(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】少なくともLi、P及びS元素を含む固体材料粒子の粉末
(51)【国際特許分類】
C01B 25/14 20060101AFI20240719BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20240719BHJP
H01B 1/10 20060101ALI20240719BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20240719BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240719BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240719BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240719BHJP
【FI】
C01B25/14
H01B1/06 A
H01B1/10
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024505600
(86)(22)【出願日】2022-08-01
(85)【翻訳文提出日】2024-03-28
(86)【国際出願番号】 EP2022071590
(87)【国際公開番号】W WO2023012123
(87)【国際公開日】2023-02-09
(32)【優先日】2021-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523287012
【氏名又は名称】スペシャルティ オペレーションズ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ダランソン, ロリアンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ロペス ゴンザレス, ディエゴ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレンテ, ジュール
(72)【発明者】
【氏名】ル メルシェ, ティエリー
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5G301CA05
5G301CA16
5G301CA19
5G301CD01
5H029AJ05
5H029AJ06
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ03
5H029CJ08
5H029DJ16
5H029HJ00
5H029HJ02
5H029HJ13
5H029HJ14
5H029HJ20
5H050AA07
5H050AA12
5H050BA17
5H050DA10
5H050DA13
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA10
5H050HA02
5H050HA13
5H050HA14
5H050HA17
5H050HA20
(57)【要約】
本開示は、粒子表面のチオール対カーボネート表面基比が、Bruker FTIR(MIR)Vertex 70分光計において拡散反射赤外フーリエ変換分光法(DRIFTS)により測定される、2未満であることを特徴とする、少なくともLi、P及びS元素を含む固体材料粒子の粉末に関する。本開示は、このような粉末を調製するためのプロセス、並びに特に固体電解質又は電池物品を製造するためのこのような粉末の使用にも関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2400cm
-1~2570cm
-1の領域における最大強度ピーク、及び1370cm
-1~1570cm
-1の領域における最大強度ピークを考慮することによって、Bruker FTIR(MIR)Vertex 70分光計(25℃、大気圧、25Nml/分のアルゴン流量)において拡散反射赤外フーリエ変換分光法(DRIFTS))により測定される、粒子表面のチオール対カーボネート表面基比が2未満であることを特徴とする、少なくともLi、P及びS元素を含む固体材料粒子の粉末。
【請求項2】
前記固体材料は、式(I):
Li
aPS
bX
c (I)
(式中、
-Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表し、
-aは、2.0~7.0の数を表し、
-bは、3.5~6.0の数を表し、
-cは、0~3.0の数を表す)による、請求項1に記載の粉末。
【請求項3】
前記固体材料は、式(II):
Li
7-xPS
6-xX
x (II)
(式中、
-Xは、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される少なくとも1つのハロゲン元素又はこれらの組み合わせを表し、
-xは、0.5~2.0の正の数を表す)による、請求項1又は2に記載の粉末。
【請求項4】
前記固体材料は、Li
6PS
5Cl、Li
4P
2S
6、Li
7PS
6、Li
7P
3S
11又はLi
3PS
4である、請求項1~3のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項5】
パラキシレン中でのレーザー回折により測定される、
-50μm未満のd
50値、
-0.05μm超のd
10値、及び/又は
-100μm未満のd
90値を示す、
請求項1~4のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項6】
25℃でインピーダンス分光法により圧縮(500MPa)ペレットにおいて測定される、少なくとも1.5mS/cmのイオン伝導率を示す、請求項1~5のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項7】
-その導電率変化は、次式(1):
【数1】
(式中、
・ΔCは、25℃でインピーダンス分光法により測定される、20℃(露点-35℃未満)で乾燥室にて430時間暴露した後の前記材料の導電率の変化を指す
・C
t1は、即ち、前記材料を20℃で乾燥室にて430時間暴露した後である、時間t1で測定された導電率を指す
・C
t0は、時間t0で測定される前記材料の初期導電率を指す)に従って測定される50%未満であり、並びに、
-その重量変化は、次式(2):
【数2】
(式中、
・ΔWは、20℃で乾燥室にて430時間暴露した後の前記材料の重量変化を指す
・W
t1は、即ち、前記材料を20℃で乾燥室にて430時間暴露した後である、時間t1で測定された重量を指す
・W
t0は、時間t0で測定される前記材料の初期重量を指す)に従って測定される5%未満である、耐老化性を示す、請求項1~6のいずれか一項に記載の粉末。
【請求項8】
a)出発材料を、任意に高エネルギーを用いて混合して、スラリー状態のペーストを得る工程と、
b)工程a)からの前記ペーストを乾燥させる工程と、
b’)任意に、工程b)からの前記乾燥されたペーストをペレットにプレスする工程と、
c)例えば、ペレットの形態で、少なくとも2時間、例えば、4時間、6時間、8時間、10時間又は12時間の期間、350℃から580℃の温度まで、前記乾燥されたペーストを加熱する工程と、を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の粉末を作製するための方法。
【請求項9】
工程a)の前記出発材料は、少なくとも硫化リチウム(Li
2S)及び硫化リンである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
固体電解質を製造するための、請求項1~7のいずれか一項に記載の粉末の使用。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか一項に記載の粉末を少なくとも含む固体電解質。
【請求項12】
請求項11に記載の固体電解質を少なくとも含む電気化学デバイス。
【請求項13】
請求項11に記載の固体電解質を少なくとも含む固体電池。
【請求項14】
少なくとも、
-金属基材と、
-前記金属基材に直接接着された少なくとも1つの層であって、
(i)請求項1~7のいずれか一項に記載の粉末と、
(ii)少なくとも1つの電気活性化合物(EAC)と、
(iii)任意に、本発明の前記固体材料以外の少なくとも1つのリチウムイオン伝導性材料(LiCM)と、
(iv)任意に、少なくとも1つの導電性材料(ECM)と、
(v)任意に、リチウム塩(LIS)と、
(vi)任意に、少なくとも1つのポリマー結合材料(P)と、を含む組成物から作製される少なくとも1つの層と、を含む電極。
【請求項15】
少なくとも、
-請求項1~7のいずれか一項に記載の粉末と、
-任意に、少なくとも1つのポリマー結合材料(P)と、
-任意に、少なくとも1つの金属塩、特にリチウム塩と、
-任意に、少なくとも1つの可塑剤と、を含むセパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、Nr 21315135.0に対する欧州において2021年8月2日に出願された優先権を主張し、本出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、Bruker FTIR(MIR)Vertex 70分光計において拡散反射赤外フーリエ変換分光法(DRIFTS)により測定される、粒子表面のチオール対カーボネート表面基比が2未満であることを特徴とする、少なくともLi、P及びS元素を含む固体材料粒子の粉末に関する。また、本開示は、このような粉末を調製するためのプロセス、並びに特に固体電解質又は電池物品を製造するためのこのような粉末の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池は、特に家電製品の電源として広く使用されている。このような二次電池では、有機溶媒が有機液体電解質として使用され、電池が充電中であるか又は放電中であるかに応じて、リチウムイオンが一方の電極からもう一方の電極に移動する。
【0004】
電解質として使用される溶媒は、引火性であるため、有機溶媒を使用しない全固体リチウムイオン電池は、非常に魅力的である。このような全固体リチウムイオン電池は、即ち、カソード、アノード及び電解質という全て固体である構成要素を用いて電池全体を固体化することによって形成される。電解質を含め、全固体電池の全ての構成要素は、固体であるため、全固体電池は、液体電解質を使用した電池に比べて、電気抵抗が大きく、出力電流が小さくなる。これは、高い導電率と、この高い導電率を経時に渡り維持する適性を有する電解質が必要であることを意味する。
【0005】
表面基は、固体電解質材料の特定の性能パラメータ、特にその導電率を決定することが知られている。また、材料表面が大気中に存在する水分及びCO2と接触すると、材料表面が改質されることができ、これにより固体の界面の導電率が変化することが一般に知られている。例えば、このような材料における硫黄原子は、空気中の水分と反応して硫化水素を生成する傾向があるが、これは望ましくない。
【0006】
本発明の目的は、化学的及び機械的安定性などの他の重要な特性を損なうことなく、このような高い導電率を経時に渡り維持する適性を含む、高い導電率及び老化性に対する耐性を示し、同時に硫化水素の発生量をできる限り低減する電解質を提供することである。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、Bruker FTIR(MIR)Vertex 70分光計(25℃、大気圧、25Nml/分のアルゴン流量)において拡散反射赤外フーリエ変換分光法(DRIFTS))により測定される、粒子表面のチオール対カーボネート表面基比が2未満であることを特徴とする、少なくともLi、P及びS元素を含む固体材料粒子の粉末に関する。
【0008】
いくつかの実施形態では、固体材料は、式(I):
LiaPSbXc(I)
(式中、
-Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表し、
-aは、2.0~7.0の数を表し、
-bは、3.5~6.0の数を表し、
-cは、0~3.0の数を表す)による。
【0009】
いくつかの実施形態では、固体材料は、式(II):
Li7-xPS6-xXx(II)
(式中、
-Xは、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される少なくとも1つのハロゲン元素又はこれらの組み合わせを表し、
-xは、0.5~2.0の正の数を表す)による。
【0010】
固体材料は、好ましくは、Li6PS5Cl、Li4P2S6、Li7PS6、Li7P3S11又はLi3PS4である。
【0011】
本発明はまた、本発明の粉末を作製するための方法に関し、この方法は、
a)出発材料を、任意に高エネルギーを用いて混合して、スラリー状態のペーストを得る工程と、
b)工程a)からのペーストを乾燥させる工程と、
b’)任意に、工程b)からの乾燥されたペーストをペレットにプレスする工程と、
c)例えば、ペレットの形態で、少なくとも2時間、例えば、4時間、6時間、8時間、10時間又は12時間の期間、350℃から580℃の温度まで、乾燥されたペーストを加熱する工程と、を含む。
【0012】
本発明はまた、固体電解質を製造するための本発明の粉末の使用、少なくともこのような粉末を含む固体電解質、少なくともこのような固体電解質を含む電気化学デバイス、少なくともこのような固体電解質を含む固体電池、及び少なくともこのような粉末を含む電極又は電池セパレータに関する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本出願では、
-いずれの記載も、特定の実施形態に関連して記載されているとしても、本発明の他の実施形態に適用可能であり、且つそれらと交換可能であり、
-要素又は成分が、列挙された要素又は成分のリストに含まれ、且つ/又はリストから選択されると言われる場合、本明細書で明示的に想定される関連する実施形態では、要素又は成分は、個々の列挙された要素又は成分のいずれか1つであり得るか、又は明示的に列挙された要素又は成分の任意の2つ以上からなる群からも選択され得、要素又は成分のリストに列挙されたいかなる要素又は成分もこのようなリストから省略され得ることが理解されるべきであり、
-端点による数値範囲の本明細書でのいかなる列挙も、列挙された範囲内に包含される全ての数並びに範囲の端点及び均等物を含む。
【0014】
本発明は、Bruker FTIR(MIR)Vertex 70分光計(25℃、大気圧、25Nml/分のアルゴン流量)において拡散反射赤外フーリエ変換分光法(DRIFTS)により測定される、チオール表面基とカーボネート表面基との比が2.0未満である固体電解質材料に関する。検討された基の間の比は、関連するスペクトル領域の最大強度ピークを考慮することによって計算される、即ち、チオール基について2400cm-1~2570cm-1の領域における最大強度ピーク、及びカーボネート基について1370cm-1~1570cm-1の領域における最大強度ピークを考慮することによって計算される。本発明者らは、本明細書で、このような特定の比のチオール/カーボネート表面基を示す材料は、チオール対カーボネート表面基が2.0を超える材料と比較して材料の導電率を高くするだけでなく、経時に渡るその導電率の変化及び重量の変化により測定される、老化性に対する耐性も向上させることを表していることを示している。実際、本発明者らは、カーボネート基に対する比が実際に材料の導電率とその老化性に対する耐性との間の改善された妥協点を提供し、これにより、本発明の材料が全固体リチウムイオン電池の製造に使用するのによく適していることを示している。
【0015】
本発明の固体材料粒子の粉末は、少なくともLi、P及びS元素を含む。いくつかの実施形態では、固体材料は、式(I):
LiaPSbXc(I)
(式中、
-Xは、少なくとも1つのハロゲン元素を表し、
-aは、2.0~7.0の数、例えば、3.0~6.0、4.0~6.0又は5.0~6.0の数を表し、
-bは、3.5~5.0の数、例えば、3.9~5.0又は4.1~5.0の数を表し、
-cは、0~3.0の数、例えば、0.9~2.9又は1.0~2.5の数を表す)による。
【0016】
式(I)によると、cは、ゼロに等しくあり得る。この場合、固体材料は、いかなるハロゲン成分をも含まず、固体材料は、式(I’):
LiaPSb(I’)
(式中、
-aは、2.0~7.0の数、例えば、3.0~7.0の数を表し、
-bは、3.5~5.0の数、例えば、3.9~4.9又は4.0~4.5の数を表す)による。
【0017】
式(I)によると、cは、0.9~1.1であり得る。この場合、固体材料は、式(I’’):
LiaPSbXc’(I’’)
(式中、
-c’は、0.9~1.1の数を表し、例えば、1.0に等しい)により得る。
【0018】
この式(I’’)によると、Xは、好ましくはClである。この場合、式(I’’)は、以下の通りである:
LiaPSbClc’(I’’)。
【0019】
いくつかの実施形態では、固体材料は、式(II):
Li7-xPS6-xXx(II)
(式中、
-Xは、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される少なくとも1つのハロゲン元素又はこれらの組み合わせを表し、
-xは、0.5~2.0の正の数を表す)による。
【0020】
これらの実施形態によれば、
-xは、より具体的には、0.8から1.8の範囲であり得、例えば、xは、1.0又は1.5に等しくあり得、xは、0.95から1.05、又は1.45から1.55の範囲であり得、及び/又は
-Xは、より具体的には、Cl、Br、又はこれらの組み合わせであり、Xはまた、より具体的にはClであり得る。
【0021】
いくつかの好ましい実施形態では、固体材料は、Li6PS5Cl、Li4P2S6、Li7PS6、Li7P3S11又はLi3PS4、より好ましくはLi6PS5Cl又はLi3PS4である。
【0022】
本開示に記載される固体材料の配合は、周知の分析技術に従って決定され得る。
【0023】
本発明において、その式、本明細書では式(I)又は(II)によって特徴付けられる固体材料は、粉末の主成分であり得る。この固体材料の割合は、粉末の総重量に基づいて、少なくとも60重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、或いは更には少なくとも98重量%又は99重量%であり得る。
【0024】
粉末はまた、例えば、非晶質相、及び粉末を調製するために使用される出発材料、例えば、LiX(Xは、ハロゲン、例えばClである)、Li2S、硫化リン(例えば、P2S5)、及び/又はLi3PO4を含み得る。
【0025】
粉末は、そのサイズ又は粒度分布(PSD)によって特徴付けられることができる。粉末の粒子のサイズは、パラキシレン中でのレーザー回折により測定される、
-50μm未満、例えば、40μm未満、30μm未満、又は20μm未満のd50-値、
-0.05μm超のd10値、及び/又は
-100μm未満、例えば、90μm未満、80μm未満、又は70μm未満のd90-値を示すものであり得る。
【0026】
粉末は、凝集している粒子から構成され得る。
【0027】
d50-値は、粒子の直径の数値の分布の中央値に対応する。粒度分布(PSD)の測定値、例えば、d50-値、d10-値、及びd90-値は、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して、少なくとも150である多数の粒子について実行されることができる。或いは、パラキシレン中でのレーザー回折によって実行されることができる。
【0028】
粉末の粒子は、球状の形状であり得る。
【0029】
粉末の粒子は、0.8~1.0、より具体的には0.85~1.0、更により具体的には0.90~1.0の円形度SRを示し得る。SRは、好ましくは0.90~1.0又は0.95~1.0であり得る。粒子の円形度は、次式を用いて、測定された粒子の外周P及び投影面積Aの測定値から算出される:
SR=4πA/P2。
【0030】
理想的な球について、SRは1.0であり、球状粒子についてそれは1.0未満である。SRは、動的画像分析(DIA)によって決定され得る。DIAを実施するために使用することができる装置の例は、RetschのCAMSIZER(登録商標)P4又はSympatecのQicPic(登録商標)である。円形度は、より具体的には、ISO 13322-2(2006)に従って測定することができる。DIAは一般的に、統計学的に意味のある多数の粒子(例えば少なくとも500又は更に少なくとも1000)の分析を必要とする。
【0031】
本発明の粉末はまた、所定の条件下でH2Sの放出が少ないことによって特徴付けられる。この特徴は、粉末を湿った雰囲気に曝露し、粉末が前述の雰囲気と接触している最初の50分間に放出されるH2Sの量を測定することにより測定できる。例えば、本発明の粉末を相対湿度35%の湿った空気からなる雰囲気に50分間曝露した場合、H2Sの放出は、70mL/g未満であることが好ましくあり得、測定は、23℃の温度で行われる。同じ実験条件下で、mLH2S/g/時での、H2Sの放出速度を決定することもできる。この速度は、例えば、本発明の粉末の場合、84mLH2S/g/時よりも低くなり得る。
【0032】
粉末の結晶相(空間群F-43mに属する立方晶構造に相当)は、Cu放射線源を使用したX線回折法(XRD)によって評価できる。
【0033】
粉末は、25℃でインピーダンス分光法により圧縮(500MPa)ペレットにおいて測定される、少なくとも1.5mS/cm、例えば、少なくとも1.7mS/cm、又は1.9~5.0mS/cmのイオン伝導率、例えば、2.0~4.5mS/cmのイオン伝導率を有利に示し得る。
【0034】
イオン伝導率の測定は、加圧ペレットにおいて行われる。典型的に、加圧ペレットは、一軸又は平衡圧を用いて製造される。一軸圧力を適用してペレットを形成するとき、圧力100MPa超、有利には300Mpa超の圧力を少なくとも30秒の時間の間適用する。測定は、典型的に2MPa~200MPaの一軸圧力下で行われる。
【0035】
本発明の粉末はまた、特に経時に渡る導電率変化及び重量変化により測定される、その耐老化性によって特徴付けられることができる。
【0036】
本発明の粉末の導電率変化は、次式(1)に従って測定される、好ましくは50%未満である:
【数1】
(式中、
・ΔCは、20℃(露点-35℃未満)で乾燥室にて430時間暴露した後の材料の導電率の変化を指す
・C
t1は、即ち、材料を20℃で乾燥室にて430時間暴露した後である、時間t1で測定された導電率を指す
・C
t0は、時間t0で測定される材料の初期導電率を指す)。
【0037】
好ましくは、粉末の導電率変化は、式(1)に従って測定される45%未満又は40%未満である。
【0038】
本発明の粉末の重量変化は、次式(2)に従って測定される5%未満であることが好ましい:
【数2】
(式中、
・ΔWは、20℃で乾燥室にて430時間曝露した後の材料の重量変化を指す
・W
t1は、即ち、材料を20℃で乾燥室にて430時間暴露した後である、時間t1で測定された重量を指す
・W
t0は、時間t0で測定される材料の初期重量を指す)。
【0039】
好ましくは、粉末の重量変化は、式(2)に従って測定される4%未満又は3%未満である。
【0040】
本発明はまた、
a)出発材料を、任意に高エネルギーを用いて混合して、スラリー状態のペーストを得る工程と、
b)工程a)からのペーストを乾燥させる工程と、
b’)任意に、工程b)からの乾燥されたペーストをペレットにプレスする工程と、
c)乾燥されたペーストを、例えば、ペレットの形態で、少なくとも2時間、例えば、4時間、6時間、8時間、10時間又は12時間の期間、350℃~580℃の温度で加熱する工程と、を含む、上記の粉末を作製するためのプロセスに関する。
【0041】
いくつかの実施形態では、工程a)の出発材料は、少なくとも硫化リチウム(Li2S)及び硫化リンである。
【0042】
工程a)において、出発材料、例えば、Li2S、LiCl及びP2S5を一緒に混合する。これらの出発材料は一般的に、均一混合物を得るために粉末形態である。これらの出発材料の量は、目標とする化学量論比が得られるように定義される。特に焼成中の起こり得るSの損失を補うために、少し過剰なLi2Sを使用することができる。過剰なLi2Sは、例えば、目標とする化学量論比に対して最大10重量%追加することができる。
【0043】
工程a)は、出発材料を液体炭化水素中で湿式ボールミル粉砕することによって都合よく行われる。液体炭化水素は、ケトン、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素及びこれらの混合物からなる群から選択されることが好ましい。脂肪族炭化水素は、例えば、ヘキサン、へプタン、オクタン又はノナンである。脂環式炭化水素は、例えば、シクロヘキサン、シクロペンタン又はシクロヘプタンである。芳香族炭化水素は、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン又は液体ナフテンである。使用できる便利な液体炭化水素は、キシレン又はパラキシレンである。
【0044】
炭化水素/混合物の重量比は、0.2~3.0、例えば、0.4~2.0又は0.5~1.5であり得る。
【0045】
粉砕の期間は、1~130時間、例えば、好ましくは3~70時間又は6~40時間であり得る。
【0046】
工程b)によれば、工程a)からのペーストが乾燥される。乾燥は、液体炭化水素の蒸発によって都合よく実行され得る。液体炭化水素の蒸発は好ましくは、100℃~150℃、より具体的には105℃~135℃の温度で行われる。蒸発は真空下で行なうことができる。蒸発の期間は一般的に、1~20時間、より具体的には2~20時間又は3~7時間である。
【0047】
蒸発の終わりに、混合物は、若干の残留炭化水素を含むことができる。残留炭化水素の量は一般的に、混合物中のC含有量が5.0重量%未満であるものである。C含有量は、0.01~3.0重量%であり得る。
【0048】
工程c)では、工程b)の混合物を、例えば、回転オーブンにて350℃~580℃、例えば、370℃~550℃、又は390℃~530℃の温度で加熱(又は焼成)する。工程c)は、好ましくは、不活性雰囲気下、例えば、N2又はAr又はH2Sの雰囲気下で行われる。工程c)の期間は、1~12時間、より具体的には2~10時間、又は3~7時間である。工程c)中に、混合物の結晶化度が改善され、その結果、導電率が改善される。
【0049】
工程b)からの乾燥されたペースト又は工程b’)からのペレットを焼成するために使用され得る回転オーブンは、0.5~10.0rpmの回転速度で回転することができる。顆粒のサイズは速度の変動によって変動し得る。回転速度が大きくなればなるほど、粒子のサイズは大きくなる。これは、回転速度が高くなるほど、目標サイズを示す組成物の収率が高くなるということも意味する。
【0050】
このプロセスは、顆粒を篩い分けして特定のサイズの範囲を選択する追加の工程d)を含み得る。この操作は、手動又は自動で実行できる。実験室で使用される条件において、それは有利には手動で行われる。
【0051】
本発明はまた、本明細書に記載の粉末の様々な最終用途に関する。
【0052】
本発明の粉末を使用して固体電解質を製造することができる。
【0053】
本発明はまた、
-少なくとも本明細書に記載の粉末を含む固体電解質、
-少なくとも本明細書に記載の固体電解質を含む電気化学デバイス、
-少なくとも本明細書に記載の固体電解質を含む固体電池、
-少なくとも、
-金属基材と、
-前述の金属基材に直接接着された少なくとも1つの層であって、
(i)本発明の粉末と、
(ii)少なくとも1つの電気活性化合物(EAC)と、
(iii)任意に、本発明の固体材料以外の少なくとも1つのリチウムイオン伝導性材料(LiCM)と、
(iv)任意に、少なくとも1つの導電性材料(ECM)と、
(v)任意に、リチウム塩(LIS)と、
(vi)任意に、少なくとも1つのポリマー結合材料(P)と、を含む組成物から作製される少なくとも1つの層と、を含む電極、並びに
-少なくとも、
-本発明の粉末と、
-任意に、少なくとも1つのポリマー結合材料(P)と、
-任意に、少なくとも1つの金属塩、特にリチウム塩と、
-任意に、少なくとも1つの可塑剤と、を含むセパレータを含む。
【0054】
参照により本明細書に組み込まれる任意の特許、特許出願及び刊行物の開示が、用語を不明確とし得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【実施例】
【0055】
ここで、本開示を以下の実施例を参照してより詳細に記載するが、それらの目的は、例示的であるにすぎず、本開示の範囲を限定することを意図しない。
【0056】
材料
本発明の材料#1
本発明の材料であるLi6PS5Clは、以下の通りのプロセスで得られる。
【0057】
第1の工程において、22.7gのLiCl(Sigma-Aldrich、純度>99%)、59.5gのP2S5(Sigma-Aldrich、20純度>99%)及び61.5gのLi2Sを、ZrO2ボール(10mm)を備えたジルコニアの瓶に加える。次いで、130gのパラキシレン(Sigma-Aldrich、純度>99%、乾燥)を加える。いかなる溶媒もの蒸発を防ぐために、締まった瓶は素早く密閉される。湿式ボールミル粉砕は、遊星ボールミルを用いて行われる。200rpmでの7時間のミル粉砕の後、ペーストが得られる。
【0058】
第2の工程において、ペーストを乾燥アルミナるつぼ内に移し、130℃で動的真空下にてオーブン内で乾燥させて溶媒を取り除く。5時間の乾燥後に、ミル粉砕ボールを4mmの篩によって乾燥粉末から分離する。
【0059】
第3の工程において、乾燥された混合物を乾燥空気(300ppm未満の水)下でアルミナ反応器内に入れる。次に、反応器を回転炉内に入れ、生成物をN2流(20L/h)下で1rpmの回転を用いて5時間の間480℃で結晶化させる。次いで、反応器を回転なしで冷却する。
【0060】
最終生成物は、異なったサイズのいくつかの凝集塊を有する多分散粉末の形態である。完成生成物は、乾燥均一化によって得られる。
【0061】
比較材料#2
比較材料であるLi6PS5Clは、Angewandte Chemie,International Edition,2019,58,8681-8686に開示された手順から着想を得た、以下のプロセスで得られる。
【0062】
第1の工程において、0.631gのLiCl(Sigma-Aldrich、純度>99%)、1.713gのP2S5(Sigma-Aldrich、20純度>99%)及び1.713gのLi2Sを、ZrO2ボールを備えた45mlのジルコニアの瓶に加えた。ボールミル粉砕は、遊星ボールミルを用いて行われる。500rpmで2時間ミル粉砕した後、粉末が得られる。
【0063】
第2の工程において、粉末をArを満たしたグローブボックス(<1ppm H20、<1ppm O2)内で乳鉢にて均一化し、次いで、500MPaでペレット化して、質量が300~500mgの範囲にある直径6mmのペレットを作製する。これらのペレットは、カーボンで覆われた石英管内にて真空下で密封される。生成物を、0.5℃/分の昇温速度にて550℃で7時間結晶化させ、次いで室温まで冷却する。
【0064】
最終生成物は、高密度ペレットの形態である。最終製品は、Arを満たしたグローブボックス内で乳鉢を使用して乾式均一化することによって得られる。
【0065】
試験方法
PSD
分散液は、レーザー回折によるPSD測定において以下の通り調製される:150mgの粉末を50mLのパラキシレンに入れ、少なくとも5分間撹拌する。溶液を800μmの篩にて濾過し、Malvern Mastersizer 3000に導入する。データはフラウンホーファーの光学モデルで処理される。
【0066】
その場での拡散反射赤外フーリエ変換分光法(DRIFTS)
拡散反射赤外フーリエ変換分光法(DRIFTS)研究は、Bruker FTIR(MIR)Vertex 70分光計にて実行された。測定は、高温反応器チャンバーとPraying Mantis拡散反射アクセサリ(Harrick)を使用して行われた。反応器チャンバーは、KBrウインドウを備え、粉末に近い温度を測定するK型熱電対(type K thermocouple)で計測する。異なった気体を質量流量調節器(Bronkhorst)によって適量に分けることができる。測定は、分析チャンバーを不活性化し、試料を外部の湿気から保護するために使用される25Nml/分のアルゴン流量下、25℃、大気圧で実行された。全てのスペクトルは、1分の取得時間及び2cm-1のスペクトル分解能を使用して記録された。合計250回のスキャンが記録され、平均値は600~6000cm-1であった。検討された基の間の比は、関連するスペクトル領域、即ち、チオール基の2400cm-1~2570cm-1における領域、及びカーボネート基の1370cm-1~1570cm-1における領域の最大強度ピークを取得することによって計算された。
【0067】
導電率及び電気化学インピーダンス分光法(EIS)
インピーダンス分光測定の前に、粉末試料を、Arを満たしたグローブボックス内で、500MPaでコールドプレスした。導電率は、500MPaで作動する一軸プレスを使用して行われるペレットに関して取得した。ペレット化は、湿気のないアルゴン雰囲気で満たされたグローブボックス内で実験室スケールの一軸プレスを使用して行った。集電体として2枚のカーボン紙箔(MersenのPapyex軟質黒鉛N998 Ref:496300120050000、厚さ0.2mm)を使用した。次に、それらの炭素電極を取り付けたペレットを気密試料ホルダー内に充填し、測定のために40MPaの圧力を試料ホルダー上に適用する。インピーダンススペクトルは、Biologic VMP3デバイスにて取得される。インピーダンス測定は、約24℃の安定した温度で行われた。インピーダンス分光法は、振幅20mV、周波数範囲1MHz~1kHzのPEISモードで取得される(10進当たり25点、周波数点当たり50回の測定値の平均)。
【0068】
耐老化性
耐老化性は、材料を乾燥室にて430時間暴露した後に測定される。より正確には、材料の導電率の変化と重量の変化の両方が測定される。約2グラムの粉末をアルミニウムカップに広げ、露点(DP)-45℃~-50℃の乾燥雰囲気に曝露する。第2の空のアルミニウムカップを対照としてその隣に置く。モニターされたバンドは、それぞれ、チオール基(-HS)及びカーボネート基(CO3
2-)について、2482cm-1及び1445cm-1に対応する。
【0069】
生成物表面に吸着する可能性のある不純物(主にカーボネートと水)の量を評価するために、質量の変遷が経時に渡りモニターされる。
【0070】
導電率の変化(即ち、損失)は、次式(1)に従って測定される:
【数3】
(式中、
・ΔCは、20℃で乾燥室にて430時間暴露した後の材料の導電率の変化を指す
・C
t1は、即ち、材料を20℃で乾燥室にて430時間暴露した後である、時間t1で測定された導電率を指す
・C
t0は、時間t0で測定された材料の初期導電率を指す)。
【0071】
重量の変化(即ち、増加)は、次式(2)に従って測定される:
【数4】
(式中、
・ΔWは、20℃で乾燥室にて430時間暴露した後の材料の重量の変化を指す
・W
t1は、即ち、材料を20℃で乾燥室にて430時間暴露した後である、時間t1で測定された重量を指す
・W
t0は、時間t0で測定された材料の初期重量を指す)。
【0072】
結果
PSD結果
本発明の材料#1
【化1】
d
10-値=9.4μm
d
50-値=29.3μm
d
90-値=65.6μm
【0073】
比較材料#2
d10-値=6.8μm
d50-値=26.7μm
d90-値=103.0μm
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
表1及び表2にまとめた結果は、本発明の材料#1は、430(時)後のΔCが-73.0%に達する、老化性に伴う導電率の低下が大きい比較材料#2よりも老化性の影響を受けにくく、本発明の材料#1では-30.0%にすぎないΔCが得られることを示している。
【国際調査報告】