(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-30
(54)【発明の名称】酸素発生反応触媒
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20240723BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20240723BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20240723BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240723BHJP
B01J 35/70 20240101ALI20240723BHJP
B01J 23/648 20060101ALI20240723BHJP
B01J 37/00 20060101ALI20240723BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20240723BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240723BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/90 X
H01M4/88 K
H01M8/10 101
B01J35/70
B01J23/648 M
B01J37/00 F
B01J37/04 102
B01J37/08
H01M4/92
H01M4/90 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023578080
(86)(22)【出願日】2022-07-20
(85)【翻訳文提出日】2024-01-19
(86)【国際出願番号】 GB2022051878
(87)【国際公開番号】W WO2023002183
(87)【国際公開日】2023-01-26
(32)【優先日】2021-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512269535
【氏名又は名称】ジョンソン マッセイ ハイドロジェン テクノロジーズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Johnson Matthey Hydrogen Technologies Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【氏名又は名称】高岡 健
(74)【代理人】
【識別番号】110002848
【氏名又は名称】弁理士法人NIP&SBPJ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブレイク、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】バートン、サラ
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ、トーマス ロバートソン
【テーマコード(参考)】
4G169
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA08
4G169AA14
4G169BB04A
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC56A
4G169BC56B
4G169BC70A
4G169BC71A
4G169BC72A
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4G169BC74B
4G169BC75A
4G169CB81
4G169CC32
4G169DA06
4G169EA01X
4G169EA01Y
4G169EC02X
4G169EC02Y
4G169EC03Y
4G169EC22X
4G169EC22Y
4G169EC25
4G169FA01
4G169FB05
4G169FB30
4G169FB62
4G169FB78
4G169FC07
4G169FC08
5H018AA06
5H018AS02
5H018AS03
5H018BB01
5H018BB06
5H018BB08
5H018DD08
5H018EE12
5H018HH02
5H018HH05
5H018HH08
5H126BB06
5H126FF04
5H126FF05
5H126GG12
5H126HH01
5H126HH08
(57)【要約】
本発明は、酸素発生反応触媒であって、酸素発生反応触媒は、イリジウム及びタンタルを含む酸化物材料であり、酸素発生反応触媒は、ルチル型結晶構造を有する結晶性酸化物相を含み、結晶性酸化物相は、4.510Åより大きい格子定数aを有し、酸素発生反応触媒は、少なくとも50m2/gのBET表面積を有する、酸素発生反応触媒を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素発生反応触媒であって、前記酸素発生反応触媒は、イリジウム及びタンタルを含む酸化物材料であり、
前記酸素発生反応触媒は、ルチル型結晶構造を有する結晶性酸化物相を含み、
前記結晶性酸化物相は、4.510Åより大きい格子定数aを有し、
前記酸素発生反応触媒は、少なくとも50m
2/gのBET表面積を有する、酸素発生反応触媒。
【請求項2】
前記酸素発生反応触媒中のイリジウム種及びタンタル種の総原子組成に基づいて、60原子%以上95原子%以下の範囲の量で存在するイリジウムと、
前記酸素発生反応触媒中のイリジウム種及びタンタル種の総原子組成に基づいて、5原子%以上40原子%以下の範囲の量で存在するタンタルと、を含む、請求項1に記載の酸素発生反応触媒。
【請求項3】
前記結晶性酸化物相は、イリジウム及びタンタルを含む単相酸化物構造を含む、請求項1又は請求項2に記載の酸素発生反応触媒。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の酸素発生反応触媒の合成方法であって、前記方法は、
イリジウム及びタンタルの化合物の水溶液を準備する工程と、
前記溶液を噴霧乾燥して乾燥粉末を形成する工程と、
前記粉末を500℃未満の温度で焼成することにより前記酸素発生反応触媒を形成する工程と、を含む、方法。
【請求項5】
イリジウム及びタンタルの化合物の水溶液を準備する前記工程は、
イリジウムの化合物の水溶液を準備するサブ工程と、前記水溶液をタンタルの化合物の水溶液と混合するサブ工程と、を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記粉末を焼成することにより前記酸素発生反応触媒を形成する前記工程は、前記粉末を500℃未満で第1の規定時間にわたり焼成するサブ工程と、その後、前記粉末を500℃未満で第2の規定時間にわたり更に焼成するサブ工程と、を含む、請求項4又は請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか一項に記載の酸素発生反応触媒と、第2の電極触媒材料と、を含む、触媒層。
【請求項8】
前記触媒層は、アノード触媒層であり、任意選択で、プロトン交換膜燃料電池用のアノード触媒層である、請求項7に記載の触媒層。
【請求項9】
前記第2の電極触媒材料は、
白金族金属(白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム及びオスミウム)、
金若しくは銀、
卑金属、又は
これらの金属若しくはそれらの酸化物のうちの1つ以上を含む合金若しくは混合物から選択される、請求項7又は請求項8に記載の触媒層。
【請求項10】
前記触媒層における前記酸素発生反応触媒の前記第2の電極触媒材料に対する重量比は、10:1~1:10である、請求項7~9のいずれか一項に記載の触媒層。
【請求項11】
ガス拡散層と、請求項7~10のいずれか一項に記載の触媒層と、を含む、ガス拡散電極。
【請求項12】
イオン伝導性膜と、請求項7~10のいずれか一項に記載の触媒層と、を含む、触媒膜。
【請求項13】
請求項7~10のいずれか一項に記載の触媒層、請求項11に記載のガス拡散電極、又は請求項12に記載の触媒膜を含む、膜電極接合体。
【請求項14】
請求項7~10のいずれか一項に記載の触媒層、請求項11に記載のガス拡散電極、請求項12に記載の触媒膜、又は請求項13に記載の膜電極接合体を備える、燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素発生反応触媒に関し、詳細には、電気化学的燃料電池での使用に好適な高表面積触媒材料に関するが、これに限定されない。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質によって分離された2つの電極を含む電気化学電池である。燃料、例えば、水素、メタノール若しくはエタノールなどのアルコール、又はギ酸が、アノードに供給され、酸化剤、例えば、酸素又は空気が、カソードに供給される。電気化学反応が電極で発生し、燃料及び酸化剤の化学エネルギーが電気エネルギー及び熱に変換される。電極触媒は、アノードにおける燃料の電気化学的酸化、及びカソードにおける酸素の電気化学的還元を促進するために使用される。
【0003】
燃料電池は、通常、使用される電解質の性質に応じて分類される。多くの場合、電解質は、固体ポリマー膜であり、この膜は、電子的に絶縁性であるがイオン伝導性である。プロトン交換膜燃料電池において、膜は、プロトン伝導性であり、アノードで生成されたプロトンは、膜を介してカソードに輸送され、カソードで酸素と結合して水を形成する。
【0004】
プロトン交換膜燃料電池の主な構成要素は、膜電極接合体であり、膜電極接合体は、本質的に5つの層から構成される。中心層は、ポリマーイオン伝導性膜である。イオン伝導性膜の両側には、特定の電気化学反応用に設計された電極触媒を含有する電極触媒層が存在する。最後に、各電極触媒層に隣接して、ガス拡散層が存在する。ガス拡散層は、反応物質が電極触媒層に到達できるようにする必要があり、電気化学反応によって生成される電流を伝導する必要がある。したがって、ガス拡散層は、多孔質であり、導電性である必要がある。膜電極接合体は、いくつかの方法で構築することができる。ガス拡散層に電極触媒層を塗布して、ガス拡散電極を形成してもよい。2つのガス拡散電極をイオン伝導性膜の両側に配置し、互いに積層して、5層膜電極接合体を形成することができる。あるいは、イオン伝導性膜の両面に電極触媒層を塗布して、触媒で被覆されたイオン伝導性膜を形成してもよい。続いて、触媒で被覆されたイオン伝導性膜の両面にガス拡散層を塗布する。あるいは、片側が電極触媒層で被覆されたイオン伝導性膜と、その電極触媒層に隣接するガス拡散層と、イオン伝導性膜の反対側のガス拡散電極とから、膜電極接合体を形成することができる。
【0005】
典型的には、大部分の用途に十分な電力を提供するには、数十又は数百の膜電極接合体が必要とされるので、複数の膜電極接合体を組み立てて、燃料電池スタックを作製する。フローフィールドプレートを使用して膜電極接合体を分離する。プレートは、いくつかの機能、反応物質を膜電極接合体に供給すること、生成物を除去すること、電気的接続を提供すること、及び物理的担体を提供することを行う。
【0006】
燃料電池のアノード又はカソードのいずれかに水電気分解触媒を組み込むことが有益であると証明することができる多くの状況が存在することが知られている。例えば、国際公開第01/15247号には、水を電気分解する目的でアノードに追加の又は第2の触媒組成物を組み込むことにより、セル電圧の反転に対する燃料電池の耐性を向上させることができる方法が記載されている。セル電圧の反転は、セルに燃料が十分に供給されない場合に(例えば、セルの一部への燃料アクセスが遮断された結果として)起こり得る。これが起こると、燃料電池のアノードの電位が高い値に上昇するため、水の電気分解及びアノード構造成分の酸化を含む、燃料の酸化以外の反応がアノードで起こり得る。アノード構造成分の酸化は、アノードの著しい劣化をもたらすおそれがあるため、望ましくない。酸素発生反応を促進する触媒組成物をアノードに組み込むことで、アノード構造成分の酸化よりも水の電気分解を促進することにより、アノードの劣化を低減又は回避することができる。
【0007】
水の電気分解を促進することが有益であり得る状況の別の例とは、燃料電池において、シャットダウン中に窒素などの不活性ガスでアノードガス空間から水素をパージすることが実用的ではない若しくは経済的ではないか、又はしばらくの間アイドル状態であった後に電池を再始動するときである。これらの状況はいずれも、カソード上に空気が存在する一方で、アノード上に水素と空気との混合組成物をもたらし得る。これらの状況下では、Tangら(Journal of Power Sources 158(2006)1306-1312)によって説明されているように、内部セルが存在する可能性があり、内部セルは、カソード上に高電位をもたらす。触媒層が炭素を含有する場合、高電位は、炭素の酸化を引き起こすおそれがあり、この酸化が触媒層の構造に大きなダメージを与える。しかしながら、カソード層が酸素の発生を維持することができるならば、高電位は、炭素の腐食ではなく、水の電気分解に利用することができる。
【0008】
最後に、再生燃料電池では、電極は、二機能性であり、アノード及びカソードの両方が、異なる時点に2種類の電気化学反応タイプを維持することとなる。燃料電池として動作する場合、カソードは、酸素を還元することとなり、アノードは、水素を酸化することとなる。電解槽として動作する場合、カソードは、水素を発生させることとなり、アノードは、酸素を発生させることとなる。したがって、このような燃料電池のアノードに、従来の水素酸化反応触媒及び酸素発生反応触媒の両方を組み込むことは有益であり得、なぜなら、そのような配置では、アノードは、水素酸化反応及び酸素発生反応の両方を効果的に行うことができるためである。
【0009】
酸素発生反応のための様々な電極触媒が当該技術分野で知られている。例えば、国際公開第2005/049199号には、水の電気分解用の触媒が開示されている。例えば、国際公開第11/021034号には、電極触媒と、酸素発生反応触媒と、を含む触媒層が開示されており、酸素発生反応触媒は、イリジウム又は酸化イリジウムと、1つ以上の金属M又はその酸化物と、を含み、Mは、ルテニウムを除く遷移金属及びSnからなる群から選択される。欧州特許第2475034号には、少なくとも1種類の別の無機酸化物成分と組み合わせて酸化イリジウム成分を含む触媒層が記載されている。国際公開第2016/038349号には、火炎噴霧熱分解による酸化イリジウム及び金属酸化物を含む触媒の製造方法が記載されている。しかしながら、改良された酸素発生反応触媒の提供が望まれており、特に、繰り返される反転事象中の膜電極接合体の安定性を改善することができる触媒の提供が望まれている。
【0010】
本発明は、上記の考慮事項に照らして完成された。
【発明の概要】
【0011】
第1の態様では、本発明は、酸素発生反応触媒であって、酸素発生反応触媒は、イリジウム及びタンタルを含む酸化物材料であり、
酸素発生触媒は、ルチル型結晶構造を有する結晶性酸化物相を含み、
結晶性酸化物相は、4.510Åより大きい格子定数aを有し、
酸素発生反応触媒は、少なくとも50m2/gのBET表面積を有する、酸素発生反応触媒を提供する。
【0012】
BET表面積は、少なくとも55m2/g、好ましくは少なくとも60m2/g、より好ましくは少なくとも70m2/gであり得る。表面積の上限は特に限定されず、例えば、200m2/gである。本発明者らは、より高表面積の材料を提供することにより、特に、触媒層中に酸素発生反応触媒を含有する燃料電池膜電極接合体の活性が改善され、繰り返される反転事象中の安定性が改善されることを見出した。BET表面積は、ISO規格9277:2010(en)に従って、77KにおけるN2吸着等温線に基づいて決定することができる。
【0013】
好ましくは、酸素発生反応触媒は、
酸素発生反応触媒中のイリジウム種及びタンタル種の総原子組成に基づいて、60原子%以上95原子%以下の範囲の量で存在するイリジウムと、
酸素発生反応触媒中のイリジウム種及びタンタル種の総原子組成に基づいて、5原子%以上40原子%以下の範囲の量で存在するタンタルと、を含む。
【0014】
イリジウム及びタンタルの量は、材料の調製において含まれるイリジウム及びタンタルのモル量によって決定され、誘導結合プラズマ質量分析(inductively coupled plasma mass spectrometry、ICPMS)を用いて確認することができる。
【0015】
イリジウムは、好適には、酸素発生反応触媒中のイリジウム種及びタンタル種の総原子組成に基づいて、少なくとも65原子%、好ましくは少なくとも70原子%、より好ましくは少なくとも75原子%の量で存在し得る。イリジウムは、好適には、酸素発生反応触媒中のイリジウム種及びタンタル種の総原子組成に基づいて、最大で85原子%の量で存在し得る。好ましい組成では、イリジウムは、酸素発生反応触媒中のイリジウム種及びタンタル種の総原子組成に基づいて、70原子%以上85原子%以下の範囲の量で存在する。より好ましい組成では、イリジウムは、酸素発生反応触媒中のイリジウム種及びタンタル種の総原子組成に基づいて、75原子%以上85原子%以下の範囲の量で存在する。
【0016】
タンタルは、好適には、酸素発生反応触媒中のイリジウム種及びタンタル種の総原子組成に基づいて、少なくとも15原子%の量で存在し得る。タンタルは、好適には、酸素発生反応触媒中のイリジウム種及びタンタル種の総原子組成に基づいて、最大で35原子%、好ましくは最大で30原子%、より好ましくは最大で25原子%の量で存在し得る。好ましい組成では、タンタルは、酸素発生反応触媒中のイリジウム種及びタンタル種の総原子組成に基づいて、15原子%以上30原子%以下、より好ましくは15原子%以上25原子%以下の範囲の量で存在する。
【0017】
酸素発生反応触媒は、任意選択で、イリジウム及びタンタル以外の金属種を、例えば、酸素発生反応触媒中の金属種の総原子組成に基づいて5原子%以下の量で、好適には、酸素発生反応触媒中の金属種の総原子組成に基づいて1原子%以下の量で含んでもよい。好ましくは、イリジウム及びタンタルは、酸素発生反応触媒中に存在する金属種の実質的に全てを構成する。別の言い方をすれば、酸素発生反応触媒中の金属種は、本質的にイリジウム及びタンタルからなり、好ましくはイリジウム及びタンタルからなる。全イリジウム及びタンタルの酸素に対する原子比は、典型的には約1:2である。酸素発生反応触媒は、任意選択で、金属形態の金属種を、例えば、酸素発生反応触媒中の金属種の総原子組成に基づいて5原子%以下、好適には酸素発生反応触媒中の金属種の総原子組成に基づいて1原子%以下の量で含んでもよい。金属形態のそのような金属種は、イリジウム及び/又はタンタルを含んでもよい。
【0018】
結晶性酸化物相は、ルチル型MO2(Mは、金属種)構造を有する。相の同定は、X線回折パターンをPDF-4+データベース、リリース2021を参照して比較することによって行われる。この材料は、ルチル型MO2相と一致する相対反射強度を有するが、純粋なIrO2と一致しない反射位置を有する単結晶酸化物相を含む。別の言い方をすれば、結晶性酸化物相は、イリジウム及びタンタルを含む単一酸化物構造、すなわち混合金属酸化物(単に酸化イリジウム及び酸化タンタルの混合物ではない)であってもよい。結晶性酸化物相は、IrxTayO2[式中、x+y=1である]と記述することができる。例えば、xは、0.60~0.80であってもよく、yは、0.20~0.40であってもよい。特に、xは、0.65~0.75であってもよく、yは、0.25~0.35であってもよい。
【0019】
結晶性酸化物相の格子定数aは、好ましくは4.550Åより大きい。格子定数aの上限は、特に限定されないが、aは、典型的には4.800Å未満、好ましくは4.750Å未満、より好ましくは4.650Å未満である。例えば、格子定数aは、約4.580Åであってもよい。結晶性酸化物相の格子定数cは、3.160Åより大きくてもよく、好ましくは3.170Åより大きくてもよい。格子定数cの上限は、特に限定されないが、cは、典型的には3.200Å未満、好適には3.180Å未満である。例えば、格子定数cは、約3.177Åであってもよい。格子定数a及びcに与えられる値は、周囲温度、すなわち約25℃で得られる。粉末X線回折(PXRD)データは、0.04°ステップで10<2θ<130°の範囲にわたってCuKα放射(λ=1.5406+1.54439Å)を用いて、Bruker AXS D8回折計を使用して反射配置で収集した。格子定数を抽出するために、NIST660 LaB6から収集した参照データを使用して基本パラメータアプローチ[2]を用いてモデル化された反射プロファイルを使用し、Topas[1]を用いてPawley精密化を行った。データを、P42/mnm(IrO2と同じ空間群)のPawleyモデルを用いて20~77°2Θにフィッティングし、格子定数を抽出した。比較のため、ルチル型IrO2は、0.4498nmの結晶相パラメータaを有する。
【0020】
結晶性酸化物相は、4.0nm以上10.0nm以下、好ましくは6nm以上8nm以下の範囲の、(110)hkl反射から計算される結晶子サイズを有してもよい。好適には、(110)hkl反射から計算される結晶子サイズの(002)hkl反射から計算される結晶子サイズに対する比は、1.0以上6.0以下、好適には1.2以上5.5以下、好ましくは2.5以上4.0以下、例えば、2.5以上3.5以下の範囲内である。粉末X線回折(PXRD)データは、0.04°ステップで10<2θ<130°の範囲にわたってCuKα放射(λ=1.5406+1.54439Å)を用いて、Bruker AXS D8回折計を使用して反射配置で収集した。ピーク位相の精密化は、NIST660 LaB6から収集された参照データを用いて、基本パラメータアプローチ[2]を使用してモデル化された反射プロファイルを用いて、Topas[1]を使用して行った。結晶面に沿った結晶子サイズを得るために、ルチル相からの反射を、独立した試料ブロードニングを有するピークのセットを使用してフィッティングする。結晶子サイズは、体積加重カラム高さLVol-IB法を用いて計算される。[3]
【0021】
酸素発生反応触媒はまた、非晶質相、好適には非晶質酸化物相を含んでもよい。非晶質相は、タンタルの酸化物、典型的には五酸化タンタルTa2O5を含んでもよい。酸化物材料の結晶化度、すなわち結晶相と非晶質相との間の面積比は、最大で90%、典型的には最大で80%である。好適には、酸化物材料の結晶化度は、少なくとも60%である。好適には、結晶相及び非晶質相は、酸化物材料の少なくとも90重量%、典型的には少なくとも95重量%、例えば、少なくとも99重量%を構成する。酸化物材料は、本質的に結晶性酸化物相と非晶質相とからなってもよく、好ましくは結晶性酸化物相と非晶質相とからなる。粉末X線回折(PXRD)データは、0.04°ステップで10<2θ<130°の範囲にわたってCuKα放射(λ=1.5406+1.54439Å)を用いて、Bruker AXS D8回折計を使用して反射配置で収集した。結晶化度の決定のため、結晶性酸化物相及び非晶質相のX線散乱データを20~77°2Θの範囲でフィッティングした。結晶相からの寄与と全X線散乱からの寄与とをモデル化するピークからの合計面積を使用して、散乱百分率を計算する。
【0022】
第2の態様では、本発明は、本発明による酸素発生反応触媒の合成方法を提供し、本方法は、
イリジウム及びタンタルの化合物の水溶液を準備する工程と、
溶液を噴霧乾燥して乾燥粉末を形成する工程と、
粉末を500℃未満の温度で焼成することにより酸素発生反応触媒を形成する工程と、を含む。
【0023】
本発明者らは、驚くべきことに、酸素発生反応触媒の製造中に焼成温度を制御することにより、触媒層において改善された特性を有する酸素発生反応触媒を製造することが可能であることを見出した。
【0024】
イリジウム及びタンタルの化合物の水溶液を準備する工程は、イリジウムの化合物の水溶液を準備するサブ工程と、この水溶液をタンタルの化合物の水溶液と混合するサブ工程と、を含んでもよい。
【0025】
イリジウム化合物及びタンタル化合物は、イリジウムのタンタルに対する所望の比をもたらすのに好適な量で提供してもよい。例えば、Ir:Ta比は、7:3などの6~8Ir:2~4Taである。
【0026】
イリジウム化合物及びタンタル化合物の水溶液はそれぞれ、好適なイリジウム化合物又はタンタル化合物を溶解することによって調製してもよく、必要に応じて、化合物の水への溶解を促進するための可溶化剤を添加する。好適なイリジウム化合物は、IrCl3である。適切なタンタル化合物は、TaCl5であり、これは可溶化剤として塩酸を加える必要がある。
【0027】
得られた混合物を噴霧乾燥して乾燥粉末を形成する工程は、例えば、約200~約400℃の入口温度、約2バールのアトマイザー圧力、例えば、約5~約15kg/hrの空気流量で行ってもよい。
【0028】
酸素発生反応触媒を製造する際には、焼成工程が使用される。焼成工程は、1段階焼成工程であってもよく、粉末を500℃未満、好ましくは≦450℃、かつ好ましくは≧400℃で規定時間にわたり焼成することにより酸素発生反応触媒を形成する。あるいは、2段階焼成工程を使用してもよく、粉末を500℃未満、好ましくは≦450℃、かつ好ましくは≧400℃で第1の規定時間にわたり焼成し、その後、500℃未満、好ましくは≦450℃、かつ好ましくは≧400℃で第2の規定時間にわたり更に焼成する。第1の焼成工程及び第2の焼成工程は、同じ温度で行ってもよいか、又は異なる温度で行ってもよい。第1の時間及び第2の時間は、同じであってもよいか、又は異なってもよい。1段階焼成工程の長さ、焼成のための第1の規定時間及び第2の規定時間の長さは、好適には1時間以上、典型的には3時間以上であり得る。1段階焼成工程の長さ、焼成のための第1の規定時間及び第2の規定時間の長さは、好適には最大で10時間であってもよい。
【0029】
任意選択で、第1の焼成工程と第2の焼成工程との間に追加の処理工程を実施してもよく、例えば、粉末を撹拌又は粉砕してもよい。この場合、第2の焼成工程の前に凝集物を破砕することができ、より均一な焼成が可能になるという利点がある。しかしながら、第1の焼成工程及び第2の焼成工程を連続して実施し、第1の焼成工程と第2の焼成工程との間に更なる処理工程を実施しなくてもよい。焼成はまた、凝集物の破砕を促進するためにビーズ又はボールを伴うか又は伴わない回転焼成におけるように、粉末を連続的に撹拌しながら行ってもよい。
【0030】
焼成は、例えば、空気、N2、Ar、He、CO2、CO、O2、H2、及びこれらの混合物などの好適なガス雰囲気中で行ってもよい。好ましくは、焼成は、空気雰囲気中で行う。
【0031】
本発明の酸素発生反応触媒は、様々な電気化学的用途に応用することができる。しかし、特に好ましい用途の一つは、電気化学的燃料電池である。
【0032】
第3の態様では、本発明は、本発明による酸素発生反応触媒と、第2の電極触媒材料と、を含む触媒層を提供する。この場合、本発明の酸素発生反応触媒は、第1の電極触媒である。
【0033】
第2の電極触媒材料は、好適には、
(i)白金族金属(白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、及びオスミウム)、
(ii)金若しくは銀、
(iii)卑金属、
又はこれらの金属若しくはそれらの酸化物のうちの1つ以上を含む合金若しくは混合物から選択され得る。卑金属は、貴金属ではないスズ又は遷移金属である。貴金属は、白金族金属(白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、若しくはオスミウム)、銀、又は金である。好ましい卑金属は、銅、コバルト、ニッケル、亜鉛、鉄、チタン、モリブデン、バナジウム、マンガン、ニオブ、タンタル、クロム、及びスズである。
【0034】
第2の電極触媒材料は、好ましくはイリジウム又はタンタルを含まない。好ましくは、第2の電極触媒材料は、燃料電池のアノード又はカソード、好ましくはアノードの電極触媒材料である。典型的には、第2の電極触媒材料は、イリジウム以外の白金族金属、又はイリジウム以外の白金族金属と、好ましくは卑金属、好ましくは上記で定義された卑金属との合金を含む。特に、第2の電極触媒材料は、白金、又は白金と卑金属、好ましくは上記で定義された卑金属、より好ましくはチタン、バナジウム、クロム、ニオブ、又はタンタルとの合金を含む。あるいは、好ましくは、第2の電極触媒材料は、白金と他の白金族金属、好ましくはロジウム又はルテニウムとの合金を含んでもよい。
【0035】
好ましくは、触媒層は、アノード触媒層、好ましくはプロトン交換膜燃料電池用のアノード触媒層である。
【0036】
触媒層中の第2の電極触媒材料の主金属、例えば、本明細書で定義される白金族金属の担持量は、触媒層の意図される使用に基づいて、特に、触媒層がアノードでの使用を意図されるか、又はカソードでの使用を意図されるかに基づいて選択され得る。好ましくはプロトン交換膜燃料電池用のアノードに使用する場合、触媒層中の主金属、例えば、本明細書で定義される白金族金属の担持量は、好適には0.02~0.2mg/cm2、典型的には0.02~0.15mg/cm2、好ましくは0.02~0.1mg/cm2であってもよい。
【0037】
第2の電極触媒材料は、好ましくは粒子の形態であり、粒子は、担持されてもよいか、又は担持されなくてもよい。「担持される」という用語は、当業者によって容易に理解されるであろう。例えば、「担持される」という用語は、電極触媒粒子が担体材料上に分散しており、物理的又は化学的結合によって担体材料に結合又は固定されていることを意味することが理解されよう。例えば、電極触媒は、イオン結合若しくは共有結合、又はファンデルワールス力などの非特異的相互作用によって担持材料に結合又は固定されてもよい。
【0038】
本発明の酸素発生反応触媒は、好ましくは、担持されもよいか又は担持されなくてもよい粒子、好ましくは担持されていない粒子の形態である。本発明の酸素発生反応触媒は、好ましくは、触媒層中に分散された粒子の形態である。
【0039】
粒子が担持される場合、担体材料は、導電性炭素担体材料であってもよい。好適には、担体材料は、炭素粉末、例えば、カーボンブラック又は黒鉛化カーボンブラック、例えば、市販のカーボンブラック(Cabot Corp.(Vulcan(登録商標)XC72R)又はAkzo Nobel(Ketjen(登録商標)ブラックシリーズ)など)であってもよい。別の好適な炭素担体材料は、アセチレンブラック(例えば、Chevron Phillips(Shawinigan Black(登録商標))又はDenkaから入手可能なもの)である。担体材料はまた、国際公開第2013/045894号に記載されているものなど、燃料電池で使用するために特別に設計された導電性炭素担体材料であってもよい。あるいは、担体材料は、非炭素質材料であってもよい。このような担体材料の例としては、チタニア、ニオビア、タンタラ、炭化タングステン、酸化ハフニウム、又は酸化タングステンが挙げられる。このような酸化物及び炭化物はまた、例えば、ニオブをドープしたチタニアのように、導電性を高めるために他の金属をドープしてもよい。
【0040】
本発明の酸素発生反応触媒と、第2の電極触媒材料とは、同一の担体材料に担持されてもよいか、又は異なる担体材料に担持されてもよい。
【0041】
触媒層における本発明の酸素発生反応触媒の第2の電極触媒材料に対する重量比は、10:1~1:10であってもよい。重量比は、触媒層がアノードでの使用を意図されているか、又はカソードでの使用を意図されているかに応じて選択してもよい。好ましくはプロトン交換膜燃料電池用のアノード触媒層の場合、重量比は、好適には少なくとも0.5:1、好ましくは少なくとも0.75:1である。重量比は、好適には最大で10:1、好ましくは最大で5:1、より好ましくは最大で2:1、更に好ましくは最大で1:1である。好ましくはプロトン交換膜燃料電池用のカソード触媒層の場合、重量比は好適には1:1~1:10、好ましくは1:2~1:5である。
【0042】
触媒層は、本発明による酸素発生反応触媒と、第2の電極触媒材料とに加えて、更なる成分を含んでもよい。このような成分としては、層内のイオン伝導性を改善するために含まれるプロトン伝導性ポリマーなどのイオン伝導性ポリマー、過酸化水素分解触媒、反応物及び水輸送特性を制御するための疎水性添加剤(例えば、表面処理を伴うか又は伴わない、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene、PTFE)又は無機固体などのポリマー)又は親水性添加剤(例えば、酸化物などのポリマー又は無機固体)が挙げられ得るが、これらに限定されない。追加成分の選択は、触媒層がアノード又はカソードで使用されるかどうかに依存し、それは、どの追加の成分が適切であるかを決定するための当業者の能力の範囲内である。
【0043】
触媒層を調製するために、担持された又は担持されていない本発明の酸素発生反応触媒と、担持された又は担持されていない第2の電極触媒材料と、任意の追加の成分とを、水性溶媒及び/又は有機溶媒中に分散させて、触媒インクを調製することができる。必要に応じて、高剪断混合、ミリング、ボールミリング、マイクロフルイダイザーの通過など、又はこれらの組み合わせなどの、当該技術分野において既知の方法によって粒子の破砕を行い、好適な粒径分布を達成することができる。触媒インクの調製後、インクを基材(例えば、ガス拡散層、イオン伝導性膜、又は支持材料/転写基材)上に堆積させて、触媒層を形成してもよい。グラビアコーティング、スロットダイ(スロット、押出)コーティング、スクリーンプリント、ロータリスクリーンプリント、インクジェットプリント、スプレー、塗装、バーコーティング、パッドコーティング、ナイフ又はドクターブレードオーバーロールなどのギャップコーティング技術、及び計量ロッドの適用を含むが、これらに限定されない、当該技術分野において既知の任意の好適な技術によって、インクを堆積してもよい。
【0044】
触媒インクを支持材料/転写基材上にコーティングすることによって、支持材料/転写基材上に触媒層が堆積されると、触媒支持材料/転写基材を形成する。支持材料/転写基材は、後続の工程で層から除去されることが意図される。例えば、触媒層は、デカール転写によって、ガス拡散層又はイオン伝導性膜に転写されてもよく、支持材料/転写基材は、転写プロセスの直後、又はその後のある時点で除去される。
【0045】
支持材料/転写基材を除去する前に、追加の層を触媒層の露出面上に堆積させることができ、例えば、イオン伝導性アイオノマー層は、触媒層の堆積に関して上述したように既知の任意の好適な堆積技術を使用して、アイオノマーの分散液から適用されてもよい。例えば、国際出願PCT/GB2015/050864号に記載されているように、必要に応じて更なる追加の層を追加することができる。支持材料/転写基材は、適切な時点で触媒層から除去される。支持材料/転写基材は、触媒層が損傷することなく除去することができる任意の好適な材料から形成され得る。好適な材料の例としては、フルオロポリマー、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ethylene tetrafluoroethylene、ETFE)、ペルフルオロアルコキシポリマー(perfluoroalkoxy polymer、PFA)、フッ素化エチレンプロピレン(fluorinated ethylene propylene、FEP-ヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンとのコポリマー)、及びポリオレフィン、例えば、二軸延伸ポリプロピレン(biaxially oriented polypropylene、BOPP)が挙げられる。
【0046】
触媒層の特性、例えば厚さ、電極触媒の担持量、多孔率、細孔径分布、平均細孔径、及び疎水性は、それがアノード又はカソードのどちらで使用されているかによって異なる。触媒層の厚さは、好適には少なくとも1μm、典型的には少なくとも5μmであってもよい。触媒層の厚さは、好適には15μm以下、典型的には10μm以下であってもよい。
【0047】
第4の態様では、本発明は、ガス拡散層及び第3の態様による触媒層を含むガス拡散電極を提供する。
【0048】
好ましくは、触媒層は、ガス拡散層に直接隣接する。これは、例えば、触媒層をガス拡散層上に直接堆積させることによって達成してもよい。ガス拡散層は、従来のガス拡散基材をベースとしてもよいか、又は従来のガス拡散基材を含んでもよい。典型的な基材としては、炭素繊維のネットワーク及び熱硬化性樹脂結合剤を含む不織布紙若しくはウェブ(例えば、Toray Industries Inc.(Japan)から入手可能な炭素繊維紙のTGP-Hシリーズ、若しくはFreudenberg FCCT KG(Germany)から入手可能なH2315シリーズ、若しくはSGL Technologies GmbH(Germany)から入手可能なSigracet(登録商標)シリーズ、若しくはBallard Power Systems Inc.製のAvCarb(登録商標)シリーズ)、又は炭素繊維布が挙げられる。炭素紙、ウェブ、又は布は、電極の製造前に前処理を施し、それをより湿潤性(親水性)又はより耐湿潤性(疎水性)のいずれかにするために膜電極接合体に組み込まれ得る。任意の処理の性質は、燃料電池の種類及び使用される動作条件により異なる。基材は、液体懸濁液からの含浸による非晶質カーボンブラックなどの材料を組み込むことにより、湿潤性を高めることができる、又はPTFE若しくはポリフルオロエチレンプロピレン(polyfluoroethylenepropylene、FEP)などのポリマーのコロイド懸濁液で基材の細孔構造を含浸させ、続いてポリマーの軟化点を超えて乾燥及び加熱することによって、疎水性を高めることができる。プロトン交換膜燃料電池などの用途では、触媒層に接触する面のガス拡散基材に微多孔質層を適用してもよい。微多孔質層は、典型的には、カーボンブラックとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのポリマーとの混合物を含む。
【0049】
第5の態様では、本発明は、イオン伝導性膜及び第3の態様による触媒層を含む触媒膜を提供する。
【0050】
ここで、触媒インクを膜上に直接コーティングするか、又は間接的に担体基材若しくは転写基材からの転写によってイオン伝導性膜上に触媒層を堆積するかのいずれかによって、触媒コーティングされたイオン伝導性膜を形成する。イオン伝導性膜は、プロトン交換膜燃料電池における使用に好適な任意の膜であってもよく、例えば、膜は、Nafion(商標)(Chemours Company)、Aquivion(登録商標)(Solvay Specialty Polymers)、Flemion(登録商標)(Asahi Glass Group)、及びAciplex(商標)(Asahi Kasei Chemicals Corp.)などのペルフルオロ化スルホン酸材料をベースとしたものであってもよい。あるいは、膜は、FuMA-Tech GmbHからfumapem(登録商標)P、E又はKシリーズの製品として入手可能なもの、JSR、東洋紡、及び他の企業から入手可能なものなどの、スルホン化炭化水素膜をベースとしたものであってもよい。あるいは、膜は、120℃~180℃の範囲で動作するリン酸でドープされたポリベンゾイミダゾールをベースとしたものであってもよい。
【0051】
イオン伝導性膜構成要素は、イオン伝導性膜構成要素に機械的強度を付与する1つ以上の材料を含んでもよい。例えば、イオン伝導性膜構成要素は、膨張PTFE材料又はナノファイバーネットワーク、例えば、電界紡糸ファイバーネットワークなどの多孔質補強材料を含んでもよい。
【0052】
イオン伝導性膜は、膜の片面若しくは両面上の層として、又は膜内に埋め込まれた層として、層全体を通して又は層内に均一に分散されて、1つ以上の過酸化水素分解触媒を含んでもよい。使用に好適な過酸化水素分解触媒の例は、当業者に既知であり、酸化セリウム、酸化マンガン、酸化チタン、酸化ベリリウム、酸化ビスマス、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化ハフニウム、酸化バナジウム、及び酸化ランタンなどの金属酸化物が挙げられ、好適には、酸化セリウム、酸化マンガン又は酸化チタンであり、好ましくは、二酸化セリウム(セリア)である。
【0053】
イオン伝導性膜構成要素は、任意選択で、再結合触媒、特に、アノード及びカソードからそれぞれ膜に拡散して水を生成することができる未反応のH2及びO2の再結合のための触媒を含んでもよい。好適な再結合触媒は、高表面積酸化物担体材料(シリカ、チタニア、ジルコニアなど)又は炭素担体上の金属(白金、パラジウムなど)を含む。再結合触媒の更なる例は、欧州特許第0631337号、及び国際公開第00/24074号に開示されている。
【0054】
第6の態様では、本発明は、第3の態様による触媒層、第4の態様によるガス拡散電極、又は第5の態様による触媒膜を含む膜電極接合体を提供する。
【0055】
当業者であれば理解するように、膜電極接合体は、少なくとも1つの触媒層を含んでいれば、多くの方法によって構築することができる。例えば、膜電極接合体は、少なくとも一方が本発明の触媒層である2つの触媒層を含み、各触媒層にガス拡散層が塗布された触媒被覆イオン伝導性膜を含んでもよい。代替的に、膜電極接合体は、2つのガス拡散電極の間に挟まれたイオン伝導性膜を含み得、2つのガス拡散電極のうちの少なくとも1つは、本発明のガス拡散電極である。膜電極接合体はまた、1つの触媒層を有する触媒被覆イオン伝導性膜と、イオン伝導性膜の反対面上のガス拡散電極と、を含んでもよく、触媒層及びガス拡散電極のいずれか又は両方は、本発明のものである。
【0056】
本発明の触媒層、ガス拡散電極、触媒膜、及び膜電極接合体を使用することができる電気化学デバイスには、燃料電池、特にプロトン交換膜燃料電池が挙げられる。したがって、第7の態様では、本発明は、第3の態様による触媒層、第4の態様によるガス拡散電極、第5の態様による触媒膜、又は第6の態様による膜電極接合体を含む燃料電池を提供する。本発明の燃料電池は、好ましくは、プロトン交換膜燃料電池である。
【0057】
プロトン交換膜燃料電池は、アノードにおいて水素又は水素富化燃料で動作してもよいか、又はメタノールなどの炭化水素燃料が燃料供給されてもよい。本発明の触媒層、ガス拡散電極、触媒膜、及び膜電極接合体は、膜がプロトン以外の電荷キャリアを使用する燃料電池、例えば、Solvay Solexis S.p.A.、FuMA-Tech GmbHから入手可能なOH-導電性膜においても使用することができる。
【0058】
本発明の触媒層及びガス拡散電極はまた、水性酸及びアルカリ水溶液又は濃リン酸などの液体イオン伝導性電解質を使用する他の低温燃料電池に使用してもよい。本発明の触媒層、ガス拡散電極、触媒膜、及び膜電極接合体が使用され得る他の電気化学デバイスは、水素酸化反応及び酸素発生反応の両方が行われる再生燃料電池のアノード電極としてのものである。
【0059】
本発明の酸素発生反応触媒はまた、プロトン交換膜電解槽のアノードにおいて使用してもよい。したがって、第8の態様では、本発明は、プロトン交換膜電解槽用のアノード触媒層を提供し、このアノード触媒層は、本発明の酸素発生反応触媒を含む。第9の態様では、本発明は、本発明の第8の態様のアノード触媒層を含むプロトン交換膜電解槽を提供する。当業者であれば、このような触媒層と本発明の第3の態様の触媒層との間には類似点があり、本発明の第3の態様の触媒層に関して上述した、プロトン交換膜電解槽のアノードに適合するあらゆる態様は、本発明の第8の態様の触媒層に適用されることを意図していることを理解するであろう。
【0060】
本発明は、そのような組み合わせが明らかに不可欠であるか、又は明示的に回避されることを除いて、記載された態様及び好ましい特徴の組み合わせを含む。具体的には、本発明のいずれの態様も、文脈による別途の要求がない限り、本発明のいずれの他の態様とも組み合わせることができる。いずれの態様の好ましい又は任意選択的な特徴のいずれも、文脈による別途の要求がない限り、本発明のいずれの態様とも、単一又は組み合わせで、組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
本発明の原理を示す実施形態及び実験について、添付の図面を参照してここで説明する。
【0062】
【
図1】本発明による酸素発生反応触媒のX線回折パターンの図である。
【
図2】本発明による膜電極接合体及び他の2つの膜電極接合体について、200mA/cm
2における、反転保持回数に対する電圧及び抵抗のプロットの図である。
【
図3】本発明による膜電極接合体及び他の2つの膜電極接合体について、設定電流密度における反転保持回数に対する炭素腐食を示すプロットの図である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
次に、本発明の態様及び実施形態について、添付の図及び実施例を参照しながら説明する。更なる態様及び実施形態は、当業者には明らかであろう。本明細書で言及される全ての文書は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0064】
3つの異なる材料を調製し、特性評価した。これらのうち第1の材料(「実施例1」)は、本発明による高表面積酸素発生反応触媒である。第2の材料(「比較例1」)は、国際公開第11/021034号に開示されているようなイリジウムタンタル混合酸化物酸素発生反応触媒である。第3の材料(「比較例2」)もまたイリジウムタンタル混合酸化物酸素発生反応触媒であり、国際公開第11/021034号に開示されたものと同様であるが、Ir:Taの比が異なる。
【0065】
以下に示され考察されるように、本発明による酸素発生反応触媒を含むアノードを有する膜電極アセンブリは、OERに対して改善された活性を示すことが見出され、セル反転に対する改善された安定性と、繰り返される反転事象後の低減された炭素損失とを示すことが示された。
【0066】
実施例1:本発明による酸素発生反応触媒の合成
本実施例による酸素発生反応触媒の合成方法は、主に3つの工程に分けることができる。
1)イリジウム及びタンタルの化合物の水溶液を準備する工程、
2)得られた混合物を噴霧乾燥する工程、
3)生成物を焼成して酸素発生反応触媒を形成する工程。
【0067】
TaCl5(Alfa Aesar)を、約100gずつ密封されたアンプルで受け取った。アンプルに刻み目を付けて開け、TaCl5粉末をガラス瓶に注いだ。TaCl5の質量を±0.01gの精度で測定した。200mLの濃HClを量り分け、別のガラス瓶に注いだ。TaCl5を一定の撹拌下、ゆっくりと濃HClに溶解させた。
【0068】
測定したTaCl5の質量を用いて、IrCl3を秤量し、最終的なIr:Ta比を7:3とした。これを、1400mLの脱塩H2Oを含むビーカー中で、一定の撹拌下で溶解させた。この工程を更に4回繰り返し、200mLの濃塩酸中に約100gのTaCl5を含む5つの別々の瓶と、H2Oに溶解したIrCl3を含む5つの対応するビーカーを得た。
【0069】
噴霧乾燥の前に、(濃HCl中の)TaCl5を、対応する(脱塩H2O中の)IrCl3溶液と混合し、撹拌した。この混合物を直径5mmのシリコーンフィードチューブ及び1.0mLノズルを通じて供給し、入口温度290℃、噴霧器圧力2bar、空気流量9kg/hr±0.5kg/hrで噴霧乾燥した(GEA-Niro A/S移動式ユニット噴霧乾燥機)。得られた粉末を粉末瓶に回収し、各TaCl5/IrCl3ペアについてこのプロセスを繰り返した。
【0070】
乾燥したIr/Ta塩化物を含む各粉末瓶からの粉末を別々のるつぼに入れ、450℃の温度で6時間焼成した[室温からの昇温速度は10℃ min-1]。その後、この粉末を14000RPM、ふるいの目開きが0.08cmで粉砕し、凝集物を破砕した。粉砕した粉末を更に450℃で6時間焼成した[室温からの昇温速度は10℃min-1]。このプロセスを各るつぼについて繰り返し、それぞれの最終生成物をローラー上でブレンドした。
【0071】
比較例1:比較酸素発生反応触媒の合成
比較のために、IrTa混合酸化物酸素発生反応触媒を、国際公開第2011/021034号に開示されている従来の方法で調製した。焼成は、500℃の温度で行った。
【0072】
比較例2:Ir:Ta比の異なる比較酸素発生反応触媒の合成
酸素発生反応触媒に対するIr:Ta比の変化の影響を評価するために、比較例1と同じ方法を使用して更なる比較例を調製したが、使用するTaCl5及びIrCl3の量は、最終的なIr:Taの重量比8:2が得られるように調整し、焼成は、500℃の温度で行った。
【0073】
試料のBET表面積分析
製造された酸素発生反応触媒のBET表面積は、ISO規格9277:2010(en)に従って、77KにおけるN2吸着等温線に基づいて決定した。
【0074】
以下の結果を得た。
【0075】
【0076】
実施例1の酸素発生反応触媒は、比較例1及び比較例2の酸素発生反応触媒よりもはるかに高い表面積を示すことが判明した。
【0077】
X線回折分析
図1は、実施例1に従って製造した材料のX線回折パターンを示す。
【0078】
X線データ収集
粉末X線回折(PXRD)データは、0.04°ステップで10<2θ<130°の範囲にわたってCuKα放射(λ=1.5406+1.54439Å)を用いて、Bruker AXS D8回折計を使用して反射配置で収集した。相同定は、PDF-4+データベース、リリース2021を参照し、Bruker AXS Diffrac Eva V4.2(2014)を使用して実施した。その結果、ルチル型MO2相と一致する反射強度を有するが、反射位置がIrO2と一致しない単結晶酸化物相を含むことが判明した。
【0079】
試料のフィッティング
Pawley精密化及びピーク位相精密化を、NIST660 LaB6から収集された参照データを用いて基本パラメータアプローチ[2]を使用してモデル化された反射プロファイルを用いて、Topas[1]を使用して行った。P42/mnm(IrO2と同じ空間群)のPawleyモデルを用いて、20~77°2Θにデータをフィッティングし、格子定数を抽出した。選択された結晶面に沿った結晶子サイズを得るために、ルチル相については、独立した試料依存性の広がりを有するピークのセットを使用して、データを別々にフィッティングした。両方の場合において、結晶化度の計算を可能にするために、任意の非晶質材料からの寄与を、ピークの別個のセットを使用してフィッティングした。全ての結晶子サイズは、体積加重カラム高さLVol-IB法を用いて計算されている[3]。
【0080】
表2は、実施例1で収集したデータから得られた結晶化度、並びに格子定数a及びcを示す。
【0081】
【0082】
表3は、(110)及び(002)のhkl反射から得られた結晶子サイズを示す。
【0083】
【0084】
膜電極接合体の調製
MEA1は、アノードに実施例1の酸素発生反応触媒を含有し、MEA2は、アノードに比較例1の酸素発生反応触媒を含有し、MEA3は、アノードに比較例2の酸素発生反応触媒を含有した。
【0085】
アノード触媒層は、水プロパン-1-オール混合液中に分散させたPFSAアイオノマー、20重量%のPt/C電極触媒材料、及び酸素発生反応触媒を含むインクを形成することによって調製した。この混合物を、全ての触媒が液体中に湿潤して分散されるまで、オーバーヘッドスターラを使用して機械的に撹拌した。次いで、インクをEigerボールミルに通して処理して、十分に分散したインクを形成した。白金担持量は、0.08mgPt/cm2であり、本発明の酸素発生反応触媒又は比較例の酸素発生反応触媒の担持量は、0.067mgIr/cm2であり、白金電極触媒の、本発明の酸素発生反応触媒又は比較酸素発生反応触媒に対する比率は1:0.86であった。
【0086】
カソード触媒層は、50重量%のPt/C電極触媒を含有しており、炭素担体は、国際公開第2013/045894号に記載されているような、燃料電池で使用するために特別に設計された炭素である。カソード触媒層は、水/プロパン-1-オール混合物中に分散したPFSAアイオノマー及び50重量%のPt/C電極触媒を含むインクを形成することによって調製した。この混合物を、全ての触媒が液体中に湿潤して分散されるまで、オーバーヘッドスターラを使用して機械的に撹拌した。次いで、インクをEigerボールミルに通して処理して、十分に分散したインクを形成した。白金担持量は、0.4mgPt/cm2であった。
【0087】
アノードインク及びカソードインクをPTFEシート上に堆積させて触媒層を形成し、PFSA強化膜(厚さ20μm)の両面に適切な層を転写することにより、活性面積が217cm2の触媒被覆イオン伝導性膜を調製した。
【0088】
ガス拡散層を、触媒コーティングされた各イオン伝導性膜の各面に適用して、完全な膜電極接合体を形成した。使用したガス拡散層は、炭素を含有する疎水性微多孔質層と、触媒被覆イオン伝導性膜と接触する面に適用されたPTFEと、を有する炭素繊維紙であった。
【0089】
膜電極接合体の反転試験
MEAを単一セル形式で試験した。最初に、MEAがアノード及びカソードの両方で80℃、圧力100kPa、及び100%RHに保持されるカソード欠乏プロトコル(cathode starvation protocol)を使用して、MEAをコンディショニングした。セルから500mAcm-2の電流を流し、カソードの化学量論を2.0と0.0との間で循環させ、一方でアノードの化学量論を1.5で一定に保った。これらの17回のカソード欠乏イベントの後、MEAを、2.0の一定のカソード化学量論及び500mAcm-2の電流で、2時間維持した。この後、MEAを65℃、周囲圧力、50%RHの実験条件に1時間保持する再コンディショニングプロトコルを実行した。
【0090】
実験条件において、OCVと2000mAcm-2との間のBOL分極曲線を完成させて、寿命初期の性能を評価した。
【0091】
次に、MEAを200mAcm-2に保持し、アノードガス流をN2に切り替えて5分間保持した後、このガス流をH2に戻し、500mAcm-2の電流を15分間流すセル反転サイクルに、MEAを供した。このセル反転サイクルを6回繰り返した後、分極曲線の性能評価を繰り返した。性能試験中のMEAの性能が1Acm-2で0.35V未満になるか、反転保持中のセル電圧が-1.2V未満になるまで、この6回の反転サイクルと分極曲線の性能試験のシーケンスとを繰り返した。
【0092】
図2は、本発明による膜電極接合体MEA1及び他の2つの膜電極接合体MEA2及びMEA3について、200mA/cm
2における、反転保持回数に対する電圧及び抵抗のプロットである。試験の開始時、MEA1では電圧のマイナス値が小さく、本発明の酸素発生反応触媒を含有する触媒層を使用することにより、本質的に活性の高い膜電極接合体が得られることがわかる。更に、この活性は、何回ものセル反転を繰り返しても高いレベルで維持され、セル反転に対する触媒層の高い耐性を示した。また、MEA3は、MEA2よりも良好な活性を保持しており、ベンチマークである比較例1と比較して、比較例2の酸素発生反応触媒を含有する触媒層のセル反転耐性が向上していることを示している。
【0093】
炭素腐食試験
記載した反転サイクルの間、アノード及びカソードの排気ガスのCO2含有量を、Vaisala CARBOCAP(登録商標)二酸化炭素プローブGMP343を使用してモニターした。実験期間中の排気ガス流中のCO2の濃度を積分し、実験中の総C損失を計算する。
【0094】
図3は、反転保持回数の増加に伴う炭素損失を示すグラフである。MEA1は、MEA2及びMEA3の両方と比較して、発生した炭素腐食が著しく少ないことを理解することができる。したがって、本発明の酸素発生反応触媒は、比較例の酸素発生反応触媒に比べて、セル反転によって引き起こされる炭素腐食からのより良好な保護を提供することがわかる。
【0095】
参考文献
1. Topas v4.2/v5.0:General Profile and Structure Analysis Software for Powder Diffraction Data,Bruker AXS,Karlsruhe,Germany,(2003-2015).
2. R.W.Cheary and A.Coelho,J.Appl.Cryst.(1992),25,109-121
3. F.Bertaut and P.Blum(1949)C.R.Acad.Sci.Paris 229,666
【国際調査報告】