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特表2024-527982ヒト化抗ヒトβig-h3タンパク質とその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】ヒト化抗ヒトβig-h3タンパク質とその利用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/30 20060101AFI20240719BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240719BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20240719BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240719BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240719BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20240719BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240719BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240719BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20240719BHJP
【FI】
C07K16/30 ZNA
A61K39/395 N
A61P1/18
A61P11/00
A61P1/00
A61P13/10
A61P17/00
A61P35/00
C12P21/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505003
(86)(22)【出願日】2022-07-28
(85)【翻訳文提出日】2024-03-19
(86)【国際出願番号】 EP2022071275
(87)【国際公開番号】W WO2023006919
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】21306058.5
(32)【優先日】2021-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500248467
【氏名又は名称】アンスティテュ ナシオナル ドゥ ラ サントゥ エ ドゥ ラ ルシェルシェ メディカル(イーエヌエスエーエールエム)
(71)【出願人】
【識別番号】501089863
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェ サイアンティフィク
(71)【出願人】
【識別番号】504217063
【氏名又は名称】サントル レオン ベラール
(71)【出願人】
【識別番号】511196870
【氏名又は名称】ユニベルシテ クロード ベルナール リヨン プルミエ
(71)【出願人】
【識別番号】524034051
【氏名又は名称】ケーアイエスティー(コリア インスティテュート オブ サイエンス アンド テクノロジー)
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】アナ エンニノ
【テーマコード(参考)】
4B064
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4C085AA14
4C085BB11
4C085CC01
4C085DD62
4C085EE01
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA09
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
がん罹患中の腫瘍間質の発達は物理的障壁として作用して免疫細胞が腫瘍に近づくのを制限する可能性があるため、鍵となる役割を果たしている。したがって間質においてβig-h3(TGFβi)が過剰発現していると、膵管腺癌とそれ以外のがんで予後が悪い。18B3と呼ばれるβig-h3タンパク質に対するモノクローナル抗体は、CD8+ T細胞の活性化阻害を阻止することにより、抗腫瘍免疫応答を直接変化させるのにある役割を果たしていることが示された。発明者らは、予想外に高い親和性、遅い解離速度、および強い熱安定性を持つヒト化抗体を18B3から開発した。そのためこれらヒト化抗体は、生体内で間質がβig-h3を発現しているがんを治療するための強力な候補となる。したがって本発明は、これらのヒト化モノクローナル抗体と、そのようながんを治療する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変ドメインVHと可変ドメインVLを含んでいてβig-h3タンパク質のエピトープ(前記エピトープは配列番号16または30の配列として示されている)に特異的に結合するヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、
(a)配列番号4または28として示されている配列を持つ可変ドメインVH、
(b)マウス18B3 VLドメインのヒト化バリアントであって配列番号18として示されている配列を持つ可変ドメインVLを含み、
DSC(Tm Fab)が79℃以上、特に79または80と83、83.2、または83.5℃の間である熱安定性を示す、ヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
- 配列番号4または28として示されている配列を持つVHドメインと、
- 配列番号10または13として示されている配列を持つVLドメインを含む、請求項1に記載のヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
可変ドメインVHと可変ドメインVLを含んでいてβig-h3タンパク質のエピトープ(前記エピトープは配列番号16または30の配列として示されている)に特異的に結合するヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、
(a)- 配列番号1として示されている配列を持つH-CDR1;
- 配列番号2として示されている配列を持つH-CDR2;
- 配列番号3または27として示されている配列を持つH-CDR3
を含む可変ドメインVH;
(b)- 配列番号7として示されている配列を持つL-CDR1;
- 配列番号8として示されている配列を持つL-CDR2;
- 配列番号9として示されている配列を持つL-CDR3
を含む可変ドメインVLを含む、ヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
- 前記βig-h3タンパク質に約5.8E-10M以下、特に約5E-10と約5.8E-10Mの間以下、特に約5.35E-10MのKで結合する;および/または
- 前記βig-h3タンパク質に約6E-04秒-1以上、特に約6.2E-04と約7E-04秒-1の間、特に約6.59E-04秒-1のKで結合する;および/または
- DSC(Tm Fab)が約79℃以上、特に約79と約83℃の間、典型的には約81.3℃である安定性を持つ;および/または
- CHO細胞の中での一過性発現において約275μg/mlの優れた生産性を持つ、請求項1~3のいずれか1項に記載のヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
- 配列番号4として示されている配列を持つVHドメイン;
- 配列番号10として示されている配列を持つVLドメインを含む、請求項3または4に記載のヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
- 前記可変ドメインと、定常ドメインCH、好ましくは配列番号14として示されている配列を持つCHを含む重鎖;
- 前記可変ドメインと、定常ドメインCL、好ましくは配列番号15として示されている配列を持つCLを含む軽鎖を含む、請求項3~5のいずれか1項に記載のヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項7】
(a)- 配列番号1として示されている配列を持つH-CDR1;
- 配列番号2として示されている配列を持つH-CDR2;
- 配列番号3または27として示されている配列を持つH-CDR3
を含む可変ドメインVH;
(b)- 配列番号11として示されている配列を持つL-CDR1;
- 配列番号12として示されている配列を持つL-CDR2;
- 配列番号9として示されている配列を持つL-CDR3
を含む可変ドメインVLを含む、請求項1に記載のヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項8】
- 前記βig-h3タンパク質に約5E-10M以下、特に約4.5E-10Mと約5E-10Mの間、典型的には約4.76E-10MのKで結合する;および/または
- 前記βig-h3タンパク質に約5E-04秒-1以上、特に約5.5E-04と約6E-04秒-1の間、特に約5.83E-04秒-1のKで結合する;および/または
- DSC(Tm Fab)が約78℃以上、特に約78~82℃、典型的には約80.2℃である安定性を持つ;および/または
- CHO細胞の中での一過性発現において約249μg/mlの生産性を持つ、請求項7に記載のヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項9】
- 配列番号4または28として示されている配列を持つVHドメイン;
- 配列番号13として示されている配列を持つVLドメインを含む、請求項7または8に記載のヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項10】
- 前記可変ドメインと、定常ドメインCH、例えば配列番号14として示されている配列を持つCHを含む重鎖;
- 前記可変ドメインと、定常ドメインCL、例えば配列番号15として示されている配列を持つCLを含む軽鎖を含む、請求項7~9のいずれか1項に記載のヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項11】
可変ドメインVHと可変ドメインVLを含んでいてβig-h3タンパク質のエピトープ(前記エピトープは配列番号16または30の配列として示されている)に特異的に結合するヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、
- 配列番号6として示されている配列を持つVHドメイン;
- 配列番号10または13として示されている配列を持つVLドメインを含む、ヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項12】
薬として使用するための、請求項1~11のいずれか1項に記載のヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項13】
患者でがんの治療に使用するための、請求項1~11のいずれか1項に記載のヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項14】
前記がんが、間質タンパク質βig-h3が内部で発現しているがんである、請求項13に従って使用するためのヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項15】
前記がんが、膵管腺癌(PDAC)、肺がん、頭頸部がん、大腸がん、膀胱がん、または黒色腫である、請求項13または14に従って使用するためのヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項16】
請求項1~11のいずれか1項に記載のヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片と、医薬として許容可能なビヒクルとを含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は抗体の分野に関する。特に本発明により、ヒトβig-h3タンパク質に対する特異性を持つヒト化抗体と、その利用が提供される。医学的利用、特に間質タンパク質βig-h3が生体内で発現するがん(膵管腺癌(PDAC)、肺がん、頭頸部がん、大腸がん、膀胱がん、黒色腫、および後出の他のがんなど)の治療も提供される。
【背景技術】
【0002】
がん罹患中の腫瘍間質の発達は物理的障壁として作用して免疫細胞が腫瘍に近づくのを制限する可能性があるため、鍵となる役割を果たしている。したがって腫瘍間質において発現または過剰発現していて免疫抑制に関与する鍵となる分子が同定されると、新たな治療機会につながるであろう。間質タンパク質のうちのβig-h3(TGFβiとしても知られる)は、間質において過剰発現していると膵管腺癌(PDAC)とそれ以外のがん(肺がん、頭頸部がん、大腸がん、膀胱がん、黒色腫など)で予後が悪いことが示されている。
【0003】
(マウスとヒトの両方で)PDACモデルを用いる際のβig-h3間質タンパク質の潜在的な役割を探索することにより、このタンパク質はTリンパ球の細胞傷害活性を低下させて微小環境が硬化するのを助けるため、免疫系が腫瘍に近づきにくくなることが明らかにされている。
【0004】
マウスとヒトでは、βig-h3タンパク質は、健康な個人の膵臓外分泌区画では発現していないが、腫瘍間質には非常に初期に出現する。
【0005】
そこで鍵となる構成要素(βig-h3など)のいくつかを特異的な薬の標的とすることによって腫瘍間質を変化させ、固形がんの治療的処置を助けることが提案されている。このタンパク質を特異的に枯渇させるとCD8+ T細胞の活性が回復して間質の硬さを低下させうることが提案されており、すると腫瘍へのアクセスが回復する。
【0006】
あるタンパク質を枯渇させるための1つの標準的なアプローチは、鍵となるエピトープに特異的に向かうことでそのタンパク質の機能活性を阻止するモノクローナル抗体(mAb)を作製することであり、その後タンパク質/抗体複合体が生体内から排除される。
【0007】
βig-h3タンパク質に対する抗体は、CD8+ T細胞の活性化阻害を阻止することにより、抗腫瘍免疫応答を直接変化させるのにある役割を果たしていることが示された(WO 2017/158043)。ヒトβig-h3タンパク質(18B3と呼ばれる)に向かうマウスモノクローナル抗体はWO 2020/079164に記載された。
【発明の概要】
【0008】
新規で好ましくは改善されたがん治療の手段が相変わらず必要とされている。そこで本発明の1つの目的は、がんを治療するための改善された手段を提供することである。特に、これらの改善された手段は、βig-h3タンパク質を特異的に枯渇させ、CD8+ T細胞の活性を回復させ、間質の硬さを低下させることで、腫瘍への免疫系のアクセスを回復し、または容易にし、最終的に有意な腫瘍縮小と生存率につながることが想定されている。薬が腫瘍に近づくのを容易にすることも想定されている。βig-h3タンパク質を枯渇させるための本アプローチは、鍵となるエピトープに特異的に向かうことでそのタンパク質の機能活性を阻止するヒト化モノクローナル抗体(mAb)を作製するというものである。その後、タンパク質/抗体複合体が生体内から排除される。
【0009】
本発明はしたがって、βig-h3タンパク質に対する特異性を持つヒト化(Hz)抗体と、その利用に関する。これらHz抗体はβig-h3アンタゴニストである。特に、本発明は請求項によって規定される。これら抗体は18B3抗体のヒト化バージョンである。これらヒト化抗体は特に魅力的で予想外の特性(例えば細胞培養物の中での親和性、解離速度、熱安定性、生産性)を持っており、治療の用途と、特にCD8+ T細胞の活性の回復と間質の硬さの低下に関して有望な抗体であるため、腫瘍への免疫系の、および/または薬のアクセスが回復する、または容易になる。したがってこれらのヒト化mAbは、インビトロと生体内の機能的バイオアッセイにおいて成功することが証明された。
【0010】
前記mAbは、βig-h3タンパク質の領域のうちで(T細胞活性化経路に関与する)インテグリンと(腫瘍微小環境または間質の変化に関与する)コラーゲンの表面における結合に関与することが知られている領域を標的とする。この領域はavb3(αVβ3)インテグリン相互作用モチーフであり、アミノ酸(AA)548~614に対応する断片の中に存在する。エピトープマッピングの研究から、前記抗体はβig-h3タンパク質のβig-h3タンパク質のFAS1の4番目のドメイン(直線状エピトープALPPRERSRL、配列番号16であり、これは、中央の8個のアミノ酸、配列番号30まで短くすることさえできる)(AA残基549~558)を標的とすることが示された。本明細書の中で報告されているいくつかの親和性バイオアッセイと機能的バイオアッセイにより、本明細書に開示されているヒト化(Hz)モノクローナル抗体の特異的結合を確認することができる。
【0011】
1つの側面では、本発明は、可変ドメインVHと可変ドメインVLを含んでいて、βig-h3タンパク質のエピトープ(前記エピトープは配列番号16または30の配列として示されている)に、表面プラズモン共鳴(SPR)を利用して測定したとき1nM以下、好ましくは0.7nM以下、より好ましくは0.6または0.58nM以下の高親和性Kと、4と10E-04秒-1の間、好ましくは5と8E-04秒-1の間、より好ましくは5.5と7.5E-04秒-1の間に含まれる遅い解離速度Kで特異的に結合するヒト化抗βig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片に関する。SPRはバイオセンサーシステム(Biacore(登録商標)システムなど)を用いて測定することができる。
【0012】
本明細書に開示されている親和性と解離速度は測定の方法の部分に記載されているようにして測定した。
【0013】
一実施形態では、本発明は、可変ドメインVHと可変ドメインVLを含んでいてβig-h3タンパク質のエピトープに特異的に結合するヒト化抗βig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片に関する。前記エピトープは配列番号16または30の配列として示されている。VHドメインは配列番号4または28に示されている配列を持つ。配列番号28は配列番号4の変異バージョンである。すなわちH-CDR3の中のシステイン102がセリンで置き換えられている。VLはマウス18B3VLドメインのヒト化バリアントであり、配列番号18として示されている配列を持つ。VHとVLのこの組み合わせが、ヒト化抗βig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片に、大きくて予想外の耐熱性、すなわち80℃以上、特に80と83、83.2、83.5、または84℃の間、好ましくは81と約83または83.2℃の間に含まれるDSCを提供する。DSCは測定の方法の部分に記載されている方法を利用して測定される。1つの側面では、このヒト化抗βig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片はさらに、前記エピトープに、表面プラズモン共鳴(SPR)を利用して測定したとき1nM以下、好ましくは0.7nM以下、より好ましくは0.6または0.58nM以下の高親和性K、および/または4と10E-04秒-1の間、好ましくは5と8E-04秒-1の間、より好ましくは5.5と7.5E-04秒-1の間に含まれる遅い解離速度Kで結合する。SPRはバイオセンサーシステム(Biacore(登録商標)システムなど)を用いて測定することができる。
【0014】
本発明のヒト化抗体はβig-h3タンパク質を枯渇させることができる。
【0015】
本発明のヒト化抗体は、CD8+ T細胞の活性を回復させること、および/または間質の硬さを低下させることができるため、腫瘍へのアクセスが回復する。したがってこれらの抗体は、間質に対する抗βig-h3抗体の効果のおかげで、腫瘍により容易に近づくことのできる別の抗腫瘍剤と組み合わせて使用することができる。
【0016】
本発明は、少なくとも1つのヒト化モノクローナル抗体またはその抗原結合断片と、医薬として許容可能なビヒクルとを含む医薬組成物にも関する。
【0017】
本発明は、少なくとも1つのヒト化モノクローナル抗体またはその抗原結合断片と、別の抗腫瘍薬(例えば抗体、特にモノクローナル抗体またはその断片)とを含む医薬組成物、医薬組み合わせ、または部品のキットにも関する。
【0018】
本発明は、がんを予防または治療すること、βig-h3タンパク質を枯渇させること、CD8+ T細胞の活性を回復または活性化させること、および/または間質の硬さを低下させて他の抗腫瘍薬(抗体,モノクローナル抗体など)が腫瘍に近づくのを促進することに利用するための、そのような抗体、医薬組成物、医薬組み合わせ、または部品のキットにも関する。
【0019】
本発明はがんの予防または治療の方法にも関係しており、この方法は、それを必要とする患者に、有効な量のそのような抗体、医薬組成物、医薬組み合わせ、または部品のキットを投与することを含む。本発明は、βig-h3タンパク質を枯渇させること、CD8+ T細胞の活性を回復または活性化させること、および/または間質の硬さを低下させて他の抗腫瘍薬(抗体、モノクローナル抗体など)が腫瘍に近づくのを促進することにも関する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、ヒトβig-h3の構造の模式図である。18B3 mAbは、αvβ3とコラーゲンの結合にとって重要なYH18ドメインを含む549~558エピトープを認識する。
図2図2は、(参照mAbと見なす)キメラ18B3と前記4つのヒト化バリアントに関するELISAの結果を示すグラフである。6回の実験の平均(+標準偏差)。
図3図3は、(参照mAbと見なす)キメラ18B3と前記4つのヒト化バリアントに関する細胞傷害性CD8+ T細胞の活性化と増殖を示すグラフである。3回の実験の平均(+標準偏差)。パラメータの統計的有意性は、GraphPad Prismソフトウエアを用いてなされるスチューデントのt検定と一元配置分散分析を通じて評価する。
図4図4は、ctrl IgG1 Ab、(参照mAbと見なす)キメラ18B3のほか、前記4つのヒト化バリアントの存在下における皮下移植した(sc implanted)腫瘍膵臓がん腫瘍細胞の腫瘍の重量を示すグラフである。腫瘍細胞をMatrigel 1:1混合物(Corning)の中に塊として埋め込み、正常なC57BL6マウスの脇腹に、マウス1匹当たり6mgのヒト化バージョンmAbとともに皮下注射する。対照は、無関係なアイソタイプ対照IgG1 mAbにある。同じマウス集団(n=5)を、評価するそれぞれの量について用いる。腫瘍グラフトを分離し、グラフト内の腫瘍細胞の量をその後FACS染色によって4℃で評価し、FlowJoソフトウエアで分析する。パラメータの統計的有意性は、GraphPad Prismソフトウエアを用いてなされるスチューデントのt検定と一元配置分散分析を通じて評価する。
図5図5は、ctrl IgG1 Ab、(参照mAbと見なす)キメラ18B3のほか、前記4つのヒト化バリアントの存在下における皮下グラフトの中の腫瘍細胞の数を示すグラフである。腫瘍細胞をMatrigel 1:1混合物(Corning)の中に塊として埋め込み、正常なC57BL6マウスの脇腹に、マウス1匹当たり6mgのヒト化バージョンmAbとともに皮下注射する。対照は無関係なアイソタイプ対照IgG1 mAbにある。同じマウス集団(n=5)を、評価するそれぞれの量について用いる。腫瘍グラフトを分離し、グラフト内の腫瘍細胞の量をその後FACS染色によって4℃で評価し、FlowJoソフトウエアで分析する。パラメータの統計的有意性は、GraphPad Prismソフトウエアを用いてなされるスチューデントのt検定と一元配置分散分析を通じて評価する。
図6図6は、ctrl IgG1 Ab、(参照mAbと見なす)キメラ18B3のほか、前記4つのヒト化バリアントの存在下における皮下グラフトの中の活性化されていないCD8 T細胞の数を示すグラフである。腫瘍細胞をMatrigel 1:1混合物(Corning)の中に塊として埋め込み、正常なC57BL6マウスの脇腹に、マウス1匹当たり6mgのヒト化バージョンmAbとともに皮下注射する。対照は無関係なアイソタイプ対照IgG1 mAbにある。同じマウス集団(n=5)を、評価するそれぞれの量について用いる。腫瘍グラフトを分離し、グラフト内の腫瘍細胞の量をその後FACS染色によって4℃で評価し、FlowJoソフトウエアで分析する。パラメータの統計的有意性は、GraphPad Prismソフトウエアを用いてなされるスチューデントのt検定と一元配置分散分析を通じて評価する。
図7図7は、ctrl IgG1 Abのほか、2つのヒト化バリアント(H330/L41とH330/L228)のオリジナルバージョン(V1)とC102に関する変異バージョン(V1.2)の存在下における皮下グラフトの中の腫瘍細胞の数を示すグラフである。両方のmAbについて重鎖330の102位における変異(システイン残基のセリンによる置換)を実現し、翻訳後修飾(PTM)のリスクを最小にする。 腫瘍細胞をMatrigel 1:1混合物(Corning)の中に塊として埋め込み、正常なC57BL6マウスの脇腹に、マウス1匹当たり6mgのヒト化バージョンmAbとともに皮下注射する。対照は、無関係なアイソタイプ対照IgG1 mAbにある。同じマウス集団(n=5)を、評価するそれぞれの量について用いる。腫瘍グラフトを分離し、グラフト内の腫瘍細胞の量をその後FACS染色によって4℃で評価し、FlowJoソフトウエアで分析する。パラメータの統計的有意性は、GraphPad Prismソフトウエアを用いてなされるスチューデントのt検定と一元配置分散分析を通じて評価する。
図8図8は、ctrl IgG1 Abのほか、2つのヒト化バリアント(H330/L41とH330/L228)のオリジナルバージョン(V1)とC102に関する変異バージョン(V1.2)の存在下における皮下グラフトの中の活性化されたCD8 T細胞の数を示すグラフ。腫瘍細胞をMatrigel 1:1混合物(Corning)の中に塊として埋め込み、正常なC57BL6マウスの脇腹に、マウス1匹当たり6mgのヒト化バージョンmAbとともに皮下注射する。対照は、無関係なアイソタイプ対照IgG1 mAbにある。同じマウス集団(n=5)を、評価するそれぞれの量について用いる。腫瘍グラフトを分離し、グラフト内の腫瘍細胞の量をその後FACS染色によって4℃で評価し、FlowJoソフトウエアで分析する。パラメータの統計的有意性は、GraphPad Prismソフトウエアを用いてなされるスチューデントのt検定と一元配置分散分析を通じて評価する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ヒト化抗体
【0022】
1つの側面では、本発明は、可変ドメインVHと可変ドメインVLを含んでいてβig-h3タンパク質のエピトープに特異的に結合するヒト化抗βig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片に関する。エピトープは、配列配列番号16または30として示されるものであることが好ましい。もちろん、配列番号16または30よりも大きいβig-h3タンパク質断片と、この配列を含むβig-h3タンパク質断片に結合できる本発明の抗体またはその断片を除外することはできない。前記抗体またはその断片の結合は、驚くべき高レベルの親和性で起こること、特に表面プラズモン共鳴(SPR)を利用して測定したとき1nM以下、好ましくは0.7nM以下、より好ましくは0.6または0.58nM以下の高親和性Kで起こることができる。注目すべきことに、そして予想外なことに、前記Hz抗体またはその断片は、結合後に遅い解離速度Kを示す。この遅い解離速度は、SPRを利用して測定したとき4と10E-04秒-1の間、好ましくは5と8E-04秒-1の間、より好ましくは5.5と7.5E-04秒-1の間に含まれる可能性がある。SPRはバイオセンサーシステム(Biacore(登録商標)システムなど)を用いて測定することができる。
【0023】
本出願で着目した配列は下記の表1に示されている:
【0024】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
凡例:VLとVHでは、Kabatに従うCDRは太字であり、他のアミノ酸はFRの中にあり、マウスとは異なる特別なアミノ酸には下線が引かれている。
【0025】
2つのヒト化VHドメイン(H-330とH-311)と2つのヒト化VLドメイン(L-41とL-228)を作製した。それらは、それぞれが本発明の1つの目的であり、モノクローナル抗体またはその断片の中のそれらVH/VLの組み合わせも同様である。ヒト化VHドメインH-169とヒト化VLドメインL-315も本発明の目的であり、モノクローナル抗体またはその断片の中の本発明のVLドメインまたはVHドメインとそれらの組み合わせも同様である。
【0026】
システイン102からセリンへの変異を持つH-330の変異バージョンも作製した。この変異バージョンをH330V1.2(それに対して原初のH330はV1)またはH330C102Sと呼び、配列番号28に示されている配列を持つ。この変異はH-CDR-3の中で起こり、変異したH-CDR3は配列番号27に示されている配列を持つ。
【0027】
これらVHドメインを、変異したものを含めて組み合わせることで、抗体結合ドメインH-330/L-41、H-330/L-228、H-330V1.2/L-41、H-330V1.2/L-228、H-311/L-41、およびH-311/L-228を設計することができる(それぞれが本発明の1つの目的である)。ヒト化VHドメインH-330、H-330V1.2、およびH-311、特にドメインH-330とH-330V1.2は、m18B3モノクローナル抗体に由来する任意のヒト化VLドメインと組み合わせることもできる。特に、ヒト化VLドメインは、配列番号7、8、9にそれぞれ示されている配列のL-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3;または配列番号11、12、9にそれぞれ示されている配列のL-CDR1、L-CDR2、およびL-CDR3を含む。これらの組み合わせは、βig-h3タンパク質に、さらに特定するならβig-h3タンパク質のβig-h3タンパク質のFAS1の4番目のドメイン(配列番号16または30に示されているエピトープ)(AA残基549-558)に特異的に結合すると考えられる。本明細書に記載されている方法、特にSPR法、例えばバイオセンサーシステム(Biacore(登録商標)システムなど)を利用して上述のような優れた親和性、または非常に高い親和性での結合を確認し、ドメインH-330、H-330V1.2、またはH-311と、m18B3に由来するヒト化ドメインを含む候補の適格性を知ることができる。解離速度を同じ方法で調べることによりこれら候補の適格性を知ることができる。
【0028】
ELISAによって測定される親和性に関し、ヒト化バリアントはキメラ18B3と比べて統計的有意差がない。これは、ヒト化プロセスがELISAによって測定される親和性を変化させなかったことを示している。Biacore(登録商標)システムを利用すると、これらすべてのヒト化mAbはナノモル未満の範囲の親和性(KD)を持ち、驚くべきことにマウス18B3およびキメラ18B3よりも遅い解離速度を持つ。ヒト化バリアントH-330/L-228はヒト化mAbのうちで最高の親和性を示す。
【0029】
したがっていくつかの側面では、本発明は、H-330/L-41、H-330/L-228、H-330V1.2/L-41、H-330V1.2/L-228、H-311/L-41、またはH-311/L-228のいずれかを含むヒト化抗βig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片に関する。これらの抗体またはその抗原結合断片はβig-h3タンパク質のエピトープ(前記エピトープは、配列配列番号16または30(または上述のようにそれよりも長い配列)として示されている)に特異的に結合する。この結合は、SPRを利用して測定したとき、特に1nM以下、好ましくは0.7nM以下、より好ましくは0.6または0.58nM以下の高親和性Kで起こる。この結合は、SPRを利用して測定したとき、特に4と10E-04秒-1の間、好ましくは5と8E-04秒-1の間、より好ましくは5.5と7.5E-04秒-1の間に含まれる遅い解離速度Kで起こることが好都合である。SPRはバイオセンサーシステム(Biacore(登録商標)システムなど)を用いて測定することができる。
【0030】
H-330とH-330V1.2は、調べたすべてのL-バリアント(L-41またはL-228のいずれか)との組み合わせに例示されているように、DSCによるとモノクローナル抗体に予想外に大きい熱安定性を提供し、そのDSCは80℃超であり、特に81と83、83.2、または83.5℃の間に含まれる。VHドメインとVLドメインの他の組み合わせで実施例に示されている追加データは、相補的なVHドメインが何であれH-330がこの向上した熱安定性にとって重要であることを示している。変異C102Sを持つH-330V1.2の熱安定性は大きく80℃超にとどまる。H-330とH-330V1.2は、調べたすべてのL-バリアント(L-41またはL-228のいずれか)との組み合わせに例示されているように、モノクローナル抗体にCHO細胞の中での一過性発現において予想外に高い生産性も提供する。その生産性は200μg/ml超であり、特に230と300μg/mlの間に含まれる。これにはELISAとBiacore(登録商標)による非常に優れた親和性が付随しており、ヒト化バリアントH-330/L-228で最高のBiacore(登録商標)親和性になる。モノクローナル抗体の中のH-330またはその変異バージョンC102Sの存在と結びついたこれらの特別な特性は、同じVLバリアントと組み合わせて用いられたH-311で得られた結果と比べると、H-330とH-311の間にはわずか6個のアミノ酸の違いしかないだけに驚くべきものである。
【0031】
重鎖H-330は、そのV1バージョン(配列番号4)またはそのC102S V1.2変異バージョン(配列番号28)が、異なる軽鎖(L-41、L-228、L-315)と会合したとき、βig-h3タンパク質のエピトープ(配列配列番号16または30のエピトープ)に結合する本明細書に開示のモノクローナル抗体の中で大きくて予想外の熱安定性を示す。重鎖の102位におけるシステインからセリンへの変異を持つバリアントは、非変異mAbバージョン(H-330V1)と似た保存された反応性と安定性の特性を示したため、創薬可能性の目的にとって貴重な候補である。
【0032】
本明細書に開示されているDSCと、CHOの中での一過性発現は、測定の方法の部分に記載されているようにして測定した。
【0033】
特別な1つの側面では、本発明は、βig-h3タンパク質、好ましくは配列配列番号16または30として示されているエピトープに、特に上記の結合親和性および/または解離速度(SPRを利用して測定したとき、特に1nM以下、好ましくは0.7nM以下、より好ましくは0.6または0.58nM以下の高親和性K;SPRを利用して測定したとき、特に4と10E-04秒-1の間、好ましくは5と8E-04秒-1の間、より好ましくは5.5と7.5E-04秒-1の間に含まれる遅い解離速度K)で特異的に結合するとともに、
(a)- 配列番号1として示されている配列を持つH-CDR1;
- 配列番号2として示されている配列を持つH-CDR2;
- 配列番号3または27として示されている配列を持つH-CDR3を含む(H-330バリアントまたはH-330V1.2のCDRを含む)可変ドメインVH;
(b)18B3モノクローナル抗体のヒト化バリアントである、すなわち配列番号18として示されている配列を持つ18B3 VLドメインのヒト化バリアントである可変ドメインVLを含むヒト化抗βig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片に関する。
【0034】
一実施形態では、前記抗体は、配列番号4として示されている配列を持つVHドメインを含む。
【0035】
このモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、βig-h3タンパク質に、さらに特定するならβig-h3タンパク質のFAS1の4番目のドメイン(配列番号16または30として示されているエピトープ)に特異的に結合する。この結合は、SPRを利用して測定したとき、1nM以下、好ましくは0.7nM以下、より好ましくは0.6または0.58nM以下の高親和性Kと、4と10E-04秒-1の間、好ましくは5と8E-04秒-1の間、より好ましくは5.5と7.5E-04秒-1の間に含まれる遅い解離速度Kで起こる。SPRはバイオセンサーシステム(Biacore(登録商標)システムなど)を用いて測定することができる。
【0036】
別の1つの特別な側面では、本発明は、βig-h3タンパク質に特異的に結合するとともに、
(a)- 配列番号1として示されている配列を持つH-CDR1;
- 配列番号2として示されている配列を持つH-CDR2;
- 配列番号3または27として示されている配列を持つH-CDR3を含む(H-330バリアントまたはH-330V1.2のCDRを含む)可変ドメインVH;
(b)- 配列番号7として示されている配列を持つL-CDR1;
- 配列番号8として示されている配列を持つL-CDR2;
- 配列番号9として示されている配列を持つL-CDR3
を含む(L-41バリアントのCDRを含む)可変ドメインVLを含むヒト化抗βig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片に関する。
【0037】
一実施形態では、前記抗体は、配列番号4または28として示されている配列を持つVHドメイン、および/または配列番号10として示されている配列を持つVLドメインを含む。
【0038】
このモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、
- 約5.8E-10M以下、特に約5E-10と約5.8E-10Mの間以下、特に約5.35E-10MのKでβig-h3タンパク質に結合する;および/または
- 約6E-04秒-1以上、特に約6.2E-04と約7E-04秒-1の間、特に約6.59E-04秒-1のKでβig-h3タンパク質に結合する;および/または
- DSC(Tm Fab)が約79℃以上、特に約79と約83、83.2、または83.5℃の間、典型的には約81.3℃である安定性を持つ;および/または
- CHO細胞の中での一過性発現において測定値が約275μg/mlという優れた生産性を持つ。
【0039】
一実施形態では、このヒト化抗βig-h3モノクローナル抗体(H-330/L-41またはH-330V1.2/L-41)またはその抗原結合断片は、
- 配列番号4または28として示されている配列を持つVHドメイン;
- 配列番号10として示されている配列を持つVLドメインを含む。
【0040】
一実施形態では、前記ヒト化抗βig-h3抗体は、
- 前記可変ドメインと、定常ドメインCH(配列番号14として示されている配列を持つCHなど)を含む重鎖;
- 前記可変ドメインと、定常ドメインCL(配列番号15として示されている配列を持つCLなど)を含む軽鎖を含む。
【0041】
別の1つの特別な側面では、本発明は、βig-h3タンパク質に特異的に結合するとともに、
(a)- 配列番号1として示されている配列を持つH-CDR1;
- 配列番号2として示されている配列を持つH-CDR2;
- 配列番号3または27として示されている配列を持つH-CDR3を含む(H-330バリアントまたはH-330V1.2のCDRを含む)可変ドメインVH;
(b)- 配列番号11として示されている配列を持つL-CDR1;
- 配列番号12として示されている配列を持つL-CDR2;
- 配列番号9として示されている配列を持つL-CDR3
を含む(L-228バリアントのCDRを含む)可変ドメインVLを含むヒト化抗βig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片に関する。
【0042】
一実施形態では、前記抗体は、配列番号4または28として示されている配列を持つVHドメイン、および/または配列番号13として示されている配列を持つVLドメインを含む。
【0043】
このモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、
- 約5E-10M以下、特に約4.5E-10Mと約5E-10Mの間、典型的には約4.76E-10MのKでβig-h3タンパク質に結合する;および/または
- 約5E-04秒-1以上、特に約5.5E-04と約6E-04秒-1の間、特に約5.83E-04秒-1のKでβig-h3タンパク質に結合する;および/または
- DSC(Tm Fab)が約78℃以上、特に約78~82℃、典型的には約80.2℃である安定性を持つ;および/または
- CHO細胞の中での一過性発現において測定値が約249μg/mlという優れた生産性を持つ。
【0044】
一実施形態では、このヒト化抗βig-h3モノクローナル抗体(H-330/L-228またはH-330V1.2/L-228)またはその抗原結合断片は、
- 配列番号4または28として示されている配列を持つVHドメイン;
- 配列番号13として示されている配列を持つVLドメインを含む。
【0045】
一実施形態では、前記ヒト化抗βig-h3モノクローナル抗体は、
- 前記可変ドメインと、定常ドメインCH(配列番号14として示されている配列を持つCHなど)を含む重鎖;
- 前記可変ドメインと、定常ドメインCL(配列番号15として示されている配列を持つCLなど)を含む軽鎖を含む。
【0046】
別の1つの特別な側面では、本発明は、βig-h3タンパク質に特異的に結合するとともに、
(a)- 配列番号1として示されている配列を持つH-CDR1;
- 配列番号5として示されている配列を持つH-CDR2;
- 配列番号3として示されている配列を持つH-CDR3を含む(H-311バリアントのCDRを含む)可変ドメインVH;
(b)- 配列番号7として示されている配列を持つL-CDR1;
- 配列番号8として示されている配列を持つL-CDR2;
- 配列番号9として示されている配列を持つL-CDR3
を含む(L-41バリアントのCDRを含む)可変ドメインVLを含むヒト化抗βig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片に関する。
【0047】
一実施形態では、前記抗体は、配列番号6として示されている配列を持つVHドメイン、および/または配列番号10として示されている配列を持つVLドメインを含む。
【0048】
このモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、
- 約5E-10M以下、特に約4.5と約5E-10Mの間、特に約4.82E-10MのKでβig-h3タンパク質に結合する;および/または
- 約6.8E-04秒-1以上、特に約7E-04と約7.5E-04秒-1の間、特に約7.26E-04秒-1のKでβig-h3タンパク質に結合する;および/または
- DSC(Tm Fab)が約75℃以上、特に約75と約79℃の間、典型的には約77℃である安定性を持つ。
【0049】
一実施形態では、このヒト化抗βig-h3モノクローナル抗体(H-311/L-41)またはその抗原結合断片は、
- 配列番号6として示されている配列を持つVHドメイン;
- 配列番号10として示されている配列を持つVLドメインを含む。
【0050】
一実施形態では、前記ヒト化抗βig-h3抗体は、
- 前記可変ドメインと、定常ドメインCH(配列番号14として示されている配列を持つCHなど)を含む重鎖;
- 前記可変ドメインと、定常ドメインCL(配列番号15として示されている配列を持つCLなど)を含む軽鎖を含む。
【0051】
別の1つの特別な側面では、本発明は、βig-h3タンパク質に特異的に結合するとともに、
(a)- 配列番号1として示されている配列を持つH-CDR1;
- 配列番号5として示されている配列を持つH-CDR2;
- 配列番号3として示されている配列を持つH-CDR3を含む(H-311バリアントのCDRを含む)可変ドメインVH;
(b)- 配列番号11として示されている配列を持つL-CDR1;
- 配列番号12として示されている配列を持つL-CDR2;
- 配列番号9として示されている配列を持つL-CDR3
を含む(L-228バリアントのCDRを含む)可変ドメインVLを含むヒト化抗βig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片に関する。
【0052】
一実施形態では、前記抗体は、配列番号6として示されている配列を持つVHドメイン、および/または配列番号13として示されている配列を持つVLドメインを含む。
【0053】
このモノクローナル抗体、またはその抗原結合断片は、
- 約5E-10M以下、特に約4.5と約5E-10Mの間、特に約4.9E-10MのKでβig-h3タンパク質に結合する;および/または
- 約6.5E-04秒-1以上、特に約6.8E-04と約7.3E-04秒-1の間、特に約7.07E-04秒-1のKでβig-h3タンパク質に結合する;および/または
- DSC(Tm Fab)が約73.5℃以上、特に約73.5と約77.5℃(of about 73.5 and about 77.5℃)、典型的には約75.5℃である安定性を持つ。
【0054】
一実施形態では、このヒト化抗βig-h3モノクローナル抗体(H-311/L-228)またはその抗原結合断片は、
- 配列番号6として示されている配列を持つVHドメイン;
- 配列番号13として示されている配列を持つVLドメインを含む。
【0055】
一実施形態では、前記ヒト化抗βig-h3モノクローナル抗体は、
- 前記可変ドメインと、定常ドメインCH(配列番号14として示されている配列を持つCHなど)を含む重鎖;
- 前記可変ドメインと、定常ドメインCL(配列番号15として示されている配列を持つCLなど)を含む軽鎖を含む。
【0056】
一実施形態では、本明細書に開示されているヒト化抗体は、ヒトIgG1定常ドメイン、好ましくは重鎖の定常ドメインヒト-配列番号14の重ヒトIgG1 m1,17(the Constant domain human for Heavy chain Heavy Human IgG1 m1,17 of SEQ ID NO:14)、および/または軽鎖、特にカッパの定常ドメイン、好ましくは軽鎖(カッパ)の定常ドメインヒト-配列番号15の軽鎖ヒトKm3を含む。
【0057】
定義と特徴
【0058】
抗体可変ドメインの中の残基は通常、Kabatらによって考案されたシステムに従って番号付けされる。このシステムは、Kabat et al., 1987, Sequences of Proteins of Immunological Interest、アメリカ合衆国保健福祉省、NIH、アメリカ合衆国に示されている(今後は「Kabatら」)。この番号付けシステムを本明細書で使用する。Kabatの残基指定は必ずしも配列番号の配列の中のアミノ酸残基の線形な番号付けに対応しない。実際の線形アミノ酸配列は、フレームワークであれ相補性決定領域(CDR)であれ、基本的な可変ドメイン構造の構造要素の短縮、またはその構造要素への挿入に対応する厳密なKabat番号付けにおけるよりも少ないか追加のアミノ酸を含有する可能性がある。残基の正しいKabat番号付けは、所与の抗体について、「標準的な」Kabatの番号付けがなされた配列を持つ抗体の配列の中の相同な残基のアラインメントによって判断することができる。重鎖可変ドメインのCDRは、Kabat番号付けシステムによると、残基31~35B(H-CDR1)、残基50~65(H-CDR2)、および残基95~102(H-CDR3)に位置する。軽鎖可変ドメインのCDRは、Kabat番号付けシステムによると、残基24~34(L-CDR1)、残基50~56(L-CDR2)、および残基89~97(L-CDR3)に位置する(http://www.bioinf.org.uk/abs/#cdrdef)。
【0059】
抗体の「抗原結合断片」という用語は、本明細書では、インタクトな抗体の1つ以上の断片で、βig-h3抗原に特異的に結合する能力を保持しているものを意味する。抗体の抗原結合機能はインタクトな抗体の断片が実行することができる。抗体の抗原結合断片という用語の範囲に包含される結合断片の例に含まれるのは、Fab断片(VL、VH、CL、およびCH1ドメインからなる1価断片);Fab’断片(VL、VH、CL、CH1ドメイン、およびヒンジ領域からなる1価断片);F(ab’)断片(ヒンジ領域の位置でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab’断片を含む2価断片);抗体の単一のアームのVHドメインからなるFd断片;単一ドメイン抗体(sdAb)断片(Ward et al., 1989 Nature 341:544-546)(これはVHドメインまたはVLドメインからなる);および単離された相補性決定領域(CDR)である。さらに、Fv断片の2つのドメイン(VLとVH)は別々の遺伝子によってコードされているが、それらは組み換え法を利用して人工ペプチドリンカーによって接合することができ、そのリンカーにより、VL領域とVH領域のペアが1価分子を形成する単一のタンパク質鎖となることが可能になる(一本鎖Fv(ScFv)として知られる;例えばBird et al., 1989 Science 242:423-426と、Huston et al., 1988 proc. Natl. Acad. Sci. 85:5879-5883を参照されたい)。「dsFv」はジスルフィド結合によって安定化されたVH::VLヘテロ二量体である。2価と多価の抗体断片は、1価scFvの会合によって自発的に形成されること、またはペプチドリンカー(2価sc(Fv)2など)による1価scFvのカップリングによって生成させることが可能である。このような一本鎖抗体は、抗体の1つ以上の抗原結合部分または断片を含む。これら抗体断片は当業者に知られている従来の技術を利用して得られ、断片は、有用性に関してインタクトな抗体と同様にしてスクリーニングされる。ユニボディは別のタイプの抗体断片であり、IgG4抗体のヒンジ領域を欠く。ヒンジ領域が欠失する結果として、伝統的なIgG4抗体の実質的に半分のサイズであってIgG4抗体の2価結合領域ではなく1価結合領域を持つ分子になる。抗原結合断片は、単一ドメイン抗体、SMIP、マキシボディ、ミニボディ、イントラボディ、ディアボディ、トリアボディ、およびテトラボディに組み込むことができる(例えばHollinger and Hudson, 2005, Nature Biotechnology, 23, 9, 1126-1136参照)。「ディアボディ」「トリアボディ」または「テトラボディ」という用語は、多価抗原結合部位(2、3、または4)を持つ小さな抗体断片を意味し、これら断片は、同じペプチド鎖(VH-VL)内の軽鎖可変ドメイン(VL)に接続された重鎖可変ドメイン(VH)を含む。同じ鎖上のこれら2つのドメインの間でペアを形成するには短すぎるリンカーを用いることにより、これらドメインは別の鎖の相補的ドメインとペアを形成することを強制され、2つの抗原結合部位を創出する。抗原結合断片は、一対のタンデムFv区画(VH-CH1-VH-CH1)を含む一本鎖分子に組み込むことができ、それが相補的な軽鎖ポリペプチドと合わさり、一対の抗原結合領域を形成する(Zapata et al., 1995 Protein Eng. 8(10); 1057-1062とアメリカ合衆国特許第5,641,870号)。
【0060】
一実施形態では、本発明の抗体断片は、Fab、F(ab)’2、単一ドメイン抗体、ScFv、Sc(Fv)2、ディアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ユニボディ、ミニボディ、マキシボディ、小型モジュール式免疫医薬品(SMIP)、単離された相補性決定領域(CDR)としての抗体の超可変領域を模倣するアミノ酸残基からなる最小認識ユニット、および本明細書に開示されているVLドメインまたはVHドメインを含むかそのドメインからなる断片で構成されるグループから選択される抗原結合断片である。
【0061】
本発明のFabは、βig-h3と特異的に反応する抗体をプロテアーゼであるパパインで処理することによって取得できる。Fabは、抗体のFabをコードするDNAを原核生物発現系または真核生物発現系のためのベクターに挿入し、そのベクターを(必要に応じて)原核生物または真核生物の中に導入してFabを発現させることによって生成させることもできる。
【0062】
本発明のF(ab’)2は、βig-h3と特異的に反応する抗体をプロテアーゼであるペプシンで処理することによって取得できる。F(ab’)2は、下記のFab’をチオエーテル結合またはジスルフィド結合によって結合させることによって生成させることができる。
【0063】
本発明のFab’は、βig-h3と特異的に反応するF(ab’)2を還元剤であるジチオトレイトールで処理することによって得ることができる。また、Fab’は、抗体のFab’断片をコードするDNAを原核生物のための発現ベクターまたは真核生物のための発現ベクターに挿入し、そのベクターを(必要に応じて)原核生物または真核生物の中に導入して発現させることによって生成させることができる。
【0064】
本発明のscFvは、VHドメインとVLドメインをコードするcDNAを以前に記載されているようにして取得し、scFvをコードするDNAを構成し、そのDNAを原核生物のための発現ベクターまたは真核生物のための発現ベクターの中に導入した後、その発現ベクターを(必要に応じて)原核生物または真核生物の中に導入してscFvを発現させることによって生成させることができる。ヒト化scFv断片を生成させるのにCDRグラフティングと呼ばれる周知の技術を利用することができる。この技術は、ドナーscFv断片から相補性決定領域(CDR)を選択し、それらを三次元構造が知られているヒトscFv断片フレームワークにグラフトすることを含む(例えばWO98/45322;WO 87/02671;アメリカ合衆国特許第5,859,205号;アメリカ合衆国特許第5,585,089号;アメリカ合衆国特許第4,816,567号;欧州特許第0173494号参照)。
【0065】
本発明のヒト化モノクローナル抗体は、CDRドメインをコードする核酸配列を以前に記載されているようにして取得し、(i)ヒト抗体と同じ重鎖定常領域と(ii)ヒト抗体と同じ軽鎖定常領域をコードする遺伝子を持つ動物細胞のための発現ベクターにそれらを挿入することによってヒト化抗体発現ベクターを構成し、その発現ベクターを動物細胞の中に導入することによってそれら遺伝子を発現させることによって生成させることができる。ヒト化抗体発現ベクターは、抗体重鎖をコードする遺伝子と抗体軽鎖をコードする遺伝子が別々のベクター上に存在するタイプ、または両方の遺伝子が同じベクター上に存在するタイプ(タンデム式)のいずれかが可能である。ヒト化抗体発現ベクターの構築の容易さ、動物細胞への導入の容易さ、および動物細胞における抗体のH鎖とL鎖の発現レベルの間のバランスに関し、タンデム式のヒト化抗体発現ベクターが好ましい。タンデム式ヒト化抗体発現ベクターの例に含まれるのは、pKANTEX93(WO 97/10354)、pEE18などである。従来の組み換えDNAと遺伝子トランスフェクションの技術に基づいてヒト化抗体を生成させる方法は本分野で周知である(例えばRiechmann L. et al. 1988;Neuberger MS. et al. 1985参照)。抗体は、本分野で知られている多彩な技術を利用してヒト化することができ、技術に含まれるのは、例えばCDR-グラフティング(欧州特許第239,400号;PCT公開WO 91/09967;アメリカ合衆国特許第5,225,539号;第5,530,101号;および第5,585,089号)、ベニアリングまたはリサーフェシング(欧州特許第592,106号;欧州特許第519,596号;Padlan EA (1991);Studnicka GM et al. (1994);Roguska MA. et al. (1994))、および鎖シャッフリング(アメリカ合衆国特許第5,565,332号)である。このような抗体を調製するための一般的な組み換えDNA技術も知られている(欧州特許出願EP 125023と国際特許出願WO 96/02576参照)。
【0066】
本明細書では、記号Kは解離定数を意味することが想定されており、Kaに対するKdの比(すなわちKd/Ka)から得られ、モル濃度(M)として表わされる。抗体のK値は本分野でよく確立された方法を利用して求めることができる。抗体のKを求める1つの方法は、測定の方法の部分に記載されている条件でSPRを利用すること、特にバイオセンサーシステム(Biacore(登録商標)システムなど)を利用することによる。
【0067】
記号「k」(秒-1)は、本明細書では、ある特別なAb-抗原相互作用の解離速度定数([Ab]][抗原]/[Ab-抗原複合体])を意味する。前記値はkoff値とも呼ばれる。
【0068】
記号「k」(M-1×秒-1)は、本明細書では、ある特別なAb-抗原相互作用の会合速度定数を意味し、kの逆数である。
【0069】
記号「K」(M)は、本明細書では、ある特別なAb-抗原相互作用の解離平衡定数を意味し、kをkで割ることによって得られる。
【0070】
記号「K」(M-1)は、本明細書では、ある特別なAb-抗原相互作用の会合平衡定数を意味し、kをkで割ることによって得られる。
【0071】
本明細書では、熱安定性は示差走査熱量測定(DSC)によって評価される。これは測定の方法の部分に記載されているようにして測定される。
【0072】
「ヒト化抗体」または「キメラ抗体」は、当業者が利用できて例えば本明細書に開示されている方法によって親マウス抗体から導出される抗体を意味する。「ヒト化抗体」または「キメラ抗体」、またはその抗原結合断片は、マウス抗体m18B3の6つのCDRのセットでおそらくCDRの中に変異を持つものを含むことが好ましかろう。
【0073】
ヒト化抗体(キメラ抗体など)と抗原結合断片は、親マウス抗体m18B3の抗原結合特性を保持、または実質的に保持しており、本明細書に開示されているように、ヒト化は、マウスおよび/またはキメラ18B3モノクローナル抗体に興味深くて予想外の機能性を与えることができる。
【0074】
CDR、またはそのうちのいくつかは、SDRアプローチ(超グラフティング)または他の有用な方法の後にマウスCDRとは異なっている可能性がある。本明細書に記載されているヒト化により、本明細書に開示されているように、治療用の機能特性と組み合わされた興味深くて予想外の機能(特に親和性、解離速度、熱安定性(DSC))を持つモノクローナル抗体とその抗原結合断片を提供することが可能になる。H-330とH-311は非常に魅力的であることが示され、L-41とL-218も同様であった。当業者であれば、これらの機能性と機能特性のいくつかを実質的に変化させることなく、アミノ酸変化(例えば1、2、3、4、4、5、6、7、8、9、10個までのアミノ酸)をこれらVH領域とVL領域に導入することができよう。このように変化したVHドメインおよび/またはVLドメインも、これらVHドメインとVLドメインの定義に包含されると考えられる。
【0075】
さまざまな抗体分子と断片は、一般に知られている免疫グロブリンのいずれかのクラスに由来することができ、クラスの非限定的な例に含まれるのは、IgA、分泌型IgA、IgE、IgG、およびIgMである。IgGサブクラスも本分野で周知であり、その非限定的な例に含まれるのは、ヒトIgGl、IgG2、IgG3、およびIgG4である。IgG1を用いることが好ましい。
【0076】
「治療」または「療法」は、治療的処置と、予防的または防止的措置の両方を意味する。それは治療的処置であることが好ましい。
【0077】
治療または療法を目的とした「哺乳類」は、哺乳類に分類される任意の動物を意味し、その動物に含まれるのは、ヒト、家畜、および動物園、スポーツ、またはペットの動物(イヌ、ウマ、ネコ、ウシ、など)である。哺乳類はヒトであることが好ましい。異なると示されている場合を除き、「対象」、「患者」などの用語には哺乳類が含まれ、その中にヒトが含まれる。
【0078】
「がん」と「がん性」という用語は、哺乳類における異常な細胞増殖を典型的な特徴とする生理学的状態を意味または記述する。
【0079】
「核酸」または「オリゴヌクレオチド」という用語、または文法的に同等な用語は、本明細書では、互いに共有結合した少なくとも2つのヌクレオチドを意味する。本発明の核酸は一本鎖または二本鎖であることが好ましく、一般にホスホジエステル結合を含有する。
【0080】
抗体のアミノ酸配列「バリアント」(または変異体)は、適切なヌクレオチドの変更を抗体のDNAに導入することによって、またはヌクレオチド合成によって調製される。しかしこのような修飾は、例えば本明細書に記載されているように非常に限定された範囲でだけ実施することができる。例えば修飾は上記の抗体の特徴(IgGアイソタイプと抗原結合など)を変化させないが、組み換え産生の収量、タンパク質の安定性を改善したり、精製を容易にしたりする可能性がある。
【0081】
ある分子の「バリアント」は、天然分子の配列に実質的に似た配列である。ヌクレオチド配列については、バリアントに、遺伝暗号の縮重が理由で天然タンパク質の同じアミノ酸配列をコードする配列が含まれる。このような天然のアレルバリアントは、分子生物学の周知の技術(例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)とハイブリダイゼーション技術)を利用して同定することができる。バリアントのヌクレオチド配列には、合成由来のヌクレオチド配列(例えば部位指定突然変異誘発の利用によって生成させた、天然タンパク質をコードするものなど)のほか、アミノ酸置換を持つポリペプチドをコードするものも含まれる。一般に、本発明のヌクレオチド配列バリアントは、少なくとも一実施形態では、配列は、天然(内在性)ヌクレオチド配列と40%、50%、60%、70%まで、例えば71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%まで、一般に少なくとも80%、例えば81%~84%、少なくとも85%、例えば86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%一致することになろう。
【0082】
「阻害する」という用語は、活性、応答、状態、疾患、または他の生物学的パラメータの減少を意味する。その非限定的な例に含めることができるのは、活性、応答、状態、または疾患の完全な喪失である。その中にやはり含めることができるのは、、例えば天然または対照のレベルと比較したときの活性、応答、状態、または疾患の10%の低下である。したがって低下として、天然レベルまたは対照レベルと比べたときの10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、100%、またはこれら数値間の任意の量の低下が可能である。
【0083】
組成物と医薬組成物
【0084】
本発明の別の1つの目的は、本明細書に開示され提示されている少なくとも1つのHzモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を含む組成物または医薬組成物である。この組成物は、ビヒクルまたは希釈剤、特に抗体の想定される用途に適したビヒクルまたは希釈剤をさらに含むことができる。組成物が医薬組成物である場合には、使用されるのは、医薬として許容可能な基剤、希釈剤、または
【0085】
医薬組成物は、(i)本発明による少なくとも1つのヒト化抗βig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片と、(ii)少なくとも1つの追加抗腫瘍薬(別の標的に向かう抗体、および/または化学療法薬(小分子など)など)を含むことができる。両方の活性成分が同じ組成物の中に存在することができる。あるいは少なくとも2つのこれら活性成分は例えば別々のバイアルまたは組成物に分けられる。1つの側面では、組成物は、がんの治療に、および/または免疫を変化させるのに用いる本明細書に記載の少なくとも2つの活性成分を含んでおり、ヒトを含む哺乳類に同時に、別々に、または逐次的に投与される。
【0086】
追加活性成分として、特にドキソルビシン、ゲムシタビン、カンプトテシン、パクリタキセルが挙げられる。追加活性成分として別の抗体も可能である。その別の抗体は、別のがんマーカーまたは受容体、免疫コンピテント細胞の表面に発現する別の抗原、免疫チェックポイント、およびこれらの組み合わせからなるグループから選択することができる。
【0087】
これら組成物で使用できる医薬として許容可能な基剤または賦形剤の非限定的な例に含まれるのは、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質(ヒト血清アルブミンなど)、バッファ物質(リン酸塩、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物脂肪酸の部分的グリセリド混合物、水、塩など)、または電解質(硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、蝋、ポリエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックポリマー、ポリエチレングリコール、および羊毛脂など)である。
【0088】
本発明の医薬組成物は、経口、非経口で、吸入スプレーによって、局所、直腸、鼻腔、口腔、膣に、または埋め込まれたリザーバを通じて投与することができる。本明細書で利用されるは、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑膜内、胸骨内、髄腔内、肝内、病巣内、および頭蓋内の注射または輸液の技術を含む。本発明の組成物の減菌注射可能形態として、水性または油性の懸濁液が可能である。これら懸濁液は、適切な分散剤または湿潤剤と懸濁剤を用い、本分野で知られている技術に従って製剤化することができる。減菌注射可能調製物として、非毒性で非経口投与可能な希釈剤または溶媒の中の注射可能な溶液または懸濁液(例えば1,3-ブタンジオールの中の溶液)も可能である。使用できる許容可能なビヒクルと溶媒には、水、リンガー溶液、および等張塩化ナトリウム溶液がある。それに加え、減菌不揮発性油が溶媒または懸濁培地として通常使用される。この目的で、刺激の少ない任意の不揮発性油(合成モノグリセリドまたはジグリセリドが含まれる)を使用できる。脂肪酸(オレイン酸とそのグリセリド誘導体など)は注射液の調製に有用であり、医薬として許容可能な天然の油(オリーブ油またはひまし油など)、特にそのポリオキシエチル化バージョンも同様である。これらの油性溶液または懸濁液は長鎖アルコール希釈剤または分散剤(カルボキシメチルセルロース、または医薬として許容可能な剤型の製剤(エマルションと懸濁液が含まれる)で一般に使用される同様の分散剤など)も含有することができる。他の一般に使用される界面活性剤(Tween(登録商標)、Span、および医薬として許容可能な固体、液体、または他の剤型の製造に利用される他の乳化剤または生物学的利用能増強剤など)も製剤の目的で使用することができる。
【0089】
本発明の医薬組成物は、経口投与可能な任意の剤型(その非限定な例に、カプセル、錠剤、水性の懸濁液または溶液が含まれる)で経口投与することができる。経口で使用する錠剤の場合には、一般に使用される基剤に含まれるのはラクトースとコーンスターチである。典型的には潤滑剤(ステアリン酸マグネシウムなど)も添加される。カプセルの形態で経口投与するのに有用な希釈剤には例えばラクトースが含まれる。経口での使用に水性懸濁液が必要とされるときには、活性成分は乳化剤および懸濁剤と組み合わされる。望む場合には、ある甘味剤、香味剤、または着色剤も添加することができる。あるいは本発明の組成物は直腸投与のため座薬の形態で投与することができる。これらは、薬剤を、室温では固体だが直腸温度では液体であるため直腸内で融解して薬を放出する適切な非刺激性賦形剤と混合することによって調製することができる。このような材料に含まれるのは、カカオバター、蜜蝋、およびポリエチレングリコールである。本発明の組成物は、特に治療の標的が局所的適用によって容易にアクセスできる領域または臓器(目、皮膚、または下部腸管の疾患が含まれる)を含むときには局所投与することもできる。適切な局所製剤は、これらの領域または臓器のそれぞれのために容易に調製される。局所的に適用するため、組成物は、1つ以上の基剤の中に懸濁または溶解された活性成分を含有する適切な軟膏の製剤にすることができる。本発明の化合物を局所投与するための基剤の非限定的な例に含まれるのは、鉱物油、流動ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン化合物、乳化ワックス、および水である。あるいは組成物は、医薬として許容可能な1つ以上の基剤の中に懸濁または溶解された活性成分を含有する適切なローションまたはクリームの製剤にすることができる。適切な基剤の非限定的な例に含まれるのは、鉱物油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2-オクチルドデカノール、ベンジルアルコール、および水である。下部腸管のための局所的適用は、直腸座薬製剤(上記参照)または適切な浣腸製剤で実現することができる。パッチも使用できる。本発明の組成物は鼻腔エアロゾルまたは吸入によって投与することもできる。このような組成物は医薬製剤の分野で周知の技術に従って調製され、ベンジルアルコールまたは他の適切な保存剤、生物学的利用能を促進するための吸収促進剤、フッ化炭素、および/または他の一般的な可溶剤または分散剤を使用して生理食塩水中の溶液として調製することができる。
【0090】
例えば本発明の医薬組成物の中に存在する抗体は、100mg(10mL)または500mg(50mL)いずれかの単回使用バイアルに入れて10mg/mLの濃度で供給することができる。前記生成物は、静脈内投与するため、9.0mg/mLの塩化ナトリウム、7.35mg/mLのクエン酸ナトリウム二水和物、0.7mg/mLのポリソルベート80、および注射用減菌水の中で製剤化することができる。pHは6.5に調節することができる。
【0091】
(例えば筋肉内、静脈内)注射のための本発明の医薬組成物は、医薬として許容可能な基剤、希釈剤、または賦形剤、例えば減菌緩衝化水(例えば筋肉内のため1ml)と、約1ng~約100mg、例えば約50ng~約30mg、またはより好ましくは約5mg~約25mgの本発明の抗体を含有するように調製することができよう。
【0092】
ある実施形態では、抗体を宿主細胞の中に導入するのにリポソームおよび/またはナノ粒子を利用することを考慮する。リポソームおよび/またはナノ粒子の形成と利用は当業者に知られている。ナノカプセルは、一般に安定で再現可能なやり方で化合物を収容することができる。細胞内にポリマーが過剰になることに起因する副作用を回避するため、そのような超微粒子(約0.1μmのサイズ)は一般に、生体内で分解可能なポリマーを用いて設計される。これらの条件に合致する生物分解性ポリアルキル-シアノアクリレートナノ粒子を本発明で利用することが考慮され、そのような粒子は作製が容易である。リポソームは、水性培地に分散されたリン脂質から形成されて多重層同心二層小胞(多重層小胞(MLV)とも呼ばれる)を自発的に形成する。MLVは一般に25nm~4μmの直径を持つ。MLVを超音波処理すると、200~500オングストロームの範囲の直径を持っていてコアの中に水溶液を含有する小さな単層小胞(SUV)が形成される。リポソームの物理的特徴は、pH、イオン強度、および2価カチオンの存在に依存する。
【0093】
利用のため、利用の方法(例えば治療的処置)、製造するための利用
【0094】
不適切な場合を除き、本明細書に開示されているあらゆる特徴が本発明の異なる目的(「利用のため」、「利用の方法」、または「治療の」、「薬の製造(the manufacture a medicament)のための利用」など)に適用される。一実施形態では、患者または対象は哺乳類、好ましくはヒトである。
【0095】
本発明の別の1つの目的は、薬として利用するための、本明細書に開示されているヒト化抗βig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片、または医薬組成物である。
【0096】
1つの側面では、本発明は、(i)固形がんの治療に、または(2i)免疫調節組成物として利用するためのそのようなヒト化抗βig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片、またはそれを含有する組成物に関する。特に、免疫調節効果は、がんの治療または治療中に助けになる可能性がある。免疫調節は、CD8+ T細胞の活性の回復または活性化を含むことができる。
【0097】
別の1つの側面では、本発明は、間質の硬さ低下に利用するためのそのようなヒト化抗βig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片、またはそれを含む組成物に関する。特に、この機能によって他の抗腫瘍薬(抗体、モノクローナル抗体など)が腫瘍に近づくことが可能になる。
【0098】
したがって一般に本発明は、固形がんの治療に用いるためのそのようなヒト化抗βig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片、またはそれを含有する組成物に関する。
【0099】
一実施形態では、固形腫瘍は、βig-h3が間質で発現している腫瘍である。
【0100】
好ましい実施形態では、固形腫瘍は、乳がん、子宮/子宮頸がん、食道がん、膵臓がん、大腸がん、結腸直腸がん、腎臓がん、卵巣がん、前立腺がん、頭頸部がん、非小細胞肺がん胃がん、起源の腫瘍(すなわち線維肉腫と横紋筋肉腫(rhabdomyosarcoma))、中枢神経系と末梢神経系の腫瘍(すなわち星細胞腫、神経芽腫、神経膠腫、膠芽腫が含まれる)甲状腺がんである可能性があるか、これらからなるリストから選択される。好ましくは、固形腫瘍膵臓がん食道扁平上皮癌、胃と肝臓の癌、大腸がん、または黒色腫。好ましい一実施形態では、固形腫瘍は膵臓がんである。膵臓がんは膵管腺癌であることがより好ましい。
【0101】
本発明は固形がんを治療する方法にも関係しており、この方法は、それを必要とする患者に、十分な量のそのような抗体またはその抗原結合断片、またはそれを含む医薬組成物を投与することを含む。
【0102】
本発明は免疫調節の方法にも関係しており、この方法は、それを必要とする患者に、十分な量のヒト化抗βig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片、またはそのような医薬または免疫調節組成物を投与することを含む。前記抗体または断片は、CD8+ T細胞の活性の回復または活性化を助けることができる。
【0103】
本明細書では、「治療」と「治療する」という用語は、治癒的治療、または疾患を変化させる治療(その中には、がん(特に間質がβig-h3を発現するがん)を持っているか、がんであると診断された患者の治療が含まれる)を意味し、臨床的再発の抑制を含む。治療はがんを持つ対象に関係することが可能であり、前記がんの治癒、発生の遅延、重症度の低下、または1つ以上の症状の改善を目的とするか、対象の生存を、そのような治療なしで予想される生存よりも延長させることを目的とする。
【0104】
開示されている抗体またはその抗原結合断片は、治療剤として、対象(特にヒト)に、1日につき対象の体重1kg当たり約0.001mg~約100mg、約0.01mg~約50mg、約0.1mg~約40mg、約0.5mg~約30mg、約0.01mg~約10mg、約0.1mg~約10mg、または約0.5mg~約25mgの範囲の量、または約0.5~約10、5、3、または2mgで、1日に1回以上投与し、望む治療効果を得ることができる。望ましい用量を、1日に3回、1日に2回、1日に1回、2日ごと、3日ごと、毎週、2週間ごと、3週間ごと、または4週間ごとに送達することができる。ある実施形態では、望ましい用量を、多数回投与(例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14回、またはより多数回の投与)を利用して送達することができる。
【0105】
投与は例えば静脈内、筋肉内、腹腔内、または皮下が可能であり、例えば標的の部位の近位に投与することができる。上記の治療法と利用における投与計画は、最適な望む応答(例えば治療応答)を提供するように調節される。例えば単一ボーラスを投与することができ、いくつかに分割した用量を時間をかけて投与すること、または用量を治療状況の要請に応じて比例的に減量または増量することができる。いくつかの実施形態では、治療の有効性を治療中の例えばあらかじめ決めた時点にモニタする。いくつかの実施形態では、有効性は、疾患領域の可視化によって、または本明細書にさらに記載されている他の診断法によって(例えば本発明の標識した抗体またはその抗原結合断片を用いて例えば1回以上のPET-CTスキャンを実施することによって)モニタすることができる。望むのであれば、有効な1日用量の医薬組成物を、1日をかけて適切な間隔で別々に投与される2、3、4、5、6つ、またはより多くの下位用量として、場合により単位剤型で投与することができる。いくつかの実施形態では、本発明のモノクローナル抗体を長期(24時間超など)にわたるゆっくりとした連続的輸液によって投与し、望まないあらゆる副作用を最少にする。本発明の抗体の有効な用量は、毎週、2週間ごと、または3週間ごとの投与期間を利用して投与することもできる。投与期間は、例えば8週間、12週間、または臨床的進行が確立するまでに限定することができる。非限定的な例として、本発明による治療は、対象(特にヒト)に、本発明の抗体またはその抗原結合断片の1日用量として、1日に約0.1~100mg/kgの量(0.2、0.5、0.9、1.0、1.1、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、40、45、50、60、70、80、90、または100mg/kgなど)で、治療を開始してから1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、または40日後の少なくとも1つ、または1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20週後の少なくとも1つ、またはこれらの任意の組み合わせに、単一用量を用いて、または24、12、8、6、4、または2時間ごとに分割用量を用いて、またはこれらの任意の組み合わせを用いて提供することができる。
【0106】
組み合わせ
【0107】
本発明により、本発明の抗体またはその抗原結合断片を例えばがんを治療するための少なくとも1つのさらなる治療剤と組み合わせるという治療の応用または治療の方法も提供される。このような投与は、同時、別々、逐次的であること;すなわちそれら2つの活性成分を用いた治療は、同じ時点(例えば同時に、または時期を合わせて)、または異なる時点(例えば連続して、または逐次的に)、またはその組み合わせであることが可能である。さらなる治療剤は、典型的には治療すべき障害に関係する。代表的な治療剤に含まれるのは、他の抗がん抗体、細胞毒性剤、化学療法剤、抗血管新生剤、抗がん免疫原、細胞周期制御/アポトーシス調節剤、ホルモン調節剤、および下に記載する他の薬剤である。
【0108】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体またはその抗原結合断片は、化学療法剤または抗体、特に腫瘍抗原、受容体、またはリガンドを特異的に標的とするモノクローナル抗体(ICIなど)と組み合わせて使用される。「治療剤」という用語は、腫瘍の増殖を阻害するのに有効な化合物を意味する。
【0109】
したがって本発明により、固形腫瘍の治療で同時または逐次的に用いるための、
i.本明細書に開示されているヒト化抗体またはその抗原断片と;
ii.がんを治療するための本明細書に開示されている治療剤
の組み合わせが提供される。
【0110】
特に本発明により、固形腫瘍の治療で同時または逐次的に用いるための、
i.本明細書に開示されているヒト化抗体またはその抗原断片と;
ii.免疫チェックポイント阻害剤(ICI)
の組み合わせが提供される。
【0111】
典型的には、チェックポイント阻止がん免疫療法剤は抗体である。いくつかの実施形態では、チェックポイント阻止がん免疫療法剤は、抗CTLA4抗体、抗PDl抗体、抗PDLl抗体、抗PDL2抗体、抗TIM-3抗体、抗LAG3抗体、抗IDOl抗体、抗TIGIT抗体、抗B7H3抗体、抗B7H4抗体、抗BTLA抗体、および抗B7H6抗体からなるグループから選択される抗体である。これらの抗体はモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であることが好ましい。抗体として特に、PD-l阻止抗体(ペムブロリズマブ、ニボルマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、またはデュルバルマブ)、またはCTLA-4阻止抗体(イピリムマブ)が可能である。この組み合わせは、ch18B3とICIの組み合わせが記載されているWO2020079164の開示に基づく。この文献は参照によって本明細書に組み込まれている。
【0112】
本発明の抗体またはその抗原結合断片を既存の化学療法と組み合わせて用いてβig-h3タンパク質を標的にすると、腫瘍細胞の殺傷において単独の化学療法よりも有効であろう。非限定的な例に含まれるのは、シスプラチン、タキソール、エトポシド、ミトキサントロン、アクチノマイシンD、カンプトテシン、メトトレキサート、ゲムシタビン、マイトマイシン、ダカルバジン、5-フルオロウラシル、ドキソルビシン、およびダウノマイシンである。
【0113】
本発明の抗体またはその抗原結合断片は、さらなる抗がん剤としての免疫チェックポイント阻害剤(抗PD1、抗PD-L1、またはCTLA4抗体など)と組み合わせて使用できる。
【0114】
本発明の1つの方法では、βig-h3結合抗体または断片は、第2の抗がん剤を投与する前に患者に投与される。
【0115】
抗体の生成
【0116】
本発明の抗体とその抗原結合断片は、本分野で知られている任意の技術(例えばその非限定的な例は、任意の化学、生物学、遺伝子、または酵素の技術である)を単独または組み合わせのいずれかで利用することによって生成する。典型的には、望む配列のアミノ酸配列がわかると、当業者はポリペプチド産生の標準的な技術によって前記抗体を容易に生成させることができる。例えば抗体は、周知の固相法、好ましくは(例えばApplied Biosystems、フォスター・シティ、カリフォルニア州によって製造された)市販のペプチド合成装置を利用し、製造者の指示に従って合成することができる。あるいは本発明の抗体は本分野で周知の組み換えDNA技術によって合成することができる。例えば抗体は、それら抗体をコードするDNA配列を発現ベクターに組み込み、そのようなベクターを、それら望む抗体を発現することになる適切な真核宿主または原核宿主の中に導入した後にDNA発現産物として得ることができ、後でそこからそれら抗体を周知の技術を利用して単離することができる。
【0117】
哺乳類細胞は、ヒトに適用するのに最適な形態のタンパク質をグリコシル化するその能力ゆえ、治療抗体を生成させるのに好ましい宿主である。細菌はタンパク質をグリコシル化することが非常に稀であり、他の似たタイプの一般的な宿主(酵母、糸状真菌、昆虫、および植物の細胞など)は、血流からの迅速な排除に関係するグリコシル化パターンを生じさせる。哺乳類細胞のうちでチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞が最もよく用いられる。これらの細胞は、適切なグリコシル化パターンを与えることに加え、遺伝的に安定で非常に生産的なクローン細胞系の着実な生成を可能にする。これらの細胞は簡単なバイオリアクターの中で無血清培地を用いて高密度で培養できるため、安全で再現性のあるバイオプロセスの開発が可能になる。他の一般に使用される動物細胞に含まれるのは、ベビーハムスター腎(BHK)細胞、NSOマウス骨髄腫細胞、およびSP2/0マウス骨髄腫細胞である。
【0118】
一実施形態では、本発明による抗体は、哺乳類細胞、好ましくは野生型哺乳類細胞、好ましくは齧歯類起源のもの、特にCHO細胞の中で生成されるか発現する。
【0119】
修飾と変化を本発明の抗体の構造の中に生じさせることができるが、それでも似た特徴を持つ分子が得られる。例えば配列内のあるアミノ酸を、活性の顕著な喪失なしに他のアミノ酸で置換することができる。抗体の相互作用能力と性質がその抗体の生物学的機能活性を規定するため、あるアミノ酸配列の置換を抗体配列(または、もちろんその元になるDNAコード配列)の中で実施しても似た特性を持つ抗体を得ることができる。このような変化を生じさせる際にはアミノ酸のハイドロパシー指数を考慮することができる。抗体に相互作用的な生物学的機能を与える際のアミノ酸ハイドロパシー指数の重要性は本分野で一般に理解されている。あるアミノ酸を、似たハイドロパシー指数またはスコアを持つ他のアミノ酸で置換し、それでも似た生物活性を持つ抗体を得ることが可能であることが知られている。各アミノ酸には、その疎水性と電荷の特徴に基づくハイドロパシー指数が割り当てられている。
【0120】
アミノ酸の相対的ハイドロパシーの特徴が、得られる抗体の二次構造を決定し、それが今度は抗体と他の分子(例えば酵素、基質、受容体、抗体、抗原など)の相互作用を規定すると考えられている。本分野では、1つのアミノ酸を似たハイドロパシー指数を持つ別のアミノ酸で置換し、それでも生物学的に機能が同等なポリペプチドが得られることが知られている。このような変化において、ハイドロパシー指数が±2以内であるアミノ酸の置換が好ましく、±1以内であるアミノ酸の置換が特に好ましく、+0.5以内であるアミノ酸の置換が特により一層好ましい。
【0121】
似たアミノ酸の置換をハイドロパシーに基づいて実施することもできる。それは特に、生物学的機能が同等なペプチドまたはポリペプチドがそうすることによって創出されて、免疫に関する実施形態での利用が想定される場合である。参照によって本明細書に組み込まれている、または当業者が参照できるアメリカ合衆国特許第4,554,101号は、隣接したアミノ酸の親水性によって支配されるポリペプチドの局所的平均親水性の最大値が、そのポリペプチドの免疫原性および抗原性(すなわちそのポリペプチドの生物学的特性)と相関すると述べている。
【0122】
アメリカ合衆国特許第4,554,101号に詳述されているように、以下の親水性値がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リシン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);プロリン(-0.5±1);トレオニン(-0.4);アラニン(-0.5);ヒスチジン(-0.5);システイン(-1.0);メチオニン(-1.3);バリン(-1.5);ロイシン(-1.8);イソロイシン(-1.8);チロシン(-2.3);フェニルアラニン(-2.5);トリプトファン(-3.4)。1つのアミノ酸を似た親水性値を持つ別のアミノ酸で置換しても、生物学的に同等な、特に免疫学的に同等なポリペプチドを得ることができると理解されている。そのような変化では、親水性値が±2以内であるアミノ酸の置換が好ましく、±1以内であるアミノ酸の置換が特に好ましく、±0.5以内であるアミノ酸の置換が特により一層好ましい。
【0123】
上に概略を示したように、アミノ酸置換はしたがって一般に、アミノ酸側鎖置換の相対的類似性(例えばその疎水性、親水性、電荷、サイズなど)に基づく。アミノ酸置換は異なる選択または選び方をすることができる。可能な置換は、WO99/51642、WO2007024249、およびWO2007106707に記載されている。
【0124】
核酸とベクター
【0125】
本明細書に開示され、提供されている単離されたヌクレオチド配列も本発明の目的である。したがって本発明は、ヌクレオチド配列の配列番号21、22、23、および24、さらに特定するなら、分離されるか互いに連結された2つのヌクレオチド配列の組み合わせまたはセット:配列番号21と23、21と24、22と23、22と24からなるグループから選択される単離されたヌクレオチド配列にも関する。H-330V1.2をコードするヌクレオチド配列は配列番号29に示されている通りであり、変異バージョンC102Sを望むときには配列番号21の代わりに用いてモノクローナル抗体を生成させることができる。
【0126】
上述のように、抗体を生成させる方法は当業者に知られている。哺乳類細胞に、好ましくは齧歯類細胞(CHO細胞など)に、好ましくは野生型細胞に、1つまたはいくつかの発現ベクターをトランスフェクトする。細胞には、軽鎖のための発現ベクターと重鎖のための発現ベクターを同時にトランスフェクトすることが好ましい。細胞へのトランスフェクションも当業者に知られている。実施できるトランスフェクションの非限定的な例として、当業者に周知の標準的なトランスフェクション手続きであるリン酸カルシウム沈降、DEAE-デキストランを媒介とするトランスフェクション、電気穿孔、マグネトフェクション、ヌクレオフェクション(AMAXA Gmbh、ドイツ国)、リポソームを通じたトランスフェクション(例えばdreamfect(登録商標)、lipofectin(登録商標)、またはlipofectamine(登録商標)技術を利用)、または微量注入などが挙げられる。
【0127】
発現ベクターは知られている。使用できるベクターの非限定的な例として、pcDNA3.3、pOptiVEC、pFUSE、pMCMVHE、pMONO、pSPORT1、pcDV1、pcDNA3、pcDNA1、pRc/CMV、pSECが挙げられる。単一の発現ベクター、または抗体の異なる部分を発現するいくつかの発現ベクターを用いることができる。
【0128】
本発明は、本発明のHz抗体の重鎖をコードする発現ベクター、本発明のHz抗体の軽鎖をコードする発現ベクター、またはそのようなHz抗体の重鎖と軽鎖をコードする発現ベクターにも関する。
【0129】
本発明の別の1つの目的は、本発明の1つのベクターまたは一群のベクターを含有する宿主細胞である。宿主細胞として、哺乳類細胞、好ましくは齧歯類細胞、より好ましくはCHO細胞が可能である。宿主細胞が、野生型哺乳類細胞、好ましくは野生型齧歯類細胞、最も好ましくは野生型CHO細胞であることが、それ以上に好ましい。
【0130】
当業者は、そのような1つまたは複数のベクターと細胞(CHO細胞など)を用いて本発明による抗体を生成させる方法を十分に習得している。
【0131】
本明細書で利用される測定の方法(完全にするため実施例も参照されたい)
【0132】
親和性と解離速度
【表2】
【0133】
DSC
【0134】
示差走査熱量測定(DSC)は、タンパク質または他の生体分子の安定性をその本来の形態で直接特徴づけるのに利用される分析技術である。DSCは、一定速度で加熱するとき分子の熱変性に伴う熱変化を測定することによってそれを実現する。
【0135】
本明細書で利用したDSCのプロトコル:
・- MicrocalTM VP-キャピラリDSCシステムを用いて示差走査熱量測定実験を実施した。
・- サンプルを-20℃で保管した。解凍後、全サンプルを遠心分離し(20.000g、5分間、4℃)、必要なときにはPBSの中で希釈して1mg/mLの濃度にした。DSC分析の前に、サンプルのタンパク質含量をIgG分析プログラム付きのNanodrop ND-1000分光光度計(s/n:4847)で定量した。
・- 前平衡時間は3分間であり、それに続くサーモグラムは、60℃/時間の走査速度、25秒間のフィルタリング期間、および中程度のフィードバックを用いて20と110℃の間で獲得した。サンプル分析の前に、5回のバッファ/バッファ走査を測定して装置を安定させ、1回のバッファ/バッファ走査を各タンパク質/バッファ走査の間に実施した。
・- データを、転移前と転移後の調節をしたベースラインを差し引いて非2状態アンフォールディングモデルにフィットさせた。熱測定エンタルピー(ΔH)は転移のピーク下の面積として求めるのに対し、ファントホッフエンタルピー(ΔHv)は使用したモデルから求める。赤色の実線は測定データを表わし、黒色の実線は、使用したモデルに関する最良のフィットを表わし、灰色の線は、タンパク質アンフォールディング全体への単一のアンフォールディングユニットからの寄与を表わす。
【0136】
・DSCの一般的考慮事項:
・- Tmすなわち変性/融解温度は、折り畳まれていない種と折り畳まれた種の濃度が等しくてアンフォールディング転移の中点となる点である。Tmは、1つのパラメータとして熱変性に対するタンパク質の感受性を表わしているため、タンパク質の安定性と関係する。Tmが高いほどタンパク質はより安定である。
・- Tonsetは、アンフォールディング転移が始まる温度である。このパラメータの値は通常はTmよりも5~10℃低い。これはタンパク質の安定性を表わす1つのパラメータでもあるが、熱変性の耐性と関係がある。
・- T1/2は、ピーク高の半分の位置での転移の幅である。これは転移の幅を表わしており、典型値は1と15℃の間である。このパラメータはタンパク質の充填のコンパクトさと相関しており、より広い転移はコンパクトさが劣るタンパク質に対応する。
・- ΔHはアンフォールディングの熱測定エンタルピーであり、タンパク質の分子内相互作用の破壊(すなわちドメイン内とドメイン間の相互作用の破壊)を反映する。このプロセスは吸熱性であるため正のエンタルピー値を与える。
・- 全面積はアンフォールディングの全エンタルピー(サーモグラム下の全面積)であり、熱力学的安定性を反映する。
・- モノクローナル抗体は典型的には複雑な多ドメインのサーモグラムを示す。最大で最も目立つドメインのピークは抗体のFabである。CH2ドメインおよび/またはCH3ドメインも一般に見られる。異なるドメインの相対位置とTMは具体的なモノクローナル抗体に依存するため、サブクラスと操作に依存して変化する可能性がある。
【0137】
CHO細胞における一過性トランスフェクション
【0138】
ヒト化「V1バージョン」の抗体をCHO細胞の中で生成させた。CHO DG44細胞をオービタル・シェイカー上の37℃かつ5%CO2にした換気式エルレンマイヤーフラスコ(Corning)の中で維持した。トランスフェクションの前日、(MO.CEL.120に従って)細胞を規定の密度で継代させた。トランスフェクションの当日(0日目)、細胞をトランスフェクション試薬およびプラスミドDNAと混合してパイロットロットを作製した(30ml)。
【0139】
非限定的な実施例を用い、図面を参照しながら本発明をこれから記述する。
【実施例1】
【0140】
実施例1:エピトープのマッピング
【0141】
エピトープマッピングの研究から、この抗体がβig-h3タンパク質のβig-h3タンパク質のFAS1の4番目のドメイン(直線状エピトープALPPRERSRL)(AA残基549-558)を標的とすることが示された。図1参照。エピトープをさらにLPPRERSRに制限することが可能であった。
【0142】
実施例2:
【0143】
概念実証(PoC)段階が目的とするのは、βig-h3タンパク質に向かう18B3 mAb(Bae et al., 2014 Acta Physiol 2014, 212, 306-315)が、βig-h3タンパク質を効率的かつ特異的に枯渇させ、したがって(i)CD8 T細胞の細胞傷害活性の増加と、(ii)間質の硬さの低下をもたらすことによりがん治療において鍵となる役割を果たすことができ、そのことで免疫系が腫瘍に近づく可能性が回復し、最終的にマウスにおける有意な腫瘍縮小と生存率につながることの実証である。
【0144】
その目的のため、(関係するマウスモデルで)多数の実験をインビトロと生体内の両方で実施した。PDACに対処するとともに潜在的に他のがんに対処する際に抗βig-h3治療mAbが単独または組み合わせで有効である可能性がある証拠を示す実験の大半を生体内で実施したことに注意すべきである。
【0145】
簡単に説明すると、このPoC段階の結論は以下の通りである:
【0146】
1.PDACモデルにおいて18B3 mAbによってβig-h3タンパク質を標的として枯渇させることで以下のことが可能になる:
a.腫瘍の増殖を制限すること、
b.CD8 Tリンパ球の細胞傷害活性を回復させること、
c.間質の硬さを低下させること、
【0147】
これは、それを目的とする科学チームによって特別に開発されたインビトロと生体内両方のアッセイで実証された。
【0148】
2.膵臓腫瘍が発達中の2つの異なるマウス株を用いて実施した実験から、18B3を週に2回、3週間にわたって皮下注射して治療した集団に有意な腫瘍縮小と生存率の上昇があることが示された。
【0149】
3.より高用量の18B3で実施したいくつかの実験から、mAbの濃度を大きくしていくと腫瘍増殖がさらに少なくなってマウスの生存率が増加することが示された。
【0150】
4.マウスのHSG卵巣がんと膀胱がんのそれぞれについて、18B3 mAb治療は腫瘍増殖を有意に減少させることを実証した。抗PD1耐性膀胱がんでは、18B3 mAbは抗PD1に対する潜在的な補完物または代替物であることがわかる。
【0151】
データのこの包括的セットの全体的結論は、βig-h3タンパク質を枯渇させるmAbを治療に用いるという考え方が確認されるというものである。
【0152】
実施例3:18B3マウスmAbのキメラ化とヒト化
【0153】
1.方法
【0154】
このプロジェクトを以下のように4段階で実施した:
・段階1:マウス18B3 mAbのシークエンシング
・段階2:マウス18B3 mAbのキメラ化
・段階3:CDRグラフティングによるヒト化バリアントの設計(抗体作り変え(reshaping))
・段階4:ヒト化バリアントの作製と分析試験
【0155】
段階1:マウス18B3 mAbのシークエンシング
【0156】
マウス18B3(アイソタイプIgG1/k)のVHドメインとVLドメインの配列決定(sequence)をハイブリドーマ細胞からcDNAシークエンシング法を利用して実施した。
【0157】
その目的で、RNAをハイブリドーマ細胞から抽出した。対応するDNA鎖をハイファイRT-PCRによって合成した後に第2の鎖を合成し、二本鎖cDNAを得た。次いでcDNAをシークエンシングし、タンパク質配列に翻訳した。
VH配列:配列番号17
VL配列:配列番号18
【0158】
段階2:マウス18B3 mAbのキメラ化
【0159】
キメラ化は、マウス18B3 mAbの定常ドメインをヒト配列によって置き換えることにある。重鎖の可変ドメイン(VH配列番号19)と軽鎖の可変ドメイン(VL配列番号20)をコードする配列を哺乳類細胞の中での発現に関して最適化し、合成した。その後、対応する合成遺伝子を、IgG1重鎖(配列番号25)とカッパ軽鎖(配列番号26)のヒト定常領域を含有するベクター系にクローニングした。ベクターは、シークエンシングによって確認されると、低エンドトキシンプラスミドDNAを調製するために増幅され、それがシークエンシングによってさらに検証される。
【0160】
次いでキメラmAbをCHO哺乳類細胞の中でプラスミドの一過性発現によって生成させた後、精製した:CHO DG44細胞をオービタル・シェイカー上の37℃かつ5%CO2にした換気式エルレンマイヤーフラスコ(Corning)の中で維持した。トランスフェクションの前日、細胞を規定された密度で継代した。トランスフェクションの当日(0日目)、18B3キメラ抗体の軽鎖と重鎖をコードするDNAプラスミドを細胞懸濁液に添加してトランスフェクション試薬と混合し、パイロットロットを作製した。
【0161】
上清をプロテインAアフィニティクロマトグラフィによって精製した。PBSの中での透析と無菌濾過(0.22μm)の後、分光光度計を280nmで読むことによって全タンパク質の濃度を求めた。精製したキメラmAbはその後-20℃以下の温度で保管した。
【0162】
キメラmAbの完全さをSDS-PAGEによって調べた。リガンドに対するキメラの親和性をELISAによって親マウス18B3 mAbと比較した。
【0163】
・ELISAのため:
【0164】
抗原(組み換えヒトβIG-H3:rhβIG-H3、R&D systems、カタログ番号3409-BG、ロットNDM061911A)を4℃で一晩、1μg/mlで被覆した、
【0165】
抗原を除去し、PBS-ミルクを2.5%で用いて非特異的部位を室温で1時間ブロックした
【0166】
調べるmAb(抗hβIG-h3 18B3親(マウス)またはキメラ)を10μg/mlから添加した後、7つのウエル上で10倍に希釈し、室温で2時間インキュベートした、
【0167】
プレートを取り出して洗浄した後、二次抗体を添加し(マウス18B3(親)に関するHRPで標識した抗マウスIgGと、キメラ18B3に関するHRPで標識した抗ヒトIgG(Fc特異的))、室温で2時間インキュベートした、
【0168】
無色の基質(TMB:3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン)を添加するとHRPの作用で青色になった。分光測色シグナルは、抗原に結合したmAbの量に比例する。
【0169】
硫酸を添加することによって反応を停止させるとTMBが黄色になる。mAbの量は、分光測色法(光学密度)によって450nmで評価した。
【0170】
キメラ化は成功し、親マウス抗体と比べると非常によく似た生物物理学的特徴になった。
【0171】
段階3:CDRグラフティングによるヒト化18B3バリアントの設計(抗体作り変え)
【0172】
この段階の目的は、ヒトにおけるmAbの免疫原性を低下させるとともに半減期を延ばすため、さらにヒト化したキメラ18B3のいくつかのバリアントを得ることである。ヒト度の%は85%超であるべきだと考えられる。
【0173】
ヒト化はCDRグラフティング技術を利用して実施した。
【0174】
ヒト化戦略は、技術の組み合わせ、すなわち:
・一次配列の分析とアラインメント。
・3Dモデル化、
・最良のヒト生殖細胞系列の選択
に基づく。
【0175】
実際、構造(3D)モデルと純粋な配列分析の組み合わせにより、潜在的なCDR領域の中の実際のパラトープ対面残基と非パラトープ残基を識別することが可能になった。それに加え、構造モデルにより、使用した選択された生殖細胞系列骨格に照らして復帰突然変異に関する選択を推進することができ、より速いヒト化プロセスが可能になる。
【0176】
Kabat番号付けシステムを残基の同定に利用したことに注意されたい。
【0177】
・最初の工程は、配列がマウス18B3 mAbにできるだけ近いヒトVHとVLの生殖細胞系列の選択である。
・抗HuβIG-H3 18B3マウスVHのCDRグラフトバージョンを設計するため、3つのヒト生殖細胞系列(IGHV3-11*01、IGHV3-30*01、およびIGHV1-69*08)を選択した(表2参照)。ヒト生殖細胞系列IGHV3-11*01を選択したのは、V遺伝子全体でmAb 18B3-VHと配列がよく一致するからである;76.5%(合計98個のうちで75個の残基が一致)。IGHV3-30*01とIGHV1-69*08は、配列の一致がより少ない(それぞれ72.4%と55%)という事実にもかかわらず選択された。それは、これらがヒト抗体生成のために広く使用されている生殖細胞系列配列であり(IMGT/GeneFrequencyデータベースによる)、他の興味深い特徴を持っており、特にIGHV1-69*08に関しては異なる分子環境でCDRのグラフティングの可能性を提供するからである。H-CDR3とフレームワーク4のN末端部については、ヒト生殖細胞系列IGHJ6*01(J-GENE)が最も近い候補として選択される
・抗HuβIG-H3 18B3マウスVLκのCDRグラフトバージョンを設計するのに3つのヒト生殖細胞系列(IGKV4-1*01、IGKV2-28*01、およびIGKV3-15*01)が最良の選択に見えた。というのもヒトフレームワークアクセプタ領域は、全3つのヒト生殖細胞系列についてのパーセント配列一致が、IGKV4-1*01については82.2%、IGKV2-28*01については67.3%、IGKV3-15*01については64.4%だからである。L-CDR3とフレームワーク4のN末端部については、ヒト生殖細胞系列IGKJ2*01(J-GENE)が最も近い候補として選択される。
【0178】
・第2の工程は、配列内にいかなる変異も導入することなく、18B3マウスmAbのCDRを選択されたVHとVLのヒト生殖細胞系列にグラフトすることである:これをヒト化バリアントのV0バージョンと呼ぶ。
【0179】
・第3の工程は、得られた配列を最適化し、(i)ヒト化バリアントの機能性を維持し、(ii)可能ならヒト度の%を増大させることである。するとヒト化バリアントのバージョンV1~V3になる。最適化は以下のようにして実施した:
・選択されたヒト生殖細胞系列可変領域のフレームワーク領域(Fr)内のいくつかのアミノ酸残基を逆転させ(復帰突然変異)、対応するマウスアミノ酸残基にした。免疫グロブリン可変領域の構造に関して集めた情報と、mAb 18B3(VHとVL)の分子モデルのガイダンスに基づき、Fr内のこれら数個の残基は、CDRの立体構造の維持に潜在的に鍵となる役割を持つこと、または重鎖と軽鎖の可変領域の間のインターフェイスにおいてある役割を果たしていることが特定された。
・また、VLとVHは、共有結合を形成することなしに相互作用する2つのドメインである。これら2つのドメイン間の相互作用は水素と静電結合を通じて維持される。この相互作用に関与する残基も維持されねばならず、さもないとパラトープが変化して抗体の親和性が変化する可能性がある。したがってそれらはヒト化バージョンV1とV1.2変異バージョンC102Sにおいて維持された。
【0180】
下記の表2に、得られたヒト度の%の結果がまとめられている:
【表3】
【0181】
段階4:ヒト化バリアントの作製と試験
【0182】
この段階の目的は、選択された3つのVHと選択された3つのVLを組み合わせて選択されたヒト化バリアントを作製することであり、したがって9つの異なるバリアントになる。
【0183】
作製と精製は、必要に応じてVHとVLのヌクレオチド配列配列番号21~24を使用し、キメラについて記載されているのと正確に同じやり方で実施した。
【0184】
作製された9つのヒト化バリアントの分析試験をいくつかの方法を利用して実施した:
・配列アラインメントと生殖細胞系列の選択によって実現したヒト化の%
・生産性は哺乳類細胞における一過性発現のレベルによって評価した。
・抗体の親和性を上記のようにしてELISAによって評価した(段階2のキメラ化)。
・示差走査熱量測定(DSC)によって評価した熱安定性:上記の測定の方法に記載されているようにMicrocalTM VP-キャピラリDSCシステムを用いて測定した。純度(凝集)は、高サイズ排除クロマトグラフィ(HP-SEC)によってチェックした:
・以下の構成要素、すなわちCBM-20Aシステム制御装置、SPD-M20Aフォトダイオードアレイ検出器;カラムの炉CTO-20A;自動サンプリング装置SIL-AC;ポンプLC-20AD、および脱ガスユニットDGU-20A5を備えるShimadzu Prominence HPLC。
・GE HealthcareからのColumn Superdex 200 increase 5/150GLカラムを使用した。カラムは、30℃に設定したカラムの炉を用い、PBS1×の中で0.25mL/分にて以前に平衡させた。
・全サンプルを遠心分離し(20.000×g、5分間、4℃)、そのタンパク質含量をIgG分析プログラムを備えるNanodrop ND-1000分光光度計によって定量した後、SEC分析を実施した。必要なときにはサンプルを注入する直前にサンプルをPBSの中で1mg/mLの濃度まで希釈した。
・アイソクラティックプログラムを、約15μgの各サンプルが18分間にわたって0.25mL/分で注入されるように設定した。SEC分析の後、280nmのクロマトグラムを生データから抽出し、ピーク積分によって分析した。
・GE Lifesciencesの分子量SEC較正キットからの一連のタンパク質を用い、サンプルを分析している間に用いたのと同じ条件とバッファでカラムを較正した。使用したタンパク質は、アプロチニン(6.500Da)、リボヌクレアーゼA(13.700Da)、炭酸脱水酵素(29.000Da)、オボアルブミン(44.000Da)、コンアルブミン(75.000Da)、およびアルドラーゼ(158.000)であった。Blue Dextranを用いてカラムの排除体積を求めた。カラムの較正は、ゲル濾過較正キットの指示(GE Lifesciences)に従って実施した。
【0185】
前記9つのバリアントの生成と分析試験は生成させるは以下のことを示した:
・全バリアントが優れた生産性を持ち、特に重鎖#330と#311を持つバリアント(より少ない程度);重鎖#169を持つバリアントは、キメラ抗体の生産性未満である
・ELISAアッセイにおけるバリアントの親和性は、キメラ(と親、ELISAにおいて)と比べると似た結合親和性を示したが;重鎖#169を用いたバリアントはここでも好ましさが劣るように見える。
・HP-SECでは、全バリアントが非常に高純度を示し、潜在的な凝集体は2~3%未満であった
・DSCでは、全バリアントのTmが70℃超であり、より安定なバリアントは、重鎖#330を用いたバリアントである(キメラ抗体よりも高くて予想外のレベルのTm)。
【0186】
【表4】
・生成した前記4つのヒト化バリアントのヒトβIg-h3に対する反応性は比較的似ていた。標的に対する反応性の大きな損失や、生物物理学的特性に関する劣化した挙動は観察されなかった:
・最も近い生殖細胞系列遺伝子H311-V1を用いたバリアントはキメラmAbと似た反応性と安定性の特性を示した。
・H330-V1を用いたバリアント(特にバリアントH330-V1/L41-V1とH330-V1/L228-V1)は予想外に高いFab Tmを示す(凝集が少ない傾向と関係している可能性がある)とともに、キメラmAbと似た反応特性を示した。
・データセット全体を分析することにより、H-311またはH-330を含む重鎖は、標的への結合に関して主要な役割を持つように見えたのに対し、軽鎖は結合に関して主要な役割を果たしているように見えない;そのためH-311またはH-330は、異なるVLドメインと組み合わせるためのよい選択になる。
・V1候補H-311/L-41(VHとVLの両方にとって最も近い生殖細胞系列の遺伝子と、その一般的な特性を利用するため)とH-330/L-228が好ましい。
・H330-V1.2/L41-V1とH330-V1.2/L228-V1のDSCは相変わらず80℃超であり、安定性特性は(H-330V1を持つ)非変異バージョンと似ている。
【0187】
V1候補で得られたヒト度の%は非常に優れている。
【0188】
フレームワークをわずかに改変し、CDRの立体構造(「向き」)に関与することが知られているAA残基を維持しつつヒト度を増加させた
【0189】
CDRでは、2つの変異をVH330とVH311のCDR#2の57位と60位に導入した。3Dモデリングから、これらAAがパラトープに関与せず、mAbの構造の中に「隠れている」ことが示された。
【0190】
【表5】
【0191】
選択された全6つのバリアントが、非常に大きい値である明細書の上に示した89~97%の範囲のヒト度の%を示しており、ヒトで免疫原性のリスクを今後有意に減らす。
【0192】
実施例4:ELISA
【0193】
分析法は直接ELISA試験に基づく。
【0194】
抗原(組み換えヒトβig-h3タンパク質)で96ウエルのプレートの表面を被覆する。その後、調べるmAbを添加する
【0195】
次いでセイヨウワサビのペルオキシダーゼ(HRP)酵素で標識した二次抗ヒトmAbを添加する。
【0196】
無色の基質(TMB:3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン)を添加するとHRPの作用で青色になる。比色分析シグナルは、抗原に結合したmAbの量に比例する。
【0197】
硫酸とTMBを添加することによって反応を停止させると黄色になる
【0198】
mAbの量を分光測色法(光学密度)によって450nmで評価する。
【0199】
(参照mAbと見なす)キメラ18B3と前記4つのヒト化リードバリアントについて、得られた結果が図2にまとめられている。統計分析(一元配置分散分析)。
【0200】
得られた結果は、ヒト化バリアントH-311/L-228が標的に対してキメラバリアントと比べて小さい親和性を示すことを示していた。他の3つのヒト化バリアントはキメラと比べて統計的な有意差がなく、ヒト化プロセスがELISAによって測定される親和性を変化させなかったことを示している。前記3つのバリアントはEC50と統計分析では非常によく似た親和性を示すが、重鎖330を持つバリアントは一貫して最良のEC50(そして平均してキメラよりも優れた)を示す。
【0201】
【表6】
【0202】
実施例5:インビトロ機能的バイオアッセイ
【0203】
この試験の原理は、抗βig-h3タンパク質に向かう異なるmAbの有効性を、そのタンパク質を枯渇させることにより、細胞傷害性CD8 T細胞の活性化と増殖を回復する能力について評価することである。
【0204】
最初に、新たに脾臓から抽出したCD8 T細胞を、抗原提示細胞(すなわち、処理されたOVAペプチドを持つ骨髄由来細胞)を用いて接触させて活性化と増殖を促進する。
【0205】
その後、(CD8 T細胞活性化経路を阻止することが知られている)rhβig-h3タンパク質を、調べるmAbとともに添加する。
【0206】
72時間後、CD8 T細胞の活性化と増殖をフローサイトメトリー(FACs)分析によって定量的に評価する。
【0207】
mAbの効率を、活性化/増殖のレベルをアイソタイプ対照(無関係な)mAbと比較することによって統計的に評価する。
【0208】
骨由来の骨髄細胞をC57BL6野生型マウスの骨から取得し、インビトロで5~6日間培養する。次いでそれら骨髄細胞をLPSとともに12時間インキュベートすることによって成熟させた後、OVAペプチド(SIINFEKEL)を添加することによって抗原提示細胞として活性化させる。OVAペプチドは処理されてBMDC(OVAで処理したBMDC)の表面に提示されることになる。
【0209】
並行して、CD8 T細胞を、破砕と単一細胞懸濁液の調製により、OT1マウスの脾臓とリンパ節から抽出する。
【0210】
OVAを有するBMDCとCD8 T細胞をrh-βig-h3タンパク質および調べるmAbと1つにまとめる。次いでそれを37℃で72時間インキュベートしてCD8 T細胞の活性化と増殖を可能にする。
【0211】
次いでCD8 T細胞の増殖と活性化をFACS染色によって4℃で評価し、FlowJoソフトウエアで分析した。
【0212】
増殖の統計的有意性は、GraphPad Prismソフトウエアを用いてなされるスチューデントのt検定と一元配置分散分析を通じて評価する。
【0213】
(参照mAbと見なす)キメラ18B3のほか、前記4つのヒト化リードバリアントと陰性対照について、得られた結果が図3にまとめられている。統計分析(一元配置分散分析)。
【0214】
得られた結果は、すべてのヒト化バリアントが、標的に対して陰性対照と比べて統計的に有意な機能を持つことを示していた。この機能性は参照mAb(キメラ18B3)と統計的に完全に同等である。その結果、インビトロ機能試験は、選択されたヒト化バリアントを操作してもその特異的標的に対するインビトロの機能を変化させなかったことを示す。これらバリアントはすべて非常によく似ているが、ランキングは、重鎖H-330を持つバリアントが最良の結果を与え、バリアントH-330/L-41が最も効率的であることを示している
【0215】
実施例6:生体内機能的バイオアッセイ
【0216】
この一群の実験の目的は、18B3 mAbとPDAC特異的腫瘍細胞の同時投与により、アイソタイプ対照IgG1 mAbで治療した対照マウスと比べて(グラフト内の腫瘍細胞の数によって評価する)腫瘍増殖の制限と、CD8 T細胞活性化経路の回復が可能になることを実証することである。
【0217】
この実験の特別な意図は、上記の効果が、投与された18B3の量に比例することを示すことである。
【0218】
PDAC腫瘍細胞を2.5月齢のKICマウスの分離された膵臓から取得し、インビトロで培養する。
【0219】
KIC細胞をMatrigel 1:1混合物(Corning)の中に塊として埋め込み、正常なC57BL6マウスの脇腹に、マウス1匹当たり増加していく量の18B3 mAbとともに皮下注射する。対照は、評価する18B3の最大量で投与される無関係なアイソタイプ対照IgG1 mAbにある。評価するそれぞれの量について同じマウス集団(n=8)を用いる。
【0220】
次いでマウスを10日間モニタした後に安楽死させる。
【0221】
次いで腫瘍グラフトを計量し、測定し、コラーゲンバッファで消化させた単一細胞懸濁液を取得し、染色のため処理した後、フローサイトメトリーを実施する。
【0222】
グラフト内の腫瘍細胞の量、およびCD8 T細胞の増殖と活性化をその後FACS染色によって4℃で評価し、FlowJoソフトウエアで分析する。
【0223】
パラメータの統計的有意性は、GraphPad Prismソフトウエアを用いてなされるスチューデントのt検定と一元配置分散分析を通じて評価する。
【0224】
結果は、統計的な差が、ヒト化候補とキメラの間と、さまざまなヒト化候補の間に見られることを示している。重鎖H-330を有するヒト化バリアントは全体としてより優れた結果を示す。ヒト化バリアントH-330/L-228はリードバリアントであり、キメラと同等であるかそれよりも優れてさえいる値を示す。このバリアントは、全3つのパラメータについて最高の均一性(最小の分散-SEM)も示す。ヒト化バリアントH-330/L-228が最良のプロファイルを示す。
【0225】
実施例7:表面プラズモン共鳴(Biacore)-親和性、会合速度、および解離速度。
【0226】
Biacore T200装置を用いてアッセイを実施した。それは2つの工程で実施した:
・適切性試験と呼ぶ最初の工程は、アッセイを実施するための最適条件を決定することを目的としていた:ここでは、最良のセンサーチップとランニングバッファの条件を評価し、規定された最高の信号/雑音比にする。
・第2の工程は、結果の再現性とロバストさを保証するため三連で実施したランそのものである。
【0227】
第1の工程のため、2つのセンサーとさまざまなバッファ条件を、親18B3 mAbと参照としてのキメラ18B3 mAbを用いて評価した。するとセンサーチップC1が最適であること、そして300mMのNaClと0.25mg/mLのBSAを含有するバッファが非特異的結合を減らし、シグナルを増加させることが明確にされた。
【0228】
ランそのものについては、プロトコルは以下の通りであった:
1.抗マウスまたは抗ヒトIgG二次抗体による試験抗体の可逆的固定化(共有結合で固定化)。
2.抗原と捕獲された抗体の相互作用分析。
3.再生:二次抗体の表面Sからの抗体と抗原の完全な除去。
【0229】
追加の詳細は測定の方法の部分に与えられている。
【0230】
SPRによって求めた、rhbIG-H3と6つの抗体の相互作用の速度定数(k、k)と平衡解離定数(K)。実験データを1:1結合モデルにフィットさせた。掲載されているのは、n=3回の独立な実験の平均値±SDである。
【0231】
【表7】
【0232】
SPRアッセイの最適化された設定は非常にうまくいき、非常に正確で再現性のある結果を提供した。
【0233】
すべてのmAbがナノモル未満の範囲の親和性(KD)を持つ。
【0234】
全サンプルのka、kd、およびKDに全体としてわずかな差がある:
・マウス抗体m18B3の会合速度(ka)は他の全サンプルと比べてわずかに遅い、
・解離速度(kd)はヒト化(Hz)バリアントで驚くほどより遅い。
・全体的KD値(親和性)はキメラ抗体ch18B3が最低であり(0.2nM)、親マウスと全ヒト化サンプルは非常によく似ている(0.4~0.5nM)。
【0235】
実施例8:表面プラズモン共鳴(Biacore)-H330の中に変異C102Sを持つ抗体の親和性、会合速度、および解離速度。
【0236】
SPRによる親和性定数の評価
【0237】
固定化手続き
【0238】
ランニングバッファ(RB):10mMのHEPES、0.15MのNaCl、3mMのEDTA、0.05%v/vからなるHBS-EP+
【0239】
界面活性剤P20、pH7.4、温度:25℃
【0240】
Cytivia 22064888AFの注意に従ってアミンカップリングを利用し、抗ヒトIgG(Fc)抗体をCM5センサーチップの表面に化学的にグラフトさせる。簡単に述べると、NHS-EDC混合物を注入することによって表面を最初に活性化させる。その後、接触時間を調節して抗ヒトIgG(固定化バッファの中に25μg/ml)を数回注入する(キット上の利用可能な10個の上に3回)。最後に、表面をエタノールアミン1M pH8.5で脱活性化させる。
【0241】
調べる抗体の固定化は、固定化レベルが90~100RUになるまで各フローセルに5μL/分で逐次的に実施した。20μg/mLのMAb溶液(RBで希釈したMAb)を60秒間注入すると、固定化シグナルが850と2500RUの間になった。高い固定化レベルが得られたとき、再生溶液(MgCl2 3M)を30秒間注入した後、調節した濃度と接触時間で新たに注入した。
【0242】
陰性対照Abをセンサーフローセル1(Fc1)の表面に固定化し、陽性対照(キメラ18B3 mAB)をFc2の表面に固定化する。18B3バリアントAbをFc3とFc4の表面に固定化する:
【0243】
【表8】
【0244】
単一サイクル動態(SCK)アッセイ
【0245】
ランニングバッファ(HBS-EP+):10mMのHEPES、0.15MのNaCl、3mMのEDTA、0.05%v/vの界面活性剤P20、pH7.4、温度:25℃流速:30μL/分
【0246】
増加していく濃度(5;10;25;50;100nM)の抗原(hβIG-H3)の180秒間の注入を各フローセルで実施する。RBの中での短時間の解離を抗原の各濃度で実施する。最大濃度の抗原(100nM)を注入した後、RBにおける解離を3600秒間記録する。
【0247】
・5回のRB注入を伴う3つの同様のサイクルを実施した後、二重差し引き手続きを実施するため抗原のサイクルを実施する(ブランク・ラン)。
【0248】
・5回のRB注入と600秒間の解離時間を伴う3つの同様のサイクルの後にブランク・ランを実施してシステムを安定化させる(スタートアップ・ラン)。
【0249】
1:1相互作用モデルでの分析:
【0250】
【表9】
【0251】
結論:
【0252】
・調べた4つのmAbはナノモル未満の親和性(KD)を持つ。
・ヒト化バリアントの親和性は、キメラバージョンの親和性よりもごくわずか小さい。
・2つのバリアント(H-330/L-228とH-330/L-41)の間には、親V1バージョンでも変異V1.2バージョン(C102→S102)でも有意差はない。
・各バリアントについて、その親バージョンとその変異バージョンC102→S102の間に有意差はない。非常にわずかな差を観察することができ、それは実験条件に関係しているように見える。なぜなら試験は2シリーズで(すなわち2つのSPRチップを用いて)実施したからである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
2024527982000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-03-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変ドメインVHと可変ドメインVLを含んでいてβig-h3タンパク質のエピトープ(前記エピトープは配列番号16または30の配列として示されている)に特異的に結合するヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、
(a)配列番号4または28として示されている配列を持つ可変ドメインVH、
(b)マウス18B3 VLドメインのヒト化バリアントであって配列番号18として示されている配列を持つ可変ドメインVLを含み、
DSC(Tm Fab)が79℃以上、特に79または80と83、83.2、または83.5℃の間である熱安定性を示す、ヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
- 配列番号4または28として示されている配列を持つVHドメインと、
- 配列番号10または13として示されている配列を持つVLドメインを含む、請求項1に記載のヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
可変ドメインVHと可変ドメインVLを含んでいてβig-h3タンパク質のエピトープ(前記エピトープは配列番号16または30の配列として示されている)に特異的に結合するヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、
(a)- 配列番号1として示されている配列を持つH-CDR1;
- 配列番号2として示されている配列を持つH-CDR2;
- 配列番号3または27として示されている配列を持つH-CDR3
を含む可変ドメインVH;
(b)- 配列番号7として示されている配列を持つL-CDR1;
- 配列番号8として示されている配列を持つL-CDR2;
- 配列番号9として示されている配列を持つL-CDR3
を含む可変ドメインVLを含む、ヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
- 前記βig-h3タンパク質に約5.8E-10M以下、特に約5E-10と約5.8E-10Mの間以下、特に約5.35E-10MのKで結合する;および/または
- 前記βig-h3タンパク質に約6E-04秒-1以上、特に約6.2E-04と約7E-04秒-1の間、特に約6.59E-04秒-1のKで結合する;および/または
- DSC(Tm Fab)が約79℃以上、特に約79と約83℃の間、典型的には約81.3℃である安定性を持つ;および/または
- CHO細胞の中での一過性発現において約275μg/mlの優れた生産性を持つ、請求項1~3のいずれか1項に記載のヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
- 配列番号4または28として示されている配列を持つVHドメイン;
- 配列番号10として示されている配列を持つVLドメイン
を含む、請求項3記載のヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
- 前記可変ドメインと、定常ドメインCH、好ましくは配列番号14として示されている配列を持つCHを含む重鎖;
- 前記可変ドメインと、定常ドメインCL、好ましくは配列番号15として示されている配列を持つCLを含む軽鎖
を含む、請求項3記載のヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項7】
(a)- 配列番号1として示されている配列を持つH-CDR1;
- 配列番号2として示されている配列を持つH-CDR2;
- 配列番号3または27として示されている配列を持つH-CDR3
を含む可変ドメインVH;
(b)- 配列番号11として示されている配列を持つL-CDR1;
- 配列番号12として示されている配列を持つL-CDR2;
- 配列番号9として示されている配列を持つL-CDR3
を含む可変ドメインVLを含む、請求項1に記載のヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項8】
- 前記βig-h3タンパク質に約5E-10M以下、特に約4.5E-10Mと約5E-10Mの間、典型的には約4.76E-10MのKで結合する;および/または
- 前記βig-h3タンパク質に約5E-04秒-1以上、特に約5.5E-04と約6E-04秒-1の間、特に約5.83E-04秒-1のKで結合する;および/または
- DSC(Tm Fab)が約78℃以上、特に約78~82℃、典型的には約80.2℃である安定性を持つ;および/または
- CHO細胞の中での一過性発現において約249μg/mlの生産性を持つ、請求項7に記載のヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項9】
- 配列番号4または28として示されている配列を持つVHドメイン;
- 配列番号13として示されている配列を持つVLドメインを含む、請求項7または8に記載のヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項10】
- 前記可変ドメインと、定常ドメインCH、例えば配列番号14として示されている配列を持つCHを含む重鎖;
- 前記可変ドメインと、定常ドメインCL、例えば配列番号15として示されている配列を持つCLを含む軽鎖
を含む、請求項7または8に記載のヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項11】
可変ドメインVHと可変ドメインVLを含んでいてβig-h3タンパク質のエピトープ(前記エピトープは配列番号16または30の配列として示されている)に特異的に結合するヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、
- 配列番号6として示されている配列を持つVHドメイン;
- 配列番号10または13として示されている配列を持つVLドメインを含む、ヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項12】
患者におけるがんの治療のためのの製造のための、請求項1、3、または11のいずれか1項に記載のヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片の使用
【請求項13】
記がんが、間質タンパク質βig-h3が内部で発現しているがんである、請求項12に記載の、使用。
【請求項14】
前記がんが、膵管腺癌(PDAC)、肺がん、頭頸部がん、大腸がん、膀胱がん、または黒色腫である、請求項12または13に記載の、使用。
【請求項15】
請求項1、4、または11のいずれか1項に記載のヒト化抗ヒトβig-h3モノクローナル抗体またはその抗原結合断片と、医薬として許容されるビヒクルとを含む医薬組成物。
【国際調査報告】