(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】複合フィルタ材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D04H 1/728 20120101AFI20240719BHJP
D04H 1/4326 20120101ALI20240719BHJP
D03D 15/283 20210101ALI20240719BHJP
D03D 15/513 20210101ALI20240719BHJP
D01F 6/74 20060101ALI20240719BHJP
D01F 6/66 20060101ALI20240719BHJP
D01F 6/76 20060101ALI20240719BHJP
D01D 5/04 20060101ALI20240719BHJP
D06M 10/02 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
D04H1/728 ZNM
D04H1/4326
D03D15/283
D03D15/513
D01F6/74 A
D01F6/66
D01F6/76 D
D01D5/04
D06M10/02 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024504896
(86)(22)【出願日】2022-07-14
(85)【翻訳文提出日】2024-01-25
(86)【国際出願番号】 IB2022056497
(87)【国際公開番号】W WO2023007296
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】102021000019997
(32)【優先日】2021-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】593197248
【氏名又は名称】サーティ・エッセ・ピ・ア
【氏名又は名称原語表記】SAATI S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サバティーニ、ヴァレンティーナ
(72)【発明者】
【氏名】シモーネ、マルティーナ
(72)【発明者】
【氏名】ルチニャーノ、カルミネ
(72)【発明者】
【氏名】カノニコ、パオロ
【テーマコード(参考)】
4L031
4L035
4L045
4L047
4L048
【Fターム(参考)】
4L031AA12
4L031AB31
4L031CB05
4L031DA17
4L035AA04
4L035BB02
4L035BB11
4L035DD13
4L035DD14
4L035EE01
4L045AA01
4L045AA08
4L045BA34
4L045DA36
4L047AA26
4L047AB03
4L047AB08
4L047BA08
4L047CA04
4L047CB05
4L047CC12
4L047CC16
4L048AA19
4L048AA53
4L048AB10
4L048CA06
4L048CA15
4L048EB00
(57)【要約】
横糸と縦糸を有するタイプの精密布地からなり、その表面に電界紡糸によってナノファイバーが堆積された複合フィルタ材。複合フィルタ材を製造する方法であって、ナノファイバーを形成するための電界紡糸のステップと、それに続く、基布上に前記ナノファイバーを堆積させるステップとを含む方法;この方法は、ノズルと電極の間に電位差を設けることからを含み;ナノファイバーは、電場による溶媒または溶媒の混合物の蒸発と、ノズルによる電極上に堆積したポリマーの延伸の結果として形成され;このようにして形成されたナノファイバーは、その後延伸され、前記基布上に堆積される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
横糸と縦糸を有する基布を含み、その表面にナノファイバー(3)が電界紡糸によって堆積されており、前記基布が、前記ナノファイバー(3)と接触する表面に、ナノファイバー(3)自体を取り込み、糸またはモノフィラメント(2)自体の表面にそれらを保持する膨潤部(4)を有する糸またはモノフィラメント(2)の布地であることを特徴とする複合フィルタ材。
【請求項2】
前記布地が、糸の本数が3~200本/cm、直径が24~600μmの合成モノフィラメント布地から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の複合フィルタ材。
【請求項3】
前記布地が、24~600μmの直径を有し、3~200糸/cmの糸数を有する合成モノフィラメント基布から選択され、室温から300℃までの高いプロセス温度に耐えることができることを特徴とする、請求項1に記載の複合フィルタ材。
【請求項4】
仕上げ処理及び更なる表面処理として、メタライゼーション、洗浄およびヒートセットされた白色布地、着色布地、プラズマ処理、疎水性処理、親水性処理、抗菌処理、帯電防止処理などを施した布地から選択される布地が使用されることを特徴とする、請求項1に記載の複合フィルタ材。
【請求項5】
前記布地が、3~200本/cmの糸本数、24~600μmの直径を有する合成モノフィラメント布地から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の複合フィルタ材。
【請求項6】
前記布地が、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製のモノフィラメント布地であり、糸本数が71本/cm、直径が35μm、基布の目開きが102μm、目付が20g/m
2、厚さが65μmであることを特徴とする、請求項1に記載の複合フィルタ材。
【請求項7】
前記ナノファイバーが、最高300℃までの高いプロセス温度に耐えることができるポリマーのナノファイバーであることを特徴とする、請求項1に記載の複合フィルタ材。
【請求項8】
前記ナノファイバーは、100~220nmの直径を有するポリイミド(PI)ナノファイバーであることを特徴とする、請求項1に記載の複合フィルタ材。
【請求項9】
前記ナノファイバー(3)がポリイミドナノファイバーであり、プラズマ処理後の前記フィルタ材が、フィルタ材の表面に堆積した油を除去するために必要なエネルギーを劇的に低減することを特徴とする、請求項1に記載の複合フィルタ材。
【請求項10】
ナノファイバーを形成するための電界紡糸のステップと、前記ナノファイバーを基布上に堆積させるその後のステップとを含むことを特徴とする、前記請求項の1つまたは複数に記載の複合フィルタ材を製造するための方法であって、
前記方法は、溶媒または溶媒の混合物に溶解したナノファイバー形成用の材料を、電極上に広げるためにノズルを通して注入することを含み、
前記方法は、前記ノズルと電極との間に電位差を設けることを含み、
前記ナノファイバーは、電場による前記溶媒または溶媒混合物の蒸発、およびノズルによる電極上に堆積されたポリマーの伸長の結果として形成され、
このようにして形成された前記ナノファイバーは、その後延伸され、前記基布上に堆積され、
前記ナノファイバー(3)が、基布上および/またはナノファイバー層上に塗布された接着剤および/または粘着剤の助けを借りずに、前記基布の糸(2)の膨潤部(4)であって、糸(2)自体の前記ナノファイバー(3)との接触面上に形成された膨潤部(4)において、前記基布に接着する、方法。
【請求項11】
ナノファイバー(3)の形成を伴う、ジメチルアセトアミド(DMAc)とN-メチル-2-ピロリドン(NMP)とのNMP過剰の混合物中のポリイミドの溶液の電界紡糸を含み、
前記電界紡糸は、基布の前記糸(2)上に堆積し、前記混合溶媒で湿らせることにより、後者との接触面に、糸(2)自体へのナノファイバー(3)の接着を促進する膨潤(4)を形成する、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、複合フィルタ材及びその製造方法である。
【0002】
本発明は、特に、スピーカ、レシーバ、マイクロホンなどの民生用電子機器分野における電気音響部品の保護材として使用するための布地の形態の複合フィルタ材に関する。
【背景技術】
【0003】
外部要因に対する適切な保護と同時に十分な音響性能を提供することを目的として、音響装置の保護に使用される様々な布地が知られている。
【0004】
上述した分野で使用されている従来の複合布地は、メッシュがナノファイバーの層でコーティングされているが、300℃までの温度に耐えられないという欠点がある。実際、繊維を形成する繊維は熱によって劣化する傾向があり、基本的に要求される性能を確保するのに適した熱特性を有していない。
【0005】
先行する複合材料のさらなる欠点は、ナノファイバーと、布地の網目を形成するモノフィラメントとの間の接着性の低さに代表される。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、これまで知られているフィルタ材と比較して改良され、より高い性能を呈する複合フィルタ材を提供することである。
【0007】
特に、本発明の目的は、先行技術による複合布地と同等またはそれ以上のフィルタリング性能を示すことにより、300℃までの温度にも耐えることができる、電気音響部品用のフィルタリング作用を有する新規な複合布地を提供することである。
【0008】
本発明のさらなる目的は、接着添加剤を使用しなくても、布地メッシュのフィラメントとコーティングのナノファイバーとの間の接着を向上させることができる、上述のタイプの複合布地を提供することである。
【0009】
上記の目的の範囲内で、本発明の目的は、補聴器および音響装置の製造に特に有用なフィルタ材を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、少なくとも従来の布地と同様の十分な機能を確保することができ、しかも保護能力が改善されたフィルタ材を提供することである。
【0011】
本発明のさらなる目的は、より優れた音響性能と、微粒子の侵入からの保護のより優れた特性とを同時に確保し得るフィルタ材を提供することである。
【0012】
本発明のさらに別の目的は、従来の布地と少なくとも同等の通気性および音響インピーダンスの値を保証することができるが、従来の布地よりも優れた金属粉塵、繊維粉塵などの侵入に対する保護度を有するフィルタ材を提供することである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、スピーカー、レシーバー、マイクロフォンなどのコンシューマーエレクトロニクス分野における電気音響部品の保護に有利に使用できるフィルタ材を提供することである。
【0014】
本発明のさらなる目的は、使用時の信頼性と安全性を可能な限り広く保証できるフィルタ材を提供することである。
【0015】
これらの目的および他の目的は、以下により明らかになるが、添付の特許請求の範囲に特定される複合フィルタ材及びその製造方法によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明の対象のさらなる特徴および利点は、添付の図面に指示的かつ非限定的な例として例示されている、排他的ではないが、本発明の好ましい実施形態の説明を検討することにより、より明らかになるであろう。
【0017】
【
図1】本発明による複合フィルタ材を示し、PEEK71.35モノフィラメント基布、すなわち、1cmの布に71本の横糸および縦糸を有し、公称直径が35μmのポリエーテルエーテルケトンのモノフィラメントによって構成されている。 基布は、電界紡糸プロセスにより溶液中で堆積させたポリイミドナノファイバーのコーティングを有する。適切な溶媒は、DMAc(ジメチルアセトアミド)とNMP(N-メチル-2-ピロリドン)の重量比40:60である。この混合溶媒中で、電界紡糸によるナノファイバー形成のためのポリイミドの溶液が調製される。
【
図2】標準複合布地(Aethex25)、PROTO1、およびAcoustex025(Ac025)布地のRub&Buzz分析を示すグラフ:・Rub&Buzz分析は、不規則な非線形歪みの望ましくない影響に関する音響タイプの分析である;・Aethex25は従来技術による複合布地(25MKS raylsの音響インピーダンスを持つナノメッシュ)で、高温に耐えるには適していない;・PROTO1は本発明による複合布地で、これも音響インピーダンスは25MKS raylsである;・Acoustex025は、非複合布地、すなわちナノファイバー・コーティングのない布地で、音響インピーダンスは25MKS raylsである。
【
図3】
図1の複合材料の調製に使用された非処理のPEEK71.35基布を示す。
【
図4】
図3のPEEK71.35基布を示す図であり、DMAc-NMP溶媒を40:60の重量パーセント比で使用した電界紡糸処理中の基布のPEEKモノフィラメントの表面を示す図であり、ナノファイバーは含まれていない。
【
図5】本発明によるフィルタ材とは異なり、膨潤が観察されない先行技術による布地を示す。
【
図6】
図1の複合フィルタ材を示し、40:60の重量パーセント比のDMAc-NMP溶媒およびポリイミドナノファイバーを用いたエレクトロスピニング処理における基布のPEEKモノフィラメントの表面を、様々なサーマルリサイクルのサイクルの前(A)後(B~F)で見た図である:・B:各260℃_1分_2リフローサイクル;・C:各260℃_10分_2リフローサイクル;・D:各260℃_30分_2リフローサイクル;・E:各260℃_1時間_2リフローサイクル;・F:各260℃_2時間_2リフローサイクル。
【
図7】本発明による複合布地を油から完全に除去するために必要なエネルギーを、同等の通気性の特性を有する先行技術によるフィルタ材に必要なエネルギーと比較したものである: PROTO1、2、3は本発明による複合布地で、それぞれ4500、2350、980(l/m
2s
-1)200Paの通気度を有する; Aethex25、70、160は、それぞれ4500、2350、980(l/m
2s
-1)200Paの通気度を有する先行技術によるフィルタ材である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
前述の図に存在する数字を特に参照すると、本発明による複合フィルタ材1は、横糸および縦糸、好ましくはPEEK糸またはモノフィラメント2を有するタイプの布地からなり、その表面上にポリイミドナノ繊維3が電界紡糸によって堆積される。本発明によれば、モノフィラメント2は、ガラス繊維、ポリパラフェニレンスルフィド、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリアリールエーテルスルホンからなる布地のような、高温に耐えるのに適したポリマーで形成された別のタイプの糸で置き換えることができる。ナノファイバー自体はさらに、ポリイミドとは異なる、高温に耐性のある材料、例えばポリベンズイミダゾール、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリアリールエーテルスルホンなどで作ることができる。
【0019】
本発明に適しているのは、室温から300℃までの熱範囲で、溶融温度および/またはガラス転移温度で表される良好な耐熱性を特徴とするモノフィラメントおよびナノファイバーである。
【0020】
本発明による複合フィルタ材の調製に使用される基布は、一般に3~200本/cm、直径24~600μmで、製織に使用されるモノフィラメントの化学的性質が異なる広範囲の合成モノフィラメント布地から選択される。
【0021】
具体的には、ワンステップ熱工程およびサーマルリサイクルまたはリフロー工程、すなわち連続した冷却/加熱サイクルが多数存在する工程の両方で、高い工程温度(最高300℃)に耐えることができる基布が本発明に適している。
【0022】
仕上げ処理およびさらなる表面処理には、メタライゼーション、洗浄およびヒートセットされた「白色」布地、着色布地、プラズマ処理、疎水性処理、親水性処理、抗菌処理、帯電防止処理などを施した布地を使用することが可能である。
【0023】
本発明に好ましいのは、71本/cm、直径35μm、基布の目開き102μm、目付20g/m2、厚さ65μmのポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製のモノフィラメント布地である。
【0024】
本発明に適しているのは、ワンステップ熱工程およびリフローサイクルの両方で300℃までの高いプロセス温度に耐えることができ、ナノファイバーの直径が50~500nmであるポリマーのナノファイバーである。
【0025】
本発明に好ましいのは、直径が100~220nmのポリイミド(PI)ナノファイバーである。
【0026】
ナノファイバーの形成とそれに続く基布への堆積のための電界紡糸プロセスは、適切な溶媒または溶媒の混合物に溶解したナノファイバー形成用材料を、電極上に広げるためにノズルを通して注入することを含む。
【0027】
ノズルと電極間の電位差のおかげで、電場による溶媒または混合溶媒の蒸発と、ノズルによって電極上に堆積したポリマーの延伸の結果として、ナノファイバーが形成される。
【0028】
このようにして形成されたナノファイバーは、次いで延伸され、その後基布上に堆積される。
【0029】
さらに、このようにして形成されたナノファイバー3は、先行技術と比較して革新的な方法で、基布上に堆積されるだけでなく、基布を形成する糸2の部分的かつ表面的な膨潤4を促進する、以下に明らかにするいくつかのプロセスパラメータの使用のおかげで、基布上および/またはナノファイバー層上に塗布された接着剤および/または粘着剤の助けを借りずに、基布上にしっかりと付着する。
【0030】
基布の構造特性に影響を与えない基糸2の膨潤4のこの現象は、基糸2上に配置されたナノファイバー3の強固な接着を促進し、フィルタ材が受ける様々な加工工程中、基布とナノファイバーとの間の接着の完全性の観点から、より安定した製品の形成を可能にする。
【0031】
本発明によれば、この結果は、ジメチルアセトアミド(DMAc)とN-メチル-2-ピロリドン(NMP)との混合溶媒中で、ナノファイバー3の形成のためのポリイミドの溶液を、NMP過剰の電界紡糸プロセスに供することによって達成される。電界紡糸プロセスで、ポリイミドナノファイバーが得られ、これがポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製の糸2上に析出する。この析出ステップの間、上述の溶媒の溶液は、ナノファイバー3によって運ばれたまま、ナノファイバーと接触する表面上で糸2を湿らせ、その結果、表面自体に軟化した部分および膨潤4を形成し、この膨潤4は、電界紡糸プロセスにおいて、ナノファイバー3の一部を取り込み、その結果、糸2への接着またはその固定に寄与する(
図1)。
【0032】
その結果、本発明によれば、電界紡糸プロセス中に、ナノファイバー3がモノフィラメント2上に堆積されるだけでなく、糸とナノファイバーとの間の接着または相対的固定現象が起こり、複合布地1の安定性に寄与する。この目的に適した溶媒は、DMAcとNMPの40:60の比率の混合溶媒であり、NMPは過剰に、特に溶媒の混合物中50重量%以上の量で存在する。したがって、このようにして、基布の構造特性を損なうことなく、ナノファイバーの接着が促進される。
図1、3、4は、今述べた現象を説明するSEM画像である。
【0033】
表1は、本発明によるフィルタ材と先行技術によるフィルタ材との間で、異なる温度および異なる使用時間、具体的には、130℃で120時間(先行技術によるフィルタ材に一般的に必要とされる温度および使用時間);260℃で1分から2時間の範囲の時間(高温で動作するフィルタ材に一般的に必要とされる温度および使用時間)において、1回以上のリフローサイクルの前後における通気度の変化率(A.P.(air permeability)のΔ%)の観点からの耐熱性の特性の比較を提供する。
【0034】
具体的には
・Aethex25は、高温に耐えるのに適していない先行技術による複合布地である(25MKS raylsの音響インピーダンスを有するナノメッシュ)。
・PROTO1は、DMAc/NMP中のポリイミド溶液を40:60の比率で電界紡糸スピニングして得られたポリイミドナノファイバーのコーティングを施したPEEK71.35基布によって形成された本発明による複合布地であり、これも25MKS raylsの音響インピーダンスを有する。
【0035】
次に、表1は、本発明PROTO1によるフィルタ材と先行技術Aethex25によるフィルタ材との間の、25℃から130℃までおよび25℃から260℃までの1回以上のリフローサイクルの前後で測定された通気度のパーセンテージ差の比較を示す。通気度は、200Paの気圧におけるl/m2s-1で測定した。
【0036】
この表から、本発明によるフィルタ材は、先行技術によるフィルタ材と、25~130℃の熱範囲および後者の典型的な使用時間において同じフィルタ能力を有し、本発明によるフィルタ材のみが、高温で、異なる時間、および多数のリフローサイクルで使用できることがわかる。このため、複合布地Aethex25については、260℃で測定したデータは測定不能であるため利用できない。使用中または使用後のフィルタ材への損傷の兆候は、不使用の初期状態と比較して、そのプロセスの正常な許容度よりも高い許容度の増加または減少であることが知られている。この挙動は、フィルタ材の使用中にフィルタ材の形態に損傷が生じる可能性を示唆するため、これは一般に8%以内が許容範囲であると考えられる。その代わりに、そのプロセス自体の許容範囲内で構成される非使用時の初期状態に関して、過剰または欠陥のある通気性の変動は、その使用中にフィルタ材の保護能力が変化していないことを示すものである。具体的な例では、プロセスの許容範囲内で構成されるフィルタ材の通気度の減少、すなわち5%より低い通気度の減少が認められ、本発明による複合材のフィルタ能力を確認することができる。
【0037】
【0038】
図6は、本発明による複合フィルタ材を示す図であり、40:60の重量パーセント比のDMAc-NMP溶媒およびポリイミドナノファイバーを用いたエレクトロスピニング処理における基布のPEEKモノフィラメントの表面を、様々なサーマルリサイクルのサイクルの前(A)後(B~F)で見た図である。具体的には
B:各260℃1分2回のリフローサイクル;
C:各260℃10分2回のリフローサイクル;
D:各260℃30分2回のリフローサイクル;
E:各260℃1時間2回のリフローサイクル;
F:各260℃2時間2回のリフローサイクル。
【0039】
提示された画像から、BからFまでのすべてのサーマルリサイクルの研究事例において、前述した布地自体の表面に膨らみが形成されることによる、メッシュのコーティングの均質性およびポリイミドナノファイバーのPEEK布地への接着性として理解される、本発明によるフィルタ材の形態学的外観は、フィルタ材自体がその使用前に有していた形態学的外観と比較して変化していないままであり、実施されたサーマルリサイクル試験に関して本発明によるフィルタ材の耐熱性が確認されたことに留意されたい。
【0040】
以下の表2は、本発明によるフィルタ材の様々な試作品の通気性、孔径、音響インピーダンスの特性を、PEEK71.35基布単独、すなわちナノファイバーコーティングなしの対応する特性と比較して示している。
【0041】
この表において、細孔は、基布に存在する細孔とナノファイバーコーティングに形成された細孔の組み合わせからなる布地の細孔である。通気性は、200Paの気圧におけるl/m2s-1の単位で測定される。
さらに:
・PEEK71.35は本発明における基布であり、71本/cm、直径35μm、基布の目開き102μm、目付20g/m2、厚さ65μmを有する;
・PROTO1は、40/60の比率のDMAc/NMP中のポリイミド溶液の電界紡糸スピニングによって得られた、ポリイミドナノファイバーのコーティングを有するPEEK71.35基布によって形成された、本発明による複合布地である;
・PROTO2~5は、PROTO1に類似し、電界紡糸プロセスの異なるパラメーターで得られた、本発明による複合布地である。
【0042】
【0043】
上記の表2から、通気性の点で、本発明によるPROTO1~5の調製に使用される電界紡糸プロセスでは、PEEK布地のメッシュは、ナノファイバーで徐々に増加する方法でコーティングされ、その結果、孔径が減少し、音響インピーダンスが増加することに留意されたい。
【0044】
代わりに、以下の表3は、本発明による様々な試作品のものと同等の孔径を有する標準的な布地(存在する場合)の通気性の特性を示す。
・PES38/20、PES15/09は、メッシュ開口部がそれぞれ38μmおよび15μmで、布地1cm2の自由表面がそれぞれ20%と9%であるポリエステルである。
【0045】
【0046】
表3は、同程度の孔径を持つPROTO1と2の場合、布地の場合よりもはるかに大きな通気性があり、その結果、より優れた音響特性が確保されていることを強調している。その代わりに、PROTO3およびPROTO4との比較のための標準的な参照布地がないため、本発明による複合布地のみが、通気性および微粒子に対する保護という記載された特性を確保できることが明らかである。
【0047】
最後に、本発明のさらなる目的は、300℃までの温度にさえ耐えることができることに加えて、先行技術の複合布地と同等またはそれ以上のフィルタリング性能を有する、電気音響部品用のフィルタリング作用を有する新規な複合布地を提供することである。
【0048】
検討中のケースでは、先行技術による複合布地と同じ通気性を有する異なる試作品が準備され、空気フィルタリングの同じ特性を考慮すると、先行技術による対応する複合布地の孔径に匹敵するか、それよりも小さい孔径を有するフィルタ材が得られた。
【0049】
ポリイミドナノファイバー3の使用と組み合わせて、本発明によるフィルタ材にプラズマ処理を追加することにより、従来技術に属するフィルタ材の場合に既に知られている水柱抵抗を増加させることに加えて、フィルタ材表面に付着した油分を除去するために必要なエネルギーが従来技術に比べて大幅に低減され、従来技術に比べて優れた保護性能が得られる。
【0050】
図7には、従来技術および本発明によるフィルタ材の表面に堆積した油を完全に除去するのに必要な圧力が示されており、このフィルタ材は、本発明によるさまざまな試作品の通気性に匹敵する通気性を有する。
【0051】
図7において:
・Aethex25およびPROTO1は、それぞれ従来技術による複合布地および本発明による複合布地であり、それぞれ60および36μmの孔径、および約4500(l/m
2s
-1)200Paの通気性を有する。
・Aethex70およびPROTO2は、それぞれ従来技術による複合布地および本発明による複合布地であり、それぞれ12および19μmの孔径、および約2350(l/m
2s
-1)200Paの通気性を有する。
・Aethex160およびPROTO3は、それぞれ従来技術による複合布地および本発明による複合布地であり、それぞれ14および5μmの孔径、および約980(l/m
2s
-1)200Paの通気性を有する。
【0052】
図7から、特に、複合布地から油を完全に除去するのに必要な圧力が、本発明による複合布地の方が従来技術のものよりも低く、布地の洗浄がより簡単かつ迅速になることが明らかである。
【0053】
本発明は広範で有利な用途を有する。
【0054】
本発明の実用的な用途の一例として、高温でもフィルタリングが挙げられる。
【0055】
従来のタイプのナノメッシュと比較して、PEEKとポリイミドからなるフィルタ材は、他のいくつかの用途にも使用することができる。例えば、フィルタ材が高いプロセス温度にさらされ、その特性が変化しないこと、すなわち、布地とナノファイバーが温度による変化を受けないことが必要な用途に使用することができる。
【0056】
本発明によるフィルタ材の革新的な用途は、MEMS(Micro Electro-Mechanical Systems)技術に関するものである。
【0057】
具体的には、MEMSデバイスには、使用中の電子部品の過熱や均圧化の問題を克服する2つの通気口があり、1つはMEMSデバイスの内部で、型抜きによって必ずしも後処理されない保護フィルタリング材を使用するものであり、もう1つはデバイス自体の外部で、型抜き手段によって必ず後処理される保護フィルタリング材を使用するものである。
【0058】
これにより、組み立てと使用のさまざまな段階において、300℃近い非常に高いプロセス温度に耐えることができ、MEMSデバイスの内部と外部の間の空気の通過が促進される。
【0059】
これらの通気口の両方を、空気透過性があり300℃近い高温に耐える保護膜で保護する必要性は、湿気、微粒子、塵、油などによる汚染を防ぐため、一般的には音響伝達性能の低下を防ぐため、空気の流れの再循環を可能にするため、そして最後に、これらは高温に耐性があるため、保護層と事前に統合されたMEMSデバイスの組み立てに有利であり、通気口を保護せずに組み立てる、組み立て中に損傷を受ける可能性があるMEMSデバイスの製造を容易にし、より経済的にする技術的な選択であるために不可欠である。
【0060】
現在の技術状況では、MEMSデバイスの内部および外部通気口の保護は、次の2つの方法で実施されている。すなわち、i)保護層を塗布せず、その結果デバイスの寿命が非常に短くなる、ii)あるいは保護粘着テープを貼り付ける方法。
【0061】
保護用粘着テープの使用は、通気ポート自体を保護しない場合と比較して、満足のいくものではない。これらのテープは空気に対して透過性がないため、いくつかの汚染物質からデバイスを保護することはできても、空気の適切な再循環を可能にすることはできず、その結果、過熱やMEMS内部の圧力の不均一化といった問題が生じる。
【0062】
したがって、本発明による耐熱性の利点を付加した、既知のタイプのナノメッシュで作られたフィルタ材の使用は、MEMSデバイスの内部保護および外部保護の両方において、MEMS技術の現状に対する進歩を意味する。
【0063】
音響用途において、本発明は、フィルタ材が高融点ポリマーと共成形される状況で使用することができ、それによってプロセス中の熱抵抗が確保される。
【0064】
従来のナノメッシュが明らかな物理的限界のために使用できなかった高温を伴う用途での使用に加えて、本発明の第2の利点は、支持布地とナノファイバーとの間の改善された緊密な接着にある。
【0065】
この場合、実際、この特性は以下を可能にする:
・材料の後処理により、材料への損傷とそれによる性能の悪化の可能性を防止する(接着剤の層で組み立てられたパッケージ化されたナノメッシュ部品を提供するための典型的な型抜き工程を参照)。
・ナノファイバーと標準的な布地が強固に接着していないことは、音響特性の点で大きな利点であるが、音の通過、すなわち所定の速度の空気の流れは、基材上のナノファイバー層の微小振動を引き起こす可能性があり、音の歪みや望ましくないノイズを引き起こす。
【0066】
ナノファイバーが基材にしっかりと接着していれば、前述の振動の問題はなくなり、したがって音もよりきれいになる。
【0067】
通常、「Rub&Buzz」と呼ばれる音響分析によって、基板上に電界紡糸されたナノファイバー層によって引き起こされる微小振動による音の歪みや望ましくないノイズの発生を調べることができる。
【0068】
図2は、標準的なナノメッシュ試料(Aethex25)、PROTO1試料、すなわち本発明によるフィルタ材、およびAethex25およびPROTO1と同じ音響インピーダンスを有する布Acoustex025の試料のRub&Buzz分析を示すグラフである。
【0069】
図2に表示されるグラフから、Aethex25、PROTO1、Acoustex025の測定されたすべての試験片について、フィルタ材によって誘発される振動の割合が0.8%未満(市販の音響装置の基準目標)であることが一般的に示されている。
【0070】
さらに、PROTO1を2つの参照試験片と比較すると、基布上のナノファイバー層の接着力が優れているため、Aethex25およびAcoustex025と比較して、PROTO1のすべての試験片でRub&Buzzのパーセンテージ値が低く、その結果改善されていることがわかる。
【0071】
本発明によるフィルタ材にプラズマ処理を加えることが可能であり、それによって以下の2つの利点が得られる。
・特に浸透性が高くない材料の場合、耐水柱性が向上する。
・非常に浸透性の高い材料の場合、ナノメッシュの非濡れ性が確保される。
【0072】
さらに、プラズマ処理により、フィルタ材の表面に付着した油分を除去するのに必要なエネルギーが減少する。
【0073】
本発明が意図した目的と目標を達成することが実際に判明した。
【0074】
実際に、モノフィラメント布地上に電界紡糸法により堆積されたポリマーナノ繊維からなる材料により構成されたフィルタ材が得られた。
【0075】
堆積中、ナノファイバーは糸の上、糸と糸の間の交差部分、布地の網目の中に配置され、網目の中に配置されることで、布地の平均開口部と自由表面を減少させる。
【0076】
このようにして、標準的な布地と同等の透湿度と音響インピーダンスの値を得ることができる。
【0077】
透湿度/インピーダンスが等しい値であれば、複合布地は標準布地よりも優れたダスト(金属ダスト、繊維ダストなど)の侵入防止効果を発揮する。
【0078】
これは、メッシュに配置されたナノファイバー層のランダムで三次元的な構造によるもので、埃の通過を低減および/または防止するために自身のメッシュ開口部のみを採用する布地とは異なり、通過面を低減することが可能である。繊維のナノスケールサイズのおかげで、さらに、密閉または非フィルタ容積の割合を最小限に抑えることが可能である。
【0079】
このように、特定の用途において同等の透過性を持つ標準的な布地を複合布地に置き換えることにより、通過する流れが同じであれば、同じ圧力損失を保証することが実際に可能となり、侵入に対する保護が大幅に向上する。
【0080】
コンシューマーエレクトロニクス分野の電気音響部品(スピーカー、レシーバー、マイクロフォン)の保護材として複合布地を使用する具体的なケースでは、従来から使用されている布地と比較して同じ音響性能を保証することが可能だが、保護能力は向上している。場合によっては、より優れた音響性能と粒子侵入からの保護特性を同時に得ることができる。
【手続補正書】
【提出日】2023-04-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)の横糸および縦糸の基布を有し、複合フィルタ材を製造するための方法であって、
前記方法が、
ポリイミド(PI)のナノファイバー
(3)を形成するための電界紡糸のステップと、前記ナノファイバーを前記基布上に堆積させるその後のステップとを含むことを特徴とし、
前記方法は、
ジメチルアセトアミド(DMAc)とN-メチル-2-ピロリドン(NMP)とのNMP過剰の混合物に溶解したナノファイバー形成用の材料を、電極上に広げるためにノズルを通して注入することを含み、
前記方法は、前記ノズルと電極との間に電位差を設けることを含み、
前記ナノファイバーは、電場による前記溶媒または溶媒混合物の蒸発、およびノズルによる電極上に堆積されたポリマーの伸長の結果として形成され、
このようにして形成された前記ナノファイバーは、その後延伸され、前記基布上に堆積され、
前記ナノファイバー(3)が、
当該ナノファイバーが添加されたとき、基布上および/またはナノファイバー層上に塗布された接着剤および/または粘着剤の助けを借りずに、前記基布の糸(2)の膨潤部(4)であって、糸(2)自体の前記ナノファイバー(3)との接触面上に形成された膨潤部(4)において、前記基布に接着する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法で得られた複合フィルタ材であって、
糸またはモノフィラメント(2)が、前記ナノファイバー(3)と接触する表面に、ナノファイバー(3)自体を取り込み、糸またはモノフィラメント(2)自体の表面にそれらを保持する膨潤部(4)を有す
ることを特徴とする複合フィルタ材。
【請求項3】
前記布地が、糸の本数が3~200本/cm、直径が24~600μmの合成モノフィラメント布地から選択されることを特徴とする、請求項
2に記載の複合フィルタ材。
【請求項4】
前記布地が、24~600μmの直径を有し、3~200糸/cmの糸数を有する合成モノフィラメント基布から選択さ
れることを特徴とする、請求項
3に記載の複合フィルタ材。
【請求項5】
仕上げ処理及び更なる表面処理として、メタライゼーション、洗浄およびヒートセットされた白色布地、着色布地、プラズマ処理、疎水性処理、親水性処理、抗菌処理、帯電防止処理などを施した布地から選択される布地が使用されることを特徴とする、請求項
4に記載の複合フィルタ材。
【請求項6】
前記布地が、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製のモノフィラメント布地であり、糸本数が71本/cm、直径が35μm、基布の目開きが102μm、目付が20g/m
2、厚さが65μmであることを特徴とする、
前記請求項の1つまたは複数に記載の複合フィルタ材。
【請求項7】
前記ナノファイバーは、100~220nmの直径を有するポリイミド(PI)ナノファイバーであることを特徴とする、請求項
2に記載の複合フィルタ材。
【国際調査報告】