(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】T細胞の生産方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0783 20100101AFI20240719BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240719BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240719BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240719BHJP
C12N 15/867 20060101ALN20240719BHJP
【FI】
C12N5/0783
A61K35/17
A61P35/00
C12N15/12
C12N15/867 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506477
(86)(22)【出願日】2022-08-03
(85)【翻訳文提出日】2024-02-01
(86)【国際出願番号】 EP2022071867
(87)【国際公開番号】W WO2023012236
(87)【国際公開日】2023-02-09
(32)【優先日】2021-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517122578
【氏名又は名称】アダプティミューン・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤン チェン-タオ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AC20
4B065CA44
4B065CA46
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB37
4C087BB64
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZB26
(57)【要約】
本発明は、前駆T細胞の集団を生産する方法であって、造血前駆細胞(HPC)を、メチル4-(3-ピペリジン-1-イルプロピルアミノ)-9H-ピリミド[4,5-b]インドール-7-カルボキシレート(UM729)または(1R,4R)-N1-(2-ベンジル-7-(2-メチル-2H-テトラゾール-5-イル)-9H-ピリミド[4,5-b]インドール-4-イル)シクロヘキサン-1,4-ジアミン(UM171)などのピリミドインドール化合物の存在下で前駆T細胞へと分化させることを含む、方法に関する。前駆T細胞は、例えば免疫療法に使用するために、成熟させ、活性化させ、増大させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前駆T細胞の集団を生産する方法であって、
造血前駆細胞(HPC)の集団を、ピリミドインドール化合物の存在下で前駆T細胞へと分化させることを含む、前記方法。
【請求項2】
前記ピリミドインドール化合物の存在は、前駆T細胞へと分化するHPCの割合を増加させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記HPCは、有効量の前記ピリミドインドール化合物を補充したリンパ球増大培地中で前記HPCの集団を培養することを含む方法により分化される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記リンパ球増大培地は、有効量のSCF、FLT3L、TPO、IL7、及び前記ピリミドインドール化合物を補充した既知栄養培地からなる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記HPCはCD34+表現型を有する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記HPCは、前記HPCを共通リンパ系前駆細胞(CLP)へと分化させることと、前記CLPを前駆T細胞へと分化させることとを含む方法により分化される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記HPCの集団は、人工多能性幹細胞(iPSC)からin vitroで生産される、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記方法は、iPSCの集団を準備することと、前記iPSCをHPCの集団へと分化させることとを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前駆T細胞はCD5+、CD7+の表現型を有する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前駆T細胞を増大させる方法であって、
前記前駆T細胞をピリミドインドール化合物の存在下で培養することを含む、前記方法。
【請求項11】
前記ピリミドインドール化合物の存在は、前記集団における前記前駆T細胞の増大を高める、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記前駆T細胞の増大は少なくとも21日間である、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ピリミドインドール化合物は置換ピリミド[4,5-b]インドールである、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記ピリミドインドール化合物はメチル4-(3-ピペリジン-1-イルプロピルアミノ)-9H-ピリミド[4,5-b]インドール-7-カルボキシレートである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ピリミドインドール化合物は(1R,4R)-N1-(2-ベンジル-7-(2-メチル-2H-テトラゾール-5-イル)-9H-ピリミド[4,5-b]インドール-4-イル)シクロヘキサン-1,4-ジアミンである、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記ピリミドインドール化合物は5μM未満の濃度で存在する、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記方法は、αβTCRをコードする異種核酸を前記iPSC、前記HPC、または前記前駆T細胞に導入することをさらに含む、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記αβTCRをコードする前記異種核酸は発現ベクターに含まれている、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記発現ベクターはレンチウイルスベクターである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記αβTCRは親和性向上型TCRである、請求項17~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記αβTCRは、細胞によって発現される標的抗原のペプチド断片を提示するMHCに特異的に結合するか、またはMHC提示とは無関係に細胞によって発現される標的抗原もしくはそのペプチドに特異的に結合する、請求項17~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記αβTCRは、がん細胞によって発現される腫瘍抗原のペプチド断片を提示するMHCに特異的に結合するか、またはMHC提示とは無関係にがん細胞によって発現される腫瘍抗原もしくはそのペプチド断片に特異的に結合する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記前駆T細胞をさらに分化させてTCRαβ+T細胞を生産することを含む、先行請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記前駆細胞が、前駆T細胞の集団をT細胞成熟培地中で培養することを含む方法により、さらに分化される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記TCRαβ+T細胞がCD8+CD4+表現型を有する、請求項23または請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記TCRαβ+T細胞を活性化及び増大して、CD8+単一陽性表現型またはCD4+単一陽性表現型を有するT細胞の集団を生産することを含む、請求項23~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記TCRαβ+T細胞は、標的抗原を発現する細胞に特異的に結合する、請求項23~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記標的抗原は腫瘍抗原である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記TCRαβ+T細胞は、前記腫瘍抗原を発現するがん細胞に特異的に結合する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記TCRαβ+T細胞を単離または精製することをさらに含む、請求項23~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記TCRαβ+T細胞が磁気活性化細胞選別により単離される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記TCRαβ+T細胞の集団を濃縮することをさらに含む、請求項23~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記TCRαβ+T細胞の集団を保存することを含む、請求項23~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記TCRαβ+T細胞の集団を薬学的に許容される賦形剤とともに製剤化することを含む、請求項23~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
請求項1~22のいずれか1項に記載の方法により生産される、前駆T細胞の集団。
【請求項36】
請求項23~34のいずれか1項に記載の方法により生産される、TCRαβ+T細胞の集団。
【請求項37】
請求項23~34のいずれか1項に記載の方法により生産されるTCRαβ+T細胞の集団と、薬学的に許容される賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項38】
治療方法に使用するための、請求項23~34のいずれか1項に記載の方法により生産される、TCRαβ+T細胞の集団。
【請求項39】
がんの治療方法に使用するための、請求項23~34のいずれか1項に記載の方法により生産される、TCRαβ+T細胞の集団。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は(例えば、免疫療法に使用するための)T細胞の生産に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫療法薬は、長期生存の見込みがあり、がん処置の様相を変容させようとしている(McDermott et al.,Cancer Treat Rev.2014 Oct;40(9):1056-64)。患者集団及び腫瘍型の範囲を拡大するための新しい免疫調整薬に対する、明らかな満たされていない医療ニーズが存在する。さらに、抗腫瘍応答の大きさ及び持続時間を向上させるために、新しい薬剤が必要とされている。これらの薬剤の開発は、過去20年間でT細胞免疫を制御する基本原理の理解が深まったことから可能になっている(Sharma and Allison,Cell.2015 Apr 9;161(2):205-14)。これには通常、MHC分子によって提示される腫瘍関連ペプチド抗原を認識する腫瘍特異的CD4+及びCD8+T細胞が必要である。様々なワクチン接種ストラテジー及びex vivoで増大した腫瘍浸潤リンパ球の養子移入は、いくつかの事例において、腫瘍特異的T細胞が末期がんを処置できることを示した(Rosenberg et al.,Nat Med.2004 Sep;10(9):909-15)。
【0003】
しかし、現在の養子T細胞療法は、好適な患者及び腫瘍特異的T細胞の不足によって制限されており、免疫療法で効果的に使用するための治療上十分かつ機能的な抗原特異的T細胞が必要とされている。
【0004】
ピリミド[4,5-b]インドール誘導体は、造血幹細胞(HSC)の増大を向上させるが、その分化を阻害することが報告されている(WO2013110198)。
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、UM729及びUM171などのある特定のピリミドインドール化合物が、造血前駆細胞の前駆T細胞への分化及び/または前駆T細胞の集団の増大を高めるために使用され得ることを認識した。これは例えば、免疫療法用のT細胞の生産に有用であり得る。
【0006】
本発明の第1の態様は、前駆T細胞の集団を生産する方法であって、造血前駆細胞(HPC)の集団を、ピリミドインドール化合物の存在下で前駆T細胞へと分化させることを含む、方法を提供する。
【0007】
ピリミドインドール化合物の存在は、前駆T細胞へと分化するHPCの割合を増加させる可能性がある。
【0008】
第1の態様の方法は、前駆T細胞の集団を増大させることをさらに含み得る。好ましくは、前駆T細胞の集団は、ピリミドインドール化合物の存在下で培養することにより増大される。
【0009】
本発明の第2の態様は、前駆T細胞の集団を増大させる方法であって、前駆T細胞の集団を、ピリミドインドール化合物の存在下で培養することを含む、方法を提供する。
【0010】
ピリミドインドール化合物の存在は、当該培養の後に、集団中の前駆T細胞の数を増加させることができる。
【0011】
本発明の第3の態様は、T細胞の集団を生産する方法であって、
第1または第2の態様の方法により、前駆T細胞の集団を生産することと、
前駆T細胞を成熟させて、TCRαβ+T細胞の集団を生産することと、
場合により、TCRαβ+T細胞を活性化及び増大させて、TCRαβ+CD8+T細胞の集団またはTCRαβ+CD4+T細胞の集団を生産することとを含む、方法を提供する。
【0012】
本発明の第4の態様は、第1もしくは第2の態様の方法により生産される前駆T細胞の集団、または第3の態様の方法により生産されるTCRαβ+T細胞の集団を提供する。
【0013】
本発明の第5の態様は、第3の態様のTCRαβ+T細胞の集団と、薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物を提供する。
【0014】
本発明の第6の態様は、治療方法であって、治療有効量の第3の態様のTCRαβ+T細胞の集団を、それを必要とする個体に投与することを含む、方法を提供する。
【0015】
本発明の第7の態様は、HPCの前駆T細胞への分化におけるピリミドインドール化合物の使用を提供する。
【0016】
本発明の第8の態様は、前駆T細胞の集団を増大させるためのピリミドインドール化合物の使用を提供する。
【0017】
本発明の他の態様及び実施形態については、以下でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】iPSCからT細胞を生成するための6段階の方法の一例の概略図を示す。
【
図2A】造血前駆細胞を0.25μM~1.0μMのUM729で21日間処理すると、その生存率が維持されることを示している。
【
図2B】造血前駆細胞を5.0μM以上のUM729で21日間処理すると、その生存率及び増殖が低下または停止することを示している。
【
図3】造血前駆細胞を0.25μM~1.0μMのUM729で21日にわたり処理すると、細胞のリンパ球の割合が増加し、骨髄球の割合が低下することを示している。
【
図4A】造血前駆細胞を0.25μM~1.0μMのUM729で21日にわたり処理すると、iProT細胞(CD7+、CD5+、及びCD34-)への分化が促進されることを示している。
【
図4B】造血前駆細胞を0.25μM~1.0μMのUM729で21日にわたり処理すると、iProT細胞(CD7+、CD5+、及びCD34-)のパーセンテージが高まることを示している。
【
図5A】造血前駆細胞を0.25μM~1.0μMのUM729を補った第4段階培地で21日にわたり処理すると、CD8+CD4+二重陽性細胞の割合が減少することを示している。
【
図5B】造血前駆細胞を0.25μM~1.0μMのUM729を補った第4段階培地で21日にわたり処理すると、CD8+CD4+二重陽性細胞の割合が減少することを示している。
【
図6】造血前駆細胞を0.25μM~1.0μMのUM729を補った第4段階培地で35日にわたり処理すると、その生存能力が維持されることを示している。
【
図7】造血前駆細胞を0.25μM~1.0μMのUM729を補った第4段階培地で35日にわたり処理すると、iProT細胞(CD7+、CD5+、及びCD34-)への分化が促進されることを示している。
【
図8】造血前駆細胞を0.25μM~1.0μMのUM729を補った第4段階培地で35日にわたり処理すると、CD8+ CD4+二重陽性細胞の割合が減少することを示している。
【
図9】0.25μM~1.0μMのUM729を補った第4段階培地で処理すると、iProT細胞の増大が大幅に向上することを示している。
【
図10】第4段階培地で21日間UM729で前処理した細胞が、UM729の非存在下の第5段階培地でさらに14日間培養するとCD4+CD8+二重陽性になることを示している。
【
図11】第4段階培地にUM729を加えることで、凍結融解からのiProT細胞の回復が改善されたことを示している。細胞は溶液6(非生存細胞のみを染色するPI染色、及び酸化還元状態を反映する強度依存的方式で細胞を染色するVB-48(商標))で染色した。
【
図12A】第4段階培地で1μMのUM729により前処理した細胞が、第5段階培地で7日間培養した後に、より高い生存率を呈したことを示している。
【
図12B】第4段階培地で1μMのUM729により前処理した細胞が、第5段階培地で7日間培養した後に、細胞増殖率の増加を呈したことを示している。
【
図13A】異なる濃度のUM171を補充した第4段階培地で21日間培養したiPSC由来CD34+細胞(HPC)の生存率を示している。
【
図13B】異なる濃度のUM171を補充した第4段階培地で21日間培養したiPSC由来CD34+細胞(HPC)の増殖率(13B)を示している。
【
図14】異なる濃度のUM171を補充した第4段階培地でiPSC由来CD34+細胞(HPC)を21日間培養した後のCD45+CD34+CD7+(共通リンパ系前駆細胞)の割合を示している。
【
図15A】iPSC由来CD34+細胞(HPC)を異なる濃度のUM171を補充した第4段階培地で21日間培養し、次に第5段階T細胞成熟培地で14日間培養した後のCD45+CD5+CD7+前駆T細胞の割合を示す。
【
図15B】iPSC由来CD34+細胞(HPC)を異なる濃度のUM171を補充した第4段階培地で21日間培養し、次に第5段階T細胞成熟培地で14日間培養した後のCD4+CD8+DP T細胞及びCD4-CD8+SP T細胞の割合を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、前駆T細胞の集団を生産する方法であって、造血前駆細胞(HPC)をピリミドインドール化合物の存在下で前駆T細胞へと分化させることを含む、方法に関する。本発明はまた、前駆T細胞の集団をピリミドインドール化合物の存在下で培養することにより、前駆T細胞の集団を増大させる方法にも関する。これらの方法は、免疫療法及び他の用途に使用する免疫細胞、例えば同種異系T細胞を含むT細胞の生成に有用であり得る。
【0020】
造血前駆細胞(HPC)がT細胞前駆細胞に分化する際にピリミドインドール化合物が存在すると、分化の際にピリミドインドール化合物が存在しない場合と比較して、分化細胞集団中の前駆T細胞の量または割合が増加する可能性がある。例えば、分化後の集団におけるCD34-CD5+CD7+前駆T細胞の量または割合は、ピリミドインドール化合物の存在下で増加する可能性がある。
【0021】
前駆T細胞の培養中にピリミドインドール化合物が存在すると、前駆T細胞の増殖が増加する一方で、前駆T細胞のさらなる分化が阻害され、集団におけるそのようなT細胞の割合が増加する可能性がある。例えば、CD5+CD7+前駆T細胞の量または数及びパーセンテージは、ピリミドインドール化合物の存在下で培養した後に増加する可能性がある。さらに、前駆T細胞を培養する際にピリミドインドール化合物が存在すると、その後の分化ステップにおけるT細胞の凍結/融解からの回復を改善することができる。
【0022】
T細胞(別名Tリンパ球)は、細胞性免疫において中心的な役割を果たす白血球である。T細胞は、細胞表面上のT細胞受容体(TCR)の存在により、他のリンパ球から区別され得る。T細胞には数種類あり、各種類が異なる機能を有する。Tヘルパー細胞(TH細胞)は、CD4表面糖タンパク質を発現するため、CD4+T細胞として知られている。CD4+T細胞は、適応免疫系において重要な役割を果たし、T細胞サイトカインを放出して免疫応答の抑制または調節を助けることによって他の免疫細胞の活動を助ける。これらは、CD4+CD8+T細胞の活性化及び成長に不可欠である。CD4+CD8+T細胞(TC細胞、CTL、キラーT細胞、CD4+CD8+T細胞)は、CD8表面糖タンパク質を発現するため、CD8+T細胞として知られている。CD8+T細胞は、ウイルス感染細胞及び腫瘍細胞を破壊するように作用する。ほとんどのCD8+T細胞は、クラスI MHC分子により感染細胞または損傷細胞の表面に提示された特異的抗原を認識することができるTCRを発現する。抗原及びMHC分子へのTCR及びCD8糖タンパク質の特異的結合は、T細胞を介した感染細胞または損傷細胞の破壊をもたらす。
【0023】
T細胞受容体(TCR)は、標的抗原のペプチド断片を提示する細胞表面上の主要組織適合複合体(MHC)に特異的に結合し得る。例えば、TCRは、腫瘍抗原のペプチド断片を提示するがん細胞の表面上の主要組織適合複合体(MHC)に特異的に結合し得る。あるいは、TCRは、MHCによる提示とは無関係に、特定の抗原またはそのペプチドを認識する場合がある。このようなTCRを含むT細胞を、本発明の方法に従って生産することができる。MHCは、獲得免疫系に「外来」分子を認識させる細胞表面タンパク質のセットである。タンパク質は細胞内で分解され、MHCによって細胞の表面に提示される。ウイルスまたはがん関連ペプチドなどの「外来」ペプチドを提示するMHCは、適切なTCRを有するT細胞によって認識され、細胞破壊経路を促進する。がん細胞の表面上のMHCは、腫瘍抗原、すなわち、がん細胞には存在するが対応する非がん性細胞には存在しない抗原のペプチド断片を提示し得る。これらのペプチド断片を認識するT細胞は、がん細胞に対してCD4+CD8+効果を及ぼし得る。
【0024】
前駆T細胞は、αβ+T細胞、γδ+T細胞、組織常在性T細胞、及びNKT細胞を生じさせることができる多分化能リンパ球生成前駆細胞である。前駆T細胞は、胸腺におけるpre-TCR選択の後にαβT細胞系列に傾倒する可能性がある(Trotman-Grant et al.,Nat.Commun.2021 12(1)5023、Kennedy et al.,Cell Rep 2012 2(6)1722-1735)。前駆T細胞は、in vivoで胸腺に定着することができる可能性があり、胸腺におけるpre-TCR選択の後にαβT細胞系列に傾倒することができる可能性がある。前駆T細胞は、サイトカイン生産CD3+T細胞に成熟することができる可能性もある。
【0025】
前駆T細胞は、CD5及びCD7を発現する場合があり、すなわち、前駆T細胞は、CD5+CD7+表現型を有する場合がある。前駆T細胞は、CD44、CD25、及びCD2を同時発現する場合もある。例えば、前駆T細胞は、CD5+、CD7+CD44+、CD25+CD2+表現型を有し得る。前駆T細胞は、CD45を同時発現する場合もある。前駆T細胞は、CD3、CD4、及びCD8の発現、例えば細胞表面発現を欠く場合がある。前駆T細胞は、CD34の発現、例えば細胞表面発現を欠く場合がある(すなわち、前駆T細胞はCD34-表現型を有する場合がある)。
【0026】
前駆T細胞(本明細書での別名:iProT細胞)の集団は、造血前駆細胞(HPC)の指向性分化により、本明細書に記載されるように生産される。HPC(別名、造血幹細胞及び造血前駆細胞またはHSPC)は、造血系列に傾倒している多分化能幹細胞であり、単球、B細胞、NK細胞、NKT細胞、TIL、及びT細胞を含む、骨髄系列及びリンパ系系列を含む、すべての血液細胞型へのさらなる造血分化が可能である。HPCはCD34を発現し得る。HPCはCD45を同時発現し得る。HPCはまた、CD117、CD133、CD45、及びFLK1(別称KDRまたはVEGFR2)も同時発現し得る。HPCは、CD38及び他の系列特異的マーカーの発現について陰性であり得る。例えば、HPCは、CD34+CD133+CD45+FLK1+CD38-のうちの1つ以上、好ましくはすべてを示し得る。
【0027】
いくつかの実施形態では、HPCは、共通のリンパ系前駆中間体を介して前駆T細胞へと分化し得る。例えば、HPCは共通リンパ系前駆細胞(CLP)へと分化し、これがその後前駆T細胞へと分化する。CLPはリンパ球系列に傾倒している多分化能幹細胞である(Hoebeke et al.,Leukemia 2007 21(2)311-319)。CLPはCD34を発現し得る。CLPはCD45を同時発現し得る。CLPはまた、CD7も同時発現し得る。CLPはまた、CD45RA及びHLA-DRも同時発現し得る。CLPは、CD38、CD5、ならびにc-kit及びThy-1などの他のマーカーの発現について陰性であり得る。例えば、CLPは、CD34+CD45+CD7+、CD38-、CD5-のうちの1つ以上、好ましくはすべてを示し得る。
【0028】
造血前駆細胞(HPC)は、リンパ球分化を促進する適切な条件下で、HPCの集団をピリミドインドール化合物の存在下で培養することにより、前駆T細胞へと分化し得る。例えば、造血前駆細胞は、ピリミドインドール化合物を補充したリンパ球増大培地で培養され得る。
【0029】
本発明で使用するピリミドインドール化合物は、典型的にはコアのピリミジン環及びベンゼン環上で置換されたピリミドインドールコアを有し得る。
【0030】
好ましくは、ピリミドインドール化合物はピリミド[4,5-b]インドールであり、これは場合により置換され、好ましくは置換される。例えば、ピリミドインドール化合物は、US10336747B2及びWO2013110198に記載されているような式(I)~(VI)のピリミド[4,5-b]インドール化合物であり得る。
【0031】
標準的な命名規則に従えば、ピリミジンの窒素環原子はピリミド[4,5-b]インドールコアの1位及び3位に位置し、インドールの窒素環原子は9位に位置する。
【0032】
ピリミド[4,5-b]インドールは置換されてもよく、好ましくは2つまたは3つの置換基で置換される。これらの置換基は、典型的には、後述するようなピリミド[4,5-b]インドールのピリミジン環及びベンゼン環にもたらされる。ピリミド[4,5-b]インドール化合物のピリミジン環は、一置換または二置換であり得る。ピリミジン環は、2位及び4位の一方または両方で置換され得る。好ましくは、ピリミジンは少なくとも4位で置換され、場合により2位で置換される。好ましくは、2位は非置換である。
【0033】
ピリミド[4,5-b]インドール化合物は、一般式I、II、III、またはIVを有することができる。
【化1】
【0034】
式I、II、III、及びIVにおける置換基の定義を下記に定義する。
【0035】
Zは、1)-P(O)(OR1)(OR1)、2)-C(O)OR1、3)-C(O)NHR1、4)-C(O)N(R1)R1、5)-C(O)R1、6)-CN、7)-SR1、8)-S(O)2NH2、9)-S(O)2NHR1、10)-S(O)2N(R1)R1、11)-S(O)R1、12)-S(O)2R1、13)-L、14)-ベンジル(場合により1、2、もしくは3つのRAもしくはR1置換基で置換)、15)-L-ヘテロアリール(場合により、L及びヘテロアリール基の一方もしくは両方に結合した1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換)、16)-L-ヘテロシクリル(場合により、L及びヘテロシクリル基の一方もしくは両方に結合した1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換)、17)-L-アリール(場合により、L及びアリール基の一方もしくは両方に結合した1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換)、18)-ヘテロアリール(場合により1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換)、または19)-アリール(場合により1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換)である。この一覧において、各置換基は、まだ存在しない場合、場合によりL基に結合し、(R1)及びR1が窒素原子に結合している場合、場合によりそれらは窒素原子と一緒になって、場合によりN、O、及びSから選択される1個以上の他のヘテロ原子を含む3~7員環を形成し、場合により環は1つ以上のR1またはRAで置換される。
【0036】
Wは、H、ハロゲン、またはN、O、SもしくはCである原子を介して分子のピリミドインドールコアに結合している基である。場合により、Wは、1~20個の炭素原子を有する飽和、不飽和、直鎖状、分枝状、及び/または環式のアルキル及び/またはヘテロアルキルである少なくとも1つの部分を含む。また、場合により、当該部分は、N、O、またはSである少なくとも1個の他のヘテロ原子を含む。
【0037】
より具体的には、Wは、1)-H、2)-ハロゲン、3)-OR1、4)-L-OH、5)-L-OR1、6)-SR1、7)-CN、8)P(O)(OR1)(OR1)、9)NHR1、10)-N(R1)R1、11)-L-NH2、12)-L-NHR1、13)-L-N(R1)R1、14)-L-SR1、15)-L-S(O)R1、16)-L-S(O)2R1、17)-L-P(O)(OR1)(OR1)、18)-C(O)OR1、19)-C(O)NH2、20)-C(O)NHR1、21)-C(O)N(R1)R1、22)-NHC(O)R1、23)-NR1C(O)R1、24)-NHC(O)OR1、25)-NR1C(O)OR1、26)-OC(O)NH2、27)-OC(O)NHR1、28)-OC(O)N(R1)R1、29)-OC(O)R1、30)-C(O)R1、31)-NHC(O)NH2、32)-NHC(O)NHR1、33)-NHC(O)N(R1)R1、34)-NR1C(O)NH2、35)-NR1C(O)NHR1、36)-NR1C(O)N(R1)R1、37)-NHS(O)2R1、38)-NR1S(O)2R1、39)-S(O)2NH2、40)-S(O)2NHR1、41)-S(O)2N(R1)R1、42)-S(O)R1、43)-S(O)2R1、44)-OS(O)2R1、45)-S(O)2OR1、46)-ベンジル(場合により1、2、もしくは3つのRAもしくはR1置換基で置換)、47)-L-ヘテロアリール(場合により、L及びヘテロアリール基の一方もしくは両方に結合した1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換)、48)-L-ヘテロシクリル(場合により、L及びヘテロシクリル基の一方もしくは両方に結合した1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換)、49)-L-アリール(場合により、L及びアリール基の一方もしくは両方に結合した1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換、50)-L-NR1(R1)、51)-(L-)2NR1、52)-L-(N(R1)-L)n-N(R1)R1、53)-L-(N(R1)-L)n-ヘテロアリール(場合により、L及びヘテロアリール基の一方もしくは両方に結合した1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換)、54)-L-(N(R1)-L)n-ヘテロシクリル(場合により、L及びヘテロシクリル基の一方もしくは両方に結合した1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換)、55)L-(N(R1)-L)n-アリール(場合により、L及びアリール基の一方もしくは両方に結合した1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換)、56)-O-L-N(R1)R1、57)-O-L-ヘテロアリール(場合により、L及びヘテロアリール基の一方もしくは両方に結合した1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換)、58)-O-L-ヘテロシクリル(場合により、L及びヘテロシクリル基の一方もしくは両方に結合した1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換)、59)-O-L-アリール(場合により、L及びアリール基の一方もしくは両方に結合した1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換)、60)-(O-L)2-NR1、61)-O-L-(N(R1)-L)n-N(R1)R1、62)-O-L-(N(R1)-L)n-ヘテロアリール(場合により、L及びヘテロアリール基の一方もしくは両方に結合した1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換)、63)-O-L-(N(R1)-L)n-ヘテロシクリル(場合により、L及びヘテロシクリル基の一方もしくは両方に結合した1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換)、64)-O-L-(N(R1)-L)n-アリール(場合により、L及びアリール基の一方もしくは両方に結合した1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換)、65)-S-L-ヘテロアリール(場合により、L及びヘテロアリール基の一方もしくは両方に結合した1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換)、66)-S-L-ヘテロシクリル(場合により、L及びヘテロシクリル基の一方もしくは両方に結合した1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換)、67)-S-L-アリール(場合により、L及びアリール基の一方もしくは両方に結合した1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換)、68)-(S-L)2-NR1、69)-S-L-(N(R1)-L)n-N(R1)R1、70)-S-L-(N(R1)-L)n-ヘテロアリール(場合により1つ以上のRA置換基で置換)、71)-S-L-(N(R1)-L)n-ヘテロシクリル(場合により1つ以上のRA置換基で置換)、72)-S-L-(N(R1)-L)n-アリール(場合により1つ以上のRA置換基で置換)、73)-N(R1)R1、74)-(N(R1)-L)n-N(R1)R1、75)-(N(R1)-L)2-NR1、76)-(N(R1)-L)n-N(R1)RA、77)-(N(R1)-L)n-ヘテロアリール(場合により1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換)、78)-(N(R1)-L)n-ヘテロシクリル(場合により1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換)、79)-(N(R1)-L)n-アリール(場合により1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換)、80)-ヘテロアリール(場合により1つ以上のRA置換基で置換)、または81)-アリール場合により1つ以上のRA置換基で置換)である。この一覧において、各置換基は、まだ存在しない場合、場合によりL基に結合し、2つのR1置換基が同じ窒素原子上に存在する場合、各R1置換基は、本明細書に記載されるR1の値の一覧から独立して選択され、nは0、1、2、3、4、または5のいずれかに等しい整数であり、(R1)及びR1が窒素原子に結合している場合、場合によりそれらは窒素原子と一緒になって、場合によりN、O、及びSから選択される1個以上の他のヘテロ原子を含む3員~7員環を形成し、場合により環は1つ以上のR1またはRAで置換される。
【0038】
Lは、1)-C1~6アルキル、2)-C2~6アルケニル、3)-C2~6アルキニル、4)-C3~7シクロアルキル、5)-C3~7シクロアルケニル、6)ヘテロシクリル、7)-C1~6アルキル-C3~7シクロアルキル、8)-C1~6アルキル-ヘテロシクリル、9)アリール、または10)ヘテロアリールである。この一覧において、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、ヘテロシクリル基、アリール基、及びヘテロアリール基は、各々独立して、場合により1つまたは2つのRA置換基で置換される。
【0039】
R1は、1)-H、2)-C1~6アルキル、3)-C2~6アルケニル、4)-C2~6アルキニル、5)-C3~7シクロアルキル、6)-C3~7シクロアルケニル、7)-C1~5ペルフルオロ化、8)ヘテロシクリル、9)アリール、10)ヘテロアリール、11)-ベンジル、または12)5-[(3aS,4S,6aR)-2-オキソヘキサヒドロ-1H-チエノ[3,4-d]イミダゾール-4-イル]ペンタノイルである。この一覧において、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルケニル基、ペルフルオロ化アルキル基、ヘテロシクリル基、アリール基、ヘテロアリール基、及びベンジル基は、各々独立して、場合により1つ、2つ、または3つのRAまたはR1置換基で置換される。
【0040】
R2は、1)-H、2)-C1~6アルキル、3)-SR1、4)-C(O)R1、5)-S(O)R1、6)-S(O)2R1、7)-ベンジル(場合により1、2、もしくは3つのRAもしくはR1置換基で置換)、8)-L-ヘテロアリール(場合により、L及びヘテロアリール基の一方もしくは両方に結合した1つ以上のRAまたはR1置換基で置換)、9)-L-ヘテロシクリル(場合により、L及びヘテロシクリル基の一方もしくは両方に結合した1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換)、10)-L-アリール(場合により、L及びアリール基の一方もしくは両方に結合した1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換)、11)-ヘテロアリール(場合により1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換)、12)-アリール場合により1つ以上のRAもしくはR1置換基で置換)である。この一覧において、各置換基は、まだ存在しない場合、場合によりL基に結合する。
【0041】
RAは、1)-ハロゲン、2)-CF3、3)-OH、4)-OR1、5)-L-OH、6)-L-OR1、7)-OCF3、8)-SH、9)-SR1、10)-CN、11)-NO2、12)-NH2、13)NHR1、14)-N(R1)R1、15)-L-NH2、16)-L-NHR1、17)-L-N(R1)R1、18)-L-SR1、19)-L-S(O)R1、20)-L-S(O)2R1、21)-C(O)OH、22)-C(O)OR1、23)-C(O)NH2、24)-C(O)NHR1、25)-C(O)N(R1)R1、26)-NHC(O)R1、27)-NR1C(O)R1、28)-NHC(O)OR1、29)-NR1C(O)OR1、30)-OC(O)NH2、31)-OC(O)NHR1、32)-OC(O)N(R1)R1、33)-OC(O)R1、34)-C(O)R1、35)-NHC(O)NH2、36)-NHC(O)NHR1、37)-NHC(O)N(R1)R1、38)-NR1C(O)NH2、39)-NR1C(O)NHR1、40)-NR1C(O)N(R1)R1、41)-NHS(O)2R1、42)-NR1S(O)2R1、43)-S(O)2NH2、44)-S(O)2NHR1、45)-S(O)2N(R1)R1、46)-S(O)R1、47)-S(O)2R1、48)-OS(O)2R1、49)-S(O)2OR1、50)-ベンジル、51)-N3、または52)-C(-N=N-)(CF3)である。この一覧において、ベンジル基は、場合により1つ、2つ、または3つのRAまたはR1置換基で置換される。
【0042】
mは1~6の整数であり得、mが2以上である場合、Xiは同一または異なり、各々独立してNR1、CH2、O、またはSであり、ここでR1は上記で定義されるとおりであり、Liは同一または異なり、各々独立して上記で定義されるようなLである。
【0043】
R3及びR4は同一でも異なっていてもよく、各々独立して、H、上記で定義されるようなR1であるか、またはNと一緒になって3~7員環を形成し、場合によりN、O、及びSから選択される1つ以上の他のヘテロ原子を含み、場合により環は1つ以上のR1またはRAで置換される。
【0044】
いくつかの実施形態では、ピリミド[4,5-b]インドール化合物は、下記に示す一般式IIAを有し得る。
【化2】
(式中、R
1、W、及びR
2は各々上記で定義されている)
【0045】
いくつかの実施形態では、ピリミド[4,5-b]インドール化合物は、下記に示す一般式IIBを有し得る。
【化3】
(式中、W及びR
2は各々上記で定義されており、Hetは、上記で定義されるように、場合により1つ以上のR
1またはR
Aで置換された3~7員の複素環である)
【0046】
いくつかの実施形態では、ピリミド[4,5-b]インドール化合物は、下記に示す一般式IIAAを有し得る。
【化4】
(式中、R
1iはR
1であり、各々上記で定義されている)
いくつかの実施形態では、ピリミド[4,5-b]インドール化合物は、下記に示す一般式IIBBを有し得る。
【化5】
(式中、Hetは上記で定義されるとおりである)
【0047】
式IIAA及びIIBBにおいて、Wi基及びR2i基は、-H、-OH、-ORP、-SH、-SRP、-COOH、-COORP、-CONHRP、-CONRRP、-RP、-NHC(O)RP、-NRNC(O)RP、-NH2、-NHRP、-NRPRQ、ハロ、-CN、及び-NO2からなる群より独立して選択され得、ここで、各-RNは独立してアルキルであり、-RP及び-RQの各々は、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、及びアリールから独立して選択されるか、または-RP及び-RQは、それらが結合する窒素と一緒になって複素環式環を形成し得る。アルキル基、シクロアルキル基、ヘテロシクリル基、及びアリール基は、各々場合により置換され得る。
【0048】
いくつかの実施形態では、-RP及び-RQの各々は、C1~6アルキル、C3~10シクロアルキル、C4~12ヘテロシクリル、及びC6~10アリールから独立して選択され得る。アルキル基、シクロアルキル基、ヘテロシクリル基、及びアリール基は、各々場合により置換され得る。
【0049】
いくつかの実施形態では、各-RNはC1~6アルキルである。
【0050】
いくつかの実施形態では、各-RNはメチルである。
【0051】
好ましくは、式IIAA及びIIBBの各々における置換基R2iは、独立して、H及び-RPから選択され、より好ましくは、RPは、場合により置換されたアルキルまたはアリール、例えば場合により置換されたアルキル、例えば場合により置換されたC1~6アルキルである。
【0052】
好ましくは、式IIAA及びIIBBの各々における置換基Wiは、-NH2、-NHRP、-NRPRQ、及び-RPから独立して選択され、例えば-NHRP及び-NRPRQから選択される。
【0053】
いくつかの実施形態では、Wiは-NHRPである。
【0054】
いくつかの実施形態では、Wiは3-ピペリジン-1-イルプロピルアミノまたは4-N-シクロヘキサン-1,4-ジアミンである。
【0055】
いくつかの実施形態では、R2iは-H及びベンジルから選択される。
【0056】
式IIAAにおいて、置換基R1iは、好ましくはアルキル、例えばC1~6アルキル、例えばメチルである。アルキル基は、場合により置換され得る。
【0057】
式IIAAにおいて、置換基R2iは好ましくは-Hである。
【0058】
式IIBBにおいて、置換基R2iは好ましくは-RPであり、より好ましくは、-RPは、場合により置換されたアルキルまたはアリールであり、例えば場合により置換されたアルキル、例えば場合により置換されたC1~6アルキルである。
【0059】
式IIBBにおいて、置換基Hetは、好ましくはテトラゾール-5-イルなどのテトラゾリルである。テトラゾリル基は、場合により置換されてもよく、例えばメチルで置換されてもよい。
【0060】
任意選択の置換基は、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、-OH、-ORS、-SH、-SRS、-COOH、
-COORS、-CONHRS、-CONRSRT、-NHC(O)RS、-NRNC(O)RS、-NH2、-NHRS、-NRSRT、ハロ、-CN、及び-NO2から選択され得、ここで、-RNは独立してアルキルであり、-RS及び-RTの各々は、アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、及びアリールから独立して選択されるか、または-RS及び-RTは、それらが結合している窒素と一緒になって複素環式基を形成し得る。
【0061】
上述の任意選択の置換基は、典型的には炭素に対する置換基である。基が窒素原子、例えばヘテロシクリル基またはアリール基内の環窒素原子を含む場合、その窒素は、場合によりアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクリル、アリール、-COH、-CORS、-CONHRS、-CONRSRT、-NHC(O)RS、及び-NRNC(O)RSで置換されてもよく、ここで-RN、-RS、及び-RTは、上記で定義されるとおりである。
【0062】
本明細書で使用される「アルキル」という用語は、指定された数の炭素原子を有する分枝状及び直鎖両方の飽和脂肪族炭化水素基を含むことが意図され、例えば、C1~6アルキルのC1~6は、直鎖状または分枝状の飽和配置で1、2、3、4、5、または6個の炭素を有する基を含むものとして定義される。上記で定義されるようなC1~6アルキルの例としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、t-ブチル、i-ブチル、ペンチル、及びヘキシルが挙げられるが、これらに限定されない。アルキル基は、場合により置換されてもよい。
【0063】
本明細書で使用される「シクロアルキル」という用語は、指定された数の炭素原子を有する単環式の飽和脂肪族炭化水素基を意味することが意図され、例えば、C3~7シクロアルキルのC3~7は、単環式の飽和配置で3、4、5、6、または7個の炭素を有する基を含むものとして定義される。上記で定義されるようなC3~7シクロアルキルの例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、及びシクロヘプチルが挙げられるが、これらに限定されない。シクロアルキル基は、場合により置換されてもよい。
【0064】
本明細書で使用される「アルケニル」という用語は、その中に指定された数の炭素原子を有し、炭素原子のうちの少なくとも2個が二重結合によって互いに結合し、EまたはZのいずれかの位置化学及びそれらの組み合わせを有する不飽和の直鎖状または分枝状鎖炭化水素基を意味することが意図されている。例えば、C2~6アルケニルのC2~6は、直鎖状または分枝状に配置された2、3、4、5または6個の炭素を有し、炭素原子の少なくとも2個が二重結合により一緒に結合している基を含むものとして定義される。上記で定義したC2~6アルケニルの例としては、エテニル(ビニル)、1-プロペニル、2-プロペニル、1-ブテニルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
本明細書で使用される「アルキニル」という用語は、その中に指定された数の炭素原子を有し、少なくとも2個の炭素原子が三重結合により一緒に結合している不飽和の直鎖状炭化水素基を意味することが意図されている。例えば、C2~4アルキニルは、鎖内に2、3、または4個の炭素原子を有し、炭素原子のうちの少なくとも2個が三重結合により一緒に結合している基を含むものとして定義される。このようなアルキニルの例としては、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
本明細書で使用される「シクロアルケニル」という用語は、その中に指定された数の炭素原子を有し、炭素原子のうちの少なくとも2個が二重結合によって互いに結合している単環式の不飽和炭化水素基を意味することが意図されている。例えば、C3~7シクロアルケニルのC3~7とは、単環式配置で3、4、5、6、または7個の炭素を有し、炭素原子のうちの少なくとも2個が二重結合により一緒に結合している基を含むものとして定義される。上記で定義されるようなC3~7シクロアルケニルの例としては、シクロペンテニル、シクロヘキセニルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
本明細書で使用される「ハロ」または「ハロゲン」という用語は、フッ素、塩素、臭素、またはヨウ素を意味することが意図される。
【0068】
本明細書で使用される「アリール」という用語は、単独でまたは別のラジカルとの組み合わせで芳香族、飽和または不飽和であり得る第2の5員または6員の炭素環式基にさらに縮合し得る6個の炭素原子を含む炭素環式の芳香族単環式基を意味する。アリールの例としては、フェニル、インダニル、1-ナフチル、2-ナフチル、テトラヒドロナフチルなどが挙げられるが、これらに限定されない。アリールは、シクロアルキル環または芳香族環上の好適な位置のいずれかで別の基と接続してもよい。アリール基は、場合により置換されてもよい。
【0069】
本明細書で使用される「ヘテロアリール」という用語は、10個までの原子の単環式または二環式環系を意味することが意図され、少なくとも1つの環が芳香族であり、O、N、及びSからなる群より選択される1~4個のヘテロ原子を含む。ヘテロアリールは、環炭素原子またはヘテロ原子のうちの1個のいずれかを介して結合し得る。ヘテロアリールの例としては、チエニル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾ[b]チエニル、フリル、ベンゾフラニル、ピラニル、イソベンゾフラニル、クロメニル、キサンテニル、2H-ピロリル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、インドリジニル、イソインドリル、3H-インドリル、インドリル、インダゾリル、プリニル、4H-キノリジニル、イソキノリル、キノリル、フタラジニル、ナフチリジニル、キノキサリニル、キナゾリニル、シノリニル、プテリジニル、イソチアゾリル、イソクロマニル、クロマニル、イソオキサゾリル、フラザニル、インドリニル、イソインドリニル、チアゾロ[4,5-b]-ピリジン、テトラゾリル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、チエニル、及びフルオレセイン誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。ヘテロアリール基は、場合により置換されてもよい。
【0070】
本明細書で使用される「複素環」、「複素環式」、または「ヘテロシクリル」という用語は、O、N、及びSからなる群から選択される1~4個のヘテロ原子を含む3、4、5、6または7員非芳香族環系を意味することが意図されている。複素環の例としては、ピロリジニル、テトラヒドロフラニル、ピペリジル、3,5-ジメチルピペリジル、ピロリニル、ピペラジニル、イミダゾリジニル、モルホリニル、イミダゾリニル、ピラゾリジニル、ピラゾリニルなどが挙げられるが、これらに限定されず、環への結合は、環の窒素原子上または炭素原子上のいずれかであり得る。ヘテロシクリル基は、場合により置換されてもよい。
【0071】
本明細書で使用される「場合により1つ以上の置換基で置換された」という用語、またはそれに相当する「場合により少なくとも1つの置換基で置換された」という用語は、その後に記載される状況の事象が生じる場合も生じない場合もあること、そして、その記載がその事象または状況が生じる場合及び生じない場合を含むことを意味することが意図されている。この定義は、0~5つの置換基を意味することが意図されている。
【0072】
いくつかの好ましい実施形態では、ピリミドインドール化合物は、メチル4-(3-ピペリジン-1-イルプロピルアミノ)-9H-ピリミド[4,5-b]インドール-7-カルボキシレート(CAS 1448723-60-1;UM729)である。
【化6】
【0073】
他の実施形態では、ピリミドインドール化合物は、(1R,4R)-N1-(2-ベンジル-7-(2-メチル-2H-テトラゾール-5-イル)-9H-ピリミド[4,5-b]インドール-4-イル)シクロヘキサン-1,4-ジアミン(CAS:1448724-09-1;UM171)である。
【化7】
【0074】
ピリミドインドール化合物の調製は、US10336747B2及びWO2013110198に記載されており、その内容はあらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0075】
この化合物は、その塩、プロドラッグ、溶媒和物、及び結晶形態として提供され、使用され得る。
【0076】
この化合物の塩の例としては、例えば、HCI塩及びHBr塩などの強鉱酸の酸付加塩、ならびにメタンスルホン酸塩などの強有機酸の付加塩が挙げられるがこれらに限定されない、薬学的に許容されるすべての塩が挙げられる。塩のさらなる例としては、硫酸塩及び酢酸塩、例えば酢酸塩自体、トリフルオロ酢酸塩、またはトリクロロ酢酸塩が挙げられる。
【0077】
溶媒和物の例としては、一水和物などの水和物が挙げられる。
【0078】
造血前駆細胞(HPC)は、OP9-Dl4間質細胞などの間質細胞、フィーダー細胞、または血清の非存在下で、本明細書に記載されるように前駆T細胞へと分化し得る。
【0079】
リンパ球増大培地(本明細書での別称:リンパ球前駆培地または第4段階培地)は、HPCが前駆T細胞へとリンパ球分化するのを促進する細胞培養基である。
【0080】
好適なリンパ系増大培地は、(i)cKIT受容体(CD117;KIT受容体チロシンキナーゼ)及び/またはcKIT受容体(CD117;KIT受容体チロシンキナーゼ)媒介シグナル伝達経路を刺激し、(ii)MPL(CD110)及び/または媒介シグナル伝達経路を刺激し、(iii)FLT3及び/またはFLT3媒介シグナル伝達経路を刺激し、かつ(iv)インターロイキン(IL)活性を有し得る。例えば、リンパ系増大培地は、分化因子SCF、FLT3L、TPO及びIL-7を含み得る。
【0081】
好ましい実施形態では、リンパ系増大培地は既知組成培地である。例えば、リンパ系増大培地は、有効量の上記の分化因子を補充した既知組成栄養培地からなり得る。好適なリンパ系増大培地は、当技術分野で周知であり、Stemspan(商標)リンパ系増大サプリメント(カタログ番号9915;StemCell Technologies Inc,CA)を補ったStemspan(商標)SFEM II(カタログ番号9605;StemCell Technologies Inc,CA)を含む。
【0082】
リンパ球増大培地には、分化した集団における前駆T細胞の割合を増加させ、及び/または前駆T細胞の集団の増大を高めるのに有効な量のピリミドインドール化合物が補充され得る。例えば、0.1μM以上、0.25μM以上、0.5μM以上、または1μM以上の濃度のピリミドインドール化合物が培地に補充され得る。
【0083】
いくつかの実施形態では、リンパ球増大培地には、その中で培養された細胞に細胞傷害性効果を及ぼすには不十分である量のピリミドインドール化合物が補充され得る。例えば、10μM未満、7.5μM未満、5μM未満、4μM未満、3μM未満、または2μM未満の濃度が培地に補充され得る。例えば、培地には1μM以下の濃度のピリミドインドール化合物が補充され得る。いくつかの好ましい実施形態では、リンパ球増大培地には、0.1μM~10μM、0.1μM~5μM、または0.1μM~2μMのピリミドインドール化合物、好ましくは0.25μM~5μMまたは0.25μM~2μMのピリミドインドール化合物が補充され得る。
【0084】
例えば、リンパ球増大培地には、UM729が5μM以下、4μM以下、3μM以下、または2μM以下、例えば1μM以下の濃度で補充され得る。いくつかの好ましい実施形態では、リンパ球増大培地には、0.1μM~2μM、好ましくは0.25μM~2μMのUM729が補充され得る。リンパ球増大培地には、UM171が1μM以下または0.5μM以下、例えば0.25μM以下の濃度で補充され得る。いくつかの好ましい実施形態では、リンパ球増大培地には0.01μM~0.25μMの濃度のUM171、好ましくは0.04μM~0.25μMの濃度のUM171が補充され得る。
【0085】
例えば、前駆T細胞、例えば第4段階(CD7+、CD5+)のものが、(例えば、リンパ球増大培地への補充としての)ピリミドインドール化合物の存在下で、少なくとも7日間増大され得る。いくつかの実施形態では、第4段階における前駆T細胞の増大は、少なくとも14日間、21日間、28日間、35日間、42日間、49日間、56日間、または63日間である。
【0086】
いくつかの実施形態では、増大後の後続の分化段階において、細胞は、ピリミドインドール化合物の非存在下で培養される(例えば、培養基にはピリミドインドール化合物が補充されなくてもよい)。いくつかの実施形態では、細胞は、第5段階でピリミドインドール化合物の非存在下で培養される。
【0087】
HPCは、前駆T細胞への分化中に表面上で培養され得る。例えば、HPCは、培養容器、ビーズ、または他の生体材料もしくはポリマーの表面上で培養され得る。
【0088】
好ましくは、表面は、Notchシグナル伝達を刺激する因子、例えば、デルタ様1(DLL1)またはデルタ様4(DLL4)などのNotchリガンドでコーティングされ得る。好適なNotchリガンドは、当技術分野で周知であり、商業的供給者から入手可能である。
【0089】
表面は、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、もしくはコラーゲンなどの細胞外マトリックスタンパク質、及び/またはVCAM1などの1つ以上の細胞表面接着タンパク質でコーティングされてもよい。いくつかの実施形態では、HPC培養用の表面は、Notchシグナル伝達を刺激する因子、例えばDLL4などのNotchリガンドを含み、細胞外マトリックスタンパク質または細胞表面接着タンパク質を含まないコーティングを有し得る。
【0090】
いくつかの実施形態では、HPC培養用の表面は、Notchシグナル伝達を刺激する因子、例えばDLL4などのNotchリガンド、ビトロネクチンなどの細胞外マトリックスタンパク質、及びVCAM1などの細胞表面接着タンパク質を含むコーティングを有し得る。表面は、表面をコーティング溶液と接触させることにより、細胞外マトリックスタンパク質、Notchシグナル伝達を刺激する因子、及び細胞表面接着タンパク質でコーティングされ得る。例えば、コーティング溶液は、表面をコーティングするために好適な条件下で、表面上でインキュベートされ得る。条件は、例えば、室温で約2時間を含み得る。細胞外マトリックスタンパク質及びNotchシグナル伝達を刺激する因子を含むコーティング溶液は、商業的供給者から入手可能である(StemSpan(商標)リンパ系分化コーティング材料;カタログ番号9925;Stem Cell Technologies Inc,CA)。
【0091】
HPCは、基質上のリンパ系増大培地で、HPCを前駆T細胞へと分化させるのに十分な時間にわたって培養され得る。例えば、HPCは、2~6週間、2~5週間、または2~4週間、好ましくは3週間培養され得る。いくつかの実施形態では、HPCは、リンパ球増大培地で21~26日間培養され得る。例えば、HPCは、リンパ球増大培地で分化プロトコルの16日目から37~42日目のいずれか1つまで培養され得る。
【0092】
本明細書に記載されるように、HPCを、ピリミドインドール化合物の存在下で、リンパ球増大培地で培養することにより生産される細胞の集団は、ピリミドインドール化合物の非存在下で生産される集団と比較して、前駆T細胞、例えばCD5及びCD7を発現するT細胞の割合が増加し得る。例えば、ピリミドインドール化合物を用いて生産される集団における前駆T細胞の割合は、ピリミドインドール化合物なしで生産される集団における前駆T細胞の割合よりも少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも100%高い可能性がある。
【0093】
いくつかの実施形態では、集団におけるCD45+CD34+CD7+CD5-リンパ球(CLP)の量または割合も、UM171などのピリミドインドール化合物の存在下で、リンパ球増大培地でHPCを培養することにより増加し得る。HPCを、UM171などのピリミドインドール化合物の存在下で、リンパ球増大培地で培養することにより生産される細胞の集団は、ピリミドインドール化合物の非存在下で生産される集団と比較して、CD45+CD34+CD7+CD5-リンパ球(CLP)の割合が増加し得る。ピリミドインドール化合物を用いて生産される集団におけるCLPの割合は、ピリミドインドール化合物なしで生産される集団におけるCLPの割合よりも、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも90%、少なくとも90%、または少なくとも100%高い可能性がある。
【0094】
本明細書に記載される方法は、本明細書に記載される前駆T細胞を生産する方法に使用するための造血前駆細胞(HPC)の集団を提供することをさらに含み得る。いくつかの好ましい実施形態では、HPCは人工多能性幹細胞(iPSC)からin vitroで生産される。
【0095】
例えば、前駆T細胞の集団は、
(i)iPSCの集団をHPCへと分化させることと、
(ii)HPCを、ピリミドインドール化合物の存在下でT細胞前駆細胞へと分化させることとを含む方法により、生産することができる。
【0096】
場合により、方法はさらに、(iii)前駆T細胞の集団をピリミドインドール化合物の存在下で培養することにより、前駆T細胞の集団を増大させることを含み得る。
【0097】
iPS細胞は、中胚葉段階及び造血性内皮段階を含む3段階プロセスを用いて、HPCへと分化し得る。例えば、ある方法は、
(i)iPSCの集団を中胚葉細胞へと分化させることと、
(ii)中胚葉細胞を造血内皮細胞へと分化させることと、
(iii)造血内皮細胞をHPCの集団へと分化させることとを含み得る。
【0098】
人工多能性幹細胞(iPSC)は、非多能性の完全に分化したドナーまたは前駆体細胞に由来する多能性細胞である。iPSCは、in vitroで自己複製可能であり、未分化表現型を呈し、3つの胚葉(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)のいずれかの胎児または成体細胞型へと分化できる可能性がある。iPSCの集団はクローン性、すなわち、単一の共通祖先細胞の子孫である遺伝的に同一の細胞であり得る。
【0099】
iPSCは、次の多能性関連マーカー:POU5f1(Oct4)、Sox2、アルカリホスファターゼ、SSEA-3、Nanog、SSEA-4、Tra-1-60、KLF4及びc-mycのうちの1つ以上、好ましくはPOU5f1、NANOG及びSOX2のうちの1つ以上を発現し得る。iPSCは、Bra、Sox17、FoxA2、αFP、Sox1、NCAM、GATA6、GATA4、Hand1及びCDX2など、特定の分化運命に関連するマーカーを欠いている場合がある。特に、iPSCは、内胚葉運命に関連するマーカーを欠いている場合がある。
【0100】
好ましくは、iPSCはヒトIPSC(hiPSC)である。
【0101】
いくつかの実施形態では、iPSCは、HLA遺伝子または免疫原性もしくはGVHDに関連する他の遺伝子を不活性化または欠失させるために遺伝子編集されてもよく、例えばTCR、CAR、またはNKCRなどの外因性抗原受容体をコードする核酸を含むように遺伝子編集されてもよい。
【0102】
IPSCは、ドナー個体などの供給源から取得された体細胞または他の前駆体細胞であり得るドナー細胞に由来するか、またはドナー細胞からリプログラミングされ得る。ドナー細胞は、哺乳動物の、好ましくはヒトの細胞であり得る。好適なドナー細胞としては、成人線維芽細胞及び血液細胞、例えばHPCまたは単核細胞などの末梢血細胞が挙げられる。
【0103】
本明細書に記載されるようにiPSCへとリプログラミングするために好適なドナー細胞は、ドナー個体から取得され得る。いくつかの実施形態では、ドナー個体は、本明細書に記載されるような生産の後にT細胞が投与されるレシピエント個体と同じ人物であり得る(自己由来処置)。他の実施形態では、ドナー個体は、本明細書に記載されるような生産の後にT細胞が投与されるレシピエント個体とは異なる人物であり得る(同種異系処置)。例えば、ドナー個体は、がんを患うレシピエント個体とヒト白血球抗原(HLA)が適合する(ドネーションの前か後かを問わない)健康な個体であり得る。他の実施形態では、ドナー個体は、レシピエント個体とHLAが適合しなくてもよい。好ましくは、ドナー個体は新生児(新生子)であり得、例えば、ドナー細胞は、臍帯血のサンプルから取得され得る。
【0104】
好適なドナー個体は、好ましくは、伝染性ウイルス(例えばHIV、HPV、CMV)及び外来性作用因子(例えば細菌、マイコプラズマ)を有せず、既知の遺伝子異常を有しない。
【0105】
いくつかの実施形態では、リプログラミングのためのHPCなどの末梢血細胞の集団は、ドナー個体から取得された血液サンプル、好ましくは臍帯サンプルから単離され得る。HPC及び他の末梢血細胞の単離のための好適な方法は、当技術分野で周知であり、例えば、磁気活性化細胞選別(例えば、Gaudernack et al.,J Immunol Methods 1986 90 179を参照のこと)、蛍光活性化細胞選別(FACS:例えば、Rheinherz et al.,PNAS 1979 76 4061を参照のこと)、及び細胞パニング(例えば、Lum et al.,Cell Immunol 1982 72 122を参照のこと)を含む。HPCは、血液細胞のサンプル中で、CD34の発現によって同定され得る。他の実施形態では、リプログラミングのための線維芽細胞の集団は、コラゲナーゼまたはトリプシンを使用した分散及び適切な細胞培養条件での増殖後の皮膚生検から単離され得る。
【0106】
いくつかの実施形態では、IPSCは、抗原特異的T細胞に由来し得る。例えば、T細胞は、クラス1のMHCと複合体を形成して提示される、腫瘍抗原などの抗原に結合するαβTCRをコードする核酸を含み得る。iPSCの生成に使用される抗原特異的T細胞は、樹状細胞などの抗原提示細胞の表面上のクラスIもしくはIIのMHC分子上に提示される標的抗原のペプチドエピトープを有する多様なT細胞集団をスクリーニングすることによって、またはがん患者の腫瘍サンプルから単離することによって取得され得る。
【0107】
ドナー細胞は、典型的には、Oct4、Sox2及びKlf4などのリプログラミング因子を細胞に導入することによってiPSCにリプログラミングされる。リプログラミング因子は、タンパク質でもコード核酸でもよく、プラスミド、トランスポゾン、またはより好ましくはウイルストランスフェクションもしくは直接タンパク質送達を含む任意の好適な技法によって、分化細胞に導入され得る。他のリプログラミング因子、例えば、Klf-1、Klf-2、Klf-4及びKlf-5などのKlf遺伝子;C-myc、L-myc及びN-mycなどのMyc遺伝子;Nanog;SV40ラージT抗原;Lin28;ならびにp53などの遺伝子を標的とする低分子ヘアピン(shRNA)も、誘導効率を高めるために細胞に導入され得る。リプログラミング因子の導入後、ドナー細胞が培養され得る。多能性マーカーを発現する細胞は、iPSCの集団を生産するために単離及び/または精製され得る。iPSCの生産のための技法は当技術分野で周知である(Yamanaka et al Nature 2007;448:313-7、Yamanaka 6 2007 Jun 7;1(1):39-49、Kim et al.,Nature.2008 Jul 31;454(7204):646-50、Takahashi Cell.2007 Nov 30;131(5):861-72. Park et al.,Nature.2008 Jan 10;451(7175):141-6、Kimet et al.,Cell Stem Cell.2009 Jun 5;4(6):472-6、Vallier,L.,et al.Stem Cells,2009.9999(999A):p.N/A、Baghbaderani et al.,2016、Stem Cell Rev. 2016 Aug;12(4):394-420、Baghbaderani et al.(2015)Stem Cell Reports,5(4),647-659)。
【0108】
iPSCの培養及び維持のためには、従来の技術を用いることができる(Vallier, L. et al.,Dev. Biol.275,403-421(2004)、Cowan,C.A.et al.N.Engl. J.Med.350,1353-1356(2004)、Joannides,A.et al.Stem Cells 24,230-235(2006)Klimanskaya,I.et al.Lancet 365,1636-1641(2005)、Ludwig,T.E.et al.Nat.Biotechnol.24,185-187(2006))。本件の方法で使用するIPSCは、規定の条件下またはフィーダー細胞上で成長させることができる。例えば、iPSCは、培養ディッシュにおいて、適切な密度(例えば105~106細胞/60mmディッシュ)で、照射されたマウス胎児線維芽細胞(MEF)などのフィーダー細胞層上で、または適切な基質において、フィーダー馴化済みもしくは定義されたiPSC維持培地で、従来どおりに培養され得る。本件の方法で使用するiPSCは、酵素的または機械的手段によって継代され得る。いくつかの実施形態では、iPSCは、mTeSR(商標)1もしくはmTeSR(商標)2(StemCell Technologies)またはE8 flex(Life Thermo)培養培地などのiPSC維持培地において、Matrigel(商標)またはビトロネクチンなどのECMタンパク質上で継代され得る。
【0109】
本明細書に記載される方法の工程における細胞集団の分化及び成熟は、分化因子のセットを補充した培養培地で細胞を培養することによって誘導される。各培養培地について挙げられる分化因子のセットは、好ましくは網羅的であり、培地は他の分化因子を欠いていてもよい。好ましい実施形態では、培養培地は既知組成培地である。例えば、培養培地は、後述するように、有効量の1つ以上の分化因子を補充した既知組成栄養培地からなり得る。既知組成栄養培地は、1つ以上の無血清培養培地サプリメントを補充した基本培地を含み得る。
【0110】
分化因子は、哺乳動物細胞の分化を媒介するシグナル伝達経路を調整、例えば促進または阻害する因子である。分化因子は、アクチビン/Nodal、FGF、Wnt、もしくはBMP、またはこれらのシグナル伝達経路のうちの1つ以上を調整する成長因子、サイトカイン、及び小分子を含み得る。分化因子の例としては、アクチビン/Nodal、FGF、BMP、レチノイン酸、血管内皮成長因子(VEGF)、幹細胞因子(SCF)、TGFβリガンド、GDF、LIF、インターロイキン、GSK-3阻害剤、及びホスファチジルイノシトール3-キナーゼ(PI3K)阻害剤が挙げられる。
【0111】
本明細書に記載される培地のうちの1つ以上で使用される分化因子には、TGFβリガンド、例えばアクチビン、線維芽細胞成長因子(FGF)、骨形態形成タンパク質(BMP)、幹細胞因子(SCF)、血管内皮成長因子(VEGF)、GSK-3阻害剤(例えばCHIR-99021)、インターロイキン、ならびにIGF-1及びアンギオテンシンIIなどのホルモンが含まれる。分化因子は、培地で培養される細胞におけるシグナル伝達経路を調整するのに有効な量で、本明細書に記載される培地に存在し得る。
【0112】
いくつかの実施形態では、培養培地中の、上記または下記に挙げる分化因子を、同じシグナル伝達経路に対して同じ効果(すなわち刺激または阻害)を及ぼす因子によって置き換えてもよい。好適な因子は、当技術分野で公知であり、タンパク質、核酸、抗体、及び小分子を含む。
【0113】
各工程中の細胞集団の分化の程度は、分化中の細胞の集団における1つ以上の細胞マーカーの発現をモニター及び/または検出することによって決定され得る。例えば、分化度の高い細胞型に特徴的なマーカーの発現の増加、または分化度の低い細胞型に特徴的なマーカーの発現の減少が決定され得る。細胞マーカーの発現は、免疫細胞化学、免疫蛍光、RT-PCR、イムノブロッティング、蛍光活性化細胞選別(FACS)、及び酵素分析を含む任意の好適な技法によって決定され得る。好ましい実施形態では、マーカーが細胞表面上で検出可能であれば、細胞はマーカーを発現すると言える。例えば、本明細書においてマーカーを発現しないと記載される細胞は、マーカー遺伝子の活発な転写及び細胞内発現を示す可能性があるが、細胞の表面に検出可能なレベルのマーカーは存在しない可能性がある。
【0114】
本明細書に記載される方法の工程によって生産される、部分的に分化した細胞の集団、例えば中胚葉細胞、造血内皮細胞(HE、すなわちhaemogenic endothelial cellまたはHEC)、HPC、またはT細胞前駆体の集団は、次の分化工程の前に、培養、維持、または増大され得る。部分的に分化した細胞は、任意の簡便な技法によって増大させることができる。
【0115】
各工程の後に、その工程により生産される部分的に分化した細胞の集団は、他の細胞型を含まないか、または実質的に含まない可能性がある。例えば、培地で培養した後、この集団は60%以上、70%以上、80%以上、または90%以上の部分的に分化した細胞を含み得る。好ましくは、細胞の集団は、精製が必要とされない程度に他の細胞型を含まない。必要な場合、部分的に分化した細胞の集団は、MACSまたはFACSなどの任意の簡便な技法によって精製することができる。
【0116】
細胞は、フィブロネクチン、ラミニンまたはコラーゲンなどの細胞外マトリックスタンパク質でコーティングされた表面または基質上で、フィーダー細胞の非存在下で単層において培養され得る。細胞培養に好適な技法は当技術分野で周知である(例えば、Basic Cell Culture Protocols,C.Helgason,Humana Press Inc.U.S.(15 Oct 2004)ISBN:1588295451、Human Cell Culture Protocols(Methods in Molecular Medicine S.)Humana Press Inc.,U.S.(9 Dec 2004)ISBN:1588292223、Culture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique,R.Freshney,John Wiley&Sons Inc(2 Aug 2005)ISBN:0471453293、Ho WY et al.,J Immunol Methods.(2006)310:40-52、Handbook of Stem Cells(ed.R.Lanza)ISBN:0124366430)Basic Cell Culture Protocols’by J.Pollard and J.M.Walker(1997)、‘Mammalian Cell Culture:Essential Techniques’by A.Doyle and J.B.Griffiths(1997)、‘Human Embryonic Stem Cells’by A.Chiu and M.Rao(2003)、Stem Cells:From Bench to Bedside’by A.Bongso(2005)、Peterson&Loring(2012)Human Stem Cell Manual:A Laboratory Guide Academic Press、及び‘Human Embryonic Stem Cell Protocols’by K.Turksen(2006)を参照のこと)。培地及びその成分は、商業的供給源(例えばGibco、Roche、Sigma、Europa bioproducts、R&D Systems)から取得され得る。上記の培養工程では、標準的な哺乳動物細胞培養条件、例えば37℃、5%または21%の酸素、5%の二酸化炭素を用いることができる。培地は2日おきに交換し、細胞を重力によって沈降させることが好ましい。
【0117】
細胞は培養容器内で培養され得る。好適な細胞培養容器は、当技術分野で周知であり、培養プレート、ディッシュ、フラスコ、バイオリアクター、及びマルチウェルプレート、例えば6ウェル、12ウェル、または96ウェルプレートを含む。
【0118】
培養容器は、例えば、フィブロネクチン、ラミニンまたはコラーゲンなどの細胞外マトリックスタンパク質で容器の1つ以上の表面をコーティングすることによって、組織培養のために処理されることが好ましい。培養容器は、標準的技法を使用して、例えば本明細書に記載されるコーティング溶液と共にインキュベートすることによって組織培養のために処理してもよく、または商業的供給者から前処理されたものを取得してもよい。
【0119】
第1段階では、中胚葉分化を促進する好適な条件下でiPSCの集団を培養することにより、iPSCが中胚葉細胞へと分化し得る。例えば、中胚葉細胞への分化を誘導するために、第1、第2、及び第3の中胚葉誘導培地でiPSC細胞を順次培養してもよい。
【0120】
好適な第1の中胚葉誘導培地は、SMAD2及びSMAD3、及び/またはSMAD2及びSMAD3媒介シグナル伝達経路を刺激し得る。例えば、第1の中胚葉誘導培地はアクチビンを含み得る。
【0121】
好適な第2の中胚葉誘導培地は、(i)SMAD1、SMAD2、SMAD3、SMAD5、及びSMAD9、及び/またはSMAD1、SMAD2、SMAD3、SMAD5、及びSMAD9媒介シグナル伝達経路を刺激し、かつ(ii)線維芽細胞成長因子(FGF)活性を有し得る。例えば、第2の中胚葉誘導培地は、アクチビン、好ましくはアクチビンA、BMP、好ましくはBMP4、及びFGF、好ましくはbFGFを含み得る。
【0122】
好適な第3の中胚葉誘導培地は、(i)SMAD1、SMAD2、SMAD3、SMAD5、及びSMAD9、及び/またはSMAD1、SMAD2、SMAD3、SMAD5、及びSMAD9媒介シグナル伝達経路を刺激し、(ii)線維芽細胞成長因子(FGF)活性を有し、かつ(iii)グリコーゲンシンターゼキナーゼ3βを阻害し得る。例えば、第3の中胚葉誘導培地は、アクチビン、好ましくはアクチビンA、BMP、好ましくはBMP4、FGF、好ましくはbFGF、及びGSK3阻害剤、好ましくはCHIR99021を含み得る。
【0123】
第1、第2、及び第3の中胚葉誘導培地は、上記の分化因子以外の分化因子を欠いていてもよい。
【0124】
SMAD2及びSMAD3、及び/またはSMAD2及びSMAD3媒介細胞内シグナル伝達経路は、第1、第2、及び第3の中胚葉誘導培地によって、培地中の第1のTGFβリガンドの存在を通じて刺激され得る。第1のTGFβリガンドはアクチビンであり得る。アクチビン(アクチビンA:NCBI遺伝子ID:3624核酸参照配列NM_002192.2 GI:62953137、アミノ酸参照配列NP_002183.1 GI:4504699)は、アクチビン/Nodal経路の刺激を介して様々な細胞効果を及ぼす二量体ポリペプチドである(Vallier et al.,Cell Science 118:4495-4509(2005))。アクチビンは、商業的供給源(例えばStemgent Inc.MA USA、Miltenyi Biotec Gmbh,DE)から容易に入手可能である。好都合なことに、本明細書に記載される培地中のアクチビンの濃度は、1~100ng/ml、好ましくは約5~50ng/mlであり得る。
【0125】
第2及び第3の中胚葉誘導培地の線維芽細胞成長因子(FGF)活性は、培地中の線維芽細胞成長因子(FGF)の存在によって提供され得る。線維芽細胞成長因子(FGF)は、線維芽細胞成長因子受容体(FGFR)に結合することによって細胞の成長、増殖、及び細胞分化を刺激するタンパク質因子である。好適な線維芽細胞成長因子は、FGFファミリーのいずれかのメンバー、例えばFGF1~FGF14及びFGF15~FGF23のいずれか1つを含む。好ましくは、FGFは、FGF2(別称bFGF、NCBI遺伝子ID:2247、核酸配列NM_002006.3 GI:41352694、アミノ酸配列NP_001997.4 GI:41352695)、FGF7(別称ケラチノサイト成長因子(またはKGF)、NCBI遺伝子ID:2247、核酸配列NM_002006.3 GI:41352694、アミノ酸配列NP_001997.4 GI:41352695)、またはFGF10(NCBI遺伝子ID:2247、核酸配列NM_002006.3 GI:41352694、アミノ酸配列NP_001997.4 GI:41352695)である。最も好ましくは、線維芽細胞成長因子はFGF2である。
【0126】
好都合なことに、本明細書に記載される培地中のFGF2などのFGFの濃度は、0.5~50ng/ml、好ましくは約5ng/mlであり得る。FGF2、FGF7及びFGF10などの線維芽細胞成長因子は、慣例的な組換え技法を使用して生産するか、または商業的供給者(例えばR&D Systems,Minneapolis,MN、Stemgent Inc,USA、Miltenyi Biotec Gmbh,DE)から取得することができる。
【0127】
SMAD1、SMAD5及びSMAD9、及び/またはSMAD1、SMAD5及びSMAD9媒介細胞内シグナル伝達経路は、第1、第2、及び第3の中胚葉誘導培地によって、培地中の第2のTGFβリガンドの存在を通じて刺激され得る。
【0128】
第2のTGFβリガンドは、骨形態形成タンパク質(BMP)であり得る。骨形態形成タンパク質(BMP)は、骨形態形成タンパク質受容体(BMPR)に結合し、SMAD1、SMAD5、及びSMAD9によって媒介される経路を通じて細胞内シグナル伝達を刺激する。好適な骨形態形成タンパク質は、BMPファミリーのいずれかのメンバー、例えばBMP2、BMP3、BMP4、BMP5、BMP6またはBMP7を含む。好ましくは、第2のTGFβリガンドは、BMP2(NCBI遺伝子ID:650、核酸配列NM_001200.2 GI:80861484;アミノ酸配列NP_001191.1 GI:4557369)またはBMP4(NCBI遺伝子ID:652、核酸配列NM_001202.3 GI:157276592;アミノ酸配列NP_001193.2 GI:157276593)である。好適なBMPはBMP4を含む。好都合なことに、本明細書に記載される培地中のBMP2またはBMP4などの骨形態形成タンパク質の濃度は、1~500ng/ml、好ましくは約10ng/mlであり得る。BMPは、慣例的な組換え技法を使用して生産するか、または商業的供給者(例えばR&D,Minneapolis,USA、Stemgent Inc,USA、Miltenyi Biotec Gmbh,DE)から取得することができる。
【0129】
第3の中胚葉誘導培地中のGSK3β阻害活性は、培地中のGSK3β阻害剤の存在によって提供され得る。GSK3β阻害剤は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3β(遺伝子ID 2932:EC2.7.11.26)の活性を阻害する。好ましい阻害剤は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3βの活性を特異的に阻害する。好適な阻害剤としては、CHIR99021(6-((2-((4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(4-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)ピリミジン-2-イル)アミノ)エチル)アミノ)ニコチノニトリル;Ring D.B.et al.,Diabetes,52:588-595(2003))アルステルパウロン、ケンパウロン、BIO(6-ブロモインジルビン-3’-オキシム(Sato et al Nat Med.2004 Jan;10(1):55-63)、SB216763(3-(2,4-ジクロロフェニル)-4-(1-メチル-1H-インドール-3-イル)-1H-ピロール-2,5-ジオン)、リチウム及びSB415286(3-[(3-クロロ-4-ヒドロキシフェニル)アミノ]-4-(2-ニトロフェニル)-1H-ピロール-2,5-ジオン;Coghlan et al Chem Biol.2000 Oct;7(10):793-803)が挙げられる。いくつかの好ましい実施形態では、GSK3β阻害剤はCHIR99021である。好適なグリコーゲンシンターゼキナーゼ3β阻害剤は、商業的供給者(例えば、Stemgent Inc.MA USA;Cayman Chemical Co. MI USA;Selleckchem,MA USA)から取得することができる。例えば、第3の中胚葉誘導培地は、0.1~100μM、好ましくは約10μMのCHIR99021などのGSK3β阻害剤を含み得る。
【0130】
好ましい実施形態では、第1、第2、及び第3の中胚葉誘導培地は既知組成培地である。例えば、第1の中胚葉誘導培地は、有効量のアクチビン、好ましくはアクチビンA、例えば50ng/mlのアクチビンAを補充した既知組成栄養培地からなることができ、第2の中胚葉誘導培地は、有効量のアクチビン、好ましくはアクチビンA、例えば5ng/mlのアクチビンAと、BMP、好ましくはBMP4、例えば10ng/mlのBMP4と、FGF、好ましくはbFGF(FGF2)、例えば5ng/mlのbFGFとを補充した既知組成栄養培地からなることができ、第3の中胚葉誘導培地は、有効量のアクチビン、好ましくはアクチビンA、例えば5ng/mlのアクチビンAと、BMP、好ましくはBMP4、例えば10ng/mlのBMP4と、FGF、好ましくはbFGF(FGF2)、例えば5ng/mlのbFGFと、GSK3阻害剤、好ましくはCHIR-99021、例えば10μMのCHIR-99021とを補った既知組成栄養培地からなることができる。
【0131】
既知組成培地(CDM)は、特定の成分、好ましくは既知の化学構造をもつ成分のみを含む、細胞を培養するための栄養溶液である。CDMは、未定義の構成要素または構成成分、例えばフィーダー細胞、間質細胞、血清、血清アルブミン、及びマトリゲル(商標)などの複雑な細胞外マトリックスを欠いている。例えば、CDMは、DLL1またはDLL4などのNotchリガンドを発現するOP9細胞のような間質細胞を含まない。
【0132】
CDMまたは既知組成栄養培地は、既知組成基本培地を含み得る。好適な既知組成基本培地としては、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、ハムF12、改良されたダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Price et al.,Focus(2003),25 3-6)、Williams E(Williams,G.M.et al.,Exp.Cell Research,89,139-142(1974))、RPMI-1640(Moore,G.E.and Woods L.K.,(1976)Tissue Culture Association Manual.3,503-508)、及びStemPro(商標)-34(ThermoFisher Scientific)が挙げられる。
【0133】
基本培地は、培地中に無血清培養培地サプリメント及び/または追加の成分を補充してもよい。好適なサプリメント及び追加の成分は上述されており、L-グルタミンまたはGlutaMAX-1(商標)などの代替物、アスコルビン酸、モノチオールグリセロール(MTG)、ペニシリン及びストレプトマイシンなどの抗生物質、ヒト血清アルブミン、例えばCellastim(商標)(Merck/Sigma)及びRecombumin(商標)(albumedix.com)などの組換えヒト血清アルブミン、インスリン、トランスフェリン、ならびに2-メルカプトエタノールを含み得る。基本培地には、Knockout Serum Replacement(KOSR;Invitrogen)などの血清代替物を補充してもよい。
【0134】
iPSCは、中胚葉細胞の集団を生産するために、第1の中胚葉誘導培地で1~12時間、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12時間のいずれか、好ましくは約4時間培養され、次いで第2の中胚葉誘導培地で30~54時間、例えば35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50時間のいずれか、好ましくは約44時間培養され、次いで第3の中胚葉誘導培地で36~60時間、例えば37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、または53時間のいずれか、好ましくは約48時間培養され得る。
【0135】
中胚葉細胞は、中胚葉系列に傾倒している部分的に分化した前駆細胞であり、適切な条件下で間葉(線維芽細胞)、筋肉、骨、脂肪、血管、及び造血系のすべての細胞型へと分化できる。中胚葉細胞は、1つ以上の中胚葉マーカーを発現し得る。例えば、中胚葉細胞は、Brachyury、Goosecoid、Mixl1、KDR、FoxA2、GATA6及びPDGFαRのうちのいずれか1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、または7つすべてを発現し得る。
【0136】
第2段階では、HE分化を促進する好適な条件下で中胚葉細胞の集団を培養することにより、中胚葉細胞が造血性内皮(HE)細胞へと分化し得る。例えば、中胚葉細胞は、HE誘導培地で培養され得る。
【0137】
好適なHE誘導培地は、(i)cKIT受容体(CD117;KIT受容体チロシンキナーゼ)及び/またはcKIT受容体(CD117;KIT受容体チロシンキナーゼ)媒介シグナル伝達経路を刺激し、(ii)VEGFR及び/またはVEGFR媒介シグナル伝達経路を刺激する。例えば、HE誘導培地は、SCF及びVEGFを含み得る。
【0138】
血管内皮成長因子(VEGF)は、VEGFRチロシンキナーゼ受容体に結合し、脈管形成及び血管新生を刺激するPDGFファミリーのタンパク質因子である。好適なVEGFは、VEGFファミリーのいずれかのメンバー、例えばVEGF-A~VEGF-D及びPIGFのうちのいずれか1つを含む。好ましくは、VEGFは、VEGF-A(別称VEGF、NCBI遺伝子ID:7422、核酸配列NM_001025366.2、アミノ酸配列NP_001020537.2)である。好ましくは、VEGFR及び/またはVEGFR媒介シグナル伝達経路は、VEGFR2(KDR/Flk-1)及び/またはVEGFR2(KDR/Flk-1)媒介シグナル伝達経路である。VEGFは、商業的供給源(例えばR&D Systems,USA)から容易に入手可能である。好都合なことに、本明細書に記載されるHE誘導培地中のVEGFの濃度は、1~100ng/ml、例えば約5、7、10、12、15、17、20、25、30、35、40、45、または50ng/mlのいずれか、好ましくは約15ng/mlであり得る。
【0139】
HE誘導培地のいくつかの例では、VEGFは、VEGFR(またはVEGFR2(KDR/Flk-1))及び/またはVEGFR(またはVEGFR2(KDR/Flk-1))媒介シグナル伝達経路を刺激するVEGFアクチベーターまたはアゴニストで置き換えることができる。好適なVEGFアクチベーターは、当技術分野で公知であり、グレムリンなどのタンパク質(Mitola et al(2010)Blood 116(18)3677-3680)、shRNAなどの核酸(例えば、Turunen et al.,Circ Res.2009 Sep 11;105(6):604-9)、CRISPRベースのプラスミド(例えば、VEGF CRISPR活性化プラスミド;Santa Cruz Biotech,USA)、抗体及び小分子を含む。
【0140】
幹細胞因子(SCF)は、KIT受容体(KIT癌原遺伝子、受容体チロシンキナーゼ)(CD117;SCFR)に結合するサイトカインであり、造血に関与する。SCF(別名KITLG、NCBI遺伝子ID:4254)は、参照核酸配列NM_000899.5またはNM_03994.5及び参照アミノ酸配列NP_000890.1またはNP_003985.5を有し得る。SCFは、商業的供給源(例えばR&D Systems,USA)から容易に入手可能である。好都合なことに、本明細書に記載されるHE誘導培地中のSCFの濃度は、1~1000ng/ml、例えば約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900ng/mlのいずれか、好ましくは約100ng/mlであり得る。
【0141】
好ましい実施形態では、HE誘導培地は既知組成培地である。例えば、HE誘導培地は、有効量のVEGF、例えば15ng/mlのVEGFと、SCF、例えば100ng/mlのSCFとを補充した既知栄養培地からなり得る。好ましくは、中胚葉細胞は既知栄養培地及び2つの分化因子からなるHE誘導培地で培養され、ここで、この2つの分化因子はSCF及びVEGFである。
【0142】
好適な既知栄養培地は上述されており、StemPro(商標)-34(ThermoFisher Scientific)、または後述するようなアルブミン、インスリン、セレニウムトランスフェリン、及び脂質を補充したIMDMなどの基礎培地を含む。
【0143】
中胚葉細胞をHE誘導培地で2~6日間、または3~5日間、好ましくは約4日間培養して、HE細胞の集団を生産することができる。
【0144】
造血内皮(HE)は、造血潜在能力を有し、適切な条件下で造血系列へと分化することができる、部分的に分化した内皮前駆細胞である。HE細胞は、CD34を発現する場合があり、いくつかの実施形態では、CD73またはCXCR4(CD184)を発現しない場合がある。いくつかの実施形態では、HE細胞は、表現型CD34+CD73-、または表現型CD34+CD73-CXCR4-を有し得る。
【0145】
第3段階では、造血分化を促進する好適な条件下でHE細胞の集団を培養することにより、造血内皮(HE)細胞が造血前駆細胞(HPC)へと分化し得る。例えば、HE細胞は造血誘導培地で培養され得る。
【0146】
好適な造血誘導培地は、(i)cKIT受容体(CD117;KIT受容体チロシンキナーゼ)及び/またはcKIT受容体(CD117;KIT受容体チロシンキナーゼ)媒介シグナル伝達経路、(ii)VEGFR及び/またはVEGFR媒介シグナル伝達経路、好ましくはVEGFR2及び/またはVEGFR2媒介シグナル伝達経路、(iii)MPL(CD110)及び/またはMPL(CD110)媒介シグナル伝達経路、(iv)FLT3及び/またはFLT3媒介シグナル伝達経路、(v)IGF1R及び/またはIGF1R媒介シグナル伝達経路、(vi)SMAD1、5及び9及び/またはSMAD1、5及び9媒介シグナル伝達経路、(vii)ヘッジホッグ及び/またはヘッジホッグシグナル伝達経路、(viii)EpoR及び/またはEpoR媒介シグナル伝達経路、ならびに(ix)AGTR2及び/またはAGTR2媒介シグナル伝達経路を刺激し得る。好適な造血誘導培地はまた、AGTR1(アンギオテンシンII 1型受容体(AT1))及び/またはAGTR1(アンギオテンシンII 1型受容体(AT1))媒介シグナル伝達経路も阻害し得る。好適な造血誘導培地は、インターロイキン(IL)活性及びFGF活性も有し得る。
【0147】
例えば、造血誘導培地は、分化因子:VEGF、SCF、トロンボポエチン(TPO)、Flt3リガンド(Flt3L)、IL-3、IL-6、IL-7、IL-11、IGF-1、BMP、FGF、ソニックヘッジホッグ(SHH)、エリスロポエチン(EPO)、アンギオテンシンII、及びアンギオテンシンII 1型受容体(AT1)アンタゴニストを含み得る。好適な造血誘導培地の一例は、以下の表1に示す第3段階培地である。
【0148】
トロンボポエチン(TPO)は、血小板の生産を調節する糖タンパク質ホルモンである。TPO(別名THPO、NCBI遺伝子ID:7066)は、参照核酸配列NM_000460.4及び参照アミノ酸配列NP_000451.1を有し得る。TPOは、商業的供給源(例えばR&D Systems,USA、Miltenyi Biotec Gmbh,DE)から容易に入手可能である。好都合なことに、本明細書に記載される造血誘導培地中のTPOの濃度は、3~300ng/ml、例えば約0.1、0.25、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、または100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、または290ng/mlのいずれか、好ましくは約30ng/mlであり得る。
【0149】
Flt3リガンド(Fms関連チロシンキナーゼ3リガンドまたはFLT3L)は、FLT3受容体に結合する造血活性を有するサイトカインであり、前駆細胞の増殖及び分化を刺激する。Flt3リガンド(別名FLT3LG、NCBI遺伝子ID:2323)は、参照核酸配列NM_001204502.2及び参照アミノ酸配列NP_001191431.1を有し得る。Flt3は、商業的供給源(例えばR&D Systems,USA、Miltenyi Biotec Gmbh,DE)から容易に入手可能である。好都合なことに、本明細書に記載される造血誘導培地中のFlt3リガンドの濃度は、0.25~250ng/ml、例えば約0.1、0.25、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、または100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、または240ng/mlのいずれか、好ましくは約25ng/mlであり得る。
【0150】
インターロイキン(IL)は、免疫の発達及び機能において重要な役割を果たすサイトカインである。造血誘導培地中のILには、IL-3、IL-6、IL-7、及びIL-11が含まれ得る。
【0151】
IL-3(別名IL3またはMCGF、NCBI遺伝子ID:3562)は、参照核酸配列NM_000588.4及び参照アミノ酸配列NP_000579.2を有し得る。IL-3は、商業的供給源(例えばR&D Systems,USA、Miltenyi Biotec Gmbh,DE)から容易に入手可能である。好都合なことに、本明細書に記載される造血誘導培地中のIL-3の濃度は、0.25~250ng/ml、例えば約0.1、0.25、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、または100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、または240ng/mlのいずれか、好ましくは約25ng/mlであり得る。
【0152】
IL-6(別名IL6またはHGF、NCBI遺伝子ID:3569)は、参照核酸配列NM_000600.5及び参照アミノ酸配列NP_000591.5を有し得る。IL-6は、商業的供給源(例えばR&D Systems,USA、Miltenyi Biotec Gmbh,DE)から容易に入手可能である。好都合なことに、本明細書に記載される造血誘導培地中のIL-6の濃度は、0.1~100ng/ml、例えば約0.1、0.25、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、または95ng/mlのいずれか、好ましくは約10ng/mlであり得る。
【0153】
IL-7(別名IL7、NCBI遺伝子ID:3574)は、参照核酸配列NM_000880.4及び参照アミノ酸配列NP_000871.1を有し得る。IL-7は、商業的供給源(例えばR&D Systems,USA、Miltenyi Biotec Gmbh,DE)から容易に入手可能である。好都合なことに、本明細書に記載される造血誘導培地中のIL-7の濃度は、0.1~100ng/ml、例えば約0.1、0.25、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、または95ng/mlのいずれか、好ましくは約10ng/mlであり得る。
【0154】
IL-11(別名AGIF、NCBI遺伝子ID:3589)は、参照核酸配列NM_000641.4及び参照アミノ酸配列NP_000632.1を有し得る。IL-11は、商業的供給源(例えばR&D Systems,USA、Miltenyi Biotec Gmbh,DE)から容易に入手可能である。好都合なことに、本明細書に記載される造血誘導培地中のIL-11リガンドの濃度は、0.5~100ng/ml、例えば約0.1、0.25、0.5、0.75、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、または95ng/mlのいずれか、好ましくは約5ng/mlであり得る。
【0155】
インスリン様成長因子1(IGF-1)は、チロシンキナーゼIGF-1受容体(IGF1R)及びインスリン受容体に結合するホルモンであり、複数のシグナル伝達経路を活性化する。IGF-1(別名IGFまたはMGF、NCBI遺伝子ID:3479)は、参照核酸配列NM_000618.5及び参照アミノ酸配列NP_000609.1を有し得る。IGF-1は、商業的供給源(例えばR&D Systems,USA)から容易に入手可能である。好都合なことに、本明細書に記載される造血誘導培地中のIGF-1の濃度は、0.25~250ng/ml、例えば約0.1、0.25、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、23、25、27、30、35、40、45、50、60、70、80、90、または100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、または240ng/mlのいずれか、好ましくは約25ng/mlであり得る。
【0156】
ソニックヘッジホッグ(SHH)は、脊椎動物の器官形成を調節するヘッジホッグシグナル伝達経路のリガンドである。SHH(別名TPTまたはHHG1、NCBI遺伝子ID:6469)は、参照核酸配列NM_000193.4及び参照アミノ酸配列NP_000184.1を有し得る。SHHは、商業的供給源(例えばR&D Systems,USA、Miltenyi Biotec Gmbh,DE)から容易に入手可能である。好都合なことに、本明細書に記載される造血誘導培地中のSHHの濃度は、0.25~250ng/ml、例えば約0.1、0.25、0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、23、25、27、30、35、40、45、50、60、70、80、90、または100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、または240ng/mlのいずれか、好ましくは約25ng/mlであり得る。
【0157】
エリスロポエチン(EPO)は、エリスロポエチン受容体(EpoR)に結合する糖タンパク質サイトカインであり、赤血球形成を刺激する。EPO(別名DBAL、NCBI遺伝子ID:2056)は、参照核酸配列NM_000799.4及び参照アミノ酸配列NP_000790.2を有し得る。EPOは、商業的供給源(例えばR&D Systems,USA、PreproTech,USA)から容易に入手可能である。好都合なことに、本明細書に記載される造血誘導培地中のEPOの濃度は、0.02~20U/ml、例えば約0.01、0.025、0.05、0.075、0.1、0.5、0.75、1.0、1.5、2.0、2.5、3、4、5、6、7、8、9、10、13、15、17、または19U/mlのいずれか、好ましくは約2U/mlであり得る。
【0158】
アンギオテンシンIIは、アンギオテンシンIに対するアンギオテンシン変換酵素(ACE)の作用によって形成されるヘプタペプチドホルモンである。アンギオテンシンIIは、血管収縮を刺激する。アンギオテンシンI及びIIは、参照核酸配列NM_000029.4及び参照アミノ酸配列NP_000020.1を有し得るアンギオテンシノーゲン(別名AGT、NCBI遺伝子ID:183)の切断によって形成される。アンギオテンシンIIは、商業的供給源(例えばR&D Systems,USA、Tocris,USA)から容易に入手可能である。好都合なことに、本明細書に記載される造血誘導培地中のアンギオテンシンIIの濃度は、0.05~50ng/ml、例えば約0.01、0.025、0.05、0.075、0.1、0.5、0.75、1.0、1.5、2.0、2.5、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、30、40、または50ng/mlのいずれか、好ましくは約5ng/mlであり得る。
【0159】
アンギオテンシンII 1型受容体(AT1)アンタゴニスト(ARB)は、AT1受容体(AGTR1;遺伝子ID 185)の活性化を選択的にブロックする化合物である。好適なAT1アンタゴニストとしては、ロサルタン(2-ブチル-4-クロロ-1-{[2’-(1H-テトラゾール-5-イル)-4-ビフェニリル]メチル}-1H-イミダゾール-5-イル)メタノール)、バルサルタン((2S)-3-メチル-2-(ペンタノイル{[2’-(1H-テトラゾール-5-イル)ビフェニル-4-イル]メチル}アミノ)ブタン酸)、及びテルミサルタン(4’[(1,4’-ジメチル-2’-プロピル[2,6’-ビ-1H-ベンズイミダゾール]-1’-イル)メチル][1,1’-ビフェニル]-2-カルボン酸が挙げられる。いくつかの好ましい実施形態では、AT1アンタゴニストはロサルタンである。好適なAT1アンタゴニストは、商業的供給業者(例えば、Tocris,USA;Cayman Chemical Co. MI USA)から取得することができる。好都合なことに、本明細書に記載される造血誘導培地中のアンギオテンシンII 1型受容体(AT1)アンタゴニストの濃度は、1~1000μM、例えば約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900μMのいずれか、好ましくは約100μMであり得る。
【0160】
好ましい実施形態では、造血誘導培地は既知組成培地である。例えば、造血誘導培地は、有効量の、例えば15ng/mlのVEGFと、例えば100ng/mlのSCFと、例えば30ng/mlのトロンボポエチン(TPO)と、例えば25ng/mlのFlt3リガンド(FLT3L)と、例えば25ng/mlのIL-3と、例えば10ng/mlのIL-6と、例えば10ng/mlのIL-7と、例えば5ng/mlのIL-11と、例えば25ng/mlのIGF-1と、BMP、例えば10ng/mlのBMP4と、FGF、例えば5ng/mlのbFGFと、例えば25ng/mlのソニックヘッジホッグ(SHH)と、例えば2u/mlのエリスロポエチン(EPO)と、例えば10μg/mlのアンギオテンシンIIと、アンギオテンシンII 1型受容体(AT1)アンタゴニスト、例えば100μMのロサルタンとを補充した既知組成栄養培地からなり得る。
【0161】
好適な既知栄養培地は上述されており、StemPro(商標)-34 PLUS(ThermoFisher Scientific)、または後述するようなアルブミン、インスリン、セレニウムトランスフェリン、及び脂質を補充したIMDMなどの基礎培地を含む。
【0162】
HE細胞を造血誘導培地で8~21日間、例えば約9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20日間、好ましくは約16日間培養して、HPCの集団を生産することができる。
【0163】
HE細胞からHPCを生成した後、1つ以上のCD34などの細胞表面マーカーを発現するHPCの集団は、さらなる分化に供する前に、例えば磁気活性化細胞選別(MACS)により精製することができる。例えば、CD34+HPCの集団が精製され得る。CD34+HPCは、HE誘導培地で8日間、例えば8、9、または10日間の培養後に精製され得る。CD34+HPCは、分化から16日後、例えば分化方法の16日目、17日目、または18日目に精製され得る。
【0164】
上記の方法により生産した後、前駆T細胞の集団を増大させることができる。例えば、前駆T細胞の集団を好適な条件下で培養して、その集団における前駆T細胞の数の増加を促進することができる。好適な条件としては、ピリミドインドール化合物の存在を挙げることができる。
【0165】
例えば、前駆T細胞の集団は、上述のように、ピリミドインドール化合物を補充したリンパ球増大培地で培養され得る。
【0166】
前駆T細胞は、上述した方法による生産、及び場合によっては増殖の後に、成熟させるか、またはTCRαβ+T細胞、TCRγδ+T細胞、NK細胞、及びNKT細胞などの免疫細胞へとさらに分化させることができる。
【0167】
いくつかの好ましい実施形態では、前駆T細胞はTCRαβ+T細胞に成熟させることができる。例えば、前駆T細胞の集団は、T細胞の成熟を促進する好適な条件下で培養され得る。好適な条件としては、ピリミドインドール化合物の非存在を挙げることができる。
【0168】
いくつかの実施形態では、前駆T細胞はT細胞成熟培地で培養され得る。T細胞成熟培地は、成熟型T細胞への前駆T細胞の成熟を促進する細胞培養培地である。好適なT細胞成熟培地は、(i)cKIT受容体(CD117;KIT受容体チロシンキナーゼ)及び/またはcKIT受容体(CD117;KIT受容体チロシンキナーゼ)媒介シグナル伝達経路、(ii)FLT3及び/またはFLT3媒介シグナル伝達経路を刺激し、かつ(iii)インターロイキン(IL)活性を有し得る。例えば、T細胞成熟培地は、分化因子SCF、FLT3L、及びIL7を含み得る。
【0169】
好ましくは、T細胞成熟培地はピリミドインドール化合物を含まない。例えば、前駆T細胞の集団を、本明細書に記載されるようにピリミドインドール化合物の存在下で分化させ、場合により増大させた後に、集団をピリミドインドール化合物の非存在下で成熟させ、活性化させ、及び/または増大させることができる。
【0170】
好ましい実施形態では、T細胞成熟培地は既知組成培地である。例えば、T細胞成熟培地は、有効量の上記の分化因子を補充した既知組成栄養培地からなり得る。好適なT細胞成熟培地は、当技術分野で周知であり、Stemspan(商標)T細胞成熟サプリメント(カタログ番号9930;StemCell Technologies Inc,CA)を補ったStemspan(商標)SFEM II(カタログ番号9605;StemCell Technologies Inc,CA)、ならびにExCellerateヒトT細胞増大培地(R&D Systems,USA)のようなPBMC及びCD3+細胞の増大に好適な他の培地を含む。他の好適なT細胞成熟培地には、本明細書の他の箇所に記載されるような、ITS、アルブミン及び脂質を補充し、有効量の上記の分化因子をさらに補充した、IMDMなどの基本培地が含まれ得る。
【0171】
前駆T細胞は表面上で培養され得る。例えば、前駆T細胞は、培養容器、ビーズ、または他の生体材料もしくはポリマーの表面上で培養され得る。好ましくは、表面は、Notchシグナル伝達を刺激する因子、例えば、デルタ様1(DLL1)またはデルタ様4(DLL4)などのNotchリガンドでコーティングされ得る。好適なNotchリガンドは、当技術分野で周知であり、商業的供給者から入手可能である。表面は、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニンもしくはコラーゲンなどの細胞外マトリックスタンパク質、及び/またはVCAM1などの1つ以上の細胞表面接着タンパク質でコーティングされてもよい。好適なコーティングは、当技術分野で周知であり、本明細書の他の箇所に記載されている。
【0172】
前駆T細胞は、基質上のT細胞成熟培地で、前駆T細胞をTCRαβ+T細胞に成熟させるのに十分な時間にわたって培養され得る。例えば、前駆T細胞は、1~4週間、好ましくは2または3週間培養され得る。
【0173】
本明細書に記載されるように生産されるTCRαβ+T細胞は、成熟型CD3+T細胞であり得る。例えば、細胞はαβTCR+CD3+CD45+CD28+の表現型を有し得る。
【0174】
いくつかの実施形態では、前駆T細胞の成熟によって生産されるTCRαβ+T細胞(第5段階)は、二重陽性CD4+CD8+T細胞である場合も、主にそれである場合もある。
【0175】
第6段階では、単陽性CD4+T細胞、またはより好ましくは単陽性CD8+T細胞を生産するように、またはその割合を増加させるように、TCRαβ+T細胞の集団を活性化及び/または増大させることができる。本明細書に記載される方法によって生産されるTCRαβ+T細胞は、二重陽性CD4+CD8+T細胞であっても、単一陽性CD4+またはCD8+T細胞であってもよい。
【0176】
T細胞を活性化及び増大させるための好適な方法は、当技術分野で周知である。例えば、T細胞は、適切な培養条件下でT細胞受容体(TCR)アゴニストに曝露され得る。好適なTCRアゴニストとしては、ビーズまたは樹状細胞などの抗原提示細胞の表面上のクラスIまたはIIのMHC分子(MHC-ペプチド複合体)上に提示されるペプチドなどのリガンド、及び抗TCR抗体などの可溶性因子、例えば抗CD28抗体、及びMHC-ペプチド四量体、五量体またはデキストラマーなどの多量体MHC-ペプチド複合体が挙げられる。
【0177】
活性化とは、検出可能な細胞増殖を誘導するために十分に刺激されたT細胞の状態を指す。活性化は、誘導されたサイトカイン生産、及び検出可能なエフェクター機能にも関連し得る。「活性化されたT細胞」という用語は、とりわけ、細胞分裂を起こしているT細胞を指す。
【0178】
抗TCR抗体は、εCD3、αCD3またはαCD28のような、TCRの成分に特異的に結合し得る。TCR刺激に好適な抗TCR抗体は、当技術分野で周知であり(例えばOKT3)、商業的供給者(例えばeBioscience CO USA)から入手可能である。いくつかの実施形態では、T細胞は、抗αCD3抗体及びIL2、IL-7、またはIL15への曝露によって活性化され得る。より好ましくは、T細胞は、抗αCD3抗体及び抗αCD28抗体への曝露によって活性化される。活性化は、CD14+単球の存在下でも非存在下でも起こり得る。T細胞は、抗CD3及び抗CD28抗体でコーティングされたビーズによって活性化され得る。例えば、PBMCあるいはCD4+及び/またはCD8+細胞を含むT細胞サブセットは、フィーダー細胞(抗原提示細胞)または抗原を用いずに、抗体でコーティングされたビーズ、例えば、Dynabeads(登録商標)Human T-Activator CD3/CD28(ThermoFisher Scientific)などの抗CD3及び抗CD28抗体でコーティングされた磁気ビーズを使用して活性化され得る。他の実施形態では、CD3、CD28、及びCD2細胞表面リガンドと結合する可溶性四量体抗体複合体、例えば、ImmunoCult(商標)Human CD3/CD28/CD2 T Cell ActivatorまたはHuman CD3/CD28 T Cell Activatorを使用して、T細胞を活性化することができる。他の実施形態では、T細胞は、場合により抗CD28抗体と組み合わせて、MHC-ペプチド複合体、好ましくは多量体MHC-ペプチド複合体で活性化され得る。
【0179】
いくつかの実施形態では、TCRαβ+T細胞、例えば二重陽性CD4+CD8+T細胞は、IL-15を補充した、本明細書に記載されるT細胞成熟培地で培養され得る。培地には、上述のように、T細胞受容体(TCR)アゴニスト、例えば1つ以上の抗TCR抗体、例えば抗αCD3抗体、及び抗αCD28抗体をさらに補充してもよい。
【0180】
TCRαβ+T細胞を、任意の簡便な方法を用いて培養して、増大された集団を生産することができる。好適な培養系には、攪拌タンクファーメンター、エアリフトファーメンター、ローラーボトル、培養バッグまたはディッシュ、及び他のバイオリアクター、特に中空糸バイオリアクターが含まれる。そのような系の使用は、当技術分野で周知である。
【0181】
本明細書に記載されるように生産されるTCRαβ+T細胞は、標的抗原と結合するαβTCRを発現し得る。例えば、αβTCRは腫瘍抗原を発現するがん細胞に特異的に結合し得る。T細胞は、後述するように、例えば免疫療法において有用であり得る。
【0182】
いくつかの実施形態では、T細胞によって発現されるαβTCRは、天然に発現され得る(すなわち、内因性TCR)。例えば、T細胞は、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)に由来するiPSCから、本明細書に記載されるように生産され得る。TIL、例えば腫瘍常在性CD3+CD8+細胞は、標準的技法を使用して、がん病態を有する個体から取得することができる。あるいは、樹状細胞などの抗原提示細胞の表面上のクラスIもしくはIIのMHC分子上に提示される標的抗原のペプチド断片に結合するT細胞に由来するiPSCから、本明細書に記載されるようにT細胞を生産してもよく、または、本明細書に記載されるように生産されるT細胞の集団を、クラスIもしくはIIのMHC分子上に提示される標的抗原のペプチド断片への結合についてスクリーニングし、提示されたペプチド断片に結合するT細胞を同定してもよい。
【0183】
他の実施形態では、αβTCRは、細胞によって天然には発現されない(すなわち、TCRは外因性または異種である)。好適な異種αβTCRは、標的抗原のペプチド断片を提示するクラスIまたはIIのMHC分子に特異的に結合し得る。例えば、T細胞は、がん患者のがん細胞によって発現される腫瘍抗原のペプチド断片を提示するクラスIまたはIIのMHC分子に特異的に結合する異種αβTCRを発現するように改変され得る。いくつかの実施形態では、TCRは、MHC提示とは無関係に、がん細胞上の標的抗原または標的抗原のペプチド断片を認識し得る。がん患者のがん細胞によって発現される腫瘍抗原は、標準的技法を使用して同定され得る。好ましい腫瘍抗原は、NY-ESO1、PRAME、α-フェトプロテイン(AFP)、MAGE A4、MAGE A1、MAGE A10及びMAGE B2を含み、最も好ましくはNY-ESO-1、MAGE-A4及びMAGE-A10である。
【0184】
異種TCRは、合成または人工のTCR、すなわち天然には存在しないTCRであり得る。例えば、異種TCRは、腫瘍抗原に対するその親和性またはアビディティを増加させるようにエンジニアリングされ得る(すなわち、親和性向上型TCR)。親和性向上型TCRは、天然に発生するTCRに比した1つ以上の突然変異、例えば、TCRα鎖及びβ鎖の可変領域の超可変相補性決定領域(CDR)における1つ以上の突然変異を含み得る。これらの突然変異は、がん細胞によって発現される腫瘍抗原のペプチド断片を提示するMHCに対するTCRの親和性を増加させる。親和性向上型TCRを生成する好適な方法は、ファージまたは酵母ディスプレイを使用するTCR突然変異体のライブラリのスクリーニングを含み、当技術分野で周知である(例えばRobbins et al J Immunol(2008)180(9):6116、San Miguel et al(2015)Cancer Cell 28(3)281-283、Schmitt et al(2013)Blood 122 348-256、Jiang et al.,(2015)Cancer Discovery 5 901を参照のこと)。好ましい親和性向上型TCRは、腫瘍抗原NY-ESO1、PRAME、α-フェトプロテイン(AFP)、MAGE A4、MAGE A1、MAGE A10及びMAGE B2のうちの1つ以上を発現するがん細胞に結合し得る。
【0185】
異種αβTCRの発現は、本明細書に記載されるように生産されるT細胞の免疫原性特異性を変化させて、それらが、がんを有する個体のがん細胞の表面上に存在する腫瘍抗原などの1つ以上の標的抗原を認識するか、またはその認識の向上を示すようにすることができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるように生産されるT細胞は、異種αβTCRの非存在下では、がん細胞への結合の低減を示すか、または結合を示さない場合がある。例えば、異種αβTCRの発現は、αβTCRを発現しないT細胞に比して、T細胞のがん細胞結合の親和性及び/または特異性を増加させ得る。
【0186】
「異種」という用語は、宿主細胞などの特定の生体系にとって外来であり、その系に天然には存在しないポリペプチドまたは核酸を指す。異種ポリペプチドまたは核酸は、人工的手段、例えば組換え技法を使用して生体系に導入され得る。例えば、ポリペプチドをコードする異種核酸を好適な発現構築物に挿入し、次にこれを使用して宿主細胞を形質転換し、ポリペプチドを生産することができる。異種ポリペプチドまたは核酸は、合成もしくは人工でもよく、または異なる種もしくは細胞型などの異なる生体系に存在してもよい。内因性ポリペプチドまたは核酸は、宿主細胞などの特定の生体系に固有であり、その系に天然に存在する。組換えポリペプチドは、人工的手段により、例えば組換え技法を使用して細胞に導入された異種核酸から発現される。組換えポリペプチドは、細胞内に天然に存在するポリペプチドと同一の場合もあれば、その細胞内に天然に存在するポリペプチドと異なる場合もある。
【0187】
T細胞は、本明細書に記載される方法におけるいずれかの段階で細胞に異種コード核酸を導入することにより、異種αβTCRを発現するように改変され得る。例えば、異種コード核酸は、iPSC、HPC、または前駆T細胞に導入され得る。いくつかの好ましい実施形態では、例えば、本明細書に記載されるようなリンパ系増大培地での2週間の培養(第4段階)の後、リンパ系増大培地中で培養後のαβTCRをコードする異種核酸を細胞に形質導入してもよい。TCRをコードする異種核酸は、受容体のすべてのサブユニットをコードし得る。例えば、TCRをコードする核酸は、TCRα鎖をコードするヌクレオチド配列と、TCRβ鎖をコードするヌクレオチド配列とを含み得る。
【0188】
核酸は、任意の簡便な技法によって細胞に導入され得る。iPSC、HPCまたは前駆T細胞に異種核酸を導入するまたは組込む場合、当業者には周知である、ある特定の検討事項を考慮しなければならない。挿入される核酸は、T細胞での転写を駆動する有効な調節エレメントを含む構築物またはベクター内でアセンブルされるべきである。例えば、核酸構築物の調製、細胞へのDNAの導入、及び遺伝子発現における、核酸の操作及び形質転換のための多くの公知の技法及びプロトコルが、Protocols in Molecular Biology,Second Edition,Ausubel et al.eds.John Wiley&Sons,1992に詳細に記載されている。いくつかの実施形態では、核酸は、遺伝子編集によって細胞に導入され得る。例えば、CRISPR/Cas9系により、標的部位でのDNA二本鎖切断(DSB)を誘導することができ、DSBの修復により、標的部位で細胞ゲノムに異種核酸を導入してもよく、または、rAAVベクターを使用して核酸を導入してもよい(AAV媒介遺伝子編集;Hirsch et al.,2014 Methods Mol Biol 1114 291-307)。
【0189】
iPSC、HPCまたは前駆T細胞に発現ベクターを導入するための好適な技法は、当技術分野で周知であり、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラン、電気穿孔、リポソーム媒介トランスフェクション、遺伝子編集、及びワクシニアまたはレンチウイルスなどのレトロウイルスまたは他のウイルスを使用した形質導入を含む。好ましくは、異種αβTCRをコードする核酸は、ウイルスベクター、最も好ましくはガンマレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクター、例えばVSVg偽型レンチウイルスベクターに含まれ得る。本明細書に記載される方法は、細胞、例えばiPSC、HPCまたは前駆T細胞の集団に、ウイルスベクターを形質導入して、遺伝子改変細胞の形質導入集団を生産することを含み得る。細胞は、核酸を含むウイルス粒子との接触によって形質導入され得る。形質導入のためのウイルス粒子は、公知の方法に従って生産され得る。例えば、HEK293T細胞に、ウイルスパッケージング及びエンベロープエレメントをコードするプラスミド、ならびにコード核酸を含むレンチウイルスベクターをトランスフェクトしてもよい。VSVg偽型ウイルスベクターを水疱性口内炎ウイルス(VSVg)のウイルスエンベロープ糖タンパク質Gと組み合わせて生産して、偽型ウイルス粒子を生産してもよい。例えば、固相形質導入は、レトロネクチンでコーティングされ、レトロウイルスベクターが予めロードされた組織培養プレートで培養することにより、選択をせずに行うことができる。
【0190】
TCRαβ+T細胞、例えばDP CD4+CD8+細胞、SP CD4+細胞またはSP CD8+細胞の集団は、生産後、単離及び/または精製され得る。蛍光活性化細胞選別(FACS)、または抗体でコーティングされた磁気粒子を使用した磁気活性化細胞選別(MACS)を含め、任意の簡便な技法を使用することができる。
【0191】
TCRαβ+T細胞、例えばDP CD4+CD8+細胞、SP CD4+細胞、またはSP CD8+細胞の集団は、増大及び/または濃縮させてもよい。場合により、本明細書に記載されるように生産されるTCRαβ+T細胞の集団は、使用前に、例えば凍結保存によって貯蔵され得る。
【0192】
TCRαβ+T細胞の集団は、バッファー、担体、希釈剤、防腐剤、及び/または薬学的に許容される賦形剤のような他の試薬と混合され得る。好適な試薬については、以下でより詳細に説明する。本明細書に記載される方法は、TCRαβ+T細胞の集団を薬学的に許容される賦形剤と混和することを含み得る。
【0193】
投与(例えば注入による)に好適な医薬組成物には、抗酸化剤、バッファー、防腐剤、安定化剤、静菌薬、及び製剤を意図されるレシピエントの血液と等張にする溶質を含み得る、水性及び非水性の等張でパイロジェンフリーの無菌注射液、ならびに懸濁化剤及び増粘剤を含み得る水性及び非水性の無菌懸濁液が含まれる。このような製剤に使用される好適な等張ビヒクルの例としては、塩化ナトリウム注射液、リンゲル液、または乳酸加リンゲル注射液が挙げられる。好適なビヒクルについては、標準的な薬学の文献、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th edition,Mack Publishing Company,Easton,Pa.,1990に見出すことができる。
【0194】
いくつかの好ましい実施形態では、DP CD4+CD8+T細胞、SP CD4+T細胞、または好ましくはSP CD8+T細胞であり得るTCRαβ+T細胞は、個体への静脈内注入に好適な医薬組成物に配合され得る。
【0195】
本明細書で使用される「薬学的に許容される」という用語は、適切な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー応答、または他の問題もしくは合併症を伴わずに対象(例えば、ヒト)の組織と接触させて使用するのに好適であり、合理的なベネフィット/リスク比に見合った、化合物、物質、組成物、及び/または剤形に関する。各担体、賦形剤なども、製剤の他の成分と適合するという意味で「許容され」なければならない。
【0196】
本発明の1つの態様は、上述の方法によって生産される、例えばDP CD4+CD8+T細胞、SP CD4+T細胞、またはSP CD8+T細胞であり得る、TCRαβ+T細胞の集団を提供する。
【0197】
TCRαβ+T細胞の集団は、医薬品として使用するためのものであり得る。例えば、本明細書に記載される成熟型TCRαβ+T細胞の集団は、がん免疫療法、例えば養子T細胞療法に使用され得る。
【0198】
養子細胞療法または養子免疫療法とは、標的細胞上に発現した抗原またはそのペプチドに特異的なTCR、及び/または標的細胞上に発現したペプチドMHC複合体に特異的なTCRを発現するヒトTリンパ球の養子移入を指す。
【0199】
これは、がんを処置するための腫瘍特異的抗原など、選択された標的に応じて様々な疾患を処置するために使用され得る。養子細胞療法には、ドナーまたは患者の細胞、例えば、白血球の一部を取り出すことが含まれる。次いで、これらの細胞を使用してiPSCをin vitroで生成し、これらのiPSCを使用することで、本明細書に記載されるような、標的細胞で発現される抗原もしくはそのペプチドに特異的なT細胞、及び/または標的細胞上のペプチドMHC複合体に特異的なT細胞が効率的に生成される。T細胞は、患者が細胞の注入を受ける準備が整うまで、試験、輸送、及び貯蔵の時間を確保するために、増大させ、洗浄し、濃縮し、及び/またはその後に凍結してもよい。
【0200】
本発明の他の態様は、がんを処置するための医薬の製造のための本明細書に記載されるTCRαβ+T細胞の集団の使用、がんを処置するための本明細書に記載されるTCRαβ+T細胞の集団、及び、本明細書に記載されるTCRαβ+T細胞の集団を、それを必要とする個体に投与することを含む、がんの処置の方法を提供する。
【0201】
TCRαβ+T細胞の集団は自己由来であり得る。すなわち、TCRαβ+T細胞は、それらが後に投与されるのと同じ個体から元々取得されたものである(すなわち、ドナーとレシピエント個体とが同じである)。
【0202】
TCRαβ+T細胞の集団は同種異系であってもよく、すなわち、TCRαβ+T細胞は、それらが後に投与されるのと異なる個体(すなわち、ドナー及びレシピエントが異なる個体)に元々由来してもよく、すなわち、iPSCを生成するために使用される細胞が取得された個体は、TCRαβ+T細胞が投与される個体とは異なってもよい。同種異系とは、同じ種に属する異なる動物に由来する移植片を指す。
【0203】
GVHD及び拒絶反応などの他の望ましくない免疫効果を回避するために、ドナー及びレシピエント個体のHLAは適合してもよい。あるいは、ドナー及びレシピエント個体のHLAは適合しなくてもよく、またはドナー個体の細胞内のHLA遺伝子は、レシピエントとのHLAミスマッチをなくすように、例えば遺伝子編集によって改変されてもよい。
【0204】
レシピエント個体への投与に好適なTCRαβ+T細胞集団は、ドナー個体から取得された細胞、好ましくはT細胞の初期集団を用意することと、細胞をiPSCへとリプログラミングすることと、レシピエント個体において、がん細胞、及び/または場合によりMHCと複合体を形成するがん細胞によって提示される抗原もしくはそのペプチドに特異的に結合するαβTCRを発現するT細胞へと、iPSCを分化させることとを含む方法により、生産され得る。
【0205】
TCRαβ+T細胞の投与後、レシピエント個体は、レシピエント個体のがん細胞に対するT細胞媒介免疫応答を呈し得る。これは、個体のがん病態に対して有益な効果を有し得る。
【0206】
本明細書で使用される「がん」、「新生物」、及び「腫瘍」という用語は同義に使用され、単数形でも複数形でも、宿主生物にとって病的なものとなる悪性形質転換を起こした細胞を指す。
【0207】
原発がん細胞は、十分に確立された技法、特に組織学的検査により、非がん性細胞から容易に区別することができる。がん細胞には、原発がん細胞だけでなく、がん細胞の祖先に由来する任意の細胞も含まれ得る。これには、転移したがん細胞、ならびにがん細胞に由来するin vitro培養物及び細胞株が含まれる。通常は固形腫瘍として現れるがんの種類について言及する場合、「臨床的に検出可能」な腫瘍は、腫瘍塊に基づいて、例えば、コンピュータ断層撮影(CT)スキャン、磁気共鳴画像法(MRI)、X線、超音波、もしくは身体検査での触診などの手順によって検出可能であるもの、及び/または患者から取得可能なサンプル中の1つ以上のがん特異的抗原の発現のために検出可能であるものである。
【0208】
がん病態は、悪性がん細胞の異常な増殖によって特徴付けることができ、AML、CML、ALL及びCLLなどの白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫及び多発性骨髄腫などのリンパ腫、ならびに肉腫、皮膚癌、黒色腫、膀胱癌、脳癌、乳癌、子宮癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、大腸癌、子宮頸癌、肝臓癌、頭頸部癌、食道癌、膵癌、腎癌、副腎癌、胃癌、精巣癌、胆嚢及び胆管のがん、甲状腺癌、胸腺癌、骨のがん、及び大脳癌などの固形がん、ならびに原発不明がん(CUP)を含み得る。
【0209】
個体内のがん細胞は、個体の正常な体細胞とは免疫学的に異なり得る(すなわち、がん性腫瘍は免疫原性であり得る)。例えば、がん細胞は、個体において、がん細胞によって発現される1つ以上の抗原に対する全身性免疫応答を誘発することができる可能性がある。免疫応答を誘発する腫瘍抗原は、がん細胞に特異的な場合もあれば、個体における1つ以上の正常細胞によって共有される場合もある。
【0210】
本明細書に記載される処置に好適な個体のがん細胞は、抗原を発現する場合があり、及び/またはT細胞によって発現されるαβTCRに結合する適正なHLA型である場合がある。
【0211】
上述のような処置に好適な個体は、哺乳動物であり得る。好ましい実施形態では、個体はヒトである。他の好ましい実施形態では、非ヒト哺乳動物、特に、ヒトにおける治療有効性を実証するためのモデルとして従来使用されている哺乳動物(例えばマウス、霊長類、ブタ、イヌ、またはウサギ動物)を用いることができる。
【0212】
いくつかの実施形態では、個体は、最初のがんの処置の後に最少残存病変(MRD)を有し得る。
【0213】
がんを有する個体は、当技術分野で公知の臨床基準に従ってがんの診断を下すのに十分である、少なくとも1つの識別可能な徴候、症状、または検査所見を示し得る。このような臨床基準の例は、Harrison’s Principles of Internal Medicine,15th Ed.,Fauci AS et al.,eds.,McGraw-Hill,New York,2001などの医学教本に見出すことができる。場合によっては、個体におけるがんの診断は、個体から取得された体液または組織のサンプル中の特定の細胞型(例えば、がん細胞)の同定を含み得る。
【0214】
抗腫瘍効果は、腫瘍成長速度の低下、腫瘍体積の減少、腫瘍細胞数の減少、転移数の減少、平均余命の延長、またはがん性病態に関連する様々な生理学的症状の改善によって現れ得る生物学的効果である。「抗腫瘍効果」は、そもそもの腫瘍の発生の防止における、本発明の方法に従って生産されるペプチド、ポリヌクレオチド、細胞、特にT細胞、及び本明細書に記載される抗体の能力によって現れる場合もある。
【0215】
処置は、ヒトのものか動物のものか(例えば獣医学的用途)を問わず、いくらかの所望の治療効果、例えば、病態の進行の阻害または遅延が達成される、あらゆる処置及び/または療法であり得、進行速度の低下、進行速度の停止、病態の改善、病態の治癒または寛解(部分的か完全かを問わない)、病態の1つ以上の症状及び/または徴候の防止、遅延、軽減または抑止、あるいは処置の非存在下で予想されるものを超えた対象または患者の生存期間の延長を含む。
【0216】
処置は予防的(すなわち予防)でもよい。例えば、がんに罹患しやすい個体、またはその発生もしくは再発のリスクがある個体は、本明細書に記載されるように処置され得る。このような処置は、個体におけるがんの発生または再発を防止するか、または遅延させ得る。
【0217】
特に、処置には、がんの完全寛解を含むがんの成長の阻害、及び/またはがんの転移の阻害が含まれ得る。がんの成長とは、概して、より発達した形態へのがんにおける変化を示す複数の指標のうちのいずれか1つを指す。したがって、がんの成長の阻害を測定するための指標には、がん細胞の生存率の減少、腫瘍体積または形態における(例えば、コンピュータ断層撮影(CT)、超音波検査、または他の画像法を使用して決定される)減少、腫瘍成長の遅延、腫瘍血管構造の破壊、遅延型皮膚過敏反応テストの成績の向上、T細胞の活性の増加、及び腫瘍特異的抗原のレベルの低下が含まれる。本明細書に記載されるように改変されたT細胞の投与は、がんの成長、特に対象に既に存在するがんの成長に抵抗する個体の能力を向上させ、及び/または個体におけるがんの成長の傾向を減少させ得る。
【0218】
TCRαβ+T細胞またはTCRαβ+T細胞を含む医薬組成物は、全身性/末梢性か、所望の作用部位においてかを問わず、非経口を含むがこれに限定されない、例えば注入による、任意の簡便な投与経路によって対象に投与され得る。注入は、針またはカテーテルを介した、好適な組成物中のT細胞の投与を含む。典型的には、T細胞は静脈内または皮下に注入されるが、T細胞は、筋肉内注射及び硬膜外経路など、他の非経口経路を介して注入されてもよい。好適な注入技法は、当技術分野で公知であり、療法において一般的に使用されている(例えば、Rosenberg et al.,New Eng.J.of Med.,319:1676,1988を参照のこと)。
【0219】
典型的には、投与される細胞の数は、体重1Kg当たり約105個~約1010個、例えば、個体当たり細胞約1、2、3、4、5、6、7、8、または9、×105、×106、×107、×108、×109、または×1010個のいずれか、典型的には個体当たり細胞2×108~2×1010個であり、典型的には30分間にわたり、必要に応じて、例えば数日から数週間の間隔で処置を繰り返す。TCRαβ+T細胞、及びTCRαβ+T細胞を含む組成物の適切な投与量は、患者ごとに異なり得ることが理解されるであろう。最適な投与量を決定することは、一般に、本発明の処置のリスクまたは有害な副作用に対する治療利益のレベルを釣り合わせることを伴う。選択される投与量レベルは、特定の細胞の活性、サイトカイン放出症候群(CRS)、投与経路、投与時間、細胞の喪失または不活性化の比率、処置期間、組み合わせて使用される他の薬物、化合物、及び/または物質、ならびに患者の年齢、性別、体重、病態、全体的な健康状態、及び病歴を含むがこれらに限定されない、種々の因子に依存する。細胞の量及び投与経路は、最終的には医師の裁量に委ねられるが、一般に、投与量は、実質的に有害(harmful)または有害(deleterious)な副作用を引き起こすことなく所望の効果を達成する作用部位での局所濃度を達成するものとなる。
【0220】
TCRαβ+T細胞は単独で投与してもよく、状況によっては、TCRαβ+T細胞の集団のin vivoでの増大を促進するために、標的抗原、標的抗原を表示するAPC、CD3/CD28ビーズ、IL-2、IL7、及び/またはIL15と組み合わせてTCRαβ+T細胞を投与してもよい。組み合わせの投与は、組み合わせた成分の別個、同時、または順次の投与によるものであり得る。
【0221】
TCRαβ+T細胞の集団は、1つ以上の他の療法、例えばIL-2などのサイトカイン、CD4+CD8+化学療法、放射線、ならびに抗B7-H3、抗B7-H4、抗TIM3、抗KIR、抗LAG3、抗PD-1、抗PD-L1、及び抗CTLA4抗体などのチェックポイント阻害剤を含む免疫腫瘍薬と組み合わせて投与され得る。組み合わせの投与は、組み合わせた成分の別個、同時、または順次の投与によるものであり得る。
【0222】
1つ以上の他の療法は、任意の簡便な手段によって、好ましくはTCRαβ+T細胞の投与部位から離れた部位で投与され得る。
【0223】
TCRαβ+T細胞の投与は、1用量で、連続的または断続的に(例えば、適切な間隔において分割用量で)治療過程を通じて、実施され得る。投与の最も効果的な手段及び投与量を決定する方法は、当業者に周知であり、療法に使用される製剤、療法の目的、処置される標的細胞、及び処置される対象に応じて異なる。単回または複数回の投与を行うことができ、用量レベル及びパターンは担当医によって選択される。好ましくは、TCRαβ+T細胞は、例えば5億、10億、20億、30億、40億、50億、60億、70億、80億、90億、100億、110億、120億、130億、140億、150億個のいずれかのT細胞、例えば少なくとも1×109個のT細胞の単回輸注で投与される。
【0224】
本発明の他の態様及び実施形態は、上述の態様及び実施形態の「含む(comprising)」という用語を「からなる(consisting of)」という用語に置き換えたもの、ならびに上述の態様及び実施形態の「含む(comprising)」という用語を「から本質的になる(consisting essentially of)」という用語に置き換えたものを提供する。
【0225】
文脈上別段の解釈を必要としない限り、本願は、上記の態様及び上述の実施形態のいずれかの相互のあらゆる組み合わせを開示するものであることを理解されたい。同様に、本願は、文脈上別段の解釈を必要としない限り、単独で、または他の態様のいずれかと合わせて、好ましい及び/または任意選択の特徴のあらゆる組み合わせを開示する。
【0226】
上記の実施形態の改変形態、さらなる実施形態、及びそれらの改変形態は、本開示を読めば当業者には明らかとなり、したがって、これらは本発明の範囲内にある。
【0227】
本明細書で言及されるすべての文書及び配列データベースエントリーは、あらゆる目的のために、それらの全体において参照により本明細書に組み込まれる。
【0228】
本明細書で使用される「及び/または」は、指定された2つの特徴または構成要素の各々の具体的開示であり、他方の有無にかかわらないものとして解釈されるべきである。例えば、「A及び/またはB」は、あたかも各々が本明細書で個別に明記されているかのように、(i)A、(ii)B、ならびに(iii)A及びBの各々の具体的開示として解釈されるべきである。
【実施例】
【0229】
材料及び方法
UM729の調製
5mMのUM729のストック溶液を、DMSO中での再構成により作製した。このストック溶液を-20℃で保存した。実験当日に作業ストック溶液をDMSO中1mMで作製し、適切な濃度(0.25μM~5μM)で培地に補充するのに使用した。
【0230】
多能性幹細胞からのiProT細胞の分化
発明者らの独自の内製培地を用いて、iPSC細胞(HCP1324_c1A12)を16日目まで分化させた。MACSを用いてHPC(CD34+細胞)を単離し、これらの細胞の凍結保存バンクを、iT細胞へのさらなる分化のために作出した。
【0231】
次いでHPCを解凍し、標準的SCTのコーティング(2.5μL/cm2)上の1mlのリンパ球前駆細胞(第4段階;LP)培地に5000細胞/cm2で播種した。UM729を0.25μM~5μMの範囲の濃度で培地に加えた。3日目に、必要な濃度のUM729を補った1mLのLP培地を加え、さらなる半量の培地交換を必要な培地濃度で3日ごとに行った。14日ごとに細胞を培養物から取り出し、NC-250を用いてカウントした。次いで細胞を新鮮なSCTマトリックス上に再播種し、UM729を適切な濃度で培地に加えた。21、35、及び42日後に培養物から細胞を取り出し、表1のパネルを用いてフェノタイピングした。これらの時点において、細胞を適切なUM729濃度のリンパ球前駆細胞培地で培養を継続するか、またはT細胞成熟条件に移行した。
【0232】
T細胞の成熟
培養の21、35、及び42日目に、iProT細胞を新鮮なSCTマトリックス(2.5μl/cm2)に250,000細胞/cm2の密度で播種した。細胞を、UM729(0.25-5μM)ありまたはなしのT細胞成熟培地で、3日ごとに培地を交換しながら2週間培養した。2週間の成熟後、NC-250を用いて細胞をカウントし、表1のパネルを用いてフローサイトメトリーによりフェノタイピングした。
【0233】
細胞のフェノタイピング
アッセイの当日、細胞をカウントし、FACSバッファーで2回洗浄し、T細胞マーカーについてフローサイトメトリーによりフェノタイピングした。使用した抗体の一覧を表1に見出すことができる。
【0234】
結果
UM729及びUM171の効果を、6段階の分化プロセスにおける第4段階及び第5段階の両方で評価した(
図1)。分化プロセスの第4段階では、第3段階から単離されたHPCを増殖させ、CD5+CD7+であるiProT細胞へとさらに分化させる。プロセスの第5段階では、これらのiProT細胞はCD4+CD8+αβT細胞に成熟する。
【0235】
UM729を、第4段階のリンパ球増殖培地(LP)または第5段階のT細胞成熟培地(TM)のいずれかに最大1μMの濃度で加えたところ、培養の21日後及び35日後におけるiProT細胞の生存率に影響を及ぼさないことが示された(
図2A及び
図6)。ただし、細胞傷害効果は5μM以上の濃度で観察され、全細胞の生存率は比較的低く、細胞を5μMの濃度で21日間処理すると全細胞の増殖が停止した(
図2B)。
【0236】
培養してリンパ系前駆細胞にしたHPCは、骨髄系細胞へと分化する潜在可能性も有する(
図3)。フローサイトメトリーにより、UM729を加えることで、この細胞汚染を用量依存的に低減すると判定された(
図3)。
【0237】
第4段階培地にUM729を加えると、CD7+CD5+iProT細胞の収量が増加し(
図4A)、CD7+CD5+iProT細胞のパーセンテージも濃縮されることがわかった(
図4B)。ただし、UM729を第4段階培地に加えたところ、未熟な単一陽性CD4+T細胞からCD4+CD8+二重陽性T細胞へのさらなる分化を阻害する発生遮断が生じた(
図5A及び
図5B)。この発生遮断により、iProT細胞段階における分化培養物の同期及び濃縮が可能になった。UM729を第5段階培養物にも使用した場合、発生遮断は継続し、培養物中のCD7+CD5+iProT細胞のパーセンテージは増加し、CD4+CD8+の発生は用量依存的に阻害された(
図7及び
図8)。
【0238】
UM729の存在により生じる発生遮断を使用して、第4段階の細胞を継続的に増大させ、iProT細胞の増殖が42日にわたり支持された。これに対し、UM729非存在下の培養物は、21日目以降は増殖能力を維持できなかった(
図9)。重要なことには、T細胞成熟培地中のUM729を除去することにより、発生遮断が除去され、CD4+CD8+αβT細胞の分化が可能になった(
図10)。
【0239】
凍結したiProT細胞(第4段階細胞)を第5段階培地で融解すると細胞死に至ったが、第4段階培地にUM729を加えると凍結融解からの回復が改善した(
図11)。第5段階培地で7日間培養した後、1μMのUM729で前処理した細胞は高い生存率を示し、細胞増殖の増加を示した(
図12)。
【0240】
UM171を加えた場合、低濃度では増殖及び生存率に影響を及ぼさなかったものの、第4段階のリンパ球増殖培地(LP)中でUM729に使用したのと同じ濃度(0.25uM以上)で使用すると、iPSC由来CD34+細胞の増殖を停止させることがわかった(
図13A及び13B)。また、第4段階のリンパ球増殖培地(LP)にUM171を加えると、CD45+CD34+CD7+細胞(CLP)が用量依存的に濃縮されることもわかった(
図14)。また、UM171処理細胞は、第5段階でCD7CD5 iProT細胞及びCD4CD8 DP T細胞に進行することも示された(
図15A及び15B)。
【国際調査報告】