(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-07-30
(54)【発明の名称】ウェアラブルでリアルタイムの認知行動治療装置のためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20240723BHJP
A61N 1/36 20060101ALI20240723BHJP
A61B 5/16 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
A61B10/00 H
A61N1/36
A61B5/16 100
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023580455
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(85)【翻訳文提出日】2024-02-26
(86)【国際出願番号】 US2022035842
(87)【国際公開番号】W WO2023278784
(87)【国際公開日】2023-01-05
(32)【優先日】2021-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】503115205
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ハルパーン,ケーシー
(72)【発明者】
【氏名】ロレ,カマリン
【テーマコード(参考)】
4C038
4C053
【Fターム(参考)】
4C038PP03
4C053JJ21
(57)【要約】
ユーザの衝動性状態を検出し、かつ差し迫った衝動性状態の警告を患者および/または患者が特定したネットワークの人々に提供する、ウェアラブルでリアルタイムの認知行動検出および/または治療装置のための装置、システムおよび方法である。本装置は、ユーザによって装着されるとともに、ユーザの電気生理学的信号および/または心理生理学的信号を検出するように構成されたウェアラブルで非侵襲的なセンサの組合せを利用する。センサは、電気生理学的信号および心理生理学的信号に対応するそれぞれのセンサ信号を出力し、それぞれのセンサ信号をコンピューティングデバイスに送信する。コンピューティングデバイスは、ソフトウェアアプリケーションを有し、このソフトウェアアプリケーションが、センサ信号を処理するとともに、ユーザの衝動性状態に関する情報および/または治療情報を提供するようにコンピューティングデバイスをプログラムする。また、本装置は、本装置により衝動性状態が検出されることに応答して、ユーザに直接電気刺激を与えるためのシステムも含むことができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムであって、
ユーザに装着されるように構成された第1のセンサであって、ユーザの頭皮における電気生理学的信号を検出して、検出した電気生理学的信号に対応する第1のセンサ信号を出力するように構成された非侵襲的センサである第1のセンサと、
ユーザに装着されるように構成された第2のセンサであって、頭皮以外の身体位置における生理学的信号を検出し、検出した生理学的信号に対応する第2のセンサ信号を出力するように構成された非侵襲的センサである第2のセンサと、
前記第1のセンサおよび第2のセンサと動作可能に通信するコンピューティングデバイスであって、前記第1のセンサ信号および第2のセンサ信号を受信するように構成されたコンピューティングデバイスとを備え、前記コンピューティングデバイスが、ソフトウェアアプリケーションを有し、前記ソフトウェアアプリケーションが、前記第1のセンサ信号および第2のセンサ信号を処理するとともに、前記第1のセンサ信号および第2のセンサ信号の両方を利用してユーザの衝動性状態を検出する検出アルゴリズムを利用するように、前記コンピューティングデバイスをプログラムすることを特徴とするシステム。
衝動性状態は、生理学的信号(例えば、心拍数)および電気生理学的信号(例えば、シータパワー)の2つの入力信号がともに、実験的に規定された振幅閾値を超えたときに検出される。両信号は、リアルタイムで送信および処理される。生理学的信号は、心拍数、呼吸数およびガルバニック皮膚反応を定量化するために抽出される。電気生理学的信号は、4~50Hzから1Hzのインクリメントでスペクトルパワーを定量化するために抽出される。検出閾値は、一連の事前の実験と検証から実験的に予め規定されるもので、すべての取り込まれた信号の2分間の移動ベースライン平均を超える、2秒間の瞬間的な信号キャプチャにおける振幅のXパーセントの増加として示される。この検出アルゴリズムに寄与する信号は、検出される状態に最も関連する信号に基づいて実験的に規定される。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記電気生理学的信号が、側坐核(NAc)信号の相関であることを特徴とするシステム。
【請求項3】
請求項2に記載のシステムにおいて、
前記第1のセンサが、背外側前頭前野(dlPFC)シータ(4~8Hz)信号を検出する頭皮センサのアレイを含む頭皮センサであることを特徴とするシステム。
【請求項4】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記生理学的信号が、側坐核(NAc)信号の相関であることを特徴とするシステム。
【請求項5】
請求項4に記載のシステムにおいて、
前記第2のセンサが、心拍数および心拍変動のうちの少なくとも一方を検出するように構成された心拍センサであることを特徴とするシステム。
【請求項6】
請求項4に記載のシステムにおいて、
前記第2のセンサが、心拍数および心拍変動のうちの少なくとも一方を検出するために、ユーザの手首の上方に配置されるように構成された1または複数の電極を含むことを特徴とするシステム。
【請求項7】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記第1のセンサが、側坐核(NAc)信号のデルタ帯域の相関を検出するように構成されていることを特徴とするシステム。
【請求項8】
請求項7に記載のシステムにおいて、
NAc信号のデルタ帯域の相関が、背外側前頭前野(dlPFC)シータ(4~8Hz)信号であることを特徴とするシステム。
【請求項9】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記検出アルゴリズムが、頭皮の電気生理学的信号と頭皮以外の位置の生理学的信号の両方を利用することにより、衝動的状態を検出する際の特異性、感度および信頼性について検証されることを特徴とするシステム。
【請求項10】
請求項1に記載のシステムにおいて、
前記コンピューティングデバイスが、無線通信プロトコルを介して前記第1のセンサおよび第2のセンサと通信するように構成されていることを特徴とするシステム。
【請求項11】
請求項10に記載のシステムにおいて、
前記無線通信プロトコルが、Bluetooth、WiFiおよびワイヤレスUSBのうちの1つであることを特徴とするシステム。
【請求項12】
請求項1に記載のシステムにおいて、
衝動性状態に応答して電気刺激をユーザに直接与えるように構成された電気刺激システムをさらに備え、
前記ソフトウェアアプリケーションが、衝動性状態に基づいて、制御された閉ループ電気刺激をユーザに与えるように前記電気刺激システムを制御する制御プログラムを利用するように構成されていることを特徴とするシステム。
【請求項13】
請求項12に記載のシステムにおいて、
衝動性状態が、制御不能な摂食行動であり、前記電気刺激システムが、制御不能な摂食行動を弱めるように構成された電気刺激をユーザの側坐核(NAc)に送達するように構成されていることを特徴とするシステム。
【請求項14】
請求項13に記載のシステムにおいて、
前記電気刺激システムが、閉ループ刺激システムであることを特徴とするシステム。
【請求項15】
ユーザの衝動性状態を判定するための方法であって、
ユーザの頭皮に装着された第1のセンサから、検出された電気生理学的信号に対応する第1のセンサ信号を取得するステップと、
頭皮以外のユーザの身体位置に配置された第2のセンサから、検出された生理学的信号に対応する第2のセンサ信号を取得するステップと、
コンピューティングデバイスが、前記第1のセンサ信号および前記第2のセンサ信号を受信するステップと、
前記コンピューティングデバイスが、前記第1のセンサ信号および前記第2のセンサ信号を処理し、前記第1のセンサ信号および前記第2のセンサ信号の両方を利用する検出アルゴリズムを利用して、ユーザの衝動性状態を検出するステップとを備えることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法において、
前記電気生理学的信号が、側坐核(NAc)信号の相関であることを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法において、
前記第1のセンサが、背外側前頭前野(dlPFC)シータ(4~8Hz)信号を検出する頭皮センサのアレイを含む頭皮センサであることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項15に記載の方法において、
前記生理学的信号が、側坐核(NAc)信号の相関であることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項4に記載の方法において、
前記第2のセンサが、心拍数および心拍変動のうちの少なくとも一方を検出する心拍センサであることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項4に記載の方法において、
前記第2のセンサが、心拍数および心拍変動のうちの少なくとも一方を検出するために、ユーザの手首の上方に配置された1または複数の電極を含むことを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項15に記載の方法において、
前記第1のセンサが、側坐核(NAc)信号のデルタ帯域の相関を検出するように構成されていることを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法において、
NAc信号のデルタ帯域の相関が、背外側前頭前野(dlPFC)シータ(4~8Hz)信号であることを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項15に記載の方法において、
前記検出アルゴリズムが、頭皮の電気生理学的信号と頭皮以外の位置の生理学的信号の両方を利用することにより、衝動的状態を検出する際の特異性、感度および信頼性について検証されることを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項15に記載の方法において、
前記コンピューティングデバイスが、無線通信プロトコルを介して前記第1のセンサおよび第2のセンサと通信するように構成されていることを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法において、
前記無線通信プロトコルが、Bluetooth、WiFiおよびワイヤレスUSBのうちの1つであることを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項15に記載の方法において、
衝動性状態に基づいて、制御された閉ループ電気刺激をユーザに与えるために、制御プログラムを利用して電気刺激システムを制御するソフトウェアアプリケーションと、
衝動性状態に応答して、制御された閉ループ電気刺激をユーザに直接与える前記電気刺激システムとをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項27】
請求項26に記載の方法において、
衝動性状態が、制御不能な摂食行動であり、前記電気刺激システムが、制御不能な摂食行動を弱めるように構成された電気刺激をユーザの側坐核(NAc)に送達するものであることを特徴とする方法。
【請求項28】
請求項27に記載の方法において、
前記電気刺激装置が、閉ループシステムであることを特徴とする方法。
【請求項29】
請求項15に記載の方法において、
ユーザの衝動性状態が、ユーザが強い欲求を有する状態であることを特徴とする方法。
【請求項30】
ストレージデバイスに記憶されたコンピュータが実行可能な方法であって、
第1のセンサ信号または第1のセンサ信号を示す情報を入力として受信するステップであって、前記第1のセンサ信号が、ユーザの頭皮に装着された第1のセンサからの検出された電気生理学的信号に対応する、ステップと、
第2のセンサ信号または第2の信号を示す情報を入力として受信するステップであって、前記第2のセンサ信号が、頭皮以外のユーザの身体位置に配置された第2のセンサからの検出された生理学的信号に対応する、ステップと、
前記第1のセンサ信号および第2のセンサ信号、または第1および第2のセンサ信号を示す情報を利用して、ユーザの衝動性状態を判定するステップとを備えることを特徴とする方法。
【請求項31】
請求項30に記載の方法において、
ユーザの衝動性状態を判定することが、閾値を利用することを含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェアラブル医療装置に関し、より詳細には、ウェアラブルでリアルタイムの認知行動治療装置のためのシステムおよび方法に関する。
【0002】
関連出願データ
本出願は、2021年6月30日に出願された同時係属中の米国仮出願第63/217,077号の利益を主張するものであり、その開示全体が、引用により本明細書に明示的に援用されるものとする。
【背景技術】
【0003】
衝動性は、脳の多くの障害に共通する、最も広範で生活に支障をきたす行動障害の1つである。報酬の刺激の予期中に側坐核(NAc)の反応性が高まると、衝動的な行動が起こりやすくなり、不適応な行為の発症に深刻な影響を及ぼす可能性がある。注目すべきことに、電気生理学的、神経化学的および機能的な神経イメージングの相関が、複数の生物種において、短い予期期間中に報告されている。「脆弱な瞬間」に先立つそれらの相関(またはバイオマーカー)は、時間的制約のある介入を行うように医療に通知する可能性がある。
【0004】
報酬の過感受性は、神経精神疾患に共通の特徴であり、予期されるインセンティブに対する衝動性として現れる。側坐核(NAc)内の活動における時間的に特異的な変化は、完了行動に先立つ予期期間中に起こるものであり、介入のための重要な機会となる。しかしながら、予期に関連した神経信号が存在する可能性のあるこの脆弱な瞬間を自動的に検知し、治療的に対応できる治療法はない。
【発明の概要】
【0005】
本明細書には、ユーザの衝動性状態を検出し、かつ活動閾値を超えたときに、差し迫った衝動性事象の警告を患者および/または患者が特定したネットワークの人々に提供する、ウェアラブルでリアルタイムの認知行動治療装置のための革新的な装置および方法が開示されている。本方法および装置は、ユーザによって装着されるとともに、ユーザの頭皮における電気生理学的信号および/または頭皮以外の身体位置などにおけるユーザの生理学的信号を検出するように構成されたウェアラブルで非侵襲的なセンサの組合せを利用する。例えば、生理学的信号は、心理生理学的信号(すなわち、精神的プロセスまたは障害に関連する生理学的信号)であってもよい。センサは、頭皮における電気生理学的信号および頭皮以外における生理学的信号に対応するそれぞれのセンサ信号を出力し、それぞれのセンサ信号をコンピューティングデバイスに送信する。コンピューティングデバイスはセンサ信号を受信するように構成されている。コンピューティングデバイスは、ソフトウェアアプリケーション(「アプリ」)を有し、このアプリが、センサ信号を処理し、ユーザの衝動性状態に関する情報および/または治療情報を提供するようにコンピューティングデバイスをプログラムする。
【0006】
追加の態様では、装置が、装置によって検出された衝動性状態に応答して電気刺激をユーザに直接与えるなど、ユーザに治療的処置を提供するように構成され得る。
【0007】
開示の一実施形態によれば、ウェアラブル認知行動治療装置が、ユーザに装着されるように構成された第1のセンサと、ユーザに装着されるように構成された第2のセンサとを含む。第1のセンサは、ユーザのNAc信号の相関であるユーザの頭皮における電気生理学的信号を検出するように構成された非侵襲的センサである。例えば、第1のセンサは、背外側前頭前野(dlPFC)シータ(4~8Hz)信号を検出する頭皮センサのアレイを含む頭皮センサであってもよい。第1のセンサは、検出した電気生理学的信号に対応する第1のセンサ信号を出力するように構成される。第2のセンサは、ユーザのNAc信号の相関である生理学的信号(例えば、心拍数、心拍変動など)を検出するように構成された非侵襲的センサである。例えば、第2のセンサは、心拍数および心拍変動を検出するためにユーザの手首の上に配置することができる1または複数の電極を含む心拍センサであってもよい。第2のセンサは、検出した生理学的信号に対応する第2のセンサ信号を出力するように構成される。
【0008】
本装置は、第1のセンサおよび第2のセンサと動作可能に通信するコンピューティングデバイスをさらに含む。例えば、コンピューティングデバイスは、ポータブルコンピューティングデバイス、例えば、スマートフォン、タブレットコンピュータ、ハンドヘルドコンピュータまたは他のポータブルコンピュータなどであってもよい。コンピューティングデバイスは、第1のセンサ信号および第2のセンサ信号を受信するように構成されている。また、コンピューティングデバイスは、衝動性ソフトウェアアプリケーション(アプリ)も有し、このアプリが、センサ信号を処理するとともに、検出アルゴリズムを利用してユーザの衝動性状態を検出するようにコンピューティングデバイスをプログラムする。その後、アプリは、ユーザの衝動性状態に関する情報および/または治療情報を提供することができる。例えば、アプリは、ユーザ(「患者」ともいう)、患者が特定したネットワークの人々(例えば、患者に治療を提供する臨床医など)に対して、患者の衝動性状態を通知するために、警告通知をプッシュすることができる。
【0009】
別の態様では、制御不能(LOC)な摂食障害の患者を治療するために、本装置を特別に構成することができる。経験的な侵襲的実験により、NAcの低周波(1~4Hz)デルタ帯域信号が摂食障害を引き起こす衝動性行動に対する感度の高い尺度であることが確認されている。そのような実験の1つは、刊行物「Closing the loop on impulsivity via nucleus accumbens delta-band activity in mice and man」、Proceedings of the National Academy of Sciences of The United States of American(PNAS)January 2,2018、2018年1月2日、第115巻、第1号(以下、「Closing the loop刊行物」という)に記載されいる。また、その開示全体が引用により本明細書に援用される、Halpemに対するPCT公報WO2018/064225も参照されたい。本明細書で引用されるすべての刊行物、特許および参考文献は、引用によりその全体が本明細書に援用されるものとする。このため、この態様では、第1のセンサが、NAc信号のデルタ帯域の相関、例えばdlPFCシータ信号を検出するように構成された非侵襲的センサである。Closing the loop刊行物に記載の実験では、報酬性の高い刺激を受ける直前の脆弱期間中に、閉ループシステムが介入する可能性が検討されている。食物報酬を予期しているマウスのNAcを電気的に刺激すると、過食行動が効果的に減衰するという知見は、ヒトの治療にも活用できる。しかしながら、自動刺激システムを用いたこの介入の「Closing the loop」(ループを閉じる)ためには、予期バイオマーカーの特定、特性評価および改良が重要なステップとなる。報酬予期期間中のマウスおよびヒトのNAcからの局所電位(LFP)記録が行われ、高報酬刺激の予期中に誘発される顕著なデルタ振動が発見されている。マルチユニット解析により、NAcにおけるユニット活動とデルタ振動との間に強い相関があることが明らかになっている。予め設定されたパワー閾値を利用して、このトランスレーショナルバイオマーカーがトリガーとして用いられた。この閉ループシステムは、顕著な行動特異性をもってマウスの過食を阻止した。この結果は、病的な動機に対する過敏性に苦しむ神経精神病患者に対する標的介入に利用できる可能性がある。
【0010】
本装置の別の態様では、第2のセンサが、ユーザの心拍数および心拍変動を検出するための1または複数の電極であってもよい。ユーザの心拍数および心拍変動とNAc信号との生理学的レベルでの1または複数の相関関係(すなわち、心拍数のピーク、心拍変動)。この相関の因果関係は、NAc刺激のオンおよびオフで相関を測定するなど、NAc刺激によって特定される。相関の感度は、状態操作によっても特定することもできる。
【0011】
衝動性状態を判定する際に、頭皮の電気生理学的信号と生理学的信号の両方を使用することにより、装置の特異性、感度および信頼性が向上する。例えば、頭皮の電気生理学的信号と生理学的信号の両方を利用する検出アルゴリズムは、衝動性状態を検出する際の特異性、感度および信頼性を検証することができる。
【0012】
別の態様では、コンピューティングデバイスが、Bluetooth、WiFiまたは他の適切な無線通信システムなどの無線通信を介して、第1のセンサおよび第2のセンサと通信するように構成され得る。このため、コンピューティングデバイス、第1のセンサおよび第2のセンサはそれぞれ、Bluetooth無線通信モジュール、WiFiアダプタなどの他の通信モジュールと通信するように構成されたそれぞれの無線通信モジュールを有する。
【0013】
別の態様では、装置が、装置によって検出された衝動性状態に応答して、治療用電気刺激をユーザに直接与えるように構成された電気刺激システムをさらに含むことができる。一態様では、電気刺激システムが、NAcを刺激するためにユーザの脳に埋め込まれるように構成された電気刺激装置を含むことができる。このアプリは、制御プログラムを利用して電気刺激システムを制御し、衝動性状態の検出に基づいて、制御された閉ループの電気刺激をユーザに提供する。電気刺激は、衝動性状態を弱めるように構成することができる。例えば、制御不能な摂食行動を含む切迫した衝動性事象の場合、電気刺激は、制御不能な摂食行動を減衰させるように構成することができる。別の態様では、電気刺激が、NAcに対する短い一連の高周波電気刺激パルスであってもよい。
【0014】
さらに別の態様では、強迫性障害(OCD)、中毒、アルコール依存症、摂食障害、全般性不安障害(GAD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの障害におけるセンサ検出の実施のために、他の衝動性障害および不安に基づく障害を検出および/または治療するように装置を構成することができる。第1のセンサおよび第2のセンサは、衝動性障害および不安に基づく障害に関連する脳信号のそれぞれの相関を検出するように構成される。さらに別の態様では、電気刺激システムおよび制御プログラムが、OCD、GAD、PTSDなどの特定の障害を軽減するために、脳(例えば、NAc)に電気刺激を与えるように構成され得る。
【0015】
本明細書に開示の別の実施形態は、ウェアラブル認知行動治療装置を使用する方法を対象とする。一実施形態によれば、本方法が、ユーザの頭皮に装着された第1のセンサから、検出された電気生理学的信号に対応する第1のセンサ信号を取得するステップを含む。検出された生理学的信号に対応する第2のセンサ信号は、頭皮以外のユーザの身体位置に配置された第2のセンサから取得される。コンピューティングデバイスは、第1のセンサ信号および第2のセンサ信号を受信する。その後、コンピューティングデバイスは、第1のセンサ信号および第2のセンサ信号を処理し、第1のセンサ信号および第2のセンサ信号の両方を利用する検出アルゴリズムを利用して、ユーザの衝動性状態を検出する。
【0016】
本方法の追加の態様では、本方法が、本明細書に記載のウェアラブル認知行動治療装置の追加の態様のうちの1または複数の態様、機能および特徴を含むことができる。例えば、本方法は、電気刺激システムを用いて治療用電気刺激を送達するステップをさらに含むことができる。そのような場合、本方法は、ソフトウェアアプリケーションが、制御プログラムを利用して電気刺激システムを制御し、衝動性状態に基づいて、制御された閉ループ電気刺激をユーザに送達するステップも含む。その後、電気刺激システムは、衝動性状態に応答して、制御された閉ループ電気刺激をユーザに直接与える。
【0017】
本発明の他の態様および特徴は、添付の図面と併せて、以下の説明を検討することにより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
例示的な実施形態の上記態様および他の態様を、添付図面を参照しながら、さらに詳細に説明する。同様の符号は同様の要素を指し(例えば、50aおよび50bなどの同じ数字が付された要素は、同様の要素とみなされ)、同様の要素についての説明は、関連するすべての記載の実施形態に適用され得るものとする。
【
図1】
図1は、ウェアラブルでリアルタイムの認知行動治療システムの例示的な一実施形態の概略図である。
【
図2】
図2は、
図1のシステムの頭皮電気生理学的センサのユーザへの配置を示している。
【
図3】
図3は、
図1のシステムの生理学的センサのユーザへの配置を示している。
【
図4】
図4は、NAcのデルタ信号の相関を判定するための実験方法論の概略図である。
【
図5】
図5は、全64個のscEEGチャネルのプロットの形態で、
図4の実験の結果を示しており、非侵襲的頭皮EEGによって検出されるシータ信号(4~8Hz)が、左腹側NAcの侵襲的デルタ信号と相関することを示している、
【
図6】
図6は、
図4の実験の結果を示しており、非侵襲的に検出された頭皮EEGシータ信号(4~8Hz)と左腹側NAcの侵襲的デルタ信号との間の相関が「食欲」予期状態(ミルクセーキの前)の間に、「非食欲」予期状態(水の前)と比較して有意に上昇することを示している。
【
図7】
図7は、
図4の実験の結果を示しており、非侵襲的に検出された頭皮EEGシータ信号(4~8Hz)と左腹側NAcの侵襲的デルタ信号との間の相関が「食欲」予期状態(ミルクセーキの前)の間に、「非食欲」予期状態(水の前)と比較して有意に上昇することを示している。
【
図8】
図8は、嗜好が切り替わってミルクセーキよりも水を好まなくなった被験体についての
図4の実験の結果を示しており、「食欲」状態に特有のdlPFCシータ信号における予期上昇が見られないことを示している。
【
図9】
図9は、
図4の実験の結果を示しており、水と比較したミルクセーキに先行する「食欲」予期状態のTスコア比較を示している。
【
図10】
図10は、ウェアラブルのリアルタイムの認知行動治療システムを使用して、ユーザの衝動性状態を検出および/または治療する例示的な一方法に関するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の特定の例に関する以下の説明は、本発明の範囲を限定するために使用されるべきではない。本発明の他の例、特徴、態様、実施形態および利点は、本発明を実施するために考えられる最良の態様の1つである例示としての以下の説明から当業者には明らかになるであろう。理解されるように、本発明はいずれも、本発明から逸脱することなく、他の様々な自明の態様も可能である。このため、図面および説明は、本質的に例示であって限定的なものではないとみなされるべきである。
【0020】
実施例を説明する前に、本発明は、記載の特定の実施例に限定されるものではなく、当然のことながら、変更し得ることを理解されたい。また、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるものであるため、本明細書で使用する用語は、特定の実施例を説明することのみを目的としており、限定することを意図したものではないことを理解されたい。
【0021】
値の範囲が与えられる場合、文脈が明確に別段の指示をしない限り、下限値の単位の10分の1までの、その範囲の上限値と下限値との間の各介在値も具体的に開示されているものと理解されたい。任意の記載値または記載の範囲内の介在値と、任意の他の記載値または記載の範囲内の介在値との間の小さい各範囲は、本発明に包含される。それら小さい範囲の上限値および下限値は、それぞれ独立に範囲に含まれることも除外されることもあり、その両方または一方が小さい範囲に含まれる場合においても、またはどちらも小さい範囲に含まれない場合においても、各範囲は、記載の範囲内の特に除外された限界値を条件として、本発明に包含される。記載の範囲が限界値の一方または両方を含む場合、それらの含まれる限界値の一方または両方を除外した範囲もまた本発明に含まれるものとする。
【0022】
別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されたものと同様または同等の任意の方法および材料を、本発明の実施または試験に使用することができるが、いくつかの可能性のある例示的な方法および材料をここで説明する。
【0023】
本明細書および添付の特許請求の範囲において、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上明らかに別段の指示がない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。このため、例えば、「化合物」に対する言及は、複数のそのような化合物を含み、「ポリマー」に対する言及は、当業者に公知の1または複数のポリマーおよびその均等物に対する言及を含む。
【0024】
本明細書では、特定の範囲が、数値の前に「約」という用語が付されて示される。「約」という用語は、本明細書において、その用語の後の正確な数値と、その用語の後の数値に近い数値または近似値に対する文字通りの裏付けを提供するために使用される。ある数値が具体的に言及された数値に近いかまたは近似しているか否かを判断する際に、その近いまたは近似している未言及の数値は、それが提示される文脈において、具体的に言及された数値と実質的に同等のものを提供する数値であり得る。
【0025】
図面を参照すると、
図1は、ユーザ102の衝動性状態を検出および/または治療するための、ウェアラブルでリアルタイムの認知行動治療システム100の例示的な一実施形態を示している。認知行動治療システム100は、ウェアラブルでリアルタイムの心理生理学的検出装置101(「認知行動治療装置」ともいう)と、認知行動治療システム100に動作可能に結合された任意選択的な電気刺激システム140とを含む。
【0026】
心理生理学的検出装置101は、ユーザ102に装着されるように構成された複数の電気生理学的および生理学的センサ104を含む。
図1の例示的な実施形態では、装置101が、ユーザ102に装着するように構成された非侵襲性の頭皮電気生理学的センサ104a(すなわち、第1のセンサ)と、ユーザ102に装着するように構成された非侵襲性の生理学的センサ104b(すなわち、第2のセンサ)とを含む2つのセンサ104を含む。装置101は、ヒトの衝動性に関連する脳信号と相関関係があると判定される様々な電気生理学的信号および/または生理学的信号を検出するための、1または複数の追加の電気生理学的センサ104aおよび/または生理学的センサ104bなどの追加のセンサ104を有することができる。
【0027】
頭皮電気生理学的センサ104aは、
図2に示すように、ユーザの頭皮108に大脳皮質の上方に配置されるように構成された複数の電極106(例えば、乾式)を含む。頭皮電気生理学的センサ104aは、ユーザのNAc信号と相関するユーザ102の頭皮における電気生理学的信号110aを検出するように構成されている。一実施形態では、頭皮電気生理学的センサ104aが、NAc(後述)のデルタ信号と相関する背外側前頭前野(dlPFC)シータ(4~8Hz)信号、または装置を用いて監視および/または治療される特定の行動障害に適した任意の脳信号を検出するように構成されている。Closing the loop刊行物に記載されているように、経験的な侵襲的実験により、NAcの低周波(1~4Hz)デルタ帯域信号が摂食障害を引き起こす衝動性行動に対する感度の高い尺度であることが確認されている。以下に詳述する追加実験では、NAcのデルタ信号と経時的な接続パターンを示す頭皮信号を特定する非侵襲的標的の特異性も検証されている。以下に詳述するそのような実験の結果は、頭皮EEGによって検出されるdlPFC上のシータ信号(4~8Hz)が、LOC食行動にマッピングされることが以前に発見されたタスク中の侵襲的NAcデルタ信号と相関することを示している。すなわち、一実施形態では、頭皮電気生理学的センサ104aが、NAc信号のデルタ帯域と相関するdlPFCシータ信号(すなわち、電気生理学的信号)を検出するように構成された非侵襲的センサである。
【0028】
頭皮電気生理学的センサ104aは、検出した電気生理学的信号に対応する頭皮電気生理学的センサ信号110aを出力する。頭皮電気生理学的センサ104aは、コンピューティングデバイス120の無線通信モジュール112cを介して頭皮電気生理学的センサ信号110aをコンピューティングデバイス120に無線送信するように構成された無線通信モジュール112aを含む。頭皮電気生理学的センサ104a、生理学的センサ104bおよびコンピューティングデバイス120のそれぞれの無線通信モジュール112は、Bluetooth、WiFi、無線USBなどを含む任意の適切な無線通信プロトコル用の通信モジュールであってもよい。代替的には、頭皮電気生理学的センサ104aは、コンピューティングデバイス120の入力ポート120に接続された適切なバスまたは導体などによって、コンピューティングデバイス120に電子的に結合され得る。
【0029】
生理学的センサ104bは、1または複数の生理学的信号を検出するように構成された非侵襲的センサである。この例示的な実施形態では、生理学的信号が心拍数および心拍変動である。心拍数および心拍変動は、ユーザのNAc信号と相関関係があると判断される。生理学的センサ104bは、
図3に示すように、ユーザの手首の上方に配置するための1または複数の電極106bを含む心拍センサであり、心拍数および心拍変動を検出する。生理学的センサ104bは、検出した生理学的信号に対応する生理学的センサ信号110bを出力する。この相関性の因果関係は、NAc刺激のオンおよびオフで相関を測定するなど、NAc刺激によって特定される。また、相関の感度は、状態操作によって特定することもできる。生理学的センサ104bは、コンピューティングデバイス120の無線通信モジュール112cを介して生理学的センサ信号110bをコンピューティングデバイス120に無線送信するように構成された無線通信モジュール112bを含む。代替的には、生理学的センサ104bは、コンピューティングデバイス120の入力ポート120に接続された適切なバスまたは導体などによって、コンピューティングデバイス120に電子的に結合され得る。
【0030】
例示的なコンピューティングデバイス120は、ポータブルコンピュータであり、頭皮電気生理学的センサ104aおよび生理学的センサ104bと動作可能に通信する。いくつかの非限定的な例として、コンピューティングデバイス120は、スマートフォン、タブレットコンピュータ、ハンドヘルドコンピュータまたは他のポータブルコンピュータなどである。コンピューティングデバイス120は、マイクロプロセッサ122、ユーザインターフェース125を表示するためのディスプレイ124(例えば、LCD、LEDなど)、ストレージデバイス126(例えば、ハードドライブ、SSD)および入力/出力ポート128を有する。また、コンピューティングデバイス120は、頭皮電気生理学的センサ信号110aおよび生理学的センサ信号110bを受信するために、頭皮電気生理学的センサ104aおよび生理学的センサ104bの無線通信モジュール112a、112bと通信するように構成された無線通信モジュール112cも有する。
【0031】
また、コンピューティングデバイス120は、衝動性ソフトウェアアプリケーション(アプリ)130も有し、このアプリは、衝動性状態を検出し、かつ/または行動障害の治療を提供するために、頭皮電気生理学的センサ信号110aおよび生理学的センサ信号110bを処理するようにコンピューティングデバイス120をプログラムする。アプリ130は、ストレージデバイス126に記憶されるようにしてもよく、また、頭皮電気生理学的センサ信号110aおよび生理学的センサ信号110bに基づいて、ユーザ102の衝動性状態を検出する検出アルゴリズム132を含む。例えば、検出アルゴリズムは、衝動性に特有の低周波パワーを検出するこの電気生理学的頭皮センサを使用して、ユーザの衝動性状態を検出するために使用される1または複数の検出閾値を含むことができる。例えば、検知した信号が閾値を超えることに関連する情報をアルゴリズムが検出した場合、アルゴリズムは、特定の衝動性状態にユーザがある、またはそのような状態になろうとしているという判定を行うことができ、それに対して、警告および/または治療が開始される。また、アプリ130は、ユーザ102の検出された衝動性状態に関する情報および/または治療情報を送信するようにコンピューティングデバイス120をプログラムする。アプリ130は、患者102の衝動性状態を通知するために、ユーザ102、ユーザが特定したネットワークの人々136(例えば、患者に治療を提供する臨床医など)に警告通知134を送信することができる。警告通知134は、テキストメッセージ、音声メッセージ、音声警告、電子メール、プッシュ通知などを介してなど、任意の適切な手段によって送信することができる。
【0032】
特定の実施形態では、システム100(または装置101)が、任意選択的に、ウェアラブル心理生理学的検出装置101により衝動性状態が検出されることに応答して、電気刺激142をユーザ102に直接与えるように構成された電気刺激システム140も含む。電気刺激システム140は、任意の適切な電気刺激システムであってよい。電気刺激システム140は、適切なバスまたは無線通信モジュールなどの適切な通信システムを介して、コンピューティングデバイス120に動作可能に結合される。電気刺激システム140は、電気刺激システム140の動作を制御するように構成されたコントローラ144と、コントローラ144に動作可能に結合された電気刺激装置146とを含む。電気刺激装置146は、電源と、ユーザ102の解剖学的構造(例えば、脳の解剖学的構造)に電気刺激を与えるための1または複数の電極または他の電気刺激要素とを備える。コンピューティングデバイス130のアプリ130は、閉ループ制御プログラム144を利用して、電気刺激システム140を制御し、衝動性状態の検出に基づいて、制御された閉ループ電気刺激142をユーザ102に与える。電気刺激装置140は、NeuroPace,Inc.から入手可能なRNS(登録商標)システムで使用される電気刺激装置と同一または類似のものであってもよい。
【0033】
刊行物「Brain-Responsive Neurostimulation for Loss of Control Eating:Early Feasibility Study」、Neurosurgery、第87巻、第6号、2020年12月、1277~1288頁には、LOC摂食障害を治療するために閉ループ刺激システムを使用する例が記載されている。この刊行物に記載の実現可能性研究は、LOC摂食障害のためにNAcの両側閉ループ刺激を受ける患者を含む。一実施形態では、ウェアラブルでリアルタイムの認知行動治療システム100が、例えば、LOC摂食障害または他の衝動性障害および不安に基づく障害を治療するために、本刊行物に記載されているように、電気刺激システム140を介して電気刺激142を与えるように構成され得る。
【0034】
他の実施形態では、ウェアラブルでリアルタイムの認知行動検出システム100および/または装置101を、強迫性障害(OCD)、全般性不安障害(GAD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの障害におけるセンサ検出の実施のために、他の衝動性障害および不安に基づく障害を検出および/または治療するように構成することができる。そのような場合、第1のセンサ(例えば、非侵襲的頭皮電気生理学的センサ104a)および第2のセンサ(例えば、非侵襲的生理学的センサ104b)は、衝動性障害および不安に基づく障害に関連する脳信号のそれぞれの相関を検出するように構成される。
【0035】
一実施形態では、ウェアラブルでリアルタイムの認知行動検出システム100を、制御不能(LOC)な摂食障害の患者を治療するために特に構成することができる。LOCは、衝動性の一要素である。経験的な侵襲的実験により、NAcの低周波数(l~4Hz)デルタ帯域信号が、摂食障害を引き起こす衝動性行動に対する感度の高い尺度であることが確認されている(Closing the loop刊行物およびPCT公報WO2018/064225を参照されたい)。ここで
図4~
図9を参照すると、追加の実験により、NAcのデルタ信号と経時的な接続パターンを示す頭皮信号を特定するために、非侵襲的標的、すなわちdlPFC上のシータ信号(4~8Hz)の特異性が検証されている。
【0036】
図4および
図5には実験の方法論が示されている。
図4は、80の試行が実施され、各試行について、非侵襲的頭皮センサ(dlPFCの上の被験者上の位置)からの同時頭皮脳波(scEEG)について64チャネルが記録され、NAcのデルタ信号を直接測定する頭蓋内(侵襲的)センサからの頭蓋内脳波(iEEG)について4チャネルが記録されたことを示している。
図5は、全64個のscEEGチャネルのプロットの形態で実験結果を示しおり、非侵襲的頭皮EEGによって検出されたシータ信号(4~8Hz)が、左腹側NAcの侵襲的デルタ信号と相関することを示している。また、
図6および
図7は、非侵襲的に検出された頭皮EEGのシータ信号(4~8Hz)と左腹側NAcの侵襲的デルタ信号との相関が、「食欲」予期状態(ミルクセーキの前)のときに、「非食欲」予期状態(水の前)と比べて有意に上昇することも示している。これらの結果は、この信号が予期反応に特異的であり、ベースライン(予期される合図の前)状態にも、送達(予期された液体の受け取り)状態にも見られないことを示している。
図8は、嗜好がミルクセーキよりも水を好まなくなった被験者の実験結果を示している。
図8は、「食欲」状態に特異的なdlPFCシータ信号において、予期的な上昇が見られないことを示している。これはさらに、非侵襲的に検出されたdlPFCシータ信号が、通常の「食欲」状態とは対照的に、LOC摂食障害(すなわち、衝動性)に特異的であることを示している。
図9は、水と比較したミルクセーキに先行する「食欲」予期状態のTスコア比較を示す。すなわち、認知行動システム100の一実施形態では、頭皮電気生理学的センサ104aが、NAc信号のデルタ帯域のdlPFCシータ信号相関を検出するように構成されている。
【0037】
ここで
図10を参照すると、フローチャートは、ユーザ102の衝動性状態を検出および/または治療するためにウェアラブルでリアルタイムの認知行動システム100を使用する例示的な一方法200を示している。ステップ202では、認知行動システム100がユーザ102に装着される。頭皮電気生理学的センサ104aは、dlPFCの上のユーザ102の頭皮に装着される。生理学的センサ104bは、頭皮以外の1または複数の位置でユーザ102に装着される。ステップ204では、頭皮電気生理学的センサ104aが、ユーザ102からの電気生理学的信号を検出して、検出した電気生理学的信号に対応する電気生理学的センサ信号110aを出力する。ステップ206では、生理学的センサ104bがユーザ102からの生理学的信号を検出して、検出した生理学的信号に対応する生理学的センサ信号110bを出力する。ステップ208では、コンピューティングデバイス120が、電気生理学的センサ信号110aおよび生理学的センサ信号110bを受信する。ステップ210では、コンピューティングデバイス120が、電気生理学的センサ信号110aおよび生理学的センサ信号110bを処理し、検出アルゴリズムを利用して、電気生理学的センサ信号110aおよび生理学的センサ信号110bに基づいてユーザの衝動性状態を検出する。生理学的信号(例えば、心拍数)と電気生理学的信号(例えば、シータパワー)の2つの入力信号が、実験的に規定された振幅閾値をともに超えたときに、衝動性状態が検出される。任意選択的なステップ212では、コンピューティングデバイス120が、制御プログラムを利用して電気刺激システム140を制御し、衝動性状態に基づいて、制御された閉ループ電気刺激142をユーザ102に提供する。任意選択的なステップ214では、電気刺激システム142が、制御された閉ループ電気刺激142をユーザ102に直接与える。電気刺激治療の提供を決定することに加えて、またはその代わりに、本方法200は、コンピューティングシステム120が、検出した衝動性状態に関する警告通知134を患者102および/または介護者のネットワーク136に送信するステップ216を含むことができる。
【0038】
他の実施形態では、本明細書に記載のように、ウェアラブルでリアルタイムの認知行動治療システム100および/または装置101を使用する方法200が、LOC摂食障害、強迫性障害(OCD)、全般性不安障害(GAD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの任意の適切な衝動性障害および不安に基づく障害を検出および/または治療するように構成され得る。
【0039】
本発明は、様々な変更および代替的な形態が可能であるが、その具体的な例が図面に示され、本明細書で詳細に説明されている。しかしながら、本発明は、開示の具体的な形態または方法に限定されるものではなく、本発明は、添付の特許請求の範囲に含まれるすべての変更物、均等物および代替物を網羅するものであることを理解されたい。
【国際調査報告】