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特表2024-528259ロボット・デバイスの許容最大速度の事前定義
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】ロボット・デバイスの許容最大速度の事前定義
(51)【国際特許分類】
   B25J 19/06 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
B25J19/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024506915
(86)(22)【出願日】2022-08-03
(85)【翻訳文提出日】2024-04-02
(86)【国際出願番号】 EP2022071805
(87)【国際公開番号】W WO2023012212
(87)【国際公開日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】102021208576.8
(32)【優先日】2021-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515230084
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツゥア フェアデルング デア アンゲヴァンドテン フォァシュング エー.ファウ.
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】ベーレンス ローランド
(72)【発明者】
【氏名】ハーブスター セバスチャン
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707LU01
3C707LV20
3C707MS08
3C707MS27
(57)【要約】
本発明は、ロボット・デバイス(1)の許容最大速度を事前定義することに関し、最大の可能な許容最大速度を決定できるような可能な最も効率的な方法で、けがを防ぐための生物力学的制限値が確実に順守される速度で、ロボット・デバイス(1)の許容最大速度を事前定義するために、人間オペレータとロボット・デバイス(1)の衝突に関する、人間オペレータとロボット・デバイス(1)の間の接触点、接触点でのロボット・デバイス(1)の形状、および衝突の空間境界条件を事前定義すること、空間境界条件を考慮して、コンピューティング・ユニット(4)を使用して、衝突が締め付けのない衝突であるか、または締め付けられる衝突であるかを決定すること、コンピューティング・ユニット(4)によって、衝突が締め付けのない衝突である場合、自由衝撃モデルを使用し、衝突が締め付けられる衝突である場合、締め付け衝撃モデルを使用して、または準静的締め付けモデルを使用して、接触点でロボット・デバイス(1)の許容最大速度を計算することであって、モデルが各事例で異なるモデルであること、コンピューティング・ユニット(4)を使用して、ロボット・デバイス(1)の計算された許容最大速度に依存する信号を出力すること、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボット・デバイス(1)の許容最大速度を事前定義するための方法であって、前記方法が、
人間オペレータと前記ロボット・デバイス(1)との衝突に関する、前記人間オペレータと前記ロボット・デバイス(1)の間の接触点、前記接触点での前記ロボット・デバイス(1)の形状、および前記衝突の空間境界条件を事前定義する方法ステップ、
前記空間境界条件を考慮して、コンピューティング・ユニット(4)を使用して、前記衝突が締め付けのない衝突であるか、または締め付けられる衝突であるかを決定する方法ステップ、
前記コンピューティング・ユニット(4)によって、前記衝突が締め付けのない衝突である場合は、自由衝撃モデルを使用し、前記衝突が締め付けられる衝突である場合は、締め付け衝撃モデルを使用して、または準静的締め付けモデルを使用して、前記接触点での前記ロボット・デバイス(1)の前記許容最大速度を計算することであって、前記モデルが各事例で異なるモデルである方法ステップ、
前記コンピューティング・ユニット(4)によって、前記ロボット・デバイス(1)の計算された前記許容最大速度に依存する信号を出力する方法ステップ、
を含む、方法。
【請求項2】
前記出力信号が、前記ロボット・デバイス(1)に関して事前定義された機械の経路に沿った、位置に依存する速度指定を表し、前記速度指定が、特に、計算された前記最大速度に基づいて事前定義された前記機械の経路に対してもともと事前定義された速度指定の大きさを変更することによって生成され、好ましくは、前記機械の経路の1つまたは複数のサブセクションで前記ロボット・デバイス(1)の事前定義されたプロセス速度を考慮して、前記大きさの変更が、均一な大きさの変更または事前定義された前記機械の経路に局所的に適応された大きさの変更を含んでよいということを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記許容最大速度がリアルタイムに計算され、前記出力信号が前記ロボット・デバイス(1)の瞬時の許容最大速度を表すことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記衝突が締め付けられる衝突である場合に、前記締め付け衝撃モードおよび前記準静的締め付けモデルを使用して前記許容最大速度が計算され、計算された前記最大速度のうちのより低い値が、前記出力のための前記許容最大速度として選択されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記準静的締め付けモデルで、前記許容最大速度が、
(a)前記ロボット・デバイス(1)の事前定義された運動学的構造、
(b)前記衝突の時点での、特に、前記ロボット・デバイス(1)の1つまたは複数の軸の位置および各前記軸に割り当てられた速度を含む、関節構成、
(c)前記衝突の前記接触点での人体部位の剛性特性曲線、
(d)前記衝突の前記接触点での機械の点の剛性特性曲線、
(e)前記人体部位の前記剛性特性曲線および前記機械の点の前記剛性特性曲線を使用して計算された、結果として得られた剛性特性曲線、
(f)特に、力のしきい値および/またはエネルギーしきい値および/または変形しきい値を使用して事前定義された許容最大変形、
(g)前記機械の点の前記剛性特性曲線および前記結果として得られた剛性特性曲線を使用して計算された許容侵入深度、
(h)前記ロボット・デバイス(1)の反力、
(i)前記機械の点の前記剛性特性曲線および前記許容侵入深度を使用して計算された前記ロボット・デバイス(1)の反応距離、
(j)前記事前定義された許容最大変形および前記反力を使用して計算された前記ロボット・デバイス(1)の許容制動距離、ならびに
(k)前記ロボット・デバイス(1)の実際の制動距離
に基づいて計算されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ロボット・デバイス(1)の前記許容最大速度が、前記実際の制動距離が前記許容制動距離に一致するまで、反復的に確定され、特に、二分法を用いて反復的に確定されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記衝突が、異なる人体部位で接触点を含む場合、前記出力信号が、最短の前記実際の制動距離に対応する前記許容最大速度に依存することを特徴とする、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
前記衝突が異なる機械の点での接触点を含む場合、すべての接触点の前記許容最大速度が計算され、前記出力信号が最低の前記許容最大速度に依存することを特徴とする、請求項5から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記自由衝撃モデルおよび前記締め付け衝撃モデルの場合に、
(a)前記ロボット・デバイス(1)の事前定義された運動学的構造、
(b)前記衝突の時点での、特に、前記ロボット・デバイス(1)の1つまたは複数の軸の位置および各前記軸に割り当てられた速度を含む、関節構成、
(c)前記衝突の前記接触点での人体部位の剛性特性曲線、
(d)前記衝突の前記接触点での機械の点の剛性特性曲線、
(e)前記人体部位の前記剛性特性曲線および機械の点の前記剛性特性曲線を使用して計算された、前記結果として得られた剛性特性曲線、
(f)力のしきい値および/またはエネルギーしきい値を使用して事前定義された前記許容最大変形、
(l)前記衝突の前記接触点での前記機械の点の有効質量、
(m)前記ロボット・デバイス(1)の有効剛性、ならびに前記自由衝撃モデルの場合のみ、
(n)前記衝突の前記接触点での前記人体部位の有効質量
に基づいて各事例において前記許容最大速度が計算されることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記自由衝撃モデルが、3質量発振器モデルを含むか、もしくは3質量発振器モデルであり、および/または前記締め付け衝撃モデルが、2質量発振器モデルを含むか、もしくは2質量発振器モデルであることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ロボット・デバイス(1)の許容最大速度を事前定義するための制御ユニット(2)であって、
人間オペレータとロボット・デバイス(1)との衝突に関する、人間オペレータと前記ロボット・デバイス(1)の間の接触点、前記接触点での前記ロボット・デバイス(1)の形状、および前記衝突の空間境界条件を検出するための検出ユニット(3)、
前記空間境界条件を考慮して、前記衝突が締め付けのない衝突であるか、または締め付けられる衝突であるかを決定するため、および前記衝突が締め付けのない衝突である場合に、自由衝撃モデルを使用し、前記衝突が締め付けられる衝突である場合に、締め付け衝撃モデルを使用するか、または準静的締め付けモデルを使用して、前記接触点で前記ロボット・デバイス(1)の前記許容最大速度を計算するためのコンピューティング・ユニットであって、前記モデルが各事例において異なるモデルであり、前記ロボット・デバイス(1)の計算された前記許容最大速度に依存する信号を出力するためのコンピューティング・ユニット(4)を備える、制御ユニット(2)。
【請求項12】
請求項11に記載の制御ユニット(2)を備える、ロボット・デバイス(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボット・デバイスの許容最大速度を事前定義するためのコンピュータ実装方法、および対応する制御ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
ロボット・デバイスとの事故およびけがを防ぐか、または減らすためには、可動部を含む機械的な人間と機械の間のインターフェイスを保護することが必要である。そのような人間と機械の間のインターフェイスは、例えば、協働ロボット・デバイス/ロボット、いわゆるコボットに存在する。原理的には、本明細書ではロボット・デバイス(機械)の各可動部と、人間オペレータ(ユーザ)の体の部位との衝突に起因する、けがのリスクが存在する。けがまたは事故のリスクは、ロボット・デバイスの性能を、デバイスがけがのリスクをもたらさないか、または軽減されたけがのリスクしかもたらさない程度に制限することによって、軽減され得る。
【0003】
一般に、性能の制限は、ロボット・デバイスの力および/または動力を制限することによって達成され得る。例えば、関連する規格において定量化された既知の生物力学的制限値は、それに応じて、ロボット・デバイスの安全な動作モードに関して、人間との衝突が人体組織の許容できない過大応力およびその結果としての痛みまたはけがを引き起こさないように、ロボット・デバイスの動力、例えば、ロボット・デバイスの可動部の速度がどの程度制限されるべきかを、間接的に指定する。
【0004】
今日では、物理的測定によるロボット・デバイスでの制限値の検証、すなわち制限値の順守が確立されている。この検証の欠点は、対応する測定が、ロボット・デバイスが運用された後にのみ可能になり、したがって、達成可能な最大の速度または性能の制限が、遡及的にしか決定され得ないということである。その結果、対応する許容制御信号も、遡及的にしか生成され得ず、これが、長い反復ループおよび計画の高度の不確実性につながる。
【0005】
人間と弾力性のあるロボット・デバイスの衝突の抽象的評価の理論的理解は、2004年のIEEE Robot.Automat.Mag.11(2)、22~23ページで公開されたBicchi,A.他による記事「Fast and "Soft Arm" Tactics」による影響を著しく受けた。そこでは、3質量発振器モデル(three-mass oscillator model)を使用して、頭部外傷のリスクが提案されている。しかしこのモデルは、頭部などの硬い体の部位のみに適している。
【0006】
3質量発振器モデルは、Proceedings of 2012 IEEE/RSJ-International Conference on Intelligent Robots and Systems、5089~5096ページで公開されたHaddadin S.他による記事「On Impact the Decoupling Properties of Elastic Robots and Time Optimal Velocity Maximization on Joint Level」においても同様に使用されている。最悪の場合のシナリオを示すために、駆動慣性が無限質量であると仮定されるが、これは、著しく過度の衝突力につながり、したがって現実的なシナリオにおいて、不必要に減らされた許容最大速度につながる。
【0007】
2021年の「Experimental Robotics」、Cham:Springer International Publishing、211~221ページでのHerbster S.他による記事「A New Approach to Estimate the Apparent Mass of Collaborative Robot Manipulators」も、3質量発振器モデルを使用する。そこでは、線形特性曲線を仮定して、安全速度の解析解、すなわち許容最大速度が説明されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって目的は、ロボット・デバイスの許容最大速度を指定することであり、この許容最大速度では、可能な最高の許容最大速度を、特にリアルタイム・アプリケーションにおいて決定できるようにするための可能な最も効率的方法で、けがを防ぐための生物力学的制限値が確実に順守される。
【0009】
この目的は、独立請求項の主題によって達成される。有利な実施形態は、従属請求項、説明、および図において見いだされ得る。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1つの態様は、ロボット・デバイスの/ロボット・デバイスに関する許容最大速度を事前定義するためのコンピュータ実装方法に関する。本明細書では、最大速度は、特に、事前定義された機械の経路またはロボット・デバイスの軌道を伴う各時点での、ロボット・デバイスの表面上のすべての点のうちの、最高速度で移動している1つまたは複数の点に関連している。特に、ロボット・デバイスは、協働ロボット・デバイス、いわゆるコボットであってよい。しかし、一般に、説明される方法は、人間との物理的インターフェイスを有する任意の機械に適用されてよい。
【0011】
本明細書では、1つの方法のステップは、人間オペレータとロボット・デバイスの衝突に関する、人間オペレータとロボット・デバイスの間の少なくとも1つの接触点、接触点でのロボット・デバイスの形状、および衝突の空間境界条件を事前定義することである。特に、ロボット・デバイスの形状は、ツールおよび/または加工対象物のデータを含んでよい。したがって、ロボット・デバイスによって使用されるツールまたはロボット・デバイスによって処理される加工対象物は、ロボット・デバイスの一部と見なされて考慮されてよい。人間と機械の間、すなわちオペレータとロボット・デバイスの間の接触点、および空間境界条件、例えば、接触点に属する人体の部位が捕捉されているのか、または自由であるのかの選択が、ユーザによって手動で実行されてよく、または(部分的に)自動的に実行されてもよい。ユーザまたは(部分的に)自動化された入力が、衝突、またはオペレータとロボット・デバイスの関連する衝突をそれぞれ含む複数接触シナリオの、1つまたは複数の接触点を指定してよい。衝突に関連付けられたロボット・デバイスの形状は、例えば、リストを使用してユーザによって手動で、または例えば、場合によってはツールおよび加工対象物を含んでいるロボット・デバイスの3Dモデルに基づいて自動的に、選択されてよい。
【0012】
さらなる方法のステップでは、事前定義された空間境界条件を考慮して、コンピューティング・ユニットを使用して、衝突が締め付けのない衝突であるか、または締め付けられる衝突であるかが決定される。複数の接触点との衝突の場合、締め付けのない衝突および締め付ける衝突の両方である衝突が発生することもある。この場合、衝突が、例えば、この方法のための2つの別々の部分衝突に分割されてよく、その後、部分衝突ごとに、説明される方法が個別に実行される。各個別の方法の終了時に、さらに下で説明されるような、複数の衝突または複数の接触点に関するロボット・デバイスの許容最大速度の事前定義と同様に、許容最大速度の異なる結果が互いに比較されてよく、適切な、例えば最も低い最大速度が、許容最大速度として事前定義されてよく、すなわち計算され、下で説明される出力のために提供されてよい。
【0013】
したがって、接触点でのロボット・デバイスの許容最大速度の計算が、さらなる方法のステップである。この計算は、衝突が締め付けのない衝突である場合、自由衝撃モデル(free-impact model)を使用して実行され、衝突が締め付けられる衝突である場合、締め付け衝撃モデル(clamping-impact model)を使用して、および/または準静的締め付けモデル(quasi-static-clamping model)を使用して実行される。これらのモデルは、各事例において異なるモデルである。自由衝撃モデルは、本明細書では「自由衝撃」、すなわち、人体の部位での接触点または接触点に属する人体の部位が、衝突方向(衝突中のロボット・デバイス上の接触点の移動方向)の任意の外部抵抗によって妨害されない、すなわち、人体の部位が回避することができる、比較的高速な衝突に使用される。締め付け衝撃モデルは、接触点に割り当てられた人体の部位が回避することができない、すなわち外部抵抗に遭遇し、したがって捕捉される、同様に比較的高速な衝突に関連している。準静的締め付けモデルは、この場合、前述の高速な衝突と比較して低速な衝突に使用され、この低速な衝突では、人体の部位での接触点または接触点に関連付けられた人体の部位が、衝突の方向の外部抵抗をやはり受け、すなわち、体の部位が、締め付け衝撃を回避することができない。
【0014】
本明細書では、異なるモデルが、許容最大速度を計算するコンピューティング・ユニットに格納され、コンピューティング・ユニットは、下でさらに説明されるように、部分的に同一かつ部分的に異なる入力変数に基づいてモデルに固有の各最大速度を決定してよい。本明細書では、衝突が比較的高速であるか、または比較的低速であるか、すなわち、締め付け衝撃モデルが使用されるのか、または準静的締め付けモデルが使用されるのかが、例えば、対応する速度制限値を設定することによって、代替的または追加的に、両方のモデルを適用することによって、すなわち、2つの異なるシミュレーションを別々に使用して衝突をシミュレートしてから、結果を比較し、各事例において許容最大速度を得ることによって、事前定義されてよい。例えば、これらの結果のうち、より低い方が、方法のさらなる部分のために選択されてよい。
【0015】
最後に、コンピューティング・ユニットは、複数の計算された最大速度から選択されてもよい、ロボット・デバイスの計算された許容最大速度に依存する、特に、計算された許容最大速度を表す制御信号を出力する。この制御信号は、本明細書では、ロボット・デバイスによって直接読み取られ得る制御信号であってよく、または代替として、それに応じて、方法の人間ユーザに、ロボット・デバイスが制御されるべき最大速度を、例えばディスプレイユニットを介して示す制御信号であってよい。したがって、コンピュータ実装方法は、仮想計画ツールにおいて、例えば、制御信号によって仮想的に制御される仮想ロボット・デバイスを使用して、またはロボット・デバイスの制御ユニットにおいて直接、プログラム・シーケンスとして実装されてよい。ツール、安全構成、運動学の記述、質量、慣性、重心、関節、および対応するモーターに加えて、一方で、ロボット・デバイスのトルク、ならびに衝突による影響を受ける体の部位の制限値、剛性特性曲線、および質量に関して必要とされるデータが、対応するデータベースに格納され、この方法に提供される。以下では、使用されるデータがさらに詳細に説明される。信号は、例えば、リアルタイム・アプリケーションにおいて、ロボット・デバイスの実際の速度が許容最大速度より高いということを示す、警告信号であってもよい。
【0016】
許容最大速度を計算するために、この方法は、データベースまたはモデルに格納されたパラメータにアクセスする。計算が完了した後に、この方法およびしたがってアルゴリズムは、安全速度、すなわち、ロボット・デバイスの許容最大速度を出力し、この許容最大速度では、考慮中の衝突が発生した場合に、衝突に関与している考慮される機械部品が、ISO/TS15066などの2021年7月において有効な規格に従って許容できる、格納された生物力学的制限値を超えなくなる。1つまたは複数の衝突における接触点と接触形状の複数の対の場合、計算された安全速度のうちの最も低い値が、出力のために選択されてよい。
【0017】
以前の手法と比較して、本明細書での利点は、まず、締め付け衝撃および準静的締め付けが、均一な手法で組み合わせられるが、依然として個別に考慮されることである。これによって、相対的に遅い衝突および相対的に速い衝突の両方に関して、どの速度が、けがのリスクの低いまだ安全な速度であるかを正確に計算できるようにする。
【0018】
これは、システムの挙動が高度に非線形であるという知識、すなわち、すべての締め付け、高速および低速な締め付け、締め付け衝撃および準静的締め付けのための均一なモデルに対する制限が、他の事例に関する現実の制限値から大きく逸脱する、したがって非常に不正確である許容最大速度をもたらすという知識に基づく。加えて、説明される方法は、機械、特に、人間との物理的インターフェイスを有するロボット・デバイスの各許容最大速度の、いわゆるオフラインの(計画)計算およびリアルタイムの計算の両方に適している。本明細書では、特定の例が、人間と情報をやりとりし、ISO/TS15066に従って動力と力の制限モードで動作する協働ロボット・デバイスによって構成される。説明される方法は、既知の生物力学的制限値などの、事前定義された制限値の順守を保証するために使用されてよく、したがって、許容できない応力、すなわち、オペレータに対する痛みおよび/またはけがを引き起こす衝突のリスクを最小限に抑える。
【0019】
前述の方法は、事前定義された軌道、またはより正確には、ロボット・デバイスによって通過される機械の経路(軌道)に沿った機械の可動部の許容速度を最適化し、検証するために使用されてよい。衝突の異なる空間条件および時間条件が、特に対処されることが可能であり、このことが、この方法の際立った精度をもたらす。
【0020】
したがって、本発明の基礎になるさらなる洞察は、さまざまなモデルの使用が、必要とされる初期構成がより複雑であるが、全体的効率に関して単一のモデルの使用よりも有益であるということである。この方法は、ツールおよび加工対象物を含む、衝突する機械部品の接触点でのさまざまな表面形状に加えて、衝突が発生した場合に変形することもあるオペレータの負荷をかけられた軟組織および接触点での機械の表面の両方に関する、接触点での非線形剛性特性曲線を考慮することもできる。この方法は、特に、けがのリスクの包括的評価、およびしたがって、特に、許容最大速度の信頼できる決定が実現されるように、ツールおよび加工対象物を含む、機械の表面に沿ったさまざまな点に適用されてもよい。
【0021】
有利な実施形態では、出力制御信号が、ロボット・デバイスに関して事前定義された機械の経路、ロボット・デバイスの軌道、またはロボット・デバイスの1つまたは複数の部分に沿った、位置に依存する速度指定を表すということが提供される。速度指定は、本明細書では、機械の経路に沿って、およびしたがって、ロボット・デバイスの各機械の部分のさまざまな位置で事前定義されるという点において、位置に依存する。特に、計算された最大速度に基づいて同様に位置に依存するのが好ましい、事前定義された機械の経路に関して、もともと事前定義された速度指定の大きさを変更することによって、位置に依存する速度指定が生成されてよい。したがって、安全でないことがある機械の経路に沿った元の位置に依存する速度指定は、事前定義された機械の経路に沿って安全な許容最大速度が事前定義されることを保証する、同等の位置に依存する速度指定に置き換えられ得る。
【0022】
本明細書では、大きさの変更は、事前定義された最大速度の、均一な、すなわち位置に依存しない大きさの変更、または事前定義された機械の経路に局所的に適応される大きさの変更を含むか、またはそのような大きさの変更であってよい。したがって、均一な大きさの変更では、元の速度指定の1つまたは複数の速度極値で、前述したようにけがが排除され得る安全速度を超えないように、機械の経路に沿った位置に応じて、事前定義された許容最大速度に、固定された係数を掛ける。事前定義された機械の経路に局所的に適応される大きさの変更の場合、それに応じて、元の速度指定が安全速度を超える機械の経路のサブセクションの場合に、速度が減らされてよく、もともと事前定義された速度指定が決定された安全な最大速度を下回る機械の経路のサブセクションの場合に、速度が増やされてよい。特に、例えば、もともと事前定義された最大速度指定がそこで調節されないような方法で、機械の経路の1つまたは複数のサブセクションで、ロボット・デバイスの事前定義されたプロセス速度が考慮されてよい。これは、例えば、ロボット・デバイスによって実行される技術的プロセスのそのようなサブセクションで、安全上の理由から増やされることがあるが、プロセス自体のために、計算された許容最大速度に関して低い速度が必要とされる場合に、有利である。これには、ロボット・デバイスのプロセス全体が安全に最適化され得る、すなわち、ロボット・デバイスの速度が増やされ得るという利点がある。
【0023】
代替の実施形態では、事前定義された接触点でのロボット・デバイスの瞬時の実際の速度が、瞬時の許容最大速度に適応されるように、許容最大速度がリアルタイムに計算され、制御信号出力がロボット・デバイスの瞬時の許容最大速度を表すということが提供される。これは例えば、ロボット・デバイスの瞬時の速度がオペレータによって制御されるか、または影響を受ける、手動で、または半自動的に制御されるデバイスの場合に有利である。
【0024】
さらなる有利な実施形態では、衝突が締め付けられる衝突である場合に、締め付け衝撃モデルおよび準静的締め付けモデルを使用して許容最大速度が計算され、計算された最大速度のうちのより低い値が、出力信号が依存する許容最大速度として選択されるということが提供される。これには、より高速な衝突とより低速な衝突の間で、暗黙的区別が行われる、すなわち、柔軟性に欠け、正しくない可能性がある制限値が最初から設定される必要がなく、より安全な最大速度に優先権が与えられるという利点がある。
【0025】
さらなる有利な実施形態では、許容最大速度が、以下に基づいて準静的締め付けモデルで計算される。
(a)ロボット・デバイスの事前定義された運動学的構造、
(b)衝突の時点での、特に、ロボット・デバイスの1つまたは複数の軸の位置および各軸に割り当てられた速度を含む、関節構成、
(c)衝突の接触点での人体部位の剛性特性曲線、
(d)衝突の接触点での機械の点の剛性特性曲線、
(e)人体部位の剛性特性曲線および機械の点の剛性特性曲線を使用して計算された、結果として得られた剛性特性曲線、
(f)特に、生物力学的力のしきい値および/またはエネルギーしきい値および/または変形しきい値を使用して、またはこれらから事前定義され、追加された最大変形、
(g)機械の点の剛性特性曲線および結果として得られた剛性曲線を使用して計算された許容侵入深度、
(h)ロボット・デバイスの反力、
(i)機械の点の剛性特性曲線および許容侵入深度を使用して計算されたロボット・デバイスの反応距離、
(j)事前定義された許容最大変形および反力を使用して計算されたロボット・デバイスの許容制動距離、ならびに
(k)ロボット・デバイスの実際の制動距離。
【0026】
(a)に従うロボット・デバイスの事前定義された運動学的構造は、本明細書では、関節の全体的な配置を、例えば、デナビット・ハーテンバーグ・パラメータとして表す。(b)に従う衝突の時点での関節構成は、特に、例えば、人間による入力によって引き起こされて、ロボット・デバイスまたは仮想(オフライン)計画ツールの対応する制御ユニットによって、ロボット・デバイスの軸の位置および軸の速度を、この方法またはアルゴリズムに伝達する。ロボット・デバイスの軌道が伝達される場合、それに応じて、個別の時間ステップごとに、関節構成が計算されて伝達される。したがって、次にこの方法は、軌道に沿って時間ステップごとに安全速度を計算するために使用されてよい。
【0027】
(c)に従う人体部位の剛性特性曲線は、影響を受ける体の部位および接触点での機械の形状に依存する。剛性特性曲線は、当該の体の部位の変形に対する、衝突中に体の部位に作用する力の依存関係を定量化し、通常、非線形挙動によって区別される。衝突による影響を受ける人体の部位の剛性特性曲線および関連する制限値は、本明細書では、特に、ISO/TS15066に従って、表形式のリストから選ばれるか、接触モデル(シミュレーション)に基づいて決定されるか、または実験的に決定されてよい。既知の表形式のリストは、例えば、影響を受ける体の部位、および接触点でのロボット・デバイスの形状の外形を含む。一方、接触モデルは、体の部位または体の部位での接触点ごとの特定の材料パラメータおよび生物力学的制限値に基づいて、接触形状に依存する剛性特性曲線および関連する力またはエネルギーの制限値を計算してよい。
【0028】
(d)に従う接触点での機械の点は、人体部位の剛性と同等の剛性を有してもよい。人体部位の剛性特性曲線と同様に、対応する剛性特性曲線が、データベース内のエントリ、シミュレーション、または実験データによって与えられてよい。この剛性特性曲線は、非線形挙動を表してもよい。(e)に従う有効な剛性特性曲線は、(c)に従う人体部位の剛性特性曲線および(d)に従う接触点での機械の点の剛性特性曲線から得られる。そのような結果として得られた剛性特性曲線が、図2に示されており、例えば、通常、機械の点との衝突が発生した場合に接触点で人体部位に作用する力と、この力から生じる接触点での人体部位の変形との間の関係を確立する。本明細書では、作用力が許容できる生物力学的接触力を超える場合、許容侵入深度も超え、損傷、すなわち人体部位に対するけがをもたらす。
【0029】
生物力学的制限値としての、(f)に従う事前定義された許容最大変形は、体の部位および接触形状に依存する制限値である。したがって、許容最大変形は、力のしきい値/制限値および/またはエネルギーしきい値/制限値および/または変形しきい値/制限値と共に、またはこれらとして存在してよい。本明細書では、衝撃荷重および締め付け荷重の各制限値に関して、高速な(一時的な)値と低速な(準静的な)値の間で、区別が行われてよい。準静的指定または値が、準静的締め付けモデルに関連し、一方、一時的制限値が、自由衝撃モデルまたは締め付け衝撃モデルに関連する。人体部位の特定の剛性特性曲線を使用して、さまざまな力、エネルギー、または変形の制限値が、互いに変換されてよい。例えば、図2と併せて説明されるように、この計算には、生物力学的力の制限値が必要とされる。
【0030】
(g)に従う許容侵入深度は、生物力学的力の制限値および結果として得られた剛性特性曲線から決定されてよい。図2では、許容侵入深度は、許容できる生物力学的接触力および結果として得られた剛性特性曲線の交点に対応する。(h)に従うロボット・デバイスの反力は、ロボット・デバイスに設定され得る力の制限値であり、この力の制限値を超えた場合に、ロボット・デバイスが安全停止を引き起こす。そのような安全停止は、通常、すべての軸の最大減速度を使用する非同期的制動を伴い、その場合、経路の忠実性が与えられない。例示的な反力も、図2に示されている。設定可能な力の制限値は、多くの場合、特定の軸にわたって、ロボット・デバイスの動作点に対して設定されてよい。力の制限値は、特に、ロボット・デバイスの各駆動に関して示される、軸に固有の力またはトルクの制限値として設定されてもよい。軸に固有の力またはトルクの制限値は、軸の位置、接触点での機械の点、すなわち、機械の表面上の接触点、および衝突方向を使用して、全体的な力の制限値に変換されてよい。
【0031】
原理的には、力の制限値は、任意の機械の点に対して、すなわち機械の表面上の任意の接触点に対して定義されてよい。機械の点、例えばロボット・デバイスのエンド・エフェクタに設定された力の制限値は、通常、任意の他の機械の点に関する力の制限値に変換されてよい。次に、軸に固有の力またはトルクの制限値が、すべての軸に与えられる必要はない。軸の位置が好ましくない場合、ロボット・デバイスは、そのような場合に、衝突を検出しないことがある。これは、衝突が発生した場合に、監視された軸に固有の力またはトルクが、入力される力によってどれも対処されない場合に当てはまる。両方とも一般に監視される制限値と呼ばれる、動作点の力の制限値および軸に固有の力またはトルクの制限値が、しばしば両方ともロボット・デバイスで設定され、すなわち事前定義されて有効化される。そのような場合、2つの結果として得られた制限値のうちのより低い値が、さらなる考慮のために、ロボット・デバイスで反力として考慮されなければならない。
【0032】
(i)に従うロボット・デバイスの計算された反応距離は、機械の動作点で設定された反力および結果として得られた剛性特性曲線から得られてよい。次に、図2にも示されているように、制限値および特性曲線の交点が、反応距離の長さに対応する。(j)に従うロボット・デバイスの許容制動距離は、許容侵入深度から機械の反応距離を引いた値から得られる。例示的な許容制動距離も、図2に示されている。ロボット・デバイスに対する反力が、各体の位置での許容接触力より大きい場合、安全速度は存在しない。この場合、ロボット・デバイスは、影響を受ける体の部位が危険ゾーンの外側になるまで移動してはならない。
【0033】
安全停止が発生した場合、ロボット・デバイスは、通常、非同期的制動を実行し、その場合、すべての軸が最大に減速され、経路の精度の損失が受け入れられる。本明細書では、そのような制動プロセスの後のロボット・デバイスの軸の位置が、衝突の時点での軸の速度、到達距離が決定され得る軸の位置、作用点またはツールでの追加の荷重、および移動した制動角度から計算される。制動角度は、製造業者の仕様から選ばれるか、または可能な減速度に基づいて計算されるか、または実験的に決定されてよい。次に、減速度が、ロボット・デバイスの軸で使用可能な力またはトルク、および機械システムと見なされるロボット・デバイスの動力学から得られる。既知の運動学的構造を使用し、制動プロセスの終了前と後の衝突点の距離における差を考慮して、機械の任意の点に関して、すなわち、衝突の接触点としての機械の点ごとに、衝突方向に移動した距離が計算されてよい。その後、この移動した距離は、(k)に従う機械の実際の制動距離に対応する。
【0034】
有利な実施形態では、許容最大速度は、実際の制動距離が許容制動距離に対応するまで、ロボット・デバイスの反力に基づいて反復的に決定されてよい。本明細書では、二分法が特に適切である。許容最大速度は、より少ない反復ステップに起因して、前述の変数を使用して特に素早く計算され得る。
【0035】
別の有利な実施形態では、衝突が人体の異なる部位での接触点を含む場合、制御信号出力は、事前定義された許容最大変形および結果として得られた剛性曲線に基づいて、最短の実際の制動距離に対応する許容最大速度に依存する。この許容最大速度は、必ずしも、さまざまな接触点での最低の許容最大速度である必要はない。これには、考慮されるのが最大速度自体ではなく、必要とされる制動距離に関して評価される衝突の各接触点であるため、けがが特に効果的に回避されるという利点がある。
【0036】
さらなる有利な実施形態では、衝突が異なる機械の点での接触点を含む場合、すべての接触点の許容最大速度が計算され、出力信号が最低の許容最大速度に依存するということが提供される。前の段落で説明されたこととは対照的に、異なる機械の点に関して、実際の制動距離ではなく、最大速度自体がけがのリスクを制限することに最も良く適しているということが判明した。
【0037】
さらなる有利な実施形態では、自由衝撃モデルおよび締め付け衝撃モデルの場合に、以下に基づいて各事例において許容最大速度が計算されるということが提供される。
(a)ロボット・デバイスの事前定義された運動学的構造、
(b)衝突の時点での、特に、ロボット・デバイスの1つまたは複数の軸の位置および各軸に割り当てられた速度を含む、関節構成、
(c)衝突の接触点での人体部位の剛性特性曲線、
(d)衝突の接触点での機械の点の剛性特性曲線、
(e)人体部位の剛性特性曲線および機械の点の剛性曲線を使用して計算された、結果として得られた剛性曲線、ならびに
(f)生物力学的力のしきい値および/または生物力学的エネルギーしきい値を使用して事前定義された許容最大変形。
【0038】
述べられた値は、準静的締め付けモデルに関して上ですでに説明された値に対応する。
【0039】
加えて、本明細書では、以下に基づいて追加の最大速度が計算される。
(l)衝突の接触点での機械の点の有効質量、および
(m)ロボット・デバイスの有効剛性。
【0040】
自由衝撃モデルのみを使用して、以下にも基づいて最大速度が計算される。
(n)衝突の接触点での人体部位の有効質量。
【0041】
(l)に従う機械の点の有効質量は、本明細書ではKhatib O.に従って計算され、それに応じて、IEEE Journal of Robotics and Automation 3(1)、43~53ページにおいて1987年に公開された記事「A Unified Approach for Motion and Force Control of Robotic Manipulators:The Operational Space Formulation」およびThe International Journal of Robotics Research 14(1)、19~36ページにおける1995年の記事「Inertial Properties in Robotic Manipulation:An Object-Level Framework」において、次のように見いだされ得る:衝突の時点での機械部品の配置(軸の位置)、動的質量特性、ロボット・デバイスの運動学的構造(軸の幾何学的配置など)、衝突方向、および衝突点。ロボット・デバイスの動的質量特性は、駆動の慣性を使用して、または使用せずに、計算されてもよい。これによって、駆動慣性を考慮しないロボット・デバイスの有効質量、または駆動慣性を考慮したロボット・デバイスの有効質量のいずれかが得られ、2つの有効質量間の差から有効駆動質量が計算される。駆動慣性を考慮して計算する場合、ロボット・デバイスの個別の駆動の伝達率が考慮されなければならない。Khatibの方法は、互いに対して移動する機械部品、例えば、関節のあるロボットにおけるロボット・チェーンの異なる要素の直列配置を計算することに特に適している。しかし、この方法は、並列な運動学的チェーンおよび混合形態にも使用され得る。
【0042】
ロボット・デバイスの有効剛性(n)は、衝突の時点での機械部品の配置、個別の駆動系の剛性、ロボット・デバイスの運動学的構造、衝突方向、および衝突点に応じて、1980年にProceedings of the Conference on Decision and Control including the Symposium on Adaptive Processes、95~100ページにおいて公開されたJ.-K.Salisbury、「Active stiffness control of a manipulator in cartesian coordinates」ならびに2004年2月に日本の仙台でのProceedings of the 2004 IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems(IROS)、3295~3301ページ、第4巻において公開されたA.Albu-Schaffer、M.Fischer、G.Schreiber、F.Schoeppe、およびG.Hirzinger、「Soft robotics:what cartesian stiffness can obtain with passively compliant,uncoupled joints?」に従って計算されてよい。これらの記事では、等価モデルに従って、例えばそれに応じて図3に示されているように、有効駆動質量が軸の有効質量と弾力的に結合される。次に、これらの質量間の剛性が、有効剛性をもたらす。
【0043】
自由衝撃(締め付けのない衝突)の空間条件の場合の力を決定するためには、(n)に従う人間の有効質量が必要とされる。人間の有効質量は、本明細書では、人間の動的質量モデルを使用して計算されるか、または例えばISO/TS15066に従って、表形式のリストから選ばれる。動的質量モデルは、通常、身体姿勢(すなわち、個別の関節の位置)、例えば性別、身長、および体重に依存する動的質量特性などの動的質量特性、衝突方向、ならびに衝突点を考慮する。表形式のリストは、通常、影響を受ける身体セグメントおよび身体姿勢を含む。締め付け衝撃が発生した場合、人体の部位(人体部位)は、加えられた力を回避することができず、すなわち後退することができない。したがって、等価モデルでは、人体部位が堅く捕捉されていると見なされなければならない。
【0044】
特定の変数をパラメータとして使用して、自由衝撃モデルまたは締め付け衝撃モデルのシミュレーション・モデルが、例えば図3に示されているように構築されてよい。したがって、自由衝撃モデルは、3質量発振器モデルを含むか、もしくは3質量発振器モデルであってよく、および/または締め付け衝撃モデルは、2質量発振器モデルを含むか、もしくは2質量発振器モデルであってよい。これらのモデルは、衝突速度に基づいて、接触点での力の曲線に関する結論を導き出すのに適している。伝達されるエネルギーおよび最大の力が、力の曲線から決定されてよく、次に、結果として得られた剛性特性曲線を介して予想されるけがに関する結論を導き出すために使用されてよく、それに応じて、安全速度が許容最大速度として事前定義されてよい。
【0045】
許容最大速度としての安全速度の計算は、本明細書では、接触点で結果として得られた剛性特性曲線が線形である場合、分析的に可能であり、接触点で結果として得られた剛性特性曲線が非線形である場合、数値的にのみ可能である。本明細書では、この方法を加速するために、結果として得られた剛性特性曲線および生物力学的力の制限値の交点で、結果として得られた剛性特性曲線を線形化することが可能であることもある。この場合、例えば、解析解に基づいて許容最大速度の初期推定値が導き出されてよく、その後、数値解法のための初期値として使用されてよい。
【0046】
本明細書では、一時的な、すなわち相対的に速い衝突の場合、衝突持続時間が通常は短すぎて駆動コントローラが介入できないため、ロボット・デバイスの駆動コントローラが無視されてよいということに注意するべきである。したがって、機械に設定されて監視された反力は、通常、衝撃に影響を与えない。衝撃が発生した場合、通常は、ロボット・デバイスの設定され監視された反力より小さい生物力学的制限値が順守されてよい。
【0047】
別の態様は、ロボット・デバイスの許容最大速度を事前定義するための制御ユニットにも関する。そのような制御ユニットは、人間オペレータとロボット・デバイスの衝突に関して、人間オペレータとロボット・デバイスの間の接触点を検出するため、接触点でのロボット・デバイスの形状を検出するため、および衝突の空間境界条件を検出するために、検出ユニットを備えている。さらに、制御ユニットは、物理的境界条件を考慮して、衝突が締め付けのない衝突であるか、または締め付けられる衝突であるかを決定するため、および衝突が締め付けのない衝突である場合に、自由衝撃モデルを使用し、衝突が締め付けられる衝突である場合に、締め付け衝撃モデルを使用するか、または準静的締め付けモデルを使用して、接触点でロボット・デバイスの許容最大速度を計算するために、コンピューティング・ユニットを含む。これらのモデルは、各事例において異なるモデルである。コンピューティング・ユニットは、ロボット・デバイスの計算された許容最大速度に依存する制御信号を出力するようにも構成される。さらなる態様は、そのような制御ユニットを備えているロボット・デバイスに関する。
【0048】
制御ユニットの、および制御ユニットを備えているロボット・デバイスの利点および有利な実施形態は、本明細書では、説明された方法の利点および有利な実施形態に対応する。
【0049】
説明において、および導入部においても、上で言及された特徴および特徴の組み合わせに加えて、図の説明において後述される特徴および特徴の組み合わせならびに/または図に単独で示される特徴および特徴の組み合わせは、本発明の範囲から逸脱することなく、各事例において示された組み合わせにおいて使用され得るだけでなく、他の組み合わせにおいても使用されてよい。したがって、図に明示的に示されて説明されないが、説明された実施形態から明らかになり、特徴の別々の組み合わせによって生み出され得る実施形態も、本発明によって含まれ、開示されると見なされるべきである。したがって、もともと形成された独立請求項のすべての特徴を含むわけではない実施形態および特徴の組み合わせも、開示されると見なされるべきである。さらに、特許請求の範囲の参照において提示された特徴の組み合わせの範囲を超えるか、または逸脱する実施形態および特徴の組み合わせが、特に、上で提示された実施形態によって、開示されると見なされるべきである。
【0050】
本明細書に示された特定の実施形態に制限することを望まない、以下の図および概略図に基づいて、本発明に従う主題がさらに詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】ロボット・デバイスの許容最大速度を事前定義するための制御ユニットの例示的な実施形態例を含む、例示的なロボット・デバイスの図である。
図2】接触点での例示的な結果として得られた剛性特性曲線の図である。
図3】例示的な自由衝撃モデルおよび例示的な締め付け衝撃モデルの代替モデルの図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
異なる図において、類似するか、または機能的に類似する要素には、類似する引用符号が与えられている。
【0053】
図1は、ロボット・デバイス(1)の許容最大速度を事前定義するための制御ユニット2を含むロボット・デバイス1を示している。制御ユニット2は、この場合、人間オペレータとロボット・デバイス1の衝突に関する、人間オペレータとロボット・デバイス1の間の接触点、接触点でのロボット・デバイスの形状、および衝突の空間境界条件を検出するために、検出ユニット3を含んでいる。示された例では、接触点a、空間条件b、および形状cが、制御ユニット2のユーザ5によって事前定義される。
【0054】
制御ユニット2は、衝突の空間境界条件bを考慮して、衝突が締め付けのない衝突であるか、または締め付けられる衝突であるかを決定するため、および衝突が締め付けのない衝突である場合に、自由衝撃モデルを使用し、衝突が締め付けられる衝突である場合に、締め付け衝撃モデルを使用するか、または準静的締め付けモデルを使用して、接触点aでロボット・デバイス1の許容最大速度を計算するために、コンピューティング・ユニット4も含む。
【0055】
これらのモデルは、各事例において異なるモデルである。コンピューティング・ユニット4は、本明細書では、ロボット・デバイス1の計算された許容最大速度に依存する信号gを出力するようにも構成される。
【0056】
示された例では、制御ユニット2は、衝突の時間、およびロボット・デバイス1のツールを表すツール・データeに関して、ロボット・デバイス1から関節構成dを取り出す。加えて、ロボット・デバイスから、トルクまたは力のしきい値fも取り出される。示された例では、コンピューティング・ユニット4は、機械データベース5から、ロボット・デバイス1の事前定義された運動学的構造に加えて、示された例ではロボット・デバイスの関節およびモーターの質量、慣性、重心などの、ロボット・デバイスの他のデータを取り出す。本明細書では、トルク・データも取り出される。格納されたモデル、すなわち、自由衝撃モデル、締め付け衝撃モデル、および準静的締め付けモデルが、それに応じてモデル・データベース6および関連する生物力学データベース7から、衝突による影響を受ける人体部位の制限値、剛性特性曲線、および質量などの関連する値と共に、取り出される。
【0057】
図2は、形成Dに対する力Fの関数として、結果として得られた剛性特性曲線hの例を示している。許容侵入深度x2は、許容できる生物力学的接触力y2および結果として得られた剛性特性曲線hの交点での変形Dに対応する。ロボット・デバイスの反応距離x1は、ロボット・デバイスの設定された反力y1および結果として得られた剛性特性曲線hから得られる。次に、ロボット・デバイスの許容制動距離が、許容侵入深度x2から反応距離x1を引いた値から得られる。
【0058】
図3は、自由衝撃モデルおよび締め付け衝撃モデルの代替モデルである。どちらの場合も、ロボット・デバイス1が、衝突点で、衝突速度vで移動すると仮定される。本明細書では、有効駆動質量mが、駆動系の有効剛性cを介して軸の有効質量mと結合されて移動し、次に、機械の表面で有効剛性cを介して接触力F(t)を伝達する。本明細書では、有効質量m、mが、異なる距離x、xだけ移動してよい。
【0059】
3質量発振器モデルでは、図3の右上に示されているように、オペレータの有限の有効質量mが、人間の剛性cを介して接触力F(t)と結合される。したがって、示された例では、自由衝撃モデルは、質量m、m、およびmを含む3質量発振器モデルである。締め付けられる衝撃の場合、図3の右下に示されているように、オペレータ5が動かないと仮定される。したがって、軟組織を表す人間の剛性cは、接触力F(t)全体を吸収する。この手法では、2つの質量m、mのみが考慮されるため、締め付けられる衝撃モデルは、2質量発振器モデルである。
図1
図2
図3
【国際調査報告】