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特表2024-527766アミノ酸によって部分修飾された層状シリケート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】アミノ酸によって部分修飾された層状シリケート
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/32 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
C01B33/32
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501924
(86)(22)【出願日】2022-07-08
(85)【翻訳文提出日】2024-01-12
(86)【国際出願番号】 EP2022069099
(87)【国際公開番号】W WO2023285308
(87)【国際公開日】2023-01-19
(31)【優先権主張番号】21185053.2
(32)【優先日】2021-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】596089399
【氏名又は名称】ビック-ケミー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】フセイン カロ
(72)【発明者】
【氏名】マクシミリアン ベーマー
(72)【発明者】
【氏名】ウード クラッペ
(72)【発明者】
【氏名】ニコ ハイツァー
【テーマコード(参考)】
4G073
【Fターム(参考)】
4G073BA03
4G073BA04
4G073BA10
4G073BA63
4G073BA80
4G073BB42
4G073BD21
4G073CC19
4G073FB19
4G073FD01
4G073FD21
4G073GA40
4G073UA08
4G073UB18
(57)【要約】
本発明は、層間カチオンを有する層状シリケートに関し、層間カチオンが、(a)Na、K、及びLiのうちの少なくとも1つを含む無機一価カチオン、及び(b)少なくとも1つのプロトン化アミノ酸を含む有機カチオン、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
層間カチオンを有する層状シリケートであって、前記層間カチオンが、
(a)Na、K、及びLiのうちの少なくとも1つを含む無機一価カチオン、並びに、
(b)少なくとも1つのプロトン化アミノ酸を含む有機カチオン
を含み、
前記無機一価カチオン(a)の、前記有機カチオン(b)に対するモル比が、0.20:0.80~0.80:0.20の範囲である、
層状シリケート。
【請求項2】
前記層状シリケートが、合成層状シリケートである、請求項1に記載の層状シリケート。
【請求項3】
前記層状シリケートが、プロトン化アミノ酸で修飾された天然の層状シリケートである、請求項1に記載の層状シリケート。
【請求項4】
前記プロトン化アミノ酸が、リジン、オルニチン、及びアラニンのうちの少なくとも1つを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の層状シリケート。
【請求項5】
前記層間カチオンが、層の間で、交互に、60モル%超のプロトン化アミノ酸、及び、60モル%超の、Na、K、及びLiから選択される無機カチオンを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の層状シリケート。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の層状シリケートを調製する方法であって、
(i)層状シリケートを提供すること、
(ii)前記層状シリケートのカチオン交換能を決定すること、
(iii)前記層状シリケートを、プロトン化アミノ酸に、水性環境中で、接触させること、ここで、プロトン化アミノ酸のモル量は、前記層状シリケートのカチオン交換能の100%未満に対応し、プロトン化アミノ酸の量は、前記層状シリケートのカチオン交換能の20~80%に対応する、
を含む、方法。
【請求項7】
前記アミノ酸が、リジン、オルニチン、及びアラニンのうちの少なくとも1つを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の方法であって、工程(i)で提供される前記層状シリケートが、Na[Mg3-zLi]Si10(T)の組成を有し、
xは、0.40~0.90の範囲
yは、0.00~0.90の範囲
zは、0.20~0.90の範囲
であり、
Tは、それぞれ独立に、F又はOHであり、かつ
x+(3-z)+y≦4
である、方法。
【請求項9】
前記層状シリケートを乾燥するさらなる工程を含む、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つのバインダ、及び請求項1~5のいずれか一項に記載の層状シリケートを含有する、組成物。
【請求項11】
前記バインダが、ポリマーを含有する、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記バインダが、水性のポリマー溶液及び水性のポリマー分散体のうちの少なくとも1つを含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
請求項1~5のいずれか一項に記載の層状シリケートの使用であって、ポリマー層又はコーティング層のバリア特性を向上させるための、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層間カチオンを有する層状シリケート(層状ケイ酸塩)、層状シリケートを調製する方法、少なくとも1つのバインダ及び層状シリケートを含有する組成物、並びに、ポリマー又はコーティング層のバリア特性を向上させるための層状シリケートの使用、に関する。
【背景技術】
【0002】
EP0205281A1は、層状シリケートのアミノカルボン酸での処理を記載しており、アミノカルボン酸は、セル拡張剤として作用する。結果として生じる材料は、ゲルとして記載される。ゲルは、所望の形状へと成形されてよく、それによって物品が形成される。
【0003】
US3325340は、バーミキュライトのフレークの水性懸濁体を製造する方法に関し、バーミキュライトの結晶を、アンモニアカチオンの水溶性塩を含有する溶液で処理して、結晶の交差膨張を、結晶の主劈開面に垂直な方向で促進する。いくつかの実施態様では、リジン及びオルニチンのカチオンが用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
単一のクレイラメラ(粘土ラメラ)へと容易に層間剥離する層状シリケートであって、良好なバリア特性を提供し、かつ経済的に実行可能な方法によって調製できる層状シリケートへの必要性が現状存在する。層状シリケートの無機層間カチオンの、プロトン化アミノ酸での完全な置換は、所望のように単一のクレイラメラへと容易かつ完全に層間剥離しないことが見いだされた。このことは、そのような材料の、バリア特性を向上させることに関する効果を減弱させる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、層間カチオンを有する層状シリケートを提供し、この層間カチオンは、
(a)Na、K、及びLiのうちの少なくとも1つを含む無機一価カチオン、並びに
(b)少なくとも1つのプロトン化アミノ酸を含む有機カチオン
を含み、
無機一価カチオン(a)の、有機カチオン(b)に対するモル比が、0.20:0.80~0.80:0.20の範囲である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明の層状シリケートは、容易に、かつ多くの場合には同時に、単一のラメラへと層間剥離する。層状シリケートは、経済的に実行可能な方法によって調製できる。
【0007】
層状シリケートは、Na、K、及びLiのうちの少なくとも1つを含む無機一価層間カチオンを含有する種々の層状シリケートから調製できる。適切な層状シリケートの例は、バーミキュライト、バイデライト、ノントロナイト、ボルコンスコイト、サポナイト、スチーブンサイト、ソーコナイト、ベントナイト、モンモリロナイト、ヘクトライト、スメクタイト、フロゴパイト、マイカ、及びイライトが挙げられる。
【0008】
いくつかの実施態様では、層状シリケートが、プロトン化アミノ酸で修飾された天然の層状シリケートである。
【0009】
他の実施態様では、層状シリケートが、合成層状シリケートである。
【0010】
好ましい実施態様では、層状シリケートが、有機カチオンでの修飾の前に、Na[Mg3-zLi]Si10(T)の組成を有し、
xは、0.40~0.90の範囲
yは、0.00~0.90の範囲
zは、0.20~0.90の範囲
であり、
Tは、それぞれ独立に、F又はOHであり、かつ
x+(3-z)+y≦4
である。
【0011】
いくつかの実施態様では、存在するTのうちの少なくとも50%、又はさらには少なくとも70%、又は少なくとも90%が、Fである。いくつかの実施態様では、Tは、存在の100%で、Fである。
【0012】
Na、Mg、及びLiの比は、上記の範囲内で種々の値であってよい。
【0013】
好ましい実施態様では、上記物質が、リチウムを含有する。これらの実施態様では、yは、一般に、0.20~0.70の範囲である。
【0014】
さらなる好ましい実施態様では、xが、0.55~0.80の範囲であり、yが、0.40~0.60の範囲であり、zが、0.40~0.60の範囲である。
【0015】
合成層状シリケートにおいて、開始材料の純度に応じて、他の元素が少量で存在してよい。そのような元素の例は、鉄、カルシウム、アルミニウム、カリウム、ホウ素、銅、亜鉛、マンガン、コバルト、ニッケル、バナジウム、ガリウム、ジルコニウム、及び、アニオン、例えば、硫酸イオン、塩化物イオン、リン酸イオン、炭酸イオン、及びケイ酸イオンが挙げられる。
【0016】
本発明の層状シリケートでは、層間無機カチオンが、少なくとも1つのプロトン化アミノ酸を有する有機カチオンによって、完全未満で交換されている。アミノ酸は、有機化合物であり、アミノ基、一般には一級アミノ基、及びカルボン酸基とともに、側鎖を有し、これは、ヒドロカルビル基であってよく、随意に、さらなる官能基を有してよい。アミノ基は、カルボン酸基に隣接する炭素原子に位置してよい(アルファアミノ酸)。他の実施態様では、アミノ基及びカルボン酸が、2つの炭素原子によって離されていてよく(ベータアミノ酸)、3つの炭素原子によって離されてよく(ガンマアミノ酸)、4つの炭素原子によって離されてよく(デルタアミノ酸)、又はさらに多くの炭素原子で離されていてよい。好ましい実施態様では、アミノ酸が、アルファアミノ酸である。適切なアミノ酸の例としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリンが挙げられる。アルファアミノ酸は、キラルであり、L型又はD型で存在してよい。本発明の目的に関して、L型及びD型におけるアルファアミノ酸は、等しく適切である。しかしながら、天然のアルファアミノ酸は、一般に、L型で存在する。
【0017】
好ましい実施態様では、アミノ酸が、少なくとも1つのリジン、オルニチン、及びβアラニンを含有する。
【0018】
上記のとおり、本発明の層状シリケートでは、層間無機カチオンが、少なくとも1つのプロトン化アミノ酸を含有する有機カチオンによって、完全未満で交換されている。完全未満での交換とは、プロトン化アミノ酸で処理される前の層状シリケートのカチオン交換能の100%未満に対応する交換の程度として定義される。カチオン交換能は、DIN EN ISO 11260:2017-04に従って、塩化バリウムを用いて適切に決定される。
【0019】
好ましい実施態様では、プロトン化アミノ酸のモル量が、層状シリケートのカチオン交換能の20~85%に対応し、より好ましくは、カチオン交換能の25~70%に対応する。より好ましくは、プロトン化アミノ酸のモル量が、カチオン交換能の30~65%に対応する。
【0020】
本発明の層状シリケートのさらなる実施態様において、無機一価カチオン(a)の、有機カチオン(b)に対するモル比が、好ましくは、0.25:0.75~0.75:0.25であり、より好ましくは、0.30:0.70~0.70:0.30の範囲である。
【0021】
さらに好ましい実施態様では、交互になっている層の無機カチオンが、プロトン化アミノ酸によって、異なる程度で交換されている。例えば、いくつかの実施態様では、複数の層の間で、層間カチオンが、交互に、60モル%超の有機カチオン(b)及び60モル%超の無機カチオン(a)を含有する。特に好ましくは、複数の層の間で、層間カチオンが、交互に、70モル%超の有機カチオン(b)及び70モル%超の無機カチオン(a)を含む。層状シリケートの層間スタック(層状シリケートの中間層スタック)内での異なるカチオンの規則的又は半規則的な層間構造化(interstratification)という概念は、2:1フィロシリケートの、層間空間の統計的に交互のカチオン占有の出現率を記述する。これが意味するのは、平均で、1つおきの層間(中間層)が、同じタイプの層間カチオンを有していることであり、好ましくは、それぞれの層間(中間層)が、1つの種類のみのカチオンを有する。例示として、かつ簡略的な用語で、これが意味するのは、第1の層間(中間層)が、無機カチオンのみを含有するということである。そして、今度は、隣の層間(中間層)に、異なるタイプのカチオン、例えばアミノ酸カチオンが、存在する。そして、理想的な実施態様では、隣の層間(中間層)が、第1の層間(中間層)と再び同じであり、かつ第4の層間(中間層)が、第2の層間(中間層)と同じである。2:1の層シリケートは、高度に複雑な構成の物質なので、欠陥が起こることがあり、したがって、層間構造化は、対応する構造が統計的な平均で存在するときにも、規則的であると言われる。層間構造化された相の存在は、粉体X線回折法(power x-ray diffractogram)で、超構造反射の存在によって、可視化される。これは、d値を有し、これは、完全に交換された相の合計の面間間隔に対応する。例として、かつ簡略化した用語で、これは、第1の層と第2の層との層間距離の合計に対応する。
【0022】
アミノ酸で部分修飾された層状シリケートの層間剥離は、小角X線散乱(SAXS)を介して特定できる。SAXSは、層間剥離したゲルのd間隔を決定するために用いてよい。典型的には、層間剥離に起因して、これらのd間隔が、100Å超である。SAXSデータは、「Double Ganesha AIR」システム(SAXSLAB、デンマーク)を用いて計測された。このラボ系システムのX線源は、マイクロ焦点ビームを提供する回転アノード(銅、MicroMax 007HF、リガク社、日本)である。データを、位置感受性検出器(PILATUS 300K、Dectris)によって記録する。層間剥離したアミノ酸-層シリケートのサンプルは、規定量の超純水を乾燥処理された部分修飾アミノ酸-層状シリケートに加えることによって調製し、これは、ゲル形成を生じた。1週間の平衡の後で、SAXSパターンを、1mmガラスキャピラリーで記録した。
【0023】
本発明は、また、層状シリケートを調製する方法に関する。この方法は:
(i)層間カチオンを有する層状シリケートを提供すること、ここで、層間カチオンは、Na、K、及びLiのうちの少なくとも1つを含む無機一価カチオンを有する、
(ii)層状シリケートのカチオン交換能を決定すること、
(iii)層状シリケートを、水性環境中で、プロトン化アミノ酸と接触させること、ここで、プロトン化アミノ酸のモル量は、層状シリケートのカチオン交換能の100%未満に対応し、プロトン化アミノ酸の量は、層状シリケートのカチオン交換能の20~80%に対応する。
【0024】
本方法の工程(i)で提供される層状シリケートに関して、上記と同じ考慮が適用される。好ましい実施態様では、層状シリケートは、有機カチオンでの修飾の前に、組成Na[Mg3-zLi]Si10(T)を有し、
xは、0.40~0.90の範囲
yは、0.00~0.90の範囲
zは、0.20~0.90の範囲
であり、
Tは、それぞれ独立に、F又はOHであり、かつ
x+(3-z)+y≦4
である。
【0025】
いくつかの実施態様では、存在するTのうちの少なくとも50%、又はさらには少なくとも70%、又は少なくとも90%が、Fである。いくつかの実施態様では、Tが、存在の100%で、Fである。
【0026】
Na、Mg、及びLiの比は、上記の範囲内で種々の値であってよい。
【0027】
好ましい実施態様では、上記物質が、リチウムを含有する。これらの実施態様では、yは、一般に、0.20~0.70の範囲である。
【0028】
さらなる好ましい実施態様では、xが、0.55~0.80の範囲であり、yが、0.40~0.60の範囲であり、かつzが、0.40~0.60の範囲である。
【0029】
合成層状シリケート内に、開始材料の純度に応じて、他の元素が少量で存在してよい。そのような元素の例は、鉄、カルシウム、アルミニウム、カリウム、ホウ素、銅、亜鉛、マンガン、コバルト、ニッケル、バナジウム、ガリウム、ジルコニウム、及び、アニオン、例えば、硫酸イオン、塩化物イオン、リン酸イオン、炭酸イオン、及びケイ酸イオンが挙げられる。
【0030】
層状シリケートが合成層状シリケートである場合、層状シリケートは、下記の工程を含む方法によって適切に調製される:
(a)Na化合物、Mg化合物、Li化合物、及びSi化合物を含有する混合物を提供すること、ここで、これらの化合物は、カーボネート(炭酸塩)、ハロゲン化物、及び酸化物から選択され、Na:Mg:Li:Siのモル比は、0.4~0.9:2.1~2.6:0.0~0.9:4.0の範囲である。
(b)混合物を1100℃超の温度へと加熱して、均一な液体を形成すること、
(c)混合物を、1000℃未満の温度へと、少なくとも0.5時間の期間の間に、冷却すること。
【0031】
工程(a)において、Na化合物、Mg化合物、Li化合物、及びSi化合物の混合物を提供する。これらの化合物は、酸化物、ハロゲン物、又は炭酸塩の形態で提供される。典型的な実施態様では、アルカリ金属塩/アルカリ土類金属塩、アルカリ土類酸化物、及びケイ素酸化物、好ましくは、二元系アルカリフッ化物/アルカリ土類フッ化物、アルカリ土類酸化物及びケイ素酸化物、好ましくは、LiF、NaF、MgF、MgO、石英、が用いられる。さらなる好ましい実施態様では、本発明の物質を、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、及び二酸化ケイ素(石英)の混合物から調製する。開始化合物のモル比は、調製される層状物質のモル組成を反映する。したがって、開始材料として用いられる金属化合物のモル比は、上記の層状物質のモル組成に到達するように選択される。
【0032】
開始化合物の相対的な比率は、例えば、二酸化ケイ素のモル当たり0.4~0.6モルの、アルカリ/アルカリ土類フッ化物の形態のF、及び、二酸化ケイ素のモル当たり0.4~0.6モルのアルカリ土類酸化物、好ましくは、二酸化ケイ素のモル当たり0.45~0.55モルの、アルカリ/アルカリ土類フッ化物の形態のF、及び、二酸化ケイ素のモル当たり0.45~0.55モルのアルカリ土類酸化物、特に好ましくは、二酸化ケイ素のモル当たり0.5モルの、アルカリ/アルカリ土類フッ化物の形態のF、及び二酸化ケイ素のモル当たり0.5モルのアルカリ土類酸化物、であってよい。
【0033】
好ましくは、開始化合物は、高純度である。好ましい実施態様では、個々の開始化合物が、2.00重量%未満のカルシウム酸化物の含有量を有する。さらに好ましくは、個々の開始化合物が、0.05重量%未満の酸化鉄の含有量を有する。
【0034】
工程(b)において、開始化合物の混合物を、1100℃超の温度にまで加熱して、均一な液体を形成する。加熱は、好ましくは、開放るつぼ又は閉鎖るつぼ内で行われる。
【0035】
典型的には、化学的に不活性又は反応が遅い金属でできた高溶融るつぼ、好ましくは、モリブデン又は白金でできたもの、を用いる。
【0036】
加熱は、典型的には、高周波誘導炉で行われる。必要な場合には、るつぼを、酸化から、保護性雰囲気(例えばアルゴン)、減圧、又は両方の手段の組み合わせによって、保護する。白金などの貴金属に関しては、これは必要ではない。
【0037】
工程(b)において、混合物を、1100℃超の温度にまで加熱する。温度は、反応混合物の融解温度超である必要があり、それによって、均一な液体が得られる。一般に、第2の工程における温度範囲は、1100℃~1700℃であり、好ましくは、1300~1600℃である。一般に、この工程の持続時間は、60分~240分、好ましくは75分~180分である。
【0038】
工程(c)において、混合物を1000℃未満の温度にまで、少なくとも0.5時間の期間の間に、好ましくは少なくとも2.0時間の期間の間に、冷却する。そのあとで、この物質を、通常は、周囲雰囲気にまで冷却する。
【0039】
本発明の方法の第2の工程において、層状シリケートのカチオン交換能を決定する。上記のとおり、カチオン交換能は、DIN EN ISO 11260:2017-04に従って、塩化バリウムを用いて適切に決定される。
【0040】
第3の工程において、層状シリケートを、プロトン化アミノ酸と、水性環境で、接触させ、ここで、プロトン化アミノ酸のモル量が、層状シリケートのカチオン交換能の100%未満に対応し、プロトン化アミノ酸の量が、層状シリケートのカチオン交換能の20~80%に対応する。
【0041】
アミノ酸に関して、上記と同じ要件及び好適条件が適用される。好ましい実施態様では、アミノ酸が、リジン、オルニチン、及びβアラニンのうちの少なくとも1つを含む。プロトン化アミノ酸での層状シリケートの処理は、一般に、水性環境中で行われる。適切には、アミノ酸は、無機酸でプロトン化され、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、若しくは硝酸、又は、有機酸でプロトン化され、例えば、酢酸、シュウ酸、ギ酸、炭酸、リンゴ酸、クエン酸、スルホン酸、でプロトン化される。
【0042】
典型的な実施態様では、層状シリケートを、水、又は、少なくとも70重量%の水を含む水性液体に加えて、スラリーを形成する。適切には、水又は水性液体の重量で計算して、約1~15重量%の層状シリケートを、用いる。プロトン化アミノ酸は、水又は水性液体に、層状シリケートの添加の前に又は層状シリケートの添加の後に、加えてよい。アミノ酸は、プロトン化された形態で、例えば塩酸塩として加えてよい。代替的には、アミノ酸は、水性液体中で、適切な量の酸の添加、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、又は硝酸の添加によって、プロトン化されてよい。適切な有機酸の例は、酢酸、シュウ酸、ギ酸、炭酸、リンゴ酸、クエン酸、及びスルホン酸が挙げられる。水相のpHは、適切には、4~8の範囲である。
【0043】
層状シリケートの、プロトン化アミノ酸での処理は、5℃~95℃の範囲の温度で、10分~10時間の期間にわたって、かき混ぜ又は攪拌を伴って、適切に行われる。
【0044】
本方法の一般的な実施態様では、プロトン化アミノ酸の量が、層状シリケートのカチオン交換能の、20~80%、好ましくは25~70%、より好ましくは30~65%に対応する。
【0045】
プロトン化アミノ酸での処理の後で、層状シリケートを、随意に、水性液体から、例えば遠心によって又は乾燥によって、分離してよい。
【0046】
一般に、本発明の層状シリケートは、水性環境中で、本質的に完全に層間剥離する。所望される場合には、少量の層間剥離していない物質の不純物を、適切な分離プロセス、例えば遠心によって、除去してよい。
【0047】
いくつかの実施態様では、層状シリケートを調製する方法が、1以上の、水での洗浄工程を含む。例示的な実施態様では、層状シリケートを、水又は水性洗浄液体で、プロトン化アミノ酸による処理の前又は後に、洗浄する。いくつかの実施態様では、層状シリケートの水性分散体の伝導性を、既知の方法によって低減してよく、例えば、透析又は遠心、その後の上清の除去、及びイオン交換水による上清の置換によって、低減してよい。
【0048】
上記のとおり、本発明の層状シリケートは、複合材料のバリア特性を向上させるために非常に適している。したがって、本発明は、また、少なくとも1つのバインダ(結合剤)及び本発明の層状シリケートを有する組成物にも関する。
【0049】
バインダは、一般に、基材上に層を形成できる物質である。
【0050】
バインダの例としては、有機ポリマー及び樹脂、プレポリマー、並びに、ポリマーを形成できるモノマーが挙げられる。バインダは、天然若しくは合成由来であってよく、又は、合成的に修飾された天然物質であってよい。バインダの例は、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアクリレート、ポリエステル、ポリオレフィン、ゴム、ポリシロキサン、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、多糖、ポリリジン、ポリスチレン、ポリアルキレン酸化物、及びポリエポキシド、並びにこれらの組み合わせである。
【0051】
好ましくは、バインダが、少なくとも1つの水性ポリマー溶液、又は水性ポリマー分散体を含む。水性媒体のためのポリマーは、多くの場合、カチオン性基又はアニオン性基を有する。水性媒体中のバインダの例としては、タンパク質、多糖、ポリリジン、ポリアクリレート、ポリビニルエステル、ポリビニルアルコール、ポリエチレン酸化物、酸化ポリオレフィン、及びマレイン酸処理ポリオレフィン、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0052】
いくつかの実施態様では、組成物が液体組成物であり、これを、基材へのコーティングとして適用できる。液体組成物が、希釈剤として水又は有機溶媒を含有する場合には、組成物を、基材への適用の後で、水又は溶媒の蒸発によって乾燥させて、コーティング層を形成する。
【0053】
コーティングされる基材は、コーティング層を受容するために適している任意の基材であってよい。適切な基材材料の例は、ポリマー、例えば、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリビニルクロリド、及びポリオレフィンであり、並びに、紙、カードボード、木、テキスタイル材料、及び金属である。いくつかの実施態様では、基材が、ポリマー箔であり、例えば、食品包装に適したポリマー箔(ポリマーフィルム)である。他の実施態様では、基材が、食品又は飲料を包装するために適したトレイ、容器、又はボトルの形態であってよい。さらなる実施態様では、基材が、腐食に対して保護される金属基材、例えば、鉄、スチール、若しくは銅、又はアルミニウムの基材であってよい。基材は、また、ラミネート(積層体)の形態で存在してもよく、2以上の異なる材料の層を含む。さらには、コーティング層が、それ自体、複層材料における内側層又は外側層を形成してよい。
【0054】
組成物における、バインダの、本発明の層状シリケートに対する重量比は、一般に、3:97~97:3の範囲であり、好ましくは、7:93~93:7の範囲である。
【0055】
本発明の層状シリケートの、バインダへの取り込みは、慣用的な技術によって、例えば、混合、攪拌、押出し、混練法、ローターステーター法(Dispermat、Ultra-Turraxなど)、破砕法、又はジェット分散等によって行ってよく、バインダの粘度に依存する。
【0056】
さらなる実施態様では、本発明が、本発明に係る層状シリケートの、ポリマー層又はコーティング層のバリア特性を向上させるための使用に関する。ポリマー層又はコーティング層中に含有されたときに、本発明の層状シリケートは、層のバリア特性を実質的に向上させる。関係するバリア特性としては、層を通るガス及び液体の透過性が挙げられる。向上したバリア特性とは、層を通る、ガス、液体、脂肪、グリース、香料、及び他の物質の透過性が減少することを意味する。透過性が減少するガスの例としては、酸素、二酸化炭素、及び一酸化炭素、水蒸気、ヘリウム、アルゴン、水素、及び窒素が挙げられる。透過性の低減は、食品及び飲料の包装の分野において特に重要である。
【0057】
本発明の層状シリケートは、さらに、ポリマー及び潜在的に可燃性の有機マトリックス材料の難燃特性の向上にも適している。典型的な実施態様では、本発明の層状シリケートを、ポリマー又は有機マトリックス材料中に混合して、ポリマー又は有機マトリックス材料を含有する複合材料であって本発明の層状シリケートが粒子の形態で分布する複合材料を提供する。いくつかの実施態様では、単位体積当たりの粒子数が、100μmあたり少なくとも約2粒子であり、例えば、100μmあたり少なくとも約5粒子であり、例えば、100μmあたり少なくとも約8粒子であり、例えば、100μmあたり少なくとも約10粒子であり、例えば、100μmあたり少なくとも約15粒子であり、又は100μmあたり少なくとも約20粒子である。適切なマトリックス材料及びポリマーの例としては、天然若しくは合成のポリマー又はそれらの混合物が挙げられる。ポリマーは、例えば、熱可塑性又は熱硬化性であってよい。本記載で用いられる用語「ポリマー」は、ホモポリマー及びコポリマーを含み、かつ、架橋されたかつ/又は絡み合ったポリマー及びエラストマー、例えば、天然又は合成のゴム及びそれらの混合物が挙げられる。適切なポリマーの特定の例としては、限定する意図はないが、任意の密度のポリオレフィン、例えば、ポリエチレン及びポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、アクリロニトリルブタジエンスチレンコポリマー、ナイロン、ポリウレタン、エチレンビニルアセテートポリマー、及びこれらの任意の混合物が挙げられ、架橋されていても架橋されていなくてもよい。他の有機マトリックス材料としては、樹脂及びビチューメンが挙げられる。本発明の層状シリケートに加えて、他の既知の難燃剤が存在してよく、炭形成剤、ドリップ抑制剤、熱吸収材、及び発火抑制剤が存在してよい。
【0058】
本組成物から形成されうる物品は、多様かつ多数である。例としては、電気ケーブルの外装(シース)、ポリマー組成物でコーティングされた又は外装された電気ケーブル、並びに、家電製品(例えば、コンピュータ、モニター、プリンター、フォトコピー機、キーボード、小型通信機、電話、携帯電話、携帯型コンピュータ、ネットワークインターフェース、プレナム及びテレビ)のための筐体及びプラスチック構成要素、並びにルーフィングフェルトが挙げられる。
【実施例
【0059】
例1.1
工程(a)
式Na0.6[Mg2.4Li0.6]Si10の層状物質を、炭酸ナトリウム(82.23g、純度99.9%)、炭酸リチウム(57.33g、純度99.9%)、酸化マグネシウム(145.95.8g、純度98.0%)、フッ化マグネシウム(161.15g、純度99.9%)、及び二酸化ケイ素(621.63g、純度99.9%)の混合物から調製した。原料材料の混合物を、白金るつぼ内で1530℃にまで加熱して、均一な溶融物を形成し、この温度で、2時間にわたって保持した。この時の後で、溶融物を、セラミックるつぼ内に注いだ。溶融物を有するセラミックるつぼを、炉内に配置し、6時間の期間の間に400℃の温度にまで冷却した。
【0060】
工程(b)
室温への冷却の後で、工程(a)で調製した5.0gの層状物質を、95.0gの蒸留水中に、攪拌によって分散させた。水性分散体を、80℃の温度にまで加熱し、L-リジン塩酸塩を、ナトリウム層状シリケートの分散体に添加した。リジン塩酸塩の量は、ナトリウム層状シリケートのカチオン交換能の40%に等しかった。分散体のpHを、5~6に調節した。分散体の温度を、45分間にわたって保持した。加熱した分散体を、IKA ULTRA-TURRAX(商標)T 25で、S25N 18Gの分散具を用いて、10000rpmの速度で、10分間にわたって、処理した。そのあとで、分散体を、水の蒸発によって乾燥させ、残渣を破砕して粉体にした。
【0061】
粉体を、SAXSによって、上記のとおりにして分析した。d間隔は、430Åであった。これは、完全な層間剥離を示す。
【0062】
例1.2
例1.2は、例1.1と同様に調製した。しかしながら、L-リジン塩酸塩の代わりに、D-リジン塩酸塩を用いた。
【0063】
例2
室温への冷却の後で、例1の工程(a)で調製した層状物質5.0gを、95.0gの蒸留水中に、攪拌によって分散させた。この水性分散体を、80℃の温度にまで加熱し、L-オルニチン塩酸塩を、ナトリウム層状シリケートの分散体に添加した。L-オルニチン塩酸塩の量は、ナトリウム層状シリケートのカチオン交換能の40%に等しかった。分散体のpHを、5~6に調節した。分散体の温度を、45分間にわたって保持した。加熱された分散体を、IKA ULTRA-TURRAX(商標)T 25で、分散具S25N 18Gを用いて、10000rpmの速度で、10分間の期間にわたって、処理した。その後に、分散体を、水の蒸発によって乾燥させ、残渣を破砕して粉体とした。
【0064】
例3
室温への冷却の後で、例1の工程(a)で調製した層状物質5.0gを、95.0gの蒸留水中に、攪拌によって分散させた。この水性分散体を、80℃の温度にまで加熱し、L-リジン塩酸塩を、ナトリウム層状シリケートの分散体に添加した。L-リジン塩酸塩の量は、ナトリウム層状シリケートのカチオン交換能の60%に等しかった。分散体のpHを、5~6に調節した。分散体の温度を、45分間にわたって保持した。加熱された分散体を、IKA ULTRA-TURRAX(商標)T 25で、分散具S25N 18Gを用いて、10000rpmの速度で、10分間の期間にわたって、処理した。その後に、分散体を、水の蒸発によって乾燥させ、残渣を破砕して粉体とした。
【0065】
例4
室温への冷却の後で、例1の工程(a)で調製した層状物質5.0gを、95.0gの蒸留水中に、攪拌によって分散させた。この水性分散体を、80℃の温度にまで加熱し、L-オルニチン塩酸塩を、ナトリウム層状シリケートの分散体に添加した。L-オルニチン塩酸塩の量は、ナトリウム層状シリケートのカチオン交換能の60%に等しかった。分散体のpHを、5~6に調節した。分散体の温度を、45分間にわたって保持した。加熱された分散体を、IKA ULTRA-TURRAX(商標)T 25で、分散具S25N 18Gを用いて、10000rpmの速度で、10分間の期間にわたって、処理した。その後に、分散体を、水の蒸発によって乾燥させ、残渣を破砕して粉体とした。
【0066】
例5
工程(a)
式Na0.65[Mg2.35Li0.65]Si10の層状物質を、炭酸ナトリウム(89.03g、純度99.9%)、炭酸リチウム(62.06g、純度99.9%)、酸化マグネシウム(140.46g、純度98.0%)、フッ化マグネシウム(161.03g、純度99.9%)、及び二酸化ケイ素(621.63g、純度99.9%)の混合物から調製した。原料材料の混合物を、白金るつぼ内で1530℃にまで加熱して、均一な溶融物を形成し、この温度で、2時間にわたって保持した。この時の後で、溶融物を、セラミックるつぼ内に注いだ。溶融物を有するセラミックるつぼを、炉内に配置し、6時間の期間の間に400℃の温度にまで冷却した。
【0067】
工程(b)
室温への冷却の後で、工程(a)で調製した5.0gの層状物質を、95.0gの蒸留水中に、攪拌によって分散させた。水性分散体を、80℃の温度にまで加熱し、L-リジン塩酸塩を、ナトリウム層状シリケートの分散体に添加した。L-リジン塩酸塩の量は、ナトリウム層状シリケートのカチオン交換能の40%に等しかった。分散体のpHを、5~6に調節した。分散体の温度を、45分間にわたって保持した。加熱した分散体を、IKA ULTRA-TURRAX(商標)T 25で、S25N 18Gの分散具を用いて、10000rpmの速度で、10分間にわたって、処理した。そのあとで、分散体を、水の蒸発によって乾燥させ、残渣を破砕して粉体にした。
【0068】
例6
室温への冷却の後で、例5の工程(a)で調製した5.0gの層状物質を、95.0gの蒸留水中に、攪拌によって分散させた。水性分散体を、80℃の温度にまで加熱し、L-オルニチン塩酸塩を、ナトリウム層状シリケートの分散体に添加した。L-オルニチン塩酸塩の量は、ナトリウム層状シリケートのカチオン交換能の40%に等しかった。分散体のpHを、5~6に調節した。分散体の温度を、45分間にわたって保持した。加熱した分散体を、IKA ULTRA-TURRAX(商標)T 25で、S25N 18Gの分散具を用いて、10000rpmの速度で、10分間にわたって、処理した。そのあとで、分散体を、水の蒸発によって乾燥させ、残渣を破砕して粉体にした。
【0069】
例7
室温への冷却の後で、例5の工程(a)で調製した5.0gの層状物質を、95.0gの蒸留水中に、攪拌によって分散させた。水性分散体を、80℃の温度にまで加熱し、L-リジン塩酸塩を、ナトリウム層状シリケートの分散体に添加した。L-リジン塩酸塩の量は、ナトリウム層状シリケートのカチオン交換能の60%に等しかった。分散体のpHを、5~6に調節した。分散体の温度を、45分間にわたって保持した。加熱した分散体を、IKA ULTRA-TURRAX(商標)T 25で、S25N 18Gの分散具を用いて、10000rpmの速度で、10分間にわたって、処理した。そのあとで、分散体を、水の蒸発によって乾燥させ、残渣を破砕して粉体にした。
【0070】
例8
室温への冷却の後で、例5の工程(a)で調製した5.0gの層状物質を、95.0gの蒸留水中に、攪拌によって分散させた。水性分散体を、80℃の温度にまで加熱し、L-オルニチン塩酸塩を、ナトリウム層状シリケートの分散体に添加した。L-オルニチン塩酸塩の量は、ナトリウム層状シリケートのカチオン交換能の60%に等しかった。分散体のpHを、5~6に調節した。分散体の温度を、45分間にわたって保持した。加熱した分散体を、IKA ULTRA-TURRAX(商標)T 25で、S25N 18Gの分散具を用いて、10000rpmの速度で、10分間にわたって、処理した。そのあとで、分散体を、水の蒸発によって乾燥させ、残渣を破砕して粉体にした。
【0071】
例9
工程(a)
式Na0.80[Mg2.2Li0.8]Si10の層状物質を、炭酸ナトリウム(109.33g、純度99.9%)、炭酸リチウム(76.22g、純度99.9%)、酸化マグネシウム(124.74g、純度98.0%)、フッ化マグネシウム(160.68g、純度99.9%)、及び二酸化ケイ素(619.83g、純度99.9%)の混合物から調製した。原料材料の混合物を、白金るつぼ内で1530℃にまで加熱して、均一な溶融物を形成し、この温度で、2時間にわたって保持した。この時の後で、溶融物を、セラミックるつぼ内に注いだ。溶融物を有するセラミックるつぼを、炉内に配置し、6時間の期間の間に400℃の温度にまで冷却した。
【0072】
工程(b)
室温への冷却の後で、工程(a)で調製した5.0gの層状物質を、95.0gの蒸留水中に、攪拌によって分散させた。水性分散体を、80℃の温度にまで加熱し、β-アラニン塩酸塩を、ナトリウム層状シリケートの分散体に添加した。β-アラニン塩酸塩の量は、ナトリウム層状シリケートのカチオン交換能の40%に等しかった。分散体のpHを、5~6に調節した。分散体の温度を、45分間にわたって保持した。加熱した分散体を、IKA ULTRA-TURRAX(商標)T 25で、S25N 18Gの分散具を用いて、10000rpmの速度で、10分間にわたって、処理した。そのあとで、分散体を、水の蒸発によって乾燥させ、残渣を破砕して粉体にした。
【0073】
例10
室温への冷却の後で、例9の工程(a)で調製した5.0gの層状物質を、95.0gの蒸留水中に、攪拌によって分散させた。水性分散体を、80℃の温度にまで加熱し、β-アラニン塩酸塩を、ナトリウム層状シリケートの分散体に添加した。β-アラニン塩酸塩の量は、ナトリウム層状シリケートのカチオン交換能の80%に等しかった。分散体のpHを、5~6に調節した。分散体の温度を、45分間にわたって保持した。加熱した分散体を、IKA ULTRA-TURRAX(商標)T 25で、S25N 18Gの分散具を用いて、10000rpmの速度で、10分間にわたって、処理した。そのあとで、分散体を、水の蒸発によって乾燥させ、残渣を破砕して粉体にした。
【0074】
例11
室温への冷却の後で、例9の工程(a)で調製した5.0gの層状物質を、95.0gの蒸留水中に、攪拌によって分散させた。水性分散体を、80℃の温度にまで加熱し、L-オルニチン塩酸塩を、ナトリウム層状シリケートの分散体に添加した。L-オルニチン塩酸塩の量は、ナトリウム層状シリケートのカチオン交換能の40%に等しかった。分散体のpHを、5~6に調節した。分散体の温度を、45分間にわたって保持した。加熱した分散体を、IKA ULTRA-TURRAX(商標)T 25で、S25N 18Gの分散具を用いて、10000rpmの速度で、10分間にわたって、処理した。そのあとで、分散体を、水の蒸発によって乾燥させ、残渣を破砕して粉体にした。
【0075】
例12
室温への冷却の後で、例9の工程(a)で調製した5.0gの層状物質を、95.0gの蒸留水中に、攪拌によって分散させた。水性分散体を、80℃の温度にまで加熱し、L-リジン塩酸塩を、ナトリウム層状シリケートの分散体に添加した。L-リジン塩酸塩の量は、ナトリウム層状シリケートのカチオン交換能の40%に等しかった。分散体のpHを、5~6に調節した。分散体の温度を、45分間にわたって保持した。加熱した分散体を、IKA ULTRA-TURRAX(商標)T 25で、S25N 18Gの分散具を用いて、10000rpmの速度で、10分間にわたって、処理した。そのあとで、分散体を、水の蒸発によって乾燥させ、残渣を破砕して粉体にした。
【0076】
例13(比較)
室温への冷却の後で、例1の工程(a)で調製した5.0gの層状物質を、95.0gの蒸留水中に、攪拌によって分散させた。水性分散体を、80℃の温度にまで加熱し、L-リジン塩酸塩を、ナトリウム層状シリケートの分散体に添加した。L-リジン塩酸塩の量は、ナトリウム層状シリケートのカチオン交換能の150%に等しかった。分散体のpHを、5~6に調節した。分散体の温度を、45分間にわたって保持した。加熱した分散体を、IKA ULTRA-TURRAX(商標)T 25で、S25N 18Gの分散具を用いて、10000rpmの速度で、10分間にわたって、処理した。そのあとで、分散体を、水の蒸発によって乾燥させ、残渣を破砕して粉体にした。
【0077】
例14(比較)
室温への冷却の後で、例5の工程(a)で調製した5.0gの層状物質を、95.0gの蒸留水中に、攪拌によって分散させた。水性分散体を、80℃の温度にまで加熱し、L-オルニチン塩酸塩を、ナトリウム層状シリケートの分散体に添加した。L-オルニチン塩酸塩の量は、ナトリウム層状シリケートのカチオン交換能の150%に等しかった。分散体のpHを、5~6に調節した。分散体の温度を、45分間にわたって保持した。加熱した分散体を、IKA ULTRA-TURRAX(商標)T 25で、S25N 18Gの分散具を用いて、10000rpmの速度で、10分間にわたって、処理した。そのあとで、分散体を、水の蒸発によって乾燥させ、残渣を破砕して粉体にした。
【0078】
調製した層状物質を、下記の表1にまとめる。
【0079】
【表1】
【0080】
(ナトリウム/アミノ酸)-層状シリケートの、バリア配合物への適用

(ナトリウム/アミノ酸)-層状シリケートと、PVOH、EVOHとのバリア配合物

表2で示めされるような(ナトリウム/アミノ酸)-層状シリケートを、脱イオン水中に、5重量%の固形含有量で分散させた。ポリマーの溶液((EVOH、エチレンビニルアルコールコポリマー、Kuraray EXCEVAL AQ 4104から取得可能)又はPVOH、ポリビニルアルコール、sigma Aldrichから取得可能(Mowiol 28-98))を、ポリマー固体を脱イオン水中で85℃で60分間にわたって加熱することによって調製した。それぞれのポリマー溶液を、(ナトリウム/アミノ酸)-層状シリケートの分散体に添加して、5重量%の合計固体含有量を得た。(ナトリウム/アミノ酸)-層状シリケートの、ポリマーに対する比を調節して、乾燥フィルム中における10重量%の層状シリケートを有するようにした。K-ハンドコーターを用いて、(ナトリウム/アミノ酸)-層状シリケート及びポリマーの分散体を、36μm厚のPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上に適用した。適用されたコーティング層の湿フィルム厚は、24μmであった。コーティングを80℃で6時間にわたって乾燥させた。乾燥コーティングフィルムの厚みは、表2で別段の指示がない限り、約1μmであった。酸素透過率を、OX-TRAN(商標)モデル1/50を用いて23℃かつ75重量%相対湿度で計測した。水蒸気透過率を、75重量%相対湿度で、PERMATRAN-Wモデル1/50を用いて計測した。
【0081】
(ナトリウム/アミノ酸)-層状シリケートの、ポリウレタン分散体とのバリア配合物
表2に示されている(ナトリウム/アミノ酸)-層状シリケートを、脱イオン水中に、固形含有量5重量%で分散させた。ポリウレタンのポリマー分散体(LIOPUR 2004-151及びLIOPUR PFL 2392、Synthopol Chemieから取得可能)を、(ナトリウム/アミノ酸)-層状シリケートの分散体に添加して、5重量%の合計固形含有量を得た。(ナトリウム/アミノ酸)-層状シリケートの、ポリマーに対する比を調節して、乾燥フィルム中における50重量%の層状シリケートを有するようにした。K-ハンドコーターを用いて、(ナトリウム/アミノ酸)-層状シリケート及びポリマーの分散体を、36μm厚のPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムの上に適用した。コーティングを80℃で6時間にわたって乾燥させた。乾燥コーティングフィルムの厚みは、表2で別段の指示がない限り、約1μmであった。酸素透過率を、OX-TRAN(商標)モデル1/50を用いて23℃かつ75重量%相対湿度で計測した。水蒸気透過率を、75重量%相対湿度で、PERMATRAN-Wモデル1/50を用いて計測した。
【0082】
(ナトリウム/アミノ酸)-層状シリケートの、セルロース及びデキストリンとのバリア配合物
表2で示されている(ナトリウム/アミノ酸)-層状シリケートを、脱イオン水中に、固形含有量5重量%で分散させた。セルロース又はデキストリンのポリマー溶液を、(ナトリウム/アミノ酸)-層状シリケートの分散体に添加して、合計の固体含有量5重量%を得た。(ナトリウム/アミノ酸)-層状シリケートの、ポリマーに対する比を調節して、乾燥フィルム中における95重量%(5%はセルロース及びデキストリン)を有するようにした。K-ハンドコーターを用いて、(ナトリウム/アミノ酸)-層状シリケート及びポリマーの分散体を、36μm厚のPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムの上に適用した。コーティングを80℃で6時間にわたって乾燥させた。乾燥コーティングフィルムの厚みは、約1μmであった。酸素透過率を、OX-TRAN(商標)モデル1/50を用いて23℃かつ75重量%相対湿度で計測した。水蒸気透過率を、75重量%相対湿度で、PERMATRAN-Wモデル1/50を用いて計測した。
【0083】
【表2-1】
【表2-2】
【0084】
表2から、本発明の層状物質は、無機層間カチオンが完全にアミノ酸で交換された層状物質(例13及び14)又は無機層間カチオンの交換が起こらなかった層状物質(例1a、5a、9a)と比較して、大きく向上したバリア特性を提供すると結論できる。
【手続補正書】
【提出日】2024-01-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0084
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0084】
表2から、本発明の層状物質は、無機層間カチオンが完全にアミノ酸で交換された層状物質(例13及び14)又は無機層間カチオンの交換が起こらなかった層状物質(例1a、5a、9a)と比較して、大きく向上したバリア特性を提供すると結論できる。
本開示に係る発明は、下記の態様を含む:
<態様1>
層間カチオンを有する層状シリケートであって、前記層間カチオンが、
(a)Na 、K 、及びLi のうちの少なくとも1つを含む無機一価カチオン、並びに、
(b)少なくとも1つのプロトン化アミノ酸を含む有機カチオン
を含み、
前記無機一価カチオン(a)の、前記有機カチオン(b)に対するモル比が、0.20:0.80~0.80:0.20の範囲である、
層状シリケート。
<態様2>
前記層状シリケートが、合成層状シリケートである、態様1に記載の層状シリケート。
<態様3>
前記層状シリケートが、プロトン化アミノ酸で修飾された天然の層状シリケートである、態様1に記載の層状シリケート。
<態様4>
前記プロトン化アミノ酸が、リジン、オルニチン、及びアラニンのうちの少なくとも1つを含む、態様1~3のいずれか一項に記載の層状シリケート。
<態様5>
前記層間カチオンが、層の間で、交互に、60モル%超のプロトン化アミノ酸、及び、60モル%超の、Na 、K 、及びLi から選択される無機カチオンを含む、態様1~4のいずれか一項に記載の層状シリケート。
<態様6>
態様1~5のいずれか一項に記載の層状シリケートを調製する方法であって、
(i)層状シリケートを提供すること、
(ii)前記層状シリケートのカチオン交換能を決定すること、
(iii)前記層状シリケートを、プロトン化アミノ酸に、水性環境中で、接触させること、ここで、プロトン化アミノ酸のモル量は、前記層状シリケートのカチオン交換能の100%未満に対応し、プロトン化アミノ酸の量は、前記層状シリケートのカチオン交換能の20~80%に対応する、
を含む、方法。
<態様7>
前記アミノ酸が、リジン、オルニチン、及びアラニンのうちの少なくとも1つを含む、態様6に記載の方法。
<態様8>
態様6又は7に記載の方法であって、工程(i)で提供される前記層状シリケートが、Na [Mg 3-z Li ]Si 10 (T) の組成を有し、
xは、0.40~0.90の範囲
yは、0.00~0.90の範囲
zは、0.20~0.90の範囲
であり、
Tは、それぞれ独立に、F又はOHであり、かつ
x+(3-z)+y≦4
である、方法。
<態様9>
前記層状シリケートを乾燥するさらなる工程を含む、態様6~8のいずれか一項に記載の方法。
<態様10>
少なくとも1つのバインダ、及び態様1~5のいずれか一項に記載の層状シリケートを含有する、組成物。
<態様11>
前記バインダが、ポリマーを含有する、態様10に記載の組成物。
<態様12>
前記バインダが、水性のポリマー溶液及び水性のポリマー分散体のうちの少なくとも1つを含む、態様11に記載の組成物。
<態様13>
態様1~5のいずれか一項に記載の層状シリケートの使用であって、ポリマー層又はコーティング層のバリア特性を向上させるための、使用。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
層間カチオンを有する層状シリケートであって、前記層間カチオンが、
(a)Na、K、及びLiのうちの少なくとも1つを含む無機一価カチオン、並びに、
(b)少なくとも1つのプロトン化アミノ酸を含む有機カチオン
を含み、
前記無機一価カチオン(a)の、前記有機カチオン(b)に対するモル比が、0.20:0.80~0.80:0.20の範囲である、
層状シリケート。
【請求項2】
前記層状シリケートが、合成層状シリケートである、請求項1に記載の層状シリケート。
【請求項3】
前記層状シリケートが、プロトン化アミノ酸で修飾された天然の層状シリケートである、請求項1に記載の層状シリケート。
【請求項4】
前記プロトン化アミノ酸が、リジン、オルニチン、及びアラニンのうちの少なくとも1つを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の層状シリケート。
【請求項5】
前記層間カチオンが、層の間で、交互に、60モル%超のプロトン化アミノ酸、及び、60モル%超の、Na、K、及びLiから選択される無機カチオンを含む、請求項1~のいずれか一項に記載の層状シリケート。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の層状シリケートを調製する方法であって、
(i)層状シリケートを提供すること、
(ii)前記層状シリケートのカチオン交換能を決定すること、
(iii)前記層状シリケートを、プロトン化アミノ酸に、水性環境中で、接触させること、ここで、プロトン化アミノ酸のモル量は、前記層状シリケートのカチオン交換能の100%未満に対応し、プロトン化アミノ酸の量は、前記層状シリケートのカチオン交換能の20~80%に対応する、
を含む、方法。
【請求項7】
前記アミノ酸が、リジン、オルニチン、及びアラニンのうちの少なくとも1つを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項6に記載の方法であって、工程(i)で提供される前記層状シリケートが、Na[Mg3-zLi]Si10(T)の組成を有し、
xは、0.40~0.90の範囲
yは、0.00~0.90の範囲
zは、0.20~0.90の範囲
であり、
Tは、それぞれ独立に、F又はOHであり、かつ
x+(3-z)+y≦4
である、方法。
【請求項9】
前記層状シリケートを乾燥するさらなる工程を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つのバインダ、及び請求項1~のいずれか一項に記載の層状シリケートを含有する、組成物。
【請求項11】
前記バインダが、ポリマーを含有する、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記バインダが、水性のポリマー溶液及び水性のポリマー分散体のうちの少なくとも1つを含む、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
請求項1~のいずれか一項に記載の層状シリケートの使用であって、ポリマー層又はコーティング層のバリア特性を向上させるための、使用。
【国際調査報告】