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特表2024-528354ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液の製造方法
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  • 特表-ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-30
(54)【発明の名称】ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/00 20060101AFI20240723BHJP
   C22B 3/04 20060101ALI20240723BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20240723BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20240723BHJP
   C22B 3/26 20060101ALI20240723BHJP
   C22B 3/38 20060101ALI20240723BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20240723BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20240723BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20240723BHJP
   C22B 47/00 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C22B3/00
C22B3/04
C22B3/44 101A
C22B3/06
C22B3/26
C22B3/38
C22B3/44 101B
C22B3/44 101Z
C22B1/02
C22B3/08
C22B23/00 102
C22B47/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023546021
(86)(22)【出願日】2023-03-27
(85)【翻訳文提出日】2023-07-28
(86)【国際出願番号】 KR2023004028
(87)【国際公開番号】W WO2023243825
(87)【国際公開日】2023-12-21
(31)【優先権主張番号】10-2023-0004231
(32)【優先日】2023-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519197594
【氏名又は名称】高麗亞鉛株式会社
【氏名又は名称原語表記】KOREA ZINC CO., LTD.
(71)【出願人】
【識別番号】523282235
【氏名又は名称】ケムコ
(74)【代理人】
【識別番号】100077838
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 憲保
(74)【代理人】
【識別番号】100129023
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 敬
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ホン シク
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ユン ボム
(72)【発明者】
【氏名】チェ,チャン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ジェームス ソン
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA10
4K001AA16
4K001AA19
4K001AA30
4K001AA38
4K001BA02
4K001BA03
4K001CA15
4K001DB03
4K001DB22
4K001DB23
4K001DB24
4K001DB31
4K001JA03
(57)【要約】
本発明は、原料を加圧浸出してニッケル、コバルト、マンガン、及び不純物を含む浸出液を生成する加圧浸出工程を含む浸出工程;前記浸出液内の前記不純物を除去する不純物除去工程;前記不純物が除去された濾液に中和剤を投入して、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む混合水酸化沈殿物(Mixed Hydroxide Precipitate)を沈殿させる目的物沈殿工程;及び前記混合水酸化沈殿物を酸に溶解する溶解工程を含み、前記加圧浸出工程は、1段加圧浸出工程及び前記1段加圧浸出工程の酸度より高い酸度で前記1段加圧浸出工程の残渣を加圧浸出する2段加圧浸出工程を含み、前記不純物除去工程は、第1溶媒抽出剤を投入して前記不純物内の亜鉛を選択的に抽出する1段溶媒抽出工程及び第2溶媒抽出剤を投入して前記不純物内のマグネシウムを選択的に抽出する2段溶媒抽出工程を含む、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料を加圧浸出してニッケル、コバルト、マンガン、及び不純物を含む浸出液を生成する加圧浸出工程を含む浸出工程;
前記浸出液内の前記不純物を除去する不純物除去工程;
前記不純物が除去された濾液に中和剤を投入して、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む混合水酸化沈殿物(Mixed Hydroxide Precipitate)を沈殿させる目的物沈殿工程;及び
前記混合水酸化沈殿物を酸に溶解する溶解工程を含み、
前記加圧浸出工程は、1段加圧浸出工程及び前記1段加圧浸出工程の酸度より高い酸度で前記1段加圧浸出工程の残渣を加圧浸出する2段加圧浸出工程を含み、
前記不純物除去工程は、第1溶媒抽出剤を投入して前記不純物内の亜鉛を選択的に抽出する1段溶媒抽出工程及び第2溶媒抽出剤を投入して前記不純物内のマグネシウムを選択的に抽出する2段溶媒抽出工程を含む、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法。
【請求項2】
前記2段加圧浸出工程の濾液は、前記1段加圧浸出工程へ送液される、請求項1に記載のニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法。
【請求項3】
前記加圧浸出工程は、150℃~200℃の範囲の温度と8barg~43bargの範囲の圧力条件で行われる、請求項1に記載のニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法。
【請求項4】
前記1段加圧浸出工程の濾液の酸度は10g/L以下であり、
前記2段加圧浸出工程の濾液の酸度は50g/L以上である、請求項1に記載のニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法。
【請求項5】
前記加圧浸出工程で酸素が2barg~8bargの範囲の圧力を有するように加圧装置内に投入される、請求項1に記載のニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法。
【請求項6】
前記浸出工程は、前記混合水酸化沈殿物を投入してpHを調節する中和工程をさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法。
【請求項7】
前記中和工程の濾液中の鉄は酸化鉄化合物の形態で沈殿する、請求項6に記載のニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法。
【請求項8】
前記中和工程でpHは2.5~4.0に調節され、鉄濃度は100mg/L以下である、請求項6に記載のニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法。
【請求項9】
前記中和工程で発生する残渣は、前記1段加圧浸出工程へ投入される、請求項6に記載のニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法。
【請求項10】
前記第1溶媒抽出剤及び前記第2溶媒抽出剤はD2EHPA(Di-(2-ethylhexyl)phosphoric acid)である、請求項1に記載のニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法。
【請求項11】
前記不純物除去工程は、銅除去工程、アルミニウム除去工程、及びマグネシウム除去工程をさらに含む、請求項1に記載のニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法。
【請求項12】
前記銅除去工程は、硫化水素ナトリウム(NaSH)を投入して銅を沈殿させる段階を含み、
前記アルミニウム除去工程は、水酸化ナトリウム(NaOH)を投入してアルミニウムを沈殿させる段階を含む、請求項11に記載のニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法。
【請求項13】
前記マグネシウム除去工程は、前記2段溶媒抽出工程以後に、フッ化ナトリウム(NaF)を投入してマグネシウムを追加で除去する段階を含む、請求項11に記載のニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法。
【請求項14】
前記フッ化ナトリウムは1.4当量(eq)以上に投入される、請求項13に記載のニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法。
【請求項15】
前記目的物沈殿工程で、中和剤の投入によってpHが9.0~10.0の範囲に調節される、請求項1に記載のニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法。
【請求項16】
前記浸出工程以前に、前記原料を準備する原料準備工程をさらに含み、
前記原料準備工程は、ニッケル硫化鉱からニッケル酸化鉱を生成する焙焼工程を含む、請求項1に記載のニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法。
【請求項17】
前記焙焼工程で製造された二酸化硫黄を用いて硫酸を製造し、前記硫酸は、前記浸出工程の母液として用いられる、請求項16に記載のニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液の製造方法に関するものである。より詳細には、本発明は、原料からニッケル、コバルト及びマンガンを回収した後、リチウムイオン二次電池の正極活物質の製造に使用できるニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニッケル、コバルト及びマンガンのような有価金属(valuable metal)は、主に低品位の鉱石のような原料を酸に溶解させた後、溶媒抽出(Solvent Extraction)法を用いて回収している。溶媒抽出法は、金属イオンが水溶液から有機溶剤で抽出される原理を用いたものである。溶媒抽出法に用いられる有機溶剤は、火災及び爆発事故の危険があるので、操業の安定性を低下させる。また、有機溶剤は単価が高いので、溶媒抽出法を用いて有価金属の回収効率を増加させるためには費用が増加する。また、溶媒抽出法は、溶媒抽出工程から、スクラビング(scrubbing)工程、及びストリッピング(stripping)工程を用いるので、特定成分を溶媒抽出法を用いて分離する場合、各成分による多数の工程段階が必要であるため、操業が複雑になる。
【0003】
一方、有価金属の回収のために原料を酸と反応させる浸出工程が行われる。浸出工程では常圧浸出法が一般に用いられる。しかし、精鉱を常圧浸出法を用いて浸出させる場合、浸出効率を増加させるために反応時間を30時間以上持続しなければならないので、生産効率が低下する。また、常圧浸出法を用いる場合、不純物である鉄(Fe)がともに浸出されるので、常圧浸出法は選択的浸出には適していない。
【0004】
一方、原料に含まれた不純物であるマグネシウム(Mg)は、フッ化ナトリウム(NaF)のような除去剤を用いて除去される。しかし、除去剤を用いてマグネシウムを全量除去するならば、除去剤使用による不純物の残渣が大量に発生して廃棄物埋立費用が増加し、除去剤使用量の増加に伴って追加費用が発生する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、加圧浸出工程、不純物除去工程、及び目的物沈殿工程を用いて原料からニッケル、コバルト、マンガンのような有価金属を回収でき、溶媒抽出剤の使用を減らして安定的な操業環境を提供し、生産性を向上させ、製造費用を減少させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施例は、原料を加圧浸出してニッケル、コバルト、マンガン、及び不純物を含む浸出液を生成する加圧浸出工程を含む浸出工程;前記浸出液内の前記不純物を除去する不純物除去工程;前記不純物が除去された濾液に中和剤を投入して、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む混合水酸化沈殿物(Mixed Hydroxide Precipitate)を沈殿させる目的物沈殿工程;及び前記混合水酸化沈殿物を酸に溶解する溶解工程を含み、前記加圧浸出工程は、1段加圧浸出工程及び前記1段加圧浸出工程の酸度より高い酸度で前記1段加圧浸出工程の残渣を加圧浸出する2段加圧浸出工程を含み、前記不純物除去工程は、第1溶媒抽出剤を投入して前記不純物内の亜鉛を選択的に抽出する1段溶媒抽出工程及び第2溶媒抽出剤を投入して前記不純物内のマグネシウムを選択的に抽出する2段溶媒抽出工程を含む、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法を提供し得る。
【0007】
本発明の一実施例は、前記2段加圧浸出工程の濾液が、前記1段加圧浸出工程へ送液される、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法を提供し得る。
【0008】
本発明の一実施例は、前記加圧浸出工程は、150℃~200℃の範囲の温度と8barg~43bargの範囲の圧力条件で行われる、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法を提供し得る。
【0009】
本発明の一実施例は、前記1段加圧浸出工程の濾液の酸度は10g/L以下であり、前記2段加圧浸出工程の濾液の酸度は50g/L以上である、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法を提供し得る。
【0010】
本発明の一実施例は、前記加圧浸出工程で酸素が2barg~8bargの範囲の圧力を有するように加圧装置内に投入される、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法を提供し得る。
【0011】
本発明の一実施例は、前記浸出工程は、前記混合水酸化沈殿物を投入してpHを調節する中和工程をさらに含む、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法を提供し得る。
【0012】
本発明の一実施例は、前記中和工程の濾液中の鉄は酸化鉄化合物の形態で沈殿する、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法を提供し得る。
【0013】
本発明の一実施例は、前記中和工程でpHは2.5~4.0に調節され、鉄濃度は100mg/L以下である、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法を提供し得る。
【0014】
本発明の一実施例は、前記中和工程で発生する残渣は、前記1段加圧浸出工程へ投入される、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法を提供し得る。
【0015】
本発明の一実施例は、前記第1溶媒抽出剤及び前記第2溶媒抽出剤はD2EHPA(Di-(2-ethylhexyl)phosphoric acid)である、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法を提供し得る。
【0016】
本発明の一実施例は、前記不純物除去工程は、銅除去工程、アルミニウム除去工程、及びマグネシウム除去工程をさらに含む、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法を提供し得る。
【0017】
本発明の一実施例は、前記銅除去工程は、硫化水素ナトリウム(NaSH)を投入して銅を沈殿させる段階を含み、前記アルミニウム除去工程は、水酸化ナトリウム(NaOH)を投入してアルミニウムを沈殿させる段階を含む、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法を提供し得る。
【0018】
本発明の一実施例は、前記マグネシウム除去工程は、前記2段溶媒抽出工程以後に、フッ化ナトリウム(NaF)を投入してマグネシウムを追加で除去する段階を含む、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法を提供し得る。
【0019】
本発明の一実施例は、前記フッ化ナトリウムは1.4当量(eq)以上投入される、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法を提供し得る。
【0020】
本発明の一実施例は、前記目的物沈殿工程で、中和剤の投入によってpHが9.0~10.0の範囲に調節される、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法を提供し得る。
【0021】
本発明の一実施例は、前記浸出工程以前に、前記原料を準備する原料準備工程をさらに含み、前記原料準備工程は、ニッケル硫化鉱からニッケル酸化鉱を生成する焙焼工程を含む、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法を提供し得る。
【0022】
本発明の一実施例は、前記焙焼工程で製造された二酸化硫黄を用いて硫酸を製造し、前記硫酸は、前記浸出工程の母液として用いられる、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法を提供し得る。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一実施例によると、爆発及び火災の危険がある高価な有機溶剤の使用量を減らすことができるので、操業の安定性及び生産性を向上させ、製造費用が節減される。
【0024】
本発明の一実施例によると、有機溶剤の使用量を減らしつつ、不純物を分離する精製工程を効率よく行うことができるので、操業の生産性が向上し得る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施例による、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造のための焙焼工程及び浸出工程を示す図面である。
図2】本発明の一実施例による、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造のための不純物除去工程及び目的物沈殿工程を示す図面である。
図3】本発明の一実施例による、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造のための溶解工程及び後段不純物除去工程を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施例は、本発明の技術的思想を説明する目的で例示されたものである。本発明による権利範囲が以下に提示される実施例やこれら実施例に関する具体的説明に限定されるわけではない。
【0027】
以下、図面を参照して本発明を説明する。
【0028】
図1は、本発明の一実施例による、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造のための焙焼工程(S10)及び浸出工程(S20)を示す図面である。図2は、本発明の一実施例による、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造のための不純物除去工程(S30)及び目的物沈殿工程(S40)を示す図面である。図3は、本発明の一実施例による、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造のための溶解工程(S50)及び後段不純物除去工程(S60)を示す図面である。
【0029】
図1図3を参照すると、一連の工程を経て精鉱(ニッケル硫化鉱)から、リチウムイオン二次電池の正極活物質の製造に使用できるニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液を製造する方法が提供され得る。このような方法によると、操業の安定性及び生産性を向上させ、製造費用を節減することができる。以下で、それぞれの図面を参考にしてそれぞれの工程について詳細に説明する。
【0030】
まず、図1を参照すると、精鉱(ニッケル硫化鉱)を焼鉱(ニッケル酸化鉱)に変化させる焙焼工程(S10)及び焼鉱を酸に溶解させて有価金属を浸出させる浸出工程(S20)を行い得る。
【0031】
[焙焼工程(S10)]
焙焼工程(S10)は、ニッケル硫化鉱を熱と酸素を用いて酸化物に変化させる工程であり、これによってニッケル酸化鉱が生成される。焙焼工程(S10)は、600℃以上の温度、好ましくは700℃以上の温度で行われ得る。
【0032】
ニッケル硫化鉱を硫酸溶液で浸出させる場合、下記[反応式1]のように有毒物質である硫化水素(HS)が発生するが、ニッケル酸化鉱を硫酸溶液で浸出させる場合、下記[反応式2]のように水(HO)が発生する。従って、焙焼工程(S10)を通じてニッケル硫化鉱からニッケル酸化鉱を生成した後、ニッケル酸化鉱を用いて浸出工程(S20)を行えば、有毒物質の発生を減らすことができる。また、[反応式1]のギブス自由エネルギー(ΔG)は-8.4kcalであり、[反応式2]のギブス自由エネルギー(ΔG)は-22kcalであるので、[反応式2]が[反応式1]より熱力学的に安定する。
【0033】
[反応式1]
NiS+HSO=NiSO+H
[反応式2]
NiO+HSO=NiSO+H
【0034】
一実施例において、焙焼工程(S10)ではニッケル硫化鉱から二酸化硫黄(SO)が生成され得るが、二酸化硫黄を酸化させて三酸化硫黄(SO)を作った後、三酸化硫黄を水に溶解させて硫酸(HSO)を製造することができる。製造された硫酸は浸出工程(S20)の母液として使用が可能なので、製造費用を節減することができる。
【0035】
一実施例において、焙焼工程(S10)を省略し、ニッケル硫化鉱を浸出工程(S20)にすぐに投入することもできる。
【0036】
[浸出工程(S20)]
浸出工程(S20)は、焙焼工程(S10)で生成された焼鉱を硫酸のような酸溶液に溶解させて浸出液を生成する工程である。浸出工程(S20)は、加圧浸出工程及び中和工程(S26)を含み得る。加圧浸出工程は、加圧装置内に酸溶液を準備し、加圧装置内へ原料と酸素を投入して、有価金属を加圧浸出する工程である。ここで投入される原料はニッケル酸化鉱又はニッケル硫化鉱であってもよい。
【0037】
一実施例において、加圧浸出工程は、2段浸出法を用いることができる。加圧浸出工程は、加温加圧浸出工程であってもよい。例えば、加圧浸出工程は、1段加圧浸出工程(S22)及び2段加圧浸出工程(S24)を含み得る。1段加圧浸出工程(S22)及び2段加圧浸出工程(S24)は、2段で構成された加圧装置内でそれぞれ行われるか、又は、1つの加圧装置内で工程条件(例:温度、圧力、又は、酸度)のみを異ならせて行われ得る。1段加圧浸出工程(S22)及び2段加圧浸出工程(S24)のそれぞれは、加圧装置内に酸素を投入して行われ得る。
【0038】
1段加圧浸出工程(S22)を通じて原料から有価金属が浸出され得る。例えば、原料内のニッケル、コバルト、マンガンなどの有価金属が浸出され得る。その他にも、原料内の鉄、銅、アルミニウム、亜鉛、又は、マグネシウムなどの元素も浸出され得る。1段加圧浸出工程(S22)は、150℃~250℃の範囲の温度及び8barg~43bargの範囲の圧力条件で行われ得る。前記圧力条件で温度に応じた自然蒸気圧力は3barg~38bargの範囲であってもよい。前記圧力条件で酸素投入圧力は2barg~8barg、又は、望ましくは4barg~6bargの範囲を有してもよい。一実施例において、前記圧力条件で酸素投入圧力は5bargであってもよい。酸素投入圧力が前記範囲より低い場合、有価金属の浸出率が下がることがある。
【0039】
1段加圧浸出工程(S22)で濾液の酸度を10g/L以下に調節することによって、原料に含まれた不純物である鉄(Fe)が過度に浸出されるのを防止することができる。従って、後段で別途の鉄除去工程が必要ではないこともある。例えば、1段加圧浸出工程(S22)で液中の鉄(Fe)濃度は1g/L~3g/Lの範囲を有し得る。1段加圧浸出工程(S22)で濾液は中和工程(S26)へ投入され得、残渣は2段加圧浸出工程(S24)で後続処理され得る。1段加圧浸出工程(S22)は、中和工程(S26)前段に液中の酸度を低くする工程であるので、中和工程(S26)で中和剤の投入量を減少させることができる。
【0040】
2段加圧浸出工程(S24)では150℃~250℃の範囲の温度及び8barg~43bargの範囲の圧力条件で1段加圧浸出工程(S22)での浸出残渣に対する浸出が行われ得る。2段加圧浸出工程(S24)の自然蒸気圧力及び酸素投入圧力の条件は、1段加圧浸出工程(S22)の自然蒸気圧力及び酸素投入圧力の条件と同一であってもよい。
【0041】
2段加圧浸出工程(S24)の濾液の酸度は、1段加圧浸出工程(S22)の濾液の酸度より高くてもよい。例えば、2段加圧浸出工程(S24)で濾液の酸度を50g/L以上に調節することによって、加圧浸出率を高めることができる。これにより、原料に含まれた有価金属が全量浸出され得る。例えば、原料に含まれたニッケル、コバルト、マンガン、鉄、銅、アルミニウム、亜鉛、又は、マグネシウムなどが全量浸出され得る。
【0042】
また、2段加圧浸出工程(S24)で酸度増加によって鉄の浸出率が増加するので、液中の鉄(Fe)濃度は5g/L程度に増加する。ただし、酸度を50g/L以上とすることによって、鉄成分を選択的に分離することができる。この場合、鉄(Fe)は酸化鉄化合物の形態で沈殿して残渣として除去される。例えば、2段加圧浸出工程(S24)の酸性の雰囲気で酸素は酸化剤として用いられ、液中の鉄はFe2+からFe3+に酸化し、ジャロサイト又は酸化鉄の形態で沈殿する。
【0043】
一実施例において、2段加圧浸出工程(S24)で生成された濾液は、図1に示された通り、1段加圧浸出工程(S22)へ再び投入され得る。この場合、1段加圧浸出工程(S22)を通じて酸度が低くなった液が後段の中和工程(S26)へ送液されるので、中和工程(S26)で中和剤である混合水酸化沈殿物(Mixed Hydroxide Precipitate,MHP)の投入量を減少させることができるので、工程費用を節減することができる。
【0044】
一般に用いられる常圧浸出法の場合、有価金属の浸出率を高めるために反応時間を18時間以上持続しなければならない。この場合、燃料、スチーム使用量の増加に伴って追加費用が発生し、1日に処理する原料量が少ないので生産性が低かった。また、常圧浸出法を用いる場合、鉄成分も共に浸出され、後段の鉄成分除去工程が追加で必要であった。しかし、本発明の一実施例によると、2段で構成された加圧浸出法を用いることによって有価金属の浸出効率を向上させ、鉄成分の選択的沈殿を通じて後段工程が省略され得る。従って、製造費用を減少させ、生産性が向上され得る。
【0045】
一実施例において、加圧装置はオートクレーブ設備であってもよい。原料は、オートクレーブ設備の注入部を通じてオートクレーブ設備内へ注入され得、反応後の加圧浸出液は排出部を通じてオートクレーブ設備の外部へ排出され得る。加圧浸出液は中和工程(S26)へ送液され得る。
【0046】
一実施例において、加圧装置内に投入される原料の固体密度は200g/L以上であってもよい。例えば、原料の固体密度は200g/L~300g/Lの範囲であってもよい。この時、固体密度は加圧装置に予め投入された酸溶液の体積に対して加圧装置に投入される原料の質量の比率と定義する。これを言い換えると、固体密度は単位溶媒当たりに投入される原料の質量の比率であってもよく、溶媒1L当たりの原料の質量であってもよい。
【0047】
中和工程(S26)において加圧浸出液のpHを調節する混合水酸化沈殿物(Mixed Hydroxide Precipitate,MHP)と酸素が投入され得る。混合水酸化沈殿物(MHP)は、後述する目的物沈殿工程(S40)で生成されたものであってもよい。中和工程(S26)で鉄は酸化鉄の形態で沈殿し得る。中和工程(S26)でpHは2.5~4.0に調節され得、濾液中の鉄(Fe)濃度は100mg/L以下に調節され得る。中和工程(S26)は、70℃~90℃の温度で3時間以上行われ得る。中和工程(S26)でpHが2.5未満である場合、鉄の沈殿率が落ち、pH増加のために混合水酸化沈殿物(MHP)の投入量が増加するので、工程費用が増加し得る。
【0048】
加圧浸出液の酸と混合水酸化沈殿物(MHP)は反応性に優れるので、中和工程(S26)は常圧浸出法を用いても短い反応時間と低い温度で反応させることができる。
【0049】
中和工程(S26)で発生する残渣は、ニッケル、コバルト、マンガンなどの有価金属の含量が高いので、残渣は、図1に示された通り、1段加圧浸出工程(S22)に用いられる加圧装置へ再び投入され得る。これにより、有価金属の損失率を減少させることができる。また、中和工程(S26)を通じてpHが多少上昇した浸出液が後段工程へ送液されるので、後段工程でpH調節のための副原料投入量を減少させることができる。中和工程(S26)の濾液である浸出液は不純物除去工程(S30)へ送液される。
【0050】
次に、図2を参照すると、浸出液から不純物を除去する不純物除去工程(S30)及び混合水酸化沈殿物(MHP)を沈殿する目的物沈殿工程(S40)を行うことができる。
【0051】
[不純物除去工程(S30)]
不純物除去工程(S30)は、浸出液から有価金属以外の不純物を除去する工程である。不純物除去工程(S30)は、様々な段階を経て行われ得る。例えば、不純物除去工程(S30)は、順に進められる銅除去工程(S31)、アルミニウム除去工程(S32)、亜鉛抽出工程(S33)、マグネシウム抽出工程(S34)、及びマグネシウム除去工程(S35)のうち少なくとも1つを含み得る。ただし、不純物除去工程(S30)の様々な工程の順序は、実施例によって変わることがあり、図面に示された順序に限定されない。
【0052】
銅除去工程(S31)は、液中に硫化水素ナトリウム(NaSH)を投入して液中の銅(Cu)を除去する工程である。銅は[反応式3]のような反応を通じて硫化銅(CuS)化合物として沈殿し得る。銅除去工程(S31)の後、濾液はアルミニウム除去工程(S32)へ送液され得る。硫化銅(CuS)はpH1.0以上で沈殿が可能である。このために、銅除去工程(S31)で液中のpHは1.0~2.5に維持され得る。一実施例において、銅除去工程(S31)で液中のpHは2.0~2.5に維持され得る。液中のpHが1.0未満又は2.0未満である場合、液中の銅を20mg/L以下に除去するのが難しく、pHが2.5超である場合、硫酸に対するニッケルの溶解度が低くなり、ニッケルの損失が発生することがある。実施例によれば、銅除去工程(S31)で液中のpHを2.5に維持した場合、液中の銅を20mg/L以下に除去しつつ、ニッケルの損失を最小化することができた。
【0053】
一方、硫化水素ナトリウム(NaSH)は、液中のpHが急激に変わらないようにゆっくり投入され得る。例えば、浸出液を攪拌しながら硫化水素ナトリウム(NaSH)を1時間~2時間にわたって投入することができる。これにより、液中の一部領域でpHが急激に増加してニッケル損失率が増加することを防止することができる。
【0054】
一実施例において、硫化水素ナトリウム(NaSH)は、1.0当量(eq)~1.5当量(eq)で投入され得る。硫化水素ナトリウム(NaSH)の投入量が1.0当量(eq)未満である場合、銅除去率は98%以下であるので、液中の銅を十分に除去するのが難しい。硫化水素ナトリウム(NaSH)の投入量が1.5当量(eq)超である場合、ニッケルの除去率が4%以上であるので、ニッケル回収率が落ち、これは、二次電池素材の製造のための工程に適していない。一方、実施例によれば、銅除去工程(S31)で硫化水素ナトリウム(NaSH)の投入量を1.4当量(eq)とした時、液中の銅を20mg/L以下に除去しつつ、ニッケルの損失を最小化することができた。
【0055】
60℃~80℃の範囲の反応温度で3時間以上で銅除去工程(S31)を行って、濾液中のニッケルの沈殿を減らし、銅のみを選択的沈殿を通じて分離することができる。硫化水素ナトリウムは、30wt.%~70wt.%の濃度を有する製品を用いることができる。
【0056】
[反応式3]
2CuSO+2NaSH=2CuS+NaSO+HSO
【0057】
アルミニウム除去工程(S32)は、液中に水酸化ナトリウム(NaOH)を投入して液中のアルミニウム(Al)を除去する工程である。アルミニウムは[反応式4]のような反応を通じて水酸化アルミニウム(Al(OH))化合物として沈殿し得る。アルミニウム除去工程(S32)の後、濾液は亜鉛抽出工程(S33)へ送液され得る。pHが6.0以上であれば、液中のニッケル(Ni)が水酸化ニッケル(Ni(OH))化合物として沈殿し、ニッケルの損失率が増加するので、アルミニウム除去工程(S32)で液中のpHは6.0以下、4.0以下に維持することが好ましい。80℃~90℃の範囲の反応温度で8時間以下でアルミニウム除去工程(S32)を行って、濾液中のニッケルの沈殿を減らし、アルミニウムのみを選択的沈殿を通じて分離することができる。投入される水酸化ナトリウム(NaOH)は100g/L~150g/Lの範囲の濃度を有し得る。水酸化ナトリウム(NaOH)の投入濃度が100g/L以下である場合、液量の増加によって工程の効率低下及び全工程の液量が増加して設備の規模が大きくなる。この場合、初期投資額が増加するので、工程の効率及び経済性の側面で望ましくない。
【0058】
[反応式4]
Al(SO+6NaOH=2Al(OH)+3NaSO
【0059】
1段溶媒抽出工程である亜鉛抽出工程(S33)は、pH2.0で溶媒抽出剤であるD2EHPA(Di-(2-ethylhexyl)phosphoric acid)を投入する工程であり、2段溶媒抽出工程であるマグネシウム抽出工程(S34)は、pH3.5で溶媒抽出剤(D2EHPA)を投入する工程である。1段溶媒抽出工程で生成された水溶液は、2段溶媒抽出工程へ投入され得る。亜鉛及びマグネシウムは[反応式5]のような反応を通じて有機溶剤で選択的に分離され得る。亜鉛抽出工程(S33)とマグネシウム抽出工程(S34)はそれぞれ、30℃~50℃の範囲の温度で20分以上行われ得る。
【0060】
1段溶媒抽出工程で亜鉛が全量抽出され、マンガンも63%程度抽出される。1段溶媒抽出工程で出た水溶液を2段溶媒抽出工程へ投入する。2段溶媒抽出工程でマグネシウムは40%以上抽出され、マンガンは90%以上抽出される。2段溶媒抽出工程で出た水溶液は、ニッケル、コバルト、マグネシウムを含有しており、マンガンは少量含有している。
【0061】
1段溶媒抽出工程で亜鉛を抽出するためのpHの望ましい範囲は1.5~2.5であり得る。2段溶媒抽出工程でマグネシウムを抽出するためのpHの望ましい範囲は3.0~4.0であり得る。2段溶媒抽出工程でpHが3.0より小さい場合、マグネシウム抽出率が減少して、後段工程でマグネシウムを追加で除去するために投入されるフッ化ナトリウム(NaF)の投入量が増加し得る。2段溶媒抽出工程でpHが4.0より大きい場合、ニッケルとコバルト抽出率が増加して、ニッケルとコバルト損失率が増加し得る。
【0062】
[反応式5]
2HR(org.)+MeSO(aq.)=MeR(org.)+HSO(aq.)(R=organic solvent,Me=Zn又はMg)
【0063】
1段溶媒抽出工程の抽出の後、第1有機溶剤に対してスクラビング(scrubbing)工程及びストリッピング(stripping)工程を順に行い得る。
【0064】
スクラビング工程で、亜鉛浸出液を投入してニッケル及びコバルトを回収し得る。亜鉛浸出液は亜鉛製錬工程で製造された液であってもよい。例えば、亜鉛浸出液は、亜鉛製錬工程で焼鉱を硫酸で浸出させて得た液であってもよい。亜鉛は、D2EHPAに対してニッケル、コバルト、マグネシウム、銅及びマンガンなどより反応性にさらに優れるので、スクラビング工程を行えば、ニッケル及びコバルトを水溶液内に回収することができる。このように回収されたニッケル及びコバルトを含む水溶液は、再び浸出工程(S20)、例えば1段加圧浸出工程(S22)が行われる加圧装置内へ投入され得る。従って、ニッケル及びコバルトの損失率を減らすことができる。また、このように回収された水溶液には、マグネシウム、銅及びマンガンも含まれ得る。
【0065】
ストリッピング工程で硫酸を投入して第1有機溶剤内のD2EHPAから亜鉛を分離し、再生成されて回収されたD2EHPAは、再び1段、2段溶媒抽出工程に用いられ得る。従って、D2EHPAのリサイクリングが可能であるので、工程費用を減らすことができる。ストリッピング工程は、硫酸とローディングされた第1有機溶剤を反応させて有機溶剤で水素イオンがローディングされ、ローディングされていた不純物である亜鉛などが水溶液で回収される工程である。
【0066】
2段溶媒抽出工程の抽出の後、第2有機溶剤に対してストリッピング工程を行い得る。第2有機溶剤に対するストリッピング工程は、硫酸を投入して第2有機溶剤内のD2EHPAからニッケルを水溶液内に分離する段階、及び、水溶液内に分離されたニッケルを浸出させる選択的ニッケル浸出(Selective Nickel Precipitation)工程を行う段階を含み得る。選択的ニッケル浸出工程は、中和剤を投入してpHを7.5まで上げてニッケルをニッケル水酸化物(Ni(OH))の形態で沈殿させる工程であってもよい。選択的ニッケル浸出工程の残渣は、浸出工程(S20)に投入され得る。従って、ニッケルの損失率を減らすことができる。
【0067】
一方、溶媒抽出工程を1つの段のみで行う場合、亜鉛、マグネシウム、及び微量のニッケルがストリッピング液に分配される。ここで、選択的ニッケル浸出工程を行えば、亜鉛とニッケルがともに沈殿する。これにより、亜鉛を選択的に除去する工程が別に行われなければ、亜鉛は引き続き蓄積されるので、ニッケルを効率よく回収するのが難しい。言い換えると、溶媒抽出工程を1つの段で行う場合より、2段で行う場合、亜鉛とマグネシウムを選択的に除去することができ、これにより、ニッケル回収の効率性を向上させることができる。
【0068】
一実施例において、有機溶剤(O)と水溶液(A)の比率は液中の抽出する成分の濃度に応じて調節することができる。例えば、有機溶剤(O)と水溶液(A)の比率(O:A)は0.5:1~2:1の範囲であり得る。例えば、O:Aは1対1とすることができる。この場合、液中の亜鉛濃度は2mg/Lまで除去することができた。
【0069】
一実施例において、2段溶媒抽出工程で、亜鉛を選択的に分離し得、マグネシウムは40%以上選択的に分離し得る。2段溶媒抽出工程でマンガンは90%以上選択的に分離し得る。
【0070】
一実施例において、D2EHPAは30wt.%~40wt.%の濃度を有することができ、残りの60wt.%~70wt.%は灯油であって、例えばケロシン(kerosin)又はEscaid 110を用いることができる。D2EHPAの濃度が40wt.%超である場合、有機溶剤の粘性が高くて液の流動性を減少させるので、配管及び水溶液の送液、液攪拌が難しくなることがある。
【0071】
マグネシウム除去工程(S35)は、マグネシウム抽出工程(S34)以後に液中に残存するマグネシウムを追加で除去するために行われ得る。マグネシウム除去工程(S35)の後、濾液は目的物沈殿工程(S40)へ送液され得る。水溶液中に存在するマグネシウムは前段のマグネシウム抽出工程(S34)で半分ほど除去されるが、残存する半分ほどのマグネシウムは追加の工程を通じて除去される必要がある。例えば、マグネシウム除去工程(S35)は、液中にフッ化ナトリウム(NaF)を投入して液中に残存するマグネシウムを除去する工程である。マグネシウム除去工程(S35)でpH上昇のために炭酸ナトリウム(NaCO)が投入され得る。マグネシウムは[反応式6]のような反応を通じてフッ化マグネシウムとして沈殿し得る。マグネシウム除去工程(S35)で液中のマグネシウムは2mg/Lまで除去され得る。マグネシウム除去工程(S35)で液中のpHは5.2~6.2に調節され得る。50℃~70℃の範囲の反応温度で3時間以上マグネシウム除去工程(S35)を行って、濾液中のニッケルの沈殿は減らし、マグネシウムのみを選択的沈殿を通じて分離することができる。
【0072】
[反応式6]
MgSO+2NaF=MgF+NaSO
【0073】
一実施例において、フッ化ナトリウムは1.4当量(eq)以上に投入され得る。実施例によれば、フッ化ナトリウムを1当量(eq)で投入時にはマグネシウムを2mg/L以下に除去するのが難しかったが、1.4当量(eq)で投入時、マグネシウムを2mg/L以下に除去することができた。即ち、2段溶媒抽出工程がない場合に、マグネシウム全量除去のために少なくとも2.0当量(eq)のフッ化ナトリウムの投入が必要であったが、実施例によれば、1.4当量(eq)のフッ化ナトリウムの投入により液中のマグネシウムを1.7mg/Lまで減らすことができる。一実施例において、マグネシウム除去工程(S35)でフッ化ナトリウムの投入量は2.0当量(eq)未満である、1.0当量(eq)~1.5当量(eq)の範囲であってもよい。
【0074】
[目的物沈殿工程(S40)]
目的物沈殿工程(S40)で、不純物除去工程(S30)以後の濾液に中和剤として炭酸ナトリウム(NaCO)を投入し得る。不純物除去の後に、目的物沈殿工程(S40)で、ニッケル、コバルト及びマンガンが混合水酸化沈殿物として沈殿するので、ニッケル、コバルト及びマンガンを選択的に抽出するために用いていた溶媒抽出剤を用いる必要がない。ニッケル、コバルト及びマンガンは[反応式7]のような反応を通じて混合水酸化沈殿物として沈殿し得る。目的物沈殿工程(S40)は、9.0~10.0の範囲のpH及び80℃~90℃の範囲の温度条件で、4時間以上行われ得る。
【0075】
目的物沈殿工程(S40)を通じてニッケル、コバルト及びマンガンを回収することができるので、爆発及び火災の危険がある高価な有機溶剤の使用量を減らすことができる。従って、操業の安定性及び生産性を向上させ、製造費用を節減させることができる。
【0076】
[反応式7]
3MeSO+3NaCO+2HO=MeCO2Me(OH)+3NaSO+3CO(Me=Ni,Co,又はMn)
【0077】
一方、混合水酸化沈殿物にはナトリウム(Na)が少量存在するので、後段で純水を用いた2段水洗工程を用いてナトリウム(Na)を除去することができる。ここで、2段水洗工程中で発生した濾液は、中和剤である炭酸ナトリウム(NaCO)を製造することに再使用されるので、製造費用を節減することができる。
【0078】
次に、図3を参照すると、混合水酸化沈殿物(MHP)を酸に溶解する溶解工程(S50)及び微量不純物を除去する後段不純物除去工程(S60)を行い得る。
【0079】
[溶解工程(S50)]
溶解工程(S50)では、純水に150g/L~200g/Lの酸度で硫酸を混合した溶液に、混合水酸化沈殿物(MHP)を投入し得る。混合水酸化沈殿物に含まれたニッケル、コバルト、マンガン、及び微量不純物が硫酸溶液に溶解し得る。pHが2.0になるまで、硫酸水溶液と混合水酸化沈殿物(MHP)を反応させる。一実施例において、溶解工程(S50)で溶解率を向上させるために過酸化水素(H)を投入し得る。溶解工程(S50)で1.0~3.0の範囲のpH及び50℃~70℃の範囲の温度条件として4時間以上反応が進められ得る。
【0080】
[後段不純物除去工程(S60)]
溶解工程(S50)の濾液は、高品位ニッケル、コバルト、マンガン水溶液であるが、不純物が1mg/L~20mg/Lの範囲として少量存在する。従って、これを除去するために、前段の不純物除去工程(S30)の他に後段不純物除去工程(S60)を追加で行い得る。例えば、後段不純物除去工程(S60)は、銅除去工程(S62)とアルミニウム/鉄除去工程(S64)を含み得る。銅除去工程(S62)は、pH2.0で硫化水素ナトリウム(NaSH)を投入する工程である。アルミニウム/鉄除去工程(S64)は、pH5.0で水酸化ナトリウム(NaOH)を投入する工程である。一実施例において、水酸化ナトリウムを投入して液中のケイ素(Si)も除去し得る。後段不純物除去工程(S60)を通じて最終的に不純物が除去されたニッケル、コバルト、マンガン水溶液が製造され得、製造されたニッケル、コバルト、マンガン水溶液は二次電池正極活物質の製造のための前駆体工場に用いられ得る。
【0081】
[実験例]
(1)実験に用いられたニッケル精鉱の品位
[表1]
【0082】
(2)常圧条件でのニッケル硫化鉱とニッケル酸化鉱の浸出率の比較
常圧条件でニッケル硫化鉱とニッケル酸化鉱の浸出率を比較するために、[表1]のA~D精鉱を混合して焙焼工程を行い、ニッケル硫化鉱とニッケル酸化鉱をそれぞれ硫酸溶液に浸出した結果を[表2]及び[表3]に示した。[表2]は、初期酸度が150g/Lである場合、各成分の浸出率(%)を示し、[表3]は、初期酸度が200g/Lである場合、各成分の浸出率(%)を示す。
【0083】
反応時間は18時間であって、温度は95℃~98℃に維持し、投入された精鉱の固体密度は150g/Lに維持した。
【0084】
[表1]のE精鉱は、硫黄(S)の含量が11.2%であるため、焙焼工程を行い難く、焙焼工程を進めてもA~D精鉱のように硫酸の製造に使用可能な副原料を得るのが難しいため、本実験に適さなかった。
【0085】
また、浸出時の酸素投入の有無に応じた反応効率も比較した。下記実験例における初期酸度は、本発明の一実施例における1段加圧浸出工程(S22)の酸度に対応し得る。一方、[表2]及び[表3]の実験例を参考にすると、常圧条件で初期酸度を更に高めても、加圧条件での浸出率(下記[表4]、[表5]、[表6]参照)より浸出率を向上させることは難しい。
【0086】
[表2]
【0087】
[表3]
【0088】
(3)加圧条件でのニッケル硫化鉱とニッケル酸化鉱の浸出率の比較
加圧条件でオートクレーブ設備内にニッケル硫化鉱とニッケル酸化鉱をそれぞれ投入して浸出率を比較した結果を[表4]に示した。反応時間は3時間であり、温度は200℃で実施し、投入された精鉱の固体密度は150g/Lに維持した。初期酸度は200g/Lであった。また、浸出時の酸素投入の有無に応じた反応効率も比較した。
【0089】
[表4]の実験例を参考にすると、ニッケル酸化鉱の投入時、酸素を投入しなかった場合より、酸素を投入した場合、鉄の浸出率が相当減少した。酸素が投入されることにより、鉄が高温加圧条件でジャロサイト及び酸化鉄の形態で沈殿するので、鉄が液中に浸出されず、鉄の浸出率が低く測定されたことが確認される。
【0090】
[表4]
【0091】
(4)加圧条件での初期酸度、圧力、及び温度に応じた浸出率の比較
加圧条件でニッケル酸化鉱を用いて浸出するものの、初期酸度、圧力、及び温度条件を異にして加圧浸出を行った結果を[表5]及び[表6]に示した。[表5]は、220℃の温度と22barg+5barg(O)の圧力条件で、初期酸度に応じた各成分の浸出率を示す。[表6]は、240℃の温度と32barg+5barg(O)の圧力条件で、初期酸度に応じた各成分の浸出率を示す。酸素は5bargの投入圧力で加圧装置内に投入された。最終液中の酸度は50g/L~60g/Lに調節した。
【0092】
[表5]及び[表6]の実験例を参考にすると、互いに異なる圧力条件で初期酸度に応じた浸出率を比較した結果、圧力がより高い場合、各成分の浸出率が増加したことが分かる。一方、初期酸度がより高い場合、ニッケル、コバルトなどとともに鉄の浸出率も増加するので、後段で鉄除去のための別途の工程が必要になることがあるので、初期酸度は適宜調節される必要がある。
【0093】
[表5]
【0094】
[表6]
【0095】
(5)中和工程で投入中和剤の種類に応じた反応効率の比較
85℃の温度で酸素を60NL/hrで投入して中和工程である中性浸出を行った結果を[表7]及び[表8]に示した。[表7]は、中和剤としてニッケル酸化鉱を用いる場合、反応時間に応じた各成分の浸出率及び酸度を示す。[表8]は、中和剤として混合水酸化沈殿物を用いる場合、反応時間に応じた各成分の浸出率及び酸度を示す。中和剤としては、ニッケル酸化鉱を用いるか、又は、混合水酸化沈殿物(MHP)を用いた。濾液中の酸度及びpHを測定して中和剤の適合性を検討した。
【0096】
[表7]及び[表8]の実験例を参考にすると、中和剤としてニッケル酸化鉱を用いる場合より混合水酸化沈殿物(MHP)を用いる場合、中和工程時間を短縮することができ、鉄を更に効果的に除去することができた。
【0097】
[表8]において、鉄の浸出率が負の値を有するものは、鉄が沈殿することを意味する。
【0098】
[表7]
【0099】
[表8]
【0100】
(6)硫化水素ナトリウム(NaSH)投入当量(eq)に応じたニッケル、コバルト、銅の除去率(%)
【0101】
硫化水素ナトリウム(NaSH)投入量の最適条件を検討するために、液中の銅濃度に対比して1.2eq、1.3eq、1.5eqをそれぞれ投入した時の銅除去率を比較した結果を[表9]に示した。また、pHに応じた銅除去率及びニッケル損失率について比較した結果を[表10]に示した。[表9]は、硫化水素ナトリウム(NaSH)の投入当量(eq)に応じたニッケル、コバルト及び銅の除去率(%)を示す。[表8]は、pHに応じた液中のニッケル、コバルト、銅及びマグネシウムの除去率(%)を示す。70℃で3時間反応を進めた。
【0102】
[表9]及び[表10]の実験例を参考にすると、硫化水素ナトリウム(NaSH)の投入量とpHが増加するほど銅除去率が増加することを確認することができ、実施例によれば、pH2.5で硫化水素ナトリウム(NaSH)の投入量を1.4当量(eq)とした時、液中の銅を20mg/L以下に除去しつつ、ニッケルの損失を最小化することができた。
【0103】
[表9]
【0104】
[表10]
【0105】
(7)D2EHPAを用いた亜鉛抽出法での最適pHの比較
pH1.6、1.8、2.0でそれぞれ不純物の除去率を比較した結果を[表11]に示した。40℃で20分間反応を進め、有機溶剤と水溶液を攪拌した後、水溶液を分離するために20分間攪拌をせずに維持して液中の不純物ローディング率を比較した。
【0106】
[表11]の実験例を参考にすると、D2EHPAの投入時、pH1.6~2.0の範囲で亜鉛ローディング率が99.6%以上であり、実施例によれば、pH2.0の条件で有機溶剤(O)と水溶液(A)の比率を1対1とした時、液中の亜鉛濃度を2mg/Lまで除去することができた。
【0107】
[表11]
【0108】
(8)D2EHPAを用いたマグネシウム抽出法での最適pHの比較
pH3.0、3.5、3.8でそれぞれ不純物の除去率を比較した結果を[表12]に示した。40℃で20分間反応を進め、有機溶剤と水溶液を攪拌した後、水溶液を分離するために20分間攪拌をせずに維持して液中の不純物ローディング率を比較した。
【0109】
[表12]の実験例を参考にすると、D2EHPAの投入時、pH3.0~3.8の範囲でマグネシウムのローディング率が40%以上であった。
【0110】
[表12]
【0111】
(9)フッ化ナトリウム(NaF)投入量に応じた不純物除去率(%)
フッ化ナトリウム(NaF)の最適投入量を検討するために、マグネシウム対比フッ化ナトリウムの投入量に応じた成分除去率を比較した結果を[表13]に示した。pH5.2と60℃で3時間反応を進めた。
【0112】
[表13]の実験例を参考にすると、フッ化ナトリウム(NaF)の最適投入量は1.5当量(eq)であることが分かる。
【0113】
[表13]
【0114】
(10)フッ化ナトリウム(NaF)1.5当量(eq)投入の場合のpHに応じた成分除去率(%)
【0115】
フッ化ナトリウムの最適pH条件を検討するために、液中のpH条件に応じた成分除去率の結果を[表14]に示した。pH4.2、5.2、6.2において60℃で3時間反応を進めた。
【0116】
[表14]の実験例を参考にすると、フッ化ナトリウム(NaF)の1.5当量(eq)投入時、最適pHは5.2~6.2の範囲であることがわかる。
【0117】
[表14]
【0118】
以上、添付した図面を参照して本発明の実施例を説明したが、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者は、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更せずに他の具体的な形態で実施され得るということを理解できるはずである。
【0119】
従って、以上で記述した実施例は、全ての面で例示的なものであり、限定的ではないと理解しなければならない。本発明の範囲は、詳細な説明よりは特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味及び範囲、且つ、その均等概念から導き出される全ての変更又は変更された形態が本発明の範囲に含まれると解釈されなければならない。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2024-01-23
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項3
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項3】
前記加圧浸出工程は、150℃~20℃の範囲の温度と8barg~43bargの範囲の圧力条件で行われる、請求項1に記載のニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本発明の一実施例は、前記加圧浸出工程は、150℃~20℃の範囲の温度と8barg~43bargの範囲の圧力条件で行われる、ニッケル、コバルト及びマンガンを含む水溶液製造方法を提供し得る。
【国際調査報告】