(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】直接空気回収用のアミン官能基化繊維
(51)【国際特許分類】
B01J 20/30 20060101AFI20240719BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20240719BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20240719BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20240719BHJP
B01D 53/82 20060101ALI20240719BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20240719BHJP
B01D 53/04 20060101ALI20240719BHJP
B01D 53/047 20060101ALI20240719BHJP
D06M 13/332 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
B01J20/30
B01J20/26 A ZAB
B01J20/28 Z
B01D53/62
B01D53/82
B01J20/34 E
B01J20/34 H
B01D53/04 110
B01D53/04 220
B01D53/047
D06M13/332
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503600
(86)(22)【出願日】2022-07-19
(85)【翻訳文提出日】2024-03-18
(86)【国際出願番号】 EP2022070179
(87)【国際公開番号】W WO2023001810
(87)【国際公開日】2023-01-26
(32)【優先日】2021-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517006692
【氏名又は名称】クライムワークス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トラウトナー,フェーリクス
(72)【発明者】
【氏名】フォン ホルスト,ミリアム
(72)【発明者】
【氏名】レポンド,ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】ニーブル,トビアス
【テーマコード(参考)】
4D002
4D012
4G066
4L033
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002AC10
4D002BA04
4D002CA07
4D002DA31
4D002EA07
4D002EA08
4D002FA01
4D002GA01
4D002GB20
4D012BA01
4D012CA03
4D012CB05
4D012CD10
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4G066AB10D
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4G066AC33B
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4G066BA03
4G066BA12
4G066BA16
4G066BA26
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA35
4G066DA02
4G066DA03
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4G066FA11
4G066FA21
4G066FA34
4G066GA14
4G066GA16
4L033AA05
4L033AB01
4L033AC15
4L033BA45
(57)【要約】
アミン官能基化ポリアクリロニトリル(PAN)繊維を製造するための方法、好ましくは直接空気回収用のアミン官能基化ポリアクリロニトリル繊維を製造するための方法であって、未加工ポリアクリロニトリル繊維を、テトラエチレンペンタミン(TEPA)又はペンタエチレンヘキサミン(PEHA)の濃度が少なくとも80%v/vであるテトラエチレンペンタミン(TEPA)又はペンタエチレンヘキサミン(PEHA)の溶液に加え、この混合物を、好ましくは撹拌下に120~160℃の範囲の温度で少なくとも4時間の期間にわたって保持する方法、及び対応する繊維の使用。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン官能基化ポリアクリロニトリル繊維を製造するための方法、好ましくは直接空気回収用のアミン官能基化ポリアクリロニトリル繊維を製造するための前記方法であって、未加工ポリアクリロニトリル繊維を、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ペンタエチレンヘキサミン(PEHA)又はそれらの組み合わせの濃度が少なくとも80%v/vである、テトラエチレンペンタミン(TEPA)及びペンタエチレンヘキサミン(PEHA)の少なくとも一方の溶液と組み合わせ、その後、この混合物を、好ましくは撹拌下に120~160℃の範囲の温度で少なくとも4時間の期間にわたって保持する、方法。
【請求項2】
前記テトラエチレンペンタミン(TEPA)の溶液の濃度が、少なくとも85%v/v、好ましくは85~98%v/v、好ましくは85~95%v/v又は85~90%v/vの範囲である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記テトラエチレンペンタミン(TEPA)の溶液が、その水溶液もしくはアルコール性有機溶媒溶液、又はそれらの混合物の溶液である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記テトラエチレンペンタミン(TEPA)の溶液が、純粋な水溶液である、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記混合物を、好ましくは撹拌下に125~160℃の範囲、好ましくは130~150℃又は130~140℃の範囲の温度で保持し、好ましくは前記混合物を、好ましくは撹拌下に4~8時間の範囲、好ましくは5~7時間の範囲の期間にわたって保持する、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記未加工ポリアクリロニトリル繊維が、フィブリル化繊維である、請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記未加工ポリアクリロニトリル繊維が、好ましくはフィブリル化繊維の形態で、少なくとも10m
2/g、好ましくは少なくとも20m
2/g、最も好ましくは20~60m
2/mの範囲、又は25~45m
2/gの範囲の比表面積を有する、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記未加工ポリアクリロニトリル繊維が、好ましくはフィブリル化繊維の形態で、18~70°SRの範囲、好ましくは20~60°SRの範囲のショッパーリーグラー値を有する、請求項1~7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
事後的に又は事前に、前記繊維を加工して、凝集性の、好ましくは自己支持性の構造体を、好ましくは糸、織布、不織布、編物もしくは紙状の構造体もしくはそれらの組み合わせの形態で形成するか、又は通気性容器に充填し、前記通気性容器は、好ましくは直接空気回収プロセスに適する及び適合させたものである、請求項1~8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
事後的に又は事前に、前記繊維を加工して、ドライ又はウェットレイイングプロセスにおいて、好ましくはウェットレイイングプロセスにおいて追加の結合エレメントを含む不織布構造体を形成し、前記結合エレメントは、ポリアクリロニトリル繊維とは異なる繊維、溶解もしくは懸濁した結合剤及び/又はバインダー粒子の形態をとることができ、前記ウェットレイイングプロセスは、好ましくは、懸濁した繊維からのメッシュ形成及び脱水を含み、これに好ましくは、前記結合エレメントを活性化するための熱、照射及び圧力の少なくとも1つの適用並びに/又はカレンダリングが続く、請求項1~9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項記載の方法により製造されたアミン官能基化ポリアクリロニトリル繊維を含むか又はそれからなる、繊維又は糸、織布、不織布、編物又は紙状の、凝集性の、好ましくは自己支持性の構造体であって、前記アミン官能基化ポリアクリロニトリル繊維は、未加工ポリアクリロニトリル繊維から、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ペンタエチレンヘキサミン(PEHA)又はそれらの組み合わせの濃度が少なくとも80%v/vである、テトラエチレンペンタミン(TEPA)及びペンタエチレンヘキサミン(PEHA)の少なくとも一方の溶液と組み合わせ、この混合物を、好ましくは撹拌下に120~160℃の範囲の温度で少なくとも4時間の期間にわたって保持することによって得られたものである、繊維又は糸、織布、不織布、編物又は紙状の、凝集性の、好ましくは自己支持性の構造体。
【請求項12】
請求項11記載の繊維又はヤーンを含む、不織布の凝集性自己支持性構造体。
【請求項13】
請求項11又は12記載の繊維又は糸及び/又は織布、不織布、編物又は紙状の凝集性構造体を含む、通気性容器。
【請求項14】
ガス混合物、好ましくは、環境大気、排ガス及びバイオガスのうちの少なくとも1つからガス状二酸化炭素を分離するために、好ましくは直接空気回収に、請求項11~13のいずれか1項記載の繊維ベースの構造体を使用する方法であって、前記方法では特に、温度、真空又は温度/真空スイング法を使用し、前記方法では好ましくは、貫流による部分的又は完全に飽和した又は過熱された蒸気流の注入を用いて60~110℃の温度への吸着材の温度の上昇を誘導してCO
2の脱着を開始するプロセスを使用し、さらに好ましくは、吸着工程において、前記方法を、1日、1ヶ月及び/又は1年間におけるサイクルの少なくとも5%又は10%又は50%の間に前記吸着材を通過する前記ガス混合物又は前記環境大気が、5~100%RH、10~98%RH又は20~95%RHの範囲、好ましくは30~95%の範囲で変化する相対湿度を有する条件下で実施する、方法。
【請求項15】
ガス状二酸化炭素を、前記ガス状二酸化炭素及びガス状二酸化炭素とは異なるさらなるガスを含むガス混合物、好ましくは環境大気、排ガス及びバイオガスのうちの少なくとも1つから、ユニット内の前記ガス状二酸化炭素を吸着する吸着材を用いたサイクル吸脱着によって分離するための、請求項14記載の方法であって、
前記方法は、少なくとも以下の逐次的でかつこの順序で繰り返す工程(a)~(e):
(a)前記ガス混合物を前記吸着材と接触させて、少なくとも前記ガス状二酸化炭素を、前記ユニットの貫流によって前記吸着材に吸着させる工程であって、前記貫流を、吸着工程において、実質的に環境大気圧条件及び環境大気温度条件下で行う、工程;
(b)前記ユニット内の二酸化炭素を吸着した前記吸着材を、前記貫流から分離する工程;
(c)60~110℃の温度への前記吸着材の温度の上昇を誘導して、CO
2の脱着を開始する工程;
(d)少なくとも、脱着された前記ガス状二酸化炭素を前記ユニットから取り出し、前記ユニット内又はその下流でガス状二酸化炭素を分離する工程;
(e)前記吸着材を、実質的に環境大気温度条件及び環境大気圧条件にする工程
を含み、
前記吸着材は、請求項11~13のいずれか1項記載の繊維ベースの構造体を含むか又はそれからなる、
方法。
【請求項16】
ガス混合物、好ましくは環境大気、排ガス及びバイオガスのうちの少なくとも1つからガス状二酸化炭素を分離するためのユニット、好ましくは直接空気回収ユニットであって、
前記ユニットは、前記ガス混合物の貫流に適する及び適合させた吸着材を含む少なくとも1つの反応器ユニットを含み、
前記反応器ユニットは、前記ガス混合物用の、好ましくは環境空気用の入口と、前記ガス混合物用の、好ましくは吸着中の環境空気用の出口とを備え、
前記反応器ユニットは、少なくとも前記ガス状二酸化炭素の脱着のために少なくとも60℃の温度に加熱可能であり、前記反応器ユニットは、前記ガス混合物、好ましくは環境大気の貫流及び吸着工程の吸着材との接触のために開放可能であり、好ましくは、前記反応器ユニットは、さらに400mbar(abs)以下の真空圧にまで排気可能であり、
前記吸着材は、好ましくは、個々の吸着体エレメントのアレイを含む吸着体構造体の形態をとり、前記個々の吸着体エレメントは、請求項11もしくは12記載の織布、不織布、編物もしくは紙状の、凝集性の、好ましくは自己支持性の構造体の形態、又は請求項13記載の通気性容器の形態をとり、前記吸着体構造体は、好ましくは、水分又は水蒸気の存在下でCO
2の選択的吸着を提供し、好ましくは、アレイ状の前記吸着体エレメントは、前記ガス混合物、好ましくは環境大気及び/又は蒸気の貫流のための平行流体通路が形成されるように、実質的に互いに平行に、かつ互いに間隔をあけて配置されており、
前記ユニットは、二酸化炭素を水から分離するための少なくとも1つのデバイス、好ましくは冷却器を備え、
好ましくは、前記二酸化炭素を水から分離するためのデバイス、好ましくは前記冷却器のガス出口側に、脱着プロセスを制御するための二酸化炭素濃度センサ及びガス流量センサの少なくとも一方、好ましくは双方が設けられている、
ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に直接空気回収用の表面官能基化繊維を製造するための方法、該繊維をベースとする構造体、及び該繊維又は該繊維をベースとする構造体の、二酸化炭素回収、特に直接空気回収への使用に関する。
【背景技術】
【0002】
パリ協定によって、気候変動の脅威と、世界の気温上昇を産業革命以前の水準に比べて2℃より十分低く保つための世界的対応の必要性とについてのコンセンサスが得られた。この目標を達成するために、新たな森林の植林から技術的手段に至るまで様々な可能性が提示されている。植林については世論が広く共鳴しているが、そうしたプロジェクトの範囲や実現可能性については議論があり、考えられているほど単純なアプローチではないものと思われる。
【0003】
技術的アプローチのうち最も進んだ技術には、排ガス回収のような点源からのCO2隔離と、直接空気回収(DAC)と呼ばれる空気からのCO2の直接回収がある。どちらの技術戦略も、気候変動を緩和する可能性を秘めている。
【0004】
大気からのCO2回収には、排ガス回収に対して以下のような具体的利点がある:DACは、(i)分散した発生源(例えば、自動車、飛行機)からの排出に対応可能であり、(ii)発生源に取り付ける必要がなく、それとは独立した場所に設置可能であり、(iii)過去からの排出に対応可能であるため、CO2を安全かつ恒久的に貯留する方法(例えば、地下鉱物化)と組み合わせれば、ネガティブエミッションが可能となる。DACはまた、例えば特許文献1に記載されているように、再生可能な材料や燃料を合成するための主要な反応物質を提供するいくつかの手段の1つとして使用されている。
【0005】
適切な回収材料に関しては、いくつかのDAC技術が文献に記載されており、例えば特許文献2に記載されているように、例えば水中のアルカリ土類酸化物を利用した炭酸カルシウムの形成が記載されている。異なるアプローチとしては、固体のCO2吸着体(以下、吸着体と称する)の利用があり、この吸着体は、充填層を使用して気固界面でCO2を回収することを特徴とする。このような吸着体は、特許文献3に報告されているような固定化アミノシラン系吸着体や、特許文献4に開示されているようなアミン官能基化セルロースなど、各タイプのアミン官能基化及びポリマーを含むことができる。
【0006】
特許文献5には、工業用途から二酸化炭素を除去するための、アミノアルキル化ビーズポリマーを含むイオン交換材料の利用が記載されている。
【0007】
特許文献6には、ガス混合物からCO2を可逆的に吸着するための吸着体が記載されており、該吸着体は、高分子吸着体から構成されており、該高分子吸着体は、第一級アミノ官能基を有し、かつ25~75m2/gの高い比表面積(Brunauer-Emmet-Teller法で計算)及び特定の平均細孔直径を有する。材料は、回収後に圧力又は湿度スイング法の適用により再生される。
【0008】
特許文献7には、固体担体に固定化された第一級アミン単位を有する高分子吸着体を用いた二酸化炭素除去法が記載されている。この場合、吸着体の再生は、通気下に55~75℃の温度範囲で吸着体を加熱することによって行われる。
【0009】
特許文献8には、ガス混合物からCO2を回収するための可逆的吸脱着サイクルが可能なアミン基を有する吸着体を含む構造体が開示されており、前記構造体は、繊維フィラメントから構成されており、繊維材料は、炭素、ポリアクリロニトリル、レーヨン、リグニン、セルロース、リヨセル、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリアクリル酸、ポリビニルアミン又はそれらの混合物である。
【0010】
特許文献9には、ガス混合物からCO2を回収するための可逆的吸脱着サイクルが可能であり、表面改質セルロースナノファイバーのウェブによって形成された支持マトリックスを含む多孔質吸着体構造体が開示されている。支持マトリックスは、少なくとも20%の空隙率を有する。表面改質セルロースナノファイバーは、直径約4nm~約1000nm、長さ100nm~1mmのセルロースナノファイバーからなり、その表面に共有結合したカップリング剤で覆われている。カップリング剤は、少なくとも1つのモノアルキルジアルコキシアミノシランを含む。
【0011】
特許文献10には、吸着材を有する吸着体構造体を含むユニットを用いて、サイクル吸脱着によって混合物からガス状二酸化炭素を分離する方法が開示されており、この方法は、以下:(a)前記混合物を吸着材と接触させて、前記ガス状二酸化炭素を環境条件下で吸着させる工程;(b)前記ユニットを20~400mbarabsの範囲の圧力まで排気し、内部熱交換器を用いて前記吸着材を80~130℃の範囲の温度まで加熱する工程;及び(c)ユニットを環境大気圧条件まで再加圧し、吸着材を環境温度以上の温度まで能動的に冷却する工程;を含み、工程(b)において、ユニットに水蒸気を注入して、飽和蒸気条件下で吸着材を貫流させて接触させ、その際、注入される水蒸気と放出されるガス状二酸化炭素とのモル比は、20:1未満である。
【0012】
Zhangら(非特許文献1)は、排ガスからCO2を化学吸着する能力により燃焼後の二酸化炭素(CO2)を回収するためのアミン含有粉末吸着体の既存の研究を報告しており、エレクトロスピニング、細孔形成プロセス、加水分解反応及びその後のグラフト化技術の組み合わせにより、柔軟で堅牢なポリエチレンイミングラフト(PEIグラフト)加水分解多孔質PANナノファイバー膜(HPPAN-PEI NFM)を容易に作製するための新規アプローチを提示している。この著者らは、PAN/PVP繊維からポリビニルピロリドン(PVP)が水抽出により選択的に除去されることに基づき、得られた多孔質PAN(PPAN)繊維がすべてツルレイシの皮のような多孔質構造を示すことを見出した。重要なことは、HPPAN-PEI NFMが、メソ多孔質を保持しつつ、グラフト化後に良好な熱安定性及び顕著な引張強度(11.1MPa)を示すことから、排ガスからのCO2捕捉への応用が保証されることである。40℃でCO2に曝露させた場合、HPPAN-PEI NFMはCO2吸着容量の増加を示し、1.23mmol・g-1(試料全体の量に対して)又は6.15mmol・g-1(グラフト化PEIの量に対して)であった。さらに、開発されたHPPAN-PEI NFMは、N2よりもCO2を著しく選択的に回収し、再生可能であった。20回の吸脱着サイクル試験後に、CO2容量は初期値の92%を維持しているが、これは、得られたHPPAN-PEI NFMの長期安定性が不十分であることを示している。
【0013】
Olivieriら(非特許文献2)は、ほぼCO2不透過性であるが、容易に官能基化可能で紡糸可能なポリマーであるポリ(アクリロニトリル)、すなわちPANをベースとした、CO2回収法用の新規タイプのナノ構造材料を作製した。製造には、PAN粉末のアミン官能基化、粉末のエレクトロスピニングによる大表面積のナノ繊維マットの形成及びマットの圧縮が含まれ、これにより、湿潤CO2の輸送を促進する緻密な膜が得られる。官能基化工程は、ヘキサメチレンジアミン又はエチレンジアミンによるアミノ化及び塩基性加水分解という異なる経路で実施された。ポリマー中の最終的なアミン含量は、反応の種類及び条件の変更により調整可能であったが、官能基化度が高いと架橋が起こり、これにより粉末が不溶性となった。化学的官能基化及び表面積の増加が材料回収能力に及ぼす影響を個別に評価するため、製造の様々な段階で乾燥CO2取込み量を測定した。このような試験の結果、ニートポリマーの化学的変化及び形態的変化の双方が、乾燥CO2吸着容量を向上させることが判明したが、表面積の増加が最も大きな改善をもたらした。圧縮膜の湿潤条件下でのCO2透過試験を行ったところ、直接アミノ化によって官能基化された材料は、促進された輸送機序に適合した挙動を示し、相対湿度50%でCO2透過率は83Barrerに達し、乾燥状態の値の17倍に増加した。加水分解によって官能基化された膜はこのような挙動を示さなかったが、これはおそらく、望ましくない反応によってアミノ官能基が消費されたためであろう。エレクトロスパンマットの表面積が大きいことにより、元の膜よりも透過性が高く、湿潤CO2の回収に有用なアミン基を多く利用できる膜を得ることができたため、エレクトロスピニング・プロセスは、このアプローチの重要な要素であるように思われた。
【0014】
Kuangら(非特許文献3)は、効率的で安定した固体アミン吸着体を用いたCO2回収による大気中のCO2濃度の低減を提示している。ポリアクリロニトリル(PAN)繊維をジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ポリエチレンイミン(PEI)などのアミノ化試薬で直接改質することにより、CO2回収用の一連のアミン含有固体繊維状吸着体が製造された。ニトリル基とアミノ基との反応性により、PAN表面にアミン基が多く導入されることが報告されている。アミノ化試薬のタイプ及び構造が、製造されたままの状態での吸着体の膨潤特性及びCO2吸着容量に及ぼす影響が調べられた。その結果、PAN繊維をアミン化合物で化学修飾することで、アミノ化吸着体のCO2吸着容量の大幅な増加が可能となることが判明した。吸着体の吸着容量は、アミノ基の含量と十分な相関関係にあった。PAN-TETA、また程度は低いもののPAN-TEPAも、PAN-DETAやPAN-PEIよりも高いCO2吸着容量及び優れた安定性を示した。水分子がCO2吸着に関与し、CO2吸着を促進する可能性があることから、アミン修飾繊維のCO2吸着容量は膨潤特性に強く依存すると考えられることが報告されている。
【0015】
特許文献11では、二酸化炭素を他のガスから高い選択性で分離するための高分子膜、該高分子膜の製造方法、及び該高分子膜を用いたガス分離方法が提示されている。該高分子膜は、水溶性高分子と、ポリエチレンポリアミンも含む群から選択される少なくとも1つのアミン化合物とを含む。圧力勾配で駆動される透過による、非周期的で連続的な膜分離プロセスが提示されている。記載されている条件は、このプロセス中の静的条件である。この文献はさらに、高濃度の流れ(排ガスなど)からCO2を分離することを目的としており、実験による証拠としては、N2中36%v/vのCO2流が示されている。
【0016】
特許文献12には、樹状高密度固体アミン繊維材料及びその製造方法が開示されている。有機繊維及び天然繊維をマトリックス繊維として使用し、アルカリ液で前処理したマトリックス繊維にコバルト60のガンマ線を照射し、マイケル付加反応及びアミド置換反応を行い、グラフトアクリル酸モノマー、アミノ化置換反応、アミノ及び不飽和モノマーにより化学修飾を行うことで、樹状高密度固体アミン繊維材料が製造される。この繊維材料は、アミド密度が高く、熱安定性及び化学安定性が良好で、酸性ガスの吸着容量が高く、熱脱着リサイクルにより再生可能であり、さらに、抗菌作用を有し、環境管理、医療材料、機能性被服材料などの分野での広範な応用が見込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第2016/161998号
【特許文献2】米国特許出願公開第2010034724号明細書
【特許文献3】米国特許第8,834,822号明細書
【特許文献4】国際公開第2012/168346号
【特許文献5】国際公開第2011/049759号
【特許文献6】国際公開第2016/037668号
【特許文献7】国際公開第2016/038339号
【特許文献8】米国特許出願公開第2012076711号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2018043303号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2017203249号明細書
【特許文献11】特開2018-144022号公報
【特許文献12】中国特許第104923176号明細書
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】“Balsam-Pear-Skin-Like Porous Polyacrylonitrile Nanofibrous Membranes Grafted with Polyethyleneimine for Postcombustion CO2 Capture”, ACS Appl. Mater. Interfaces 2017, 9, 41087-41098, DOI: 10.1021/acsami.7b14635
【非特許文献2】“Evaluation of electrospun nanofibrous mats as materials for CO2 capture: A feasibility study on functionalized poly(acrylonitrile) (PAN)”, Journal of Membrane Science 546 (2018) 128-138, http://dx.doi.org/10.1016/j.memsci.2017.10.019
【非特許文献3】“Adsorption behavior of CO2 on amine-functionalized polyacrylonitrile fiber”, Adsorption, 2019, Springer Verlag, https://doi.org/10.1007/s10450-019-00070-0
【発明の概要】
【0019】
本発明の目的は、直接空気回収用、より一般的には空気流から二酸化炭素を回収するための吸着体構造体であって、一方では高い機械的安定性を有し、特に温度及び/又は湿潤条件の変動下で多数の吸脱着サイクルを受けた場合にも高い機械的安定性を有し、他方では、多数の吸脱着サイクルに対しても安定である高い二酸化炭素回収容量を示す吸着体構造体を提示することである。さらに、対応する構造体は、高効率で製造可能であり、適切な吸着体エレメントへの加工に適していることが望ましい。
【0020】
本発明の第1の態様によれば、アミン官能基化ポリアクリロニトリル繊維(AFPF)を製造するための方法、好ましくは直接空気回収用のアミン官能基化ポリアクリロニトリル繊維(AFPF)を製造するための方法に関する。提示される方法によれば、未加工ポリアクリロニトリル繊維を、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ペンタエチレンヘキサミン(PEHA)又はそれらの組み合わせの濃度が少なくとも80%v/vである、テトラエチレンペンタミン(TEPA)及びペンタエチレンヘキサミン(PEHA)の少なくとも一方の溶液と組み合わせ、その後、この混合物を、好ましくは撹拌下に120~160℃の範囲の温度で少なくとも4時間の期間にわたって保持する。
【0021】
提示される方法は、PAN繊維の官能基化にPAN繊維のニトリル基の反応性を利用するものであり、ルーズな繊維だけでなく、例えば織布や不織布のように、既にある種のアグリゲート構造の形態をとる繊維でも実施することができる。これに応じて、本方法の文脈で使用される「混合物」という用語には、アグリゲート形態の繊維が対応する溶液に浸漬される状況や、対応する溶液に含浸される状況も包含される。
【0022】
換言すれば、官能基化ポリアクリロニトリル繊維の製造方法は、出発材料としてのルーズな繊維を使用して実施することも、繊維又は糸、織布、不織布、編物又は紙状の凝集性構造体を使用して実施することも可能であり、該凝集性構造体は、ポリアクリロニトリル繊維及び場合によってはポリアクリロニトリル繊維とは異なる他の繊維を(例えば、構造的特性を付与するために)含む自己支持性構造体であってもよいし、そのようなポリアクリロニトリル繊維からなる対応する自己支持性構造体であってもよく、これを次いで官能基化させることができる。好ましくは、本方法は、ルーズなポリアクリロニトリル繊維、又はポリアクリロニトリル繊維製の不織布を用いて実施される。後者の場合、不織布は典型的には、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ペンタエチレンヘキサミン(PEHA)又はそれらの組み合わせの濃度が少なくとも80%v/vである、テトラエチレンペンタミン(TEPA)及びペンタエチレンヘキサミン(PEHA)の少なくとも一方の溶液に浸漬又は含浸され、次いで、120~160℃の範囲の温度で少なくとも4時間の期間にわたって保持される。また、当然のことながら、最初にルーズな未加工繊維を使用して本方法を実施し、次いで該繊維をアグリゲーションプロセスに供して、凝集性の、好ましくは自己支持性の構造体を形成することもでき、例えば不織布を形成するプロセスに供することができる。
【0023】
このような加工条件を用いて、一方では、高い二酸化炭素回収容量を、特に多数のサイクルにわたっても、また可変条件下で示し、製造プロセスが高い収率を示す繊維(又は対応するアグリゲート構造体、例えば不織布構造体)を製造することができる。
【0024】
アミン官能基化PAN繊維吸着体の合成を最適化するために、材料及び反応条件のパラメータスクリーニングを行った。
【0025】
アミノ化は、特許請求の範囲に記載のTEPA濃度で驚くほど成功率が高くなり、90%v/vの水溶液を使用した場合に最良の結果が得られた。反応温度を130℃まで上げると、吸着体の品質向上にさらに役立った。反応時間は、少なくとも4時間とすべきである。
【0026】
本出願人らは、TEPAで改質した後、CO2吸着を満足させるためには、状況によっては必須条件ではないにしても、ベースとなるPAN繊維材料のフィブリル化が有利であると考えられることを見出した。フィブリル化されていない繊維(部分的にSSAが高くても)や、そのような材料から製造された市販のPAN布地は、しばしば性能が劣る。本研究の範囲内で最良の結果が得られたのは、STW DIMAXA 87504 F繊維を、後述する標準的な合成法にしたがってTEPAの90%v/v水溶液と130℃で6時間反応させたものであった。吸着条件にもよるが、この材料は、2mmol_CO2/g_吸着体を超える吸着を示す。繊維を配置して2次元のシートとすることができ、これを次いで3次元の吸着体構造体へと構造化することができる。
【0027】
提示される方法の第1の好ましい実施形態によれば、テトラエチレンペンタミン(TEPA)の溶液の濃度は、少なくとも85%v/vであり、好ましくは85~95%v/vの範囲である。
【0028】
テトラエチレンペンタミン(TEPA)の溶液は典型的には、その水溶液もしくはアルコール性有機溶媒溶液、又はそれらの混合物の溶液である。
【0029】
溶媒として水の代わりにエチレングリコールを使用すると、低TEPA濃度では有益となる場合がある。
【0030】
テトラエチレンペンタミン(TEPA)の溶液は、好ましくは純粋な水溶液である。
【0031】
混合物は、好ましくは撹拌下に125~160℃の範囲、好ましくは130~150℃の範囲の温度で保持される。
【0032】
通常、混合物は、好ましくは撹拌下に4~8時間の範囲、好ましくは5~7時間の範囲の期間にわたって保持される。
【0033】
特に好ましい実施形態によれば、未加工ポリアクリロニトリル繊維は、フィブリル化繊維である。フィブリル化繊維とは、より大きな表面積及び分岐構造を有する繊維を開発するために加工(改良)された繊維の総称である。繊維を機械的に処理してフィブリル化し、さらにミクロ又はナノフィブリルを生成させ、それを原則的なフィブリル化ネットワークに付着させることができる。さらに好ましくは、繊維は、ナノフィブリル化繊維である。典型的には、フィブリル化前の繊維は、1.5~3の範囲、好ましくは2~2.5の範囲のdtex値を有する。あるいは繊維は、円形断面を仮定して、5~50マイクロメートルの範囲、好ましくは10~20マイクロメートルの範囲の直径を有する。さらに好ましくは、フィブリル化前の繊維の長さは、2~10mmの範囲、好ましくは3~5mmの範囲である。
【0034】
好ましくは、未加工ポリアクリロニトリル繊維は、好ましくはフィブリル化繊維の形態で、少なくとも10m2/g、好ましくは少なくとも20m2/g、最も好ましくは20~60m2/mの範囲、又は25~45m2/gの範囲の比表面積を有する。
【0035】
未加工ポリアクリロニトリル繊維は、ここでも好ましくはフィブリル化繊維の形態で、18~70°SRの範囲、好ましくは20~60°SRの範囲のショッパーリーグラー値を有することができる。ショッパーリーグラー値は、水中の繊維懸濁液の粉砕の程度を表すために一般的に使用される尺度である。これは、製紙において広く使用されている用語である。粉砕度は、ショッパーリーグラー度(°SR)で表される。ショッパーリーグラー値の測定方法は、ISO 5267/1で標準化されている。
【0036】
その後、繊維を、通常は少なくとも部分的に乾燥させた後に加工して、凝集性構造体(自己支持性であってもなくてもよい)を、好ましくは織布、不織布、編物もしくは紙状の構造体もしくはそれらの組み合わせの形態で形成するか、又は直接空気回収プロセスに適する及び適合させた通気性容器に充填する。
【0037】
本発明はさらに、上記の方法にしたがって製造された繊維、又はそれから製造された糸に関する。
【0038】
さらに本発明は、上記の繊維又はヤーンを含むか又はそれからなる、織布、不織布、編物又は紙状の、凝集性の、好ましくは自己支持性の構造体に関する。
【0039】
好ましくは、繊維ベースの自己支持性構造体は、フリースの形態をとる。フリースは、好ましくはウェットレイイングプロセスで得られ、実験による証拠から、本発明により製造された特にフィブリル化された繊維が、特に脱着に蒸気が使用される直接空気回収条件において良好な二酸化炭素回収特性を示すことが判明している。対応するフリースは、実際の吸着体構造体に埋め込むことができる。
【0040】
好ましい実施形態において、上記の方法により製造された繊維をウェットレイイングで配置することで、不織布シート又は不織布エレメントとする。この方法において、繊維を水性媒体中に懸濁させ、好ましくは単繊維に分離し、任意に、補助繊維、結合剤(例えば、スチレン及び/又はアクリル及び/又はブタジエン及び/又はエチレンバインダー、例えば、ポリビニルアセテートアクリレート、ポリビニルアセテートマレエート、アクリレート/アクリロニトリル、ポリアクリレート又はそれらの混合物)などの追加の原料と混合して繊維状懸濁スラリーを形成し、最終的に湿潤状態で積層して、メッシュ形成及び脱水機構で不織布を形成する。その結果、前記布地を、例えば乾燥、結合剤の活性化、機械的又は表面特性の向上、形状及びジオメトリーの校正などを目的とし、例えば熱、圧力、各種雰囲気又は追加の化合物の適用を包含し得る1つ以上の工程を適用することによって仕上げることができる。このウェットレイイングプロセスは、繊維の表面官能基化の前に実施することもできる。
【0041】
前記ウェットレイイング法によって製造された不織布は、有利には0.1~4mm、有利には0.4~2mmの厚さ及び/又は50~600g/m2、有利には100~300g/m2の目付を有する。
【0042】
前記ウェットレイイング法の好ましい実施形態において、上記の方法により製造された、有利にはフィブリル化された繊維は、スラリー形成中に、1~30重量%の量の補助繊維と混合される。このような補助繊維は、例えば、アラミド、バサルト、炭素、セルロース、木綿もしくは他の天然繊維、ガラス、ミネラルウール、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール又はそれらの組み合わせをベースとする繊維からなる及び/又はそれらを含む、多成分繊維もしくは単成分繊維又はこれらの任意の比率の組み合わせであってよく、例えば特にPET/PET又はPET/PEの二成分系バインダー繊維又は機械的安定性を向上させるためのPET繊維であってよい。前記方法で布地をウェットレイイング処理した後、布地シートを少なくとも部分的に乾燥させ、次いで、例えばカレンダリングによる又は加熱ダブルベルトプレスでの圧力と熱との複合的な適用に供することができ、これは、厚さを校正し、妥当な場合には、使用したバインダー繊維を活性化することを目的とする。
【0043】
前記ウェットレイイング法の別の好ましい実施形態において、ポリマーバインダー粒子の分散液が、アミン官能基化PAN繊維の重量に対して1~15%の量で、布地形成工程の前に繊維スラリーに添加され、追加的又は代替的に補助繊維を0~20重量%の量で添加することができる。ここでも、ウェットレイド布地シートは、少なくとも部分的に乾燥させられ、次いで好ましくは、例えばカレンダリングによる又は加熱ダブルベルトプレスでの圧力と熱との複合的な適用に供され、これは、厚さを校正し、妥当な場合には、使用したバインダー粒子及び/又は繊維を活性化することを目的とする。
【0044】
本発明のさらなる主題は、上記の繊維又はそれから製造された不織布などのアグリゲート凝集性構造体を含む通気性容器である。また、該凝集性構造体を張る又は担持するフレームも可能である。
【0045】
本発明のさらに別の主題は、ガス混合物、好ましくは、環境大気、排ガス及びバイオガスのうちの少なくとも1つからガス状二酸化炭素を分離するための、好ましくは直接空気回収のための上記の繊維の使用であって、特に、温度、真空又は温度/真空スイング法を使用し、好ましくは、貫流による部分的又は完全に飽和した又は過熱された蒸気流の注入を用いて60~110℃の温度への吸着材の温度の上昇を誘導してCO2の脱着を開始するプロセスを使用する、使用である。
【0046】
ポリアクリロニトリルをベースとする繊維、例えば不織布構造の繊維は、好ましくは、ガス状二酸化炭素を、前記ガス状二酸化炭素及びガス状二酸化炭素とは異なるさらなるガスを含むガス混合物、好ましくは環境大気、排ガス及びバイオガスのうちの少なくとも1つから、ユニット内の前記ガス状二酸化炭素を吸着する前記繊維を有する吸着材を用いたサイクル吸脱着によって分離するために使用することができ、
ここで、本方法は、少なくとも以下の逐次的でかつこの順序で繰り返す工程(a)~(e)を含む:
(a)前記ガス混合物を吸着材と接触させて、少なくとも前記ガス状二酸化炭素(その一部又は実質的にすべてのCO2)を、前記ユニットの貫流によって(したがって、前記ガス状二酸化炭素の少なくとも一部を吸着する吸着材の中を通る及び/又はその上方を通る貫流によって)吸着材に吸着させる工程であって、前記貫流を、吸着工程において、ガス混合物として環境大気を使用する場合には環境大気圧条件及び環境大気温度条件下で(環境大気が、換気装置などを使用してデバイスから押し出される/デバイスに引き込まれる場合には、たとえ換気装置によって反応器から押し出される/反応器に引き込まれる空気が周囲の環境大気圧よりわずかに高い又は低い圧力を有する場合であっても、これも本出願に沿った環境大気圧条件であるとみなされ、その圧力は、「環境大気圧」の定義において上記で詳述した範囲内にある)行い、他の場合には、供給されるガス混合物の温度及び圧力条件下で行う、工程;
(b)前記ユニット内の二酸化炭素を吸着した前記吸着材を、好ましくは吸着体の温度を実質的に維持しながら前記貫流から分離する工程;
(c)吸着材の温度の、好ましくは60~110℃の温度への上昇を誘導して、CO2の脱着を開始する工程。これは例えば、部分的又は完全に飽和した又は過熱された蒸気流を、好ましくはユニットの貫流により及び吸着体の上方を通る/中を通る貫流により注入し、それによって60~110℃の温度への吸着材の温度の上昇を誘導して、CO2の脱着を開始することによって可能である;
(d)少なくとも、脱着されたガス状二酸化炭素(好ましくは、脱着されたガス状二酸化炭素の大部分又はすべて)をユニットから取り出し、ユニットの下流で、好ましくは凝縮によってガス状二酸化炭素を蒸気から分離する工程;
(e)吸着材を、ガス混合物として環境大気を使用する場合には環境大気温度条件及び環境大気圧条件(吸着材が、本工程において厳密には周囲の環境大気温度条件まで冷却されない場合であっても、これも本工程によるものとみなされ、好ましくは、本工程(e)で確立される環境大気温度は、周囲の環境大気温度+25℃、好ましくは+10℃又は+5℃の範囲内にある)にし、他の場合には、供給されるガス混合物の温度及び圧力条件にする工程。
【0047】
本開示の文脈において、「環境大気圧」及び「環境大気温度」という表現は、屋外で運転されるプラントが曝される圧力及び温度条件を意味し、すなわち、典型的には、環境大気圧は、0.5~1.1barabsの範囲の圧力を意味し、典型的には、環境大気温度は、-40~60℃、より典型的には-30~45℃の範囲の温度を意味する。プロセスの投入物として使用されるガス混合物は、好ましくは環境大気であるため、これはDACプロセスであり、すなわち、環境大気圧、環境大気温度の空気であり、これは、通常は0.03~0.06体積%の範囲のCO2濃度を含有する。しかし、CO2濃度がより低い又は高い空気、例えば濃度が0.1~0.5体積%である空気も、プロセスの投入物として使用することができるため、総じて好ましくは、投入ガス混合物の投入CO2濃度は、0.01~0.5体積%の範囲である。しかし、排ガスを供給源とすることも可能であり、この場合、投入ガス混合物の投入CO2濃度は、典型的には最大20体積%又は最大12体積%の範囲であり、好ましくは1~20体積%又は1~12体積%の範囲である。
【0048】
好ましくは、吸着工程(a)において、本方法は、1日、1ヶ月及び/又は1年間におけるサイクルの少なくとも5%又は10%又は50%の間に吸着材を通過するガス混合物又は環境大気が、5~100%RH、10~98%RH又は20~95%RH又は50~92%RHの範囲、好ましくは30~95%の範囲で変化する相対湿度を有する条件下で実施される。
【0049】
さらに本発明は、ガス混合物、好ましくは環境大気、排ガス及びバイオガスのうちの少なくとも1つからガス状二酸化炭素を分離するためのユニット、好ましくは直接空気回収ユニットであって、
前記ユニットは、前記ガス混合物の貫流に適する及び適合させた吸着材を含む少なくとも1つの反応器ユニットを含み、
前記反応器ユニットは、前記ガス混合物用の、好ましくは環境空気用の入口と、前記ガス混合物用の、好ましくは吸着中の環境空気用の出口とを備え、
前記反応器ユニットは、少なくとも前記ガス状二酸化炭素の脱着のために少なくとも60℃の温度に加熱可能であり、前記反応器ユニットは、前記ガス混合物、好ましくは環境大気の貫流及び吸着工程の吸着材との接触のために開放可能であり、好ましくは、前記反応器ユニットは、さらに400mbar(abs)以下の真空圧にまで排気可能であり、
吸着材は、好ましくは、個々の吸着体エレメントのアレイを含む吸着体構造体の形態をとり、前記個々の吸着体エレメントは、上記の織布、不織布、編物もしくは紙状の、凝集性の、好ましくは自己支持性の構造体の形態、又は上記の通気性容器の形態をとり、前記吸着体構造体は、好ましくは、水分又は水蒸気の存在下でCO2の選択的吸着を提供し、好ましくは、アレイ状の吸着体エレメントは、前記ガス混合物、好ましくは環境大気及び/又は蒸気の貫流のための平行流体通路が形成されるように、実質的に互いに平行に、かつ互いに間隔をあけて配置されており、
前記ユニットは、二酸化炭素を水から分離するための少なくとも1つのデバイス、好ましくは冷却器を備え、
好ましくは、前記二酸化炭素を水から分離するためのデバイス、好ましくは前記冷却器のガス出口側に、脱着プロセスを制御するための二酸化炭素濃度センサ及びガス流量センサの少なくとも一方、好ましくは双方が設けられている、
ユニットに関する。
【0050】
本発明のさらなる実施形態は、従属請求項に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0051】
本発明の好ましい実施形態につき、図面を参照して以下に説明するが、図面は、本発明の好ましい本実施形態の説明を目的としており、その限定を目的としたものではない。
【
図1】ポリアクリロニトリルと直鎖状エチレンイミンオリゴマーとの反応スキームを示す図である。
【
図2】デバイスBで「20℃、65%RH」で測定されたAFPF1(TEPA官能基化PAN)の負荷曲線(下側の線、右側のy軸)及び破過曲線(上側の線、左側のy軸)を示す図である。
【
図3】デバイスBで「20℃、65%RH」での、AFPF2(PEI官能基化PAN)の負荷曲線(下側の線、右側のy軸)及び破過曲線(上側の線、左側のy軸)を示す図である。
【
図4】所与の設定条件にてデバイスBで測定されたAFPF1のCO
2平衡容量を示す図である。
【
図5】デバイスAで測定された、STW DIMAXA 87504 T+70%v/vTEPA水溶液、反応時間6時間での95~150℃の反応温度スクリーニングを示す図である。
【
図6】デバイスAで測定された、STW DIMAXA 87504 T+90%v/vTEPA水溶液、反応時間6時間での120~150℃の反応温度スクリーニングを示す図であり、棒グラフはCO
2負荷容量(左側のy軸)を示し、線グラフは重量増加(右側のy軸)を示す。
【
図7】デバイスAで測定された、STW DIMAXA 87504 T+90%v/vTEPA水溶液、温度140℃での2~8時間の反応時間スクリーニングを示す図である。
【
図8】デバイスAで測定された、温度120℃、反応時間6時間での、50%v/v~100%v/vTEPA水溶液+STW DIMAXA 87504 Tのアミン濃度スクリーニングを示す図である。
【
図9】デバイスAで測定された、CO
2取込み容量に対するアミン化合物の効果の比較を示す図であり、合成は、本明細書に記載のとおりに行われ(70%v/vアミン水溶液(Pz36重量%)+STW DIMAXA 87504 T、温度120℃、反応時間6時間)、PEIのデータポイントは、デバイスBで測定されたものである。
【
図10】デバイスAで測定された、各アミノ化繊維(70%v/vTEPA水溶液、温度120℃、反応時間6時間)についてのCO
2取込み容量の比較(棒グラフ、左側のy軸)、及びN
2吸着法により求められた未加工繊維のSSA(線グラフ、右側のy軸)を示す図である。
【
図11】フィブリル化繊維(DIMAXAタイプ)、非フィブリル化繊維(PACタイプ)及び市販のPAN不織布(Freudenbergタイプ)についてのCO
2取込み容量と未加工繊維のSSAとの相関関係を示す図であり、CO
2容量は、フィブリル化及びフィブリル化繊維についてはデバイスAで測定され、不織布についてはデバイスBで測定され、SSAは、N
2吸着法により求められた。
【
図12】2つの条件で合成された各フィブリル化DIMAXA繊維をベースとするAFPF材料についての、デバイスBで測定された、各気候条件におけるCO
2取込み容量の比較を示す図である(欠測値は、機器エラーのため測定されなかった)。
【
図13】各条件下で合成されたSTW DIMAXA 87504 TをベースとするAFPF材料についての、デバイスBで測定された、各気候条件下でのCO
2取込み容量の比較を示す図である(欠測値は、機器エラーのため測定されなかった)。
【
図14】
図14のa)は、フリース試料Bから構成される平行流路反応器で測定された、連続する15サイクルのCO
2取込み量を示す図であり、取込み量は、サイクル1の約240分後の全CO
2取込み量で正規化されており、
図14のb)は、全サイクルの約240分後の対応する正規化されたCO
2取込み量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
繊維状PANの化学的にアクセス可能な表面のニトリル基と脂肪族アルキレンアミンとの反応性により、アミジン基、アミド基及びアミン基を含む官能性材料が容易に製造される(
図1参照)。
【0053】
このような改質繊維は、様々な用途で研究されてきた。これには、水溶液からの重金属イオンの分離、重金属イオンを固定化した不均一系触媒又はガス分離膜としての利用、及び排ガスのような濃度の二酸化炭素の回収などが含まれるが、当業者にはよく知られているように、CO2排ガス回収用吸着材は、多くの理由から、自動的に直接空気回収に適するわけではない。
【0054】
各種粒状アミン系吸着材を、様々な直接空気回収(DAC)プラント及びプロセス世代で使用することができる。しかし、これらは、許容圧力損失と関連する最大流量に関する制限や、エネルギー消費量の増加により生じるコストへの影響を伴う場合がある。吸着キネティクスの改善と相まって低圧力損失で高流量を可能にする構造化吸着体により、こうした制限を克服する潜在的な解決策が提示される。このようなアプローチの1つは、アミン官能基化ポリアクリロニトリル(PAN)繊維を配置してテキスタイル材料(糸、織布、不織布又は紙状材料)とし、これを集成して構造化吸着体としたものをベースとする。
【0055】
PAN繊維をアミンで官能基化することができ、そのうち以下の4つの化合物が挙げられる:ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)及びポリエチレンイミン(PEI)。合成は、水性媒体中で、例えば120℃、70%v/vのアミン濃度(還流)で6時間行うことができる。これらの合成パラメータを本研究の最初の実験に用い、アミノ化剤としてTEPA(AFPF1、AFPFは「amine functionalized PAN fibres(アミン官能基化PAN繊維)」の略)及びPEI(AFPF2)を用いて実施した。
図2及び
図3からわかるように、AFPF1の二酸化炭素取込み量は、AFPF2の二酸化炭素取込み量よりも多かった。
【0056】
デバイスBでAFPF1について吸着条件スクリーニングを行った結果、AFPF材料は、低温、高湿度(90%RH、10℃)で最も優れた性能を発揮することが明らかになった(
図4参照)。
【0057】
さらに、AFPF1を水に1時間浸して溶出試験を行ったところ、pHストリップによる水のpH変化は見られなかった。このことは、TEPAが実際にはPAN繊維に共有結合しており、物理的に吸着又は含浸されているだけではないことを示している。
【0058】
この方法から出発して、Schwarzwaelder Textil-Werke (STW) Heinrich Kautzmann GmbH, DEより入手可能なDIMAXA 87504T型繊維について、多数の各反応パラメータ及び反応剤の効果を試験した。さらに、以下に概説する標準反応条件下で、多数の繊維タイプをスクリーニングした。最後に、最良の方法と最良の繊維とを組み合わせた。検討したパラメータ及び繊維を表1にまとめた。
【0059】
【0060】
すべての材料について、60%RH、30℃でデバイスAにてCO2破過曲線を測定することにより特性評価した(下記参照)。統合により、合成変形例の比較に使用される各材料のCO2平衡容量が得られた。選択された材料を、以下に示すようにデバイスBにて追加条件で試験した。
【0061】
反応温度
記載された標準化合成プロトコルにしたがって、2つの温度スクリーニングを行った。まず、STW DIMAXA 87504 Tを70%v/v水性TEPAで6時間アミノ化させ、得られた材料について認められた平衡容量に対する温度の影響を調べた。結果は
図5に示されており、得られた容量は、130℃まで反応温度の上昇とともに増加する。140℃を超える温度まで加熱すると、容量はまたわずかに減少した。
【0062】
TEPA濃度を高め(90%v/v)、残りのパラメータを一定にして(95℃は省略)、別の温度スクリーニングを行った。水含有量が減少したため、反応混合物の有効温度が高くなることが予想される。結果を
図6に示す。全体として、反応混合物中のTEPAが70%v/vの場合よりも高い容量が得られ、約1.3mmol/gに達した。130℃を超えると、観察された回収容量はほとんど増加しない。不思議なことに、最初の温度スクリーニングでは、150℃で製造された材料では回収容量の低下が観察された。後者の実験ではそうではなかった。単にアミノ化剤の濃度を変更しただけであるため、直感に反すると思われるが、その理由は不明である。
【0063】
興味深いことに、反応温度を上げると、生成物の重量増加は、130℃での46%から150℃での78%に上昇した。言い換えれば、温度を上げることで、同じCO2吸着容量を有する吸着材の合成収率を20%超高めることができた。この観察は、アップスケーリング事業の最適化にとって重要な意味を持つ可能性がある。なぜならば、これにより、一方では反応(及び加熱)の時間及び温度(すなわちエネルギー消費量)に関するコスト最適化、そして他方では収率、アミン含有量及びアミン効率に関するコスト最適化の可能性が広がるためであり、これは、今後さらなる対応が必要とされるものと考えられる。
【0064】
反応時間
140℃でのTEPA(水中90%)によるSTW DIMAXA 87504 T繊維のアミノ化反応において、反応時間の影響を調べた。反応を、以下の指示にしたがって行った。示された期間の後、試料をフラスコから取り出し、別々に作業した。
【0065】
その結果、反応時間を4時間より長く延長しても、得られた材料の観察された回収容量では、わずかな改善しか見られず、いずれも1.2±0.1mmol_CO
2/g_吸着体の範囲であった。これらの知見を、
図7に示す。
【0066】
結論として、合成中は、反応混合物を設定温度で少なくとも4時間保持すべきである。
【0067】
アミン濃度
合成中のアミン濃度の影響を調べるため、STW DIMAXA 87504 Tを、50%v/v~100%v/vの範囲を網羅する一連の実験で10%v/v刻みでアミノ化させた。残りのパラメータは、油浴温度120℃、反応時間6時間であり、アミノ化試薬としてTEPAを用いた。結果を
図8に示す。50%v/vから90%v/vまでは、得られた材料の平衡容量に一定の傾斜を観察することができた。これは、水含有量の減少による容器内の反応温度の上昇(TB(H
2O)=100℃、TB(TEPA)=340℃)に起因すると考えられ、上記で報告したTEPA濃度を高くした場合の第2の温度スクリーニングをもたらした。90%v/vから100%v/vになると、急激な低下が観察された。
【0068】
エチレングリコール中での合成
フラスコを大気開放すると、いくつかの反応のワークアップ中にガス/白色の霧の発生が観察された。気泡は観察されなかった。このガスをpHストリップで試験したところ、塩基性成分に対して青く着色したことから、反応中にアンモニアが生成したことが示唆された。この知見から、水の存在がアンモニアの生成を誘発するのではないかという仮説が生まれた。
【0069】
この機序には、二酸化炭素の回収に不活性なアミド官能基の形成も含まれる(
図1参照)。その結果、溶媒として水を使用すると、回収性能が低下する材料になる可能性があると考えられた。そこで、水よりも沸点が高く酸性度の低い溶媒であるエチレングリコールを、PAN繊維の官能基化において検討した。
【0070】
水に対するエチレングリコールのさらなる潜在的な利点は、沸点が高いことであり、中程度のアミン濃度ではフラスコ内の反応温度が高くなる可能性がある。
【0071】
対応する実験の結果は、水がPANの表面のニトリル基のアミノ化に関与しているという仮説を示している。初期に観察された、エチレングリコール中で製造された吸着体の高いCO2容量は、その実験で使用したベース繊維がより有益な湿度であったことと、70%v/vというより低いTEPA濃度で水の代わりにエチレングリコールを使用することで達成されたより高い反応温度とに起因すると考えられる。後に行った、より高濃度のアミンを使用した実験では、この場合には水を使用しているにもかかわらず反応混合物がより高温になるため、この効果はあまり顕著ではなかった。このように、反応溶媒としてのエチレングリコールには何ら利点はなく、実際にはCO2取込み容量がわずかに低い材料になった。
【0072】
窒素雰囲気下での合成
空気雰囲気下でも窒素雰囲気下でも、製造された材料の平衡容量に大きな差は見られなかった。このことから、反応合成中に環境レベルの酸素が存在しても、それぞれのAFPF材料の回収性能を変化させるような酸化は起こらない可能性が高いという結論が導かれる。
【0073】
アミンスクリーニング
アミノ化試薬としての一連の脂肪族アミンを、STW DIMAXA 87504 Tのニトリル基と反応する能力に関して調べた。これらは、TEPA、TETA、ペンタエチレンヘキサミン(PEHA)、ピペラジン(Pz)及びPEIであった。パラメータを、下記の標準条件に設定した:油浴温度120℃、70%v/v水性アミン濃度過剰、反応時間6時間。Pzは他のアミンほど水と混和しないため、この場合には5gのベース繊維に対して水70mL中Pz40gの溶液を使用した。得られた材料のCO
2取込み容量を、以下の
図9に示す。Pzを用いた実験では合成パラメータを変更したため、他のアミンとの直接的な比較はできない。
【0074】
TEPA及びPEHAを用いて製造された材料は、同程度の容量を有することが観察された。Pzは繊維をアミノ化できないようであり、PEIの場合には、個別の脂肪族鎖から製造されたものよりもCO2容量がはるかに低い材料が得られた。これらの知見は、先行技術における観察結果とは対照的である。先行技術では、排ガスと同程度の濃度(10%)のCO2を回収するには、TEPAよりもTETAの方がアミノ化剤として優れていることが見出されている(TETAを用いて製造された材料では、容量が25%高い)。本研究では、TEPAを用いて製造された材料について、40%高い平衡容量が観察されたため、TEPAを他のすべての調査の標準アミンとして選択した。
【0075】
繊維スクリーニング
2つの選択的なクラスのPAN繊維を、標準条件下でのアミノ化能力に関して調べた。いずれの繊維も、ドイツ、シェンケンツェルのSchwarzwaelder Textil Werke (STW)から供給された:
1)STW DIMAXAクラスのフィブリル化繊維。これらの繊維には機械的応力(粉砕)が加えられており、その結果、繊維がフィブリル化されている。これによって表面積が大幅に増加し、化学変換のために表面のニトリル基が利用しやすくなる可能性がある。フィブリル化工程は水性懸濁液中で行われるため、繊維は、STWから湿潤(F=feucht)形態で調達することも、乾燥(T=trocken)形態で調達することも可能である。
2)STW PACクラスの非フィブリル化繊維。これらの繊維はフィブリル化されておらず、一般的に表面積が小さい。
【0076】
いくつかの非官能基化繊維タイプの比表面積(SSA)を、N2等温測定(BET法、以下のセクション)により求めた。使用したすべてのフィブリル化繊維が、少なくとも25m2/gのSSAを有することは明らかである(表2参照)。非フィブリル化繊維では、PAC gl 2.5/8及びPAC hm 6.7/10は、SSAが約1m2/gであり、かなり低い。
【0077】
【0078】
さらに、これらの繊維を用いて一連の吸着材を標準条件で製造した。結果を
図10にまとめた。原料繊維のSSAと官能基化繊維のCO
2容量との間に直接的な相関関係は見られないが、フィブリル化DIMAXA繊維のみが満足のいくCO
2平衡容量を有する材料をもたらすことは明らかである。非フィブリル化繊維は、同じ条件下でごくわずかなCO
2取込み量しか示さない。
【0079】
フィブリル化されたものだけがAFPF吸着体として満足に機能するという観察は、
図11にさらに示されている。各AFPF材料のCO
2吸着容量が、ベースとなる原料繊維のSSAに対して示されている。先に述べた結果に加えて、この図には、選択されたアミノ化された市販のPAN布地の結果も含まれている。これらの布地もまた、比較的SSAの低い非フィブリル化繊維からなっており、低いCO
2容量を示す。
【0080】
全体として、フィブリル化は、優れた回収性能を有するAFPF材料を区別する重要な特性の1つであると結論づけることができる。
【0081】
さらに調べると、フィブリル化DIMAXA繊維の各タイプ間で差異が認められた。これらの繊維は、いくつかの種類が入手可能である。最も差異が認められる重要な特性はフィブリル化の度合いであり、これはショッパーリーグラー(SR)値で測定されるPAN繊維パルプの保水容量に関連している。この値は、DIMAXA繊維の番号コードの3桁目及び4桁目で示される。もう1つのパラメータは、製品コードの5桁目で解読されるベース繊維の長さである。いずれにせよフィブリル化の過程で繊維は短くなるため、本出願人らにとって、この特性はさほど重要ではないと思われる。最後に、繊維は、フィブリル化から生じるプロセス用水を圧搾除去しただけの湿潤状態(「F」、ドイツ語で「feucht」)(固形分約50%)で調達することも、乾燥状態(「T」、ドイツ語で「trocken」;固形分約95~100%)で調達することも可能である。
【0082】
合計4種類のDIMAXA繊維(87504F/T、87204T、87203F)を調べたが、2種類はSRが20、2種類はSRが50であり、双方とも湿潤状態(F)及び乾燥状態(F)であった。繊維は、フィブリル化前に4mmの初期長さを有していたが、湿潤状態(F)のSRが20である試料だけは、3mmの長さの繊維から開始した。2つの異なる条件セットで吸着体を製造することにより、4つの繊維タイプすべてを詳細に調べた:a)標準条件(120℃、70%v/vTEPA、反応時間6時間)、b)改良条件(140℃、90%v/vTEPA、反応時間6時間)。これまでの観察結果と一致し、より高い温度でより高いTEPA濃度で合成された吸着体は、より高いCO
2取込み量を示した。すべての場合において、CO
2取込み量は気候条件に依存し、吸着空気の温度が低く湿度が高いほど、観察されたCO
2吸着容量は高かった(
図12参照)。興味深いことに、DIMAXA 87504では、湿潤(F)品種の方が乾燥(T)品種よりも優れた吸着体が得られた。2つの乾燥ベース繊維を比較すると、フィブリル化度の低い繊維(DIMAXA 87204T)が明らかに有利であるのに対し、湿式品種ではフィブリル化度の高い繊維がより良好な結果を示した(DIMAXA 87504F)。興味深いことに、これらの傾向は、調査した双方の合成条件において非常によく類似して認めることができた。このことは、フィブリル化度の高い繊維(DIMAXA 87504T)により、全体的に最良の結果が得られたというこれまでの議論と一致している。一方で、あるケースで湿潤繊維をベースにした吸着体の性能がより優れているのは、より好ましい反応条件、例えば、浸漬、湿潤及び全般的にPAN繊維とアミン溶液との接触が改善されたことに起因している可能性がある。
【0083】
最後に、本出願人らは、乾燥DIMAXA 87504 Tについて上記で決定した最も有望な合成条件を、最も有望な繊維タイプである湿潤DIMAXA 87504 Fと組み合わせた(
図13参照)。乾燥繊維と同様に、90%水性TEPA、油浴130℃、反応時間6時間で繊維を改質した場合に、最良のCO
2取込み性能が得られた。調査された最も好ましい吸着条件下では、この繊維(AFPF44)は、2.7mmol_CO
2/g_吸着体まで吸着する。
【0084】
市販のPAN布地
PANから構造化吸着体を製造するため、市販されている様々な織布及び不織布のPAN布地を調達し、標準条件(H2O中70%v/vTEPA、油浴120℃、反応時間6時間)で官能基化させた。ほとんどの材料について、有意なCO2取込み量は測定されなかった。ただ1つの試料AFPF33のみが、わずかな取込み量を示した。これらの実験から、市販のPAN布地の性能の低さは、繊維固有の特性の結果であり、繊維から布地への配置によるものではないと結論づけることができる。
【0085】
実験セクション
合成プロトコル
上に示したすべてのAFPF(アミン官能基化PAN繊維)材料を、以下に詳述するように製造した。
【0086】
500mLの3ツ口丸底フラスコに、未加工PAN繊維(典型的には乾燥重量10.0g)及び脱イオン水(DI-H2O)中の必要濃度のアミン水溶液(典型的には300mL)を装入する。還流冷却器を取り付け、反応混合物をオーバーヘッドスターラーで機械的に撹拌し、反応混合物を所望の反応温度に加熱するために油浴を設置する。最初の2時間で、無色から明るい黄色又は橙色に徐々に変化するのが観察でき、粘稠なペーストが形成される。合成時間が経過した後、油浴を取り外し、フラスコを取扱いが可能になるまで放置して冷却する。さらに、取扱い性を向上させるために、懸濁液をDI-H2O(200mL)で希釈して粘度を下げる。混合物をブフナー漏斗(MN615フィルター、又は有利にはGE Whatman 589/1)で真空吸引しながら濾過し、濾液がpHストリップで測定して中性になるまでDI-H2O(各回800mL)への懸濁と以前と同様の真空濾過とを繰り返すことで、繊維を5~6回洗浄する。その後、繊維をEtOH(800mL)で洗浄して残留水を除去することにより、乾燥プロセス中の塊状物の形成を防ぐ。繊維を真空(100mbar)中で40℃にて一晩乾燥させる。
【0087】
使用した「標準条件」は、アミン濃度70%v/v(特に断りのない限り、TEPA(テクニカルグレード、Acros Organics)を使用)、油浴温度120℃、反応時間6時間であった。標準実験のバリエーションでは、一般的な手順はそのままで、パラメータを報告のとおりに変更した。エチレングリコールを溶媒として使用した場合は、これを反応中にアミン(TEPA)を希釈するためにのみ使用し、その後のワークアップ中の洗浄にはDI-H2Oを使用した。N2雰囲気での反応では、反応混合物及び容器に加熱前にN2をパージし、反応中はN2で満たしたバルーンを取り付けた。市販のPAN布地を改質するために、前記布地の断片を過剰のアミン溶液に入れ、標準条件下で記載のとおりに処理した。ワークアップのために、布地を同様に水中で洗浄したが、洗浄液を濾過ではなく圧搾により除去した。
【0088】
CO
2取込み量の測定
合成の最適化のために(
図2、
図3、
図5~
図11)、製造された吸着体のCO
2吸着容量を、3~4gの繊維吸着体を充填した内寸35mm×35mm、高さ33mmの正方形の測定セルを備えたCO
2吸脱着デバイスAで測定した。吸着体層を空気流(2NL/min)中で75分間かけて94℃に加熱する脱着工程によって測定を開始する。30℃まで冷却した後、吸着体層を、450ppmのCO
2を含む30℃、60%RHの空気流2NL/minに600分間曝露させる。この第2の工程で吸着されたCO
2の量を、前記測定セルから出る空気のCO
2含有量を測定する赤外線センサの信号の積分によって求め、この量は、測定に使用された吸着体の乾燥質量を基準とする。
【0089】
さらに、選択された吸着体を、気候条件を変化させたCO2吸脱着デバイスBで試験した。本デバイスにおいて、約1gの繊維吸着体を、2つの恒温槽のうちの一方から供給される油流が貫流する管状の二重壁反応器(直径=10mm、高さ約10cm)に入れる。最初に、空気流(2NL/min)を反応器に通しながら、この油流を100℃に切り替えて45分間かけて吸着体の脱着を行う。その後、油流をより低温の槽からの供給に切り替え、ガスフローなしで反応器を冷却する。設定した閾値温度に達した後、吸着体を、450ppmのCO2を含む2NL/minの加湿空気流に300分間曝露させる。所望の気候条件に応じて、反応器周辺の油流の温度及び加湿用の水の供給量を設定する。系は設定値のみに依存し、気候条件を能動制御しないため、反応器内の実際の条件は「引用符」で報告された設定値と異なることがある。第2の工程中に吸着されたCO2の量を、前記測定管状反応器から出る空気のCO2含有量を測定する赤外線センサの信号の積分によって求め、この量は、測定に使用された吸着体の乾燥質量を基準とする。
【0090】
窒素吸着による比表面積(SSA)の測定
窒素吸着測定を、Quantachrome Autosorb iQを用いて77Kで行った。0.1~0.3gの試料サイズを用い、材料を、使用前に真空下で90℃にて12時間脱気した。比表面積(SSA)を求めるために、ISO 9277に準拠してBET(Brunauer,Emmett,Teller)表面積分析を行った。
【0091】
目付及び厚さ
本明細書に記載の織布、不織布、編物又は紙状の構造体の目付及び厚さは、所与のプロセス及び回収する種の濃度に対して最大のアウトプットが提供されるように選択されている。このような回収プロセスはすべて、特に直接空気回収に関連するプロセスでは、技術的及びエネルギー的に課される圧力損失の制限の指示を尊重しなければならない。したがって、最大許容圧力損失及び(アレイの間隔を考慮した)最大許容有効材料密度で認められる回収スループットの最大値が存在する。前述のものよりはるかに厚い又は目付がはるかに高い、したがって材料の単位体積あたりの可能な種の負荷量がより高い材料は、サイクル的に魅力的な負荷に到達するために、より多くのガス流量を必要とする。しかし、上述の圧力損失限界を尊重することは、サイクル時間を長くするか、アレイ内の構造体の間隔を広げることにつながる。どちらの対策も、プロセスのアウトプットを低下させる。逆に、はるかにより薄い材料や目付がはるかに低い材料は、(取扱いや配置がはるかにより難しいことに加えて)逆の問題を有しており、すなわち、結果として生じる狭いアレイ間隔や短いサイクル時間では、結果として生じる低い有効材料密度を相殺することができず、本明細書に開示した目付及び厚さの範囲から逸脱すると、再びアウトプットが低下する。
【0092】
フリースの製造及び特性評価
ウェットレイドフリースを、以下の手順を用いて製造した:
1.繊維懸濁液の製造:Ultra-Turraxミキサー(1分、8000rpm)を用いて、2lの水に、目的の目付及び組成に望ましい量のフィブリル化AFPF繊維を懸濁させる。場合によっては、バインダー繊維のような潜在的な添加剤を加え、Ultra-Turraxで混ぜ入れる(30秒、8000rpm)。
2.Rapid-Koethenシート形成機でのシート形成:シート形成機に4Lの水を充填し、旋回空気流のスイッチを入れる;繊維懸濁液を加え、1分間旋回させる;3秒間静置した後、排水を開始し、繊維をシート形成機のシーブ上に載置して、直径20cmの円形シートを形成する。
3.対流式オーブンでの80℃で60分間のフリースの乾燥。
4.以下のいずれかの選択肢によるフリースの熱接着:
a.フリースを、115~135℃で2ドラムカランダー(Mathis AG、スイス)に通す;ドラム速度1m/min、ギャップ0.2~0.5mm。
b.フリースを、125~135℃でThermofixダブルベルトプレス(Schott&Meissner GmbH、ドイツ)に通す。ベルト速度1m/min、ギャップなし。
c.対流式オーブン中で140℃にて1分間、結合剤を活性化させる。
【0093】
STW DIMAXA 8750 F PAN繊維をベースとし、TEPAの90体積%水溶液中で130℃にて6時間アミノ化させたAFPF繊維を用いてフリースを製造した。
【0094】
以下の結合剤を、単独で又は組み合わせて使用した(この列挙は限定的なものではなく、単なる例示である):
・Bico-fibre PET/PET Kuraray、5mm、1.0dtex、シース融点110℃
・Bico-fibre PET/PE Trevira 255、6mm、1.3dtex、シース融点127℃
・PET繊維Advansa 12mm、3.3dtex
・PET繊維Barnet 12mm、6.7dtex
・PET繊維STW 6mm、1.7dtex
・15g/l又は40g/lの水性懸濁液としてのAcronal DS 3558(BASF、ドイツ)
・15g/の水性懸濁液としてのLefasol VD74/1(Lefatex Chemie GmbH、ドイツ)。
【0095】
その結果、得られたフリースを、目付についてDIN EN 12127に準拠してg/m2単位で、厚さについてDIN EN ISO 9073-2に準拠してmm単位で、通気度についてDIN EN ISO 9237に準拠して100Paでのmm/s単位で、湿潤状態での引張強さについてDIN EN 29073-3に準拠してN単位で、及び湿潤状態での引裂強さについてDIN EN ISO 9073-4に準拠してN単位で試験した。好ましい実施形態(フリース試料A)では、4.52gのAFPF繊維及び1.13gのBico-fibre PET/PET Kuraray(5mm、1.0dtex、シース融点110℃)を上記フリース製造の工程1に使用し、次いで125℃の温度で工程2、3及び4bにしたがって処理する。
【0096】
別の例(フリース試料B)では、4.52gのAFPF繊維及び0.85gのBico-fibre PET/PET(Kuraray、5mm、1.0dtex、シース融点110℃)及び0.28gのPET繊維(STW、6mm、1.7dtex)を上記フリース製造の工程1に使用し、次いで125℃の温度で工程2、3及び4bにしたがって処理する。
【0097】
得られたフリースを、上記で概略を述べた方法にしたがって特性評価し、その結果を表3に示す。
【0098】
【0099】
サイクル吸着性能:
フリース試料Bを、さらにサイクル吸着プロセスで試験した。入口面積41mm×47mm、深さ40mmの平行流路反応器を、フリース試料Bのシートを1mm間隔で積み重ねるように組み立てた。環境空気の相対湿度約56%、温度約18℃で、約20Nl(ノルマルリットル、0℃、1013.25Pa)の流量で連続運転し、サイクル吸脱着容量を測定した。温流体を用いて脱着プロセスを行うことで、吸着体の温度を上昇させた。本具体例では、飽和水蒸気を使用した。吸着体層を、まず環境空気を用いて240分間吸着させた。吸着が完了したら、系の圧力を150mbarabsまで下げた。この圧力に達すると同時に、約95℃の温度に達するまで飽和蒸気を吸着体層に供給し、吸着体層に蒸気を5分間パージした。その後、60℃の温度に達するまで吸着体を70mbarabsにした。
【0100】
図14は、連続する15サイクルのCO
2取込み量曲線を示している。90分間の吸着後に既に全容量の約80%に達していることがわかり、これは、吸着キネティクスが速いことを示している。15サイクル後に劣化は見られず、これは、吸着体のサイクル安定性が良好であることを示している。
【国際調査報告】