(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】コーティングされたガラス板
(51)【国際特許分類】
C03C 17/36 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
C03C17/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505199
(86)(22)【出願日】2022-07-27
(85)【翻訳文提出日】2024-03-08
(86)【国際出願番号】 GB2022051963
(87)【国際公開番号】W WO2023007153
(87)【国際公開日】2023-02-02
(32)【優先日】2021-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591229107
【氏名又は名称】ピルキントン グループ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100225060
【氏名又は名称】屋代 直樹
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ サベージ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン バケット
(72)【発明者】
【氏名】チャーリー ジェームス パトリクソン
【テーマコード(参考)】
4G059
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AB11
4G059AC06
4G059AC07
4G059DA01
4G059EA02
4G059EA04
4G059EA07
4G059EB04
4G059GA02
4G059GA04
4G059GA14
(57)【要約】
本発明は、コーティングされたガラス板、コーティングされたガラス板を製造する方法、コーティングされたガラス板を備える複層グレージング、ならびに建物または車両におけるコーティングされたガラス板および/または複層グレージングの使用に関し、コーティングされたガラス板は、ガラス基板と赤外線を反射するのに適したコーティングとを備え、コーティングは、ジルコニウムおよびチタンの酸化物Zr
xTi
yO
zを含むベース層を備え、ベース層中のZrおよびTiに基づくZrの原子比率は、x/(x+y)のように計算され、0.40~0.95である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板とコーティングとを備える、コーティングされたガラス板であって、前記コーティングは、前記ガラス基板から順に、
前記ガラス基板に隣接し、接触しているベース層と、
銀ベースの機能層と、
上部誘電体層と、
を備え、
前記ベース層は、ジルコニウムおよびチタンの酸化物Zr
xTi
yO
zを含み、
前記ベース層中のZrおよびTiに基づくZrの原子比率は、x/(x+y)として計算され、0.40~0.95である、
コーティングされたガラス板。
【請求項2】
x/(x+y)として計算される、前記ベース層中のZrおよびTiに基づくZrの前記原子比率は、0.50~0.90、好ましくは0.55~0.85、より好ましくは0.60~0.80、さらにより好ましくは0.62~0.67である、請求項1に記載のコーティングされたガラス板。
【請求項3】
全組成中のTiとして計算される、前記ベース層中のチタンの原子%は、1~25、好ましくは5~20、より好ましくは8~15である、請求項1または2に記載のコーティングされたガラス板。
【請求項4】
全組成中のOとして計算される、前記ベース層中の酸素の原子%は、60~70、好ましくは62~66、より好ましくは63~65である、請求項1から3のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス板。
【請求項5】
全組成中のZrとして計算される、前記ベース層中のジルコニウムの原子%は、12~35、好ましくは15~25である、請求項1から4のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス板。
【請求項6】
前記ベース層の厚さは、nmで6~60、好ましくは8~45、より好ましくは10~30である、請求項1から5のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス板。
【請求項7】
前記ベース層のnmでの厚さに前記ベース層中のZrおよびTiに基づくZrの前記原子比率を乗じて計算される、前記ベース層のZr係数は1~35、好ましくは5~20、より好ましくは7~15、さらにより好ましくは8~12である、請求項1から6のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス板。
【請求項8】
前記コーティングは、前記ベース層と前記銀ベースの機能層との間に成長促進層をさらに備え、好ましくは、前記銀ベースの機能層は、前記成長促進層と直接接触しているおよび/または前記成長促進層は、亜鉛酸化物に基づく、請求項1から7のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス板。
【請求項9】
前記成長促進層は、前記ベース層と直接接触している、請求項8に記載のコーティングされたガラス板。
【請求項10】
前記コーティングは、前記ベース層と前記成長促進層との間に安定化層をさらに備え、好ましくは、前記安定化層は、前記ベース層と直接接触している、請求項1から8のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス板。
【請求項11】
前記コーティングは、前記安定化層と前記成長促進層との間に分離層をさらに備え、好ましくは前記分離層は、安定化層と直接接触している、請求項10に記載のコーティングされたガラス板。
【請求項12】
前記コーティングは、前記銀ベースの機能層と前記上部誘電体層との間にバリア層をさらに備え、好ましくは、前記バリア層は、前記銀ベースの機能層と直接接触している、請求項1から11のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス板。
【請求項13】
前記コーティングは、前記銀ベースの機能層と前記上部誘電体層との間に第2の銀ベースの機能層をさらに備え、好ましくは、前記コーティングは、前記銀ベースの機能層と前記第2の銀ベースの機能層との間の中央誘電体層、および/または前記第2の銀ベースの機能層と前記上部誘電体層との間の第2のバリア層をさらに備える、請求項1から12のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス板。
【請求項14】
前記コーティングは、前記第2の銀ベースの機能層と前記上部誘電体層との間に第3の銀ベースの機能層をさらに備え、好ましくは、前記コーティングは、前記第2の銀ベースの機能層と前記第3の銀ベースの機能層との間に第2の中央誘電体層および/または前記第3の銀ベースの機能層と前記上部誘電体層との間の第3のバリア層をさらに備え、請求項13に記載のコーティングされたガラス板。
【請求項15】
前記コーティングされたガラス板は、-6~+6.5のRg a*および-14~-2.5のRg b*を有する、請求項1から14のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス板。
【請求項16】
前記シート抵抗Rsは、8Ω/□未満である、請求項1から15のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス板。
【請求項17】
前記コーティングされたガラス板は、熱処理可能なコーティングされたガラス板である、請求項1から16のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス板。
【請求項18】
前記コーティングされたガラス板は、熱処理されたコーティングされたガラス板であり、好ましくは、前記熱処理されたコーティングされたガラス板は、熱曲げされたコーティングされたガラス板および/または熱強化されたコーティングされたガラス板である、請求項1から16のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス板。
【請求項19】
前記熱強化塗装ガラス板は、EN12600のクラス1を達成する、請求項18に記載の塗装ガラス板。
【請求項20】
前記熱処理されたコーティングされたガラス板は、同等のアニーリングされたコーティングされたガラス板と比較して、3以下の色特性の変化ΔE*を有する、請求項18または19に記載のコーティングされたガラス板。
【請求項21】
ヘイズスキャン値は、90未満である、請求項18から20のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス板。
【請求項22】
(i)ガラス基板を準備するステップと、
(ii)ベース層を準備するステップと、
(iii)銀ベースの機能層を準備するステップと、
(iv)上部誘電体層を準備するステップと、
を含む、請求項1から21のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス板を製造する方法。
【請求項23】
前記ベース層、および/または前記銀ベースの機能層、および/または前記上部誘電体層は、物理蒸着によって設けられる、請求項22に記載のコーティングされたガラス板を製造する方法。
【請求項24】
請求項1から21のいずれか一項に記載のコーティングされたガラス板を備える、または請求項22もしくは23に従って製造された、好ましくは積層グレージングユニットおよび/または断熱グレージングユニットである、複層グレージングユニット。
【請求項25】
建物または車両における、請求項1から21のいずれか一項に記載の、または請求項22もしくは23に従って製造されたコーティングされたガラス板の使用、または請求項24に記載の複層グレージングユニットの使用。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、コーティングされたガラス板、特にガラス基板およびコーティングを備えるコーティングされたガラス板に関する。本発明はまた、当該コーティングされたガラス板を製造する方法にも関する。
【0002】
ガラス製造業界からは、自動車および建築用グレージングの厳しい性能要件を満たすことが可能であるコーティングされたガラス基板に対する継続的な需要がある。このようなグレージングは、安全性とエネルギー効率との必要な基準に適合し、設置される構造の物理的および美的要件に適合する形状にし、光透過という主な機能を果たさなければならない。また、そのようなグレージングは、透過および/または反射の観点から好ましい色であることが望ましい。
【0003】
グレージングが設置される構造のエネルギー効率を向上させるという要件は、多くの場合、コーティングの使用によって満たされる。低放射率(low-e)および/または日射制御を提供するガラスコーティングを使用して、光を選択的に吸収または拒否し得る。低放射率および日照制御コーティングスタックは、通常、次のような繰り返し順序で構成される。
‘「基板/誘電体層の順序/[銀(Ag)層/誘電体層の順序]n’、各層は必ずしも他の層と同じ厚さまたは組成を有する必要はない。
【0004】
ガラス製造業界では、上記の順序の「n」が2、3、4、さらには5以上になることが一般的になってきており、2、3、4、さらには5以上の銀層で構成されるコーティングの製造が可能になっている。このようなコーティングは、例えばスパッタリングなどの物理蒸着プロセスによって堆積され得る。
【0005】
必要な安全基準を満たすグレージングを提供するために、ガラス板は、しばしば、熱強化に供され、この熱強化では、ガラス板は、ガラスの軟化点付近またはそれを超える温度に加熱され、その後急速に冷却されてガラスに応力が与えられる。ガラス板は、さまざまな程度の応力を与えるように強化され得、したがって必要に応じてより高い強度またはより低い強度になり得る。
【0006】
同様に、要求された形状に適合するグレージングを提供するために、ガラス板はしばしば熱曲げに供され、この熱曲げでは、ガラス板は、ガラスの軟化点付近またはそれを超える温度に加熱され、その後、適切な曲げ手段を使用して曲げられる。
【0007】
場合によっては、曲げ加工と強化加工とが同時に行われ得る。熱を使用してガラス板の形状および/または特性を変更するこのようなプロセスは、「熱処理」として知られる。
【0008】
多くのグレージングは、ソーダ石灰シリカガラスを備え、しばしばフロート法を使用して製造される。ソーダ石灰シリカタイプの標準的なフロートガラスの強化または曲げは、通常、ガラスを580~690℃の範囲の温度に加熱することによって実現され、その間、ガラス板は実際の強化および/または曲げプロセスの開始前に数分間この温度範囲に保たれる。
【0009】
したがって、下記の記載および特許請求の範囲における「熱処理」という用語は、コーティングされたガラス板が少なくとも5分間580~690℃の範囲の温度に達する曲げおよび/または熱強化などの熱プロセスを指す。このような処理を施したガラスを「熱処理された」と呼ぶ。
【0010】
コーティングされたガラス板は、強化および曲げプロセスにも供され得る。ただし、コーティングされたガラス板は熱処理に適さないことが多く、熱処理によって損傷し得る。熱処理によって引き起こされるコーティングされたガラス板への通常の損傷は、ヘイズの増加(曇りとして認識されることが多い)、ピンホール、およびスポットによって示され得る。グレージングの機能は、損なわれ得、その結果、シート抵抗値の増加によって例示される、光透過率の低下および/または低放射率コーティングの有効性の低下が引き起こされる。したがって、熱処理によって損傷したコーティングされたガラス板は、その外観および/または機能的能力の低下のため、受け入れられない場合があり得る。熱処理時にそのような損傷を示すコーティングされたガラス板は、「熱処理不可能」として知られている。逆に、コーティングされたガラス板は、重大な損傷なしに熱処理に耐えられる場合、「熱処理可能」であるとみなされる。
【0011】
したがって、「熱処理可能な」コーティングされたガラス板を製造することが望ましい。
【0012】
さらに、例えばファサード、車両または窓などのグレージング設置物には、熱処理されていないか、または同範囲に熱処理されていないグレージングシートが組み込まれているのが一般的である。特に、強化および/または曲げられたいくつかのグレージングシートは、強化されていないおよび/または曲げられていない、あるいは同範囲に強化されていないおよび/または曲げられていないグレージングシートと並んで配置され得る。例えば、グレージング設置物では、入居者が接触し得る下部ガラスを熱処理によって強化する必要があり得る一方、上部ガラスはアニーリングのみで済むため安価であることが必要な場合があり得る。さらに、規制によって、ガラスの破損および落下のリスクを軽減するために、高層ビルにおけるグレージングを熱処理によって強化することが義務付けられ得る。この場合、設置物に美的に望ましくない「チェッカーボード」効果が生じるのを防ぐために、強化シートの色および透明性がアニーリングされたシートと著しく異ならないことが重要である。これは、アニーリングおよび熱処理の対として供給される製品を使用して実現され得、熱処理された製品はアニーリングされた製品と光学的に類似している。したがって、熱処理に供する際に、コーティングされたグレージングの光学特性を注意深く制御することが可能であることが重要である。
【0013】
場合によっては、コーティングされたグレージング材料が熱処理可能であるだけでなく、熱処理プロセスの前後で値を比較したとき、熱処理プロセスに供された後でもその色および透明度の変化が無視できる程度のみを示すこともまたが有利である。熱処理プロセス前後の値を比較した場合、熱処理プロセスに供された後の色や透明度の変化が無視できる程度のコーティングは、アニーリングおよび熱処理の対の製品の代わりに供給され得、そのため、「単一ストック」コーティングと呼ばれる。特に、ΔE*値が3未満のコーティングは、単一ストック用途に適していると考えられる。熱処理プロセスの前後で値を測定する代わりに、同じ組成およびコーティング組成を有するアニーリングされた第1のコーティングされたガラス板と熱処理された第2のコーティングされたガラス板との間で比較可能なコーティングされたガラス板の値が比較され得る。
【0014】
ガラス基板に隣接するコーティング層(しばしば「ベース層」と呼ばれる)は、製品の性能を決定する上で重要な役割を果たすことが知られている。これは、ガラス基板に隣接するコーティング層が基板の表面とコーティングとの間の重要な界面であり、コーティングを基板に付着させなければならないためであると考えられる。ガラス表面に隣接するコーティング層は、バルクガラスからコーティングへのナトリウムの拡散も防ぎ、このようなナトリウムは、貴金属の赤外線反射層の性能を低下させると考えられている。ナトリウムの拡散は、熱処理プロセスによって悪化すると考えられている。
【0015】
以前の機能性コーティングには、ベース層としてTiOxの層が含まれていた。TiOxをベース層として使用すると、IR反射率を損なうことなく、魅力的な青/緑の反射色を生成し得る。しかしながら、TiOxベース層を有するコーティングされたグレージングは、熱処理後に許容できない損傷を示すことが判明した。TiOx層はナトリウムイオンの移動に対して十分な障壁を形成していないと考えられている。そのため、これまでは、ガラス表面に隣接するTiOx含有層を含有するコーティングは「熱処理不可能」であると考えられていた。
【0016】
熱処理可能なコーティングに関するこれまでの試みでは、ガラス表面に隣接するSiNx層が含まれていた。ただし、SiNxは、TiOxと比較した場合、そのような有益な美的特性を提供しない。その結果、SiNxが強化可能なコーティングのベース層として使用され、TiOxが強化不可能コーティングに使用されることになり、製造プロセスが複雑になり、TiOxとSiNxとの堆積に必要な装置を切り替えるために製造設備の変更が必要になる。このような変更には2~3日のダウンタイムが必要になり得、コストがかかる。
【0017】
ベース層の代替組成が研究されている。例えば、米国特許出願公開第20190203529号明細書は、透明ガラス基板と、透明ガラス基板上に形成された低放射率コーティングとを含む窓用の機能性建築材料を開示している。低放射率コーティングは、下部バリア層を含む透明ガラス基板上の垂直順次スタックを含み、下部バリア層は、第1の金属、第1の複合金属、第1の金属酸化物、第1の複合金属酸化物、第1の金属酸窒化物、第1の複合金属酸窒化物、およびそれらの組み合わせを含み得る。
【0018】
同様に、国際公開第2008113786号は、一組の薄い真空蒸着層でコーティングされたグレージングを開示している。グレージングは、1つ以上の銀ベースの層および誘電体層を備え、少なくとも1つの銀ベースの層の下にある少なくとも1つの誘電体層は、TiMOxまたはTiMOxNyタイプの酸化チタンまたは酸窒化物を含有する層である。
【0019】
しかしながら、色性能、透明性、および低放射率性能が改善された、熱処理可能なコーティングされたガラス板の必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【0020】
したがって、本発明の目的は、改良された熱処理可能で実質的に透明な低放射率コーティングされたガラス板を提供することである。
【0021】
本発明はさらに、高い光透過率および低い放射率(低いシート抵抗に対応する)を有する、および/または良好な日射制御特性を示す、すなわちガラス板が十分に高い光透過率と組み合わせた低い太陽エネルギー透過率を有する、熱処理可能なコーティングされたガラス板を提供することを目的とする。
【0022】
さらに、場合によっては、本発明は、熱処理によって引き起こされるコーティングされたガラス板の色の変化が、必要に応じて、熱処理されたおよび熱処理されていないコーティングされたガラス板は、隣接して使用中に顕著な色の違いなく、互いに艶出しされ得るような単一ストックコーティングを提供することを目的とする。
【0023】
本発明の第1の態様によれば、ガラス基板とコーティングとを備える、コーティングされたガラス板であって、コーティングは、ガラス基板から順に、ガラス基板に隣接し接触しているベース層と、銀ベースの機能層と、上部誘電体層と、を備え、ベース層は、ジルコニウムおよびチタンの酸化物ZrxTiyOzを含み、ベース層中のZrおよびTiに基づくZrの原子比率は、x/(x+y)として計算され、0.40~0.95である、コーティングされたガラス板を提供する。本発明者らは、驚くべきことに、そのようなベース層を含むコーティングされたガラス板が、優れた赤外線反射特性を提供する改善された熱処理可能なコーティングされたガラス板を提供することを発見した。したがって、コーティングは赤外線の反射に適している。さらに、このようなベース層は、高い光透過率および低い放射率(低いシート抵抗に対応する)を有する、および/または良好な日射制御特性を示す、すなわち、ガラス板が低い太陽エネルギーの透過率と十分に高い光の透過率の組み合わせを有する、熱処理可能なコーティングされたガラス板を提供する。さらに、そのようなコーティングされたガラス板は、経済的に効率的で商業的に望ましい方法で製造され得、例えばヘイズ、光透過率および色に関してガラス産業に必要な光学特性を満たし、熱強化に耐えるのに十分な堅牢性も備える。
【0024】
特定の理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、本発明のコーティングされたガラス板の驚くべき良好な性能は、ベース層の高いナトリウム遮断能力に関連し得ると考えている。これによって、コーティングの性能を低下させ得る、ガラス基板からコーティングへのナトリウムの移動が防止される。
【0025】
さらに、いくつかの実施形態では、単一ストックの用途に適したコーティングされたガラス板が本発明によって提供される。さらに、本発明によるいくつかの実施形態は、ガラス側面反射において魅力的な青緑色を呈する。
【0026】
さらに、本発明によるベース層は、既存のコーティングスタック設計における下部誘電体層内の1つ以上の層を置き換えるために使用され得る。特に、TiOxベース層および/またはSiNxベース層および/または下部誘電体層内の(Zn)SnOx層などの他の層は、本発明によるベース層で置き換えられ得る。有利なことに、本発明によるベース層は、元の層と比較して厚さを薄くし得、ヘイズの減少およびシート抵抗の改善などの有益な特性を提供し得る。スタック設計における層の数が少ない、および/または薄いと、材料コストの削減につながり、必要なコーティングプロセスの数も削減され、資本支出の削減とスループットの向上につながり得る。
【0027】
(ベース層)
本明細書で使用される場合、ベース層中のジルコニウムおよびチタン(Ti)に基づくジルコニウム(Zr)の原子比率は、x/(x+y)として計算され、総組成中のジルコニウムの原子%を、全組成中のジルコニウムとチタンの原子百分率の合計によって割ることによって計算される。例えば、原子パーセントがZr(20)、Ti(20)、O(60)の層は、金属のZrの原子比率が0.5である。
【0028】
いくつかの実施形態では、ベース層は実質的にチタン、酸素、およびジルコニウムからなり、他の元素は微量のみである。本発明によれば、微量の他の元素とは、合計でベース層の5重量%未満、好ましくはベース層の1重量%未満を構成する不純物を指す。
【0029】
あるいは、ベース層は、層の安定化に役立つイットリウムなどの、さらなる元素を含む。好ましくは、さらなる元素は、ベース層の10重量%を超えて存在しない。
【0030】
ベース層中のZrとTiとを基準としたZrの原子比率(x/(x+y)として計算)は、0.50~0.90であることが好ましい。ベース層中のZrとTiを基準としたZrの原子比率(x/(x+y)として計算)は、0.55~0.85であることが好ましい。より好ましくは、ベース層中のZrおよびTiに基づくZrの原子比率(x/(x+y)として計算)は、0.60~0.80である。さらにより好ましくは、ベース層中のZrおよびTiに基づくZrの原子比率は、x/(x+y)として計算され、0.62~0.67である。このような原子比率のZrを有するベース層を含むコーティングされたガラス板は、本明細書で論じられるように、特に良好な熱処理性能を有する。
【0031】
好ましくは、ベース層中のチタンの原子%は、全組成中のTiとして計算され、1~25、好ましくは5~20、より好ましくは8~15である。
【0032】
好ましくは、ベース層中の酸素の原子%は、全組成物中のOとして計算され、60~70、好ましくは62~66、より好ましくは63~65である。
【0033】
好ましくは、ベース層中のジルコニウムの原子%は、全組成中のZrとして計算され、12~35、好ましくは15~25である。
【0034】
好ましくは、ベース層の厚さはnmで6~60、好ましくは8~45、より好ましくは10~30である。
【0035】
好ましくは、nmでのベース層の厚さに、ベース層中のZrおよびTiに基づくZrの原子比率を乗じて計算されるベース層のZr係数は、1~35である。より好ましくは、nmでのベース層の厚さに、ベース層中のZrおよびTiに基づくZrの原子比率を乗じて計算されるベース層のZr係数は、5~20である。さらにより好ましくは、nmでのベース層の厚さに、ベース層中のZrおよびTiに基づくZrの原子比率を乗じて計算されるベース層のZr係数は、7~15である。ベース層のZr係数は、nmでのベース層の厚さに、ベース層中のZrおよびTiに基づくZrの原子比率を乗じて計算され、8~12である。
【0036】
本発明者らは、Zr係数が上記の好ましい範囲内に留まるようにベース層の厚さおよび/または組成を変更すると、熱処理に対するコーティングされたガラス板の反応が改善されることを発見した。より低いZr係数はヘイズの増加に関連し、一方、より高いZr係数は導電性の減少および/またはヘイズの増加に関連する。
【0037】
(銀機能層)
銀ベースの機能層は、低放射率および/または太陽光制御コーティングの分野で通常そうであるように、任意の添加剤を含まず実質的に銀からなることが好ましい。しかしながら、ドープ剤、合金添加剤などを添加することによってまたは非常に薄い金属層または金属化合物層を添加することによってさえも、銀ベースの機能層の特性を変更することは、高透光性かつ低光吸収性のIR反射層として機能するために必要な銀ベースの機能層の特性を備えている限り、それによって実質的に損なわれることはなく、本発明の範囲内である。
【0038】
各銀ベースの機能層の厚さは、その技術的目的によって決まる。通常の低放射率および/または太陽光制御の目的では、単一の銀ベースの層の好ましい層厚は、好ましくは、5~20nmであり得、より好ましくは5~15nm、さらにより好ましくは5~13nm、さらにより好ましくは8~12nm、最も好ましくは9~12nmである。このような層厚さによって、熱処理後の86%を超える光透過率値および0.05未満の垂直放射率は、本発明に従って単一の銀コーティングについて容易に達成され得る。より良好な日照制御特性が必要な場合、下記でさらに説明するように、銀ベースの機能層の厚さを適切に増やし得るか、またはいくつかの間隔をあけた機能層を設け得る。
【0039】
いくつかの実施形態では、銀ベースの機能層はベース層と直接接触している。銀ベースの機能層がベース層と直接接触している場合、ベース層の厚さは、20nm~60nmであることが好ましい。
【0040】
本発明の代替実施形態では、コーティングされたガラス板は、ベース層と銀層との間に下部誘電体層をさらに備えることが好ましい。好ましくは、コーティングされたガラス板がベース層と銀層との間に下部誘電体層を備えるとき、ベース層は、6nm~25nmの厚さを有する。好ましくは、下部誘電体層は20nm~70nmの厚さを有する。下部誘電体層は、コーティングの適切な機能に必要な成長促進層、安定化層、分離層および/またはバリア層のうちの1つ以上を備え得る。
【0041】
本発明の概念を適用して、2つ以上の銀ベースの機能層を含む低放射率および/または太陽光制御コーティングを調製することは、本発明の範囲内である。2つ以上の銀ベースの機能層を設けるとき、全ての銀ベースの機能層は、ファブリペロー干渉フィルタを形成するために、本明細書では集合的に「中央反射防止層」と呼ばれる、介在する誘電体層によって好ましくは離隔される。これによって、低放射率コーティングおよび/または日射制御コーティングの光学特性をそれぞれの用途に合わせてさらに最適化し得る。
【0042】
好ましくは、各銀ベースの機能層は、介在する中央誘電体層によって隣接する銀ベースの機能層から離隔される。介在する中央誘電体層は、シリコンの(酸)窒化物および/またはアルミニウムの(酸)窒化物に基づく層、亜鉛とスズとの酸化物またはスズの酸化物に基づく層、および亜鉛酸化物などの金属酸化物に基づく層の層のうちの1つ以上の組み合わせを備え得る。
【0043】
いくつかの実施形態では、コーティングは、銀ベースの機能層と上部誘電体層との間に第2の銀ベースの機能層をさらに備える。好ましくは、コーティングは、銀ベースの機能層と第2の銀ベースの機能層との間の中央誘電体層、および/または第2の銀ベースの機能層と上部誘電体層との間の第2のバリア層をさらに備える。
【0044】
いくつかの実施形態では、コーティングは、第2の銀ベースの機能層と上部誘電体層との間に第3の銀ベースの機能層をさらに備える。好ましくは、コーティングは、第2の銀ベースの機能層と第3の銀ベースの機能層との間に第2の中央誘電体層、および/または第3の銀ベースの機能層と上部誘電体層との間に第3のバリア層をさらに備える。
【0045】
いくつかの実施形態では、コーティングは、第3の銀ベースの機能層と上部誘電体層との間に第4の銀ベースの機能層をさらに備える。好ましくは、コーティングは、第3の銀ベースの機能層と第4の銀ベースの機能層との間の第3の中央誘電体層、および/または第4の銀ベースの機能層と上部誘電体層との間の第4のバリア層をさらに備える。
【0046】
場合によっては、中央誘電体層は、ジルコニウムとチタンの酸化物ZrxTiyOzを備える層を備え得る。いくつかの実施形態では、中央誘電体層のジルコニウムとチタンの酸化物ZrxTiyOzを含む層は、x/(x+y)として計算され、0.40~0.95の、ZrおよびTiに基づくZrの原子比率を備え得る。
【0047】
いくつかの好ましい実施形態では、各銀ベースの機能層は、介在する中央誘電体層によって別の銀ベースの機能層から離隔されており、各中央誘電体層は、少なくとも、ガラス基板の最も近くに位置する銀ベースの機能層から順に、シリコンの(酸)窒化物および/またはアルミニウムの(酸)窒化物に基づく層、亜鉛とスズとの酸化物またはスズの酸化物に基づく層、および亜鉛酸化物などの金属酸化物に基づく層を備える。
【0048】
したがって、2つ以上の銀ベースの機能層を備えるコーティングされたガラス板については、各銀ベースの機能層が、介在する中央誘電体層によって隣接する銀ベースの機能層から離隔されていることが好ましく、
各中央誘電体層は、少なくとも、ガラス基板の最も近くに位置する銀ベースの機能層から順に、
ニッケルとクロムとを備える混合金属酸化物に基づく層と、
亜鉛とアルミニウムとを主成分とする混合金属酸化物を主成分とする層と、
シリコンの(酸)窒化物および/またはアルミニウムの(酸)窒化物に基づく層と、
好ましくは亜鉛を備える、スズの酸化物に基づく層と、
亜鉛酸化物などの金属酸化物に基づく層と、
を備える。
【0049】
(上部誘電体層)
また、本発明の第1の態様に関連して、コーティングされたガラスは上部誘電体層を備える。
上部誘電体層は、最上部の銀ベースの機能層から、
(i)好ましくは亜鉛を備えるスズの酸化物に基づく層、または好ましくはアルミニウムを含む亜鉛に基づく層、またはタングステンの窒化物に基づく層、および/または、
(ii)シリコンの(酸)窒化物および/またはアルミニウムの(酸)窒化物に基づく層、または好ましくはアルミニウムを備える亜鉛に基づく層、を備え得る。
【0050】
上部誘電体層において好ましくは亜鉛を備えるスズの酸化物に基づく層は、好ましくは0.5~5nm、より好ましくは1~4nm、さらにより好ましくは1.5~3nmの厚さを有し得る。これらの好ましい厚さによって、機械的耐久性を維持しながら、堆積がさらに容易になり、ヘイズなどの光学特性が改善される。
【0051】
上部誘電体層に好ましくはアルミニウムを含む亜鉛に基づく層は、好ましくは0.5~5nm、より好ましくは1~4nm、さらにより好ましくは1.5~3nmの厚さを有し得る。これらの好ましい厚さは、機械的耐久性を維持しながら、堆積をさらに容易にし、ヘイズなどの光学特性を改善することをも可能にする。
【0052】
上部誘電体層のタングステンの窒化物に基づく層は、観察者が知覚するガラス側の反射色におけるタングステン窒化物層に基づく層の影響を最小限に抑えながら、吸収を増加させ得、その結果、吸収層の厚さを変更することによって所定のコーティングスタックの光および/またはエネルギー透過特性が変化したとしても、ガラス板はほぼ同じ外観を示し得る。タングステンの窒化物に基づく層は、好ましくは0.5~25nm、より好ましくは1~15nm、さらにより好ましくは2~8nm、さらにより好ましくは3~5nmの厚さを有する。
【0053】
アルミニウムの(酸)窒化物またはシリコンの(酸)窒化物に基づく上部反射防止層内の層は、少なくとも5nmの厚さを有することが好ましく、好ましくは5~50nm、より好ましくは10~40nm、さらにより好ましくは10~30nm、最も好ましくは15~30nmの厚さを有する。このような厚さによって、コーティングされたガラス板の機械的堅牢性の点でさらなる改善がもたらされる。アルミニウムの(酸)窒化物、シリコンの(酸)窒化物に基づく当該層は、好ましくは上部誘電体層内の亜鉛(Zn)の酸化物を含む層と直接接触し得る。
【0054】
アルミニウムの(酸)窒化物および/またはシリコンの(酸)窒化物に基づく層は、上部反射防止層の大部分を構成し、安定性(熱処理中のより良い保護)および拡散バリア特性を提供し得る。当該層は、好ましくは、N2含有雰囲気中でのSi、Al、または混合SiAlターゲット、例えばSi90Al10ターゲットの反応性スパッタリングによって、Al窒化物および/またはSi窒化物層として堆積される。アルミニウムの(酸)窒化物および/またはシリコンの(酸)窒化物に基づく層の組成は、実質的に化学量論的Si90Al10Nxであり得る。好ましくは、上部誘電体層の層は、実質的に化学量論的な金属酸化物に基づいている。金属または95%未満の化学量論的バリア層ではなく、実質的に化学量論的金属酸化物に基づく層の使用は、熱処理中のコーティングの極めて高い光学的安定性をもたらし、熱処理中の光学的変化を小さく保つのに効果的に役立つ。さらに、実質的に化学量論的な金属酸化物に基づく層の使用は、機械的堅牢性の点で利点をもたらす。
【0055】
コーティングされたガラス板の光学特性をさらに最適化するために、上部誘電体層および/または中央誘電体層は、特に低放射率コーティングおよび/または太陽光制御コーティングの誘電体層として一般的に知られている適切な材料、特にSn、Ti、Zn、Nb、Ce、Hf、Ta、Zr、Alおよび/またはSiの酸化物、および/またはSiおよび/またはAlの(酸)窒化物の1つ以上、またはそれらの組み合わせから選択される、材料からなるさらなる部分層を備え得る。しかしながら、そのようなさらなる部分層を追加するとき、本発明で目的とする熱処理性がそれによって損なわれないことを確認する必要がある。
【0056】
場合によっては、上部誘電体層は、ジルコニウムとチタンとの酸化物ZrxTiyOzを備える層を備え得る。いくつかの実施形態では、上部誘電体のジルコニウムとチタンの酸化物ZrxTiyOzを備える層は、x/(x+y)として計算され0.40~0.95の、ZrおよびTiに基づくZrの原子比率を備え得る。
【0057】
(成長促進層)
好ましくは、コーティングは、ベース層と銀ベースの機能層との間に成長促進層をさらに備える。成長促進層は、その後に堆積される銀ベースの機能層の成長促進層として機能する。好ましくは、銀ベースの機能層は成長促進層と直接接触している。
【0058】
いくつかの実施形態では、成長促進層は、ベース層および銀層との間に安定化層が存在しないように、ベース層および銀層と直接接触し得る。好ましくは、成長促進層がベース層と直接接触している場合、ベース層は10~60nmの厚さを有する。
【0059】
好ましくは、成長促進層は亜鉛酸化物に基づく。酸化亜鉛および混合酸化亜鉛は効果的な成長促進層であり、その後堆積される銀ベースの機能層の所定の厚さで低いシート抵抗を達成するのに役立つ。亜鉛酸化物に基づく成長促進層は、必要に応じて、最大約10重量%の量のアルミニウムまたはスズなどの金属と混合される(重量%は、目標金属含有量を指す)。アルミニウムまたはスズなどの当該金属の通常の含有量は約2重量%であり、実際にはアルミニウムが好ましい。
【0060】
下部誘電体層の亜鉛酸化物に基づく成長促進層は、酸素(O2)を含む雰囲気中で亜鉛ターゲットから反応性スパッタリングされるか、または概して酸素をゼロまたは少量しか含まない、すなわち概して約5体積%以下の酸素を含む雰囲気中で、例えば酸化亜鉛に基づく必要に応じてアルミニウムをドープされたセラミックターゲットからスパッタリングによって堆積されることが好ましい。
【0061】
成長促進層は、好ましくは少なくとも2nmの厚さを有し得る。より好ましくは、成長促進層は、好ましくは2~15nm、または3~12nmの厚さを有し得る。さらに好ましくは、成長促進層は4~10nmの厚さを有し得ることが好ましい。最も好ましくは、成長層は5~8nmの厚さを有する。
【0062】
(安定化層)
好ましくは、コーティングは、ベース層と成長促進層との間に安定化層をさらに備える。好ましくは、安定化層は、ベース層と直接接触しており、および/または(Zn)SnOxを備える。
【0063】
安定化層は、緻密で熱的に安定な層を提供することによって、熱処理中の安定性を向上させ、熱処理後のヘイズの低減に寄与すると考えられる。
【0064】
好ましくは、安定化層は酸化スズを含み、好ましくは亜鉛、(Zn)SnOxを含む。本明細書で使用される場合、(Zn)SnOxを含む層は、酸化スズ、SnOx、または酸化亜鉛スズ、ZnSnOxのいずれかを含み得る。
【0065】
安定化層が酸化亜鉛スズを含むとき、安定化層は、層の総金属含有量の重量%で、好ましくは、10~90重量%の亜鉛および90~10重量%のスズ、より好ましくは、40~60重量%の亜鉛および40~60重量%のスズ、さらにより好ましくは、亜鉛とスズをそれぞれ約50重量%含む。いくつかの好ましい実施形態では、酸化亜鉛スズを含む安定化層は、最大18重量%のスズ、より好ましくは最大15重量%のスズ、さらにより好ましくは最大10重量%のスズを含む。酸化亜鉛スズを含む安定化層は、好ましくは、O2の存在下で混合ZnSnターゲットの反応性スパッタリングによって堆積される。
【0066】
安定化層の厚さは少なくとも0.5nmであることが好ましい。好ましくは、安定化層は、0.5~15nm、または0.5~13nm、または1~12nmの厚さを有することが好ましい。さらに、安定化層は、1~7nm、または2~6nm、または3~6nmの厚さを有し得る。最も好ましくは、安定化層は、酸化亜鉛スズを備え、単一の銀ベースの機能層を備える層順序を有するコーティングされたガラス板の場合、3~5nmの厚さを有する。厚さの上限は、機能層の反射防止のための光学干渉境界条件を維持するために必要となる光干渉条件のため、また、その結果生じるベース層の厚さの減少による熱処理性の低下によって、8nmの範囲の厚さの限界が好ましい。
【0067】
本発明の第1の態様に関する別の実施形態では、コーティングされたガラス板が2つ以上の銀ベースの機能層を備える場合、安定化層は少なくとも10nmの厚さを有することが好ましい。より好ましくは、安定化層は10nm~20nmの厚さを有する。さらにより好ましくは、安定化層は12nm~16nmの厚さを有する。最も好ましくは、安定化層は酸化亜鉛スズを含み、12nm~14nmの厚さを有する。
【0068】
(分離層)
いくつかの実施形態では、コーティングは、安定化層と成長促進層との間に分離層をさらに備える。好ましくは、分離層は安定化層と直接接触し、および/または金属酸化物および/またはシリコンの(酸)窒化物および/またはアルミニウムおよび/またはその合金の(酸)窒化物を備える。
【0069】
コーティング順序が2つ以上の銀ベースのコーティング層を備えるとき、下部誘電体層は、ガラス基板から順に、安定化層、および成長促進層からなることが好ましい。しかしながら、コーティング順序が単一のみの銀ベースのコーティング層を備えるとき、下部誘電体層は、安定化層と成長促進層との間に分離層を追加的に備え得る。
【0070】
分離層は、好ましくは、金属酸化物および/またはシリコンの(酸)窒化物および/またはアルミニウムの(酸)窒化物および/またはその合金に基づき得る。
【0071】
「シリコンの(酸)窒化物」という用語は、窒化シリコン(SiNx)と酸窒化シリコン(SiOxNy)の両方を包含し、一方、「アルミニウムの(酸)窒化物」という用語は、窒化アルミニウム(Al)(AlNx)および酸窒化アルミニウム(Al)(AlOxNy)の両方を包含する。窒化ケイ素(Si)、酸窒化ケイ素(Si)、窒化アルミニウム(Al)、及び酸窒化アルミニウム(Al)の層は、好ましくは実質的に化学量論的である(例えば、窒化ケイ素=Si3N4において、SiNxにおけるxの値=1.33)が、コーティングの熱処理性に悪影響を及ぼさない限り、準化学量論的であり得、または超化学量論的であり得る。下部誘電体層のシリコンの(酸)窒化物および/またはアルミニウムの(酸)窒化物に基づくベース層の好ましい組成の1つは、実質的に化学量論的な混合窒化物Si90Al10Nxである。
【0072】
シリコンの(酸)窒化物および/またはアルミニウムの(酸)窒化物の層は、それぞれ、窒素およびアルゴンを含むスパッタリング雰囲気中でシリコン(Si)および/またはアルミニウム(Al)ベースのターゲットから反応性スパッタリングされ得る。シリコンの(酸)窒化物および/またはアルミニウムの(酸)窒化物に基づく層の酸素含有量は、スパッタリング雰囲気中の残留酸素または当該雰囲気中の添加酸素の制御された含有量に起因し得る。概して、(酸)窒化ケイ素および/または(酸)窒化アルミニウムの酸素含有量がその窒素含有量よりも大幅に低い場合、つまり、層内の原子比O/Nが1より大幅に低く維持される場合が好ましい。酸素含有量が無視できる窒化ケイ素および/または窒化アルミニウムを使用することが最も好ましい。この特徴は、層の屈折率が酸素を含まない窒化ケイ素層および/または窒化アルミニウム層の屈折率と大きく異ならないようにすることによって制御され得る。
【0073】
下記の条件を満たす限り、混合シリコン(Si)および/またはアルミニウム(Al)ターゲットを使用すること、または他の方法でこの層のシリコン(Si)および/またはアルミニウム(Al)成分に金属または半導体を添加することは、層の必須バリアおよび保護特性が失われない限り、本発明の範囲内である。例えば、アルミニウム(Al)とシリコン(Si)ターゲットとを混合し得るが、他の混合ターゲットも排除されない。追加の成分は、通常10~15重量%の量で存在し得る。アルミニウムは通常、混合シリコンターゲット中に10重量%の量で存在する。
【0074】
加えて、分離層は、好ましくは、少なくとも0.5nmの厚さを有し得、または好ましくは0.5~6nm、より好ましくは0.5~5nm、さらにより好ましくは0.5~4nm、最も好ましくは0.5~3nmの厚さを有し得る。これらの好ましい厚さは、熱処理時のヘイズのさらなる改善を可能にする。分離層は、好ましくは、堆積プロセス中およびその後の熱処理中に、保護を提供する。分離層は、堆積直後に実質的に完全に酸化されるか、または後続の酸化物層の堆積中に実質的に完全に酸化された層へと酸化されるかのいずれかが好ましい。
【0075】
分離層が金属酸化物に基づくとき、当該分離層は、好ましくは、Ti、Zn、NiCr、InSn、Zr、Alおよび/またはSiの酸化物に基づく層を備え得る。
【0076】
分離層が好ましくは金属酸化物に基づくとき、それは、例えばわずかに準化学量論的の酸化チタン、例えばTiO1.98ターゲットに基づくセラミックターゲットからの非反応性スパッタリングを使用して、実質的化学量論的またはわずかに準化学量論的酸化物として、O2の存在下でTiに基づくターゲットの反応性スパッタリングによって、または次に酸化されるTiに基づく薄層を堆積することによって、堆積され得る。本発明の文脈において、「実質的化学量論的酸化物」は、少なくとも95%であるが最大100%の化学量論的酸化物を意味し、一方、「わずかに準化学量論的酸化物」は、少なくとも95%であるが100%未満が化学量論的である酸化物を意味する。
【0077】
それが基づくシリコンの金属酸化物および/または(酸)窒化物および/またはアルミニウムの(酸)窒化物、および/またはそれらの合金に加えて、分離層は、Ti、V、Mn、Co、Cu、Zn、Zr、Hf、Al、Nb、Ni、Cr、Mo、Ta、Siの元素の少なくとも1つからまたは例えば、ドーパントまたは合金剤として使用されるこれらの材料の少なくとも1つに基づく合金から選択された1つ以上の他の化学元素をさらに含み得る。
【0078】
しかしながら、好ましくは、シリコンの金属酸化物および/または(酸)窒化物および/またはアルミニウムの(酸)窒化物に基づく分離層は、1つ以上の他の化学元素を含まない。
【0079】
本発明の一つの好ましい実施形態では、分離層は、亜鉛(Zn)の酸化物および/またはチタン(Ti)の酸化物を含む金属酸化物に基づく。
【0080】
本発明の別の好ましい実施形態では、分離層は、チタンの酸化物を含む金属酸化物に基づく。
【0081】
コーティングされたガラスの層順序が1つの銀ベースの機能層を備えるとき、分離層は、チタンの酸化物に基づくことが特に好ましい。
【0082】
層順序が2つ以上の銀ベースの機能層を備えるとき、分離層は、チタンの酸化物に基づき得るが、層順序またはスタックが2つ以上の銀ベースの機能層を備えるとき、層順序が下部誘電体層中に分離層を備えないこともまた、好ましい場合がある。
【0083】
また、分離層が金属酸化物を主成分とし、金属酸化物が酸化チタンを主成分とするとき、酸化チタンの好ましい厚みは0.5~3nmであることが好ましい。
【0084】
したがって、コーティング順序が単一のみの銀ベースのコーティング層を備えるとき、下部誘電体層は、ガラス基板から順に、ベース層と直接接触している酸化亜鉛スズ層、酸化亜鉛スズ層と直接接触している分離層と、分離層と直接接触している酸化亜鉛層と、からなり得る。
【0085】
あるいは、コーティング順序が2つ以上の銀ベースの層を備えるとき、下部誘電体層は、ガラス基板から順に、ベース層と直接接触している酸化亜鉛スズ層と、酸化亜鉛層と直接接触している酸化亜鉛スズ層と、から構成され得る。
【0086】
さらなる実施形態では、コーティング順序が2つ以上の銀ベースの層を含むとき、好ましくは酸化亜鉛の成長促進層は、ベース層および銀ベースの層と接触し得る。この場合、ジルコニウムチタン酸化物ベース層の厚さを厚くし得る。あるいは、コーティング順序が2つ以上の銀ベースの層コーティングを備えるとき、コーティング順序は、酸化ジルコニウムチタンベース層と、ベース層と接触しているさらなる酸化ジルコニウムチタン安定化層と、安定化層と接触している酸化亜鉛層とを備え得る。この実施形態では、下部誘電体層には酸化亜鉛スズ層が必要なく、コーティング構造がより単純になる。
【0087】
(バリア層)
好ましくは、コーティングは、銀ベースの機能層と上部誘電体層との間にバリア層をさらに備える。好ましくは、バリア層は、銀ベースの機能層と直接接触している。
【0088】
好ましくは、コーティングが複数の銀ベースの機能層を含むとき、各銀ベースの機能層は、上にあるバリア層と直接接触している。銀ベースの機能層と直接接触しているバリア層の少なくとも一部は、銀の損傷を避けるために非反応性スパッタリングを使用して堆積されることが好ましい。バリア層が混合金属酸化物ターゲットからスパッタリングされた混合金属酸化物の層を含む場合、堆積プロセス中の銀ベースの機能層の優れた保護および熱処理中の高い光学的安定性が達成され得ることが判明した。
【0089】
いくつかの実施形態では、バリア層は、亜鉛酸化物に基づく層を備える。バリア層が亜鉛酸化物に基づく層を備えるとき、当該酸化物は、ZnO:Alなどの混合金属酸化物であり得る。特に、ZnO:Alベースの層が導電性ZnO:Alターゲットからスパッタリングされる場合、良好な結果が得られる。ZnO:Alは、完全に酸化されて、またはわずかに亜酸化されるように堆積され得る。
【0090】
バリア層は、好ましくは、少なくとも0.5nmの厚さを有する亜鉛酸化物に基づく層を備え得、より好ましくは、バリア層は、0.5~10nmの厚さを有する亜鉛酸化物に基づく層を備える。最も好ましくは、バリア層は、厚さ1~10nmの亜鉛酸化物に基づく層を備える。さらに、バリア層が亜鉛酸化物に基づく層を備えるとき、バリアは、実際には、ZnO:Alなどの混合金属酸化物に基づく層だけでなく、亜鉛とスズの酸化物に基づく層など、多数の酸化亜鉛層を備えることが可能である。したがって、適切なバリア層は、ガラス基板から順に、ZnO:Al、ZnSnOx、ZnO:Alの3層の形態であり得る。このような三重バリア構成は、合計で3~12nmの厚さを有し得る。
【0091】
さらに三重バリア構成は、好ましくは、銀ベースの機能層から順にZnO:Al/TiOx/ZnO:Al、ZnO:Al/ZnSnOx/ZnO:Al、TiOx/ZnSnOx/ZnO:Al、TiOx/ZnO:Al/TiOx、TiOx/ZnSnOx/TiOx、およびZnO:Al/ZnSnOx/TiOxの層の組み合わせからなる群から選択され得る。
【0092】
あるいは、バリア層は、NiCrOxの層など、ニッケルおよびクロムに基づく混合金属酸化物に基づく層を備え得る。さらに、バリア層が、NiCrOxの層など、ニッケルとクロムとに基づく混合金属酸化物を含む場合、蒸着プロセス中の銀ベースの機能層の適切な保護と熱処理中の高い光学的安定性とが達成され得ることがわかった。これは、コーティングされたガラス板が2つ以上の銀ベースの機能層を備える場合に特に当てはまる。しかしながら、NiCrOxの層は、コーティングされたガラス板が単一の銀ベースの機能層を備えるときにも使用され得る。好ましくは、NiCrOx層は準化学量論的NiCrOxとして堆積される。
【0093】
したがって、いくつかの実施形態では、バリア層は、少なくとも0.5nmの厚さを有するニッケルおよびクロムに基づく混合金属酸化物に基づく層を備え得ることが好ましく、より好ましくは、バリア層は、厚さ0.5~10nmのニッケルおよびクロムに基づく混合金属酸化物に基づく層を備える。最も好ましくは、バリア層は、厚さ1~10nmのニッケルおよびクロムに基づく混合金属酸化物に基づく層を備える。
【0094】
(保護層)
好ましくは、コーティングされたガラス板は、機械的および/または化学的堅牢性、例えば耐擦傷性を高めるために、コーティングの最外層である保護層をさらに備える。好ましくは、保護層は、亜鉛とスズの酸化物に基づく層を備える。保護層は、亜鉛およびスズに加えて、ジルコニウムを含み得る。好ましくは、亜鉛、スズおよびジルコニウムの酸化物に基づく層は、12~35原子%のジルコニウムを含む。より好ましくは、亜鉛、スズおよびジルコニウムの酸化物に基づく層は、15~33原子%のジルコニウムを含む。最も好ましくは、亜鉛、スズおよびジルコニウムの酸化物に基づく層は、18~33原子%のジルコニウムを含む。
【0095】
本発明者らは、本発明によるコーティングされたガラス板が優れた制御可能な色特性を有し得ることを発見した。したがって、魅力的な色のコーティングされたガラス板を提供することが可能である。
【0096】
特に、高度無彩色コーティングを施したガラス板が実現可能である。あるいは、所望の場合には、わずかにまたはさらに強く着色されたガラス板が提供され得る。
【0097】
特定の実施形態では、-6~+6.5のRg a*および-14~-2.5のRg b*を有する、コーティングされたガラス板を提供することが望ましい。
【0098】
好ましくは、コーティングされたガラス板が銀ベースの機能層を1つだけ含むコーティングを含む場合、コーティングされたガラス板は-3~+6.5のRg a*および-14~-4のRg b*を有する。
【0099】
コーティングされたガラス板が2つ以上の銀ベースの機能層を含むコーティングを含む場合、コーティングされたガラス板は-6~+4.8のRg a*および-18.5~-2.3のRg b*を有することが好ましい。
【0100】
このようなコーティングされたグレージングは、建築用グレージングに特に適している。
【0101】
シート抵抗(Rs)は、コーティング内の銀層の数と厚さに依存し、銀層の数が多いほど、または厚さが厚いほど、シート抵抗の測定値が低くなる。好ましくは、シート抵抗RSは8Ω/□未満である。
【0102】
コーティングされたガラス板が銀層を1つのみ備える場合、堆積後のシート抵抗は8Ω/□未満、好ましくは7Ω/□未満、さらにより好ましくは6Ω/□未満であり得る。コーティングされたガラス板が銀層を1つのみ備える場合、好ましくは熱処理後のシート抵抗は7Ω/□未満、好ましくは6Ω/□未満、さらにより好ましくは5Ω/□未満である。
【0103】
コーティングされたガラス板が2つ以上の銀層を備えるとき、堆積後のシート抵抗は5Ω/□未満、好ましくは4Ω/□未満、さらにより好ましくは3Ω/□未満であり得る。コーティングされたガラス板が2つのみの銀層を備えるとき、熱処理後のシート抵抗は4Ω/□未満、好ましくは3Ω/□未満、さらにより好ましくは2Ω/□未満であり得る。
【0104】
熱処理によって引き起こされるシート抵抗の変化が負であることが望ましく、これは銀機能層が熱処理によって損傷を受けていないことを示している。したがって、ΔRsは負であることが好ましい。
【0105】
本発明者らは、本発明によるコーティングされたガラス板が、熱処理プロセスに供するのに適した優れた特性を有し得ることを発見した。
【0106】
いくつかの実施形態では、コーティングされたガラス板は、熱処理可能なコーティングされたガラス板である。本明細書で定義されるように、コーティングされたガラス板は、重大な損傷なしに熱処理に耐えられる場合、「熱処理可能」であるとみなされる。
【0107】
好ましくは、熱処理可能なコーティングされたガラス板は、熱処理の際に、負のシート抵抗変化ΔRsを受ける。
【0108】
好ましくは、熱処理可能なコーティングされたガラス板は、熱処理すると、光透過率TLが正の変化を受ける。しかしながら、光透過率の大幅な増加は、まぶしさが増大する可能性があるため、望ましくない場合がある。したがって、%TLの増加は10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。
【0109】
好ましくは、熱処理可能なコーティングされたガラス板は、熱処理すると、90未満、より好ましくは60未満、さらにより好ましくは50未満のヘイズスキャン値を有する熱処理されたコーティングされたガラス板を提供する。
【0110】
いくつかの実施形態では、コーティングされたガラス板は、熱処理されたコーティングされたガラス板である。好ましくは、熱処理されたコーティングされたガラス板は、熱曲げされたコーティングされたガラス板または熱強化されたコーティングされたガラス板である。
【0111】
熱曲げを受けたコーティングされたガラス板は、少なくとも2°の半径の湾曲を備えることが好ましい。
【0112】
熱強化を受けたコーティングされたガラス板は、同様の厚さのアニーリングされたガラスの少なくとも2倍の強度を有することが好ましい。熱強化を受けたコーティングされたガラス板は、同様の厚さのアニーリングされたガラスの少なくとも4倍の強度を有することが好ましい。
【0113】
好ましくは、熱強化された熱処理されたコーティングされたガラス板は、表面上に400~1500kg/m2の圧縮応力を含む。熱強化された熱処理されたコーティングされたガラス板が強化ガラス板を備える場合、好ましくは、コーティングされたガラス板は、表面上に750~1500kg/m2の圧縮応力を含む。あるいは、熱強化された熱処理されたコーティングされたガラス板は、表面に400~700kg/m2の圧縮応力を含み得、そのようなガラス板は、当技術分野では「強化された」というよりはむしろ「熱強化された」ガラスとして知られている。
【0114】
熱強化を受けたガラス板は、EN12600、BS 6206:1981などの規格によって規制されている。
【0115】
熱強化コーティングされたガラス板は、EN 12600のクラス1を達成することが好ましい。
【0116】
好ましくは、熱強化コーティングされたガラス板は、破壊モードタイプCでEN 12600のクラス1を達成する。より好ましくは、熱強化コーティングされたガラス板は、EN 12600のクラス1(C)1を達成する。好ましくは、熱強化コーティングされたガラス板は、BS 6206:1981のクラスC、より好ましくはクラスB、さらにより好ましくはクラスAに適合する。
【0117】
グレージングは、EN356に従って、手作業による攻撃に対する耐性に従って分類され得る。好ましくは、熱強化コーティングされたガラス板は、EN356による少なくともP1Aおよび/またはP6Bに適合する。
【0118】
好ましくは、熱強化を受けたガラス板は熱浸漬プロセスに供されている。
【0119】
いくつかの実施形態では、熱処理されたコーティングされたガラス板は、同等のアニーリングされたコーティングされたガラス板と比較して、3以下のΔE*を有する。好ましくは、熱処理されたコーティングされたガラス板は、同等のアニーリングされたコーティングされたガラス板と比較して、2以下のΔE*を有する。より好ましくは、熱処理されたコーティングされたガラス板は、同等のアニーリングされたコーティングされたガラス板と比較して、1以下のΔE*を有する。
【0120】
いくつかの実施形態では、熱処理されたコーティングされたガラス板は、90未満のヘイズスキャン値を示す。好ましくは、ヘイズスキャン値は80未満であり、さらにより好ましくは70未満が望ましい。透明性が優先される一部の専門用途では、ヘイズスキャン値は、60未満、好ましくは50未満が望ましい。
【0121】
本発明によるコーティングは、さらなるコーティング層を含み得、任意のさらなる層は、その特性を変更しおよび/またはその製造を容易にする添加剤、例えばドープ剤、または反応性スパッタリングガスの反応生成物を含有し得ることを理解されたい。酸化物ベースの層の場合、窒素は、スパッタリング雰囲気に添加され得、酸化物よりもむしろ酸窒化物の形成につながり、窒化物ベースの層の場合、酸素は、スパッタリング雰囲気に添加され得、窒化物よりむしろ酸窒化物の形成につながる。
【0122】
本発明のガラス板の基本的な層順序にそのようなさらなる部分層を追加するときは、それによって主に目的とする特性、例えば高い熱安定性が著しく損なわれないように、適切な材料、構造、および厚さの選択を行うことによって注意を払わなければならない。
【0123】
また、本発明の文脈において、層が特定の材料または複数の材料「に基づく」と言われる場合、これは、特に明記しない限り、その層が主に少なくとも50原子の量%で材料を含むことを意味する。
【0124】
層がZnSnOxに基づく場合、「ZnSnOx」は、本明細書の他の場所で説明および定義されるように、ZnとSnの混合酸化物を意味する。
【0125】
ここでは、特に有益な特性を提供し得る本発明による実施形態が開示される。次の層順序は、ガラス基板側から順に設けられており、これらに限定されない。下記の層順序において、「/」は隣接する層の境界を示し、境界で互いに接している。例えば、本発明の実施形態は、コーティングが、
(i)ZrxTiyOz/ZnSnOx/TiOx/AlZnOx/Ag/NiCrOx/AlZnOx/AlNx/ZnSnOxまたは、
(ii)ZrxTiyOz/AlZnOx/Ag/AlZnOx/ZnSnOx/ZrOxまたは、
(iii)ZrxTiyOz/AlZnOx/Ag/NiCr/AlZnOx/ZnSnOx/ZrOxまたは、
(iv)ZrxTiyOz/AlZnOx/Ag/AlZnOx/ZnSnOx/Ag/AlZnOx/ZnSnOx/ZrOx
を備える、好ましくはこれらからなる、コーティングされたガラス板を備え得る。
【0126】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様によるコーティングされたガラス板を製造する方法が提供され、この方法は、
(i)ガラス基板を準備するステップと、
(ii)ベース層を準備するステップと、
(iii)銀ベースの機能層を準備するステップと、
(iv)上部誘電体層を準備するステップと、
を含む。
【0127】
本発明の第2の態様に関連して、ガラス基板、ベース層、上部誘電体層、および銀ベースの機能層など、本発明の第1の態様の全ての特徴は、任意の組み合わせで本発明の第2の態様に適用され得ることを理解されたい。
【0128】
本発明は、コーティングの特定の製造プロセスに限定されない。しかしながら、層の少なくとも1つ、最も好ましくは全ての層が、DCモード、パルスモード、中波モードまたは他の任意の適切なモードのいずれかで、金属ターゲットまたは半導体ターゲットが適切なスパッタリング雰囲気で反応的または非反応的にスパッタリングされるマグネトロンカソードスパッタリングによって適用されることが特に好ましい。スパッタされる材料に応じて、平面または回転管状ターゲットを使用し得る。
【0129】
好ましくは、ベース層、および/または銀ベースの機能層、および/または上部誘電体層は、物理蒸着によって設けられる。
【0130】
好ましくは、ベース層は、実質的に不活性雰囲気中でセラミックターゲットから物理蒸着によって設けられるか、または実質的に酸化性雰囲気中で1つ以上の金属ターゲットから物理蒸着によって設けられる。
【0131】
実質的に不活性な雰囲気は、本明細書では、酸素が10%以下の雰囲気として定義される。実質的に酸化性の雰囲気は、本明細書では10%を超える酸素を含む雰囲気として定義される。
【0132】
本発明の文脈において、「非反応性スパッタリング」という用語は、低酸素雰囲気(すなわち、体積酸素がゼロ、または最大10%)中で酸化物ターゲットをスパッタリングして、実質的に化学量論的な酸化物を提供することを含む。
【0133】
いくつかの実施形態では、ベース層は、Ar/O2雰囲気中でTiZr金属ターゲットからの反応性スパッタリングを使用して生成される。あるいは、ベース層は、Ar/O2雰囲気中でチタン金属ターゲットとジルコニウム金属ターゲットを同時スパッタリングすることによって生成される。あるいは、ベース層は、酸素が10%未満の雰囲気中でTixZryOxセラミックターゲットからスパッタリングすることによって生成される。
【0134】
Zn、Ti、ZnSn、InSn、Zr、Al、Sn、および/またはSiの酸化物および/またはSiおよび/またはAlの(酸)窒化物に基づく層は、非反応性スパッタリングから堆積され得る。当該層は、セラミックターゲットからスパッタされ得る。
【0135】
Zn、Ti、ZnSn、InSn、Zr、Al、Sn、および/またはSiの酸化物、および/またはSiおよび/またはAlの(酸)窒化物に基づく層は、反応性スパッタリングによってもまた堆積され得る。当該層は、1つ以上の金属ターゲットからスパッタされ得る。
【0136】
層は、単一のコーティングパスで最終的な総厚さに設けられ得る。あるいは、同じコーティング化学物質を使用する複数のコーティングパスを使用して、最終的な厚さの単一層もまた、設けられ得る。本明細書で使用される場合、複数の経路によって提供される実質的に同じ組成の副層は、共に副層の厚さの合計に等しい厚さを有する単一の層としてみなされる。
【0137】
コーティングにおける光吸収を最小限に抑え、望ましくない熱処理中の光透過率の増加を抑えるために、上部誘電体層および下部誘電体層の全ての個々の層を実質的に化学量論的組成で堆積することが好ましい。コーティングプロセスは、コーティングの反射防止層の任意の酸化物(または窒化物)層の任意の酸素(または窒素)の欠乏が低く保たれるように、適切なコーティング条件を設定することによって実行され、熱処理中のコーティングされたガラス板の光透過率および色の高い安定性を達成する。
【0138】
本明細書で言及される光透過率の値は、概して、コーティングなしで90%の領域の光透過率TLを有する厚さ4mmの標準フロートガラス板を備える、コーティングされたガラス板を参照して指定される。
【0139】
本発明によるコーティングされたガラス板の色は、無彩色反射およびコーティングされたガラス板の透過色が通常目標とされるが、製品の意図された視覚的外観に従い、個々の層の厚さを適切に適合させることによって大きく変更され得る。
【0140】
本発明によるコーティングされたガラス板の熱安定性は、熱処理されたコーティングされたガラス板が、許容できないレベルのヘイズを示さないという事実によって反映される。熱処理中にヘイズ値(ヘイズスキャン)の大幅な増加が検出された場合は、コーティングが損傷し始めていることを示す。
【0141】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第1および/または第2の態様によるコーティングされたガラス板を組み込んだ複層グレージングユニットが提供される。さらに、本発明の第3の態様による複層グレージングユニットは、積層グレージングユニットおよび/または断熱グレージングユニットであり得る。
【0142】
本発明の第4の態様によれば、建物または車両における、前述の実施形態による、または前述の実施形態によって製造されたコーティングされたガラス板の使用が提供される。
【0143】
本発明の第1および/または第2の態様の特徴は、任意の組み合わせで第3および第4の態様に適用され得る。
【0144】
ここで、本発明の実施形態を、非限定的な例として、
図1から
図7を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【
図1】本発明の第1の実施形態によるコーティングされたガラス板の概略断面図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態によるコーティングされたガラス板の概略断面図である。
【
図3】本発明の第3の実施形態によるコーティングされたガラス板の概略断面図である。
【
図4】1つのみの銀層を備えるコーティングを備えるコーティングされたガラス板について、ZrおよびTiに基づくZrの原子比率に対する熱処理後のヘイズスキャンおよびシート抵抗Rs Tのチャートを示す図である。
【
図5】1つのみの銀層を備えるコーティングを備えるコーティングされたガラス板について、Zr係数に対するヘイズスキャンおよび熱処理後のシート抵抗Rs Tのチャートを示す図である。
【
図6】2つ以上の銀層を備えるコーティングを備えるコーティングされたガラス板について、ZrおよびTiに基づくZrの原子比率に対する熱処理後のヘイズスキャンおよびシート抵抗Rs Tのチャートを示す図である。
【
図7】2つ以上の銀層を備えるコーティングを備えるコーティングされたガラス板のZr係数に対する熱処理後のヘイズスキャンおよびシート抵抗Rs Tのチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0146】
図では、同様の特徴は同様の番号で表されている。
【0147】
図1は、ガラス基板1およびコーティング2を備える、本発明の第1の実施形態によるコーティングされたガラス板100を示し、コーティング2は、ガラス基板1から順に、ガラス基板1に隣接して接触しているベース層3と、銀ベースの機能層5と、上部誘電相7とを備え、ベース層3はジルコニウムおよびチタンの酸化物を備え、ベース層におけるZrとTiとに基づくZrの原子比率は0.40~0.95である。
【0148】
図2は、本発明の第2の実施形態による、ガラス基板1およびコーティング2を備えるコーティングされたガラス板200を示し、コーティング2は、ガラス基板1から順に、ガラス基板1に隣接し接触しているベース層3と、安定化層41、分離層42、および成長層43を備える下部誘電体層4と、銀ベースの機能層5と、バリア層6と、上部誘電体層7と、保護層8とを備え、ベース層3は、ジルコニウムとチタンの酸化物を含み、ベース層のZrとTiとに基づくZrの原子比率は0.40~0.95である。
【0149】
図3は、本発明の第3の実施形態による、ガラス基板1およびコーティング2を備えるコーティングされたガラス板300を示し、コーティング2は、ガラス基板1から順に、ガラス基板1に隣接し接触しているベース層3と、安定化層41、分離層42、および成長層43を備える下部誘電体層4と、第1の銀ベースの機能層51と、第1のバリア層61と、中央誘電体層9と、第2の銀ベースの機能層52と、第2のバリア層62と、上部誘電体層7と、保護層8とを備え、ベース層3は、ジルコニウムとチタンの酸化物を含み、ベース層のZrとTiとに基づくZrの原子比率は0.40~0.95である。
【0150】
ここで、本発明の例示的な実施形態を、単なる例として説明する。
【0151】
全ての例で、コーティングを、ACおよび/またはDCマグネトロン(またはパルスDC)スパッタリングデバイスを使用して、90%の領域の光透過率で、必要に応じて中周波スパッタリングを適用して、厚さ4mmの標準フロートガラス板上に堆積させた。
【0152】
ジルコニウムおよびチタンの酸化物を含むベース層を、約12%の酸素を含むアルゴン/酸素(Ar/O2)スパッタ雰囲気中で、チタン金属の第1のターゲットとジルコニウム金属の第2のターゲットから反応性共スパッタリングを行った。ZrとTiの比率を、ターゲット上のスパッタリングパワーを変えることによって変化させた。Tiターゲットの出力を0.4~1.5kWの間で変化させ、Zrターゲットの出力を0.15~1.5kWの間で変化させた。
【0153】
亜鉛およびスズの酸化物の誘電体層を、アルゴン/酸素(Ar/O2)スパッタ雰囲気において、亜鉛-スズターゲット(重量比Zn:Sn約50:50)から反応的にスパッタした。
【0154】
亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、およびジルコニウム(Zr)の酸化物の誘電体層は、Ar/O2または純アルゴン(Ar)雰囲気中で金属ZnSn(Zn:Snの重量比約50:50)とZrターゲットを使用して共スパッタリングされた。
【0155】
酸化チタン(TiOx)層を、アルゴン/酸素(Ar/O2)スパッタ雰囲気中で金属チタン(Ti)ターゲットから堆積した。
【0156】
下部誘電体層のZnO:Al成長促進最上層を、Ar/O2スパッタ雰囲気中でAlドープZnターゲット(アルミニウム(Al)含有量約2重量%)からスパッタした。
【0157】
全ての実験例において、実質的に純粋な銀(Ag)からなる機能層を、任意の酸素を添加せず、残留酸素の分圧が10-5mbar未満のArスパッタ雰囲気中で、銀ターゲットからスパッタした。
【0158】
酸化亜鉛アルミニウム(ZAOとも呼ばれる)の銀ベースの機能層の上方に位置するバリア層は、5重量%未満の酸素を有する純粋なアルゴン(Ar)スパッタ雰囲気中で、2重量%のAlOxを備える導電性ZnOx:Alターゲットからスパッタリングされた。
【0159】
表1は、多数の比較用のコーティングされたガラス板および本発明によるコーティングされたガラス板の詳細を提供する。比較例CE1を、ソーダ石灰シリカガラスシートをスパッタリングして、ガラス表面から順にSiNx(20nm)、ZnSnOx(4nm)、ZAO(8nm)、Ag(10nm)、NiCrOx(1nm)、ZAO(6nm)、SiNx(24nm)、ZnSnOx(9nm)を備えるコーティングをガラス板に提供することによって調製した。CE1は、多くの状況で許容される特性を備えた「ベースライン」コーティングである。しかしながら、上記のように、建築用途および自動車用途により適した代替コーティングを提供することが望ましい。
【0160】
さらに比較例CE2およびCE3、ならびに実施例1~20を同様の方法で製造したが、CE1のSiNxベース層をZrxTiyOz層で置き換えて、ガラス表面から順に、ZrxTiyOz、ZnSnOx(4nm)、ZAO(8nm)、Ag(10nm)、NiCrOx(1nm)、ZAO(6nm)、SiNx(24nm)、ZnSnOx(9nm)を含むコーティングを提供した。表1に示すように、ZrxTiyOz層の組成および厚さはさまざまであった。
【0161】
【0162】
全てのコーティングを堆積した直後に、コーティングされたガラス板のコーティングされたガラスシートパラメータ(シート抵抗(Rs)、紫外可視光学性能など)を測定した。次いで、サンプルを650℃付近で5分間熱処理した。その後、ヘイズスキャン、シート抵抗(Rs)、紫外可視光学性能を測定し、熱処理後(ΔE*)の光透過率の変化(ΔTL)、および色特性の変化(a*、b*、およびYの変化で表される)を測定し、下記のようにそこから計算した。ヘイズ、TL%AD-すなわち熱処理前のガラス基板の光透過率のパーセンテージ(%)値、ΔTL-すなわち熱処理後の光透過率のパーセンテージ(%)の変化、Rs AD Ω/□-すなわち熱処理前のシート抵抗、ΔRS-すなわち熱処理時のシート抵抗の変化、Rs T-すなわち熱処理後のシート抵抗、Rf a* AD-すなわち蒸着後および熱処理前のフィルム反射a*色成分、Rf b* AD-すなわち蒸着後熱処理前のフィルム反射b*色成分、およびRf ΔE*-すなわち熱処理時のフィルム側面反射率の変化の尺度、のように、測定および計算結果を表1に示す。
【0163】
表1のデータを収集するために使用した方法を以下に示す。
【0164】
CE2およびCE3は許容できないほど高いヘイズスキャン値を有するが、これは明らかにZrの原子比率が0.6と低く、および/またはZr係数が0.93と低いことによって引き起こされる。
【0165】
実施例1は、CE2およびCE3と比較して改善されたヘイズスキャン値を有し、状況によっては許容され得るが、ベースラインコーティングよりも優れているわけではない。しかしながら、熱処理によるシート抵抗の改善は、CE1と比較したとき、実施例1の方が優れている。したがって、Zrおよび/またはZr係数の原子比率の増加によって、コーティングの特性が改善された。
【0166】
実施例2は、比較例CE1およびCE2よりも低い70という良好なヘイズスキャン値を示した。しかしながら、コーティング側面反射の色座標は望ましい領域内にあり、実施例1は他の実施例よりも低いRf ΔE*値を示し、熱処理後の優れた色の一貫性を示している。
【0167】
実施例12は、63の良好なヘイズスキャン値、熱処理前後の優れた透過率、および4未満のRs Tを示す。Rf a*およびb*はわずかに正であり、これは状況によっては望ましい場合があり得、低いRf ΔE*値によって示されるように熱処理によって大きく変化しない。
【0168】
実施例15は、45という例外的なヘイズスキャン値および6という良好なRs ADを示し、これは熱処理によって大幅に向上し、4未満のRs Tを提供する。
【0169】
図4は、Zrの原子比率に対する比較例CE2およびCE3、ならびに実施例1~20のヘイズスキャンを示す。ヘイズスキャンは、Zrの原子比率が増加するにつれて向上し、0.65のZr比率で最小値45に達するが、Zrの原子比率がこれを超えると増加することがわかり得る。70未満の良好なヘイズスキャン値は、0.55~0.85のZrの原子比率によって達成可能であり、60未満の優れたヘイズスキャン値は、0.6~0.8のZrの原子比率によって達成可能である。
【0170】
図4はまた、Zrの原子比率に対する比較例CE2およびCE3、ならびに実施例1~20のRs Tを示す。ヘイズスキャンと同様に、Rs Tは、Zrの原子比率が増加するにつれて減少し、0.58のZr比率において最小Rs Tが3.6になり、その後Zrの原子比率がこれを超えると増加することがわかり得る。4未満の良好なRs T値は、Zrの原子比率が0.55~0.85の場合に達成可能である。
【0171】
図5は、Zr係数に対する比較例CE2およびCE3、ならびに実施例1~20のヘイズスキャンを示す。ヘイズスキャンは、Zr係数が増加するにつれて改善し、Zr係数10.53で最小値45に達するが、Zr係数がこれを超えると増加することがわかり得る。70未満の良好なヘイズスキャン値は、7~15のZr係数で達成可能であり、60未満の優れたヘイズスキャン値は、9~12のZr係数で達成可能である。
【0172】
図5はまた、Zr係数に対する比較例CE2およびCE3、ならびに実施例1~20のRs Tを示す。ヘイズスキャンと同様に、Rs Tは、11.69のZr係数において3.6の最小Rs TにZr係数の増加とともに減少し、その後Zr係数がこれを超えると増加することがわかり得る。4未満の良好なRs T値は、Zr係数が7~15の場合に達成可能である。
【0173】
2つ以上の銀層をコーティングしたガラス板を調査した。比較例のCEDは、ガラス表面からZnSnOx(13nm);ZAO(3nm);Ag(9.5nm);NiCrOx(1nm);ZAO(7nm);SiNx(40nm);ZnSnOx(11nm);ZAO(14nm);Ag(12.8nm);NiCrOx(1nm);ZAO(5nm);SiNx(21nm);ZnSnOx(8nm)の層をスパッタリングすることによって調製された。
【0174】
実施例D1からD6は、同じ方法を使用してスパッタリングによって調製された。
【0175】
D1およびD3~D6では、CEDのSiNxベース層をZrxTiyOzの層で置き換えて、ZnSnOx(13nm);ZAO(3nm);Ag(9.5nm);NiCrOx(1nm);ZAO(7nm);SiNx(40nm);ZnSnOx(11nm);ZAO(14nm);Ag(12.8nm);NiCrOx(1nm);ZAO(5nm);SiNx(21nm);ZnSnOx(8nm)を備える本発明によるコーティングを提供した。
【0176】
D2では、SiNxベース層と、CEDのベース層に直接隣接するZnSnOx層の両方が、厚さ17.5nmのZrxTiyOzの単一層で置き換えられ、ZAO(3nm);Ag(9.5nm);NiCrOx(1nm);ZAO(7nm);SiNx(40nm);ZnSnOx(11nm);ZAO(14nm);Ag(12.8nm);NiCrOx(1nm);ZAO(5nm);SiNx(21nm);ZnSnOx(8nm)を備える本発明によるコーティングが提供された。
【0177】
【0178】
実施例D1~D6は、熱処理の前後の両方で、CEDと比較して優れたシート抵抗を示した。さらに、実施例D1~D6は良好な、場合によっては優れたヘイズスキャン結果を提供する。
図6に示すように、2つ以上の銀層を含むコーティングの場合、ベース層のZrおよびTiに基づくZrの原子比率の増加はヘイズスキャン値の減少に関連し、0.6~0.8のZrおよびTiに基づくZrの原子比率が特に有益である。
【0179】
図7に示すように、ヘイズスキャンは9.15のZr係数で最小値に達する。2つ以上の銀層を含むコーティングの場合、ベース層のZr係数が8~10であることが特に有益である。
【0180】
上記で開示されたデータを収集するために使用される方法には次のものが含まれる。
【0181】
光透過率-コーティングされたガラス板の熱処理時の光透過率のパーセンテージ(%)の変化(ΔTL)について記載されている値は、光源D65を使用した、350~1050nmの波長にわたる10度の観察者の視野での測定から導出された。
【0182】
シート抵抗/シート抵抗の変化-シート抵抗の測定を、NAGYSRM-12を使用して行った。このデバイスは、インダクタを利用して、100mm×100mmのコーティングされたサンプルに渦電流を生成する。これによって、測定可能な磁場が生成され、その規模は、サンプルの抵抗率に関する。この方法を用いて、シート抵抗を計算し得る。この装置を使用して、650℃で5分間の熱処理の前後のサンプルのシート抵抗を測定した。
【0183】
色特性-各実験例の色特性は、確立されたCIE LAB L*,a*,b*座標を使用して(例えば、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2004/063111号の段落[0030]および[0031]に記載されているように)測定および報告された。状況によっては、コーティングされたガラス板が透過率(T)、ガラス側面反射(Rg)、およびコーティング、つまりフィルム、側面反射(Rf)で無彩色を示す、つまり、a*およびb*値は-5~+5、好ましくは-2~+2であることが望ましい。しかし、用途や市場によっては、より青色が望ましい場合もあり、a*とb*は両方とも0未満であり、強い青色の場合は-5未満でさえあり得る。あるいは、場合によっては、a*とb*が両方とも0超であり、5超でさえあり得る、ブロンズ色が望ましい。
【0184】
熱処理時の透過色の変化、ΔE*=((Δa*)2+(Δb*)2+(ΔL*)2)1/2、ここで、ΔL*、Δa*、およびΔb*は、熱処理前後の各コーティングされたガラス板の色値L*、a*、b*の差である。3未満(例えば2または2.5)のΔE*値は、熱処理によって引き起こされる色の変化が低く、目立った変化をほぼ表さず、1つの銀ベースの機能層を有する層順序について好ましい。2つ以上の銀ベースの機能層を備える層順序の場合、より低いTΔE*値は、順序の安定性の指標を提供し、T ΔE*値が低いほど、コーティングされたガラス板の結果および外観が優れている。
【0185】
ヘイズスキャン-表1、2および3に記載の各実験例および比較例に、ヘイズスコアシステムを適用し、ヘイズを熱処理後に測定した。下記で説明する品質評価査定システムは、明るい光条件下でのコーティングの視覚的品質、ASTM D1003に従って測定された標準ヘイズ値に完全には反映されていない特性を、より明確に区別するためにも使用された。
【0186】
評価システムは、コーティングが損傷した場合または不完全な場合に局所的な色の変化を引き起こす、コーティングの目に見える欠陥のより巨視的な影響を考慮する(表1におけるヘイズスキャン)。この評価では、固定された照明条件および形状を使用して採取された熱処理サンプルの画像の光レベルを分析する。
【0187】
ヘイズスキャン値の計算に使用される画像を生成するために、サンプルをカメラレンズから30cm離れたブラックボックス内部に配置する。サンプルは、サンプル位置で測定した場合、2400~2800ルクスの明るさを有する標準1200ルーメンライトを使用して照らされる。次にサンプルは、標準絞りサイズとf5.6の露光長、焦点距離105mm、ISO 400で1秒で撮影される。次に、結果の画像の各ピクセルのグレースケールを記録する。値0は、黒を表し、255は白を表す。これらの値の統計分析は、サンプルのヘイズの全体的な評価を行うために行われ、ここではヘイズスキャン値と呼ばれる。記録されたヘイズスキャン値が低いほど、結果は優れている。概して、90未満、好ましくは80未満、さらにより好ましくは70未満のヘイズスキャン値が望ましい。透明性が優先される一部の専門用途では、ヘイズスキャン値が60未満であることが望ましい。
【0188】
XPS分析-X線光電子分光法(XPS)深さプロファイリングを、1keV(M)で動作するアルゴンイオンエッチングビームを使用してThermo K-Alpha XPS上で実行し、1.71μAのビーム電流が生成され、2.0x4.0mm領域でラスター化した。レベルごとに15秒のエッチング時間を使用し、合計100レベルのエッチングを行った。使用したX線スポットサイズは400μmであった。プロファイルの取得に使用した結合エネルギーウィンドウは、O1s、C1s、Zn2p、Sn3d、Zr3d、Si2p、Ca2p、Na1s、およびMg1sであった。コーティング内に存在する追加元素の検出を可能にするために、調査スペクトル(0~1350eVの結合エネルギー範囲全体を収集する)をも収集した。XPSは定量的な手法であるため、コーティング層内の各元素の濃度を決定し、化学量論を計算するために使用され得る。各コーティングについて、層内の各元素の平均濃度に基づいて平均化学量論を計算した。表面汚染の影響を軽減するために、最初のいくつかのエッチングレベルを除去した。
【0189】
単一のみの銀層を組み込んだ本発明による実施例は、優れた色特性を提供し、特に、単一のみの銀層を含むコーティングは、Rgについてカラーボックスa*-3~+6.5およびb*-14~-4内にあり、2つ以上の銀層を含むコーティングは、Rgについてカラーボックスa*-6~4.8、b*-18.5~-2.3の範囲内にあった。
【0190】
実施例によって実証されるように、本発明によるコーティングされたガラス板は全て、堆積後に良好なシート抵抗値を示し、熱処理によるシート抵抗の負の変化を示し、銀機能層が損傷から適切に保護されていることを示している。
【0191】
本発明による実施例は、熱処理の前後で良好なヘイズスキャン値を示し、これはスタックの組み合わせが熱処理によって損なわれないことを示している。本発明のガラス板はまた、コーティングされたガラス板の使用、加工および取り扱い条件をシミュレートする試験によれば、目に見える損傷が低レベルであることを示している。さらに、ガラス板は高い光透過率と低い放射率および/または良好な日射制御特性を示し、熱処理後でも光学特性は安定したままである。
【0192】
驚くべきことに、本発明によるコーティングは、強化されたガラス板が必要とされる用途に適していることを示すパラメータを示す。特に、熱処理後に測定された本発明による実施例のヘイズスキャンは著しく低く、場合によっては50未満であった。
【国際調査報告】