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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-30
(54)【発明の名称】注射可能な徐放性製剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/09 20060101AFI20240723BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20240723BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240723BHJP
   A61P 5/02 20060101ALI20240723BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20240723BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20240723BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20240723BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240723BHJP
【FI】
A61K38/09
A61P15/00
A61P35/00
A61P5/02
A61K9/10
A61K9/107
A61K47/22
A61K47/34
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023578075
(86)(22)【出願日】2022-06-28
(85)【翻訳文提出日】2023-12-19
(86)【国際出願番号】 US2022035241
(87)【国際公開番号】W WO2023278392
(87)【国際公開日】2023-01-05
(31)【優先権主張番号】63/217,839
(32)【優先日】2021-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】517132647
【氏名又は名称】フォースィー ファーマシューティカルズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】リィ ユィホア
(72)【発明者】
【氏名】グァリーノ アンドルー ジェイ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076AA22
4C076BB11
4C076CC30
4C076DD60
4C076EE24
4C076FF31
4C076GG41
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA17
4C084BA23
4C084BA44
4C084DB09
4C084MA05
4C084MA22
4C084MA23
4C084MA66
4C084NA12
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC041
4C084ZC042
(57)【要約】
本出願は、制御放出薬物送達のための粘性液体懸濁液またはエマルジョンの製造方法を提供するものであり、該組成物は、重量平均分子量が5,000~50,000ダルトンの間の乳酸塩ベースのポリマー、生体適合性溶媒、および生理活性物質またはその塩を含む。該方法は、原料の秤量、混合、溶解、製品の濾過、製品の脱気を含み、単一のすぐに使用できるシリンジに正確に充填され得る均一な製剤を製造する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射可能な徐放性製剤の製造方法であって、前記注射可能な徐放性製剤は、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)アゴニストまたはその塩、N-メチルピロリドン(NMP)、および生分解性ポリマーを含み、該方法は、
(i)15~25℃で60%未満の制御された湿度下で実施される配合工程であって、前記配合工程は、a)NMPの総量の70%以上を配合容器に導入することと、b)前記生分解性ポリマーを複数の画分に分割し、前記生分解性ポリマーの第1の画分を前記配合容器に添加し、前記生分解性ポリマーの前記第1の画分が湿潤または溶解するまで、前記配合容器内で前記生分解性ポリマーの前記第1の画分をNMPと混合し、次いで、前記生分解性ポリマーの残りの画分の各々を別々に順次、前記配合容器に導入し、前記生分解性ポリマーの次の画分を導入する前に、前記生分解性ポリマーの新しく添加された画分が湿潤または溶解するまで混合することと、c)前記生分解性ポリマーのすべての前記画分が溶解または実質的に溶解した後、LHRHアゴニストを前記配合容器に、別々に順次、1~20画分において添加し、LHRHアゴニストが湿潤または溶解するまで、前記配合容器内でLHRHアゴニストの前記画分をNMPおよび生分解性ポリマーと混合し(ここで、先に前記配合容器に添加されたLHRHアゴニストが湿潤または溶解した後に、任意にLHRHアゴニストの後続の画分が添加される)、前記配合容器内でLHRHアゴニストをNMPおよび生分解性ポリマーと混合して前記製剤を形成することと、を含む工程と、
(ii)前記(i)で調製された前記製剤を含む前記配合容器または脱気容器に-300mbar~-1000mbarの間の相対真空圧を適用し、5分~720分の間の時間、真空を維持し、真空を解除して通気を可能にする(ここで、各真空/通気サイクルで維持される真空レベルは、少なくとも直前のサイクルで維持される真空レベルと同じまたはそれよりも強い)、4回以上の真空/通気サイクルによって行われる脱気工程と、
を含み、
前記製剤は、生分解性ポリマーリッチ連続相に懸濁された、50μm未満の液滴直径のDv50を有するLHRHアゴニストリッチ相(LHRH/NMP液滴)の粘性懸濁液またはエマルジョンであり、10,000センチポアズ(cPs)を超える粘度を有する、方法。
【請求項2】
LHRHアゴニストの最後の画分を導入した後、前記製剤をさらに少なくとも15分間混合して、前記製剤中にRSD≦100%でDv50≦25μmの液滴サイズを有する、LHRH/NMP液滴を得る、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
LHRHアゴニストは、メシル酸リュープロリドまたはメシル酸トリプトレリンである、
ことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記生分解性ポリマーは、ホモポリマーポリラクチドまたはポリ乳酸(PLA)、コポリマーポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)またはポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択され、前記コポリマーのラクチド:グリコリド(または乳酸:グリコール酸)の比は、50:50~99:1であり、PLGAまたはPLAポリマーは、5,000~50,000ダルトンの分子量を有する、
ことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記配合工程は、15~25℃で40%以下の制御された湿度下で行われる、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
全NMPの70-90%は、最初に前記配合容器に導入され、残りの10-30%は、すべての前記生分解性ポリマーおよびLHRHアゴニストの添加後に導入される、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
LHRHアゴニストは、前記配合容器に一度に添加され、溶解される、
ことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
LHRHアゴニストは、2つ以上の画分において別々に順次、前記配合容器に添加され、溶解され、LHRHアゴニストの前記後続の画分は、先に前記配合容器に添加されたLHRHアゴニストが溶解された後に添加される、
ことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
1bar~10barの入口圧力および-300mbar~-1000mbarの出口相対真空圧下で、20μm~100μmの範囲の平均孔径を有するフィルターを用いて濾過工程を実施することをさらに含み、前記濾過は脱気工程の前に実施される、
ことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記フィルターは、40μmの平均孔径を有し、前記濾過は、1.8~2.0barの入口圧力および-700mbar~-950mbarの出口相対真空圧下で行われる、
ことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記懸濁液またはエマルジョンは、実質的に気泡を含まず、均質である、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
LHRHアゴニストはメシル酸トリプトレリンであり、前記生分解性ポリマーはPLAまたはPLGAである、
ことを特徴とする請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年7月2日に出願された米国仮特許出願第63217839号の利益を主張するものであり、その開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は、生理活性物質の徐放性送達のための注射可能な生分解性送達システムを得るための方法に関する。より詳細には、本発明は、生体適合性溶媒を用いた生分解性ポリマー溶液中に生理活性物質を含有する粘性液体懸濁液またはエマルジョン製剤を製造する方法に関し、この製剤は、単一のすぐに使用することのできる(ready-to-use)シリンジに正確に充填することができる。
【背景技術】
【0003】
生体適合性かつ生分解性のポリマーは、生理活性物質を持続的または遅延的に放出し、長時間作用する治療効果をもたらすための薬物送達キャリアとして、ますます使用されるようになってきている。この送達システムは、液剤、懸濁剤、乳剤、固体インプラント、マイクロスフェア、マイクロカプセルおよびマイクロ粒子を含む様々な注射可能なデポ剤において利用可能である。
【0004】
生体適合性かつ生分解性のポリマーを用いた徐放性送達システムは、半減期の短い高活性の薬物にとって特に有益である。このような送達システムは、投与の頻度および痛みを減らし、患者のコンプライアンスを高め、患者の利便性を向上させ、コストを下げることができる。多くの生理活性物質、特にホルモンについては、長期間にわたって制御された速度で連続的に送達される必要があるため、制御放出送達システムが非常に望ましい。このようなシステムは、生理活性物質を生分解性かつ生体適合性のポリマーマトリックスに組み込むことによって提供することができる。一つのアプローチでは、ポリマーを有機溶媒に溶解し、その後、有機溶媒を除去することで、微粒子、微小球、マイクロカプセル、微小顆粒、または固体インプラントの形態に作製された生理活性物質と混合する。生理活性物質は、固体ポリマーマトリックス内に封入される。LUPRON DEPOT、Trelstar、Sandostatin LARなど、微粒子および固形インプラントの形態で生分解性ポリマーを使用することで、いくつかの製品の開発に成功している。これらの製品は効果的ではあるが、微粒子の場合は懸濁液の量が多く、ゾラデックス(Zoladex)のような固形インプラントの場合は手術による挿入が必要であるなど、欠点および限界を有する。これらの製品は、ユーザーおよび患者にとってあまり使いやすいものではない。さらに、無菌製品を再現性よく製造するための製造方法は複雑であり、製造コストが高くなる。簡便に製造でき、使用できる組成物が強く望まれている。
【0005】
別のアプローチでは、生分解性ポリマーおよび生理活性物質を生体適合性溶媒に溶解し、液体または流動性の組成物を提供する。液体組成物が体内に注入されると、溶媒は周囲の水性環境に放散し、ポリマーは沈殿して固体またはゲルのデポーを形成し、そこから生理活性物質が長期間にわたって放出される。以下の文献(特許文献1~28)は、この分野における代表的なものと考えられ、参照により本明細書に組み込まれる。いくつかの成功にもかかわらず、これらの方法は、このようなアプローチによって効果的に送達されるであろう多数の生理活性物質に対して完全に満足できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第8,173,148号明細書
【特許文献2】米国特許第8,313,763号明細書
【特許文献3】米国特許第6,565,874号明細書
【特許文献4】米国特許第6,528,080号明細書
【特許文献5】米国再発行特許発明第37,950号明細書
【特許文献6】米国特許第6,461,631号明細書
【特許文献7】米国特許第6,395,293号明細書
【特許文献8】米国特許第6,355,657号明細書
【特許文献9】米国特許第6,261,583号明細書
【特許文献10】米国特許第6,143,314号明細書
【特許文献11】米国特許第5,990,194号明細書
【特許文献12】米国特許第5,945,115号明細書
【特許文献13】米国特許第5,792,469号明細書
【特許文献14】米国特許第5,780,044号明細書
【特許文献15】米国特許第5,759,563号明細書
【特許文献16】米国特許第5,744,153号明細書
【特許文献17】米国特許第5,739,176号明細書
【特許文献18】米国特許第5,736,152号明細書
【特許文献19】米国特許第5,733,950号明細書
【特許文献20】米国特許第5,702,716号明細書
【特許文献21】米国特許第5,681,873号明細書
【特許文献22】米国特許第5,599,552号明細書
【特許文献23】米国特許第5,487,897号明細書
【特許文献24】米国特許第5,340,849号明細書
【特許文献25】米国特許第5,324,519号明細書
【特許文献26】米国特許第5,278,202号明細書
【特許文献27】米国特許第5,278,201号明細書
【特許文献28】米国特許第4,938,763号明細書
【発明の概要】
【0007】
本出願は、改善された特性を有する生理活性物質の徐放性送達のための注射可能な生分解性送達システムを得るための方法を開示する。生分解性ポリマーおよび生体適合性溶媒を有する製剤において、強酸で形成された生理活性物質の塩を使用することにより、製剤の安定性が改善され、生理活性物質に関連する不純物の生成および生分解性ポリマーの望ましくない早期分解を最小限に抑えることができる。この安定性の向上により、すぐに使用できる、単一のシリンジで保存できるようになる。それを患者に直接注射して、徐放性デポーを形成することができる。しかし、このタイプの製剤は独特であるため、このタイプの製剤の製造方法は知られていない。これらの材料を混合した後、得られた溶液が、生分解性ポリマー溶液中に懸濁された生理活性物質の液滴を有する、液体懸濁液またはエマルジョンとなることが予想外に見出された。これらの液滴のサイズは製造方法によって大きく異なり、不均一な製剤となる。さらに、混合方法では気泡が発生するが、これは、ポリマーの分子量や製剤中のポリマーおよび生理活性物質の濃度に起因する製剤の高い粘性および弾性のために、除去が困難である。また、生分解性ポリマーおよび生理活性物質の可溶化により、得られる粘性懸濁液またはエマルジョン中に多くの微小気泡が発生する。正確な投与のために充填量を正確に測定するためには、シリンジに充填する前にこれらの気泡の大部分を除去しなければならない。したがって、すぐに使用できる、単一のシリンジに正確に充填され得る、生分解性ポリマー溶液から生理活性物質を送達できる均一な製剤を製造する方法を開発する必要がある。
【0008】
強酸のペプチド塩と生分解性ポリマーを生体適合性溶媒中で混合することで作製された製剤が、生分解性ポリマー溶液(ポリマーリッチ連続相)中に懸濁された生理活性物質の液滴(生理活性物質リッチ相)を有する液状懸濁液またはエマルジョンであることが予想外に発見された。ポリマー溶液連続相中のこれらの生理活性物質リッチ液滴は、製造方法によってサイズおよびサイズ分布が異なり得る。この液滴サイズのばらつきは、製剤の性能問題または安定性問題につながる可能性がある。液滴サイズ分布のばらつきはまた、不均一性の問題および投与量の不一致につながる可能性がある。この製剤は、製剤の粘度が高く、製造工程の間に製剤中に気泡が多量に混入するため、シリンジに正確に充填することが困難な場合がある。したがって、均一かつ安定的で、単一のシリンジに正確に充填できてすぐに使用できる、このタイプの製剤を製造する方法に対するニーズが存在する。
【0009】
本出願は、均一かつ安定的な、単一のシリンジに充填可能な徐放性製剤の製造方法を開示する。本出願は、シリンジに製剤を正確に充填し、シリンジをすぐに使用できるようにするために、生分解性ポリマー、生体適合性溶媒、および生理活性物質を組み合わせ、次いで、得られた製剤を脱気および/または濾過する方法を提供する。より具体的には、本出願は、生分解性ポリマー組成物からの生理活性物質の徐放性送達のための、単一で、シリンジをすぐに使用できる製剤を製造する方法を開示する。
【0010】
本出願による方法は、a)生分解性ポリマーおよび生体適合性溶媒を生理活性物質と組み合わせることと、b)製剤を脱気することと、c)任意に、得られた製剤を濾過することと、を含む。この方法により、単一のシリンジに正確に事前充填することができ、すぐに使用できるシステムを提供する、安定的かつ均一な製剤が得られる。
【0011】
本出願の生理活性物質は、生物学的、生理学的、または治療的効果を提供することができる、ペプチド、プロドラッグ、またはその塩の形態であり得る。生理活性物質は、生分解性ポリマーおよび生体適合性溶媒に溶解または懸濁して、10,000センチポアズ(cPs)より大きい粘度を有する粘性液体懸濁液またはエマルジョンを形成することができる。粘度は10,000~100,000cPsの範囲であり得る。粘性液体懸濁液を注入すると、生理活性物質は、拡散およびインプラントの分解により、時間とともに放出される。
【0012】
本出願によれば、生体適合性溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ピロリドン、メトキシポリエチレングリコール、アルコキシポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールエステル、グリコフロール、グリセロールホルマール、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、テトラヒドロフラン(THF)、カプロラクタム、デシルメチルスルホキシド、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、安息香酸エチル、トリアセチン、ジアセチン、トリブチリン、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、トリエチルグリセリド、リン酸トリエチル、フタル酸ジエチル、酒石酸ジエチル、乳酸エチル、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、ブチロラクトン、および1-ドデシルアザシクロヘプタン-2-オン、ならびにそれらの組み合わせからなる群より選択され得る。
【0013】
本出願によれば、生分解性ポリマーは、直鎖ポリマー、分岐ポリマー、または2つの混合物であってもよい。好ましくは、ポリマーは乳酸塩ベースのポリマーである。乳酸塩ベースのポリマーには、乳酸またはラクチドモノマーのホモポリマー(ポリ(乳酸)またはポリラクチド、PLA)、および乳酸(またはラクチド)と他のモノマー(例えば、グリコール酸、グリコリド(ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、PLGまたはPLGA)など)とのコポリマーが含まれる。ポリマーの重量平均分子量は、典型的には5,000~50,000である。ポリマーの酸価は、理想的には3mgKOH/g未満、好ましくは2mgKOH/g未満、より好ましくは1mgKOH/g未満である。
【0014】
このポリマーは、生理活性物質および生体適合性溶媒とともに配合されると、安定な懸濁液またはエマルジョンを形成し、単一のシリンジに事前充填することができる。本出願によれば、制御放出薬物送達のための注射可能な組成物は、製剤を単一の、すぐに使用できるシリンジに正確に充填するために、原料を配合および混合し、次いで生成物を濾過および脱気することを含む方法によって製造することができる。
【0015】
本出願によれば、混合、濾過および脱気は、窒素、アルゴンまたは乾燥空気下、室温で60%未満、好ましくは40%未満に制御された湿度下で行われる。材料はどのような順序で混合してもよいが、混合時間を最短にし、製品温度を維持しながら材料の凝集を防ぐ方法で行ってもよい。
【0016】
本出願によれば、製剤は、1bar~10barの入口圧力をかけ、出口側に適切な真空とすることにより濾過される。真空度は-300mbar~-1000mbarである。フィルターの平均孔径は10~150μm、好ましくは20~100μm、より好ましくは25μm、30μm、40μm、50μm、60μm、70μm、80μmである。フィルターは、ポリプロピレンやテフロンなどのポリマー、またはアルミニウムやステンレス鋼などの金属から作ることができる。濾過工程は、脱気工程の前または後に行うことができる。脱気は、75%~99.9%の最終真空または-300mbar~-1000mbarの相対真空圧下で行われる。脱気は、膨張時の粘度変化により、製品の均一性に影響を与える可能性がある、製品の膨張および膨張時間を最小限にするために、段階的に行うことができる。脱気により、ほとんど気泡のない製品、あるいは製品表面に最小限の気泡しかない製品が得られる。
【0017】
具体的には、本出願の一態様によれば、注射可能な徐放性製剤の製造方法は、
i.15~25℃で60%未満の制御された湿度下で実施される配合工程であって、該配合工程は、a)NMPの総量の70%以上を配合容器に導入することと、b)生分解性ポリマーを複数の画分に分割し、生分解性ポリマーの第1の画分を配合容器に添加し、生分解性ポリマーの第1の画分が湿潤または溶解するまで、配合容器内で生分解性ポリマーの第1の画分をNMPと混合し、次いで、生分解性ポリマーの残りの画分の各々を別々に順次、配合容器に導入し、生分解性ポリマーの次の画分を導入する前に、生分解性ポリマーの新しく添加された画分が湿潤または溶解するまで混合することと、c)生分解性ポリマーのすべての画分が溶解または実質的に溶解した後、LHRHアゴニストを配合容器に、別々に順次、1~20画分において添加し、LHRHアゴニストが湿潤または溶解するまで、配合容器内でLHRHアゴニストの画分をNMPおよび生分解性ポリマーと混合し(ここで、先に配合容器に添加されたLHRHアゴニストが湿潤または溶解した後に、LHRHアゴニストの後続の画分(もしあれば)が添加される)、配合容器内でLHRHアゴニストをNMPおよび生分解性ポリマーと混合して製剤を形成することと、を含む工程と、
ii.上記(i)で調製された製剤を含む配合容器または脱気容器に-300mbar~-1000mbarの間の相対真空圧を適用し、5分~720分の間の時間、真空を維持し、真空を解除して通気を可能にする、4回以上の真空/通気サイクルによって行われる脱気工程(ここで、各真空/通気サイクルで維持される真空レベルは、少なくとも直前のサイクルで維持される真空レベルと同じまたはそれよりも強い)工程と、
を含む。
【0018】
製剤は、生分解性ポリマーリッチ連続相に懸濁された、50μm未満の液滴直径のDv50を有するLHRHアゴニストリッチ相(LHRH/NMP液滴)の粘性懸濁液またはエマルジョンであってもよく、10,000センチポアズ(cPs)を超える粘度を有する。注射可能な徐放性製剤は、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)アゴニストまたはその塩、N-メチルピロリドン(NMP)および生分解性ポリマーを含んでいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に基づく、倒立共焦点顕微鏡を用いたメシル酸リュープロリド50mg製剤の画像の図である。
図2】本発明の実施形態に基づく製造方法のフローチャートの図である。
図3】本発明の一実施形態に基づき、-900mbarから直接-950mbarの真空圧に到達した後の、58%PLGA/NMP(IV=0.24、MW=19k)中の8%メシル酸リュープロリドの製剤を示す図である。バイアル上の黒線は、初期充填レベルを示し、それぞれ左から10%、25%、33%、50%、および67%であった。
図4】-980mbarの真空下での製剤体積が、製剤が大気圧にあったときよりも約4倍高かったことを示し、本発明の一実施形態に基づく製剤中にかなりの量の気泡が残っていたことを示す図である。
図5】不完全混合で調製されたリュープロリド製剤の倒立共焦点顕微鏡下の画像の図である。不完全な混合は、均一な粒径を有さず、相分離を引き起こし得る製剤をもたらす。
図6】調製されたトリプトレリン製剤の倒立共焦点顕微鏡下の画像であり、本発明の一実施形態に基づく、ポリマーリッチ相中に懸濁された20μm未満の液滴サイズを有するトリプトレリンリッチ相を示す図である。
図7】本発明の一実施形態に基づく、ゴセレリン硫酸塩APIの倒立共焦点顕微鏡下の画像の図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本出願は、生理活性物質の徐放性送達のための注射可能なポリマー製剤の製造方法を提供する。本出願の注射可能なポリマー組成物は、a)生理活性物質またはその塩、b)生体適合性溶媒、およびc)生分解性ホモポリマーまたはコポリマーを含む。注射可能なポリマー組成物は、本出願の特定の方法によって単一のシリンジに事前充填することができる。該方法は、原料の秤量および混合、ならびに製品の濾過および脱気を含み、製剤を正確にシリンジに充填して、すぐに使用できる構成の製品キットを形成することができる。
【0021】
本出願の製剤は、粘稠な液体懸濁液またはエマルジョンの形態であり、針、カニューレ、チューブ、腹腔鏡、プローブ、または他の送達装置を通して注入され得るように流体として動く。対象に投与されると、このような注射可能な組成物はその場でデポーを形成し、そこから生理活性物質の制御放出を、組成物に応じて所望の期間持続させることができる。デポーまたはインプラントは、固体、ゲル、ペースト、半固体、または粘性の液体であってもよい。生分解性ポリマーおよびその他の成分を適切に選択することにより、生理活性物質の徐放期間を数週間から1年間の期間にわたって制御することができる。
【0022】
本出願の注射可能なポリマー組成物はまた、非ポリマー化合物、および/または放出を制御するための添加剤、例えば、放出速度調節剤、細孔形成剤、可塑剤、有機溶媒、生理活性物質をカプセル化するためのカプセル化剤、熱ゲル化剤、バースト効果低減材料、ヒドロゲル、ポリヒドロキシル材料、浸出剤、組織輸送剤、もしくは他の類似の添加剤、またはそれらの任意の組み合わせを含むことができる。
【0023】
本明細書で使用される用語「a」、「an」および「one」は、「1つ以上」および「少なくとも1つ」として解釈されることを意味する。
【0024】
本明細書で使用される場合、本出願の文脈において、「約」または「およそ」という言葉が使用されているか否かにかかわらず、本明細書で開示されるすべての数値は近似値である。各数値は、特に指示がない限り、数値の±10%の範囲を意味する。例えば、「約100mg」または「100mg」は、90~110mgの間の任意の値を含む。
【0025】
本明細書で使用される用語「室温」は、15~25℃と定義される。
【0026】
本明細書で定義される「徐放性または制御放出送達」という用語は、投与後、所望の長期間にわたって、好ましくは少なくとも数日から1年間にわたって、生体内で生理活性物質を送達することを意図する。
【0027】
用語「生理活性物質」は、これらに限定されないが、有機低分子、無機低分子、高分子、ペプチド、オリゴペプチド、タンパク質、または酵素、ヌクレオチド、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオシド、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオチド、ポリヌクレオ酸、または化学化合物などの類似の分子を含む、診断および/または治療特性を有する任意の物質を含むことを意味する。治療特性の非限定的な例は、抗代謝特性、抗真菌特性、抗炎症特性、抗腫瘍特性、抗感染特性、抗生物質特性、栄養特性、アゴニスト特性、およびアンタゴニスト特性である。
【0028】
本出願の生理活性物質は、遊離分子、遊離分子の有機塩または無機塩の形態であってもよいし、担体剤と複合体化または共有結合していてもよいし、プロドラッグであってもよいし、多形生理活性物質(ともに複合体化または共有結合した複数単位の生理活性物質)であってもよい。
【0029】
本明細書で使用する「ペプチド」という用語は、通常、一般に「ペプチド」、「オリゴペプチド」、および「ポリペプチド」または「タンパク質」と呼ばれるポリ(アミノ酸)を含む一般的な意味であり、これらは本明細書で互換的に使用される。この用語はまた、生物活性ペプチド類似体、誘導体、アシル化誘導体、グリコシル化誘導体、ペグ化誘導体、融合タンパク質なども含む。用語「ペプチド」は、これらに限定されないが、抗代謝特性、抗真菌特性、抗炎症特性、抗腫瘍特性、抗感染特性、抗生物質特性、栄養特性、アゴニスト特性、およびアンタゴニスト特性を含む、診断および/または治療特性を有する任意の生物活性ペプチドを含むことを意味する。この用語には、ペプチドの合成類似体、塩基性機能性を有する非天然アミノ酸、または塩基性を導入した他の形態も含まれる。
【0030】
本明細書で使用される好ましいペプチドには、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)、およびリュープロレリンまたはリュープロリド、ブセレリン、ゴナドレリン、デスロレリン、フェリレリン、ヒストレリン、ルトレリン、ゴセレリン、ナファレリン、トリプトレリンなどのLHRHアゴニスト、およびセトロレリックス、エンフビルチド、チモシンα1、デガレリックス、アバレリックスなどのアンタゴニストが含まれる。
【0031】
本出願で使用される生理活性物質は、それ自体であってもよいし、生体適合性有機塩であってもよい。生理活性物質の生体適合性有機塩を形成するために使用される酸は、好ましくはpKaが5未満である。本出願に適した酸は、これらに限定されないが、塩酸、臭化水素酸、硝酸、クロム酸、硫酸、メタンスルホン酸、トリフルロメタンスルホン酸、トリクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、ブロモ酢酸、クロロ酢酸、シアノ酢酸、2-クロロプロパン酸、2-オキソブタン酸、2-クロロブタン酸、4-シアノブタン酸、パモ酸、過塩素酸、リン酸、ヨウ化水素、酢酸、2,2-ジクロロ酢酸、アジピン酸、アルギン酸、L-アスコルビン酸、L-アスパラギン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、4-アセトアミド安息香酸、(+)-カンファー酸、(+)-カンファー-10-スルホン酸、カプリン酸、(デカン酸)、カプロン酸(ヘキサン酸)、カプリル酸(オクタン酸)、炭酸、桂皮酸、クエン酸、シクリン酸、デカン酸、ドデシル硫酸、エタン-1,2-ジスルホン酸、エタンスルホン酸、2-ヒドロキシ-エタンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、ガラクタル酸、ゲンチジン酸、D-グルコヘプトン酸、D-グルコン酸、D-グルクロン酸、グルタミン酸、グルタル酸、2-オキソグルタル酸、グリセロリン酸、グリコール酸、ヒプリン酸、イソ酪酸、DL-乳酸、ラクトビオン酸、ラウリン酸、マレイン酸、(-)-L-リンゴ酸、マロン酸、DL-マンデル酸、没食子酸、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸、ナフタレン-2-スルホン酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、ニコチン酸、オレイン酸、オロチン酸、シュウ酸、パルミチン酸、エンボン酸、プロピオン酸、(-)-L-ピログルタミン酸、サリチル酸、4-アミノサリチル酸、セバシン酸、ステアリン酸、コハク酸、(+)-L-酒石酸、チオシアン酸、p-トルエンスルホン酸、ウンデシレン酸からなる群から選択され得る。適切な酸の選択は当業者に周知である。
【0032】
本明細書で定義される用語「強酸」は、pKaが3未満、好ましくは0未満の任意の酸を含むことを意味する。本出願に好適な強酸は、これらに限定されないが、塩酸、臭化水素酸、硝酸、クロム酸、硫酸、メタンスルホン酸、トリフルロメタンスルホン酸、トルエンスルホン酸(p)、トリクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、ブロモ酢酸、クロロ酢酸、シアノ酢酸、2-クロロプロパン酸、2-オキソブタン酸、2-クロロブタン酸、4-シアノブタン酸、パモ酸、過塩素酸、リン酸、ヨウ化水素などからなる群から選択され得る。
【0033】
本明細書で定義される用語「弱酸」は、pKaが3より大きい任意の酸を含むことを意味する。本出願に好適な弱酸は、これらに限定されないが、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、2-オキソグルタル酸、4-アセトアミド安息香酸、4-アミノサリチル酸、酢酸、アジピン酸、アスコルビン酸(L)、アスパラギン酸(L)、安息香酸、カンファー酸(+)、カプリン酸(デカン酸)、カプロン酸(ヘキサン酸)、カプリル酸(オクタン酸)、炭酸、桂皮酸、クエン酸、ギ酸、フマル酸、ガラクタル酸、ゲンチジン酸、グルコヘプトン酸(D)、グルコン酸(D)、グルクロン酸(D)、グルタミン酸、グルタル酸、グリコール酸、ヒプリン酸、イソ酪酸、乳酸(DL)、ラクトビオン酸、ラウリン酸、マレイン酸、リンゴ酸(-L)、マロン酸、マンデル酸(DL)、オレイン酸、シュウ酸、パルミチン酸、プロピオン酸、ピログルタミン酸(-L)、サリチル酸、セバシン酸、ステアリン酸、コハク酸、酒石酸(+L)、チオシアン酸、ウンデシレン酸などからなる群から選択され得る。
【0034】
生理活性物質の生体適合性有機塩は、単純な酸および塩基の滴定または中和によって調製することができる。生理活性物質の生体適合性有機塩は、その合成および精製方法の間に調製することができる。あるいは、塩は遊離塩基の形態で生理活性物質から調製することもできる。遊離塩基は適切な液体媒体に溶解される。この生理活性物質の溶液を酸の溶液と混合して、濾過、沈殿、または凍結乾燥などの適切な手段で溶媒を除去することで有益な塩を形成させる。生理活性物質が一般的に市販されている塩の形態である場合、凍結乾燥、沈殿、または当技術分野で知られている他の方法のような、単純な塩交換法またはイオン交換法を用いて、異なる塩を得ることができる。例えば、酢酸リュープロリドを適切な液体媒体、例えば水に溶解する。このペプチドの溶液をメタンスルホン酸のような強酸の水溶液と混合する。酢酸リュープロリドおよびメタンスルホン酸のような強酸を水に溶かすと、より強酸のメタンスルホン酸がより弱酸のカルボン酢酸を置換するので、ペプチドはメシル酸イオンと結びつく傾向がある。溶媒および遊離した酢酸(または他の弱いが揮発性のカルボン酸)は真空下で除去されてもよい。こうして、混合溶液を凍結乾燥して水および弱酸を除去し、所望の塩を形成させる。生理活性物質が低pH下で安定でない場合は、非常に低濃度の酸に対して広範な透析を行うことにより、生理活性物質の生体適合性有機塩を調製することができる。
【0035】
本出願のポリマー組成物は、0.01~40重量%の範囲で生理活性物質を含有することができる。一般に、最適な薬物負荷量は、望まれる放出期間および生理活性物質の効力に依存する。明らかに、効力の低い生理活性物質およびより長い放出期間には、より高いレベルの組込みが必要な場合がある。
【0036】
本出願の生体適合性溶媒は、水性液体または体液において混和可能または分散可能であってもよい。用語「分散可能」は、溶媒が水に部分的に溶解可能または混和可能であることを意味する。単一の溶媒または溶媒の混合物は、0.1重量%を超える水への溶解性または混和性を有していてもよい。好ましくは、溶媒は3重量%を超える水への溶解性または混和性を有する。より好ましくは、溶媒は7重量%を超える水への溶解度または混和性を有する。適切な生体適合性溶媒は、液体組成物が凝固または固化するように体液中に拡散することができる。このような溶媒の単独および/または混合物を採用することができ、このような溶媒の適性は、簡単な実験によって容易に決定することができる。
【0037】
生体適合性溶媒の例としては、これらに限定されないが、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ピロリドン、メトキシポリエチレングリコール、アルコキシポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールエステル、グリコフロール、グリセロールホルマール、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、カプロラクタム、デシルメチルスルホキシド、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、安息香酸エチル、トリアセチン、ジアセチン、トリブチリン、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、トリエチルグリセリド、リン酸トリエチル、フタル酸ジエチル、酒石酸ジエチル、乳酸エチル、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、ブチロラクトン、および1-ドデシルアザシクロヘプタン-2-オン、ならびにそれらの組み合わせなどが挙げられる。好ましい生体適合性溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド(DMAC)、グリコフロール、グリセロールホルマール、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、メトキシポリエチレングリコール、アルコキシポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールエステル、およびイソプロピリデングリコールを含む。
【0038】
生分解性ポリマーの各種有機溶媒への溶解度は、ポリマーの特性および溶媒との相溶性によって異なる。したがって、同じポリマーが異なる溶媒に同じ程度まで溶解するとは限らない。例えば、PLGAはN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に対する溶解度がトリアセチンに対する溶解度よりもはるかに高い。しかし、NMP中のPLGA溶液を水溶液と接触させると、NMPはその高い水混和性により、非常に急速に拡散して固体のポリマーマトリックスを形成する。溶媒の拡散速度が速いため、固体のインプラントが迅速に形成される可能性があるが、初期バースト放出が高くなる可能性もある。トリアセチン中のPLGA溶液を水溶液と接触させると、トリアセチンは水混和性が低いため、非常にゆっくりと拡散する。溶媒の拡散速度が遅いため、粘稠な液体から固体マトリックスに変化するまでに長い時間がかかる可能性がある。溶媒が拡散し、ポリマーが凝固してペプチド物質がカプセル化される最適なバランスがあるかもしれない。したがって、望ましい送達システムを得るためには、異なる溶媒を組み合わせるのが有利であろう。水混和性の低い溶媒と高い溶媒を組み合わせることで、ポリマーの溶解度を向上させ、組成物の粘度を変更し、拡散速度を最適化し、初期バースト放出を減少させることができる。
【0039】
本出願のポリマー組成物は、典型的には、10重量%~99重量%の範囲の生体適合性溶媒を含有する。本出願のポリマー組成物の粘度は、使用されるポリマーおよび生体適合性溶媒の分子量に依存する。粘度は10,000~100,000cPsの範囲であり得る。好ましくは、組成物中のポリマーの濃度は70重量%未満である。より好ましくは、組成物中のポリマーの濃度は60重量%未満である。
【0040】
「ポリマー」は、多数の繰り返しサブユニットで構成される大きな分子、または高分子である。ポリマーには、ポリスチレンのような身近な合成プラスチックから、DNAおよびタンパク質のような生物学的構造および機能の基礎となる天然バイオポリマーまで様々なものがある。ポリマーは、天然、合成を問わず、モノマーと呼ばれる多数の低分子の重合によって作られる。重合は、モノマーとして知られる多数の低分子を、共有結合で鎖状またはネットワーク状に結合させる方法である。低分子化合物に比べて分子量が大きいポリマーは、強靭性、粘弾性、結晶ではなくガラスおよび半結晶構造を形成する傾向など、ユニークな物理的特性を生み出す。
【0041】
「生分解性」という用語は、その場で徐々に分解、溶解、加水分解および/または浸食する材料を指す。一般に、本明細書における「生分解性ポリマー」は、主に加水分解および/または酵素分解によってその場で加水分解および/または生物浸食するポリマーである。
【0042】
本明細書で使用する「生分解性ポリマー」という用語は、生体内で使用することができる任意の生体適合性および/または生分解性合成ポリマーおよび天然ポリマーを含むことを意味する。一般に、本出願の生分解性ポリマーは、直鎖ポリマー、または分枝もしくは星型ポリマー、または直鎖ポリマーと分枝および/もしくは星型ポリマーとの混合物であってもよい。好ましくは、本出願の生分解性ポリマーは、乳酸塩ベースのポリマーである。本明細書で使用される「乳酸塩ベースのポリマー」は、ポリマー中に乳酸塩単位を含むポリマーである。
【0043】
乳酸塩ベースのポリマーは、乳酸塩、乳酸、またはラクチドモノマーを含む任意のホモポリマー/コポリマーを含む。本出願の乳酸塩ベースのポリマーには、乳酸またはラクチドモノマーのホモポリマー(ポリ(乳酸)またはポリラクチド、PLA)、および乳酸(またはラクチド)と他のモノマー(例えば、グリコール酸(またはグリコリド)(ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、PLGまたはPLGA)など)とのコポリマーが含まれる。乳酸塩ベースのポリマーは、エステル、またはヒドロキシル、またはカルボン酸などの同じ末端基を有する、すなわちすべての末端基が同じであってもよい。乳酸塩ベースのポリマーは、エステル、ヒドロキシル、および/またはカルボン酸の混合末端基を有し得る。乳酸塩ベースのポリマーは、米国特許第8,470,359号に開示されている例のような、末端ヒドロキシル基を有するジオールコアを有することができる。同様に、乳酸塩ベースのポリマーは、末端ヒドロキシル基を有するグルコースなどのトリオールまたはポリオールコアを有することができる。乳酸塩ベースのポリマーは、一方の末端基がエステルを有し、他方の末端がヒドロキシル基またはカルボン酸基を有していてもよい。乳酸塩ベースのポリマーはまた、一方の末端基がヒドロキシル基を有し、他方の末端基がカルボン酸またはエステルを有していてもよく、またはその逆であってもよい。
【0044】
本出願の乳酸塩ベースのポリマーは、通常5,000~50,000の重量平均分子量を有する。本出願の乳酸塩ベースのポリマーは、市販品であってもよく、または公知の方法により調製されたポリマーであってもよい。組成物中に存在する生分解性ポリマーの種類、分子量、および量は、生理活性物質が制御放出インプラントから放出される時間の長さに影響し得る。ポリマー中のラクチドが多いほど、ポリマーの分解時間は長くなる。ポリマーの分子量が大きいほど、分解時間は長くなる。
【0045】
本出願の乳酸塩ベースのポリマーにはまた、A-B-Aブロックコポリマー、B-A-Bブロックコポリマー、および/またはA-Bブロックコポリマーおよび/または分岐コポリマーなどのブロックコポリマーが含まれる。好ましいブロックコポリマーは、Aブロックが乳酸塩ベースのポリマーを含み、Bブロックがポリグリコリド、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、ポリアンヒドリド、ポリ(オルトエステル)、ポリエーテルエステル、ポリカプロラクトン、ポリエステルアミド、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、ならびにこれらのブレンドおよびコポリマーから選択されるポリマーを含むものである。Bブロックはまた、メトキシポリエチレングリコールなどのポリエチレングリコールまたは単官能性誘導体化ポリエチレングリコールであってもよい。これらの組み合わせの中には、許容可能な熱可逆性ゲルを形成するものもある。
【0046】
本出願によれば、乳酸塩ベースのポリマーは、5,000~50,000、5,000~45,000、5,000~40,000、5,000~35,000、5,000~30,000、5,000~25,000、5,000~20,000、5,000~15,000、5,000~12,000、または10,000~40,000、または12,000~35,000、または15,000~30,000ダルトンの重量平均分子量を有する。
【0047】
本出願の医薬組成物は、5重量%~75重量%の範囲で乳酸塩ベースのポリマーを含有し得る。本出願の医薬組成物の粘度は、使用されるポリマーおよび生体適合性溶媒の分子量に依存する。粘度は10,000~100,000cPsの範囲であり得る。通常、同じ溶媒を使用する場合、ポリマーの分子量および濃度が高いほど粘度は高くなる。これは製剤の脱気に影響する可能性があり、閉じ込められた空気は粘度の高い製剤から除去されるのがより困難になる可能性があるからである。好ましくは、組成物中のポリマーの濃度は70重量%未満である。
【0048】
ポリ(乳酸)またはポリ(ラクチド)(PLA)、およびポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)およびポリ(L-ラクチド-コ-グリコリド)を含む、乳酸およびグリコール酸のコポリマー(PLGA)のような乳酸塩ベースのポリマーが、本出願において好ましく使用される。熱可塑性ポリエステルであるポリ(D,L-ラクチド-コ-グリコリド)およびポリ(D,L-乳酸-コ-グリコール酸)は互換的に使用することができ、PLGAは両者の略称として使用される。PLGAは、約50:50~約99:1の間の乳酸対グリコール酸のモノマーモル比、および約5,000~約50,000の間の重量平均分子量を有する。PLGAは、好ましくは、約50:50(40:60~60:40)の乳酸対グリコール酸のモノマーモル比を有する。PLGAは、さらに好ましくは、約65:35(55:45~75:25)の乳酸対グリコール酸のモノマーモル比を有する。PLGAは、より好ましくは、約75:25(65:35~85:15)の乳酸対グリコール酸のモノマーモル比を有する。PLGAは、さらに好ましくは、約85:15(75:25~95:5)の乳酸対グリコール酸のモノマーモル比を有する。PLGAは、最も好ましくは、約99:1の乳酸対グリコール酸のモノマーモル比を有する。生分解性熱可塑性ポリエステルは、当該分野で公知の方法、例えば、重縮合および開環重合(例えば、米国特許第4,443,330号、同第5,242,910号、同第5,310,865号、これらはすべて参照により本明細書に組み込まれる)を用いて調製することができる。生分解性ポリマーはまた、ポリマーを溶解し、再沈殿させるなどの当該分野で公知の方法(例えば、米国特許第4,810,775号、同第5,585,460号、これらは参照により本明細書に組み込まれる)を用いて、残留モノマーおよびオリゴマーを除去するために精製することができる。ポリ(DL-ラクチド-コ-グリコリド)の末端基は、重合および末端基修飾の方法に応じて、ヒドロキシル、カルボキシル、またはエステルのいずれかであり得る。適切なポリマーは、単官能アルコールまたはポリオール残基を含むことができる。単官能アルコールの例は、メタノール、エタノール、または1-ドデカノールである。ポリオールは、エチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、グリセロール、糖類、グルコース、スクロース、ソルビトールなどの還元糖類などを含む、ジオール、トリオール、テトラオール、ペンタオール、およびヘキサオールであってもよい。多くの適切なPLGAが市販されており、特定の組成のPLGAは、従来技術に従って容易に調製することができる。
【0049】
本出願によるこのような製剤を製造する方法は、製剤を単一の、すぐに使用できるシリンジに正確に充填するために、材料の秤量および混合、最終製品の濾過、ならびに最終製品の脱気を必要とする。秤量、混合、濾過、および脱気は、局所環境を制御するためのアイソレーター内で行うことができ、このアイソレーター内では、窒素もしくはアルゴンまたは乾燥空気下、室温で相対湿度を60%以下に設定することができる。本出願の好ましい実施態様では、製剤の秤量、混合、濾過、脱気は、窒素下で湿度60%以下、好ましくは40%以下の15~25℃で行う。
【0050】
混合容器は、インペラーを有する任意の従来のミキサー、またはプラネタリーミキサーもしくはダブルプラネタリーミキサーとすることができる。生分解性ポリマーおよび生体適合性溶媒の混合は、生理活性物質の添加前に行うことができる。生体適合性溶媒は、混合時間を最短にし、ポリマーの凝集を防止するために、生分解性ポリマーの前に混合または配合容器に添加することができる。ポリマーが凝集すると溶解が困難になり、均一な溶液を形成するために長い混合時間を必要とする。また、混合時間を長くすると、溶液の気泡が多くなり、真空下での膨張レベルが高くなるため、脱気時間が長くなる。
【0051】
本出願の好ましい一実施態様では、約90%の生体適合性溶媒を混合容器に添加し、続いて生分解性ポリマーを添加する。生分解性ポリマーは、より良好な混合を可能にし、ポリマーが凝集するのを防止するために、一度に、連続的に、または別々の画分で添加することができる。生分解性ポリマーは等しい画分で添加することができ、より好ましくは、第一段階でポリマーの総量の約35%を添加し、実質的に湿潤するまで混合し、次いで、全体の約30%の第二画分を添加し、実質的に湿潤させ、次いで、全体の約25%の第三画分を添加し、実質的に湿潤させ、次いで、約10%の最後の画分を添加する。いずれの場合も、次の画分を添加する前にポリマーを実質的に湿潤させることができる。ポリマーは最大30部分、好ましくは20部分未満、より好ましくは10部分未満、最も好ましくは5部分未満に分割することができる。ポリマー画分のサイズは、より大きな凝集体を形成しうる粉末の凝集を防止するようなサイズとすることができる。これらの凝集体は、全体的な混合および溶解時間を増加させる可能性がある。ポリマー粉末の凝集塊は、溶媒に添加する前に、単純な混合またはふるい分けによって破壊することができる。かさ密度の大きいポリマー粉末は溶解に時間がかかる。これらの粉末は、溶解時間を短縮するために、さらに粉砕したり、ふるいにかけたりすることができる。
【0052】
生分解性ポリマーを生体適合性溶媒に溶解した後、生理活性物質を溶液に添加する。生理活性物質は一度に添加することもできるが、より好ましくは、生理活性物質の湿潤または溶解を促進し、凝集体の発生を防止するために、2回または3回以上、最大20画分に分けて添加することもできる。ポリマーの添加と同様に、生理活性物質は凝集塊がないように溶液に添加してもよく、これは全体の溶解および混合時間を増加させることができる。粉末中の凝集塊および凝集体は、溶液に添加する前に単純な混合またはふるい分けによって破壊することができる。生理活性物質は、次の画分を添加する前に完全に湿潤させてもよい。生理活性物質が添加されたら、残りの画分(約10%~30%)の生体適合性溶媒を添加して、配合容器に残った粉末を製剤中に洗浄する。あるいは、ポリマー溶液により容易に混合するために、生理活性物質を生体適合性溶媒全体の約10~30%に溶解させることもできる。ポリマー溶液に添加する前に生理活性物質を可溶化することで、可溶化による気泡の発生が少なくなり、粘性の低い溶液となる。製剤の最終組成物は、すべての粉末が完全に可溶化するまで混合される。得られた製剤は、多くの気泡を含む流動性のある粘性液体懸濁液またはエマルジョンである。この製剤は、すぐに使用できるシリンジに正確に充填する前に脱気する必要がある。
【0053】
生分解性ポリマーおよび生理活性物質と生体適合性溶媒との混合は、生分解性ポリマーおよび生理活性物質の完全な溶解が得られる任意のタイプの混合容器で行うことができる。本出願の一実施態様において、生分解性ポリマーと生体適合性溶媒との混合は、インペラーを有する混合容器中で約20rpm~約200rpmの混合速度で行われる。混合は、混合容器内の温度を周囲温度またはそれに近い温度に維持するような速度で行われる。全混合時間は、ポリマーの完全溶解を確実にするような時間である。混合時間は、混合速度、ポリマーのかさ密度、粉末の湿潤性、粉末の溶媒への溶解性によって決定される。ポリマー粉末の湿潤性は、粉末の凝集を防止するため、複数の画分に分けて粉末を添加することで最適化できる。次に、生理活性物質を混合物に添加し、完全に溶解するまで約20rpm~約200rpmの範囲で混合する。本出願の別の実施態様では、混合はヘリカルインペラーおよびスクレーパーを備えたダブルプラネタリーミキサーで行って、生分解性ポリマーに続いて生理活性物質を完全に溶解させる。この実施形態では、ヘリカルインペラーは、混合容器の温度を維持するために約20rpm~100rpmの速度に維持される。あるいは、より高い速度を使用する場合は、ジャケット付き容器を使用して容器温度を15~25℃に維持することもできる。
【0054】
本出願によれば、濾過は脱気の前または後に行うことができる。本発明の一つの好ましい実施態様において、配合は真空下でダブルプラネタリーミキサーまたは類似の容器中で行われる。生分解性ポリマーおよび生理活性物質の各画分の混合中、混合および可溶化工程中に捕捉された空気を除去するために、ダブルプラネタリーミキサーの配合容器は-300~-1000mbarの相対真空圧下に置かれる。これにより、脱気前に製剤が完全に混合されていれば、必要な脱気時間全体が短縮される。
【0055】
真空とは、地球の大気圧(約14.7psi、または1013mBar)よりも低い気圧のことである。定義上、完全な真空とは、すべての物質が取り除かれた空間である。これは理想化された説明である。「ほとんど物質がない」状態に近い真空圧を作り出すのは難しく、コストもかかる。工業用および実験用での用途では、完全真空よりも低い真空度が必要とされる。このため、真空の測定に使用される単位、および単位間の変換方法について理解しておくことは有用である。真空圧の単位は、下表のように絶対単位および相対単位で表すことができる(Industrial Specialties Mfg. & IS MED Specialties)。相対単位は、本出願において真空圧に対して使用される。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
本出願の製剤は、粘性の液体懸濁液またはエマルジョンである。特定の実施形態では、生分解性ポリマーは溶解度の高い生体適合性溶媒に溶解し(ポリマーリッチ相)、生理活性物質は溶解度の高い生体適合性溶媒に溶解する(生理活性物質リッチ相)。ポリマーリッチ相は生理活性物質リッチ相と混和しないことが予想外に見出された。ポリマーリッチ相を生理活性物質リッチ相と混合すると、得られる製剤は均一な溶液ではなく、むしろ生理活性物質リッチ液滴が連続的なポリマー溶液相に懸濁した懸濁液またはエマルジョンとなる。別の実施形態では、まず生分解性ポリマーを生体適合性溶媒に溶解し、次に生理活性物質粉末を添加し、混合して溶解する。この場合も、生理活性物質リッチ液滴が連続的なポリマー溶液相に懸濁しているため、得られる製剤は懸濁液またはエマルジョンとして特徴づけられる。
【0059】
本発明の好ましい一実施態様において、メシル酸リュープロリドは、NMP中のPLAポリマー溶液と混合される。本出願により製造される製剤は、10,000センチポアズ(cPs)より高い粘度を有するPLAリッチ連続相中に懸濁されたリュープロリドリッチ相液滴として特徴付けられる乳白色の不透明粘性の流動性組成物である。粘度は、最終組成物に応じて10,000~100,000cPsの範囲であり得る。
【0060】
本発明の別の好ましい実施態様において、メシル酸リュープロリドは、NMP中のPLGAポリマー溶液と混合される。本出願により製造される製剤は、PLGAリッチ連続相中に懸濁されたリュープロリドリッチ相液滴として特徴付けられる乳白色の不透明粘性の流動性組成物である。
【0061】
本発明のさらに別の好ましい実施態様において、メシル酸トリプトレリンは、NMP中のPLAまたはPLGAポリマー溶液と混合される。本出願により製造される製剤は、10,000センチポアズ(cPs)より高い粘度を有するポリマーリッチ連続相中に懸濁されたトリプトレリンリッチ相液滴として特徴付けられる乳白色の不透明粘性の流動性組成物である。粘度は、最終組成物に応じて10,000~100,000cPsの範囲であり得る。
【0062】
これらの液滴のサイズは、混合方法によって変化し得る。製剤の均一性は、これらの液滴のサイズおよびサイズ分布に依存する。リュープロリドリッチ液滴またはトリプトレリンリッチ液滴の分布がより均一な製剤を製造するために、ステンレス鋼メッシュまたはフィルターを使用して、製剤から異物またはポリマー凝集塊のような粒子状物質を除去するとともに、製剤中の液滴サイズの分布を制御または狭める。孔径は約5μm~約150μmの範囲、好ましくは約10μm~約100μmの範囲、より好ましくは約20μm~約80μmの範囲、最も好ましくは約40μm~約60μmの範囲である。
【0063】
製剤の粘度が高いことに起因して、製剤をフィルターを通して押し出すために上流圧力を加える必要がある。本発明の好ましい実施態様では、入口圧力に加えて、製剤がフィルターを通って移動するのを助けるために真空が下流に引かれる。好ましくは、入口圧力は1bar~10barであり、出口真空(相対)は約-300mbar~-1000mbarである。本発明の別の好ましい実施態様では、リュープロリド製剤は1~3barの圧力下で配合容器を出て、40μmステンレス鋼メッシュを通して濾過され、製剤から異物またはポリマー凝集塊などの粒子状物質を除去し、リュープロリドリッチ粒子サイズ分布を狭くする。-300mbar~-1000mbarの下流真空圧(相対)もまた、製剤をフィルターを通して引くのを助けるために使用される。さらに、真空は受入容器内の製剤の脱気にも役立つ。使用される真空が強ければ強いほど、脱気方法の前に受入容器内の製剤からより多くの気泡を除去することができる。これにより、全体的な脱気時間を短縮することができる。本発明の好ましい一実施形態では、受入容器真空(相対)を約-700、-750、-800、-850、-900、-950または-980mbarに設定して、製剤が濾過される際に脱気させ、全体として必要な脱気時間を短縮する。
【0064】
本出願の方法はまた、製剤の脱気手順を記載している。本出願の混合方法に加えて、ポリマーおよび生理活性物質の可溶化により、製剤中にガスまたは気泡が捕捉される。この高粘度製剤には、このような多量の気泡が捕捉されているため、製剤をシリンジに正確に充填することができない。気泡は圧力下で圧縮され、圧力が解除されると膨張し得る。このため、充填重量精度にばらつきが生じることがある。したがって、製剤は充填前に脱気する必要がある。本出願によれば、製剤は濾過工程の前または後に脱気することができる。本出願のこのような製剤の高い粘度に起因して、適切な時間でガスを除去するには真空が必要である。脱気時間は、得られ得る最終真空圧に依存する。真空圧が高ければ高いほど、脱気時間は短くなる。しかし、真空圧を高くしすぎると、捕捉されたガスが急速に出てきて、製剤が脱気容器内で泡立ち、脱気容器をオーバーフローすることがある。また、高い真空圧をかけると、溶媒の蒸気圧に依存して溶媒が蒸発することもある。この溶媒の損失は、製剤全体の組成を変えることになる。
【0065】
真空圧(相対圧)を約-900mbarに設定すると、製剤は脱気容器内で膨張して膨らむ。この真空圧で保持することにより、気泡は製剤中を上昇し始め、表面で合体して弾ける。全体の脱気時間を短縮するために、真空圧を約-900mbarで一定時間後に上昇させることができる。真空圧(相対)を-900mbarから-950mbarに上げることでポリマー溶液は容易に脱気され得るが、真空圧を-900mbarから-950mbarに変更すると、粘度が高いため、生理活性物質を含まないポリマー溶液だけの場合よりも、製剤が脱気容器内ではるかに高いレベルまで膨らむことが予想外に見出された。
【0066】
NMP中のPLA57.5%のポリマー溶液(ポリマーの分子量が約16,000ダルトンである)を有するメシル酸リュープロリド13%を含む製剤を1/3充填した容器で脱気しながら、真空圧(相対)を約-900mbarから約-950mbarまで段階的に調節し、脱気容器をオーバーフローさせることなく製剤を脱気することができた。メシル酸リュープロリド8%およびNMP中のPLGA57.7%のポリマー溶液(ポリマーの分子量は約19,800ダルトン)を有する製剤1/3充填した脱気容器を使用した場合、真空圧を-900mbarから-950mbarに変化させると、製剤が真空容器をオーバーフローすることが予想外に見出された。ポリマーの種類および分子量は、脱気を適切に行うための脱気パラメーターの選択に大きな影響を与える。
【0067】
本発明の好ましい実施態様において、脱気容器の充填レベルは、圧力が低下して気泡が抜けるときに製剤が膨らむことを可能にするために、10~50%であってよい。より好ましくは、脱気容器の充填レベルは、脱気時に製剤が膨張するのに十分な余裕を持たせるために、15~35%とすることができる。より大きな脱気容器を使用するだけでは、より多くのスペースを取るだけでなく、容器の壁面での製剤の損失が多くなり、製造コストが増加するため、有利ではない。脱気容器のデザインも重要である。狭い容器を使用すると、製品が脱気容器内をより高いレベルまで充填することになり、製品を脱気するために必要な気泡の移動距離が長くなる。脱気容器の直径が大きいほど、脱気容器内の製品のレベルが低くなり、製品バルク中を気泡が移動する距離が短くなり、全体的な脱気時間が短縮される。好適な脱気容器は、脱気容器の高さと脱気容器の直径の比が10:1~1:1、好ましくは5:1~1:1である。
【0068】
約19,800ダルトンの分子量を有するPLGAポリマーを含むリュープロリド製剤を脱気するための本発明の好ましい一実施形態では、脱気容器を全体積の約33%のレベルまで充填する。真空を解除した後、同じ真空圧をかけると、製剤の膨張レベルが開始時よりも低くなることが予想外に見出された。そこで、脱気方法を段階的に行って、容器からの製剤のオーバーフローを回避し、真空圧を高めて全体の脱気時間を短縮できるようにする。最初の真空圧は、約-900mbarに設定される。1時間保持した後、真空を解除し、新たな真空圧を約-920mbarに設定し、製剤は以前とほぼ同じレベルまで膨らむ。この圧力を1時間保持した後、解除する。新たな真空圧を約-930mbarに設定する。この方法を繰り返すことで、製品がオーバーフローすることなく最終的な真空圧に到達する。真空を抜くと、いくつかの大きな気泡がつぶれて破裂する。次に、同じ圧力まで真空を引くと、気泡が少なくなるため、真空圧は低くなる。最終的な圧力は、生体適合性溶媒の蒸気圧よりかなり低くして、材料の損失や最終製剤の組成の変更を防ぐ。このように、真空圧を上げることで全体の脱気時間を短縮することができ、段階的に真空圧を上げることでオーバーフローおよび損失を防ぐことができる。その後、脱気された製剤は、すぐに使用できるシリンジに正確に充填することができる。
【0069】
また、より大きな間隔(3×11時間の真空間隔)で脱気すると、不均一なバルク生成物が得られることも予想外に見出された。長い脱気時間の後に勾配が見られることがあり、生理活性物質濃度は脱気容器の底部では高く、表層上部以下を除く脱気容器の上部に向かうにつれて低くなる。脱気により製品が膨張し、製品の全体的な粘度が低下する。製品の粘度が低い状態が長く続くと、生理活性物質リッチ液滴が充填容器の下部に移動してしまう可能性がある。より短時間でより頻繁な脱気/通気サイクルを使用することで、製剤の全体的な膨張を抑え、また製剤が膨張している時間を短縮することができる。これは製品の粘度を高く保ち、不均一性の発生を防ぐことにつながる。したがって、複数のより短い真空/通気サイクルで脱気することが望ましい。
【0070】
特定の実施形態では、脱気は、すべての配合混合工程および濾過工程がある場合にはその後に行われる。脱気工程は、調製された製剤を含む配合容器または脱気容器に-300mbar~-1000mbarの間の相対真空圧を適用し、5分~720分の間の時間の真空を維持し、真空を解除して通気を可能にする4回以上の真空/通気サイクルによって行われ、各真空/通気サイクルで維持される真空レベルは、少なくとも直前のサイクルで維持される真空レベルと同じかそれよりも強い。最初の真空/通気サイクルに対する真空のターゲットは、製剤の粘度および既知の真空下での潜在的膨張レベルに応じて、-300、-400、-500、-600、-700、-800、または-900mbarに設定される。後続の各真空/通気サイクルで維持される真空レベルは、少なくとも直前のサイクルで維持される真空レベルと同じか、それよりも強い。最後のまたは最終的な真空/通気サイクルで維持される真空レベルは、好ましくは-950mbarまたはそれ以上である。
【0071】
別の実施形態では、脱気は、各材料導入/混合工程における配合工程中に実施される。生体適合性溶媒の総量の約90%が配合容器に導入される。生分解性ポリマーは2つ以上の画分に分けられる。生分解性ポリマーの第1の画分は、生体適合性溶媒を含む配合容器中に添加される。生分解性ポリマーの分子量に応じて-300、-400、-500、-600、-700、-800または-900mbarを含む-300~-1000mbarの間のターゲット真空が、混合前または混合中に配合容器に適用される。5分~2時間、または生分解性ポリマーが湿潤もしくは実質的に溶解するまで混合した後、真空を解除して通気する。次に、生分解性ポリマーまたはLHRHアゴニストの後続の各画分を、配合容器内で先に添加した生分解性ポリマーまたはLHRHアゴニストが湿潤または実質的に溶解した後に、配合容器内に別々に順次導入する。生分解性ポリマーの分子量に応じて-300、-400、-500、-600、-700、-800または-900mbarを含む-300から-1000mbarの間のターゲット真空を、混合前または混合中に配合容器に適用する。5分から2時間、または生分解性ポリマーが湿潤または実質的に溶解するまで混合した後、真空を解除して通気する。その後、生分解性ポリマーまたはLHRHアゴニストの後続の各画分は、その前に配合容器に添加された生分解性ポリマーまたはLHRHアゴニストが湿潤または実質的に溶解した後、別々に順次、配合容器に導入される。生分解性ポリマーの分子量に応じた-300、-400、-500、-600、-700、-800または-900mbarを含む-300~-1000mbarの間のターゲット真空が、混合前または混合中に配合容器に適用される。5分から2時間、または生分解性ポリマーが湿潤または実質的に溶解するまで混合した後、真空を解除して通気する。すべての生分解性ポリマーおよびLHRHアゴニストが添加され実質的に溶解されて実質的に気泡のない均質な製剤が形成されるまで、材料導入/真空/混合/通気が繰り返される。後続の各真空/通気サイクルで維持される真空レベルは、少なくとも直前のサイクルで維持される真空レベルと同じかそれよりも強い。最後または最終的な真空/通気サイクルで維持される真空レベルは、好ましくは-950mbarまたはそれ以上である。
【0072】
シリンジへの正確な充填を可能にするために、製品を完全に脱気する必要はない。バルク製品は、充填ノズルからシリンジに押し出された後、これらの気泡の膨張を防ぐのに十分な程度に実質的に脱気される必要がある。製品の高い粘度に起因して、製品をポンプに押し込んでシリンジに充填するには、充填タンクに少なくとも1.0barの圧力をかける必要がある。周囲圧力での充填ノズルからシリンジへの圧力降下は、気泡が多すぎる場合、製品の膨張を引き起こす可能性がある。したがって、本発明の好ましい実施形態では、バルク製品には気泡がほとんどなく、容器内の製品表面にはまだ気泡が残っているのが目視され得る。
【0073】
本発明の好ましい実施態様において、a)生理活性物質またはその塩、b)生体適合性溶媒、およびc)生分解性ポリマーを含む、経済的、実用的、および効率的な制御放出送達システムを形成することにより、制御放出薬物送達のための注射可能な組成物を製造するための方法が提供される。この方法は、原料を混合し、次いで生成物を濾過および脱気することを含み、混合、濾過および脱気は、窒素雰囲気下、15~25℃で60%以下、好ましくは40%以下に制御された湿度下で行われ、濾過は、1~2barの入口圧力および-0.8~-1.0barの出口相対真空で40μmのステンレス鋼メッシュを通して行われ、脱気は-300mbar~-1000mbarの相対真空下で行われ、初期真空圧は下限にあり、段階的または徐々に最終的な真空圧まで上昇させ、生成物のオーバーフローと濃度勾配の形成を防止し、かつ合理的な時間で完了する。得られた製剤は、ポリマーリッチ連続相に懸濁された生理活性物質リッチ液滴の均一な液体懸濁液またはエマルジョンであり、気泡の捕捉は最小限か全くない。
【0074】
本発明の別の好ましい実施態様において、リュープロリドの制御放出薬物送達のための注射可能な組成物を製造するための方法が提供され、該方法は、原料を混合し、生成物を濾過し、そして生成物を脱気することを含み、これらの工程は、窒素、またはアルゴン、または乾燥空気雰囲気下、15~25℃で40%未満の制御された湿度下で実施され、濾過は、脱気工程の前または後に、1~10barの入口圧力および-300~-1000mbarの出口相対真空で40μmのステンレス鋼メッシュを通して行われ、脱気は、-300mbar~-1000mbarの相対真空下で段階的に行われ、脱気サイクル時間は、通気および真空を再設定する前に連続5時間以下である。その後、製剤は任意に低速回転または機械的混合により混合されて、均質性が確保され得る。
【0075】
本発明のさらに別の好ましい実施態様において、リュープロリドの制御放出薬物送達のための注射可能な組成物を製造するための方法が提供され、該方法は、ダブルプラネタリーミキサーまたは同様のミキサー中で原料を添加し、次いで混合しながら同じ容器中で脱気することを含む。脱気は-300mbar~-980mbarの相対真空下で段階的に行われる。その後、濾過を、1~2barの入口圧力および-0.8~-1.0barの出口相対真空で40μmのステンレス鋼メッシュを通して行う。得られた製剤は、ポリマーリッチ連続相に懸濁されたリュープロリドリッチ液滴の均一な液体懸濁液であり、気泡の捕捉は最小限か全くない。好ましくは、組成物は容易に注射可能であり、組成物をシリンジに正確に充填する工程を含むキットに包装されて、すぐに使用できる構成にすることができる。
【0076】
本発明のさらに好ましい一実施形態では、約50%~90%の生体適合性溶媒を混合容器に添加し、続いて生分解性ポリマーを添加する。生分解性ポリマーは、より良好な混合を可能にし、ポリマーが凝集するのを防止するために、一度に、連続的に、または分割して添加することができる。ポリマーの各添加後、混合容器を閉じ、混合中に真空が適用される。これにより、閉じ込められた空気を除去し、混合中の曝気を防ぐことができる。生分解性ポリマーは、等しいかまたは可変の画分で添加することができる。第1の画分が添加された後、混合容器が閉じられ、真空が適用され、生分解性ポリマーが実質的に湿潤するまで混合が行われ、混合が停止され、真空が解除され、次に第2の画分が添加され、混合容器が閉じられ、真空が適用され、添加された画分が実質的に湿潤するまで混合が行われ、混合が停止され、真空が解除され、次の工程に続けられる。この工程は、ポリマーのすべての画分が混合容器に添加され溶解するまで繰り返される。ポリマーは最大30分割またはそれ以上に分割することができる。ポリマーの画分のサイズは、より大きな凝集塊を形成し得る粉末の凝集を回避するようになされ得る。これらの凝集塊は、全体的な混合および溶解時間を増加させる可能性がある。ポリマー粉末の凝集塊は、溶媒に添加する前に、単純な混合または篩い分けによって破壊され得る。かさ密度の大きいポリマー粉末は溶解に時間がかかる。これらの粉末は、溶解時間を短縮するために、さらに粉砕したり、または篩い分けすることができる。
【0077】
本発明のさらに好ましい一実施態様において、生分解性ポリマーは、より良好な混合を可能にし、ポリマーの凝集を防止するために、混合中に材料導入ポートを介して連続的に添加することができる。混合およびポリマー導入は真空下で行われる。
【0078】
生分解性ポリマーを生体適合性溶媒に溶解した後、生理活性物質を溶液に添加する。生理活性物質は、生理活性物質の湿潤または溶解を促進し、凝集の発生を防止するために、一度に添加してもよく、より好ましくは、2回または3回以上、最大20画分に分けて添加してもよい。ポリマーの添加と同様に、生理活性物質は凝集塊が存在しないように溶液に添加されてもよく、これにより全体的な溶解および混合時間が長くなり得る。各画分を添加した後、混合容器が閉じられ、真空が適用され、画分が実質的に湿潤または溶解するまで混合され、混合が停止され、真空が解除され、その後、すべての生理活性物質が添加されるまで次の工程に続く。粉末中の凝集塊または凝集体は、溶液に添加する前に、単純な混合または篩い分けによって破壊され得る。生理活性物質は、次の画分を添加する前に実質的に湿潤させてもよい。生理活性物質が添加されたら、残りの画分(約10%~30%)の生体適合性溶媒を添加して、配合容器に残った粉末を製剤中に洗浄する。あるいは、ポリマー溶液により容易に混合するために、生理活性物質を全生体適合性溶媒の約10~30%に溶解させることもできる。ポリマー溶液に添加する前に生理活性物質を可溶化することで、より粘度の低い溶液において可溶化による気泡の生成が少なくなる。製剤の最終的な組成物はその後、すべての粉末が完全に可溶化され、大部分の気泡が除去されるまで、真空下で混合される。得られた製剤は、気泡をほとんど含まない流動性のある粘性液体懸濁液またはエマルジョンである。
【0079】
あるいは、本発明の別のさらに好ましい実施態様では、約70%~90%の生体適合性溶媒を混合容器に添加し、続いて生分解性ポリマーを添加する。生分解性ポリマーは、より良好な混合を可能にし、ポリマーが凝集するのを防止するために、一度に、連続的に、または別々の画分で添加され得る。生分解性ポリマーは、同じまたは可変の画分において添加され得る。第1の画分が添加された後、ポリマーが実質的に湿潤または溶解するまで混合を開始し、次に第2の画分を添加し、実質的に湿潤または溶解するまで混合し、次の工程に続く。該工程は、ポリマーのすべての画分が添加され溶解するまで繰り返される。ポリマーは最大30画分に分割することができる。ポリマー画分のサイズは、より大きな凝集塊を形成する可能性のある粉末の凝集を回避するようになされ得る。これらの凝集塊は、全体的な混合および溶解時間を増加させる可能性がある。ポリマー粉末の凝集塊は、溶媒に添加する前に、単純な混合または篩い分けによって破壊され得る。かさ密度の大きいポリマー粉末は溶解に時間がかかる。これらの粉末は、溶解時間を短縮するために、さらに粉砕したり、または篩い分けすることができる。
【0080】
本出願のさらに好ましい実施態様では、約70%~90%の生体適合性溶媒を混合容器に添加し、続いて生分解性ポリマーを添加する。生分解性ポリマーは、より良好な混合を可能にし、ポリマーが凝集するのを防止するために、一度に、連続的に、または別々の画分で添加され得る。生分解性ポリマーは、同じまたは可変の画分において添加され得る。第1の画分を添加した後、低い混合速度(20rpm)で混合を開始し、ポリマーが実質的に湿潤または溶解するまで、混合物への空気の混入を制限し、次に、真空を範囲の下限(-300mbar)にセットして製品のオーバーフローを防ぎ、混合速度を上げる(60-90rpm)。その後、真空レベルを上限の範囲(-1000mbar)に段階的に上昇させ、溶液を脱気することができる。ポリマーおよび生理活性物質のすべての画分が添加され溶解するまで、該工程を繰り返す。驚くべきことに、最終的に得られた製剤は、実質的に気泡がなく均一であることが発見された。この工程により、製剤の勾配または不均一性の問題が解決された。
【0081】
生分解性ポリマーを生体適合性溶媒に溶解した後、生理活性物質を溶液に添加する。生理活性物質は、生理活性物質の湿潤または溶解を促進し、凝集の発生を防止するために、一度に添加してもよく、より好ましくは、2回または3回以上、最大20画分に分けて添加してもよい。ポリマーの添加と同様に、生理活性物質は凝集塊が存在しないように溶液に添加されてもよい。各画分を添加した後、ポリマーが実質的に湿潤または溶解するまで混合し、すべての生理活性物質が添加され溶解するまで次の工程に続く。粉末中の凝集塊または凝集体は、溶液に添加する前に、単純な混合または篩い分けによって破壊され得る。生理活性物質は、次の画分を添加する前に実質的に湿潤させてもよい。生理活性物質が添加されたら、残りの画分(約10%~30%)の生体適合性溶媒を添加して、配合容器に残った粉末を製剤中に洗浄する。あるいは、ポリマー溶液により容易に混合するために、生理活性物質を全生体適合性溶媒の約10~30%に溶解させることもできる。ポリマー溶液に添加する前に生理活性物質を可溶化することで、より粘度の低い溶液において可溶化による気泡の生成が少なくなる。製剤の最終的な組成物はその後、すべての粉末が完全に可溶化され、大部分の気泡が除去されるまで、真空下で混合される。得られた製剤は、気泡をほとんど含まない流動性のある粘性液体懸濁液またはエマルジョンである。
【0082】
上記で得られた製剤は、さらに濾過することができる。濾過は、1~10barの入口圧力、および-300~-1000mbarの出口相対真空で40μmステンレス鋼メッシュを通して行われる。得られた製剤は、ポリマーリッチ連続相に懸濁された生理活性物質リッチ液滴の均一な液体懸濁液またはエマルジョンであり、気泡の捕捉は最小限か全くない。好ましくは、組成物は容易に注射可能であり、組成物をシリンジに正確に充填する工程を含むキットに包装されて、すぐに使用できる構成にすることができる。
【0083】
キット中の組成物は、制御された保存条件下で適切な保存可能期間を有するように、適切な期間、好ましくは少なくとも2年間安定である。組成物は、好ましくは、対象に注入されて、その場でインプラントを形成し、そこから生理活性物質が所望の長期間にわたって治療有効量で放出される。
【実施例
【0084】
以下の実施例は、本出願の組成物を例示する。実施例は本発明を限定するものではなく、有用な制御放出薬物送達組成物の製造方法を教示するために提供される。
【0085】
(実施例1:粘性ポリマー溶液の製造)
窒素下、温度15~25℃、相対湿度60%以下の混合容器中で、749gのNMPを添加し、続いてPLAポリマー(Resomer R 202 S,IV 0.22,Evonik lot#R120600501)を、ダブルマリンスタイルインペラーを用いて100rpmの速度で添加した。ポリマー粉末の湿潤を助け、凝集を防ぐために、ポリマーを16画分に分割して添加した。最初の15画分はすべてほぼ同量の約100gであった。最後の画分は100g未満で、ポリマーの総添加量は1508.5gとなり、NMP中の68%ポリマー溶液となった。各ポリマー画分の添加時間は、次のアリコートを添加する前に粉末が実質的に湿潤していることを確認するために、約5分~40分間の範囲であった。大量の気泡が捕捉されたため、ポリマー溶液は不透明に見え、NMPへのポリマーの完全溶解が達成されたかどうかを判断するのは困難であった。ポリマーの完全溶解を確実にするため、溶解を一晩続けた。
【0086】
次いで、溶液を40μmのステンレス鋼メッシュに通して、溶液から粒子状物質またはポリマー凝集体を濾過した。約8barの圧力で溶液をメッシュに通し、約-1000mbarの下流相対真空を引いて、フィルターを通して溶液を引くのを促した。材料を混合容器からフィルターを通して受入容器に通すのに約30分かかった。濾過後、フィルターを調べたが、ポリマーの凝集体は観察されず、ポリマーが完全に溶解していることがわかった。
【0087】
脱気容器に入れて、約-1000mbarの初期真空を適用し、捕捉された大量の空気および生成物の高粘度により、ポリマー溶液が泡立ち始めた。真空レベルを約-300mbarまで下げると、泡立ちが抑えられ、溶液のオーバーフローが防止された。約2.5時間後、真空レベルを徐々に約-1000mbarまで上げ、溶液を真空下に5日間以上放置し、溶液を完全に脱気した。
【0088】
次いで、ポンプのプライミングを補助するために充填タンクに約6barの圧力をかけ、ロータリーピストンポンプ(SV 122V、Optima社製)を用いて溶液を1mLのロングシリンジに充填した。ポンプ回転数2%、用量設定0.32mL、および背面吸収1.00mmで、充填重量370mg±20mgを達成した。
【0089】
(実施例2:粘性製剤の濾過)
NMP溶液中の57.5%のPLA(Evonik Resomer R 202 S、IV 0.22)中に13.5%のメシル酸リュープロリドを含む製剤を濾過するために、孔径約25μmのステンレス鋼フィルターを使用した。2barの入口圧力が用いられ、-800mbar出口相対真空が用いられた。濾過後、製剤を回収し、リュープロリドリッチ相の液滴サイズを分析した。図1は、倒立共焦点顕微鏡を用いた製剤中の液滴の代表的な画像である。液滴はすべて約25μm以下であった。この方法により、かなり均一な分布の液滴を得ることができた。
【0090】
(実施例3:リュープロリドおよびPLAを含む製剤の製造)
リュープロリドを含むPLAポリマー製剤を以下の方法で調製した。最終製剤は、NMP溶液中の約57.5%PLA(Evonik Resomer R 202 S, IV 0.22)中の約13.5%メシル酸リュープロリドであった。混合、濾過、および脱気はすべて窒素下、温度15-25℃、相対湿度40%未満で行われた。PLAの分子量は約16,500ダルトンであった。ポリマー溶液は、実施例1に記載した方法と同様に調製したが、ポリマーを16画分の代わりに4画分に分割する若干の変更を加えた。約330gのNMPを混合容器に加え、続いて、約190.0gのPLAポリマーを加えた。溶液は、すべてのポリマーが実質的に湿潤または溶解するまで混合した。次に約124.3gのPLAを添加し、すべてのポリマーが実質的に湿潤または溶解するまで溶液を再度混合した。次に約124.0gのPLAを加え、すべてのポリマーが実質的に湿潤または溶解するまで溶液を再度混合した。最後に、約50gの残りのPLAを添加し、均一な溶液が得られるまで溶液を混合した。次に、68.0gのメシル酸リュープロリドを溶液に添加し、すべてのメシル酸リュープロリドが実質的に湿潤または溶解するまで混合した。次に67.5gのメシル酸リュープロリドを加え、すべてのメシル酸リュープロリドが実質的に湿潤または溶解するまで混合した。最後に、37.4gのNMPを使用して混合容器の側壁に付着した物質を洗い流し、均一な懸濁液またはエマルジョンが得られるまで製剤を混合した。
【0091】
次に、得られた製剤を、2barの上流圧力および-0.8barの下流真空圧を用いて、40μmのステンレス鋼フィルターに供した。製剤を脱気(受入)容器に濾過した。濾液量は容器の総体積の約1/3であった。その後、初期真空圧-900mbarで製剤を脱気した。約12時間後、真空圧を-950mbarに設定した。製剤は予想に反して脱気容器からオーバーフローし、真空ラインに流入した。これは、-950mbarの真空下で製剤の体積が3倍以上になったことを示している。真空を解除して大気に通気した。その後、真空を再び適用し、段階的に上昇させ、真空圧を上昇させて2時間、-910mbarに設定し、真空を大気に戻した。次いで、真空圧を上昇させ、2時間、-930mbarに設定し、再び真空を大気に戻した。次に、真空圧を上昇させ、2時間、-940mbarに設定し、再び真空を大気に戻した。その後、真空圧を上昇させ、12時間、-950mbarに設定して、真空を大気に戻した。得られた製剤は、実質的に気泡が見られなかった。
【0092】
(実施例4:リュープロリド含有製剤の製造)
リュープロリドを含むポリマー製剤を以下の方法で調製した。最終製剤は、NMP溶液中の58%PLGA(8515 PLGA、Durect lot#A16-088、IV-0.24)中の8%メシル酸リュープロリドであった。混合、濾過、および脱気はすべて、窒素下、温度15-25℃、相対湿度40%未満のアイソレーター内で行われた。PLGAの分子量は約19,800ダルトン、モノマー乳酸とグリコール酸との比率は約85:15または80:20~90:10の間であった。ポリマー溶液は、実施例3に記載した方法と同様に調製したが、ポリマーを4画分に分割する若干の変更を加えた。約90%のNMPを混合容器に添加し、続いて約40%のPLGAポリマーを添加した。すべてのポリマーが実質的に湿潤または溶解するまで溶液を混合した。次に約25%のPLGAを加え、すべてのポリマーが実質的に湿潤または溶解するまで溶液を再度混合した。その後、約25%のPLGAを添加し、すべてのポリマーが実質的に湿潤または溶解するまで溶液を再度混合した。最後に、残りのすべてのPLGA、約10%を添加し、均一な溶液が得られるまで溶液を混合した。次に、約50%のメシル酸リュープロリドを溶液に添加し、すべてのメシル酸リュープロリドが実質的に湿潤または溶解するまで混合した。次に、残りのメシル酸リュープロリド画分を添加し、すべてのメシル酸リュープロリドが実質的に湿潤または溶解するまで内容物を混合した。次に、残りの約10%のNMPを使用して、混合容器の側壁に付着した物質を洗い流した。最後に、均質な懸濁液またはエマルジョンが得られるまで、製剤を少なくとも15分間さらに混合した。
【0093】
次いで、得られた製剤を、2barの上流圧力および-0.8barの下流真空圧を用いて40μmのステンレス鋼フィルターに通し、脱気(受入)容器に供給した。製剤は受入脱気容器の全体積の約1/3を占めた。その後、初期圧力-900mbarで製剤を脱気した。一定時間後、真空圧を-950mbarに設定した。製剤は予想に反して脱気容器をオーバーフローし、真空ラインに流入した。
【0094】
図2に示すように、製剤をオーバーフローさせずに脱気するには、脱気方法の変更が必要である。この実験では、真空圧を-900mbarに設定し、1時間保持した。その後、真空を解除して通気し、いくつかの気泡を破裂させた。真空圧は-920mbarに再設定され、再び1時間保持された。その後、真空を解除して通気し、いくつかの気泡を破裂させた。真空は-930mbarに再設定され、1時間保持された。その後、圧力を解除して通気し、いくつかの気泡を破裂させた。真空は-940mbarに再設定され、1時間保持された。その後、真空を解除して通気し、いくつかの気泡を破裂させた。真空は-950mbarに再設定された。気泡レベルは再び上昇したが、オーバーフローはなかった。このようにして、製剤を-950mbarの圧力で、実施例3と同様にオーバーフローすることなく脱気することができる。この手順を繰り返し、必要に応じて各サイクルの間の真空圧を徐々に上げることができる。
【0095】
(実施例5:リュープロリドおよびPLGAを含む製剤の脱気)
メシル酸リュープロリド8%を含む製剤を、NMP溶液中58%PLGAで調製した。PLGAの分子量は約19,800ダルトン(固有粘度0.24)、モノマー乳酸とグリコール酸との比率は約85:15(80:20~90:10)であった。製剤を脱気した。製剤を異なる4mLバイアルに添加し、各バイアルの体積の10%、25%、33%、50%、および67%に充填した。その後、真空圧を-900mbarに設定した。製剤の体積は、製剤中の気泡が真空下で膨張するにつれてわずかに増加した。その後、真空圧を-950mbarに設定した。図3は、-950mbarでのバイアル内の製剤を示す。67%充填のバイアルはオーバーフローした。50%充填のバイアルは、バイアルのレベルを超えて膨らんだ。10%、25%、および33%充填バイアルはすべて、気泡の膨張により体積が約2倍になったが、バイアル内に留まった。このように、製剤の特定の特性に基づいて、特定の真空圧で使用され得る充填レベルの特定の範囲が存在する。脱気容器のサイズは限られているので、脱気圧力は、製剤がオーバーフローすることなく合理的な時間で脱気できるように調整する必要がある。脱気に適した真空は、製剤の粘度および脱気容器のサイズに依存して-300~-1000mbarの範囲である。
【0096】
(実施例6:粘性製剤の脱気)
ポリマーおよび生理活性物質を可溶化するための混合中に、製剤中に気泡が捕捉される。製剤をシリンジに正確に充填するためには、バルク製剤について大部分脱気する必要がある。一実験では、NMP溶液中の58%PLGA(IV=0.24)中の8%メシル酸リュープロリドの製剤を、容器の半分のレベルまで充填した。その後、容器を-900mbarまで真空下に供した。製剤中の気泡のサイズは大きくなり、製剤レベルは容器の上端近くまで上昇した。-900mbarで1時間後、真空を-950mbarに上げた。すると製剤は泡立ち、容器の側面からこぼれ落ちた。
【0097】
別の実験では、真空圧を-900mbarに設定した。製剤中の気泡のサイズは大きくなり、製剤レベルは容器の上端近くまで上昇した。1時間後、真空は解除され、気泡レベルは減少した。真空は-920mbarに再設定され、再び1時間保持された。その後、圧力が解除され、気泡レベルが低下した。その後、真空度は-930mbarに再設定され、1時間保持された。その後、圧力が解除され、気泡レベルが低下した。その後、真空は-940mbarに再設定され、1時間保持された。その後、真空が解除され、気泡レベルが低下した。その後、真空を-950mbarに再設定した。気泡レベルは再び上昇したが、オーバーフローすることはなかった。このようにして、製剤を-950mbarの圧力で、オーバーフローすることなく脱気することができる。この手順を繰り返し、必要に応じて各サイクルの間の真空圧を徐々に上げることができる。
【0098】
(実施例7:真空圧の範囲)
真空の最適範囲を決定するために、真空圧のレベルを試験した。真空圧が強いほど脱気は速いが、真空圧が強すぎると溶媒が除去されることがある。50%PLGA/NMP溶液を連続真空下で20mLのガラスバイアルに入れた。真空圧-1013.0mbarに供し、指定時間後にポリマー溶液の重量を測定した。表3は、真空圧がNMPの蒸気圧(約0.3mmHg(または相対真空-1012.9mbar)より低いことによるNMPの損失を反映した経時的な重量変化を示している。
【0099】
【表3】
【0100】
製剤からの溶媒の損失を減らすために、弱い真空を使用することができるが、それでも捕捉された気泡を除去するのに十分な高さである。
【0101】
実施例6で脱気した製剤を、脱気前と脱気後に秤量した。重量変化はわずか0.3%であった。これは、使用した真空レベルがNMPの蒸気圧よりかなり低いためである。したがって、容器をオーバーフローさせることなく、組成物の溶媒を除去することなく、製剤を脱気できる真空範囲が得られた。
【0102】
(実施例8:勾配形成)
PLA(Evonik Resomer Select 100 DL 2E-P(精製Resomer R 202S)、IV 0.22)/NMP溶液中のメシル酸リュープロリドの製剤を配合し、次いで10mLシリンジに割り付け、製品の膨張を可能にするために空の10mLシリンジに背面接続した。シリンジを-950mbarの真空中に3日間置き、完全に脱気した。コントロールシリンジ1本は、脱気せずに常圧下に置いた。サンプルは上部および下部でリュープロリド含有量を測定した。その結果、上部画分のリュープロリドの平均濃度は10.7%である一方、下部画分の平均濃度は11.6%であった。コントロールのリュープロリド濃度は、上部画分で11.4%、下部画分で11.5%であった。このように、-950mbarの真空を継続する脱気方法では、予想に反して、容器の下部に、上部よりもはるかに高い濃度のリュープロリドを含む濃度勾配が形成された。
【0103】
(実施例9:サイクルによる脱気)
NMP溶液中の約58%PLA(Evonik Resomer Select 100 DL 2E-P、IV 0.22)中の約10%メシル酸リュープロリドの製剤を、50mLの試験チューブに15mLの標識まで添加した。チューブを-950mbarの真空下に置き、レベルを2倍以上(32mL)に上昇させた。一つの容器は-950mbarに保ち、もう一方の容器は1時間後に大気圧に通気した。その後、-950mbarの真空下に戻した。この真空/通気サイクルを合計6サイクル繰り返した。3サイクル(3時間)後、膨張レベルは約17mLに減少したが、サイクルなしの容器は15時間後でも20mLを超えていた。連続的に脱気した製剤は脱気に22時間以上かかったが、6回の真空/通気サイクルを行った製剤は脱気に10時間かかった。この容器の上部および下部のリュープロリド含有量を分析した。予想に反して、上部、中間部、下部の測定値は非常によく似ており、真空/通気脱気サイクルによる勾配の形成は見られなかった。一方、連続脱気に供した製剤は、上記の実施例8と同様の勾配を示した。
【0104】
真空/通気サイクルを使用することにより、脱気時間が短縮されただけでなく、高レベルの膨張(製剤粘度の低下)に費やされる時間も短縮され、その結果、リュープロリドの再分布が防止されることが予想外に見出された。これは、脱気プロセス中に製剤の均一性を維持するのに重要である。
【0105】
(実施例10:濾過)
PLA/NMP溶液中のメシル酸リュープロリド製剤を配合した後、製剤の半分を-950mbarで平均孔径100μmのフィルターに通し、残りの半分を-950mbarの真空下に直接置いて完全に脱気した。濾過後、製剤を大気圧に戻し、-950mbarの真空下に置いて完全に脱気した。濾過前の製剤は、濾過していないサンプルに比べ、半分の時間で脱気が終了することがわかった。サンプルについてリュープロリドの含有量も測定した。濾過したサンプルは、上部画分で11.1%、下部画分で11.2%のリュープロリド濃度を示し、濾過していないサンプルは、上部画分で10.5%、下部画分で11.2%のリュープロリド濃度を示した。このように、濾過工程は、脱気時間を短縮し、またリュープロリド勾配の形成を減少させるのに役立つ脱気の別のサイクルを付加する。
【0106】
(実施例11:高真空圧下での濾過後の充填)
これまでの実施例で混合後に調製した配合物は、捕捉された空気または気泡を含む。これらの気泡は、圧力下で圧縮することができ、真空下で膨張させることができる。大きな気泡は、ポンプに入る前の充填中に圧縮することができ、ポンプを通過した後は圧力の解除により膨張する。製品の著しい膨張は、充填針先端の液ダレを引き起こし、シリンジ外部の汚染および充填重量のばらつきを引き起こす可能性がある。従って、適切な脱気の程度が必要である。正確な充填のために、どの程度の脱気が許容されるかを調べるために、以下の実験を行った。
【0107】
実施例8に記載のリュープロリドを含む製剤7.5mLを50mL遠心管1本に充填した。チューブを真空チャンバーに入れ、-950mbarまで真空にした。生成物はおよそ18mLの標識まで膨張した。さらに真空を-980mbarにしたところ、生成物は50mLの標識を越えて膨張した。したがって、初期から-950mbarまで、生成物は約2.5倍に膨張した。初期から-980までは7倍以上に膨張した。
【0108】
濾過中にいくつかの大きな気泡を除去するために、上流圧力は大気圧のままとし、下流真空圧を-980mbarに設定した。約450gの製剤を約110分で濾過した。真空を停止した後、体積が約4倍に減少したため、製剤にはまだ多くの気泡が捕捉されていた(図4)。しかし、大きな気泡は取り除かれたように見えた。真空を停止した後、バルク製品中の目に見える気泡は、表面の少量の小さな気泡を除いてほとんど観察されなかった。この程度の脱気であれば、シリンジに充填するためにさらに脱気することなく、そのまま使用できる可能性がある。
【0109】
1.5barの入口圧力、速度10サイクル/分でロータリーピストンポンプを備えた半自動充填機を用いて充填物を650本以上充填し、この範囲で充填されたシリンジ148本の重量を測定した。表4は標準偏差および相対標準偏差による平均充填重量を示している。充填は製剤を完全に脱気したときと同様に正確で、相対標準偏差(RSD)は1%未満であった。このように、より強力な真空下流下でゆっくりと濾過することにより、製造方法においてかなりの時間を節約することができ、製剤を完全に脱気することなく正確な充填を可能にする。バルクは、表面に残りのいくらかの気泡が見える程度で大部分は脱気することができる。これらの結果から、-980mbarの真空圧下で製品が4倍以下に膨張し、目に見える大きな気泡がない限り、正確な充填を達成するためにそれ以上の脱気は必要ないことが実証された。
【0110】
【表4】
【0111】
(実施例12:混合中の脱気)
ロス・ミキサー(Ross Mixers)社製のダブルプラネタリーミキサー(DPM-Qt)を使用して、NMP中のポリマー溶液を作った。最初に、80%のNMPを配合容器に添加した。その後、HV攪拌翼を10RPMで使用しながら、サイドポートから25%のPLAを添加した。添加後、回転数を30RPMに上げた。混合を停止し、さらに25%のポリマーを添加し、30RPMで混合を再開した。3分後、粉末がすべて湿潤したので混合を停止し、次のポリマーを添加した。混合をさらに2分間再開し、粉末を湿潤させた。その後、混合を停止し、別の部分のポリマーをミキサーに添加した。この添加は約1分で組み込まれた。混合を再び停止し、ポリマーの最終添加を行った。30RPMでさらに1分間混合した後、真空を約-1000mbarまで引いた。3分後、生成物を検査したところ、ほとんどの材料が溶解していた。真空下で混合を再開したが、NMPの損失がないように、真空がターゲットの-1000mbarに達した後に配合容器を密閉した。さらに8.5分後、残りの50gのNMPを添加した。その後、混合および真空を再開した。合計1時間後、容器を開け、約550gの透明で均一な溶液を得た。最終的なポリマー溶液には、本質的に気泡がなかった。
【0112】
(実施例13:混合中の脱気)
ロス・ミキサー(Ross Mixers)社製のダブルプラネタリーミキサー(DPM-2)を使用して、NMP中のポリマー溶液を製造した。最初に405gのNMP(全体の90%)を配合容器に添加した。180gのポリビニルピロリドン(PVP K30、平均分子量50k)(全体の40%)を添加し、ボトムクロスバーおよびスクレーパーを備えたHV攪拌翼を用いて混合を開始した。ミキサーは20RPMで運転した。5分後、112.5gのPVP(全体の25%)を配合容器に添加した。さらに5分後、別の112.5gのPVPを配合容器に添加した。さらに5分後、残りの45gのPVPを配合容器に添加した。さらに5分後、残りのNMP(45g)を添加した。合計40分間の混合の後、約-800mbarに真空を引いた。材料の体積が増加した。数分後、真空レベルを約-950mbarまで上昇させた。さらに40分後、容器を開けると、製品は半透明に見え、気泡はわずかに残り、未分散の凝集塊はなかった。製品は非常に均一で滑らかに見えた。
【0113】
(実施例14:リュープロリド製剤の混合中の脱気)
6Lの配合容器において、90%のNMP(1017.9g)を最初に導入し、続いてPLA(Evonik Resomer R 202 S、IV 0.22)の第1の画分を導入した。PLAを、PLAの総量(1529.2g)の40%、25%、25%、10%の4つの画分に分けた。混合を開始し、真空を約-300mbarに引き、混合中はこのレベルを保持した。混合を約30分間続けた。その後、真空を解除して混合を停止し、次のPLAを添加した。PLAのすべての画分が添加および混合されるまで、同じプロセスを4回繰り返した。メシル酸リュープロリドは、それぞれ約33%の3つの画分に分割された。その後、メシル酸リュープロリドの第1の画分を容器に添加し、混合を開始した。所望の混合速度に達すると、真空を約-300mbarに引き、混合中はこのレベルを保持した。混合を約15分間続けた。その後、真空を解除し、混合を停止し、次のメシル酸リュープロリドを添加した。メシル酸リュープロリドのすべての画分が添加および混合されるまで、同じプロセスを3回繰り返した。その後、混合を続けながら最終真空圧が少なくとも-950mbarに達するまで、少なくとも4回の真空および通気のサイクルを通して、真空を段階的に-950mbarまで上昇させた。最終的な製剤は、気泡がほとんど残っていない粘性エマルジョンであった。
【0114】
次いで、得られた製剤を、平均孔径40μmのステンレス鋼メッシュを用いて濾過し、リュープロリド/NMP液滴サイズの分布を狭め、製剤中の潜在的な粒子状物質またはポリマー凝集塊を除去した。濾過は、2barの入口圧力および-800mbarの出口真空圧下で行われた。得られた製剤は、粘度が10,000センチポアズ(cPs)を超えるPLAリッチ連続相に懸濁したリュープロリドリッチ液滴の粘性液体懸濁液であった。該懸濁液は、製剤の表面に、大気圧下で直径が5mmより小さい、目に見える気泡がほとんど捕捉されていなかった。
【0115】
(実施例15:薬物製品の均一性に対する混合時間の影響)
配合容器において、NMPを最初に導入し、次いでNMP溶液中PLAが得られるまでいくつかの画分においてPLAを導入した。次にメシル酸リュープロリドをNMP溶液中PLAに添加した。該溶液を異なる時間混合し、リュープロリド/NMP液滴サイズを分析した。液滴サイズを決定するために、製剤をスライドガラス上のIbidi 2ウェルマイクロインサートに注入し、レーザーは745nm、検出器は436-684nmに設定した倒立多光子共焦点走査顕微鏡を用いて分析した。液滴の画像は、液滴への表面張力の影響を避けるため、スライド表面から10μmの深さで撮影した。画像を収集し、ImageJソフトウェアを使用して処理し、液滴の面積を算出した。以下の表5は、これらの製剤の液滴サイズを示している。液滴のサイズおよびばらつき(RSD)は、混合時間が長くなるにつれて減少した。
【0116】
【表5】
【0117】
混合時間が十分長くない場合、製剤の相分離につながる可能性のある、より大きく不安定な液滴サイズが存在する。これらの大きな液滴サイズは、液滴サイズおよび分布を測定できる倒立共焦点顕微鏡で見ることができる。図5は、完全に混合されなかった製剤の共焦点画像で、液滴サイズが大きくなり、懸濁液が不均一になっていた。したがって、均一で均質な製剤を得るためには、混合に十分な時間をかける必要がある。
【0118】
(実施例16:トリプトレリン製剤の混合中の脱気)
配合容器に、所定量のN-メチルピロリドンおよびPLAまたはPLGAを導入し、気泡の発生を避けるために真空下で混合した。ポリマーが完全に溶解した後、所定量のトリプトレリンメシル酸塩を添加し、完全に溶解するまで真空下で十分に混合し、捕捉された気泡がないか、または大気下で直径5mm未満の目に見える小さな捕捉された気泡を数個有する粘性懸濁液を形成させた。次に、液滴サイズの分布を狭め、製剤中の潜在的な粒子状物質またはポリマー凝集塊を除去するために、20~100μmサイズのステンレス鋼メッシュを用いて懸濁液を濾過した。濾過は、2barの入口圧力および-920mbarの出口真空圧で行った。得られた製剤は、図6に示すように、10,000センチポアズ(cPs)を超える粘度を有するPLAリッチまたはPLGAリッチ連続相に懸濁されたトリプトレリンリッチ液滴の粘性液体懸濁液であった。該懸濁液は、大気下で直径5mm以下の捕捉された気泡がわずかに生成物の表面に見られただけであった。製剤をシリンジの先端から所望の充填量まで充填し、単一のすぐに使用できるシリンジを製造した。あるいは、請求項1に記載の工程による、製剤がシリンジのバレル側から所望の充填量まで充填され、単一のすぐに使用できるシリンジを製造した。
【0119】
(実施例17:ゴセレリン製剤の混合中の脱気)
配合容器に、所定量のN-メチルピロリドンおよびPLAまたはPLGAを導入し、気泡の発生を避けるために真空下で混合した。ポリマーが完全に溶解した後、所定量の硫酸ゴセレリンを添加し、完全に湿潤するまで真空下で十分に混合し、捕捉された気泡がないか、または大気下で直径5mm未満の目に見える小さな捕捉された気泡を数個有する粘性懸濁液を形成させた。得られた製剤は、図7に示すように、10,000センチポアズ(cPs)を超える粘度を有するNMP中のPLAまたはPLGA溶液に懸濁された硫酸ゴセレリン固体粒子の粘性懸濁液であった。該懸濁液は、大気下で直径5mm以下の捕捉された気泡がわずかに生成物の表面に見られただけであった。製剤がシリンジの先端から、またはバレル側から所望の充填量まで充填され、単一のすぐに使用できるシリンジを製造した。
【0120】
当業者には、その広範な発明概念から逸脱することなく、上述した実施形態に変更を加え得ることが理解されよう。したがって、本発明は、開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、具体的な説明によって定義される本発明の精神および範囲内での変更をカバーすることが意図されていることが理解される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】