(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】陰イオン交換クロマトグラフィー-質量分析(AEX-MS)によるタンパク質の特徴付け方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20240719BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20240719BHJP
G01N 30/26 20060101ALI20240719BHJP
G01N 30/34 20060101ALI20240719BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20240719BHJP
G01N 30/06 20060101ALI20240719BHJP
C07K 1/18 20060101ALI20240719BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
G01N27/62 X
G01N27/62 V
G01N30/88 J
G01N30/26 A
G01N30/34 E
G01N30/72 C
G01N30/06 E
C07K1/18
C07K16/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501671
(86)(22)【出願日】2022-07-12
(85)【翻訳文提出日】2024-02-29
(86)【国際出願番号】 US2022036868
(87)【国際公開番号】W WO2023287821
(87)【国際公開日】2023-01-19
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507302748
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】リュウ アニタ
(72)【発明者】
【氏名】ワン シュンハイ
【テーマコード(参考)】
2G041
4H045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA05
2G041FA11
2G041FA12
2G041GA09
2G041HA01
4H045AA11
4H045AA50
4H045DA76
4H045GA23
(57)【要約】
本発明は、概して、タンパク質の電荷バリアントを特徴付ける方法に関する。特に、本発明は、塩勾配を用いた陰イオン交換クロマトグラフィー-質量分析(AEX-MS)方法の使用に関する。本発明は、IgG4サブクラスの電荷バリアント分析に特に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、関心対象のタンパク質の少なくとも1つの電荷バリアントを特徴付けるための方法:
(a)関心対象のタンパク質と該関心対象のタンパク質の少なくとも1つの電荷バリアントとを有する試料を、陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)カラムに負荷する工程;
(b)溶出液を得るために、該負荷された陰イオン交換カラムに漸増塩濃度勾配を適用する工程;
(c)少なくとも1つの画分を(b)から収集する工程;および
(d)該関心対象のタンパク質の該少なくとも1つの電荷バリアントを特徴付けるために、該少なくとも1つの画分を質量分析に供する工程。
【請求項2】
前記塩勾配が、溶出勾配であり、かつ約10mM~約600mMのアンモニウム塩の範囲である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
さらに、前記塩勾配が、溶出勾配であり、かつ約10mM~約300mMのアンモニウム塩の範囲である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
適用される前記漸増塩濃度勾配が、直線的である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
適用される前記漸増塩濃度勾配が、直線的である、請求項3記載の方法。
【請求項6】
(b)の溶出液を紫外吸光度についてモニタリングする工程、および
前記関心対象のタンパク質の溶出より前または後に溶出される少なくとも1つの画分を収集する工程
をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記関心対象のタンパク質が、約6.2を超えるpI値を有する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記関心対象のタンパク質がIgG4ベースのモノクローナル抗体である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記関心対象のタンパク質が二重特異性モノクローナル抗体である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの電荷バリアントが、前記関心対象のタンパク質の、脱アミド化、糖化、グルクロニル化(glucuronylation)、高分子量種、C末端リジン、またはグリコシル化種である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記試料をAEXカラムに負荷するより前に、前記関心対象のタンパク質からFc N-グリコシル化を除去する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記試料をAEXカラムに負荷するより前に、前記試料に消化条件を施す工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記消化条件がIdeSまたはそのバリアントの使用を含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
質量分析計がネイティブ条件下で実行される、請求項1記載の方法。
【請求項15】
以下の工程を含む、関心対象のタンパク質の少なくとも1つの電荷バリアントを特徴付けるための方法:
(a)関心対象のタンパク質と少なくとも1つの電荷バリアントとを有する試料を、脱グリコシル化条件に供する工程;
(b)該試料を陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)カラムに負荷する工程;
(c)溶出液を得るために、該負荷された陰イオン交換カラムに漸増塩濃度勾配を適用する工程;
(d)少なくとも1つの画分を(c)から収集する工程;および
(e)該関心対象のタンパク質の該少なくとも1つの電荷バリアントを特徴付けるために、該少なくとも1つの画分を質量分析に供する工程。
【請求項16】
前記塩勾配が、溶出勾配であり、かつ約10mM~約600mMのアンモニウム塩の範囲である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記塩勾配が、溶出勾配であり、かつ約10mM~約300mMのアンモニウム塩の範囲である、請求項15記載の方法。
【請求項18】
適用される前記漸増塩濃度勾配が、直線的である、請求項15記載の方法。
【請求項19】
適用される前記漸増塩濃度勾配が、直線的である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
(b)の溶出液を紫外吸光度についてモニタリングする工程、および
前記関心対象のタンパク質の溶出より前または後に溶出される少なくとも1つの画分を収集する工程
をさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項21】
前記関心対象のタンパク質が、約6.2を超えるpI値を有する、請求項15記載の方法。
【請求項22】
前記少なくとも1つの電荷バリアントが、前記関心対象のタンパク質の、脱アミド化、糖化、グルクロニル化、高分子量種、C末端リジン、またはグリコシル化種である、請求項15記載の方法。
【請求項23】
前記試料をAEXカラムに負荷するより前に、前記試料に消化条件を施す工程をさらに含む、請求項15記載の方法。
【請求項24】
前記消化条件がIdeSまたはそのバリアントの使用を含む、請求項15記載の方法。
【請求項25】
質量分析計がネイティブ条件下で実行される、請求項15記載の方法。
【請求項26】
以下の工程を含む、関心対象のタンパク質の少なくとも1つの電荷バリアントを特徴付けるための方法:
(a)関心対象のタンパク質と少なくとも1つの電荷バリアントとを有する試料を、消化条件および脱グリコシル化条件に供する工程;
(b)該試料を陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)カラムに負荷する工程;
(c)溶出液を得るために、該負荷された陰イオン交換カラムに漸増塩濃度勾配を適用する工程;
(d)少なくとも1つの画分を(c)から収集する工程;ならびに
(e)該関心対象のタンパク質の該少なくとも1つの電荷バリアントを特徴付けるために、該少なくとも1つの画分を質量分析に供する工程。
【請求項27】
質量分析計がネイティブ条件下で実行される、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記消化条件がIdeSまたはそのバリアントの使用を含む、請求項26記載の方法。
【請求項29】
前記塩勾配が、溶出勾配であり、かつ約10mM~約600mMのアンモニウム塩の範囲である、請求項26記載の方法。
【請求項30】
前記塩勾配が、溶出勾配であり、かつ約10mM~約300mMのアンモニウム塩の範囲である、請求項26記載の方法。
【請求項31】
適用される前記漸増塩濃度勾配が、直線的である、請求項26記載の方法。
【請求項32】
適用される前記漸増塩濃度勾配が、直線的である、請求項30記載の方法。
【請求項33】
(b)の溶出液を紫外吸光度についてモニタリングする工程、および
前記関心対象のタンパク質の溶出より前または後に溶出される少なくとも1つの画分を収集する工程
をさらに含む、請求項26記載の方法。
【請求項34】
前記関心対象のタンパク質が、約6.2を超えるpI値を有する、請求項26記載の方法。
【請求項35】
前記少なくとも1つの電荷バリアントが、前記関心対象のタンパク質の、脱アミド化、糖化、グルクロニル化、高分子量種、C末端リジン、またはグリコシル化種である、請求項26記載の方法。
【請求項36】
前記試料をAEXカラムに負荷するより前に、前記試料に消化条件を施す工程をさらに含む、請求項26記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年7月13日に出願された米国特許仮出願第63/221,447号に対する優先権および該仮出願の恩典を主張し、該仮出願は、参照により本明細書に組み入れられる。本出願は、2022年1月31日に出願された米国特許仮出願第63/305,177号に対する優先権および該仮出願の恩典も主張し、該仮出願も参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
分野
本発明は、概して、漸増塩勾配溶出を用いた、質量分析と連結した陰イオン交換クロマトグラフィーを使用して、タンパク質の電荷バリアントを特徴付けるための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
治療用タンパク質は、癌、自己免疫疾患、感染症、および心血管代謝障害の治療に重要な薬物であり、製薬業界の最も急成長している製品区分のうちの1つに相当する。治療用タンパク質は非常に高い純度標準を満たさなければならない。したがって、これは、薬物の開発、生成、保存、および取り扱いの様々な段階で不純物をモニタリングすることが重要であり得る。
【0004】
タンパク質については600種を超える異なるタイプの翻訳後修飾が公知であり、それらの多くは存在量が極度に低く、物理化学的特性のわずかな変化を引き起こし、かつそれらの特徴付けに必要とされる分析方法に極度な難題を突き付ける。組換え方法を使用して生成されるタンパク質については、翻訳後修飾は、生成物の重要な品質属性に相当し、これは、モノクローナル抗体(mAb)について示されているように、薬物の効力および患者の安全性に影響を及ぼす可能性がある。イオン交換クロマトグラフィー(IEC)、キャピラリー電気泳動、およびキャピラリー等電点電気泳動などの電荷感受性分離方式は、その高い選択性が理由で、電荷バリアントの分離および特徴付けのために日常的に使用されており、その特性、すなわち、正味の表面電荷の違いが最小であるタンパク質バリアントの分離を可能にする。しかし、インタクトタンパク質に対する電荷ベースの分離方法は、一般に、緩衝系の非適合性が理由で、質量分析(MS)との連結には理想的には適するものではない。IECをMSと連結することによってこれまでに開発された方法は、約6.0未満の等電点(pI)を有するタンパク質に適していただけである。
【0005】
IgG1およびIgG4に基づいて開発された、いくつかの治療用タンパク質は、6.0を超えるpIを有する。これらのタンパク質の開発、精製および特徴付けは、効率的な分析方法を必要としている。pIに関係なくタンパク質の電荷バリアントを特徴付けるための効率的な方法は、当技術分野において長年の切実なニーズであることが認識されるであろう。
【発明の概要】
【0006】
概要
本明細書において開示される例示的な態様は、ネイティブAEX-MSを使用してタンパク質の電荷バリアントを特徴付けるための方法を提供することによって、前述の要求を満たす。
【0007】
本開示は、関心対象のタンパク質のそのような電荷バリアントの特徴付けのための方法を提供する。例示的な一態様では、方法は、以下の工程を含む:(a)関心対象のタンパク質と該関心対象のタンパク質の少なくとも1つの電荷バリアントとを有する試料を、陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)カラムに負荷する工程;(b)溶出液を得るために、該負荷された陰イオン交換カラムに漸増塩濃度勾配を適用する工程;(c)少なくとも1つの画分を(b)から収集する工程;および(d)該関心対象のタンパク質の該少なくとも1つの電荷バリアントを特徴付けるために、該少なくとも1つの画分を質量分析に供する工程。
【0008】
本態様の一局面では、方法は、負荷された陰イオン交換カラムに漸増塩濃度勾配を適用する工程であって、塩勾配が、溶出勾配であり、かつ約10mM~約600mMのアンモニウム塩の範囲である、工程をさらに含む。特定の一局面では、アンモニウム塩は酢酸アンモニウムである。別の特定の局面では、塩勾配は、溶出勾配であり、かつ約10mM~約300mMのアンモニウム塩の範囲である。別の特定の局面では、適用される漸増塩濃度勾配は直線的である。
【0009】
本態様の一局面では、方法は、(b)の溶出液を紫外吸光度についてモニタリングする工程、および関心対象のタンパク質の溶出より前に溶出される少なくとも1つの画分を収集する工程をさらに含む。本態様の別の局面では、方法は、(b)の溶出液を紫外吸光度についてモニタリングする工程、および関心対象のタンパク質の溶出の後に溶出される少なくとも1つの画分を収集する工程をさらに含む。
【0010】
本態様の一局面では、関心対象のタンパク質は、約6.2を超えるpI値を有する。本態様の特定の局面では、関心対象のタンパク質は、約6.2~約7.0のpI値を有する。本態様の特定の局面では、関心対象のタンパク質は、約6.2~約8.7のpI値を有する。
【0011】
本態様の一局面では、関心対象のタンパク質はIgG4ベースのモノクローナル抗体である。本態様の別の局面では、関心対象のタンパク質はIgG1ベースのモノクローナル抗体である。本態様のさらに別の局面では、関心対象のタンパク質は二重特異性モノクローナル抗体である。
【0012】
本態様の一局面では、方法は、少なくとも1つの画分を質量分析計に供するより前に、フロースプリッターを介して(c)からの流量を低減させる工程をさらに含む。
【0013】
本態様の一局面では、少なくとも1つの電荷バリアントは、関心対象のタンパク質の酸性バリアントまたは塩基性バリアントのいずれかであり得る。例えば、酸性バリアントは、関心対象のタンパク質の、脱アミド化、糖化、グルクロニル化(glucuronylation)、および/または高分子量種を含むことができ、塩基性バリアントは、C末端リジンおよびグリコシル化種を含むことができる。
【0014】
本態様の一局面では、方法は、試料をAEXカラムに負荷するより前に、関心対象のタンパク質からFc N-グリコシル化を除去する工程をさらに含む。この工程は、アスパラギン残基の、アスパラギン酸への変換により、AEX分離を改善することができる。この態様の特定の局面では、関心対象のタンパク質のFc N-グリコシル化は、PNGase Fを使用して除去される。この態様の別の特定の局面では、方法は、試料に消化条件を施す工程をさらに含むことができる。
【0015】
いくつかの例示的態様では、質量分析計はネイティブ条件下で実行される。
【0016】
本態様の一局面では、方法は、試料をAEXカラムに負荷するより前に、試料に消化条件を施す工程をさらに含む。特定の一局面では、消化条件は、IdeSまたはそのバリアントの使用を含む。
【0017】
例示的な一態様では、方法は、以下の工程を含む:(a)関心対象のタンパク質と少なくとも1つの電荷バリアントとを有する試料を、脱グリコシル化条件に供する工程;(b)該試料を陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)カラムに負荷する工程;(c)溶出液を得るために、該負荷された陰イオン交換カラムに漸増塩濃度勾配を適用する工程;(d)少なくとも1つの画分を(c)から収集する工程;および(e)該関心対象のタンパク質の該少なくとも1つの電荷バリアントを特徴付けるために、該少なくとも1つの画分を質量分析に供する工程。
【0018】
本態様の一局面では、方法は、負荷された陰イオン交換カラムに漸増塩濃度勾配を適用する工程であって、塩勾配が、溶出勾配であり、かつ約10mM~約600mMのアンモニウム塩の範囲である、工程をさらに含む。特定の一局面では、アンモニウム塩は酢酸アンモニウムである。別の特定の局面では、塩勾配は、溶出勾配であり、かつ約10mM~約300mMのアンモニウム塩の範囲である。別の特定の局面では、適用される漸増塩濃度勾配は直線的である。
【0019】
本態様の一局面では、方法は、(c)の溶出液を紫外吸光度についてモニタリングする工程、および関心対象のタンパク質の溶出より前に溶出される少なくとも1つの画分を収集する工程をさらに含む。本態様の別の局面では、方法は、(c)の溶出液を紫外吸光度についてモニタリングする工程、および関心対象のタンパク質の溶出の後に溶出される少なくとも1つの画分を収集する工程をさらに含む。
【0020】
本態様の一局面では、関心対象のタンパク質は、約6.2を超えるpI値を有する。本態様の特定の局面では、関心対象のタンパク質は、約6.2~約7.0のpI値を有する。本態様の特定の局面では、関心対象のタンパク質は、約6.2~約8.7のpI値を有する。
【0021】
本態様の一局面では、関心対象のタンパク質はIgG4ベースのモノクローナル抗体である。本態様の別の局面では、関心対象のタンパク質はIgG1ベースのモノクローナル抗体である。本態様のさらに別の局面では、関心対象のタンパク質は二重特異性モノクローナル抗体である。
【0022】
本態様の一局面では、方法は、少なくとも1つの画分を質量分析計に供するより前に、フロースプリッターを介して(d)からの流量を低減させる工程をさらに含む。
【0023】
本態様の一局面では、少なくとも1つの電荷バリアントは、関心対象のタンパク質の酸性バリアントまたは塩基性バリアントのいずれかであり得る。例えば、酸性バリアントは、関心対象のタンパク質の、脱アミド化、糖化、グルクロニル化、および/または高分子量種を含むことができ、塩基性バリアントは、C末端リジンおよびグリコシル化種を含むことができる。
【0024】
本態様の一局面では、方法は、試料をAEXカラムに負荷するより前に、関心対象のタンパク質からFc N-グリコシル化を除去する工程をさらに含む。この工程は、アスパラギン残基の、アスパラギン酸への変換により、AEX分離を改善することができる。この態様の特定の局面では、関心対象のタンパク質のFc N-グリコシル化は、PNGase Fを使用して除去される。
【0025】
いくつかの例示的態様では、質量分析計はネイティブ条件下で実行される。
【0026】
本態様の一局面では、方法は、試料をAEXカラムに負荷するより前に、試料に消化条件を施す工程をさらに含む。特定の一局面では、消化条件は、IdeSまたはそのバリアントの使用を含む。
【0027】
例示的な一態様では、方法は、以下の工程を含む:(a)関心対象のタンパク質と少なくとも1つの電荷バリアントとを有する試料を、消化条件および脱グリコシル化条件に供する工程;(b)該試料を陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)カラムに負荷する工程;(c)溶出液を得るために、該負荷された陰イオン交換カラムに漸増塩濃度勾配を適用する工程;(d)少なくとも1つの画分を(c)から収集する工程;ならびに(e)該関心対象のタンパク質の該少なくとも1つの電荷バリアントを特徴付けるために、該少なくとも1つの画分を質量分析に供する工程。
【0028】
本態様の一局面では、消化条件は、IdeSまたはそのバリアントの使用を含む。
【0029】
本態様の一局面では、方法は、負荷された陰イオン交換カラムに漸増塩濃度勾配を適用する工程であって、塩勾配が、溶出勾配であり、かつ約10mM~約600mMのアンモニウム塩の範囲である、工程をさらに含む。特定の一局面では、アンモニウム塩は酢酸アンモニウムである。別の特定の局面では、塩勾配は、溶出勾配であり、かつ約10mM~約300mMのアンモニウム塩の範囲である。別の特定の局面では、適用される漸増塩濃度勾配は直線的である。
【0030】
本態様の一局面では、方法は、(c)の溶出液を紫外吸光度についてモニタリングする工程、および関心対象のタンパク質の溶出より前に溶出される少なくとも1つの画分を収集する工程をさらに含む。本態様の別の局面では、方法は、(c)の溶出液を紫外吸光度についてモニタリングする工程、および関心対象のタンパク質の溶出の後に溶出される少なくとも1つの画分を収集する工程をさらに含む。
【0031】
本態様の一局面では、関心対象のタンパク質は、約6.2を超えるpI値を有する。本態様の特定の局面では、関心対象のタンパク質は、約6.2~約7.0のpI値を有する。本態様の特定の局面では、関心対象のタンパク質は、約6.2~約8.7のpI値を有する。
【0032】
本態様の一局面では、関心対象のタンパク質はIgG4ベースのモノクローナル抗体である。本態様の別の局面では、関心対象のタンパク質はIgG1ベースのモノクローナル抗体である。本態様のさらに別の局面では、関心対象のタンパク質は二重特異性モノクローナル抗体である。
【0033】
本態様の一局面では、方法は、少なくとも1つの画分を質量分析計に供するより前に、フロースプリッターを介して(d)からの流量を低減させる工程をさらに含む。
【0034】
本態様の一局面では、少なくとも1つの電荷バリアントは、関心対象のタンパク質の酸性バリアントまたは塩基性バリアントのいずれかであり得る。例えば、酸性バリアントは、関心対象のタンパク質の、脱アミド化、糖化、グルクロニル化、および/または高分子量種を含むことができ、塩基性バリアントは、C末端リジンおよびグリコシル化種を含むことができる。
【0035】
本態様の一局面では、方法は、試料をAEXカラムに負荷するより前に、関心対象のタンパク質からFc N-グリコシル化を除去する工程をさらに含む。この工程は、アスパラギン残基の、アスパラギン酸への変換により、AEX分離を改善することができる。この態様の特定の局面では、関心対象のタンパク質のFc N-グリコシル化は、PNGase Fを使用して除去される。
【0036】
いくつかの例示的態様では、質量分析計はネイティブ条件下で実行される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】例示的態様による、pH勾配および塩勾配の概念を図示する。
【
図2】
図2Aは、例示的態様による、pH勾配に使用される塩のpH緩衝剤範囲を示す。
図2Bは、例示的態様による、抗体のpI範囲を示す。
図2Cは、例示的態様による、本発明のAEX-MS方法で試験した抗体のpI値を示す。
【
図3】例示的態様による高塩耐性ネイティブAEX-MSシステムを図示する。
【
図4】
図4Aは、例示的態様による、AEX-MSにおけるpH勾配のトレースを示す。
図4Bは、例示的態様による、AEX-MSにおける塩勾配のトレースを示す。
【
図5A】例示的態様による、様々なpIの抗体のネイティブAEX-MS分析を示す。
【
図5B】例示的態様による、様々なpIの抗体のネイティブAEX-MS分析を示す。
【
図5C】例示的態様による、様々なpIの抗体のネイティブAEX-MS分析を示す。
【
図5D】
図5A~Cの抗体のそれぞれについて、pIおよびAEX分離の有効性を示す。
【
図6A】例示的態様による、様々なタイプおよびpIの抗体のAEX-TICを示す。
【
図6B】例示的態様による、
図6AのAEX-TICの拡大図を示す。
【
図7】例示的態様による、脱グリコシル化され、FabRICATORで消化されたIgG4 mAbのAEX- TICを示す。
【
図8】
図8Aは、例示的態様による、抗体のSCX-TICを示す。
図8Bは、例示的態様による、抗体のAEX-TICを示す。
【
図9】例示的態様による、PNGase Fを使用した抗体の脱グリコシル化を図示する。
【
図10A】例示的態様による、非脱グリコシル化抗体と脱グリコシル化抗体とのAEX-TIC比較を示す。
【
図10B】例示的態様による、非脱グリコシル化抗体と脱グリコシル化抗体とのAEX-TIC比較を示す。
【
図10C】例示的態様による、非脱グリコシル化抗体と脱グリコシル化抗体とのAEX-TIC比較を示す。
【
図11A】例示的態様による、非脱グリコシル化抗体と脱グリコシル化抗体とのAEX-TIC比較を示す。
【
図12】例示的態様による、非脱グリコシル化抗体と脱グリコシル化抗体とのAEX-TIC比較を示す。
【
図13】例示的態様による、非脱グリコシル化抗体と脱グリコシル化抗体とのAEX-TIC比較を示す。
【
図14A】例示的態様による、抗体の非脱グリコシル化方法対照と抗体の非脱グリコシル化酸性付近画分とのAEX-TIC比較を示す。
【
図14C】例示的態様による、抗体の脱グリコシル化方法対照と抗体の脱グリコシル化酸性付近画分とのAEX-TIC比較を示す。
【
図15】
図15Aは、例示的態様による、原体(drug substance)由来の非脱グリコシル化抗体と抗体の非脱グリコシル化全酸性画分とのAEX-TIC比較を示す。
図15Bは、例示的態様による、原体由来の脱グリコシル化抗体と抗体の脱グリコシル化全酸性画分とのAEX-TIC比較を示す。
【
図16】例示的態様による、グリコシル化、脱アミド化、およびC末端リジンを含む、AEX-MSによって容易に分離可能なFc電荷バリアントを図示する。
【
図17】
図17Aは、例示的態様による、様々な抗体の脱グリコシル化Fc領域のAEX-TICを示す。
図17Bは、例示的態様による、
図17AのAEX-TICの拡大図を示す。
【
図18】
図18Aは、例示的態様による、対照およびストレスを受けた脱グリコシル化Fc試料のAEX-TICを示す。
図18Bは、例示的態様による、
図18Aの電荷バリアントの定量化を示す。
【
図19】例示的態様による、二重特異性抗体のFc交換を図示する。
【
図20】例示的態様による、非脱グリコシル化bsAbのFabRICATOR消化物のAEX-TICを示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
詳細な説明
生物療法タンパク質の徹底的な特徴付けは、開発の全段階および最終的な生成物品質管理で必須の要件である。各タンパク質は、タンパク質の表面の電荷分布を変化させ得る複数の翻訳後修飾が理由で、いくつかの異なるバリアント形態を有すると考えられる。これは、電荷状態を直接的に変化させる修飾が理由であるか、またはアクセス可能な表面電荷をコンホメーション変化を通じて間接的に変化させることによるものである可能性がある。これらの修飾は、イオン交換(IEX)分析を使用して、クロマトグラフィーによって分離することができる。
【0039】
インタクトタンパク質において電荷バリアントを特徴付けるために、質量分析にオンラインで連結されたイオン交換クロマトグラフィーを用いる方法が以前に開発された。しかし、これまでに発表された方法は、タンパク質が6.0未満のpIを有する電荷バリアントについてのタンパク質の特徴付けを示す。例えば、Leblancらは、MSとオンラインで連結された陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)を使用して、ヒト血清アルブミン(HSA)(pI=4.7)の電荷バリアントを特徴付けた。Leblanc et al. J. Chroma. B, 2018, 1095: 87-93を参照されたい。
【0040】
FusslらもpH勾配ベースのAEX方法を報告し、これは、ネイティブ条件下でのインタクトタンパク質レベルの電荷バリアントの特徴付けのために質量分析に直接的にインターフェースで連結されていた。Fussl et al. J. Proteome Res., 2019, 18: 3689-3702。しかし、開発された方法でのpH勾配溶出は、pI値が<6.5である陰イオン性タンパク質、例えば、トランスフェリン(pI=5.2~5.6)、オボアルブミン(pI=4.5)、およびアシアロα-1-AGP(pI=2.8~3.8)についてクロマトグラフィーの選択性および一般的な適用性を容易にしただけであった。同書、3690頁。
【0041】
ごく最近、Van Schaikらは、バイオ医薬品のエリスロポエチン(EPO、pI=4.4~5.1)の複数の品質属性のモニタリングにAEX-MSを適用した。前述の方法のすべては、タンパク質およびその電荷バリアントを分離するためにpH勾配溶出を用いる。
【0042】
本発明は、約6.0~約7.0のpI値を有し得るタンパク質の電荷バリアントを特徴付けるのに適したAEX方法を開示する。以前に発表されたものよりも高いpI値を有するタンパク質からの電荷バリアントの分離を研究するために、AEXカラムからのタンパク質の溶出に関する2つの主要な機構を分析した。例えば、
図1を参照されたい。塩勾配溶出では、タンパク質は、塩勾配中の塩イオンと競合することによって、交換部位から交換部位へとカラムの下方に押し下げられる。塩濃度が高まるにつれて、集束効果が生じる。pH勾配溶出では、タンパク質がほとんど~全く電荷を有さない点にpHが達するとタンパク質はカラムから溶出される。勾配中のpHのさらなる低下により、タンパク質はより陽イオン性になり、したがって、タンパク質はカラム樹脂にはね返される。これは塩勾配との重要な違いであり、なぜならば、カラムの残部とほとんど相互作用しないと考えられるからである。
【0043】
pH勾配では、タンパク質がカラムにおいて元々結合していた位置に関係なく、タンパク質が溶出のpHで十分に再集束するので、その利点は、試料ローディング能力の増大でも観察された。これはまた、試料中の高塩の効果を補償し、それによって、試料のマトリックス効果を低減させる。pH勾配溶出の、この日常的に使用されており、好まれている方法は、約7を超えるpIを有するタンパク質には有用ではなく、なぜならば、MS装置に適合することができる緩衝液を使用して必要とされるpHを達成するのは困難である(すなわち、抗体のpI範囲付近に緩衝ギャップがあるMS適合性の塩を使用して、7.0を超えるpHの望ましい範囲で直線的なpH勾配を達成するのは困難である)からである。例えば、以前に発表されたものと比較して高いpIを有するタンパク質は、MS適合性の塩を使用することができない緩衝ギャップに入るであろう。例えば、
図2Aを参照されたい。理論的に、
図2Bに示すように、このギャップは、その比較的高いpIが理由で、AEXが抗体を分離するのを困難にする。試験したIgG1抗体は、
図2Bおよび2Cに示すように、IgG4抗体と比較して高いpIを有する傾向があった。
【0044】
本開示は、塩勾配を用いたAEX-MSによって、タンパク質についての電荷バリアントを特徴付けるための、新規なネイティブAEX-MS方法を記載する。
【0045】
別段記載されない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書において記載されるものと同様または均等な任意の方法および材料を実施または試験で使用することができるが、特定の方法および材料をこれから記載する。言及されるすべての刊行物は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0046】
用語「1つ(a)」は、「少なくとも1つの」を意味すると理解されるべきであり;用語「約」および「およそ」は、当業者によって理解されると考えられるように、標準的な変動を許可すると理解されるべきであり;範囲が提供される場合、終点が含まれる。
【0047】
本明細書において使用する場合、用語「タンパク質」は、共有結合性アミド結合を有する任意のアミノ酸ポリマーを含む。タンパク質は、一般に、「ポリペプチド」として当技術分野において公知である1つまたは複数のアミノ酸ポリマー鎖を含む。「ポリペプチド」は、ペプチド結合を介して連結された、アミノ酸残基、それらの天然に存在する関連した構造バリアント、および天然に存在しない合成類似体からなるポリマー、それらの天然に存在する関連した構造バリアント、および天然に存在しない合成類似体を指す。「合成のペプチドまたはポリペプチド」は、天然に存在しないペプチドまたはポリペプチドを指す。合成のペプチドまたはポリペプチドは、例えば自動ポリペプチド合成機を使用して、合成することができる。様々な固相ペプチド合成方法が公知である。タンパク質は、単一の機能生体分子を形成するように、1つまたは複数のポリペプチドを含むことができる。タンパク質は、任意の生物療法タンパク質、研究または療法で使用される組換えタンパク質、トラップタンパク質、ならびに他のキメラ受容体Fc融合タンパク質、キメラタンパク質、抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、および二重特異性抗体を含むことができる。別の例示的局面では、タンパク質は、抗体フラグメント、ナノボディ、組換え抗体キメラ、サイトカイン、ケモカイン、ペプチドホルモンなどを含むことができる。タンパク質は、組換え細胞ベースの生成システム、例えば、昆虫バキュロウイルスシステム、酵母システム(例えば、ピキア属(Pichia)の種)、哺乳類システム(例えば、CHO細胞およびCHO派生物、例えばCH0-K1細胞)を使用して、生成することができる。生物療法タンパク質およびその生成を論じている総説について、Ghaderi et al., "Production platforms for biotherapeutic glycoproteins. Occurrence, impact, and challenges of non-human sialylation,"(BIOTECHNOL. GENET. ENG. REV. 147-175 (2012))を参照されたい。いくつかの例示的態様では、タンパク質は、修飾、付加物、および他の共有結合する部分を含む。そうした修飾、付加物、および部分には、例えば、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、グリカン(例えば、N-アセチルガラクトサミン、ガラクトース、ノイラミン酸、N-アセチルグルコサミン、フコース、マンノース、および他の単糖)、PEG、ポリヒスチジン、FLAGタグ、マルトース結合タンパク質(MBP)、キチン結合タンパク質(CBP)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、mycエピトープ、蛍光標識、ならびに他の色素などが含まれる。タンパク質は、組成および溶解度に基づいて分類することができ、したがって、単純タンパク質、例えば、球状タンパク質および線維状タンパク質;コンジュゲート化タンパク質、例えば、核タンパク質、糖タンパク質、ムコタンパク質、色素タンパク質、リン酸化タンパク質、金属タンパク質、およびリポタンパク質;ならびに誘導タンパク質、例えば、一次誘導タンパク質および二次誘導タンパク質を含むことができる。
【0048】
いくつかの例示的態様では、関心対象のタンパク質は、抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体フラグメント、モノクローナル抗体、またはFc融合タンパク質であり得る。
【0049】
本明細書で使用する場合、用語「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互接続した4つポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖、および2つの軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子、ならびにその多量体(例えば、IgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書において、HCVRまたはVHと略される)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2、およびCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書において、LCVRまたはVLと略される)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存されている領域が散在している相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域にさらに細分され得る。各VHおよびVLは、アミノ末端からカルボキシ末端に以下の順序で配置された3つのCDRおよび4つのFRからなる:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。異なる例示的な態様では、抗ビッグET-1抗体(またはその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であってもよく、または天然にもしくは人工的に修飾されていてもよい。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの対比(side-by-side)分析に基づいて定義することができる。本明細書において使用する場合、用語「抗体」は、完全な抗体分子の抗原結合性フラグメントも含む。本明細書において使用する場合、抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合性フラグメント」などという用語は、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、任意の天然に存在する、酵素的に得られる、合成の、または遺伝子操作された、ポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合性フラグメントは、任意の適切な標準的な技法、例えば、タンパク質消化、または抗体の可変ドメインおよび任意で定常ドメインをコードするDNAの操作および発現をともなう組換え遺伝子操作技法を使用して、例えば、完全な抗体分子から得ることができる。そのようなDNAは公知であり、および/または例えば、商業的供給元、DNAライブラリー(ファージ抗体ライブラリーを含める)から容易に入手可能であり、もしくは合成することができる。DNAをシーケンスすることができ、かつ例えば、1つもしくは複数の可変ドメインおよび/もしくは定常ドメインを適切な構成に配置するために、またはコドンを導入する、システイン残基を作製する、アミノ酸を修飾する、付加する、もしくは欠失させるなどのために、化学的に、または分子生物学的技法を使用することによって、操作することができる。
【0050】
本明細書において使用する場合、「抗体フラグメント」は、インタクトな抗体の一部、例えば、抗体の抗原結合領域または可変領域を含む。抗体フラグメントの例には、限定されないが、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)2フラグメント、Fcフラグメント、scFvフラグメント、Fvフラグメント、dsFvダイアボディ、dAbフラグメント、Fd’フラグメント、Fdフラグメント、および単離された相補性決定領域(CDR)領域、ならびにトリアボディ、テトラボディ、直鎖抗体、単鎖抗体分子、および抗体フラグメントから形成される多特異性抗体が含まれる。Fvフラグメントは免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の可変領域の組み合わせであり、ScFvタンパク質は、免疫グロブリンの軽鎖および重鎖の可変領域がペプチドリンカーによって連結されている組換え単鎖ポリペプチド分子である。抗体フラグメントは、様々な手段によって生成することができる。例えば、抗体フラグメントは、インタクトな抗体のフラグメント化によって酵素的もしくは化学的に生成することができ、および/または、部分的な抗体配列をコードする遺伝子から組換えにより生成することができる。あるいはまたはさらに、抗体フラグメントは、完全にまたは部分的に合成により生成することができる。抗体フラグメントは、任意で単鎖抗体フラグメントを含むことができる。あるいはまたはさらに、抗体フラグメントは、例えばジスルフィド結合によって一緒に連結されている複数の鎖を含むことができる。抗体フラグメントは、任意で多分子複合体を含むことができる。
【0051】
本明細書で使用する場合、用語「モノクローナル抗体」は、ハイブリドーマ技術を通じて生成される抗体に限定されない。モノクローナル抗体は、当技術分野において利用可能であるかまたは公知である任意の手段によって、任意の真核生物クローン、原核生物クローン、またはファージクローンを含めた単一クローンから得ることができる。本開示で有用なモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換え、およびファージディスプレイ技術またはこれらの組み合わせの使用を含めて、当技術分野において公知である多種多様の技法を使用して、調製することができる。
【0052】
本明細書で使用する場合、用語「Fc融合タンパク質」は、1つが免疫グロブリン分子のFc部分である2つ以上のタンパク質の、天然状態では融合していない一部またはすべてを含む。抗体由来のポリペプチドの様々な部分(Fcドメインを含む)に融合したある特定の異種ポリペプチドを含む融合タンパク質の調製は、例えば、Ashkenazi et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 88: 10535, 1991; Byrn et al., Nature 344:677, 1990;およびHollenbaugh et al., “Construction of Immunoglobulin Fusion Proteins”, in Current Protocols in Immunology, Suppl. 4, pages 10.19.1-10.19.11, 1992によって記載されている。「受容体Fc融合タンパク質」は、Fc部分に結合した受容体の1つまたは複数の細胞外ドメインの1つまたは複数を含み、これは、いくつかの態様では、免疫グロブリンのヒンジ領域、それに続く、CH2およびCH3ドメインを含む。いくつかの態様では、Fc融合タンパク質は、単一リガンドまたは1つより多いリガンドに結合する2つ以上の別々の受容体鎖を含む。例えば、Fc融合タンパク質は、トラップ、例えば、IL-1トラップ(例えば、hIgG1のFcに融合したIL-1R1細胞外領域に融合したIL-1 RAcPリガンド結合領域を含むリロナセプト;参照によりその全体が本明細書に組み入れられる米国特許第6,927,004号を参照されたい)、またはVEGFトラップ(例えば、hIgG1のFcに融合したVEGF受容体Flk1のIgドメイン3に融合したVEGF受容体Flt1のIgドメイン2を含むアフリベルセプト;例えば、SEQ ID NO:1;参照によりその全体が本明細書に組み入れられる米国特許第7,087,411号および第7,279,159号を参照されたい)などである。
【0053】
本明細書において使用する場合、一般用語「翻訳後修飾」または「PTM」は、ポリペプチドがそのリボソーム合成の間(同時翻訳修飾)かまたは後(翻訳後修飾)に受ける共有結合的修飾を指す。PTMは、一般に、特異的な酵素または酵素経路によって導入される。多くは、タンパク質骨格内の特定の特徴的なタンパク質配列(シグネチャ配列)の部位に生じる。数百のPTMが記録されており、これらの修飾は、タンパク質の構造または機能の何らかの局面に常に影響を与える(Walsh, G. “Proteins” (2014) second edition, published by Wiley and Sons, Ltd., ISBN: 9780470669853)。様々な翻訳後修飾には、限定されないが、切断、N末端伸長、タンパク質分解、N末端のアシル化、ビオチン化(ビオチンによるリジン残基のアシル化)、C末端のアミド化、グリコシル化、ヨウ素化、補欠分子族の共有結合、アセチル化(通常はタンパク質のN末端における、アセチル基の付加)、アルキル化(通常はリジンまたはアルギニン残基における、アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル)の付加)、メチル化、アデニル化、ADPリボシル化、ポリペプチド鎖内またはポリペプチド鎖間の共有結合性架橋結合、スルホン化、プレニル化、ビタミンC依存的修飾(プロリンおよびリジンのヒドロキシル化ならびにカルボキシ末端のアミド化)、ビタミンKが、γ-カルボキシグルタミン酸(glu残基)の形成をもたらすグルタミン酸残基のカルボキシル化の補助因子である、ビタミンK依存的修飾、グルタミル化(グルタミン酸残基の共有結合)、グリシル化(グリシン残基の共有結合)、グリコシル化(糖タンパク質をもたらす、アスパラギン、ヒドロキシリジン、セリン、またはスレオニンのいずれかへのグリコシル基の付加)、イソプレニル化(イソプレノイド基、例えば、ファルネソールおよびゲラニルゲラニオールの付加)、リポイル化(リポ酸塩官能基の付着)、ホスホパンテテイニル化(脂肪酸、ポリケタイド、非リボソームペプチドおよびロイシン生合成におけるもののような、補酵素Aの4'-ホスホパンテテイニル部分の付加)、リン酸化(通常はセリン、チロシン、スレオニン、またはヒスチジンへのリン酸基の付加)、ならびに硫酸化(通常はチロシン残基への硫酸基の付加)が含まれる。アミノ酸の化学的性質を変える翻訳後修飾には、限定されないが、シトルリン化(脱イミノ化によるアルギニンからシトルリンへの変換)、および脱アミド化(グルタミンからグルタミン酸への、またはアスパラギンからアスパラギン酸への変換)が含まれる。構造変化をともなう翻訳後修飾には、限定されないが、ジスルフィド架橋(2つのシステインアミノ酸の共有結合)の形成およびタンパク質分解性切断(ペプチド結合でのタンパク質の切断)が含まれる。ある特定の翻訳後修飾は、他のタンパク質またはペプチドの付加、例えば、ISG化(ISG15タンパク質(インターフェロン活性化遺伝子)への共有結合)、SUMO化(SUMOタンパク質(低分子ユビキチン様修飾因子)への共有結合)、およびユビキチン化(ユビキチンタンパク質への共有結合)をともなう。UniProtによってキュレートされたPTMのより詳細な統制語彙について、European Bioinformatics Institute Protein Information ResourceSIB Swiss Institute of Bioinformatics, EUROPEAN BIOINFORMATICS INSTITUTE DRS - DROSOMYCIN PRECURSOR - DROSOPHILA MELANOGASTER (FRUIT FLY) - DRS GENE & PROTEIN、http://www.uniprot.org/docs/ptmlist(最終訪問、2019年1月15)を参照されたい。
【0054】
本明細書において使用する場合、用語「電荷バリアント」は、限定されないが、酸性種および塩基性種(例えば、Lysバリアント)を含めた生成物のバリアントの完全補完体を指す。ある特定の態様では、そのようなバリアントは、生成物の凝集体および/または生成物のフラグメントを、そのような凝集および/またはフラグメント化が生成物の電荷変動をもたらす範囲において、含むことができる。
【0055】
本明細書において使用する場合、用語「酸性種」は、全体的な酸性電荷を特徴とする、タンパク質のバリアントを指す。例示的な酸性種には、限定されないが、脱アミド化バリアント、フコシル化バリアント、酸化バリアント、メチルグリオキサール(MGO)バリアント、糖化バリアント、およびクエン酸バリアントが含まれ得る。例示的な構造バリアントには、限定されないが、グリコシル化バリアントおよびアセトン化バリアントが含まれる。例示的なフラグメント化バリアントには、ペプチド鎖の解離、酵素的および/または化学的修飾による、標的分子由来の任意の修飾されたタンパク質種、例えば、限定されないが、FcおよびFabフラグメント、Fabを欠損しているフラグメント、重鎖可変ドメインを欠損しているフラグメント、C末端トランケーションバリアント、軽鎖のN末端Aspが切除されたバリアント、ならびに軽鎖のN末端トランケーションを有するバリアントが含まれる。他の酸性種バリアントには、不対ジスルフィド、宿主細胞のタンパク質、および宿主の核酸、クロマトグラフィー材料、ならびに培地成分を含むバリアントが含まれる。一般に、酸性種は、CEX中に主要ピークよりも遅く、またはAEX分析中に主要ピークよりも遅く溶出される。
【0056】
本明細書において使用する場合、用語「塩基性種」は、タンパク質内に存在する主要電荷バリアント種と比較して全体的な塩基性電荷を特徴とする、タンパク質、例えば、抗体またはその抗原結合部分のバリアントを指す。例示的な塩基性種には、限定されないが、リジンバリアント、アスパラギン酸の異性化、アスパラギンでのスクシンイミド形成、メチオニン酸化、アミド化、不完全なジスルフィド結合形成、セリンからアルギニンへの突然変異、アグリコシル化(aglycosylation)、フラグメント化、および凝集が含まれ得る。一般に、塩基性種は、CEX中に主要ピークよりも遅く、またはAEX分析中に主要ピークよりも早く溶出される。
【0057】
本明細書において使用する場合、「イオン交換クロマトグラフィー」は、2つの物質が、全体として、関心対象の分子および/もしくはクロマトグラフィー材料の特定の領域において、または局所的に、関心対象の分子および/もしくはクロマトグラフィー材料においてかのいずれかで、それぞれのイオン電荷の違いに基づいて分離される任意の方法を含めた分離を指すことができ、したがって、陽イオン交換材料または陰イオン交換材料のいずれかを用いることができる。イオン交換クロマトグラフィーは、関心対象の分子の局所的電荷とクロマトグラフィー材料の局所的電荷の間の違いに基づいて分子を分離する。充填されたイオン交換クロマトグラフィーカラムまたはイオン交換メンブレン装置は、結合-溶出方式、フロースルー方式、またはハイブリッド方式で操作することができる。平衡化緩衝液または別の緩衝液でカラムまたはメンブレン装置を洗浄した後、溶出緩衝液のイオン強度(すなわち、伝導率)を高めて、イオン交換マトリックスの荷電部位について溶質と競合させることよって、生成物の回収を達成することができる。pHを変え、それによって、溶質の電荷を変化させることは、溶質の溶出を達成するための別の方法であり得る。伝導率またはpHの変化は、漸進的(勾配溶出)または段階的(段階溶出)であり得る。クロマトグラフィーのための陰イオン性または陽イオン性支持体を形成するために、陰イオン性または陽イオン性置換基をマトリックスに付着させることができる。陰イオン性交換置換基の非限定例には、ジエチルアミノエチル(DEAE)、第4級アミノエチル(QAE)、および第4級アミン(Q)基が含まれる。
【0058】
本明細書において使用する場合、用語「質量分析計」は、特定の分子種を特定することができ、その正確な質量を測定することができる装置を含む。本用語は、ポリペプチドまたはペプチドが検出および/または特徴付けのために溶出され得る任意の分子検出器を含むことを意図する。質量分析計は、3つの主要な部分:イオン源、質量分析器、および検出器を含むことができる。イオン源の役割は、気相イオンを作製することである。分析物の原子、分子、またはクラスターを気相に移動させ、同時に(エレクトロスプレーイオン化などの場合)イオン化することができる。イオン源の選択は、用途に大きく依存する。
【0059】
いくつかの態様では、質量分析計はエレクトロスプレー質量分析計であってもよい。
【0060】
本明細書において使用する場合、用語「エレクトロスプレーイオン化」または「ESI」は、溶液中の陽イオンまたは陰イオンのいずれかが、溶液を含むエレクトロスプレー針の先端部と対電極の間に電位差を加えることから生じる高荷電液滴の流れの大気圧での形成および脱溶媒和を介して気相に移動させられる、スプレーイオン化のプロセスを指す。
【0061】
いくつかの例示的態様では、エレクトロスプレーイオン化質量分析計はナノエレクトロスプレーイオン化質量分析計であってもよい。
【0062】
本明細書で使用する場合、用語「ナノエレクトロスプレー」または「ナノスプレー」は、多くの場合、外部の溶媒送達を使用しない、典型的には、毎分数百ナノリットルの試料溶液またはそれ以下である非常に低い溶媒流量でのエレクトロスプレーイオン化を指す。ナノエレクトロスプレーを形成するエレクトロスプレー注入セットアップは、静的ナノエレクトロスプレーエミッターまたは動的ナノエレクトロスプレーエミッターを使用することができる。静的ナノエレクトロスプレーエミッターは、少量の試料(分析物)溶液体積の連続的な分析を長期間にわたって行う。動的ナノエレクトロスプレーエミッターは、質量分析計による分析より前に混合物に対してクロマトグラフィー分離を行うために、キャピラリーカラムおよび溶媒送達システムを使用する。
【0063】
本明細書において使用する場合、用語「質量分析器」は、種、すなわち、原子、分子、またはクラスターをそれらの質量に従って分離することができる装置を含む。高速タンパク質シーケンシングに用いることができる質量分析器の非限定例は、飛行時間型(TOF)、磁場セクター/電場セクター、四重極マスフィルター(Q)、四重極イオントラップ(QIT)、オービトラップ、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FTICR)、およびさらに加速器質量分析(AMS)の技法である。
【0064】
いくつかの例示的態様では、質量分析はネイティブ条件下で行うことができる。
【0065】
本明細書において使用する場合、用語「ネイティブ条件」または「ネイティブMS」、または「ネイティブESI-MS」は、分析物中の非共有結合相互作用を保持する条件下で質量分析を行うことを含むことができる。ネイティブMSに関する詳細な総説については、以下の総説を参照されたい:Elisabetta Boeri Erba & Carlo Petosa, The emerging role of native mass spectrometry in characterizing the structure and dynamics of macromolecular complexes, 24 PROTEIN SCIENCE 1176- 1192 (2015)。ネイティブESIと通常のESIの差違のいくつかは、表1および
図1に例示される(Hao Zhang et al., Native mass spectrometry of photosynthetic pigment-protein complexes, 587 FEBS Letters 1012-1020 (2013))。
【0066】
いくつかの例示的態様では、質量分析計はタンデム質量分析計であってもよい。
【0067】
本明細書において使用する場合、用語「タンデム質量分析」は、質量選択および質量分離の複数の段階を使用して試料分子の構造情報が得られる技法を含む。前提条件は、試料分子を気相に移動させ、インタクトでイオン化することができること、および最初の質量選択工程後に、何らかの予測可能かつ制御可能な様式で壊れるようにこれらを誘導することができることである。多段階MS/MSまたはMSnは、意味のある情報を得ることができるか、またはフラグメントイオンシグナルが検出可能である限り、最初に前駆イオンを選択および単離し(MS2)、これをフラグメント化し、一次フラグメントイオンを単離し(MS3)、これをフラグメント化し、二次フラグメントを単離する(MS4)などによって行うことができる。タンデムMSは、多種多様の分析器の組み合わせで首尾よく行われている。ある特定の用途に組み合わせる分析器が何であるかは、多くの異なる因子、例えば、感度、選択性、および速度だけでなく、サイズ、費用、および有効性によっても決定される。タンデムMS方法の2つの主要なカテゴリーは、空間的タンデムおよび時間的タンデムであるが、時間的タンデム分析器が空間的に連結されているか、または空間的タンデム分析器と連結されているハイブリッド型も存在する。空間的タンデム質量分析計は、イオン源、前駆イオン活性化装置、および少なくとも2つの非トラッピング質量分析器を含む。機器の1つのセクションでイオンが選択され、中間領域で解離され、次いで、生成物イオンがm/z分離およびデータ取得のための別の分析器に送られるように、特定のm/z分離機能を設計することができる。時間的タンデム質量分析計では、イオン源で生成されたイオンを同じ物理的装置中でトラップし、単離し、フラグメント化し、m/z分離することができる。
【0068】
質量分析計によって特定されたペプチドは、インタクトタンパク質およびその翻訳後修飾の代用代表物として使用することができる。これらは、実験的MS/MSデータと理論的MS/MSデータを相関させることによってタンパク質の特徴付けに使用することができ、後者は、タンパク質配列データベース中の可能なペプチドから生成される。特徴付けは、限定されないが、タンパク質フラグメントのアミノ酸シーケンシング、タンパク質シーケンシングの決定、タンパク質デノボシーケンシングの決定、翻訳後修飾の位置の特定、または翻訳後修飾の特定、または比較可能性(comparability)分析、またはこれらの組み合わせを含むことができる。
【0069】
本明細書において使用する場合、用語「データベース」は、データベース中のすべての可能な配列に対して未解釈のMS-MSスペクトルを検索する可能性を提供するバイオインフォマティクスツールを指す。そのようなツールの非限定例は、Mascot(http://www.matrixscience.com)、Spectrum Mill(http://www.chem.agilent.com)、PLGS(http://www.waters.com)、PEAKS(http://www.bioinformaticssolutions.com)、Proteinpilot(http://download.appliedbiosystems.com//proteinpilot)、Phenyx(http://www.phenyx-ms.com)、Sorcerer(http://www.sagenresearch.com)、OMSSA(http://www.pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/omssa/)、X!Tandem(http://www.thegpm.org/TANDEM/)、Protein Prospector(http://www. http://prospector.ucsf.edu/prospector/mshome.htm)、Byonic(https://www.proteinmetrics.com/products/byonic)、またはSequest(http://fields.scripps.edu/sequest)である。
【0070】
本明細書において使用する場合、用語「消化」は、タンパク質の1つまたは複数のペプチド結合の加水分解を指す。適切な加水分解作用物質を使用して試料中のタンパク質の消化を行うためのいくつかのアプローチ、例えば、酵素消化または非酵素消化が存在する。
【0071】
本明細書において使用する場合、用語「加水分解作用物質」は、タンパク質の消化を行うことができる多数の異なる作用物質のいずれか1つまたは組み合わせを指す。酵素消化を行うことができる加水分解作用物質の非限定例には、トリプシン、エンドプロテイナーゼArg-C、エンドプロテイナーゼAsp-N、エンドプロテイナーゼGlu-C、外膜プロテアーゼT(OmpT)、化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)の免疫グロブリン分解酵素(IdeS)、キモトリプシン、ペプシン、サーモリシン、パパイン、プロナーゼ、およびアスペルギルス・サイトイ(Aspergillus Saitoi)由来のプロテアーゼが含まれる。非酵素消化を行うことができる加水分解作用物質の非限定例には、高温、マイクロ波、超音波、高圧、赤外線、溶媒(非限定例はエタノールおよびアセトニトリルである)、固定化酵素消化(IMER)、磁性粒子固定化酵素、およびオンチップ固定化酵素の使用が含まれ得る。タンパク質の消化のために利用可能な技法を論じている最近の総説について、Switazar et al., “Protein Digestion: An Overview of the Available Techniques and Recent Developments”(J. Proteome Research 2013, 12, 1067-1077)を参照されたい。加水分解作用物質の1つまたは組み合わせは、タンパク質またはポリペプチド中のペプチド結合を配列特異的に切断し、より短いペプチドの予測可能なコレクションを生成することができる。
【実施例】
【0072】
IgG1およびIgG4ベースの治療用mAb試料を直接分析したか、またはPNGase Fおよび/もしくはFabRICATORで処理してから、YMC BioPro QA-F SAXカラム(4.6×100mm)に注入し、該カラムで分離した。ナノエレクトロスプレーイオン化(NSI)による分析流量(0.4mL/分)に対応するために、以前に報告されたネイティブLC-MSプラットフォームを適用した。10~300mMの範囲の酢酸アンモニウムベースの移動相を使用して、mAb溶出のための塩ベースの勾配を開発した。部位特異的な脱アミド反応または脱グリコシル化反応のいずれかに起因するバリアントのピークを解明するために、オフライン分画およびトリプシンペプチドマッピング分析を行った。保持時間アライメントに基づいて脱アミド生成物(例えば、iso-Asp対Asp)を区別するために、合成ペプチドも使用した。
【0073】
本発明の方法を開発するために、
図1に図示するように、pHまたは塩勾配方式のいずれかを使用して、AEXを最初に調べた。使用するシステムは、Dionex Ultimate 3000 HPLC-Q Exactive UHMRであった。AEX-MSのための例示的なシステムおよび方法は、参照により本明細書に組み入れられるYan et al., 2020, J Am Soc Mass Spectrom, 31:2171-2179に記載されており、
図3に図示されている。
【0074】
pH勾配または塩勾配を用いたAEX-MSを使用する実験を
図4Aおよび4Bに示す。望ましいpH範囲を有する直線的pH勾配は、MS適合性のアンモニアベースの移動相を使用するmAbのAEX分析について達成することができない。しかし、直線的塩勾配は、MS適合性移動相を使用して達成することができる。開発されたネイティブLC-MSプラットフォームは600mMまでの塩濃度に耐性がある。
【0075】
AEX-MSシステムを使用して広範な抗体を試験して、どのmAbがAEX分離から最も恩恵を受けるかを決定した。試験した抗体のAEX TICをpIの増加の順序で
図5A、5B、および5Cに示し、5Dに結果の概要を示す。概して、比較的低いpI(pH<7)を有するmAbほどAEX分離が良好であった。
【0076】
本発明のAEX-MS方法を使用して、mAbおよびbsAbの別の比較を行った。フルスケールのAEX-TICを
図6Aに示し、3倍拡大表示のAEX-TICを
図6Bに示す。ネイティブAEX-MS方法は、中程度のpIを有する大抵のIgG4分子に適しており、様々な酸性および塩基性種の特定を可能にし、高いpIを有するIgG1 mAbにはあまり有用でないことが示された。概して、AEX分離は、より低いpIを有する分子について改善された。観察された一般的な酸性バリアントは、脱アミド化、糖化、およびNeuAcを含んでいた。観察された一般的な塩基性バリアントは、部分的グリコシル化種および非グリコシル化種、ならびにC末端リジンを有する種を含んでいた。
【0077】
IdeS(GenovisのFabRICATOR(登録商標))で処理した脱グリコシル化IgG4 mAbに対してさらなる分析を行い、
図7に示すように、Fc属性のモニタリングを行った。特異的な酸性ピークが部位特異的脱アミド化と相関することが見出された。脱グリコシル化およびFabRICATOR(登録商標)で消化された熱ストレスを受けたIgG4試料を分画し、続いて還元ペプチドマッピングを行い、結果を合成ペプチドと比較することによって、同一性を確認した。
【0078】
図8Aと8Bで示すように、Ab21についてSCX-MSとAEX-MSの間で比較を行った。AEX-MSは、SCX-MSと比較してより多くの数のバリアントを特定することができ、これは、より低いpIを有するタンパク質について、AEXがSCXの有用な代替法であり得ることを示す。
【0079】
本発明の方法に対してさらなる改善を行った。
図9に図示するように、分析物の抗体をPNGase Fで脱グリコシル化し、試料のpIを低下させることによって、AEX分離が改善された。非脱グリコシル化および脱グリコシル化抗体をAEX-MS分析に供し、AEX-TICを比較した。
図10A~Cに示すように、脱グリコシル化はmAbのpIを低下させ、溶出を遅くし、AEXの分離および分解能を改善した。比較的高いpI(pH>7)を有するmAbについては、脱グリコシル化工程は分子の保持を援助することができたが、分解能の改善は、より低いpIを有するmAbほど有意ではなかった。
【0080】
AEX-MSに供した非脱グリコシル化mAbと脱グリコシル化mAbとのさらなる比較を
図11Aに示し、
図11Bにその拡大を示す。本方法は、多数の塩基性種および酸性種を検出することができ、異なるタンパク質修飾を区別することができた。脱グリコシル化の後、全体的な分解能は改善された。検出された塩基性バリアントは、C末端リジンおよび変換された部分的グリコシル化種を含んでいた。検出された酸性バリアントは、脱アミド化、糖化/グルクロニル化、および高分子量(HMW)種を含んでいた。
【0081】
図12に示すように、別の抗体について同様の比較を行った。再び、脱グリコシル化の後にAEX分解能が大きく改善された。検出された塩基性バリアントは、C末端リジン、非グリコシル化種、および変換された部分的グリコシル化種を含んでいた。検出された酸性バリアントは、脱アミド化および糖化/グルクロニル化種を含んでいた。
【0082】
図13に示すように、別の抗体に対して脱グリコシル化ありおよびなしのAEX-MS分析を行った。再び、脱グリコシル化の後にAEX分解能が大きく改善された。検出された塩基性バリアントは、C末端リジンおよび変換された部分的グリコシル化種を含んでいた。検出された酸性バリアントは、脱アミド化、糖化/グルクロニル化、およびNeuAc種を含んでいた。
【0083】
本発明の方法には様々な潜在用途がある。例えば、
図14に示すように、濃縮電荷バリアントの詳細な特徴付けにAEX-MSを使用した。方法対照試料(Mtd ctrl)を、非脱グリコシル化およびグリコシル化試料の分画された酸性付近の種(酸性1)と比較し、AEX-MS分析に供した。
図14Aおよび14Bに示すように、方法対照で観察された塩基性バリアントはスクシンイミドおよびC末端リジンを含む。観察された酸性バリアントは、脱アミド化、糖化/グルクロニル化およびシアル酸(NeuAc)を含む。本方法は、電荷バリアントを部位特異的な脱アミド化部位にさらに分離することができた。
図14Cおよび14Dに示すように、脱グリコシル化の後、スクシンイミドのさらなるピークも特定された。
【0084】
図15に示すように、別の抗体に対して異なる濃縮荷電バリアント分析を行った。抗体原体を全酸性種画分と比較した。
図15Aに示すように、全酸性プールは脱アミド化、糖化/グルクロニル化、およびシアル酸(NeuAc)などの酸性バリアントからなる。酸性バリアントを部位特異的な脱アミド化部位にさらに分離することができた。
図15Bに示すように、脱グリコシル化の後、HMW種のさらなる分解が観察された。
【0085】
探索した第2の用途は、高分解能のFc属性のモニタリングのためのAEX-MSの使用であった。
図16に図示するように、脱グリコシル化の後、AEX-MSはグリコシル化状態、C末端リジン、および部位特異的脱アミド化を同時にモニタリングすることができる。関連した抗体、例えばIgG4のFc領域は共通であるので、Fc属性の分析は、広範な抗体に関して代表的な情報を提供する。様々なタンパク質の例示的な分析を
図17Aおよび17Bに示し、異なるピークはグリコシル化、C末端リジン、および部位特異的脱アミド化のバリアントを表す。本方法は、IgG4抗体に広く適用可能であることが示された。
【0086】
図18に示すように、安定性試料をモニタリングするために本分析をさらに適用した。修飾された抗体種の分離を示すAEX-TICを
図18Aに示し、2つの重複するトレースは、未処理の(naive)試料(黒色、下部のトレース)およびストレスを受けた試料(赤色、上部のトレース)を示す。ストレスを受けた試料は、分析より前に25℃で6か月間保存した。
図18Bに示すように、異なる荷電種の存在量を比較し、定量化することができる。本実施例では、本発明のAEX-MS方法の使用によって、熱ストレスの後に抗体の酸性バリアント(例えば、A1を参照されたい)が増加したという発見が可能になった。以前の研究に基づくと、部位特異的脱アミド化部位A1はVSNKと相関する可能性がある。
【0087】
探索したさらなる用途は、AEX-MSを使用して二重特異性抗体におけるFcとFc*の交換をモニタリングすることである。IgG4はヒンジのジスルフィド結合を除去した後に急速なFc交換を受ける可能性があることが公知である。bsAbの場合、
図19に図示するように、FcおよびFc*は、FabRICATOR(登録商標)での消化の後に、1:2:1の比のFc*/Fc*生成物:Fc*/Fc生成物:Fc/Fc生成物に交換されると考えられる。
図20に示すように、本発明のAEX-MS方法をbsAbのFabRICATOR(登録商標)消化物に適用し、該方法は、Fc交換を検出し、予測される1:2:1の比でFc種を分離するのに十分なほど感度がよいことが証明された。本実施例では、Fc*は、Fcと比較してはるかに高いC末端リジンを示した。
【0088】
比較的低いpIを有するmAbの電荷バリアント分析を含めて、様々なタンパク質分析に適用できる可能性がある塩勾配ベースのネイティブAEX-MS方法を開発した。mAbのAEX分離プロファイルおよび分解能は、脱グリコシル化によってさらに改善することができる。AEXは、グリコシル化状態、ならびにC末端リジンおよび脱アミド化に対して非常に感度がよい。AEX-MSで観察された一般的な塩基性バリアントは、C末端リジン、非グリコシル化または部分的グリコシル化バリアント、およびスクシンイミドを含む。AEX-MSで観察された一般的な酸性バリアントは、NeuAc、脱アミド化、糖化、およびグルクロニル化を含む。
【0089】
AEXは、BLA段階で濃縮された電荷バリアント試料の詳細な特徴付けのためにオルソゴナルに使用することができる。AEX-MSは、高分解能のFc属性のモニタリング、特に、部位特異的脱アミド化のモニタリングのために使用することもできる。
【国際調査報告】