(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】シリコンマイクロニードル構造体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
A61M37/00 514
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505317
(86)(22)【出願日】2022-07-26
(85)【翻訳文提出日】2024-03-13
(86)【国際出願番号】 IB2022056870
(87)【国際公開番号】W WO2023007362
(87)【国際公開日】2023-02-02
(32)【優先日】2021-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504336331
【氏名又は名称】ナノ パス テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アドマティ,ガル
(72)【発明者】
【氏名】レビン,ヨタム
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA71
4C267BB02
4C267BB03
4C267BB04
4C267BB08
4C267BB09
4C267BB11
4C267BB24
4C267CC01
4C267EE08
(57)【要約】
マイクロニードル構造体は、基板(100)の主面(102)から突出する1つ以上のマイクロニードル(104)を有する。マイクロニードルは、直立面(108)と(111)結晶面に対応する傾斜面(110)との交差部分に形成される穿刺先端(106)を有する。マイクロニードルは、直立面(108)と傾斜面(110)との連続によって囲まれた延伸部と、直立面、および傾斜面(110)の端部(114)から基板の主面(102)に向かって、主面(102)と垂直に延びるスライス面(112)の連続によって囲まれた一定断面部とを有する。傾斜面(110)の幅Wは、穿刺先端(106)から端部(114)まで単調に増加する。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンの単結晶から形成されたマイクロニードル構造体であって、
(a)主面を有する基板と、
(b)前記主面から突出するように前記基板と一体的に形成された少なくとも1つのマイクロニードルと、
を備え、
前記少なくとも1つのマイクロニードルは、
(i)前記基板の前記主面に対して垂直な少なくとも1つの直立面と、(111)結晶面に対応する傾斜平面との交差部分に形成された穿刺先端と、
(ii)前記少なくとも1つの直立面と前記傾斜平面との連続によって囲まれた延伸部と、
(iii)前記少なくとも1つの直立面と、前記傾斜平面の端部から前記基板の前記主面に向かって前記主面に対して垂直に延びるスライス面との連続によって囲まれた一定断面部と、
を備え、
前記傾斜平面の幅は、前記穿刺先端から前記端部に向かって単調に増加する、マイクロニードル構造体。
【請求項2】
前記一定断面部は、前記基板の前記主面からの前記穿刺先端の高さの少なくとも5分の1にわたり延在している、請求項1に記載のマイクロニードル構造体。
【請求項3】
前記基板の前記主面に隣接する前記マイクロニードルの最大寸法に対する、前記主面からの前記穿刺先端の高さの比は、少なくとも1.6である、請求項1に記載のマイクロニードル構造体。
【請求項4】
前記基板の前記主面に隣接する前記マイクロニードルの最大寸法に対する、前記主面からの前記穿刺先端の高さの比は、少なくとも1.7である、請求項1に記載のマイクロニードル構造体。
【請求項5】
前記基板の前記主面からの前記穿刺先端の高さは、少なくとも750ミクロンであり、前記主面と平行で前記主面に隣接する前記マイクロニードルの最大寸法は、500ミクロン以下である、請求項1に記載のマイクロニードル構造体。
【請求項6】
前記基板の前記主面からの前記穿刺先端の高さは、少なくとも800ミクロンであり、前記主面と平行で前記主面に隣接する前記マイクロニードルの最大寸法は、450ミクロン以下である、請求項1に記載のマイクロニードル構造体。
【請求項7】
前記基板の前記主面と平行な前記マイクロニードルの前記一定断面部を通る断面は、前記スライス面と垂直な長さおよび前記スライス面と平行な幅を有し、前記長さは前記幅よりも少なくとも50%大きい、請求項1に記載のマイクロニードル構造体。
【請求項8】
前記穿刺先端に隣接する前記少なくとも1つの直立面は、円弧状面によって滑らかに連結された第1の平面および第2の平面を備え、前記第1の平面および前記第2の平面は、前記マイクロニードルを通る中心面の両側に対称に配置され、それらの間に45°から75°の間の角度を形成する、請求項1に記載のマイクロニードル構造体。
【請求項9】
前記円弧状面は、10ミクロンから40ミクロンの間の曲率半径を有する、請求項8に記載のマイクロニードル構造体。
【請求項10】
前記少なくとも1つの直立面は、前記中心面の両側に対称に配置された第3の平面および第4の平面をさらに備え、前記第3の平面および前記第4の平面は、それらの間に5°から25°の間の角度を形成する、請求項8に記載のマイクロニードル構造体。
【請求項11】
前記傾斜平面から前記延伸部を通り、前記一定断面部を通り、前記基板を通って前記基板の裏面まで延びる穴をさらに備える、請求項1に記載のマイクロニードル構造体。
【請求項12】
前記スライス面は、前記基板の端部でもある、請求項1に記載のマイクロニードル構造体。
【請求項13】
前記少なくとも1つのマイクロニードルは、前記基板と一体的に形成された複数のマイクロニードルとして実現され、前記複数のマイクロニードルは、同一平面上にあるスライス面を有する、請求項1に記載のマイクロニードル構造体。
【請求項14】
マイクロニードル構造体の製造方法であって、
(a)シリコンの単結晶から形成されるマイクロニードルデバイス前駆体を提供するステップであって、前記マイクロニードルデバイス前駆体は、
(i)主面を有する基板と、
(ii)前記主面から突出するように前記基板と一体的に形成された少なくとも1つのマイクロニードルと、
を備え、
前記少なくとも1つのマイクロニードルは、
(A)前記基板の前記主面に対して垂直な少なくとも1つの直立面と、(111)結晶面に対応する傾斜平面との交差部分に形成された穿刺先端と、
(B)前記少なくとも1つの直立面と前記傾斜平面との連続によって囲まれた延伸部であって、前記傾斜平面が前記基板の前記主面まで延びている、延伸部と、
を備えるマイクロニードルデバイス前駆体を提供するステップと、
(b)前記少なくとも1つの直立面と、前記傾斜平面の端部から前記基板の前記主面に向かって延びるスライス面との連続によって囲まれる一定断面部を生成するように、前記基板の前記主面に対して垂直であり、前記マイクロニードルの前記傾斜平面を通り、前記基板の少なくとも一部を通るスライス面に沿って、前記マイクロニードルデバイス前駆体をスライスするステップと、
を含む、マイクロニードル構造体の製造方法。
【請求項15】
前記スライスするステップは、前記一定断面部が前記基板の前記主面からの前記穿刺先端の高さの少なくとも5分の1は延伸するように行う、請求項14に記載のマイクロニードル構造体の製造方法。
【請求項16】
前記スライスするステップは、前記基板の前記主面に隣接する前記マイクロニードルの最大寸法に対する、前記主面からの前記穿刺先端の高さの比が少なくとも1.6になるように行う、請求項14に記載のマイクロニードル構造体の製造方法。
【請求項17】
前記スライスするステップは、前記基板の前記主面に隣接する前記マイクロニードルの最大寸法に対する、前記主面からの前記穿刺先端の高さの比が少なくとも1.7になるように行う、請求項14に記載のマイクロニードル構造体の製造方法。
【請求項18】
前記スライスするステップは、前記基板を、各々がマイクロニードル構造体を含む複数のチップに分離するためのダイシングプロセスの一部として行う、請求項14に記載のマイクロニードル構造体の製造方法。
【請求項19】
前記スライスするステップは、機械的切断、レーザー切断、プラズマ切断、およびDRIEからなる群から選択される1つのプロセスまたはプロセスの組み合わせによって行う、請求項14に記載のマイクロニードル構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロニードルに関し、特に、シリコンマイクロニードル構造体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
広範な用途のためのマイクロニードルに多くの関心が寄せられている。中空の金属針に代わるものとして、中空のマイクロニードルは、痛みの無い穿刺または軽減された痛みを伴う穿刺、改善された安全性、信頼性の高い皮内薬の投与、投与深のより良い制御、針の曲がりおよび鈍化が無いこと、および、針恐怖症の患者に対する針の視認性の低下のうちの1つ以上を含む、幅広い利点を提供する可能性がある。
【0003】
シリコンは、その生体適合性と、MEMSで使用されるものと同様の充分開発されたスケーラブルな製造技術が利用可能であることから、マイクロニードルの材料として提案されてきた。しかし、提案された多くのシリコンマイクロニードルの設計は、皮膚を穿刺するのに十分な鋭さを持ち、同時に挿入中の破損リスクを最小限に抑えるのに充分堅牢であるマイクロニードルの実現が困難であるため、商業的成功を収めることができなかった。
【0004】
特に効果的な中空シリコンマイクロニードル構造体は、NanoPass Technologies Ltd.(イスラエル)によって開発され、MICRONJET(登録商標)という商標名で市販されている。このマイクロニードルは、基礎となる基板表面に垂直な直立壁と、鋭利な穿刺先端から基板表面まで延びるように、これらの壁と交差する(111)結晶面に対応する斜めの面で形成されている。この構造により、側面から見て概ね三角形のマイクロニードル形状が規定され、鋭利な穿刺先端と極めて破損しにくい堅牢な針体との非常に有利な組み合わせが得られる。そのような針の例を、再現されたSEM画像で
図5に示す。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、シリコンマイクロニードル構造体およびその製造方法である。
【0006】
本発明の一実施形態の教示によれば、シリコンの単結晶から形成されたマイクロニードル構造体が提供され、このマイクロニードル構造体は、(a)主面を有する基板と、(b)主面から突出するように基板と一体的に形成された少なくとも1つのマイクロニードルと、を備え、少なくとも1つのマイクロニードルは、(i)基板の主面に対して垂直な少なくとも1つの直立面と(111)結晶面に対応する傾斜平面との交差部分に形成された穿刺先端と、(ii)少なくとも1つの直立面と傾斜面との連続によって囲まれた延伸部と、(iii)少なくとも1つの直立面と傾斜面の端部から基板の主面に向かって主面に対して垂直に延びるスライス面との連続によって囲まれた一定断面部と、を備え、傾斜面の幅は、穿刺先端から端部に向かって単調に増加する。
【0007】
本発明の実施形態のさらなる特徴によれば、一定断面部は、基板の主面からの穿刺先端の高さの少なくとも5分の1にわたり延在する。
【0008】
本発明の実施形態のさらなる特徴によれば、基板の主面に隣接するマイクロニードルの最大寸法に対する、主面からの穿刺先端の高さの比は、少なくとも1.6である。
【0009】
本発明の実施形態のさらなる特徴によれば、基板の主面に隣接するマイクロニードルの最大寸法に対する、主面からの穿刺先端の高さの比は、少なくとも1.7である。
【0010】
本発明の実施形態のさらなる特徴によれば、基板の主面からの穿刺先端の高さは、少なくとも750ミクロンであり、主面と平行で主面に隣接するマイクロニードルの最大寸法は、500ミクロン以下である。
【0011】
本発明の実施形態のさらなる特徴によれば、基板の主面からの穿刺先端の高さは、少なくとも800ミクロンであり、主面と平行で主面に隣接するマイクロニードルの最大寸法は、450ミクロン以下である。
【0012】
本発明の実施形態のさらなる特徴によれば、基板の主面と平行なマイクロニードルの一定断面部を通る断面は、スライス面と垂直な長さ寸法と、スライス面と平行な幅とを有し、長さは、幅よりも少なくとも50%大きい。
【0013】
本発明の実施形態のさらなる特徴によれば、穿刺先端に隣接する少なくとも1つの直立面は、円弧状面によって滑らかに連結された第1の平面および第2の平面を備え、第1の平面および第2の平面は、マイクロニードルを通る中心面の両側に対称に配置され、それらの間に45°から75°の間の角度を形成する。
【0014】
本発明の実施形態のさらなる特徴によれば、円弧状面は、10ミクロンから40ミクロンの間の曲率半径を有する。
【0015】
本発明の実施形態のさらなる特徴によれば、少なくとも1つの直立面は、中心面の両側に対称に配置された第3の平面および第4の平面をさらに備え、第3の平面および第4の平面は、それらの間に5°から25°の間を形成する。
【0016】
本発明の実施形態のさらなる特徴によれば、傾斜面から延伸部を通り、一定断面部を通り、基板を通って基板の裏面まで延びる穴も設けられる。
【0017】
本発明の実施形態のさらなる特徴によれば、スライス面は基板の端部でもある。
【0018】
本発明の実施形態のさらなる特徴によれば、少なくとも1つのマイクロニードルは、基板と一体的に形成された複数のマイクロニードルとして実現され、複数のマイクロニードルは、同一平面上にあるスライス面を有する。
【0019】
また、本発明の実施形態の教示によれば、マイクロニードル構造体を製造するための方法が提供され、この方法は、(a)シリコンの単結晶から形成されるマイクロニードルデバイス前駆体を提供するステップであって、マイクロニードルデバイス前駆体は、(i)主面を有する基板と、(ii)主面から突出するように基板と一体的に形成された少なくとも1つのマイクロニードルと、を備え、少なくとも1つのマイクロニードルは、(A)基板の主面に垂直な少なくとも1つの直立面と(111)結晶面に対応する傾斜平面との交差部分に形成された穿刺先端と、(B)少なくとも1つの直立面と傾斜面との連続によって囲まれた延伸部であって、傾斜面が基板の主面まで延びている延伸部と、を備える、マイクロニードルデバイス前駆体を提供するステップと、(b)少なくとも1つの直立面と傾斜面の端部から基板の主面に向かって延びるスライス面との連続によって囲まれる一定断面部を生成するように、基板の主面に垂直であり、マイクロニードルの傾斜面を通り、基板の少なくとも一部を通るスライス面に沿って、マイクロニードルデバイス前駆体をスライスするステップと、を含む。
【0020】
本発明の実施形態のさらなる特徴によれば、スライスするステップは、一定断面部が基板の主面からの穿刺先端の高さの少なくとも5分の1にわたり延在するように行う。
【0021】
本発明の実施形態のさらなる特徴によれば、スライスするステップは、基板の主面に隣接するマイクロニードルの最大寸法に対する、主面からの穿刺先端の高さの比が少なくとも1.6になるように行う。
【0022】
本発明の実施形態のさらなる特徴によれば、スライスするステップは、基板の主面に隣接するマイクロニードルの最大寸法に対する、主面からの穿刺先端の高さの比が少なくとも1.7になるように行う。
【0023】
本発明の実施形態のさらなる特徴によれば、スライスするステップは、基板を、各々がマイクロニードル構造体を含む複数のチップに分離するためのダイシングプロセスの一部として行う。
【0024】
本発明の実施形態のさらなる特徴によれば、スライスするステップは、機械的切断、レーザー切断、プラズマ切断、およびDRIEからなる群から選択される1つのプロセスまたはプロセスの組み合わせによって行う。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本発明は、添付の図面を参照して例示のためにのみ、本明細書で説明される
【0026】
【
図1A】本発明の実施形態の教示に従って構築され作動するマイクロニードル構造体の等角図である。
【
図1F】
図1DのII-II平面に沿って切断した断面図である。
【
図2A】
図1Aに類似する、マイクロニードル構造体の変形実施態様の図である。
【
図2B】
図1Bに類似する、マイクロニードル構造体の変形実施態様の図である。
【
図3】
図1Aのマイクロニードル構造体を採用するマイクロニードルアダプタを切断した概略的な長手軸方向断面図である。
【
図4A】
図1Aのマイクロニードル構造体の製造中におけるシリコン結晶ウエハを概略的に示す図である。
【
図4B】
図4Aのウエハから形成されたマイクロニードルデバイス前駆体の等角図である。
【
図4C】
図4Aのウエハから形成されたマイクロニードルデバイス前駆体の側面図である。
【
図4D】
図4Cのマイクロニードルデバイス前駆体をスライス面136に沿ってスライスすることによって形成されたマイクロニードル構造体の側面図である。
【
図5】(上述したが)NanoPass Technologies Ltdによって製造されたマイクロニードルの走査型電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、シリコンマイクロニードル構造体およびその製造方法である。
【0028】
本発明によるシリコンマイクロニードル構造体の原理および動作は、図面および添付の説明を参照することにより、より良く理解することができる。
【0029】
前置きとして、前述のNanoPass Technologies Ltd.のマイクロニードルは、斜めの(111)面と他の垂直面との間に形成された、横方向から見て三角形の形状によって提供される構造的堅牢性と鋭利さとの組み合わせによって、前述のように非常に有利であることが判明している。しかしながら、(111)斜め面の固定された形状は、特定の用途、特に比較的背の高いマイクロニードルが必要とされる場合には不適当である特定の設計上の制限を課す。具体的には、(111)面は、基板表面に対して54.7°であるtan-1(√2)の明確な角度を形成する。その結果、従来のマイクロニードルの基部の最大寸法は、穿刺による皮膚創傷の大きさに対応し、マイクロニードルの高さの関数として直線的に増加する。より大きなマイクロニードル(例えば、約750ミクロンを超える穿刺深度を意図したもの)の場合、これは、対応する組織損傷、穿刺効力の低下、穿刺後の漏れの傾向の増大とともに、不必要に大きな皮膚創傷をもたらす可能性がある。これは、皮膚だけでなく、眼のような様々な生物学的障壁にとって特に重要である。本発明は、従来の設計の改良を提供するもので、鋭利さ、堅牢さ、および外側構造の輪郭に依存しない穴の形状および位置の設計上の柔軟性という主な特徴を維持すると同時に、マイクロニードル基部の寸法を縮小することを可能にし、その結果、組織外傷を減らし、穿刺効力を高め、マイクロニードルの穿刺による漏れを減少させる。
【0030】
次に図面を参照すると、
図1A-1Fおよび
図2A-2Bは、シリコンの単結晶から形成された、本発明の実施形態の原理に従って構成され作動するマイクロニードル構造体の2つの異型を示している。マイクロニードル構造体は、少なくとも1つ、この非限定的な例では3つの、一体的に形成されたマイクロニードル104が突出する主面102を有する基板100を含む。各マイクロニードル104は、基板の主面と垂直な少なくとも1つの直立面108と、(ミラー指数で定義される)(111)結晶面に対応する傾斜平面110との交差部分に形成された穿刺先端106を有する。各マイクロニードルは、
図1Dに示される高さh
1に対応し、少なくとも1つの直立面108と傾斜面110との連続によって囲まれた延伸部を有する。
図1Dの高さh
2に対応する一定断面部は、少なくとも1つの直立面108と、傾斜面110の端部114から基板100の主面102に向かって延び、基板100の主面102に対して垂直なスライス面112との連続によって囲まれる。傾斜面110の幅Wは、穿刺先端106から端部114まで単調に増加する。
【0031】
この段階で、マイクロニードル104の構造が広い利点をもたらすことは既に明らかであろう。具体的には、マイクロニードルの延伸部は、堅牢なマイクロニードル本体と組み合わせた鋭い穿刺先端という特に有利な特性をもたらし、一方、一定断面部の存在は、穿刺効力を高め、穿刺部位における皮膚外傷を限定するように、所定のマイクロニードル高さに対してマイクロニードルの基部寸法を縮小するための設計の自由度をさらにもたらす。
【0032】
ある意味では、本明細書で定義されるマイクロニードル構造体は、従来のNanoPass社のマイクロニードルの設計と比べて、アスペクト比の増加を提供すると考えることができる。具体的には、基板まで延びる(111)面に基づく設計は、54.7°の角度によって本質的に約1.4のアスペクト比に制限される(ここで、用語「アスペクト比」は、基板の表面に隣接して平行に測定されるマイクロニードルの最大寸法に対する、基板表面からのマイクロニードル全体の高さの比を指すために使用される)。対照的に、本発明の様々な特に好ましい実施態様は、少なくとも1.6、より好ましくは1.7のアスペクト比を有する。
【0033】
この構造の結果、本発明のマイクロニードルは、主面と平行で隣接する約500ミクロン以下のマイクロニードルの最大寸法を維持しながら、少なくとも750ミクロンのマイクロニードル全体の高さを有利に達成することができ、特定の特に好ましい場合には、主面と平行で隣接する450ミクロン以下のマイクロニードルの最大寸法を維持しながら、少なくとも800ミクロンのマイクロニードル全体の高さを達成することができる。
【0034】
マイクロニードルの一定断面部から最適な効果を得るために、一定断面部は、好ましくは、基板の主面からの穿刺先端の全高Hの少なくとも約5分の1の高さh2は延伸している。
【0035】
マイクロニードル104の基部の好ましいが非限定的な形状は、
図1Eの上面図、より詳細には
図1Fの拡大断面図に最もよく見ることができる。ここに見られるように、基板の主面と平行なマイクロニードルの一定断面部を切断した断面において、スライス面112と垂直な長さ寸法Lは、好ましくは、スライス面12と平行な幅Wよりも少なくとも50%大きく(すなわち、少なくとも1.5の長さ対幅比)、最も好ましくは、約1.8と約2.2との間の長さ対幅比を有する。
【0036】
少なくとも1つの直立面108は、好ましくは、
図1Aに示される切断面I-Iに対応する中心面に関して対称であるマイクロニードル断面の外形を規定する。穿刺先端に特に好ましい形状を提供するために、少なくとも1つの直立面108の隣接領域は、好ましくは、円弧状面108cによって滑らかに連結された第1の平面108aと第2の平面108bを含み、第1および第2の平面108a、108bは、対称の中心平面の両側に対称に配置され、それらの間に45°から75°の間の角度を形成する。円弧状面108cは、好ましくは、10ミクロンから40ミクロンの間の曲率半径を有する。これらのパラメータは、傾斜平面110とともに、効果的な穿刺を達成するのに十分な鋭さと、広範囲の使用条件下で先端の破損および摩耗を最小限に抑えるのに十分な堅牢性との特に有利なバランスを提供することが判明している。
【0037】
前述の長さ対幅比を達成するために、少なくとも1つの直立面は、好ましくは、中心面の両側に対称に配置され、それらの間に30°未満、好ましくは5°から25°の間の角度を形成する少なくとも第3の平面108dおよび第4の平面108eをさらに含む。マイクロニードルの側面に沿った顕著なエッジを避けるために、ここに例示する特に好ましい実施態様は、丸みを帯びた移行領域108gによって隣接する表面と接続された付加的な一対の平面セグメント108fを特徴とする。同様の効果は、表面108aと108d、および表面108bと108eを、半径の大きい曲線状の連結部(図示せず)を介して連結することによって達成され得る。
【0038】
ここで、ぶつかっていない2つの表面の間で形成される角度について言及する場合、その角度は、ぶつかるまで延伸した場合のそれらの平面の間の角度とみなされる。
【0039】
本発明は、専用ではないが、主として流動性組成物を皮膚内に供給するため、および/または体内から体液をサンプリングするために適した中空マイクロニードル構造体に関する。この目的のため、マイクロニードル104は、好ましくは、傾斜面110から延伸部を通り、一定断面部を通り、基板100を通って基板の裏面まで延びる穴116も含む(
図1C参照)。ここに例示される特に好ましい実施態様において、穴116は、傾斜面110の、穿刺先端106に最も近い半分内に位置し、それにより、穿刺の初期段階中に組織内で穴の開放領域の効果的な封止を確実に行う。別の実施態様(図示せず)では、穴116は、傾斜面110の長さの主要部分を横切って延びる細長い断面形状を有していてもよく、組織が端部114を越えてマイクロニードルの一定断面部を囲むのに十分なほどマイクロニードルが組織を穿刺したときに、効果的な封止が達成される。
【0040】
本明細書で説明するマイクロニードル構造体は、基板の表面上の任意の位置で実施することができるが、ある特に好ましい実施態様では、マイクロニードルは、基板の端部に隣接して配置される。この場合、特に好ましい一連の実施態様によれば、スライス面112は、基板100の端部118と同一平面上にある。本発明は1つのマイクロニードルを用いて実施することができるが、ここに例示したような特に好ましい実施態様では、複数のマイクロニードルを、典型的には図示したように一列(直線配列)で用いる。従って、ここに例示するような特に好ましい実施形態の一つは、基板100と一体的に形成されたマイクロニードルの直線配列に少なくとも3つの中空マイクロニードル204を有し、全てのマイクロニードルのスライス面112は、互いに同一平面上、かつ基板100の端部118と同一平面上にある。最終的な基板の端部と同一平面上にあるスライス面の使用は、マイクロニードルチップ製造時のダイシングプロセスにおいてなど、スライス面と基板端部の両方が1回の切断処理で形成される製造方法に特に適している。これについてはさらに後述する。
【0041】
マイクロニードル構造体における一定断面部の使用は、所望の基部寸法を個別に選びながら、異なる高さのマイクロニードルを実現するためのかなり高い設計自由度をもたらす。非限定的な例として、
図1A-1Fのマイクロニードルは、有利には、750-850ミクロンの全高H、380-450ミクロンの基部長L、および180-220ミクロンの基部幅Wで実施することができる。
図2Aおよび
図2Bのマイクロニードルは、
図1A-1Fのマイクロニードルと概ね同様の他のパラメータとともに、より長い一定断面部を採用して、900-1100ミクロンの全高H、380-450ミクロンの基部長L、180-220ミクロンの基部幅Wのマイクロニードルを実現する。他の全ての点では、
図2Aおよび
図2Bのマイクロニードル構造体は、
図1A-1Fのマイクロニードル構造体と構造および機能において類似している。本発明のマイクロニードルは、上記の高さの範囲に限定されるものではなく、説明した構造の有利な形状特性は、より小さいマイクロニードル、典型的には高さ約600ミクロンから上のマイクロニードル、およびより大きいマイクロニードル、例えば高さ1500ミクロンまで、場合によっては高さ2ミリメートル以上のマイクロニードルでも実施し得ることに留意すべきである。
【0042】
図3は、装置の一部としての本発明のマイクロニードル構造体の典型的な使用態様を概略的に示す。この例では、基板100は、シリンジまたは他の流体フローシステム接続部と嵌合するためのメスルアーインターフェース(female Luer interface)が形成されたシリンジアダプタ120に取り付けられている。流路122はアダプタを通り、穴116を介した供給のために基板100の後面に流体を供給する。アダプタ120は、マイクロニードル構造体の実現可能な用途の多数の例の一つに過ぎない。他の非限定的な例には、使い捨て充填済みシリンジと一体化されたマイクロニードル構造体、薬物供給パッチおよびポンプと一体化されたマイクロニードル、ペン型注入システム用のマイクロニードルペン針適合物、自動注入システム、および他の広範な用途が含まれる。
【0043】
次に、本発明のマイクロニードル構造体を製造する方法に目を向けると、これ自体も本発明の一態様による方法の実施形態であるが、これは、まず、基板表面まで延びる傾斜面110を有するマイクロニードルを製造し、次いで、切断処理(「スライシング」または「ダイシング」とも呼ばれる)を行ってスライス面112、好ましくは基板端部118も生成し、図示のような最終的なマイクロニードル構造体を提供することによって有利に実施し得る。
【0044】
ここで、
図4A-4Dを参照して、製造プロセス全体を概略的に説明する。まず、シリコン単結晶ウエハ130を、典型的には、深堀反応性イオンエッチング(DRIE)などのドライエッチングプロセスによって処理し、最終的なマイクロニードル構造体の直立面108の所望の形状に内面側で対応する溝132と、最終的なマイクロニードル構造体の穴116の位置および形状に対応する穴134を生成する。これらのパターンは、典型的には、ウエハの表面にわたって間隔をあけた関係で形成される繰り返しパターンであり、典型的には、ウエハ1枚当たり何百ものまたはさらに何千ものそのような構造がある。穴134の内寸は、好ましくは、溝132の幅よりも大きく、DRIE処理によって溝132よりも穴134の方がより大きな深さに達するようにする。これにより、表側のDRIE処理自体によって、またはウエハの裏側から穴134に見合う補完的な穴を形成する同様のDRIE処理または他の穴あけ処理(例えば、レーザー切断)によって、ウエハの厚さ全体を貫く穴の長さを完成させることが容易になる(典型的には、処理の後の段階にて)。
【0045】
その後、溝132と穴134の内面を保護層でコーティングする。その後、異方性ウェットエッチングを行う。これにより、溝132の外側の領域では、ウエハ上部の露出面((100)「水平」面)が一様に低くなって主面102が形成される一方、(111)面では、溝132によって部分的に取り囲まれた領域が浸食される。マイクロニードルの所望の高さHが露出すると、保護コーティングを除去し、
図4Bの破線の構成および
図4Cの側面図に示すように、基板の上面まで延びる傾斜面を有するマイクロニードルデバイス前駆体を得る。前述と同様に、概略図では、この構造は、一組のマイクロニードルを有する独立構造として示されているが、この構造は、より好ましくは、そのような構造を多数含む拡張ウエハの一部として、この段階まで製造する。
【0046】
次に、マイクロニードル構造体は、少なくとも1つの直立面108と傾斜面110の端部114から基板100の主面102に向かって延びるスライス面136との連続によって囲まれた一定断面部を生成するように、基板100の主面102と垂直なスライス面136(
図4C)に沿って、マイクロニードルの傾斜面を通り、基板を通ってマイクロニードルデバイス前駆体をスライスすることによって完成する。このスライス工程は、機械的切断またはダイシング、プラズマ切断およびレーザー切断を含む任意の適切な切断技術によって実行することができる。スライス面136を形成するために追加のドライエッチング工程(DRIE)が使用されるプロセスも本発明の範囲内にあり、マイクロニードルが基板の端部から間隔を空けた位置に形成される場合に好ましい場合がある。ある特に好ましい実施態様では、スライスは、図示のように、ウエハ全体が、少なくとも1つ、好ましくは3つのマイクロニードルの組をそれぞれが有する基板の複数のセクションに分離されるダイシング処理の一部として実行される。スライスの位置は、一定断面部が基板の主面から穿刺先端の高さの少なくとも5分の1にわたり延在し、少なくとも1.6、より好ましくは少なくとも1.7のアスペクト比を有するなど、上述したように、比率、アスペクト比などの様々な好ましいパラメータを生成するために選択される。
【0047】
上記の説明は、例として挙げられることのみを意図しており、添付の特許請求の範囲に定義される本発明の範囲内で、他の多くの実施形態が可能であることが理解されるであろう。
【国際調査報告】