(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】疎水性コーティングおよび医療装置のための方法
(51)【国際特許分類】
A61B 18/14 20060101AFI20240719BHJP
A61B 18/08 20060101ALI20240719BHJP
A61B 18/18 20060101ALI20240719BHJP
A61N 7/00 20060101ALI20240719BHJP
A61B 1/00 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
A61B18/14
A61B18/08
A61B18/18 100
A61N7/00
A61B1/00 713
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024501985
(86)(22)【出願日】2022-07-11
(85)【翻訳文提出日】2024-03-11
(86)【国際出願番号】 US2022073594
(87)【国際公開番号】W WO2023288194
(87)【国際公開日】2023-01-19
(32)【優先日】2021-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500498763
【氏名又は名称】ジャイラス エーシーエムアイ インク ディー/ビー/エー オリンパス サージカル テクノロジーズ アメリカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,テオ ヘン ジミー
(72)【発明者】
【氏名】銅 庸高
(72)【発明者】
【氏名】前田 一誠
(72)【発明者】
【氏名】バチェラー,ケスター ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】翁長 武志
【テーマコード(参考)】
4C160
4C161
【Fターム(参考)】
4C160JJ50
4C160JK10
4C160KK53
4C161FF21
4C161FF35
4C161JJ11
(57)【要約】
医療装置および関連する方法が開示される。一例では、医療装置は疎水性コーティングを含む。基材結合分子鎖、基材結合分子鎖の第1の端部に結合した疎水性分子、および基材結合分子鎖の第2の端部に結合した反応性端部を含む疎水性コーティングが示されている。選択された例では、基材結合分子鎖は、構成要素の表面に隣接する結合領域で互いに結合している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外科用装置であって、
外科用装置の構成要素と、
前記外科用装置の前記構成要素を少なくとも部分的に覆う疎水性コーティングであって、
基材結合分子鎖と、
前記基材結合分子鎖の第1の端部に結合した疎水性分子と、
前記基材結合分子鎖の第2の端部に結合された反応性端部と
を含み、
前記基材結合分子鎖が前記疎水性分子よりも長い、コーティング分子から形成される疎水性コーティングと
を含む、外科用装置。
【請求項2】
前記基材結合分子鎖が炭素原子主鎖を含む、請求項1に記載の外科用装置。
【請求項3】
前記基材結合分子鎖がケイ素原子主鎖を含む、請求項1に記載の外科用装置。
【請求項4】
前記疎水性分子がフルオロポリマーを含む、請求項1に記載の外科用装置。
【請求項5】
前記疎水性分子がシロキサン主鎖を含む、請求項1に記載の外科用装置。
【請求項6】
外科用装置であって、
外科用装置の構成要素と、
前記外科用装置の前記構成要素を少なくとも部分的に覆う疎水性コーティングであって、
基材結合分子鎖と、
前記基材結合分子鎖の第1の端部に結合した疎水性分子と、
前記基材結合分子鎖の第2の端部に結合された反応性端部と
を含み、
基材結合分子鎖が前記反応性端部における前記構成要素の表面と前記構成要素の前記表面に隣接する結合領域において互いに結合されているコーティング分子から形成される疎水性コーティングと
を含む、外科用装置。
【請求項7】
前記基材結合分子鎖がケイ素原子主鎖を含む、請求項6に記載の外科用装置。
【請求項8】
前記基材結合分子鎖が炭素原子主鎖を含む、請求項6に記載の外科用装置。
【請求項9】
前記基材結合分子鎖がシロキサン結合で互いに結合される、請求項6に記載の外科用装置。
【請求項10】
前記基材結合分子鎖がシロキサン結合で前記基材に結合される、請求項9に記載の外科用装置。
【請求項11】
前記疎水性分子がフルオロポリマーを含む、請求項10に記載の外科用装置。
【請求項12】
前記基材結合分子鎖が前記疎水性分子よりも長い、請求項11に記載の外科用装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる、2021年7月12日出願の「疎水性コーティングおよび電気外科用装置のための方法」という名称の米国仮特許出願第63/203176号の、35U.S.C.§119(e)に基づく優先権の利益を主張するものである。
【0002】
本明細書で説明する実施形態は、概して医療装置に関する。医療装置の具体例としては、電気外科用装置が挙げられる。
【背景技術】
【0003】
いくつかの医療装置は、1つまたは複数の表面への材料の接着を減らすことにより恩恵を受けるであろう。例えば、医療用切断装置では、凝固物および/または組織が切断アセンブリに接着し、切断手術の有効性を低下させる可能性がある。特に、電気外科用装置は、組織へのエネルギー送達に関して正確な要求がある場合があり、電気的特性を犠牲にすることなく接着を減らすことは技術的な課題である。接着する表面を減らして改良された医療用切断装置や他の医療装置が望まれている。
【0004】
必ずしも縮尺通りに描かれていない図面では、同様の数字は異なる図において同様の構成要素を説明することがある。異なる添え字を有する同様の数字は、同様の構成要素の異なる例を表すことがある。図面は、本明細書で議論される様々な実施形態を例として一般的に示すが、限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1A】一例による親水性接触角から超疎水性接触角までの段階を示す図である。
【0006】
【
図1B】一例による疎水性ピラーのキャシー(Cassie)状態を示す図である。
【0007】
【
図1C】一例による疎水性ピラーのウェンゼル(Wenzel)状態を示す図である。
【0008】
【
図2】一例によるコーティング分子を示す図である。
【0009】
【
図3】一例による疎水性コーティングの一部を示す図である。
【0010】
【
図4】単一の腹腔鏡RF血管密閉装置顎部について、一例による1000nmの疎水性コーティングと比較した約85nmのHMDSOと比較した、コーティングされていない鋼の電気表面インピーダンスを示す図である。
【0011】
【0012】
【
図6】一例による双極血管密閉装置を示す図である。
【0013】
【0014】
【0015】
【
図9】一例による双極RF装置および超音波装置の組合せを示す図である。
【0016】
【0017】
【
図11】一例によるカテーテル装置を示す図である。
【0018】
【
図12】一例による固形臓器切除装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の説明および図面は、当業者が実施できるように特定の実施形態を十分に例示している。他の実施形態は、構造的、論理的、電気的、工程的、および他の変更を組み込むことができる。いくつかの実施形態の部分および特徴は、他の実施形態の部分および特徴に含まれてもよいし、他の実施形態のものと置き換えられてもよい。特許請求の範囲に記載の実施形態は、それらの特許請求の範囲の利用可能な均等物のすべてを包含する。
【0020】
簡単にするために、本発明を組み込むことができる、より技術的に困難な変形例の1つの指標として、双極RFエネルギー送達装置の例を使用するが、これに限定することを意図するものではない。この技術は、RF単極切断装置、超音波密閉装置、マイクロ波切除装置、およびこれらの変形装置にも同様に実装することができ、これらのエネルギー送達モダリティを用いて前述の組織改変を達成することができる。
【0021】
RFエネルギー装置とは別に、疎水性コーティングから恩恵を受ける例示的な装置には、組織の接着や流体の接着が問題となるあらゆる医療装置が挙げられる。例示的な装置には、内視鏡、十二指腸内視鏡、気管支内視鏡などの可視化装置が挙げられるが、これらに限定されない。例示的な装置には、結石破砕装置などの機械的装置が挙げられるが、これらに限定されない。例示的な装置には、ブレード付き装置などの切断装置が挙げられるが、これらに限定されない。例示的な装置には、切除装置、レーザ装置、抵抗加熱装置などのRFエネルギー装置以外のエネルギー装置が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
一例は、双極RF装置であり、非粘着性コーティングを含む少なくとも1つの組織密閉プレートを含んでおり、RFエネルギーの印加中に軟組織密閉プレートへの接着が減るように構成されている。
【0023】
本開示の一実施形態によれば、組織を治療するための電気外科用エネルギー源に動作可能に結合するように構成された導電性組織密閉プレートと、組織密閉プレートの少なくとも一部に配置された約35nm~2000nmの厚さを有する疎水性コーティングとを有する少なくとも1つの顎部部材を含む電気外科用器具が提供される。一例では、以下に述べるコーティング分子は、コーティングにおいて特に有益な特性の組合せを提供し-非常に機械的に堅牢、また、以下に述べる分子成分の組合せの結果として、高度な疎水性も提供する。以下に述べるコーティングを有する外科用装置は、コーティングが著しく劣化することなく複数回使用され得る。
【0024】
図2は、疎水性コーティングを形成するために使用され得るコーティング分子200の一例を示す。
図2の例では、コーティング分子200は、基材結合分子鎖210を含む。コーティング分子200はまた、基材結合分子鎖210の第1の端部207に結合した疎水性分子220を含む。コーティング分子200はまた、基材結合分子鎖210の第2の端部208に結合した反応性端部230を含む。
【0025】
一例では、基材結合分子鎖210は主鎖202を含む。
図2の例では、主鎖202は炭素原子204を含む。図示の例では、主鎖202全体が炭素原子204を含むが、本発明はそのように限定されるものではない。他の主鎖は、ケイ素原子、ケイ素原子と酸素原子の交互配列、または他の適切な主鎖化学物質から形成されてもよい。
【0026】
一例では、基材結合分子鎖210はケイ素側基206を含む。
図2の例では、ケイ素側基はケイ素に結合した酸素およびR3基をさらに含み得る。
図3を参照して以下により詳細に説明されるように、基材結合分子鎖210上の側基206は、隣接する基材結合分子鎖210間に分子間結合を形成するために使用され得る。
図2の例はシロキサン(ケイ素および酸素)基を示しているが、隣接する基材結合分子鎖210に結合することができる他の側基も本発明の範囲内である。
【0027】
一例では、疎水性分子220は主鎖222を含む。基材結合分子鎖210の説明と同様に、疎水性分子220の主鎖222は、示されるような炭素原子224、またはケイ素、シロキサンなどの他の主鎖化学物質を含み得る。
図2の例では、疎水性分子220は側基225を含む。示される例では、側基はフッ素原子である。良好な疎水性を提供する側基の他の例としては、メチル基または他の疎水性側基が挙げられ得る。
【0028】
一例では、疎水性分子220はフルオロポリマーである。
図2に示す疎水性分子220は、炭素数2の短い主鎖222を示す。一例では、短い主鎖にもかかわらず、炭素数2の疎水性分子220はフルオロポリマーと呼ばれる。主鎖222の他の長さも本発明の範囲内である。
【0029】
一例では、基材結合分子鎖210は、疎水性分子220よりも長い。疎水性分子220と比較した基材結合分子鎖210の相対的な長さは、多くの利点を提供する。一例では、比較的長い基材結合分子鎖210は、
図3に示すように、他のコーティング分子内の隣接する基材結合分子鎖210間の結合を促進する。より長い基材結合分子鎖210は、コーティング分子200間の強度の増加により、機械的により堅牢なコーティングを提供する。
【0030】
比較的短い疎水性分子220はまた、機械的により堅牢でもある。より長い疎水性分子220は、基材結合分子鎖210から遊離したり、その主鎖222に沿って切断したりしやすい。疎水性分子220よりも長い基材結合分子鎖210の組合せは、コーティング分子200間の強度を高める特性と、より短く、より堅牢な疎水性分子220の特性の両方を提供する。
【0031】
一例では、反応性端部230はケイ素原子232を含む。図示の例では、酸素原子234は、反応性端部230の露出端部201に位置し、外科用器具の構成要素の表面と結合するが、本発明はそのように限定されない。他の反応性端部230の化学物質は、本発明の範囲内であり、疎水性コーティングが結合される外科用装置の構成要素の材料に依存し得る。
【0032】
図3は、コーティング300の一部を示す。任意の数の外科用装置の一部であり得る基材302が示されている。基材302を有する構成要素の選択された例としては、電気外科用装置のRF電極、電気外科用装置の単極電極、切断ブレード、カテーテルの外部または内部などが挙げられるが、これらに限定されない。上記のように、基材302の他の例には、組織の接着または流体の接着が問題となるあらゆる医療装置が含まれる。例示的な装置には、内視鏡、十二指腸内視鏡、気管支内視鏡などの可視化装置が挙げられるが、これらに限定されない。例示的な装置には、結石破砕装置などの機械的装置が挙げられるが、これらに限定されない。例示的な装置には、ブレード付き装置などの切断装置が挙げられるが、これらに限定されない。例示的な装置には、切除装置、レーザ装置、抵抗加熱装置などのRFエネルギー装置以外のエネルギー装置が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
図3は、
図2のコーティング分子200と同様の3つのコーティング分子310A、310B、310Cを示す。3つのコーティング分子310A、310B、310Cはそれぞれ、基材結合分子鎖と、基材結合分子鎖の第1の端部に結合した疎水性分子とを含むように示されている。反応性端部は、結合部位312で分子310Aを構成要素基材302の表面304に結合していることが示されている。コーティング分子310A、310B、310Cは、結合部位314で互いに結合していることがさらに示されている。図示の例では、結合部位314はシロキサン結合を含むが、本発明はそのように限定されない。
【0034】
一例では、表面304は、コーティングの塗布前に改質されてもよいが、本発明はそのように限定されない。表面改質の例には、表面を粗面化し、接着性を高めるためのサンドブラストやエッチングが含まれ得る。一例では、本発明者らは、通常このような表面やコーティング材料を調製する際に使用されないグリットサイズである#1000のグリットサンドブラストを、コーティング前の表面の粗面化に使用できることを発見した。一例では、基材302はセラミック材料を含み、他の大きなグリットサイズはセラミック基材302を損傷する可能性がある。説明されているような小さいグリットサイズを使用するサンドブラストはまた、より大きいグリットサイズでは得られない最終製品の寸法制御レベルを提供する。一例では、表面粗面化に使用されるサンドブラストグリットは、#800と#1200との間である。一例では、表面粗面化に使用されるサンドブラストグリットは、#900と#1100との間である。一例では、表面粗面化に使用されるサンドブラストグリットは、#950と#1050との間である。表面粗さの改質は、結合を強化するために表面積を増加させ得る。表面粗さの改質はまた、コーティングの接着性を高める機械的構造を提供し得る。
【0035】
コーティング分子310A、310B、310C間のどんな結合量であれ、得られるコーティングの機械的強度を高めることになる。上述したように、比較的長い基材結合分子鎖は、隣接するコーティング分子310A、310B、310Cにおける隣接する基材結合分子鎖間の結合をより大量に促進する。コーティング分子間の分子間結合に基材結合分子鎖210のみを使用することにより、疎水性分子を疎水性特性のみに使用することができる。例えば、
図2に示されるように、すべての側基225は、高い疎水性を提供するためにフッ素原子を含み得る。
【0036】
選択された例では、表面エネルギーに関連する化学的疎水性に加えて、コーティングは、さらに疎水性を付与する物理的構造も含み得る。超疎水性の物理的構造の例を
図1A~
図1Cに示し、以下でより詳細に説明する。選択された例では、超疎水性の物理的構造は分子構造から生じ得る。他の選択された例では、超疎水性の物理的構造は表面改質から生じ得る。表面改質の例は、物理的表面構造を形成するためのエッチング、レーザパターニング、または他のメカニズムを含み得る。
【0037】
一例では、疎水性コーティングは浸漬コーティングによって塗布されるが、本発明はそのように限定されない。コーティング方法の他の例には、単一塗膜のスプレー、複数塗膜のスプレー、複数塗膜の浸漬コーティング、他の塗装用途、化学蒸着、物理蒸着などがある。当業者であれば、成膜方法が異なれば、検査時に検出可能なコーティングの均一性や膜厚のばらつきなど、最終コーティングの物理的特性が異なることを認識するであろう。本開示の一態様では、疎水性コーティングは約1000nmの厚さを有する。一例では、疎水性コーティングは、1nm~1000nmの範囲の厚さを有する。一例では、疎水性コーティングは、2nm~600nmの範囲の厚さを有する。本開示の別の態様では、疎水性コーティングは略均一な厚さを有する。本開示の別の態様では、疎水性コーティングは不均一な厚さを有する。上で詳述した厚さおよび厚さの範囲は、コーティングに疎水性の非粘着特性および機械的強度を提供すると同時に、より厚いコーティングでは提供し得ない許容可能な電気的特性も提供する。本発明者らは、この特性の組合せが本開示で説明する外科用装置に有益であり得ることを発見した。
【0038】
本開示の別の態様では、疎水性コーティングは不連続である。本開示の別の態様では、疎水性コーティングは連続的である。本開示の別の態様では、電気外科用器具は、組織密閉プレートの少なくとも一部に配置された絶縁層を含む。本開示の別の態様では、疎水性コーティングは、対向する顎部部材のそれぞれの少なくとも一部に配置される。本開示の別の態様では、組織密閉プレートはステンレス鋼で形成される。本開示の別の態様では、疎水性コーティングは、顎部の支持ベース上に配置され、組織密閉プレート上には配置されない。本開示の別の態様では、疎水性コーティングは、顎部の支持ベースおよび組織密閉プレートの少なくとも一部に配置される。本開示の別の態様では、疎水性コーティングは、顎部の支持ベース、組織密閉プレート、および組織密閉プレートに関連する短絡防止「停止部」上に、少なくとも部分的に、配置される。本開示の別の態様では、疎水性コーティングは、組織密閉プレートに関連する短絡防止「停止部」の1つまたはすべての上に少なくとも部分的に配置される。
【0039】
本開示の別の実施形態によれば、一対の対向する顎部部材を含む電気外科用器具が提供される。対向する顎部部材の各々は、組織を治療するために電気外科エネルギー源に動作可能に結合するように構成された導電性組織密閉プレートと、組織密閉プレートを支持するように構成された支持ベースと、組織密閉プレートを支持ベースに固定するように構成された絶縁性ハウジングとを含む。
【0040】
約35nm~2000nmの厚さを有する疎水性コーティングは、対向する顎部部材の少なくとも一方の少なくとも一部に配置される。
【0041】
本開示の一態様では、疎水性コーティングは、密閉プレート、支持ベース、および絶縁性ハウジングのそれぞれの少なくとも一部に配置される。本開示の別の態様では、疎水性コーティングは約1000nmの厚さを有する。本開示の別の態様では、疎水性コーティングは略均一な厚さを有する。本開示の別の態様では、疎水性コーティングは不均一な厚さを有する。
【0042】
本開示の別の態様では、疎水性コーティングは不連続である。本開示の別の態様では、疎水性コーティングは連続的である。
【0043】
本開示の別の実施形態によれば、第1の表面および対向する第2の表面を有するステンレス鋼層を含む導電性組織密閉プレートが提供される。ステンレス鋼層は、組織にエネルギーを送達するように構成される。ステンレス鋼層の表面には絶縁層が配置され、ステンレス鋼層の第1の表面の少なくとも一部に約35nm~約2000nmの厚さを有する疎水性コーティングが配置される。
【0044】
本開示の一態様では、疎水性コーティングは約1000nmの厚さを有する。本開示の別の態様では、疎水性コーティングは不均一な厚さを有する。本開示の別の態様では、疎水性コーティングは不連続である。
【0045】
本開示の別の実施形態によれば、組織へエネルギーを印加する間に、電気外科用組織密閉装置の導電性構成要素に組織が接着するのを抑制する方法が提供される。この方法は、浸漬技術を使用して電気外科用組織密閉装置の導電性構成要素の少なくとも一部に疎水性コーティングを塗布することを含む。コーティングを受ける基材または表面は、コーティングの接着性を改善するために、サンドブラストや化学的処理などの処理がなされてもよい。この方法は、スプレー技術を使用して電気外科用組織密閉装置の導電性構成要素の少なくとも一部に疎水性コーティングを塗布することを含む。この方法は、塗装技術を使用して電気外科用組織密閉装置の導電性構成要素の少なくとも一部に疎水性コーティングを塗布することを含む。この方法は、塗布されるポリテトラフルオロエチレンコーティングの厚さを約35nm~2000nmに制御することを含むことができる。コーティングの別の可能な技術は、均一な厚さを得るために、スピンコーティングであってもよい。コーティング工程は、固化状態を得るために、例えばオーブンなどの高温硬化を受けてもよい。
【0046】
本開示の別の実施形態によれば、一対の顎部部材を含み、各顎部部材が電気外科用エネルギー源に動作可能に結合するように構成された導電性密閉プレートを有する、電気外科用器具が提供される。組織密閉プレートは、少なくとも1つの感知された組織パラメータに基づいて電気外科エネルギーを組織に送達するように構成される。電気外科用器具は、各組織密閉プレートの少なくとも一部に配置された非粘着性コーティングを含む。非粘着性コーティングは、組織への電気外科エネルギーの送達中に導電性密閉プレートの粘着性を減らし、少なくとも1つの組織パラメータの感知を可能にするように制御された厚さを有する。本開示の一態様では、疎水性コーティングは、約35nm~約2000nmの厚さを有し、ステンレス鋼層の第1の表面の少なくとも一部に配置される。本開示の一態様では、疎水性コーティングは約1000nmの厚さを有する。本開示の別の態様では、疎水性コーティングは不均一な厚さを有する。本開示の別の態様では、疎水性コーティングは不連続である。本開示の別の態様では、少なくとも1つの組織パラメータは、温度、抵抗、光およびインピーダンスからなる群から選択される。
【0047】
本開示の別の実施形態によれば、組織へエネルギーを印加する間に、電気外科用組織密閉装置の導電性構成要素に組織が接着するのを抑制する方法が提供される。
【0048】
本電気外科用組織密閉器具の特定の態様は、添付の図面を参照して以下に説明される。しかしながら、開示された態様は、本開示の単なる例であり、様々な形態で具現化され得ることを理解されたい。不必要な詳細で本開示を不明瞭にすることを避けるために、周知の機能または構造は詳細に説明されていない。したがって、本明細書に開示された特定の構造的および機能的な詳細は、限定として解釈されるべきではなく、単に、特許請求の範囲の基礎としてのみ、また、当業者が本開示の概念を実質的に任意の適切に詳細な構造で様々に採用することを教示するための代表的な基礎としてのみ解釈されるべきである。
【0049】
同様の参照番号は、図面の説明全体を通して同様または同一の要素を指すことができる。図面に示され、以下の説明を通して説明されるように、外科用器具上の相対的な位置決めに言及する場合、従来のように、用語「近位」は、ユーザに近い装置の端部を指し、用語「遠位」は、ユーザからさらに離れた装置の端部を指す。用語「臨床医」は、本明細書で説明された態様の使用を含む医療処置を行うあらゆる医療専門家(すなわち、医師、執刀医、看護師等)を指す。
【0050】
添付の図面を参照して以下により詳細に説明するように、本開示は、1つまたは複数の構成要素(例えば、組織密閉プレート、顎部部材、導線、絶縁体など)上に配置された非粘着性コーティングを有する電気外科用器具に関する。非粘着性コーティングの厚さは慎重に制御され、組織を密閉する間、組織粘着性を減らしながら所望の電気的性能を可能にする。
【0051】
適切な生体適合性を備えていれば、所望の機能性(すなわち、組織の密封を可能にするのに十分な電気伝導性を維持しながら、同時に組織の粘着を減らすこと)を提供することができるいかなる材料も、非粘着性コーティングとして使用し得る。
【0052】
以前に開示された資料には、同様のエネルギー送達装置におけるHMDSOの使用と応用が開示されている。その開示には、TMDSOなど他の材料や、組織に接触する改質器具の非粘着性能を達成するためのプラズマ蒸着システムも含まれている。
【0053】
これらのコーティングは、このような工程で使用され、特許請求される厚さで使用される場合、「超疎水性」コーティングとなる。超疎水性コーティングは、一般的な低表面エネルギー材料だけとは異なるが、これは、このコーティングの機能には、低表面エネルギーだけでは不可能な方法で、水、油および血液をはじく疎水性のピラーを作り出すようなコーティング構造を堆積させる必要があるからである。
【0054】
現在知られている技術では、親水性コーティングは、90°未満の水接触角を有するものである。疎水性表面は、90°~150°の水接触角を有する表面であり、超疎水性表面(ウルトラ疎水性表面としても知られる)は、150°以上の水接触角を有する表面である。
図1A~
図1Cを参照されたい。HMDSOは、表面に塗布した場合、(塗布の設定に応じて)超疎水性状態に役立つか、または親水性ピラー生成工程で塗布される同じ材料によって、もしくは組み合わさってこのポリマー構造を作ることがないこれらの材料の他の化学的集合体によって一般的に達成される超疎水性状態を少なくとも上回るのに役立つことができる。
図1Bは疎水性ピラーの「Cassie状態」の図であり、
図1Cは疎水性ピラーの「Wenzel状態」の図である。
【0055】
電気的特性は、電気エネルギーを送達するため、または接触組織から電気的フィードバックを受けるために使用することを意図した表面へのコーティングの使用可能な厚さを決める可能性がある。コーティングの厚さは重要であるが、採用する電気的モダリティによって異なる。高い周波数の電気的AC出力は、低い周波数とは異なる考慮が必要である。提供される例では、マイクロ波伝送に使用されるコーティングの厚さは、無線周波数(RF)伝送に必要な厚さとは異なっており、振動の伝送と吸収が異なるコーティング厚さを必要とする場合、この厚さは超音波モダリティなど他のエネルギーモダリティともまた異なる。
【0056】
本開示で使用される例は、一対の顎部部材であり、各々は、電気外科用エネルギー源に動作可能に結合するように構成された導電性密閉プレートを有する。組織密閉プレートは、少なくとも1つの感知された組織パラメータに基づいて電気外科エネルギーを組織に送達するように構成される。電気外科用器具は、各組織密閉プレートの少なくとも一部に配置された非粘着性コーティングを含む。非粘着性コーティングは、組織への電気外科エネルギーの送達中に導電性密閉プレートの粘着性を減らし、少なくとも1つの組織パラメータの感知を可能にするように制御された厚さを有する。本開示の一態様では、疎水性コーティングは、約35nm~約2000nmの厚さを有し、ステンレス鋼層の第1の表面の少なくとも一部に配置される。本開示の一態様では、疎水性コーティングは約1000nmの厚さを有する。本開示の別の態様では、疎水性コーティングは不均一な厚さを有する。本開示の別の態様では、疎水性コーティングは不連続である。本開示の別の態様では、少なくとも1つの組織パラメータは、温度、抵抗、光およびインピーダンスからなる群から選択される。
【0057】
この場合、厚さパラメータの限界は、RF電気エネルギーを送達し、場合によっては、このようなコーティングを介してフィードバックを得るという所望の能力によって制限される。約2000nm以上の厚さは、非常に大きくなり過ぎであり、エネルギー送達およびフィードバックの忠実度が失われ、このような装置の予測される通常の使用寿命を考慮すると、これは望ましくなく、不要である。
【0058】
約1000nmでは、開示された疎水性コーティングは、臨床手順での使用を向上させる疎水性、すなわち非粘着性を提供しながら、許容能なレベルの電気的性能を有する。
【0059】
図4は、1)コーティングされていない鋼製導電性密閉プレート(このタイプの装置の製造方法に典型的な表面不純物や汚染物を有する)、2)鋼製導電性密閉プレートの厚さ約85nmのHMDSOコーティング、および3)
図3に示すような厚さ約1000nmの疎水性コーティング、の電気的性能を周波数400kHz(RF)で比較している。
【0060】
当業者であれば、供給されるエネルギーの波長(周波数)に応じて、これらの厚さをどのように変更する必要があるか、および疎水性コーティングが以前に開示された非粘着性HMDSO技術やコーティングなしの場合と、どのように電気的に関連しているかを理解するであろう。
【0061】
図5~
図12は、疎水性コーティングを組み込み得る他の装置を含んでおり、このタイプの技術を含めることによって改善することができる様々なエネルギー送達装置および組織改変装置のタイプを実証するために含まれている。これらの例では、疎水性コーティングは、エネルギー印加要素上に部分的にまたは完全に配置され、場合によっては、組織との接触が生じる可能性がある周囲の装置構造内にも配置されることが予想される。部分的または完全に、また、本開示で前述した厚さで配置する。
【0062】
本明細書に開示される方法および装置をよりよく説明するために、実施形態の非限定的なリストをここに提供する。
【0063】
実施例1は、外科用装置を含む。外科用装置は、外科用装置の構成要素と、外科用装置の構成要素を少なくとも部分的に覆うコーティングとを含み、コーティングは、本開示の一例に従って構成される。
【0064】
実施例2は、外科用装置を含む。外科用装置は、外科用装置の構成要素と、外科用装置の構成要素を少なくとも部分的に覆う疎水性コーティングとを含む。疎水性コーティングは、基材結合分子鎖、基材結合分子鎖の第1の端部に結合した疎水性分子、および基材結合分子鎖の第2の端部に結合した反応性端部を含むコーティング分子から形成され、基材結合分子鎖は疎水性分子よりも長い。
【0065】
実施例3は、実施例2の外科用装置を含み、基材結合分子鎖は炭素原子主鎖を含む。
【0066】
実施例4は、実施例2~3のいずれか一実施例に記載の外科用装置を含み、基材結合分子鎖は、ケイ素原子主鎖を含む。
【0067】
実施例5は、実施例2~4のいずれか一実施例に記載の外科用装置を含み、疎水性分子はフルオロポリマーを含む。
【0068】
実施例6は、実施例2~5のいずれか一実施例に記載の外科用装置を含み、疎水性分子はシロキサン主鎖を含む。
【0069】
実施例7は、外科用装置を含む。外科用装置は、外科用装置の構成要素と、外科用装置の構成要素を少なくとも部分的に覆う疎水性コーティングとを含む。疎水性コーティングは、基材結合分子鎖、基材結合分子鎖の第1の端部に結合された疎水性分子、および基材結合分子鎖の第2の端部に結合された反応性端部を含むコーティング分子から形成され、基材結合分子鎖は、反応性端部で構成要素の表面に結合され、構成要素の表面に隣接する結合領域で互いに結合している。
【0070】
実施例8は、実施例7の外科用装置を含み、基材結合分子鎖は炭素原子主鎖を含む。
【0071】
実施例9は、実施例7~8のいずれか一実施例に記載の外科用装置を含み、基材結合分子鎖は炭素原子主鎖を含む。
【0072】
実施例10は、実施例7~9のいずれか一実施例に記載の外科用装置を含み、基材結合分子鎖はシロキサン結合で互いに結合される。
【0073】
実施例11は、実施例7~10のいずれか一実施例に記載の外科用装置を含み、基材結合分子鎖はシロキサン結合で基材に結合される。
【0074】
実施例12は、実施例7~11のいずれか一実施例に記載の外科用装置を含み、疎水性分子はフルオロポリマーを含む。
【0075】
実施例13は、実施例7~12のいずれか一実施例に記載の外科用装置を含み、基材結合分子鎖は疎水性分子よりも長い。
【0076】
本明細書全体を通して、複数のインスタンスは、単一のインスタンスとして説明された構成要素、動作、または構造を実装することができる。1つまたは複数の方法の個々の動作は、別個の動作として図示され説明されているが、個々の動作のうちの1つまたは複数を同時に実行してもよく、動作を図示された順序で実行する必要はない。例示的な構成において別個の構成要素として提示される構造および機能は、組み合わされた構造または構成要素として実装されてもよい。同様に、単一の構成要素として提示された構造および機能は、別個の構成要素として実装されてもよい。これらおよび他の変形、修正、追加、および改良は、本明細書の主題の範囲内にある。
【0077】
特定の例示的な実施形態を参照して本発明の主題の概要を説明したが、本開示の実施形態のより広い範囲から逸脱することなく、これらの実施形態に対して様々な修正および変更を行うことができる。本発明の主題のこのような実施形態は、本明細書では、単に便宜上、「発明」という用語で個々にまたは集合的に参照されることがあり、実際には2つ以上の開示または発明概念が開示されている場合、本出願の範囲を任意の単一の開示または発明概念に自発的に限定する意図はない。
【0078】
本明細書に示される実施形態は、当業者が開示された教示を実施することを可能にするのに十分詳細に説明されている。本開示の範囲から逸脱することなく、構造的および論理的な置換および変更を行うことができるように、他の実施形態を使用し、そこから導出することができる。したがって、詳細な説明は限定的な意味で解釈されるべきではなく、様々な実施形態の範囲は、添付の特許請求の範囲と、そのような特許請求の範囲が権利を有する均等物の全範囲とによってのみ定義される。
【0079】
本明細書で使用される場合、「または(or)」という用語は、包括的または排他的な意味で解釈され得る。さらに、本明細書で単一のインスタンスとして説明されるリソース、動作、または構造について、複数のインスタンスが提供される場合がある。さらに、様々なリソース、動作、モジュール、エンジン、およびデータストアの間の境界はある程度任意であり、特定の動作は、特定の例示的な構成の文脈で説明されている。機能の他の割当ても想定され、本開示の様々な実施形態の範囲内に含まれ得る。一般に、構成例で別個のリソースとして提示した構造や機能は、組み合わせた構造やリソースとして実装されてもよい。同様に、単一のリソースとして提示される構造および機能は、別個のリソースとして実装されてもよい。これらおよび他の変形、修正、追加、および改良は、添付の特許請求の範囲によって表される本開示の実施形態の範囲内にある。したがって、本明細書および図面は、限定的な意味ではなく例示的な意味で見なされるべきである。
【0080】
上記の説明は、説明を目的として、具体的な実施形態例を参照して説明されている。しかしながら、上記の例示的な説明は、網羅的であること、または可能な実施形態例を開示された正確な形態に限定することを意図するものではない。上記の教示を考慮して、多くの修正と変形が可能である。例示的な実施形態は、関係する原理およびそれらの実際的な応用を最もよく説明するために選択され、説明されたものであり、それにより、当業者は、企図される特定の用途に適するように様々な修正を加えた様々な例示的な実施形態を最もよく利用することができるようにする。
【0081】
「第1の(first)」、「第2の(second)」などの用語は、様々な要素を説明するために本明細書で使用され得るが、これらの要素はこれらの用語によって限定されるべきではないことも理解されよう。これらの用語は、ある要素を別の要素と区別するためにのみ使用される。例えば、本実施形態例の範囲から逸脱することなく、第1の接点を第2の接点と呼ぶことができ、同様に、第2の接点を第1の接点と呼ぶことができる。第1の接点および第2の接点は両方とも接点であるが、それらは同じ接点ではない。
【0082】
本明細書の例示的な実施形態の説明で使用される用語は、特定の例示的な実施形態のみを説明するためのものであり、限定することを意図するものではない。例示的な実施形態および添付の実施例の説明で使用されるように、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、複数形も含むことが意図される。本明細書で使用される「および/または(and/or)」という用語は、関連する列挙された項目のうちの1つまたは複数のありとあらゆる可能な組合せを指し、包含することも理解されよう。本明細書で使用される場合、「備える(comprises)」および/または「備えている(comprising)」という用語は、記載された特徴、整数、ステップ、動作、要素、および/または構成要素の存在を指定するが、1つまたは複数の他の特徴、整数、ステップ、動作、要素、構成要素、および/またはそれらの群の存在または追加を排除するものではないことがさらに理解されよう。
【0083】
本明細書で使用される場合、「もし(if)」という用語は、文脈に応じて、「場合(when)」または「とき(upon)」または「決定に応答して(in response to determining)」または「検出に応答して(in response to detecting)」を意味すると解釈され得る。同様に、「判定された場合(if it is determined)」または「[記載された条件または事象]が検出された場合(if [a stated condition or event] is detected)」という語句は、文脈に応じて、「判定時(upon determining)」または「判定に応答して(in response to determining)」または「[記載された条件または事象]を検出したとき(upon detecting [the stated condition or event])」または「[記載された条件または事象]を検出したことに応答して(in response to detecting [the stated condition or event])」を意味すると解釈され得る。
【国際調査報告】