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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】車両用フロアパネル及び方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/20 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
B62D25/20 G ZHV
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506566
(86)(22)【出願日】2022-07-29
(85)【翻訳文提出日】2024-03-29
(86)【国際出願番号】 EP2022071338
(87)【国際公開番号】W WO2023012056
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】21382730.6
(32)【優先日】2021-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517098527
【氏名又は名称】オートテック・エンジニアリング・ソシエダッド・リミターダ
【氏名又は名称原語表記】Autotech Engineering, S.L.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】マルケス ドゥラン,セルジ
(72)【発明者】
【氏名】アヒレ メンチャカ,アンドニ
(72)【発明者】
【氏名】バレッリ,ヴァンサン
(72)【発明者】
【氏名】ジロー ドゥ ポイエ,クエンタン
(72)【発明者】
【氏名】ロパテヒ サンス,ウナイ
(72)【発明者】
【氏名】ロペラ カノ,バネッサ
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203AA31
3D203AA33
3D203BB06
3D203BB08
3D203BB12
3D203BB20
3D203BB22
3D203CA01
3D203CA73
3D203CB05
3D203DA51
3D203DB05
(57)【要約】
本開示は、車両骨格用のフロアパネルを形成するための方法であって、プレス硬化鋼製のメインブランクを提供するステップと、1以上の第1のパッチブランクを提供するステップと、第1のパッチブランクをメインブランクに溶接してパッチワークブランクを形成するステップと、を含む方法に関する。方法は、パッチワークブランクをプレスしてフロアパネルを形成するステップを更に含み、第1のパッチブランクは、第1のシートクロス部材を形成するためにメインブランクの一部に沿って配置され、ロッカに取り付けられるフロアパネルの領域を形成するためのメインブランクの領域における第1のパッチブランクの左右の部分は、メインブランクの鋼よりも延性の高い鋼で作られる。本開示は更に、単一の一体ピースから作られた車両骨格用のフロアパネルに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両骨格用のフロアパネルを形成する方法であって、
プレス硬化鋼製のメインブランクを提供するステップと、
1以上の第1のパッチブランクを提供するステップと、
第1のパッチブランクをメインブランクに溶接してパッチワークブランクを形成するステップと、
パッチワークブランクをプレスしてフロアパネルを形成するステップと、
を含み、
第1のパッチブランクは、メインブランクの一部に沿って配置され、第1のシートクロス部材を形成し、
ロッカに取り付けられるフロアパネルの領域を形成するためのメインブランクの領域における第1のパッチブランクの左右の部分は、メインブランクの鋼よりも延性の高い鋼で作られており、
第1のパッチブランクの左右の部分の間の中央部分は、プレス硬化鋼で作られている、
方法。
【請求項2】
1以上の第1のパッチブランクを提供するステップは、第1のシートクロス部材を形成するためにメインブランクの部分に沿って配置される第1のテーラー溶接ブランクを形成することを含み、
第1のテーラー溶接ブランクは、第1のパッチブランクの左部分、中央部分及び右部分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1以上の第2のパッチブランクを提供するステップを含み、
第2のパッチブランクは、メインブランクの一部に沿って配置され、第2のシートクロス部材を形成し、
ロッカに取り付けられるフロアパネルの領域を形成するためのメインブランクの領域における第2のパッチブランクの左右の部分は、メインブランクの鋼よりも延性の高い鋼で作られている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
メインブランクを提供するステップが、メインブランクの左側部分及び右側部分を切り取ることによってメインブランクに左側開口部及び右側開口部を形成するステップを含み、
第1のパッチブランクの左側部分及び右側部分が、左側開口部及び右側開口部を覆うようにメインブランクに溶接される、請求項1から3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
パッチワークブランクのプレスが、パッチワークブランクをオーステナイト化温度以上に加熱し、パッチワークブランクをホットスタンプすることを含む、請求項1から4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
パッチワークブランクのプレスが、パッチワークブランクを冷間プレスし、続いてプレスされたパッチワークブランクをオーステナイト化温度以上に加熱し、続いて加熱されプレスされたパッチワークブランクを冷却することを含む、請求項1から4の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
メインブランク及び第1のパッチブランクの中央部分がボロン鋼から作られる、請求項1から6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
メインブランクと第1のパッチブランクの中央部分が同じボロン鋼から作られる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
メインブランクが0.5から3mmの間の厚み、特に0.8から1.5mmの間の厚みを有する、請求項1から8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
単一の一体的部材から作られた車両骨格用のフロアパネルであって、
フロアパネルは、前部から後部まで縦方向に延びるとともに、左ロッカに取り付けるための左取付領域と、右ロッカに取り付けるための右取付領域との間で横方向に延びており、
フロアパネルは、前部シートクロス部材と後部シートクロス部材とを含み、前部シートクロス部材及び後部シートクロス部材は、それぞれ、左ロッカ及び右ロッカに取り付けるための左取付部及び右取付部を含み、
前記フロアパネルは、主硬質領域と、副延性領域とを含み、
主硬質領域が前後シートクロス部材の中央部分を含み、副延性領域が左取付部及び右取付部を含み、
副延性領域は、主硬質領域の引張強度よりも低い引張強度と、主硬質領域の破断伸びよりも高い破断伸びとを有する、フロアパネル。
【請求項11】
副延性領域が、左取付領域及び右取付領域に沿って実質的に前部から後部まで延びている、請求項10に記載のフロアパネル。
【請求項12】
副延性領域は、前部シートクロス部材及び後部シートクロス部材の左取付部及び右取付部に実質的に対応している、請求項10に記載のフロアパネル。
【請求項13】
副延性領域は、長手方向に沿って10cmから50cmの間の長さを有し、横方向に沿って15cmから60cmの間の幅を有する、請求項10に記載の床パネル。
【請求項14】
主硬質領域の引張強さが1.200MPaより大きく、特に、1.400MPaより大きく、
副延性領域の引張強さが500MPaから1.000MPaの間にある、請求項10から13の何れか1項に記載のフロアパネル。
【請求項15】
請求項10から13の何れか1項に記載のフロアパネルであって、フロアパネルが、請求項1から9の何れか1項に記載の方法によって得られる、フロアパネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年8月2日に出願された欧州特許出願第21 382 730.6の利益を主張する。
【0002】
本開示は、車両骨格用フロアパネルに関する。本開示は更に、このようなフロアパネルを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
自動車などの車両は、車両がその寿命の間に受ける可能性のある全ての荷重に耐えるように設計された構造骨格を組み込んでいる。構造骨格は更に、例えば他の自動車との衝突の場合における衝撃に耐え、衝撃を吸収するように設計されている。構造骨格はまた、環境へのCOなどの汚染物質の排出を低減するために、可能な限り軽量に設計される。
【0004】
自動車の構造骨格は、例えば、バンパービーム、ピラー(例えば、Aピラー、Bピラー、Cピラー)、サイドインパクトビーム及びロッカパネルを含むことができる。これらの構造部材及び他の構造部材は、実質的にU字形(「ハット」形とも呼ばれる)の断面を有する1以上の領域を有することがある。これらの構造部材は、様々な方法で製造することができ、様々な材料で作ることができる。上記に示したように、衝突時の車両の完全性を向上させ、同時にエネルギー吸収を改善する軽量材料が望まれている。
【0005】
自動車産業では、少なくとも多くの車両の骨格の構造部材が、最適化された重量単位当たりの最大強度と有利な成形性特性とを示す超高強度鋼(UHSS)で作られていることが一般に知られている。
【0006】
本開示における超高強度鋼(UHSS)は、少なくとも1000MPaの最大引張強度を有する鋼とみなすことができる。UHSSは、熱処理、特に熱間成形加工後にこのような高い引張強さを得ることができる。一部のUHSSは、マルテンサイト組織とそれに対応する高い最大引張強度を得るために、急冷を必要とする。その他のUHSSは、比較的遅い冷却、あるいは空冷(「空気硬化」)でも高い最大引張強度を得ることができる。UHSSの中には、高い最大引張強度を得るために、熱間成形とそれに対応するオーステナイト化を必要とせず、代わりに冷間成形後に高い強度を有し、それを保持するものもある。
【0007】
UHSSは、特にプレス硬化操作後に、1500MPa、更には2000MPa以上の高い最大引張強度を示すことができる。このような処理では、鋼ブランクをオーステナイト化温度以上、特にAc3点(加熱中にフェライトからオーステナイトへの変態が完了する温度)以上に加熱して、ブランクを実質的に完全にオーステナイト化する。この温度以上に一定時間加熱した後、ブランクをプレス加工し、ブランクを変形させる。同時に、ブランクは急冷され、実質的に「完全硬化」し、マルテンサイト組織が得られる。プレス焼入れは、「ホットスタンピング」とも呼ばれ、急冷する場合は「熱間成形型焼入れ」(HFDQ)とも呼ばれる。
【0008】
得られた材料や部品は、非常に強く、剛性が高いが、同時に脆いこともある。材料や部品はほとんど変形できず、小さな変形でひびが入ったり、割れたりすることがある。そのため、例えばテーラー溶接ブランク(TWB)などの異なる材料を変形プロセスで組み合わせたり、異なる領域や部品に異なる熱処理を施したりして、強度、剛性、変形特性を調整することが知られている。
【0009】
適切な材料を使用する他に、例えばパッチ溶接を使用することにより、衝突挙動及び軽量化の点で適切な特性を車両の構造部材に付与することができる。例えば、第1のパッチを主部材に溶接することにより、望ましくない重量を追加することなく、必要な主部材を補強することができる。パッチが追加されたブランクは、「パッチワークブランク」と呼ばれることがある。これは、ブランクを端から端まで溶接して互いに接合する「テーラー溶接ブランク」と区別するためである。
【0010】
通常、自動車分野でよく知られ、広く使用されている溶接技術であるスポット溶接によって、パッチがメインピースに溶接される。
【0011】
車両構造骨組みのための車両フロアは、最終的な車両フロアを得るために一緒に接合される必要がある、複数の異なるプレス成形または他の方法で成形された板金部品及び補強材から構成される場合がある。異なるフロア構成部品は、コールドスタンピング、ホットスタンピング(プレス硬化またはホットフォーミングダイクエンチとしても知られる)、ロール成形または間接ホットスタンピング(間接プレス硬化としても知られる)などの異なる熱間または冷間成形方法によって製造することができる。
【0012】
フロアの変形につながる多くの溶接作業が含まれる場合、組立は労働集約的なプロセスとなり、所望のフロア形状を維持することは困難な場合がある。
【0013】
更に、フロアが完全に組み立てられた後、それを車両フレームに組み付けるために、フレーム取付けラインに供給しなければならない。組み立てられたフロアは重く嵩張る部品であり、物流の観点から取り扱いが困難である。
【0014】
更に、ハイブリッド車や電気自動車の拡大に伴い、例えば自動車フレームなどの車両フレームには、車両のバッテリを収容するために、フロア部分にできるだけ多くのスペースを確保することが求められることが多くなっている。
【0015】
バッテリは、比較的重く嵩張る部品であり、その重量のために、車両の運動性能をできるだけ妨げないように、可能な限り低い位置で車両フレームに収容されることが好ましい。通常、バッテリは非常に長く広い底面を持つ平行六面体の箱の形をしている。また、主に車両長手方向に伸びており、車両内部コンパートメントの空きスペースを確保するために、高さが低くなっている。バッテリの位置により、従来の車両フロア形状は、セキュリティー機能とバッテリ収容機能との両方を満たすために、完全に再設計されることになる。
【0016】
DE202010017552U1は、衝突時の荷重経路を規定する構造部品を備えた、自動車用の車体構造、特にフロア構造を開示している。少なくとも1つの定義された荷重経路、特に前部衝突荷重経路及び/または側部衝突荷重経路及び/または後部衝突荷重経路に配置される構造部品の領域において、構成部品は、少なくとも部分的に、高強度構造部品、好ましくは完全に硬化された、または少なくとも部分的に硬化された高強度構造部品によって、ホットスタンプ鋼板またはコールドスタンプ鋼板から形成され、これらの構造部品は、直接または間接的に、好ましくは直接、特に力及び/または形状及び/または材料接続を介して、互いに接続される。
【0017】
文献WO2021/094405A1は、車両フレーム用のホットスタンピング車両フロアを開示している。
【発明の開示】
【0018】
本開示の第1の態様では、車両骨格用のフロアパネルを形成するための方法が提供される。この方法は、プレス硬化鋼製のメインブランクを提供するステップと、1以上の第1のパッチブランクを提供するステップと、第1のパッチブランクをメインブランクに溶接してパッチワークブランクを形成するステップとを含む。本方法は更に、パッチワークブランクをプレスしてフロアパネルを形成するステップを含む。ここで、第1のパッチブランクは、第1のシートクロス部材を形成するメインブランクの一部に沿って配置され、ロッカに取り付けられるフロアパネルの領域を形成するメインブランクの領域における第1のパッチブランクの左右部分は、メインブランクの鋼材よりも延性の高い鋼材で作られている。
【0019】
この態様によれば、製造工程を簡略化することができるとともに、フロアパネルの軽量化を図りつつ、十分な強度と剛性、及び衝撃時のエネルギー吸収性を有するフロアパネルを提供することができるフロアパネルの形成方法が提供される。
【0020】
本開示全体を通して、メインブランクは、フロアパネルの主構造を形成するブランク(例えば、金属シートまたは薄い金属板)と見なすことができる。パッチワークブランクは、フロアパネルの主構造上に局所的なパッチを形成するブランクとみなすことができる。
【0021】
実施例では、パッチワークブランクは、衝突状況の場合に圧縮衝突力に耐えるように考えられた領域において、重なり合う軟質(または「延性」)材料と硬質材料とを有することができる。これらの領域では、フロアパネルは、破裂の危険性なしに、より多くの変形(例えば、より高い曲げ角度)に耐えることができ、車両をより安全にすることができる。
【0022】
第1のシートクロス部材は、フロントシートクロス部材であってもよいし、リアクロス部材であってもよい。シートクロス部材は、本明細書では、剛性及び強度を提供する横方向に延びるフロアパネルの部分とみなすことができる。シートクロス部材は、アンカーポイントを形成し、車両のシートを取り付けるように構成されていてもよい。
【0023】
第1のパッチブランクは、第1のシートクロス部材を形成することになるメインブランクの一部に沿って配置することができるが、必ずしもクロス部材全体を覆う必要はなく、すなわちクロス部材の特定の部分のみを覆うことができる。
【0024】
第1のパッチブランクの溶接は、抵抗スポット溶接、標準レーザ溶接、リモートレーザ溶接、抵抗シーム溶接(RSEVV)、ガスメタルアーク溶接、及びレーザとアークのハイブリッド溶接からなる群の1以上の方法によって実施することができる。
【0025】
実施例では、第1のパッチブランクは中央部分を含むことができ、左部分と右部分との間の第1のパッチブランクの中央部分はプレス硬化鋼で作ることができる。これらの例では、ロッカに取り付けられる部分の間の中央部分のパッチワークブランクは、強度と剛性の局所的な増加を提供することができる。フロアパネルの厚さは、この中央領域において局所的に増加させることができる。
【0026】
更に、1以上の第1のパッチブランクを提供するステップは、第1のシートクロス部材を形成するためのメインブランクの部分に沿って配置される第1のテーラー溶接ブランクを形成することを含み、第1のテーラー溶接ブランクは、第1のパッチブランクの左側部分、中央部分及び右側部分を含む。これらの例では、シートクロス部材の幅全体にわたって機械的特性を調整することを含む製造工程を更に最適化することができる。
【0027】
幾つかの例では、この方法は、1以上の第2のパッチブランクを提供するステップと、第2のパッチブランクをメインブランクに溶接するステップを更に含むことができる。ここで、第2のパッチブランクは、第2のシートクロス部材を形成するためのメインブランクの一部に沿って配置されてもよく、ロッカに取り付けられるフロアパネルの領域を形成するためのメインブランクの領域における第2のパッチブランクの左右の部分は、メインブランクの鋼よりも延性の高い鋼で作られている。これらの実施例では、前部シートクロス部材及び後部シートクロス部材の両方がパッチワークブランクを含むことができる。
【0028】
幾つかの実施例では、メインブランクを提供するステップは、メインブランクの左及び右部分を切り取ることによってメインブランクに左開口部及び右開口部を形成するステップを含み、第1のパッチブランクの左部分及び右部分は、左開口部及び右開口部を覆うようにメインブランクに溶接される。このようにして、車両骨格用のフロアパネルを形成する方法が提供される。この方法は、プレス硬化鋼から作られるメインブランクを提供するステップと、メインブランクの左右部分を切り取ることによってメインブランクに開口部を形成するステップとを含む。この方法は、更に、1以上の第1のパッチブランクを提供するステップと、第1のパッチブランクをメインブランクに溶接して左右の開口部を覆い、パッチワークブランクを形成するステップとを含む。本方法は、パッチワークブランクをプレスしてフロアパネルを形成するステップを更に含む。ここで、第1のパッチブランクは、第1シートクロス部材を形成するためのメインブランクの一部に沿って配置され、ロッカに取り付けられるフロアパネルの領域を形成するメインブランクの領域における第1のパッチブランクの左右部分は、メインブランクの鋼材よりも延性の高い鋼材で形成される。第1のパッチブランクは、左右の部分を超えて更に他の部分を含んでいてもよいが、必ずしもそうである必要はない。
【0029】
これらの例では、エネルギー吸収のため及び変形における運動学を制御するために、局所的により延性のある領域の機械的特性を調整することは、更なる軽量化と組み合わせることができる。
【0030】
幾つかの例では、パッチワークブランクのプレスは、パッチワークブランクをオーステナイト化温度より高温に加熱し、パッチワークブランクをホットスタンプするステップを含む。他の例では、パッチワークブランクのプレスは、パッチワークブランクをコールドプレスし、その後、プレスされたパッチワークブランクをオーステナイト化温度より高温に加熱し、その後、加熱されプレスされたパッチワークブランクを冷却することを含む。
【0031】
本開示の範囲内では、間接的ホットスタンピング及び直接ホットスタンピングの両方を使用することができる。直接ホットスタンピングでは、ブランク(特に本開示ではパッチワークブランク)をオーステナイト化温度より好悪に加熱して、部分的または完全なオーステナイト組織を達成することができる。特に、ブランクは、対応するAc3温度より高温に加熱することができる。一定時間オーステナイト化温度以上に加熱した後、ブランクはプレスで変形または延伸工程に供される。その後、変形したブランクを冷却する。使用する鋼の種類や材料の冷却速度によっては、変形ブランクの少なくとも一部にマルテンサイト組織が得られる場合がある。場合によっては、マルテンサイト組織を得るために、ブランクを急冷する必要がある。臨界冷却速度は、例えば約25~30℃/秒である。急冷はプレス機内で行うことができる。幾つかの例では、「受動冷却」(すなわち、変形したブランクを放置して空気で冷却すること)で、マルテンサイト組織を得るのに十分な場合がある。
【0032】
間接ホットスタンピングでは、ブランク(本開示ではパッチワークブランク)は「冷間状態」、例えば室温で変形される。ブランクを変形させた後にのみ、ブランクに熱処理を施して前述のマルテンサイト組織を得ることができる。変形後、ブランクはオーステナイト化温度より高温に加熱され、その後冷却される。
【0033】
更なる例では、多段階プロセス及び多段階プレスを使用することができる。多段階プロセスでは、単一のプレス装置において、異なるブランクが同時に異なる製造工程を経る。例えば、このようなプレス装置の第1ステーションでは、第1プレス工程が行われ、第2ステーションでは冷却工程が行われ、第3ステーションでは、トリミング工程が行われる。更なるステーションでは、更なる後処理工程(例えば、校正、切断、孔あけ)などが実行されてもよい。多段階工程では、複数の成形ステーションを組み合わせることもできる。例では、冷却ステーションは不要である。多段階工程は、空気焼入れ可能な鋼と、マルテンサイト組織を得るために焼入れを必要とする他のUHSSの両方で使用することができる。
【0034】
幾つかの例では、メインブランクと第1のパッチブランクの中央部分は、ボロン鋼、特に同じボロン鋼から製造することができる。ボロン鋼はホットスタンピングに適しており、非常に高い強度が得られる。例えば、22MnB5鋼または22MnB8鋼を使用することができる。
【0035】
硬化可能なボロン鋼の例には、22MnB5鋼またはUsibor(登録商標)1500または2000を含む。Usibor(登録商標)は、Arcelor Mittal社から市販されている。
【0036】
成形プロセス中の脱炭及びスケール形成を回避するために、22MnB5鋼には、アルミニウム-シリコンコーティングを施すことができる。22MnB5鋼の組成を重量%で以下にまとめると以下のようになる(残りは鉄(Fe)及び不純物)。
C 0.20 - 0.25
Si 0.15 - 1.35
Mn 1.10 - 1.25
P <0.025
S <0.008
Cr 0.15 - 0.30
Ti 0.02 - 0.05
B 0.002 - 0.004
N <0.009
【0037】
22MnB5鋼は、類似の化学組成を持つものが幾つか市販されている。しかし、22MnB5鋼中の各成分の正確な量は、製造業者によって若干異なる場合がある。他の超高強度鋼としては、例えばBenteler社から市販されているBTR165がある。
【0038】
Usibor(登録商標)1500は、フェライト-パーライト相で供給される。これは、均質なパターンで分布した微細粒組織である。機械的特性は、この構造に関連する。加熱、ホットスタンピング、焼入れの後、マルテンサイト組織が形成される。その結果、最大強度と降伏強度が著しく向上する。
【0039】
Usibor(登録商標)1500の組成を重量%でまとめると以下のようになる(残りは鉄(Fe)及び不可避不純物)。
C Si Mn P S Cr Ti
0.24 0.27 1.14 0.015 0.001 0.17 0.036
B N
0.003 0.004
【0040】
Usibor(登録商標)2000は、更に高い強度を持つ別のボロン鋼である。Usibor(登録商標)2000の降伏強度は、熱間プレス金型焼入れ後、1400MPa以上、最大引張強度は1800MPa以上となる場合がある。Usibor(登録商標)2000の組成は、最大0.37重量%の炭素、最大1.4重量%のマンガン、最大0.7重量%のケイ素及び最大0.005重量%のホウ素を含む。
【0041】
ロッカに取り付けられるフロアパネルの領域を形成するための第1のパッチブランクの左右の部分は、(熱間成形後に)メインブランクよりも延性の高い鋼で作られてもよい。これらの部分は、例えば、同じくArcelor Mittal社から市販されているDuctibor(登録商標)500またはDuctibor(登録商標)1000、またはCRL340LAで作ることができる。
【0042】
一方、Ductibor(登録商標)及び他の軟質鋼も熱間成形や熱間成形のダイクエンチで使用することができる。しかし、これらの鋼はマルテンサイト組織にはならない。得られる鋼の最大引張強度と降伏強さは低くなるが、高い破断伸びが得られる。
【0043】
Ductibor(登録商標)400は450MPa以上、Ductibor(登録商標)500は550MPa以上、Ductibor(登録商標)1000は1000MPa以上の最大引張強度を有することができる。
【0044】
CRL-340LAは、SSABから市販されている鋼である。一般的なプレス加工、曲げ加工、成形を目的とした高強度低合金鋼である。その組成の概略は以下の通りである(重量%)。
C 0.1%以下
Si 0.040%以下
Mn 1%以下
P 0.030%以下
S 最大 0.025
Al min 0.015 %)
Nb + Ti 最大 0.1 %まで
【0045】
実施例では、パッチはメインピースよりも延性特性を持つように設計されている。パッチは、熱間成形や冷間成形を含む成形に適し、そのような加工後に適切な機械的特性を提供する任意の鋼から製造することができる。Ductibor(登録商標)、CRL-340LA及び類似の鋼、例えば低合金鋼は、「より柔らかい」パッチに適している。
【0046】
より柔らかいパッチと「より硬い」メインピースとの組み合わせは、例えば、衝突の場合にフロアパネルがより多くのエネルギーを吸収することを可能にする。もう一つの側面は、曲げ荷重を受けたときのフロアパネルのメインブランクの破断が回避されるか、または著しい変形の後にのみ発生することである。
【0047】
パッチワークブランクは、一般的にメインブランクの材料よりも大きな延性を有する鋼で作ることができ、例えば、パッチは超高強度鋼(VHSS)または超高強度鋼(EHSS)で作られてもよい。
【0048】
ここで、EHSSは、(成形後または最終製品において)550MPaから800MPaの間の降伏強度を有する鋼とみなすことができる。VHSSは、(成形後または最終製品において)390MPaから550MPaの間の降伏強度を有する鋼とみなすことができる。
【0049】
幾つかの例では、メインブランクは0.5及び3mmの間の厚み、特に0.8及び1.5mmの間の厚みを有することができる。メインブランク及びパッチワークブランクは、同じまたは類似の厚みを有することができる。一般に、ほとんどの車両用途における厚みは、0.5及び6mmの間、特に0.5及び3mmの間、より具体的には0.8及び1.5mmの間の値であってよい。
【0050】
更なる態様では、単一の一体的部材から作られた車両骨格用のフロアパネルが提供される。フロアパネルは、前部から後部まで縦方向に延び、左ロッカに取り付けるための左取付領域と、右ロッカに取り付けるための右取付領域との間で横方向に延びている。フロアパネルは、前部シートクロス部材と、後部シートクロス部材とを含み、前部シートクロス部材及び後部シートクロス部材は、それぞれ、左ロッカ及び右ロッカに取り付けるための左取付部及び右取付部を含む。フロアパネルは、主硬質領域と、副延性領域とを含み、主硬質領域は、フロントシートクロス部材及びリアシートクロス部材の中央部分を含み、副延性領域は、左右の取付部を含む。副延性領域は、主硬質領域の引張強度よりも低い引張強度と、主硬質領域の破断伸びよりも高い破断伸びとを有する。
【0051】
この態様によれば、比較的軽量でありながら、剛性及び強度と、衝撃時のエネルギー吸収及び安全性との間の良好な均衡を提供するフロアパネルが提供される。
【0052】
本開示による車両フロアの実施例は、最終的な車両フロアを得るために必要な部品の数を大幅に削減することができる。これは、別々に形成され溶接によって一緒に接合される部品が少ないので、製造プロセスの簡素化及びコスト削減につながる。更に、より多くのホットスタンプ板金ブランクを使用する可能性があるため、部品の厚みも減らすことができ、単一部品の削減量と合わせて、関連する重量削減を達成することができる。
【0053】
幾つかの実施例では、副延性領域は、左右の取付部に沿って実質的に前部から後部まで延びることができる。これらの例では、実質的にロッカの全長に沿って、より延性の高い領域が提供される。ロッカとフロアパネル(これらは両方とも延性は低いが強度の高いUHSSから形成される場合がある)の溶接接合部全体に沿った亀裂を、低減または回避することができる。
【0054】
幾つかの実施例では、副延性領域は、前部シートクロス部材及び後部シートクロス部材の左及び右の取付け部分に実質的に対応することができる。
【0055】
幾つかの実施例では、副延性領域は、長手方向に沿った長さが10cmから50cmの間にあり、横方向に沿った幅が15cmから60cmの間にある。
【0056】
幾つかの実施例では、主硬質領域の引張強さは1.200MPaより高く、特に、1.400MPaより高くてもよく、副延性領域の引張強さは500から1.000MPaの間の引張強さを有してもよい。
【0057】
実施例では、(熱間成形後の)パッチワークブランクの延性は、メインブランクの延性よりも10%から80%程度高い場合がある。(熱間成形後の)パッチワークブランクの最大引張強度は、メインブランクの最大引張強度より25%から70%程度低い場合がある。
【0058】
最大引張強度(UTS)(「引張強さ」とも呼ばれる)は、本明細書では、材料が破断する前に引き伸ばされたり引っ張られたりする間に耐えることができる最大応力と見なすことができる。
【0059】
最大引張強度は、引張試験を行い、工学的応力対歪みを記録することによって求めることができる。応力-歪み曲線の最高点が最大引張強度であり、応力の単位を持つ。
【0060】
実施例では、床パネルは、本明細書で説明した実施例のいずれかに従った方法によって得ることができる。
【0061】
本開示において使用される用語「延性」は、破断前に塑性変形を受ける材料の能力の尺度を指す。延性は、より一般的には、以下のISO規格:ISO 6892-1:2016金属材料-引張試験、室温での試験方法、による標準引張試験からの破断時伸びパーセントまたは破断時面積減少パーセントとして表すことができる。
【0062】
延性を計算する1つの方法は、このような引張試験中の金属プローブのパーセント伸びに基づくもので、以下の通りである。
パーセント伸び=(Lf-Lo)/Lo
ここで、Loは初期のプローブ長さであり、Lfは破断時のプローブ長さである。
【0063】
延性を測定するもう一つの方法は、面積減少率である。
面積減少率=(Ao-Af)/Ao
ここで、Aoはプローブ断面の初期断面積であり、Afは破断時のプローブ断面の断面積である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
図1A】従来技術による車両フロアの透視図を概略的に示す。
図1B】本開示による車両フロアパネルの一例の透視図を概略的に示す。
図2A】車両フロアパネルの更なる例を概略的に示す。
図2B】車両フロアパネルの更なる例を概略的に示す。
図2C】車両フロアパネルの更なる例を概略的に示す。
図3A】代替設計と比較した、本開示による車両フロアパネルの一例の挙動を概略的に示す。
図3B】代替設計と比較した、本開示による車両フロアパネルの一例の挙動を概略的に示す。
図3C】代替設計と比較した、本開示による車両フロアパネルの一例の挙動を概略的に示す。
図4】本開示による車両フロアパネルの更に他の例を概略的に示す。
図5A】車両フロアパネルの製造方法の2つの例を概略的に示す。
図5B】車両フロアパネルの製造方法の2つの例を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0065】
本開示の非限定的な実施例を、添付の図を参照して以下に説明する。図1Aは、先行技術による車両フロア200を示す。この従来技術の状態の車両フロアは、フロントパネル202、クロスビーム204、縦ビーム206、ビーム補強材208、リアパネル210、ミドルパネル212等を含む複数のシートメタル部品を含む。
【0066】
この車両フロア200は、全部で16個の独立した板金部品から構成することができる。これら16個の部品は、独立して(別々の成形工程で)形成され、その後、スポット溶接、レーザ溶接等の任意の適切な溶接工程によって接合される。一旦完成すると、車両フロア200は、30kgを超える重量を有することになる。
【0067】
図1Bは、本開示の実施例によるフロアパネル及び製造方法を概略的に示す。単一の一体ピース10は、例えば、前部座席クロス部材、後部座席クロス部材、縦ビーム部分、及び図1の実施例では別個に製造され、その後接合されるパネルを組み込んでいることが分かる。
【0068】
図1Bは、破線で描かれた矢印で示されるように、2つのパッチワークブランクがどのようにメインピースに追加され得るかを示している。この図1Bでは、パッチとメインピースが「準備完了」状態、すなわちホットフォーミング後の状態で示されているが、この例では、平坦なパッチワークブランクと平坦なメインピースブランクが、ホットスタンピング工程の前に互いに接合されていることに留意すべきである。
【0069】
車両骨格用のフロアパネル10は、一体的に形成されている。フロアパネル10は、前部14から後部12まで縦方向に延び、(運転席側の)左ロッカに取り付けるための左取付領域18と、右ロッカに取り付けるための右取付領域16との間で横方向に延びている。
【0070】
フロアパネルは、前部シートクロス部材20と、後部シートクロス部材30とを含み、前部及び後部シートクロス部材20、30は、それぞれ左ロッカ及び右ロッカに取り付けるための左取付部及び右取付部を含む(図2Aも参照)。
【0071】
フロアパネルは、主硬質領域19(薄いハッチングの部分)と、副延性領域21、31(濃いハッチングの部分)とを含む。主硬質領域は、前後のシートクロス部材20、30の中央部分を含み、副延性領域21、31は、左右の取付部を含む。副延性領域は、主延性領域の引張強度よりも低い引張強度と、主延性領域の破断伸びよりも高い破断伸びとを有する。
【0072】
フロアパネル10は、プレス硬化鋼から作られたメインブランク19を提供するステップと、1以上の第1のパッチブランク22を提供するステップと、第1のパッチブランク22をメインブランク19に溶接してパッチワークブランクを形成するステップとを含む方法を用いて製造することができる。
【0073】
本方法は、パッチワークブランクをプレスしてフロアパネル10を形成するステップを更に含んでよく、第1のパッチブランク22は、第1のシートクロス部材20を形成するためにメインブランク19の一部に沿って配置される。第1のパッチブランク22は、1つのロッカ取り付け領域から別のロッカ取り付け領域まで、フロアパネルの実質的に完全な幅を覆ってもよい。
【0074】
ロッカに取り付けられるフロアパネル10の領域を形成するためのメインブランク19の領域における第1のパッチブランク22の左右部分21は、メインブランクの鋼よりも延性の高い鋼で作られている。
【0075】
幾つかの実施例では、延性領域は、10cmから50cmの間の長手方向に沿った長さと、15cmから60cmの間の横方向に沿った幅とを有することができる。
【0076】
図1Bの実施例において、左側部分と右側部分との間の第1のパッチブランク22の中央部分23は、プレス硬化鋼、具体的にはメインブランクと同じ鋼で作られてもよい。
【0077】
図1Bの実施例では、(フロアパネルに一体化された)シートクロス部材の取付けにおいて、局所的な延性が提供される。図3を参照して、衝撃の場合のこのようなフロアパネルの利点が説明される。
【0078】
図1Bの例では、1以上の第1のパッチブランクを提供するステップは、第1のシートクロス部材20を形成するためにメインブランクの一部に沿って配置される第1のテーラー溶接ブランク(TWB)22を形成することを含み、第1のテーラー溶接ブランク22は、第1のパッチブランクの左21、中央23及び右21部分を含む。他の実施例では、単一のTWBの代わりに、複数の別個のパッチワークブランクを使用してもよい。
【0079】
図1Bの実施例では、この方法は、1つ以上の第2のパッチブランク24を提供するステップと、第2のパッチブランク24をメインブランク19に溶接するステップとを更に含む。第2パッチワークブランクは、メインブランクの一部に沿って配置され、第2シートクロス部材30(この場合、後部シートクロス部材)を形成する。第2パッチワークブランク24は、フロアパネルの実質的に全幅にわたって、すなわち、一方のロッカへの取付部から他方のロッカへの取付部まで延在していてもよい。
【0080】
ロッカに取り付けられるフロアパネルの領域を形成するためのメインブランクの領域における第2のパッチブランクの左右部分31は、メインブランクの鋼よりも延性の高い鋼で作られている。この実施例では、リアシートクロス部材とフロントシートクロス部材の両方が同様の構造を有していてもよく、両方とも、フロアパネルの一方の側18から他方の側16まで実質的に延び、メインブランクの上に溶接されるTWB22、24を設けることによって作られてもよい。すなわち、ブランクは重なり合っている。
【0081】
抵抗スポット溶接、標準レーザ溶接、遠隔レーザ溶接(レーザヘッドが溶接部まで50cm以上の距離を有するレーザ溶接)、抵抗シーム溶接(RSEVV)、ガスメタルアーク溶接、レーザとアークのハイブリッド溶接など、任意の適切な溶接技術を使用することができる。
【0082】
メインブランク19及び中央部分23、33は、ボロン鋼から、特に同じボロン鋼から作ることができる。例えば、22MnB5鋼または22MnB8鋼を使用することができる。鋼は、コーティング、例えばAlSiコーティングまたはZnコーティングを有してもよい。
【0083】
図2A及び図2Bは、それぞれ、異なる実施例によるフロアパネル10の上面図及び底面図を概略的に示している。一般に、同じ参照符号は、フロアパネルの後部12及び前部14、並びに車両骨格の右ロッカまたは左ロッカに取り付けられる領域18、16を含む、同じまたは類似の要素を示すために使用されている。
【0084】
図1の実施例と同様に、パッチワークブランクは、スタンピング工程の前にメインブランク19に溶接することができる。しかしながら、この実施例では、メインブランクを提供するステップは、メインブランク19の左右の部分27を切り取ることによってメインブランクに左右の開口部27を形成することを含み、第1のパッチブランクの前部及び後部29(図では左右)は、左右の開口部27を覆うようにメインブランクに溶接される。従って、パッチワークブランクとメインブランクとの重なりは少ない。フロアパネルの重量を最適化することができる。実施例では、前後の開口部27、37と対応する前後の部分29、39は、前部シートクロス部材20と後部シートクロス部材30の両方に設けられている。
【0085】
図2Cは、シートクロス部材20、30に追加されたパッチワークブランク29、39の詳細図を示している。図2Cに見られるように、シートクロス部材は、底部52と、第1の側壁54と、第2の側壁56とを含むU字形の断面を有することができる。
【0086】
図2Cの例では、パッチワークブランクは、クロス部材のU字形断面の底壁を覆ってもよい。特に、パッチワークブランクは底壁を覆い、第1及び第2の側壁54、56に延在することができる。パッチワークブランクは、第1の側壁54と底部52との間の溝底から、第2の側壁56と底部52との間の溝底まで延びていてもよい。
【0087】
この実施例におけるフロアパネルのロッカへの取り付け領域16は、ロッカの異なる平面支持領域に取り付けることができる第1及び第2の実質的に平面状の部分16A、16Bを含むことができる。
【0088】
図1Bの例では、パッチワークブランクの第1及び第2の部分はより広く、フロアパネルの縁まで延びていてもよい。
【0089】
図3A図3Cは、異なる構成のサイドポール衝突における変形の比較を概略的に示している。図3A図3Cでは、シートクロス部材の長手方向位置におけるフロアパネルの断面図が提供されている。試験では、ポール60が左ロッカパネル42に衝突している。パネル10のシートクロス部材は右ロッカ44から左ロッカ42まで延びている。
【0090】
図3Aにおいて、この例のシートクロス部材は、メインブランク上のより延性のあるパッチの重なりによって形成されている。延性部分は、実質的にフロアパネルの全幅にわたって、すなわち左ロッカ42から右ロッカ44まで延びている。
【0091】
衝突の場合、参照符号19で示すように変形が大きすぎる危険性がある。フロアパネルが局部的に大きく変形すると、バッテリ領域50が損傷する危険性がある。
【0092】
図3Bでは、この問題を回避するために、シートクロス部材の全幅にわたって延びるパッチワークブランクが、メインブランクと同じ材料、例えばボロン鋼から作られている。その結果、構造はより強固で剛性が高くなり、したがって図3Aの例よりも変形が少なくなる。しかし、参照符号16に近い部分では破断の危険性が大きい。局所的な曲げは破断限界に近くなる可能性がある。
【0093】
図3Cでは、ポール衝突の場合における、本開示による(この特定の場合は図1Bによる)フロアパネルが示されている。すなわち、局所的に延性パッチがシートクロス部材のロッカへの取り付け領域に設けられている。図3Cに見られるように、変形は図3Aの場合よりも少ないので、電池ボックス50の完全性に対するリスクはない。領域16の局所的な変形や曲げは、図3Bの例と比べてある程度減少させることができる。仮に、同じ局所的な変形と曲がりがあったとしても、延性パッチは破断前に高い曲げ角度を許容するので、破断の危険性をはるかに少なくできる。
【0094】
図4は、本開示による車両フロアパネルの更なるその他の例を概略的に示している。図4の場合、フロアパネル10は、図1B及び図2の実施例と同様に、単一のスタンピング手順で単一の一体物から形成することができる。
【0095】
図4の例では、副延性領域は、左右の取付領域15A,15Bに沿って実質的に前部から後部まで延びている。すなわち、フロアパネルの全長に沿って、ロッカへの取付領域において、延性が増大する。これは、比較的大きなパッチワークブランクを提供し、取り付け区域に沿ってメインブランクに溶接し、その後フロアパネルをホットスタンプすることによって達成することができる。
【0096】
更なる実施例では、フロアパネルは単一のメインブランクから作られてもよく、ロッカに取り付けられる領域は異なる熱処理を受ける。例では、メインブランクの側部はオーステナイト化温度まで加熱されないことがある。更なる実施例では、部分的な焼戻しを炉内で実施し、変形前に異なる温度でメインブランク内に異なる領域を形成してもよい。
【0097】
図5A及び図5Bは、車両フロアパネルの製造方法の2つの例を概略的に示している。図5Aに図示した方法は、特に図1Bのフロアパネルに適していると考えられる。図5Bに図示した方法は、特に図2のフロアパネルに適していると考えられる。
【0098】
ブロック110において、メインブランクが提供される。メインブランクは、UHSS、特にボロン鋼から作られてもよい。メインブランクは、例えば0.5から3mmの間の厚さを有することができる。
【0099】
ブロック120において、第1及び第2のTWB(テーラー溶接ブランク)が提供される。第1のTWBは、第1のシートクロス部材、例えば前部シートクロス部材を形成するために変形されるメインブランクの領域に配置されてもよい。第2のTWBは、第2のシートクロス部材、例えば後部シートクロス部材を形成するために変形されるメインブランクの領域に配置することができる。
【0100】
第1及び第2のTWBは、メインブランクの鋼よりも延性の高い鋼の部分を含むことができる。ロッカへの取り付け領域に配置されるTWBの部分は、より延性が高い可能性がある。TWBの中央部分は、より硬い鋼であってもよい。
【0101】
ブロック130では、2つのTWBをメインブランクに溶接してパッチワークブランクを形成してもよい。
【0102】
次に、ブロック140で、パッチワークブランクをオーステナイト化温度以上、特にAc3点以上に加熱する。加熱温度は、Ac3点より高く、ブランクのコーティングの蒸発温度より低くできる。例では、加熱温度は870から950℃の間の温度である。
【0103】
パッチワークブランク全体がオーステナイト組織を有するようにするための適切な加熱時間、例えば数分の後、パッチワークブランクは、ブロック150において急冷されてもよい。特に、パッチワークブランクを変形させるために使用されるダイまたはプレスは、統合された冷却チャネルを有することができる。パッチワークブランクを400℃以下、特に、300℃より低くまたは約200℃以下まで急速に冷却するために、冷却チャネルを通して冷たい液体(例えば水)を供給することができる。
【0104】
メインブランクとシートクロス部材の中央部分の鋼は、結果としてマルテンサイト組織を得ることができ、1.400MPa及び約2.000MPaの間の最大引張強度を有することができる。これらの部品の降伏強度は、800MPaを上回ることができる。
【0105】
ブランクの延性部分の鋼は、400MPaから1.000MPaの間、特に500MPaから1.000MPaの間の最大引張強度を有することができる。
【0106】
ブロック160では、得られたフロアパネルを車両の骨組みの残りの部分に接合することができる。フロアパネルは、例えばロッカに接合することができる。このような作業には、スポット溶接や他の接合作業を用いることができる。骨組みの他の部分に接合する前に、例えばトリミング、ノッチング、キャリブレーションを含む後処理作業を実施することができる。実施例では、このような後処理作業は、同じ(多段階)プレス装置で実施することができる。
【0107】
図5Bの例では、フロアパネルの代替製造方法190が提供される。ブロック110において、メインブランク110が提供される。メインブランクを変形させる前に、すなわちメインブランクが実質的に平坦であるときに、ブロック122において、メインブランクに(例えばレーザ切断で)孔が開けられてよい。
【0108】
ブロック132において、パッチワークブランクをメインブランクに溶接して孔を覆うことができる。方法190の残りのステップは、図5Aの方法100と実質的に同じであってよい。
【0109】
本開示の実施例では、衝突試験を含む関連試験に準拠するのに十分な強度と剛性及び吸収能力を有するフロアパネルが、図1の状態のフロアパネルと比較して10%以上、更には20%といった軽量化で提供され得る。
【0110】
本明細書では多数の実施例のみを開示したが、他の代替案、変更例、使用例、及び/または等価物も可能である。更に、説明した実施例の全ての可能な組み合わせも対象となる。従って、本開示の範囲は、特定の実施例によって限定されるべきではなく、以下の特許請求の範囲の公正な読解によってのみ決定されるべきである。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
【国際調査報告】