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特表2024-528312ヒト血漿由来第VIII因子/フォンヴィレブラント因子の製造方法および得られた組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】ヒト血漿由来第VIII因子/フォンヴィレブラント因子の製造方法および得られた組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/37 20060101AFI20240719BHJP
   A61K 38/36 20060101ALI20240719BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20240719BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240719BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240719BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20240719BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
A61K38/37
A61K38/36
A61K9/19
A61K9/08
A61K47/18
A61K47/42
A61P7/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024508420
(86)(22)【出願日】2022-08-09
(85)【翻訳文提出日】2024-04-08
(86)【国際出願番号】 EP2022072325
(87)【国際公開番号】W WO2023017020
(87)【国際公開日】2023-02-16
(31)【優先権主張番号】21382756.1
(32)【優先日】2021-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515116009
【氏名又は名称】グリフォルス・ワールドワイド・オペレーションズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GRIFOLS WORLDWIDE OPERATIONS LIMITED
【住所又は居所原語表記】Grange Castle Business Park,Grange Castle,Clondalkin,Dublin 22,IRELAND
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サルヴァドール、グランチャ、ガモン
(72)【発明者】
【氏名】マリア、メルセデス、ファロ、トマス
(72)【発明者】
【氏名】ヌリア、マルティネス、クレウス
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA29
4C076BB11
4C076CC14
4C076CC29
4C076DD51
4C076EE41
4C076GG06
4C076GG41
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA41
4C084BA44
4C084CA18
4C084DC10
4C084DC15
4C084MA02
4C084MA05
4C084MA44
4C084MA66
4C084NA20
4C084ZA531
4C084ZA532
4C084ZC75
(57)【要約】
本発明は、ヒト血漿由来第VIII因子/フォンヴィレブラント因子(FVIII/VWF)複合体を含んでなる凍結乾燥医薬組成物の新規な製造方法であって、a)総タンパク質1mg当たり少なくとも(90)IUのFVIIIを含み、VWF/FVIII活性の比が少なくとも0.7である、FVIII/VWFを含んでなる初期水溶液を提供する工程;b)アルギニン、ヒスチジン、およびヒト血清アルブミン(HSA)を添加する工程;c)工程b)で得られたFVIII/VWF溶液を凍結乾燥する工程;およびd)凍結乾燥されたFVIII/VWFを注射用水で再構成し、それにより血友病Aおよびフォンヴィレブランド病の治療に適切な治療製剤を得る工程を含んでなり、患者に投与する前に、アルギニンが(42)~(98)mmol/Lの濃度であり、ヒスチジンが(10)~(24)mmol/Lの濃度であり、アルブミンが(1)~(2.5)%(w/v)の濃度であり、FVIII力価とVWF力価は200IU/mL以上であり、かつ、得られた製剤が3600IU/バイアルまでのFVIII用量、および5040IU/バイアルまでのVWF用量を有する製造方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト血漿由来第VIII因子/フォンヴィレブラント因子(FVIII/VWF)複合体を含んでなる、凍結乾燥医薬組成物の製造方法であって、
a)総タンパク質1mg当たり少なくとも90IUのFVIIIを含み、VWF/FVIII活性の比が少なくとも0.7である、FVIII/VWFを含んでなる初期水溶液を提供する工程;
b)アルギニン、ヒスチジン、およびヒト血清アルブミン(HSA)を添加する工程;
c)工程b)で得られたFVIII/VWF溶液を凍結乾燥する工程;および
d)凍結乾燥されたFVIII/VWFを注射用水で再構成し、それにより血友病Aおよびフォンヴィレブランド病の治療に適切な治療製剤を得る工程
を含んでなり、
患者に投与する前に、アルギニンが42~98mmol/Lの濃度であり、ヒスチジンが10~24mmol/Lの濃度であり、アルブミンが1.0~2.5%(w/v)の濃度であり、FVIII力価とVWF力価は200IU/mL以上であり、かつ、得られた製剤が3600IU/バイアルまでのFVIII用量、および5040IU/バイアルまでのVWF用量を有する、
製造方法。
【請求項2】
工程b)のアルブミン濃度が1.2~2.3%(w/v)である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
工程b)のヒスチジン濃度が13~21mmol/Lである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
アルギニン濃度が50~90mmol/Lである、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
熱処理の工程をさらに含んでなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
FVIII/VWF複合体が前記熱処置によって影響を受けず、血漿中に存在するFVIII/VWF複合体と同様である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
工程d)で得られた製剤の浸透圧が240mOsm/kg以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
工程d)の再構成時間が10分未満である、請求項1~7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
再構成後のアルギニンの濃度が42~98mmol/Lであり、再構成後のヒスチジンの濃度が10~24mmol/Lであり、再構成後のヒト血清アルブミン(HAS)の濃度が1.0~2.5%(w/v)であり、FVIII力価およびVWF力価が200IU/mL以上であり、FVIII用量が3600IU/バイアルまでであり、かつ、VWF用量が5040IU/バイアルまでである、凍結乾燥FVIII/VWF複合体を含んでなる組成物。
【請求項10】
アルブミン濃度が1.2~2.3%(w/v)である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
ヒスチジン濃度が13~21mmol/Lである、請求項9または10に記載の組成物。
【請求項12】
アルギニン濃度が50~90mmol/Lである、請求項9~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
FVIII用量が2400~3600IU/バイアルであり、かつ、VWF用量が2160~5040IU/バイアルである、請求項9~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
凍結乾燥組成物の再構成時間が10分未満である、請求項9~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
必要とする対象において血友病Aおよびフォンヴィレブランド病の治療に使用するための、請求項9~14のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト血漿由来血液凝固第VIII因子/フォンヴィレブラント因子(FVIII/VWF)複合体を、現在市販されているものに比べて、FVIIIおよびVWFの両有効成分についてバイアル当たり高力価(IU/ml)かつ高用量(IU/バイアル)で含んでなる、新規な製造方法および前記製造方法で得られた医薬組成物に関する。さらに、本新規な製剤工程は、FVIII/VWF複合体を安定化させると、凍結乾燥すること、および血友病Aの治療のためおよびフォンヴィレブランド病の治療のために、より高いFVIIIおよびVWF力価で投与する前に再構成してより少ない注射容量とすることを可能とする。
【0002】
FVIII濃縮物は、FVIIIとVWFの両方を含有するものまたはVWFを含まないもしくは低含量で含むFVIIIとして現在市販されている。FVIIIとVWFが強固に結合して天然の複合体(FVIII/VWF)を形成しているヒト血漿プールから得られた製剤を含む最初のグループのみが、血友病Aおよびフォンヴィレブランド病のいずれにも適応がある。
【0003】
血流中では、VWFの存在は、血漿プロテイナーゼによる分解からの保護とともにFVIII阻害剤による抗原認識の妨害によって、FVIIIの機能維持に重要な二重の役割を果たしている(Delignat S. et al. Immunoprotective effect of von Willebrand Factor towards therapeutic factor VIII in experimental Haemophilia A. Haemophilia 2012; 18: 248-254)。FVIII製剤の免疫原性を評価する場合、FVIIIの起源(遺伝子組換えまたは血漿由来)だけでなく、生理的に形成されたFVIII/VWF複合体の形態のVWFの存在も、阻害剤によるFVIII認識に重要であると思われる[Peyvandi F, et al. Source of Factor VIII Replacement (plasmatic or recombinant) and Incidence of Inhibitory Alloantibodies in Previously Untreated Patients with Severe Hemophilia A: The Multicenter Randomized Sippet Study. Blood 2015; 126: 5, and Bravo et al. Neutralizing capacity of inhibitors on FVIII is lower for natural FVIII/VWF complex than for isolated FVIII: in vitro comparability study in eleven different therapeutic FVIII concentrates. Haemophilia 2016; 22: e301-e348]。
【0004】
他方、VWFは、最大の既知の可溶性血漿タンパク質を構成している。VWFは複雑な多量体構造を有し、その分子量は、より小さな血漿形態である二量体では460kDaから、より大きな分子量の多量体では20,000kDaを超えるまで様々である。
【0005】
前述のように、FVIII/VWFを含むいくつかの製剤が市販されており、それらは通常、バイアル当たり公称250、500、1000または1500IUのヒト凝固第VIII因子を含有する注射用溶液の凍結乾燥粉末として提供されている。これらの製剤は静脈内経路で患者に投与され、注入量は使用可能量と再構成後のFVIIIまたはVWFの力価に直接依存する。実際には、通常の治療では数ミリリットルを緩慢な静脈内(IV)注射により患者に注入しなければならない。したがって、関連する治療上の利益を伴って、患者に投与する量を減らし、治療期間を短縮する必要性が依然として存在する。
【0006】
このような状況において、例えば凍結乾燥製剤の再構成容量を少なくすることにより、処方の組成を変更することなく濃縮されたFVIIIの力価を高める試みがなされてきた。これらの試みは、主にVWFの溶解性が低いために、凝集物の出現を引き起こす、または再構成時間を許容できない値まで増加させるなど、成功に至っていない。さらに、賦形剤濃度を上げることにより溶解性を上げようとする試みでは、患者に注入される最終製剤が許容できない浸透圧となる。
【0007】
本発明の発明者らは、ヒト血漿由来FVIII/VWF複合体を含んでなる医薬組成物の新規な製造方法を開発し、その配合工程では、既に市販されている同等の製剤に比べてアルブミンの濃度はやや高かったがヒスチジンおよびアルギニンの濃度は低く、これにより、FVIIIの力価を高め、したがって、製剤の品質パラメーター、特に、浸透圧および溶解性に影響を及ぼすことなく、バイアル当たり3,600IUまでFVIIIの量、ひいてはVWFの量を増すことができる。本発明者らは、天然血漿由来のいずれのFVIII/VWF製剤でもこのような結果が得られたことを知らない。さらに、本発明の製造方法によって得られた製剤では、全ての剤形で、特に、小児科で使用される用量(市場の類似製剤と比較して、前記容量減は最大4倍)に関連して投与容量を減らすことが可能であり、他方では、1バイアル当たり3000IUという高いFVIII剤形であっても、製剤の浸透圧を現行製剤の張度範囲内に維持することが可能である。浸透圧は用量および製剤の力価とともに上昇するため、治療用量が高い際には特に重要である。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、ヒト血漿由来第VIII因子/フォンヴィレブラント因子(FVIII/VWF)複合体を含んでなる凍結乾燥医薬組成物の製造方法であって、
a)総タンパク質1mg当たり少なくとも90IUのFVIIIを含み、VWF/FVIII活性の比が少なくとも0.7である、FVIII/VWFを含んでなる初期水溶液を提供する工程;
b)アルギニン、ヒスチジン、およびヒト血清アルブミン(HSA)を添加する工程;
c)工程b)で得られたFVIII/VWF溶液を凍結乾燥する工程;および
d)凍結乾燥されたFVIII/VWFを注射用水で再構成し、それにより血友病Aおよびフォンヴィレブランド病の治療に適切な治療製剤を得る工程
を含んでなり、
患者に投与する前に、アルギニンが42~98mmol/Lの濃度であり、ヒスチジンが10~24mmol/Lの濃度であり、アルブミンが1.0~2.5%(w/v)の濃度であり、FVIII力価とVWF力価は200IU/mL以上であり、かつ、得られた製剤が3600IU/バイアルまでのFVIII用量、および5040IU/バイアルまでのVWF用量を有する、
製造方法に関する。
【0009】
好ましくは、投与前に、FVIII用量は2400IU/バイアル~3600IU/バイアルであり、VWF用量は2160IU/バイアル~5040IU/バイアルである。
【0010】
好ましくは、工程b)のアルブミン濃度は、1.2~2.3%(w/v)である。好ましくは、工程b)のヒスチジン濃度は、13~21mmol/Lである。好ましくは、アルギニン濃度は、50~90mmol/Lである。
【0011】
好ましくは、本発明の製造方法は、熱処理の工程をさらに含んでなる。前記熱処理は、例えば、70℃~90℃、より好ましくは75℃~85℃、いっそうより好ましくは80℃~82℃の温度で、70~80時間、より好ましくは72~74時間実施することができる。より好ましくは、FVIII/VWF複合体は前記熱処置によって影響を受けず、血漿中に存在するFVIII/VWF複合体と同様である。
【0012】
好ましくは、工程d)で得られる製剤の浸透圧は、3000IUの用量であっても、240mOsm/kg以上である。より好ましくは、前記浸透圧は、240~600mOsm/kg、いっそうより好ましくは240~500mOsm/kg、最も好ましくは240~400mOsm/kgである。好ましくは、工程d)の再構成時間は10分未満である。より好ましくは、工程d)の再構成時間は5分未満、いっそうより好ましくは3分未満である。
【0013】
別の態様では、本発明は、再構成後のアルギニンの濃度が42~98mmol/Lであり、再構成後のヒスチジンの濃度が10~24mmol/Lであり、再構成後のヒト血清アルブミン(HAS)の濃度が1.0~2.5%(w/v)であり、FVIII力価およびVWF力価が200IU/mL以上であり、FVIII用量が3600IU/バイアルまで、VWF用量が5040IU/バイアルまでである、凍結乾燥FVIII/VWF複合体を含んでなる組成物を開示する。
【0014】
好ましくは、前記組成物では、アルブミン濃度は1.2~2.3%(w/v)である。好ましくは、ヒスチジン濃度は13~21mmol/Lである。好ましくは、アルギニン濃度は50~90mmol/Lである。
【0015】
好ましくは、前記組成物では、FVIII用量は2400IU/バイアル~3600IU/バイアルであり、VWF用量は2160IU/バイアル~5040IU/バイアルである。
【0016】
好ましくは、組成物の浸透圧は、240mOms/kg以上である。より好ましくは、前記浸透圧は240~600mOsm/kg、いっそうより好ましくは240~500mOsm/kg、最も好ましくは240~400mOsm/kgである。好ましくは、凍結乾燥組成物の再構成時間は10分未満である。より好ましくは、工程d)の再構成時間は5分未満、いっそうより好ましくは3分未満である。
【0017】
好ましくは、本発明の組成物は、熱処理されている。前記熱処理は、例えば、70℃~90℃、より好ましくは75℃~85℃、いっそうより好ましくは80℃~82℃の温度で、70~80時間、より好ましくは72~74時間実施することができる。より好ましくは、FVIII/VWF複合体は、前記熱処理によって影響を受けず、血漿中に存在するFVIII/VWF複合体と同様である。
【0018】
好ましくは、本発明の組成物は、5℃または30℃で少なくとも36か月、40℃で少なくとも12か月の安定性を有する。
【0019】
さらなる態様において、本発明は、血友病Aおよびフォンヴィレブランド病の治療に使用するための上記のような組成物に関する。
【発明の具体的説明】
【0020】
定義
本明細書で使用する場合、各節の見出しは、単に構成のためのものであり、記載された主題を何ら限定するものと解釈されるべきではない。限定されるものではないが、特許、特許出願、論文、書籍、専門書、およびインターネットのウェブページを含む、本出願に引用される全ての文献および同様の資料は、目的を問わず、参照によりその全体が明示的に本明細書に援用される。本明細書に援用される参考文献における用語の定義が、本教示において提供される定義と異なると思われる場合には、本教示において提供される定義が優先されるものとする。本教示で議論される温度、濃度、時間などの前には、わずかで実質的でない逸脱が本明細書の本教示の範囲内にあるような、暗黙の「約」が存在することが理解されるであろう。
【0021】
本出願では、特に断りのない限り、単数形の使用は複数形を含む。また、「含んでなる(comprise)」、「含んでなる(comprises)」、「含んでなる(comprising)」、「含有する(contain)」、「含有する(contains)」、「含有する(containing)」、「含む(include)」、「含む(includes)」、「含む(including)」の使用は、限定を意図するものではない。
【0022】
本明細書および特許請求の範囲で使用する場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈が明確に別段のことを指示しない限り、複数の指示対象を含む。
【0023】
「治療」または「治療する」という用語は、哺乳動物などの対象における疾患または障害のあらゆる治療を意味し、これには、疾患もしく障害を予防するもしくはそれから防御すること、すなわち、臨床症状が発症しないようにすること、疾患もしくは障害を阻害すること、すなわち、臨床症状の発症を阻止もしくは抑制すること、および/または疾患もしくは障害を緩和すること、すなわち、臨床症状の退縮を引き起こすことが含まれる。
【0024】
本開示は、特定の実施形態および例の文脈にあるが、当業者であれば、本開示が、具体的に開示された実施形態を越えて、他の代替的な実施形態および/または実施形態の使用、ならびにそれらの明らかな修正および等価物に及ぶことを理解するであろう。さらに、実施形態のいくつかの変形例が示され、詳細に説明されているが、本開示の範囲内にある他の修正も、本開示に基づいて当業者には容易に明らかになるであろう。
【0025】
また、実施形態の特定の特徴および態様の様々な組合せまたは下位の組合せが可能であり、それでもなお本開示の範囲内に入ることが企図される。開示された実施形態の様々な特徴および態様は、本開示の様々な態様または実施形態を形成するために、互いに組み合わせたり、置き換えたりできることが理解されるべきである。したがって、本明細書に開示される本開示の範囲は、上記の特定の開示された実施形態によって限定されるべきではないことが意図される。
【0026】
しかしながら、本開示の趣旨および範囲内での様々な変更および修正が当業者には明らかになるため、本開示の好ましい実施形態を示しながら、本説明は単に例示として示されることを理解されたい。
【0027】
本明細書に提供される説明で使用される用語は、限定的または制限的に解釈されることを意図していない。むしろ、用語は、単に、システム、方法および関連する構成要素の実施形態の詳細な説明とともに利用される。さらに、実施形態は、いくつかの新規な特徴を含んでなり得るが、そのうちの1つだけがその望ましい属性を担うものではなく、本明細書に記載される実施形態を実施するために不可欠であると考えられるものでもない。
【0028】
本開示における「FVIII力価」という用語は、当業者に周知の欧州薬局方発色アッセイを用いて決定される第VIII因子:C力価(IU/mL)を指す。本開示における「ヒト血漿由来」という用語は、任意の従来型または非従来型のヒト血漿分画プロセスを用いて、生成物を得るための出発物材料の供給源、すなわちヒト血漿を指す。従来の血漿分画プロセスの一例としてコーン法がある。
【0029】
本開示における「VWF力価」という用語は、当業者に周知である欧州薬局方に記載されているリストセチン補因子アッセイを用いて決定されフォンヴィレブラント因子力価(IU/mL)を指す。
【0030】
ヒト血漿由来FVIII/VWF複合体を得るためのプロセス
ヒト血漿由来第VIII因子を得るためのプロセスは、異なる賦形剤濃度が調整された高純度FVIII/VWF複合体を調製する工程までは、US 8354505 B2に開示されたプロセスと非常に類似している。まず、1,000人を超えるドナーの血漿を用いてヒト血漿をプールし、凍結沈殿させ、さらに下流で精製して高純度FVIII沈殿を得る。前記高純度沈殿は、アルブミン、アルギニンおよびヒスチジン溶液に再懸濁される。再懸濁後、アルブミン、ヒスチジンおよびアルギニンの濃度ならびにpHは、無菌バルク中で設定された値に再調整される。FVIII活性は最終的に無菌バルク力価の所定の公称値に調整され、VWF活性はそれによって調整される。前記溶液は、0.22μmの滅菌フィルター膜までのフィルター勾配を通して濾過されて無菌バルク溶液が得られる。次いで、前記溶液を所望の剤形に従ってバイアルに充填する。本発明では、バイアル当たり最大3,000IUのFVIIIを充填することが可能であるが、これは市場の類似製剤では得られないものであり、これが次に凍結乾燥され、熱処理されて最終FVIII/VWF製剤が得られる。静脈内適用のために、前記凍結乾燥製剤は、所望の力価となるように注射用水(WFI)で再構成される。本発明の組成物を用いると、凍結乾燥後の再構成体積は、市販の類似製剤と比較して半分から4分の1に減少させることができる。
【0031】
FVIII/VWFの安定化におけるアルブミンの効果
アルブミンは、精製過程ならびに製剤の保存期間中、FVIII/VWFの溶解性と安定性を改善することが知られている。一方、浸透圧は医薬品において重要な問題であり、その特性を明らかにする必要がある。驚くべきことに、凍結乾燥前の無菌バルク中のアルブミン濃度のわずかな増加が、最終製剤の浸透圧への影響を最小とし、投与前の最終製剤の溶解性を実質的に改善する。望ましくない副作用を引き起こすほど高すぎないアルブミン濃度の増加は、驚くべきことに、本発明の組成物中のアミノ酸ヒスチジンおよびアルギニンの濃度を低下させ、投与前の製剤の全体的な張度を低下させることを可能にする。
【0032】
以上、本発明を概説したが、このことは以下の実施例を参照することにより、より容易に理解されるであろうが、これらの実施例は例示のために示されるものであり、本発明を限定することを意図するものではない。
【実施例
【0033】
例1.本発明の配合に従った天然FVIII/VWF複合体の取得のプロセス
ヒト血漿を融解する際に生成する凍結沈殿物から得られる天然のFVIII/VWF複合体溶液は、例えば、特許US 8354505 B2に示されるように、ポリエチレングリコール(PEG)沈殿とその後のクロマトグラフィーによる精製によって精製された後、可溶化された凍結沈殿懸濁液から精製することができる。溶出された溶液は濃縮され、その後さらに精製され、例えば特許EP 0639203に示されるように、グリシンによる沈殿によって高純度のFVIII/VWF複合体が得られる。
【0034】
得られた高純度中間体は、賦形剤および安定剤とともにバルクまで配合するのに適した特性を保持している。FVIII/FVWバルク溶液は、所望の用量に従ってバイアルに充填され、凍結乾燥され、最終的な熱処理が施され、天然FVIII/VWF複合体として定義される、ウイルスフリーで長期間安定な最終製剤(室温で3年間)が得られる。
【0035】
【表1】
【0036】
結論として、プロセスに沿って保存された機能性活性比FVW:RCo/FVIII(表1)と最終的に得られた純度は、本発明の配合で製剤化するのに適した高純度FVIII/VWF中間体をもたらし、それにより血漿中にあるような安定な天然FVIII/VWF複合体が得られ、それに対応する治療適応が得られる。
【0037】
高純度中間体を得るための上記の詳細なプロセスは、本発明の全ての配合例で使用された。VWF活性はリストセチン補因子活性を用いて測定し、全ての場合に1.3±0.1の比とした。したがって、全ての実施例において、1IUのFVIIIは約1.3IUのVWF活性を含む。
【0038】
例2.現在入手可能な現況技術の組成物(100mM Arg、25mM Hist、0.5%Alb)を用いてFVIII力価(IU/ml)および用量(IU/バイアル)の両因子を増加させた場合のFVIII/VWF溶解性への影響
例1に記載の通りに得られた高純度FVIII/VWFをバルクに配合し、最終製剤が、投与前に、従来技術の処方と同等の水性製剤、すなわち、100mM Arg、25mM Hisおよび0.5%アルブミンとなるように凍結乾燥させた。
【0039】
FVIII/VWF溶解性に対する、用量(UI/バイアル)および投与力価(UI/バイアル)の両因子の影響を評価するために、配合したバルクを3000UI用量で充填し、100および200UI/mlの両方の力価で再構成した。さらに、対照として、バルクの一部を従来技術に存在するより少用量(1500および2000IU)内でバイアルに充填し、溶解性パラメーターを評価した。最終の凍結乾燥製剤は100UI/mlまたは200UI/mlで可溶化され、極めて異なる可溶化パラメーターを示した。
A)従来技術の用量および力価
B)100IU/mlのFVIIIで再構成した3000IU/バイアル
C)200IU/mlのFVIIIで再構成した3000IU/バイアル
【0040】
【表2】
【0041】
結論として、従来技術の組成物、100mM Arg、25mM His、0.5%アルブミンは、3000IUの大きな剤形であっても、100IU FVIII/mLのFVIII/FVWを可溶化するのに十分であることが示されたが、同じ用量の3000IUについて200IU FVIII/mlのFVIII/FVW複合体を可溶化することはできない(すなわち、再構成時間が長くなり、凝集物の出現が見られる)。したがって、総用量(UI/バイアル)とml当たりの力価(UI/ml)の両方の活性因子は、投与前の製剤の溶解性を困難にすることに寄与する。
【0042】
例3.FVIII/VWF天然複合体に対する溶解性と浸透圧バランス:アルブミン、アルギニンおよびヒスチジンの濃度を2倍に増加させた場合の影響
アルブミンのみを増加させる場合およびアルブミンとアミノ酸の両方を増加させる場合の3000IUでの溶解性に及ぼす影響を評価するために、例1に記載の通りに得た高純度FVIII/VWF中間体を、各場合において、再構成後の製剤が以下の水性製剤と同等である凍結乾燥製剤が得られるように配合した。
配合A)200IU FVIII/mlで再構成した100mM Arg、25mM Hisおよび0.5%alb
配合B)200、250および300IU FVIII/mlで再構成した100mM Arg、25mM Hisおよび1%alb
配合C)200、250および300IU FVIII/mlで再構成した200mM Arg、50mM His、および1%
【0043】
【表3】
【0044】
注目すべきは、アルブミンの増加は、浸透圧への影響はごくわずかであるが、溶解性の顕著な改善をもたらすことである(配合B)。しかしながら、この1%のアルブミンを維持したまま、賦形剤(200mMまでのアルギニンおよび50mMまでのヒスチジン)をさらに増やしても、最終製剤の浸透圧値への影響は非常に高い一方で、予想外に溶解性のさらなる改善は得られなかった(配合C対B)。
【0045】
結論として、本配合において他のアミノ酸を維持したままアルブミンを増加させるだけで、溶解性に予想外の利点があり、浸透圧の保持という追加の利点もあると評価された。
【0046】
例4.FVIII/VWF天然複合体の溶解性と浸透圧バランス:アルブミンを2%まで増加させ、アミノ酸を1.5倍に増加させた場合の影響
例1に記載の通りに得た高純度FVIII/VWF中間体を、各場合において、再構成後の製剤が以下の水性製剤と同等である凍結乾燥製剤が得られるように配合した。
A)100mM Arg、25mM Hisおよび0.5%albを対照として再構成した(従来技術の配合)
B)150mM Arg、37.5mM His、および2%alb:アルブミンおよびアミノ酸を1.5倍に増量
【0047】
2つの配合について、高力価(200IU FVIII/ml)で3000IU/バイアルの用量を試験した。
【0048】
【表4】
【0049】
得られた結果から、アルブミンを2%まで増加させ、アミノ酸(アルギニンは150mMまで、ヒスチジンは37.5mMまで)を増加させると、溶解性(再構成時間と再構成溶液の外観)に関して、高力価(200IU FVIII/ml)で適正な3000IU用量が得られることを示す。しかしながら、評価された組成(150mM Arg、37mM Hist、2%アルブミン)は、望まれない浸透圧の上昇ももたらす。
【0050】
例5.FVIII/VWF天然複合体の溶解性と浸透圧バランス。用量3000IUおよび力価200UI/mlで溶解性を維持しながらの浸透圧に対するアルブミン/アルギニン比の影響。
例1に記載の通りに得た高純度FVIII/VWF中間体を、再構成後に以下の水性製剤と同等である凍結乾燥製剤が得られるように配合した。
A)200mM Arg、50mM Hisおよび1%alb(Alb/Arg比:0.05)
B)110mM Arg、22mM His、および1.8%alb(Alb/Arg比:0.16)
C)70mM Arg、17mM His、および1.8%alb(Ab/Arg比:0.26)
【0051】
これらの配合を用量3000IU/バイアル、高FVIIIおよびFVW力価(公称200IU/mlのFVIII)で試験した。
【0052】
【表5】
【0053】
驚くことに、アルブミンの1.8%までの増加は、溶解性基準を維持し、かつ、3000IUという非常に高い用量および高FVIII力価でも浸透圧への影響を最小としながら、配合中のアミノ酸濃度の低減(70mM Argおよび17mM His)を可能とする。
【0054】
結論として、例1のように得たFVIII/VWFの高純度中間体に、アルギニン70mM、Hist 17mMおよびアルブミン1.8%で配合し、完全にバランスのとれたAlb/Arg比としたものは、最終的に、用量3000UI/mlのFVIII、4200UI/mlのFVWの、15mlで投与でき、最終浸透圧が400mOsm/kg未満および再構成時間が3分未満の製剤をもたらすことができる。
【0055】
例6.FVIII活性およびFVW活性の両方を保持する凍結乾燥製剤に熱処理を施すための本発明の配合の適合性
例1に記載したように、工業的規模で6800Lの血漿のロットから異なる高純度FVIII/VWF中間体を得た。これらのHP FVIII/FVW複合体中間体を本発明の配合で製剤化し、250、500、1000、2000および3000IUバイアルに充填した。バイアルは、適正な水分を確保するために凍結乾燥し、その後、81±1℃で72~74時間、ウイルス不活性化能を有する熱処理を行った。全ての用量は、100 IU/mlで再構成された250IUを除き、公称力価200IU/mlで再構成した(最終配合物:70mM Arg、17mM His、1.8%alb)。
【0056】
【表6】
【0057】
結果は、本発明の配合物が熱処理中にFVIII/VWF複合体を保護し、FVIIIとFVW:RCoの両方の生物学的活性を保持するのに適していることを示す。したがって、複合体の機能的状態を示すFVW:RCo/FVIIIの比は、それによって、この熱処理工程後も、血漿中と同様に維持され、安定で、安全で、可溶性の天然FVIII/VWF複合体をもたらし、それに対応する治療適応を有する。
【0058】
例7.本発明の配合で製剤化したFVIII/VWF複合体の長期安定性
250、500、1000、2000および3000IUバイアルのFVIII/VWFを得た。これらの最終製剤に5℃および30℃で36か月、また40℃で12か月の長期安定性試験を行った。結果を表7に示す。
【0059】
【表7】
【0060】
複合体の機能的状態(FVIIIおよびFVW:RCo活性)および溶解性パラメーター(再構成時間)の結果を表7の種々の温度条件の下に経時的に示す。
【0061】
結果は、本発明の配合は、種々の温度条件下でFVIII/VWF複合体を経時的に保護するのに適していることを示す。FVIIIおよびFVWの両方の生物学的活性は、5℃および30℃で少なくとも36か月間まで、40℃で12か月まで保持され、溶解性は経時的に不変で維持される。
【国際調査報告】