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特表2024-5281243レベルまたはマルチレベルインバータ回路、電気駆動システムおよび方法
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  • 特表-3レベルまたはマルチレベルインバータ回路、電気駆動システムおよび方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】3レベルまたはマルチレベルインバータ回路、電気駆動システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/487 20070101AFI20240719BHJP
   H02M 7/483 20070101ALI20240719BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20240719BHJP
【FI】
H02M7/487
H02M7/483
H02M7/48 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505538
(86)(22)【出願日】2022-07-14
(85)【翻訳文提出日】2024-01-29
(86)【国際出願番号】 EP2022069787
(87)【国際公開番号】W WO2023006441
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】102021003941.6
(32)【優先日】2021-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524038510
【氏名又は名称】ディープドライブ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー ローゼン
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー ローメルマイヤー
(72)【発明者】
【氏名】ハーバースブルナー マクシミリアン
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA01
5H770BA02
5H770DA03
5H770DA31
5H770DA34
5H770EA00
5H770HA02Y
5H770HA03W
5H770HA06Y
5H770HA07Z
5H770JA10X
(57)【要約】
本発明は、電気駆動システム用の多相電気機械を駆動するための3レベルまたはマルチレベルインバータ回路であって、電圧源の第1および第2の供給電位に結合可能な2つの電源端子を備え、電気機械の相ごとに負荷出力端子を有し、電気機械に結合可能な負荷出力を備え、電源端子と負荷出力との間に配置され、供給側で受けた直流電圧を、負荷出力に接続された電気機械を駆動するための交流電圧に変換する制御可能な3レベルまたはマルチレベルインバータを備え、電気駆動システム(全体)の全体効率に応じて、インバータを3レベルまたはマルチレベル動作から2レベル動作へ、またはその逆へ変更するように設計された動作モード設定装置を備え、全体効率が、電気機械の検出された相電流、全体効率に影響を及ぼす少なくとも1つの他のパラメータ、および/または電気機械の全体効率に影響を及ぼす他の1つの特性の関数であるインバータ回路に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気駆動システムのための多相電気機械、特に、固体材料からなる磁束伝搬材料を有するダブルロータを備えた同期機を制御するための3レベルまたはマルチレベルインバータ回路であって、
電圧源の第1および第2供給電位に接続され得る2つの電源端子を有し、
前記電気機械の各相の負荷出力端子を有し、かつ、前記電気機械に結合され得る負荷出力を有し、
該負荷出力に接続された電気機械を駆動するために、供給側において受け取った直流電圧を交流電圧に変換するように設計された、前記電源端子と前記負荷出力との間に配置された、制御可能な3レベルまたはマルチレベルインバータを有し、
前記電気駆動システムの全体効率に応じて、前記インバータを3レベルまたはマルチレベル動作から2レベル動作に、またはその逆に変更するように設計された動作モード設定装置(14)を有し、前記全体効率が、前記電気機械の検出された相電流、前記全体効率に影響を及ぼす少なくとも1つの他のパラメータおよび/または前記全体効率に影響を及ぼす前記電気機械の他の特性の関数であるインバータ回路。
【請求項2】
前記動作モード設定装置が、前記相電流および少なくとも1つの他のパラメータおよび/または少なくとも1つの他の特性に基づいて前記全体効率を最適化するように設計された評価装置を有する請求項1に記載のインバータ回路。
【請求項3】
前記評価装置が、前記全体効率を計算するために、例えば、解析的に、かつ/または、所定の特性場に基づいて前記全体効率を決定するために設けられている請求項2に記載のインバータ回路。
【請求項4】
前記評価装置が、まず、前記全体効率を計算し、かつ/または、その後、前記相電流および少なくとも1つの他のパラメータおよび/または特性を考慮して、最適化関数を用いて、数値的に、解析的にまたはルックアップテーブルを介して、前記全体効率を最適化するように設計された最適化モジュールを有する請求項2または請求項3に記載のインバータ回路。
【請求項5】
少なくとも1つの以下のパラメータが、他のパラメータとして提供される請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のインバータ回路。
- 前記インバータ回路の温度、
- 前記電気機械の温度、
- 中間回路電圧、
- ロータ速度、
- 前記電気機械のトルク、
- 変調深度、
- 相電圧。
【請求項6】
前記動作モード設定装置が、第1測定装置を備え、該第1測定装置がセンサ入力を備え、該センサ入力を介して該第1測定装置を前記電気機械に連結することができ、前記第1測定装置が、前記相電流、前記電気機械の温度および/または前記ロータ速度を検出するように設計されている請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のインバータ回路。
【請求項7】
前記動作モード設定装置が、前記インバータの温度および/または前記中間回路電圧を検出するように設けられかつ設計された第2測定装置を備える請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のインバータ回路。
【請求項8】
前記インバータが、t型中性点クランプ方式のインバータアーキテクチャを含む請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のインバータ回路。
【請求項9】
前記インバータが、第1ドライバ段と少なくとも1つの第2ドライバ段とを備え、該第2ドライバ段が、前記第1ドライバ段によって供給される出力負荷電流よりも小さい出力負荷電流を前記負荷出力に供給するように設計されている請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のインバータ回路。
【請求項10】
動作モード切替装置が、3レベルまたはマルチレベル動作において、前記第1ドライバ段と前記第2ドライバ段とを作動させ、2レベル動作において、前記ドライバ段の少なくとも1つを非作動とするように前記インバータを制御するように設計された制御装置を備える請求項9に記載のインバータ回路。
【請求項11】
前記第1ドライバ段が、少なくとも1つのブリッジ回路、特に、その中央タップが前記インバータ回路の出力負荷端子を形成するハーフブリッジ回路を備え、各前記ブリッジ回路が、第1電源端子に接続され、前記負荷出力に第1電圧レベルを供給するように設計された少なくとも1つの第1パワースイッチを備え、各前記ブリッジ回路が、第2電源端子に接続され、前記負荷出力に第2電圧レベルを供給するように設計された少なくとも1つの第2パワースイッチをさらに備える請求項9または請求項10に記載のインバータ回路。
【請求項12】
前記第2ドライバ段が、負荷経路が中間回路と前記第1ドライバ回路の前記中央タップとの間に直列に接続され、前記第1電圧レベルと前記第2電圧レベルとの間にある第3電圧レベルを前記負荷出力に供給するように設計された少なくとも1つの第3パワースイッチを有する請求項9から請求項11のいずれか1項に記載のインバータ回路。
【請求項13】
前記インバータの全てのパワースイッチが、同一のスイッチタイプおよび/または同一の半導体技術の半導体スイッチとして設計されている請求項1から請求項12のいずれか1項に記載のインバータ回路。
【請求項14】
前記半導体スイッチが、GaNパワースイッチおよび/またはSiCパワースイッチ、特に、SiC MOSFETとして設計されている請求項13に記載のインバータ回路。
【請求項15】
少なくとも2つの異なるスイッチタイプおよび/または少なくとも2つの異なる半導体技術が、前記インバータの前記半導体スイッチ用に提供されている請求項1から請求項12のいずれか1項に記載のインバータ回路。
【請求項16】
前記第1ドライバ段の前記半導体スイッチが、フリーホイールダイオードを有するIG-BTとして設計され、前記第2ドライバ段の前記半導体スイッチが、SiCパワースイッチとして、特に、SiC MOSFETとして設計されている請求項15に記載のインバータ回路。
【請求項17】
前記第1ドライバ段の前記半導体スイッチが、SiC MOSFETとして設計され、前記第2ドライバ段の前記半導体スイッチが、GaN MOSFETとして設計されている請求項15に記載のインバータ回路。
【請求項18】
前記第1ドライバ段の前記半導体スイッチが、フリーホイールダイオードを有するIGBTとして設計され、前記第2ドライバ段の前記半導体スイッチが、GaNパワースイッチとして、特に、GaN MOSFETとして設計されている請求項15に記載のインバータ回路。
【請求項19】
ダブルロータを有する同期機を有する少なくとも1つの多相電気機械であって、前記ダブルロータが固体材料の磁束伝搬材料によって構成されている多相電気機械と、
3レベルまたはマルチレベルインバータ回路、特に、請求項1から請求項18のいずれか1項に記載の3レベルまたはマルチレベルインバータ回路であって、負荷出力において前記電気機械に結合され、供給側で受けた直流電圧を、負荷出力を介して前記電気機械を駆動することができる交流電圧に変換するように設計されたインバータ回路とを備え、該インバータ回路が、制御可能な3レベルまたはマルチレベルインバータを有する自動車用または自動車内の電気駆動システム。
【請求項20】
前記ロータ内の前記磁束伝搬材料が、鉄または鉄合金からなる請求項19に記載の駆動システム。
【請求項21】
前記電気機械が、インダクタを有するステータを備え、前記インダクタが、主に半径方向の磁束を伝搬するように、特に、接線方向の磁束が伝搬されるのを回避するように設計されている請求項19または請求項20に記載の駆動システム。
【請求項22】
前記ステータのインダクタが、該インダクタの径方向の全厚の30%未満、好ましくは20%未満、さらに好ましくは10%未満の径方向のヨーク厚を有する請求項21に記載の駆動システム。
【請求項23】
前記同期機が、3相同期機であり、前記インバータ回路が、3相インバータである請求項19から請求項22のいずれか1項に記載の駆動システム。
【請求項24】
前記電気機械が電動自動車用のホイールハブモータである請求項19から請求項23のいずれか1項に記載の駆動システム。
【請求項25】
ダブルロータを備え、該ダブルロータが固体材料の磁束伝搬材料から構成された同期機を有する電気駆動システム、特に、請求項19から請求項24のいずれか1項に記載の電気駆動システムの作動方法であって、
前記同期機が、3レベルまたはマルチレベル動作モード、および、2レベル動作モードの両方において、前記電気駆動システムの全体効率に応じて、制御可能な3レベルまたはマルチレベルインバータによって作動可能であり、
前記全体効率が、前記電気機械の検出された相電流、前記全体効率に影響を及ぼす少なくとも1つの他のパラメータおよび/または前記全体効率に影響を及ぼす前記電気機械の他の特性から決定される作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気駆動システムのための多相(multiphase)の電気機械、特に、磁束伝搬固体材料からなるダブルロータを備える同期機を駆動するための3レベル(three-level)またはマルチレベル(multi―level)インバータ回路に関する。本発明はさらに、自動車用または自動車内の電気駆動システムおよびそのような電気駆動システムを作動させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータは、直流電圧を交流電圧に変換する電気装置である。このようなインバータは、例えば、現代の自動車、太陽光発電(ソーラーインバータ)、周波数変換器の構成部品、および直流電圧から適切な交流電圧を生成する他の多くの用途において使用されている。これらのインバータとそれらの応用分野は、一般に広範囲の回路バリエーションにおいて知られており、その回路設計および動作モードについて詳しく説明する必要はない。
【0003】
現代の自動車においては、持続可能性とCO排出回避の理由などから、電動駆動システムがますます使用されるようになっている。このような駆動システムは、例えば、同期機または非同期機のような多相交流電圧によって給電される1つ以上の電気機械を含んでいる。一般に、いわゆる2レベルインバータ(2レベルインバータ、または略して2Lインバータとも呼ばれる。)が、交流電圧を生成するために広く使用される。2レベルインバータにおいては、直流電圧源の直流電圧から2つの電圧レベルを持つ交流電圧が生成される。
【0004】
2レベルインバータは、特に電気自動車用の駆動インバータの分野においては、他のインバータトポロジーよりも優勢である。現在、2レベルインバータは主にIGBTスイッチング素子を使用している。このような2レベルインバータの例は、例えば、書籍「Emobility-Electrical Power Train」に、IEEEによって、2010年に公開された、H. v. Hoeckによる論文「Power Electronic Architectures for Electric Vehicle」に開示されている。
【0005】
前述の2レベルインバータトポロジーに加えて、3レベルまたはマルチレベルインバータトポロジーも存在し、これにより3レベルまたはマルチレベルの電圧レベルを生成することができる。マルチレベルインバータトポロジーの例は、例えば、特許文献米国特許第10903758号明細書または特許文献米国特許出願公開第2017/0185130号明細書に記載されている。
【0006】
複数の電圧レベルの利点は、高調波が少ないこと、相出力における電圧変化が遅いこと、電磁放射(EME)が少ないこと、そして最も重要なことは、より高い電圧の処理が可能なことである。これらの理由から、このような3レベル以上のインバータは現在、主に高電圧用途に使用されている。ソーラーインバータまたは風力タービンのような電力工学用途は、このような3レベルまたはマルチレベルインバータトポロジーの確立された適用分野である。より高い電圧は、電気自動車(例えば、400Vの電圧)では見られない。他方、太陽光発電では、1kV以上の電圧が一般的であり、風力エネルギのような他の再生可能エネルギにおいては、電圧はさらに大幅に高くなる。
【0007】
しかし、Andreas Bubertらによる論文「Experimental Validation of Design Concepts for Future EV-Traction Inverters」、2018 IEEE Transportation Electrification Conference and Expo (ITEC)、795-802頁に記載されているように、一般的な意見によれば、上述した3レベルまたはマルチレベルインバータの利点は、電気自動車の電気駆動に使用することを正当化するには十分ではない。これら全ての理由から、3レベルまたはマルチレベルインバータトポロジーは、今日、電動自動車においては使用されていない。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、自動車の電気駆動システムにおける効率的な使用に適した3レベルまたはマルチレベルインバータを開示することである。特に、本発明は、固体材料からなる磁束伝搬材料で作られたダブルロータを備えた電気駆動システムの効率を向上すること、および/または、2レベルインバータと比較して、より良好なコスト/利益比を可能にすることをさらなる任意の課題として設定している。
【0009】
本発明によれば、この課題は、請求項1の特徴を備えたインバータ回路および/または、請求項19の特徴を備えた電気駆動システムおよび/または請求項25の特徴を備えた方法によって解決される。
【0010】
したがって、以下が提供される。
電気駆動システム用の多相電気機械、特に、固体材料からなる磁束伝搬材料からなるダブルロータを備えた同期機を駆動するための3レベルまたはマルチレベルインバータ回路であって、電圧源の第1および第2供給電位に結合可能な2つの電源端子を有し、電気機械の各相用の負荷出力端子を有しかつ電気機械に結合可能な負荷出力を有し、電源端子と負荷出力との間に配置されかつ供給側において受けた直流電圧を負荷出力に接続された電気機械を駆動するための交流電圧に変換するように設計された制御可能な3レベルまたはマルチレベルインバータを有し、(全)電気駆動システムの全体効率に応じて、インバータを3レベルまたはマルチレベル動作から2レベル動作に、またはその逆に変換するように設計された動作モード設定装置を有し、全体効率が、電気機械の検出された相電流および全体効率に影響を与える少なくとも1つの他のパラメータおよび/または、全体効率に影響を与える電気機械の他の特性の関数であるインバータ回路。
【0011】
自動車用または自動車内の電気駆動システムであって、ダブルロータを有する同期機を有する少なくとも1つの多相電気機械であって、ダブルロータが固体材料の磁束伝搬材料から構成されている多相電気機械と、3レベルまたはマルチレベルインバータ回路、特に、本発明に係る3レベルまたはマルチレベルインバータ回路であって、負荷出力において電気機械に結合され、供給側で受けた直流電圧を、負荷出力を介して電気機械を駆動可能にする交流電圧に変換するように設計されたインバータ回路とを備え、インバータ回路が制御可能な3レベルまたはマルチレベルインバータを有する電気駆動システム。
【0012】
ダブルロータを備える同期機を有する電気駆動システムの作動方法であって、ダブルロータが、固体材料の磁束伝搬材料から構成され、特に、本発明に係る電気駆動システムを作動させるための作動方法であって、同期機が、制御可能な3レベルまたはマルチレベルのインバータによって、3レベルまたはマルチレベル動作モードおよび2レベル動作モードの両方において、電気駆動システムの全体効率に応じて動作させることができ、全体効率が、電気機械の検出された相電流、全体効率に影響を与える少なくとも1つの他のパラメータおよび/または全体効率に影響を与える電気機械の他の特性から決定される作動方法。
【0013】
本発明は、現在、基本的に2レベルインバータが自動車用の電気駆動装置に使用されているという知識に基づいている。3レベル以上のインバータは、現在、主に非自動車(高電圧)用途において見られる。3レベルまたはマルチベルインバータの使用に関連する付加的な利点は、これまでのところ、自動車用途において関連する追加コストを正当化していない。
【0014】
本発明は、特殊なインバータ回路を駆動システム全体の適合と組み合わせて使用することにより、この問題を解決し、これにより、コストにおける関連する増加なしに、全体利益を増大させることができる。
【0015】
本発明の(第1の)核心思想は、3レベルまたはマルチレベル動作(以下、3L動作という。)および2レベル動作(以下、2L動作という)で動作可能な、新規の制御可能な3レベルまたはマルチレベルインバータを使用することからなる。専用の動作モード設定装置は、インバータのパワースイッチを適宜作動させることにより、それぞれの動作モードを設定する。動作モードは、駆動システム全体の全体効率に応じて設定され、使用される電気機械および/またはインバータに基づいてのみ設定されるわけではない。全体効率については、他のインバータと同様に、電気機械の検出された相電流に加えて、全体効率に影響を与える電気機械の他のパラメータおよび/または特性も考慮される。後者は、既知の駆動システムにおいては効率考慮および効率分析のために考慮されていない。したがって、本発明によれば、全体効率分析が実施される。
【0016】
本発明の思想は、この場合、インバータを3L動作させることにより、損失、特に低負荷時の損失を低減することである。この場合には、インバータの損失は、全ての動作点において、せいぜいほとんど増加しないか、あるいは減少さえする。したがって、駆動システム、すなわちインバータおよび電気機械の全体効率は、特に電気駆動車両に使用する場合に著しく向上する。
【0017】
本発明の(第2の)核心思想は、固体のロータ材料で作られた、すなわち固体構造からなるダブルロータを備える特殊な電気機械を使用することにある。このような電気モータは特に損失が大きい。本発明は、公知の電気機械における固体材料のダブルロータにおける高い損失の問題を解決するものである。ここで基礎となる知見は、固体材料のダブルロータを有する電気機械は、ロータにおいて高い損失を有するということである。この電気機械における損失は、設計上低減できないか、あるいはわずかしか低減できない。2L動作において周波数を上げて損失を減らしてもほとんど効果はなく、インバータにおける損失を増加させ、ひいては全体の効率に影響する。ダブルロータの固体材料における損失を低減する基本的なメカニズムは、トルク発生に寄与しないダブルロータの固体材料における磁束密度の振幅を低減すべきであるという事実に基づいている。磁束密度の高調波によって定義されるこの成分は、その振幅の2乗においてTHD誘起損失の変化にほぼ比例する。したがって、インバータのスイッチング周波数の変化は、損失における間接的に比例した線形変化につながり、したがって、その効果は小さくなる。固体材料における損失の低減は、電気機械の全損失の低減とその経済的使用に大きく寄与する。したがって、本発明の一部である結果として得られた知見は、磁束密度の高調波の振幅のみを低減するインバータ回路によって、電気機械の損失を効果的に低減できるということである。
【0018】
これを達成するために、インバータの設計および動作モードの選択において、以下の対策と態様が考慮されている。
【0019】
2Lインバータの機能は、インバータの相出力における高調波を低減するために、3Lインバータの機能に置き換えられる。これにより、磁束密度およびステータ電流の高調波が低減される。このために周波数を変更する必要はない。
【0020】
2L動作においてスイッチング周波数を増大させると損失も同様に減少するが、インバータのスイッチング損失も大幅に増加し、全体効率が大幅には改善されないため、これは行われない。スイッチング周波数の増加は、損失の最適化を積極的にサポートする可能性はあるが、その本質的な態様ではない。
【0021】
使用される3Lインバータは、3つの電圧レベル(3L)を提供し、好ましくは(必ずしも必要ではないが)3相(three-phase)である。3つの電圧レベル(three voltage levels)と3相(three-phase)とにより、比較的大きなコスト効率を実現できる。しかし、このシステムは、すべての相(phases)を同じ設計にすることで、任意の相数(number of phases)、任意の電圧レベル数(number of voltage levels)に拡張することができる。
【0022】
既知の2Lインバータとは対照的に、本発明による3Lインバータを動作させる場合には、高調波がより少ないため、電気機械における電力損失が大幅に低減される。3Lインバータのスイッチング損失も同様に比較的に減少し、伝導損失は増加する。
【0023】
電気機械と3Lインバータの両方において、一般的な損失メカニズムは負荷に応じて変化する。3L動作においては高調波が少ないため、機械損失が大幅に減少する。高調波により誘起される損失は、低電流において支配的である。高電流では、支配的な損失メカニズムが変化し、抵抗伝導損失または銅損が支配的となり、高調波により誘起される損失は従属的または比較的小さくなる傾向がある。インバータのスイッチング損失は、3Lインバータでは2Lインバータに比べて減少する(約50%)。低負荷(電流)ではこれらのスイッチング損失が支配的であるが、高電流では伝導損失が支配的となり、2L動作がより効率的である。これらの知見から、本発明では、低負荷には3Lインバータを使用し、高負荷には2Lインバータを使用することにした。この動作は、本発明に係る制御可能な3レベルまたはマルチレベルインバータによって可能である。
【0024】
全体として、2L動作の利点を3L動作の利点と組み合わせることができ、特に、ダブルロータモータを備える電気機械の場合には、既知の電気駆動システムと比較して電気駆動システムの全体効率を大幅に向上させることができる。
【0025】
動作モード設定装置は、必ずしも2L動作から3L動作へ、あるいはその逆へと急激に切り替わるものでないことが肝要である。むしろ、このような切り替えが、例えば、内側パワースイッチから外側パワースイッチへのフェーディングによって、連続的に行われることも考えられる。このフェーディングは、例えば、様々なパワースイッチの平均電流値を考慮して、動作時間またはそれぞれのパワースイッチがスイッチオンされる間の時間が考慮されるように実施することができる。追加的にまたは代替的に、パワースイッチが所定のシーケンスに従って、かつ/またはゆっくりと切り替えられることも考えられる。
【0026】
例えば、評価装置、制御装置および/または測定装置を備える動作モード設定装置は、例えば、マイクロプロセッサまたはマイクロコントローラのようなプログラム制御装置として設計することができる。しかしながら、FPGA、PLDなどの論理回路もこの機能のために考えられる。
【0027】
有利な実施形態および他の実施形態は、他の下位請求項および図面の図を参照した説明から生じる。
本発明の好ましい態様によれば、動作モード設定装置は評価装置を備える。評価装置は、相電流に基づいて、かつ少なくとも1つの他のパラメータおよび/または電気駆動システムの少なくとも1つの特性に基づいて、電気駆動システムの全体効率を最適化するように設計されている。
【0028】
典型的には、しかし、必ずしも必要ではないが、全体効率は評価回路によって数値的に計算される。追加的または代替的に、全体効率は、例えば、ルックアップテーブルにマッピングされた、特定の特性場(family of characteristics)に基づいて決定されてもよい。全体効率の決定は、動作中に、または、例えば、事前に、計算または決定されてもよい。好ましくは、最適な、すなわち最も効率的な動作戦略は、電気駆動システムが動作させられる前に、いわゆるオフラインモードにおいて、例えば、数値的に計算される。これは、比較的少ないコンピュータ資源で達成することができ、最適な全体効率の数値予測において多数のパラメータが考慮される場合に特に好ましい。さらに、オフライン動作における計算のために、より多くの時間が利用できる。しかし、別の方法として、それぞれの動作モード(2L動作または3L動作)の非常に動的な決定も、例えば、ルックアップテーブルを介した、いわゆるリアルタイム動作において想定できかつ可能である。これは、全体効率計算に使用されるパラメータの数が少ない場合に特に有利かつ可能である。例えば、これらの目的のために、以前のパラメータ値および特性曲線などに基づいて学習された学習済み人工ネットワークを使用することができる。
【0029】
好ましい実施形態によれば、評価装置は、最初に全体効率を決定するように設計された最適化モジュールを有する。代替的または追加的に、その後、相電流および少なくとも1つの他のパラメータおよび/または特性を考慮して、最適化関数を介して全体効率を最適化することができる。全体効率の最適化は、解析的に、かつ/または、例えば、予め生成された適切なルックアップテーブルを介して実行することができる。
【0030】
他のパラメータとして、以下のパラメータの少なくとも1つが提供される。
- インバータ回路の温度、
- 電気機械の温度、
- インバータの中間回路電圧、
- ロータ速度またはロータ回転数、
- 電気機械のトルク、
- 変調深度、
- 相電圧(phase voltage)または相電流(phase current)。
もちろん、他のパラメータも考えられる。
【0031】
それぞれ使用される動作モード(例えば、2L動作または3L動作)は、例えば、全体効率に影響を及ぼす電気機械の特性である。別の特性は、電気機械のロータの特別な設計、例えば、ロータがダブルロータであること、および/またはダブルロータが磁束伝搬固体材料で作られているという形態に見ることができる。
【0032】
好ましい実施形態によれば、動作モード設定装置は、少なくとも1つの測定装置を備える。
【0033】
第1測定装置は、少なくとも1つのセンサ入力を有し、このセンサ入力を介して第1測定装置を電気機械に連結することができる。第1測定装置は、相電流、温度、ロータ速度および/または他の測定可能なパラメータを検出するように設計されている。例えば、電気機械またはそのロータの温度は、対応する熱電対を介して検出することができる。あるいは、絶対温度(キーワード:バンドギャップリファレンス)に比例する電圧を生成するために、特定の導体および半導体または、例えば、特殊な半導体回路の温度に依存する電気抵抗の変化が温度測定に使用されてもよい。電気機械の回転モーメントを直接決定することはできないが、特に相電流を測定することによって計算することができる。ロータの速度、およびそこからロータ回転数を、例えば、ロータに取り付けたホールセンサまたはインクリメンタルエンコーダを使用するなど、様々な方法で決定することができる。
【0034】
第2測定装置は、インバータの温度および/または中間回路電圧を検出するように配置されかつ設計されている。温度測定は、第1測定装置に関して上述したのと同様に実施することができる。
【0035】
好ましい例示的な実施形態によれば、インバータはt型中性点クランプ方式(TNPC)のインバータアーキテクチャを含む。これらは、マルチレベルアクティブ中性点クランプ方式(ANPC)のインバータトポロジーと比較して様々な利点を有する。ANPCトポロジーとは異なり、4つではなく最大3つのスイッチが直列に導通し、したがって、伝導損失は小さい。出力電圧波形は同じであるため、スイッチング損失は同様に低くなるが、スイッチング周波数が高い場合(例えば、10kHzよりも大きい場合)には、TNPCトポロジーに必要な総チップ面積は2レベルトポロジーに比べてより小さい。ANPCと同様に、ハイブリッドインバータトポロジーをTNPC用に構築して、効率をさらに向上させ、かつ/または、製造コストを最適化することもできる。例えば、ゼロ電位または中間ブリッジ分岐において異なるスイッチ技術を使用することができる。特に、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)のみで構成されたTNPCインバータの場合には、窒化ガリウム(GaN)を使用することによって損失を大幅に削減できる。電気自動車のモータ制御にもハイブリッドTNPCインバータトポロジーを使用することができるが、実際にはあまり見られない。
【0036】
TNPCベースの3Lインバータは、システム効率を高めるために2つのモードで動作させることができる。3LのTNPCインバータにおいては、2L動作で動作させるために、ゼロ電位(中間)ブリッジ分岐がオフに切り替えられ、かつ、3L動作に切り替えるためにオンに切り替えられてもよい。2つの動作モードの間での切り替えは、システム効率を高めるために行われる。この目的のために、制御・調整ロジックにおいて負荷が測定され、事前に決定された最適化特性曲線を使用して2L動作と3L動作との間で切り替えられる。
【0037】
追加的にまたは代替的に、TNPCベースの3Lインバータは、インバータのコストを削減するために非対称に設計されてもよい。非対称性は、外側ブリッジ分岐の通電容量よりも低いゼロ電位(中間)ブリッジ分岐の通電容量に関連している。これは、全体効率を最適化するために、高負荷時にはゼロ電位ブリッジ分岐を使用しないことにより可能である。外側ブリッジ分岐はピーク電流用に設計され、ゼロ電位ブリッジ分岐は小電流または連続電流用に設計されている。
【0038】
本発明の例示的な一実施形態によれば、インバータは、第1ドライバ段と、少なくとも1つの第2ドライバ段とを備える。第2ドライバ段は、第1ドライバ段によって供給される出力負荷電流よりも小さい出力負荷電流を負荷出力に供給するように設計されている。
【0039】
好ましくは、動作モード切替装置は、全体効率に応じて、3レベル動作またはマルチレベル動作では第1ドライバ段および第2ドライバ段を作動させ、2レベル動作では少なくとも1つのドライバ段、好ましくは内側の第2ドライバ段を非作動にするようにインバータを制御するように設計されている。
【0040】
典型的には、しかし必ずしも必要ではないが、第1ドライバ段は少なくとも1つのブリッジ回路、特に、ハーフブリッジ回路を有し、その中央タップはインバータ回路の出力負荷端子を形成する。各ブリッジ回路は、第1電源端子(例えば、正の電源電位が印加される)に接続され、負荷出力に第1電圧レベルを供給するように設計されている、少なくとも1つの第1(半導体)パワースイッチを備える。各ブリッジ回路はさらに、第2電源端子(例えば、負の電源電位または基準電位が印加される)に接続され、負荷出力に第2電圧レベルを提供するように設計されている、少なくとも1つの第2(半導体)パワースイッチを備える。半導体ベースのパワースイッチは、任意に選択可能なさまざまな半導体材料で実現できる。一般に使用される材料は、IGBTおよびMOSFETではSi(シリコン)、MOSFETではSiC(炭化ケイ素)、MOSFETではGaN(窒化ガリウム)である。
【0041】
典型的に、しかし必ずしも必要ではないが、第2ドライバ段は、負荷経路が中間回路と第1ドライバ回路の中央タップとの間に直列に接続された少なくとも1つの第3パワースイッチを有する。第2ドライバ段のパワースイッチは、第1および第2電圧レベルの間の第3電圧レベルを負荷出力に供給するように設計されている。
【0042】
好ましい、いわゆる均質インバータトポロジーの場合には、インバータの全てのパワースイッチ、すなわち第1ドライバ段および/または第2ドライバ段のパワースイッチは、同じスイッチタイプおよび/または同じ半導体技術の半導体スイッチとして設計される。スイッチタイプは、例えば、バイポーラトランジスタ、電界効果トランジスタ(MOSFET、JFETなど)、サイリスタ、IGBTなどである。「半導体技術」とは、Si、SiC、GaAsまたはGaN技術など、パワースイッチの製造基盤として使用される半導体技術を含む。
【0043】
均質インバータトポロジーの第1の好ましい変形例では、半導体スイッチはGaNパワースイッチ、例えば、GaN MOSFETとして設計される。特に、好ましい第2の変形例では、半導体スイッチはSiCパワースイッチ、特にSiC MOSFETとして設計される。さらに、IGBTベースのパワースイッチ、例えば、SiダイオードまたはSiCダイオードを備えたシリコンベースのIGBTも考えられる。
【0044】
特に好ましい、いわゆるハイブリッドインバータトポロジーの場合、少なくとも2つの異なるスイッチタイプおよび/または少なくとも2つの異なる半導体技術が、インバータの半導体スイッチ、すなわち第1ドライバ段の半導体スイッチおよび/または第2ドライバ段の半導体スイッチに提供される。ハイブリッドインバータトポロジーにおいては、インバータ内の全てのパワースイッチに同じ半導体材料が使用されない。特に、ゼロ電位ブリッジ分岐のパワースイッチ、すなわち第2ドライバ段のパワースイッチには、第1ドライバ段の外部スイッチとは異なる技術(異なるスイッチタイプ)が使用される。その結果、スイッチング損失と伝導損失が低減される。さらに、コスト面でもメリットがある。特に、低いスイッチング損失および可能な限り低い逆回復損失のために、ゼロ電位ブリッジ分岐(第2ドライバ段)のパワースイッチを最適化することが推奨される。これは、ゼロ電位ブリッジ分岐(第2ドライバ段)が低電流で作動し、低い逆回復損失も外部スイッチのスイッチング損失を低減できるからである。ハイブリッド設計は、インバータが非対称の場合に特に推奨される。ゼロ電位ブリッジ分岐(第2ドライバ段)の通電容量が低いほど、損失最適化スイッチのスイッチングにかかる追加コストが低くなる。
【0045】
特に好ましい第1の変形例においては、第1ドライバ段の半導体スイッチは、フリーホイールダイオードを備えたIGBT(シリコンまたはSiC)として設計される。この場合には、第2ドライバ段の半導体スイッチは、好ましくはSiCパワースイッチ、特にSiC MOSFETとして設計することができる。
【0046】
同様に好ましい第2の変形例では、第1ドライバ段の半導体スイッチはSiC MOSFETとして設計される。この場合、第2ドライバ段の半導体スイッチは、GaNベースのMOSFETとして設計してもよい。
【0047】
第3の好ましい変形例では、第1ドライバ段の半導体スイッチは、フリーホイールダイオードを備えたIGBTとして設計される。この場合、第2ドライバ段の半導体スイッチは、GaNパワースイッチ、特にGaN MOSFETとして設計することができる。
【0048】
特に好ましい実施形態によれば、ロータの磁束伝搬材料は鉄または鉄合金である。電気回転界磁機、ここでは好ましくはダブルロータを備えた同期機は、ロータ内の磁束伝搬材料が固体構造、すなわち固体材料でできているように設計することができる。その理由は、同期機の理想化された見方では、ステータ巻線によって発生する回転磁界の方向ベクトルとダブルロータとの間に周期的な相対運動がないからである。したがって、動作点における磁束密度は一定であり、材料に鉄損は生じない。磁石がロータ表面に取り付けられているこのような永久磁石励磁機では、これによって確保されるインダクタの溝と磁束伝搬材料との間の距離により、追加の損失を増加させることなく固体材料を使用することができる。
【0049】
同様に特に好ましい例示的な実施形態によれば、電気機械はインダクタを有するステータを備え、インダクタは主に半径方向の磁束を伝搬するように、特に接線方向の磁束が伝搬されるのを避けるように設計されている。したがって、これはステータのいわゆる「ヨークレス」設計であり、特に周方向への磁束の伝搬を回避する。これにより、インダクタ内の磁気リターンが不要となり、重量および鉄損が低減される。
【0050】
一実施形態によれば、ステータのインダクタは、半径方向のヨーク厚が、半径方向のインダクタ全厚の30%未満、好ましくは20%未満、特に好ましくは10%未満である。いわゆる「ヨークレス」設計では、インダクタの歯の機械的な接続がこのように提供されるが、これは電磁気的には不要であり、その上には機能的に関連する磁束も存在しない。したがって、「ヨークレス」という用語は、インダクタの電磁気的設計を意味する。
【0051】
他の特に好ましい実施形態によれば、同期機は、3相同期機である。この場合には、インバータ回路は、少なくとも3相インバータとして設計されることが好ましい。また、本発明の気付きは、3レベルまたはマルチレベルインバータトポロジーを使用する同期機が、実質的に、駆動システムの全体効率を改善するということである。
【0052】
特に好ましい例示的な実施形態によれば、電気機械は、電動自動車用の電気的に操作可能なホイールハブモータとして設計される。ホイールハブモータは、車輪、特に自動車のハブに直接取り付けられ、同時にホイールハブを支持する電気機械である。ハブモータの一部は、発生したトルクを駆動される車輪に直接伝達し、そのトルクによって車輪を回転させる。電気ホイールハブモータの場合には、内側および外側ロータモータの両方とも想定可能である。中央モータを有する駆動コンセプトと比較した場合の、このような車両用電動ホイールハブモータの主な利点は、設計に応じて必要となる部品(トランスミッション、カルダンシャフト、ディファレンシャルギア、ドライブシャフトなど)を備えた古典的なドライブラインが不要になることである。それらの伝達損失もなくなるため、駆動システム全体の効率を高める可能性がある。効率的な回生、すなわち車両がブレーキをかけたときの電気エネルギの回収も、電動ホイールハブモータにおいて実施することができる。
【0053】
上記の実施形態および他の発展は、有用であれば、所望に応じて互いに組み合わせることができる。本発明のさらに可能な実施形態、他の発展および実施には、明示的に言及されていない実施形態に関して前述または後述する本発明の特徴の組み合わせも含まれる。特に、当業者は、それにより、本発明のそれぞれの基本形態に改良または追加として個々の態様も追加する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
以下、図面の概略図に示された実施形態の例を参照して、本発明をより詳細に説明する。
図1】本発明に係る電気駆動システムを示すブロック図である。
図2図1の電気駆動システムの電気機械の一例の概略横断面図である。
図3図1の本発明に係る電気駆動システムの3レベルまたはマルチレベルインバータ回路のブロック図である。
図4】本発明に係るインバータ回路の特に好ましい実施例の回路図である。
図5】本発明に係る電気駆動システムの作動方法のフロー図である。
【0055】
添付の図面は、本発明の実施形態のさらなる理解を提供することを意図している。
これらの図面は、実施形態を説明するものであり、説明と関連して、本発明の原理および概念を説明するのに役立つ。他の実施形態および言及された利点の多くは、図面を参照して明らかになるであろう。図面の部材は、必ずしも互いに対して縮尺通りに示されていない。
【0056】
図面の図において、同一の機能および同一の効果を有する同一の部材、特徴および構成要素には、特に断りのない限り、それぞれ同一の参照符号が付されている。
【発明を実施するための形態】
【0057】
図1は、本発明に係る自動車用の電気駆動システムのブロック図である。
ここで、参照符号10で指定される電気駆動システムは、好ましくは、必ずしも必要ではないが、自動車における使用を意図したものである。
【0058】
駆動システム10は、少なくとも1つの多相の電気機械11とインバータ回路12とを備える。
電気機械11は、電気機械11を駆動するインバータ回路12に入力側において接続されている。インバータ回路12は、3レベルまたはマルチレベルのインバータ回路12として設計されている。インバータ回路12は、インバータ13と動作モード設定装置14とを有する。
【0059】
インバータ13は、その負荷出力15を介して電気機械11に結合され、電源端子16,17を介して供給電圧源18に結合されている。インバータ13は、供給側で受けた直流電圧VDCを交流電圧VACに変換するように設計されている。インバータ13は、多相インバータ13として設計されており、インバータ13の相数は、通常、電気機械11の相数に対応している。電気機械11は、負荷出力15においてインバータ13により供給される相電流によって駆動される。
【0060】
本発明によれば、インバータ回路12の動作モードは、特に電気機械11への入力側に結合された動作モード設定装置14を介して設定することができる。特に、動作モード設定装置14は、インバータ13が2レベル動作で動作するか、3レベルまたはマルチレベル動作で動作するか、または混合動作で動作するかを設定するために使用され得る。混合動作とは、例えば、ある動作モードから次の動作モードへの移行時に起こり得るように、インバータが2レベル動作と3レベル動作またはマルチレベル動作との両方で動作される動作モードを言う。動作モード設定装置14の構造および動作モードについては、以下の図3図5を参照して以下にさらに詳細に説明する。
【0061】
電気機械11は、必須ではないが、好ましくは3相同期機11であり、この場合には、インバータ回路12は、好ましくは3相インバータ13を含む。
【0062】
電気駆動システム10の電気機械11が、電動自動車用のホイールハブモータである場合も同様に好ましい。しかしながら、他の用途も考えられ、有利であろう。
【0063】
図2は、図1に示す本発明に係る電気駆動システムの電気機械の一例を示す概略横断面図である。
【0064】
電気機械11は、好ましくは、同期機11として設計されている。本発明に重要な態様は、必須ではないが、同期機または電気機械11がダブルロータ20を備え、ダブルロータがさらに固体材料の磁束伝搬材料によって構成されているという事実である。ダブルロータ同期機11の横断面を図2に示す。ダブルロータ機20は、外側ロータ21と内側ロータ22とを備えている。ステータ23は、それ自体公知の方法によって2つのロータ21,22の間に配置されている。したがって、ステータ23は、好ましくは、ヨークレスステータ23でよいが、必ずしもその必要はない。
【0065】
外側ロータ21および内側ロータ22は、好ましくは積層されず、固体材料によって構成されている。内側ロータ22は筒状である。しかし、内側ロータ22を中実のフルボリュームに設計することも考えられる。
【0066】
図示の例では、外側ロータ21とステータ23との間に、外側空気間隙26内の外側ロータ21の内面に、対極を持つ2つの磁石24,25が配置されている。磁石24,25が、この目的のために特別に設けられた外側ロータ21のポケット状の凹部に埋め込まれていることも考えられ、有利である。しかし、磁石24,25が外側ロータ21から間隔を空けて、すなわちその内面に直接取り付けられていない場合も考えられる。対極磁石24,25のN極とS極との間の磁力線27は、ここでは外側ロータ21のコア材内を通っている。
【0067】
内側ロータ22とステータ23との間には、図示の例では、内側空気間隙30内の内側ロータ22の外面にも、2つの対極磁石28,29が配置されている。この場合も、磁石28,29は、内側ロータ22の対応するポケットに埋め込んでもよいし、内側ロータ22から間隔を空けてもよい。対極磁石28,29のN極とS極との間の磁力線31は、ここでは内側ロータ22のコア材中を通っている。
【0068】
外側ロータ21および/または内側ロータ22の磁束伝搬材料は、好ましくは、固体の鉄または対応する固体の鉄合金からなっている。
【0069】
図3は、図1に示される本発明に係る電気駆動システムのための3レベルまたはマルチレベルインバータ回路のブロック図である。
【0070】
図面を参照して既に説明したように、インバータ回路12は、2つの電源端子16,17と、負荷出力15と、3レベルまたはマルチレベルインバータ13と、動作モード設定装置14とを備えている。
【0071】
第1電源端子16には、例えば、正の供給電位である第1供給電位V11を接続することができる。第2電源端子17には、例えば、負の供給電位または基準電位である第2供給電位V12を接続することができる。これは、供給直流電圧VDC=V11-V12が電源端子16,17間に存在することを意味する。
【0072】
多相負荷電流I1が負荷出力15に接続され、負荷出力15を介して接続可能な電気機械11の種々の相が駆動される。
【0073】
制御可能な3レベルまたはマルチレベルインバータ13は、電源端子16,17と負荷出力15との間に配置されている。インバータ13は、負荷出力に多相負荷電流I1を供給するために、供給側で受け取った直流電圧VDCを交流電圧VACに変換するように設計されている。
【0074】
インバータ13は、第1ドライバ段40と、少なくとも1つの第2ドライバ段41とを有する。第2ドライバ段41は、第1ドライバ段40によって供給される出力負荷電流よりも小さい出力負荷電流を負荷出力15に供給するように適合されている。
【0075】
動作モード設定装置14は、インバータ13の動作モード、ひいてはインバータ回路12全体の動作モードを設定し、制御する目的を果たす。特に、インバータ13は、3レベルまたはマルチレベル動作における第1動作モード、または2レベル動作における第2動作モードのいずれかで動作するように設計されている。また、2レベル動作および3レベルまたはマルチレベル動作の混合形態を含む少なくとも第3動作モードを有することも考えられる。第3動作モードは、特に、第1動作モードから第2動作モードへの移行およびその逆の移行に対して想定されかつ有用である。
【0076】
これにより、動作モード設定装置14は、電気駆動システム10全体の全体効率に応じて、使用されるインバータ13の動作モードを制御する。これにより、全体効率は、電気機械11の検出された相電流と、全体効率に影響を及ぼす少なくとも1つの他のパラメータおよび/または全体効率に影響を及ぼす電気機械11の他の特性との関数となる。
【0077】
使用されるそれぞれの動作モードを設定するために、動作モード設定装置14は、以下の装置の少なくとも1つを備える。
- 評価装置42、
- 第1測定装置43、
- 第2測定装置44、
- 制御装置45。
【0078】
評価装置42は、相電流および少なくとも1つの他のパラメータおよび/または少なくとも1つの他の特性に基づいて、電気駆動システム10の全体効率を最適化するように設計されている。これは、例えば、その場で、すなわち電気駆動システム10の動作中に行うことができる。しかし、好ましくは、比較的計算量の多い計算は、例えば、適切な計算(例えば、数値的または解析的)によって、かつ/または所定の特性場を用いて、事前に実行される。例えば、2L動作および3L動作の数値効率計算、および決定出力を有する関数のマッピングは、事前に、すなわちオフラインで行われる。効率を決定するためのルックアップテーブルの適用と同様に、切り替えを使用したより良い効率の選択も、(それには限られず)、多かれ少なかれ動作中に動的に行うことができる。
【0079】
最適化のために、評価装置42は最適化モジュール46を備える。最適化モジュール46は、まず全体効率を計算する。その後、例えば、最適化関数を介して、全体効率は、相電流ならびに少なくとも1つの他のパラメータおよび/または特性を考慮して、解析的に、またはルックアップテーブルを介して最適化される。
【0080】
動作モード設定装置14は、第1測定装置43および/または第2測定装置44をさらに備える。第1測定装置43は、例えば、少なくとも1つのセンサ入力47を備える。この場合には、動作モード設定装置14は、電気機械11の相電流、温度および/またはロータ回転数などの電気機械11の電気的または物理的パラメータを記録および検出するために、センサ入力47を介して電気機械11に結合されてもよい。第2測定装置44は、例えば、インバータ13の温度および/または中間回路電圧を検出するように配置されている。第2測定装置44は、供給電圧VDCを検出するために使用されてもよい。
【0081】
インバータの実際の制御は、この目的のために特別に設けられた制御装置45によって行われる。制御装置45は、インバータ13のそれぞれの動作モード、すなわちインバータ13を3レベル動作またはマルチレベル動作にするか2レベル動作にするかを設定する。制御装置45は、例えば、3レベル動作またはマルチレベル動作において両ドライバ段40,41を作動させ、2レベル動作において第2ドライバ段40を非作動にするような方法で、インバータ13を制御することができる。
【0082】
図4は、本発明に係るインバータ回路の特に好ましい実施例の回路図である。
【0083】
供給直流電圧VDCが電源端子16,17に存在し、供給電位V11=VDC/2が第1電源端子16に適用可能であり、供給電位V12=-VDC/2が第2電源端子17に適用可能である。第2電源端子17に基準電位、例えば、基準グランドGNDの電位が存在する構成も考えられる。この場合には、供給電位V11=VDCを第1電源端子16に接続することができる。
【0084】
インバータ13の入力側には、2つの中間回路コンデンサ51,52の直列接続からなる中間回路50が接続されている。中間回路50はエネルギ蓄積装置として機能する。
【0085】
図4に示すインバータ13は、t型中性点クランプ方式のインバータアーキテクチャを含む。
【0086】
この目的のために、3相インバータの図示の場合における第1外側ドライバ段は、3つのハーフブリッジ回路53a~53cを有し、それぞれのハーフブリッジ回路53a~53cは、負荷経路に関して電源端子16,17間の負荷側にも接続されている。ハーフブリッジ回路53a~53cのそれぞれの中央タップ54a~54cは、それぞれインバータ13の出力負荷端子15a~15cを形成する。ハーフブリッジ回路53a~53cの各々は、ハイサイドスイッチとして設計された第1の制御可能なパワースイッチT1,T2,T3を有する。これらの第1パワースイッチT1,T2,T3は、第1電源端子16に接続されている。第1パワースイッチT1,T2,T3は、負荷出力15に第1電圧レベルを供給するように設計されている。ハーフブリッジ回路53a~53cの各々は、ローサイドスイッチとして設計された第2の制御可能なパワースイッチT4,T5,T6をさらに備える。これらの第2パワースイッチT4,T5,T6は、第2電源端子17に接続されている。第2パワースイッチT4,T5,T6は、負荷出力15に第2電圧レベルを供給するように設計されている。
【0087】
第2内側ドライバ段41は、中間回路の中央タップ55と、出力負荷端子15a~15c、したがってハーフブリッジ回路53a~53cのそれぞれの中央タップ54a~54cとの間に接続されている。図示の例では、第2ドライバ段41は、それぞれ3つの回路分岐56a~56cを備える。回路分岐56a~56cの各々は、負荷経路に対して反平行に配置された2つの制御可能なパワースイッチT7/T8,T9/T10,T11/T12の直列回路を備える。制御可能なパワースイッチT7/T8,T9/T10,T11/T12は、負荷出力15a~15cにおいて、第1電圧レベルと第2電圧レベルとの間にある第3電圧レベルを供給するように設計されている。
【0088】
それぞれの制御可能なパワースイッチを作動させるために、制御装置45は、第1制御ユニット45aと第2制御ユニット45bとを備える。第1制御ユニット45aは、第1ドライバ段40のパワースイッチT1~T6を作動させるように設計されている。第2制御ユニット45bは、第2ドライバ段41のパワースイッチT7~T12を作動させるように設計されている。
【0089】
図4の例示された実施形態例において、インバータ13はハイブリッド型である。この場合には、インバータ13のパワースイッチは、同じ半導体技術および/または同じスイッチタイプによって作られていない。特に、図示の例では、パワースイッチT1~T6は、Siフリーホイールダイオードを有するSi IGBTである。パワースイッチT7~T12はSiC MOSFETである。
【0090】
あるいは(図4には示されていない)、パワースイッチT7~T12をSiC MOSFETとし、パワースイッチT1~T6をGaN MOSFETとして設計することもできる。
【0091】
あるいは(これも図4には示されていない)、パワースイッチT7~T12は、フリーホイールダイオードを備えたIGBTとすることができ、パワースイッチT1~T6は、GaNパワースイッチ、特にGaN MOSFETとすることができる。
【0092】
あるいは(これも図4には示されていない)、いわゆる均質インバータトポロジーにおいては、インバータ13の全てのパワースイッチT1~T12は、例えば、GaNパワースイッチ、SiC MOSFETなどのSiCパワースイッチとして設計された、同じスイッチタイプのもの、および/または同じ半導体技術で製造されたものであってもよい。
【0093】
図5は、本発明に係る電気駆動システムを動作させるための方法のフローチャートを示す。電気駆動システムは、図1による駆動システムであり、例えば、ダブルロータを備えた同期機を有する。ダブルロータは、固体材料の磁束伝搬材料から作られている。
【0094】
第1ステップS1において、電気駆動システムの全体効率が、例えば、オフラインで決定される。この目的のために、まず電気駆動システムの電気機械の相電流が検出される(S11)。さらに、全体効率に影響を及ぼす少なくとも1つの他のパラメータ(S12)および/または全体効率に影響を及ぼす電気機械の少なくとも1つの他の特性(S13)が決定される。
【0095】
これら全ての情報から、次のステップS2において同期機が動作させられる。この目的のために、制御可能な3レベルまたはマルチレベルのインバータ回路が使用される。インバータ回路の制御可能な3レベルまたはマルチレベルインバータは、電気駆動システムの全体効率と、それに影響を及ぼすパラメータおよび特性に応じて、3レベルまたはマルチレベル動作モードS21または2レベル動作モードS22のいずれかで作動させられる。
【0096】
3レベルまたはマルチレベル動作と2レベル動作との混合形態も考えられる。このような混合形態は、例えば、急激な切り替えを回避するために、3レベル動作またはマルチレベル動作から2レベル動作に移行する場合などに考えられかつ有利である。後者は損失を伴う可能性があり、その結果効率低下につながる。
【0097】
以上、本発明を好ましい実施形態を参照して十分に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0098】
10 電気駆動システム
11 電気機械、同期機
12(3レベルまたはマルチレベル)インバータ回路
13(3レベルまたはマルチレベル)インバータ
14 動作モード設定装置
15 負荷出力
15a~15c 出力負荷端子
16,17 電源端子
18 供給電圧源
20 ダブルロータ、ダブルロータ機
21 外側ロータ
22 内側ロータ
23 ステータ
24,25 (外側ロータの)対極磁石
26 (外側の)空気間隙
27(外側)磁力線
28,29 (内側ロータの)対極磁石
30(内側)空気間隙
31(内側)磁力線
40 第1(外側)ドライバ段
41 第2(内側)ドライバ段
42 評価装置
43 第1測定装置
44 第2測定装置
45 制御装置
46 最適化モジュール
47 センサ入力
50 中間回路
51,52 中間回路コンデンサ
53a~53c ハーフブリッジ回路
54a~54c 中央タップ
55 中央タップ
I1 (多相)負荷電流
S1,S2 処理ステップ
S11~S13 サブステップ
S21、S22 サブステップ
T1~T3 ハーフブリッジ回路の第1のパワースイッチ、ハイサイドスイッチ
T4~T6 ハーフブリッジ回路の第2のパワースイッチ、ローサイドスイッチ。
T7~T12 パワースイッチ
VAC (出力側)交流電圧
VDC (入力側)直流電圧
V11 (正)供給電位
V12 (負)供給電位、基準電位
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】