(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】付加価値の高い化学物質の生産のための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/24 20060101AFI20240719BHJP
C12P 7/44 20060101ALI20240719BHJP
C12P 7/62 20220101ALI20240719BHJP
C12P 7/56 20060101ALI20240719BHJP
C07C 51/31 20060101ALI20240719BHJP
C07C 59/105 20060101ALI20240719BHJP
C07C 59/215 20060101ALI20240719BHJP
C07C 37/00 20060101ALI20240719BHJP
C07C 39/10 20060101ALI20240719BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20240719BHJP
【FI】
C12P7/24
C12P7/44
C12P7/62
C12P7/56
C07C51/31
C07C59/105
C07C59/215
C07C37/00
C07C39/10
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024503621
(86)(22)【出願日】2022-07-22
(85)【翻訳文提出日】2024-02-09
(86)【国際出願番号】 US2022074076
(87)【国際公開番号】W WO2023004432
(87)【国際公開日】2023-01-26
(32)【優先日】2021-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522352199
【氏名又は名称】ソリュゲン インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー,トニ,エム.
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー,ブライアン,エフ.
(72)【発明者】
【氏名】ウィエマン,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】チャクラバルティ,ガウラブ
(72)【発明者】
【氏名】グエン,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ロフティス,ケビン
(72)【発明者】
【氏名】チィェン,シュアイ
(72)【発明者】
【氏名】ミラー,コンラッド
(72)【発明者】
【氏名】ウェルク,ハンスイェルク
(72)【発明者】
【氏名】ダウニング,サラー
(72)【発明者】
【氏名】ウェイナー,ダビッド
(72)【発明者】
【氏名】フェアー,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ハント,シーン
【テーマコード(参考)】
4B064
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4B064AC02
4B064AC05
4B064AD09
4B064AD20
4B064AD42
4B064AD76
4B064CA21
4B064CB11
4B064CD06
4B064CD09
4B064DA16
4H006AA02
4H006AC28
4H006AC46
4H006BA60
4H006BB31
4H006BN10
4H006BS10
4H006FC52
4H006FE13
4H039CA41
4H039CA65
4H039CA99
4H039CC30
4H039CH20
(57)【要約】
分子製造方法は、付加価値の高い化学物質を製造するのに適した条件下で、基礎化学品を(i)生体触媒および(ii)化学触媒と接触させることを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加価値の高い化学物質の製造に適した条件下で、基礎化学品を(i)生体触媒および(ii)化学触媒と接触させることを含む、分子製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記基礎化学品がグルコースを含み、
前記付加価値の高い化学物質がグルカル酸を含む、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、
前記生体触媒がガラクトースオキシダーゼを含み、
前記化学触媒が遷移金属触媒を含む、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、
前記基礎化学品がグルコースを含み、
前記付加価値の高い化学物質がL-アスコルビン酸を含む、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、
前記基礎化学品がグルコースを含み、
前記付加価値の高い化学物質がコハク酸を含む、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、
前記基礎化学品がグルコースを含み、
前記付加価値の高い化学物質が2,5-フランジカルボン酸を含む、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、
前記基礎化学品がグルコースを含み、
前記付加価値の高い化学物質が2,5-フランジカルボン酸ジメチルエステルを含む、方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、
前記基礎化学品がエタノールを含み、
前記付加価値の高い化学物質がアセトアルデヒドを含む、方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、
前記基礎化学品がエタノールを含み、
前記付加価値の高い化学物質がプロピレングリコールを含む、方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、
前記基礎化学品がエタノールを含み、
前記付加価値の高い化学物質が乳酸を含む、方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法であって、
前記基礎化学品がエタノールを含み、
前記付加価値の高い化学物質がアクリル酸を含む、方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法であって、
前記基礎化学品がエタノールであって、
前記付加価値の高い化学物質がプロパノールを含む、方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法であって、
前記基礎化学品がエタノールを含み、
前記付加価値の高い化学物質がアセトインを含む、方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法であって、
前記基礎化学品がエタノールを含み、
前記付加価値の高い化学物質が2,3-ブタンジオールを含む、方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法であって、
前記基礎化学品がエタノールを含み、
前記付加価値の高い化学物質が1,3-ブタンジエンを含む、方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法であって、
前記基礎化学品がエタノールを含み、
前記付加価値の高い化学物質が2-ブタノンを含む、方法。
【請求項17】
請求項1に記載の方法であって、
前記基礎化学品がエチレングリコールを含み、
前記付加価値の高い化学物質がグリコール酸を含む、方法。
【請求項18】
請求項1に記載の方法であって、
前記基礎化学品がエチレングリコールを含み、
前記付加価値の高い化学物質がエタノールアミンを含む、方法。
【請求項19】
請求項1に記載の方法であって、
前記基礎化学品がエチレングリコールを含み、
前記付加価値の高い化学物質がグリセロールを含む、方法。
【請求項20】
請求項1に記載の方法であって、
前記基礎化学品がグリセロールを含み、
前記付加価値の高い化学物質がジヒドロキシアセトンを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、リーらにより2021年7月22日に出願された「付加価値の高い化学物質の生産のための組成物及び方法(COMPOSITIONS AND METHODS FOR PRODUCTION OF VALUE-ADDED CHEMICALS)」の名称の米国仮特許出願第63/224,553号に基づく優先権を主張し、当該出願の全てがあらゆる目的のために参照によって本明細書中に援用される。
【0002】
電子配列リストの参照
2022年7月9日に作製され、「21PRC018(3416-07401) SEQUENCE LISTING.xml」と題された38,283バイトの電子配列リストの内容は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0003】
技術分野
本開示は、一般に付加価値の高い化学物質を製造するための組成物および方法に関する。より詳細には、本開示はバイオ再生可能な原料から付加価値の高い化学物質を製造するための酵素化学的方法に関する。
【0004】
背景
現在、化学物質とエネルギーの大部分は、化石燃料をベースとする有限の資源から生産されている。世界中の社会および商業市場は、エネルギーの約80%と化学物質の約90%を枯渇しつつある化石燃料に依存している。これらの化石燃料の大規模な生産と使用は、有害な温室効果ガスや有毒物質の排出により、環境に悪影響を与える一因となっている。世界の人口の増加に伴い、エネルギーと化学物質の需要は大幅に増加している。
【0005】
従来の化学物質の製造は、(i)反応と対応する生成物を生じるために熱を使用する石油化学経路、または(ii)微生物および発酵などの処理を一般に利用する生物学的経路のいずれかに基づくことが多い。これらの経路はいずれも、生成物と不純物の混合物を生成するため、目的の化合物を許容可能な純度で得るためには、かなりの処理を必要とする。そのため、これらの経路はあまり効率的ではなく、コストが高くつく可能性がある。さらに、これらの経路はいずれも生物学的副産物として、または反応に利用する熱を生じるための燃焼生成物として、大量のCO2を発生させる。安価なバイオ再生可能な原料から付加価値の高い化学物質を製造する際の一般的な課題には、コストが高く、環境に優しくない厳しい試薬や条件の使用が挙げられる。
【0006】
エネルギーと化学物質に対する需要が増大しており、枯渇しつつある化石燃料とそれに関連する環境への影響の問題を克服するためには、エネルギーと化学物質を生産するための代替資源を発見することが不可欠である。バイオマスは、商用化学物質をカーボンニュートラルで生産できる可能性を秘めた唯一の持続可能な原料である。バイオマスに含まれる多様な機能性と現在の熱・生化学変換能力を活用することで、石油化学製品のバイオベースのドロップイン代替品や、現在の石油化学産業の範囲を超えた新製品を製造できる大きな可能性が存在する。
【0007】
付加価値の高い化学物質の商業生産に通常伴う、高価で炭素集約的な処理工程を省き、簡素化する必要性が常に存在する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
開示された方法およびシステムの態様の詳細な説明のため、添付図面を参照されたい。
【0009】
【0010】
【0011】
【
図2】
図2は本明細書に開示の分子製造方法の一態様を模式的に示す。
【0012】
【
図3】
図3は本明細書に開示の分子製造方法の一態様を模式的に示す。
【0013】
【
図4】
図4は本明細書に開示の分子製造方法の一態様を模式的に示す。
【0014】
【
図5】
図5は本明細書に開示の分子製造方法の一態様を模式的に示す。
【0015】
【
図6】
図6は本明細書に開示の分子製造方法の一態様を模式的に示す。
【0016】
【
図7】
図7は本明細書に開示の分子製造方法の一態様を模式的に示す。
【0017】
【
図8】
図8は本明細書に開示の分子製造方法の一態様を模式的に示す。
【0018】
【
図9】
図9は本明細書に開示の分子製造方法の一態様を模式的に示す。
【0019】
【
図10】
図10は本明細書に開示の分子製造方法の一態様を模式的に示す。
【0020】
【
図11】
図11は本明細書に開示の分子製造方法の一態様を模式的に示す。
【0021】
【
図12】
図12は本明細書に開示の分子製造方法の一態様を模式的に示す。
【0022】
【
図13】
図13は本明細書に開示の分子製造方法の一態様を模式的に示す。
【0023】
【
図14】
図14は本明細書に開示の分子製造方法の一態様を模式的に示す。
【0024】
【
図15】
図15は本明細書に開示の分子製造方法の一態様を模式的に示す。
【0025】
【
図16】
図16は本明細書に開示の分子製造方法の一態様を模式的に示す。
【0026】
【
図17】
図17は本明細書に開示の分子製造方法の一態様を模式的に示す。
【0027】
【
図18】
図18は本明細書に開示の分子製造方法の一態様を模式的に示す。
【0028】
【
図19】
図19は本明細書に開示の分子製造方法の一態様を模式的に示す。
【0029】
【
図20】
図20は本明細書に開示の分子製造方法の一態様を模式的に示す。
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【
図24】
図24は表示する試料の酵素活性試験の結果と反応スキームを示す。
【0036】
【
図25】
図25は表示する試料の酵素活性試験の結果と反応スキームを示す。
【0037】
【
図26】
図26は表示する試料の酵素活性試験の結果と反応スキームを示す。
【0038】
【0039】
【0040】
【
図28】
図28は表示する試料の酵素活性試験の結果と反応スキームを示す。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
【
図31】
図31は表示する試料の酵素活性試験の結果と反応スキームを示す。
【0046】
【0047】
【0048】
【
図33】
図33は表示する試料の酵素活性試験の結果と反応スキームを示す。
【0049】
【
図34】
図34は表示する試料の酵素活性試験の結果と反応スキームを示す。
【0050】
【
図35】
図35は表示する試料の酵素活性試験の結果と反応スキームを示す。
【0051】
【
図36】
図36は本明細書に開示の分子製造方法の一態様を模式的に示す。
【0052】
【
図37】
図37は表示する試料の酵素活性試験の結果と反応スキームを示す。
【0053】
【
図38】
図38は本明細書に開示の分子製造方法の一態様を模式的に示す。
【0054】
【
図39】
図39は本明細書に開示の分子製造方法の一態様を模式的に示す。
【0055】
【
図40】
図40は表示する試料の酵素活性試験の結果と反応スキームを示す。
【0056】
【
図41】
図41は表示する試料の酵素活性試験の結果と反応スキームを示す。
【0057】
【
図42】
図42は表示する試料の酵素活性試験の結果と反応スキームを示す。
【0058】
【
図43】
図43は表示する試料の酵素活性試験の結果と反応スキームを示す。
【0059】
【
図44】
図44は表示する試料の酵素活性試験の結果と反応スキームを示す。
【0060】
【
図45】
図45は表示する試料の酵素活性試験の結果と反応スキームを示す。
【0061】
【
図46】
図46は表示する試料の酵素活性試験の結果と反応スキームを示す。
【0062】
【
図47】
図47は表示する試料の酵素活性試験の結果と反応スキームを示す。
【0063】
【
図48】
図48は本明細書に開示の分子製造方法の一態様を模式的に示す。
【0064】
【
図49】
図49は表示する試料の酵素活性試験の結果と反応スキームを示す。
【発明を実施するための形態】
【0065】
概要
本明細書で開示するのは、糖、空気、二酸化炭素などの原料を付加価値の高い化学物質(VAC)に分子変換するための方法および組成物である。本明細書に開示する方法は、酸化、脱水、カルボキシル化、カルボキシライゲーション(carboxyligation)および水素化などの商業的に重要な変換の組み合わせを行うために、生体触媒および金属触媒の組み合わせを利用する。本開示のある態様において、基礎化学品(platform chemical)はVACを製造するために使用される。ある態様において、基礎化学品は、エタノールおよびメタノールなどのアルコール、グルコースなどの糖、ヒドロキシメチルフルフラール、2,5-フランジカルボン酸、グリセロール、エチレングリコール、コハク酸、ニコチンアミド、またはそれらの組み合わせを含む。
【0066】
本明細書に開示するように、化学反応は4単位の工程を含み、現代社会を支える化学物質、成分、材料の90%をここから製造可能である。本明細書に開示する方法は、VACの生産のために主に酸化反応、脱水反応、カルボキシル化反応、および/または水素化反応を利用する。従って、本明細書に開示するように、酵素および触媒(例えば、不均一系金属触媒のような不均一系触媒)を使用する系は、酸化反応、脱水反応、カルボキシル化反応、または水素化反応の少なくとも1つを実行して、反応物から生成物を生産することができる。その後、様々な分離工程を行って生成物を単離し、未反応物質を反応トレインにリサイクルすることにより系内で反応を継続することができる。全体として、本明細書に開示された方法はより少ない副生成物を生成し、それにより方法の経済性にプラスに寄与できるため有利である。
【0067】
本明細書で開示するシステムおよび方法では、酸化、脱水、およびカルボキシル化を含む少なくとも3つの酵素による変換が発展されている。これらの反応により、システムおよび方法は、酸素源(例えば、空気)または二酸化炭素と直接反応して様々な異なる原料および中間体を変換し、中間体および/または生成物を生成することができる。一般に、水性環境(例えば、緩衝液)のような適切な環境中で酵素を反応物と接触させる。反応物は不均一(例えば、気体/液体環境)および/または均一であってもよい。反応において、酵素は様々な化学サイクルで生成物を生成し、酵素は反応サイクル中で十分な活性を維持しながら商業的に適切な期間にわたって反応を実行できる。本開示の生体触媒は、経時的に触媒活性または構造的完全性が多少失われることが想定される。1つまたは複数の態様において、本開示の方法は、酵素触媒の全部または一部の再生または交換を含む。
【0068】
システム内で使用される酵素の選択も本明細書に記載の方法の構成要素である。大半のシステムにおいて、使用者および/または方法の目的と合致する1つ以上の特性を有する生体触媒を含む生物を、本明細書に開示の方法で使用するために開発または選択することができる。しかしながら、生物の使用は、副生成物および二酸化炭素を含む広範囲の反応生成物を生じる可能性がある。本開示の方法は、生物を工学的に設計するのではなく、特定の反応速度および/または基質選択性のような使用者および/または方法の目的を満たす1つ以上の特性について選択された酵素の合理的な工学的設計を意図している。
【0069】
酵素の選択のために任意の適切な方法が利用可能である。例えば、酵素の選択および開発は、所望の結果を達成するためのコンピュータによる設計と機械学習アルゴリズムに基づくハイスループットスクリーニングを含んでもよい。酵素は選択されると、(例えば、発酵により)生産された後に単離され、精製された酵素を供給源の生物が存在しない状態で反応容器内に供給することができる。
【0070】
1つまたは複数の態様において、酵素触媒の生産は関連しない微生物宿主プラットフォームを使用し、異なる供給源由来のタンパク質を短い設計-構築-試験-分析サイクルで迅速に試験し、スケールアップすることができる。本方法で使用される酵素触媒は、多種多様な天然源(例えば、植物、細菌、真菌)から入手可能であるため、単一の宿主に発現させることは必ずしも容易ではない。本開示の方法では、酵素生産法で使用される3種類の供給源生物:細菌、酵母、および真菌の1つ以上をタンパク質生産宿主として利用し、単一の生物では発現できない可能性がある貴重な酵素を得ることができる。
【0071】
自動化およびAIと組み合わせた最先端の生物工学は、設計-構築-試験-解析のサイクルを短く維持できると共に、タンパク質生産という1つの目標に向けた再帰的学習によって継続的な改善を可能にする。このようにして生成された高度に調整された酵素は、本明細書に開示のシステムや方法で使用するために、容易にスケールアップして単離することができる。
【0072】
本開示で利用される触媒は、ある態様において不均一系金属触媒であってもよい。不均一系金属触媒は、一般に高表面積の多孔性担体に分散した小さな金属ナノ粒子からなる。担体は、方法で使用される様々な分子の反応を許容する適切な孔径を有することができる。ある態様では、金属触媒は低温の水性流体(例えば、水、緩衝液)中で経時的に著しく劣化することなく作用することができる。ある態様では、触媒成分は酸化、脱水、および水素化反応を可能にする金を含んでもよい。金含有触媒は高温で失活するため、石油化学の反応には有用ではない。一般に、本明細書に開示の方法や反応は300°F以下で行われ、金属触媒や酵素との反応により、高い処理速度と収率で選択性の高い分子変換を行うことができる。
【0073】
方法全体を
図1Aおよび1Bに示す。
図1Aに示すように、この方法は、反応物を含む供給物を適切な媒体中で生体触媒(例えば、酵素)と反応させることを含む。酵素経路の出口では中間体を生成することができ、次いで金属触媒と反応させることにより最終生成物を生成できる。方法の任意の時点で分離技術を利用することにより1種以上のVACを分離・精製し、最終生成物ストリームを生じることができる。
【0074】
ある態様では、反応の順序は変更可能である。
図1Bに示すように、方法は、反応物を含む供給物を適切な媒体中で金属触媒と反応させ、少なくとも1つの中間体を生成することを含んでもよい。金属触媒反応の生成物は中間体であり、次いで酵素などの生体触媒と反応させて最終生成物を生成することができる。方法の任意の時点で分離技術を利用することにより1種以上のVACを分離・精製し、最終生成物ストリームを生じることができる。
【0075】
糖
ある態様では、基礎化学品はグルコースを含む。このような態様では、グルコースはグルカル酸、D-エリソルビン酸、L-アスコルビン酸、コハク酸、2,5-フランジカルボン酸、またはフランジカルボン酸メチルエステルなどのVACに変換される。
【0076】
ある態様では、
図2に模式的に描かれているように、グルコースはグルカル酸に変換される。
図2の経路Aを参照すると、グルコースはα-D-グルコースとβ-D-グルコースの間で異性化する。グルコースは、D-グルコヘキソジアルドースを生成するアルデヒドへのC
6アルコールの酸化に適した条件下で、ガラクトースオキシダーゼ(GAO)変異体と接触させることができる。次に、D-グルコヘキソジアルドースを、C
1アルコールの酸化に適した条件下でグルコースオキシダーゼ(GOX)と接触させ、L-グルロン酸-δ-2,6-ラクトンを生成することができる。L-グルロン酸と平衡状態にあるL-グルロン酸-δ-2,6-ラクトンは、直接回収してもよいし、グルカル酸の生成に適した条件下で不均一系金属触媒(HMC)または遷移金属触媒(TMC)とさらに反応させてもよい。
【0077】
図2の経路Bとして示す別の態様では、D-グルコノ-δ-1,5-ラクトンの生成に適した条件下で、GAO変異体およびGOXを同時にグルコースと接触させている。1つまたは複数の態様において、D-グルコノ-δ-1,5-ラクトンはさらに処理され、生成物として単離される。別の方法では、D-グルコノ-δ-1,5-ラクトンを酸性化してグルコネート(gluconate)を形成し、これをL-グルロネート(L-guluronate)の形成に適した条件下でGAOと接触させる。酸性化は、任意の適切な酸性化剤(例えば、HCl)を使用して実施することができる。L-グルロネートは、グルカル酸の形成に適した条件下でHMCと接触させることができる。
【0078】
図3に模式的に示すように、別の態様では、ジアルデヒドを生じるアルデヒドであるD-グルコヘキソジアルドースへのグルコースのC
6アルコールの酸化に適した条件下で、GAO変異体をグルコースと接触させる。その後、D-グルコヘキソジアルドースは、グルカル酸の生成に適した条件下でHMCおよび/またはTMCと接触させることができる。
【0079】
1つまたは複数の態様において、VACであるグルカル酸を生成する方法は、グルコースのC
1およびC
6アルコールの両方を酸化するのに適した条件下で、多糖モノオキシゲナーゼ(PMO)を基礎化学品であるグルコースと接触させることにより、サッカリン酸ラクトンを形成することを含む。この反応を
図4に模式的に示す。ラクトンはpH7以上のアルカリ性条件下で容易に加水分解され、グルカル酸を形成する。注目すべきは、サッカリン酸ラクトンも適切な反応条件下ではゆっくりと自己加水分解して遊離酸を形成することである。
【0080】
1つまたは複数の態様において、PMOは、グルコースのC1アルコールを酸化するためにGOXと組み合わせてもよい。PMOは過酸化水素が供給されるとC4アルコールをケトンに酸化する可能性があるため、カタラーゼを添加してこの酸化剤の利用を制限し、望ましくないC4ケト経路を抑制することができる。この方法の生成物は、未反応の糖類を二酸に酸化するためにHMCを通過させてもよい。
【0081】
1つまたは複数の態様において、GOX、動物のペルオキシダーゼ(XPO)、ハロゲン化物イオン、ニトロキシラジカル触媒(NRM)またはそれらの組合せを含む酵素酸化組成物(EOC)をグルコースと接触させる。ここで、「ハロゲン化物」は通常の意味であり、ハロゲン化物の例としては、フッ化物、塩化物、臭化物およびヨウ化物が挙げられる。
【0082】
ある態様において、
図5を参照すると、D-グルコヘキソジアルドースの形成に適した条件下でグルコースをNRMと接触させてもよい。次いで、HMCの存在下でグルカル酸に変換されるD-グルロン酸-δ-1,5-ラクトンの形成に適した条件下において、D-グルコヘキソジアルドースをGOXと接触させてもよい。別の方法として、D-グルコノ-δ-1,5-ラクトンの形成に適した条件下で、最初にグルコースをGOXと接触させる。D-グルコノ-δ-1,5-ラクトンからのD-グルクロン酸-δ-1,5-ラクトンの生成と、それに続くHMCを用いたグルカル酸への酸化を促進するために、反応にNRMを含めることができる。
【0083】
ある態様では、
図6を参照すると、D-グルコヘキソジアルドースの形成に適した条件下でグルコースをGAOと接触させてもよい。D-グルコヘキソジアルドースは、任意にGAOと接触させてD-グルロン酸を生成させてもよい。その後、D-グルコヘキソジアルドースまたはD-グルロン酸はペリプラズムアルデヒドオキシダーゼ(PAO)または非特異的ペルオキシゲナーゼ(UPO)と接触させてグルカル酸を形成させることができる。
【0084】
別の態様において、
図7はグルコースからL-アスコルビン酸(L-AA)を生成するための酵素化学的方法の一態様を模式的に示す。
図7を参照すると、組み換えガラクトースオキシダーゼ(GAO)を用いてグルコースをアルデヒドに酸化する。次に、このアルデヒドを金属水素化触媒で還元し、D-グルコネートを生成する。次に、ピラノース-2-オキシダーゼ(POX)酵素を用いてD-グルコネートを2-KGAに酸化し、この2-KGAは、酸触媒、メチルエステル化、ラクトン化、プロトン化、またはそれらの組み合わせにより環化してLAAを形成することができる。過酸化水素を生成するオキシダーゼが関与する任意の工程にカタラーゼを添加することにより、この反応性化学物質を無害な水と酸素に分解し、酵素機能を維持することができる。
【0085】
ある態様において、
図8を参照すると、GOXはグルコースのC
1を酸化してグルコノラクトンを生成する。同時に、POXはC
2を酸化して2-ケトグルコースを生成する。両酵素の組み合わせにより2-ケトグルコネート(2-ketogluconate)が生成される。生成物(すなわち、2-ケトグルコネート)は単離され、続いて酸の存在下でメタノールと反応してメチル-2-ケトグルコネートを形成する。メチルエステルの形成は、加熱によるアルコールとカルボン酸塩のエステル化を防ぐ。1つまたは複数の態様では、炭酸水素ナトリウムと硫酸を加えてナトリウムメトキシドを生成し、このナトリウムメトキシドがメチル-2-ケトグルコネートをD-EAに異性化する。
【0086】
図9に模式的に示す本開示の別の態様では、D-グルコノ-1,5-ラクトンは、GOXによりD-グルコースから合成される。D-グルコノラクトンは、D-EAを生成するGLOの基質となる。カタラーゼを添加することにより、GOXおよびGAOの反応で生成する過酸化水素を分解して酵素の機能を維持することができる。酸素は電子受容体として働くことで酸化反応を促進し、補酵素の再生を促すために利用される。
【0087】
図10に示す本開示の別の態様では、GOX酵素とPOX酵素の混合物をグルコース基質に順次または組み合わせて作用させて2-KGを生成させ、2-KGを酸触媒により環化させる。
図4では、グルコースから2-ケトグルコースへの変換を触媒するためにPOXが使用されている。その後、この化合物は不均一系金属触媒を用いて2-KGに酸化され、続いて酸触媒法、またはライヒシュタイン法と同様のメチルエステル化、ラクトン化、およびプロトン化によって環化される。ある態様では、金属触媒を使用して2-KGを生成することにより、pHを安定化させPOX酵素の機能を維持するために化学量論的量の塩基(水酸化ナトリウムなど)を添加する必要がなくなる。
【0088】
ある態様において、金属触媒は金属酸化触媒を含む。このような態様において、金属酸化触媒は担持遷移金属酸化触媒、またはナノ粒子担持遷移金属酸化触媒である。以下、これらを「TMC」と総称する。ある態様では、担体は、炭素、シリカ、アルミナ、チタニア(TiO2)、ジルコニア(ZrO2)、ゼオライト、またはそれらの任意の組み合わせを含み、担体の総重量に対して約1.0重量%(wt%)未満、約0.1重量%未満、または約0.01重量%未満のSiO2結合剤を含む。
【0089】
適切な担体は、メソ孔またはマクロ孔が主体でマイクロ孔をほとんど含まない。例えば、担体はマイクロ孔が約20%未満であってもよい。ある態様では、担体は多孔性ナノ粒子担体である。本明細書で使用される場合、「マイクロ孔」という用語は、IUPACによって定義されるように、窒素吸着法および水銀圧入法によって測定される直径が2nm未満の細孔を指す。本明細書で使用される場合、「メソ孔」という用語は、IUPACによって定義されるように、窒素吸着法および水銀圧入法によって測定される直径が約2nmから約50nmの細孔を指す。本明細書で使用される場合、「マクロ孔」という用語は、IUPACによって定義されるように、窒素吸着法および水銀圧入法によって測定される直径が50nmより大きい細孔を指す。
【0090】
ある態様において、担体は、約10nm~約100nmの平均細孔直径と約20m2g-1から約300m2g-1の表面積とを有するメソ多孔性炭素押出物からなる。本開示での使用に適した担体は、任意の適切な形状にすることができる。例えば、担体は、0.8~3mmの三葉(trilobe)、四葉(quadralobe)、またはペレット押出物に成形することができる。このような形状の担体は、連続フローにおいて最後の酸化工程を実施するための固定トリクルベッド反応器の使用を可能にする。
【0091】
1つまたは複数の態様において、金属は、8族金属(例えば、Re、Os、Ir、Pt、Ru、Rh、Pd、Ag)、3d遷移金属、初期遷移金属、またはそれらの組み合わせを含む。ある態様では、TMCは金(Au)を含む。
【0092】
ある態様において、TMCはプラチナおよび金を含み、不均一系の固相TMCである。このような態様において、好適な触媒担体としては、限定されないが、炭素、表面処理されたアルミナ(不動態化アルミナまたは被覆アルミナなど)、シリカ、チタニア、ジルコニア、ゼオライト、モンモリロナイト、それらの修飾物、それらの混合物、またはそれらの組合せが挙げられる。触媒担体は、担体外表面へのプラチナおよび金の優先的付着を促進するように処理することにより、シェル型TMCを形成することができる。TMCとして機能するプラチナおよび金を含有する化合物は、任意の適切な方法によって生成することができる。例えば、プラチナおよび金を含有するTMCは、インシピエントウェットネス、イオン交換、および析出沈殿(deposition-precipitation)のような付着法を使用して製造することができる。
【0093】
他の態様では、金属触媒は、Cu、Ag、Au、Ni、Pd、Pt、またはIrの単金属または複数金属の組み合わせである金属相を有するTMCである。活性相の活性、選択性、および安定性は、初期の3d、4d、および5dの遷移金属、またはSn、Sb、およびBiなどのポスト遷移重金属のドーパントで調節することができる。ある態様では、金属(例えば1族金属)を金属格子にインターカレートして触媒特性を調節する。ある態様では、活性相の塩前駆体は、任意の適切な方法を用いて本明細書に開示するタイプの担体上に付着される。例えば、活性相の付着は、インシピエントウェットネス含浸、バルク吸着含浸、または析出沈殿などの技術を用いて実施することができる。
【0094】
ある態様において、活性相の付着塩前駆体は、その後に、約100℃未満で適切な塩(例えば、ギ酸塩)を用いた液相還元(LPR)により、または約200℃~約500℃若しくは約200℃~約450℃における気相還元(GPR)により活性相に変換される。ある態様では、金属触媒は金、プラチナまたはそれらの組合せからなり、約150℃以上の空気中で焼成される。
【0095】
ある態様において、本明細書に開示するタイプの担体に担持される活性相の量は、TMC金属触媒の総重量に対して約2.0重量%(wt%)未満、約1.5重量%未満、または約1.0重量%未満である。ある態様では、本明細書に開示するタイプの担体に担持される活性相の量は、TMC金属触媒の総重量に対して約0.5重量%以下である。ある態様では、担体全体にわたる活性相の半径方向の分布は異方的であり、活性相は「コア-シェル」構成において押し出し担体の表面近傍の500μm未満の環状部に実質的に集中する。本明細書に開示するタイプのTMC金属触媒は、約70%~約90%、約70%以上、約80%以上、約85%以上、または約90%以上の選択率で、約0.05mol酸g-1活性金属h-1(mol acid g-1 active metal h-1)以上、または約0.1mol酸g-1活性金属h-1以上のアルデヒド官能基からカルボン酸への変換の生産性によって特徴付けられてもよい。このような態様において、TMC金属触媒は、約60%~約95%、約70%以上、約80%以上、または約90%以上の変換率を示す。このようなTMC金属触媒は、約1ppb~約100ppb、約100ppb未満、または約90ppb未満の定常状態溶出量を示してもよい。ある態様において、本明細書に開示するタイプのTMC金属触媒は、約10バール~約100バール、約20バール~約100バール、または約20バール~約90バールの圧力において、約40℃~約120℃、約40℃~約110℃、または約50℃~約100℃の温度で利用できる。
【0096】
ある態様では、本開示の反応において酸または塩基などの低分子化学触媒が使用される。仕上げ(finishing)触媒としての使用に適した酸または塩基の例としては、限定しないが、塩酸、硫酸、ギ酸、水酸化ナトリウム、および尿素が挙げられる。
【0097】
ある態様において、D-EAを製造するための反応混合物は、1種以上の生体触媒に加えて、1種以上の精製酵素補因子をさらに含んでもよい。本開示における使用に適した精製酵素補因子の非限定的な例としては、チアミンピロリン酸、NAD+、NADP+、ピリドキサールリン酸、メチルコバラミン、コバラミン、ビオチン、補酵素A、テトラヒドロ葉酸、メナキノン、アスコルビン酸、フラビンモノヌクレオチド、フラビンアデニンジヌクレオチド、および補酵素F420が挙げられる。このような補酵素は、最初の反応混合物に含まれていてもよく、および/または反応中の様々な時点で添加されてもよい。ある態様において、補酵素は酸素で容易に再生されてもよく、および/または生体触媒の寿命を通じて安定なままであってもよい。
【0098】
1つまたは複数の態様において、本明細書に開示する酸化反応中に生成された過酸化水素は、任意の適切な方法を用いて不均化されてもよい。例えば過酸化水素は、適当な条件下でカタラーゼと接触させることによって不均化され、水と分子状酸素を形成してもよい。このような態様において、分子状酸素は再利用される生成物として回収され、さらなる反応における成分として使用されてもよい。
【0099】
ある態様において、VACであるコハク酸は基礎化学品であるグルコースから合成される。このような態様において、本開示の方法は、グルコースを酸化して2-ケト中間体を形成することを含む。ある態様において、グルコースの酸化はTMCによって触媒される。グルコースを酸化して2-ケト中間体を生成できる任意のTMCが利用可能である。ある態様において、TMCはプラチナ、ビスマス、金、またはそれらの組み合わせを含む。このような態様において、TMCは炭素またはアルミナのような材料に担持されてもよい。ある態様において、TMCは担持されたプラチナ/ビスマス/金の触媒である。本開示のある態様において、適切な条件下でグルコースを担持Pt/Bi/Au触媒と接触させると、2-ケト中間体である2-ケト-グルコネートが形成される。
【0100】
コハク酸を生産する別の態様では、触媒は酵素、アルコールオキシダーゼ(AOX、E.C.1.1.3.13)、またはアルコールオキシダーゼホモログである。AOXは、酸素を酸化剤として用いて低級の第一級アルコールをアルデヒドに酸化する普遍的なフラビン依存性酵素である。AOXは、Kloeckera属、Torulopsis属、Candida属、Pichia属、Hanseniaspora属、およびMetschnikowia属のメチル栄養酵母から得ることができる。別の態様では、AOXは、Methylococcus capsulatusなどのメタノール利用菌、Thermoascus aurantiacusなどの好熱性土壌菌、Gloeophyllum trabeumなどの褐色腐朽菌から得られる。あるいは、白色腐朽性担子菌Phanerochaete chrysosporiumからAOXを得ることもできる。適切な条件下でグルコースをAOXと接触させると、2-ケト中間体である2-ケト-グルコネートが生成する。
【0101】
さらに別の態様において、グルコースをコハク酸に変換する方法は、2-ケト中間体を脱炭酸してD-リブロースを形成することを含む。ある態様において、2-ケト中間体の脱炭酸は、任意の適切な触媒の存在下で実施される。例えば、ポリマーマトリックスと会合した銅イオンの存在下で脱炭酸は実施されてもよい。ある態様では、触媒はCuSO4およびポリビニルピロリドンを含み、反応は酸化性雰囲気中で行われる。
【0102】
ある態様において、グルコースをコハク酸に変換する方法は、D-リブロースを脱水してフルフラールを生成することをさらに含む。D-リブロースの脱水は、酸触媒が存在する適切な条件下で実施されてもよい。本開示における使用に適した酸触媒は、固体酸触媒、またはイオン交換樹脂酸触媒である。例えば酸触媒は、ビーズ状の強酸性触媒であるAMBERLYST(商標)15DRYポリマー触媒を含んでもよい。別の態様では、D-リブロースの脱水は、ギ酸およびAMBERLYST(商標)15DRYポリマー触媒の存在下で行われる。このような態様では、過酸化水素のような酸化剤の添加によりギ酸を除去してもよい。
【0103】
ある態様において、グルコースをコハク酸に変換する方法は、フルフラールを酸化してコハク酸を生成することをさらに含む。ある態様において、フルフラールのコハク酸への酸化は、酸化剤および触媒の存在下で実施される。例えば、酸触媒はAMBERLYST(商標)15DRYポリマー触媒からなり、酸化剤は過酸化水素からなる。反応は、フルフラールをコハク酸へ変換するのに適した条件下で実施することができる。
【0104】
ある態様において、VACである2,5-フランジカルボン酸(FDCA)または(FDME)は、基礎化学品であるグルコースから生成される。このような態様では、酸化生成物の形成に適した条件下で、グルコースを酵素(GAOなど)、塩基(NaOHなど)および空気と接触させてもよい。
【0105】
アルコール
ある態様において、基礎化学品はエタノールなどのアルコールである。ある態様において、本開示の方法は、アセトアルデヒドの形成に適した条件下でエタノールをアルコールオキシダーゼ(E.C.1.1.3.13)と接触させることを含む。これを
図11に模式的に示す。
【0106】
ある態様において、本開示の方法は、基礎化学品であるエタノールからVACであるプロピレングリコールを生成することを含む。このような態様において、アルデヒドの形成に適した条件下で、エタノールを本明細書に開示するタイプのエタノールオキシダーゼ(例えば、AOX、GAO)と接触させる。本方法は、ピルビン酸の形成に適した条件下でアルデヒドを生体触媒と接触させることをさらに含んでもよい。アルデヒドのピルビン酸への変換に適した任意の生体触媒を利用可能である。ある態様では、ピルビン酸の形成に適した条件下で、二酸化炭素の存在下においてアルデヒドをピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC)と接触させる。ある態様において、本開示の方法は、プロピレングリコールの形成に適した条件下で、水素化触媒の存在下でピルベート(pyruvate)を水素化することをさらに含む。
【0107】
ある態様において、本明細書に開示するのは、基礎化学品であるエタノールからVACである乳酸、アクリル酸、プロピレングリコール、およびプロパノールを生成する方法である。ある態様において、本明細書に開示する方法は、エタノールを乳酸、アクリル酸、プロピレングリコール、またはプロパノールに酵素化学的に変換することを含む。以下では、乳酸、アクリル酸、プロピレングリコールおよびプロパノールをそれぞれ「C3生成物」、または総称して「C3生成物群」と呼ぶことがある。
【0108】
ある態様では、C3生成物の製造方法は、中間体(例えばアセトアルデヒド)を生成するのに適した条件下でエタノールを1種類以上の酵素と接触させることを含む。これを
図12に示す。
【0109】
図12を参照すると、本開示の方法はエタノールを酵素と接触させるステージ1を含み、この酵素は、エタノールからアセトアルデヒドへの選択的好気性酸化を触媒することができる。ある態様において、この酵素はエタノールオキシダーゼ(EOX)である。ステージ1は、ピルビン酸を生成するために、二酸化炭素(CO
2)またはCO
2の供給源の存在下でアルデヒドをピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC)と接触させることをさらに含んでもよい。ピルビン酸とピルベートの平衡は、
図12に示すように、pH調整、電気分解、イオン交換などの任意の適切な方法を用いて制御できる。ある態様では、pH調整は一価陽イオンを含む塩基の添加により行われる。例えば、塩基は水酸化ナトリウムであってもよく、これは単一のピルビン酸アニオンとナトリウムカチオンからなるカチオン対を形成する。
【0110】
本方法はさらに、エタノールとEOXの反応から生成したピルベートを部分水素化してラクテート(lactate)に変換し、次いでアクリル酸へと脱水するステージ2を含んでもよい。あるいは、ピルベートまたはラクテートを部分的に水素化して、1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール)またはn-プロパノールにしてもよい。
【0111】
あるいは、本明細書に開示する方法のステージ2は、両方とも金属触媒によって触媒される2つの経路を介して進行することができる。第一の経路は、電気透析およびイオン交換と共に苛性水酸化物を使用して、硫酸ナトリウムまたは石膏も生成する。第二の経路は、アンモニアを使用し、エチルエステル中間体(ピルビン酸エチル、乳酸エチル、アクリル酸エチルなど)を経由してエステル化するものであり、塩類を生成しない。
【0112】
ある態様では、水素化触媒は金属触媒または担持金属触媒を含む。ラクテートと乳酸の平衡は、pH調整、電気分解、またはイオン交換などの任意の適切な方法により制御できる。ある態様において、金属触媒はキラルであり、主にまたは専らR-乳酸またはS-乳酸の生成を触媒する。
【0113】
別の態様では、ステージ2は、ラクテートを脱水してアクリレート(acrylate)を形成することをさらに含む。アクリレートとアクリル酸の平衡は、pH調整、電気分解、イオン交換などの任意の適切な方法により制御できる。ある態様において、ラクテートの脱水は、金属触媒、または担持金属触媒によって触媒される。金属触媒または担持金属触媒は、ピルベートの還元を促進するために利用される触媒と同じであっても異なっていてもよい。別の態様において、ステージ2は、金属触媒または担持金属触媒と水素の存在下で乳酸を水素化して、プロピル基を有する化合物を形成することを含む。ある態様において、プロピル基含有化合物は、1-プロパノール、2-プロパノール、プロピレングリコール、またはそれらの組み合わせを含む。金属触媒または担持金属触媒は、水素化によるピルベートの還元を促進するために利用される触媒と同じであっても異なっていてもよい。
【0114】
ある態様におけるエタノールをC3化合物に変換する別の方法を模式的に
図13に示す。
図13を参照すると、本開示の方法はエタノールを酵素と接触させるステージ1を含み、この酵素は、エタノールからアセトアルデヒドへの選択的好気性酸化を触媒可能である。ある態様において、この酵素はエタノールオキシダーゼ(EOX)である。ステージ1は、ピルビン酸を生成するために、二酸化炭素(CO
2)またはCO
2の供給源の存在下でアセトアルデヒドをピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC)と接触させることを含んでもよい。ピルビン酸とピルベートの平衡は、
図13に示すように、pH調整、電気分解、またはイオン交換などの任意の適切な方法により制御できる。ある態様において、pH調整は、二価陽イオンを含む塩基の添加によって行われる。例えば、塩基はカルシウム原子1個につき2個の水酸化物イオンを生じることができる水酸化カルシウムであってもよい。水酸化カルシウムをピルビン酸に添加すると、2つのピルビン酸アニオンと1つのカルシウムカチオンからなるカチオン対が生じる。
【0115】
本方法は、水素化触媒を触媒としてピルベートを還元して乳酸を形成することを含むステージ2をさらに含んでもよい。ある態様において、水素化触媒は金属触媒または担持金属触媒を含む。乳酸カルシウム(2つのラクテート部分を有する)と乳酸の平衡は、
図13に示すように、pH調整、電気分解またはイオン交換などの任意の適切な方法により制御できる。ある態様において、触媒はキラルであり、主にまたは専らR-乳酸またはS-乳酸の生成を触媒する。
【0116】
別の態様において、ステージ2は、ラクテートを脱水してアクリレートを形成することをさらに含む。アクリル酸カルシウム(2個のアクリレート部分を有する)とアクリル酸の平衡は、
図13に示すように、pH調整、電気分解またはイオン交換などの任意の適切な方法により制御できる。ある態様において、ラクテートの脱水は金属触媒または担持金属触媒によって触媒される。金属触媒または担持金属触媒は、ピルベートの還元を促進するために利用される触媒と同じであっても異なっていてもよい。別の態様において、ステージ2は、金属触媒または担持金属触媒と水素の存在下で乳酸を水素化してプロピル基を有する化合物を形成することを含む。ある態様では、プロピル基含有化合物は、1-プロパノール、2-プロパノール、プロピレングリコール、またはそれらの組み合わせを含む。
【0117】
ある態様における基礎化学品であるエタノールを付加価値の高いC3化合物に変換する方法を模式的に
図14に示す。
図14を参照すると、本開示の方法はエタノールを酵素と接触させるステージ1を含み、この酵素は、エタノールからアセトアルデヒドへの選択的好気性酸化を触媒することができる。ある態様において、この酵素はエタノールオキシダーゼ、EOXである。ステージ1は、二酸化炭素(CO
2)またはCO
2の供給源の存在下でアセトアルデヒドをピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC)と接触させてピルビン酸を生成することを更に含んでもよい。ピルビン酸エチルは、エタノールまたは有機溶媒の存在下でのピルベートのエステル化により生成することができる。エステル化は、CalBリパーゼ(すなわち、Novozymes 435固定化CalB)のような任意の適切な酵素を用いて実施できる。リパーゼを用いたエステル化反応は通常無水条件を必要とするため、この反応はtert-ブチルアルコール、酪酸メチル、または他の溶媒の存在下において、場合によっては二相系で行うことができる。
【0118】
ピルビン酸エチルは、ピルビン酸エチルの加水分解によってピルビン酸に変換できる(
図14参照)。本方法は、水素化触媒を触媒とするピルビン酸エチルの還元により乳酸エチルを形成するステージ2をさらに含んでもよい。ある態様において、水素化触媒は金属触媒または担持金属触媒を含む。乳酸エチルは、
図14に示すように、乳酸エチルの加水分解により乳酸に変換できる。ある態様において、触媒はキラルであり、主にまたは専らR-乳酸またはS-乳酸の生成を触媒する。
【0119】
別の態様では、ステージ2は、乳酸エチルを脱水してアクリル酸エチルを形成することをさらに含む。さらに別の態様では、乳酸エチルは加水分解によって乳酸に変換されてもよい。ある態様において、乳酸エチルの加水分解は金属触媒または担持金属触媒によって触媒される。金属触媒または担持金属触媒は、ピルベートの還元を促進するために利用される触媒と同じであっても異なっていてもよい。
【0120】
さらに別の態様において、ステージ2は、金属触媒または担持金属触媒と水素の存在下で乳酸を水素化して、プロピル基を有する化合物を形成することを含む。ある態様において、プロピル基含有化合物は、1-プロパノール、2-プロパノール、プロピレングリコールまたはそれらの組み合わせを含む。金属触媒または担持金属触媒は、水素化によりピルベートの還元を促進するために利用される触媒と同じであっても異なっていてもよい。
【0121】
ある態様では、アセトイン、2,3-ブタンジオール、1,3-ブタジエン、および2-ブタノンがエタノールから生成される。ある態様において、本明細書に開示する方法は、基礎化学品であるエタノールをアセトアルデヒドに酵素化学的に変換し、このアセトアルデヒドが続いてVACであるアセトイン、2,3-ブタンジオール、1,3-ブタジエン、および2-ブタノンに変換される。以下では、アセトイン、2,3-ブタンジオール、1,3-ブタジエン、および2-ブタノンをそれぞれ「C4生成物」、または総称して「C4生成物群」と呼ぶことがある。
【0122】
ある態様において、C4生成物の製造方法は、アセトアルデヒドを生成するのに適した条件下でエタノールを1つ以上の酵素と接触させることを含む。本明細書では基質としてエタノールを示して説明しているが、他の基質を採用することも想定される。
【0123】
ある態様におけるエタノールをC
4化合物に変換する方法を模式的に
図15に示す。
図15を参照すると、本開示のステージ1は、エタノールをアセトインに変換することを含む。ある態様において、エタノールをC
4化合物へ変換する方法は、エタノールからアセトアルデヒドへの選択的好気性酸化を触媒することができる酵素にエタノールを接触させることを含む。ある態様では、この酵素はエタノールオキシダーゼ、EOXである。ステージ1は、アセトアルデヒド2分子をカルボライゲーション(carboligation)し、アセトインを生成することをさらに含んでもよい。アセトアルデヒド分子のカルボライゲーションを実施するために任意の適切な触媒を利用することができる。ある態様では、アセトアルデヒドのカルボライゲーションはアセトイン合成酵素(AS)によって触媒される。別の態様では、アセトアルデヒドのカルボライゲーションは、チアミン含有触媒、N-ヘテロ環触媒などのカルベン触媒、またはそれらの組み合わせによって触媒される。ある態様において、アセトインを生成するためのアセトアルデヒドのカルボライゲーションは、反応生成物の立体特異性を高めるのに適した条件下で行われ、例えば、反応生成物は、(R)-アセトインのような特定のエナンチオマーを過剰にまたは専ら含んでもよい。別の態様において、アセトインを生成するためのアセトアルデヒドのカルボライゲーションは、ラセミ体を生成するのに適した条件下で実施される。このような態様において、カルボライゲーションは、フォルモラーゼ(FLS)またはピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC)のような酵素によって触媒される。
【0124】
ある態様において、基礎化学品であるエタノールをVACであるC4化合物に変換するための本開示の方法のステージ2は、金属触媒上での水素化によりアセトインを還元して2,3-ブタンジオールを形成することを含む。ある態様では、2,3-ブタンジオールの脱水反応によりブタジエンが形成される。エタノールをC4化合物に変換する方法は、2,3-ブタンジオールを部分的に脱水して2-ブタノンを形成することをさらに含んでもよい。2,3-ブタンジオールの脱水は金属触媒によって触媒され、この金属触媒は、アセトインの加水分解を触媒するために利用される金属触媒と同じであっても異なってもよい。
【0125】
ある態様において、VACであるグリコール酸の製造方法は、グリコールアルデヒドを生成するのに適した条件下で、基礎化学品であるエチレングリコールを1つ以上の生体触媒と接触させることを含む。グリコール酸を生成するのに適した条件下で、グリコールアルデヒドを1種以上の金属触媒とさらに接触させてもよい。本開示の酵素化学的方法を
図16に示す。
【0126】
ある態様において基礎化学品であるエチレングリコールからVACであるエタノールアミンを生成する方法を、
図17に概略的に示す。ある態様において、方法は、酸化中間体への変換に適した条件下でエチレングリコールを生体触媒と接触させることを含む。ある態様において、酸化中間体はグリコールアルデヒドである。この方法は、グリコールアルデヒドをEAに変換することをさらに含んでもよい。グリコールアルデヒドからEAへの変換は、化学薬品または生体触媒を用いて触媒することができる。
【0127】
ある態様において基礎化学品であるエチレングリコールからVACであるグリセロールを生成する方法を、
図18に概略的に示す。
図18を参照すると、本開示のステージ1は、エチレングリコールをグリコールアルデヒドに変換することを含む。ある態様では、酸素分子を利用し、過酸化水素を生成してエチレングリコールをグリコールアルデヒドに選択的に酸化できる酵素(EGOX)が、第一段階を触媒するために利用される。
図16に示すように、グリコールアルデヒドと二酸化炭素は、適切なカルボライゲーション触媒を用いて3-ヒドロキシピルビン酸に変換することができる。ある態様において、本開示の方法のステージ2は、金属触媒上での水素化により3-ヒドロキシピルビン酸を還元してグリセロールを形成することを含む。
【0128】
ある態様において基礎化学品であるグリセロールからVACであるジヒドロキシアセトンを生成するための方法を、
図19に概略的に示す。ある態様において、方法は、酸化中間体への変換に適した条件下でグリセロールを生体触媒と接触させることを含む。DHAの生成における使用に適した生体触媒は、アルコールオキシダーゼ(AOX)、アルジトールオキシダーゼ(AlDO)、銅ラジカルオキシダーゼ(CRO)、グリセロールオキシダーゼ(GlyOX)、またはそれらの組み合わせを含む。ある態様において、酸化中間体はグリセルアルデヒドである。本方法は、グリセルアルデヒドからDHAへの変換をさらに含んでもよい。
【0129】
ニコチンアミド
ある態様では、基礎化学品である3-シアノピリジンからVACであるニコチンアミドを生成するインビトロ酵素化学的経路が存在する。このような態様では、ニコチンアミドの形成に適した条件下において、ニトリルヒドラターゼの存在下で3-シアノピリジンを水と反応させる。ある態様では、この方法をインビトロで行うことにより、反応は水中で起こり、ニコチンアミドを高純度で容易に回収することができる。
【0130】
ある態様において、3-シアノピリジンの加水分解は、ニトリルの加水分解を促進できる任意の適切な生体触媒によって触媒される。ある態様において、生体触媒はニトリルヒドラターゼ(NHase)である。
【0131】
HMF
ある態様において基礎化学品である5-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)からVACであるFDCAを生成するためのインビトロ酵素化学的経路を
図20に示す。本明細書に開示するのは、FDCAを生成するための酵素化学的方法である。ある態様では、本開示の方法は、穏やかな反応条件においてHMFを酵素で酸化して中間体を生成することを含む。HMFはFDCAの生成のための例示的な反応体であり、本開示により他の反応体も想定されることを理解されたい。ある態様において、本開示の方法は、金属触媒またはTMCによって中間体を酸化してFDCAを生成することをさらに含む。HMFからFDCAへの酸化的変換を
図20に概略的に示す。
【0132】
酸化生体触媒
アルコールオキシダーゼ
開示する方法における使用に適した例示的な生体触媒としては、アルコールオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼおよびグリセロールオキシダーゼが挙げられるが、これらに限定されない。ある態様において、酸化生体触媒はアルコールオキシダーゼ(AOX、E.C.1.1.3.13)またはアルコールオキシダーゼホモログである。AOXは、酸素を酸化剤として低級の第一級アルコールをアルデヒドに酸化する普遍的なフラビン依存性酵素である。反応スキーム1にその例を示す。
【0133】
AOXは、Kloeckera属、Torulopsis属、Candida属、Pichia属、Hanseniaspora属、およびMetschnikowia属のメチル栄養酵母から得ることができる。別の態様では、AOXはMethylococcus capsulatusなどのメタノール利用菌、Thermoascus aurantiacusなどの好熱性土壌菌、Gloeophyllum trabeumなどの褐色腐朽菌から供給される。あるいは、白色腐朽性担子菌Phanerochaete chrysosporiumからAOXを得ることもできる。
【0134】
メチル栄養酵母は、タンパク質生成や化学合成のための発酵工程で広く用いられている。多くの場合、これらの酵母はメタノール誘導性AOX1プロモーターの制御下で異種のタンパク質を生成するために使用される。内在性AOX1遺伝子は、保持されていても(Mut+株)、欠失していても(Muts)、または欠失しておりマイナーなアルコールオキシダーゼAOX2を有してもよい(Mut-)。一般に、メタノールを炭素源として利用できる菌株ではより高いタンパク質力価が実現され、AOX遺伝子を欠失させることにより、非メタノール誘導工程におけるタンパク質力価を向上させることができる。
【0135】
ある態様では、AOXはメチル栄養酵母の発酵の副産物として生成されるMut+細胞から供給される。これらの工程における細胞密度は、最終的に約350/Lから約450g/Lの湿細胞レベルに到達可能である。メタノール中で培養した場合、AOXは可溶性細胞タンパク質の30%、無細胞抽出物の20%、細胞体積の80%を占める。あるいは、この工程で使用されるAOX配列は、メチル栄養酵母以外の生物から提供されてもよい。
【0136】
ある態様において、酸化生体触媒は、Candida methanosorbosa(Topt=45℃)、Ogataea thermomethanolica(Topt=50℃)、またはPhanerochaete chrysosporium(Topt=50℃)などの好熱生物由来の本質的に安定形態のAOXである。
【0137】
本開示で使用するAOXはエチレングリコールの酸化に利用することができ、そのような場合、エチレングリコールオキシダーゼまたはEGOXと呼ばれる。
【0138】
ガラクトースオキシダーゼ
ある態様では、酸化生体触媒は銅ラジカルオキシダーゼ(CRO)ファミリーの一つである。例えば、限定はしないが、本開示での使用に適した銅ラジカルオキシダーゼはガラクトースオキシダーゼ(GAO、EC1.1.3.9)である。GAOは、メカニズム研究と実用化の両方に関して最も幅広く研究されているアルコールオキシダーゼの一つである。本開示では、銅ラジカルオキシダーゼファミリーの他のメンバーも好適に使用可能である。GAOは銅依存性のアルコールオキシダーゼであり、単糖類または非還元末端にガラクトースを含有する複合糖質としてガラクトース残基を酸化する。GAOは、活性部位の銅イオンに配位したタンパク質ラジカルを含む新規な金属ラジカル複合体である。異常に安定なタンパク質ラジカルは、架橋チロシン残基(Tyr-Cys)の酸化還元活性側鎖から形成される。
【0139】
グリセロールオキシダーゼ
ある態様において、酸化生体触媒はグリセロールオキシダーゼ(GlyOx)である。GlyOx(E.C.1.1.3.B4)は、以下の反応に従って酸素を消費してグリセロールを酸化し、グリセルアルデヒドと過酸化水素を形成することを触媒する。
【0140】
この反応は外因性補因子の非存在下で進行する。銅-ヘム補因子を含有する天然のグリセロールオキシダーゼは、Botrytis allii、Aspergillus japonicus(AT001およびAT008)、Aspergillus oryzae AT105、Aspergillus parasiticus AT462、Aspergillus flavus AT853、Aspergillus tamarii AT857、Aspergillus itaconicus AT923、Aspergillus usamii AT989、Neurospora crassa AT003、Neurospora sitophila AT045、Neurospora tetrasperma AT053、およびPenicllium sp.UT1750から得られている。
【0141】
配列
ある態様において、本開示における使用に適した生体触媒は配列番号1から配列番号16のいずれかを有してもよい。
【0142】
担持金属触媒
ある態様において、金属触媒は遷移金属酸化触媒を含む。このような態様において、金属酸化触媒は担持遷移金属酸化触媒またはナノ粒子担持遷移金属酸化触媒である。以下、これらを総称してTMCと呼ぶ。ある態様では、担体は、炭素、シリカ、アルミナ、チタニア(TiO2)、ジルコニア(ZrO2)、ゼオライト、またはそれらの任意の組み合わせを含み、それは担体の総重量に対して約1.0重量%(wt%)未満、約0.1重量%未満、または約0.01重量%未満のSiO2結合剤を含む。
【0143】
適切な担体は、メソ孔またはマクロ孔が主体で、実質的にミクロ孔を含まない。例えば、担体はミクロ孔が約20%未満であってもよい。ある態様では、担体は多孔性のナノ粒子担体である。本明細書で使用される場合、「ミクロ孔」という用語は、IUPACによって定義されるように、窒素吸着法および水銀圧入法によって測定される直径が2nm未満の細孔を指す。本明細書では「メソ孔」という用語は、IUPACによって定義されるように、窒素吸着法および水銀圧入法によって測定される直径が約2nmから約50nmの細孔を指す。本明細書では「マクロ孔」という用語は、IUPACによって定義されるように、窒素吸着法および水銀圧入法によって測定される直径が50nmより大きい細孔を指す。
【0144】
ある態様において、担体は、約10nmから約100nmの平均細孔直径と約20m2g-1から約300m2g-1の表面積とを有するメソ多孔性炭素押出物からなる。本開示での使用に適した担体は、任意の適切な形状を有することができる。例えば担体は、0.8~3mmの三葉、四葉、またはペレット押出物に成形することができる。このような形状の担体は、連続フローにおいて最後の酸化工程を実施するための固定トリクルベッド反応器の使用を可能にする。
【0145】
1つまたは複数の態様において、金属は、8族金属(例えば、Re、Os、Ir、Pt、Ru、Rh、Pd、Ag)、3d遷移金属、初期遷移金属、またはそれらの組み合わせを含む。ある態様では、TMCは金(Au)を含む。
【0146】
ある態様において、TMCはプラチナおよび金を含み、不均一系の固相TMCである。このような態様において、好適な触媒担体としては、限定しないが、炭素、表面処理されたアルミナ(不動態化アルミナまたは被覆アルミナなど)、シリカ、チタニア、ジルコニア、ゼオライト、モンモリロナイト、それらの修飾物、それらの混合物、またはそれらの組合せが挙げられる。触媒担体は、担体外表面へのプラチナおよび金の優先的付着を促進するように処理することにより、シェル型TMCを形成することができる。TMCとして機能するプラチナおよび金を含有する化合物は、任意の適切な方法によって製造することができる。例えば、プラチナおよび金を含有するTMCは、インシピエントウェットネス、イオン交換、および析出沈殿のような付着法を用いて製造することができる。
【0147】
他の態様では、TMCは、Cu、Ag、Au、Ni、Pd、Pt、およびIrの単金属または複数金属の組み合わせである金属相を有する。活性相の活性、選択性、および安定性は、初期の3d、4d、および5dの遷移金属、またはSn、Sb、およびBiなどのポスト遷移重金属のドーパントで調節することができる。ある態様では、金属(例えば1族金属)を金属格子にインターカレートして触媒特性を調節する。ある態様では、活性相の塩前駆体は、任意の適切な方法を用いて本明細書に開示するタイプの担体上に付着される。例えば、活性相の付着は、インシピエントウェットネス含浸、バルク吸着含浸、または析出沈殿などの技術を用いて行うことができる。
【0148】
ある態様において、活性相の付着塩前駆体は、その後に約100℃未満の温度における適切な塩(例えば、ギ酸塩)を用いた液相還元(LPR)により、または約200℃~約500℃若しくは約200℃~約450℃の温度における気相還元(GPR)により、活性相に変換される。ある態様では、仕上げ触媒は金を含有し、約150℃以上の空気中で焼成される。
【0149】
ある態様において、本明細書に開示するタイプの担体に担持される活性相の量は、TMC仕上げ触媒の総重量に対して約2.0重量%(wt%)未満、約1.5重量%未満、または約1.0重量%未満である。ある態様では、本明細書に開示するタイプの担体に担持される活性相の量は、TMC仕上げ触媒の総重量に対して約0.5重量%以下である。ある態様では、担体全体にわたる活性相の半径方向の分布は異方的であり、活性相は「コア-シェル」構成において押し出し担体の表面近傍の500μm未満の環状部に実質的に集中する。本明細書に開示するタイプのTMC仕上げ触媒は、約70%~約90%、約70%以上、約80%以上、約85%以上、または約90%以上の選択率で、約0.05mol酸g-1活性金属h-1以上、または約0.1mol酸g-1活性金属h-1以上のアルデヒド基からカルボン酸への変換の生産性によって特徴付けられてもよい。このような態様において、TMC仕上げ触媒は、約60%~約95%、約70%以上、約80%以上、または約90%以上の変換率を示す。このようなTMC仕上げ触媒は、約1ppb~約100ppb、約100ppb未満、または約90ppb未満の定常状態溶出量を示してもよい。ある態様において、本明細書に開示するタイプのTMC仕上げ触媒は、約10バール~約100バール、約20バール~約100バール、または約20バール~約90バールの圧力において、約40℃~約120℃、約40℃~約110℃、または約50℃~約100℃の温度で利用できる。
【0150】
ある態様において、仕上げ触媒は異性化触媒である。HVCOSの他の成分に適合する任意の異性化触媒を利用可能である。ある態様において、異性化触媒はゼオライトを含む。
【0151】
化学触媒
ある態様において、仕上げ触媒は酸または塩基のような低分子化学触媒である。仕上げ触媒としての使用に適した酸または塩基の例としては、限定されないが、塩酸、硫酸、ギ酸、水酸化ナトリウムおよび尿素が挙げられる。
【0152】
補因子
ある態様において、本明細書に開示するタイプのHVCOSにおける使用に適した生体触媒は、1つ以上の精製された補因子をさらに含んでもよい。ここで補因子とは、生体触媒の生物学的活性を調節する非タンパク質の化学物質を指す。多くの酵素は適切に機能するために補因子を必要とする。本開示における使用に適した精製酵素補因子の非限定的な例としては、チアミンピロリン酸、NAD+、NADP+、ピリドキサールリン酸、メチルコバラミン、コバラミン、ビオチン、補酵素A、テトラヒドロ葉酸、メナキノン、アスコルビン酸、フラビンモノヌクレオチド、フラビンアデニンジヌクレオチド、および補酵素F420が挙げられる。このような補因子は、生体触媒調製物に含まれていてもよく、および/または反応中の様々な時点で添加されてもよい。ある態様において、生体触媒調製物に含まれる補因子は、酸素で容易に再生されてもよく、および/または酵素の寿命を通じて安定に保たれてもよい。
【0153】
カタラーゼ
本開示の恩恵を受ける当業者には理解されるように、本明細書に開示するタイプの反応(例えば、エチレングリコールの生体触媒による酸化)は、反応混合物の他の成分に悪影響を及ぼす副生成物(例えば、過酸化水素)を生成する可能性がある。例えば、過酸化水素は生体触媒を劣化させ、触媒活性を失わせる可能性がある。このような態様では、カタラーゼ(E.C.1.11.1.61)の導入、過酸化水素耐性の生体触媒の使用、またはそれらの組み合わせなどにより、過酸化水素の悪影響を緩和できる。
【0154】
生体触媒の形態と発現系
ある態様において、本明細書に開示するタイプの生体触媒は、野生型酵素、その機能的断片、またはその機能的変異体である。本明細書で使用される「断片」とは、全長の生体触媒(例えば、AOX)よりも短いアミノ酸配列を有するが、使用者または方法の目的を満たすのに十分な触媒活性を維持していることを意味する。断片は、生体触媒の配列の一部と同一の単一の連続した配列を有してもよい。あるいは、断片は、各セグメントが生体触媒のアミノ酸配列の異なる部分と同一のアミノ酸配列であり、生体触媒とは配列が異なるアミノ酸を介して連結している複数の異なる短いセグメントを有してもよい。ここで、生体触媒の「機能的変異体」とは、保存的または非保存的なアミノ酸の挿入、欠失、または置換を1か所以上の位置に有するが、触媒活性を保持するポリペプチドを指し、それぞれの変化は、所定の配列において単独または他の1つ以上の変化と共に一度または複数回に分かれて起こってもよい。
【0155】
上述の変異の代わりにまたは組み合わせて、触媒活性を向上させるために生体触媒を変異させてもよい。変異させることにより、タンパク質またはホモログの活性を上げ、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、グリコールアルデヒドおよび/または過酸化水素のような基質および生成物の存在下でのタンパク質の安定性を向上させ、タンパク質の収量を増加させることができる。
【0156】
本明細書では、生体触媒の「供給源」について言及している。これは、命名された生物によって発現される生体分子を指すと理解されたい。生体触媒は、生物から得られるか、適切な発現系に対する適切なコンストラクトとして提供される前記生体触媒の一種(野生型または組換え型)であることが想定される。
【0157】
ある態様において、本明細書に開示するタイプの任意の生体触媒は、適切な発現ベクターにクローニングされ、大腸菌、Saccharomyces属、Pichia属、Aspergillus属、Trichoderma属、またはMyceliophthora属などの発現系の細胞を形質転換するために使用されてもよい。「ベクター」とは、別のDNAセグメントを結合することができる、プラスミド、ファージ、ウイルスコンストラクト、またはコスミドなどのレプリコンである。ベクターは、DNAセグメントを細胞に導入し、発現させるために使用される。本明細書において使用する場合、「ベクター」および「コンストラクト」という用語には、1つ以上の遺伝子発現カセットがライゲーションできるまたはライゲーションされている、プラスミド、ファージ、ウイルスコンストラクト、コスミド、細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)、ヒト人工染色体(HAC)などのレプリコンが含まれる。ここで、細胞が外来性または異種性の核酸またはベクターによって「形質転換」されたとは、そのような核酸が、例えばトランスフェクション試薬との複合体として、またはウイルス粒子に封入された状態で細胞内に導入された場合をいう。形質転換DNAは、細胞のゲノムにインテグレート(共有結合)されていてもよいし、されていなくてもよい。
【0158】
ある態様において、本明細書に開示する生体触媒の遺伝子は、配列が1つ以上の制御配列または調節配列に作動可能に連結されたベクター中の組換え配列として提供される。発現制御配列が「作動可能に連結されている」とは、発現制御配列が目的遺伝子を制御するために目的遺伝子と連続している連結態様、および発現制御配列が目的遺伝子を制御するためにトランスまたは離れた位置で作用する連結態様を指す。
【0159】
用語「発現制御配列」または「調節配列」は互換的に使用され、本明細書ではコード配列の発現に影響を及ぼすために必要なポリヌクレオチド配列を指し、このポリヌクレオチド配列は作動可能にコード配列に連結されている。発現制御配列は、核酸配列の転写、転写後の事象、および翻訳を制御する配列である。発現制御配列には、適切な転写開始、終結、プロモーター、エンハンサー配列、スプライシングおよびポリアデニル化シグナルのような効率的なRNAプロセシングシグナル、細胞質mRNAを安定化する配列、翻訳効率を高める配列(例えば、リボソーム結合部位)、タンパク質の安定性を高める配列、および所望によりタンパク質の分泌を高める配列が含まれる。このような制御配列の性質は宿主生物によって異なるが、原核生物では、このような制御配列には一般にプロモーター、リボソーム結合部位、および転写終結配列が含まれる。「制御配列」という用語は、少なくとも、その存在が発現に必須である全ての構成要素を含むことを意図しており、例えばリーダー配列および融合パートナー配列のような、その存在が有利である付加的な構成要素も含むことができる。
【0160】
本明細書で使用する「組換え宿主細胞」(「発現宿主細胞」、「発現宿主系」、「発現系」または単に「宿主細胞」)という用語は、組換えベクターが導入された細胞を指すことを意図している。このような用語は、特定の対象細胞だけでなく、このような細胞の子孫を指すことを意図していることを理解すべきである。突然変異または環境の影響により後代にある種の改変が起こる可能性があるため、そのような子孫は実際には親細胞と同一ではないかもしれないが、それでも本明細書で使用する「宿主細胞」という用語の範囲に含まれる。組換え宿主細胞は、培養で増殖した単離細胞または細胞株であってもよいし、生きた組織または生物に存在する細胞であってもよい。
【0161】
利点
本明細書で開示するのは、糖やアルコールなどの再生可能な原料からVACを酵素化学的に生成するための分子製造プラットフォームである。ある態様において、本開示のVACは、商業規模で、約70%以上、約80%以上、または約90%以上の純度で製造される。
【0162】
実施例
主題を概略的に説明したが、以下の実施例は本開示の特有の態様として提示され、本開示の主題の態様および特徴に加えて、その実施および利点を示す。以下の実施例において開示する技術は、本主題の実施において良好に機能することが本願発明者によって発見された技術を表しており、その実施のための好ましい態様を構成すると考えられることを当業者は理解されたい。しかしながら、当業者は本開示に照らして、開示される特有の態様において多くの変更が可能であり、それでもなお、本開示の範囲から逸脱することなく同様または類似の結果を得ることができることを理解すべきである。実施例は説明のために提供されており、本明細書またはそれに続く特許請求の範囲をいかなる方法によっても限定することを意図しないことを理解されたい。
【0163】
変異型酵素
糖類はUPOの本来の基質として知られていないため、UPOはグルコースまたは酸化グルコース誘導体に対する特異的活性、Km、およびkcatを向上させるように組み換えられる。これは、基準活性と、最適pH、熱的・化学的安定性、組み換え用宿主(大腸菌)および生産宿主(真菌)の両方における発現レベルなどの他の適切な特性について、UPOの一群をスクリーニングすることによって達成される。適切な酵素が選択されると、酵素の特性を改善するために、指向性進化と合理的設計法の対象となる。
【0164】
本明細書では、発酵および/または石油化学に依存するのではなく、触媒を用いた酵素反応により生成物を生成し、より低温で副生成物がより少ない新たな方法を開示する。酵素の使用により、積極的な発酵を必要とせずに中間体や生成物を生成する反応が起こる。触媒化学と組み合わせることで、この2つのプロセスは反応物から高い選択性と収率で生成物を生成し、同時にCO2の発生を抑えることができる。
【0165】
実施例1
グルコースオキシダーゼ触媒を用いたグルコースからのグルコン酸の生成
O
2で100psiに加圧した200mL容器内で50mLの反応を行った。容器には20%デキストロース、pH5の100mMクエン酸緩衝液、0.0002%グルコースオキシダーゼ、および0.0002%カタラーゼを入れた。反応物を20℃または30℃、500rpmで撹拌した。約25時間に反応を停止し、逆相HPLC-MSで測定したところ、グルコースオキシダーゼ1gあたり45,000gのグルコン酸が生成していた。HPLC分析の結果を
図31に示す。
【0166】
実施例2
グルコース及びグルコネートからのグルカル酸の生成
Collariella viriscensのUPO(CviUPO)とDaldinia caladariorumのUPO(DcaUPO)を大腸菌で発現させ、アフィニティークロマトグラフィーで精製し、グルコース、グルコン酸、グルコジアルドース、グルロン酸、およびグルクロン酸に対する基準活性を試験した。反応は、0.1g/Lの酵素、クエン酸ナトリウム緩衝液(pH4)またはリン酸カリウム緩衝液(pH6)、2mMのH
2O
2、および2mMのグルコースまたはグルコース酸化生成物を含む96ウェルプレートで行った。20時間反応させた後、HPLC-MSで分析した。
図21を参照すると、触媒としてCollariella viriscens (CviUPO)またはDaldinia caladariorum(DcaUPO)を用いてグルコースおよび/またはグルコース酸化生成物からグルカル酸を生成し、HPLC-MSで測定したベースラインが示されている。すべての生成物の痕跡は反応後のものである。注目すべきは、DcaUPOがグルコースからグルカレート(glucarate)を生成したのに対し、CviUPOはグルコネートから少量のグルカル酸を生成したことである。グルカレートは両酵素ともpH4でのみ生成した。pH6では、両酵素とも2-ケトグルコネートを生成し、グルカレートの生成は見られなかった。
【0167】
実施例3
パーボム(Parr Bomb)におけるL-グルロン酸の生成
酸素で100psiに加圧したパーボム容器にGAO-mut1とGOX酵素を添加し、L-グルロン酸の生産を卓上スケールで試験した。最初の実験では、10%重量/容量(w/v%)のグルコース、0.02w/v%のGAO-mut1、0.001w/v%のカタラーゼを含む50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8)を調製し(50mL)、容器の内槽に加えた。20℃で20時間撹拌して反応を進行させた。その後、GAO Mut-1酵素を30kDのMWCOの遠心分離装置でろ過して除去した。第二の反応段階では、GOXとカタラーゼを共に0.001w/v%の濃度になるように添加した。20℃で20時間撹拌して再び反応を進行させた。反応中、pHが8から3に低下したことが認められたが、これは
図22Aに示すように、GOX添加後に酸種であるグルコン酸とL-グルロン酸が生成したためと考えられる。最終的な反応混合物のHPLC-MS分析では、
図22Bに示すように、約0.2~0.3%のL-グルロン酸(2~3%モル収率)、2%のグルコネート、および特定できない量のグルコジアルドースの生成が示された。
【0168】
収率を向上するため、酸を生成する第二段階においてpHを制御する第二の実験を行った。まず、pH8の50mMリン酸ナトリウム緩衝液、15w/v%のグルコース、0.02w/v%のGAO-mut1、0.001w/v%のカタラーゼの溶液をパーボム(50mL)に加え、20℃で20時間撹拌してグルコジアルドースを生成した。第二段階として、0.001w/v%のGOXと0.001w/v%の追加のカタラーゼを加え、同条件で更に20時間進行させた。
図23Aに示すように、2時間と4時間で反応を中断してpHを5に調整した後、再加圧して20時間経過するまで反応させた。LC-MS分析の結果、前回の反応に比べて高濃度(約5%または31%モル収率)のL-グルロネートが生成した。結果を
図23Bに示す。
【0169】
高濃度のGAO-mut1を添加し、2回目の触媒工程でpHを6に調整することにより、収率をさらに高める3回目の試験を行った。まず、pH8の50mMリン酸ナトリウム緩衝液、約4w/v%のグルコース、0.1w/v%のGAO-mut1、0.001w/v%のカタラーゼの溶液50mLをパーボムに加え、20℃で20時間撹拌してグルコジアルドースを生成した。第二段階として、0.001w/v%のGOXと0.001w/v%の追加のカタラーゼを加え、同じ条件で更に20時間進行させた。反応を定期的に中断し、pHを6に調整した。GAO-Mut1との反応後、グルコース濃度は4.3w/v%の初期値から0.9w/v%まで低下した。GOXを添加して20時間反応させると、1.0w/v%のグルコン酸と3.6w/v%のL-グルロン酸の混合物(85%モル収率)が生成した。結果を
図24に示す。
【0170】
実施例4
グルコースからグルコジアルドースを生成するGAO変異体の作製
経路Aを支持するために、グルコースをグルコジアルドースに変換できるGAO変異体を作製した。指向性進化と合理的な酵素設計の結果、改良されたGAO変異体はグルコースに対して35Umg-1を超える特異的活性を示した。
【0171】
指向性進化
触媒の銅から10オングストローム以内の30箇所の指向性進化を、以下の変異を付加した親配列に対して行った。1)R330K、Q406T、W290Fは、グルコースに対する1Umg
-1未満の活性をGAOにもたらすことが発見された。2)C383Sはガラクトースに対する酵素のKMを低下させることが見出された。3)Y405FとQ406EはD-N-アセチルグルコサミン基質に対する活性を高めることが見出された。表1に記載の他の変異は、グルコジアルドース生成活性に中立的または有害な影響を及ぼすことが判明した。新たな組み合わせ配列をGAO-Mut1と命名した。発現コンストラクトの全配列を配列番号15に示す。
表1
【0172】
NNSコドンを含むプライマーを用いたQuikchange法により、GAO-Mut1中の選択された位置において20個のアミノ酸全てを変異させた。その後、このコンストラクトを以下の方法でスクリーニングした。コロニーを採取し、ルリアベルターニ(LB)培地を満たした96ウェルのディープウェルプレートに1ウェルずつ播種した。次に、増殖したクローンを、タンパク質発現用の別の96ウェルのディープウェルプレートの自己誘導培地に播種した。回収した細胞をBacterial Protein Extraction Reagent(B-PER)で溶解し、溶解液は過酸化水素を検出する比色分析の2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸(ABTS)アッセイを用いてオキシダーゼ活性をスクリーニングした。
【0173】
簡潔にいうと、溶解液は熱に曝した場合と曝さなかった場合の活性を測定した。熱負荷がない場合の活性を測定するため、溶解液を50倍に希釈した。希釈した溶解液5μLをABTSアッセイ溶液(最終濃度2w/v%グルコース、0.0125mg/mL西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、pH8の50mMリン酸ナトリウム緩衝液、0.05%ABTS)と合わせて最終量200μLとし、反応が完了するまで405nmの吸光度の変化を観測した。熱負荷後の残存活性を測定するため、50μLの溶解液を50℃で10分間インキュベートし、20μLの熱処理した溶解液をABTS溶液に添加した後に、405nmの吸光度の変化を観測した。特異的活性は、ΔA405/分を測定する曲線の直線部分を用いて、405nmにおけるABTSの消光係数を36.8mM
-1cm
-1として、以下の式から算出した。2による除算は、1分子のH
2O
2がHRPによって2分子のABTSを酸化することを考慮したものである。
【0174】
さらなる特性解析のためGAO-Mut1よりも大きなΔA405/分を示す変異体溶解液を選択した。DNAシークエンシングによって変異を特定した後、当たりのものを発現して精製し、特異的活性と、最大活性の半分の活性が観察される温度(T50)によって評価される耐熱性とについて試験した。変異体は24ウェルプレートで自己誘導培地を含む5mLの培養から精製した。回収した細胞をBacterial Protein Extraction Reagent(B-PER)で溶解し、溶解液を15,000rcf、4℃で30分間スピンダウンした。溶解液上清中のHisタグタンパク質をHisPur(商標)Ni-NTA SpinPlatesを用いた固定化金属アフィニティークロマトグラフィーで精製した。溶出したタンパク質サンプルを0.5mMのCuSO4を含むpH7.5の100mMリン酸カリウム緩衝液で希釈し、上記のABTSアッセイを用いて特異的活性を測定した。
【0175】
基質非存在下でタンパク質を加熱し、冷却した後、ABTSアッセイを用いて残存活性を測ることにより、T50を測定した。タンパク質をpH7.5の100mMリン酸緩衝液で2.5mg/Lの濃度に希釈し、96ウェルPCRプレートの一列に50μLずつ分注し、酵素の最高と最低の性能を捕捉するのに十分な温度勾配で10分間インキュベートすることにより、加熱を行った。加熱後すぐに混合液を氷上で冷却し、最終量200μLのABTS溶液中の20μLの酵素溶液のΔA405/分を上記のように測定した。
【0176】
基本構成であるMut1と有益に組み合わせられる有望な点変異体には、A193R、D404H、F441Y、およびA172Vがあった(表3)。これらの変異は組み合わされた。
【0177】
GAO-Mut47と名付けられた単一の組み合わせ変異体は、27.3Umg
-1の特異的活性と56.8℃のT
50を示した。結果を
図25と表2に示す。
表2
【0178】
合理的設計
グルコース基質をさらに受容し、安定な変異を同定するためのGAOの合理的設計を、構造および多重配列アラインメント(MSA)データに基づく計算手法の組み合わせにより行った。以前、GAO-M-RQW-S(Y405FとQ406Eの変異を持たないGAO-Mut1配列)は、基質としてグルコースとグルコネートの両方を受容することが見出されていた。N末端にHisタグを持つGAO-M-RQW-S配列と持たないGAO-M-RQW-S配列をそれぞれ配列番号16と配列番号17に示す。両方の基質に対して活性を持つGAOを作製する試みが行われていたため、GAO-Mut1ではなくGAO-M-RQW-S配列に基づき合理的設計を行った。採用した構造的手法は、GAO-M-RQW-S変異を含むようにPDB構造2WQ8を修正したものにFoldX(40の予測変異)とPROSS(80の変異)を適用することを含んだ。MSAベースの予測(34の変異と28の変異)が準備され、185個のMSAに適用された。このMSAは、JALVIEWで作製された1000個の配列の初期セットから、98%の冗長性を持つ配列を除去し、カルボハイドレートオキシダーゼとして実験的に検証された配列のみを保持するように作製した。指向性進化クローンをスクリーニングするための上述の方法を用いて、合計202個の点変異体をスクリーニングした。最初のスクリーニングで39個の当たりが同定され、2回目のスクリーニングで16個が再同定された。指向性進化工程で得られた最良の組み合わせ変異体(GAO-Mut47)を基に組み合わせ変異体を作製したところ、N66S、S306A、S311F、Q486Lの変異が相補的で有益であると同定された一方、N28I、Y189W、S331R、A378D、R459Qはこの基本構成では有害とみなされた(表3)。Mut47変異とN66S、S306A、S311F、およびQ486Lとを含む最終的なGAO-Mut107コンストラクトは、2%グルコースに対して34.96Umg
-1の特異的活性を示し、T
50は60.56℃であった。結果を
図26に示す。機械学習アルゴリズムから同定された追加の変異を後で組み込んで、GAO-mut142とGAO-mut164を作製した。GAO-mut47およびGAO-mut107酵素とともに、これらの追加変異体の活性のアッセイの結果を
図27に示す。
表3
太字の変異は、A193D、D404H、F441Y、A172Vを有する基本構成であるMut47において有益である。
他のデータとは別の実験で収集したデータ。増加率は内在性Mut47コントロールと比較して算出した。
他のデータとは別の実験で収集したデータ。増加率は内在性Mut47コントロールと比較して算出した。
【0179】
GAO-Mut47を用いてD-グルコジアルドースを生成する一段階パーボム反応
100psiに加圧した200mL容器で50mLの反応を行った。容器にはpH8の50mMリン酸ナトリウム緩衝液、50μMのCuSO
4、15w/v%グルコース、0.005w/v%のカタラーゼ、0.001%の西洋ワサビペルオキシダーゼ、0.001w/v%の組み換えGAOを入れた。反応物を11℃、500rpmで48時間撹拌した。0、24、48時間後にサンプルを採取してHPLCで解析し、残留グルコースを測定した。結果を
図28に示す。
【0180】
GAO-Mut47を用いてL-グルロン酸を生成する二段階パーボム反応
100psiに加圧した200mL容器で50mLの反応を行った。容器には、pH8の50mMリン酸ナトリウム緩衝液、50μMのCuSO
4、15w/v%のグルコース、0.005w/v%のカタラーゼ、0.001%の西洋ワサビペルオキシダーゼ、0.01w/v%の組み換えGAOを入れた。反応物を11℃、500rpmで72時間撹拌して、グルコースからグルコジアルドースを生成した。第二段階では、0.002w/v%のGOXと0.001w/v%の追加のカタラーゼを加え、同じ条件で更に24時間進行させた。反応は定期的に中断し、pHを7に調整した。結果を
図29Aに示す。ゼロ時間でのグルコース濃度を左側の棒で示し、最初の酵素工程、特にGAO酵素組成物との反応後のグルコース濃度を右側に示す。
【0181】
GAO-Mut47との反応後、グルコース濃度は初期値である16w/v%から1.5w/v%に低下した。GOXを添加して24時間反応させると、2.0w/v%のグルコン酸と12w/v%のL-グルロン酸の混合物(75%モル収率)が生成した。結果を
図29Bにグラフ化した。
【0182】
実施例5
グルコネートまたはグルコノラクトンからL-グルロン酸を生成するためのGAO変異体の作製
グルコースに対して活性を有するGAO変異体の合理的設計で作製された組み合わせ変異体を、グルコネートに対する活性に基づきスクリーニングした。我々は、親のコンストラクトがグルコネートに対して約1Umg-1の特異的活性を既に示していたため、基本構成であるGAO-M-RQW-Sに基づいて生成された組み合わせの中にグルコネートに対して活性を持つ変異体が存在する可能性があると推測した。
【0183】
2%のグルコネートを用いて精製タンパク質をスクリーニングした結果、Mut49(N66W、A172V、Y189W)およびMut62(N66S、A172V、Y189W、S306A、S311F、S331R、A178D、Q486L)がグルコネートに対して高い活性を有し、特異的活性は約4Umg
-1および約6Umg
-1であった。結果を
図30Aに示す。
【0184】
GAO-Mut62を用いてL-グルロン酸を生成する一段階パーボム反応
【0185】
O
2で100psiに加圧した200mL容器で50mLの反応を行った。容器にはpH8の50mMリン酸ナトリウム緩衝液、50μMのCuSO
4、4w/v%のグルコース、0.005w/v%のカタラーゼ、0.001w/v%の西洋ワサビペルオキシダーゼ、0.0002w/v%のGOX、0.05w/v%の組み換えGAO-mut62を入れた。反応物を11℃、500rpmで24時間撹拌した。反応は定期的に中断し、pHを7.5に調整した。24時間の反応後、4%のグルコースから3w/v%のL-グルロン酸と1w/v%のグルコン酸が生成した。結果を
図30Bに示す。
【0186】
実施例6
ピラノースオキシダーゼ触媒を用いたグルコースから2-ケトグルコースの生成
特徴が明確な酵素であるPOXは、発現宿主からタンパク質と共に精製することができるFAD補因子に強固に結合または共有結合することにより、10Umg
-1の生来の特異的活性を示す。POXは、グルコースを2-ケトグルコースに酸化すると同時に過酸化水素を生成するリグノセルロース分解菌に見られるフラビン依存性酵素である。組換えTrametes hirsuita POXは、現在食品産業で製パン用に使用されており、この酵素が低コストで生産可能であることを示す証拠となっている。表4は、この方法で使用するために、これまでに特徴解析したPOX酵素を示す。単位は、1分間に消費される基質1μmolとして定義される。社内での経験的評価に基づくと、Irpex lacteus、Trametes multicolor、およびPhanerochaete chrysosporiumのPOXは十分な初期活性を有する。これは
図32と表4に図示されている。
表4
【0187】
O
2で100psiに加圧した容器に入れた20mLバイアル中で、4mLの反応を行った。バイアルには、20w/v%のグルコース、pH6の100mMリン酸カリウム、0.005%のカタラーゼ、およびIrpex lacteus由来の0.005%、0.01%、または0.02%のPOXを入れた。反応物を16℃または28℃、500rpmで撹拌した。71時間で反応を停止し、逆相HPLC-MSで分析した。28℃、0.020%の反応では、過酸化生成物(11%)と未反応のグルコース(6%)も見られたが、主要生成物として2-ケトグルコースの生成(ピーク面積では83%)が確認された(
図33)。
【0188】
実施例7
グルコースオキダーゼ触媒を用いた2-ケトグルコースからの2-ケトグルコネートの生成
O
2で100psiに加圧した容器内に配置した20mLのバイアル中で、4mLの反応を行った。実施例6に記載したように生成してタンジェンシャルフローフィルトレーションで酵素を除去した2-ケトグルコース、pH5の100mMクエン酸緩衝液、0.0001%のカタラーゼ、および0.0005w/v%または0.001w/v%のGOXをバイアルに入れた。反応物のpHは各時点でNaOHを用いて5.0に戻した。POX反応で未反応のグルコースから生成されるグルコネートと共に、2-ケトグルコネートが主要生成物として生成されており、2-ケトグルコース、未反応の2-ケトグルコース、および2-ケトグルコース過酸化生成物が存在した。結果を
図34に示す。
【0189】
実施例8
ピラノースオキシダーゼ触媒を用いたグルコジアルドースからの2-ケトグルコジアルドースの生成
実施例3に記載の比色分析のABTSアッセイを、20mMグルコジアルドース、およびpH6の50mMリン酸カリウム緩衝液と、50μLの1000倍濃度の17.4mg/LのM-RQWS GAO、25.5mg/mLのGAO-Mut1、10.5mg/mLのGAO-Mut47、10.7mg/mLのGAO-Mut62、42mg/mLのGOX、または30mg/mLのPOXとを各ウェルに入れたマイクロタイタープレートで行った。グルコジアルドースに対するPOXの活性が検出され、特異的活性は7.5U/mgより大きかった。結果を
図35に示す。
【0190】
実施例9
0.01w/v%の大腸菌グルカル酸デヒドラターゼ(GlucD)、10mMの基質(グルカレート、グルコネート、またはグルクロネート)、pH7.5の50mMのリン酸カリウム、5mMのMgSO
4、100mMのNaClを含む100μLの溶液を調製した。反応を24時間進行させ、0.5分、20分、1時間、2時間、および24時間後にLCMSでグルカル酸の消費を観測した。グルカレートの完全な変換は20分以内に観察された。基質としてグルコン酸またはグルクロン酸を用いた場合には、反応は観察されなかった。反応を
図36に模式的に示し、結果を
図37にグラフ化した。
【0191】
最適な酵素量を決定するため、0.001、0.002、0.005、または0.01w/v%のグルカル酸デヒドラターゼ(GlucD)、10w/v%のグルカレート、pH7.5の50mMリン酸カリウム、5mMのMgSO
4、および100mMのNaClを含む100μLの溶液を調製した。反応を74時間進行させ、4-デオキシ-5-ケトグルカレートの生成とグルカレートの消費を逆相LCMSで観測した。試験した全ての濃度のGlucDで72時間後に完全な変換が行われており、0.005%の酵素を用いた場合は24時間以内に完全な変換が起こった。反応を
図36に模式的に示し、結果を
図40にグラフ化した。
【0192】
実施例10
グルコースからのエリソルビン酸の生成
D-エリソルビン酸(D-EA)の生成方法を
図38に示す。D-EAは、D-(-)-イソアスコルビン酸、アラボアスコルビン酸、グルコサッカロン酸(glucosaccharonic acid)、エリコルビン(erycorbin)、D-イソアスコルビン酸、サッカロソン酸(saccharosonic acid)、メルケート5(mercate 5)、ネオセビキュア(neo-cebicure)、D-アラボアスコルビン酸、NSC 8117、D-エリスロ-ヘキサ-2-エノン酸γ-ラクトンとしても知られており、調理中や塩漬け(curing)中の酸化(褐変)やニトロソアミンの生成を防ぐための食品保存料として一般的に使用されるアスコルビン酸(ビタミンC)の立体異性体である。例えば、D-EAは塩漬肉や冷凍野菜によく使われる保存料である。また、この化合物は非ヘム鉄の吸収を促進する効果もある。
【0193】
図38を参照すると、グルコン酸の形成に適した条件において、TMCおよび酸化剤(O
2)の存在下でグルコースを酸化できる。グルコースのグルコン酸への酸化は、約85%以上、更に若しくはあるいは約90%以上、または更に若しくはあるいは約95%以上の選択性を有してもよい。グルコン酸は、TMCおよび酸化剤(O
2)の存在下において、約80%以上、更に若しくはあるいは約85%以上、更に若しくはあるいは約90%以上の反応選択率でさらに酸化されて2-ケト-D-グルコン酸を形成することができる。次いで、2-ケトグルコン酸をアルコール溶媒(例えば、エタノール)および酸触媒中でラクトン化して、エリソルビン酸を形成することができる。グルコースからグルコン酸、グルコン酸から2-ケトグルコン酸を生成する化学量論的反応も
図38に示す。開示する方法によれば、ビタミンCは、発酵による方法よりも酵素化学的方法または触媒的方法により更に安価で効率的に製造される。1.細胞を直接使用せずに酵素を保持する膜システム(30kDa以下)を使用する。2.Solugen Mesoporous AuPt触媒を用いたL-ソルボース/フルクトースの選択的酸化。3.グルコン酸とグロン酸の2-ケトグルコン酸と2-ケトグロン酸への選択的酸化。
【0194】
実施例11
グルカル酸カリウムからのFDCAの生成
FDCAは酸性触媒を用いて生成された。調査した酸性触媒は、ゼオライト、H-ZSM5、MCM 41、硫酸化ジルコニア、スルホン化シリカ、ヘテロポリ酸である。触媒は粉末、顆粒、押し出し錠剤を使用した。サンプルのBETは20m
2/g~100m
2/g、破砕強度は60N/cm
2、選択率は60%より高く、変換率は60%より高く、副生成物は不明であった。反応を
図39に、結果を
図40に示す。
【0195】
実施例12
加熱インキュベーションからの脱水D-グルコヘキソジアルドース(GDA)産物の生成
GAO-Mut47を用いた一段階パーボム反応による高収率なD-グルコジアルドースの生成
100psiに加圧した400mL容器で100mLの反応を行った。容器には、pH8の50mMリン酸ナトリウム緩衝液、50μMのMnSO
4、15w/v%のグルコース、0.005w/v%のカタラーゼ、0.001%の西洋ワサビペルオキシダーゼ、および0.01%の組み換えGAOを入れた。反応物を11℃、500rpmで48時間撹拌した。0および48時間後にサンプルを採取してHPLCで解析し、残留グルコースを測定した。48時間の反応後、95%以上のグルコースがGDAに変換されていた。結果を
図41に示す。
【0196】
GDA溶液の加熱インキュベーションによる脱水反応の触媒作用
パー(Parr)反応により生成したGDA溶液(~14.5w/v%のGDA、0.5w/v%のグルコース)100μLをPCRプレートの各ウェルに分注し、サンプルを40~90℃の温度範囲で加熱インキュベートした。0、0.5、1、2、4、6、8、および24時間後にサンプルを採取してHPLCで分析し、脱水生成物である1,2,3,4-テトラヒドロキシベンゼン、および他の中間生成物の生成を観測した。
【0197】
結果物をHPLCで分析した。
図42に示すように、インキュベーション温度が50℃より高い場合にGDAの分解が観察され、インキュベーション温度を上げるか、インキュベーション時間を長くすることで分解率が上昇した。90℃で24時間インキュベーションした場合、GDAの分解率は約90%であった。10時間程度の短いインキュベーション時間では、分子量176と174の2つの中間化合物がインキュベーション反応で生成した。インキュベーション時間を24時間に延ばすと、主要生成物として1,2,3,4-テトラヒドロキシベンゼン(142g/mol)が得られた。
【0198】
実施例13
生成した1,2,3,4-テトラヒドロキシベンゼンの特性評価
14.5w/v%のGDAと0.5w/v%のグルコースを含むパー反応生成物40mLを90℃で30時間インキュベートし、GDAを1,2,3,4-テトラヒドロキシベンゼンに変換した。インキュベートした試料を80mLの酢酸エチルで2回抽出した。抽出した試料を濃縮し、
図43Aに示すようにTLCプレートで分析した。AおよびBの2つのスポットがプレート上に見えた。調製用のTLCプレートからフラクションAとBを抽出し、LC/MSで分析した。MSデータ(
図43B)は、フラクションAとBの分子量がそれぞれ126と142であることを示している。
【0199】
精製したフラクションAおよびBを2D-NMR(HSQC、DMSO-d6使用)で分析し、分子構造を決定した。
図44に示すNMRデータから、フラクションAの分子はピロガロールとも呼ばれる1,2,3-トリヒドロキシベンゼンであり、フラクションBの分子は1,2,3,4-テトラヒドロキシベンゼンであることが示唆された。
図45に示すFT-IR分析では、どちらの分子にもカルボニル官能基は見られず、NMR分析から想定された分子構造をさらに裏付けている。
【0200】
さらに、トリプル四重極質量検出器を備えたLCシステムで分析を行い、そのデータを
図46と
図47に示す。精製したフラクションAをLC/QQQで分析し、真正標準ピロガロールと比較した。フラクションA分子の断片化パターンはピロガロール標品と完全に一致した。GDAサンプルを加熱インキュベーションすることによりピロガロールと1,2,3,4-テトラヒドロキシベンゼンが生成する反応の提唱メカニズムを
図48に示す。
【0201】
2種類の中間分子または1,2,3,4-テトラヒドロキシベンゼンへのGDAの変換を最大化するために、パー反応により生成した3つのGDA試料をA)90℃で1時間、B)60℃で8時間、C)90℃で30時間の異なる条件でインキュベートした。
図49に見られるように、サンプルAは分子量176の中間分子の濃度が比較的高く、サンプルBは分子量174の2番目の中間分子の濃度が最も高く、サンプルCは1,2,3,4-テトラヒドロキシベンゼンへの変換率が最も高い。
【0202】
異なる熱処理を行った3種類のGDAサンプルを、工業的に関連性のある数種類の細菌を用いて抗菌剤として試験した。この試験のために単離および使用された一般的な好気性細菌は、Pseudomonas aeruginosaとEnterobacter aggolomeransであった。また、製造液から分離した野生株の硫酸還元菌と酸産生菌も使用した。これらをマイクロタイタープレートに入れ、ハイスループット試験を行ってMIC(最小発育阻止濃度)を決定した。サンプルは以下の用量(1000、500、250、125、62.5、31.2、15.6、7.8、3.9、1.95ppm)で試験し、濃度は初期GDA濃度(15w/v%)に基づいて計算した。
【0203】
図49に示す抗菌試験結果は、異なる細菌に対する各試料のMICをまとめたものである。MICは細菌プレートを24時間インキュベートした後に決定した。適切な培養時間後に増殖が見られなかったウェルの濃度が、特定の配合のMIC値として記録された。1,2,3,4-テトラヒドロキシベンゼンの濃度が最も高いサンプルCは、試験した3つの細菌全てに対してMICが有意に低く、1,2,3,4-テトラヒドロキシベンゼンが優れた抗菌活性を有することを示唆している。
表5 3種の加熱GDAサンプルの抗菌試験
【0204】
追加の開示
本開示の以下の列挙された態様は、非限定的な例として提供される。
【0205】
第1の態様は、付加価値の高い化学物質を生成するのに適した条件下で、基礎分子を(i)生体触媒および(ii)化学触媒と接触させることを含む分子製造方法である。
【0206】
第2の態様は第1の態様の方法であって、基礎化学品がグルコースを含み、付加価値の高い化学物質がグルカル酸を含む。
【0207】
第3の態様は第1または第2の態様の方法であって、生物触媒がガラクトースオキシダーゼを含み、化学触媒が遷移金属触媒を含む。
【0208】
第4の態様は第1の態様の方法であって、基礎化学品がグルコースを含み、付加価値の高い化学物質がL-アスコルビン酸を含む。
【0209】
第5の態様は第1の態様の方法であって、基礎化学品がグルコースを含み、付加価値の高い化学物質がコハク酸を含む。
【0210】
第6の態様は第1の態様の方法であって、基礎化学品がグルコースを含み、付加価値の高い化学物質が2,5-フランジカルボン酸を含む。
【0211】
第7の態様は第1の態様の方法であって、基礎化学品がグルコースを含み、付加価値の高い化学物質が2,5-フランジカルボン酸ジメチルエステルを含む。
【0212】
第8の態様は第1の態様の方法であって、基礎化学品がエタノールを含み、付加価値の高い化学物質がアセトアルデヒドを含む。
【0213】
第9の態様は第1の態様の方法であって、基礎化学品がエタノールを含み、付加価値の高い化学物質がプロピレングリコールを含む。
【0214】
第10の態様は第1の態様の方法であって、基礎化学品がエタノールを含み、付加価値の高い化学物質が乳酸を含む。
【0215】
第11の態様は第1の態様の方法であって、基礎化学品がエタノールを含み、付加価値の高い化学物質がアクリル酸を含む。
【0216】
第12の態様は第1の態様の方法であって、基礎化学品がエタノールを含み、付加価値の高い化学物質がプロパノールを含む。
【0217】
第13の態様は第1の態様の方法であって、基礎化学品がエタノールを含み、付加価値の高い化学物質がアセトインを含む。
【0218】
第14の態様は第1の態様の方法であって、基礎化学品がエタノールを含み、付加価値の高い化学物質が2,3-ブタンジオールを含む。
【0219】
第15の態様は第1の態様の方法であって、基礎化学品がエタノールを含み、付加価値の高い化学物質が1,3-ブタジエンを含む。
【0220】
第16の態様は第1の態様の方法であって、基礎化学品がエタノールを含み、付加価値の高い化学物質が2-ブタノンを含む。
【0221】
第17の態様は第1の態様の方法であって、基礎化学品がエチレングリコールを含み、付加価値の高い化学物質がグリコール酸を含む。
【0222】
第18の態様は第1の態様の方法であって、基礎化学品がエチレングリコールを含み、付加価値の高い化学物質がエタノールアミンを含む。
【0223】
第19の態様は第1の態様の方法であって、基礎化学品がエチレングリコールを含み、付加価値の高い化学物質がグリセロールを含む。
【0224】
第20の態様は第1の態様の方法であって、基礎化学品がグリセロールを含み、付加価値の高い化学物質がジヒドロキシアセトンを含む。
【0225】
第21の態様は第1の態様の方法であって、基礎化学品が3-シアノピリジンを含み、付加価値の高い化学物質がニコチンアミドを含む。
【0226】
第22の態様は第1の態様の方法であって、付加価値の高い化学物質が約80%以上の純度を有する。
【0227】
第23の態様は分子製造方法である。
【0228】
基礎分子を生体触媒と接触させて中間生成物を生成し、中間生成物から付加価値の高い化学物質を生成するのに適した条件下で中間生成物を化学触媒と接触させる。
【0229】
第24の態様は、基礎分子を化学触媒と接触させて中間生成物を生成すること、および中間生成物から付加価値の高い化学物質を生成するのに適した条件下で中間生成物を生体触媒と接触させることを含む分子製造方法である。
【0230】
第25の態様は第23または第24の態様の方法であって、中間生成物を生成することおよび付加価値の高い化学物質を生成することの少なくとも1つが、酸化反応、脱水反応、カルボキシル化反応、および水素化反応の少なくとも1つを起こすことを含む。
【0231】
第26の態様は第23から第25の態様のいずれかの方法であって、付加価値の高い化学物質を精製して最終製品を製造することをさらに含む。
【0232】
第27の態様は第23から第26の態様のいずれかの方法であって、基礎化学品がグルコースを含み、付加価値の高い化学物質がグルカル酸を含む。
【0233】
第28の態様は第23から第26の態様のいずれかの方法であって、生物触媒がガラクトースオキシダーゼを含み、化学触媒が遷移金属触媒を含む。
【0234】
第29の態様は第23から第28の態様のいずれかの方法であって、基礎化学品がグルコースを含み、付加価値の高い化学物質がL-アスコルビン酸を含む。
【0235】
第30の態様は第23から第29の態様のいずれかの方法であって、基礎化学品がグルコースを含み、付加価値の高い化学物質がコハク酸を含む。
【0236】
第31の態様は第23から第30の態様のいずれかの方法であって、基礎化学品がグルコースを含み、付加価値の高い化学物質が2,5-フランジカルボン酸を含む。
【0237】
第32の態様は第23から第31の態様のいずれかの方法であって、基礎化学品がグルコースを含み、付加価値の高い化学物質が2,5-フランジカルボン酸ジメチルエステルを含む。
【0238】
第33の態様は第23から第32の態様のいずれかの方法であって、基礎化学品がエタノールを含み、付加価値の高い化学物質がアセトアルデヒドを含む。
【0239】
第34の態様は第23から第33の態様のいずれかの方法であって、基礎化学品がエタノールを含み、付加価値の高い化学物質がプロピレングリコールを含む。
【0240】
第35の態様は第23から第34の態様のいずれかの方法であって、基礎化学品がエタノールを含み、付加価値の高い化学物質が乳酸を含む。
【0241】
第36の態様は第23から第35の態様のいずれかの方法であって、基礎化学品がエタノールを含み、付加価値の高い化学物質がアクリル酸を含む。
【0242】
第37の態様は第23から第36の態様のいずれかの方法であって、基礎化学品がエタノールを含み、付加価値の高い化学物質がプロパノールを含む。
【0243】
第38の態様は第23から第37の態様のいずれかの方法であって、基礎化学品がエタノールを含み、付加価値の高い化学物質がアセトインを含む。
【0244】
第39の態様は第23から第38の態様のいずれかの方法であって、基礎化学品がエタノールを含み、付加価値の高い化学物質が2,3-ブタンジオールを含む。
【0245】
第40の態様は第23から第39の態様のいずれかの方法であって、基礎化学品がエタノールを含み、付加価値の高い化学物質が1,3-ブタジエンを含む。
【0246】
第41の態様は第23から第40の態様のいずれかの方法であって、基礎化学品がエタノールを含み、付加価値の高い化学物質が2-ブタノンを含む。
【0247】
第42の態様は第23から第41の態様のいずれかの方法であって、基礎化学品がエチレングリコールを含み、付加価値の高い化学物質がグリコール酸を含む。
【0248】
第43の態様は第23から第42の態様のいずれかの方法であって、基礎化学品がエチレングリコールを含み、付加価値の高い化学物質がエタノールアミンを含む。
【0249】
第44の態様は第23から第43の態様のいずれかの方法であって、基礎化学品がエチレングリコールを含み、付加価値の高い化学物質がグリセロールを含む。
【0250】
第45の態様は第23から第44の態様のいずれかの方法であって、基礎化学品がグリセロールを含み、付加価値の高い化学物質がジヒドロキシアセトンを含む。
【0251】
第46の態様は第23から第45の態様のいずれかの方法であって、基礎化学品が3-シアノピリジンを含み、付加価値の高い化学物質がニコチンアミドを含む。
【0252】
第47の態様は第23から第46の態様のいずれかの方法であって、付加価値の高い化学物質が約80%以上の純度を有する。
【0253】
本主題を示して説明したが、当業者であれば、本主題の精神および教示から逸脱することなく、その改変が可能である。本明細書に記載された態様は例示的なものであり、限定することを意図するものではない。本明細書に開示された主題の多くの変更および改変が可能であり、それらは開示された主題の範囲内である。数値範囲または数値限定が明示的に記載されている場合、そのような明示的な範囲または限定は、明示的に記載された範囲または限定に該当する同様の大きさの反復的な範囲または限定を含む(例えば、約1から約10までには、2,3,4などが含まれ、0.10より大きいには、0.11、0.12、0.13などが含まれる)と理解されなければならない。請求項の任意の要素に関する「任意に」という用語の使用は、対象の要素が必須であること、または必須でないことを意味することを意図している。いずれの選択肢も請求の範囲に含まれることが意図されている。含有する(comprises)、含む(includes)、有する(having)等のより広い用語の使用は、のみからなる(consisting of)、基本的に~からなる(consisting essentially of)、ほぼ~からなる(consisting substantially of)等のより狭い用語のサポートを提供するものと理解されなければならない。
【0254】
従って、保護範囲は上記の説明によって限定されるものではなく、下記の特許請求の範囲によってのみ限定され、その範囲は特許請求の範囲の主題の全ての均等物を含む。各請求項は、本開示の態様として明細書に組み込まれる。従って、特許請求の範囲は更なる説明であり、本発明の態様の追加である。本明細書における参考文献、特に、本出願の優先日以降の公開日を有する参考文献の記述は、それが本開示の主題に対する先行技術であることを認めるものではない。本明細書において引用される全ての特許、特許出願、および刊行物の開示内容は、それらが本明細書における記載を補足する例示的、手順的、または他の詳細を提供する範囲において、参照により本明細書に組み込まれる。
【配列表】
【国際調査報告】