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特表2024-5282132’-フコシルラクトースの生体触媒合成のための特定のα-1,2-フコシルトランスフェラーゼ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】2’-フコシルラクトースの生体触媒合成のための特定のα-1,2-フコシルトランスフェラーゼ
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/10 20060101AFI20240719BHJP
   C12P 7/56 20060101ALI20240719BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20240719BHJP
   C07K 14/195 20060101ALI20240719BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20240719BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240719BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
C12N9/10 ZNA
C12P7/56
C07K19/00
C07K14/195
C12N15/54
C12N15/62 Z
C12N15/31
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024506670
(86)(22)【出願日】2021-08-05
(85)【翻訳文提出日】2024-03-29
(86)【国際出願番号】 EP2021071957
(87)【国際公開番号】W WO2023011724
(87)【国際公開日】2023-02-09
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns-Seidel-Platz 4, D-81737 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マルティン,ユリア
(72)【発明者】
【氏名】ボーンヘフト,カルステン
【テーマコード(参考)】
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AF03
4B064CA01
4B064CA19
4B064CC24
4H045AA10
4H045AA20
4H045BA41
4H045CA11
4H045DA89
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、融合タンパク質であることを特徴とする酵素であって、(i)フコシルトランスフェラーゼのN末端ドメインを含み、(ii)配列番号5の少なくともアミノ酸155~286、又はそれに対して少なくとも80%同一のアミノ酸配列をC末端ドメインとして含み、フコシルトランスフェラーゼ活性を有し、N末端ドメイン及び前記C末端ドメインは、2つの異なるフコシルトランスフェラーゼに由来する、酵素に関する。本発明はさらに、この酵素と反応するグルコース、グリセロール、スクロース、フコース並びにGDP-、ADP-、CDP-及びTDP-フコースからなる物質の群より選択される少なくとも1つの物質の存在下、反応混合物にラクトースが存在することを特徴とする、2’-フコシルラクトースの製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
融合タンパク質であることを特徴とする酵素であって、
(i)フコシルトランスフェラーゼのN末端ドメインを含み、及び、
ii)配列番号5の少なくともアミノ酸155~286、又はそれに対して少なくとも80%同一のアミノ酸配列をC末端ドメインとして含み、
フコシルトランスフェラーゼ活性を有し、
前記N末端ドメイン及び前記C末端ドメインは、2つの異なるフコシルトランスフェラーゼに由来する、酵素。
【請求項2】
融合タンパク質のN末端及びC末端ドメインのアミノ酸配列が、微生物の配列又はそれに対して相同な配列であることを特徴とする、請求項1に記載の酵素。
【請求項3】
融合タンパク質のN末端及びC末端ドメインのアミノ酸配列が、ヘリコバクター属の配列又はそれに対して相同な配列であることを特徴とする、請求項1及び2の一項以上に記載の酵素。
【請求項4】
N末端ドメインが、
配列番号7の少なくともアミノ酸1~129又は
それに対して少なくとも80%同一のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項1~3の一項以上に記載の酵素。
【請求項5】
融合タンパク質のN末端ドメインのアミノ酸配列が、配列番号7のアミノ酸1~148又はそれに対して少なくとも80%同一のアミノ酸配列であることを特徴とする、請求項1~4の一項以上に記載の酵素。
【請求項6】
C末端ドメインが、
配列番号5の少なくともアミノ酸155~286、又はそれに対して少なくとも80%同一のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項1~5の一項以上に記載の酵素。
【請求項7】
融合タンパク質のC末端ドメインのアミノ酸配列が、配列番号5のアミノ酸142~286又はそれに対して少なくとも80%同一のアミノ酸配列であることを特徴とする、請求項1~6の一項以上に記載の酵素。
【請求項8】
前記融合タンパク質が、配列番号9、配列番号13、配列番号15、又はそれに対して少なくとも80%同一のアミノ酸配列であることを特徴とする、請求項1~7の一項以上に記載の酵素。
【請求項9】
請求項1~8の一項以上に記載の少なくとも1つの酵素と反応するグルコース、グリセロール、スクロース、フコース並びにGDP-、ADP-、CDP-及びTDP-フコースからなる物質の群より選択される少なくとも1つの物質の存在下、反応混合物にラクトースが存在することを特徴とする、2’-フコシルラクトースの製造方法。
【請求項10】
ラクトースが、5%を超えるDFLが形成されることなく完全に変換されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
反応混合物が、酵素を組換え発現する微生物の培養物であることを特徴とする、請求項9及び10の一項以上に記載の方法。
【請求項12】
2’-フコシルラクトースが、培養上清から単離されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも4%多い2’-フコシルラクトースが、融合タンパク質に1つのドメインが含まれる融合されていない野生型酵素よりも前記融合タンパク質によって形成されることを特徴とする、請求項9~12の一項以上に記載の方法。
【請求項14】
反応において少なくとも47g/lの2’-フコシルラクトースが形成されることを特徴とする、請求項9~13の一項以上に記載の方法。
【請求項15】
反応において1g/l未満、及びより好ましくは0g/lのジフコシルラクトースが形成されることを特徴とする、請求項9~14の一項以上に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融合タンパク質であることを特徴とする酵素であって、(i)フコシルトランスフェラーゼのN末端ドメインを含み、及び、(ii)配列番号5の少なくともアミノ酸155~286、又はそれに対して少なくとも80%同一のアミノ酸配列をC末端ドメインとして含み、フコシルトランスフェラーゼ活性を有し、N末端ドメイン及び前記C末端ドメインは、2つの異なるフコシルトランスフェラーゼに由来する、酵素に関する。本発明はさらに、グルコース、グリセロール、スクロース、フコース並びにGDP-、ADP-、CDP-及びTDP-フコースからなる物質の群より選択される少なくとも1つの物質の存在下、反応混合物中にラクトースが存在することを特徴とする、2’-フコシルラクトースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、ヒトミルクオリゴ糖、又は略してHMO(複数)又はHMO(単数)と呼ばれる約200の異なる複合オリゴ糖が、ヒトミルクにおいて同定されている。高い多様性は、5つの単糖D-グルコース、D-ガラクトース、N-アセチル-D-グルコサミン、L-フコース、及びN-アセチルノイラミン酸の様々な組み合わせから生じて、単純で時には非常に複雑なオリゴ糖になる。HMOがどの単糖から形成されるかに応じて、フコシル化中性HMO、非フコシル化中性HMO及びシアリル化酸性HMOが区別される(Petschacher and Nidetzky 2016,J.Biotechnol.235,pp.61-83)。
【0003】
ヒトミルクの他の重要な成分、すなわちラクトース、脂質、及びタンパク質などの糖とは異なり、HMOは乳児によって代謝されない。むしろ、それらは、健常な腸内微生物叢の発達、感染症の予防、及び健常な免疫系の発達において重要な役割を果たす。HMOは、HMOを代謝することができる良性細菌を与えることによってこれらの効果を成し、HMOを代謝することができない病原体に対して成長の利点がある。さらに、それらは、病原体が結合する上皮細胞の糖の構造を模倣し、それによって病原体の表面を飽和させ、最終的にその排泄をもたらすことによって、腸壁への病原体の付着を防止する。最後になるが、腸から吸収された後のHMOはまた、腸上皮細胞及び免疫細胞の遺伝子調節に直接的な影響を及ぼし、それによってとりわけサイトカイン発現を介して全身性抗炎症効果を及ぼす(Faijes et al.2019,Biotechnology Advances 37,pp.667-697;Petschacher 2018,Die Hebamme 31,pp.409-414)。
【0004】
ヒトミルクは、その高含有量のHMO及びその複合組成によって特徴づけられる。場合によっては、特定のHMOは、ヒトミルクにのみ、かなりの量で存在する。したがって、HMOは他の哺乳動物においても検出されるが、それらは非常に低い濃度でのみ見出される。したがって、上述の有益な特性を達成するために、ヒトミルク代用にHMOを補充している。別の新たなの使用分野は、成人向けの栄養補助食品としての使用である(Elison et al.2016,Br.J.Nutr.116,pp.1356-1368)。
【0005】
ヒトミルクの最も一般的なHMOは、三糖2’-フコシルラクトース、又は略して2’-FL(Deng et al.2020,Syst.Microbiol.and Biomanuf.1,pp.1-14)である。2’-FLは、単糖D-グルコース、D-ガラクトース及びL-フコースからなり、D-ガラクトースは、β-1,4-グリコシド結合によってD-グルコースに、α-1,2-グリコシド結合によってL-フコースに共有結合(Fuc-α1,2-Gal-β1,4-Glc)している。
【0006】
酵素的プロセスは、必要な選択的結合形成が化学合成を不経済にするので、例えば2’-FLのようなHMOの合成にとって魅力的な選択肢である。酵素の位置選択性及び立体選択性は、保護基を使用しない合成を可能にし、これは、特により複雑な構造に対して経済的に有利である。
【0007】
フコシル化HMOの酵素触媒合成では、フコシルトランスフェラーゼが一般に使用される。後者は、グリコシルトランスフェラーゼ酵素ファミリー(GT;EC 2.4.)に属し、ドナー、通常はグアノシン二リン酸フコース、又は略してGDP-フコースからアクセプターへのフコース単位の転移を触媒し、後者はオリゴ糖、糖タンパク質/タンパク質又は糖脂質/脂質であり得る。フコシルトランスフェラーゼがフコースを転移するアクセプターの反応基は、フコシルトランスフェラーゼのクラスを決定する。α-1,2-、α-1,3/4-及びα-1,6-フコシルトランスフェラーゼが区別されている。2’-FLの酵素的合成は、α-1,2-フコシルトランスフェラーゼを使用し、これはGDP-フコースのフコースをラクトース、より正確にはガラクトース単位の2’-ヒドロキシル基に転移させ、α-1,2-グリコシド結合の形成をもたらす。この目的のために非特異的な1,2-フコシルトランスフェラーゼを使用する場合、以下のスキーム(1)に従って2’-FLが形成され、グルコース単位の3’-ヒドロキシル基に加えて、非特異的な様式でもフコシル化を受けることが可能であり、その結果、副産生物2,3-ジフコシルラクトース、より正確にはFuc-α1,2-Gal-β1,4-(Fuc-α1,3-)Glcが形成される:
(1)ラクトース+GDP-フコース→2’-FL+ジフコシルラクトース。
これに対して、特異的な1,2-フコシルトランスフェラーゼでは、望ましくない副産生物を形成することなく、2’-FLがスキーム(2)に従って形成される。
(2)ラクトース+GDP-フコース→2’-FL
【0008】
フコシルトランスフェラーゼはグリコシルトランスフェラーゼクラス(EC 2.4.)に属するが、これらはこのクラスの酵素の一例に過ぎない。一般に、グリコシルトランスフェラーゼは、ドナーからアクセプターへの糖分子の転移を触媒する。異なるGT間の配列相同性は低いが、GTの大部分は、2つの構造スーパーファミリー、すなわちGT-A及びGT-Bのうちの1つに割り当てることができる。2つのスーパーファミリーが共通して有することは、酵素が、リンカー構造/配列によって互いに連結された2つのドメインからなることである。酵素の活性中心は、ここでは2つのドメインの領域から形成され、それらの間に位置する。
【0009】
GT-Aファミリーの酵素は、各々の場合で、αヘリックス(ロスマンフォールドとして知られている)に囲まれたβプリーツシートからなるN末端ドメインを有し、これはドナーを認識するこのドメインであるが、C末端ドメインは主に混合βプリーツシートからなり、アクセプターに結合する。
【0010】
対照的に、GT-Bファミリーの酵素は、2つのロスマンフォールド型折り畳み構造を有する。N末端ドメインはアクセプター結合部位を形成するが、C末端構造はドナーの結合を担う。おそらく、広範囲のアクセプターの糖と比較してドナーの糖の変動性が低いために、GT-Bファミリーの異なるグリコシルトランスフェラーゼのC末端ドメインは、N末端ドメインよりも高度に保存されている(Albesa-Jove et al.2014,Glycobiology 24,pp.108-124)。
【0011】
GT-Bファミリーなどの構造スーパーファミリー内の保存されたフォールディングのために、構造スーパーファミリーの2つの異なるグリコシルトランスフェラーゼのドメインを互いに組み合わせることが可能である。ドメインスワッピングとしても知られる、異なる起源の同様に折り畳まれたタンパク質ドメインの交換は、酵素の特性評価及び代謝エンジニアリングにおいて一般的に使用される方法であり、新規な特性(例えば、変化した活性又は基質特異性など)を有するハイブリッド酵素の産生を可能にする(Schmid et al.2016,Front.Microbiol.7,182,pp.1-7;Hansen et al.2009,Phytochemistry 70,pp.473-482;Park et al.2009,Biotechnol.Bioeng.102,pp.988-994;Truman et al.2009,Chem.Biol.16,pp.676-685)。しかしながら、グリコシルトランスフェラーゼにおける先行するドメインスワッピング実験の結果は一貫性がない。一方で、グリコシルトランスフェラーゼのアクセプター又はドナー特異性は、対応するドメインの交換によって変化した(Truman et al.2009,Chem.Biol.16,pp.676-685)。一方、C末端ドメイン及びN末端ドメインの両方がアクセプターに対する特異性に影響を及ぼし、その結果、基質特異性の予測は通常不可能である(Hansen et al.2009,Phytochemistry 70,pp.473-482)これはまた、確実に、この酵素クラスの活性中心が2つのドメインを互いに隣接して配置することによって形成され、その結果、三次元構造のわずかな違いが不活性酵素又は少なくとも歪んだ結合部位をもたらすことが多いためである。したがって、そのような実験は、原則として、不活性であるか、又は所望の特異性及び反応性を有さない酵素を得ることが期待され得る。
【0012】
特異性及び活性に加えて、タンパク質の安定性及び溶解性がフコシルトランスフェラーゼにおいて主要な役割を果たす。例えば、イーコリ(E.coli)におけるフコシルトランスフェラーゼの発現では、封入体(Lee et al.2015,Microbiology and Biotechnology Letters 43,pp.212-218)の形成及び低いタンパク質安定性(Wang et al.1999,Microbiology(Reading)145,pp.3245-3253)が頻繁に観察されている。したがって、フコシルトランスフェラーゼの溶解性/安定性及びフォールディングを増加させるための試みが繰り返されてきた。シャペロン(Lee et al.2015,Microbiology and Biotechnology Letters 43,pp.212-218)の同時発現と同様に、フコシルトランスフェラーゼと、クイックフォールディング及び高可溶性タンパク質、例えばグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)(Albermann et al.2001,Carbohydr.Res.334,pp.97-103)との翻訳融合の選択肢がある。別法として、負に荷電したアスパラギン酸タグ(Chin et al.2015,J.Biotechnol.210,pp.107-115)などの荷電アミノ酸を付加することによって溶解性を高めることができる。複数の相同タンパク質から形成されたアミノ酸コンセンサス配列を使用することによってタンパク質安定性を改善することを目的としたアプローチもある(Porebski and Buckle 2016,Protein Eng.Des.Sel.29,pp.245-251)。このアプローチは、相同配列によって表される進化の情報を鑑み、保存されたアミノ酸が保存されていないアミノ酸よりも安定性に寄与するという仮説に基づいている(Steipe et al.1994,J.Mol.Biol.240,pp.188-192)。
【0013】
本明細書に記載の本発明に先立ち、工業的に実施される時点までに様々なα-1,2-フコシルトランスフェラーゼを使用した2’-FLの合成は、既に実証されていた。これらには、とりわけ、ヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)UA802由来のα-1,2-フコシルトランスフェラーゼ(futC、GenBank AF076779;欧州特許第1243674号明細書、協和発酵、1990)、ヘリコバクタームステラエ(Helicobacter mustelae)NCTC12198/ATCC43772由来のα-1,2-フコシルトランスフェラーゼ(futL,GenBank CBG40460.1;欧州特許第1426441号明細書、協和発酵、2001)、血清型O126のイーコリ(E.coli)由来のα-1,2-フコシルトランスフェラーゼ(wbgL,Engels and Elling 2014,Glycobiology 24,pp.170-178)、及びバクテロイデスフラジリス(Bacteroides fragilis)由来のα-1,2-フコシルトランスフェラーゼ(wcfB,Chin et al.2017,J.Biotechnol.257,pp.192-198)が含まれる。2’-FLを産生するためのイーコリ(E.coli)株のバッチ発酵における2’-FL収率に関して上記の酵素を比較すると、最も高い収率はH.ピロリ(H.pylori)UA802由来のfutCであり、したがってこの酵素の高い活性を示唆するものであった(Huang et al.2017,Metab.Eng.41,pp.23-38)。
【0014】
酵素のより正確な特性評価及び最適化のために、いくつかの配列改変も行った。H.ピロリ(H.pylori)UA802由来のfutCの分析は、2つの代替開始コドン(Δaa1-15、すなわちアミノ酸M16から出発、又はΔaa1-46、すなわちアミノ酸M47から出発)を使用することによってN末端を短縮すると、活性が完全に失われることを示した(Wang et al.1999,Microbiology(Reading)145,pp.3245-3253)。同様に、保存領域aa163~173の上流、より正確にはfutC遺伝子のaa152の下流に耐性遺伝子を挿入すると、H.ピロリ(H.pylori)UA802におけるフコシル化ルイスY抗原の産生に関する機能が失われた(Wang et al.1999,Mol.Microbiol.31,1265-1274)。これらの実験は、コード配列全体がフコシルトランスフェラーゼ活性に必要であり、アミノ酸配列の小さな操作でさえ酵素の完全な不活性化をもたらし得ることを示した。
【0015】
H.ピロリ(H.pylori)UA802由来のfutCはラクトースだけでなくモノフコシル化糖も基質として受け入れるので(Wang et al.1999,Microbiology(Reading)145,pp.3245-3253)、2’-FLの合成は、グルコース単位の3’-ヒドロキシル基のさらなるフコシル化の結果として、副産生物ジフコシルラクトース(DFL)又はラクトジフコテトラオース(LDFT)、より正確にはFuc-α1,2-Gal-β1,4-(Fuc-α1,3-)Glc,(Yu et al.2018,Microb.Cell.Fact.17,101,pp.1-10)の形成を伴う。これは、H.ピロリ(H.pylori)26695株由来のα-1,2-フコシルトランスフェラーゼについても実証された(Chin et al.2017,J.Biotechnol.257,pp.192-198)。
【0016】
このような製造バッチにおけるDFL形成は、DFLへの変換の結果として2’-FLが失われるだけでなく、必要とされる活性化フコース(GDP-フコース)がまた消費されるので、2’-FLの合成の効率に、二重にマイナスの影響を及ぼす。その後、後者はもはや2’-FLの合成に利用できない。さらに、2’-FL及びDFLの物理的及び化学的特性が非常に類似しているため、形成されたDFLは、発酵培養物を純粋な2’-FLに加工することを困難にする。
【0017】
したがって、好ましい実施形態では、ラクトースのガラクトース単位の2’-ヒドロキシル基の特異的フコシル化のために位置及び基質特異的α-1,2-フコシルトランスフェラーゼを使用することが好ましい。同定されている例は、H.ムステラエ(H.mustelae)NCTC12198/ATCC43772由来のα-1,2-フコシルトランスフェラーゼfutLであり、これは、副産生物DFLの合成の顕著な減少と共に、特異的に2’-FLを形成する(欧州特許第2877574号明細書、Glycosyn、2015)。H.ピロリ(H.pylori)UA802由来のfutCと比較して、ラクトースに対する記載された高い活性及び特異性の結果として、それは同様に、2’-FLの合成に既に使用されている(欧州特許第1426441号明細書、協和発酵、2001)。一方、同じバッチ発酵条件での2’-FL収率に関して、futLとH.ピロリ(H.pylori)UA1210と同様のfutCを直接比較したところ(Huang et al.2017,Metab.Eng.41,pp.23-38)、futLはfutCで得られた収率の約75%しか達成しなかったことを示した。
【0018】
CAZYデータベース(www.cazy.org/GT11_bacteria.html)で、両方の1,2-フコシルトランスフェラーゼ、すなわちH.ピロリ(H.pylori)UA802由来のfutC及びH.ムステラエ(H.mustelae)NCTC12198/ATCC43772由来のfutLは、グリコシルトランスフェラーゼファミリー11(GT-11)に割り当てられている(Ma et al.2006,Glycobiology 16,pp.158-184)。GT-11ファミリーについては、以前、Breton et al.2012,Curr.Opin.Struct.Biol.22,pp.540-549により、その中で分類された酵素はGT-Bフォールディングを示すことができ、これは仮定のままとしておくべきであると予測されてきたが(Petschacher and Nidetzky 2016,J.Biotechnol.235,pp.61-83)、現在まで、GT11ファミリーのメンバーをGT-B又はGT-Aフォールドファミリーのいずれかに明確に割り当てることは不可能であり(Schmid et al.2016,Front.Microbiol.7,182,pp.1-7)、これにより、ドメインスワッピング実験のドナー/アクセプター特異性の正確な予測がさらに不可能になっている。
【0019】
提示された先行技術によれば、(特定のものの定義についてはスキーム2参照)H.ムステラエ(H.mustelae)NCTC12198/ATCC43772由来の特定のfutLのN末端ドメインは、GT-Bスーパーファミリーへの推定される割り当てを考えると、アクセプターの結合に関与し、したがって副産生物DFLを形成することなくラクトースの2’-FLへのフコシル化に関与すると予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】欧州特許第1243674号明細書
【特許文献2】欧州特許第1426441号明細書
【特許文献3】欧州特許第2877574号明細書
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Petschacher and Nidetzky 2016,J.Biotechnol.235,pp.61-83
【非特許文献2】Faijes et al. 2019, Biotechnology Advances 37, pp. 667-697
【非特許文献3】Petschacher 2018, Die Hebamme 31, pp. 409-414
【非特許文献4】Elison et al. 2016, Br.J.Nutr.116, pp. 1356-1368
【非特許文献5】Deng et al. 2020, Syst.Microbiol.and Biomanuf.1, pp. 1-14
【非特許文献6】Albesa-Jove et al. 2014, Glycobiology 24, pp. 108-124
【非特許文献7】Schmid et al. 2016, Front.Microbiol.7, 182, pp. 1-7
【非特許文献8】Hansen et al. 2009, Phytochemistry 70, pp. 473-482
【非特許文献9】Park et al. 2009, Biotechnol.Bioeng.102, pp. 988-994
【非特許文献10】Truman et al. 2009, Chem.Biol.16, pp. 676-685
【非特許文献11】Lee et al. 2015, Microbiology and Biotechnology Letters 43, pp. 212-218
【非特許文献12】Wang et al. 1999, Microbiology (Reading) 145, pp. 3245-3253
【非特許文献13】Albermann et al. 2001, Carbohydr.Res. 334, pp. 97-103
【非特許文献14】Chin et al. 2015, J.Biotechnol.210, pp. 107-115
【非特許文献15】Porebski and Buckle 2016, Protein Eng. Des. Sel. 29, pp. 245-251
【非特許文献16】Steipe et al. 1994, J.Mol.Biol. 240, pp. 188-192
【非特許文献17】Engels and Elling 2014, Glycobiology 24, pp. 170-178
【非特許文献18】Chin et al. 2017, J.Biotechnol.257, pp. 192-198
【非特許文献19】Huang et al. 2017, Metab.Eng. 41, pp. 23-38
【非特許文献20】Wang et al. 1999, Mol. Microbiol. 31, 1265-1274
【非特許文献21】Yu et al. 2018, Microb.Cell. Fact.17, 101, pp. 1-10
【非特許文献22】Ma et al. 2006, Glycobiology 16, pp. 158-184
【非特許文献23】Breton et al. 2012, Curr. Opin. Struct.Biol. 22, pp. 540-549
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の目的は、2’-FLの生体触媒合成の効率を高めること、すなわち2’-FLの収率の増加を達成し、同時に非常に類似した副産生物DFLの形成を回避して、2’-FLの後処理を容易にし、したがって経済的な工業プロセスを確立することを可能にすることであった。
【課題を解決するための手段】
【0023】
この目的は、融合タンパク質であることを特徴とする酵素であって、(i)フコシルトランスフェラーゼのN末端ドメインを含み、(ii)配列番号5の少なくともアミノ酸155~286、又はそれに対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%同一のアミノ酸配列をC末端ドメインとして含み、フコシルトランスフェラーゼ活性を有し、N末端ドメイン及び前記C末端ドメインは、2つの異なるフコシルトランスフェラーゼに由来する、酵素を提供することにより成し遂げられる。この融合タンパク質は、驚くべきことに、α-1,2-フコシルトランスフェラーゼfutLの基質特異性及び位置特異性を、酵素futCの潜在的により高い活性と結合させることに成功した。これは、現先行技術からは予測することができなかった、なぜなら、2’-FLがDFLにさらにフコシル化されるのを妨げる基質ラクトースの融合タンパク質への特異的結合に関与するのは、配列番号5のN末端ドメインであり、配列番号5のC末端ドメインではないと予想されたからである。これにより、ラクトースを2’-フコシルラクトースに特異的にフコシル化するための経済的に有効な方法に使用することができる酵素が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】発現プラスミドpWC1のベクターマップ。発現ベクターの個々の要素の概要。使用した酵素EcoRI及びXbaIの制限部位も記す。
図2】2-フコシルラクトースを産生するためのイーコリ(E.coli)K12株。(特定の)1,2-フコシルトランスフェラーゼを用いた2’-フコシルラクトースの酵素的合成のために、イーコリ(E.coli)K12株を、トランスポーターlacYを介して基質ラクトースを受け入れるがそれを代謝することができないように遺伝子改変した。このために、lacA及びlacZに対するcdsをゲノムから欠失させた。デノボ合成経路でのグルコースからのGDP-フコースの細胞内産生を増強するために、この特定のデノボ合成経路の遺伝子の転写活性化因子rcsAのタンパク質分解性分解を防止するために、lonプロテアーゼのcdsをゲノムから欠失させた。rcsAのレベルは、プラスミドの過剰発現によってさらに増加させることができる。wcaJの欠失は、結腸酸の合成のためのGDP-フコースの消費を防止し、その結果、活性化されたフコースをプラスミドコード化1,2-フコシルトランスフェラーゼによって内在化ラクトースに転移させることができ、特定の1,2-フコシルトランスフェラーゼの発現は、2’-フコシルラクトースのフコシル化を介した望ましくない副産生物ジフコシルラクトース(DFL)の形成を防止する。
図3】2’-FL及びDFLの合成のHPLC分析。発酵後の上清のHPLC分析は、FutC*/FutL、FutC及びFutLを使用した2’-FL及び-存在する場合-DFLの産生を示す。2’-FL、ラクトース及びDFL標準のクロマトグラムを比較のために示す。
図4】ラクトースを完全に消費した2’-FLの合成のHPLC分析。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の融合タンパク質は、N末端ドメイン(タンパク質i)及びC末端ドメイン(タンパク質ii)のアミノ酸配列の融合を構成し、N末端ドメイン及びC末端ドメインは、2つの異なるフコシルトランスフェラーゼに由来する。例として使用される野生型タンパク質futL(配列番号5のヘリコバクタームステラエ(Helicobacter mustelae)NCTC12198由来のfutL)又はfutC(例えば、配列番号3のH.ピロリ(H.pylori)UA802由来のfutC)は、2つの異なるフコシルトランスフェラーゼ由来の融合タンパク質ではないので、特許請求の範囲に包含されない。
【0026】
融合タンパク質という用語は、対応するアミノ酸配列及び/又はコードDNA配列が実験室で融合されており、したがって自然界では起こらないことを意味する。融合タンパク質は、ハイブリッド又はハイブリッド酵素とも呼ばれる。これは、例えば、H.ピロリ(H.pylori)UA802のfutC配列に基づくコンセンサス配列futC*に由来するα-1,2-フコシルトランスフェラーゼのN末端ドメイン及びヘリコバクタームステラエ(Helicobacter mustelae)NCTC12198のfutL配列のC末端ドメインから構成され得る。ハイブリッド酵素は、高い活性及び特異性を有し、フコースのみをラクトースに、例えば、アクセプターのラクトースのガラクトース単位の2’-ヒドロキシル基に効率的に転移させるが、ラクトースのグルコース単位の3’-ヒドロキシル基には転移させない。それによって、望ましくない副産生物ジフコシルラクトースの形成が顕著に減少することが重要である。これにより、DFLを除去するための面倒な精製工程を大部分又は完全に省くことができるので、2’-フコシルラクトースの単離がはるかに容易になり、経済的により効率的になる。
【0027】
融合タンパク質を使用することのさらなる利点は、N末端ドメイン及びC末端ドメインの選択により、ドナー及びアクセプターの受け入れを変えることが可能であり、そうすることで、より複雑なHMOをより効率的に産生することがまた可能になるということである。さらに、futCなどのより高い酵素活性を、futLなどのアクセプター基質に対するより良好な選択性と組み合わせることができる。
【0028】
おそらくより高いfutCの活性と、アクセプター基質に対するfutLのより良好な選択性とを組み合わせるために、futC*のN末端ドメイン(配列番号7のaa1~148)をfutLのC末端ドメイン(配列番号5のaa142~286)と融合したか、又は逆の組み合わせで、futLのN末端ドメイン(配列番号5のaa1~143)をfutC*のC末端ドメイン(配列番号7のaa151~300)と融合した。このために、ScaI-(AGTACT)切断部位を、futLについてコードされるプラスミドのfutL遺伝子(配列番号4)の核酸配列における塩基426~427(TA~CT)を交換することによって2つの酵素ドメイン間のリンカー配列に導入したが、この交換によってアミノ酸配列は変化しなかった。この切断部位の導入により、このプラスミド構築物の助けを借りて、末端で切断する適切な制限酵素(EcoRI/XbaI)又はドメイン間で切断する適切な制限酵素(ScaI)による制限消化によって、futLのN末端/C末端ドメインと別の適切なPCR増幅ドメイン、例えばfutC*との交換を実行することが可能であった(実施例2参照)。得られた低コピー発現プラスミド上のfutC*/futL(配列番号8)又はfutL/futC*(配列番号10)ハイブリッド用のcdsは、rcsA(配列番号18)用のcdsと最適化されたRBSを有するオペロンにおいて、転写で組み合わされた。
【0029】
本発明の酵素は、フコシルトランスフェラーゼ(FT)活性を有する、すなわち、グリセロール、スクロース、グルコース又はフコースから出発して形成され得る、GDP-、ADP-、CDP-又はTDP-フコース、好ましくはグアノシン二リン酸フコース(GDP-フコース)などのドナーからのフコース単位のアクセプターへの転移を触媒し、後者はオリゴ糖、例えば好ましくはラクトース、又は糖タンパク質、タンパク質、糖脂質又は脂質である。
【0030】
フコシルトランスフェラーゼ活性の検出のために、イーコリ(E.coli)に最適化されたコドン使用頻度の試験タンパク質のcdsを、適切なオリゴヌクレオチドを用いてPCRによって増幅し、プロモーター、好ましくは誘導性プロモーター(図1の実施例2を参照されたい)の下流の低コピー発現プラスミドpWC1などの発現プラスミドに、付加切断部位によって、クローニングする。
【0031】
適切なプロモーターは、当業者に公知のすべてのプロモーター、例えば構成的プロモーター、例えばGAPDHプロモーター、又は誘導性プロモーター、例えばlac、tac、trc、T7、ラムダPL、ara、クメート若しくはtetプロモーター、又はそれらに由来する配列である。好ましくは、本発明の酵素の発現を制御するプロモーターは誘導性プロモーターであり、より好ましくはIPTG(イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド)によって誘導されるプロモーターである。
【0032】
宿主細胞がイーコリ(E.coli)細胞である場合、最適化されたリボソーム結合部位(RBS)を有するGDP-フコースのデノボの経路のイーコリ(E.coli)内因性転写活性化因子rcsA(配列番号18(DNA)/配列番号19(PRT))のcdsは、デノボの経路でのGDP-フコースの細胞内内因性産生を増加させるために、フコシルトランスフェラーゼのそれぞれのcdsの下流の完成した発現プラスミドに、ポリシストロニックに挿入されることが好ましい。
【0033】
GDP-フコース又は別の活性化フコース(例えば、ADP-、GDP-、CDP-又はTDP-フコース)をドナーとして細胞内に与えることができる微生物株、例えば好ましくは適切なイーコリ(E.coli)株、例えばイーコリ(E.coli)K12ΔwcaJΔlonΔsulA-lac-mod(実施例1及び図2参照)を、発現プラスミドで形質転換することによって、当業者は、発現されるフコシルトランスフェラーゼfutC(配列番号3)、futC*(配列番号7)、futL(配列番号5)、futC*/futLハイブリッド(配列番号9)又はfutL/futC*ハイブリッド(配列番号11)のみが異なり、したがってFT活性の分析に使用することができる株を得る。このために、ドナーを細胞内に与えることができる得られた株は、グリセロール、スクロース、グルコース又はフコースなどのドナー前駆体、株はこれを細胞内でGDP-フコースに変換することができる、及び培地のラクトースなどのアクセプターの存在下で培養される。誘導性プロモーターが選択された場合、cdsは構成的に又は誘導後に発現される。株のFT活性の実証として、フコシル化産生物2’-FLの濃度をHPLCによって判定する。このために、少なくとも約160の細胞密度OD600を有する対応する細胞培養物から1mlのアリコートを採取し、次いで、例えばベンチ型遠心分離機で最大速度で5分間遠心分離することによってすべての固体成分を除去し、得られた上清の産生物含有量を、例えば実施例4に記載のHPLCによって定量する(図3も参照)。
【0034】
出発配列として使用される異なるフコシルトランスフェラーゼのコード配列(cds)は、先行技術及びデータベースで公知であり、任意選択で、宿主生物、例えばイーコリ(E.coli)に対して最適化されたコドン使用で合成的に作製され得、又は適切なオリゴヌクレオチドを用いたPCRによって元の生物のゲノムから増幅され得る。
【0035】
コード配列(cds)と呼ばれるものは、開始コドンと終止コドンとの間にあり、タンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA又はRNAの領域である。
【0036】
cdsは非コード領域に囲まれている。遺伝子と呼ばれるものは、生物学的に活性なRNAを産生するための全情報を含むDNAの部分である。したがって、遺伝子は、転写によって一本鎖RNAのコピーが産生されるDNAの部分だけでなく、このコピーの過程の調節に関与するDNAのさらなる部分も含む。
【0037】
本発明の酵素についてのcdsの発現を調節する好ましい発現シグナルには、少なくとも1つのプロモーター、転写開始、翻訳開始、リボソーム結合部位及びターミネーターが含まれる。これらは、使用される細菌株において、特に好ましくはイーコリ(E.coli)において、特に好ましく機能的である。したがって、機能的なプロモーターの場合、このプロモーターの調節下にあるコード配列がRNAに転写される場合がある。
【0038】
野生型(wt)cdsと呼ばれるものは、進化によって自然に発生し、自然界に存在する生物の野生型ゲノムに存在するcdsの形態である。
【0039】
ドメイン又はフォールディングのクラスは、タンパク質の中の安定的に折り畳まれた、通常はコンパクトな三次構造を有する領域を指す。先行技術に詳細に記載され、上記で明示したように、GT-A又はGT-Bフォールドを有するすべてのGTは、リンカー構造/配列によって互いに接続されたN末端ドメイン及びC末端ドメインからなり、活性の中心は、両方のドメインの領域から形成される。例として、3Deeデータベース(dundee.ac.uk)を使用してタンパク質ドメインを定めることができる。
【0040】
futL及びfutCという名称は、それぞれN末端ドメイン及びC末端ドメインからなる、それぞれ配列番号5及び/又は配列番号3を有する対応する野生型フコシルトランスフェラーゼを指す。
【0041】
futC*という用語は、配列番号7を有するfutCに由来する配列を指す。同様に、N末端ドメイン及びC末端ドメインの2つのドメインからなる。futL、futC及びfutC*は融合タンパク質ではない。
【0042】
一方、N/Cという名称は、1つのFTのN末端ドメイン及び別のFTのC末端ドメインを含むFTを指す。したがって、例えば、futC*/futLは、フコシルトランスフェラーゼfutC*のN末端ドメイン(配列番号7の少なくともアミノ酸1~129又は少なくとも80%の同一のアミノ酸配列)及びフコシルトランスフェラーゼfutLのC末端ドメイン(配列番号5の少なくともアミノ酸155~286又は少なくとも80%の同一のアミノ酸配列)を含む。同様に、futL/futC*では、futLのN末端ドメインとfutC*のC末端ドメインとが融合されている。
【0043】
futC*/futL(Δ8aa)及びfutC*/futL(Δ15aa)は、futC*のN末端ドメイン及びfutLのC末端ドメインを含み、C末端ドメインは、それぞれ8アミノ酸及び15アミノ酸短縮されている。
【0044】
相同アミノ酸配列は、少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%同一である配列を意味すると理解されるべきであり、相同配列の各変化は、1つ又は複数のアミノ酸の挿入、付加、欠失及び置換から選択される。
【0045】
アミノ酸配列の同一性は、公開されてアクセス可能なウェブページhttp://blast.ncbi.nlm.nih.gov/のプログラム「Protein blast」によって判定される。このプログラムはblastpアルゴリズムを使用する。以下の一般的なパラメータは、2つ以上のタンパク質配列のアラインメントのアルゴリズムパラメータとして使用される:最大標的配列=100;ショートクエリ=「ショート入力シーケンスのパラメータを自動的に調整する」;期待閾値=10;ワードサイズ=3;クエリ範囲の最大の一致=0。デフォルトのスコアリングパラメータは、マトリックス=BLOSUM62;ギャップコスト=存在:11拡張:1;組成調整=「条件付き組成スコアマトリックス調整」。相同配列の同定のために、上記のパラメータを「非冗長タンパク質配列(nr)」データベースでの検索に使用したが、相同性>80%の高いデータ密度のために、生物ヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)(taxid:210)由来の配列は除外されていた。
【0046】
α-1,2-、α-1,3/4-及びα-1,6-フコシルトランスフェラーゼが区別されている。好ましくは、本発明の融合タンパク質は、α-1,2-フコシルトランスフェラーゼ活性を有する酵素である。
【0047】
好ましくは、酵素は、融合タンパク質のN末端及びC末端ドメインのアミノ酸配列が、微生物の配列、より好ましくはグラム陰性菌の配列、特に好ましくはヘリコバクター属細菌株の配列又はそれに対して相同な配列であることを特徴とする。
【0048】
好ましい実施形態では、酵素は、融合タンパク質のN末端及びC末端ドメインのアミノ酸配列がグリコシルトランスフェラーゼファミリー11(GT-11)の配列であることを特徴とする。
【0049】
さらに好ましくは、酵素は、融合タンパク質のN末端及びC末端ドメインのアミノ酸配列が、ヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)又はヘリコバクタームステラエ(Helicobacter mustelae)の種の配列又はそれらに対して相同な配列であることを特徴とする。特に好ましくは、融合タンパク質は、生物ヘリコバクタームステラエ(Helicobacter mustelae)NCTC12198/ATCC43772(配列番号5)のfutL由来のC末端ドメインを含む。融合タンパク質の他方のN末端ドメインは、好ましくは、生物ヘリコバクターピロリ(Helicobacter pylori)UA802(配列番号3)のfutCに由来する。
【0050】
好ましい実施形態では、酵素は、N末端ドメインが、配列番号7の少なくともアミノ酸1~129、より好ましくは少なくともアミノ酸1~132、特に好ましくは少なくともアミノ酸1~148、又は各々の場合でそれに対して少なくとも80%同一のアミノ酸配列を含むことを特徴とする。特に好ましい実施形態では、酵素は、融合タンパク質のN末端ドメインのアミノ酸配列が、配列番号7のアミノ酸1~129、さらに好ましくはそのアミノ酸1~132、さらにいっそう好ましくはそのアミノ酸1~148、又はそれに対して少なくとも80%同一のアミノ酸配列であることを特徴とする。
【0051】
好ましい実施形態では、酵素は、C末端ドメインが、配列番号5の少なくともアミノ酸155~286、より好ましくは少なくともアミノ酸149~286、特に好ましくは少なくともアミノ酸142~286、又はそれに対して少なくとも80%同一のアミノ酸配列を含むことを特徴とする。特に好ましくは、酵素は、融合タンパク質のC末端ドメインのアミノ酸配列が、配列番号5のアミノ酸155~286、さらに好ましくはそのアミノ酸149~286、さらにいっそう好ましくはそのアミノ酸142~286、又は各々の場合に、それに対して少なくとも80%同一のアミノ酸配列であることを特徴とする。
【0052】
融合タンパク質は、配列番号9、配列番号13、配列番号15、又はそれらに対して少なくとも80%同一のアミノ酸配列であることが好ましい。特に好ましくは、融合タンパク質は、配列番号9を有するfutC*/futLである。
【0053】
誘導及び65g/lの総ラクトース投入量(バッチ及び連続)からの25℃で65時間の発酵後の2’-FL収率は、futC及びfutC*の両方が2’-FL及びDFLを形成し、futCの2’-FL収率がfutC*より70%高いことを示した(実施例3、表1を参照)。文献に記載されているように、futLは2’-FLのみを形成した。futLの2’-FL収率は、futC*の収率を125%、futCの収率を32%上回った。
【0054】
融合タンパク質の発現における2’-FL及びDFLの収率の分析は、驚くべきことに、先行技術とは対照的に、融合タンパク質futC*/futLが、変異体futL/futC*ではなく、ラクトース及びGDP-フコース100%を特異的に2’-FLに変換したことを示した。さらに、表1は、特異的融合タンパク質futC*/futLが、非特異的futCと比較して56%、futC*と比較して165%、特異的futLと比較して18%、2’-FL収率を増加させたことを示す。これは、第1に、futC又はfutLのいずれにも利用可能な3D構造がこれまで存在しなかったこと、また第2に、N末端ドメインがアクセプター基質の結合を担うGT-Bフォールドを仮定して、ラクトース及びGDP-フコースのみを特異的に2’-FLに変換する、futC*/futLではなくラクトース特異的futLのN末端ドメインを含有する融合タンパク質futL/futC*があると予想されたことから、予測することができなかった。さらに、futL/futC*の2’-FL収率は、futC*/futLと比較して70%低下した。
【0055】
融合タンパク質に使用したfutC*(配列番号7)での収率は、futC(配列番号3)と比較して41%低下していたので、先に記載したように、futC(配列番号3のaa1~148)のN末端ドメインを最終的にfutL(配列番号5のaa142~286)のC末端ドメインと融合させて、futC/futL(配列番号12(DNA)/配列番号13(PRT))を得て、得られた発現プラスミドを2’-FLの産生に適した株の形質転換に使用した(イーコリ(E.coli)K12ΔwcaJΔlonΔsulA-lac-mod)(実施例1及び2参照)。最適化された発酵条件下(25℃の代わりに27℃、65g/lのラクトースの代わりに86g/lのラクトース)でのfutC*/futL及びfutC/futLの2’-FL及びDFL収率は、この場合もDFLが形成されなかったことを示した。しかしながら、融合タンパク質futC/futLでの2’-FL収率は、融合タンパク質futC*/futLと比較して、15%低下した(表1)。
【0056】
それにもかかわらず、両方の場合において、futC*及びfutCのN末端ドメインとfutLのC末端ドメインとの融合は、非常に類似した副産生物DFLの形成を伴わずに、2’-FLの選択的産生をもたらした。
【0057】
さらに、ハイブリッド酵素futC*/futLのC末端をそれぞれ8aa(配列番号9のaa1~285)及び15aa(配列番号9のaa1~278)短縮し(実施例2を参照のこと)、これを最適化された条件下(誘導から27℃、86g/lラクトース)で65時間発酵させた後の2’-FL収率に関して同様に調べた。8aaの短縮は2’-FL収率を8%低下させたが、15aaの短縮は2’-FLもDFLも検出しない結果となった(表1)。これは、融合タンパク質futC*/futLの少なくともaa1~285がその活性を担うことを示した。
【0058】
本発明はさらに、本発明の酵素と反応するグルコース、グリセロール、スクロース、フコース並びにGDP-、ADP-、CDP-及びTDP-フコースからなる物質の群より選択される少なくとも1つの物質の存在下、反応混合物にラクトースが存在することを特徴とする、2’-フコシルラクトースの製造方法を提供する。細胞内でGDP-フコースに変換される物質は、グルコースであることが好ましい。本発明の酵素は、好ましくは、配列番号9を有するfutC*/futLである。特に好ましくは、酵素はfutC*/futLであり、細胞内でGDP-フコースに変換される物質はグルコースである。本発明の方法では、ラクトースは、ジフコシルラクトースが形成されることなく完全に変換することができる。
【0059】
好ましくは、2’-フコシルラクトースの産生方法は、2’-フコシルラクトースが、反応混合物から単離されることを特徴とする。2’-フコシルラクトースを単離するために、固体成分が第1の工程において遠心分離又は濾過によって反応混合物から除去される場合が好ましい。後続の工程では、例えば、クロマトグラフィー法及び濾過によって、及び蒸発によって得られた2’-フコシルラクトースによって、さらなる不純物を続いて分離することができる。
【0060】
好ましい実施形態では、方法は、ラクトースが、5%、より好ましくは2.5%、特に好ましくは1.5%を超えるDFLが形成されることなく完全に変換されることを特徴とする。特に好ましい実施形態では、ラクトースは、DFLの形成を伴わずに完全に変換される。したがって、本発明の方法は、2’-FLの特異的形成が、結晶化又はナノ濾過又は酵素での後処理によって、DFL又はラクトースなどの他の糖を除去する必要性を排除するという主要な利点を有する。したがって、2’-FLの選択的産生は、後処理を著しく容易にする。
【0061】
したがって、特に好ましい実施形態では、この方法は、2’-フコシルラクトースが、グルコース、ラクトース又はジフコシルラクトースなどの他の糖を除去するための結晶化、ナノ濾過及び/又は酵素での後処理なしに単離されることを特徴とする。
【0062】
好ましい実施形態において、2’-フコシルラクトースの産生方法は、反応混合物が、本発明の酵素を組換え発現する微生物の培養物であることを特徴とする。
【0063】
微生物の培養は、先行技術において公知であり、例として、実施例3に記載されるように実施することができる。
【0064】
微生物株は、特に好ましくは遺伝子組換えイーコリ(E.coli)K12株である。同様に、本発明の組換え発現酵素は、融合タンパク質futC*/futL又はそれに対して相同なアミノ酸配列であることが好ましい。したがって、特に好ましい実施形態では、微生物株は遺伝子組換えイーコリ(E.coli)K12株であり、本発明の組換え発現酵素は融合タンパク質futC*/futLであり、より好ましくはrcsAの共発現である。
【0065】
反応混合物が微生物の培養物である場合、2’-フコシルラクトースが、培養上清から単離されることが好ましい。既に上に記載したように、宿主細胞などの固体成分は、最初に濾過によって、又はより好ましくは遠心分離によって分離される。その後、さらなる不純物をクロマトグラフィーで除去し、富化によって産生物を結晶の形態で得ることができる。
【0066】
既に上に記載したように、この方法は、好ましくは、ラクトースが、5%、より好ましくは2.5%、特に好ましくは1.5%を超えるDFLが形成されることなく完全に変換することを特徴とする。特に好ましい実施形態では、ラクトースは、DFLの形成を伴わずに完全に変換される。特に好ましくは、2’-フコシルラクトースが、培養上清からグルコース、ラクトース及びジフコシルラクトースなどの他の糖を除去するための発酵ブロスの結晶化、ナノ濾過及び/又は酵素での後処理なしに、培養上清から単離される。
【0067】
実施例5は、例として、ラクトースの完全な変換を伴う発酵を示す(図4も参照されたい)。
【0068】
2’-フコシルラクトースの産生方法は、融合タンパク質に1つのドメインが含まれる融合されていない野生型酵素よりも、融合タンパク質と少なくとも4%、より好ましくは少なくとも10%、特に好ましくは少なくとも25%、さらにより好ましくは少なくとも50%、より多い2’-フコシルラクトースが形成されることを特徴とすることが好ましい。
【0069】
好ましい実施形態では、2’-フコシルラクトースの産生方法は、反応中に少なくとも47g/l、好ましくは少なくとも53g/l、より好ましくは少なくとも60g/lの2’-フコシルラクトースが形成されることを特徴とする。
【0070】
好ましくは、2’-フコシルラクトースの産生方法は、反応中に1g/l未満、より好ましくは0g/lのジフコシルラクトースが形成されることを特徴とする。これは、DFLの形成が防止されることが特に好ましいことを意味し、その理由は、この場合、DFLを除去するための面倒な精製工程を省くことができるので、2’-フコシルラクトースの単離がはるかに容易であり、したがって経済的により効率的であるからである。
【0071】
好ましい実施形態において、2’-フコシルラクトースの産生方法は、酵素の発現が誘導されることを特徴とする。
【0072】
この場合、本発明の酵素の発現を制御するプロモーターは誘導性プロモーターであり、より好ましくはIPTG(イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド)により誘導可能なプロモーターである。
【0073】
この場合、本発明の方法は、産生物の合成が誘導の瞬間まで開始されないという利点を有し、これは高い細胞密度が最初に達成され、それによって収率が増加することを意味する。
【実施例
【0074】
本発明は、それによって限定されることなく、例示的な実施形態を参照して以下により詳細に説明される。
【0075】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、遺伝子合成、DNAの単離及び精製、制限酵素及びリガーゼによるDNA修飾、形質転換などの使用されるすべての分子生物学的方法は、当業者に公知の方法、文献に記載された方法、又はそれぞれの産生業者によって推奨された方法で行われた。
【0076】
[実施例1]
2-フコシルラクトースを産生するためのイーコリ(E.coli)K12に基づく株の発達
2’-FLなどのフコシル化HMOの細胞内合成のために、イーコリ(E.coli)K12に基づく株を発達させた。まず、ウンデカプレニルホスフェートグルコースホスホトランスフェラーゼwcaJのためのcdsをゲノムから欠失させた。次いで、lonプロテアーゼのためのcdsを除去した。lacオペロンは、β-ガラクトシダーゼ(lacZ)及びβ-ガラクトシドトランスアセチラーゼ(lacA)のcdsを削除し、β-ガラクトシドパーミアーゼ(lacY)のcdsを保存した。最後に、細胞分裂阻害剤sulAに対するcdsを欠失させた。
【0077】
Datsenko及びWannerによるλ-リコンビナーゼを用いたwcaJ、lon及びsulAのためのcdsの欠失(2000,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.97:6640-5)
使用したイーコリ(E.coli)K12株のゲノムからのwcaJの欠失のために、オリゴヌクレオチドwcaJ-del-fw(配列番号26)及びwcaJ-del-rv(配列番号27)並びにマトリックスとして市販のプラスミドpKD3(Coli Genetic Stock Center,CGSC:7631)を使用するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を最初に使用して、クロラムフェニコール耐性カセットを含み、wcaJ cdsの上流領域及び下流領域のそれぞれ約50塩基対が隣接する線状DNA断片を産生した。
【0078】
さらに、イーコリ(E.coli)株を市販のプラスミドpKD46(CGSC:7739)で形質転換し、次いでDatsenko及びWannerの詳細に従ってコンピテント細胞を産生した。PCRで産生した線状DNA断片で、これらを形質転換した。クロラムフェニコール耐性カセット(cat=クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)をイーコリ(E.coli)K12株の染色体に組み込むための選択を、20mg/lのクロラムフェニコールを含有するLB寒天プレートで行った。染色体の正しい位置での組込みを、オリゴヌクレオチドwcaJ-check-fw(配列番号28)及びwcaJ-check-rv(配列番号29)並びにクロラムフェニコール耐性細胞の染色体DNAをマトリックスとして使用するPCRによって検証した。このプロセスにより、wcaJ cdsがクロラムフェニコール耐性カセットに置き換えられたイーコリ(E.coli)細胞が得られた。
【0079】
次いで、記載された手順(Datsenko及びWanner)に従ってプラスミドpKD46を細胞から再び除去し、このようにして産生した株をイーコリ(E.coli)K12 wcaJ::catと命名した。
【0080】
イーコリ(E.coli)K12wcaJ::cat株の染色体からのクロラムフェニコール耐性カセットの除去を、FLPリコンビナーゼcdsをコードするプラスミドpCP 20(CGSC:7629)を用いてDatsenko及びWannerの手順に従って行った。この方法で最終的に得られたクロラムフェニコール感受性wcaJ欠失変異体をイーコリ(E.coli)K12ΔwcaJと命名した。
【0081】
イーコリ(E.coli)K12ΔwcaJ株からのlon cdsの欠失は、wcaJ cdsの欠失用に先に使用されたのと同じ方法を使用して行った。しかし、マトリックスとしてpKD3(CGSG:7631)を用いた線状DNA断片の産生には、オリゴヌクレオチドlon-del-fw(配列番号30)及びlon-del-rv(配列番号31)を用いた。
【0082】
クロラムフェニコール耐性カセットのイーコリ(E.coli)K12ΔwcaJ株の染色体へのlon cdsの組込みを、オリゴヌクレオチドlon-check-fw(配列番号32)及びlon-check-rv(配列番号33)及びクロラムフェニコール耐性細胞の染色体DNAでのPCRによって検証した。
【0083】
染色体からのクロラムフェニコール耐性カセットの除去を、Datsenko及びWannerによって記載されているように再度行った。クロラムフェニコール耐性カセットを含まず、wcaJ cds及びlon cdsのゲノム欠失を特徴とする得られた株をイーコリ(E.coli)K12ΔwcaJΔlonと命名した。
【0084】
イーコリ(E.coli)K12ΔwcaJΔlon-lac-mod株(後述する「lacオペロンの改変」の項で説明するように作製)からのsulA cdsの欠失は、wcaJ cdsの欠失用に先に使用したのと同じ方法を使用して行った。しかしながら、カナマイシン耐性遺伝子を含み、sulAのゲノムcdsの上流及び下流の領域のそれぞれ50個の相同塩基対が隣接する線状DNA断片の生成のために、オリゴヌクレオチドsulA-del-fw(配列番号34)及びsulA-del-rv(配列番号35)及びpKD13(CGSC:7633 GenBank seq.AY048744)をマトリックスとして使用した。
【0085】
sulA cdsの位置でのイーコリ(E.coli)K12ΔwcaJΔlon-lac-mod株の染色体へカナマイシン耐性カセット(kanR)を組み込むための選択を、50mg/lのカナマイシンを含有するLB寒天プレートにおいて最初に行った。次いで、組込みを、オリゴヌクレオチドsulA-check-fw(配列番号36)及びsulA-check-rv(配列番号37)並びにカナマイシン耐性細胞の染色体DNAでのPCRによって検証した。
【0086】
染色体からのカナマイシン耐性カセットの除去は、同様に、Datsenko及びWannerの手順に従って、クロラムフェニコール耐性カセットと同じ方法で行った。カナマイシン耐性カセットを除去した後に得られた株をイーコリ(E.coli)K12ΔwcaJΔlonΔsulA-lac-modと命名した。
【0087】
2’-FLの産生のために、株を適切な発現プラスミドで形質転換した(実施例2参照)。
【0088】
Hamiltonら(1989,J.Bacteriol.171(99:4617-4622))のプラスミド組込み法によるlacオペロンの改変
プロモーター、RBS及び開始コドン並びにlacY cdsを有するオペロン構造が保存されているlacオペロンlacZYAからのlacZ及びlacAの並行欠失のために、Hamiltonら(1989)によって記載された相同組換え法を使用した。
【0089】
これは、重複オリゴヌクレオチド及びwtイーコリ(E.coli)K12のゲノムDNAをマトリックスとして使用して複数のPCRを使用して、3つの線状DNA断片(PCR1:lac-1-fw+lac-2-rv(配列番号38、39)、PCR2:lac-3-fw+lac-4-rv(配列番号40、41)、PCR3:lac-5-fw+lac-6-rv(配列番号42、43))を生成し、次いでそれらを2つのさらなるポリメラーゼ連鎖反応によって重複領域に基づいて融合することによって行った。このために、PCR1及びPCR2由来の線状DNA断片を最初にプライマーlac-1-fw(配列番号38)及びlac-4-rv(配列番号41)を用いて融合し(PCR4)、次いで、得られたDNA断片をPCR3由来のDNA断片及びオリゴヌクレオチドlac-7-fw(配列番号44)及びlac-8-rv(配列番号45)(PCR5)に連結した。最終的な線状DNA断片は、lacA cds、lacY cdsの下流に515bpの相同領域、及びlacZの上流に535bpの相同領域を含み、断片は各末端でBamHI切断部位に隣接していた。
【0090】
このようにして得られたDNA断片を温度感受性ベクターpMAK700(Hamilton et al.,1989,J.Bacteriol.171(99:4617-4622))にクローニングするために、ベクター及び線状断片の両方を制限酵素BamHIで処理し、ベクターの断片をアルカリホスファターゼ(rAPid Alkaline Phosphatase、Roche)で脱リン酸化し、ゲル電気泳動によって精製し、次いでライゲーションし、コンピテントStellarイーコリ(E.coli)細胞(Takara、滋賀、日本)の形質転換のために使用した。プラスミド含有細胞のための選択は、クロラムフェニコールを含むLB寒天におけるプラスミドコード化クロラムフェニコール耐性遺伝子に基づいて行った。プラスミドはまた、30℃でのみ可能であるが42℃では不可能なプラスミドの複製をもたらす温度感受性(ts)複製の起点(ori)を含有するので、細胞を30℃でインキュベートした。
【0091】
lacオペロンを改変するために、イーコリ(E.coli)K12ΔwcaJΔlon株(上記参照)を、ベクターpMAK700-lac-modで、30℃で形質転換した。クロラムフェニコール耐性クローンをクロラムフェニコールを含むLB培地で30℃で培養した後、培養物をクロラムフェニコールを含むLB寒天に蒔き、42℃で一晩インキュベートした。これにより、lacAの下流及びlacZの上流の隣接する相同領域の結果として、完全なtsプラスミドを染色体に組み込んだクローンの選択が可能になり、したがって高温でクロラムフェニコール耐性を発達させることもできる。そのようなクローンを単離し、オリゴマーpMAK-fw(配列番号46)及びlac-9-rv(配列番号47)で、又はlac-10-fw(配列番号48)及びpMAK-rv(配列番号49)で、コントロールPCRによる正しいプラスミド組込みについて確認した。プラスミドの一方のプライマー(pMAK-fw/pMAK-rv)及び染色体の他方のプライマー(lac-9-rv/lac-10-fw)は相同結合を受けることができるので、対応する線状DNA断片は正しいプラスミドの組込みの場合にのみ形成された。組込んだ株をイーコリ(E.coli)K12ΔwcaJΔlon::pMAK700-lac-modと命名した。
【0092】
ゲノムからプラスミドを除去するためには、2回目の組換えを行う必要があった。これをどのように行ったかに応じて、株の2つのゲノム変異体が得られた。第1の場合、プラスミドは「in」の組換えと同じ方法で組み換えられ、再び野生型をもたらした。別法として、改変された遺伝子座がゲノムに残り、野生型遺伝子座を有するプラスミドが放出されるようにプラスミドを組み換えた。ゲノムからプラスミドを分解するために、イーコリ(E.coli)12ΔwcaJΔlon::pMAK700-lac-modを、クロラムフェニコールを含むLB培地で42℃で4時間、次いでクロラムフェニコールを含まないLB培地で30℃でインキュベートし、複数回継代した。このプロセスの結果、一部の細胞は、順次ゲノムからのプラスミドの「アウト」の組換えをもたらし、選択圧の欠如のためにプラスミドを失うことが可能であった。
【0093】
個々のクローンを単離するために、培養物の希釈物をLB寒天に蒔き、30℃でインキュベートした。プラスミドがクローン中で失われたかどうかを確認するために、これらをクロラムフェニコールでLB寒天に画線接種した。最終的に、クロラムフェニコール感受性クローンを、プライマーlac-11-fw(配列番号50)及びlac-12-rv(配列番号51)でのPCR及び配列決定によって、所望の遺伝子改変について確認した。得られた株をイーコリ(E.coli)K12ΔwcaJΔlon-lac-modと命名した。
【0094】
[実施例2]
2-フコシルラクトースの発酵での産生のためのフコシルトランスフェラーゼfutC、futC*、futL、ハイブリッド、及び短縮型変異体のcdsのクローニング
発現ベクターの調製:
使用した発現ベクターはpWC1であった。これは低コピープラスミドである。pWC1は、pACYCの複製の起点に基づいて、細胞あたり約10コピーで、細胞に存在する。プラスミドのマップを図1に示し、配列番号1に示されている配列を示し、慣用的な制限酵素(6塩基認識配列を有する)の位置を、プラスミドマップに示す。
【0095】
このプラスミドに、それぞれの酵素のコード配列(cds)を、ラクトース及びIPTG誘導性プロモーターptacの制御下に置いた。ベクターは、酵素EcoRI及びXbaIの制限部位を含む。これらの酵素でプラスミドを処理すると、とりわけ4799bpの大きな断片が形成される。これをアガロースゲル電気泳動(QIAquick(R)Gel Extraction Kit、Quiagen)によって単離し、アルカリホスファターゼ(rAPid Alkaline Phosphatase、Roche)で処理して再ライゲーションを回避した。このベクター断片を、種々のフコシルトランスフェラーゼのクローニングに使用した。
【0096】
futC、futC*、futL用のcdsのクローニング
イーコリ(E.coli)の最適なコドン使用のために改変されたフコシルトランスフェラーゼfutC(配列番号2)及びfutC*(配列番号6)のcdsは、GeneArt(Thermo Fisher、レーゲンスブルク)によって合成され、futL(配列番号4)はGenewiz(ライプツィヒ)によって合成された。futC及びfutC*をコードするcdsを、プライマー対futC/futC*-fw(配列番号20)及びfutC/futC*-rv(配列番号21)との2つの別々の混合物において、標準条件下でPCR増幅し、futLをコードするcdsを、プライマー対futL-fw(配列番号22)及びfutL-rv(配列番号23)との第3の混合物において増幅し、それらはEcoRI又はXbaI切断部位の導入に使用された。futC cds及びfutC*cdsの実質的な相同性のために、これらの構築物の両方に1つのプライマー対(futC/futC*-fw及びfutC/futC*-rv)を使用することが可能であった。
【0097】
その後、対応するPCR産物を同様に制限酵素EcoRI及びXbaIで処理し、次いで、それぞれをリガーゼ混合物の富化させた脱リン酸化ベクター断片と合わせた。次いで、標準的な方法を使用して、ライゲーション混合物をコンピテントStellarイーコリ(E.coli)細胞(Takara、滋賀、日本)に形質転換した。首尾よくライゲーションされたプラスミドを有する単一のコロニーを、テトラサイクリン耐性によって選択した。これらのコロニーから得たいくつかのプラスミドを制限パターン及び配列決定によって分析した。最後に、産生実験又はさらなるクローニングのために、正しいプラスミドを使用した。得られたプラスミドは、pWC1-futC、pWC1-futC*及びpWC1-futLであった。
【0098】
ScaI制限切断部位のfutL cdsへの導入:
まず、futL発現プラスミド全体をPCRで増幅した。ここでのプライマーは、futL(配列番号4)のcdsに新しい制限切断部位(ScaI)を含んでいた。目的は、アミノ酸配列を変更することなく、フコシルトランスフェラーゼの2つの酵素ドメイン間のリンカー配列に制限切断部位を導入することであった。次いで、3つの制限部位(EcoRI、ScaI、及びXbaI)によって、2つのドメインを任意の所望の代替ドメインと交換することが可能であった。PCR反応には、上記の発現ベクターpWC1-futLをマトリックスとして用いた。使用したプライマーは、futL-Sca-fw(配列番号52)及びfutL-Sca-rv(配列番号53)であった。
【0099】
PCR反応の終了時に、プラスミドDNAをクロマトグラフィーで精製した後、制限酵素DpnI(10ユニット、NEB)を添加して、メチル化マトリックスDNAを混合物から除去した。DpnI混合物を37℃で1時間インキュベートした。これに続いて、DNAのクロマトグラフィー精製(Macherey&Nagel:NucleoSpin(R)Gel及びPCR Clean-up-Kit)及びコンピテントStellarイーコリ(E.coli)細胞への形質転換(Takara、滋賀、日本)を行った。陽性クローンの選択を上記のように行った。ベクターをpWC1-futL(ScaI)と命名した。
【0100】
融合タンパク質futL/futC*、futC*/futL及びfutC/futLのcdsのクローニング:
ハイブリッド酵素のクローニングのために、プラスミドpWC1-futL(ScaI)を制限酵素ScaI及びXbaIで処理した。約5243bpのベクターバックボーン断片が、futL cds(配列番号4)のN末端部分を含んでいる。この断片を脱リン酸化し、アガロースゲル電気泳動によって富化した。
【0101】
これと並行して、プライマーC-futC*-fw及びC-futC*-rv(配列番号54、55)、またベクターpWC-1-futC*を、マトリックスとしてPCRを行った。PCR産物は、主にfutC*(配列番号6)のC末端ドメインからなっていた。
【0102】
PCR反応の終了時に、DNAを制限酵素ScaI及びXbaIで処理し、クロマトグラフィーにより精製し、次いで、プラスミド断片と共にライゲーション混合物において使用した。次いで、標準的な方法を使用してライゲーション混合物をコンピテントStellarイーコリ(E.coli)細胞(Takara、滋賀、日本)に形質転換した。首尾よくライゲーションされたプラスミドを有する単一のコロニーを、テトラサイクリン耐性によって選択した。これらのコロニーから得たいくつかのプラスミドを制限パターン及び配列決定によって分析した。最後に、産生実験又はさらなるクローニングのために、正しいプラスミドを使用した。
【0103】
得られたプラスミドをpWC1-futL/futC*と命名した。
【0104】
同様に、futC*/futLハイブリッド(配列番号8(DNA)/配列番号9(PRT))を作製するために、制限酵素EcoRI及びScaIで処理することによって、ベクターpWC1-futL(ScaI)を調製した。ここでの約5240bpのベクター断片は、futL cds(配列番号4)のC末端ドメインを含有していた。
【0105】
先のハイブリッドクローニングと同様に、futC*cds(配列番号6)のN末端ドメインをPCRによって増幅した。ベクターpWC1-futC*は再び鋳型として機能し、使用したプライマー対は(N-futC*-fw(配列番号56)及びN-futC*-rv(配列番号57)であった。
【0106】
脱リン酸化及び富化後に、ベクター断片を、制限酵素(EcoRI/ScaI)で処理して同様に富化したPCR産物とライゲーションし、標準的な方法を用いて混合物をコンピテントStellarイーコリ(E.coli)細胞(Takara、滋賀、日本)に形質転換した。所望のハイブリッドプラスミドを上記のように単離した。得られたプラスミドをpWC1-futC*/futLと命名した。
【0107】
同様に、ハイブリッド構築物futC/futL(配列番号12(DNA)/配列番号13(PRT))をベクターpWC1-futL(ScaI)からクローニングした。
【0108】
上記のようにして、futL cdsのC末端部分でベクター断片を生成し、後述のようにPCR産物を生成し、さらに二者を上記のように処理してライゲーションした。PCRに使用したマトリックスは、futC(配列番号2)用のcdsを含むベクターpWC1-futCであり、使用したプライマー対は、N-futC*-fw(配列番号56)及びN-futC*-rv(配列番号57)であった。
【0109】
得られたプラスミドをpWC1-futC/futLと命名した。
【0110】
rcsAを用いたフコシルトランスフェラーゼ発現プラスミドのクローニング
イーコリ(E.coli)における活性化フコース(GDP-フコース)のデノボ合成を増加させるために、最適化されたシャイン-ダルガルノ配列(AGGAGGU;SDS)、続いてRcsA(配列番号18)に対するイーコリ(E.coli)内在性cdsを、フコシルトランスフェラーゼを含むオペロンのそれぞれのフコシルトランスフェラーゼのcdsのC末端に直接クローニングした。このために、NheI又はXbaI切断部位を導入するために使用されたプライマーrcsA-fw(配列番号24)及びrcsA-rv(配列番号25)を使用して、rcsAからcdsを増幅した。イーコリ(E.coli)K12のゲノムDNAがマトリックスとして機能した。
【0111】
フコシルトランスフェラーゼ発現ベクターのクローニングと同様に、後者、すなわちpWC1-futL、pWC1-futC、pWC1-futC*、pWC1-futL/futC*、pWC1-futC*/futL、及びpWC1-futC/futLをそれぞれ制限酵素XbaIで処理し、脱リン酸化し、アガロースゲル電気泳動により富化した。rcsA PCR産物を制限酵素NheI及びXbaIで処理した。これに続いて、DNAのクロマトグラフィー精製(Macherey&Nagel:NucleoSpin(R)Gel及びPCR Clean-up-Kit)を行った。ライゲーション混合物については、それぞれの富化させた脱リン酸化ベクター断片を、富化させたPCR産物と合わせた。次いで、標準的な方法を使用して、ライゲーション混合物を、コンピテントStellarイーコリ(E.coli)細胞(Takara、滋賀、日本)に形質転換した。首尾よくライゲーションされたプラスミドを有する単一のコロニーを、テトラサイクリン耐性によって選択した。これらのコロニーから得たいくつかのプラスミドを制限パターン及び配列決定によって分析した。最後に、正しいプラスミド(pWC1-futC*-rcsA、pWC1-futC-rcsA、pWC1-futL-rcsA、pWC1-futC*/futL-rcsA、pWC1-futL/futC*-rcsA、pWC1-futC/futL-rcsA)を産生実験又はさらなるクローニングのために使用した。
【0112】
短縮されたfutC*/futL変異体のクローニング:
8aa短縮されたfutC*/futL変異体futC*/futL(Δ8aa)のクローニングのために、別個のPCRにおいて、pWC1-fuc*/futLに基づくfutC*/futLハイブリッド(配列番号8)のcdsを、最初にプライマーfutC*-short-fw(配列番号58)及びfutC*-short8-rv(配列番号59)を用いて増幅し、rcsA(配列番号18)については、プライマーrcsA-2-fw(配列番号60)及びrcsA-2-rv(配列番号61)を用いて増幅したpWC1-futC-rcsAに基づくcdsを用いて増幅した。次いで、末端相同オリゴヌクレオチドfutC*-short8-rv(配列番号59)及びrcsA-2-fw(配列番号60)を使用して、得られた線状DNA断片をさらなるPCRでプライマーfutC*-short-fw(配列番号58)及びrcsA-2-rv(配列番号61)と融合させた。最終的な線状DNA断片は、EcoRI切断部位、futC*/futLのcds(Δ8aa)(配列番号14)、RBS、rcsAのcds及びXbaI切断部位を含んでいた。
【0113】
15aa短くされたfutC*/futL変異体futC*/futL(Δ15aa)についての線状DNA断片を同じ方法でクローニングしたが、futC*-short8-rv(配列番号59)の代わりにオリゴヌクレオチドfutC*-short15-rv(配列番号62)、rcsA-2-fw(配列番号60)の代わりにrcsA-3-fw(配列番号63)を用いた。最終的な線状DNA断片は、EcoRI切断部位、futC*/futLのcds(Δ15aa)(配列番号16)、RBS、rcsAのcds及びXbaI切断部位を含んでいた。
【0114】
最後に、両方の線状DNA断片をEcoRI及びXbaIで処理し、次いで、富化された脱リン酸化ベクター断片(EcoRI及びXbaIで切断したpWC1、上記参照)でそれぞれライゲーションし、コンピテントStellarイーコリ(E.coli)細胞(Takara、滋賀、日本)を形質転換した。ライゲーションされたプラスミドの単一コロニーを、導入されたテトラサイクリン耐性に基づいて選択した。フコシルトランスフェラーゼ活性を実証するために2’-FL産生実験で使用する前に、プラスミドを制限パターン及び配列決定によって分析した。プラスミドpWC1-futC*/futL(Δ8aa)-rcsA及びpWC1-futC*/futL(Δ15aa)-rcsAを得た。
【0115】
[実施例3]
1Lの発酵槽における2-フコシルラクトース及びジフコシルラクトースの発酵産生に対する異なるフコシルラクトーストランスフェラーゼの影響
300mLのバッフル付き三角フラスコの30mL中のLB培地(ペプトン3%、酵母エキス0.5%、NaCl0.5%)を、接種ループを使用して、実施例2から得たそれぞれの産生プラスミド(pWC1-futL-rcsA、pWC1-futC-rcsA、pWC1-futC*-rcsA、pWC1-futC/futL-rcsA、pWC1-futC*/futL-rcsA、pWC1-futL/futC*-rcsA、pWC1-futC*/futL(Δ8aa)-rcsA、pWC1-futC*/futL(Δ15aa)-rcsA)で形質転換された実施例1から得た産生株イーコリ(E.coli)K12ΔwcaJΔlonΔsulA-lac-modの単一クローンを、予め播種した高密度に覆われたLB寒天プレートから接種した。細菌シェーカー(145rpm、30℃)中で4.5~5時間インキュベートした後、OD600は1.5~3.0であった(OD600は600nmで分光光度的に決定された光学密度を指す)。Sartorius製のBiostat B-DCU研究発酵槽における発酵のために、6~13mlの前培養物を、各々の場合において、発酵槽の最初に装入された培地に移した。接種後の初期の体積は約1Lであった。
【0116】
発酵培地は以下の成分を含有していた:1g/lのNaCl、150mg/lのFeSO・7HO、2g/lのクエン酸三ナトリウム二水和物、10g/lのKHPO、5g/lの(NHSO、1.5g/lのHighExpress II(Kerry)、1.0g/lのAmisoy(Kerry)、0.5g/lのHy-Yeast 412(Kerry)、及び10ml/lの微量元素溶液(発酵槽にこれらの成分のHO溶液を最初に装入し、これを121℃で20分間オートクレーブ処理した)。微量元素溶液は、150mg/lのNaMoO・2HO、300mg/lのHBO、200mg/lのCoCl・6HO、250mg/lのCuSO・5HO、1.6g/lのMnCl・4HO及び1.35g/lのZnSO・7HOで構成されていた。25%のNHOH溶液中でポンプ輸送することによって、培地のpHを6.8に調整した。次いで、これに、適切なストック溶液から15g/lのグルコース、1、2g/lのMgSO・7HO、225mg/lのCaCl・2HO、5mg/lのビタミンB1、及び20mg/lのテトラサイクリンを滅菌条件下で添加し、その後、接種材料を振盪フラスコから発酵槽に移した。
【0117】
発酵させている間、培養物を400~1500rpmで撹拌し、滅菌微生物フィルターを介して供給される一定の2slpmの空気を通気した。撹拌速度を調整することによって酸素分圧を50%に維持した。指数期の後期では、培養液中のO分圧について所望の公称値50%を確保するために、純粋なOの供給空気を32%のO含有量まで富化する必要があった。25%のNHOH溶液又は20%のHPO溶液による自動補正によってpHを6.8に維持した。温度は最初は30℃であり、誘導の30分前に30分間かけて30℃から25℃に徐々に低下させた。次いで、発酵の終了(65時間)まで温度を25℃に維持した。過剰な発泡は、自動的に制御される消泡剤の添加によって防止された(Struktol J673、Schill&Seilnacher、HO中10%(v/v))。
【0118】
発酵の段階に応じて、グルコース及びラクトースを、2つの別個の(無菌)供給液を介して添加した。グルコース含有量は、YSIのグルコースアナライザーを用いて判定した。接種からの第1段階では、最初に装入した培地のグルコースを消費した。発酵開始から約10時間後に開始する第2段階では、グルコース濃度0g/lで、培養物に無制限のグルコースの供給をする目的で、培養物に添加剤(660.2g/kgのグルコース一水和物(Biesterfeld-Spezialchemie)、5g/lのストック溶液からの2.5g/kgのビタミンB1、147g/lのストック溶液からの3.65g/kgのCaCl・2HO、240g/lのストック溶液からの12.31g/kgのMgSO7・HO、4.04g/kgの微量元素溶液(上記参照)及び317.3g/kgの脱塩水)を含む60%(w/w)グルコース供給溶液を、連続的に供給した。継続したグルコースの供給の完全な消費を特徴とする第3段階では、グルコースの供給の継続した添加は、接種後約18.5時間で、発酵の終了(65時間)まで一定の9.2g/L/hまで減少し、それぞれの1,2-フコシルトランスフェラーゼ及びrcsAの発現は、0.25mMのIPTGの添加によって誘導された。それに並行して、第3段階の開始時に、20g/lのラクトースを、737g/kgの脱塩HOに溶解した25%(w/w)ラクトース溶液(263g/kgのα-D-ラクトース一水和物(abcr))からバッチとして添加し、次いで発酵の終了まで維持した4g/l/hの25%(w/w)ラクトース溶液で継続的に供給した。したがって、出発体積1Lに基づいて合計65g/lのラクトースを添加した。
【0119】
2’-FLの発酵産生のための代替混合物(混合物2)では、誘導開始の30分前、温度を30分間かけて徐々に27℃に下げ、誘導時に30g/lのラクトースをバッチとして添加し、発酵の終了まで維持した5g/l/hの25%(w/w)ラクトース溶液を継続的に供給した。これは、1Lの初期体積に基づいて合計86g/lのラクトースに相当した。
【0120】
65時間後の培地の2’-FL、3’-FL、DFL及びラクトース含有量を、実施例4に記載されているように試料の無細胞の上清からクロマトグラフィーにより判定し、表1にg/lでまとめた。
【0121】
表1:2’-FL及びDFLの収率に関する異なるフコシルトランスフェラーゼ活性の比較。
【0122】
【表1】
【0123】
[実施例4]
2-フコシルラクトースの発酵産生のHPLC分析
培地中の2’-FL、3’-FL、DFL及びラクトース含有量のクロマトグラフィーでの判定のために、培養ブロス1mlを発酵後65時間、ベンチトップ遠心分離機において13000rpmで5分間遠心分離し、透明な上清を脱塩水で1:2から1:5に希釈した。次いで、300μlの希釈物を、0.2μmのシリンジフィルターを使用してHPLCリザーバー容器に濾過した。
【0124】
分析物の分離のために、TSKgelアミド-80カラム(Tosoh Bioscience、250mm×4.6mm;粒径5μm)及び対応するガードカラム(TSKgel Guardgel amide-80、Tosoh Bioscience、15mm×3.2mm)を、以下のモジュール、バイナリポンプ、脱気装置、オートサンプラー、サーモスタット式カラムオーブン、1260RI検出器を有するAgilent 1200/1260 HPLCシステムにおいて使用した。カラム用オーブンの温度は30℃であった。使用した溶離液は、HO(30%)及びアセトニトリル(70%)の脱気混合物であった。カラムの平衡化後、調製した試料を15℃に冷却したオートサンプラーから10μlずつ注入した。次いで、溶出を1ml/分の流量で25分間アイソクラティックに実行した。検出には、Bruker Daltonics製のRI検出器(温度35℃)及びQ-TOF Impact II質量分析計を使用した。
【0125】
標準溶液の保持時間(2’-FL:15.4分、3’-FL:17.3分;DFL:22.3分;ラクトース:12.2分)に基づいて、分析物にピークを割り当てた。g/l単位での分析物の濃度は、それぞれの希釈を考慮して、ピーク面積を積分し、標準の較正線を用いて、最終的に判定した。
【0126】
[実施例5]
1L発酵槽でのジフコシルラクトースの形成を伴わない、ラクトースの2’-フコシルラクトースへの完全なフコシル化。
【0127】
実施例3で前述したように、混合物2、futC*/futLに相同な融合タンパク質をコードする産生プラスミドの産生株イーコリ(E.coli)K12ΔwcaJΔlonΔsulA-lac-modを形質転換し、発酵させた。実施例3から逸脱して、ラクトースの供給は65時間後に終了したが、グルコースの継続的な添加は維持した。88時間後、発酵を終了し、前と同様に、培養上清に存在する糖をHPLCによって判定した。0g/lのDFL及び0g/lの残存ラクトースと共に67g/lの2’-FLを形成することは、融合タンパク質が、副産生物DFLの形成なしにラクトースの2’-FLへの完全な変換を達成することができることを示し、これは、ラクトース及びジフコシルラクトースを除去するための処理工程がその後の後処理の間に必要とされないことを意味する。
【0128】
略語
aa:アミノ酸
ΔZaa:Zアミノ酸の欠失、Zは欠失アミノ酸の数を示す
OD600:波長600nmにおける光学密度
RBS:リボソーム結合部位
FT:フコシルトランスフェラーゼ
GT:グリコシルトランスフェラーゼ
nRIU:ナノ屈折率単位
【0129】
発酵後の上清のHPLC分析は、FutC*/FutLに相同な酵素を使用して、2’-FL及び-存在する場合-DFLの産生、並びに残留ラクトースを示す。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
2024528213000001.app
【手続補正書】
【提出日】2024-03-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
融合タンパク質であることを特徴とする酵素であって、
(i)配列番号7の少なくともアミノ酸1~129、又はそれに対して少なくとも80%同一のアミノ酸配列をN末端ドメインとして含み、及び、
ii)配列番号5の少なくともアミノ酸155~286、又はそれに対して少なくとも80%同一のアミノ酸配列をC末端ドメインとして含み、
フコシルトランスフェラーゼ活性を有し、
前記N末端ドメイン及び前記C末端ドメインは、2つの異なるフコシルトランスフェラーゼに由来する、酵素。
【請求項2】
融合タンパク質のN末端及びC末端ドメインのアミノ酸配列が、微生物の配列又はそれに対して相同な配列であることを特徴とする、請求項1に記載の酵素。
【請求項3】
融合タンパク質のN末端及びC末端ドメインのアミノ酸配列が、ヘリコバクター属の配列又はそれに対して相同な配列であることを特徴とする、請求項1及び2の一項以上に記載の酵素。
【請求項4】
融合タンパク質のN末端ドメインのアミノ酸配列が、配列番号7のアミノ酸1~148又はそれに対して少なくとも80%同一のアミノ酸配列であることを特徴とする、請求項1~の一項以上に記載の酵素。
【請求項5】
C末端ドメインが、
配列番号5の少なくともアミノ酸155~286、又はそれに対して少なくとも80%同一のアミノ酸配列を含むことを特徴とする、請求項1~の一項以上に記載の酵素。
【請求項6】
融合タンパク質のC末端ドメインのアミノ酸配列が、配列番号5のアミノ酸142~286又はそれに対して少なくとも80%同一のアミノ酸配列であることを特徴とする、請求項1~の一項以上に記載の酵素。
【請求項7】
前記融合タンパク質が、配列番号9、配列番号13、配列番号15、又はそれに対して少なくとも80%同一のアミノ酸配列であることを特徴とする、請求項1~の一項以上に記載の酵素。
【請求項8】
請求項1~7の一項以上に記載の少なくとも1つの酵素と反応するグルコース、グリセロール、スクロース、フコース並びにGDP-、ADP-、CDP-及びTDP-フコースからなる物質の群より選択される少なくとも1つの物質の存在下、反応混合物にラクトースが存在することを特徴とする、2’-フコシルラクトースの製造方法。
【請求項9】
ラクトースが、5%を超えるDFLが形成されることなく完全に変換されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項10】
反応混合物が、酵素を組換え発現する微生物の培養物であることを特徴とする、請求項8及び9の一項以上に記載の方法。
【請求項11】
2’-フコシルラクトースが、培養上清から単離されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも4%多い2’-フコシルラクトースが、融合タンパク質に1つのドメインが含まれる融合されていない野生型酵素よりも前記融合タンパク質によって形成されることを特徴とする、請求項8~11の一項以上に記載の方法。
【請求項13】
反応において少なくとも47g/lの2’-フコシルラクトースが形成されることを特徴とする、請求項8~12の一項以上に記載の方法。
【請求項14】
反応において1g/l未満、及びより好ましくは0g/lのジフコシルラクトースが形成されることを特徴とする、請求項8~13の一項以上に記載の方法。
【国際調査報告】