(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】生分解性プラスチック組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20240719BHJP
C08L 67/04 20060101ALI20240719BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240719BHJP
A01G 13/02 20060101ALI20240719BHJP
A01M 21/00 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
C08L67/02 ZBP
C08L67/04
C08K3/013
A01G13/02 D
A01M21/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505537
(86)(22)【出願日】2022-07-29
(85)【翻訳文提出日】2024-02-28
(86)【国際出願番号】 GB2022052011
(87)【国際公開番号】W WO2023007186
(87)【国際公開日】2023-02-02
(32)【優先日】2021-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524038495
【氏名又は名称】チェストナット ナチュラル キャピタル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン,イアン イー.
【テーマコード(参考)】
2B024
2B121
4J002
【Fターム(参考)】
2B024DB01
2B121AA19
2B121BB28
2B121EA21
2B121FA16
4J002AE034
4J002CF031
4J002CF182
4J002CF193
4J002DJ057
4J002EF066
4J002EL088
4J002FD017
4J002FD026
4J002FD078
(57)【要約】
本発明は、28~90wt%の量のポリ(ブチレンサクシネート)(PBS)と;5~35wt%の量のポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-バレレート)(PHBV)と;a)10wt%以下の量の生分解遅延ポリマー(BDP)及びb)13wt%以下の量の可塑剤の少なくとも1つとを含む生分解性プラスチック組成物に関する。本発明はさらに、使い捨て製品、例えば、樹木防護材、ケーブルタイ及び前記生分解性プラスチック組成物から形成された他の物品における生分解性プラスチック組成物の使用に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
28~90wt%の量のポリ(ブチレンサクシネート)(PBS)と、
5~35wt%の量のポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-バレレート)(PHBV)と、
a)10wt%以下の量の生分解遅延ポリマー(BDP);及び
b)13wt%以下の量の可塑剤、
の少なくとも1つと
を含む生分解性プラスチック組成物
【請求項2】
前記BDPが、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(ブチレンセバケート)(PBSeb)又はそれらの組み合わせを含む、請求項1に記載の生分解性プラスチック組成物。
【請求項3】
前記BDPが5wt%以下の量で存在する、請求項1又は2に記載の生分解性プラスチック組成物。
【請求項4】
前記可塑剤が、クエン酸エステル、グリセロール、グリセロールトリアセテート又はそれらの組み合わせを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の生分解性プラスチック組成物。
【請求項5】
1種又は複数種の分解防止剤をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の生分解性プラスチック組成物。
【請求項6】
前記分解防止剤が疎水性添加剤、無機充填剤、酸化防止剤及び/又はUV安定剤からなる群から選択される、請求項5に記載の生分解性プラスチック組成物。
【請求項7】
前記疎水性添加剤が天然ワックスを含む、請求項6に記載の生分解性プラスチック組成物。
【請求項8】
前記天然ワックスが、eurikasワックス、カルナウバワックス、ヒマワリワックス、ミツロウ、米ぬかワックス、キャンデリラワックス、又はそれらの組み合わせから選択される、請求項7に記載の生分解性プラスチック組成物。
【請求項9】
前記無機充填剤が、マイカ、シリカ(二酸化ケイ素)、メタケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、チャイナクレー(カオリン)、バイオ炭化物、又はそれらの組み合わせから選択される、請求項5~8のいずれか一項に記載の生分解性プラスチック組成物。
【請求項10】
前記酸化防止剤が、アスコルビン酸及び/又はエチルマルトールから選択される、請求項6~9のいずれか一項に記載の生分解性プラスチック組成物。
【請求項11】
前記UV安定剤が、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール又は4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノール-コハク酸ジメチルコポリマーである、請求項6~10のいずれか一項に記載の生分解性プラスチック組成物。
【請求項12】
補強充填材をさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の生分解性プラスチック組成物。
【請求項13】
前記補強充填材が、ジュート、麻、亜麻、パイナップル、籾殻、竹繊維、ヤシ繊維、バナナ繊維、ダイオウ繊維又はそれらの組み合わせからなる群から選択される天然繊維を含む、請求項12に記載の生分解性プラスチック組成物。
【請求項14】
動物忌避剤をさらに含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の生分解性プラスチック組成物。
【請求項15】
前記動物忌避剤がオクタアセチルスクロースである、請求項14に記載の生分解性プラスチック組成物。
【請求項16】
前記生分解性プラスチック組成物がポリ乳酸(PLA)を実質的に含まない、請求項1~15のいずれか一項に記載の生分解性プラスチック組成物。
【請求項17】
前記生分解性プラスチック組成物が非毒性である、請求項1~16のいずれか一項に記載の生分解性プラスチック組成物。
【請求項18】
28~90wt%の量のポリ(ブチレンサクシネート)(PBS)と;5~35wt%の量のポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-バレレート)(PHBV)と;10wt%以下の量の生分解遅延ポリマー(BDP)とを含む生分解性プラスチック組成物から形成される樹木防護材。
【請求項19】
前記生分解性プラスチック組成物が、13wt%以下の量の可塑剤をさらに含み、任意選択的に、前記可塑剤がクエン酸エステル、グリセロール又はグリセロールトリアセテートを含む、請求項18に記載の樹木防護材。
【請求項20】
前記生分解性プラスチック組成物が、
30wt%以下の量の無機充填剤;
1wt%以下の量の酸化防止剤;
1wt%以下の量の動物忌避剤;
0~10wt%の量の疎水性添加剤;
0~30wt%の量の補強充填材;及び
0~1wt%の量のUV安定剤、
をさらに含む、請求項18又は19に記載の樹木防護材。
【請求項21】
前記樹木防護材が疎水性コーティングで被覆される、請求項18~20のいずれか一項に記載の樹木防護材。
【請求項22】
前記疎水性コーティングが、eurikasワックス、カルナウバワックス、ヒマワリワックス、ミツロウ、米ぬかワックス、キャンデリラワックス、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される天然ワックスを含む、請求項21に記載の樹木防護材。
【請求項23】
28~90wt%の量のポリ(ブチレンサクシネート)(PBS)と;5~35wt%の量のポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-バレレート)(PHBV)と;13wt%以下の量のクエン酸エステル、グリセロール又はグリセロールトリアセテートを含む可塑剤とを含む生分解性プラスチック組成物から形成されたケーブルタイ。
【請求項24】
前記生分解性プラスチック組成物が、10wt%以下の量の生分解遅延ポリマー(BDP)をさらに含む、請求項23に記載のケーブルタイ。
【請求項25】
請求項1~17に記載の生分解性プラスチック組成物を含む物品。
【請求項26】
前記物品が、林業製品、農業製品、園芸製品、若しくはブドウ栽培製品又は包装製品のうちの1つを含む、請求項25に記載の物品。
【請求項27】
前記物品が、種子防護材、植物防護材、樹木防護材、ケーブルタイ又は防草マットのうちの1つを含む、請求項25又は26に記載の物品。
【請求項28】
前記物品を形成するために前記生分解性プラスチック組成物を溶融押出すること、任意選択的に3D印刷することを含む、請求項25~27のいずれか一項に記載の物品を形成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性プラスチック組成物、及び使い捨て製品、例えば、樹木防護材、ケーブルタイ、及び前記生分解性プラスチック組成物から形成される他の物品における生分解性プラスチック組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック材料から形成された製品は、種子、植物、苗木の防護材、防草マット、ケーブルタイを含め、自然環境で一般的に使用されている。本明細書で使用する際「プラスチック」という用語は、ポリマーを主成分とする材料を意味する。プラスチック材料が自然環境を汚染する可能性があるため、製品がその目的を果たすと、自然環境で安全に分解されるように、有限の寿命を持つ環境に優しいプラスチック組成物を提供するための努力がなされている。
【0003】
例えば、ケーブルタイは、一般的にナイロン(ポリアミド6-6)などの硬質プラスチック材料で形成され、これは生分解性ではない。このタイプのケーブルタイは、祭事の間など、既存の構造物に掲示物を一時的に貼り付けるためにしばしば使用される。祭事は通常、2~3日から1~2週間で終了し、その後、掲示物は撤去され、ケーブルタイは廃棄される。特に、地域の環境を汚染しないよう、ケーブルタイは適切な方法で回収・処理されなければならない。しかしながら、ケーブルタイは気づかれずに放置され、自然環境における廃棄物問題として残る可能性がある。
【0004】
さらに、森林・林業業界では、成長初期の苗木を保護するために、毎年何百万もの単回使用プラスチック製樹木防護材が使用されている。樹木保護具は、風又は霜などの環境要因によって引き起こされる被害及び野生動物による被害から苗木を保護することで、幼木の生存率を高めることができる。
【0005】
ほとんどの樹木防護材は、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、及びポリ(塩化ビニル)から作られているが、これらは自然環境に廃棄されても、また確立された技術(例えば、嫌気性消化、堆肥化)を用いても生分解されず、その代わりに持続的な廃棄物問題として残る。例えば、これらのポリマーが環境/海洋中で分解され、マイクロプラスチックになるまでには100年以上かかると推定されており、環境への悪影響を悪化させている。そのため、ほとんどの場合、樹木が十分に成長し、保護する必要がなくなった後に、景観を損なわないように、及び/又は地域の野生生物に潜在的な危険を与えないように、樹木防護材の撤去が必要となる。しかしながら、使用済みの樹木防護材を回収することは、経済的に不可能であり、及び/又は現実的でない場合が多い。さらに、寿命が尽きて回収された樹木シェルタでさえ、埋立地行きになることが多い。
【0006】
したがって、既存の化石由来製品と同等の特性を持ちながらも環境に適合した、樹木防護材やケーブルタイなどの使い捨て製品の代替材料を開発することが望まれている。
【0007】
樹木防護材は、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリカーボネートを主成分とした光分解性プラスチック材料で製造されてきた。このような場合、分解プロセスは微生物による攻撃ではなく、ポリマーの酸化プロセスと紫外線(UV)照射による分解を利用する。特定のライフサイクルが要求される場合、前者のプロセスを制御するのは難しい。これは特に樹木防護材の場合であり、樹木防護材は、樹木の成長を妨げるほどゆっくりと分解することなく、また使用後も長期間環境に残ることなく、樹木が成木に達するのに十分な期間(例えば約5年間)存続する必要がある。
【0008】
したがって、状況によっては、樹木防護材が生分解プロセスを開始するまでの約5年間、樹木防護材を持続させる必要がある。
【0009】
対照的に、光分解性製品は、多くの場合、所望の期間内に完全に分解することができず、その代わりに、10年から15年の間に徐々に分解して大きな破片となり、植栽地に散乱したり、風で散らばったりする可能性がある。さらに、UVによる光分解を促進するために、このような樹木防護材に添加剤を含めると、微細繊維やマイクロプラスチックが環境中に飛散する可能性がある。
【0010】
ポリ乳酸(PLA)から作られた樹木防護材も提案されており、完全な生分解性を謳っている。しかしながら、ポリ乳酸の生分解には特定の条件が必要であり、一般的に自然な生分解は望めない。具体的には、PLAの生分解プロセスは、水分が存在し、自己加水分解プロセスを開始するのに必要な60℃を超える温度でのみ起こる。したがって、PLAの生分解は通常、工業的な大型容器による堆肥化環境を必要とし、無機化をほとんど示さない。そのため、PLAの使用と環境への蓄積は、依然として公害問題を呈する可能性がある。
【0011】
したがって、意図された用途に適した期間内に自然環境中で分解可能であり、分解を助けるための外部因子の適用を必要としない生分解性プラスチック組成物を開発することが望ましい。さらに、この生分解性プラスチック組成物は、樹木防護材等の製造などにおいて、意図された用途に適した物理的特性を有することが望まれる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の態様において、
28~90wt%の量のポリ(ブチレンサクシネート)(PBS)と、
5~35wt%の量のポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-バレレート)(PHBV)と、
a)10wt%以下の量の生分解遅延ポリマー(BDP);及び
b)13wt%以下の量の可塑剤、
の少なくとも1つと
を含む生分解性プラスチック組成物が提供される。
【0013】
本明細書で使用する際「生分解性プラスチック組成物」という用語は、生分解性ポリマーのブレンドから形成される材料を意味する。
【0014】
本明細書で使用する際「生分解性」という用語は、細菌、真菌、及び藻類などの天然に存在する微生物の作用によって分解可能であることを意味する。このような生分解は、ASTM D6400に規定されるように、目に見えたり、区別できたり、有毒な残留物を残さず、他の堆肥化可能な材料と一致する速度で、二酸化炭素(CO2)、水、無機化合物及びバイオマスを生成する。換言すれば、本明細書における生分解性プラスチック組成物は、規格ASTM D6400に従って生分解性であると特徴付けることができる。
【0015】
本明細書において使用される際、生分解遅延ポリマーとは、生分解性プラスチック組成物の生分解速度を遅くするポリマーを意味する。生分解速度が遅くなるということは、本明細書における生分解性ポリマー又は生分解性プラスチック組成物が、BDPを含まない生分解性プラスチック組成物よりも遅れた生分解速度を示し、それによってそのような組成物の寿命を高めることを意味する。例えば、BDPは疎水性ポリマーであり得、これは組成物による水分取り込みを低減し、それによって生分解速度を低下させる可能性がある。BDPは、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(ブチレンセバケート)(PBSeb)又はそれらの組み合わせなどのASTM D6400タイプの生分解性ポリマーであり得る。
【0016】
PBS及びPHBVは、環境条件下で、例えば2年以内に生分解する生体適合性高分子プラスチックである。特許請求された量で組み合わせて使用すると、得られた組成物は、樹木防護材、防草マット、ケーブルタイなどのプラスチック物品の製造に使用するのに十分な柔軟性を有しながら、適切な強度と剛性を有する。
【0017】
特定の状況では、比較的短い生分解期間が望ましいかもしれないが、他の多くの用途では、より長い寿命を必要とする。疎水性であるが非常に柔らかいポリマーであるPCL又はPBSebなどのBDPを10wt%以下の量で含有することにより、生分解性プラスチック組成物の適切な物理的特性を維持しながら、環境条件下での寿命を相乗的に延ばすことができることが、驚くべきことに見出されている。
【0018】
組成物中に存在するBDPの量は、所望の分解寿命に応じて調整することができる。例えば、組成物の寿命を短くしたい場合には、BDPの量を減らすか、又は完全に省略することができる。任意選択的に、BDPは5wt%以下の量で存在してもよい。
【0019】
有利には、可塑剤の含有は、組成物の柔軟性を高め、製造中の混合を改善することができる。例えば、可塑剤は、クエン酸エステル、グリセロール、グリセロールトリアセテート、又はそれらの組み合わせを含み得る。
【0020】
さらに、又は代替的に、生分解性プラスチック組成物は、1種又は複数種の分解防止剤をさらに含み得る。本明細書で使用される際「分解防止剤」という用語は、生分解を遅らせる又は抑制することができる剤を意味する。例えば、分解防止剤は、疎水性添加剤、無機充填剤、酸化防止剤及び/又はUV安定剤からなる群から選択され得る。
【0021】
任意選択的に、疎水性添加剤は天然ワックスを含み得る。例えば、天然ワックスは、eurikasワックス、カルナウバワックス、ヒマワリワックス、ミツロウ、米ぬかワックス、キャンデリラワックス、又はそれらの組み合わせから選択することができる。有利には、天然ワックスなどの疎水性添加剤は、生分解性プラスチック組成物による水分の取り込みを低減させることにより、生分解速度を遅らせる可能性がある。
【0022】
任意選択的に、無機充填剤は、マイカ、シリカ(二酸化ケイ素)、メタケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、チャイナクレー(カオリン)、バイオ炭化物、又はそれらの組み合わせから選択され得る。無機充填剤は、生分解性プラスチック組成物中の水分の取り込みをここでも低減させることにより、生分解速度を遅らせる可能性がある。無機充填剤はまた、強度や剛性などの組成物の機械的特性を向上させる可能性がある。さらに、比較的安価な無機充填剤を含有させることにより、ポリマーの導入量を少なくして、それにより製造コストを削減する可能性がある。無機充填剤であるマイカは、例えば化粧品、コーティング剤、及び塗料中で、UVによる劣化を防止することも示されている。
【0023】
本明細書で使用する際、バイオ炭化材料とは、木材、農業残渣、林業残渣、及び都市廃棄物を含む、リグノセルロース系材料などの有機物及び生物起源物質のガス化及び/又は熱分解の間に形成された材料を意味する。
【0024】
酸化的プロセスによって生じるポリマーの生分解を防止、抑制、又は低減するために、1種又は複数種の酸化防止剤を組成物に添加することができる。酸化防止剤はフリーラジカルを消去する分子である。「フリーラジカル」とは、その他の点では開かれた殻構成上の不対電子を有する原子又は分子種を指し、酸化反応によって形成され得る。任意選択的に、酸化防止剤は、アスコルビン酸及び/又はエチルマルトールから選択されてもよく、これらは両方とも非毒性である。
【0025】
UV安定剤は、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾールであり得、これはPamsorb-P(商標)という商品名で販売されており、食品包装用プラスチックに使用するのに適している。あるいは、UV安定剤は、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノール-コハク酸ジメチルコポリマー(TINUVIN(登録商標)622)であり得、これは持続性、生物蓄積性、又は有毒性であると考えられる成分を含まない。
【0026】
生分解性プラスチック組成物は、補強充填材をさらに含み得る。例えば、補強充填材は、ジュート、麻、亜麻、パイナップル、籾殻、竹繊維、ヤシ繊維、バナナ繊維、ダイオウ繊維、又はそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される天然繊維を含み得る。有利には、補強充填材は、強度及び剛性などの組成物の機械的特性を改善し得る。さらに、比較的安価な補強充填材を含有させることにより、ポリマー導入量を少なくして、それにより製造コストを削減することが可能になり得る。
【0027】
任意選択的に、生分解性プラスチック組成物は、動物忌避剤をさらに含み得る。例えば、動物忌避剤は、非毒性のオクタアセチルスクロースであり得る。動物忌避剤を含むことは、自然環境で使用され、シカ、クマ、ビーバー、げっ歯類などの動物の攻撃を受ける可能性のある製品に有利であり得る。
【0028】
生分解性プラスチック組成物は、ポリ乳酸(PLA)を実質的に含まない場合がある。PLAの代替品が有利であると考えられる。PLAは通常、環境条件下では分解しないためである。その代わりに、PLAの生分解プロセスは、水分の存在下及び60℃を超える温度下でのみ起こるため、通常は工業的な堆肥化条件を必要とする。さらに、PLAはほとんど無機化を示さないため、環境中に蓄積されるとさらなる環境廃棄物の問題を引き起こす可能性がある。
【0029】
生分解性プラスチック組成物は、周辺環境の汚染を避けるために非毒性であり得る。
【0030】
第2の態様において、28~90wt%の量のポリ(ブチレンサクシネート)(PBS)と;5~35wt%の量のポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-バレレート)(PHBV)と;10wt%以下の量の生分解遅延ポリマー(BDP)とを含む生分解性プラスチック組成物から形成された樹木防護材が提供される。生分解性プラスチック組成物は、13wt%以下の量の可塑剤をさらに含み得る。有利には、このような樹木防護材は自然環境中で生分解し、生分解後に土壌中に有毒残留物を残さないので、樹木防護材がその目的を果たした後に除去する必要はない。
【0031】
任意選択的に、樹木防護材を形成する生分解性プラスチック組成物は、さらに以下を含み得る:
30wt%以下の量の無機充填剤;
1wt%以下の量の酸化防止剤;
1wt%以下の量の動物忌避剤;
0~10wt%の量の疎水性添加剤;
0~30wt%の量の補強充填材;及び
0~1wt%の量のUV安定剤。
【0032】
樹木防護材は疎水性コーティングで被覆されていてもよい。例えば、疎水性コーティングは、eurikasワックス、カルナウバワックス、ヒマワリワックス、ミツロウ、米ぬかワックス、キャンデリラワックス、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される天然ワックスを含む。有利には、疎水性コーティングは水をはじくように作用し、それによって水の浸入を防ぎ、樹木防護材の生分解速度をさらに遅くする。
【0033】
第3の態様において、28~90wt%の量のポリ(ブチレンサクシネート)(PBS)と;5~35wt%の量のポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-バレレート)(PHBV)と;13wt%以下の量のクエン酸エステル、グリセロール又はグリセロールトリアセテートを含む可塑剤とを含む生分解性プラスチック組成物から形成されたケーブルタイが提供される。生分解性プラスチック組成物は、10wt%以下の量の生分解遅延ポリマー(BDP)をさらに含み得る。しかしながら、用途によっては、PCL又はPBSebなどのBDPを含まなくてもよいように、ケーブルタイが比較的短期間で生分解することが有利な場合がある。有利なことに、このようなケーブルタイは、依然として自然環境中で生分解し、生分解後に土壌中に有毒残留物を残さない。
【0034】
第4の態様において、第1の態様による生分解性プラスチック組成物を含む物品が提供される。任意選択的に、物品は、林業製品、農業製品、園芸製品、又はブドウ栽培製品のうちの1つを含み得る。例えば、物品は、種子防護材、植物防護材、樹木防護材、ケーブルタイ又は防草マットのうちの1つを含み得る。あるいは、物品は、食品包装などの包装製品であり得る。
【0035】
本発明の第5の態様において、第4の態様の物品を形成する方法であって、物品を形成するために生分解性プラスチック組成物を溶融押出すること、任意選択的に3D印刷することを含む方法が提供される。
【0036】
添付の図面は、本開示の現在の例示的な実施形態を示し、上記で与えられた一般的な記載及び以下で与えられる実施形態の詳細な記載と共に、本開示の原理を例として説明する働きをする。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図2】ケーブルタイ及び樹木防護材用ブレンドの引張測定に使用したISO-527-2に従うタイプ1BAサンプルの試験片寸法を示す。
【
図3】ブレンドセット-Tの引張測定の結果(弾性率及び降伏応力)を示す。
【
図4】ブレンドセット-Tについて判定された水分取り込み測定の結果を示す。
【
図5】ブレンドセット-Tの引っかき試験測定の結果を示す。
【
図6】ブレンド1、2、4、6、8及び9の溶融レオロジーを示し、170℃から200℃の間の挙動を強調するために拡大したものである。
【
図7】ブレンド1由来の3D印刷されたケーブルタイ3Dの例を示す。
【
図8】0~6000時間の異なる曝露時間で撮影したサンプルの写真を示す。
【
図9】加速風化試験中に0時間、1000時間、2000時間、3000時間、及び4000時間後に撮影したサンプルの赤外線(IR)スペクトルの例を示す。
【
図10】加速風化条件に1000時間、2000時間、3000時間、4000時間、5000時間、及び6000時間曝露された後のサンプルの光学顕微鏡画像の例を示す。
【
図11】加速風化条件に1000時間、2000時間、3000時間、4000時間、5000時間、及び6000時間曝露された後のサンプルのSEM画像の例を示す。
【
図12】0時間及び5000時間(農園芸用途での5年間をシミュレートしている)における典型的なサンプルの熱重量分析(TGA)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本明細書において、組成物及び方法は、種々の成分又はステップを「含む」という観点で記載されるが、組成物及び方法はまた、特に断らない限り、種々の成分又はステップ「から本質的になる」又は「からなる」可能性もある。
【0039】
本発明は、28~90wt%の量のポリ(ブチレンサクシネート)(PBS);5~35wt%の量のポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-バレレート)(PHBV);及び以下の少なくとも1つを含む生分解性プラスチック組成物を提供する:
a)10wt%以下の量の生分解遅延ポリマー(BDP);及び
b)13wt%以下の可塑剤。
【0040】
生分解性プラスチック組成物の重要な考慮点は、例えば、押出成形、射出成形、圧縮成形、熱成形、又は3D印刷を用いて、工業的規模で加工・製造するためのコスト効率が高いことである。PBSの熱特性は、工業規模の装置で加工する場合、溶融押出成形に適している。しかしながら、PBSだけでは多くの用途にとって柔軟性が過ぎ、且つ薄過ぎる。生分解性プラスチック組成物にPHBVを含めると、PBSに強度と剛性が加わる。状況によっては、環境条件下での生分解寿命を延ばすためにBDPの含有も必要な場合があるが、生分解性プラスチック組成物の適切な物理的特性を維持するために制限しなければならない。
【0041】
PBSとPHBVは、環境条件下で加水分解により、例えば2年以内に生分解する。これは特定の状況では望ましいことかもしれないが、他の多くの用途ではより長い寿命が必要とされる。これは特に樹木防護材の場合であり、樹木防護材は、樹木の成長を妨げるほどゆっくりと分解することなく、また使用後に長期間環境中に残ることなく、樹木が成木に達するのに十分な期間(例えば、農業・園芸用途では約5年間)存続しなければならない。BDPを10wt%以下の量で含有させることにより、生分解性プラスチック組成物の望ましい物理的特性を損なうことなく、環境条件下での寿命を延ばすことができる。
【0042】
例えば、BDPは、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(ブチレンセバケート)(PBSeb)又はそれらの組み合わせなど、ASTM D6400タイプの生分解性ポリマーであり得る。PCL及びポリBSebは、比較的疎水性で、ゆっくりと分解する半結晶性バイオポリマーである。以下の表1に示す水分取り込み分析によると、PCLとPBSebは、PBSが取り込むと示される水分のおよそ3分の1を取り込む。このことは、PCLとPBSebがPBSのおよそ3倍の疎水性を持つことを示している。さらに同じ分析から、PCLとPBSebはPHBVよりもそれぞれ約45%及び78%疎水性が高いことがわかる。PCLとPBSebの疎水性は水分の取り込みを減少させ、それにより組成物の生分解速度を低下させる。
【表1】
【0043】
したがって、PBSとPHBVの組み合わせは、多種多様な用途に適した物理的特性と生分解寿命を有する組成物を提供し、これは、例えば、農業及び園芸用途で使用するためのBDPを含めることによって、必要に応じてさらに拡張することができる。
【0044】
例えば、生分解性プラスチック組成物は、樹木防護材の製造に使用することができる。樹木防護材、又は樹木シェルタは、成長の初期段階で苗木を保護するために使用される。例示的な樹木防護材を
図1に示す。樹木防護材10は、第1の縁部14と第2の縁部16とを有する長手方向の管状体12を備える。
図1には円筒形状が図示されているが、形状は正方形、円錐形、又は平坦なシートから構成される任意の適切な形状であってもよいことが理解されるべきである。既存の樹木防護材は、通常、単回使用プラスチックから作られており、樹木が成木まで成長すると環境中で崩壊するように放置されることが多い。したがって、土壌に有毒な残留物を残すことなく自然環境中で生分解し、化石由来のプラスチックから作られた市販のベンチマークに匹敵する強度及び剛性などの物理的特性を有する、容易に生分解する材料で形成された樹木防護材を開発することが望ましい。
【0045】
本明細書における生分解性プラスチック組成物から形成された樹木防護材は、押出法を用いて製造することができる。組成物は、特定の苗木に必要とされる長さ(L)及び直径(D)の寸法に従って、単一厚さのチューブ又は平坦なシートとして押し出すことができる。樹木防護材の設計の単純さは、大量生産、現場での使用に適しており、コストを最小限に抑えるという利点がある。
【0046】
使用時、同じく生分解性プラスチック組成物から製造されたケーブルタイ及び/又は木製の杭を使用して、樹木防護材を支持することができる。
【実施例】
【0047】
ブレンドの調製
配合物を溶融加工する前に、ポリマー材料をMotan Luxor CA15熱風乾燥機を使用して乾燥させた。成分材料の融点が異なるため、以下の表2に示すように、それぞれ異なる乾燥条件を使用した。これは、水が存在すると溶融加工中にポリエステルの劣化につながる可能性があるため、原材料から水分を除去することが目的であった。乾燥後、すべての材料は必要とされるまで真空密封され、乾燥後1週間以内に使用された。
【表2】
【0048】
本明細書で開示する生分解性プラスチック組成物は、上記のように調製した乾燥ポリマー材料を用いて調製した。各組成物ブレンドを手動で混合し、次いでシングルストランドフィラメントダイを取り付けたRondol MicroLab二軸押出機(スクリュ直径10mm、L/D比20:1)を用いて押し出した。ブレンド押出物を冷水浴に通してからスプールに巻き、フィラメントとして回収した。ブレンドの押出加工に使用した条件は、表3に詳述する。
【表3】
【0049】
製造されたフィラメントをペレット化し、さらなる加工の前にMotan Luxor CA15乾燥機で75℃で4時間再乾燥した。その後、各ブレンドを、
図2に示すような、ISO-527-2タイプ1BAの仕様を満たす引張測定用ドッグボーンサンプルの調製に使用した。図中、L1=約75mm、L2=58mm、L3=30mm、H1=10mm、H2=5mm、R1=30mm。試験片は、ThermoScientific Haake MiniJet Pro射出成形機を用い、表4の条件で作製した。
【表4】
【0050】
樹木防護材の組成
上述したように、樹木防護材は、樹木の成長を妨げるほどゆっくりと分解することなく、また使用後に長期間環境中に残ることもなく、樹木が成木に達するのに十分な期間(例えば約5年間)存続しなければならない。BDPの含有は、環境条件下での生分解寿命が延びる可能性があるが、生分解性プラスチック組成物の適切な物理的特性を維持するために制限されなければならない。特に、10wt%以下の量のBDPを含有させることにより、生分解性プラスチック組成物の望ましい物理的特性を損なうことなく、環境条件下での寿命を延ばすことができることが判明している。
【0051】
例えば、BDPは、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(ブチレンセバケート)(PBSeb)又はそれらの組み合わせなど、ASTM D6400タイプの生分解性ポリマーであり得る。しかしながら、組成物中のこのようなポリマーの量は、ポリマー組成物の強度及び剛性に有害な影響を与えないように、他の成分とのバランスを注意深くとる必要がある。このことは、PCL及びPBSebの弾性率及び降伏応力が、PBS及びPHBVの両者で観察された弾性率及び降伏応力よりも低いことを示す以下の表5で実証されている。
【表5】
【0052】
生分解性プラスチック組成物は、生分解寿命並びに/又は生分解性プラスチック組成物から形成される得られる成形品の強度及び剛性をさらに改善するために、1種又は複数種の添加剤をさらに含み得る。機械的特性に対する個々の添加剤の効果を評価するために、以下の表6に詳述するように、異なる添加剤を含む種々の生分解性プラスチック組成物ブレンドを調製した(ブレンドセット-B)。引張測定用のドッグボーンサンプルは、上記の表3及び表4に記載したように、各ブレンドを用いて調製した。試験は、30kNのロードセルを用いたInstron 5967万能機械試験機を用いて実施した。試験片の滑りを防止するため、10kNのスクリュアクショングリップを併用した。試験は、可能な限りISO527-2規格に従って実施した。
【0053】
弾性率、降伏応力、及び水分取り込みは、各組成物について測定され、表6にまとめられている。比較のために、類似の用途で知られているポリマーの特性も示した。例えば、ポリプロピレン(PP)は通常、柔軟性と強度/剛性の必要なバランスを備えているが、生分解性がなく、分解に50年から100年を要し、その過程で毒素を放出する。高密度ポリエチレン(HDPE)もまた、適切な特性のバランスを提供し得るが、やはり生分解性はなく、数百年、場合によっては無期限に持続する。最後に、ポリ乳酸は柔らかく柔軟性のあるポリマーで、非生分解性ポリマーの代替品としてよく使用されるが、上記でさらに詳述したように、本当の意味での生分解性はない。
【表6】
【0054】
表6に示すように、クエン酸塩ベースのA4可塑剤(Citroflex(商標) A-4の商品名で入手可能)、メタケイ酸カルシウム、マイカ、カルナウバワックス及びEurikasワックスのいずれかを含有させると、水分取り込みが低下した。上述したように、水分取り込みの低下は一般的に生分解率の低下と関連している。ヤシ繊維又は竹繊維を30wt%の量で含有すると、ブレンドの強度は向上するが、水分取り込みは著しく増加した。
【0055】
これらの結果に基づき、異なる添加剤の組み合わせを含む様々な生分解性プラスチック組成物ブレンドを調製し、その機械的特性を試験した。ブレンドセット-Dと名付けられた様々なブレンドの組成は、以下の表7に詳述されている。異なる添加剤の組み合わせが、得られた生分解性プラスチック組成物の弾性率、降伏応力、水分取り込み、及び曲げ強さに及ぼす影響を表8に示す。
【表7】
【表8】
【0056】
次に、ブレンドセット-Bとブレンドセット-Dについて得られた結果を用いて、ポリプロピレンのベンチマークよりも優れていないとしても、少なくともそれに匹敵する機械的及び物理的特性を提供できる特定の組み合わせを予測した。具体的には、これは以下の要件に基づいてブレンド配合物を選択することを伴った:1500~2000MPaの範囲の弾性率、40~50MPaの範囲の降伏応力(すなわち、ポリプロピレンのベンチマークである弾性率1400MPa及び降伏応力32MPaを上回る)、及び30~40MPaの範囲の曲げ強さ。また、生分解の寿命を適度にするために、0.9%未満の水分取り込みも望まれた。さらに、100MPaのポリプロピレンのベンチマークに匹敵するか、それ以上の引っかき硬さも望まれた。
【0057】
さらなる特性評価と分析のために選択されたブレンド配合物(ブレンドセット-Tと名付ける)を以下の表9に詳述する。ブレンドセット-Tの組成は、動物忌避剤として非毒性のオクタアセチルスクロースも含む。動物忌避剤の含有は、自然環境で使用され、シカ、クマ、ビーバー、げっ歯類などの動物の攻撃を受ける可能性のある樹木防護材及びその他の製品に特に有利であり得る。酸化防止剤として知られるエチルマルトールも、酸化的プロセスによるポリマーの生分解を抑えるために含まれた。ブレンドセット-Tの弾性率、降伏応力、水分取り込み、曲げ強さ、引っかき硬さを
図3から5に示し、表10にまとめた。
【表9】
【表10】
【0058】
環境安定性試験
ブレンドセット-Tの組成について、UV照射に対するブレンドの安定性と、雨水によるブレンド中のバイオポリマーの加水分解に対する抵抗性を確立するために、環境安定性試験も行った。環境安定性調査では、0~6000時間の加速風化条件にブレンドのサンプルを供し、適用現場における0~6年間をシミュレートし、ブレンドのサンプルの分解をモニターした。
【0059】
加速風化試験は、Weatherometer Q-Lab QSUN XE3を使用して調査した。試験は、北欧の条件に特化したISO 4892-2 Method A cycle 1に従って実施された。
【0060】
試験条件は以下の通り:
- キセノンアークランプ-1800ワット
- 340Nm波長@0.51W/m2
- 38℃チャンバ空気温度
- 65℃ブラックパネル温度
- 50%相対湿度
- 連続UV光サイクル:
- 102分間の光
- 18分間の光+スプレー
【0061】
これらの試験条件に基づくと、1000時間は適用現場における1年間に相当する。風化試験は、風化チャンバ内で0~6000時間の曝露期間にわたって実施されたため、得られた結果は、適用現場での0~6年に相当する。調査のために、生分解性ポリマーと非毒性添加剤の比率が異なるブレンドセット-T(表9及び表10参照)のブレンドT1からT12を用いてサンプルを調製した。12種類のブレンドは、まずフィラメント状に押し出し、フレーク状に切断した後、射出成形工程を経て、60×10×1mmの長方形の棒状のサンプルを調製した。1000時間の試験期間ごとに、各ブレンドの三つ揃いを調製した。各1000時間の曝露の間隔で、各ブレンドの三つ揃いサンプルを環境チャンバから取り出し、以下に詳述するように、加速風化条件下での12種類のブレンドの性能を確立するための広範な分析に供した。
【0062】
図8は、加速風化試験中に1000時間の曝露時間ごとに撮影された全サンプルの典型的な写真例である。
図8に示す写真は、0~5000時間の加速風化試験による目に見える劣化がないことを示している。対照的に、サンプルは加速風化条件に6000時間曝露した後に劣化/分解し始めることがわかる。
【0063】
FTIR分析
1000時間の曝露時間ごとのサンプルについて、Thermo Scientific社のNicolet iS20 FTIR Spectrometerを用いてFTIR分析も行った。0時間、1000時間、2000時間、3000時間、4000時間におけるサンプルの典型的なFTIRスペクトルを
図9に示す。1670cm-1付近の帯域は、バイオポリマーのエステル基(-COOR)と結合したカルボニル基(C=O)を示している。5000時間後と6000時間後の全12種類のブレンドのサンプルのFTIRスペクトルでも、同じ結果が観察された。試験期間中、新しいピークは観察されなかった。特に注目すべきは、カルボキシル基(-COOH)又は-OH基の形成に関連する新しいカルボニル基のピークがないことである。このことは、加速風化試験中に水による加水分解によるポリマーの劣化がないことを明確に示している。
【0064】
光学顕微鏡分析
UCMOSデジタルカメラと20倍のレンズを装備したBrunelの実体顕微鏡を用いて、1000時間の曝露時間ごとのサンプルを分析した。
図10は、加速風化条件に1000時間、2000時間、3000時間、4000時間、5000時間、及び6000時間曝露した後のサンプルの代表的な光学顕微鏡画像を示している。
図10からわかるように、加速風化条件への1000時間、2000時間、3000時間、4000時間の曝露後、目に見える表面劣化は観察されなかった。対照的に、
図10は、加速風化条件に5000時間及び6000時間曝露した後に表面劣化を示しており、これは、5000時間(農園芸用途での5年間をシミュレートしている)までの良好な環境安定性を示している。
【0065】
走査型電子顕微鏡(SEM)分析
1000時間の曝露時間ごとのサンプルを、日立SU8230電界放出型走査電子顕微鏡を用いて、倍率×500、スケールバー100μmを用いてさらに分析した。
図11に、1000時間、2000時間、3000時間、4000時間、5000時間、及び6000時間曝露後のサンプルの代表的なSEM画像を示す。加速風化条件への1000時間、2000時間、3000時間、及び4000時間の曝露後、目に見える表面劣化は観察されなかった。しかしながら、
図11は、5000時間及び6000時間風化させた後のサンプルに関して著しい劣化を示す。これは、表面粗さの増加、すなわち表面侵食の証拠によっても証明された。この傾向は、12種類すべてのブレンドに由来するサンプルで繰り返された。
【0066】
熱安定性と重量損失
加速風化の異なる曝露時間における各サンプルの熱安定性と重量損失を、PerkinElmer Pyris 1を用いた熱重量分析(TGA)によって分析した。サンプルの小片(約30mg)を白金るつぼに入れ、空気中で20℃/分の速度で120℃まで加熱し、そこで45分間保持してサンプルから水分を除去した。その後、温度を10℃の速度で550℃まで上昇させ、550℃で30分間保持し、すべての可燃性残留物が除去されたことを確認した。
【0067】
0時間と5000時間(農園芸用途での5年間をシミュレートしている)の典型的なサンプルで得られたTGA結果を
図12に示す。この結果は、サンプル中の有機添加剤は300℃~325℃で熱分解し、サンプル中のバイオポリマーは375℃~440℃で熱分解し、無機添加剤の残留物を残すことを示す。さらに、TGAサーモグラフの比較は、0時間と5000時間におけるサンプルの重量損失パターンは、実験誤差の範囲内で重ね合わせ可能であり、加速風化条件への曝露中に水による加水分解に起因するサンプルの劣化の結果としての顕著な重量損失は除外されたことを示す。
【0068】
環境安定性試験のまとめ
まとめると、1000時間、2000時間、3000時間、4000時間の加速風化条件への曝露後、いずれのブレンドにおいても、目に見える表面劣化や脆弱性は観察されなかった。5000時間の加速風化後のサンプルでは、表面粗さ、すなわち表面侵食の増加によって証明されるように、若干の表面劣化が観察された。6000時間の加速風化条件に曝露されたサンプルは、非常に脆弱になり、容易に破損し、細片化した。試験した全12種類のブレンドの中で、ブレンドT1、T4、及びT12は、所望の弾性率(1500~2000MPa)、降伏応力(40~50MPa)、曲げ強さ(30~40MPa)、水分取り込み(0.9%以下)、引っかき硬さ(100MPa超)、及び加速風化試験(0時間~6000時間、農業・園芸の適用現場での6年間を代表する)の点で最良の結果を出し、生分解の遅延が要求され得る用途、例えば、生分解性樹木防護材、ケーブルタイ及び防草マットに最も望ましい。
【0069】
ケーブルタイ組成物
以下の表11に詳述するように、PBS、PHBV及びPCLの様々な比率を含む12種類のポリマーブレンド配合物を調製した。グリセロール、液体副生成物は、可塑剤として作用するように配合物中に使用された。
【表11】
【0070】
各ブレンドを、上述のように、表3にまとめた条件を用いて処理した。
図2に示すように、ISO-527-2 Type 1BAの仕様を満たす引張測定のために、表4の条件を用いてドッグボーンサンプルを再度調製した。候補配合物の機械的特性は、以下に詳述するように、ケーブルタイでの使用適性を決定するために試験された。
【0071】
引張測定
12種類のケーブルタイブレンドを引張測定に供し、弾性率と降伏応力を測定した。試験は、30kNのロードセルを使用したInstron5967万能機械試験機を用いて実施した。試験片の滑りを防止するため、10kNのスクリュアクショングリップを併用した。試験は、可能な限りISO527-2規格に従って実施した。引張測定の結果を以下の表12に示す。
【表12】
【0072】
引張測定データと並行して、押し出されたフィラメントを手動で操作して各ブレンドの柔軟性を観察した。フィラメントが破断することなく180度の曲げに耐える能力と、塑性変形が起こる前の最大曲げ角度を記録した。これらの観察と引張試験結果の組み合わせに基づいて、ケーブルタイとしての使用に最も有望な6種類のブレンドを選び、さらに試験を行った。6種類のブレンド1、2、4、6、8、9は、引張強度と柔軟性のバランスが最も良く、配合物空間のより完全な理解を可能にする様々な組成を持つことに基づいて選択された。
【0073】
メルトレオロジー分析
3D印刷への適合性を予測する目的で、選択した6種類のブレンドについてTA機器DHR2を用いてメルトレオロジーを実施し、流動特性を測定した。すべてのサンプルについて、140℃から200℃の範囲で5℃/分の速度で温度ランプ実験を行った。
図6に示すように、すべてのブレンドは175℃を超えて同様の挙動を示し、ここですべての粘度が印刷可能な範囲内に収まった。ブレンド1が最も低い粘度を示した。
【0074】
熱重量分析
6種類の選択されたブレンドを、Perkin Elmer Pyris 1上で熱重量分析(TGA)を用いて分析した。空気中で、サンプルを室温から120℃まで毎分10℃で加熱した後、水分を蒸発させるために120℃で45分間保持した。その後、サンプルを毎分10℃で550℃まで加熱し、完全に熱分解させた。記録されたデータは、各ブレンドの熱分解の開始を認定し、これらは表13に報告される。
【表13】
【0075】
TGAデータは、すべてのブレンドについて、熱分解の開始が約300℃の同程度の温度で起こることを示しており、これはこれらのブレンドの加工に使用される温度よりもはるかに高い温度であり、(水がない限り)溶融加工に起因するブレンドの熱分解は起こりそうもないことを示している。
【0076】
TGAから判断できるさらなる情報は、ブレンド中の水などの揮発性成分の存在である。120℃の等温ステップで揮発性成分を蒸発させ、このステップ終了時の残留質量からその質量分率を知ることができる。各滞留ステップ終了時の各ブレンドの質量損失も表13に示す。各ブレンドは、初期質量の約2wt%を失うと安定することが観察された。ブレンドの既知の組成に基づき、この質量損失は水又はグリセロールの蒸発に起因すると考えられる。しかしながら、この質量損失は100℃超で始まっていることから、ブレンド中の水によるものとは考えにくい。これと相まって、より高い温度でのグリセロールの蒸発に起因すると考えられる質量損失がないことから、この質量損失はグリセロールの蒸発によるものである可能性が高いことが確認された。
【0077】
揮発性成分の質量損失の大きさを、配合物中のグリセロールの既知の導入量と比較すると、試験した配合物はすべてグリセロールを4wt%含有しているため、相違があることがわかる。このグリセロール含量の差は、押出成形中に発生するグリセロールの蒸発によるもので、最終的な配合物中のグリセロールの導入量は意図したよりも低い可能性が高いと推測される。
【0078】
動的蒸気収着
動的蒸気収着(DVS)は、異なる湿度に曝露されたときのブレンドの挙動をよりよく理解するために使用された。最も有望な3種類のブレンド、すなわちブレンド1、4、9をDVSで分析した。各ブレンドの押出しチップは、含水率を安定させるため、分析前にラボの雰囲気で1週間コンディショニングした。分析はSurface Measurement Systems Advantage 1 DVS機器で行った。各ポリマーの少量サンプル(約20mg)を機器のサンプルパンに置き、湿度20%~80%の範囲で両者を循環させながら、基準パンの質量に対する質量を測定した。これにより、ブレンドの水分の取り込みと放出の割合の両方を調べることができる。サンプルは各条件に最長20時間、又は安定した質量に達するまで曝露された。
【0079】
ブレンド9は、試験した3種類のブレンドの中で最も高い水分取り込みを有することが観察され(結果は示さず)、次いでブレンド4が続き、ブレンド1は最も低い水分取り込みを有した。このことは、ブレンド中のPHBV含有量を増やすと、ブレンドが水を取り込む割合が増すことを示しているように見える。相対湿度60%又は80%で20時間放置した後でも、3種類すべてのブレンドの質量は安定せずに増加し続け、水との親和性が高いことを示した。
【0080】
試験ピースの3D印刷
選択された6種類のブレンド(ブレンド1、2、4、6、8、9)の印刷適性を試験するために、それぞれの配合物から3D印刷可能なフィラメントを製造する必要があった。このプロセスを以下に詳述する。
【0081】
選択された6種類のブレンドは、スループットを最大化するために3ストランドダイで構成されたPolylab OSシステム用のThermoFisher Haake Rheomex PTW 16 OS二軸スクリュ押出機(スクリュ直径16mm、L/D比40:1)を使用して大量に押出された。ブレンド1、2、4、6、8及び9を250gスケールで手動混合し、表3に概説した条件で溶融処理した。押出物を冷水浴に通して固化させた後、Scheer SGS-25-E4ペレタイザを用いてストランドをチップ化し、均一なペレットを形成した。押出し後、すべてのブレンドをMotan Luxor CA15内で75℃で3~4時間乾燥させた後、水分の侵入を避けるために真空密封した。
【0082】
印刷可能なフィラメントを製造するため、各ブレンドを3devo精密350フィラメントメーカーを使用して再押出しした。これは、3D印刷で使用する直径を正確に制御したフィラメントを製造できるシングルスクリュ押出機である。よく制御されたフィラメントの押出を最適化するために、配合物ごとにわずかに異なる押出条件が必要であった。以前に判明されたように、PHBVの導入量が増加した配合物は、PBSの割合が高い配合物よりも高い押出温度が必要であることが判明した。使用された押出条件は、以下の表14に記録されている。押出し中、フィラメントの測定された直径が押出し機に表示された値より大きく、配合物は冷えると膨潤することを示唆していることに気付いた。これを補正するため、押出機は直径1.5mmのフィラメントを製造するように設定され、これは測定されたフィラメント直径1.75mmに対応した。
【表14】
【0083】
6種類のすべてのブレンドを、Raise Pro 2 FDM 3Dプリンタを使用して印刷した。押出機温度180℃、プラットフォーム温度40℃、印刷速度60mm/sで小さな試験片を印刷した。
【0084】
試験用ケーブルタイの最初の3D印刷の間に観察された良好な柔軟性と良好な印刷適性に基づき、ケーブルタイ試験片の印刷用にブレンド1が選択された。ケーブルタイ試験片の3D印刷に使用するための正確に制御された直径を有するブレンド1由来のフィラメントを製造するために、3devo precision 350フィラメントメーカーを再び使用した。
【0085】
Raise Pro2 FDMプリンタを以下のパラメータで使用した:
- 押出機温度-180℃
- プラットフォーム温度-加熱なし、すなわち周囲温度
- 第1の層の印刷速度-30mm/s
- 後続層の印刷速度-60mm/s
【0086】
上記の条件を使用して、
図7に示すように、ブレンド1を使用してケーブルタイを3D印刷することに成功した。
【0087】
当業者であれば、上記の実施形態は単に例示として記載したものであり、限定的な意味ではなく、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更及び修正が可能であることを理解されよう。
【国際調査報告】