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特表2024-528055加齢性サルコペニアの予防又は緩解のための製剤の調製におけるヌクレオチド混合物の使用
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  • 特表-加齢性サルコペニアの予防又は緩解のための製剤の調製におけるヌクレオチド混合物の使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】加齢性サルコペニアの予防又は緩解のための製剤の調製におけるヌクレオチド混合物の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7088 20060101AFI20240719BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240719BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240719BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20240719BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20240719BHJP
   A23L 33/13 20160101ALI20240719BHJP
【FI】
A61K31/7088
A61P21/00
A61K9/08
A61K9/14
A61K9/20
A23L33/13
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505269
(86)(22)【出願日】2022-04-18
(85)【翻訳文提出日】2024-03-29
(86)【国際出願番号】 CN2022087361
(87)【国際公開番号】W WO2023005265
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】202110851468.1
(32)【優先日】2021-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502331916
【氏名又は名称】陳 玉松
【住所又は居所原語表記】NO.9 JinQi Road,Advanced Equipment Manufacturing Industry Park,JinPu New District,Dalian,China
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】李 勇
(72)【発明者】
【氏名】武 欣
(72)【発明者】
【氏名】陳 玉松
【テーマコード(参考)】
4B018
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018MD44
4B018ME14
4C076AA12
4C076AA29
4C076AA36
4C076BB01
4C076CC09
4C076FF01
4C076FF11
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA35
4C086MA43
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA94
4C086ZC52
(57)【要約】
本発明は、加齢性サルコペニアの予防又は緩解のための製剤の調製におけるヌクレオチド混合物の適用を開示し、医療及び保健の技術分野に属する。前記ヌクレオチド混合物は、4種又は5種の5’-モノヌクレオチド又はそれらのナトリウム塩からなり、そのうち、各ヌクレオチドを分子換算した後のCMP、AMP、UMP、GMP及びIMPの質量比は、CMPが23-78%、AMPが6-44%、UMPが7-40%、GMPが7-51%、IMPが0又は0以上2.5%以下である。ヌクレオチドは、分子量が小さく、比較的速く人体に摂取され、高い生物学的利用率を備える。本発明は、ヌクレオチドの摂取が酸化ストレスのレベルを低め、ミトコンドリアの機能障害を改善させることで、高齢者の人体の筋肉機能を高め、筋肉量を増せることができ、サルコペニアの予防・治療の役割を果たすことを発見した。本発明は、サルコペニアの予防・治療のための薬物又は機能性食品の調製に新たな手段を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加齢性サルコペニアの予防又は緩解のための製剤の調製におけるヌクレオチド混合物の使用。
【請求項2】
前記ヌクレオチド混合物が、4種又は5種の5’-モノヌクレオチド又はそれらのナトリウム塩からなり、そのうち、各ヌクレオチドをCMP、AMP、UMP、GMP及びIMPに分子換算し、質量比が、CMPが23-78%、AMPが6-44%、UMPが7-40%、GMPが7-51%、IMPが0又は0以上2.5%以下である、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記ヌクレオチド混合物中の各ヌクレオチドをCMP、AMP、UMP、GMP及びIMPに分子換算し、質量比は、CMPが43%、AMPが17%、UMPが21%、GMPが18%、IMPが1%である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記製剤が、粉末、錠剤、軟らかい膠嚢、硬い膠嚢、飲料又は経口液体である、ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項5】
5’-モノヌクレオチド混合物が、ミトコンドリアの機能障害を改善して酸化的ストレスを低めることで、高齢者の骨格筋機能を改善し、筋肉量を増加させ、サルコペニアの発症及び進行を遅らせる、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療及び保健の技術分野に属し、ヌクレオチド製品及びその新たな用途に関し、特に加齢性サルコペニアの予防又は緩解のための製剤の調製における原料としてのリボ核酸の酵素分解によって生成されたヌクレオチド混合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
現代社会では、出生率の顕著な低下に伴い、平均余命の延長が世界人口の急速な高齢化につながる。中国国家統計局が発表したデータによると、2019年末には、中国の60歳以上の高齢者数が2億5400万人に達し、総人口の18.1%、65歳以上の高齢者が1億7600万人に達し、総人口の12.6%を占める。ある報告の予測によると、中国は2022年頃で高齢化社会から高齢社会に移行し、65歳以上の人口が総人口の14%以上を占めるようになる。
【0003】
人口の高齢化は、中国、世界さえもの公衆衛生に大きな課題を齎す。中国の高齢化が進むとともに、サルコペニアは、高齢者と密接な関係にある症候群としてもっと注目を浴びている。サルコペニアは、加齢に関連する骨格筋量及び筋力の低下、及び/又はそれらに伴う身体機能の喪失を示す臨床症候群である。サルコペニアは世界的な健康問題となっている。筋肉量は50歳以上の人で年間に1~2%減少するが、筋力は50歳から60歳まで年間に1.5%減少し、60歳以上の高齢者で3%減少する。年齢の増加に伴い、サルコペニアの発生率は急速に増加し、中国の高齢者人口におけるサルコペニアの有病率は比較的高くなっている。以前の研究によると、中国の60歳以上人口のサルコペニアの有病率は18.6%に達し、80歳以上人口のサルコペニアの有病率は52%に達する。
【0004】
サルコペニアは、高齢者に対して転倒及び骨折のリスクの増加並びに日常生活能力の低下をもたらし、高齢者の心臓病、呼吸器疾患及び認知障害と関連する。サルコペニアは、運動機能障害、生活の質の低下、自立した生活能力の喪失もしくは長期的な介護の必要性、並びに死亡リスクの増加につながる可能性がある。サルコペニアは、入院のリスクを高め、入院中の介護費用及び入院費用を増加させる。ある研究によると、サルコペニアで入院している高齢者は、非サルコペニアで入院している高齢者よりも5倍の入院費用がかかる。2000年、米国でサルコペニアが年間にもたらされた直接医療費は約185億ドルと推定され、直接医療費総額の1.5%を占める。ある研究によると、米国ではサルコペニアの有病率が10%減少すると、11億ドルの医療費を毎年に節約できる。中国では、高齢化社会の到来とともに、介入を加えなければ、サルコペニアが個人と社会に大きな経済的・社会的負担をもたらすようになる。
【0005】
サルコペニアは、有病率が高く健康に大きい危害を加える上に個人や社会に大きな経済的負担を齎すが、サルコペニアに特効薬物がない。栄養介入と身体訓練は、現在、サルコペニアの予防及び治療のために推奨される手段である。運動介入は、筋肉量と筋力を改善するし、筋肉のタンパク質合成率を高めるし、ミトコンドリア機能を強化するし、骨格筋衛星細胞の含有量を増やすことができる有効な治療手段である。しかし、筋力トレーニングに対する抵抗性が起こり、それによって骨格のタンパク質合成に対する促進効果が弱まる可能性がある。その上、身体機能の低い高齢者にとって、運動は時に達成するのが難しいものである。ある研究によると、サルコペニアが栄養不足と密接に関連し、栄養介入はサルコペニア治療の重要な手段の1つである。栄養組成物の成分は薬物より自然であり、副作用が少ない。したがって、この病気の根本的な機序をよりよく理解することに基づいて、サルコペニアを有効的に予防緩解できる栄養組成物を探求することは明らかに重要になる。
【0006】
五炭糖、塩基及びリン酸からなるヌクレオチドは、核酸の基本的な構成要素である。ヌクレオチドは、人体での内因性合成、並びに生物酵素性分解技術による外因性合成に由来する。近年、研究によると、外因性ヌクレオチドは特定の生理条件下で不可欠な栄養素であり、当該ヌクレオチドは、活発に代謝する組織及び臓器において、もしくは人体がストレス、免疫抗原投与、肝損傷及び飢餓を受けるし、急速に成長する状況の下で組織によって吸収され、利用される可能性がある。これは、体内のデノボ合成又はサルベージ合成の消耗を省き、組織機能を最適化できる。その上、体外で核酸をヌクレオチドに酵素性分解で分解すると、体内での分解過程を省くことが可能になり、人体の消化吸収を容易にする。目前、酵素性分解技術によって得られた外因性ヌクレオチドがサルコペニアの予防緩解に果たす役割は報告されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は研究により、ヌクレオチドを摂取してミトコンドリアの機能障害を改善し、酸化的ストレスを低めることで、高齢SAMP8マウスの骨格筋機能を改善し、筋肉量を増加させることを発見した。現在、サルコペニアの治療においてヌクレオチド等の非タンパク質の栄養補給剤が市場に出回っておらず、これらの製品のための革新的な研究開発は、中高年にサルコペニアの予防・緩和のための新しい製品を提供できる。この技術は、医療産業に応用されれば、サルコペニア患者の保健と医療需要を十分に適えることができる。
【0008】
本発明は、サルコペニアの予防緩解のための製剤の調製における、低分子で吸収の速いヌクレオチド混合物の使用を提供することで、栄養補助剤を介してサルコペニアの予防・治療に新しい方法を提供する上に、安定で有効的で再現できる実験動物モデル化方法を確立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、次の技術手段を採用する。
本発明の一態様は、加齢性サルコペニアの予防又は緩解のための製剤の調製におけるヌクレオチド混合物の使用であって、前記ヌクレオチド混合物が5’-モノヌクレオチド混合物である。
【0010】
前記ヌクレオチド混合物は、4種又は5種の5’-モノヌクレオチド又はそれらのナトリウム塩からなり、そのうち、各ヌクレオチドを分子換算した後のCMP、AMP、UMP、GMP及びIMPの質量比は、CMPが23-78%、AMPが6-44%、UMPが7-40%、GMPが7-51%、IMPが0又は0以上2.5%以下である。
【0011】
更に、前記ヌクレオチド混合物中の各ヌクレオチドを分子換算した後のCMP、AMP、UMP、GMP及びIMPの質量比は、CMPが43%、AMPが17%、UMPが21%、GMPが18%、IMPが1%である。
【0012】
更に、前記製剤は、粉末、錠剤、軟らかい膠嚢、硬い膠嚢、飲料又は経口液体である。
【0013】
更に、5’-モノヌクレオチド混合物は、ミトコンドリアの機能障害を改善して酸化的ストレスを低めることで、高齢者に骨格筋機能を改善させ、筋肉量を増加させ、サルコペニアの発症及び進行を遅らせることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、既存の物質、即ち5’-モノヌクレオチド混合物が、高齢SAMP8マウスのサルコペニアを予防・遅延する機能を有することを発見し、さらにサルコペニア等疾患の予防・治療のための薬物又は機能性食品の調製において新用途を備えることを発見した。動物実験により、ヌクレオチドの摂取がマウス体内の酸化的ストレスのレベルを低め、ミトコンドリアの機能障害を改善させ、高齢マウスの筋肉機能を高め、筋肉量を増せることができることが検証され、ヌクレオチド混合物がサルコペニアの予防・治療に著しい有効性があることを表明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】高齢SAMP8マウスの筋肉組織中のSODに対するヌクレオチド混合物の影響を示す図である。
図2】高齢SAMP8マウスの筋肉組織中のSDH酵素活性に対するヌクレオチド混合物の影響を示す図である。
図3】高齢SAMP8マウスの筋肉組織中のATP含有量に対するヌクレオチド混合物の影響を示す図である。
図4】高齢SAMP8マウスのヒラメ筋中のミトコンドリアに対するヌクレオチド混合物の影響を示す図である。
図5】高齢SAMP8マウスの筋肉組織中のATP含有量に対するヌクレオチド混合物と単一種のヌクレオチドの影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次の制限のない実施例は、当業者に本発明をより全般的に理解させるためのものにすぎず、本発明 をいかなる方式で限定するものではない。
【0017】
(実施例)
(実施例1)
1.本実施例中のヌクレオチド混合物は、CMPが43wt.%、AMPが17wt.%、UMPが21wt.%、GMPが18wt.%、IMPが1wt.%を占める比例に従って、5種の5’-モノヌクレオチド又はそれらのナトリウム塩を混合して得られる。
2.具体的な調製方法は以下の通りである。
(1)5種の5’-モノヌクレオチド又はそれらのナトリウム塩を別々に検査し、品質検査に合格した後に使用に用いる。
(2)品質検査に合格した5種の5’-モノヌクレオチド又はそれらのナトリウム塩を60メッシュの網目スクリーンで篩過する。
(3)比例により所要の各ヌクレオチド試料の量を計算して量り取って、それらをすべて加えて40分間以上混合する。得られた試料を室温で保存する。
【0018】
(実施例2)
本実施例中のヌクレオチド混合物は、CMPが78wt.%、AMPが6wt.%、UMPが8wt.%、GMPが7wt.%、IMPが1wt.%を占める比例に従って、5種の5’-モノヌクレオチド又はそれらのナトリウム塩を混合して得られる。調製方法は、実施例1と同様である。
【0019】
(実施例3)
本実施例中のヌクレオチド混合物は、CMPが23wt.%、AMPが44wt.%、UMPが25wt.%、GMPが7wt.%、IMPが1wt.%を占める比例に従って、5種の5’-モノヌクレオチド又はそれらのナトリウム塩を混合して得られる。調製方法は、実施例1と同様である。
【0020】
(実施例4)
本実施例中のヌクレオチド混合物は、CMPが23wt.%、AMPが17wt.%、UMPが40wt.%、GMPが19wt.%、IMPが1wt.%を占める比例に従って、5種の5’-モノヌクレオチド又はそれらのナトリウム塩を混合して得られる。調製方法は、実施例1と同様である。
【0021】
(実施例5)
本実施例中のヌクレオチド混合物は、CMPが24wt.%、AMPが17wt.%、UMPが7wt.%、GMPが51wt.%、IMPが1wt.%を占める比例に従って、5種の5’-モノヌクレオチド又はそれらのナトリウム塩を混合して得られる。調製方法は、実施例1と同様である。
【0022】
(実施例6)
一.材料と方法
1.試料:上記実施例1~5で得られたヌクレオチド混合物試料。
【0023】
2.実験動物:急速老化モデルマウス、即ちSAMP8マウス、及び対照群SAMR1マウスが実験動物に選定され、合計78匹の10~12週齢のSFグレードの雄を北京大学実験動物科学科部から購入した。これらマウスは、ケージごとに1匹ずつ入り、自由に食べたり飲んだりするようにする。動物室は、温度範囲を25℃±1℃に抑え、相対湿度を50%~60%に抑え、室内照明は12h/12hの明暗交替と制御される。
【0024】
3.実験群化と投与量:マウスを1週間適応に給餌してから、ヌクレオチドのない群、正常対照群(基礎飼料、SAMP8-age control)、SAMR1モデル対照群(基礎飼料)、ヌクレオチド低投与量介入群(0.3g/kg+基礎飼料)、ヌクレオチド中投与量介入群(0.6g/kg+基礎飼料)、及びヌクレオチド高投与量介入群(1.2g/kg+基礎飼料基本食)という6群(n=12)に分ける。ヌクレオチドは、異なる投与量に応じて基礎飼料に混入させて介入を行う。実験節点で、もう6匹の7ヶ月齢のSAMP8マウスを青年対照群(SAMP8-yong control)とする。
【0025】
4.実験方法:
4.1 握力測定
研究によれば、SAMP8マウスにとって生後7ヶ月に筋肉量が最も多く、生後8ヶ月からサルコペニアの前段階に入り、生後10ヶ月にサルコペニアの段階に入る。そのため、マウスに対して生後7ヶ月、9ヶ月、11ヶ月に握力テストを3回行い、毎回に測定を5回繰り返し、最大値を取る。
4.2 マウスの体成分の測定
MRI結像系を用いて、マウスの体成分(除脂肪筋肉と脂肪含有量)を測定する。
4.3 抗酸化酵素活性の検出
試剤キットを用いて前脛骨筋中のSODやsuccinate dehydrogenase(SDH)等の酵素活性を検出する。
4.4 筋肉組織中のATP含有量の測定
ATP含有量検査キットを用いて筋肉組織中のATP含有量を測定する。
4.5 ミトコンドリアの形態と構造の観察
透過型電子顕微鏡を用いてミトコンドリアの数、形態及び膜構造の完全性等の指標を観察する。
【0026】
5.統計的方法:すべての結果は平均±標準偏差として表され、統計的検定にはSPSS18.0ソフトウェアを用いて一元配置分散分析を行い、p<0.05を統計的差異が統計学的に有意であるとする。
【0027】
二.実施例1の実験結果
1.ヌクレオチド混合物がマウスの握力に与える影響
表1の結果によると、生後7ヶ月齢マウスの握力試験結果は、正常対照群に比べて、ヌクレオチド高投与量介入群及びSAMR1群のマウスの握力がいずれも著しく強くなる(P<0.05)ことを示す。生後9ヶ月齢マウスの握力試験結果は、ヌクレオチド低投与量介入群、ヌクレオチド中投与量介入群、ヌクレオチド高投与量介入群及びSAMR1群のマウスの握力がヌクレオチドのない群及び正常対照群の握力よりいずれも著しく強くなることを示す。生後11ヶ月齢マウスの握力試験結果は、ヌクレオチド低投与量介入群、ヌクレオチド中投与量介入群、ヌクレオチド高投与量介入群、青年対照群及びSAMR1群のマウスの握力がヌクレオチドのない群及び正常対照群の握力よりいずれも著しく強くなることも示す。これらの結果は、ヌクレオチドの介入が老齢SAMP8マウスの筋肉機能を改善でき、マウスの握力を増強できることを検証する。
【0028】
【表1】
【0029】
三.実施例1の実験結果
表2によると、体成分の結果は、ヌクレオチド中投与量介入群、ヌクレオチド高投与量介入群、青年対照群及びSAMR1群の筋肉量がヌクレオチドのない群及び正常対照群の筋肉量より著しく多くなることを示す。青年対照群は、ヌクレオチドのない群、正常対照群及びヌクレオチド低投与量介入群に比べて差異が統計学的有意であるが、ヌクレオチド中投与量介入群及びヌクレオチド高投与量介入群に比べて差異が統計学的に有意ではない。これは、ヌクレオチド混合物が老齢マウスの筋肉量を著しく増加できることを表明する。その上、体重に占める筋肉の比率についての結果は、ヌクレオチド高投与量介入群の筋肉の比率が、正常対照群及び青年対照群のそれよりも著しく高くなることを示す(P<0.05)。ヌクレオチド高投与量介入群の脂肪含有量と体重に占める脂肪の比率は、全て青年対照群のそれより著しく低くなるが、他の群の間には差異が統計学的に有意ではない。上記結果は、ヌクレオチド混合物が加齢性サルコペニアの治療に良好な効果を有することを示す。
【0030】
【表2】
【0031】
図1を見ても分かるように、ヌクレオチド高投与量介入群、青年対照群及びSAMR1群のSOD酵素活性は、ヌクレオチドのない群及び正常対照群と比べて、著しく高くなる。これは、ヌクレオチド混合物が良好な抗酸化効果を有することを示す。図1では、はヌクレオチドのない群に比べて差異が統計学的に有意であることを示す。は正常対照群に比べて差異が統計学的に有意であることを示す。
【0032】
図2を見ても分かるように、ヌクレオチド中投与量介入群及びヌクレオチド高投与量介入群のSDH酵素活性は、ヌクレオチドのない群及び正常対照群に比べて、著しく高くなる。SDHはミトコンドリア機能を反映するマーカー酵素の一つである。ヌクレオチド混合物の介入は、老齢マウスの筋肉中のSDH酵素活性を増加させることは、ヌクレオチド混合物が老齢マウスの筋肉のミトコンドリア機能障害の改善に役立つことを示す。図2では、はヌクレオチドのない群に比べて差異が統計学的に有意であることを示す。は正常対照群に比べて差異が統計学的に有意であることを示す。
【0033】
図3を見ても分かるように、ヌクレオチドのない群に比べて、他の群のATP含有量は著しく高くなる。ヌクレオチド高投与量介入群のATP含有量は、正常対照群に比べて、著しく高くなる。これは、ヌクレオチドの介入がマウス筋肉のATP含量の増加に良い効果があることを示す。図3では、はヌクレオチドのない群に比べて差異が統計学的に有意であることを示す。は正常対照群に比べて差異が統計学的に有意であることを示す。
【0034】
図4を見ても分かるように、マウスのヒラメ筋肉の透過型電子顕微鏡画像は、ヌクレオチドのない群のマウスのミトコンドリア膜構造がひどく損傷し、ミトコンドリア稜が消失していることを示す。正常対照群のマウスの筋肉中のミトコンドリアも種々の程度に損傷し、ミトコンドリアには空胞が現れ、膜構造が不完全である。ヌクレオチド低投与量介入群、ヌクレオチド中投与量介入群、ヌクレオチド高投与量介入群のマウスの筋肉中のミトコンドリアの損傷は、ヌクレオチドのない群及び正常対照群に比べて、小さくなり、ミトコンドリア膜は、比較的無傷の構造を有し、ミトコンドリア稜が見える。これは、ヌクレオチド混合物の介入が筋肉中のミトコンドリア機能障害を改善できることを表明する。
【0035】
四.実施例2~5における前記ヌクレオチド混合物がマウスの体成分に与える影響
実施例1における前記ヌクレオチド混合物がマウスの体成分に与える影響の実験を参照して実施例2~5における前記ヌクレオチド混合物がマウスの体成分に与える影響を試験する。結果を表3に示す。
【0036】
【表3】
【0037】
五.実験の結論
本研究では、加齢性サルコペニアの予防及び治療におけるヌクレオチド混合物の有効性を調査するために、対照群としてヌクレオチドのない群及び正常対照群を設置する。動物実験の結果によると、ヌクレオチドは、ミトコンドリアの機能障害を改善し、酸化的ストレスを軽減することで、高齢SAMP8マウスの骨格筋機能を改善し、筋肉量を増加させてサルコペニアの予防及び治療の役割を果たす。この実験の結果によると、ヌクレオチド混合物は、サルコペニアの治療に顕著な有効性を有し、サルコペニア治療の新薬として使われる潜在力を備える。
【0038】
(実施例7)
ヌクレオチド混合物は、実施例1に記載の方法に従って調製する。
実験動物:急速老化モデルマウス、即ちSAMP8マウス、及び対照群SAMR1マウスが実験動物に選定され、10~12週齢のSFグレードの雄マウスは、ケージごとに1匹ずつ入り、自由に食べたり飲んだりするようにする。動物室は、温度範囲を25℃±1℃に抑え、相対湿度を50%~60%に抑え、室内照明は12h/12hの明暗交替と制御される。
【0039】
実験群化:マウスを1週間適応に給餌してから、ヌクレオチドのない群、SAMP8正常対照群(基礎飼料)、SAMR1モデル対照群(基礎飼料)、ヌクレオチド混合物群(1.2g/kgヌクレオチド混合物+基礎飼料)及びヌクレオチド混合物+アミノ酸群(1.2g/kgヌクレオチド混合物+アミノ酸+基礎飼料)という5群(n=10)に分ける。マウスに異なる群の飼料を与えて介入を行う。
【0040】
筋肉組織中のATP含有量の測定:ATP含有量検査キットを用いて筋肉組織中のATP含有量を測定する。
【0041】
図5を見ても分かるように、ヌクレオチドのない群に比べて、他の群のATP含有量は著しく高くなる。ヌクレオチド混合物へのアミノ酸の添加は、マウスの筋肉中のATP含量の増加に対して、ほとんど影響を与えない。これは、アミノ酸がその中で非常に小さい役割を果たすか、ほとんど役割を果たしないことを表明する。図5では、はヌクレオチドのない群に比べて差異が統計学的に有意であることを示す。は正常対照群に比べて差異が統計学的に有意であることを示す。
当業者であれば誰でも、本発明の技術的解決策の範囲を逸脱しなく、以上掲げ示された技術内容に基づいて本発明の技術手段に対して多くの可能な変更及び修正を作るか、同等変体に当たる同等の実施例に修正することができる。したがって、本発明の技術手段の範囲を逸脱しなく本発明の技術的内部に従って上記実施例に対して作られた簡単な変更、同等変更及び修正は、依然として本発明の保護範囲に含まれるべきである。
【0042】
(付記)
(付記1)
加齢性サルコペニアの予防又は緩解のための製剤の調製におけるヌクレオチド混合物の使用。
(付記2)
前記ヌクレオチド混合物が、4種又は5種の5’-モノヌクレオチド又はそれらのナトリウム塩からなり、そのうち、各ヌクレオチドをCMP、AMP、UMP、GMP及びIMPに分子換算し、質量比が、CMPが23-78%、AMPが6-44%、UMPが7-40%、GMPが7-51%、IMPが0又は0以上2.5%以下である、ことを特徴とする、付記1に記載の使用。
(付記3)
前記ヌクレオチド混合物中の各ヌクレオチドをCMP、AMP、UMP、GMP及びIMPに分子換算し、質量比は、CMPが43%、AMPが17%、UMPが21%、GMPが18%、IMPが1%である、ことを特徴とする、付記1又は2に記載の使用。
(付記4)
前記製剤が、粉末、錠剤、軟らかい膠嚢、硬い膠嚢、飲料又は経口液体である、ことを特徴とする、付記1に記載の使用。
(付記5)
5’-モノヌクレオチド混合物が、ミトコンドリアの機能障害を改善して酸化的ストレスを低めることで、高齢者の骨格筋機能を改善し、筋肉量を増加させ、サルコペニアの発症及び進行を遅らせる、ことを特徴とする、付記1又は2に記載の使用。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】