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特表2024-527793絶縁シートのためのコーティング層の含浸
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】絶縁シートのためのコーティング層の含浸
(51)【国際特許分類】
   H01B 17/56 20060101AFI20240719BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20240719BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
H01B17/56 A
B05D7/00 B
B05D7/24 302P
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502622
(86)(22)【出願日】2022-07-18
(85)【翻訳文提出日】2024-01-16
(86)【国際出願番号】 US2022073825
(87)【国際公開番号】W WO2023004276
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】102021000018965
(32)【優先日】2021-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520028531
【氏名又は名称】デュポン セイフティー アンド コンストラクション インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】524020928
【氏名又は名称】コヴェメ ソシエタ ペル アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】ゴーサン バンジャマン
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルチェシ ジョルジオ パトリツィオ
(72)【発明者】
【氏名】ダルコ ルイージ
【テーマコード(参考)】
4D075
5G333
【Fターム(参考)】
4D075BB42Z
4D075BB46Z
4D075CA23
4D075DA03
4D075DA25
4D075DB20
4D075DB53
4D075DC16
4D075DC19
4D075EA21
4D075EB22
4D075EB39
4D075EB52
4D075EC04
4D075EC30
4D075EC37
5G333AA03
5G333AB01
5G333AB07
5G333CB01
5G333CB12
5G333CB15
5G333DA03
5G333DA11
(57)【要約】
本発明は、不織シート、例えば15~80重量パーセントの結晶性ケイ酸塩鉱物粉末、例えば雲母粉末を含む、アラミド繊維を含むシートの絶縁シートであって、不織シートは、アクリレート誘導体をベースとする含浸用樹脂のコーティングで含浸され、このコーティングは、絶縁シートの緻密性を増加させ、且つ使用中にケイ酸塩鉱物粉末が不織シートから脱離することを防止するために好適である、絶縁シートに関する。含浸用樹脂は、有機溶媒も含み、この有機溶媒は、含浸用樹脂の粘度を低下させ、且つそれがシート中に深く浸透することを促進し得る。加えて、含浸用樹脂は、前記樹脂がシートに塗布され、且つシート中に深く浸透した後にのみ、樹脂を硬化させるのに好適なUV重合光開始剤を含む。本発明は、絶縁シートを含浸する方法も記載する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ケイ酸塩鉱物粉末を含有する不織シート、例えばアラミド紙を含む絶縁シート(10、11)において、アクリレート誘導体をベースとする含浸用樹脂のコーティングも含むことを特徴とする絶縁シート(10、11)。
【請求項2】
前記不織シートは、15~80重量パーセントの前記結晶性ケイ酸塩鉱物粉末を含有する、請求項1に記載の絶縁シート(10、11)。
【請求項3】
前記結晶性ケイ酸塩鉱物粉末は、雲母を含む、請求項1又は2に記載の絶縁シート(10、11)。
【請求項4】
前記不織シートは、第1の表面及び第2の表面を有し、前記不織シートは、前記不織シート中の結晶性ケイ酸塩鉱物粉末、フロック及び結合剤の総量に基づいて15~80重量パーセントの前記結晶性ケイ酸塩鉱物粉末、5~25重量パーセントの前記耐熱性フロック及び20~60重量パーセントの前記結合剤を含み、
前記不織シートの前記第1及び第2の表面の各々は、前記含浸用樹脂でコーティングされ、且つ前記第1及び第2の表面の各々は、前記第1及び第2の表面の各々を覆うと共に、その中に延びる前記含浸用樹脂の領域によって安定化され、
前記含浸用樹脂の領域は、前記第1及び第2の表面の各々から前記シート中に10~50マイクロメートルの距離にわたって延び、及び更に、前記含浸用樹脂の領域は、前記第1及び第2の表面の各々の上に5~50マイクロメートルの含浸用樹脂の厚さを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の絶縁シート(10、11)。
【請求項5】
前記含浸用樹脂の領域は、前記第1及び第2の表面の各々の上に5~25マイクロメートルの含浸用樹脂の厚さを有する、請求項4に記載の絶縁シート(10、11)。
【請求項6】
1メートル・ケルビン当たり0.18ワットを超える熱伝導率を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の絶縁シート(10、11)。
【請求項7】
0.10~0.4ミリメートルの総厚さを有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の絶縁シート(10、11)。
【請求項8】
0.15~0.35ミリメートルの総厚さを有する、7に記載の絶縁シート(10、11)。
【請求項9】
前記不織シートは、20~70重量パーセントの雲母を含む、請求項3~8のいずれか一項に記載の絶縁シート(10、11)。
【請求項10】
前記不織シートは、30~60重量パーセントの雲母を含む、請求項9に記載の絶縁シート(10、11)。
【請求項11】
前記耐熱性フロックは、アラミドフロックである、請求項4~10のいずれか一項に記載の絶縁シート(10、11)。
【請求項12】
前記アラミドフロックは、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)フロックである、請求項11に記載の絶縁シート(10、11)。
【請求項13】
前記結合剤は、アラミドフィブリドを含む、請求項4~12のいずれか一項に記載の絶縁シート(10、11)。
【請求項14】
前記アラミドフィブリドは、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)フィブリドである、請求項13に記載の絶縁シート(10、11)。
【請求項15】
前記コーティングは、アクリレートモノマー及びアクリレートオリゴマーの化合物を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の絶縁シート(10、11)。
【請求項16】
前記アクリレートモノマーは、二官能性又は三官能性メタクリレート、例えば1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)、ジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)、ブタンジオールジメタクリレート(BDMA)、ネオペンチルグリコールジアクリレート(NPGDA)、イソボルニルアクリレート(IBOA)、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、ペンタエリスリチルトリアクリレート(PETIA)、テトラメチレンジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、プロポキシレート及び/又はエトキシレートである、請求項15に記載の絶縁シート(10、11)。
【請求項17】
前記アクリレートオリゴマーは、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート及び/又はポリエステルアクリレートである、請求項15又は16に記載の絶縁シート(10、11)。
【請求項18】
前記含浸用樹脂のコーティングは、不飽和ポリエステルイミド材料を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の絶縁シート(10、11)。
【請求項19】
前記含浸用樹脂は、重合光開始剤、特にUV重合光開始剤、例えばOmnirad TPO-L、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパノン、ジフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸化物(TPO)、ホスフィン酸化物(BAPO)、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸化物(BAPO)、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(HCPK)又は2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン(HMPP)も含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の絶縁シート(10、11)。
【請求項20】
前記含浸用樹脂は、有機溶媒、例えばメチルエチルケトンも含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の絶縁シート(10、11)。
【請求項21】
前記絶縁シート(10、11)の1平方メートル当たり1g~10gに含まれる量の、アクリレート誘導体をベースとする前記含浸用樹脂を含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の絶縁シート(10、11)。
【請求項22】
アクリレート誘導体をベースとする前記含浸用樹脂は、5cps~150cpsに含まれる粘度を有する、請求項1~21のいずれか一項に記載の絶縁シート(10、11)。
【請求項23】
絶縁シート(10、11)を製造する方法であって、
a)結晶性ケイ酸塩鉱物粉末、例えば雲母を含む、例えばアラミド紙の不織バッキングシート(7)を提供するステップ
を含む方法において、
b)樹脂含浸シート(8)を得るために、アクリレート誘導体をベースとする含浸用樹脂のコーティング層を前記不織バッキングシート(7)上に堆積するステップ
も含むことを特徴とする方法。
【請求項24】
前記不織バッキングシート(7)は、15~80重量パーセントの前記結晶性ケイ酸塩鉱物粉末を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記不織バッキングシートは、第1の表面及び第2の表面を有し、前記不織バッキングシートは、前記不織バッキングシート中の結晶性ケイ酸塩鉱物粉末、フロック及び結合剤の総量に基づいて15~80重量パーセントの前記結晶性ケイ酸塩鉱物粉末、5~25重量パーセントの前記耐熱性フロック及び20~60重量パーセントの前記結合剤を含み、
前記含浸用樹脂のコーティング層は、前記不織バッキングシートの前記第1及び第2の表面の各々の上に堆積され、
前記コーティング層は、前記第1及び第2の表面の各々を覆うと共に、その中に延びる前記含浸用樹脂の領域を提供し、
前記含浸用樹脂の領域は、前記第1及び第2の表面の各々から前記不織バッキングシート中に10~50マイクロメートルの距離にわたって延び、及び更に、前記含浸用樹脂の領域は、前記第1及び第2の表面の各々の上に5~50マイクロメートルの含浸用樹脂の厚さを有する、請求項23又は24に記載の方法。
【請求項26】
前記含浸用樹脂の領域は、前記第1及び第2の表面の各々の上に5~25マイクロメートルの含浸用樹脂の厚さを有する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記不織バッキングシートは、20~70重量パーセントの雲母を含む、請求項23~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記不織バッキングシートは、30~60重量パーセントの雲母を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記耐熱性フロックは、アラミドフロックである、請求項25~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記アラミドフロックは、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)フロックである、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記結合剤は、アラミドフィブリドを含む、請求項25~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記アラミドフィブリドは、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)フィブリドである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記コーティング層は、アクリレートモノマー及びアクリレートオリゴマーの化合物を含む、請求項23~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記アクリレートモノマーは、二官能性又は三官能性メタクリレート、例えば1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)、ジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)、ブタンジオールジメタクリレート(BDMA)、ネオペンチルグリコールジアクリレート(NPGDA)、イソボルニルアクリレート(IBOA)、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、ペンタエリスリチルトリアクリレート(PETIA)、テトラメチレンジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、プロポキシレート及び/又はエトキシレートである、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記アクリレートオリゴマーは、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート及び/又はポリエステルアクリレートである、請求項33又は34に記載の方法。
【請求項36】
前記コーティング層は、不飽和ポリエステルイミド材料を含む、請求項23~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記コーティング層は、有機溶媒を含み、及び前記方法は、
c)前記樹脂含浸シート(8)を乾燥させることにより、前記有機溶媒を蒸発させるステップ
も含む、請求項23~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記含浸用樹脂は、重合光開始剤、特にUV重合光開始剤、例えばOmnirad TPO-L、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパノン、ジフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸化物(TPO)、ホスフィン酸化物(BAPO)、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸化物(BAPO)、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(HCPK)又は2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン(HMPP)も含み、前記方法は、
d)前記樹脂含浸シート(8)を紫外線に曝露させて、前記コーティング層の重合をもたらすステップ
も含む、請求項23~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
アクリレート誘導体をベースとする前記含浸用樹脂の量は、前記絶縁シート(10、11)の1平方メートル当たり1g~10gに含まれる、請求項23~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
アクリレート誘導体をベースとする前記含浸用樹脂は、5cps~150cpsに含まれる粘度を有する、請求項23~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
請求項1~22のいずれか一項に記載の少なくとも1つの絶縁シート(10、11)と、プラスチックフィルムの少なくとも1つの層とを含む積層体であって、前記絶縁シート(10、11)は、好ましくは、前記積層体の外面を形成するように前記プラスチックフィルムの層の一方の面上に積層される、積層体。
【請求項42】
複数の前記絶縁シート(10、11)及び複数の前記プラスチックフィルムの層を含み、前記絶縁シート(10、11)は、好ましくは、前記積層体の前記外面を形成するように前記プラスチックフィルムの層と交互配置される、請求項41に記載の積層体。
【請求項43】
請求項1~22のいずれか一項に記載の1つ以上の絶縁シート(10、11)又は請求項41若しくは42に記載の1つ以上の積層された絶縁シートを含む電気モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含浸絶縁コーティング層を製造する分野に関する。具体的には、本発明は、アラミド/雲母電気絶縁体などの結晶性ケイ酸塩鉱物粉末を含有する不織シートを含む含浸コーティング層に関する。更により具体的には、本発明は、アラミド/雲母電気絶縁体のための、アクリレート樹脂で作製された含浸コーティング層に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気機械の急速な開発に伴い、過酷な作業条件下で優れた絶縁特性及び高い機械的特性を有する材料が一層注目されている。例えば、電気絶縁モータのためにアラミド/雲母シートが使用されている。
【0003】
雲母は、優れた物理的、電気的及び熱的な特性を有して、高温でも高い安定性及び適応性を有する。しかしながら、それは、機械的強度が弱く、したがって絶縁シートを作製するために直接使用することができない。有利には、雲母をアラミドシートに追加して、部分放電に対するより高い耐性を前記シートに付与し得る。
【0004】
アラミド/雲母絶縁シートの製造に関する主な課題の1つは、雲母がアラミド紙構造中に導入された場合、雲母が、ほとんど凝集性がなく、脱離する傾向があることである。したがって、アラミド/雲母紙の表面は、粉状であり、積層すること並びにエポキシ及びポリエステル樹脂で含浸すること又は回転若しくは静止電気機械における絶縁体として使用することが困難である。
【0005】
アラミド/雲母紙の特性を改善するために、従来技術で既知のいくつかの研究は、アラミド繊維と雲母との間の表面結合を増加させるための接着材層の導入を提案している。
【0006】
例えば、米国特許出願公開第2014/0028140号明細書は、外部に対する電気的絶縁を回転コイルに付与する目的で回転コイルの周囲に巻き付けたアラミド/雲母テープを記載している。アラミド/雲母テープは、アクリロイル系化合物を含有する接着性樹脂の層を有し、この層は、雲母とアラミドとの間の接着力を改善するために使用される。しかしながら、接着性樹脂層は、すでに形成されたアラミド/雲母紙に塗布され、したがってアラミド/雲母紙中に深く浸透しない。したがって、アラミド/雲母シートの緻密性は、部分的にのみ増加する。
【0007】
米国特許出願公開第2021/0062429号明細書は、雲母を含有する絶縁シート中にアラミドマイクロ繊維の代わりにアラミドナノ繊維を組み込んで使用することに基づいて、アラミド/雲母シートの機械的特性を改善する代替的な方法を提案している。このように、アラミドと雲母との間で相互作用する表面積が増加し、アラミド/雲母シートの緻密性が促進される。しかしながら、米国特許出願公開第2021/0062429号明細書に記載されている、アラミドナノ繊維を作製するプロセスは、複雑且つ面倒であり、したがって高価である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
絶縁シートの製造に関連する上述の課題及び欠点を考慮すると、本発明の目的の1つは、高い表面結合力及び緻密化された表面によって特徴付けられる結晶性ケイ酸塩鉱物粉末、例えば雲母を含有する不織シート、例えばアラミド紙を含む絶縁シートを提供することである。例えば、本発明の目的の1つは、アラミド/雲母絶縁シートであって、雲母粒子がアラミド繊維に安定的に結合し、したがって使用中に雲母粒子が脱離しない、アラミド/雲母絶縁シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、結晶性ケイ酸塩鉱物粉末を含有する不織シートを含む絶縁シートにおいて、不織シートは、15~80重量パーセントの結晶性ケイ酸塩鉱物粉末を含有し、及び絶縁シートは、アクリレート誘導体をベースとする含浸用樹脂のコーティングも含むことを特徴とする絶縁シートが提供される。
【0010】
この構成は、結晶性ケイ酸塩鉱物粉末を含有する不織シートを含む断熱シートがコーティング樹脂の層で含浸される点で特に有利であり、コーティング樹脂は、絶縁シート中に深く浸透することができ、したがって絶縁シートの緻密性を改善することができる。
【0011】
好ましくは、不織シートは、アラミド紙を含む。アラミド紙が有利に使用され、なぜなら、アラミドは、高い絶縁耐力、可撓性及び弾力性などの優れた機械的能力及び高い熱安定性によって特徴付けられる材料であるためである。
【0012】
好ましくは、結晶性ケイ酸塩鉱物粉末は、雲母を含む。
【0013】
好ましい構成によれば、アラミド/雲母絶縁シートが提供され、ここで、シートの表面は、低粘度のアクリレート樹脂、例えば5cps~150cpsの粘度、好ましくは10cpsに等しい粘度を有する樹脂でコーティングされる。低粘度のため、シート中への樹脂の浸透が促進され、それにより、含浸用樹脂層は、例えば、0.08mm~0.15mmの厚さを有するアラミドシートでは少なくとも5μm、好ましくは少なくとも10μm、更により好ましくは少なくとも15μmの厚さを有し、0.2mm~0.25mmの厚さを有するアラミドシートでは少なくとも15μm、好ましくは少なくとも40μmの厚さを有する。
【0014】
本発明の更なる実施形態によれば、絶縁シートが提供され、ここで、結晶性ケイ酸塩鉱物粉末は、雲母を含む。
【0015】
部分放電耐性を増加させるための添加物として雲母を使用できるため、この構成は、有利である。その理由は、雲母が固有の物理的、熱的及び電気的特性並びに高い安定性、弾力性、反発力及び適応性によって特徴付けられるためである。
【0016】
好ましい構成によれば、アラミド及び雲母を含む絶縁シートが提供される。実際、その構造中に一定量の雲母を含むアラミド紙は、添加物を含まないアラミド紙よりも高い部分放電耐性によって特徴付けられる。
【0017】
一実施形態によれば、絶縁シートは、第1の表面及び第2の表面を有する不織シートを含み、不織シートは、不織シート中の前記結晶性ケイ酸塩鉱物粉末、フロック及び結合剤の総量に基づいて15~80重量パーセントの結晶性ケイ酸塩鉱物粉末、5~25重量パーセントの耐熱性フロック及び20~60重量パーセントの結合剤を含み、不織シートの第1及び第2の表面の各々は、含浸用樹脂でコーティングされ、且つ第1及び第2の表面の各々は、前記第1及び第2の表面の各々を覆うと共に、その中に延びる前記含浸用樹脂の領域によって安定化される。含浸用樹脂の領域は、前記第1及び第2の表面の各々からシート中に10~50マイクロメートルの距離にわたって延び、及び更に、含浸用樹脂の領域は、前記第1及び第2の表面の各々の上に5~50マイクロメートルの含浸用樹脂の厚さを有する。いくつかの実施形態では、含浸用樹脂の領域は、前記第1及び第2の表面の各々の上に5~25マイクロメートルの含浸用樹脂の厚さを有する。好ましくは、結晶性ケイ酸塩鉱物粉末は、雲母である。
【0018】
いくつかの好ましい実施形態では、絶縁シートは、ASTM D5470に従って測定した場合、1メートル・ケルビン当たり0.18ワットを超える熱伝導率を有する。
【0019】
一実施形態によれば、絶縁シートは0.10~0.4ミリメートルの総厚さを有し、別の実施形態では、絶縁シートは、0.15~0.35ミリメートルの総厚さを有する。
【0020】
いくつかの実施形態では、絶縁シートの不織シートは、20~70重量パーセントの雲母を含む。いくつかの他の実施形態では、絶縁シートの不織シートは、30~60重量パーセントの雲母を含む。
【0021】
好ましい実施形態によれば、絶縁シートは、耐熱性フロック、好ましくはアラミドフロックを含み、好ましいアラミドフロックは、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)フロックである。いくつかの好ましい実施形態では、絶縁シートは、結合剤、好ましくはアラミドフィブリドの結合剤を含み、好ましいアラミドフィブリドは、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)フィブリドである。
【0022】
本発明の更なる実施形態によれば、絶縁シートが提供され、ここで、コーティングは、アクリレートモノマー及びアクリレートオリゴマーの化合物を含む。
【0023】
この構成の利点は、アクリレートモノマーとアクリレートオリゴマーとの化合物が高い可動性及び低分子量、例えば200ダルトン~500ダルトンの分子量を有することを特徴とし、したがって絶縁シートの多孔質部分を通して浸透できることである。
【0024】
好ましい構成によれば、アラミド及び雲母を含む絶縁シートが提供され、アクリレートモノマー及びアクリレートオリゴマーを含む樹脂のコーティングによって特徴付けられる。アクリレート化合物は、アラミド/雲母紙中に浸透し、雲母粉末を緻密化し、アラミド紙構造中に永続的に固定させる。
【0025】
本発明の更なる実施形態によれば、絶縁シートが提供され、ここで、アクリレートモノマーは、二官能性又は三官能性メタクリレート、例えば1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)、ジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)、ブタンジオールジメタクリレート(BDMA)、ネオペンチルグリコールジアクリレート(NPGDA)、イソボルニルアクリレート(IBOA)、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、ペンタエリスリチルトリアクリレート(PETIA)、テトラメチレンジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、プロポキシレート及び/又はエトキシレートである。
【0026】
一官能性、二官能性又は三官能性アクリレートモノマーは、重合生成物の結合密度を増加させるために特に有利である。
【0027】
本発明の更なる実施形態によれば、絶縁シートが提供され、ここで、アクリレートオリゴマーは、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート及び/又はポリエステルアクリレートである。
【0028】
本発明の更なる実施形態によれば、絶縁シートが提供され、ここで、含浸用樹脂コーティングは、不飽和ポリエステルイミド材料を含む。
【0029】
この構成は、特に有利であり、なぜなら、ポリエステルイミド樹脂が絶縁シートのマトリックス中に深く浸透し、塵埃の落下及び脱落のいかなる可能性も回避し、それにより絶縁材料の加工可能性を改善することが可能であるためである。更に、一般に電気モータを含浸させるために使用されるこのポリエステルイミド樹脂を、単に樹脂混合物に光開始剤を追加することにより、熱硬化性コーティングからUV重合性コーティングに転換することが可能である。
【0030】
本発明の更なる実施形態によれば、絶縁シートが提供され、ここで、含浸用樹脂は、重合光開始剤、特にUV重合光開始剤も含む。
【0031】
本発明で使用する光開始剤の非限定的な例としては、Omnirad TPO-L、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパノン、ジフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸化物(TPO)、ホスフィン酸化物(BAPO)、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸化物(BAPO)、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(HCPK)若しくは2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン(HMPP)又はバイ-アシルリン酸塩酸化物ポリマー(TPO)のクラスに属する光開始剤若しくはα-ヒドロキシケトンのクラスに属する光開始剤が挙げられる。
【0032】
この構成の利点は、含浸用樹脂の重合が、絶縁シートに樹脂を塗布し、紫外線に曝露させた後に生じることである。このように、含浸用樹脂は、絶縁紙中に深く浸透することができ、絶縁紙を緻密化することができ、例えば以降の処理ステップで雲母の脱離及び脱落を防止する。
【0033】
本発明の更なる実施形態によれば、絶縁紙が提供され、ここで、含浸用樹脂は、有機溶媒、例えばメチルエチルケトンも含む。
【0034】
この構成の利点は、含浸用樹脂の粘度が低下することである。好ましい構成によれば、含浸用樹脂は、メチルエチルケトン(MEK)を含む。MEKは、高い蒸発率によって特徴付けられる有機溶媒であり、その粘度を低下させるためにアクリル塗料及びポリウレタン塗料並びにコーティング用シンナーにおいて広く使用されている。
【0035】
本発明の更なる実施形態によれば、絶縁シートの1平方メートル当たり1g~10gに含まれる量の、アクリレート誘導体をベースとする含浸用樹脂を含む絶縁シートが提供される。
【0036】
本発明の更なる実施形態によれば、絶縁シートを製造する方法が提供され、方法は、
a)15~80重量パーセントの結晶性ケイ酸塩鉱物粉末、例えば雲母を含む不織バッキングシートを提供するステップ、
b)樹脂含浸シートを得るために、アクリレート誘導体をベースとする含浸用樹脂のコーティング層をバッキングシート上に堆積するステップ
を含む。
【0037】
この構成は、例えば、雲母を含有するアラミド紙で作製されたバッキングシートが、マトリックス中に深く浸透できるコーティング樹脂層で含浸されているために特に有利である。このように、実装プロセス中に様々な機械的応力に曝露された後、アラミド紙から雲母が脱離することが防止されるが、アラミド/雲母紙の電気特性は、影響を受けない。具体的には、アラミド/雲母シートは、アラミドシートよりも高い部分放電耐性によって特徴付けられる。
【0038】
したがって、本発明の方法は、その後のアラミド/雲母絶縁シートの処理及び多層化を単純化することと、例えば電気モータの固定子スロット内に挿入するための絶縁材料としてのその使用を容易にすることとを可能にする。
【0039】
好ましくは、アラミド/雲母バッキングシートは、リールで供給され、含浸用樹脂は、「ロールツーロール」プロセスを用いてシートに塗布される。
【0040】
一実施形態によれば、方法は、第1の表面及び第2の表面を有する不織バッキングシートを含み、不織バッキングシートは、不織バッキングシート中の前記結晶性ケイ酸塩鉱物粉末、フロック及び結合剤の総量に基づいて15~80重量パーセントの結晶性ケイ酸塩鉱物粉末、5~25重量パーセントの耐熱性フロック及び20~60重量パーセントの結合剤を含み、含浸用樹脂のコーティング層は、不織バッキングシートの第1及び第2の表面の各々の上に堆積される。コーティング層は、前記第1及び第2の表面の各々を覆うと共に、その中に延びる前記含浸用樹脂の領域を提供する。含浸用樹脂の領域は、前記第1及び第2の表面の各々から不織バッキングシート中に10~50マイクロメートルの距離にわたって延び、及び更に、含浸用樹脂の領域は、前記第1及び第2の表面の各々の上に5~50マイクロメートルの含浸用樹脂の厚さを有する。いくつかの実施形態では、含浸用樹脂の領域は、前記第1及び第2の表面の各々の上に5~25マイクロメートルの含浸用樹脂の厚さを有する。好ましくは、結晶性ケイ酸塩鉱物粉末は、雲母である。
【0041】
本方法のいくつかの実施形態では、絶縁シートの不織シートは、20~70重量パーセントの雲母を含む。いくつかの他の実施形態では、絶縁シートの不織シートは、30~60重量パーセントの雲母を含む。
【0042】
本方法の好ましい実施形態によれば、絶縁シートは、耐熱性フロック、好ましくはアラミドフロックを含み、好ましいアラミドフロックは、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)フロックである。いくつかの好ましい実施形態では、絶縁シートは、結合剤、好ましくはアラミドフィブリドの結合剤を含み、好ましいアラミドフィブリドは、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)フィブリドである。
【0043】
本発明の更なる実施形態によれば、絶縁シートを製造する方法が提供され、ここで、コーティング層は、アクリレートモノマー及びアクリレートオリゴマーの化合物を含む。
【0044】
この構成の利点は、アクリレートモノマーとアクリレートオリゴマーとの化合物が高い可動性及び低分子量、例えば200ダルトン~500ダルトンの分子量を有することを特徴とし、したがって絶縁シートの多孔質部分に浸透できることである。
【0045】
具体的には、アクリレート化合物は、アラミド/雲母紙中に深く浸透して、雲母粉末を緻密化し、アラミド紙の構造中に永続的に固定させることが可能である。
【0046】
本発明の更なる実施形態によれば、絶縁シートの製造の方法が提供され、ここで、アクリレートモノマーは、二官能性又は三官能性メタクリレート、例えば1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)、ジプロピレングリコールジアクリレート(DPGDA)、ブタンジオールジメタクリレート(BDMA)、ネオペンチルグリコールジアクリレート(NPGDA)、イソボルニルアクリレート(IBOA)、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、ペンタエリスリチルトリアクリレート(PETIA)、テトラメチレンジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、プロポキシレート及び/又はエトキシレートである。
【0047】
本発明の更なる実施形態によれば、絶縁シートを製造する方法が提供され、ここで、アクリレートオリゴマーは、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート及び/又はポリエステルアクリレートである。
【0048】
本発明の更なる実施形態によれば、絶縁シートを製造する方法が提供され、ここで、コーティング層は、不飽和ポリエステルイミド材料を含む。
【0049】
この構成は、特に有利であり、なぜなら、ポリエステルイミド樹脂が絶縁シートのマトリックス中に深い浸透し、塵埃の落下及び脱落のいかなる可能性も回避し、それにより絶縁材料の加工可能性を改善することが可能であるためである。加えて、一般に電気モータを含浸させるために使用されるこのポリエステルイミド樹脂を、樹脂混合物に光開始剤を追加することにより、UV重合性コーティングに転換することが可能である。
【0050】
本発明の更なる実施形態によれば、絶縁シートを製造する方法が提供され、ここで、コーティング層は、有機溶媒を含み、及び方法は、
c)樹脂含浸シートを乾燥させることにより、有機溶媒を蒸発させるステップ
も含む。
【0051】
この構成の利点は、アクリレートオリゴマー及びモノマーの深い浸透を改善する目的でコーティング配合物に有機溶媒、例えばメチルエチルケトンが添加されることである。コーティング配合物の粘度を低下させる目的で有機溶媒を非反応性希釈剤として使用して、輪転グラビアによる湿式コーティングの塗布が可能になり、したがって均一且つ均質な表面が得られる。コーティング樹脂がバッキングシート中に浸透し終わると、有機溶媒は、蒸発される。
【0052】
本発明の更なる実施形態によれば、絶縁シートを製造する方法が提供され、ここで、含浸用樹脂は、重合光開始剤、特にUV重合光開始剤、例えばOmnirad TPO-L又は2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパノンも含み、方法は、
d)樹脂含浸シートを紫外線に曝露させて、コーティング層の重合をもたらすステップ
も含む。
【0053】
この構成の利点は、含浸用樹脂の重合が、絶縁シートに樹脂を塗布し、紫外線に曝露させた後に生じることである。このように、含浸用樹脂は、絶縁紙中に深く浸透することができ、絶縁紙を緻密化することができ、例えば以降の処理ステップで雲母の脱離及び脱落を防止する。
【0054】
好ましくは、UV重合プロセスは、好ましくは、200nm~400nmの範囲の波長を有する紫外線ランプへの曝露によって引き起こされ、紫外線ランプの放出は、光開始剤を含有する液体配合物が塗布された基板上に集中する。紫外線照射に続いて、ラジカルが生成され、ラジカルは、含浸用樹脂と相互作用して、配合物の重合及び架橋を生じさせ、配合物は、液体から固体に変化する。
【0055】
このように含浸されたアラミド/雲母紙を電気モータの構築で例えば2次絶縁体(スロット絶縁体)として有利に使用することができる。
【0056】
本発明の更なる実施形態によれば、上述したような少なくとも1つの絶縁シートと、少なくとも1つのプラスチックフィルム層とを含む積層体が提供され、ここで、絶縁シートは、好ましくは、積層体の外面を形成するようにプラスチックフィルム層の一方の面上に積層される。
【0057】
この構成は、特に有利であり、なぜなら、少なくとも1つのアラミド紙絶縁シートと、少なくとも1つのプラスチックフィルム層との組合せは、ユーザのニーズに適合できる物理的特性、誘電体特性、熱的特性及び機械的特性を有する絶縁積層体を得ることを可能にするためである。
【0058】
好ましくは、アラミドシート及びプラスチックフィルムの様々な層が適切な接着剤によって互いに接着される。
【0059】
好ましい構成によれば、プラスチックフィルムの層の一方又は両方の面に強固に接着されたアラミド紙の絶縁シートを含む積層体が提供され、それにより、この絶縁シートは、積層体の外層を形成する。積層体の外層は、外部環境に接触する層を指す。
【0060】
更なる好ましい構成によれば、アラミド紙絶縁シートと交互配置されたプラスチックフィルムのいくつかの層を含む積層体が提供され、ここで、前記絶縁シートは、積層体の少なくとも1つの外層を形成する。例えば、積層体は、プラスチックフィルムと絶縁紙シートとの交互層を含み得、アラミド紙シートによって形成される1つの外面及びプラスチックフィルム層によって形成される1つの外面を有し得るか、又はアラミド紙シートによって形成される両方の外面を有し得る。
【0061】
更なる好ましい構成によれば、プラスチックフィルムの1つ以上の層と、アラミド紙の1つ以上の絶縁シートとを任意の順序で一緒に積層した積層体が提供され、ここで、前記絶縁シートは、積層体の少なくとも1つの外層を形成する。例えば、積層体は、プラスチックフィルムと絶縁紙シートとが任意の順序で一緒に積層された1つ以上の層を含み得、アラミド紙シートによって形成される1つの外面及びプラスチックフィルム層によって形成される1つの外面を有し得るか、又はアラミド紙シートによって形成される両方の外面を有し得る。
【0062】
本発明の更なる実施形態によれば、上述したような複数の絶縁シートと複数のプラスチックフィルム層とを含む積層体が提供され、ここで、絶縁シートは、好ましくは、前記積層体の外面を形成するようにプラスチックフィルム層と交互配置される。
【0063】
この構成は、特に有利であり、なぜなら、アラミド紙の複数の絶縁シートと、プラスチックフィルムの複数の層との組合せは、ユーザのニーズに適合できる物理的特徴、誘電体特徴、熱的特徴及び機械的特徴を有する絶縁積層体を得ることを可能にするためである。
【0064】
好ましくは、アラミドシート及びプラスチックフィルムの様々な層が適切な接着剤によって互いに接着される。
【0065】
本発明の更なる実施形態によれば、上述したような1つ以上の絶縁シート又は上述したような1つ以上の積層絶縁シートを含む電気モータが提供される。
【0066】
高い部分放電耐性によって特徴付けられ、過酷な動作条件、例えば高電圧において又は機械的応力への曝露中でも優れた機械的特性を有する絶縁シートを用いて、電気モータの固定子から位相を絶縁することが可能であるため、この構成は、特に有利である。
【0067】
本発明は、添付図を参照して説明され、図では、同じ数字及び/又は参照記号は、システムの同じ、及び/又は類似の、及び/又は対応する部分を示す。
【図面の簡単な説明】
【0068】
図1】電気モータの固定子スロットのための絶縁コーティングとして使用されるアラミド/雲母絶縁シートを概略的に示す。
図2】本発明の一実施形態による、コーティング樹脂層も含むアラミド/雲母絶縁シートを製造するプロセスを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0069】
本明細書中の以下の本文において、添付図に示されるような具体的な実施形態を参照して本発明が説明される。しかしながら、本発明は、以下の詳細な説明に記載され、図で表される特定の実施形態に限定されず、むしろ、記載される実施形態は、本発明の様々な態様を単に例示するに過ぎず、その範囲は、特許請求の範囲によって定められる。本発明の更なる修正形態及び変形形態が当業者に明白となるであろう。
【0070】
本発明は、結晶性ケイ酸塩鉱物粉末、具体的には雲母を含む不織シート10であって、シート自体中に深く浸透する、アクリレート誘導体をベースとする樹脂のコーティングで含浸された不織シート10の絶縁シートに関する。不織シートとは、機械的、化学的及び熱的方法並びにそれらの組合せにより、ランダムなウェブ又はマット中に繊維材料を結合させ、且つ/又は噛み合わせることによって製造されるシート構造を意味する。不織シートの1つの好ましいタイプは、紙である。
【0071】
好ましくは、不織シートは、アラミドフロック、アラミドフィブリド又はそれらの混合物を含むアラミド紙である。アラミド紙は、好ましくは、アラミド繊維又は他の熱安定性フロック若しくは繊維或いはそのようなフロック又は繊維の混合物と共に、結合剤としてのメタ-アラミドフィブリドを含有する。熱安定性とは、所与のフロック又は繊維が、顕著な劣化を示すことなく、最終用途での温度への長期曝露に耐え得ること(通常、必要な温度、場合により180℃を超える温度への100,000時間の曝露後、その初期特性の少なくとも50%が残っていること)を意味する。
【0072】
本明細書で使用する場合、用語「アラミド」は、アミド(-CONH-)結合の少なくとも85%が直接2つの芳香族環に結合している芳香族ポリアミドを意味する。任意に、添加剤がアラミドと共に使用され得、ポリマー構造全体にわたって分散され得る。最高約10重量パーセントもの他のポリマー材料をアラミドとブレンドできることが見出された。アラミドのジアミンを置換する約10パーセントもの他のジアミン又はアラミドの二酸塩化物を置換する約10パーセントもの他の二酸塩化物を有するコポリマーを使用できることも見出された。
【0073】
好ましいアラミドは、メタ-アラミドである。アラミドポリマーは、2つの環又はラジカルが分子鎖に沿って互いに対してメタ位に方向付けられるときにメタ-アラミドであると考えられる。好ましいメタ-アラミドは、ポリ(メタ-フェニレンイソフタルアミド)(MPD-I)である。米国特許第3,063,966号明細書、米国特許第3,227,793号明細書、米国特許第3,287,324号明細書、米国特許第3,414,645号明細書及び米国特許第5,667,743号明細書は、アラミドフロックを製造するために使用され得るアラミド繊維を製造する有用な方法を記載している。
【0074】
好ましいアラミドフロックは、メタ-アラミドフロックであり、特に好ましいのは、メタ-アラミドポリ(メタ-フェニレンイソフタルアミド)(MPD-I)から作製されるフロックである。本明細書で使用する場合、用語「フロック」は、短い長さに切断され、紙の調製において通常使用される繊維を意味する。典型的には、フロックは、約3~約20ミリメートルの長さを有する。好ましい長さは、約3~約7ミリメートルである。フロックは、通常、当技術分野で公知の方法を使用して、連続繊維を、必要とされる長さに切断することによって製造される。
【0075】
本明細書で使用する場合、用語「フィブリド」は、それらの3つの寸法の少なくとも1つが最大の寸法に比べて小さい、非常に小さい非粒状、繊維質又はフィルム状の粒子を意味する。これらの粒子は、高剪断下で非溶媒を用いてポリマー材料の溶液を沈殿させることによって調製される。アラミドフィブリドは、320℃を超える融点又は分解点を有する芳香族ポリアミドの非粒状フィルム状粒子である。好ましいアラミドフィブリドは、メタ-アラミドフィブリドであり、特に好ましいのは、メタ-アラミドポリ(メタ-フェニレンイソフタルアミド)(MPD-I)から作製されるフィブリドである。フィブリドは、一般的に、約5:1~約10:1の長さ対幅のアスペクト比で約0.1mm~約1mmの範囲の最大寸法長さを有する。厚さ寸法は、数分の1マイクロメートル、例えば約0.1マイクロメートル~約1.0マイクロメートルのオーダーである。必須ではないが、アラミドフィブリドが未乾燥状態である間にフィブリドを層中に取り込ませることが好ましい。
【0076】
本明細書で使用する場合、アラミド紙は、製紙プロセスによって調製されたアラミド材料の1つ以上のプライ又は層から作製された平面シートを意味する。プライ又は層を作製するために使用できる代表的なデバイス及び機械装置には、例えば、限定されないが、長網抄紙機若しくは傾斜ワイヤー機などの連続処理装置又は成形スクリーンを含有するハンドシートの型において手作業で紙を作製する装置などのバッチ処理装置が含まれる。
【0077】
雲母含有シート又は紙を作製するために、1つの好ましい方法では、所望の量の雲母と繊維材料との混合物が水で混ぜ合わされ、次いでこの雲母含有水性分散体を使用して、適切な不織プロセスによって雲母含有不織シートが作製される。雲母含有アラミド紙を作製するための1つの具体例として、本明細書で先に述べた量の雲母、MPD-Iフィブリド及びMPD-Iフロックが水で混ぜ合わされて、製紙のための完成紙料として適切な雲母含有水性分散体が形成される。次いで、雲母含有分散体が製紙機械のヘッドボックスに供給され、ウェットレイドウェブが形成される。抄紙機の速度は、ウェットレイドウェブの所望の厚さを提供するために制御される。次いで、ウェットレイドウェブは、乾燥されて、非硬化の雲母を含有するアラミド形成されたウェブ又は層が形成され、これは、カレンダー加工によって更に硬化され得るか、又は他の同様に形成されたウェブと組み合わせてからカレンダー加工によって硬化され得る。
【0078】
本発明のために使用され得る雲母のタイプの非網羅的なリストは、白雲母、金雲母、フッ素金雲母及び合成雲母を含む。
【0079】
アクリレート樹脂は、ヒドロキシル化された樹脂と、アクリル酸又はメタクリル酸との間の縮合後に得られる。アクリレート樹脂は、好ましくは、塗布する際にその粘度を低下させ、且つアラミド紙中へのコーティングの浸透を促進するために、反応性アクリレート溶媒及び非反応性有機溶媒、例えばメチルエチルケトンで希釈される。このようにして、アラミド/雲母紙は、深い位置で緻密化されて、その後の処理ステップにおける雲母の脱離及び脱落が防止される。
【0080】
アラミド/雲母シート上にコーティング層が塗布された後且つコーティングがアラミド/雲母シート中に深く浸透した後、コーティング樹脂の重合が引き起こされる。具体的には、コーティング樹脂の重合は、光開始剤の追加と、好ましくは200nm~400nmの範囲の波長を有する紫外線への曝露とによって引き起こされる。
【0081】
本発明で使用する光開始剤の非限定的な例としては、Omnirad TPO-L、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパノン、ジフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸化物(TPO)、ホスフィン酸化物(BAPO)、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸化物(BAPO)、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(HCPK)若しくは2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-1-プロパノン(HMPP)又はバイ-アシルリン酸塩酸化物ポリマー(TPO)のクラスに属する光開始剤若しくはα-ヒドロキシケトンのクラスに属する光開始剤が挙げられる。
【0082】
好ましい構成では、絶縁シート10は、電気機械の回転構成要素又は静止構成要素を絶縁するために使用され得る。
【0083】
更なる好ましい構成では、絶縁シート10は、プラスチックフィルム層の複合積層体の一方又は両方の面上の外層として使用することができ、前記積層体は、電気機械の回転構成要素又は静止構成要素を絶縁するために使用することができる。更なる好ましい構成では、1つ以上の絶縁シート10を使用して多層積層体を形成し得、積層体は、好ましくは、アラミド紙の層と交互配置されて、一緒に積層された複数のプラスチックフィルム層を含み、積層体は、電気機械の回転構成要素又は静止構成要素を絶縁するために使用され得る。
【0084】
上述した絶縁シート10又は積層体は、回転する電気機械において固定子スロットの絶縁のために、固定子スロットを閉じるために、更に巻線の頭部において位相を分離するために使用することができ、静止した電気機械においてそれらを層間絶縁体として使用することができる。
【0085】
例えば、図1は、電気モータの固定子20のスロットを絶縁するために使用される適切に寸法決めされた絶縁シート11を示す。好ましくは、樹脂で含浸されたアラミド/雲母絶縁シート11は、基本的に、固定子20の深さに等しい長さ及び絶縁されるスロットの展開部に等しい幅を有するセグメントに切断される。絶縁シート11は、有利には、プレッサを使用して押し込むことにより、電気モータの固定子20の溝内に挿入され得る。絶縁シート11の機能は、「2次的絶縁」である。電流は、それ自体の1次的な絶縁をすでに有する銅巻線30を通過する一方、スロット絶縁シート11は、磁気シートメタルを銅巻線30から分離することに寄与する。
【0086】
コーティング層で含浸されたアラミド/雲母絶縁シートを製造するプロセスについて、図2を参照して説明する。
【0087】
事前形成されたアラミド/雲母バッキングシート7は、好ましくは、例えば1mに等しい幅及び100m~2000mの長さを有するリールで供給される。バッキングシート7は、例えば、文献「DuPont(商標)Nomex(登録商標)818,Technical Data Sheet,(著作権)Copyright 2016 DuPont」に記載されているDuPont(商標)Nomex(登録商標)818シートであり得る。バッキングシート7は、例えば、全組成物の50%に等しい量の雲母を含み得る。
【0088】
アクリレート樹脂コーティングは、図2に概略的に示す「ロールツーロール」プロセスを用いて、事前形成されたアラミド/雲母バッキングシート7上に塗布される。
【0089】
巻出機101が、製造ライン100にアラミド/雲母バッキングリール7を供給する。アクリレートモノマー及びアクリレートオリゴマーをベースとする樹脂、例えば不飽和ポリエステルイミド樹脂を含む液体配合物が調製され、この液体配合物にUV重合光開始剤、例えばOmnirad TPO-L又は2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパノンと、非反応性有機溶媒、例えばメチルエチルケトン(MEK)とが添加されて、樹脂自体の粘度を低下させ、アラミド紙マトリックス中への樹脂のより良好な浸透を可能にする。前記液体配合物は、塗布ステーション102でアラミド/雲母バッキングシート7の一表面上に塗布され、したがって含浸されたアラミド/雲母シート8、すなわち液体配合物を更に含むシートが製造される。好ましくは、液体配合物は、バッキングシート7の両方の表面上に塗布され、例えば最初に一方の面に、次いで反対側の面に塗布される。
【0090】
液体配合物は、好ましくは、グラビア技術若しくはグラビア彫刻ローラーコーティング技術、又はマイヤーバー技術、又はフーラード機械を使用する含浸により、アラミド/雲母バッキングシート7に塗布される。グラビア彫刻ローラーによるコーティングを用いる構成では、液体配合物は、最初に彫刻ローラーの空洞内で収集され、その後、アラミド/雲母バッキングシート7上に転写される。塗布される液体配合物の量は、グラビア彫刻ローラーのセルの深さに依存する。例えば、バッキングシート7の1平方メートル当たり10g~20gの範囲の液体配合物の量を塗布することが可能であり、液体配合物は、非反応性有機溶媒中に10重量%~50重量%のアクリレート樹脂を含有する溶液を含み、それにより、バッキングシート7の1平方メートル当たり1g~10gのアクリレート樹脂の乾燥堆積物が得られ、5μm~50μmの含浸深さに到達する。
【0091】
液体配合物の塗布後、含浸されたシート8は、工業用オーブンを含む加熱ステーション103に到達し、そこで非反応性有機溶媒が蒸発される。例えば、含浸されたシート8は、90℃~120℃の範囲の温度まで加熱されて、溶媒成分が蒸発され、コーティングが乾燥される。加熱プロセスが終わると、非反応性有機溶媒が蒸発されたシート9が得られる。
【0092】
次いで、シート9は、紫外線照射ステーション104に到達し、紫外線ランプによって放出される放射に曝露される。具体的には、紫外線は、光開始剤を含有する液体配合物が塗布された基板上に集束される。紫外線照射の結果、遊離基が生成され、遊離基は、シート中に浸透したアクリレート樹脂と相互作用して配合物の重合を引き起こし、配合物は液体から固体に変化する。したがって、UVへの曝露が終わると、絶縁シート10が得られる。絶縁シート10では、アクリレート系の含浸用樹脂が重合されている。
【0093】
好ましくは、液体配合物の塗布、有機溶媒の蒸発及び紫外線照射の動作は、絶縁シート10の反対側の面に対して繰り返される。例えば、樹脂含浸表面を含む絶縁シート10は、塗布ステーション102に戻され得、そこで液体配合物が反対側の表面に塗布され、次いで加熱ステーション103及び紫外線照射ステーション104を再び通過され得る。
【0094】
最後に、絶縁シート10は、より小さいシートに切断され、それから個々の絶縁片11が作製される。好ましくは、絶縁シート10は、固定子スロットの展開部に等しい幅、例えば1cm~10cmの幅を有するリールに切断される。
【0095】
本発明は、上述の実施形態を参照して説明されたが、本発明の主題及び保護範囲を逸脱することなく、上述した教示を考慮して且つ添付の特許請求の範囲内において、本発明の様々な変更形態、変形形態及び改良形態が可能であることが当業者に明らかである。
【0096】
例えば、結晶性ケイ酸塩鉱物粉末は、雲母を含むと記載されているが、他の結晶性ケイ酸塩鉱物粉末、例えばバーミキュライト、焼成クレイ、シリカ、滑石、ウォラストナイト及び/又はそれらの組合せがあり得ることが明らかである。例えば、列挙された粉末の各々は、補強要素としてのアラミド繊維と共に用いられ得る。
【0097】
例えば、不織シートは、好ましくは、アラミド繊維を含む紙構造であると記載されているが、異なるタイプの繊維、例えばガラス繊維、混合アラミド紙又はポリアミドイミド、ポリエステル、ポリイミドエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリスルフィド、ポリイミド等のフィルムであり得ることが明らかでる。例えば、結晶性ケイ酸塩鉱物粉末として雲母を含有させるために、示された補強要素の各々が使用され得る。
【0098】
最後に、この分野の専門家に既知と考えられるような領域は、記載されている本発明を不必要に不明瞭にすることを回避するために記載されていない。
【0099】
例えば、グラビアコーティング若しくはグラビア彫刻ローラーコーティング、マイヤーバー又はフーラード機械含浸のプロセスは、当業者に公知と見なされるために詳述されていない。
【0100】
例えば、「ロールツーロール」プロセスを用いたアラミド/雲母紙上での含浸用樹脂の堆積及び重合プロセスは、当業者に公知と見なされるために詳述されていない。
【0101】
したがって、本発明は、上述した実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲の保護の範囲によってのみ限定される。
【符号の説明】
【0102】
7 バッキングシート
8 樹脂で含浸されたシート
9 非反応性有機溶媒が蒸発されたシート
10 絶縁シート
11 切断された絶縁シート
20 固定子スロット
30 銅巻線
100 コーティングロールツーロール堆積及び重合ステーション
101 巻出機
102 液体配合物塗布ステーション
103 加熱ステーション
104 UV照射ステーション
105 切断ステーション
図1
図2
【国際調査報告】