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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】水性インク組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/102 20140101AFI20240719BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20240719BHJP
【FI】
C09D11/102
C09D11/30
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505408
(86)(22)【出願日】2022-07-26
(85)【翻訳文提出日】2024-01-29
(86)【国際出願番号】 GB2022051951
(87)【国際公開番号】W WO2023007143
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】21188877.1
(32)【優先日】2021-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】2112418.5
(32)【優先日】2021-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507385165
【氏名又は名称】サン ケミカル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】デレック・イルズリー
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AE04
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE12
4J039BE19
4J039BE22
4J039BE25
4J039CA06
4J039EA36
4J039EA38
4J039EA46
4J039GA03
4J039GA09
4J039GA24
(57)【要約】
本発明は、ポリウレタン分散体を含む水性印刷インク組成物であって、ポリウレタン分散体のポリウレタンが、(a)1つ又は複数のポリマー鎖末端にケトン基又はアルデヒド基が存在するという特性、(b)数平均分子量が50,000以下、より好ましくは25,000以下であるという特性、並びに(c)ケトン基及び/又はアルデヒド基の含有量が乾燥ポリマー質量に対して0.02~4.0mmol g-1の範囲であるという特性を含む水性印刷インク組成物を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン分散体を含む水性印刷インク組成物であって、前記ポリウレタン分散体のポリウレタンが、(a)1つ又は複数のポリマー鎖末端にケトン基又はアルデヒド基が存在するという特性、(b)数平均分子量が50,000以下、より好ましくは25,000以下であるという特性、並びに(c)ケトン基及びアルデヒド基の含有量が乾燥ポリマー質量に対して0.02~4.0mmol g-1の範囲であるという特性を含む、水性印刷インク組成物。
【請求項2】
1つ又は複数のポリマー鎖末端に存在する基がケトン基である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
インクジェットインク、フレキソグラフインク及びグラビアインクからなる群から選択される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ポリウレタンが、大部分が直鎖状の構造であり、ポリマー上のケトン基及びアルデヒド基の平均数が2以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記ポリウレタン分散体が、乾燥ポリマー質量に対して10mgKOHg-1以上の酸価を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記ポリウレタン分散体が、200nm以下、より好ましくは150nm以下の平均粒径を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記ポリウレタン分散体が、1つ又は複数のポリマー鎖末端でケトン基又はアルデヒド基と反応して組成物を硬化させることができる試薬を更に含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
硬化が、直鎖延長を介して生じる、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記試薬が、二官能性、三官能性、若しくはそれ以上の多官能性第一級ジアミン、又はジヒドラジドであり、このような試薬が、好ましくは二官能性試薬である、請求項7又は8に記載の組成物。
【請求項10】
前記二官能性試薬がアジピン酸ジヒドラジドである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記試薬が多価金属架橋剤、好ましくはジルコニウム錯体、より好ましくは炭酸ジルコニウムアンモニウムである、請求項7又は8に記載の組成物。
【請求項12】
酒石酸、グルコン酸、クエン酸、マレイン酸、コハク酸及びそれらの塩からなる群から選択される1種又は複数の酸を更に含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記ポリウレタン分散体のポリウレタンが、ヒドロキシル基を更に含み、ポリウレタンのヒドロキシル価が、好ましくは100mgKOHg-1以下、より好ましくは50mgKOHg-1以下である、請求項1から12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記ヒドロキシル基が、1つ又は複数のポリマー鎖末端に存在する、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
150℃以上の沸点及び500Jg-1以上の蒸発熱を有する任意の溶媒のブレンドを25%(w/w)以下含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
陰イオン性分散剤若しくは非イオン性分散剤、又はそのブレンドを用いて調製された顔料分散体を含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
請求項1の基準を満たさない任意のさらなるポリウレタン分散体を更に含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
さらなるスチレン-アクリル分散体を更に含む、請求項1から17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記ポリウレタンが、カルボン酸をポリウレタン鎖に含めることによって陰イオン的に安定化されている、請求項1から18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
陰イオン的に安定化された前記ポリウレタンが、第三級アミン、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムで中和されている、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
陰イオン的に安定化された前記ポリウレタンが、125℃より高い沸点を有する第三級アミンで中和されている、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
陰イオン的に安定化された前記ポリウレタンが、トリエチルアミン又はN,N-ジメチルエタノールアミン、好ましくはN,N-ジメチルエタノールアミンで中和されている、請求項20に記載の組成物。
【請求項23】
物品の印刷方法であって、請求項1から22のいずれか一項に記載の組成物を基材上に印刷する工程と、硬化させる工程とを含む、方法。
【請求項24】
前記基材が、包装、食品包装、金属基材、繊維製品、装飾積層体及びグラフィックスの印刷に好適である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
請求項1から22のいずれか一項に記載の組成物を含む、印刷物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット印刷インクとして特に好適であるポリウレタン分散体(「PUD」)を含む水性印刷インク組成物に関する。
【0002】
有利には、本発明に係る水性印刷インク組成物は、水系であり、35%(w/w)以下の有機共溶媒を含むため、PUDを含む比較溶媒系インク組成物より環境に優しい。
【背景技術】
【0003】
ポリウレタン分散体(PUD)は、印刷インクの調製に広く使用されている。特にインクジェット印刷用水性インクに使用される場合における従来のPUDの課題は、耐湿摩擦性等の有益な印刷特性を付与できるものの、特に良好な再溶解性を有していないことである。インクの再溶解性は、それが、一部又は全部が乾燥された後にそれ自体又は好適なフラッシング液に再溶解できることである。これは、プリントヘッドのノズルが詰まり、印刷欠陥を引き起こす、又は最悪の場合にはプリントヘッド自体の壊滅的損失を被りうるリスクを低減するため有益な属性である。
【0004】
本発明は、再溶解性を有すると共に耐水(湿摩擦)性印刷物を生成可能な、新種の自己硬化PUD技術を含む水性インク、特に水性インクジェット印刷インクを提供する。本発明に係る自己硬化PUDは、当該技術分野において開示されていない。
【0005】
自己架橋PUD及び自己架橋スチレン-アクリル分散体(Daotan 7064、Joncryl FLX 5000及びJoncryl FLX 5060等)は、当該技術分野において記載されてきたが、再溶解性に劣ること、及び不可逆的に乾燥し、プリントヘッドを詰まらせる潜在的なリスクの可能性といった付随する課題を有する。本発明に包含される自己硬化PUD技術(本明細書では「SC-PUD」と称する)は、専ら、アジピン酸ジヒドラジド等の二官能性共試薬と組み合わせた場合における架橋を伴わない鎖延長である。したがって、当業者が理解し、以下に更に説明されるように、本明細書に開示されるSC-PUDは、当該技術分野において表記される自己架橋PUDとは異なる。
【0006】
Neorez R605及びNeorez R650等の従来のPUDから製造されるインクも再溶解性/再分散性に劣る。
【0007】
インクジェット印刷インクでの(低分子量:典型的には数平均分子量が15,000未満の)ヒドロキシ官能性PUDも当該技術分野において記載されてきたが、ポリカーボジイミド等の架橋剤を使用しなければ、これらは耐性印刷物を生成しない。本発明者は、ヒドロキシ-PUDとポリカーボジイミド架橋剤の組合せを使用してインクを調製すると、インクの再溶解性が著しく劣化し、印刷物が、本発明により得られるものと同程度の耐水(湿摩擦)性を発現しないことを見いだした。
【0008】
架橋性PUDは、当該技術分野、例えば、米国特許第7476705号に記載されている。これらは、ケトン等の架橋性基をポリマー鎖(即ち、ポリマー骨格)全体に含むポリマーである。当該PUDの課題は、従来のPUDと同様に、再溶解性に劣ること、及び架橋性PUD分子が2つを超えるケトン基を含みうるため、アジピン酸ジヒドラジド(「ADH」)等の多官能性架橋剤で架橋するとプリントヘッド内に架橋された乾燥ポリマーを生成させるリスクをもたらすことである。
【0009】
自己架橋PUD
ケト-アミン(又はより広くはケト-ヒドラジドと称する)自己架橋化学構造を含む自己架橋PUDの調製は、米国特許第8568889号及び米国特許第7476705号に記載されている。しかし、これらのPUDは、例えば、ジエポキシドとレブリン酸の反応によって形成された1つ又は複数のケトン基を有するジオール試薬を使用して調製される。したがって、どのPUDも、少なくとも2つのケトン基をポリマー骨格に有し、ポリマー鎖にこれらのジオールのうちの2種以上がその構造の一部として含まれていると、分子構造に4つ以上のケトン基を含むことになり、インクが乾燥すると、架橋されたポリマーマトリックスがインクジェットプリントヘッド内に生成するリスクがもたらされる。
【0010】
自己架橋性スチレン-アクリル分散体を含む水性インクジェットインク組成物
ケト-アミン架橋化学構造を含む自己架橋スチレン-アクリル分散体のインクジェット用途における使用が、当該技術分野において記載されてきた。
【0011】
国際公開第2001/036547号(Coates Brothers)には、例えば、アジピン酸ジヒドラジドにより架橋することができる、カルボニル基をポリマー構造の一部として含む自己架橋性ポリマー(オリゴマー)エマルジョンを含む組成物が記載されている。当該ポリマー分散体は、インクジェット印刷では望ましくないと思われる架橋を生じさせる、2つを超えるカルボニル基をそれらの分子構造の一部として含むポリマー分子を有する。組成物は、水溶性アクリルポリマー等の「再溶解ポリマー」と称されたものを更に含む。当該組成物は、優れた不粘着性(print resistance)をもたらすが、再溶解性が非常に劣ることを本発明者は見いだした。確かに、本発明の自己硬化PUDにより達成される固有の再溶解性は、本発明の極めて有益な態様である。
【0012】
特開第2006-045334号(旭化成ケミカルズ株式会社)、特開第2004-149600号(シャープ株式会社)、特開第2009-140774号(サカタインクス株式会社)及び特開第2012-241135号(ゼネラル株式会社)にも、自己架橋スチレン-アクリル分散体を含む水性インクジェットインク組成物が記載されているが、これらも本発明のインクと比較すると明らかに再溶解性/再分散性に著しく劣る。中国特許出願公開第110982344号(Zhuhai Dongchang Pigment社)には、自己架橋アクリルエマルジョン、並びにPUD及びさらなる架橋剤、例えばブロックイソシアネートを含む白色水性インクジェットインク組成物が記載されている。
【0013】
従来のアナログ式印刷プロセスにおける自己架橋スチレン-アクリル分散体の使用が周知である。N.Kesselら(J. Coat. Technol. Res.(2008)、(5)、285)には、この種のポリマー分散体のケト-アミン化学構造が適切に概説されている。ポリマーは、その分子構造の一部としてケトン基又はアルデヒド基を含み、それらは、乾燥すると、多官能性第一級(又は第二級)アミンと反応して、架橋反応に影響を与えうる。スチレン-アクリルエマルジョンの自己架橋に使用される典型的な多官能性アミンは、アジピン酸ジヒドラジドであるが、カルボニル基又はアルデヒド基と反応しうる他の多官能性アミンも使用できる。
【0014】
PUD及び架橋剤
ポリウレタン分散体(PUD)は、有色水性インクジェット印刷インクの調製に使用される主たる樹脂化学構造であると見なされる。特に繊維製品の印刷において、PUDを含む水性インクジェット印刷インクを架橋するためにマレイミド-ホルムアルデヒド等のアミノ樹脂の使用例がいくつか存在する。国際公開第2009/137753号(デュポン社)には、PUDを、160℃の温度でメラミン-ホルムアルデヒド架橋剤であるサイメル(Cymel)303により如何にして架橋できるかが記載されている。米国特許第10513622号、米国特許第10457824号及び米国特許第9249324号を含むいくつかの他の特許には、耐性の向上を可能にするための任意選択の架橋剤とPUDとの併用に言及しており、これらは、ポリウレタン顔料分散剤に言及し、カルボン酸、ヒドロキシル又はアミンペンダント官能性基のいずれかを有するポリウレタンに対する架橋可能性を役に立つように提示している。架橋剤としては、カルボジイミド、エポキシ、イソシアネート、アミノ樹脂(例えばメラミン-ホルムアルデヒド)、アジリジンが挙げられる。
【0015】
しかし、特にインクジェット印刷における、本発明に係る新種のSC-PUDに伴う利点は開示又は示唆されていない。実際、多くの記録にPUDの架橋方法が考察されているが、本発明の低分子量のケトン(又はアルデヒド)末端官能性自己硬化PUDは開示されていない。
【0016】
架橋されたPUD
米国特許第8186822号、米国特許第9255207号及び米国特許出願公開第2007/0060670号(いずれもデュポン社)は、架橋されたPUDを含む水性インクジェットインク組成物を指す。これらの架橋されたPUDは、トリエチレンテトラミン等の架橋試薬によりPUDの調製時に架橋を誘発することによって製造される。当該架橋されたPUDは、紙及び繊維製品基材を含む様々な基材上の印刷物の水及び洗浄堅牢性を向上させるのに役立つ。アミノ樹脂等の既に記載されている種類の架橋剤の任意選択の使用が、これらの特許のさらなる特徴である。不粘着性を向上させることに役立つものの、当該架橋されたPUDが、プロピレングリコール等の共溶媒の濃度がインク組成物の30%(w/w)未満であるインク組成物に使用されると、インクの再溶解性/再分散性が劣る可能性が高い。
【0017】
再溶解性架橋PUD技術
最近、UV及びEB硬化性水性インクジェット印刷組成物の調製にアクリル化ポリウレタン分散体(「Ac-PUD」)を使用することが、例えば、米国特許第10076909号(富士フィルム社)、欧州特許第3390545号(富士フィルム社)、国際公開第2017/174981号(富士フィルム社)及び国際公開第2018/138525号(富士フィルム社)にて記載されている。これらのAc-PUDの架橋は、UV硬化の場合には好適な光開始剤を使用することによって誘発される。当該Ac-PUDは、再溶解性/再分散性が良好なインクを生成することができるが、光開始剤の使用は、多くの用途、特に食品包装の印刷において望ましくない、硬化したインクからの低分子量化合物の望ましくない移動のリスクをもたらしうる。また、Ac-PUDは、アクリレート基が加水分解して、アクリル酸が遊離することで、潜在的なpH不安定の課題を生じやすく、これもインクジェット印刷にとって望ましくない。
【0018】
ヒドロキシ官能性ポリウレタン分散体(OH-OUD)及びインクジェット
ヒドロキシ官能性PUDを含むインクは、例えば、米国特許出願公開第2018/0105710号(センシエントイメージング社)に記載されており、これらは、再分解性が高められたインクを生成するものの、印刷物は、耐水(湿摩擦)性が不十分である。これは、PUDポリマー上のカルボン酸ペンダント基と反応するポリカルボジイミド等の架橋剤を使用することによって克服されてきた。しかし、当該組成物をベースとしたインクが乾燥すると、それらは、プリントヘッドノズルを詰まらせるリスクをもたらしうる架橋された不溶性マトリックスを形成しうる。
【0019】
比較的低分子量の(即ち、典型的には数平均分子量が15,000未満である)PUDであるヒドロキシ官能性PUDは、典型的には、エンドキャッピング試薬のアミンとPUDプレポリマー上の末端イソシアネート基との尿素結合の形成によって必要なヒドロキシル基をポリマー鎖末端に結合させるエタノールアミン又はジエタノールアミン等の好適なエンドキャッピング試薬を使用することによって製造される。既に述べられているように、当該OH-PUDは、優れた再溶解性を有するインクを生成することができるが、それらのヒドロキシル官能性及び低分子量の結果として、ポリカルボジイミド又はポリイソシアネート等のさらなる架橋剤を使用しなければ、耐水(湿摩擦)性に劣る印刷物を生成する。既に記載されているように、当該手法は(例えば米国特許出願公開第2018/0105710号に)記載されているが、インクジェット印刷にとって著しく不利になりうる、プレス上への架橋されたインクの生成のリスクをもたらす。
【0020】
米国特許第8931889号(デュポンエレクトロニクス社)には、ポリエーテルジオールをそれらの化学構造の一部として含むOH-PUDの合成、及び水性インクジェットインク組成物におけるそれらの使用が記載されている。OH-PUDは、安定性を向上させ、ノズル寿命を長くするものとして記載されている。
【0021】
中国特許出願公開第111138626号(Trendvision Technology社)には、繊維製品の水性インクジェット印刷のためのPUDの合成が記載されている。N-メチルエタノールアミン等のエンドキャッピング試薬を、ヒドロキシ末端PUDを調製するためのPUD合成に使用できる。当該エンドキャッピング剤をOH-PUDの調製に使用することは周知であり、当該技術分野において広く実践されており、例えば、米国特許第7875355号(シャーウィンウイリアムズ社)には、ジアミノプロパノールをエンドキャッピング試薬として使用することにより如何にして自動車工業用OH-PUDを調製できるかが記載されている。
【0022】
米国特許出願公開第2018/0105710号には、カルボジイミド、オキサゾリン、アミノ樹脂(メラミンホルムアルデヒド等)、ブロックイソシアネート及びジルコニウム錯体等の架橋剤を使用することにより、如何にしてOH-PUDを含む水性インクジェットインクを架橋できるかが記載されている。米国特許出願公開第2018/0105710号には、明らかにOH-PUDの使用によりインクの再溶解性が向上するため、プリントヘッドの詰まりを低減できるOH-PUDが記載されている。架橋剤の使用、米国特許出願公開第2018/0105710号の例ではカルボジイミドの使用により、さもなければOH-PUDの使用の結果として劣っているはずの不粘着性が向上することは明白であるが、既に記述した付随する問題は残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】米国特許第7476705号
【特許文献2】米国特許第8568889号
【特許文献3】国際公開第2001/036547号
【特許文献4】特開第2006-045334号
【特許文献5】特開第2004-149600号
【特許文献6】特開第2009-140774号
【特許文献7】特開第2012-241135号
【特許文献8】中国特許出願公開第110982344号
【特許文献9】国際公開第2009/137753号
【特許文献10】米国特許第10513622号
【特許文献11】米国特許第10457824号
【特許文献12】米国特許第9249324号
【特許文献13】米国特許第8186822号
【特許文献14】米国特許第9255207号
【特許文献15】米国特許出願公開第2007/0060670号
【特許文献16】米国特許第10076909号
【特許文献17】欧州特許第3390545号
【特許文献18】国際公開第2017/174981号
【特許文献19】国際公開第2018/138525号
【特許文献20】米国特許出願公開第2018/0105710号
【特許文献21】米国特許第8931889号
【特許文献22】中国特許出願公開第111138626号
【特許文献23】米国特許第7875355号
【特許文献24】米国特許第7,947,760号
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】N.Kesselら、(J. Coat. Technol. Res.(2008)、(5)、285)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は、市販の材料に伴ういくつかの課題、及び特にインクジェット印刷について当該技術分野において記載されてきたものによるいくつかの課題を克服する。即ち、本発明は、プリントヘッド又はインク供給システムの詰まりを引き起こす乾燥インクに伴うリスクを制限しながら優れた再溶解性を有すると同時に、良好な耐水性を有する印刷物を生成することが可能であるインクを提供する。また、本発明は、典型的には、高濃度の(即ち35%(w/w/)超の)グリセロール又はプロピレングリコール等の共溶媒の使用に依存することなくこの特性の有利な組合せを達成する。
【0026】
特にインクジェット印刷用の印刷インクにおいて、記載されているようにして調製された発明の自己硬化PUDの使用について記載した記録は認められていない。本発明によりもたらされる利点は、以上に手短に記載されており、以下により詳細に記載されるが、この新種のPUDを含むインクの格別の再溶解性は、プロピレングリコール等の溶媒の濃度を小さくして再溶解性インクを調製することを可能にする。本発明者は、当該高沸点溶媒の含有量を好ましくは25%(w/w)以下、20%(w/w)以下、15%(w/w)以下、10%(w/w)以下にしながら再溶解性インクを製造できることを示した。これは、インクジェットインク組成物が、必要な粘度及び再溶解性の両方をインクに付与するためにより高濃度の溶媒、例えば、プロピレングリコール、グリセロール及び他の高沸点水溶性溶媒を含むのが一般的であるため、重要な態様である。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本出願における文献の引用又は紹介は、それらが本発明に対する先行技術であることを認めるものではない。
【0028】
本発明は、ポリウレタン分散体を含む水性印刷インク組成物であって、ポリウレタン分散体のポリウレタンが、(a)1つ又は複数のポリマー鎖末端にケトン基又はアルデヒド基が存在するという特性、(b)数平均分子量が50,000以下、より好ましくは25,000以下であるという特性、並びに(c)ケトン基及びアルデヒド基の含有量が乾燥ポリマー質量に対して0.02~4.0mmol g-1の範囲であるという特性を含む水性印刷インク組成物を提供する。
【0029】
特に明記しない限り、ケトン基及びアルデヒド基の含有量は、鎖末端ケトン基及びアルデヒド基の含有量を指す。
【0030】
本発明の特に好ましい態様では、1つ又は複数のポリマー鎖末端に存在する基はケトン基である。よって、本発明は、ポリウレタン分散体を含む水性印刷インク組成物であって、ポリウレタン分散体のポリウレタンは、(a)1つ又は複数のポリマー鎖末端にケトン基が存在するという特性、(b)数平均分子量が50,000以下、より好ましくは25,000以下であるという特性、並びに(c)ケトン基の含有量が乾燥ポリマー質量に対して0.02~4.0mmol g-1の範囲であるという特性を含む水性印刷インク組成物を提供する。
【0031】
理解されるように、ポリマー鎖末端に存在する基は、「末端基(end-group)」、「鎖末端基」又は「末端基(terminal group)」である。これは、ポリマー鎖上に又はポリマー分子構造の一部として、即ちポリマー骨格上に存在している基と異なる。
【0032】
好ましくは、ポリウレタンは、大部分が直鎖状の構造である。即ち、ポリウレタンポリマー鎖の5%以下が、分枝構造を含む(乾燥ポリマー質量に対する)。より好ましくは、ポリウレタンは、直鎖状の構造である。
【0033】
理解されるように、1つ又は複数のポリウレタン鎖末端に1つ又は複数のケトン基又はアルデヒド基が存在するために、ポリウレタンが、前記ケトン基又はアルデヒド基でエンドキャッピングされている。本発明に使用されるポリウレタンは、ケトン基又はアルデヒド基を1つ又は複数のポリマー鎖末端に含み、ポリマー鎖上の他の箇所に含まないことが好ましい。好ましくは、ポリウレタンは直鎖状であり、ポリマー鎖末端に存在する、平均ポリマー鎖当たり2つを超えるケトン基又はアルデヒド基を含む。
【0034】
自己硬化PUDを調製するエンドキャッピング手法、及び本明細書に記載のインク組成物における当該SC-PUDの使用は、本発明の重要な特徴である。これにより、インク再溶解性に有益である低分子量のPUD(即ち、数平均分子量が50,000以下のPUD)が製造されるばかりでなく、平均ポリマー分子当たり選択的に2つ以下のケトン(又はアルデヒド)基を含むPUDが製造される。その結果、アジピン酸ジヒドラジド等の二官能性共試薬と組み合わせると、インク中で硬化させることにより、専ら鎖延長が生じて、扱いにくい不溶性の架橋されたマトリックスを形成することなく、より高分子量の直鎖状ポリマーを製造することができる。本発明のSC-PUDを当該技術分野で記載される自己架橋PUDから区別するのは、この架橋されたマトリックスの形成を伴わない直鎖延長である。特に、自己架橋PUDは、典型的には、ポリマー鎖上に2つを超えるケトン基を含むため、アジピン酸ジヒドラジド等の二官能性共試薬と組み合わせた場合に架橋を形成する。
【0035】
本発明に係る新種のSC-PUDを含むインクは、プロピレングリコール等の共溶媒の総濃度が、全インク組成物の35%(w/w)以下、好ましくは30%(w/w)以下である再溶解性インクの調製を可能にすることを本発明者は示した。特に、本発明に係る新種のSC-PUDを含むインクは、プロピレングリコール等の共溶媒の総濃度が、全インク組成物の30%(w/w)未満である再溶解性インクの調製を可能にすることを本発明者は示した。本発明の更に好適な態様では、沸点が200℃を超える溶媒、例えば、グリセロールがインク組成物の5%(w/w)未満に制限される。当業者が理解するように、必要な再溶解性を確保するために、水性インクジェット組成物に30%を超える濃度の当該共溶媒を水性インクジェット組成物に使用することが一般的な取り組みである。しかし、当該高濃度の共溶媒は、特に不浸透性基材上での乾燥速度に悪影響を及ぼす。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明は、良好な耐水(湿摩擦)性と共に優れた再溶解性を有するインクを製造することによって従来技術の課題に対応する。この特性の極めて望ましいバランスは、50,000以下、好ましくは25,000以下、より好ましくは15,000以下、最も好ましくは10,000以下の数平均分子量を有し、そのポリマーがケトン基又はアルデヒド基、好ましくはケトン基でエンドキャッピングされている新種の自己硬化性PUD(「SC-PUD」)を使用することによって達成される。ケトン(又はアルデヒド)基でエンドキャッピングすることによって、SC-PUDは、反応性ケトン官能基に対して二官能性でなくなり(好ましくは直鎖状になり)、これがアジピン酸ジヒドラジド(ADH)等の二官能性硬化共試薬と反応すると、専ら直鎖状ポリマーを生成することができる。換言すれば、本発明に係るSC-PUDは、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)等の二官能性硬化共試薬の存在下で、架橋されたマトリックスを形成しない。本発明のSC-PUDとアジピン酸ジヒドラジド(ADH)等の二官能性硬化共試薬との反応がアルカリ条件下で停滞するため、SC-PUD及びインクの調製に好ましく使用される中和剤により、高分子量生成物がプリントヘッド内で生成する確率が軽減される。
【0037】
【化1】
【0038】
2つの末端ケトン基又はアルデヒド基を有するSC-PUDと二官能性アミン又はジヒドラジドとの反応を図1に示す。反応は、架橋を全く生成しないが、2種の二官能性試薬の鎖延長反応をもたらす。基本的に、これは、A2B2型逐次重合反応と見なすことが可能である。この図では、反応が進行して、イミン反応生成物が得られることが示される。
【0039】
SC-PUDの調製方法は特に限定されず、陰イオン的に安定化されていても非イオン的に安定化されていても(又はいずれであっても)よいが、陰イオン的に安定化されたSC-PUDであるのが好ましい。本発明は、芳香族及び脂肪族SC-PUDを包含し、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリアクリルジオール、ポリカーボネートジオール、及び任意の脂肪族若しくは芳香族ジオール、又はそれらの任意のブレンド若しくは混成物を更に包含する。
【0040】
SC-PUDを調製する場合は、ケトン基又はアルデヒド基を含むエンドキャッピング試薬を使用して、反応性の硬化性官能基をポリマーの鎖末端に結合させる。エンドキャッピング試薬は、ポリウレタン前駆体上のイソシアネート基と反応して尿素結合を形成することで、所望のPC-PUDを形成する第一級又は第二級アミンを選択的に含む。ポリウレタン前駆体は、ジイソシアネートとジオールの任意のブレンドから調製でき、ジオールとしては、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリアクリルジオール及びポリエーテルジオールを挙げることができるが、それらに限定されない。好ましくは、ポリウレタン前駆体を調製するために使用されるジオールは、それらの分子構造にケトン基又はアルデヒド基を全く有さない。SC-PUDの調製に使用されるジイソシアネートは、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、水素化メチレンジフェニルジイソシアネート及びトルエンジイソシアネートを含むが、それらに限定されない脂肪族又は芳香族型であってもよい。ポリウレタン前駆体の調製において、ジイソシアネートをジオールと比較して過剰に使用することで、イソシアネート官能性プレポリマーを、既に記載されたカルボニル官能性試薬(即ち、アルデヒド基又はケトン基を含むエンドキャッピング試薬)によるエンドキャッピングの準備ができた状態にしておく。当該エンドキャッピング試薬の例には、
【0041】
【化2】
【0042】
が含まれる。
【0043】
この特異的なエンドキャッピング試薬は、ケトン基及びアルデヒド基の両方をSC-PUDポリマーの末端に導入する。
【0044】
本発明は、直鎖状SC-PUDの調製に向けられるのが好ましいが、SC-PUDが分枝状である場合は、ポリマー鎖末端に最大で2つのケトン基又はアルデヒド基が存在することを前提として、分枝状PC-PUDの可能性も包含する。したがって、理解されるように、PC-PUDは、分枝状である場合は、反応性ケトン又はアルデヒド官能基に対して最大で二官能性であり、分枝上にアルデヒド基又はケトン基を全く含まない。当該分枝状ポリウレタンを調製するための手法は周知であり、例えば、三官能性(例えばビウレットHMDI三量体)イソシアネート、三官能性、又はそれ以上の多官能性ポリオール、又は三官能性、又はそれ以上の多官能性第一級及び第二級アミンを使用することにより達成されうる。SC-PUDは、それらの合成において二官能性アミンを使用して、尿素結合をポリウレタン骨格に導入することができ、それにより不粘着性を更に促進できることも理解されたい。
【0045】
SC-PUDが陰イオン的に安定化される場合は、それは、そのポリマー構造の一部として(即ち、ポリマー骨格上に)酸基を含み、それらが、中和後に好適な無機又は有機塩基により、その分散を可能にする陰イオン安定化機構を付与する。カルボン酸基をSC-PUD構造にその合成時に導入するために使用される典型的な試薬としては、ジメチルプロピオン酸(DMPA)が挙げられる。1つ又は複数のカルボン酸基を含む他のジオール試薬をSC-PUDの調製に使用できることを理解されたい。他の酸含有試薬をSC-PUDの調製に使用することも可能である。DMPA、又は他の酸含有種がSC-PUD骨格に含められる場合は、それを任意の有機又は無機塩基で中和して、陰イオン安定化機構を可能にできる。非イオン的に安定化されたSC-PUDの場合は、親水性部分がポリウレタン分散体の一部(ポリ(エチレンオキシド等)として含められてその分散を可能にする。
【0046】
SC-PUDが陰イオン的に安定化される場合は、SC-PUDの酸価は限定されないが、乾燥ポリマー質量に対する酸価が0mgKOH/gから100mgKOH/gの間であることが好ましい。より好ましくは、乾燥ポリマー質量に対する酸価は、少なくとも10mgKOH/g、より好ましくは少なくとも20mgKOH/gである。したがって、乾燥ポリマー質量に対する酸価は、10mgKOH/gから100mgKOH/gの間であることが好ましく、20mgKOH/gから100mgKOH/gの間であることがより好ましい。陰イオン性SC-PUDを分散させるために、有機及び無機型を含む任意の好適な塩基を使用して、SC-PUDの酸基を中和することで、その水への分散を可能にすることができる。SC-PUDのカルボン酸(又は他の酸)を中和するために使用される塩基の非限定的な例としては、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、任意の他の第三級アミン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが挙げられるが、それらに限定されない。中和剤が第三級アミンである場合は、その沸点が125℃より高いことが好ましい。好ましくは、中和剤は、N,N-ジメチルエタノールアミンである。
【0047】
SC-PUDの分散は、陰イオン性及び非イオン性界面活性剤を使用することによっても促進することができる。
【0048】
本発明のインクの調製に使用されるSC-PUDの粒径は限定されない。しかし、平均粒径が250nmであることが好ましく、100nm未満であることがより好ましい。
【0049】
最終的な水性(インクジェット)印刷インク組成物に占めるSC-PUDの全固形分は特に限定されない。しかし、最終的なインク配合物に占める全固形分は、乾燥ポリマー質量に対して、最終的なインクジェット組成物用インク組成物の2.5%(w/w)~40%(w/w)であることが好ましく、5.0%(w/w)~20.0%(w/w)であることがより好ましい。
【0050】
新種のSC-PUDを含むインクの再溶解性を更に促進するのに役立つ本発明の別の態様は、それらをヒドロキシ基でエンドキャッピングすることもできること、即ちポリウレタンを、ヒドロキシ官能基及びケトン又はアルデヒド官能基の両方を含むエンドキャッピング試薬、例えば、以上に示した例示的なエンドキャッピング試薬でエンドキャッピングできることである。したがって、本発明のSC-PUDは、任意選択で鎖末端(末端)ヒドロキシ基を含んでいてもよい。この場合、SC-PUDのヒドロキシル価は、乾燥ポリマー質量に対して、好ましくは100mgKOHg-1未満、より好ましくは50mgKOHg-1未満である。
【0051】
SC-PUDの分子量を制御するために、典型的には、ケトン(又はアルデヒド)基、及び任意選択でさらなるヒドロキシ基を含むエンドキャッピング試薬が使用される。発明のSC-PUDは、50,000以下、好ましくは25,000以下、より好ましくは15,000以下、最も好ましくは10,000以下の数平均分子量を有する。この新種のPUDの分子量が比較的小さいことも印刷インクで観察される再溶解性に寄与する。
【0052】
本発明のSC-PUDは、ポリウレタン上の末端カルボニル基(即ちケトン基又はアルデヒド基)との反応によって硬化に影響を与える二官能性アミン又はジヒドラジド、例えばアジピン酸ジヒドラジドを使用する。しかし、本発明は、多官能性アミン、即ち3つ以上の第一級アミン基を有する多官能性アミンをも含んでいる。
【0053】
本発明のインクに使用されるSC-PUDのカルボニル末端基(即ち、ケトン又はアルデヒド末端基)は、米国特許第7947760号(BASF社)に開示されているように、多価金属錯体等の他の共試薬との反応により硬化させることもできる。実際、好ましいジアミン又はジヒドラジドではなく炭酸ジルコニウムアンモニウム等の化合物を硬化試薬としてインクに含めることによって、SC-PUDを含むインクを硬化させることも可能である。本発明に係るインク組成物は、酒石酸、グルコン酸、クエン酸、マレイン酸、コハク酸及びそれらの塩からなる群から選択される1種又は複数の酸を任意選択で更に含んでいてもよい。いくつかの態様において、インク組成物は、硬化試薬としての炭酸ジルコニウムアンモニウム、並びに酒石酸、グルコン酸、クエン酸、マレイン酸、コハク酸及びそれらの塩からなる群から選択される1種又は複数の酸を含んでいてもよい。
【0054】
好ましくは、SC-PUDをアジピン酸ジヒドラジド等の二官能性アミン共試薬と組み合わせて、本発明のインクの自己硬化を可能にする。
【0055】
好ましくは、自己硬化を可能にする、SC-PUDの共試薬に対するモル比は、SC-PUD及び共試薬の適宜のモル濃度に対して0.1:10から10:0.1の間、好ましくは0.2:5から5:0.2の間、より好ましくは0.5:2から2:0.5の間である。より好ましい態様において、硬化共試薬はアジピン酸ジヒドラジド(ADH)であり、SC-PUDのADHに対するモル比は、SC-PUD及び共試薬の適宜のモル濃度に対して0.1:10から10:0.1の間、好ましくは0.2:5から5:0.2の間、より好ましくは0.5:2から2:0.5の間である。
【0056】
本発明の水性インクは、大部分が水系である。より具体的には、本発明のインクは、水を5質量%から90質量%の間、例えば5質量%から80質量%の間又は10質量%から80質量%の間で含む。好ましくは、本発明のインクは、水を10質量%から80質量%の間、より好ましくは15質量%から80質量%の間で含む。
【0057】
本発明の印刷インクは、任意の水溶性有機共溶媒を任意選択で含んでいてもよい。エタノール、プロパノール及びイソプロパノール等の揮発性溶媒を使用してもよいが、インクがインクジェット印刷を意図する場合は、可燃性又は揮発性が高くないもの、典型的には、ポリオール、アルキレングリコール、アルキレングリコールエーテル又はエーテルアセテート型を使用するのが好ましく、その非限定的な例としては、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールイソプロピルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールプロピルエーテル、グリセリンカーボネート、N-メチル-2-ピロリドン、グリセロール、プロピレングリコール、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールn-プロピルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコール、トリプロピレングリコールメチルエーテル、N-メチルピロリドン、及び尿素等が挙げられる。
【0058】
好ましくは、本発明のインクは、プロピレングリコール及び/又は3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(MMB)を含む。本発明のインクがプロピレングリコール及び/又は3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールを含む場合は、それらの比が(プロピレングリコールの3-メチル-1-ブタノールに対する比が)3:1~1:3であるのが好ましい。
【0059】
有機共溶媒を使用する場合は、それらは、インク組成物の35%(w/w)以下を構成するのが好ましく、30.0(w/w)%以下を構成するのがより好ましい。例えば、有機共溶媒を使用する場合は、それらは、インク組成物の35%(w/w)未満を構成するのが好ましく、30.0(w/w)%未満を構成するのがより好ましい。実際に、水溶性有機溶媒の総濃度をインク組成物の好ましくは35%(w/w)以下、より好ましくは30.0%(w/w)以下、更に好ましくは25.0%(w/w)以下とする。
【0060】
本発明者は、本発明に係るSC-PUDを使用することにより、水溶性有機共溶媒の濃度をインク組成物の10%(w/w)程度にして再溶解性インクを調製することが可能であることを示した。したがって、さらなる好ましい態様において、本発明に係るインクは、水溶性共溶媒を10%(w/w)以下含む。
【0061】
本発明のさらなる任意選択の特徴として、任意の水溶性有機共溶媒を使用する場合は、それが好ましくは250℃未満、より好ましくは200℃未満の沸点を有する。実際に、本発明に係るSC-PUDを使用することにより、200℃超の沸点、特に250℃超の沸点を有する共溶媒、例えば、中でもグリセロール及びジエチレングリコールを35.0%(w/w)超使用することに依存することなく、再溶解性の高いインクを調製できる。当該不揮発性溶媒をインク配合物のしばしば35%(w/w)超の濃度で使用することは、インクの粘度を高めるのみならず、インクに許容可能な再溶解性をもたせるための慣用手法である。しかし、当該高沸点溶媒を使用することには、高スループット印刷には望ましくないインクの乾燥時間の失速を生じさせるという付随的短所がある。好ましくは、本発明に係るインクは、250℃より高い沸点を有する溶媒を含まず、より好ましくは、本発明にかかるインクは、200℃より高い沸点を有する溶媒を含まない。また、使用する場合は、250℃より高い沸点を有する溶媒の濃度は、インク組成物の10.0%(w/w)未満であることが好ましく、5.0%(w/w)未満であることがより好ましい。
【0062】
本発明の利点の1つは、優れた再溶解性が、意外にも、プロピレングリコール等の水溶性共溶媒の濃度が35%(w/w)以下、より具体的には30%(w/w)以下の場合に達成されることである。実際に、本発明者は、25%(w/w)以下及び10%(w/w)程度の共溶媒濃度で再溶解性インクを製造できることを示した。プロピレングリコール及びグリセロール(保湿剤としても知られる)等の高沸点溶媒を高濃度で使用することに依存することなく容易に再溶解可能なインクを有することは、乾燥応答がより速いインクジェット印刷用インクが得られるため有利である。これは、本発明のインクジェットインクが、包装用波形ラベル印刷、繊維製品等のよりスループットの高い工業用インクジェット印刷市場に貢献するのに役立つ。また、本発明のインクジェットインクにより達成可能なより速い乾燥応答は、それらを乾燥するのに必要なエネルギー投入の削減をも可能にする。これは、先述の印刷市場にとって有益であるだけでなく、マルチパスインクジェットグラフィックス印刷市場においても有益であることが実証される。現在は、UV硬化性インクジェット組成物及び溶媒系インクジェット組成物が、マルチパスインクジェットグラフィックス市場に大きく貢献している。UV硬化性インクジェット組成物の調製に使用されるモノマー及び光開始剤に対する継続的な毒物学的評価により該組成物の健康及び安全に関する懸念が増大している。溶媒系インクジェット印刷インク組成物は、典型的には、70%を超える有機溶媒のブレンドをそれらの組成物の一部として含む。本発明のインクは、溶媒含有量の大半として水を含み(即ち、典型的には、本発明に使用される溶媒ブレンドの70%超が水である)、本来ポリマーであるSC-PUDは、UV硬化性インクジェット印刷インク組成物に使用されるモノマー及び光開始剤より健康リスクがはるかに小さい。また、発明の組成物では、プロピレングリコール等の再利用可能資源に由来する溶媒を使用することもできるが、組成物の30%(w/w)以下で使用されるのが好ましい。
【0063】
本発明のさらなる任意選択の特徴として、インクは、150℃より高い沸点を有する溶媒を30%(w/w)以下、好ましくは25%(w/w)以下の濃度で含む。当該溶媒、及び特に蒸発熱が500Jg-1より大きな溶媒の濃度を最小限に抑えることによって、高速インクジェット印刷に非常に有益である、より高速のインクの乾燥が可能となる。また、共溶媒濃度を低くすることのさらなる有益性は、インクを乾燥させるのに必要なエネルギーの量の削減である。本発明者は、プロピレングリコールの沸点が187℃であり、蒸発熱が880Jg-1であるのに対して沸点が174℃であり、蒸発熱が385Jg-1である水溶性共溶媒である3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(「MMB」)を含む安定したインクを調製できることを示した。蒸発熱が小さい当該溶媒を使用することにより、より乾燥速度の大きなインクが製造される。そのため、本発明にかかるインクは、好ましくは、蒸発熱が500Jg-1以上の溶媒を30%(w/w)以下含む。例えば、本発明に係るインクは、好ましくは、蒸発熱が500Jg-1より大きな溶媒を30%(w/w)未満含む。
【0064】
したがって、本発明のさらなる好ましい態様は、水溶性有機共溶媒、特に、蒸発熱が500Jg-1以上であり、沸点が150℃超である水溶性有機共溶媒の濃度が、インク組成物全体の好ましくは30%(w/w)未満、より好ましくは25%(w/w)以下であることである。当該共溶媒を使用する場合は、200℃より高い沸点を有する溶媒の任意の組合せは、好ましくはインク組成物の10%(w/w)未満である。
【0065】
また、印刷インク組成物に本発明に係る新種の自己硬化PUDを使用することのさらなる有益性は、それらが、陰イオン性分散剤(例えば陰イオン性アクリルコポリマー分散剤)を含む顔料分散体、及び非イオン性分散剤を含む顔料分散体を含む再溶解性/再分散性インクを生成できることである。後者の結果は、当該非イオン性分散剤が非常に水に敏感である傾向があり、良好な耐水(湿摩擦)性を有する印刷物を可能にするインクを生成するこの新種のPUDの能力がこの新規の技術の有用性を高めるため、特に注目に値する。
【0066】
本発明のさらなる有益性は、過度に高い温度を使用することなく、印刷物の優れた耐水(湿摩擦)性を達成できることである。実際に、初期乾燥後、印刷物は経時的にそれらの耐性を発現して、印刷後24時間以内に高レベルの不粘着性を達成することができる。
【0067】
本発明のインクの印刷及び乾燥後、それらは、室温又は高温、例えば50℃以上で硬化しうる。本発明者は、大気条件(即ち22~25℃)では、印刷から1日以上後にインクの硬化が発現しうることを見いだした。50℃以上の温度で印刷物を加熱することによってインクの硬化を加速させることができる。
【0068】
良好な再溶解性と、優れた耐水性を有する印刷物を生成する能力を併せ持つインクの有益性は、本発明により調製されたインクを一連の用途に使用することを可能にする。特に、本発明のインクは、フレキシブル包装(表面刷り及び裏刷り)及びフレキシブルフィルム包装、硬質包装(被覆金属基材の印刷、即ち金属装飾を含む)、段ボール及び紙包装、波形包装、装飾積層体の印刷、繊維製品の印刷、グラフィックス印刷等を含む包装の印刷を含む広範な用途に好適である。本発明のインクを使用して包装材料に印刷する場合は、これに食品包装が含まれてもよい。インクジェット印刷では、本発明は、当業界でその用語が良く認識されているシングルパス及びマルチパス印刷の両方に好適である。
【0069】
本出願の技術により達成可能な印刷物の優れた耐水性は、刷り重ねワニスを必要とすることなく、表面印刷用途に好適である。また、再溶解性/再分散性インクは。25%(w/w)以下の濃度のプロピレングリコール等の共溶媒を用いて製造できるため、マルチパスインクジェット印刷であってもシングルパスインクジェット印刷であっても、これらのインクの高速印刷が達成できる。本発明のインクの優れた再溶解性を提供するのは、SC-PUDの使用である。
【0070】
本発明は、主としてインクジェット印刷インクに向けられるが、フレキソ印刷及びグラビア印刷法により印刷できる水性インクをも包含する。実際に、本発明に係るSC-PUD技術の優れた再溶解性は、作業間の迅速な除染及びアニロックスシリンダへの充填に伴うリスクの低減を考慮すると、これらの印刷市場における有益性が高い。現在使用されている自己架橋(アクリル)技術の潜在的な課題は、インクがアニロックスシリンダ内で乾燥して、因果的な印刷品質の課題を引き起こしうることである。
【0071】
インクジェット印刷では、印刷品質を高めるために、好適なプライマー組成物が既にプレコーティングされた任意の基材上に本発明のインクを印刷することができる。当該プライマーは、典型的には、インクを「固定」することで、液滴の広がり及び色のかぶり等の印刷品質の課題を低減するのに役立つ多価金属塩を含む。プライマーは、本発明の不可欠な部分を構成しないが、発明のインクにより達成可能な印刷品質を高める任意の好適なプライマーを使用することができる。或いは、本発明のインクを、プライマーが既にプレコーティングされていない任意の基材上に印刷することができる。
【0072】
本発明は、優れた再溶解性/再分散性を有しながら、印刷後に硬化して耐水性印刷物を生成する能力を有する水性印刷インクを、新種のポリウレタン分散体(「SC-PUD」)を使用することにより調製できるという知見を開示する。本発明のインクは、インクジェット印刷に特に好適であり、該技術によって付与された優れた再溶解性により、インクがプリントヘッドのノズル内で不可逆的に乾燥するリスクを低減する。本発明のインク組成物に使用されるPC-PUDは、ポリマー鎖末端に位置するケトン基又はアルデヒド基を含む。これらのSC-PUDをジアミン又はジヒドラジド(例えばアジピン酸ジヒドラジド)等の二官能性共試薬で硬化させると、それらは専ら硬化して鎖延長されたより高分子量の直鎖状ポリマーを生成することができる。この独特な特徴が、本発明のインクを、架橋化学構造が使用されるインクから区別している。当該技術分野で現在使用されている架橋化学構造としては、自己架橋スチレン-アクリル分散体、自己架橋ポリウレタン分散体が含まれる。これらの化学構造を乾燥させ完全に硬化させると、不溶性である可能性がある架橋ポリマーマトリックスが生成され、印刷インク、及び特にインクジェットに対する課題が生じうる。
【0073】
本発明に係るSC-PUDの使用により、水性インクジェット印刷インクにとって特に有用な特徴であるインクの再溶解性/再分散性が付与される。本発明、及びより広くはインクジェット印刷の観点での再溶解性/再分散性は、インクが、40℃、更には50℃までの温度で1時間(以上)までの時間、例えば30分間かけて乾燥してそれ自体又は好適な「フラッシング」液に再溶解又は再分散できることと表記されうる。従来のPUD、従来の自己架橋PUD及びスチレン-アクリルを含むインクは、典型的には再溶解性に劣る。
【0074】
ヒドロキシ官能性PUD(「OH-PUD」)を使用することによって、優れた再溶解性を有するインクを調製できるが、架橋剤を追加しなければ、これらのインクからは耐水(湿摩擦)性に劣る印刷物が生成されてしまう。実際に、本発明のSC-PUDを含むインクは、OH-PUDを含むインクにより達成可能なものと比較して再溶解性を有することが示された。また、OH-PUDを含むインクの不粘着性を高めるために架橋剤を使用すると、インクの再溶解性が著しく損なわれる。
【0075】
好ましくは、本発明に係るインク組成物は、カルボジイミド(例えばポリカルボジイミド)、オキサゾリン(例えばポリオキサゾリン)、アズリリジン(例えばポリアズリリジン)、エポキシ、アミノ樹脂(メラミン-ホルムアルデヒド等)、イソシアネート(例えばブロックイソシアネート)及び/又はシランを全く含まない。より好ましくは、本発明に係るインク組成物は、ポリカルボジイミドを全く含まない。
【0076】
インクジェット印刷では、本発明は、良好な再溶解性がプリントヘッドにおけるインクの不可逆的乾燥を防止するのに役立つため、格別に有利である。プリントヘッドにおけるインクの当該不可逆的乾燥が生じれば、ノズルの詰まり、及び印刷品質性能の因果的な低下、更に悪いことにプリントヘッドそのものの損害をもたらしうる。そのため、インクジェット印刷インクの理想の溶液は、(開放時間を利用した)良好な再溶解性を有すると同時に、印刷及び乾燥後に硬化して耐水性印刷物を生成することが可能である溶液であることが分かる。本発明はこれを、過度な濃度のグリセロール及びプロピレングリコール等の高沸点共溶媒を使用することなく達成する。実際に、発明のインクは、プロピレングリコール濃度をインク組成物の5.0%(w/w)程度にしながら良好な再溶解性/再分散性を維持する。
【0077】
水性インクジェットインク組成物の調製に従来のPUD自体を使用することに伴う課題は、それらを40℃で15分から60分の間の時間にわたって乾燥させると、それらのインク自体に対する溶解性もフラッシング液に対する溶解性も大きく低下することである。この課題は、本発明によって解決される。対照的に、OH-PUD、特に50mgKOH/gより大きいヒドロキシル価を有するOH-PUDは、優れた再溶解性/再分散性を有するインクを生成することができるが、概して、耐水性に劣る乾燥印刷物が生成される。この課題も本発明によって解決される。インクがプリントヘッドの本体及びインク供給システム内ではなくフェースプレート上で乾燥しても、限定的である。プリントヘッドフェースプレートは、ノンウェッティングコーティング(「NWC」)と呼ばれるものでコーティングされることが多い。NWCは、セラミック薄層を含む繊細な構造体であり、不溶性残渣をNWCから除去しようとすると損傷して印刷品質に影響が及ぶ可能性がある。
【0078】
本発明の組成物は、インクジェット印刷を意図する場合は、100rpmの18番スピンドルを装備したBrookfield DV-II+Pro粘度計を使用して32℃で測定した粘度が10.0mPa・s未満であることが好ましい。
【0079】
インクのpHは、好ましくは5.0~10.0の範囲、より好ましくは6.0~9.5の範囲である。
【0080】
本発明に係るSC-PUDは、ポリウレタンの少なくとも1つの末端(即ち終端)に結合したペンダントケトン基又はアルデヒド基を含む。また、SC-PUDは、乾燥ポリマー質量に対して、SC-PUD1グラム当たり少なくとも0.02~4.0mmolの鎖末端ケトン基及びアルデヒド基を含む(mmol(C=O)g-1)。SC-PUDにおける鎖末端ケトン基及びアルデヒド基の量(乾燥ポリマー質量に対する)は、好ましくは、0.05~2.0mmol g-1の範囲である。
【0081】
自己架橋PUD(及びスチレン-アクリル)は公知であり、ケト-ヒドラジド架橋化学構造は周知であり、市販の製品に利用されている。この架橋反応に関与するポリマー骨格におけるケトン基又はアルデヒド基を、ケトン基を含むジオールをPUDの製造に使用することによって、PUD骨格に導入することができる。これは、レブリン酸等のケトン官能性酸をジエポキシドと反応させて、所望のケトンジオールを生成することによって達成できる。他の手法としては、ジアセトンアクリルアミドをジエタノールアミン等のアルカノールアミンと反応させることが挙げられる。これらの自己架橋PUDは、ポリマー分子の一部がそれらの分子構造の一部として2つを超えるケトン基又はアルデヒド基を含むという点において、本発明に係る自己硬化PUDと異なる。これらの自己架橋PUDを含むインクをアジピン酸ジヒドラジド等の架橋共試薬の存在下で乾燥させると、それらが反応して、架橋された構造体を形成しうる。乾燥中のインク又は乾燥インクにおける当該架橋されたポリマーネットワークは、インクの再溶解性/再分散性に悪影響を及ぼし、インクジェットプリントヘッドにおけるノズルを不可逆的に詰まらせる可能性がある。
【0082】
Neorez R605等の従来の(非架橋)PUDもインクジェット印刷インク用途では再溶解性に劣る。これは、恐らくは、これらのポリマーの分子量(即ち、50,000を超える数平均分子量)が、本発明のインク組成物に使用されるSC-PUDの分子量及び当該技術分野で記載されるヒドロキシ官能性PUD(「OH-PUD」)の分子量より大きいことに起因する。本発明者は、OH-PUD、例えば当該技術分野で記載されるものを含むインクが優れた再溶解性を実際に有することを確認した。しかし、恐らくはそれらのヒドロキシル含有量と低分子量(典型的には15,000未満の数平均分子量)の両方に起因して、当該OH-PUDを含むインクの印刷物の耐水性が不十分である。興味深いことに、本発明者は、本発明に係る新種のSC-PUDに関して、ケトン基又はアルデヒド基に加えて、ポリマー鎖末端のヒドロキシル基の存在によりインクの再溶解性が促進されうるが、これは、再溶解性の付与に必須ではない。恐らく、PUDの分子量がより重要である。場合によっては、SC-PUDは、数平均分子量が10,000未満、更には5,000未満であってもよい。SC-PUDの組成に基づいてPUDのケトン若しくはアルデヒド含有量又はヒドロキシル価を把握することにより、数平均分子量の計算(基本的には鎖末端分析)が可能である。質量平均分子量も、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によって測定された。GPCによるSC-PUDの分子量の測定では、自己硬化化学構造、典型的にはADHの共試薬の不在下で行われたことに留意されたい。
【0083】
本発明のインクに使用されるSC-PUDは、好ましくは、インクが印刷及び乾燥されるとSC-PUDの硬化に影響を与えるジアミン又はジヒドラジド共溶媒、好ましくは第一級アミン及びヒドラジドと組み合わされる。好ましい二官能性SC-PUD、即ち両ポリマー鎖末端にケトン基を有する直鎖状ポリウレタン、(場合によっては一官能性SC-PUD)を二官能性アミン又はヒドラジド共試薬と組み合わせると、架橋することなく硬化プロセスが進行して、SC-PUD及び二官能性共試薬の鎖延長直鎖状付加物が生成される。それらをインクジェット印刷用途のみならず、フレキソ印刷及びグラビア印刷により塗布される水性インクに特に好適なものとしているのは、SC-PUDのこの差別的特徴である。硬化プロセスは、室温で24時間以上進行しうる、又は印刷物を高温、例えば50℃以上の温度にすることによって加速されうる。SC-PUDのケトン(又はアルデヒド)基を硬化させることができる水溶性の多官能性試薬としては、アジピン酸ジヒドラジド(「ADH」)、ピメリン酸ジヒドラジド、並びに二官能性酸、脂肪族の二、三及びそれ以上の多官能性アミンに由来する任意の他のジヒドラジドが挙げられるが、それらに限定されない。後者は、「ジェファミン(Jeffamine)」の商品名でハンツマン社から市販されている多官能性アミンを含むポリエチレンオキシドを含んでいてもよい。その構造の一部として第一級又は第二級アミンを含むポリマー分散体を使用してケトン含有PUDを硬化させることも可能である。炭酸アンモニウムジルコニウム等の金属錯体を使用することによってSC-PUDのケトン基を硬化させることもできる。しかし、既に説明した理由により、二官能性アミン及びヒドラジド共試薬が好ましい。
【0084】
炭酸アンモニウムジルコニウム(「AZC」)等の金属錯体を使用して、自己架橋PUDを調製することができる。当該金属錯体は、ポリマー分散体の水性相に存在すると、インクが印刷及び乾燥された後に、PUD骨格に存在するカルボン酸及びカルボニル基と反応しうる。これは、米国特許第7,947,760号に明記されているように、アクリル分散体については既に達成されている。AZCを使用する場合に課題になりうる組成物の品質保持期間は、酒石酸アンモニウムを使用することによって長期化された。この手法は、PUD化学構造では、まだ採用されていない。本発明において、本発明者は、(ADHを全く含まない)SC-PUDを含むインクにAZCを添加すると、ADHを硬化共試薬として使用した同様のSC-PUDを含むインクを用いた場合に達成される程度ほどではないが、ある程度の再溶解性及び不粘着性を有するインクが製造されることを示した。
【0085】
必須の特徴ではないが、本発明により調製されたインクは、SC-PUD以外の任意のさらなる水溶性、アルカリ可溶性又は水分散性樹脂を含んでいてよい。理解されるように、アルカリ可溶性樹脂は、典型的には、樹脂を水に溶解して水溶液を形成できるように、好適な塩基で中和することが可能なモノマーブレンドの一部としての酸性官能基を含む。さらなる樹脂としては、ポリウレタン分散体、自己架橋ポリウレタン分散体、アルカリ可溶性アクリル樹脂、アクリル分散体、自己架橋アクリル分散体、ポリエステル分散体、ポリ(酢酸ビニル)及び酢酸ビニル分散体のコポリマー、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)が挙げられるが、それらに限定されない。当業者は、さらなる樹脂の添加によって、本発明により調製されたインクを改質することが可能であるが、当該改質は本発明の範囲に含まれることを理解されたい。
【0086】
本発明の代替的な態様において、インクは、SC-PUD以外の任意のさらなる水溶性、アルカリ可溶性又は水分散性樹脂を含まない。本発明のインクは、さらなるポリウレタン分散体(即ちSC-PUD以外のポリウレタン分散体)、自己架橋ポリウレタン分散体、アルカリ可溶性アクリル樹脂、アクリル分散体、自己架橋アクリル分散体、ポリエステル分散体、ポリ(酢酸ビニル)又は酢酸ビニル分散体のコポリマー、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)を含まず、好ましくは、自己架橋アクリル分散体を全く含まない場合もありうる。
【0087】
本発明により調製されたインクに使用できる樹脂の合計量は限定されないが、SC-PUDと他の樹脂の乾燥合計質量に対して、全インク組成物の2.5%(w/w)から40.0%(w/w)の範囲、より好ましくは5.0%(w/w)から30.0%(w/w)の範囲、最も好ましくは5.0%(w/w)から20.0%(w/w)の範囲であってもよい。
【0088】
本発明の製品は、本来主として水系であるため、殺生剤又は防かび剤を含むことも好ましい。好適な例としては、以下の殺生剤構造型、即ちベンズイソチアゾリノン、ブロモ-ニトロ-プロパン-ジオール、イソチアゾリノン、エチレンジオキシジメタノール又はヨードプロピニルブチルカルバメートをベースとした製品が挙げられるが、それらに限定されない。いくつかの市販のグレードとしては、インターサイド(Intercide)(アクロスケミカルズ(Akcros Chemicals)社)又はニパサイドN(クラリアント(Clariant)社)の商品名で市販されているものが含まれる。考えられる他の種類の殺生剤としては、デヒドロ酢酸ナトリウム(ロンザ(Lonza)社のジオガード(Geogard)111S)、安息香酸ナトリウム(RTヴァンダービルト(R.T. VANDERBILT)社のバンサイド(Vancide)51)、ナトリウムピリジンチオール-1-オキシド(アーチケミカルズ(Arch Chemicals)社のSodium Omadine)、o-フェニルフェノールのナトリウム塩(ダウケミカルズ(DOW Chemicals)社のダウィサイド(Dowicide)A、及びエチルp-ヒドロキシベンゾエート(Aako社のNipastat Sodium)が含まれる。これらは、好ましくは、インク組成物中0.01~1.00質量%の量で使用される。
【0089】
脱泡剤を配合物に任意選択で含めることもできる。これらは、インクの製造時及び噴射時の泡の形成を防止する。脱泡剤は、再循環プリントヘッドに特に重要である。好適な脱泡剤の例としては、エボニック(Evonik)社から市販されているTEGO FOAMEX N、FOAMEX 1488、1495、3062、7447、800、8030、805、8050、810、815N、822、825、830、831、835、840、842、843、845、855、860及び883、TEGO FOAMEX K3、TEGO FOAMEX K7/K8及びTEGO TWIN 4000が挙げられるが、それらに限定されない。BYK社からは、BYK-066N、088、055、057、1790、020、BYK-A530、067A及びBYK354が市販されている。ダウコーニング社からは添加剤DC62、DC65、DC68、DC71及びDC74が市販されている。ミュンジング(Munzing)社からは、アジタン(Agitan)120、150、160、271、290、298、299、350、351、731、760、761及び777が市販されている。エアプロダクツ(Air products)社からは、サーフィノール(Surfynol)104PA、AD01、DF-110、DF-58、DF-62、DF-66、DF-695、DF-70及びMD-20が市販されている。
【0090】
プリントヘッドのフェースプレート上の湿りを調整すると共に基材上に所望の液滴の広がりを与える、又はマルチパスインクジェット印刷の場合は、乾燥した液滴の広がりを湿らせるために必要であるインクの表面張力の調節を行うために、表面調節添加剤が任意選択でしばしば使用される。耐滑り性及び耐引掻き性のレベルの調節にも使用できる。好適な表面調節添加剤の例としては、いずれもエボニックから市販されているTEGO FLOW 300、370及び425、TEGO GLIDE 100、110、130、406、410、411、415、420、432、435、440、482、A115、及びB1484、TEGO GLIDE ZG 400、TEGO RAD 2010、2011、2100、2200N、2250、2300、2500、2600、2650、及び2700、TEGO TWIN 4000及び4100、TEGO WET 240、250、260、265、270、280、500、505及び510 並びにTEGO WET KL245が挙げられるが、それらに限定されない。BYK社からは、BYK333及び337、BYK UV 3500、BYK 378、347及び361、BYK UV 3530及び3570、CERAFLOUR 998及び996、NANOBYK 3601,3610及び3650、並びにCERMAT 258が市販されている。サイテック(Cytec)社からは、EBECRYL 350及び1360、MODAFLOW 9200及びEBECRYL 341が市販されている。サートマー(Sartomer)社の脂肪族シリコーンアクリレートCN9800が使用できる。エアプロダクツ社からはサーフィノール104、420、440、465、485、61、82及び2502が市販されている。クロダ(Croda)社からはマルチウェット(Multiwet)BD、EF、SU、SO及びVEが市販されている。デュポン(Du Pont)社からはキャップストーン(Capstone)FS-30、31、34、35、50、51、60、61、63、64、65及び3100が市販されている。
【0091】
インク配合物には、任意選択で好適な脱気剤を含めることができる。これらは、硬化されたインクフィルムにおける空気含有物及びピンホールの形成を防止する。これらは、プリントヘッドにおける信頼性の課題を引き起こしうる調整拡散の低減も行う。非限定的な例としては、エボニック社から市販されている以下の製品、即ちTEGO AIREX 900、910、916、920、931、936、940、944、945、950、962、980及び986が挙げられる。
【0092】
本発明のインク組成物は、顔料及び/又は染料を含む1種又は複数の着色剤を任意選択で含んでいてもよい。好適な有機又は無機顔料の例としては、カーボンブラック、酸化亜鉛、二酸化チタン、フタロシアニン、アントラキノン、ペリレン、カルバゾール、モノアゾ及びジアゾベンズイミダゾール、ローダミン、インジゴイド、キナクリドン、ジアゾピラントロン、ジニトロアニリン、ピラゾール、ジアゾピラントロン、ピラゾール、ジアニシジン、ピラントロン、テトラクロロイソインドリン、ジオキサジン、モノアゾアクリリド及びアントラピリミジンが挙げられる。染料としては、アゾ染料、アントラキノン染料、キサンテン染料、アジン染料、及びこれらの組合せ等が挙げられるが、それらに限定されない。
【0093】
カラーインデックスインターナショナルに従って分類される市販の有機顔料を使用することができ、それらは、限定することなく、以下の商品名、即ち青色顔料としてPB1、PB15、PB15:1、PB15:3、PB15:4、PB15:6、PB16、PB60、褐色顔料としてPB5、PB23及びPB265、緑色顔料としてPG1、PG7、PG10及びPG36、黄色顔料としてPY3、PY14、PY16、PY17、PY24、PY65、PY73、PY74、PY83、PY95、PY97、PY108、PY109,PY110、PY113、PY128、PY129、PY138、PY139、PY150、PY151、PY154、PY156、PY175、PY180及びPY213、橙色顔料としてPO5、PO15、PO16、PO31、PO34、PO36、PO43、PO48、PO51、PO60、PO61及びPO71、赤色顔料としてPR4、PR5、PR7、PR9、PR22、PR23、PR48、PR48:2、PR49、PR112、PR122、PR123、PR149、PR166、PR168、PR170、PR177、PR179、PR190、PR202、PR206、PR207、PR224及びPR254、紫色顔料としてPV19、PV23、PV32、PV37及びPV42、及び黒色顔料としてPBk1、PBk6、PBk7、PBk8、PBk9、PBk10、PBk11、PBk12、PBk13、PBk14、PBk17、PBk18、PBk19、PBk22、PBk23、PBk24、PBk25、PBk26、PBk27、PBk28、PBk29、PBk30、PBk31、PBk32、PBk33、PBk34、PBk35、NBk1、NBk2、NBk3、NBk4、NBk6で市販されているもの、並びにそれらの組合せ等を含む。
【0094】
それらの顔料は、典型的には1ミクロン未満に粉砕され、粉砕後は、より良好な透明性及び広い色域を有するように、粒径分布が好ましくは10~500nm、より好ましくは10~350nmになるようにする。
【0095】
発明の組成物に上記顔料を含めるために、顔料を製造し水中で濃縮物として安定的に保管することが好ましい。これは、典型的には、顔料粒子の表面に親水性官能基を導入する水溶性及び/又は水分散性界面活性剤を使用して、顔料を水溶性又は水分散性樹脂に分散させることによって達成される。これらの分散樹脂の例は非常に多く、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、アクリル酸-アクリルニトリルコポリマー、酢酸ビニル-アクリレートコポリマー、アクリル酸-アクリレートコポリマー、スチレン-アクリル酸コポリマー、スチレン-メタクリル酸コポリマー、スチレン-メタクリル酸-アクリレートコポリマー、スチレン-アルファメチルスチレン-アクリル酸コポリマー、スチレン-アルファメチルスチレン-アクリル酸-アクリレートコポリマー、スチレン-マレイン酸コポリマー、スチレン-無水マレイン酸コポリマー、ビニルナフタレン-アクリル酸コポリマー、ビニルナフタレン-マレイン酸コポリマー、酢酸ビニル-マレエートコポリマー、酢酸ビニル-クロトン酸コポリマー、及び酢酸ビニル-アクリル酸コポリマー、並びにそれらの塩を挙げることが可能である。それらのコポリマーは、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、交互コポリマー及びグラフトコポリマーの形態で使用できる。当該樹脂の例としては、BASF社から市販されているジョンクリル(Joncryl)67、678、8500、586、611、680、682、683及び69が挙げられる。これらの樹脂は、一般に、ポリマー溶液の調製を可能にするためにアンモニアで中和される。当該樹脂を任意の他の有機アミン、又は無機塩基で中和することも可能である。
【0096】
本発明に係るインクは、顔料分散体、例えば、顔料、以上に列記した水溶性及び/又は水分散性樹脂のうちの1種又は複数を含む水性分散体を任意選択で含んでいてもよい。水性顔料分散体は、1種又は複数の水溶性及び/又は水分散性界面活性剤を任意選択で更に含んでいてもよい。
【0097】
顔料分散体に使用される界面活性剤の例としては、アルカンスルホネート、アルファ-オレフィンスルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、アルキルナフタレンスルホネート、アシルメチルタウリネート、ジアルキルスルホスクシネート、アルキルスルフェート、硫化オレフィン、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート、ポリカルボン酸及びモノグリセロールホスフェート等の陰イオン性界面活性剤、アルキルピリジニウム塩等の両性界面活性剤、並びにポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミド、グリセロールアルキルエステル及びソルビタンアルキルエステル等の非イオン性界面活性剤が挙げられるが、それらに限定されない。例としては、BASF社のEFKA 1000、4000、5000及び6000シリーズの製品、ダウ社のタモール(Tamol)シリーズの製品、ルブリゾール(Lubrizol)社のソルスパーゼ27,000、40,000、44,000、46,000及び47,000が挙げられる。
【0098】
本発明者は、陰イオン性及び/又は非イオン性分散剤を含む顔料分散体を使用して、優れた再溶解性を有し、優れた耐水(湿摩擦)性を有する印刷物を生成できるインクジェットインク組成物を製造した。本質的に水に影響されやすい非イオン性分散剤(界面活性剤)では、耐水性に劣るインクが製造されうるため、SC-PUD、及び非イオン性分散剤を使用して調製された顔料分散体を含むインクが耐水性印刷物を生成できるという知見は、インクジェット用途にとって有意な知見である。そのため、本発明の任意選択の特徴は、陰イオン性若しくは非イオン性分散剤、又はその両方の組合せを使用して調製された顔料分散体を含むインクに関するものである。インクが、陰イオン性分散剤を使用して調製された顔料分散体を含む場合は、陰イオン性分散剤は、好ましくは陰イオン性アクリルコポリマー分散剤である。
【0099】
本発明により調製されるインクジェット組成物は、マルチパス又はシングルパス処理による印刷に好適である。本発明が対応する用途としては、木綿が豊富な織物を含む繊維製品のマルチパス印刷、繊維製品のシングルパス印刷、段ボールを含む包装のマルチパス印刷、ラベル、波形段ボール及びフレキシブル包装を含む包装のシングルパス印刷、缶の金属装飾及び装飾印刷を含む金属基材のシングルパス及びマルチパス印刷が挙げられるが、それらに限定されない。本発明により調製されるインクジェット組成物は、マルチパスグラフィックス印刷市場にも理想的である。グラフィックス市場では、紙、ビニル、アクリル、ポリスチレン、ポリカーボネート、金属等を含むが、それらに限定されない任意の軟質又は硬質基材上に、発明のインクジェット組成物を印刷することができる。本発明者は、本発明のインクジェットインクが、グラフィックスインクジェット印刷市場で使用されるビニル、アクリル及びポリカーボネート基材、特にマルチパスインクジェットグラフィックス市場で使用されるビニル、アクリル及びポリカーボネート基材上で優れた性能(即ち、優れた密着性及び耐水(湿摩擦)性)を有することを示した。本発明は、インクジェット組成物に向けられるが、水性のフレキソグラフ及びグラビアインクにも役立つ。
【0100】
いずれの場合にも、発明のインクジェット組成物の印刷に先立って、印刷対象の基材に印刷受容性プライマーを塗布することができる。印刷対象の基材、特に、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ナイロンフィルム、酢酸セルロースフィルム、ポリエチレンフィルム、アルミニウム箔、金属シート及びロール、並びにそれらの任意の被覆物を含む包装基材を、印刷前にコロナ放電又はプラズマ処理により更に処理して、密着性及び印刷受容性を高めることができる。同様に、印刷された材料に対して、オーバーラッカー、ラミネーション等を含むが、それらに限定されないさらなる処理を施して最終製品を実現することができる。包装市場では、本発明の印刷インクは、接着剤又は熱ラミネーション法によって製造できる積層体の調製に役立つ。当業者は、様々な方法、及び本発明のインクが上述の市場において適切に機能することを可能にする当該方法の詳細を認識する。そのため、本発明のさらなる任意選択の実施形態では、当該プライマーがプレコーティングされた基材上に本発明に係るインクジェット印刷インクを印刷する。
【0101】
定義
沸点:特に明記しない限り、いずれの沸点も101kPaの標準的な大気圧の下で測定される。
【0102】
蒸発熱:一定量の液状物質の量を気体に変換するためにその物質に加えるべきエネルギーの量(エンタルピー)と定義される。本開示の目的では、蒸発エンタルピーは、対象となる物質の標準沸点において示されるものであり、標準沸点は、一気圧における物質の沸点である。
【0103】
本明細書に用いられる場合、室温は25℃である。
【0104】
特に明記しない限り、溶解性は25℃で測定される。
【0105】
ヒドロキシル価(OHV):これは、遊離ヒドロキシル基を含む1グラムの化学物質のアセチル化で吸収される酢酸を中和するのに必要な水酸化カリウムのミリグラム数と定義される。ヒドロキシル価は、ISO 4629-1:2016(E)に従って好適に測定される。
【0106】
酸価(AV):1グラムの化学物質を中和するのに必要な水酸化カリウム(KOH)のミリグラム単位の質量。特に明記しない限り、酸価は全酸価を指し、ISO 2114:2000(E)(方法B)規格に従って好適に測定される。
【0107】
分子量:全体を通じて数平均分子量及び質量平均分子量の両方を指す。数平均分子量及び質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により求められる。好ましくは、分子量は、ポリスチレン標準との比較によって測定される。例えば、分子量の測定は、2つのGPCウルトラスチラゲルカラム、103及び104Å(5μm混合、300mm×19mm、ウォーターズミリポア社(米国マサチューセッツ州Milford)及び移動相としてのTHFを装備したヒューレットパッカード1050シリーズHPLCシステム上で実施できる。この定義は、典型的には分子量分布を有するポリマー材料に適用されることを当業者は理解する。ここで実施される実験作業において、理論的な数平均分子量は、カルボニル(即ちケトン及び/又はアルデヒド)含有量及びポリマーの質量に基づいて、且つカルボニル基がポリマーの2つの鎖末端の各々に存在すると仮定して、末端基分析(鎖末端分析とも称する)により算出された。
【0108】
カルボニル含有量:カルボニル含有量(即ちケトン及び/又はアルデヒド含有量)は、好ましくは、定量的な13C NMR分光法を使用して測定される。好ましくは、カルボニル含有量は、好適な較正試薬、例えば、SC-PUDを調製するために使用されるエンドキャッピング試薬との比較によって測定される。例えば、濃度が既知のエンドキャッピング試薬に対するいくつかの13C NMR実験を行い、NMRスペクトル上の特定の炭素ピーク、例えばカルボニルピークを積分することによって検量線を作成することができる。次いで、測定対象のポリマーと同じ炭素積分値を検量線と比較することで、ポリマーのカルボニル含有量を得ることができる。ここで実施される実験作業において、カルボニル含有量は、SC-PUDを製造するために使用される原料のモル数から算出される。
【0109】
粒径/平均粒径:本発明の観点では、「粒径」又は「平均粒径」という用語は、体積分布のメジアン粒径(体積%を粒子の径に関連付ける累積分布曲線上で読み取られる全ての粒子の体積の50%に対応する等価球径-しばしば「D(v,0.5)」値と称する)を指す。粒径は、好ましくはレーザ光回折によって測定される。
【0110】
インクジェットインクの再溶解性:特に指定がなければ、再溶解性は、以下のようにして測定される。約60μmのインク層を、6番Kバーを使用してスライドガラス上に塗布した(RKプリント社)。次いで、インクフィルムを40℃で30分乾燥させた。次いで、乾燥したインクを、25%(w/w)プロピレングリコール、0.2%テゴウェット(Tegowet)KL245(界面活性剤、例えばEvonik)及び0.15%(w/w)のトリエタノールアミンを含み、残りが脱イオン水の水性混合物に浸漬させた。この水溶液は、インクワニスの良好なシミュレーションである。再溶解性の高いインクは、典型的には2~5分以内に容易に浸漬液に再溶解/再分散するのに対して、不溶性インクは、浸漬してから60分以内に浸漬液に再分散しない。
【0111】
当業者が理解するように、再溶解性及び再分散性という用語は、当該技術分野において、同じインク特性を指すものとして区別なく使用される。
【0112】
本発明を、その好ましい実施形態を含めて詳細に説明した。しかし、当業者は、本開示を検討することで、本発明の範囲及び趣旨の範囲内で本発明に修正及び/又は改造を加えることができることが理解される。
【0113】
本発明の番号付き項目
本発明を以下の番号付き項目により更に説明する。
1.ポリウレタン分散体を含む水性印刷インク組成物であって、ポリウレタン分散体のポリウレタンが、(a)1つ又は複数のポリマー鎖末端にカルボニル基が存在するという特性、(b)数平均分子量が50,000以下、より好ましくは25,000以下であるという特性、並びに(c)カルボニル基の含有量が乾燥ポリマー質量に対して0.02~4.0mmol g-1の範囲であるという特性を含む、水性印刷インク組成物。
2.インクジェットインク、フレキソグラフインク及びグラビアインクからなる群から選択される、項目番号1に記載の組成物。
3.ポリウレタンが、大部分が直鎖状の構造であり、ポリマー上のカルボニル基の平均数が2以下である、項目番号1又は2に記載の組成物。
4.ポリウレタン分散体が、乾燥ポリマー質量に対して10mgKOHg-1以上の酸価を有する、項目番号1から3のいずれかに記載の組成物。
5.ポリウレタン分散体が、200nm以下、より好ましくは150nm以下の平均粒径を有する、項目番号1から4のいずれかに記載の組成物。
6.ポリウレタン分散体が、カルボニル化合物と反応して組成物を硬化させることができる試薬を更に含む、項目番号1から5のいずれかに記載の組成物。
7.試薬が、二官能性、三官能性、若しくはそれ以上の多官能性第一級ジアミン、又はジヒドラジドであり、当該試薬が、好ましくは二官能性試薬である、項目番号6に記載の組成物。
8.二官能性試薬がアジピン酸ジヒドラジドである、項目番号6に記載の組成物。
9.試薬が多価金属架橋剤、好ましくはジルコニウム錯体である、項目番号6に記載の組成物。
10.酒石酸、グルコン酸、クエン酸、マレイン酸、コハク酸及びそれらの塩からなる群から選択される1種又は複数の酸を更に含む、項目番号1から9のいずれかに記載の組成物。
11.ポリウレタン分散体のポリウレタンが、ヒドロキシル基を更に含み、ポリウレタンのヒドロキシル価が、好ましくは100mgKOHg-1以下、より好ましくは50mgKOHg-1以下である、項目番号1から10のいずれかに記載の組成物。
12.150℃以上の沸点及び500Jg-1以上の蒸発熱を有する任意の溶媒のブレンドを25%(w/w)以下含む、項目番号1から11のいずれかに記載の組成物。
13.陰イオン性分散剤若しくは非イオン性分散剤、又はそのブレンドを用いて調製された顔料分散体を含む、項目番号1から12のいずれかに記載の組成物。
14.請求項1の基準を満たさない任意のさらなるポリウレタン分散体を更に含む、項目番号1から13のいずれかに記載の組成物。
15.さらなるスチレン-アクリル分散体を更に含む、項目番号1から14のいずれかに記載の組成物。
16.物品の印刷方法であって、項目番号1~15のいずれか一項又は複数項に記載の組成物を基材上に印刷する工程と、硬化させる工程とを含む、方法。
17.基材が、包装、食品包装、金属基材、繊維製品、装飾積層体及びグラフィックスの印刷に好適である、項目番号16に記載の方法。
18.項目番号1~15のいずれか一項又は複数項に記載の組成物を含む、印刷物品。
【実施例
【0114】
本発明を更に例示し、本発明の範囲を限定することを意図せず、またそのように解釈されるべきでない以下の非限定的な実施例により本発明を更に説明する。
【0115】
材料
ダオタン(Daotan)6425:固形分が約40%であり、ヒドロキシル価が約55mgKOH/gである従来のヒドロキシ官能性ポリウレタン分散体(オルネクス(Allnex)社)。
Neorez R605:固形分が約33%であり、ヒドロキシル価が約5mgKOH/g未満である従来のポリウレタン分散体(DSMレジン社)。
ダオタンTW7064:固形分が約40%であり、ポリマー鎖末端がケトン基を有さない従来の自己架橋ケトン含有ポリウレタン分散体(オルネクス社)。
ジョンクリルFLX5000:固形分が約42%である自己架橋アクリル分散体(BASF社)。
ジョンクリルFLX5060:固形分が約43%であり、印刷インク用途に対して良好な再溶解性を有すると記載されている自己架橋アクリル分散体(BASF社)。
テゴウェットKL245:界面活性剤(エボニック社)。
【0116】
トリエタノールアミン
プロピレングリコール:約188℃の沸点及び約880J/gの蒸発熱を有する水溶性共溶媒。
MMB(3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール):約174℃の沸点及び約384J/gの蒸発熱を有する水溶性共溶媒。
シアン顔料分散体A:約16%(w/w)の顔料及び陰イオン性分散剤を含むシアン15:3顔料の水性分散体。
シアン顔料分散体B:約20%(w/w)の含量を含み、非イオン性分散体を更に含むシアン15:3顔料の水性分散体。
カルボジライトSV-02:ポリカルボジイミド架橋剤(日清紡ケミカル株式会社)。
【0117】
実施例で使用したSC-PUD
表1は、先述の本発明の要件を満たすインクジェット組成物に好適な水性インク組成物の調製に使用したSC-PUDの詳細を示す。特に明記しない限り、いずれのSC-PUDも、乾燥後の印刷物の硬化を有効にするために共試薬のアジピン酸ジヒドラジド(SC-PUDのADHに対するモル比が1:1)を含む。中和塩基としてトリエチルアミンを使用したSC-PUD C以外の全てのSC-PUDが中和剤としてN,N-ジメチルエタノールアミンを使用した。
【0118】
【表1】
【0119】
試験
100rpmの18番スピンドルを装備したBrookfield DV-II+Pro粘度計を使用して32℃で粘度を測定した。
【0120】
再溶解性試験:約60μmのインクフィルムを、6番Kバーアプリケータを使用してスライドガラス上に塗布した(RKプリント社)。次いで、インクを40℃で30分間乾燥させてから、25%のプロピレングリコール、0.2%のテゴウェットKL245及び0.15%のトリエタノールアミンを含む水性溶液に浸漬した。再溶解性を以下の基準で評価した。「再溶解性が高い」(乾燥したインクフィルムが3分以内に浸漬液に分散し、未溶解インクの形跡が見られなかった)。「再溶解性がある」(乾燥したインクフィルムが3~5分以内に浸漬液に分散し、未溶解インクの形跡が見られなかった)。「緩慢に再溶解」(乾燥したインクフィルムが30分以内に浸漬液に分散し、未溶解インクの形跡が見られなかった)。「一部が再溶解」(乾燥したインクフィルムが30分以内に浸漬液に分散し、未溶解インクの形跡が見られる)。「不溶」(乾燥したインクフィルムが30分以内に浸漬液に分散した形跡がほとんどない)。
【0121】
印刷物の調製:Kバーアプリケータ(RKプリント社)を使用して、インクを白色ポリエステル被覆鋼板に8μm塗布した。次いで、熱風ブロワーを使用して印刷物を20秒間乾燥させた。印刷物を更に15分間室温に静置してから、耐溶媒性試験に供した。次いで、印刷物を50℃及び75℃で2分間加熱し、耐溶媒性試験に供した。さらなる試験において、印刷物を50℃で2分間加熱してから、周囲条件(22~25℃)に1~7日間静置して、この印刷後硬化プロセスを通じて耐溶媒性を評価した。
【0122】
耐水性:印刷物を水に浸した綿棒で擦ることにより耐水性を測定した。印刷物を除去又は破壊するのに必要とされたダブルラブの回数を記録した。これは、当該業界で周知の試験である。
【0123】
表2は、本発明の要件を満たさないポリウレタン及びアクリル分散体を含む、インクジェット印刷に好適ないくつかの比較インクに対する結果を示す。米国特許出願公開第2018/0105710号の教示に基づく、ヒドロキシ官能性PUD及びポリカルボジイミド架橋剤を含むインクに対する結果も表2に含める。
【0124】
【表2】
【0125】
表2の結果は、本発明が解決する課題、即ちインク特性(即ち再溶解性)と印刷物特性(即ち、ダブルラブによって実証される良好な耐水性を有する印刷物を生成する能力)を兼ね備える、特にインクジェット印刷用の水性印刷インクを製造する方法を反映する。従来のポリウレタン及びアクリル分散体は、確かに耐性印刷物を生成するが、それらを含むインクは極めて難溶である。対照的に、OH-PUDダオタン6425により生成されるインクは、再溶解性が高いが、不粘着性に劣る。ポリカルボジイミド架橋剤をこのインクに添加すると、不粘着性が向上するものの、再溶解性が大きく損なわれる。また、比較例C5及びC6は、50℃の初期乾燥後の室温での24時間の後硬化期間の後も十分な耐水性を発現しない。
【0126】
表3は、比較例7及び8を較正する、それらのポリマー構造の一部としてケトン基を有さないSC-PUDであるSC-PUD A及びHを含む表1に記載のSC-PUDを使用して調製したインクについての結果を示す。それらのインクは、先述した方法で試験した。さらなる試験として、インクを50℃で7日間保管し、粘度を再測定することによってインクの安定性を評価した。粘度が10%以上増大すると不安定であると見なされる。PUDを含むインクは、粘度がわずかに低下するのが普通である。
【0127】
【表3】
【0128】
表3の結果は、SC-PUDを含む水性インクの有益性を示す。I1をC7と比較し、I2をC8と比較すると、SC-PUDからのケトン官能基の除去は、印刷物の耐水性に影響を与えることが分かる。全ての本発明の実施例は、特に、硬化試薬ADHを含有するSC-PUDを含むインクのインク再溶解性と不粘着性のバランスが優れることを示している。ケトン官能性SC-PUDを含むがADH硬化剤を含まない実施例I3は、ADHを含むことを除いては基本的に同様のSC-PUDであるI2と同レベルではないものの、ある程度の耐水性を有する印刷物を生成できることは興味深い。SC-PUDが、N,N-ジメチルエタノールアミンでなくトリエチルアミンで中和されることを除いて基本的にSC-PUDと同じであるSC-PUD Cを含むインク例I4が更に注目される。このより揮発性の強い中和アミンは、インクの再溶解性にわずかな悪影響を及ぼすが、不粘着性がより迅速に発現することを可能にする。これは、第三級アミンの存在下でSC-PUDのケトン基とADHとの反応が緩慢化することに起因すると考えるのが妥当であり、その結果、(トリエチルアミンの沸点が89℃に対して134℃の沸点を有する)N,N-ジメチルエタノールアミン等のより揮発性の弱いアミンで中和されたSC-PUDを含むインクは、硬化するのがより遅い。再溶解性を促進するために、本発明のさらなる態様は、中和を行う第三級アミンが、好ましくは125℃を上回る沸点を有することである。
【0129】
SC-PUD及び他の樹脂のブレンドを使用してインクを調製できると考えられる。表4は、これらのラインに沿って調製されたいくつかのインク、即ち先に説明したものに続くインク組成物についての結果を示す。
【0130】
【表4】
【0131】
表4の結果は、SC-PUDを他の水性樹脂と組み合わせることによってインク組成物を調製できることを示す。最終印刷物の耐水性に関しては、そのようにすることに明確な有益性はなく、優れたインク再溶解性が損なわれうる。しかし、当業者は、例えば密着性等の特定の特性を高めるために他の樹脂が使用できることを理解する。本発明者は、インク例I1及びI2が、コロナ放電処理されたPETフィルム及びOPPフィルム、アクリル被覆PETフィルム、並びにアクリル、ビニル及びポリカーボネートを含むグラフィックス基材を含む広範な基材に対して優れた密着性を有することを示した。いずれのインクも当該例に使用された被覆鋼板に対して良好な密着性を示した。
【0132】
様々な濃度のSC-PUD、並びに異なる溶媒ブレンド及び濃度を含む水性組成物を表5に示す。ここでも、既に示した組成に従ってインクを調製した。SC-PUD又は溶媒濃度の違いは、さらなる脱イオン水をインクに添加することによって補償した。
【0133】
【表5】
【0134】
表5の結果は、より低濃度のSC-PUD、並びに代替的な溶媒ブレンド及びより低い総溶媒濃度で発明の組成物を調製できることを示す。注目すべき特徴は、15%(w/w)以下のプロピレングリコールを含むインクでは50℃で2分後の乾燥応答が如何に高まるかということである。表5に示される全てのインクは高レベルの再溶解性を維持している。表5はまたMMBの添加により、発明の組成物の有機溶媒濃度(%)が低くなる(水に置き換えられる)ことも示す。このように有機溶媒の含有量が減少すると同時に水の含有量が増加すると、所望の性能特性を示しながら比較インク組成物より環境に優しい発明のインク組成物が得られる。
【0135】
上記いずれの実施例にも、その調製に非イオン性分散剤を使用する分散体であるシアン顔料分散体Aを使用した。SC-PUDは、それらの製造に非イオン性分散剤を使用する顔料分散体を用いて、インク再溶解性と良好な不粘着性の付与とのバランスが良好なインクの製造をも可能にする。これを実証するために、シアン顔料分散体Bを使用してさらなるインク例を調製した。これらのインクの詳細、及び関連する結果を表6に示す。
【0136】
【表6】
【0137】
表6から、顔料分散体Bが、顔料分散体Aと比較して、即ちC9がC4と比較して印刷耐水性にどの程度の影響を与えるかが分かる。発明のインク例I19は、従来の自己架橋アクリル分散体ジョンクリルFLX5060をベースとした比較例C10と比較して、再溶解性が高く、優れた耐水性を発現する印刷物を生成することが可能であった。また、比較例C10のインクは、再溶解性が非常に劣る。
【手続補正書】
【提出日】2024-02-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン分散体を含む水性印刷インク組成物であって、前記ポリウレタン分散体のポリウレタンが、(a)1つ又は複数のポリマー鎖末端にケトン基又はアルデヒド基が存在するという特性、(b)数平均分子量が50,000以下、より好ましくは25,000以下であるという特性、並びに(c)ケトン基及びアルデヒド基の含有量が乾燥ポリマー質量に対して0.02~4.0mmol g-1の範囲であるという特性を含む、水性印刷インク組成物。
【請求項2】
1つ又は複数のポリマー鎖末端に存在する基がケトン基である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
インクジェットインク、フレキソグラフインク及びグラビアインクからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ポリウレタンが、大部分が直鎖状の構造であり、ポリマー上のケトン基及びアルデヒド基の平均数が2以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記ポリウレタン分散体が、乾燥ポリマー質量に対して10mgKOHg-1以上の酸価を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記ポリウレタン分散体が、200nm以下、より好ましくは150nm以下の平均粒径を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記ポリウレタン分散体が、1つ又は複数のポリマー鎖末端でケトン基又はアルデヒド基と反応して組成物を硬化させることができる試薬を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
硬化が、直鎖延長を介して生じる、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記試薬が、二官能性、三官能性、若しくはそれ以上の多官能性第一級ジアミン、又はジヒドラジドであり、このような試薬が、好ましくは二官能性試薬である、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
前記二官能性試薬がアジピン酸ジヒドラジドである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記試薬が多価金属架橋剤、好ましくはジルコニウム錯体、より好ましくは炭酸ジルコニウムアンモニウムである、請求項7に記載の組成物。
【請求項12】
酒石酸、グルコン酸、クエン酸、マレイン酸、コハク酸及びそれらの塩からなる群から選択される1種又は複数の酸を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記ポリウレタン分散体のポリウレタンが、ヒドロキシル基を更に含み、ポリウレタンのヒドロキシル価が、好ましくは100mgKOHg-1以下、より好ましくは50mgKOHg-1以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記ヒドロキシル基が、1つ又は複数のポリマー鎖末端に存在する、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
150℃以上の沸点及び500Jg-1以上の蒸発熱を有する任意の溶媒のブレンドを25%(w/w)以下含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
陰イオン性分散剤若しくは非イオン性分散剤、又はそのブレンドを用いて調製された顔料分散体を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
請求項1の基準を満たさない任意のさらなるポリウレタン分散体を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
さらなるスチレン-アクリル分散体を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項19】
前記ポリウレタンが、カルボン酸をポリウレタン鎖に含めることによって陰イオン的に安定化されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項20】
陰イオン的に安定化された前記ポリウレタンが、第三級アミン、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムで中和されている、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
陰イオン的に安定化された前記ポリウレタンが、125℃より高い沸点を有する第三級アミンで中和されている、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
陰イオン的に安定化された前記ポリウレタンが、トリエチルアミン又はN,N-ジメチルエタノールアミン、好ましくはN,N-ジメチルエタノールアミンで中和されている、請求項20に記載の組成物。
【請求項23】
物品の印刷方法であって、請求項1から22のいずれか一項に記載の組成物を基材上に印刷する工程と、硬化させる工程とを含む、方法。
【請求項24】
前記基材が、包装、食品包装、金属基材、繊維製品、装飾積層体及びグラフィックスの印刷に好適である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
請求項1から22のいずれか一項に記載の組成物を含む、印刷物品。
【国際調査報告】