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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】網膜色素上皮細胞の増殖
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/079 20100101AFI20240719BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20240719BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240719BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20240719BHJP
   A61K 35/30 20150101ALI20240719BHJP
   A61K 35/545 20150101ALN20240719BHJP
【FI】
C12N5/079
C12N5/071
A61P27/02
A61L27/38 300
A61K35/30
A61K35/545
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505024
(86)(22)【出願日】2022-07-27
(85)【翻訳文提出日】2024-03-05
(86)【国際出願番号】 US2022038594
(87)【国際公開番号】W WO2023009676
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】63/226,741
(32)【優先日】2021-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519336241
【氏名又は名称】リネージ セル セラピューティクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ハユーン ネーマン ダナ
(72)【発明者】
【氏名】ワイザー オフェル
(72)【発明者】
【氏名】ティコツキ ラビド
(72)【発明者】
【氏名】アロン リラック
【テーマコード(参考)】
4B065
4C081
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BB19
4B065BB34
4B065BC11
4B065BC14
4B065BC41
4B065BD50
4B065CA44
4C081AB21
4C081BA12
4C081CD34
4C081EA02
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB56
4C087BB65
4C087CA04
4C087DA32
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA33
(57)【要約】
懸濁性細胞支持マトリックスを使用してRPE細胞を増殖させるための方法及び組成物が本明細書にて提示される。RPE細胞を含有する医薬組成物、及びRPE細胞を使用して眼の障害又は疾患を処置する方法も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
網膜色素上皮(RPE)細胞を増殖させるための方法であって、
a)多能性幹細胞から分化したRPE細胞の集団を提供する工程と;
b)第1の懸濁性細胞支持マトリックスを含む培地に前記RPE細胞の集団を接種する工程と;
c)動的懸濁状態にて前記第1の懸濁性細胞支持マトリックス上で前記RPE細胞の集団を増殖させて、増殖したRPE細胞の集団を提供する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記RPE細胞の集団が、工程a)より前に静的条件下にて固体表面上で増殖したものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固体表面が培養プレートを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記RPE細胞の集団が、工程a)より前に動的条件下にて固体表面上で増殖したものである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記固体表面が、第2の懸濁性細胞支持マトリックスを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記固体表面がコーティングされている、請求項2~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記RPE細胞の集団が、工程a)より前に、1継代の間、静的条件下にて前記固体表面上で増殖したものである、請求項2~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記固体表面上での増殖のための前記RPE細胞の集団が、中間細胞バンクから得られたものである、請求項2~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記懸濁性細胞支持マトリックスがマイクロキャリアを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記RPE細胞の集団が中間細胞バンクから提供される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の懸濁性細胞支持マトリックスがコーティングされていない、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記RPE細胞の集団の多能性幹細胞からの分化が、
i.多能性幹細胞を、前記多能性幹細胞の多能性を維持する条件下にて固体表面上で増殖させて、増殖した多能性幹細胞を提供する工程と;
ii.前記増殖した多能性幹細胞を、分化誘導剤及び任意で成長因子を含む培地中で一定期間分化させて、前記RPE細胞の集団を提供する工程と
を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記固体表面が培養プレートである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記固体表面が第2の懸濁性細胞支持マトリックスを含み、前記多能性幹細胞が動的培養で増殖する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
工程iiが、前記増殖した多能性幹細胞を、動的培養にて第3の懸濁性細胞支持マトリックス上で分化させることを含む、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
工程iからの前記増殖した多能性幹細胞が、工程iiにおいて前記第2の懸濁性細胞支持マトリックスに付着したままである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第2の懸濁性細胞支持マトリックスが第2のマイクロキャリアを含む、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記第3の懸濁性細胞支持マトリックスが第3のマイクロキャリアを含む、請求項15~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記第1の懸濁性細胞支持マトリックス、第2の懸濁性細胞支持マトリックス、及び第3の懸濁性細胞支持マトリックスのうちの少なくとも2つが同じである、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記第1の懸濁性細胞支持マトリックス、第2の懸濁性細胞支持マトリックス、及び第3の懸濁性細胞支持マトリックスが異なる、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
工程iiが、前記増殖した多能性幹細胞を、静的培養にて培養プレート上で分化させることを含む、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記多能性幹細胞が、前記第2の懸濁性細胞支持マトリックス及び/又は前記第3の懸濁性細胞支持マトリックスに接着した単層へと増殖する、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項23】
多能性を維持するための前記条件がフィーダー細胞を含まない、請求項12~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
多能性を維持するための前記条件がフィーダー細胞集団を含む、請求項12~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記分化誘導試薬がニコチンアミドである、請求項12~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記成長因子が、TGFβファミリーのメンバーである、請求項12~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記第1の懸濁性細胞支持マトリックス、第2の懸濁性細胞支持マトリックス、及び/又は第3の懸濁性細胞支持マトリックスが、ポリスチレン、表面が修飾されたポリスチレン、化学的に修飾されたポリスチレン、架橋デキストラン、セルロース、アクリルアミド、コラーゲン、アルギナート、ゼラチン、ガラス、DEAE-デキストラン、又はこれらの組み合わせを含む、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記第1のマイクロキャリア、第2の懸濁性細胞支持マトリックス、及び/又は第3の懸濁性細胞支持マトリックスが、球形、楕円形、棒状、円盤状、多孔質、非多孔質、滑らか、平坦、又はこれらの組み合わせである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記第1の懸濁性細胞支持マトリックス、第2の懸濁性細胞支持マトリックス、及び/又は第3の懸濁性細胞支持マトリックスが、ラミニン、マトリゲル、コラーゲン、ポリリジン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、テネイシン、デキストラン、ペプチド、それらの誘導体、又はこれらの組み合わせでコーティングされている、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記固体表面が、コーティングされていないか、又はラミニン、マトリゲル、コラーゲン、ポリリジン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、テネイシン、デキストラン、ペプチド、それらの誘導体、若しくはこれらの組み合わせでコーティングされている、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記RPE細胞の集団が、工程c)において、P0の間は2~4、P1の間は2~3、及びP2の間は1~2の集団倍加レベルを有する、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記RPE細胞の集団が、工程c)において、P0の間に、P1の間に、及びP2の間に、2%~20%のヒト血清/DMEMの存在下で播種された、請求項1~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記RPE細胞の集団が、工程c)において、P0の間に、P1の間に、及びP2の間に、動的培養で固体基材上に播種された、請求項1~32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記RPE細胞の集団が、工程c)において、P0の間に、P1の間に、及びP2の間に、50,000個の細胞/cm~120,000個の細胞/cmの細胞密度で、動的培養で固体基材上に播種された、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記RPE細胞の集団が、工程c)において、P0の間に、P1の間に、及びP2の間に、2.5cm/ml~10cm/mlの表面積を有する固体基材上に動的培養で播種された、請求項1~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
工程c)の間の増殖のための前記条件が、溶存酸素%を30%超に維持することを含む、請求項1~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
工程c)における増殖のための前記条件が、系全体の増殖チャンバー容積の50%から始まる初期増殖培地体積を含み、系全体の増殖チャンバー容積の16.6%の増殖培地体積が2~4日毎に添加される、請求項1~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記RPE細胞が、成熟RPE細胞の特徴を示す、請求項1~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記成熟RPE細胞が、フローサイトメトリーによって測定された場合に、95%超で細胞性レチンアルデヒド結合タンパク質(CRALBP)及びプレメラノソームタンパク質(PMEL17)に対して二重陽性である、請求項39に記載の方法。
【請求項40】
前記成熟RPE細胞が、正味の経上皮電気抵抗(TEER)>100Ω・cm並びにPEDF及びVEGFの極性分泌を有する極性化単層を解凍後に生成する、請求項40に記載の方法。
【請求項41】
前記成熟RPE細胞が凍結保存されており、解凍すれば直ちに対象に投与できる、請求項41に記載の方法。
【請求項42】
前記成熟RPE細胞が、高精度フローサイトメトリー法(FCM)によって確認された場合に0.01%未満の多能性幹細胞を含み、かつフローサイトメトリーによって測定された場合にTRA-1-60/Oct-4について陰性である、請求項39~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記RPE細胞が、分化後かつ製剤化までの前記RPE細胞の増殖中の全ての継代で、及び細胞懸濁液として注射されたときに、多角形単層を生成する、請求項1~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記動的細胞増殖懸濁が、使い捨てバイオリアクタ内で行われる、請求項1~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記RPE細胞の集団が、ニコチンアミドの存在下で増殖する、請求項1~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
眼の障害又は疾患を処置する方法であって、請求項1~33のいずれか一項に記載の方法によって生成されたRPE細胞を含む医薬組成物を、眼の障害又は疾患を処置することを必要とする患者の網膜組織中に移植することを含む、方法。
【請求項47】
前記眼の障害又は疾患が、加齢黄斑変性(AMD)、ベスト病(早発型の卵黄様黄斑ジストロフィー)を含む遺伝性黄斑変性、又は網膜色素変性症(RP)のサブタイプである、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記RPE細胞の集団が、
a)成熟RPE細胞が、フローサイトメトリーによって測定された場合に、95%超で細胞性レチンアルデヒド結合タンパク質(CRALBP)及びプレメラノソームタンパク質(PMEL17)に対して二重陽性であることを決定することと;
b)前記成熟RPE細胞が、正味の経上皮電気抵抗(TEER)>100Ω・cm並びにPEDF及びVEGFの極性分泌を有する極性化単層を解凍後に生成することを決定することと;
c)前記成熟RPE細胞が、高精度フローサイトメトリー法(FCM)によって確認された場合に、0.01%未満の多能性幹細胞を含み、かつフローサイトメトリーによって測定された場合に、TRA-1-60/Oct-4について陰性であることと
を含む製品リリース決定に基づいて、患者において直ちに使用できる、請求項1~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記RPE細胞が、分化後かつ製剤化までの前記RPE細胞の増殖中の全ての継代で、及び細胞懸濁液として注射されたときに、多角形単層を生成する、請求項1~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
移植用の成熟RPE細胞の濃度が50マイクロリットル当たり100,000個の細胞である、請求項46~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
移植用の成熟RPE細胞が、前記患者の網膜下腔内に注射される、請求項47~50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記医薬組成物が、解凍されて、注射前の細胞調製なしで対象に注射されるように、製剤化されている、請求項47~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
請求項1~46のいずれか一項に記載の方法によって生成された前記細胞を含む、医薬組成物。
【請求項54】
解凍されて、注射前の細胞調製なしで対象に注射されるように、製剤化されている、請求項53に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2021年7月28日に出願された米国仮出願第63/226,741号の優先権の恩典を主張し、その全内容は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
背景
網膜色素上皮(RPE)は、視細胞外節(POS)と脈絡膜脈管構造の間にあるブルッフ膜上に位置する神経上皮由来の色素細胞の単層である。RPE単層は、視細胞の機能及び健全性にとって極めて重要である。網膜色素上皮(RPE)細胞の機能不全、損傷及び喪失は、加齢黄斑変性(AMD)、ベスト病(早発型の卵黄様黄斑ジストロフィー)を含む遺伝性黄斑変性及び網膜色素変性症(RP)のサブタイプなどの特定の眼疾患及び障害の顕著な特徴である。このような疾患に罹患した者の網膜へのRPE(及び視細胞)の移植は、RPEが変性した網膜疾患における細胞補充療法として使用され得る。
【0003】
ヒト胎児及び成人RPEは、同種移植のためのドナー源として使用されてきた。しかしながら、十分な組織供給を得る上での実際的な問題及び中絶された胎児由来の組織の使用に関する倫理的懸念は、これらのドナー源の広範な使用を制限する。成人及び胎児RPE移植片の供給における制限を考慮して、代替的なドナー源の可能性が研究されてきた。
【0004】
ヒト多能性幹細胞は、移植のためのRPE細胞の供給源として著しい利点をもたらす。ヒト多能性幹細胞の多能性発生能は、ヒト多能性幹細胞が真の機能的なRPE細胞に分化することを可能にし、ヒト多能性幹細胞の無限の自己再生能を考慮すると、ヒト多能性幹細胞はRPE細胞の無限のドナー源として役立ち得る。実際、ヒト胚性幹細胞(hESC)及びヒト人工多能性幹細胞(iPSC)がインビトロでRPE細胞に分化し、網膜変性を減弱させ、網膜下移植後の視覚機能を維持し得ることが実証されている。したがって、hESCは、細胞療法のためのRPE細胞を生産するための無制限の供給源であり得る。
【0005】
しかしながら、RPE細胞を用いた処置を必要とする患者の数は、世界中で2億人を超えると予測されている。必要とされる産業的同種異系ロットサイズは何十億個ものRPE細胞に増加されなければならないので、これらの膨大な数は製造上の課題を提起する。RPE細胞などの足場依存性細胞型のための製造プラットフォームは、伝統的に二次元培養法を使用する。これらのプラットフォームは、労働集約的であり、極めて大きなフットプリントを有し、過剰なリソースを消費するので、産業製造には最適でない。制御されていない開放系であるため、汚染及びロット間の変動のリスクも高い。
【0006】
本開示は、再生医療及びRPE細胞療法の分野におけるこれら及び他の欠点に対処する。
【発明の概要】
【0007】
網膜色素上皮(RPE)細胞を増殖させるための方法、RPE細胞の医薬組成物及び前記方法を使用して作製された医薬組成物を用いて眼の障害を処置するための方法が本明細書に記載されている。複数の態様において、疾患は、加齢黄斑変性(AMD)である。複数の態様において、疾患は、ベスト病(早発型の卵黄様黄斑ジストロフィー)を含む遺伝性黄斑変性、又は網膜色素変性症(RP)のサブタイプである。
【0008】
一局面において、網膜色素上皮(RPE)細胞を増殖させるための方法であって、多能性幹細胞から分化したRPE細胞の集団を提供することと;マイクロキャリアなどの第1の懸濁性細胞支持マトリックスを含む培地に前記RPE細胞の集団を接種することと;動的懸濁状態にて前記第1の懸濁性細胞支持マトリックス上で前記RPE細胞の集団を増殖させて、増殖したRPE細胞の集団を提供することとを含む方法が本明細書において提供される。
【0009】
一局面において、網膜色素上皮(RPE)細胞を増殖させるための方法によって作成されたRPE細胞を含有する医薬組成物であって、前記方法は、多能性幹細胞から分化したRPE細胞の集団を提供することと;第1の懸濁性細胞支持マトリックスを含む培地に前記RPE細胞の集団を接種することと;動的懸濁状態にて前記第1の懸濁性細胞支持マトリックス上で前記RPE細胞の集団を増殖させて、増殖したRPE細胞の集団を提供することとを含む、医薬組成物が本明細書において提供される。
【0010】
一局面において、眼の障害又は疾患を処置する方法であって、前記方法は、網膜色素上皮(RPE)を増殖させるための方法によって作製されたRPE細胞を含有する医薬組成物を、眼の障害又は疾患を処置することを必要とする患者の網膜組織中に移植することを含み、前記方法は、多能性幹細胞から分化したRPE細胞の集団を提供することと;第1の懸濁性細胞支持マトリックスを含む培地に前記RPE細胞の集団を接種することと;動的懸濁状態にて前記第1の懸濁性細胞支持マトリックス上で前記RPE細胞の集団を増殖させて、増殖したRPE細胞の集団を提供することとを含む、方法が本明細書において提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本明細書に記載されている技術は、例示のみを目的とする以下の図面を参照することによってより完全に理解されるであろう。
【0012】
図1図1は、RPE増殖の継代1(P1)の間のRPE細胞の一連の画像である。倍率は10倍である。画像は、(左から右に):播種後4日目、播種後7日目、播種後8日目、及び播種後9日目(採集日)のRPE細胞を示す。RPE細胞は、播種後4日目に多角形単層膜を示し始め、9日目(採集日)に高密度多角形形態に達する。
【0013】
図2図2は、マイクロキャリア(MC)の表面上のRPE細胞の外層を示す示されたMCS研究の形態学的評定を示す。継代の終わり近くでの(日数が示されている)、MCに付着したRPE細胞の代表的な位相画像(4×対物レンズ)。
【0014】
図3図3は、約10~12日間にわたる使い捨てバイオリアクタ(SUB)中での複数回のRPE細胞増殖実行中の溶存酸素パーセント(DO%)傾向の比較を示すグラフである。MCS14の第3のフェドバッチは、採集の4日前である10日目に開始した。(技術的理由により、6日目までのMCS14データが失われた。)
【0015】
図4図4は、研究MCS11B全体を通じたMC-細胞集団密度の展開を示す一連の画像である。120×10細胞/cmの接種細胞密度が目標とされているが、細胞はMC上に均一に分散しない。この不均一な分散は、MCの一部が最終的により密に集合することにつながり、その結果、時間の経過と共にそれらのMCを集合させるより成熟したRPE細胞をもたらす。矢印は、異なる日に採取された試料中の不均一に集合したMCを指す。MC-細胞密度の変動が、早くも接種後4日目には明らかである。左から右に、4日目、4日目(拡大)、14日目及び14日目。
【0016】
図5図5は、大規模RPE細胞生産プロセスの一態様を示すフローチャートである。
【0017】
図6図6は、RPE細胞でコーティングされた、PMEL17及びDAPIで染色されたマイクロキャリア粒子の顕微鏡画像である。
【0018】
図7図7は、マイクロキャリア上(上段)とT175フラスコ上(下段)のRPE細胞単層の増殖を示す。各培養物を接種した後、3、7及び14日目に顕微鏡画像を撮影した。
【0019】
図8図8は、分化したRPE細胞から中間細胞バンク(ICB)を作製する例示的な方法の概略図である。示されているように、分化の終了時(P0)に、細胞を採集し、一定分量で凍結する。ICBからの細胞は、RPE細胞の増殖のために、大規模バイオリアクタ内でマイクロキャリアに接種するために使用され得る。
【0020】
図9図9は、RPE細胞の生産のための概略図の2つの例を示す。上の概略図は、中間細胞バンク(ICB)を使用しないRPE細胞増殖期を示す。下の概略図は、中間細胞バンク(ICB)を使用したRPE細胞増殖期を示す。
【0021】
図10図10は、マイクロキャリア(MC)及び中間細胞バンク(ICB)の使用を含む、大規模OPREGEN(登録商標)細胞生産プロセスのための分化増殖の方法の例を示すフローチャートである。
【0022】
図11図11は、hESCからRPE細胞を分化及び増殖させるための例示的な方法を示すフローチャートである。
【0023】
図12図12は、中間細胞バンク(ICB)を使用した例示的なRPE細胞増殖方法を示すフローチャートである。
【0024】
図13A図13A及び13Bは、例示的なRPE細胞効力アッセイの結果を示す。図13Aは、高効力成熟RPE試料対低効力成熟RPE試料の顕微鏡画像を示す。高効力成熟RPE細胞は、集密状態の均一な多角形単層形態を示す。低効力成熟RPE細胞は、孔を有する、集密状態に満たない不均一な形態を示す。
図13B図13Bの左パネルは、(1)高効力RPE細胞及び(2)低効力RPE細胞についての14日目の経上皮抵抗(TEER、Ω・cm)のプロットの棒グラフを示す。右パネルの棒グラフは、(1)高効力成熟RPE細胞及び(2)低効力成熟RPE細胞についての、PEDF:VEGF極性分泌比を示す。
【0025】
図14図14は、RPE細胞増殖及び成熟の異なる段階のフローサイトメトリー(FCM)分析の散布図を示し、細胞は、CRALBP_FITC_488及びPMEL_AlexaFlour_647で二重標識されている。左上の散布図は、hESC増殖中の細胞集団を示す。右上の散布図は、分化の終了時における細胞集団を示す。左下の散布図は、RPE増殖中の細胞を示す。右下の散布図は、RPE増殖及び成熟プロセスの終了時における細胞を示す。増殖/成熟プロセスの終了時における細胞は、>95% RPE細胞である。
【0026】
図15図15は、左から右に、OPREGEN(登録商標)生産中のRPE純度/同一性バイオマーカー発現(CRALBP/PMEL17)の棒グラフ、OPREGEN(登録商標)生産中のRPE成熟バイオマーカー(PEDF)分泌の棒グラフ並びに分化、増殖及び成熟過程の終了時における成熟RPE細胞形態を示す。
【0027】
図16A図16A及び16Bは、RPE接着を評価するための、1日間の示された6種類のマイクロキャリアのEXP27A予備スクリーニング研究を示す。図16Aは、20%HSの存在下で全てのMC型に付着したRPE細胞の代表的な位相画像である。
図16B図16Bは、ウェルあたりの総播種細胞のうち採集された細胞の%によって計算された、24時間における、全ての試験されたHS濃度での各MC型への接着の%を示すグラフである。(バーは各セットにおいて左から右へ:20%HS;5%HS;0.5%HS;0%HS)
【0028】
図17図17は、RPEの付着及び増殖を評価するための、7日間の示された6種類のマイクロキャリアのEXP27A予備スクリーニング研究を示す画像である。画像は、細胞が全てのMC型において集密状態及び多角形状態に達したことを表す。
【0029】
図18図18は、RPE細胞をStar-Plus MC上に播種することによって達成された最高の収率を示す棒グラフである。(バーは各セットにおいて左から右へ:20%HS;5%HS;0.5%HS;0%HS)
【0030】
図19A図19Aは、示された細胞密度で播種されたスピナーフラスコに対して計算された総細胞を示す棒グラフである。
【0031】
図19B図19Bは、示された細胞密度で播種されたスピナーフラスコに対して計算された細胞収率を示す棒グラフである。
【0032】
図20A図20A及び20Bは、スピナーフラスコ内でのRPE細胞増殖に沿って2つの栄養供給レジメンを比較するデータである。P1スピナーフラスコ(1/2培地交換によって栄養供給される)及びT175フラスコを採集し、P2のために対照Tフラスコ又はスピナーフラスコ内のいずれかに播種した。P1スピナーフラスコに由来する2つのスピナーフラスコを使用して、2つの栄養供給レジメン、フェドバッチ及び1/2培地交換を試験した。フェドバッチを受けるスピナーフラスコは、より高い収率を有した(図20A)。対照P1スピナーフラスコ(EXP 27E MC)及び2つのP2スピナーフラスコ(EXP27F MC 1A/2A)は、フローサイトメトリー試験で同様の解凍後純度(%CRALBP/PMEL17)値を示した(図20B)。
図20B図20Aの説明を参照。
【0033】
図21A図21A及び21Bは、栄養供給レジメンが1/2培地交換であった研究とフェドバッチを使用した研究を比較した結果概要を示すグラフである。分析は、収率(図21A)及び継代の終了時における1平方cm当たりの採集された総細胞(図21B)を示す。
図21B図21Aの説明を参照。
【0034】
図22図22は、3、10、及び12日における、様々なマイクロキャリア上でのRPE細胞の増殖を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
詳細な説明
この説明を読んだ後、様々な代替の態様及び代替の適用において本発明を実施する方法が当業者に明らかになるであろう。しかしながら、本発明の様々な態様の全てについてここでは説明しない。ここに提示される態様は、一例としてのみ提示され限定でないことが理解されよう。したがって、様々な代替の態様のこの詳細な説明は、以下に記載されている本発明の範囲又は幅を限定すると解釈されるべきではない。
【0036】
本発明を開示及び説明する前に、以下に記載される局面は、特定の組成物、そのような組成物を調製する方法又はその使用に限定されず、したがって当然のことながら変化し得ることを理解されたい。本明細書で使用される専門用語が特定の局面を説明することのみを目的としており、限定するようには意図されていないことも理解されたい。
【0037】
本発明の詳細な説明は、読者の便宜のためだけに様々なセクションに分けられており、任意のセクションに見られる開示は、別のセクションの開示と組み合わされてもよい。タイトル又はサブタイトルが、読者の便宜のために本明細書で使用され得、本発明の範囲に影響を及ぼすことを意図しない。
【0038】
急速に拡大する患者集団のニーズを満たすために、必要とされているのは網膜色素上皮(RPE)細胞の大規模な生産である。ヒト胚性幹細胞(hESC)又はヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)は、インビトロで機能的RPE細胞に一貫して分化することができることが実証されている。臨床試験における加齢黄斑変性(AMD)を有する患者におけるこのようなRPE細胞の使用は、有望な機能的回復を示す。懸濁性細胞支持マトリックス又はマイクロキャリア(MC)を使用するRPE増殖のためのプラットフォームが本明細書に開示される。接着性細胞がその上で増殖することができる表面を提供しながら溶液中に懸濁されるなどのMCの特性によって、MCは、閉鎖された及び制御された環境で接着性細胞培養物を増殖させるのに理想的なものとなる。大規模生産のためにMCを使用することの別の利点は、従来の静的培養プロセスよりも大幅に増加された表面積対体積比である。したがって、必要とされる占有面積を低減させながら、細胞密度を増加させることができる。
【0039】
大規模な閉鎖された及び制御された環境においてhESC由来のRPEを増殖させるために、懸濁性細胞支持マトリックス(例えば、限定されないが、SOLOHILL(登録商標)によるStar-Plus Microcarriers)上で増殖するRPE細胞の潜在能力を使用する方法が本明細書に記載されている。例えば、本明細書に記載されている閉鎖された系では、分化したRPE細胞は、最適なRPE収率及び品質についてスクリーニングされる懸濁性細胞支持マトリックスを含有する単一のバイオリアクタ内に接種され得る。細胞の酸素消費は、pH、代謝産物及び温度と同様に、自動的に監視及び制御され得る。栄養供給レジメンは、必要に応じて新鮮な培地及びグルコースが添加されるフェドバッチモードで行われ得る。懸濁性細胞支持マトリックス及び培地添加、細胞サンプリング、採集及びろ過を含む全ての操作は、凍結媒体中の細胞懸濁物の最終生成物がクライオバイアル中に自動的に分注されるまで、使い捨てバッグのチューブ溶着を使用して、制御された及び閉鎖された環境で行われ得る。数千本のバイアル、1時間の凍結セッションあたり最大約2300本のバイアルの制御された大規模凍結が達成され得る。
【0040】
定義
「処置すること(treating)」、又は「処置(treatment)」という用語は、傷害、疾患、病理又は症状の治療又は改善におけるなんらかの成功の兆候を指し、あらゆる客観的又は主観的パラメータ、例えば症候の軽減、緩和、減弱、又は傷害、病理、若しくは症状を患者にとってより許容可能にすること、衰退又は衰弱の速度の低下、衰退の最終点での衰弱の重度の低下、患者の身体的又は精神的健康の改善などを含む。症候の処置又は改善は、身体検査、神経精神医学的検査、及び/又は精神医学的評価の結果を含む、客観的又は主観的なパラメータに基づくことができる。「処置すること」という用語、及びその活用形は、傷害、病理、症状又は疾病の予防を含み得る。複数の態様において、処置することは予防することである。複数の態様において、処置することは予防することを含まない。本明細書で使用される(かつ当技術分野でよく理解されているように)「処置すること」又は「処置」はまた、臨床結果を含む、対象の症状において有益な又は所望の結果を得るための任意のアプローチを広く含む。有益な又は所望の臨床結果には、限定されないが、1つ又は複数の症候又は症状の緩和又は改善、疾患の範囲の縮小、疾患の状態の安定化(すなわち、悪化しないこと)、疾患の伝染又は伝播の防止、疾患の進行の遅延又は減速、病状の改善又は緩和、疾患の再発の減少及び部分的又は完全であるかどうか、検出可能又は検出不可能かどうかを問わず、寛解が含まれ得る。言い換えれば、本明細書で使用される「処置」は、疾患の治癒、改善又は予防を含む。処置は、疾患の発生を予防し、疾患の伝播を防ぎ、疾患の症候を緩和し、疾患の根本原因を完全に若しくは部分的に取り除き、疾患の期間を短縮し、又はこれらの組み合わせを行い得る。
【0041】
本明細書で使用される「処置すること」及び「処置」は、予防的処置を含む。処置方法には、治療有効量の活性剤を対象に投与することが含まれる。投与工程は、単回投与からなり得、又は一連の投与を含み得る。処置期間の長さは、症状の重症度、患者の年齢、活性剤の濃度、処置において使用される組成物の活性、又はこれらの組み合わせなどの様々な因子に依存する。また、処置又は予防のために使用される作用物質の有効量は、特定の処置又は予防計画の過程で増加又は減少し得ることが理解されるであろう。投与量の変化が生じ得、当技術分野で知られている標準的な診断アッセイによって明らかになり得る。いくつかの例において、長期投与が必要とされ得る。例えば、組成物は、患者を処置するのに十分な量と期間で、対象に投与される。複数の態様において、処置すること又は処置は、予防的処置ではない。
【0042】
「予防する」という用語は、患者における疾患症候の発生の減少を指す。上記のように、予防は完全(検出可能な症候なし)であってもよく、又は、処置なしで生じ得るものよりも少ない症候が観察されるように部分的であってもよい。
【0043】
「患者」又は「~を必要とする対象」とは、本明細書で提供されるような医薬組成物の投与によって処置することができる疾患又は症状に罹患しているか、又は罹患しやすい生物を指す。非限定的な例としては、ヒト、他の哺乳動物、ウシ、ラット、マウス、イヌ、サル、ヤギ、ヒツジ、乳牛、シカ及び他の非哺乳動物が挙げられる。いくつかの態様において、患者はヒトである。
【0044】
「有効量」は、組成物の不存在と比較して、組成物が述べられた目的を達成する(例えば、組成物がそのために投与される効果を達成するか、疾患を処置するか、酵素活性を低下させるか、酵素活性を増加させるか、シグナル伝達経路を軽減させるか、又は疾患若しくは症状の1つ若しくは複数の症候を軽減させる)のに十分な量である。「有効量」の例は、疾患の1つ又は複数の症候の処置、予防又は軽減に寄与するのに十分な量であり、「治療有効量」とも呼ばれ得る。1つ又は複数の症候の「軽減」(及びこの句の文法上の等価物)とは、1つ若しくは複数の症候の重症度若しくは頻度の減少、又は1つ若しくは複数の症候の除去を意味する。薬物(例えば、本明細書中に記載される細胞)の「予防有効量」は、対象に投与された場合に、意図された予防効果、例えば、損傷、疾患、病理若しくは症状の発症(又は再発)を予防若しくは遅延させるか、又は損傷、疾患、病理若しくは症状、若しくはそれらの症候の発症(又は再発)の可能性を低下させる薬物の量である。完全な予防効果は、必ずしも1用量の投与によって生じるとは限らず、一連の用量の投与後にのみ生じ得る。したがって、予防有効量は1又は複数回の投与で投与され得る。本明細書で使用される「活性低下量」は、アンタゴニストが存在しない場合と比較して酵素の活性を低下させるのに必要なアンタゴニストの量を指す。本明細書で使用する「機能破壊量」とは、アンタゴニストが存在しない場合と比較して、酵素又はタンパク質の機能を破壊するのに必要なアンタゴニストの量を指す。正確な量は処置の目的によって異なり、既知の技術を用いて当業者によって確認可能である(例えば、Lieberman,Pharmaceutical Dosage Forms(vols.1-3,1992);Lloyd,The Art,Science and Technology of Pharmaceutical Compounding(1999);Pickar,Dosage Calculations(1999);及びRemington:The Science and Practice of Pharmacy,20th Edition,2003,Gennaro,Ed.,Lippincott,Williams&Wilkins参照)。
【0045】
本明細書に記載の任意の組成物について、治療有効量は、細胞培養アッセイから最初に決定され得る。目標濃度は、本明細書に記載された又は当技術分野で公知の方法を使用して測定された、本明細書に記載の方法を達成し得る1つ又は複数の活性組成物の濃度(例えば、細胞濃度又は細胞数)である。
【0046】
当技術分野で周知のように、ヒトで使用するための治療有効量は、動物モデルからも決定され得る。例えば、動物で有効であることが判明している濃度を達成するようにヒトへの投与量を処方し得る。ヒトにおける投与量は、上記のように、組成物の有効性を監視し、投与量を上方又は下方に調整することによって調整され得る。上記の方法及び他の方法に基づいてヒトにおいて最大の有効性を達成するように用量を調整することは、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0047】
本明細書で使用される「治療有効量」という用語は、上記のように、障害を改善するのに十分な治療薬の量を指す。例えば、所与のパラメータについて、治療的有効量は、少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、40%、50%、60%、75%、80%、90%又は少なくとも100%の増加又は減少を示す。治療効果は、「~倍」の増加又は減少としても表され得る。例えば、治療有効量は、対照に対して少なくとも1.2倍、1.5倍、2倍、5倍又はそれを超える効果を有し得る。
【0048】
投与量は、患者及び採用される組成物の要件に応じて変化してもよい。本開示の文脈において、患者に投与される用量は、長期間にわたって患者に有益な治療反応をもたらすのに十分であるべきである。また、用量の大きさは、あらゆる有害な副作用の存在、性質及び程度によっても決定される。特定の状況に対する適切な投与量の決定は、医師の技量の範囲内である。一般に、処置は、組成物の最適用量未満の、より少ない用量で開始される。この投与量は、その後、状況に応じて最適な効果が達せられるまで、少しずつ増やされる。投与量及び間隔は、処置されている特定の臨床的適応症に有効な投与された組成物のレベルを提供するために個別に調整され得る。これにより、個体の病状の重症度に見合った治療計画が提供される。
【0049】
「共投与する」は、本明細書中に記載される組成物が、1つ又は複数の追加の治療の投与と同時に、投与の直前に、又は投与の直後に投与されることを意味する。本明細書で提供される組成物は、患者に対して、単独で投与され得、又は共投与され得る。共投与は、組成物を個別に、又は組み合わせて(複数の組成物)同時投与又は逐次投与することを含むことを意味する。したがって、調製物はまた、所望であれば、(例えば、代謝分解を減少させるために)他の活性物質と組み合わされ得る。
【0050】
「対照」又は「対照実験」は、その単純な通常の意味に従って使用され、実験の手順、試薬、又は可変要素の省略を除いて、実験の対象又は試薬が同様の実験におけるように扱われる実験を指す。いくつかの例において、対照は、実験効果を評価する際の比較の基準として使用される。いくつかの態様において、対照は、本明細書(態様及び実施例を含む)に記載の組成物の非存在下でのタンパク質の活性の測定である。
【0051】
「薬学的に許容され得る賦形剤」及び「薬学的に許容され得る担体」は、対象への活性作用物質の投与及び対象による吸収を補助し、患者に有意な有害毒性作用を引き起こさずに本開示の組成物に含められ得る物質を指す。薬学的に許容され得る賦形剤の非限定的な例としては、水、NaCl、通常の生理食塩水、乳酸リンゲル液、通常のスクロース、通常のグルコース、結合剤、充填剤、崩壊剤、潤滑剤、コーティング剤、甘味料、香料、塩溶液(リンゲル液など)、アルコール、油、ゼラチン;ラクトース、アミロース又はデンプンなどの炭水化物、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリジン及び色素などが挙げられる。そのような調製物は、滅菌され得、所望であれば、潤滑剤、保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を及ぼすための塩、緩衝剤、着色剤、及び/又は本開示の組成物と有害に反応しない芳香族物質などの補助剤と混合され得る。当業者であれば、他の薬学的賦形剤が本開示において有用であることを認識するであろう。
【0052】
本明細書で使用される「細胞」は、そのゲノムDNAを保存又は複製するのに十分な代謝機能又は他の機能を実行する細胞を指す。細胞は、例えば、無傷の膜の存在、特定の色素による染色、子孫を生産する能力、又は配偶子の場合、第2の配偶子と組み合わせて生存可能な子孫を生産する能力を含む、当技術分野で周知の方法によって同定され得る。細胞は、原核細胞及び真核細胞を含み得る。原核細胞には、細菌が含まれるが、これに限定されない。真核細胞としては、酵母細胞並びに植物及び動物由来の細胞、例えば哺乳動物、昆虫(例えばスポドプテラ(spodoptera))及びヒト細胞が挙げられるが、これらに限定されない。細胞は、天然に非接着性であるか、又は例えばトリプシン処理によって表面に接着しないように処理されている場合に有用であり得る。
【0053】
本明細書中で使用される場合、「幹細胞」とは、特定の特殊化された機能を有する他の細胞型(例えば、完全に分化した細胞)に分化するように誘導されるまで、培養状態で長期間にわたって未分化状態(例えば、多能性または複能性幹細胞)に留まることができる細胞を指す。複数の態様において、「幹細胞」には、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(iPSC)、成体幹細胞、間葉系幹細胞及び造血幹細胞が含まれる。複数の態様において、RPE細胞は、多能性幹細胞(例えば、ESC又はiPSC)から生成される。
【0054】
本明細書で使用される場合、「人工多能性幹細胞」又は「iPSC」は、体細胞の遺伝子操作によって、例えば、Oct-3/4、Sox2、c-Myc及びKLF4などの転写因子による線維芽細胞、肝細胞、胃上皮細胞などの体細胞のレトロウイルス形質導入によって、体細胞から生成され得る細胞である[Yamanaka S,Cell Stem Cell.2007,1(1):39-49;Aoi T,et al.,Generation of Pluripotent Stem Cells from Adult Mouse Liver and Stomach Cells.Science.2008 Feb14.(印刷前の電子出版);IH Park,Zhao R,West JA,et al.Reprogramming of human somatic cells to pluripotency with defined factors.Nature2008;451:141-146;K Takahashi,Tanabe K,Ohnuki M,et al.Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors.Cell2007;131:861-872]。他の胚様幹細胞は、レシピエント細胞が有糸分裂で停止している場合、卵母細胞への核移植、胚性幹細胞との融合、又は接合体への核移植によって作製され得る。さらに、iPSCは、非組み込み法を使用して、例えば、小分子又はRNAを使用することによって作製され得る。
【0055】
「胚性幹細胞」という用語は、3つの胚性胚葉全て(すなわち、内胚葉、外胚葉及び中胚葉)の細胞に分化することができる、又は未分化状態のままであることができる胚性細胞を指す。「胚性幹細胞」という語句は、妊娠後に形成された胚組織(例えば、胚盤胞)から胚の着床前に得られる細胞(すなわち、着床前胚盤胞)、着床後/原腸形成前段階の胚盤胞から得られる拡張胚盤胞細胞(EBC)(国際公開第2006/040763号参照)、及び妊娠中の任意の時点、好ましくは妊娠の10週前に胎児の生殖組織から得られる胚性生殖(EG)細胞を含む。複数の態様において、胚性幹細胞は、周知の細胞培養方法を用いて得られる。例えば、ヒト胚性幹細胞は、ヒト胚盤胞から単離され得る。
【0056】
ヒト胚盤胞は、典型的には、ヒトのインビボ着床前胚又はインビトロ受精(IVF)胚から得られる。あるいは、単一細胞のヒト胚を胚盤胞期まで増殖させ得る。例えば、ヒトES細胞を単離するために、透明帯を胚盤胞から除去し、栄養外胚葉細胞を溶解させて穏やかなピペッティングによって無傷のICMから除去する手順によって内部細胞塊(ICM)を単離する。その後、ICMを、そのアウトグロースを可能にする適切な培地を含有する組織培養フラスコに播種する。9~15日後、ICM由来のアウトグロースを機械的解離又は酵素的分解のいずれかによって塊に解離させ、次いで、細胞を新鮮な組織培養培地に再播種する。未分化形態を示すコロニーをマイクロピペットによって個々に選択し、機械的に塊に解離させ、再播種する。次いで、得られたES細胞を4~7日毎に日常的に分割する。ヒトES細胞の調製方法のさらなる詳細については、Reubinoff et al.Nat Biotechnol2000,May:18(5):559;Thomsonら、[米国特許第5,843,780号;Science282:1145,1998;Curr.Top.Dev.Biol.38:133,1998;Proc.Natl.Acad.Sci.USA92:7844,1995];Bongso et al.,[Hum Reprod4:706,1989];及びGardnerら、[Fertil.Steril.69:84,1998]。
【0057】
市販の幹細胞もまた、本開示の局面及び態様において使用され得ることが理解される。ヒトES細胞は、NIHヒト胚性幹細胞登録(www.grants.nih.govstem_cells)又は他のhESC登録から購入され得る。市販の胚性幹細胞株の非限定的な例は、HAD-C102、ESI、BGO1、BG02、BG03、BG04、CY12、CY30、CY92、CY1O、TE03、TE32、CHB-4、CHB-5、CHB-6、CHB-8、CHB-9、CHB-10、CHB-11、CHB-12、HUES1、HUES2、HUES3、HUES4、HUES5、HUES6、HUES7、HUES8、HUES9、HUES10、HUES11、HUES12、HUES13、HUES14、HUES15、HUES16、HUES17、HUES18、HUES19、HUES20、HUES21、HUES22、HUES23、HUES24、HUES25、HUES26、HUES27、HUES28、CyT49、RUES3、WAO1、UCSF4、NYUES1、NYUES2、NYUES3、NYUES4、NYUESS、NYUES6、NYUES7、UCLA1、UCLA2、UCLA3、WA077(H7)、WA09(H9)、WA13(H13)、WA14(H14)、HUES62、HUES63、HUES64、CT I、CT2、CT3、CT4、MA135、Eneavour-2、WIBR1、WIBR2、WIBR3、WIBR4、WIBRS、WIBR6、HUES45、Shef3、Shef6、BINhem19、BJNhem20、SAGO1、SAOO1である。
【0058】
いくつかの態様によれば、胚性幹細胞株は、HAD-C102又はESIである。
【0059】
さらに、ES細胞は、マウス(Mills and Bradley,2001)、ゴールデンハムスター[Doetschman et al.,1988,Dev Biol.127:224-7]、ラット[lannaccone et al.,1994,Dev Biol.163:288-92]、ウサギ[Giles et al.1993,Mol Reprod Dev.36:130-8;Graves&Moreadith,1993,Mol Reprod Dev.1993,30 36:424-33]、いくつかの家畜種[Notarianni et al.,1991,J Reprod Fertil Suppl.43:255-60;Wheeler1994,Reprod Fertil Dev.6:563-8;Mitalipova et al.,2001,Cloning.3:59-67]及び非ヒト霊長類種(アカゲザル及びマーモセット)[Thomson et al.,1995,Proc Natl Acad Sci U S A.92:7844-8;Thomson et al.,1996,Biol Reprod.55:254-9]を含む他の種から取得され得る。
【0060】
拡張胚盤胞細胞(EBC)は、原腸形成前の段階で、受精後少なくとも9日の胚盤胞から取得され得る。胚盤胞を培養する前に、[例えば、Tyrodeの酸性溶液によって(Sigma Aldrich,St Louis,MO,USA)]、透明帯を消化して内部細胞塊を露出させる。次いで、標準的な胚性幹細胞培養法を使用して、インビトロで、受精後少なくとも9日(好ましくは最長14日)間(すなわち、原腸形成事象の前に)、胚盤胞を全胚として培養する。
【0061】
ES細胞を調製するための別の方法は、Chung et al.,Cell Stem Cell,Volume2,Issue2,113-117,7 February2008に記載されている。この方法は、体外受精プロセス中に胚から単一細胞を除去することを含む。このプロセスで胚は破壊されない。
【0062】
EG(胚性生殖)細胞は、当業者に公知の実験技術を使用して、妊娠約8~11週の胎児(ヒト胎児の場合)から得られた始原生殖細胞から調製され得る。生殖隆起は解離され、小さな部分に切断され、その後、機械的解離によって細胞に分解される。次いで、EG細胞を、適切な培地を含む組織培養フラスコ内で増殖させる。細胞は、EG細胞と一致する細胞形態が観察されるまで(典型的には7~30日又は1~4継代後)、培地を毎日交換しながら培養される。ヒトEG細胞を調製する方法に関するさらなる詳細については、Shamblottら、[Proc.Natl.Acad.Sci.USA95:13726,1998]及び参照によりその全体が本明細書に組み入れられる米国特許第6,090,622号を参照されたい。
【0063】
ES細胞を調製するためのさらに別の方法は、単為生殖によるものである。このプロセスでも胚は破壊されない。
【0064】
ESC又は他の多能性幹細胞は、分化工程の前にフィーダーなしで増殖させ得る。例えば、フィーダー細胞を含まない系をES細胞の培養に使用することができる。このような系は、フィーダー細胞層の代替物として、血清代替物、サイトカイン、及び成長因子(IL6及び可溶性IL6受容体キメラを含む)が補充されたマトリックスを利用する。幹細胞は、培養培地、例えばLonza L7系、mTeSR、StemPro、XFKSR、NUTRISTEM(登録商標))の存在下で、細胞外マトリックス(例えば、MATRIGEL(商標)、ラミニン又はビトロネクチン)などの固体表面上で増殖させることができる。フィーダー細胞と幹細胞の同時増殖を必要とし、混合細胞集団をもたらし得るフィーダーベースの培養とは異なり、フィーダーフリー系で増殖させた幹細胞は表面から容易に分離される。幹細胞の増殖に用いられる培養培地は、MEF馴化培地、bFGFなどの、分化を効果的に阻害し、幹細胞の増殖を促進する因子を含有する。フィーダーフリー培養培地TeSR(商標)-E8(商標)は、本明細書中に記載及び例示される方法及びプロトコルでは使用されない。
【0065】
いくつかの態様においては、増殖後、多能性幹細胞、例えばESCは、(球状体又は胚様体の中間生成なしに)接着性表面上で指向性分化に供される。例えば、全ての方法、細胞、試薬、組成物、及びその中に開示される全ての他の情報について、その全体が参照により本明細書に組み入れられる国際公開第2017/072763号を参照されたい。
【0066】
したがって、本開示の一局面によれば、接着性表面上で指向性分化に供される細胞の少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%が未分化多能性幹細胞(PSC)、例えばESCであり、多能性のマーカーを発現する。例えば、細胞の少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%がOct4+TRA-1-60+である。非分化PSCは、NANOG、Rex-1、アルカリホスファターゼ、Sox2、TDGFβ、SSEA-3、SSEA-4、SSEA-5、OCT4、TRA-1-60、及び/又はTRA-1-81などの他の多能性マーカーを発現し得る。
【0067】
1つの例示的な分化プロトコルでは、動的懸濁状態で懸濁性細胞支持マトリックス、例えばマイクロキャリア(MC)を使用して、接着性表面上で非分化多能性幹細胞をRPE細胞系統の方向に分化させる。例えば、SoloHill(登録商標)のStar-Plus Microcarriersを使用し得る。トランスフォーミング成長因子β(TGFβ)スーパーファミリーのメンバー(例えば、TGF1、TGF2及びTGF3サブタイプの他、アクチビン(例えば、アクチビンA、アクチビンB及びアクチビンAB)、ノーダル、抗ミュラー管ホルモン(AMH)、いくつかの骨形成タンパク質(BMP)、例えば、BMP2、BMP3、BMP4、BMP5、BMP6及びBMP7、並びに成長分化因子(GDF)を含む相同リガンド)などの分化誘導剤が使用され得る。
【0068】
いくつかの態様によれば、ニコチンアミド(NIC)などの分化誘導剤は、約1~100mM、5~50mM、5~20mM、及び例えば10mMの濃度で使用され得る。濃度は、終点を含む記載された範囲内の任意の値又は部分範囲であってよい。
【0069】
「ナイアシンアミド」又はNAとしても知られているNICは、ベータ細胞機能を保存及び改善すると考えられているビタミンB3(ナイアシン)のアミド誘導体形態である。NICは、成長及び食物のエネルギーへの変換に不可欠であり、関節炎の処置及び糖尿病の処置と予防に使用されている。NAは、化学式C20及び以下の構造を有する。
【0070】
【0071】
いくつかの態様によれば、ニコチンアミドは、ニコチンアミド誘導体又はニコチンアミド模倣物である。本明細書で使用される「ニコチンアミド(NA)の誘導体」という用語は、天然NAの化学的に修飾された誘導体である化合物を意味する。一態様において、化学修飾は、アミド部分の窒素又は酸素原子を介した、基本的なNA構造のピリジン環の(環の炭素又は窒素メンバーを介した)置換であり得る。置換されている場合、1つ又は複数の水素原子が置換基で置換されていてもよく、且つ/又は置換基がN原子に結合して4価の正に帯電した窒素を形成していてもよい。したがって、本発明のニコチンアミドは、置換又は非置換のニコチンアミドを含む。別の態様において、化学修飾は、例えばNAのチオベンズアミド類似体を形成するための、単一の基の欠失又は置換であり得、これら全ては有機化学に精通した者によって理解されるとおりである。本発明の文脈における誘導体には、NAのヌクレオシド誘導体(例えばニコチンアミドアデニン)も含まれる。NAの様々な誘導体が記載されており、いくつかはまた、PDE4酵素の阻害活性に関連して(国際公開第03/068233号;国際公開第02/060875号;GB2327675A)、又はVEGF受容体チロシンキナーゼ阻害剤として(国際公開第01/55114号)記載されている。例えば、4-アリール-ニコチンアミド誘導体を調製する方法(国際公開第05/014549号)。他の例示的なニコチンアミド誘導体は、国際公開第01/55114号及びEP2128244に開示されている。これらの参考文献の各々は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0072】
ニコチンアミド模倣物には、ニコチンアミドの修飾形態、及び多能性細胞からのRPE細胞の分化及び成熟におけるニコチンアミドの効果を再現するニコチンアミドの化学的類似体が含まれる。例示的なニコチンアミド模倣物には、安息香酸、3-アミノ安息香酸、及び6-アミノニコチンアミドが含まれる。ニコチンアミド模倣物として作用し得る別のクラスの化合物は、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARR)の阻害剤である。例示的なPARP阻害剤には、3-アミノベンズアミド、イニパリブ(BSI201)、オラパリブ(AZD-2281)、ルカパリブ(AG014699、PF-01367338)、ベリパリブ(ABT-888)、CEP9722、MK4827及びBMN-673が含まれる。
【0073】
さらなる企図される分化誘導剤としては、例えばノギン、Wntのアンタゴニスト(Dkk1又はIWR1e)、ノーダルアンタゴニスト(Lefty-A)、レチノイン酸、タウリン、GSK3b阻害剤(CHIR99021)及びノッチ阻害剤(DAFT)が挙げられる。
【0074】
「網膜の色素層」としても知られる「網膜色素上皮」又は「RPE」という用語は、網膜の外側の細胞の色素層を指す。RPE層は、ブルッフ膜(脈絡膜内縁)と視細胞との間に位置する。RPEは、網膜に栄養素を供給するための中間体であり、網膜の発達、光の吸収、成長因子の分泌、及び眼の免疫応答の媒介を含む多くの機能を補助する。RPEの機能不全は、網膜色素変性症、糖尿病性網膜症、西ナイルウイルス、及び黄斑変性を含む症状において視力喪失又は失明をもたらし得る。
【0075】
本明細書で使用される場合、「成熟RPE細胞のマーカー」という語句は、非RPE細胞又は未成熟RPE細胞と比較して成熟RPE細胞で上昇している(例えば、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍)抗原(例えば、タンパク質)を指す。
【0076】
本明細書で使用される場合、「RPE前駆細胞のマーカー」という語句は、非RPE細胞と比較したとき、RPE前駆細胞において上昇している(例えば、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍)抗原(例えば、タンパク質)を指す。
【0077】
いくつかの態様によれば、RPE細胞は、網膜の色素上皮細胞層を形成する天然RPE細胞の形態と同様の形態を有する。例えば、細胞は着色されていてもよく、特徴的な多角形の形状を有していてもよい。
【0078】
さらに他の態様によれば、RPE細胞は、黄斑変性などの疾患を処置することが可能である。
【0079】
さらなる態様によれば、RPE細胞は、本明細書中上記で列挙される要件の少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ又は全てを満たす。
【0080】
「疾患」又は「症状」という用語は、本明細書で提供される組成物又は方法で処置することができる患者又は対象の状態又は健康状態を指す。加齢黄斑変性すなわちAMDは、網膜中心部の進行性慢性疾患であり、世界中で視力喪失の主な原因である。ほとんどの視力喪失は、2つのプロセス:新生血管(「湿性」AMD及び地図状萎縮(GA、「乾性」)のうちの1つに起因して疾患の後期段階で起こる。GAでは、網膜色素上皮、脈絡毛細血管板及び視細胞の進行性萎縮が起こる。AMDの乾性型はより一般的であるが(全症例の85~90%)、「湿性」型に進行することがあり、未処置のまま放置すると、急速かつ重度の視力喪失をもたらす。AMDの推定有病率は、米国及び他の先進国では2,000人に1人である。この有病率は、一般人口における高齢者の割合と共に増加すると予想される。疾患の危険因子としては、環境因子と遺伝因子の両方が挙げられる。この疾患の病因には、機能的に相互に関連する4つの組織、すなわち網膜色素上皮(RPE)、ブルッフ膜、脈絡毛細血管及び視細胞の異常が関与している。しかしながら、RPE細胞機能の障害は、臨床的に関連するAMD変化をもたらす分子経路における初期の重要な事象である。現在、乾性AMDに対する承認された処置は存在しない。予防的手段としては、ビタミン/ミネラルのサプリメントが挙げられる。これらは、湿性AMDを発症するリスクを低下させるが、地図状萎縮(GA)の進行の発症には影響しない。
【0081】
本明細書で提供される方法に従って処置の効果を測定し得る疾患の非限定的なリストには、網膜色素変性症、レーバー先天性黒内障、遺伝性又は後天性黄斑変性、加齢黄斑変性(AMD)、地図状萎縮(GA)、ベスト病、網膜剥離、脳回転状萎縮、全脈絡膜萎縮、パターンジストロフィ及びRPEの他のジストロフィー、シュタルガルト病、光線性、レーザー性、炎症性、感染性、放射線性、新生血管性又は外傷性傷害の任意の1つによって生じる損傷によるRPE及び網膜損傷、網膜異形成、網膜萎縮、網膜症、黄斑ジストロフィー、錐体ジストロフィー、錐体-桿体ジストロフィー、蜂巣状網膜ジストロフィー(Malattia Leventinese)、ドインハニカム型ジストロフィー、ソルスビー型ジストロフィー、パターン/蝶型ジストロフィー、ベスト病、ノースキャロライナ型ジストロフィー、中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィー、網膜色素線条症、毒性黄斑症、病的近視、網膜色素変性症並びに黄斑変性が含まれる。複数の態様において、疾患は、乾性AMDである。複数の態様において、疾患は、GAである。
【0082】
萎縮型加齢黄斑変性(AMD)又は進行性乾性AMDとしても知られる「地図状萎縮」又は「GA」又は「萎縮性網膜」は、経時的に視覚機能の喪失をもたらし得る網膜(視細胞、網膜色素上皮、脈絡毛細血管板(choriocappillaris))の進行性及び不可逆性の喪失をもたらし得る加齢黄斑変性の進行した形態である。
【0083】
複数の態様において、RPE欠損は、高齢、喫煙、不健康な体重、抗酸化物質の低摂取、又は心血管障害のうちの1つ又は複数に起因し得る。他の態様において、RPE欠損は先天性異常に起因し得る。文脈が許す限り互換的に使用され得る「網膜色素上皮細胞」、「RPE細胞」、「RPE」は、例えば、機能的に、エピジェネティックに、又は発現プロファイルによって、網膜の色素上皮細胞層を形成する天然RPE細胞と似ている細胞型の細胞(例えば、眼内への移植、投与又は送達の際に、それらは天然RPE細胞の機能活性と同様の機能活性を示す)を指す。
【0084】
本明細書で使用される場合、「OpRegen」という用語は、系列限定ヒトRPE細胞株を指す。RPE細胞は、アクチビンA、トランスフォーミング成長因子ベータ(TGF-b)ファミリー及びニコチンアミドを補充してRPE集団を濃縮した分化培地下で誘導される。OPREGEN(登録商標)は、眼用平衡塩類溶液(BSS Plus)中に、又はCryoStor(登録商標)5内のすぐに投与できる(ready to administer:RTA)解凍注入(thaw and inject:TAI)製剤として製剤化された単一細胞懸濁液である。
【0085】
本明細書で使用される場合、「中間細胞バンク」又は「ICB」という用語は、生産の中間段階で、一定分量で凍結されている細胞のストックを指す。複数の態様において、本明細書で言及される中間細胞バンクは、PSCのRPE細胞への分化後であるが、RPE細胞の増殖前に凍結されたRPE細胞を含む。ICBは解凍され、RPE細胞の増殖、例えば懸濁性細胞支持マトリックス上での増殖のために培養物に接種するために使用され得る。解凍及び接種は、細胞の凍結の数日、数週間、数ヶ月、又は数年後であり得る。
【0086】
本明細書で使用される場合、「懸濁性細胞支持マトリックス」という用語は、接着性細胞が動的又は静的細胞培養で増殖することを可能にし、穏やかな混合で懸濁状態に留まることができる懸濁性支持マトリックスを指す。懸濁性細胞支持マトリックスの例は、マイクロキャリアである。
【0087】
本明細書で使用される場合、「マイクロキャリア」又は「MC」という用語は、接着性細胞が動的又は静的細胞培養で増殖することを可能にし、穏やかな混合で懸濁状態に留まることができる懸濁性支持マトリックスを指す。マイクロキャリアは、限定されないが、ポリスチレン、表面が修飾されたポリスチレン、化学的に修飾されたポリスチレン、架橋デキストラン、セルロース、アクリルアミド、コラーゲン、アルギナート、ゼラチン、ガラス、DEAE-デキストラン、又はこれらの組み合わせなどから構成され得る。マイクロキャリアは、ラミニン、マトリゲル、コラーゲン、ポリリジン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、テネイシン、デキストラン、ペプチド、又はこれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない生物学的支持マトリックスでコーティングされ得る。HyQSphere(HyClone)、Hillex(SoloHill Engineering)及びLow Concentration Synthemax(登録商標)II(Corning)ブランドを含むがこれらに限定されない多くの異なる種類のマイクロキャリアが市販されている。マイクロキャリアは、Cytodexブランド(GE Healthcare)などの架橋デキストランから作製され得る。マイクロキャリアは、球形で滑らかであり得、CYTOPOREブランド(GE Healthcare)などの微孔性表面を有し得、且つ/又はDE-53(Whatman)などの棒状キャリアであり得る。マイクロキャリアには、ビーズ(例えば、Global Cell SolutionsからのGEM粒子)からの細胞分離に役立ち得る磁性粒子を含浸させることができる。μHex製品(Nunc)などのチップベースのマイクロキャリアは、従来のマイクロキャリアの高い表面対体積比を維持しながら、細胞増殖のための平坦な表面を提供する。マイクロキャリアの特性は、増殖速度及び細胞の複能性又は多能性に有意に影響を及ぼし得る。
【0088】
複数の態様において、マイクロキャリア(MC)濃度は約10cm/mLであり得る。複数の態様において、MC濃度は10cm/mLである。いくつかの態様において、MC濃度は、約1cm/mL~約30cm/mL、又は約1cm/mL~約20cm/mL、又は約1cm/mL~約10cm/mL、又は約1cm/mL~約5cm/mLである。いくつかの態様において、MC濃度は、約1cm/mL、又は約2cm/mL、又は約3cm/mL、又は約4cm/mL、又は約5cm/mL、又は約6cm/mL、又は約7cm/mL、又は約8cm/mL、又は約9cm/mL、又は約10cm/mL、又は約11cm/mL、又は約12cm/mL、又は約13cm/mL、又は約14cm/mL、又は約15cm/mL、又は約16cm/mL、又は約17cm/mL、又は約18cm/mL、又は約19cm/mL、又は約20cm/mLであるか、又はそれを超える。複数の態様において、MC濃度は5~10cm/mLの範囲である。
【0089】
複数の態様において、懸濁性細胞支持マトリックスはコーティングされていない。複数の態様において、懸濁性細胞支持マトリックスは処理されていない。複数の態様において、懸濁性細胞支持マトリックスは、細胞接着を促進するために処理又はコーティングされている。表面化学修飾は、細胞接着を改善することができ、正電荷若しくは負電荷を印加する方法又はラミニン若しくはビトロネクチンなどの細胞外マトリックスタンパク質でコーティングする方法を含むがこれらに限定されない。
【0090】
本明細書で使用される場合、「バイオリアクタ」という用語は、生物学的に活性な環境を支持することができる任意の系を指す。バイオリアクタは、開放系又は閉鎖系、嫌気性又は好気性であり得る。バイオリアクタは、連続流又は静止流であり得る。バイオリアクタは、連続的に又はバッチによって栄養供給され得る。バイオリアクタは、例えば溶存酸素(DO)のレベル、pH、並びにN、O、CO、及び空気を含む気体の流れについて監視し得る。バイオリアクタは、例えばバイオリアクタ内の任意の種類の羽根車若しくは撹拌器による、又は動的培養条件を提供するための揺動プラットフォームによる、細胞懸濁液を混合又は撹拌するための手段を含み得る。バイオリアクタは使い捨てであり得る。
【0091】
本明細書で使用される場合、「集団倍加レベル」という用語は、所与の集団中の細胞がインビトロ培養中に倍加した回数の総数である。集団倍加の数学的表現は、log2(採集された生細胞/播種された生細胞)である。例えば、100万個の生細胞が播種され、800万個の生細胞が採集された場合、log2(8/1)=3である。すなわち、平均細胞集団倍加は3であった。
【0092】
RPE細胞増殖の方法
本明細書における態様は、一般的には、マイクロキャリアなどの懸濁性細胞支持マトリックスの使用を含む、網膜色素上皮(RPE)細胞の増殖のための方法に関する。
【0093】
いくつかの態様において、RPE細胞はヒト胚性幹細胞(hESC)から分化される。いくつかの態様において、RPE細胞はヒト多能性幹細胞(iPSC)から分化される。
【0094】
特定の態様によれば、分化は以下のように行われる。(a)高度に制御された培養系におけるフィーダーフリーhESC(FF hESC)の増殖;(b)TGFβスーパーファミリーのメンバー(例えばアクチビンA)及び分化誘導剤(例えばニコチンアミド)を含む培地中での工程a)から得られた細胞のFF単層指向性分化;(c)ゼラチンコーティングされた容器上でのRPE増殖;(d)懸濁性細胞支持マトリックス上で培養された第2継代のRPE。工程(a)は、TGFβスーパーファミリーのメンバー(例えばアクチビンA)の非存在下で行われ得る。多能性幹細胞からのRPE細胞の生産の非限定的な例は、国際公開第2021/242788号、国際公開2017/021973号、国際公開2017/021972号、国際公開2017/017686号、国際公開2016/108239号、国際公開2016/108239号、国際公開2016/108239号、国際公開2008/129554号、国際公開2006/070370号、国際公開2019/028088号、国際公開2021/242788号、国際公開2020/223226号及び国際公開第2013/114360号に見出され得る。これらの参考文献の各々は、全ての組成物、試薬及び細胞、並びに全ての方法、製造方法及び組成物、試薬及び細胞を使用する方法、並びにそれらの中に開示されている全ての他の情報について、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0095】
いくつかの態様において、工程(a)における培地は、TGFβスーパーファミリーのメンバーを完全に欠いている。他の態様において、培地中のTGFβスーパーファミリーメンバーのレベルは、20ng/mL未満、10ng/mL未満、1ng/mL未満、又はさらに0.1ng/mL未満である。濃度は、終点を含む、列挙された範囲内の任意の値又は部分範囲であってよい。
【0096】
上記プロトコルには、検証手順が後続し得る。検証手順は、以下の基準を含み得る。(a)CRALBP/PMEL17フローサイトメトリーによって測定される95%を超える純度を有する高純度のRPE細胞;(b)正味の経上皮電気抵抗(TEER)>100Ω/cm並びに極性をもったPEDF及びVEGFの分泌を有する解凍後の極性化した単層の生成;並びに/又は(c)高精度Fuzzy C-Mean(FCM)法によって確認された、フローサイトメトリーによって測定された場合にTRA-1-60/Oct-4を欠く残存幹細胞、例えばhESCがない。
【0097】
次いで、上記のプロトコルを使用して得られた細胞懸濁液は、例えばこれを必要とする患者中に移植され得る。細胞は、広大な領域に再定着することができ、必要とされる損傷を受けた空間に位置して、接触阻害に達するまで、拘束されたRPE細胞増殖によって増殖する。細胞は、TEER並びに極性をもったPEDF及びVEGFの分泌によって測定されるバッチ放出(BR)能力のためのバリア機能を有する成熟した極性化RPE層を生成することができる。得られた細胞懸濁液は解凍して患者に注射する準備ができており、手術前に細胞調製の必要がない。
【0098】
上記プロトコルは、3Lのバイオリアクタあたり5×10個のRPE細胞を有する約2500本のバイアルを与え得る。バイオリアクタの数及びバイオリアクタの容積は、比較的容易に増やすことができる。
【0099】
いくつかの態様によれば、免疫染色によって測定すると、細胞の少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、87%、89%、90%、又は95%が細胞性レチンアルデヒド結合タンパク質(CRALBP)を発現する。例えば、細胞の95~100%がCRALBPを発現する。パーセンテージは、終点を含む列挙された範囲内の任意の値又は部分範囲であり得る。
【0100】
別の態様によれば、免疫染色によって測定すると、細胞の少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、87%、89%、90%、又は95%が細胞メラノサイト系列特異的抗原GP100(PMEL17)を発現する。例えば、細胞の95~100%がPMEL17を発現する。パーセンテージは、終点を含む列挙された範囲内の任意の値又は部分範囲であり得る。
【0101】
一局面において、網膜色素上皮(RPE)細胞を増殖させるための方法であって、RPE細胞の集団を提供することと;第1の懸濁性細胞支持マトリックスを含有する培地に前記RPE細胞の集団を接種することと;動的懸濁状態にて前記第1の懸濁性細胞支持マトリックス上で前記RPE細胞の集団を増殖させて、増殖したRPE細胞の集団を提供することとを含む方法が本明細書において提供される。複数の態様において、RPE細胞の集団は、提供する工程の前に多能性幹細胞から分化したものである。
【0102】
一態様において、RPE細胞の集団は、静的条件下にて、固体表面上で増殖する。いくつかの態様において、固体表面は培養プレートである。いくつかの態様において、固体表面は培養フラスコである。いくつかの態様において、固体表面はマルチウェル培養皿である。
【0103】
一態様において、RPE細胞の集団は、第1の接種工程の前に、動的条件下にて、固体表面上で増殖したものである。いくつかの態様において、固体表面は、第2の懸濁性細胞支持マトリックスを含有する。
【0104】
いくつかの態様において、固体表面はコーティングされている。いくつかの態様において、固体表面は、ラミニン、マトリゲル、コラーゲン、ポリリジン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、テネイシン、デキストラン、ペプチド、又はこれらの組み合わせによってコーティングされている。いくつかの態様において、固体表面はラミニンでコーティングされている。いくつかの態様において、固体表面はマトリゲルでコーティングされている。いくつかの態様において、固体表面はコラーゲンでコーティングされている。いくつかの態様において、固体表面はポリリジンでコーティングされている。いくつかの態様において、固体表面はポリ-L-リジンでコーティングされている。いくつかの態様において、固体表面はポリ-D-リジンでコーティングされている。いくつかの態様において、固体表面はビトロネクチンでコーティングされている。いくつかの態様において、固体表面はフィブロネクチンでコーティングされている。いくつかの態様において、固体表面はテネイシンでコーティングされている。いくつかの態様において、固体表面はデキストランでコーティングされている。いくつかの態様において、固体表面はペプチドでコーティングされている。
【0105】
複数の態様において、RPE細胞の集団は、中間細胞バンクから提供される。いくつかの態様において、RPE細胞の集団は、RPE細胞を提供する前に、1継代の間、静的条件下にて固体表面上で増殖したものである。
【0106】
複数の態様において、第1の懸濁性細胞支持マトリックスはコーティングされていない。複数の態様において、懸濁性細胞支持マトリックスはコーティングされている。
【0107】
複数の態様において、多能性幹細胞からのRPE細胞の集団の分化は、i)多能性幹細胞を、多能性幹細胞の多能性を維持する条件下にて固体表面上で増殖させて、増殖した多能性幹細胞を提供することと;ii)増殖した多能性幹細胞を、分化誘導剤及び任意で成長因子を含む培地中で一定期間分化させて、RPE細胞の集団を提供することを含む。
【0108】
いくつかの態様において、固体表面は培養プレートである。いくつかの態様において、固体表面は、第2の懸濁性細胞支持マトリックスを含む。いくつかの態様において、多能性幹細胞は動的培養において増殖する。
【0109】
複数の態様において、方法工程ii)は、増殖した多能性幹細胞を分化させることを含む。いくつかの態様において、多能性幹細胞は、動的培養において第3の懸濁性細胞支持マトリックス上で増殖する。いくつかの態様において、工程i)からの増殖した多能性幹細胞は、工程ii)において第2の懸濁性細胞支持マトリックスに付着したままである。いくつかの態様において、方法工程ii)は、静的培養において、培養プレート上の増殖した多能性幹細胞を分化させることを含む。
【0110】
複数の態様において、多能性幹細胞は、第2の懸濁性細胞支持マトリックス及び/又は第3の懸濁性細胞支持マトリックスに接着した単層へと増殖する。いくつかの態様において、多能性幹細胞は、第2の懸濁性細胞支持マトリックスに接着した単層へと増殖する。いくつかの態様において、多能性幹細胞は、第3の懸濁性細胞支持マトリックスに接着した単層へと増殖する。いくつかの態様において、多能性幹細胞は、第2及び第3の懸濁性細胞支持マトリックスに接着した単層へと増殖する。
【0111】
複数の態様において、多能性幹細胞の多能性を維持するための条件は、フィーダー細胞を含まない。いくつかの態様において、多能性を維持するための条件は、フィーダー細胞集団を含む。
【0112】
複数の態様において、分化誘導試薬は、ニコチンアミドである。
【0113】
複数の態様において、成長因子は、TGFβファミリーのメンバーである。いくつかの態様において、トランスフォーミング成長因子B(TGFβ)スーパーファミリーのメンバーは、TGF1、TGF2及びTGF3サブタイプの他、アクチビン(例えば、アクチビンA、アクチビンB及びアクチビンAB)、ノーダル、抗ミュラー管ホルモン(AMH)、いくつかの骨形成タンパク質(BMP)、例えば、BMP2、BMP3、BMP4、BMP5、BMP6及びBMP7、並びに成長分化因子(GDF)を含む相同リガンド)である。具体的な態様によれば、トランスフォーミング成長因子-B(TGFβ)スーパーファミリーのメンバーはアクチビンAである。
【0114】
複数の態様において、第1の懸濁性細胞支持マトリックス、第2の懸濁性細胞支持マトリックス、及び/又は第3の懸濁性細胞支持マトリックスは、ポリスチレン、表面が修飾されたポリスチレン、化学的に修飾されたポリスチレン、架橋デキストラン、セルロース、アクリルアミド、コラーゲン、アルギナート、ゼラチン、ガラス、DEAE-デキストラン、又はこれらの組み合わせから構成される。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスはポリスチレンから構成される。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスは、表面が修飾されたポリスチレンから構成される。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスは、化学的に修飾されたポリスチレンから構成される。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスは、架橋デキストランから構成される。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスは、セルロースから構成される。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスは、アクリルアミドから構成される。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスは、コラーゲンから構成される。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスはアルギナートから構成される。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスはゼラチンから構成される。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスはガラスから構成される。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスは、DEAE-デキストランから構成される。
【0115】
複数の態様において、第1の懸濁性細胞支持マトリックス、第2の懸濁性細胞支持マトリックス、及び/又は第3の懸濁性細胞支持マトリックスはコーティングされていない。いくつかの態様において、第1の懸濁性細胞支持マトリックス、第2の懸濁性細胞支持マトリックス、及び/又は第3の懸濁性細胞支持マトリックスがコーティングされる。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスは、ラミニン、マトリゲル、コラーゲン、ポリリジン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、テネイシン、デキストラン、ペプチド、又はこれらの組み合わせによってコーティングされている。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスはラミニンでコーティングされている。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスはマトリゲルでコーティングされている。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスはコラーゲンでコーティングされている。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスは、ポリリジンでコーティングされる。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスは、ポリ-L-リジンでコーティングされている。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスは、ポリ-D-リジンでコーティングされている。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスは、ビトロネクチンでコーティングされている。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスは、フィブロネクチンでコーティングされている。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスはテネイシンでコーティングされている。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスはデキストランでコーティングされる。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスはペプチドでコーティングされている。
【0116】
複数の態様において、第1の懸濁性細胞支持マトリックス、第2の懸濁性細胞支持マトリックス、及び/又は第3の懸濁性細胞支持マトリックスは、球形、楕円形、棒状、円盤状、多孔質、非多孔質、滑らか、平坦、又はこれらの組み合わせである。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスは球形である。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスは楕円形である。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスは棒状である。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスは円盤状である。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスは多孔質である。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスは非多孔質である。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスは滑らかである。いくつかの態様において、懸濁性細胞支持マトリックスは平坦である。
【0117】
複数の態様において、第1の懸濁性細胞支持マトリックス、第2の懸濁性細胞支持マトリックス及び第3の懸濁性細胞支持マトリックスは同じである。いくつかの態様において、第1の懸濁性細胞支持マトリックス、第2の懸濁性細胞支持マトリックス及び第3の懸濁性細胞支持マトリックスのうちの少なくとも2つは同じである。いくつかの態様において、第1の懸濁性細胞支持マトリックス、第2の懸濁性細胞支持マトリックス及び第3の懸濁性細胞支持マトリックスは異なる。
【0118】
複数の態様において、懸濁性細胞支持マトリックスはマイクロキャリアである。いくつかの態様において、第1の懸濁性細胞支持マトリックスは第1のマイクロキャリアである。いくつかの態様において、第2の懸濁性細胞支持マトリックスは、第2のマイクロキャリアである。いくつかの態様において、第3の懸濁性細胞支持マトリックスは、第3のマイクロキャリアである。
【0119】
複数の態様において、RPE細胞の集団は、P0(分化後又はICBからの接種後の初期増殖期)の間は2~4、P1(P0後の第1の継代)の間は2~3、P2(第2の継代)の間は1~2の集団倍加レベルを有する。
【0120】
いくつかの態様において、本明細書に記載のRPE細胞の増殖は、所与の時間にわたって増殖した細胞の数の増加をもたらし得る。例えば、1年の間、ICBなしでは、2つの異なるバッチを同じ場所で増殖させれば、1組当たり4つのバッチを増殖させ得る。対照的に、ICBありでは、1年で、同じサイズの1組当たり10バッチ、例えば、2バッチを同時に増殖させることなく3倍の量を増殖させ得る。いくつかの態様において、増殖の終了時におけるRPE細胞の数は、ICBを使用した場合、使用しない場合と比較して約2倍多い。いくつかの態様において、増殖の終了時におけるRPE細胞の数は、ICBを使用した場合、約3倍多い。いくつかの態様において、増殖の終了時におけるRPE細胞の数は、ICBを使用した場合、約4倍多い。いくつかの態様において、RPE増殖のコストは、ICBを使用しない場合よりもICBを使用する場合の方がより低い。
【0121】
複数の態様において、RPE細胞の増殖のための条件は、溶存酸素%を30%超に維持することを含む。
【0122】
複数の態様において、RPE細胞の増殖のための条件は、系全体の増殖チャンバー容積の約50%から始まる最初の増殖培地体積を含む。複数の態様において、系全体の増殖チャンバー容積の約10%~約25%、例えば、約16.6%の増殖培地体積が定期的に添加される。複数の態様において、増殖培地体積は、2~4日毎に添加される。
【0123】
複数の態様において、RPE細胞は、成熟RPE細胞に特徴的である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞は、フローサイトメトリーによって測定された場合に、95%超で細胞性レチンアルデヒド結合タンパク質(CRALBP)及びプレメラノソームタンパク質(PMEL17)に対して二重陽性である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞は、解凍後に正味の経上皮電気抵抗(TEER)>100Ω/cm並びにPEDF及びVEGFの極性分泌を有する極性化単層を生成する。
【0124】
いくつかの態様において、成熟RPE細胞は凍結保存されており、解凍すれば対象に直ちに投与できる。複数の態様において、RPE細胞は、凍結保存培地中で凍結保存される。複数の態様において、凍結保存培地は、凍結保護剤、例えばグリセロール、スクロース、ジメチルスルホキシド(DMSO)又は他の適切な凍結保護剤を含む。複数の態様において、凍結保護剤はグリセロールを含む。複数の態様において、凍結保護剤はスクロースを含む。複数の態様において、凍結保護剤はDMSOを含む。複数の態様において、凍結保護剤はデキストランを含む。
【0125】
複数の態様において、凍結保存培地は、約0.1%~約40%の凍結保護剤を含む。複数の態様において、凍結保存培地は、約0.1%~約30%の凍結保護剤を含む。複数の態様において、凍結保存培地は、約0.1%~約20%の凍結保護剤を含む。複数の態様において、凍結保存培地は、約0.1%~約10%の凍結保護剤を含む。複数の態様において、凍結保存培地は、約0.1%~約5%の凍結保護剤を含む。複数の態様において、凍結保存培地は、約1%~約40%の凍結保護剤を含む。複数の態様において、凍結保存培地は、約1%~約30%の凍結保護剤を含む。複数の態様において、凍結保存培地は、約1%~約20%の凍結保護剤を含む。複数の態様において、凍結保存培地は、約1%~約10%の凍結保護剤を含む。複数の態様において、凍結保存培地は、約1%~約5%の凍結保護剤を含む。パーセンテージは、培地の体積あたりの凍結保護剤の重量として測定され得る。パーセンテージは、培地の体積あたりの凍結保護剤の体積として測定され得る。パーセンテージは、終点を含む列挙された範囲内の任意の値又は部分範囲であり得る。
【0126】
いくつかの態様において、成熟RPE細胞は、高精度フローサイトメトリー法(FCM)によって確認された場合に、0.01%未満の多能性幹細胞を含有し、フローサイトメトリーによって測定された場合に、TRA-1-60/Oct-4について陰性である。
【0127】
いくつかの態様において、RPE細胞は、分化後製剤化までの増殖中の全ての継代で、及び細胞懸濁液としての注射後に、多角形単層を生成する。
【0128】
複数の態様において、本方法の1つ又は複数の工程は、使い捨てバイオリアクタ中で行われる。複数の態様において、RPE細胞の増殖は、使い捨てバイオリアクタ中で行われる。複数の態様において、RPE細胞の分化は、使い捨てバイオリアクタ中で行われる。
【0129】
処置の方法
本明細書の態様は、一般に、黄斑変性などの網膜症状を含む眼の疾患及び病気を処置するための方法、組成物及び装置に関する。
【0130】
一局面において、眼の障害又は疾患を処置する方法であって、眼の障害又は疾患を処置することを必要とする患者の網膜組織中に、本明細書に記載の網膜色素上皮(RPE)細胞の増殖の方法から生成されたRPE細胞を含有する医薬組成物を移植することを含む方法。
【0131】
複数の態様において、眼の障害又は疾患は、加齢黄斑変性(AMD)、ベスト病(早発型の卵黄様黄斑ジストロフィー)を含む遺伝性黄斑変性、又は網膜色素変性症(RP)のサブタイプである。複数の態様において、眼の障害又は疾患は、加齢黄斑変性(AMD)である。複数の態様において、眼の障害又は疾患は、遺伝性黄斑変性である。複数の態様において、眼の障害又は疾患は、ベスト病(早発型の卵黄様黄斑ジストロフィー)である。複数の態様において、眼の障害又は疾患は、網膜色素変性症(RP)のサブタイプである。
【0132】
複数の態様において、RPE細胞の集団は、フローサイトメトリーによって測定した場合に、成熟RPE細胞が95%超で細胞性レチンアルデヒド結合タンパク質(CRALBP)及びプレメラノソームタンパク質(PMEL17)について二重陽性であると決定すること;前記成熟RPE細胞が、>100Ω/cm2の正味の経上皮電気抵抗(TEER)並びにPEDF及びVEGFの極性分泌を有する極性化単層を解凍後に生成することを決定することを含み;並びに/又は成熟RPE細胞は、高精度フローサイトメトリー法(FCM)によって確認された場合に、0.01%未満の多能性幹細胞を含み、フローサイトメトリーによって測定された場合に、TRA-1-60/Oct-4について陰性である製品リリース決定に基づいて、患者において直ちに使用できる。
【0133】
いくつかの態様において、RPE細胞は、分化後製剤化までの増殖中の全ての継代で、及び細胞懸濁液としての注射後に、多角形単層を生成する。
【0134】
複数の態様において、成熟RPE細胞の濃度は、50~200マイクロリットル当たり10,000~500,000個の細胞の範囲である。複数の態様において、成熟RPE細胞の濃度は、50~200マイクロリットル当たり15,000~300,000個の細胞の範囲である。複数の態様において、成熟RPE細胞の濃度は、50~200マイクロリットル当たり25,000~250,000個の細胞の範囲である。複数の態様において、成熟RPE細胞の濃度は、50~200マイクロリットル当たり50,000~250,000個の細胞の範囲である。複数の態様において、成熟RPE細胞の濃度は、50マイクロリットル当たり10,000~500,000個の細胞の範囲である。複数の態様において、成熟RPE細胞の濃度は、50マイクロリットル当たり15,000~300,000個の細胞の範囲である。複数の態様において、成熟RPE細胞の濃度は、50マイクロリットル当たり25,000~250,000個の細胞の範囲である。複数の態様において、成熟RPE細胞の濃度は、50マイクロリットル当たり50,000~250,000個の細胞の範囲である。複数の態様において、成熟RPE細胞の濃度は、100マイクロリットル当たり10,000~500,000個の細胞の範囲である。複数の態様において、成熟RPE細胞の濃度は、100マイクロリットル当たり15,000~300,000個の細胞の範囲である。複数の態様において、成熟RPE細胞の濃度は、100マイクロリットル当たり25,000~250,000個の細胞の範囲である。複数の態様において、成熟RPE細胞の濃度は、100マイクロリットル当たり50,000~250,000個の細胞の範囲である。複数の態様において、成熟RPE細胞の濃度は、150マイクロリットル当たり10,000~500,000個の細胞の範囲である。複数の態様において、成熟RPE細胞の濃度は、150マイクロリットル当たり15,000~300,000個の細胞の範囲である。複数の態様において、成熟RPE細胞の濃度は、150マイクロリットル当たり25,000~250,000個の細胞の範囲である。複数の態様において、成熟RPE細胞の濃度は、150マイクロリットル当たり50,000~250,000個の細胞の範囲である。複数の態様において、成熟RPE細胞の濃度は、200マイクロリットル当たり10,000~500,000個の細胞の範囲である。複数の態様において、成熟RPE細胞の濃度は、200マイクロリットル当たり15,000~300,000個の細胞の範囲である。複数の態様において、成熟RPE細胞の濃度は、200マイクロリットル当たり25,000~250,000個の細胞の範囲である。複数の態様において、成熟RPE細胞の濃度は、200マイクロリットル当たり50,000~250,000個の細胞の範囲である。濃度は、終点を含む、列挙された範囲内の任意の値又は部分範囲であってよい。
【0135】
いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、50マイクロリットル当たり約25,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、50マイクロリットル当たり約50,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、50マイクロリットル当たり約75,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、50マイクロリットル当たり約100,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、50マイクロリットル当たり約125,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、50マイクロリットル当たり約150,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、50マイクロリットル当たり約175,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、50マイクロリットル当たり約200,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、50マイクロリットル当たり約225,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、50マイクロリットル当たり約250,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、100マイクロリットル当たり約25,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、100マイクロリットル当たり約50,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、100マイクロリットル当たり約75,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、100マイクロリットル当たり約100,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、100マイクロリットル当たり約125,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、100マイクロリットル当たり約150,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、100マイクロリットル当たり約175,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、100マイクロリットル当たり約200,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、100マイクロリットル当たり約225,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、100マイクロリットル当たり約250,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、150マイクロリットル当たり約25,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、150マイクロリットル当たり約50,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、150マイクロリットル当たり約75,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、150マイクロリットル当たり約100,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、150マイクロリットル当たり約125,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、100マイクロリットル当たり約150,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、150マイクロリットル当たり約175,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、150マイクロリットル当たり約200,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、150マイクロリットル当たり約225,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、150マイクロリットル当たり約250,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、200マイクロリットル当たり25,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、200マイクロリットル当たり約50,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、200マイクロリットル当たり約75,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、200マイクロリットル当たり約100,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、200マイクロリットル当たり約125,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、200マイクロリットル当たり約150,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、200マイクロリットル当たり約175,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、200マイクロリットル当たり約200,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、200マイクロリットル当たり約225,000個の細胞である。いくつかの態様において、成熟RPE細胞の濃度は、200マイクロリットル当たり約250,000個の細胞である。
【0136】
いくつかの態様において、医薬組成物は、解凍されて、注射前の細胞調製なしで対象に注射されるように、製剤化されている。
【0137】
一態様によれば、移植は、経扁平部硝子体切除術(pars plane vitrectomy)手術の後、小さな網膜開口部を通じて網膜下腔内に又は直接注射によって細胞を送達することを介して行われる。
【0138】
特定の態様において、投与は、硝子体切除術後の、小さな網膜切開術によるカニューレを介した黄斑領域内の網膜下腔へのRTA治療用細胞組成物の送達を含み得る。細胞用量に応じて、総体積50~100μLの細胞懸濁液を、GA拡大の潜在的リスクがある領域に埋め込むことができる。
【0139】
いくつかの態様においては、GAが存在する場合GAの領域及びより良好に保存された中心窩外網膜とRPE層との間の境界に沿って、黄斑領域内に作られた網膜下腔内に、硝子体切除術後の小さな網膜切開術を通じてRTA治療用細胞組成物が送達される単一の外科的手順が実施される。開瞼器の配置後、標準的な3ポート硝子体切除術を実施することができる。これは、23G又は25G注入カニューレ及び2つの23G又は25/23Gポート(トロカール)の配置を含み得る。次いで、23G又は25Gの器具を用いてコア硝子体切除術を行い、その後、後部硝子体面を剥離させることができる。RTA治療用細胞組成物は、後極内の所定の部位の網膜下腔内に、好ましくは、GAが存在する場合GAの境界の近くに依然として比較的保存されている領域内の網膜を貫通して注射され得る。
【0140】
医薬組成物
いくつかの局面において、本開示は、多能性細胞に由来する網膜色素上皮(RPE)細胞を含む細胞治療剤である。そのような細胞治療剤としては、OPREGEN(登録商標)が挙げられるが、これに限定されることは意図されていない。
【0141】
一局面において、本明細書に記載のRPE細胞の増殖方法から生成されたRPE細胞を含有する医薬組成物が本明細書で提供される。
【0142】
複数の態様において、組成物は、患者に使用する前に凍結される。複数の態様において、組成物は、解凍されて、注射前の細胞調製なしで対象に注射されるように、製剤化されている。
【実施例
【0143】
実施例1
本実施例の目的は、高度に制御された培養系においてフィーダーフリーhESC(FF hESC)の増殖を用いて培養されたRPE細胞の膜形成を実証することである。次いで、ゼラチンでコーティングされた容器上でのRPE増殖のために、TGFβスーパーファミリーのメンバー(例えばアクチビンA)及び分化誘導剤(例えばニコチンアミド)を含む培地中での細胞のフィーダーフリー単層指向性分化を使用することができ、マイクロキャリア(MC)上で培養された第2継代のRPEを移植のために使用することができる。FF hESCの増殖は、TGFβスーパーファミリーのメンバー(例えばアクチビンA)の非存在下で行われ得る。
【0144】
本明細書に記載の方法を使用して培養されたRPE細胞は、細胞懸濁液として注射した場合でさえ、多角形単層膜を生成することができる。RPE細胞は、分化後かつ製剤化までの増殖中に全ての継代でそのような多角形単層膜を生成する。図1は、播種後4日目に始まり、組織化し、9日目(採集日)に高密度多角形形態に達する、RPE増殖でのP1継代中のRPE細胞を示す。
【0145】
実施例2
本実施例の目的は、Corning使い捨て0.1Lスピナーフラスコ内でのRPE細胞の増殖のための小規模プロセスの開発を要約することである。
【0146】
小規模容器でのこの開発は、制御された増殖条件でOPREGEN(登録商標)を製造するために、バイオリアクタ内のRPE細胞の増殖をスケールアップする前の予備工程である。この方法では、分化したRPEをプラスチックMC上に播種し、1~2継代増殖させた。プラスチックの種類、MCの濃度及びMCの面積当たりの播種細胞密度などのいくつかのパラメータを試験し、最適化した。
【0147】
RPE細胞をスピナーフラスコ内のMC上で増殖させた。対照Tフラスコと比較して、いくつかの条件を段階的に試験した。他のプロセス修正を各実行中に実施し、プロセス開発に沿って文書に記録した。試験したパラメータは以下を含んでいた:
MCの種類のスクリーニング- Pall Sollohil(Star Plus、Plastic Plus、Hillex II)Corning Synthmax(Hi,Low,CellBind);
播種密度- 様々な細胞密度、60,000~120,000個の細胞/cmの範囲で細胞を播種した。
シード撹拌- 30分毎に5分間休止しながら40RPM、水平管中で10RPM、40RPMで一定;
栄養供給レジメン- 培地交換又はフェドバッチレジメンのいずれかによって細胞に栄養供給した。増殖培地を週に2~3回交換(半分の体積)又は添加(28~56%)した。
血清濃度低下- TCフラスコ(EXP29 A~C)で行われた研究の追跡調査、20% HS/DMEMの標準的な播種培地を2% HS/Nutマイナス/HSA、又は0% HS/Nutマイナス/HASによって置き換えた;
ニコチンアミド- 増殖培地へのニコチンアミドの添加あり又はなし;及び
MC濃度- 5~20cm/mL(360cm/gr、0.5~2gr/スピナーフラスコ)の範囲のスピナーフラスコ内でいくつかのMC濃度を試験した。

表1:研究デザイン
【0148】
実験手順:
RPE細胞を直接解凍するか、又は6ウェルプレートのウェル中(EXP27A)若しくは0.1L Corningスピナーフラスコ内(EXP27 B~C、G~K)の異なる種類のMC(表2)上に播種する前にTフラスコ内で増殖させた。
【0149】
フィーダーフリーhESCに由来する分化したRPE細胞の非凍結源を、スピナーフラスコ内のStar plus MC(表2-1行目)上で増殖させた(EXP27D~F、L)。
【0150】
NC-200細胞計数器を使用して細胞を計数し、播種された細胞の数で割ることによって収率を計算した。
【0151】
細胞形態並びにラクタート及びグルコースのレベルを継代に沿って調べた。
【0152】
継代終了時に、各条件のRPE培養物を採集し、収率を対照フラスコと比較した。1又は複数回の連続継代で、収率及び形態を対照Tフラスコと比較した。
【0153】
いくつかの実験では、継代終了時の凍結細胞試料を回収、同一性及び効力について試験した。
【0154】
適切なMCの種類のスクリーニング

表2-EXP27研究において試験されたマイクロキャリア。
【0155】
最適な細胞密度
【0156】
RPEの増殖に対する播種細胞密度の効果は、研究EXP27C、EXP27D、EXP27F及びEXP27Hで行われた。

表3:Star-Plus MC上での、様々な密度でのRPE細胞播種の結果の要約
収率は、継代最終日に採集された細胞の数を継代0日の播種された細胞の数で割ることによって計算された。

結論:RPE細胞は、試験した全ての播種密度で、組織培養フラスコ上と同様にMC上で効率的に増殖する。
【0157】
フェドバッチ対1/2培地交換
MC上でのRPE増殖に対する様々な栄養供給レジメンの効果を研究EXP27C、EXP27D、EXP27F及びEXP27Hで試験した。

表4-栄養供給プロセスを最適化するための、スピナーフラスコ内でのRPE細胞増殖に沿った2つの栄養供給レジメンの試験の結果の要約

表5-解凍後の回収純度及び効力(TEER並びに分泌されたPEDF及びVEGF)を研究REC#3、RM119で試験した。
【0158】
結論-結果は、2つの栄養供給方法について同様の値を示した。スケールアップがより簡単であるため、フェドバッチを選択した。
【0159】
MC濃度
【0160】
RPE増殖に対する播種時の様々なMC濃度の効果を、P2の間、EXP27H及びEXP27Lの研究で試験した。

表6-MC濃度の試験P2 RPE細胞を約56,000個の細胞/cm2(EXP27H)又は約88,000個の細胞/cm (EXP27L)の細胞密度で播種した。

結論:
1.MC濃度は5~10cm/mLの範囲で最適であった。最適であると決定されたMC濃度は、7.2cm/mL、すなわちスピナーフラスコ内の50mL接種培地中1グラムのMC(360cm)であった。
2.継代終了時に最も高い細胞密度を可能にするので、最も効率的なMC濃度は、10cm/mLである。20cm/mLで、2倍多くの細胞が播種されたとしても、最終的な収率は、半分のMC濃度によって達成されるものに非常に近い。
接種培地中の低下した血清

表7:低下した試験

結論-継代終了時に細胞密度をより高くすることを可能にし、より高い収率及び容器当たりの総細胞をもたらすので、TCフラスコ内で行われた他の研究と同様に、Nut/HSA中の2%HS濃度は、標準的な20%HS/DMEM播種培地を置き換えることができる。

表8:MC上での増殖の間のNicの存在

結論:Nicの添加は、各継代の最終細胞収率の50%の増加をもたらした。結果は有意であった(P<0.05)

0.1Lスピナーフラスコ内のmc上でのRPE増殖の開発段階についての結論:
1.試験した6種類のMCから、Star-Plus MCがRPE増殖を最もよく支持することが明らかとなった。
2.RPE細胞は、90,000個の細胞/cm~120,000個の細胞/cmの範囲で良好に増殖した。この密度範囲は、TCフラスコで見られた範囲と同一である。
3.RPE増殖は、2つの栄養供給方法で同等であった。MCを使用する場合のスケールアップがより簡単であり、費用対効果がより高いので、1/2培地交換よりフェドバッチを選択した。
4.継代終了時に最も高い細胞密度を可能にするので、最も効率的なMC濃度は、10cm/mLであることが明らかとなった。20cm/mLで、2倍多くの細胞が播種されたとしても、最終的な収率は、半分のMC濃度によって達成されるものに非常に近かった。
5.継代終了時により高い細胞密度を可能にするので、TCフラスコ内で行われた以前の研究と同様に、nut/HSA中の2%HS濃度は、標準的な20%HS/DMEM播種培地を置き換えることができる。収率及び容器あたりの総細胞もより高かった。
6.Nicの添加は、各継代の最終細胞収率の50%の増加をもたらした。結果は有意であった(p<0.05)
【0161】
実施例3
さらなる適切なMCの種類のスクリーニング
【0162】
RPE-Pro-05研究では、RPE増殖を支持するための適合性について、追加のMCの種類をスクリーニングした。この研究で試験された市販のマイクロキャリアを表9に示す。

表9:RPE増殖に対するMC適合性のさらなる試験
【0163】
実施例4
本実施例の目的は、EppendorfのBioFlo 320バイオプロセスシステムによって監視された、Eppendorfの使い捨て3Lバイオリアクタ(SUB)BioBlu 3C中でのRPE細胞の増殖のためのスケールアップされたプロセスの開発を要約することである。
【0164】
スピナーフラスコ内のStar Plusマイクロキャリア(MC)上でのRPE増殖の開発は、バイオリアクタ中の制御された条件下にて、マイクロキャリア(MC)上でRPE細胞を増殖させるための予備研究においてさらに適用することができるプロセスパラメータについての基礎を提供した。これらのパラメータは、播種細胞密度、播種撹拌速度、MC濃度、及び栄養供給方式である。
【0165】
この系は、その独自のソフトウェアを利用して、通気方式(空気、O、CO、N)pH、温度及び撹拌速度を含む、細胞培養において必要とされるプロセスパラメータの変化する継続的な制御を要求する細胞培養用途を監視及び制御する。
【0166】
培地含有バッグを接続するためにバイオウェルダーを利用することにより、SUBを「閉鎖系」として維持することが可能となった。大幅なスケールアップを支持することができる閉鎖系を維持することを目的として、以前は開放した40ミクロンメッシュを使用して手動で行われていたMC及び他の大きな粒子(マトリックス及び細胞凝集体)からRPE細胞を分離するための現行のろ過手順は置き換えられた。
【0167】
材料、装置及び細胞
【0168】
表10:材料
【0169】
表11 装置
【0170】
略語及び定義
CS5-Cryostor 5%
DP-製剤
FFMD-フィーダーフリー単層分化
HSA-ヒト血清アルブミン
ICB-中間細胞バンク
MC-マイクロキャリア
Nic-ニコチンアミド
NUTS-Nutristem(細胞培養培地)
OpRegen(登録商標)TAI-OpRegen(登録商標)’Thaw-and-Inject’
RPE-網膜色素上皮細胞。
RPM-分当たり回転数
SF-スピナーフラスコ
SUB-使い捨てバイオリアクタ
【0171】
実験デザイン
【0172】
T175フラスコ上で、P0(RPE細胞分化の終了及び増殖の開始)から第1の継代、P1、9~14日の終了まで、RPE細胞を増殖させた。次いで、細胞を採集し、90,000~120,000個の細胞/cmの細胞密度で、3.6~7.2cm/mLのMC濃度でSUBに接種した。接種の3~4日後、培地(20%HS/DMEM)を、HSAを含む又は含まない増殖培地Nutristem minus(Nut(-))で置き換えた。培地添加の前にグルコース及びラクタートレベルを測定し、グルコースを2~3グラム/Lになるように(加えて、現在の消費に従って週末分を補うための追加のグルコース)補充した。
【0173】
MC上での増殖に対する対照として、接種後約10分の細胞をSUBからサンプリングし、並行して培養するスピナーフラスコに移した。他のプロセス修正が各実行中に試験及び実施され、表12に記録されている。

表12:実行順の研究デザインリスト
【0174】
実験手順
【0175】
解凍された又は進行中の分化RPE細胞源は、ヒト臍帯上又はフィーダーフリー条件で増殖させたhESCに由来し、SUB中のMC上に播種する前にTフラスコ内で増殖させた。NC-200細胞計数器を使用して細胞を計数し、接種された細胞の数で割ることによって収率を計算した。細胞形態並びにラクタート及びグルコースレベルを継代に沿って調べた。継代の終わりに、各条件のRPE細胞培養物を採集し、収率を対照スピナーフラスコ(SUB接種体積の1/30(50ml)で、SUB接種の10分後に採取されたRPE細胞と培養)と比較した。いくつかの実験では、継代終了時の凍結細胞試料を回収、同一性及び効力について試験した。

表13-開発において使用された細胞
【0176】
結果
【0177】
主な発見が以下にまとめられている。形態は図2に示されている。示されたMCS研究の形態的評定は、MC表面上のRPE細胞の外層を示す。継代の終わり近くでの(図2に日数が示されている)、MCに付着したRPE細胞の4×対物レンズでの代表的な位相画像。
【0178】
収率

表14:細胞数及び接種時の関連パラメータ及び最終収率の推定
【0179】
MCS1及びMCS2では、培養物をスピナーフラスコ内に移した。最終的な示された収率は、採集されたスピナーフラスコから得られる。**MCS7及びMCS8では、継代に沿っていくつかの試料(それぞれ全体積の3%)を採取した。表14に示されているMC表面積(第3列-最終表面密度)は採集時の最終である;接種MC表面積は、MCS7-10,800cm、MCS8-8,208cmであった。
【0180】
グルコース及びラクタートの測定

表15:継代に沿ったグルコース消費速度

表16:継代に沿ったラクタート消費速度
【0181】
グルコース消費及びラクタート生産は、現在のレベルから前のレベル(nmol/mL)を差し引き、結果を前の測定以来の期間(日数)で割ることによって計算した。CHO細胞などのバイオリアクタで培養されるほとんどの細胞株では、ラクタート生産レベルは継続的に増加するが、RPE細胞培養では増加しない。グルコース消費の相対的減少は、培養が集密状態に達したことを示したのに対して、ラクタート生産の減少は、RPE細胞によるラクタート消費を伴い得る、解糖から酸化的リン酸化へのシフトを示す。

表17 TEER測定値(QC-WIN-11による改変アッセイの結果)
【0182】
結論
【0183】
BioFlo 320バイオプロセスシステムと組み合わされたBioBlu 3C SUBは、制御された及び監視された環境下でMC上でのRPE細胞の増殖を維持及び支持する上での再現性及び堅牢性を実証した。3気体ミックスアルゴリズム(O、CO及び空気)は、RPE増殖を30%DO設定点に維持するのに有効である。プロセスに沿って撹拌を調整した;十分な細胞付着接種を達成するために、22RPMで実行し、次いで、MCの完全な懸濁のために撹拌をさらに29RPMまで増加させ、最後に撹拌を40RPMまで上昇させて培養物中のガス溶解の効率を増加させ、増殖している細胞による酸素消費速度の増加を促進した。4つの独立した実行(MCS3、MCS6、MCS7及びMCS8)は、ろ過前のBioBlu 3C SUB中での増殖終了時に良好な細胞収率を与えた。Sartopure 50μmフィルタを使用したろ過は、2つの実行において成功したが、2つの他の実行では、細胞の有意な喪失が観察された。ろ過プロセスをさらに改善するための努力が継続中である。3つの実行のうちの2つにおいて、解凍されたバイアルは効力アッセイに合格し、MC上のSUB中で増殖させたRPE細胞がそれらの特性及び生物学的活性を保持したことを示した。最適な採集日は14日目であることが明らかとなったので、将来の細胞採集は、運用上の柔軟性を可能にするために13~14日目に実行されるであろう。
【0184】
最終的なプロセスパラメータを表18に要約する。

表18:溶液体積、MC量及びプロセスパラメータの設定点

表19.データの要約
【0185】
実施例5
本実施例は、以前に確立されたプロセス開発に基づいて、EppendorfのBioflo 320バイオプロセスシステムを使用する3L使い捨てバイオリアクタ中のMC上での(一増殖継代のための)RPE細胞の増殖のためのスケールアップされた生産プロセスの開発を要約する。
【0186】
OPREGEN(登録商標)「Thaw-and-Injetct」(OPREGEN(登録商標)TAI)プロセス開発は、監視された及び制御された条件下での、網膜色素上皮(RPE)細胞の接種、増殖及び採集を包含する大規模生産プロセスの実施を含む。このスケールアップされたプロセスの開発は、RPE細胞の最終(P2)増殖期におけるRPE細胞の増殖に焦点を当てており、より早期の増殖期(P0及びP1)は、現在、フラスコ依存性のままであり、現在の実施から変化していない。
【0187】
フラスコ依存性プロセスから大規模な半自動化閉鎖系へのこの移行の基礎は、2つの基本的な変化に依存する。1つは、卓上バイオプロセスシステム、例えば、EppendorfのBioFlo 320に、細胞培養プロセスにおいて使い捨て容器を制御するための柔軟性を組み込んだことである。この系は、その独自のソフトウェアを利用して、細胞培養において必要とされるプロセスパラメータの変化する継続的な制御を要求する細胞培養用途を監視及び制御する。第2の変化は、RPE細胞の接着のために必要とされる表面を提供するマイクロキャリア(MC)上でRPE細胞を増殖させる能力であり、OPREGEN(登録商標)の品質属性及び特徴に影響を与えることなくゼラチンでコーティングされた組織培養フラスコ表面を置き換える。この開発されたプロセスは、OPREGEN(登録商標)生産プロセス中の無菌リスクを軽減するという全体的な意図にも寄与する。
【0188】
目的及び範囲
【0189】
EppendorfのBioflo 320バイオプロセスシステムを使用する3L使い捨てバイオリアクタ中のMC上でのRPE細胞の増殖(一継代の増殖)のためのスケールアップされた生産プロセスの開発を要約する。OPREGEN(登録商標)TAIスケールアップ製造プロセスを紹介し、描写する。
【0190】
略語及び定義
BioFlo 320-Eppendorfの自動監視及び制御バイオプロセスシステム。
BLOD-検出限界未満
不感帯-出力に変化が存在しない指定された範囲内の入力のスパン。
DMEM-ダルベッコ改変イーグル培地。
DO-溶存酸素(%)。
DS-原体。
ECM-細胞外マトリックス。
フェドバッチ-培養中に1つ又は複数の栄養素がバイオリアクタに栄養供給(供給)され、生成物が実行の終了までバイオリアクタ内に留まる操作技術。
FF-フィーダーフリーhESC。
FFMD-フィーダーフリー単層分化。
GRP-群
HS-ヒト血清。
HSA-ヒト血清アルブミン。
ICB-中間細胞バンク。
接種-バイオリアクタ内への細胞の移入。
LM521-ラミニン521。
MC-マイクロキャリア。
NUT(-)/HSA-HSAを含有するNutriStem(細胞培養培地)。
OpRegen(登録商標)TAI-OpRegen(登録商標)「Thaw-and-Inject」(新しいOpRegen(登録商標)製剤)。
PBS-リン酸緩衝生理食塩水
RPE-網膜色素上皮細胞。
RPM-分当たり回転数。
SF-スピナーフラスコ。
SLPM-分当たり標準リットル。
SP-設定点。
SUB-使い捨てバイオリアクタ。
温度-温度。
w/v-重量対体積比。

表20.材料及び消耗品。

表21.装置
【0191】
実験手順:
【0192】
P1の最後での、T175フラスコ上で増殖させた分化したRPE細胞の採集。組換えヒトゼラチンでコーティングされたT175フラスコ上で増殖させた、FFMDプロセスでの分化したRPE細胞の採集(MCS9を除いて、細胞はICBから解凍され、SUB接種前にフラスコ上で増殖させた)。P2への1RPE増殖継代のために(P1で接種されたMCS11Aを除く)、フラスコ内で進行中のRPE FFMD分化手順からの採集されたRPE細胞(ICBから生じたMCS9を除く)をSUBに接種する。各実行の細胞の起源を以下の表22に記載する。

表22:開発研究における細胞起源
ICBからの解凍された細胞。
【0193】
SUB接種MC種類の選択、接種に必要な細胞数及び接種パラメータ(培地体積及び撹拌速度)を、Corningスピナーフラスコを用いて開発した。MC上の採集されたRPE細胞のSUBへの接種は、フラスコを採集することから得られたRPE細胞の最終収率に応じて、100,000~120,000個の生細胞/cmのMCに最適化された。MCのHSでのコーティングを可能にして、細胞接着を改善し、SUB中に均一なMC懸濁液を達成するために、接種前に、37℃で、SUB中で接種培地(20% HS/DMEM)及びMCを少なくとも20分間平衡化させる。DO、pH、ガス処理及び培地交換/添加などの他のパラメータは、MCS1~MCS8研究中に確立されたとおりである。
【0194】
撹拌速度
【0195】
スピナーフラスコとSUBは、羽根車と容器のサイズ及び形状が大きく異なるため、十分な混合及び酸素移動を可能にしながら、スピナーフラスコからSUBへの移行中に比較的一定の剪断力レベルを維持するための「一定の羽根車先端速度」原理を適用することによって撹拌速度を確立した。「一定の先端速度」は、以下の式Iに従って計算した。
先端速度=π×d×N
式中、d=羽根車の外径(m)
N=撹拌速度(rpm)

表23:SUB接種条件
【0196】
接種条件を4日間維持した後、培地を交換した。

表24:研究あたりのSUB接種サイズ
【0197】
プロトコルに記録されているように、様々な研究管理のために、総接種生細胞数の約3.3%をSUBから採取した。
【0198】
3L SUB中のMC上でのRPE細胞の増殖
【0199】
接種後4日目に、接種培地を同体積(1.5L)のNUT(-)/HSAで置き換え、細胞付着を確認するためにMCへの細胞の付着を観察した。RPE細胞の増殖は、フェドバッチ栄養供給方式並びに温度、DO、pH、撹拌及びガス処理の制御されたパラメータの下で行われた。栄養供給方式、温度及び撹拌速度は、Tフラスコ及びSFを使用して以前に確立されているが、環境パラメータ-DO、pH及びガス処理-は、SFでの以前の経験に基づいてスケールアップすることができなかった。これらのパラメータ設定点は、以前のMCS1~8の実行及び一般的な慣行に基づいて開発及び確立された。
【0200】
前述のように、MC挙動の本発明者らの観察と同時に「一定の羽根車先端速度」原理を適用することによって撹拌速度のスケールアップを確立し、沈降を最小限に抑えながら又はなくしながらMCを培地中に懸濁させ続けることを目指した。NUT(-)/HSAによる培地交換の直後に、撹拌速度をまず4日目に22rpmから29rpmに増加させる。この増加は、SUB中での温度安定性及びMC懸濁の両方を改善し、これは培養物の全体的によりよい均一性をもたらすが、剪断応力を比較的低く保つ。撹拌を7日目に40rpmにさらに増加し、プロセスの継続期間中不変のままに保って、より大きな体積でのMC懸濁を改善する。

表25:増殖期SP
【0201】
pH設定点は7.25に設定され、不感帯は1.25で、能動的な調節はない。pHは、接種工程における約7.9の比較的高いpH(主にHSの存在に寄与した)から、増殖終了時の約pH7.3まで、プロセスの間、時間と共に徐々に低下する。SUBの試料を測定するために外部アナログpH計を使用することによってpHを確認し、実際のpH値がBioFlo 320 pH値から±0.05 pH単位を超えて外れた場合には、pHの標準を実際の測定された値に改めた。RPE細胞増殖中の栄養供給方式は、グルコース添加と共に、フェドバッチとして以前に確立された。別々の3つの日に、2~3日の間隔で、3Lの最終体積まで培養物に0.5LのNUT(-)/HSAを補充する。代謝産物試験装置を使用して測定した実際の毎日の培養物のグルコースレベルに基づいて、グルコースを2~2.5gr/Lまで(45%w/vのd-グルコース溶液を用いて)補充する。以下の表26は、培地交換、フェドバッチ方式及び各実行の採集のスケジュールを詳述する。

表26:培地交換、フェドバッチ方式及び採集スケジュール
D=日
【0202】
最適な採集日を14日目に設定されたので、動作の柔軟性のために13~14日の最小の増殖が決定された。
【0203】
ガス処理レジーム
【0204】
OverlayとSpargerの両方を介したガス処理方式は、BioFloシステムの自動3気体ミックスアルゴリズムによって能動的に制御される3つの気体(空気、酸素及び二酸化炭素)の混合物に基づいている。動作範囲は、hESCでの一般的な業界慣行に基づいて設定された。SUBは、2つの通気入口を有する。主たる入口は、酸素濃度(DO)を維持するために必要な3気体混合物がそれを介して供給されるピンホール焼結体である。第2の入口は、ヘッドスペース通気を維持するためのオーバーレイ入口である。両入口は、入ってくる気体をろ過するための予め設置された0.2μmの5cmディスクフィルタを有する。焼結体におけるような小さな孔径は、高い表面積を有する小さな気泡を生成し、したがって培地内への気体移動速度を改善する。しかしながら、そのような高レベルの小さな気泡は、液体ヘッドスペース境界での気体交換の減少をもたらし、最終的には排気フィルタを詰まらせる可能性さえある泡の形成をもたらし得る。気体流入は非常に少なく、これらの研究中に有意な発泡層の形成は観察されなかった。

表27:3気体ミックスSP
【0205】
容器の圧力は培養物中の溶存気体に影響を及ぼし、したがってpH及びDOに影響を及ぼす。全体的なガス圧の低下は、気体溶解度の低下を引き起こし、その結果、全体的な気体需要の増加をもたらし得る。SUBは陽圧下で動作するように設計されており、製造業者の推奨に従って、SUB内のガス圧は0.44barg(6psig)を超えるべきではない。しかしながら、培養を維持するためには正のガス流が必要であるが、RPE細胞の培養中には比較的低いガス流束が必要とされるので(表18の20行目及び21行目、並びに表27を参照)、これらの研究中に重大な圧力上昇は予想されず、観察もされなかった。さらに、SUBの予め設置されたベントフィルタは、最大5バールの最大圧力に耐えるように設計されている。
【0206】
接種、培地交換及びフェドバッチ培地添加
【0207】
フラスコ内でのRPEの増殖とは対照的に、閉鎖系としてSUBを維持するには、プロセス全体にわたる全ての培地添加及び交換が、培養物を外部環境にさらすことなく行われ、培養物を無菌状態に保つことが必要である。自動化されたバイオウェルダーを使用して、無菌かつ確実な方法で、SUBのポートに培地を含有するバッグを溶着する。使い捨てバッグには、SUBに溶着される前に、生物学的安全キャビネット内で必要な培地が予め充填される。
【0208】
採集
【0209】
T-フラスコ及びSFから採集されたRPE細胞のろ過を、40μmグリッドのメッシュを使用して確立した。手順のスケールを拡大し、いずれも0.15mの表面積を有する50μm又は60μmのフィルタサイズを使用して、必要とされる「閉鎖系」としてこの手順を確立した。これらのフィルタは、40μmグリッドのメッシュに孔径が最も近いため、DS懸濁液中に60μmより大きな粒子が存在しないことが確保される。
【0210】
RPE細胞をMCから分離し、残存する大きな細胞凝集体及びECMから溶液を除去するために、閉鎖系を維持する50μm(SARTOPURE(登録商標))又は60μm(VANGUARD(登録商標))の高容量フィルタを使用して、各SUBをフィルタにかけ、TrypLE Selectとの酵素的インキュベーション後に直ちにクエンチした。さらに、酵素的インキュベーションの最後、クエンチの直前にSUBから試料を採取し、試料をクエンチし、スケールを拡大したろ過プロセスを評定するため及びSUBの収率推定値を得るために、40μmメッシュのグリッドを使用してフィルタにかけた。
【0211】
懸濁液をフィルタにかける前に、約0.5Lのクエンチ溶液をフィルタに与え、次いで、蠕動式ポンプを介して、インキュベートされた懸濁液をフィルタに通す。細胞懸濁液を断続的にフィルタにかけて、フィルタの目詰まり及び潜在的な細胞損失を最小限に抑えるために、最大の可視的凝集体を含有する細胞懸濁液の画分が、ろ過の最終段階中にフィルタを通過するようにする。ろ過手順のこの部分は、MCS9において得られた比較的低い細胞収率(表28、MCS9~14の推定収率対最終収率を参照)に従って開発及び確立された。
【0212】
結果
【0213】
以下の結果は、MCS9、MCS11A、MCS11B、MCS13及びMCS14のスケール拡大開発研究を表す。以下のアッセイから結果を得た:生存率(%)、回収率(%)、純度、HES残存、生物学的活性(効力)及び核学。
【0214】
QCアッセイの合否判定基準
【0215】
生存率(%)≧70%。回収率(%):100%±25%生細胞/ml、2×106細胞/mlの目標最終バッチ濃度に対して計算される。効力:正味のTEER(14日目):>100Ω・cm2;基底部VEGF/頂端部VEGF比(14日目):>1.00;頂端部PEDF/基底部PEDF比(14日目):>1.00純度:P2のOpRegen(登録商標)細胞は、95.00%以上、CRALBP及びPMEL17について二重陽性である。HES残存:細胞の0.01000%未満が、TRA1-60及びOct-4について二重陽性である。核学:染色体に対する3つ未満の同一の欠失又は2つ未満の同一の付加。
【0216】
DO傾向
【0217】
図3に示されているように、培地が交換されるまで接種直後にDO%の急激な低下が明らかである。このDO%低下は、接種及び生存の成功を示す。MCS9は、接種サイズが小さいため、接種中により高いDO%値を示す。第2及び第3のフェドバッチでは、添加される培地の相対的な割合がより小さく、各フェドバッチでSUBに入る空気が相対的により少ないため、減弱したDO%スパイクをもたらす。
【0218】
最終DS収率

表28:推定収率対実際の最終収率
【0219】
酵素的インキュベーションの最後、クエンチの直前に各SUBから試料(60mL)を採取し、試料をクエンチし、スケールを拡大したろ過プロセスを評定するため及びSUBの収率推定値を得るために、40μmメッシュのグリッドを使用してフィルタにかけた。全ての研究の平均推定収率(表28に提示)は約4.09であり、ろ過後DSにおいて測定された実際の最終収率に近く、平均最終収率は約2.87であり、これは約30%の平均フィルタ上損失を構成する。MCA11 A、MCS11 B及びMCS13は、ろ過後に約3.35の最終平均DS収率を達成し、これはそれぞれの推定収率に類似する。ろ過前にフィルタを準備するための要件を確立する前に得られた研究MCS9の最終収率は、その推定収率よりも約44%低かった(4.78対2.68)。他の研究とは異なるフェドバッチ方式に供されたMCS14は、予想より60%低い最終収率を有した。
【0220】
生存率(%)及び回収率(%)の評定
【0221】
各研究の5つのバイアル(2×10細胞/ml)を解凍し、生存率(%)及び回収率(%)について評定した。結果を表29に要約する

表29:生存率(%)及び回収率(%)の結果
【0222】
解凍直後の全研究からの全バイアルの生存率(%)及び回収率(%)は、OPREGEN(登録商標)TAI合否判定基準を満たした(表29に提示)。生存率(%)は90%以上に維持された。回収率(%)は78%以上であり、平均は90%であった。
【0223】
生物学的活性(効力)評定
【0224】
解凍された細胞を生物学的活性についてアッセイし、結果を表30に要約する。

表30:効力アッセイの結果
【0225】
全ての研究は、両効力法において生物学的活性アッセイの合否判定基準を満たしている。
【0226】
純度アッセイの結果
【0227】
解凍された細胞を純度についてアッセイし、結果を下の表31に要約する。

表31:純度(CRALBP/PMEL17)アッセイの結果
【0228】
研究MCS11A、MCS11B及びMCS13から得られたRPE細胞は純度アッセイの合否判定基準を満たしたが、MCS9及びMCS14からの細胞は満たさなかった。MCS9及びMCS14の両方のフェドバッチ方式は他の研究とは異なっていたことに留意されたい。さらに、MCS9及びMCS14はいずれも、最も低い最終収率を与え、これが最終細胞集団に影響を及ぼした可能性がある。
【0229】
%hESC残存率アッセイの結果
【0230】
解凍された細胞をhESC残存率(%)についてアッセイし、結果を表32に要約する。

表32:hESC残存率(%)(Oct-4/TRA1-60)アッセイの結果
【0231】
5つの研究全てから得られたRPE細胞は、hESC残存%アッセイの合否判定基準を満たした(表32)。
【0232】
核型分析
【0233】
P2の凍結バイアルを解凍し、2継代培養し、核型分析のために固定した。これらの研究の各々からの細胞の核型は正常であった;3つの同一の染色体欠失又は2つの同一の付加は認められなかった。1つの例外は、isoq20が見出されたMCS11Aであり、この結果は調査中である。
【0234】
考察
【0235】
OPREGEN(登録商標)生産のスケールアップされたプロセスを確立するために、制御された及び監視された条件下にて、3LのSUB中で、1増殖継代の間、RPE細胞をMC上で培養した。より初期のスケールアップ研究MCS1~8の間に徐々に改善された提案されたスケールアップしたプロセスパラメータの下で、5つの連続する開発研究MCS9/11A/11B/13/14を実行した。これらのパラメータは、堅牢で再現性のあるスケールアップされたプロセスをもたらすことが示されている。これらの研究におけるDO傾向の調査は、ほぼ同一の挙動を明らかにする。最初の数日間継続する接種直後の急激な低下は、成功した接種及び生存率(%)を示す。次いで、DO%はSP30%で安定化し、その後、培地交換及びその後のフェドバッチ培地添加に対応する断続的なスパイクが続く。フェドバッチレジメンは、2~3日間隔で(表26に示されているように、培地交換、フェドバッチ方式及び採集スケジュールで)栄養供給された場合により良好な最終細胞収率をもたらすことが示されており、4日間隔(MCS9及びMCS14)は、その後、ろ過効率及びRPE成熟に関する最終集団組成に影響を及ぼすいくらかのストレスを培養物に誘発し得る。
【0236】
開発中、細胞損失を最小限に抑えるために、MC-細胞分離の前に、クエンチ溶液でフィルタを下準備することが改善であることが示された。さらに、(MCS9で実行されたように)バルク体積全体を連続的に混合し、フィルタにかけるのではなく、ろ過の最終段階でのみ、大きな凝集体を含有する懸濁液画分を通過させることを含む改善されたろ過手順は、より高い細胞収率を得るために不可欠であることが証明された。MCS14で得られた有意により低い最終収率に関しては、異なる栄養供給レジメンに起因するものであり得、その実行中、第2のフェドバッチは、第1のファドバッチの3日後ではなく、4日後に補充された。これはRPE細胞によるより大きなECMの生産に寄与した可能性があり、最終的に、採集及びろ過中により成熟した細胞を捕捉した。
【0237】
提案されたフェドバッチレジメン(栄養供給の間が3日以下)及び改善されたろ過手順(すなわち、MCS11A、MCS11B、及びMCS13)の下で細胞が増殖し、得られることを考えると、開発されたスケールアップされたプロセスは、約3.35の最終平均細胞収率(表28を参照、3.35の平均数はMCS11A_11B及び13に関する)で、有効かつ再現性があることが示された。
【0238】
研究MCS11A、MCS11B及びMCS13の純度アッセイ結果(表31に示されている)はアッセイの合否判定基準を満たしたが、MCS9及びMCS14はこれらの合否判定基準を満たすことができなかった。理由は、MCS9及びMCS14のプロセスでの異なるパラメータによるものである。それらのそれぞれの実際のFACSダイアグラムは、より成熟していない(より若い)RPE細胞に典型的である、より低いPMEL値を示す細胞のより幅広い集団を示す。より成熟していない細胞の、これらの通常より(すなわち、MCS13と比較して)相対的により幅広い集団は、最適化されていない採集手順が原因である可能性が最も高い。より成熟した細胞がより多くのECMを生産するにつれて、これによって、成熟RPE細胞は、より成熟していないRPE細胞と比較して、TrypLe Selectとの酵素的インキュベーション中にMCから脱離しにくくなる。その結果、これらの成熟した細胞はろ過中にECM凝集体内に捕捉され、このため、ろ過後に、DSは、より成熟していないRPE細胞が比較的豊富になる。
【0239】
研究MCS11A、MCS11B及びMCS13は、純度アッセイの合否判定基準を満たし、最適化されたフェドバッチレジメン及びろ過手順がスケールアップされたRPE増殖の成功のために必要であることを示した。最終的なRPE集団における成熟の変動は、おそらくは接種の結果である固有の不均一なMC細胞密度をもたらす可能性がある。3D撹拌される細胞増殖プラットフォームであるMCは、2D静的組織培養フラスコとは対照的に、接種中に細胞の不均一な分布をもたらしやすい(図4に示されているとおり)。最終集団の多様な成熟度は、RPE細胞にとって有益である可能性が高い。
【0240】
hESC残存率(%)アッセイの結果は、OpRegen(登録商標)TAI合否判定基準を満たした。全ての研究は、両アッセイの方法の下で生物学的活性(効力)アッセイの合否判定基準を満たしている。5つの研究のうち4つの核型分析結果は正常であった;研究の1つは異常な核型(Isoq20(3/50))を示し、これを調査した。
【0241】
要約すると、バイオプロセスシステム全般及び特にスケールアップされた増殖プラットフォームは、必要とされるOPREGEN(登録商標)の品質属性及び特徴を維持することによって、堅牢なRPE細胞増殖及び再現性のあるプロセスを維持及び支持することができる。
【0242】
結論
【0243】
BioFlo 320バイオプロセスシステムと組み合わされたBioBlu 3C SUBは、現行のOPREGEN(登録商標)プロセスにおいてMC上でのRPE細胞の増殖を維持及び支持する上で堅牢性を実証した。制御された及び監視された条件下にて、3LのSUB中において、10.8x10cmの表面積を有するMC上でRPE細胞を培養することから、約4x10のOPREGEN(登録商標)TAI細胞(最終ろ過後)を得ることができる。スケールアップされたろ過手順は、確立された細胞増殖プロセスのフェドバッチレジメン及び改善されたろ過手順が実施された場合に有効でありかつ再現性があることが示され、約3.35の最終DS細胞収率をもたらした。

表33:溶液体積、MC量及びプロセスパラメータの設定点
【0244】
実施例6
本実施例の目的は、GMP FFシードロットバンクのOPREGEN(登録商標)Non-GMPエンジニアリングランを要約することである。
【0245】
商業生産に向けたOPREGEN(登録商標)製造プロセスは、フィーダーフリー及び単層分化(FFMD)プロセスの開発を含む。FFMDプロセスは、最小の無菌リスクとし、高度に制御されるべきであり、堅牢であるべきであり、自発的分化工程への依存はより少なくすべきである。
【0246】
開発されたOPREGEN(登録商標)の商業的プロセスは、細胞の4つの段階に依存している:第1段階-フィーダーフリー(FF)ヒト胚性幹細胞をラミニン521(LN521)上で3週間増殖させる;第2段階-hESCをRPE細胞に分化させる、現行のOPREGEN(登録商標)Thaw and Inject(TAI)プロセスに基づいて開発されたhESCのFFMD手順を6~7週間実施する;第3段階-2継代(P0、P1)のRPE増殖、現在はOPREGEN(登録商標)TAIに対して行われたようにゼラチンでコーティングされたフラスコ上でさらに4週間行われる;第4段階-半自動の制御された閉鎖系(BioBlu Single-Use Bioreactor(SUB)を監視するEppendorfのBioFlo320コンソール)におけるマイクロキャリア(MC)上でのRPE細胞の大規模培養。
【0247】
略語及び定義
CoA-分析証明書
CS5-CryoStor5
DMEM-ダルベッコ改変イーグル培地
DO-溶存酸素
フェドバッチ-培養中に1つ又は複数の栄養素がバイオリアクタに供給され、生成物が実行の終了までバイオリアクタ内に留まるバイオテクノロジープロセスにおける培養技術
FF-フィーダーフリー
FFB-フィーダーフリーバンク
FFMD-フィーダーフリー及び単層分化
GRP-群
hESC-ヒト胚性幹細胞
HS-ヒト血清
HSA-ヒト血清アルブミン
IPC-工程内管理
LN521-ラミニン521
MC-マイクロキャリア
MCB-マスター細胞バンク
NIC-ニコチンアミド
Nut(-)w/HSA-HSAを含有するNutriStemマイナス
Nut+w/HSA-HSAを含有するNutriStemプラス
PDL-集団倍加レベル
POC-概念実証
QC-品質管理
R&D-研究開発
RPE-網膜色素上皮
RPM-分当たり回転数。
SD-標準偏差
TAI-解凍及び注入
TEER-経上皮電気抵抗
TS-TrypLE Select
V-バージョン
w/-あり
w/o-なし
【0248】
手順及び方法:
【0249】
細胞:CCN GMP施設で凍結保存。
【0250】
実験手順
【0251】
hESCの増殖及びhESCの融解
【0252】
凍結細胞の1つのバイアルを解凍し、Nut+w/HSA培地中、5μg/mlのLN521でコーティングされた皿の上に6,000個の生細胞/cmで播種した。hESCを培養した。細胞培養物が50%を超える集密度に達したら、細胞を採集し、計数し、hESC増殖Iのために3,500個の生細胞/cmで播種した。
【0253】
hESC増殖I
【0254】
Nut+w/HSA培地を含む、5μg/mlのLN521でコーティングされた皿の上で、さらに1継代hESCを継代した。細胞培養物が50%を超える集密度に達したら、細胞を採集し、計数し、hESC増殖IIのために4,000個の生細胞/cmで播種した。さらに、採集されたhESCからの試料を多能性マーカーについて評価した。
【0255】
hESC増殖II
【0256】
Nut+w/HSA培地を含む、5μg/mlのLN521でコーティングされた皿の上にhESCを播種した。培養の6日目から開始して、細胞培養物が80%以上の集密度に達するまで、細胞形態及び集密度を評価した。さらに、多能性マーカーを試験するために、1つの等価なフラスコ(同じ条件下で培養)を採集した。
【0257】
hESCのRPEへの分化
【0258】
NIC I
【0259】
hESC増殖IIの終了時に、10mM NICが補充されたNut+w/HSAからNut-w/HSAに培地を変更することによって、並びに細胞を5%O、5%CO及び37℃で2週間培養することによって、OPREGEN(登録商標)分化プロセスを開始した。
【0260】
NIC+アクチビンA
【0261】
5%O、5%CO及び37℃において、10mM NIC及び140ng/mlアクチビンAを補充されたNut-w/HSAと共に2週間、細胞を培養した。14日の終わりに、因子分泌試験のために培地の試料を収集した。
【0262】
NIC II
【0263】
両眼顕微鏡下で軽度に色素沈着した領域が観察されるまで、5%O、5%CO中及び37℃で、10mM NICを補充されたNut-w/HSAと共に、5日間細胞を培養した。次いで、正常酸素状態(20%O、5%CO及び37℃)でさらに10日間細胞を培養した。15日の終わり(分化の終わり)に、分化している細胞の形態を評価し、培地の試料を因子分泌試験のために収集し、TSを用いて細胞を採集し、RPE増殖段階のP0のために、60,000個の生細胞/cmで、20% HS-DMEMを含む、0.1%のrh-ゼラチンでコーティングされた皿の上に播種した。さらに、細胞の試料をRPE純度/同一性について試験した。
【0264】
RPE増殖
【0265】
T175フラスコ内のRPE(P0、P1)
【0266】
20%HS-DMEM中で4日間、P0についてはNut-w/HSA培地中で(100%の集密度及びRPE多角形の典型的な形態に達するまで)さらに11日間、5%CO中及び37℃で細胞を培養した(P0では、合計15日間)。P0の終了時に、細胞を採集し、120,000個の生細胞/cmで、0.1%のrh-ゼラチンでコーティングされた皿の上に播種した。さらに、RPEの純度/同一性及び残存hESCについて細胞を評価した。細胞をP1でさらに13日間培養した後、採集し、P2のために播種した。
【0267】
SUB中のRPE(P2)
【0268】
採集されたP1細胞を最適条件でSUBに接種した。MCを含む20% HS-DMEM播種培地をSUB中で少なくとも20分間平衡化させた。その後、37℃の接種条件で、10,800cmのMCあたり1.26×10個の生細胞(117,000個の生細胞/cmMC);22rpm撹拌;30% DO;pH 7.25で細胞を接種した。4日後、20% HS-DMEMをNut(-)w/HSA培地に交換したが、撹拌速度(3~7日目に29rpm及び7~14日目に40rpm)を除いて、RPE細胞の増殖条件は同じままである。P2増殖段階中の栄養供給方式は、グルコース添加と共にフェドバッチとして行われた。別々の3つの日(7、10及び12)に、0.5LのNut(-)w/HSA培地を細胞培養物に3Lの最終体積まで補充する。代謝産物試験装置を使用して測定した実際の毎日の培養物のグルコースレベルに基づいて、グルコースを2.5g/Lまで(45%w/vのd-グルコース溶液を用いて)補充する。13日間の培養の終了時に、SUBを採集し、60μmフィルター(Vanguard)を用いて、RPE細胞をフィルタにかけ、2×10細胞/バイアルで凍結保存した。

表34:FFMD大規模OPREGEN(登録商標)生産プロセスのバッチリリース試験
【0269】
結果
【0270】
工程内管理
【0271】
多能性。多能性マーカー(SSEA-5/TRA-1-60、Oct-4/Nanog)の発現を各hESC増殖段階の終わりに試験し、各アッセイにおける二重陽性細胞のパーセンテージをFACSによって測定し、以下の表35に示した。

表35:hESC増殖段階に沿った多能性マーカーの発現
【0272】
多能性マーカーの発現は全てのhESC増殖段階にわたって高かった-SSEA-5/TRA-1-60二重陽性細胞のパーセンテージは97.91%及び95.36%超であり、Oct-4/Nanog二重陽性細胞の%は98.09%及び96.96%であった。結果は、培養されたhESCがFFMD手順開始前にそれらの多能性を維持したことを示した。hESC増殖工程IIの終了時と比較したhESC増殖工程Iの終了時に観察されたマーカーの発現の軽度の低下は、分化プロセスのために必要とされる、FFMDの開始前での細胞の意図されたより高い播種密度及び集密度に関連する。
【0273】
純度及び同一性
【0274】
FFMD及びRPE増殖段階の異なる段階に沿って、RPEマーカー(CRALBP/PMEL17)の発現を試験した。

表36:RPE分化及びP0に沿ったRPEマーカーの発現。
【0275】
RPE細胞の%は、CRALBP/PMEL17陽性細胞の%によって表される。分化段階の終わりに、RPE細胞の%は45.96%であった。継代及びP0の終了時でのRPE細胞の濃縮後に、RPE細胞の%は97.96%であり、この時点でバッチリリース合否判定基準(95.00%超のRPE細胞)を満たした。
【0276】
残存hESC
【0277】
残存hESCを決定するために、P0の終わりに、hESC多能性マーカーTRA-1-60/Oct-4についてRPE細胞を染色した。TRA-1-60/Oct-4の%は検出限界未満(0.0004%未満)であった。
【0278】
プロセスに沿ったPEDF分泌
【0279】
以前のOPREGEN(登録商標)TAI V1.1ランでは、培養培地に分泌されたPEDFレベルの規模の増加が、最終分化段階(アクチビンAの終わり、分化の終わり)及び初期RPE増殖段階(P0の終わり)で観察されたので、FFMDプロセスにおいて及びこの非GMPエンジニアリングラン-FFMD大規模OPREGEN(登録商標)生産プロセスにおいてPEDF濃度について試験するためにこれらのIPCが選択された。PEDFを評価するためのこれらの3つの点は、FFMD大規模OPREGEN(登録商標)生産プロセスのためのIPCとして重要な、指標となる点であることが明らかとなった。NIC+アクチビンAの終わり、分化の終わり(NIC IIの終わり)及びP0の終わりの3つの点で、培養培地中のPEDF濃度を評価した。結果を表37に示す。

表37:プロセスに沿った培養培地へのPEDFの分泌
【0280】
予想されたように、細胞集団がより純粋になり、RPE集団が(プロセスの進行に沿って)より成熟するにつれてPEDFレベルが上昇した。NIC及びアクチビンA工程の終わりと分化工程の終わりとの間で、PEDFレベルが増加した(10倍超高い)。分化の終わりとP0の終わりとの間で、PEDFの上昇は中程度であった(2倍超高い)。
【0281】
プロセスに沿ったPDL
【0282】
RPE分化中、分化プロセスのために播種された各hESCからいくつのRPE細胞が採集されたかを決定するために、収率の値を計算した。

表38:分化及びRPE増殖中の細胞のPDL
【0283】
プロセスに沿った細胞倍加の数は、FFMDプロトコルの以前のランと同様に約16であった。
【0284】
バッチリリース
【0285】
生存率(%)及び総細胞数/バイアル
【0286】
2×10生細胞/mL/バイアルの濃度のP2の終わりでの凍結バイアル(MCS11B)を解凍し、回収率(%)及び生存率(%)について試験した。

表39:解凍したバイアルの生存率(%)及び回収率(%)。
【0287】
結果は、75%を超える回収率(%)及び70%を超える生存率(%)という合否判定基準を満たした。比較的低い回収率(%)の値は、いくつかの群を並行して凍結保存したことによる長いDPインキュベーション時間(2時間超)の結果であり得る。さらに、バイアルに入れる直前のCS5における細胞の計数は、低濃度の生細胞(1.75×10個の生細胞/mL)を示した。解凍結果後の細胞数をバイアルに入れる直前に計数された細胞の実際の数に対して正規化すると、約89%の回収率となる。
【0288】
RPE純度/同一性(CRALBP/PMEL17)をバッチリリースで評価した。P2の終わりでのRPE細胞は、RPE純度/同一性について96.65%二重陽性であった。
【0289】
極性化
【0290】
効力アッセイを行った。極性をもったサイトカイン分泌に加えて、14日目の細胞の正味のTEERの結果を以下の表40に示す。

表40:現行の正式な効力アッセイ。
QC-REP-012及び図1による
【0291】
さらに、凍結試料を解凍し、改変された効力アッセイで試験した。結果を表41に要約する。

表41:改変された直接効力アッセイ。
QC-REP-012及び図1による
【0292】
hESCの残存
【0293】
残存hESCの存在を決定するために、細胞を解凍し、TRA-1-60/Oct-4について染色した。hESCの%は検出限界(0.0004%)未満であった。
【0294】
核型分析
【0295】
P2の凍結バイアルを解凍し、2継代培養し、核型分析のために固定した。細胞の核型は正常であった;試料中には、3つの同一の染色体欠失又は2つの同一の付加は認められなかった。
【0296】
考察
【0297】
商業的プロセスに向けたOPREGEN(登録商標)製造のプロセス開発は、監視された及び制御された条件下にて大規模システムでRPE細胞を培養することに加えて、FF hESCのFFMD手順を含む。この報告は、CCN GMP設備で製造された細胞の3L SUB中でのFFMD及びRPE増殖を含む生産プロセスを要約する。FFMDプロセスの第1段階は、FF hESCの増殖を含む。hESC増殖継代の各々での細胞多能性は高く、試験した全てのマーカーについて95%を超えた。予想されたように、多能性マーカー発現の中程度の低下が、hESC増殖I段階とhESC増殖II段階との間で観察された。
【0298】
分化の終わりでの及びP0終わりでのRPE純度/同一性の評価は、細胞バンクから分化段階の終了時における45.96%のCRALBP/PMEL17発現RPE細胞への細胞の分化の成功を実証した。分化した細胞の継代及び培養はRPE集団を濃縮し、P0の終わりで、CRALBP/PMEL17マーカーの共発現は97.96%であった。これらの結果は、以前のFFMDランにおいて見られたこれらの段階でのRPE純度の範囲内であった。さらに、培養培地中のPEDF濃度は、RPE増殖手順のP0までの分化が進行するにつれて、NIC及びアクチビンA工程の終わりの256.19ng/ml/日からP0の終わりの4,687.02ng/ml/日まで上昇し、PEDF選択結果に従って選択された指標点について、RPE集団の濃縮及び成熟を確認した。
【0299】
最終的に、プロセスの終わりに、BioBLU 3L SUBを監視する半自動の制御された閉鎖系(EppendorfのBioFlo 320コンソール)においてMC上でP2継代の間、細胞を培養した。P2の終わりに、細胞を採集し、OPREGEN(登録商標)TAIとして凍結保存した。この開発されたFFMD及び大規模非GMPエンジニアリングランにおいて生産されたRPE細胞は、実施された全てのバッチリリース試験において、全てのOPREGEN(登録商標)が要求する合否判定基準を満たした。まとめると、これらの結果は、CCN-FFHESC-01 MCBの OPREGEN(登録商標)非GMPエンジニアリングランの開発されたプロセスを適格とする。
【0300】
結論
【0301】
非GMPエンジニアリングラン-FFMD大規模OPREGEN(登録商標)生産プロセスはOPREGEN(登録商標)TAI IPC及びリリース基準を満たす;OPREGEN(登録商標)TAI中にhESCの残存は存在せず、RPE細胞の純度は損なわれなかった。さらに、細胞はそれらの生物学的活性を保持し、生存率(%)及び回収率(%)のOPREGEN(登録商標)合否判定基準を満たした。

表42
【0302】
実施例5
大規模な閉鎖された及び制御された環境でhESC由来のRPEを増殖させるために、胎児由来RPEに対して確立されたように、Star Plusマイクロキャリア(Solohil)上でRPEを増殖させるための方法を開発した。本発明者らの閉鎖系では、最適なRPE収率及び品質についてスクリーニングされたマイクロキャリアを含有する単一のバイオリアクタ内に、分化したRPE細胞を接種する。細胞の酸素消費は自動的に監視及び制御され、PH代謝産物及び温度も監視する。栄養供給レジメンは、必要に応じて新鮮な培地及びグルコースが添加されるフェドバッチモードで行われる。マイクロキャリア及び培地添加、細胞サンプリング採集及びろ過を含む全ての操作は、1時間の凍結セッションあたり最大2300の数千のバイアルの制御された大規模凍結の後に、凍結媒体中の細胞懸濁液の最終生成物がクライオバイアル中に自動的に分注されるまで使い捨てバッグのチューブ溶着を使用することによって、制御された及び閉鎖された環境で行われる。
【0303】
本明細書の記述は多くの詳細な記載を含むが、これらは本開示の範囲を限定するものと解釈されるべきではなく、単に現在好ましい態様のいくつかの例示を提供するものと解釈されるべきである。したがって、本開示の範囲は、当業者に明らかになり得る他の態様を完全に包含することが理解されよう。
【0304】
特許請求の範囲において、単数形の要素への言及は、明示的に述べられていない限り、「1つかつ1つのみ」を意味することは意図されず、むしろ「1つ又は複数」を意味することが意図される。当業者に公知の開示された態様の要素に対する全ての構造的、化学的及び機能的等価物は、参照により本明細書に明示的に組み入れられ、本特許請求の範囲に包含されることが意図される。さらに、本開示の要素、構成要素又は方法工程は、その要素、構成要素又は方法工程が特許請求の範囲に明示的に記載されているかどうかにかかわらず、公衆に提供されたことは意図されていない。本明細書の特許請求の範囲の要素は、その要素が「~のための手段(means for)」という語句を使用して明示的に記載されていない限り、「ミーンズプラスファンクション(means plus function)」要素として解釈されるべきではない。本明細書の特許請求の範囲の要素は、その要素が「~のための工程」という語句を使用して明示的に記載されていない限り、「ステッププラスファンクション」要素として解釈されるべきではない。
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
図8
図9
図10
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図19A
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【国際調査報告】