(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】方法
(51)【国際特許分類】
C08B 37/04 20060101AFI20240719BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240719BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240719BHJP
A61K 8/73 20060101ALI20240719BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240719BHJP
A23L 17/60 20160101ALI20240719BHJP
A23L 29/00 20160101ALI20240719BHJP
【FI】
C08B37/04
A61K9/06
A61K47/36
A61K8/73
A23L33/105
A23L17/60 B
A23L29/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024500330
(86)(22)【出願日】2022-07-06
(85)【翻訳文提出日】2024-03-04
(86)【国際出願番号】 GB2022051743
(87)【国際公開番号】W WO2023281262
(87)【国際公開日】2023-01-12
(32)【優先日】2021-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522179460
【氏名又は名称】アルギノル・アルメンアクシェセルスカプ
【氏名又は名称原語表記】Alginor ASA
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(72)【発明者】
【氏名】グリーン,リッキー リー
(72)【発明者】
【氏名】ドラゲット,クルト インガ
【テーマコード(参考)】
4B018
4B019
4B035
4C076
4C083
4C090
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018MD38
4B018MD67
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4C090DA03
4C090DA23
4C090DA26
4C090DA27
4C090DA28
4C090DA40
(57)【要約】
本発明は、大型藻類から、特にラミナリアハイパーボレアなどの褐藻類から、アルギネートを得る方法を提供する。本発明は更に、そのような方法によって得られるアルギネートに関する。より詳細には、本発明は、大型藻類又はその一部からアルギネートを抽出する方法であって:(i)大型藻類又はその一部を、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、又はグリコール酸などの弱有機酸の水溶液と接触させるステップと;(ii)続いて大型藻類又はその一部を鉱酸の水溶液と接触させ、それによって前処理された大型藻類材料を形成するステップと;(iii)前処理された大型藻類材料から、アルギネートを抽出するステップと、を含む方法である。このような方法は、ホルムアルデヒドなどの毒性化学物質を使用する必要なく、明るい色のアルギネートを生成し得る。この方法は、抽出されたアルギネートの最終組成、例えば、その分子量、多分散性、水に溶解したときのその粘度、又はそのM/G比を調整するように制御し得る。これは、その意図される用途に従って調整された特性を有するアルギネートの製造を可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型藻類又はその一部からアルギネートを抽出するための方法であって:
(i)大型藻類又はその一部を弱有機酸の水溶液と接触させるステップと;
(ii)続いて、前記大型藻類又はその一部を、鉱酸の水溶液と接触させ、それによって前処理された大型藻類材料を形成するステップと;
(iii)前記前処理された大型藻類材料から、アルギネートを抽出するステップと、を含む方法。
【請求項2】
前記有機酸が、1.5より大きいpK
a、好ましくは2~6の範囲内のpK
aを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機酸が、3.5以下のpK
aを有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記有機酸が、α-ヒドロキシ酸、好ましくは食品グレードのα-ヒドロキシ酸である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記有機酸が、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、グリコール酸、酢酸、及びギ酸からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記有機酸が、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、及びグリコール酸からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記有機酸が、クエン酸又はリンゴ酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記有機酸が、クエン酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記有機酸の濃度が、0.1~10.0%w/vである、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ステップ(i)が、10~100℃の範囲内の温度、好ましくは周囲温度で行われる、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記鉱酸が、塩酸又は硫酸である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(ii)が、60分までの時間にわたって行われる、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(iii)が、前記前処理済み大型藻類材料をアルカリ性溶液と接触させるステップを含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記アルカリ溶液が、炭酸ナトリウム及び/又は水酸化ナトリウムである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記アルカリ溶液が、炭酸ナトリウムであり、かつ0.05~4%、例えば0.1~0.5%の範囲内の濃度で使用される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ステップ(i)の前に、前記大型藻類又はその一部を、塩化カルシウム溶液と接触させるステップを更に含み、好ましくは、ここで前記塩化カルシウム溶液の濃度が、0.5~10%w/vの範囲内である、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記大型藻類が、ラミナリア属、アスコフィラム属、デュルビラエア属、エクロニア属、レソニア属、マクロシティス属種、及びサルガサム属からなる群から選択される、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記大型藻類が、ラミナリアハイパーボレアである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記大型藻類部分が、茎状部、葉、又はそれらの組み合わせである、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記茎状部が、皮をむかれていない、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記大型藻類又はその一部を、ホルムアルデヒド又はホルムアルデヒドのいかなる誘導体でも処理するステップを含まない、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記大型藻類又はその一部を、漂白剤で処理するステップを何ら含まない、請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
請求項1~22のいずれか1項に記載のプロセスから得られる、得ることができる、又は直接得られるアルギネート又はアルギネート誘導体。
【請求項24】
ホルムアルデヒド又はホルムアルデヒドの何らの誘導体を実質的に含まず、かつ/又は化学漂白剤を実質的に含まない、請求項23に記載のアルギネート又はアルギネート誘導体。
【請求項25】
1または複数の以下の特徴:
- 少なくとも300kDaの分子量;
- 1.2~3.5、好ましくは1.2~1.5の範囲内の多分散指数;及び
- 55~80%、好ましくは60~80%の範囲内の、α-L-グルロネート(G)含量、
を有する、請求項23又は24に記載のアルギネート又はアルギネート誘導体。
【請求項26】
請求項23~25のいずれか1項に記載のアルギネート又はアルギネート誘導体を含む製品であって、好ましくは、食品、医薬品、医療製品、栄養補助食品若しくは健康製品、農業で使用するための製品、化粧品、又は製紙産業及び繊維産業で使用するための製品である、製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型藻類を処理する方法及びそのような方法によって製造される製品に関する。より具体的には、本発明は、大型藻類、特にラミナリアハイパーボレア(Laminaria hyperborea)などの大型褐藻類からアルギネートを得る方法に関する。本発明は更に、そのような方法によって得ることができる、得られる、又は直接的に得られるアルギネートに関する。
【0002】
特定の態様では、本発明は、大型藻類の工業的処理において現在使用されている方法と比較した、アルギネートの抽出における改善及びそれに関する改善に関する。改善には、アルギネートの品質及び/又は収率の向上並びに方法の持続可能性の向上が含まれるが、これらに限定されない。有利なことに、本方法は、色が薄いアルギネートを、ホルムアルデヒドなどの毒性の高い化学物質を使用する必要なしで生成する。CO2排出量の低減及び周囲温度で本方法を実施する能力は、産業において現在使用されているものよりも環境的に許容可能なプロセスを、追加的に提供する。
【0003】
特定の態様では、本発明は更に、抽出されたアルギネートの最終組成を調整するように制御し得る、大型藻類を処理する方法に関する。例えば、その分子量、及び/又はそのM/G比は、抽出されたアルギネート材料の機能的特性、例えば、水に溶解されたときのその粘度、そのゲル化能力などが、その意図される用途に応じて適合され得るように調整され得る。
【背景技術】
【0004】
「海藻」としても知られる大型藻類は、様々な用途、例えば、食品産業、化粧品産業、及び医薬品産業、並びに農業及び動物飼料において使用するための、商業的に有用な製品の供給源である。このような製品を得るためには、一般に大型藻類を処理し、多くの場合、生成物を抽出する必要がある。このことは、褐色大型藻類から抽出し得る多糖であるアルギネートの場合に当てはまる。アルギネートは、ケルプ(ラミナリアハイパーボレア)の細胞壁の主要な構造成分であり、主茎(「茎状部」)及び葉状部(「葉状体」)に高濃度で存在する。
【0005】
「アルギネート」は、アルギン酸と、アルギン酸の塩などのアルギン酸の任意の誘導体とを指すために、業界で一般的に使用される用語である。アルギネートは、2つのモノマー、すなわちβ-D-マンヌロン酸(M)残基及びα-L-グルロン酸(G)残基から形成される直鎖から構成される。Mモノマー及びGモノマーは共有結合して、直鎖状コポリマーを形成する。直鎖状構造には3つのタイプのセグメントがあるが、それらは、連続的なM単位からなるMブロック、連続的なG単位からなるGブロック、異種又は交互のM及びG単位を含有するMGブロックである。アルギネートは、アルギン酸と、カルシウム又はアルミニウムなどの多価カチオンとの不溶性塩の形態で、褐藻類の細胞壁中に存在する。主に、アルギン酸のカルシウム塩として存在する。カリウム塩及びナトリウム塩も存在し得る。アルギン酸ナトリウムは、高粘性の溶液を与える水溶性ポリマーである。カルシウムなどの多価カチオンの存在下で、アルギン酸ナトリウムは、ゲルを形成する能力を有する。カルシウムイオンなどの二価カチオンは、整列したアルギネート鎖のGブロックに結合して、別々のアルギネート鎖どうしの間で又は同一のアルギネート鎖内で、架橋を生じさせる。このプロセスは、ゲルネットワークを生じる。
【0006】
アルギネートは、例えば、製薬、医療、栄養補助食品及び健康、農業、化粧品、食品、製紙及び繊維産業などの多くの産業において有益な用途を有する。例えば、アルギネートは、その低アレルギー特性のために、創傷被覆材に使用される。更なる使用法には、食品中の増粘剤、乳化剤、又は安定剤として、及び減量用サプリメントとしての使用法が含まれる。アルギネートはまた、製紙及び印刷に有用な生成物である。
【0007】
アルギネートは、従来、可溶性のナトリウム塩として、褐色の大型藻類から抽出される。不溶性アルギン酸カルシウムの可溶性アルギン酸ナトリウムへの変換は、アルギネートを「抽出可能」にする。抽出方法は、アルギネートの化学的及び機械的特性に影響を与え、その用途を決定する。アルギネートの特性、例えば水に溶解したときのその粘度又はカルシウム塩の添加で得られるゲルの強度は、その分子量、ポリマー鎖中のM及びG残基の配置、並びにアルギネート鎖の全体的なM/G比によって決定される。例えば、Ca2+イオンの存在下では、Gブロックはイオン錯体を形成して、強いゲル形成に関与する「エッグボックスモデル」として知られる架橋構造を生成する。Mブロック、Gブロック、及びMGブロックの割合は、アルギネートの物理的特性を決定する。高いGを有するアルギネートは、より高いゲル化特性を有するが、高いMを有するアルギネートは、多価カチオンの存在下で強いゲルを形成しないので、粘度調整剤としての使用に好ましい。高いM/G比を有するアルギネートは、弾性ゲルをもたらすが、低いM/G比を有するものは脆いゲルを生成する。M/G比は、アルギネートの化学的又は酵素的修飾によって変更し得る。M残基及びG残基の配置並びに全体的なM/G比は、抽出プロセスによって変更し得る。アルギネートの異なる使用法は、しばしば、これらが特定の予測可能な化学的特性及び物理的特性、例えば、分子量範囲及び分布、純度、粘度、M及びG含量、M/G比などを有することを必要とする。Gの豊富なアルギネートは、例えば、医薬用途に特に有用である。
【0008】
大型藻類中に存在する天然アルギネートは、高分子量を有し、多価カチオンを含有するが、その両方が、その天然アルギネートを不溶性にする。抽出プロセスの目的は、乾燥した粉末アルギネート、典型的にはアルギン酸ナトリウムを、理想的には高収率で、高分子量を有し、最小限の色を有するものとして得ることである。アルギネートの抽出は一般に、酸溶液中、典型的には塩酸中又は硫酸中で処理して天然アルギネートをアルギン酸に変換することと、それに続いて炭酸ナトリウムで処理して不溶性アルギン酸を可溶性(すなわち抽出可能な)アルギン酸ナトリウムに変換することとを含む、多段階プロセスを必要とする。アルギネート鎖の加水分解を促進して、それらが可溶性になる点までそれらの分子量を減少させるためには、高いpH(典型的にはpH 11以上)での水酸化ナトリウムによる処理及び加熱も必要とされ得る。このプロセスの結果として得られるものは、可溶性アルギネートを残りの海藻残留物から分離するための濾過を可能にするために、「低粘稠化」(例えば、水での希釈による)を必要とする粘性流体である。溶解したアルギネートは、次に、例えば酸を添加して、アルギン酸を沈殿させることによるか、カルシウム塩を添加して、アルギン酸カルシウムを(Gブロックを含有する任意のアルギネートフラグメントから)沈殿させることによるか、又はエタノールなどの貧溶媒を添加することによって、水溶液から回収される。
【0009】
褐色大型藻類からアルギン酸ナトリウムを製造するための現在の「業界標準」プロセスは、水酸化ナトリウムに加えて約4重量%の炭酸ナトリウムを含有する高苛性溶液を使用して、天然アルギネート鎖の分子量を低下させ、不溶性アルギネート(例えば、アルギン酸カルシウム)をそれに対応する可溶性ナトリウム形態に変換することに依存する。これらの化学物質は、過剰に使用される。従って、このプロセスは、使用される化学物質の量に関して無駄の多いものである。アルギネートの典型的な収率も低く、例えば15~20重量%(乾燥重量基準)の範囲内である。アルギネート回収プロセスの一部として、炭酸ナトリウムが中和されるときに過剰量のCO2も放出される。
【0010】
その工業的用途の多くにおける使用のために、無色又は淡色のアルギネートは、アルギネートが添加される製品がアルギネートの色によって汚れないようにするために必要とされる。大型藻類、特に褐色大型藻類からアルギネートを抽出する場合の特定の問題は、抽出された生成物における望ましくない色である。大型藻類の茎状部の色のほとんどは、茎状部(すなわち、「樹皮」)の最外表面層に主に存在するポリフェノール(例えば、フロロタンニン)、カロテノイド、及びクロロフィルなどの着色化合物(すなわち、色素)の存在によって引き起こされる。大型藻類が全体として処理される場合、又は未加工の茎状部を使用する場合、色を生じるこれらの化合物が、アルギネート抽出プロセスに組み込まれ、その抽出後に、不可逆的な着色アルギネート溶液を形成してしまう。
【0011】
伝統的に、望ましくない色の問題は、ホルムアルデヒド/ホルマリン(色素と錯体を形成してそれらを不溶性にすることによって色定着剤として作用する)を使用してその抽出を防止することによって、又は化学漂白剤、例えば次亜塩素酸塩漂白剤の使用によって対処されてきた。ホルムアルデヒドは防腐剤としても作用し、大型藻類の微生物分解を防止するために、収穫後及び加工前に使用されることが多い。しかしながら、ホルムアルデヒドの使用は、ヒト及び動物に対するその毒性のために規制されており、より持続可能で環境的に許容されるプロセスを提供するために、その使用及び化学漂白剤の使用を低減することへの一般的なニーズが存在する。これらの薬剤を、ヒト又は動物によって摂取される又はヒト又は動物の身体に使用されるアルギネート材料の製造において使用することは、特に望ましくない。アルギネート抽出後に残る大型藻類残留物中にホルムアルデヒドが存在すると、それもまた、その商業的価値を低下させてしまい、例えばセルロースなどの他の潜在的に有用な材料の回収を試みることなく処分される、廃棄物として取り扱われる。
【0012】
大型藻類からアルギネートを抽出する際の望ましくない色の問題に対処するためのホルムアルデヒド及び化学漂白剤の使用に代わる方法が、国際特許出願公開第2015/067971号(Marine Biopolymers Ltd.)に示唆されている。この先行する出願は、アルギネートの抽出前に、機械的な剥離又は研磨によって、茎状部の外側表面層を除去することを提案している。これは上記の色の問題に部分的に対処するものであるが、茎状部を剥離するか又は研磨することが必要となるので、プロセスのコストを増加させる追加の処理ステップを加えるだけでなく、茎状部の全体が利用されないという点で無駄が多いものでもある。機械的剥離はまた、その長さに沿って直径が均一でない茎状部に対して行われる場合、制御することが困難であり、したがって、このプロセスは、必然的に、色の問題に対処するために厳密に必要とされる厚さよりも厚く茎状部を除去しなければならなくなる。茎状部のうち樹皮のすぐ下の部分は、特に商業的価値のある「高G」アルギネートを含有するので、これも理想的ではない。ポリフェノールなどの色素はまた、ある程度は、茎状部構造全体にわたって存在する。茎状部の外側表面層の除去は、これらから生じる色の問題には対処できない。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、これらの問題の少なくともいくつかに対処するか又はそれを軽減する、大型藻類からアルギネート又はアルギネート含有材料を得るための代替的方法を提供する。少なくとも特定の態様では、本発明は、当該技術分野において従来公知であり、従来使用されている方法、特に、工業規模で大型藻類を処理するために使用される方法よりも改善された方法を提供する。
【0014】
本明細書で提案されるのは、抽出を行う前に、すなわち、大型藻類中に存在するアルギネートを、抽出及び回収し得る可溶性(すなわち、抽出可能な)形態に変換する前に行われる、大型藻類の前処理を含む、アルギネートの製造方法である。上記の前処理は、大型藻類又はその一部を弱有機酸に曝露し、続いて鉱酸でカチオン交換することを含む。これらの前処理ステップは、本明細書では、方法の「抽出前」段階とも呼ばれ、天然アルギネート(例えばアルギン酸カルシウム)をアルギン酸に変換するのに非常に効果的である。「抽出」段階において、例えばアルカリ性溶液、典型的には炭酸ナトリウムなどのナトリウム含有アルカリ性溶液による大型藻類材料の、後続の処理により、アルギネートの水溶性塩(例えば、アルギン酸ナトリウム)が形成される。次いで、これを、従来の方法を用いて回収し得る。重要なことには、現行の工業的方法で使用されるものと比較して、はるかに低い濃度の炭酸ナトリウムを抽出に使用することが可能である。これは、CO2排出量の減少をもたらす。本明細書に記載の方法では、炭酸ナトリウムの代わりに水酸化ナトリウムを使用することもでき、それによって、プロセスの抽出部分についてゼロCO2排出プロファイルが得られる。
【0015】
重要なことであるが、予期せぬことに、本明細書に記載の「抽出前」処理を用いて製造されるアルギネートの収率は、従来の工業的方法を用いて得られる収率よりも高く、しかもアルギネートの品質、例えば水に溶解した場合のその粘度を損なうことがない。明るい色のアルギネートはまた、その製造において、ホルムアルデヒド、ホルマリン又は任意の化学漂白剤を使用する必要がなく、しかも最も驚くべきことに、色素を含有する樹皮を、茎状部から除去する必要もない。したがって、大量の廃棄物を生成することなく、茎状部全体を使用することができ、残りの残留物に由来する他の材料への直接アクセスが可能になる。本方法の「抽出前」段階は、予測可能かつ所望の機能特性を有するアルギネート材料を回収するように更に制御し得る。したがって、有利なことに、本明細書に記載の方法は、抽出されたアルギネートの特性を、その意図される用途に応じて調整することを可能にする。
【0016】
一態様では、本発明は、大型藻類又はその一部からアルギネートを抽出するための方法を提供し、その方法は:
(i)大型藻類又はその一部を、弱有機酸の水溶液と接触させるステップと;
(ii)続いて、大型藻類又はその一部を、鉱酸の水溶液と接触させ、それによって前処理された大型藻類材料を形成するステップと;
(iii)前処理された大型藻類材料からアルギネートを抽出するステップと、を含む。
【0017】
別の一態様では、本発明は、本明細書に記載の方法から得られた、得ることができる、又は直接得られた、アルギネート又はアルギネート誘導体を提供する。特に、本発明は、本方法から得られた、得ることができる、又は直接得られた、アルギン酸ナトリウムを提供する。
【0018】
更なる一態様では、本発明は、本明細書に記載のアルギネート又はアルギネート誘導体を含む製品、例えば、アルギン酸ナトリウムを含む製品を提供する。このような製品としては、食品、医薬品、医療製品、栄養補助食品及び健康製品、農業で使用するための製品、化粧品、並びに製紙及び繊維産業で使用するための製品が挙げられるが、これらに限定されない。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書で使用される場合、別段の指定がない限り、「アルギネート」という用語は、アルギン酸塩(当技術分野で「アルギネート」と呼ばれる場合がある)だけでなく、アルギン酸の任意の他の誘導体及びアルギン酸自体を指すために広く使用される。本明細書で使用される場合、アルギン酸は、(1-4)-連結β-D-マンヌロネート(M)のブロック、α-L-グルロネート(G)のブロック、及び交互の構造(MG)を有するブロックからなる多糖類である。本明細書における「天然不溶性アルギネート」へのいかなる言及も、その天然に存在する形態のアルギネート、特にアルギン酸カルシウムを指すことが意図される。「可溶性アルギネート」に言及する場合、これは可溶性形態、例えば可溶性ナトリウム形態を指すということが理解されるであろう。しかしながら、アルギン酸カリウム又はアルギン酸アンモニウムなどの、可溶性である任意の他のモノイオン形態を指す場合もあり得る。理解されるように、本明細書における「可溶性アルギネート」へのいかなる言及も、水に対して可溶性であるアルギネートを指す。「不溶性アルギネート」は、カルシウム又はアルミニウムなどの多価カチオンを有するアルギン酸の不溶性塩などの、水に対して不溶性であるアルギネートを指すものと理解されるであろう。典型的には、天然不溶性アルギネートは、アルギン酸カルシウムを含む。可溶性アルギネートの例としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、及びアルギン酸アンモニウムが挙げられる。典型的には、可溶性アルギネートは、アルギン酸ナトリウムである。アルギネートの任意の「可溶性」形態はまた、本明細書において「抽出可能なアルギネート」と称され得るが、それは、すなわち、直接可溶化することによって、大型藻類から抽出し得るということを意味する。
【0020】
用語「大型藻類(macroalgae)」及び「海藻(seaweed)」は、本明細書において互換的に使用され、任意の種の巨視的な多細胞海藻類を指すことを意図する。アルギネートを含有する任意の大型藻類が、本発明の方法において使用され得る。ケルプなどの大型褐藻類は、高濃度のアルギネートを含有することが知られており、特に適している。「ケルプ」という用語は、海洋性褐藻目(Laminariales)の一部を形成する大型の褐色大型藻類を指す。本発明における使用に好適な大型藻類としては、ラミナリア属、アスコフィラム属、デュルビラエア属、エクロニア属、レソニア属、マクロシティス属種、及びサルガサム属、からなる群から選択されるものが挙げられるが、これらに限定されない。特定の種の例としては、ラミナリアハイパーボレア、ラミナリアディギタータ、レソニアトラブクラータ、レソニアフラビカン、及びレソニアブラジリエンシスが挙げられる。ラミナリア属種、例えばラミナリアハイパーボレアが特に好適である。
【0021】
大型藻類は、典型的には、3つの別個の形態部分又はセクションを含む:葉状体(「葉」又は「ブレード」としても知られる)、茎状部(「茎様」構造)、及びほふく枝(大型藻類を海底に固定する「根様」構造であり、「付着器」と呼ばれることもある)。これらの部分は、それらの物理的特性及び化学的組成の点で異なる。収穫方法は、付着器の近くの茎状部を切断することを含む。収穫後、典型的には、葉状体及び茎状部を互いに分離して、異なる「部分」を形成する。本明細書に記載の方法は、大型藻類全体(すなわち、茎状部及び葉状体)に対して実施し得るが、典型的には、1つ以上の分離された部分に対して実施される。分離された部分が本発明の方法において一緒に使用される場合、これらは、抽出されたアルギネートの所望の特性に依存して、任意の所望の比で組み合わされ得る。例えば、分離された葉と茎状部との組み合わせを、例えば50:50の重量比で用いてもよい。大型藻類又はその一部のサイズは、典型的には、その表面積を増加させるために縮小されてから、本発明の方法に従って処理される。適切な方法は、本明細書に説明されている。
【0022】
アルギネートは、大型藻類の茎状部に濃縮される。一実施形態では、本方法は、大型藻類の、最も高いアルギネート含有量を含有する茎状部に対して実施される。したがって、本発明の方法で使用される大型藻類部分は、実質的に茎状部のみを含み得る。ラミナリアハイパーボレアの茎状部の使用が特に好ましい。あるいは、本発明の方法は、大型藻類の葉状体、又は葉状体の一部に対して実施し得る。葉状体の一部が使用される場合、これは一般に葉状体の基部から取られた最も厚い部分である。ラミナリアハイパーボレアの葉状体又は葉状体の任意の部分の使用が好ましい。あるいは、本発明の方法は、大型藻類全体、例えば、茎状部と葉状体の両方の組み合わせに対して実施し得る。本方法で使用するための大型藻類の適切な部分(又は複数の部分)の選択は、得られる材料の物理化学的特性に影響を及ぼし、それに応じて選択し得る。
【0023】
着生植物は、海洋環境において大型藻類の表面上で成長する生物である。これらには、他の種の藻類、細菌、真菌、海綿、コケムシ、ホヤ、原生動物、甲殻類、軟体動物、及び他の固着生物が含まれる。これらは、本明細書に記載される方法では、大型藻類又は大型藻類の任意の部分の使用前に除去(又は実質的に除去)されることが有益であり得る。大型藻類又はその一部の表面から着生植物を除去することが望ましい場合、任意の従来の方法が使用され得る。これらは、例えば高圧水ジェットを使用して、水で洗浄することによって除去し得る。しかしながら、いくつかの実施形態では、着生生物は除去される必要はない。したがって、本発明の方法において使用される大型藻類又はその一部は、その表面上に着生植物を有し得る。
【0024】
大型藻類の茎状部は、葉よりもアルギネート含量が高く、Gブロックの割合が高い(すなわち、G/M比が高い)ため、本発明の方法で使用するために選択し得る。茎状部は、実質的に円筒形であってもよく、茎状部の中心軸からの半径方向距離に基づいて画定される3つの特徴的な領域を含む。半径方向内側部分は、「内側コア」と呼ばれる茎状部のコア領域を含む。コアを取り囲む半径方向中間部分は、「外側コア」と呼ばれる組織領域を含む。半径方向最外側部分は、「外側層」と呼ぶことができる保護表面層を含む。この外層はまた、茎状部の「樹皮」、「皮」、又は「皮膚」と称され得る。
【0025】
茎状部は、本明細書に記載の方法に従って処理する前に、その外表面層の一部又は全部を除去するように処理されてもよい。しかしながら、本発明の好ましい一実施形態では、それは除去される必要はない。このことは、特に有利である。最も外側の表面層を除去するためのいかなる化学的又は物理的プロセスにも供されていない(すなわち、外側層が実質的に「未処理」のままである)茎状部は、本発明の方法における使用に特に好ましい。このような茎状部は、「皮むきされていない」茎状部と呼ばれ得る。したがって、一組の実施形態では、本方法で使用される大型藻類は、茎状部が外表面層を保持している大型藻類全体(すなわち、茎状部及び葉状体)、又は葉から分離されているが依然として外表面層を保持している茎状部であってもよい。ラミナリアハイパーボレアの皮をむいていない茎状部の使用が、本発明における使用には特に好ましい。
【0026】
一般にあまり望ましくないが、最外層が実質的に除去された茎状部、すなわち「皮むきされた」茎状部に対して、本明細書に記載された方法を実施することが可能である。したがって、一実施形態では、本方法は、茎状部又は茎状部の部分から、ポリフェノールなどの望ましくない色素を含有する、外側に面する表面層を除去するステップを含み得る。除去されるための外向き表面層は、少なくとも表皮層を含み、更に分裂表層を含んでもよい。典型的には、除去される外側に面する表面層は、少なくとも表皮及び分裂表層を含む。表面層の除去は、当技術分野で知られている任意の方法を使用して行うことができる。例えば、化学的剥離プロセス又は機械的方法によって除去し得る。機械的方法としては、剥離、研磨、スクレイピング、又は高圧水ジェットによる処理が挙げられる。剥離、研磨又はスクレイピングは、手動で(すなわち手で)行われてもよいが、より典型的には、野菜の皮むき及び/又は研磨を行うための当技術分野で公知の剥離及び/又は研磨機械などの自動機械を使用して行われる。好適な剥離方法は、国際特許出願公開第2015/067971号に記載されており、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。除去されるべき茎状部の、外側に面する表面層の厚さは、大型藻類のタイプ、齢、及び厚さ(すなわち直径)に依存するが、当業者によって容易に決定され得る。除去される茎状部の、外側に面する表面層は、少なくとも0.5mm、好ましくは少なくとも1.5mmの厚さを有し得る。例えば、0.5mm~2.5mmの範囲内の厚さを有し得る。
【0027】
本明細書に記載される方法は、大型藻類全体(すなわち未処理)に対して、又はその一部に対して実施され得る。例えば、茎状部に対して実行され得る。本方法の抽出前段階を実施する前に、大型藻類又はその一部は、サイズが縮小されて、その表面積を増加させ、したがって処理方法の効率を改善することが一般に好ましい。そのサイズを縮小するために使用される方法は特に重要ではなく、材料のサイズを縮小するために、すなわち材料を複数の部分、例えば複数の茎状部部分に分割するために、任意の既知の方法が使用され得る。例えば、大型藻類又はその一部(例えば、茎状部又は葉状体)は、切断、細断、フレーク化、ブレンド、及び製粉の任意の組み合わせによって分割し得る。適切であれば、フレーク化、ブレンド、又は粉砕の前に、より小さな断片に切断してもよい。これは、フレーク化、ブレンド、又は粉砕のステップ中の材料の取り扱いを助けるのに有用であり得る。
【0028】
一実施形態では、大型藻類又はその一部は、切断し、続いて粉砕することによって、複数の部分に分割され得る。切断は、大型藻類のサイズをより小さい部分に減少させるために適切であり得る。例えば、茎状部は5~100mm、例えば5~10mmの長さに切断され得る。
【0029】
粉砕は、当技術分野で公知の、任意の従来の粉砕機を使用して実施し得る。所望であれば、粉砕は、所望の粒子サイズを提供するために、徐々に細かくなるスクリーンの使用を含む、2つ以上の粉砕段階を含んでもよい。粉砕された部分は、0.1mm~10mm、好ましくは1mm~5mm、例えば1mm~2mmの範囲内の粒径を有し得る。一実施形態では、粉砕された部分は、2mm~10mm、例えば4mm~8mmの範囲内の粒径を有し得る。
【0030】
本明細書に記載の方法は、前処理ステップを実施する前に、大型藻類又はその一部を水で洗浄する更なるステップを含んでもよい。例えば、それは、複数の大型藻類部分(例えば、茎状部部分及び/又は葉状体部分)を水で洗浄するステップを含むことができる。脱イオン水を使用してもよいが、一般に、材料からの低分子量「G」含有アルギネートの損失を低減するために、飲料水(カルシウムイオンを含有する)を使用することが好ましい。
【0031】
有利には、水で洗浄することにより、塩、及び一部、ポリフェノールなどの他の望ましくない水溶性成分が除去される。必要に応じて、1回以上の洗浄ステップを行ってもよい。水の温度及び洗浄時間は、当業者によって容易に決定され得る。より低い温度及び/又はより短い処理時間は、一般に、プロセスのエネルギー必要量を低減し、抽出されたアルギネート材料に悪影響を及ぼし得る材料のいかなる過酷な処理も回避するために好ましい。大型藻類の部分を洗浄する場合、その部分に水を添加し、次いで水中で撹拌し、次いでフィルターを通して排水させてもよい。所望であれば、任意の水溶性物質を洗浄水から回収し得る。一実施形態では、プロセスのこの時点で追加の洗浄ステップは必要ない。
【0032】
本明細書に記載される方法は、生きている又は死んでいる大型藻類に対して実施され得る。例えば、それは、新鮮な、凍結された又は乾燥された、大型藻類又はその任意の部分(複数可)に対して行われ得る。「生きている」大型藻類は、呼吸などのある程度の生物学的活性を保持する。一実施形態では、本方法は、新鮮な大型藻類又はその一部に対して実施される。「新鮮」とは、大型藻類又はその一部が収穫後にいかなる感知できる程度にも脱水されていないことを意味する。新鮮な大型藻類は、生きて収穫された材料、すなわち生きて呼吸している植物である材料を含む。あるいは、収穫後、大型藻類又はその任意の部分(複数可)は、呼吸などの生物学的活性をもはや有さないように処理され得る。例えば、大型藻類を圧搾して海水を除去し、したがって植物材料の体積を減少させて、その輸送を助けることができる。圧搾は、ある場合には、「死んだ」植物材料をもたらし得る。あるいは、大型藻類又はその任意の部分(複数可)を凍結又は乾燥させてもよい。例えば、周囲温度又は高温で空気乾燥させてもよく、あるいは流動床乾燥機で乾燥させてもよい。乾燥の前に、大型藻類又はその一部は、典型的には、乾燥プロセスのエネルギー必要量を低減するために細断又はフレーク化される。乾燥に続いて、本明細書に記載される方法による処理の前に貯蔵され得る材料を生成するために、更に細断、フレーク化、又は粉砕(例えば、粉砕又は製粉によって)してもよい。いかなる乾燥大型藻類材料も、典型的には、本明細書に記載されるような抽出前プロセスに供する前に再水和される。乾燥材料への水の添加はまた、アルギン酸鎖に結合していない任意の水溶性色素(例えば、ポリフェノール)を抽出して、望ましくない塩及び他の低分子量成分を除去するのに有益であり得る。
【0033】
任意の乾燥大型藻類材料の再水和は、典型的には、材料を水と接触させることによって実施される。洗浄ステップと同様に、再水和の目的で脱イオン水を使用してもよいが、材料からの低分子量「G」含有アルギネートの損失を低減するために、飲料水(カルシウムイオンを含有する)を使用することが一般に好ましい。飲料水の使用はまた、工業規模で実施される場合、プロセスのコストを低減する。適切な水和比(湿潤質量:乾燥質量)は、容易に決定され得るが、例えば、約8:1より大きく、好ましくは10:1より大きくてよい。例えば、約8:1~約12:1の範囲内であってもよい。水和は、乾燥大型藻類材料、例えば乾燥フレークを水に添加し、かき混ぜて、静置することによって実施し得る。それは、連続法又はバッチ法で行うことができる。複数の水和ステップが行われてもよく、その場合には、各ステップの終わりに水和された塊から水が除去され、固体塊が収集され、後に続く水和段階に移される。これは、材料からの望ましくない塩、水溶性色素、及び他の成分の除去を助ける。水和ステップは、材料から除去される水の導電率が十分に低下し、材料から十分な量の望ましくない塩が除去されたことを示すまで実施し得る。例えば、脱イオン水について約200μS未満の導電率が適切であり得る。飲料水については、許容可能な導電率は、その本来の導電率+200μSであり得る。必要とされる水和時間は、乾燥材料の粒子サイズに依存するが、当業者によって容易に決定され得る。水和には数時間かかる場合もあり得る。最終材料は、典型的には、更なる加工の前に過剰の水を除去するために処理される。次いで、水和された塊は、本明細書に記載されるように処理され得る。
【0034】
本方法の抽出前段階は、大型藻類又はその一部を、本明細書に記載の弱有機酸と接触させる最初のステップを含む。このステップは、天然アルギネートの分子量を減少させ、材料を脱色するのに効果的である。理論に束縛されるものではないが、有機酸は、任意のクロロフィル及び色素残留物を分解するのに効果的であると考えられる。その後、脱色された材料を鉱酸で処理し、それによってアルギネート構造中に存在する金属イオン(例えばカルシウム)を水素イオンと交換して、その後の抽出を容易にする。
【0035】
本方法の抽出前段階は、大型藻類又はその一部の有機酸による処理及び鉱酸による処理に限定されてもよく、すなわち、(本明細書に記載されるような大型藻類材料の任意のサイズ縮小及び/又は洗浄ステップを除いて)追加の前処理ステップは行われない。しかしながら、いくつかの実施形態では、抽出前段階は、当技術分野で一般的に知られており、使用されているものなどの、追加の前処理ステップを含んでもよい。これらが行われる場合、これらは、典型的には、大型藻類材料を有機酸と接触させる前に行われる。追加の前処理ステップは、例えば、アルギネートのM/G比を調整するために知られている方法を含み得る。例えば、大型藻類又はその一部は、材料のG含有量を濃縮する(すなわち、G/M比を増加させる)ことができる追加の前処理に供されてもよい。高温での酸処理(例えば、鉱酸などの低いpHを有する酸を使用する処理)は、例えば、「M」ブロックを加水分解し、それによってアルギネートのG含量を濃縮するために実施され得る。このような処理は、例えば茎状部に存在するアルギネートよりもG含量が低い葉アルギネートの場合に特に適している。「M」ブロックを加水分解するために使用され得る他の公知の方法としては、例えばリアーゼ酵素を使用する酵素処理が挙げられる。アルギネートのG含量を高めるための適切な方法としては、欧州特許第0980391号に記載されているものが挙げられ、この文献の全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0036】
いくつかの実施形態では、本方法は、アルコール、例えばプロパン-2-オールでの処理を伴う追加の前処理ステップを含んでもよい。これは、有色色素の除去を助けるために大型藻類の葉(すなわち、葉状体)を処理する場合に有益であり得る。しかし、このステップは、必須ではない。本明細書に記載されるように、明るい色のアルギネート材料は、この追加の前処理ステップを実施する必要なく、葉から依然として得ることができる。このステップで除去されたいかなる色素も、所望であれば、別個の生成物として回収及び精製され得る。
【0037】
本発明のいくつかの実施形態では、方法は、大型藻類又はその一部をカルシウムイオンと接触させる、追加の前処理ステップを含んでもよい。Ca2+イオンの添加は、アルギネート中のGブロックを結合させて、その後の処理中での分解から、それらを保護する働きをする。実施される場合、このステップは一般に、有機酸処理の前に実施される。カルシウムイオンは、例えば塩化カルシウム溶液の形態で提供されてもよい。塩化カルシウムの典型的な濃度は、当業者によって容易に決定され得るが、0.5~10%w/v、好ましくは1.0~7.5%w/vの範囲内、例えば5.0%w/vであり得る。
【0038】
特定の実施形態では、標的アルギネート材料を、相当な程度まで分解する、大型藻類のいかなる追加の前処理も、回避されるか、又は少なくとも最小限にされるべきである。大型藻類のマイクロ波処理は、従来、例えばバイオ燃料の製造において、複合多糖類をそれらの対応するモノマーに分解するために使用されている。このような処置は、本発明の方法においては回避されるべきである。したがって、一実施形態では、本明細書に記載される方法は、大型藻類又はその一部、方法中に生成される中間生成物のいずれか、及び回収されたアルギネートのうちのいずれかをマイクロ波に曝露させることを伴ういかなるステップも除外する。アルギネート鎖を任意の有意な程度まで加水分解する、いかなる過酷な酸又はアルカリ処理もまた、アルギネート鎖の分解の程度を低減し、その分子量のいかなる低減をも回避するために最小限にされる(好ましくは回避される)べきである。
【0039】
本明細書で使用される場合、「有機酸」という用語は、酸性特性を有する有機化合物を示す。本発明における使用のための有機酸は、1つ以上の酸基を有し得る。
【0040】
本明細書で使用される場合、「弱有機酸」という用語は、溶媒、例えば水に溶解されたときに部分的に解離する物質を指す。酸の強度は、滴定などの既知の方法によって実験的に決定し得る、その酸解離定数Kaによって測定される。弱酸は、強酸よりも低いKa及びより高いpKaを有する。pKaは、25℃の温度で水性媒体中で測定される酸の解離定数(Ka)の(底10に対する)負の対数である。弱酸は、非常に高いKa値及びわずかに負のpKa値を有する強酸と比較して、非常に低い値のKaを有する(したがって、より高い値のpKaを有する)。酸は、それが放棄し得るプロトンの数に応じて2つ以上の解離定数を有する場合があり、したがって、pKa1、pKa2などと示される2つ以上のpKa値を有する場合がある。酸のpKa値は、文献、例えば、CRC Handbook of Chemistry and Physics,97th Edition,June 2016,Ed.William M.Haynes.において容易に見つけることができる。
【0041】
本発明における使用のための有機酸は、アルギネート鎖の分解が最小化されるように、相当な程度までアルギネートの酸加水分解を誘導すべきではない。有利には、有機酸は、アルギン酸のそれに対するそのpKa値に基づいて選択される。アルギン酸は、1.5~3.5の範囲内のpKaを有する。好ましい実施形態では、有機酸は、アルギン酸の最低pKaよりも大きいpKa、又は適切な場合には最低pKa(すなわち、「pKa1」)を有する。したがって、好ましくは、有機酸は、1.5より大きいpKaを有する。2~6の、好ましくは2.5~5.5の、より好ましくは3~5の、例えば3~4.5の範囲内pKa(又は、適切な場合、最低pKa)を有する有機酸が、本発明における使用には好ましい。
【0042】
一実施形態では、本発明における使用のための有機酸は、アルギン酸の最高pKa以下であるpKa(又は適切な場合、最低pKa)を有する。したがって、3.5以下のpKa(又は、適切な場合、最低pKa)を有する有機酸が、特に好ましい。
【0043】
本発明での使用に適した有機酸は、それらのpKa値に基づいて当業者によって容易に選択され得る。アルギネートが何らかの医薬又は食品用途での使用を意図される場合には、有機酸はそれに応じて選択されるべきである。したがって、食品グレードの酸、すなわち、ヒトの消費を意図した食品での使用に許容されるものが適切であり得る。典型的には、それは、食品関連行政機関(例えば、欧州食品安全機関又は米国食品医薬品局)によって食品添加物としての使用が認可されている有機酸である。E数を有し、したがって、欧州連合内で食品添加物としての使用が認可されている有機酸が、特に好適である。
【0044】
本発明において使用され得る有機酸としては、例えば、カルボン酸が挙げられる。これらは、1つ以上のカルボン酸基を含有してもよく、すなわち、これらは、モノカルボン酸又はポリカルボン酸であり得る。本明細書で使用される場合、用語「ポリカルボン酸」は、少なくとも2つのカルボン酸官能基(すなわち、-COOH)を含有するカルボン酸を意味する。その酸は、例えば、モノ、ジ、又はトリカルボン酸であってもよい。
【0045】
一実施形態では、有機酸は、ポリカルボン酸、例えば、ジ又はトリカルボン酸であってもよい。複数のカルボン酸官能基を有し、Ca2+イオンなどの多価カチオンをキレートする能力も有するカルボン酸が、特に好適であり得る。これには、特に、クエン酸などのトリカルボン酸が含まれる。
【0046】
カルボン酸は典型的には脂肪族酸である。脂肪族カルボン酸としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、飽和でも不飽和でもよい。典型的には、カルボン酸は飽和である。カルボン酸は、例えば、2~20個の炭素原子を含有し得る。任意選択で、それは1つ以上の追加のヒドロキシ基を含んでもよい。脂肪族カルボン酸は、2~16個の炭素、好ましくは2~14個の炭素原子、例えば2~12個の炭素原子を含み得る。カルボン酸は、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12個の炭素原子を含有してもよい。有利には、カルボン酸は、4、5、6、7、8、9、又は10個の炭素原子、例えば4、5、6、7、又は8個の炭素原子を含有してもよい。例えば、カルボン酸は、4、5、又は6個の炭素原子を含有してもよい。
【0047】
ヒドロキシ基も含むカルボン酸は、本発明での使用に特に適している。従って、本発明での使用に適したカルボン酸には、α-ヒドロキシ酸が含まれる。本明細書で使用される場合、「α-ヒドロキシ酸」(又は「AHA」)という用語は、α-炭素原子においてヒドロキシ基で置換されたカルボン酸を指す。それは、α位にヒドロキシ基を有し、飽和又は不飽和であってよいラクトンを含む。ラクトンの形態で提供されるAHAの例としては、アスコルビン酸が挙げられるが、これに限定されない。α-炭素原子におけるヒドロキシ基に加えて、本明細書で定義されるα-ヒドロキシ酸又は「AHA」は、1つ以上の更なるヒドロキシ基を含有してもよい。
【0048】
一実施形態では、本発明における使用のためのカルボン酸は、食品グレードのAHAである。本発明での使用に適したAHAの例としては、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、及びグリコール酸が挙げられる。これらのうち、乳酸(E270)、リンゴ酸(E296)、酒石酸(E334)、クエン酸(E330)、及びアスコルビン酸(E300)はE番号を有し、一般に好ましい。本発明で使用するのに特に好ましいのは、リンゴ酸、クエン酸、及びアスコルビン酸である。クエン酸の使用が、特に好ましい。
【0049】
本発明において使用され得る他のカルボン酸の例としては、酢酸(E260)及びギ酸(E326)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
本発明で使用するのに適したカルボン酸のpKa値及び必要に応じてpKa1値は、以下の通りである:
乳酸:pKa=3.86
リンゴ酸:pKa1=3.40
酒石酸:pKa1=2.98
クエン酸:pKa1=3.13
アスコルビン酸:pKa1=4.17
グリコール酸:pKa=3.83
酢酸:pKa=4.76
ギ酸:pKa=3.75
【0051】
本明細書で言及される任意のpH及びpKa値は、周囲温度で、典型的に及び好ましくは25℃で測定される。
【0052】
大型藻類又はその一部を有機酸と接触させるステップは、任意の公知の様式で実施され得る。例えば、それは、酸の水溶液を大型藻類又はその一部に添加することと、良好な接触を確実にするために撹拌することとを含んでもよい。撹拌は、単純な混合、又はブレンド、高せん断混合などの他の技術を含み得る。適切な混合比(大型藻類:有機酸)は、当業者によって容易に決定され得る。典型的には、有機酸溶液は、大型藻類との良好な接触を確実にし、有機酸の大型藻類への拡散を助けるために過剰に使用される。例えば、約1:1.5~約1:5又は約1:2~約1:3の範囲内の、大型藻類:有機酸の体積比を使用し得る。約1:2の体積比が、適切であり得る。
【0053】
有機酸処理のための正確な条件、例えば、酸の濃度、処理の温度持続時間などは、抽出されたアルギネート材料の意図される用途及びその所望の特性などの要因を考慮して、当業者によって容易に選択され得る。本明細書に記載されるように、有機酸処理条件を変えることによって、得られるアルギネートの性質を適切に調整し得る。実施例において証明されるように、有機酸への大型藻類材料の曝露時間、その濃度、及び有機酸処理の温度は、抽出されるアルギネートの分子量に影響を及ぼす。これは、次に、溶液に溶解したときのアルギネートの粘度に本質的に影響を及ぼす。より長い処理時間及び/又はより高い温度は、例えば、アルギネートの分子量及び粘度を低下させるのに効果的である。より高濃度の有機酸の使用も、抽出されたアルギネートの分子量(したがって粘度)を低下させる。有利なことに、有機酸での前処理の条件は、所望の機能特性を有するアルギネートを回収するように調整し得る。
【0054】
典型的には、有機酸は、0.1~10.0%w/v、0.25~5.0%w/v、0.75~2.5%w/v、1.0~2.0%w/v、又は1.0~1.5%w/v、好ましくは約1%w/vの濃度を有する水溶液の形態で使用され得る。より高い分子量(したがって、より高い粘度)を有するアルギネートを提供することが望ましい場合、より低い濃度の有機酸の使用が好ましい場合があり得る。抽出されたアルギネートのより低い分子量(したがってより低い粘度)が望ましい場合、より高い濃度が適切であり、それに応じて選択され得る。例えば、5.0~10.0%w/v、6.0~10.0%w/v、又は8.0~10.0%w/vの範囲内の濃度を有する有機酸の水溶液を用いることができる。
【0055】
有機酸処理の温度は、抽出されたアルギネートの所望の分子量(したがって粘度)に応じて選択され得る。一般に、約100℃までの温度を用いることができる。しかしながら、プロセスの全体的なエネルギー必要量を低減するためには、より低い温度が一般に好ましい。より低い温度の使用はまた、有機酸前処理ステップ(したがって、抽出されたアルギネートの特性に対するその影響)にわたってより大きな程度の制御を提供し得る。10~100℃、好ましくは10~50℃、より好ましくは15~30℃、例えば20~25℃の範囲内の温度を用いることができる。しかしながら、有利には、本プロセスのこのステップは、周囲温度、例えば18~25℃の範囲内で行われる。理解されるように、周囲温度ならば、追加の加熱が不要である。したがって、一組の実施形態では、本発明は、大型藻類又はその一部からアルギネートを抽出するための方法を提供し、その方法は:(i)大型藻類又はその一部を、弱有機酸の水溶液と、周囲温度、例えば18~25℃の温度で接触させるステップと;(ii)続いて前記大型藻類又はその一部を鉱酸の水溶液と接触させ、それによって前処理された大型藻類材料を形成するステップと;(iii)前処理された大型藻類材料から、アルギネートを抽出するステップと、を含む。
【0056】
抽出されたアルギネートのより低い分子量(したがってより低い粘度)が望ましい場合、有機酸処理のためにより高い温度が適切であり、それに応じて選択され得る。より高い温度が使用される場合、これらは60~100℃、例えば65~100℃、70~100℃、80~100℃、90~100℃、又は95~99℃の範囲内であってもよい。したがって、別の一組の実施形態では、本発明は、大型藻類又はその一部からアルギネートを抽出するための方法を提供し、その方法は:(i)大型藻類又はその一部を、弱有機酸の水溶液と、60~100℃の温度で接触させるステップと;(ii)続いて前記大型藻類又はその一部を鉱酸の水溶液と接触させ、それによって前処理された大型藻類材料を形成するステップと;(iii)前処理された大型藻類材料から、アルギネートを抽出するステップと、を含む。
【0057】
有機酸処理の時間は、当業者が適宜選択し得る。例えば、処理の時間は、数分~数時間の範囲であり得る。理解されるように、処理の持続時間は、有機酸の選択された濃度及び方法のこのステップで使用される温度によって影響される。低濃度の有機酸が使用される場合、処置の持続時間は、例えば、数日又は更には数週間にまで延長され得る。しかしながら、典型的には、有機酸処理は、2時間まで、例えば1.5時間まで、例えば1時間まで行われてもよい。処理は、特に高温及び/又は高濃度の有機酸が使用される場合には、より短い時間、例えば1時間未満で行うことができる。例えば、処理時間はせいぜい2分程度、又は5分程度であってもよい。処理時間は、例えば、2~60分、又は5~50分、又は10~40分、又は20~30分の範囲内であってよい。
【0058】
有機酸処理の温度及び持続時間の適切な組み合わせは、当業者によって選択され得る。例えば、周囲温度で約1時間の処理は、高粘度、例えば、800cp超、900cp超、1000cp超、1500cp超、1600cp超、1700cp超、1800cp超、又は1900cp超の粘度を有するアルギネートの製造に特に好適であり得る。より高い温度、例えば約60℃が用いられる場合、中程度の粘度、例えば400~800cpの範囲内の粘度を有するアルギネートを生成するために約5~10分の範囲内の処理時間が選択されてもよく、低粘度、例えば50~400cpの範囲内の粘度を有するアルギネートを生成するために約30~40分の処理時間が選択されてもよい。超低粘度アルギネートが所望される場合、約100℃までのより高い処理温度、例えば約95℃~約99℃、例えば約95℃で、約20分間が好適であり得る。約20~45分間、例えば35~40分間にわたる、より高い処理温度が、超低粘度アルギネートを提供するのには適切であり得る。超低粘度は、5~50cpの範囲内であり得る。本明細書で言及される全ての粘度は、ブルックフィールド型粘度計を使用して測定される、20℃の水中のアルギネートの1重量%溶液の粘度を指す。
【0059】
本方法の有機酸前処理ステップの温度及び期間の選択は、使用される有機酸溶液の濃度を考慮に入れるべきである。例えば、より高濃度の有機酸を使用する場合、より短い処理時間及び/又はより低い温度が、必要とされる機能特性を有する抽出されたアルギネートを生成する際に所望の程度の制御を提供するために適切であり得る。
【0060】
有機酸前処理に続いて、液体は、典型的には、大型藻類又はその一部、すなわち未溶解固体から、例えば濾過又は遠心分離によって分離される。プロセス効率を改善するために、遠心分離機からの濾液又は液相を収集し、別の前処理プロセスで再使用し得る。この段階で、例えば脱イオン水を使用して、追加の洗浄ステップを行ってもよい。
【0061】
有機酸による処理の後に、金属カチオンをプロトンと交換することによって不溶性アルギネートをアルギン酸に変換することを目的とする金属カチオン交換ステップが続く。本発明の方法では、この金属カチオン交換ステップは、有機酸処理ステップに「続いて」行われる。この文脈において、「続いて」という用語は、方法のステップ(i)とステップ(ii)との間に、1つ以上の中間処理ステップがあるという選択肢を排除することを意図しない。ステップ(ii)はステップ(i)の直後であってもよいが、その必要はない。上記で詳述したように、有機酸前処理ステップの後に、例えば、処理された大型藻類又はその一部を、いかなる液体から分離してもよく、任意選択で、処理された大型藻類又はその一部を1つ以上の洗浄ステップに供してもよい。
【0062】
ステップ(ii)は、大型藻類又はその一部を、鉱酸の水溶液と接触させて、前処理済み大型藻類材料を形成することを含む。これは、全体のpHを例えば約1.5~約2、例えば1.7~1.9の範囲内のpHに低下させるために反応混合物に添加される、鉱酸の添加によって行われる。好適な鉱酸としては、塩酸及び/又は硫酸が挙げられる。好都合には、鉱酸は、塩酸であろう。より好ましくは、鉱酸は、硫酸であろう。材料は60分まで、例えば30分まで、例えば約15分まで静置し得る。理解されるように、接触時間は材料の粒径に依存し、当業者によって容易に選択し得る。鉱酸との接触中に、混合物を撹拌しても(例えば、かき混ぜても)よい。一般に、鉱酸処理は、周囲温度で、すなわち18~25℃の範囲内の温度で行われる。所望であれば、鉱酸による処理のステップを繰り返してもよい。
【0063】
鉱酸処理に続いて、本方法は、典型的には、得られた混合物を溶液相と残留固体とに分離するステップを含む。例えば、次いで、材料をフィルターを通して排水するか、又は遠心分離機に移すことができる。得られたゲル又は沈殿物は、過剰の鉱酸を除去するために、1回以上のすすぎステップにおいて水ですすいでもよい。プロセスのこの部分で使用される水は、典型的には、Ca2+イオンの再導入を避けるために脱イオン水である。水によるすすぎは、材料のpHを例えば4~5の範囲内のpHに上昇させるのに有効であり、必要に応じて繰り返してもよい。鉱酸溶液である、濾液又は遠心分離機からの液相は、収集されてもよく、所望される場合、後続の金属カチオン交換ステップにおいて使用されることができ、それによって、プロセス効率が改善される。
【0064】
本明細書に記載される前処理プロセスの後、天然アルギネートは、不溶性形態で、すなわち主にアルギン酸の形態で存在する。アルギン酸カルシウム残基も依然として存在し得る。本プロセスの次のステップは、大型藻類中に存在する不溶性アルギネート及び/又はアルギン酸を、可溶性形態(例えば、可溶性ナトリウム形態)に変換することと、任意選択的にそれを回収することとを含む「抽出ステップ」である。
【0065】
アルギネートの抽出は、大型藻類中に存在する不溶性アルギネート及び/又はアルギン酸の、可溶性ナトリウム(又はカリウム)形態への変換を伴い、これは回収のために溶液中に抽出される。大型藻類からアルギネートを抽出する方法は、当該技術分野において周知であり、任意の既知の方法を使用して、本明細書に記載される前処理プロセス後に所望のアルギネートを得ることができる。
【0066】
抽出後、可溶化されたアルギネートは、大型藻類の残留固体成分から(例えば、濾過又は遠心分離によって)分離され、更に処理されてアルギネートを回収し得る。例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、又はアルギン酸アンモニウムを、例えば乾燥粉末形態で回収し得る。
【0067】
大型藻類又はその一部からアルギネートを抽出するステップは、大型藻類又はその一部をアルカリ溶液と接触させることを含んでもよく、すなわちこのステップは、アルカリ抽出プロセスである。本明細書で使用される場合、「抽出」という用語は、典型的にはアルギン酸カルシウムとして、不溶性形態で大型藻類又はその一部に存在するアルギネートの可溶化を伴うプロセスを指すことが意図される。抽出後、可溶化アルギネートを含有する得られた溶液の一部又は全部を、大型藻類の残留固体成分から分離(例えば、濾過)してもよい。
【0068】
典型的には、抽出に使用するアルカリ溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、及び炭酸ナトリウムから選択し得る。好都合には、それは炭酸イオンを含んでいてもよく、例えば炭酸ナトリウム溶液であってもよい。例えば、大型藻類又はその一部からアルギネートを抽出するステップは、炭酸ナトリウム及び/又は水酸化ナトリウム、好ましくは炭酸ナトリウム(例えば、飽和炭酸ナトリウム溶液)の使用を含む。アルカリ溶液、例えば炭酸ナトリウムは、好適な濃度で使用し得る。好ましくは、低濃度で使用される。例えば、0.05~4%、好ましくは0.1~1%、又は0.1~0.5%、例えば約0.25%の濃度で使用し得る。アルギネートの製造のための従来の工業的方法は、天然アルギネートの必要とされる分子量減少及びその抽出のために所望のpHレベル(例えば、pH 11又は12の領域)を達成するために、高濃度の高苛性物質を使用する。水酸化ナトリウムと組み合わせた4%炭酸ナトリウムの使用は典型的であり、アルギネート回収プロセスにおいて炭酸ナトリウムを中和するときに高いCO2排出をもたらす。本発明の方法における、はるかに低い濃度の炭酸ナトリウムを使用する能力により、CO2排出量の有意な低減をもたらされる。例えば、0.25%以下の濃度で炭酸ナトリウムを使用すると、生成されるアルギネート1トン当たり、少なくとも11倍少ないCO2が得られると推定される。本明細書にも記載されているように、炭酸ナトリウム溶液でアルギン酸を効果的に滴定することによって、最大40倍のCO2排出量の更なる低減を達成し得る。
【0069】
一実施形態では、アルカリ抽出ステップにおいて炭酸ナトリウムの代わりに水酸化ナトリウムを使用し得る。有利には、水酸化ナトリウムの使用は、本プロセスのこのステップについてCO2排出量をゼロとする。
【0070】
アルカリ溶液との接触は、アルカリ溶液中への大型藻類又はその一部の浸漬を含んでもよく、又はアルカリ溶液との混合、例えば高せん断混合を含んでもよい。浸漬又は混合は、約2分~約24時間、例えば30分~24時間、例えば30~45分間の期間にわたって実施され得る。接触の間、pHは約7~9、好ましくは約7~約8.5、より好ましくは約7~約8、例えば約7~約7.5の範囲内に保たれるべきである。pHは、例えば、7、7.1、7.2、7.3、7.4、又は7.5に維持され得る。必要であれば、追加のアルカリを必要に応じて加えることができる。反応温度及び反応時間は、容易に変えることができる。例えば、反応温度は、10~80℃、好ましくは20~60℃、例えば20~30℃、又は40~60℃の範囲内であってよい。好ましくは、アルカリ抽出は周囲温度で、すなわち追加の加熱なしに行われるであろう。
【0071】
一実施形態では、アルカリ溶液は、pHが上昇し、所望のpH範囲、例えば約7~約9.5、好ましくは約7~約9、より好ましくは約7~約8.5、更により好ましくは約7~約8、例えば約7~約7.5の範囲内で安定するまで、酸性化した大型藻類又はその一部に徐々に添加される。例えば、アルカリ溶液は、pHが7、7.1、7.2、7.3、7.4、又は7.5に増加するまで添加され得る。このステップ中のpHの効果的な制御は、例えばpHメーターを用いてpHを同時にモニターしながらアルカリ溶液を徐々に添加することによって達成し得る。このようにして、添加されるアルカリ溶液の量は、存在するアルギン酸の量と効果的にバランスをとり、理想的には、不溶性アルギネートの可溶性形態(例えばナトリウム形態)への変換を達成するのに厳密に必要な量を超えない。例えば、アルカリ(例えば炭酸ナトリウム)の最終濃度は約0.1%であってもよい。材料のpHの安定化は、アルギネートの可溶性形態(例えば、アルギン酸ナトリウム)への変換を示すものである。pHを最小にすると、アルギネート鎖の加水分解の程度が減少する。
【0072】
大型藻類又はその一部からアルギネートを抽出するステップは、可溶化されたアルギネートを残留固体から分離するステップを更に含んでもよい。可溶化されたアルギネートの残留固体からの分離は、既知の方法によって、例えば水での希釈(必要であれば)及び濾過、例えば遠心分離によって行うことができる。これらの分離ステップは、必要に応じて繰り返すことができる。除去された任意の固体は、例えばセルロース製造に使用し得る。
【0073】
所望であれば、アルギネートは、本明細書に記載されている周知の「アルギン酸」法又は「アルギン酸カルシウム」法などの従来の方法を使用して、任意の分離されたアルギン酸ナトリウム(又はカリウム若しくはアンモニウム)溶液から回収し得る。このような方法は周知であり、先行技術、例えば、McHugh(Dennis J.McHugh-Chapter 5(Alginate)in「A guide to the seaweed industry」,FAO Fisheries Technical Paper 441,Food and Agriculture Organisation of the United Nations,2003)に記載されており、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0074】
アルギン酸法では、塩酸及び/又は硫酸などの鉱酸と接触させてアルギン酸の沈殿物を形成することによって、溶液のpHを調整する。その酸は、溶液のpHを約2以下、好ましくは1.7~1.9に低下させ、それによってアルギン酸沈殿物を形成するのに十分な量及び濃度で使用し得る。好ましくは、塩酸が使用される。アルギン酸沈殿物は、例えば遠心分離によってゲルの形態で回収される。得られたゲルを任意選択的に水ですすいで過剰の酸を除去し、pHを上げて、約3.5~約4.0のpHを有する溶液を提供してもよい。所望であれば、次に、ナトリウムイオンを含有するアルカリの添加によって、例えば炭酸ナトリウム溶液の添加によって、アルギン酸ゲルをアルギン酸ナトリウムに変換してもよい。添加は、連続的にかき混ぜながら行うべきである。炭酸ナトリウム溶液の量及び濃度は容易に調整し得るが、典型的には、溶液のpHを7.0~7.3に調整するのに十分なものである。あるいは、他の可溶性アルギネートは、適切な対イオンを使用して調製され得る。例えば、アルギン酸カリウムは、カリウムイオンを含有するアルカリを使用して調製され得る。
【0075】
所望のアルギネート生成物を回収するために、得られた溶液を、アルコール若しくはアルコールの混合物、又はアセトンなどの貧溶媒と接触させてもよい。適切なアルコールとしては、例えば、プロパン-2-オール及びエタノールが挙げられる。これは、アルギン酸ナトリウムを濃厚なゲル又は沈殿として溶液から移動させる。続いて、この沈殿物を、例えば遠心分離によって溶媒混合物から除去し得る。貧溶媒は、回収して再利用することができ、これによりプロセスの効率が改善される。次いで、得られたアルギネートを、例えば真空オーブン中で、例えば100℃まで、例えば95℃まで、例えば85℃まで、例えば50℃まで、例えば30℃まで、好ましくは30℃の温度で乾燥させることができる。
【0076】
「アルギン酸カルシウム」法では、塩化カルシウムを添加してアルギン酸カルシウムを沈殿させるか、又はゲルを形成させ、次いでこれを回収し得る。次いで、塩酸及び/又は硫酸などの鉱酸を用いて、沈殿物又はゲルのpHを約2.3未満に低下させる。得られたアルギン酸沈殿物又はゲルを、例えば遠心分離によって回収する。これを任意選択的に水ですすいで過剰の酸を除去し、pHを上げて約3~約4のpHを有する溶液を提供してもよい。所望であれば、次に、ナトリウムイオンを含有するアルカリの添加によって、例えば炭酸ナトリウム溶液の添加によって、アルギン酸材料をアルギン酸ナトリウムに変換してもよい。添加は、かき混ぜながら行ってもよい。炭酸ナトリウム溶液の量及び濃度は容易に調整し得るが、典型的には、溶液のpHを7.0~7.3に調整するのに十分なものである。あるいは、他の可溶性アルギネートは、適切な対イオンを使用して調製され得る。例えば、アルギン酸カリウムは、カリウムイオンを含有するアルカリを使用して調製され得る。所望のアルギネート生成物を回収するために、得られた溶液を、「アルギン酸」法について上述したような、アルコール若しくはアルコールの混合物、又はアセトンなどの貧溶媒と接触させてもよい。
【0077】
本発明の方法の特定の一実施形態が、選択された有機酸としてクエン酸を使用する
図1を参照して説明される。
図1において、プロセスは、茎状部及び葉を有する大型藻類(ラミナリアハイパーボレア)を入手することと、及び非茎状部部分を除去して茎状部のみからなる大型藻類部分を提供することとを含む。非茎状部部分は、例えば、当技術分野で一般的に使用される切断機を使用して、手動又は自動切断によって除去される。次いで、茎状部を細断し、例えば空気乾燥又は流動床乾燥によって乾燥させる。本プロセスの前処理段階に先だって、乾燥した茎状部を飲料水中で2時間にわたって再水和する。塩及びポリフェノールなどの他の望ましくない水溶性成分は、再水和プロセス中に抽出される。次いで、再水和された茎状部を、残留水から分離する。この時点で、再水和された茎状部は、有機酸による前処理ステップの準備ができている。
【0078】
本明細書に記載されるように、本発明の方法は、アルギネート製品の最終特性を調整するために、容易に適合させることができる。これは、所望の「高」、「中」、「低」又は「超低」粘度を有するアルギネートを製造することを意図した様々な修正によって、
図1に示されている。例えば、「高」粘度は800cpより大きくてもよく、「中」粘度は400~800cpの範囲内であってもよく、低粘度は50~400cpの範囲内であってもよく、超低粘度は5~50cpの範囲内であってもよい。「高」粘度アルギネートが所望される場合、クエン酸による前処理は、周囲条件下で60分間実施され得る。「中」粘度のアルギネートが所望される場合、クエン酸による前処理は、より高い温度、すなわち60℃で5~10分間行われてもよく、一方、「低」粘度のアルギネートが所望される場合、60℃でのクエン酸による前処理の期間は30~40分間に延長されてもよい。超低粘度アルギネートが望ましい場合、すなわち、アルギネートが分解されてオリゴ糖を形成したものが望ましい場合には、追加の前処理ステップを実施してもよい。クエン酸による前処理の前に、アルギネートをカルシウムイオンで処理してGブロックに結合させ、それらを分解から保護する。その後、95℃で少なくとも20分間、クエン酸処理を行う。
【0079】
図1に示されるプロセスの残りの部分は、異なる目標粘度のそれぞれに共通である。いずれの場合も、固体を脱イオン水ですすぎ、過剰のクエン酸を除去し、未溶解の固体を濾過によって分離する。次いで、鉱酸(例えば、塩酸又は硫酸)を未溶解の固体に添加してpHを1.7~1.9に調整し、それによって大型藻類マトリックス中のアルギネートに結合しているカルシウムイオンを移動させる。鉱酸処理を、約15分間実施する。その後、得られた混合物を排水し、固体残留物を脱イオン水ですすいで過剰の鉱酸を除去する。
【0080】
次に、鉱酸で処理した試料を、飽和炭酸ナトリウム溶液を用いて抽出する。この溶液を固体材料に徐々に添加し、かき混ぜながらpHを7~7.5に45~60分間保持する。このプロセスの間、アルギン酸は炭酸ナトリウムによって中和される。これにより可溶性アルギン酸ナトリウムが生成され、これを溶液中に抽出して回収し得る。次いで、混合物の固体成分及び液体成分を分離する。任意選択的に、固体成分は、セルロース製造に使用し得る。
【0081】
液体成分を処理して、アルギン酸ナトリウムを粉末の形態で回収する。具体的には、これを鉱酸(例えば、塩酸又は硫酸)と接触させて、pHを1.7~1.9に低下させる。これにより、アルギン酸ナトリウムをアルギン酸に戻すが、アルギン酸は不溶性であり、濃厚なアルギン酸ゲルとして沈殿する。これを濾過により、溶液から回収する。ゲルをすすいで過剰の酸を除去し、次いでpHが7.0に達するまで飽和炭酸ナトリウム溶液を添加することによってアルギン酸ナトリウムに変換する。プロパン-2-オールを添加するとアルギン酸ナトリウムが沈殿し、これを濾過により固体として回収する。真空下30℃で乾燥させると、所望のアルギン酸ナトリウム生成物が白色粉末の形態で得られる。
【0082】
従って、本発明の方法は、クエン酸による前処理ステップの正確な条件を変えることによって、アルギネートの粘度が容易に調節され得るプロセスを提供する。全ての下流の処理ステップは、最初のクエン酸による処理段階にかかわらず同じままである。これは、同じ下流処理装置が使用されることを可能にし、これは工業環境において有利である。
図1に示される方法の特定の実施形態は、ラミナリアハイパーボレア及びクエン酸の使用に関連して記載されるが、他の大型藻類及び他の弱有機酸、例えば、本明細書に記載されるもののいずれかが、本発明による方法において使用され得るということが理解されるであろう。
【0083】
1つ以上の実施形態では、本発明の方法は、大型藻類からのアルギネートの生産において使用される従来の工業的方法に対する改善を提供する。そのような改善には、アルギネートの収率、本方法によって生成されるアルギネートの品質、純度、及び特性、並びに本プロセスの持続可能性が含まれるが、これらに限定されない。有利には、本方法は、必要に応じて、抽出されたアルギネート材料の特性、例えば、その分子量、そのM/G比などを微調整する能力を提供する。
【0084】
本明細書に示されるように、有機酸の使用は、茎状部の外層又は「樹皮」中に存在するものが含む、大型藻類中の望ましくない色素(例えば、ポリフェノール)を分解するのに効果的である。したがって、それはそれらの除去を助け、したがってより明るい色のアルギネート生成物が提供される。したがって、少なくとも特定の実施形態では、本発明は、抽出されたアルギネート中の望ましくない色の問題に対処するための代替的方法を提供する。重要なことに、それは、処理の前に茎状部から樹皮を化学的又は機械的に除去する必要性を回避する。これは、廃棄される材料の量を低減し、工業規模で実施される場合に製造プロセスを簡略化するものである。更に、色の問題に対処するために、既知の色止め剤(例えば、ホルムアルデヒド及びホルムアルデヒド誘導体)及び/又は次亜塩素酸塩などの化学漂白剤を使用する必要性を回避する。これにより、製造後に追加の漂白を必要としないアルギネート材料、及びホルムアルデヒドなどの毒性のある化学物質を含まない残留セルロース含有残留物が製造される。
【0085】
したがって、一組の実施形態では、本発明の方法は、大型藻類又はその一部をホルムアルデヒド又はホルムアルデヒド誘導体で処理するステップを含まない。
【0086】
別の一組の実施形態では、本発明の方法は、大型藻類又はその一部を漂白剤で処理するステップを含まない。更なる一組の実施形態では、本方法は、回収されたアルギネート材料を漂白するステップを含まない。一組の実施形態では、本発明の方法は、漂白ステップを含まない、すなわち、本方法は、漂白剤の使用を含まない。例えば、本方法は、大型藻類又はその一部、本方法中に生成される中間生成物のいずれか、及び回収されたアルギネートのうちのいずれも漂白剤と接触させるステップを含まない。本明細書で使用するとき、用語「漂白剤」は、化学反応を介して基材を明色化又は白色化し得る化学剤を指す。典型的には、漂白剤は、有色色素を分解する酸化又は還元プロセスを含む漂白反応に関与するものである。漂白剤の例としては、ペルオキシド又はペルオキシ酸を含むか、又はそれらの供給源として作用する化合物、例えば、水素ペルオキシド、ペルオキシド塩、ペルオキシ酸、ヒドロペルオキシド、炭酸塩、過炭酸塩、6-(フタルイミド)ペルオキシヘキサン酸(PAP)、過酢酸;酸化触媒、例えば、単核又は二核遷移金属触媒(例えば、マンガン)(例えば、酸化触媒は、[(MnIV)2(u-O)3(Me3-TACN)2]2+、[(MnIII)2(u-O)(u-CH3COO)2(Me3-TACN2]2+、及び[MnIIIMnIV(u-O)2(u-CH3COO)(Me4-DTNE)]2+、並びにそれらの好適な塩から選択される1つ以上の基から選択され得る;ペルオキシド活性化剤(すなわち、ペルオキシド基の供給源と反応して、ペルオキシド基を提供する化合物)、例えば、テトラアセチルエチレンジアミン(TAED);ペルオキシ酸活性化剤(すなわち、ペルオキシ酸の供給源と反応して、ペルオキシ酸基を提供する化合物)、例えば、テトラアセチルエチレンジアミン(TAED);ヒポクロリット;クロリットを含むか、又はクロリットの供給源として作用する化合物;二酸化塩素;亜塩素酸塩;及び塩素が挙げられるが、それらに限定されない。典型的な漂白剤としては、過酸化水素、ペルオキシ酸、過硫酸塩、有機過酸化物、及び次亜塩素酸塩が挙げられる。
【0087】
本明細書に記載される方法は、外観が明るいアルギネート材料を有利に提供するが、最終的なアルギネート材料の所望の色は、最終的にその最終用途によって決定されるということが理解されるであろう。特定の用途では、最終的なアルギネート材料を漂白することが望ましい場合がある。しかしながら、いかなる漂白剤が使用される場合も、それは低濃度で使用され得る。
【0088】
本明細書で実証されるように、本発明の方法は、予想外にも、アルギネートの収率の増加を提供する。本明細書で使用される場合、「増加した収率」という用語は、大型藻類の処理からのアルギネートの増加した生産量を指す。収率の増加は、有機酸によるアルギネート鎖の加水分解(より多くのアルギネート鎖が抽出される結果となる)に起因し得ると想定され得るが、本明細書に提示される証拠は、この想定を支持しない。予想に反して、アルギネートの粘度(その分子量を示す)は、収率の増加を犠牲にして減少するということはない。したがって、有機酸による処理は、より高いアルギネート収率の回収を可能にするだけでなく、予想外に、アルギネートの分子量(すなわち、鎖長)を保存し、水に溶解したときにより高い粘度をもたらす。本発明の方法を実施する場合の典型的な収率は、25%を超え、好ましくは30%以上(乾燥重量基準で)であり得る。場合によっては、収率は40%(乾燥重量基準で)を超えて増加し得る。
【0089】
その調製において使用される方法の直接的な結果として、本明細書に記載されるアルギネート材料は、従来の工業プロセスを使用して生成されるものとは異なる。したがって、別の一態様では、本発明は、新規なアルギネート材料、すなわち、本明細書に記載の方法によって得ることができるか、得られるか、又は直接得られる、アルギネート又はアルギネート誘導体を提供する。
【0090】
得られたアルギネートの色は、出発材料、すなわち、その製造に使用される大型藻類の1つ以上の部分の性質に依存する。例えば、葉は、茎状部よりも高い割合の色素を含有することが知られており、「骨白」であり得る茎状部由来のものと比較して、白色からオフホワイトの生成物を生成し得る。しかしながら、葉からのアルギネート製品は、製品として有用であるために追加の漂白を必要としないほど十分に無色である。
【0091】
本明細書で実証されるように、選択された投入材料にかかわらず、本発明の方法に従って生成された抽出アルギネート材料は、したがって、色が「明るい」。本発明の方法は、任意の出発材料から、更には樹皮及び着生植物を含む茎状部から、高品質でクリーンな(すなわち脱色された)アルギネート材料の抽出を可能にする。少なくとも特定の実施形態では、生成されたアルギネート材料の色は、「オフホワイト」、「白色」、又は「骨白色」として記載され得る。その低減された色(すなわち、色素の低減された含量)のために、アルギネート材料は、低い濃度の色を必要とする用途における使用に特に適している。また、その製造に使用される毒性化学物質が存在しないことにより、色の問題に対処するために従来使用されている微量の化学物質であっても許容されない医薬品及び食品用途に特に適している。
【0092】
特定の実施形態では、アルギネート材料は、ポリフェノールなどの任意の色素を実質的に含まない。例えば、それは、約2重量%未満、好ましくは約1重量%未満、例えば約0.5重量%未満、又は約0.3重量%未満の任意の色素を含有してもよい。特に、それは、約2重量%未満、好ましくは約1重量%未満、例えば、約0.5重量%未満、又は約0.3重量%未満の任意のポリフェノールを含有し得る。理解されるように、色の問題に対処するための化学漂白剤の従来の使用は、必ずしも汚染物質を除去するわけではないが、これらを異なる光吸収及び/又は反射特性を有する他の成分に変換することによって、それらの色を減少させ得る。漂白されたアルギネート材料は、着色されていないが、したがって、元の色素から生じる汚染物質を依然として含有し得る。
【0093】
特定の態様では、抽出されたアルギネート材料は、従来の工業プロセスを使用して生成されたものと比較して、いかなる残留ホルムアルデヒド又はグルタルアルデヒドなどのホルムアルデヒドのいかなる誘導体の含有量も低減されている。したがって、一組の実施形態では、アルギネート材料は、ホルムアルデヒド又はグルタルアルデヒドなどのホルムアルデヒドのいかなる誘導体も実質的に含まない。例えば、それは、約2重量%未満、好ましくは約1重量%未満、例えば約0.5重量%未満、又は約0.3重量%未満であるホルムアルデヒド又はホルムアルデヒドの何らかの誘導体の残留含量を有し得る。最も好ましくは、ホルムアルデヒド又はその何らかの誘導体の含有量は、検出限界未満であり、すなわち検出不能である。
【0094】
特定の態様では、アルギネート材料は、本明細書に記載されるように、低減された含量の、何らかの残留化学漂白剤を有する。一組の実施形態では、アルギネート材料は、次亜塩素酸塩漂白剤などの本明細書で定義される、いかなる化学漂白剤も実質的に含まない。例えば、それは、約2重量%未満、好ましくは約1重量%未満、例えば約0.5重量%未満、又は約0.3重量%未満である化学漂白剤の残留含量を有し得る。最も好ましくは、いかなる化学漂白剤の含有量も、検出限界未満であり、すなわち検出不能である。
【0095】
本発明の方法に従って製造されたアルギネートは、分子量、多分散性指数、粘度(すなわち、それが溶解されている溶液の得られた粘度)、そのM含量及びG含量、そのM/G比、並びにそのゲル化特性(すなわち、Ca2+イオンと接触してゲルを形成するその能力)に関して更に特徴付けられ得る。
【0096】
別段の指定がない限り、本明細書で使用される場合、「分子量」は、重量平均分子量(Mw)を指す。重量平均分子量は、任意のポリマー画分の分子量にその重量画分を掛けた積の合計である。分子量は、例えば、試料に対してNa3PO4+EDTAの移動相を使用して、多角度静的光散乱によるサイズ排除クロマトグラフィー(SEC-MALS)によって測定し得る。分子量を決定するための較正曲線は、プルラン分子量標準を使用して作成し得る。SEC-MALS分析は、重量平均分子量(Mw)及び多分散指数(PDI)を提供し得る。分子量(Mw)は、例えば、本明細書に示される実施例における手順に従って決定され得る。アルギネートの分子量は、本明細書に記載される有機酸による前処理のパラメータを変えることによって調整し得る。このようにして、分子量は、材料の所望の使用法に従って調整し得る。アルギネートの分子量は、約30~約650kDa、例えば約40~約500kDa、又は約50~約400kDa、例えば約60~約350kDaの範囲であってよい。本発明の方法の特定の態様において使用される穏やかな条件のために、アルギネートの分子量は、現在の業界標準の方法によって得られるものよりも高くなり得る。アルギネートの分子量は、例えば、少なくとも300kDaであり得る。例えば、少なくとも310kDa、好ましくは少なくとも320kDa、より好ましくは少なくとも330kDa、少なくとも340kDa、少なくとも400kDa、少なくとも450kDa、少なくとも500kDa、少なくとも550kDa、又は少なくとも600kDaであってもよい。本明細書に記載されるように、有機酸による前処理ステップにおいて用いられる正確な条件を調整することによって、例えば、より高い処理温度及び/又はより長い処理時間を用いる場合には、より低い分子量を有するアルギネートが所望のように得られ得る。
【0097】
本明細書で言及される場合、ポリマーの多分散性指数(polydispersity index、PDI)は、ポリマーの重量平均分子量をその数平均分子量で割ることによって計算される。数平均分子量は、例えば本明細書に記載されるように、SEC-MALSを使用して測定し得る。多分散性指数が1.0に近いほど、ポリマーの分子量範囲はより均一である。アルギネートの多分散性指数は、1.2~3.5、例えば1.2~2.7、1.2~2.6、1.2~2.3、又は1.2~2.0、例えば1.3~1.9の範囲内であり得る。好ましい実施形態では、多分散指数は低く、例えば1.2~2.0、例えば1.2~1.8、例えば1.2~1.5の範囲内、例えば約1.4である。低いPDIを有するアルギネートを生成する能力は、その均一性が、所望の最終用途に従ってそのMwを更に調節するために使用され得る任意の下流の方法においてより大きな柔軟性を可能にするので、有利である。
【0098】
アルギネートのα-L-グルロネート(G)含量は、1H-NMRなどの当技術分野で公知の方法を用いて決定し得る。例えば、実施例に記載されているGrasdalenらの方法を用いて測定し得る。本明細書に記載される方法によって得られるアルギネートのα-L-グルロネート(G)含量は、約55~80%、例えば約60~80%、又は65~75%の範囲であり得る。特定の実施形態では、α-L-グルロネート(G)含量は、70%超、例えば75%超である。
【0099】
本発明はまた、本明細書に記載されるアルギネート及びアルギネート材料を含有する製品に関する。そのような製品の例としては、食品、医薬品、農薬製品、ヘルスケア製品、生物医学製品、化粧品、織物製品、紙製品、及びボール紙製品などが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
本発明を、以下の非限定的な実施例において、及び添付の図を参照して、より詳細に説明する。
【
図1】本発明の実施形態による方法を示す概略図である。
【
図2】1%(w/v)クエン酸中で処理した茎状部全体を示す画像である。
【
図3】1%(w/v)クエン酸中で処理した、皮むきされた茎状部を示す画像である。
【
図4】1%(w/v)クエン酸及び2%ホルムアルデヒド溶液中で処理された茎状部全体を比較する画像である。
【
図5】本発明によるクエン酸による前処理後に生成されたアルギネート試料及びホルムアルデヒドによる処理後に生成されたアルギネート試料を示す画像である。
【
図6】本発明によるクエン酸による前処理後に生成されたアルギネート試料を示す画像である。
【
図7】0.10%、0.25%、0.50%、及び1.00%(w/v)の濃度を有するクエン酸溶液を使用した、アルギネート溶液粘度に対するクエン酸への曝露の持続時間の効果を示す図である。
【
図8】アルギネート溶液粘度に対する、60℃でのクエン酸への曝露時間の増加の効果を示す図である。
【
図9】10%(w/v)の濃度を有するクエン酸溶液を使用した、アルギネート溶液粘度に対する、クエン酸への曝露の持続時間の影響を示す図である。
【実施例】
【0101】
一般的手順:
出発物質の調製:
乾燥したフレーク状のラミナリアハイパーボレアの調製:葉及び着生植物を除去したが、細かく刻んで乾燥させる前に皮を残し、安定した中間体(乾燥した茎状部)を製造した。これは、前処理プロセスを実施する前に、水の添加によって再水和された。水洗浄による再水和及び残留水の除去は、塩及びポリフェノールを含む他の望ましくない水溶性成分を、茎状部マトリックスから抽出するのに役立った。
【0102】
細かく刻んだばかりのラミナリアハイパーボレアの茎状部の調製:葉及び着生植物を除去し、皮付き茎状部を脱塩水に浸して、塩を除去したことで、溶液の導電率が200μS未満になった。次に、浸した茎状部を、600Wモーターを有するTefal Blendforce II、タイプBL42ブレンダーを使用して、最高出力設定でブレンドした。
【0103】
乾燥した材料及び新鮮な材料の両方に関して、茎状部の粒子サイズは、およそ500~1000μmの範囲内であった。
【0104】
有機酸による前処理:
上記のように調製した再水和茎状部をブレンダーに添加した。脱塩水中の、選択された有機酸の1%w/v溶液を調製し、十分な有機酸溶液を反応容器に添加して、ブレンダー中の再水和した茎状部をカバーした。次いで、得られた反応混合物を、2回の5秒ブレンドパルス又は1回の10秒ブレンドパルスを使用してブレンドした。ブレンド後、得られた混合物を容器に移した。1%w/vの有機酸溶液の更なるアリコートを使用して、ブレンダーをすすぎ、リンス溶液も容器に移した。次いで、容器の内容物をかき混ぜながら60分間浸漬させた。
【0105】
金属カチオン交換:
液体を濾液又は遠心分離によって、溶解していない固体から分離した。有機酸溶液を含有する、濾液又は遠心分離からの液相を回収した。次いで、フィルター又は遠心分離機中の試料を脱塩水ですすぎ、過剰の有機酸を除去し、試料を容器に戻し、更に水を加えてすすいだ。液体を再び濾過により未溶解固体から分離した。次いで、試料をブレンダーに移し、塩酸を反応混合物に添加して、全体のpHを1.7~1.9に低下させた。次いで、酸性化した試料を、2回の5秒のブレンドパルス又は1回の10秒のブレンドパルスを使用してブレンドし、試料をかき混ぜながら又はかき混ぜずに静置した。次いで、試料をフィルターを通して排水するか、又は遠心分離機に移し、得られた固体画分を容器に移し、脱塩水ですすいで過剰の塩酸を除去した。塩酸溶液である濾液又は遠心分離からの液相を回収した。
【0106】
アルギネートの抽出;
次に、鉱酸で処理した試料を、フィルターを通して排水するか、又は遠心分離機を用いて分離し、固体をブレンダーに移した。飽和炭酸ナトリウム溶液をブレンダーに添加し、得られた混合物を2回の5秒ブレンドパルス又は1回の10秒ブレンドパルスを用いてブレンドした。ブレンド混合物のpHは約9であったが、炭酸塩がアルギン酸と反応するにつれて急速に低下する。次いで、ブレンドした混合物を反応容器に移し、更に飽和炭酸ナトリウム溶液をかき混ぜながら30~45分間かけて添加して、溶液のpHを約7.0~7.2に維持した。このプロセスの間、アルギン酸は炭酸ナトリウムによって中和される。これにより可溶性アルギン酸ナトリウムが生成され、これを溶液中に抽出して回収し得る。
【0107】
30~45分間かき混ぜた後、固体粒子を、濾過又は遠心分離によって溶液から除去して、一次抽出物を得た。全ての液体が回収されたら、フィルター上の固体をビーカーに移し、脱塩水と混合した。この混合物を10分間静置又は混合し、その間に残りのアルギネートの大部分を抽出し、次いで濾過して二次抽出物を得た。次いで、一次及び二次抽出物を合わせて、アルギネート溶液を形成した。
【0108】
アルギネート回収(「アルギン酸経路」):
塩酸をアルギネート溶液に混合しながら添加して、pHを1.7~1.9に低下させた。これは、アルギン酸ナトリウムをアルギン酸に変換するもので、アルギン酸は不溶性であり、濃厚な透明ゲルとして沈殿する。次いで、溶液を濾過し、ゲルをフィルター上に保持するか、又は溶液を遠心分離機に移し、ゲルを回収した。ゲルをアルギン酸ナトリウムに変換するために、それを反応容器に移し、pHが7.0~7.3になるまでかき混ぜながら飽和炭酸ナトリウム溶液を徐々に添加した。
【0109】
等体積(1:1比)のプロパン-2-オールをアルギン酸ナトリウムの溶液に添加した。次いで、この溶液を混合すると、アルギン酸ナトリウムが濃厚なゲルとして溶液から移動された。次いで、得られた混合物をブレンダーに移し、5秒間パルスしてゲルを分散させ、沈殿プロセスを完了させた。次いで、混合物を濾過するか、又は遠心分離機に移して生成物を回収し、ロータリーエバポレーターを用いてプロパン-2-オールを回収した。
【0110】
得られたゲル様生成物から残りの水を除去するために、試料をブレンダーに戻し、プロパン-2-オールの更なる部分を添加した。得られた混合物を5秒間ブレンドし、次いで濾過するか、又は遠心分離機に移した。アルギン酸ナトリウムをフィルター上又は遠心分離機中にペレットとして得て、プロパン-2-オールを回収した。次いで、アルギネートのペレットを真空オーブン中で30℃で乾燥させた。蒸発したプロパン-2-オールを直接凝縮させ、回収した。
【0111】
実施例1:有機酸による前処理
上記の一般的な手順に記載されているように、アルギネートを生成するために、ラミナリアハイパーボレアの乾燥した茎状部を再水和し、有機酸による前処理及びその後の抽出に供した。容易に入手可能な食品グレードの酸(アスコルビン酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、及び酢酸)を、前処理ステップで試験した。
【0112】
アルギネート収率を決定した。得られたアルギネートの1重量%溶液の粘度を、落球粘度計法を用いて測定した。結果を、試験した有機酸の分子量及びpKa値と共に、以下の表1に示す。比較のために、アルギン酸(「アルギネート」)のpKaは1.5~3.5の範囲内であり、塩酸のpKaは-5.9である。
【0113】
【0114】
各有機酸を用いた前処理は、生成されたアルギネートの溶液の収率及び粘度の増加をもたらした。高粘度は、アルギネートがアルギネート抽出プロセスにおいて感知できる程度には分解されていないことを示す。クエン酸及びリンゴ酸は、生成されたアルギネートの最高収率及び粘度に関して最も効果的であった。理論に束縛されるものではないが、クエン酸及びリンゴ酸が他の有機酸よりも効果的である理由は、それらの一次pKa値に起因する可能性があり、その両方ともが、アルギン酸の上限(pKa=3.5)に近い。これは、高強度酸又はアルカリによる処理で見られるような有意な分解を伴わずに、選択的なアルギネート鎖切断を可能にし得る。
【0115】
有機酸による前処理なしで得られたアルギネートは、淡褐色であったが、有機酸による前処理後に生成された全てのアルギネート試料は、白色であった。
【0116】
実施例2:クエン酸による処理対ホルムアルデヒドによる処理
全(すなわち、皮むきされていない)茎状部及び皮むきされた茎状部を1%(w/v)クエン酸溶液中で7日間処理し、色を観察した。比較のために、現在の業界標準に従って、2%ホルムアルデヒドで全茎状部試料も処理した。
【0117】
クエン酸は、茎状部全体(樹皮を含む)から褐色の色素沈着を除去し、緑色である微量のクロロフィルを残した。
図2の画像は、クエン酸溶液で処理した茎状部全体についての色の減少を示す。画像に見られるように、時間が経過するにつれて、茎状部の元の褐色の色素沈着が劣化し、残っているクロロフィル残基の緑色が見られる。1%(w/v)クエン酸でブレンドした茎状部試料を処理した場合と、単に水中に浸漬した場合とで、同様の結果が観察された。
【0118】
樹皮を除去した場合、茎状部はまだ薄い茶色を有していたが、1%(w/v)クエン酸で処理すると、色は急速に消え、茎状部は白くなった。
図3の画像は、クエン酸溶液で処理した場合の、皮むきされた茎状部についての色の減少を示す。
【0119】
茎状部全体を試験する場合、茎状部構造の密度に起因して、色の変化は遅いが、茎状部のサイズが(例えば、切り刻むこと、粉砕することなどによって)縮小される場合、色の変化は急速である。
【0120】
比較すると、2%ホルムアルデヒドで処理した試料は、非常に異なる応答を有した。これらは時間とともに暗くなり、より褐色になった。これは、非重合形態では色を有さない、存在するフェノール種の重合の結果であると考えられる。
図4の画像は、1%(w/v)クエン酸と、2%ホルムアルデヒド溶液とで処理した7日後の茎状部を示す。
【0121】
アルギネートを、上記の一般的手順に記載した抽出方法を使用して、クエン酸及びホルムアルデヒドで処理した茎状部試料から抽出した。生成したアルギネートの画像を
図5に示す。ホルムアルデヒド処理された試料は、茶色のアルギネート材料を生成し、これは、クエン酸で前処理された茎状部から生成された色と同じ色を達成するためには漂白を必要とする。現在の工業プロセスとは対照的に、本発明によるクエン酸による前処理方法は、ホルムアルデヒドを使用することなく、クリーンで実質的に無色のアルギネートを生成する。
【0122】
実施例3:クエン酸による前処理
上記の一般的な手順に記載されているように、アルギネート材料を生成するために、ラミナリアハイパーボレアの乾燥した茎状部を再水和し、クエン酸による前処理及びその後の抽出に供した。
【0123】
茎状部粉末を、脱塩水を用いて再水和した。これはまた、水中に抽出されたポリフェノールなどの望ましくない可溶性成分を除去するのに役立った。この段階での洗浄水の濃いオレンジ色は、酸化ポリフェノールの存在を示している。ポリフェノールの分子量は有意には影響されていないので、ポリフェノールは水溶性のままであり、高い割合のポリフェノールが除去される。室温でのクエン酸溶液によるその後の処理(1%w/vで60分間)は、遊離ポリフェノールの残りを抽出し、カロテノイド残留物及びクロロフィル残留物を分解し、次いで、これらの残留物は、酸溶液が排水されるときに洗い流される。これは、出発マトリックス中に存在する色寄与材料の濃度を更に低下させ、一方で、可溶化及び抽出効率を改善する天然アルギネートの分子量を低下させる。クエン酸で処理された材料は、抽出プロセスの残りに送られる前に、残っている汚染物質を除去するために、更にすすがれる。
【0124】
標準的な工業プロセスは、大型藻類の微生物分解を防止し、重合によってポリフェノールを隔離するために、収穫後にホルムアルデヒドを使用して大型藻類を処理する。ホルムアルデヒドはポリフェノールと複合体を形成し、それによってそれらの分子量を増加させ、それらを不溶性にし、アルギネートに色を付与することができなくする。アルギネート抽出の前にポリフェノールが除去される本発明による方法とは対照的に、ホルムアルデヒド処理の結果として生成された重合ポリフェノールは、その先の抽出段階に持ち越される。
【0125】
方法:
再水和された茎状部粉末を、250mLの1%w/vクエン酸(無水物)と共にブレンダーに加え、2回、5秒間にわたってブレンドした。ブレンドした試料を容器に移し、かき混ぜながら室温で60分間保持した。着色化合物が破壊又は除去されるにつれて、粒子の色が明るくなった。60分後、混合物を160メッシュナイロンボウルフィルター(約100μm)を通して排水して、固体を保持した。次いで、固体を300mLの脱塩水及び10mLの10%HClと共にブレンダーに移し、2回、5秒間にわたってブレンドして、1.7~1.9のpHを得た。
【0126】
次いで、混合物を別の容器に移し、かき混ぜながら15分間保持した。15分後、混合物を160メッシュフィルターを通して排水し、加圧してできるだけ多くの液体を除去した。次いで、固体を300mLの水と共にジャグに移して、過剰の残留酸を除去した。15分後、混合物を160メッシュフィルターを通して排水し、加圧して可能な限り多くの液体を除去し、次いで固体を500mLの0.25%w/v炭酸ナトリウム溶液と共にブレンダーに移し、2回、5秒間にわたってブレンドした。得られた混合物を容器に移し、更に0.25%w/v炭酸ナトリウム溶液ですすいだ。体積は、700mLになった。pHをチェックし、必要に応じて飽和炭酸ナトリウム溶液で8~8.5に調整し、次いで溶液をかき混ぜながら30分間保持した。溶液をブレンダーに移し、2回、5秒間にわたってブレンドし、次いで更に30分間保持した。60分の全抽出時間後、高粘性溶液を160メッシュナイロンフィルターを通して濾過し、固体を保持した。次いで、固体を更に400mLの水で再抽出し、飽和炭酸ナトリウム溶液の添加によってpHを8~8.5に調整し、15分間保持した。次いで、固体を160メッシュナイロンフィルターを通して濾過し、全ての液体を回収した。
【0127】
次いで、得られた抽出物を、アルギン酸ゲルを解離させないように穏やかにかき混ぜながら塩酸でpH 1.7~1.9に酸性化した。ゲル形成を10分間行った後、ゲルを、200メッシュナイロンフィルターで濾過してアルギン酸ゲルを回収した。ゲルをビーカーに移す前に、過剰の水をゲルから排水させた。次いで、飽和炭酸ナトリウム溶液を用いてゲルのpHを7.1~7.4に調整して、アルギン酸中のプロトンをナトリウムイオンで置換することによって完全な脱プロトン化を確実にした。次いで、緩衝ゲルを、等容量のメタノール、エタノール、又はプロパン-2-オール(入手可能性に応じて)と共にブレンダーに添加し、ブレンドした。これによりゲルを解離、脱水した後、濾過、圧搾して乾燥させた。次いで、濾過し、絞ったアルギン酸ナトリウムをコーヒーグラインダーに移し、穏やかにパルスして繊維塊を破壊した後、乾燥皿に移し、オーブン中95℃で30~60分間(試料サイズに依存する)乾燥させた。
【0128】
実験を三重に行い(試験A、B、及びC)、結果を以下の表2に示す。
【0129】
【0130】
得られたアルギネートは、プロセス中に漂白剤を全く含まないにもかかわらず、白色であった。これはまた、熱入力を伴わない完全に周囲環境のプロセスを使用して達成された。更に、プロセス時間は、茎状部粉末の水和から4時間未満であり、抽出溶液の高い粘度は、高分子量アルギネートが得られたことを示す。
【0131】
実施例4:クエン酸による前処理を用いて生成されたアルギネートの分子量及びα-L-グルロネート(G)含量の分析
上記の一般的手順を使用して、8つの別々の実験室抽出物からアルギネートの試料を得た。回収されたアルギネートは、「骨白色」の繊維状固体であった(
図4参照)。8回の抽出にわたる平均収率は36.8%(投入乾物含量に基づく)であり、アルギネート(1%溶液)は6200mPa・秒の平均粘度(落球法を用いて測定)を有していた。
【0132】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC-MALS)、すなわちオンライン多角度静的光散乱(MALS)を備えた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって、アルギネート試料の分子量を決定した。分離は、Shodexによる1+3カラムを使用して行い、以下の順序で実施した:OHpak LB-G、LB-806、LB-805及びLB-804。Agilent 1260 Infinity II Multicolumn Thermostatを使用して、カラムの温度を40℃に調整したが、測定は25℃で行った。測定は、Dawn HELEOS-8+多角度レーザー光散乱光度計(Wyatt,Santa Barbara,CA,USA)(λ0=660nm)及びその後のOptilab T-rEX示差屈折計によって実行した。0.10mol/LのNa3PO4(pH=7)+0.01mol/LのEDTAの移動相を使用した。流速は、0.5mL/分であった。注入量は50μLであり、アルギネート濃度は3g/Lであった。Sigma Aldrich社によるプルラン標準(GPC 50,000)を、機器の標準化に使用した。データを取得し、Astra(v.7)ソフトウェア(Wyatt,Santa Barbara,CA,USA)を使用して処理した。得られたMw(質量加重分子量)及びMn(数加重分子量)の測定値から、試料の多分散度(Mw/Mn)を算出した。
【0133】
α-L-グルロネート(G)含量は、1H-NMRによって決定した。1H-NMR分析は、Bruker BioSpin 500 WBを用いて500MHz及び368 K(95.035℃)で行った。溶媒はD2Oであり、アルギネート濃度は30g/Lであった。M/G比、したがってG含量は、Grasdalen et al.,13C NMR Studies of Monomeric Composition and Sequence in Alginate,Carbohydr.Res.,1981,89,179-191 and Grasdalen,High-field,1H-NMR spectroscopy of alginate:sequential structure and linkage conformations,Carbohydr.Res.,1983,118,255-260に記載の方法を用いて決定した。
【0134】
クエン酸法によって生成されたアルギネートは、348.6kDaの分子量及び67%のα-L-グルロネート(G)含量を有することが判明した。ラミナリアハイパーボレア由来のアルギネートの典型的なパラメータは、約300kDaであり、「G」含量は65~70%である。分子量は、予想よりも高い。アルギネートは1.42の多分散性を有し、これは狭い分子量画分が抽出されたことを示す。これは、より広い分子量分布を有する材料を提供する標準的なアルギネート製造方法とは対照的である。
【0135】
実施例5:クエン酸への長期曝露の効果
再水和したラミナリアハイパーボレア茎状部材料を、クエン酸の0.10、0.25、0.50、及び1.00(%w/v)溶液に、周囲条件下で、7、14、21、及び28日間曝露した。次に、アルギネートを上記の一般的手順に記載した方法を用いて抽出し、その粘度を落球法を用いて測定した。
【0136】
図7から分かるように、抽出されたアルギネートの粘度は、茎状部がクエン酸に曝露されると、時間の関数として減少する。前処理に使用されるクエン酸の濃度が高いほど、アルギネートの粘度は低くなる。得られた溶液が低粘度であったとしても、それらは全て、Ca
2+イオン(塩化カルシウム溶液)に曝露されたときに安定な凝集性ゲルを生成することができた。これは、Ca
2+イオンの存在下で架橋し得るα-L-グルロネート(Gブロック)が、優勢に存在することを実証している。
【0137】
結果は、0.1%(w/v)という低い濃度への長期間にわたる曝露が、その後に抽出されるアルギネートの粘度(分子量に本質的に関連する)を低下させ得ることを実証する。したがって、アルギネートの分子量は、必要に応じて、クエン酸の濃度及び処理時間を変えることによって調整し得る。
【0138】
実施例6:高温でのクエン酸の使用
再水和したラミナリアハイパーボレア茎状部材料を、1%(w/v)クエン酸溶液に、60℃で、5~20分間にわたって曝露した。アルギネートを抽出し、上記の一般的手順に記載したように回収し、得られた1%アルギネート溶液の粘度を測定した。
【0139】
図8の結果は、曝露時間の増加に伴う粘度の予測可能な減少速度を示す。測定された粘度から、経時的な粘度の減少速度を、以下の式に従って計算し得る。
【0140】
【数1】
5分時点での開始粘度=5270mPa・秒
20分時点での最終粘度=1414mPa・秒
粘度差(5270-1414)=3855mPa・秒
時間差=(20-5)=15分
Δ粘度=(3855/15)=257mPa・秒min
-1
【0141】
この関係は、アルギネートの粘度(したがって分子量)を所望のように調整する目的で、有機酸への曝露時間を調整するために使用し得る。
【0142】
クエン酸溶液の温度を95℃に上昇させると、はるかに高い速度の粘度低下が生じた。これはΔ粘度=598mPa・s min-1を与えることが計算された。
【0143】
実施例7:カルシウムイオンによる処理
カルシウムイオンはアルギネート複合体中のG-ブロックを架橋することが知られているので、茎状部マトリックス中のアルギネートを予め飽和させることはG-ブロック分解を阻害し得ると推測された。この仮説を試験するために、茎状部材料の単一の再水和バッチから2つの試料を得た。試料の一方は、アルギネートのクエン酸による前処理及び抽出の前に5%塩化カルシウム溶液で前処理し、他方は、アルギネート抽出の前にクエン酸のみで前処理した。クエン酸による前処理は、1%(w/v)クエン酸を用いて95℃で10分間行った。
【0144】
カルシウムイオンで処理した試料中のアルギネート収率は、未処理のものよりも約10%高いことが見出され(45.7%対36.0%)、これは、アルギネートがカルシウムイオンによる分解から保護されていることを示す。両方の試料が、19mPa・秒の同じ得られた粘度を有し、カルシウムイオンに曝露された場合に、ゲルを生成するアルギネートを生成することも判明した。
【0145】
各実験から得られたアルギネートの試料を、サイズ排除クロマトグラフィーを使用して実施例4に記載されるような分析に供して、分子量を見出し、1H-NMRを使用して「G」含量を確認した。結果を、表3に示す。
【0146】
【0147】
前処理としてのカルシウムイオンの添加は、より高い収率をもたらすので、アルギネートを分解から保護する。しかしながら、そうすることで、より多くの「Mブロック」が存在し、これは、未処理の試料と比較した場合、より低い全体的な「G」含有量をもたらす(72%対76%の「G」)。
【0148】
高温でのクエン酸の使用は、アルギネート分子量を減少させ、β-D-マンヌロネート(M)の分解を介して、得られるオリゴマー中のα-L-グルロネート(G)含量を増加させることが示されている。これらの条件(より長い持続時間又はより高い温度)は、更に適用され得るが、それにより、オリゴマーの分子量の減少を増強し、α-L-グルロネート(G)含量の更なる増加をもたらすことができる。それらは更に、抽出された葉アルギネートのα-L-グルロネート(G)含量(通常、約50/50又は約45/55(G/M)である)を、茎状部アルギネートに近い含量(典型的には、約70/30(G/M)である)に高めるために使用され得る。
【0149】
実施例8:有機酸による前処理どうしの比較
有機酸前処理の有効性を評価するために、上記で概説した一般的な手順を使用して実験を行ったが、前処理が異なり、海藻の部分が異なっていた。具体的には、前処理は以下の通りであった。
1)脱塩水
2)1%クエン酸
3)プロパン-2-オール、及び
4)2%ホルムアルデヒド。
【0150】
海藻試料は以下の通りであった:(a)茎状部+樹皮+着生植物(すなわち、着生植物を有する「皮をむいていない茎状部」);(b)茎状部+樹皮(すなわち、着生植物を有さない「皮をむいていない茎状部」);(c)皮むきされた茎状部。「皮をむいていない茎状部」とは、樹皮を有する茎状部を指し、「皮むきされた茎状部」とは、樹皮が除去された茎状部を指す。海草試料を真空包装し、輸送のために冷却した。
【0151】
(a)茎状部+樹皮+着生植物からのアルギネートの抽出
異なる前処理の結果を以下の表4に示す。
【0152】
【0153】
表4から分かるように、クエン酸による前処理に供した試料から得られたアルギネートは、他の業界標準前処理を用いて得られた試料よりも実質的に高い収率及び高い粘度で得られた。クエン酸による前処理は、抽出されたアルギネートの色を低減するために典型的に使用されるホルムアルデヒドを使用する前処理よりも、明るいアルギネートを提供することも観察された。
【0154】
(b)茎状部+樹皮からのアルギネートの抽出
【0155】
【0156】
同様の傾向が、着生植物が除去された試料について観察されたが、クエン酸を使用して抽出されたアルギネートの収率及び粘度は更に高かった。2%ホルムアルデヒドで処理した試料は、比較的暗い色のアルギネート材料を提供したが(これは、粘度試験のために材料を溶解した場合に特に顕著であった)、残りの試料は、無色又は明るい色のアルギネート材料を提供した。
【0157】
(c)皮むきした茎状部からのアルギネートの抽出
【0158】
【0159】
全ての試料は、無色又は淡色のアルギネート材料を生成した。
【0160】
結論:
クエン酸による前処理を使用して回収されたアルギネートは、他の前処理方法と比較して一貫して高い収率及び粘度を有していた。皮むきされた茎状部をクエン酸処理した試料の粘度は、樹皮がまだ存在する試料からの粘度よりも有意に低かった。これは、最も古いアルギネート(したがって、最も高い割合の「G」ブロックを含有するもの)が、樹皮層のすぐ近くにあり、おそらく、茎状部が皮をむかれるときに失われるということを示唆している。
【0161】
これらの実験は、クエン酸による前処理が、皮をむかれた茎状部部分及び皮をむかれていない茎状部部分の両方から優れた品質のアルギネートの抽出を可能にし、全ての場合においてクリーンな生成物を与えることを実証している。それぞれの場合において最も強い色を有するアルギネートは、2%ホルムアルデヒドで前処理された材料に由来することも観察された。
【0162】
実施例9:葉粉末からのアルギネートの抽出
葉粉末を50%プロパン-2-オールで前処理した。水で水和せず、フコイダンの放出を回避したが、これは、結果として生じる粘度のために材料の取り扱いを困難にする。アルギネートを葉粉末試料から以下のように抽出した。
A:50%のプロパン-2-オールによる前処理;鉱酸のみによる抽出。
B:1%クエン酸を含有する50%プロパン-2-オールによる前処理;鉱酸での抽出
C:1%リンゴ酸を含有する50%プロパン-2-オールによる前処理;鉱酸での抽出
【0163】
各試料を50%のプロパン-2-オール(3×200mL)及び必要に応じて酸で洗浄した後、濾過し、最終洗浄として100%のプロパン-2-オールで処理した。この最終洗浄により、全ての緑色の着色が除去され、残りの固体は、淡褐色になった。次いで、各試料をpH 1.8の塩酸で15分間処理することによって抽出し、続いて0.25%炭酸ナトリウム(700mL、pH 8~8.5)で抽出した。得られた生成物を30℃で一晩乾燥させ、収率を記録した。結果を、表7に提供する。
【0164】
【0165】
クエン酸及びリンゴ酸を使用する前処理は、はるかに高いアルギネートの収率を提供し、得られたアルギネートは、プロパン-2-オールを単独で使用した場合よりもはるかに高い粘度を有した。
【0166】
得られた葉アルギネートは白色からオフホワイトであり、製品として有用であるために更なる漂白を必要としない。対照的に、ホルムアルデヒドを使用して生成された葉アルギネートは、典型的には暗褐色であり、それが使用され得る前に著しい漂白を必要とする。
【0167】
実施例10:クエン酸ナトリウム前処理
茎状部粉末の2つの試料を上記のように再水和した。次いで、各試料を、1重量%クエン酸ナトリウム及び1重量%クエン酸を含有する溶液で60分間処理した。前処理後、試料を排水し、すすぎ、次いでpH 1.8の塩酸で5分間処理した。次いで、試料を排水し、すすぎ、過剰の酸を除去した後、飽和炭酸ナトリウムでpH 7.5に緩衝化した水(700mL)で抽出した。次いで、試料を一晩乾燥させ、アルギネートの収率及び粘度を記録した。結果を、表8に提供する。
【0168】
【0169】
実施例11:現在の業界標準プロセスと比較したCO2排出量の計算
アルギネートプロセスにおけるCO2排出量の大部分は、炭酸ナトリウム(Na2CO3)の使用に直接起因し、CO2は、酸に遭遇するときはいつでも排出される。例えば、炭酸ナトリウムを中和するために硫酸又は塩酸のいずれかを使用する場合、直接排出は以下の反応から生じる:
【0170】
【0171】
化学量論的バランスは両方の反応において同じであり、したがって、いずれかの酸によって生成されるCO2の量は同じである。反応に使用した酸に関係なく、未反応の炭酸ナトリウム1kgごとに、中和すると0.415kgのCO2が生成する。
【0172】
茎状部材料を鉱酸と反応させると、アルギネート中に存在する金属カチオンがプロトンと交換されて、アルギン酸(「アルギネート-H+」)が形成される。次の抽出段階において、これは炭酸ナトリウムと反応して可溶性アルギン酸ナトリウムを生成する。これは以下の反応に従って進行する:
【0173】
【0174】
化学量論的バランスを計算するために分子量を直接使用することはできないが、反応はH+及びCO3
2-に単純化し得る。アルギン酸と直接反応するCO3
2-1kg毎に、0.365kgのCO2を生成する。本発明によるプロセスが中性pHで動作する場合、「塩」がアルギン酸ナトリウムであり、過剰の炭酸ナトリウムが存在しないので、追加の溶解固体は存在しない。しかしながら、これは、抽出溶液中に大過剰の炭酸ナトリウムが存在する、アルギネートを製造するために使用される現行の工業的方法には当てはまらない。
【0175】
プロセス基準で(過剰なプロセス化学物質がないと仮定して)、本発明によるプロセスについてのCO2の排出量を、塩が除去された出発茎状部物質1000kg当たりで計算して、以下の表9に示す。
【0176】
【0177】
このことから、1000kgの塩が枯渇した茎状部を処理すると、118.6kgのCO2が排出され、これは生産されるアルギネート1トン当たり296.6kgのCO2に換算されることが分かる。
【0178】
本発明の特定の態様では、抽出溶液中の、0.2~0.25%の炭酸ナトリウム濃度(すすぎ後に存在する鉱酸の残留濃度に応じて変化する)が使用され得る。0.25%の濃度を、最低4%の炭酸ナトリウムを使用する業界標準と比較すると、抽出溶液1000L毎に、以下のように計算し得る:
【0179】
【0180】
これは、業界標準の方法が、本発明の方法よりも16.6倍多いCO2を生成することを示す。
【0181】
更に、炭酸ナトリウムの代わりに水酸化ナトリウムを使用すると、プロセスのこの部分についてCO2排出ゼロのプロファイルが得られる。
【0182】
実施例12:クエン酸-10%w/v溶液への長期曝露の効果
クエン酸の10%w/v溶液を用いて、実施例5に記載した実験を繰り返した。その結果を
図9に提示する。実施例5で使用されたより低いクエン酸濃度について観察されるように、抽出されたアルギネートの粘度は、茎状部のクエン酸への曝露時間の関数として減少する。しかしながら、粘度の低下は、より低い濃度よりも、より高い10.00%w/vクエン酸溶液で茎状部を処理した場合の方がより急速である。得られたアルギネート溶液は低粘度であったが、それらは全て、Ca
2+イオン(塩化カルシウム溶液)に曝露された場合に安定な凝集性ゲルを生成することができた。これにより、抽出されたアルギネートにおけるGブロックの優勢が確認される。
【0183】
これらの結果は、前処理ステップで使用されるクエン酸の濃度を増加させることによって、アルギネートの粘度(したがって分子量)のより迅速であるが依然として予測可能な低下を得ることができることを実証している。
【0184】
実施例13:本発明によるクエン酸+鉱酸による前処理対クエン酸又は鉱酸単独の比較。
有機酸又は鉱酸のいずれかを単独で用いた前処理に対する、本発明による前処理の効果を比較するために実験を行った。試験A~Cはそれぞれ、上記の一般的手順に従って実施した。試験Aは、クエン酸の非存在下で行った。試験Bは、塩酸の非存在下で行った。試験Cでは、クエン酸処理に続いて塩酸処理を行った。クエン酸を使用した場合、全ての場合において、2.5%w/v溶液の形態で使用した。試験Aにおいて、茎状部は、乾燥したフレーク状のラミナリアハイパーボレア形態で提供されたが、一方、試験B及びCでは、乾燥したフレーク状材料を更に粉砕して、200~700μmの粒径を有する画分を得た。アルギネートの収率に関する結果を表11に示す。
【0185】
【0186】
表11の結果から分かるように、有機酸及び金属カチオン交換処理の両方の組み合わせは、いずれかの処理単独の使用と比較して、アルギネートの有意に増加した収率をもたらす。
【0187】
実施例14:異なる温度でのクエン酸の使用
抽出されたアルギネートに対するクエン酸処理条件の変化の影響を調査するために、一連の比較実験を行った。
【0188】
試験A1及びA2では、約250μmの粒径を有する茎状部粉末を、葉及び着生植物が除去された乾燥したフレーク状のラミナリアハイパーボレアから調製した。
【0189】
試験B1及びB2では、試験A1及びA2で使用した茎状部粉末を、葉の乾燥フレークを約250μmの粒径に粉砕することによって調製した葉粉末と、50:50の重量比で混合した。
【0190】
試験C1及びC2では、試験A1及びA2で使用した茎状部粉末を、全葉乾燥葉から得られた葉の乾燥フレークを約250μmの粒径に粉砕することによって調製した葉粉末と50:50の重量比で混合した。
【0191】
全ての試験は、上記の一般的手順に従って行った。試験A1、B1、及びC1では、クエン酸処理を、周囲温度で60分間行った。試験A2、B2、及びC2では、クエン酸処理を、95~99℃で35~40分間行った。
【0192】
得られたアルギネートの粘度を、ブルックフィールド型粘度計を用いて20℃で測定した。分子量、多分散性指数、並びにG含量及びM含量は、実施例4に記載の方法に従って測定した。結果を以下の表12に示す。
【0193】
【表12】
1 1%w/vの溶液を使用して測定
2 10%w/vの溶液を使用して測定
【0194】
表12のデータから、3組の実験全てにわたって同様の傾向が観察される。より高い温度のクエン酸による前処理後に抽出されたアルギネートは、同じ出発材料から抽出されたがより低い温度のクエン酸による前処理後のアルギネートよりも低い分子量、より低い多分散指数、より高いG含量及びより低いM含量を有する。したがって、比較的狭い分子量分布を有する、G富化低分子量アルギネートを得るためには、より高温のクエン酸による前処理を用いることができる。
【0195】
葉アルギネートは、典型的には、茎状部アルギネートよりも高いM含量を有する。これは、天然アルギネート構造を実質的に保存することを意図したより低温のクエン酸による前処理を含む試験A1、B1、及びC1で得られたアルギネートについて見出されたG含量及びM含量と一致する。しかしながら、茎状部粉末+葉粉末の混合物の高温のクエン酸による前処理は、茎状部アルギネートから得られるものと同様のG含量及びM含量を有するアルギネートを提供することが観察され、言い換えれば、葉アルギネート中のG含量が濃縮されている。
【0196】
結果は、有機酸前処理の条件が、その意図される用途に応じて所望の特性を有するアルギネート生成物を提供するように調整され得ることを証明する。
【国際調査報告】