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特表2024-528257緑内障の治療のための粘膜付着性眼送達システム
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  • 特表-緑内障の治療のための粘膜付着性眼送達システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】緑内障の治療のための粘膜付着性眼送達システム
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240719BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240719BHJP
   A61K 9/00 20060101ALI20240719BHJP
   A61K 31/5575 20060101ALI20240719BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20240719BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240719BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240719BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240719BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20240719BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240719BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240719BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240719BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240719BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20240719BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20240719BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K47/36
A61K9/00
A61K31/5575
A61K31/5377
A61K47/32
A61K47/38
A61K47/10
A61K47/40
A61K47/26
A61K47/12
A61K47/02
A61K47/14
A61K47/20
A61K47/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506895
(86)(22)【出願日】2022-08-03
(85)【翻訳文提出日】2024-04-01
(86)【国際出願番号】 EP2022071870
(87)【国際公開番号】W WO2023012239
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】21306084.1
(32)【優先日】2021-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522314027
【氏名又は名称】バイオアドヒーシブ オフサルミクス
(71)【出願人】
【識別番号】524045529
【氏名又は名称】ユニバーシティ デ ロライン
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】キュイン,ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ビゼー,ボリス
(72)【発明者】
【氏名】ラレマンド,フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】ガレック,ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ジボー,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】サピン―ミネ,アン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA71
4C076AA95
4C076AA99
4C076BB24
4C076CC10
4C076DD23
4C076DD26
4C076DD29
4C076DD38
4C076DD41
4C076DD45
4C076DD46
4C076DD55
4C076DD67
4C076EE06
4C076EE09
4C076EE13
4C076EE16
4C076EE23
4C076EE30
4C076EE31
4C076EE32
4C076EE37
4C076EE39
4C076EE41
4C076FF31
4C084AA17
4C084MA11
4C084MA58
4C084NA12
4C084NA13
4C084ZA33
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC73
4C086DA02
4C086GA10
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA11
4C086MA58
4C086NA12
4C086NA13
4C086ZA33
(57)【要約】
本発明は、緑内障の治療に有用な眼送達システムに関する。特に、本発明は、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーのマトリックスと、1以上の抗緑内障薬を含む粘膜付着性の眼インサートを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘膜付着性の固体又は半固体の眼送達システムであって、
-1以上の抗緑内障薬;及び
-2-ニコチン酸-ジスルフィド基、6-ニコチン酸-ジスルフィド基、2-ニコチンアミド-ジスルフィド基、2-イソニコチンアミド-ジスルフィド基、6-ニコチンアミド-ジスルフィド基、6-イソニコチンアミド-ジスルフィド基、及び6-ピリドキシン-ジスルフィド基から選択される基を含む共有結合された側鎖を持つヒアルロン酸骨格を有するポリマー化合物から選択されるヒアルロン酸の少なくとも1つのプレ活性化されたチオマーであって、100kDa~1200kDaの範囲の分子量を有する、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマー
を含む、粘膜付着性の固体又は半固体の眼送達システム。
【請求項2】
眼インサート又は眼フィルムである、請求項1に記載の眼送達システム。
【請求項3】
前記ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーの側鎖が、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-システインジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-ホモシステインジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-システアミンジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-N-アセチルシステインジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-チオグリコール酸ジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-3-チオプロピオン酸ジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-4-チオブタン酸ジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-メルカプト安息香酸ジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-メルカプトニコチン酸ジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-グルタチオンジスルフィド、及び
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-メルカプトアニリンジスルフィド
から選択され;
前記側鎖は、アミド又はエステル結合を介してヒアルロン酸骨格に独立して付着されている、請求項1又は請求項2に記載の眼送達システム。
【請求項4】
前記ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーが、ポリマー1グラム当たり10μmol~1350μmol、好ましくはポリマー1グラム当たり100μmol~1350μmolのメルカプトニコチン酸、メルカプトニコチンアミド、メルカプトイソニコチンアミド又はメルカプトピリドキシンの部分構造を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の眼送達システム。
【請求項5】
プレ活性化されないチオマー、好ましくはヒアルロン酸のプレ活性化されないチオマーをさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の眼送達システム。
【請求項6】
前記プレ活性化されないチオマーが、イミノチオラン、5,5'-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)、ジチオビス(プロパン酸ジヒドラジド)、ジチオビス(酪酸ジヒドラジド)、3-(2-ピリジルジチオ)プロピオニルヒドラジド、ジチオトレイトール、エチレンスルフィド、チオグリコール酸、3-チオプロピオン酸、4-チオブタン酸、メルカプト安息香酸、メルカプトニコチン酸、グルタチオン、及びガンマ-チオブチロラクトンを用いる反応によりチオール化されるシステイン、ホモシステイン、N-アセチルシステイン、システインエチルエステル、システアミン、メルカプトアニリン、アジピン酸ジヒドラジドから選択される共有結合されたチオール化側鎖を持つヒアルロン酸骨格を有するポリマー化合物から選択され;前記側鎖は、アミド、エーテル又はエステル結合を介してヒアルロン酸骨格に独立して付着されている、請求項5に記載の眼送達システム。
【請求項7】
前記ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーが、及び/又は存在する場合、前記プレ活性化されないチオマーが、架橋されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の眼送達システム。
【請求項8】
前記抗緑内障薬が、プロスタグランジン類似体、コリン作用薬、ベータ遮断薬、アルファアドレナリン作動薬、炭酸脱水酵素阻害剤、Rhoキナーゼ阻害剤、NO供与剤及びそれらの組み合わせから選択される眼圧(IOP)降下剤である、請求項1~7のいずれか一項に記載の眼送達システム。
【請求項9】
前記抗緑内障薬が、ラタノプロスト、ビマトプロスト、トラボプロスト、タフルプロスト、ラタノプロステンブノド、ピロカルピン、エコチオフェート、カルバコール、チモロール、ナドロール、カルテオロール、レボブノロール、メチプラノロール、ベタキソロール、ブリモニジン、アプラクロニジン、ドルゾラミド、ブリンゾラミド、アセタゾラミド、メタゾールアミド、及びネタルスジルから選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の眼送達システム。
【請求項10】
2種類の抗緑内障薬を含み、一方はプロスタグランジン類似体であり、他方はベータ遮断薬であり、好ましくはビマトプロスト及びチモロールである、請求項1~9のいずれか一項に記載の眼送達システム。
【請求項11】
1以上の医薬的に許容される賦形剤をさらに含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の眼送達システム。
【請求項12】
前記賦形剤が、増粘剤、ゲル化剤、可塑剤、可溶化剤、安定化剤、浸透促進剤、希釈剤、結合剤、滑剤、チャネリング剤、滑沢剤及び修飾放出剤から選択される、請求項11に記載の眼送達システム。
【請求項13】
前記賦形剤が、高分子量架橋ポリアクリル酸ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(ポビドンとも呼ばれる)、セルロース、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロースとも呼ばれる)、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、グリセロール、シクロデキストリン、その還元型のグルタチオン、ソルビトール、トレハロース、キシリトール、マンニトール、糖類及びそれらの誘導体、スクロース、ラクトース、多糖類及びそれらの誘導体、ステアリン酸マグネシウム、二塩基性リン酸カルシウム、コロイド状二酸化ケイ素、塩化ナトリウム、ステアリン酸ポリオキシエチレン、ラウリル硫酸塩、水添ココモノグリセリド、水添ココモノグリセリドジグリセリド及び水添ココモノグリセリドトリグリセリド、ベヘン酸グリセリル、ステアリン酸、パルミトステアリン酸グリセリル、ジベヘン酸グリセリル、ジステアリン酸グリセリル、メタクリル酸アンモニウムコポリマー(タイプA)、ポリ酢酸ビニル-ポビドンコポリマー、及びポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーから選択される、請求項11又は12に記載の眼送達システム。
【請求項14】
-前記送達システムの総重量の0.01重量%~50重量%(w/w)の1以上の抗緑内障薬;
-5%~80%w/wのヒアルロン酸の少なくとも1種のプレ活性化されたチオマー;
-0%~89.99%w/wのヒアルロン酸のプレ活性化されないチオマー;及び
-0%~94.99%w/wの1以上の医薬的に許容される賦形剤
を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の眼送達システム。
【請求項15】
それを必要とする対象における緑内障の治療における使用のための、請求項1~14のいずれか一項に記載の眼送達システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、眼科用製剤の分野に関し、緑内障の治療に有用な眼送達システムに関する。特に、本発明は、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーのマトリックスと、1以上の抗緑内障薬とを含む粘膜付着性の眼インサートを提供する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
緑内障は、視神経を損傷させ視力低下を引き起こす可能性がある、眼の病態のグループである。この損傷は、眼内の異常な高圧により引き起こされる場合が多い。最も一般的なタイプは、開放隅角緑内障であり、それは、経時的にゆっくりと発症し、最初に周辺視力が低下し、中央視力喪失が続き、処置をしないと失明をもたらす。緑内障に起因する視力喪失は、一度発生すると、恒久的である。早期に治療すると、疾患進行を減速及び停止させることができる。緑内障の治療は、投薬、レーザー治療、又は手術により達成できる。
【0003】
緑内障の薬は、神経をさらに損傷させる可能性があるレベル以下に眼圧(IOP)を低下させることにより、視覚機能を維持することを目的とする。プロスタグランジン類似体、コリン作用薬、ベータ遮断薬、アルファアドレナリン作動薬、炭酸脱水酵素阻害剤、Rhoキナーゼ阻害剤及びNO供与剤などの、異なるクラスのIOP降下剤を使用できる。抗緑内障薬は通常、点眼薬の形態で投与され、患者の残りの生涯にわたり投与される必要がある。
【0004】
緑内障の薬の主要問題の1つはそのため、必要な毎日の点眼による患者のコンプライアンスである。さらに、組成物中の保存剤の存在は、刺激性であり、かつドライアイをもたらし得る。
【0005】
局所的な眼投与の別の問題は、長期の間に作用の部位で十分な量の活性物質を獲得し、維持すること、および正確な用量の活性物質を送達することである。水性点眼薬は、点眼後に迅速に排出してしまう欠点を示し、不十分な生物学的利用能をもたらす。さらに、いくつかの抗緑内障薬は、水に溶けにくい疎水性分子である。
【0006】
点眼薬の様々な代替品が、例えばエマルジョン、in situのゲル化ポリマー、ミクロスフェア、ナノ粒子、リポソーム又は眼インサートを使用するなど、眼科薬を最適化するために利用可能である。
【0007】
眼インサートは、眼の結膜嚢に配置される固体又は半固体の眼送達デバイスである。眼インサートは、それらが角膜前のより長い滞留期間を確実にし、かつ全身性吸収量を減少させるので、興味深い点眼薬の代替品である。例えば、米国特許公開第2015/157563号は、活性物質の制御放出のために、ポリマーマトリックス、その中に分散された抗菌剤、及び任意に他の活性物質を含む眼インサートを開示する。ポリマーマトリックスは、第2の部分に架橋されるチオール化ヒアルロン酸部分(チオール化カルボキシメチルヒアルロン酸(CMHA-S)部分など)を含み、第2の部分は、好ましくはポリ(エチレングリコール)ジアクリレート部分(PEGDA)である。メチルセルロース(MC)などの、追加の成分が、粘膜付着性を提供するために添加される。
【0008】
それにもかかわらず、眼インサートはほとんどの場合、それらが眼内の異物の感覚につながるため、患者にあまり受け入れられない。さらに、インサートが眼の周りを移動する場合、それはまた視覚を妨げ、刺激を引き起こす可能性があり、それはさらに結膜嚢からのその排出につながり、残留時間を制限する可能性がある。現在利用可能なインサートの別の欠点は、それらの溶解曲線が短すぎて、数日にわたる薬物の放出ができない可能性があることである。
【0009】
そのため、患者によって十分に許容され、数日の放出速度を有し製造するのに依然として簡単である粘膜付着性眼インサートを提供する努力がなされている。
【0010】
眼送達システムが眼の表面に配置されると、3層:脂質層、水層及びムチン層、から形成される、涙膜と最初に接触する。涙膜の下に存在するムチンはそのため、眼球送達システムを眼表面に付着させるために標的とされ得る。チオマーなどのいくつかのポリマーは、それらの粘膜付着特性について既に試験された。
【0011】
「チオール化されたポリマー」とも呼ばれるチオマーは、遊離のチオール部分を持つ側鎖を有するポリマーである(Bernkop-Schnurch A.ら, Pharm.Res.,1999,16,876-881;米国特許第7,354,600号;Bonengel S.及びBernkop-Schnurch A.,J.Controlled Release,2014,120-129)。チオマーのポリマー骨格は通常、例えばキトサン、ヒアルロン酸、ゼラチン、ポリアクリレート、セルロース誘導体、シクロデキストリン又はシリコーンなどの、生分解性ポリマーからなる。このようなポリマー骨格のチオール化は、例えばシステイン部分をカップリングすることにより行うことができる。チオマーは、粘膜を被覆するムチンのシステインに富むサブドメインと、共有結合、すなわちジスルフィド結合を形成できる。このような共有結合は、強力であり、そのため長期間にわたりチオマーを含む投薬形態の効率的な粘膜付着を確実にすることを可能にする。
【0012】
Hornofらは、点眼薬の制御放出のために、チオール化されたポリ(アクリル酸)に基づく粘膜付着性眼インサートを試験した(Hornofら,J.Controlled Release,2003,419-428)。乾燥眼インサートは、眼の結膜嚢に配置され、in situで水和して、良好な粘膜付着を示すヒドロゲルを形成する。ヒドロゲルの形態は、以前の眼インサートとは反対に、異物感をもたらさず、粘膜付着によりインサートが適所に留まることを可能にする。それにもかかわらず、そのようなチオマー眼インサートは、チオマーのチオール基の酸化を回避しそれらを還元型で維持するために、非生理学的pH(Hornofらのチオマー眼インサートでは、pH5)で保存されたままでなければならない。これは、ムチンとの相互作用に利用可能な十分な量の遊離チオール基を維持するために必須である。したがって、チオマー眼インサートの主な欠点は、それらの非生理学的pHに起因する刺激及び痛みを誘発することである。さらに、そのようなpHは、いく種類かの活性物質を担持するのに適していない可能性があり、これは、そのような条件下で安定でない。最後に、Hornofらは、試験インサートによる8時間を超える薬物放出を証明しなかった。
【0013】
そのため、有効な粘膜付着特性を有し、患者により十分に許容され、かつ数日にわたり、好ましくは2日より長い、より好ましくは3日より長い放出速度での抗緑内障薬の送達に適する、新しい固体又は半固体の眼送達システム(眼インサート及び眼フィルムを含む)が必要とされている。
【0014】
そのために、本出願者は、抗緑内障薬の送達のためのヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーのマトリックスに基づく粘膜付着性の固体又は半固体の眼送達システムを本明細書で提供する。
【0015】
プレ活性化されたチオマー、又はS保護されたチオマーは、側鎖のチオール部分が、メルカプトニコチン酸、メルカプト(イソ)ニコチンアミド又はメルカプトピリドキシンなどのビタミンB誘導体とジスルフィド結合でコンジュゲートされるチオマーである(米国特許公開第2012/0225024号)。そのようなプレ活性化されたチオマーの粘膜付着特性は、例えば、ポリ(アクリル酸)-システイン-2-メルカプトニコチン酸(Iqbal J.ら,Biomaterials,2012,33,1528-1535)で報告され、膣送達についてはヒアルロン酸-L-システイン-6-メルカプトニコチンアミド(Nowak J.,Int.J.Pharmaceutics,2015,478,383-389)で報告された。
【0016】
出願者は、WO2021/156435で初めて、少なくとも1種のプレ活性化されたチオマーで構成されるマトリックスを含む粘膜付着性の固体又は半固体の眼送達システムを提供した。それでも、出願者の知る限り、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーの使用は、抗緑内障薬の送達用の眼インサート又は眼フィルムなどの眼送達システムの製造の前には報告されていなかった。
【0017】
本発明の眼送達システムで使用されるプレ活性化されたチオマーの骨格としてのヒアルロン酸の使用は、ゲル化特性として眼の許容性、水和性及び潤滑性の観点から有利である。
【0018】
本発明の眼送達システムに使用されるヒアルロン酸のチオマーにおけるプレ活性化されたチオール基の存在は、チオマーの安定性、粘膜付着性、及び許容性を高め、そのため予想される性質を眼送達システムに提供する。本発明の送達システムは特に、刺激を生じさせることなく、適用部位における送達システムの滞留期間を延長する利点を示す。患者による治療への遵守は、点眼薬の使用と比較して、本発明の送達システムを使用する場合改善される。なぜならそれは、繰り返される点眼を回避し、それにより患者のコンプライアンスを改善するからである。さらに、送達される抗緑内障薬の治療的性能は、増加するそれらの生物学的利用能により改善される。特に、本発明の眼送達システムは、薬物の滞留期間を増加させることを可能にし、ひいては、眼への薬物の拡散を促進する。加えて、本発明の眼送達システムで使用されるチオマーは、上皮のタイトジャンクションを可逆的に開放し、ひいては、薬物の浸透を高める。それはまた、経時的な持続放出を可能にし、かつ点眼薬を使用した場合に達成され得る送達と比較して、より正確な用量の送達を可能にする。
【0019】
眼での使用に適切であるように、本発明の固体又は半固体の送達システムは、眼の配置に適合した形状及びサイズを有すること、かつ制御された膨潤による適切な水和を可能にすることなどの、いくつかの仕様に対処する必要がある。本発明の眼送達システムはまた、瞼の永久的な瞬きと組み合わされた眼球の自然な動きにより誘導される剪断運動に適合され、耐性であることも必須である。
【発明の概要】
【0020】
本発明はそのため、
-1以上の抗緑内障薬;及び
-2-ニコチン酸-ジスルフィド基、6-ニコチン酸-ジスルフィド基、2-ニコチンアミド-ジスルフィド基、2-イソニコチンアミド-ジスルフィド基、6-ニコチンアミド-ジスルフィド基、6-イソニコチンアミド-ジスルフィド基、及び6-ピリドキシン-ジスルフィド基から選択される基を含む共有結合側鎖を持つヒアルロン酸骨格を有するポリマー化合物から選択されるヒアルロン酸の少なくとも1つのプレ活性化されたチオマー
を含む粘膜付着性の固体又は半固体の眼送達システムに関し、ここでヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーは、100kDa~1200kDaの範囲の分子量を有する。
【0021】
一実施形態において、眼送達システムは、眼インサート又は眼フィルムである。
【0022】
一実施形態において、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーの側鎖は、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-システインジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-ホモシステインジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-システアミンジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-N-アセチルシステインジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-チオグリコール酸ジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-3-チオプロピオン酸ジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-4-チオブタン酸ジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-メルカプト安息香酸ジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-メルカプトニコチン酸ジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-グルタチオンジスルフィド、及び
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-メルカプトアニリンジスルフィド;
から選択され、上記側鎖は、アミド又はエステル結合を介して、独立してヒアルロン酸骨格に付着される。
【0023】
一実施形態において、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーは、ポリマー1グラム当たり10μmol~1350μmol、好ましくは100μmol~1350μmolのメルカプトニコチン酸、メルカプトニコチンアミド、メルカプトイソニコチンアミド又はメルカプトピリドキシンの部分構造を含む。
【0024】
一実施形態において、眼送達システムは、プレ活性化されないチオマー、好ましくはヒアルロン酸のプレ活性化されないチオマーをさらに含む。一実施形態において、プレ活性化されないチオマーは、イミノチオラン、5,5'-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)、ジチオビス(プロパン酸ジヒドラジド)、ジチオビス(酪酸ジヒドラジド)、3-(2-ピリジルジチオ)プロピオニルヒドラジド、ジチオトレイトール、エチレンスルフィド、チオグリコール酸、3-チオプロピオン酸、4-チオブタン酸、メルカプト安息香酸、メルカプトニコチン酸、グルタチオン、及びガンマ-チオブチロラクトンを用いる反応によってチオール化されるシステイン、ホモシステイン、N-アセチルシステイン、システインエチルエステル、システアミン、メルカプトアニリン、アジピン酸ジヒドラジドから選択される、共有結合されたチオール化側鎖を持つヒアルロン酸骨格を有するポリマー化合物から選択され、上記側鎖は、アミド、エーテル又はエステル結合を介して、独立してヒアルロン酸骨格に付着される。
【0025】
一実施形態において、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーは、及び/又は存在する場合プレ活性化されないチオマーは、架橋される。
【0026】
一実施形態において、抗緑内障薬は、プロスタグランジン類似体、コリン作用薬、ベータ遮断薬、アルファアドレナリン作動薬、炭酸脱水酵素阻害剤、Rhoキナーゼ阻害剤、NO供与剤及びそれらの組み合わせから選択される眼圧(IOP)降下剤である。一実施形態において、抗緑内障薬は、ラタノプロスト、ビマトプロスト、トラボプロスト、タフルプロスト、ラタノプロステンブノド、ピロカルピン、エコチオフェート、カルバコール、チモロール、ナドロール、カルテオロール、レボブノロール、メチプラノロール、ベタキソロール、ブリモニジン、アプラクロニジン、ドルゾラミド、ブリンゾラミド、アセタゾラミド(acetalozamide)、メタゾールアミド、及びネタルスジルから選択される。一実施形態において、眼送達システムは、2種類の抗緑内障薬を含み、一方はプロスタグランジン類似体であり、他方はベータ遮断薬であり、好ましくはビマトプロスト及びチモロールである。
【0027】
一実施形態において、眼送達システムは、1以上の医薬として許容される賦形剤をさらに含む。一実施形態において、賦形剤は、増粘剤、ゲル化剤、可塑剤、可溶化剤、安定化剤、浸透促進剤、希釈剤、結合剤、滑剤、チャネリング剤、滑沢剤及び修飾放出剤から選択される。一実施形態において、賦形剤は、高分子量架橋ポリアクリル酸ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(ポビドンとも呼ばれる)、セルロース、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロースとも呼ばれる)、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、グリセロール、シクロデキストリン、還元型のグルタチオン、ソルビトール、トレハロース、キシリトール、マンニトール、糖類及びそれらの誘導体、スクロース、ラクトース、多糖類及びそれらの誘導体、ステアリン酸マグネシウム、二塩基性リン酸カルシウム、コロイド状二酸化ケイ素、塩化ナトリウム、ステアリン酸ポリオキシエチレン、ラウリル硫酸塩、水添ココモノグリセリド、水添ココモノグリセリドジグリセリド及び水添ココモノグリセリドトリグリセリド、ベヘン酸グリセリル、ステアリン酸、パルミトステアリン酸グリセリル、ジベヘン酸グリセリル、ジステアリン酸グリセリル、メタクリル酸アンモニウムコポリマー(タイプA)、ポリ酢酸ビニル-ポビドンコポリマー、及びポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーから選択される。
【0028】
一実施形態において、眼送達システムは、
-送達システムの総重量の0.01重量%~50重量%(w/w)の1以上の抗緑内障薬;
-5%~80%w/wのヒアルロン酸の少なくとも1種のプレ活性化されたチオマー;
-0%~89.99%w/wのヒアルロン酸のプレ活性化されないチオマー;及び
-0%~94.99%w/wの1以上の医薬的に許容される賦形剤
を含む。
【0029】
本発明はまた、それを必要とする対象における緑内障の治療における使用のための、本明細書に定義される眼送達システムを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
定義
本発明において、以下の用語は以下の意味を有する。
【0031】
「投与」、又はその変形(例えば、「投与すること」)は、病態、症状、又は疾患が治療されるべき患者に、単独で又は医薬的に許容される製剤の一部として、活性物質を提供することを意味する。
【0032】
「抗緑内障薬」は、緑内障の治療のために用いられる薬物を指す。
【0033】
「カルボマー」は、アリルスクロース又はアリルペンタエリスリトールと架橋された合成高分子量ポリアクリル酸を指す。カルボマーの例は、アリルペンタエリスリトールと架橋され、酢酸エチル中で重合されるポリアクリル酸であるカルボポール971及び974を含む。
【0034】
「エレクトロスピニング」は、三次元ポリマーナノファイバーのネットワークを生成するプロセスを指す。エレクトロスピニングは、液体から非常に微細な繊維を引き出すために電荷を使用する。エレクトロスピニングを行うための方法は、当業者に知られている。
【0035】
「ヒト」は、両方の性の、かつ任意の発達段階(すなわち、新生児、乳児、若年、青年、成人)の対象を指す。
【0036】
「粘膜付着性」は、物質又は材料と粘液又は粘膜の間の吸引力を指す。本発明の文脈において、粘膜付着性の眼送達システムは、眼の粘液又は粘膜と強く相互作用する眼送達システムである。好ましい実施形態において、本発明の眼送達システムは、チオマーとその中に存在する天然ムチンの間のジスルフィド結合の形成により粘液又は粘膜に共有結合する。このジスルフィド結合の形成は、プレ活性化されたチオマーの使用により促進される。
【0037】
「ナノファイバー」は、5000nm未満、好ましくは1000nm未満の平均直径を有する繊維を指す。
【0038】
「眼送達システム」は、眼又はその任意の部分を介して対象に、例えば抗緑内障薬などの、活性な医薬成分又は目的の物質を投与することを可能にする、送達システムを指す。「固体又は半固体の眼送達システム」は、眼インサート及び眼フィルムを含む固体又は半固体の剤形を指す。特に、「半固体」は、ヒドロゲルの形態下の眼インサートなどの、高粘性であり得る剤形を指す。
【0039】
「眼フィルム」は、結膜嚢中に又は結膜表面に配置されるように設計された固体又は半固体の堅牢な二次元フィルムを指し、そのサイズ及び形状は特に、眼科用途のために設計される。好ましくは、眼フィルムは無菌である。眼フィルムは、折り畳まれて三次元デバイスを形成でき、これは、例えば眼上へのフィルムの配置を容易にするのに有用であり得る。
【0040】
「眼インサート」は、結膜嚢中に又は結膜表面に配置されるように設計された固体又は半固体の堅牢な三次元デバイスを指し、そのサイズ及び形状は特に、眼科用途のために設計される。好ましくは、眼インサートは無菌である。任意に、眼インサートは多層化され得る。眼インサートは、乾燥形態又は水和形態であり得る。後者の場合、本発明において、眼インサートは好ましくは、ハイドロゲルペレットの形態である。
【0041】
「眼の病態」は、眼球の任意の領域及び瞼に影響を与える任意の病態を指す。眼の病態の例は、眼の手術後の眼の病態、ドライアイの症状及び季節性アレルギーによる眼の症状を含む。
【0042】
「医薬的に許容される」は、互いに適合し、投与される対象に有害ではない医薬製剤の成分を指す。
【0043】
「医薬的に許容される賦形剤」は、動物、好ましくはヒトに投与される場合に、有害反応、アレルギー反応又は他の厄介な反応を起こさない物質を指す。それは、例えば、溶媒、共溶媒、酸化防止剤、界面活性剤、安定化剤、乳化剤、pH調整剤、保存剤(preserving agent)(又は保存剤(preservating agent))、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤、造粒剤又は結合剤、滑沢剤、滑剤、希釈剤又は充填剤、吸着剤、分散剤、懸濁剤、コーティング剤、増量剤、離型剤、吸収遅延剤、甘味剤、香味剤などの任意の及び全ての不活性物質を含む。ヒト投与のために、調製物は、例えばFDAオフィス又はEMAなどの規制当局により要求される無菌性、発熱性、一般的な安全性及び純度基準を満たす必要がある。
【0044】
「ポリカルボフィル」は、ポリアクリル酸とジビニルグリコール及びカルシウム対イオンの架橋から製造される合成ポリマーを指す。
【0045】
「ポリマー化合物」は、ポリマーを指す。本発明の意味において、ポリマー化合物は、「側鎖」を有する「ポリマー骨格」を含んでよい。
【0046】
「対象」は、ヒト及び動物を含む、哺乳動物、好ましくはヒト、を指す。一実施形態において、対象は、疾患を有すると診断される。一実施形態において、対象は、医療を受けるのを待っているか、もしくは受けている、又は医療処置の対象であったか/医療処置の対象であるか/医療処置の対象である予定であるか、又は疾患の発症もしくは進行について監視される、「患者」である。一実施形態において、対象は、男性である。別の実施形態において、対象は、女性である。一実施形態において、対象は、成人である。別の実施形態において、対象は、子供である。
【0047】
「治療的有効量」又は「有効量」又は「治療的有効用量」は、対象に有意な負の又は有害な副作用を生じさせることなく、(1)対象における疾患の発症を遅延もしくは予防すること;(2)疾患の重症度もしくは発生率を低下させること;(3)対象に影響を及ぼす疾患の1以上の症状の進行、重症化、もしくは悪化を減速又は停止すること;(4)対象に影響を及ぼす疾患の症状の改善をもたらすこと;又は(5)対象に影響を及ぼす疾患を治療すること、を目的とした活性物質の量又は用量を指す。治療的有効量は、予防(prophylactic)又は予防(preventive)作用のために疾患の発症前に投与され得る。あるいは、又は追加的に、治療的有効量は、治療作用のために疾患の開始後に投与され得る。
【0048】
「治療すること」又は「治療」は、治療的処置と予防(prophylactic)又は予防(preventative)処置の両方を指し、目的は、標的とされる病理学的状態もしくは障害を予防又は緩和(軽減)することである。治療を必要とする者は、既に障害を有する者、及び障害を発生しやすい者又は障害が予防されるべきである者を含む。対象は、治療量の治療薬を受けた後に、以下の:特定の疾患もしくは病態と関連付けられる1以上の症状の、ある程度までの緩和及び、生活の質の問題の改善、の1以上に観察可能な及び/もしくは測定可能な低下を示すか、又はその不在を示す場合に、疾患又は病態についてうまく「治療」される。疾患の治療の成功及び改善を評価するための上記のパラメータは、医師になじみの日常的な手段によって容易に測定可能である。
【0049】
「チオマー」又は「プレ活性化されないチオマー」は、チオール化されたポリマー、すなわちポリマー骨格に連結された遊離チオール部分を持つ側鎖(すなわち、「チオール化された側鎖)を有するポリマーを指す。ポリマー骨格は、例えばヒアルロン酸などの、生分解性ポリマーであり得る。ポリマー骨格のチオール化は、例えばシステイン又はシステアミン部分をカップリングすることにより行うことができる。「ヒアルロン酸のチオマー」は、ポリマー骨格がヒアルロン酸である、チオマーを指す。
【0050】
「プレ活性化されたチオマー」又は「S保護されたチオマー」は、側鎖のチオール部分が、メルカプトニコチン酸、メルカプト(イソ)ニコチンアミド又はメルカプトピリドキシンなどのビタミンB誘導体とジスルフィド結合を介してコンジュゲートされるチオマーを指す。以下に詳述するように、プレ活性化されたチオマーは、ジスルフィド結合の形成により、チオマーの遊離チオールにビタミンB誘導体をカップリングさせることにより、又はビタミンB誘導体-ジスルフィド基を含む側鎖のポリマー骨格上での直接カップリングにより取得できる。「ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマー」は、ポリマー骨格がヒアルロン酸である、プレ活性化されたチオマーを指す。
【0051】
「チオマーマトリックス」は、主にチオマー(プレ活性化された及び/又はプレ活性化されない)から作られたマトリックスを指す。
【0052】
詳細な説明
抗緑内障薬の眼送達システム
本発明はそのため、緑内障の治療のために有用な眼薬物送達システムに関する。特に、本発明は、眼レベルで抗緑内障薬を効率的に送達することを可能にする固体又は半固体送達システムを提供する。本発明の薬物送達システムは、眼インサート又は眼フィルムであり得る。本発明の眼送達システムは、送達システムが長期間にわたって眼球表面上に残ることを可能にする、粘膜付着特性を示す。粘膜付着特性は、送達システムにおけるヒアルロン酸の少なくとも1つのプレ活性化されたチオマーの存在により達成される。一旦水和されると、本発明の眼送達システムのチオマーマトリックスは、眼に付着するヒドロゲルを形成する。
【0053】
したがって、本発明は、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーのマトリックス中に1以上の抗緑内障薬を含む粘膜付着性の固体又は半固体の眼送達システムを提供する。
【0054】
一実施形態において、本発明の眼送達システムは、
-1以上の抗緑内障薬;及び
-ヒアルロン酸の少なくとも1種のプレ活性化されたチオマー
を含む。
【0055】
抗緑内障薬
本発明の眼薬物送達システムは、眼レベルでの抗緑内障薬の効率的な送達を可能にすることにより緑内障の治療のために有用である。本発明の眼薬物送達システムは、少なくとも1種の抗緑内障薬を含む。
【0056】
一実施形態において、抗緑内障薬は、眼圧(IOP)降下剤から選択される。IOP降下剤は、房水の分泌を減少させ、かつ/又は眼からの房水の排出を増加させることができる。IOP降下剤の例は、プロスタグランジン類似体、コリン作用薬、ベータ遮断薬、アルファアドレナリン作動薬、炭酸脱水酵素阻害剤、Rhoキナーゼ阻害剤及びNO供与剤を含む。房水の分泌を減少させるIOP降下剤は、ベータ遮断薬、炭酸脱水酵素阻害剤、及びアルファアドレナリン作動薬を含む。房水の排出を増加させるIOP降下剤は、プロスタグランジン類似体、コリン作用薬を含む。
【0057】
プロスタグランジン類似体の例は、ラタノプロスト、ビマトプロスト、トラボプロスト、タフルプロスト、及びラタノプロステンブノドを含む。コリン作用薬の例は、ピロカルピン、エコチオフェート、及びカルバコールを含む。ベータ遮断薬の例は、チモロール、ナドロール、カルテオロール、レボブノロール、メチプラノロール、及びベタキソロールを含む。アルファアドレナリン作動薬の例は、ブリモニジン及びアプラクロニジンを含む。炭酸脱水酵素阻害剤の例は、ドルゾラミド、ブリンゾラミド、アセタゾラミド、及びメタゾールアミドを含む。Rhoキナーゼ阻害剤の例は、ネタルスジルを含む。NO供与剤の例は、ラタノプロステンブノドを含む。
【0058】
一実施形態において、本発明の眼薬物送達システムは、ラタノプロスト、ビマトプロスト、トラボプロスト、タフルプロスト、ラタノプロステンブノド、ピロカルピン、エコチオフェート、カルバコール、チモロール、ナドロール、カルテオロール、レボブノロール、メチプラノロール、ベタキソロール、ブリモニジン、アプラクロニジン、ドルゾラミド、ブリンゾラミド、アセタゾラミド(acetalozamide)、メタゾールアミド、及びネタルスジルから選択される1以上の抗緑内障薬を含む。
【0059】
一実施形態において、本発明の眼薬物送達システムは、1以上の抗緑内障薬を含む。一実施形態において、本発明の眼薬物送達システムは、1種の抗緑内障薬を含む。一実施形態において、本発明の眼薬物送達システムは、2以上の抗緑内障薬を含む。一実施形態において、2以上のIOP降下剤の組み合わせ、好ましくはIOP降下剤の少なくとも2つの異なるクラスに属する薬物の組み合わせが、使用される。
【0060】
一実施形態において、本発明の眼薬物送達システムは、好ましくはラタノプロスト、ビマトプロスト、トラボプロスト、タフルプロスト、ラタノプロステンブノド及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1種のプロスタグランジン類似体を含む。特定の実施形態において、本発明の眼送達システムは、ビマトプロストを含む。
【0061】
一実施形態において、本発明の眼薬物送達システムは、好ましくはチモロール、ナドロール、カルテオロール、レボブノロール、メチプラノロール、ベタキソロール及びそれらの組み合わせから選択される少なくとも1種のベータ遮断薬を含む。特定の実施形態において、本発明の眼送達システムは、チモロールを含む。
【0062】
一実施形態において、本発明の眼薬物送達システムは、少なくとも1種のプロスタグランジン類似体及び少なくとも1種のベータ遮断薬を含む。一実施形態において、本発明の眼薬物送達システムは、ラタノプロスト、ビマトプロスト、トラボプロスト、タフルプロスト、ラタノプロステンブノドから選択される少なくとも1種のプロスタグランジン類似体並びにチモロール、ナドロール、カルテオロール、レボブノロール、メチプラノロール及びベタキソロールから選択される少なくとも1種のベータ遮断薬を含む。一実施形態において、本発明の眼薬物送達システムは、ビマトプロスト及びチモロールを含む。
【0063】
一実施形態において、本発明の眼薬物送達システムは、好ましくはドルゾラミド、ブリンゾラミド、アセタゾラミド、メタゾラミド及びそれらの組み合わせから選択される、少なくとも1種の炭酸脱水酵素阻害剤を含む。
【0064】
一実施形態において、本発明の眼薬物送達システムは、少なくとも1種のプロスタグランジン類似体及び少なくとも1種の炭酸脱水酵素阻害剤を含む。一実施形態において、本発明の眼薬物送達システムは、ラタノプロスト、ビマトプロスト、トラボプロスト、タフルプロスト、及びラタノプロステンブノドから選択される少なくとも1種のプロスタグランジン類似体、並びにドルゾラミド、ブリンゾラミド、アセタゾラミド、及びメタゾールアミドから選択される少なくとも1種の炭酸脱水酵素阻害剤を含む。
【0065】
一実施形態において、本発明の眼薬物送達システムは、好ましくはブリモニジン、アプラクロニジン及びそれらの組み合わせから選択される、少なくとも1種のアルファアドレナリン作動薬を含む。
【0066】
一実施形態において、本発明の眼薬物送達システムは、少なくとも1種のプロスタグランジン類似体及び少なくとも1種のアルファアドレナリン作動薬を含む。一実施形態において、本発明の眼薬物送達システムは、ラタノプロスト、ビマトプロスト、トラボプロスト、タフルプロスト、及びラタノプロステンブノドから選択される少なくとも1種のプロスタグランジン類似体、並びにブリモニジン及びアプラクロニジンから選択される少なくとも1種のアルファアドレナリン作動薬を含む。
【0067】
一実施形態によると、本発明の眼送達システムは、送達システムの総重量の0.01重量%~50重量%、好ましくは0.1%w/w~20%w/w、より好ましくは0.1%w/w~10%w/w、より好ましくは0.1%w/w~5%w/wの範囲の量で1以上の抗緑内障薬(複数可)を含む。
【0068】
一実施形態において、本発明の眼送達システムは、1以上の抗緑内障薬及び少なくとも1種の補助的な医薬活性物質を含む。補助的な医薬活性物質は、例えば抗炎症剤及びドライアイ治療剤から選択され得る。好ましくは、補助的な医薬活性物質は、眼科用薬物である。
【0069】
抗炎症剤の例は、コルチコステロイド系抗炎症薬(デキサメタゾン、フルオロメトロン、リメキソロン、フルオシノロン、フルチカゾン、ロテプレドノール)及び非ステロイド系抗炎症薬(ブロムフェナクセスキハイドレート、アンフェナク、ネパフェナク、アスピリン、イブプロフェン、ケトロラク、トラメタミン、ジクロフェナク、フルルビプロフェン)を含む。ドライアイ治療剤の例は、シクロスポリン又はタクロリムスなどの免疫抑制剤を含む。
【0070】
さらなる実施形態によると、本発明の眼送達システムはまた、ドライアイなどの眼の病態の緩和剤を含む他の活性物質を送達することを可能にする。このような緩和剤の例は、ポリビニル酸(PVA)又はポリビニルピロリドン(PVP、ポビドンとも呼ばれる)などの滑沢剤を含む。
【0071】
ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマー
本発明の眼送達システムは、ヒアルロン酸の少なくとも1つのプレ活性化されたチオマーを含む。本発明の送達システムにおけるヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーの存在は、粘膜付着特性をシステムに与え、期待される送達特性、好ましくは2日より長い放出速度、より好ましくは3日より長い放出速度を達成することを可能にする。さらに、インサート中のヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーの存在は、水和時の膨潤およびゲルの形成を誘発する。プレ活性化されたチオマーの骨格としてのヒアルロン酸の使用は、眼の許容性、水和性及び滑沢性、並びにゲル化特性の点で有利である。ヒアルロン酸は、眼の使用によく適合されることが知られている。
【0072】
本発明の眼送達システムにおいて、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーは、粘膜付着特性を有するインサート又はフィルムを形成することを可能にするマトリックスを形成する。このマトリックスはまた、抗緑内障薬を担持し眼レベルでそれらを送達することを可能にする。
【0073】
ヒアルロン酸(HA)は、直鎖状多糖類であり、その基本構造は、繰り返す二糖単位、すなわち、β(1,4)及びβ(1,3)グリコシド結合により連結されたD-グルクロン酸及びN-アセチルグルコサミンからなる。
【化1】

【0074】
プレ活性化されたチオマーは、ビタミンB誘導体-ジスルフィド基を含有する側鎖を持つポリマー化合物であり、上記側鎖は、ポリマー骨格に共有結合される。したがって、「ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマー」は、ビタミンB誘導体-ジスルフィド基を含む側鎖、好ましくは(イソ)ニコチン酸-ジスルフィド基、(イソ)ニコチンアミド-ジスルフィド基及びメルカプトピリドキシン-ジスルフィド基、特に2-ニコチン酸-ジスルフィド基、6-ニコチン酸-ジスルフィド基、2-ニコチンアミド-ジスルフィド基、2-イソニコチンアミド-ジスルフィド基、6-ニコチンアミド-ジスルフィド基、6-イソニコチンアミド-ジスルフィド基、及び6-ピリドキシン-ジスルフィド基から選択される基を含む側鎖の存在により修飾されたヒアルロン酸を指す。
【0075】
本明細書において、基「2-ニコチン酸-ジスルフィド」は、以下の基:
【化2】

を指すと定義される。これにより、6-ニコチン酸-ジスルフィド基、2-ニコチンアミド-ジスルフィド基、2-イソニコチンアミド-ジスルフィド基、6-ニコチンアミド-ジスルフィド基、6-イソニコチンアミド-ジスルフィド基、及び6-ピリドキシン-ジスルフィド基が、定義される。
【0076】
ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーは、2つの経路の合成:(a)2段階合成又は(b)1段階合成、により取得できる。
【0077】
2段階合成(a)では、ヒアルロン酸骨格がまず、遊離チオール基を含有する配位子の共有結合により修飾され(工程a1)、ヒアルロン酸のチオマーに至る。第2の工程(工程a2)では、予め導入される側鎖の遊離チオール基が、ビタミンB誘導体とのジスルフィド結合の形成によりプレ活性化され、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーに至る。
【0078】
「ヒアルロン酸のチオマー」又は「チオール化されたヒアルロン酸」は、側鎖として遊離チオール基を含有する配位子がその骨格上に共有結合される、ヒアルロン酸を指す。HAの2つの化学基、すなわちカルボン酸とヒドロキシル基は、例えばカルボン酸上のアミド化、又はヒドロキシル基上のエーテル若しくはエステル形成などの、異なる反応を介してチオール化HAを形成するように修飾され得る。カルボン酸のアミド化によりチオール化HAを形成するために使用できる配位子の例は、トラウトの試薬(イミノチオラン)、5,5'-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)、ジチオビス(プロパン酸ジヒドラジド)、ジチオビス(酪酸ジヒドラジド)、3-(2-ピリジルジチオ)プロピオニルヒドラジド、及びジチオトレイトールを用いる反応によりチオール化されるシステイン、ホモシステイン、N-アセチルシステイン、システインエチルエステル、システアミン、メルカプトアニリン、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)を含む。ヒドロキシル基上でのエーテル形成によりチオール化HAを形成するために使用できる配位子の例は、硫化エチレンを含む。ヒドロキシル基上でのエステル形成によりチオール化HAを形成するために使用できる配位子の例は、チオグリコール酸、3-チオプロピオン酸、4-チオブタン酸、メルカプト安息香酸、メルカプトニコチン酸、グルタチオン、及びガンマチオブチロラクトンを含む。
【0079】
2段階合成(a)の例として、下のスキームは、チオール化HAを形成するためのアミノチオール配位子(例えば、システイン又はシステアミンであり得る)によるアミド化(工程a1)、およびその後の6-メルカプトニコチンアミドを用いるプレ活性化を介する遊離チオール基の保護によるHAのカルボン酸基のチオール化を示す。
【化3】
【0080】
そのため、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーの合成は、チオール化ヒアルロン酸骨格と2-メルカプトニコチン酸、6-メルカプトニコチン酸、2-メルカプトニコチンアミド、2-メルカプトイソニコチンアミド、6-メルカプトニコチンアミド、6-メルカプトイソニコチンアミド、6,6'-ジチオニコチンアミド又は6-メルカプトピリドキシンの反応により行うことができる。一実施形態において、本発明の眼送達システムで使用されるヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーは、米国特許公開第2012/0225024号に開示された方法に従って製造される。
【0081】
一実施形態において、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーは、ジスルフィド結合を介してチオール化ヒアルロン酸骨格に共有結合される2-メルカプトニコチン酸、6-メルカプトニコチン酸、2-メルカプトニコチンアミド、2-メルカプトイソニコチンアミド、6-メルカプトニコチンアミド、6-メルカプトイソニコチンアミド、又は6-メルカプトピリドキシン側鎖を持つポリマー化合物から選択される。
【0082】
合成の代替経路である1段階合成(b)において、ヒアルロン酸骨格は、ビタミンB誘導体-ジスルフィド基を含有する配位子の共有結合により直接修飾され、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーに至る。
【0083】
一段階合成(b)の例として、下のスキームは、対応するHAのプレ活性化されたチオマーを形成するための(6-ニコチン酸)-ジスルフィドアミノ配位子(例えば、S-(6-メルカプトニコチン酸)-システインジスルフィド又はS-(6-ニコチン酸)-システアミンジスルフィド)によるアミド化によるHAのカルボン酸基の修飾を示す。
【化4】
【0084】
そのため、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーの合成は、ヒアルロン酸と、ビタミンB誘導体-ジスルフィド基を含有する配位子の反応により行うことができる。そのようなジスルフィド配位子は、
-1種のビタミンB誘導体、例えば2-メルカプトニコチン酸(2-MNA)、6-メルカプトニコチン酸(6-MNA)、2-メルカプトニコチンアミド(2-MNアミド)、2-メルカプトイソニコチンアミド、6-メルカプトニコチンアミド(6-MNアミド)、6-メルカプトイソニコチンアミド又は6-メルカプトピリドキシン;及び
-1つのチオール化配位子、例えばトラウトの試薬(イミノチオラン)、5,5'-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)、ジチオビス(プロパン酸ジヒドラジド)、ジチオビス(酪酸ジヒドラジド)、3-(2-ピリジルジチオ)プロピオニルヒドラジド、ジチオトレイトール、エチレンスルフィド、チオグリコール酸、3-チオプロピオン酸、4-チオブタン酸、メルカプト安息香酸、メルカプトニコチン酸、及びグルタチオンを用いる反応によりチオール化されるシステイン、ホモシステイン、N-アセチルシステイン、システインエチルエステル、システアミン、メルカプトアニリン、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)
から作製されるジスルフィド付加物であり得る。
【0085】
一実施形態において、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーを形成するために1段階合成(b)で使用されるジスルフィド配位子は、
-2-((2-アミノエチル)ジスルファネイル)ニコチン酸(すなわち、2-MNA/システアミン);
-6-((2-アミノエチル)ジスルファネイル)ニコチン酸(すなわち、6-MNA/システアミン);
-2-((2-アミノ-2-カルボキシエチル)ジスルファネイル)ニコチン酸(すなわち、2-MNA/システイン);
-6-((2-アミノ-2-カルボキシエチル)ジスルファネイル)ニコチン酸(すなわち、6-MNA/システイン);
-2-((2-アミノエチル)ジスルファネイル)ニコチンアミド(すなわち、2-MNアミド/システアミン);
-6-((2-アミノエチル)ジスルファネイル)ニコチンアミド(すなわち、6-MNアミド/システアミン);
S-(3-カルバモイルピリジン-2-イル)チオ)システイン(すなわち、2-MNアミド/システイン);及び
-S-(5-カルバモイルピリジン-2-イル)チオ)システイン(すなわち、6-MNアミド/システイン)
から選択される。
【0086】
どのような合成の方法であっても、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーのジスルフィド側鎖は、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-システインジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-ホモシステインジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-システアミンジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-N-アセチルシステインジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-チオグリコール酸ジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-3-チオプロピオン酸ジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-4-チオブタン酸ジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-メルカプト安息香酸ジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-メルカプトニコチン酸ジスルフィド、
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-グルタチオンジスルフィド、及び
S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)-、S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトピリドキシン)-メルカプトアニリンジスルフィド
から選択でき、上記側鎖は、アミド又はエステル結合を介して、独立してヒアルロン酸骨格に付着される。
【0087】
本明細書では、S-(2-又は6-メルカプトニコチン酸)は、S-(2-メルカプトニコチン酸)-又はS-(6-メルカプトニコチン酸)-を表し;S-(2-又は6-メルカプト(イソ)ニコチンアミド)は、S-(2-メルカプトニコチンアミド)-、S-(2-メルカプトイソニコチンアミド-、S-(6-メルカプトニコチンアミド)-又はS-(6-メルカプトイソニコチンアミド)-を表すと定義される。
【0088】
プレ活性化されたチオマーの粘膜付着特性は、ビタミンB誘導体-ジスルフィド側鎖によるヒアルロン酸骨格の官能化の度合いを調整することにより調節できる。さらに、官能化の度合いを増加させることは、粘膜付着特性を維持しながら、送達システムにおいて使用されるプレ活性化されたチオマーの量を低減することを有利に可能にすることが証明された。一実施形態において、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーは、ポリマー1グラム当たり10μmol~1350μmol、好ましくはポリマー1グラム当たり10μmol~1000μmol、好ましくはポリマー1グラム当たり50μmol~500μmol、より好ましくはポリマー1グラム当たり50μmol~200μmolのメルカプトニコチン酸、メルカプトニコチンアミド、メルカプトイソニコチンアミド又はメルカプトピリドキシンの部分構造を含む。一実施形態において、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーは、ポリマー1グラム当たり10μmol~1350μmol、好ましくはポリマー1グラム当たり100μmol~1350μmol、好ましくはポリマー1グラム当たり150μmol~1350μmol、より好ましくはポリマー1グラム当たり200μmol~1350μmolのメルカプトニコチン酸、メルカプトニコチンアミド、メルカプトイソニコチンアミド又はメルカプトピリドキシンの部分構造を含む。
【0089】
プレ活性化されたチオマーの粘性は、ポリマーの分子量を変えることにより調節できる。ヒアルロン酸骨格の分子量もまた、その官能化の度合いに影響する。特に、官能化の度合いは、分子量が増加すると減少する傾向があり、それにより粘膜付着に影響を及ぼすことが観察された。さらに、ポリマーの分子量は、本発明の送達システムの膨潤に影響し:膨潤は、分子量と共に増加する。好ましくは、100kDa~1200kDa、好ましくは100kDa~1000kDa、より好ましくは200kDa~800kDaの範囲の分子量を有する、中程度の分子量を有するヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーが使用される。一実施形態において、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーは、100kDa~1200kDa、好ましくは200kDa~1200kDaの範囲の分子量を有する。
【0090】
一実施形態において、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーは、遊離チオール基を含まない。遊離チオール基の不在は、上記の合成(b)の1段階の経路により、又は2段階の方法(a)を使用してプレ活性化されたチオマーを製造することにより達成でき、工程(a2)は、チオール化骨格の全ての遊離チオールがプレ活性化されるような条件下で行われる。
【0091】
別の実施形態において、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーは、プレ活性化されたジスルフィド側鎖及び遊離チオール側鎖を含む。遊離チオール側鎖は、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーが、HA骨格の第1のチオール化後に、遊離チオール基の画分のプレ活性化が続く、上記の2段階の方法(a)により得られたときに存在し得る。遊離チオール側鎖は、プレ活性化の前にチオール化ヒアルロン酸骨格を形成するものである。遊離チオール側鎖は、トラウトの試薬(イミノチオラン)、5,5'-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)、ジチオビス(プロパン酸ジヒドラジド)、ジチオビス(酪酸ジヒドラジド)、3-(2-ピリジルジチオ)プロピオニルヒドラジド、ジチオトレイトール、エチレンスルフィド、チオグリコール酸、3-チオプロピオン酸、4-チオブタン酸、メルカプト安息香酸、メルカプトニコチン酸、グルタチオン、及びガンマチオブチロラクトンを用いる反応によりチオール化されるシステイン、ホモシステイン、N-アセチルシステイン、システインエチルエステル、システアミン、メルカプトアニリン、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)から選択できる。残存する遊離チオール側鎖の量は、工程(a2)の間にビタミンB誘導体の添加量を変えることにより制御できる。
【0092】
ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマー中の遊離チオール基の存在は、水和時にゲルの形成を促進する遊離チオール基の存在により、眼システムのゲル化速度に影響し得る。遊離チオール基の存在はまた、チオマーマトリックスの架橋につながり得る。チオマーマトリックスの架橋は、遊離チオール基の比により調節でき、ひいては、水和時に形成されるゲルの粘着性を調節できる。
【0093】
一実施形態において、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーは、ジスルフィド結合の形成を介して部分的に架橋される。架橋は、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーが遊離チオール基を含む場合、生じ得る。そのような場合、架橋は、(i)側鎖上に存在する異なる遊離チオール基間の1つの単一ポリマー鎖内で;(ii)遊離チオール基を含むプレ活性化されたチオマーの2つの鎖間で;又は(iii)遊離チオール基を含むヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーと、遊離チオール基を含む眼システムに存在する別の種との間、で生じ得る。場合(iii)は、例えば本発明の眼システムがまた、以下に詳述するように、プレ活性化されないチオマーを含む場合に生じ得る。あるいは、架橋は、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーが遊離チオール基を含まない場合であるが、本発明の眼システムがまた、プレ活性化されたチオマー内にS脱保護を誘発し得るプレ活性化されないチオマーなどの遊離チオール基を含む種も含む場合に、生じ得る。
【0094】
本発明の眼システムのチオマーマトリックスの架橋の度合いは、水和時に形成されるゲルの粘着性に影響する。粘着性は、それが経時的にゲルの物理的完全性に影響し、ひいては薬物放出プロファイルに影響するため、本発明の眼システムの重要な性質である。実際に、システムが粘着性であるほど、それはより長く目に残り、それにより薬物放出プロファイルを延長させる。粘着性は、レオロジー測定(貯蔵弾性率及び損失弾性率、動的粘弾性など)により及び水和後の吸水時のシステムの膨潤を評価することにより調べることができる。
【0095】
一実施形態において、本発明の眼送達システムに存在するヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーは、ナノファイバー、好ましくはエレクトロスピニングにより得られるナノファイバーの形態である。これは、ナノファイバーのネットワークの密度を変えることにより、送達システム中に存在する抗緑内障薬の放出速度を制御することを可能にする利点を示す。
【0096】
一実施形態によると、本発明の眼送達システムは、送達システムの総重量の5%~99.99重量%(w/w)、好ましくは10%~99.99%w/wの範囲の量で少なくとも1つのヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーを含む。別の実施形態において、本発明の眼送達システムは、送達システムの総重量の5%~99.99重量%(w/w)、好ましくは5%~80%w/w、より好ましくは5%~50%w/w、より好ましくは5%~30%w/w、より好ましくは5%~25%w/wの範囲の量で少なくとも1つのヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーを含む。
【0097】
一実施形態によると、本発明の眼送達システムは、さらに、ヒアルロン酸の少なくとも1つのプレ活性化されたチオマーに加えて、ポリマー骨格がヒアルロン酸以外である、1以上の他のプレ活性化されたチオマーを含む。
【0098】
プレ活性化されないチオマー
一実施形態において、本発明の眼送達システムは、プレ活性化されないチオマー、すなわちチオマーをさらに含む。
【0099】
好ましい実施形態において、プレ活性化されないチオマーは、ヒアルロン酸のチオマーである。
【0100】
一実施形態によると、ヒアルロン酸骨格のチオール化は、トラウトの試薬(イミノチオラン)、5,5'-ジチオビス(2-ニトロ安息香酸)、ジチオビス(プロパン酸ジヒドラジド)、ジチオビス(酪酸ジヒドラジド)、3-(2-ピリジルジチオ)プロピオニルヒドラジド、ジチオトレイトール、エチレンスルフィド、チオグリコール酸、3-チオプロピオン酸、4-チオブタン酸、メルカプト安息香酸、メルカプトニコチン酸、グルタチオン、及びガンマチオブチロラクトンを用いる反応によりチオール化されるシステイン、ホモシステイン、N-アセチルシステイン、システインエチルエステル、システアミン、メルカプトアニリン、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)から選択される部分を、アミド結合、エーテル結合、又はエステル結合を介してカップリングすることにより行うことができる。好ましくは、ポリマー骨格のチオール化は、システイン又はシステアミンをカップリングすることにより行われる。
【0101】
一実施形態において、プレ活性化されないチオマー、好ましくはヒアルロン酸のチオマーは、ポリマー1グラム当たり100μmol~1500μmol、好ましくはポリマー1グラム当たり100μmol~800μmol、好ましくは、ポリマー1グラム当たり200μmol~800μmolのチオール基を含む。
【0102】
一実施形態において、本発明の眼送達システムに存在するプレ活性化されないチオマーは、ナノファイバー、好ましくはエレクトロスピニングにより得られるナノファイバーの形態である。
【0103】
一実施形態によると、本発明の眼送達システムは、送達系の総重量の0重量%~89.99重量%(w/w)、好ましくは0%~30%w/w;より好ましくは0%~25%w/w;より好ましくは0%~20%w/wの範囲の量でプレ活性化されないチオマー、好ましくはヒアルロン酸のチオマーを含む。
【0104】
一実施形態において、本発明の眼システムにおけるプレ活性化されないチオマーの存在は有利には、チオマーマトリックスの架橋をもたらし、それにより、システムの粘着性及び薬物放出プロファイルを高める。
【0105】
賦形剤
一実施形態において、本発明の眼送達システムは、賦形剤、好ましくは医薬的に許容される賦形剤を含む。このような適切な賦形剤は、当業者には明らかであり、レミントンの薬学(Remington’s Pharmaceutical Sciences)の最新版で言及されている。
【0106】
一実施形態によると、本発明の眼送達システムは、増粘剤、ゲル化剤、可塑剤、可溶化剤、安定化剤、浸透促進剤、希釈剤、結合剤、滑剤、チャネリング剤、滑沢剤及び修飾放出剤から選択される1以上の医薬的に許容される賦形剤を含む。
【0107】
増粘剤及びゲル化剤の例は、高分子量架橋ポリアクリル酸ポリマー(例えば、カーボポール)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP、ポビドンとも呼ばれる)、セルロース誘導体(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC;ヒプロメロースとも呼ばれる)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC))、ポリエチレングリコール(PEG)、及びヒアルロン酸を含む。
【0108】
可塑剤の例は、グリセロール及びポリエチレングリコール(PEG)を含む。
【0109】
特に活性な医薬成分のための可溶化及び安定化剤の例は、シクロデキストリン及び非イオン性界面活性剤を含む。
【0110】
浸透促進剤の例は、還元型のグルタチオン(GSH;0.1%~1%w/w)を含む。
【0111】
希釈剤の例は、ソルビトール、トレハロース、キシリトール又はマンニトールなどの糖アルコールを含む。
【0112】
結合剤の例は、糖類及びそれらの誘導体;二糖類、例えばスクロース又はラクトース;多糖類及びそれらの誘導体、例えばデンプン、セルロース又は変性セルロース、例えば微結晶セルロース及びセルロースエーテル、例えばヒドロキシプロピルセルロース(HPC);糖アルコール、例えばキシリトール、ソルビトール又はマンニトール;合成ポリマー、例えばポリビニルピロリドン(PVP、ポビドンとも呼ばれる)又はポリエチレングリコール(PEG)を含む。
【0113】
滑剤の例は、ステアリン酸マグネシウム、二塩基性リン酸カルシウム、デンプン、微結晶セルロース及びコロイド状二酸化ケイ素を含む。
【0114】
チャネリング剤の例は、塩化ナトリウム(NaCl)及び400~1500g/molの分子量のポリエチレングリコール(PEG)を含む。
【0115】
滑沢剤の例は、可溶性滑沢剤、例えばポリエチレングリコール(PEG)、ステアリン酸ポリオキシエチレン、ラウリル硫酸塩、水添ココモノグリセリド、水添ココモノグリセリドジグリセリド及び水添ココモノグリセリドトリグリセリド(Hard Fat-Witepsol(登録商標));並びに不溶性滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム、ベヘン酸グリセリル、ステアリン酸、及びパルミトステアリン酸グリセリルを含む。
【0116】
修飾放出剤の例は、ジベヘン酸グリセリル、ジステアリン酸グリセリル、メタクリル酸アンモニウムコポリマー(タイプA)、ポリ酢酸ビニル-ポビドンコポリマー(コリドン(登録商標)SR)、及びポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー(ソルプラス(Soluplus)(登録商標))を含む。
【0117】
一実施形態によると、本発明の眼送達システムは、高分子量架橋ポリアクリル酸ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(ポビドンとも呼ばれる)、セルロース、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロースとも呼ばれる)、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、グリセリン、シクロデキストリン、還元型のグルタチオン、ソルビトール、トレハロース、キシリトール、マンニトール、糖類及びそれらの誘導体、スクロース、ラクトース、多糖類及びそれらの誘導体、ステアリン酸マグネシウム、二塩基性リン酸カルシウム、コロイド状二酸化ケイ素、塩化ナトリウム、ステアリン酸ポリオキシエチレン、ラウリル硫酸塩、水添ココモノグリセリド、水添ココモノグリセリドジグリセリド及び水添ココモノグリセリドトリグリセリド、ベヘン酸グリセリル、ステアリン酸、パルミトステアリン酸グリセリル、ジベヘン酸グリセリル、ジステアリン酸グリセリル、メタクリル酸アンモニウムコポリマー(タイプA)、ポリ酢酸ビニル-ポビドンコポリマー、及びポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフトコポリマーから選択される1以上の医薬的に許容される賦形剤を含む。
【0118】
一実施形態によると、本発明の眼送達システムは、ポリビニルピロリドン(ポビドンとも呼ばれる)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロースとも呼ばれる)、ステアリン酸マグネシウム、ジベヘン酸グリセリル、及びそれらの混合物から選択される1以上の医薬的に許容される賦形剤を含む。一実施形態によると、本発明の眼送達システムは、ポリビニルピロリドン(ポビドンとも呼ばれる)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロースとも呼ばれる)、ステアリン酸マグネシウム、及びそれらの混合物から選択される1以上の医薬的に許容される賦形剤を含む。
【0119】
一実施形態によると、本発明の眼送達システムは、送達システムの総重量の0重量%~94.99重量%(w/w)、好ましくは0%~94.5%w/w、好ましくは0%~89.99%w/wの範囲の量で1以上の医薬的に許容される賦形剤を含む。一実施形態において、医薬的に許容可能な賦形剤(複数可)の量は、40%~94.5%w/wの範囲である。
【0120】
本発明の眼送達システム中に存在する賦形剤は、水和時の膨潤を制御することを可能にし得る。実際に、システムが水和時に過剰な体積を獲得することは回避されるべきであり、そうでないと、それは眼の使用に適合しないであろう。水和時の過度な膨潤の場合、本発明からの眼送達システムは、結膜嚢から排出され得る。瞼の恒久的なまばたきと一緒に組み合わされる眼球の自然な動きは、眼送達システム上で重要なせん断運動を生成する。それは、今度は眼表面上のその滞留の期間を著しく低下させる。
【0121】
本発明の眼送達システム中に存在する賦形剤はまた、特に乾燥形態で使用されるシステムの場合、眼送達システムの硬さを制御することを可能にし得る。
【0122】
本発明の眼送達システム中に存在する賦形剤の選択はまた、送達システム中に存在する活性物質の放出速度を制御することを可能にし得る。
【0123】
眼送達システムの組成物
したがって、本発明の眼送達システムは、
-1以上の抗緑内障薬;及び
-2-ニコチン酸-ジスルフィド基、6-ニコチン酸-ジスルフィド基、2-ニコチンアミド-ジスルフィド基、2-イソニコチンアミド-ジスルフィド基、6-ニコチンアミド-ジスルフィド基、6-イソニコチンアミド-ジスルフィド基、及び6-ピリドキシン-ジスルフィド基から選択される基を含む共有結合側鎖を保有するヒアルロン酸骨格を有するポリマー化合物から選択されるヒアルロン酸の少なくとも1つのプレ活性化されたチオマー
を含む。
【0124】
したがって、本発明の眼送達システムは、
-1以上の抗緑内障薬;及び
-2-ニコチン酸-ジスルフィド基、6-ニコチン酸-ジスルフィド基、2-ニコチンアミド-ジスルフィド基、2-イソニコチンアミド-ジスルフィド基、6-ニコチンアミド-ジスルフィド基、6-イソニコチンアミド-ジスルフィド基、及び6-ピリドキシン-ジスルフィド基から選択される基を含む共有結合側鎖を持つヒアルロン酸骨格を有するポリマー化合物から選択されるヒアルロン酸の少なくとも1つのプレ活性化されたチオマー
を含み、ここでヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーは、100kDa~1200kDaの範囲の分子量を有する。
【0125】
一実施形態において、本発明の眼送達システムは、
-1以上の抗緑内障薬;
-2-ニコチン酸-ジスルフィド基、6-ニコチン酸-ジスルフィド基、2-ニコチンアミド-ジスルフィド基、2-イソニコチンアミド-ジスルフィド基、6-ニコチンアミド-ジスルフィド基、6-イソニコチンアミド-ジスルフィド基、及び6-ピリドキシン-ジスルフィド基から選択される基を含む共有結合側鎖を持つヒアルロン酸骨格を有するポリマー化合物から選択されるヒアルロン酸の少なくとも1つのプレ活性化されたチオマー
-任意にプレ活性化されないチオマー;及び
-任意に1以上の医薬的に許容される賦形剤
を含む。
【0126】
一実施形態において、本発明の眼送達システムは、
-1以上の抗緑内障薬;
-2-ニコチン酸-ジスルフィド基、6-ニコチン酸-ジスルフィド基、2-ニコチンアミド-ジスルフィド基、2-イソニコチンアミド-ジスルフィド基、6-ニコチンアミド-ジスルフィド基、6-イソニコチンアミド-ジスルフィド基、及び6-ピリドキシン-ジスルフィド基から選択される基を含む共有結合側鎖を持つヒアルロン酸骨格を有するポリマー化合物から選択されるヒアルロン酸の少なくとも1つのプレ活性化されたチオマーであって、100kDa~1200kDaの範囲の分子量を有する、ヒアルロン酸の少なくとも1つのプレ活性化されたチオマー;
-任意にプレ活性化されないチオマー;及び
-任意に1以上の医薬的に許容される賦形剤
を含む。
【0127】
一実施形態において、本発明の眼送達システムは、
-送達システムの総重量の0.01重量%~50重量%(w/w)、好ましくは0.1%w/w~20%w/w、より好ましくは0.1%w/w~10%w/wの1以上の抗緑内障薬;及び
-5%w/w~99.99%w/wの本明細書に定義されるヒアルロン酸の少なくとも1つのプレ活性化されたチオマー
を含む。
【0128】
一実施形態において、本発明の眼送達システムは、
-送達システムの総重量の0.01重量%~50重量%(w/w)、好ましくは0.1%w/w~20%w/w、より好ましくは0.1%w/w~10%w/wの1以上の抗緑内障薬;及び
-10%w/w~99.99%w/wの本明細書に定義されるヒアルロン酸の少なくとも1つのプレ活性化されたチオマー
を含む。
【0129】
一実施形態において、本発明の眼送達システムは、
-送達システムの総重量の0.01重量%~50重量%(w/w)、好ましくは0.1%w/w~20%w/w、より好ましくは0.1%w/w~10%w/wの1以上の抗緑内障薬;及び
-5%w/w~80%w/wの本明細書に定義されるヒアルロン酸の少なくとも1つのプレ活性化されたチオマー
を含む。
【0130】
一実施形態において、本発明の眼送達システムは、
-送達システムの総重量の0.01重量%~50重量%(w/w)、好ましくは0.1%w/w~20%w/w、より好ましくは0.1%w/w~10%w/wの1以上の抗緑内障薬;
-10%w/w~99.99%w/wの本明細書に定義されるヒアルロン酸の少なくとも1つのプレ活性化されたチオマー;
-0%w/w~89.99%w/wのプレ活性化されないチオマー;及び
-0%w/w~89.99%w/wの1以上の医薬的に許容される賦形剤
を含む。
【0131】
一実施形態において、本発明の眼送達システムは、
-送達システムの総重量の0.01重量%~50重量%(w/w)、好ましくは0.1%w/w~20%w/w、より好ましくは0.1%w/w~10%w/wの1以上の抗緑内障薬;
-5%w/w~80%w/wの本明細書に定義されるヒアルロン酸の少なくとも1つのプレ活性化されたチオマー;
-0%w/w~89.99%w/wのプレ活性化されないチオマー;及び
-0%w/w~94.99%w/wの1以上の医薬的に許容される賦形剤
を含む。
【0132】
一実施形態において、本発明の眼送達システムは、
-送達システムの総重量の0.1重量%~10重量%(w/w)、好ましくは0.1%w/w~5%w/wの1以上の抗緑内障薬;
-5%w/w~25%w/wの本明細書に定義されるヒアルロン酸の少なくとも1つのプレ活性化されたチオマー;
-0%w/w~25%w/wのプレ活性化されないチオマー;及び
-0%w/w~94.5%w/w、好ましくは40%w/w~94.5%w/wの1以上の医薬的に許容される賦形剤
を含む。
【0133】
一実施形態において、本発明の眼送達システムは、
-送達システムの総重量の0.1重量%~10重量%(w/w)、好ましくは0.1%w/w~5%w/wの1以上の抗緑内障薬;
-5%w/w~25%w/wの本明細書に定義されるヒアルロン酸の少なくとも1つのプレ活性化されたチオマーであって、100kDa~1200kDaの範囲の分子量を有する、ヒアルロン酸の少なくとも1つのプレ活性化されたチオマー;
-0%w/w~25%w/wのプレ活性化されないチオマー;及び
-0%w/w~94.5%w/w、好ましくは40%w/w~94.5%w/wの1以上の医薬的に許容される賦形剤
を含む。
【0134】
一実施形態において、本発明の眼送達システムは、
-送達システムの総重量の0.1重量%~10重量%(w/w)、好ましくは0.1%w/w~5%w/wの1以上の抗緑内障薬;
-5%w/w~25%w/wの本明細書に定義されるヒアルロン酸の少なくとも1つのプレ活性化されたチオマーであって、100kDa~1200kDa、好ましくは200kDa~1200kDaの範囲の分子量を有し、ポリマー1グラム当たり100μmol~1350μmol、好ましくはポリマー1グラム当たり150μmol~1350μmol、好ましくはポリマー1グラム当たり200μmol~1350μmolのメルカプトニコチン酸、メルカプトニコチンアミド、メルカプトイソニコチンアミド又はメルカプトピリドキシンの部分構造を含む、ヒアルロン酸の少なくとも1つのプレ活性化されたチオマー;
-0%w/w~25%w/wのプレ活性化されないチオマー;及び
-0%w/w~94.5%w/w、好ましくは40%w/w~94.5%w/wの1以上の医薬的に許容される賦形剤
を含む。
【0135】
眼送達システムの特性
本発明の眼送達システムは、粘膜付着特性、特に眼粘膜付着特性を示し、すなわちそれは、粘液又は粘膜、特に目の粘液又は粘膜と強く相互作用する。本発明の眼送達システムの粘膜付着特性は、当技術分野で記載されるように、回転シリンダ法により測定できる。本発明の眼送達システムの粘膜付着特性は、少なくとも2日間の粘膜付着、好ましくは少なくとも3日間、より好ましくは3~8日間の粘膜付着、さらにより好ましくは3~10日間の粘膜付着を達成することを可能にする。粘膜付着特性は、システムで使用されるヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマー中のビタミンB誘導体-ジスルフィド側鎖によるヒアルロン酸骨格の官能化の度合いを変えることにより調節され得る。
【0136】
本発明の眼送達システムは、それが投与される対象に、その中に存在する1以上の抗緑内障薬を効率的に放出することを可能にする。有利には、本発明の眼送達システムは、眼への1以上の抗緑内障薬の持続放出を可能にする。1以上の緑内障薬剤の放出は、その中で放出される薬物の量を測定するために、溶解試験、例えば送達システムを水中(又は模擬涙液中)に置くことにより、および異なる時点で溶液をサンプリングすることにより評価できる。一実施形態において、1以上の抗緑内障薬は、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、少なくとも7日間、治療的有効量で、眼で放出される。
【0137】
放出プロファイルは、一旦水和されると、眼システムの粘着性により影響される。システムが粘着性であるほど、それはより長く目に残り、それにより薬物放出プロファイルを延長する。粘着性は、システムのチオマーマトリックス、すなわちヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーで作られたマトリックスの架橋度、及びプレ活性化されないチオマーの存在下で調節できる。
【0138】
結膜嚢中に又は結膜表面に配置された後、本発明の眼送達システムは、使用期間中に完全に溶解するか、又は所定の期間後(例えば、数日後)に取り除かれる必要がある。取り除かれる必要がある場合、洗眼液が、そのために使用され得る。
【0139】
本発明の眼送達システムは、乾燥形態又は水和形態で使用できる。一実施形態において、本発明の眼送達システムは、水和形態で使用され、すなわちプレ活性化されたチオマーマトリックスは、投与前にヒドロゲルの形態で水和される。別の実施形態において、本発明の眼送達システムは、乾燥形態であり、すなわち、それは、もしあったとしても、限られた量の水を含有する。そのような場合、一旦結膜嚢中に又は結膜表面に配置されると、本発明の送達システムは、in situで水和し、水和されたプレ活性化されたチオマーマトリックスは、粘膜付着性ヒドロゲルを形成する(すなわち、in situのゲル化プロセス)。
【0140】
一実施形態において、本発明の眼送達システムの水和速度は、1分~24時間、好ましくは1分~1時間、より好ましくは1分~30分の範囲である。
【0141】
水和時に、本発明の眼送達システムは、膨潤する。本発明の眼送達システムの膨潤率は、特に乾燥形態での直接使用の場合、制御される必要がある。膨潤率は、重量測定で測定できる:(1)システムを量る(W);(2)次いでそれを、水中に、又は模擬涙液などの溶媒中に浸す;(3)いくつかの時点で、システムを取り出し、過剰な水を、ティシュペーパーで穏やかに吸い上げることにより除去し、再び重さを量る(W)。吸水量(すなわち、重量%での膨潤率)を、[(W-W)/W]×100として算出する。一実施形態において、一旦水和した本発明の眼送達システムの最大膨潤率は、乾燥形態重量に対し0重量%~10000重量%(w/w)、好ましくは0%~5000%w/w、より好ましくは、0%~2000%の範囲である。一実施形態において、一旦水和した本発明の眼送達システムの最大膨潤率は、乾燥形態重量に対し100重量%~10000重量%(w/w)、好ましくは100%~5000%w/w、より好ましくは100%~2500%、より好ましくは100%~2000%、より好ましくは100%~1500%の範囲である。膨潤率は、プレ活性化されたチオマーの分子量、システム中に存在するプレ活性化されたチオマーの量、マトリックスの架橋度、システム中に存在するプレ活性化されないチオマーの量を含む複数の要因に依存する。システムのサイズ及びその硬さ(特に、インサートの形態で使用される場合)も、膨潤率に影響を及ぼす。
【0142】
本発明の眼送達システムはまた、その「滞留期間」(又は「滞留の期間」)、すなわち眼レベルで、特に下部の結膜嚢中の眼送達システムの存在期間より特徴付けられ得る。本発明の眼送達システムの滞留期間は、インビボアッセイにより測定できる。本発明の眼送達システムの滞留期間は、好ましくは少なくとも2日間、より好ましくは少なくとも3日間、さらに好ましくは3~10日間である。滞留期間は、システムのサイズ及び形状、その粘膜付着性、その粘着性、その浸食、及びその膨潤挙動を含む複数の因子に依存する。これらのパラメータは、送達システムの組成物により影響され得る。
【0143】
本発明の固体又は半固体の眼送達システムは、眼インサート又は眼フィルムであり得る。
【0144】
一実施形態において、本発明の固体又は半固体の眼送達システムは、眼インサートであり、すなわち結膜嚢中に又は結膜表面に配置されるように設計された固体又は半固体の堅牢な三次元デバイスであり、そのサイズ及び形状は、特に眼科用途のために設計される。一実施形態において、眼インサートは、乾燥形態である。別の実施形態において、眼インサートは、水和され、ヒドロゲルペレットの形態である。
【0145】
一実施形態において、本発明の眼送達システムは、エレクトロスピン眼インサートである。好ましくは、眼インサートは、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーのマトリックス、1以上の抗緑内障薬、任意にプレ活性化されないチオマー及び賦形剤からのみ形成されるが、いかなる追加の層又は他の材料も含まない。
【0146】
眼インサートは、凍結乾燥形態であり得るヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマー中に分散された1以上の緑内障薬剤を含む混合物の直接圧縮により取得できる。
【0147】
眼インサートは、任意の形状及びサイズであり得、ただしそれは眼の配置に適しており、好ましくはロッド、ストリップ、ねじ、ドーナツ、ディスク、楕円形又はクォータームーンの形状である。一実施形態において、眼インサートは、1つの凸側及び1つの凹側を有する。眼インサートは、その表面にどんな角度も示さず、目にも瞼にも刺激を与えない滑らかな表面を呈する。好ましくは、眼インサートの断面は、円形、正方形又は長方形である。好ましくは、インサートは、眼、又はその一部に容易に嵌合するようなサイズ及び形状である。一実施形態において、眼インサートは、0.1mm~5mm、好ましくは0.5mm~2mm、より好ましくは0.5mm~1.5mmの範囲の厚さを有する。一実施形態において、眼インサートは、1mm~10mm、好ましくは2mm~5mmの範囲の長さを有する。一実施形態において、眼インサートは、1mm~10mm、好ましくは2mm~5mmの範囲の幅を有する。
【0148】
別の実施形態において、本発明の固体又は半固体の眼送達システムは、眼フィルムであり、すなわち結膜嚢中に又は結膜表面に配置されるように設計された固体又は半固体の堅牢な二次元フィルムであり、そのサイズ及び形状は、特に眼科用途のために設計される。一実施形態において、眼フィルムは、乾燥形態である。別の実施形態において、眼フィルムは、水和形態である。
【0149】
眼フィルムは、正方形、円形、楕円体、又は任意の他の好適な形状であり得る。好ましくは、眼フィルムは、0.01μm~1000μm、好ましくは0.5μm~500μmの範囲の厚さを有する。眼フィルムが円形フィルムである場合、それは、2mm~20mm、好ましくは5mm~10mmの範囲の直径を有してよい。眼フィルムはまた、眼の表面上での好適な配置のため湾曲を有し得る。
【0150】
眼フィルムは、ヒアルロン酸のプレ活性化されたチオマーと1以上の抗緑内障薬を含む溶液の溶媒蒸発により得ることができる。あるいは、眼フィルムはまた、例えばインクジェットプリンティングなどの、プリンティング技術により得ることができる。
【0151】
一実施形態において、本発明の粘膜付着性の固体又は半固体の眼送達システムは、単位剤形である。
【0152】
本発明はさらに、本発明の固体又は半固体の眼送達システムを含むキットに関する。キットは、緑内障の治療における使用のための説明書を含んでよい。キットはまた、アプリケータ、好ましくは滅菌アプリケータを含んでよい。キットはまた、送達システムが眼から取り除かれる必要があるならば、洗眼液を含んでよい。
【0153】
緑内障治療
本発明はまた、緑内障の治療における本発明の粘膜付着性の固体又は半固体の眼送達システムの使用に関する。特に、本発明の眼送達システムは、対象の眼レベルで1以上の抗緑内障薬を送達するのに有用である。標的眼組織は、角膜組織、結膜、眼瞼、線維柱帯、虹彩、毛様体、眼球血管膜、脈絡膜、網膜又は斑であり得るが、これらに限定されない。本発明の眼送達システムは、ヒト及び獣医科用途のために有用である。
【0154】
一実施形態において、本発明は、緑内障の治療における使用のための本発明の粘膜付着性の固体又は半固体の眼送達システムを提供する。
【0155】
本発明はまた、緑内障の治療のための医薬の製造のための本発明の粘膜付着性の固体又は半固体の眼送達システムの使用に関する。
【0156】
本発明はさらに、それを必要とする対象の結膜嚢中に又は結膜表面に本発明による粘膜付着性の固体又は半固体の眼送達システムを配置することを含む、対象において緑内障を治療するための方法に関する。本発明の粘膜付着性の固体又は半固体の眼送達システムは好ましくは、それを必要とする対象の眼の嚢中に配置される。
【0157】
一実施形態において、緑内障は、開放隅角緑内障である。
【0158】
一実施形態において、本発明の眼送達システムの使用は、対象の眼中の眼圧を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0159】
図1図1は、放出される薬物の100%の理論濃度に対する放出された薬物の濃度として計算される、インビトロ放出アッセイにおける経時的な製剤F1のインサートから放出されたビマトプロストの用量(%)を示すグラフである。
図2図2は、インビトロ放出アッセイにおける経時的な製剤F2のインサートから放出されたビマトプロストの用量(%)を示すグラフである。
図3図3は、インビトロ放出アッセイにおける経時的な製剤F3のインサートから放出されたビマトプロスト及びチモロールの用量(%)を示すグラフである。
【実施例
【0160】
本発明は、以下の実施例によりさらに例示される。
【0161】
実施例1:眼インサートの製造
様々な製剤(F1~F4)を有する本発明による眼インサートを製造した。
【表1】
【0162】
HAの2つの異なるプレ活性化されたチオマーを、使用した。それらは、分子量と、ジスルフィド側鎖によるHA骨格の官能化の度合いが異なるが、同じ側鎖、すなわち、2-(2-アミノエチル)ジスルファネイル)ニコチン酸(2-AMENA、2-MNA/システアミンジスルフィドに対応する)を有する。HAのこれらのプレ活性化されたチオマーを、ポリマー骨格としてヒアルロン酸、遊離チオール基を含む配位子としてシステアミン、及びプレ活性化する基として2-メルカプトニコチン酸(2-MNA)を用いて、米国特許公開第2012/0225024号に記載の方法を適合させることにより取得した。
【0163】
HAのプレ活性化されないチオマーは、システアミン側鎖を持ち、0.8MDaの分子量及び200μmol/gの官能化度を有した。HAのプレ活性化されないチオマーを、ポリマー骨格としてヒアルロン酸及び遊離チオール基を含む配位子としてシステアミンを用いて、米国特許公開第2012/0225024号に記載の方法を適合させることにより取得した。
【0164】
インサートを、粉末の形態の全ての成分を混合することにより製造した。製剤F1及びF4については、粉末混合物を、最初に圧縮により造粒し、続いて粉砕しその後圧縮した。製剤F2及びF3を有するインサートを、直接圧縮により取得した。10mgのインサートを、調製した(長さ4.3mm、幅2.3mm、厚さ1.1mm)。
【0165】
実施例2:インビトロ粘膜付着アッセイ
目的:このインビトロアッセイは、回転シリンダ法により本発明のインサートの粘膜付着特性を決定することを目的とする。この方法は、せん断を受けながら粘膜上でインサートの保持能力を評価する視覚検査である。
【0166】
方法:実施例1のインサートを、新鮮な動物の粘膜上に置いた。粘膜表面を、メッシュディスク(直径5cm)に置いた。溶解試験装置の容器(装置USP2-方法USP5-パドルオーバーディスク(Paddle-over-disk)装置)を、模擬涙液(重炭酸ナトリウム、0.2%w/w;塩化カルシウム二水和物、0.008%w/w;塩化ナトリウム、0.67%w/w;超純水、qsp;HCl 5MでpHを7.4に調整)で充填し、シリンダを、32℃の温度で50rev/分の回転速度で回転させた。インサートの剥離又は崩壊を、視覚的に決定した。
【0167】
結果:粘膜上でのインサートの保持期間を、以下の表で報告する。
【表2】
【0168】
結論:本発明のインサートは、少なくとも2日間の粘膜付着を、さらに製剤F3では6日間の粘膜付着を達成することを可能にした。
【0169】
実施例3:インビトロ膨潤アッセイ
目的:このインビトロアッセイは、水を取り込むそれらの能力を測定することにより、本発明のインサートの膨潤挙動を決定することを目的とする。
【0170】
方法:水の取り込みを、重量測定で決定した:(1)実施例1のインサートを、量った(W);(2)次いでそれらを、アッセイ中の蒸発を防ぐために密閉容器中で模擬涙液(実施例2参照)に浸し、眼の表面温度である、32℃でインキュベートした;(3)いくつかの時点で、システムを取り出し、過剰な水を、ティシュペーパーで穏やかに吸い上げることにより除去し、再び重さを量る(W)。吸水量(すなわち、膨潤率、重量%)を、[(W-W)/W]×100として算出する。
【0171】
結果:インサートの膨潤率を、以下の表で報告する。
【表3】
【0172】
結論:本発明のインサートの膨潤挙動は、それらの組成を変えることにより調節できる。
【0173】
実施例4:インビボ滞留期間評価
目的:このインビボ評価は、その粘膜付着特性、水和性及び膨潤挙動及び製剤特性の結果として、ウサギの下部結膜嚢におけるインサートの存在期間を測定することにより、本発明インサートの滞留期間を決定することを目的とする。
【0174】
方法:
【0175】
その組成を以下で詳述する、眼インサートF5~F7を、実施例1で報告したように製造した。F5~F7で使用されたHAのプレ活性化されたチオマーは、実施例1でのように2-AMENAである同じ側鎖を有するが、異なる分子量(0.6MDa)及び異なる官能化の度合い(110μmol/g)を有する。HAのプレ活性化されないチオマーは、実施例1と同じである。
【0176】
膨潤率を、実施例3でのようにインビトロで測定した。
【0177】
滞留期間を、以下のようにして測定した。インサートを、下瞼を引っ張ることにより、ニュージーランドホワイトウサギの眼(n=3)の下部結膜嚢で一方向で測定し、その後インサートを、ピンセットで配置した。瞼を、その通常の場所に戻した。下部結膜嚢におけるインサートの存在を、インサートの存在が観察されなくなるまで、1日2回(朝と午後)監視した。下部結膜嚢におけるインサートの滞留の期間を次いで、記録した。
【0178】
結果:
【表4】
【0179】
結論:眼の表面上での本発明のインサートの滞留期間は、組成を変えることにより調節できる。
【0180】
実施例5:薬物放出プロファイル
目的:このアッセイは、経時的に薬物放出プロファイルを決定することを目的とする。
【0181】
方法:実施例1のインサートを、200mLの精製水を充填したガラスフラスコ中に置いた。フラスコを、32℃で振動水浴に置いた。試料(10mL)を、所定の時点で取り、10mLの精製水を加えて、200mLの合計体積を維持した。各試料において、放出された抗緑内障薬の濃度を、HPLC-UVにより測定した。結果を、放出される薬物の100%の理論濃度に対する放出された薬物の濃度として計算される用量パーセントで表す。
【0182】
結果:経時的に試験されたインサートから放出された抗緑内障薬の量を、それぞれ、製剤F1、F2及びF3のインサートについて図1、2及び3で報告する。
【0183】
結論:本発明のインサートは、少なくとも2日間、抗緑内障薬を経時的に制御放出することを可能にした。製剤F3はさらに、6日にわたる放出を達成することを可能にした。
図1
図2
図3
【国際調査報告】