(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】閉ループ状に巻かれた磁壁伝導路を使用する回転カウンタ
(51)【国際特許分類】
G01D 5/16 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
G01D5/16 M
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506448
(86)(22)【出願日】2022-06-24
(85)【翻訳文提出日】2024-02-01
(86)【国際出願番号】 DE2022000077
(87)【国際公開番号】W WO2023016593
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】102021004187.9
(32)【優先日】2021-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516126780
【氏名又は名称】ホルスト シードル ゲーエムベーハー ウント コー.カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110002169
【氏名又は名称】彩雲弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】マッテイス,ローランド
【テーマコード(参考)】
2F077
【Fターム(参考)】
2F077AA46
2F077PP14
2F077QQ17
(57)【要約】
本発明は、閉ループ状に巻かれた磁壁伝導路を使用する回転カウンタに関する。特に可能な限り大きい磁気ウィンドウを有する回転カウンタを提供するという課題を解決するために、第1の磁壁伝導路(M1)のループのループ部分の内端と外端が一緒に置かれる接続領域が、スパイラルの磁壁伝導路の両端にそれぞれ1個の空隙(201)を介して取り付けた第2の磁壁伝導路(M2)によって橋渡しされ、空隙(201)は閉じられるべき磁壁伝導路(M1)に局所的な中断を形成しており、空隙(201)の平均幅は、磁壁伝導路(M1、M2)の厚さよりも小さく決定されており、隣接する磁壁伝導路部分(M2又はM1)は空隙領域で非磁性層によって覆われている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ループ状に配置され実質的に平面(E1)内に位置して閉じられた磁壁伝導路を使用する回転カウンタにおいて、第1の磁壁伝導路(M1)のループのループ部分の内端と外端が一緒に置かれる接続領域が、スパイラルの磁壁伝導路の両端にそれぞれ1個の空隙(201)を介して取り付けた第2の磁壁伝導路(M2)によって橋渡しされ、空隙(201)は閉じられるべき磁壁伝導路(M1)に局所的な中断を形成しており、この空隙(201)には、磁壁(DW)が第1の磁壁伝導路部分(M2又はM1)から移動する際に第1の磁壁伝導路部分(M2又はM1)内に漂遊磁場が発生し、移動方向で空隙(201)の後に後続する磁壁伝導路部分(M2又はM1)内で磁壁(DW)の核形成をもたらすような幅が与えられており、空隙(201)の平均幅は、磁壁伝導路(M1、M2)の厚さ(t)よりも小さく決定されており、隣接する磁壁伝導路部分(M2又はM1)は空隙領域で非磁性層(S1)によって覆われていることを特徴とする、回転カウンタ。
【請求項2】
磁壁伝導路部分(M1、M2)は、互いに水平及び/又は垂直オフセット(hs、vs)を、磁壁伝導路(M1)の厚さ(t)若しくは幅(w)の25%未満である限り有することができることを特徴とする、請求項1に記載の回転カウンタ。
【請求項3】
空隙(201)を形成する磁壁伝導路(M1、M2)の端面が、互いに平行及び/又は25°~90°の角度範囲で斜めに配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の回転カウンタ。
【請求項4】
空隙(201)を形成する磁壁伝導路(M1、M2)の端面が、互いに平行及び/又は25°~90°の角度範囲で斜めに配置されていることを特徴とする、請求項2に記載の回転カウンタ。
【請求項5】
異なる飽和磁化を有する軟磁性材料が第1及び第2の磁壁伝導路構造(M1及びM2)に使用され、飽和磁化の差が有利には40%未満に保たれることを特徴とする、請求項1に記載の回転カウンタ。
【請求項6】
両軟磁性範囲M1及びM2の積(断面・飽和磁化)の偏差は、25%未満であることを特徴とする、請求項1及び5に記載の回転カウンタ。
【請求項7】
非磁性層(S1)は、反磁性、常磁性又は反強磁性材料からなることを特徴とする、請求項1に記載の回転カウンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉ループ状に巻かれた磁壁伝導路を使用する回転カウンタであって、特に大きい回転数U(U>100)用の回転カウンタに使用されるものに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気センサは、磁場の方向など、磁場の特性を検出することができる。その一例が角度センサである。他のタイプの磁気センサは、磁場が回転した頻度を決定できる。このような回転カウンタは、例えばよく知られている先行技術であるGMR回転カウンタ又はTMR回転カウンタによって形成することができる(例えば:RSM-2800:https://www.novotechnik.de/fileadmin/user_upload/pdfs/kataloge_flyer/Flyer_RSM-2800.pdf)。このような磁気回転カウンタの基本原理は、磁性導体とみなすことができる連続した磁気領域内を移動する磁壁の使用に基づいている。磁壁は、軟磁性金属材料で作られている。読み出し原理は磁気抵抗効果を利用する。このために少なくとも局所的に、磁壁を局在化させることを可能にする別の磁性層と非磁性層が必要である。このような回転カウンタは、次のように技術的に実現されている。それ自体がGMRスタックの一部であるか又は局所的にTMRスタックを形成している、電気的及び磁気的に途切れない磁性導体内に、外部磁場(例えば回転する永久磁石)によって磁壁が発生し、スパイラル状に配置された磁性導体内を移動する。この場合、磁性導体の長さは、個々の巻きの長さが外側に向かって増加するので、スパイラルを構成する巻き数Nに過比例して増加する。最も内側のループの長さをL1、個々の巻きの間の距離をaとすると、N個の巻きで構成されるスパイラルのi番目の巻きの長さLiは、次式を使って計算される。即ち、長さL(i)=L1+8(i-1)・a。これにより、N個の巻きを持つスパイラルの全長L(N)は、個々の長さLiの合計としてL(N)=N・L1+4・a・(N2-N)となる。したがってこの長さL(N)はNに線形以上に比例して増加する。
連続した磁性導体の長さが増加するに連れて、磁壁の動きを妨げてその機能が満たされなくなる欠陥が導体内に存在する確率も比例して高くなる。その結果、歩留まりはNの増加に過比例して低下する。それと同時に、必要とされるチップ面積は、Nが増加するに連れてますます大きくなるが、これは何よりも読み出しに必要な接点の数がNに正比例して増加するためである。この特性により、実際に回転カウンタを実現するために閉じていないスパイラルを使用するのは、N≦64の場合に制限される。技術分野では、64回転を大幅に超える回転数をカウントしなければならない要求が多くあり、これは上述した基本原理では実現できない。
【0003】
DE102013018680A1で提案されているように、回転数のカウントは、単一の開いたスパイラルを使用するのではなく、複数の閉ループCL
i(CL=閉ループ)を使用し、i番目のループをN
i個の巻きを持つスパイラルで構成することによっても実現できる。全てのスパイラルN
iで外端と内端は互いに接続されて、それぞれ1個の閉ループCLiを形成する。更に、特許DE102013018680A1によりi=1...4のループNiは、それぞれが互いに素であるように設計されている。これにより、このように設計された回転カウンタは、1からN
1・N
2・...N
nまでカウントできる。Ni=5、7、9及び13のn=4ループの例示的なケースの場合、これは最大4095回転の回転数を求めることができることを意味する。この場合、全ての閉ループの全長は、上記の解決策によればN=34の単一のスパイラルに相当する。
これにより明らかになるのは、CL
iの各ループにおける個々のループの総数が大幅に少ないため、全てのループの全長も大幅に短く設計できることである。このことは同時に、回転カウンタをこのように実現するために、歩留まりを決定する磁性伝導路の全長が大幅に短くなることを意味する。同時にこの提案では、それぞれの回転情報を読み出すために必要な接続パッドの数も減らすことができる。その結果として更に、この回転カウンタの表面積をより小さく抑えることができ、したがってより低コストで製造できる。閉ループCLiを実現するためには、全てのループCL
iの内端と外端を互いに接続しなければならない。これについて先行技術には2件の方策が記載されている。DE102013018680A1では、
図1に示すように、新しい機能要素、即ち磁性伝導路内に交差部を導入することによって接続を実現することが提案されている。
この解決策のために、回転センサ全体が1平面上に配置されている。この解決策の利点は、スパイラルを作製するのと同じ技術ステップで交差部も製造できることである。しかしながら、この提案された解決策の欠点は、交差領域では、磁性伝導路の幅が、少なくとも1.414倍の値(
図1の交差領域を形成する幅wの両ウェブの対角線D)に増加し、そのため構造内で、磁性伝導路の幅はwからD
expの範囲にあることである。センサの重要な特性、即ちセンサがエラーなしでカウントできる磁場領域は、形状と直接関連している。エラーなく機能するように、磁壁を磁壁伝導路内で常に確実に搬送するために、下回ることが許されない最小磁場B
minが存在する。同様に、磁場B
maxを上回ってはならない。なぜなら、さもないと構造内に更なる磁壁が制御不能に発生するからである。B
minとB
maxの値は幅wに間接的に比例するので、幅の値が1.42倍増加する交差部で、回転センサを動作させることができる最小誘導B
minと最大誘導B
maxの値が局所的に減少することにつながる。このことは、
図2で明らかである。ここでは磁気ウィンドウΔBがいかに大きくストリップ幅wに依存しているかが示されている。
図2では、ストリップ幅w=350nmのスパイラルについて、磁気ウィンドウΔBが二重点線で表示されている。wが525nmに増加した所での磁気ウィンドウΔBが垂直二重破線で表されている。交差部のあるスパイラル内ではw=350nmとw=525nmの構造が存在するため、
図2に示すように、2本の平行な水平線間の垂直間隔として磁気ウィンドウΔBが生じる。ここから、交差部を持つ回転センサは、両部分構造のB
maxの小さい値とB
minの大きい値によって形成される、
図2に示す著しく狭いΔBの範囲内でしか動作できないことになる。
B
minとB
maxの差が、回転カウンタを使用できる磁気ウィンドウの幅を表している。
図2に示すケースでは、対角線Dが525nmの交差部を実現することに成功した場合、磁気ウィンドウΔBは幅は15mT(b=350nmの開いたスパイラル)からわずか5mTに減少するであろう。その場合、磁気ウィンドウは、
図2に長方形を用いて示したように、D=w=525nmの場合のB
max値とw=350nmの場合のB
min値によって制限されて、交差部のないスパイラルと比較して15mTから5mTに低下するであろう。
図1に示すように、既知の実現されているループでは、交差部の形状(
図1の円A2参照)が理想的な形状(円A1)から逸脱している。交差部の丸みにより、Dの値は増加する。値D
expが理想的な交差部の値Dに比べて大きいため、実験的に達成可能な1~2mTの大きさの磁気ウィンドウは、
図2の5mTよりも更に小さくなることが予想され、それゆえ実用にはまったく適していない。
この磁気ウィンドウはセンサがどのような干渉磁場抵抗を有するかを決定するため、応用技術上の理由から可能な限り大きくすべきであろう。磁気ウィンドウが狭いと、許容されない干渉磁場を抑制するために、ここでは詳しく説明しないが、追加の大きい技術的労力が必要となって、センサシステムのコスト増と設計形状の大型化を招く。同時に、狭い磁気ウィンドウは、回転カウンタの製造において設置位置に関して狭い公差を必要とし、回転磁場を発生させる磁石12についても、
図3に可能な応用例について示すように、狭い公差を必要とし、それもまたコスト増につながる。
【0004】
更に、交差部のない閉ループ構造が特許DE102010022611B4で提案された。この解決策は、スパイラルの短絡、即ち磁性導体によるスパイラルの内端と外端の接続が、交差部が生じないように設計されることを要求する。これは、この接続が、閉じていないスパイラルが位置する平面E1より上方又は下方の平面E2で実現されることによってのみ実現可能である(
図4と
図5参照)。磁性導体の幅がどこでも一定である理想的な場合においては、この閉ループを有する回転カウンタの態様は、スパイラルと同じ幅の磁気ウィンドウを持つことになり、それゆえ上述した交差部の例において原理的に可能である磁気ウィンドウより著しく広くなるであろう。しかしながら、現在までのところ最後に挙げた解決策の技術的実現は知られていない。その理由は、この解決策は、平面1内で作製されたまだ開いているスパイラルが、
図4の上面図と
図5の断面図に示すように、平面1から平面2を経由して平面1に戻るように延びる追加の磁性導体M2を備え、これが平面1内にある開いたスパイラルの両端を指定された箇所K1とK2で互いに接続することを前提としているからである。
磁壁の移動を担う層構造(磁壁伝導路)の厚さはtである。
図5の左側の断面図に示すように、M2で表示された接続領域は、部分的に、横断するスパイラルが位置する平面E1の上方に位置するか、或いは同様に可能な解決策では平面E1の下方に位置しており、したがってスパイラルと接触していない。M2とM1が接する箇所K1とK2でのみ、両構造は共通の平面E1上にある。
この解決策の課題は、第一に、短絡は理想的には、短絡を形成する磁性導体M2の断面がスパイラルの磁性導体M1の断面と同一になるように設計されなければならないことである。このことは、製造技術的には比較的容易に実現できるであろう。この解決策で特に問題となるのは、磁性導体M1と磁性導体M2が接する箇所である。これは、横方向にも垂直方向にも実質的にオフセットなしで行われなければならない。なぜなら、発見されたように、支持体に対して横方向に15nm変位しても、移動磁壁の固定(ピン止め)を強く助長するので、
図2に示す下側磁気ウィンドウB
minの値が増大するであろうからである。それゆえ、横方向のオフセットは、例えば下側磁気ウィンドウを顕著に悪化させないためには、磁性導体の幅の1/20未満でなければならないが、これは従来使用されているセンサでは約350nmである。更に問題となるのは、磁壁の発生と磁性導体を介した磁壁の移動というセンサ機能にとって重大な同じ特性を全長にわたって持つ連続した磁性導体を得るために、両導体M2とM1が直接接する箇所の厚さも、互いに接続する伝導路部分M1とM2の厚さに対して最小限の差しかあってはならないという要件である。しかしながら、この要件は、
図5の拡大円A6に示すような接続箇所に重なりを設けるという考え得る構成を排除する。
図1~
図5は、公知先行技術による解決策と、その結果生じる問題点を表している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】RSM-2800:https://www.novotechnik.de/fileadmin/user_upload/pdfs/kataloge_flyer/Flyer_RSM-2800.pdf
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】DE102013018680A1
【特許文献2】DE102010022611B4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、先行技術の記載された解決策の問題点を有さないか、或いははるかに小さい程度にしか有さず、特に技術的に取扱いやすく、可能な限り大きい磁気ウィンドウを有する、ループ状に配置され、実質的に1平面内に位置して閉じられた磁壁伝導路を使用する回転カウンタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、特許請求の範囲第1項の特徴によって解決され、ここで、第1の磁壁伝導路M1のループのループ部分の内端と外端が一緒に置かれる接続領域が、スパイラルの磁壁伝導路の両端にそれぞれ1個の空隙を介して取り付けた第2の磁壁伝導路M2によって橋渡しされ、空隙201は、閉じられるべき磁壁伝導路M1に局所的な中断を形成し、この空隙201には、磁壁DWが第1の磁壁伝導路部分(M2又はM1)から移動する際に第1の磁壁伝導路部分(M2又はM1)内に漂遊磁場が発生し、移動方向で空隙201の後に後続する磁壁伝導路部分(M2又はM1)内で磁壁DWの核形成をもたらすような幅が与えられており、空隙201の平均幅は、磁壁伝導路M1の厚さtよりも小さく決定されており、隣接する磁壁伝導路部分(M2又はM1)は空隙領域で非磁性層S1によって覆われている。
有利な実施形態は、従属請求項の主題である。
【0009】
本発明の本質は、磁壁が移動する磁性伝導路を、先行技術で通例のように、連続的な途切れない伝導路としてではなく、
図6~
図14に示すように形成することである。特にそれぞれ磁壁伝導路M1からM2への移行箇所には、本発明に従って狭い空隙201が設けられ、この空隙201は、例えば
図9~
図11に例示されているように、非磁性材料で満たすことができる。磁性導体の中断により、従来公知の解決策と比較して、回転カウンタの磁気特性の改善につながる驚くべき利点が生じることが発見された。実施されたマイクロマグネティックシミュレーション計算で判明したように、磁性導体内の過大ではない空隙201は、予想に反してセンサの機能性にいかなる障害ももたらさない。磁壁DWが本発明による空隙を越えてどのように移動するかが
図7に示されている。
図7の一連の画像は、磁壁が空隙201を通過する際のM1とM2における磁化分布を概略的に上面図で示す。一番上の図は、初期構成を示している。両領域M1とM2における磁化は左を向いている。M1とM2の間の狭い空隙201は、右の導体から左の導体に進む漂遊磁場によって覆われている。
左側導体M1内に磁壁DWが存在する状態で、太い矢印13で表される、実質的に右を向いた均一な磁場(
図3に示す外部磁石12によって生成される)がこの配置に作用すると、左側導体M1内で磁壁DWが右に移動する。
図7において(1)で表示された部分図はすべて、導体M1内の磁壁の移動を表している。十分に大きい磁場の影響を受けると、磁壁は空隙201に向かって移動する。そこで磁壁は左側導体の右側で消滅し((2)で表示)、これは空隙における漂遊磁場の変化をもたらす。
図3に示す外部磁石12によって生成され、
図7に太い矢印で示された外部磁場と共に、変化した漂遊磁場が右側導体M2の左端に磁壁DWの核形成をもたらす((3)で表示)。この磁壁は、磁場の影響を受けて右側導体内を更に右に移動する((4)で表示)。
一方の側で磁壁が消失し、他方の側で核が形成されることにより、上述した先行技術による連続した磁性導体において空隙のないM1とM2の間の現実の移行箇所で観察されるであろう磁壁の固定が妨げられる。
【0010】
以下の実施例は、本発明を詳細に説明するために用いる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、スパイラルの平面内で内端と外端が接続されたスパイラルの上面図であり、交差部K1は右側に拡大して2通り示されている。A1は交差部形状の理想化された状況を表している。A2は、フォトリソグラフィで通常達成でき、交差領域(対角線D
exp)の拡大をもたらす状態を示している。
【
図2】
図2は、上側及び下側の磁気ウィンドウ(B
max(w)太い黒の曲線とB
min(w)細い黒の破線曲線)と、磁区が移動する磁壁伝導路の幅wとの依存関係を示すグラフである。水平線は、ウェブ幅350nm及び交差部の対角線525nmで交差する閉じたスパイラルの場合のΔB範囲を画定している。
【
図3】
図3は、3回転、5回転、7回転、11回転をカウントするための4個の閉じたスパイラルを持ち、最大1155回転までカウント可能な回転カウンタの概略上面図(接点は表示せず)である。閉じたスパイラルの上方又は下方に、回転軸Xを中心に回転する永久磁石12があり、その漂遊磁場が4個全ての閉じたスパイラルを捕捉する。
【
図4】
図4は、領域M2によって閉じられた、5回転を数えるためのスパイラルの上面図である。左側の図でマークされた円形の領域が、右側に拡大して示されている。
【
図5】
図5は、
図4のB-B方向の断面図である。右側には、左側の図でK2とマークされた円形領域が、右側に拡大して2通り(理想化されたバージョンA5と重なったバージョンA6)示されている。
図1~
図5は、既知の、或いは考えられる先行技術を表している。
【
図6】
図6は、M1とM2の間に本発明による空隙201を有する磁壁伝導路の断面図であり、右側には、M2とM1との間の空隙を有する移行部が部分
図A5で拡大して示されている。
【
図7】
図7は、磁壁DWが磁性導体M1の一方の側から本発明による空隙201を越えて他方の磁性導体M2へ移動するシーケンスを示す図である。磁壁DWの位置を黒い楕円で示し、磁性導体M1とM2内の磁化方向を黒い矢印で概略的に示す。太い矢印は、永久磁石12が構造に作用する磁場を表す。
【
図8】
図8は、空隙201を有する接続部M1とM2の断面図であり、右側には完全なXMRスタック(GMRスタック又はTMRスタック)が示されており、磁性導体としてのM1、その下に分離層101(例えばGMRスタックの場合は2nmのCu、TMRスタックの場合は約1nmの絶縁体)、その下にはCoFe/Ru/CoFeからなるいわゆる人工反強磁性体102、及び反強磁性体103を有する。
【
図9】
図9は、層M1と層M2の縁が斜めに形成され、分離層S1によって互いに幾何学的に離間されている接点の設計の断面図である。
【
図10】
図10は、層M1とM2の縁がV字形(太く表示された斜線を参照)になるように斜めに形成され、分離層S1とS2によって幾何学的に離間されている、層M1と層M2の間に空隙がある接点の設計の断面図である。
【
図11】
図11は、層M1と層M2の縁が斜めに形成され、分離層S1によって幾何学的に離間された接点の設計の上面図である。
【
図12】
図12は、両磁壁導電路のサイズの垂直オフセットvsが示されている、接点の断面図である。
【
図13】
図13は、両磁壁伝導路の横方向の水平オフセットhsが示されている、接点の上面図である。
【
図14】
図14は、M1とM2に異なる飽和磁化Ms
(1)、Ms
(2)を有する材料を使用した接点の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1~
図5は、既知の、或いは考えられる先行技術を表しており、これについては冒頭で関連する問題点と併せて既に十分に説明されている。
【0013】
本発明の詳細な説明は
図6から始める。
図6は、それぞれ磁壁伝導路部分M1とM2の間に本発明による空隙201を有する磁壁伝導路の断面図の部分を示す。右側には、M2とM1との間に空隙を有する移行部が部分
図A5で拡大して示されている。
【0014】
磁壁DWが両磁性導体部分内で空隙201を越えてどのように進むかは、
図7に詳細に示されている。磁壁DWの位置を黒い楕円で概略的に示され、磁壁伝導路M1及びM2内の磁化方向は黒い矢印で示されている。太い矢印は、永久磁石12(
図3参照)が構造に作用する磁場を表す。磁壁移送が本発明による空隙201を越えてどのように詳細に行われるかは、既に上記で詳細に説明した。
【0015】
図8の右側は、GMR又はTMRスタックに使用されて知られている典型的な構造を示している。層103はPtMnなどの反強磁性層であり、その上にある層102は人工反強磁性層AAF(artificial antiferomagnetic layer)である。これは人工反強磁性体として知られる層システムで、典型的にはCoFe/0.8nmRu/CoFeの構造を有する。M1層は、前述のループ内で磁区が移動する層である。これは通常軟磁性で、Ni、Fe及び/又はCo合金、例えばNi
81Fe
19、NiFeCo、NiFeB、CoFe、CoFeB又はこれらの材料の組み合わせからなる。本発明によれば、層M1はM2を形成する層若しくはスタックに直接接続されていないという条件がある。
【0016】
図9は、層M1と層M2が、ハッチングで示された非磁性分離層S1によって分離されている例を示す。本発明によれば、この層は非磁性材料からなり、導電性、半導電性、絶縁性のいずれでもよい。これにより、技術的実現に大きい可変性を持たせることができる。
図9は、層M1と層M2の端が斜めに、しかし互いに平行に形成されており、分離層S1によって幾何学的に離間されている接点を示している。
【0017】
図10が示すように、M1とM2の間の横方向の距離は、本発明の範囲内では一定である必要はなく、そこに示されたV字型の空隙の場合のように変化することもできる。この技術的解決策では、両領域は垂直方向に斜めに切られ、分離層S1によって最小間隔が設けられ、次いで分離層S2で覆われて空隙を完全に満たす。この解決策においても、両分離層S1、S2は非磁性材料によって形成できる。非磁性とは、永久磁気モーメントを有してはならず、したがって強磁性であってもフェリ磁性であってもならないことを意味する。即ち、これらの材料は反磁性、常磁性、又は反強磁性でなければならない。
【0018】
しかしまた、M1とM2の間にある空隙は、
図11に磁壁伝導路の上面図で例示されているように、平面内に斜めに配置することもできる。上述した空隙形状の様々な実施形態の組み合わせも本発明の範囲内である。
【0019】
技術的実現にとって大きい利点は、本発明による解決策は、M1とM2の断面が互いに正確に移行する必要はなく、
図12と
図13に例示するように、横方向にも垂直方向にもわずかにずれてもよいことである。
図12は、サイズの垂直オフセットvsが許される接点の断面図を例示する。垂直オフセットvsが磁壁伝導路M1の厚さtの25%未満、即ち軟磁性層の典型的な厚さ40nmで10nm未満である限り、
図7に概略的に示すように、磁壁はこの空隙を飛び越えることができる。同じことは、
図13に示すような両構造M1とM2の横方向のオフセットhsについても言える。横方向のオフセットhsが磁壁伝導路の幅の25%未満、即ち典型的なシステム(360nm)で90nm未満である限り、磁壁はM1とM2の間の空隙を上述したように飛び越えることができる。
【0020】
提案された解決策は、更に別の技術的自由度を提供する。
図14には両領域M1とM2の飽和磁化の値が異なる解決策が例示されている。即ち、磁壁が本発明による空隙を通って移動する機能にとって重大なのは、M1からM2へ、及びM2からM1へ作用する磁束である。これは、断面積と飽和磁化Msの積がほぼ等しいことを意味する。例えば、磁壁伝導路領域M2を形成するために、飽和磁化M
s
(1)の値より飽和磁化M
s
(2)の値が40%大きい材料を、この材料の断面積を40%減少させるならば使用することができる。これは例えば、飽和磁化が800kA/mであるNi
81Fe
19の磁壁伝導路M1を、飽和磁化が1140kA/mのCoFeからなるM2と組み合わせる場合に生じる。この減少は、幅又は厚さを40%削減するか、又は例えば幅を20%削減して厚さを20%削減するなど両方の変更を組み合わせることによって行うことができる。しかしながら、幅と厚さを削減する場合、強く非対称に削減するよりも対称的に削減することが好ましい。
実施されたマイクロマグネティックシミュレーションから、平均空隙幅が磁性導体の層厚tの50%未満である限り、B
minとB
maxの予想値は殆ど変わらないことが推定できる。平均空隙幅がこれより大幅に増加したら、B
minが少し上昇し、B
maxが少し低下することも予想される。層厚tを基準とした平均空隙幅が最大許容量変化した場合、磁気ウィンドウの幅は15mTから10mTに低下する。
提案された発明の実施により、1平面内に位置する、回転数のカウントに適した既知の構造を有するスパイラル状配置を、第2平面内で磁壁を支持する構造と、幾何学的な中断を使用して橋渡しすることによって閉ループの新規な製造が可能になる。本発明は、技術的な実施のために、従来到達できなかった一連の可能性を提供し、首尾よく実施されれば先行技術により従来知られている解決策と比較して磁気ウィンドウの大幅な拡大につながる。
【0021】
先行技術(例えばDE102010022611B4参照)で慣例の移行部では、15nmのオーダーの極めて小さい段差又はリソグラフィ欠陥でも、回転カウンタの動作不能につながる磁区のピン止めが観察されるのに対し、本発明による空隙の箇所における磁壁伝導路の比較的大きい中断は、磁壁移送にまったく悪影響を及ぼさない。
【0022】
説明、実施例、特許請求の範囲及び/又は図面から明らかな全ての特徴は、単独でも、互いに任意に組み合わせても本発明に必須であり得る。
【符号の説明】
【0023】
E1 ループ状磁壁伝導路が位置する平面
E2 接続平面
K1、K2交差部
A1、A2、A3、A4、A5、A6 拡大図を示す円
w 磁壁伝導路M1の幅
D 交差部の対角線
Dexp Dの(現実的な)拡大値
X 永久磁石12の回転軸
DW 磁壁
12 永久磁石
13 磁場の方向を示す矢印
B-B 切断面
M1 ループ状構造の磁壁伝導路
M2 橋渡しする第2の磁壁伝導路
Ms
(1)、Ms
(2) 異なる飽和磁化
t 磁壁伝導路M1の厚さ
201 M1とM2との間の空隙
101 分離層
102 人工反強磁性体
103 反強磁性体
S1 非磁性層
vs M1とM2の間の垂直オフセット
hs M1とM2の間の水平オフセット
【国際調査報告】