1の領域の前記位相を非晶質構造に戻すことと、
により再構築することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記相変化材料は、前記1つまたは複数の局所領域のそれぞれにおいて前記相変化材料の前記位相を変化させた後、前記局所領域の平均静的比誘電率が、前記残りの部分の平均静的比誘電率よりも少なくとも1.5倍大きくなる、請求項2乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記相変化材料の前記位相が、前記相変化材料の層に対して制御可能に移動される放射素子を使用して、前記1つまたは複数の局所領域のそれぞれにおいて変化され、前記放射素子が、レーザデバイスおよび加熱されたナノスケールプローブチップのうちの1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
個々の前記量子エミッタの電磁放射を互いに結合させるように、前記電界を印加し、前記相変化材料の前記位相を変化させる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記量子エミッタの1つの電磁放射を、前記層状構造を含む共振器の光共振器モードと結合させるように、前記電界を印加し、前記相変化材料の前記位相を変化させる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記電界が前記マトリックス材料層に平行に印加される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
2つの電極と層状構造とを含む発光デバイスであって、後者は、相変化材料の層と、1つまたは複数の量子エミッタを埋め込むマトリックス材料層とを含み、前記マトリックス材料層は、前記相変化材料の層上と2つの電極間とに延びている、発光デバイスと、
前記2つの電極に接続された電気回路であって、動作時に、前記量子エミッタの発光波長を変化させるように、前記2つの電極を介して、前記マトリックス材料層と前記相変化材料の層とを通して電界を発生させるように構成された電気回路と、
前記マトリックス材料層内の前記量子エミッタのそれぞれに対向する局所的な位相変化を得て、それぞれの前記量子エミッタにおける前記電界を局所的に変化させるために、前記相変化材料の1つまたは複数の局所領域のそれぞれにおいて、前記相変化材料の位相を不揮発的に制御可能に変化させるように構成された放射デバイスと、を含む装置。
【請求項10】
前記放射デバイスは、レーザデバイスおよび加熱可能なナノスケールプローブチップのうちの1つである放射素子であり、
前記装置は、前記放射素子を前記層状構造に対して制御可能に移動させるように構成されている、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記装置は、さらに、横方向の精度を特徴付ける距離が、前記量子エミッタ間の平均横方向離間距離よりも小さい状態で、前記放射素子で前記層状構造を走査するように構成され、前記横方向離間距離は、前記層状構造の平均平面に平行な方向に沿って測定される、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
相変化材料の層と、1つまたは複数の量子エミッタを埋め込むマトリックス材料層とを含む層状構造であって、前記マトリックス材料層が前記相変化材料の層の上に延びている、層状構造と、
前記マトリックス材料層と前記相変化材料の層を通して電界を発生させ、動作時に前記量子エミッタの発光波長を変化させるために、前記層状構造の両側に配置された2つの電極と、を含み、
前記相変化材料は、前記相変化材料の残りの部分の位相とは異なる位相を有する1つまたは複数の局所領域を含み、それにより、動作時に、それぞれの前記量子エミッタにおける前記電界を局所的に変化させるように、前記マトリックス材料層内の前記量子エミッタのそれぞれのものに対向する局所的な相変化を形成する、発光デバイス。
【請求項13】
前記相変化材料は、GeSbTeおよびHfO2のうちの1つを含む、請求項12に記載の発光デバイス。
【請求項14】
前記マトリックス材料層は、結晶材料およびポリマー材料のうちの1つを含み、
前記量子エミッタは、エピタキシャル成長した半導体量子ドット、コロイド量子ドット、および有機エミッタのうちの1つを含む、請求項12乃至13のいずれか1項に記載の発光デバイス。
【請求項15】
前記マトリックス材料層における前記量子エミッタ間の平均距離が50nm以上である、請求項12に記載の発光デバイス。
【請求項16】
前記局所領域の平均的な面内寸法は、50から5000nmであり、前記平均的な面内寸法は、前記マトリックス材料層の平均平面に平行な方向に沿って測定される、請求項12に記載の発光デバイス。
【請求項17】
前記局所領域の平均厚さが1nm以上であり、前記厚さは、前記マトリックス材料層に対して垂直に、前記マトリックス材料層と前記相変化材料の層との間の界面から測定される、請求項16に記載の発光デバイス。
【請求項18】
前記相変化材料の層の平均厚さが50nmから200nmであり、前記マトリックス材料層の平均厚さが20nmから200nmである、請求項12に記載の発光デバイス。
【請求項19】
前記局所領域の平均的な静的比誘電率が、前記残りの部分の平均的な静的比誘電率の少なくとも2倍である、請求項12に記載の発光デバイス。
【請求項20】
基板であって、その上に前記相変化材料の層が延びており、後者が前記基板と前記マトリックス材料層との間にある、基板と、
電極が前記基板上にパターニングされ、前記層状構造が前記電極間に延びる、電極と、をさらに備える、請求項12に記載の発光デバイス。
【国際調査報告】