(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】SARS-COV-2変異株感染の治療に使用するためのラロキシフェン
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4535 20060101AFI20240719BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
A61K31/4535
A61P31/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024507135
(86)(22)【出願日】2022-08-03
(85)【翻訳文提出日】2024-04-01
(86)【国際出願番号】 EP2022071862
(87)【国際公開番号】W WO2023012233
(87)【国際公開日】2023-02-09
(32)【優先日】2021-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】315012541
【氏名又は名称】ドムペ・ファルマチェウティチ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
(71)【出願人】
【識別番号】524046881
【氏名又は名称】イスティトゥート ナツィオナーレ マラッティ インフェッティブ ラッザロ スパランツァーニ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100106080
【氏名又は名称】山口 晶子
(72)【発明者】
【氏名】ベッカーリ,アンドレア・ロザリオ
(72)【発明者】
【氏名】イアコニス,ダニエラ
(72)【発明者】
【氏名】タラリコ,カルミネ
(72)【発明者】
【氏名】マネルフィ,キャンディダ
(72)【発明者】
【氏名】スコルツォリーニ,ローラ
(72)【発明者】
【氏名】ボルディ,リチア
(72)【発明者】
【氏名】マツサリ,ジュリア
(72)【発明者】
【氏名】ニカストリ,エマヌエーレ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC21
4C086GA04
4C086GA07
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA52
4C086MA55
4C086MA56
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZB33
(57)【要約】
本発明は、対象におけるSARS-CoV-2の一つ又は複数の変異株によって引き起こされた感染の治療に使用するためのラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるSARS-CoV-2の少なくとも一つの変異株によって引き起こされた感染の治療に使用するためのラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩であって、前記少なくとも一つの変異株は、D614G、GV、VOC B.1.1.7、VOC P.1、VOC B.1.351及びVOC B.1.617.2から選ばれるラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項2】
前記対象がCOVID-19に罹患している、請求項1に記載の使用のためのラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項3】
ラロキシフェン又はその前記薬学的に許容可能な塩がCOVID-19の治療に使用するためのものである、請求項2に記載の使用のためのラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項4】
前記薬学的に許容可能な塩がラロキシフェン塩酸塩である、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用のためのラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項5】
ラロキシフェン又はその前記薬学的に許容可能な塩が、前記対象に、1日50mg~1日150mgを含む投与量で経口投与される、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用のためのラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項6】
ラロキシフェン又はその前記薬学的に許容可能な塩が、前記対象に、1日60mg~1日120mgから選ばれる投与量で経口投与される、請求項1~5のいずれか1項に記載の使用のためのラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩。
【請求項7】
対象におけるSARS-CoV-2の少なくとも一つの変異株によって引き起こされた感染の治療に使用するための、
i)ラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩、及び
ii)少なくとも一つの薬学的に許容可能な賦形剤
を含む医薬組成物であって、前記少なくとも一つの変異株は、D614G、GV、VOC B.1.1.7、VOC P.1、VOC B.1.351及びVOC B.1.617.2から選ばれる医薬組成物。
【請求項8】
前記医薬組成物が経口投与される、請求項7に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項9】
錠剤又はカプセルの形態の、請求項5又は請求項6に記載の使用のためのラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩、あるいは請求項8に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項10】
ラロキシフェン又はその前記薬学的に許容可能な塩あるいは前記医薬組成物が非経口投与される、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用のためのラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩、あるいは請求項7に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項11】
ラロキシフェン又はその前記薬学的に許容可能な塩又は前記医薬組成物が静脈内投与又は持続注入によって投与される、請求項10に記載の使用のためのラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩又は医薬組成物。
【請求項12】
ラロキシフェン又はその前記薬学的に許容可能な塩又は前記医薬組成物が、任意に他の全身経路と組み合わせて、気道への直接投与によって投与される、請求項1~4のいずれか1項に記載の使用のためのラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩、あるいは請求項7に記載の使用のための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象においてCOVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2の一つ又は複数の変異株によって引き起こされた感染の治療に使用するためのラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩に関する。
【背景技術】
【0002】
コロナウイルス(CoV)は、コロナウイルス科(family Coronaviridae)に属する大きな科のウイルスである。ヒトに流行することが知られているコロナウイルスの数は限られているが軽度の感染を引き起こすと考えられ、過去においては比較的無害な呼吸器ヒト病原体と見なされていた。しかしながら、近年、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)及び中東呼吸器症候群(MERS)ウイルスの出現により、一部のコロナウイルスはヒトに重症で時に致命的な気道感染を引き起こしうることが明らかになった(Pereira,Hら,1989 Coronaviridae.Andrewes’Viruses of Vertebrates,第5版.pp.42-57;Holmes K.V.,Lai M.M.C.「コロナウイルス科及びそれらの複製(Coronaviridae and their replication)」.In:Fields B.N.,Knipe D.M.,Howley P.M.編.Fields Virology.第3版.Lippincott-Raven;フィラデルフィア:1996.p.1075)。知られているSARS-CoVの最初の症例は2002年11月中国フォーシャン(仏山)で発生し、新規症例が2003年2月中国大陸で出現した。MERS-CoVの最初の出現は2012年6月サウジアラビアであった。これらの出来事は、CoVの脅威を過小評価すべきでないこと、そして治療法及びワクチン開発のためにこれらのウイルスの複製や宿主との相互作用に関する知識を向上させることが何よりも重要であることを示している。
【0003】
2019年12月、中国で非定型肺炎の症例が出現し、その原因はWHOによってSARS-CoV-2と命名された新型コロナウイルスであることが確認された。
【0004】
SARS-CoV-2に感染した患者の疫学的及び臨床的特徴や経過の調査から、この感染は既知のSARS-CoVに類似した重症呼吸器疾患のクラスターを引き起こすことが示された。さらに、SARS-CoV-2は、初期にはヒトの間では容易に伝播しなかったにも関わらず、一部の患者に重症疾患を引き起こしうることも示された。しかしながら、より最近の疫学的データによれば、新型ウイルスはヒト宿主適応/進化を遂げ、ヒトからヒトへの伝播がより効率的になっていることが示唆されている。様々な種のCoVの系統発生解析から、SARS-CoV-2は中国キクガシラコウモリ(Chinese horseshoe bat)が起源の可能性が示されているが、中間宿主はまだ確認されていない(Latinne Aら,「中国におけるコウモリコロナウイルスの起源及び異種間伝播(Origin and cross-species transmission of bat coronaviruses in China)」.Nat Commun.2020 Aug 25;11(1):4235;Friend Tら,Future Virol.「SARS-CoV-2の中間宿主種は何か(What is the intermediate host species of SARS-CoV-2)?」2021 Mar:10.2217/fvl-2020-0390.doi:10.2217/fvl-2020-0390)。この研究によれば、SARS-CoV-2は、ヒトSARSウイルスとは高度に変異しているため、新型のコウモリコロナウイルスに属する。SARS-CoV-2はヒトに感染するCoV科の7番目のメンバーである。
【0005】
2021年7月6日現在、SARS-CoV-2感染は世界中で390万人を超える命を奪った(https://covid19.who.int/)。これまでにワクチンプログラムの出現及び不断のソーシャルディスタンス(対人距離)の確保という介入により、このウイルスはエンデミック(特定の地域や時代に限定される流行)になる可能性がある又はその可能性が極めて高いと考えられている。それでも、SARS-CoV-2の変異株の出現は、ワクチンの有効性、再感染事象、及び伝播性や疾患重症度の増大に関して大きな懸念を引き起こしている。ウイルスが世界中に蔓延し始めるにつれ、伝播性及び感染性の増大と関連する変異スパイクSARS-CoV-2変異株(D614G)が出現し、疾患重症度の増大は伴わなかったものの、ヨーロッパ及び世界中で優勢になった(Isabel Sら,「現在世界中で報告されているSARS-CoV-2 D614Gスパイクタンパク質変異の進化的及び構造的解析(Evolutionary and structural analyses of SARS-CoV-2 D614G spike protein mutation now documented worldwide)」 Sci Rep 2020 Aug 20;10(1):14031;Koyama Tら,「SARS-CoV-2のゲノムの変異株解析(Variant analysis of SARS-CoV-2 genomes)」 Bull World Health Organ.2020 Jul 1;98(7):495-504;Korber Bら,「SARS-CoV-2スパイクの追跡変化:D614GがCOVID-19ウイルスの感染性を増大している証拠(Tracking Changes in SARS-CoV-2 Spike: Evidence that D614G Increases Infectivity of the COVID-19 Virus)」 Cell 2020 Aug 20;182(4):812-827.e19;Mascola JRら,「SARS-CoV-2ウイルス変異株-移動標的の追跡(SARS-CoV-2 Viral Variants-Tackling a Moving Target)」 JAMA 2021 Apr 6;325(13):1261-1262)。これまで“懸念される変異株”(VOC)と定義される他の変異株も出現している。最も該当するものは、英国(B.1.1.7)、南アフリカ(B.1.351)、ブラジルP1(B.1.1.28)、カリフォルニア(B.1.427及びB.1.429、別名CAL.20C)で、すべて伝播性、免疫回避及び病原性の増大を特徴とする(Funk Tら,「SARS-CoV-2の懸念される変異株B.1.1.7、B.1.351又はP.1の特徴:EU/EEA7カ国からのデータ、第38週/2020~第10週/2021(Characteristics of SARS-CoV-2 variants of concern B.1.1.7, B.1.351 or P.1: data from seven EU/EEA countries, weeks 38/2020 to 10/2021)」.Euro Surveill.2021 Apr;26(16):2100348.;Davies NGら,「英国におけるSARS-CoV-2系統B.1.1.7の伝播性及び影響の推定(Estimated transmissibility and impact of SARS-CoV-2 lineage B.1.1.7 in England)」.Science.2021 Apr 9;372(6538):eabg3055.;Moyo-Gwete Tら,「SARS-CoV-2 501Y.V2(B.1.351)は交差反応性の中和抗体を誘導する(SARS-CoV-2 501Y.V2 (B.1.351) elicits cross-reactive neutralizing antibodies)」.bioRxiv[査読前論文].2021 Mar 6:2021.03.06.434193.;Tegally Hら,「南アフリカにおけるSARS-CoV-2の懸念される変異株の検出(Detection of a SARS-CoV-2 variant of concern in South Africa)」.Nature.2021 Apr;592(7854):438-443.;Faria NRら,「ブラジル・マナウスにおけるP.1 SARS-CoV-2系統のゲノム及び疫学(Genomics and epidemiology of the P.1 SARS-CoV-2 lineage in Manaus, Brazil)」.Science.2021 May 21;372(6544):815-821;Sabino ECら,「高い血清陽性率にもかかわらずブラジル・マナウスでのCOVID-19の再流行(Resurgence of COVID-19 in Manaus, Brazil, despite high seroprevalence)」.Lancet.2021 Feb 6;397(10273):452-455;Santos de Oliveira MHら,「新型B.1.1.28.1(P.1)SARS-CoV-2株の同定後、ブラジル南部における若年及び中年成人の間でのCOVID-19の症例死亡の突然の上昇:パラナ州のデータ解析(Sudden rise in COVID-19 case fatality among young and middle-aged adults in the south of Brazil after identification of the novel B.1.1.28.1 (P.1) SARS-CoV-2 strain: analysis of data from the state of Parana)」 medRxiv[査読前論文] Mer 2021;Deng Xら,「カリフォルニアで新たに出現したL452Rスパイクタンパク質変異を持つSARS-CoV-2変異株の伝播性、感染性、及び抗体中和(Transmission, infectivity, and antibody neutralization of an emerging SARS-CoV-2 variant in California carrying a L452R spike protein mutation)」.medRxiv[査読前論文].2021 Mar 9:2021.03.07.21252647)。
【0006】
2021年5月11日現在、インド変異株(デルタB.1.617.2)がWHOのVOCリストに加えられた。これは、以前の野生型感染によって誘導された適応(獲得)免疫をおよそ半分(感染回数の半分)は回避でき、野生型SARS-CoV-2より感染性が高い(約60%)と推定されている(Yang,W.ら「インドにおけるCOVID-19パンデミック動態及びSARS-CoV-2デルタ(B.1.617.2)変異株の影響(COVID-19 pandemic dynamics in India and impact of the SARS-CoV-2 Delta (B.1.617.2) variant)」.medRxiv 2021.06.21.21259268)。
【0007】
従って、現在、これらの新しい変異株や臨床的に関連性のあるSARS-CoV-2変異株に対して抗ウイルス活性を発揮できる新しい治療法を特定する差し迫った必要性がある。
【0008】
新薬の特定と開発は時間のかかる作業であり、COVID-19の大流行という喫緊の世界的課題の緊急事態に立ち向かうのには適切でない。
人体に安全であることが既に試験済みである又は異なる治療適応のために承認されている薬物を転用することは、その薬物の薬物動態、毒性及び製造データを既に利用でき、新しい臨床現場で直ちに応用することを可能にするため、迅速な対応策である(Jang WDら,「6,218種の薬物の仮想スクリーニングと細胞ベースのアッセイによりCOVID-19用に転用される薬物(Drugs repurposed for COVID-19 by virtual screening of 6,218 drugs and cell-based assay)」.Proc Natl Acad Sci U S A.2021 Jul 27;118(30):e2024302118)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Pereira, H et al., 1989 Coronaviridae. Andrewes ’Viruses of Vertebrates, 5th ed.pp. 42-57
【非特許文献2】Holmes K.V., Lai M.M.C. Coronaviridae and their replication. In: Fields B.N., Knipe D.M., Howley P.M., editors. Fields Virology. 3rd edn. Lippincott-Raven; Philadelphia: 1996. p. 1075
【非特許文献3】Latinne A, et al. Origin and cross-species transmission of bat coronaviruses in China. Nat Commun. 2020 Aug 25;11(1):4235
【非特許文献4】Friend T et al., Future Virol. What is the intermediate host species of SARS-CoV-2? 2021 Mar: 10.2217/fvl-2020-0390. doi: 10.2217/fvl-2020-0390
【非特許文献5】Isabel S et al., Evolutionary and structural analyses of SARS-CoV-2 D614G spike protein mutation now documented worldwide Sci Rep 2020 Aug 20;10(1):14031
【非特許文献6】Koyama T et al., Variant analysis of SARS-CoV-2 genomes Bull World Health Organ. 2020 Jul 1; 98(7): 495-504
【非特許文献7】Korber B et al., Tracking Changes in SARS-CoV-2 Spike: Evidence that D614G Increases Infectivity of the COVID-19 Virus Cell 2020 Aug 20;182(4):812-827.e19
【非特許文献8】Mascola JR et al., SARS-CoV-2 Viral Variants-Tackling a Moving Target JAMA 2021 Apr 6;325(13):1261-1262
【非特許文献9】Funk T, et al. Characteristics of SARS-CoV-2 variants of concern B.1.1.7, B.1.351 or P.1: data from seven EU/EEA countries, weeks 38/2020 to 10/2021. Euro Surveill. 2021 Apr;26(16):2100348
【非特許文献10】Davies NG, et al. Estimated transmissibility and impact of SARS-CoV-2 lineage B.1.1.7 in England. Science. 2021 Apr 9;372(6538):eabg3055
【非特許文献11】Moyo-Gwete T, et al. SARS-CoV-2 501Y.V2 (B.1.351) elicits cross-reactive neutralizing antibodies. bioRxiv [Preprint]. 2021 Mar 6:2021.03.06.434193
【非特許文献12】Tegally H, et al. Detection of a SARS-CoV-2 variant of concern in South Africa. Nature. 2021 Apr;592(7854):438-443
【非特許文献13】Faria NR, et al. Genomics and epidemiology of the P.1 SARS-CoV-2 lineage in Manaus, Brazil. Science. 2021 May 21;372(6544):815-821
【非特許文献14】Sabino EC, et al. Resurgence of COVID-19 in Manaus, Brazil, despite high seroprevalence. Lancet. 2021 Feb 6;397(10273):452-455
【非特許文献15】Santos de Oliveira MH, et al. Sudden rise in COVID-19 case fatality among young and middle-aged adults in the south of Brazil after identification of the novel B.1.1.28.1 (P.1) SARS-CoV-2 strain: analysis of data from the state of Parana medRxiv [Preprint] Mer 2021
【非特許文献16】Deng X, et al. Transmission, infectivity, and antibody neutralization of an emerging SARS-CoV-2 variant in California carrying a L452R spike protein mutation. medRxiv [Preprint]. 2021 Mar 9:2021.03.07.21252647
【非特許文献17】Yang, W. et al. COVID-19 pandemic dynamics in India and impact of the SARS-CoV-2 Delta (B.1.617.2) variant. medRxiv 2021.06.21.21259268
【非特許文献18】Jang WD, et al. Drugs repurposed for COVID-19 by virtual screening of 6,218 drugs and cell-based assay. Proc Natl Acad Sci U S A. 2021 Jul 27;118(30):e2024302118
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは、ラロキシフェンが下記SARS-CoV-2変異株:D614G、GV、VOC B.1.1.7、VOC P.1、VOC B.1.351及びVOC B.1.617.2に対して抗ウイルス活性を発揮することを見出した。
【0011】
ラロキシフェンは、一般名1-[6-ヒドロキシ-2-(4-ヒドロキシフェニル)ベンゾ[b]チエン-3-イル]-1-[4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェニル]メタノンで、下記一般式(I):
【0012】
【0013】
を有する。
この化合物は、選択的ベンゾチオフェンエストロゲン受容体モジュレーター(SERM)で、脂質低下効果と骨粗鬆症に対する活性を有し、閉経後女性の骨粗鬆症の治療及び予防用として承認されている。米国では閉経後女性の浸潤性乳がんリスク低減のためにも承認されている。
【0014】
従って、ラロキシフェンは、D614G、GV、VOC B.1.1.7、VOC P.1、VOC B.1.351及びVOC B.1.617.2から選ばれる一つ又は複数のSARS-CoV-2変異株によって引き起こされた感染を有する対象の治療に有用である。
【0015】
そこで、本発明の第一の目的は、対象におけるSARS-CoV-2の少なくとも一つの変異株によって引き起こされた感染の治療に使用するためのラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩であり、前記少なくとも一つの変異株は、D614G、GV、VOC B.1.1.7、VOC P.1、VOC B.1.351及びVOC B.1.617.2から選ばれる。好ましくは前記対象はCOVID-19に罹患している。
【0016】
本発明の第二の目的は、対象におけるSARS-CoV-2の少なくとも一つの変異株によって引き起こされた感染の治療に使用するための、i)ラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩と、ii)少なくとも一つの不活性な薬学的に許容可能な賦形剤とを含む医薬組成物であり、前記少なくとも一つの変異株は、D614G、GV、VOC B.1.1.7、VOC P.1、VOC B.1.351及びVOC B.1.617.2から選ばれる。好ましくは前記対象はCOVID-19に罹患している。
【0017】
本発明の第三の目的は、対象におけるSARS-CoV-2の少なくとも一つの変異株によって引き起こされた感染の治療法であり、前記少なくとも一つの変異株は、D614G、GV、VOC B.1.1.7、VOC P.1、VOC B.1.351及びVOC B.1.617.2から選ばれ、該方法は対象にラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩を投与することを含む。好ましくは前記対象はCOVID-19に罹患している。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、ラロキシフェンの存在下で48時間培養されたVero E6細胞に対する様々な濃度(0.23μM、0.46μM、0.94μM、1.87μM、3.75μM、7.5μM及び15μM)のラロキシフェンの細胞毒性を示す。
【
図2】
図2は、ラロキシフェンの存在下で72時間培養されたVero E6細胞に対する様々な濃度(0.23μM、0.46μM、0.94μM、1.87μM、3.75μM、7.5μM及び15μM)のラロキシフェンの細胞毒性を示す。
【
図3】
図3は、SARS-CoV-2変異株Wuhan(武漢)によってVero E6細胞に誘発された細胞変性効果(CPE)の、様々な濃度のラロキシフェンでの阻害を示す。生存細胞のパーセンテージは、非感染非処理=100%;感染非処理=0%を元に計算した。バーはSDを示す。
【
図4】
図4は、SARS-CoV-2変異株D614GによってVero E6細胞に誘発された細胞変性効果(CPE)の、様々な濃度のラロキシフェンでの阻害を示す。生存細胞のパーセンテージは、非感染非処理=100%;感染非処理=0%を元に計算した。バーはSDを示す。
【
図5】
図5は、SARS-CoV-2変異株GVによってVero E6細胞に誘発された細胞変性効果(CPE)の、様々な濃度のラロキシフェンでの阻害を示す。生存細胞のパーセンテージは、非感染非処理=100%;感染非処理=0%を元に計算した。バーはSDを示す。
【
図6】
図6は、SARS-CoV-2変異株VOC B.1.1.7によってVero E6細胞に誘発された細胞変性効果(CPE)の、様々な濃度のラロキシフェンでの阻害を示す。生存細胞のパーセンテージは、非感染非処理=100%;感染非処理=0%を元に計算した。バーはSDを示す。
【
図7】
図7は、SARS-CoV-2変異株VOC P.1によってVero E6細胞に誘発された細胞変性効果(CPE)の、様々な濃度のラロキシフェンでの阻害を示す。生存細胞のパーセンテージは、非感染非処理=100%;感染非処理=0%を元に計算した。バーはSDを示す。
【
図8】
図8は、SARS-CoV-2変異株VOC B.1.351によってVero E6細胞に誘発された細胞変性効果(CPE)の、様々な濃度のラロキシフェンでの阻害を示す。生存細胞のパーセンテージは、非感染非処理=100%;感染非処理=0%を元に計算した。バーはSDを示す。
【
図9】
図9は、SARS-CoV-2変異株VOC B.1.617.2によってVero E6細胞に誘発された細胞変性効果(CPE)の、様々な濃度のラロキシフェンでの阻害を示す。生存細胞のパーセンテージは、非感染非処理=100%;感染非処理=0%を元に計算した。バーはSDを示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の第一の目的は、対象におけるSARS-CoV-2の少なくとも一つの変異株によって引き起こされた感染の治療に使用するためのラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩であり、前記少なくとも一つの変異株は、D614G、GV、VOC B.1.1.7、VOC P.1、VOC B.1.351及びVOC B.1.617.2から選ばれる。
【0020】
本発明によれば、用語“対象”はヒト又は動物を指す。好ましくは前記対象はヒトである。
本発明によれば、治療される感染を有する対象は、症候性、乏症候性(paucisymptomatic)又は無症候性である。
【0021】
好適な態様において、前記対象はCOVID-19に罹患している。従って、好適な態様によれば、本発明の第一の目的に従って使用するためのラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩は、対象におけるCOVID-19の治療に使用するためのものである。
【0022】
COVID-19は、SARS-CoV-2及びその変異株によって引き起こされる接触伝染病“コロナウイルス疾患2019”の頭字語である。該疾患は通常、ヒトが感染者から放出された飛沫及び粒子を吸入した場合に呼吸器経路を介して伝播する(“コロナウイルス疾患(COVID-19):それはいかにして伝播するか”、www.who.int)。
【0023】
COVID-19の症状は、下記の一つ又は複数、すなわち、発熱、咳、頭痛、疲労、呼吸困難、ならびに嗅覚及び味覚の喪失を含みうる。
一態様において、対象において治療される感染は、D614G、GV、VOC B.1.1.7、VOC P.1、VOC B.1.351及びVOC B.1.617.2から選ばれるSARS-CoV-2の一つの変異株によって引き起こされる。代替の態様において、対象において治療される感染は、D614G、GV、VOC B.1.1.7、VOC P.1、VOC B.1.351及びVOC B.1.617.2から選ばれるSARS-CoV-2の二つ以上の変異株によって引き起こされる。
【0024】
対象において上記SARS-CoV-2の一つ又は複数の変異株によって引き起こされた感染の確認は、通常、対象由来の生物学的材料、好ましくは上下気道からの検体、例えば、鼻咽頭/口腔咽頭スワブ、鼻腔吸引液、鼻腔洗浄液又は唾液、喀痰、気管吸引液又は気管支肺胞洗浄液中のウイルスRNAの存在の分析に基づく。
【0025】
本明細書中で使用されているラロキシフェンの“薬学的に許容可能な塩”という用語は、非毒性の酸アニオン又はカチオンを形成する酸又は塩基とこの化合物との酸付加塩を指す。
【0026】
好ましくは、ラロキシフェンの前記薬学的に許容可能な塩はラロキシフェン塩酸塩である。
実験の項で詳細に説明する通り、本発明者らは、ラロキシフェンが、その公知活性に加えて、SARS-CoV-2の下記変異株:D614G、GV、VOC B.1.1.7、VOC P.1、VOC B.1.351及びVOC B.1.617.2に対して抗ウイルス活性を発揮することを見出した。
【0027】
ラロキシフェンは既に市販されている薬物であるので、臨床使用が既に承認されており、ヒトにおいて安全であることが試験済みであるという利点を有する。従って、上記リストのSARS-CoV-2の一つ又は複数の変異株によって引き起こされた感染を有する上記定義の対象の治療に迅速な治療アプローチを提供できる。
【0028】
本発明の第一の目的に従って、ラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩は、一つ又は複数の薬学的に許容可能な賦形剤と混合された医薬組成物の形態で投与される。
従って、本発明の第二の目的は、上記定義の対象におけるSARS-CoV-2の少なくとも一つの変異株によって引き起こされた感染症の治療に使用するための、ラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩と少なくとも一つの薬学的に許容可能な賦形剤とを含む医薬組成物であり、前記少なくとも一つの変異株は、D614G、GV、VOC B.1.1.7、VOC P.1、VOC B.1.351及びVOC B.1.617.2から選ばれる。
【0029】
好適な態様において、前記対象はCOVID-19に罹患している。従って、好適な態様によれば、本発明の第二の目的に従って使用するための医薬組成物は、対象におけるCOVID-19の治療に使用するためのものである。
【0030】
本発明に従って使用するためのラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩の投与経路は、この化合物の公知投与法に従う。それは通常、全身投与、好ましくは経口、非経口または吸入経路による。本明細書中で使用されている用語“非経口”は、静脈内、腹腔内、脳内、髄腔内、頭蓋内、筋肉内、関節内、滑液嚢内、胸骨内、眼内、動脈内、皮下、皮内注射又は注入技術を含む。
【0031】
本発明に従って使用するための医薬組成物は、錠剤、カプセル、粉末、溶液、懸濁液、及びエマルションなど、経口、吸入又は注射用の剤形に製剤化できる。
好ましくは、医薬組成物中の薬学的に許容可能な賦形剤は、所望の特別な剤形に適切な任意の及びすべての溶媒、希釈剤、又はその他のビヒクル、分散又は懸濁助剤、界面活性剤、等張剤、増粘剤又は乳化剤、保存剤、固体結合剤、滑沢剤などを含む。
【0032】
薬学的に許容可能な賦形剤としての機能を果たせる材料の例をいくつか挙げると、ラクトース、グルコース及びスクロースなどの糖;コーンスターチ及びジャガイモデンプンなどのデンプン;ナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロース及び酢酸セルロースなどのセルロース及びその誘導体;粉末トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;ココアバター及び坐剤用ワックス;落花生油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油及び大豆油などの油;プロピレングリコールなどのグリコール;オレイン酸エチル及びラウリン酸エチルなどのエステル;寒天;緩衝剤;アルギン酸;発熱物質除去水;浸透圧調節用の塩;滅菌水;エチルアルコール;保存剤;安定剤;界面活性剤;乳化剤;甘味剤;着色剤;フレーバー剤などであるが、これらに限定されない。
【0033】
本発明の医薬組成物は、当該技術分野で公知の適切な方法を用いて、又はRemington’s Pharmaceutical Science(最新版),Mack Publishing Company(ペンシルベニア州イーストン)に開示されている方法によって適切に製剤化できる。
【0034】
好適な態様において、本発明は、本発明に従って使用するための化合物又は医薬組成物の経口投与を提供する。
そのような態様において、医薬組成物は好ましくは錠剤又はカプセルの形態である。
【0035】
代替の態様に従って、本発明に従って使用するための化合物又は医薬組成物は、好ましくは静脈内投与又は持続注入によって非経口投与される。この投与経路は、挿管された又は重症のCOVID-19患者に特に適切である。
【0036】
さらに代替の態様において、本発明は、本発明に従って使用するための化合物又は医薬組成物の気道への直接投与を提供する。気道への直接投与は、化合物又は組成物の単独の投与経路であっても、又は他の全身経路を介した化合物又は組成物の投与との組合せでもよい。
【0037】
本発明に従って使用するための化合物又は組成物の直接投与の場合、気道への医薬組成物及び治療用製剤の直接送達のために設計された様々なデバイスが使用できる。本発明の一側面において、本発明の化合物又は医薬組成物は、噴霧形又は吸入形で投与される。
【0038】
本発明に従って上記のように気道への直接投与用に使用するための医薬組成物は、乾燥粉末として又は適切な希釈剤中の溶液もしくは懸濁液として、エアロゾル製剤の形態でありうる。
【0039】
本発明に従って使用するためのラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩の投与計画(dosage regimen)は、ラロキシフェンの他の適応症で通常使用されているものである。
本発明に従って使用するためのラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩の投与の用量及び頻度は、利用される薬学的に許容可能な賦形剤/担体、治療される状態の重症度、患者の年齢、体重、一般的な健康状態及び性別、選択された投与経路及び剤形、1日あたりの投与回数、治療期間、可能性ある併用療法の性質、及び主治医の知識及び専門的見解の範囲内のその他の要因に応じて変動する。当業者であれば、化合物の既知の薬物動態学的特性及び用量・用法(dosage regime)に基づいて最適な薬量学(posology)を決定することができる。
【0040】
好適な態様において、ラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩、好ましくはラロキシフェン塩酸塩は、治療される対象に、1日50~150mgを含む投与量で経口投与される。さらに好ましくは、ラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩の投与量は1日60mg~1日120mgから選ばれる。
【0041】
ラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩が1日120mgの投与量で投与される場合、それは1回又は2回の投与で投与できる。従って、総日用量は1回120mgの用量で投与されても、又は1日2回60mgの用量に分割されてもよい。
【0042】
当業者には理解される通り、特定の状況に応じて上記より低い又は高い用量が必要なこともある。
本発明の第三の目的は、上記定義の対象におけるSARS-CoV-2の少なくとも一つの変異株によって引き起こされた感染の治療法であり、前記少なくとも一つの変異株は、D614G、GV、VOC B.1.1.7、VOC P.1、VOC B.1.351及びVOC B.1.617.2から選ばれ、該方法は前記対象にラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩、好ましくは塩酸塩を投与することを含む。
【0043】
一態様において、前記方法は、
a)D614G、GV、VOC B.1.1.7、VOC P.1、VOC B.1.351及びVOC B.1.617.2から選ばれるSARS-CoV-2の一つ又は複数の変異株によって引き起こされた感染を有する対象を特定し;そして
b)手順a)で特定された対象に、ラロキシフェン又はその薬学的に許容可能な塩を投与する
手順を含む。
【0044】
上記のようなSARS-CoV-2の少なくとも一つの変異株によって引き起こされた感染を治療する方法の特に好適な態様によれば、手順a)は、対象から得られた生物学的材料中のウイルスRNAの存在の分析に基づいて実施される。好ましくは、前記生物学的材料は、上下気道からの検体、例えば、鼻咽頭/口腔咽頭スワブ、鼻腔吸引液、鼻腔洗浄液又は唾液、喀痰、気管吸引液又は気管支肺胞洗浄液などの一つ又は複数から選ばれる。
【0045】
好適な態様において、前記対象はCOVID-19に罹患している。従って、好適な態様によれば、本発明の第三の目的による方法は、対象におけるCOVID-19の治療法である。
【0046】
本発明を以下の実施例でさらに説明するが、これらはクレームに記載されている発明の範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0047】
実験の部
実施例1
SARS-CoV-2変異株に対するラロキシフェンの抗ウイルス活性の評価
様々なSARS-CoV-2変異株に対するラロキシフェンの抗ウイルス活性の評価をアフリカミドリザル腎臓ベロ(Vero)E6細胞系で実施した。この細胞系は、American Type Culture Collection(ATCC、米国バージニア州マナッサス)から入手し、10%ウシ胎仔血清(FBS;Gibco,Thermo-Fisher、米国マサチューセッツ州ウォルサム)を補給したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Gibco,Thermo-Fisher)中、37℃、5%CO2の加湿雰囲気下で維持した。
【0048】
野生型Sars-CoV-2(Wuhan)と以下のSARS-CoV-2変異株を細胞の感染に用いた。
- ヒト2019-nCoV変異株2019-nCoV/Italy-INMI1、クレードV(Ref-SKU:008V-03893、EVAgポータル)、Wuhan(武漢)と命名され、2020年1月中国人患者から分離された(対照感染)。配列はGISAID:EPI_ISL_410545で入手可能;
- SARS-CoV-2分離株SARS-CoV-2/ヒト/ITA/PAVIA10734/2020、クレードG、D614G(S)(Ref-SKU:008V-04005、EVAgポータル)、D614Gと命名され、2020年2月にロンバルディア(Lombardy)で分離された。配列はGISAID:EPI_ISL_568579で入手可能;
- SARS-CoV-2分離株hCoV-19/Italy/LAZ-INMI-82isl/2020、クレードGV、A222V、D614G(S)(Ref-SKU:008V-04048、EVAgポータル)、GVと命名され、欧州で2020年4月から12月にかけて流行した優勢変異株を表す。配列はGISAID:EPI_ISL_824408で入手可能;
- SARS-CoV-2変異株VOC 202012/01、分離株hCoV-19/Italy/CAM-INMI-118isl/2020、クレードGR、Δ69-70、Δ144、N501Y、A570D、D614G、P681H、T716I(S)(Ref-SKU:008V-04050、EVAgポータル)、VOC B.1.1.7と命名され、英国由来の主要な懸念される変異株を表す。配列はGISAID:EPI_ISL_913449で入手可能;
- SARS-CoV-2変異株GR/501Y.V3、分離株hCoV-19/Italy/LAZ-INMI-216isl/2021、クレードGR、PANGO系統P.1、K417T、E484K、N501Y(S)(Ref-SKU:008V-04101、EVAgポータル)、VOC P.1と命名され、ブラジル由来の主要な懸念される変異株を表す。株は、SARS-CoV-2変異株GR/501Y.V3、hCoV-19/Italy/LAZ-INMI-216/2021株を含有する生物学的サンプルから分離された。配列はGISAID:EPI_ISL_1023524で入手可能;
- SARS-CoV-2変異株VOC SA/B.1.351、GHSAG(英国公衆衛生庁(Public Health England))によって得られた臨床分離株で、VOC B.1.351と命名され、南アフリカ由来の主要な懸念される変異株を表す;
- SARS-CoV-2変異株VOC G Delta/B1.617.2分離株hCoV-19/Italy/LAZ-INMI-648/2021、VOC B.1.617.2と命名され、インド由来の主要な懸念される変異株を表す。配列はGISAID:EPI_ISL_2000624で入手可能。
【0049】
最初に、各変異株について細胞変性効果(CPE)が出現した時間窓を決定した。CPEは、VOC B.1.1.7とVOC P1変異株以外、試験したすべての変異株で48時間で明らかであった。VOC B.1.1.7とVOC P1の明らかなCPEは遅れて現れた(それぞれ56時間及び72時間)。
【0050】
並行して、処理による細胞毒性の可能性を評価するために、非感染細胞を様々な用量のラロキシフェンの存在下で培養した。細胞を、10%FBSを補給したDMEM中24ウェルプレートに播種し(2.5×104細胞/ウェル)、様々な用量のラロキシフェン(0.23μM、0.46μM、0.94μM、1.87μM、3.75μM、7.5μM及び15μM)で処理した。結果を
図1と以下の表1(48時間で評価)及び
図2と以下の表2(72時間で評価)に示す。
【0051】
【0052】
【0053】
ラロキシフェン15μMで処理された細胞では、クリスタルバイオレット染色によって明らかなように、生存細胞のパーセンテージに減少が観察された。それより低い薬物濃度(7.5~0.23μM)では細胞の生存に有意な影響は観察されなかった。
【0054】
薬物の抗ウイルス効果を測定するために、Vero E6細胞を、上記SARS-CoV-2変異株の一つの変異株に37℃で1時間ずつ、96ウェルプレート中、0.05のMOIで感染させた。感染は、FBS(Gibco)を含まないMEM(Sigma)中で実施した。次に、ウイルスを除去し、細胞を温リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、2%FBSを含有する培地で、様々な用量(0.23、0.47、0.94、1.88、3.75、7.5、15μM)のラロキシフェンの存在下又は不在下、37℃及び5%CO2で最大72時間培養した。
【0055】
ラロキシフェンの抗ウイルス効果を測定するために、細胞の生存とウイルスが誘導する細胞変性効果(CPE)とを、段階希釈された薬物で処理された非感染細胞及び感染細胞の両方で、細胞をCrystal Violet(Diapath)と2%ホルムアルデヒドの溶液で染色して測定した。30分後、定着液を水道水で洗浄することによって除去し、細胞の生存を光度計により595nmで測定した(SynergyTM HTX Multi-Mode Microplate Reader、Biotek、米国バーモント州ウィヌースキ-)。
【0056】
各条件の生存細胞のパーセンテージは、感染-非処理細胞(0%と設定)及び非感染-非処理細胞(100%と設定)と比較して計算した。結果を
図3~9に示す。細胞生存率に対するラロキシフェンの効果は、SARS-CoV-2変異株研究で実施された各実験において同じ方法で決定された。
【0057】
見て分かるように、ラロキシフェンは、試験されたすべてのウイルス変異株に感染したVero E6細胞で生存率を回復することができた。
ラロキシフェンの半数阻害濃度(IC50)は、GraphPad Prism8を用い、非線形回帰分析後、濃度効果曲線から算出した。結果を表3に示す。
【0058】
【0059】
見て分かるように、細胞生存率の回復について計算されたIC50は、試験された変異株に応じて4.50~7.99の間で変動し、調査したすべての変異株に対するラロキシフェンの強力な抗ウイルス活性が示された。
【国際調査報告】