(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】歯科用バルクブロック及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 6/802 20200101AFI20240719BHJP
A61K 6/15 20200101ALI20240719BHJP
A61K 6/833 20200101ALI20240719BHJP
【FI】
A61K6/802
A61K6/15
A61K6/833
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024504902
(86)(22)【出願日】2021-10-26
(85)【翻訳文提出日】2024-01-25
(86)【国際出願番号】 KR2021015112
(87)【国際公開番号】W WO2023008650
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】10-2021-0098063
(32)【優先日】2021-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516371391
【氏名又は名称】ハス コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】HASS CORPORATION
【住所又は居所原語表記】77-14,Gwahakdanji-ro Gangneung-si Gangwon-do 25452,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】イム、ヒョン ボン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヨン ス
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089AA09
4C089BA10
4C089BA12
4C089BA15
4C089BA20
4C089CA04
(57)【要約】
結晶相は、メタケイ酸リチウムおよび二ケイ酸リチウムよりなる群から選択された少なくとも1つのケイ酸リチウム系結晶相とユークリプタイト(eucryptite)とを含み、深さに対して結晶相の大きさの勾配を有し、結晶相の大きさの勾配変化点に界面が存在しない傾斜機能材料であり、ブロックを820℃で40分間熱処理する場合、820℃で2分間熱処理されたブロックと比較して、X線回折分析の結果グラフにおいてスポジュメン(spodumene)結晶相の特異的なピークが現れることを特徴とする歯科用バルクブロックを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質のガラスマトリックス内に結晶相を含むガラスセラミックブロックであって、
結晶相は、メタケイ酸リチウムおよび二ケイ酸リチウムよりなる群から選択された少なくとも1つのケイ酸リチウム系結晶相とユークリプタイト(eucryptite)とを含み、
深さに対して結晶相の大きさの勾配を有し、結晶相の大きさの勾配変化点に界面が存在しない傾斜機能材料であり、
ブロックを820℃で40分間熱処理する場合、820℃で2分間熱処理されたブロックと比較して、X線回折分析の結果グラフにおいてスポジュメン(spodumene)結晶相の特異的なピークが現れる
ことを特徴とする歯科用バルクブロック。
【請求項2】
結晶相の大きさの勾配は、ケイ酸リチウム系結晶相を基準としてその平均粒径が0.05μm~1.0μmの範囲内にあり、ユークリプタイト結晶相を基準としてその平均粒径が1.0μm~4.0μmの範囲内にあるものである
請求項1に記載の歯科用バルクブロック。
【請求項3】
深さに対して光透過度の勾配を有するものである
請求項1に記載の歯科用バルクブロック。
【請求項4】
光透過度の勾配は、波長550nmを基準として25~40%の範囲内にあるものである
請求項3に記載の歯科用バルクブロック。
【請求項5】
光透過度の勾配は、深さに対して0.5mm以内の範囲内で変化するものである
請求項3に記載の歯科用バルクブロック。
【請求項6】
深さに対して色差分析によるL*、a*及びb*値の勾配を有し、深さに対して1.5mmの範囲内でも色偏差(ΔE)値が変化するものである
請求項1に記載の歯科用バルクブロック。
【請求項7】
結晶化度が40~70%である
請求項1に記載の歯科用バルクブロック。
【請求項8】
結晶相は、全結晶相の体積を基準としてケイ酸リチウム系結晶相が40~60体積%、及びユークリプタイト(eucryptite)結晶相が40~60体積%の範囲で含まれる
請求項1または7に記載の歯科用バルクブロック。
【請求項9】
深さに対して曲げ強度の勾配を有するものである
請求項1に記載の歯科用バルクブロック。
【請求項10】
曲げ強度の勾配が220MPa~350MPaの範囲内にあるものである
請求項9に記載の歯科用バルクブロック。
【請求項11】
歯科用バルクブロックは、連続するガラスマトリックスからなるものである
請求項1に記載の歯科用バルクブロック。
【請求項12】
ガラスマトリックスは、SiO
263.0~74重量%、Li
2O11.0~13.7重量%、Al
2O
3を6~9重量%、K
2O1.5~3.5重量%、P
2O
52.0~4.0重量%を含み、SiO
2/(Li
2O+Al
2O
3)のモル比は2.10~2.90を満たすものである
請求項1または11に記載の歯科用バルクブロック。
【請求項13】
ガラスマトリックスは、SiO
2/Li
2Oのモル比が2.20~2.59である
請求項1または11に記載の歯科用バルクブロック。
【請求項14】
ガラスマトリックスは、SiO
2/Li
2Oのモル比が2.60~3.00のものである
請求項1または11に記載の歯科用バルクブロック。
【請求項15】
SiO
263.0~74重量%、Li
2O11.0~13.7重量%、Al
2O
3を6~9重量%、K
2O1.5~3.5重量%、P
2O
52.0~4.0重量%を含み、SiO
2/(Li
2O+Al
2O
3)のモル比は2.10~2.90を満たすガラス組成物を溶融し、モールドで成形および冷却し、480℃~250℃で20分~2時間の間、設定された速度でアニーリングするステップを含むことで、所定形状のブロックを作製するステップと、
前記ブロックを、勾配熱処理炉(furnace)内で最高温度850~1,000℃の温度範囲で熱処理し、ブロックの深さ方向に対して温度勾配を与えて熱処理するステップと、を含む
ことを特徴とする歯科用バルクブロックの製造方法。
【請求項16】
ガラス組成物は、SiO
2/Li
2Oのモル比が2.20~2.59である
請求項15に記載の歯科用バルクブロックの製造方法。
【請求項17】
ガラス組成物は、SiO
2/Li
2Oのモル比が2.60~3.00である
請求項15に記載の歯科用バルクブロックの製造方法。
【請求項18】
前記熱処理するステップは、昇温速度30℃/分~110℃/分で最高温度まで昇温し、最高温度下で1分~5分間保持する方法によって行われる
請求項15に記載の歯科用バルクブロックの製造方法。
【請求項19】
請求項1に記載の切削加工のための歯科用バルクブロックを、加工機械を用いて加工して所定の歯修復物を製造するステップと、
歯修復物を研磨(polisihing)またはグレージング(glazing)するステップと、を含む
ことを特徴とする歯修復物の製造方法。
【請求項20】
グレージングは、730~820℃で30秒~10分間行われる
請求項19に記載の歯修復物の製造方法。
【請求項21】
グレージングは、二軸曲げ強度が300~380MPaの勾配を有するように行われる
請求項19または20に記載の歯修復物の製造方法。
【請求項22】
グレージングは、少なくとも825℃の熱処理によって、加工された歯修復物の透光性を調節するための用途である
請求項19に記載の歯修復物の製造方法。
【請求項23】
グレージングは、少なくとも825℃の温度で1分~10分間行われる
請求項19に記載の歯修復物の製造方法。
【請求項24】
グレージングは、二軸曲げ強度が350~400MPaの勾配を有するように行われる
請求項19、22、23のいずれかに記載の歯修復物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然歯の構造的特性に類似した人工歯を製造するのに有用であり、特に、機械加工性が向上した歯科用バルクブロック及びこれを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯冠材料は、損傷した歯の象牙質とエナメル質に相当する部分を修復する補綴材料を意味し、適用部位に応じて、インレー、オンレー、ベニア、クラウンなどに分けられる。歯冠材料が修復される位置は、歯の外表面であるため審美的特性が大きく求められて、対合歯との摩耗やチッピング(chipping)などの破折のため高い強度が求められる。既存に歯冠材料に用いられる材料は、ルーサイト結晶化ガラス(leucite glass-ceramics)、強化ポーセレンやフッ化アパタイト(fluorapatite、Ca5(PO4)3F)結晶化ガラスがあり、これらは良好な審美特性があるが、強度が80~120MPaで低く、破折の可能性が高いという短所がある。そこで、現在、多様な素材の高強度クラウン素材を開発しようとする研究が進行中である。
【0003】
リチウムシリケート結晶化ガラスは、非特許文献1:1973年Marcus P. BoromとAnna M. Turkalo(The Pacific Coast Regional Meeting, The American Ceramic Society, San Francisco, CA, October 31, 1973(Glass division, No.3-G-73P))により紹介された。
【0004】
Li2O-Al2O3-SiO2-Li2O-K2O-B2O3-P2O5系ガラスを用いて様々な結晶核の形成と結晶成長の熱処理条件別に結晶相と強度について研究した。低温のメタケイ酸リチウムから高温の二ケイ酸リチウム結晶相を呈するとき30~35KPSの強度を示し、これは、基礎ガラス、母ガラス、Li2SiO5、Li2SiO3相の熱膨張係数の差に起因した残留応力のためであった。
【0005】
二ケイ酸リチウム結晶を含むガラスを用いて人工歯を作製する材料と方法(monolithic dental crown)は、既に多くの特許に公知されている。しかし、公知の技術は、結晶相のサイズが粗大して直ちに機械加工しにくく、加工のためには、1次にメタケイ酸リチウム結晶相(machinable crystalline)を形成して加工した後、2次に熱処理を施して高強度の二ケイ酸リチウム結晶相を形成させる方法を経るようになるが、この場合、後熱処理工程による収縮のため寸法の正確性が劣り、熱処理工程が追加されるという煩わしさがある。一般に、CAD/CAMによる補綴物加工は病院で直接バルク体を加工して補綴物を作製し、これを患者に最大限速やかに試適しなければならないので(one-day appointment)、熱処理工程による時間遅延は、患者および使用者に経済的な負担を与える。
【0006】
また、既存のリチウム二ケイ酸塩結晶化ガラス素材は、粗大な結晶相に起因して天然歯に類似した高い光透過率や乳白性(opalescence)を具現するのに限界がある。
【0007】
特に、既存の二ケイ酸リチウム結晶化ガラス素材は、加工のために1次で加工性の良いメタケイ酸リチウム(lithium metasilicate)結晶化ガラスを製造し、加工後に2次で結晶化熱処理によって二ケイ酸リチウムを形成させて強度を高めるが、この時、結晶相の大きさが3μm程度以上であり、この状態では加工性が顕著に低下し、単に強度的な部分のみを具現することができた。
【0008】
このような問題点を解決するために本出願人は、1次熱処理の温度変化で結晶の大きさを調節して加工性に優れた二ケイ酸リチウム結晶相とシリケート結晶相を含む結晶化ガラス製造方法を提案し、既に特許を取得した(韓国特許登録第10-1975548号)。具体的に、ここでは、SiO260~83重量%、Li2O10~15重量%、核形成剤の役割をするP2O5が2~6重量%、ガラス転移温度および軟化点を増加させ、ガラスの化学的耐久性を向上させるAl2O31~5重量%、ガラスの軟化点を上昇させるSrO0.1~3重量%、ZnO:0.1~2重量%、着色剤(colorant)1~5重量%、およびガラスの熱膨張係数を増加させるアルカリ金属酸化物であるNa2O+K2O2.5~6重量%を含むガラス組成物を400℃~850℃で1次熱処理を行うステップと、前記1次熱処理以降に780~880℃で2次熱処理を行うステップと、を含み、前記1次熱処理により5~2000nmのナノサイズの二ケイ酸リチウム結晶相及びシリカ結晶相が生成され、2次熱処理温度によって透光性が調節されることを特徴とするシリカ結晶相を含む歯科用結晶化ガラスの製造方法を開示している。
【0009】
一方、人間の生活水準が向上しながら歯科分野にも美観に対する需要が増加しつつあり、患者の審美的欲求が次第に高まるとともに様々な材料を用いた審美補綴の修復に関する多くの研究がなされている。
【0010】
現在、主に用いられている審美修復材料としても、陶材修復物の審美性に影響を及ぼす要素としては、歯の外観、表面状態、透明度、色等が挙げられ、この中で特に透明度は、成功的な修復物の作製のための重要な要素であると言える。このような審美補綴のための陶材の機械的、物理的特性については多くの研究と発展がなされてきたが、色の調和については未だにも多くの問題を抱えており、臨床的、技術的な面において修復物の色の選択、特に透明度に関しては多くの困難がある。
【0011】
審美補綴学において、歯修復時の審美性に影響を与える要因としては、色(Color)、歯の形態と大きさ、歯の配列状態と比率関係、光線透過性、修復物のデザインなどが挙げられ、実際に我々の目に敏感に現れるのは色と形であると言える。
【0012】
天然歯は、歯の首の部分から切断まで色が同一な箇所は一箇所もない。
【0013】
このような点を反映して、近年はいわゆるビルドアップ方式を用いて天然歯の深い色を模倣することができる人工歯を製造する方法も知られている。
【0014】
ビルドアップ(Build-Up)方式とポーセレンやジルコニア等の粉末を積層して色を付けた人工歯を成形した後、これを熱処理して天然歯に類似した色を幾重に具現する方法であって、たとえ天然歯の色をかなり模倣することはできるが、これは、もっぱら技工士の熟練した機能に応じて、人工歯の審美性が決定される方式であって、再現性が低下し、即時的な方法での製造ができなく、患者にとって有利ではなく、CAD/CAM加工のような切削方法では具現し難いという問題点がある。
【0015】
一方、既存のバルクブロックを利用して、CAD/CAM加工のような切削加工法によって人工歯を作製する場合、バルクブロックそれ自体が均一な物性を示す材料からなるので、その結果得られる人工歯は、天然歯とは異なり単一な色を呈する形であるしかなかった。特に、このような方法による人工歯の場合前歯などへの適用時、審美的に異質感を与えて自然さが劣るという問題点があるほかない。
【0016】
前述の本出願人による特許文献1:韓国特許登録第10-1975548号に記載の結晶化ガラスの製造方法によっても、たとえ2次熱処理工程によって透明性と加工性の調節が可能であるものの、得られた結晶化ガラスも1つのブロック自体が同じ物性を有するものであり、これを利用して天然歯のような深い色を具現するためには複数個の結果物を組み合わせる方法を適用することが必要である。言い換えればバルクブロックそれ自体を利用して、CAD/CAM加工のような切削加工に直接適用して自然色の歯を即時的に具現することが容易ではなかった。
【0017】
かかる点を改善して本出願人は、天然歯に類似した人工歯プロテーゼの製造に有用であり、これによって人工歯科補綴物の製造にかかる時間と工程を短縮させることができるだけでなく、機械的物性の傾斜機能化による力の分散いう点で構造的な安定性が増加された効果をもたらすことができるバルクブロックについて出願して既に特許登録を受けたことがある(特許文献2:韓国特許登録第10-2246195号)。
【0018】
本発明は、このようなバルクブロックにとって審美性が向上し、特に機械加工性をより向上させたグラデーションバルクブロックを提供するために案出された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】大韓民国特許登録第10-1975548号
【特許文献2】大韓民国特許登録第10-2246195号
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】The Pacific Coast Regional Meeting, The American Ceramic Society, San Francisco, CA, October 31, 1973(Glass division, No.3-G-73P)(1973年Marcus P. BoromとAnna M. Turkalo)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は、CAD/CAMなどのような切削加工によって更なる工程を追加することなく繰り返し再現性を有するように天然歯に類似したマルチグラデーション(Multi-gradation)透過性ないし物性を発現する人工歯修復材料の製造に用いられることができる、歯科用バルクブロックを提供することにある。
【0022】
また、本発明の目的は、機械加工性が向上し、人工歯補綴物の作製にかかる時間と工程を短縮させることができるだけでなく、機械的物性の傾斜機能化による力の分散という点で、構造的な安定性が増加された効果をもたらすことができる、歯科用バルクブロックを提供することにある。
【0023】
また、本発明の目的は、天然歯に類似したマルチグラデーション(Multi-gradation)透過性ないし物性を発現する人工歯修復材料の製造に用いられることができる歯科用バルクブロックを簡易に製造することができる方法を提供することにある。
【0024】
また、本発明の目的は、このような歯科用バルクブロックを、加工機械を用いて容易に歯修復物に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の一実施形態は、非晶質のガラスマトリックス内に結晶相を含むガラスセラミックブロックであって、結晶相は、メタケイ酸リチウムおよび二ケイ酸リチウムよりなる群から選択された少なくとも1つのケイ酸リチウム系結晶相とユークリプタイト(eucryptite)とを含み、深さに対して結晶相の大きさの勾配を有し、結晶相の大きさの勾配変化点に界面が存在しない傾斜機能材料であり、ブロックを820℃で40分間熱処理する場合、820℃で2分間熱処理されたブロックと比較して、X線回折分析の結果グラフにおいてスポジュメン(spodumene)結晶相の特異的なピークが現れる特徴を有する、歯科用バルクブロックを提供する。
【0026】
本発明の好ましい一実施形態において、結晶相の大きさの勾配は、ケイ酸リチウム系結晶相を基準としてその平均粒径が0.05μm~1.0μmの範囲内にあり、ユークリプタイト結晶相を基準としてその平均粒径が1.0μm~4.0μmの範囲内にあるものであることができる。
【0027】
また、本発明の一実施形態による歯科用バルクブロックは、深さに対して光透過度の勾配を有するものであることができる。
【0028】
好ましい一実施形態において、光透過度の勾配は、波長550nmを基準として25~40%の範囲内にあるものであってもよい。
【0029】
好ましい一実施形態において、光透過度の勾配は、深さに対して0.5mm以内の範囲内で変化するものであってもよい。
【0030】
また、本発明の一実施形態による歯科用バルクブロックは、深さに対して色差分析によるL*、a*及びb*値の勾配を有し、深さに対して1.5mm範囲内でも色偏差ΔE値が変化するものであってもよい。
【0031】
好ましい一実施形態による歯科用バルクブロックは結晶化度が40~70%であることができる。
【0032】
具体的な一実施形態による歯科用バルクブロックにおいて、結晶相は、全結晶相の体積を基準としてケイ酸リチウム系結晶相が40~60体積%及びユークリプタイト(eucryptite)結晶相が40~60体積%の範囲で含まれるものであってもよい。
【0033】
また、本発明の一実施形態による歯科用バルクブロックは、深さに対して曲げ強度の勾配を有するものであることができる。
【0034】
好ましい一実施形態において、曲げ強度の勾配は、220MPa~350MPaの範囲内にあるものであってもよい。
【0035】
本発明の一実施形態による歯科用バルクブロックは、連続するガラスマトリックスからなるものであってもよい。
【0036】
好ましい一実施形態において、ガラスマトリックスは、SiO263.0~74重量%、Li2O11.0~13.7重量%、Al2O3を6~9重量%、K2O1.5~3.5重量%、P2O52.0~4.0重量%を含み、SiO2/(Li2O+Al2O3)のモル比は2.10~2.90を満たすものであることができ、特にケイ酸リチウム系結晶相として、メタケイ酸リチウムと二ケイ酸リチウムをいずれも含むようにする一実施形態であって、ガラスマトリックスは、SiO2/Li2Oのモル比が2.20~2.59であってもよい。他の一実施形態として、ケイ酸リチウム系結晶相として二ケイ酸リチウム結晶相のみを含むようにする一実施形態であって、SiO2/Li2Oのモル比が2.60~3.00のものであることができる。
【0037】
本発明の他の一実施形態では、SiO263.0~74重量%、Li2O11.0~13.7重量%、Al2O3を6~9重量%、K2O1.5~3.5重量%、P2O52.0~4.0重量%を含み、SiO2/(Li2O+Al2O3)のモル比は2.10~2.90を満たすガラス組成物を溶融し、モールドで成形および冷却し、480℃~250℃で20分~2時間の間、設定された速度でアニーリングするステップを含むことで、所定形状のブロックを作製するステップと、前記ブロックを、勾配熱処理炉(furnace)内で最高温度850~1,000℃の温度範囲で熱処理し、ブロックの深さ方向に対して温度勾配を与えて熱処理するステップと、を含む、歯科用バルクブロックの製造方法を提供する。
【0038】
本発明の一実施形態による製造方法において、ケイ酸リチウム系結晶相として、メタケイ酸リチウムと二ケイ酸リチウムとをいずれも含むようにする一実施形態であって、ガラス組成物は、SiO2/Li2Oのモル比が2.20~2.59であってもよく、他の実施形態として、ケイ酸リチウム系結晶相として二ケイ酸リチウム結晶相のみを含むようにするための一実施形態であって、ガラス組成物は、SiO2/Li2Oのモル比が2.60~3.00であることができる。
【0039】
好ましい一具現例による製造方法において、前記熱処理するステップは、昇温速度30℃/分~110℃/分で最高温度まで昇温し、最高温度下で1分~5分間保持する方法によって行われることができる。
【0040】
本発明の他の一実施形態は、前述した一実施形態の切削加工のための歯科用バルクブロックを、加工機械を用いて加工して所定の歯修復物を製造するステップと、歯修復物を研磨(polisihing)またはグレージング(glazing)するステップと、を含む、歯修復物の製造方法を提供する。
【0041】
好ましい一実施形態による歯修復物の製造方法においては、グレージングが730~820℃で30秒~10分間行われる。
【0042】
このようなグレージングは、歯修復物の二軸曲げ強度が300~380MPaの勾配を有するように行われることができる。
【0043】
他の一実施形態による歯修復物の製造方法において、グレージングは、少なくとも825℃の熱処理によって、加工された歯修復物の透光性を調節するための用途で行われることができる。
【0044】
このような一実施形態によるグレージングは、少なくとも825℃の温度で1分~10分間行われることができ、具体的には、グレージングは、二軸曲げ強度が350~400MPaの勾配を有するように行われることができる。
【発明の効果】
【0045】
本発明による歯科用バルクブロックは、CAD/CAMなどのような切削加工によって更なる工程を追加することなく繰り返し再現性良く、天然歯に類似したマルチグラデーション(Multi-gradation)透光性ないし物性を有する人工歯修復材料の製造に容易に用いられることができ、人工歯補綴物の作製にかかる時間と工程を短縮させることができるだけでなく、機械的物性の傾斜機能化による力の分散という点で構造的な安定性が増加された効果をもたらすことができ、このような歯科用バルクブロックは、特定の組成を有する単一のガラス組成物を用いて勾配熱処理する簡易な方法で製造できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】本発明のバルクブロックのX線回折分析(X-Ray Diffraction)の結果グラフであって、(a)は、SiO
2/Li
2Oのモル比が2.20~2.59である本発明の一実施形態による結果物であり、(b)は、SiO
2/Li
2Oのモル比が2.60~3.00である一実施形態による結果物である。
【
図2】本発明のバルクブロックが持つブロックを820℃で40分間熱処理する場合、820℃で2分間熱処理されたブロックと比較して、X線回折分析の結果グラフにおいて、スポジュメン(spodumene、Li
2O・Al
2O
3・4SiO
2)結晶相の特異的ピークが現れる特徴を確認するためのX線回折分析(X-Ray Diffraction)の結果グラフであって、(a)は通常の歯科用補綴物のグレージング時に実施する条件である、820℃で2分間熱処理したブロックのX線回折分析(X-Ray Diffraction)の結果グラフであり、(b)は本発明で実験的に結晶相の同定のために設定した条件である、820℃で40分間熱処理されたブロックのX線回折分析(X-Ray Diffraction)の結果グラフである。
【
図3】本発明の一実施形態による一つのバルクブロックを深さ方向に1.5mm厚さにスライスした試片に対して、微細構造分析(SEM)を測定した結果であって、歯修復物としての用途を考慮して深さ方向に対する表記をCervicalからIncisalと表記して示した写真である。
【
図4】本発明の一実施形態による一つのバルクブロックを深さ方向に1.5mm厚さにスライスした試片について、可視光線透過率を測定したグラフである。
【
図5】本発明のバルクブロックに対する切削抵抗(cutting resistance)の比較グラフである。
【
図6】一例として、本発明の歯科用バルクブロックを製造する方法を示す模式図である。
【
図7】本発明の一実施形態によって得られたバルクブロックの深さ別の二軸曲げ強度(biaxial flexure strength)の変化を示すグラフである。
【
図8a】本発明の一実施形態によって得られたバルクブロックに対して、グレージングの熱処理条件を異にして得られた結果物に対して、深さ別の二軸曲げ強度(biaxial flexure strength)の変化を示すグラフであって、(a)は、820℃で2分間グレージング熱処理した結果物である。
【
図8b】本発明の一実施形態によって得られたバルクブロックに対して、グレージングの熱処理条件を異にして得られた結果物に対して、深さ別の二軸曲げ強度(biaxial flexure strength)の変化を示すグラフであって、(b)は840℃で2分間グレージング熱処理した結果物である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
前述及び更なる本発明の態様は、添付の図面を参照して説明する好ましい実施形態によって更に明らかになろう。以下では、本発明のこのような実施形態により当業者が容易に理解して再現できるように詳細に説明する。
【0048】
本発明の一実施形態は、非晶質のガラスマトリックス内に結晶相を含むガラスセラミックブロックであって、結晶相は、メタケイ酸リチウムおよび二ケイ酸リチウムよりなる群から選択された少なくとも1つのケイ酸リチウム系結晶相とユークリプタイト(eucryptite)とを含み、深さに対して結晶相の大きさの勾配を有し、結晶相の大きさの勾配変化点に界面が存在しない傾斜機能材料であり、ブロックを820℃で40分間熱処理する場合、820℃で2分間熱処理されたブロックと比較してスポジュメン(spodumene)結晶相として同定される特異的なピークが現れることが、X線回折分析の結果から確認される特徴を有する、歯科用バルクブロックを提供する。
【0049】
かかる特徴は、熱処理時間の増加に伴うSiイオンの移動によりユークリプタイトからスポジュメン結晶相に相転移された結果であるといえる。
【0050】
上記及び以下の記載において、「深さに対して結晶相の大きさの勾配を有する」という意味は、バルクブロックの深さに応じた結晶相の大きさをグラフ化する場合、同じ結晶相を基準として比較するとき、結晶相の大きさの変化勾配が存在することを意味する。すなわち、バルクブロックの深さに対して同一の結晶相に対してその大きさがグラデーション(gradation)された形で現れることを意味する。
【0051】
また、「結晶相の大きさの勾配変化点」とは、バルクブロックの深さに応じた結晶相の大きさをグラフ化する場合、同じ結晶相を基準としたときに、結晶相の大きさの変化勾配の値が実質的に変わる点を指す。ここで、「実質的に変変わる」という意味は、単なる数値での変化を意味することができるが、その値の分布に照らして実質的な変化があるものをも含むことができることは勿論である。
【0052】
また、「結晶相の大きさの勾配変化点に界面が存在しない」という意味は、同じ結晶相を基準としたとき、結晶相の大きさの勾配値の変化を示すバルクブロックの深さの位置において層間分離を示す有意な境界面が存在しないものと解釈されることができる。すなわち、バルクブロックは深さに応じた界面がなく連続する形で結晶相の大きさの勾配を有することを意味する。
【0053】
一方、「傾斜機能材料(Functionally Gradient Material,FGM)」とは、通常ある一つの面から他の面へと構成材料の性質が連続的に変化する材料を指し、本発明においては実質的に界面が存在しないが、構成材料の性質が連続的に変化するという点で傾斜機能材料という表現を借用したわけである。
【0054】
上記及び以下の記載において、バルクブロックはその形状に制限がなく、一例として、ブロック(block)型、ディスク(disk)型、インゴット(ingot)型、シリンダ(cylinder)型など多様な形態のバルク体を含むことができることは勿論である。
【0055】
本発明によるバルクブロックは、メタケイ酸リチウムおよび二ケイ酸リチウムよりなる群から選択された少なくとも一つのケイ酸リチウム系結晶相とユークリプタイト(eucryptite)とを含む。他の更なる結晶相としてリン酸リチウムを含むことができる。
【0056】
好ましい一実施形態によるバルクブロックに対するXRD分析結果グラフは
図1に示したものと同様であってもよい。
【0057】
図1(a)の場合は、ケイ酸リチウム系結晶相として、メタケイ酸リチウムおよび二ケイ酸リチウムがいずれも存在し、他の結晶相として、ユークリプタイト(eucryptite)を含むバルクブロックであり、(b)の場合は、ケイ酸リチウム系結晶相として、二ケイ酸リチウムのみを含み、他の結晶性相としてユークリプタイト(eucryptite)を含むバルクブロックを示したものである。
【0058】
図1は、本発明の一実施形態による歯科用バルクブロックは、メタケイ酸リチウムまたは二ケイ酸リチウム結晶相を含み、2θ=19.7、25.7、48.5(°)等で主なピークが現れ、これはユークリプタイト(beta-eucryptite,JCPDS #12-0709)に解釈されることができる。
【0059】
ここに開示の本発明の一実施形態による歯科用バルクブロックは、ユークリプタイト(eucryptite)以外に、更なる結晶相として2θ=22.18,22.9(°)で主なピークが現れるので、これは、リン酸リチウム(lithium phosphate、JCPDS #15-0760,2θ=22.3,23.1で主なピーク)と定義することができる。
【0060】
上記及び以下の記載において、XRD分析は、X線回折分析器(D/MAX-2500、Rigaku社製、日本;Cu Kα (40kV,60mA)、走査速度:6°/分、2θ:10~60(°)、Rigaku社製、日本)を用いて分析した結果であると理解されるべきである。
【0061】
ユークリプタイト(eucryptite)は、一般式LiAlSiO4で表されるケイ酸リチウムアルミニウム系結晶相であって、他のLAS系結晶相であるスポジュメン(LiAlSi2O6)、正長石(LiAlSi3O8)、ペタライト(LiAlSi4O8)、バージライト(LiAlSi5O12)に比べて結晶が弱く残留応力により加工工具に対して、切削抵抗性が低い性質を有している。このような結晶相を含む場合、二ケイ酸リチウムのみ存在するとき、より低い工具摩耗率を示すことができ、このような工具抵抗性が低くなると切削加工効率を向上させることができ、フライス削り工具の消耗を最小化することができるだけでなく、加工中に発生するチッピング(割損現象)を最小限に抑えることができる。
【0062】
本発明の一実施形態による歯科用バルクブロックをより容易に同定する方法は、ブロックを820℃で40分間熱処理する場合、820℃で2分間熱処理されたブロックと比較して、X線回折分析の結果グラフにおいてスポジュメン(spodumene)結晶相の特異的なピークが現れるという特性を有しているという点であり、820℃の同じ熱処理温度条件下でも2分間熱処理を行う場合、結晶相の構成において特異的な変化がないが、40分間の熱処理を行う場合は、ガラスマトリックス内のSiO2の移動が円滑になり、SiO2が少ないLAS系結晶相であるユークリプタイト(eucryptite)が、SiO2が増加したLAS系結晶相であるスポジュメン(spodumene)に相転移される特性が発現された。
【0063】
上記及び以下の記載において、ブロックを820℃で熱処理するとは、具体的にその規格が10×10×1.5mmのバルクブロックを歯科用ポーセレン炉(CS、Ivoclarvivadent社製)の装備を用いて45℃/分の条件で昇温し、最高温度820℃で熱処理することをいい、熱処理時間が40分である場合は、最高温度下での保持時間が40分のものであり、熱処理時間が2分である場合は、最高温度下での保持時間が2分であると定義する。
【0064】
これは、最高の熱処理温度で熱処理時間が2分から40分に増加するにつれてガラス内のSiイオン等がより活発かつより遠く移動しながらLiAlSiO4(ユークリプタイト)よりもSiO2がより多く結合されたLiAlSi2O6(スポジュメン)へ相転移(phase transformation)されることによって発現される特徴として理解されることができ、この特徴は、本発明による歯科用バルクブロックが結晶相としてユークリプタイト(eucryptite)を含むという反証としても理解することができる。
【0065】
これは、
図2のX線回折分析の結果グラフから確認することができ、
図2(a)は本発明の一実施形態によるバルクブロック(具体的には、
図1(a)または(b)に示されるバルクブロック)に対して820℃で2分間熱処理した結果物に対するものであり、
図2(b)は、本発明の一実施形態によるバルクブロック(具体的には、
図1の(a)または(b)に示されるバルクブロック)に対して820℃で40分間熱処理した結果物に対するものである。
【0066】
図2(b)に示した結果グラフの場合、
図2(a)に示した結果グラフと比較して、スポジュメン結晶相として同定される特異的なピークが存在することが分かり、特にユークリプタイト結晶相として同定される特異的なピークが消え、スポジュメン結晶相として同定される特異的なピークを示すことを確認することができる。
【0067】
このような特徴は、歯修復物の製造において歯科技工所や歯科病院等のようなユーザ側が追加的に遂行することができる再熱処理(Reheat-treatment)方法において、本発明によるバルクブロックが特異的な条件の下で強度など物性の変化を示すことができることを予測でき、結晶相の変化を考慮した条件の設定が必要であることを予測できる。
【0068】
本発明のバルクブロックを構成するこのような結晶相は、結晶粒子への形成が可能であり、これが温度に応じて様々なサイズおよびサイズ分布を示しながら機械的特性と光透過性を多様に具現することができる特性を有する。
【0069】
また、深さに対して結晶相の大きさの勾配を有することによってバルクブロックは、深さに対してグラデーションされた透光性及び機械的物性を具現することができる。更に、結晶相の大きさの勾配変化点に界面が存在しないことによって層間接合による加工を要することなく、また、切削加工途中に層間分離が発生する問題を解消することができる。更に、かかる傾斜機能化による力の分散という点から構造的安定性が増加された人工歯補綴物を提供することができる。
【0070】
このような本発明のバルクブロックにおける結晶相の大きさの勾配は、ケイ酸リチウム系結晶相を基準としてその平均粒径が0.05μm~1.0μmの範囲内にあり、ユークリプタイト結晶相を基準としてその平均粒径が1.0μm~4.0μmの範囲内で具現することができる。
【0071】
一例として、
図3には、本発明の歯科用バルクブロックに対する走査電子顕微鏡(SEM)写真を示したが、1つのブロックに対して1.5mm厚さにスライスされた試片に対して6個のSEM写真を示しており、これは深さ方向に並べられたものであり、適用用途を考慮して便宜上CervicalからIncisal方向のものに大別して図示している。具体的には、
図3の左上部にはブロックの上層部(深さ1.5mmのcervicalに相当する部分)のSEM写真からはじめて、深さ方向に1.5mmに相当する切断面を観察してブロックの最下層部(Incisalに相当する部分)を最後に観察した。
【0072】
このように得られたSEM写真を通じて結晶相粒子の平均の粒径を導き出すことができるが、具体的には、SEM写真に対角線またはランダムに直線を引いて直線が通過する結晶相の数を直線の長さで除算して倍率を斟酌して線状切断方法に従って求めることができる。
【0073】
上記及び以下の記載で、結晶相の大きさは、このような方法によって算出されたものと理解すべきである。
【0074】
本発明のバルクブロックは、傾斜機能材料としてこのような傾斜機能材料が同じ加工条件で切削加工、例えばCAD/CAM加工等に適用されることに従い、機械加工性を考慮し、人工歯用修復材料などの臨床で使用可能な透過性を発現できることから、ケイ酸リチウム系結晶相は、その平均粒径が0.05μm~1.0μmの範囲にあり、ユークリプタイトは、その平均粒径が1.0μm~4.0μmの範囲であることが好ましい。特に、ユークリプタイトはその粒子の外形が樹状突起(dendrite)の形態である多孔性結晶相であって、かかるモフォロジーに起因して、より機械加工性を増加させることができると予測することができる。
【0075】
本発明の歯科用バルクブロックは、上記のように結晶相の大きさの勾配を有することにより、深さに対して光透過度の勾配を有している。
【0076】
特に、前述した結晶相の大きさの勾配において、平均粒径の範囲を考慮する時、光透過度の勾配は、波長550nmを基準として25~45%の範囲内にあってもよい。
【0077】
上記及び以下の記載において、光透過率は紫外可視分光光度計(UV-2401PC、Shimadzu社製、日本)を用いて測定したものである。
【0078】
前述したように、本発明の歯科用バルクブロックは結晶相の大きさの勾配変化点に界面が存在しないことから、光透過度の勾配は、深さに対して0.5mm以内の範囲内でも変化し、実質的に深さに対して1.5mm範囲内でも変化することを確認することができる。
【0079】
本発明による歯科用バルクブロックに対して勾配位置別に光透過度を測定するために透明度が減少する深さ方向に約1.5mm切断後、試片表面を、エタノールを用いてきれいに洗浄し、紫外可視分光光度計(UV-2401PC、Shimadzu社製、日本)を用いて測定した。このとき、測定波長範囲は300~800nmであり、スリット幅は2.0nmとした。1.5mm厚さのスライス試片について、透過率の差があることを
図4の結果から確認することができる。
【0080】
かかる結果は、
図3の走査型電子顕微鏡写真で示した試片と対応するようにIncisalからCervicalのように併記して示した。
【0081】
図3において、各試料は、それぞれ次の表1の深さ別試片に該当する。
【0082】
【0083】
このような結果は、深さに対して1.5mm範囲内でも光透過率値が変化すること、即ち、このような厚さでも透過率の傾きが現れることを意味するものと見受けられる。これは、本発明の歯科用バルクブロックが傾斜機能材料であることが明らかに示す結果といえる。また、クラウンのような補綴物の作製時に咬頭部にあたる位置が最も厚い厚さに加工されるので、このような厚さ範囲でも審美的に好ましい光透過率を発現し得ることを予測することができる。
【0084】
他の一態様において、本発明の歯科用バルクブロックは、シェード(shade)においても勾配を有するので、具体的には深さに対して色差分析によるL*、a*およびb*値の勾配を有している。前述したように、本発明の歯科用バルクブロックは、結晶相の大きさの勾配変化点に界面が存在しないことから、深さに対して1.5mm範囲内でも色偏差ΔE値が変化することを確認することができる。
【0085】
色の正確な測定、伝達と再現のための色彩標準化が必要となり、そこで表色系(color system)を考案するようになった。多くの表色系が提案され、この中で現在まで最も広く使われることが1976年国際照明委員会(CIE,Commission International de l'Eclairage)で定めたCIE L*a*b色空間(CIELAB color space)というものである。ここで、L*は、明るさ(lightness)を示し、a*とb*は、色度座標(chromaticity coordinates)を示す。座標において、L*値が増加するほど明るい色を、減少するほど暗い色を呈し、+a*は赤色、-aは緑色、+bは黄色、-bは青色を意味する。
【0086】
本発明による歯科用バルクブロックに対して勾配位置別に色を測定するために透明度が減少する深さ方向に約1.5mmとなるように切断後、試片の表面を、エタノールを使用してきれいに洗浄し、紫外可視分光光度計(UV-2401PC、Shimadzu社製、日本)を用いて分析した。このとき、測定波長範囲は、380~780nmであり、スリット幅は2.0nmとした。標準参照試料を使用して基準線(baseline)を設定した後、試片に対して反射率を測定し、L*a*b*表色系を求めた。測定したL*a*b*値は、誤差を減らすために3回繰り返した後、平均値を用いた。これらの3つの値を用いて色差を示すΔEを利用して求めた。両試料のΔE値が0であれば、色差がないことを意味し、0~2に該当する値は、非常に若干の色差(very slight difference)があることを意味する。2~4の値は、色差が感知できる程度(noticeable)に区分されることを意味し、4~6の値は、容易に(appreciable)色差が区分されることを意味する。6~12の値は、色差が大きい(much)ことを意味し、12以上は、色差が非常に大きい(very much)を意味する。
【0087】
図1~
図3に示したような特徴を有する歯科用バルクブロックについて、1.5mm厚さのスライス試片に対して、深さに対して色差ΔEが1.3~1.6であることは、以下の表2の結果から確認することができる。このような結果は、深さに対して1.5mm範囲内でも色偏差ΔE値が変化すること、即ち、このような厚さでも色が異なるグラデーションシェード(gradient shade)が現れることを意味していると見られる。これは他の態様において、本発明の歯科用バルクブロックが傾斜機能材料であることが明らかに示す結果といえる。
【0088】
【0089】
さらに、本発明の歯科用バルクブロックは、深さに応じて屈曲強度の勾配を有している。特に、前述した結晶相の大きさの勾配において、平均粒径の範囲を考慮すると、曲げ強度の勾配は220MPa~350MPaの範囲内にあってもよい。なお、本発明の歯科用バルクブロックは、前述したような多様な物性の機能的な勾配を具現することができることと、加工性を考慮するとき、好ましくは、結晶化度が40~70%であることができる。
【0090】
上記及び以下の記載において、「結晶化度」は、非晶質のガラスマトリックスに対する結晶相の比率と定義することができ、これは、種々の方法により求めることができるが、本発明の一実施形態では、X線回折分析計を用いて自動計算された値である。
【0091】
このような本発明の歯科用バルクブロックは、連続的な非晶質のガラスマトリックス内に結晶相が析出したガラスセラミックであって、結晶相がメタケイ酸リチウムおよび二ケイ酸リチウムよりなる群から選ばれる少なくとも1つと、ユークリプタイト(eucryptite)とを含む結晶相を有し、深さに対して結晶相の大きさの勾配を有し、結晶相の大きさの勾配変化点に界面が存在しない傾斜機能材料を得ることができる。
【0092】
特に、結晶相は、全結晶相の体積を基準としてケイ酸リチウム系結晶相が40~60体積%であり、ユークリプタイト(eucryptite)結晶相が40~60体積%で含まれることが好ましく、これに加えて、更なる結晶相としてリン酸リチウムを含有する場合、その含量は最大5体積%を超えないことが好ましいことができる。
【0093】
一般に、結晶相の含量は、X線回折分析によって算出できるが、一例として、2つの多形状のaとbとなっている試料における結晶相aの比率Faは、定量的に次の式1で表される。
【0094】
【0095】
この値は、両結晶相の強度比の測定と定数Kを得ることによって求めることができる。Kは、2つの純粋な多形状の絶対強度比Ioa/Iobであり、標準物質を測定して求める。
【0096】
ユークリプタイト(eucryptite)結晶相は、前述したようにケイ酸リチウム系結晶相を含むガラスセラミックに切削加工性を向上させる役割をすることができるが、その含量が過度に増加すれば、強度を低下させる恐れがある。したがって、加工性と強度を考慮して結晶相のユークリプタイト(eucryptite)の含量は、結晶相の全体積を基準にして40~60体積%であることが好ましい。
【0097】
上記及び以下の記載において、「連続的なガラスマトリックス」という用語は、ガラスマトリクス中に層間界面が存在せず、ガラスマトリックスを構成する組成が全ブロック内で同一なものと定義することができる。
【0098】
好ましいガラスマトリックスは、具体的にSiO263.0~74重量%、Li2O11.0~13.7重量%、Al2O3を6~9重量%、K2O1.5~3.5重量%、P2O52.0~4.0重量%を含み、SiO2/(Li2O+Al2O3)のモル比は2.10~2.90を満たすものであることができる。
【0099】
その他に、ガラスの主成分以外に、ZnO0.5~1.0重量%、CaO0.1~2.0重量%、Na2O0.2~2.5がさらに含まれてもよいことは勿論である。
【0100】
これに加えて、SiO2/Li2Oのモル比に従ってケイ酸リチウム系結晶相が制御できるので、一例としてSiO2/Li2Oのモル比が2.20~2.59である範囲内で二ケイ酸リチウム結晶相とメタケイ酸リチウム結晶相が共に析出してもよく、SiO2/Li2Oのモル比が2.60~3.00の場合は、二ケイ酸リチウム結晶相のみがケイ酸リチウム系結晶状に析出することができる。
【0101】
SiO2/Li2Oのモル比が3.00を超えるようになる場合は、LAS系結晶相としてユークリプタイトよりは、SiO2が多量に含まれたスポジュメン、正長石、ペタライト、バージライト等が二ケイ酸リチウムと一緒に生成されることができる点で望ましくない。
【0102】
ガラス組成物は、結晶化を生成するために、結晶核の生成と結晶成長の熱処理を経て非晶質のガラスマトリックス中に結晶相を析出させ、前述したガラスマトリックスは、結晶核及び成長が生じる温度が500℃~850℃に相当する。すなわち、最小500℃から結晶核が形成され始めて昇温しながら結晶成長がなされ、この結晶成長は、最大850℃で人工歯として使用するにおいて、最も低い光透過性を示す。すなわち、結晶成長温度から最大850℃まで透光性が徐々に低くなるようになるが、このような結晶成長に着目したとき、これを一つのブロックで実現できるようになれば、これにより、天然歯のマルチグラデーション(multi gradation)の模倣が可能となる。
【0103】
天然歯は、1つの歯自体だけでなく、全ての歯が様々な透光性を有しており、このような熱処理温度による透光性の変化を、一つのバルクブロックに体化することができれば、十分に天然歯のグラデーションを具現することができる。
【0104】
かかる観点から、本発明はSiO263.0~74重量%、Li2O11.0~13.7重量%、Al2O3を6~9重量%、K2O1.5~3.5重量%、P2O52.0~4.0重量%を含み、SiO2/(Li2O+Al2O3)のモル比は、2.10~2.90を満たすガラス組成物を溶融し、モールドで成形および冷却し、480℃~250℃で20分~2時間の間、設定された速度でアニーリングするステップを含む、所定形状のブロックを作製するステップと、前記ブロックを、段階的な熱処理炉(furnace)内で最高温度850~1,000℃の温度範囲で熱処理して、ブロックの深さ方向に対して温度勾配を与えて熱処理するステップと、を含む、歯科用バルクブロックの製造方法を提供する。
【0105】
前述したように、ガラス組成物は、前述したガラス主成分以外に、ZnO0.5~1.0重量%、CaO0.1~2.0重量%、Na2O0.2~2.5が追加的に含むことができるのは勿論である。
【0106】
これに加えて、SiO2/Li2Oのモル比に従ってケイ酸リチウム系結晶相が制御できるので、一例としてSiO2/Li2Oのモル比が2.20~2.59となる範囲内で二ケイ酸リチウム結晶相とメタケイ酸リチウム結晶相とが共に析出してもよく、SiO2/Li2Oのモル比が2.60~3.00の場合は、二ケイ酸リチウム結晶相のみがケイ酸リチウム系結晶状に析出することができる。
【0107】
SiO2/Li2Oのモル比が3.00を超えるようになる場合は、LAS系結晶相としてユークリプタイトよりはSiO2が多量に含まれたスポジュメン、正長石、ペタライト、バージライト等が二ケイ酸リチウム結晶相と共に生成され得る点で望ましくない。
【0108】
好ましい一実施形態によれば、勾配熱処理炉(furnace)内で熱処理するステップにおける最高温度への昇温速度は、30℃/分~110℃/分で速い速度で行い、最高温度850~1,000℃に到達すると、最高温度下で1分~5分間の短時間の間保持する方法で行うことが好ましい。
【0109】
SiO2の移動度が熱処理速度、温度、保持時間に応じて変わることにより、多様なLAS系結晶相が析出することができ、これらの結晶相に応じて加工性などが変わることができるところ、本発明で意図する加工性を満たす上で好適なLASファミリーの結晶相は、ユークリプタイト(eucryptite)であり、このような結晶相を形成するにおいて、好適な熱処理条件は、最高温度まで速やかに到達し、当該最高温度で短時間の間保持するものであってもよい。すなわち、LAS系結晶への結晶成長を初期状態(initial state)で停止させるために急速熱処理を施すことが、ユークリプタイトを生成するという点で重要であることができる。
【0110】
前述したように、ガラス組成物は、熱処理温度範囲によって材料の光透過性が異なるように現れるという特性を発現することができ、このため、熱処理が全ブロックに一定に印加されると、一定の透光性を示すが、熱処理が温度勾配を与えてブロックに加えられると、1ブロックで物性や透光性のマルチグラデーション(multi gradation)を発現することができる。
【0111】
バルク形態のブロックの場合、CAD/CAM加工など機械加工用ワークピース(workpiece)として用いられるが、本発明の製造方法は、このブロックを熱処理する際に深さ方向に対して温度勾配を与えて加熱することにより透光性と強度がマルチグラデーション(multi-gradation)されたバルクブロックに製造することができる。
【0112】
従来の結晶化ガラスは、一般に、結晶サイズが粗大であり透光性の調節が困難であり、強度も強く加工にくいことに対し、本発明で採択したガラス組成物の場合、微細結晶の形成が可能であり、これが温度に応じて様々なサイズおよびサイズ分布を示しながらそれぞれ物性と光透過性が多様に表れることができるので、この点を反映して一つのガラス組成からブロックを作製した後、これを温度勾配を与えて熱処理する方法によって1つのバルクブロックに機械的物性及び光透過性がマルチグラデーションされるように体化することができるようにしたものである。
【0113】
このとき、「ブロックの深さ方向に対して温度勾配を与えて熱処理するステップ」とは、ブロックの深さ方向に対して下端から上端に至るまで順次上昇された温度勾配を与えることができるのは勿論であり、部分的に温度の差を与える方式の温度勾配も許容可能である。このような温度勾配方式の選択は、人工歯補綴物を必要とする患者の天然歯の特性に応じて変わり、または補綴物を必要とする歯の部位が持つ固有の特性に応じて変わることは勿論である。
【0114】
しかし、典型的な天然歯を考慮すると、好ましい熱処理温度勾配は、ブロックの深さに対して下端から上端にわたって徐々に温度が上昇するといった方式で温度勾配を与えて熱処理することが好ましいことができる。
【0115】
前述のガラス組成物を用いて前述した本発明の熱処理方法を用いる場合、本来の歯の構造が歯頸部(cervical)の方が透光性が低く、切端(incisal)側に行くほど透光性が高くなる特徴を模倣することができる。これにより、既存の方式のように、補綴物作製時に別に特徴づけが不要なので経済的に非常に有利になることができる。
【0116】
また、天然歯の物性は、表面層であるエナメル質は曲げ強度が高く、その内側の象牙質は強度が弱いので、外力を吸収して分散させる役割をするが、本発明において、熱処理の深さに応じた微細構造の差で機械的物性、特に曲げ強度が勾配を有する傾斜機能材料が可能であるので、天然歯の物性的側面にも類似するように再現できることが特徴である。
【0117】
本発明によって得られた歯科用バルクブロックを用いて歯修復物を製造することは、加工性の面で顕著な向上を期待することができるが、具体的な一例として、本発明の一実施形態では、前述した歯科用バルクブロックを加工機械を用いて加工して所定の歯修復物を製造するステップと、研磨(polisihing)またはグレージング(glazing)するステップと、を含む、歯修復物の製造方法を提供する。
【0118】
上記及び以下の記載では、歯修復物は、歯冠、インレー、オンレー、ベニア、アバットメント等をすべて含むことは勿論である。
【0119】
ここで、グレージングは、730~820℃で30秒~10分間行うことができ、この場合は、熱処理による透光性の変化がほぼ無い典型的な仕上げ熱処理ステップであってよい。グレージングは、通常はブロック固有の透光性を変化させない範囲内で行われ、グレージング熱処理時には表面の微細亀裂が緩和されながら(surface healing)強度が増加することができる。
【0120】
保持時間が20分を超える場合、SiO2が増加されたスポジュメンやバージライト結晶が形成されることができるので、このような結晶相の変化を意図していないならば、グレージングは、730~820℃で、30秒~10分以内で行われることが好ましい。
【0121】
このような条件のグレージングを介して微細亀裂の緩和効果により歯修復物は、二軸曲げ強度の勾配が300~380MPaに強化されることができ、これは、
図8aの結果から確認することができる。
【0122】
しかしながら、特異的な実施形態において、本発明によるバルクブロックを用いる歯修復物の製造方法におけるグレージングは、少なくとも825℃の熱処理によって、加工された歯修復物の透光性を調節するための用途で用いられることができる。すなわち、バルクブロックを加工して歯修復物に製造し、次いで、最終仕上げステップで透光性を減少させて明度を調節することができる用途でグレージングを活用することができる。
【0123】
バルクブロックを用いて加工者またはユーザ側で機械加工して歯修復物を製造する際に意図せずに透光性が高く変化する場合が発生することがあるが、このような場合、通常の二ケイ酸リチウム系バルクブロックは、機械加工された当該バルクブロックを廃棄し、再びバルクブロックから所定の熱処理を経て目的とする透光性を満たすバルクブロックを再加工した後、これを歯修復物に加工する過程を再び経なければならない。しかし、本発明によるバルクブロックの場合は、微細な結晶相を有する特異的なバルクブロックにより、熱処理温度によって透光性が調節される特性を発現することができるため、再加工が不要であり、歯修復物に加工された加工物を最終仕上げするステップにおいて所定の条件にグレージングする工程を経ることにより簡易に透光性を再び調節できる。これにより、グレージングによって歯修復物に加工する中に生成した変色歯(colored tooth)を簡易な方法でシールドすることができる。
【0124】
このような用途でのこのグレージングは、好ましくは少なくとも825℃の温度で30秒~10分間行われることである。このようなグレージング処理時にその保持時間が長くなるとSiO2が増加されたスポジュメンやバージライト結晶が形成されることができるので、このような結晶相の変化を意図していないならば、ガラスは、少なくとも825℃で30秒~10分以内で行われることが好ましい。
【0125】
このような条件のグレージングを通じた結晶成長によって、歯修復物は二軸曲げ強度の勾配が350~400MPaに強化することができ、これは
図8bの結果から確認することができる。
【0126】
特徴的に本発明によって得られた歯科用バルクブロックの場合は、加工機械を利用して加工する際に、加工中に発生する抵抗力を著しく低減させることができるが、具体的な一例として、
図1~
図3に示したような特徴を有する歯科用バルクブロック(本発明)について、大きさ12×14×18mmにして低速切断機(ISOMET low speed saw、Buehler社製、ドイツ)とdiamond electroplated wheel(2514485H17、Norton社製、米国)で250RPMにて回転させ、切断時間を測定した。そして、同様な方法で最も一般的な二ケイ酸リチウム系ブロックの最終熱処理(従来の二ケイ酸リチウム)(Rosetta SM、HASS Corp社製)、ジルコニア強化二ケイ酸リチウム系バルクブロック(ジルコニア強化二ケイ酸リチウム)(Celtra Duo、DentsplySiron社製)及びアルミノケイ酸リチウム強化二ケイ酸リチウムバルクブロック(LAS reinforced lithium disilicate)(Nice、Straumann社製)に対して切断時間を測定した。
【0127】
このように得られたそれぞれの切断時間値より切削抵抗(cutting resistance、%)を算出したところ、具体的には、通常の二ケイ酸リチウムブロックについて得られた切断時間を100%とし、これに対する相対パーセントとして切断時間を換算してこれを各切削抵抗値として算出した。
【0128】
【0129】
図5の結果から、通常の二ケイ酸リチウムブロックが切削抵抗性が最も高く、その次にLAS(lithium alumino silicate)結晶化ガラス、ジルコニア強化結晶化ガラスが切削抵抗性が高く、本発明によるブロックの場合、著しく低い切削抵抗性を示した。ここで、本発明によるブロックについては、SiO
2/Li
2Oのモル比(S/Lと略称する)が2.7であるものと2.5であるものと2種のブロックについてその結果を示しており、二ケイ酸リチウム結晶相を含んでいても顕著に低い切削抵抗性を示すことを確認することができた。
【0130】
このような結果から、本発明のガラスセラミックブロックの場合、最もマシナブルであり、これからLAS系結晶相の中でユークリプタイト(eucryptite)を含むことによるものであることを予測することができる。
【0131】
本発明の具体的な実施形態では、最初に、SiO263.0~74重量%、Li2O11.0~13.7重量%、Al2O3を6~9重量%、K2O1.5~3.5重量%、P2O52.0~4.0重量%を含み、SiO2/(Li2O+Al2O3)のモル比は2.10~2.90を満たすガラス組成物を秤量し、混合する。
【0132】
ガラス組成物として、Li2Oの代わりにLi2CO3を添加してもよく、Li2CO3の炭素(C)成分である二酸化炭素(CO2)は、ガラスの溶融工程において、ガスとして排出されるようになる。また、アルカリ酸化物において、K2OおよびNa2Oの代わりにそれぞれK2CO3、Na2CO3を加えても良く、K2CO3、Na2CO3の炭素(C)成分である二酸化炭素(CO2)は、ガラスの溶融工程において、ガスとして排出されるようになる。
【0133】
混合は、乾式混合工程を使用し、乾燥混合工程としては、ボールミル(ball milling)工程などを用いることができる。ボールミル工程について具体的に説明すると、出発原料をボールミル機(ball milling machine)に装入し、ボールミル機を一定速度で回転させて出発原料を機械的に粉砕し、均一に混合する。ボールミル機に用いられるボールは、ジルコニアやアルミナのようなセラミックス材質からなるボールを用いてもよく、ボールの大きさはいずれも同一であるか、または、少なくとも2種以上のサイズを有するボールを用いることができる。目標の粒子の寸法を考慮して、ボールのサイズ、ミル時間、ボールミル機の分当たり回転速度などを調節する。一例として、粒子の寸法を考慮して、ボールのサイズは、1mm~30mm程度の範囲に設定し、ボールミル機の回転速度は50~500rpm程度の範囲に設定することができる。ボールミルは、目標の粒子の寸法などを考慮して1~48時間実施することが好ましい。ボールミルにより、出発原料は、微細な寸法の粒子に粉砕され、均一な粒径を有し、かつ、均一に混合されることになる。
【0134】
混合された出発原料を溶融炉に入れ、出発原料が入れられた溶融炉を加熱して出発原料を溶融する。ここで、溶融とは、出発原料が固体状態ではない液体状態の粘性を有する物質状態に変化することを意味する。溶融炉は、高融点を有しながら強度が大きく、溶融物がくっつく現象を抑えるために、接触角が低い物質からなることが好ましく、このために白金(Pt)、DLC(diamond-like-carbon)、シャモット(chamotte)などの物質からなるか、白金(Pt)またはDLC(diamond-like-carbon)のような物質で表面がコーティングされた溶融炉であることが好ましい。
【0135】
溶融は、1,400~2,000℃で常圧にて1~12時間行うことが好ましい。溶融温度が1,400℃未満である場合は、出発原料が未だ溶融していない恐れがあり、溶融温度が2,000℃を超える場合は、過度なエネルギー消費が必要であるから経済的ではないため、前述した範囲の温度で溶融することが好ましい。また、溶融時間が短すぎる場合には出発原料が十分に溶融しないことがあり、溶融時間が長すぎる場合は、過度なエネルギー消費が必要であるから経済的ではない。溶融炉の昇温速度は5~50℃/分程度であることが好ましいが、加熱炉の昇温速度が遅過ぎる場合は、長い時間がかかり、生産性が劣り、溶融炉の昇温速度が速過ぎる場合には急激な温度上昇により出発原料の揮発量が多くなり、結晶化ガラスの物性が良くないことがあるので、前述の範囲の昇温速度で溶融炉の温度を上げることが好ましい。溶融は、酸素(O2)、空気(air)のような酸化雰囲気下で行うことが好ましい。
【0136】
溶融物を所望の形状およびサイズの歯科用結晶化ガラスを得るために定められた成形型に注ぐ。成形型は高融点を有しながら強度が大きく、ガラス溶融物がくっつく現象を抑えるために、接触角が低い物質からなることが好ましく、そのために黒鉛(graphite)、カーボン(carbon)のような物質からなり、熱衝撃を防止するために、200~300℃に予熱し、溶融物を成形型に注入することが好ましい。
【0137】
成形型に入れた溶融物が成形及び冷却されるため、冷却過程後に480℃~250℃で20分~2時間の間、設定された速度で徐冷(annealing)するステップを経ることが好ましい。このように徐冷ステップを経ることが成形物内の応力のばらつきを減らして、好ましくは、応力が存在しないようにして、以下の結晶化ステップで結晶相の大きさ制御及び結晶分布の均一性の向上に好ましい影響を与えることができ、これにより、最終的に目的とする機能傾斜材料を得ることができる。
【0138】
ここで設定された速度とは、好ましくは、2.3~14℃/分であることが十分な徐冷が行われるという点で好ましい。
【0139】
このように徐冷過程を経た成形体を結晶化熱処理焼成炉に移し、核形成および結晶成長させて、目的とする結晶化ガラスを製造する。
【0140】
図6は、本発明にしたがって温度勾配を与えて結晶化熱処理を行う方法を模式化して示したが、ブロック型又はインゴット型のバルクブロックを結晶化熱処理する際の深さ方向に沿って上端は高温での熱処理(High temperature)し、下端は低温での熱処理(Low temperature)を行うように温度勾配を与えて熱処理する。
【0141】
上記及び以下の記載において温度勾配を与えて熱処理するステップ、特定の装置及び方法に限定されるものではないが、一例として勾配熱処理炉(furnace)内で行われてもよく、勾配熱処理炉(furnace)内で最高温度850~1,000℃の温度範囲で熱処理して、昇温速度30℃/分~110℃/分で最高温度まで昇温し、最高温度下で1分~5分間維持する方法で行われることが好ましい。
【0142】
このような温度勾配を与えた熱処理によって高温部分から低温部分へと、光透過率は高透過率(high transmittance)で勾配を有し、曲げ強度は低強度(low flexural strengh)で勾配を有する様相を示す。これは、結晶化ガラス内の結晶の大きさが温度に応じて調整可能であるからである。温度勾配を有する熱処理後に生成される結晶相は、メタケイ酸リチウムまたは二ケイ酸リチウムのようなケイ酸リチウム系結晶相と、ユークリプタイト(eucryptite)を含み、ケイ酸リチウム系結晶相の平均粒径が0.05μm~1.0μmの範囲内にあり、ユークリプタイト結晶相の平均粒径を1.0μm~4.0μmの範囲内にある傾斜機能材料であるバルクブロックを製造することができる。
【0143】
また、本発明により得られたバルクブロックについて、深さに対する曲げ強度変化を測定して、これを
図7に示す。
【0144】
一方、このようなバルクブロックに対して820℃で2分間グレージング熱処理して得られた結果物に対して、曲げ強度を測定した結果を
図8aに示した。
【0145】
一方、このようなバルクブロックに対して840℃で2分間グレージング熱処理して得られた結果物に対して、曲げ強度を測定した結果を
図8bに示した。
【0146】
以上、本発明を図面に示された一実施形態を参照して説明したが、これは例示的なものに過ぎず、本技術分野における通常の知識を有する者であれば、これから多様な変形及び均等な他の実施形態が可能であるということを理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明は、天然歯の構造的特性に類似した人工歯を製造するのに有用であり、特に、機械加工性が向上した歯科用バルクブロック及びこれを製造する方法に関する。
【0148】
本発明による歯科用バルクブロックは、CAD/CAMなどのような切削加工によって更なる工程を追加することなく繰り返し再現性を有するように天然歯に類似したマルチグラデーション(Multi-gradation)透過性ないし物性を発現する人工歯修復材料の製造に容易に用いられることができ、人工歯補綴物の作製にかかる時間と工程を短縮させることができるだけでなく、機械的物性の傾斜機能化による力の分散という点で構造的な安定性が増加された効果をもたらすことができ、かかる歯科用バルクブロックは、特定の組成を有する単一のガラス組成物を用いて勾配熱処理する簡易な方法で製造できるという利点がある。
【国際調査報告】