(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-30
(54)【発明の名称】シリコンナノワイヤおよび錫を含有する材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/027 20060101AFI20240723BHJP
C01B 33/029 20060101ALI20240723BHJP
B01J 27/135 20060101ALI20240723BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240723BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240723BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240723BHJP
H01M 4/1395 20100101ALI20240723BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20240723BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20240723BHJP
【FI】
C01B33/027
C01B33/029
B01J27/135 M
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01M4/58
H01M4/1395
B82Y40/00
B82Y30/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023579201
(86)(22)【出願日】2022-06-22
(85)【翻訳文提出日】2024-02-21
(86)【国際出願番号】 EP2022066950
(87)【国際公開番号】W WO2022268851
(87)【国際公開日】2022-12-29
(32)【優先日】2021-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523446561
【氏名又は名称】アンワイヤー
【氏名又は名称原語表記】ENWIRES
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【氏名又は名称】笹沼 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100225026
【氏名又は名称】古後 亜紀
(74)【代理人】
【識別番号】100230248
【氏名又は名称】杉本 圭二
(72)【発明者】
【氏名】ダクリシオ・フローリアン
【テーマコード(参考)】
4G072
4G169
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA02
4G072BB04
4G072GG02
4G072GG03
4G072HH04
4G072HH28
4G072JJ14
4G072JJ28
4G072LL02
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4G072UU30
4G169AA03
4G169BA08A
4G169BA08B
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4G169BB08A
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4G169BD12A
4G169BD12B
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4G169BD15A
4G169CB81
4G169DA06
4G169DA08
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA17
5H050CB04
5H050CB08
5H050CB11
5H050EA10
5H050EA23
5H050EA28
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA27
5H050GA29
5H050HA02
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】シリコンナノワイヤを低コストで着実に製造し得る方法を提供する。
【解決手段】本発明の方法は、少なくともハロゲン化錫(SnX2:式中、XはF、Cl、BrおよびIから選択される)と成長支持材とを、反応器のチャンバに導入する工程と、前記ハロゲン化錫(SnX2)および前記成長支持材を固体同士で混合する工程と、前記反応器の前記チャンバに、前記シリコンナノワイヤの少なくとも1種の前駆体化合物を導入する工程と、前記反応器の前記チャンバ内の酸素分子量を減少させる工程と、200℃~900℃の範囲の温度で熱処理を施す工程と、生成物を回収する工程と、を少なくとも含む。各工程は、この順序で実施してもよいし、別の順序で実施してもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンナノワイヤおよび錫を少なくとも含有する複合材料の製造方法であって、
(1)少なくともハロゲン化錫(SnX
2:式中、XはF、Cl、BrおよびIから選択される)と成長支持材とを、反応器のチャンバに導入する工程と、
(1’)前記ハロゲン化錫(SnX
2)および前記成長支持材を固体同士で混合する工程と、
(2)前記反応器の前記チャンバに、前記シリコンナノワイヤの少なくとも1種の前駆体化合物を導入する工程と、
(3)前記反応器の前記チャンバ内の酸素分子量を減少させる工程と、
(4)200℃~900℃の範囲の温度で熱処理を施す工程と、
(5)生成物を回収する工程と、
を少なくとも含む方法。但し、工程(1)、(1’)、(2)、(3)および(4)は、この順序で実施されてもよいが、別の順序で実施されてもよい。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、該方法が、固定床反応器で実施される、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、該方法が、回転および/又は混合用の機構によって動かされるタンブラ型反応器の管状チャンバで実施される、方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法において、前記ハロゲン化錫が、SnCl
2である、方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の方法において、前記ハロゲン化錫と前記成長支持材とを、混合してから前記反応器に導入する、方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法において、前記熱処理を、200℃~900℃、好ましくは300℃~650℃の範囲の温度で行う、方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の方法において、前記熱処理を、1分~5時間、好ましくは10分~2時間、より好ましくは30分~60分施する、方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法において、さらに、
前記シリコンナノワイヤの前記前駆体化合物から生じた有機物をカーボン材料に変換するための後処理工程、
を含む、方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法において、さらに、
工程(5)で得られた前記複合材料を酸性溶液で処理する追加の工程(6)、
を含む、方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法において、前記シリコンナノワイヤの前記前駆体化合物が、シラン化合物またはシラン化合物の混合物である、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、前記シリコンナノワイヤの前記前駆体化合物が、シラン(SiH
4)またはジフェニルシラン(Si(C
6H
5)
2H
2)である、方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の方法において、前記成長支持材が、カーボン系材料、シリコン系材料、ITO系材料、炭素質高分子材料である、方法。
【請求項13】
集電体を有する電極の製造方法であって、
(i)請求項1から12に記載の方法を実施して、シリコンナノワイヤおよび錫を少なくとも含有する複合材料を電極活物質として調製する工程と、
(ii)前記電極活物質を含む組成物で前記集電体の少なくとも一面を被覆する工程と、
を含む、方法。
【請求項14】
正極、負極、および前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータを具備した、リチウム二次電池などのエネルギー貯蔵素子の製造方法であって、
請求項13に記載の方法を実施して少なくとも一方の電極、好ましくは前記負極を作製する工程、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化錫(II)、好ましくは塩化錫(II)を金属シード前駆体とするシリコンナノワイヤの成長方法に関する。この方法は、安価かつ着実であり、適度な温度で進行するとともに、シリコンナノワイヤの直径の制御を可能とする。この方法は、成長支持材の存在下で実施される。この方法で製造されたシリコンナノワイヤ系複合材料は、ナノエレクトロニクス、マイクロエレクトロニクス、スピントロニクス、エネルギー変換、エネルギースカベンジング、センサ、リチウムイオン電池の負極物質などの様々な用途に利用可能である。
【背景技術】
【0002】
特異な性質を持ち、地球上に豊富に存在する元素であるシリコンは、多くのハイテク用途で戦略物質の一つである。実際、シリコンは、太陽電池技術やマイクロエレクトロニクスにおける主要なコンポーネントの一つである。シリコンは、放電電位が低く、理論充電容量が極めて高い(4000mAh/gを超える)ため、リチウムイオン電池への活用で極めて強い関心を集めている。シリコンのその他の利点は、ナノ構造化によってその形態を変えられるという点である。実際、シリコンは、0次元(ナノ粒子)、1次元(ナノワイヤ)、2次元(ナノシート)の形態での利用が可能である。シリコンは、ナノ構造化することにより、リチウム挿入/脱離過程で起こる機械的な歪みに耐える能力が増えることが分かっている。
【0003】
これらの形態の中でも、シリコンナノワイヤ(SiNW)は、その極めて高いアスペクト比から電荷輸送が効率的に行われ易く、リチウムイオン電池の負極への応用に極めて有利であるため、高い注目を浴びている。
【0004】
しかも、その導電率はドーパントで簡単に上げることができるため、スーパーキャパシタ(非特許文献1および非特許文献2)や熱電材料(非特許文献3)にも用途を拡張させることができる。
【0005】
SiNWの各種製造技術は、ボトムアップ(単体シリコンからのナノワイヤ成長)とトップダウン(バルクシリコンのエッチング)の2種類の合成法に大別される。トップダウン法では、出発シリコンの多くが廃棄されるほか、有害な薬品を使用せざるを得ない。ボトムアップ法は、化学気相成長法(CVD)によるものが一般的であり、高品質のナノワイヤを製造することができる。この方法は、シリコンナノワイヤと黒鉛/カーボンの複合材料を製造するのに好適である。このような複合材料を許容可能な価格で工業的に製造することが、電池市場の重要な課題となっている。
【0006】
SiNWの合成は、60年代に気相-液相-固相成長(VLS)メカニズムによるSiNWのボトムアップ製法が登場して以来、あまり進化していない。現在、VLSは、SiNWを合成するための最も著名かつ効率的な方法となっている。よりくわしくは、VLSによる製法は、シリコンウェハ(2次元)やシリコン又はカーボンのナノ粒子(0次元)などの基材に、通常、金属薄膜又は金属ナノ粒子の形をとる成長用シードを組み合わせる方法が主流となっている。
【0007】
金ナノ粒子(AuNP)は、SiNW成長の最も優れたシードとして知られている。実際、Au-Si二元系状態図は、363℃に第一共晶点を示す。このように共晶点が低いことから、(金の融点:1100℃前後に比して)比較的低温での反応が可能であり、反応の大部分をシラン前駆体の熱分解によって進行させることができる。
【0008】
通常、AuNPを「触媒」にしたSiワイヤの成長は、シランやジフェニルシランなどのシリコン前駆体を用いた化学気相成長法(CVD)により行われる。しかし、このような合成は、SiNWの量が僅かな実験室規模でしか行われていない。実際、AuNPの内製には時間とコストがかかり、規模の拡大も困難である。この戦略物質は、SiNWの大量生産を経済的に可能とするには高価過ぎる。
【0009】
他の金属にも、VLSメカニズムを促し、シリコンとの共晶点が低く、二元系状態図にケイ化物相を有さないものがある。例えば、錫、ガリウム、カドミウム、インジウム、ストロンチウム、テルル、鉛等がこのような性質を示す。なかでも、錫は地球上に豊富に存在し、共焦点に関しても232℃と最も低い部類に入る。
【0010】
Jeon等(非特許文献4)は、プラズマ励起化学気相成長法(PECVD)による錫をシードとした太陽電池用途のSiNWの合成を報告している。金属錫の加熱蒸着により、Sn(0)の薄膜がinsituでSiウェハに堆積する。その後、水素/SiCl4のガス流を導入して、SiNWの成長の制御を行う。
【0011】
Ball等(非特許文献5)は、シランを低圧におけるシリコン源として用いたSiNWの合成に、Sn(0)のナノ粒子(NP)を触媒として用いたことを開示している。
【0012】
Dai等(非特許文献6)は、二酸化錫のナノ粒子(SnO2NP)を錫触媒の材料としたことを開示しており、最初にSnO2NPをSn(0)のNPに還元した後、400℃でシランを導入することにより、シリコンナノワイヤが合成される。
【0013】
Ngo等(非特許文献7)は、ITOを250℃でプラズマ励起還元して錫(0)とインジウム(0)の触媒液滴に凝集させたことを開示してている。これらの液滴により、シランの存在下で、500℃でシリコンナノワイヤを成長させることができる。
【0014】
Chockla等(非特許文献8)は、ビス(ビス(トリメチルシリル)アミノ)錫(Sn(HMDS)2)を使用し、超臨界流体-液体-固体合成を実施することで、Sn(0)のシード粒子をinsituで形成した後、トリシランを用いて450℃でSiNWsを直接成長させることができたことを記載している。
【0015】
上記の例には、錫が、SiNW成長のシードとして有望な選択肢であることが示されているが、これらの材料は依然として高価であり、SiNWの大量生産を可能とするものではない。
【0016】
現在、錫をシードとするSiNWの成長には、SnCl2が前駆体として用いられている。例えば、Gerrard E.J. Poinern等(非特許文献9)は、逆ミセル法による錫塩の還元によってSiNW成長のシードとしてのSn金属ナノ粒子を調製したことを報告している。SnNPが形成した後、PECVDを用いてリコンナノワイヤ(SiNW)を成長させる。この調製方法は極めて優秀であるが、多くの工程を伴い、極めて高価で時間もかか点に限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開第2021/018598号
【特許文献2】国際公開第2019/020938号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】S.-T. Lee et al., Nano Today, 2013, 8, 75-97
【非特許文献2】S. Sadki et al., Nanoscale Res. Lett., 2013, 8, 1-5
【非特許文献3】P. Yang et al., Nature, 2008, 451, 163-167
【非特許文献4】Jeon et al., Materials Letters 63 (2009) 777-779
【非特許文献5】Ball et al., CrystEngComm 15 (2013) 3808-3815
【非特許文献6】Dai et al., Nanotechnology 29 (2018) 435301
【非特許文献7】Ngo et al., MRS Proceedings 1258 (2010) 1258-P04-51
【非特許文献8】Chockla et al., Chemistry of Materials 24 (2012) 3738-3745
【非特許文献9】Gerrard E.J. Poinern et al., Journal of Colloid and Interface Science 352 (2010) 259-264
【非特許文献10】Dusanes et al. J Nanopart Res, 2020, 22, 363.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
SiNWという類例がなく、用途の広い材料を各種の産業用途で活用するには、SiNWを大量生産するための着実で経済的な技術が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明では、ハロゲン化錫(II)、好ましくは塩化錫(II)をシード金属前駆体としたシリコンナノワイヤの成長方法について記述する。この方法は、簡単で費用対効果が高く、着実でもある。この方法は、ハロゲン化錫(II)、好ましくは塩化錫(II)の、適度な温度での、錫ナノ粒子へのinsitu変換を利用する。加えて、シリコンナノワイヤの直径の制御を満足に行うことも可能となる。
【0021】
本発明の第1の構成は、シリコンナノワイヤおよび錫を少なくとも含有する複合材料の製造方法にある。この方法は、
(1)少なくともハロゲン化錫(SnX2:式中、XはF、Cl、BrおよびIから選択される)と成長支持材とを、反応器のチャンバに導入する工程と、
(1’)前記ハロゲン化錫(SnX2)および前記成長支持材を固体同士で混合する工程と、
(2)前記反応器の前記チャンバに、前記シリコンナノワイヤの少なくとも1種の前駆体化合物を導入する工程と、
(3)前記反応器の前記チャンバ内の酸素分子量を減少させる工程と、
(4)200℃~900℃の範囲の温度で熱処理を施す工程と、
(5)生成物を回収する工程と、
を少なくとも含む。工程(1)、(1’)、(2)、(3)および(4)は、この順序で実施してもよいし、別の順序で実施してもよい。
【0022】
本発明は、さらに、集電体を有する電極の製造方法に関する。この方法は、
(i)上記の方法を実施して、シリコンナノワイヤおよび錫を少なくとも含有する複合材料を電極活物質として調製する工程と、
(ii)前記電極活物質を含む組成物で前記集電体の少なくとも一面を被覆する工程と、
を含む。
【0023】
本発明は、さらに、正極、負極、および前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータを具備し、少なくとも一方の電極、好ましくは前記負極が、上記の方法によって得られたものである、リチウム二次電池などのエネルギー貯蔵素子の製造方法に関する。
【0024】
第1の例において、複合材料の製造方法は、固定床反応器で実施される。
第2の例において、複合材料の製造方法は、回転および/又は混合用の機構によって動かされるタンブラ型反応器の管状チャンバで実施される。
【0025】
好適な一実施形態において、前記ハロゲン化錫は、SnCl2である。
好適な一実施形態において、前記ハロゲン化錫と前記成長支持材は、混合されてから前記反応器に導入される。
【0026】
好適な一実施形態において、前記熱処理は、200℃~900℃、好ましくは300℃~650℃の範囲の温度で行われる。
好適な一実施形態において、前記熱処理は、1分~5時間、好ましくは10分~2時間、より好ましくは30分~60分施される。
【0027】
好適な一実施形態において、複合材料の製造方法は、さらに、有機物、特には、前記シリコンナノワイヤの前記前駆体化合物から生じた有機物を、カーボン材料に変換するための後処理工程、を含む。
【0028】
好適な一実施形態において、複合材料の製造方法は、さらに、工程(5)で得られた前記複合材料を酸性溶液で処理する追加の工程(6)、を含む。
【0029】
好適な一実施形態において、前記シリコンナノワイヤの前記前駆体化合物は、シラン化合物またはシラン化合物の混合物である。
【0030】
好適な一実施形態において、前記シリコンナノワイヤの前記前駆体化合物は、シラン(SiH4)またはジフェニルシラン(Si(C6H5)2H2)である。
【0031】
好適な一実施形態において、前記成長支持材は、カーボン系材料、シリコン系材料、ITO系材料、炭素質高分子材料である。
【0032】
本発明に係る方法は、ハロゲン化錫、好ましくはSnCl2を、SiNWの製造用の触媒とすることに基づく方法である。この方法は、触媒を前処理せずにワンポット反応で実施できるという点で有利である。
【0033】
本発明は、成長支持材の存在下で実施される。
ハロゲン化錫(好ましくはSnCl2)と成長支持材との組合せは、簡単かつ着実である。SnCl2やその他のハロゲン化錫のような極めて安定した生成物を使用するため、手順を簡単にすることができる。実際、SnCl2やその他のハロゲン化錫と前記成長支持材は、固体同士で混合されるだけでよい。SiNWを例えば金のナノ粒子等に基づいて成長させる方法では、固体/液体を調製したのち、溶剤を蒸発させる必要性がある。本発明に係る方法は、前処理や溶剤なしで実施し得る点で有利である。
【0034】
前記成長支持材の物理的特性を適宜選択すれば、前記ナノワイヤの直径の制御が可能である。各実施例に示すように、SnCl2を用いて製造されるナノワイヤの直径は、成長支持材の特性に直接影響される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】走査型電子顕微鏡法(SEM)により得られたSiナノワイヤ/KS4黒鉛の複合材料(実施例1)の低倍率写真である。
【
図2】走査型電子顕微鏡法(SEM)により得られたSiナノワイヤ/KS4黒鉛の複合材料(実施例1)の高倍率写真である。
【
図3】Siナノワイヤ/KS4黒鉛の複合材料(実施例1)から作製した電池の電位プロファイルを示すグラフ(X軸:電池の容量(mAh)、Y軸:電池の電位(V))である。
【
図4】Siナノワイヤ/KS4黒鉛の複合材料(実施例1)から作製した電池の電位プロファイル(X軸=電池の容量(mAh)、Y軸:電池の電位(V))の微分プロットを示すグラフである。
【
図5】走査型電子顕微鏡法(SEM)により得られたHClによる洗浄工程後のSiナノワイヤ/KS4の複合材料(実施例2)の低倍率写真である。
【
図6】走査型電子顕微鏡法(SEM)により得られたHClによる洗浄工程後のSiナノワイヤ/KS4黒鉛の複合材料(実施例2)の高倍率写真である。
【
図7】HClによる洗浄工程後のSiナノワイヤ/KS4黒鉛の複合材料(実施例2)から作製した電池の電位プロファイルを示すグラフ(X軸:電池の容量(mAh)、Y軸:電池の電位(V))である。
【
図8】走査型電子顕微鏡法(SEM)により得られたSiナノワイヤ/BNB90黒鉛の複合材料(実施例3)の低倍率写真である。
【
図9】走査型電子顕微鏡法(SEM)により得られたSiナノワイヤ/BNB90黒鉛の複合材料(実施例3)の高倍率写真である。
【
図10】Siナノワイヤ/BNB90黒鉛の複合材料(実施例3)から作製した電池の電位プロファイルを示すグラフ(X軸:電池の容量(mAh)、Y軸:電池の電位(V))である。
【
図11】走査型電子顕微鏡法(SEM)により得られたSiナノワイヤ/SLP50黒鉛の複合材料(実施例4)の低倍率写真である。
【
図12】走査型電子顕微鏡法(SEM)により得られたSiナノワイヤ/SLP50の複合材料(実施例4)の高倍率写真である。
【
図13】Siナノワイヤ/SLP50黒鉛の複合材料(実施例4)から作製した電池の電位プロファイルを示すグラフ(X軸:電池の容量(mAh)、Y軸:電池の電位(V))である。
【
図14】走査型電子顕微鏡法(SEM)により得られたSiナノワイヤ/Siナノ粒子の複合材料(実施例5)の低倍率写真である。
【
図15】走査型電子顕微鏡法(SEM)により得られたSiナノワイヤ/Siナノ粒子の複合材料(実施例5)の高倍率写真である。
【
図16】Siナノワイヤ/Siナノ粒子の複合材料(実施例5)から作製した電池の電位プロファイルを示すグラフ(X軸:電池の容量(mAh)、Y軸:電池の電位(V))である。
【
図17】走査型電子顕微鏡法(SEM)により得られた、SiH
4を使って処理してなるSiナノワイヤ/錫/KS4の複合材料(実施例6)の低倍率写真である。
【
図18】走査型電子顕微鏡法(SEM)により得られた、SiH
4を使って処理してなるSiナノワイヤ/錫/KS4の複合材料(実施例6)の高倍率写真である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
「本質的に…からなる」という表現は、明記されている1つ(1種)以上の構成要素(成分)や工程以外に、本発明の特性や性質に大きな影響を与えない構成要素(成分)や工程が本発明の方法や物質(材料)に含まれていてもよいことを意味する。
【0037】
「X~Y」という表現は、特に断りがない限り、境界値を含むものとする。この表現は、対象範囲がXとY、さらには、XからYまでの全ての値を含むことを意味する。
【0038】
本発明の第一の構成は、シリコンナノワイヤを含有する複合材料を、化学気相成長法(CVD)に基づくプロセスで製造する方法にある。前記複合材料は、リチウムイオン電池の負極活物質としての用途に適したものであるが、それ以外の用途も想定できる。
【0039】
この方法で得られたSiNW複合材料は、製造後そのまま使用してもよいし、製造後に後処理に付してもよい。
【0040】
本発明は、シリコン系ナノ構造材料の製造方法に関する。本発明は、ナノ構造シリコン材料、錫および成長支持材の材料を少なくとも含有し、反応性シリコン含有ガス種の化学分解によって得られるシリコン系複合材料を製造する方法に関する。この方法は、化学気相成長法(CVD)の原理に基づくものである。
【0041】
本発明の意味において「ナノ構造材料」という用語は、単体粒子、場合によっては、凝結体の形、または凝集体の形の単体粒子を含む材料であって、その材料の総重量を基準として5重量%以上、好ましくは10重量%以上の粒子の外形の少なくとも1箇所の寸法が1nm~100nmの範囲である材料のことを意味するものと理解されたい。
【0042】
「複合材料」とは、物理的特性または化学的特性が大きく異なる2種以上の構成物質からなる材料のことをいう。
粒子の外形寸法は、任意の既知の方法、特には、走査型電子顕微鏡法(SEM)によって得られる本発明に係る複合材料の画像の解析によって測定できる。
【0043】
(複合材料の製造方法)
本発明は、錫およびSiNWを少なくとも含有する複合材料の製造方法に関する。この方法は、
(1)少なくともハロゲン化錫(Sn(X)2:式中、XはF、Cl、BrおよびIから選択され、好ましくは塩化錫(SnCl2)である)と成長支持材とを、反応器のチャンバに導入する工程と、
(1’)前記ハロゲン化錫(SnX2)および前記成長支持材を固体同士で混合する工程と、
(2)前記反応器の前記チャンバに、前記シリコンナノワイヤの少なくとも1種の前駆体化合物を導入する工程と、
(3)前記反応器の前記チャンバ内の酸素分子量を減少させる工程と、
(4)200℃~900℃の範囲の温度で熱処理を施す工程と、
(5)生成物を回収する工程と、
を少なくとも含む。
【0044】
工程(1)から工程(4)までの順序は、基本的に、この方法を実施する反応器の特性、酸素分子量を減少させる方法、およびシリコンナノワイヤの前駆体化合物を反応器に導入する際の状態(液体または気体)に応じて、上記の順序であってもよいし別の順序であってもよい。
【0045】
第1の例において、この方法は、固定床反応器で実施される。
第2の例において、この方法は、回転および/又は混合用の機構を具備したタンブラ型反応器の管状チャンバで実施される。
【0046】
好ましくは、上記プロセスのあいだ、反応器は閉止されている。
反応器の閉止とは、ガス種の導入をプロセスの初めに行った後、熱処理工程のあいだは反応器がガス流に対し閉止されることを意味する。
【0047】
(プロセスパラメータ)
以下で述べるプロセスパラメータは、この方法の全ての例(固定床反応器、回転および/又は混合用の機構を具備したタンブラ型反応器)に共通する。
【0048】
本発明に係る方法では、成長支持材が、反応器のチャンバに導入される。成長支持材の形態や性質については、後で詳述する。
【0049】
本発明に係る方法は、成長支持材およびハロゲン化錫(SnX2)(以降、触媒と称する)を固体同士で混合する前処理的工程を含む。
【0050】
第1の例において、触媒(SnX2)(式中、XはF、Cl、Br、I)(好ましくは、SnCl2)と成長支持材は、混合されてから反応器に導入される。
【0051】
第2の例において、触媒(SnX2)(式中、XはF、Cl、Br、I)(好ましくは、SnCl2)と成長支持材は、原料として個別に反応器に導入されてから反応器のチャンバ内で混合される。
【0052】
反応器のチャンバ内の酸素分子量を減少させる工程(3)は、各種異なる方法で実施することができる。
反応器のチャンバ内の酸素分子量は、反応器を真空にすることによって、好ましくは、10-1bar(10-2MPa)以下の圧力にすることによって減少させることができる。
【0053】
あるいは、反応器のチャンバ内の酸素分子量は、反応器のチャンバを不活性ガスで洗浄することによっても減少させることができる。
本発明の文脈において「反応器のチャンバを不活性ガスで洗浄する」という表現は、反応器の前ャンバに不活性ガス流を注入することにより、反応器内に存在する気体を、注入した不活性ガスで置換することを意味する。
【0054】
好ましくは、不活性ガスは、窒素ガス(N2)、アルゴンガス(Ar)およびこれらの混合物から選択される。
【0055】
好ましくは、反応器のチャンバは、不活性ガスで少なくとも2回、より好ましくは少なくとも3回洗浄される。
【0056】
好ましくは、工程(3)の終了時の、反応器のチャンバ内の酸素分子量は、反応器のチャンバの総容積を基準として1体積%以下である。
【0057】
好ましくは、前記熱処理は、200~900℃、好ましくは300℃~700℃、さらに好ましくは300℃~650℃の範囲の温度で行われる。
【0058】
好ましくは、熱処理は、低圧、大気圧または0.11~30MPaの範囲の圧力下で行われる。圧力のパラメータは、どの種類の反応器を選択するのかによって決まる。
【0059】
本発明に係るプロセスの過程では、熱処理によって、反応器内の圧力が上昇する可能性がある。この内圧は、どのような熱処理を施すのかに左右され、また、必ずしも制御又は監視されなくてよい。
好ましくは、熱処理は、1分~5時間、好ましくは10分~2時間、より好ましくは30分~60分実施される。
【0060】
一実施形態において、本発明に係る方法は、工程(4)と工程(5)の間に、有機物をカーボン材料に変換するための後処理工程を含む。「有機物」とは、シリコンナノワイヤの前駆体(特には、シラン類および/またはジフェニルシラン)の分解から生じた有機系化学残渣のことを意味する。その工程を実施する場合には、その工程は、本質的に熱処理からなる。有利には、その工程は、不活性雰囲気下、例えば、N2、Ar、Ar/H2の混合物等のようなキャリアガス雰囲気下で、500℃~700℃、好ましくは550℃~650℃の範囲、有利には600℃前後の温度で行われる。
【0061】
一例において、本発明に係る方法は、工程(5)で得られた複合材料を洗浄する追加の工程(6)を含む。
工程(5)の終わりに得られた複合材料は、有機溶剤で洗浄され得る。好ましくは、該有機溶剤は、クロロホルム、エタノール、トルエン、アセトン、ジクロロメタン、石油エーテルおよびこれらの混合物から選択される。
【0062】
あるいは、好適な一実施形態では、工程(5)で得られた複合材料が、実験例の欄(実施例2)で説明するように、酸性溶液で洗浄される。
この変形例では、好ましくは、前記方法が、さらに、工程(6)の後、洗浄後の複合材料を乾燥させるという補助的な工程を含む。
【0063】
乾燥は、例えば、複合材料を、好ましくは40℃以上、より好ましくは60℃以上の温度のオーブンに入れることにより、行うことができる。
好ましくは、乾燥の工程は、15分~12時間、より好ましくは2時間~10時間、さらに好ましくは5時間~10時間続けてもよい。
【0064】
(シリコンナノワイヤの前駆体化合物)
本発明に係る方法では、シリコンナノワイヤの少なくとも1種の前駆体化合物が、反応器のチャンバに導入される。「シリコンナノワイヤの前駆体化合物」とは、本発明に係る方法の実施によってシリコンナノワイヤを形成することが可能な化合物、特に、CVD過程の条件下でシリコンナノワイヤを形成することが可能な化合物のことをいう。
【0065】
その化合物は、液体または気体として反応器のチャンバに導入され得る。その化合物が液体として反応器のチャンバに導入される場合には、その液体は、反応器のチャンバ内の温度と圧力を制御することにより、反応器のチャンバ内で液体が気相状態に変化される。シリコンナノワイヤの前駆体化合物が気相状態である場合に、それを「反応性シリコン含有ガス種」と呼ぶことにする。
【0066】
例えば、SiNWの前記前駆体化合物が、ジフェニルシラン等のように液体である場合には、前記反応器が適切な温度/圧力のパラメータに達した際に液状の前駆体が蒸発してガス種になる。
【0067】
シリコンナノワイヤの前駆体化合物を、キャリアガスとの混合ガスとして反応器に導入してもよい。
前駆体化合物が反応性シリコン含有ガス種の形をとる場合、該前駆体化合物を、キャリアガスとの混合ガスとして反応器のチャンバに導入してもよい(反応性シリコン含有混合ガスを形成してもよい)。例えば、常温/常圧で気体となるSiH4であれば、それ単独で又はキャリアガスとの混合物として、反応器のチャンバに直接導入できる。あるいは、ジフェニルシラン(Ph2SiH2)のような液体の前駆体化合物であれば、プロセスの前処理段階で加熱して蒸気状態に変化させてから、気体として反応器のチャンバに、それ単独で又はキャリアガスとの混合物として導入できる。
【0068】
好ましくは、シリコンナノワイヤの前駆体化合物または「反応性シリコン含有ガス種」は、シラン化合物またはシラン化合物の混合物である。
本発明の目的上、「シラン化合物」という用語は、下記式(I)で示される化合物を言う。
R1-(SiR2R3)n-R4 (I)
(式中、nは、1~10の整数であり、R1、R2、R3およびR4は、互いに独立して、水素、C1~C15アルキル基、C6~C12アリール基、C7~C20アラルキル基および塩化物から選択される)
【0069】
本実施形態において、好ましくは、前記シリコン含有ガス種は、式(I)において、nが1~5の整数であり、R1、R2、R3およびR4が互いに独立して水素、C1~C3アルキル基、フェニルおよび塩化物から選択される、化合物から選択される。
さらに好ましくは、nは、1~3の整数であり、R1、R2、R3およびR4は、互いに独立して、水素、メチル、フェニルおよび塩化物から選択される。
【0070】
本実施形態において、好ましくは、シリコンナノワイヤの前駆体化合物が、シラン、ジシラン、トリシラン、クロロシラン、ジクロロシラン、トリクロロシラン、ジクロロジメチルシラン、フェニルシラン、ジフェニルシラン、トリフェニルシランまたはそれらの混合物から選択される。
【0071】
好ましい一実施形態において、シリコンナノワイヤの前駆体化合物は、シラン(SiH4)またはジフェニルシラン(Si(C6H5)2H2)である。シリコンナノワイヤの前駆体化合物の形態や物理的状態は、反応器の種類や方法上のその他のパラメータに応じて選択される。
【0072】
(反応性シリコン含有混合ガス)
本発明に係るシリコンナノワイヤの前駆体化合物は、気体として、あるいは、前記反応器内で気体に変化する液体として、反応器に導入できる。シリコンナノワイヤは、反応性シリコン含有ガス種が高温で化学分解することによって得られる。該反応性シリコン含有ガス種は、キャリアガスとの混合物であってもよい。以降、この混合物を「反応性シリコン含有混合ガス」と称する。
【0073】
「キャリアガス」とは、還元性ガス、不活性ガス、またはこれらの混合物から選択されるガスのことをいう。
好ましくは、前記還元性ガスは、水素ガス(H2)である。
好ましくは、前記不活性ガスは、アルゴンガス(Ar)、窒素ガス(N2)、ヘリウムガス(He)またはこれらの混合物から選択される。
【0074】
好ましい一実施形態において、前記シリコン含有混合ガスは、その1体積%以上、好ましくは10体積%以上、より好ましくは50体積%以上、さらに好ましくは100体積%をシリコン含有ガス種が構成している。
シリコン含有ガス種とキャリアガスの比率は、前記方法の異なる工程で異なるレベルに変調されてもよい。
【0075】
(触媒)
本発明に係るプロセスでは、触媒(SnX2)(式中、XはF、Cl、BrおよびIからなる群から選択されるハロゲン化物である)が、反応器のチャンバに導入される。
【0076】
本発明の文脈において「触媒」とは、式:SnX2(式中、XはF、Cl、BrおよびIからなる群から選択されるハロゲン化物である)の化合物から選択される化合物のことを指す。
【0077】
好ましくは、本発明の文脈において「触媒」とは、SnCl2のことを指す。該触媒の機能は、SiNWの成長を促すことである。SnX2(特には、SnCl2)は、粒子の形をとることが好ましい。
本発明に係るプロセスは、前記触媒(SnX2)および前記成長支持材を固体同士で混合する工程を含む。
【0078】
本発明の目的上、「固体同士で混合」という用語は、固相状態の原料としての触媒と成長支持材との混合に対応して、成長支持材と前記触媒とを関連付け、かつ/または組み合わせ、かつ/またはブレンド工程に供することで、実質的に均質な組成の材料を得ることを意味する。固体同士での混合は、媒体や溶剤を介さずに行われる。
【0079】
本発明の好適な一実施形態において、有利には、反応器のチャンバへの導入前に触媒(SnX2)(好ましくは、SnCl2)と成長支持材との混合物が調製される。その後、得られた固相混合物が反応器のチャンバに導入されて、上記の工程(2)~(5)が実施される。
【0080】
本実施形態では、固体同士での混合が当業者に公知の任意の工業用混合装置、例えば、ボールミル、アトリッションミル、ハンマーミル、高エネルギーミル、ピンミル、ターボミル、ファインカッティングミル、衝撃ミル、流動床ミル、コニカルスクリューミル、ローターミル、攪拌ビーズミル、ジェットミルなどにより実施できる。前記方法におけるこの工程は、30分を超えないことが好ましい。
【0081】
本発明の好適な他の実施形態において、触媒(SnX2)(好ましくは、SnCl2)および成長支持材の固体同士での混合は、触媒(SnX2)と成長支持材とを原料として反応器のチャンバに導入した後、反応器のチャンバで実施される。本実施形態において、固体同士での混合は、例えば、反応器の混合用の手段および/又は機構によって実行できる。これは、例えば、回転用の機構を具備したタンブラ型反応器を用いた場合に該当する。あるいは、固体同士での混合は、不活性ガス流を反応器のチャンバに注入し、該不活性ガス流で粒子同士を機械的に流動化させて動かし、それにより粒子同士を混合させることによって実行してもよい。
【0082】
本発明において、成長支持材と触媒は、反応器への導入前または導入後に互いに関連付けられる。
本発明の目的上、「関連付けられる」という用語は、成長支持材と触媒が、実質均質な組成の材料を得るために、成長支持材と触媒との混合に相当する関連付け工程に付されたことを意味する。
【0083】
本発明に係るSnX2(好ましくは、SnCl2)と成長支持材との組合せは、簡単かつ着実である。原料としてのSnCl2やその他のハロゲン化錫は、極めて安定した物質であるため、他の触媒と比べて処理を簡略化することができる。実際、SnCl2やその他のハロゲン化錫は、成長支持材と固体同士で混合するだけでよい。これに対し、例えば金のナノ粒子等に基づく成長媒体では、固体/液体を調製したのち、溶剤を蒸発させる必要性がある。
【0084】
成長支持材が2次元の支持材(例えば、ITOガラス、Siウェハ等)である場合、有利には、固体同士での混合により、成長支持材の表面の一部又は全体が触媒で被覆された触媒と成長支持材との混合物が得られる。被覆は、例えば、支持材に触媒の粉末を投下することにより行うことができる。
【0085】
好ましくは、触媒および成長支持材は、0.01~1、より好ましくは0.02~0.5、さらに好ましくは0.05~0.15の範囲の触媒/成長支持材の質量比に従って使用される。
【0086】
本発明に係る触媒および成長支持材の固体同士で混合工程により、成長支持材の表面に複数の粒子成長箇所を形成することができる。
【0087】
(成長支持材)
本発明に係る方法は、成長支持材の存在下で実施される。
例えば、成長支持材は、カーボン系材料、シリコン系材料、ITO系材料、炭素質高分子材料であってもよい。
【0088】
成長支持材は、0次元の物体、1次元の物体、2次元の物体または3次元の物体であってもよい。
例えば、0次元の物体は、シリコンナノ粒子、カーボンブラックナノ粒子等であってもよい。
例えば、1次元の物体は、炭素質ポリマー繊維、カーボンナノチューブ等であってもよい。
例えば、2次元の物体は、シリコンウェハ、グラフェン、ITOガラス等であってもよい。
例えば、3次元の物体は、シリコンマイクロ粒子、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛もしくは膨張黒鉛)、微細化黒鉛などの粉末、または高分子材料などの炭素質媒体であってもよい。
【0089】
シリコン系の支持材は、シリコンナノ粒子、シリコンマイクロ粒子、シリコンウェハからなる群から選択される任意の物質であってもよい。
【0090】
好ましくは、シリコンナノ粒子は、平均粒径が1~100nm、より好ましくは30~50nmである。
好ましくは、シリコンマイクロ粒子は、平均粒径が0.1~30μm、有利には1~15μmである。
好ましくは、シリコンウェハは、平均幅寸法が1cm~45cm、有利には1~10cmである。ITO系支持材は、平均幅寸法が1cm~100cm、有利には1~10cmのITOガラスからなる群から選択される任意の物質であってもよい。
【0091】
カーボン系支持材は、黒鉛、グラフェン、カーボン、より具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、カーボンナノチューブまたはアモルファスカーボン、カーボンナノファイバ、カーボンブラック、膨張黒鉛、グラフェンまたはこれらの2種以上の混合物からなる群から選択される任意の物質であってもよい。
【0092】
支持材の平均粒径は、レーザ回折法によって測定できる。
成長支持材がカーボン系支持材である場合、該成長支持材は、粒子、粒子凝集体、非凝集フレークまたは凝集フレークの形態であってもよい。
【0093】
本例において、カーボン系支持材は、ブルナウアー-エメット-テラー(BET)面積が1~100m2/gの範囲であることが好ましく、より好ましくは1~70m2/gの範囲、さらに好ましくは3~50m2/gの範囲である。
【0094】
本例の好適な一実施形態において、カーボン系材料は、黒鉛、グラフェン、カーボン、好ましくは、平均粒径0.01~50μmの黒鉛粉末から選択される。
【0095】
他の例において、成長支持材は、炭素質高分子材料である。成長支持材としてのポリマーの使用は、国際公開第2021/018598号(特許文献1)に開示されている。
【0096】
成長支持材が炭素質高分子材料である場合、好ましくは、該高分子材料の、熱重量分析法によって測定される分解温度は、200℃以上、好ましくは300℃以上、より好ましくは400℃以上、有利には500℃以上である。
【0097】
本例において、有利には、高分子材料が、合成由来または天然由来の繊維状高分子材料、好ましくは合成由来の繊維状高分子材料から選択される。
【0098】
本例において、より有利には、高分子材料が、ポリベンゾチアゾール類、ポリアミン類、ポリイミド類、ポリウレタン類、ポリベンゾオキサゾール類、ポリアミド類、ポリベンゾイミダゾール類およびこれらの混合物、好ましくはポリアミド類から選択される。
本例において、なおいっそう有利には、高分子材料が、ケブラー(登録商標)としても知られるポリパラフェニレンテレフタルアミドである。
【0099】
成長支持材が高分子材料である場合、本発明に係る方法は、
i)先に定義した方法に従い、高分子材料およびSiNWを含有する複合材料を調製する工程と、
ii)この高分子系複合材料の高分子材料を炭化する工程と、
を含む。
シリコン/高分子の複合材料やシリコン/カーボンの複合材料の調製に適した方法パラメータの詳細は、に国際公開第2021/018598号に開示されている。
【0100】
シリコンナノワイヤの直径は、成長支持材の物理的特性を介して制御することが可能である。この可制御性については、3次元の成長支持材に関する実施例の欄で説明する。
【0101】
実施例の欄で述べるが、SnCl2を用いて製造するナノワイヤの直径は、成長支持材に直接影響される。実際、成長支持材の比表面積が大きくなる(SSA>5m2/g)と、SiNWの平均直径が80~90nm前後になることが分かった。反面、比表面積の低い成長支持材(SSA<5m2/g)の存在下で成長させると、150~160nm前後の平均直径になることが分かった。
【0102】
成長支持材の形態によっても、ナノワイヤの直径を制御することができる。例えば、膨張黒鉛を用いると、平均直径が140nm前後のSiNWが得られる(実施例3)。
【0103】
(ドーピング材料)
一実施形態では、本発明に係る方法において、少なくとも1種のドーピング材料を反応器に導入してもよい。
本発明の意味において「ドーピング材料」という用語は、シリコンの導電性を変えることが可能な材料のことを意味するものと理解されたい。本発明の意味においてドーピング材料とは、例えば、リン原子、ホウ素原子、または窒素原子を豊富に含む材料である。
【0104】
本実施形態において、好適には、ジフェニルホスフィン、トリフェニルボラン、ジフェニルアミンおよびトリフェニルアミンから選択される前駆体により、ドーピング材料が反応器のチャンバに導入される。第1の例において、その導入は、SiNWの成長開始以前に実施される。
【0105】
他の例では、ドーピング材料の前駆体が、反応性シリコン含有混合ガスと一緒に気体として(場合によっては、該混合ガスの一部として)導入される。
【0106】
好ましくは、シリコンナノワイヤの前駆体化合物に対するドーピング材料のモル比は10-4モル%~10モル%、好ましくは10-2モル%~1モル%である。
【0107】
(反応器)
第1の例において、前記方法は、固定床反応器で実施される。
第2の例において、前記方法は、回転および/又は混合用の機構を具備したタンブラ型反応器の管状チャンバで実施される。
【0108】
[第1の例]
第1の例において、前記方法は、固定床反応器で実施される。
● 反応器の特性
好ましくは、固定床反応器は、閉止型反応器である。
本発明に係る方法を実施するのに使用できる反応器は、例えば国際公開第2019/020938号等に開示したとおりである。同文献では、「閉止型反応器」の態様が用いられている。
【0109】
● パラメータ
この第1の例では、反応器を閉じ、該反応器を真空に、好ましくは10-1bar(10-2MPa)以下の圧力にすることにより、該反応器のチャンバ内の酸素分子量の減少が実行され得る。
【0110】
あるいは、反応器のチャンバを不活性ガスで洗浄することにより、該反応器のチャンバ内の酸素分子量を減少させるようにしてもよい。
本発明の文脈において「反応器のチャンバを不活性ガスで洗浄する」という表現は、反応器のチャンバに不活性ガス流を注入することにより、反応器内に存在する気体を、注入した不活性ガスに置換することを意味する。
【0111】
好ましくは、不活性ガスは、窒素ガス(N2)、アルゴンガス(Ar)およびこれらの混合物から選択される。好ましくは、反応器のチャンバは、不活性ガスで少なくとも2回、より好ましくは少なくとも3回洗浄される。
【0112】
好ましくは、工程(3)の終了時の、反応器のチャンバ内の酸素分子量は、反応器のチャンバの総容積を基準として1体積%以下である。
【0113】
本例では、シリコンナノワイヤの前駆体化合物が、一般的に、液体として反応器に導入される。
本例では、触媒、シリコンナノワイヤの前駆体化合物、および成長支持材を、混合物のかたちで反応器に導入してもよい。
【0114】
本例において、好ましくは、反応器が、シリコンナノワイヤの前駆体化合物を受け入れることが可能な第1のゾーンと、成長支持材および触媒を受け入れることが可能な第2のゾーンとの、少なくとも2つの投入ゾーンを有する。
【0115】
一選択形態として、第1投入ゾーンと第2投入ゾーンは、反応器のチャンバ内の同じ高さのところに位置している。
好ましい一選択形態として、第2の投入ゾーンは、第1の投入ゾーンよりも高いところに位置している。
【0116】
● 製造プロセスの各工程
本例において、有利には、本発明に係るプロセスが:
(1’)ハロゲン化錫(SnX2)および成長支持材を混合装置により固体同士で混合する工程と、
(1)工程(1’)で得られた混合物を反応器のチャンバに導入する工程と、
(2)前記反応器の前記チャンバに、前記シリコンナノワイヤの少なくとも1種の前駆体化合物を導入する工程と、
(3)前記反応器の前記チャンバ内の酸素分子量を減少させる工程と、
(4)200℃~900℃の範囲の温度で熱処理を施す工程と、
(5)生成物を回収する工程と、
を備え、工程(1’)および(1)は上記の順序で実施される一方、工程(2)、(3)および(4)は、この順序で実施されてもよいし、別の順序で実施されてもよい。
【0117】
[第2の例]
第2の例において、本発明に係る方法は、回転および/又は混合用の機構を具備したタンブラ型反応器の管状チャンバで実施される。
【0118】
● 反応器の特性
上述のタンブラ型反応器は、加熱炉によって加熱される管状チャンバから少なくとも構成されている。該管状チャンバには、成長支持材とハロゲン化錫触媒を、原料として個別に又は混合物として投入できる。反応器には、回転用の機構および/または混合用の機構が組み込まれている。反応器は、2つの管状チャンバを備えていてもよい。該管状チャンバの長手方向軸は、水平または、水平軸と最大20°の角度を成すように傾斜させてもよい。反応器は、さらに、生成物供給システムおよび生成物排出システムを備え、シリコン-錫/成長支持材の複合材料を半連続的に製造することが可能となっている。タンブラ型反応器は、例えば、ニードルバルブや圧力コントローラ等のような反応器圧力制御装置を具備している。
【0119】
典型的な機械式タンブラ型反応器は、管状チャンバ内の水平軸が螺旋状に回転することによって流動化が生じるレーディゲ(L〇dige:〇はアルファベットのオーのウムラウト付)式流動床反応器である。
【0120】
典型的な他の機械式タンブラ型反応器は、長手方向軸を中心に回転することによって流動化が生じる管状の回転チャンバを具備したものである。
【0121】
● パラメータ
本例は、反応器により、成長支持材と反応性ガス種を構成するシリコンとを接触させるのに有益な流動化を機械的に発生させる点で極めて有利なものとなっている。また、本例は、触媒および成長支持材を直接導入して反応器のチャンバ内で混合することが可能な点でも極めて有利である。
【0122】
本例において、好ましくは、シリコンナノワイヤの前駆体化合物が気体として反応器に導入される。
【0123】
● 製造プロセスの各工程
本例において、有利には、本発明に係るプロセスが:
(1A)少なくとも前記触媒(SnX2)(好ましくは、SnCl2)、さらに、場合によっては、前記成長支持材を、前記反応器の前記管状チャンバに導入する工程と、
(1B)キャリアガス流下で前記管状チャンバを加熱する工程と、
(1’)前記管状チャンバを回転させて、かつ/あるいは、前記混合用の機構を始動させる工程と、
(2)前記管状チャンバに反応性シリコン含有混合ガスを導入する工程と、
(3)混合ガス流で前記反応器の前記チャンバ内の圧力を制御する工程と、
(4)前記管状チャンバ内にて、反応性シリコン含有混合ガス流下で、回転および/又は混合を行いながら、200℃~900℃の範囲の温度で熱処理を施す工程と、
(5)得られた生成物を回収する工程と、
を含む。
【0124】
本例において、大半の工程は、この順序に従って実施する必要がある。しかしながら、工程(1’)の前記回転および/又は混合は、工程(1A)又は工程(1B)の前又は後に開始してもよい。
【0125】
本例では、一変形例として、触媒(SnX2)(好ましくは、SnCl2)および成長支持材をまず固体同士で混合してから管状チャンバに導入した後、上記のように工程(1)~(5)を行うことによってこの方法を実施してもよい点を理解されたい。
【0126】
工程(4)の終了後、反応器を開放し、工程(2)、(3)および(4)をさらに反復することでSiNWの成長を引き続き行ってから生成物を回収するようにしてもよい。
【0127】
本例において、工程(4)の熱処理は、低圧(大気圧より低い圧力)、大気圧、または大気圧より高い圧力で施される。
【0128】
反応器が回転および/又は混合用の機構を具備したタンブラ型反応器である場合には、工程(4)の熱処理を大気圧より高い圧力で実施することが好ましい。
【0129】
(材料の組成)
上記の方法により、成長支持材、シリコンナノワイヤおよび錫粒子を含有する複合材料、好ましくは、本質的にそれらからなる複合材料が得られる。この材料は、ハロゲン化物、特に、塩化物を、微量成分として含んでいてもよい。
【0130】
有利には、得られる複合材料中のSi(シリコン)の含有量が、該材料の総重量を基準として5重量%超、好ましくは20重量%超である。
【0131】
錫粒子は、反応時のハロゲン化錫(II)、特に、塩化錫(II)の分解に由来するものである。好ましくは、複合材料は、該材料の総重量を基準として1重量%~10重量%の範囲、好ましくは1重量%~5重量%の範囲の量の錫粒子(錫)を含有している。
【0132】
残存するハロゲン化錫(II)、特に、塩化錫は、複合材料の酸性処理によって部分的に除去することが可能である(実施例2およびICP分析を参照のこと)。
【0133】
ハロゲン化錫(II)、特に、塩化錫が残存するとは、全てのハロゲン化錫(II)が前記方法の過程でシリコンと反応するわけではないことを指す。この見方は、Dusanes等の研究(非特許文献10:実施例1.dの詳細を参照のこと)と合致しており、それ以外のハロゲン化錫(II)、特に、塩化錫については、前記方法での反応により、SiNWに結び付けられた錫(金属)に変化している。
【0134】
複合材料中に、ハロゲン化物、特に、塩化物による微量成分が見つかる場合がある。通常、ハロゲン化物、特に、塩化物は、材料の総重量に基準として1重量%未満、好ましくは0.1重量%未満である。
【0135】
シリコン含有ガス種が化学気相成長することで得られるシリコン物質は、ワイヤ、ワーム、ロッド又はフィラメントの形態であってもよい。
【0136】
好ましい一実施形態において、シリコン物質は、ナノワイヤの形をとる。
本発明の意味において「ナノワイヤ」という用語は、ワイヤに似た形状をした、ナノメートル径の細長い物体のことを意味するものと理解されたい。
【0137】
好ましくは、シリコンナノワイヤは、直径が1nm~250nmの範囲、より好ましくは10nm~200nmの範囲、さらに好ましくは30nm~180nmの範囲である。
【0138】
シリコン材料のサイズは、当業者に公知の各種の方法で測定することができ、例えば、
カーボン-シリコン複合材料の1つ以上の試料から走査型電子顕微鏡法(SEM)によって得られた画像を解析することによって測定してもよい。
【0139】
有利には、シリコン、好ましくはシリコンナノワイヤは、シリコン系複合材料の総重量を基準として1重量%~70重量%、好ましくは10重量%~70重量%、より好ましくは20重量%~70重量%、さらに好ましくは30重量%~70重量%、有利には50重量%~70重量%を成す。
好ましくは、シリコン系複合材料は、粉末の形で得られる。
【0140】
(シリコン-錫の複合材料の用途)
本発明に係るシリコン複合材料は、負極活物質として、また、リチウムイオン電池の製造に使用できる。
【0141】
集電体を有する電極は、当該技術分野で従来から用いられる製造方法によって製造される。例えば、本発明のシリコン複合材料からなる負極活物質が、バインダ、溶剤および導電剤と混合される。必要に応じて、分散剤を添加してもよい。この混合物を攪拌することにより、スラリーが調製される。次に、集電体にスラリーを塗布してプレス成形することにより、負極が製造される。
【0142】
本発明におけるバインダとしては、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-co-HEP)、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチルなどの、様々な種類のバインダポリマーを使用できる。
【0143】
電極は、当該技術分野で一般的に用いられ、正極と負極との間に配置されるセパレータおよび電解液を具備する、リチウム二次電池の製造に用いることができる。
【実施例】
【0144】
(実施例)
以下の実施例では、特に断りのない場合、含有量および百分率は質量を基準に表示される。
【0145】
(実験素材)
反応器(固定床):ステンレス鋼製反応器(内部容積=1L、直径=100mm、高さ=125mm)。
ボールミル装置:レッチェ(Retsch)社から上市されている型番PM100。
シリコン前駆体:シグマアルドリッチ(Sigma-Aldrich)社から上市されているジフェニルシラン(Si(C6H5)2H2)(CAS番号:775-12-2)。
触媒:ストレムケミカルズ(Strem Chemicals)社から上市されているSnCl2。
黒鉛成長支持材:イメリス(Imerys)社から上市されているBNB90黒鉛(SSA=21.18m2/g)、KS4黒鉛(SSA=24.48m2/g)およびSLP50黒鉛(SSA=4.97m2/g)。
【0146】
シリコンNP:GetNanoMaterials社から上市されている商品記号Si-100(平均粒径=50nm以下)。
導電性フィラー:イメリス(Imerys)社から商品名C-NERGY(登録商標)Actilion GHDR-15-4で上市されている黒鉛粉末。
カーボンブラック:イメリス(Imerys)社から上市されている商品記号Timcal C-NERGY C65(CAS番号:1333-86-4)。
カルボキシメチルセルロース(CMC):アルファエイサー(Alfa-Aesar)社から上市されているカルボキシメチルセルロース(CMC)(CAS番号:9004-32-4)。
スチレンブタジエンゴム(SBR):MTI社から上市されているスチレンブタジエンゴム(SBR)(CAS番号:9003-55-8)。
電解液:ソルビオニック(Solvionic)社から上市されている、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合物(体積1:1)にヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)(1M)が溶解し、かつ、フルオロエチレンカーボネート(FEC)(10重量%)およびビニレンカーボネート(添加剤)(2重量%)を含有してなる電解液。
【0147】
(実施例1:KS4黒鉛/SiNWの複合材料(M1)の合成)
a)KS4黒鉛およびSnCl
2
の、プレ触媒材料としての混合
3gのKS4黒鉛を0.5gのSnCl2と組み合わせて、ボールミル装置の鋼製容器に投入する。次に、3mmの鋼製のボール(40g)を該容器に入れた後、該容器を堅く閉じる。これらの粉末を、400rpmで10分30秒かけて混合する。
ふるいでボールを取り除いて、プレ触媒材料を回収する。
【0148】
b)シリコンナノワイヤの成長(プロセス1)
ステップa)で得られた材料を、固定床反応器内のガラス製カップに載せる。次に、50mLのジフェニルシラン(Ph2SiH2,)を該反応器の底に注ぐ。
反応器を密閉した後、ガスラインと加熱素子を該反応器に接続する。次に、該反応器を真空にするとともに、N2によるパージを数回行って酸素濃度を下げる。その後、反応器の外表面と接触させた電気抵抗体によって反応器を加熱する。加熱サイクルは次のとおりである:20℃から430℃まで30分かけて昇温させ、430℃を60分間維持し、加熱を中断した後、反応器を室温まで冷却する。最後に、反応器を開いて複合材料を回収する。
【0149】
c)
黒鉛/錫/シリコンの複合材料の後処理(プロセス2)
Ph
2SiH
2の分解によって生じた有機物を、熱処理により炭化させる。
プロセス1で得られた複合材料を、坩堝に入れた後、石英製の水平チューブ加熱炉に装入する。加熱炉の入口にはアルゴン(Ar)と水素ガス(H
2)のガスラインが接続されており、アルゴンと水素の量比を97.5:2.5(v/v)に制御して、材料に対して連続的に流す。熱処理は、600℃まで6℃/分の速度で昇温して2時間実行し、その後、自然冷却させる。最後に、加熱炉を開いて複合材料M1を回収する。
図1および
図2は、平均直径80nmのSiNW101,201を含有する複合材料M1のSEM写真である。
【0150】
d)
図2の説明
図2は、KS4黒鉛203の表面に分布した、SiNW201と小型の点状物202との混合物を示している。これらの小型の点状物202は、SiNWの成長時にSiと反応するには小さ過ぎた錫の粒子である。この解釈は、Dusanes等の研究と整合している。
【0151】
(実施例2:KS4黒鉛/錫/シリコンNWの「洗浄」複合材料(M2)の合成)
ステップa)、b)およびc)については、実施例1と同じである。
d)
KS4黒鉛/シリコンの複合材料の洗浄(プロセス3)
磁石付きビーカーに、10gの複合材料M1を入れる。次に、ビーカーに100mlのHCl(5体積%)を投入する。この混合物を、600rpmで1時間撹拌する。1時間後、その混合物を、フィルターを装着したブフナー漏斗でろ過した後、pHが6~7になるまで蒸留水で洗浄する。最後に、余剰の水を、エタノールを添加して除去する。その後、ろ滓を60℃の恒温槽で一晩乾燥させ、複合材料M2を回収する。
図5および
図6は、平均直径80nmのSiNW501,601を含有する複合材料M3を示している。
【0152】
(実施例3:BNB90黒鉛/錫/SiNWの複合材料(M3)の合成)
a)BNB90黒鉛およびSnCl
2
の、プレ触媒材料としての混合
3gのBNB90黒鉛を0.5gのSnCl2と組み合わせて、ボールミル装置の鋼製容器に投入する。次に、3mmの鋼製のボール(40g)を容器に入れた後、容器を堅く閉じる。黒鉛-SnCl2の材料を、400rpmで10分30秒かけて混合する。
ふるいでボールを取り除いて、プレ触媒材料を回収する。
【0153】
b)シリコンナノワイヤの成長(プロセス1)
ステップa)で得られたプレ触媒材料を、固定床反応器内のガラス製カップに載せる。次に、50mLのジフェニルシラン(Ph2SiH2,)を反応器の底に注ぐ。
【0154】
反応器を密閉した後、ガスラインと加熱素子を反応器に接続する。次に、反応器を真空にするとともに、N2によるパージを数回行って酸素濃度を下げる。その後、反応器の外表面と接触させた電気抵抗体によって反応器を加熱する。加熱サイクルは次のとおりである:20℃から430℃まで30分かけて昇温させ、430℃を60分間維持し、加熱を停止した後、反応器を室温まで冷却する。最後に、該反応器を開いて複合材料を回収する。
【0155】
c)
BNB90黒鉛/錫/シリコンの複合材料の後処理(プロセス2)
Ph
2SiH
2の分解によって生じた有機物を、熱処理により炭化させる。
プロセス1で得られた複合材料を、坩堝に入れた後、坩堝を石英製の水平チューブ加熱炉に装入する。加熱炉の入口にはアルゴン(Ar)と水素ガス(H
2)のガスラインが接続されており、アルゴンと水素の量比を97.5:2.5(v/v)に制御して、材料に対して連続的に流す。熱処理は、600℃まで6℃/分の速度で昇温して2時間実行し、その後、自然冷却させる。最後に、加熱炉を開いて複合材料M3を回収する。
図8および
図9は、BNB90黒鉛802上の平均直径145nmのSiNW801,901を含有する複合材料M3を示している。
【0156】
表1に、実施例1(後処理なし)および実施例3(HCl洗浄過程あり)のSiナノワイヤ/KS4の複合材料のICP分析結果を示す。
【0157】
【0158】
(実施例4:SLP50黒鉛/錫/SiNWの複合材料(M4)の合成)
a)SLP50黒鉛およびSnCl
2
の、プレ触媒材料としての混合
3gのSLP50黒鉛を0.5gのSnCl2と組み合わせて、ボールミル装置の鋼製容器に投入する。次に、3mmの鋼製のボール(40g)を容器に入れた後、容器を堅く閉じる。SLP50-SnCl2の材料を、400rpmで10分30秒かけて混合する。
ふるいでボールを取り除いて、プレ触媒材料を回収する。
【0159】
b)シリコンナノワイヤの成長(プロセス1)
ステップa)で得られたプレ触媒材料を、固定床反応器内のガラス製カップに載せる。次に、50mLのジフェニルシラン(Ph2SiH2,)を該反応器の底に注ぐ。
【0160】
反応器を密閉した後、ガスラインと加熱素子を該反応器に接続する。次に、反応器を真空にするとともに、N2によるパージを数回行って酸素濃度を下げる。その後、反応器の外表面と接触させた電気抵抗体によって反応器を加熱する。加熱サイクルは次のとおりである:20℃から430℃まで30分かけて昇温させ、430℃を60分間維持した後、加熱を中断した後、反応器を室温まで冷却する。最後に、該反応器を開いて複合材料を回収する。
【0161】
c)
SLP50黒鉛/錫/シリコンの複合材料の後処理(プロセス2)
Ph
2SiH
2の分解によって生じた有機物を、熱処理により炭化させる。
プロセス1で得られた複合材料を、坩堝に入れた後、石英製の水平チューブ加熱炉に装入する。加熱炉の入口にはアルゴン(Ar)と水素ガス(H
2)のガスラインが接続されており、アルゴンと水素の量比を97.5:2.5(v/v)に制御して、材料に対して連続的に流す。熱処理は、600℃まで6℃/分の速度で昇温して2時間実行し、、その後、自然冷却させる。最後に、加熱炉を開いて複合材料M4を回収する。
図11および
図12は、SLP50黒鉛1102,1202上の平均直径158nmのSiNW1101,1201を含有する複合材料M4を示している。
【0162】
(実施例5:シリコンNP/錫/シリコンNWの複合材料(M5)の合成)
a)Siナノ粒子およびSnCl
2
の、プレ触媒材料としての混合
1gのシリコンNPを190mgのSnCl2と組み合わせて、ボールミル装置のジルコニア製容器に投入する。次に、10mmのジルコニア製のボールを容器に入れた後、容器を堅く閉じる。SiNP-SnCl2の材料を、400rpmで10分30秒かけて混合する。
ふるいでボールを取り除いて、プレ触媒材料を回収する。
【0163】
b)シリコンナノワイヤの成長(プロセス1)
ステップa)で得られたプレ触媒材料を、固定床反応器内のガラス製カップに載せる。次に、50mLのジフェニルシラン(Ph2SiH2,)を該反応器の底に注ぐ。
【0164】
反応器を密閉した後、ガスラインと昇温体を該反応器に接続する。次に、反応器を真空にするとともに、N2によるパージを数回行って酸素濃度を下げる。その後、反応器の外表面と接触させた電気抵抗によって該反応器を加熱する。加熱サイクルは次のとおりである:20℃から430℃まで30分かけて昇温させ、430℃を60分間維持した後、加熱を中断した後、反応器を室温まで冷却する。最後に、反応器を開いて複合材料を回収する。
【0165】
c)
Siナノ粒子/錫/シリコンの複合材料の後処理(プロセス2)
Ph
2SiH
2の分解によって生じた有機物を、熱処理により炭化させる。
プロセス1で得られた複合材料を、坩堝に入れた後、石英製の水平チューブ加熱炉に装入する。加熱炉の入口にはアルゴン(Ar)と水素ガス(H
2)のガスラインが接続されており、アルゴンと水素の量比を97.5:2.5(v/v)に制御して、材料に対して連続的に流される。熱処理は、600℃まで6℃/分の速度で昇温して2時間実行し、、その後、自然冷却させる。最後に、加熱炉を開いて複合材料M5を回収する。
図14および
図15は、平均直径165nmのSiNW1401,1501を含有する複合材料M5を示している。
【0166】
(実施例6:KS4黒鉛/錫/SiNWの複合材料(M6)の合成)
a)KS4黒鉛およびSnCl
2
の、プレ触媒材料としての混合
35gのSLP50黒鉛を2.73gのSnCl2と組み合わせて、ボールミル装置の鋼製容器に投入する。次に、10mmの鋼製のボール(50個)を容器に入れた後、容器を堅く閉じる。KS4-SnCl2の材料を、300rpmで20分30秒かけて混合する。
ふるいでボールを取り除いて、プレ触媒材料を回収する。
【0167】
b)
シリコンナノワイヤの成長(プロセス1)
ステップa)で得られたプレ触媒材料を、固定床反応器内の石英製チューブ内に均等に配置する。
反応器にガスラインを接続して加熱室を閉じた後、N
2(5slm)を石英製チューブに数分間フラッシュして酸素濃度を下げる。その後、石英製チューブの外表面と接触させた加熱装置によって反応器を加熱する。加熱サイクルおよびガス注入サイクルは次のとおりである:ガス流量5slmのAr/H
22.5%を流しながら20℃から650℃まで1時間かけて昇温させ、5slm(L/分)のN
2/SiH
40.9%を流しながら650℃を4.3時間維持し、加熱を停止した後、反応器をN
2ガス流量5slmで、室温まで冷却する。最後に、反応器を開いて複合材料を回収する。
図17および
図18は、本実施例で得られるSiナノワイヤ/錫/KS4の複合材料M6のSEM画像である。
【0168】
c)
図17および図18の説明
図17および
図18は、KS4黒鉛1702,1802の表面に分布した、SiNW1701,1801と小型の点状物1803との混合物を示している。これらの小型の点状物1803は、SiNWの成長時にSiと反応するには小さ過ぎた錫の粒子である。この解釈は、Dusanes等の研究と整合している。
【0169】
(実施例7:リチウム電池用電極の作製)
調製した材料M1,M2,M3,M4,M5の一つを負極活物質としたコイン電池を作製して、材料の電気化学的特性を評価する。
【0170】
a)導電性フィラーとの混合
本発明に係る複合材料M1,M2,M3,M4,M5を、IKA(登録商標)社のUltra-Turrax分散機で、直径3mmのYSZ製粉砕ボールを用いて黒鉛粉末と混合する。
分散機には、複合材料および黒鉛を38:62の重量比で投入する。
10分間、回転数=7で混合を行う。
最後に、混合した材料を回収し、さらなる処理又は特性評価に供する。
【0171】
b)コイン電池の作製
合成した材料と黒鉛粉末(Actilion GHDR-15-4)を、およそ38:62の比率で混合させた。Actilion素材の対照用黒鉛電極も、黒鉛のみを活物質として作製した。いずれに対しても、カーボンブラックC-NERGYC65を導電剤として添加し、カルボキシメチルセルロースナトリウム(Na-CMC)とスチレンブタジエンゴム(SBR)とをバインダに用い、脱イオン水を溶剤として使った。活物質:C65:バインダの重量比は、95:1:4とする。水を加えて、電極加工が可能な粘度(乾燥分:約40重量%)にする。30分間、回転数=5で湿式混合を行った。20μm銅箔上に、各電極インクを投下した。電極を空気中で乾燥させた後、65℃のオーブンで2時間さらに乾燥させた。その後、電極を直径14mmの円盤状に切断し、約1t/cm2でカレンダー加工して秤量し、最後に110℃の真空中で一晩乾燥させた。
【0172】
Arグローブボックス内で、対極および対照電極としての金属Liと、Whatmanガラス繊維の層と、Celgard 2325セパレータの層と、検品対象の電極とを用いて、ハーフコイン電池(株式会社兼松KGK(登録商標):ステンレス鋼316L)を作製した。電極およびセパレータの素材に含浸させる電解液としては、EC:DEC(v/v=1/1)に10重量%のFEC(フルオロエチレンカーボネート)と、2重量%のVC(ビニレンカーボネート)を添加したものに溶解した、1MのLiPF6を用いた。次いで、自動プレス機で電池を封止し、グローブボックスから取り出して充放電評価装置で測定した。1Cレートによる通常のサイクルの前に、7回の形成サイクルを実施した。形成サイクルは、定電流定電圧放電(リチウム挿入)・定電流充電(リチウム脱離)による、C/10の2サイクルおよびC/5の5サイクルからなる。
【0173】
c)電気化学的性能の測定
各自2つの異なる電極からなる8種類の方式が可能なBiologic社製BCS-805充放電測定システムを用いた定電流充放電サイクルにより、電池の性能を測定する。
【0174】
1.電位プロファイル
C/10の充放電サイクル時に、電池容量の関数として電池電位を測定することにより、電池C1,C2,C3,C4,C5の電位プロファイルを求めた。
【0175】
図3、
図7、
図10、
図13および
図16は、C/10の2回目のサイクル(3番目の形成サイクル)での記録で電池C1,C2,C3,C4,C5からそれぞれ得られた電位プロファイルである。
【0176】
図3、
図7、
図10および
図13において、複合材料M1,M2,M3,M4から得られた各電池の電位プロファイルは、黒鉛物質とシリコン物質の電気化学的活性の重畳を示しており、これらの複合材料が電気的・電気化学的に活性を有することが確認できる。リチウムイオンによるシリコンの電気化学的な活性は、充電(リチウム脱離)時の0.45V付近の変曲部/擬似プラトーから明確であり、これは、黒鉛電極のプロファイルとSi-黒鉛の複合材料のプロファイルを比べた容量微分プロット(
図13)でも明白である。
【0177】
図16において、その他の材料と同様、複合材料M5は、成長支持材、シリコンナノ粒子およびシリコンNW物質の電気化学的活性の重畳を示しており、Liイオン負極物質として電気的・電気化学的に活性を示していることが確認できる。リチウムイオンによるシリコンの電気化学的活性は、充電(リチウム脱離)時の0.45V付近の変曲部/擬似プラトーから特に明確である。
【0178】
2.初期可逆容量
表2に、最初のサイクル(C/10)で測定した電池の初期可逆容量を示す。
【0179】
【0180】
複合材料M1から作製した電池C1と複合材料M2から作製した電池C2は、初期可逆容量が類似している。つまり、複合材料M1と複合材料M2は、同様の活性シリコン含量(約20%)を有する。ただし、材料M2は、酸性洗浄が施されているため、材料M1よりも初期容量が高くなっている。実際、未反応のSnCl2、SnOx、SiO2のような阻害性を示し得る化合物が除去されていることで、同材料の初期容量が上がっている。
【0181】
さらに、電池C1,C3,C4を比較すると、複合材料M1と、複合材料M3、および複合材料M4とで、活性シリコン含量(それぞれ約15%、約16%、約11%)が高くなるほど初期容量(それぞれ822mAh/g、864mAh/g、713mAh/g)が上がることが分かる。
【0182】
まとめとして、以上の結果より、成長支持材の比表面積や形態により、成長支持材上のSiNWの成長速度を調節することができ、複合材料の電気的性能や電気化学的性能を操作できることが分かる。
【符号の説明】
【0183】
101,102,501,601,801,901,1101,1201,1401,1501,1701,1801 シリコンナノワイヤ(SNW)
202,1803 錫粒子
203,820,1102,1202,1702,1802 黒鉛
【国際調査報告】