(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】新規のキメラ抗原受容体及びそれを発現する免疫細胞
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20240719BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20240719BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20240719BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240719BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240719BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240719BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20240719BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240719BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240719BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240719BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240719BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20240719BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C07K16/30
C07K14/705
C12N15/62 Z
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/85 Z
C12N5/0783
C12N5/10
A61P35/00
A61K35/17
A61K35/15
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024504017
(86)(22)【出願日】2022-07-21
(85)【翻訳文提出日】2024-01-22
(86)【国際出願番号】 KR2022010729
(87)【国際公開番号】W WO2023003404
(87)【国際公開日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】10-2021-0096085
(32)【優先日】2021-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505448855
【氏名又は名称】コリア リサーチ インスティテュート オブ バイオサイエンス アンド バイオテクノロジー
【氏名又は名称原語表記】KOREA RESEARCH INSTITUTE OF BIOSCIENCE AND BIOTECHNOLOGY
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,テドン
(72)【発明者】
【氏名】イ,スヨン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB44
4C087BB65
4C087CA04
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、死滅領域を含む受容体の細胞内ドメインを細胞内信号伝達ドメインとして含む新規のキメラ抗原受容体とこれを発現する免疫細胞に関する。本発明のキメラ抗原受容体を発現する免疫細胞の場合、正常細胞が存在する環境では細胞毒性がないか少なく、免疫細胞の細胞死滅が誘発されるので、正常細胞に対する安定性を確保できるのに対し、標的細胞が存在する環境では、既存の単独キメラ抗原受容体を活用した技術に比べてより強力な細胞毒性を示す効果がある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原結合部位を含む細胞外ドメイン(extracellular binding domain)と、
膜貫通型ドメイン(transmembrane domain)と、
死滅領域(death domain)を含む受容体の細胞内ドメイン(intrac
ellular domain)を含む細胞内信号伝達ドメイン(intracellu
lar signaling domain)と、を含む、
キメラ抗原受容体(Chimeric antigen receptor;CAR)。
【請求項2】
前記死滅領域を含む受容体は、Fas、TNFRI、p75
NTR、DR3、DR4、DR5、EDAR、及びDR6で構成される群より選択されるいずれか一つである、請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項3】
前記抗原結合部位は、癌細胞及び正常細胞ですべて発現される抗原に特異的に結合する、請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項4】
前記抗原結合部位は、EGFRに特異的に結合する、請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項5】
前記抗原結合部位は、抗体の単鎖可変断片(single chain variable fragment;scFv)である、請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項6】
前記細胞外ドメインは、ヒンジドメイン(hinge domain)及びスペーサー
ドメイン(spacer domain)からなる群より選択される少なくとも一つをさ
らに含む、請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項7】
前記ヒンジドメイン又はスペーサードメインは、Mycエピトープ、CD8ヒンジドメイン、及びFcからなる群より選択される少なくとも一つである、請求項5に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項8】
前記膜貫通型ドメインは、T-細胞受容体(TCR)のアルファ(α)、ベータ(β)、又はゼータ(ζ)鎖、CD28、CD3イプシロン(ε)、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、及びCD154からなる群より選択されるいずれか一つである、請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体を暗号化する塩基配列を含む、ポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項9に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体を第1キメラ抗原受容体として表面に発現し、
癌細胞で発現される抗原に特異的に結合する抗原結合部位を含む細胞外ドメイン、膜貫通型ドメイン、及び細胞内信号伝達ドメインを含む第2キメラ抗原受容体を表面に発現する、免疫細胞。
【請求項12】
前記免疫細胞は、ナチュラルキラー細胞(NK cell)、T細胞、ナチュラルキラ
ーT細胞(NKT cell)、サイトカイン誘導キラー細胞(Cytokine Ind
uced Killer cell;CIK)、マクロファージ、及び樹枝状細胞からなる群より選択されるいずれか一つである、請求項11に記載の免疫細胞。
【請求項13】
前記免疫細胞は表面に、前記第1キメラ抗原受容体及び前記第2キメラ抗原受容体とは異なる抗原に特異的に結合する抗原結合部位を含む細胞外ドメイン、膜貫通型ドメイン、及び細胞内信号伝達ドメインを含む少なくとも一つのキメラ抗原受容体をさらに発現する、請求項11に記載の免疫細胞。
【請求項14】
前記第2キメラ抗原受容体の抗原結合部位は、HER2、EphA2、ErbB3、IL-13Rα2、DLK1、B7H3、PD-L1、GPC3、CEACAM6、及びCD5で構成される群より選択されるいずれか一つに特異的に結合する、請求項11に記載の免疫細胞。
【請求項15】
請求項11に記載の免疫細胞を含む、癌治療用薬学的組成物。
【請求項16】
前記癌は、肺癌、胃癌、卵巣癌、子宮頸癌、乳癌、膵膓癌、大膓癌、結腸癌、食道癌、皮膚癌、甲状腺癌、腎臓癌、肝臓癌、頭頚部癌、膀胱癌、前立腺癌、血液癌、多発性骨髄腫、急性骨髓性白血病、悪性リンパ腫、胸腺癌、骨肉腫、繊維性腫瘍、及び脳癌からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項15に記載の癌治療用薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、死滅領域(death domain)を含む受容体の細胞内ドメインを細
胞内信号伝達ドメインとして含む新規のキメラ抗原受容体とそれを発現する免疫細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
癌を治療するための方法は、たゆまぬ発展と変化過程を経てきて、外科的手術、化学療法、放射線療法などの方法が現在まで利用し続けているが、このような既存の癌治療方法は、癌が転移されていない初期状態にのみ効果がある場合が大部分であり、既に転移が進行された状態では、例えば、外科的手術をしても後日再発可能性が高いという問題がある。そのため、最近癌を治療するために免疫反応を用いる方法に対する研究が続けられている。
【0003】
その中でも、免疫細胞を用いてそれを強化させるか遺伝工学的に変形して再度患者に注入する細胞治療方法に対する関心が高まっており、例えば、腫瘍浸潤リンパ球(Tumor infiltrating lymphocytes、TIL)、キメラ抗原受容体(Chimeric antigen receptor、CAR)、及びT細胞受容体(T-cell receptor、TCR)技術などが研究されている。特に、T細胞やナ
チュラルキラー細胞(NK cell)に抗原特異性を伝達するように設計された人工受
容体であるキメラ抗原受容体の場合、前記受容体が癌細胞特異的抗原と結合することで、前記免疫細胞を活性化し、特異的免疫性を提供できる細胞外ドメインと、膜貫通型ドメイン、そして細胞内信号伝達ドメインからなっている。そして、このようなキメラ抗原受容体が発現されるT細胞は、CAR-T細胞と命名され(Kershaw et al.、Nat.Rev.Immunol.、5(12):928-940(2005);Restifo et al.、Nat.Rev.Immunol.、12(4):269-281(2012))、ナチュラルキラー細胞の場合、CAR-NK細胞と命名された。
【0004】
前記キメラ抗原受容体の細胞内信号伝達ドメインは、主にT細胞受容体の信号伝達サブユニットであるCD3zetaの細胞内信号伝達ドメインを基本としている(1世代CAR)。そして、ここに免疫細胞の成長及び分化を促進する共同-刺激分子の細胞内信号伝達ドメインを追加する形態に進化されて来た。例えば、現在市販のCAR-T細胞治療剤は、それぞれCD28と4-1BB共刺激分子の細胞内信号伝達ドメインを使用しており(2世代CAR)、その後、CD28と4-1BB細胞内信号伝達ドメインを同時に含むCAR(3世代CAR)などが試みられている(Stegen et al.、Nat.Rev.Drug Discov.、14(7):499-509(2015))。
【0005】
しかし、CAR-Tのような治療剤は、癌細胞に対して効果的であるが、一部場合に健康な組織に部分的に非特異的な攻撃による副作用を起こして来た。それを克服するために、癌細胞抗原認識能力を高めて正常細胞を攻撃する副作用を最小化しようとする研究が続けられているが、CAR-Tが一度注入されると、毒性を有するT細胞が癌細胞が除去された後にもその機能が持続して、正常細胞に対しても細胞毒性をもたらすことができるなど、非特異的攻撃による副作用は相変らず問題となっている。また、癌の再発は、癌に存在する抗原の特異性不在、抗原の多様性及び異質性により行われるので、これに対する抗癌効能を向上させるためには、「logic-gated CAR高度化」技術、すなわ
ち、抗原を多重標的化するCARをデザインして癌に対する効能性を向上させ、正常細胞に対する安全性を確保する技術の開発も必要な実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、免疫細胞で発現された時に、正常細胞に対しては細胞毒性を示すことなく、癌細胞に対しては細胞毒性活性を増幅させ得るようにする新規のキメラ抗原受容体の提供を目的とする。
【0007】
また、本発明は、前記キメラ抗原受容体を発現させるためのポリヌクレオチド及び発現ベクターの提供を目的とする。
【0008】
また、本発明は、前記キメラ抗原受容体を表面に発現させることで、癌に対する治療効果はより優れながら正常細胞に対しては安全性があるので、癌治療剤として有用に用いることができる免疫細胞の提供を目的とする。
【0009】
また、本発明は、前記免疫細胞を用いて癌を治療するための薬学的組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の一側面は、抗原結合部位を含む細胞外ドメイン(extracellular binding domain);膜貫通型ドメイン(transmembrane domain);及び死滅領域(death domain)を含む受容体の細胞内ドメイン(intracellular domain)を含む細胞
内信号伝達ドメイン(intracellular signaling domain);を含む、キメラ抗原受容体(Chimeric antigen receptor;CAR)を提供する。
【0011】
本発明の他の側面は、前記キメラ抗原受容体を暗号化する塩基配列を含むポリヌクレオチド、そして、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクターを提供する。
【0012】
本発明の他の側面は、前記キメラ抗原受容体を第1キメラ抗原受容体;として表面に発現し、癌細胞で発現される抗原に特異的に結合する抗原結合部位を含む細胞外ドメイン、膜貫通型ドメイン、及び細胞内信号伝達ドメインを含む第2キメラ抗原受容体;を表面に発現する、免疫細胞を提供する。
【0013】
本発明の他の側面は、前記免疫細胞を含む、癌治療用薬学的組成物を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のキメラ抗原受容体は、正常細胞及び癌細胞ですべて発現される抗原を原因にして信号を伝達することができ、この際、単独で信号伝達時には前記受容体が発現された免疫細胞が細胞毒性を示さないかより少なく示すようにできる。また、抗原に長期間結合するようになる場合、免疫細胞の細胞死滅を誘導できるため、癌細胞ではなく正常細胞に対しては細胞毒性を示さないので、安定性を担保できるという利点がある。
【0015】
一方、前記キメラ抗原受容体が癌細胞で発現された抗原と結合する場合は、癌細胞特異的抗原を認識して結合できる他のキメラ抗原受容体とともに作用して信号伝達が発生するにつれて、癌細胞特異的な一つのキメラ抗原受容体が作用する時よりも増幅した細胞毒性を示すようにでき、シナジー効果を発揮する特徴があるため、癌を治療するための用途として非常に有用に用いることができるという効果がある。
【0016】
ただし、本発明の効果は、前記で言及した効果に制限されず、言及されていないさらに他の効果は、下記の記載から当業者に明確に理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のキメラ抗原受容体のうち、EGFRを標的抗原とすることの構造を示す模式図及びこれを発現させるために前記キメラ抗原受容体を暗号化するポリヌクレオチドを挿入するためのベクターの構造を示す図である。
【
図2】抗-コチニンキメラ抗原受容体を発現するナチュラルキラー細胞(α-Cot-CAR NK92(M2))に本発明のキメラ抗原受容体を発現させて作ったDual-CAR NK92細胞1を対象にして、Myc及びzsGreenの発現程度を確認した結果を示す図である。前記
図2で「M
2-EGFR-P75NTR」は二重キメラ抗原受容体が発現されるナチュラルキラー細胞であり、#1、#2、#3及び#5は、M
2-EGFR-P75NTRの二重キメラ抗原受容体が発現されるナチュラルキラー細胞を単一細胞に分離した図である。
【
図3a】抗-EphA2キメラ抗原受容体を発現するナチュラルキラー細胞(α-EphA2-CAR NK92(79-14))に本発明のキメラ抗原受容体を発現させて作ったDual-CAR NK92細胞2を対象にして、Myc及びzsGreenの発現程度を確認した結果を示す図である。
【
図3b】抗-EphA2キメラ抗原受容体を発現するナチュラルキラー細胞(α-EphA2-CAR NK92(79-14))に本発明のキメラ抗原受容体を発現させて作ったDual-CAR NK92細胞2を対象にして、Myc及びzsGreenの発現程度を確認した結果を示す図である。
【
図4】前記Dual-CAR NK92細胞1及びα-Cot-CAR NK92(M2)細胞を用いてEGFRを発現する乳癌細胞AU565と共培養した後、細胞毒性を確認して比べたものであって、Aは全細胞の細胞毒性を、Bは単一細胞の細胞毒性を比べたグラフである。
【
図5a】前記Dual-CAR NK92細胞1及びα-Cot-CAR NK92(M2)細胞を用いてEGFRを発現する乳癌細胞AU565と共培養した後、共培養した時間による細胞死滅(apoptosis)発生割合を測定して比べたグラフである。
【
図5b】前記Dual-CAR NK92細胞1及びα-Cot-CAR NK92(M2)細胞を用いてEGFRを発現する乳癌細胞AU565と共培養した後、共培養した時間による細胞死滅(apoptosis)発生割合を測定して比べたグラフである。
【
図6】前記Dual-CAR NK92細胞1及びα-Cot-CAR NK92(M2)細胞を用いてEGFR及びHER2を発現する乳癌細胞AU565をHER2-Cot接合体とともに共培養した後、細胞毒性を確認して比べたものであって、Aは全細胞の細胞毒性を、Bは単一細胞の細胞毒性を比べたグラフである。
【
図7】Dual-CAR NK92細胞2及びα-Epha2-CAR NK92(79-14)細胞を用いてEGFRとEphA2をすべて発現する乳癌細胞MDA-MB-231と共培養した後、細胞毒性を確認して比べた図である。
【
図8】Dual-CAR NK92細胞2及びα-Epha2-CAR NK92(79-14)細胞を用いてEGFRとEphA2をすべて発現する乳癌細胞MDA-MB-231と共培養した後、17時間硬化後の細胞死滅(apoptosis)発生割合を測定して比べたグラフである。
【
図9a】本発明のキメラ抗原受容体のうち、p75
NTRの細胞内ドメインのうち死滅領域が除去されたキメラ抗原受容体(p75
NTRDDD)の構造を示す模式図及びこれを発現させるために前記キメラ抗原受容体を暗号化するポリヌクレオチドを挿入するためのベクターの構造を示す図である。
【
図9b】本発明のキメラ抗原受容体のうち、p75NTRの細胞内ドメインのうち死滅領域が除去されたキメラ抗原受容体(p75NTRDDD)の構造を示す模式図及びそれを発現させるために前記キメラ抗原受容体を暗号化するポリヌクレオチドを挿入するためのベクターの構造を示す図である。
【
図10】抗-コチニンキメラ抗原受容体を発現するナチュラルキラー細胞(α-Cot-CAR NK92(M2))に本発明のキメラ抗原受容体のうち、p75
NTRの細胞内ドメインのうち死滅領域が除去されたキメラ抗原受容体(p75
NTRDDD)を発現させて作ったDual-CAR NK92細胞を対象にして、Mycの発現程度を確認した結果を示す図である。
【
図11】前記p75
NTRの細胞内ドメインのうち死滅領域が除去されたキメラ抗原受容体(p75
NTRDDD)を発現させて作ったDual-CAR NK92細胞、前記Dual-CAR NK92細胞1及びα-Cot-CAR NK92(M2)細胞を用いてEGFR及びHER2を発現する乳癌細胞AU565をHER2-Cot接合体とともに共培養した後、細胞毒性を確認して比べた図である。
【
図12a】前記p75
NTRの細胞内ドメインのうち死滅領域が除去されたキメラ抗原受容体(p75
NTRDDD)を発現させて作ったDual-CAR NK92細胞、前記Dual-CAR NK92細胞1及びα-Cot-CAR NK92(M2)細胞を用いてEGFRを発現する乳癌細胞AU565と共培養した後、共培養した時間による細胞死滅(apoptosis)発生割合を測定して比べたグラフである。
【
図12b】前記p75
NTRの細胞内ドメインのうち死滅領域が除去されたキメラ抗原受容体(p75
NTRDDD)を発現させて作ったDual-CAR NK92細胞、前記Dual-CAR NK92細胞1及びα-Cot-CAR NK92(M2)細胞を用いてEGFRを発現する乳癌細胞AU565と共培養した後、共培養した時間による細胞死滅(apoptosis)発生割合を測定して比べたグラフである。
【
図13】本発明のキメラ抗原受容体を発現するDual-CAR NK92が作用する原理を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0019】
1.新規のキメラ抗原受容体(Chimeric antigen receptor;CAR)及びそれを発現させるためのポリヌクレオチド及び発現ベクター
本発明の一側面は、正常細胞に対しては安全性を示し、癌細胞に対しては他のキメラ抗原受容体とともに細胞毒性(cytotoxicity)を増幅させる特徴がある、新規のキメラ抗原受容体を提供する。
【0020】
本発明において、用語「キメラ抗原受容体(Chimeric antigen receptor;CAR)」は、標的抗原及び前記抗原を発現する細胞を認識して結合した時に、これに対して免疫反応を誘導できるように設計された合成複合体である。キメラ抗原受容体は、細胞外ドメイン(extracellular binding domain)、膜貫通型ドメイン(transmembrane domain)、及び細胞内信号
伝達ドメイン(intracellular signaling domain)を含んでよい。キメラ抗原受容体は、免疫細胞の表面に発現され、細胞外ドメインに含まれた抗原結合部位を介して、特定の抗原、例えば、癌細胞の表面に特異的に発現される抗原を認識して結合されることで、免疫細胞内で信号伝達を起こして免疫細胞の活性を変化させ得るため、特定の抗原のみを標的にして免疫反応を誘発させることができる。
【0021】
本発明のキメラ抗原受容体は、抗原結合部位を含む細胞外ドメイン(extracellular binding domain);膜貫通型ドメイン(transmembrane domain);及び死滅領域(death domain)を含む受容体の細胞内ドメイン(intracellular domain)を含む細胞内信号伝達ドメイ
ン(intracellular signaling domain);を含む。
【0022】
前記死滅領域(death domain)を含む受容体は、細胞死滅(apopto
sis)誘導活性に関与するアミノ酸配列を細胞内ドメインとして有する受容体分子を意
味する。前記死滅領域を含む受容体としては、Fas、TNFRI、p75NTR、DR3、DR4、DR5、DR6、EDARなどがあるが、特にこれに限定されない。特に、このうち、前記p75NTR(p75 neurotrophin receptor)は、神経細胞の分化に関するニューロトロフィン受容体の一種であって、低-親和性神経成長因子受容体(low-affinity nerve growth factor receptor;LNGFR)の一種として知られている。前記p75NTRは、細胞外ドメイン、膜貫通型ドメイン、及び細胞内ドメインで構成されており、本発明においては、前記p75NTRの細胞内ドメインが用いられる。前記p75NTRの細胞内ドメインは、global-likeドメインであってよく、具体的には、配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質であってよいが、これに制限されるものではない。前述したアミノ酸配列は、これを含むタンパク質の構造、機能、活性などに影響を及ぼさない範囲内で、アミノ酸残基の欠失、挿入、置換、又はこれらの組み合わせによって異なる配列を有する変異体を含んでよい。また、前記アミノ酸配列は、当業界に知られた通常の変形が起きたアミノ酸を含むものであってよく、前記アミノ酸変形は、例えば、リン酸化(phosphorylation)、硫化(sulfation)、アクリル化(acrylation)、糖化(glycosylation)、メチル化(methylation)、ファルネシル化(farnesylation)などであってよい。本発明のp75NTRの細胞内ドメインは、前述したアミノ酸配列を含むだけではなく、これと実質的に同一のアミノ酸配列を有するものであるかその変異体を含む。前記実質的に同一のアミノ酸配列を有することの意味は、前述したアミノ酸配列と90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は99.5%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むものであってよいが、これに制限されるものではない。
【0023】
本発明の前記キメラ抗原受容体が免疫細胞の表面に発現された時に、標的抗原が前記受容体に結合するようになって前記p75NTRの細胞内ドメインにより単独で信号伝達が発生する場合、前記免疫細胞の細胞毒性の低減及び/又は前記免疫細胞の細胞死滅の促進が誘導される可能性がある。前記細胞毒性の低減は、免疫細胞が細胞毒性を示さないものであるか、抗原が存在しない状態の免疫細胞が示す細胞毒性よりも少ない細胞毒性を示すものであるか、又は抗原により免疫細胞が活性化された場合に比べてより少ない細胞毒性を示すものであってよい。前記免疫細胞の細胞死滅(apoptosis)促進は、抗原が存在しない状態の免疫細胞に比べて細胞死滅がより誘導されるものであってよい。前記単独で信号伝達が発生することは、他のキメラ抗原受容体による信号伝達が発生しないものであってよく、より具体的には、癌細胞に対する免疫細胞の細胞毒性を促進する信号を発生するキメラ抗原受容体による信号伝達は発生せず、本発明の前記キメラ抗原受容体による信号伝達のみが発生するものであってよい。
【0024】
前記細胞外ドメインは、目的とする標的抗原に特異的に結合する抗原結合部位を含み、その種類に制限されない。前記細胞外ドメインは、生物学的分子、例えば、細胞表面受容体、腫瘍タンパク質、脂質、多糖類、又はその他細胞表面標的分子などを特異的に認識し、これに結合できる構造を有するものであれば制限なく適用でき、例えば、前記のような特徴を有するタンパク質、ポリペプチド、又はその変異体であってよい。前記「特異的に結合する」ことは、背景結合よりも大きな結合親和性で他の分子に対して結合することを意味してよく、例えば、前記細胞外ドメインは、標的抗原に対して約10-5M以上の親和性又はKa(1/Mの単位を有する特定の結合相互作用の平衡解離定数)で標的抗原に結合するものであってよい。前記親和性は、Mの単位を有する特定の結合相互作用の平衡解離定数(Kd)が10-5M~10-13M又は前記範囲以下のものであってよい。
【0025】
前記抗原結合部位は、癌細胞及び正常細胞ですべて発現される抗原に特異的に結合されるものであってよい。具体的には、前記癌細胞及び正常細胞ですべて発現される抗原は、
癌細胞特異的抗原ではないものであってよく、すなわち、癌を予防、治療、改善、診断するために用いられる癌特異的マーカーなどではないものであってよい。したがって、本発明の前記キメラ抗原受容体は、癌細胞及び正常細胞をすべて認識して結合することができ、これにより前記キメラ抗原受容体が発現された免疫細胞で信号伝達を発生させることができる。前記抗原結合部位は、例えば、EGFRに特異的に結合するものであってよいが、これに制限されるものではない。
【0026】
前記抗原結合部位は、抗体又はその抗原結合断片であってよく、より具体的には、前記抗原結合部位は、抗体の単鎖可変断片(single chain variable f
ragment;scFv)であってよい。具体的には、前記抗原結合部位は、EGFRに特異的に結合する抗体の単鎖可変断片であってよく、より具体的には、配列番号3のアミノ酸配列を含むものであってよい。
【0027】
前記抗体は、免疫学的に抗原のエピトープ(epitope)と特異的結合して反応性を有する免疫グロブリン分子を意味する。前記抗体は、単クローン抗体、多クローン抗体、全長の鎖構造を有する抗体(全長抗体、full-length antibody)
、少なくとも抗原結合機能を有する機能的な断片(抗原結合断片)及び再組み合わせ抗体をすべて含んでよく、具体的には、本発明の抗体は、単クローン抗体又はその抗原結合断片であってよい。前記単クローン抗体は、実質的に同一の抗体集団から得た単一分子組成の抗体分子を指称し、このような単クローン抗体は、特定のエピトープに対して単一結合特異性及び親和度を示す。前記全長抗体は、2つの全長の軽鎖及び2つの全長の重鎖を有する構造であり、それぞれの軽鎖は、重鎖とジスルフィド結合で連結されてよい。前記抗体は、重鎖(heavy chain、HC)及び軽鎖(light chain、LC)ポリペプチドを含み、前記重鎖及び軽鎖は、可変領域及び不変領域を含んでよい。
【0028】
前記不変領域は、免疫系の多様な種類の細胞(T-細胞など)、補体系の成分を含む宿主組織などに、前記抗体が結合できるように媒介する部位である。前記不変領域は、同一の種から由来する同一の種類の抗体であれば、抗原の種類と無関係に同一の機能をし、これを成すアミノ酸配列も抗体ごとに同一であるか高い類似度を有する。前記不変領域は、重鎖の不変領域(CHと略称できる)と軽鎖の不変領域(CLと略称できる)に分けられる。前記重鎖の不変領域は、ガンマ(γ)、ミュー(μ)、アルファ(α)、デルタ(δ)及び/又はイプシロン(ε)タイプを有し、サブクラスとしてガンマ1(γ1)、ガンマ2(γ2)、ガンマ3(γ3)、ガンマ4(γ4)、アルファ1(α1)及び/又はアルファ2(α2)を有する。軽鎖の不変領域は、カッパ(κ)及びラムダ(λ)タイプを有する。IgGは亞型(subtype)であって、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4を含む。
【0029】
前記可変領域は、抗原に対して特異性を有する抗体部位であって、重鎖の可変領域(VHと略称できる)と軽鎖の可変領域(VLと略称できる)とに分けられる。前記可変領域には、3つのCDR(complementary-determining regi
ons又は相補性決定領域)と4つのFR(framework regions)が含
まれてよい。前記CDRは、抗原の認識に関与する環状の部位であってよく、前記CDRのアミノ酸配列に応じて抗原に対する特異性が決定されてよい。前記CDRは、その手順に応じてCDR1、CDR2、CDR3と指称されてよく、重鎖及び軽鎖のどのポリペプチドドのCDRであるか否かに応じて、重鎖の可変領域の場合CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3で、軽鎖の可変領域の場合CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3と指称されてよい。FRも同様に、重鎖の可変領域の場合FR-H1、FR-H2、FR-H3、FR-H4で、軽鎖の可変領域の場合FR-L1、FR-L2、FR-L3、FR-L4と指称されてよい。
【0030】
前記抗原結合断片は、抗体の抗原結合機能を保有する、抗体の任意の断片を意味する。前記抗原結合断片は、「断片」、「抗体断片」などの用語と互換して指称されてよく、前記抗原結合断片は、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fvなどであってよいが、これに制限されるものではない。
【0031】
前記Fabは、軽鎖及び重鎖の可変領域と軽鎖の不変領域及び重鎖の第一不変領域(CH1ドメイン)を有する構造であって、1つの抗原結合部位を有する。前記Fab’は、重鎖CH1ドメインのC末端に一つ以上のシステイン残基を含むヒンジ領域(hinge
region)を有する点で前記Fabと異なる。前記F(ab’)2は、Fab’の
ヒンジ領域のシステイン残基がジスルフィド結合を成しながら生成される。前記Fvは、重鎖の可変領域及び軽鎖の可変領域のみを有する最小の抗体片を意味する。二重鎖可変断片(two chain variable fragment)は非共有結合であって、
重鎖の可変領域と軽鎖の可変領域が連結されており、単鎖可変断片(single ch
ain variable fragment;scFv)は、一般的にペプチドリンカーを介して重鎖の可変領域と軽鎖の可変領域が共有結合で連結されるか又はC-末端で直ちに連結されているので、二重鎖可変断片のようにダイマーのような構造を成してよい。前記抗原結合断片は、タンパク質加水分解酵素を用いるか(例えば、全抗体をパパインで制限切断するとFabが得られ、ペプシンで切断するとF(ab’)2断片が得られる。)、又は遺伝子再組み合わせ技術により製作することができるが、これに制限されるものではない。
【0032】
前記リンカーは、ペプチドリンカーであってよく、約10~25つのアミノ酸長さを有するものであってよい。例えば、前記リンカーには、グリシン(G)及び/又はセリン(S)のような新水性アミノ酸が含まれてよい。前記リンカーは、例えば、(GS)n、(GGS)n、(GSGGS)n、又は(GnS)m(n、mは、それぞれ1~10)を含んでよく、例えば、(GnS)m(n、mは、それぞれ1~10)であってよいが、これに制限されるものではない。
【0033】
前記細胞外ドメインは、ヒンジドメイン(hinge domain)及びスペーサー
ドメイン(spacer domain)からなる群より選択される少なくとも一つをさ
らに含んでよい。前記細胞外ドメインの抗原結合部位は、ヒンジドメイン及び/又はスペーサードメインを介して膜貫通型ドメインと連結されてよい。
【0034】
前記ヒンジドメインは、適切な細胞/細胞接触、適切な抗原/抗原結合部位の結合及び適切なキメラ抗原受容体の活性化ができるように、前記キメラ抗原受容体が発現される免疫細胞の表面から前記抗原結合部位が物理的に離隔できるようにする部分であって、細胞外ドメインの位置決めに重要な役割を担当することができる。前記キメラ抗原受容体は、前記細胞外ドメインと膜貫通型ドメインとの間に一つ以上のヒンジドメインを含んでよい。ヒンジドメインは、天然、合成、半-合成、又は再組み合わせ供給源から由来してよい。ヒンジドメインは、天然発生免疫グロブリンヒンジ領域又は変化された免疫グロブリンヒンジ領域のアミノ酸配列を含んでよい。前記変化されたヒンジ領域は、(a)最大30%のアミノ酸変化(例えば、最大25%、20%、15%、10%、又は5%のアミノ酸置換又は欠失)を有する天然発生ヒンジ領域、(b)最大30%アミノ酸変化(例えば、最大25%、20%、15%、10%、又は5%のアミノ酸置換又は欠失)を有する少なくとも10つのアミノ酸(例えば、少なくとも12、13、14又は15つのアミノ酸)長さの天然発生ヒンジ領域の一部、又は(c)コアヒンジ領域(これは4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15、又は少なくとも4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15つのアミノ酸長さであってよい)を含む天然発生ヒンジ領域の一部を指称する。特定の実施形態において、天然発生免疫グロブリンヒンジ領域で一つ以上のシステイン残基は、一つ以上の他のアミノ酸残基(例えば、一つ以
上のセリン残基)に置換されてよい。変化された免疫グロブリンヒンジ領域は、代案的に又は追加的にさらに他のアミノ酸残基、例えば、システインに置換された野生型免疫グロブリンヒンジ領域のプロリン残基を有してよい。ヒンジドメインは、CD8、CD4、CD28及びCD7などの類型1膜タンパク質の細胞外ドメインから由来するヒンジ領域であってよいが、前記抗原結合部位と膜貫通型ドメイン、そして細胞内信号伝達ドメインを細胞膜の間に連結可能なものであれば、いずれも制限なく用いることができる。また、これは、これら分子からの野生型ヒンジ領域であってよいか、変化されてよい。
【0035】
前記スペーサードメインは、連結ドメインと指称されてよく、例えば、CD28由来のヒンジドメイン及び/又はCD8由来のヒンジドメインを含むものであってよく、前記CD28由来のヒンジドメイン及び/又はCD8由来のヒンジドメインの全体又は一部を含むものであってよい。
【0036】
前記ヒンジドメイン及び/又はスペーサードメインは、Mycエピトープ、CD8ヒンジドメイン及びFcからなる群より選択される少なくとも一つであってよく、具体的には、Mycエピトープ及びCD8ヒンジドメインを含むものであってよい。より具体的には、前記Mycエピトープは、配列番号5のアミノ酸配列を含むものであってよく、前記CD8ヒンジドメインは、配列番号7のアミノ酸配列を含むものであってよい。
【0037】
前記膜貫通型ドメイン(transmembrane domain)は、細胞外ドメ
イン及び細胞内信号伝達ドメインを互いに連結して融合させ、免疫細胞の原形質膜にキメラ抗原受容体を固定させる役割をする一部領域を意味する。前記膜貫通型ドメインは、天然、合成、半-合成、又は再組み合わせ供給源から由来するものであってよい。前記膜貫通型ドメインは、T-細胞受容体(TCR)のアルファ(α)、ベータ(β)、又はゼータ(ζ)鎖、CD28、CD3イプシロン(ε)、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137及びCD154からなる群より選択されるいずれか一つであってよいが、これに制限されるものではない。
【0038】
前記膜貫通型ドメインは、リンカー(linker)を介して前記細胞外ドメインに付着されてよい。例えば、リンカーは、2~10つのアミノ酸長さの短いオリゴペプチド又はポリペプチドリンカーであってよく、例えば、グリシン(G)-セリン(S)二重体(doublet)であってよいが、これに制限されるものではない。
【0039】
本発明の具体的な実施例においては、細胞外ドメインとしてEGFRに対して特異的に結合する抗体の単鎖可変断片(scFv)を含み、CD28を膜貫通型ドメインとして含み、前記単鎖可変断片及びCD28をMyc及びヒンジドメインで連結した形態のキメラ抗原受容体を設計した。そして、前記膜貫通型ドメインに前記死滅領域を含む受容体の一つであるp75NTRの細胞内ドメインを細胞内信号伝達ドメインで連結して本発明のキメラ抗原受容体を製造した。
【0040】
前述したように、本発明のキメラ抗原受容体は、p75NTRなどのように死滅領域を含む受容体の細胞内ドメインにより単独で信号伝達が発生する場合、免疫細胞の細胞毒性の低減及び/又は前記免疫細胞の細胞死滅の促進が誘導される可能性がある。したがって、正常細胞が存在する時に、前記キメラ抗原受容体の抗原結合部位が正常細胞から発現された抗原を認識して結合する場合、信号伝達により免疫細胞の細胞毒性の低減及び/又は細胞死滅の促進が誘導される可能性があり、正常細胞に対する細胞毒性を有さないので、安定性を示すキメラ抗原受容体として有用に用いることができる。
【0041】
本発明の他の側面は、前記キメラ抗原受容体を発現させるためのポリヌクレオチド及び
発現ベクターを提供する。
【0042】
前記ポリヌクレオチドは、前記キメラ抗原受容体を暗号化する塩基配列を含む。
【0043】
本発明において、用語「ポリヌクレオチド」は、DNA(gDNA及びcDNA)及びRNA分子を包括的に含むものであって、基本構成単位であるヌクレオシドは、自然のヌクレオシドのみでなく、糖又は塩基部位が変形された類似体(analogue)も含む。
【0044】
前記キメラ抗原受容体を暗号化することは、前記ポリヌクレオチドが転写、翻訳などの通常的なタンパク質発現過程を経て、本発明のキメラ抗原受容体のアミノ酸配列を有するタンパク質が合成できる遺伝情報が暗号化されていることを意味する。この際、前記キメラ抗原受容体と完全に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質のみでなく、前述したように前記タンパク質と実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質や、前記タンパク質と同一及び/又は類似の活性を有するタンパク質を暗号化するポリヌクレオチドまで本発明の範囲に含まれてよい。
【0045】
具体的には、本発明のポリヌクレオチドは、死滅領域を含む受容体の細胞内ドメインを含むものであってよく、例えば、p75NTRの細胞内ドメインを暗号化する塩基配列を含むものであってよく、より具体的には、配列番号2の塩基配列を含むものであってよい。
【0046】
また、本発明のポリヌクレオチドは、死滅領域を含む受容体の細胞内ドメインを含むものであってよく、例えば、p75NTRの細胞内ドメインを暗号化する塩基配列のみでなく、これと連結された前記膜貫通型ドメイン及び/又は前記細胞外ドメインを暗号化する塩基配列を含むものであってよい。
【0047】
前記p75NTRなどのような死滅領域を含む受容体の細胞内ドメインを含む細胞内信号伝達ドメインや、膜貫通型ドメイン、細胞外ドメインなど前記キメラ抗原受容体に対する説明は、これに対して前述したものと同一である。
【0048】
前記ポリヌクレオチドは、配列番号13の塩基配列を含むものであってよい。本発明の具体的な一実施形態においては、細胞外ドメインとしてEGFRに対して特異的に結合する抗体の単鎖可変断片(scFv)を含み、CD28を膜貫通型ドメインとして含み、前記単鎖可変断片及びCD28をMyc及びヒンジドメインで連結し、前記膜貫通型ドメインに前記死滅領域を含む受容体の一つであるp75NTRの細胞内ドメインを細胞内信号伝達ドメインで連結した形態のキメラ抗原受容体を設計し、これを発現させるために前記配列番号13の塩基配列を含むポリヌクレオチドを製造した。
【0049】
本発明のポリヌクレオチドは、前記羅列された塩基配列と実質的に同一の塩基配列を含んでよい。前記実質的に同一の塩基配列とは、例えば、転写及び翻訳された時に同一のアミノ酸が合成できる場合を含み、前記羅列された塩基配列と90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は99.5%以上の相同性を有する塩基配列であってよいが、これに制限されるものではない。
【0050】
前記キメラ抗原受容体を暗号化するポリヌクレオチドは、これを導入させて発現させようとする生物の種類と前記生物の転写、翻訳など発現システムにより最適化された塩基配列を含んでよい。これは、コドンの縮退性(degeneracy)から起因したものであって、これにより発現されるタンパク質を暗号化できる多様な組み合わせのヌクレオシ
ド配列が存在することができ、これらはすべて本発明の範囲に含まれる。前記コドンの最適化によるポリヌクレオチドの変形は、本発明のキメラ抗原受容体を発現させて適用させようとする生物の種類に応じて決定されてよく、例えば、本発明のポリヌクレオチドは、哺乳動物、霊長類のコドン選択に最適化して変形されたポリヌクレオチドであってよく、より具体的には、人間から発現させて作用するのに適するように最適化して変形されたものであってよい。
【0051】
本発明の発現ベクターは、前記ポリヌクレオチドを含む。
【0052】
前記ポリヌクレオチドは、本発明の前記キメラ抗原受容体を暗号化する塩基配列を含むので、これを含む前記発現ベクターは、前記キメラ抗原受容体を発現させて製造するために用いられてよく、前記キメラ抗原受容体が発現できるように前記ポリヌクレオチドを特定の細胞又は生物に移動させる役割をするか前記ポリヌクレオチドを保管、保存するために用いられてよい。
【0053】
前記発現ベクターは、原核細胞又は眞核細胞を宿主にして構築され得る。
【0054】
例えば、前記発現ベクターが原核細胞を宿主にする場合は、転写を進行させ得る強力なプロモーター(例えば、tacプロモーター、lacプロモーター、lacUV5プロモーター、lppプロモーター、pLλプロモーター、pRλプロモーター、rac5プロモーター、ampプロモーター、recAプロモーター、SP6プロモーター、trpプロモーター、及びT7プロモーターなど)、翻訳の開示のためのリボソーム結合部位及び転写/翻訳終決配列を含むことが一般的である。宿主細胞としてE.coli(例えば、HB101、BL21、DH5αなど)が用いられる場合、E coliトリプトファン
生合成経路のプロモーター及びオペレーター部位(Yanofsky、C、J Bact
eriol、(1984)158:1018-1024)、そしてファージλの左向きプロモーター(pLλプロモーター、Herskowitz、I and Hagen、D、Ann Rev Genet、(1980)14:399-445)が調節部位として用いられてよい。宿主細胞としてバチルス菌が用いられる場合、バチルスチューリンゲンシスの毒素タンパク質遺伝子のプロモーター(Appl Environ Microbiol(1998)64:3932-3938;Mol Gen Genet(1996)250:734-741)又はバチルス菌で発現可能ないかなるプロモーターでも調節部位として用いられてよい。前記発現ベクターは、当業界で時々使用されるプラスミド(例えば、pCL、pSC101、pGV1106、pACYC177、ColE1、pKT230、pME290、pBR322、pUC8/9、pUC6、pBD9、pHC79、pIJ61、pLAFR1、pHV14、pGEXシリーズ、pETシリーズ、及びpUC19など)、ファージ(例えば、λgt4・λB、λ-Charon、λΔz1及びM13など)、又はウイルス(例えば、SV40など)を操作して製作されてよい。
【0055】
前記発現ベクターが眞核細胞を宿主にする場合は、哺乳動物細胞のゲノムから由来したプロモーター(例えば、メタロチオニンプロモーター、β-アクチンプロモーター、ヒトヘモグロビンプロモーター及びヒト筋肉クレアチンプロモーター)、又は哺乳動物ウイルスから由来したプロモーター(例えば、アデノウイルス後期プロモーター、ワクシニアウイルス75Kプロモーター、SV40プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、HSVのtkプロモーター、マウス乳房腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、HIVのLTRプロモーター、モロニーウイルスのプロモーターエプスタインバーウイルス(EBV)のプロモーター、及びロウスサコマウイルス(RSV)のプロモーター)が用いられてよく、転写終決配列としてポリアデニル化配列を一般的に有してよい。前記発現ベクターは、CMVプロモーターを有するものであってよい。
【0056】
また、前記発現ベクターは、これから発現される抗体の精製を容易にするために、他の配列と融合され得る。融合される配列は、例えば、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(Pharmacia、USA)、マルトース結合タンパク質(NEB、USA)、FLAG(IBI、USA)、及び6x His(hexahistidine;Quiag
en、USA)などがある。また、本発明の発現ベクターにより発現されるタンパク質が人間化抗体又はその抗原結合断片であるので、その特性を考慮すると、精製のための追加的な配列なしも発現されたタンパク質をタンパク質Aカラムなどを介して容易に精製することもできる。
【0057】
前記発現ベクターは、選択標識として当業界で通常用いられる抗生剤耐性遺伝子を含み、例えば、アンピシリン、ゲンタマイシン、カルベニシリン、クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、カナマイシン、ジェネテシン、ネオマイシン、及びテトラサイクリンに対する耐性遺伝子を含んでよい。
【0058】
2.二重キメラ抗原受容体(Dual-CAR)を発現する免疫細胞
本発明の他の側面は、正常細胞に対しては細胞毒性を示すことなく、癌細胞に対してはより増進した細胞毒性を示す特徴がある免疫細胞を提供する。
【0059】
前記免疫細胞は、前述した本発明の前記キメラ抗原受容体を第1キメラ抗原受容体;として表面に発現し、癌細胞で発現される抗原に特異的に結合する抗原結合部位を含む細胞外ドメイン、膜貫通型ドメイン、及び細胞内信号伝達ドメインを含む第2キメラ抗原受容体;を表面に発現する。
【0060】
前記第1キメラ抗原受容体は、前記「1.新規のキメラ抗原受容体(Chimeric
antigen receptor;CAR)及びこれを発現させるためのポリヌクレオチド及び発現ベクター」でキメラ抗原受容体について説明したものと同一である。具体的には、前記第1キメラ抗原受容体は、正常細胞及び癌細胞ですべて発現される抗原に対して特異的に結合できる抗原結合部位を含んでよく、前記第1キメラ抗原受容体が結合する抗原は、前記第2キメラ抗原受容体が結合する抗原と互いに異なるものであってよい。
【0061】
前記第2キメラ抗原受容体は、次のように説明され得る。
【0062】
前記第2キメラ抗原受容体は、通常当業界で癌を標的にして免疫細胞を活性化させて免疫反応を誘導することができるので、癌治療剤として用いられる第2キメラ抗原受容体であれば、その種類に無関係に用いることができる。
【0063】
具体的には、前記第2キメラ抗原受容体の細胞外ドメインは、癌細胞で発現される抗原に特異的に結合する抗原結合部位を含む。具体的には、前記抗原は、癌細胞特異的抗原であってよく、これは癌を予防、治療、改善、診断するために用いられる癌特異的マーカーであってよい。すなわち、前記癌細胞特異的抗原は、正常細胞に比べて統計的に留意して癌細胞でより高い頻度で発現される抗原であってよく、したがって、前記第2キメラ抗原受容体は、正常細胞より癌細胞を特異的に認識して結合することができる。
【0064】
前記第2キメラ抗原受容体の抗原結合部位は、前記癌細胞特異的抗原に特異的に結合できるものであれば制限なく適用することができ、例えば、HER2、EphA2、ErbB3、IL-13Rα2、DLK1、B7H3、PD-L1、GPC3、CEACAM6、CD5などに特異的に結合するものであってよい。
【0065】
前記第2キメラ抗原受容体の細胞外ドメインは、前記抗原結合部位が特異的に結合する抗原の種類に関する説明以外は、「1.新規のキメラ抗原受容体(Chimeric a
ntigen receptor;CAR)及びこれを発現させるためのポリヌクレオチ
ド及び発現ベクター」で第1キメラ抗原受容体の細胞外ドメインについて説明したものと同一であり、例えば、前記第2キメラ抗原受容体の抗原結合部位は、抗体の単鎖可変断片であってよい。
【0066】
前記第2キメラ抗原受容体の膜貫通型ドメインに関する説明も「1.新規のキメラ抗原受容体(Chimeric antigen receptor;CAR)及びこれを発現させるためのポリヌクレオチド及び発現ベクター」で第1キメラ抗原受容体の膜貫通型ドメインについて説明したものと同一である。
【0067】
前記第2キメラ抗原受容体の細胞内信号伝達ドメインは、免疫細胞の機能(例えば、第2キメラ抗原受容体と抗原が結合された標的細胞に対する細胞毒性因子の放出を含む活性化、サイトカイン生成、増殖及び細胞毒性活性、又は前記抗原結合で誘発されたその他細胞反応)を誘発するために、前記キメラ抗原受容体と抗原の結合により発生する信号を免疫細胞の内部に伝達する役割をする部分に該当する。前記細胞内信号伝達ドメインは、作動機能信号を伝達し、細胞が特殊な機能を行うように指示するタンパク質の一部であってよい。
【0068】
前記第2キメラ抗原受容体の細胞内信号伝達ドメインは、既存にキメラ抗原受容体の発展過程で用いられた細胞内信号伝達ドメインが用いられてよい。具体的には、1世代CAR(キメラ抗原受容体)で用いられたCD3ζのみを含んでよい。そして、2世代CARで用いられたように、免疫細胞に対する反応性向上のために共刺激ドメイン(CD28又はCD137/4-1BB)とCD3ζを結合した形態が用いられてよい。また、3世代CARで用いられたように、2つ以上の共刺激ドメインが用いられてよく、この際、生体内CARを含む免疫細胞の拡張及び持続性達成のために、共刺激ドメインを4-1BB、CD28、又はOX40などと結合させてよい。さらに、4世代CARで用いたように、IL-12又はIL-15のようなサイトカインを暗号化する追加遺伝子を含み、サイトカインのCAR基盤免疫タンパク質がさらに発現されるようにでき、5世代CARで用いたように、免疫細胞強化のためにインターロイキンレセプター鎖、例えば、IL-2Rβをさらに含んでよい。
【0069】
より具体的には、前記細胞内信号伝達ドメインによる前記免疫細胞の活性化は、細胞内信号伝達ドメインの2つの異なる部類により媒介され得る。例えば、抗原-依存性一次活性化を開始する1次信号伝達ドメイン及び2次信号を提供するために抗原-独立的方式で作用する共刺激信号伝達ドメインにより免疫細胞活性化が媒介され得る。したがって、前記細胞内信号伝達ドメインは、1次信号伝達ドメイン(primary signali
ng domain)及び共刺激信号伝達ドメイン(co-stimulatory signaling domain)を含んでよい。
【0070】
前記1次信号伝達ドメイン(primary signaling domain)とは、免疫細胞活性化を刺激又は抑制方式で調節する信号伝達ドメインを意味する。刺激方式で作用する1次信号伝達ドメインは、免疫受容体チロシン-基盤活性化モチーブ又はITAMで公知されている信号伝達モチーブを含んでよい。1次信号伝達ドメインを含むITAMは、TCRζ、FcRγ、FcRβ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ、CD5、CD22、CD79a、CD79b、CD66dなどであってよいが、これに制限されるものではない。より具体的には、前記1次信号伝達ドメインは、CD3ζ(zeta)であってよいが、これに制限されるものではない。
【0071】
前記共刺激信号伝達ドメイン(co-stimulatory signaling domain)とは、共刺激分子の細胞内信号伝達ドメインを意味する。前記共刺激信号伝
達ドメインは、CD2、CD7、CD27、CD28、CD30、CD40、4-1BB(CD137)、OX40(CD134)、CDS、ICAM-1、ICOS(CD278)、LFA-1(CD11a/CD18)、GITR、MyD88、DAP10、DAP12、PD-1、LIGHT、NKG2C、B7-H3、CD83などと特異的に結合するリガンドで構成された群より選択される共刺激信号伝達ドメイン(co-stimulatory signaling domain)を含んでよいが、これに制限されるものではない。具体的には、前記共刺激分子はDAP10であってよいが、これに制限されるものではない。
【0072】
本発明の一実施形態によれば、前記第2キメラ抗原受容体は、細胞内信号伝達ドメインとしてDAP10及びCD3ζを用いることで、ナチュラルキラー細胞の高い活性で癌細胞に対する死滅効果を示すようにできる。
【0073】
前記第2キメラ抗原受容体は、2つ以上の細胞内信号伝達ドメインを含んでよく、2つ以上の細胞内信号伝達ドメインを含む場合は、細胞内信号伝達ドメインが互いに直列に連結されてよい。又は2~10つのアミノ酸からなるポリペプチドリンカーを介して連結されてもよく、前記リンカー配列は、例えば、グリシン-セリン連続配列であってよい。前記リンカーは、例えば、(GS)n、(GGS)n、(GSGGS)n、又は(GnS)m(n、mは、それぞれ1~10)を含んでよく、例えば、(GnS)m(n、mは、それぞれ1~10)であってよいが、これに制限されるものではない。
【0074】
前記第2キメラ抗原受容体は、免疫細胞の免疫機能促進因子をさらに含んでよく、例えば、前記免疫細胞の免疫機能促進因子は、インターロイキン信号配列(interleukin signal sequence)であってよい。前記インターロイキン信号配列は、IL(interleukin)-12、IL-8、IL-2などの発現を誘導することを特徴としてよいが、これに制限されるものではない。また、前記免疫細胞がT細胞の場合、前記免疫機能促進因子はIL-7、CCL19などであってよいが、これに制限されるものではない。
【0075】
前記免疫細胞は、免疫を誘導して目的とする治療効果を誘発できる細胞であれば制限なく用いられてよく、例えば、ナチュラルキラー細胞(NK cell)、T細胞、ナチュ
ラルキラーT細胞(NKT cell)、サイトカイン誘導キラー細胞(Cytokin
e Induced Killer cell;CIK)、マクロファージ及び樹枝状細胞
からなる群より選択されるいずれか一つであってよいが、これに制限されるものではない。したがって、本発明による第1キメラ抗原受容体及び第2キメラ抗原受容体を細胞表面に発現する免疫細胞は、CAR-NK細胞(Chimeric Antigen Receptor Natural Killer Cell)、CAR-T細胞(Chimeri
c Antigen Receptor T Cell)、CAR-NKT細胞(Chimeric Antigen Receptor Natural killer T Cell)、CAR-大食細胞(Chimeric Antigen Receptor Macro
phage)などであってよい。
【0076】
前記T細胞は、細胞毒性Tリンパ球(Cytotoxic T lymphocyte;CTL)、腫瘍浸潤リンパ球(Tumor infiltrating lymphocyte;TIL)、末梢血液単核細胞(Peripheral blood mononuclear cell;PBMC)で分離したT細胞などであってよいが、これに制限され
るものではない。
【0077】
前記CAR-NK細胞は、ナチュラルキラー細胞にキメラ抗原受容体が導入された細胞を意味し、既存のT細胞を基盤としたCAR-T治療剤を用いた時の癌免疫治療が有する
持続的な毒性による問題、自己免疫疾患の危険、異種細胞移植に対する移植片対宿主疾患(GVHD)の問題、非標的毒性の問題などを反応開始(on)/中止(off)のスイッチを介して解決できるだけではなく、多様な癌細胞を標的できるようにして、汎用の治療剤として活用可能な利点がある。
【0078】
本発明の免疫細胞は、p75NTRなどのように死滅領域(death domain
)を含む受容体の細胞内ドメインを細胞内信号伝達ドメインとして含み、正常細胞/癌細胞の両方で発現される抗原に特異的に結合する抗原結合部位を含む第1キメラ抗原受容体と、癌細胞特異的抗原に特異的に結合する抗原結合部位を含む第2キメラ抗原受容体を、免疫細胞表面に発現させることができる。この際、もし正常細胞のみ存在する場合は、前記二重キメラ抗原受容体のうち第1キメラ抗原受容体のみが正常細胞表面の抗原を認識して結合することができ、これにより前述したように前記免疫細胞の細胞毒性を低減させるか免疫細胞の細胞死滅を促進することができるので、正常細胞に対する免疫反応を誘発しない可能性がある。一方、癌細胞が存在する場合は、癌細胞の表面に第1キメラ抗原受容体が認識できる抗原と第2キメラ抗原受容体が認識できる抗原とがすべて存在することができるので、前記2つのキメラ抗原受容体ですべて信号伝達が発生するようになる。この際、前記第1キメラ抗原受容体と第2キメラ抗原受容体ですべて信号伝達が発生する場合、第2キメラ抗原受容体が単独で信号伝達を介して免疫細胞を活性化させることと比べて免疫細胞の細胞毒性がより向上することができる。したがって、本発明の免疫細胞は、正常細胞に対しては安定性を示し、癌細胞に対しては既存のキメラ抗原受容体が示す細胞毒性より増加した細胞毒性を示すことができるため、癌細胞を攻撃して治療する効能が向上した特徴がある。
【0079】
本発明の具体的な実施形態では、正常細胞及び癌細胞ですべて発現するEGFRに特異的に結合できる前記第1キメラ抗原受容体と、癌細胞で特異的に発現するHER2やEphA2に特異的に結合できる前記第2キメラ抗原受容体がすべて発現されたナチュラルキラー細胞を用いて、EGFR及びHER2が発現された乳癌細胞又はEGFRとEphA2をすべて発現する乳癌細胞に対する細胞毒性を確認した結果、前記第2キメラ抗原受容体のみが発現されたナチュラルキラー細胞で示される細胞毒性に比べて第1及び第2キメラ抗原受容体が二重に発現されたナチュラルキラー細胞では、細胞毒性がより高く示されることを確認することができた。したがって、本発明の前記免疫細胞は、癌を治療するための用途として非常に有用に用いられることを確認することができる。
【0080】
一方、本発明の前記免疫細胞は、その表面に前述した第1キメラ抗原受容体と第2キメラ抗原受容体以外にも、複数の追加的なキメラ抗原受容体、例えば、第3、第4、第5キメラ抗原受容体などをさらに発現するものであってよい。前記複数の追加的なキメラ抗原受容体は、前記第1キメラ抗原受容体や第2キメラ抗原受容体とは全く異なる種類の抗原に特異的に結合するものであってよく、前記複数のキメラ抗原受容体のそれぞれも互いに異なる種類の抗原に特異的に結合するものであってよい。前記のような複数の追加的なキメラ抗原受容体が前記免疫細胞の表面に発現される場合、本発明の前記免疫細胞は、複数の抗原を同時に標的化することができる。結局、本発明の前記免疫細胞は、p75NTRなどのように死滅領域(death domain)を含む受容体の細胞内ドメインを細
胞内信号伝達ドメインとして含む前記第1キメラ抗原受容体とともに、第2、第3、第4キメラ抗原受容体などを同時に発現させることで、前記第2、第3、第4キメラ抗原受容体などに特異的な抗原が存在する標的細胞に対する前記第2、第3、第4キメラ抗原受容体などによる免疫細胞の細胞毒性をより向上させることができるので、本発明の前記免疫細胞が細胞毒性を示すことができる標的細胞の範囲をさらに確張することができる。
【0081】
3.本発明の免疫細胞の癌に対する治療用途
本発明のさらに他の側面は、前記免疫細胞を含む癌治療用薬学的組成物を提供する。
【0082】
前記免疫細胞、これから発現されるキメラ抗原受容体などに関する説明は、「1.新規のキメラ抗原受容体(Chimeric antigen receptor;CAR)及びこれを発現させるためのポリヌクレオチド及び発現ベクター」及び「2.二重キメラ抗原受容体(Dual-CAR)を発現する免疫細胞」でこれらについて説明したものと同一であるので、繰り返し説明を避けるために記載を省略する。
【0083】
本発明において、用語「癌」と「腫瘍」は同一の意味として用いられ、典型的に調節されない細胞成長/増殖を特徴とする哺乳動物の生理学的状態を指称するか意味する。
【0084】
本発明の組成物として治療できる癌又は癌種は特に制限されず、固形癌及び血液癌をすべて含む。例えば、前記癌は、肺癌、胃癌、卵巣癌、子宮頸癌、乳癌、膵膓癌、大膓癌、結腸癌、食道癌、皮膚癌、甲状腺癌、腎臓癌、肝臓癌、頭頚部癌、膀胱癌、前立腺癌、血液癌、多発性骨髄腫、急性骨髓性白血病、悪性リンパ腫、胸腺癌、骨肉腫、繊維性腫瘍、及び脳癌からなる群より選択される少なくとも一つであってよいが、これに制限されるものではなく、前記第2キメラ抗原受容体から認識できる抗原を含む癌細胞であれば、本発明で制限なく適用され得る。
【0085】
本発明において、用語「治療」は、癌の発展の抑制、症状の軽減又は除去を意味する。
【0086】
前記薬学的組成物は、治療対象である個体の腫瘍細胞の数に比べて前記免疫細胞の数が1倍~10倍、2倍~10倍、又は5倍~8倍で含まれてよいが、これに制限されるものではない。
【0087】
前記組成物は、薬学的組成物以外にも、医薬外品組成物、健康食品用組成物などの形態であってよい。
【0088】
本発明の癌の治療用組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含んでよい。前記「薬学的に許容可能な」という意味は、有効成分の活性を抑制することなく、適用(処方)対象が適応可能な以上の毒性を有しないというものであり、前記「担体」は、細胞又は組織内への化合物の付加を容易にする化合物として定義される。
【0089】
本発明の前記薬学的組成物は、単独で又はある便利な担体などとともに混合して投与されてよく、そのような投与剤形は、単回投与又は繰り返し投与剤形であってよい。前記薬学組成物は、固形製剤又は液状製剤であってよい。固形製剤は、散剤、粒剤、錠剤、カプセル剤、座剤などがあるが、これに限定されるものではない。固形製剤には、担体、着香剤、結合剤、防腐剤、崩壊剤、活沢剤、充填剤などが含まれてよいが、これに制限されるものではない。液状製剤としては、水、プロピレングリコール溶液のような溶液剤、懸濁液剤、油剤などがあるが、これに限定されるものではなく、適当な着色剤、着香剤、安定化剤、粘性化剤などを添加して製造してよい。例えば、散剤は、本発明の有効成分である多重不飽和脂肪酸のトリ-ヒドロキシ誘導体と乳糖、澱粉、未結晶セルロースなど薬剤学的に許容可能な適当な担体を単純混合することで製造され得る。粒剤は、本発明の前記多重不飽和脂肪酸のトリ-ヒドロキシ誘導体、薬学的に許容可能な適当な担体及びポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロースなどの薬学的に許容可能な適当な結合剤を混合した後、水、エタノール、イソプロパノールなどの溶媒を用いた湿式粒法又は圧縮力を用いた乾式粒法を用いて製造され得る。また、錠剤は、前記粒剤をマグネシウムステアリン酸などの薬学的に許容可能な適当な活沢剤と混合した後、打錠機を用いて打錠することで製造され得る。
【0090】
前記薬学的組成物は、治療すべき疾患及び個体の状態に応じて経口剤、注射剤(例えば
、筋肉注射、腹腔注射、静脈注射、注入(infusion)、皮下注射、インプラント)、吸入剤、鼻腔投与剤、膣剤、直腸投与剤、舌下剤、トレンスドマル剤、トピカル剤などに投与されてよいが、これに制限されるものではない。投与経路に応じて通常使用され、非毒性である薬学的に許容可能な担体、添加剤、ビヒクルを含む適当な投与ユニット剤形に製剤化され得る。
【0091】
前記薬学的組成物は、毎日約0.0001mg/kg~約10g/kgが投与されてよく、約0.001mg/kg~約1g/kgの1日投与容量で投与されてよい。しかし、前記投与量は、前記混合物の精製程度、患者の状態(年齢、性別、体重など)、治療している状態の深刻性などに応じて多様であってよい。必要に応じて、便利性のために、1日総投与量を一日複数分けて投与されてよい。
【0092】
以下、本発明を実施例により詳しく説明する。
【0093】
ただし、下記実施例は、本発明を具体的に例示するものであり、本発明の内容が下記実施例により限定されない。
【0094】
[実施例1]
死滅領域(death domain)を含む受容体の細胞内ドメインを含むキメラ抗
原受容体の設計
キメラ抗原受容体(Chimeric antigen receptor;CAR)は、細胞外ドメイン(ectodomain)、膜貫通型ドメイン(transmembrane domain)、及び細胞内信号伝達ドメイン(endodomain)を含ん
でよく、前記細胞内信号伝達ドメインとして死滅領域を含む受容体の一つであるp75NTRの細胞内ドメイン(intracellular domain)を含むようにして
、本発明のキメラ抗原受容体を設計した。
【0095】
前記細胞外ドメインは、抗原結合部位を含み、本発明のキメラ抗原受容体は、前記抗原の種類や抗原結合部位の種類と無関係に製造され得、本実施例では、EGFRに特異的に結合できる抗体の単鎖可変断片(single chain variable frag
ment;scFv)を使用した。膜貫通型ドメインとしては、CD28を使用して前記EGFRに対するscFvと前記CD28をMyc及びヒンジドメインで連結させ、前記膜貫通型ドメインにp75
NTRの細胞内ドメインが連結されるように構成して、これを暗号化する配列番号13の塩基配列を含む遺伝子コンストラクトをpLVX-EF1a-IRES-zsGREENベクターに挿入した(
図1)。
【0096】
[実施例2]
二重キメラ抗原受容体(dual CAR)を表面に発現する免疫細胞の製造
【0097】
[2-1]α-Cot-CAR及びp75NTRの細胞内ドメインを含むCARをともに発現する免疫細胞の製造
前記実施例1を介して設計した本発明のキメラ抗原受容体を表面に発現できる免疫細胞を製造した。この際、抗-コチニン(cotinine)キメラ抗原受容体を発現するナチュラルキラー細胞(NK cell)であるα-Cot-CAR NK92細胞(M2)に前記実施例1で設計したベクターを導入させ、これにより2種類のキメラ抗原受容体を発現できるナチュラルキラー細胞であるDual-CAR NK92細胞1を製造した。
【0098】
前記α-Cot-CAR NK92細胞は、韓国登録特許第2,122,546号に記
載された方法により製造及び/又は修得できるナチュラルキラー細胞であって、コチニンに特異的に結合できるscFvを細胞外ドメインとして含むキメラ抗原受容体を表面に発
現させる特徴がある。具体的には、前記α-Cot-CAR NK92細胞を自動化高速
柔細胞分離器(FacsAria fusion)を介して単一細胞に分離し(M2)、
レンチウイルス(Lentivirus)を用いて前記実施例1を介して設計した本発明キメラ抗原受容体を暗号化するベクターを前記α-Cot-CAR NK92細胞に導入
した。これにより、前記ベクターが成功的に導入したナチュラルキラー細胞の場合、既存に発現する抗-コチニンキメラ抗原受容体のみではなく、本発明のp75NTRの細胞内ドメインを含むキメラ抗原受容体を細胞表面に発現させることができる。
【0099】
本発明のキメラ抗原受容体を暗号化するベクターを導入させた後、ナチュラルキラー細胞株から前記キメラ抗原受容体の発現可否を確認した。具体的には、前記キメラ抗原受容体に含まれたタグタンパク質Mycを検出するために蛍光を発現するMyc抗体を用いて細胞株を染色し、細胞表面への発現を柔細胞分析(Flow cytometry)を介
して確認した。また、前記EGFR-p75NTRの発現は、前記挿入されたベクターから発現されるzsGreenの蛍光を柔細胞分析(Flow cytometry)を介
して測定することで、キメラ抗原受容体の2種が成功的に発現されたことを確認することができた(
図2)。
【0100】
[2-2]α-EphA2-CAR及びp75NTRの細胞内ドメインを含むCARをともに発現する免疫細胞の製造
さらに、前記実施例1を介して設計した本発明のキメラ抗原受容体を表面に発現できる他の免疫細胞を製造した。
【0101】
先ず、抗-EphA2単鎖可変断片(single chain variable f
ragment;scFv)を抗原結合部位として含む細胞外ドメインにしてナチュラルキラー細胞に導入するキメラ抗原受容体(Chimeric antigen receptor;CAR)を設計した。具体的には、前記scFvを抗原結合部位として含む細胞外ドメインと、CD28を膜貫通型ドメインにしてMyc及びヒンジドメインで連結させ、前記膜貫通型ドメインに細胞内信号伝達ドメインでCD3-zetaと共刺激分子でCD28 DAP10を追加して連結することで、いわゆる3世代CARに分類されるキメ
ラ抗原受容体の細胞内信号伝達ドメインを有するように、本発明のキメラ抗原受容体を設計した(
図3a)。そして、これを暗号化する遺伝子コンストラクトの塩基配列をレンチウイルスベクターに挿入し、ウイルスパッケージングベクター(viral packa
ging vector;pMDLG/RRE、pRSV/REV、VSVG)とともに
HEK293T細胞に形質転換した。それからEphA2-CAR1を発現するレンチウイルスを得た後、これを超高速遠心分離機を用いて濃縮させた後、Spinoculation方法(360g、90min、RT)で感染多重度(Multiplicity
of Infection;MOI)が30になるようにナチュラルキラー細胞に感染さ
せた。前記のように感染されたナチュラルキラー細胞を37℃、5% CO
2条件で5時
間培養した後、新鮮な培地に替え、3日後に確実に感染されたナチュラルキラー細胞の選別のために3ug/ml濃度のピューロマイシン(puromycin)を処理して培養を進行し続けた。対照群で感染されていないナチュラルキラー細胞にもピューロマイシンを処理し、対照群でナチュラルキラー細胞がピューロマイシンによりすべて死滅されるまでピューロマイシンが処理された培地を用いて培養を続けた。対照群のナチュラルキラー細胞がすべて死滅した時点で感染されたナチュラルキラー細胞を選別して実験を行った。前記のように選別されたα-EphA2-CAR NK92細胞を自動化高速柔細胞分離
器を介して単一細胞に分離後(79-14)、前記実施例[2-1]と同一の方法で前記実施例1で設計したベクターを導入させることで、既存に発現する抗-EphA2キメラ抗原受容体と本発明のp75
NTRの細胞内ドメインを含むキメラ抗原受容体のすべてを細胞表面に発現させ得るナチュラルキラー細胞であるDual-CAR NK92細胞2
を製造した。
【0102】
前記のように製造されたDual-CAR NK92細胞2を対象にして、前記実施例
[2-1]と同一の方法で前記キメラ抗原受容体の発現可否を確認した結果、キメラ抗原受容体の2種が紙成功的に発現されたことを確認できた(
図3b)。
【0103】
[実施例3]
癌細胞及び正常細胞ですべて発現される抗原のみ存在する場合、ナチュラルキラー細胞でp75NTR信号の機能確認
前記実施例[2-1]で製造したナチュラルキラー細胞は、p75NTRの細胞内ドメインを信号伝達ドメインとして含むキメラ抗原受容体(第1CAR)とコチニンに対して特異的に結合できる抗原結合部位を含むキメラ抗原受容体(第2CAR)を表面に発現する特徴がある。この際、前記第1CARは、正常細胞と癌細胞ですべて発現されるEGFRを認識して結合できる抗体の単鎖可変断片(scFv)を含んでいるので、EGFRを表面に発現させた正常細胞又は癌細胞が存在する場合、これによりナチュラルキラー細胞内で信号伝達が行われ得る。
【0104】
そこで、p75NTRの細胞内ドメインを含む本発明のキメラ抗原受容体(第2CAR)のみが単独で活性化される時に、ナチュラルキラー細胞の活性を確認するために、EGFRを表面に発現する乳癌細胞であるAU565を標的細胞にし、前記第2CARの信号伝達は行われないようにコチニン接合体は入れない条件で、前記AU565細胞はカルセイン(calcein)で染色して進行し、前記実施例[2-1]のナチュラルキラー細胞(Dual-CAR NK92)又はa-Cot-CAR NK92細胞(M2)と1:3(標的細胞:ナチュラルキラー細胞)の割合で4時間共培養した。前記ナチュラルキラー細胞の細胞毒性(cytotoxicity)は4時間共培養後、上澄み液に分泌されたカルセインの量で確認した。その結果、α-Cot-CAR NK92細胞(M2)の
場合EGFRに結合できず、コチニン接合体がなくて信号伝達が発生しないので、ナチュラルキラー細胞の細胞毒性活性も示されておらず、p75NTRの細胞内ドメインを含むキメラ抗原受容体が発現された実施例[2-1]のナチュラルキラー細胞(Dual-CAR NK92)でも同様にナチュラルキラー細胞の細胞毒性活性が示されなかった(図
4)。
【0105】
また、前記ナチュラルキラー細胞をAU565細胞と培養した後、それぞれ6時間及び24時間経過した時点でナチュラルキラー細胞の細胞死滅(apoptosis)程度を確認した。前記細胞死滅は、AU565細胞と前記実施例[2-1]のナチュラルキラー細胞(Dual-CAR NK92)又はM2細胞をそれぞれ1:0.2(標的細胞:ナ
チュラルキラー細胞)の割合で6又は24時間共培養した後、実施した。各細胞を共培養した後、細胞をannexinVと7AADで染色した後、柔細胞分析を介して細胞の死滅程度を確認した。この際、前記M2細胞は、CD56-FITCの蛍光を発現する抗体で染色し、実施例[2-1]のナチュラルキラー細胞は、自体的に発現されるzsGreenを用いて標的細胞であるAU565と区分できるようにし、チュラルキラー細胞のみを区画して細胞の死滅程度を確認した。その結果、実施例[2-1]のナチュラルキラー細胞(Dual-CAR NK92)をEGFRが発現されたAU565細胞に長期間露
出させる場合、α-Cot-CAR NK92細胞(M2)と比べると、ナチュラルキラ
ー細胞の細胞死滅が増加すると確認された(
図5)。
【0106】
前記のような結果を総合してみると、p75NTRの細胞内ドメインを含むキメラ抗原受容体がナチュラルキラー細胞表面に発現されて前記キメラ抗原受容体のみ単独で信号伝達が活性化される場合、ナチュラルキラー細胞の細胞毒性活性は示されず、むしろ抗原に長期間露出された時にナチュラルキラー細胞の細胞死滅が誘導され、ナチュラルキラー細胞が本来の機能ができなくなることを確認できた。前記p75NTRの細胞内ドメインを
含む本発明のキメラ抗原受容体は、癌細胞及び正常細胞ですべて発現される抗原を認識して結合できるように設計されたので、もし正常細胞のみ存在する場合、前記ナチュラルキラー細胞は、正常細胞に対しては毒性を示さず、細胞死滅が誘導される。したがって、本発明の前記キメラ抗原受容体を表面に発現させたナチュラルキラー細胞は、正常細胞は攻撃しない特徴があることを確認できた。
【0107】
[実施例4]
癌細胞特異的抗原が存在する場合、二重CARが発現されたナチュラルキラー細胞の細胞毒性確認
前記実施例3でp75NTRの細胞内ドメインを含むキメラ抗原受容体による単独信号伝達発生時にナチュラルキラー細胞の細胞毒性が減少し、細胞死滅が増加することを確認したことに加え、癌細胞特異的抗原もともに存在してナチュラルキラー細胞の二重CARによる信号伝達がすべて発生した時にナチュラルキラー細胞の活性がどのように変化するか否かを確認した。
【0108】
具体的には、EGFRとHER2をすべて発現する乳癌細胞であるAU565細胞を標的細胞として用いて、α-Cot-CAR NK92細胞(M2)及び実施例[2-1]
のナチュラルキラー細胞(Dual-CAR NK92)をそれぞれ共培養した。この際
、前記α-Cot-CAR NK92細胞(M2)及び実施例[2-1]のナチュラルキ
ラー細胞(Dual-CAR NK92)の表面に発現されたキメラ抗原受容体により認
識して結合できるように、HER2-コチニン(HER2-cot)接合体をともに使用してAU565細胞から発現されるHER2を認識できるようにした(韓国登録特許第2,122,546号参考)。
【0109】
AU565細胞と共培養させた前記ナチュラルキラー細胞を対象にして、前記実施例3と同一の方法でナチュラルキラー細胞の細胞毒性を確認した。
【0110】
その結果、HER2-コチニン接合体が存在する条件で、抗-コチニンキメラ抗原受容体のみが発現されているα-Cot-CAR NK92細胞(M2)の細胞毒性に比べて
、実施例[2-1]のナチュラルキラー細胞(Dual-CAR NK92)の細胞毒性
が顕著に増加することを確認でき、単一細胞別に確認した結果でもすべてのDual-CAR NK92細胞で前記α-Cot-CAR NK92細胞(M2)に比べて高い細胞毒性を示した(
図6)。
【0111】
抗-コチニンキメラ抗原受容体が発現されたナチュラルキラー細胞では、HER2-コチニン接合体を介して癌細胞表面のHER2を認識することで、信号伝達により細胞毒性を有するようになり、癌細胞を攻撃できる活性が高くなる。しかし、前記実験結果をみると、p75NTRの細胞内ドメインを含むキメラ抗原受容体が二重に発現され、癌細胞表面のEGFRにより信号伝達が発生されると、ナチュラルキラー細胞の細胞毒性がより増加することが分かる。
【0112】
[実施例5]
二重CARが発現されたナチュラルキラー細胞の細胞毒性の追加検証
前記実施例3で確認されたp75NTRの細胞内ドメインを含むキメラ抗原受容体のみにより単独で信号伝達が発生される場合にナチュラルキラー細胞自らの細胞死滅が増加するという点と前記実施例4で確認された癌特異的抗原がともに存在して2種のCARすべてで信号伝達が発生された場合にナチュラルキラー細胞の細胞毒性が向上する点を、α-Cot-CARを発現するナチュラルキラー細胞ではなく他の種類の細胞外ドメインを有するCARを発現するナチュラルキラー細胞(α-EphA2-CAR NK92細胞)
を用いてもう一度検証した。
【0113】
具体的には、EGFRとEphA2をすべて発現する乳癌細胞であるMDA-MB-231細胞を標的細胞として用いて、i)NK92細胞、ii)前記実施例1で設計した本発明のキメラ抗原受容体を暗号化するベクターを前記実施例[2-1]と同一の方法でNK92細胞に導入して製作したEGFR-p75NTR NK92細胞、iii)前記実
施例[2-2]で製作したα-EphA2-CAR NK92細胞(79-14)、iv
)前記実施例[2-2]で製作したDual-CAR NK92細胞2(79-14-7
5)をそれぞれ共培養し、前記実施例3と同一の方法で各ナチュラルキラー細胞の細胞毒性を確認した。その結果、i)NK92細胞と、ii)EGFR-p75NTR NK9
2細胞との細胞活性を比べてみると、p75
NTRの細胞内ドメインを含むキメラ抗原受容体のみによる単独信号伝達が発生する場合は細胞毒性が増加しなかったが、iv)Dual-CAR NK92細胞2(79-14-75)は、抗-EphA2キメラ抗原受容
体のみが発現されるiii)α-Epha2-CAR NK92細胞(79-14)に比
べて遥かに向上した細胞毒性を示すと確認された(
図7)。
【0114】
また、前記実施例3と同様に、前記自然細胞をMDA-MB-231細胞と培養した後、17時間経過した時点で細胞の死滅を確認した。その結果、i)NK92細胞の場合、標的細胞と共培養した後にも、共培養前と比べて細胞死滅が増加しなかったが、ii)EGFR-p75NTR NK92細胞の場合は標的細胞と共培養後に細胞死滅が増加した
と確認された(
図8)。
【0115】
前記のような結果は、α-Cot-CAR NK92細胞のDual-CAR NK92細胞1と同一の結果として、このような結果からコチニン以外の他の抗原に対しても、p75NTRの細胞内ドメインを信号伝達ドメインとして含む本発明のキメラ抗原受容体を用いたDual-CARが同一の効能を示すことが分かる。
【0116】
[実施例6]
P75NTRの細胞内ドメインのうち死滅領域(death domain)による細
胞死滅効果確認
P75NTRの細胞内ドメインには死滅領域(death domain)が含まれて
おり、このドメインは、細胞死滅に関与すると知られている。本発明でも前記実施例3及び実施例5を介してp75NTRのみの単独信号伝達により細胞死滅が増加することを確認し、このような現象が実際にp75NTRの細胞内ドメインに存在する前記死滅領域による効果であるか否かを確認しようとした。
【0117】
具体的には、前記死滅領域の機能を確認するために、前記実施例1で設計したキメラ抗原受容体でp75
NTRの細胞内ドメインのうち死滅領域が除去されたキメラ抗原受容体(p75
NTRDDD)を設計し、これを暗号化する遺伝子コンストラクトをpBlueScript SK(-)ベクターに挿入した(
図9)。これとは別途に、前記実施例1
で設計したキメラ抗原受容体を暗号化する遺伝子コンストラクトもpBlueScript SK(-)ベクターに挿入し、これら2つのベクターのそれぞれから試験管内転写を
介してEGFR-p75NTR CARとEGFR-p75NTR DDD CARのmR
NAを製作した。前記のように製作されたmRNAをα-Cot-CAR NK92細胞
(M2)に形質転換した後、17時間経過後に導入されたキメラ抗原受容体の発現可否を前記実施例2と同一の方法でタグタンパク質Mycを検出を介して確認した。その結果、p75
NTR及び死滅領域が除去されたキメラ抗原受容体の2種がすべて成功的に発現されたと確認された(
図10)。
【0118】
前記のように各キメラ抗原受容体を発現するDual-CAR NK92細胞を用いて
、前記実施例4と同一の方法で標的細胞であるAU565細胞とそれぞれのDual-C
AR NK92細胞1:1、1:0.5、1:0.25(標的細胞:ナチュラルキラー細
胞)の割合で共培養することで、細胞毒性を確認した。その結果、死滅領域の除去可否と関係なく、Dual-CAR NK92細胞がα-Cot-CAR NK92細胞に比べて高い細胞毒性を示し、HER2-コチニン(HER2-cot)接合体を入れないので、p75
NTRの細胞内ドメインを含むキメラ抗原受容体のみ単独で活性化された場合は、死滅領域の除去可否と関係なく細胞毒性は増加しないと確認された(
図11)。これは前記実施例3~実施例5と同一の結果であることが分かる。
【0119】
一方、前記死滅領域は、細胞死滅に影響を及ぼすと知られているので、前記Dual-CAR NK92細胞を標的細胞であるAU565と共培養した後、24時間が経過した
時点で前記Dual-CAR NK92細胞の細胞死滅(apoptosis)程度を確
認した。前記細胞死滅程度の確認は、前記実施例3と同一の方法でp75
NTRの細胞内信号のみ伝達されるようにHER2-コチニン(HER2-cot)接合体を入れない状態で、Dual-CAR NK92細胞と標的細胞を0.5:1の割合で共培養すること
で確認した。その結果、AU565と共培養しないそれぞれのDual-CAR NK9
2細胞の細胞死滅(apoptosis)程度はすべて類似しているのに対し、AU565と共培養した場合は、p75
NTRの細胞内ドメインを有するキメラ抗原受容体を発現するDual-CAR NK92細胞がp75
NTRの細胞内ドメインのないα-Cot
-CAR NK92細胞に比べて細胞死滅が増加したと確認され、死滅領域が除去された
キメラ抗原受容体を発現するDual-CAR NK92細胞の場合は、細胞死滅程度が
減少したと確認された(
図12)。前記のような結果から、p75
NTRのみにより単独で細胞内信号伝達が活性化されると細胞死滅が誘導され、このような細胞死滅誘導現象は、p75
NTRの細胞内ドメインに存在する死滅領域によるものであることが分かる。
【0120】
したがって、p75NTRなどのような死滅領域を含む受容体の細胞内ドメインを含む細胞内信号伝達ドメインとして含む本発明のキメラ抗原受容体を用いる場合、正常細胞に対しては細胞毒性がないか少なく、ナチュラルキラー細胞の細胞死滅が誘発されるので、正常細胞に対する安定性が確保できながらも、癌細胞に対しては既存の単独キメラ抗原受容体を活用した技術に比べてより強力な細胞毒性を示すことができることを確認できた。そこで、前記キメラ抗原受容体及びナチュラルキラー細胞を優れた効果の癌治療剤として有用に使用できることを確認した。
【0121】
以上で本発明は、記載された実施形態に対してのみ詳しく説明されたが、本発明の技術思想の範囲内で多様な変形及び修正が可能であることは、当業者において明らかなものであり、このような変形及び修正が添付された特許請求の範囲に属することは当然である。
【配列表】
【国際調査報告】