(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】光ファイバーラマン光度計及びその構築方法と応用
(51)【国際特許分類】
G01N 21/65 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
G01N21/65
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506262
(86)(22)【出願日】2022-08-04
(85)【翻訳文提出日】2024-01-31
(86)【国際出願番号】 CN2022110235
(87)【国際公開番号】W WO2023011582
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】202110901738.5
(32)【優先日】2021-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512198970
【氏名又は名称】華東師範大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】田 陽
(72)【発明者】
【氏名】劉 智超
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA16
2G043EA03
2G043FA06
2G043HA02
2G043HA05
2G043JA03
2G043KA01
2G043KA09
(57)【要約】
本発明は光ファイバーラマン光度計を開示し、当該光ファイバーラマン光度計は、光源部、走査システム、検出システム及び信号収集システムを含み、走査システムの中核は、第1のフィルター、第2のフィルター、第1のミラー、第2のミラー、スキャナー、対物レンズを含むレーザー共焦点ユニットに基づいており、励起光はファイバーレーザーから発生すると、第1のフィルター、第1のミラー、第2のフィルター、第2のミラーを順次に通過してスキャナーに入射し、その後に対物レンズを通過して集光され、検出システムはマルチモード光ファイバーの信号伝送と収集に基づいており、光ファイバーの先端にテーパを付けて、入射光は対物レンズを通過して集光されて光ファイバーに入射し、光ファイバーのテーパ状の端部から励起光を出射してプローブを励起し、ラマン信号を発生させ、その後に同一の光ファイバーで収集し、信号収集システムは走査システムと一部重なっており、光ファイバーで収集されたラマン信号はスキャナーに戻ると、さらに第2のミラー、第2のフィルターを通過してラマン分光器に戻り、ラマン分光器でラマン信号を読み出す。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源部、走査システム、検出システム及び信号収集システムを含む光ファイバーラマン光度計であって、
前記光源部はファイバーレーザーであり、
前記走査システムの中核は、第1のフィルター、第2のフィルター、第1のミラー、第2のミラー、スキャナー、対物レンズを含むレーザー共焦点ユニットに基づいており、
励起光はファイバーレーザーから発生すると、第1のフィルター、第1のミラー、第2のフィルター、第2のミラーを順次に通過してスキャナーに入射し、対物レンズを通過して集光され、
前記検出システムはマルチモード光ファイバーの信号伝送と収集に基づいており、光ファイバーの端部にテーパを付けて、入射光は対物レンズを通過して集光されて光ファイバーに入射し、光ファイバーのテーパ状の端部から励起光を出射してプローブを励起し、ラマン信号を発生させ、その後に同一の光ファイバーで収集し、
前記信号収集システムは走査システムと一部重なっており、光ファイバーで収集されたラマン信号はスキャナーに戻ると、さらに第2のミラー、第2のフィルターを通過してラマン分光器に戻り、ラマン分光器でラマン信号を読み出す、
ことを特徴とする光ファイバーラマン光度計。
【請求項2】
前記光源部において、前記レーザーの励起中心波長は785nm±0.5nmであり、出力パワーは0~500mWで調整可能であり、線幅は0.1nm未満であり、出力インターフェースはSMA905またはFC/PCであり、動作電圧は220Vである、ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバーラマン光度計。
【請求項3】
前記走査システムにおいて、前記第1のフィルターは785nmの光を通過させるバンドパスフィルターであり、前記第2のフィルターは785nmの入射光をフィルターするトラップフィルターであり、前記第1のミラーと第2のミラーはいずれも全反射ミラーであり、前記スキャナーはレーザー共焦点走査ユニットであり、前記対物レンズは倍率が10倍、NAが0.25である、ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバーラマン光度計。
【請求項4】
前記走査システムにおいて、前記光ファイバーは、コアが200μmであり、クラッドが25μmであるマルチモードファイバーであり、開口数(NA)は0.22で、転送範囲は400~1100nmであり、前記ファイバーの端部のテーパ長は480μmである、ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバーラマン光度計。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の光ファイバーラマン光度計を構築する方法であって、
ステップ1:次のサブステップを含む、共焦点走査ユニットを組み立て、
ステップ1-1:第1のフィルター、第1のミラー、第2のフィルター、第2のミラーを順次に取り付け、
ステップ1-2:対物レンズを取り付け、
ステップ2:次のサブステップを含む走査システムを構築し、
ステップ2-1:光ファイバーを介してファイバーレーザーを共焦点走査ユニットに接続し、
ステップ2-2:励起光が共焦点走査ユニットを通過し、対物レンズで通過させるように光路を調整し、
ステップ3:次のサブステップを含む検出システムを構築し、
ステップ3-1:光ファイバーにテーパを付けてテーパ付き光ファイバーを取得し、ファイバー信号収集効率を向上させ、
ステップ3-2:テーパ付き光ファイバーを走査システムの端部に取り付け、光ファイバーに結合するように励起光を調整し、
ステップ4:次のサブステップを含む信号収集システムを構築し、
ステップ4-1:光ファイバーを介してラマン分光計を共焦点走査ユニットに接続し、
ステップ4-2:ラマン信号収集をテストする、
ことを特徴とする光ファイバーラマン光度計の構築方法。
【請求項6】
生体内及び/又は生体外のラマン信号収集における請求項5に記載の方法によって構築された光ファイバーラマン光度計の応用。
【請求項7】
励起光の励起下で、生体外でラマン分子の信号収集における請求項5に記載の方法によって構築された光ファイバーラマン光度計の応用であって、
前記ラマン分子はローダミンB、銅チタニン、シアニン色素5を含み、
前記励起光の波長は、633nm、785nmを含み、
前記ラマン分子の濃度は0.1~5mMであり、
走査範囲は100~3200cm
-1である、
ことを特徴とする光ファイバーラマン光度計の応用。
【請求項8】
励起光の励起下で、異なる脳領域でのラマン分子の信号収集における請求項5に記載の方法によって構築された光ファイバーラマン光度計の応用であって、
前記異なる脳領域は皮質、海馬、線条体、視床であり、
前記励起光の波長は、633nm、785nmを含み、
前記ラマン分子は、ローダミンB、銅チタニン、シアニン色素5を含み、
走査範囲は100~3200cm
-1である、
ことを特徴とする光ファイバーラマン光度計の応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペクトルイメージング及びバイオセンシングの技術分野に属し、光ファイバーラマン光度計及びその構築方法と応用に関する。
【背景技術】
【0002】
脳は中枢神経系の中で最も高度な部分であり、その内部環境の変化は一連の病気を引き起こす可能性がある。特に脳深部領域では、内部環境の変化が病理学的により重要な意味を持つ。脳深部領域に関する関連研究を実施することは、神経系の構造と機能を解明するのに役立ち、それによって脳の働きの神経機序が明らかになり、関連疾患の診断と治療のためのより信頼性の高い基礎が提供される。従来の機能的磁気共鳴イメージング及び電気生理学的技術は脳画像解析に広く使用されているが、空間分解能が低く、さまざまな物質の化学信号を区別することが難しいため、一般に限界がある。表面増強ラマン分光法(SERS)は、分子指紋情報の高いスペクトル分解能に基づいて、光退色や自己蛍光に対する耐性という利点を備え、さまざまな物質の化学信号の変化を検出するための最良の策略を提供する。しかし、従来のラマン装置では、励起光の透過能力が限られており、溶液、細胞や組織レベルでの信号検出にしか使用できず、生体内での使用、特に脳深部でのラマン信号の収集には困難であった。従って、生体内での脳深部領域でのラマン信号収集に使用できる装置の開発が急務となっている。
【発明の概要】
【0003】
本発明の目的は、良好な生体適合性、脳深部領域でのラマン信号の収集を可能にする等の特徴を有する光ファイバーラマン光度計、及びその構築方法と応用を提供することである。
【0004】
本発明は、
図6に示すような光ファイバーラマン光度計を提供する。
【0005】
前記光ファイバーラマン光度計は以下の構成部分を含む。
(1)光源部:光源部はファイバーレーザーであって、その励起中心波長は785nm±0.5nmなどであり、出力パワーは0~500mWで調整可能であり、線幅は0.1nm未満であり、出力インターフェースはSMA905またはFC/PCであり、動作電圧は220Vである。
(2)走査システム:走査システムの中核は、第1のフィルター、第2のフィルター、第1のミラー、第2のミラー、スキャナー、対物レンズなどの部品を含むレーザー共焦点ユニットに基づいており、レーザーから励起光が発生すると、フィルターとミラーを通ってスキャナーに入り、対物レンズによって集光される。第1のフィルターは785nmの光を通過させるバンドパスフィルターであり、第2のフィルターは主に入射光をフィルターするトラップフィルターであり、第1ミラーと第2のミラーはいずれも全反射ミラーであり、スキャナーはレーザー共焦点走査ユニットであり、対物レンズは倍率が10倍、NAが0.25である。
図7に示すとおりである。
(3)検出システム:検出システムは主にマルチモード光ファイバーの信号伝送と収集に基づいており、光ファイバーの端部にテーパを付けて、入射光は対物レンズを通過して集光されて光ファイバーに入射し、光ファイバーのテーパ状の端部から励起光を出射してプローブを励起し、ラマン信号を発生させ、同一の光ファイバーで収集し、光ファイバーは、コアが200μmであり、クラッドが25μmであるマルチモードファイバーであり、開口数(NA)は0.22で、転送範囲は400~1100nmであり、ファイバーの端部のテーパ長は480μmである。
図8に示すとおりである。
(4)信号収集システム:信号収集システムは走査システムと一部重なっており、光ファイバーで収集されたラマン信号はスキャナーに戻ると、さらに第2のミラー、第2のフィルターを通過してラマン分光器に戻り、ラマン分光器でラマン信号を読み出し、そのスキャナーはレーザー共焦点走査ユニットであり、対物レンズは倍率が10倍、NAが0.25であり、第2のミラーはいずれも全反射ミラーであり、第2のフィルターは785nmの入射光をフィルターするトラップフィルターである。
図9に示すとおりである。
【0006】
本発明は、以下のステップを含む、光ファイバーラマン光度計を構築する方法を提供する。
ステップ1:次のサブステップを含む、共焦点走査ユニットを組み立てる。
ステップ1-1:第1のフィルター、第1のミラー、第2のフィルター、第2のミラーを順次に取り付け、
ステップ1-2:対物レンズを取り付ける。
ステップ2:次のサブステップを含む走査システムを構築する。
ステップ2-1:光ファイバーを介してファイバーレーザーを共焦点走査ユニットに接続し、
ステップ2-2:励起光が共焦点走査ユニットを通過し、対物レンズで通過させるように光路を調整する。
ステップ3:次のサブステップを含む検出システムを構築する。
ステップ3-1:光ファイバーにテーパを付けてテーパ付き光ファイバーを取得し、ファイバー信号収集効率を向上させ、
ステップ3-2:テーパ付き光ファイバーを走査システムの端部に取り付け、光ファイバーに結合するように励起光を調整する。
ステップ4:次のサブステップを含む信号収集システムを構築する。
ステップ4-1:光ファイバーを介してラマン分光計を共焦点走査ユニットに接続し、
ステップ4-2:ラマン信号収集をテストする。
【0007】
本発明はまた、生体内及び/又は生体外のラマン信号収集における上記の方法によって構築された光ファイバーラマン光度計の応用を提供する。
【0008】
本発明はまた、励起光の励起下で、生体外でローダミンB、銅チタニン、シアニン色素5などのラマン分子の信号収集における、上記の方法によって構築された光ファイバーラマン光度計の応用を提供する。
【0009】
ここで、前記励起光の波長は、例えば633nm、785nmであり、好ましくは785nmである。
【0010】
ここで、前記ラマン分子の濃度は0.1~5mMであり、好ましくは1mMである。
【0011】
ここで、走査範囲は100~3200cm-1であり、好ましくは1000~1800cm-1である。
【0012】
本発明はまた、励起光の励起下で、皮質、海馬、線条体、視床などの異なる脳領域でのラマン分子の信号収集における、上記の方法によって構築された光ファイバーラマン光度計の応用を提供する。
【0013】
ここで、前記励起光の波長は、例えば633nm、785nmであり、好ましくは785nmである。
【0014】
ここで、前記ラマン分子は、例えばローダミンB、銅チタニン、シアニン色素5であり、好ましくはローダミンBである。
【0015】
ここで、走査範囲は100~3200cm-1であり、好ましくは1000~1800cm-1である。
【0016】
本発明の有益な効果は、生きた動物の深部組織におけるラマン信号の取得を実現できる光ファイバーラマン光度計を構築できることであり、この応用機能は現在の市販ラマン装置が有していない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施例1においてさまざまな励起波長で検出されたブランクの光ファイバーのラマンスペクトルである。
【
図2】
図2は、実施例2において波長785nmのレーザー励起下で収集された、(a)ローダミンB、(b)銅チタニン、及び(c)シアニン5のラマンスペクトルである。
【
図3】
図3は、実施例3において異なる脳領域をターゲットとする光ファイバーの概略図である。
【
図4】
図4は、実施例3においてラマンプローブの調製を示す。(a)金ナノスターの透過型電子顕微鏡による特性評価、(b)金ナノスターの粒子径分布、(c)金ナノスター(AuNS)及びラマンプローブ(RhB@AuNS)の紫外線吸収の特性評価、(d)アミノローダミンB(RhB)及びラマンプローブ(RhB@AuNS)の785nm励起下でのラマンスペクトル。
【
図5】
図5は、実施例3において異なる脳領域で収集されたプローブラマンスペクトルである。(a)皮質、(b)海馬、(c)線条体、(d)視床。
【
図6】
図6は、本発明の光ファイバーラマン光度計の概略図である。
【
図7】
図7は、本発明の光ファイバーラマン光度計の走査システムの概略図である。
【
図8】
図8は、本発明の光ファイバーラマン光度計の検出システムの概略図である。
【
図9】
図9は、本発明の光ファイバーラマン光度計の信号収集システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の具体的な実施例及び図面を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。本発明を実施するための工程、条件、実験方法等は、以下に特に言及するものを除き、当該分野における一般的な知識及び公知常識であり、本発明は特に制限されない。
【0019】
本発明は、光ファイバーラマン光度計、及びその構築方法と応用を開示する。まず、ポータブルなラマン分光信号収集装置を構築し、これに基づいて、さらに生体内及び生体外でのラマン信号の効率的な収集を実現するための光ファイバーラマン光度計を構築した。前記光ファイバーラマン光度計は、光源、走査システム、検出システム、信号収集システムの4つの部分で構成されている。本発明はまた、溶液及び脳スライス中のラマン信号収集における前記光ファイバーラマンシステムの応用を開示する。
【0020】
実施例1 光ファイバーラマン光度計によるブランク光ファイバー信号収集
図1は、さまざまな励起光の下でファイバーラマン光度計によって励起されたときの光ファイバー自体のラマンスペクトルを示している。
【0021】
実施例2 光ファイバーラマン光度計による溶液中の異なるラマン分子の信号収集
光ファイバーラマン光度計による溶液中のラマン分子のラマン信号収集を評価するために、まず、ローダミンB、銅チタニン、シアニン色素5が含まれるさまざまな分子をエタノールに溶解して1mM溶液を調製した。次に信号収集を行った。本発明における溶液中のラマン分子の信号を測定する方法は、従来の機器測定方法よりも簡単かつ便利であり、追加の集光工程を必要としない。
【0022】
図2は、異なるラマン分子のラマン特性ピークを持つラマン分子のラマンスペクトルを示している。
【0023】
実施例3 光ファイバーラマン光度計による異なる脳領域のラマン信号収集
光ファイバーラマン光度計による異なる脳領域のラマン信号収集を評価するために、まず、脳領域をターゲットとする光ファイバーの能力を評価した。
図3に示すように、光ファイバーは大脳皮質、海馬、線条体、視床などの脳領域を効果的にターゲットとすることができる。一方、分子のラマン信号を増強するために、金ナノスター(AuNS)をさらに合成した。
図4に示すように、透過型電子顕微鏡の結果は、調製された金ナノスターが均一に分散しており、粒子径が約41.97±8.17nmであることを示している。次に、金とアミノ基の相互作用によりアミノルローダミンB分子(RhB)を金ナノスター上に修飾した。紫外線吸収により、AuNSのみの吸収は約760nmにあることが示された。RhBをAuNSに修飾すると、AuNSの吸収は7nm赤方偏移し、RhBの明瞭な吸収ピーク(~550nm)が現れた。さらに、ラマンスペクトルは、RhB分子をAuNSに修飾すると、RhBのラマン信号が著しく増強されることを示している。これらの結果は、RhB@AuNSプローブの調製に成功したことを示している。
【0024】
次に、RhB@AuNSプローブを脳スライスとともに30分間インキュベートし、ファイバー光度計を使用して異なる脳領域からのラマン信号を収集した。
図5に示すように、光ファイバーラマン光度計は、異なる脳領域内のプローブからのラマン信号の収集に使用することができる。これは、脳深部領域でのラマン信号収集を実現できる初めて報告された装置である。
【0025】
本発明の保護内容は上記実施例に限定されるものではない。本発明の概念の精神及び範囲から逸脱することなく、当業者が考え得る変更及び利点は本発明に含まれ、添付の特許請求の範囲によって保護される。
【国際調査報告】