(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】平版印刷版原版および使用方法
(51)【国際特許分類】
B41N 1/14 20060101AFI20240719BHJP
B41C 1/10 20060101ALI20240719BHJP
G03F 7/00 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
B41N1/14
B41C1/10
G03F7/00 503
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024504225
(86)(22)【出願日】2022-07-11
(85)【翻訳文提出日】2024-01-23
(86)【国際出願番号】 US2022036617
(87)【国際公開番号】W WO2023003712
(87)【国際公開日】2023-01-26
(32)【優先日】2021-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590000846
【氏名又は名称】イーストマン コダック カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ステファニー・ハンスマン
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・ディー・シンプソン
(72)【発明者】
【氏名】サイジャ・ワーナー
【テーマコード(参考)】
2H084
2H114
2H196
【Fターム(参考)】
2H084AA30
2H084AA32
2H084BB02
2H084CC05
2H114AA04
2H114AA23
2H114AA27
2H114BA10
2H114DA04
2H114GA08
2H114GA09
2H196AA06
2H196BA06
2H196EA04
2H196GA03
(57)【要約】
IR感受性平版印刷版原版は、赤外線放射感受性画像記録層に特有のIR放射感受性組成物を使用して安定なプリントアウト画像を提供する。このIR放射感受性組成物は、(1)ボレート化合物を含むフリーラジカル開始剤組成物;(2)フリーラジカル重合性組成物;(3)本明細書で識別される式(I)によって表される酸感受性変色性化合物;(4)赤外線吸収材料;および(5)本明細書で識別される式(III)または式(IV)の変色性化合物を含む。IR画像形成後、露光原版は、特に電磁スペクトルの600~700nm領域において、特に電子感知装置を使用した観察のための望ましいプリントアウト画像を示す。これらの画像形成原版はオフプレスまたはオンプレスで現像することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に配置され、以下の成分(1)、(2)、(3)、(4)および(5):
(1)赤外線放射に露光するとフリーラジカルを生成することができ、ボレート化合物を含むフリーラジカル開始剤組成物;
(2)フリーラジカル重合性組成物;
(3)以下の式(I)によって表される酸感受性変色性化合物:
【化1】
(式中、
Ar
1は、置換もしくは非置換アリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリール基であり;
R
1およびR
2は独立して、水素、それぞれ1~12個の炭素原子を有する置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、または置換もしくは非置換複素芳香族基であるか、あるいはR
1およびR
2は結合して縮合環を形成することができ;
R
3は、1~12個の炭素を有する置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリール基であり;
R
4およびR
5は独立して、水素、それぞれ1~12個の炭素原子を有する置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、または置換もしくは非置換複素芳香族基であり;
R
6およびR
7は独立して、水素、または1~12個の炭素を有する置換もしくは非置換アルキル基であるか、
あるいはR
4およびR
6は一緒に結合して環状構造を形成することができるか、あるいはR
5およびR
7は一緒に結合して環状構造を形成することができるか、あるいはR
4およびR
5のいずれかまたは両方はそれぞれR
6およびR
7に結合することができる);
(4)赤外線吸収材料;および
(5)式(III)または式(IV)のいずれかによって表される変色性化合物:
【化2】
【化3】
(式中、
Ar1’、Ar2’およびAr3’は独立して、置換もしくは非置換芳香環を完成させるため、または置換もしくは非置換複素芳香環を完成させるために必要な原子団を表し;
Yは、酸素原子、硫黄原子、または>C(R
4’R
5’)(式中、R
4’およびR
5’は独立して、それぞれ1~4個の炭素を有する置換または非置換アルキル基である)によって表されるジアルキルメチレン基を表し;
R”は、水素、置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、または置換もしくは非置換ヘテロアリール基であり;
R
1’およびR
2’は独立して、置換または非置換アルキル基であり;
Xは、単結合または-S-、-O-、および>N(R
6’)(式中、R
6’は、水素、置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、置換もしくは非置換ヘテロアリール基、またはLである)から選択される二価連結基を表し;
Lは、-C(=O)-OR
7’基、-SO
2-R
3’基、または-SO
2NR
8’R
9’基(式中、R
7’は、-C(=O)OR
7’基の残りに接続する第二級または第三級接続炭素を有する置換または非置換アルキル基を表し;R
3’、R
8’およびR
9’は独立して、置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、または置換もしくは非置換ヘテロアリール基を表し;R
7’は、水素、置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、または置換もしくは非置換ヘテロアリール基である)を表し;
A
1およびA
2は独立して、置換または非置換アルキル基を表すか、あるいは一緒になって、置換または非置換の5員または6員非芳香族炭素環式環を形成するのに必要な2個または3個の炭素原子を表し;
Zaは、式(III)または式(IV)による変色性化合物の残りの電荷のバランスをとるための1つまたは複数の対イオンを表す)
を含む赤外線放射感受性画像記録層と
を含む平版印刷版原版であって、
前記ボレート化合物は、以下の式(VI):
[B(R
10’R
11’R
12’R
13’)
-]
n M
n+
式(VI)
(式中、R
10’、R
11’、R
12’およびR
13’は独立して、置換もしくは非置換アルキル基または置換もしくは非置換アリール基であり、R
10’、R
11’、R
12’およびR
13’のうちの少なくとも3つは置換または非置換アリール基であり;M
n+はn価カチオンであり、nは正の整数である)
によって表される、平版印刷版原版。
【請求項2】
R
3が1~6個の炭素原子を有する置換または非置換アルキル基である、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項3】
R
4およびR
5が独立して、それぞれ1~6個の炭素原子を有する置換または非置換アルキル基である、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項4】
Ar
1が以下の基:
【化4】
(式中、R
3、R
4、R
5、R
6およびR
7は上に定義される通りであり、R
8、R
9およびR
10は独立して、水素、またはそれぞれ1~12個の炭素原子を有する置換もしくは非置換アルキル基である)
のうちの1つである、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項5】
前記成分(3)酸感受性変色性化合物が式(II)
【化5】
(式中、R
1~R
7は式(I)と同じ意味を有する)
によって表される、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項6】
前記成分(1)フリーラジカル開始剤組成物がオニウム塩を含む、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項7】
前記成分(1)フリーラジカル開始剤組成物がジアリールヨードニウムカチオンを含む、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項8】
前記ボレート化合物がテトラフェニルボレートアニオンを含む、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項9】
前記赤外線放射感受性画像記録層が、上に定義される前記成分(1)、(2)、(3)および(4)の全てとは異なる成分(6)非フリーラジカル重合性ポリマー材料をさらに含む、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項10】
前記成分(6)非フリーラジカル重合性ポリマー材料が粒子形態で存在する、請求項9に記載の平版印刷版原版。
【請求項11】
前記成分(3)式(I)によって表される酸感受性変色性化合物が、前記赤外線放射感受性画像記録層の総乾燥被覆度に基づいて、少なくとも0.5重量%および15重量%以下の乾燥被覆度量で前記赤外線放射感受性画像記録層中に存在する、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項12】
前記赤外線放射感受性画像記録層が最外層である、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項13】
前記成分(2)フリーラジカル重合性組成物が少なくとも2つのフリーラジカル重合性成分を含む、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項14】
前記赤外線放射感受性画像記録層が、その各々が以下の構造(P):
【化6】
(構造(P)中:
X’は、二価基-O-、-S-、-NH-または-CH
2-のうちの1つであり;
Y’は、1または三価基>N-または>CH-であり;
R
1は、水素または置換もしくは非置換アルキル基であり;
R
2およびR
3は独立して、ハロ、チオアルキル、チオフェニル、アルコキシ、フェノキシ、アルキル、フェニル、チオアセチルまたはアセチル基であり;
mおよびnは独立して、0または1~4の整数である)
によって表される、1つまたは複数の化合物をさらに含む、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項15】
前記基板が、少なくとも1つの酸化アルミニウム層と、前記少なくとも1つの酸化アルミニウム層上に配置された親水性ポリマーコーティングとを含むアルミニウム含有基板を含む、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項16】
前記基板が、少なくとも内側酸化アルミニウム層と、前記内側酸化アルミニウム層上に配置された外側酸化アルミニウム層と、前記外側酸化アルミニウム層上に配置された親水性ポリマーコーティングとを含むアルミニウム含有基板を含む、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項17】
平版印刷版を提供する方法であって、
A)請求項1に記載の平版印刷版原版を赤外線放射に画像様露光して、前記赤外線放射感受性画像記録層に赤外線放射露光領域および赤外線放射非露光領域を得る工程と、
B)前記基板から前記赤外線放射感受性画像記録層の前記赤外線放射非露光領域を除去する工程と
を含む方法。
【請求項18】
平版印刷インク、湿し水、または平版印刷インクと湿し水の組み合わせを使用して、オンプレスで前記基板から前記赤外線放射感受性画像記録層の前記赤外線放射非露光領域を除去する工程を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
工程(A)の直後の前記赤外線放射感受性画像記録層の前記赤外線放射露光領域と前記赤外線放射非露光領域との間の反射吸光度の差が少なくとも0.02である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
工程(A)が120mJ/cm
2以下の赤外線放射エネルギーで行われる、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線放射を使用して画像形成され、画像形成平版印刷版を提供することができる赤外線放射感受性平版印刷版原版に関する。このような原版は、画像様露光赤外線放射感受性画像記録層の露光領域と非露光領域との間で安定でより容易に検出可能なプリントアウト画像を提供する特有の赤外線放射感受性組成物を含む。本発明はまた、優れたプリントアウト画像を有する平版印刷版を提供するためにこれらの原版を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷では、画像領域として知られている平版インク受容領域が、アルミニウム含有基板などの平面基板の親水性表面上に生成される。印刷版表面を水で湿らせ、平版印刷インクを塗布すると、親水性領域は水を保持し、平版印刷インクを跳ね返し、平版インク受容画像領域は平版印刷インクを受容し、水を跳ね返す。平版印刷インクは、おそらく印刷機でブランケットローラーを使用して、画像が複製される材料の表面に転写される。
【0003】
平版印刷版を調製するのに有用なネガ型平版印刷版原版は、典型的には基板の親水性表面上に配置されたネガ型放射感受性画像記録層を含む。このような画像記録層は、適切なポリマーバインダー材料に分散させることができる放射感受性成分を含む。原版を適切な放射に画像様露光して画像記録層に露光領域および非露光領域を形成した後、非露光領域を適切な手段によって除去し、基板の下にある親水性表面をあらわにする。除去されない画像記録層の露光領域は平版インク受容性であり、現像工程によってあらわにされる親水性基板表面は水および水溶液、例えば湿し水を受容し、平版印刷インクを跳ね返す。
【0004】
近年、平版印刷業界では、画像記録層の非露光領域を除去するために、平版印刷インクもしくは湿し水、またはその両方を使用してオンプレス現像(「DOP」)を行うことによって、平版印刷版の製造を簡素化することが大いに望まれている。
【0005】
したがって、オンプレス現像可能な平版印刷版原版が、少ない環境への影響ならびに処理化学薬品、処理装置床面積、操作および維持費の節約を含む、従来処理の(「オフプレス」処理または現像の)平版印刷版原版に対する多くの利益のために、ここ数十年、印刷業界でますます注目されている。レーザー画像形成後、オンプレス現像可能な原版は、非印刷領域の原版上の画像形成コーティングを除去する事前湿潤化学工程なしで、印刷機に直接運ばれ得る。
【0006】
このような画像形成された平版印刷版原版は、露光領域と非露光領域との間で異なる色を有することが非常に望ましい。露光領域と非露光領域の色の違いまたは「コントラスト」は、典型的には、「プリントアウト」または「プリントアウト画像」と呼ばれる。強いプリントアウトは、印刷版原版を印刷機ユニットに適切に取り付けることができるように、画像形成された印刷版原版の操作者の視覚的評価および識別を容易にする。
【0007】
オンプレス現像可能な印刷版原版のプリントアウトを強化するために、多くの手法が取られてきた。これらは全て利点および欠点を有し、さらなる改善が有用であることが観察されている。
【0008】
例えば、酸発生剤および酸感受性色前駆体、例えばラクトン系ロイコ染料を含む画像形成組成物を有する露光IR感受性平版印刷版原版上のプリントアウトは、オンプレス現像用に設計された画像形成組成物における酸発生の効率が限られているため、十分に強くないことが多い。さらに、赤外線放射画像形成中に生成されたプロトンの濃度は、しばしば化学平衡または他の画像形成後化学反応を通して画像形成後に低下する。結果として、プロトン誘導色変化に基づくプリントアウトは、画像形成後にしばしば退色する。
【0009】
さらに、より高感受性の発色組成物を使用すると、白色光に対する平版印刷版原版の感度が必然的に増加する。この白色光感度の増加は、画像形成後に原版が白色光に露光された場合に、非画像形成領域における色形成の増加を引き起こす。この望ましくない結果は、コントラストを低下させ、プリントアウト画像の可読性を低下させる。
【0010】
米国特許出願公開第2021/0078350号明細書(Viehmannら)は、より低い酸濃度で無色形態から着色形態に切り替わるより高感受性の発色化合物を赤外線放射感受性画像形成組成物に組み込むことによって、プリントアウトを増加させる努力を記載している。特殊な添加剤により背景色形成を抑制して、良好なコントラストを安定化させる。画像形成化学における一定のロイコ染料の使用から達成される初期プリントアウトは非常に高いが、プリントアウト安定性のさらなる改善(退色の減少)が、業界の所望の目標である。より具体的には、人間の目によって知覚される強いプリントアウトは、画像形成後、パンチ曲げ前の印刷版選別のため、または印刷ユニットへの自動印刷版装填のために必要な自動化プロセスのための情報を提供するためのバーコード、QRコード(登録商標)、データマトリックス、または他の画像を読み取るために使用されるカメラまたはセンサなどの電子読み取り装置によって検出されるのに十分に強いとは限らない。
【0011】
市場で使用されている電子読み取り装置の多くは、光源として、600 nm~700 nmの間に発光ピークを有するレーザーダイオードを有する。例えば、多数の平版印刷会社によって使用されているKoenig&Bauer(KBA)によって製造された印刷機の多くは、平版印刷版が正しい位置および順序で印刷機に取り付けられることを確実にするDriveTronic Plate Identとして知られる板識別システムを備えることができる。DriveTronic Plate Ident板識別システムは、完全自動板交換中に平版印刷版の適切な位置調整の決定を可能にするカメラベースのシステムである。DriveTronic Plate Ident板識別システムで使用されるカメラは、約620nmで発光する内部光源を有する。画像形成領域と非画像形成領域との間の620nmでの反射吸光度の大きな差を有する印刷版は、一般に、DriveTronic Plate Ident板識別システム内のカメラによって良好に読み取ることができる。一方、上記のViehmannらの刊行物によって教示される高度に酸感受性の発色化合物から形成された着色化合物は、このスペクトル領域で比較的低い吸光度を有し、画像形成領域と非画像形成領域との間で620nmでの反射吸光度の大きな差を与えることができない。発光ピークと吸収ピークとの間のこのようなミスマッチのために、このような画像記録層組成物のプリントアウト画像は、人間の目による視覚認知に有用な比較的高いΔE値にもかかわらず、市販の一般的な電子読み取り装置によって容易に検出することができない。
【0012】
よって、高い酸感受性を有するだけでなく、600nm~700nmの間のスペクトル範囲に強い吸収を有する着色化合物を形成することもできる酸感受性発色化合物を含む赤外線感受性平版印刷版原版が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2020-069790号公報
【特許文献2】欧州特許第3418332号明細書
【発明の概要】
【0014】
本発明は、
基板と、
基板上に配置され、以下の成分(1)、(2)、(3)、(4)および(5):
(1)赤外線放射に露光するとフリーラジカルを生成することができ、ボレート化合物を含むフリーラジカル開始剤組成物;
(2)フリーラジカル重合性組成物;
(3)以下の式(I)によって表される酸感受性変色性化合物:
【化1】
(式中、
Ar
1は、置換もしくは非置換アリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリール基であり;
R
1およびR
2は独立して、水素、それぞれ1~12個の炭素原子を有する置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、または置換もしくは非置換複素芳香族基であるか、あるいはR
1およびR
2は結合して縮合環を形成することができ;
R
3は、1~12個の炭素を有する置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリール基であり;
R
4およびR
5は独立して、水素、それぞれ1~12個の炭素原子を有する置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、または置換もしくは非置換複素芳香族基であり;
R
6およびR
7は独立して、水素、または1~12個の炭素を有する置換もしくは非置換アルキル基であるか、
あるいはR
4およびR
6は一緒に結合して環状構造を形成することができるか、あるいはR
5およびR
7は一緒に結合して環状構造を形成することができるか、あるいはR
4およびR
5のいずれかまたは両方はそれぞれR
6およびR
7に結合することができる);
(4)赤外線吸収材料;および
(5)式(III)または式(IV)のいずれかによって表される変色性化合物:
【化2】
【化3】
(式中、
Ar1’、Ar2’およびAr3’は独立して、置換もしくは非置換芳香環を完成させるため、または置換もしくは非置換複素芳香環を完成させるために必要な原子団を表し;
Yは、酸素原子、硫黄原子、または>C(R
4’R
5’)(式中、R
4’およびR
5’は独立して、それぞれ1~4個の炭素を有する置換または非置換アルキル基である)によって表されるジアルキルメチレン基を表し;
R”は、水素、置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、または置換もしくは非置換ヘテロアリール基であり;
R
1’およびR
2’は独立して、置換または非置換アルキル基であり;
Xは、単結合または-S-、-O-、および>N(R
6’)(式中、R
6’は、水素、置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、置換もしくは非置換ヘテロアリール基、またはLである)から選択される二価連結基を表し;
Lは、-C(=O)-OR
7’基、-SO
2-R
3’基、または-SO
2NR
8’R
9’基(式中、R
7’は、-C(=O)OR
7’基の残りに接続する第二級または第三級接続炭素を有する置換または非置換アルキル基を表し;R
3’、R
8’およびR
9’は独立して、置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、または置換もしくは非置換ヘテロアリール基を表し;R
7’は、水素、置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、または置換もしくは非置換ヘテロアリール基である)を表し;
A
1およびA
2は独立して、置換または非置換アルキル基を表すか、あるいは一緒になって、置換または非置換の5員または6員非芳香族炭素環式環を形成するのに必要な2個または3個の炭素原子を表し;
Zaは、式(III)または式(IV)による変色性化合物の残りの電荷のバランスをとるための1つまたは複数の対イオンを表す)
を含む赤外線放射感受性画像記録層と
を含む平版印刷版原版であって、
ボレート化合物は、以下の式(VI):
[B(R
10’R
11’R
12’R
13’)
-]
n M
n+
式(VI)
(式中、R
10’、R
11’、R
12’およびR
13’は独立して、置換もしくは非置換アルキル基または置換もしくは非置換アリール基であり、R
10’、R
11’、R
12’およびR
13’のうちの少なくとも3つは置換または非置換アリール基であり;M
n+はn価カチオンであり、nは正の整数である)
によって表される、平版印刷版原版を提供する。
【0015】
本発明はまた、平版印刷版を提供する方法であって、
A)本明細書に記載される本発明のいずれかの実施形態に記載の平版印刷版原版を赤外線放射に画像様露光して、赤外線放射感受性画像記録層に露光領域および非露光領域を得る工程と、
B)赤外線放射感受性画像記録層の非露光領域を除去する工程と
を含む方法を提供する。
【0016】
本発明は、比較的低エネルギーの画像形成赤外線放射に露光される赤外線放射感受性画像記録層の領域において強いプリントアウト画像を提供する。例えば、120mJ/cm2以下の赤外線放射露光でさえ、少なくとも0.02の赤外線放射露光(発明の方法の工程A)直後の赤外線放射露光領域と赤外線放射非露光領域との間の反射吸光度の差を達成することが可能である。
【0017】
強いプリントアウト画像は、人間の目ならびに平版印刷業界の印刷工によってしばしば使用される様々な電子感知装置で見ることができる。
【0018】
これらの利点は、式(I)によって本明細書で識別される無色形態を有する一定の酸感受性変色性化合物の存在、および式(III)または式(IV)によって表される一定の変色性化合物の存在によって達成される。これらの化合物は、(a)600nm~700nmの間の着色形態の十分な吸収で所望のプリントアウト色を形成する能力、ならびに(b)着色形態の高い消衰係数および無色形態から着色形態への酸誘導変換の高い感受性に起因した強いプリントアウトを提供する能力という2つの固有の特性を有する。これらの化合物の構造的特徴の組み合わせが、本発明のこれらの望ましい利点を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
定義
文脈上特段の指示がない限り、本明細書で使用する場合、「平版印刷版原版」、「原版」および「IR感受性平版印刷版原版」という用語は、本発明の実施形態への等価な言及を意図している。
【0020】
本明細書で使用する場合、「赤外線放射吸収剤」という用語は、電磁スペクトルの近赤外線(近IR)および赤外線(IR)領域の電磁放射を吸収する化合物または材料を指し、典型的には、近IRおよびIR領域で最大吸収を有する化合物または材料を指す。
【0021】
本明細書で使用する場合、「近赤外線領域」および「赤外線領域」という用語は、少なくとも750nm以上の波長を有する放射を指す。ほとんどの例では、これらの用語が、少なくとも800nmおよび1400nm以下の電磁スペクトルの領域を指すために使用される。
【0022】
本発明の目的のために、プリントアウト画像の強度は、一般的に、EN ISO 11664-4「Colorimetry--Part 4:CIE 1976 L*a*b*Colour space.」および他の既知の参考文献に従って、CIE 2°観察者および発光体としてD50を使用して、45/0幾何学(非偏光)での反射測定から測定された赤外線放射露光領域の色と赤外線放射非露光領域の色との間のCIE 1976 L*a*b*色空間におけるユークリッド距離である、ΔEによって示される。色測定はTechkon SpectroDensなどの市販の機器を使用して行うことができる。CIE 1976 L*a*b色空間では、色は3つの数値の色値:色の明度(または輝度)についてのL*、色の緑-赤成分についてのa*、および色値の青-黄色成分についてのb*として表される。
【0023】
本発明の目的に有用な別のパラメータは、上記と同じ装置または市販されている他のスペクトル密度計によって決定することができる、DIN 16536による光学濃度(OD)または光学濃度差ΔOD、具体的にはΔODシアンである。
【0024】
本発明の目的のために、可視スペクトル領域は、400nm~700nmの波長を有する電磁放射のスペクトル領域を指す。
【0025】
特に指示しない限り、「重量%」という用語は、組成物、配合物または層の全固形分に基づく成分または材料の量を指す。特に指示しない限り、百分率は、乾燥層または配合物もしくは組成物の全固形分のいずれについても同じであり得る。
【0026】
本明細書で使用する場合、「層」または「コーティング」という用語は、1つの配置もしくは適用された層、またはいくつかの連続の配置もしくは適用された層の組み合わせからなることができる。層が赤外線放射感受性およびネガ型であると考えられる場合、これは(「赤外線放射吸収剤」について上記のように)赤外線放射に感受性であると同時に、平版印刷版の形成においてネガ型である。
【0027】
本明細書で使用する場合、「オンプレス現像可能」および「オンプレス現像性」という用語は、画像形成原版を適切な印刷機に取り付け、湿し水、平版印刷インク、または湿し水と平版印刷インクの組み合わせを使用して最初の数枚の印刷物の間に現像を行うことによって、赤外線放射露光(画像形成)後に本発明による原版を現像する能力を指す。
【0028】
使用
本発明による平版印刷版原版は、赤外線放射への画像様露光後に望ましいプリントアウト画像を示す平版印刷版を提供するのに有用である。これらの平版印刷版は、プレス操作中の平版印刷に有用である。平版印刷版は、本発明によるオンプレス処理またはオフプレス処理のいずれかを使用して赤外線放射露光後に調製することができる。平版印刷版原版は、以下のように記載される構造および成分で調製される。
【0029】
平版印刷版原版
本発明による原版は、赤外線放射感受性画像記録組成物(以下に記載される)を適切な基板(以下に記載される)に適切に適用してネガ型である赤外線放射感受性画像記録層を形成することによって形成することができる。一般に、赤外線放射感受性画像記録組成物(および得られた赤外線放射感受性画像記録層)は、4種の必須成分:成分(1)赤外線感受性画像記録組成物が赤外線放射に露光すると、フリーラジカルおよびプロトンを生成することができるフリーラジカル開始剤組成物;成分(2)フリーラジカル重合性組成物;成分(3)下記の式(I)によって表される酸感受性変色性化合物;成分(4)赤外線吸収材料(またはその2種以上の混合物);および成分(5)式(III)または式(IV)によって表される変色性化合物を含む。これらの成分(1)、(2)、(3)、(4)および(5)の全てが以下に詳細に定義され、これらの成分は本発明の利点を達成するのに必要な唯一の必須成分である。
【0030】
いくつかの実施形態では、赤外線放射感受性画像記録組成物(および得られた赤外線放射感受性画像記録層)が、成分(1)、(2)、(3)、(4)および(5)の全てとは異なる成分(6)非フリーラジカル重合性ポリマー材料(またはその2種以上の混合物)をさらに含むことができる。いくつかの非常に有用な実施形態では、赤外線放射感受性画像記録層が、所望のプリントアウト画像ならびに最良の全体的な画像形成および印刷特性を有する所望の平版印刷版原版を提供するために、上述の成分(1)~(6)の全てから本質的になる。
【0031】
本発明の各原版は一般的に原版の最外層として赤外線放射感受性画像記録層を含むが、いくつかの実施形態では、赤外線放射感受性画像記録層の上に(または直ぐ上に接触して)配置された、以下に記載される、最外水溶性親水性保護層(トップコートまたは酸素バリア層としても知られている)が存在することができる。
【0032】
基板:
本発明による原版を調製するために使用される基板は、一般的に親水性画像形成側表面、または少なくとも適用された赤外線放射感受性画像記録層より親水性の表面を有する。基板は、一般的に平版印刷版原版を調製するために従来使用されている原料アルミニウムまたは適切なアルミニウム合金で構成され得るアルミニウム含有支持体を含む。
【0033】
アルミニウム含有基板は、物理的(機械的)粒子化、電気化学的粒子化、または化学的粒子化、引き続いて1回または複数回の陽極酸化処理によるある種の粗化を含む、当技術分野で既知の技術を用いて処理することができる。各陽極酸化処理は、典型的には、リン酸または硫酸および従来条件のいずれかを使用して行われ、アルミニウム含有支持体上に所望の親水性酸化アルミニウム(または陽極酸化物)層を形成する。単一の酸化アルミニウム(陽極酸化物)層が存在してもよいし、または各陽極層が様々な深さおよび形状の細孔開口部を有する複数の細孔を有する複数の酸化アルミニウム層(例えば、内側酸化アルミニウム層および内側酸化アルミニウム層上に配置された外側酸化アルミニウム層)が存在してもよい。したがって、このような陽極酸化プロセスは、以下に記載されるように提供することができる赤外線放射感受性画像記録層の下に陽極酸化物層または酸化アルミニウム層を提供する。このような細孔ならびにその幅および深さを制御する方法の議論は、例えば、米国特許出願公開第2013/0052582号明細書(Hayashi)、同第2014/0326151号明細書(Nambaら)、および同第2018/0250925号明細書(Merkaら)、ならびに米国特許第4,566,952号明細書(Sprintschnikら)、同第8,789,464号明細書(Tagawaら)、同第8,783,179号明細書(Kurokawaら)、および同第8,978,555号明細書(Kurokawaら)、ならびに欧州特許第2,353,882号明細書(Tagawaら)に提供されている。基板内に異なる酸化アルミニウム層を提供するために2つ以上の連続的な陽極酸化処理を提供することについての教示は、例えば、米国特許出願公開第2018/0250925号明細書(上記)、米国特許出願公開第2021/0094336号明細書(Merkaら)および米国特許第4,865,951号明細書(Huddlestonら)に記載されている。
【0034】
陽極酸化アルミニウム含有支持体は、親水性材料の水溶液を使用する後処理などの既知の陽極後処理プロセスを使用して、陽極酸化物の細孔を封止するためもしくはその表面を親水化するため、またはその両方のためにさらに処理することができる。親水性層(または親水性ポリマーコーティング)を提供するためのこの種の代表的な親水性材料には、それだけに限らないが、ポリ(ビニルホスホン酸)(PVPA)、ビニルホスホン酸コポリマー、ポリ[(メタ)アクリル酸]もしくはそのアルカリ金属塩、または(メタ)アクリル酸コポリマーもしくはそのアルカリ金属塩、リン酸塩とフッ化物塩の混合物、またはケイ酸ナトリウムが含まれる。このような親水性コーティングは、最外酸化アルミニウム層(複数の酸化アルミニウム層が存在する場合、外側酸化アルミニウム層など)上に配置することができる。有用な後処理プロセスには、すすぎによる基板の浸漬、すすぎなしの基板の浸漬、および押出コーティングなどの種々のコーティング技術が含まれる。
【0035】
いくつかの有用な親水性ポリマーコーティング材料は、1種または複数の親水性ポリマーを含み、その親水性ポリマーのうちの少なくとも1種は、少なくとも(a)アミド単位を含む繰り返し単位、および(b)リン原子に直接結合している-OM’基を含む繰り返し単位(式中、M’は水素、ナトリウム、カリウム、またはアルミニウム原子を表す)を含む親水性コポリマーである。この親水性層は、少なくとも0.0002g/m2および0.1 g/m2以下の乾燥被覆度で最外酸化アルミニウム層の上に配置することができる。
【0036】
基板の厚さは、変えることができるが、印刷からの摩耗に耐えるのに十分であり、印刷フォームの周りを包むのに十分薄くなるべきである。
【0037】
基板を、赤外線放射感受性画像記録層配合物および場合により、親水性保護層配合物で適切にコーティングされたシート材料の連続ロール(または連続ウェブ)として形成し、引き続いて、4つの直角の角を有する形状または形態(よって、典型的には平面状または一般的には平坦であり、正方形または長方形の形状または形態)を有する個々の平版印刷版原版を提供するサイズに切り込むまたは切断する(またはその両方を行う)ことができる。
【0038】
赤外線放射感受性画像記録層:
本発明による赤外線放射感受性画像記録層組成物(およびそれから調製された赤外線放射感受性画像記録層)は、その用語が平版分野で知られているように「ネガ型」になるように設計されている。さらに、赤外線放射感受性画像記録層は、露光後に平版印刷版原版にオンプレス現像性を提供するために、例えば湿し水、平版印刷インク、またはこれら2つの組み合わせを使用したオンプレス現像を可能にするために、成分のある特定の組み合わせで設計することができる。
【0039】
本発明は、赤外線放射感受性画像記録層が赤外線放射に露光するとフリーラジカルおよびプロトンを生成することができる成分(1)フリーラジカル開始剤組成物を利用する。このような成分(1)フリーラジカル開始剤組成物は、1つまたは複数の有機ハロゲン化合物、例えばトリハロアルキル化合物;ハロメチルトリアジン;ビス(トリハロメチル)トリアジン;または1つもしくは複数のオニウム塩、例えばヨードニウム塩、スルホニウム塩を含むことができ、これらの多くは、このような化合物を含む赤外線吸収組成物の赤外線放射露光でフリーラジカルおよびプロトンを生成することができるものとして当技術分野で知られている。オニウム塩以外の代表的な化合物は、例えば、米国特許出願公開第2005/0170282号明細書(Innoら、米国第282号)の[0039]~[0040]および米国特許第6,309,792号明細書(Hauckら)(このような化合物を記載する多数の引用刊行物を含む)、ならびに日本特許公開第2002/107916号明細書および国際公開第2019/179995号パンフレットに記載されている。
【0040】
例えば、成分(1)フリーラジカル開始剤組成物は、例えば、ヨードニウムカチオンもしくはスルホニウムカチオン、またはその両方を含むオニウム塩を含むことができる。有用なオニウム塩は、例えば、引用された米国第282号の[0042]~[0043]に記載されている。例えば、有用なオニウム塩は、分子内の少なくとも1個のオニウムカチオンと、適切なアニオンとを含む。オニウム塩の例としては、トリフェニルスルホニウムおよびジフェニルヨードニウム塩、ならびにこれらの化合物のベンゼン環に1つまたは複数の置換基を導入することによって得られるその誘導体が挙げられる。オニウム塩に特に有用なオニウムカチオンには、例えば2つの置換または非置換フェニル基を有するジアリールヨードニウムカチオンなどのヨードニウムカチオンが含まれる。
【0041】
オニウム塩中のアニオンの例としては、それだけに限らないが、例えば、米国特許第7,524,614号明細書(Taoら)に記載される、ハロゲンアニオン、ClO4
-、PF6
-、BF4
-、SbF6
-、CH3SO3
-、CF3SO3
-、C6H5SO3
-、CH3C6H4SO3
-、HOC6H4SO3
-、ClC6H4SO3
-、およびホウ素アニオンが挙げられる。代表的な有用なヨードニウム塩は、第6~7段に記載されている。
【0042】
さらに、日本特許公開第2002-082429号明細書[または米国特許出願公開第2002-0051934号明細書(Ippeiら)]の明細書の[0046]~[0047]段落に記載されるオニウム塩が有用である。代表的なヨードニウムボレート塩は、例えば、米国特許第7,524,614号明細書(上記)の第8段に列挙されている。
【0043】
いくつかの実施形態では、オニウム塩の組み合わせ、例えば、米国特許出願公開第2017/0217149号明細書(Hayashiら)に記載されている化合物の組み合わせを、成分(1)フリーラジカル開始剤組成物の一部として使用することができる。
【0044】
(1)フリーラジカル開始剤組成物は、1つまたは複数のボレート化合物を含むべきである。いくつかの有用なボレート化合物は、以下の式(VI):
[B(R10’R11’R12’R13’)-]n Mn+
式(VI)
(式中、R10’、R11’、R12’およびR13’は独立して、置換もしくは非置換アルキル基(それぞれ1~12個の炭素原子を有し、直鎖であっても分岐であってもよい)または置換もしくは非置換アリール基(置換もしくは非置換のフェニル基もしくはナフチル基など)であり、R10’、R11’、R12’およびR13’のうちの少なくとも3つは同じまたは異なる置換または非置換アリール基(置換または非置換フェニル基など)であり;Mn+はn価カチオンであり、nは正の整数である)
によって表すことができる。テトラフェニルボレート塩が特に有用である。
【0045】
成分(1)フリーラジカル開始剤組成物は、オンプレス現像可能な平版印刷版原版を調製する当業者に容易に明らかであろう量(モルまたは重量比)で赤外線放射感受性画像記録層中に存在し、最小および最大総量は、一般に、赤外線放射感受性画像記録層の総被覆度(固体)に基づいて、全材料の少なくとも1重量%および20重量%以下である。
【0046】
成分(1)フリーラジカル開始剤組成物は複数の材料を有することができるので、当業者の知識および以下に示される実施例を含む本明細書で提供される代表的な教示に基づいて、赤外線放射感受性画像記録層における成分(1)フリーラジカル開始剤組成物の様々な材料の有用な量または乾燥被覆度は当業者には容易に明らかになるだろう。
【0047】
赤外線放射感受性画像記録層の第2の必須の特徴は、その各々が赤外線放射露光中にフリーラジカル開始を使用して重合することができる、1つまたは複数のフリーラジカル重合性基を含有する、1つまたは複数のフリーラジカル重合性成分を含む成分(2)フリーラジカル重合性組成物である。いくつかの実施形態では、各分子中に同じまたは異なる数のフリーラジカル重合性基を有する、少なくとも2つのフリーラジカル重合性成分が存在する。よって、有用な(2)フリーラジカル重合性組成物は、1つまたは複数の重合性エチレン性不飽和基(例えば、2つ以上のこのような基)を有する1つまたは複数のフリーラジカル重合性モノマーまたはオリゴマーを含有することができる。同様に、このようなフリーラジカル重合性基を有する架橋性ポリマーを使用することもできる。ウレタンアクリレートおよびメタクリレート、エポキシドアクリレートおよびメタクリレート、ポリエステルアクリレートおよびメタクリレート、ポリエーテルアクリレートおよびメタクリレート、ならびに不飽和ポリエステル樹脂などのオリゴマーまたはプレポリマーを使用することができる。
【0048】
(2)フリーラジカル重合性組成物中の1つまたは複数の材料が、赤外線放射感受性画像記録層中の他の材料の「ポリマーバインダー」として機能する架橋性ポリマーマトリックスを提供するのに十分に大きい分子量を有する、または十分な重合性基を有することが可能である。このような実施形態では、別個の(6)非フリーラジカル重合性ポリマー材料(下記)は必要ではないが、所望であれば依然として存在することができる。
【0049】
(2)フリーラジカル重合性組成物中の有用な材料には、尿素ウレタン(メタ)アクリレートまたは複数の(2つ以上の)重合性基を有するウレタン(メタ)アクリレートが含まれ得る。例えば、少なくとも2個および15個以下のアクリレート基を有するウレタンアクリレートは、DESMODUR(登録商標)N100(Bayer Corp.、ミルフォード、コネチカット州)などのトリイソシアネートまたはヘキサン-1,6-ジイソシアネートなどのジイソシアネートをヒドロキシエチルアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートまたはジペンタエリスリトールペンタアクリレートと反応させることによって調製することができる。このようなウレタンまたは尿素(メタ)アクリレート化合物は、1分子当たりの(メタ)アクリレート基の数が15個以上と多い。15個のアクリレート基を有する市販のウレタンアクリレートには、Shin-Nakamura Chemical Co.Ltd.製のU-15HAおよびUA-53Hが含まれる。多数の(メタ)アクリレートを有するこれらの化合物を、その高い架橋効率のために、(2)フリーラジカル重合性組成物に含めることができる。
【0050】
(2)フリーラジカル重合性組成物中の他の有用な材料には、Kowa Americanから入手可能なNK Ester A-DPH(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)、およびSartomer Company,Inc.から入手可能なSartomer SR399(ジペンタエリスリトールペンタアクリレート)、Sartomer 355(ジ-トリメチロールプロパンテトラアクリレート)、Sartomer SR295(ペンタエリスリトールテトラアクリレート)、Sartomer SR415[エトキシ化(20)トリメチロールプロパントリアクリレート]、Sartomer SR494(エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート)などの多官能アルコールから誘導される非ウレタンおよび非尿素(メタ)アクリレートが含まれ得る。
【0051】
ウレタンまたは尿素(メタ)アクリレートと非ウレタンおよび非尿素(メタ)アクリレートの混合物を(2)フリーラジカル重合性組成物に使用することができる。いくつかの実施形態では、異なる数の(メタ)アクリレート基を有する化合物の混合物を使用することができる。
【0052】
(2)フリーラジカル重合性組成物中の多数の他の材料が当技術分野で知られており、Photoreactive Polymers:The Science and Technology of Resists、A Reiser、Wiley、ニューヨーク、1989、102~177頁、B.M.Monroe in Radiation Curing:Science and Technology、S.P.Pappas編、Plenum、ニューヨーク、1992、399~440頁および「Polymer Imaging」A.B.CohenおよびP.Walker、Imaging Processes and Material、J.M.Sturgeら(編)、Van Nostrand Reinhold、ニューヨーク、1989、226~262頁を含むかなりの文献に記載されている。例えば、有用なフリーラジカル重合性成分は、欧州特許第1182033号明細書(Fujimakiら)[0170]段落で始まる、ならびに米国特許第6309792号明細書(Hauckら)、第6569603号明細書(Furukawa)および第6893797号明細書(Munnellyら)にも記載されている。他の有用なフリーラジカル重合性成分には、米国特許出願公開第2009/0142695号明細書(Baumannら)に記載されているものが含まれる。
【0053】
成分(2)フリーラジカル重合性組成物中の材料は、一般的に、全て赤外線放射感受性画像記録層の総被覆度(固体)に基づいて、少なくとも10重量%または少なくとも20重量%、および50重量%以下または70重量%以下の総量で存在する。
【0054】
本発明による赤外線放射感受性画像記録組成物および画像記録層の第3の必須成分は、その各々が以下の式(I):
【化4】
によって表される、成分(3)酸感受性変色性化合物またはその2つ以上の混合物である。
【0055】
式(I)で表されるピラジン系または4,7-ジアザフタリド系ロイコ染料の3つの際立った特徴は、構造の左側の縮合複素環式基中の2個の窒素原子、およびR3のベンジル環へのオキシ結合である。式(I)の全体的な化学構造は、少なくとも575nmおよび750nm以下の波長範囲内においてその着色形態(そのプロトン化形態として)で十分に強い吸収を提供し、よって、KBA DriveTronic Plate Ident板識別システム用の620nmなどのプレス自動化システムのカメラによって使用される光源の発光波長で、赤外線放射感受性画像記録組成物および画像記録層の画像形成領域と非画像形成領域との間の反射吸光度の大きな差を提供することができる。所与の波長における反射吸光度は、log10(Ir/Ii)(式中、Iiは入射光の光強度であり、Irは赤外線放射露光領域または赤外線放射非露光領域における平版印刷版原版の表面などの試料表面からの反射光の光強度であり、log10は10を底とする対数関数を表す)として定義される。反射吸光度は、TECHKON GmbHから入手可能なTechkon SpectroDens装置などの市販の反射測定装置を使用して測定することができる。KBA DriveTronic Plate Ident板識別システムなどのプレス自動化システムとの互換性のために、画像形成平版印刷版原版の赤外線放射露光領域と赤外線放射非露光領域との間の620nmでの反射吸光度の差は、一般に少なくとも0.02、より望ましくは少なくとも0.05である。
【0056】
少なくとも575nmおよび750nm以下の電磁スペクトル波長範囲内で十分に強い吸収を確保するために、着色形態の化合物の最大吸収またはピーク吸収の波長(λmax)は、一般に少なくとも575nmおよび750nm以下の範囲内にある。いくつかの実施形態では、少なくとも600nmおよび700nm以下の波長範囲内での十分に強い吸収(ピーク波長または非ピーク波長)が提供され、さらにより望ましくは、その着色形態の化合物の最大吸収(またはピーク吸収)の波長(λmax)は、プロトンの存在下でラクトン環が開環すると、少なくとも600nmおよび700nm以下の範囲内にある。これらの化合物は、化合物の着色形態の高い消衰係数および無色形態から着色形態への酸誘導変換の高い感度によって駆動される強いプリントアウトを提供する能力を有する。
【0057】
より具体的には、式(I)中、Ar1は、置換もしくは非置換アリール基または置換もしくは非置換ヘテロアリール基である(以下に定義されるように)。例えば、Ar1は置換または非置換のベンジル基またはナフチル基であり得る。このような基に有用な置換基には、それだけに限らないが、アルキル基、アルコキシ基、ハロ基、シアノ基、-COOR’基、-SO3R’基、および-SO2R’基(式中、R’は、1~12個の炭素原子を有する置換または非置換アルキル基(直鎖アルキル基および分岐アルキル基を含む)を表し、これらの置換基のいずれもさらに置換されていてもよい)が含まれる。
【0058】
有用な置換または非置換ヘテロアリール基には、それだけに限らないが、置換または非置換のピリジン-2-イル、ピリジン-3-イル、ピリジン-4-イル、ピリダジニル、ピリミジン-2-イル、ピリミジン-4-イル、ピリミジン-5-イルまたはピリミジン-6-イル、ピラジニル、トリアジニル、ピロリル、フラニル、チオフェニル、ピラゾリル、オキサゾリル、イミダゾリル、チアゾリルおよびトリアゾリル基が含まれる。これらのヘテロアリール基に有用な置換基には、アリール基について上に列挙されるものが含まれる。
【0059】
特に有用なAr1基は、以下の3つの部分:
【化5】
(式中、R
3、R
4、R
5、R
6およびR
7は本明細書で以下に定義され、R
8、R
9およびR
10は独立して、水素、または1~12個の炭素原子を有する置換もしくは非置換アルキル基(直鎖アルキル基および分岐アルキル基を含む)である)
として示されるものである。
【0060】
式(I)中、R1およびR2は独立して、水素、またはその各々が1~6個の炭素原子、もしくはさらには1~12個の炭素原子を有し、直鎖および分岐の非環式アルキル基を含む、置換もしくは非置換アルキル基である。多くの実施形態では、このような置換または非置換アルキル基の一方または両方が、炭素鎖を中断する同もしくは異なるエーテル基もしくはエステル基を含むことができる、またはエステル基の場合、これらを使用してアルキル鎖を終結させることができる。アルキル基上の任意選択の置換基は、Ar1について上記の任意選択の置換基として定義することができる。
【0061】
R1およびR2はまた独立して、それぞれ芳香環に6個もしくは10個の炭素原子を有する置換もしくは非置換アリール基、またはそれぞれ複素芳香環に5~10個の炭素原子およびヘテロ原子を有する置換もしくは非置換複素芳香族基であり得る。置換基は、置換アルキル基について上記のもののいずれかであり得る。
【0062】
さらに、R1およびR2は、これらが結合している芳香環に結合した縮合環を形成するように結合することができる。このような環は、芳香族または非芳香族であり得、化学的に可能であり、本発明において有用な任意の数の原子を環内に有することができる。このような縮合環は、非置換であっても、アルキル基について上記の1つまたは複数の置換基で置換されていてもよい。
【0063】
さらに、R3は、直鎖もしくは分岐アルキル基を含む、1~12個の炭素を有する(もしくは1~6個の炭素原子を有する)置換もしくは非置換アルキル基、または置換もしくは非置換アリール基(置換もしくは非置換のフェニル基もしくはナフチル基など)、または置換もしくは非置換ヘテロアリール基(上記の置換もしくは非置換基など)である。有用な置換または非置換アルキル基および任意選択の置換基は、R1およびR2について上記のものと同じ定義を有することができる。有用なアリール基およびヘテロアリール基ならびに任意選択の置換基は、Ar1について上記のものと同じ定義を有することができる。
【0064】
R4およびR5は独立して、水素、それぞれ1~12個の炭素原子を有する(もしくは1~6個の炭素原子を有する)置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、または置換もしくは非置換複素芳香族基であり、これらの基および任意選択の置換基は、R1およびR2について上記のものと同じ定義を有することができる。
【0065】
R6、R7、R8、R9およびR10は独立して、水素、またはそれぞれ1~12個の炭素を有する(もしくはそれぞれ1~6個の炭素原子を有する)置換もしくは非置換アルキル基であり、これらの置換もしくは非置換アルキル基および任意選択の置換基は、R1およびR2について上記のものと同じ定義を有することができる。
【0066】
あるいは、R4およびR6が一緒に結合して環状構造を形成することができる、または場合によりR5およびR7が一緒に結合して環状構造を形成することができるのいずれかである。このような環状構造の各々は、R1およびR2について上記のものなどの1つまたは複数の置換基で場合により置換されていてもよい。あるいは、R4およびR5のいずれか、またはR4およびR5の両方が、それぞれR6またはR7に結合することができる。
【0067】
成分(3)式(I)の酸感受性変色性化合物は、単独でまたはその2つ以上の混合物で、一般に、赤外線放射感受性画像記録層の総被覆度(固体)に基づいて、少なくとも0.5重量%または少なくとも1重量%、および10重量%以下または15重量%以下の量で赤外線放射感受性画像記録層中に存在する。
【0068】
いくつかの有用な(3)酸感受性変色性化合物は、以下の式(II):
【化6】
(式中、R
1~R
7は式(I)と同じ定義または意味を有する)
によって表すことができる。
【0069】
さらに、式(I)の範囲内のいくつかの有用な化合物には、それだけに限らないが、3,3-ビス-(4-ジアルキルアミノ-2-メトキシフェニル)-4,7-ジアザフタリド;3,3-ビス-(4-ジアルキルアミノ-2-エトキシフェニル)-4,7-ジアザフタリド;3-(4-ジエチルアミノ-2-エトキシフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4,7-ジアザフタリド;3-(2-メトキシ-4-ジ-n-ヘキシルアミノフェニル)-3-(1-n-オクチル-2-メチルインドール-3-イル)-4,7-ジアザフタリド;および3-(1-n-オクチル-2-メチルインドール-3-イル)-3-(2-エトキシ-4-ジエチルアミノフェニル)-4,7-ジアザフタリドが含まれる。
【0070】
式(I)の範囲内のさらなる有用な化合物は以下のように示される:
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【0071】
本発明による赤外線放射感受性画像記録層はまた、成分(4)赤外線吸収材料(1種またはその2種以上の混合物)を含むべきである。(4)赤外線吸収材料は、所望の赤外線放射感受性を提供する、もしくは放射を熱に変換する、またはその両方を行う。有用な(4)赤外線吸収材料は、顔料または赤外線放射(近IRを含む)吸収染料であり得る。適切なIR吸収染料は、例えば、米国特許第5,208,135号明細書(Patelら)、同第6,153,356号明細書(Uranoら)、同第6,309,792号明細書(Hauckら)、同第6,569,603号明細書(Furukawa)、同第6,797,449号明細書(Nakamuraら)、同第7,018,775号明細書(Tao)、同第7,368,215号明細書(Munnellyら)、同第8,632,941号明細書(Balbinotら)、および米国特許出願公開第2007/056457号明細書(Iwaiら)に記載されるものである。いくつかの赤外線放射感受性画像記録層実施形態では、赤外線放射感受性画像記録層中の少なくとも1つの(4)赤外線吸収材料が、適切なカチオン性シアニン発色団およびテトラフェニルボレートアニオンなどのテトラアリールボレートアニオンを含むシアニン染料であることが望ましい。このようなシアニン染料の例としては、米国特許出願公開第2011/003123号明細書(Simpsonら)に記載されるものが挙げられる。
【0072】
低分子量IR吸収染料に加えて、ポリマーと結合したIR染料発色団も同様に使用することができる。さらに、IR染料カチオンも使用することができる、すなわち、カチオンは側鎖にカルボキシ、スルホ、ホスホまたはホスホノ基を含むポリマーとイオン的に相互作用する染料塩のIR吸収部分である。
【0073】
成分(4)赤外線吸収材料の総量は、赤外線放射感受性画像記録層の総乾燥被覆度(固体)に基づいて、少なくとも0.5重量%または少なくとも1重量%、および15重量%以下または30重量%以下である。
【0074】
成分(3)酸感受性変色性化合物は、KB DriveTronic Plate Ident板識別システムなどのプレス自動化システムで使用されるカメラによる読み取りに適した強いプリントアウト画像を提供することができるが、人間の目によって読み取り可能な安定で強い視覚的プリントアウト画像のために1つまたは複数の成分(5)変色性化合物を含むことがしばしば望ましい。このタイプの有用な(5)変色性化合物は、同時係属中の仮出願である2021年4月1日に出願された米国シリアル番号第63/169,278号明細書および2021年4月1日に出願された米国シリアル番号第63/169,279号明細書に記載されている。これらの(5)変色性化合物は、(1)フリーラジカル開始剤組成物がボレート化合物を含む場合に特に有用である。
【0075】
よって、特に有用な(5)変色性化合物は、以下の式(III)または式(IV)によって表される化合物:
【化11】
【化12】
(式中、
Ar1’、Ar2’およびAr3’は独立して、置換もしくは非置換芳香環(置換もしくは非置換のフェニル環およびナフチル環など)を完成させるため、または置換もしくは非置換複素芳香環(ピリジン環およびピラジン環など)を完成させるために必要な原子団を表し;
Yは、酸素原子、硫黄原子、または>C(R
4’R
5’)(式中、R
4’およびR
5’は独立して、それぞれ1~4個の炭素を有する(アルキル基は直鎖アルキル基であっても、分岐アルキル基であってもよい)、それぞれ1~12個の炭素原子を有する置換または非置換アルキル基(直鎖アルキル基と分岐アルキル基の両方を含む)である)によって表されるジアルキルメチレン基を表し;
R
1’およびR
2’は独立して、例えばそれぞれ1~12個の炭素原子を有する置換または非置換アルキル基であり、直鎖または分岐アルキル基であり得;
R”は、水素、置換もしくは非置換アルキル基(例えば、1~12個の炭素原子を有し、直鎖アルキル基もしくは分岐アルキル基の両方を含む)、置換もしくは非置換アリール基(置換もしくは非置換のフェニル基もしくはナフチル基など)、または置換もしくは非置換ヘテロアリール基(置換もしくは非置換のピリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピロリル、フラニル、もしくはチオフェニル基など)であり;
Xは、単結合または-S-、-O-、および>N(R
6’)(式中、R
6’は、水素、1~12個の炭素原子を有する置換もしくは非置換アルキル基(直鎖アルキル基と分岐アルキル基の両方を含む)、置換もしくは非置換アリール基(置換もしくは非置換のフェニル基もしくはナフチル基など)、置換もしくは非置換ヘテロアリール基(置換もしくは非置換のピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピロリル、フラニル、もしくはチオフェニル基など)、またはLである)から選択される二価連結基を表し;
Lは、-C(=O)-OR
7’基、-SO
2-R
3’基、または-SO
2NR
8’R
9’基(式中、R
7’は、1~12個の炭素原子を有し、-C(=O)OR
7’基の残りに接続する第二級または第三級接続炭素を有する置換または非置換アルキル基(直鎖アルキル基と分岐アルキル基の両方を含む)を表し;R
3’、R
8’およびR
9’は独立して、それぞれ1~12個の炭素原子を有する置換もしくは非置換アルキル基(直鎖アルキル基と分岐アルキル基の両方を含む)、置換もしくは非置換アリール基(置換もしくは非置換のフェニル基もしくはナフチル基など)、または置換もしくは非置換ヘテロアリール基(置換もしくは非置換のピリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピロリル、フラニル、もしくはチオフェニル基など)を表し;R
7’は、水素、1~12個の炭素原子を有する置換もしくは非置換アルキル基(直鎖アルキル基と分岐アルキル基の両方を含む)、置換もしくは非置換アリール基、または置換もしくは非置換ヘテロアリール基である)を表し;
A
1およびA
2は独立して、それぞれ1~12個の炭素原子を有する置換または非置換アルキル基(直鎖アルキル基と分岐アルキル基の両方を含む)を表すか、あるいは一緒になって、置換または非置換の5員または6員非芳香族炭素環式環(置換または非置換のシクロペンチル基またはシクロヘキシル環など)を形成するのに必要な2個または3個の炭素原子を表し;
Zaは、式(III)または式(IV)による変色性化合物の残りの電荷のバランスをとるための1つまたは複数の対イオンを表す)
である。
【0076】
(5)式(III)または式(IV)による変色性化合物の残りが正電荷を有する場合、テトラフェニルボレートなどのテトラアリールボレートおよびトリフェニル-n-ブチルボレートなどのトリアリールアルキルボレートをZaの対イオンとして使用することができる。
【0077】
式(III)によって表される化合物の中でも、以下の式(V)によって表される化合物が有用である。
【0078】
【化13】
(式中、Ar1’、Ar
2’、Ar
3’、R
1’、R
2’、R
3’、R”、YおよびZaは上に定義される通りである)。
【0079】
(5)式(III)および(IV)によって表される変色性化合物は、以下の式(VI):
[B(R10’R11’R12’R13’)-]n Mn+
式(VI)
(式中、R10’、R11’、R12’およびR13’は独立して、置換もしくは非置換アルキル基(それぞれ1~12個の炭素原子を有し、直鎖アルキル基と分岐アルキル基の両方を含む)または置換もしくは非置換アリール基(置換もしくは非置換のフェニル基もしくはナフチル基など)であり、R10’、R11’、R12’およびR13’のうちの少なくとも3つは同じまたは異なる置換または非置換アリール基(置換または非置換フェニル基など)であり;Mn+はn価カチオンであり、nは正の整数である)
によって表されるボレート化合物の存在下で変色することができる。式(VI)によって表される有用なボレート化合物の中でも、テトラフェニルボレート塩が特に有用である。ボレート化合物のボレートアニオンは、上記のようにフリーラジカル開始剤組成物(1)の一部として、または式(I)、(II)、(III)、(IV)、および(V)のいずれかによって表される化合物中の対イオンとして組み込むことができる。
【0080】
(5)変色性化合物は、単独でまたはその2つ以上の混合物で、一般に、赤外線放射感受性画像記録層の総被覆度(固体)に基づいて、少なくとも0.5重量%または少なくとも1重量%、および10重量%以下または15重量%以下の量で赤外線放射感受性画像記録層中に存在することができる。
【0081】
赤外線放射感受性画像記録層の任意選択であるが望ましい成分は、その各々が、存在すれば、ポリマー材料をフリーラジカル重合可能にするようないかなる官能基も有さない、成分(6)非フリーラジカル重合性ポリマー材料(もしくはポリマーバインダー)またはその2つ以上の混合物である。よって、このような成分(6)非フリーラジカル重合性ポリマー材料は、上記の成分(1)、(2)、(3)、(4)および(5)の全てとは異なる。
【0082】
有用な成分(6)非フリーラジカル重合性ポリマー材料は、一般的にゲル浸透クロマトグラフィー(ポリスチレン標準)によって測定される、少なくとも2000 g/molまたは少なくとも20000 g/mol、および300000 g/mol以下または500000 g/mol以下の重量平均分子量(Mw)を有する。
【0083】
このような成分(6)非フリーラジカル重合性ポリマー材料は、例えば、米国特許第6,899,994号明細書(Huangら)に記載されるものなどのポリアルキレンオキシドセグメントを含む側鎖を有する繰り返し単位を含むポリマーを含む、当技術分野で知られているポリマーバインダー材料から選択することができる。他の有用なポリマーバインダーは、例えば国際公開第2015-156065号パンフレット(Kamiyaら)に記載されるポリアルキレンオキシドセグメントを含む異なる側鎖を有する2つ以上のタイプの繰り返し単位を含む。このようなポリマーバインダーのいくつかは、例えば、米国特許第7,261,998号明細書(Hayashiら)に記載されるものなどのペンダントシアノ基を有する繰り返し単位をさらに含むことができる。このような成分(6)非フリーラジカル重合性材料はまた、複数の(少なくとも2つの)ウレタン部分を含む骨格、ならびにポリアルキレンオキシドセグメントを含むペンダント基を有することができる。
【0084】
いくつかの有用な成分(6)非フリーラジカル重合性ポリマー材料は、粒子形態、すなわち、離散粒子(非凝集粒子)の形態で存在することができる。このような離散粒子は、少なくとも10nmおよび1500nm以下、または典型的には少なくとも80nmおよび600nm以下の平均粒径を有することができ、一般的に赤外線放射感受性画像記録層内に均一に分布する。平均粒径は、電子走査型顕微鏡画像における粒子の測定および設定された測定数の平均化を含む、種々の既知の方法およびナノ粒子測定装置を使用して決定することができる。
【0085】
成分(6)非フリーラジカル重合性ポリマー材料は、赤外線放射感受性画像記録層の総被覆度(固体)に基づいて、少なくとも10重量%または少なくとも20重量%、および50重量%以下または70重量%以下の量で存在することができる。
【0086】
他の有用な成分(6)非フリーラジカル重合性ポリマー材料には、様々なグレードのヒドロキシプロピルセルロースエーテルおよび様々なけん化度を有する様々なグレードのポリビニルアルコールなどの水溶性ポリマー、ならびに直鎖または分岐ポリメチルメタクリレートおよび他のアクリルポリマー、ポリビニルブチラールおよび他のポリビニルポリマー、ポリウレタン、ポリエステルおよびポリウレアなどの水不溶性ポリマーが含まれる。ヒドロキシプロピルセルロースの例としては、Klucel E(Ashland USAから入手可能)、Klucel M(Ashland USAから入手可能)、Nisso HPC-L(日本のNippon Soda Co.Ltdから入手可能)およびNisso HPC-SL(日本のNippon Soda Co.Ltdから入手可能)が挙げられる。
【0087】
本発明で使用される赤外線放射感受性画像記録層はまた、場合により架橋ポリマー粒子を含むことができ、このような材料は、例えば、米国特許第9,366,962号明細書(Hayakawaら)、同第8,383,319号明細書(Huangら)および同第8,105,751号明細書(Endoら)に記載されるように、少なくとも2μmまたは少なくとも4μm、および20μm以下の平均粒径を有する。このような架橋ポリマー粒子は、赤外線放射感受性画像記録層のみ、存在する場合は親水性保護層(下記)のみ、または赤外線放射感受性画像記録層と存在する場合は親水性保護層の両方に存在することができる。
【0088】
赤外線放射感受性画像記録層はまた、その各々が以下の構造(P):
【化14】
(構造(P)中、
X’は、二価基-O-、-S-、-NH-または-CH
2-のうちの1つであり、望ましくは、Xは-S-または-NH-である。
【0089】
Y’は、1または三価基>N-または>CH-であり、望ましくは>N-である。
【0090】
R1は、水素、または一般に非置換形態の1~20個の炭素原子を有する置換もしくは非置換アルキル基である。アルキル基が置換されている場合、そのような置換基が本明細書で定義される適切で安定なプリントアウト画像の提供に悪影響を及ぼさない限り、その原子価によって許容される1つまたは複数の置換基を有することができる。
【0091】
R2およびR3は独立して、ハロ(フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨード)、チオアルキル(すなわち、1~20個の炭素原子を有する-S-アルキル)、チオフェニル(すなわち、-S-フェニル)、アルコキシ(すなわち、1~20個の炭素原子を有する-O-アルキル)、フェノキシ(すなわち、-O-フェニル)、アルキル(1~20個の炭素原子を有する)、フェニル、チオアセチル[すなわち、-C(=S)CH3]、またはアセチル[すなわち、-C(=O)CH3]基である。化学的に可能な場合、このような基は、適切で安定なプリントアウト画像の提供に悪影響を及ぼさない限り、1つまたは複数の置換基で置換されていてもよい。R2およびR3が独立して、クロロ、チオアルキル(1個もしくは2個の炭素原子を有する)またはアセチル基であることが特に有用である)
によって表される、1つまたは複数の化合物を含むことができる。
【0092】
さらに、構造(P)中、mおよびnは独立して、0または1~4の整数である。典型的には、mおよびnは独立して、0、1または2である。mおよびnの各々は0であり得る;mは0であり得、nは1または2であり得る;あるいはmは1であり得、nは1または2であり得る。
【0093】
所望であれば、構造(P)によって表されるこれらの化合物の2つ以上の混合物を使用することができる。
【0094】
それぞれが構造(P)によって表される1つまたは複数の化合物は、最適なプリントアウト画像およびそのプリントアウト画像の安定性を適切にもたらす量で存在することができる。例えば、このような化合物の量は、赤外線放射感受性画像記録層の総乾燥重量に基づいて、少なくとも0.05重量%および5重量%以下であり得る。
【0095】
赤外線放射感受性画像記録層はまた、慣用的な量の、それだけに限らないが、分散剤、保湿剤、殺生物剤、可塑剤、被覆性もしくは他の特性のための界面活性剤、粘度上昇剤、pH調整剤、乾燥剤、消泡剤、現像助剤、レオロジー改質剤またはこれらの組み合わせ、あるいは平版コーティング分野で一般的に使用されている任意の他の追加物を含む種々の他の任意の追加物も含むことができる。赤外線放射感受性画像記録層はまた、米国特許第7,429,445号明細書(Munnellyら)に記載される、一般的に250超の分子量を有するホスフェート(メタ)アクリレートを含むことができる。
【0096】
さらに、赤外線放射感受性画像記録層は、場合により、望ましくないラジカル反応を防止または緩和するための1つまたは複数の適切な連鎖移動剤、抗酸化剤または安定剤を含むことができる。
【0097】
親水性保護層:
本発明のいくつかの実施形態では、赤外線放射感受性画像記録層が、その上に層が配置されていない最外層であるが、特に画像形成原版がオフプレス現像(下記)用に設計されている場合に、本発明による原版を、親水性保護層(当技術分野では親水性オーバーコート、酸素バリア層またはトップコートとしても知られている)を赤外線放射感受性画像記録層の直ぐ上に配置して(これらの2つの層の間に中間層はない)設計することが可能である。
【0098】
存在する場合、この親水性保護層は一般的に原版の最外層であり、したがって、複数の原版を積み重ねる場合、ある原版の親水性保護層がその直ぐ上の原版の基板の裏側と接触することができ、合紙は存在しない。
【0099】
このような親水性保護層は、親水性保護層の総乾燥重量に基づいて、少なくとも60重量%および100重量%以下の量の1つまたは複数の膜形成水溶性ポリマーバインダーを含むことができる。このような膜形成水溶性(または親水性)ポリマーバインダーには、けん化度が少なくとも30%、または少なくとも75%、または少なくとも90%、および99.9%以下の修飾または未修飾ポリ(ビニルアルコール)が含まれ得る。
【0100】
さらに、1つまたは複数の酸修飾ポリ(ビニルアルコール)を、親水性保護層に膜形成水溶性(または親水性)ポリマーバインダーとして使用することができる。例えば、少なくとも1つのポリ(ビニルアルコール)は、カルボン酸、スルホン酸、硫酸エステル、ホスホン酸およびリン酸エステル基からなる群から選択される酸基で修飾され得る。有用な修飾ポリ(ビニルアルコール)材料の例としては、それだけに限らないが、スルホン酸修飾ポリ(ビニルアルコール)、カルボン酸修飾ポリ(ビニルアルコール)および第四級アンモニウム塩修飾ポリ(ビニルアルコール)、グリコール修飾ポリ(ビニルアルコール)またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0101】
任意の親水性オーバーコートはまた、少なくとも2 μmの平均粒径を有し、上記のような架橋ポリマー粒子を含むことができる。
【0102】
存在する場合、親水性保護層は、親水性保護層形成として提供され、乾燥されて、少なくとも0.1 g/m2および4 g/m2未満の乾燥コーティング被覆度、または典型的には少なくとも0.15 g/m2および2.5 g/m2以下の乾燥コーティング被覆度を提供する。いくつかの実施形態では、親水性保護層が、オフプレス現像またはオンプレス現像中に容易に除去するために比較的薄くなるように、乾燥コーティング被覆度が0.1 g/m2と低くおよび1.5 g/m2以下、または少なくとも0.1 g/m2および0.9 g/m2以下である。
【0103】
平版印刷版原版の調製:
本発明による平版印刷版原版は、以下の方法で提供することができる。適切な溶媒または溶媒の混合物に溶解した、上記の、必須成分(1)、(2)、(3)、(4)および(5)ならびにあらゆる任意選択の追加物を含む赤外線放射感受性画像記録層配合物を、ナイフコーティング、グラビアコーティング、ダイコーティング、スロットコーティング、バーコーティング、ワイヤロッドコーティング、ローラーコーティングまたは押し出しホッパーコーティングなどの任意の適切な装置および手順を使用して、通常は上記の連続ウェブの形態で、適切なアルミニウム含有基板の親水性表面に適用することができる。このような配合物を噴霧によって適切な基板上に適用することもできる。典型的には、いったん赤外線放射感受性画像記録層配合物を適切な湿潤被覆度で適用したら、これを当技術分野で知られている適切な方法で乾燥して、以下に記載される所望の乾燥被覆度を得て、それによって赤外線放射感受性連続ウェブまたは赤外線放射感受性連続物品を得て、次いで、これを適切なサイズの長方形シートに切断して、平版印刷に使用するための平版印刷版の製造に適した平版印刷版原版を形成する。赤外線放射感受性画像記録層の成分および追加物は、画像形成時に、この層が、平版印刷インクおよび湿し水のいずれかまたは組み合わせを使用してオンプレスで容易に除去されるように設計することができる。
【0104】
上記のように、赤外線放射感受性画像記録層配合物を適用する前に、基板(すなわち、連続ロールまたはウェブ)は、上記のように電気化学的に粒子化され、陽極酸化されて、アルミニウム含有支持体の外側表面上に適切な親水性陽極(酸化アルミニウム)層を提供し、陽極酸化表面は、上記のように親水性ポリマー溶液で後処理することができる。これらの操作の条件および結果は、上記のように当技術分野で周知である。
【0105】
製造方法は、典型的には、水を含むまたは含まない適切な有機溶媒またはその混合物[メチルエチルケトン(2-ブタノン)、メタノール、エタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、2-メトキシプロパノール、イソ-プロピルアルコール、アセトン、γ-ブチロラクトン、n-プロパノール、テトラヒドロフランおよび当技術分野で容易に知られるその他のもの、ならびにこれらの混合物など]中に赤外線放射感受性画像記録層に必要とされる種々の成分を混合し、得られた赤外線放射感受性画像記録層配合物を連続基板ウェブに適用し、適切な乾燥条件下で蒸発によって溶媒を除去することを含む。
【0106】
適切な乾燥後、基板上の赤外線放射感受性画像記録層の乾燥被覆度は、少なくとも0.1 g/m2または少なくとも0.4 g/m2、および2 g/m2以下または4 g/m2以下であり得るが、所望であれば他の乾燥被覆度量を使用して所望の乾燥被覆度を提供することができる。
【0107】
上記のように、いくつかの実施形態では、適切な水系親水性保護層配合物(上記)を、既知のコーティングおよび乾燥条件、装置および手順を使用して、乾燥した赤外線放射感受性画像記録層に適用することができる。
【0108】
実際の製造条件では、これらのコーティング操作の結果が、赤外線放射感受性画像記録層のみ、または赤外線放射感受性画像記録層と最外層として配置された親水性保護層の両方を有する赤外線放射感受性平版印刷版原版材料の連続放射感受性ウェブ(またはロール)である。このような連続放射感受性ウェブは、使用のために適切なサイズの原版に切り込むまたは切断することができる。
【0109】
画像形成(露光)条件
使用中、本発明の赤外線放射感受性平版印刷版原版を、赤外線放射感受性画像記録層中に存在する赤外線放射吸収剤に応じて、適切な赤外線放射源に露光することができる。いくつかの実施形態では、平版印刷版原版を、少なくとも750nmおよび1400nm以下、または少なくとも800nmおよび1250nm以下の範囲内の有意な赤外線放射(近IR放射を含む)を放出する1つまたは複数の赤外線放射発光レーザーで画像形成して、赤外線放射感受性画像記録層に露光領域と非露光領域を作り出すことができる。このような赤外線放射レーザーは、計算機器または他のデジタル情報源によって供給されるデジタル情報に応じてこのような画像形成に使用することができる。レーザー画像形成は、当技術分野で既知の適切な方法でデジタル制御することができる。
【0110】
例えば、赤外線放射発生レーザー(またはこのようなレーザーの配列)からの画像形成または露光赤外線放射を使用して画像形成を行うことができる。所望であれば同時に複数の赤外線(または近IR)波長の画像形成放射を使用して画像形成を行うこともできる。原版を露光するために使用されるレーザーは、ダイオードレーザーシステムの信頼性および低メンテナンスのために、通常はダイオードレーザーであるが、ガスまたは固体状態レーザーなどの他のレーザーを使用することもできる。赤外線放射画像形成のための出力、強度および露光時間の組み合わせは当業者に容易に明らかになるだろう。
【0111】
赤外線画像形成装置は、フラットベッドレコーダーまたはドラムレコーダーとして構成することができ、赤外線放射感受性平版印刷版原版をドラムの内側または外側円筒表面に取り付ける。有用な画像形成装置の例は、830nmの波長の放射を放出するレーザーダイオードを含むKODAK(登録商標)Trendsetterプレートセッター(Eastman Kodak Company)およびNEC AMZISetter Xシリーズ(NEC Corporation、日本)のモデルとして入手可能である。他の適切な画像形成装置には、波長810nmで動作するScreen PlateRite 4300シリーズもしくは8600シリーズプレートセッター(Screen USA、イリノイ州シカゴから入手可能)、またはPanasonic Corporation(日本)製のサーマルCTPプレートセッターが含まれる。
【0112】
赤外線放射感受性画像記録層がオゾンの存在に感受性である場合、レーザー画像形成の環境中のオゾンを低減または除去するための手段を含むことが望ましい場合がある。これを行うための有用な手段およびシステムは、例えば、米国特許出願公開第2019/0022995号明細書(Igarashiら)に記載されている。
【0113】
赤外線放射画像形成源が使用される場合、画像形成エネルギー強度が、赤外線放射感受性画像記録層の感度に応じて、少なくとも30mJ/cm2および500mJ/cm2以下、典型的には少なくとも50mJ/cm2および300mJ/cm2以下となり得る。板製造プロセスにおける高い生産性のために、赤外線放射エネルギー強度は、一般的に、150mJ/cm2以下、または120mJ/cm2以下、またはさらには90mJ/cm2以下である。
【0114】
処理(現像)および印刷
上記の画像様露光後、赤外線放射感受性画像記録層に赤外線放射露光領域および赤外線放射非露光領域を有する露光赤外線放射感受性平版印刷版原版をオフプレスまたはオンプレスで処理して、赤外線放射非露光領域(およびこのような領域上の任意の親水性保護層)を除去することができる。この処理後および平版印刷中、あらわにされた親水性基板表面はインクを跳ね返し、残りの赤外線放射露光領域は平版印刷インクを受容する。
【0115】
オフプレス現像および印刷:
処理は、同じまたは異なる処理溶液(現像剤)の1回または複数回の連続適用(処理または現像工程)において、任意の適切な現像剤を使用してオフプレスで行うことができる。このような1回または複数回の連続処理は、赤外線放射感受性画像記録層の赤外線放射非露光領域を除去して基板の最外親水性表面をあらわにするのに十分であるが、有意な量の同じ層内で硬化された赤外線放射露光領域を除去するのに十分長くはない時間、行うことができる。
【0116】
このようなオフプレス処理の前に、露光原版を「予熱」プロセスに供して、赤外線放射感受性画像記録層の赤外線放射露光領域をさらに硬化させることができる。このような任意の予熱は、一般的に少なくとも60℃および180℃以下の温度で、任意の既知のプロセスおよび装置を使用して行うことができる。
【0117】
この任意の予熱に続いて、または予熱の代わりに、あらわになった原版を洗浄して(すすいで)、存在する親水性オーバーコートを除去することができる。このような任意の洗浄(またはすすぎ)は、任意の適切な水溶液(水または界面活性剤の水溶液など)を使用して、当業者には容易に明らかであろう適切な温度で適切な時間にわたって行うことができる。
【0118】
有用な現像剤は、通常の水または配合された水溶液であり得る。配合された現像剤は、界面活性剤、有機溶媒、アルカリ剤、および表面保護剤から選択される1つまたは複数の成分を含むことができる。例えば、有用な有機溶媒には、フェノールとエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドの反応生成物[エチレングリコールフェニルエーテル(フェノキシエタノール)など]、ベンジルアルコール、エチレングリコールおよびプロピレングリコールと6個以下の炭素原子を有する酸のエステル、ならびにエチレングリコール、ジエチレングリコールおよびプロピレングリコールと6個以下の炭素原子を有するアルキル基のエーテル、例えば、2-エチルエタノールおよび2-ブトキシエタノールが含まれる。
【0119】
いくつかの例では、水性処理溶液をオフプレスで使用して、赤外線放射非露光領域を除去することによって画像形成原版を現像することと、画像形成し、現像(処理)した原版印刷面全体にわたって保護層またはコーティングを提供することの両方ができる。この実施形態では、水溶液が、いくぶん汚染または損傷から(例えば、酸化、指紋、塵または引っかき傷から)平版印刷版上の平版画像を保護(または「ゴム引き(gumming)」)することができるゴムのようにふるまう。
【0120】
記載されるオフプレス処理および任意の乾燥の後、得られた平版印刷版を、追加の溶液または液体と接触することなく印刷機に取り付けることができる。ブランケットまたはUVもしくは可視放射へのフラッド様露光(flood-wise exposure)の有無にかかわらず、平版印刷版をさらに焼成することは任意である。
【0121】
適切な方法で平版印刷インクおよび湿し水を平版印刷版の印刷面に適用することによって、印刷を行うことができる。湿し水が露光工程および処理工程によってあらわになった基板の親水性表面に取り込まれ、平版インクが赤外線放射感受性画像記録層の残りの(露光)領域に取り込まれる。次いで、平版インクを適切な受容材料(布、紙、金属、ガラスまたはプラスチックなど)に転写してその上に画像の所望の刷りを提供する。所望であれば、中間「ブランケット」ローラーを使用して平版インクを平版印刷版から受容材料(例えば、用紙)に転写することができる。
【0122】
オンプレス現像および印刷:
あるいは、本発明の平版印刷版原版は、平版印刷インク、湿し水、または平版印刷インクと湿し水の組み合わせを使用してオンプレス現像可能である。このような実施形態では、本発明による画像形成(赤外線放射露光)赤外線放射感受性平版印刷版原版が印刷機に取り付けられて、印刷操作が開始される。赤外線放射感受性画像記録層の赤外線放射非露光領域は、最初の印刷物が作成される際に、適切な湿し水、平版印刷インク、または両者の組み合わせによって除去される。水性湿し水の典型的な成分には、pH緩衝剤、減感剤、界面活性剤および湿潤剤、保湿剤、低沸点溶媒、殺生物剤、消泡剤および金属イオン封鎖剤が含まれる。湿し水の代表的な例としてはVarn Litho Etch 142W+Varn PAR(アルコールサブ)(Varn International、Addison、ILから入手可能)がある。
【0123】
枚葉印刷機を使用する典型的な印刷機の運転開始では、最初に湿しローラーを係合し、取り付けられた画像形成原版に湿し水を供給して、少なくとも赤外線放射非露光領域で露光赤外線放射感受性画像記録層を膨潤させる。数回転後、インクローラーを係合し、平版印刷版の印刷面全体を覆うように平版印刷インクを供給する。典型的には、インクローラー係合後5~20回転以内に、印刷シートを供給して、形成されたインク-湿し水エマルジョンを使用して、平版印刷版から赤外線放射感受性画像記録層の赤外線放射非露光領域、ならびに存在する場合はブランケットシリンダー上の材料を除去する。
【0124】
赤外線放射露光平版印刷原版のオンプレス現像性は、原版が赤外線放射感受性画像記録層に1つまたは複数のポリマーバインダー材料(フリーラジカル重合性であるかどうかにかかわらず)を含み、このポリマーバインダーの少なくとも1つが少なくとも50nmおよび400nm以下の平均径を有する粒子として存在する場合に特に有用である。
【0125】
本発明は、少なくとも以下の実施形態およびその組み合わせを提供するが、当業者が本開示の教示から認識する特徴の他の組み合わせが本発明の中にあると考えられる。
【0126】
1.基板と、
基板上に配置され、以下の成分(1)、(2)、(3)、および(4)、および(5):
(1)赤外線放射に露光するとフリーラジカルを生成することができ、ボレート化合物を含むフリーラジカル開始剤組成物;
(2)フリーラジカル重合性組成物;
(3)以下の式(I)によって表される酸感受性変色性化合物:
【化15】
(式中、
Ar
1は、置換もしくは非置換アリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリール基であり;
R
1およびR
2は独立して、水素、それぞれ1~12個の炭素原子を有する置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、または置換もしくは非置換複素芳香族基であるか、あるいはR
1およびR
2は結合して縮合環を形成することができ;
R
3は、1~12個の炭素を有する置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリール基であり;
R
4およびR
5は独立して、水素、それぞれ1~12個の炭素原子を有する置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、または置換もしくは非置換複素芳香族基であり;
R
6およびR
7は独立して、水素、または1~12個の炭素を有する置換もしくは非置換アルキル基である、
あるいはR
4およびR
6は一緒に結合して環状構造を形成することができるか、あるいはR
5およびR
7は一緒に結合して環状構造を形成することができるか、あるいはR
4およびR
5のいずれかまたは両方はそれぞれR
6およびR
7に結合することができる);
(4)赤外線吸収材料;および
(5)式(III)または式(IV)のいずれかによって表される変色性化合物:
【化16】
【化17】
(式中、
Ar1’、Ar2’およびAr3’は独立して、置換もしくは非置換芳香環を完成させるため、または置換もしくは非置換複素芳香環を完成させるために必要な原子団を表し;
Yは、酸素原子、硫黄原子、または>C(R
4’R
5’)(式中、R
4’およびR
5’は独立して、それぞれ1~4個の炭素を有する置換または非置換アルキル基である)によって表されるジアルキルメチレン基を表し;
R”は、水素、置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、または置換もしくは非置換ヘテロアリール基であり;
R
1’およびR
2’は独立して、置換または非置換アルキル基であり;
Xは、単結合または-S-、-O-、および>N(R
6’)(式中、R
6’は、水素、置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、置換もしくは非置換ヘテロアリール基、またはLである)から選択される二価連結基を表し;
Lは、-C(=O)-OR
7’基、-SO
2-R
3’基、または-SO
2NR
8’R
9’基(式中、R
7’は、-C(=O)OR
7’基の残りに接続する第二級または第三級接続炭素を有する置換または非置換アルキル基を表し;R
3’、R
8’およびR
9’は独立して、置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、または置換もしくは非置換ヘテロアリール基を表し;R
7’は、水素、置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、または置換もしくは非置換ヘテロアリール基である)を表し;
A
1およびA
2は独立して、置換または非置換アルキル基を表すか、あるいは一緒になって、置換または非置換の5員または6員非芳香族炭素環式環を形成するのに必要な2個または3個の炭素原子を表し;
Zaは、式(III)または式(IV)による変色性化合物の残りの電荷のバランスをとるための1つまたは複数の対イオンを表す)
を含む赤外線放射感受性画像記録層と
を含む平版印刷版原版であって、
ボレート化合物は、以下の式(VI):
[B(R
10’R
11’R
12’R
13’)
-]
n M
n+
式(VI)
(式中、R
10’、R
11’、R
12’およびR
13’は独立して、置換もしくは非置換アルキル基または置換もしくは非置換アリール基であり、R
10’、R
11’、R
12’およびR
13’のうちの少なくとも3つは置換または非置換アリール基であり;M
n+はn価カチオンであり、nは正の整数である)
によって表される、平版印刷版原版。
【0127】
2.R3が1~6個の炭素原子を有する置換または非置換アルキル基である、実施形態1に記載の平版印刷版原版。
【0128】
3.R4およびR5が独立して、それぞれ1~6個の炭素原子を有する置換または非置換アルキル基である、実施形態1または2に記載の平版印刷版原版。
【0129】
4.Ar
1が以下の基:
【化18】
(式中、R
3、R
4、R
5、R
6およびR
7は上に定義される通りであり、R
8、R
9およびR
10は独立して、水素、またはそれぞれ1~12個の炭素原子を有する置換もしくは非置換アルキル基である)
のうちの1つである、実施形態1から3のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0130】
5.成分(3)酸感受性変色性化合物が式(II)
【化19】
(式中、R
1~R
7は式(I)と同じ意味を有する)
によって表される、実施形態1から4のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0131】
6.成分(1)フリーラジカル開始剤組成物がオニウム塩を含む、実施形態1から5のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0132】
7.成分(1)フリーラジカル開始剤組成物がジアリールヨードニウムカチオンを含む、実施形態1から6のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0133】
8.ボレート化合物がテトラフェニルボレートアニオンを含む、実施形態1から7のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0134】
9.成分(1)フリーラジカル開始剤組成物がジアリールヨードニウムカチオンおよびテトラアリールボレートアニオンを含む、実施形態1から8のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0135】
10.赤外線放射感受性画像記録層が、上に定義される成分(1)、(2)、(3)、(4)および(5)の全てとは異なる成分(6)非フリーラジカル重合性ポリマー材料をさらに含む、実施形態1から9のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0136】
11.成分(6)非フリーラジカル重合性ポリマー材料が粒子形態で存在する、実施形態10に記載の平版印刷版原版。
【0137】
12.赤外線放射露光後、赤外線放射感受性画像記録層が、平版インク、湿し水、または平版インクと湿し水との組み合わせを使用してオンプレスで現像可能である、実施形態1から11のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0138】
13.成分(3)式(I)によって表される酸感受性変色性化合物が、赤外線放射感受性画像記録層の総乾燥被覆度に基づいて、少なくとも0.5重量%および15重量%以下の乾燥被覆度量で赤外線放射感受性画像記録層中に存在する、実施形態1から12のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0139】
14.赤外線放射感受性画像記録層が最外層である、実施形態1から13のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0140】
15.成分(2)フリーラジカル重合性組成物が少なくとも2つのフリーラジカル重合性成分を含む、実施形態1から14のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0141】
16.赤外線放射感受性画像記録層が、その各々が以下の構造(P):
【化20】
(構造(P)中:
X’は、二価基-O-、-S-、-NH-または-CH
2-のうちの1つであり;
Y’は、1または三価基>N-または>CH-であり;
R
1は、水素または置換もしくは非置換アルキル基であり;
R
2およびR
3は独立して、ハロ、チオアルキル、チオフェニル、アルコキシ、フェノキシ、アルキル、フェニル、チオアセチルまたはアセチル基であり;
mおよびnは独立して、0または1~4の整数である)
によって表される、1つまたは複数の化合物をさらに含む、実施形態1から15のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0142】
17.基板が、少なくとも1つの酸化アルミニウム層と、少なくとも1つの酸化アルミニウム層上に配置された親水性ポリマーコーティングとを含むアルミニウム含有基板を含む、実施形態1から16のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0143】
18.基板が、少なくとも内側酸化アルミニウム層と、内側酸化アルミニウム層上に配置された外側酸化アルミニウム層と、外側酸化アルミニウム層上に配置された親水性ポリマーコーティングとを含むアルミニウム含有基板を含む、実施形態1から17のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0144】
19.平版印刷版を提供する方法であって、
A)実施形態1から18のいずれかに記載の平版印刷版原版を赤外線放射に画像様露光して、赤外線放射感受性画像記録層に赤外線放射露光領域および赤外線放射非露光領域を得る工程と、
B)基板から赤外線放射感受性画像記録層の赤外線放射非露光領域を除去する工程と
を含む方法。
【0145】
20.平版印刷インク、湿し水、または平版印刷インクと湿し水の組み合わせを使用して、オンプレスで基板から赤外線放射感受性画像記録層の赤外線放射非露光領域を除去する工程を含む、実施形態19に記載の方法。
【0146】
21.工程(A)の直後の赤外線放射感受性画像記録層の赤外線放射露光領域と赤外線放射非露光領域との間の反射吸光度の差が少なくとも0.02である、実施形態19または20に記載の方法。
【0147】
22.工程(A)が120mJ/cm2以下の赤外線放射エネルギーで行われる、実施形態18から21のいずれかに記載の方法。
【0148】
以下の実施例は、本発明の実施をさらに説明するために提供するものであって、何ら限定的であることを意図していない。特に指示しない限り、実施例で使用される材料は、示される種々の商業的供給源から得たが、他の商業的供給源も利用可能であり得る。
【0149】
アルミニウム含有基板を、以下の方法で平版印刷版原版のために調製した:
厚さ0.28 mmのHydro 1052アルミニウム合金ストリップまたはウェブ(Norsk Hydro ASA、ノルウェーから入手可能)をアルミニウム含有「板」ストックまたは支持体として使用した。プレエッチング工程とポストエッチング工程の両方を、既知の条件下、アルカリ溶液中で行った。エッチングされたアルミニウム支持体の粗面化(または粒子化)を23℃の塩酸溶液中で電気化学的手段によって行って、アルミニウム含有支持体の表面の算術平均粗さ(Ra)0.4μmを得た。その後、アルミニウム含有支持体を、電解質としてリン酸を使用した単一陽極酸化処理に供して、1.1 g/m2の酸化アルミニウム層を形成した。陽極酸化工程を、平版印刷版原版を製造するために使用される典型的な製造ラインにおいて連続プロセスで行った。次いで、このようにして調製されたアルミニウム含有支持体を、本発明において有用な基板について0.03 g/m2の乾燥厚さを与えるようにポリアクリル酸の水溶液でコーティングした。
【0150】
次いで、以下に記載される発明原版および比較原版の各々について、バーコーターを使用して、以下の表IおよびIIに示される成分および量を有する赤外線放射感受性組成物配合物を個別にコーティングすることによって、ネガ型赤外線放射感受性画像記録層を記載されるアルミニウム含有基板上に形成して、50℃で60秒間の乾燥後に乾燥コーティング重量0.9 g/m2を得た。表Iに記載される原料は、以下の表IIで識別される。表IIに列挙される酸感受性変色性化合物(ASCC)のそれぞれについて、以下の表IIIにおいて、ピーク吸収電磁波長(λmax)、およびTechkon SpectroDensによる620nmの波長での画像対非画像のスペクトル密度の測定によって受信されるそれらの吸光度の推定も提供される。
【0151】
これらの材料は、化学薬品の1つまたは複数の商業的供給源から得ることができるか、または既知の合成方法および出発材料を使用して調製することができる。
【0152】
【0153】
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
【0159】
【0160】
前の表IIに記載される酸感受性変色性化合物(すなわち、発明のASCCおよび比較ASCC化合物)の発色λmax値を、酸感受性変色性化合物の量に対して1当量のHClを含有するメタノール溶液中で測定した。
【0161】
発明の平版印刷版原版および比較平版印刷版原版(または得られた平版印刷版)のそれぞれを、「オンプレス現像性」(DOP)、「フォトスピード(photospeed)」、「プリントアウトΔODシアン」、「プリントアウトΔODシアンの暗退色」および「カメラ可読性」の5つの試験を使用して評価した。結果を表IIIにおいて以下に要約する。
【0162】
各原版を、15~150mJ/cm2の画像形成エネルギーで、市販のKodak Trendsetter 3244xイメージセッターで画像様露光し、よって、赤外線放射露光領域および赤外線放射非露光領域を有する画像様露光平版印刷版原版を形成した。
【0163】
オンプレス現像性(DOP):
別個のオフプレス現像(処理)を行わずに、各画像様赤外線放射露光平版印刷版原版をMAN Roland Favorite 04印刷機に取り付けることによって、オンプレス現像性を評価した。湿し水(Varn Supreme 6038)および平版印刷インク(Gans Cyan)を供給し、平版印刷を実施した。オンプレス現像は印刷中に起こり、これを、きれいな背景を得るのに必要な印刷用紙の数を数えることによって評価し、きれいな背景を達成するための印刷用紙の数に基づいて、各原版に以下の定性的値のうちの1つを与えた。+および0の評価が、この試験パラメータについて許容可能である。
+ 5枚未満の印刷用紙
0 5~15枚の印刷用紙
- 15枚超の印刷用紙
【0164】
フォトスピード:
赤外線放射露光平版印刷版原版の各々のフォトスピードを決定することによって印刷機の寿命を推定した。原版を上記のように赤外線放射露光し、オンプレスで現像した。フォトスピードを、異なる赤外線放射エネルギーに露光された固体領域のインク密度の決定によって、1000回刷り後に紙の印刷物で測定した。インク密度対露光エネルギーの変曲点が画像形成速度の尺度と見なされる。個々の実験の結果として以下の定性値が与えられ、より低い画像形成エネルギーが望ましい。+および0の評価が、このパラメータについて許容可能である。
+ フォトスピード<20mJ/cm2
0 フォトスピード=20~50mJ/cm2
- フォトスピード>50mJ/cm2
【0165】
プリントアウトΔODシアン:
平版印刷版原版の各々を、90mJ/cm2で上記のように画像様露光して、ネガ型IR感受性画像記録層に赤外線放射露光領域および赤外線放射非露光領域を得た。各画像様露光平版印刷版原版について、Techkon Spectro Densスペクトル密度計を使用して、測定されたL*、a*およびb*色度値のユークリッド距離を計算して、赤外線放射露光領域と赤外線放射非露光領域の色の違いを測定した。シアンΔODは、赤外線放射露光領域と赤外線放射非露光領域との間でシアンフィルタを通して観察される反射光学密度の差を表す。高いシアンΔOD絶対値を有する平版印刷版原版上の視覚画像は、約620~640nmの光を発するダイオード光源を用いて構築されるカメラおよびその他の読み取り装置によってより読み取り可能であると予想される。測定値を以下の通り各原版について点数化した。
+ ΔODシアン>0.200
0 0.1≦ΔODシアン≦0.200
- ΔODcyan<0.100
【0166】
プリントアウトΔODシアンの暗退色:
赤外線放射感受性原版の各々を、上記のように赤外線放射に画像様露光し、周囲条件で暗所で保管した。評価をΔODシアンについて上記のように、但し画像形成の24時間後に実施した(ΔODシアン.24時間)。視覚画像の退色は、画像形成直後に測定した初期ΔODシアン(ΔODシアン0時間)に対して相対的に評価した。測定値を以下の通り各原版について点数化した:
+ ΔODシアン、24時間/ΔODシアン、0時間≧0.90
0 0.90>ΔODシアン、24時間/ΔODシアン、0時間>0.80
- ΔODシアン、24時間/ΔODシアン、0時間≦0.80
【0167】
カメラ可読性:
平版印刷版原版の各々を上記のように90mJ/cm2で画像様露光した。最も一般的な装置によるカメラ可読性の一般的な評価のために、画像形成領域(赤外線放射レーザーによって露光された領域)および赤外線放射非画像形成領域(赤外線放射レーザーによって露光されていない領域)の原版の吸光度スペクトルを、反射モードでTechkon SpektroDens分光光度計を使用して記録した。各原版について、赤外線放射露光領域および赤外線放射非露光領域の吸光度スペクトルから620nmでの吸光度値を読み取り、620nmでの差、Δ吸光度を使用して、以下の点数化基準に従ってカメラ可読性を評価した。「0」スコアは許容可能なカメラ可読性を示し、「+」スコアは優れたカメラ可読性を示し、「-」スコアは不十分なカメラ可読性を示す。
+ 620nmでのΔ吸光度>0.050
0 0.050>620nmでのΔ吸光度>0.030
- 620nmでのΔ吸光度<0.030
【0168】
原版の上記評価の結果を以下の表IIIに示す。
【0169】
【0170】
【0171】
表IIIにおいて上に示される結果は、本発明による(3)酸感受性変色性化合物である発明のASCC1~ASCC5の使用が、オンプレス現像性またはフォトスピードなどの他の印刷版または原版パラメータを損なうことなく、プリントアウト形成および暗所での保管後のプリントアウト安定性の点から、本発明の範囲外である比較酸感受性変色性化合物である比較ASCC1~ASCC7よりも優れた結果を提供したことを実証している。これらの結果は、ここで実証されるように、式(I)のR3、R4、およびR5位の置換基に関係なく達成された。式(I)のR1およびR2としてメチル基を有する(3)酸感受性変色性化合物(発明のASCC2)がわずかに強度が弱いプリントアウト形成および退色を示したが、プリントアウトは比較実施例で観察されたものよりも依然としてはるかに強かった発明実施例2の露光原版。(3)酸感受性変色性化合物として発明のASCC3を使用した発明実施例3からのデータは、本発明による1つの基(パラ位にアミノ基およびオルト位にアルコキシ基を有する芳香族基)が、この構造による2つの芳香族基が合成の観点から調製が可能であり、より容易であるにもかかわらず、所望の効果を達成するのに十分であることを実証した。
【0172】
比較実施例3からのデータはまた、特定の波長での吸光度が低いままである場合、所望の波長に近い吸光度最大値(すなわち、吸収ピーク)が十分なコントラストを提供しないことを示した。
【0173】
発明実施例1対比較実施例1からのデータは、この構造要素が欠損している場合に吸光度の減少および所望のコントラストの喪失が生じるので、式(I)中のアルコキシ基OR3の臨界性を示した。発明実施例1対比較実施例3からのデータは、複素芳香環に第2の窒素がないと吸光度が減少するので、式(I)のピラジン構造自体の重要性を実証している。
【手続補正書】
【提出日】2024-01-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に配置され、以下の成分(1)、(2)、(3)、(4)および(5):
(1)赤外線放射に露光するとフリーラジカルを生成することができ、ボレート化合物を含むフリーラジカル開始剤組成物;
(2)フリーラジカル重合性組成物;
(3)以下の式(I)によって表される酸感受性変色性化合物:
【化1】
(式中、
Ar
1は、置換もしくは非置換アリールまたは置換もしくは非置換ヘテロアリール基であり;
R
1およびR
2は独立して、水素、それぞれ1~12個の炭素原子を有する置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、または置換もしくは非置換複素芳香族基であるか、あるいはR
1およびR
2は結合して縮合環を形成することができ;
R
3は、1~12個の炭素を有する置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換ヘテロアリール基であり;
R
4およびR
5は独立して、水素、それぞれ1~12個の炭素原子を有する置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、または置換もしくは非置換複素芳香族基であり;
R
6およびR
7は独立して、水素、または1~12個の炭素を有する置換もしくは非置換アルキル基であるか、
あるいはR
4およびR
6は一緒に結合して環状構造を形成することができるか、あるいはR
5およびR
7は一緒に結合して環状構造を形成することができるか、あるいはR
4およびR
5のいずれかまたは両方はそれぞれR
6およびR
7に結合することができる);
(4)赤外線吸収材料;および
(5)式(III)または式(IV)のいずれかによって表される変色性化合物:
【化2】
【化3】
(式中、
Ar1’、Ar2’およびAr3’は独立して、置換もしくは非置換芳香環を完成させるため、または置換もしくは非置換複素芳香環を完成させるために必要な原子団を表し;
Yは、酸素原子、硫黄原子、または>C(R
4’R
5’)(式中、R
4’およびR
5’は独立して、それぞれ1~4個の炭素を有する置換または非置換アルキル基である)によって表されるジアルキルメチレン基を表し;
R”は、水素、置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、または置換もしくは非置換ヘテロアリール基であり;
R
1’およびR
2’は独立して、置換または非置換アルキル基であり;
Xは、単結合または-S-、-O-、および>N(R
6’)(式中、R
6’は、水素、置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、置換もしくは非置換ヘテロアリール基、またはLである)から選択される二価連結基を表し;
Lは、-C(=O)-OR
7’基、-SO
2-R
3’基、または-SO
2NR
8’R
9’基(式中、R
7’は、-C(=O)OR
7’基の残りに接続する第二級または第三級接続炭素を有する置換または非置換アルキル基を表し;R
3’、R
8’およびR
9’は独立して、置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、または置換もしくは非置換ヘテロアリール基を表し;R
7’は、水素、置換もしくは非置換アルキル基、置換もしくは非置換アリール基、または置換もしくは非置換ヘテロアリール基である)を表し;
A
1およびA
2は独立して、置換または非置換アルキル基を表すか、あるいは一緒になって、置換または非置換の5員または6員非芳香族炭素環式環を形成するのに必要な2個または3個の炭素原子を表し;
Zaは、式(III)または式(IV)による変色性化合物の残りの電荷のバランスをとるための1つまたは複数の対イオンを表す)
を含む赤外線放射感受性画像記録層と
を含む平版印刷版原版であって、
前記ボレート化合物は、以下の式(VI):
[B(R
10’R
11’R
12’R
13’)
-]
n M
n+
式(VI)
(式中、R
10’、R
11’、R
12’およびR
13’は独立して、置換もしくは非置換アルキル基または置換もしくは非置換アリール基であり、R
10’、R
11’、R
12’およびR
13’のうちの少なくとも3つは置換または非置換アリール基であり;M
n+はn価カチオンであり、nは正の整数である)
によって表される、平版印刷版原版。
【請求項2】
R
3が1~6個の炭素原子を有する置換または非置換アルキル基である、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項3】
R
4およびR
5が独立して、それぞれ1~6個の炭素原子を有する置換または非置換アルキル基である、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項4】
Ar
1が以下の基:
【化4】
(式中、R
3、R
4、R
5、R
6およびR
7は上に定義される通りであり、R
8、R
9およびR
10は独立して、水素、またはそれぞれ1~12個の炭素原子を有する置換もしくは非置換アルキル基である)
のうちの1つである、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項5】
前記成分(3)酸感受性変色性化合物が式(II)
【化5】
(式中、R
1~R
7は式(I)と同じ意味を有する)
によって表される、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項6】
前記成分(1)フリーラジカル開始剤組成物がジアリールヨードニウムカチオンを含む、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項7】
前記ボレート化合物がテトラフェニルボレートアニオンを含む、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項8】
前記赤外線放射感受性画像記録層が、その各々が以下の構造(P):
【化6】
(構造(P)中:
X’は、二価基-O-、-S-、-NH-または-CH
2-のうちの1つであり;
Y’は、1または三価基>N-または>CH-であり;
R
1は、水素または置換もしくは非置換アルキル基であり;
R
2およびR
3は独立して、ハロ、チオアルキル、チオフェニル、アルコキシ、フェノキシ、アルキル、フェニル、チオアセチルまたはアセチル基であり;
mおよびnは独立して、0または1~4の整数である)
によって表される、1つまたは複数の化合物をさらに含む、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項9】
平版印刷版を提供する方法であって、
A)請求項1に記載の平版印刷版原版を赤外線放射に画像様露光して、前記赤外線放射感受性画像記録層に赤外線放射露光領域および赤外線放射非露光領域を得る工程と、
B)前記基板から前記赤外線放射感受性画像記録層の前記赤外線放射非露光領域を除去する工程と
を含む方法。
【請求項10】
平版印刷インク、湿し水、または平版印刷インクと湿し水の組み合わせを使用して、オンプレスで前記基板から前記赤外線放射感受性画像記録層の前記赤外線放射非露光領域を除去する工程を含む、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
工程(A)の直後の前記赤外線放射感受性画像記録層の前記赤外線放射露光領域と前記赤外線放射非露光領域との間の反射吸光度の差が少なくとも0.02である
か、及び/又は、工程(A)が120mJ/cm
2以下の赤外線放射エネルギーで行われる、請求項
9に記載の方法。
【国際調査報告】