IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フラウンホッファー−ゲゼルシャフト ツァー フェーデルング デア アンゲバンテン フォルシュング エー ファーの特許一覧

特表2024-527798被覆基材を調製する方法及び被覆基材及びその使用
<図1>
  • 特表-被覆基材を調製する方法及び被覆基材及びその使用 図1
  • 特表-被覆基材を調製する方法及び被覆基材及びその使用 図2
  • 特表-被覆基材を調製する方法及び被覆基材及びその使用 図3
  • 特表-被覆基材を調製する方法及び被覆基材及びその使用 図4
  • 特表-被覆基材を調製する方法及び被覆基材及びその使用 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】被覆基材を調製する方法及び被覆基材及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/87 20060101AFI20240719BHJP
   B22F 7/04 20060101ALI20240719BHJP
   C22C 1/051 20230101ALI20240719BHJP
【FI】
C04B41/87 A
B22F7/04 D
C22C1/051 G
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024502647
(86)(22)【出願日】2022-08-01
(85)【翻訳文提出日】2024-02-19
(86)【国際出願番号】 EP2022071551
(87)【国際公開番号】W WO2023012103
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】21189486.0
(32)【優先日】2021-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598080163
【氏名又は名称】フラウンホッファー-ゲゼルシャフト ツァー フェーデルング デア アンゲバンテン フォルシュング エー ファー
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュック、ケヴィン
(72)【発明者】
【氏名】ライマン、クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ラング、マイケル
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AB01
4K018AB02
4K018AB03
4K018AB04
4K018AC01
4K018AD01
4K018BA20
4K018BD04
4K018CA33
4K018DA31
4K018JA22
4K018KA07
4K018KA63
(57)【要約】
【要約】
本発明は、被覆基材を生成する方法に関し、ここで、第1の水性懸濁液及び第2の水性懸濁液を生成し、第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層を基材上に塗布し、第2の水性懸濁液の少なくとも1つの層を基材上に塗布された第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層上に塗布し、このようにして被覆された基材を焼結処理に供する。第1の水性懸濁液は、少なくとも1種の耐火金属炭化物、耐火金属ケイ化物、耐火金属窒化物、耐火金属ホウ化物、ケイ素、炭化ケイ素、窒化ホウ素、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化モリブデン、炭化ホウ素、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の焼結添加剤、及び水を含有する又はそれらからなる。第2の水性懸濁液は、同様に、少なくとも1種の耐火金属炭化物及び水を含有する。さらに、第2の水性懸濁液は、耐火金属ケイ化物、耐火金属窒化物、耐火金属ホウ化物、ケイ素、炭化ケイ素、窒化ホウ素、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化モリブデン、炭化ホウ素、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の焼結添加剤を含有することができ、ここで、第2の水性懸濁液の総重量に基づく第2の水性懸濁液中の少なくとも1種の焼結添加剤の重量パーセントでの含有量は、第1の水性懸濁液の総重量に基づく第1の水性懸濁液中の少なくとも1種の焼結添加剤の重量パーセントでの含有量よりも低い。代替的に、第2の水性懸濁液は、添加剤を含有しないことができる。本発明は、さらに、本発明による方法を用いて生成される又は生成できる被覆基材に、及び、そのような被覆基材の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1種の耐火金属炭化物、ケイ素、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、五酸化タンタル、炭化ホウ素、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化モリブデン、窒化ホウ素、窒化タンタル、窒化ジルコニウム、窒化ニオブ、二ホウ化タンタル、二ホウ化タングステン、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の焼結添加剤、及び水を含む又はからなる第1の水性懸濁液を調製し、
b)少なくとも1種の耐火金属炭化物及び水を含む第2の水性懸濁液を調製し、前記第2の水性懸濁液は、
- ケイ素、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、五酸化タンタル、炭化ホウ素、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化モリブデン、窒化ホウ素、窒化タンタル、窒化ジルコニウム、窒化ニオブ、二ホウ化タンタル、二ホウ化タングステン、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の焼結添加剤を含み、ここで、前記第2の水性懸濁液の総重量に基づく前記第2の水性懸濁液中の前記少なくとも1種の焼結添加剤の重量パーセントは、前記第1の水性懸濁液の総重量に基づく前記第1の水性懸濁液中の前記少なくとも1種の焼結添加剤の重量パーセントよりも低い、又は
- 焼結添加剤を含まず、
c)前記第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層を基材に塗布し、
d)前記第2の水性懸濁液の少なくとも1つの層を、前記基材に塗布された前記第1の水性懸濁液の前記少なくとも1つの層に塗布し、
e)ステップd)の後に、前記基材を焼結処理に供する
被覆基材を調製する方法。
【請求項2】
- 前記基材は、黒鉛、好ましくは等方性黒鉛、炭素繊維強化炭素(CFC)、C/SiC繊維コンポジット、SiC/SiC繊維コンポジット、炭化物セラミックス、窒化物セラミックス、酸化物セラミックス、及びそれらの混合物からなる群から選択される材料を含む又はからなる、及び/又は
- 前記耐火金属ケイ化物は、ケイ化チタン、ケイ化ジルコニウム、ケイ化ハフニウム、ケイ化バナジウム、ケイ化ニオブ、ケイ化タンタル、ケイ化クロム、ケイ化モリブデン、ケイ化タングステン、及びそれらの混合物からなる群から選択される、及び/又は
- 前記少なくとも1種の耐火金属炭化物は、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウム、炭化ニオブ、炭化タンタル、炭化クロム、炭化モリブデン、炭化タングステン、及びそれらの混合物からなる群から選択される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
- 前記少なくとも1種の耐火金属炭化物及び前記少なくとも1種の焼結添加剤は、粒子の形態で各々存在し、ここで、前記少なくとも1種の焼結添加剤の前記粒子の平均粒子サイズは、5μm未満である、及び/又は、前記少なくとも1種の耐火金属炭化物の前記粒子の平均粒子サイズよりも小さい、及び/又は
- 前記少なくとも1種の耐火金属炭化物は、好ましくは同じ耐火金属炭化物の、前記粒子の平均粒子サイズの観点で異なる粉末を含む又はからなる粉末混合物として存在する、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の水性懸濁液及び/又は前記第2の水性懸濁液は、
- それぞれの前記水性懸濁液の総重量に基づいて、60から90重量%、好ましくは70から85重量%の前記少なくとも1種の耐火金属炭化物を含む、及び/又は
- それぞれの前記水性懸濁液の総重量に基づいて、0.1から20重量%、好ましくは0.5から10重量%の前記少なくとも1種の焼結添加剤を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第2の水性懸濁液の総重量に基づく前記第2の水性懸濁液中の前記少なくとも1種の焼結添加剤の前記重量パーセントは、前記第1の水性懸濁液の総重量に基づく前記第1の水性懸濁液中の前記少なくとも1種の焼結添加剤の前記重量パーセントよりも、0.1重量%から20重量%だけ、好ましくは0.5重量%から10重量%だけ低い、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ステップa)における前記第1の水性懸濁液の前記調製及び/又はステップb)における前記第2の水性懸濁液の前記調製は、分散デバイスの補助を伴って、調製されることになる前記第1の水性懸濁液及び/又は前記第2の水性懸濁液の成分を混合することによって実行され、ここで、前記混合は、前記分散デバイスの補助を伴って、好ましくは粉砕媒体を使用して及び/又は少なくとも12時間の期間にわたって実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ステップc)における前記第1の水性懸濁液の前記少なくとも1つの層の前記塗布及び/又はステップd)における前記第2の水性懸濁液の前記少なくとも1つの層の前記塗布は、
- ディッピング、ブラッシング、又はスプレー塗布によって実行される、及び/又は
- 150μm未満、好ましくは20μmから100μm、特に好ましくは30μmから80μmの平均層厚で実行される、
請求項1に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1種の第3の水性懸濁液をさらに調製し、前記第3の水性懸濁液は、少なくとも1種の耐火金属炭化物及び水を含み又はからなり、ここで、前記少なくとも1種の第3の水性懸濁液は、焼結添加剤を含まない、
ステップd)及びe)の間で、前記少なくとも1種の第3の水性懸濁液の少なくとも1つの層を、前記第2の水性懸濁液の前記少なくとも1つの塗布された層に塗布する、
請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ステップe)における前記焼結処理は、
- 2100℃から2500℃、好ましくは2200℃から2400℃の温度で実行される、及び/又は
- 1時間から15時間、好ましくは2時間から10時間の保持時間で実行される、及び/又は
- 0.1バール(10kPa)から10バール(1000kPa)、好ましくは0.7バール(70kPa)から5バール(500kPa)の圧力で実行される、及び/又は
- 前記焼結処理の第1の時間セグメントの後で、前記圧力が、好ましくは3バール(300kPa)から7バール(700kPa)だけ、増加するように実行される、及び/又は
- アルゴン雰囲気下で実行される、
請求項1に記載の方法。
【請求項10】
基材、前記基材上に配置された、少なくとも1種の耐火金属炭化物、及び、ケイ素、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、五酸化タンタル、炭化ホウ素、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化モリブデン、窒化ホウ素、窒化タンタル、窒化ジルコニウム、窒化ニオブ、二ホウ化タンタル、二ホウ化タングステン、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の焼結添加剤を含む又はからなる少なくとも1つの第1の焼結層、及び、前記少なくとも1つの第1の焼結層上に配置された、少なくとも1種の耐火金属炭化物、及び任意選択で、ケイ素、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、五酸化タンタル、炭化ホウ素、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化モリブデン、窒化ホウ素、窒化タンタル、窒化ジルコニウム、窒化ニオブ、二ホウ化タンタル、二ホウ化タングステン、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の焼結添加剤を含む又はからなる少なくとも1つの第2の焼結層を備え、前記少なくとも1つの第1の焼結層は、少なくとも70%の相対密度を有し、前記少なくとも1つの第2の焼結層の前記相対密度は、前記少なくとも1つの第1の焼結層の前記相対密度よりも少なくとも3%低い、被覆基材。
【請求項11】
前記少なくとも1つの第1の焼結層は、
- 75%よりも高い、好ましくは80%よりも高い、特に好ましくは90%よりも高い、非常に特に好ましくは95%よりも高い相対密度を有する、及び/又は
- 1e-11よりも低い、好ましくは1e-13よりも低い透過率を有する、及び/又は
- 少なくとも2MPa、好ましくは少なくとも4MPaの接着強度を有する、及び/又は
- 少なくとも20μm、好ましくは20μmから150μm、特に好ましくは30μmから100μmの平均層厚を有する、
請求項10に記載の被覆基材。
【請求項12】
前記少なくとも1つの第2の焼結層は、
- 前記少なくとも1つの第1の焼結層の前記相対密度よりも、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、特に好ましくは10%から30%、非常に特に好ましくは15%から25%、特に18%から22%低い相対密度を有する、及び/又は
- 1e-11よりも低い、好ましくは1e-12よりも低い透過率を有する、及び/又は
- 少なくとも2MPa、好ましくは少なくとも4MPaの接着強度を有する、及び/又は
- 少なくとも20μm、好ましくは20μmから150μm、特に好ましくは30μmから100μmの平均層厚を有する、
請求項10に記載の被覆基材。
【請求項13】
前記被覆基材は、前記少なくとも1つの第2の焼結層上に配置された、少なくとも1種の耐火金属炭化物を含む又はからなる少なくとも1つの第3の焼結層を備え、ここで、前記少なくとも1つの第3の焼結層は、焼結添加剤を含まず、ここで、前記少なくとも1つの第3の焼結層の前記相対密度は、前記少なくとも1つの第2の焼結層の前記相対密度よりも少なくとも5%低く、
ここで、前記少なくとも1つの第3の焼結層は、好ましくは複数の焼結層の層配列を含み、ここで、前記層配列内の前記複数の焼結層の前記相対密度は、前記少なくとも1つの第2の焼結層からの距離が増加するにつれて減少する、
請求項10に記載の被覆基材。
【請求項14】
前記被覆基材は、請求項1に記載の方法を用いて調製できる又は調製される、請求項10に記載の被覆基材。
【請求項15】
半導体結晶成長における請求項10から14のいずれか一項に記載の被覆基材の使用であって、前記被覆基材は、好ましくは被覆坩堝である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆基材を調製する方法に関し、ここで、第1の水性懸濁液及び第2の水性懸濁液を調製し、第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層を基材に塗布し、第2の水性懸濁液の少なくとも1つの層を、基材に塗布された第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層に塗布し、このようにして被覆された基材を焼結処理に供する。第1の水性懸濁液は、少なくとも1種の耐火金属炭化物、ケイ素、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、五酸化タンタル、炭化ホウ素、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化モリブデン、窒化ホウ素、窒化タンタル、窒化ジルコニウム、窒化ニオブ、二ホウ化タンタル、二ホウ化タングステン、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の焼結添加剤、及び水を含む又はからなる。第2の水性懸濁液もまた、少なくとも1種の耐火金属炭化物及び水を含む。さらに、第2の水性懸濁液は、ケイ素、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、五酸化タンタル、炭化ホウ素、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化モリブデン、窒化ホウ素、窒化タンタル、窒化ジルコニウム、窒化ニオブ、二ホウ化タンタル、二ホウ化タングステン、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の焼結添加剤を含むことができ、第2の水性懸濁液の総重量に基づく第2の水性懸濁液中の少なくとも1種の焼結添加剤の重量パーセントは、第1の水性懸濁液の総重量に基づく第1の水性懸濁液中の少なくとも1種の焼結添加剤の重量パーセントよりも低い。代替的に、第2の水性懸濁液は、焼結添加剤を含まないこともできる。本発明は、さらに、本発明による方法を用いて調製される又は調製できる被覆基材及びそのような被覆基材の使用に関する。
【0002】
炭化タンタル(TaC)等の耐火金属炭化物は、一般に、それらの高い機械的、化学的、及び熱的耐性を特徴とする。上記材料の使用は、例えば半導体結晶成長における、高温用途に主に着目したものであり、ここでは、腐食性及び侵食性(aggressive)の高い種が存在し、したがって既存の(例えば、黒鉛製の)構成要素の使用性を制限するか又はその耐用寿命を著しく減少させる。文献から説明される熱間加圧処理を用いて、耐火金属炭化物から実証済みの体積の構成要素を低コストでかつ複雑な幾何学的形状に生成することは困難であることが実証されているので、好ましくは被覆が使用される。この処理に起因して、熱間加圧を介したセラミック層の調製は可能でない。被覆は、例えば、CVD処理を介して調製される。気相を介して、数マイクロメータの高密層を基材上に堆積させる。その例は、単層構造のTaC被覆である。しかしながら、このコスト集約的な方法は、任意の幾何学的形状及びサイズを有する被覆構成要素が、任意の層厚を有するように実現されることを妨げる。これらの領域におけるよりも大きな柔軟性を確実にするために、湿式セラミック処理(ディッピング、ブラッシング、又はスプレー)を介して基材に被覆を塗布する選択肢がある。これは、例えば、有機溶媒系の懸濁液を介して達成することができる(例えば、US2013/0061800A1を参照されたい)。所望の保護被覆特性を生み出すために、当初の懸濁液を介した塗布処理の下流に、焼結処理が追加される。
【0003】
最終的な焼結処理による機械的に安定な被覆(高い摩滅及び接着耐性)の生成に加えて、基材を高温用途における腐食性媒体から最適に保護するために、同時に高度な圧縮が必要である。耐火金属炭化物は、主に、強い共有結合及び非常に僅かな自己拡散を有する化合物であるので、第1の課題は、可能な限り最大の圧縮の程度を得るように焼結処理を最適化することである。特に無加圧焼結の分野において、焼結活性を高めるための一般的な方法は、焼結処理中に液状の融解相に変化し、したがって好ましい粒子再配列(液相焼結)をもたらす、焼結助剤の使用である。好ましくは、焼結助剤が所与の焼結条件(温度、圧力等)下で安定な融解相を形成することが確実にされるべきである。選択された焼結添加剤を使用する場合、例えば不活性ガス雰囲気でシステム圧力を高めることによって、焼結条件を理想的な焼結結果のために適合させることも有利であり得る。
【0004】
すでに公開されている文献(例えば、US2013/0061800A1を参照されたい)から、焼結添加剤としてコバルト等の特定の遷移金属を使用することで、TaC被覆の無加圧焼結中における圧縮の程度を最大化できることが知られている。しかしながら、コバルトは非常に毒性の高い物質であり、懸濁液ベースの被覆技術に関して環境、健康、及び安全性問題を課す。さらに、特定の遷移金属を焼結添加剤として使用する場合、非常に燃えやすい粉末混合物が生じる可能性があり、これもまた、安全性の観点から問題であり得る。半導体結晶成長における耐火金属炭化物系保護層の使用は、また、とりわけ上記文献から知られている遷移金属であるコバルト、ニッケル、鉄等を含む危険な不純物が、どのような状況下でも、被覆が用いられることになるリアクタの内部構造から成長雰囲気内に入り混んではならないことを要求する。
【0005】
このことから開始して、本発明の目的は、安全性の観点から危険性が低く、半導体結晶成長等における高温用途での使用に特に良好に適している被覆基材を調製するための方法を規定することである。さらに、本発明の目的は、安全性の観点からより安全な方式で調製できるとともに、半導体結晶成長等における高温用途での使用に特に良好に適している被覆基材を提供することである。
【0006】
この目的は、被覆基材を調製する方法に関する請求項1の特徴によって、及び、被覆基材に関する請求項10の特徴によって、達成される。請求項15は、本発明に従った被覆基材の可能な使用を規定している。従属請求項は、有利な発展を表している。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明による方法の例示的な変形形態の一部を示す。
図2】本発明による例示的な被覆基材のための層体系内の密度分布をグラフで示す。
図3】水性懸濁液の調製後に実行される方法ステップの概観図を示す。
図4】第1の焼結層4及び(焼結添加剤を含まない第2の水性懸濁液からもたらされる)第2の焼結層5の圧縮の程度の比較を示す。
図5】第1の焼結層4及び(焼結添加剤を含まない第2の水性懸濁液からもたらされる)第2の焼結層5の圧縮の程度の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
したがって、本発明によれば、a)少なくとも1種の耐火金属炭化物、ケイ素、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、五酸化タンタル(Ta)、炭化ホウ素(BC)、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化モリブデン、窒化ホウ素、窒化タンタル、窒化ジルコニウム、窒化ニオブ、二ホウ化タンタル、二ホウ化タングステン、ホウ化ジルコニウム(又は、二ホウ化ジルコニウム、ZrB)、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の焼結添加剤、及び水を含む又はからなる第1の水性懸濁液を調製し、
b)少なくとも1種の耐火金属炭化物及び水を含む第2の水性懸濁液を調製し、第2の水性懸濁液は、
- ケイ素、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、五酸化タンタル(Ta)、炭化ホウ素(BC)、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化モリブデン、窒化ホウ素、窒化タンタル、窒化ジルコニウム、窒化ニオブ、二ホウ化タンタル、二ホウ化タングステン、ホウ化ジルコニウム(又は、二ホウ化ジルコニウム、ZrB)、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の焼結添加剤を含み、第2の水性懸濁液の総重量に基づく第2の水性懸濁液中の少なくとも1種の焼結添加剤の重量パーセントは、第1の水性懸濁液の総重量に基づく第1の水性懸濁液中の少なくとも1種の焼結添加剤の重量パーセントよりも小さい、又は
- 焼結添加剤を含まず、
c)第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層を基材に塗布し、
d)第2の水性懸濁液の少なくとも1つの層を基材に塗布された第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層に塗布し、
e)ステップd)の後に、(被覆)基材を焼結処理に供する
被覆基材を調製する方法が規定される。
本発明による方法のステップa)において、第1の水性懸濁液を調製し、本発明による方法のステップb)において、第2の水性懸濁液を調製する。ステップb)は、ステップa)の前、ステップa)の後、又は(少なくとも部分的に)ステップa)と同時に実行することができる。第1の水性懸濁液及び/又は第2の水性懸濁液は、それぞれの懸濁液中に含まれることになる成分を混合することによって(それぞれ)調製することができる。第1の水性懸濁液及び第2の水性懸濁液は、少なくとも1種の耐火金属炭化物及び水を各々含む。第1の水性懸濁液中に含まれている少なくとも1種の耐火金属炭化物及び第2の水性懸濁液中に含まれている少なくとも1種の耐火金属炭化物は、同じ耐火金属炭化物又は異なる耐火金属炭化物とすることができる。さらに、第1の水性懸濁液は、ケイ素、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、五酸化タンタル、炭化ホウ素、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化モリブデン、窒化ホウ素、窒化タンタル、窒化ジルコニウム、窒化ニオブ、二ホウ化タンタル、二ホウ化タングステン、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の焼結添加剤を含む。第2の水性懸濁液は、ケイ素、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、五酸化タンタル、炭化ホウ素、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化モリブデン、窒化ホウ素、窒化タンタル、窒化ジルコニウム、窒化ニオブ、二ホウ化タンタル、二ホウ化タングステン、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される焼結添加剤も含むことができ、第2の水性懸濁液の総重量に基づく第2の水性懸濁液中の少なくとも1種の焼結添加剤の重量パーセントは、この場合、第1の水性懸濁液の総重量に基づく第1の水性懸濁液中の少なくとも1種の焼結添加剤の重量パーセントよりも低い。代替的に、第2の水性懸濁液は、焼結添加剤を含まないこともできる。例えば、第2の水性懸濁液は、ケイ素;五酸化タンタル;炭化ケイ素;炭化タングステン;炭化バナジウム;炭化モリブデン;窒化ホウ素;窒化タンタル;窒化ジルコニウム;窒化ニオブ;二ホウ化タンタル;二ホウ化タングステン;ホウ化ジルコニウム;耐火金属ケイ化物、例えば、TaSi、MoSi、ZrSi;遷移金属、例えば、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム;炭化ホウ素(BC);窒化ケイ素(Si);炭素;及びそれらの混合物からなる群から選択される焼結添加剤を含まなくてよい。好ましくは、第2の水性懸濁液は、少なくとも1種の耐火金属炭化物、水、及び任意選択で、ケイ素、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、五酸化タンタル、炭化ホウ素、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化モリブデン、窒化ホウ素、窒化タンタル、窒化ジルコニウム、窒化ニオブ、二ホウ化タンタル、二ホウ化タングステン、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の焼結添加剤からなる。第1の水性懸濁液中に含まれている少なくとも1種の焼結添加剤及び第2の水性懸濁液中に含まれている少なくとも1種の焼結添加剤は、同じ焼結添加剤又は異なる焼結添加剤とすることができる。
【0009】
第1の水性懸濁液中に含まれている少なくとも1種の焼結添加剤は、好ましくはケイ素、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0010】
第2の水性懸濁液が少なくとも1種の焼結添加剤を含む場合、第2の水性懸濁液中に含まれている上記少なくとも1種の焼結添加剤は、好ましくは、ケイ素、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0011】
例えば、第2の水性懸濁液は、少なくとも1種の耐火金属炭化物、水、及び任意選択で、ケイ素、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の焼結添加剤からなる。
【0012】
第2の水性懸濁液は、焼結添加剤を含まないことが可能である。例えば、第2の水性懸濁液は、ケイ素;ホウ化ジルコニウム;耐火金属ケイ化物、例えば、TaSi、MoSi、ZrSi;遷移金属;炭化ホウ素(BC);窒化ケイ素(Si);炭素;及びそれらの混合物からなる群から選択される焼結添加剤を含まなくてよい。
【0013】
焼結添加剤は、微細構造的及び空間的発展(例えば、収縮、粒成長、形状変化、及び/又は均質化)を制御するために、具体的にはセラミック構成要素の調製のためのセラミック系の焼結に対する助剤として添加される物質として理解することができる。
【0014】
本発明による方法のステップc)において、第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層を基材に塗布する。基材は、好ましくは炭素基材、特に好ましくは黒鉛基材、非常に特に好ましくは等方性黒鉛基材とすることができる。等方性黒鉛は、等方圧加圧処理によって調製された黒鉛を意味するものと理解される。例えば、基材は、坩堝、好ましくは炭素坩堝、特に好ましくは黒鉛坩堝、非常に特に好ましくは等方性黒鉛坩堝とすることができる。例えば、ディッピング、ブラッシング、スプレー塗布、又はそれらの組み合わせによって、第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層を基材に塗布することができる。例えば、少なくとも20μm、好ましくは20μmから150μm、特に好ましくは30μmから100μmの平均層厚を有する第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層を基材に塗布することができる。
【0015】
本発明による方法のステップd)において、第2の水性懸濁液の少なくとも1つの層を、ステップc)において基材に塗布された第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層に塗布する。例えば、ディッピング、ブラッシング、スプレー塗布、又はそれらの組み合わせによって、第2の水性懸濁液の少なくとも1つの層を塗布することができる。例えば、少なくとも20μm、好ましくは20μmから150μm、特に好ましくは30μmから100μmの平均層厚を有する第2の水性懸濁液の少なくとも1つの層を、ステップc)において基材に塗布された第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層に塗布することができる。
【0016】
本発明による方法のステップe)において、基材を焼結処理に供する。これは、ステップd)の後に、すなわち、基材に塗布された第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層への第2の水性懸濁液の少なくとも1つの層の塗布の後に、実行される。したがって、ステップe)において焼結処理に供される被覆基材は、ステップc)において塗布された第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層及びステップd)において塗布された第2の水性懸濁液の少なくとも1つの層の両方を有する。したがって、ステップe)において、第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層及び第2の水性懸濁液の少なくとも1つの層の両方を同時に焼結処理に供する。第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層からの少なくとも1種の耐火金属炭化物を含む少なくとも1つの第1の焼結層及びまた第2の水性懸濁液の少なくとも1つの層からの少なくとも1種の耐火金属炭化物を含む少なくとも1つの第2の焼結層を、焼結処理によって調製することができる。
【0017】
本発明による方法は、高温及び摩耗保護層又は摩耗保護層体系(wear-protection layer system)として機能することができる、基材上での耐火金属炭化物系層の調製を実現する。
【0018】
本発明による方法は、基材上に耐火金属炭化物系被覆を調製するための湿式セラミック方法である。CVD又はPVD処理を介して調製された層とは対照的に、湿式セラミック処理を介して調製された層は、ランダムな粒度配向を有する等方性テクスチャを示し、これにより、クラックの生じやすさが減少し、基材にとって有害な種の拡散経路が増加する。この理由で、本発明に従って調製される被覆基材は、CVD又はPVD方法を介して調製される被覆基材と比較して、高温用途において使用される侵食性物質に対する改善された保護を有する。さらに、本発明による湿式セラミック方法は、CVD又はPVD方法よりも費用対効果が高く、かつ、調製できる被覆構成要素の幾何学的形状及びサイズ、及び、塗布された被覆又は層の層厚の観点で、より大きな柔軟性も提供する。
【0019】
さらに、被覆基材を調製するための本発明による方法は、水性懸濁液の使用に基づくものである。水性懸濁液の使用は、有機懸濁液の使用を超える様々な利点を有する。有機懸濁液とは対照的に、水性懸濁液は安価であり、環境及び健康の観点から無害であり、かつ易燃性スプレーミストの安全性関連問題も伴わない。さらに、水性懸濁液を使用する場合、被覆内への異物の不所望な侵入につながり得る、有機溶媒を除去するための熱分解の必要性がない。さらに、既知の有機懸濁液の使用とは対照的に、水性懸濁液を使用する場合、懸濁液の制御された塗布が可能である。特に、既知の有機懸濁液のスプレー塗布では、上記処理中に溶媒の蒸発に起因して懸濁液特性が変動する可能性があるので、制御された塗布が可能でなく、したがって、時間とともに均質な層を取得することができない。
【0020】
本発明による方法において、1又は複数種の焼結添加剤が用いられ、焼結添加剤は、ケイ素、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、五酸化タンタル、炭化ホウ素、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化モリブデン、窒化ホウ素、窒化タンタル、窒化ジルコニウム、窒化ニオブ、二ホウ化タンタル、二ホウ化タングステン、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される、好ましくは、ケイ素、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される。本発明に従って用いられる上記焼結添加剤は、それらの特性(例えば、融点、沸点等)に起因して、従来技術において焼結添加剤として用いられている遷移金属(例えば、コバルト、ニッケル、鉄等)に対して、圧縮の程度に関して少なくとも同じ又はさらにはより良好な効果を有することが示されている。したがって、上記添加剤を用いることによって、基材上に調製された焼結層の高度な圧縮を達成することができ、これにより、基材が高温用途における腐食性媒体から非常に良好に保護される。コバルト等の、従来技術において用いられている焼結添加剤と比較して、本発明に従って用いられる焼結添加剤は、まず、安全性及び健康の観点で無害であることによって区別される。さらに、本発明に従った焼結添加剤の使用及びしたがって焼結添加剤としてのコバルト、ニッケル、鉄等の特定の遷移金属の回避によって、半導体結晶成長における高温用途において被覆基材が使用される場合にそこで成長雰囲気に対して有害な不純物として上記遷移金属が層内に残留することがさらに防止される。
【0021】
第2の水性懸濁液は、焼結添加剤を含まないか、又は、第1の水性懸濁液中に含まれているよりも低い重量パーセントの焼結添加剤を含むかのいずれかであるので、本発明による方法を用いて基材上に調製された被覆は、少なくとも2つの異なる焼結層という非常に有利な層構造を有する。上記層構造は、基材上に配置された少なくとも1つの第1の焼結層であって、少なくとも1種の耐火金属炭化物、及び、ケイ素、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、五酸化タンタル、炭化ホウ素、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化モリブデン、窒化ホウ素、窒化タンタル、窒化ジルコニウム、窒化ニオブ、二ホウ化タンタル、二ホウ化タングステン、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の焼結添加剤を含む又はからなる、第1の焼結層、及び、少なくとも1つの第1の焼結層上に配置された少なくとも1つの第2の焼結層であって、少なくとも1種の耐火金属炭化物、及び任意選択で、ケイ素、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、五酸化タンタル、炭化ホウ素、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化モリブデン、窒化ホウ素、窒化タンタル、窒化ジルコニウム、窒化ニオブ、二ホウ化タンタル、二ホウ化タングステン、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の焼結添加剤を含む又はからなる、第2の焼結層を備える。少なくとも1種の焼結添加剤は、少なくとも部分的に分解された形態で及び/又は少なくとも1種の焼結添加剤と少なくとも1種の耐火金属炭化物との反応の反応生成物の形態で存在することもできる。焼結処理中に取得される層中に焼結添加剤が存在すること又は焼結添加剤の割合がより高いことは、焼結層のより高度な圧縮をもたらし、焼結処理の後で、層構造の第2の焼結層は、第1の焼結層のそれに対してより低い相対密度又はより低い程度の圧縮を有する。こうして取得される層構造は、基材からの(すなわち、第1の焼結層から第2の焼結層までの)距離が増加するにつれて、圧縮の程度又は相対密度が減少する密度勾配を有する。例えば、少なくとも1つの第1の焼結層は、少なくとも70%の相対密度を有することができ、少なくとも1つの第2の焼結層の相対密度は、少なくとも1つの第1の焼結層の相対密度よりも少なくとも3%低いものとすることができる。
【0022】
第1の水性懸濁液中の焼結添加剤の割合がより高いことに起因して、調製された被覆基材の第1の焼結層(すなわち、層構造のうちの、基材と直接接触している第1の層)は、比較的高度な圧縮又は比較的高い相対密度を有し、この理由により、基材が高温用途における侵食性媒体に対して非常に良好に保護される。第2の水性懸濁液が、より低い割合の焼結添加剤を含むか又は焼結添加剤を含まないので、調製された被覆基材の第2の焼結層(すなわち、層構造のうちの第2の層)もまた、焼結添加剤を含まないか又は少量のみ含み、これにより、調製された被覆基材が半導体結晶成長における高温用途において用いられる場合に、被覆からの焼結添加剤が成長雰囲気に侵入して当該雰囲気を汚染し得るリスクを減少させることができる。この場合、少なくとも1つの第2の焼結層もまた保護層として機能することができ、これにより、少なくとも1つの第1の焼結層からの焼結添加剤が成長雰囲気に入り込むリスクが減少する。さらに、少なくとも1つの第2の焼結層は、第2の水性懸濁液中において焼結添加剤の割合がより低いことに起因して又は焼結添加剤が欠如していることから、少なくとも1つの第1の焼結層に対してより低い程度の圧縮又はより低い相対密度を有する。その結果もたらされる少なくとも1つの第2の焼結層のより高い気孔率により、半導体結晶成長における高温用途で被覆基材を使用する場合の利点がもたらされ、結晶成長において用いられる融解物のためのより大きな接触表面が上記のより高い気孔率を通して取得されるので、それにより蒸発速度を及びひいては成長速度をも高めることができる。
【0023】
したがって、本発明による方法を用いて取得される、直前で記載した層体系(layer system)の結果として、本発明に従って調製された被覆基材は、半導体結晶成長等における高温用途での使用に特に良好に適しているものである。
【0024】
第1及び第2の水性懸濁液中の焼結添加剤の量を選択すること、及び任意選択で、焼結パラメータを調整もすることによって、層体系内で所望の密度勾配を達成することができるように、層体系のうちの個別の層における相対密度を設定することができる。ここで、層体系が低い密度勾配を有する場合が特に有利であり、なぜなら、層体系はその場合に熱的により一層安定であるからである。
【0025】
本発明による方法を用いて調製できる被覆基材は、例えば、窒化ガリウム半導体結晶を成長させるために使用することができるVPE-GaNリアクタにおけるガリウムエバポレータ又はガリウムエバポレータの一部として用いることができ、本発明による方法において取得された層体系は、この場合、ガリウムエバポレータのための被覆として機能する。この場合、層体系の少なくとも1つの第1の焼結層(すなわち、第1の水性懸濁液からもたらされる焼結層)によって、より高い相対密度に起因して、ガリウムエバポレータのベース材料を腐食性の融解ガリウムから特に良好に保護することができ、その一方で、層体系の少なくとも1つの第2の焼結層(すなわち、第2の水性懸濁液からもたらされる焼結層)のより低い相対密度及びより高い気孔率に起因して、融解ガリウムのための接触面積がより大きいので、ガリウム蒸発速度を及びひいては窒化ガリウム成長速度をも高めることができる。
【0026】
ステップc)及びd)の間で、少なくとも1つの被覆基材は、好ましくは焼結処理に供されない。これは、第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層で被覆された基材は、好ましくは、基材に塗布された第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層に第2の水性懸濁液の少なくとも1つの層が塗布される前に焼結処理に供されないことを意味する。被覆基材は、ステップd)の後にのみ焼結処理に供されるので、ステップc)において塗布された第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層及びステップd)において塗布された第2の水性懸濁液の少なくとも1つの層は、焼結処理において同時に焼結することができる。それにより、層をそれぞれ塗布した後に2つの層の各々を別々に焼結することが回避され、それにより、焼結ステップが省かれる。結果として、処理がより高速かつより安価である。さらに、第2の水性懸濁液の少なくとも1つの層を、第1の水性懸濁液のすでに焼結された層に塗布する場合、浸透の欠如に起因してその結合が弱化する可能性があり、したがって、熱応力を受けた場合により容易に剥離が発生する可能性がある。これは、ステップd)の後の焼結処理で、ステップc)及びd)において塗布された2つの層を一緒に焼結することによって回避することができる。
【0027】
本発明による方法のステップc)において、第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層を、基材の表面全体に、又は、基材の表面の1又は複数のセクションのみに、塗布することができる。本発明による方法のステップd)において、第2の水性懸濁液の少なくとも1つの層を、ステップc)において塗布された第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層全体に、又は、ステップc)において塗布された第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層の1又は複数のセクションのみに、塗布することができる。基材が坩堝である場合、例えばステップc)において、第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層を、坩堝の表面全体に塗布することができ、ステップd)において、第2の水性懸濁液の少なくとも1つの層を、坩堝の内側に位置する第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層のセクションのみに塗布することができる。
【0028】
本発明による方法の好ましい変形形態は、
- 基材が、黒鉛、好ましくは等方性黒鉛、炭素繊維強化炭素(CFC)、C/SiC繊維コンポジット、SiC/SiC繊維コンポジット、炭化物セラミックス、窒化物セラミックス、酸化物セラミックス、及びそれらの混合物からなる群から選択される材料を含む又はからなる、及び/又は
- (ステップa)における及び/又はステップb)における)耐火金属ケイ化物が、ケイ化チタン、ケイ化ジルコニウム、例えば、二ケイ化ジルコニウム(ZrSi)、ケイ化ハフニウム、例えば、二ケイ化ハフニウム(HfSi)、ケイ化バナジウム、例えば、二ケイ化バナジウム(VSi)、ケイ化ニオブ、例えば、二ケイ化ニオブ(NbSi)、ケイ化タンタル、例えば、二ケイ化タンタル(TaSi)、ケイ化クロム、ケイ化モリブデン、例えば、二ケイ化モリブデン(MoSi)、ケイ化タングステン、例えば、二ケイ化タングステン(WSi)、及びそれらの混合物からなる群から選択される、及び/又は
- (ステップa)における及び/又はステップb)における)少なくとも1種の耐火金属炭化物が、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウム、炭化ニオブ、炭化タンタル、炭化クロム、炭化モリブデン、炭化タングステン、及びそれらの混合物からなる群から選択される
ことを特徴とする。
【0029】
本発明による方法の特に好ましい変形形態によれば、(ステップa)における及び/又はステップb)における)耐火金属ケイ化物は、二ケイ化ジルコニウム(ZrSi)、二ケイ化ハフニウム(HfSi)、二ケイ化バナジウム(VSi)、二ケイ化ニオブ(NbSi)、二ケイ化タンタル(TaSi)、二ケイ化モリブデン(MoSi)、二ケイ化タングステン(WSi)、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0030】
1400℃から2200℃の間の融解温度範囲と組み合わせた、環境、健康、及び安全性に関連する無害な使用に起因して、ケイ化チタン、ケイ化ジルコニウム、ケイ化ハフニウム、ケイ化バナジウム、ケイ化ニオブ、ケイ化タンタル、ケイ化クロム、ケイ化モリブデン、ケイ化タングステン、及びそれらの混合物からなる群から選択される耐火金属ケイ化物は、高温焼結処理のための焼結添加剤として最適である。焼結添加剤としての上記金属ケイ化物の使用によって、加熱フェーズ中に所望の融解相を形成することができ、能動的な焼結の前に、焼結活性を高めるような粒子の望ましい再配列を生じさせることができる。したがって、焼結添加剤の融解温度は、焼結温度よりも低いものとすることができる。さらに、所与の圧力条件下での焼結添加剤の沸騰温度は、用いられる焼結温度よりも大幅に高いものとすることができ、それにより、焼結処理全体にわたる液相の一定の安定性が確実になるとともに、蒸発の可能性を回避する。さらに、焼結添加剤の融解温度は、耐火金属炭化物被覆(例えば、TaC被覆)の塗布温度を下回るものとすることができ、それにより、使用中に焼結添加剤が蒸発することを防止する。
【0031】
少なくとも1種の焼結添加剤が、MoSi、TaSi、又はそれらの混合物である場合が特に有利である。上記焼結添加剤は、約2050℃の融点を有することから高温安定性を有し、したがって、例えばリアクタ内部構造中での、高温での使用に特に適している。
【0032】
少なくとも1種の耐火金属炭化物は、非常に特に好ましくは炭化タンタルである。炭化タンタルは、基材のための特に良好な保護効果を実現する。
【0033】
基材は、好ましくは、黒鉛、好ましくは等方性黒鉛、炭化物セラミックス、窒化物セラミックス、酸化物セラミックス、及びそれらの混合物からなる群から選択される材料を含む又はからなることができる。
【0034】
基材は、好ましくは、黒鉛、好ましくは等方性黒鉛、炭素繊維強化炭素(CFC)、C/SiC繊維コンポジット、SiC/SiC繊維コンポジット、及びそれらの混合物からなる群から選択される材料を含む又はからなることができる。
【0035】
炭素系基材及びSiC系基材は、水性懸濁液が塗布される場合に増加した浸透挙動を示す。結果として、本発明による方法は、そのような基材に特に適している。
【0036】
基材は、非常に特に好ましくは、黒鉛、好ましくは等方性黒鉛を含む又はからなる。
【0037】
本発明による方法のさらに好ましい変形形態は、少なくとも1種の耐火金属炭化物及び少なくとも1種の焼結添加剤が各々粒子の形態で存在し、少なくとも1種の焼結添加剤の粒子の平均粒子サイズ(mean particle size)が5μm未満である、及び/又は、少なくとも1種の耐火金属炭化物の粒子の平均粒子サイズよりも小さいことを特徴とする。少なくとも1種の焼結添加剤の粒子の粒子サイズが5μm未満であることで、焼結処理後の被覆におけるより大きな穴又はさらには構造の欠如を回避することが可能になる。少なくとも1種の焼結添加剤の粒子の平均粒子サイズが、少なくとも1種の耐火金属炭化物の粒子の平均粒子サイズよりも小さいことで、焼結添加剤粒子が耐火金属炭化物層中の空隙により良好に蓄積し得るという利点がもたらされる。少なくとも1種の耐火金属炭化物の粒子の平均粒子サイズは、好ましくは、0.2から2μmの間の範囲にあることができる。
【0038】
少なくとも1種の耐火金属炭化物の粒子の平均粒子サイズ及び/又は少なくとも1種の焼結添加剤の粒子の平均粒子サイズは、例えば、レーザ回折(DIN13320:2020-01)によって判定することができる。
【0039】
本発明による方法のさらに好ましい変形形態によれば、少なくとも1種の耐火金属炭化物は、好ましくは同じ耐火金属炭化物の、粒子の平均粒子サイズが異なる粉末を含む又はからなる粉末混合物として存在する。換言すれば、ここで、少なくとも1種の耐火金属炭化物として粉末混合物が使用され、粉末混合物は、好ましくは同じ耐火金属炭化物の、異なる耐火金属炭化物粒子を含み、当該粒子は、それらの平均粒子サイズの観点で互いに異なる。例えば、粉末混合物は、好ましくは同じ耐火金属炭化物の、2つのタイプの粒子を含むことができ、第1のタイプの粒子の平均粒子径(average particle diameter)は、第2のタイプの粒子の平均粒子径より大きい。例えば、同じ耐火金属炭化物の異なる粉末を、ナノ及びミクロンサイズの粒子の特定の比で一緒に混合して、そのような粉末混合物を取得することができる。少なくとも1種の耐火金属炭化物が粉末混合物として存在するので、開放空間をより良好に充填することができることから、基材上での耐火金属炭化物粉末粒子の配列をより空隙が無いように設計することができる。このようにして、調製された層の相対密度を、層中の焼結添加剤の存在及び量とは無関係に高めることができる。
【0040】
少なくとも1種の耐火金属炭化物は、好ましくは、ステップb)における第2の水性懸濁液の調製において、粒子の平均粒子サイズが異なる同じ耐火金属炭化物の粉末を含む又はからなる粉末混合物として存在し、第2の水性懸濁液は、好ましくは焼結添加剤を含まない。このようにして、少なくとも1種の第2の懸濁液からもたらされる層の相対密度を(好ましくは焼結添加剤を使用せずに)高めることができ、その結果、層状構造における密度勾配が低くなり、それにより、層状構造の熱安定性及び(例えば、成長雰囲気中への不純物の拡散に関する)準拡散阻害効果(quasi-diffusion-inhibiting effect)が高まる。密度差が低いことで、層密度の急激な変化、及び、そこから生じる、クラック、剥離、又は最悪の場合には層体系の不全をもたらし得る、層体系において不均一に分散される熱応力を回避することがでる。したがって、層体系は、より熱的に安定である。さらに、異なる粒子サイズの耐火金属炭化物粒子の使用に起因して、第2の層は比較的低い気孔率も有し、それにより、当該層は外部雰囲気に対する分離層として機能することができ、準拡散阻害効果がもたらされる。
【0041】
本発明による方法のさらに好ましい変形形態は、第1の水性懸濁液及び/又は第2の水性懸濁液が、
- それぞれの水性懸濁液の総重量に基づいて、60から90重量%、好ましくは70から85重量%の少なくとも1種の耐火金属炭化物を含む、及び/又は
- それぞれの水性懸濁液の総重量に基づいて、0.1から20重量%、好ましくは0.5から10重量%の少なくとも1種の焼結添加剤を含む
ことを特徴とする。
【0042】
例えば、第1の水性懸濁液は、それぞれの水性懸濁液の総重量に基づいて、0.2から20.0重量%、好ましくは0.6から10.0重量%の少なくとも1種の焼結添加剤を含むことができ、及び/又は、第2の水性懸濁液は、それぞれの水性懸濁液の総重量に基づいて、0.1から19.9重量%、好ましくは0.5から9.9重量%の少なくとも1種の焼結添加剤を含むことができる。
【0043】
本発明による方法のさらに好ましい変形形態によれば、第2の水性懸濁液の総重量に基づく第2の水性懸濁液中の少なくとも1種の焼結添加剤の重量パーセントは、第1の水性懸濁液の総重量に基づく第1の水性懸濁液中の少なくとも1種の焼結添加剤の重量パーセントよりも、おおよそ0.1重量%から20重量%、好ましくはおおよそ0.5重量%から10重量%低い。このようにして、第1の層(すなわち、第1の水性懸濁液からもたらされる層)及び第2の層(すなわち、第2の水性懸濁液からもたらされる層)の層構造内の低い密度勾配を得ることができ、それにより、層構造の熱安定性及び(例えば、成長雰囲気中への不純物の拡散に関する)準拡散阻害効果が高められる。密度差が低いことで、層密度の急激な変化、及び、そこから生じる、クラック、剥離、又は最悪の場合には層体系の不全をもたらし得る、層体系において不均一に分散される熱応力を回避することがでる。したがって、層体系は、より熱的に安定である。さらに、焼結添加剤の使用に起因して、第2の層は比較的低い気孔率も有し、それにより、当該層は外部雰囲気に対する分離層として機能することができ、準拡散阻害効果がもたらされる。
【0044】
例えば、第2の水性懸濁液の総重量に基づく第2の水性懸濁液中の少なくとも1種の焼結添加剤の重量パーセントは、第1の水性懸濁液の総重量に基づく第1の水性懸濁液中の少なくとも1種の焼結添加剤の重量パーセントの0.1重量%から19.9重量%だけ、好ましくは0.5重量%から9.9重量%だけ小さくすることができる。
【0045】
少なくとも1種の第1の水性懸濁液及び/又は少なくとも1種の第2の水性懸濁液は、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸、ポリウレタン、クロロプレンゴム、フェノール樹脂、アクリル樹脂、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、デキストリン、ソジウムビフェニル-2-イルオキシド、ポリフェニルオキシド、及びそれらの混合物からなる群から選択される、好ましくは、ポリビニルアルコール、ソジウムビフェニル-2-イルオキシド、ポリフェニルオキシド、及びそれらの混合物からなる群から選択される、少なくとも1種の結合剤を含むことができ、少なくとも1種の結合剤は、好ましくは、少なくとも1種の第1の水性懸濁液及び/又は少なくとも1種の第2の水性懸濁液中に、それぞれの水性懸濁液の総重量に基づいて、0.05から1重量%又は0.01から5重量%の割合で存在することが可能である。
【0046】
本発明による方法のさらに好ましい変形形態は、ステップa)における第1の水性懸濁液の調製及び/又はステップb)における第2の水性懸濁液の調製が、分散デバイスの補助を伴って、調製されることになる懸濁液の成分を混合することによって実行され、混合は、分散デバイスの補助を伴って、好ましくは粉砕媒体を使用して、及び/又は、少なくとも12時間の期間にわたって行われることを特徴とする。このようにして、それぞれの水性懸濁液の最適な混合を達成することができ、それにより、焼結添加剤の分布及びしたがって圧縮における不均質性を回避することができる。例えば、分散デバイスを用いて混合する場合、最大1m/sの回転速度を用いることができる。
【0047】
本発明による方法のさらに好ましい変形形態は、ステップc)における第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層の塗布、及び/又は、ステップd)における第2の水性懸濁液の少なくとも1つの層の塗布が、
- ディッピング、ブラッシング、又はスプレー塗布によって実行される、及び/又は
- 150μm未満、好ましくは20μmから100μm、特に好ましくは30μmから80μmの平均層厚で実行される
ことを特徴とする。
【0048】
スプレー塗布は、好ましくは20μmから80μmの範囲の層厚を有する、1又は複数の薄い速乾の耐火金属炭化物層の調製のために好ましい選択である。スプレージェットを用いて、構成要素を高速回転させることによって、懸濁液の固形分に応じて迅速にから非常に迅速に乾燥し得る非常に薄い懸濁液層を表面に塗布することができる。耐火金属炭化物粉末の固形分は、好ましくは、総懸濁液の70重量%よりも多いか又はそれに等しい。塗布されることになる各個別の層は、好ましくは、同等の乾燥挙動を示すべきである。原理的に、層の乾燥にかかる時間が長すぎる場合には、耐火金属炭化物及び焼結添加剤の間の密度差によって粒子の分布に不均質性が生じる可能性があるので、塗布された懸濁液層の速乾挙動は好ましいものである。
【0049】
本発明による方法のさらに好ましい変形形態は、少なくとも1種の第3の水性懸濁液が加えて調製され、第3の水性懸濁液は、少なくとも1種の耐火金属炭化物及び水を含み又はからなり、少なくとも1種の第3の水性懸濁液は、焼結添加剤を含まず、ステップd)及びe)の間で、少なくとも1種の第3の水性懸濁液の少なくとも1つの層を第2の水性懸濁液の少なくとも1つの塗布された層に塗布することを特徴とする。第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層、第2の水性懸濁液の少なくとも1つの層、及び第3の水性懸濁液の少なくとも1つの層は、この場合、焼結処理ステップe)において一緒に(同時に)焼結することができる。これにより、熱応力下でも安定である、層間の安定な結合が形成される。少なくとも1種の第3の水性懸濁液中に含まれている少なくとも1種の耐火金属炭化物は、第1の水性懸濁液中に含まれている耐火金属炭化物と及び/又は第2の水性懸濁液中に含まれている耐火金属炭化物と同一とすることができる。少なくとも1種の第3の水性懸濁液中に含まれている少なくとも1種の耐火金属炭化物は、好ましくは、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウム、炭化ニオブ、炭化タンタル、炭化クロム、炭化モリブデン、炭化タングステン、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0050】
好ましくは、複数種の第3の水性懸濁液を加えて調製することができ、第3の水性懸濁液は、少なくとも1種の耐火金属炭化物及び水を含み又はからなり、複数種の第3の水性懸濁液は、焼結添加剤を含まず、ステップd)及びe)の間で、第3の水性懸濁液の各々の少なくとも1つの層を、第2の水性懸濁液の少なくとも1つの塗布された層に互いに重ねて塗布し、それにより、第3の水性懸濁液の層の結果として層配列(layer sequence)がもたらされる。このようにして、焼結後に取得された被覆基材は、複数の第3の焼結層の層配列を有することができ、上記層配列内の複数の焼結層の相対密度は、少なくとも1つの第2の焼結層からの距離が増加するにつれて減少する。例えば、焼結パラメータを調整することによって、層配列の個別の層における相対密度を、層配列内の(所望の)密度勾配を達成することができるように設定することができる。
【0051】
本発明による方法のさらに好ましい変形形態は、ステップd)において実行される焼結処理が、
- 2100℃から2500℃、好ましくは2200℃から2400℃の温度で実行される、及び/又は
- 1時間から15時間、好ましくは2時間から10時間の保持時間で実行される、及び/又は
- 0.1バール(10kPa)から10バール(1000kPa)、好ましくは0.7バール(70kPa)から5バール(500kPa)の圧力で実行される、及び/又は
- 焼結処理の第1の時間セグメントの後で、圧力が、好ましくは3バール(300kPa)から7バール(700kPa)だけ増加するように実行される、及び/又は
- アルゴン雰囲気下で実行される
ことを特徴とする。
【0052】
焼結処理のこれらの実施形態は、一方で、層構造の第1の層(すなわち、第1の水性懸濁液からもたらされる層)の圧縮の程度及び層構造の第2の層(すなわち、第2の水性懸濁液からもたらされる層)における圧縮の程度の間の特に有利な比を得ることを可能にする。さらに、焼結処理のこれらの実施形態は、焼結処理全体にわたる融解相の安定性を高める。
【0053】
ステップe)における焼結処理の第1の時間セグメント後に、圧力が好ましくは3バール(300kPa)から7バール(700kPa)だけ高められる好ましい変形形態は、例えば、2300℃の焼結温度で、焼結添加剤が蒸発することを防止することができ、同時に、安定な液相が粒子間に最適に分散される。
【0054】
本発明による方法のさらに好ましい変形形態によれば、基材は、黒鉛基材、好ましくは等方性黒鉛基材である。
【0055】
本発明は、基材、基材上に配置された少なくとも1つの第1の焼結層であって、少なくとも1種の耐火金属炭化物、及び、ケイ素、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、五酸化タンタル、炭化ホウ素、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化モリブデン、窒化ホウ素、窒化タンタル、窒化ジルコニウム、窒化ニオブ、二ホウ化タンタル、二ホウ化タングステン、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の焼結添加剤を含む又はからなる第1の焼結層、及び、少なくとも1つの第1の層上に配置された少なくとも1つの第2の焼結層であって、少なくとも1種の耐火金属炭化物、及び任意選択で、ケイ素、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、五酸化タンタル、炭化ホウ素、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化モリブデン、窒化ホウ素、窒化タンタル、窒化ジルコニウム、窒化ニオブ、二ホウ化タンタル、二ホウ化タングステン、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の焼結添加剤を含む又はからなる、第2の焼結層を備え、少なくとも1つの第1の層は、少なくとも70%の相対密度を有し、少なくとも1つの第2の層の相対密度は、少なくとも1つの第1の層の相対密度よりも少なくとも3%低い、被覆基材にさらに関する。
【0056】
第1の焼結層中及び/又は第2の焼結層中の少なくとも1種の焼結添加剤の存在は、例えば、元素分析方法又はXRD分析を介して検出することができる。
【0057】
相対密度は、例えば、REM断面分析を介して、判定することができる。
【0058】
少なくとも1種の焼結添加剤は、また、少なくとも部分的に分解された形態で及び/又は少なくとも1種の焼結添加剤と少なくとも1種の耐火金属炭化物との反応の反応生成物の形態で、第1の焼結層中及び/又は第2の焼結層中に存在することができる。
【0059】
第1の焼結層中に含まれている少なくとも1種の耐火金属炭化物及び第2の焼結層中に含まれている少なくとも1種の耐火金属炭化物は、同じ耐火金属炭化物又は異なる耐火金属炭化物であってよい。第2の焼結層は、ケイ素、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、五酸化タンタル、炭化ホウ素、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化モリブデン、窒化ホウ素、窒化タンタル、窒化ジルコニウム、窒化ニオブ、二ホウ化タンタル、二ホウ化タングステン、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される焼結添加剤を含んでよく、第2の焼結層の総重量に基づく第2の焼結層中の少なくとも1種の焼結添加剤の重量パーセントは、この場合、好ましくは、第1の焼結層の総重量に基づく第1の焼結層中の少なくとも1種の焼結添加剤の重量パーセントよりも小さい。第1の焼結層中に含まれている少なくとも1種の焼結添加剤及び第2の焼結層中に含まれている少なくとも1種の焼結添加剤は、同じ焼結添加剤又は異なる焼結添加剤とすることができる。代替的に、第2の焼結層は、焼結添加剤を含まないこともできる。
【0060】
第1の焼結層中に含まれている少なくとも1種の焼結添加剤は、好ましくはケイ素、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0061】
第2の焼結層が少なくとも1種の焼結添加剤を含む場合、第2の焼結層中に含まれている上記少なくとも1種の焼結添加剤は、好ましくは、ケイ素、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0062】
本発明による被覆基材は、少なくとも2つの異なる焼結層で構成された非常に有利な層構造を有する。少なくとも1つの第1の焼結層の相対密度が少なくとも70%であることに起因して、基材は、半導体結晶成長中の融解物等の、高温用途における侵食性又は腐食性物質に対して非常に良好に保護される。少なくとも1つの第2の焼結層は、少なくとも1つの第1の焼結層よりも少なくとも3%低い相対密度又はより低い程度の圧縮を有する。こうして取得される層構造は、基材からの、すなわち、少なくとも1つの第1の焼結層から少なくとも1つの第2の焼結層までの、距離が増加するにつれて、圧縮の程度又は相対密度が減少する密度勾配を有する。
【0063】
その結果もたらされる少なくとも1つの第2の焼結層の、少なくとも1つの第1の焼結層と比較してより高い気孔率により、半導体結晶成長における高温用途で被覆基材を使用する場合の利点がもたらされ、結晶成長において用いられる融解物のためのより大きな接触表面が上記のより高い気孔率を通して取得されるので、それにより蒸発速度及びひいては成長速度を高めることができる。
【0064】
したがって、上記の有利な層体系の結果として、本発明による被覆基材は、半導体結晶成長等における、高温用途での使用に特に良好に適している。
【0065】
本発明による被覆基材の好ましい実施形態は、
- 基材が、黒鉛、好ましくは等方性黒鉛、炭素繊維強化炭素(CFC)、C/SiC繊維コンポジット、SiC/SiC繊維コンポジット、炭化物セラミックス、窒化物セラミックス、酸化物セラミックス、及びそれらの混合物からなる群から選択される材料を含む又はからなる、及び/又は
- (第1の焼結層における及び/又は第2の焼結層における)耐火金属ケイ化物が、ケイ化チタン、ケイ化ジルコニウム、例えば、二ケイ化ジルコニウム(ZrSi)、ケイ化ハフニウム、例えば、二ケイ化ハフニウム(HfSi)、ケイ化バナジウム、例えば、二ケイ化バナジウム(VSi)、ケイ化ニオブ、例えば、二ケイ化ニオブ(NbSi)、ケイ化タンタル、例えば、二ケイ化タンタル(TaSi)、ケイ化クロム、ケイ化モリブデン、例えば、二ケイ化モリブデン(MoSi)、ケイ化タングステン、例えば二ケイ化タングステン(WSi)、及びそれらの混合物からなる群から選択される、及び/又は
- (第1の焼結層における及び/又は第2の焼結層における)少なくとも1種の耐火金属炭化物が、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウム、炭化ニオブ、炭化タンタル、炭化クロム、炭化モリブデン、炭化タングステン、及びそれらの混合物からなる群から選択される
ことを特徴とする。
【0066】
本発明による被覆基材の特に好ましい実施形態によれば、(第1の焼結層における及び/又は第2の焼結層における)耐火金属ケイ化物は、二ケイ化ジルコニウム(ZrSi)、二ケイ化ハフニウム(HfSi)、二ケイ化バナジウム(VSi)、二ケイ化ニオブ(NbSi)、二ケイ化タンタル(TaSi)、二ケイ化モリブデン(MoSi)、二ケイ化タングステン(WSi)、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0067】
少なくとも1種の耐火金属炭化物は、非常に特に好ましくは炭化タンタルである。
【0068】
基材は、好ましくは、黒鉛、好ましくは等方性黒鉛、炭化物セラミックス、窒化物セラミックス、酸化物セラミックス、及びそれらの混合物からなる群から選択される材料を含む又はからなることができる。
【0069】
基材は、好ましくは、黒鉛、好ましくは等方性黒鉛、炭素繊維強化炭素(CFC)、C/SiC繊維コンポジット、SiC/SiC繊維コンポジット、及びそれらの混合物からなる群から選択される材料を含む又はからなることができる。
【0070】
基材は、非常に特に好ましくは、黒鉛、好ましくは等方性黒鉛を含む又はからなる。
【0071】
基材は、好ましくは炭素基材、特に好ましくは黒鉛基材、非常に特に好ましくは等方性黒鉛基材とすることができる。等方性黒鉛は、等方圧加圧処理によって調製された黒鉛を意味するものと理解される。例えば、基材は、坩堝、好ましくは炭素坩堝、特に好ましくは黒鉛坩堝、非常に特に好ましくは等方性黒鉛坩堝とすることができる。
【0072】
さらに、少なくとも1つの第1の焼結層及び少なくとも1つの第2の焼結層は、コバルト、ニッケル、及び鉄を本質的に含まないことが好ましい。「コバルト、ニッケル、及び鉄を本質的に含まない」とは、ここで、少なくとも1つの第1の焼結層及び少なくとも1つの第2の焼結層は、例えば半導体結晶成長における、被覆基材の使用と干渉しない、最小限の量のコバルト、ニッケル、及び/又は鉄を含んでもよいことを意味するように理解される。少なくとも1つの第1の焼結層及び少なくとも1つの第2の焼結層がコバルト、ニッケル、及び鉄を本質的に含まないという配合設計は、少なくとも1つの第1の焼結層及び少なくとも1つの第2の焼結層が、少なくとも1つの第1の焼結層及び少なくとも1つの第2の焼結層の総重量に基づいて、1重量%を超えない、より好ましくは0.1重量%を超えないコバルト、1重量%を超えない、より好ましくは0.1重量%を超えないニッケル、及び1重量%を超えない、特に好ましくは0.1重量%を超えない鉄を含むことを意味するように好ましくは理解される。さらに、少なくとも1つの第1の焼結層及び少なくとも1つの第2の焼結層は、特に好ましくは、コバルト、ニッケル、及び鉄を含まない。
【0073】
ケイ素、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、五酸化タンタル、炭化ホウ素、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化モリブデン、窒化ホウ素、窒化タンタル、窒化ジルコニウム、窒化ニオブ、二ホウ化タンタル、二ホウ化タングステン、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される1又は複数種の焼結添加剤を用いることによって、焼結添加剤としてのコバルト、ニッケル、及び鉄の使用を省くことができる。結果として、少なくとも1つの第1の焼結層及び少なくとも1つの第2の焼結層は、好ましくは、コバルト、ニッケル、及び鉄を(本質的に)含まない。結果として、一用途において、例えば半導体結晶成長における高温用途において、コバルト、ニッケル、及び鉄が被覆基材から不純物として漏れ出て、当該用途に悪影響を与える可能性がない。
【0074】
さらに、当初のスプレー層又はスプレーされた粒子の粒度から開始して、粒は、少なくとも1.5倍、好ましくは1.5から10の範囲の倍、特に好ましくは1.5から5の範囲の倍だけ成長することが好ましい。
【0075】
本発明による被覆基材のさらに好ましい実施形態は、少なくとも1つの第1の焼結層が、
- 75%よりも高い、好ましくは80%よりも高い、特に好ましくは90%よりも高い、非常に特に好ましくは95%よりも高い相対密度を有する、及び/又は
- 1e-11よりも低い、好ましくは1e-13よりも低い透過率を有する、及び/又は
- 少なくとも2MPa、好ましくは少なくとも4MPaの接着強度を有する、及び/又は
- 少なくとも20μm、好ましくは20μmから150μm、特に好ましくは30μmから100μmの平均層厚を有する
ことを特徴とする。
【0076】
さらに、少なくとも1つの第2の焼結層は、
- 少なくとも1つの第1の焼結層の相対密度よりも、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、特に好ましくは10%から30%、非常に特に好ましくは15%から25%、特に18%から22%低い相対密度を有する、及び/又は
- 1e-11よりも低い、好ましくは1e-12よりも低い透過率を有する、及び/又は
- 少なくとも2MPa、好ましくは少なくとも4MPaの接着強度を有する、及び/又は
- 少なくとも20μm、好ましくは20μmから150μm、特に好ましくは30μmから100μmの平均層厚を有する
ことが好ましい。
【0077】
相対密度は、例えば、REM断面分析を介して、判定することができる。平均層厚は、例えば、断面分析を介して判定することができる。透過率は、例えば、試料を通した圧力差の関数としての試料を通したガス体積流量を測定する装置及びダルシーの透過率定数への変換を介して判定することができる。接着強度は、例えば、引張試験を介して判定することができる。
【0078】
少なくとも1つの第1の焼結層は、好ましくは、少なくとも1つの第2の焼結層よりも低い透過率を有する。
【0079】
少なくとも1つの第1の焼結層は、好ましくは、少なくとも1つの第2の焼結層よりも高い接着強度を有する。
【0080】
少なくとも1つの第1の焼結層は、好ましくは、少なくとも1つの第2の焼結層よりも少ない層厚を有する。
【0081】
少なくとも1つの第1の焼結層は、特に好ましくは、少なくとも1つの第2の焼結層に対して、より低い透過率、より高い接着強度、及びより少ない層厚を有する。
【0082】
本発明による被覆基材のさらに好ましい実施形態によれば、被覆基材は、少なくとも1つの第2の焼結層上に配置された少なくとも1つの第3の焼結層を備え、第3の焼結層は、少なくとも1種の耐火金属炭化物を含み又はからなり、少なくとも1つの第3の焼結層は、焼結添加剤を含まず、少なくとも1つの第3の焼結層の相対密度は、少なくとも1つの第2の焼結層の相対密度よりも、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、特に好ましくは10%から30%、非常に特に好ましくは15%から25%、特に18%から22%低い。少なくとも1つの第3の焼結層中に含まれている少なくとも1種の耐火金属炭化物は、少なくとも1つの第1の焼結層中に含まれている耐火金属炭化物と及び/又は少なくとも1つの第2の焼結層中に含まれている耐火金属炭化物と同一とすることができる。少なくとも1つの第3の焼結層中に含まれている少なくとも1種の耐火金属炭化物は、好ましくは、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウム、炭化ニオブ、炭化タンタル、炭化クロム、炭化モリブデン、炭化タングステン、及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【0083】
さらに、少なくとも1つの第3の焼結層は、複数の焼結層の層配列を含み、層配列内の複数の焼結層の相対密度は、少なくとも1つの第2の焼結層からの距離が増加するにつれて減少することが好ましい。相対密度は、例えば、REM断面分析を介して、判定することができる。
【0084】
さらに、本発明による被覆基材は、被覆基材を調製するための本発明による方法を用いて調製できる又は調製されることが好ましい。本発明は、半導体結晶成長における本発明による被覆基材の使用にも関し、被覆基材は、好ましくは被覆坩堝である。
【0085】
本発明による被覆基材は、例えば、窒化ガリウム半導体結晶を成長させるために使用することができるVPE-GaNリアクタにおけるガリウムエバポレータ又はガリウムエバポレータの一部として用いることができ、本発明による被覆基材中に含まれている層体系は、この場合、ガリウムエバポレータのための被覆として機能する。この場合、ガリウムエバポレータのベース材料は、少なくとも1つの第1の焼結層によって、より高い相対密度に起因して、腐食性の融解ガリウムから特に良好に保護することができ、その一方で、融解ガリウムのための接触表面がより大きいことから、層体系の少なくとも1つの第2の焼結層のより低い相対密度及びより高い気孔率によって、ガリウム蒸発速度を及びひいては窒化ガリウム成長速度をも高めることができる。
【0086】
本発明は、以下の態様にも関する。
【0087】
態様1
a)第1の水性懸濁液を調製し、第1の水性懸濁液は、少なくとも1種の耐火金属炭化物、ケイ素、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の焼結添加剤、及び水を含む又はからなる、
b)少なくとも1種の耐火金属炭化物及び水を含む第2の水性懸濁液を調製し、第2の水性懸濁液は、
- ケイ素、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の焼結添加剤を含み、第2の水性懸濁液の総重量に基づく第2の水性懸濁液中の少なくとも1種の焼結添加剤の重量パーセントは、第1の水性懸濁液の総重量に基づく第1の水性懸濁液中の少なくとも1種の焼結添加剤の重量パーセントよりも小さい、又は
- 焼結添加剤を含まない、
c)第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層(2)を基材(1)に塗布し、
d)第2の水性懸濁液の少なくとも1つの層(3)を、基材(1)に塗布された第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層(2)に塗布し、
e)ステップd)の後に、基材(1)を焼結処理に供する
被覆基材を調製する方法。
【0088】
態様2
- 基材は、黒鉛、好ましくは等方性黒鉛、炭素繊維強化炭素(CFC)、C/SiC繊維コンポジット、SiC/SiC繊維コンポジット、炭化物セラミックス、窒化物セラミックス、酸化物セラミックス、及びそれらの混合物からなる群から選択される材料を含む又はからなる、及び/又は
- 耐火金属ケイ化物は、ケイ化チタン、ケイ化ジルコニウム、ケイ化ハフニウム、ケイ化バナジウム、ケイ化ニオブ、ケイ化タンタル、ケイ化クロム、ケイ化モリブデン、ケイ化タングステン、及びそれらの混合物からなる群から選択される、及び/又は
- 少なくとも1種の耐火金属炭化物は、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウム、炭化ニオブ、炭化タンタル、炭化クロム、炭化モリブデン、炭化タングステン、及びそれらの混合物からなる群から選択される
ことを特徴とする、先行する態様による方法。
【0089】
態様3
- 少なくとも1種の耐火金属炭化物及び少なくとも1種の焼結添加剤は、粒子の形態で各々存在し、ここで、少なくとも1種の焼結添加剤の粒子の平均粒子サイズは、5μm未満である、及び/又は、少なくとも1種の耐火金属炭化物の粒子の平均粒子サイズよりも小さい、及び/又は
- 少なくとも1種の耐火金属炭化物は、好ましくは同じ耐火金属炭化物の、粒子の平均粒子サイズの観点で異なる粉末を含む又はからなる粉末混合物として存在する
ことを特徴とする、先行する態様のいずれか1つによる方法。
【0090】
態様4
第1の水性懸濁液及び/又は第2の水性懸濁液は、
- それぞれの水性懸濁液の総重量に基づいて、60から90重量%、好ましくは70から85重量%の少なくとも1種の耐火金属炭化物を含む、及び/又は
- それぞれの水性懸濁液の総重量に基づいて、0.1から20重量%、好ましくは0.5から10重量%の少なくとも1種の焼結添加剤を含む
ことを特徴とする、先行する態様のいずれか1つによる方法。
【0091】
態様5
第2の水性懸濁液の総重量に基づく第2の水性懸濁液中の少なくとも1種の焼結添加剤の重量パーセントは、第1の水性懸濁液の総重量に基づく第1の水性懸濁液中の少なくとも1種の焼結添加剤の重量パーセントよりも、0.1重量%から20重量%だけ、好ましくは0.5重量%から10重量%だけ低いことを特徴とする、先行する態様のいずれか1つによる方法。
【0092】
態様6
ステップa)における第1の水性懸濁液の調製及び/又はステップb)における第2の水性懸濁液の調製は、分散デバイスの補助を伴って、調製されることになる懸濁液の成分を混合することによって実行され、ここで、混合は、分散デバイスの補助を伴って、好ましくは粉砕媒体を使用して及び/又は少なくとも12時間の期間にわたって実行されることを特徴とする、先行する態様のいずれか1つによる方法。
【0093】
態様7
ステップc)における第1の水性懸濁液の少なくとも1つの層(2)の塗布及び/又はステップd)における第2の水性懸濁液の少なくとも1つの層(3)の塗布は、
- ディッピング、ブラッシング、又はスプレー塗布によって実行される、及び/又は
- 150μm未満、好ましくは20μmから100μm、特に好ましくは30μmから80μmの平均層厚で実行される
ことを特徴とする、先行する態様のいずれか1つによる方法。
【0094】
態様8
少なくとも1種の第3の水性懸濁液をさらに調製し、第3の水性懸濁液は、少なくとも1種の耐火金属炭化物及び水を含み又はからなり、ここで、少なくとも1種の第3の水性懸濁液は、焼結添加剤を含まない、
ステップd)及びe)の間で、少なくとも1種の第3の水性懸濁液の少なくとも1つの層を、第2の水性懸濁液の少なくとも1つの塗布された層(3)に塗布する
ことを特徴とする、先行する態様のいずれか1つによる方法。
【0095】
態様9
ステップe)における焼結処理は、
- 2100℃から2500℃、好ましくは2200℃から2400℃の温度で実行される、及び/又は
- 1時間から15時間、好ましくは2時間から10時間の保持時間で実行される、及び/又は
- 0.1バール(10kPa)から10バール(1000kPa)、好ましくは0.7バール(70kPa)から5バール(500kPa)の圧力で実行される、及び/又は
- 焼結処理の第1の時間セグメントの後で、圧力が、好ましくは3バール(300kPa)から7バール(700kPa)だけ、増加するように実行される、及び/又は
- アルゴン雰囲気下で実行される
ことを特徴とする、先行する態様のいずれか1つによる方法。
【0096】
態様10
基材(1)、基材(1)上に配置された、少なくとも1種の耐火金属炭化物、及び、ケイ素、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の焼結添加剤を含む又はからなる少なくとも1つの第1の焼結層(4)、及び、少なくとも1つの第1の焼結層(4)上に配置された少なくとも1つの第2の焼結層(5)であって、少なくとも1種の耐火金属炭化物、及び任意選択で、ケイ素、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の焼結添加剤を含む又はからなる第2の焼結層を備え、少なくとも1つの第1の焼結層(4)は、少なくとも70%の相対密度を有し、少なくとも1つの第2の焼結層(5)の相対密度は、少なくとも1つの第1の焼結層(4)の相対密度よりも少なくとも3%低い、被覆基材。
【0097】
態様11
少なくとも1つの第1の焼結層(4)は、
- 75%よりも高い、好ましくは80%よりも高い、特に好ましくは90%よりも高い、非常に特に好ましくは95%よりも高い相対密度を有する、及び/又は
- 1e-11よりも低い、好ましくは1e-13よりも低い透過率を有する、及び/又は
- 少なくとも2MPa、好ましくは少なくとも4MPaの接着強度を有する、及び/又は
- 少なくとも20μm、好ましくは20μmから150μm、特に好ましくは30μmから100μmの平均層厚を有する
ことを特徴とする、態様10による被覆基材。
【0098】
態様12
少なくとも1つの第2の焼結層(5)は、
- 少なくとも1つの第1の焼結層の相対密度よりも、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、特に好ましくは10%から30%、非常に特に好ましくは15%から25%、特に18%から22%低い相対密度を有する、及び/又は
- 1e-11よりも低い、好ましくは1e-12よりも低い透過率を有する、及び/又は
- 少なくとも2MPa、好ましくは少なくとも4MPaの接着強度を有する、及び/又は
- 少なくとも20μm、好ましくは20μmから150μm、特に好ましくは30μmから100μmの平均層厚を有する
ことを特徴とする、態様10又は11による被覆基材。
【0099】
態様13
被覆基材は、少なくとも1つの第2の焼結層(5)上に配置された、少なくとも1種の耐火金属炭化物を含む又はからなる少なくとも1つの第3の焼結層を備え、ここで、少なくとも1つの第3の焼結層は、焼結添加剤を含まず、ここで、少なくとも1つの第3の焼結層の相対密度は、少なくとも1つの第2の焼結層(5)の相対密度よりも少なくとも5%低く、
ここで、少なくとも1つの第3の焼結層は、好ましくは複数の焼結層の層配列を含み、ここで、層配列内の複数の焼結層の相対密度は、少なくとも1つの第2の焼結層(5)からの距離が増加するにつれて減少する
ことを特徴とする、態様10から12のいずれか一項に記載の被覆基材。
【0100】
態様14
被覆基材は、態様1から9のいずれか1つによる方法を用いて調製できる又は調製されることを特徴とする、態様10から13のいずれか1つによる被覆基材。
【0101】
態様15
半導体結晶成長における態様10から14のいずれか一項に記載の被覆基材の使用であって、被覆基材は、好ましくは被覆坩堝である、使用。
【0102】
本発明は、本発明を具体的に示されているパラメータに限定することなく、以下の図面及び例に基づいてより詳細に説明される。
【0103】
図1は、本発明による方法の例示的な変形形態の一部を示している。この例において、(閉鎖された)坩堝、好ましくは黒鉛坩堝、例えば等方性黒鉛坩堝が基材1として使用され、坩堝は、半導体結晶成長において使用されるものである。この用途において、坩堝内部に成長雰囲気が存在する。図1は、ここで、ステップAとしての、基材1の表面全体上への第1の層2の塗布、及び、ステップBとしての、基材1の内側に塗布された第1の層2のの一部上への第2の層3の塗布を概略的に描写している。こうして、2つの層からなる特定の層構成又は特定の層構造が取得される。第1の層2は、炭化タンタル、水、及び、ケイ素、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、五酸化タンタル、炭化ホウ素、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化バナジウム、炭化モリブデン、窒化ホウ素、窒化タンタル、窒化ジルコニウム、窒化ニオブ、二ホウ化タンタル、二ホウ化タングステン、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される、好ましくは、ケイ素、ホウ化ジルコニウム、耐火金属ケイ化物、及びそれらの混合物からなる群から選択される焼結添加剤からなる第1の水性懸濁液の層を塗布することによって取得される。第2の層3は、炭化タンタル及び水からなる、したがって焼結添加剤を含まない第2の水性懸濁液の層を塗布することによって取得される。ステップAにおける第1の層2の塗布及びステップBにおける第2の層3の塗布は、スプレー塗布によって各々実行することができる。第2の層3を付与した後で初めて、ステップCにおいて(被覆)基材を焼結し、それにより、第1の層2及び第2の層3を一緒に焼結し、第1の層2から第1の焼結層4が形成され、第2の層3から第2の焼結層5が形成される。焼結中、層構成又は層構造は目標としたように圧縮される。
【0104】
こうして取得される被覆基材は、2つの異なる焼結層5、6からなる非常に有利な層構造を有する。第1の層2における焼結添加剤の使用に起因して、焼結層4は高い相対密度を有し、その結果として、基材は、半導体結晶成長において使用される腐食性の融解物から非常に良好に保護される。第2の焼結層5は、第2の層3中に焼結添加剤が存在しないことに起因して、第1の焼結層4よりも低い相対密度を有する。こうして取得される層構造は、基材からの(すなわち、第1の焼結層4から第2の焼結層5までの)距離が増加するにつれて、圧縮の程度又は相対密度が減少する密度勾配を有する。その結果もたらされる第2の焼結層5の、第1の焼結層4と比較してより高い気孔率により、半導体結晶成長において被覆基材を使用する場合の利点がもたらされ、結晶成長において用いられる融解物のためのより大きな接触表面が上記のより高い気孔率によって与えられるので、それにより蒸発速度及びひいては成長速度を高めることができる。
【0105】
図2は、本発明による例示的な被覆基材のための層体系内の密度分布をグラフで示しており、示されているグラフは、層厚(又は基材表面からの距離)の関数としての相対焼結密度を示している。ここで記載される例示的な被覆基材は、異なる相対密度の3つの焼結層を伴う層構造を有する。x軸上の点0は、基材表面を表し、ここで、tは、第1、第2、及び第3の焼結層を備える被覆全体の層厚を示している。Δxの値は、異なる密度の2つの層間の距離を示しており、したがって、Δxは、第1の焼結層の厚さに対応し、Δxは、第2の焼結層の厚さに対応し、Δxは、第3の焼結層の厚さに対応する。隣接する焼結層の密度の差は、Δρで定量化される。第1の焼結層、すなわち、基材と直接接触している焼結層は、少なくとも70%の相対密度を有する。図2に示されているグラフにおいて、基材からの距離が増加するにつれて、層体系の焼結層における相対密度が減少する、すなわち、第2の焼結層は、第1の焼結された1つの層よりも(少なくとも5%だけ)低い相対密度を有し、第3の焼結層は、第2の焼結層よりも(少なくとも5%だけ)低い相対密度を有することが、ここでわかる。この結果、層体系内に密度勾配が生じる。グラフで表示される値を判定するために、研磨断面のSEM画像を使用して、どのΔxにわたって均一な密度が存在するかを区別することができる。この場合、焼結密度は、上記判定されたΔx及び被覆中に判定されたこの領域の質量に基づいて、Δxを計算することができる。Δxの広がりを有する、隣接する層の密度の差は、Δρで定量化される。
【0106】
実施形態例1
まず、80重量%の炭化タンタル、焼結添加剤としての1重量%のケイ素、及び19%重量%の水からなる第1の水性懸濁液、及び、80重量%の炭化タンタル及び20重量%の水からなる第2の水性懸濁液を調製した。したがって、第2の水性懸濁液は、焼結添加剤を含まない。TaC粒子の平均粉末粒子サイズは、好ましくは、0.2から2μmの間の範囲である。水性懸濁液を調製するために、分散デバイス(最大1m/sの回転速度)の補助を伴って、及び必要な場合には粉砕媒体を用いて、それぞれの成分の混合物を混合した。混合処理には、少なくとも12時間かかり得る。
【0107】
次に、第1の水性懸濁液の層2を、基材1、好ましくは黒鉛基材、例えば等方性黒鉛基材に塗布した。スプレー塗布によって塗布を実行し、第1の水性懸濁液の層2は、20から80μmの範囲の平均層厚で塗布された。代替的に、例えば、ディッピング又はブラッシングによって、塗布を実行することもできる。
【0108】
次に、第2の水性懸濁液の層3を、基材に塗布された第1の水性懸濁液の層2のセクションに塗布する。ここでまたスプレー塗布によって塗布を実行し、第2の水性懸濁液の層3は、20から80μmの範囲の平均層厚で塗布された。代替的に、ここでも、例えば、ディッピング又はブラッシングによって塗布を実行することができる。
【0109】
2つの層2、3が塗布された後、被覆基材を、アルゴン雰囲気下、2300℃の温度、3時間の保持時間、及び5バール(500kPa)の圧力での焼結処理に供した。全ての塗布された層の焼結が1つの焼結パスで実行されるので、全ての個別に塗布された層が一緒に焼結し、これにより、高い熱応力下でも安定な結合を有する層体系がもたらされる。第1の水性懸濁液の層2からもたらされる第1の焼結層4は、焼結添加剤の使用に起因して、70%を超える高い相対密度を有する。第2の水性懸濁液中には焼結添加剤が存在しないので、第2の水性懸濁液の層3からもたらされる第2の焼結層5は、第1の焼結層4に対して、より低い相対密度及びひいてはより高い気孔率を有する。
【0110】
水性懸濁液の調製後に実行される方法ステップの概観図が図3に示されている。
【0111】
調製された焼結基材において、第1の焼結層4は、例えば、試料を通した圧力差の関数としての試料を通したガス体積流量を測定する装置及びダルシーの透過率定数への変換を介して判定された、1e-13よりも低い透過率を有する。引張試験によって判定された第1の焼結層4の接着強度は、4MPaよりも大きい。さらに、第1の焼結層4は、断面分析を介して判定された25μmから30μmの平均層厚を有する。
【0112】
加えて、圧縮された層の質量及び体積を介した幾何学的密度の判定に基づいて、(1重量%の焼結添加剤であるケイ素を含む第1の水性懸濁液からもたらされる)第1の焼結層4及び(焼結添加剤を含まない第2の水性懸濁液からもたらされる)第2の焼結層5の圧縮の程度の比較を行うことができる。圧縮の程度の増加の定量化は、相対密度(14.5g/cmの値を有するTaCの幾何学的密度及び理論的密度間の比)に関係する。比較の結果が図4に示されており、ここで、第1の焼結層4の相対密度は、三角形で表されており、第2の焼結層5の相対密度は、丸で表されている。図4は、第1の焼結層4が、70%を超える相対密度を有し、また第2の焼結層5よりも大幅に高い相対密度を有することを示している。このことは、焼結添加剤としてのケイ素の使用により、焼結層におけるより高度な圧縮が達成されることを実証するものである。
【0113】
実施形態例2
まず、80重量%の炭化タンタル、焼結添加剤としての1重量%のケイ化モリブデン(MoSi)、及び19%重量%の水からなる第1の水性懸濁液、及び、80重量%の炭化タンタル及び20重量%の水からなる第2の水性懸濁液を調製した。したがって、第2の水性懸濁液は、焼結添加剤を含まない。TaC粒子の平均粉末粒子サイズは、好ましくは、0.2から2μmの間の範囲である。水性懸濁液を調製するために、分散デバイス(最大1m/sの回転速度)の補助を伴って、及び必要な場合には粉砕媒体を用いて、それぞれの成分の混合物を混合した。混合処理には、少なくとも12時間かかり得る。
【0114】
次に、第1の水性懸濁液の層2を、基材1、好ましくは黒鉛基材、例えば等方性黒鉛基材に塗布した。スプレー塗布によって塗布を実行し、第1の水性懸濁液の層2は、20から80μmの範囲の平均層厚で塗布された。代替的に、例えば、ディッピング又はブラッシングによって、塗布を実行することもできる。
【0115】
次に、第2の水性懸濁液の層3を、基材に塗布された第1の水性懸濁液の層2のセクションに塗布する。ここでまたスプレー塗布によって塗布を実行し、第2の水性懸濁液の層3は、20から80μmの範囲の平均層厚で塗布された。代替的に、ここでも、例えば、ディッピング又はブラッシングによって塗布を実行することができる。
【0116】
2つの層2、3が塗布された後、被覆基材を、アルゴン雰囲気下、2300℃の温度、3時間の保持時間、及び5バール(500kPa)の圧力での焼結処理に供した。全ての塗布された層の焼結が1つの焼結パスで実行されるので、全ての個別に塗布された層が一緒に焼結し、これにより、高い熱応力下でも安定な結合を有する層体系がもたらされる。第1の水性懸濁液の層2からもたらされる第1の焼結層4は、焼結添加剤の使用に起因して、少なくとも70%の高い相対密度を有する。第2の水性懸濁液中には焼結添加剤が存在しないので、第2の水性懸濁液の層3からもたらされる第2の焼結層5は、第1の焼結層4に対して、より低い相対密度及びひいてはより高い気孔率を有する。
【0117】
水性懸濁液の調製後に実行される方法ステップの概観図が図3に示されている。
【0118】
調製された被覆基材において、第1の焼結層4は、例えば、試料を通した圧力差の関数としての試料を通したガス体積流量を測定する装置及びダルシーの透過率定数への変換を介して判定された、1e-13よりも低い透過率を有する。引張試験によって判定された第1の焼結層4の接着強度は、4MPaよりも大きい。さらに、第1の焼結層4は、断面分析を介して判定された45μmから50μmの平均層厚を有する。
【0119】
圧縮された層の質量及び体積を介した幾何学的密度の判定に基づいて、(1重量%の焼結添加剤であるMoSiを含む第1の水性懸濁液からもたらされる)第1の焼結層4及び(焼結添加剤を含まない第2の水性懸濁液からもたらされる)第2の焼結層5の圧縮の程度の比較を次に行うことができる。圧縮の程度の増加の定量化は、相対密度(14.5g/cmの値を有するTaCの幾何学的密度及び理論的密度間の比)に関係する。比較の結果が図5に示されており、ここで、第1の焼結層4の相対密度は、クロスで表されており、第2の焼結層5の相対密度は、丸で表されている。図5から、第1の焼結層4の相対密度は70%よりも高いことが明らかである。さらに、第1の焼結層は、第2の焼結層5よりも大幅に高い相対密度を有する。このことは、焼結添加剤としてのMoSiの使用により、焼結層におけるより高度な圧縮が達成されることを実証するものである。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】