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特表2024-528328生体適合性画像化粒子、その合成、及び画像技術におけるその使用
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  • 特表-生体適合性画像化粒子、その合成、及び画像技術におけるその使用 図1
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  • 特表-生体適合性画像化粒子、その合成、及び画像技術におけるその使用 図7
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-26
(54)【発明の名称】生体適合性画像化粒子、その合成、及び画像技術におけるその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 49/18 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
A61K49/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024530058
(86)(22)【出願日】2022-07-29
(85)【翻訳文提出日】2024-03-28
(86)【国際出願番号】 EP2022071455
(87)【国際公開番号】W WO2023007002
(87)【国際公開日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】21306071.8
(32)【優先日】2021-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンスティチュート、ナシオナル、ドゥ、ラ、サンテ、エ、ドゥ、ラ、ルシェルシュ、メディカル
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DELA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE
(71)【出願人】
【識別番号】518334716
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ・ドゥ・カーン・ノルマンディー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE CAEN NORMANDIE
(71)【出願人】
【識別番号】524043123
【氏名又は名称】サントル・オスピタリエ・ウニヴェルシテール・ドゥ・カーン・ノルマンディー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】トマ・ボナール
(72)【発明者】
【氏名】シャルレーヌ・ジャクマルク
(72)【発明者】
【氏名】マクシム・ゴベルティ
(72)【発明者】
【氏名】サラ・マルティネス・デ・リサロンド
(72)【発明者】
【氏名】ドニ・ヴィヴィアン
【テーマコード(参考)】
4C085
【Fターム(参考)】
4C085HH07
4C085JJ03
4C085JJ20
4C085KA28
4C085KA29
4C085KB08
4C085KB28
4C085KB74
4C085KB80
4C085KB82
4C085LL01
(57)【要約】
本発明は、生分解性ポリカテコールアミン又はポリセロトニンマトリックス内にサブマイクロメートルの大きさのクラスターに集合させた超常磁性酸化鉄(SPIO)を含む新規な生体適合性画像化粒子、その合成及び画像技術におけるその使用に関する。これらの粒子は、酸化鉄の微粒子と同様のコントラストを提供し、MPS細胞の酸性リソソーム区画に到達すると速やかに分解されて単離されたSPIO粒子となり、その結果、それらの消化が可能になることで、従来技術の分子の毒性と信頼性の低い信号の問題を克服する。したがって、本発明は、100nm~2000nmの間に含まれる流体力学的直径を有する粒子であって、前記粒子がポリカテコールアミン又はポリセロトニンのマトリックス内に埋め込まれた酸化鉄のナノ粒子を含み、前記酸化鉄のナノ粒子の各々がポリカテコールアミン又はポリセロトニンとは異なるポリマーによって被覆されている、粒子を対象とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
200nm~2000nm、優先的には200nm~1500nm、より優先的には300nm~1000nm、更により優先的には500nm~1000nmの間に含まれる流体力学的直径を有する粒子であって、
前記粒子が、ポリカテコールアミン又はポリセロトニンのマトリックス内に埋め込まれた酸化鉄の被覆ナノ粒子を含み、
前記酸化鉄の被覆ナノ粒子の各々が、ポリカテコールアミン又はポリセロトニンとは異なるポリマーによって被覆されている、粒子。
【請求項2】
酸化鉄が、式Fe2O3のマグヘマイト、式Fe3O4のマグネタイト、又はFe2O3とFe3O4の混合物から選択される、請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
ポリカテコールアミンが、ポリドーパミン(PDA)、ポリノルエピネフリン(PNE)又はポリエピネフリン(PEP)から選択される、請求項1又は2に記載の粒子。
【請求項4】
酸化鉄の被覆ナノ粒子が、デキストラン、カルボキシデキストラン、若しくはカルボキシメチルデキストラン等のデキストラン、又はポリエチレングリコールから選択されるポリマーによって被覆されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の粒子。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の粒子の懸濁液。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の粒子の懸濁液を調製する方法であって、
a)カテコールアミン又はセロトニンの溶液を被覆酸化鉄ナノ粒子と撹拌下で混合することによりカテコールアミン又はセロトニンの自己重合を引き起こし、重合したカテコールアミン又はセロトニンのマトリックスに埋め込まれた被覆酸化鉄ナノ粒子を含む粒子を形成する工程と;
b)前記重合を終了させる工程と;
c)得られた反応混合物を処理して、所望の大きさの最終粒子を得る工程と;
d)粒子の懸濁液を回収する工程と
を含む、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法によって得ることができる粒子の懸濁液又は粒子。
【請求項8】
請求項1から4又は7のいずれか一項に記載の粒子と、遊離アミン基若しくはチオール基を含む分子、又は放射性標識金属を含む分子とを含むコンジュゲート。
【請求項9】
遊離アミン基又はチオール基を含む分子が、タンパク質、ペプチド、ナノボディ、又はモノクローナル抗体から選択される、請求項8に記載のコンジュゲート。
【請求項10】
in vivo画像法において使用するための、請求項1から4又は7のいずれか一項に記載の粒子、又は請求項5に記載の粒子の懸濁液、又は請求項8若しくは9に記載のコンジュゲート。
【請求項11】
画像法が、磁気共鳴画像法(MRI)、磁性粒子画像法(MPI)、光音響画像法、又は陽電子放出断層撮影法(PET)から選択される、請求項10に記載の使用のための、請求項1から4又は7のいずれか一項に記載の粒子、又は請求項5に記載の粒子の懸濁液、又は請求項8若しくは9に記載のコンジュゲート。
【請求項12】
患者が、請求項1から4又は7のいずれか一項に記載の粒子、又は請求項5に記載の粒子の懸濁液、又は請求項8若しくは9に記載のコンジュゲートを含む組成物を投与されており、画像化工程を含む、画像化方法。
【請求項13】
請求項1から4又は7のいずれか一項に記載の粒子、又は請求項5に記載の粒子の懸濁液、又は請求項8若しくは9に記載のコンジュゲートを含む組成物。
【請求項14】
請求項1から4又は7のいずれか一項に記載の粒子、又は請求項5に記載の粒子の懸濁液、又は請求項8若しくは9に記載のコンジュゲートの画像化法における造影剤又はトレーサーとしての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体適合性画像化粒子、その合成、及び画像技術におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
過去数十年間にわたり予防及び急性期治療が著しく進歩してきたにもかかわらず、虚血性脳卒中の有病率は高齢化に伴い増加しており、2025年までに欧州では年間130万人が罹患すると予測されている1。脳卒中の速やかな管理によって患者の半数の生命は救われているが、その結果生じる脳損傷は、多くの場合、生存者にとって重篤大なままであり、虚血性脳卒中は成人における後天性障害の主な原因である。
虚血性脳卒中の急性期に関する現在の処置は、脳循環を妨げている血栓を、その酵素分解を促進する薬剤を注射することにより除去すること(血栓溶解)、又は2015年以降は、カテーテル法により機械的に血栓を除去すること(血栓除去術)により構成されている。しかし、主な閉塞血管の再開通が成功したとしても、多くの場合、下流の微小循環は閉塞されたままである2
【0003】
この不完全微小血管再灌流を説明する機序は完全には理解されていないが、微小血栓による閉塞が原因であること、また微小血管内腔の狭窄を誘発する虚血の炎症結果によって悪化することが知られている3。いくつかの前臨床試験及び臨床試験では、このような微小血栓の存在と認知機能の低下及び認知症とが相関している4。虚血性脳卒中治療における血栓除去術の実施に関する最近の遡及分析もまた、不完全微小血管再灌流の重要性が強調されている。血栓除去術の成功によって助かった患者の3分の1以上は、再開通の成功が速やかに達成されるが、機能的自立は回復されない5
【0004】
したがって、虚血性脳卒中における微小血栓は、永続的な後遺症を患っている虚血性脳卒中から生還した患者にとって特に懸念されており、したがって、重大な人的、社会的、経済的負担となる。このような懸念にもかかわらず、虚血性脳卒中における微小血管血栓症の影響は、現在のところ、臨床現場では適切に考慮されていない。主に妨げているのは、脳卒中患者の脳内の微小血栓を診断するための信頼できる方法がないことである。経頭蓋ドップラー法における微小塞栓信号でそれらの存在を評価し、又は拡散強調MRIでそれらが誘発する微小病変を特定することは可能である6。しかし、これは微小血栓を実際に検出するのではなく、微小血栓によって最終的に誘発される生理学的障害に依存しているため、診断感度が非常に低い。
【0005】
脳内の微小血栓の存在を特異的に及び非侵襲的に明らかにするための新規のアプローチは、虚血性脳卒中の診断を大幅に改善することができる。
【0006】
酸化鉄の微粒子(MPIO)を用いた分子画像技術は、現在、磁気共鳴画像法(MRI)によって血管炎症を明らかにするために前臨床の場で幅広く使用されている7-9。MPIOは、標的疾患のエピトープ発現の領域に集積し、その超常磁性特性によりT2 *強調MRIで病理を示す。この技術はまた、頸動脈の血栓症10及び肺塞栓症11を画像化するのに適用されているが、これまで、これらのツールのいずれも脳内の微小血管血栓症を明らかにする能力を示していない。
【0007】
更に、分子MRIの手法は、患者治療にとって高い有望性があるにもかかわらず、これらの研究において使用されるMPIOの毒性によって、ヒトにおけるそれらの使用が妨げられている。直径1マイクロメートルの鉄粒子は、単核細胞食作用系から組織内に集積し、分解されず、リソソーム機能障害及び組織空胞化を生じさせ、肝機能障害を誘発する許容不可能なリスクとなる12
【0008】
一方、より小さい直径(10~150nm)を示す類似の超常磁性酸化鉄(SPIO)粒子は、ヒトにおける投与がすでに承認されており、血液プールT2 *強調MRI造影剤として使用されている。研究では、血流に注入されたSPIOは単球食作用系(MPS)の細胞によって取り込まれ、そのリソソームで消化され、最終的に鉄分が生体によって代謝されることが明らかとなっている13
【0009】
このため、多くの研究者がこれらの生体適合性SPIOを分子画像法の用途に使用しようと試みたが、コントラストが常に低すぎてT2 *強調MRIにおいて信頼性の高い信号が得られなかった。超常磁性造影剤の検出に使用される磁化率アーチファクト(ブルーミング効果)の性質は、信頼性の高い検出を行うためにボクセル内の鉄濃度を最小限にすることを必要とする。したがって、酸化鉄を代謝させるためにはより小さな直径が必要とされるが、信頼性の高い分子画像法を確実に行うにはより大きな直径が必要とされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Lee, H等, Adv Mater. 2009, 21, 431~434頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
毒性及び信頼性の低い信号に関するこれらの問題は、本発明者らによって克服することに成功し、生分解性のポリカテコールアミン又はポリセロトニンマトリックス内にサブマイクロメートルの大きさのクラスターに集合させたSPIO粒子を含む新規の酸化鉄プラットフォームを開発した。このクラスターは、MPIOのコントラストと同様のコントラストを示し、MPS細胞の酸性リソソーム区画にそれらが到達すると速やかに分解されて単離SPIO粒子になるため、消化が可能である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の目的は、100nm~2000nm、優先的には200nm~1500nm、より優先的には300nm~1000nm、更により優先的には500nm~1000nmの間に含まれる流体力学的直径を有する粒子であって、
前記粒子が、ポリカテコールアミン又はポリセロトニンのマトリックス内に埋め込まれた酸化鉄の被覆ナノ粒子を含み、
前記酸化鉄の被覆ナノ粒子の各々が、ポリカテコールアミン又はポリセロトニンとは異なるポリマーによって被覆されている、粒子である。
【0013】
一実施形態では、本発明による粒子は、200nm~2000nm、優先的には250nm~1500nm、より優先的には300nm~1200nm、更により優先的には300nm~1000nmの間に含まれる流体力学的直径を有する。
【0014】
一実施形態では、本発明による粒子は、200nm~1000nm、優先的には300nm~1000nm、より優先的には500nm~1000nm、更により優先的には700nm~1000nmの間に含まれる流体力学的直径を有する。
【0015】
いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、200~2000nmの範囲内の流体力学的直径により信号を得ることができると考える。更にまた、本発明者らは、血栓の可視化の状況において、患者に対する血栓性影響等の有害な影響を回避するリスクを考慮に入れると、2000nm未満、安全性の理由点からは1000nm未満の流体力学的直径を有する粒子を使用することが好ましいと考える。上記を鑑みて、本発明者らは、臨床的状況における有害な影響のリスクを回避しながら満足のいく信号を得ることができる流体力学的直径の最適な範囲は、約700nm~約1000nmの間に含まれ得ると考える。
【0016】
本明細書で使用される場合、「~の間に含まれる」という表現は、列挙した範囲の境界を包含するものと理解されたい。
【0017】
本発明の文脈では、「流体力学的直径」という用語は、測定される粒子と同じ速度で拡散する仮想的な硬い球体の直径を指す。これは溶液中の場合の粒径を反映し、当該粒子に施された被覆又は表面改質を含む。
【0018】
本発明の粒子の流体力学的直径は、当業者に公知の任意の方法に従って決定することができる。特に、これは、例えば173°の固定散乱角で633nmのレーザーを装備したNanoZS(登録商標)装置(Malvern Instruments社、ウースターシャー、英国)を用いて、セルの温度を25℃に一定に保ちながら,動的光散乱(DLS)により測定することができる。この測定のため、粒子は、水1mLあたり20μg~200μgの鉄濃度で水に懸濁される。
【0019】
流体力学的直径を決定する他の公知の方法は、粒子追跡分析(PTA)又はその改変版であるナノ粒子追跡分析(NTA)である。
【0020】
本発明の粒子は、ナノ粒子の直径が小さいことによる酸化鉄の代謝と、ポリカテコールアミン又はポリセロトニンの生分解性マトリックス内のナノ粒子の凝集体である最終粒子の直径が大きいことによる信頼性の高い分子画像法とを組み合わせることができる。更に、本発明者らは、ポリドーパミンのマトリックスを有する本発明の粒子が血漿と混合されない場合、血小板を認識できないことをin vitroで示した。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、血漿中に入れた場合、本発明の粒子のポリカテコールアミン又はポリセロトニンのマトリックスが血漿と相互作用し、おそらく、ある特定の血漿タンパク質と結合し、その結果、本発明の粒子の周囲に血漿タンパク質コロナが形成されると考える。本発明者らは、本発明の粒子の注入後に血漿中でin situで形成され得るこの血漿タンパク質コロナが、微小血栓への本発明の粒子の標的化において役割を果たすと考える。
【0021】
本発明の粒子に組み込まれる酸化鉄ナノ粒子は、式Fe2O3のマグヘマイト、式Fe3O4のマグネタイト、又はFe2O3とFe3O4の混合物から選択することができる。これらの異なるタイプの酸化鉄は、超常磁性で生体適合性でもあるため、特に磁気共鳴画像法(MRI)における造影剤として、又は磁性粒子画像法(MPI)におけるトレーサーとして使用することができる。
【0022】
本発明の文脈では、「生体適合性」という用語は、例えばin vivoで生体組織と接触して置かれた場合に、生体組織に対して著しい害を引き起こさない材料を指す。ある特定の実施形態では、材料は、細胞に対して毒性ではない場合、「生体適合性」である。ある特定の実施形態では、材料は、in vitroでの細胞への添加により20%以下の細胞死が生じる、及び/又はin vivoでの投与により著しい炎症若しくは他のそのような有害作用が誘発されない場合、「生体適合性」である。
【0023】
これらのナノ粒子は、典型的には、ポリカテコールアミン又はポリセロトニンとは異なるポリマーで被覆されている。特に、前記被覆ポリマーは、デキストラン、カルボキシデキストラン若しくはカルボキシメチルデキストラン等のデキストラン、又はポリエチレングリコールから選択される。例えば、Magnetic Insight社がVivotrax(登録商標)のブランド名で、前臨床市場で販売されているBayer社製のResovist(登録商標)のように、市販されておりFDA承認の被覆された酸化鉄ナノ粒子は入手可能であり、本発明の粒子に組み込むのに十分に適していることに留意されたい。他の適合性のある市販の被覆された酸化鉄ナノ粒子も容易に入手可能であり、例えば、Guerbet社製のSINEREM(登録商標)若しくはEndorem(登録商標)、又はnanomag(登録商標)-D等がある。
【0024】
本発明の粒子に組み込まれる被覆酸化鉄ナノ粒子の直径は、優先的には5~175nm、より優先的には30~150nm、更により優先的には50~75nmから選択される。
【0025】
本発明の粒子のポリマーマトリックスは、ポリカテコールアミン又はポリセロトニンから選択される。
【0026】
特に、本発明の粒子の生分解性ポリカテコールアミンマトリックスは、ポリドーパミン(PDA)、ポリノルエピネフリン(PNE)又はポリエピネフリン(PEP)から選択することができ、優先的にはポリドーパミンである。ポリセロトニン(PST)もまた、そのような生分解性マトリックスとして使用することができる。
【0027】
本発明の文脈では、「生分解性」という用語は、細胞に導入された場合、細胞に著しい毒性作用を及ぼすことなく、細胞を再利用又は廃棄することができる成分に、(例えば、酵素分解等の細胞機構によって、加水分解によって、及び/又はそれらの組合せによって)分解される材料を指す。ある特定の実施形態では、生分解性材料の分解によって生成される成分は生体適合性であり、したがって、in vivoで著しい炎症及び/又は他の有害作用を誘発することはない。いくつかの実施形態では、生分解性ポリマー材料は、それらの成分モノマーに分解される。
【0028】
生分解性に加えて、これらの異なるタイプのポリマーは、本発明の粒子の合成並びにその適用において多くの利点を有する。これらは自動重合する能力を有し、これにより合成が容易になる。これらは酸化鉄と強力な結合を形成し、これにより超音波処理下でも安定した粒子を得ることができ、クラスターを破壊する、又はコンジュゲートしたリガンドを剥離することなく、凝集粒子を分散させることができる。
【0029】
実際、様々なリガンドを、マイケル付加反応又はシッフ塩基反応を介してポリカテコールアミン又はポリセロトニンと高密度でコンジュゲートさせることができる(Lee, H等, Adv Mater. 2009, 21, 431~434頁)。本発明の粒子の表面上に大量の標的部分を結合させる能力は、標的への結合を最大にし、より高い感度を達成するために有利であり得る。
【0030】
またポリカテコールアミン及びポリセロトニンは親水性であり、生理的pHで負に帯電するため、被覆された粒子に負のゼータ電位を付与し、溶液中での凝集を阻止する。
【0031】
これらのポリマーはまた、酸化反応から酸化鉄を保護する抗酸化特性も有しており、これは、その酸化型マグヘマイトと比較してマグネタイトでより良好な常磁性効果が得られるという理由から有利である。
【0032】
すべてのこれらのポリマーは遊離アミン基を有し、特に分子画像法に使用する抗体だけでなく、他の機能性部分、例えば、末端アミノ化を持つポリマー鎖又は薬物送達用途の各種治療用分子等を更に官能基化することができる。本発明の粒子の抗体による官能基化の場合、最終粒子の溶解性及び安定性を改善するために、例えばグリシンによる最終被覆を調製のプロセス中に実施することができる。
【0033】
またポリマーマトリックスの性質により、可視化する部位を標的にすることができる。特に、微小血栓の場合、本発明者らは、微小血栓の端に本発明の粒子が機械的に保持されていることを二光子顕微鏡により観察することができた。
【0034】
本発明の粒子は、0.1~0.4、優先的には0.15~0.35のその多分散性指数を特徴とし得る。
【0035】
本発明の粒子の多分散性指数は、当業者に公知の任意の適切な方法によって決定することができる。特に、本発明の粒子の多分散性指数は、例えば、流体力学的直径の測定に使用されるものと同じ装置及び測定条件を使用することによって、動的光散乱(DLS)により決定することができる。
【0036】
本発明の文脈では、「多分散性指数」という用語は、大きさに基づく試料の不均一性の尺度を指す。多分散性は、試料中の大きさの分布、又は単離若しくは分析中の試料の凝集若しくは会合によって起こり得る。
【0037】
本発明の粒子はまた、-50~-20mV、優先的には-45~-25mVの範囲のゼータ電位を特徴とし得る。
【0038】
ゼータ電位は、当業者に公知の任意の適切な方法によって決定することができる。特に、本発明の粒子のゼータ電位は、1mMの塩化ナトリウム溶液に懸濁した粒子に対して実施される測定により電気泳動光散乱(ELS)により決定することができる。
【0039】
本発明の文脈では、「ゼータ電位」という用語は、粒子の表面に付着したままの流体から移動性流体を分離する界面における電位を指す。
【0040】
本発明の別の目的は、本発明による粒子の懸濁液である。このような粒子の懸濁液は、上述の本発明の粒子が懸濁される水溶液、例えば、水、生理食塩水、グリセロール、又はマンニトールから選択することができる溶媒を含む。
【0041】
本発明の文脈では、「懸濁液」という用語は、液体及び微細に分散した固体材料を含む材料の不均一な混合物を指す。
【0042】
本発明による粒子の懸濁液中の粒子は、優先的には、250nm~1000nm、優先的には300nm~1000nm、より優先的には500nm~900nm、更により優先的には600nm~800nmの間に含まれる平均流体力学的直径を有する。
【0043】
一実施形態では、本発明による粒子の懸濁液は、200nm~2000nm、優先的には250nm~1500nm、より優先的には300nm~1200nm、更により優先的には300nm~1000nmの間に含まれる平均流体力学的直径を有する。
【0044】
一実施形態では、本発明による粒子の懸濁液は、200nm~1000nm、優先的には300nm~1000nm、より優先的には500nm~1000nm、更により優先的には700nm~1000nmの間に含まれる平均流体力学的直径を有する。
【0045】
本発明の別の目的は、本発明の粒子の懸濁液を調製する方法であって、
a)カテコールアミン又はセロトニンの溶液を被覆酸化鉄ナノ粒子と撹拌下で混合することによりカテコールアミン又はセロトニンの自己重合を引き起こし、重合したカテコールアミン又はセロトニンのマトリックスに埋め込まれた被覆酸化鉄ナノ粒子を含む粒子を形成する工程と;
b)前記重合を終了させる工程と;
c)得られた反応混合物を処理して、所望の大きさの最終粒子を得る工程と;
d)粒子の懸濁液を回収する工程と
を含む、方法である。
【0046】
重合工程a)は、当業者に公知の任意の適切な方法に従って実施することができる。特に、本発明の方法の工程a)は、水溶液中の被覆酸化鉄ナノ粒子懸濁液を、カテコールアミン、特にドーパミン、ノルエピネフリン若しくはエピネフリン、又はセロトニンの溶液と混合することによって実施することができる。この工程は7を超える塩基性pHで実施され、これは任意の適切な塩基性溶液、特にTRIS緩衝液等の緩衝液の存在によって保証され得る。
【0047】
工程a)で実施される一定の撹拌により、反応混合物の沈殿を回避することができる。このような沈殿によってペースト形態の1つの大きな凝集体が形成され、これによりそれ以上の処理は不可能になり得る。
【0048】
被覆酸化鉄ナノ粒子懸濁液は、典型的には、0.5~10mg Fe/ml、特に1.5mg Fe/mlの濃度を有し得る。被覆酸化鉄ナノ粒子は、典型的には、水溶液、例えば、NaCl水溶液中に懸濁されている。このようなNaClの水溶液は、典型的には、0.9%質量/体積、すなわち、水1mlあたり9mgのNaClの濃度で使用することができる。
【0049】
カテコールアミン又はセロトニンは、典型的には、TRIS緩衝液等の緩衝液中に、5~100mM、特に25mMの濃度で存在し得る。
【0050】
工程a)では、被覆酸化鉄ナノ粒子懸濁液とカテコールアミン又はセロトニンの溶液は、典型的には、0.1~0.5、優先的には0.2~0.4、より優先的には約0.3の質量比Fe/(カテコールアミン又はセロトニン)で混合される。例えば、カテコールアミン又はセロトニン4.8mgに対して鉄1.5mgの質量比を使用することができる。モル比を使用する場合、被覆酸化鉄ナノ粒子懸濁液とカテコールアミン又はセロトニンの溶液は、典型的には、0.7~1.1、優先的には0.8~1、より優先的には約0.9のモル比Fe/(カテコールアミン又はセロトニン)で混合され得る。例えば、カテコールアミン又はセロトニン31mmolに対して鉄27mmolのモル比を使用することができる。
【0051】
本発明の方法の工程a)は、ポリカテコールアミン又はポリセロトニンマトリックス内で被覆酸化鉄ナノ粒子の凝集体を形成することを含む。それは、典型的には、工程a)の反応混合物を室温で1~48時間、優先的には24時間撹拌することによって実施され得る。
【0052】
重合反応を終了させる工程b)は、典型的には、得られた混合物をpH8~10、ほぼ約9の溶液で、典型的にはアミン基を含まない緩衝液、例えばリン酸緩衝液で洗浄することによって実施することができる。
【0053】
この洗浄工程は、反応媒体の交換からなる。工程a)からの溶媒は、まず、分離磁石又は遠心分離の工程を使用して、溶媒から粒子を分離することによって除去され、粒子を底層中に保持し、溶媒を上澄みとして保持することができる。次いで溶媒は除去され、洗浄液に置き換えられる。この操作は、確実に、工程a)の溶媒が完全に除去され、洗浄液で置き換えられるように、複数回行うことができる。
【0054】
カテコールアミン又はセロトニンのモノマーは、洗浄工程中に溶媒とともに除去されるので、この工程は重合反応の終了につながる。次いで、反応混合物中にモノマーがなくなった場合、重合反応は終了する。
【0055】
終了工程b)はまた、酸を添加して反応混合物中のpHを酸性にすることによって、又は重合阻害剤を添加することによって行うことができる。
【0056】
工程b)の後に得られる粗混合物は、前記のその後の処理工程c)を容易にするために、工程c)の最終処理の前に少なくとも数時間、室温で撹拌しないで保管することができる。
【0057】
工程c)の処理が超音波処理によって行われる場合、工程b)の後に得られる粗混合物は、8~3時間、優先的には12~30時間、より優先的には24時間、室温で撹拌しないで保管することができる。
【0058】
工程c)の最終処理は、例えば、工程b)から得られる溶液を0.5~30分間、優先的には15分間超音波処理することによって行い、所望の大きさの最終粒子を得ることができる。
【0059】
この工程は、超音波処理装置プローブ等の伝統的な任意の超音波処理装置を用いて、高強度、例えば200~300mV、優先的には約250mVで実施することができる。
【0060】
処理工程c)は、工程b)から得られる反応混合物、すなわち、洗浄液、典型的にはリン酸緩衝液中の粒子の懸濁液に対して実施される。
【0061】
この段階で、分離磁石又は遠心分離工程を再度使用して、所望の大きさの粒子を底層に保ち、より小さい粒子は上清とともに廃棄することができる。
【0062】
最終工程d)は、本発明の粒子の懸濁液の回収からなる。次いで、これらの粒子は、方法の工程b)からの洗浄液、又は水、又は生理食塩水中で、約3~10℃の低温で保存することができる。本発明の粒子は、凝集体の形成を制限するために、優先的には一定の緩慢な撹拌を行いながら保存される。
【0063】
患者に注射する前に、本発明の粒子は、懸濁液を均質化するために、5~30℃、優先的には8℃の温度で、撹拌下、優先的には激しい撹拌下に置くことができる。
【0064】
本発明の別の目的は、本発明による方法によって得られる粒子の懸濁液又は粒子である。
【0065】
本発明の別の目的は、工程d)の後に得られる懸濁液の溶媒を除去することによって前記粒子を単離する追加の工程の後に、本発明による方法によって得られる粒子である。
【0066】
本発明はまた、本発明の粒子又は本発明の方法によって得られる粒子と、遊離アミン基又はチオール基を含む分子、特にタンパク質、ペプチド、ナノボディ、若しくはモノクローナル抗体、又は放射性標識金属を含む分子とを含むコンジュゲートに関する。一実施形態では、コンジュゲートは、本発明の粒子又は本発明の方法によって得られる粒子と、少なくとも遊離アミン基又はチオール基を含む分子、特にタンパク質、ペプチド、ナノボディ、若しくはモノクローナル抗体、放射性標識金属を含む分子、N-アセチルシステイン等の低分子とを含む。より詳細には、少なくとも遊離アミン基又はチオール基を含む分子は、ペプチド、ナノボディ、モノクローナル抗体、放射性標識金属を含む分子、又はN-アセチルシステインであり得る。更により詳細には、少なくとも遊離アミン基又はチオール基を含む分子は、ペプチド、ナノボディ、又はモノクローナル抗体であり得る。好ましくは、少なくとも遊離アミン基又はチオール基を含む分子はモノクローナル抗体であり得る。
【0067】
一実施形態では、少なくとも遊離アミン基又はチオール基を含む分子は、少なくとも遊離アミン基又はチオール基を含むリンカーで修飾された分子であり得る。言い換えると、この分子は、遊離アミン基又はチオール基がリンカー部分によって保持されている分子である。
【0068】
本発明の文脈では、「リンカー」又は「リンカー部分」という用語は、分子を本発明の粒子又は本発明の方法によって得られる粒子に連結することができるコネクタを意味する。
【0069】
本発明の文脈では、「コンジュゲート」という用語は、互いに連結した2つ以上の分子で構成された分子を指す。本発明のコンジュゲートは、典型的には、タンパク質、ペプチド、ナノボディ、又はモノクローナル抗体に連結された本発明による粒子で構成される。本発明の粒子はまた、特に陽電子放出断層撮影法(PET)画像技術における使用の状況から、銅64やガリウム68等の放射性標識金属と連結させることができる。
【0070】
コンジュゲート中の本発明による粒子又は本発明の方法によって得られる粒子の量は、コンジュゲートの全モル量に対してモルで50%~99%、特に65%~95%、より詳しくは80%~90%、更により詳しくは80%~90%の間に含まれ得る。
【0071】
詳細には、モノクローナル抗体は、免疫グロブリン(Igg)、血管細胞接着分子1(VCAM-1)、細胞間接着分子1(ICAM-1)、P-セレクチン、E-セレクチン、又は粘膜アドレシン細胞接着分子1(MAdCAM-1)から選択することができる。
【0072】
詳細には、遊離アミン基又はチオール基を含む分子は、線維素溶解剤であり得る。一実施形態では、線維素溶解剤は、少なくとも遊離のアミン又はチオール基を有するリンカー部分によって、本発明の粒子、又は本発明の方法によって得られた粒子に結合される。
【0073】
詳細には、遊離アミン基又はチオール基を含む分子は、組織プラスミノーゲン活性化因子又はその断片、例えば、アルテプラーゼ、レテプラーゼ、又はテネクテプラーゼ等の組換え組織プラスミノーゲン活性化因子(rtPA)であり得るタンパク質である。一実施形態では、組織プラスミノーゲン活性化因子又はその断片であり得るタンパク質は、少なくとも遊離アミン基又はチオール基を有するリンカー部分によって、本発明の粒子、又は本発明の方法によって得られる粒子に結合される。
【0074】
次いで、コンジュゲートは、方法の工程b)からの洗浄液中、又は水若しくは生理食塩水中で、約3~10℃の低温で保存することができる。本発明の粒子は、優先的には、凝集体の形成を制限するために、ある一定の緩慢な撹拌を行いながら保存される。
【0075】
患者に注射する前に、本発明のコンジュゲートは、懸濁液を均質化するために、5~30℃、優先的には8℃の温度で、撹拌下、優先的には激しい撹拌下に置くことができる。
【0076】
in vivo画像法において使用するためには、本発明の粒子又は本発明の方法によって得られる粒子は、画像化工程の前に、優先的には注射によって患者に投与されなければならない。この注射は、典型的には、例えば腕の静脈内のカテーテル(造影剤投与に昔から使用されている)を介して静脈内で行われるが、動脈内経路によっても行われ得る。
【0077】
したがって、本発明の別の目的は、in vivo画像法において使用するための、本発明の粒子若しくはコンジュゲート、又は本発明の粒子の懸濁液、又は本発明の方法により得られる粒子若しくは懸濁液である。
【0078】
本発明の粒子及びコンジュゲート、並びに本発明の方法によって得られる粒子は、画像分野において複数の用途を有する。
【0079】
特に、磁気共鳴画像法(MRI)、磁性粒子画像法(MPI)、光音響画像法、陽電子放出断層撮影法(PET)等の画像技術においてこれらを使用することができる。磁気共鳴画像法(MRI)、磁性粒子画像法(MPI)、及び光音響画像法において、これらは特に適している。
【0080】
光音響画像法の文脈では、本発明の粒子の吸収スペクトルは、良好な可視化を得るために特に適合される。実際、ポリドーパミンは、例えば近赤外線(波長約700nm)で主に吸収し、遠赤外線(波長約900nm)で主に吸収する酸化ヘモグロビンとは十分に区別される。
【0081】
陽電子放出断層撮影(PET)の文脈では、本発明の粒子又は本発明の方法によって得られる粒子は、コンジュゲーション及び/又は放射性標識の工程の後に使用することができる。その際、銅64又はガリウム68等の放射性標識金属を使用することができる。
【0082】
これらのすべての技術は、in vivo診断において使用することができる。本発明の粒子及びコンジュゲート、並びに本発明の方法によって得られる粒子の作用様式は、あらゆる種類の血管内画像化にそれらを適合させる。これらは特に、いかなる機能性部分とも事前に結合させることなく微小血栓の診断において使用することができるか、又は血管炎症のバイオマーカー(VCAM-1、P-セレクチン、MAdCAM-1等)を特異的に標的とする抗体と事前に結合させて、例えば脳、心臓、肺、腎臓及び腸粘膜等の血管炎症の診断において使用することができる。
【0083】
実施例において更に詳細に説明されている本発明者らによって実施された実験は、微小血栓におけるそれらの特異的保持により、本発明の粒子及びコンジュゲート、並びに本発明の方法によって得られる粒子が、特異的な標的部分を必要とすることなく、微小循環内の微小塞栓を標的とするのに有効であることを実証している。
【0084】
実験はまた、本発明の粒子及びコンジュゲート、並びに本発明の方法によって得られる粒子が、血栓溶解をモニターするのに有効であることを実証した。これらは、血栓溶解療法が施されるべき状況を特定し、その後の血栓溶解療法の有効性を検証することが両方とも可能である。
【0085】
本発明の粒子及びコンジュゲート、並びに本発明の方法によって得られる粒子は、播種性血管内凝固症候群(DIC)と呼ばれる状態の文脈では、全身に存在する微小血栓をMRIスキャンで明らかにするのに非常に有用であることが示されている。DICは、小血管の血栓症を特徴とする状態であり、通常、凝固系を破壊する別の疾患(がん、敗血症、感染症等)又はイベント(臓器移植、外傷等)に応答して発症する21。例えば、COVID-19等の感染症に罹患した肺炎の患者で確認される重篤な合併症の1つである22。現在のDICの診断法は、血液中の凝固調節不全の検出に限定される23
【0086】
本発明の粒子及びコンジュゲート、並びに本発明の方法によって得られる粒子はまた、虚血再灌流の状況下で形成される微小血栓を明らかにするのに有効である。60分間の虚血の間、中大脳動脈を閉塞しているフィラメントの突然除去は、凝固システムを誘発する。この突然の再灌流の状況は、血管内血栓除去術(EVT)を受けている虚血性脳卒中患者に生じることが多い24
【0087】
本発明はまた、本発明の粒子若しくはコンジュゲート、又は本発明の粒子の懸濁液、又は本発明の方法により得られた粒子若しくは懸濁液を使用するin vivo診断法に関する。
【0088】
本発明の別の目的は、患者が、本発明の粒子若しくはコンジュゲート、又は本発明の粒子の懸濁液、又は本発明の方法によって得られる粒子若しくは懸濁液を含む組成物を、例えば注射によって投与されており、画像化工程を含む、画像法である。
【0089】
本発明の文脈では、「患者」という用語は、医療を待っている、若しくは受けているか、又は医療処置の対象である、若しくは対象となる予定である温血動物、より好ましくはヒトを指す。
【0090】
本明細書での「ヒト」という用語は、性別なく、あらゆる発達段階(すなわち、新生児、乳児、児童、青年、成人)の対象を指す。一実施形態では、ヒトは、青年又は成人であり、好ましくは成人である。
【0091】
本発明の文脈では、「投与」又はその変化形(例えば、「投与する」)という用語は、活性剤又は活性成分を、単独で、又は薬学的に許容される組成物の一部として、状態、症状、又は疾患を処置、軽減、可視化、又は診断しようとする患者に提供することを指す。
【0092】
本発明の別の目的は、本発明の粒子若しくはコンジュゲート、又は本発明の粒子の懸濁液、又は本発明の方法により得られる粒子若しくは懸濁液を含有する組成物である。この組成物は、任意選択で、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤、担体、希釈剤、及び/又はアジュバントを含むことができる。
【0093】
このような組成物は、例えば、マンニトール0.3M溶液等の溶媒中の本発明の粒子若しくはコンジュゲート又は本発明の方法によって得られる粒子の懸濁液を含むことができる。
【0094】
その注射の前に、本発明の粒子は、ヒト患者への注射に適合する任意の生理学的媒体に懸濁することができる。このような生理学的媒体の例は、マンニトール又はグリセロールである。
【0095】
本発明の文脈では、「薬学的に許容される」という用語は、互いに適合性があり、その患者にとって有害ではない医薬組成物の成分を指す。
【0096】
本明細書で使用される場合の「賦形剤」という用語は、医薬組成物又は医薬において活性剤又は活性成分と一緒に配合される物質を意味する。治療用途に許容される賦形剤は、製薬分野において周知である。賦形剤の選択は、意図する投与経路及び標準の製薬実務を考慮して選択することができる。賦形剤は、その接種者にとって有害ではないという意味において許容可能でなければならない。少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤は、例えば、結合剤、希釈剤、担体、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤、分散剤、懸濁剤等であり得る。
【0097】
本発明の別の目的は、本発明の粒子若しくはコンジュゲート、又は本発明の粒子の懸濁液、又は本発明の方法によって得られる粒子若しくは懸濁液の画像化法における造影剤又はトレーサーとしての使用である。
【図面の簡単な説明】
【0098】
図1】閉塞性微小血栓の領域に特異的に集積する、静脈内注射された1μmの微粒子のスキーム及び写真を示す図である。A.実験計画のスキーム。中大脳動脈にトロンビン(1μL、1U/μL)を注射することによって虚血性脳卒中を誘発した。二光子顕微鏡法を下流の微小循環に対して実施した。画像(B、C、F)上で、白色で示した647nmのチャネルで脳微小血管が見えた。白血球と血小板をローダミン6G(1mg/mL)の静脈内注射で標識し、画像(B、D、F)で、赤色で示した558nmチャネル上の細動脈内に微小血栓が存在することが明らかになった。FITC蛍光微粒子(ref)を静脈内注射し、微小血栓領域でのそれらの集積が画像(E及びF)上に緑色で示した488nmチャンネルで観察された。スケールバーB:100μm、C、D、E及びF:20μm。
図2】ポリドーパミンマトリックスを有する本発明の粒子の概略図、及びその調製方法の簡略図である。
図3】トロンビン誘発血栓塞栓性虚血性脳卒中モデルにおいて本発明の粒子を使用した微小血栓の分子MRIのスキーム及び写真を示す図である。A.虚血性脳卒中誘発の15分後に実施された3D T2*強調画像収集からの冠状断面、矢状断面、及び横断面。B.虚血性脳卒中誘発の25分後にPHysIOMIC造影剤(1.5mg Fe/kg)を静脈内注射した1分後に実施した同じ3D T2*強調画像収集からの対応する冠状断面、矢状断面、横断面。C.PHysIOMICの注射前及び注射後の同側脳領域における信号ボイドの定量化(n=5)。D.緑色で示したPHysIOMIC信号取り込みの3D再構成。E.PHysIOMIC注射前とPHysIOMIC注射の1時間後、6時間後、12時間後、18時間後、24時間後の信号取り込みの動態。F.PHysIOMIC注射後の時間に対する同側脳領域における信号ボイドの定量化。病変の大きさは、脳卒中の24時間後に、生理食塩水(G)対PHysIOMIC(H)の注射後のT2-強調シーケンスで測定した。I.生理食塩水を注射した動物対PHysIOMICを注射した動物の24時間後の平均の病変の大きさ。J.PHysIOMIC微粒子の局在を脳卒中1時間後の脳の組織切片で調べた。PERLS染色により鉄の存在を青色で明らかにし、微小血栓の周囲にPHysIOMIC酸化鉄微粒子が存在することを確認した。
図4】本発明の粒子を使用して分子MRIによりモニターした微小血栓の血栓溶解のスキーム及び写真を示す図である。A.血栓溶解プロトコルのスキーム。虚血性脳卒中は、MCAにトロンビン(1μL、1U/μL)を注射することによって誘発した。10分後、PHysIOMIC造影剤を静脈内注射した(1.5mg Fe/kg)。脳卒中誘発の12分後にPHysIOMIC粒子を注射し、最初の3D T2*強調MRI収集を実施して、形成された微小血栓を特定した。次いで、血栓溶解を、脳卒中誘発の20分後に、組織型プラスミノーゲンアクチベーター(tPA、Actilyse、10mg/kg)対生理食塩水の対照(n=4)の静脈内注射によって開始した。合計200μLを注射し、20μLを初期ボーラスとして注入し、180μLを緩慢な灌流速度で注射した。脳卒中誘発の1時間後、2回目の3D T2*強調MRI収集を実施し、残存している微小血栓の量を測定した。脳卒中の24時間後にT2強調MRI収集を実施し、脳病変の大きさを測定した。生理食塩水による血栓溶解(B)又はtPA(C)による血栓溶解の前後の3D T2*強調MRI収集からの連続した冠状断面を示す。同側脳領域における信号ボイドの定量化(n=4)。E.生理食塩水又はtPAによる血栓溶解療法の24時間後の脳病変を示すT2強調MRI収集。G.24時間で測定された平均の病変の大きさ。
図5】本発明の粒子を使用した他のモデルにおける脳微小血管血栓症の分子MRIのスキーム及び写真を示す図である。A.2μgのスタウロスポリンを、ガラスマイクロピペットを用いて定位注射により右線条体に注射し、局所アポトーシスを誘導して血栓を形成させた。PHysIOMIC微粒子の注射の前後に実施された3D T2*強調画像収集から得られた冠状断面。信号ボイドの定量により、右線条体領域における信号取り込みが確認された。B.モノフィラメントを外頸動脈(ECA)により挿入し、穏やかに進めて中大脳動脈(MCA)を分岐部で閉塞させた。手術創を閉じ、フィラメントをその位置に60分間そのままにした。次いでフィラメントを除去し、血流を回復させた。PHysIOMIC微粒子の注射の前後に実施した3D T2*強調画像収集から得られた冠状断面により、微小血管血栓症の存在が明らかにされた。
図6】A.SPIO懸濁液及びPHysIOMIC懸濁液の透過型電子顕微鏡観察。B.強度によって測定された流体力学的大きさの分布を示す、SPIO懸濁液及びPHySIOMIC懸濁液の動的光散乱分析。C.平均流体力学的大きさ、多分散性指数、及びゼータ電位の平均値を示す(n=3)。
図7】PHySIOMIC誘発性低信号は血栓溶解マウスにおいて低減する。A.血栓溶解プロトコルのスキーム。虚血性脳卒中は、MCAにトロンビン(1μL、1U/μL)を注射することにより誘発した。10分後、PHysIOMIC造影剤を静脈内注射した(1.5mg Fe/kg)。脳卒中誘発の20分後に、最初の3D T2*強調MRI収集を実施し、形成された微小血栓を特定した。次いで、血栓溶解は、脳卒中誘発の30分後に組織型プラスミノーゲンアクチベーター(tPA、Actilyse、10mg/kg)対生理食塩水の対照(n=4)を静脈内注射することによって開始した。合計200μLを注射し、20μLを初期ボーラスとして注射し、180μLを緩慢な灌流速度で注射した。脳卒中誘発の70分後に、2回目の3D T2*強調MRI収集を実施し、残存している微小血栓の量を測定した。脳卒中から24時間後、T2強調MRI収取を実施し、脳病変の大きさを測定した。B.閉塞の10分後、PHySIOMICを注射し、組織型プラスミノーゲン(tPA、10mg/kg)又は生理食塩水のいずれかによる処置の前後にT2*強調シーケンスを取得した。C.tPAによる処置の前後のtPA処置マウスの3D再構成。D.誘発性低信号の定量により、処置群(n=8)での減少が明白になる。E.飛行時間型強調MRIシーケンスと平均血管造影スコアから得られた代表的な磁気共鳴血管造影(n=8)。
図8A】PHysIOMIC微粒子は、全身MRIにおいて肝臓及び脾臓に体内分布及び体内分解を示す。
図8B】4mg/kgのPHySIOMIC及びUSPIOの注射の前後、並びに2日目、7日目、及び31日目に縦方向にT2強調画像を取得したところ、肝臓及び脾臓における低信号が減少した。B.肝臓及び脾臓におけるT2値の定量化。
図8C】4mg/kgのPHysIOMICの注射後、並びに注射の2日後、7日後及び31日後の肝臓切片の透過型電子顕微鏡(TEM)画像。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0099】
以下の研究は、FDAに承認された(SPIOresovist(登録商標)、Bayer社)の自己組織化から得られた本発明による造影剤の合成について記述し、造影剤の静脈内注射によりT2 *強調MRIシーケンスで脳微小血管血栓症を明らかにする方法について報告する。この診断ツールの画像化能力は、異なる経路介して誘発される脳内の微小血管血栓症の存在を特徴とする3匹のマウスモデルに対して研究された。微小血栓を二光子顕微鏡によって検査し、微小血栓の端に粒子が力学的に保持されていることが観察された。最後に、この研究は、本発明による造影剤が、微小血栓を溶解するのに有効な組織型プラスミノーゲンによる血栓溶解療法をモニターするために使用することができることを証明する。
【0100】
以下の部分では、本発明による粒子の例を「PhySIOMIC」という用語によって示す。
【0101】
(実施例1)
材料及び方法
PHysIOMICsの調製
粒子の合成及び分析
PhySIOMICは、生体適合性の超常磁性酸化鉄(SPIO)ナノ粒子(この実施例ではVivoTrax(商標)、Magnetic Insight社、アラメダ、カリフォルニア州)の凝集体であり、肝臓癌16を検出するための臨床画像法で承認されているSPIOナノ粒子と同様に、ポリドーパミン構造で組織化される。簡単に説明すると、0.9%のNaCl水溶液中のSPIOナノ粒子懸濁液(1.5mg Fe/mL)を、TRIS緩衝液10mM pH8.8中のカテコールアミン(25mM、ドーパミン、セロトニン又はノルエピネフリン)の溶液と混合する。
【0102】
ドーパミン溶液は、水中10mg/mLで塩酸ドーパミン(Sigma-Aldrich社)から調製し、TRIS緩衝液4.8mM pH8.8で最終濃度4.8mg/mLまで添加した。
【0103】
セロトニン溶液は、水中20mg/mLで塩酸セロトニンから調製し、アンモニア(1.3%v/v)を補充したTRIS緩衝液4.8mM pH8.8中で最終濃度5.3mg/mLまで添加した。
【0104】
ノルエピネフリン溶液は、水中40mg/mLで酒石酸ノルエピネフリンから調製し、アンモニア(2.6%v/v)を補充したTRIS緩衝液10mM pH8.8中で、最終濃度8mg/mLまで添加した。
【0105】
カテコールアミンのポリドーパミン(PDA)、ポリセロトニン(PST)、又はポリノルエピネフリン(PNE)への重合は、Ultra-Turrax撹拌下で(9500rpm;IKA Instruments社)2時間行われ、反応は一定の撹拌下で24時間室温にて続ける。重合を停止するため、ナノ粒子の凝集体を、分離磁石(PureProteome(商標) Magnetic Stand、Millipore社)を使用してPB 10mM pH8.8で洗浄する。次いで、この溶液を15分間高強度の超音波下に置き、希望する大きさの粒子を得る。PHysIOMICは、注入まで-4℃で撹拌下に保持される。
【0106】
本発明の粒子の概略図を、ポリドーパミンPHysIOMIC粒子について図2に示す。
【0107】
PHysIOMICは、共焦点顕微鏡(Leica社、SP5)によって観察した。カテコールアミンのポリマーは、光反射特性を有する材料である。3種類のPHysIOMICは、488nmチャネルにおける488nmレーザーの反射から観察された。
【0108】
動的光散乱(DLS)を使用して、173°の固定散乱角度で633nmレーザーを備えたNanoZS(登録商標)装置(Malvern Instruments社、ウースターシャー、英国)を使用して、PHysIOMIC懸濁液の平均流体力学的直径、多分散指数(PDI)、及び体積による直径分布を決定した。セルの温度は25℃で一定に保持し、すべての希釈は純水で実施した。測定は3回実施した。
【0109】
全鉄は、フェロジン比色アッセイの改良版を使用して定量した。500μLの2N HCLを500μLの試料溶解物に加えた。鉄の標準は、分析グレードのFeCl2を使用して調製した。次いで、試料を一晩インキュベートした。次いで、試料を鉄検出試薬(5mM フェロジン37.5μL、酢酸アンモニウム30% 60μL、アスコルビン酸30% 30μL;Sigma-Aldrich社)と混合した。等量の試験試料と標準試料を96ウェルマイクロプレートに二連でアリコートし、マイクロプレートリーダー(ELx808 Absorbance Reader, Biotek Instruments社)を使用して、吸光度を560nmで読み取った。
【0110】
マウス
すべての研究は、欧州共同体理事会(1986年11月24日の指令(86/609/EEC))及び動物実験に関するフランス法令(act no, 87-848)に従い、オスのスイスマウス(8~10週齢、体重35~45g、CURB社、カーン、フランス)に対して行われ、ノルマンディーの地方倫理委員会(CENOMEXA)によって検証された。マウスを12時間明期/12時間暗期サイクルの温度制御した部屋で飼育し、餌と水を自由に摂取させた。手術中、マウスは、70%/30%ガス混合物(NO2/O2)中のイソフルラン5%で深麻酔され、50%/50%ガス混合物(NO2/O2)中の2%イソフルランで麻酔下に維持された。直腸温度は、フィードバック制御型加熱システムを使用して、外科手術を通じて37±0.5℃に維持された。PHysIOMICを静脈内投与するため、カテーテルをマウスの尾静脈に挿入した。手術後、動物は、清潔な加熱ケージで回復させた。
【0111】
マウスモデル
トロンビン又はAlCl3による中大脳動脈閉塞(MCAO)
Orsetら17に記載されているように、マウスを定位脳手術装置に置き、右目と右耳の間の皮膚を切開し、側頭筋を収縮させた。小開頭術を行い、硬膜を切除し、中大脳動脈(MCA)を露出させた。カスタマー製のガラス製マイクロピペットをMCAの内腔に導入し、1μLの精製マウスアルファ-トロンビン(1UE; Stago BNL社)を空気圧で注入し、in situで血栓形成を誘導した。ピペットを注入の10分後に取り外したが、その時点で血栓は安定した。AlCl3 MCAOでは、MCAを露出させ、AlCl3(Sigma-Aldrich社)が動脈に局所的に適用された(既述18)。血栓溶解処置中を除き、脳血流速度は、光ファイバープローブ(Oxford Optronix社)を使用するレーザードップラー流量計によって測定した。動物を同じ濃度のガス麻酔に曝露するため、すべての動物をMCAO後1時間麻酔下に保持した。微小血栓症に対する血栓溶解効果を研究するため、マウスにtPA(200μL中10mg/kg; Actilyse)を10%ボーラスとして静脈内投与し、アルファ-トロンビン注入後40分かけて90%灌流した。対照群には、同一条件下で同量の生理食塩水を投与した。
【0112】
腔内フィラメントによる一過性中大脳動脈閉塞
腔内フィラメント一過性中大脳動脈閉塞(tMCAO)モデルは、既述のプロトコルに従ってラットで実施した19。マウスを仰臥位に置き、頸部に正中切開を実施した。右頸動脈分岐部を露出させ、外頸動脈(ECA)を凝集させた。6-0モノフィラメント(直径0.09~0.11mm、長さ20mm、Doccol社、マサチューセッツ、米国)を、ECAを通して挿入し、分岐部でMCAを閉塞するように穏やかに進めた。手術創を閉じ、フィラメントを60分間その位置に放置した。次いで、フィラメントを除去して血流を回復させ、内頚動脈を結紮した。
【0113】
スタウロスポリンの定位脳注入
プロテインキナーゼ阻害剤のスタウロスポリン(体積1μL中2μg; Alfa Aesar(商標))の片側線条体注入は、マウスを以下の座標で定位脳固定枠内に置いた後に実施した:十字縫合から前方0.5mm、側方2.0mm、腹側3.0mm。スタウロスポリン溶液は、ガラス製マイクロピペット(15mm/μLで校正)を使用することにより注入した。
【0114】
磁気共鳴画像法(MRI)
すべての実験は、表面コイルを備えたPharmascan 7 T/12cmシステム(Bruker社、ドイツ)で実施した。PhySIOMIC造影剤の注入前後に、TE/TR 9/50ms、フリップ角15°でフロー補正を備えた3D T2*強調グラジエントエコー画像法(GEFC、空間分解能93×70×70μmを等方分解能70μmに補間)を実施した。PHysIOMIC懸濁液を(1.5mg Fe/mL)の濃度に調製し、1.5mg/kgで尾静脈カテーテルを介して静脈内に単回ボーラスとしてゆっくり注入した。脳病変は、マルチスライス・マルチエコー(MSME)シーケンス(70×70×500μm3の空間分解能でTE/TR 50/3000ms)を使用して取得したT2強調画像で測定した。
【0115】
画像解析
MCA MRAの分析は、以下のスコア:2:正常な外観、1:MCAの部分的閉塞、0:MCAの完全閉塞を使用して、実験データに対し盲検下で実施した。病変の大きさは、ImageJソフトウェア(v1.45r)を使用して、T2強調画像上で定量化した。この研究において提示したすべてのT2*強調画像は、(?μmのZ分解能をもたらす)?連続スライスの最小強度投影である。3D T2*強調画像における信号ボイド定量化、及びPhySIOMIC誘発低信号の3D表示は、ImageJソフトウェアの自動Otsu閾値処理を使用して実現した。結果は、MPIO誘発信号ボイドの体積を、対象の構造の体積で割ったもの(パーセント)として示す。灌流指数(ΔR2*ピーク比)は、これもまたImageJで社内作成されたマクロを使用して、既述のように20、同側と対側のΔR2*の比を測定することによって算出した。
【0116】
In vivo二光子顕微鏡法
二光子実験に使用される麻酔マウスは、白血球ローリング及び接着を皮質でin vivo検出するために薄頭蓋窓術を受けた。頭部の皮膚を切開して頭蓋骨を露出させ、ドリルを用いて右頭頂骨を完全に研磨し、骨の薄い層だけを残して、皮質脳血管を透明化することにより可視化できるようにした。麻酔をかけたマウスを定位脳手術装置に置き、薄い頭蓋窓とX25浸漬(没入型)対物レンズの間に水性媒体を置いた。100μlのローダミン6G(1mg/kg、Sigma Aldrich社)及び100μlのNH2-Cy5(5mg/ml、Lumiprobe社)をそれぞれ尾静脈に注入し、循環白血球を染色し、血管の内腔を可視化した。収集は、Leica TCS SP5 MP顕微鏡(Coherent Chameleon社、米国)を使用して840nmの二光子励起波長で実施した。光電子増倍管(PMT)2(記録容量:500~550nm、ゲイン850V、オフセット0)及びPMT3(記録容量:565~605nm、ゲイン850V、オフセット0)を使用した。パルスレーザーの特性は、ゲイン23%、トランス17%、オフセット50%であった。メラミン樹脂(100μL、Sigma Aldrich社)をベースとしたFITC標識微粒子(FITC=フルオレセインイソチオシアネート)を静脈注射し、微小血栓領域におけるそれらの相互作用を観察した。
【0117】
免疫組織化学及び組織学的染色
深く麻酔をかけたマウスを、生理食塩水、続いて固定液(リン酸緩衝液中4%パラホルムアルデヒド)を生理的速度(8mL/分)で蠕動ポンプを用いて経心的に灌流した。脳及び肝臓は、Tissue-Tek(Miles Scientific社)で凍結する前に、後固定し(24時間、4℃)、凍結保護した(20%スクロース、24時間、4℃)。冠状脳切片(10μm)をペリスのプルシアンブルーとヌクレウスレッド(nucleus red)(Leica Biosystems社, Iron Kit stains)で染色し、PhySIOMIC粒子の三価鉄(Fe3+)鉄残基を検出及び同定した。画像は、Leica DM6000顕微鏡に接続されたcoolsnapカメラを使用してデジタル画像記録し、MetaVue 5.0ソフトウェアで可視化し、QuPath及びImageJを使用して更に処理した。すべての分析は、実験群に対し盲検下で実施した。
【0118】
統計分析
すべての結果は、平均値±SEMとして示す。統計分析は、GraphPad Prism V8(GraphPadソフトウェア)を使用して実施した。確率値p<0.05の場合、差は統計的に有意であるとみなした。
【0119】
結果
微小血栓における粒子の特異的保持
中大脳動脈内のトロンビン注入を介して誘発した虚血性脳卒中マウスモデルにおいて、本発明者らは、注入部位から下流領域の皮質微小循環を生体内二光子顕微鏡法によって検査した(図1)。本発明者らは、血小板と白血球のローダミン6G標識によって証明されるように、この特定領域に微小血管血栓症が存在することを確認した。本発明者らは、FITC標識した1μm粒子を静脈内に注射し、微小血栓の領域での特異的な滞留を観察した。この実験は、直径1μmの粒子が特異的標的部分を必要とすることなく、微小循環内の微小塞栓を標的とするのに有効であることを示している。
【0120】
虚血性脳卒中における微小血栓の分子画像法
本発明者らは、中大脳動脈内のトロンビン注入を介して誘発した虚血性脳卒中マウスモデル;下流の皮質微小循環における微小血管血栓症の形成を特徴とするモデルにおいて、PHysIOMIC粒子の画像化能力を試験した。PHysIOMICの注入により、T2 *強調MRI収集でこれらの微小血栓の存在が明白であった(図3)。脳卒中後24時間で測定された病変領域に対応する虚血領域全体は、低信号取り込みを特徴とする。この信号は、このモデルにおいて観察される自発再灌流に対応する動態プロファイルに従って、注射後の時間経過とともに減少する。重要なことは、PHysIOMICの注射が、病変の大きさの点において脳卒中の転帰を悪化させないことである。組織切片の観察からは、微小血栓の縁にPHysIOMICが局在していることが確認された。
【0121】
PHysIOMICは、組換え型組織型プラスミノーゲン活性化因子(tPA、Actylise、10mg/kg)注入後に、微小血栓の血栓溶解をモニターするのに有効であった(図4)。tPAによる血栓溶解は、微小血栓の信号量を有意に低下させたが、生理食塩水は干渉しなかった。T2強調MRI収取により測定した24時間後の病変の大きさは、tPAによる処置群の方が小さかった。この実験により、PHysIOMIC造影剤が血栓溶解療法を行う状況を特定し、続いて血栓溶解療法の有効性を検証できることが確認された。
【0122】
アポトーシス及び虚血再灌流によって誘発される脳微小血栓の分子画像法
PHysIOMICは、線条体にスタウロスポリンを注入することによって血栓症を誘発したモデルにおいて、脳微小血栓を明らかにするのに有効であった(図5)。注入部位周辺の領域に信号ボイドが観察された。アポトーシス関連のこの血栓状況は、いくつかの病態に関連しており、播種性血管内凝固症候群(DIC)と呼ばれる状態との類似点を示す。DICは、小血管における血栓症を特徴とする症状であり、通常、凝固系を破壊する別の疾患(例えば、がん、敗血症、感染症)又は事象(例えば、臓器移植、外傷)に応答して発症する21。例えば、COVID-19等の感染症疾患に罹患した肺炎の患者で特定される重篤な合併症の一つである22。現在のDICの診断方法は、血液中の凝固調節不全の検出に限定される23。PHysIOMIC造影剤は、この状況で非常に有用であり、全身に存在する微小血栓をMRIスキャンで明らかにすることができる。
【0123】
PHysIOMICはまた、虚血再灌流の状況で形成された微小血栓を明らかにするのに有効であった。中大脳動脈を閉塞しているフィラメントの突然の除去により、60分間の虚血の間、凝固系が誘発される。この突然の再灌流の状況は、血管内血栓除去術(EVT)を受けている虚血性脳卒中患者において発生することが多い24
【0124】
(実施例2)
材料及び方法
粒子の流体力学的直径の決定
動的光散乱を使用して、実施例1のPHysIOMIC粒子及び実施例1に従って調製したPHysIOMIC粒子の調製に使用したSPIOの平均流体力学的直径、多分散性指数、及び体積による直径分布を、173°の固定散乱角で633nmレーザーを備えたNano ZS装置(Malvern Instruments社、ウースターシャー、英国)を用いて決定した。セルの温度は25℃で一定に保持し、希釈はすべて純水で実施した。測定は3回実施した。
【0125】
ゼータ電位測定
ゼータ電位分析は、1mMのNaClで1/100希釈した後に、DTS 1070セルを備えたNano ZS装置を使用して達成した。すべての測定は、25℃で、誘電率78.5、屈折率1.33、粘度0.8872センチポアズ、及びセル電圧150Vで3回実施した。ゼータ電位は、Smoluchowskiの式を使用して電気泳動移動度から算出した。
【0126】
体内分布研究
マウスをイソフルラン(1.5~2.0%)で麻酔し、37℃に保持し、PHysIOMIC又はSPIO懸濁液を静脈内注射した(4mg/kg)。注射の1時間後、24時間後、7日後、1ヵ月後、6ヵ月後に、マウスを生理食塩水で灌流し、約1mm3の肝臓の小片を採取し、0.1Mカコジル酸緩衝液(pH7.4)中の2.5%グルタルアルデヒドで固定した。
【0127】
全身MRI
実験は、ボリュームコイル共振器を備えたBioSpec 7-T TEP-MRIシステム(Bruker社、ドイツ)を使用して実施した。マウスをイソフルラン(1.5~2.0%)で麻酔し、一体型ヒートアニマルホルダーにより37℃に保持し、画像法の手順の間、呼吸数をモニターした。SPIO粒子及びPHysIOMIC粒子(4mg/kg)の静脈内注射の前、静脈内注射の20分後、24時間後、7日後、1ヵ月後、6ヵ月後に、T2強調(RAREシーケンス、TR/TE=3000ms/50ms)及びT2*強調シーケンス(高速ローアングルショット(FLASH)シーケンス、TR/TE=50ms/3.5ms)を含む全身スキャンを行った。信号強度比は、肝臓、脾臓、腎臓、及び脊椎傍筋における目的の領域を描画することにより測定した。比は、目的の器官の信号強度を傍脊椎筋の信号強度で割ったものとして算出した(n=7)。
【0128】
透過型電子顕微鏡法
懸濁液中のSPIO又はPHysIOMICを観察するため、粒子の液滴を親水化した400メッシュグリッド上に堆積させた。肝臓切片を観察するため、生体内分布研究から採取した小片をエタノール(70~100%)の漸進的浴温中で脱水し、EMbed 812樹脂に包埋した。60℃で20時間重合した後、カバースリップをセルの樹脂ブロックから離し、重合を28時間継続した。超薄切片を収集し、酢酸ウラニル及びクエン酸鉛と対比した。SPIO、PHysIOMIC、及び肝臓切片をTEM JEOL 1011で観察し、画像をCamera MegaView 3及びAnalySIS FIVEソフトウェアで撮影した。
【0129】
結果及び考察
透過型電子顕微鏡からは、PHysIOMIC粒子は平均粒径753.7±47.5nmであり、以下の図6及びTable 1(表1)に示すように、平均粒径78.5±11.3nmを示すクラスター化SPIOで構成されていることが明らかである。
【0130】
【表1】
【0131】
ポリドーパミンマトリックスの存在により、PHysIOMICのゼータ電位は-11.09±1.56mVと比較して-36.37±2.45mVとわずかに低下し、血中循環に好ましいプロファイルが得られる。
【0132】
PHysIOMICは、組換え組織型プラスミノーゲン活性化因子(tPA, Actylise, 10mg/kg)注射後の微小血栓の血栓溶解をモニターするのに有効であった(図7)。tPAによる血栓溶解は、微小血栓信号の量を有意に低下させたが、生理食塩水は干渉しなかった。急性期の虚血性脳卒中後の平均血管造影スコア及び脳卒中24時間後の平均血管造影スコアにより、血栓溶解療法の有益な効果を確認する。この実験により、PHysIOMIC造影剤が血栓溶解療法を行うべき状況を特定し、その後血栓溶解療法の有効性を検証することできることが確認された。
【0133】
体内分布研究では、静脈内注射後の負の信号取り込みから明らかなように、SPIO粒子とPHysIOMIC粒子の両方で肝臓と脾臓に強力な集積が示された(図8)。明らかな分解が両方のタイプの粒子において注入後7日から観察され得る。これにより、PHysIOMICのポリドーパミンマトリックスはSPIO粒子の生分解性を妨げないことが確認される。したがって、ヒトへの使用が検証されている生体適合性SPIOは、PHysIOMIC粒子の調製の候補となり得る。PHysIOMIC粒子を注射した後の異なる時点での肝臓切片の透過型電子顕微鏡観察からは、粒子がクッパー細胞のリソソーム区画内に集積し、そこで時間の経過とともに分解されることが確認された。
【0134】
(参考文献)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
【国際調査報告】