(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】軌道車両ユニット用の多変量減速度制御装置、軌道車両用または列車連結体用の多変量減速度制御システム、および軌道車両の軌道車両ユニットの減速度を制御する方法
(51)【国際特許分類】
B60T 8/17 20060101AFI20240719BHJP
B60T 8/173 20060101ALN20240719BHJP
【FI】
B60T8/17 A
B60T8/173
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505252
(86)(22)【出願日】2022-07-18
(85)【翻訳文提出日】2024-01-26
(86)【国際出願番号】 EP2022070098
(87)【国際公開番号】W WO2023006483
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】102021208234.3
(32)【優先日】2021-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503159597
【氏名又は名称】クノル-ブレムゼ ジステーメ フューア シーネンファールツォイゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Knorr-Bremse Systeme fuer Schienenfahrzeuge GmbH
【住所又は居所原語表記】Moosacher Strasse 80,D-80809 Muenchen,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ フアトヴェングラー
(72)【発明者】
【氏名】ウルフ フリーゼン
(72)【発明者】
【氏名】ディルク ディーケン
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246AA17
3D246BA02
3D246BA03
3D246BA08
3D246DA01
3D246GA22
3D246GC14
3D246JA03
3D246JB07
3D246JB48
3D246KA01
3D246KA15
(57)【要約】
本発明は、軌道車両ユニット(1)用の多変量減速度制御装置(10)であって、軌道車両ユニット(1)用の減速度制御回路調整量(ua,1)を決定するように構成された減速度制御回路(20)と、軌道車両ユニット(1)用の調整量制御回路調整量(uc,1)を決定するように構成された調整量制御回路(30)とを備え、多変量減速度制御装置(10)が、減速度制御回路調整量(ua,1)および調整量制御回路調整量(uc,1)から軌道車両ユニット(1)用の全体調整量(u1)を形成し、当該全体調整量(u1)を、制動力形成ユニット(40)用の制御区間(21,22,23)と調整量制御回路(30)へのフィードバック部(31,32,33)とに供給するように構成されている、多変量減速度制御装置(10)に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道車両ユニット(1)用の多変量減速度制御装置(10)であって、
前記軌道車両ユニット(1)用の減速度制御回路調整量(u
a,1)を決定するように構成された減速度制御回路(20)と、
前記軌道車両ユニット(1)用の調整量制御回路調整量(u
c,1)を決定するように構成された調整量制御回路(30)と
を備え、
前記多変量減速度制御装置(10)が、前記減速度制御回路調整量(u
a,1)および前記調整量制御回路調整量(u
c,1)から前記軌道車両ユニット(1)用の全体調整量(u
1)を形成し、該全体調整量(u
1)を、少なくとも1つの制動力形成ユニット(40)用の制御区間(21,22,23)と前記調整量制御回路(30)へのフィードバック部(31,32,33)とに供給するように構成されている、
多変量減速度制御装置(10)。
【請求項2】
前記制御区間(21,22,23)は、
前記全体調整量(u
1)に基づいて前記軌道車両ユニット(1)の全体制動力(F
ges)を決定するように構成された全体制動力決定ユニット(21)と、
前記全体制動力(F
ges)を制動力分配(F
1,…,F
n)へ変換するように構成された任意選択手段としての制動力分配ユニット(22)と、
前記全体制動力(F
ges)または前記制動力分配(F
1,…,F
n)に従って前記制動力形成ユニット(40)を駆動制御するように構成された制動力調整ユニット(23)と
を有する、請求項1記載の多変量減速度制御装置(10)。
【請求項3】
前記フィードバック部(31,32,33)は、前記全体調整量(u
1)または前記軌道車両ユニット(1)の基準調整量(u
ref,1)を考慮した全体調整量(u
1)に基づいて正味調整量(u
n,1)を決定するように構成された正味調整量決定ユニット(31)を有する、
請求項1または2記載の多変量減速度制御装置(10)。
【請求項4】
前記フィードバック部(31,32,33)は、前記正味調整量(u
n,1)をフィルタリングされた正味調整量(u
nf,1)へ変換するように構成されたフィルタユニット(32)を有しており、特に、前記フィルタユニット(32)のフィルタパラメータ、好ましくは少なくとも1つの時間シフト量が適応化可能である、
請求項3記載の多変量減速度制御装置(10)。
【請求項5】
前記フィードバック部(31,32,33)は、前記調整量制御回路(30)に、前記正味調整量(u
n,1)または前記フィルタリングされた正味調整量(u
nf,1)を実際値として供給するように構成されている、
請求項3または4記載の多変量減速度制御装置(10)。
【請求項6】
前記フィードバック部(31,32,33)は、前記全体調整量(u
1)、前記正味調整量(u
n,1)または前記フィルタリングされた正味調整量(u
nf,1)を、特に少なくとも1つの別の影響量(u
n,2,…,u
n,n)を考慮して標準調整量(u
z)へ変換するように構成された標準調整量決定ユニット(33)を有しており、
前記フィードバック部(31,32,33)は、前記調整量制御回路(30)に前記標準調整量(u
z)を目標値として供給するように構成されている、
請求項1から5までのいずれか1項記載の多変量減速度制御装置(10)。
【請求項7】
前記フィードバック部(31,32,33)は、前記標準調整量決定ユニット(33)からの前記標準調整量(u
z)を請求項4記載のフィルタユニット(32)に再び供給するように構成されている、請求項6記載の多変量減速度制御装置(10)。
【請求項8】
前記減速度制御回路(20)および前記調整量制御回路(30)は、唯一の制御回路、特にPI制御回路によって構成されており、該制御回路は、目標減速度からの減速度の偏差および前記標準調整量からの前記調整量の偏差の双方を考慮する、請求項1から7までのいずれか1項記載の多変量減速度制御装置(10)。
【請求項9】
前記調整量制御回路(30)は、静的なデッドゾーンおよび/または動的なデッドゾーンを有する、請求項1から8までのいずれか1項記載の多変量減速度制御装置(10)。
【請求項10】
それぞれ請求項6から9までのいずれか1項記載の多変量減速度制御装置(10)を有する少なくとも第1の軌道車両ユニット(1)と第2の軌道車両ユニット(2)とを有する軌道車両用または列車連結体用の多変量減速度制御システム(100)であって、
前記多変量減速度制御システム(100)が、
前記第1の軌道車両ユニット(1)および/または前記第2の軌道車両ユニット(2)の前記多変量減速度制御装置(10)の各標準調整量決定ユニット(33)に、少なくとも、それぞれ他の軌道車両ユニット(1,2)の正味調整量(u
n,1,u
n,2)もしくはフィルタリングされた正味調整量(u
nf,1,u
nf,2)を少なくとも1つの影響量として供給し、かつ/または
前記第1の軌道車両ユニット(1)および/または前記第2の軌道車両ユニット(2)の前記多変量減速度制御装置(10)の各フィルタユニット(32)に、少なくとも、フィルタパラメータを適応化するために、それぞれ他の軌道車両ユニット(1,2)の正味調整量(u
n,1,u
n,2)もしくはフィルタリングされた正味調整量(u
nf,1,u
nf,2)を供給する
ように構成されている、多変量減速度制御システム(100)。
【請求項11】
前記第1の軌道車両ユニット(1)および/または前記第2の軌道車両ユニット(2)の前記多変量減速度制御装置(10)の前記標準調整量決定ユニット(33)は、前記標準調整量(u
z)を、固有の正味調整量(u
n,1,u
n,2)もしくは固有のフィルタリングされた正味調整量(u
nf,1,u
nf,2)とそれぞれ他の軌道車両ユニット(1,2)の少なくとも1つの正味調整量(u
n,1,u
n,2)との重み付け平均値として決定するように構成されており、ここで、
各重み成分が、特に、
対応する軌道車両ユニット(1,2)の台車もしくは車両の数、
前記軌道車両の全体制動力における対応する軌道車両ユニット(1,2)の寄与分、
対応する軌道車両ユニット(1,2)の実際質量もしくは公称質量、および/または
対応する軌道車両ユニット(1,2)の質量および該質量の予め定められた分布、
に対応する、請求項10記載の多変量減速度制御システム(100)。
【請求項12】
前記標準調整量決定ユニット(33)は、各重み成分を適応化するように、特に予め定められた重み成分をゼロへセットするように構成されている、請求項11記載の多変量減速度制御システム(100)。
【請求項13】
前記多変量減速度制御システム(100)は、前記フィルタユニット(32)または別のフィルタユニットを介して前記標準調整量決定ユニット(33)に供給されるべき少なくとも1つの影響量を導出するように構成されている、請求項10から12までのいずれか1項記載の多変量減速度制御システム(100)。
【請求項14】
軌道車両の軌道車両ユニット(1)の減速度を制御する方法であって、該方法が、
減速度制御回路(20)を介して減速度制御回路調整量(u
a,1)を決定するステップと、
調整量制御回路(30)を介して調整量制御回路調整量(u
c,i)を決定するステップと、
前記減速度制御回路調整量(u
a,1)および前記調整量制御回路調整量(u
c,i)から全体調整量(u
1)を形成するステップと
を含み、
前記全体調整量(u
1)が、制動力形成ユニット(40)用の制御区間(21,22,23)へ供給され、フィードバック部(31,32,33)を介して前記調整量制御回路(30)へフィードバックされる、
方法。
【請求項15】
前記全体調整量(u
1)が、前記フィードバック部(31,32,33)を介して、基準調整量(u
ref,1)へセット可能な正味調整量(u
n,1)へ、特にフィルタリングされた正味調整量(u
nf,1)へと変換され、前記フィルタリングされた正味調整量(u
nf,i)が実際量として前記調整量制御回路(30)へ供給され、並行して、標準調整量決定ユニット(33)を介して、特に別の軌道車両ユニット(2)の少なくとも1つの調整量を考慮するために、影響量としてさらに標準調整量(u
z)へと変換されて、該標準調整量(u
z)が目標量として前記調整量制御回路(30)へ供給される、
請求項14記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道車両ユニット用の多変量減速度制御装置、それぞれ1つずつ多変量減速度制御装置を有する少なくとも第1の軌道車両ユニットおよび第2の軌道車両ユニットを備えた軌道車両用または列車連結体用の多変量減速度制御システム、ならびに軌道車両の軌道車両ユニットの減速度を制御する方法に関する。
【0002】
軌道車両の制動には、各軌道車両ユニットの減速度特性を制御する減速度制御が使用される。したがって、軌道車両は少なくとも1つの軌道車両ユニットを有しており、この軌道車両ユニットに対して予め定められた減速度制御が適用される。この場合、軌道車両ユニットは、軌道車両自体またはこれに関連する減速ユニット、例えば1つもしくは複数の台車用の1つもしくは複数の制動装置または個々の制動装置を備えた個々の台車に対応するものでありうる。軌道車両はさらに、複数の軌道車両から成る軌道車両連結体もしくは列車連結体の一部でありうる。
【0003】
個々の軌道車両の減速度制御のために、例えば、要求された減速度ひいては制動力を相応に修正し、これによりトレランスを補償することのできる制御回路が使用される。減速度制御は、個々の軌道車両間で可能な限り許容不能な長手方向力が発生もしくは作用しないよう、列車連結体の全体に均等に作用させるべき機能である。運用上の連結可能性およびさらに必要な信号通信に基づいて、減速度制御は、それぞれの軌道車両に、または連結された軌道車両の1つの部分ユニットに限定可能である。
【0004】
減速度制御は、複数の軌道車両を有する列車連結体の場合、理想的には列車連結体の全ての軌道車両が同時に制御されるよう、中央に設けられるものである。しかし、複数の軌道車両のためのこうした中央型減速度制御は、軌道車両間の長い通信時間を生じさせることがあり、このために制御ダイナミクスに負の影響が発生しうる。さらに、軌道車両の構成に応じて、それぞれ異なる通信時間が発生することもある。これにより、ロバストな減速度制御または減速度制御の切り替えへの特別な要求が課される。さらに、例えば2つの軌道車両の連結部においては設けられている制御回路を部分的に非作動状態としなければならず、このことにより相応の構造切り替えが生じる。
【0005】
1つの列車連結体の複数の軌道車両および/または1つの軌道車両の複数の軌道車両ユニットのための減速度制御には、軌道車両ごとにかつ/または軌道車両ユニットごとに独立した分散型減速度制御も含まれうる。既に述べたように、軌道車両ユニットは、軌道車両自体にも、またはこれに関連する減速ユニットにも対応しうる。しかし、特に個々の軌道車両ユニットにおけるそのつどの減速度制御に利用されるセンサ信号にトレランスが存在する場合、列車連結体におけるシステムおよび/または1つの軌道車両内の複数の軌道車両ユニットにおけるシステムの劣決定に基づいて、軌道車両ユニットの分散型減速度制御が状況に応じて相互に対立的に動作し、対応する制動力形成装置を駆動制御するために制御区間へ供給される減速度制御の調整量が相互ドリフトを発生させることがある。つまり、各軌道車両ユニットの調整量は、個々の制動力形成装置の制動力に影響を与える。ここで、調整量は、算定された実際減速度との補償において、予め設定された目標減速度から形成可能である。当該システムの劣決定は、当該文脈においては、列車連結体または軌道車両で要求された減速に必要となる必要制動力和が個々の軌道車両もしくは個々の軌道車両ユニットにおけるそれぞれ異なる制動力分配を介して達成可能となることから生じる。当該制動力分配もさらに、軌道車両または軌道車両ユニットにおける個々の減速度制御による影響を受ける。このように、列車連結体または軌道車両で要求される減速度を達成するために、理論的には無数の調整量ベクトルが発生しうる。換言すれば、全ての減速度制御のそれぞれ異なる出力量から結果として同じ全体減速度が形成されうるため、システムが不定となってしまうのである。軌道車両の調整量も同様に、個々の制動装置の制動力に影響を与える。軌道車両または軌道車両ユニットにおける調整量の相互ドリフトは、例えばトレランス帯域によって防止可能である。ただし、このようにすると制御品質は低下してしまう。代替的に調整量の制限を設けることもできるが、これは車輪と軌道との間に依然として過度に強く異なる摩擦結合をもたらしうるので、多くのケースにおいて望ましくない。さらなる代替形態では、上述した負の影響を低減するために、全ての分散型減速度制御において同じ実際信号を利用することができる。しかし、こうした同じ実際信号は、中央型減速度制御について述べたのと同様の不利な効果を生じさせることがある。また、実際減速度を決定するための信号に一時的に障害が発生した場合、このケースでも劣決定となるシステムが存在するため、調整量の持続的な偏差、すなわち制動持続時間にわたる調整量の偏差が発生しうる。真の減速度からの偏差という意味での対応する障害は、測定方式に応じて、個々の車輪のスリップまたは軌道の勾配にも依存しうる。このため、列車連結体の減速度制御と個々の軌道車両もしくは軌道車両ユニットへの力の分配とは、強く結び付いている。摩擦結合の可能な均等性についての列車連結体および/または軌道車両の設計においては、個々の軌道車両間または個々の軌道車両ユニット間での力の分配が、例えば減速度制御によって妨害されかねない。
【0006】
上述したことがらに鑑み、本発明の基礎を成す課題は、軌道車両ユニット用の減速度制御部、軌道車両用または列車連結体用の減速システム、および軌道車両の軌道車両ユニットの減速度を制御する方法を提供して、従来の減速度制御に比較した制御品質の向上を可能にすることである。
【0007】
この課題は、請求項1記載の軌道車両ユニット用の多変量減速度制御装置、請求項10記載の軌道車両用または列車連結体用の多変量減速度制御システム、ならびに請求項14記載の、軌道車両の軌道車両ユニットの減速度を制御する方法により解決される。
【0008】
本発明によれば、軌道車両ユニット用の多変量減速度制御装置は、軌道車両ユニット用の減速度制御回路調整量を決定するように構成された減速度制御回路と、軌道車両ユニット用の調整量制御回路調整量を決定するように構成された調整量制御回路とを備える。ここで、多変量減速度制御装置は、減速度制御回路調整量および調整量制御回路調整量から軌道車両ユニット用の全体調整量を形成し、当該全体調整量を、少なくとも1つの制動力形成ユニット用の制御区間と調整量制御回路へのフィードバック部とに供給するように構成されている。
【0009】
軌道車両ユニットとは、軌道車両ユニットに割り当てられた多変量減速度制御装置を介して駆動制御可能な、少なくとも1つの制動力形成ユニットまたは制動力形成ユニットの少なくとも1つの予め定められた制動装置が割り当てられたユニットを表している。したがって、軌道車両ユニットは、例えば、台車または車両のような軌道車両に対応することもあるし、または軌道車両の所定の車軸に割り当てられた軌道車両のユニットであることもある。したがって、軌道車両ユニットは、少なくとも1つの車軸とこれに属する制動装置とを有している。1つの軌道車両または1つの列車連結体に、それぞれの多変量減速度制御装置を備えた複数の軌道車両ユニットが設けられている場合、これらはそれぞれ分散型多変量減速度制御装置である。特に、このような分散型多変量減速度制御装置は、それぞれの対応する軌道車両ユニットに接してもしくは当該軌道車両ユニット内にそれぞれ局所的にも配置されている。代替的に、多変量減速度制御装置はまた、軌道車両ユニットから空間的に分離されて配置されて、軌道車両ユニットに機能的にのみ割り当てられてもよい。よって、多変量減速度制御装置は、各軌道車両ユニット内もしくは各軌道車両ユニットに接して配置されるのでなく、軌道車両ユニットまたは当該軌道車両ユニットに属する制動力形成ユニットまたは当該制動力形成ユニットの少なくとも1つの予め定められた制動装置に信号技術的に接続されているかまたは接続可能である中央調整ユニットまたは中央制御ユニットの一部であってもよい。制動力形成装置は、少なくとも1つの予め定められた制動装置のほか、制動力制御区間を有することもできる。
【0010】
多変量減速度制御装置は、目標減速度が設定される減速度制御回路を有する。目標減速度は、各列車連結体の目標減速度に相当するかまたはこれに対応する。代替的に、目標減速度は、対応する軌道車両または軌道車両ユニットの目標減速度を表すものであってもよい。さらに、減速度制御回路には、同様に列車連結体、軌道車両もしくは軌道車両ユニットの実際減速度に関する、算定された実際減速度が供給される。特に、軌道車両ユニットはそれぞれ、実際減速度をそれ自体で自律的に算定することができる。なお、対応する検出装置および/または評価装置を低減するため、かつ/または妥当性検査のために、代替的にもしくは補足的に、実際減速度を上位装置から提供することもできる。減速度制御回路は、目標減速度と実際減速度との間の補償に基づいて、軌道車両ユニット用の減速度制御回路調整量を決定する。減速度制御回路調整量とは、減速度もしくは補正された減速度、または制動力もしくは制動作用を表す他の量を表す。
【0011】
減速度制御回路のほか、多変量減速度制御装置は、調整量制御回路調整量を決定する調整量制御回路を備えている。調整量制御回路調整量および減速度制御回路調整量から、全体調整量が形成される。この場合、全体調整量は、力形成ユニットへの制御量を決定するためにさらなる制御区間に供給されるのみならず、調整量制御回路のための目標値および実際値の決定のための基礎も形成する。換言すれば、調整量制御回路の目標値は少なくとも全体調整量から形成され、実際値も全体調整量から導出される。つまり、このようにして、全体調整量は調整量制御回路へ、ひいては多変量減速度制御装置へもフィードバックされる。したがって、全体調整量は減速度制御回路調整量および調整量制御回路調整量の双方を介して決定され、ここで、少なくとも全体調整量は再び調整量制御回路調整量に影響を与える。
【0012】
全体調整量は、減速度制御回路調整量と調整量制御回路調整量との和から形成することができる。代替的にもしくは補足的に、全体調整量は、減速度制御回路調整量と調整量制御回路調整量との重み付けから形成することもできる。このために、例えば、減速度制御回路調整量と調整量制御回路調整量とにそれぞれ和形成のために予め定められたもしくは可変の重み付け係数を割り当てることができ、かつ/またはそれぞれ各定義領域においてのみ考慮することができる。ここでの重み付けは、例えば、多変量減速度制御装置の制御回路パラメータの選択を介して間接的に決定することができる。
【0013】
一構成では、制御区間は、全体調整量に基づいて軌道車両ユニットの全体制動力を決定するように構成された全体制動力決定ユニットと、全体制動力を制動力分配へ変換するように構成された任意選択手段としての制動力分配ユニットと、全体制動力または制動力分配に従って制動力形成ユニットを駆動制御するように構成された制動力調整ユニットとを有する。
【0014】
したがって、全体力決定ユニットは、軌道車両ユニットの、全体調整量に対応する全体制動力を形成する。多変量減速度制御装置を介して1つの車軸または1つの車輪のみが駆動制御される場合、当該全体制動力を、全体として、制動力形成ユニットを駆動制御するように構成された制動力調整ユニットに供給することができる。軌道車両ユニットが駆動制御されるべき複数の車軸または複数の車輪を有する場合、当該全体制動力はまず制動力分配ユニットへ供給され、当該制動力分配ユニットが全体制動力を制動力分配へ変換するように構成されている。この場合、制動力調整ユニットは制動力分配に従って制動力形成ユニットを駆動制御する。このように、制動力分配ユニットは制動力分配の要件に応じて設けられるので、この点に関しては任意選択手段として理解されるべきである。
【0015】
一構成では、フィードバック部は、全体調整量または軌道車両ユニットの基準調整量を考慮した全体調整量に基づいて正味調整量を決定するように構成された正味調整量決定ユニットを有する。
【0016】
したがって、全体調整量は、実際値および/または目標値としての調整量制御回路へのフィードバックのために、正味調整量決定ユニットを介して導出される、つまり、正味調整量決定ユニットに供給されてそこで全体調整量から正味調整量が決定される。正味調整量の決定は、この場合、軌道車両ユニットの基準調整量を考慮して行うことができる。基準調整量は、調整量のレベルを評価するための基準量を表している。例えば、制動力形成ユニットの所望の制動作用を達成するために、減速度制御なしに所定の調整量が設定されることもある。このように、基準調整量は、全体調整量と未制御の調整量とを関係付けるものでありうる。全体調整量および/または各適用事例に依存して、基準調整量を省略することもゼロとすることもできるし、または目標減速度もしくは減速度制御回路の予調整量に対応させることもできる。
【0017】
一発展形態によれば、フィードバック部は、正味調整量をフィルタリングされた正味調整量へ変換するように構成されたフィルタユニットを有する。特に、フィルタユニットのフィルタパラメータ、好ましくは少なくとも1つの時間シフト量は、適応化可能である。
【0018】
正味調整量は、例えば、場合により考慮すべき別の調整量および/または影響量と時間的に相関させるためにフィルタリング可能である。このために、フィルタユニットは、単純な無駄時間素子として構成可能であり、または少なくとも1つの無駄時間素子を含むものであってもよい。代替的にもしくは補足的に、フィルタユニットは、例えばフィルタリングされた正味調整量を所定の値範囲に制限するために、正味調整量を別の形式で適応化するかまたは変化させることができる。例えば、フィルタユニットはローパスフィルタとして構成可能である。フィルタユニットのパラメータ設定は、固定値、トレランスを有する固定値、またはフィルタユニットの自己学習ロジックによって設定可能なものとすることができる。フィルタパラメータ自体および/または上述したバリエーションに関するパラメータ設定の選択は、適応化可能であってよい。例えば、常用制動または非常制動のような種々の制動タイプを、場合により別の境界条件、例えば気象条件、区間プロフィルおよび結果的に生じるもしくは設けるべき制動特性への他の影響要因などを考慮して、相応に適応化されたパラメータ設定によって有利に支援することもできる。
【0019】
一発展形態では、フィードバック部は、調整量制御回路に、正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量を実際値として供給するように構成されている。
【0020】
フィードバック部がフィルタユニットを有していない場合もしくはフィルタユニットが非作動状態となっている場合、または信号の適応化が行われない場合には、調整量制御回路へは正味調整量が実際値として供給される。それ以外の場合には、フィルタリングされた正味調整量が実際値として調整量制御回路へ供給される。このように、全体調整量は、ここから導出された正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量として調整量制御回路に再び実際値として供給される、つまり、調整量制御回路のための相応の目標値を考慮して全体調整量の決定に対してフィードバックされる。
【0021】
一構成では、フィードバック部は、全体調整量、正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量を、特に少なくとも1つの別の影響量を考慮して標準調整量へ変換するように構成された標準調整量決定ユニットを有しており、フィードバック部は、調整量制御回路に標準調整量を目標値として供給するように構成されている。
【0022】
少なくとも1つの影響量は、例えば、全体調整量、正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量を標準調整量決定ユニットにおいて他の軌道車両ユニットの少なくとも1つの調整量に合わせて適応化するための、外部から供給される障害量および/または他の軌道車両ユニットの少なくとも1つの調整量とすることができ、かつ/または全体調整量、正味調整量および/またはフィルタリングされた正味調整量につき予め定められた期間にわたって平均値形成を行うことによって決定することができる。したがって、それぞれその時点の全体調整量、正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量は、上述した平均値形成の際に、相応の平均値に関連付けることができる。別の軌道車両ユニットの調整量を考慮することと同様に、ここでは、その時点の全体調整量、正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量から、相応の平均値に関して、標準調整量が形成される。この場合、例えば、全体調整量、正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量は、相応の平均値に合わせて適応化することができるか、または平均値に依存して予め定められた値を取ることができる。標準調整量を決定するために、全体調整量、正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量と少なくとも1つの影響量とにそれぞれ異なる重み付け係数を割り当てることができる。少なくとも1つの影響量はゼロへセットすることもでき、これにより、標準調整量がそのつどの全体調整量、正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量に対応する。なお、多変量減速度制御装置は、少なくとも1つの影響量が別の入力量として標準調整量決定ユニットに供給されないように構成することもできる。この場合には、標準調整量決定ユニットは、全体調整量、正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量から、例えば重み付けされた全体調整量、重み付けされた正味調整量もしくは重み付けされたフィルタリングされた正味調整量として、かつ/または設定された時間区分にわたる平均値形成として、標準調整量を決定する。少なくとも1つの影響量および/または重み付け係数の選択は、予め定められた限界値および/またはその時点での動作条件、例えば常用制動もしくは非常制動のような制動のタイプ、または外部条件、例えば気象もしくは区間セクションもしくは積載状態に応じて行うことができる。
【0023】
よって、調整量制御回路のための上述した実際値決定に関連して、それぞれ相応に変換された全体調整量が実際値および目標値の双方に関して調整量制御回路へフィードバックされる。目標値と実際値との差、すなわち例えば標準調整量とフィルタリングされた正味調整量との差を、別個の制御偏差決定ユニットを介して調整量制御回路に供給することもできる。このように、制御偏差は、調整量制御回路の外部で形成される。
【0024】
例えば少なくとも1つの影響量がゼロへセットされているときであって、標準調整量決定ユニットが正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量を標準調整量として決定した場合には、調整量制御回路に供給される目標値は実際値と等しくなりうる。この場合、調整量制御回路に制御偏差は存在しない。しかし、標準調整量決定ユニットが標準調整量をゼロへセットすることもあり、このときには調整量制御回路に供給される目標値も同様にゼロとなりうる。目標値は、全体調整量、正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量に関連して、複数の影響量から計算により形成することができる。よって、係数としての少なくとも1つの影響量がゼロへセットされると、この係数に関連する成分に対してもゼロへのセットが行われる。影響量は係数ではないがゼロへのセットが標準調整量のゼロへのセットの条件として格納されている場合にも、ゼロへのセットが行われうる。このように、標準調整量決定ユニットは、ゼロへのセットも可能な少なくとも1つの別の影響量を考慮して、全体調整量、正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量を標準調整量へ変換する。換言すれば、標準調整量決定ユニットは、例えば入力量を当該入力量の重み付けに従って標準調整量へ変換することができる。例えば、標準調整量は、重み付けされた入力値の和であってよい。このようなケースで少なくとも1つの別の影響量のゼロへのセットが行われる場合、標準調整量は、重み付けされた全体調整量、重み付けされた正味調整量もしくは重み付けされたフィルタリングされた正味調整量となりうる。このようにして、少なくとも常に、重み付けされた全体調整量、重み付けされた正味調整量もしくは重み付けされたフィルタリングされた正味調整量が算定される。1つのバリエーションでは、標準調整量決定ユニットはまた、少なくとも1つの別の影響量がゼロへセットされる場合、全体調整量、正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量の重み付けが予め定められた値から100%へセットされるように、ひいては標準調整量としての重み付けなしで引き渡されるように、構成可能である。別のケースでは、全体調整量、正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量の事前に決定された重み付けを、少なくとも1つの別の影響量とは無関係に維持することができる。重み付けの適応化は、走行モードに依存して、または本発明による多変量減速度制御システムに関連して後述するような他の形式で、行うこともできる。後述する重み付けの適応化手段は、システムに固有のものでない限り、多変量減速度制御装置に移すことができる。逆に、多変量減速度制御装置の相応の態様も、多変量減速度制御システムに移すことができる。
【0025】
一発展形態によれば、フィードバック部は、標準調整量決定ユニットからの標準調整量を上述したフィルタユニットに再び供給するように構成されている。
【0026】
この場合、フィルタユニットは、例えば、標準調整量からの偏差が最小となるように、フィルタリングを反復的に限界範囲内で決定するように構成可能である。フィルタユニットは、このために、例えば第1のステップにおいて、フィルタリングされた正味調整量に対する可能な帯域を計算することができる。このことは、予め定められたトレランス内でのフィルタの様々なパラメータ設定を用いた計算によって行うことができる。全てのパラメータ設定に対して、標準調整量からの、フィルタリングされた正味調整量の偏差が決定される。このことに基づいて、偏差が最小となるフィルタユニットのパラメータ設定が選択される。このようなパラメータ設定により、後続処理のためのフィルタリングされた正味調整量および標準調整量が計算される。ここで説明している標準調整量のフィードバック部および対応するフィルタユニットの構成は、以下にさらに説明する多変量減速度制御システムに同様に適用可能である。
【0027】
一構成では、減速度制御回路および調整量制御回路は、唯一の制御回路、特にPI制御回路によって構成される。
【0028】
減速度制御回路および調整量制御回路の双方を含むPI制御回路が使用される場合、ここでの制御偏差は個々の各制御回路の制御偏差の和である。任意選択手段として、唯一の制御回路、すなわちここでの例示としてのPI制御回路は、予調整部を含むことができる。
【0029】
一構成によれば、調整量制御回路は、静的なデッドゾーンおよび/または動的なデッドゾーンを有する。
【0030】
静的なデッドゾーンにより、制御偏差がデッドゾーンを外れた場合にはじめて調整量制御回路が制御に介入するように、調整量制御回路を構成することができる。代替的にもしくは補足的に、デッドゾーンが動的に適応化可能であって、これにより、調整量制御回路が予め定められた境界条件に依存してそれぞれ異なる応答特性を有するようにすることもできる。
【0031】
さらなる態様では、本発明は、少なくとも第1の軌道車両ユニットおよび第2の軌道車両ユニットを有する軌道車両用または列車連結体用の多変量減速度制御システムに関しており、当該第1の軌道車両ユニットおよび第2の軌道車両ユニットは、少なくとも1つの影響量を考慮して正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量を標準調整量へ変換するように構成された上述した標準調整量決定ユニットを有するそれぞれ1つずつの多変量減速度制御装置を有している。ここで、多変量減速度制御システムは、第1の軌道車両ユニットおよび/または第2の軌道車両ユニットの多変量減速度制御装置の各標準調整量決定ユニットに、少なくとも、それぞれ他の軌道車両ユニットの正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量を少なくとも1つの影響量として供給するように、かつ/または第1の軌道車両ユニットおよび/または第2の軌道車両ユニットの多変量減速度制御装置の各フィルタユニットに、フィルタパラメータを適応化するために、少なくとも、それぞれ他の軌道車両ユニットの正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量を供給するように、構成されている。
【0032】
したがって、多変量減速度制御システムは、複数の軌道車両ユニットから形成される軌道車両または列車連結体に関連する。少なくとも第1の軌道車両ユニットおよび第2の軌道車両ユニットが有する上述した多変量減速度制御装置により、まず当該軌道車両ユニットのそれぞれは、基本的には独立して制御可能である。しかし、このような軌道車両ユニットが複数個接続されていると、各軌道車両ユニットの完全に独立した減速度制御から、所定の状況下で、上述したシステムの劣決定に基づき、減速度制御が相互に対立的に動作して調整量が相互にドリフトする状態が生じてしまう。上述した多変量減速度制御システムによれば、少なくとも1つの軌道車両ユニットの多変量減速度制御装置の正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量が少なくとも1つの他の軌道車両ユニットの多変量減速度制御装置に供給されるため、システムの劣決定を低減することができる。特に、ここでの供給は、相互に、好ましくは軌道車両または列車連結体の全ての軌道車両ユニットに対して行われる。
【0033】
ここで、各多変量減速度制御装置を備えた第1の軌道車両ユニットおよび第2の軌道車両ユニットに関して、具体的には、1つの軌道車両ユニットの標準調整量の形成を、少なくとも1つの別の軌道車両ユニットの正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量に依存して行うことができる。このために、例えば、第2の軌道車両ユニットの正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量を、少なくとも1つの影響量として、第1の軌道車両ユニットの多変量減速度制御装置の標準調整量決定ユニットへ供給することができる。代替的にもしくは補足的に、例えば、第2の軌道車両ユニットの正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量を、フィルタパラメータを適応化するために、第1の軌道車両ユニットの多変量減速度制御装置のフィルタユニットに供給することもできる。
【0034】
標準調整量は、目標値として調整量制御回路に入力される。実際値は、固有の正味調整量、特に固有のフィルタリングされた正味調整量に対応する。つまり、少なくとも固有の調整量が制御部へとフィードバックされる。
【0035】
一構成では、1つの軌道車両ユニットの調整量制御回路がさらに、他の軌道車両ユニットの正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量による影響を受けうる動的なデッドゾーンを含むことができる。このために、同様に、他の軌道車両ユニットの正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量を、例えば1つの軌道車両ユニットのフィルタユニットおよび/または標準調整量決定ユニットを介して、当該1つの軌道車両ユニットの調整量制御回路に直接にまたは間接的に供給することができる。
【0036】
代替的にもしくは補足的に、第1の軌道車両ユニットおよび/または第2の軌道車両ユニットの多変量減速度制御装置の各フィルタユニットに、少なくとも、フィルタパラメータを適応化するために、それぞれ他の軌道車両ユニットの正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量を供給することができる。したがって、1つの軌道車両ユニットのフィルタユニットのパラメータ設定、ひいては当該フィルタユニットを介してフィルタリングされた正味調整量は、それぞれ他の軌道車両ユニットの正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量を介して適応化することができる。特に、このことに関して、フィルタパラメータは、軌道車両ユニットの各正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量からの偏差をさらに最小化するために、予め定められた、場合によっては適応化可能な限界範囲内で動的に適応化することができる。
【0037】
第1の軌道車両ユニットおよび第2の軌道車両ユニットの多変量減速度制御装置の各減速度制御回路については、例えば同じ目標減速度、例えば軌道車両もしくは列車連結体の目標減速度を設定することができる。各減速度制御回路には、さらに、算定された実際減速度を供給することもできる。これは、例えば各軌道車両ユニットに対して自律的に算定することができる。このケースでは、個々の軌道車両ユニットの実際減速度の測定の偏差は、形成される平均値に関する制御精度に影響を与えない。この場合、標準調整量からの偏差のみが生じる。よって、実際減速度の測定による動的な障害が調整量に与える影響が制御により除去される。各軌道車両ユニットの固有の全体調整量、正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量のみが固有の調整量制御回路へフィードバックされる特別なケース、すなわち、影響量としての例えば全体調整量、正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量がゼロへセットされる特別なケースでは、種々の実際減速度のもとで、調整量制御回路のパラメータ設定を介して、意図的に調整量の偏差と制御偏差との間の妥協点を形成することができる。特に、軌道車両ユニットにおいて制御されるべき実際減速度は、複数の軌道車両ユニットの実際減速度の重み付け平均値として形成可能である。ここでの重み付けは動的に変化させることができる。
【0038】
代替的にもしくは補足的に、実際減速度を、中央で、すなわち軌道車両全体または列車連結体全体に対して決定して、各減速度制御回路に供給することもできる。このような実際減速度の補足的な算定は、妥当性検査の目的で、冗長性のために、かつ/または軌道車両ユニットのレベルもしくは軌道車両のレベルもしくは列車連結体のレベルでのそれぞれ異なる実際減速度を考慮するために、行うことができる。
【0039】
各減速度制御回路はさらに、予調整部を含むことができる。予調整により、特に目標値の変化が大きくかつ動的である場合に、迅速な応答が可能となる。なぜなら、こうした場合、目標値に対する実際値の補償は、多変量減速度制御装置または多変量減速度制御システムによってではなく、多変量減速度制御装置または多変量減速度制御システムの少なくとも一部によって行われうるからである。この場合、多変量減速度制御装置または多変量減速度制御システムは、設定されたモデルからの予調整の偏差を補償する。これにより、システムはより迅速に応答することができる。
【0040】
各軌道車両ユニットがそれぞれ軌道車両を表している場合には、多変量減速度制御システムは列車連結体に関連する。ただし、多変量減速度制御システムは、代替的にもしくは補足的に、少なくとも2つの当該軌道車両ユニットを備えた軌道車両にも関連しうる。したがって、多変量減速度制御システムは、軌道車両ユニット間の信号通信に対する要求が比較的低い場合には、軌道車両および/または列車連結体の複数の軌道車両ユニットのそれぞれ個々の多変量減速度制御装置を相互に調整することができる。相応に、例えば、制動力分配およびこれに伴う摩擦結合の設定の維持を改善することができる。制御品質は、個々の軌道車両ユニットの減速度制御と同等の程度でまたは少なくとも近似の程度で達成可能である。軌道車両もしくは列車連結体の減速度および制動力分配の制御目標もしくは調整目標は相互に独立に実現可能であり、ひいては設計可能である。
【0041】
したがって、上述した多変量減速度制御システムにより、個々の軌道車両ユニットにおける減速度が制御されるだけでなく、標準調整量からの固有の正味調整量の偏差も制御により除去される。このようにして、劣決定となるシステムの残りの自由度が拘束される。
【0042】
一構成では、第1の軌道車両ユニットおよび/または第2の軌道車両ユニットの多変量減速度制御装置の標準調整量決定ユニットが、標準調整量を、固有の正味調整量もしくは固有のフィルタリングされた正味調整量とそれぞれ他の軌道車両ユニットの少なくとも1つの正味調整量との重み付け平均値として決定するように構成されている。各重み付け成分は、特に、対応する軌道車両ユニットの台車もしくは車両の数、軌道車両の全体制動力における対応する軌道車両ユニットの寄与分、対応する軌道車両ユニットの実際質量もしくは公称質量、および/または対応する軌道車両ユニットの質量および当該質量の予め定められた分布、に対応する。
【0043】
したがって、上述した重み付けは、対応する軌道車両ユニットが全体減速度に与えるそのつどの影響に依存して選択することができる。それぞれ他の軌道車両ユニットの少なくとも1つの正味調整量の重み付けはゼロとすることもでき、この場合には固有の全体調整量、固有の正味調整量もしくは固有のフィルタリングされた正味調整量のみが目標値として調整量制御回路へフィードバックされる。したがって、例えば、調整量制御回路による制御を、軌道車両ユニット間の通信が故障した場合にも少なくとも部分的に維持することができる。したがって、対応する信号が印加されない場合、それぞれ他の軌道車両ユニットの正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量をゼロへセットすることが行われうる。代替的にもしくは補足的に、例えば全ての重み付けがゼロへセットされた場合には、標準調整量もゼロへセットすることができる。代替的にもしくは補足的に、少なくとも、重み付けのうち少なくとも1つのゼロへのセットが標準調整量のゼロへのセットの条件として格納されている場合、標準調整量をゼロへセットすることもできる。このようなケースで標準調整量がゼロへセットされると、固有の全体調整量、固有の正味調整量または固有のフィルタリングされた正味調整量のみが調整量制御回路へとフィードバックされる。
【0044】
したがって、各軌道車両ユニット、特に少なくとも固有の軌道車両ユニットの正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量から、標準調整量決定ユニットにおいて標準調整量が決定される。例えば、標準調整量は、正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量の重み付け平均値から形成することができる。一構成では、例えば、固有のフィルタリングされた正味調整量とそれぞれ他の軌道車両ユニットもしくは軌道車両ユニットのフィルタリングされていない正味調整量とが、平均値ひいては標準調整量を形成するために使用される。
【0045】
標準調整量が例えば正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量の重み付け平均値に基づいている場合、調整量制御回路は、正味調整量が補償されるように、つまり偏差が最小化されるように条件付け可能である。この場合、減速度制御回路は調整量制御回路から分離されており、すなわち全体調整量の変化は主として減速度制御回路によって決定される。
【0046】
ただし、正味調整量を補償することは、これによって現実の制動力が等しくなることを必ずしも意味しない。制御区間を介した軌道車両ユニット間の制動力分配および軌道車両ユニット内部での制動力分配は、自由に選択可能であり、減速度制御回路および調整量制御回路に依存せずに設計される。調整量の偏差がゼロまで低減される場合、このことは、減速度制御回路および調整量制御回路が所定の基準に従って設計された制動力分配に影響を与えず、上述した分離に相当するようになることを意味する。換言すれば、減速度制御回路および調整量制御回路は、確かに全体調整量に影響を与えるが、制動力分配のための制御区間自体には影響を与えない。したがって、制動力分配のための制御区間は、独立して設計される。
【0047】
軌道車両ユニットが軌道車両に相当する場合、軌道車両ユニット間での制動力分配は、例えば、全ての軌道車両がそれ自体で見て同じ減速度を達成するように設計されている。制動力分配の別の選択も可能ではあるが、場合により標準調整量を形成する際の重み付けの選択に影響が生じる。
【0048】
制動力分配は、多変量減速度制御システムの下流において行うこともできる。例えば、各軌道車両ユニットの全体調整量を中央評価ユニットにおいて処理し、制動力分配またはこれに対応する制御信号へと変換して、次いでこれらの制動力分配または制御信号をさらに各制動力形成装置に伝送することができる。
【0049】
一発展形態によれば、標準調整量決定ユニットは、各重み付け成分を適応化するように、特に予め定められた重み付け成分をゼロへセットするように構成されている。
【0050】
したがって、必ずしも固有の軌道車両ユニットもしくは他の軌道車両ユニットの全ての正味調整量もしくは全てのフィルタリングされた正味調整量が、予めいったん定められた重み付けに従ってまたは基本的にそれ自体で標準調整量の決定のためのものとして使用されるとは限らない。換言すれば、正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量の重み付けおよび/または選択を、変更された条件に合わせて動的にまたは特定の入力手段に従って適応化することができる。例えば、軌道車両ユニットの荷下ろしおよびこれに伴う質量の軽減ならびに減速度に対する質量の影響の低下があった場合、当該軌道車両ユニットの正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量の重み付けは、低減可能またはゼロへのセット可能である。好ましくは、少なくとも各軌道車両ユニットの固有の正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量が、標準調整量決定ユニットにおいて標準調整量を決定するために考慮される。この場合、少なくとも固有の正味調整量、場合によりフィルタリングされた正味調整量が、調整量制御回路を介して調整量制御回路調整量の決定において考慮される。よって、例えば、制御精度への要求が少なくとも一時的に低くなった場合、正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量の交換を省略することができる。したがって、各軌道車両ユニットは分離されても依然として制御された状態で駆動可能である。また特に、軌道車両ユニット間の通信リンクが故障しても、個々の軌道車両ユニットの減速度制御は依然として可能である。
【0051】
一構成では、多変量減速度制御システムは、フィルタユニットまたは別のフィルタユニットを介して標準調整量決定ユニットに供給されるべき少なくとも1つの影響量を導出するように構成されている。
【0052】
したがって、軌道車両ユニットの正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量、または他の軌道車両ユニットの正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量、またはこれらから形成された平均値は、フィルタユニットのパラメータ設定に影響を与えうるだけでなく、代替的にもしくは補足的に、同様に1つもしくは複数のフィルタリングされた影響量として標準調整量決定ユニットに供給することもできる。したがって、各軌道車両ユニットの多変量減速度制御装置のフィルタユニットを介して、固有の正味調整量のみならず、それぞれ他の軌道車両ユニットの正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量もあらためてフィルタリングすることができる。このようにして、フィルタリングされた正味調整量から標準調整量が形成される。そのほか、多変量減速度制御装置につき上述したフィルタユニットの機能および構成も、固有のもしくは他の軌道車両ユニットの正味調整量および/またはフィルタユニットのパラメータ設定に対して相応に適用可能である。固有の正味調整量および他の正味調整量のフィルタリングに関して、各正味調整量のパラメータ設定は、それぞれ異なっていてもよいし、またはそれぞれ異なって適応化可能であってもよい。少なくとも、各軌道車両ユニットの固有の正味調整量をフィルタリングすることができ、これにより、固有の正味調整量と1つもしくは複数の他の正味調整量との時間的な相関が形成される。多変量減速度制御装置自体について既に述べたように、このために、フィルタユニットは、単純な無駄時間素子を有することができる。
【0053】
別の一態様では、本発明は、軌道車両の軌道車両ユニットの減速度を制御する方法に関しており、当該方法は、
-減速度制御回路を介して減速度制御回路調整量を決定するステップと、
-調整量制御回路を介して調整量制御回路調整量を決定するステップと、
-減速度制御回路調整量および調整量制御回路調整量から全体調整量を形成するステップと
を含む。この場合、全体調整量は、制動力形成ユニット用の制御区間へ供給され、フィードバック部を介して調整量制御回路へフィードバックされる。
【0054】
制御区間を介して、制動力形成ユニットの全体調整量、制動力を表す量、または制動力分配を表す量を設定することができる。
【0055】
方法の利点および構成手段は、多変量減速度制御装置について述べたことと同様である。
【0056】
方法の一構成では、全体調整量が、フィードバック部を介して、基準調整量へセット可能な正味調整量へ、特にフィルタリングされた正味調整量へと変換され、当該フィルタリングされた正味調整量が実際量として調整量制御回路へ供給され、並行して、標準調整量決定ユニットを介して、特に別の軌道車両ユニットの少なくとも1つの調整量を考慮するために、影響量としてさらに標準調整量へと変換されて、当該標準調整量が目標量として調整量制御回路へ供給される。
【0057】
別の軌道車両ユニットの少なくとも1つの調整量を影響量として、特に別の軌道車両ユニットの全体調整量、正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量を影響量として考慮することによって、調整量制御回路は、調整量制御回路調整量を、少なくとも1つの別の軌道車両ユニットの減速度特性を考慮して簡単に適応化することができる。
【0058】
方法のさらなる利点および構成手段は、多変量減速度制御システムの実施形態と同様に、他の軌道車両ユニットの調整量を1つもしくは複数の影響量として考慮することに関して得られる。相応に、方法は、上述したように、それぞれ別の軌道車両ユニットの正味調整量もしくはフィルタリングされた正味調整量をフィルタユニットへ供給することにも関連しうる。
【0059】
多変量減速度制御システムまたはこれと同様の方法の構成に関してまさに、各軌道車両ユニットに対する各減速度制御回路または従属する制御区間が独立して設計可能となるという利点が得られる。この場合、他の軌道車両ユニットの適応化または考慮は、上述したバリエーションにおいて他の軌道車両ユニットの調整量にアクセスすることのできる調整量制御回路を介して行われる。
【0060】
減速度制御および制動力分配は、分離の意味において相互に独立して設計可能である。このために、それぞれ劣決定となるシステムの自由度が相応に拘束される。調整量制御回路は、所望の制動力分配が可能な限り減速度制御による影響を受けないようにすることを可能にする。
【0061】
さらに、軌道車両ユニット間の長い通信実行時間またはその分散は、本来の減速度制御に影響を与えない。調整量制御回路は、相応に簡単に、実行時間に対してトレランスが設けられるように設計することができる。
【0062】
以下に、本発明を、添付の図面につき詳細に説明する。図には次のことが詳細に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【
図1】例示的な実施形態による、軌道車両ユニット用の多変量減速度制御装置を示す概略図である。
【
図2】例示的な実施形態による、列車連結体用の多変量減速度制御システムを示す概略図である。
【
図4】独立した制御回路または本発明による多変量減速度制御システムを備えた理想的なシステムについての目標加速度および実際加速度ならびに調整量を示す概略図である。
【
図5】独立した制御回路に静的な測定誤差がある場合の目標加速度および実際加速度ならびに調整量を示す概略図である。
【
図6】独立した制御回路に動的な測定誤差がある場合の目標加速度および実際加速度ならびに調整量を示す概略図である。
【
図7】本発明による多変量減速度制御システムに静的な測定誤差がある場合の目標加速度および実際加速度ならびに調整量を示す概略図である。
【
図8】本発明による多変量減速度制御システムに動的な測定誤差がある場合の目標加速度および実際加速度ならびに調整量を示す概略図である。
【0064】
図1には、例示的な実施形態による軌道車両ユニット1の多変量減速度制御装置10の概略図が示されている。軌道車両ユニット1は、ここでは軌道車両、例えば台車または車両に対応している。代替的に、軌道車両ユニット1は、軌道車両の複数の軌道車両ユニットのうちの1つであってもよい。多変量減速度制御装置10は、減速度制御回路20および調整量制御回路30を有する。減速度制御回路20は、目標減速度a
sollと実際減速度a
ist,1とから、減速度制御回路調整量u
a,1を決定する。実際減速度a
ist,1は、ここに示されている実施形態においては、軌道車両ユニット1の実際減速度測定ユニット(図示せず)によって算定される。代替的な実施形態によれば、実際減速度a
ist,1は、複数の軌道車両ユニット1から成る1つの軌道車両においても、または複数の軌道車両ユニット1もしくは複数の軌道車両から成る列車連結体においても中央で算定することができる。調整量制御回路30は、目標値と実際値との間の制御偏差、ここでは具体的には目標値としての標準調整量u
zと後にさらに説明する実際値としてのフィルタリングされた正味調整量との間の制御偏差から、調整量制御回路調整量u
c,1を決定する。減速度制御回路調整量u
a,1と調整量制御回路調整量u
c,1との和から、全体調整量u
1が形成される。全体調整量u
1は、当該全体調整量u
1を全体力F
gesへと変換する全体制動力決定ユニット21へ供給される。また、全体力F
gesは、全体力F
gesを制動力分配F
1~F
nに分割する制動力分配ユニット22へも供給される。この場合、制動力分配F
1~F
nは、制動力形成ユニット40(
図2)の、軌道車両ユニット1に対応付けられた制動力形成装置(図示せず)に相当する。制動力形成装置もしくは制動力形成ユニット40の駆動制御は、制動力分配F
1~F
nを各駆動制御命令へと変換する制動力調整ユニット23を介して行われる。
【0065】
全体調整量u1はさらに別の制御回路を介して導出され、これにより、調整量制御回路30用の目標値および実際値が形成される。このために、正味調整量決定ユニット31において、全体調整量u1と基準調整量uref,1との差から、まず、正味調整量un,1が決定される。ここで、基準調整量uref,1は、全体調整量u1のレベルを評価するための基準点を形成するものである。例示的な実施形態では、基準調整量uref,1は目標減速度asollに対応する。代替的な実施形態によれば、基準調整量uref,1は、減速度制御回路20の任意選択手段としての予調整量に対応してもよいし、またはゼロへセットされてもよく、または省略されてもよい。基準調整量uref,1のそのつどの選択は予調整量に対応して行うことができ、かつ/または適用事例に応じて、例えばブレーキのタイプまたは外部条件に依存して適応化可能とすることができる。続いて、正味調整量un,1がフィルタユニット32へ供給される。フィルタユニット32は、正味調整量un,1からフィルタリングされた正味調整量unf,1を形成する。このために、フィルタユニット32は、図示の実施形態では、正味調整量un,1と以降でさらに考慮すべき影響量、ここでは他の軌道車両ユニットの正味調整量un,2~un,nなどとの時間的な相関を形成するために、無駄時間素子を有している。代替的な実施形態では、フィルタユニット32は、省略可能もしくは必要に応じて切り替え可能であってよく、または正味調整量un,1をフィルタリングされた正味調整量unf,1へと変換する際に作動可能であってもよい。また、正味調整量un,1は、この場合、他の軌道車両ユニットまたはこれに対応する多変量減速度制御装置を利用できるようにするために、多変量減速度制御装置10からの別の信号分岐を介しても導出される。ただし、代替的な実施形態によれば、このような信号分岐は省略されてもよい。
【0066】
フィルタリングされた正味調整量unf,1は、調整量制御回路調整量uc,1を決定するための実際値として、調整量制御回路30へ供給される。代替的な実施形態によれば、特にフィルタユニット32が設けられていない実施形態またはフィルタユニット32が相応に非作動状態となっている実施形態においては、正味調整量un,1を実際値として直接に調整量制御回路30へ転送することができる。また、正味調整量un,1またはフィルタリングされた正味調整量unf,1を選択的に転送するために、正味調整量un,1を直接にまたはフィルタユニット32を介してフィルタリングされた正味調整量unf,1として調整量制御回路30に供給するための、2つの切り替え可能な信号分岐を設けることもできる。
【0067】
調整量制御回路30用の目標値としての標準調整量uzを形成するために、フィルタリングされた正味調整量unf,1が、さらに標準調整量決定ユニット33へ供給される。任意選択手段としてのフィルタユニット32によれば、代替的な実施形態において、正味調整量un,1を直接に標準調整量決定ユニット33へ供給することもできる。このようなケースでは、フィルタ特有の態様に該当しない限り、フィルタリングされた正味調整量unf,1に代えて、正味調整量un,1にも同様に以下の説明が適用可能である。標準調整量決定ユニット33は、別の影響量、ここでは他の軌道車両ユニットの正味調整量un,2~un,nを考慮して、フィルタリングされた正味調整量unf,1から標準調整量uzを決定する。代替的な実施形態によれば、他の軌道車両ユニットの正味調整un,2~un,nに代えてもしくはこれに加えて、他の影響量を考慮することもできるし、または選択的に省略することもできる。例示的な実施形態では、標準調整量uzは、フィルタリングされた正味調整量unf,1と正味調整量un,2~un,nとの重み付け平均値から形成される。フィルタリングされた正味調整量unf,1と正味調整量un,2~un,nとの重み付けは、ここでは、各軌道車両ユニットの台車数の各重み付けに対応している。代替的な実施形態では、重み付けは、代替的にもしくは補足的に、全体制動力に対する軌道車両ユニットの典型的な値、各軌道車両ユニットの各実際質量もしくは各公称質量、および/または軌道車両ユニット間の予め定められた分配に関連した各軌道車両ユニットの各実際質量もしくは各公称質量、に対応しうる。標準調整量決定ユニット33は、この場合、各重み付けを適応化できるように構成されていてよい。特に、個々の重み付けをゼロへセットすることもできる。例えば、他の軌道車両ユニットの正味調整量un,2~un,nの全ての重み付けがゼロへセットされると、調整量制御回路30には専ら固有のフィルタリングされた正味調整量unf,1が目標値として供給される。このようにして、多変量減速度制御装置を、正味調整量un,2~un,nの考慮から独立した状態でも駆動することができる。このため、標準調整量決定ユニット33が考慮されない影響量に従ってフィルタリングされた正味調整量unf,1を標準調整量uzとして受け取るケースにおいて、フィルタリングされた正味調整量unf,1が調整量制御回路30の目標値および実際値の双方を表すことも起こりうる。このような場合、制御偏差は発生せず、調整量制御回路は、全体調整量u1にさらなる影響を与えない。標準調整量決定ユニットによる影響量の考慮は、図示の実施形態において適応化可能である。したがって、各影響量は、適応化可能な予め定められた限界値を上回った場合にのみ考慮される。また、代替的な実施形態によれば、少なくとも1つの各限界値を不変に設定することができ、または限界値に関連した考慮を省略することもできる。
【0068】
さらに、多変量減速度制御装置は、例示的な実施形態において、標準調整量uzが標準調整量決定ユニット33から任意選択手段として再びフィルタユニット32へ供給可能となるように構成されている。任意選択手段としての当該フィードバックは破線矢印によって示されており、ここではフィルタリングされた正味調整量unf,1に対する正味調整量un,2~un,nの時間シフト量に依存して行われる。また、代替的な実施形態では、このようなフィードバックを基本的に行うこととしてもよいし、または省略してもよい。標準調整量uzをフィードバックすることにより、フィルタユニット32のパラメータ設定が適応化される。この場合、パラメータ設定は、標準調整量uzからのフィルタリングされた正味調整量unf,1の偏差が最小となるように、反復的に限界範囲内で決定される。このために、フィルタユニット32は、第1のステップにおいて、フィルタリングされた正味調整量unf,1の可能な帯域を計算する。ここでの計算は、所定のトレランス内のフィルタユニット32の様々なパラメータ設定を用いて行われる。パラメータ設定のたびに、標準調整量uzからのフィルタリングされた正味調整量unf,1の偏差が計算される。続いて、偏差が最小であるフィルタユニット32のパラメータ設定が選択される。このようなパラメータ設定により、最終的に、フィルタリングされた正味調整量unf,1が計算され、ひいてはさらに後続処理のための標準調整量uzが計算される。
【0069】
図2には、例示的な実施形態による、列車連結体用の多変量減速度制御システム100の概略図が示されている。列車連結体は、ここでは、第1の軌道車両を表す第1の軌道車両ユニット1と、第2の軌道車両を表す第2の軌道車両ユニット2とから形成されている。第1の軌道車両ユニット1と第2の軌道車両ユニット2とはそれぞれ、
図1の多変量減速度制御装置10を有している。図示を簡単化するために、それぞれの減速度制御回路20、全体制動力決定ユニット21、制動力分配ユニット22、調整量制御回路30および正味調整量決定ユニット31は、一点鎖線で示された領域によって表されている。
【0070】
減速度制御回路20に対して、それぞれ同じ目標減速度asollが設定される。目標減速度asollに対する実際減速度aist,1もしくはaist,2の各制御偏差を形成するために、または減速度制御回路調整量ua,1もしくはua,2(ここでは図示せず)を決定するために、一方では第1の軌道車両ユニット1の減速度制御回路20に、軌道車両ユニット1によって算定された第1の軌道車両ユニット1の実際減速度aist,1が供給される。他方では、第2の軌道車両ユニット2の減速度制御回路20に、軌道車両ユニット2によって算定された第2の軌道車両ユニット2の実際減速度aist,2が供給される。次いで、各軌道車両ユニット1,2に対して、各減速度制御回路調整量ua,1もしくはua,2と各調整量制御回路調整量uc,iもしくはuc,2(ここでは図示せず)との和から、各全体調整量u1もしくはu2(ここでは図示せず)が形成される。上述した多変量減速度制御装置10に即して既に説明したように、各全体調整量u1もしくはu2は、対応するそれぞれの全体制動力決定ユニット21および制動力分配ユニット22を介して、各制動力調整ユニット23に、第1の軌道車両ユニット1用の制動力分配F1,1~Fn,1として、または第2の軌道車両ユニット2用の制動力分配F1,2~Fn,2として供給される。第1の軌道車両ユニット1および第2の軌道車両ユニット2の制動力調整ユニット23は、制動力形成ユニット40を介して、制動力調整ユニット23にそれぞれ対応付け可能な制動装置を駆動制御する。制動力形成ユニット40は、ここでは、2つの軌道車両ユニット1,2の双方を介して駆動制御可能な制動力形成ユニット40として構成されている。代替的な実施形態では、第1の軌道車両ユニット1および第2の軌道車両ユニット2は、各制動力調整ユニット23を介して駆動制御可能なそれぞれ1つの固有の制動力形成ユニット40を有することもできる。
【0071】
第1の軌道車両ユニット1の多変量減速度制御装置10は、固有の正味調整量un,1を第1の軌道車両ユニット1のフィルタユニット32へ供給する。また、第1の軌道車両ユニット1の正味調整量un,1は、第2の軌道車両ユニット2の標準調整量決定ユニット33へも転送される。同様に、第2の軌道車両ユニット2の多変量減速度制御装置10は、固有の正味調整量un,2を第2の軌道車両ユニット2のフィルタユニット32へ供給する。同様に、第2の軌道車両ユニット2の正味調整量un,2は、第1の軌道車両ユニット1の標準調整量決定ユニット33へも転送される。したがって、各標準調整量決定ユニット33におけるそれぞれ1つの軌道車両ユニット1,2の標準調整量uzは、それぞれ固有のフィルタリングされた正味調整量unf,1,unf,2とそれぞれ他の軌道車両ユニット2,1の正味調整量un,2,un,1とによって形成される。代替的な実施形態によれば、各標準調整量決定ユニット33におけるそれぞれ1つの軌道車両ユニット1,2の標準調整量uzは、それぞれ固有のフィルタリングされた正味調整量unf,1,unf,2とそれぞれ他の軌道車両ユニット2,1のフィルタリングされた正味調整量unf,2,unf,1とによって形成されうる。このために、それぞれ他の軌道車両ユニット2,1の正味調整量un,2およびun,1は、他の軌道車両ユニット2,1のそれぞれ固有のフィルタユニット32および/またはこれらの正味調整量un,2およびun,1が供給される軌道車両ユニット1,2のフィルタユニット32を介してフィルタリングすることができる。
【0072】
標準調整量uz1もしくはuz2は、固有のフィルタリングされた正味調整量unf,1もしくはunf,2とそれぞれ他の軌道車両ユニット2,1の正味調整量un,2もしくはun,1との重み付け平均値から形成される。例示的な実施形態では、重み付けは、ここでは2つの軌道車両ユニット1,2に等しい、各軌道車両ユニットの台車数に相当する。したがって、第1の軌道車両ユニットの標準調整量uz1は、uz1=(unf,1+unf,2)/2から得られ、第2の軌道車両ユニットの標準調整量uz2は、uz2=(unf,2+unf,1)/2から得られる。
【0073】
標準調整量uz1は第1の軌道車両ユニット1の調整量制御回路30に、また標準調整量uz2は第2の軌道車両ユニット2の調整量制御回路30に、それぞれ目標値として伝達される。実際値は、それぞれ固有のフィルタリングされた正味調整量unf,1またはunf,2に相当する。つまり、これにより、少なくとも固有の正味調整量un,1もしくはun,2、ここでは具体的には固有のフィルタリングされた正味調整量unf,1もしくはunf,2が、減速度制御部へ、ここでは具体的には各調整量制御回路30へ、フィードバックされる。したがって、上述した手順によれば、個々の軌道車両ユニット1,2における減速度のみが制御されるのではなく、標準調整量uz1およびuz2からの、固有のフィルタリングされた正味調整量unf,1もしくはunf,2の偏差も制御により除去される。このようにして、劣決定となるシステムの残りの自由度が拘束される。よって、システムは、少なくとも準静的な障害がある場合に、定義された挙動を有することができる。
【0074】
以下では、明確化のために、2つの軌道車両ユニット用の上述した多変量減速度制御システム100の利点を、軌道車両ユニットあたり唯一の減速度制御回路が使用され、よって、調整量制御回路を介したそのつどのフィードバックが行われない減速度制御システムとの比較においていまいちど説明する。
【0075】
第1の軌道車両ユニット1および第2の軌道車両ユニット2の算定された実際減速度aist,,1およびaist,,2に関して静的な測定誤差がある場合、フィードバックを行わないシステムではオフセットが生じる。換言すれば、各減速度制御回路により形成された調整量は相互にドリフトする。このため、実際の制動力分配が所望の制動力分配から逸脱し、または減速度制御が制動力分配を誤らせる。これにより、要求された摩擦結合条件が障害を受ける可能性がある。動的な測定誤差がある場合、フィードバックを行わないシステムでは、調整量相互の持続的な偏差が発生する。このため、制動力分配をコントロールすることができず、摩擦結合の障害を制御により除去することはできない。
【0076】
本発明による多変量減速度制御システムでは、理想的な条件下では、すなわち例えば測定誤差が生じない場合、さしあたり、フィードバックを行わないシステムに対する差が生じない。なお、静的な測定誤差がある場合にも、比較において、それぞれの全体調整量u1およびu2の僅かな差しか生じない。この場合、当該差は、各減速度測定の差に直接に依存する。動的な測定誤差がある場合、障害を完全に制御により除去することができるかまたは少なくとも許容可能な程度まで低減することができる。全体調整量u1およびu2の持続的な偏差は生じない。
【0077】
本発明の多変量減速度制御システム、例えば上述した例示的な実施形態による多変量減速度制御システム100の利点につき、
図3~
図8に、加速度信号の種々の特性が示されている。
【0078】
この点に関して、
図3には、まず全般的に、測定量の動的な障害の概略図が示されている。この場合、調整量du
1とdu
2とは相互にドリフトしている。
【0079】
図4には、独立した制御回路または本発明による多変量減速度制御システム、例えば多変量減速度制御システム100を備えた理想的なシステム用の目標加速度a
sollおよび実際加速度a
istならびに調整量u
1およびu
2の概略図が示されている。理想的なシステムでは、測定不正確性が生じないと仮定される。調整量u
1およびu
2は同形の特性を有し、当該調整量u
1およびu
2により実際加速度a
istが目標加速度a
sollへと制御される。しかし、実用においては、動的な測定誤差および静的な測定誤差が繰り返し発生し、これらの測定誤差が独立した制御回路に調整量u
1,u
2相互の偏差を引き起こすことがある。これにより、制動力分配をもはやコントロールできなくなり、摩擦結合条件をもはや維持できなくなってしまう。
【0080】
この点に関して、
図5には、独立した制御回路に静的な測定誤差がある場合の目標加速度a
sollおよび実際加速度a
istならびに調整量u
1およびu
2の概略図が示されている。独立した制御回路におけるシステムの劣決定に基づき、制御されるべき各制動力形成ユニット用の調整量u
1およびu
2が相互にドリフトする。これにより、摩擦結合特性も相互にドリフトし、これにより、予め定められた摩擦結合条件の維持をもはや保証できなくなる。さらにこれにより、制動力形成ユニットにおいて過度の摩耗が発生するおそれもある。
【0081】
補足的に、
図6には、独立した制御回路に動的な測定誤差がある場合の目標加速度a
sollおよび実際加速度a
istならびに調整量u
1およびu
2の概略図が示されている。ここでは、独立した制御回路のシステムの劣決定が、制御されるべき各制動力形成ユニットの調整量u
1およびu
2の持続的な偏差をもたらす。相応に、摩擦結合特性についても持続的な偏差が発生し、この偏差も同様に予め定められた摩擦結合条件の障害を生じさせる可能性がある。またこの場合も、より強く負荷される各制動力形成ユニットにおいて過度の摩耗が生じてしまう。
【0082】
本発明による多変量減速度制御システム、例えば多変量減速度制御システム100により、制御されるべき各制動力形成ユニット用の全体調整量u
1およびu
2の相互ドリフトを低減することができる。この点に関して、
図7には、本発明による多変量減速度制御システムに静的な測定誤差がある場合の目標加速度a
sollおよび実際加速度a
istならびに全体調整量u
1およびu
2の概略図が示されている。
図5に示されている制動力形成ユニット用の独立した制御回路における調整量u
1およびu
2の特性と比較して、本発明による多変量減速度制御システムにおける全体調整量u
1およびu
2は、静的な測定誤差のもとでもはや相互ドリフトを発生させず、比較的僅かな差を伴って実質的に相互に平行に延在する。したがって、摩擦結合特性も実質的に同等である。このため、結果として、設定された摩擦結合条件の維持を保証することができる。同様に、個々の制動力形成ユニットの摩耗ピークが低減され、調整された制動力分配により別の形式で規定されない限り、各制動力形成ユニットもしくはこれに接続されたブレーキ要素における摩耗が少なくとも近似に同等に調節可能となる。
【0083】
同様に、本発明による多変量減速度制御システムは、動的な測定誤差に対して正の影響を与える。この点に関して、
図8には、本発明による多変量減速度制御システムに動的な測定誤差がある場合の目標加速度a
sollおよび実際加速度a
istならびに全体調整量u
1およびu
2の概略図が示されている。この場合、動的な測定誤差は全体調整量u
1およびu
2の短期間の相互ドリフトを生じさせるが、この相互ドリフトは、本発明による多変量減速度制御システムによって再び結合される。全体調整量u
1およびu
2の持続的なオフセットは残留しない。相応に、調整量u
1およびu
2から生じる摩擦結合特性は、各制動力形成ユニットについての動的な測定誤差が制御により除去された後、実質的に等しくなる。換言すれば、動的な測定誤差による障害は完全に制御により除去され、全体調整量u
1およびu
2の持続的な偏差が生じなくなる。
【0084】
本発明は、記載した実施形態に制限されるものではない。特に、本発明の実施形態、他の形式で説明した本発明の構成および発展形態に即して説明した特徴は、これらが合理性の点で排除し合わない限り、相互に組み合わせ可能である。特に、多変量減速度制御装置および多変量減速度制御システムの特徴は、相応のそれぞれの減速度制御のための方法ステップに直接に移行させることができ、またその逆も成り立つ。多変量減速度制御装置および多変量減速度制御システムは、基本的に、例えば常用制動および/または非常制動のいずれの制動タイプにおいても使用可能であり、また、電気力学式ブレーキ、電気機械式ブレーキ、液圧式ブレーキまたは空気圧式ブレーキなど、使用されるブレーキのタイプとは無関係に使用可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 第1の軌道車両ユニット
2 第2の軌道車両ユニット
10 多変量減速度制御装置
20 減速度制御回路
21 全体制動力決定ユニット
22 制動力分配ユニット
23 制動力調整ユニット
30 調整量制御回路
31 正味調整量決定ユニット
32 フィルタユニット
33 標準調整量決定ユニット
40 制動力形成ユニット
100 多変量減速度制御システム
asoll 目標減速度
aist,1 実際減速度(第1の軌道車両ユニット)
aist,2 実際減速度(第2の軌道車両ユニット)
F1,…,Fn 制動力分配(軌道車両ユニット)
F1,1,…,Fn,1 制動力分配(第1の軌道車両ユニット)
F1,2,…,Fn,2 制動力分配(第2の軌道車両ユニット)
Fges 全体制動力(軌道車両ユニット)
u1 全体調整量(第1の軌道車両ユニット)
ua,1 減速度制御回路調整量(第1の軌道車両ユニット)
uc,1 調整量制御回路調整量(第1の軌道車両ユニット)
un,1 正味調整量(第1の軌道車両ユニット)
un,2 正味調整量(第2の軌道車両ユニット)
un,n 正味調整量(n番目の軌道車両ユニット)
unf,1 フィルタリングされた正味調整量(第1の軌道車両ユニット)
unf,2 フィルタリングされた正味調整量(第2の軌道車両ユニット)
uref,1 基準調整量(第1の軌道車両ユニット)
uz 標準調整量
【手続補正書】
【提出日】2024-01-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道車両ユニット(1)用の多変量減速度制御装置(10)であって、
前記軌道車両ユニット(1)用の減速度制御回路調整量(u
a,1)を決定するように構成された減速度制御回路(20)と、
前記軌道車両ユニット(1)用の調整量制御回路調整量(u
c,1)を決定するように構成された調整量制御回路(30)と
を備え、
前記多変量減速度制御装置(10)が、前記減速度制御回路調整量(u
a,1)および前記調整量制御回路調整量(u
c,1)から前記軌道車両ユニット(1)用の全体調整量(u
1)を形成し、該全体調整量(u
1)を、少なくとも1つの制動力形成ユニット(40)用の制御区間(21,22,23)と前記調整量制御回路(30)へのフィードバック部(31,32,33)とに供給するように構成されている、
多変量減速度制御装置(10)。
【請求項2】
前記制御区間(21,22,23)は、
前記全体調整量(u
1)に基づいて前記軌道車両ユニット(1)の全体制動力(F
ges)を決定するように構成された全体制動力決定ユニット(21)と、
前記全体制動力(F
ges)を制動力分配(F
1,…,F
n)へ変換するように構成された任意選択手段としての制動力分配ユニット(22)と、
前記全体制動力(F
ges)または前記制動力分配(F
1,…,F
n)に従って前記制動力形成ユニット(40)を駆動制御するように構成された制動力調整ユニット(23)と
を有する、請求項1記載の多変量減速度制御装置(10)。
【請求項3】
前記フィードバック部(31,32,33)は、前記全体調整量(u
1)または前記軌道車両ユニット(1)の基準調整量(u
ref,1)を考慮した全体調整量(u
1)に基づいて正味調整量(u
n,1)を決定するように構成された正味調整量決定ユニット(31)を有する、
請求項
1記載の多変量減速度制御装置(10)。
【請求項4】
前記フィードバック部(31,32,33)は、前記正味調整量(u
n,1)をフィルタリングされた正味調整量(u
nf,1)へ変換するように構成されたフィルタユニット(32)を有しており、特に、前記フィルタユニット(32)のフィルタパラメータ、好ましくは少なくとも1つの時間シフト量が適応化可能である、
請求項3記載の多変量減速度制御装置(10)。
【請求項5】
前記フィードバック部(31,32,33)は、前記調整量制御回路(30)に、前記正味調整量(u
n,1)または前記フィルタリングされた正味調整量(u
nf,1)を実際値として供給するように構成されている、
請求項
4記載の多変量減速度制御装置(10)。
【請求項6】
前記フィードバック部(31,32,33)は、前記全体調整量(u
1)、前記正味調整量(u
n,1)または前記フィルタリングされた正味調整量(u
nf,1)を、特に少なくとも1つの別の影響量(u
n,2,…,u
n,n)を考慮して標準調整量(u
z)へ変換するように構成された標準調整量決定ユニット(33)を有しており、
前記フィードバック部(31,32,33)は、前記調整量制御回路(30)に前記標準調整量(u
z)を目標値として供給するように構成されている、
請求項
4記載の多変量減速度制御装置(10)。
【請求項7】
前記フィードバック部(31,32,33)は、前記標準調整量決定ユニット(33)からの前記標準調整量(u
z)を請求項4記載のフィルタユニット(32)に再び供給するように構成されている、請求項6記載の多変量減速度制御装置(10)。
【請求項8】
前記減速度制御回路(20)および前記調整量制御回路(30)は、唯一の制御回路、特にPI制御回路によって構成されており、該制御回路は、目標減速度からの減速度の偏差および前記標準調整量からの前記調整量の偏差の双方を考慮する、請求項
6記載の多変量減速度制御装置(10)。
【請求項9】
前記調整量制御回路(30)は、静的なデッドゾーンおよび/または動的なデッドゾーンを有する、請求項
1記載の多変量減速度制御装置(10)。
【請求項10】
それぞれ請求項6から9までのいずれか1項記載の多変量減速度制御装置(10)を有する少なくとも第1の軌道車両ユニット(1)と第2の軌道車両ユニット(2)とを有する軌道車両用または列車連結体用の多変量減速度制御システム(100)であって、
前記多変量減速度制御システム(100)が、
前記第1の軌道車両ユニット(1)および/または前記第2の軌道車両ユニット(2)の前記多変量減速度制御装置(10)の各標準調整量決定ユニット(33)に、少なくとも、それぞれ他の軌道車両ユニット(1,2)の正味調整量(u
n,1,u
n,2)もしくはフィルタリングされた正味調整量(u
nf,1,u
nf,2)を少なくとも1つの影響量として供給し、かつ/または
前記第1の軌道車両ユニット(1)および/または前記第2の軌道車両ユニット(2)の前記多変量減速度制御装置(10)の各フィルタユニット(32)に、少なくとも、フィルタパラメータを適応化するために、それぞれ他の軌道車両ユニット(1,2)の正味調整量(u
n,1,u
n,2)もしくはフィルタリングされた正味調整量(u
nf,1,u
nf,2)を供給する
ように構成されている、多変量減速度制御システム(100)。
【請求項11】
前記第1の軌道車両ユニット(1)および/または前記第2の軌道車両ユニット(2)の前記多変量減速度制御装置(10)の前記標準調整量決定ユニット(33)は、前記標準調整量(u
z)を、固有の正味調整量(u
n,1,u
n,2)もしくは固有のフィルタリングされた正味調整量(u
nf,1,u
nf,2)とそれぞれ他の軌道車両ユニット(1,2)の少なくとも1つの正味調整量(u
n,1,u
n,2)との重み付け平均値として決定するように構成されており、ここで、
各重み成分が、特に、
対応する軌道車両ユニット(1,2)の台車もしくは車両の数、
前記軌道車両の全体制動力における対応する軌道車両ユニット(1,2)の寄与分、
対応する軌道車両ユニット(1,2)の実際質量もしくは公称質量、および/または
対応する軌道車両ユニット(1,2)の質量および該質量の予め定められた分布、
に対応する、請求項10記載の多変量減速度制御システム(100)。
【請求項12】
前記標準調整量決定ユニット(33)は、各重み成分を適応化するように、特に予め定められた重み成分をゼロへセットするように構成されている、請求項11記載の多変量減速度制御システム(100)。
【請求項13】
前記多変量減速度制御システム(100)は、前記フィルタユニット(32)または別のフィルタユニットを介して前記標準調整量決定ユニット(33)に供給されるべき少なくとも1つの影響量を導出するように構成されている、請求項
10記載の多変量減速度制御システム(100)。
【請求項14】
軌道車両の軌道車両ユニット(1)の減速度を制御する方法であって、該方法が、
減速度制御回路(20)を介して減速度制御回路調整量(u
a,1)を決定するステップと、
調整量制御回路(30)を介して調整量制御回路調整量(u
c,i)を決定するステップと、
前記減速度制御回路調整量(u
a,1)および前記調整量制御回路調整量(u
c,i)から全体調整量(u
1)を形成するステップと
を含み、
前記全体調整量(u
1)が、制動力形成ユニット(40)用の制御区間(21,22,23)へ供給され、フィードバック部(31,32,33)を介して前記調整量制御回路(30)へフィードバックされる、
方法。
【請求項15】
前記全体調整量(u
1)が、前記フィードバック部(31,32,33)を介して、基準調整量(u
ref,1)へセット可能な正味調整量(u
n,1)へ、特にフィルタリングされた正味調整量(u
nf,1)へと変換され、前記フィルタリングされた正味調整量(u
nf,i)が実際量として前記調整量制御回路(30)へ供給され、並行して、標準調整量決定ユニット(33)を介して、特に別の軌道車両ユニット(2)の少なくとも1つの調整量を考慮するために、影響量としてさらに標準調整量(u
z)へと変換されて、該標準調整量(u
z)が目標量として前記調整量制御回路(30)へ供給される、
請求項14記載の方法。
【国際調査報告】