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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】有機発光ダイオード
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/12 20230101AFI20240719BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20240719BHJP
   H10K 85/30 20230101ALI20240719BHJP
   H10K 50/15 20230101ALI20240719BHJP
   H10K 50/16 20230101ALI20240719BHJP
   H10K 50/18 20230101ALI20240719BHJP
   H10K 50/19 20230101ALI20240719BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20240719BHJP
   H10K 101/25 20230101ALN20240719BHJP
   H10K 101/40 20230101ALN20240719BHJP
   H10K 101/30 20230101ALN20240719BHJP
   H10K 101/10 20230101ALN20240719BHJP
   H10K 101/20 20230101ALN20240719BHJP
【FI】
H10K50/12
H10K85/60
H10K85/30
H10K50/15
H10K50/16
H10K50/18
H10K50/19
C09K11/06 660
H10K101:25
H10K101:40
H10K101:30
H10K101:10
H10K101:20
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024504943
(86)(22)【出願日】2022-05-18
(85)【翻訳文提出日】2024-01-24
(86)【国際出願番号】 KR2022007113
(87)【国際公開番号】W WO2023008708
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】10-2021-0098290
(32)【優先日】2021-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0012399
(32)【優先日】2022-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524033098
【氏名又は名称】ローディン カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100122448
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 賢一
(72)【発明者】
【氏名】キム ヨンジュン
(72)【発明者】
【氏名】リー ハクフン
(72)【発明者】
【氏名】ムン ミンシク
【テーマコード(参考)】
3K107
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107CC04
3K107CC06
3K107DD52
3K107DD53
3K107DD59
3K107DD64
3K107DD66
3K107DD67
3K107DD69
3K107DD71
3K107DD74
3K107DD78
3K107DD80
3K107FF12
3K107FF13
3K107FF19
(57)【要約】
第1電極、第2電極及び多機能化合物を含む発光層を含む有機発光ダイオードであって、前記多機能化合物は励起錯体形成モイエティ及び発光モイエティを含む有機発光ダイオードを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極、第2電極及び前記第1電極と前記第2電極との間に位置する発光層を含み、
前記発光層のいずれか一面または両面に隣接する有機層をさらに含むか、または含まず、
前記発光層は多機能化合物を含み、
前記発光層または前記隣接する有機層は励起錯体形成化合物を含み、
前記多機能化合物は励起錯体形成モイエティ及び発光モイエティを含み、
前記励起錯体形成モイエティは、前記励起錯体形成化合物と励起錯体とを形成し、
前記発光モイエティは、前記励起錯体の励起エネルギー伝達を受けて発光する、
有機発光ダイオード。
【請求項2】
前記励起錯体形成モイエティは、前記励起錯体形成化合物と励起錯体とを形成することができる化合物から誘導された、
請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項3】
前記励起錯体形成モイエティのHOMOエネルギーをE(1)HOMO、LUMOエネルギーをE(1)LUMOとし、前記励起錯体形成化合物のHOMOエネルギーをE(2)HOMO、LUMOエネルギーをE(2)LUMOとする時、下記<条件1>または<条件2>を満たし、
<条件1>
│E(1)HOMO│≦│E(2)HOMO│で、│E(1)LUMO│≦│E(2)LUMOである。
<条件2>
│E(1)HOMO│≧│E(2)HOMO│で、│E(1)LUMO│≧│E(2)LUMO│である。
前記励起錯体形成モイエティと前記励起錯体形成化合物が励起錯体を形成する場合、励起錯体エネルギーの最大発光波長エネルギーをE(ex)とする時、下記<条件3>または<条件4>を満たす、
<条件3>
│E(1)HOMO│‐│E(2)LUMO│≧E(ex)
<条件4>
│E(2)HOMO│‐│E(1)LUMO│≧E(ex)
請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項4】
前記発光モイエティは発光材料から誘導された、
請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項5】
前記発光モイエティは、400nmないし700nmの可視光線波長領域で量子効率50%以上の共役構造を持つ、
請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項6】
前記発光モイエティは、700nmないし2200nmの近赤外線波長領域で量子効率10%以上の共役構造を持つ、
請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項7】
前記発光モイエティの発光メカニズムは、一重項から光が出る蛍光、三重項から光が出る燐光、三重項から一重項にエネルギーが伝達されて光が出る遅延蛍光を含む、
請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項8】
前記励起錯体形成モイエティのバンドギャップエネルギーは、前記発光モイエティのバンドギャップエネルギーより大きい、
請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項9】
前記多機能化合物で、前記励起錯体形成モイエティと前記発光モイエティとが化学結合で繋がった、
請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項10】
前記多機能化合物は重水素に置換された、
請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項11】
前記化学結合は、単一結合、二重結合、三重結合または配位結合である、
請求項9に記載の有機発光ダイオード。
【請求項12】
前記化学結合は、炭素数6ないし20のアリーレン、炭素原子、酸素原子、窒素原子、シリコーン原子、Ge原子、S原子またはP原子を媒介にして繋がった、
請求項9に記載の有機発光ダイオード。
【請求項13】
前記励起錯体形成モイエティと前記発光モイエティとが炭素、シリコーンまたはGeを媒介にしてスピロ構造で繋がった、
請求項9に記載の有機発光ダイオード。
【請求項14】
前記発光モイエティは、前記化学結合前、発光化合物から誘導され、
前記多機能化合物で、前記化学結合によって繋がった前記励起錯体形成モイエティが前記発光モイエティのバンドギャップエネルギーを前記化学結合前に前記発光化合物のバンドギャップエネルギーと比べて0.2eV以上変化させない、
請求項9に記載の有機発光ダイオード。
【請求項15】
前記励起錯体形成モイエティのバンドギャップエネルギーは、1eVないし4.7eVで、前記発光モイエティのバンドギャップエネルギーは0.5eVないし3.5eVで、
前記励起錯体形成モイエティと前記発光モイエティのバンドギャップエネルギーの差は2eV以内である、
請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項16】
前記励起錯体形成モイエティのHOMOエネルギー準位と前記発光モイエティのHOMOエネルギー準位の差は1.9eV以内で、
前記励起錯体形成モイエティのLUMOエネルギーと前記発光モイエティのLUMOエネルギーのエネルギー準位の差は1.9eV以内である、
請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項17】
前記励起錯体形成モイエティは、下記化学式1で表される電子供与体の物質から誘導されるか、または下記化学式2で表される構造の中でいずれか1つの電子受容体の物質から誘導された、
請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【化1】
前記化学式1において、
Arは、それぞれ独立的に、置換または非置換された炭素数6ないし30のアリール、置換または非置換された炭素数5ないし30のヘテロアリール、または置換または非置換された炭素数1ないし20のアルキルであってもよく、前記2つのArが繋がって炭素数12ないし30の融合環を形成することができ、
前記化学式1の中で少なくとも一つの水素原子が重水素に置換されたり非置換される。
【化2】
前記化学式2において、
Xは窒素または炭素であってもよく、
n及びmは0ないし6の整数で、ただし、Xが窒素であればn+mは1ないし3の整数で、Xが炭素であればn+mは1ないし6の整数であり、
Arは、それぞれ独立的に、置換または非置換された炭素数6ないし30のアリール、置換または非置換された炭素数5ないし30のヘテロアリール、置換または非置換された炭素数6ないし30のアリールシリル、置換または非置換された炭素数6ないし30のアリールオキシ、置換または非置換された炭素数1ないし20のアルキルシリル、置換または非置換された炭素数1ないし20のアルキル、置換または非置換され、ホスフィンまたはホスフィンオキサイドを含む炭素数6ないし30のアリール基であってもよく、前記2つのArが繋がって炭素数12ないし30の融合環を形成することができ、
前記化学式2の中で少なくとも一つの水素原子が重水素に置換されたり非置換される。
【請求項18】
前記励起錯体形成モイエティは、有機物または有機金属錯体から誘導された、
請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項19】
前記発光モイエティは、ボロンを含んで共役構造を持つ、
請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項20】
前記発光モイエティは金属を含む、
請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項21】
前記発光層はIrまたはPtを含む燐光物質をさらに含む、
請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項22】
前記発光層は、一重項と三重項のエネルギーの差が0.3eV以上の遅延蛍光物質をさらに含む、
請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【請求項23】
前記有機発光ダイオードは、複数の有機発光ユニットを含むタンデム型有機発光ダイオードで、
前記複数の有機発光ユニットの中で少なくとも一つは前記発光層を含む、
請求項1に記載の有機発光ダイオード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機発光ダイオードに関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光ダイオード(Organic Light Emitting Diode、OLED)は、正極(Anode)から注入された正孔と負極(Cathode)から注入された電子とが発光層で結合して励起子を形成して光を発散する素子であって、1987年C.W.TangによってAppl.Phys.Lett 51、913に初めて報告された。発光層ホストのHOMO波動関数には、互いに異なるスピンを持つ2つの電子が存在する。OLEDでは有機物から直接電子が出入りする現象としてHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)準位で電子が出て、LUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)準位で電子が注入される。この時、出入りする電子のスピン方向は決まっていないので、形成された励起子は同じスピン方向の三重項と違うスピン方向の一重項である。有機物では交換エネルギーと電子間の反発エネルギーによって、三重項は普通0.5eVないし1eVぐらいエネルギーが小さい。一重項と三重項の割合は、理論的に25%と75%になり、一重項は光で発散するが三重項は熱として損失される。OLED素子の内部量子効率を上げるためには、三重項を光で発散するように誘導しなければならない。Mark E.Thompsonは1997年出願した特許(US6303238B1)でPtのような重金属を利用してスピン軌道相互作用(Spin‐Orbit Coupling)を増加させることによって三重項を光で発散する技術を報告した。Chihaya Adachiは、Nature、2012、492、234‐238にて一つの分子内でHOMOとLUMOとの間の波動関数の重なりが最小になるように分子を設計した。このようになれば、三重項のエネルギーが一重項に移動して光の発散が起きる遅延蛍光(TADF;thermally activated delayed fluorescence)によって効率が高くなる。しかし、重金属を使う方法は、Pt、Irなどが非常に高価で、なお、三重項で青色が発現されなければならないため、一重項のHOMO‐LUMOのギャップエネルギーが高くて、物質の安定性に問題が発生するおそれがある。遅延蛍光を利用する方法は、HOMOとLUMOの波動関数の小さな重ね率によって発光スペクトルの半値幅(FWHM:full width at halfmaximum)が広くなって濃い青色の具現が難しく、物質の安定性にも問題がある。
【0003】
一重項と三重項のエネルギーの差を減らす他の方法として研究されたことは、相対的に電子が豊かな電子供与体(donor)分子と電子が足りない電子受容体(acceptor)分子との間に励起錯体を形成することであるが、電子供与体(あるいは、電子受容体)分子が光を吸収して励起状態になると、基底状態(ground state)にある電子受容体(あるいは、電子供与体)分子とのクーロン相互作用(Coulombic Interaction)によって2つの物質が励起錯体(exciplex)を形成する(Valeur、B、Berberan‐santos、M.N、Wiley‐VCH Verlag GmbH & co.KGaA、2nd edition、2012)。この状態では三重項のエネルギーと一重項のエネルギーとの差が小さくて光の発散効率を高めることができる。しかし、このような励起錯体を形成する場合もとても広い発光スペクトルの半値幅を持つため、濃い青色の具現が難しいという問題点があり、濃い青色を得るためにドーパントをドーピングする場合、励起錯体からドーパントへのエネルギー転移が効率的ではなく、高い量子効率を得ることができないという問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、エネルギーを効率的に転移することによって量子効率を改善した有機発光ダイオードを提供することである。
本発明の目的は、以上で言及した目的に制限されず、言及されていない本発明の他の目的及び長所は下記の説明によって理解されることができ、本発明の実施例によってより明らかに理解される。また、本発明の目的及び長所は、特許請求の範囲に示す手段及びその組み合わせによって実現されることができることを容易に分かることができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一具現例において、
第1電極、第2電極及び前記第1電極と前記第2電極との間に位置する発光層を含み、
前記発光層のいずれか一面または両面に隣接する有機層をさらに含むか、または含まず、
前記発光層は多機能化合物を含み、
前記発光層または前記隣接する有機層は励起錯体形成化合物を含み、
前記多機能化合物は励起錯体形成モイエティ及び発光モイエティを含み、
前記励起錯体形成モイエティは前記励起錯体形成化合物と励起錯体とを形成し、
前記発光モイエティは前記励起錯体の励起エネルギー伝達を受けて発光する、
有機発光ダイオードを提供する。
【発明の効果】
【0006】
前記有機発光ダイオードは、一重項と三重項のエネルギーの差を減らしながら前記多機能化合物内のモイエティの間の効果的なエネルギー転移が可能であり、濃い青色の具現が容易で、且つエネルギー転移が効率的であるため、高い量子効率を得ることができる。
上述した効果とともに、本発明の具体的な効果は以下の発明を実施するための具体的な事項を説明しながら一緒に記述する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】前記多機能化合物の作用メカニズムを例示的に説明する図面である。
図2】本発明の一具現例による有機発光ダイオードで励起錯体の励起エネルギーが前記多機能化合物内でモイエティの間に伝達されて発光するメカニズムを模式的に示す。
図3】化合物1、2及び3に対して測定した吸収スペクトルと発光スペクトルである。
図4】化合物Aと励起錯体を形成するのか否かを判別するために評価した発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施例について本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳しく説明する。本発明は幾つか異なる形態で具現されることができ、ここで説明する実施例に限定されない。
【0009】
本発明の一具現例による有機発光ダイオード(organic light emitting diode)は、
第1電極、第2電極及び前記第1電極と前記第2電極との間に位置する発光層を含み、
前記発光層のいずれか一面または両面に隣接する有機層をさらに含むか、または含まず;
前記発光層は多機能化合物を含み、
前記発光層または前記隣接する有機層は励起錯体形成化合物を含み、
前記多機能化合物は励起錯体形成モイエティ及び発光モイエティを含み、
前記励起錯体形成モイエティは前記励起錯体形成化合物と励起錯体とを形成し、
前記発光モイエティは前記励起錯体の励起エネルギー伝達を受けて発光する。
【0010】
前記有機発光ダイオードは、エネルギーの転移速度と係る速度定数値を上げることができる前記多機能化合物を利用することで発光効率を向上させる。
【0011】
前記有機発光ダイオードは、濃い青色を具現しながらも、高い量子効率を示す。
【0012】
前記励起錯体形成モイエティは、前記励起錯体形成化合物と励起錯体とを形成することができる化合物から誘導される。
【0013】
前記多機能化合物は、前記励起錯体形成化合物と励起錯体を形成することができる化合物と発光化合物が結合して形成される。それによって、前記励起錯体形成モイエティは、前記励起錯体形成化合物と励起錯体とを形成することができる化合物から誘導される。また、前記発光モイエティは、前記発光化合物に起因する。
【0014】
前記多機能化合物は、励起錯体形成化合物に起因した励起錯体形成モイエティと前記発光化合物に起因した発光モイエティとを含む。
【0015】
励起錯体のメカニズムは、2つの分子の間で起きる現象であって、先ず一つの分子がHOMO‐LUMOギャップに該当する光を吸収して励起状態(excited state)になり、周りにある他の分子との相互作用によって励起錯体を形成する。励起錯体が光を放出すれば、2つの分子は元の状態に戻る。
【0016】
前記2つの分子が同種の分子である場合、励起二量体(excited dimer)またはエキシマ(excimer)といい、前記2つの分子が異種の分子である場合、励起錯体(excited complex)またはエキシプレックス(exciplex)という。本明細書において、励起錯体は前記2つの分子が異種である場合を例示的に説明しているが、同種の場合も応用可能である。
【0017】
本明細書において、前記励起錯体を形成する2つの分子を、便宜上、それぞれ第1励起錯体形成化合物と第2励起錯体形成化合物とで区別して称する。区別の便宜上、前述した励起錯体形成化合物と励起錯体とを形成することができる化合物を第1励起錯体形成化合物といい、前述した励起錯体形成化合物を第2励起錯体形成化合物と称する。それによって、前記励起錯体形成モイエティは第1励起錯体形成化合物から誘導され、前記有機層は第2励起錯体形成化合物を含み、前記第1励起錯体形成化合物と前記第2励起錯体形成化合物は共に励起錯体を形成することができる。
【0018】
前記第1励起錯体形成化合物及び前記第2励起錯体形成化合物は、それぞれ励起錯体を形成することができる、ある一分子であってもよい。前述のように、本明細書において、前記第1励起錯体形成化合物と前記第2励起錯体形成化合物の「第1」及び「第2」は、区分の便宜のために命名されたものであって、例えば、前記第1励起錯体形成化合物と前記第2励起錯体形成化合物は、互いに反対になってもよい。
【0019】
前記第1励起錯体形成化合物と前記第2励起錯体形成化合物は、同一であるか、異なってもよい。
【0020】
有機発光ダイオード素子において、イオン化エネルギーが小さい物質と電子親和力が大きい物質を発光層に一緒に使えば、電子の移動過程で励起錯体が形成される。この励起錯体に発光化合物をドーパントで混ぜてあげれば、ドーパントが励起錯体の励起子エネルギーを吸収して光の放出を起こすことがある。このような光放出を起こすためには、励起錯体からドーパントへのエネルギー伝達効率が高くなければならない。エネルギー伝達方式としては、下記数式1の光による方法、
と下記数式2の電子による方法(Dexter Electron Transfer)がある。
【0021】
【数1】
[数式1]
【0022】
Dexter Electron Transfer
【数2】
[数式2]
ET:速度定数
r:エネルギー供与体とエネルギー受容体との間の距離
τD:エネルギー供与体のPL減衰時間(PL decay time)
κ:配向係数(orientation factor)
D:エネルギー供与体のPL量子効率
A:アボガドロ定数
n:屈折率
J:下記数式3に定義される。
【0023】
【数3】
[数式3]
D:エネルギー供与体の発光スペクトル
εA:エネルギー受容体の波長による吸光係数
L:ファンデルワールス半径の和(the sum of Vander Waals radii)
λ:波長
【0024】
本発明者らは、前記数式1及び数式2において、rが0に近くなることができるようにした新規な化合物として前記多機能化合物を見出した。本発明者らは、rが0に近くなる時の利点を次のように推論する。
【0025】
エネルギー伝達方式が数式1の光による方法であれ、数式2の電子による方法であれ、重要なのはエネルギー供与体(励起錯体)とエネルギー受容体(ドーパント)との間の距離(r)になる。光によるエネルギー伝達の数式1で距離(r)が0に近くなればエネルギー供与体の量子(励起錯体)効率及び減衰時間(decay time)は重要ではなくなり、理論上、エネルギー伝達速度は無限大に近くなる。一方、電子の移動によるエネルギー伝達方式の数式2では、2つの物質の間の距離(r)が0に近くなればエネルギー伝達速度は2つの物質の間の発光スペクトルと吸収スペクトルとの間の重ね(J)ぐらいにしか影響を受けない。
【0026】
前記多機能化合物は、励起錯体を形成する2つの分子の中でいずれか一つ(本発明において前記第1励起錯体形成化合物に相当する)とドーパント(本発明において前記発光化合物に相当する)を結合させた化合物の一つの分子として形成される。前記多機能化合物に前記数式1及び数式2の概念を適用すれば、前記多機能化合物は、励起錯体を形成する2つの分子の中でいずれか一つとドーパントとが結合されれば、距離は固定されて最小になって、励起錯体で形成された励起子エネルギーが速い速度でドーパントに移動して光を発散するようになる。
【0027】
すなわち、前記多機能化合物は、励起錯体を形成することができる2つの分子の中で任意の1つである第1励起錯体形成化合物を発光化合物と結合させて得た化合物である。それによって、前記多機能化合物は第1励起錯体形成化合物から誘導された(または起因した)励起錯体形成モイエティを含み、また、発光化合物から誘導された(または起因した)発光モイエティを含む。前記励起錯体形成モイエティは前記第1励起錯体形成化合物から誘導された(または起因した)ものであるため、前記第2励起錯体形成化合物と励起錯体の形成が可能である。
【0028】
前記励起錯体形成モイエティは、前記(第2)励起錯体形成化合物と励起錯体形成が可能であるため、下記エネルギー条件を満たす。
前記励起錯体形成モイエティのHOMOエネルギーをE(1)HOMO、LUMOエネルギーをE(1)LUMOとし、前記(第2)励起錯体形成化合物のHOMOエネルギーをE(2)HOMO、LUMOエネルギーをE(2)LUMOとする時、下記<条件1>または<条件2>を満たし、
<条件1>
│E(1)HOMO│≦│E(2)HOMO│で、│E(1)LUMO│≦│E(2)LUMOである。
<条件2>
│E(1)HOMO│≧│E(2)HOMO│で、│E(1)LUMO│≧│E(2)LUMO│である。
前記励起錯体形成モイエティと前記(第2)励起錯体形成化合物が励起錯体を形成する場合、励起錯体エネルギーの最大発光波長エネルギーをE(ex)とする時、下記<条件3>または<条件4>を満たす。
<条件3>
│E(1)HOMO│‐│E(2)LUMO│≧E(ex)
<条件4>
│E(2)HOMO│‐│E(1)LUMO│≧E(ex)
【0029】
前記第1励起錯体形成化合物と前記第2励起錯体形成化合物との間に励起錯体を形成することができるので、前記励起錯体形成モイエティの代わりに前記第1励起錯体形成化合物のHOMOエネルギーをE(1)HOMO、LUMOエネルギーをE(1)LUMOにしても、前述の関係、すなわち、条件1ないし条件4の関係を同一に適用することもできる。
【0030】
化合物またはモイエティのHOMOエネルギーは、循環電圧電流法(CV、Cyclic Voltammetry)、紫外光電子分光法(UPS、Ultraviolet Photoelectron Spectroscopy)、AC2などの方法で測定することができ、LUMOエネルギーはUV吸収スペクトルまたは循環電圧電流法(CV)で測定した値を適用することができる。また、本明細書で言及されている物質の量子効率は、発光物質を溶液に溶解して測定したり、ホスト物質と共蒸着してフィルム状態で製作したり、溶液にホスト物質と発光物質を同時に溶解させた後、スピンコーティングまたはキャスティング方法を利用してフィルムを作って測定して得ることができる。
【0031】
図1は、前記多機能化合物の作用メカニズムを例示的に説明する図面である。
図1において、HOMO‐LUMOギャップエネルギーが大きい第1励起錯体形成化合物とHOMO‐LUMOギャップエネルギーが相対的に小さい発光化合物を化学結合を通じて連結させて形成された多機能化合物を示す。前記多機能化合物内の第1励起錯体形成化合物から誘導された励起錯体形成モイエティを励起(excitation)させれば、発光化合物から誘導された発光モイエティへエネルギーが転移される。これは図3の第1励起錯体形成化合物である化合物1、発光化合物である化合物2、多機能化合物である化合物3の吸収スペクトルと発光スペクトルを比べて確認することができる。
【0032】
前記励起錯体形成モイエティと前記(第2)励起錯体形成化合物との相互作用によって作られる励起錯体から励起錯体エネルギーが前記発光モイエティへ転移される現象は、有機発光ダイオードを製作して確認することができる。すなわち、有機発光ダイオードの発光層内部に電荷が注入されれば、前記多機能化合物内部の励起錯体形成モイエティと前記(第2)励起錯体形成化合物が先に励起錯体を作るようになり、この励起錯体のエネルギーは励起錯体モイエティを通じて発光モイエティに伝達されるようになる。前記励起錯体で形成された励起錯体のエネルギーが発光モイエティのエネルギーより大きくなれば、前記発光モイエティへ励起錯体エネルギーが伝達されるようになる。
【0033】
図2は、本発明の一具現例による有機発光ダイオードにおいて、励起錯体の励起エネルギーが前記多機能化合物内でモイエティの間に伝達されて発光するメカニズムを模式的に示す。
【0034】
前記励起錯体形成モイエティまたは前記(第2)励起錯体形成化合物が外部からエネルギーを吸収して励起錯体が形成され、この励起錯体の励起エネルギーが化学結合を通じて繋がった発光モイエティに伝達され、発光モイエティで発光現象が起きる。
【0035】
より詳しく説明すれば、有機発光ダイオードの内部で前記多機能化合物の励起錯体形成モイエティまたは前記(第2)励起錯体形成化合物で構成された発光層に電荷が注入されれば、前記多機能化合物の中で前記励起錯体形成モイエティと前記第2励起錯体形成化合物が相互作用して励起錯体を形成するようになり、このように形成された励起錯体エネルギーは、前記多機能化合物の一つの分子内で非常に近く存在するようになる前記発光モイエティに伝達される。前記多機能化合物内のモイエティの間のこのようなエネルギー伝達は、前述の数式1及び2で距離rがほぼ0に近くなるので、速度定数が非常に大きくなって高効率及び高速のエネルギー伝達が行われる。励起錯体エネルギーが発光モイエティに伝達され、発光モイエティはエネルギー損失を最小化して発光することができるので、結局、前記多機能化合物は励起錯体エネルギーを利用して高い効率で発光させることができる効果を具現できるようになる。
【0036】
前記有機発光ダイオードは、励起錯体を利用することによって一重項と三重項のエネルギー差を減らす利点を有しながら、前記多機能化合物内のモイエティの間の効果的なエネルギー転移が可能であり、発光モイエティを含むことで濃い青色の具現が容易でありながら、エネルギー転移が効率的であるため、高い量子効率を得ることができる。しかし、本発明が青色の具現のみに限定されるものではなく、緑色、赤色及び近赤外線の発光のいずれにも適用されることができる。
【0037】
前記発光モイエティは、有機発光ダイオードで電子の移動によって光を出すことができる発光材料(本明細書において、発光化合物と称する)から誘導されることができる。
【0038】
前記発光化合物(発光材料)は、通常、有機発光ダイオードでドーパントとして使われることができる化合物であってもよい。所望の色の具現ができるドーパントを目的に合うように選択することができる。
【0039】
一具現例において、前記発光モイエティは、400nmないし700nmの可視光線波長領域で量子効率50%以上の共役構造を持つことができる。
【0040】
一具現例において、前記発光モイエティは、700nmないし2200nmの近赤外線波長領域で量子効率10%以上の共役構造を持つことができる。
【0041】
前記発光化合物(または発光材料)の具体的な例示は、下記化合物であってもよく、これに限定されない。
【化1】
【0042】
前記式において、Ar及びRは、それぞれ、置換または非置換された炭素数1ないし20のアルキル、置換または非置換された炭素数6ないし30のアリール、置換または非置換された炭素数5ないし30のヘテロアリール、または置換または非置換された炭素数6ないし30のアリールアミンであってもよく、Xは窒素、酸素、硫黄、炭素、シリコーン、GeまたはPの元素である。
【0043】
このように、前記発光化合物は、前述した構造式の化合物のように、窒素、酸素、硫黄、炭素、シリコーン、Ge、Pなどが置換されたボロン化合物、ピレン化合物、窒素を含む共役構造を持つ化合物などになってもよいが、これに限定されない。
以外にも、前記発光化合物は、発光物質として知られた物質が使われることができる。例えば、前記発光化合物は、アントラセン(Anthracene)、ペリレン(Perylene)、テトラセン(Tetracene)、クリセン(Chrysene)、クマリン(Coumarine)、ピロメテン(Pyrometane)などの共役構造を持つ発光体であってもよい。
【0044】
一具現例において、前記発光化合物及び前記発光モイエティは、ボロンを含んで共役構造を持つことができる。
【0045】
一具現例において、前記発光化合物及び前記発光モイエティは、金属を含むことができる。
【0046】
前記発光モイエティの発光メカニズムは、一重項で光が出る蛍光、三重項で光が出る燐光、三重項から一重項にエネルギーが伝達されて光が出る遅延蛍光を含むことができる。
【0047】
一具現例において、前記多機能化合物において、前記化学結合によって繋がった前記励起錯体形成モイエティが前記発光モイエティのバンドギャップエネルギーを前記化学結合前の発光化合物のバンドギャップエネルギーと比べて0.2eV以上変化させない。この場合、前記励起錯体モイエティは、発光モイエティの発光波長に大きく影響を与えない可能性があるので、色具現の設計時の発光化合物の知られていた特性を発光モイエティに適用するのに便利である。
【0048】
一具現例において、前記第2励起錯体形成化合物は、前記発光化合物とは励起錯体を形成しないこともある。もし、前記発光化合物が前記第2励起錯体形成化合物と励起錯体を形成できる場合、前記発光モイエティの発光波長に影響を与えることができる。前記発光モイエティの発光波長が変わるようになれば、色具現の設計時に従来知られていた発光化合物の特性を前記発光モイエティに適用しがたいことがあり、または、特定の色を具現するために所定の発光化合物を利用しようとする際、前記発光モイエティの発光波長が変わることによって所望の色相を具現しがたいおそれがあるためである。
【0049】
一具現例において、前記励起錯体形成モイエティのバンドギャップエネルギーは1eVないし4.7eVで、前記発光モイエティのバンドギャップエネルギーは0.5eVないし3.5eVである。
【0050】
一具現例において、前記励起錯体形成モイエティと前記発光モイエティのバンドギャップエネルギーの差は2eV以内であってもよい。
【0051】
一具現例において、前記励起錯体形成モイエティのHOMOエネルギー準位と前記発光モイエティのHOMOエネルギー準位の差は1.9eV以内であってもよい。
【0052】
一具現例において、前記励起錯体形成モイエティのLUMOエネルギーと前記発光モイエティのLUMOエネルギーのエネルギー準位の差は1.9eV以内であってもよい。
【0053】
前記多機能化合物において、前記励起錯体形成モイエティと前記発光モイエティが化学結合によって繋がる。具体的に、前記化学結合は、単一結合、二重結合、三重結合または配位結合であってもよい。具体的に、前記化学結合は連結基を媒介にして前記励起錯体形成モイエティと前記発光モイエティが化学結合されたり、連結基なしに直接前記励起錯体形成モイエティと前記発光モイエティが直接結合によって繋がった形態であってもよい。または、前記多機能化合物は前記励起錯体形成モイエティと前記発光モイエティがスピロ構造で繋がって形成されることができる。
【0054】
前記第1励起錯体形成化合物と前記発光化合物が化学結合して前記多機能化合物を形成する時、これらの化学結合のために置換基などが適切に変形されて前記励起錯体形成モイエティと前記発光モイエティが誘導されることができる。この時、化学結合のために変形された部分が前記第1励起錯体形成化合物と前記発光化合物のそれぞれの固有の発光特性、バンドギャップエネルギー、エネルギー効率などの特性を有意に変化させない。例えば、前記発光化合物の置換基が化学結合のために他の置換基に代替されながら前記発光モイエティを形成することができるが、前記代替された置換基によって前記発光モイエティの発光特性、バンドギャップエネルギー、エネルギー効率などの特性には有意に影響を与えない。
【0055】
前記「有意に影響を与えない」は、本明細書で記述された励起錯体形成モイエティ及び発光モイエティについた詳細な説明を脱しないことを意味する。具体的に、前記第1励起錯体形成化合物と前記発光化合物の置換基などが化学結合の際に「適切に」変形されるということは、生成された多機能化合物の前記励起錯体形成モイエティは前記励起錯体形成化合物と励起錯体を形成し、前記発光モイエティは前記励起錯体の励起エネルギー伝達を受けて発光することを満たす条件を維持することを意味する。
【0056】
一具現例において、前記化学結合は置換または非置換された炭素数6ないし20のアリーレン、炭素原子、酸素原子、窒素原子、シリコーン原子、Ge原子、S原子またはP原子を媒介にして繋がることができる。例えば、前記化学結合は連結基によってもよく、前記連結基が炭素原子、酸素原子、窒素原子、シリコーン原子、Ge原子、S原子またはP原子を含むことができる。例えば、前記化学結合は連結基なしに直接前記第1励起錯体形成化合物と前記発光化合物とが繋がった形態であって、前記励起錯体形成モイエティまたは前記発光モイエティに含まれた炭素、酸素、窒素、シリコーン、Ge、SまたはPが連結位置になれる。
【0057】
一具現例において、前記励起錯体形成モイエティと前記発光モイエティがスピロ構造で繋がる。スピロ構造は、炭素、シリコーンまたはGeを媒介にして繋がることができる。
【0058】
前記多機能化合物は、少なくとも一つの水素原子が重水素に置換されることができる。
【0059】
前記多機能化合物は、前記励起錯体形成モイエティを複数含むことができる。一具現例において、前記多機能化合物は、第1励起錯体形成モイエティ及び第2励起錯体形成モイエティを含むことができ、前記第1励起錯体形成モイエティ及び前記第2励起錯体形成モイエティに関する詳細な説明は、前記励起錯体形成モイエティについたものと同様であり、これらは互いに同一であるか、または異なってもよい。前記第2励起錯体形成モイエティは、前記発光モイエティまたは前記第1励起錯体形成モイエティに繋がることができる。
【0060】
前記第1励起錯体形成化合物及び前記第2励起錯体形成化合物は、前述のように、励起錯体を形成することができる化合物であってもよい。励起錯体はイオン化エネルギーが小さい電子供与体(donor)分子と電子親和力が大きい電子受容体(acceptor)分子との間に形成されることができる。
【0061】
したがって、前記第1励起錯体形成化合物及び前記第2励起錯体形成化合物は、電子供与体(donor)分子または電子受容体(acceptor)分子であってもよい。ただ、前記第1励起錯体形成化合物が電子供与体(donor)分子になれば、前記第2励起錯体形成化合物は電子受容体(acceptor)分子になり、前記第1励起錯体形成化合物が電子受容体(acceptor)分子になれば、前記第2励起錯体形成化合物は電子供与体(donor)分子になる。
【0062】
電子供与体の物質は、主に窒素が芳香環の外に位置するアリールアミン類を含むものが使われることができる。
例えば、前記電子供与体の物質は、下記化学式1で表されることができる。
【化2】
【0063】
前記化学式1において、
Arは、それぞれ独立的に、置換または非置換された炭素数6ないし30のアリール、置換または非置換された炭素数5ないし30のヘテロアリール、または置換または非置換された炭素数1ないし20のアルキルであってもよく、前記2つのArが繋がって炭素数12ないし30の融合環を形成することができ、
前記化学式1の中で少なくとも一つの水素原子が重水素に置換されたり非置換される。
【0064】
電子受容体の物質は主に窒素が芳香環の中に位置する構造で、以下のような構造を含んでいるものが使われることができる。
例えば、前記電子受容体の物質は、下記化学式2で表される構造の中でいずれか一つであってもよい。
【化3】
【0065】
前記化学式2において、
Xは窒素または炭素であってもよく、
n及びmは0ないし6の整数で、ただし、Xが窒素であればn+mは1ないし3の整数で、Xが炭素であればn+mは1ないし6の整数であり、
Arは、それぞれ独立的に、置換または非置換された炭素数6ないし30のアリール、置換または非置換された炭素数5ないし30のヘテロアリール、置換または非置換された炭素数6ないし30のアリールシリル、置換または非置換された炭素数6ないし30のアリールオキシ、置換または非置換された炭素数1ないし20のアルキルシリル、置換または非置換された炭素数1ないし20のアルキル、置換または非置換され、ホスフィンまたはホスフィンオキサイドを含む炭素数6ないし30のアリール基であってもよく、前記2つのArが繋がって炭素数12ないし30の融合環を形成することができ、
前記化学式2の中で少なくとも一つの水素原子が重水素に置換されたり非置換される。
【0066】
本明細書において、「置換」という用語は、化合物内の炭素原子に結合された水素原子が他の置換基に置換されることを意味する。置換が発生する位置は水素原子が置換された位置を意味する。前記位置は前記位置での水素が置換基に置換されることができる位置であれば限定されない。2つ以上の置換が発生する場合、2つ以上の置換基が同一であるか、または異なってもよい。
【0067】
本明細書において、「置換」された場合の置換基は、例えば、水素、重水素、炭素数1ないし20のアルキル基、炭素数1ないし20のアルコキシ基、ハロゲン、シアノ基、カルボキシ基、カルボニル基、アミン基、炭素数1ないし20のアルキルアミン基、ニトロ基、炭素数1ないし20のアルキルシリル基、炭素数1ないし20のアルコキシシリル基、炭素数3ないし30のシクロアルキルシリル基、炭素数6ないし30のアリールシリル基、炭素数6ないし30のアリール基、炭素数6ないし30のアリールアミン基、炭素数5ないし30のヘテロアリール基、炭素数6ないし30のアリールホスフィンオキサイド基、炭素数6ないし30のアリールホスフィニル基 、炭素数6ないし30のアルキルホスフィンオキサイド、炭素数6ないし30のアルキルスルホニル基、これらの組み合わせからなる群から選択された一つであってもよいが、本発明がこれに限定されるものではない。
【0068】
以下は、電子供与体(donor)分子として使われる化合物の例示である。
【化4】
【0069】
以下は、電子受容体(donor)分子として使われる化合物の例示である。
【化5】
【0070】
一具現例において、前記第1励起錯体形成化合物は、有機物または有機金属錯体であってもよく、前記励起錯体形成モイエティはその誘導体であってもよい。
一具現例において、前記多機能化合物は、下記構造式で表される化合物の中でいずれか一つであってもよい。
【0071】
【化6】
【0072】
前記有機発光ダイオードは、前記多機能化合物を通常のドーパント含量水準以上に含むことができる。これは前記発光モイエティの含量がドーパント含量水準以上になれるという意味である。例えば、多機能化合物の励起錯体形成モイエティと第2励起錯体形成化合物との間の励起錯体形成の割合を高めるために、多機能化合物は通常のドーパント含量水準以上になることがある。しかし、この場合、多機能化合物の励起錯体形成モイエティは発光モイエティ間の相互作用によって発生する濃度消光現象を効率的に阻むことができるので、多機能化合物のドーピング量が増加するとしても効率及び色感には大きく影響を受けない可能性が高い。発光層で多機能化合物の割合は、発光層を構成する全体物質の中に、例えば、1~50mol%範囲を持つことができ、用途によってそれ以上も可能である。
【0073】
一具現例において、前記多機能化合物の励起錯体形成モイエティと励起錯体を形成する前記励起錯体形成化合物として、前記多機能化合物を使うことができる。
【0074】
具体的に、電子供与体モイエティを励起錯体形成モイエティにし、これを発光モイエティと結合した多機能化合物を第1多機能化合物といい、電子受容体モイエティを励起錯体形成モイエティとし、これを発光モイエティと結合した多機能化合物を第2多機能化合物とする時、第1多機能化合物と第2多機能化合物のみにて発光層を構成しても、それぞれの電子受容体モイエティと電子供与体モイエティとの間に励起錯体が形成され、発光モイエティにエネルギーを伝達させることもできる。
【0075】
この場合、前述の多機能化合物は前記第1多機能化合物になって、前述の励起錯体形成化合物は前記第2多機能化合物になる。この時、前記第1多機能化合物と前記第2多機能化合物の混合の割合によって、いずれか一方の発光層のうち50mol%以上を超えることもある。例えば、前記発光層は前記第1多機能化合物を50mol%超過して含むことができ、このような場合が前述したように多機能化合物の含量が50mol%を超える場合の例になる。
【0076】
発光層の発光効率をより高めるために、発光層に燐光物質をさらに含むことができる。
【0077】
一具現例において、前記発光層はPtまたはIrを含む燐光物質をさらに含むことができる。
【0078】
下記構造式で表される化合物は、通常燐光物質として使われる有機金属錯体を例示として示した。下記式において、Rは炭素数1ないし20のアルキル、炭素数6ないし30のアリールなどであってもよい。
【化7】
【0079】
発光層の発光効率をより高めるために、発光層に遅延蛍光物質をさらに含むことができる。
【0080】
一具現例において、前記発光層は一重項と三重項とのエネルギーの差が0.3eV以上である遅延蛍光物質をさらに含むことができる。
【0081】
下記構造式で表される化合物は、通常使われる遅延蛍光物質を例示として示した。Arは炭素数1ないし20のアルキル、炭素数6ないし30のアリールなどであってもよい。
【化8】
【0082】
前記有機発光ダイオードは、前記有機層として、正孔注入層、正孔輸送層、電子遮断層、正孔遮断層、電子輸送層、電子注入層及びこれらの組み合わせからなる群から選択された一つを含むことができる。
【0083】
一具現例において、前記有機発光ダイオードは、アノード、正孔注入層(HIL:hole injectionlayer)、正孔輸送層(HTL:hole transport layer)、発光層(EML、light emitting layer)、電子輸送層(ETL:electrontransport layer)及びカソードを順次含むことができる。
【0084】
前記有機発光ダイオードは、複数の有機発光ユニットを含むタンデム(tandem)型有機発光ダイオードであってもよい。一つの有機発光ユニットは発光層を含み、少なくとも一つの有機層をさらに含むことができる。前記有機層は、正孔注入層、正孔輸送層、電子遮断層、正孔遮断層、電子輸送層、電子注入層及びこれらの組み合わせからなる群から選択された一つを含むことができる。
【0085】
複数の有機発光ユニットは順次積層されることができ、各有機発光ユニットの間に電荷生成層(charge generationlayer、CGL)を含むことができる。前記電荷生成層は有機発光ユニットの間に位置し、各有機発光ユニットの発光層に電荷を円滑に分配できるようにする。
【0086】
前記タンデム(tandem)型有機発光ダイオードは、少なくとも一つの有機発光ユニットが前記多機能化合物を含む発光層を含み、
前記多機能化合物を含む発光層のいずれか一面または両面に隣接する有機層をさらに含むか、または含まず、
前記多機能化合物を含む発光層または前記隣接する有機層は励起錯体形成化合物を含み、
前記多機能化合物は、励起錯体形成モイエティ及び発光モイエティを含み、
前記励起錯体形成モイエティは前記励起錯体形成化合物と励起錯体を形成し、
前記発光モイエティは、前記励起錯体の励起エネルギー伝達を受けて発光する。
【0087】
前記タンデム型有機発光ダイオードにおいて、前記多機能化合物、前記励起錯体形成化合物などに関する詳細な説明は前述のとおりである。
【0088】
以下、本発明の実施例及び比較例を記載する。下記実施例は本発明の一実施例に過ぎず、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0089】
合成例1
下記化合物3を多機能化合物として合成した。
【化9】
【0090】
前記化合物1は前述の第1励起錯体形成化合物で、前記化合物2は前述の発光化合物で、スピロ構造を形成するように化学結合させ、その結果、前記化合物3を多機能化合物として合成した。前記化合物3の構造式において「化合物1の部分」は化合物1から誘導された励起錯体形成モイエティに該当し、「化合物2の部分」は化合物2から誘導された発光モイエティに該当する。前記化合物3の多機能化合物は、励起錯体形成モイエティと発光モイエティが炭素を媒介にしてスピロ結合した構造である。
【0091】
【化10】
【0092】
丸底フラスコ反応器に化合物1‐1を3.95g(10.0mmol)、化合物1‐2を2.01g(0.012mol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラチウム(0)を0.275g(0.3mmol)、ナトリウム‐t‐ブトキシドを2.88g(0.03mol)、トリ‐t‐ブチルホスフィンを0.606g(0.3mmol)、トルエンを60ml入れて2時間還流撹拌した。
反応完了後、常温冷却した。反応溶液はジクロロメタンと水で抽出した。有機層は分離してマグネシウムスルフェートで無水処理した後、減圧濃縮した。物質はカラムクロマトグラフィーで分離精製した後、ジクロロメタンとアセトンとで再結晶して(3.1g、36%)を得た。
反応液を室温まで冷却した後、冷却された水を投入して有機層をエチルアセテートを利用して抽出した。抽出した有機層の溶媒をMgSO4で乾燥した後、ろ過した。ろ液を減圧濃縮させた後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(DCM/Hexane)方法を利用して精製した。
以後、DCM/Acetone混合溶媒で再結晶して精製し、前記化合物1‐1を60%の収率で3.2g得た。
MS(MALDI‐TOF)m/z:481[M]+
【0093】
【化11】
【0094】
出発物質2‐1を9.52g(10.0mmol)とt-ブチルベンゼン(32ml)に溶かした後、0℃まで冷却した。窒素雰囲気下で2.5Mのn‐ブチルリチウム溶液(ヘキサン内)8.0mL(20.0mmol)を添加して室温で3時間撹拌した。
この後、再び反応物を0℃まで冷却してボロントリブロミド1.90mL(20.0mmol)を添加した後、常温で0.5時間撹拌した。再び反応物を0℃まで冷却してN,N‐ジイソプロピルエチルアミン3.51mL(20.0mmol)を添加した後、60~70℃で2時間撹拌した。
反応液を室温まで冷却させてエチルアセテートで有機層を抽出した。抽出した有機層の溶媒をMgSO4で乾燥した後、ろ過した。ろ液を減圧濃縮させた後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(DCM/Hexane)方法を利用して精製した。
以後、DCM/アセトン混合溶媒で再結晶によって精製して、前記化合物2を12%の収率で1.05gを得た。
MS(MALDI‐TOF)m/z:880[M]+
NMR:δH(400MHz;CDCl3;Me4Si)9.13(1H,s)、8.86‐8.83(1H,m)、7.92‐7.90(1H,m)、7.78(1H,d,J8.0)、7.73‐7.64(4H,m)、7.44‐7.27(8H,m)、7.17‐6.86(11H,m)、6.80‐6.57(5H,m)、6.49(1H,d,J4.0)、6.37(1H,d,J8.0)、6.12(2H,t)、5.89(1H,d,J8.0)、2.36(3H,s)、0.96(9H,s)
【0095】
【化12】
【0096】
前記(化合物2の合成)と同一のモル比で化合物2‐1の代わりに化合物3‐1を使ったことを除いては、同様の方法で行った。
この後、化合物3を9%の収率で1.0gを得た。
MS(MALDI‐TOF)m/z:1046[M]+
NMR:δH(400MHz;CDCl3;Me4Si)9.13(1H,s)、8.86‐8.83(1H,m)、7.92‐7.90(1H,m)、7.78(1H,d,J8.0)、7.73‐7.64(6H,m)、7.44‐7.27(11H,m)、7.17‐6.86(13H,m)、6.80‐6.57(5H,m)、6.49(1H,d,J4.0)、6.37(1H,d,J8.0)、6.12(2H,t)、5.89(1H,d,J8.0)、2.36(3H,s)、0.96(9H,s)
【0097】
評価例1
化合物1、2及び3のエネルギー転移現象を比較確認し、化合物3でモイエティの間のエネルギー転移を確認した。図3は、化合物1、2及び3に対して測定した吸収スペクトルと発光スペクトルである。測定試料は各物質をトルエン溶液に溶解して2マイクロモルの濃度になるようにし、SHIMADZU RF5301PC、SHIMADZU UV 2550で測定した。
【0098】
化合物2と化合物3の吸収スペクトルを比べると、化合物3で300~350nm領域の吸収率が増加したことを確認することができるが、これは化合物3の励起錯体形成モイエティの吸収によるものである。化合物3における330nmでの吸収率は、化合物2に比べて約2倍増加した。多機能化合物である化合物3において、励起錯体形成モイエティから発光モイエティにエネルギーが伝達される現象は、2つの物質の発光スペクトルを通じて確認することができる。化合物2と化合物3を330nmに励起させた場合、化合物3の発光モイエティの発光度が化合物2に比べて約1.8倍増加し、励起錯体形成モイエティの発光スペクトルはすべて消えた。これを通じて、図1で説明しているエネルギー伝達現象が具現されたことを明確に確認することができる。
【0099】
本評価例1を通して化学結合によってエネルギー供与体(第1励起錯体形成化合物)とエネルギー受容体(発光化合物)との間の距離を非常に近くすれば(つまり、化学結合を通して)、エネルギー転移が効率的に起きることを確認した。
【0100】
実施例1‐4及び比較例1‐4
下記化合物を用意した。
【化13】
【0101】
前記化合物Aは、化合物1と励起錯体を形成することができる。
【化14】
【0102】
<有機発光ダイオードの製作>
ITO表面は、常圧で3分間UVオゾン処理した。
10‐7 torrの真空チャンバで素子を以下のような手順で工程を行った。
【0103】
比較例1
正孔注入物質としてHATCNを50Åの厚さで蒸着した。
正孔輸送物質として化合物Bを1000Åの厚さで蒸着した。
電子阻止層に化合物1を50Åの厚さで蒸着した。
発光層に化合物Aを250Åの厚さで蒸着した。
電子輸送層に化合物CとLiQとを1:1の割合で300Åの厚さで蒸着した。
電子注入層に化合物LiQを10Åの厚さで蒸着した。
電極にAlを500Åの厚さで蒸着した。
【0104】
比較例2
比較例1で電子阻止層に化合物2を5mol%ドーピングし、発光層に前記化合物2を5mol%ドーピングしたことを除いて、同様に有機発光ダイオードを製作した。
【0105】
比較例3
比較例1で電子阻止層に化合物2を5mol%ドーピングし、発光層に化合物2を10mol%ドーピングしたことを除いて、同様に有機発光ダイオードを製作した。
【0106】
比較例4
比較例1で電子阻止層に化合物2を5mol%ドーピングし、発光層に化合物2を15mol%ドーピングしたことを除いて、同様に有機発光ダイオードを製作した。
【0107】
実施例1
比較例1で電子阻止層に化合物3を5mol%ドーピングし、発光層に化合物3を5mol%ドーピングしたことを除いて、同様に有機発光ダイオードを製作した。
【0108】
実施例2
比較例1で電子阻止層に化合物3を5mol%ドーピングし、発光層に化合物3を10mol%ドーピングしたことを除いて、同様に有機発光ダイオードを製作した。
【0109】
実施例3
比較例1で電子阻止層に化合物3を5mol%ドーピングし、発光層に化合物1を15mol%ドーピングしたことを除いて、同様に有機発光ダイオードを製作した。
【0110】
実施例4
比較例1で電子阻止層に化合物3を5mol%ドーピングし、発光層に化合物1を20mol%ドーピングしたことを除いて、同様に有機発光ダイオードを製作した。
【0111】
評価例2
図4は、化合物Aと化合物2aとの間には励起錯体形成がよく起きないことを、化合物Aと化合物1との間には励起錯体が形成されることを示す発光スペクトルである。この時、化合物Aと化合物2a、化合物Aと化合物1は6:4のモル比で混ぜてトルエン溶液に溶かしてキャスティング方式でフィルムを製作し、330nmの光で励起させて発光スペクトルを得た。化合物Aと化合物2aとの間には、新しい波長のピークが観測されないことにより、励起錯体が形成されないことが分かるし、化合物Aと化合物1との混合フィルムでは、化合物1のピークが消えて490nm領域での新しいピークが観察されることにより、励起錯体が作られることが分かる。
【0112】
化合物2の下記表示された部分は、化合物2a部分の構造を持つので、化合物2は化合物Aと励起錯体を形成しない。
【化15】
【0113】
一方、化合物3は前記化合物2において、化合物2a部分が化合物1から誘導されたモイエティ(化合物1の部分、励起錯体形成モイエティに相当する)に代替されることによって化合物Aと励起錯体を形成する。
【0114】
化合物2を利用して素子を製作した比較例2‐4の場合、励起錯体を形成しないので、効率の増加が発生せず、化合物3を利用して素子を製作した実施例1‐4の場合、励起錯体を形成するので、効率の増加が発生する。これは、下記素子に対する評価結果で確認することができる。
【0115】
評価例3
実施例1~4及び比較例1~4でそれぞれ製作された有機発光ダイオードに対し、電流供給源(KEITHLEY)及び光度計(PR 650)を使って室温で素子特性を評価した。下記表1に実施例1~4及び比較例1~4の有機発光ダイオードに対して測定された駆動電圧(V)、最大EQE(外部量子効率)及びCIE色度座標測定結果を記載した。
【0116】
【表1】
【0117】
前記表1で確認できるように、実施例1~4の多機能化合物を利用する有機発光ダイオードの場合、高い量子効率及びドーピング濃度増加による色安定性の特性を示すことを確認することができる。
【0118】
以上、実施例のように、蒸着工程で製造された有機発光ダイオードだけでなく、溶液工程で製造された有機発光ダイオードにも本発明が適用されることは自明である。
【0119】
以上のように、本発明について例示の図面を参照して説明したが、本明細書に開示された実施例と図面によって本発明が限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で通常の技術者によって多様な変形が行われることは自明である。同時に、本発明の実施例を説明しながら本発明の構成による作用効果を明示的に記載して説明しなかったとしても、該当構成によって予測可能な効果も認められるべきであることは当然である。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】