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特表2024-528297ポリAテールを安定して保持する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】ポリAテールを安定して保持する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/68 20060101AFI20240719BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240719BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240719BHJP
   C12P 19/34 20060101ALN20240719BHJP
【FI】
C12N15/68 Z ZNA
C12N1/21
C12P21/02 C
C12P19/34 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024507933
(86)(22)【出願日】2022-08-17
(85)【翻訳文提出日】2024-02-07
(86)【国際出願番号】 KR2022012233
(87)【国際公開番号】W WO2023022490
(87)【国際公開日】2023-02-23
(31)【優先権主張番号】10-2021-0108264
(32)【優先日】2021-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519038714
【氏名又は名称】エスケー バイオサイエンス カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】シン、ジン ファン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ヨン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】キム、フン
(72)【発明者】
【氏名】クォン、ヨン-ミン
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ヘ-ウォン
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AF27
4B064CA02
4B064CA19
4B064CA21
4B064CC06
4B064CC24
4B065AA26X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BC03
4B065CA23
(57)【要約】
本発明は、ポリAテールを安定して保持する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリAテール(poly(A) tail)をコードする配列を含むプラスミドにより形質転換された細胞株を31℃以下の温度条件にて培養するステップを含む、
ポリAテールをプラスミドにおいて安定して保持する方法。
【請求項2】
前記培養するステップは、(1)前記細胞株を31℃以下の温度条件にて回復させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(1)の回復ステップの後に、(2)前記細胞株を31℃以下の温度条件にて固体培地で培養してコロニーを形成することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記培養は、(3)前記(2)の固体培地培養により形成されたコロニーを31℃以下の温度条件にて液体培地で培養するステップをさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記液体培地で培養するステップは、継代培養を行うことを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記温度条件は16℃~31℃である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記温度条件は19℃~25℃である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞株は大腸菌(E. coli)である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記形質転換は、熱ショック(heat shock)又はエレクトロポレーション(electroporation)を用いてポリAテールをコードする配列を含むプラスミドを細胞株に導入することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記導入は、37℃~42℃の温度で行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記方法は、ポリAテール(poly(A) tail)をコードする配列を含むプラスミドにより形質転換された細胞株を37℃以上の温度条件にて培養するステップを含む方法に比べて、プラスミド内のポリAテールの安定性が向上するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリAテールは、20~400個のアデニン(A)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
ポリAテール(poly(A) tail)を含むmRNAをコードする配列を含むプラスミドにより形質転換された細胞株を31℃以下の温度条件にて培養するステップを含む、
mRNA生産のためのプラスミドの大量生産方法。
【請求項14】
ポリAテール(poly(A) tail)を含むmRNAをコードする配列を含むプラスミドにより形質転換された細胞株を31℃以下の温度条件にて培養するステップと、
前記細胞株のプラスミドを鋳型として転写(transcription)を行うステップとを含む、
ポリAテールを含むmRNAの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリAテールを安定して保持する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、mRNAは、医薬品の有効成分(API,Active Pharmaceutical Ingredient)として注目されている。mRNAにはポリAテール(poly(A) tail)という構成要素が必要であるが、ポリAテールはRNAの安定性や翻訳過程において重要な役割を果たす。mRNAワクチンを構成するmRNAにおいて、ポリAテールの長さは120個が標準サイズ(standard size)であると認識されている(非特許文献2)。細胞内で転写されるmRNAにはポリAシグナル(PolyA signal)が存在し、転写過程後にポリAテールが付加される過程を経る。インビトロ転写(In Vitro Transcription, IVT)により作製されるmRNAにも、体内安定性及び翻訳効率を高めるためにポリAテールが必要である。
【0003】
ポリAテールを付加する方法は2つに分けられる。一方は、IVT後にpolyAポリメラーゼ(polymerase)を用いてポリAテールを合成する方法であり、他方は、IVTに用いる鋳型(template)にアデニン繰り返し配列が含まれるようにし、IVTによりポリAテールが生成されるようにする方法である。
【0004】
前者の場合、ポリAポリメラーゼ(polyA polymerase)を活用してmRNAにポリAテールを合成する別途の過程を必要とし、生成されるポリAテールの長さは一定でない。しかし、後者の場合、IVT過程以外の別途の過程を必要とせず、生成されるポリAテールの長さは一定になる。よって、工程の効率性及びポリAテールの長さの均一性の面から、鋳型(template)にポリAテール配列が含まれるようにすることが好まれる。
【0005】
そのためには、プラスミド(plasmid)DNAにポリAテール配列をクローニングして保持しなければならないが、一般的な方法で大腸菌を活用してそのような過程を行うと、組換え(recombination)及び欠損(deletion)が起こるので、mRNAワクチンに用いるための標準サイズである100個以上のアデニン繰り返し配列を含むプラスミドDNAを確保することは困難である。
【0006】
上記問題を解決するために、アデニン繰り返し配列間にリンカー配列が含まれるようにして安定性を向上させる方法が考案されたが(非特許文献3)、アデニン繰り返し配列のみで構成されたポリAテールが自然界に存在する本来の姿であるので、ポリAテール間にリンカー配列が含まれるようにせず、プラスミドにクローニング及び保持する他の方法の開発が依然として求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Acta Alimentaria 50 (2021) 2, 180-188
【非特許文献2】Mol Ther Nucleic Acids. 2021 Dec 3;26:945-956
【非特許文献3】RNA. 2019 Apr;25(4):507-518. doi: 10.1261/rna.069286.118. Epub 2019 Jan 15.
【非特許文献4】https://www.nucleics.com/DNA_sequencing_support/DNA-sequencing-AT-slippage.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ポリAテールを安定して保持する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ポリAテールを安定して保持する方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法により、ポリAテールを容易にクローニングすることができ、ポリA配列が安定して保持される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】摂氏37度の条件でのDH5α(DH5alpha)を用いたpoly(A)配列クローニング時のコロニーPCRの結果を確認した図である。
図2】摂氏37度の条件でのStbl3を用いたpoly(A)配列クローニング時のコロニーPCRの結果を確認した図である。
図3】低温条件でのpoly(A)配列クローニング時のコロニーPCRの結果を確認した図である。
図4】ポリAテール(poly(A) tail)をコードする配列を含むプラスミドにより形質転換された細胞株を様々な温度条件にて培養し、A124±1の割合を比較した結果を示すグラフである。
図5】準備したストックを13度、16度、19度、22度、25度の条件にて200rpmで48時間培養しながら所定の時間にOD600を測定した各温度における培養曲線結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実現する一態様は、ポリAテールをプラスミドにおいて安定して保持する方法である。
一具体例において、前記方法は、ポリAテール(poly(A) tail)をコードする配列を含むプラスミドにより形質転換された細胞株を31℃以下の温度条件にて培養するステップを含む。
【0013】
前述した具体例のいずれかにおいて、前記培養するステップは、(1)前記細胞株を31℃以下の温度条件にて回復させることを含む。
前述した具体例のいずれかにおいて、前記方法は、前記(1)の回復ステップの後に、(2)前記細胞株を31℃以下の温度条件にて固体培地で培養してコロニーを形成することを含む。
【0014】
前述した具体例のいずれかにおいて、前記培養は、(3)前記(2)の固体培地培養により形成されたコロニーを31℃以下の温度条件にて液体培地で培養するステップをさらに含む。
【0015】
前述した具体例のいずれかにおいて、前記方法は、(1)ポリAテールをコードする配列を含むプラスミドにより形質転換された細胞株を31℃以下の温度条件にて回復させるステップと、(2)回復させた細胞株を31℃以下の温度条件にて固体培養することによりコロニーを形成するステップと、(3)31℃以下の温度条件にて液体培養を行うステップとを含む。
【0016】
前述した具体例のいずれかにおいて、前記液体培地で培養するステップは、継代培養を行うことを含む。
前述した具体例のいずれかにおいて、ステップ(1)~(3)の温度条件は16℃~31℃である。
【0017】
前述した具体例のいずれかにおいて、ステップ(1)~(3)の温度条件は19℃~25℃である。
前述した具体例のいずれかにおいて、前記細胞株は大腸菌(E.coli)である。
【0018】
前述した具体例のいずれかにおいて、前記形質転換は、熱ショック(heat shock)又はエレクトロポレーション(electroporation)を用いてポリAテールをコードする配列を含むプラスミドを細胞株に導入することを含む。
【0019】
前述した具体例のいずれかにおいて、前記導入は、37℃~42℃の温度で行われる。
前述した具体例のいずれかにおいて、前記方法は、培養した細胞株を保存するステップをさらに含む。
【0020】
前述した具体例のいずれかにおいて、前記保存するステップは、細胞株を凍結及び/又は乾燥させることを含む。
前述した具体例のいずれかにおいて、前記培養は、保存されている菌株を培養して活性化するステップを含む。
【0021】
前述した具体例のいずれかにおいて、前記方法は、プラスミドにより形質転換された細胞株を37℃以上の温度で培養するステップを含む方法に比べて、プラスミド内のポリAテールの安定性が向上することを特徴とする。
【0022】
前述した具体例のいずれかにおいて、ポリAテールは、20~400個のアデニン(A)を含む。
本発明を実現する他の態様は、mRNA生産のためのプラスミドの大量生産方法である。
【0023】
一具体例において、前記方法は、ポリAテール(poly(A) tail)を含むmRNAをコードする配列を含むプラスミドにより形質転換された細胞株を31℃以下の温度条件にて培養するステップを含む。
【0024】
前述した具体例のいずれかにおいて、前記mRNAは、免疫原性組成物及び/又は治療剤の一構成成分である。
本発明を実現するさらに他の態様は、ポリAテールを含むmRNAの生産方法である。
【0025】
一具体例において、前記方法は、ポリAテール(poly(A) tail)を含むmRNAをコードする配列を含むプラスミドにより形質転換された細胞株を31℃以下の温度条件にて培養するステップを含む。
【0026】
前述した具体例のいずれかにおいて、前記方法は、細胞株からプラスミドを回収してインビトロ(in vitro)で転写を行うことを含む。
前述した具体例のいずれかにおいて、前記mRNAは、免疫原性組成物及び/又は治療剤の一構成成分である。
【0027】
以下、これらを具体的に説明する。なお、本発明で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本発明で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。また、以下の具体的な記述に本発明が限定されるものではない。
【0028】
また、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、通常の実験のみを用いて本発明に記載された本発明の特定の態様の多くの等価物を認識し、確認することができるであろう。さらに、その等価物も本発明に含まれることが意図されている。
【0029】
さらに、本明細書全体にわたって多くの論文及び特許文献が参照されており、その引用が示されている。引用された論文及び特許文献の開示内容はその全体が本明細書に参照として組み込まれており、それにより本発明の属する技術分野の水準及び本発明の内容がより明確に説明される。
【0030】
本発明の一態様は、ポリAテールをプラスミドにおいて安定して保持する方法である。
前記方法は、ポリAテール(poly(A) tail)をコードする配列を含むプラスミドにより形質転換された細胞株を31℃以下の温度条件にて培養するステップを含む。
【0031】
本発明における「ポリAテール(poly A tail)」とは、典型的にRNA分子の3’末端に位置するアデニル酸(adenylate)残基の連続又は不連続配列を意味する。ポリAテールは、mRNAの3’、例えば3’UTRの後に続くものであってもよい。このようなポリAテールは、約20個以上、25個以上、40個以上、60個以上、80個以上又は100個以上のアデニル(A)ヌクレオチドから構成されてもよく、それを含んでもよい。
【0032】
一実施例として、ポリAテールは、20~400個のアデニン(A)を含んでもよい。例えば、20~300個、40~200個、50~190個、60~180個、70~170個、60~160個、70~150個、80~140個のアデニンを含んでもよい。例えば、約120個のアデニンを含むが、これに限定されるものではない。
【0033】
一実施例として、ポリAテールのヌクレオチドの数を基準に、典型的に少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%はAヌクレオチドであるが、残りのヌクレオチドは、Aヌクレオチド以外のヌクレオチド、例えばU、T又はCであってもよい。例えば、ポリAテールは、mRNAの分解を遅延させる変形を含んでもよい。
【0034】
本発明において、ポリAテールを含むプラスミドは、転写を開始するプロモーター、その転写を調節するための任意のオペレーター配列、目的とするmRNAをコードする配列、並びに転写及び翻訳の終結を調節する配列を含んでもよい。一実施例として、前記プラスミドは、クローニングに活用することが容易な制限酵素結合部位を含んでもよい。
【0035】
一実施例として、前記プラスミドは、形質転換されたか否かを確認するための選択マーカー(selection marker)を含んでもよい。薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性などの選択可能表現型を付与するマーカーが用いられる。選択剤(selective agent)で処理した環境においては、選択マーカーを発現する細胞のみ生存するか、異なる表現形質を示すので、形質転換された細胞を選択することができる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0036】
本発明のプラスミドは、プラスミドにポリAテールをコードする配列を導入することにより、プラスミドを作製することができる。
例えば、ポリAテールをコードする配列をPCRにより増幅し、制限酵素で処理し、その後制限酵素で処理したプラスミドに連結することにより、ポリAテール(poly(A) tail)をコードする配列を含むプラスミドを準備することができる。例えば、ポリAテールをコードする配列の上流にmRNAをコードするポリヌクレオチド配列が連結されていてもよい。例えば、前記プラスミドは、ポリAテールをコードする配列の上流にmRNAをコードするポリヌクレオチドの配列を含む、目的とするmRNAを転写するための鋳型として用いてもよい。
【0037】
本発明のポリAテール(poly(A) tail)をコードする配列を含むプラスミドにより形質転換された細胞株は、ポリAテールをコードする配列を含むプラスミドを細胞株に導入(introduce)して準備してもよい。
【0038】
本発明において、ポリAテールをコードする配列を含むプラスミドを細胞株に導入することは、細胞株をプラスミドにより形質転換するといってもよい。
本発明において、プラスミドの「導入」又は「形質転換」とは、細胞株にプラスミドを伝達することを意味する。このような導入は、当該技術分野における通常の方法により容易に行うことができる。プラスミドを細胞株に導入するために、細胞がDNA分子に対して透過性を有するように処理する過程を経るようにしてもよい。そのような過程を経た細胞をコンピテントセル(competent cell)という。
【0039】
一実施例として、前記導入は、熱ショック(heat shock)又はエレクトロポレーション(electroporation)を用いたものであってもよい。
熱ショックを用いたプラスミドの伝達は、DNAと細胞を混合して瞬間的に熱を加えることにより行われる。例えば、前記熱ショックによる導入は、約37℃以上の温度条件にて行われ、具体的には約37℃~42℃の温度条件にて行われる。熱ショックを与える前及び/又は与えた後に、氷上で細胞を冷却するステップを含んでもよい。
【0040】
エレクトロポレーションは電気を用いてプラスミドを伝達する方法であり、短く高い電圧の電気パルス刺激を印加して細胞膜の膜電位に変化を与えると、ナノメートルサイズの小さな気孔が細胞膜の表面に生成され、DNAの透過性が高くなる。例えば、前記エレクトロポレーションによる導入は、約37℃以上の温度条件にて行われ、具体的には約37℃~42℃の温度条件にて行われる。電気刺激を加える前及び/又は加えた後に、氷上で細胞を冷却するステップを含んでもよい。
【0041】
他の例として、CaCl沈殿法、CaCl方法にDMSO(dimethyl sulfoxide)という還元剤を用いることにより効率を向上させたHanahan方法、リン酸カルシウム沈殿法、原形質融合法、シリコンカーバイド繊維を用いた攪拌法、PEGを用いた形質転換法、硫酸デキストラン、リポフェクタミン及び乾燥/抑制媒介形質転換方法などが用いられる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0042】
mRNAワクチンなどの治療目的のmRNAにおいては、mRNAの安定性及び翻訳効率のためにポリAテールが安定して必要であり、本出願人は、新たに前記プラスミドに存在するポリAテールをコードする配列が消失せず、安定してクローニング、大量生産、保持することのできる方法によりクローニングした大腸菌の培養方法を提供する。
【0043】
本発明において、ポリAテールをコードする配列を含むプラスミドを導入した細胞株を31℃以下の温度条件にて培養するステップは、(i)細胞株を回復(recovery)させるステップ、(ii)細胞株を固体培地で培養するステップ、及び(iii)細胞株を液体培地で培養するステップの1つ以上を含んでもよい。
【0044】
前記(i)細胞株を回復(recovery)させるステップは、形質転換後にコンピテント(competent)状態にあった細胞株を培地で培養して生理学的機能を回復させるステップである。例えば、回復ステップの培地は非選択培地であってもよい。
【0045】
例えば、前記回復ステップにおける培養温度は、約31℃以下、例えば約16℃~31℃、約16℃~30℃、約16℃~29℃、約16℃~28℃、約16℃~27℃、約16℃~26℃、約16℃~25℃、約17℃~25℃、約18℃~25℃、又は約19℃~25℃であってもよい。
【0046】
例えば、前記回復ステップにおける培養時間は、約5分間~2時間であってもよい。
前記(ii)細胞株を固体培地で培養するステップにより、形質転換された細胞株を培養してコロニーを形成することができる。
【0047】
「コロニー」とは、目的とするプラスミドを導入した細胞株の群集を意味する。
「固体培地」は「固形培地」ともいう。固体培地培養において、菌株が生育したか否かと、プラスミドが導入されたか否かを確認してもよく、プラスミドが導入されたか否か確認するために選択培地(selective medium)を用いてもよい。例えば、選択培地は抗生剤を含んでもよい。
【0048】
例えば、前記固体培地で培養するステップの温度は、約31℃以下、例えば約16℃~31℃、約16℃~30℃、約16℃~29℃、約16℃~28℃、約16℃~27℃、約16℃~26℃、約16℃~25℃、約17℃~25℃、約18℃~25℃、又は約19℃~25℃であってもよい。
【0049】
前記(iii)細胞株を液体培地で培養するステップにより、細胞株を大量培養することができる。前記液体培地で培養するステップは、前記(ii)の固体培地培養ステップで得られた単一コロニーを培養するものであってもよい。
【0050】
例えば、前記液体培地で培養するステップの温度は、約31℃以下、例えば約16℃~31℃、約16℃~30℃、約16℃~29℃、約16℃~28℃、約16℃~27℃、約16℃~26℃、約16℃~25℃、約17℃~25℃、約18℃~25℃、又は約19℃~25℃であってもよい。
【0051】
例えば、前記液体培地で培養するステップは、継代培養するステップを含んでもよい。継代培養(subculture)とは、元の培養における一部の細胞を新たな培地に移植して新たに培養することを意味する。継代培養により、細胞の密度を適宜調節することができる。例えば、前記継代培養は、2回、3回、又はそれ以上行われるが、これらに限定されるものではなく、当業者が適宜調節することができる。
【0052】
本発明の方法は、前記培養した細胞株を保存するステップをさらに含んでもよい。
前記保存するステップは、細胞株を凍結及び/又は乾燥させることを含む。凍結保存剤としては、例えばグリセロール(glycerol)やジメチルスルホキシド(dimethylsulfoxide)などの当該技術分野で公知の物質を用いることができる。
【0053】
前述した具体例のいずれかにおいて、前記培養は、保存されている菌株を培養して活性化するステップを含む。保存されている菌株は、凍結した状態であってもよく、乾燥した状態であってもよい。前記活性化するステップにおける培養は、固体培養であってもよく、液体培養であってもよい。
【0054】
本発明の方法によれば、培養した細胞株を保存して活性化するステップにおいて、プラスミド内のポリAテールが安定して保持される。
本発明の培養ステップにおいて用いられる培地は、細胞株を培養するために必要な栄養物質を含んでもよい。例えば、炭素源、窒素源、リン源、無機化合物、アミノ酸及び/又はビタミンなどを含有する通常の培地が用いられる。また、培養ステップにおいて、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸、硫酸などの化合物を培地に好適な方法で添加することにより、培地のpHを調整することができる。
【0055】
本発明の細胞株は、特に限定されるものではないが、大腸菌(E.coli)であってもよい。大腸菌は、DNAの大量生産やクローニングに広く用いられる宿主細胞であり、本発明の細胞株には、野生型大腸菌だけでなく、クローニングに有利な特性を有するように操作した変異型大腸菌も含まれる。例えば、RecAを欠失させた菌株が用いられる。しかし、これに限定されるものではない。
【0056】
プラスミドに含まれるポリAテールは、細胞株内での組換え(recombination)や欠失(deletion)などにより長さが短くなる。しかし、本発明の方法により細胞を培養すると、プラスミドに含まれるポリAテールの長さを安定して保持することができる。
【0057】
例えば、前記方法は、プラスミドを導入した細胞株を37℃以上の温度で培養するステップを含む方法に比べて、プラスミド内のポリAテールの安定性が向上することを特徴とする。前記培養は、(i)細胞株を回復(recovery)させるステップ、(ii)細胞株を固体培地で培養するステップ、及び(iii)細胞株を液体培地で培養するステップの1つ以上を含んでもよい。
【0058】
本発明の他の態様は、mRNA生産のためのプラスミドの大量生産方法である。
前記方法は、ポリAテール(poly(A) tail)を含むmRNAをコードする配列を含むプラスミドにより形質転換された細胞株を31℃以下の温度条件にて培養するステップを含む。
【0059】
ポリAテール(poly(A) tail)、プラスミド、細胞株、培養及び温度条件については前述した通りである。
例えば、生産したプラスミドは、インビトロ(in vitro)でmRNAを合成するための鋳型として用いてもよい。例えば、前記方法は、プラスミドを細胞から回収するステップをさらに含んでもよい。しかし、これに限定されるものではない。
【0060】
例えば、前記プラスミドを鋳型として合成した、ポリAテールを含むmRNAは、免疫原性組成物の一構成成分として用いてもよい。
例えば、前記プラスミドを鋳型として合成した、ポリAテールを含むmRNAは、治療剤の一構成成分として用いてもよい。
【0061】
本発明のさらに他の態様は、mRNA生産方法である。
前記方法は、ポリAテール(poly(A) tail)を含むmRNAをコードする配列を含むプラスミドにより形質転換された細胞株を31℃以下の温度条件にて培養するステップと、前記細胞株のプラスミドを鋳型として転写(transcription)を行うステップとを含む。
【0062】
前記ポリAテール及びそれを含むmRNA、プラスミド、細胞株、培養並びに温度条件については前述した通りである。
例えば、前記培養ステップの後に、プラスミドを細胞株から回収してもよい。
【0063】
例えば、前記転写ステップは、インビトロ(in vitro)で行ってもよい。
例えば、前記生産方法は、生産したmRNAを製剤化するステップをさらに含んでもよい。製剤化する場合は、通常用いる充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤又は賦形剤を用いることができる。例えば、前記製造方法は、mRNAを脂質ナノ粒子に含まれる形態に作製するステップを含んでもよい。しかし、これに限定されるものではない。
【0064】
例えば、前記生産したポリAテールを含むmRNAは、免疫原性組成物の一構成成分として用いてもよい。
例えば、前記生産したポリAテールを含むmRNAは、治療剤の一構成成分として用いてもよい。
【実施例
【0065】
以下、実施例及び実験例を挙げて本発明をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例及び実験例は本発明を例示するものにすぎず、本発明がこれらの実施例及び実験例に限定されるものではない。
【0066】
比較例1.一般菌株を用いた通常条件のクローニング
Poly(A)配列を挿入したプラスミドDNAを確保するために、通常用いるDH5α菌株及び方法を用いた。
【0067】
Poly(A)断片及び接合体の準備
プラスミドに挿入するPoly(A)断片を準備するために、配列番号1及び配列番号2の配列からなるDNAオリゴ(oligo)(コスモジンテック注文製作)を1:1のモル比で混合し、95度から1分当たり1度ずつ温度を低くしてアニーリングし、Klenow large fragment(NEB)でギャップ部位を満たし、二本鎖polyA DNA断片を作製した。その後、制限酵素SacII及びHindIII(NEB)で切断し、次いでT4 DNAリガーゼを用いて同じ制限酵素で切断したプラスミド(pSKBS01,配列番号3)に挿入することにより、接合体を準備した。
【0068】
形質転換(DH5α)
準備した接合体を大腸菌DH5α(Enzynomics, CP010)に形質転換した。氷上で形質転換用大腸菌に接合体を入れて30分間静置し、その後摂氏42度で30秒間熱ショックを与えた。その後、2分間氷上で冷却し、次いでSOC培地を添加して摂氏37度で1時間回復させ、次いで抗生剤選択固形培地に大腸菌を塗抹した。大腸菌を塗抹した培地を摂氏37度で培養し、コロニーが生成されるようにした。
【0069】
Poly(A)配列挿入の確認
形質転換後に選択培地に形成されたコロニーに対して、コロニーPCRによりpoly(A)断片の挿入可能性の有無を把握し、次いで断片の挿入可能性を確認したコロニーからプラスミドを分離し、次いで塩基配列分析により挿入した配列を確認した。
【0070】
コロニーPCRにはM13-フォワード及びM13-リバースプライマー(配列番号4,5)を用い、poly(A)が挿入された場合は、550bpの大きさのPCR産物が生成され、挿入されていないプラスミドの場合は、446bpの大きさのものが生成されるようにした。40個のコロニーに対してPCRを行い、アガロースゲルでPCR産物を確認した。コロニーPCRの結果、19個は明確に446bpを示し、poly(A)が挿入されていないことが分かった。残りの21個はマルチバンドの様相を示すが、550bpの大きさのPCR産物が含まれているようであった(図1)。断片挿入可能性が確認されたそれら21個を摂氏37度で液体培養し、その後プラスミドを分離し、サンガーシーケンシング(sanger sequencing)により塩基配列分析を行った。
【0071】
しかし、塩基配列を分析した全てのコロニーにおいて、poly(A)配列が挿入されていないことが確認された。
これは、通常条件のクローニングにおいてはポリAテールが全て消失することを裏付ける結果である。
【0072】
比較例2.不安定な断片のクローニングに特化された菌株を用いたクローニング
poly(A)配列を挿入したプラスミドDNAを確保するために、繰り返し配列を含む不安定な断片のクローニングに特化された菌株の1つであるStbl3菌株を用いた。形質転換の際の培養温度は、前述した比較例1と同様に摂氏37度にした。
【0073】
形質転換(Stbl3)
比較例1で準備した接合体を大腸菌Stbl3(Invitrogen, C737303)に形質転換した。氷上で形質転換用大腸菌に接合体を入れて30分間静置し、その後摂氏42度で42秒間熱ショックを与えた。その後、2分間氷上で冷却し、次いでSOC培地を添加して摂氏37度で1時間回復させ、次いで抗生剤選択固形培地に大腸菌を塗抹した。大腸菌を塗抹した培地を摂氏37度で培養し、コロニーが生成されるようにした。
【0074】
Poly(A)配列挿入の確認
比較例1と同様にコロニーPCRを行った。25個のコロニーに対してPCRを行い、アガロースゲルでPCR産物を確認した。17個は明確に446bpを示し、poly(A)が挿入されていないことが分かった。残りの8個はマルチバンドの様相を示すが、550bpの大きさのPCR産物が含まれているようであった(図2)。断片挿入可能性が確認されたそれら8個を摂氏37度で液体培養し、その後プラスミドを分離し、サンガーシーケンシングにより塩基配列分析を行った。
【0075】
しかし、塩基配列を分析した全てのコロニーにおいて、poly(A)配列が挿入されていないことが確認された。
これは、不安定な断片を安定してクローニングできる特殊菌株においてもポリAテールが全て消失し、安定したmRNAワクチンを製造するには不安定であることを裏付ける結果である。
【実施例1】
【0076】
低温条件を用いたクローニング
上記比較例から、poly(A)配列を大腸菌に導入し、その後摂氏37度で培養する通常の方法においては、poly(A)配列が正しく挿入されない、又は安定して保持されないという問題があることが確認された。
【0077】
よって、安定したポリAテール保持のための方法を新たに確立した。そのために、形質転換の際の大腸菌培養温度を通常の摂氏37度より低くした。
形質転換(DH5α,Stbl3)
比較例1で準備した接合体を大腸菌DH5α(Enzynomics, CP010)及びStbl3(Invitrogen, C737303)にそれぞれ形質転換した。大腸菌培養温度を除く他の条件は、比較例1、2における条件と同一にした。大腸菌に熱ショックを与えて摂氏25度で回復させ、抗生剤選択固形培地に大腸菌を塗抹し、その後摂氏25度で培養してコロニーが生成されるようにした。
【0078】
Poly(A)配列挿入の確認
比較例1と同様にコロニーPCRを行った。各菌株当たり10個のコロニーに対してPCRを行い、アガロースゲルでPCR産物を確認した。
【0079】
DH5αでは5個、Stbl3では7個が明確に446bpを示し、poly(A)が挿入されていないことが分かった。残りのコロニーでは、比較例1、2とは異なり、マルチバンドの様相を示さず、明確に550bpの大きさのPCR産物が観察された(図3)。断片挿入可能性が確認されたそれらのコロニーは、摂氏25度で液体培養し、その後プラスミドを分離し、サンガーシーケンシングにより塩基配列分析を行った。
【0080】
実験の結果、塩基配列を分析した全てのコロニーにおいて、poly(A)配列が挿入されたことが確認された。
よって、一般菌株及び不安定な断片クローニングに特化された菌株の全てにおいて、poly(A)テールを安定してクローニングするためには、摂氏37度より低い低温条件が有利であることが確認された。
【実施例2】
【0081】
温度条件の探索:一般菌株を用いた形質転換及び配列の確認
poly(A)テールを安定して保持することのできる温度範囲を探索するために、様々な温度条件にてpoly(A)テールを含むプラスミドDNAを形質転換して液体培養を行い、それらの塩基配列を分析してpoly(A)テールが保持されることを確認した。
【0082】
形質転換(DH5α)
前述した方法(比較例1)を用いてpoly(A)テールの長さが124個であるプラスミドDNAを作製し、プラスミドDNAを大腸菌DH5α(Enzynomics, CP010)に形質転換した。大腸菌にプラスミドDNAを入れ、氷上で30分間静置し、その後摂氏42度で40秒間熱ショックを与えた。その後、氷上で2分間冷却し、次いでSOC培地を添加して摂氏37度、34度、32度、31度、28度、25度、22度、19度でそれぞれ1時間培養して回復させ、次いで抗生剤選択固形培地に大腸菌を塗抹した。大腸菌を塗抹した培地は、大腸菌を回復させた温度と同じ温度で培養し、コロニーが生成されるようにした。
【0083】
Poly(A)配列の長さの確認
塩基配列分析のためのプラスミドを分離するために、固形培地に生成されたコロニーを24個又は25個ずつ選択し、固形培地を培養した温度と同じ温度で液体培養した。液体培養後に、プラスミドを分離し、poly(A)配列の長さ及び塩基配列をサンガーシーケンシングにより分析した。塩基配列分析にはAtail-seq-R(配列番号6)プライマーを用いた。
【0084】
塩基配列分析の結果、摂氏37度ではpoly(A)配列が保持されず、摂氏31度以下で培養するとpoly(A)の長さの安定性が大幅に向上することが確認された。よって、poly(A)配列の安定性は、大腸菌培養温度が低くなるにつれて向上することが確認された。
【0085】
サンガーシーケンシングによる塩基配列分析の際に、1つの配列が長く繰り返される鋳型を分析すると、ポリメラーゼのスリップ現象により、分析結果においてヌクレオチドが1つ抜けるか、1つ加えられることがある(非特許文献4)。よって、挿入したpoly(A)配列の長さにおける誤差範囲が1個以内であるA124±1の割合を指標とした。その結果を表1及び図4に示す。
【0086】
【表1-1】
【0087】
【表1-2】
【0088】
表1及び図4に示すように、ポリAテール(poly(A) tail)をコードする配列を含むプラスミドにより形質転換された細胞株を31℃以下の温度条件にて培養した場合に、A124±1の割合が21.7~55.0%であったので、プラスミドにおいてポリAテールが安定して保持されていることが分かる。しかし、16℃未満の温度条件では大腸菌の生長がほとんど起こらないので(非特許文献1)、16℃未満の温度条件は大量のワクチン製品生産工程に適用することができない。16℃未満の温度条件を工程に適用することができないことは、後述する実施例5においても再度確認される。
【実施例3】
【0089】
継代培養時の安定性:不安定な断片を保持するのに特化された菌株を用いた形質転換及び継代培養
低温条件での連続した継代培養の際にpoly(A)配列が正常に保持されるか否かを確認するために、不安定な断片を保持するのに特化された菌株の1つであるNEB stable菌株を用いて摂氏37度及び摂氏25度で形質転換及び継代培養を行った。
【0090】
形質転換(NEB stable)
実施例2において用いたプラスミドDNAを大腸菌NEB stable(NEB, C3040H)に形質転換した。氷上で形質転換用大腸菌にプラスミドDNAを入れて30分間静置し、その後摂氏42度で40秒間熱ショックを与えた。その後、5分間氷上で冷却し、次いでNEB 10-beta/Stable Outgrowth培地を添加して摂氏37度又は25度で1時間回復させ、次いで抗生剤選択固形培地に大腸菌を塗抹した。大腸菌を塗抹した培地は、大腸菌を回復させた温度と同じ温度で培養し、コロニーが生成されるようにした。
【0091】
形質転換後のpoly(A)配列の長さの確認
各温度での形質転換後に生成されたコロニーから25個を選択し、固体培養した温度と同じ温度で液体培養した。プラスミドを分離し、サンガーシーケンシングによりpoly(A)配列の長さを分析した。塩基配列分析には3UTR-Xba1-F(配列番号7)プライマーを用いた。前述した実施例2における、通常用いられるDH5αにおいて得られた結果に比べて、摂氏37度での形質転換時にpoly(A)配列の長さが120個以上保持されたコロニーの割合が比較的高いことが確認された。不安定な断片を保持するのに特化された菌株を用いることにより、これらの結果が生じたものと考えられる。
【0092】
しかし、A124±1の割合から確認できるように、形質転換に用いたプラスミドが本来有していた124個のpoly(A)に近接して保持されたコロニーは、摂氏25度に比べて、摂氏37度では非常に低いので、菌株に関係なく、poly(A)配列の長さ保持に低温が有利であることが再度確認された。
【0093】
【表2】
【0094】
継代培養
前述した形質転換後の塩基配列分析によりpoly(A)配列の長さが確認されたコロニーから、摂氏37度では6個、摂氏25度では9個を選択した。選択したコロニーの培養液を新たな液体培地に1/1000の体積で接種し、その後同じ温度で継代培養を行った。摂氏37度では2回の継代培養、摂氏25度では3回の継代培養を経た。
【0095】
継代培養によるpoly(A)配列の長さの確認
継代培養中の一部の培養液からプラスミドを分離し、サンガーシーケンシングによりpoly(A)配列の長さを分析した。塩基配列分析には3UTR-Xba1-F(配列番号7)プライマーを用いた。
【0096】
摂氏37度で継代培養を行った結果、ほとんどのコロニーにおいてpoly(A)配列の長さが保持されないことが確認された(表3)。それに対して、摂氏25度で継代培養を行うと、全てのコロニーのpoly(A)配列の長さが保持されることが確認された(表4)。
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
【0099】
よって、継代培養の際に31℃以下の温度で培養することがプラスミドのpoly(A)配列の保持に適した条件であることが確認された。
【実施例4】
【0100】
細胞株のストック作製後の安定性の確認
形質転換により作製した細胞株の保管容易性を確認するために、前述した実施例3において25度の条件でAの長さが124個であることが確認された形質転換細胞株をグリセロールストック(glycerol stock)の形態にし、-70℃の冷凍庫に保管した。冷凍状態で保管していたストックを取り出し、各試験管において16度、25度、30度の条件で液体培養し、その後各プラスミドを分離して配列分析を行った。培養した大腸菌から分離したプラスミドから分析されたAの長さは全て124個であったので、ストック作製後の培養時にAの長さが完全に保持されることが確認された。
【0101】
【表5】
【実施例5】
【0102】
各温度における培養曲線の確認
16度未満の条件での培養は工程適用に適切でないことを確認するために、次の実験を行った。
【0103】
実施例2及び3において25度の条件でAの長さが124個であることが確認された形質転換細胞株DH5α及びNEB stableをそれぞれグリセロールストック(glycerol stock)の形態にし、-70℃の冷凍庫に保管した。各温度における培養曲線を確認するために、ストックを取り出し、13度、16度、19度、22度、25度の条件にて200rpmで48時間培養しながら、所定の時間にOD600を測定した。実験の結果、16度未満である13度では細胞の成長がほとんどないことが確認された(図5)。
【0104】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
【0105】
(配列表)
【0106】
【化1】
【0107】
【化2】
【0108】
【化3】
【0109】
【化4】
【0110】
【化5】
【0111】
【化6】
【0112】
【化7】
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
2024528297000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-02-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0108
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0108】
【化3-1】

【化3-2】
【国際調査報告】